【SS】海未「Sky Blue」

SS


1: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:47:30.18 ID:771jhsIc
青い髪が夕暮れの赤を青空に変える。

海未「穂乃果、こんな所にいたんですか。何してるんですか?」

砂浜に寝転んで、空を見ていた私を海未ちゃんが上から覗き込む。

風は彼女の髪を靡かせ、日の光の反射で一本一本キラキラと輝いてる。

穂乃果「空見てた」

合宿での練習が終わり、休憩がてら私は砂浜に寝転んでいた。

そうしたら、あまりに空があまりにも綺麗だからこの場を動けずにいた。

海未「みんな探していましたよ。さぁ別荘に戻りましょう」

穂乃果「う、うん」

私は身を起こし、服に着いた砂を払うと海未ちゃんと一緒に別荘に戻る事にした。
 

3: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:49:53.44 ID:771jhsIc
Prologue.

私の名前は穂乃佳。

もう大学生なんだし、家の手伝いの他に何か社会経験を積んでおいた方がいいんじゃない?

お母さんのそんなアドバイスを受けて、私は更に大人になるべくアルバイトの面接を受けに行った。

手には、履歴書。
向かう場所は近くのコンビニ。

時間がギリギリだったので、私は慌てて家を出た。

面接は第一印象が大切。

お母さんの一言を思い出し、走りながら髪の乱れを直し履歴書がクシャクシャにならないように気を付けた。

ようは、前をよく見ていなかった。

そんな私を死神は狙ったかのように上手く車と衝突させ私は病院送り。

目が覚めると私は記憶喪失になっていた。

私らしい間抜けな記憶喪失のなり方だ。
 
4: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:51:04.10 ID:771jhsIc
それから一年が経ち、私は近所の公園によく行っては昔の事を思い出そうとボーっとしていた。

ある日、そんな私をじぃっと見つめている人が一人。

青い髪ですごく綺麗な女の人だ。

すごく私を見ている。

ずっと、見ている。

もしかしたら、私を知っている人なのかもしれない・・・。

だから私は自分の名前が穂乃佳と言う事と、私を知ってる?と質問していた所。

彼女・・・海未さんは頷いた。

それから毎日この公園で私と海未さんの私の記憶探しが始まった。
 
5: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:52:30.94 ID:771jhsIc
1.

穂乃果「あっ、海未さんこんにちはー!」

いつものように、公園のベンチに座っていると約束していた時間きっかりに海未さんが公園のゲートを通る。

立ち上がりぶんぶんと手を振る私とは対象的に海未さんは大和撫子よろしくそんなに反応を返さず私の横に座る。
私も同じタイミングで腰を下ろす。

海未「こんにちは、穂乃果」

穂乃果「はい、こんにちは!」

敬語使わないでいいですよと一度言われた事がある。

私と穂乃果は友達なんですから、敬語使われると何だか違う感じがするらしかった。

そんなの言われたら海未さんも敬語だし、こんな美人で私より大人っぽい人にタメ口なんて、私はきっと片言のタメ口になってしまう。

それを海未さんに伝えたら慣れたらタメ口でいいですよと言ってくれた。
 
7: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:53:38.27 ID:771jhsIc
穂乃果「今日は何の話ですか?」

私は海未さんによく昔話をして貰う。
何か思い出すきっかけになるかもしれない。
それに、私は海未さんから聞く私の話がとても好きだった。

海未「そうですね。見たら絶対泣けるって凄く評判が高い映画を二人で見た事があります」

穂乃果「映画のタイトルは分かりますか?」

海未「あ、いえ・・・。タイトルまでは私もよく覚えていませんが。映画見終わった後に二人共、凄くボロボロ泣いてお互いの号泣する姿を見て指差し合って笑いました」

穂乃果「本当に仲が良かったんですねー私達」

海未「・・・はい。でも、そこで穂乃果は凄く穂乃果らしくない事を言いました」

穂乃果「私らしくない事?」
 
8: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:55:02.13 ID:771jhsIc
海未「あなたは、人間って他人の為に涙を流せないと言いました。今こうして映画を見て泣いているのも。その主人公が可哀想な姿を見る自分が可哀想だから泣いている」

穂乃果「感動する映画が台無しですね。何か・・・ごめんなさい」

海未「いえ、でも私も聞いた事がありました。例えば家族が死んでしまい泣いたとしても、その人が死んで可哀想だから泣くのではなく。その家族を失ってしまった自分が可哀想だから泣くらしいんです」

穂乃果「人間ってそう言うふうに出来てるんですかね?」

海未「どうでしょう。良く調べていませんがあなたがこんな事言うなんて当時の私は信じられなくて、テレビで見た知識なんだろうなと思っていました」

穂乃果「あれ?馬鹿にしてます?」

海未「普段元気ハツラツなあなたがこんな詩的な事言うから感心した覚えはあります」
 
9: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:56:37.07 ID:771jhsIc
穂乃果「詩的かぁ・・・」

海未「・・・別の話にしましょうか」

穂乃果「あ、はい!」

海未さんと私はもう友達と言っていい仲だと私は勝手に思っている。
毎日、毎日、公園で談笑をして日が暮れたら帰る。
ここ半年はその繰り返しだ。

海未さんからは名前が示す通り、微かに塩の匂いがする。
海の近くに住んでると前に言っていた。

私は思い付いた駄洒落を我慢出来ずに海未さんは海の近くに住んでると言った事がある。

愛想笑いすらされず、海未さんは私の顔を見つめていた。
 
10: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:57:50.31 ID:771jhsIc
海未「バレンタインの日の前日にチョコクッキーを作った話なんですけど」

穂乃果「あ、はい。バレンタインですね」

海未「私の家ハート型の型抜きしか無くて、特に深い意味もなくそのままハートのチョコクッキーを作ったんです」

穂乃果「ほぉーハートですか。誰かにあげる予定だったんですか?」

海未「はい、あなたに」

穂乃果「わ、私にハートのクッキー!!ちょっと恥ずかしいですね」

海未「私も渡す時、恥ずかしかったです。それでお互い交換したんです」

穂乃果「私のチョコはどんなのでした?」

海未「えぇと・・・私と同じチョコのクッキーでした。ハート型の」

穂乃果「以心伝心ですねー」

海未「はい、今あなたが言った事と全く同じ事言いましたよ」
 
11: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 04:59:14.50 ID:771jhsIc
穂乃果「味はどうでした?」

海未「美味しかったですよ。あなたはどうですか?味は思い出せそうですか?」

穂乃果「うーん。でも、海未さんが作ったんなら美味しいに決まってるはずです!」

海未「ありがとうございます」

穂乃果「そう言えば海未さんの得意料理は何かあります?」

海未「私は・・・餃子とチャーハンですね」

穂乃果「餃子にチャーハンですかー!中華好きなんですか?」

海未「はい。チャーハンなんかは作るのが手軽で良く食べてます」

穂乃果「海未さんのチャーハンかー。食べてみたいかも・・・」

海未「いいですよ」
 
12: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:00:45.21 ID:771jhsIc
穂乃果「おっ、本当ですか?」

海未「はい、家に来てくれれば何時でも作りますよ」

穂乃果「行きたいです!海未さんの家!」

海未「はい、何も無いですが」

穂乃果「全然、大丈夫ですよ!チャーハンがありますから!」

海未「じゃあ今から来ますか?」

穂乃果「えぇっ!今から!?」

海未「都合が悪いなら後日でも大丈夫ですよ」

穂乃果「いや、今から行きます!お昼あんまり食べてないし!」

海未「じゃあ」

海未さんは腰を上げる。

海未「着いて来て下さい」

穂乃果「はい!」
 
13: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:02:36.00 ID:771jhsIc
海未さんの後をトコトコと着いて行く。
公園を抜け、しばらく歩くと駅にたどり着いた。

