【SS】愛 「開花宣言❁嶺上開花」 ~2nd Season~【ラブライブ!虹ヶ咲】

あい SS


3: 2021/02/05(金) 19:50:13.05 ID:KCeICLLk
「リーチ!」 「……ロンっ!!」


──麻雀なんて、大嫌いだ。


障子を挟んだひとつ隣りの部屋から、今日も大人たちの声が聞こえてくる。


あい 「もうやめて……やめてよぅ……」


暗い部屋の中、小さな掌で必死に耳を塞ぐ少女。

──宮下愛、当時10歳。

4: 2021/02/05(金) 19:51:26.89 ID:KCeICLLk
愛の父は、ここのところ毎日のように、学生時代からの友人と麻雀を打っていた。

障子の隙間から様子を伺うと、当時の愛にとってはお年玉くらいでしか見ることのない万札が、何枚も行き交っていた。

しかしその万札が、父の懐に収まることはない。

今日だけではない。いつもだ。
なのに旧友の誘いを断りきれず、毎日のように顔色を失いながら、牌を握り続ける。


あい (パパはいつも笑顔だった……。なのに、麻雀をするようになってから、暗い顔をすることが多くなった)

あい (あいつらに…麻雀に…! 大好きなパパの笑顔を奪われたんだ…!!)

あい (麻雀は私から大切なものを奪った!! パパとの大切な時間も、笑顔も!!)


あい 「麻雀なんて、大ッッ嫌いだっ!!!」


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ーー

5: 2021/02/05(金) 19:53:00.63 ID:KCeICLLk
このSSは

歩夢 「開花宣言❁嶺上開花」 ~1st Season~
https://itest.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1609331532/l50

の続編です。
~近江彼方 外伝~
https://itest.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1610972007/l50

麻雀のルール解説SS
https://itest.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1612088451/

6: 2021/02/05(金) 19:54:22.03 ID:KCeICLLk
【作中での麻雀関連の表記について】

萬子(マンズ)一二三四五六七八九
索子(ソーズ)123456789
筒子(ピンズ)❶❷❸❹❺❻❼❽❾
字牌(ツーハイ)東南西北白發中
※手牌は基本的に萬子→索子→筒子→字牌→自摸牌の順


例a
一二三九九12233❶❷❸ ツモ:1
平和・自摸・純全帯幺・三色同順・一盃口
【倍満】4000-8000

例b
南二局 0本場 ドラ:❹

高咲侑(西家)配牌
三22347789❶南西中 ツモ:6


侑 (混一色も清一色も狙える手…風牌の種もあるし、欲張っていこう)打:❶


【ルールについて】
特筆してない限り、対局ルールは25000点貸し、30000点返しのウマなし、アリアリとなります。
半荘戦。赤ドラは無しです。

7: 2021/02/05(金) 19:55:21.23 ID:KCeICLLk
【プロローグ】


──せつ菜の休学から二週間。


侑 「へぇ、じゃあ一年生でも麻雀が流行ってるんだ」

しずく 「そうなんです。アプリで遊ぶだけの、いわゆるカジュアル層がほとんどですが」

かすみ 「麻雀同好会の話題もよく出るんですよ! せつ菜先輩の対局動画も大人気です!」

歩夢 「私この前、他のクラスの子にまで、麻雀のルール教えてって言われちゃった」

彼方 「麻雀、大ブームだねぇ」

エマ 「もしかしたら、また部員が増えちゃうかもだね!」


校内で麻雀が流行りつつあることに喜んでいると、同好会の扉がノックされた。

8: 2021/02/05(金) 19:56:24.56 ID:KCeICLLk
かすみ 「おぉっ!? 噂をすればなんとやらです!」

しずく 「もしかして、入部希望者でしょうか?」

かすみ 「はーーい!! 部長のかすみんでーす! ようこそ、麻雀同好会へ……」


かすみが扉を開けると、ノックをした人物が鋭い眼を光らせながら立っているのが見えた。驚いたかすみは思わず尻もちをついてしまう。


かすみ 「うわぁぁっ!?」

栞子 「ご、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのですが……」

侑 「あれ、あなたって確か……新生徒会長の」

栞子 「はい、三船栞子と申します」

かすみ 「えぇ!? 生徒会長が一体何をしに……はっ! まさか会長さんも麻雀同好会に入部を!?」

9: 2021/02/05(金) 19:57:46.36 ID:KCeICLLk
栞子 「そういう訳ではありません。お渡しする書類があったので、直接伺っただけです」

歩夢 「書類?」

栞子 「部長はあなたでしたね、かすみさん。こちらをご確認ください」

かすみ 「えっと……なになに……」


渡されたのは一枚の紙。


かすみ 「……しず子、ここなんて読むの?」

10: 2021/02/05(金) 19:58:46.17 ID:KCeICLLk
しずく 「勧告書……かんこくしょ、だね」

かすみ 「てことは、はいぶかんこくしょ……」


かすみ 「あぁ! 廃部勧告書ですね!!」


侑 「………………へ?」


「「「「「「廃部勧告書ーーーーっ!?」」」」」」

11: 2021/02/05(金) 20:00:33.03 ID:KCeICLLk
【第1話】『牌に差す、二つの影』


かすみ 「どどどどどどどういうことですか!?」

栞子 「書いてある通りです。麻雀同好会を廃部とすることが、生徒会及び職員会議で決定となりました」

エマ 「そんな……! 何か問題があったの?」

しずく 「部員の数も足りてるはずですよ?」

栞子 「今回は我々が問題視したのは、校内の風紀のことです」

侑 「風紀?」

栞子 「あなた方の影響で、校内では麻雀が流行りつつあります。休み時間や放課後など、携帯を用いて麻雀で遊ぶ生徒が、散見されます」

12: 2021/02/05(金) 20:02:43.98 ID:KCeICLLk
かすみ 「麻雀が流行るのは、いいことじゃないですか」

栞子 「そうですね、あなたの言う通りです。麻雀が流行る分には、生徒同士の結び付きが深まることにも繋がりますから」

しずく 「ならどうして…」

栞子 「……最近、その麻雀を利用して、悪事を働いている人がいるらしいのです」

歩夢 「悪事?」

栞子 「いわゆる、“賭け麻雀”です」

彼方 「か、賭け…!?」

13: 2021/02/05(金) 20:04:40.19 ID:KCeICLLk
栞子 「なんでも、麻雀に興味を持った生徒に声をかけ、賭博をもちかけている生徒がいるらしいのです」


栞子は何枚かの紙がホチキス止めされた冊子を取り出した。


栞子 「これは被害にあった生徒たちの証言を集めたものです」

歩夢 「こんなに……」

栞子 「実際賭けられているものは現金などではなく、購買のパンやジュースであったりと、比較的安価なものが多いのですが……」

かすみ 「そ、それくらいなら」

栞子 「賭博行為である事実には、変わりありません」

かすみ 「うぅ…ですよね…」

14: 2021/02/05(金) 20:06:55.68 ID:KCeICLLk
栞子 「賭けられているものがどんなに安価なものであれ、賭博行為が校内で行われているという事実に、目を背ける訳にはいきません」

侑 「…私たちが麻雀を流行らせたから? だから見せしめとして、ここを廃部に?」

栞子 「見せしめというのは、いささか言い方が悪いですが……。結果的には、そういうことになります」

侑 「そんなの納得いかないよ!」

かすみ 「そうですよ! 悪いことしてるのはその犯人であって、かすみん達は純粋に麻雀を楽しんでるんです!」

栞子 「……そうですね。ですが、犯人がこの同好会の人間だという噂もあるんですよ」

しずく 「なっ…!? 事実無根です! 私たちがそんなこと、するはずがありません!」

15: 2021/02/05(金) 20:08:49.96 ID:KCeICLLk
栞子 「あくまで可能性の話です。ですがそういったあらゆる可能性を摘み取る手段として、麻雀同好会の廃部が最も効率的である、という結論が出たまでです」


侑 「……じゃあ、犯人を見つけて、辞めさせればいいんだよね。賭け麻雀を」


栞子 「…あくまで、自分たちの中にはいないと?」

侑 「当然だよ! 私たちが麻雀を愛する気持ちを、甘く見ないで!」

栞子 「…まぁ、そうですね。犯人を見つけ、その上賭け麻雀を辞めるよう促してもらえるなら、学校としても利しかありません」

歩夢 「じゃあ決まりだね。私たちで犯人をみつけよう!」

かすみ 「見ててくださいよ、生徒会長! かすみん率いる同好会が、すぐに解決してみせますから!」

栞子 「…廃部までの猶予は二週間、つまり月末までです。それまでに犯人を見つけ、賭け麻雀を辞めさせられなければ、問答無用で廃部とします」

16: 2021/02/05(金) 20:10:17.08 ID:KCeICLLk
彼方 「やるしかないよ。ここは彼方ちゃんが、楽しく全力で麻雀を打てる、数少ない場所なんだもん」

エマ 「私も、同好会が無くなるのは嫌だよ。みんなで麻雀を打つの、すごく楽しいから…」

栞子 「ではこの件、確かにあなた達に依頼しました。良い報告を、期待しています」


そう言って栞子は、部室をあとにした。

同好会メンバーはさっそく、校内で聞きこみ調査を行うこととなった。

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17: 2021/02/05(金) 20:13:07.91 ID:KCeICLLk
侑 「とりあえず、みんなの収穫を聞いてみようか」


二日間ほど各々で聞き込みをしたメンバーは、一旦同好会内で集めた情報を共有することにした。


しずく 「とりあえず、会長さんに見せてもらった、被害者の方に話を聞いてみましたが……」

かすみ 「なんだか、口止めをされてる雰囲気でしたね」

歩夢 「私も同じ。多分犯人に、口外しないように言われてるんだと思う」

彼方 「てことは収穫無しか~……ばたんきゅ……」

エマ 「そもそも、どうして私たちには声をかけてこないのかな? その犯人さんって」

しずく 「たしかに…。調べた限り、被害に遭っているのは、麻雀を始めたばかりの人がほとんどでした」

18: 2021/02/05(金) 20:16:04.97 ID:KCeICLLk
かすみ 「そんなの、初心者相手の方が勝ちやすいからに決まってるじゃないですか!」

侑 「うーん…でも、なんか引っかかるんだよね」

歩夢 「引っかかる?」

侑 「うん。弱い人相手なら、もっと大きなものを賭けてもいいと思うんだよね」

彼方 「確かに、勝てると分かってるなら、ちまちましたものを賭けてもあまり得がないもんね」

しずく 「その人自身も、腕に自信が無いとか」

侑 「でも自分から打たないかって持ちかけるような人だよ? 多分実力はそれなりにあると思う……」

歩夢 「てことは、賭けで勝つこと以外に目的があるってこと?」

19: 2021/02/05(金) 20:17:51.27 ID:KCeICLLk
侑 「あくまで想像だけど、そんな気がしてならないんだよねー……」


エマ 「…あっ、そうだ!!」


いいことを思いついた、というように手をパンッと鳴らす。


エマ 「購買に張り込めばいいんだよー!」

侑 「購買に?」

エマ 「うん! 会長さんのリストを見てみたら、一度に沢山のパンとかを賭けてたから……」

しずく 「なるほど、明らかに一人分じゃない量を買っている生徒を見つければいいんですね!」

侑 「なるほど、それだ!! さっそく購買に行こう!」

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20: 2021/02/05(金) 20:20:55.13 ID:KCeICLLk
かすみ 「……エマ先輩」

エマ 「ん?」

かすみ 「なんですかその装備……」


購買にやってきた同好会メンバー。
エマはサングラスをかけ、片手にあんぱん、もう片手にパックの牛乳を持っている。


エマ 「日本の張り込みはこうやるって、テレビで見たんだ」

かすみ 「口に咥えているそれは?」

彼方 「ココアシガレットだね~。彼方ちゃんにも一本ちょうだ~い」

21: 2021/02/05(金) 20:23:17.46 ID:KCeICLLk
エマ 「もちろん。先っぽ同士で火を移し合うんだよね」

しずく 「ココアシガレットに火は点けません…」

かすみ 「エマ先輩は何で日本の文化を学んだんですか…」

侑 「みんな静かに! 来たよ!」


購買に一人の生徒がやってくる。


しずく 「放課後のこの時間に購買……。妙ですね」

エマ 「怪しい…」


みんなの予感は的中し、その生徒は両手いっぱいにパンを抱え、早足でその場をあとにした。

22: 2021/02/05(金) 20:25:05.44 ID:KCeICLLk
歩夢 「あの量、どう考えても一人分じゃないよね。すごく細身な子だったし」

侑 「よし、あとをつけてみよう!」


女生徒は生徒の多い棟から少し離れた場所まで行き、とある教室に入っていった。


侑 「…全然人気がないね、ここ」

しずく 「あまり使われてない部室棟ですね。空き教室も多いです」

彼方 「あ、出てきた出てきた~」


二三分程で出てきた生徒の手には、先程のパンはひとつも残っていなかった。

23: 2021/02/05(金) 20:27:52.56 ID:KCeICLLk
しずく 「ほぼ決まりですね。あそこに犯人が……」

侑 「よし、行ってみよう!」


その教室は、見るからに空き教室で、ドアプレートも貼られていなかった。
明かりもついておらず、先程生徒が出入りしているのを目撃していなければ、誰かが中にいるとはまず思わないだろう。


侑 「失礼しまーす……」


メンバー全員が部屋に入るが、返ってくる声はない。部屋は真っ暗で、窓にもカーテンがされているため、開けた扉から入り込む光だけが視界の頼りだ。


ガラガラ……ピシャンッ!


かすみ 「ひっ!!」

24: 2021/02/05(金) 20:30:14.12 ID:KCeICLLk
しずく 「ドアが閉められた…?」


?? 「なんか用? こんなにゾロゾロと……」


暗闇の中、聞きなれない人物の声が響く。
突然部屋の電気が点けられ、みんなは一瞬目が眩む。

徐々に明るさに慣れ、ゆっくりと目を開くと、雀卓と椅子が四つ、部屋の真ん中に置いてあるのが見えた。

雀卓は同好会の部室にあるような全自動のものではなく、四角いテーブルにマットを敷いたもの。その上に乱雑に牌が置かれていた。昔ながらの手積み麻雀だ。


?? 「あれっ、よく見たら麻雀同好会の人達じゃん」

侑 「あなたは…」

25: 2021/02/05(金) 20:32:48.38 ID:KCeICLLk
愛 「ちーっす!! アタシは宮下愛! 情報処理学科の二年生だよー!」


てっきり賭け麻雀の犯人と聞いて、いかにも怪しい人物を想像していたメンバー達は、彼女のハツラツとした笑顔に面食らう。

もしかしたら勘違いで、この人は賭け麻雀とは無関係なのでは?

