【SS】夏美(25)「鬼ポータブル多機能プレーヤぁ~」 すみれ(26)「(ニコニコ)」【ラブライブ!スーパースター!!】

SS


1: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:29:05.51 ID:VNtFfP/U
夏美「これ1台でテレビやデーブイデーを観る事ができ、シーデーも聴く事ができ、さらにテレビを録画し、シーデーも録音できますの」

夏美「製造は、マスコットキャラ『リナちゃん』の親切ナビゲーションで評判の天王寺!」

すみれ「少量生産ながら、リピーター続出の(株)天王寺さんね?」

夏美「電源を入れると、モニターに『リナちゃん』がニッコリお出迎え。ゲームのお相手もしてくれますの」
 
2: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:32:03.99 ID:VNtFfP/U
すみれ「これだけの機能が付いて7インチの大画面だから…」

すみれ「5万円位で紹介ですか?」ウルウル

夏美「いや高くは売れませぇんですわ。安すぎて驚かないでくださいですの?」

すみれ「(ドキドキ)」


夏美「…税込み1万円でのご紹介ですわ!」ニャハ~

すみれ「安い、ギャラクシィ~♡」
 
3: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:34:38.92 ID:VNtFfP/U
中略


すみれ「これだけの機能が付いて、税込み1万円はギャラクシィ~♡」

夏美「9インチの大画面は税込み12,800円のご紹介ですわ」

すみれ「9インチで12,800円もギャラクシィ~♡」(首フリフリ)

夏美「お一人様、2台までですわ!」


すみれ「お申し込みは、0120-×××-△△△または『オニナッツ』で検索ったら検索よ!」
 
5: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:36:32.51 ID:VNtFfP/U
放映翌日・SNSの返信欄

・Lスタ配信と全然違って吹いた
・完全に社長と愛人
・社長の発音がクセになりすぎる
・平安名すみれ久しぶりに見た
・リナちゃんモニターってだけで買うわ
・地上波進出にあたって芸風変えてきたな
・グソクムシの人?
・すみれさん愛人じゃんこれ
・天王寺製品はいいぞ
・2人が気になって説明が頭に入ってこない
・鬼塚社長と愛人すみれ
・すみれさん美人だなー
・この二人こんな感じだっけ
・ブルーレイは見れないのかよw
 
8: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:38:20.64 ID:VNtFfP/U
夏美「初の地上波で紹介されたポータブルプレーヤー、かなり売れてますの!」

すみれ「やったじゃない!社長」

夏美「Lスタライブの『すみナッツのギャラクシー商品紹介』と構成をガラッと変えて成功でしたの。ああいう雰囲気が通販番組には大事ですの」

すみれ「私はちょっと恥ずかしいけどね…何か宣伝用のツイにも変なこと書かれてるし//」

夏美「反響が大きいのは良い事ですわ」

すみれ「そうだけど…何であんな感じにしたのよ」

夏美「売り上げを増やすための、入念なリッサァーチの結果ですの」

すみれ「そ、そうなのね」


夏美「…やっぱり嫌でしたか?こんな形でのテレビ復帰なんて…」

すみれ「やる前にも聞かれたけど、全っ然そんなことないわよ」

すみれ「社長たちが頑張って作った番組だもの。これからも喜んで出演させてもらうわ」

夏美「そう言ってくださると嬉しいですわ…とても」
 
9: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:40:32.09 ID:VNtFfP/U
リサーチした結果というのは、ホントでウソ。

他のやり方も考えたけど、あえてこれに決めた。


私がやりたかったから、やってもらったんです。

私とあなたがそういう仲なのかなって、ネタでもいいから世間の人に噂されてみたかったんです。


事務所を辞めたあなたを誘った時からそう思ってました。

すみれさん。
 
11: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:42:16.30 ID:VNtFfP/U
株式会社オニナッツ事務所(旧鬼塚商店1階)


先生「あのキャラ付けはどうかと思いますが、やはり平安名さんはテレビでも画面映えしますね」

先生「2年間でLスタライブでの販促を大きく伸ばしたのも納得です」

夏美「今まで企画兼モデル役だった私としては、ちょっとガッデームですけどね」


この人はすみれさんをスカウトする前からお世話になっている、「スクールアイドルOG専門」をうたう酔狂な会社の経営コンサルタント。

結女卒業から続けてきた専業Lチューバー活動に限界を感じていた3年前、フラッと事務所に現れ…格安の料金で色々な案件を紹介してくれるようになった。
 
13: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:45:45.27 ID:VNtFfP/U
「デザイナーコトリミナミのOG販促専用商品」、「ベンチャー企業天王寺の電化製品」、「沼津2泊3日格安観光パック」…。

彼女が紹介してくる破格の限定商品をSNSで販促することで、収益は何とか回復したのだ。


夏美「ここまで来れたのは、OGの皆様と先生のお陰ですわ。改めてお礼させてくださいですの」

先生「いや、『OGの厚意を互助会レベルで終わらせたくない』という鬼塚社長のリスクを取ったエモ…もとい熱意が、皆に届いたのです」

夏美「インフォマーシャル放映権料やコールセンター委託料金やらで、マニーがすっからかんどころか債務者生活ですの~」


このままフォロワー限定の販促を続けても、行き着く先は先細りの未来。

2年前、事務所を退所したすみれさんを得たことで、彼女を地上波に出して喜んでもらいつつOGにも小遣いレベルじゃない利益をもたらし、さらに私が個人的に満足する…地上波進出計画を思い付き、何とか実現させたのだ。
 
14: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:48:14.24 ID:VNtFfP/U
先生「天王寺は元々研究開発がメインの企業で、製造販売はその技術力を示すための手段でしたが、高度な研究ほど資金が必要」

先生「出資者の信用を得る機会を伺っていたところに、夏美社長の説得がはまったのです」

夏美「増産して頂けるようお願いに伺った時、ほとんど二つ返事だったのはそういう事でしたのね」

先生「もちろんそれもありますが…平安名さんと一緒に行ったのが良かったのだと思いますよ」

夏美「…確かにあの若社長、表情こそ変えなかったもののずっと鼻息荒くしてましたわ」

夏美「やっぱり美人は得ですの」スン


先生「美人だからというか何というか…天王寺社長にとっては平安名さんは90点以上の評価の人だったということです」

先生「でも鬼塚社長も80点くらいはありますから、気を落とさないで下さいね」

夏美「…何ですのその評価基準」

先生「顧客のプライベートですので、秘密です」イ^⇁^ナ

夏美「…何ですのその顔」
 
15: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:51:15.34 ID:VNtFfP/U
二週間後、株式会社オニナッツ事務所


夏美「ぬぬぬ、次回の地上波用動画にLつべのスクールアイドルコラム動画作り、Lスタライブの準備もあるし忙しすぎてやばいですの…」カタカタ


こうして、学生時代の片思いをいい大人になっても引きずっていた私の人生は、周りを巻き込んでちょっと変わろうとしていた

「オーラが無いように見える」とか「他人を押し退ける上昇志向が無い」という理由ですみれさんを干した事務所は炎上させたいところだが、お陰で彼女を自分の会社に迎えることができた。

一人社長の零細インフルエンサーが、同年代の子がエンジョイする華やかな時期を捨て、エンタメ業界の端っこで何とか生きてきてよかった。


…あ。

同年代の子がやるような恋人作りだけは、1回できたんだっけ。


自然消滅しちゃったけど。
 
16: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:53:30.34 ID:VNtFfP/U
すみれ「お邪魔しますお疲れ様です」ガラガラ


夏美「所属俳優がなぁにやってましたの。早く作業を手伝ってできれば昼食も作って欲しいですの」ニャハ

すみれ「所属だから営業してきたのよ。地上波の影響か雑誌の仕事、割とあっさり取ってこれたわよ」ドヤ

夏美「そうでしたの。…芸能事務所とは名ばかりで、どぶ板営業みたいな事をさせて申し訳ないですの」

すみれ「あれこれ制限のあった前よりマシよ?顔色伺う相手が少ない分、こっちの方が楽しいし」


そう言ってくれると嬉しくて、モチベーションがいくらでも湧いてくる。

自分でも呆れるが、何年経ってもこの人の事が好きなんだな。
 
18: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:56:25.53 ID:VNtFfP/U
事務所(自宅)に出勤してもらって、たまに作ってもらった食事を家族と一緒に頂いたり。

おかげで両親の評判も上々。


…これ、そろそろ行けるんじゃない?

