【長編SS】穂乃果「うるせーババア!」

SS


1: 2015/08/03(月) 02:17:01.04 ID:wSzHfVWm0
海未「なんですかその態度は!!」

穂乃果「ふんっ、出掛けてくるね」

海未「待ちなさい!また悪い友達の所に行くんじゃないでしょうね!」

穂乃果「カンケーないでしょ!ふん!」

バタン

ことり「……また出て行ったの?」

海未「ううう、ことり……どうしてあんなに悪い子に育ってしまったんでしょう……」

ことり「……」


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2: 2015/08/03(月) 02:17:38.25 ID:wSzHfVWm0
凛「最近何だかしけてやがるにゃ……かよちん、あれ取ってよ、あれ」

花陽「どうぞ」

凛「すぅ~っ……ぷはーっ!……んん、これだよ!これ!」

真姫「またタバコ?あんたも飽きないわね」

凛「ふん…こんな時代、何もかもが気にくわないよ」

穂乃果「おーい、みんなぁ」

真姫「あら、穂乃果じゃない」

凛「穂乃果ちゃん、一本やる?」

穂乃果「うん、じゃもらうね……すぅ~っ……」

3: 2015/08/03(月) 02:18:16.56 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「ぷはぁ~!さいっこうだねぇ!」

凛「ノってきたにゃ~~!」

真姫「それじゃ、今夜もひとっ走り行きましょっか」

花陽「行こう行こう!」

ブルルルン!!

ブォンブォンブォ!!

ブウウウウウン!


穂乃果「ひゃあっほううう!!」


4: 2015/08/03(月) 02:19:04.53 ID:wSzHfVWm0
「前方のバイク!止まりなさい、止まりなさい!」

凛「け、ポリ公だにゃ」

真姫「面白いわ、チェイスといくわよ」

花陽「ぶっとばしますよっ!!」ギュルンギュルン

穂乃果「ひゃはあああ!」

ブウウウウウン!!


…………

穂乃果「ふぃ~~、遅い、遅い!簡単に振りきれちゃったね!」

花陽「やっぱり夜の道をぶっ飛ばすのは最高だねっ!」

凛「んん~、喉が渇いちゃったなぁ」

真姫「あそこのコンビニで何か買いましょ」

穂乃果「さんせー!」


5: 2015/08/03(月) 02:19:41.98 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「ん~~、何飲もっかな?」

凛「かよちん、お金持ってる?」

花陽「この前シメた子から貰った『慰謝料』があるよ、5万円」

真姫「ひゅぅ、最高ね」

穂乃果「酒でも買おっか、酒!」

凛「ラーメンも買おっと!」

花陽「おにぎり、おにぎり!」

穂乃果「よっと、じゃあこのくらいでいっか」

ドスン

「あ、あの、年齢確認のできるものを」

穂乃果「はぁ?持ってる?みんな」

凛「忘れちゃったにゃ~~」

真姫「あはは!」

ドンッ!

穂乃果「……ってなわけだよ、わかる?」

「は、は、はい……」

6: 2015/08/03(月) 02:20:14.71 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「あ~~、ちょろい、ちょろい、大人なんてザコばっかだよ」

凛「そうにゃそうにゃ」ズルズル

花陽「もぐもぐ」

真姫「お酒ちょうだい、こっちにも」

凛「はいよ」

穂乃果「はぁ~、だるいだるい……」

凛「何かあったの?」

穂乃果「うちのババア、うっさくて……今日もグチグチグチグチ……」

花陽「わかるよ~~、うちも同じ同じ」

穂乃果「私の人生なんだから、好きにさせてって感じだよね、あ~~……」

凛「ぷはーっ!おいしーっ!」



「……チッ」

穂乃果「……あぁ?何睨んでるわけ、オッさん?」ギロッ

「ひっ……」

花陽「調子乗ってるよね」

凛「ちょっとツラ貸すにゃ」

真姫「そんな汚いジジイ、ほっときなさいよ」

凛「かぁ~……ペッ!」

穂乃果「オッさんビビってる、ビビってる、足震えてるよ」

花陽「あははは!」

真姫「はは、はは……」

真姫「……」

穂乃果「ん?どうしたの、真姫ちゃん」

8: 2015/08/03(月) 02:20:57.95 ID:wSzHfVWm0
にこ「……」

穂乃果「ゲッ、矢澤のセンコー!」

にこ「またあんたらそんなことしてるわけ?」

凛「……ふん」

にこ「このままじゃ大学行けないわよ」

真姫「行けるわよ、私、成績はいいもーん」

にこ「……勉強だけできたらいいと思ってるの?やっぱりまだガキね」

真姫「……この!!」

花陽「真姫ちゃん!」

真姫「……はぁー、はぁー」

にこ「あんたたち、親に申し訳ないとか思わないの?」

花陽「うるさいなぁ、独身のくせに……わかんないでしょ、そんなの」

にこ「な!それがどーしたのよ!とにかく、今日はもう帰りなさい、あーあ……飲酒なんかして、バカなんだから」

穂乃果「ちっ……めんどくさ……」

にこ「早く帰りなさい、家まで送ってあげよっか?」

穂乃果「余計なお世話だよ……ふん」

にこ「あんたたち、明日は学校来なさいよ」

凛「めんどくさいにゃ……」

真姫「矢澤……威勢だけはいっちょまえなんだから」

花陽「はぁ~」

にこ「ほら、解散解散!」パンパン

穂乃果「はー、めんどくさ、めんどくさ……」

凛「……それじゃね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「うぃー、また明日トバそ……」

花陽「はぁー、家、帰りたくないな、クソだるい……」

真姫「ふわああ……ねむ」

9: 2015/08/03(月) 02:21:30.83 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(結局帰ってきちゃった……)

穂乃果(朝の4時……ふーっ……まだどっちも寝てるでしょ)

ガラガラ

穂乃果「……」

ことり「……」

穂乃果「……起きてたんだ、なに?」

ことり「どこに行ってたの」

穂乃果「……じゃま、私眠いの……」

パァン!!

ことり「……」

穂乃果「痛っ……」

ことり「どこに行ってたの!!」

穂乃果「うっさい、どいて!」

ことり「ちゃんと言いなさい!」

穂乃果「……」

ことり「……出て行って」

穂乃果「……は?」

ことり「うちの家から出て行ってって言ってるの」

穂乃果「なに、それ……わっけわかんない」

ことり「海未ちゃんを毎日毎日泣かせて……もう、そんなのウチの子じゃないよ」

穂乃果「……クソババア……」

ことり「早く出ていって!」

穂乃果「ケッ!」


10: 2015/08/03(月) 02:22:13.28 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(大人ってホントメンドくさいね!)

穂乃果(何が毎日毎日泣いてるだよっ!勝手にしろって話だよ!)

穂乃果(あー、クッソ、ムカつくムカつく……)

穂乃果(タバコ、タバコ……)

カチン……シュボッ

穂乃果(すーっ……ぷはぁー……)

穂乃果(さーって、どうしよっかなー……)

穂乃果(ま……今に始まったことじゃないし……)

穂乃果(何日か経って帰れば何事もなく終わってるからね、いつも)

穂乃果(慣れた慣れた……もう慣れちゃったもんねー……)

穂乃果(ぷはー……なんか、タバコが不味い)

穂乃果(ふん、捨てちゃおっと)ポイッ

穂乃果(はー、ダルいダルい……)

穂乃果(おっ……神社)

穂乃果(ちょうどいいや、朝までここで座ってよっと)

穂乃果(凛ちゃん、寝たかな……呼んだら来てくれるかな)

穂乃果(電話電話……)ピッピッピッ

希「高校生?」

穂乃果「わっ!……な、なに?」

希「くんくん……タバコ臭いなぁ、酒の匂いもする、もしかして、不良少女?」

穂乃果「んだよ、うるさいな、あっちいって」

希「いーや、大人としてこんな悪い子は見逃すわけにいかんなぁ」

穂乃果「あんた誰だよ」

希「この神社のボス、東條希です、以後よろしく」

穂乃果「こんな朝早くから?……ふん、ご苦労なことだね」

希「そっちこそ、早起きやね?……あ、寝てないんか、昨夜は」

11: 2015/08/03(月) 02:22:56.21 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(……)

希「あー、ちょっと、どこ行くん?待ってよ」

穂乃果(めんどくさいヤツに絡まれた……)

希「ウチもヒマやから、喋ろうよー、な?」

穂乃果「……ふん」

希「このへんの高校生やったら、音ノ木坂の子かな?なーんて……」

穂乃果「……そうだよ」

希「え!ウソ!あそこめっちゃ進学校やのに!」

穂乃果「何、……悪い?」

希「いやー、驚いたなぁ、へぇ~、ふーん」

穂乃果「……」

希「なんてな、ウチもそこの卒業生。後輩やったんか~」

穂乃果「卒業生……じゃあ矢澤のこと知ってるの」

希「にこっち?同級生やったよ……今はそっちで体育の先生やってたよなぁ」

穂乃果「へぇ、矢澤の知り合いかぁ」

希「ここだけの秘密、にこっち、昔はアイドル目指してたんやで?」

穂乃果「ホント?ヤバいじゃん、矢澤が?」

希「ふふふ、でも何を思ったのか急に教師に」

穂乃果「へー、今度それでイジってやろっと」

希「あーっ!イジめたらあかんよ」

穂乃果「イジめてない、イジめてない……」

カチン……シュボッ

穂乃果「すーっ……ぷはーっ」

希「……堂々と吸うなぁ、おうち帰らへんの?」

穂乃果「……追い出された、さっき」

希「あはは」

穂乃果「……は?何笑ってんの?」

希「怖い怖い、怒らんといてよ」

穂乃果「もういーよ、全部めんどくさいし……やりたいこともないし……」

希「へぇぇ……それで不良に」

穂乃果「不良でもなんでもいいよ……生きててもつまんないし……」

希「あかんなぁ、若いのにそんなこと言ってたら」

穂乃果「ふん」

希「そうや、ちょっとこっち来てみ?ちょっとだけ……」

穂乃果「……なに?」


12: 2015/08/03(月) 02:23:45.17 ID:wSzHfVWm0
希「ここに神様が祀ってあるんよ」

穂乃果「神様……?しょうもな」

希「はい、はい、手合わせて。お願い事言うの」

穂乃果「……音ノ木坂が廃校になりますよーに」

希「こらっ!……ホントにひねくれてるなぁ……」

穂乃果「何がさせたいの?めんどくさいんだけど……」

希「んー、神道を通じた不良少女の更生、かな?」

穂乃果「はぁ……あ、お酒置いてるじゃん、ラッキー」

希「あかんあかん!お供え物やって、それ!」

穂乃果「神様なんかいるわけないじゃん、バカバカしい」

希「お腹空いてるんやったら、食べさせてあげるから、こっちおいで」

穂乃果「お酒欲しいんだけど」

希「それはあかん」

穂乃果「シケてるなぁ……」

希「……」

カチン、シュボッ……

穂乃果「すーっ……」

希「ひょい」

穂乃果「あっ、ちょっと、何取ってんの!?」

希「タバコもダメ。肺に悪いよ」

穂乃果「返してよ!」

希「それに、ご飯の前に吸ったら美味しくなくなるよ?」

穂乃果(……飯食べたらぶん殴ってやろ)




