【SS】しずく「せつ菜さん1日独占チケット」【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


1: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:29:25.72 ID:zOk0fRL2
しずせつ
あまり出ませんが栞子・ランジュ・ミアが同好会に加入してます
 
2: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:30:25.72 ID:zOk0fRL2
虹ヶ咲学園校内ライブ当日・せつ菜出番終了後


せつ菜「ふぅ……」

しずく「あ……せ、せつ菜さん…お疲れ様です」

せつ菜「しずくさん!ありがとうございます!」

しずく「あの、凄く素敵でした。ずっと見ていたいくらいなのにあっという間で……」

せつ菜「あははは。そんな、大げさですよ!」

しずく「そんなことありません……本当に見惚れてしまって…」モジモジ

せつ菜「……緊張してます?」

しずく「え、い、いえ……そういうわけでは…」

せつ菜「しずくさんなら大丈夫です。何も恐れることはありません」ギュッ

しずく「っ、……あ、う…」


<せつ菜ちゃーん!


せつ菜「っと、呼ばれてますね、行かないと」パッ

せつ菜「では、しずくさんも頑張ってください!応援してます!」スッ

しずく「ぁ……はい、ありがとうございます」

しずく「……」
 
3: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:31:42.89 ID:zOk0fRL2
<お疲れ!

<ありがとうございます!


しずく「……はぁ…」

しずく(私は同好会の皆さんが羨ましい)

しずく(私にないものをたくさん持っていて)

しずく(私がやりたくてもできないことを簡単にやってのける)

しずく(それはそうだよね)

しずく(皆凄く魅力溢れる人たちばかりなんだから)

しずく(私なんかと違って、せつ菜さんと気軽に話せる)

しずく(私にはできない)

しずく(だって同好会の仲間である前に)

しずく(初めて見た時からスクールアイドルとしての目標であり、いつしか特別になった)

しずく(特別だから、私もそれに見合う特別さが無いと気後れしてしまう)

しずく(理想が遠すぎて私には簡単に近づくことができない)

しずく(私は……)
 
4: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:32:55.29 ID:zOk0fRL2
侑「でも本当にすごかったよー!」

せつ菜「そうですか?ふふ、ありがとうございます!」

侑「やっぱりせつ菜ちゃんのパフォーマンスは圧巻だよ!」

せつ菜「当然です!私のスクールアイドルへの情熱は誰にも負けるつもりはありませんから!」

侑「へへ、さすがせつ菜ちゃん、私が一目ぼれしただけあるよ!」

せつ菜「な、何を言ってるんですか///」

侑「あの時せつ菜ちゃんのステージを見て本当に人生変わったんだよ、私」

侑「多分こんな充実した高校生活を送ってなかった。こんなトキメキを見つけられなかった」

侑「だからありがとう、せつ菜ちゃん」

せつ菜「……それを言うなら私もですよ」

侑「へ?」

せつ菜「侑さんが私を説得してくれなかったら、きっと私は同好会には居なくて…」

せつ菜「スクールアイドル優木せつ菜を見つけてくれて、守ってくれてありがとうございます」

侑「え、い、いやぁ、そこまで言われると照れちゃうな……あはは///」

せつ菜「ふふっ」


―――侑先輩のようにせつ菜さんの心を動かすようなことはできないし
 
5: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:34:20.20 ID:zOk0fRL2
歩夢「せつ菜ちゃん、お疲れ様」

歩夢「お水どうぞ」

せつ菜「歩夢さん!ありがとうございます!」

歩夢「せつ菜ちゃんってかっこいいの本当に似合うよね」

歩夢「羨ましいなぁ」

せつ菜「ありがとうございます。でも歩夢さんには歩夢さんの良さがあるじゃないですか」

せつ菜「可愛いのが似合う歩夢さんが羨ましいです!」

歩夢「そんなことないよ。せつ菜ちゃんは可愛いのも似合うと思うよ?」

せつ菜「そうでしょうか……嫌いではないのですが」

歩夢「そうだよ」

せつ菜「歩夢さんこそ、案外かっこいい曲が似合うかもしれませんよ」

歩夢「えぇ、どう頑張っても私には合わないよぉ」

せつ菜「でも一度くらい聴いてみたいですね!侑さんかミアさんにお願いしておきます!」

歩夢「もう、せつ菜ちゃんてば強引なんだから……」

せつ菜「さ、それより次は歩夢さんの番ですよ!」

歩夢「うん、行ってくるねっ」

パシッ


―――歩夢さんのようにお互い認め合って打ち解けたような関係にもなれないし
 
6: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:35:48.96 ID:zOk0fRL2
愛「せっつー!」ダキッ

せつ菜「うわっ」グラッ

愛「おっと、勢い付けすぎちゃった」テヘ

せつ菜「もう、危ないじゃないですか!」

愛「ごめんごめーん」アハハ

せつ菜「まったく」

愛「いやぁ、せっつーのステージ見てたら興奮しちゃって」

愛「アタシも負けてらんないなーって気持ちが昂っちゃって、ついね」

せつ菜「……ふふ、そういうことなら仕方ありませんね!」

愛「意外とノリで生きてるせっつー、好きだよアタシ!」

せつ菜「それはなんだか馬鹿にされてる気がします!」

愛「いいじゃん!ノリは大事だよ!」

せつ菜「まぁ今日くらいはそれでいいかもしれませんね!」

愛「そうそう!ライブ感ライブ感!」

せつ菜「使い方あってます?」

愛「さぁ?あははは」


―――愛さんのように誰とでも真正面から仲良くなれちゃう積極性もないし
 
7: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:36:50.57 ID:zOk0fRL2
璃奈「せつ菜さん」