そんな考えが一瞬よぎったが、愛の手には先程女生徒が買っていたパンのうちの一つがあった。


侑 「そのパン……」

愛 「あ、これ? 愛さんが勝ったから、さっき貰ったんだよねー!」

しずく 「勝った……ということは、やっぱり」


?? 「お客さん?」

26: 2021/02/05(金) 20:34:44.67 ID:KCeICLLk
かすみ 「うわぁっ!?」

エマ 「二人もいたんだね……」

愛 「この子は天王寺璃奈! アタシと同じ情報処理学科で、一年生だよ」

璃奈 「……よろしく」

エマ (こんなに可愛らしい子が賭け……? もしかしたら、私たち勘違いを…)


愛 「さて…と、ここに来たってことは、対局をしに来たんだよね?」

しずく 「対局……いえ、私たちはただ…」

愛 「またまたー! ここまで来ておいて、何もせずに帰るなんて」


話しながら、愛は後ろ手で部屋の唯一の出入口である扉に鍵をかける。

27: 2021/02/05(金) 20:36:37.58 ID:KCeICLLk
愛 「……許さないよ?」


かすみ 「ひっ…」


部屋の雰囲気が一気に変わる。眩しいくらいの笑顔をしていた愛は、まるで睨みつけるようにして眼を光らせる。
先程までの愛の印象からは考えられないほど、ビリビリとした緊張感が伝わってくる。


愛 「りなりー、卓に着いて。そっちからも二人座ってもらうね」

侑 「…やっぱり、あなた達が」

愛 「さて、と」


愛 「今回は……何を賭けようか?」

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つづく

29: 2021/02/05(金) 20:39:09.44 ID:KCeICLLk
【キャラクター紹介.1】

上原歩夢

『槓子、嶺上開花を引き寄せる』能力。


能力の発動は半強制。他家の能力によって阻害されない限りは、3巡目までに少なくとも一つは槓子が出来上がる。

カン、または嶺上開花をする時、彼女を中心に無数の花びらが舞う。

無闇にカンをすれば他家にドラを与えることにもなるので、使い所が重要。


能力の発動が半強制なのは、彼女自身が麻雀に愛されているのも理由の一つ。

侑と対局している時は、槓子の集まり方がとんでもない事になる。牌が侑に嫉妬でもしているのだろうか。

30: 2021/02/05(金) 20:40:43.04 ID:KCeICLLk
次回 第2話『賭けるは愛か、その信念か』

31: 2021/02/05(金) 20:42:22.19 ID:KCeICLLk
前回と同じく、基本毎日一話更新で進めていきます

よろしくお願いします

43: 2021/02/06(土) 18:50:47.53 ID:vCz1i0EU
【第2話】『賭けるは愛か、その信念か』


侑 「あなた達だったんだね……。賭け麻雀をやってたのは」

愛 「なーんだ、賭けのこと知ってたんだ。じゃあ話が早いね」

璃奈 「賭けるものはそっちが決めていい。こっちはそれに見合ったものを、提示する」

しずく 「どうして賭け麻雀なんか……」

愛 「“どうして”? おかしなこと聞くなぁ。麻雀って元々そういうゲームでしょ?」

歩夢 「えっ…?」

愛 「勝った負けたをして、奪い奪われる。それが麻雀ってゲームでしょ」

かすみ 「違います! かすみん達がやってるのは、もっと純粋な勝負で…」

44: 2021/02/06(土) 18:51:36.46 ID:vCz1i0EU
愛 「……ぷふっ、あっははははは!!」

かすみ 「な、何がおかしいんですか!」

愛 「だって、だって! 麻雀が純粋なゲームって……あはははは!!!」


愛 「……そんな訳ないじゃん」


大笑いしていた愛は、声のトーンを一気に下げて、まるで同好会のメンバーを威圧するかのような目線を送る。


愛 「麻雀は汚くて、残酷なゲームだよ。人の欲とか、薄汚さとかを浮き彫りにする……それが麻雀の本質だよ」

しずく 「な、何を言って…」

愛 「その本質に気付かずに、麻雀なんか流行らせちゃってさ。笑っちゃうよ」

45: 2021/02/06(土) 18:52:25.70 ID:vCz1i0EU
かすみ 「…愛先輩の言ってること、ぜんっぜん分かりません! 愛先輩は間違ってます!」

愛 「間違ってる?」

侑 「そうだよ…! 私たちは麻雀で何かを奪おうなんて考えたことも無い! ただ純粋に、勝負を楽しんでた!」

愛 「……やっぱ何も分かってないよ、キミたち。キミたちが今までやってきたのはね、偽りの麻雀だよ」

エマ 「偽りの麻雀……?」

愛 「麻雀がどんなに残酷で、卑劣なゲームか知らない。だから能天気に、笑顔で麻雀なんか打てるんだ」

かすみ 「…話し合いでは、お互い納得は出来なさそうですね」

46: 2021/02/06(土) 18:53:09.05 ID:vCz1i0EU
愛 「あははっ、私も同じこと考えてたよ」


愛 「……ほら、座ってよ」


かすみ 「…かすみんが勝ったら、賭け麻雀はもう辞めてくださいね」

愛 「えー、何それ。まずはそっちが賭けるものを決めなきゃ」

歩夢 「でも私たち、賭けられるようなものなんて」

愛 「うーん、じゃあ特別。今回は私たちが賭けるものを決めるよ? もちろん拒否してもらっても構わないよ」

かすみ 「…望むところです!!」


愛 (……そのアツい瞳、思い出すなぁ。優木せつ菜ちゃん、だっけ。ますます気に食わないなぁ)

47: 2021/02/06(土) 18:54:14.20 ID:vCz1i0EU
愛 「よし、決めた。アタシたちは負けたら賭け麻雀を辞める。その代わりそっちが負けたら……」


愛はかすみの胸元に人差し指を突きつける。

そして鼻先が触れ合うほどに、顔を近付けた。


愛 「……キミ、今後一生麻雀、打つの禁止ね」


かすみ 「……えっ……?」

侑 「そ、そんな! 受けられるわけないよ!!」

愛 「何も賭けてない人には聞いてないよ。決めるのはこの子でしょ?」

かすみ 「…“この子”じゃないです。中須かすみです! その勝負、受けてたちます!!」

侑 「かすみちゃんっ!?」

48: 2021/02/06(土) 18:55:06.19 ID:vCz1i0EU
かすみ 「大丈夫ですよ、侑先輩。かすみんの麻雀への情熱があれば、絶対負けませんから!」

愛 「情熱、ねぇ……。あははっ」

かすみ 「むっ……また笑いましたね」

愛 「ごめんごめんってば。さっ、賭けるものも決まったし、早速始めようか。もう一人は?」

歩夢 「…私が入る。いい? かすみちゃん」

かすみ 「もちろんです、ちゃっちゃと決めちゃいましょう!!」

璃奈 「…じゃあ場決め。用意してあるから引いて」

愛 「ルールは二人の合計得点で上の方が勝ち。でも飛んだら、その時点でそのチームが負けね」


歩夢 (…負けたらかすみちゃんは麻雀が打てなくなる。絶対に負けられない…!)

かすみ (絶対に勝ちます…! そしてこの人に教えてあげるんです、麻雀が楽しいゲームだって!)

49: 2021/02/06(土) 18:56:01.30 ID:vCz1i0EU
《対局開始》
東家:かすみ 南家:璃奈 西家:愛 北家:歩夢


東一局、かすみの親。ドラは❷

かすみ 配牌
三四六七366❷❸西北白白 ツモ:2


かすみ(白の対子があって早アガり出来そうだけど、234の三色も狙える……)

かすみ (親ですし、ここは高く!!)打:北


かすみが捨牌を叩きつけると、火花が舞う。
それと同時に卓に座る四人を囲うように炎が吹き上がり、辺りの景色が一変する。


歩夢(かすみちゃん、いきなり本気! そうだよね、負けたら麻雀を打てなくなる。様子見なんてしてる場合じゃない)

愛(この炎、せつ菜ちゃんと同じやつか。……ますます気に食わないなぁ)

50: 2021/02/06(土) 18:56:49.46 ID:vCz1i0EU
愛 「ねぇ、かすみちゃん。何かを賭けて麻雀を打ったこと、ある?」

かすみ 「あるわけないじゃないですか、そんなこと」

愛 「ふぅん、そっか。じゃあその炎も長くはもたないかもね」

かすみ 「…どういう意味ですか」

愛 「言ったじゃん、キミたちの麻雀は“偽り”だって。アタシが教えてあげるよ、麻雀の本質」


愛 「賭けるものがある勝負、その恐ろしさ…!」


──8巡目。

愛 「リーチっ!」

かすみ 「うっ…!」

51: 2021/02/06(土) 18:57:43.51 ID:vCz1i0EU
かすみ 手牌
三四五六七234668❷❸

かすみ(しまった…積極的に攻めたから、安牌がほとんど無い)


──同巡、かすみのツモ番。

かすみ 手牌
三四五六七234668❷❸ ツモ:❹

かすみ(…張った。8を切れば二、五、八待ちのテンパイ。リーチをかけて高目の二が出れば跳満)

かすみ (でも8は、愛先輩のド本命…!)

かすみ (いや、かすみんは親。ここは攻めるべき! 攻めて当たったならそれは仕方ない…でも……)


愛 『……キミ、今後一生麻雀、打つの禁止ね』


かすみ 「……っ!」 打:6

52: 2021/02/06(土) 18:59:01.99 ID:vCz1i0EU
侑 (…! 安牌の6。いつものかすみちゃんなら、迷わず8を切ってリーチをかけてたはずなのに…)

しずく(打牌が弱気になってる…。かすみさん、しっかり!)


璃奈 「…………。」 打:8

かすみ(そんな…8は当たりじゃなかった……)


愛 「さて、一発ツモ……は無いか、残念」 打:二


かすみ(…っ! 高目の二! かすみんが8を切れていれば、一発で親っパネだったのに…!!)


──次巡、かすみのツモ番。

かすみ 手牌
三四五六七23468❷❸❹ ツモ:7

かすみ(張り直した…。三か七が切れればノベタン待ち>>0


※ノベタン待ち・・・4枚の連番の、両端の牌で待つ形のこと。

53: 2021/02/06(土) 19:00:53.90 ID:vCz1i0EU
かすみ 「うぅ……通れっ…!!」 打:七

愛 「通らないんだなー、それが。ロン!」

かすみ 「あっ……」

愛 「裏ドラが……おっと、三つも乗っちゃったよ」


かすみ → 愛 ロン
五六444❸❸❻❻❼❼❽❽ ロン:七
リーチ・タンヤオ・一盃口・裏3 / 12000

歩夢 : 25000
かすみ : 13000(-12000)計 38000
璃奈 : 25000
愛 : 37000(+12000)計 62000


かすみ(かすみん、何してるんですか…。一回オりたのに、テンパイ復活したからって危険牌を切るなんて)

かすみ (攻めたわけでも、守りに入った訳でもない、中途半端な麻雀。こんな打ち方、せつ菜先輩なら絶対しなかった…!!)

54: 2021/02/06(土) 19:02:10.65 ID:vCz1i0EU
東二局、璃奈の親。ドラは北


3巡目──。

愛 「ポンッ!」 [南南南]

5巡目──。

愛 「チー!」 [567]


かすみ (早々に二鳴き。捨牌を見るに、ホンイツが濃厚……)


かすみ 手牌
六七八145❺❻❼❽❽北北 ツモ:❽

55: 2021/02/06(土) 19:03:15.85 ID:vCz1i0EU
かすみ(浮いてる1を切りたいのは山々ですけど、あの鳴きに1切りなんて有り得ない)

かすみ(悔しいですけど、出来上がってる順子を落とすしか……)打:❺

愛 「……ロン」

かすみ 「えっ…?」


かすみ → 愛 ロン
七八九22❸❹ [南南南] [567] ロン:❺
南のみ / 1000

歩夢 : 25000
かすみ : 12000(-1000)計 37000
璃奈 : 25000
愛 : 38000(+1000)計 63000


しずく 「これは…相当まずいですね」

56: 2021/02/06(土) 19:04:31.60 ID:vCz1i0EU
侑 「まずい? まだ始まったばかりだし、分からないんじゃ」

しずく 「点差のことではありません。かすみさんの打ち方が、ブレているんです」

彼方 「仕方ないよ、負けたら麻雀を打てなくなるんだよ? 打牌が弱気になるのも…」

エマ 「…! ねぇ、かすみちゃんの炎が……」


エマの言葉で、観戦していた全員がハッとなる。対局開始時にあれだけ吹き上がっていた炎が、見る影も無くなっている。


歩夢 「かすみちゃん……」

かすみ 「だ、大丈夫ですよ歩夢先輩! 勝負はここからですから……!」

57: 2021/02/06(土) 19:06:17.79 ID:vCz1i0EU
東三局、愛の親。ドラは❻


1巡目──。

愛 「さて……本番はここからだよ」 打:❻

かすみ 「えっ…!? 第一打からドラ!?」


璃奈 「ポン」 [❻❻❻]


歩夢 「ど、ドラポン……!」

58: 2021/02/06(土) 19:08:40.54 ID:vCz1i0EU
7巡目──。

愛 「仕上げは……これ!」 打:2

璃奈 「……ロン」


愛 → 璃奈 ロン
3466❷❸❹ [❻❻❻] [三四五] ロン:2
タンヤオ・ドラ3 / 8000

歩夢 : 25000
かすみ : 12000 計 37000
璃奈 : 33000(+8000)
愛 : 30000(-8000)計 63000


歩夢(味方同士での差し込み? みすみす親番を流してまで、一体なんの意味が……)

しずく 「……っ! まさか…!」

愛(ふふっ……そのまさか、だよ)

59: 2021/02/06(土) 19:10:37.06 ID:vCz1i0EU
一旦時間置きます、すいません

60: 2021/02/06(土) 20:41:15.83 ID:vCz1i0EU
東四局、歩夢の親。ドラは南


──それは、あまりに出来すぎたコンビプレイだった。


璃奈 「……。」 打:四

愛 「チー!」 [三四五]


璃奈(次は、これ……)打:❸

愛 「ポンッ!」 [❸❸❸]


璃奈(愛さんの表情を、よく見て……)打:二

愛 「ポン!!」 [二二二]


かすみ 「あ、あっという間に、三鳴き……」

歩夢 「璃奈ちゃんの捨てる牌、全然鳴かれてる…」

61: 2021/02/06(土) 20:41:51.15 ID:vCz1i0EU
愛 「違うよ。りなりーはアタシが鳴ける牌だけを、的確に切れるんだよ」

かすみ 「そ、そんなこと……」

愛 「それが有り得るんだよ。りなりーに関しては、ね」


璃奈(これで、終わり……)打:❽

愛 「ほら、言ったでしょ。ロン」


璃奈 → 愛 ロン
234❽ [三四五] [❸❸❸] [二二二] ロン:❽
タンヤオのみ / 1000

歩夢 : 25000
かすみ : 12000 計 37000
璃奈 : 32000(-1000)
愛 : 31000(+1000)計 63000

62: 2021/02/06(土) 20:42:31.04 ID:vCz1i0EU
歩夢 「どうして、こんな事が……」

璃奈 「私、表情には人一倍敏感。だから相手の表情を見れば、何を欲しがってるか何となくわかる」

かすみ 「そんな……」

璃奈 「愛さんだけじゃない、あなた達二人の手牌も、七割くらいは透けて見える」


侑 「たしかに凄いけど、だからってこれに何の意味が? 結果的に振り込んでるだけだし……」

しずく 「分かりませんか、侑さん。この勝負は、二人の合計得点の高い方が勝利」

彼方 「リードしてる今、璃奈ちゃんが愛ちゃんにわざと放銃し続ければ……」

侑 「…! このまま、歩夢とかすみちゃんが負けるってこと!?」


かすみ 「ひ、卑怯です!! そんなの、真剣勝負じゃありません!!」

63: 2021/02/06(土) 20:42:50.14 ID:vCz1i0EU
愛 「……だからキミたちの麻雀は偽りだって言ってるんだよ」

かすみ 「えっ…」

愛 「麻雀は相手から何かを奪うためのゲーム。勝つためならどんな手段でもアリだよ」

歩夢 「そんなの……間違ってる……」

愛 「少なくともアタシは、そう考えてきた。それがアタシの知ってる、麻雀本来の姿だからね」


璃奈 「……愛さん、早く南場も終わらせちゃおう」

愛 「そーだね。ほら、かすみちゃんの麻雀卒業まであと少しだ」

かすみ 「ぐぅっ……!」

64: 2021/02/06(土) 20:43:22.29 ID:vCz1i0EU
南一局、かすみの親。ドラは北


かすみ(かすみんの親番……。安手でもいいから連荘して、向こうよりも点数を稼がないと!)


かすみ 手牌
三九1246❽東西白白發中


かすみ(うぅ、なんで肝心な時にこんな配牌なんですか……!!)

愛 「ポンッ!!」 [❸❸❸]

かすみ 「……っ!」

かすみ(無理です。こんな配牌じゃ、あのスピードには絶対に追いつけない……!)

歩夢 「かすみちゃん……」


歩夢 手牌
二二二二77❶❶❶❽❾南北

65: 2021/02/06(土) 20:44:12.89 ID:vCz1i0EU
歩夢(カンは出来るけど、下手にドラを増やしたら万が一振り込んだ時、取り返しがつかない点差になるかもしれない。)


彼方 「…実質、歩夢ちゃんも能力を封じられているようなものだね」

侑 「……打つ手なし、ってこと?」

エマ 「……ううん。かすみちゃんなら、きっと!」


かすみ(炎が消えてる。せつ菜先輩ならこんな時、どうやって勝ちにいったんだろう……)

66: 2021/02/06(土) 20:44:48.45 ID:vCz1i0EU
『……牌の声を聞くんですよ、かすみさん』


──かすみが思い出していたのは、せつ菜と二人きりで特訓をしていた時のことだった。

何度打っても、何度打っても、せつ菜に勝つことは出来ない。そんな日々が続いた時、せつ菜がかすみにかけた言葉。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

つづく

67: 2021/02/06(土) 20:45:33.32 ID:vCz1i0EU
【キャラクター紹介.2】

天王寺璃奈

『表情から、手牌を読み取る』能力。


感情を表に出すことが苦手な故、他者の表情に人一倍敏感になった彼女だからこそ、身につけることが出来た能力。

驚異的なのはその精度。

初対面の歩夢とかすみでさえ六、七割は手牌を透かされていたが、親睦が深まれば深まるほど、その精度は上がる。

対局を重ねれば重ねるほど、彼女には勝てなくなっていく、恐ろしい能力。


本人の性格上、実卓を囲むよりネット麻雀の方が性に合っているが、それだと能力が全く意味をなさないことに気付き、一時期ちょっと落ち込んでたらしい。

68: 2021/02/06(土) 20:46:06.28 ID:vCz1i0EU
次回 第3話『牌と炎と、囁く声』

69: 2021/02/06(土) 20:52:03.21 ID:vCz1i0EU
これからも連投規制の関係で投下間隔空いちゃうかもしれません。ご了承ください

本日もありがとうございました

75: 2021/02/07(日) 19:59:06.48 ID:akd8FjNq
【第3話】『牌と炎と、囁く声』


かすみ『牌の声、ですか』

せつ菜『はい。かすみさん、言ってましたよね。アガれなかったとき、牌の悲しそうな声が聞こえてくるって』

かすみ『うぅ、改めて言われるとなんだか恥ずかしいですね……』

せつ菜『かすみさん、対局中に牌の声を聞こうとしたことはありますか?』

かすみ『えっ、対局中に……ですか?』

せつ菜『牌の声が聞けるのなら、対局中にだって言葉を交わすことは出来るはずです』

かすみ『そんなまさか……』

76: 2021/02/07(日) 19:59:42.07 ID:akd8FjNq
せつ菜『捨牌判断に迷ったり、点差が開きすぎてどうすればいいか分からなくなった時は、いっそ牌に聞いてみるんです』


せつ菜『あなた達は、どこに向かいたいかって』


かすみ『どこに向かいたいか……?』

せつ菜『私は、自分の元に来てくれる牌達には意思があると思っています』

かすみ『……この子たちに、意思が』

せつ菜『私は残念ながら、その声を聞くことはできません。この炎で、牌を強引に手繰り寄せることしか出来ません』

かすみ『実際それで強いんだから、いいじゃないですか』

せつ菜『そうかもしれませんね。でも私は、牌と心を通わせられるかすみさんが羨ましいです』

77: 2021/02/07(日) 20:00:32.78 ID:akd8FjNq
かすみ『心を通わせる……』

せつ菜『かすみさんになら、出来ますよ。だってかすみさんは、こんなに麻雀を愛しているんですから』


せつ菜『牌を愛し、牌に愛されたかすみさんになら、きっと……』


かすみ(……牌の声。そういえばこの対局が始まってから、自分が失うかもしれないものにばかり気を取られて、牌の声を聞こうとしてなかった)

かすみ(……ねぇ、どうしたらいいかな)


かすみはそっと、自分の手牌を優しく撫でる。

──瞬間、触れた指先に小さな灯火が宿る。ロウソクに灯された火のように、ゆらゆらと。

78: 2021/02/07(日) 20:01:19.97 ID:akd8FjNq
直後脳内に小さく、しかし確実に、何者かの声が響く。その声は、かすみに必死に訴えかけた。


『…………! ……………………!!!』

かすみ(……っ!? それ、本気……?)