当時勝手にライバル認定して勝負すら諦めた先輩方もみんな海外。障害は無い。

愛人(世間のネタ話)から、ついに本当の恋人に…。


スマホ『ギャラクシィ~♪』


すみれ「あ」ゴソゴソ


すみれさんのスマホに通知。

勝手に気合を入れてたのに水を差された気分。
 
20: (わんこそば) 2023/03/01(水) 20:59:27.67 ID:VNtFfP/U
すみれ「あら珍しい。…からだわ」

夏美「…ナッツ!?」

すみれ「帰国するから話がしたいんだって。社長も一緒にね」

夏美「……」

すみれ「会うなんて何年ぶりかしら。楽しみね~」ワクワク


夏美「ガ…」

すみれ「ガ…?」


ガッデーーム!

何とか心の中に留めた。

会えるのはもちろん嬉しいけど、どうしてこの時期に帰って来るのか。


勝手にライバル認定して勝負を諦めた人、その①…。

澁谷かのんさん。
 
21: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:02:30.07 ID:VNtFfP/U
3日後、株式会社オニナッツ事務所


かのん(26)「ふ~ん、ここがすみれちゃんの職場か~」ジロジロ

すみれ「社長の家、古風だけど広くていいとこでしょ」

夏美「向こうの大学みたいにピカピカ(想像)じゃありませんけどね」


久しぶりに会ったかのんさんは、値踏みするように事務所を見回している。

綺麗な菫色の瞳とよく通る声は変わらないけど…さらに痩せたような気がする。


結女在学中の話は無くなったが、卒業後はウィーンの音楽大学に学費タダで留学した彼女。

修士として卒業した後も大学に残り、満を持した世界デビューはいつになるのか待たれる…。


というのが日本の乏しい情報で分かった事だけど、その詳細はすみれさんも知らなかった。
 
22: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:06:26.32 ID:VNtFfP/U
すみれ「で、どうしたの?かのん」

すみれ「私達、実は通報番組をやってて…一緒に出てもらえると助かるわ。なんてね」テヘ

かのん「…番組なら観たよ。ネットで」ボソ


気さくに話し掛けるすみれさんに対し、かのんさんは下からちょっと睨むような表情。

何か嫌な予感がする。


かのん「あれじゃまるで、すみれちゃんが夏美ちゃんの…愛人みたいじゃん」ジロ

すみれ「ギャラッ!?」


やっぱりバレてました。


スタジオ撮影じゃないので余計なマニーが掛からず、さらに出てくる2人の関係をあれこれ想像できてチャンネルを変えられづらい通販番組。

もう倒産した企業の昔の番組を発掘し、遂に完成させたメソッド。

我ながら、自分の才能と煩悩が恐ろしい。


…なんて自画自賛している場合ではなさそうだ。
 
23: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:09:09.18 ID:VNtFfP/U
かのん「ギャラクシーな女優になるって言ってたのに、事務所を辞めたと思ったら…夏美ちゃんとヘンな番組やり始めて」

すみれ「ヘンじゃない!…と言いたいけどやっぱりヘンよね//」


はい。変なのは間違いないです。


すみれ「でも私は…」

かのん「私、大学辞める予定なんだ」

かのん「だからすみれちゃん…また、私と何かやろうよ?ねえ?」

すみれ「かのん…」


悲痛な表情のかのんさん。

どうやら、やりたい放題やっていた私を咎める為だけに帰国したわけではないようだ。
 
25: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:11:56.16 ID:VNtFfP/U
かのんさんは留学した大学で、いつの間にか偉い教授たちによる権力闘争のコマにされていたらしい。

その才能と、同学のマルガレーテ姉妹より扱いやすい性格に目を付けられたようだった。

彼女を利用して出世を企む教授たちから立場と書類で縛られ、歌を披露するステージも全て決められた。

どの教授にも良かれと思いイエスと答え続け、さらに悪気無く敵対陣営の情報を漏らしまくった結果、各派閥からコウモリ呼ばわりされるようになって大学を飛び出し、現在に至る…。


本人ですら把握できていない事が多くちょっと難儀したが、彼女の話を整理するとこういう事情らしかった。
 
26: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:14:20.00 ID:VNtFfP/U
かのん「尊敬する教授達だから何でも言う事聞くじゃん?」

かのん「持ってくる書類もドイツ語だし何かゴチャゴチャ書いてあって読みづらいから、サッと読んだらとりあえずサインするじゃん?」

かのん「教授達の話、面白かったら皆で共有して楽しい会話したいじゃん?」


すみナッツ「えぇ…」


かのん「そしたら契約違反だの裏切り者だの…あんまりなんじゃない!?」


あんまりなのはあなたも負けてないと思います。
 
28: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:16:49.40 ID:VNtFfP/U
暴力的ですらあるその才能が、舵取りを怠りついに自分に返ってきてしまったんだろう。


てかこの人…最初私と契約した頃と、あまり変わってない。

「何かある気がする」の正体が、私みたいなセコい理由だけじゃないんですよ?

世間の悪意を分かって悪役になってでも助言できる人が、このピーキーな人を支えてあげるべきなんだろうな。

…あの時のように。


すみれ「話は大体分かったけど…千砂都には相談したの?」

かのん「ちぃちゃんはアメリカでバリバリ活躍してるから…」

かのん「こんな事で困らせたくないし、情けなくて話せないよ」メソラシ

すみれ「まったくあんた達は…少し掛け違えるとすぐこうなるんだから」
 
29: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:20:07.01 ID:VNtFfP/U
すみれ「上手く行ってる時はいいけど、危なっかしいったらないわね」フゥ

かのん「でも、すみれちゃんのとこに来たのは、情けない話でも聞いてもらえるってだけじゃないよ」

すみれ「それがさっきの『何かやろうよ』ってこと?」


かのん「私ね、向こうで外国語だいぶ出来るようになったから…お父さんにも教えてもらって翻訳家を目指そうって思ってたんだ」

夏美「…第二のキャリアとして、それは良い選択だと思いますわ」


かのん「でも、あの番組を見ちゃった」

すみれ「……」

かのん「事務所辞めたのに…昔の後輩とヘンな番組やってるのに…」

かのん「それでも楽しそうなすみれちゃんを見てたら…」

かのん「まだ夢は終わってない。すみれちゃんがいてくれたら、まだどんな事だって思い切って飛び込んでいけるって思ったんだ」
 
30: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:22:40.02 ID:VNtFfP/U
かのんさんの目がらんらんと輝き始めている。

確かに、昔からの友人にこんな人がいたら頼りたくなりますよね。

業界経験があり、痛いところも遠慮せず指摘してくれて、優しくておまけに美人(夏美評)だから分かるんだけど。


すみれ「かのん」

すみれ「社長がヘンな番組を作ったり、炎上上等な企画をやろうとしてハラハラするけど…私は今オニナッツの所属なの」

すみれ「あなたの活動に付きっきりって事はできないわ」

かのん「じゃあ、私も夏美ちゃんの会社に入ればいいでしょ?そこで一緒に…」

すみれ「それは…」

夏美「デビューしていないかのんさんの将来を、マニーも業界へのパイプも無い私が預かることはできませんわ」

かのん「そんな…」
 
32: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:25:53.57 ID:VNtFfP/U
これは彼女とすみれさんの再接近がどうとかではなく、業界人のはしくれとしての意見。

マニーをかければ新人歌手を即全国区にできる手法があるのに、ウチでプロモもロクに打てずに弱いレーベルからデビューさせて数字が出なかったら…。

私に夢を与えてくれた世代最高の元スクールアイドルには、できるだけ良い環境でデビューを飾って欲しいんです。


すみれ「遅すぎるなんてない♪」ビシッ

夏美「…!」


夏美「…不可能なんてない♪」ビシッ


この振り付けをすみれさんとやるのは高校の時以来。

やっぱりこの曲は、いい。


かのん「すみれちゃん…夏美ちゃん…」

夏美「あなたが作った曲ですわ」

すみれ「思い立ったら始まりの日。でも、焦ることはないわよ」

すみれ「デビュー用の曲でも作りながら、これからどうするかゆっくり考えなさい?」

夏美「メディアに出て面白いことをやるのは、しばらくは私達に任せて欲しいですの」
 
33: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:28:48.82 ID:VNtFfP/U
かのん「…ヘンな番組で?」クス

すみれ「そう、ヘンだけど…今の私達が作ったギャラクシーな番組よ!」

夏美「すみれさん…」

かのん「うん…うん!」グスン


ついに泣き出してしまったかのんさん。

でも…元気づけてあげられたようで、本当によかった。


Liella!で完全に覚醒したであろうこの人が、その後の人生で躓くなんて全く想像してなかった。

何か力になってあげられる事はないか、これから考えてみよう…。
 
34: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:31:55.65 ID:VNtFfP/U
かのん「今日は本当にありがとう。じゃあ帰るね…」

すみれ「また遊びに来なさいったら来なさいな?」


かのん「…ねぇ、すみれちゃん」

かのん「今晩、うちに泊まりに来ない?」

すみれ「えっ」

夏美「えっ」


何を言い出すんですかこの人は。


かのん「お母さん達にも、昔の仲間と会えたことで元気になったって見せてあげたいし…久しぶりにすみれちゃんとたくさんお話したいなって」
 
36: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:34:35.54 ID:VNtFfP/U
夏美「そ、それは…」

かのん「ダメかなぁ?」ウワメ

すみれ「…もぅ、ちかたないわねぇ」ニコニコ


出た。何だかんだで結局かのんさんの言う通りにしちゃうやつ。

しかもこの人、かなり嬉しそう。


…などと思ってるうちに、すみれさんはいそいそと帰り支度を始め、かのんさんは嬉しそうにその周りをチョロチョロして、顔を近づけたり肩を触ったり服をつまんだりしている。


あれ?…この人何か…。

手つきとか、そういうの慣れてるような…?


