【SS】果南「嵐の一夜に」鞠莉「あなたとともに」【ラブライブ!サンシャイン!!】

かなん SS


1: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:35:01.26 ID:GafDIQyG.net
金曜日の昼過ぎから、天気予報が予想しきれなかった嵐になっていた。
予報では、少しばかり強い雨だけのはずが、強風がおまけでついてきている。
そしてその日が、1年生だった私と鞠莉がそういう関係になった、きっかけだった。

浦ノ星女学院は、海沿いの高台にある。
その場所柄、公共交通で通学する生徒も多いことから、交通機関の運休情報もホームルームで伝達されることになる。

「本日は雨と強風でバス停までの下り坂が危険であるため、各方面それぞれ一便だけですが、臨時に校庭までバスを乗り入れてもらうことになりました。バス通学の人は、そのバスで帰宅するように」

バス停から校門までの坂はそれほど急ではないが、眺めがいい。
つまり、風がまともに吹き付ける場所でもある。
数年前、、こんな天気の日に、実際にすべって骨折した事故があったらしい。それ以来、嵐の日はこのような措置がとられる。
4月に入学して2ヶ月、そんな事態に出会うのはこれが初めて出会った。

「徒歩通学でバスを利用した帰宅が困難な人は、17時以降に車での送迎を許可することになりました。名簿を作るので、車で帰る人はお家に連絡してから委員に伝えるように

「また、今日は淡島行きの連絡船が運休することになりました。お家の方に連絡を取って、家に帰れない人は申し出てください」

3: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:38:44.55 ID:GafDIQyG.net
外は、雨が横殴りに降っていた。まちがいなく、海は大荒れ。
この天候なら、連絡船も動かせないだろう。

ダイヤ「果南さん、鞠莉さん、お二人は大丈夫ですの?」

メールの返事を確認しているところで、1年の時は学級委員だったダイヤから声をかけられた。

ダイヤ「先生から、帰宅手段の確認をして名簿に記載するように言われていますの」

ダイヤ「私は家から車が来ることになりましたが、お二人とも港までお送りしましょうか」

果南「おじいから、この嵐では船は出せん、って返事がきたよ」

少し離れたところで電話をしていた鞠莉も、戻ってきた。

鞠莉「パパから、こんなデンジャーな海に従業員は出せない。ソーリー許してくれ、だって」

果南「どっちにしても、船が動かないと帰れないしねぇ。気にしてくれて有り難いけど、私と鞠莉は帰れないみたい」

ダイヤ「そういえば、果南さんは高海屋旅館さんとと家族ぐるみのおつきあいをされていたのでは?」

狭い町だ。昔からここに住んでいれば、家ごとの人間関係はお互いに知れる。
幼なじみの千歌ちゃんは一学年下で、中学の三年生。海沿いにある温泉旅館の末っ子だ。
でも、週末に世話になることは少しばかりためらいがある。

果南「あー千歌ちゃんのところか、こんな天気じゃお客さんの安全確認優先だし、週末だからね。世話になれないよ」

鞠莉「そういえば、帰れないときはどうなるの?学校にステイ?」

もっともな疑問だった。

4: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:42:19.29 ID:GafDIQyG.net
なんだかんだで最後まで残っていたダイヤを乗せた車を見送ると、もう18時が近かった。

「本日の帰宅困難者は、小原さんと松浦さんね。寄宿舎の1階を開放しますので、1号室を使用してください」

浦ノ星女学院には、今は使用していない寄宿舎がある。
かつては、風光明媚かつ、俗世から半ば隔離されたこの場所には、方々から、いわゆる良家の子女、という生徒が集まっていた。
その頃は、地元以外の生徒を預かる寄宿舎が、敷地内で運営されていたわけだ。
だが、生徒数減少に伴い、寄宿舎は閉鎖された。
建物と設備は維持されているが、これはどちらかというと、災害時に地域の避難場所として使うため、という理由らしい。

果南「こういうときのために泊まるところがあるってのは、まあ有り難いよね」

結局のところ、私と鞠莉は、今日は家に帰れないことが確定していた。
天候の具合によっては、明日の午前中に帰宅できるかも判らないようだ。
宿直する先生から、私と鞠莉は、寄宿舎についての説明を受けていた。
鞠莉が言っていた通り、本当に、学校にステイ、ということになったわけだ。
島嶼部から通う生徒もいるため、学校側では想定している事態、らしい。
ただ、今年は連絡船通学なのは私と鞠莉だけであり、つまり、学校に残るのは私と鞠莉だけだった。

鞠莉「果南とトゥギャザー?」

そういえば、欧米だとあんまり同室にはしないんだっけ?