かすみ(…でも、そっか。そのために君たちは、集まってくれたんだもんね)


かすみがその声を受け入れた瞬間、指先に灯っていた小さな灯火が、腕へ、肩へと燃え広がり、そしてその炎の放つ熱気が、再び景色を赤に染める。

脈動する火山、揺れ動く大地。それらの勢い全てが、まるでかすみの背中を押すように激しく燃え盛る。


かすみ(失いたくない。それはきっと、牌も同じはず!! まだかすみんに、麻雀を打ち続けて欲しい、そう思ってくれている!)

79: 2021/02/07(日) 20:02:06.65 ID:akd8FjNq
かすみ 「ならかすみんは、その想いに応えるだけですっ!!!」


かすみが捨牌を打ち付けると、再び火花が眩く輝きながら散る。散った火の粉がまるで花火のように弾け、かすみの顔を明るく照らす。


愛(諦めたかと思えば、またこの炎。でも無駄! りなりーとアタシのコンビに死角はないっ!!)

璃奈(これでかすみさんの親も、終わり)打:❺

愛 「ロン!!」


璃奈 → 愛 ロン
❻❼❽❽ [三四五] [678] [❸❸❸] ロン:❺
タンヤオのみ / 1000

歩夢 : 25000
かすみ : 12000 計 37000
璃奈 : 31000(-1000)
愛 : 32000(+1000)計 63000

80: 2021/02/07(日) 20:02:50.29 ID:akd8FjNq
愛 「頼みの綱の親も流れちゃったね。さぁ、残りたったの三局だよ」

かすみ 「……十分です」


かすみ 最終手牌
12344567白白發發中


愛 「え?」

かすみ 「三局もあれば十分。牌がそう言ってますから」


かすみは牌を混ぜる前に、自分の手牌を再び優しく撫でた。まるで、感謝を伝えるように。


侑 「くぅーっ、惜しい! ホンイツの一向聴だったのに!」

しずく 「……いえ、あれは三向聴ですよ」

81: 2021/02/07(日) 20:03:39.76 ID:akd8FjNq
侑 「え? だって白、發、4のどれかを引けばテンパイじゃ?」

しずく 「確かにホンイツ狙いなら一向聴です。ですが、かすみさんはホンイツを目指していた訳ではありません」

侑 「なら、一体何を……」

しずく 「…あの炎が、導いたんです。逆転の一手、その可能性に」


南二局、璃奈の親。ドラは❽


璃奈(かすみさん、すごい熱気……。でも私たちのやることは変わらない)打:2

愛 「チー!」 [234]

璃奈(誰よりも早く、愛さんをアガらせる)打:❼

愛 「チーっ!!」 [❺❻❼]

82: 2021/02/07(日) 20:04:26.05 ID:akd8FjNq
侑 「あぁっ、また!! 今回は席順も不利だよ、璃奈ちゃんからチーが出来る位置なんて……!」

彼方 「ううん、そうとも限らないよ」

エマ 「そうだね。どんなに璃奈ちゃんから鳴いても、歩夢ちゃんとかすみちゃんのツモ番は飛ばせない。向こうもそれは感じてるんじゃないかな」


愛(その通り、だけど大した痛手じゃない。ツモ番を飛ばせなくても、りなりーが鳴かせ続けてくれれば、ツモれる回数はたかが知れてる)

璃奈(万が一にも、勝てる可能性は無い)打:❷

愛 「ロンっ!!」


璃奈 → 愛 ロン
六七八666❸❹ [234] [❺❻❼] ロン:❷
タンヤオのみ / 1000

歩夢 : 25000
かすみ : 12000 計 37000
璃奈 : 30000(-1000)
愛 : 33000(+1000)計 63000

83: 2021/02/07(日) 20:06:21.98 ID:akd8FjNq
侑 「まずいよ、もう残り二局しか……!」

彼方 「さぁどうかな~。見てみてよ、かすみちゃんの手牌」

侑 「えっ……?」


かすみ 最終手牌
❸❹❹❻❼❽❾白白發發中中


侑 「これって…まさか!?」

しずく 「そうです、先程は三向聴。そして今回は」


侑 (役満、大三元……! しかも二向聴!!)

彼方 「少しずつ近付いてるねぇ。役満成就に」

84: 2021/02/07(日) 20:07:31.39 ID:akd8FjNq
南三局、愛の親。ドラは三


愛(今回はアタシの親。アガり役は任せたよ、りなりー)

璃奈(うん。でも、ちょっと不穏かも)

愛(不穏……?)


璃奈は能力で、かすみの手牌を透かす。


かすみ 手牌(璃奈視点)
???三四❷❸白白發發中中


璃奈(三元牌の対子が配牌から全部揃ってる。この炎の影響……?)

愛(大丈夫だよ、りなりー。役満なら尚更、アタシたちのスピードには適わないって)

85: 2021/02/07(日) 20:08:55.12 ID:akd8FjNq
10巡目──。

かすみ(……いいんですよね、これで)打:❼

璃奈 「……それ、ロン」


かすみ → 璃奈 ロン
四五六八八❷❸❹❺❻ [333] ロン:❼
タンヤオのみ / 1000

歩夢 : 25000
かすみ : 12000(-1000) 計 36000
璃奈 : 31000(+1000)
愛 : 33000 計 64000


侑(ついにオーラス、もう後がない……! だけどこれは……)


かすみ 最終手牌
二三四❷❷❸白白發發發中中


彼方 (大三元、一向聴。しかも一回も鳴かずに)

エマ(すごい……すごいよ、かすみちゃん!!)

86: 2021/02/07(日) 20:10:02.25 ID:akd8FjNq
南四局(オーラス)、歩夢の親。ドラは一


歩夢(点差は28000。私が跳満をツモっても逆転には届かない。この二人相手に二連続のアガりは厳しい。この局だけで逆転するには……)

かすみ(歩夢先輩の倍満、それかかすみんの役満が絶対条件……!)


愛(……これが、この二人の運なのかな)


愛 手牌
二八九37❸❸❻東南西西中


愛(ひっどい、バラバラ。りなりーの様子を見ればわかる、多分二人とも同じような配牌)

璃奈(こうなったら狙うべきは……)

愛(ノーテン流局。でもこの勢いでそんなこと)

87: 2021/02/07(日) 20:11:11.99 ID:akd8FjNq
13巡目──。


かすみ(……っ! きた、きました!!)


かすみ 手牌
一二三四九白白白發發發中中 ツモ:九


かすみ(これで、決まりですっ!!)打:四

侑(…! やった、大三元テンパイ!!)


璃奈(待ちは九と中。でも大丈夫だよ、愛さん)

愛(九はドラ表示と捨牌に一枚ずつ。もう残ってない。“中”は場に一枚、あとは山に一枚)

璃奈(ツモれるわけが無い。たった一枚の“中”。もし私たちがツモったら、捨てなければいいだけ)


愛 「……簡単に言うなぁ、りなりー」

88: 2021/02/07(日) 20:12:43.57 ID:akd8FjNq
かすみ(なんとしてでもツモって見せます…! 残り一枚の“中”っ!!!)

歩夢(かすみちゃん…お願いっ! 私の手は倍満にはまず届かない。頼みの綱はかすみちゃんだけ!)


だが、二人の想いはなかなか届かない。いやもしくは、璃奈と愛の最後の執念か。

誰一人最後の“中”をツモることなく、かすみの最後のツモ番が回ってくる。


かすみ(山は残り4枚。これがかすみんの最後のツモ! 大丈夫、聞こえるんです! 牌の声が!)


かすみ 「“中”は、ツモ山の中にいるって!!」


ツモった牌の面を指でなぞる。


かすみ(……っ!)

89: 2021/02/07(日) 20:14:17.48 ID:akd8FjNq
愛(どっちだ……ツモか、否か!)


かすみ 「かすみんじゃ、まだ届かないんですか……せつ菜先輩っ……!」 打:❸


歩夢(…っ! “中”じゃない!?)

愛 (ふぅ、ヒヤヒヤさせてくれるよ)

璃奈(あとは私と愛さんが適当に捨てて、流局。とりあえず役満は回避)打:4


歩夢 「……待って」

愛 「ん?」

90: 2021/02/07(日) 20:15:41.75 ID:akd8FjNq
歩夢 「その4……カン!!」 [4444]

愛 「なっ……!? 大明槓!?」

璃奈 「テンパイを崩してまで、どうして……」

愛 「カンをしたことでツモ番がズレた。ということはつまり……」


かすみ(…! かすみんのツモ番が、増えた!?)


歩夢 「信じるよ、かすみちゃん。あの残りの山に、“中”はいるんだよね?」

かすみ 「歩夢先輩…っ! はいっ! 牌の声が聞こえたんです、ここにいるって!!」


愛(まずい……この勢い、圧倒的な流れ……!)

91: 2021/02/07(日) 20:18:22.11 ID:akd8FjNq
愛 (アタシでも分かる。あの最後の一枚は、“中”で間違いない……っ!!)

愛(間違いなくツモられる! 最後の“中”をッ!)


かすみ 「これで終わりですっ!!」


かすみがツモ山に手を伸ばす。輝かしく腕に纏っていた炎が、卓そのものを包み込み、焼き尽くすかの如く燃え盛る。


愛(ツモられたら負けっ……アタシの負け!?)

愛(ふざけるな…認めないっ!! こんな“偽りの麻雀”に、アタシの麻雀が負けるはずないっ!!)

92: 2021/02/07(日) 20:21:23.04 ID:akd8FjNq
愛(アタシの麻雀こそが本質っ!! ふざけるな……ふざけるな……ふざけるな……!!!)


愛 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

かすみ 「うぁぁっ!? 眩し…っ……!?」


愛が叫ぶと、かすみがツモろうとした牌が纏う炎よりも眩しく光り輝いた。それは一瞬の出来事で、すぐに光は消えた。


かすみ(な、なんですか今の……見間違い? 牌がすごく光ってたような……)

かすみ(でも関係ないです、あれは絶対に“中”。あれをツモれば役満で終わりです!)


かすみがツモ牌を手に取り、指でなぞる。


かすみ 「……………………えっ」

93: 2021/02/07(日) 20:23:49.63 ID:akd8FjNq
歩夢 「かすみちゃん……?」


かすみの手が震え、ツモった牌がそのまま捨牌として落とされる。

かすみ 打:八


侑(……うそ、“中”じゃない……?)

彼方(そんな…! それに、この打牌で流局……)


歩夢(しまった、ツモを増やすために無理やりカンをしたから、親の私がノーテン……!)

かすみ 「あ…………あぁ……」


愛 「…………ふっ…………あははっ……ははっ…」


《対局終了》
歩夢 : 23000(-1000)
かすみ : 15000(+3000) 計 38000
璃奈 : 30000(-1000)
愛 : 32000(-1000) 計 62000(勝)

95: 2021/02/07(日) 20:26:16.54 ID:akd8FjNq
愛 「あははっ、あはははは!! ね、だから言ったでしょ! アタシたちの麻雀が本物、そっちの麻雀は偽物だって!」

かすみ 「そんな……かすみんたちの、負け?」

愛 「偽りの麻雀なんかが、本質を捉えたアタシたちの麻雀に勝てるわけがなかったんだよ。これで分かったでしょ?」

歩夢 「そんなこと…そんなことない……っ!!」

愛 「でも負けた。これが結果だよ」


愛 「いいきっかけになったじゃん。偽りの麻雀からの卒業のさ」


そう言って愛が立ち上がった時。

愛のスカートのポケットから、小さな何かがポ口りと落ちた。


侑 「えっ……あれって……」

96: 2021/02/07(日) 20:27:49.18 ID:akd8FjNq
かすみ 「…っ!?」


“それ”を視界に捉えたかすみが、咄嗟に飛びつく。愛の落としたそれが何かを確認したかすみは、その可愛らしい顔を歪ませるほど、怒りに満ちた表情を浮かべていた。


かすみ 「……これが、あなたの言う“本質”ですか。愛先輩ッ!!!」


かすみの手にあったのは……“中”の牌だった。


愛 「…! 返してっ!!」


愛は焦った様子で、かすみから“中”の牌を強引に奪い取る。


歩夢 「今のって、“中”だよね? 最後の一枚の……」

98: 2021/02/07(日) 20:29:47.75 ID:akd8FjNq
愛 「ち、ちが……これはっ…!」

かすみ 「イカサマ……したんですか」


あまりにも低く、冷たい声。
かすみが放つ圧に、その場の全員が凍りついた。


かすみ 「かすみんにツモられないために、最後の一枚の“中”をポケットに隠した……そういう事ですよね?」

愛 「違うっ…! この“中”は、ずっと持ち歩いてて…!!」

かすみ 「ずっと持ち歩いてた……? つくならもっと、マシな嘘をついてくださいよッ!!!!」

愛 「…っ! 違う、本当に……りなりー……」


愛は璃奈に助けを求めるように視線を送る。


璃奈 「…………愛さん」

99: 2021/02/07(日) 20:31:19.62 ID:akd8FjNq
愛 「っ!?」

愛(……アタシには分かる。軽蔑の目。この場にいる誰も、アタシのこと信じていない……)

愛(りなりーさえも。……あはっ、あはは…)


愛 「やめて…そんな目で見ないでッ!!」

璃奈 「っ! 愛さん、待って…!」


愛はその場から逃げるように、部屋から飛び出していってしまった。


かすみ 「……とんでもない人でしたね。負けたくないのは分かりますけど、イカサマなんて」

璃奈 「愛さん……」

かすみ 「なーにが“偽りの麻雀”ですか! 自分はあんな汚い手を使っておいて! 麻雀に対する冒涜です!!」

100: 2021/02/07(日) 20:33:46.83 ID:akd8FjNq
しずく 「まぁまぁかすみさん、確かに許せないけど、これで負けは無かったことになるから……」

侑 「そうだよね。イカサマされてたんだもん、今回の勝負は問答無用で向こうの負けだよ」

かすみ 「それだけじゃ納得できません!! あーっ!!! ムカムカします!!」


璃奈 「…………愛さんは」


彼方 「……? 璃奈ちゃん?」


璃奈 「愛さんはそんなことする人じゃ、ない……」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

101: 2021/02/07(日) 20:35:40.96 ID:akd8FjNq
──また、奪われた。

麻雀は一体どれほど、アタシから大切なものを奪えば気が済むのか。


愛 「りなりー……りなりー……っ……」


涙を流しながら、気がつけば帰路についていた。
学校にはあれ以上居たくなかった。


愛 「…………。あれは……」


もうすぐ家に着く、という時。まだ夕方だというのに、飲んだっくれたようにはしゃぐ中年の男三人組が目の前にいた。

愛はその男たちに、見覚えがあった。


愛 「……っ!! 間違いない…っ、アイツらだッ!」


昔、父を麻雀に誘い、お金を巻き上げ続けた三人組。何よりも大切だった、家族の笑顔を奪った張本人。それが、目の前にいた。

102: 2021/02/07(日) 20:37:47.60 ID:akd8FjNq
──アタシは麻雀に、全てを奪われた。

麻雀は何かを奪うためのゲーム。

もう奪われないために、アタシは奪う。


今度は、お前らから。全部、奪ってやる。


愛 「…………ねぇ、ちょっといいかな」

103: 2021/02/07(日) 20:39:20.84 ID:akd8FjNq
「あー? なんだ、嬢ちゃん」
「逆ナンかー!? はははっ!」


愛 「……してよ」


「なんだって? もっと大きい声で言えよ」


愛 「……アタシと、対局してよ」


右手に強く握られた“中”の牌が、軋むような音を鳴らした。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