せつ菜「璃奈さん。どうかなさいました?」

璃奈「…さっきの振り付け、練習の時と違った」

せつ菜「……!」

璃奈「私、あれ知ってる」

せつ菜「……流石璃奈さんですね」

璃奈「……まさか、昨日のアニメの?」

せつ菜「はい!思いつきで取り入れてみました!うまくいって良かったです!」

璃奈「すごい……一度見ただけで……」

せつ菜「いえ、録画をしていたので何度も見直して昨晩ギリギリまで練習したんです!」

璃奈「それはそれですごい……熱意が」

せつ菜「それくらい神回でしたからね!」

璃奈「わかる」


―――璃奈さんのように共通の話題で盛り上がることもできないし
 
8: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:37:56.02 ID:zOk0fRL2
エマ「せつ菜ちゃん、かっこよかったよ~。さすがだねぇ」

彼方「うんうん。これには彼方ちゃんもおめめパッチリだよ~」

せつ菜「ありがとうございます!!」

エマ「いつにも増して元気だねぇ」

せつ菜「ライブ前に頂いた彼方さんの手作りスイーツのおかげですね!!」

彼方「おやおや、嬉しいねぇ。また作ってあげたくなっちゃう」

せつ菜「本当ですか?嬉しいです!それを楽しみにまた頑張れます!」

エマ「はい、ぎゅ~」ギュッ

せつ菜「わぷ、エ、エマさん?」

エマ「頑張るのはいいけど、休憩も大事だからね。一旦クールダウンしようね~」

せつ菜「…そうですね、えへへ」

彼方「あ、ずるい。彼方ちゃんも~」ギュー

せつ菜「く、苦しいです!」

エマ「我慢我慢♪」

せつ菜「休憩が目的じゃないんですか!?」

彼方「まぁまぁ……すやぁ」

せつ菜「彼方さん!?」


―――エマさんや彼方さんのように癒してあげることもできないし
 
9: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:39:25.73 ID:zOk0fRL2
ランジュ「お疲れせつ菜!」

せつ菜「ランジュさん!ありがとうございます!」

ランジュ「ランジュの後なのにこの盛り上がり、なかなかやるじゃない!」

せつ菜「かっこいいパフォーマンス枠として負けてられませんよ!」

ランジュ「!、ふふ、いいわね……燃えてくるわそういうの」

ミア「熱くなるのは良いけどボクのいないところでやってくれない?」

せつ菜「あ、ミアさん!」

ミア「お疲れ、せつ菜」

せつ菜「今度私に英語の発音を教えてください!」

ミア「急にどうしたのさ」

せつ菜「今日披露した曲の英語パート、ネイティブな発音だとかっこいいなと思ってたんです!」

ミア「ふーん?まぁいいけどボクに教わりたいなら妥協は許さないよ」

せつ菜「当然です!だからこそミアさんにお願いするんです!」

ミア「…ふふ、いいよ。ボクに付いてくれば間違いない」

ランジュ「ちょっと待ちなさい!そういうことならアタシからも中国語を教えてあげるわ!」

せつ菜「いえ、今のところ中国語は話す予定がないので」

ミア「ランジュ、邪魔しないでくれ」

ランジュ「なによう……」

せつ菜・ミア「「あはは」」


―――ランジュさんやミアさんのように自信たっぷりに張り合える何かも無いし
 
10: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:40:42.66 ID:zOk0fRL2
かすみ「ぐぬぬ……せつ菜先輩は相変わらずですね。。。でも可愛さなら負けませんからね!」

せつ菜「望むところです!私もかすみさんを見て可愛さも勉強します!」

かすみ「な!?ダメです!可愛さはかすみんだけの特権です!!」

せつ菜「可愛さなら負けないんですよね?」

かすみ「っ!、当然です!!なんならかっこよさ枠もせつ菜先輩から奪ってあげますよ!」

果林「それだけじゃ甘いわね。セクシーさも必要よ」スッ

せつ菜「へ……?」

果林「特にせつ菜はいい線行ってるんだからそっち方面もアピールすべきよ」

果林「もっと着崩す感じで、こう」グイッ

せつ菜「な、なな、何をしてるんですか!?そういうのはやりません!!///」バッ

果林「あら、残念」

かすみ「……ぐぬぬぬ。この同好会にはライバルしかいません……」

栞子「何をしてるんですか……。それよりせつ菜さん、少し相談が」

せつ菜「は、はい。なんでしょう?」

栞子「会場の整理と誘導を頼んでいた方が体調を崩してしまったらしく……」

せつ菜「……!分かりました、状況を詳しく」

栞子「はい、―――――……」


―――かすみさんや果林さんのように高め合うような間柄にもなれないし

―――栞子さんのように生徒会役員として接する機会の多い立場にもなれない
 
11: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:42:21.67 ID:zOk0fRL2
しずく「……」


―――そうして今日もあなたを遠目に見てる


せつ菜「――――――!」

侑「―――♪」

歩夢「―――?」






―――本当はもっと皆のように近くに居たい


せつ菜「~~~、~~~」

愛「―――!」

璃奈「……、……。」






―――話がしたい。構って欲しい。


せつ菜「―――!!」

彼方「―――zzz」

エマ「……♪」
 
12: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:44:14.52 ID:zOk0fRL2
ランジュ「――――!」

せつ菜「――――!!」

ランジュ「――――!!!」

ミア「………」


―――でもできない


果林「―――♡」

かすみ「――――!!!」

せつ菜「―――。」

栞子「~~~。」


―――だって私にはあなたの気を引けるものが何もないから

―――ただ話しかけるだけでも理由が無いと不自然だと考えてしまう

―――あなたから見た私は同好会の仲間の1人でも、私から見たら特別な1人だから

―――どう思われるかを意識しすぎて何も考えずに歩み寄ることはできない

―――この一生縮まることのない距離を指をくわえて見ているしかない


しずく(ライブ当日に考えるようなことじゃない、よね)

しずく(集中しなきゃ……)




 
13: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:45:20.65 ID:zOk0fRL2
しずく「――――!」

しずく「~~~~、~~~♪」


―――ステージから見える景色は一面鮮やかなライトブルーの光

―――この瞬間はファンの皆さんが私を見てくれている


しずく「――――!」

しずく「~~、~~~」


―――スクールアイドル桜坂しずくを

―――スクールアイドルだから見てくれている

―――見てもらえるように精一杯演じるの

―――私にはそれしかない

―――でもそれさえもできない時はどうしたらいいの?