6: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:45:07.09 ID:GafDIQyG.net
「明日、使用した部屋の掃除をしてもらいます。個室にしてもいいけれど、単純に片付ける場所が倍になるわよ」

鞠莉「果南と一緒にしてもらえるならウェルカム」

そう言って私を見て、にこっと笑った。
鞠莉は、いまいちつかみ所がない。

「消灯は21時、先生は玄関の横の管理室にいます。お風呂は共同浴場のボイラーを動かしたけれど、本来は非常用の燃料なので、18時から1時間で済ませてね」

「消灯の21時と、起床の明日7時に点呼をします」

「言うまでもないですが、帰宅可能な状況になるまでは外出禁止です。寄宿舎の1階なら消灯時間までは出歩いてもかまいませんが、2階から上は閉鎖しているので立ち入らないように」

8: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:48:26.62 ID:GafDIQyG.net
「何か、質問はありますか」

鞠莉「先生、ディナーと明日のブレックファストはどうするんですか?」

たしかに、学校の中にいたのでは、食事をどうしたらいいか判らない。

「調理実習のための卵や野菜は少しありますが、今晩は賞味期が切れる前の保存食の消費に協力してください」

「流石に二人だけのために調理室は開放できないので、電磁調理器で何とかできる範囲で、というこになります」

そりゃ、普段使ってない調理室を使えるようにするのも大変だからね。

「ほかに質問はあるかしら」

果南「先生、着替えがないんですが」

今日は体育がなかったから、体操服も持っていない。服は今着ている制服だけだ。

「あなたたちは次から、いざというときに一泊できるだけの準備はしておいてね」

鞠莉「ドンウォーリー果南、私もいま着ているものオンリーよ」

あんまり大丈夫じゃなかった。

9: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:50:40.85 ID:GafDIQyG.net
初めて立ち入る寄宿舎は、人の気配が全く感じられなかった。
普段は、宿直の先生が泊まる場所として、管理室を使っているだけらしい。
上の階に続く階段には、立ち入りを禁止するロープが欠けられ、その先は真っ暗であった。

鞠莉「フィーンド(鬼)が出てきそう」

果南「人が作った暗がりは好きじゃないよ」

そのまま廊下を先にすすむと、1号室、というプレートの扉があった。
預かった鍵で開ける。扉の横のスイッチで照明を付けた。
広さは六畳ぐらいだ。
定期的に風を入れているのだろう。ほこりっぽさはなかった。

鞠莉「ネクストモーニンまで果南と、二人きりね」

果南「後ろ手で鍵を閉めながら言わないで」

部屋は、学生が生活をするための場所、というよりも、家族向けの部屋と言った方がいい様子だった。
たたまれた布団が置かれた二段ベッドは昔のままなのだろうが、机がなく、ローテーブルが一つ置かれている。
テーブルの上には照明のリモコンがあった。これも、避難所として使うために新しくしたものらしい。
隅の布団袋の中身は、おそらく、テーブルを片付けて敷く布団なのだろう。

10: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:52:43.25 ID:GafDIQyG.net
果南「ま、食べて寝られればそれ以上は望めないか」

まだ明るいはずの時間なのに、窓の外は暗い。
時折、ざぁぁっと雨が窓を叩く音がした。
なんとなく外を見たくなくて、カーテンを閉める。

鞠莉「次はちゃんと準備しておきましょう」

果南「何の準備?」

鞠莉「学校にスティ」

果南「いやここに泊まるっていうのは家に帰れなくなっちゃったときだから」

鞠莉「でも、これから天気が悪くなる度に果南とステイするのよね」

果南「そりゃ、今年は船で通学してるのって私達だけみたいだからね」

鞠莉「オーケイ、だったら、次はもっと楽しくステイ出来るようにしなくちゃ」

やっぱり鞠莉ってつかみ所がないなぁ。

11: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:54:45.58 ID:GafDIQyG.net
鞠莉「そろそろバスタイムね」