今はあまり乗る事はないが、昔私が良く利用していた駅だ。

穂乃果「電車に乗って行くんですか?」

海未「いえ・・・」

海未さんはポケットから車の鍵を取り出し私に見せた。

海未「近くにパーキングがあるのでそこに車止めてます」

穂乃果「えっ!?いつも車で来てたんですか?」

海未「はい」

一向に何も思い出す気配のないこんな私の為にわざわざ車で来てガソリンを無駄にしてる海未さんに何だか申し訳なくなる。

穂乃果「何かごめんなさい」

海未「?・・・行きましょうか」
 
14: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:05:00.46 ID:771jhsIc
海未さんの車は黒い軽自動車だ。

私の個人的な考えかもしれないが、海未さんに黒色は何だか似合わない気がした。

穂乃果「どうして黒なんですか?」

助手席に乗りながら聞いてみる。

海未「黒の方が目立たないからです」

確かに、海未さんは目立ちたがりではない方だと思う。
でも、どこか引っかかる問いだった。

車が動く。

パーキングを出ると、ラジオが明日は一日中雨だと告げる。

時々、海未さんは何か影を感じさせる事を言う。
あまり表情は変わらないし、笑った所も見た事がなかった。
いつもどこか遠い目をしていて、私はそんな海未さんに影のようなものを感じている。
 
15: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:06:37.69 ID:771jhsIc
海未「そう言えば・・・聞いていいかどうか分かりませんが・・・」

穂乃果「?何でも聞いて下さい!」

海未「あの、あなたを轢いた人は捕まりました?」

穂乃果「あー。それがまだ何ですよ」

海未「目撃者もいなかったんですよね?」

穂乃果「はい。だから警察の方々も手掛かり掴めないみたいで・・・」

海未「捕まるといいですね」

穂乃果「そうですね。でも、結果的に記憶喪失になってよかったかなぁって最近思うようになってて・・・実は」

海未「ダメですよそんな事言ったら」

穂乃果「ですよねーハハハ。でも、記憶喪失になっていなかったら海未さんとまた仲良くする事が出来た。それだけで私は嬉しいです!」
 
16: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:10:19.51 ID:771jhsIc
言い終わると同時に信号が青になり車は静かに止まる。

海未さんは私の顔をじぃっと見つめる。

穂乃果「?」

ただ何も言わず、私の顔をじぃっと見る。

穂乃果「どうかしました?」

私も海未さんの顔を見る。

海未さんの瞳はとても綺麗で吸い込まれそうだ。

その瞳は少しずつ潤いを増して行き、流れ星のように頬に涙が伝う。

穂乃果「え、えぇ!?」

海未「すみません・・・すみません・・・」

後ろの車がクラクションを鳴らす。
いつの間にか信号が変わったようで、海未さんは前を見て車を発進させる。

海未「何でもないです。たださっきの言葉に感動しただけです」

人は誰かの為に涙を流す事が出来ない。
海未さんは自分の為に何の涙を流したんだろう?

涙脆いのかどうなのか。
ただ海未さんは私の言葉に感動したと言っていた。
その言葉は本当なのかなと微かに疑問に思った。
 
17: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:14:06.88 ID:771jhsIc
私は海未さんの泣いた本当の理由を聞けず。
公園で話しているような昔話を海未さんから聞かされていた。

私が海未さんをいたずらした話だ。

二人で一緒にケーキを食べに行く約束をして、海未さんが予定通りの時刻に待ち合わせ場所に着いたんだけど、私は待ち合わせ時間に来なかったらしい。

5分10分と時間が経ち、海未さんは私に電話をかけた所、遠くで手を振っている私を見つけた。

海未「そこで、私は穂乃果に時間過ぎてると言ったんですが・・・」

穂乃果「言ったんですが???」

海未「遅刻はしていないと言うんです。私が来るよりも早くここにいたと」

穂乃果「どう言う事ですか?」

海未「穂乃果は私を見たかったと言ってました。あなたを待つ私を」

穂乃果「何か・・・ごめんなさい」

窓からは海が見える。
少し窓を開けていたので、塩の香りがする。
海未さんと同じ匂いだ。

海未「あの家です」

海未さんの視線を追うと、年季が入ったアパートが見えた。
 
18: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:15:57.13 ID:771jhsIc
何かちょっと意外だった。
海の近くで、しかも海未さんみたいに綺麗な人が住んでいるんだからお洒落なマンションかと思っていた。

海未「少し古いですよね?でも、家賃が凄く安いんです」

穂乃果「あっ、いえ。海が近いってだけで凄くいいと思います!」

思っていた事を見抜かれていてしまってたらしい。

海未「住んでみると特に不自由はしないですよ」

駐車場に車を入れ、エンジンを止める。

海未「何もないですが、どうぞ」

車を降りて、海未さんの後を着いて行き部屋へと入る。
 
19: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:18:42.72 ID:771jhsIc
部屋は玄関入ってすぐキッチンと冷蔵庫。
その横にドア、恐らくトイレだろう。

奥にガラス戸があり、海未さんは戸を開く。
ガタガタと音がし、部屋の真ん中には小さなテーブル。
恥に折り畳まれた布団。
それだけだ。

あとは、スマホの充電器やノートパソコンがあるが本人が言っていた通り本当に何もない。

海未「どうしました?」

穂乃果「あ、いえ!お邪魔します!」

靴を脱いで、中へ入ると床がギィギィと軋んだ。
いい泥棒対策だと思った。

海未「待ってて下さいすぐにチャーハン作りますね。あ、オレンジジュースとお茶どっちがいいですか?」

穂乃果「お茶で!」
 
20: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:19:23.62 ID:771jhsIc
海未「分かりました」

海未さんはすぐにお茶を出してくれた。

穂乃果「あ、ありがとうございます!」

海未「すぐチャーハン食べますか?」

穂乃果「あ、はい!すみませんお願いします!」

海未「分かりました」

すぐに台所へ行くと、海未さんは支度を始める。

トントントントンと心地よい音が聞こえ、私はテーブルに頬杖をつく。

目を閉じ耳を澄ますと、微かに波の音が聞こえる。

私はしばらく、この心地よい空間に身を委ねる事にした。
 
22: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:23:57.74 ID:771jhsIc
九色の色がステージの上で揺れる。

輝いて、揺らぐたびに光の群れが波打つ。

色はステージの上で混じり合い離れまた混じり合う。

空気が震え、光の群れの動きは音に合わせゆっくりになる。

歌声が私の身を包み、自然と体が震える。

LOVELIVEのネオンが光輝く。

私は思い出さなきゃならない。

この光景を知っている。

思い出さなきゃ・・・。
 
23: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:26:08.64 ID:771jhsIc
海未「穂乃果?穂乃果?出来ましたよ。起きて下さい」

穂乃果「んんっ・・・」

どうやら何時の間にか眠ってしまっていたらしい。

目を擦りながら、いい匂いがしてお腹の虫が鳴く。

穂乃果「ご、ごめんなさい。寝ちゃってました」

海未「いえ、いいんですよ。はい、チャーハン出来ましたよ」

目の前には湯気が立ち、お米一粒一粒が輝いているチャーハン。
レタスと人参玉ねぎが入っているのがわかる。

穂乃果「うわぁ!凄く美味しそう!!!」

海未「すみません。寝てたのにこのまま寝かせてた方がいいかなと思ったんですが、チャーハン冷めてしまいますし・・・」

穂乃果「いえ!いいんですいいんです!」

海未「じゃあ、食べてみて下さい。・・・ずっとあなたに食べて貰いたかった」

穂乃果「はい!いただきます!」
 
24: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:33:20.72 ID:771jhsIc
一口食べてみる。