かのん「じゃあ夏美社長、すみれちゃんを借りるよ?」ニコッ

すみれ「ちゃんと明日は出勤するわ。今日は飲むわよ~!」ワクワク
 
37: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:37:08.37 ID:VNtFfP/U
ま、まぁ元同級生として積もる話もあるだろうし…。

ごく普通の恋愛観が身に付いたであろうかのんさん(26)なら、心配することも無いはず。


すみれ「お疲れ様でしたー」ガラガラ

かのん「お邪魔しました~…」チラッ

夏美「…?」


かのん「………」ニヤリ


ナァーッッツ!!

やっぱりこの人何かする気だ!?
 
41: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:40:44.44 ID:VNtFfP/U
昔話に出てきたマルガレ姉妹との学生生活、妙に情感こもってるなぁと思って聞いてたけど…。

まさかどっちかと何か…。

いやもしかして、りょうほーですかあああ?


世俗に疎いのは治ってないのに、そんな事ばかり覚えて帰って来たとかないですよね?


夏美「あぁ、行ってしまったですの…」ポツン


夏美「あなたは大丈夫ですよね、すみれさん」ブツブツ

夏美「今が大事な時期なんですからね。ネタじゃないリアルスキャンダルは絶対無しですの」ブツブツ

夏美「もう25も過ぎてるんですから、現実を忘れて素敵な青春を共にした人とアンニャハな仲に…とかダメですわよ?」ブツブツ


誰かが聞いてたらツッコまれそうな独り言を呟きながら、泣く泣く期限がやばい仕事に取り掛かる。

恋愛よりも仕事の期限というのが、社会人の辛いところ。


これから一体、どうなって行くんだろうなぁ。
 
42: (わんこそば) 2023/03/01(水) 21:50:58.12 ID:VNtFfP/U
後で聞いたところ、澁谷宅ですみれさんに尻を叩かれてようやく千砂都さんに連絡を取ったかのんさんは、説教慰め励ましの幼馴染コンボ(2時間)を決められ、泣き疲れて寝てしまったとのことでした。

事情を知らずとも海の向こうから幼馴染の過ち?を止めてくれた千砂都さん。足を向けて寝れませんね。
 
53: (わんこそば) 2023/03/02(木) 21:32:34.42 ID:3QaLD1BR
1か月後、株式会社オニナッツ事務所


先生「『もんじゃ宮下』様への営業、お疲れ様でした」

夏美「社長と話してたら娘さんがちょうど帰ってきて、何故か変な空気になったんですけど…セット販売の商談自体は上手く行きましたわ」

先生「すみれさんを連れて行ったのは、あまりよろしくなかったですね」

先生「申し訳ありません。情報提供を怠りました」ペコ


夏美「…それは何故ですの?」

先生「顧客のプライベートですので、秘密です」イ^⇁^ナ

夏美「……」


そういう仕事だから当然かもしれないけど、先生の人脈と把握能力はすごい。

失礼と思ったので調べてないけど、たぶん私より少し年上なこの人自身も元スクールアイドルらしい。

所作を見ていると財閥系の企業でおしとやかに仕事している姿が似合いそうな彼女が、どうしてこんな謎の仕事をしているのかは少し気になっている。
 
54: (わんこそば) 2023/03/02(木) 21:38:34.50 ID:3QaLD1BR
先生「通販番組による売り上げは相変わらず好調ですね」ページメクリ

夏美「…でも、ここらで一つ目玉商品を出したいですわ」

先生「随分と急がれるのですね」


すみれさんは今日もピンの仕事に出ている。

人形のような容姿と仕事を選ばない泥臭さとのギャップ、グソクムシまで遡る苦い過去をさらけ出すのを厭わず弄られ役もこなす姿勢。

当時の私が彼女に惹かれていった経緯と同様に、前の事務所の方針とは異なる形で彼女は世間に受け入れられ始めていた。

私の後方彼女面をさらにでっかくするためにも、この流れを逃がしたくない。


夏美「高いブランド力の商品を、ある程度の数生産できるOGに心当たりはありませんの?」

先生「現役アイドル、舞台俳優、作曲家…名前が広く知られている方々はいらっしゃいますが、席数などに縛られない商品となると…やはりコトリミナミ様でしょうか」

夏美「デザイナー、コトリミナミ…」
 
55: (わんこそば) 2023/03/02(木) 21:42:19.49 ID:3QaLD1BR
先生「ただ、彼女のブランド取扱店が面白くない顔をする中でOG限定販促商品を認めてもらっている現状、重ねてお願いをするのは…」


夏美「…そういえば、以前ミナミ先生の情報を教えて頂きましたの」

先生「はい。彼女はスクールアイドル時代の思い出こそ、今の自分を作ってくれたかけがえの無いものだとして…」

先生「同じ経験をしたOGの皆さんの話を聞くことが、創作のモチベーションに…」

夏美「そこではなくて、彼女の『特に』好きな話についてですわ」

先生「あぁ。あまり参考にならないでしょうけど、彼女が特に興味を惹かれる話は…」


---先生 イ^⇁^ナ 説明中---


先生「……ですけど、それが何か?」

夏美「…行けるかもしれないですわ」

先生「え?」
 
56: (わんこそば) 2023/03/02(木) 21:48:51.81 ID:3QaLD1BR
夏美「そのテの話ができる当事者が揃っていますの」


そう。彼女が戻ってきているのは、まさに目の前に舞い降りた好機。

たまに「すみれちゃんは~?」とか言いながら事務所に来ては、ギターを弾いて茶菓子を食べてダベって帰って行く彼女に、活躍してもらう時が来たんだ。


夏美「こっそり帰国している、澁谷かのんさんにお願いしますわ」

先生「…澁谷かのんが日本にいるのですか!?」ガタッ

先生「何故教えてくれなかったのですか?ビジネスは抜きにしても、個人的に彼女と話したいことは沢山あって…」フンフン

夏美「あの人、繊細(親公認)ですので…。知らない人と沢山話すのは緊張しちゃうかな~と配慮したのですわ」

先生「そういう方なんですか…」


夏美「何とか説得しますので、ミナミ先生へなるべく早くアポを取って欲しいですの!」


先生「急な話ですが…分かりました」

先生「もちろん私も同席させて頂きますけどね?」ズイ
 
57: (わんこそば) 2023/03/02(木) 21:53:43.46 ID:3QaLD1BR
過去のあれこれで知る顔以外の人との接触を極力避けているかのんさんだが、いつまでもこのままではいられないだろう。

私の会社とすみれさんの為にも、頑張ってください!

………

……



3日後、株式会社オニナッツ事務所


かのん「もう死ぬほど恥ずかしかったよ、すみれちゃ~ん!」ギュッ

すみれ「私も顔からギャラクシーだったわ…」

夏美「私もですわ…」


先生「皆さん、本当にお疲れ様でした」

夏美「とりあえず、スムージーでも飲んで落ち着くですの…」コト


先生「ミナミ様が求めていたのは、『部員同士の若さゆえの争い』の話」

先生「その話を聞くとたまらなくエモい感情に包まれ、泣き笑いしながら創作するモチベーションが湧いてくるのだそうです」


先生「…理由はもちろん聞けませんが」
 
58: (わんこそば) 2023/03/02(木) 21:57:55.06 ID:3QaLD1BR
すみれ「芸術家って分からないわね…」

先生「さらに今回の澁谷さん達のお話…①場所が屋上、②グループ分裂の危機、③手を出しかけた、④誰かの感情の発露で何だかんだ解決」

先生「この4点が相当に彼女の琴線に触れたようですね」

夏美「その都度一人ひとりに当時の感情を聞いてくるんですもの…」

かのん「もう思い出させないでよ~//」


『すみれちゃんは初めてスカウトした大切な人』

『彼女を信じていたのでショックは大きかった』

『あなたは最低だよって思った』


顔を真っ赤にして話すかのんさんを、大きな目をさらに真ん丸にして質問攻めしていたミナミ先生。

ビンタが未遂だったと聞いて「そう…」って言ってたけど…何かその。


…いや、もう考えないようにしよう。

目的は果たしたんだ。
 
60: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:06:39.92 ID:3QaLD1BR
先生「しかし、年1回制ラブライブにおいて伝説となった『Liella!』が…お話されたような内輪揉めをしていたとは」