あてがわれた部屋に荷物を置いたらもう18時だった。先生の説明では、風呂は19時までに済ませろということだった。

果南「どっちが先に行く?」

鞠莉「え、トゥギャザーじゃないの?果南と一緒にバスタイムだと思ったのに」

果南「いや、鞠莉って誰かと風呂に入るのって抵抗がありそうなイメージあったからさ」

この頃は、鞠莉のことを日本人っぽくない見た目だけで判断していたことが多かったと思う。

鞠莉「ノンノン、ママは日本人だから、普通に温泉とか入ってたわ。パパも日本市場開拓のために慣れたって言ってるけど、イタリアンだからでしょ」

なんでも、ローマには温泉の文化があったらしい。けれどイタリアってローマ以外にいろんな地方があるんじゃなかったっけ。

果南「あ、じゃあ一緒に入る?」

鞠莉「最初からそのつもりよ」

12: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:57:28.96 ID:GafDIQyG.net
制服で脱衣場にくるというのも初めての体験だった。
いざというときに使う施設だけあって、タオルだけは備え付けてあるのが助かった。
体育がない日だったので、タオルもハンドタオルを鞄に入れていたぐらいだったからだ。
もともと10人くらいが一緒には入れるようにしていたのだろう。脱衣かごが隅に積み上げられ、棚が三列三段ならんでいた。
銭湯や温泉場ではないので、定番アイテムの体重計は置かれていない。

鞠莉「ワォ、トラディショナルね」

果南「まあ、説明がいらないようで何より」

鞠莉は脱衣かごを一つ取ると、脱いだ制服をそこに入れ、さっと裸になった。
そして、手早く髪をほどいた。
緩く癖の付いた髪を、タオルを使ってまとめ上げている。

鞠莉「1時間って結構短いショートタイムよ。レッツゴー」

鞠莉は、1時間きっちり入浴するつもりらしかった。

私も制服を脱ぎ、下着を取った。それを同じように脱衣かごに入れた。

結い上げた髪もほどき、鞠莉と同じようにタオルで纏めた。

13: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/15(日) 23:59:34.36 ID:GafDIQyG.net
浴槽はなみなみと湯が張られて、湯気がたちこめていた。
使うのが私達だけなので、これはものすごい大盤振る舞いだ。

鞠莉「果南にもかけてあげるね」

湯を入れた桶を持った鞠莉が待っていた。湯煙をすかして見る鞠莉は……大きかった。

果南「ちゃんと知ってるんだねぇ」

鞠莉「ママがきびしかったからね。ダイレクトに入っちゃったらソーアングリーだったわ」

鞠莉が掛かり湯をかけてくれる。とりあえずそれに任せた。

鞠莉「じゃあ入りましょう」

二人して湯船に入る。

果南「なぜくっつく」

千歌ちゃんの家の旅館のお風呂ほどではないけれど、ここの湯船は大きい。
こんなにくっつく必要はないはずだ。
それも、鞠莉に後ろから抱きかかえられている形だった。
背中に、鞠莉の胸がくっついているし、回された手は、私をホールドしていた。

14: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 00:01:06.83 ID:twP1s1b9.net
鞠莉「だって、一緒にお風呂に入るときはこうするものでしょう?ママはいつもこうやってハグしてくれてたわ」

果南「子供の頃は風呂でもおぼれることがあるし、百まで数えずに出ちゃう子もいるし、でしょ」

鞠莉「そっか、じゃあ果南がおぼれないようにハグしてる」

果南「流石に、この年だとおぼれないよ」

鞠莉「じゃあ、百までカウントするまで出ちゃダメよ」

果南「鞠莉もだよ。一緒に数えようか」

まわされている鞠莉の腕を、しっかりと捕まえた。
お風呂で百数えるなんて、いったい何年ぶりだろうか。ふたりで百まで数えて、湯船から出た。

16: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 00:03:21.27 ID:twP1s1b9.net
鞠莉「ホットになったら次は、お背中尾流しします、よね」