私に食レポの才能があれば言葉巧みにこのチャーハンの美味しさを海未さんに伝え、彼女を笑顔にさせる事が出来ただろうが、出て来た言葉は・・・。

穂乃果「美味しい!!!」

それしか出て来なかった。

穂乃果「この味の秘訣は?」

海未「そうですね。迷わない事です」

穂乃果「迷わない事?」

海未「卵をフライパンに入れたらすぐに人参玉ねぎレタスご飯を入れる。投入のタイミングなんて考えず一気に炒める。それだけでしょうか?」

穂乃果「迷わない事ですか・・・なんか料理って深いんですね」

もぐもぐもぐもぐとチャーハンを頬張りながらしみじみと答えた。
 
25: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:43:28.16 ID:771jhsIc
チャーハンを食べ終わり、一息。

穂乃果「ごめんなさい。ごちそうになりました。夢中で食べちゃった」

自分の食べ物に対する卑しい姿を見せてしまったんじゃないかも思い恥ずかしくなる。

海未「いえ、美味しそうに食べていただいてよかったです」

穂乃果「今度タッパー持ってきてもいいですか?持ち帰って夜ご飯にします!」

海未「構いませんよ」

外を見ると日が沈みかけていた。
海が放射線状に太陽の光を反射してとても綺麗だった。

穂乃果「綺麗ですね。いつもこんな綺麗な景色見てるだなんて羨ましいなぁ」

海未「そうですか?慣れますよ」

穂乃果「私は慣れそうにないなぁ・・・毎回この景色に圧倒されちゃいそう」
 
26: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 05:50:43.69 ID:771jhsIc
ちゃぶ台を挟んで二人。
向かい合うように座っている。

外はいい景色で、私はこの良いムードに影響されたのだろう。
海未さんの事がもっと知りたくなった。

思えば、私は海未さんからは昔の話をよく聞くが今現在の話をよく知らない。

穂乃果「あ、あのぅ。海未さんは彼氏とかは・・・?」

海未「彼氏・・・いないですよ」

穂乃果「そ、そうですか・・・」

海未さんは海を見ている。
ついさっきそうですか?だなんて答えてはいたが海未さんもこの景色を綺麗だと思っているに違い無い。

海未「綺麗に見えますか?ここから見える世界は」

穂乃果「え・・・はい!」

海未「そうですか。記憶、頑張って思い出しましょうね」
 
27: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 06:03:29.98 ID:771jhsIc
穂乃果「記憶喪失何でなっちゃったんだろう。私、記憶喪失にならないままだったら海未さんともっと仲良かったのかなぁ?」

海未「・・・はい」

ポケットが小さく震え、LINEの通知が来た事に気付く。

穂乃果「あ、お母さんだ」

どこに行っているの?と来ていたので友達の家と返信する。

海未「もうそろそろ帰りましょうか」

穂乃果「そうですね!」

続けてもうすぐ帰る事も伝える。

海未「穂乃果・・・もし私が記憶喪失に・・・いえ、逆の立場だったらどうしますか?」

穂乃果「うーん。どうするんですかね。そんな状況になっても。私達はどこにだって行ける。そんな気がします」

その瞬間、世界は暗くなる。
感じるのは柔らかな感触と塩の香り。
絹のような手触りの海未さんの髪が耳をくすぐる。

海未さんは私を抱きしめている。

私は海未さんの体に沈むように、身を委ねる。

予想にもしないこの状況に緊張した体を徐々に動かし私も海未さんの体を抱きしめた。

何故、こうしたのか?

海未さんは小さく震えていたからだ。
 
28: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 06:09:00.97 ID:771jhsIc
穂乃果「・・・ぐぅ」

何秒経っただろう。
しばらく、抱きしめ合ってた私達は私の間抜けな喉の音で解放された。

海未「す、すみません」

海未さんの胸に埋もれるようにして抱きしめられていた私はもう少しで窒息死する所だった。

・・・思ったより海未さんは胸は小さかったから強く抱きしめられていたのだろう。

穂乃果「あ、いえ!」

少し乱れた髪を手ぐしで戻す。

海未「・・・帰りましょう」

穂乃果「あ・・・はい」
 
29: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 06:18:42.64 ID:771jhsIc
車で私の家へと送って貰う。

いつものように昔話をしながら。

何で、海未さんは急にあんな事を・・・。

日は完全に沈み、外は星空が輝いている。

未だ鼻腔に塩の香りが残る中、私の家へと到着する。

海未さんは車の中で私を見送る。

どこか悲しそうな表情を浮かべながら。

だから、私はそんな海未さんを少しでも元気付けようと飛びっきりの笑顔でさようならと言うと海未さんは更に悲しそうな顔をする。

もう、一度。
海未さんは何で私を抱きしめたんだろう?

海未さんの車が遠く見えなくなるまで、私はずっと考えていた。
 
30: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 06:33:05.16 ID:771jhsIc
『海未』

私の家から大分離れた山の中。

車を止める。

コンビニの袋を手に持ち、懐中電灯の灯りを頼りに山の中を歩く。

中にはおにぎりとミネラルウォーター。

海未「・・・」

目的の場所にたどり着く。

光に照らされた男が怯えた表情でこちらを見ている。
血に濡れた足、口元をダクトテープが覆っている。
ロープで木に巻き付けられた男の体。
ボロボロの衣服、微かにする腐臭。

私はポケットからナイフを取り出すと、男の手を軽く引っ掻く。

ダクトテープを思いっきり剥がす。
皮膚も少し剥がれる。

男は助けて助けてと懇願する。

新たなダクトテープを口元に貼り、おにぎりとミネラルウォーターを投げる。

少し前にナイフで刻んだ箇所に当たると男は低く唸る。

海未「・・・あぁ」

海未「あぁああああっ!!!」

不快だ。

ナイフの柄で何度も男を殴った。
 
32: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 06:39:48.09 ID:771jhsIc
2.

穂乃果「あ、そう言えばこれ見て下さい!」

この写真を見つけたのは偶然だった。

何か思い出そうと、アルバムを見ていた所。
私と海未さんのツーショット写真が見つかったんだ。

海未「私と・・・穂乃果」

穂乃果「そう何ですよ!」

私と海未さんの写真は何故かこれしか無かったが昔海未さんと仲良くしていたと言う何よりの証拠だ。

写真の海未さんは何だか少し照れ臭そうで、私は満面の笑みだ。

海未「懐かしいですね」

穂乃果「その懐かしいって感覚が今の私にら分からないけど海未さん今と全然変わっていませんね!」

海未「ありがとうございます」
 
33: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 06:56:44.57 ID:771jhsIc
そういえば・・・と海未さんが持って来ていたバックから何かを取りだす。

穂乃果「わぁっ~!!」

チャーハンだ。
チャーハンがタッパーにこれでもかと言うぐらいギチギチに詰められており、タッパーの蓋の型がチャーハンにめり込むぐらいだった。

穂乃果「こんなに沢山いいんですか?」

海未「えぇ、この前美味しそうに食べてくれましたから」

穂乃果「わぁー嬉しい!」

昨日の出来事からだろうか、今日は何だか二人の距離が近くなった。

前は真ん中に人一人座れそうな距離で座っていたのに今はアリ1匹座れそうにない。

穂乃果「お家に帰ってたべますね!」

海未「はい、また要望があれば作ります」
 
34: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 07:14:17.73 ID:771jhsIc
穂乃果「いいんですか?毎日お願いしちゃうかもしれませんよ?」

昨日の遠慮はどこに消えたのか、一回抱きしめ合った仲だからか、私は海未さんにいつも以上に友達っぽく接せれるようになっていた。

一日でこうも人間変われる物なのかとびっくりした。

海未「はい、食べたい時はいつでも」

穂乃果「あれ?」

ふと海未さんの人差指に昨日までは無かった絆創膏が貼ってある事に気付く。

穂乃果「どうしたんですか?それ」

海未さんの人差指を指差す。
 
35: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 07:38:03.65 ID:771jhsIc
海未「いえ、これは・・・このチャーハン作る時に包丁で切りました」