つづく

104: 2021/02/07(日) 20:41:51.83 ID:akd8FjNq
【キャラクター紹介.3】

中須かすみ

『牌の声を聞き、好牌を引き寄せる』能力。


牌の声を聞けるのは、生まれながらの能力。
好牌を引き寄せるのは、せつ菜から意志を受け継いだことによって発現した能力。

かすみ自身の麻雀に対する熱い想いが炎として具現化し、せつ菜の能力発動時に近い景色を生み出す。その炎が出ている間、好牌をツモり続ける。

逆にかすみの心が弱い方へ流れれば、炎は瞬く間に消え、ツモも配牌も悪くなる。


先日、牌に「一番カワイイ雀士は誰ですかぁ~?」と聞いてみたが、返答がなかったと言う。

108: 2021/02/07(日) 20:45:31.27 ID:akd8FjNq
明日もよろしくお願いします

>>106
かすみんの能力は前借り系ではありません。なので無尽蔵に使えます。かすみんの心が前向きな限り、ですが

107: 2021/02/07(日) 20:43:56.96 ID:akd8FjNq
次回 第4話『奪取、駆けろ少女』

111: 2021/02/08(月) 21:37:43.49 ID:cnpWVfuY
【第4話】『奪取、駆けろ少女』

「誰かと思えば、宮下んちの嬢ちゃんじゃねぇか」
「そうだそうだ、通りで見覚えが」

ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、三人は愛を囲むように近付いてくる。

「対局ってことは、麻雀かい?」


愛 「そうだよ、今日は親もいないし、ウチで一局打ってよ」


「まさか父親の敵討ちって魂胆か? 結構かっぱいだからなぁ」
「冗談だろ? 泣けるなぁ、それ」

嘲笑うような目線を愛に向ける三人。
牌を握る手の力が、ますます強くなっていく。


愛 「……そうだよ、アンタらの言う通り。お父さんから奪った分、今日全部置いてってもらうから」

112: 2021/02/08(月) 21:38:14.27 ID:cnpWVfuY
「俺たちは大歓迎だけどよ、宮下んちじゃ打てねぇよな」

愛 「どうして?」


「だってあの家の麻雀牌、“中”が一枚足りないもんなぁ」


そう言うと手を叩いて3人が笑いだす。


「そうだそうだ。お嬢ちゃんのお父さんな、あまりにも負けがこんだもんで、“中”を隠しちまったんだよ。もう打てなくなるように」

「情けねぇ情けねぇ。がははっ」


愛 「…違う。あの“中”を奪ったのはアタシだ」


そう言って愛は、持っていた“中”を男たちに投げ渡す。

113: 2021/02/08(月) 21:38:39.32 ID:cnpWVfuY
「いけねぇなぁ嬢ちゃん、麻雀牌ってのは一枚でも無くなったら打てなくなるんだぞ?」

愛 「知ってるよ。“だから奪った”んだから」

「はぁ?」

愛 「これで牌は全部揃った。これでアタシと打てるでしょ!!」


「…………容赦はしねぇからな、嬢ちゃん」


ーーーーーー
ーーーー
ーー

114: 2021/02/08(月) 21:39:10.91 ID:cnpWVfuY
璃奈 「愛さんはそんなことする人じゃ、ない……」

かすみ 「何言ってるんですか、誰の目にもイカサマは明らかだったじゃないですか」

璃奈 「違う……。愛さんは、イカサマなんて……」

しずく 「璃奈さんはどうして、そう思うの?」


璃奈 「……愛さんはいつも、楽しそうじゃなかったから」


侑 「楽しそうじゃなかった?」

歩夢 「そういえば璃奈ちゃん、人の表情には人一倍敏感だって言ってたね」

115: 2021/02/08(月) 21:39:37.67 ID:cnpWVfuY
璃奈 「うん。愛さんは賭けに勝っても、ちっとも嬉しそうじゃなかった」

かすみ 「それとイカサマに、なんの関係が?」

璃奈 「……きっと愛さんは、賭けに勝つのが目的じゃない。だから、イカサマをしてまで勝とうとする理由が無い」

エマ 「勝つのが目的じゃない?」

璃奈 「うん。賭けに勝ったら、普通は喜ぶ。だけど愛さん、麻雀を打つ度に、悲しい顔になってた」

侑 「悲しい顔か……どうしてだろう?」

璃奈 「それに、一番の理由は……」


璃奈 「私が、愛さんを信じたいから」

116: 2021/02/08(月) 21:41:36.75 ID:cnpWVfuY
侑 「……優しいんだ、璃奈ちゃん」

しずく 「ねぇ、どうして璃奈さんは賭け麻雀なんてやってたの?」

璃奈 「私も、賭けをするのが目的なわけじゃない。ただ、愛さんと打ちたかった。それだけ」

かすみ 「えぇっ、そんな理由で!?」

璃奈 「でも私にとっては、一番大切な理由。愛さんと麻雀が打てるなら。愛さんの役に立てるなら、それだけでよかった」

侑 「それでトス役※を……?」


※トス役・・・コンビ打ちで、わざと振り込む担当のこと。逆にアガる担当を、アガり役と言う。


かすみ 「……そんなことして、楽しいですか?」

117: 2021/02/08(月) 21:42:56.15 ID:cnpWVfuY
璃奈 「私が楽しいかどうかなんて、どうでもいい。私はただ、愛さんの役に立ちたくて……」

かすみ 「ダメです……そんなの絶対ダメです!!」

璃奈 「…………?」

かすみ 「麻雀を楽しく打てないなんて、そんなの絶対間違ってます!!」

璃奈 「でも……」

かすみ 「りな子!!!」

璃奈 「…っ。りな……子……?」

かすみ 「りな子はどうして麻雀を打とうと思ったの!? 最初の気持ちを思い出して!!」

119: 2021/02/08(月) 21:44:33.99 ID:cnpWVfuY
璃奈 「……私の、はじまり…………」


愛 『その動画、麻雀だ。りなりー好きなの?』

璃奈 『たまたま見て、面白そうって思った』

愛 『ふーん、優木せつ菜か…カッコイイじゃん』


璃奈(……そうだ、私はせつ菜さんに憧れて。あんなカッコイイ麻雀を、私も打てたらって……)

かすみ 「りな子は、自分が打ちたい麻雀を打たないとダメだよ!!」


かすみが強く、雀卓を手のひらで叩く。


璃奈(自分が打ちたい麻雀…………。)


──その時だった。

かすみが雀卓を叩いた衝撃で、積んであった王牌(ワンパイ)が崩れる。ドラ表示牌の隣の牌が表向きになり、そこに現れたのは……。

120: 2021/02/08(月) 21:46:00.03 ID:cnpWVfuY
侑 「……っ! ねぇ、これって!!」


かすみがツモれなかった、最後の一枚の“中”だった。


しずく 「四枚目の“中”。ということは……」

彼方 「愛ちゃん、本当にしてなかったんだ。イカサマなんて……」

かすみ 「そ、そんな……」

侑 「……謝らなきゃ。璃奈ちゃん、愛ちゃんの居そうな場所、分かる!?」

璃奈 「ううん……でも、家なら……」

かすみ 「…行きましょう。かすみん、ちゃんとごめんなさいしないと……!」


ーーーーーー
ーーーー
ーー

121: 2021/02/08(月) 21:49:32.90 ID:cnpWVfuY
B 「おぉっと、一発ツモだ。跳満」

愛 「ぐっ……!」


愛 : 7000(-3000)
男A : 22000(-3000)
男B : 43000(+12000)
男C : 28000(-6000)


B 「東ラスで跳満なんて、ツイてんなぁ」

愛(違う…っ! ツイてる訳じゃない! コイツら、お父さんの時とおなじ…!!)

愛(三人で組んでイカサマをして、アタシの一人負けにさせようとしてる……っ!!)

A 「さぁ、もう南入だ」

122: 2021/02/08(月) 21:52:02.92 ID:cnpWVfuY
男A 「そう脅かすなって。さぁ、ツモっちまおうかなぁ」

愛(また……相変わらず“通し”をやってる)


男たちがしていたイカサマ、それは“通し”。

リーチをかけた後に喋った言葉、その頭の文字を使って、欲しい牌を味方に伝える。


『“そ”う脅かすなって。“さ”ぁ、ツモっちまおうかなぁ』

そ・・・ソーズのこと

さ・・・3のこと


つまりこの場合、『ソーズの3を送れ』という合図になる。

123: 2021/02/08(月) 21:54:13.81 ID:cnpWVfuY
すいません、書き込む順番間違えました

>>122 は無視してください

124: 2021/02/08(月) 21:57:44.62 ID:cnpWVfuY
南一局、男Aの親。ドラは3

東家:男A 南家:男B 西家:愛 北家:男C


愛(また、奪われる……コイツらに)

愛(…………ふざけるな。そんなことさせない)


愛 「今度はアタシが、奪ってやる…………!」


──愛の瞳が一瞬、鋭く光った。


12巡目──。


男A 「リーチ!!」 打:三

男A 手牌
五六七12456789❹❹


男B 「おいおい、親リーかよ。もうあとがねぇぞ、愛ちゃん」

125: 2021/02/08(月) 22:00:18.62 ID:cnpWVfuY
男A 「そう脅かすなって。さぁ、ツモっちまおうかなぁ」

愛(また……相変わらず“通し”をやってる)


男たちがしていたイカサマ、それは“通し”。

リーチをかけた後に喋った言葉、その頭の文字を使って、欲しい牌を味方に伝える。


『“そ”う脅かすなって。“さ”ぁ、ツモっちまおうかなぁ』

そ・・・ソーズのこと

さ・・・3のこと


つまりこの場合、『ソーズの3を送れ』という合図になる。

126: 2021/02/08(月) 22:03:51.37 ID:cnpWVfuY
合図を受けた味方は、牌を山からツモる際に、次アガり役がツモる場所に当たり牌を仕込む。するとアガり役は問答無用で一発ツモ。

単純にして、実に強力なイカサマである。


愛(だけど…無駄だよ。)


男A(…おい、何やってんだよ)

男B(すまねぇ、3は持ってねぇんだ)

男C(すまん、俺もだ……)

男A(あぁ!? 何やってんだお前ら、ドラの一枚くらい抱えとけよっ!!)


愛(…ははっ、焦ってる焦ってる。言ったでしょ、ここからはアタシが)


愛がツモ山に手を伸ばす。

128: 2021/02/08(月) 22:06:35.63 ID:cnpWVfuY
愛 「奪う番だって!!!」

男A 「なっ……」

愛 「ツモ!!!」


愛 ツモ
二三四3334588六七八 ツモ:3
タンヤオ・ツモ・ドラ4 / 3000-6000

愛 : 20000(+13000)
男A : 15000(-7000)
男B : 40000(-3000)
男C : 25000(-3000)


男A(…俺のアガり牌を、全部使い切ってやがる)

男B 「けっ。運がいいなぁ、愛ちゃん」

129: 2021/02/08(月) 22:08:53.48 ID:cnpWVfuY
南二局、男Bの親。ドラは西

11巡目──。


男B 「リーチ!」

男B 手牌
二二四五678❼❽❾西西西

男B 「まぁ親だしな。さぁ、無理につっかかってくんなよ?」


愛(マンズの三か六……ふんっ…)


愛がツモ牌に触れると、牌が光り輝く。


愛 「ツモ」

男B 「な、なにぃっ!?」

130: 2021/02/08(月) 22:12:14.42 ID:cnpWVfuY
愛 ツモ
三三三六六222❻❼❽東東 ツモ:六
ツモ・三暗刻 / 1300-2600

愛 : 26200(+6200)
男A : 13700(-1300)
男B : 36400(-3600)
男C : 23700(-1300)


男B(また…。アガり牌を綺麗に奪われてやがる)


南三局、愛の親。ドラは❽


男A(クソ…調子に乗りやがって。おい、仕掛けるぞ)

男C(……了解)

131: 2021/02/08(月) 22:16:19.39 ID:cnpWVfuY
14巡目──。

男C 「リーチ」
七九789❶❶❼❽❾白白白(八 待ち)

男A 「リーチ!!」
二三七七678❷❸❹❺❻❼(一-四 待ち)

男B 「リーチッ!」
四五六1134❽❽❽北北北(2-5 待ち)


愛(……三人同巡のリーチか)


男A(八方塞がりだ。どうする愛ちゃんよぉ)
男B(ふんっ。終わりだな)


愛(……まだ気付かないんだ。これだけアタシに奪われてるのに)

132: 2021/02/08(月) 22:21:18.54 ID:cnpWVfuY
愛(アタシは絶対に許さない。アタシから全てを奪った、あんたらを)


愛 「──全部、奪ってやる」


愛がツモろうとした瞬間、男三人の手牌が光り輝く。その光は愛の腕へと集まり、その指先を眩く照らした。


男C(なっ……なんだこりゃあ……?)


愛 「…………カンッ!」 [八八八八]


男C(…っ!? 俺の、アガり牌……!!?)


嶺上牌をツモろうとした愛の手は、さらにその輝きを増す。

133: 2021/02/08(月) 22:25:11.25 ID:cnpWVfuY
──宮下愛、能力開花。

『相手のアガり牌を奪う』能力。

134: 2021/02/08(月) 22:29:19.45 ID:cnpWVfuY
愛 「カンッ!」 [2222]

愛 「カンッ!!」 [5555]


男B(なんだよこれ……何が起こってんだよ!?)


愛 「……これで最後。カンッ!!!!」[一一一一]


男A 「四槓子……? ありえねぇ。そんなん、ありえるわけねぇっ!!!」


愛 「────ツモ」


男A 「ありえるわけねぇだろぉぉぉぉぉっっ!!」


愛 ツモ
四 [一一一一] [2222] [5555] [八八八八] ツモ:四
四槓子・四暗刻単騎待ち / トリプル役満 48000オール

愛 : 173200(+147000)(勝)
男A : -35300(-49000)
男B : -12600(-49000)
男C : -25300(-49000)

135: 2021/02/08(月) 22:33:30.35 ID:cnpWVfuY
男B 「んだよこれッ!? やってられっか!!」


男たちが財布に手をかける。


愛 「…………お金はいらない」

男A 「あ?」

愛 「お金はいらないって言ってんの、こんなもの。その代わり…………」


愛 「その代わり、もうアタシの大切な家族に、今後一切関わらないでッ!!」


男B 「言われなくても、こんな麻雀されたら二度とアンタと打とうとするもんかよ」

男C 「…でもよ」


男達は財布をしまうと、そのまま……

──愛を、強引に押し倒した。

137: 2021/02/08(月) 22:37:35.78 ID:cnpWVfuY
愛 「…………は?」

男C 「こんなガキに言われっぱなしも癪だからな」

愛 「やめ…っ……! 放し…てっ……!!」

男A 「大口叩いてた割には、力ねぇなぁ。なぁに、最後の思い出作りだ」

男B 「今だけ我慢してくれりゃ、もう二度と愛ちゃんにもお父さんにも近付かねぇから、な?」


ジタバタと暴れさせていた足も、顔を引っ掻こうと伸ばしかけた手も、男たちに押さえつけられた。運動部の助っ人をするくらい、身体能力に自信のある方だったが、体格差のある男三人に同時に押し倒されれば、為す術もない。


愛 「嫌だ…っ……!! いやだぁぁっ!!」


男の手が制服のシャツを掴んだ。その手は、そのままボタンを吹き飛ばしてシャツをひん剥こうと、力が篭もる。

139: 2021/02/08(月) 22:43:20.44 ID:cnpWVfuY
──あぁ、また奪われるんだ。


奪い、奪われる。
それが麻雀を始めた者が行き着く最終地点。

これは罰だ。
クラスメイトから奪い続けたアタシが受けるべき、当然の報い。


愛 「…………りなりー………………」


その時。
家の玄関扉が勢いよく開く音が聞こえた。

男たちはハッとして、慌ててアタシから離れる。


璃奈 「愛さん……!!」

侑 「愛ちゃーん!!! いるー!?」

140: 2021/02/08(月) 22:48:56.33 ID:cnpWVfuY
りなりーの声だ。それだけじゃない、同好会のみんなも。どうして? 何をしに来た?