洗い場の蛇口の前に椅子を並べて、二人並んで座る。
すると、備え付けのボディソープのボトルを手に、鞠莉が迫ってきた。

果南「……鞠莉、どこで覚えた」

鞠莉「果南はシャンプーが先?」

果南「そうじゃなくって」

鞠莉「バスタイムのコミュニケーションはあらいっこじゃないの?」

果南「少なくとも、手洗いじゃないよ」

鞠莉「えー、果南のシックスパック、もう一度ワンモア触りたいのに」

果南「本音はそれか」

春から秋まで、ダイビングしてるせいか、腹筋の辺りに筋がつきはじめている。
太ってるよりはいいんだろうけど、見た目がかわいくないので悩みどころだ。

17: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 00:05:06.66 ID:twP1s1b9.net
果南「腹筋はお腹だから背中流すうちにははいらないよ」

鞠莉「それなら、ボディのコアもお流しします」

果南「いや、体幹洗わなくていいから」

鞠莉「お返しに、マリーの身体、アズユーライクで洗ってもいいわよ」

鞠莉が、脚を開き気味にして背中を軽く反らす。
誘っているような表情でこっちを見た。
なだらかな首筋から、大きめの胸へときれいな曲線が流れている。
そこから下は急激におちこんで、贅肉も筋肉もないウエスト。
そこから先は、すこしばかりむっちりした太股。
背中からお尻に掛けてのラインもそう……って何を見ている私。

果南「自分が触りたいだけでしょ。お風呂使えるの1時間しかないんだから黙って自分の身体だけ洗いなさい」

鞠莉「果南はこんなホットなお風呂でクールだからつまんないー」

果南「はいはいつまらなくてごめんね」

18: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 00:07:14.69 ID:twP1s1b9.net
なんとかあらいっこだけは回避して、身体と髪を洗ってから、もういちど湯船に入った。
今度は、私の脚の間に鞠莉を入れる形で、後ろから手を回した。

鞠莉「お風呂で誰かにハグしてもらうのって、ずいぶん久しぶり」

前はだれにしてもらったのか、それが急に気になった。
私の心を読んだように、鞠莉が言う。

鞠莉「ママにハグしてもらわなくてもお風呂に入っていられるようになって以来よ。安心した?」

果南「何が言いたいのかな」

鞠莉の言葉で、何故安心したのか、自分でもわからなかった。

鞠莉「また百までカウントする?」

果南「今度は、入っていたいだけ、入っているんでいいんじゃないかな」

鞠莉「どうしよう、それだとこのまま出たくなくなりそう。だって、果南のハグ、優しくて柔らかいから」

そう言われて、思わず身体に力が入った。

果南「恥ずかしいこと言わないでよ」

鞠莉「ちょっと果南、それハード、ハードなハグになってるぅ」

20: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 00:08:53.01 ID:twP1s1b9.net
あわてて、力を抜いた。そのまま回した手をほどく。
でも、鞠莉はそのまま私の脚の間に座っていた。

鞠莉「どうしてかわからないけれど、やっぱり果南とこうしてるとハッピーになるわ」

それはどういうことなのだろう。そして、そう言われると、もう一度、鞠莉をハグしたくなった。
鞠莉の好きな、優しくて柔らかいハグになるように、そっと手を回す。

「小原さーん、松浦さーん、そろそろボイラーを落とさないといけないから、お風呂出てね-」

ガラス戸の外から、先生の声がした。
現実に引き戻される。慌てて立ち上がった。

果南「すいません、すぐ出ます」

鞠莉「ねえ果南、また一緒にバスタイムしましょうね」

座ったままの鞠莉が、私を見上げながらそう言った。

25: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 00:55:21.08 ID:twP1s1b9.net
着替えがないので仕方ないとはいえ、風呂上がりに制服を着るというのも奇妙なものだった。
正直なところ、暑い。
夏服になっていたのがまだ救いだろうか。
さすがにソックスは脱いだ。制服で裸足というのも奇妙なものだった。
それに慣れるのは、2年ほど後の話だ。