―――………。



しずく「―――ありがとうございましたっ!」

ワー!!

パチパチパチ!

――――
―――
――
 
14: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:46:39.12 ID:zOk0fRL2
桜坂家


ガチャ

しずく「ただいま、お母さん」

しずく母「おかえり、お疲れ様……」

しずく「……?どうかしたの?元気ないけど」

しずく母「そのことなんだけど……今ちょっといい?」

しずく「え……うん、いいけど…」

しずく(なんだろう……)

しずく母「実はね……」

しずく「う、うん……」ゴクリ

しずく母「来週末一緒に観に行く予定のお芝居、お母さん行けなくなっちゃったのよ…」シクシク

しずく「へ……あ、そ、そうなんだ…」

しずく母「何その薄い反応……ひどいわ…」

しずく「あ、ご、ごめんね……すごく改まって言うからもっと重大な事かなって…」

しずく母「娘が反抗期だわ……母への敬意が足りないわ…」シクシク

しずく「そんな棒読みで言われても……」

しずく母「あ、分かる?」

しずく「……」
 
15: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:47:33.39 ID:zOk0fRL2
しずく母「そういうわけで私の分のチケット余っちゃうからあげる」

しずく「えっ……」

しずく母「誰かお友達でも誘っていってきなさい」

しずく「……」

しずく母「どうしたの?」

しずく「あっ、ううん、ありがとう」

しずく母「……?」

しずく「別になんでもないよ?誰を誘おうかなって考えてて……」

しずく母「そう?ま、楽しんでらっしゃい」

しずく「うん、本当にありがとう」

しずく母「どういたしまして。って、別にお礼言われるほどのことでもないけどね」

しずく「……ふふ、そうかも」




 
16: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:48:57.87 ID:zOk0fRL2
しずく自室


しずく「……」


―――ベッドに仰向けになったまま何もせずに時を過ごす

―――そして先ほど母から告げられた話を思い出す

―――誘う相手を考えてたというのは嘘

―――話を聞いた瞬間ただ1人を思い浮かべていた

―――何もない私に与えられた偶然の権利

―――きっかけが無いと近づけない私を救ってくれるかもしれない権利

―――お芝居のチケットというのも都合がいい

―――こういったものに一番興味を示してくれそうな人だから

―――それに余ったチケットは1枚。誘えるのは1人までという保証付き

―――幸い譲渡可のデジタルチケットなので、誘うために準備したと疑われることもない

―――譲渡の手続きを踏むのだから本当に偶然だという証拠になる

―――思いつく限りの不自然さは全部理由をつけて排除できる

―――言うなればこれは、完璧に偽装された私だけのせつ菜さん1日独占チケット


しずく(これがあれば私も……)

しずく(……私も、あなたとの距離を縮められますよね?)


――――
―――
――
 
17: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:50:19.38 ID:zOk0fRL2
後日・部室


せつ菜「……」ポチポチ

しずく(……そう思っていたのに)

せつ菜「……」スッ

しずく「……」ソワソワ


―――珍しく誰も居ない、私とせつ菜さんの二人きり

―――誘うのには絶好のチャンス


しずく「せ、せつ菜さん」

せつ菜「ん、はい?」

しずく「あの……えっと……」

せつ菜「……?」ニコ


―――なのにたった少しの勇気が出ない

―――誘う口実があったって、誘う過程は通らないといけないわけで

―――もし断られたら……?


しずく「……珍しく誰もいませんね」

せつ菜「そうですね。皆さん昨日のライブで疲れてるんでしょうか」


しずく(だめ。きっとショックを隠せない)

しずく(だって私にアドリブは利かないの)
 
18: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:51:30.00 ID:zOk0fRL2
しずく(……やっぱり無理)

しずく「……彼方さんはどこかで寝てるかもしれませんね」

せつ菜「あはは、そうですね。今日は絶好のお昼寝日和ですし」

しずく「一応見に行ってきますね」

せつ菜「分かりました」








ガチャン

しずく(……はぁ)

しずく(もう週末も近いし、誘うなら今日くらいまでじゃないと急過ぎちゃう)

しずく(それは分かってるんだけど……)

しずく(これなら口実があっても無くても同じだよ……)

スタスタ




「あれ、しず子どこ行くの?」

しずく「え?……あ、かすみさん……」

かすみ「やっほ」
 
19: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:52:30.41 ID:zOk0fRL2
かすみ「……?なにかあった?」

しずく「へ……?何もないよ?」

かすみ「ふぅん……今日は演劇部?」

しずく「ううん、彼方さんがもしどこかでお昼寝してたらそろそろ起こさないと」

かすみ「あぁ、なるほど」

しずく(……)

しずく(……こんな好条件で誘えないなら、もう……)

しずく「かすみさん、今週末暇?」

かすみ「ん?暇だけど、何?」

しずく「あのね……実はお母さんとお芝居観に行く予定だったんだけど」

しずく「お母さん用事ができちゃって、チケット余っちゃったんだ」

かすみ「……」

しずく「良かったら一緒にいかない?」

しずく(……ただこれを言うだけだったんだけどな)


―――なんてどこか安心して出した言葉に返ってきたのは


かすみ「……は?なにそれ。行かない」


―――感情の読めない表情と、明確な拒絶の言葉だった
 
20: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:53:10.62 ID:zOk0fRL2
しずく「えっ……あ、そ、そっか」