希「はい、朝ごはん。どーぞ」

穂乃果「……何これ?米だけじゃん」

希「まぁまぁ、美味しいで?」

穂乃果「……さっきからナメてんの?」

希「だから、ナメてないって……普通のことしかしてないやろ?」

穂乃果「喋り方もなんかムカつくし……あー、ウザいウザい……」

希「……そうや、名前、なんて言うん?」

穂乃果「……穂乃果」

希「穂乃果ちゃんか、そっか穂乃果ちゃんかー」

穂乃果「うっとうしいから呼ばないでくれる?」

希「んー、穂乃果ちゃん、すっごい可愛いのになぁ、勿体無いなぁ」

穂乃果「なっ」

希「照れてる照れてる」

穂乃果「うるさい!」


13: 2015/08/03(月) 02:24:26.05 ID:wSzHfVWm0
希「なーなー、穂乃果ちゃん、おうち帰られへんやったら、うちの所に住んだら?」

穂乃果「なんでそんなめんどくさいことしなきゃダメなの……私は友達の所行くから」

希「えー、行かんといてよー、寂しいー」

穂乃果「っていうか、何やってるの、こんな所で」

希「今?修行中。この神社に泊まり込みでな」

穂乃果「修行って、ボーズにでもなるの?あははは」

希「神に仕える者は心を清めらなあかんよ」

穂乃果「修行中だったら、私こんな所泊まれないじゃん」

希「人助けやからいいのいいの」

穂乃果「はい、ごちそうさん、それじゃばいばい」

ガシッ

穂乃果「ちょ、離してよ!」

希「帰らんといて!お願い!お願いやから帰らんといて!」

穂乃果「気持ち悪い、やめて!」

希「三食ご飯だすし、お布団もひくから、お願いやから帰らんといて、寂しいから!寂しいから!」

穂乃果「あー!クソっ、クソっ!死ねっ!死ねっ!」

ゲシッゲシッ

希「うっ、うっ」

穂乃果「はぁ、はぁ……」

希「うう……お願いやから行かんといて……」

穂乃果「……はぁ、はぁ……」

希「……」

穂乃果「……分かったよ!もう!」

希(よし)

穂乃果「……その代わり、奴隷のように扱わせてもらうからね、いい?」

希「……うん、うん、ウチ、約束する」

穂乃果「……ふん」

14: 2015/08/03(月) 02:25:33.24 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「すぅ……すぅ……」

希(……寝てたら普通の女の子やのにな)

希(寝顔撮ったろ、さっきのキックのお返しや)カシャカシャ

希(さて、今日の修行に入らな)

希(……よいしょっ)







穂乃果「ふわあぁぁ……」

穂乃果(……ん、もうお昼じゃん)

穂乃果(学校は……まぁ、めんどくさいからいいや)

穂乃果「おーい、お茶持ってきて、お茶」

穂乃果(……いないのかな)

穂乃果(無視してたらぶっ〇す)





穂乃果「あ、いるじゃん、何聞こえ無いフリしてんの?」

希(……)

穂乃果「正座して目つぶって、なにやってんの?」

希(……)

穂乃果「あ、これがシュギョーかぁ、へー」

穂乃果「動かないんだ、面白いなぁ」

穂乃果「そうだ、遊んじゃおっと」

穂乃果「タバコタバコ……」

シュボッ

穂乃果「すぅ~~」

穂乃果「ぷっはぁ~~」

希(……!)

希「ゲホッ、ゲホッ!!な、何するんよ!」

穂乃果「はい、残念~、修行失敗~!」

希「あー、もう……」

穂乃果「そんなことして楽しいの?マゾ?」

希「楽しいとか楽しくないとか関係無いんよ、これは……」

穂乃果「ふーん、頭おかしいんだね」

15: 2015/08/03(月) 02:26:26.54 ID:wSzHfVWm0
希(……)

穂乃果「あ、また黙った」

穂乃果「こちょこちょしちゃえ……そりゃ」

希(……)

穂乃果「ありゃ?効いてない……」

希(……ん、ん)

穂乃果「おっ」

希「ん……は、あはははははは!!」

穂乃果「へへーん、また失敗」

希「あー、もう、ホントに……しょうがない子やなぁ……」

穂乃果「またやってよ、邪魔するからさ」

希「いや、もう今日はここまで」

穂乃果「あー、サボりだ」

希「学校サボってる子に言われたくない」

穂乃果「いちいちムカつくなぁ」

希「……暇なら、穂乃果ちゃん、散歩行こ、散歩」

穂乃果「やだ。今から遊びに行くから」

希「不良少女の集い?」

穂乃果「……友達のことバカにしたら許さないよ」

希「あ、うーん、あはは、ごめんごめん」

穂乃果「んじゃね」

希「お昼ご飯食べへんの?せっかく作ったのに……」

穂乃果「晩御飯も食べてくるから、じゃあね」

希「ちえー、寂しいなぁ」

16: 2015/08/03(月) 02:27:18.32 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「や、花陽ちゃん」

花陽「穂乃果ちゃん」

穂乃果「昨日はフツーに帰れた?」

花陽「家帰ったら怒られたよ」

穂乃果「あはは、どこも一緒だ」

花陽「めんどくさいなぁ、親って……」

穂乃果「凛ちゃんと真姫ちゃんは?」

花陽「学校行ってる」

穂乃果「えっ、まじめ~……」

花陽「だよねー……真姫ちゃんとか、ホント根は真面目だから……」

穂乃果「あんなの医者になったらヤバいよ、すぐブチ切れるんだもん真姫ちゃん」

花陽「凛ちゃんだってキレたらヤバいよ?この前3人病院送りにしたんだから」

穂乃果「あはは、ヤバいヤバい、でも花陽ちゃんも相当だよね」

花陽「えっ、私はカツアゲくらいしかしないよ~」

穂乃果「その軽さ、一番怖いね~」

花陽「あ、タバコ切れてる……」

穂乃果「一本あげるよ」

花陽「ありがと」

穂乃果「ふーっ……実はね、家追い出されちゃって」

花陽「え?」

穂乃果「笑えるでしょ?」

花陽「いやいやいや、どうするの?それで」

穂乃果「まあ何とかなるよ、その辺は。あと2日くらいすればウチのババアも忘れるだろうからさ」

花陽「へー……私の家になら泊まりに来てくれていいよ」

穂乃果「そう?じゃあ行こっかな、今日」

花陽「凛ちゃんと真姫ちゃんも呼んで、今夜も暴れよっか」

穂乃果「オッケーオッケー、いいね!」

穂乃果(あの神社、めんどくさいから今日は帰らなくていっか)

穂乃果(はー、やっぱり友達だよね、落ち着くのは……)

17: 2015/08/03(月) 02:27:48.68 ID:wSzHfVWm0
……………………………………………………………

真姫(ふわああ、眠た……)

真姫(やっぱり学校はタルいわね)

「それじゃ、(3)は……西木野」

真姫(……)

「西木野?起きてるか?」

真姫「ん……」

「わかるか?……まあ、相当難しい問題だが入り口だけでも……」

真姫「8x^n+7x^(n-1)+4 (n≧1)……合ってる?」

「……ん、あ、正解だ、良かったら計算過程も……」

真姫「めんどくさ……」

凛(さすが真姫ちゃん、賢いにゃー、いつ勉強してるんだろ……)

グギュルルルル

凛(おなかすいた……お弁当たーべよっと)

もぐもぐ

「……星空、教科書で隠してもダメだぞ、授業中に弁当食べるな」

凛「やだ」

「……」





「に、西木野さん、良かったら、ここ、教えてくれないかな……」

真姫「同級生なんだから、真姫でいいわよ、どこ?」

「えっと、さっきの問題でもやってたけど、高次方程式……」

真姫「あ、はいはい……えーっと」

凛「真姫ちゃん、お昼ご飯食べにいこ」

真姫「ん、ちょっと待って。っていうか、もう弁当食べたんじゃないの……さっきの授業中」

凛「食べ足りないからまた何か買う」

真姫「はいはい、とりあえず先行ってて……えーっと、それで、最後にnは整数だから…範囲考えておしまい」

「あ、ありがとう!」

凛「ふん、つまんないにゃ、ベンキョーなんて」

真姫「お待たせ、行きましょ」

凛「真姫ちゃんクラスメートには優しいよね」

真姫「別に仲悪くする必要ないじゃない」

凛(……ふん、なんだかんだいってお嬢様脳だね)


18: 2015/08/03(月) 02:28:25.06 ID:wSzHfVWm0
凛「購買でパン買おっと」

真姫「ん、中庭で待ってるわ」

にこ「あんたたち、今日はちゃんと来てるじゃない、偉い偉い……」

凛「あ、矢澤だ」

真姫「気安く話しかけないでよ、気持ち悪い」

にこ「相変わらず口が悪いわね、あんたは」

真姫「イライラしてるの、今。消えて」

にこ「穂乃果と花陽は?」

凛「おサボりだよ」

にこ「全然懲りてないわね、あの二人は……とりあえず、学校では大人しくするのよ、じゃあね」

真姫「はーっ、イラつくわね、説教ばっかり、〇してやろうかしら」

凛「あはは、真姫ちゃんが言うと冗談に聞こえないにゃ」






ドンッ

真姫「……は?」

「お、ぶつかっちゃった?ごめんごめん」

「一年生じゃん、ちゃんと前見て歩こうねー?」

「あはははは」

真姫「……」プツン

凛(あ、キレた)

真姫「あんたら三年生?」

「そうよ」

グイッ

「むぐっ、な、なにすんのよ、離しなさい」

真姫「あんたからぶつかっといてヘラヘラしてんじゃないわよっ!!子宮から二年早く出ただけで図に乗るな!!」

「あ、あ、ちょっと」

真姫「校舎裏来なさい、ぶっ〇してあげる」

凛(うひひ、面白くなってきたにゃ)


19: 2015/08/03(月) 02:30:06.92 ID:wSzHfVWm0
ベキッ、ドゴッ

「あ、あ、あ……も、もう、許して下さい、ごめんなさい、ごめんなさい」

真姫「……」

ボキッ

「ああああああ!!」

凛(あーあ、折れちゃった)

真姫「許すわけないでしょ、ボケッ!クソがっ!!死ね!!」

凛「真姫ちゃん、それ以上やると本当に死ぬよ」

真姫「凛は黙ってなさい」

凛「ま、好きにしたらいいけど」

ボゴッ、ベキッ

「ごほっ……ごほ……」

21: 2015/08/03(月) 02:30:47.48 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「お、もう下校時間だ」

花陽「そろそろ二人も来るかな……」

凛「や」

真姫「サボり組、元気?」

穂乃果「元気元気、ムダにねっ」

凛「学校でもうクタクタだよ、はー、だるいだるい」

穂乃果「一本やる?はい」

凛「すーっ……ぷはぁーっ……!んんっ!格別だにゃー!」

花陽「四人揃ったし、今日も行きますかっ!」

穂乃果「あ、私家追い出されたから、バイク無いんだ……」

凛「え、何それ。じゃあ凛の後ろに乗ってよ」

穂乃果「おっけーおっけー、お邪魔しまーす」

真姫「よし、行くわよ」

ブルルルン

ブォォォオォォォン!!