鞠莉「部屋に戻ったら制服は脱がない?」

果南「それに関しては同感だね……でも、下着姿で点呼受けられないしなぁ」

エアコンが動いているのは助かっている。なんでも、この建物が災害時の避難設備になった時に増設されたということだ。
風呂から出て、そのまま食堂に行った。ここも、元々は寄宿舎にいた生徒が食事を取るための場所だったので、テーブルがいくつも並んでいる。
そのテーブルの一つに先生がいた。

「小原さん、松浦さん、この箱の中は来週、賞味期限切れで処分するものだから、好きなだけ食べていいわよ」

処分とはいっても、先生や事務の方が頭割りで持ち帰って食べることになるらしい。

「電磁調理器と鍋はあるから、これで暖めてね。終わったら食器はあの洗い場で洗って、カゴにに入れておくところまででかまいません。来週設備維持の業者さんが入って、クリーニングすることになっています」

説明だけすると、先生は業務連絡を済ませて後ほど食べるので、と言って、食堂を出て行った。
先生に示された箱には、今月処分と書かれていた。その中は、レトルト食品とパックのご飯が詰め込まれている。
レトルトもパックのご飯も、外箱がない業務用のものだった。たしかに、どれも賞味期限が今月いっぱいだった。

果南「全部甘口のカレーかぁ。鞠莉は大丈夫?」

鞠莉「ノープロブレムよ」

26: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:00:16.67 ID:twP1s1b9.net
鍋に水を入れて、電磁調理器の上に置いた。
沸騰してから、レトルトとご飯のパックを二つづつ入れて暖める。
その間に、お皿とかコップとかを用意した。
鞠莉が、箱の中をあさっていた。

鞠莉「コーヒーはないの?」

果南「嗜好品はプライオリティが下がるから、入ってないみたいだね。スポーツドリンクの素のレトルトはあるけれど」

鞠莉「Oh no!」

鞠莉は、がっくりとテーブルに崩れた。コーヒーがないのがそんなにショックだったらしい。
何か考えていたのか、顔を上げると。

鞠莉「購買の横の自販ベンダーのでいいから買ってくる」

立ち上がって出て行こうとする鞠莉の腕を、慌てて掴んだ。

果南「ここから出るなって言われてるし、もう校舎は鍵が閉まってるから入れないよ」

鞠莉「コーヒー欲しいー」

鞠莉のコーヒー好きを知ったのもこのときだった。
コーヒーって飲み過ぎると、慢性のカフェイン中毒になって、カフェイン切れると辛いんだっけ。
でも今はどうしようもない。

果南「明日の朝まで我慢しなよ。出られるようになったらすぐ買ってきてあげるから……って近い近い」

それでも出て行こうとする鞠莉を抱きかかえるような形になっていた。
もう一押しでキスできるくらいの距離でしばらく見つめ合ってから、鞠莉は抵抗をやめた。

鞠莉「果南がそいういうなら、我慢する」

鞠莉の瞳が、じっと私を見ていた。

28: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:03:41.08 ID:twP1s1b9.net
食事を取って片付けると、もう20時を過ぎている。消灯時間まで余り余裕がない。
余談ながら、レトルト一食分だけでは足りず、ご飯とレトルトを一つずつ追加で暖めて、それを半分こした。
食器棚にあった水差しに水を注いだものとコップを、あてがわれた部屋に持ち込んでいる。
この後で点呼があるので、まだ制服は脱げなかった。

鞠莉「なにをするにも中途半端な残り時間ね」

果南「英語の宿題でもやってようか」

テーブルの上に、教科書とノートを広げた。紙の辞書は教室の机の中だ。
実は、鞠莉なら判らないところを教えてもらえるかなという下心があった。

鞠莉「イングリッシュは、果南と同じくらいしかできないわよ」

ネイティブに英会話をこなす鞠莉から帰ってきたのは、意外な答えであった。

鞠莉「ディクテーション苦手だし、普通は使わないようなグラマーが出てくるし」

ディクテーションというのは、書き取りのことらしい。つまりは、英単語のスペルを覚えるのが苦手、ということだ。
いわば、漢字を覚えられないことの英語版である。

30: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:06:07.38 ID:twP1s1b9.net
鞠莉「発音もイタリアなまりがあるらしいし。コミックだとイタリア系の台詞は関西スピーキンで描写されるのよ」