穂乃果「えぇっ!大丈夫なんですか?」

海未「大した事ありませんよ。少し切っただけですから」

穂乃果「そ、そうですか・・・」

改めて見てみると海未さんの指・・・いや手は私のと比べると傷だらけだ。
元が綺麗なだけに、小さな傷も目立つ。

海未「それよりも、昔の話をしましょう。この写真を撮った時の話でいいですか?」

穂乃果「あ、はい!お願いします」
 
36: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 08:30:30.66 ID:771jhsIc
海未「私と穂乃果のツーショット写真はこれしかありません」

穂乃果「ほぉーどうしてです?」

海未「私、あまり写真が好きでは無く、カメラ向けられるとポーズやら表情やらでいつも困ってしまうんです」

穂乃果「あーだから照れ臭そうにしてるんですね」

写真をもう一度見てみる。
話を聞いて、この写真の海未さんがよりいっそう可愛く見えた。

海未「はい、これは無理矢理取らされたんです」

穂乃果「無理矢理?」

海未「穂乃果が撮ろう撮ろうってしつこくて・・・」

穂乃果「ほぉー。欲しかったんじゃないですかね?私と海未さんのツーショット写真」

海未「同じ事を穂乃果も言っていました。かく言う私もあなたとのツーショット写真が無かったので・・・」

穂乃果「ので?」

海未「頑張りました」

穂乃果「あ、じゃあ海未さんもこの写真持ってるんですか?」

海未「勿論・・・持っていますよ」
 
39: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 16:43:47.44 ID:771jhsIc
穂乃果「じゃあ、今度見せて下さい!」

海未「良いですが、この写真と一緒ですよ?」

穂乃果「でも、見てみたいんです!」

海未「分かりました。でも、実家にあるので一度帰って探さないといけません。なので、持って来るのは当分先になると思います」

穂乃果「構いませんよー。私と海未さんが全く同じ写真を持ってる。何だか凄く嬉しいです!」

海未「喜んでいただいてよかったです」

穂乃果「海未さんは学生時代どんな人だったんですか?」

海未「私ですか・・・」

海未さんは少し考え込んだ。

海未「別に普通でしたよ」
 
41: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 18:55:57.47 ID:771jhsIc
穂乃果「高校時代は部活とか何か活動はして無かったんですか?」

海未「・・・いえ、特に何も」

穂乃果「あ、私って何部でした?」

海未「部活には入っていませんでしたよ。でも、アイドル同好会に入っていました」

穂乃果「アイドル同好会・・・アイドル好きだったんですねー」

海未「友達から無理矢理誘われて入ったと言ってましたしそんなに興味あるようには見えませんでしたよ」

穂乃果「そうなんですかー。あ、海未さん美人だからモテたんじゃないですか?」

海未「モテなかったですよ。特に活発ではなかったしどちらかと言えば暗かったと思います。同じクラスの男子はあなたの事好きな人多かったですよ」

写真の海未さんをもう一度見る。

・・・何かおかしい。
 
42: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 20:33:46.40 ID:771jhsIc
私や海未さんは何らおかしな場所はない。
おかしいのは写っている場所。
私と海未さんが並んで撮ってる場所は校門だ。
もっと厳密に言えば、校門の学校名が書かれているプレートだ。

音乃木坂学院。
おかしい・・・ここは確か女子校だ。

クラスの男子は私の事を好きな人が多かったと言っていた。

穂乃果「音乃木坂学院・・・」

海未「・・・え?」

穂乃果「確かここって女子校でしたよね?」

海未「何か思い出しましたか?」

穂乃果「いえ、ただ。写真の中の校門にそう書いています」

海未「そうですか、すみません中学の時の話をしていました」

私は高校時代の部活の話から始まったから、そのままの流れで私は高校時代の話をしているつもりだった。
海未さんに違和感を感じる。

海未「すみません」

目が合い、海未さんはすぐに逸らした。

何か嘘を付いていると思うようになった。
 
43: (もんじゃ) 2020/04/27(月) 21:02:09.66 ID:771jhsIc
空はどんよりと灰色に濁る。
そういえば昨日ラジオで雨だと言っていたのを思いだす。

穂乃果「いえ・・・雨降りそうですね」

海未さんも空を仰ぎ見る。

灰色の雲は徐々徐々に膨れ上がり、もうすぐ爆発しそうだ。

海未「穂乃果はよく雨が降ると雨止めーと言って晴れに変えてました」

穂乃果「私は神ですか!?」

海未「いえ、偶然だと思います。でも、本当にピタリと止んだ事もあります。もう帰りましょうか」

昨日、二人で雨が降ると車の中で聞いていたのに海未さんも私も傘を持って来てはいなかった。

穂乃果「そうですね!駅まで送りますか?」

海未「いえ、その間に降られると穂乃果が濡れてしまいますので・・・」
 
44: (もんじゃ) 2020/04/28(火) 06:36:56.34 ID:rKCu8si3
穂乃果「私は濡れても全然平気ですよ」

私の体は丈夫だと示すように拳で胸をドンと叩く。

海未「いえ、風邪ひいてしまったらダメなので」

雨の匂いが鼻腔を抜ける。
雀は地面に降り、蟻を啄み私と目が合うと食事している姿を盗み見るなと言わんばかりに何処かへ飛んで行ってしまう。

穂乃果「んー。でしたらまた明日会いましょう!」

海未「えぇ、構いませんよ。同じ時間でいいですか?」

穂乃果「はい!」

海未「では・・・」

海未さんはベンチから立ち上がる。
湿って行く空気の中で、塩の匂いがまた香る。
太陽はもう雲の中に隠れており、空にはどこにも青色は無い。
だからこそ、海未さんの青い髪は美しく見えていた。
 
48: (SB-iPhone) 2020/04/28(火) 18:09:59.56 ID:yKd+t1vb
公園のゲームまで二人で歩き、私達はそれぞれ別の道を歩く。