花陽「ひょおおおお!」

22: 2015/08/03(月) 02:31:30.22 ID:wSzHfVWm0
ブオオォォォォォォ!!

真姫「……」

花陽「今日は真姫ちゃん、えらく飛ばしてるね」

凛「あはは、今日も学校でまたキレてたにゃ」

穂乃果「うわー、やられた子、かわいそー。もう学校来れないね、何年生?」

凛「三年生だってさ、鼻と腕の骨折っちゃったよ」

花陽「あははは!相変わらず容赦ないなぁ」

穂乃果「凛ちゃんも真姫ちゃんに追いつけーっ!!」

凛「任せるにゃー!」ドゥルンドゥルン

ブォォォォォン!

穂乃果「ひゃはああああ!!」




真姫「おっ、来たわね」

凛「まだまだ出るよね?真姫ちゃん」

真姫「当たり前よ、あと20キロくらい出せるわ」

ブォォォォォン!

凛「ひゃー、早ーい!赤信号、ぶっちぎった!」

花陽「んん~っ!私も!」ブォンブォン!

凛「凛も行くにゃー!」

ブォォォォォン

穂乃果「ぶっとばせー!」


ゴォォォ



穂乃果「……あ」

凛「え?」


ドガシャ……

23: 2015/08/03(月) 02:32:03.69 ID:wSzHfVWm0
……凛、穂乃果!


穂乃果「ん、あ、はぁ……はぁ……」


真姫「凛!穂乃果!」

穂乃果「い、痛たたた……あっ……だ、大丈夫、すりむいただけ」

花陽「凛ちゃん!」

凛「……ひゅう……ひゅう」

真姫「ちょっと、凛!?」

凛「う、あ、あああ、ああ」

花陽「ひ、ひどい……」


24: 2015/08/03(月) 02:32:44.67 ID:wSzHfVWm0
花陽「救急車、早く!!」

真姫「凛!!……死なないで、お願い……」

凛「あ、ああ、あ……」

穂乃果「り、凛ちゃん」

凛「……」

穂乃果「やだ、やだよ、やめてよ、そんなのやだよ」

真姫「穂乃果!凛に触っちゃダメ!」

穂乃果「私のせいだ、私の……あ、ああ……」

25: 2015/08/03(月) 02:33:21.12 ID:wSzHfVWm0
カラカラ

穂乃果「……」

希「……ん、おかえり~!」

穂乃果「……ねる」

希「……あれ?どうしたん?」

穂乃果「いいから、今日はもう寝る」

希「はいはい、布団あるよ」

ドサッ

穂乃果「……」

希「……」

26: 2015/08/03(月) 02:34:11.07 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……うっ、うう……」

希(……泣いてる?)

穂乃果「なんで、なんで……」

希「……」

穂乃果「くそっ、くそっ……うう……」

希「なぁ」

穂乃果「……」

希「どうしたん?」

穂乃果「……関係ないでしょ」

希「そんな声出されたらウチも眠られへんやろ?」

穂乃果「関係ないでしょ!黙ってて!」

希「……事故?」

穂乃果「……!」

希「膝、ケガしてたね」

穂乃果「いちいちうるさい!」

希「……ちゃんと話してみ?」


27: 2015/08/03(月) 02:34:37.14 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……うっ、うう……」

希(……泣いてる?)

穂乃果「なんで、なんで……」

希「……」

穂乃果「くそっ、くそっ……うう……」

希「なぁ」

穂乃果「……」

希「どうしたん?」

穂乃果「……関係ないでしょ」

希「そんな声出されたらウチも眠られへんやろ?」

穂乃果「関係ないでしょ!黙ってて!」

希「……事故?」

穂乃果「……!」

希「膝、ケガしてたね」

穂乃果「いちいちうるさい!」

希「……ちゃんと話してみ?」


28: 2015/08/03(月) 02:35:03.63 ID:wSzHfVWm0
希「……」

穂乃果「……」

希「それで……その子は」

穂乃果「命は助かったけど、意識が戻らなくて……」

希「……そっか」

穂乃果「私が、私が後ろに乗って、凛ちゃんをそそのかして、それで……」

希「止めとき、そんな風に考えるのは」

穂乃果「うああ、あああ……」

希「……」


29: 2015/08/03(月) 02:35:38.24 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……」

希「眠れた?」

穂乃果「……」

希「あんまり、って顔やね」

穂乃果「……」

希「横、座り」

穂乃果「……」スッ

希「あぐらじゃなくて、正座。」

穂乃果「……」

希「そ、肩の力抜いて。目閉じて……」

穂乃果「……」

希「そうそう」

穂乃果「……うっ、うっ」

希「……無心でな」

穂乃果「……はぁ、はぁ……」

希「穂乃果ちゃん、意外と泣き虫なんやな」

穂乃果「……」

希「まぁ、最初会った時からわかってたけどな……強がってるだけやって」

穂乃果「……うっさい」

希「……怖いなら、最初からやらんとき」

穂乃果「……」

希「こんなくらいで怖がって、泣くなら、向いてないと思うな。もう止めとき」

穂乃果「……」

希「はい、深呼吸……ふーっ」

穂乃果「はぁーっ……」

30: 2015/08/03(月) 02:36:19.42 ID:wSzHfVWm0
希「はい、お昼ご飯」

穂乃果「……いらない」

希「……じゃあ、まあ野菜だけでも」

穂乃果「……いらない!」バシン

希「あっ」

カランカラン……

穂乃果「……」

希「……」

穂乃果「……謝らないよ」

希「ん、まぁ……好きにし」

穂乃果「……ふん」

31: 2015/08/03(月) 02:37:04.27 ID:wSzHfVWm0
希「もう一回、目閉じて、しっかり息はいて」

穂乃果「ふぅー」

希「足くずれてる!」

穂乃果「……チッ」

希「そうそう、それでいいの」

穂乃果「……」

希「……サマになってきたやん?」






希「はい、次は境内の掃除。これホウキな」

穂乃果「やだ」

希「どうぞ、頑張ってな」グイッ

穂乃果「……」

希「ほら、手動かして!」

穂乃果「……」サッサッ

希「そうそう、上手いやん」

穂乃果「バカ……」

希「バカはどっちや、もう」






希「次はぞうきんがけ、綺麗にしてあげてな」

穂乃果「やるわけないじゃん」

希「や、り」

穂乃果「……うっとうしいなぁ」

希「よし、ウチは向こうの端からやるから、協力しよ」

穂乃果「……」

希「ほら、遅れてるよ!」

穂乃果「……この!」

希「おっ、いい調子いい調子」


32: 2015/08/03(月) 02:37:32.99 ID:wSzHfVWm0
希「はい、お疲れ様……今日は頑張ったなぁ」

穂乃果「……今日だけだよ」

希「あかんよ、毎日やるの、毎日」

穂乃果「……何にもする気にならなかったから、付き合ってあげただけ」

希「んー?それでも嬉しいけどなぁ」

穂乃果「明日はもうやらない」

希「……いつ手伝ってくれてもええんよ?」

穂乃果「うっさい……」


33: 2015/08/03(月) 02:38:07.55 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(ねよ……何にもしたくない)

穂乃果(……凛ちゃん)

穂乃果(……早く元気になってよ)

穂乃果(……いつまでもモヤモヤさせて、ふざけないでよ……)

穂乃果(くそっ、くそっ、くそ……)



希「……」

「……」


穂乃果(……あれ、話し声……誰か来てる?)

34: 2015/08/03(月) 02:38:41.25 ID:wSzHfVWm0
「どんな子なの?」

希「んー……捻くれ者、やなぁ。あと、寂しがり屋……泣き虫、押しに弱い……」

「へぇ、なかなか厄介じゃないの、それ」

希「……友達想いの、優しい子」

「……なるほど、ね」

希「本当にええの?」

「いいわよ、希も修行あるんでしょ?任せて」

希「えー、穂乃果ちゃんいた方が賑やかでウチは楽しいのに」

「……本音が出たわね」




穂乃果(誰だろあの人、外人……?)


35: 2015/08/03(月) 02:39:17.48 ID:wSzHfVWm0
カラカラ

海未「誰ですか?」

穂乃果「……」

海未「穂乃果!」

穂乃果「……ふん」

海未「穂乃果、穂乃果、大丈夫でしたか、お腹空いてませんか」

穂乃果「……知らないよ!もうこの家の子じゃないんでしょ!」

ことり「……そうだよ、早く出ていって」

海未「ことり……」

穂乃果「私のパスポート、どこ……」

ことり「海外旅行?」

穂乃果「知らない、とにかくいるの」

海未「そこの引き出しにありますけど……」


穂乃果「ん、あった……それじゃ……」

海未「穂乃果……」

ことり「海未ちゃん」

海未「……」

穂乃果「……ふん」

カラカラ

海未「……あの子一人で、生きていけるはずないじゃないですか」

ことり「……私は、ずっと穂乃果ちゃんには優しくしてきた、反対に、海未ちゃんは厳しくしてきた……でも今は私の番」

海未「……」

ことり「何か、変わってたよ」

海未「……少しだけ」


36: 2015/08/03(月) 02:41:24.47 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「持ってきたよ、ほら」