流石にそれは私にはわからない。

鞠莉「なので、果南にティーチャーになって欲しいぐらいよ」

私は、頭に手を当てて天を振り仰いだ。

果南「Oh no!」

結局のところ、二人で額をつきあわせて英語の宿題をやることになった。
辞書がないので、杉田玄白がターヘルアナトミアを解読した様子を彷彿させる、苦行難行だった。
向かいに鞠莉がいなかったら、多分投げ出している。

31: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:08:06.49 ID:twP1s1b9.net
そうやって宿題をやっていると、ドアがノックされ、開いた。

「小原さん、松浦さん、消灯前の点呼です」

宿直の先生だった。
時計を見ると、もう21時だった。

「あら、自習していたのね。熱心なのはいいけれど、そろそろ消灯の時間よ」

「明日の朝7時に、朝の点呼をします。それまではお手洗いと洗面以外ではこの部屋から出ないように。非常時は、管理室で仮眠しているので起こしてください」

果南・鞠莉「わかりました」

先生が出て行った。

果南「片付けて、寝ようか」

鞠莉「オーケー、果南は右?それとも左?」

果南「いや二段ベッドから上か下でしょ」

32: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:12:26.81 ID:twP1s1b9.net
寝る前の歯磨きとお手洗いを済ませて戻ってきて、ついに、いままで目をそらしてきた問題と向き合わなければならなくなった。

果南「いったいどんな格好で寝ればいいんだろう」

今日は体育がなかったので体操服はない。天候の急変でこんなことになるとは思っていなかったので、着替えも持っていない。
制服のまま寝るのは論外。
下着で寝るのは、鞠莉がいるところでそれも違うような気がする。
下着といっても、暑いのが嫌なのでキャミソールを着ていなかった。今更なが「らしまった」と思っている。

鞠莉「果南、早く来ないから右側サイド取っちゃったよ」

私より先に歯磨きに行って戻ってきていた鞠莉が、二段ベッドの下段で、当たり前のようにおいでおいでしていた。

果南「あの、小原さん」

鞠莉「もう果南ったら、急にセカンドネームで呼ぶなんてどうしたの?」

果南「どうして脱いでるの?!どうして何も着てないの?!」

たたんでおかれた制服の上にぱんつも置いてあるから、いまの鞠莉は、全裸で確定だ。

鞠莉「スリープタイムに着るものがないから」

こいつは何を叫んでシャウトしているのか、そんな顔で鞠莉は私を見る。
だからって、着るものがないから仕方ないなぁ……というわけにもいかないでしょ。

33: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:18:08.61 ID:twP1s1b9.net
鞠莉「シャネルの5番もないから、本当に生まれたままのナチュラルボーンよ」

この例え、あとでおじいに聞くまで意味わからなかった。
昔そういう事を言ったハリウッドのスターがいたらしい。

果南「枕が二つ並んでいるのは何故」

鞠莉「え?同じベッドで一緒に寝るんじゃないの?」

鞠莉は、それがあたりまえのように言った。

鞠莉「ほら、果南も早く脱いで」

果南「私も?」

鞠莉「ベッドの中で着るものがナッシングだから、潔く全部脱いだ方がすっきりするわ」

果南「鞠莉、せめて、ぱんつだけははいて」

その、いくらなんでも全裸の鞠莉と同じ布団で、なんていうのは。

鞠莉「ソーリィ、果南、あの日だった?それならぱんつだけは」

果南「その日じゃないけれど」

鞠莉「それなら全部脱ごう。バスタイムと一緒だし、さっきお風呂で果南のエブリシングを見たからもう恥ずかしくないわ」

まあ、全部見られていたなら仕方ない。そう思いかけて、気がついた。

果南「全部見たのかー!」

鞠莉「イエース」

34: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:21:28.24 ID:twP1s1b9.net
鞠莉「それに、お風呂では裸でハグしたんだから、ベッドでも裸でハグしていいんじゃないかな」