先生「私が所属していた同好会は途中参加の者も含めて、概ね平和だったものですから…」※アニメ時空

かのん「大体原因は同じ人なんだけどね~」チラッ

すみれ「やめて//」


夏美「…とにかく、やる気スムージー満タン状態のミナミ先生の確約を得たからには、こちらも本気でやりますわ!」

夏美「SNSで告知を打ちまくって、初のスタジオ生放送!時間も深夜じゃない枠を狙うですの!」

先生「エキストラ(観客)もこちらで募りましょう。若い方々がたくさん来れば、番組が華やかになりますよ」

すみれ「おー!」


かのん「……」
 
61: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:14:35.82 ID:3QaLD1BR
3か月後、某TV局スタジオ


観客『ざわざわ…』


夏美「初のスタジオ生放送、株式会社オニナッツ~の商品紹介ですの~!」

すみれ「(ニコニコ)」

夏美「デザイナーコトリミナミの名を一躍有名にしたあのハンドバッグを、その名の通り大胆リッメーイク!」

すみれ「その名も…?」

夏美「『テレビ通販限定・鬼ちゅーん(・8・)・ミューズ01R』ですわ!」ドーン


観客『コトリミナミ!?』『すごいの来た!』『謎の人脈すぎる』ワイワイ


すみれ「当時の世代から学生の皆様まで幅広い年代に人気の、ミナミデザイナーの限定商品ですか!?」

夏美「本来、通販番組で扱う商品ではないのですが…」


観客『ホントだよ…』ザワザワ


夏美「今回 と く べ つ に ご用意させて頂きましたわ!」

すみれ「すご~い♡」
 
62: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:20:52.39 ID:3QaLD1BR
夏美「シックなのに不思議と目を引く伝家の宝刀『コトリベージュ』をベースカラーに、色褪せない思い出を表す山吹色、群青色を配したキラキラの留め具…」

夏美「フラッグシップモデル『ミューズ』の名を冠した、渾身のリメイクですの!」


観客『おぉ~!』ワイワイ


すみれ「これだけの商品、通販番組とはいえ…さすがにお安くならないですよね…?」モジモジ

夏美「……」


かのん「そうかなぁ?」ヒョコッ


観客『!?』ザワ…


かのん「何かある気がするんだよね」


夏美「あ、あなたは…!」

すみれ「オーストリアの音楽大学にいるはずの、澁谷かのん…さん!?」
 
63: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:23:21.76 ID:3QaLD1BR
かのん「お久しぶりです…エヘヘ」手フリフリ


夏美「ぬぁーんと、かつてスクールアイドルとして圧倒的な歌唱力を評価され、世界一とも言われる音楽大学に留学中の澁谷かのんさんが…スタジオに来てくれましたの!」


観客『あの語録は本物だ…!』『なんでこんなとこに?』ワイワイ


かのん「このバッグ、とっても素敵な商品だよね」スッ

かのん「…似合う、かな?//」


すみナッツ観客「「たまんねぇ~~~!!」」


かのん「出会いは一期一会、大切にしなきゃだよね?」ウインク

すみれ「かのぉん…!」(素)
 
64: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:27:02.52 ID:3QaLD1BR
夏美「そうですわね…この番組を観てくださっている皆様とも一期一会」

夏美「…税込み5万円でご紹介させていただきますの!!」


すみれ「安い、ギャラクシィ~♡」ピトッ

かのん「社長、ありがとう~♡」ピトッ


こ、このアドリブは…!?

一番好きな人と一番尊敬する人が、両手に花状態…。

これは夢ですか?


夏美「ニャハ…//」>>6話顔


観客『新作なのに5万!?』『マジで欲しい』『社長すごい顔してる』ワイワイ
 
65: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:30:03.68 ID:3QaLD1BR
すみれ「(ちょっと社長!)」

夏美「…ナツッ!」ハッ

夏美「あ、あまりの値段設定に…決めた私が我を忘れてましたの」

かのん「そうなんだ」クスクス


夏美「このお値段、元モデル『ミューズ01』の定価よりお安くしましたですの」

すみれ「はい。番組を観て下さっている学生の皆様にも、ちょっと背伸びしてもらって…何とかお手元に届けたいという事ですね?」

かのん「社長、がんばったね!」ナデナデ


夏美「今ご覧になっている…こ・の・番組限定の商品ですの!」

すみれ「お申し込みは、0120-×××-△△△。お早めにったらお早めよ!」

かのん「じゃあ、またね?」ニコ


観客『パチパチパチパチ』ワーワーワー
 
66: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:36:27.26 ID:3QaLD1BR
翌日、株式会社オニナッツ事務所


夏美「眠気が…オニナッツですの…」カタカタ

すみれ「ここまでの騒ぎになるとわね…」グッタリ


番組終了直後にコールセンターの回線がパンクし、商品は瞬〇。

コルセンから弾かれた問合せが会社の代表電話やSNSのコメント欄に〇到し、これがトレンドに取り上げられさらに騒動は大きくなって…一晩中対応に追われる事になった。


ミナミ先生は「完全新作だと販売店が怒るから、リメイク扱いでごめんねぇ」と言ってたけど、それでも予想以上の反響だった。


そして…その先生に尊厳破壊されたかのんさんが、半ばヤケになって出演を決めてくれたのも収穫。

自分から売り込みに行くのが苦手な彼女を、昨日の番組で日本の関係者に周知させる事ができた。


彼女の歌手デビューに手を挙げる企業が、出てくるかもしれない。
 
67: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:40:10.73 ID:3QaLD1BR
すみれ「やっぱり本番にみんなと臨むかのんは、すごかったわね」

夏美「一番落ち着いてましたの。私の最初のステージを思い出しましたわ」


ビビりかのんはどこへやら…東京大会のマルガレにも全く怯んでなかったし、ゾーンにINした時の覚悟の決め方がすごい。

単独でも強いけど、彼女もまた仲間のために最高のパフォーマンスを発揮する人なのかも。

そこは何年経っても変わらないなぁ…。

……。


変わってないといえば、何か重要なことを忘れているような?

こう、何か…。


スマホ『オニナッツ~♪』ピロン


L〇NEの通知…四季達には昨日のうちに連絡済みだけど、誰が…。


[………先輩](最終:1年以上前)

『お久しぶりです』『かのんから状況は聞いていました』
 
68: (わんこそば) 2023/03/02(木) 22:45:06.90 ID:3QaLD1BR
…。

ガッ… ガッ…。


夏美「G O D …」

すみれ「え?」


夏美「D A M N !!」クワッ


すみれ「ギャラァ!?」ビクッ


夏美「こんなことは…許されないですわ!!」

すみれ「!?!?」


あ。

声に出てしまった。


かつて結女で「Kアラート」と呼ばれた澁谷かのんさん。

地上波で好き勝手やっておいて今さらだけど、釘を刺しておくべきだった。


あぁ、彼女がやって来る…。

勝手にライバル認定して勝負を諦めた人、その②…。

唐可可さん。
 
76: (わんこそば) 2023/03/03(金) 18:47:42.22 ID:K01IGWYY
1週間後、株式会社オニナッツ事務所


可可(26)「ここがすみれとナッツの職場デスか」ジロジロ

すみれ「社長の家、親しみが湧いていい場所でしょ?」

夏美「可可さんのビルみたいにピカピカじゃありませんけどね」(検索済み)


これまた久しぶりに会った可可さんは、その…明らかに変わっていた。

ウチにある家具全部より高いかもしれない、ブランドのスーツとアクセ。

何より、生きてるだけでかわいいを体現したようなお顔は、常に眉根が寄り…厳しさを感じさせるものになっていた。


日本語版の情報ページがすぐ見つかるような、中国の名門企業の役員として姉ともども名を連ねる立場の彼女。

どんな人生を送って来たのか、大体分かる気がした。
 
77: (わんこそば) 2023/03/03(金) 18:50:21.22 ID:K01IGWYY
すみれ「久しぶりねぇクゥクゥ」ニコニコニコニコ

すみれ「ちゃんとご飯食べてた?夢中になって夜更かし仕事とかしてない?」


そんな様子の変わった可可さんに、一人嬉しそうに話し掛けるすみれさん。

どんだけ好きなんですか(呆れ)。


可可「食事は会食以外は、昔よりシンプルになったカモ…」

可可「夢中にはなりまセンが、仕事はいつも遅くまでやっていマス」


こ、声が低い…。


すみれ「かのんから聞いて知ってるわよね?私たちの活躍」ドヤ

可可「番組は観マシタ。観たから来たのデス…」

夏美「うっ…」


可可「あんなウサンクサイ番組に出テ…」

すみれ「ウサ…!」
 
78: (わんこそば) 2023/03/03(金) 18:53:18.31 ID:K01IGWYY
やっぱりこの人、すみれさんにだけは言葉を選ばない。

でも一応私もいるんですから、もうちょっと手心というものを…。


可可「しかもアレじゃあ、すみれがナッツの愛人みたいじゃないデスか」ジロ

すみれ「…言い方!こっちも恥ずかしいんだからね!//」


やっぱりその話は出るんだ。

制作側の意図がここまで伝わる番組ってすごくない?