途中、振り返って海未さんを見ると見事に海未さんも振り返っていたので手を振ると海未さんも小さく手を振る。

穂乃果「控えめな人だなぁ」

偉い人みたいに海未さんの手を振る姿を見て呟く。

やがて海未さんの姿は見えなくなり、頭にポツリと雨が一滴降り、じわじわと頭皮濡れる。

ポツリ、ポツリ、と一滴一滴ゆっくりと振る雨は数秒後、空が気でも狂ったように土砂降りになった。

私は途中走って帰ろうと思ったが、こんな土砂降りじゃ走って帰っても歩いて帰っても同じだと思い雨を楽しむ事にした。

どうして雨が降るだけで世界はこんなにどんより陰気を帯びるのだろう。
 
49: (SB-iPhone) 2020/04/28(火) 18:21:42.31 ID:yKd+t1vb
私はあまり雨にいいイメージがない。

それは雨に大きなトラウマがあるからいいイメージがないのではなく。

雨が振るとピクニックが中止になったり、授業のプールが無くなり自習になったりと一般的な意味だ。

少なくとも今の私は記憶喪失なので、そんな体験した覚えがないが、こうすらすらと雨に対する恨み言が浮かぶのは喪失しただけで身に覚えはあるのだろう。

思い出せないだけで、記憶の底の底の底には体験した事を閉じ込めているのだろう。

ふと、海未さんが言っていた事を思い出す。
私は天候操作の能力があるらしい。

穂乃果「雨やめーー!」

雨はまだ降り続けている。

やっぱり気合いが足りないのだろうか?
それこそ、白目を剥いて天候を操作してやる気合いがいる。

穂乃果「雨やめーーーっ!」

白目こそ剥かなかったがもう一度言う。

不思議な事に私の体には雨が当たる感触は無い。
いや・・・雨は私の頭上にだけ降っていなかった。

不思議になり頭上を見上げる。
真っ黒な傘が私の頭上に・・・。

振り返る。
この傘の黒が似合う、黒髪でロングストレートのとても可愛らしい子ご私に傘を差していた。

にこ「ほら、やんだよ」
 
50: (SB-iPhone) 2020/04/28(火) 19:25:45.82 ID:yKd+t1vb
穂乃果「えっと・・・あなたは?」

にこ「・・・私は矢澤にこ。海未の・・・まぁ友達よ」

穂乃果「あ、海未さんの・・・」

にこ「あなたは、穂乃果よね?ごめんね。急に話かけちゃって」

穂乃果「いえ、えっと・・・」

にこ「海未はもう帰った?」

穂乃果「あ、はい!もう帰りました」

にこさんは傘を私にグイッと差し出す。

にこ「はい、腕疲れたから・・・」

穂乃果「あ、ありがとうございます」

傘を受け取ると、にこさんは私の顔をジッと見つめる。

にこ「なるほどね。ねぇ、話があるんだけど・・・時間はある?」

穂乃果「話・・・ですか?」

にこ「うん、大事な話」
 
51: (もんじゃ) 2020/04/28(火) 22:45:46.81 ID:5dDao4jk
穂乃果「大事な話・・・」

にこさんの言葉を繰り返して飲み込む。
恐らく、海未さんの事だろうと直感で分かった。
私の事を知っているそんな雰囲気ではなかった。

穂乃果「海未さんの事ですか?」

にこ「そうよ。でも、あなたの事も含んでる」

穂乃果「それは、私の記憶喪失の件ですか?」

にこ「ううん。いや・・・関係無いと言えば嘘になるわね。とにかく、聞いて欲しい事があるの。とりあえずはこんな所で立ち話も何だし・・・近くにファーストフード店があるからそこで話しましょう」

穂乃果「分かりました」

にこさんは先に歩き出す。
私は言われるがままついて行く。

ファーストフード店に着くまで、私達は無言でどんよりとした空気がいつまでも纏わり付いて離れない。

背丈は私よりも小さく、顔も幼い印象だけど海未さんと同じようににこさんにも何か影のような陰険な雰囲気を身に纏っている。
 
52: (SB-iPhone) 2020/04/28(火) 23:29:36.39 ID:yKd+t1vb
店の中に入る。
適当な場所に座り、私はコーラにこさんはコーヒーを頼む。

雨だからか、店内は混んでいて店員さんが忙しそうにしていた。

穂乃果「あのー。大事な話というのは?」

にこ「そうね。まず、私はあなたの事は海未からある程度聞いてる」

穂乃果「私の事?」

にこ「記憶喪失だったりとか、海未と毎日公園で話をしている事だったりだとか・・・と言うのもね。たまたま、あの公園であなたと海未が話をしているのを偶然見つけてね。その後に海未から色々聞いたんだけどね」

コーラとコーヒーを店員さんが持ってくる。
グラスの氷がカランと響き、喉が渇いていたので一口飲む。

にこ「これはただどんな感じか知りたいだけ、気を悪くしないで欲しいんだけど・・・なんで記憶喪失になったの?」

穂乃果「えっと、車に轢かれて目覚めたら記憶がすっぽりと無くなっていたんです。お医者さんに聞いたら強く頭を打った事が原因だとかで・・・」
 
53: (もんじゃ) 2020/04/28(火) 23:44:41.58 ID:5dDao4jk
にこ「なるほどね。都合いいわね」

都合いいわね。
私にはこの言葉の真意がよく分からなかった。
何が都合いいのか・・・よく。

にこ「記憶喪失になって海未と出会ったのはいつぐらいから?」

穂乃果「えぇっと、一年後ぐらいです」

にこ「それからずっと海未と?」

穂乃果「はい、お話してました。海未さんは私の為に毎日来てくれてよく昔話をしてくれます。昨日は家に招いてくれました」

何か、面接みたいだなと思った。
にこさんが淡々と質問して私がそれに答える。
何でにこさんは私の事をこんなに知りたいのだろう?
 
56: (もんじゃ) 2020/04/29(水) 07:30:14.47 ID:0A7FPVw3
にこ「そう。家にね」

穂乃果「あの、大事な話というのは?」

今度は私の方から質問をしてみる。
コーヒーにスティックシュガーを入れながらにこさんは答える。

にこ「そうね。あなたにとって海未はどう映ってる?」

穂乃果「私にとって・・・?」

にこさんはコーヒーを飲み一息入れてからまた答える。

にこ「そう。あなたにとって」

私にとって海未さんがどう映っているか・・・。
少し考える。

穂乃果「・・・綺麗な人だなと思います」

にこ「違う違う。そう言う事じゃなくて・・・」
 
57: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 07:45:43.31 ID:hFX6DLI6
穂乃果「え、でも・・・」

にこ「質問の仕方が悪かった。本当に似てるのね。えっと、どう感じる?海未を見て」

穂乃果「えっと・・・」

言い淀む。
この人は海未さんの友達と言っていた。
言っていたが、こんなに根掘り葉掘り私達の事を聞いてそれに全て答えるのはあまりいい気持ちでは無かった。

経験は勿論無いが、警察の取り調べを受けているような気分だ。

今私が海未さんに少なからず思っている事をさらけ出していいものだろうかと勘ぐる。

にこ「当てましょうか?少し、不審な所があると思っているでしょう?」

穂乃果「・・・はい」

言い当てられ、素直に答える。
写真の件も抱き付かれた件も突然涙を流す事も、何処か心に引っかかるのだ。
 
58: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 08:05:17.78 ID:hFX6DLI6
にこ「私は海未の為に今ここで全てを話す訳にはいかない。でも、あなたに私からお願いがあるの。あなたに言った大事な話と言うのはこのお願いよ」

にこさんの目がキラキラと輝く。
その輝きは希望や幸せの輝きなどでは一切なく。
悲哀に満ち溢れる涙だ。

でも、にこさんは溢れそうになる涙を堪えている。

にこ「ごめんなさい。あなたは私達のどうしようもなく救いが無い話に巻き込まれている」

穂乃果「・・・」

にこ「海未を助けて欲しい」
 
59: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 08:21:18.70 ID:hFX6DLI6
穂乃果「私が海未さんを・・・?」

どちらかと言えば私は海未さんに助けて貰っている側だ。
そんな私が海未さんを助ける?

にこ「勝手に巻き込んで申し訳ないと思ってる。すごく、身勝手だって分かっている。でも、あなたは他の誰でも無い・・・今の海未を救えるのはあなただと私は思ってる」

穂乃果「ちょっと待って下さい。助けられているのは私のほうですよ?」

にこ「違う。助けられているのは海未の方なの。海未は今自分で決めたルールにがんじがらめになっている」

穂乃果「話が・・・おっしゃってる事が見えません」

にこ「記憶喪失で困ってるあなたにこんな事頼むのは間違っていると分かってる。あなたは海未にとっての光なの」
 
60: (もんじゃ) 2020/04/29(水) 08:40:26.05 ID:0A7FPVw3
穂乃果「私が海未さんの光?」

にこ「そうよ。神様はいると思う?」

私には分からない。
私は昔、神様を信じていたのかどうか。
何かを信仰していたのかどうか何も分からない。
記憶喪失の私には何も・・・。

穂乃果「・・・分かりません」

にこ「海未とあなたを見て、それから海未からあなたの話を聞いて・・・私は思ったの神様はいるんだなって」

穂乃果「私が海未さんを助けるとして、どうやって助けたらいいんですか?」

にこ「ただ、側に居てあげるだけで救われると思う」

穂乃果「それぐらいの事なら毎日だってしてあげれますけど・・・」

にこ「これから、あなたにとって海未は憎む存在になると言ったら?」

穂乃果「私が海未さんを憎む?」

にこ「海未はあなたにとんでもない事をしている」
 
61: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 09:07:26.95 ID:hFX6DLI6
穂乃果「私に・・・?」