かすみ「……」

しずく「あ、興味なかったよね……ごめんね」

かすみ「……本気で言ってるの?」

しずく「え……」

かすみ「断った理由。今のかすみんを見ても、興味ないからって思ってんの?」

しずく「……違うの?」

かすみ「はぁ……」

しずく「な、何……?」

かすみ「なんでそれ、かすみんなんか誘うの?」

しずく「え……」

かすみ「さっきからなーんか元気がないワケが分かったよ」

かすみ「もっと別に誘うべき相手がいるでしょ?」

しずく「―――っ!」

かすみ「かすみんが気付いてないと思ってるの?」


―――普段のかすみさんを見ているとつい忘れてしまう

―――かすみさんはこういうところに本当によく気が付く

―――私の弱さを完全に見透かされている
 
21: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:54:14.38 ID:zOk0fRL2
かすみ「……私怒ってるからね?」

しずく「……ごめん」


―――そんな私の弱さを咎めてくれる

―――また私は、この子に……


かすみ「このかすみんを保険に使うなんて!」

しずく「え……そっち?」

かすみ「失礼じゃない!?本命を誘えないから誘いやすいかすみんでいっか!みたいなの!」

しずく「あ、うん……それもそうだよね……ごめんね」

かすみ「……なんて。まぁそれは冗談だけど怒ってるのは本当だよ」

かすみ「戦わずに逃げる子の誘いは受けません!」

しずく「……っ」

かすみ「というわけで」ポチポチ

しずく「……?」

かすみ「…………もしもしせつ菜先輩?」

しずく(!?、む、無理っ)ダッ

かすみ(逃がさないよ!)ガシッ

かすみ「あ、すみません。ちょっとしず子から話があるらしいので代わりますね」

かすみ「はい」スッ

しずく「う……」
 
24: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:55:22.32 ID:zOk0fRL2
せつ菜『しずくさん?』

しずく(……)チラ

かすみ「……」ニコニコ

しずく(うぅ……ここまで来たら覚悟決めないと)

しずく(確かにかすみさんの言う通り戦わずに逃げるのは良くないし)

しずく(それに失礼なのも事実だったから)

しずく(そんなかすみさんに対して私も誠実にならないと)

しずく(もう全然頭回ってないけど、ズバッと一言で誘うだけ―――!)

せつ菜『あn』

しずく「せつ菜さんっ!」

せつ菜『は、はいっ!』







しずく「今週末、私とデートしてください!!」

せつ菜『はぇ!?』

かすみ「!?」


―――混乱しすぎて盛大に間違えた
 
25: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:57:14.14 ID:zOk0fRL2
せつ菜『あ、え、えーっと……?』

しずく「ま、間違えましたっ!まだ違いますっ///」アタフタ

せつ菜『ま、まだ…?』

しずく「」


―――私は本当にアドリブが利かない


しずく「一旦全部忘れてくださいっ///」

せつ菜『は、はい……』

かすみ「……」ニヤニヤ

しずく(もう最悪……///)

しずく(でも、今のに比べたらもう何言ったって関係ないよね……)

しずく「コホン……今週末、お暇ですか?」

せつ菜『……はい、何もありませんよ』

しずく「実は母とお芝居を観に行く予定だったのですが、母は行けなくなってしまって」

しずく「チケットが余ってしまっているので、私と一緒に如何でしょうか」

せつ菜『え、よろしいんですか?是非行きたいです!』

しずく「あ……本当ですか?嬉しいです。ありがとうございます」

せつ菜『それはこっちのセリフですよ!お誘いありがとうございます!』

しずく「いえいえ……では、詳しくはLINEで…」

せつ菜『はい!では……』

プツッ
 
26: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 11:58:22.63 ID:zOk0fRL2
しずく(終わってみればあっけない。本当にたったこれだけ)

しずく(でもきっと私1人だと言い出せなかった)

しずく(だからありがとう、かすみさん)チラ

かすみ「……」ニヤニヤ

しずく(代わりにとんでもない痴態を見られたけど……)

かすみ「やるじゃんしず子」

しずく「……///」

かすみ「戦わずに逃げる子とか言ってごめんね」ニシシ

しずく「……やめて///」

かすみ「いやー、しず子ってば時々暴走するなぁとは思ってたけどねぇ」

しずく「かすみさんがあんな強引に話をさせるからだもん!///」

かすみ「ああでもしないと言えないでしょ、しず子は」

しずく「……うん。本当にかすみさんって私の事よく見てくれてるよね」

かすみ「とーぜんでしょ、かすみんを誰だと思ってんの!」

しずく「……ふふ。ありがとう」

かすみ「……逆にしず子はなんでそんなに自信が無いの?」

しずく「え……?」
 
27: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:00:30.02 ID:zOk0fRL2
かすみ「今回のだってさ、別に愛の告白じゃないんだから普通に誘えばいいじゃん」

かすみ「ま、ある意味しず子にとっては同じことかもしれないけど」

しずく「……」

かすみ「用事があるとか興味がないなら行かない、そうじゃなかったら行く」

かすみ「断られるとしたら問題は誘いの理由であってしず子自身じゃないんだよ」

しずく「……わかんないよ」

かすみ「何が?」

しずく「だって私には皆と違って何もないから……」

かすみ「どういうこと?」

しずく「私も皆みたいに魅力的な人になれたら違うのに……」

かすみ「……なんでそんな思考になったかは知らないけど、今度こそ本気で怒るよ?」

しずく「……」

かすみ「スクールアイドルができて、演技ができて、清楚系で、ロングにリボンが似合う」

かすみ「超絶可愛い……かすみんの次位に可愛い魅力だらけの子が何を言ってんの?」

かすみ「世界中の全員がしず子の言うことを肯定しても私は否定するから!」

かすみ「誰が何と言おうとしず子も十分魅力的なの!他の誰かになんてなる必要ない!」

かすみ「だから自信持て!世界一可愛いかすみんが言うんだから間違いない!!」

しずく「かすみさん……」
 
28: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:01:05.97 ID:zOk0fRL2
しずく「やっぱりかすみさんはすごいね」