果南「たしかに、それはそうだけどさ」

理屈で攻められると、仕方ないんじゃないかなぁという気持ちになってしまう。
でもそれは、鞠莉が裸だったから冷静になれなかっただけなのだろう。
後でなら、いや、そのりくつはおかしい、って言えるんだけどね。

鞠莉「恥ずかしいなら、先に灯をダウンするね」

枕元に持ち込んでいたらしいリモコンを、鞠莉が操作した。
照明が消えて、常夜灯だけになった。

鞠莉「じゃあぱんつ脱いでからカミン」

鞠莉が、暗がりでこっちに手を伸ばしてくる。
少し迷ってから、下着に手をかけた。薄暗いから、多分見えない、と思う。
全部脱いでから、鞠莉の腕の中にとびこむように、布団の中に入った。。
身体に触れるシーツも掛け布団もまだ冷たかった。でも、すぐに鞠莉の体温が伝わってきて、暖かくなる。

鞠莉「果南、あったかい」

35: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:23:18.58 ID:twP1s1b9.net
鞠莉が、布団の中で私の背中に腕をまわす。背中がくすぐったかった。
私も同じように、鞠莉の腰のあたりに手を回した。

果南「ちょっと、これって」

鞠莉が脚もからめてくる。体中で抱きついてきていた。体温が、さっきよりもダイレクトに伝わってくる。
私は、柔らかい鞠莉の身体に、捕らえられていた。

鞠莉「じゃあ、グッナイ、果南」

唇に何か触れた感触があった。
キスだったと気がつくのに、しばらく時間がかかったと思う。
初めてだったのに、あまりにもあっけなかった。

果南「鞠莉、何でキスなんかし……て……」

36: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:24:27.20 ID:twP1s1b9.net
鞠莉はもう寝ていやがった。
寝付きはものすごくいいみたいだ。

果南「ああ、もう」

一方的にされるままというのは面白くない。だから。

果南「おやすみ、鞠莉」

自分から誰かにキスしたのは、これが初めてだった。

37: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:27:11.18 ID:twP1s1b9.net
♪Sunny day song, Sunny day song

スマホのアラームが鳴っていた。千歌ちゃんが小学校の卒業祝いでお姉さん達に東京につれて行ってもらったときに見たライブでかかっていた曲、らしい。
千歌ちゃんがあんまりにも強く薦めてきたので、それを朝のアラームにしている。

果南「あ、朝か」

頭が、枕と違うものに乗っかっている……人間の腕?
横を見ると、鞠莉がまだ寝ていた。
カーテンの隙間から入ってきた光が、鞠莉を照らしている。
白くまぶしい光だった。外は晴れているようだ。
天然のスポットライトに照らされた鞠莉は、きれいだった。そして、よく寝ていた。
それを見ている私は、鞠莉の腕枕で寝ていたらしい。
で、鞠莉も私も裸で。いったい何がどうしたんだろうか。

果南「あ、昨日は裸で寝たんだった」

時間が気になった。えと、さっきのアラームがSunny Day Songだったから。

6時55分だ。

これはまずい。

38: (もんじゃ)@\(^o^)/ 2016/05/16(月) 01:29:22.56 ID:twP1s1b9.net
果南「えーっと、点呼って7時だから、5分後だよね」

流石に、裸で点呼を受けるわけに行かないし、このままではどう見ても「ゆうべはおたのしみでした」だ。

果南「鞠莉起きて。すぐに点呼で先生来ちゃうから、せめてぱんつはいて」

鞠莉が、目を開けた。

鞠莉「あー果南ー?グッモーニン、チャオ」

私にしがみつくようにすると、そのままキスをしてくる。でも、感触を確かめてる余裕がない。

果南「ちょっと待ってそんなことしてる暇ないんだってば」

慌てているのは私だけで、鞠莉はマイペースだった。

鞠莉「夕べみたいに、今度は果南からして」

果南「あの時起きてたのかーというか後でするから先に起きて」



とりあえず、点呼は何とかごまかせたとだけ言っておきたい。


(おしまい)

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1463322901/

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