にこ「そうよ。私の口からは言えない。私はあなた達の物語の部外者だから。多分、海未の口からも言えないと思う。それに・・・あなたに自分で調べてそして海未を許して欲しい」

穂乃果「それは私の過去と関係はあるんですか?」

にこ「全く無いわ。ごめんなさい」

穂乃果「・・・私はこの一年海未さんにとても良くして貰いました。毎日あの公園で記憶を取り戻そうと海未さんはとても親身になってくれました。にこさん・・・あなたが言うように私が側にいるだけで海未さんが救われるのなら私は海未さんの側にずっと居ます」

にこ「・・・ありがとう。もう帰るわね」

穂乃果「は、はい・・・」

にこ「μ's」

穂乃果「みゅーず?」

にこ「調べて見れば全て分かる。バイバイ」
 
63: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 21:36:06.31 ID:hFX6DLI6
にこさんの姿はもう見えなくなり、お店に一人残された私はまだ少し残っているコーヒーを見ながら考える。

海未さんは私にとんでもない事をしている。
その言葉の意味を考える。

海未さんはあまり感情を表に出さない人だ。
私の記憶を取り戻そうと懸命に協力してくれている。

穂乃果「μ's」

にこさんが帰り際に言ったこの言葉を思い出す。
調べれば全てが分かる。
スマホを取り出し検索をしてみる。
 
64: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 22:02:57.43 ID:hFX6DLI6
まず出て来たのは石鹸。
それから、イギリスのロックバンドにギリシャ神話。

全ての項目を見ても、あまり関係のなさそうな記事だった。

上から順に見て行き、見覚えのある名前を見つけた。

園田海未。

他には・・・東條希、牧瀬絵里、矢澤にこ、星空凛、小泉花陽、西木野真姫、南ことり。
・・・・・・高坂穂乃果。

音ノ木坂学院の廃校を救う為に結成されたスクールアイドル。

穂乃果「あぁ・・・そっか」

ラブライブに優勝、音ノ木坂学院を廃校から救う。

私は次々と記事を読む。
μ'sに何が起きたか、海未さんに何が起きたか。

穂乃果「確かに・・・都合いい」

いつの間にか涙が流れていた。

穂乃果「・・・なんでこんな」

日の光が店中に差し込む。
コーラの入っているグラスが爛々と輝く。
外にいる子供が傘を閉じ空を見上げる。
いつの間にか雨は止んだみたいだ。

息の仕方が分からない。
視線は彷徨い、頭に酸素が回らない。
スマホを持っている手に力が入らない。
私はどうしたらいい。
 
65: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 22:40:43.69 ID:hFX6DLI6
『海未』

海未「穂乃果・・・これで全部終わりました」

窓から見える真っ暗な海を見る。

微かな月明かりを頼りに、自分の両手を見ると血に濡れている。

目を閉じて、もう一度両手を見る。

幻覚。

今の私の手は血で汚れてなんかいない。

あの日、初めて人を〇したあの日から私は幻覚を見る事が多くなった。

人を〇す代償と言うのはこんなにも重いものなのかと思う。

私は人を〇す事に関しては罪の意識など全く感じてなんていないのに、人間は人間を〇すと壊れるように・・・きっとそういう風に出来ているんだろう。
 
66: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 22:56:42.72 ID:hFX6DLI6
私が〇した人達の幻覚はいつだって私の前に現れ、私の心を蝕んで行く。

ゆっくりと、ゆっくりと、確実に。
遅効性の毒のように、内部からゆっくりとゆっくりと。

月は妖しく光る。
星空が輝く夜空も綺麗だとは思わない。

海も、空も、この世の全てが綺麗だとは思わない。

全て、全てが汚れて見える。

私はこの汚れた世界には光はなく。
いつだって、暗いままだ。

太陽の光もそれを反射し青く輝く海も、淡い月光も目に見える全てが汚れている。

でも、そんな時あなたと出会った。

穂乃果「海未さん。ドア開きっぱなしでしたよ」

海未「・・・穂乃果」

あの公園であなたに出会ってしまった。
 
67: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 23:10:27.50 ID:hFX6DLI6
穂乃果「ごめんなさい。勝手に入ってしまって、チャイム鳴らしたんですけど・・・」

海未「どうしたんですかこんな夜中に・・・どうやってここまで?」

私はあなたと出会い、しばらく見なかった光を見るようになった。

穂乃果「急でしたよね・・・ごめんなさい。でも、海未さんとお話がしたくて」

海未「・・・」

何で神様は私に再び光を見せた。
この汚れた世界で汚れていく私をどうして救うような真似をした。

穂乃果「高坂穂乃果・・・」

彼女は私の目をしっかりと見ている。
きっと全て知ってしまったのだろう。
それでも尚、怖がらずに私の目を見てくれている。

穂乃果「・・・亡くなったんですよね。海未さんの大事なお友達」

海未「・・・はい。穂乃果・・・高坂穂乃果は〇されました」

私は高坂穂乃果を愛していた。
 
68: (SB-iPhone) 2020/04/29(水) 23:35:27.69 ID:hFX6DLI6
彼女は床に座り込んで涙を流した。

「本当だったんですね。こんな・・・こんな話って・・・」

海未「高坂穂乃果はもう既にこの世にいないません。今、目の前にいるあなたは高坂穂乃果ではない。全くの別人です」

「うん・・・うん・・・」

苗字は違うが、下の名前は穂乃佳。
漢字は違うが、穂乃果と一緒だ。
顔も瓜二つまでとはいかないけど、似ているし何より性格は穂乃果の生写しだ。

海未「あなたは記憶喪失だった。
だからこそ、穂乃果を求める私は記憶喪失のあなたを穂乃果に仕立てあげようと、私と穂乃果の記憶を彼女に教えました」

穂乃佳「全部、知ってたよ・・・全然気付けなかった・・・ごめんね」

海未「穂乃果はあの日・・・みんなで合宿中に真姫の別荘で〇されました」
 
74: (SB-iPhone) 2020/05/03(日) 03:53:12.72 ID:D+kZATgY
3.過去

海未「・・・あ・・・あ・・・」

この世界は汚れている。

現在進行中で急速に汚れて行く。

クローゼットの隙間から見える私の透明だった世界は茶色や黒の絵の具で容赦なく汚されて行く。

ついさっきまで、私達は真姫の別荘で楽しくお喋りをしていたのに。

この男達が私達の世界を悪意を持って容赦無く壊した。

みんなは裸にひん剥かれて、虚ろな目で空虚を見ている。

そこに何かある訳では無い。
ただ、この悪夢が早く去ってくれるように感情を〇して時が経つのを待っているんだ。

この男達はそんな事お構い無しにみんなの体を観察し触れて舐めて強姦する。
 
75: (SB-iPhone) 2020/05/03(日) 03:54:27.53 ID:D+kZATgY
段々と私の心が壊れて行ってるのが分かった。
痛みは無く、感情はどこかに飛んだ。