かすみ「とーぜんでしょ?……ってこれさっきも言ったし」

しずく「ふふっ……」

しずく(私に元気も勇気もくれて、笑顔にさせてくれる)

しずく「かすみさんありがとう。大好きだよ」

かすみ「はぁ、何言ってんの。言う相手が違うでしょ?」

しずく「……うん、そうだね。でも本当だよ?」

かすみ「はいはい、今のうちにかすみんで練習しときなよ」

しずく「もう、真面目に言ってるのに」

かすみ「分かってるよ。ありがと」

しずく「……」

かすみ「……」

しずく・かすみ「「えへへ」」


――――
―――
――
 
29: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:02:27.28 ID:zOk0fRL2
前日夜・しずく自室


しずく(……)ポチポチ

しずく(……時間は…10時か11時くらい…)

しずく(場所は駅前で……)

しずく(……っと)ポチ


―――せつ菜さんに予定を伝える

―――そもそも、こうしてLINEで送ればもっと気楽に誘えたかもしれない


しずく(……でもやっぱり言葉で話して誘えてよかった、かな)

しずく(なんとなくだけど……)


~~~~♪

しずく「」ビクッ

しずく(で、電話……相手は…せつ菜さん!?)

しずく(LINE送ったばっかりだし……出ないと……)ドキドキ


ピッ

しずく「もしもし?」

菜々『突然すみません。今通話大丈夫ですか?』

しずく「は、はい。大丈夫です」
 
30: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:03:47.84 ID:zOk0fRL2
しずく「何か御用ですか?」

菜々『いえ。まぁ明日の予定の話はしたいのですが』

菜々『思えば私はあまりしずくさんと接する機会がありませんでしたね』

しずく「……そうですね」シュン

菜々『なのでせっかくですからこれを機にもっと仲良くなれたらと思いまして』

しずく「え……」ドキッ

菜々『思い切って電話かけちゃいました。……迷惑でしたか?』

しずく「い、いえ!嬉しいです……ありがとうございます」ギュッ

しずく(まさか、せつ菜さんからそんなこと言ってもらえるなんて……)

しずく(……あ、嬉しい……顔、熱い)

菜々『それで、時間はどちらにしましょう。一応早めに10時にしますか?』

しずく(電話で良かった。こんな顔見られたらと思うと……///)

菜々『しずくさん?』

しずく「ひゃい!?」

菜々『……ぷっ、あはは!なんですかその声』

しずく「~~~~///」

菜々『あはっ、すみませ、ふふ』

しずく「わらいすぎですっ///」




 
31: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:05:03.26 ID:zOk0fRL2
しずく「では集合は駅前10時、昼はどこかで適当に済ませて、そのままという感じで」

菜々『分かりました』

しずく「ふぅ……。明日の準備もありますし、この辺りにしておきましょう」

菜々『はい。こんなにしずくさんと話したのは初めてかもしれませんね』

しずく「そうですね」

菜々『楽しかったです!ではまた明日!』

しずく「はい。おやすみなさい」

菜々『おやすみなさい。デート、楽しみですね』

しずく「!?、せ、せつ菜さん!!それは忘れる約束ですよね!?///」

菜々『……ふふっ。"一旦"忘れる約束ですよ』

プツッ

しずく「あ、ちょっと!」

しずく(何をしてくれてるんですかこの人っ!!///)

しずく(もう、早めに寝たかったのにこれじゃ寝付けないっ!///)ゴロゴロ

しずく(せつ菜さんの……いや、この間の私のばか…///)


――――
―――
――
 
32: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:06:50.89 ID:zOk0fRL2
翌日・朝


しずく(案の定寝坊するし)バタバタ

しずく(服は昨日のうちに選んでおいたからいいけど)アタフタ


< しずくー?起きたのー?朝ごはんはー?


しずく(食べてたら遅刻しちゃうっ)

しずく「ごめん!いらないー!」

しずく(でも流石にシャワーは浴びないと)





―――鏡を見ながら最終チェック

―――最初はそんなつもりはなかったのにもう完全にデート気分


しずく(えっと……髪良し…服良し…忘れ物無し…それと……)

シュルッ……ファサッ……キュッ

しずく(………うん。リボン、良し♪)

しずく(私のトレードマーク。他の誰にも無い、私の魅力の1つ)


―――かすみさんの言葉を思い出して言い聞かせる

―――これ、結構自信をつけられるかも


しずく「………よし。行ってきます♪」
 
33: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:08:45.45 ID:zOk0fRL2
タッタッタ…

しずく(行ってきます♪、じゃないよ)

しずく(遅刻するって言ってるのに自分の身だしなみ気にする前にやることがあるよね)

ポチポチ

・・・・・・

しずく:ごめんなさい、少し寝坊してしまって…

しずく:今向かってますが少し遅れてしまうかもしれません

せつ菜:分かりました!

せつ菜:時間に余裕はあるので急がないで気を付けて来てくださいね!

しずく:はい。すみません……

せつ菜:気にしないでください!しずくさんは遠くから来られるので仕方ありません!

・・・・・・

プシュー

しずく(ふぅ……やっぱり遅れちゃう。でも後は着くまで待つしかない)

しずく(………せつ菜さんと二人きり)

しずく(この間のライブの時の私が知ったらどう思うかな)

しずく(今日1日はずっと私の事を見てくれるんだ……)

しずく(意識したらなんだか……着くまでに緊張ほぐさないと)

――――
―――
――
 
34: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:09:51.46 ID:zOk0fRL2
集合場所


しずく(………あれ)キョロキョロ

しずく(せつ菜さん居ない……)スッ

チラッ

・・・・・・

せつ菜:私はもうすぐ着きます!

しずく:私のほうは後20分くらいです。

せつ菜:分かりました!

・・・・・・

しずく(時間的にせつ菜さんのほうが先に着いてるはず…)