いや、そんなこと今はどうでもいい。


愛 「……けて、助けて…っ! 助けてぇぇっ!!!」


男A 「クソっ! おい、逃げるぞ!」


男たちはアタシの声がする方へと向かってきた皆を押しのけて、玄関から外へと逃げ出した。


璃奈 「愛さん、大丈夫?」

愛 「……うん。ありがと、来てくれて。助けられちゃったね」

侑 「愛ちゃん、今の男たちに何されたの? 制服もはだけてるし……」

愛 「いいのいいの、なんでもないから」

141: 2021/02/08(月) 22:52:16.96 ID:cnpWVfuY
璃奈 「なんでもないことない。今すぐ警察とか」

愛 「大丈夫。大事にしたくないんだ。アタシはただ、アイツらがもうお父さんに近付かなければ、それでいいんだ」

エマ 「でも、もう来ないなんて確証……」

愛 「それも大丈夫。きっちり格付けは済ませておいたから。もうここに来ようなんて思わないよ」


愛は床に散らばった牌から、“中”を一枚拾い上げて、みんなに見せながらそう言った。


かすみ 「“中”……。あの、ごめんなさいっ!!」

愛 「えぇっ!? ちょっと、頭あげてよ!」

侑 「あの後、残った王牌の中から、最後の一枚の“中”が出てきたんだ」

かすみ 「かすみん、勝手に勘違いして怒っちゃって……。本当に、ごめんなさい」

142: 2021/02/08(月) 22:55:47.55 ID:cnpWVfuY
愛 「……アタシの方こそ、ごめんね。紛らわしいことしちゃって。でも、この“中”はアタシにとって、大切なものでさ」

侑 「…考えてみたらさ、私たち、愛ちゃんのことを何も知ろうとしてなかったんだよね」

愛 「知ろうも何も、みんなの見てきてアタシが全てだよ」

侑 「違うよ」

愛 「違う……? なんでそんなこと…」

侑 「理由はないよ。でも、愛ちゃんが私利私欲のためだけに、賭けをする人だとは思えない」

歩夢 「璃奈ちゃんの言葉を聞いて、そう思ったんだ」

愛 「りなりーの……?」

彼方 「璃奈ちゃん、ほんっとうに愛ちゃんのことが好きなんだなって。もし愛ちゃんが本当に悪い人なら、こんなに慕われないよ~」

143: 2021/02/08(月) 23:00:33.13 ID:cnpWVfuY
璃奈 「…………。」


璃奈が恥ずかしそうに俯く。
愛は璃奈の頭を、優しく撫でた。


愛 「……ありがと。アタシのこと、信じてくれて」

璃奈 「……うん」

侑 「ねぇ、教えてくれないかな? 愛ちゃんのこと」


愛 「アタシのこと、か。アタシは……」


──アタシは、麻雀が大嫌いだった。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

つづく

144: 2021/02/08(月) 23:03:44.32 ID:cnpWVfuY
【キャラクター紹介.4】

エマ・ヴェルデ

『緑の牌を集める』能力


2.3.4.6.8.發が、配牌とツモに集まる。必然と緑一色に手が向かっていく、強力な能力。

能力は東場、南場が始まる時に歌を歌うことで発動する。エマを中心に草原が広がり、その広さによって緑一色完成までの速度が変わる。局が進めば進むほど、草原は狭くなる。

炎系の能力とは相性が悪く、共存が出来ない。故にかすみやせつ菜相手には無力。

能力は充電式。スイスの大自然を感じると充電でき、毎日打ったとすればMAXから0になるまで3ヶ月くらいもつ。


一度試しに、スイスの大自然の中心で麻雀を打ってみたことがあるが、何回やっても天和緑一色が完成するため、逆に退屈だったらしい。

145: 2021/02/08(月) 23:06:49.22 ID:cnpWVfuY
次回 第5話『その信念に、駆けるは愛』

149: 2021/02/09(火) 21:30:42.76 ID:MC0BFJxU
【第5話】『その信念に、駆けるは愛』


「リーチ!」 「……ロンっ!!」


障子を挟んだひとつ隣りの部屋から、今日も大人たちの声が聞こえてくる。


あい 「もうやめて……やめてよぅ……」


暗い部屋の中、小さな掌で必死に耳を塞ぐ少女。

──宮下愛、当時10歳。


愛の父は、ここのところ毎日のように、学生時代からの友人と麻雀を打っていた。

障子の隙間から様子を伺うと、当時の愛にとってはお年玉くらいでしか見ることのない万札が、何枚も行き交っていた。

しかしその万札が、父の懐に収まることはない。

今日だけではない。いつもだ。
なのに旧友の誘いを断りきれず、毎日のように顔色を失いながら、牌を握り続ける。

150: 2021/02/09(火) 21:31:35.18 ID:MC0BFJxU
あい(なんであんなに怖いゲーム、お父さんは続けるんだろう……?)

あい(奪って、奪われて。何も楽しくない……)


実際、父親の笑顔は日に日に少なくなっていた。

麻雀が終われば、障子の向こうから暗い顔をした父親が「ごめんな」と言いながら出てくる。

その光景が耐えられなかった。


辛くて、辛くて。


あい(どうすれば……どうすればお父さんは、麻雀を辞めてくれるんだろう)


ある日、愛は思いついた。

151: 2021/02/09(火) 21:32:29.37 ID:MC0BFJxU
あい(そうだ!! 麻雀を辞めさせるんじゃなくて、出来なくすればいいんだ!!)


そして夜な夜な、誰も見ていない隙に雀卓の上に並べられた牌から……


“中”を一枚、抜き取った。


あい(麻雀はトランプみたいなものだって、お父さん言ってた! なら、牌が足りなくなればもう麻雀は出来ないはず!)


だが、愛の思うようにはいかなかった。

むしろ、事態は悪化した。


父 「本当なんだ、今見たら無くなってるのに気付いて……!」

152: 2021/02/09(火) 21:32:58.89 ID:MC0BFJxU
A 「正直に言えよ、俺たちに負け続けるのが嫌で、“中”を隠しましたって」

父 「違う。本当に……」

B 「まぁいいや、麻雀なら雀荘でも打てるからな。ほら行くぞ」

C 「もちろん場代はお前もちだからな」


父はいつもの三人組に連れられ、雀荘で麻雀を打つようになった。

愛は父の笑顔だけでなく、父との大切な時間までも、麻雀に奪われた。


あい(私のせいだ。私が“中”を奪ったから、お父さんとの時間を奪われたんだ!)

153: 2021/02/09(火) 21:34:05.31 ID:MC0BFJxU
奪い、奪われる。

これが麻雀の本質。決して、トランプなどのように楽しいだけのゲームなんかじゃない。


あい(大っ嫌いだ……。私から大切なものを何もかも奪った麻雀なんて……!!)

あい(麻雀なんて……大ッ嫌いだっ!!!!!)


愛はそれから、奪った“中”を常に持ち歩くようになった。

麻雀への恨み、それを忘れないために。


──そして、高校二年の夏。


愛 「その動画、麻雀だ。りなりー好きなの?」

154: 2021/02/09(火) 21:35:45.63 ID:MC0BFJxU
璃奈 「たまたま見て、面白そうって思った」

愛 「ふーん、優木せつ菜か…カッコイイじゃん」


そこには、笑顔で楽しそうに麻雀を打つ少女の姿があった。

璃奈はそんな彼女の姿を、キラキラとした瞳で、憧れるように見ていた。


それは璃奈だけではなかった。クラスメイトたちもその姿を見て、麻雀に興味を持ち始めた。

「麻雀って面白そうだね」
「私もはじめよっかな」


愛(ダメだ…ダメだよ。麻雀なんて始めたら、アイツらと同じになる)

愛(奪って、奪われる。それが麻雀を打ち始めた人の行き着く先なんだ!! 気付いて!!)

155: 2021/02/09(火) 21:37:20.31 ID:MC0BFJxU
麻雀なんて汚い世界に足を踏み入れようとする、大切なクラスメイトたち。

見ていられなかった。なんとかして、引き止めなくては。

麻雀が奪い奪われるだけのゲームだってことを、教えてあげないと。

それはきっと、アタシにしか出来ない。
麻雀の汚い一面を知ってる、アタシにしか。


愛(……なら、私が奪う側になればいい。)

愛(奪われれば、みんな気がつく。麻雀が汚いゲームだってことに)


璃奈は、快く協力してくれた。


愛(…ごめんね、りなりー。利用するようなことしちゃって)

156: 2021/02/09(火) 21:38:32.37 ID:MC0BFJxU
愛(でもこれできっと、りなりーも麻雀が嫌いになる。これでいいんだ)

愛(みんなもそう。奪われることで麻雀が嫌いになれば、それでいい。アタシが嫌われたって構わない)

愛(みんなが救えれば、それで……)


そして噂を聞き付けてやって来た、麻雀同好会のメンバー。

麻雀が楽しいゲーム、そんな間違った印象を、大切なクラスメイトたちに植え付けた張本人。


愛(特に気に入らないのは……中須かすみ)

愛(麻雀を広めた優木せつ菜。あの人と同じ目をしてる)

愛(アタシが教えてあげる。麻雀の本当の姿、本質を……!)

ーーーーーー
ーーーー
ーー

158: 2021/02/09(火) 21:40:10.06 ID:MC0BFJxU
侑 「……そっか、そんなことが」

エマ 「愛ちゃんは、みんなを助けてあげようとしてたんだね」

愛 「…うん。でも最低だよねアタシ。結局、アイツらとやってることは変わらない。麻雀で人から何かを奪って」

愛 「……りなりーまで利用して、さ」

璃奈 「愛さん……」


侑 「愛さんの言うことも、正しいと思う」

愛 「えっ……?」

侑 「愛さんの言う通り、麻雀に賭けとか、人から奪う一面があるのも事実だよ」

159: 2021/02/09(火) 21:42:18.12 ID:MC0BFJxU
侑 「でも、人それぞれ色んな目標とか、楽しみ方があるのが、麻雀の面白いところなんじゃないかな」

愛 「色んな目標……?」

侑 「うん。私は、せつ菜ちゃんみたいに、燃えるような麻雀を打ってみたい」

かすみ 「かすみんは、みんなに麻雀が楽しいってことを広めるためです!」

彼方 「彼方ちゃんは、誰かに勇気を与えるため」


侑 「みんなそれぞれの想いがあって。毎日楽しく麻雀を打ってるんだ」

愛 「……すごいなぁ、みんなは。アタシには無理だよ」

侑 「どうして?」

160: 2021/02/09(火) 21:44:26.86 ID:MC0BFJxU
愛 「アタシは、奪い合う麻雀しか知らない。もう引き返せないんだよ」


侑 「ならこれから変えていけばいい!!」


愛 「っ……」

侑 「私たちと一緒に探そうよ、みんなが楽しくなれる、そんな麻雀!」

愛 「そんなの……アタシには……」

かすみ 「愛先輩だからこそですよ。麻雀のそういう一面を知ってるからこそ、気付けることもあると思います」

愛 「アタシだからこそ……?」

かすみ 「一緒に探しましょう、愛先輩。そして広めるんです、楽しいがたくさんの麻雀を!!」

愛 「……アタシを、許すの?」

161: 2021/02/09(火) 21:47:29.22 ID:MC0BFJxU
かすみ 「もちろんですよ! ね、先輩?」


みんな、笑顔のまま黙って頷いた。


愛 「……りなりー」

璃奈 「ごめんね、愛さん。本当のキモチ、気付いてあげられなくて」

愛 「そんな、アタシはりなりーを騙して……!」

璃奈 「もういいんだよ、愛さん。一緒に打とう、麻雀」

愛 「りなりー…………うぅ…っ……ぁぁ…っ…!」


愛 「ごめんっ…! ごめん! りなりー、ごめんねっ…!! ごめんね…ぇっ……!!」

璃奈 「愛さん……よしよし」

162: 2021/02/09(火) 21:49:55.34 ID:MC0BFJxU
かすみ 「さて、と……二人の入部も決まったことですし、仕切り直しですね」

璃奈 「仕切り直し?」

かすみ 「さっきの対局ですよ! まだ決着はついてませんからね!」

歩夢 「でもあのままなら、私たちの負けだったような」

かすみ 「あー! 言わないでくださいよ、せっかく無かったことにしようとしたのにー!!」

愛 「あははっ…。じゃあ今度は、チームじゃなくて個人戦でやろうよ。いいでしょ、りなりー」

璃奈 「うん!」

かすみ 「よーし、じゃあ始めますよ! 愛先輩、雀卓お借りしますね」

愛 「うん! よーし、負けないぞー!」


璃奈(……楽しくなれる、麻雀)

163: 2021/02/09(火) 21:52:49.84 ID:MC0BFJxU
《対局開始》
東家:愛 南家:歩夢 西家:かすみ 北家:璃奈


東一局、愛の親。ドラは二


13巡目──。


愛 「リーチ!」

璃奈(きた…愛さんのリーチ。待ちは多分…)


璃奈 「…………。」 打:二

愛 「…っ!!」

かすみ 「えぇっ!? 親のリーチにドラって…」


璃奈(……アガらない? 読み間違えたのかな)

愛(りなりー……)

164: 2021/02/09(火) 21:56:14.11 ID:MC0BFJxU
3巡後──。


愛 「ツモっ!!」

愛 ツモ
三四23477❷❸❹❻❼❽ ツモ:五
リーチ・タンヤオ・ピンフ・ツモ / 2600オール

愛 : 32800(+7800)
歩夢 : 22400(-2400)
かすみ : 22400(-2400)
璃奈 : 22400(-2400)


璃奈 「…………えっ」

かすみ 「二-五 待ち? りな子の二でアガってたじゃないですか」

歩夢 「それだけじゃないよ。二でアガれば三色もついて、跳満まで届いてた……」

璃奈 「ど、どうして? 愛さん……」

166: 2021/02/09(火) 21:59:04.73 ID:MC0BFJxU
愛 「…ごめんね、りなりー。癖になっちゃったんだよね、その打ち方」

璃奈 「違う、私は愛さんに勝って欲しくて。喜ぶ顔が見たかったから……」

愛 「…そっか。アタシはりなりーからも、奪っちゃってたんだね」

璃奈 「奪う? 私は何も……」

愛 「奪ってたよ。麻雀を楽しむ気持ちを」

璃奈 「麻雀を、楽しむ気持ち……」


愛 「りなりー、もういいんだよ。りなりーはりなりーのために、麻雀を打っていいんだよ」


璃奈(……私のための、麻雀)

167: 2021/02/09(火) 22:01:35.32 ID:MC0BFJxU
東一局一本場、愛の親。ドラは五


かすみ 「うかうかしてられませんね、かすみんも本気でいきますよ!!」

愛 「うぁっ…あっついなぁ、相変わらず。盛り上がってきたじゃん!!」


8巡目──。

かすみ 手牌
五五五66888❷❸❼❼❽ ツモ:❹


かすみ(にしし…ドラ暗刻のツモり三暗刻テンパイですよ~!)

かすみ 「リーチですっ!!」 打:❽


璃奈 「……なら、これ」 打:❹

かすみ 「なっ…!?」

かすみ(一発で入目の❹!? こんな危険牌、どうして平気で切れるんですか…!!)

168: 2021/02/09(火) 22:04:58.92 ID:MC0BFJxU
歩夢(そっか…手牌を透かすのは、振り込むためにも役立つけど)

愛(そう、りなりーはその逆。振り込まないことだって出来る!!)


愛 「すごいじゃん、りなりー!」

璃奈 「えへへ…」


歩夢 「なら私も全力! カンッ!!!!」[三三三三]

歩夢 「さらにもう一個、カンッ!」[西西西西]

新ドラ : 一、西


愛 「うっひゃー! ドラもモロノリじゃん!?」

169: 2021/02/09(火) 22:08:47.53 ID:MC0BFJxU
歩夢 「よしっ、ツモ! 嶺上開花!!」

かすみ 「ぎゃーーー!! かすみんのリーチがー!」


愛 「あははっ、残念だったねかすかす」

かすみ 「むぅっ! かすかすじゃなくてかすみんです!」

愛 「あはははっ……」


璃奈(…愛さん、笑ってる。なんだか久しぶり)

170: 2021/02/09(火) 22:13:23.35 ID:MC0BFJxU
愛 「もうっ…こんなに笑ったのいつ以来かな。ねぇ、かすみん」

かすみ 「…?」


愛 「──麻雀って、楽しいんだね」


かすみ 「…ふふっ、今更気付いたんですか?」

愛 「…うん、本当に今更。あの頃のアタシに、分けてあげたいくらい、すっごく楽しい」

歩夢 「……よかった」

愛 「よーし、親は流れたけど、まだまだこれから!! いっくぞー!」

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ーーーー
ーー

171: 2021/02/09(火) 22:17:11.10 ID:MC0BFJxU
──数日後。生徒会室。


副会長 「……以上のとおり、賭け麻雀による被害者の元に、被害額分の金銭が返却されていたとの事です」

栞子 「……そうですか」

副会長 「麻雀同好会から、事態は収束させたとの報告からこの結果。間違いなく、彼女たちの功績で賭けが無くなったと言っていいでしょう」

栞子 「そうですね」

副会長 「では約束通り、廃部勧告の撤回を伝えてきます。それでは」


生徒会室から出ていこうとする副会長。

その肩を、何者かが強く押えた。栞子だった。


副会長 「……? 会長?」

栞子 「……………………。」

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ーー

172: 2021/02/09(火) 22:20:58.18 ID:MC0BFJxU
善子 「うにやぁっ!?」


──あぁ、今日も不運だ。
予報に背いた雨に降られた私──津島善子は、駆け足で家に向かっていた。その途中で猫のしっぽを踏んで追いかけ回され、逃げている途中に転び、今に至る。


善子 「うぅ……本っ当にツイてないわ、私」


荷物を拾い集めているその時、前から一人の女性が私と同じように傘もささずに駆けてきた。
いや、ただ走っているだけではなかった。猫に追いかけられている。何もかも私と同じ。ということはおそらくこの後……。


「ご、ごめんなさい!! わざとじゃないんですうう!! うぎゃぁっ!?」


想像通り、転んだ。荷物は前方に派手にぶちまけられ、追いついた猫が彼女の体を引っ掻きまわした。
ようやく猫が離れると、散らばった荷物を拾い始めた。その瞬間大きなトラックが通り、激しく舞った水しぶきが彼女の体を覆った。

173: 2021/02/09(火) 22:24:32.82 ID:MC0BFJxU
善子 「うっわぁ、私より運が悪い人っているのね……」


見るに耐えかねた私は、その女性に声をかけた。家は遠いそうなので、いったん家へ招いてシャワーを浴びさせることにした。


「あの、ありがとうございます。シャワーまでさせてもらって」

善子 「あんな不運っぷりを見せられたら、放っておけないでしょ」

「あはは……私本当にツイてないんですよね。あの、お名前を教えていただけませんか?」

善子 「津島善子よ。あなたは?」


うつむき、悩むような素振りを一瞬見せたその女性は、ゆっくり顔を上げ、私の目を見て名乗った。


「──優木 せつ菜、です」


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つづく

174: 2021/02/09(火) 22:27:58.08 ID:MC0BFJxU
【キャラクター紹介.5】

宮下愛

『相手のアガり牌を奪う』能力


能力の発動は強制。
アガり牌を奪う先は、自分の手牌か王牌。
相手がテンパイしたあとに当たり牌を奪うのが基本だが、愛の感情が昂った時、将来的に相手の当たりになる牌を、配牌時から自分の手牌に封じ込めることも可能になる。

相手のアガり牌が手元に来るため、自分が目指していた形に関係の無い牌を能力で奪ってしまうと、自身のアガり目が無くなってしまう弱点もある。

巡目の関係で奪える牌の数にも限度があるため、多面チャン待ちをすればこの能力をかいくぐることが出来るかも知れない。


愛がリーチしたあと、他家が追っかけリーチをすると、絶望顔の愛さんが見られる。
理由は押して図るべし。

175: 2021/02/09(火) 22:32:20.22 ID:MC0BFJxU
次回 第6話『DIVE、なりたかった私』

181: 2021/02/10(水) 20:25:45.31 ID:F3oijC0i
自前保守

とある漫画で見た、何切る問題を置いておきます

東二局、親番。ドラは 西
三五23556778❷❹❻❻

何を切りますか?