思えば私の祈りが通じたのかも知れない。

感情さえ無くなってしまえば、私は見ても何も感じず聞いても何も感じない。

男達が穂乃果を突き飛ばす。

ただ、ヒステリックな声を出すことり。

嘔吐する花陽。

そして、穂乃果は自分が刺した男と同じように腹部を刺される。

海未「穂乃果・・・穂乃果・・・」

私は今息をしているのだろうか。
心臓は動いているのだろうか。
わからない。

熱い血液が私の体を駆け回る。

神様が叶えてくれた願いは不完全だったみたいだ。
怒りの感情だけを残して神様は私の世界を散らかしニヤリと笑って玄関の戸を閉めた。
 
78: (SB-iPhone) 2020/05/03(日) 09:15:15.58 ID:D+kZATgY
海未『汚れた世界』


ペンを走らせる。

【私は園田海未。私は・・・園田海未。ここに私を残す。

あの日、主犯格の内の一人を〇した。

これからもこの汚れた世界を少しでも少しでも少しでも少しでも浄化していきたいと思う。

過ちを犯してしまい汚れてしまったこの命をこの世界の為に使おうと思う。

もし私が死んで生まれ変わったらとしたら、次はただ反射と本能で生きる虫に産まれたい】

これは、遺書。

誰に宛てた物でもない。
 
90: (SB-iPhone) 2020/05/09(土) 17:23:50.85 ID:vaZlEEE/
一年一年と時が過ぎて行く。

私は死のうと思っている。
だけど、私がこうやって生きている理由は穂乃果あなたでした。

いや、私はもう生きていないのかもしれない。

身体は生きているが魂はもう壊れているのかもしれない。

今まで私は強姦した男を探し見つけては〇し、また探して見つけて〇していました。

一人の命を奪う毎に、私の魂は少しずつ亀裂が入っていくのが自分でも分かる。

復讐を果たすと喜びも無い。

男を捕まえて拷問してる間も怒りの感情もない。
〇さないと拷問しないといけない。
そうプログラムされたロボットのようにただ淡々とやっている。

穂乃果、あなたの事を思い出す時間も随分少なくなってきた。

私は今最後の主犯格の一人の男を拷問しています。

感情をなくした私はこの男を〇した後。
どこか人気の無い場所で死のうと思っているつもりだ。
 
91: (SB-iPhone) 2020/05/09(土) 17:42:32.50 ID:vaZlEEE/
恐らく、私は地獄へと行くでしょう。

天国にいるあなたとはあの世でも会う事は無いでしょう。

私とあなたはもう同じ場所にいる事ができない。

悲しい、辛い、だなんて思えない。

中身の無い、空っぽのこの体にはそういう思いは似つかわしくない。

今日もいつものように青い空だ。

無慈悲なこの日々を早く終わらせよう。
 
92: (SB-iPhone) 2020/05/09(土) 17:53:45.49 ID:vaZlEEE/
「よぉし!この水溜まりを超えたら何か一つ思い出す!」

能天気な声が不意に聞こえた。

見れば、大学生ぐらいだろうか?
軽く2、3回ジャンプしたかと思うとそのまま走り出し。
彼女は水溜まりを飛び越えた。

「・・・・・・ダメだぁ」

穂乃果も同じような事をしていた。
よく水溜まりを飛び越えていた。
穂乃果は願掛けのような行為だという事を言っていた事がある。

彼女はじっと見ていた私に気付きこちらを見る。

瞬間、時が止まる。
空っぽの体の芯が、ジワジワと暖かくなっていく。

海未「・・・穂乃果」

彼女は穂乃果によく似ていた。
 
94: (もんじゃ) 2020/05/09(土) 19:52:48.84 ID:MPMrSPi4
瓜二つとまではいかないが、本当に穂乃果に似ている。

思わず見惚れる。

世界には自分と似てる人間が三人いると言われているが、彼女はそうなのだろうか?
それに、どこかで見た事がある。
昔、彼女とどこかで・・・。

「・・・あの」

彼女は私に歩み寄る。

穂乃果と過ごした日々が頭を支配する。
顔も・・・声も何もかもが穂乃果だ。

確かに私の腕の中で息絶えたはずの穂乃果が今目の前にいる。
ナイフが腹部に刺さり、手に熱い血の感触が蘇る。

穂乃果は本当は生きていた。
そう、思わせるぐらいこの光景は信じられないものだった。

「私、穂乃佳って言います。もしかして私の事知ってたりしますか?」
 
95: (もんじゃ) 2020/05/09(土) 20:05:46.93 ID:MPMrSPi4
海未「・・・え?」

本当に穂乃果だ。
名前まで・・・一緒だ。

目の前に広がるこの汚れた世界が彼女を通して光輝いて見える。

風に揺れる木々も、地面を突く雀も、花に止まる蝶も。

鬱陶しいと思っていた空の青も。

全てが光輝くものとなる。

穂乃佳「あぁ、ごめんなさい。あの私記憶喪失何です!車に轢かれて・・・昔の事何も思い出せなくなっちゃって・・・」

私は分かっていた。

名前も同じ容姿も似ている。

だけど彼女は穂乃果ではない。
穂乃果に似ている別人だ。

全て分かっている。
 
97: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 22:20:28.74 ID:+uOdvDKr
そう、私は全て分かってる。
これは・・・私の物語は悲惨な物だ。

穂乃果の生まれ変わりでもう一度私と人生を過ごす為に偶然出会った。

違う。

穂乃果が死に魂だけが他の似ている人に乗り移り私の元へと現れた。

違う。

私の物語は暗く悲惨で救い難い。

彼女は私を見て微笑んでいる。
その笑顔が愛おしくて、太陽みたいで、どう足掻いてもこの笑顔を私の物にしたい。

だから私は記憶を失ってしまった彼女に生前の穂乃果の記憶を教え。

彼女を本物の穂乃果にしようと決めたんだ。

それが、私がやってきた復讐なんかよりもよっぽど罪深いと知っておきながら。

彼女を穂乃果にしたかった。

私は見ず知らずの他人を、死んだ友人に似ているだけと言う理由だけで私の暗く物語に引き込んだ。
引き込んでしまった。
 
98: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 22:33:22.06 ID:+uOdvDKr
『現在』

海未「本当にすみません。私はあなたを巻き込んでしまった」

穂乃佳「・・・」

彼女は玄関にもたれ掛かり、私ではないどこかを見詰めている。
その目はとても澄んでいて美しい。

微かに震えているのが分かる。
冷静に考えれば彼女の病気を利用して全く別の人格を植え付けようとした張本人が目の前にいる。
震えるのも無理がなかった。

頬に冷たい物が伝う。
私はいつの間にか涙を流していた。

復讐する度に感情を失って行った私が今更何の涙を流すんだ?

穂乃佳「・・・泣いてるんですか?」

海未「・・・すみません」

穂乃佳「昔、穂乃果さんは言ってたんですよね?人は誰かの為に涙を流さないって」

海未「はい、私はあなたに嘘をついていましたが・・・あなたに話した穂乃果との思い出は本物です」

穂乃佳「そう・・・ですか。海未さん感情を無くしたって言ってましたよね?人は自分の為に涙を流すって、だったら・・・今感情を無くした海未さんは人類で初めて他人の為に涙を流した人になり・・・ますね」

彼女はあの時と変わらない笑顔で、私に微笑んだ。
 
99: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 22:44:22.88 ID:+uOdvDKr
穂乃佳「高坂穂乃果さん・・・とても元気な人だったんですね」

彼女は私に一歩一歩と近付く。

私の目をしっかりと見て、何かを決心したかのように、フローリングの床を一歩一歩と踏み締める。

穂乃佳「私は記憶喪失で、海未さんの事を何も知らないしこの物語の当事者でもないです。でも、私は・・・私も海未さんから聞かされる高坂穂乃果さんの話しを聞いて好きになりました」

距離が近い。
彼女は私の両方を掴む。

穂乃果「ねぇ?海未さんの復讐はいつまで続くの?」

海未「・・・」

穂乃果「私を穂乃果さんにして・・・どうするつもりだったの?」

海未「・・・」

穂乃果「その先は?もし私が途中で知ってしまって海未さんの事嫌いになったら?全然考えてなかった・・・?」

私が何かを・・・何でもいい言葉を出そうとしたその瞬間。

穂乃果の唇が私の唇に触れる。
 
100: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:12:09.73 ID:+uOdvDKr
触れ合ったのは数秒、でも私にはとても長い月日が経ったかのように思えた。
唇が触れる一瞬、私は確かに穂乃果を見た。

