【SS】10レス後に付き合うゆうぽむ【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


1: (茸) 2022/04/23(土) 02:48:44.74 ID:mem5Lqit
 あの日のことは、今でも昨日のことのように思い出せるよ。

 同好会活動が終わって、さぁ皆で帰ろう、買い食いしていこうなんて話をしてるときにね、後輩の中須かすみちゃんがこう言ったんだ。

 本食い様の噂、って知ってますか?

 本食い? 買い食いを本気でやる人? なんて冗談めかして聞いてみたら、全然違うって。怖い話なんだって。

 まだ時間は合ったし、侑ちゃんや同好会の皆も気になったみたいだから、私も聞いてみることにしたんだ。怖い話はあんまり好きじゃないんだけどね。

 かすみちゃんが話してくれたのは、こんな話だった。
 
2: (茸) 2022/04/23(土) 02:49:20.81 ID:mem5Lqit
 虹ヶ咲が作られる前、ここはとある良家のお屋敷だったんだって。広い庭に大きな家があって、夫婦と一人の女の子が暮らしてたんだ。

 本当はもう一人長男がいたんだけど、小さい頃に病気で亡くなったとか誘拐されたとかでいなくなって……。そのことに触れると悲しそうな顔をするから、近所の人も話題に出すことはなかった。

 そんな悲しい過去があっても、家族は幸せそうに日々を過ごしてたんだけど……ある日、集金に来た新聞配達人が誰も屋敷にいない事に気付いた。

 夜逃げだったんだって。裕福そうに見えたご家庭だったけど、実は家業が上手くいってなくて借金まみれでさ。本当はいつ飛んでもおかしくない状況だった。

 まぁでも、よくある話だよね。それで金を貸してた人が押し寄せて、一人が借金を取りまとめて、じゃあ家具は売っぱらって返済の足しにして、大きな家だし潰すのも金がかかるから借家か売り家にでもするかって。

 それで家具を運び出してる時、若衆の一人が妙なものに気付いた。棚の下に妙な切れ目の入った板がある。
 
3: (茸) 2022/04/23(土) 02:49:51.14 ID:mem5Lqit
 よくよく見てみたら、それ、地下扉だったんだ。なんで棚で塞いでるんだ、とは思ったんだけど、借金の返済に使える金目のものがあるかもしれない。

 もしくはこの先は地下通路で、何らかの仕掛けで蓋をして、例の家族がここを使って逃げたのかもしれない。そんな風に考えて地下扉を開けると、暗闇にすっと伸びていく階段が見えた。

 開けた瞬間嫌な臭いがしてね、獣臭いというか、湿ってるというか。一同ギョッとしたけれど、降りなきゃ話が始まらない。

 話し合って、三人ほどがその階段をランプを持って降りていった。暗闇に伸びる階段を。

 といっても、底に着くまでそこまで時間はかからなかったんだよね。ランプで照らしながら少し降りてみれば、もうすぐそこに扉があった。

 扉は鍵もかかってなくてね、引けば何の引っ掛かりもなくすぐに開いた。
 
4: (茸) 2022/04/23(土) 02:51:03.73 ID:mem5Lqit
 真っ暗な部屋だったけれど、扉を開けた瞬間に耐え難いほどの悪臭が部屋から漏れたんだって。

 一体なんだ、って部屋の中に踏み込んでみたら、どうやらそこは小さい書斎のようだった。長年使われていないんだろうね、机には埃が溜まって、本棚が倒れて床には落ちた本がうず高く積まれている。

 書斎がなんでこんなに酷い匂いなんだ、って思いながらも、値打ちの本でもあるか、ってランプを床に近付けて、妙だなと思った。床に落ちてた本さ、ビリビリに破かれてて……紙が床に散ってるんだよ。

 棚が倒れただけじゃこうはならない。何があったんだ? そう思いながら、本をどけてみたらね……。

 骨があったんだよ。子供の、小さな骨。

 足の骨が折れて砕けててね、口の中にはビリビリに破られた本の頁が詰め込まれてた。
 
5: (茸) 2022/04/23(土) 02:53:45.31 ID:mem5Lqit
 警察を呼んで、恐らくこの骨は長男のものだろうってことになった。地下の書斎に忍び込んだんだよ、子供ってそういうの好きだから。そこで運悪く本棚が倒れて下敷きになったんだろうって。

 両親はそれに気付かず地下の扉を棚で塞いで、長男は誰にも助けてもらえないまま……本棚の重みで動けず、痛みと暗闇の中で気が狂いそうになりながら、空腹を紛らわせる為に周りにあった本を破って食べてたんだよ。

 こんなことがあった家なんて売れない、ってことで家は取り壊して、そこは更地になった。その広大な土地を買い上げて作られたのが虹ヶ咲なんだって。

 そんなことがあったなんて知らなかったからゾッとしたよ。私達が授業を受けて、スクールアイドルの練習をしてる足下で子供が苦しんで死んでたなんて……。

 話が一段落したところで、怖いよ、って侑ちゃんに抱き着いたんだ。凄くいい匂いがしたよ。侑ちゃんはね、いい匂いがするんだよ。ミルク系のね、ちょっと甘い赤ちゃんみたいな匂いが……ふふっ。