しずく(何かトラブル?)

しずく(それとも……帰っ……さ、さすがにそれは無…)

ガバッ

しずく(!?)


――――突然暗くなる視界と後ろから捕らえられる感覚
 
35: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:10:48.07 ID:zOk0fRL2
しずく「だ、誰――――」

「だーれだ?」

しずく「へ……」

しずく(この声……)

しずく「……せつ菜さん?」

せつ菜「はい!正解です!」パッ

しずく「び、びっくりさせないでください……」ドキドキ

せつ菜「すみません!でも一度やってみたかったんです」

しずく「そうなんですか……」

せつ菜「待ち合わせの定番じゃないですか!」

しずく「というわりには実際には見ませんね」

せつ菜「だからこそ、やりたくなるというものです!」

せつ菜「相手のほうが遅く来る、背後から近寄れるって意外とチャンスありませんからね」

しずく「な、なるほど?」

しずく(ちょっと分かるかも……)
 
36: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:12:40.06 ID:zOk0fRL2
せつ菜「ちなみにもう1つやりたいことがあるんですが」

しずく「『待たせちゃいました?』『今来たところです』ですか?」

せつ菜「……!!」ガシッ

しずく「ひゃ///」

せつ菜「さすがしずくさん!分かってますね!!」ギュッ

しずく「は、はひっ、それはもう……///」

しずく(って、自分が何口走ってるのかもう分からない///)

せつ菜「それは次の機会にやりたいですね!」

しずく「……次?」

せつ菜「はい!また今度しずくさんとこうしてお出かけする機会があれば、です!」

しずく(……またしてくれるってこと?)

せつ菜「って、今日は始まったばかりなのに次の事話すのはおかしいですね」

しずく「い、いえ……というか他の方にはしたことないんですか?」

せつ菜「無いですね。今日のこれも実際にやろうと思ったのは初めてです」

しずく「何故それを私に……?」

せつ菜「しずくさんなら良さが分かってもらえそうな気がしたので!えへへ!」

しずく(……私にだけ。私なら。)

しずく(そう思ってくれてたんだ、嬉しい……あ、顔がニヤけちゃう)フイッ

せつ菜「気が合うというかなんといいますか。あ、嫌なら言ってくださいね……?」

しずく「……いえ、私もこういうの好きですよ?」ニコ

せつ菜「本当ですか?良かったです!」
 
37: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:14:22.70 ID:zOk0fRL2
せつ菜「さ、そろそろデート開始しますか!」

しずく「!?!?///」

しずく「せ、せつ菜さんっ!!!///」

せつ菜「あははは」

しずく「もう!忘れてくださいってば!///」

せつ菜「そんな可愛い反応されちゃったら無理ですね!ふふっ」

しずく「かわ―――っ///」

しずく(次から次へと不意打ち……///)

しずく(……でも…)

しずく(これってあんまり意識はしてくれてないのかな……)

せつ菜「……しずくさん?」

しずく(……)フルフル

せつ菜「す、すみません。弄り過ぎは良くないですね」

しずく(ううん。だったらそれを利用して意識させちゃいます)グイッ

せつ菜「へ……?」

しずく「そこまでいうなら付き合ってもらいますからね?デートとして」ギュッ

せつ菜「っ……いいでしょう、受けて立ちます」
 
38: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:15:10.69 ID:zOk0fRL2
しずく「覚悟してくださ―――」ぐぅ~

せつ菜「あっ……」

しずく「」

せつ菜「……」

しずく「……聞こえました?」

せつ菜「……何も……」プルプル

しずく「あぁ、もうっ!///」

せつ菜「ふ、ふふ……」プルプル

しずく(恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!)

しずく「違うんです!これは朝ごはん食べてる時間がなくてっ///」

せつ菜「仕方ありませんね、寝坊してしまったんでしたよね」ニコニコ

しずく「っ///、そ、そうです!そのせいで仕方なく!」

しずく「というか!そもそもせつ菜さんが昨晩変な事を言うから寝付けなくて遅刻したんです!」

せつ菜「それはすみません」ニコニコ

しずく「だから全部せつ菜さんのせいですっ」プイッ

せつ菜「そういうことにしておいてあげます」

しずく「そうなんです!」

せつ菜「はい」ニコニコ

しずく(ドジっ子みたいなアピールしたいわけじゃないのにっ///)

しずく(もう……どうしてせつ菜さんにはこういうところばかり見せちゃうの、私…///)
 
39: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:18:00.01 ID:zOk0fRL2
喫茶店


パクッ

せつ菜「―――!」

せつ菜「このサンドウィッチすごくおいしいです……」

しずく「ですよね♪」

せつ菜「駅の近くにこんなお店があったなんて……」

しずく「表通りからは見えませんからね、私のお勧めの穴場的なところです」

せつ菜「とてもいいところですね。あまり知られていないのは勿体ないとは思いますが」

せつ菜「それ故にこの少し物静かな雰囲気も捨てがたいですね」パクッ

しずく「気に入っていただけて良かったです」モグッ

せつ菜「……」ジッ

しずく「……?」モグモグ

せつ菜「……しずくさんってすごく上品に食べますね」

しずく「ぇ……そ、そうでしょうか///」

せつ菜「なんだか自分の食べ方が恥ずかしくなってきました」

しずく「そ、そんなことありませんよ?私がおかしいだけでせつ菜さんが普通だと思います」

せつ菜「いえ、やはり恥じるべきです。私も年頃の女子として見習ってお上品に……」
 
40: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:19:18.84 ID:zOk0fRL2
しずく「必要ありません」

せつ菜「え」

しずく「せつ菜さんにはせつ菜さんらしさがあって、それを好いてくれる人も居るんです」