182: 2021/02/10(水) 20:26:55.55 ID:F3oijC0i
ちなみに関係する牌では、捨牌に9が二枚切れています

183: 2021/02/10(水) 20:36:20.32 ID:7J3dobwY
自分なら7

184: 2021/02/10(水) 20:39:08.43 ID:peMbEq/F
一盃口狙いで8かなあ

185: 2021/02/10(水) 21:59:06.57 ID:9Xn+f49I
❻切って様子見

188: 2021/02/11(木) 17:12:24.06 ID:F+U1m/vI
みなさんご回答ありがとうございます

この問題、選択肢が多すぎるのが厄介なポイントです。何を目指すかによって切る牌も変わるので、答えは人によって大きく変わると思います


尚、漫画で示されていた答えは 2 切りでした

私は最初 7 切り派でしたが、2切りの選択肢に気付きませんでした。ですがその選択肢があることを知った瞬間、2切りが正解に思えます

解説です。改めて手牌を見てみます

189: 2021/02/11(木) 17:16:07.80 ID:F+U1m/vI
東二局、親番。ドラは 西
三五23556778❷❹❻❻

さて、まずはどんな役を目指すかです

受け入れは広いですが、カンチャンの急所が多いのが難点です。親ですから鳴くことも視野に入れつつ、タンヤオを目指していきます

タンヤオを目指すとすれば、1、9が引いた時邪魔になります。なのでそれらの受け入れである 2、8は優先度が低いでしょう

しかし8を切ると、678の順子が崩れます

逆に2は、4をツモっても345の順子を残せますし、唯一裏目となるのは1引きだけです

ですが前述したとおり、タンヤオを目指すなら1はそもそも使う気のない牌ですから、実質裏目ではありません

この手牌で唯一裏目が無いに等しいもの、それが2切りです

190: 2021/02/11(木) 17:18:37.83 ID:F+U1m/vI
裏目に関して考えるキッカケになる良問かと思います

本日の夜、予定通り6話の更新です。よろしくお願いします

193: 2021/02/11(木) 18:19:22.09 ID:F+U1m/vI
【第6話】『DIVE、なりたかった私』


善子 「って、わぁぁぁぁ!? もうこんな時間、配信の準備しなきゃ!」


優木せつ菜と名乗る女性を家に招き入れ、シャワーを浴びせたり着替えを用意したりしていた善子は、日課である配信の時間が迫っていることに気づいていなかった。


せつ菜 「配信?」

善子 「私、毎日ぎしk……生配信をしてるのよ」

せつ菜 「そうなんですか。私に手伝えることはありますか!?」

善子 「て、手伝い?」

せつ菜 「はい! 助けていただいたお礼をさせてください」

善子 「そうねぇ……じゃあ、私の眷属役をやってくれないかしら」

194: 2021/02/11(木) 18:20:46.08 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「眷属、ですか。具体的にどのようなことをすれば?」

善子 「時間が無いから説明は省くわ! ノリで合わせて!」

せつ菜 「えぇっ!? そ、そんな……」


慌てるせつ菜をよそに、善子は配信開始のボタンを押す。


善子 「感じます……精霊結界の崩壊が、この世の理を乱していくのを……」

せつ菜 「へ? えっと……?」

善子 「そして此度、我が下に新たな眷属を召喚した。その名も……!」


善子がせつ菜に目線を送る。


せつ菜 「あ、えっと……初めまして! 優木せつ菜です!」

195: 2021/02/11(木) 18:21:52.85 ID:F+U1m/vI
善子 「ちょ、ちょっと! 本名はマズイわよ……!」

せつ菜 「それなら大丈夫です。せつ菜は芸名みたいなものですから」

善子 「え、そうなの? って、そうじゃなくてもっと眷属っぽい……」


その瞬間、ブツンッとなきゃの電源が落ちる音が聞こえた。善子が慌てて振り返ると、どうやらPCの電源が落ちたようだった。電源を入れ直そうとするが、謎のエラーが出て立ち上がらない。


善子 「ちょ、なんなのよ突然! こんなこと一度もなかったのに!」


善子が必死に直し方を調べながら復旧にあたるが、一時間ほど経っても、直る様子はなかった。


せつ菜 「……ごめんなさい。多分、私のせいです」

196: 2021/02/11(木) 18:22:41.41 ID:F+U1m/vI
善子 「どうしてよ? あなたパソコンに指一本触れていないじゃない」

せつ菜 「私、本当に不運ですから……」


善子がきょとんとしていると、インターフォンが鳴った。玄関扉を開けると、見慣れた顔が三人分、なだれ込んできた。

千歌、曜、梨子の三人だった。


善子 「ちょ、なんなのよ突然!?」

千歌 「せつ菜ちゃん! まだいる!?」

善子 「せつ菜? あぁ、それなら……」

せつ菜 「わ、私がなにか……?」

197: 2021/02/11(木) 18:23:50.68 ID:F+U1m/vI
せつ菜がひょっこり顔を出すと、千歌の瞳がキラキラと輝く。


千歌 「わぁぁぁぁ!!! せつ菜ちゃん、本物だ! これはもうキセキだよー!!」

善子 「なによ、千歌この人のこと知ってるの?」

梨子 「何言ってるのよっちゃん!? あのせつ菜さんだよ!?」

曜 「麻雀やってるのにせつ菜ちゃんを知らないって……善子ちゃんらしいといえばらしいけど」


せつ菜はただ、三人の勢いに圧倒されていた。


千歌 「私は高海千歌! 浦の星女学院で、麻雀部の部長をやってます!」


千歌に続いて、曜と梨子が自己紹介をする。善子も含め、全員が麻雀部の部員だった。

198: 2021/02/11(木) 18:26:09.08 ID:F+U1m/vI
曜 「善子ちゃんの配信を見てたら、せつ菜ちゃんが映ってて、慌てて飛んできたんだ」

千歌 「私たち、せつ菜ちゃんの大会の配信を見て、麻雀を始めたんです!」

せつ菜 「…っ」


せつ菜の脳裏をよぎったのは、侑の言葉。


侑 『はじめまして! あのっ、私せつ菜ちゃんの対局を見て大ファンになって、それで麻雀を始めて!!』


せつ菜 「…………ありがとう、ございます」


千歌が盛り上がっている最中、善子はせつ菜の動画をスマホで検索して見ていた。せつ菜を見る目が、一瞬にして尊敬の眼差しに変わる。

199: 2021/02/11(木) 18:28:00.77 ID:F+U1m/vI
千歌 「あの、もしよかったら対局しませんか?」

せつ菜 「……ごめんなさい。きっと、みなさんが期待しているような麻雀は打てませんから」

曜 「もしかして炎、あれ以来……」

せつ菜 「…はい。知ってたんですね」

善子 「えっ、何かあったの?」

せつ菜 「あの大会の日。私の炎は尽きたんです。もう二度と、あのように熱い麻雀は打てません」


せつ菜 「……それでも、私と打ちたいですか?」

千歌 「え? うん、もちろん」

せつ菜 「へ?」


千歌は「当たり前じゃん」と言いたげな目で、首を傾げた。予想外の返答に、思わず変な声が出るせつ菜。

200: 2021/02/11(木) 18:29:32.54 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「ど、どうしてですか? さっきも言いましたが、私はもう炎が…」

千歌 「そんなの関係ないよ。私たちはあなたと打ってみたい。それだけだよ」

せつ菜 「……っ」

千歌 「ほら、行こいこ!!」

せつ菜 「えぇっ!? ちょっと、行くってどこへ!?」

千歌 「部室!! 雀卓そこにしかないから!!」

せつ菜 「へぇっ!? ま、待ってください~!!」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

201: 2021/02/11(木) 18:30:56.46 ID:F+U1m/vI
~部室~


善子 「……はぁ、やっぱり私の負けね」

曜 「四人でじゃんけんして一発負けって、ある意味才能だよね善子ちゃん」

善子 「う、うっさい!」

梨子 「そんなに怒らないでよっちゃん。この半荘が終わったら代わってあげるから」


じゃんけんの結果、せつ菜と打つのは千歌、曜、梨子の三人に決まった。


《対局開始》
東家:せつ菜 南家:曜 西家:千歌 北家:梨子


東一局、せつ菜の親。ドラは五

202: 2021/02/11(木) 18:33:04.42 ID:F+U1m/vI
1巡目──。

善子(な、何よこれ……)


せつ菜の配牌を後ろで見ていた善子は、血の気が引くのを感じた。


せつ菜 配牌
二三四五六23678❷❸❹ ツモ:五


せつ菜 「……リーチ」 打:六

千歌 「お、親のダブリー!?」


善子(何が『炎は尽きた』よ。配牌で高目三色のテンパイ。しかもドラドラ……)

曜(これがあの…“優木せつ菜”の麻雀っ!)

203: 2021/02/11(木) 18:35:09.93 ID:F+U1m/vI
……しかし、違和感は徐々に他の三人も感じることとなる。


16巡目──。

せつ菜 「……。」 打:7

善子(うぅ、もう! いつになったらツモれるのよ! ていうか、2-5くらいなら他家から出てもおかしくないでしょう!?)


千歌 「…あっ、ツモ!」

千歌 ツモ
八八八789❶❷❸❻❼❾❾ ツモ:❽
ツモのみ / 300-500


善子 「あっちゃー、せっかくの倍満まで届くダブリーだったのに」

せつ菜 「…これも、麻雀のイタズラですね」

曜 「え?」

204: 2021/02/11(木) 18:37:14.10 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「こんな手が入ったのも、麻雀のちょっとしたからかいなのかも知れません。善子さん、王牌を捲ってみてください」

善子 「王牌を?」


善子は残った卓上に残された王牌を捲る。


善子 「えぇっ!?」

王牌
25四5❽西南2
52四❶5東發2

せつ菜 「…やっぱり」

善子 「そんな…待ちの2-5が、全部埋まってる…」


──せつ菜の麻雀は、見るに堪えないほど、酷い有様だった。
後ろで観戦していた善子の顔が、局が進む事に引きつっていく。

205: 2021/02/11(木) 18:39:56.18 ID:F+U1m/vI
東三局、千歌の親。ドラは❷


9巡目──。

せつ菜 手牌
一三五六七13❸❹❺❻❼ ツモ:❼


善子(一三と13のカンチャン選択ね。どっちを落とすか……)

せつ菜 打:三

善子(一三を落としにいったわね。でもこの流れだと、多分……)


次巡──。

せつ菜 手牌
一五六七13❸❹❺❻❼❼ ツモ:二


せつ菜 「…っ! くっ……!」 打:二

206: 2021/02/11(木) 18:42:37.55 ID:F+U1m/vI
善子(やっぱり裏目。東一局からずっとこう。結果論と言えばそうだけど……)


次巡──。

せつ菜 手牌
一五六七13❸❹❺❻❼❼ ツモ:四


善子(…っ! また裏目。こうも続くとさすがに…)

せつ菜 打:四

千歌 「……ロン」

善子(あぁっ…親への放銃。よりによって……)


せつ菜 「……幻滅したでしょう?」

善子 「え……?」

207: 2021/02/11(木) 18:45:21.13 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「炎を失った今、私は力も運も、全部無くしてしまったんです」

善子 「…自分のことを不運だって言ってたのは、そういうことだったのね」

せつ菜 「もうあの頃のように、強くて熱い麻雀は打てません」


せつ菜 「──優木せつ菜は、もういないんです」


千歌 「せつ菜ちゃん…」

せつ菜 「だから同好会を離れて、ここまで旅に出たんです」

曜 「どうして沼津だったの?」

せつ菜 「私の象徴は“炎”でした。だからその正反対である“海”の近くでなら、新しい私が見つかると思ったんです」

208: 2021/02/11(木) 18:48:35.72 ID:F+U1m/vI
千歌 「新しいせつ菜ちゃん……」

せつ菜 「みんなが期待している“優木せつ菜”の麻雀が打てなくても、新しい自分のスタイルが見せられればと」


せつ菜 「でも結局、“優木せつ菜”に一番固執していたのは、私自身だったんです」


善子 「せつ菜……」

せつ菜 「あの頃のような麻雀が打ちたい……。でももうそれは…っ……二度と叶わないっ!!」

せつ菜 「もう強くもなんともない…っ!! 魅せる麻雀も打てない…っ!!」

せつ菜 「だんだん、自分がどうしたいのか分からなくなってきたんです。…それにもう、私は麻雀に向いてないんじゃないかって…………」

209: 2021/02/11(木) 18:50:52.88 ID:F+U1m/vI
千歌 「…………私ね」

せつ菜 「…?」

千歌 「私、せつ菜ちゃんの対局を見て、麻雀を始めたって言ったよね」

せつ菜 「…はい。ですが、もうあの炎は」

千歌 「炎に魅せられた訳じゃない。あぁいや、もちろんそれも凄かったけど…」


千歌 「せつ菜ちゃんの姿を見て、“楽しそうだなぁ”とか、“やってみたいなぁ”って。素直にそう思ったんだ」

せつ菜 「楽しそう…?」

千歌 「自分に向いてるか、とか。どうでもよかった。ただただ、麻雀を打ってみたくなった」

曜 「何かにハマると千歌ちゃん、誰も抑えられなくなるから」

210: 2021/02/11(木) 18:53:56.42 ID:F+U1m/vI
梨子 「本当。いつも振り回されっぱなしなんだから」

千歌 「…私ね、ずっと麻雀を打っても、せつ菜ちゃんみたいに炎が出たり、彼方ちゃんみたいに夢を見せたり、そういう特別なことは何も出来なかった」

せつ菜 「そうでしたか……」

千歌 「でもね、麻雀を始めたこと、後悔なんてしたこと一度もない」

せつ菜 「え…?」

千歌 「麻雀を始めたからこそ、今こうやってみんなに出会えてる。こんなに素敵な時間を過ごせてる」


千歌 「私今……最っ高に楽しいんだ!!」

せつ菜 「っ…!」

211: 2021/02/11(木) 18:59:08.49 ID:F+U1m/vI
『私の夢は、麻雀の楽しさを多くの人に知ってもらうことです』


せつ菜(……そうだ。私も最初はそれで十分だった。なのに、どうして)

曜 「ねぇせつ菜ちゃん、知ってる? 最近虹ヶ咲学園の同好会が、新しい試みを始めてること」

せつ菜 「いえ…距離をとるようにしてましたから」

曜 「ほら見て。動画投稿サイトに、毎日アップされてるんだよ、対局動画」

せつ菜 「対局動画……ですか」


曜のスマホに映し出されたのは、懐かしい面々。
それに、新たな仲間たち。

212: 2021/02/11(木) 19:05:15.43 ID:F+U1m/vI
かすみ『やっほ~! みんなのプリンセス、中須かすみで~す!!』

愛『今日はアタシとりなりー、歩夢とかすかすで対局していくよー!』

かすみ『ちょっと! かすかすって呼ばないでくださいって何度言えば…!!』


せつ菜 「みなさん…」

梨子 「すごく楽しそうね、この子たち」

曜 「大人気なんだよ。今ではファンクラブなんかもあるみたいで…」


かすみ『今日もみなさんに、楽しい麻雀をお届けしますよ~!!』


せつ菜 「…っ! かすみさん……」

213: 2021/02/11(木) 19:09:17.11 ID:F+U1m/vI
かすみの言葉で、せつ菜はハッとする。


せつ菜(…そうでした。私はかすみさんに。想いを受け継いで欲しいと言っておきながら)

せつ菜(…私自身が、その事を忘れていました)


──期待されることは、嬉しかった。

だけどいつの間にか、それが全てになっていた。

自分が大好きだった麻雀を楽しむことが、二の次になっていた。


せつ菜 「……もう“優木せつ菜”に、こだわらなくていいんですね」


せつ菜 「私は、私が楽しくなれる麻雀を打ちます。そしてこの“大好きの気持ち”がいつか、みんなに届くように」

214: 2021/02/11(木) 19:12:25.37 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「そんな麻雀が打てる私に、生まれ変わるんです!!」

千歌 「せつ菜ちゃん…」


せつ菜 「ありがとうございます…みなさん。おかげで気付くことが出来ました。なりたかった私に」

曜 「違うよ。気がつけたのは、せつ菜ちゃんの熱い想いがあったからこそだよ」

せつ菜 「曜さん…」


千歌 「…ねぇ、海に潜ってみない?」


せつ菜 「えっ、海…ですか?」

千歌 「うん。新しい自分を見つけるには、うってつけの場所だと思う。今まで見たことのない景色を、見せてあげるよ」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

215: 2021/02/11(木) 19:16:02.19 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「うわぁっ……!! なんですかこれ…!」

曜 「綺麗でしょ? 沼津に来たんなら、海には入らないと」


始めて潜った海。そこはまさに新世界だった。


せつ菜(…感じる。全身で波の動き、勢いを)

せつ菜(これが…潜るという感覚。やっぱり、ここに来て正解でした)

せつ菜(ここでなら、新しい私がきっと…!)