希「へぇ、そんなの持ってたん?いつ旅行行ったの?」

穂乃果「四年前……家からハワイに」

希「へぇ、ええなぁ、家族旅行」

穂乃果「……あんなの、家族じゃない」

希「……?」

穂乃果「私は引き取られただけ。本当の家族じゃない」

希「ふーん……そっかぁ」




希「えりちー、穂乃果ちゃん来たよ」

絵里「ふーん、この子ね」

穂乃果「昨日の夜来てた……」

絵里「絢瀬絵里よ。日本とロシアで外交官やってるわ」

穂乃果「……ふーん」

希「それじゃ、よろしくな、えりち」

絵里「わかったわ。さ、行くわよ、穂乃果、とりあえずちゃちゃっとビザ取って、飛ぶわ」

穂乃果「ど、どこ行くの」

絵里「ロシア。シベリア行くわよ」

穂乃果「え、え、え?なんで、なんで、なんで」






キィィィィン




穂乃果「なんでーー!?」




37: 2015/08/03(月) 02:42:44.95 ID:wSzHfVWm0
キィィィィィン












穂乃果「あはは……」














…………………………………………………………………………

穂乃果「……」

絵里「チョコ食べる?」

穂乃果「……いらないよ」

絵里「美味しいのに」

穂乃果「あんた、私をどこに連れてくつもり……?こんな飛行機に乗せて

絵里「観光よ、観光」

穂乃果「これって、あれ……ラチってやつだよね」

絵里「来たくなけりゃ来なくても良いって言ったでしょ」

穂乃果「絶対そんなこと言ってなかった……」

絵里「それと穂乃果、私にはちゃんと絵里って名前があるの、名前で呼びなさい」

穂乃果「……絵里」

絵里「さんは?」

穂乃果「ふんっ」

絵里「ストップ……やっぱりさん付けはオバさんみたいで嫌ね、『絵里ちゃん』って呼んで」

穂乃果「呼ばないもんね」

絵里「ふふっ、生意気ね」

穂乃果「……このシート、広いね」

絵里「ファーストクラスだからね」

穂乃果「……高いんじゃないの」

絵里「まあね、ビジネスクラスより何十万も」

38: 2015/08/03(月) 02:43:41.23 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「税金でしょ、これ、税金」

絵里「そうよ?文句ある?」

穂乃果「無駄遣いだ」

絵里「……ふふ、悔しかったら勉強していい職に就きなさい」

穂乃果「悔しいってなに?そんなこと言ってないじゃん」

絵里「金の使い方は立場の強い人間が決めるの、当たり前でしょ?」

穂乃果「そんな、公務員は公僕、国民のしもべだって……」

絵里「教科書で習った?建前よ、それは」

穂乃果「建前って……」

絵里「ヒントをあげるわ。教科書を作ってるのは誰?」

穂乃果「ふん……イヤな人」


39: 2015/08/03(月) 02:44:25.63 ID:wSzHfVWm0
……………………………………………

絵里「着いたわね、ほら、荷物取りに行くわよ」

穂乃果「……ふん」

絵里「何立ち止まってんのよ」

穂乃果「……命令するな」

絵里「……」

穂乃果「勝手に連れてきて、エラそーにして、そういうの凄くムカつ……」

ガシッ

穂乃果「え、ちょ……」

絵里「クソガキね、やっぱり……」

穂乃果「離せ、離せ!」

絵里「黙りなさい」

穂乃果「……」

絵里「次ナメた口聞いたら本気で〇すわよ」

穂乃果「なんだよ、それ……」

ギギギ

穂乃果「むぐっ、うぇ」

絵里「返事は?」

穂乃果「は、は、はい」

ドサッ

絵里「分かったら早く着いて来なさい、グズグズしてないで」

穂乃果(な、何、アイツ……めちゃくちゃじゃん)

40: 2015/08/03(月) 02:45:05.59 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「でっかいトランク……」

絵里「持ちなさい、穂乃果」

穂乃果「え、なんで」

絵里「持て」

穂乃果「……」

絵里「そ、いい子ね」

穂乃果「……ブツブツ」

絵里「何か言った?」

穂乃果「何も……」

絵里「じゃ、行くわよ」

穂乃果「あ、ちょ、これ、重たっ」

絵里「トロトロ歩かないで、早くしなさい」

穂乃果「……」

41: 2015/08/03(月) 02:45:44.75 ID:wSzHfVWm0
……………………………………………………


ブロロロ

穂乃果(……高そうな車)

絵里「今から仕事場に向かうの。でも穂乃果は連れていけないから、途中のホテルに入ってもらうわ」

穂乃果「……」

絵里「返事」

穂乃果「ん」

絵里「違うでしょ」

穂乃果「……はい」

絵里「夕方に迎えに行くわ、それまで市内観光でもなんでも好きにしなさい」

穂乃果「帰りたい……」

絵里「お小遣いあげるわ、ほら」

穂乃果「……」

絵里「あと、あんたに帰る場所なんか無いわよ、それだけは覚えておきなさい」

穂乃果「……」

絵里「返事」

穂乃果「……はい」



42: 2015/08/03(月) 02:46:13.17 ID:wSzHfVWm0
絵里「それじゃ、フロントに伝えておいたから、ゆっくりしておきなさい」

穂乃果「……はい」

絵里「これ、コートね。外出るときは使いなさい、それじゃ」

穂乃果「……」

穂乃果(置き去りじゃん……)

穂乃果(携帯電話も没収されたし)

穂乃果(どうすりゃいいのさ、これから)

穂乃果(ああ、もう考えるのも面倒くさい……お風呂はいって寝よ)

穂乃果(……ふぅ)

43: 2015/08/03(月) 02:46:48.06 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(……)

穂乃果(何、これ?)

穂乃果(ほんと、何やってんの、私?)

穂乃果(……凛ちゃん、大丈夫かなぁ)

穂乃果(国際電話の掛け方くらい聞いとけば良かった……)

穂乃果(クソっ、クソっ!なに、あの絵里とかいう金髪女!!デカイ態度して!)

穂乃果(あー、ムカつく、ムカつく……!次会ったときはやり返してやる……!)

穂乃果(クソ、クソ!)





穂乃果(……おなかすいた)

穂乃果(部屋には何も無いし……買いに行くしか無いのかな)

穂乃果(ロシア語なんてわかんないよ、無理無理……)

穂乃果(もういいや、外に出るのはやめとこ)

穂乃果(寝れば忘れるや、寝よ寝よ)

穂乃果(ふーっ……)

穂乃果(……)

44: 2015/08/03(月) 02:47:30.79 ID:wSzHfVWm0
絵里「穂乃果?起きなさい」

穂乃果「ふぇ……は、ふわああぁぁ……」

絵里「おはよう。どこか出掛けてきた?」

穂乃果「……なに、仕事終わったの?……それに、言葉わかんないから出ていけるわけないじゃん」

絵里「ふーん、意気地なしね」

穂乃果「この、誰が……!」

バッ

穂乃果「んっ!?」

ギリギリギリギリ

穂乃果「いたたたたっ!いたっ!」

絵里「弱いくせに調子乗るんじゃないわよ、さっきから……」

穂乃果「この、この」

絵里「なに?悔しかったら来なさいよ」

穂乃果「……おらっ!」

ヒュン

穂乃果「あれっ」

絵里「……」

ドスン

穂乃果「か、かはっ……おげっ」

ガシッ

穂乃果「ちょ、か、髪の毛はやめて!」

絵里「水ぶっかけてやるわ、ほら」

バシャッ

穂乃果「わぷっ……おげっ、ゴホッ!ゴホッ!」

絵里「目は覚めた?おはよう」

穂乃果「……んだよぉ」

ベキッ

穂乃果「あ、あ……」

絵里「おはよう」

穂乃果「お、おはようござい……ま、す」

45: 2015/08/03(月) 02:48:06.32 ID:wSzHfVWm0
絵里「なにも食べてないんでしょ?ほら、行くわよ」

穂乃果「……はぁ、はぁ」

絵里「……恨めしそうな目をしてるわね、それとも怒ってるのかしら」

穂乃果「くそっ、くそっ」

絵里「いい大人に囲まれて育って来たみたいね、今まで」

穂乃果「……」

絵里「言っておくわ、あんたみたいなクズが一番嫌いなの、私は」

穂乃果「……あんただって……」

絵里「いい加減黙りなさい。また殴られたいわけ?」

穂乃果「ひっ……」

絵里「……ほら、行くわよ」

穂乃果(……傷害罪だ、ケーサツにチクってやる……あ、でもロシア語わかんない……いいや、帰ったら覚えててよね……)


46: 2015/08/03(月) 02:48:50.25 ID:wSzHfVWm0
絵里「美味しい?」

穂乃果「……うん」

絵里「そう、良かった」

穂乃果「……」

絵里「こっちを見なさい」

穂乃果「……あんた、あの神社のヤツとどんな関係なの」

絵里「希でしょ。名前で呼びなさい」

穂乃果「その、希……と」

絵里「同級生よ」

穂乃果「じゃあ矢澤……先生とも」

絵里「そう、そういうこと」

穂乃果「……」



穂乃果「仲、良かったの……?」

絵里「そうよ、にこと、希と、私。いつも三人一緒だったわ」

穂乃果「……」

絵里「穂乃果も、仲のいい友達はいるかしら」

穂乃果「……うん」

絵里「大切にするのよ」

穂乃果「わかってるよ、そんなの……わかってるけど……」

絵里「けど、どうしたの」

穂乃果「……そうだ、1人、怪我してる友達がいるんだ、その子が大丈夫かどうか……」

絵里「……電話貸してあげる、早く聞いてみなさい」

穂乃果「う、うん」


47: 2015/08/03(月) 02:49:51.42 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……電話番号、覚えてないよ」

絵里「仕方ないわね、あなたの携帯見なさい」

穂乃果「やった……」

絵里「見終わったら返すのよ」

穂乃果「……国際電話ってどうやってかけるの」

絵里「あ、えーと、はいはい……どうやるんだっけ……」




プルルルル

穂乃果「もしもし、花陽ちゃん?」

花陽「あっ、穂乃果ちゃん!……どの番号からかけてるの、これ?」

穂乃果「話せば長くなるから……凛ちゃん
はどうなの?」

花陽「うん、夕方に一回目を覚まして、それから寝ちゃった」

穂乃果「眼を覚ました……それじゃあ!」

花陽「もう大丈夫みたい。何箇所か骨折してるから入院しなきゃいけないみたいだけどね」

穂乃果「……良かった、良かった……」

バシッ

花陽「あれ?穂乃果ちゃん、穂乃果ちゃん?」


プツッ










穂乃果「あー、なんで切るの!?」

絵里「国際電話って高いのよ、要件が済んだらすぐ切りなさい」

穂乃果「ファーストクラスに乗るくせに……」

絵里「まだ口が悪いわね……それより、友達、無事だったみたいね」

穂乃果「うん、うん……良かった、良かった……」

絵里「……」

穂乃果「……うっ、うっ」

絵里「……女の子が袖で拭くんじゃないの。ほら、ハンカチ」

穂乃果「あっ……ありがとう」

絵里「はーっ……」

48: 2015/08/03(月) 02:50:29.94 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……」