しずく「無理して他の誰かのようになる必要はないと思いますよ」

せつ菜「……良い言葉ですね、それ」

しずく「友達の受け売りですが、私も好きなんです」

しずく(自分を隠して演じがちな私にこそ刺さって、同時に救ってくれる言葉)

せつ菜「まぁそれはそれとして食べ方くらい綺麗にした方がいいとは思います」

しずく「あはは……そうですね。つい好き過ぎて言いたくなっちゃいました」

せつ菜「好きな台詞は口に出したくなるものですよね」

しずく(あ……そっか、確かに)

しずく(創作のお話が好きな私たちだから)

せつ菜「どうかしました?」

しずく「せつ菜さんの言う通り、私たちって気が合うんですね」

せつ菜「!……ですよね!」ペカー




 
43: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:27:56.61 ID:zOk0fRL2
劇場内


ザワザワ

せつ菜「……」ペラ、ペラ

しずく(パンフレットを真剣に読み込むせつ菜さん)

しずく(落ち着いた菜々さんはよく見かけるけどせつ菜さんの姿ではあまりない)

しずく(私もパンフレット読みたいけど、このせつ菜さんから目が離せない)

せつ菜「しずくさん、これ面白そうですね」クルッ

しずく「っ!」フイッ

せつ菜「?」

しずく「あ、そ、そうですね……あはは。開演時間が待ち遠しいですね」ドキドキ

せつ菜「はい!」ペカー

しずく(だって1秒後には見られなくなるかもしれないから)

しずく(この笑顔も1秒後には違う表情になって)

しずく(どんなせつ菜さんだって見逃したくない)

しずく(ずっと遠くから見ていた人が目の前に居る)

しずく(ずっとずっと近くで見たかったんだから)

しずく(可能な限り、見ていたいって思うのは普通だよね……?)


――――
―――
――
 
44: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:29:38.39 ID:zOk0fRL2
せつ菜「はぁ……凄かったです……」

しずく「そうですね」

せつ菜「初めてちゃんとしたお芝居を生で見ましたが……」

せつ菜「ダメですね、凄すぎて語彙力が飛んでしまってます」

しずく「分かりますよ。的確な表現を探すんですけどしっくりくる言葉が出ませんよね」

せつ菜「そう、それです!」

しずく「演技も声も、実際に観て聴くと迫力を感じますよね」

せつ菜「それです!」

しずく「役者さんも適材適所といいますか、この役はこの人以外考えられないってなりますね」

せつ菜「本当にそれです!……もうしずくさんが全部言葉にしてくれるので何も言いません!」

せつ菜「それですbotになります!!」

しずく「なんですか、それ」クスッ

せつ菜「はぁ……まだまだ興奮が冷めません」

せつ菜「終わった瞬間、凄く名残惜しい気持ちになりました」

しずく「だから終わった後もその余韻に浸りたくなるんですよね」

せつ菜「もうなんなんですかしずくさん。私の心を覗けるんですか?」

しずく「私も同じ気持ちってだけですよ」

しずく(本当に気が合う)

しずく(……)

しずく(……でも、これで今日はおしまい)
 
45: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:32:32.45 ID:zOk0fRL2
せつ菜「はぁー。気の利いた事は言えませんがすごく楽しかったです」

しずく(私は演劇が大好き)

せつ菜「今日は誘ってもらえて本当に良かったです!」

しずく(夢のような世界に私を引き込んでくれるから)

せつ菜「しずくさんともこうしてたくさんお話できましたし!」

しずく(でも夢はいつか必ず覚めてしまう)

せつ菜「――――――」

しずく(そうして現実に引き戻されたときの寂しさが少しだけ嫌い)

せつ菜「――――――」

しずく(だから少しでも余韻に浸っていたい)

せつ菜「――――――!」

しずく(せつ菜さんにとってはたまにある休日の1日だろうけど)

しずく(またお出かけしてくれるとは言っていたけれど、いつになるかも分からないし)

せつ菜「―――さて……さすがにそろそろ帰りましょうか」

しずく「―――っ!」

しずく(やっぱり嫌……!まだ、覚めないで―――っ!!)

ギュッ
 
46: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:35:34.65 ID:zOk0fRL2
せつ菜「えっと、しずくさん……?」


―――咄嗟に袖を掴んで引き留める

―――私と気が合うせつ菜さんならこれまでの私を見ていい加減察してると思う

・・・・・・

せつ菜「――――。」


せつ菜「………!」


せつ菜「……っ」

・・・・・・

しずく(私はお芝居を見ていたせつ菜さんのことも見ていた)

しずく(見入ったり、興奮したり、泣きそうになったり……)

しずく(でも私ではせつ菜さんの表情をそんな風には変えられないみたい)

しずく(どうしたら私はこの夢を見続けられるの?どうしたらあなたを意識させられるの?)

しずく(やっぱり私には、何も……)


・・・・・・

かすみ「だから自信持て!世界一可愛いかすみんが言うんだから間違いない!!」


せつ菜「しずくさんなら良さが分かってもらえそうな気がしたので!えへへ!」

・・・・・・

しずく(……そうだ)
 
47: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:39:25.19 ID:zOk0fRL2
―――かすみさん、もう一度だけあなたの言葉から勇気を貰うね

―――せつ菜さん、あなたならこの良さを分かってもらえますよね?


しずく「……」グイッ

せつ菜「ぇ―――」


―――掴んだ袖を引いて腕をつかむ

―――掴んだ腕も更に引いて、お互いの視界にはお互いの顔しか映らない


せつ菜「―――っ!?」

しずく「―――」


―――多分一秒にも満たない儚い繋がり

―――私にできる最後の手段


しずく(これでダメなら、もう……っ)クルッ

ダッ


―――この夢が今すぐ覚めてしまうくらいなら、わずかな可能性の賭けて勝負に出る

―――でも、何を言われるかも怖いし顔も見られなくて逃げ出すのは許してください

―――一方的だけど一応戦ったから、いいよね……?
 