水面に顔を出した五人は、自然と笑いあっていた。


梨子 「…ねぇ、せつ菜ちゃん。海から出たら、もう帰っちゃうの? 虹ヶ咲に」

せつ菜 「いえ、もう少しここに残ろうと思います。ここで新しい私を…なりたかった私を探したいんです」

千歌 「…そっか」

216: 2021/02/11(木) 19:20:29.92 ID:F+U1m/vI
せつ菜 「それにもう、私は“優木せつ菜”ではありませんよ」

善子 「どういうこと?」


せつ菜は大きく息を吸って、空へと向かって吠える。


「私は──中川菜々ですっ!!!」


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ーーーー
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つづく

217: 2021/02/11(木) 19:24:46.97 ID:F+U1m/vI
【キャラクター紹介.6】

優木せつ菜

『自身に与えられる幸運を、前借りする』能力。


道で100円玉を拾う、駅に着いた瞬間電車が来る。そういった、将来自分に訪れる小さな幸運を、今自分が打っている麻雀に使うことが出来る能力。

能力名だけ聞くと麻雀以外にも使えそうだが、対局中以外に行使できないようになっている。

前借りなので、もちろん使った分だけ将来自分に訪れる幸運は少なくなる。前話、散々な目にあっていたのもこの為である。

能力を行使すると、自身の運が炎として具現化し、手役の高さに応じて炎の勢いも変わる。


尚、使った運は『優木せつ菜として生きた場合』の運であるため、中川菜々として生きることを選んだ後、運は人並みに戻っている。

218: 2021/02/11(木) 19:29:03.05 ID:F+U1m/vI
次回 第7話『能力、それは適性か』

223: 2021/02/12(金) 21:05:49.82 ID:zIfTu9pN
【第7話】『能力、それは適性か』


~夜 エマの部屋~

エマ 「それでね、毎日麻雀の対局配信をすることにしたんだ。一ヶ月続けたら、どんどん視聴者さんが増えてきたんだよ」

果林 「そう、良かったわね」

エマ 「麻雀のイメージを変えて、楽しさを広める。それが同好会の新しい目標なんだ」

果林 「…楽しさ、ね」


果林 「麻雀を心から楽しめるのは、勝てる人だけよ」

エマ 「えっ…?」

224: 2021/02/12(金) 21:06:52.16 ID:zIfTu9pN
果林 「同好会の子たちは、確かにみんな強いわ。それは配信を見てればわかる」

エマ 「うん。みんな毎日勉強してるから」

果林 「勉強…ね。あの子たちの強さは、生まれ持ったもののように見えるけど?」

エマ 「そんなことないよ。かすみちゃんだって、最初は全然勝てなかったけど…」

果林 「そういうことじゃないの。視聴者の人がそう感じるってことよ」

エマ 「視聴者の人が?」

果林 「あの圧倒的な強さを見て、果たしてどれだけの人が『私もやってみたい』と思うかしら?」

225: 2021/02/12(金) 21:08:07.27 ID:zIfTu9pN
果林 「“私みたいに”弱い人はね、あなた達みたいに麻雀を楽しめないのよ」

エマ 「そんなこと……ない」

果林 「いつか分かるわ。弱い人の気持ちに、少しは寄り添ってみなさい?」

エマ 「…果林ちゃん、同好会に入ってみない?」

果林 「遠慮しておくわ」

エマ 「果林ちゃん……」


果林 「麻雀に嫌われている私が入ったら、みんなに迷惑でしょう?」


ーーーーーー
ーーーー
ーー

226: 2021/02/12(金) 21:09:08.84 ID:zIfTu9pN
かすみ 「あ…………あぁ………」

愛 「ぶちょー、どうしたの? 扉の前でそんなに項垂れて」

璃奈 「早く入ろう。麻雀、打ちたい」

かすみ 「愛先輩、りな子……見て……」

愛 「見るって何を……」

璃奈 「あれっ? 麻雀同好会のプレートが、無くなってる」

愛 「本当だ!? まさか盗まれた…?」

227: 2021/02/12(金) 21:09:53.53 ID:zIfTu9pN
璃奈 「あ、扉に紙も貼ってある。えっと……」


璃奈 「はいぶ、つーちしょ」

愛 「ハイブツーチショ?」


「「廃部通知書ーーーっ!!!?!?」」


ーーーーーー
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ーー

228: 2021/02/12(金) 21:11:01.20 ID:zIfTu9pN
~生徒会室~


栞子 「…なんですか。勢揃いで」

かすみ 「なんですかはこっちのセリフです!! なんですかこの通知書!!」

栞子 「見ての通りですが」

侑 「どうしてですか? 賭け麻雀は辞めさせましたよ? そしたら廃部は撤回するって……」

栞子 「そうですね。確かに賭け麻雀は無くなったと、報告を受けました」

しずく 「ならどうして…!?」

栞子 「あなた方の“自作自演”である可能性が捨てきれないからです」

侑 「自作自演……?」

229: 2021/02/12(金) 21:11:54.32 ID:zIfTu9pN
栞子 「あなた方が賭け麻雀を行っていて、私たちに警告されたタイミングで辞めた。その可能性もあるということです」

侑 「そんな……」

栞子 「実際、私が警告をしてすぐ、賭け麻雀が無くなったと報告を受けました。あまりにも出来すぎです」

かすみ 「かすみん達が辞めさせたんです! 嘘なんかついてません!」

栞子 「ですがその可能性を否定出来ない以上、麻雀同好会を残すのは危険だと、職員会議及び生徒会で判断しました」

歩夢 「そんな……っ」

栞子 「それと、これは回収させて頂きました」


栞子が奥から取り出したのは、愛と璃奈が空き教室で使っていた雀卓と牌であった。

230: 2021/02/12(金) 21:13:18.04 ID:zIfTu9pN
愛 「っ…!! 返して!」

栞子 「返せ? つまりこれはあなたのということですか?」

栞子 「この雀卓は、校内で賭け麻雀が行われていた証拠として、被害者の報告を元に差し押さえたものです。これがあなたのだということは…」


栞子 「賭け麻雀をしていたのは自分だ、と認めたことになりますが?」


愛 「ぐっ……」

栞子 「校内で賭博行為など、言語道断。即刻停学か、最悪の場合退学も考えられます」

璃奈(愛さん……)

栞子 「賭け麻雀をしていた人物が名乗り出れば、同好会への疑いも晴れ、廃部も撤回となりますが」

愛 「…………私は…」

231: 2021/02/12(金) 21:15:00.82 ID:zIfTu9pN
侑 「愛さん、ダメだよ」

愛 「えっ…」


いくら同好会のためとはいえ、愛が退学になるかもしれない判断をさせるわけにはいかない。

その意志を伝えるために、侑は愛の袖を強く掴んだ。


栞子 「…それに、あなた方は麻雀同好会に籍を入れておくには勿体ないのです」

彼方 「勿体ない?」

栞子 「愛さん、あなたの身体能力は、ほとんどの運動部が喉から手が出るほど欲しがっています」

栞子 「璃奈さんも。コンピューター研究部から何度も勧誘を受けていると聞いています」

璃奈 「…………。」

232: 2021/02/12(金) 21:16:36.71 ID:zIfTu9pN
栞子 「あなた方にはそれぞれの適性があります。適性が無いことを続けるより、各々に適したことに努めるべきです」

歩夢 「適性が無いこと……?」


栞子 「あなた方には、麻雀の適性がないということです」


かすみ 「適性が無い…? そんなことないです! かすみん達は麻雀が大好きで、毎日頑張って勉強もしています!」

侑 「そうだよ! それにみんなには、特別な力だって…」

栞子 「特別な力……。だからこそ、ですよ」

エマ 「だからこそ?」

栞子 「“能力”があることが、適性の無い理由なんです」

233: 2021/02/12(金) 21:18:23.65 ID:zIfTu9pN
愛 「何言ってるの? 能力があるってことは強いってこと。強いってことは適性があるって事じゃん」

栞子 「……分かっていませんね。ならば教えて差し上げます」


栞子は、空き教室から押収した雀卓を、同好会メンバーの前に置いた。


愛 「…会長さんも打てるの?」

栞子 「えぇ。適性があるのなら、私くらいには勝てますよね?」

愛 「もちろん。それに一対三だよ? 大丈夫なの?」

栞子 「はい、十分です」

愛 「……言ってくれるじゃん」


かすみ 「うぅー…なんだかムカムカしてきました。愛先輩、かすみんも打ちます!」

彼方 「今回は彼方ちゃんにも打たせて。同好会を守るために、頑張っちゃうよ~」

栞子 「…決まりましたね。それでは始めますか」

234: 2021/02/12(金) 21:19:55.22 ID:zIfTu9pN
《対局開始》
東家:愛 南家:栞子 西家:かすみ 北家:彼方


東一局、愛の親。ドラは❾


愛(よしっ! カナちゃんの向かい側に会長が座った! もう貰ったも同然だね…)

彼方(じゃあ手始め国士無双の夢から……!)


栞子 「……あの、早く切っていただけませんか?」

愛 「えっ、あぁ…ごめん」 打:南

彼方(……えっ? 夢に堕ちない…?)

かすみ(まさか、本当に国士無双を狙ってる? 侑先輩の時みたいに……)

235: 2021/02/12(金) 21:20:59.01 ID:zIfTu9pN
彼方(まさか、ね……。でもみんな、気をつけて)

かすみ(よーし、ならかすみんの炎で一気に決めちゃいますよ!!)


かすみがツモる牌に力を込めるが、火花のひとつすら出ない。


かすみ(…ど、どうして)

愛 「……何かした? 会長さん」

栞子 「……えぇ。これは私の能力」


栞子 「『能力を消す』という能力です」

236: 2021/02/12(金) 21:22:13.90 ID:zIfTu9pN
彼方 「そんな…」

愛 「すっごい能力じゃん。でもそれなら純粋な実力勝負。毎日打ってるアタシたちの方が上手だって!」

かすみ 「そ、そうですよ! 炎に頼らなくても、かすみんは強いんです!!」

栞子 「……だといいですね」


9巡目──。

栞子 手牌
六七七八八678❸❺❻❼❽ ツモ:❹


侑(いい手が入ってる。678の三色か…)

栞子 打:七

しずく(五-八 待ちのテンパイですね。でもリーチはせずダマですか)

238: 2021/02/12(金) 21:23:42.38 ID:zIfTu9pN
次巡──。

栞子 手牌
六七八八678❸❹❺❻❼❽ ツモ:❾


侑(ドラの❾引き。難しいところだけど、待ちを広く受けるなら……)

栞子 打:八

しずく(頭待ちの三面張ですね。❸-❻-❾で、❾が出れば三色のドラドラで満貫……)


次巡──。

栞子 手牌
六七八678❸❹❺❻❼❽❾ ツモ:7


侑(これはツモ切りだね)

240: 2021/02/12(金) 21:25:24.44 ID:zIfTu9pN
栞子 「リーチ」 打:❾

しずく(っ、ドラ切りリーチ!? ドラも三面張も捨てて、タンヤオの7単騎……どうしてそんな……)


次巡──。

栞子 「…………。」

侑(ま、まさか……)

栞子 「…ツモ。3000-6000」


栞子 ツモ
六七八6778❸❹❺❻❼❽ ツモ:7
リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・三色同順 / 3000-6000

241: 2021/02/12(金) 21:27:19.45 ID:zIfTu9pN
かすみ 「な、なんですかその待ち!? ❾を残せば三面張リーチだったじゃないですか!」

愛 「まさかとは思うけど……積み込み?」

栞子 「そんなイカサマ有り得ませんよ。ただ、あなた方三人の手牌を考えれば、7が一番ツモれると判断したまでです」

彼方 「彼方ちゃん達の手牌を……?」


栞子 「そうですね、まずは愛さん」

栞子 「早めに8を落として迷彩をかけにいきましたね。テンパイ直前に四を切っているので、一見五-八が怪しく見えますが、牌を切った時の勢いの強さから見て、四は最後まで残したブラフ」

愛 「な、何言って……」

栞子 「テンパイの3巡前、手出しの2。ツモった牌は2のあった場所の4つ隣に入れました。ピンズをツモったと判断するべきですが」

242: 2021/02/12(金) 21:29:11.04 ID:zIfTu9pN
栞子 「あなたは4巡目に❺を切っています。ピンズは早々に伸びないと踏んでいます。つまりあのときのツモは5が濃厚。2を切ってを5入れたということは」

栞子 「345の三色、もしくは345の一盃口でしょうか」

愛 「うっ……」

栞子 「つまり早めの四切りや、あなたの性格を踏まえて考えると、待ちはピンズの端か……いやそれよりも、四のスジが濃厚でしょう」


愛 最終手牌
一三四五334455東東東


栞子 「逆にかすみさん。あなたは捨牌が素直すぎます。見え見えの混一色手。問題は待ちだけですが、手出し位置でそれも明白。❸-❻待ち」


かすみ 最終手牌
❶❷❸❹❺❾❾❾南南西西西

243: 2021/02/12(金) 21:32:06.55 ID:zIfTu9pN
栞子は、牌を透かすかのように、全員の手牌の傾向を言い当てた。


栞子 「結局、山に残っているのは❸-❻-❾よりも7。他の全員も、7をツモれば、切るか手を崩すしかありません。ならばあの局面、❾切りリーチが最善手です」

愛 「……そんな…」

彼方(ダメだ……。これ以上打たなくても、感覚で分かる)


──完敗だった。

その対局で、栞子以外の三人のうち一人として、ロンもツモも宣言させて貰えなかった。

栞子の、完全試合だった。

244: 2021/02/12(金) 21:34:00.79 ID:zIfTu9pN
栞子 「……これで分かりましたか? 能力を失えば、この有様。適性がないというのはそういう事です」

栞子 「力があるが故、自然とその力に頼ってしまう。その支えがなくなった瞬間、あとは総崩れです」


歩夢 「…………それでも」


栞子 「…?」

歩夢 「それでも私たちは、麻雀が大好きなんだよ」

栞子 「……。」

歩夢 「たしかに栞子ちゃんの言う通り、私たちは力に頼ってきたかもしれない。それでも……」

歩夢 「私たちは、麻雀を続けたい…」

245: 2021/02/12(金) 21:36:13.11 ID:zIfTu9pN
栞子 「……どうして能力持ちは、みんな同じことを言うのでしょうか」

歩夢 「えっ?」

栞子 「能力は……あなたたち自身まで変えてしまう、恐ろしい力なんです…! あなた達は、今すぐ麻雀を辞めるべきです!!」

侑 「私たち自身を変える…? それ、どういう意味?」

栞子 「…知る必要はありません。もう同好会は廃部になり、あなた方が麻雀を打つことはありませんから」


愛 「…………会長さん」


栞子 「はい?」

246: 2021/02/12(金) 21:38:51.77 ID:zIfTu9pN
愛 「賭け麻雀の犯人が名乗り出て…認めれば、同好会の廃部は無くなるんだよね?」