絵里「良かったわね、本当に……」

穂乃果「……うん」

絵里「……でも、自業自得よね、そのあたり忘れちゃダメよ」

穂乃果「……」

絵里「死んでも文句言えないようなことしたんでしょ?……おおかた、交通事故ってところかしら」

穂乃果「……うん」

絵里「はぁ、そんなことだと思ったわ」

穂乃果「でも、凛ちゃんは悪くない、私が、私が……」

絵里「そういうので集まってるんでしょ?……誰が悪いとかじゃないと思うんだけど……」

穂乃果「私が……」

絵里「……もういいわ、やめましょ」


49: 2015/08/03(月) 02:51:21.71 ID:wSzHfVWm0
絵里「食べ方、綺麗ね……良いしつけを受けてるみたい

穂乃果「……」

絵里「お母さんはどんな人なの?」

穂乃果「お母さんはいない……お父さんも、私が小さい頃に死んじゃった」

絵里「……そうなの?でも家を追い出されたって……」

穂乃果「引き取り手が居なかったから、お母さんの知り合いの園田って人のところに……」

絵里「ふうん、じゃあその人に育てられたの」

穂乃果「……同性愛者なんだ、南って人と二人で暮らしてる」

絵里「……じゃあ、女三人なのね」

穂乃果「妹もいたんだよ、今はどこか行っちゃったけど……」

絵里「フクザツなのね、いろいろ……」

穂乃果「……こんなこと、言いたくないのに、言いたくないのに」

絵里「……それでも、今はその二人が親なんでしょ」

穂乃果「うっさい!!関係ない人に何がわかるの!!」

絵里「……」

穂乃果(あ……ヤバ)

絵里「……そうね、私には何もわからないわ」

穂乃果(あれ……)

絵里「ごめんなさい。変なこと聞いちゃって」

穂乃果「あ、いや……まあ」

絵里「食べ終わったわね、それじゃ、ホテルに戻りましょ」

穂乃果「……」

50: 2015/08/03(月) 02:52:09.41 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「絵里ちゃんは高校の頃どんな子だったの」

絵里「穂乃果みたいな子よ」

穂乃果「……?」

絵里「まぁ、あなたみたいに口だけのヘタレじゃ無かったけどね」

穂乃果「ヘタレって……」

絵里「よく遊んだわね、あの頃は。暴れて、暴れて……」

穂乃果「なんだ、一緒なんじゃん……」

絵里「ふふふ……もう更生したわよ、いまじゃ立派な社会人」

穂乃果「そうかなぁ、全く更生してないように見えるんだけど……」

絵里「昔の自分を見てる気分になると、どうしても戻っちゃうの、仕方ないでしょ?」

穂乃果「絶対ウソだ……」

絵里「……ま、あの頃、世の中に迷惑かけた分、しっかり働かないとね」

穂乃果「税金無駄遣いしてるくせに……」

絵里「それはそれ、でしょ」

穂乃果「ちょっと待って、それじゃあ、希と矢澤……先生も」

絵里「そうよ、いつも三人一緒って言ったでしょ」

穂乃果「……マジで?」

絵里「私なんかより、ずっとおっかなかったわよ、あの二人は」

穂乃果「……信じられない」


51: 2015/08/03(月) 02:52:46.51 ID:wSzHfVWm0
絵里「ほら、ホテル着いたわ」

穂乃果「……もしかしてだけど、部屋一緒なの?」

絵里「そうよ、一緒」

穂乃果「うへぇ……やだぁ……」

絵里「それじゃ、置いて帰ってもいいかしら」

穂乃果「そ、それだけは」

絵里「……さ、外は寒いわ、入るわよ」


52: 2015/08/03(月) 02:53:55.23 ID:wSzHfVWm0
…………………………………………


トクトク

絵里「……んっ」

穂乃果「……」

絵里「あら、穂乃果も飲みたいのかしら」

穂乃果「……」

絵里「いいわよ、あげるわ、飲みなさい」

穂乃果「やっぱりダメな大人じゃん……」

絵里「いいの、ロシアだから、治外法権」

穂乃果「使い方間違ってるし……なにが良いの……」

絵里「ほら、乾杯」

チィン……

穂乃果「……アルコールきっつ」

絵里「まだまだ子供ね」

穂乃果「……飲めないなんて言ってない」

絵里「そうね、ふふ……」

53: 2015/08/03(月) 02:54:46.59 ID:wSzHfVWm0

……………………………………………



にこ「それじゃ、今は穂乃果といるわけ?」

絵里「そうよ、部屋でぐっすり眠ってるわ」

にこ「もう一週間も学校来てないのよ、なんとかしてよ」

絵里「私は教育者じゃないの、勘弁してよ」

にこ「学校に来れないのはあんたが国外連行してるせいでもあるのよ、ちょっとくらい頑張りなさい」

絵里「更生なんかさせられないわよ、私はそんな立派な人間じゃないわ」

にこ「知ってるわよ、立派な人間じゃないくらい。でも私も一緒だからね、その辺りは」

絵里「はいはい……わかってるわよ」

にこ「あんまり酷いと誘拐の容疑で警察に通報するわよ」

絵里「大丈夫よ、変なことしないから」

にこ「連れて行ってる時点で変じゃない。それに、どうせすぐ暴力ふるうし」

絵里「……その辺りは控えることにするわ」

にこ「いいわよね、私なんかPTAと教育委員会のせいで殴りたい生徒も殴れないのよ」

絵里「危険思想を持ってるわね。向いてないんじゃないの?」

にこ「あんたに言われたくないわよ」

絵里「はいはい」

にこ「とにかく、早めに帰って来なさい。ダメならちゃんと穂乃果の面倒は見てあげること、いいわね」

絵里「わかった、わかったわよ」

にこ「じゃあね、また帰って来たら会いましょ」

絵里「はいはい」



54: 2015/08/03(月) 02:55:17.70 ID:wSzHfVWm0
絵里「まったく、伝統なのかしら、音ノ木にマトモな生徒がいないのは……」

絵里「……穂乃果?聞いてたんでしょ」

穂乃果「……」

絵里「返事しなくてもいいわよ、別に」

穂乃果「ねぇ」

絵里「……どうしたの」

穂乃果「絵里ちゃんは、なんで外交官になったの」

絵里「……なりたくなったからよ」

穂乃果「……どういうこと」

絵里「そのうちわかるわよ、こういうのは」

穂乃果「……年収、いくら貰ってるの」

絵里「そういう失礼なことは聞かないの。ほら、私も寝るわ、おやすみ」

穂乃果「……おやすみ」



穂乃果(……)

穂乃果(ズルイよ)

穂乃果(人のこと言えないくせに……)

穂乃果(私と同じふうに好き勝手やってたくせに……)

穂乃果(こんなに偉そうにして……ズルイよ、ズルイよ……)


55: 2015/08/03(月) 02:55:56.58 ID:wSzHfVWm0
…………………………………………………………………………







絵里「起きなさい、穂乃果」

穂乃果「ん、ああ……もうちょっとだけ……」

絵里「……また水ぶっかけられたいかしら」

穂乃果「むぐっ」ガバッ

絵里「そう、それでいいの」

穂乃果「……うー……昨日のお酒のせいで頭痛いよぉ」

絵里「我慢しなさい、それくらい」

穂乃果「……今日はなにするの」

絵里「私は今日1日オフだから、出かけるわ」

穂乃果「出かけるって、どこに?」

絵里「穂乃果も来るのよ、とっとと着替えなさい」

穂乃果「着替えなんか持ってきてないよ……」

絵里「じゃあせめて髪の毛だけでも整えなさい」

穂乃果「むぅ……」


56: 2015/08/03(月) 02:56:28.30 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「う~……さむっ……」

絵里「ほら、ここ入るわよ」

穂乃果「……服屋?」

絵里「着替え、無いんでしょ」

穂乃果「お金持ってないよ……」

絵里「お小遣いあげたでしょ、足りない分は出してあげるから」

穂乃果「いいよそんなの……」

絵里「あっそ、それじゃ帰りの飛行機代もあげないわよ」

穂乃果「……ずる」

絵里「さ、さ、入りなさい。返事は?」

穂乃果「……はい。……って言わなきゃまた殴るんでしょ」

絵里「にこに殴るなって言われたからもう殴らないわよ」

穂乃果「絶対守らないでしょ……」


57: 2015/08/03(月) 02:58:21.93 ID:wSzHfVWm0
絵里「髪の毛はオレンジだから……補色はブルーね」

穂乃果「なに?補色って」

絵里「色相環っていう、色の並びで正反対に位置する色の組み合わせのこと」

穂乃果「へー、じゃあ私はブルーの服がいいの?」

絵里「ちょっと注意しないとだめ。補色同士は色の主張が激しいからハレーションが起こるわ」

穂乃果「なに、ハレーションって……訳わかんない言葉ばっかり使わないでよ」

絵里「要は目がチカチカするってことよ。上下を薄いブルーにして、ベージュの上着を重ねるとそれも緩和されるわ」

穂乃果「ふーん……なんかよくわかんないや」

絵里「どう?一回試着してみなさい」

穂乃果「……はいはい」

58: 2015/08/03(月) 02:59:23.67 ID:wSzHfVWm0


穂乃果「……」

絵里「ハラショー、可愛いじゃない」

穂乃果「なに、ハラショーって……」

絵里「それは内緒」

穂乃果「……む」

絵里「髪の毛、ゴムで括ろっか、ちょっとしたアクセントで……」

穂乃果「いいよ、そんなの……」

絵里「ズラしたほうがいいわね……右側で……」

穂乃果「ちょ、ちょっと……」

絵里「はい、できた。……鏡みて」

穂乃果「……」

絵里「どうかしら」

穂乃果「……まぁ、悪くないんじゃない」

絵里「似合ってるわよ」


59: 2015/08/03(月) 02:59:53.43 ID:wSzHfVWm0
絵里「次はここ」

穂乃果「うへー……美術館?……こーゆーの苦手……」

絵里「いいから付き合いなさい」






穂乃果(……こんなのの何が良いのやら)

穂乃果(ふわあああ……眠たぁ)

絵里「……」

穂乃果「ね、楽しいの?」

絵里「黙って見なさい」

穂乃果「……私、バカだからよくわかんないよ」

絵里「バカのほうが芸術には向いてるかもしれないのよ、ほら」

穂乃果「むー……」

60: 2015/08/03(月) 03:00:22.53 ID:wSzHfVWm0
絵里「……お昼ご飯にしましょ」

穂乃果「ふぁい」

絵里「何食べたい?」

穂乃果「わかんないし、何でもいい」

絵里「勝手に注文するわね、これと、これと……」

穂乃果「ちぇっ……」

絵里「元気無いわね、いつものことかしら」

穂乃果「凛ちゃんに会いたい……」

絵里「……会いたい?」

穂乃果「お見舞い、行かなきゃ……」

絵里「……それじゃ、明日の朝の便で、帰えることにするわ」

穂乃果「仕事あるんじゃないの」

絵里「明日もおやすみだから、もう一回こっち来たらいいわ」

穂乃果「往復するの?また税金が……」

絵里「飛行機、好きなのよ、悪い?」


61: 2015/08/03(月) 03:01:27.32 ID:wSzHfVWm0

絵里「それと、さっきから税金税金うるさいわね、まだまともに納めてないクセに」

穂乃果「でも、私の家の二人は納めてるし……」

絵里「あら、追い出されたんじゃなかったの?気にかけるなんて意外ね」

穂乃果「本気にしてないよ、どっちも……」

絵里「へー……それじゃ、頃合いを見て帰るつもり?」

穂乃果「……」

絵里「黙って、何事もなかったように帰るの?」

穂乃果「何が悪いの……?謝れっていうの?」

絵里「いや、好きにしたらいいわ。そこまで口出ししないから」

穂乃果「なにそれ、自分から突っ込んどいて……」

絵里「……ひとりじゃ、なんにも出来ないクセにね。強がりだけは一丁前なんだから」

穂乃果「……」

絵里「なに睨んでんのよ」

穂乃果「……いいよ、一人でも、てきとーに働いて、てきとーに生きられるし……」

絵里「無理ね」

穂乃果「無理?なんで?」

絵里「まともに生きれる筈ないじゃない、あんた、バカなんだから」

穂乃果「バカって……うるさいよ!」

絵里「いいえ、バカよ。どうにかなると思ってる時点でバカ。それに、そんなに見栄っ張りですぐキレて、仕事なんて出来るわけないでしょ」

穂乃果「……それは絵里ちゃんも同じなんじゃ……」

絵里「あんたに反論される筋合いはないわ」

穂乃果「……めちゃくちゃだよ」

絵里「穂乃果……負けたくないなら、賢くなりなさい」

穂乃果「賢くなれって、なにそれ……勉強しろってこと?」

絵里「全然違うわ。うまく立ち回って生きろってことよ」


62: 2015/08/03(月) 03:02:55.15 ID:wSzHfVWm0
絵里「人間、簡単に変われるものじゃないわ。私だって、中身は昔と変わってない、クズだって自覚くらいあるわ」