『ドンッ!』


!?

可可さんがアタッシュケースをテーブルに勢いよく乗せる音で我に返る。

来た時から気になっていたけど、まさかその中身は…。
 
79: (わんこそば) 2023/03/03(金) 18:58:41.78 ID:K01IGWYY
可可「ナッツ、いや鬼塚社長…」

可可「コレデ、すみれをクビしてくれまセンカ?」ガチャッ


すみナッツ「言い方ぁ…あ!?」


ケースに詰まっていたのは全て1万円札。てことは合計…イチオクエンマニー。


可可さんが先に私に連絡してきた時点で、用件は大体分かっていた。

すみれさんに根回しなどせず、所属している企業に渡りをつけてから。

これが商慣行と言わんばかりの行動から、本気が伝わってくる。


夏美「……」ゴク


でも困った。

これを止めようとする気持ちが、さっぱり起きてこないのだ。
 
80: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:02:13.95 ID:K01IGWYY
リアルマニーの香りがものすごい部屋で、可可さんは話を続ける。


可可「ククは上海に帰った後、大学を卒業してすぐ家のグループ会社の管理職になり、会社の業績のために頑張っていろいろ…」

可可「立場デスから人を整理したり…いろいろやってきマシタ」

すみれ「……」

可可「いつかあの時のような笑顔で過ごせる時がまた来ると信じて、ひたすら仕事をして…結局、そんな時は来るコトなく年月が流れて行った…」

可可「日本のメディアをチェックする時間もありマセンでしたが、ついこの前、久しぶりにかのんから連絡が来て…ようやくオニナッツの事を知って、今の会社を辞める事を決めマシタ」

夏美「!?」

すみれ「あんた、何でそんなこと…」


可可「すみれがカタギに戻っていたら、こんな決意をすることは無かったデス」

夏美「そんなヤクザみたいな…」

可可「デモ、夢を挫折したあなたが…昔と変わらない笑顔で頑張っているのを見たら…」

可可「ククにもまだ残っていた、イテモタッテモの気持ちが目を醒ましたのデス」

可可「これは完全にすみれのせいデスし…すみれにその場所を与えたナッツのせいでもあるんデスよ?」

すみれ「クゥクゥ…」


私はタレ込みしたかのんさんのせいにしたいです。
 
81: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:07:39.87 ID:K01IGWYY
可可「すみれ…ククはあなたと一緒に過ごせなかった時間を、今からでも取り戻したい」

可可「クク個人の財産はこれだけではアリマセン…あと日本イェンにしてXX万円程ありマス」

すみれ「あんた、ずいぶんお金持ちになったのね」ホゥ


…高い方の縄跳びが何万本買えますの?

私の収入は右から左なのに、大陸マニー恐るべし…。


可可「お金で誘いをかけるナンテと思うかも知れマセンガ、今のククにはこれしかありマセン…」

可可「一緒に好きなコトをやりマショウ。女優への夢を再起してもいいし、迷うならその間…側にいてくれるダケでいい」

可可「だから、すみれ…」


…あぁ、これは行くべきなんだろうな。
 
82: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:09:44.52 ID:K01IGWYY
可可さんが、私よりずっと辛い人生を送って来たことが容易に想像できたから。

私より彼女のほうが、すみれさんが隣にいるべき人だと思わされたから。

やはりこの人達は、スクールアイドルを卒業した後も共に歩むべき…お似合いの二人なんだ。


学生時代、そう思ったように…。


夏美「お話は分かりましたわ」

夏美「私としては、『やっぱクゥすみなんだよなぁ』と思うほか無く…」

夏美「その申し出、是非とも…」グッ
 
83: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:15:40.10 ID:K01IGWYY
すみれ「悪いけど、私はオニナッツを辞めないわ」


!?

すみれさん…?


可可「す、すみれ…?」

すみれ「昔、私が自分に決めたのは、3年間あなたとスクールアイドルをやり切ることで…それは達成できた」

すみれ「今の私には、今の目標があるの」

可可「それは…」

すみれ「鬼塚社長の会社で、ショービジネスの夢を社長と一緒に叶えることよ」


知らなかった、そんなの…。

事務所を辞めた後だから、ちょうど良く次が来たなって感じで受けたもらえたのかと。


ダメ。泣くかもしれない。
 
85: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:19:18.08 ID:K01IGWYY
すみれ「かのんやあなたがしてくれたのと同じように、事務所を辞めた私は社長に救われたの」


名刺とティアラは大事に保管してるって言ってたな。

私も何か思い出っぽいアイテムを今度プレゼントしようかしら…。

でも、狙ってやってる浅ましい女と思われたら嫌だし…。


すみれ「かのんもクゥクゥも鬼塚社長も、順番なんて着けられないほど感謝している」

すみれ「だから今の私の決めごとに従って、オニナッツでギャラクシーな活躍をするために頑張るのよ」

可可「ア…」

夏美「すみれさん…」キリッ


夏美「とても嬉しく思いますわ」(好きぃ!)

すみれ「どうも」ニコ


可可「じゃあ、ククはどうすれば…?」

可可「あの頃のまま夢を追い続けるあなたを、遠くから見るだけしかないのデスか…?」
 
86: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:22:24.22 ID:K01IGWYY
すみれ「クゥクゥ」


すみれさんが信じられないくらい優しい表情で話し掛ける。

その顔、反則だからあまり他人に使わないで欲しいな。


すみれ「あなたが着てる服、とても高価なものだけど…」

すみれ「昔、一緒に古着屋を回ってあなたが作ってくれた服の方が…素敵に見えるわ」

可可「…!」ビクッ

すみれ「デザイナーのコトリミナミさん、知ってるでしょ?」

可可「ハイ…」

すみれ「あの人私達より年上なのに、ビックリするくらい天真爛漫でスクールアイドル愛も強くて…」

すみれ「でも、私はクゥクゥも負けてないと思うわ」

可可「………」
 
87: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:26:24.37 ID:K01IGWYY
すみれ「お金しか無いなんて言わないで?」

すみれ「クゥクゥが一生懸命稼いだこのお金、私がどうとかじゃなくて…あなた自身がこれからの夢のために使いなさい」

可可「……」ジワ…

すみれ「見てられないと思ったら、また私が頼まれなくても世話焼いてあげるから、ね?」


可可「すみれ…!」ギュッ


ついにすみれさんに抱き着く可可さん。


すみれ「…私もあなたにこうしてもらった時、とても安心したわね」ナデナデ

可可「うぐ…しゅみれぇ…!」ワンワン
 
88: (わんこそば) 2023/03/03(金) 19:29:10.70 ID:K01IGWYY
何年分くらいかと思うほどの涙を流す可可さんを見て…。


夏美「ナツッ…ナツッ…」グシグシ

すみれ「……」グスン


私も、すみれさんも泣いていた。

いい歳した大人3人が、札束のにおいにむせるオフィスで人目もはばからず泣く。


社会人としてどうかと思うが、いいんだ。

ここは誰が何と言おうと私の会社。


すみれさんが夢を叶える場所に選んでくれた会社なんだから。
 
92: (わんこそば) 2023/03/04(土) 22:24:32.94 ID:IoNh+8jG
1か月後、株式会社オニナッツ事務所


すみれ「お邪魔しますお疲れ様です」ガラガラ

夏美「グラビア撮影、お疲れ様でしたの」


すみれ「…あら、クーカー(無職)は?」

夏美「代〇木公園で弾き語りライブするって外出しましたわ」

すみれ「そう。あの2人、どんどん昔に戻っていくようね」ニコ


帰国したかのんさんと可可さんは、すっかり元気を取り戻して作曲したり服を作ったり…いろいろツルんで行動するようになっていた。

何事もなく結女を卒業し、その後も会うことが無かった彼女たちの意外な意気投合ぶりを見ていて、分かってきたことがあった。


彼女たちは、お互い夢を叶える事を誓って離れ…それが出来なかった自分を恥じた結果、顔を合わせることもできなくなっていたんだろう。

想定すらしていなかったが、私の会社がすみれさんの頑張りを広め…3人が再会できるきっかけになったのなら良かったと思う。
 
93: (わんこそば) 2023/03/04(土) 22:26:30.73 ID:IoNh+8jG
もし何もかも上手く行っていれば、「ギャラクシー女優すみれさん」と「笑顔あふれるスバラシイ社長可可さん」はとっくに再会して、そこから二人の人生を歩んでいたかもしれない。


…あぁ、あくまで例えばの組み合わせですよ。

誰が誰を想っていたとか、どんな約束をしていたかなんて…本人たちしか分からないんだから。

当時のあの人たちなら見る事が許された…そして叶わなかったゆえに断絶を招いてしまった、胸躍るような夢。


一方で、そんなまさに夢のような話に突っ走らなかった友人、四季とメイは…。

何年目になるのかな?