侑 「…っ!?」

栞子 「…約束はできません。先生方が認めれば、その可能性があるというだけて…」

愛 「可能性があれば十分だよ」

侑 「愛ちゃん、何考えてるの!? そんなことしたら…!!」

愛 「いいんだよ、これで。元はと言えばアタシが全部悪いんだから」

歩夢 「そんな…違う! 愛ちゃんは、皆のことを想って…!」

愛 「理由がどうであれ、これが結果。……ごめんね、迷惑かけちゃって」

247: 2021/02/12(金) 21:40:34.47 ID:zIfTu9pN
栞子 「……認めるんですね?」

璃奈 「愛さん…っ、ダメ…!」

愛 「大丈夫だよりなりー。りなりーのことは誰にも言わないから」

璃奈 「違う…そうじゃない…。私は愛さんにいなくなってほしくない…!」

愛 「…ごめんね。でも、これはアタシなりの恩返しなんだ」

璃奈 「恩返し…?」

愛 「…大嫌いだった麻雀。その楽しさに気付かせてくれた、同好会のみんなへの恩返し。今アタシに出来ることは、これしかないから」


愛は、自分の袖を掴んでいた璃奈を振りほどき、栞子の前へと、大きく一歩を、踏み出した。


ーーーーーー
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ーー

つづく

248: 2021/02/12(金) 21:42:24.09 ID:zIfTu9pN
【キャラクター紹介.7】

近江彼方

『対面に役満の夢を見せる』能力。


役満の夢を見せられた者は、それがどんな手牌であっても、その役満を目指せると錯覚する、あるいは牌そのものが違う牌に見える。

よって捨牌判断が狂い、通常であれば切らない牌でも切ってしまい、手が崩れる上に放銃率も上がる。

発動条件は、彼方と目を合わせること。能力詳細の通り、対面にしか使えない。

対抗策としては、カンするなり場に捨てるなりして、見せられた役満に必要な牌を全て晒し、その役満の可能性をゼロにする。そうすると、夢から覚めることが出来る。


自分を強くする訳でもなく、他人を陥れるだけのこの能力が、彼方はコンプレックスだった。

尚、能力を使うとどんどん眠くなる。
使いすぎると卓の上で三時間くらい寝る。一度寝ると本当に動かないので、その日は三麻しか出来なくなる。

249: 2021/02/12(金) 21:44:15.96 ID:zIfTu9pN
次回 最終話『力ある者、適性なき者』

250: 2021/02/12(金) 21:46:21.54 ID:zIfTu9pN
明日は更新お休みさせていただきます

2ed Seasonも最終話です。よろしくお願いします

255: 2021/02/14(日) 13:11:04.21 ID:KntVYoFE
【最終話】『力ある者、適性なき者』


栞子 「……認めるんですね?」

愛 「うん。……私が…」


「待ちなさい!!!」


愛 「っ!?」

侑 「えっ!?」


突然生徒会室に現れたその人物は、校内中に響き渡るかのような大声で、そう叫んだ。


?? 「…私よ。賭け麻雀をしてたのは」

愛 「え…?」

256: 2021/02/14(日) 13:12:29.22 ID:KntVYoFE
栞子 「あ…あなた……」

侑 「? 会長さん、知ってる人?」

栞子 「……どうして、ここにいるんですか? ランジュ!!」

ランジュ 「栞子! 久しぶり!」

歩夢 「ランジュ……さん?」

栞子 「どうしてこんな所に……香港に行っていたのでは?」

ランジュ 「事情があってね。日本に帰ってきたの。ミアを連れてね」

ミア 「…Hello」

257: 2021/02/14(日) 13:13:12.05 ID:KntVYoFE
栞子 「本当に、いつも勝手と言うか……連絡くらいくれてもよかったではないですか」

ランジュ 「ごめんごめん! 同好会の子たちに会いたくて、急いで飛んできたものだから」

しずく 「私達に?」

ランジュ 「えぇ。なのに早々、ピンチな感じだったから。助けに来たのよ」

愛 「あの…なんで自分から罪をかぶりに…」

ランジュ 「言ったでしょ。あなた達に会いに来たって。それなのに愛、あなたが退学になったら意味ないじゃない」

愛 「でも、それであなたが退学になったら…!」

ランジュ 「その点は心配いらないわ。ね、栞子?」

258: 2021/02/14(日) 13:14:26.96 ID:KntVYoFE
栞子 「……そうですね」

歩夢 「どういうこと?」

栞子 「彼女…ランジュは、この学園の理事長の娘なんです」

かすみ 「えぇっ!?」

ランジュ 「つまり先生方も、賭け麻雀の犯人が理事長の娘となれば、揉み消す方向に動くはずよ」

侑 「そんな、無茶苦茶な…」

栞子 「…ですが事実、そうなるでしょうね。職権乱用と言えばいいのか…」

彼方 「でもでも、これで愛ちゃんの退学はなくなったんだよね!!」

ランジュ 「えぇ! だから安心しなさい!」

歩夢 「ありがとう…って言っていいのかな。でも、どうしてそこまでして私たちのことを?」

259: 2021/02/14(日) 13:15:25.80 ID:KntVYoFE
ランジュ 「あなた達、ネットに動画をアップしてたでしょ。それで興味を持ったの!」

エマ 「ということは、あなたも麻雀を?」

ランジュ 「こう見えてもかなり上手いのよ。あなた達はまさに、磨けば光る原石! 居てもたってもいられなくって、飛んできちゃったのよ」

しずく 「す、すごい行動力です……」

侑 「でもよかったよ。これで同好会の廃部も免れたし、新しい仲間も……」


ランジュ 「いえ、同好会は廃部よ」


侑 「……え?」

260: 2021/02/14(日) 13:16:23.80 ID:KntVYoFE
彼方 「どうして? 同好会に入るために来たんじゃ」

ランジュ 「違うわ。ランジュはあなたたちの可能性を磨きに来たのよ。そのために…」

ランジュ 「麻雀部を設立したのよ!」

かすみ 「ま、麻雀部!?」

ランジュ 「そう。そこにプロとして活動してる雀士を呼んだり、最新の設備を配置したりして、あなた達がより麻雀が強くなるようにプロデュースするのよ!」

しずく 「なんだか、すごいですね…」

かすみ 「でもそうなったら、かすみんの部長の座はどうなるんですか!」

ランジュ 「もちろん、部長はかすみのままでいいわよ。あなたは誰よりも才能があるんだから」

かすみ 「えぇっ、本当ですか~?」

261: 2021/02/14(日) 13:17:44.67 ID:KntVYoFE
侑 「部になるのかぁ。部費も上がるだろうし、そんな凄い設備を置けるなら、すごくいい話だよね! ランジュちゃん、これからよろし…」


ランジュ 「いえ、あなたはダメよ」


侑 「だ、ダメ?」

ランジュ 「さっきも言ったでしょ。ランジュは才能のある人材を磨きに来たの。才能のない人に割く時間はないの。それに労力の無駄」

歩夢 「無駄…っ!?」

愛 「ちょっと、そんな言い方…!」

ランジュ 「部は、お互いの雀力を磨き合う場にするのよ。麻雀は強さが全て」

エマ 「強さ……」

ランジュ 「麻雀は四人で対戦するゲーム。だけど同時に、全員が卓を成立させる“協力者”でもあるのよ」

262: 2021/02/14(日) 13:19:18.75 ID:KntVYoFE
ランジュ 「真剣勝負の場を、弱者に乱されたら、堪らないでしょ?」

歩夢 「…ランジュちゃんの言うことも正しいかもしれない。でも私たちは、楽しく麻雀を打つのが一番の目標なんだ」

愛 「そうだよ。強さだけを目標にして、弱い人を排除していくやり方なんて……楽しくない」

ミア 「…ふんっ。“楽しい”なんて感情、勝負の場においては異物だよ」

栞子 「ミアさん…」

ミア 「ランジュが同好会の配信を見せてきたけど、正直腹が立った。勝負を履き違えてる」

侑 「履き違えてるって…?」

ランジュ 「ミアの家は、生粋のギャンブラー一家なの。かつてとあるカジノで、伝説と称された男の血を継ぐ、それがミア」

263: 2021/02/14(日) 13:20:54.06 ID:KntVYoFE
ミア 「ボク自身も、ある程度名の知れたポーカープレイヤーなんだよ。まぁこんな田舎じゃ、知らない人がほとんどだろうけど」

ランジュ 「小さい頃から勝負の場で育った彼女から、教わることは多いはずよ。あなた達も部に…」


歩夢 「…嫌だ」


ランジュ 「えっ?」

歩夢 「嫌だ。私は部には入らない」

愛 「そうだね、アタシも同じ意見だよ」

ランジュ 「ど、どうして!? 強くなりたくないの?」

彼方 「もちろん、強くはなりたい。でも、彼方ちゃん達とあなた達とでは、目指してるものが違うんだと思う」

264: 2021/02/14(日) 13:22:35.00 ID:KntVYoFE
ランジュ 「…分からないわ。強くなりたいなら、こっちの環境の方が圧倒的に…」

しずく 「どんなに環境が良くても、みんなで一緒にいられないなら意味がありません」


栞子 「……残念ですがランジュ、これでは部の設立に人数が足りません」

ランジュ 「何人必要なの?」

栞子 「最低でも三人です」

ランジュ 「なーんだ、それなら足りてるじゃない!」

栞子 「足りてる? ランジュにミアさん、二人では…」

ランジュ 「ふふっ、もう一人は既に確保してるのよ」


?? 「……呼んだかしら」

265: 2021/02/14(日) 13:23:36.66 ID:KntVYoFE
エマ 「…っ! 果林ちゃん…!?」

果林 「私が麻雀部の三人目よ。これで人数は足りたわね」

ランジュ 「遅いじゃない果林! 急いで生徒会室に来てって言ったでしょ?」

果林 「ゴメンなさいね。色々あって……」

ランジュ 「何はともあれ、これで三人。麻雀部の設立、認めてくれるわよね?」

栞子 「……仕方ありませんね」

ランジュ 「そういうわけだから! そして部と同好会で内容が被った以上、同好会は廃部よ」

かすみ 「そんな! 勝手過ぎますっ!!」

266: 2021/02/14(日) 13:25:31.83 ID:KntVYoFE
ランジュ 「どうしても麻雀が打ちたいなら、麻雀部にいらっしゃい。いつでも歓迎するわ!」


ランジュ 「…………あなた以外は、ね」


ランジュは侑に向かってそう言うと、果林とミアと共に生徒会室から去って行った。


かすみ 「な、なんなんですかあの人っ!! 助けてくれたと思ったら、あんな酷い人だったなんて!」

栞子 「……申し訳ありません。みなさん」

侑 「会長さん…? どうして謝って…」

栞子 「…ランジュは元々、あんな人ではなかったんです」

彼方 「と言うと?」

267: 2021/02/14(日) 13:27:17.76 ID:KntVYoFE
栞子 「ランジュと私は幼なじみでした。小さい頃のランジュは優しく、思いやりのあるいい子でした」

栞子 「ランジュは父から教わった麻雀を私にも教えてくれて、よく一緒に打っていました」

栞子 「…そんなある日です。ランジュに、ある能力が発現したんです」

愛 「能力って……麻雀の?」


栞子 「…はい。『ツモる牌を意のままに操る能力』です」


かすみ 「なんですか、それ…」

268: 2021/02/14(日) 13:28:35.29 ID:KntVYoFE
栞子 「言葉のままの意味です。例えば…」


一一七九1289❼❽❾東北發


栞子 「開局時、親番の配牌がこうだったとします」

侑 「純全帯幺三色が見えるけど、カンチャンとペンチャンが多いね」

栞子 「はい。本来なら鳴きを駆使して進める手ですが、ランジュにその必要はありません」

栞子 「彼女が念じれば、思うように牌をツモることができます。つまり……」


一巡目
一一七九1289❼❽❾東發 ツモ:八 打:發

二巡目
一一七八九1289❼❽❾東 ツモ:3 打:東

三巡目
一一七八九12389❼❽❾ ツモ:7

269: 2021/02/14(日) 13:30:35.92 ID:KntVYoFE
しずく 「…こんなことが、本当に?」

栞子 「三向聴なら三巡。たとえ手が悪く、五向聴だったとしても、五巡あればアガってしまいます」

かすみ 「そんなに強い人だったんですね…」

栞子 「この能力を得てから、彼女は負け知らずでした。それこそ、彼女に麻雀を教えた父にさえも」

栞子 「ですがそんな麻雀が、彼女自身を狂わせ始めたんです」

エマ 「能力が人を…?」

栞子 「ランジュは牌と同じように、人も自分の意のままに動くと思い始めてしまったんです。…事実、彼女の周りの人間は、ランジュの言う通りに動いてましたから、そんな考えになってしまうのも無理もないことかもしれません」


侑 「能力が恐ろしい力だって言ってたのは、それが理由だったんだね」

270: 2021/02/14(日) 13:32:57.25 ID:KntVYoFE
栞子 「……能力は、呪いなんです」

歩夢 「呪い?」

栞子 「強力すぎるが故、その人自身を歪めてしまう…」

栞子 「あの頃のようなランジュに戻って欲しい。そんな想いが、私の『能力を消す』という能力を開花させたのかもしれませんね」

侑 「栞子ちゃん……」

栞子 「…喋りすぎました。申し訳ありません、私はこれで」


生徒会室から去ろうとする栞子の腕を、侑が力強く掴んだ。


侑 「……栞子ちゃん。私たちに、麻雀を教えて欲しい」

271: 2021/02/14(日) 13:34:48.77 ID:KntVYoFE
栞子 「…あなた、まだ麻雀を続けるつもりですか?」

侑 「もちろん」

栞子 「聞いていなかったんですか!? 麻雀の能力は、人を歪めるんです! そうならないうちに、あなた達は麻雀から足を洗うべきです!」

侑 「じゃあランジュちゃんを、あのまま放っておくの!?」

栞子 「っ…それは……」

愛 「…会長さん、知ってる? 人って、変われるんだよ」

栞子 「変われる…?」

璃奈 「私と愛さんを変えてくれたのは、他でもない同好会の人たち。きっと、ランジュさんだって変えてくれる」

273: 2021/02/14(日) 13:36:23.54 ID:KntVYoFE
エマ 「…取り戻したいんでしょ? あの頃のランジュちゃんを」

栞子 「っ……」

侑 「でも今の私たちじゃ、ランジュちゃんにはきっと適わない。だから私たちに、麻雀を教えて欲しい」

歩夢 「お願い、協力して欲しい! 同好会は、大切な場所なの…!」


栞子 「…本当に、取り戻せるんですか? あの頃を」


侑 「私たちならきっとできるよ。やろう、栞子ちゃん!」

栞子 「……っ」


──栞子は、さしのべられた手を、強く握り返した。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

274: 2021/02/14(日) 13:38:41.80 ID:KntVYoFE
【エピローグ】


──せつ菜ちゃん、久しぶり。高咲侑です。

今あなたがどこにいるか分からないから、この手紙を送ることは出来ないけど。

なんだか最近色々あったから、今の状況とか、気持ちとか。そういうのを色々整理するために、手紙を書きます。


私たちは今、打倒麻雀部を目指して、栞子ちゃんに麻雀の特訓をしてもらっています。

そんなことまで考えて打ってるの!? と驚いてばかりで、ついていけるか不安な毎日です。


……でも、頑張るよ。

せつ菜ちゃんから受け継いだ、『麻雀の楽しさを広める』、その夢を叶えるために。

275: 2021/02/14(日) 13:40:28.47 ID:KntVYoFE
だから、見守っていてください。

そしていつでも、あなたの帰りを待っています。


私たちも進み続けます。それぞれの想いを胸に、いつかみんなが楽しく、麻雀を打てるように。


侑 「……リーチっ!!」


──やっぱり私は、麻雀が大好きだ。


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276: 2021/02/14(日) 13:42:05.19 ID:KntVYoFE
【SS】愛 「開花宣言❁嶺上開花」
~2nd Season~

[完]

277: 2021/02/14(日) 13:43:36.99 ID:KntVYoFE
これにて2nd Season、完結です

お付き合いありがとうございました

次回、Final Seasonです。今しばらくお待ちいただければと思います

280: 2021/02/14(日) 14:19:48.91 ID:RAf4nrsF
乙乙
全体的に縛りの強い能力が多いし呪いと呼ばれても仕方ないな

282: 2021/02/14(日) 15:56:56.39 ID:rUC5iIoq
おつでした。ランジュの登場で驚いたけど、よく考えたら栞子がすでに会長だから出てきてもおかしくないんだった

>>281
能力がなくても麻雀は楽しめるということを示すために、あえて能力ない・使わないままでもいいのかもね
実際登場する能力なんてあっても麻雀自体は全く楽しくならなさそうだしw

281: 2021/02/14(日) 14:28:29.65 ID:LApw7c21
侑ちゃんがどうにかして勝ってランジュの目を覚まさせるっていうのが王道だろうけど京太郎ポジで能力目覚めなさそうだしなぁ
最終章をどう締めるのか楽しみ
>>219
歩夢みたく千歌以外は能力持ってるけど隠してそう

278: 2021/02/14(日) 14:09:18.50 ID:05+I/aP9
おつおつ!
Final Seasonも楽しみにしてるよ!

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1612522095/

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