穂乃果「……」

絵里「……いい?バカは死ななきゃ治らないの。よく覚えておきなさい。今からマトモな人間になろうとしても、もうあなたは高校生。……どれだけこれが遅いかわかってるかしら」

穂乃果「なら、絵里ちゃんはどうしたのさ……」

絵里「……私は、負けたくなかった、私が見下していた人間に、立場を逆転されるのが我慢できなかった……だから今の位置を目指した、それだけよ」

穂乃果「……それで、幸せなの?」

絵里「何もしないよりはずっとね。奪われる側になるのは嫌だったの」

穂乃果「……よくわかんないや」

絵里「にこも、希も……彼女達だって、昔と同じよ?根っこの部分は何も変わってないわ」

穂乃果「変わってないクセに、私にあんなに偉そうにして……」

絵里「クズ同士でしか分からないこともあるわよ。だから彼女たちはあなたに関わろうとするわけ。違うかしら」

穂乃果「だから、ちゃんと教えてよ……!私は、私は、どうすればいいの!!」

絵里「更生は無理。不可能って言っとくわ……先にね。あなたは善人にはなれないわ」

穂乃果「……」

絵里「だからこそ……損をしない生き方を選びなさい……もし、お金が欲しいなら、頭を使いなさい。幸せになりたいなら、ちょっとくらい努力してみなさい……」

穂乃果「うっ、うっ……」

絵里「自分が欠陥品だってわかってるなら、それを隠すようにしてみなさい。そうじゃないと、欲しいもの、何も手に入らないわよ」

穂乃果「……わかった、わかったよ……」


63: 2015/08/03(月) 03:03:39.13 ID:wSzHfVWm0
絵里「冷めるわよ、食べたら?」

穂乃果「……いただきます」

絵里「そう、食べる前にはいただきます、正解よ」

穂乃果「……」

絵里「いただきます」

穂乃果「……むちゃくちゃだよ、絵里ちゃんは。私なんかに真似出来ないよ」

絵里「誰が真似しろって言ったわけ?話聞いてたのかしら」

穂乃果「うっ……聞いてたよ、でもなんか難しかった……」

絵里「まぁ、わかりにくかったかもしれないわね、確かに。ただ、こんなクソみたいな性格でもなんとか生きていけるって見本になれたら、それでいいわ」

穂乃果「……」

  絵里「それで十分」




64: 2015/08/03(月) 03:04:28.94 ID:wSzHfVWm0
………………………………………








キィィィィン……








穂乃果「わざわざ日本まで送ってくれなくても良かったのに……」

絵里「口ごたえしないの。〇すわよ」

穂乃果「……はい」

絵里「さて、と。にこが迎えに来てるはずよ、これじゃ、私はこれで……」

穂乃果「会わなくていいの?」

絵里「あんたと一緒になって会いたくないだけ」

穂乃果「なにそれ……」

絵里「3日間、楽しかったわよ」

穂乃果「絶対ウソだ……」

絵里「お別れの時は?」

穂乃果「……ありがとうございました」

絵里「そう、いい返事ね。それじゃ、また会いましょ」




穂乃果「……ふん、変人め」

穂乃果「二度と会いたくないよ……」



65: 2015/08/03(月) 03:05:30.26 ID:wSzHfVWm0
にこ「あーっ、いたいた!おーい!」

穂乃果「あっ、矢澤」

にこ「全く、大変だったでしょ、絵里の相手は」

穂乃果「10発くらい殴られて、20発くらい蹴られて、5回くらい首絞められた……」

にこ「彼女なりの愛よ、愛」

穂乃果「ふざけてる……」

にこ「車に乗りなさい、凛の病院、行きたいでしょ?」

穂乃果「ああ……うん、ありがと」

にこ「いい返事ね」

66: 2015/08/03(月) 03:06:17.79 ID:wSzHfVWm0
バタン

ブロロロ


にこ「ふん、ふん、ふふふん、ふーん」

穂乃果「やめてよ、きたない鼻歌」

にこ「あっそ、嫌ならやめるわ」

穂乃果「……」

にこ「ね、他に絵里のこと、なんか思わなかった?」

穂乃果「……あんなのが日本の顔だなんて、未来は暗いよ……」

にこ「あっははは!……その通りね、日本の未来は暗いわ。最低よ」

穂乃果「……付き合い、長いんでしょ」

にこ「まあね、悪友よ、悪友」

穂乃果「矢澤は、高校の頃どんな感じだったの」

にこ「……珍しいわね、私のことに興味持つなんて」

穂乃果「いいからなんか喋ってよ」

にこ「あんなアホだった頃、思い出すのも恥ずかしいし、何も言わないことにするわ」

穂乃果「……ずるい」

にこ「そうね、じゃあヒントだけあげるわ」

穂乃果「?」

にこ「絵里は、あんたらの中で言ったら真姫に近い感じだったわね、私は……凛かしら?」

穂乃果「希は」

にこ「希はあんたらの誰にも似てないわ。酒もタバコも嫌いだったし」

穂乃果「……でも、仲良かったんでしょ」

にこ「まぁ、言葉じゃ上手く説明できないけど、一番頭のネジがぶっとんでたのは希ね」

穂乃果「……」




67: 2015/08/03(月) 03:07:03.70 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「矢澤はさぁ、なんで教師になったわけ?……アイドル、目指してたとか」

にこ「なっ!!なっ、ちょっ、誰から聞いたのよそれ!」

穂乃果「教えない」

にこ「どーせ希でしょ、はぁぁぁ……」

穂乃果「なんでアイドルなのさ」

にこ「好きだったからよ、それだけ」

穂乃果「ふぅん、今は?」

にこ「今も好きよ」

穂乃果「じゃあさ、花陽ちゃんと趣味合うかもね、もしかしたら」

にこ「……たまには、いいこと教えてくれるじゃない」

穂乃果「だからさ、なんでセンコーになったの、それ聞いてるんだけど」

にこ「知らないわよ、そんなの。私だって説明できるなら苦労しないわ」

穂乃果「……テキトーだなぁ」

にこ「そんなもんでしょ、働くってことは。色々我慢しなきゃいけないこともあってめんどくさいけどね」

穂乃果「……ふーん、はいはい」

にこ「あんたは将来何になるつもりなの」

穂乃果「決めてない」

にこ「死なないようにね」

穂乃果「……死なないよ、何言ってんの」


68: 2015/08/03(月) 03:07:50.51 ID:wSzHfVWm0
にこ「ほら、着いたわよ、会ってあげなさい」

穂乃果「矢澤は来ないの」

にこ「行かないわよ、雰囲気壊れるでしょ」

穂乃果「……わかってるじゃん」

にこ「お金持ってるかしら、帰りはなんとかしてね」

穂乃果「……へっ」




穂乃果「……」



ガチャ

穂乃果「……」

花陽「あ、穂乃果ちゃん」

真姫「穂乃果!!どこ行ってたの!!」

穂乃果「怒らないでよ、真姫ちゃん……」

真姫「凛が大変だってのに、よくフラフラしてられるわね!」

花陽「やめなよ、真姫ちゃん、凛ちゃんの前だよ」

真姫「……はぁ、はぁ」

穂乃果「ごめんね、連絡しなくて。凛ちゃんは?」

花陽「私たちもさっき来たんだけど寝ちゃってるみたい」

穂乃果「元気なんだよね?」

花陽「うん」

穂乃果「……良かった、良かった……」


69: 2015/08/03(月) 03:08:55.03 ID:wSzHfVWm0
カラカラカラ……


希「……どなたですかー」

穂乃果「……」

希「おっ!やったー!!穂乃果ちゃん、帰ってきたんやな!」

穂乃果「ただいま」

希「おかえり、おかえり!」

穂乃果「ごはん、ある?」

希「あるで~、いつ帰ってきても良いようにな!」

穂乃果「それじゃあ、ちょうだい……」

希「……なに?なんか素直やない、今日は」

穂乃果「……別に」

希「ははん、えりちの教育が効いたかなぁ?ええことやなぁ」

穂乃果「修行、まだやってるの?」

希「今日もあと二時間ほどな」

穂乃果「……そう」

希「久しぶりに、一緒にやる?」

穂乃果「……いいよ、暇だし……」










希「……」


穂乃果(……この人、怒らせたらやばいんだよね……)

穂乃果(絵里ちゃんよりも、やばいとか……どんな感じなんだろ……)

穂乃果(っていうか、最初の方、タバコの煙顔にかけたり、くすぐったりして邪魔したけど……)

穂乃果(あれって、もしかしてかなりヤバイことしてたんじゃ……)

穂乃果(うっ……寒気が……)

穂乃果(なんだか怖くなってきた、ここに戻ってこない方が良かったかなぁ)

穂乃果(……でも、多分、もう大人になってるし、落ち着いてきたんだよね……うん?)