今も幸せを噛み締めるように、一緒に暮らしている。

10代の身空でその未来を決めた現実感覚に今さらながら尊敬の念を覚えたので、今度冷やかしに行こう。


これからすみれさん達にする話がきちんと片付いてから。
 
94: (わんこそば) 2023/03/04(土) 22:35:03.09 ID:IoNh+8jG
クーカー「お邪魔しまーす」ガラガラ


かのん「落ち着いた曲だったけど、演ってて楽しかったね可可ちゃん」

可可「今度はステージでライブしまショウかのん!少しハズカシイのところを隠せば、あの衣装で今も行けマスよ!」フンス

かのん「それはさすがに恥ずかしいよぉ//」

すみれ「全くあんた達は…って、どうしたの社長?」


夏美「…皆さん揃ったところで、お話したいことがありますの」


クカス「……?」


これから私は、言わなくてもいい事を言おうとしている。

でも、彼女たちが夢を叶えた後に迎えに行きたい人がいるなら、私がそれを遅らせちゃダメなんだ。

私の会社を選んでくれたすみれさんに、そういう人がいたとしても。
 
95: (わんこそば) 2023/03/04(土) 22:37:44.18 ID:IoNh+8jG
夏美「3人で会社を作ってください」


可可「…ハ?」

夏美「皆さんが意外な形で集まってからいろいろ考えて…3人の夢を叶える近道を思い付いたんですの」

すみれ「……」

夏美「可可さんの資金XX億円で会社を作り…かのんさんとすみれさんが所属になる」

かのん「……」

夏美「可可さんなら情報リテラシーがアレなかのんさんを守れますし、知名度十分になってきているすみれさんも上手く活躍させられる…ですの」

可可「…ナッツはどうするのデスカ?」

すみれ「私、あなたの会社でやりたいって言ったわよね」ジッ
 
96: (わんこそば) 2023/03/04(土) 22:51:05.83 ID:IoNh+8jG
夏美「皆さんもう若くはないのですから…大人の判断をすべきですの」

夏美「資金はもちろん経営者としての能力も可可さんの方が上ですし、私が間に入ったらかえって混乱しますわ」

可可「ナッツ…」

夏美「本当はオニナッツは解散なり吸収されるなりして、私も皆さんに加わるべきなのでしょうけど…」

かのん「…じゃあ何で」

夏美「こんな会社でも、夢が無かった時から私と一緒だった…」

夏美「自分で作ってここまで一緒に生きてきた大切なものだから…どうしても残したいんです…の」ジワ


夏美「今後は取引先の一つにでもして頂くと、弊社としては嬉しい限りですわ…」ポロポロ


これしかなかった。

好きな人と作った番組がきっかけで、その人を手放すなんて滑稽な話だけど。

あなたを救ったという唯一無二の歴史を誇り…進める限りこれからも自分の手でこの会社を経営していきたいんだ。
 
97: (わんこそば) 2023/03/04(土) 22:55:08.63 ID:IoNh+8jG
かのん「…」チラ

可可「…」チラ

すみれ「…プッ」


クカス「「…あはははは!!」」

夏美「…え?」グシ


心底楽しそうに笑う3人。

なんのつもりか分からないけど、あんまりじゃないですか?


夏美「何がおかし…」

すみれ「ごめんごめん。バカにして笑ってたんじゃないわよ?」フゥフゥ

可可「クク達、ナッツとだいたい同じコトを考えていたんデスよ」フゥフゥ

かのん「やっぱり私達『Liella!』だなって。最高だよ!」パアァ
 
98: (わんこそば) 2023/03/04(土) 23:01:05.99 ID:IoNh+8jG
夏美「…話の脈絡が、見えませんの」グスグス

かのん「そうかなぁ?」サスサス


すみれ「私達もね、みんなで合流しようって話し合ってたのよ」


知らなかった、そんなの…。


可可「ククが株主兼役員兼デザイナーを務める…」

かのん「鬼塚社長の株式会社オニナッツにね!」


夏美「…だから、私がいたらむしろって話で…」


かのん「実は私ね、何社か歌手デビューの話をもらってるんだよ?」

夏美「なんですとぉ!?」
 
99: (わんこそば) 2023/03/04(土) 23:08:16.15 ID:IoNh+8jG
かのん「その話に飛びつかなかったのは、すみれちゃんを助けて…私と可可ちゃんにきっかけをくれた夏美ちゃんに感謝しているから」

夏美「でも、皆さんには夢を叶えた後にも続く道が…」

クカス「……(顔を合わせる)」


すみれ「…結女を卒業する時は、確かにそういうギャラクシーな野望をみんな持ってたわねぇ」シミジミ

可可「ナッツ、あれから何年経ったと思ってるのデスかぁ?」

かのん「いくら『私を叶える物語』がモットーの私達でも、当時のエモい約束を理由に夏美ちゃんからバイバイなんかしないよ?」

すみれ「もう、若・く・は・な・い・んだからねぇ」ニヤニヤ


夏美「…失言をお許しくださいですの」


大人の判断しろ、なんて言った自分が恥ずかしい。

この人たちは、自分達の挫折を受け止め…それでもまだ夢を叶える新しい方法を探して、歩き始めていたんだ。

大人のしたたかさと、私なんかへの子供のような感謝とを併せ持って。
 
100: (わんこそば) 2023/03/04(土) 23:12:36.44 ID:IoNh+8jG
可可「知っていますかナッツ」

可可「デカイの会社だろうが何だろうが、物事を最後に決めるのは…だいたい好き嫌いなんデスよ?」ニコ

かのん「私達はみんな夏美ちゃんが大好き。それが理由でいいと思うんだ」

夏美「……//」


すみれ「そうそう、クゥクゥが社長なんて嫌ったら嫌よ?どんな目に遭わされるか分かったもんじゃないし」

可可「…すみれは知らないでしょうけど、非公開会社は役員が株主を兼任できるのデスよ」

すみれ「だ、だから何だってのよ」

可可「総会で吊るし上げて、すみれはクビデェス!」

すみれ「またクビは嫌ぁ!やめてったらやめて!」

かのん「相変わらずだなぁ二人とも」アハハ

夏美「あははははですのぉ~」グスグスケラケラ
 
101: (わんこそば) 2023/03/04(土) 23:17:14.84 ID:IoNh+8jG
…まったくもう、この先輩たちは。

こんなの、笑うしかないじゃないの。


すみれ「じゃあ改めて…」コホン

かのん「夏美ちゃんに、私たちの社長になってほしいんだ!」イケメンスマイル

可可「どうデスか?」


夏美「結集成功ぉ…」

すみれ「?」

夏美「後は↑夏美の思うが↑まま…」

かのん「何その発音…!」プッ


夏美「喜んでお受けします、ですの!!」


クカス「「やったーー!!」」


…あの2人を冷やかしにいくのは、ちょっと先になりそうだ。

零細企業と社会にいいようにやられた所属3人で、Go!リスタートしようじゃないか。


四季メイ、そして他のメンバーたち…。

彼女たちの今の幸せに、みんなで追い付いてやるんだ。
 
103: (わんこそば) 2023/03/05(日) 22:06:52.91 ID:dSY1ftph
3日後の夜、株式会社オニナッツ事務所


すみれ「社長、そろそろ終わりにしない?」

夏美「もう少しだけやりますの」カタカタ


通常の業務をこなしつつ、登記やら何やら…会社の大改造の準備も進めなければならない。

先生には「それは…急ですね」なんて呆れられたけど、より責任のある立場になるのだから休んでなんかいられない。


すみれ「社長って大変ねぇ…」クピクピ


もう午後10時過ぎだというのに、すみれさんは仕事をチョコチョコ手伝った程度にして一人チューハイを飲んでいる。

…何で残ってるんだろう。


すみれ「まだまだ途中だけど、まさかここまで来れるとは思わなかったわ」

夏美「…ミートゥーですの」
 
104: (わんこそば) 2023/03/05(日) 22:09:06.50 ID:dSY1ftph
すみれ「私、ちょっとは大人になって…感情を撒き散らすようなことはしなくなったけど…」

すみれ「引退しようと思ってたところに社長に拾われて、ムチャをしてまでTVにも出してもらって…」

夏美「……」

すみれ「さらにかのん達とも再会できて…」クピクピ

すみれ「実は泣いて抱き着きたいくらい、あなたに感謝しているのよ」

夏美「えっ」


今、なんと…?