 怖いから今日は一緒に寝て、お風呂も一緒に入ってって侑ちゃんの耳元で囁いてたら、かすみちゃんが真面目な顔でこう言ったんだ。

 話はここからです。って。
 
6: (茸) 2022/04/23(土) 02:54:14.77 ID:mem5Lqit
 そんな凄惨な事件があったとはいえ、竣工の際にお祓いをして祠を建て祀ったこともあってか、何も起きないまま日々は過ぎていったの。

 ところがね。去年のことなんだけど……祠が誰かに壊されたんだって。それは私も知ってたよ、担任の先生が心当たりのある者は名乗り出ろってカンカンになってたから。何の祠かは知らなかったけどね。

 結局犯人は分からずじまいで、祠は直されることもなくそのままになってたんだ。

 それからだよ。奇妙なことが起こり始めたのは。

 図書室の本がビリビリに破られるようになったんだ。放課後に鍵を閉めた時には何ともないのに、朝来てみたら破られてる。それも手で破ったんじゃなくて、口を使って噛み千切ったみたいに歯型がついてるんだって。

 何回も何回も繰り返しやられるから、悪質な悪戯だって司書さんが怒って、ある日犯人を見付けて捕まえてやろうって、放課後になって日が沈んでも職員室に残ってた。
 
7: (茸) 2022/04/23(土) 02:55:03.87 ID:mem5Lqit
 司書さん、女性だから腕っ節が必要だろうって体育の先生と古典の先生も残って、三人で談笑してさ。そろそろ日も落ちてきたから、図書室の中で張ろうって三人揃って向かった。

 暗い図書室って不気味だよね。本が大量にあるところって、暗いと現実世界なのかそうなのか分からなくなるくらい怖いんだよ。

 暗い中、貸し出しカウンターの中に一人、倉庫の中に一人、入口付近に一人。何処から入ってくるか分からないから、三人各々離れて待機してた。

 どれくらい経ったのかな。カウンターに隠れてた司書さんがうつらうつらしてると、ビリッと紙を破る音が聞こえてきた。あっ、来た! そう思って司書さんはカウンターから出たんだ。

 ビリッ、グチッ、ベリッ。暗闇の中、誰かが本を噛み千切る音が聞こえる。そっと近付いて、声をかけようとしてふと気付いた。

 扉を開く音も窓を開ける音も無かったのに、こいつは何処からここに入ったんだ。そもそも、入口側の先生も倉庫の先生も、何か音がしたら駆けつけてくれる筈なのに、図書室内には自分と、目の前のそれしか動く気配がない。
 
8: (茸) 2022/04/23(土) 02:55:53.04 ID:mem5Lqit
 ねぇ、誰なの。言いながら司書さんは懐中電灯をそれに向けて……悲鳴を上げた。

 そこにはね、どう見ても小学生くらいの、ガリガリに痩せて乾ききったミイラのような男の子がいたんだ。その子が一心不乱に本をかじってる。

 本を咀嚼しながら、落ち窪んで大きくせり出した目がぎょろっと司書さんを見た瞬間、気を失ったんだって。

 次に気付いた時には、電気の付いた明るい図書室の中で二人の先生が心配そうに司書さんを見てた。

 二人曰く、犯人を捕まえてやろうと待っていたら司書さんの悲鳴がして、慌てて電気を付けたら、ビリビリに破られた本の前で司書さんが気絶してたんだって。

 その翌日に、理事長から過去にこの土地で起こった出来事を聞いて、司書さんまた卒倒しそうになったらしいよ。
 
9: (茸) 2022/04/23(土) 02:57:11.48 ID:mem5Lqit
 祠を壊したせいで現れたんだ、ってことで理事長は急いでお祓いをしてもらって、本食い様と名付けて祠を作り直し祀ったたんだけど……効果は無かった。その後も図書室ではビリビリに破られた本が見つかった。

 だから今も本食い様は、暗い図書室で本を食べ続けている。

 ということを司書さんに教えてもらいました、かすみん図書委員なんです。なんて言うかすみちゃんに、私達は何とも言えない気持ちになったよ。

 乾燥してカラカラに乾いてたってことは……水も飲めず餓死したんだよね、それだけでも悲しいのに、化けて出ても食べられるものが本しか無いなんて。

 悲しむ私に、かすみちゃんは言いました。けれど、除霊をしてくれる、静岡のお寺の方が今日来ているそうなので、きっと成仏してくれますよ、って。

 この世で苦しんだ分、きっと来世では本食い様も幸せになってくれますよ。そう言うかすみちゃんに私は頷きました。

 その後侑ちゃんの提案で、私達は図書室に行くことにしました。今は除霊が行われている最中とのことでしたが、もし成功したらせめて私達だけでも手を合わせて送ってあげようと思ったから……。
 
10: (茸) 2022/04/23(土) 02:58:08.32 ID:mem5Lqit
「破ァッ!」

本食い様「グアアアアッ! 成仏する! 成仏した!」ジュウウウウウウッ

「獣の槍よ……マルは本を傷付けたこいつを許せない……! 本食い様……お前がどれだけのことをしたかマルが命にかえて教えてやるずら! だから槍よ……マルが戦うために……オラがオラであるために……獣の槍よ! 来い!」

侑「本場の除霊は凄いなぁ。歩夢好きだよ! 私と付き合って!」

歩夢「付き合う!」

 こうして私と侑ちゃんは付き合うことになったんだ。

 これで私の話はおしまい。
 校内新聞同好会で恋バナ特集をするんだよね……どう? 記事になりそう?


 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1650649724/

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