70: 2015/08/03(月) 03:09:29.59 ID:wSzHfVWm0

…………………………………………………………………………

希「よし、終了……それじゃ、散歩行こ~、穂乃果ちゃん」

穂乃果「え、もう夜だよ」

希「夜風を浴びに行こうよ~」

穂乃果「……わかった」

希「……あれ、本当に素直」

穂乃果(何ビビってるんだろ、私……クソっ)

希「先に外で待っとくで」

穂乃果「……あ、はいはい」

71: 2015/08/03(月) 03:10:17.37 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……」

希「さ、行こか」

穂乃果「……どこに?」

希「どこでもええよ、ぶらぶらしよ」

穂乃果「じゃ、こっちの方……」

希「おっ、ええよ、どこでも」

穂乃果(家の方向には行きたくない)

希「嬉しいなぁ、穂乃果ちゃん、付き合ってくれて」

穂乃果「暇だから……」

希「学校、ずっと行ってないんと違う?」

穂乃果「いいじゃん別に……」

希「ん、そやね、大丈夫、大丈夫」

穂乃果「……」





穂乃果「希はさ」

希「ん?」

穂乃果「高校の頃、どんな感じだったの」

希「ありゃ、それ聞いちゃう?」

穂乃果「……いや、嫌なら良いんだけどさ……絵里ちゃんと矢澤から色々聞いて、気になったから」

希「えりちだけちゃん付けで呼ぶんやね、かわいいなぁ」

穂乃果「無理やり呼ばされただけだよ」

希「服も買って貰ったみたいやし、ええなぁ、ええなぁ」

穂乃果「……話そらさないでよ」

希「あ、そうやったな」


72: 2015/08/03(月) 03:11:04.09 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……やっぱり喋りたくない?」

希「んー……いいけど、あんまり面白くないよ」

穂乃果「気になるんだって」

希「好奇心があるのは良いことやね、それじゃあ、ちょっとだけ喋ろっかな」


希「昔のこと……」






希「ウチらはいつも三人一緒やった、三人でいつもこんな風に夜の街を歩いてた……」







絵里「タバコ」

にこ「ん~、どこしまったっけ、あ、ここね、はい、後で返すのよ!」

希「こらこら、肺に悪いで」

にこ「希はカタいわね!いちいち!」

絵里「まぁ、肺に悪いってのは認めるわ、
だけど、この先別に健康に生きて何の得があるわけ?」

希「あははは……えりちは今を生きてるなぁ」

にこ「ペッ!なんだかイライラしてきたわ」

絵里「ん、あそこにいるの、2組のヤツらじゃない?」

にこ「おー、そうね、ちょっと絡んでやろうかしら」


73: 2015/08/03(月) 03:11:43.68 ID:wSzHfVWm0
にこ「こんばんは~」ペチペチ

「あぁ……んだこら矢澤ァ!」

にこ「ひゅう、挨拶しただけじゃないの、メスゴリラ」

絵里「あんたたち、この前私のバイク隠したでしょ、知ってんのよ」

「な、なんだよそれ、知らねぇよ」

「やんのか?あんたら……え?」

「おい、やめときなよ、この三人は……」

にこ「ビビってんのかしら、だっさ……」

絵里「5秒以内に土下座したら許してあげるわ、5.4.3.2……」

「ざっけんな!!」

ヒュン

絵里「ふんっ」サッ

ボギョ

「は、は、は……?」ボタボタ

にこ「うわー、すっごい鼻血……」

絵里「もう一回チャンスをあげるわ、5.4.3……」



希「えりち、後ろ危ない!」

「おおおお!!」

絵里「へ?」

ガァァン

絵里「かっ……こ、この……!」

にこ「鉄パイプ……!全く、武器なんて、ヒキョー者ね」

「うるせぇ、絢瀬、矢澤、東條!!お前らのせいで、どんだけ私たちがカゲに追いやられてるか、知らねぇか!」

希「知らんよ、そんなん」

「東條ォォォ!お前が、お前がぁぁ!!」

ガァァン

「ふぅーっ、ふぅーっ……」

希「ふふ、ふふふ……」

「……?」

希「痛いなぁ……ふふふ……」ニヤアア

「……!」バッ

希「おっ、何逃げとん?もう一発来たら?」

「何が……この、言われなくても……おらあぁぁ!」

ヒュン



74: 2015/08/03(月) 03:12:21.01 ID:wSzHfVWm0
ガァァン!

「……はぁ、はぁ」

希「……」ニィィ

「な、なんだよ、コイツ、痛くねぇのか」

希「……はは、ははははは、ふふふふふ、あははははは」

ガシッ

「んだ、離せコラ!」

希「……鉄パイプってのはな……」

スポッ

「あっ」

希「こう振るんじゃボケっ!!!」ブオン

ベキョッ

「……か、あ、かはぁ……」



にこ「うわっ、痛そー……」

絵里「倒れたわね」

「絢瀬ェェェェ!!」ブンッ

絵里「まだハエはいるわね」

ドスッ

「ん……がっ……」

絵里「大人しくしてなさい」

にこ「……あれ、何人かいなくなってる」

絵里「逃げたんじゃないの」

にこ「ペッ!これから面白くなりそうだったのに……」

絵里「ね、あんた、バイク代弁償してもらえる?」

「……知らねぇよ、バイクなんか……」

絵里「財布貰っていくわよ、いち……にー……二万円しか無いじゃない」




75: 2015/08/03(月) 03:13:28.91 ID:wSzHfVWm0
絵里「希がまだなんかやってるわよ」

にこ「へ……またぁ?」

希「……爪って剥がしたらどうなるんやろ?」

「や、やめ、やめ」

希「なぁ、どうなると思う?たしか、指先まで骨は無いって聞いたことあるから……」

ベリッ!

「ああああああああっっ!!!」

希「あははは、我慢我慢」

ベリッ

「うぁぁあっ!!!あっ、あっ、あっ……」

にこ「希?やめときなさい、もう」

ベリッ

「ああああああああああ!!」

希「……あれ、もう終わったん?」

絵里「とっくに終わってるわよ、さ、行きましょ」

希「……あーあ、肩殴られた、痛い痛い……」

76: 2015/08/03(月) 03:14:06.03 ID:wSzHfVWm0
にこ「すーっ……ぷはぁ……」

希「にこっち、アイドルなるんやろ、タバコは歯にも悪いで」

にこ「……もう、いーわよ、オーディション、全部落ちたし」

絵里「何が悪かったのかしらね」

にこ「雰囲気じゃないの、たぶん」

希「えー、頑張ってよ、諦めんといてよ」

にこ「よくよく考えたら、こんなアイドルなんかいるわけないでしょ、バカバカしかったのよ、最初から」

絵里「ふふふ、過去をちょっと調べられたらおしまいだからね」

希「つまらんなぁ……最近」

絵里「どうしたの」

希「にこっちみたいにやりたいこと無いし……」

にこ「あんたは暴力振るってるときが一番イキイキしてるわよ」

希「もー、やめてよ……たしかに楽しいけど……」

絵里「にこ、あの時いたっけ?この前なんか、笑いながらエンジンに頭押し付けてて……」

にこ「頭っていうなら、誰かの髪の毛燃やして遊んでた時もあったでしょ」

希「だから……ウチの方からは何にもせえへんのに、噂だけ一人歩きして……」

絵里「そういうの、過剰防衛っていうのよ」

にこ「絵里の言葉はたまに難しくてよくわかんないわ」

絵里「ウソでしょ?過剰防衛くらいわかりなさいよ」

にこ「ベンキョー出来ないのよ、あんたと違って」

希「うちはみんなと仲良くしたいだけやのに、先に手あげてきて……」

にこ「あっははは、仲良くしたい!?嘘でしょ、嘘でしょ!」

希「……ばれた?でも、ウチ、寂しがり屋なのは嘘ちゃうよ」

にこ「ひ~っ、ひ~っ……笑いすぎてお腹痛いわ……」

絵里「寂しくなったら爆笑しながら人をロープで縛って橋から投げるのかしら」

希「あ、あれは!見かけだけは凄いけど、ロープはほどけやすくしたし、橋はそんなに高くないし」

にこ「……誰が一番先に捕まるか、賭けない?」

絵里「希に5万円」

にこ「じゃあ、私も希に3万円」

希「賭けになってないやん……そんなの」

にこ「なんていうか、希って怒らないわよね」

絵里「あー……確かに、怒ってるフリはしてるけど、殴られたりしても、遊び相手を見つけられて、心の中で喜んでるんでしょ」

希「酷い言われようやなぁ……まぁ、否定はせえへんけど」

にこ「絵里はすぐブチ切れるのにね、見習ったほうがいいわよ」

絵里「……なにそれ、おちょくってるのかしら」

にこ「おっ、それそれ」

絵里「……」

希「まぁまぁ!……やめときやめとき、な?うちら三人くらいはせめて仲良くしよ」

絵里「……ふぅーっ……」

にこ「……賛成、ね、せめてこの三人くらいは……」

絵里「……」

77: 2015/08/03(月) 03:15:02.12 ID:wSzHfVWm0
…………………………………


希「もしもし、えりちー、今日の夜、集合なー」

絵里「……ごめん、勉強してるの」

希「へ、勉強?」

絵里「やりたいことが出来たから」

希「あ、ふーん……何それ?」

絵里「ちゃんと大学行こうって思って」

希「何それ、どういうこと?」

絵里「お金が欲しいのよ、お金が」

希「不純な動機やなぁ……お金なんか、そこらへんのアホから奪ったらいいやん」

絵里「……バカ。でも、いつまでも、そうしていられるならラクよね」

希「……ウチら、大人になるんやな」

絵里「ええ、そうよ。大人になるわ」

希「大人になったら、今みたいにこんなことも出来なくなるんやろ?」

絵里「当たり前じゃない、そんなの」

希「……そうやな、そうやよな……」

絵里「希、どうしたのよ」

希「……怖い」

絵里「怖い?……希がそんなこと言うなんて……」

希「……ウチは、空っぽの人間や、中身は何にも入ってない、空っぽの人間……」

絵里「ちょっと、ちょっと、どうしたのよ」

希「えりちと、にこっちがおらんようになったら、ウチ、どうすればいいんやろ……何も残らへん気がする」

絵里「……あのね、そんなに思いつめなくても……」

希「嫌!終わってほしくない!!……ここでしか、生きられへん……ウチは……ウチは……」

絵里「……希、大人になりなさい」

希「……嫌……」

絵里「いつか終わるのよ。終わりがあるから楽しかったんじゃないの」

希「……」

絵里「いつでも会えるわよ、呼んでくれたら行くわ。仕事に就いたらケンカは出来ないけど、それでもいつでも会いにいくわ」

希「行かんといて、えりち……」

絵里「……」

希「寂しがり屋って、嘘と違うんよ……」

絵里「……大人になりなさい」


79: 2015/08/03(月) 03:17:43.55 ID:wSzHfVWm0
希「今日はえりち来られへんってさ」

にこ「……ていうか、最近ずっと来てないじゃない」

希「……うん、まあね」

にこ「すー……」

希「またタバコ」

にこ「あんたに注意されたくないわよ」

希「身体に悪いで……」

にこ「面倒くさいわね、いちいち……」

希「肺ガンで死んで欲しくないんよ」

にこ「肺ガン?私によく似合ってるわ」

希「……」

にこ「すー…ぷはーっ……あーあ、未成年って、面倒くさいわね、タバコもろくに吸えないし……」

希「……」

にこ「早く、大人になりたいわ」

希「……やめてよ」

にこ「……ん?なによ」

希「……ううん……タバコ、やめてよ」

にこ「……なんで泣いてんのよ」

希「……」



80: 2015/08/03(月) 03:18:21.47 ID:wSzHfVWm0
にこ「私、妹と弟がいるの、知ってるでしょ?それに、オヤジはいないし、私が働かなきゃいけないの。今だってカツカツだし……」