あの時…私達のチャネリングが終わった後、神社で人目もはばからず泣き喚いたあなた。

いつか私も、そのくらいあなたに想われてみたいって夢見てて…。


それが、今だって言うの…!?
 
105: (わんこそば) 2023/03/05(日) 22:15:09.08 ID:dSY1ftph
すみれ「あなたの言う通り、私には夢を叶えた後…さらにやりたい事があった」

すみれ「でも、それは遠い昔…」

すみれ「今は今で、はっきりと形を持った気持ちがあるの」

夏美「すみれさん…」


お酒が入ってトロンとした目を向け、ちょっと近づいて来るすみれさん。

これは、これは…?


すみれ「お酒の力を借りるなんて情けないけど…」

すみれ「番組のおかげで噂になってる、私があなたの『愛人』ってやつ…?」


あの我欲にまみれたミーム、実は世間でさらに有名になってました。

でも、こんな形で…。


すみれ「社長がよければ、そういうのもいいかな…なんてね//」


私の夢に繋がっていたなんて…!
 
107: (わんこそば) 2023/03/05(日) 22:20:13.52 ID:dSY1ftph
…いや、落ち着くんだ。

ミームはミーム。私は真剣にすみれさんの恋人になりたいんだ。


例えるなら、歌唱パートが終わったみら音。

ラストでキッチリ「☆」を完成させて、ちゃんとした関係をスタートさせるんだ!


すみれ「社長…?」ウワメ

夏美「夏美で…いいですわ//」

すみれ「…なつみ」
 
109: (わんこそば) 2023/03/05(日) 22:24:29.59 ID:dSY1ftph
夏美「知っての通り私は独り身ですし、何より愛人という言い方はすみれさんに失礼ですわ」

すみれ「…?」

夏美「実は私もずっと前から、すみれさんとコ、コ、コイ…」フルフル


ダメだ。声が震える。

四季と千砂都さんとはもう手を繋ぎ終えてる(幻覚)。頑張れ私!


夏美「恋人になり、たい、と…//」

すみれ「…!」
 
110: (わんこそば) 2023/03/05(日) 22:26:54.10 ID:dSY1ftph
やった!

これで優勝旗ゲット!お互いが一等賞の二人の、鬼ギャラクシーな人生の始まり…。



すみれ「……」スン


あれ?

何でスンッとかなってるんですか?

私いま、あなたに告白して…。


すみれ「社長、私が言うのもなんだけど…それはダメよ?」

夏美「????」

すみれ「だってあなたにはいるでしょう?」

夏美「…何が?」

すみれ「ちゃんとした相手よ」


すみれ「………っていう、恋人がね?」
 
111: (わんこそば) 2023/03/05(日) 22:30:52.72 ID:dSY1ftph
…。

……。

………。

は??


すみれ「変な事を言ってしまってごめんなさい」イソイソ

夏美「あ…あぇ?」パクパク


すみれ「酔っ払いの話は忘れて頂戴?…じゃあ、帰るわね」ガラガラ


そそくさと出ていくすみれさん。

手にしたはずの優勝旗は、未来でも何でもない隙間風に乗ってどこかに行ってしまった。


何であなたの口から、彼女の名前が出てくるんですか?


私の、初めての恋人だったその名前。


桜小路きな子。
 
121: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:16:59.84 ID:UkaDHYSe
1週間後、株式会社オニナッツ事務所


夏美「……」ソワソワ


かのん「私達の曲、大会で使われてないのを『カラオケ一等賞』(天王寺製)に入れられないかな」

可可「高ラ連は自分たちはメチャクチャやるのに、権利関係はキビシイと聞いてマスよ?」

かのん「連盟理事の恋ちゃんか、取材対象にしてるメイちゃんなら相談に乗ってくれるよきっと」

可可「イザとなったら研究室に突撃して、シキシキに何かスゴイ薬を作ってもらって売りまショウ!」

すみれ「あんた達、恋たちはそれぞれカタギの仕事が順調なんだから…迷惑掛けるような当たりはダメったらダメよ?」

かのん「何か私達、ヤクザさんみたいだね」クス
 
122: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:22:48.44 ID:UkaDHYSe
可可「確かに、迷惑は掛けられマセン」ウンウン

可可「ここにいる敗北者たちと違って…」

かのすみ「言い方ぁ…」

可可「巻き込まれてないメンバーは、頑張って社会的立場を築いたスバラシイ人たちなのデスからね」フンス


キョドっている私を尻目に、クカスの3人は楽しそうに話をしている。

言っておきますけど、私は低空飛行だっただけで過去に挫折したわけじゃないんですからね。


…現在進行形で心折れそうになってますけど。


あの夜以降、微妙な距離感になってるすみれさんとの関係も悩みの一つだけど、主たる原因は…やはりきな子の事。
 
123: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:26:30.38 ID:UkaDHYSe
恋愛関係が自然消滅した後も、きな子とはたまに他愛もないメッセージで連絡は取り合っていた。

でも、あの夜の後すみれさんからそれとなく?聞いたところ、実は彼女はすみれさんともやり取りしていて…。

特にすみれさんがオニナッツの所属になってからは、「遠距離恋愛中」としてよく私の事を話すようになったらしい。

「恥ずかしいから本人の前では話題にしないで欲しいっす//」と念を押して。


確かに、私もあなたも「別れる」とは言っていない。

でも、連絡の頻度や話題から…聡いあなたならとうに察して納得したものだと思っていたし、言葉に出して伝えるなんて事は当時のメンタルにはあまりにも辛過ぎた。


でも、どうして今…。

あなたは今、何を考えているの?


…その彼女がこれから、ここに来る。
 
124: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:29:43.59 ID:UkaDHYSe
きな子(25)「お邪魔しますっす!」ガラガラ

みんな「「!!」」


きな子「…ここは一体どこっすか~?」パタパタ


クカス「「株式会社オニナッツ~!」」

きな子「教えてくれてありがとうっす☆」


かのん「きな子ちゃん!」

可可「久しぶりデェス!」

すみれ「元気そうねぇ!」


皆に囲まれて、パアッと笑顔を咲かせるきな子。

医療関係の仕事だからと大きく切られた髪。

でも、底抜けの愛嬌は以前のまま。

…少しだけ太ったかな?


事情はどうあれ、とにかく再会できた嬉しさが込み上げて来る。
 
125: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:34:23.93 ID:UkaDHYSe
胸に詰まる思いを言葉に出せないでいると、彼女はまっすぐ目の前まで近付いてきた。


きな子「夏美ちゃん…」

夏美「…きな子」

きな子「久しぶりだね…CEO?」ニコリ

夏美「…ッ」


やめて。

その声で、その呼称を口にしないで。

あなたを思い出したくなくて、名乗るのをやめたのに。


きな子「今までの番組、全部観てたっすよ?」

きな子「あれじゃあ、すみれさんがCEOの愛人みたいっすね~」ニパ

夏美「……」

きな子「でも、この日が来るまで『元先輩』と楽しくああいう番組を作って頑張って来れたのは…とっても素敵な事だときな子は思ってるっすよ?」
 
126: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:39:43.51 ID:UkaDHYSe
…どういう意味?

この日って何?


可可「ナッツ、何かすごいイイ顔してマス//」ホゥ

すみれ「……」

かのん「いやぁ若いねぇきな子ちゃん!」

かのん「私もその辺は、まだ行ける自信はあるんだけどね?」ドヤ


今は心底どうでもいいけど…この人、完全に以前の調子を取り戻してる。

そっち方面に寛容になった分、余計にタチが悪いし。


すみれ「またウィーンの話?」

かのん「それ地名と名前を掛けてる?上手いなぁすみれちゃん」ケラケラ

可可「よくもマァ自分から触れ回れマスね…」ハァ
 
127: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:46:39.62 ID:UkaDHYSe
先生「澁谷さんには、外国の女性と懇ろになれる適性があるようですね」カンシン

可可「…機会があっても、かのんは絶対姐姐とは遭わせないデス」ジト

先生「まぁ私も、そのあたりは何とか…//」

すみれ「もう、先生まで何言ってるのよ」


こっちの気も知らないで、なんつう話をしてるの…。

ちゃっかり混じってる先生も、見た目によらずイケる口なんですかね。


…って、先生!?