48: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:45:51.89 ID:zOk0fRL2
せつ菜「待ってください!!」ガシッ

しずく「……っ」

しずく(まぁ、そりゃあだめだよね……)

せつ菜「まさかとは思いましたが、しずくさんにとっては本当にデートだったんですね」

しずく「……離してはもらえませんか?」

せつ菜「できません」

しずく「……ですよね」

せつ菜「こっちを向いてください」

しずく「できません」

せつ菜「……ズルいですね」

しずく「そうですよ……私はズルいんです」

せつ菜「本当にズルいです……デートの別れ際の定番、私だってやりたいんですけど」

しずく「え―――」

グイッ


―――無理矢理振り向かされ、再び至近距離で向かい合う顔

―――半ば自棄になりながら取った最終手段が繋ぎ止めた夢の続き

―――ううん、私本当の意味で夢を見てるのかな……


――――
―――
――
 
49: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:47:25.35 ID:zOk0fRL2
しずく(……ん…)

しずく(……?)

しずく(あれ……私何をしてたんだっけ……)


―――少し肌寒い風を感じて目を覚ます

―――ここは、公園……?

―――世界が横向きに見える

―――頭は何か柔らかいものを下敷きにしていて

―――上では何かがゆっくりと、何度も私の頭を通り過ぎていく


しずく「……?」チラッ

せつ菜「おはようございます。気が付きましたか?」ナデ、ナデ

しずく「あ、はぃ……」ポケー

せつ菜「……大丈夫ですか?自分の事、分かります?」

しずく「はぁ、まぁ……」

せつ菜「……危ういのでもう少し休んでください」

しずく(せつ菜さんの膝枕……と、なでなで?)

しずく「……――――!?///」ガバッ

しずく「ぁ……」クラッ

せつ菜「ちょ、急に起きないでください!」ガシッ
 
50: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:50:19.47 ID:zOk0fRL2
しずく「す、すみません。ご迷惑を///」

せつ菜「そんなことはいいんです。それより急に倒れて心配したんですよ」

しずく「……いつですか?」

せつ菜「お芝居を観終わって少し話した後ですね」

しずく「そうですか……」

しずく(大体記憶通り……でも最後のアレはどこまで夢?それとも現実?)

しずく(怖くて聞けないよ……)

せつ菜「……」ナデ、ナデ

しずく(日は落ちかけて空は赤く、公園にもライトが付き始めている)

しずく「もうこんな時間……本当にすみません」

せつ菜「寝不足だったんですよね。それとライブ疲れとかいろいろ溜まってたんでしょう」

しずく「……もう大丈夫です、ありがとうございます」スッ

せつ菜「本当ですか?無理はしてませんか?」

しずく「はい」

しずく(身体のほうは。心はまだ何も整理できてない)
 
51: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:51:44.49 ID:zOk0fRL2
せつ菜「さ、行きましょう」スッ


―――せつ菜さんが先に立ち上がり、手を差し出される


しずく「ありがとうございます」

せつ菜「電車の時間は大丈夫そうですか?」

しずく「はい」

せつ菜「良かったです」


―――あぁ、やっぱり


しずく(最後のせつ菜さんからのキスだけは夢だったんだ……)

しずく(きっと私のしたことをなかったことにしてくれてるんだ)

しずく(さっきからそのことに触れないのも)

しずく(それはせつ菜さんにとっては優しさだけど、私にとっては拒絶でもあって)

しずく(そっか……あは、あはは……)

しずく(……っ)

しずく(ダメ、まだ泣いちゃダメ、もう少しだけ我慢して―――)
 
52: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:55:04.93 ID:zOk0fRL2
せつ菜「しずくさん」

しずく「……はい?」

せつ菜「私、しずくさんから今日のお誘いを受けていろんなことを考えたんです」

せつ菜「私を誘ってくれたのは何故だろうとか、何故かすみさん経由だったのだろうとか」

せつ菜「この数日は、思い返せばしずくさんのことばかり考えていたかもしれません」

せつ菜「しずくさんが何を考えているのか、そればかり」

しずく「……」

せつ菜「それと、私にはまだたくさん好きなシチュエーションや台詞があるんですが」

せつ菜「そういうのはやっぱりちゃんと順序は守るべきだと思うんです」

しずく(唐突に始まった話の内容の繋がりを理解できない)

しずく(頭はもう覚醒してると思ったけど何か聞き逃したかな……)

しずく「……何の話ですか?」

せつ菜「きっと今日ほどこの言葉が似合う日は来ませんから一度しか言いませんよ」


―――ずっと振り向かず、歩いたまま話すせつ菜さんが急に立ち止まり

―――赤く染まった空を背にこちらを振り向く
 
53: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:56:24.05 ID:zOk0fRL2
せつ菜「―――夕日が綺麗ですね」ニコ

しずく「ぁ――――……」


―――ズルいのはどっちですか

―――まだ。まだダメ。この返事だけはきちんと返したい

―――180度反転して決壊しかけた感情に負けないように再び堪える

―――夢じゃなかった

―――夢じゃなかったのに夢の続きが見られるんだ

―――だったら私は

―――私たちの気持ちは……

―――目の前には沈みかける夕日。つまり

しずく「……はい」

しずく「―――もう少し眺めていたいですね」ニコッ



おわり
 
54: (えびふりゃー) 2022/04/16(土) 12:57:03.50 ID:zOk0fRL2
読んでくれた皆様ありがとうございました
 
55: (SIM) 2022/04/16(土) 12:58:12.37 ID:gN2zEliD
雰囲気が良くて素晴らしい
おつです
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1650076165/

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