穂乃佳「ごめんなさい・・・」

彼女がそう言うまで唇が離れていた事に気付かなかった。

海未「・・・」

穂乃佳「ごめんなさい。こうしなきゃいけないと思って・・・」

心臓が脈打つのが分かる。
指先がチリチリと熱く、触れ合った唇が急速に渇いていく。

血液が身体を恐ろしい速さで巡っているのが分かる。
耳がジーンと熱くなる。

海未「あなたは・・・」

穂乃佳「私は高坂穂乃果さんではないです。でも、海未さんのお友達です」

海未「友達はキスしないと思うんですが・・・」

穂乃佳「いいじゃないですか」

海未「あの・・・怒ってないんですか?私があなたにした事」

穂乃佳「怒ってますよ・・・でも、忘れました」

海未「・・・え?」

穂乃佳「ほら、私は記憶喪失ですから!」

それから、私達は朝が来るまで二人で穂乃果の話をした。

太陽が完全に顔を出すと、穂乃佳はまた来ますと言って家へと帰って行った。
 
101: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:23:18.76 ID:+uOdvDKr
私はあれから4時間程寝て、少ない荷物を纏めた。
ここから去るつもりだ。

ずっとここに居てもいいと思った。

彼女は私に好意を抱いて、忘れも彼女に好意を抱いてる。

穂乃果ではない穂乃佳として。

でも、このままここに居てはいけないと思った。

私は犯罪者で彼女は犯罪者でない。

こんな私と過ごすより、より良い人生が彼女を待っている。
私は明らかにこの世界で異質だ。

不幸中の幸、壊れた心は修復するのに時間が掛かる。

彼女と過ごした時間をすぐに無駄に出来るぐらいには私の心は修復は難しい。

海未「さようなら」

誰もいない部屋にそう告げる。

当然ながら返答はない。

海未「さようなら」

もう一度、別れを告げる。

さようなら。
ここではない、もっと他の所に・・・。
 
102: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:29:05.03 ID:+uOdvDKr
4. epilogue

あれから何日ぐらい経っただろう?
少なくとも半年は過ぎている。

私はこうやって海未さんの自宅に来てはもう来る事がない彼女を待ち続けている。

何となく、そんな気がしていた。

もう私と海未さんは会う事がないだろうと。

唇を触る、あの時の海未さんの唇の感触は今もまだ覚えてる。

朝から太陽が沈むまで、私はずっとこの砂浜で海未さんを待ち続ける。

ふらっと帰って来た時に窓から見える私を迎えに来てくれるのをずっと待っている。
 
103: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:35:38.43 ID:+uOdvDKr
聞いて欲しい事がある。

また一日時がすぎる。

私は昔の事を大分思い出して来た。

ねぇ、海未さん。

私はμ'sのファンだったんだよ。

その中で一番好きなのは・・・誰だと思う?

実は海未ちゃんじゃなくて・・・穂乃果ちゃん。

もちろん今は海未さんだけど・・・。

私は穂乃果ちゃんに似てる。
自覚は勿論あった。
だから、私は頑張って髪も一瞬にした。

よく、クラスメイトからμ'sの穂乃果ちゃん見たいって言われた事もあるよ。

日が沈む。
黄昏れる月曜。
 
104: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:40:30.10 ID:+uOdvDKr
聞いて欲しい事がある。

また一日時がすぎる。

私もスクールアイドルやりたかったんだ。

でも、穂乃果ちゃんの真似で満足してそれで終わってしまった。

前に、一度海未さんと並んで写真を撮った事あるよ。

その時は穂乃果さんはいなくてことりさんと海未さんの二人だった。

ことりさんにお願いして、2番目に好きな海未さんと並んで写真を撮ったよ。

ことりさん言ってたね。

海未さんと初めてツーショット撮ったのは私だって。
そう、海未さんに見せたあの写真だよ。

私それがとても嬉しくて友達みんなに自慢したよ。

日が沈む。
再会を願う火曜。
 
105: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:47:56.12 ID:+uOdvDKr
聞いて欲しい事がある。

また一日がすぎる。

にこさんにお礼を言いたいけど連絡先も聞いてなかった。

にこさんは真姫さんは一緒に住んでるって言ってたよ。

幸せだといいね。

海未さんはどこで何をしてるんだろう?

もう二度と会えないのかな?

このまま二度と会えないだなんて私は嫌だ。

連絡しても繋がらないし・・・。

日が沈む。
スマホを眺める水曜。
 
106: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:51:47.95 ID:+uOdvDKr
聞いて欲しい事がある。

また一日がすぎる。

また一つ思い出したよ。

私、μ'sのライブを観に行った事があるんだよ?

すごく・・・凄かった。
あの凄さは私の頭の中じゃ言葉になんか出来ない。

9人みんなキラキラ輝いてて、私ペンライト振りすぎて筋肉痛になったもん。

そういえばステージで海未さんと目が合った事あるよ。

海未さんは覚えていないだろうけど。

日が沈む。
思いをは馳せる木曜。
 
107: (SB-iPhone) 2020/05/10(日) 23:59:24.29 ID:+uOdvDKr
聞いて欲しい事がある。

また一日がすぎる。

色々と思い出したこと沢山ある。

今、一番それを聞いて欲しいのは海未さん。

私がどんな人だったのかとか、部活は何をしていたか。

とにかく色々ある。

勿論、まだ思い出せない事は沢山あるけど、一年中話したって足りないぐらいには話しのタネは尽きないと思う。

それに、海を見ながら思い出話しに花を咲かせるなんてすごくロマンチックじゃないかな?

日が沈む。
夢を見る金曜。
 
108: (SB-iPhone) 2020/05/11(月) 00:04:20.86 ID:Fwirftgl
聞いて欲しい事がある。

また一日がすぎる。

私は海未さんの事が好きだ。

この想いはあの日からずっと変わっていない。
少しも変わってない。

海未さんはやってはいけない事をした。

警察に捕まれば、もう二度と会う事はなくなるだろう。

そう考えるだけで、心が苦しくなる。

日が沈む。
悲哀の土曜。
 
109: (SB-iPhone) 2020/05/11(月) 00:09:42.47 ID:Fwirftgl
聞いて欲しい事がある。

また一日がすぎる。

会いたいよ海未さん。

一度でいいからあともう一度でいいから会いたい。

私は毎日、ここでずっと待ってる。

本当は分かってる。

海未さんは二度と私の前には現れる事はない。

でも、もしかしたらって思いが私とこの場を強く結びつける。

また穂乃果ちゃんの話を私にして欲しい。

私の昔話を話したい。

日が沈む。
置き去りの日曜。
 
110: (SB-iPhone) 2020/05/11(月) 00:26:54.97 ID:Fwirftgl
聞いて欲しい事がある。

季節が一つまた変わる。

黄昏れる月曜。再会を願う火曜。スマホを眺める水曜。思いを馳せる木曜。夢を見る金曜。悲哀の土曜。置き去りの日曜。

聞いて欲しい事がある

また一週間が過ぎる。

忘れる事も出来ない。
全て無かった事にも出来ない。

あの日が最後だなんて聞いてないし、まださようならも言えてない。

日が沈みそうだ。

今日も海未さんは来なかった。

砂浜に寝そべり空を見上げる。
夕暮れの空は赤く染まり、しばらく眺める。

ポケットから写真を撮り出す。
あの日撮った私と海未さんのツーショット写真だ。

穂乃佳「海未さん・・・」

不意に強い風が吹く。

写真が手を離れてどこかに運ばれて行く。

追い掛けなきゃ・・・。

私が身を起こそうとした瞬間。

青い髪が夕暮れの赤を青空に変える。



海未「Sky Blue」END
 
111: (SB-iPhone) 2020/05/11(月) 00:28:35.04 ID:Fwirftgl
ありがとうございます

過去作
穂乃果「汚れた世界」
花陽「無我夢中」
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1587930450/

【SS】穂乃果「汚れた世界」【ラブライブ!】
■約12000文字■2014/06/25(水) 17:23:28.97 ID:/udR7VU8O 鬱要素有り ほのうみです
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