夏美「何できな子と一緒に…?」

先生「あ、お疲れ様です鬼塚社長」ペコ

きな子「師匠の事、CEOは先生って呼んでるんすねぇ」

先生「…皆様、普通に名前で呼んで頂いてもいいんですよ」ハァ

夏美「あの、2人はいったい…」オロオロ
 
128: (わんこそば) 2023/03/07(火) 19:50:03.28 ID:UkaDHYSe
先生「桜小路様は、3年ほど前から弊社と契約していたのです」

先生「鬼塚社長を、自分の名前は秘して支えて欲しいとね」

夏美「…え?」

先生「コンサルティング料金がお安くなっていたのは、そういう事ですよ」


3年くらい前といえば、私が会社の将来に悩んでいた頃。

そして、あなたの恋人であることを諦めた頃。


私が過去の遺産で細々と暮らす中、あなたは北海道の大学の獣医学部で忙しい中でもキラキラしていて…。

大学を卒業したら、地元の動物病院で働くって聞いて…。

これからもっと人生を豊かにしていくあなたの足かせになりたくなくて…。
 
130: (わんこそば) 2023/03/07(火) 20:01:16.47 ID:UkaDHYSe
…いや、彼女のためなんかじゃない。

全部、私の都合。

あなたと差が開いていく中で関係を続けるのが惨めで、耐えられなかった。

そして、捨てきれなかったすみれさんへの想いが…私の勝手な決めつけの背中を押してしまっただけ。


きな子「側で支える事も出来なかったし、きな子が助けるって言ってもガンコな夏美ちゃんは嫌がるでしょ?」

夏美「……」

きな子「だから、黙って応援する事にしたの」

きな子「でも、会社をここまでにしたのは夏美ちゃんの実力っす!」


先生「その通りです」

先生「理念に反したとしても、スクールアイドルで得た物を後人生に直接生かしていきたい…。出逢った大切な人と歩んでいきたい」

きな子「(ウンウン)」

先生「そのEMOTIONを社会に合わせる形ではなく、逆に風穴を開けるような力を束ねて実現させる適性がある人たち…」

先生「私共、『株式会社無問題』(通称『ラ!』社)は、そんな我儘で頑固な似た者同士…皆様を待っていたのですよ」
 
132: (わんこそば) 2023/03/07(火) 20:07:44.62 ID:UkaDHYSe
かのん「な、なんかすごい話!」

すみれ「まぁ、この年まで揃いもそろって往生際が悪い連中なんてのは、私達くらいのものかもね」


先生「今後の鬼塚様の会社の戦略について、弊社代表の鐘手づから策定したロードマップがこちらですので…是非参考にして頂きたいと」スッ


可可「ナニナニ…?『澁谷かのんの歌手デビュー』、『各メディアへの進出とイベントの企画実行』、『新ブランド立ち上げと所属タレントとのタイアップ』…」パラパラ

すみれ「それと同時進行で、『桜小路きな子氏の能力を生かしたタレント活動の第一歩として、動物病院を都内に開業』…」パラパラ

かのん「『ネックとなる賃料は、鬼塚商店1階の小規模改装によりクリア可能と認める』…だって!」パラパラ

先生「私の知る中で最も優秀な人間が、勝算をもって作ったものです」イ^⇁^ナドヤ


は?

私の家、動物病院になるの?


てことは、さっきのきな子の言葉…。

「東京に居を構える日が来た」って意味か…!
 
134: (わんこそば) 2023/03/07(火) 20:12:13.98 ID:UkaDHYSe
すみれ「じゃあきな子は20代で開業する事になるのね?やるったらやるじゃない!」

きな子「そうなんすよそうなんすよ~!この話が実現可能だと太鼓判を押してくれた師匠と鍾社長に感謝っす!」バシバシ

先生「痛いです」ニコ


この家の所有者…父親は志半ばでこの店を閉じた人だから、私達の望みとあれば快く認めてくれるだろう。

そこまでの読みであればショー社長という人は大したものだけど、ちょっとですね。最短距離を突っ走り過ぎと言いますか。


かのん「それなら、きな子ちゃんもこっちに引っ越すって事だよね?やったぁ!」パアァ

きな子「ようやくCEOの会社で働けるっす。これからはずっと一緒ですよ?夏美ちゃん!」パアァ


だからそれが一番混乱してる事なんだってば!

だって、今の私にはすみれさんが…。
 
136: (わんこそば) 2023/03/07(火) 20:24:34.22 ID:UkaDHYSe
先生「個人的な話ですが、私は昔大切な人が去って行くのを追う事ができませんでした…」

先生「素晴らしい仲間たちがいたので事なきを得ましたが、何故一人でも彼女を追う事ができなかったのかという後悔は…今でも残っています」

可可「それは難しい問題デスね…」チラッ

すみれ「やめて//」

先生「でも、同じような悩みを持つ桜小路様のために働き…このような素晴らしい結果に繋げられたことで、心のモヤが晴れた気がします」


働くって…すみれさんの件の報告もそれに含まれてたって事ですよね。

きな子の気持ちを即ぶつければ、すみれさんを得た私のモチベに影響すると予測した…。

そして…私がすみれさんとニャハりそうになるか、会社が動物病院を開業できるくらいに大きくなるまで、事情は隠しておこうときな子に提案した…。


こんな顔して色恋沙汰まで監視してたとか…恐ろしい人だ。


きな子「本当にありがとうっす、師匠ォ!」ヒシッ

先生「良かったですね、きな子さん!」ヒシッ


いや、すごくいい話だけど…私の意思は?


すみれ「………」


すみれさんは何か切なげに微笑んでるし!
 
137: (わんこそば) 2023/03/07(火) 20:30:01.65 ID:UkaDHYSe
…あ。

すみれさんのたまらん表情を見てたら思い出してきた。


あの時…すみれさんは酔っていたとはいえ、私ときな子の関係(きな子談)を知っておきながら…。

その、愛人候補みたいな何かに手を挙げかけたって事ですよね?


それ、すごくエ チだと思わない?ねぇかのんさん可可さん!?


今の状況だからこそ摂取できたものに、ニャハ~の気持ちが湧き出てくる。

そう、今までも原動力にしてきたこの気持ちがあれば…これからも皆で夢を叶えるための会社経営ができるはず。


…でも、きな子との事はこのままじゃいられないし(無限ループ)。

浴びせられる情報と感情が多すぎて、もう脳がオニナッツ状態。
 
138: (わんこそば) 2023/03/07(火) 20:33:12.23 ID:UkaDHYSe
えぇと?

大規模投資を受けて所属4人を抱え、音楽事業やらファッション事業にも乗り出して…。

ついでに、ここは動物病院になって。

何と言っていいか分からない関係のきな子が引っ越してきて、何と言っていいか分からない関係のすみれさんもいて…?


夏美「ど…」「ど…」

可可「…ど?」

すみれ「……」


かのん「ど う な っ ち ゃ う の ~ !?」ドアップ



夏美「あなたが言うんかいですのーー!!」
 
139: (わんこそば) 2023/03/07(火) 20:55:21.62 ID:UkaDHYSe
可可「かのんのそのカオ、久しぶりに見マシタ~」ゲラゲラ

きな子「これから楽しくなりそうっすね~!」キャッキャッ

先生「皆様の夢、そしてあなたの夢にも一歩近づきましたよ?ランジュ…」ウルウル


ワイワイガヤガヤ


すみれ「もう、ちかたないったら仕方ないわねぇ…」フゥ

夏美「…ナッツ?」


騒ぎの中、すみれさんがこちらをチラリと見てくる。

…もしかして、一人でいつまでもキョドってたから色々とバレた!?


『きな子がすみれさんに話していた事は嘘じゃなかっけど、私は勝手に終わった事にしてて、さらにすみれさんに粉かけようとしてました』


文章にするとひどすぎる。

これ私最低な女になるじゃん?

今でさえ微妙な空気なのに、余計避けられる!!


すみれ「あなたが『そう』なら、私もこれからもっと頑張らないとね?」

夏美「…!?」


周りの話題にも合うような…それでも意味深な言葉を漏らす。

そして、非難の表情に変わると覚悟していたそれは…。


すみれ「これからもよろしくね…」


今まで見たこともない大人の女性の顔…かつて夢想していた「完璧なモデル」もかくやの表情になって。


すみれ「な つ み?」クスッ

夏美「…はいですの//」


ゆるりと紡がれたその言葉に、私はただ頷くしかなかった。



おわり
 
141: (もんじゃ) 2023/03/07(火) 21:23:53.11 ID:ED0Y7Ns7
これからの関係を想像してニマニマしてるわ
 
143: (もんじゃ) 2023/03/07(火) 22:12:29.73 ID:0l3CgCpW

追ってた好きなSSが完結すると寂しくなるわ
 
144: (もんじゃ) 2023/03/07(火) 22:32:37.73 ID:P6OInOkS
乙です
もっと見ていたいと思えるSS
 
145: (茸) 2023/03/08(水) 07:19:36.50 ID:pDrIOVjY
もう少し続き読みたかったけど乙
楽しいSSだった
 
146: (もんじゃ) 2023/03/08(水) 08:32:05.10 ID:aZ/3ynur
面白かった

 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1677670145/

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