希「……」

にこ「なんて顔してるのよ」

希「……なんでもない」

にこ「だから、アイドルはもうやめるわ。夢なんか追ってられる年齢でも、身分でもないのよ」

希「……何の仕事するの」

にこ「決めてない」

希「大学は、行くん……?」

にこ「行くわ。学費は借金になるけど、絶対自分で返す」

希「ベンキョー、嫌いって言ったのに……」

にこ「言ったわよ」

希「……嘘つき」

にこ「……なによ、今日はナイーブね」

希「……」

にこ「……それに、なんでそんなに静かなのよ」

希「……」

にこ「なんかあったの?」

希「……なにも、ない」

にこ「一本吸う?」

希「嫌」

にこ「……そう言わずに、一回だけ、ね?」

シュボッ

希「……すーっ……ゴホッ!ゴホッ!」

にこ「あーあ、下手くそ」

希「……うーっ……ゴホンゴホン……何がいいん、こんなの」

にこ「ふっふっふっ、希はまだまだ子供ね……」

希「にこっちこそ」

にこ「そうね、よく言われるわ」

希「にこっちこそ、子供のクセに……」

にこ「なんで二回言うのよ」

希「……どこか遠くへ」

にこ「?」

希「ちょっとだけ、遠くへ……」

にこ「……?ふわぁぁ……しんみりした話は眠たくなるのよね」

希「……」

にこ「今日はもう帰るわ、バイバイ……」

希「おやすみ」

にこ「ん……希もね」

希「……」


81: 2015/08/03(月) 03:19:52.46 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「へ?おわり?」

希「おしまい」

穂乃果「なんでこんなビミョーなところで終わるのさ……」

希「ここから先は喋っても面白くないし」

穂乃果「肝心なところが抜けてるよ、なんでこの神社にいるのさ」

希「人間から逃げて、逃げて……その結果、ここに来ただけ。そんなに大した話じゃない」

穂乃果「絵里ちゃんと矢澤とは、そのあとどうなったの」

希「今の通り。ゆるゆると繋がってる感じやね」

穂乃果「ふーん……」

希「二人とも、公務員やからなぁ……想像もつかんかった」

穂乃果「だから、そんな二人が公務員になったらマズいんじゃ……」

希「あの二人は、ウチと違って器用で努力家やから、問題ないんと違う?」

穂乃果「そうじゃなくて、人格の問題が……」

希「人格なんて……ちょっと頭があれば幾らでも調整できるんよ」

穂乃果「なにそれ……」

希「自分を抑えられるかどうか、それが大人と子供の違いやと思うな。もちろん、誰かのためじゃなくて、自分のために……」

穂乃果「絵里ちゃんとか全然抑えられてないじゃん」

希「それは穂乃果ちゃんの前やからな。仕事中のえりち知らんやろ、別人やで?」

穂乃果「……ふん、そんなんで尊敬する気にはならないよ」

希「……穂乃果ちゃんも、ちゃんと生きらなあかんよ」

穂乃果「ちゃんとって何……」

希「今は遊んでても良いけど、ウチみたいになったらあかんよ」

穂乃果「……なりたくもないし、そもそも、なれないよ……話聞く限り、本当に頭おかしいし」

希「ん、今から振り返れば、確かにな……」

穂乃果「……ずるいよ」

希「ずるい?」

穂乃果「なんだかんだいって、三人とも幸せそうじゃん」

希「……そう見える?」

穂乃果「過去のことなんか全部忘れてちゃんと仕事して、普通に暮らしてるじゃん!!」

希「……」

穂乃果「……昔だって、私と同じだったのに、三人ともお説教ばっかり……偉そうに!ムカつくんだよ!なんでそんなに!」

希「……」


82: 2015/08/03(月) 03:20:26.64 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「なんで……クソ……ムカつく……」

希「ウチらが幸せになったらあかん?」

穂乃果「……なに、それ」

希「関係ないやろ?そんなこと……そんなこと言い出したら、何も出来へんと違う?」

穂乃果「……」

希「いい?穂乃果ちゃん、今やってることは、絶対に消えへんよ。一生残る。良いことも悪いことも全部。」

穂乃果「全部って……」

希「大人になるって、変身することとは違う。子供が大きくなるだけ、それだけの話……」

穂乃果「さっきから言ってる意味がわかんないの!!同じようなこと繰り返して!!もういいよ!!」

希「……」

穂乃果「殴ってみろ!!」

希「……バカなこと言ったらあかん」

穂乃果「殴るの、好きなんでしょ!!」

希「……」

ドンッ

83: 2015/08/03(月) 03:21:42.13 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「こっちから……!こっちからいけば、やり返してくるんでしょ!!」

バキッ

希「……」

穂乃果「……ほら、どうしたの、どうしたの!?痛いでしょ!」

希「……うん」

穂乃果「なんで、なんで何もしないの」

希「……」

穂乃果「なんで、我慢できるの……なんで……」

希「……穂乃果ちゃん。もう帰ろっか」

穂乃果「絵里ちゃんが言ってたよ、更正なんか出来ないって、無理だって……なんで……」

希「……先、戻っとくな」

穂乃果「……なに?」

希「それじゃ……あんまり遅くならんようにな」

穂乃果「待ってよ!」


穂乃果「逃げるなっ!」

穂乃果「逃げるなぁ!!」

穂乃果「はぁー……っはぁ……」

穂乃果「……う、うう」

穂乃果「あああああ、あああ……」

84: 2015/08/03(月) 03:22:11.14 ID:wSzHfVWm0

穂乃果「……」





真姫「……今の人、誰よ」

穂乃果「……真姫ちゃん?いつからいたの?」

真姫「こっちが聞いてるの、今の人、誰よ」

穂乃果「……知らない」

真姫「嘘つかないでよ、知らないわけないでしょ」

穂乃果「あんな人、知るもんか……」

真姫「あくまで嘘をつくつもりなのね、いいわ」

穂乃果「……」

真姫「ね、穂乃果、最近調子どうかしら」

穂乃果「どうって、別に……」

真姫「ふふふ……見た感じ、あんまり良くなさそうだけど?」

穂乃果「凛ちゃんはどうなったの……」

真姫「もうお喋りに戻ってるわよ、早く会いにいってあげなさい」

穂乃果「……うん」

真姫「タバコ、吸う?」

穂乃果「……いらない」

真姫「どうして」

穂乃果「気分じゃない……」

真姫「……あ、そう

86: 2015/08/03(月) 03:23:21.77 ID:wSzHfVWm0
真姫「何日か顔を出さなかったのもさっきのあいつのせい?」

穂乃果「さーね……」

真姫「適当なことばっかり言って誤魔化してるんじゃないわよ」

穂乃果「……少しぐらい隠し事させてよ」

真姫「わかった。穂乃果、あいつの家に泊まってるんでしょ」

穂乃果「……家じゃない」

真姫「だいたい図星みたいね」

穂乃果「だから、そんなこと、別に良いじゃん……」

真姫「……まぁ、別にいいわよ」

穂乃果「っていうか真姫ちゃん、何やってるの?一人で……」

真姫「あっちの方向、私の家でしょ?」

穂乃果「そうだけど」

真姫「……私も追い出されたの」

穂乃果「えっ?」

真姫「凛が大ケガしたのがバレて、それでね。ひっぱたかれたの、三発」

穂乃果「バレてって……今まで色々やってたの、結構ばれてたのに、なんで今更?」

真姫「さぁね、知らないわよ、親のやることなんか」

穂乃果「……真姫ちゃん、反撃しなかったの」

真姫「しないわよ」

穂乃果「……なんで?いつもなら……」

真姫「……わかんないわよ、そんな気にならなかっただけ」

穂乃果「なんか……気まぐれな親子だなぁ」

真姫「なんか、そういうふうに簡単なまとめられたらイラッとするわね」

穂乃果「もー、ごめんごめん」

真姫「……」

穂乃果「……どうしたの」

真姫「変な目しないでよ」

穂乃果「……真姫ちゃん、カバンおっきいけど……何入ってるの」

真姫「大したもんじゃないわよ」

穂乃果「……本?」

真姫「……」

穂乃果「勉強してたんだね、やっぱり」

真姫「いいでしょ、ほっといてよ」

穂乃果「医者になるの?」

真姫「なれたらね」

穂乃果「ひぇー……私、診てほしくないなぁ、メスとか振り回しそう……」

真姫「そんなことしないわよ、仕事なんだから……」

穂乃果「……」

87: 2015/08/03(月) 03:24:30.12 ID:wSzHfVWm0
>>85
ラブライブ!板で書いていたものが続行できなくなったのでこちらに投下しています

88: 2015/08/03(月) 03:25:06.80 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「なんで医者になるの」

真姫「環境があるから」

穂乃果「……そんだけ?」

真姫「そんだけ」

穂乃果「……ふーん」

真姫「不満そうね」

穂乃果「だってさぁ、私が言うのもなんだけど……真姫ちゃん、乱暴ものだしさ……何ていうか、あんまり……」

真姫「向いてないって言いたいの?」

穂乃果「いや、そこまで言うつもりはないんだけど……」

真姫「そこまで言ってるようなもんじゃない、それ」

穂乃果「だって、人の命がかかってる、そういう仕事でしょ」

真姫「責任感が足りないっていうの」

穂乃果「……まぁ、それは……」

真姫「じゃあ逆に聞くわ。あそこを走ってる電車……あの運転手は人命を預かってないわけ?それにこのタバコも。作ってる人は人命には関係無いってわけ?」

穂乃果「……それは」

真姫「人の命に関わる責任なんて、どの仕事もそんなに変わらないわよ。中でも医者が目立ってるだけ。怪我をさせたり病気にさせたりするのは医者じゃないのにね」

穂乃果「……でもさ、真姫ちゃん、いっぱい怪我させてきたよね」

真姫「だからなんなの?……それに、怪我人が増えたら医者は儲かるわ」

穂乃果「そうだけど、何か間違ってる気がするっていうか……」

真姫「勝手に思ってていいわよ」

穂乃果「……偉そーだなぁ、真姫ちゃんも、なんか」

真姫「なによ、あんたが突っかかってきたんじゃない」

穂乃果「……それっぽいことばっかり言って、煙に巻くのは上手いんだから……」

真姫「……偉そうなのはどっちよ」

89: 2015/08/03(月) 03:25:49.46 ID:wSzHfVWm0
真姫「とにかく、カッコつけた動機とか、小綺麗なこと言うのは嫌いなの。やりたいようにやらせてもらうわ」

穂乃果「私はやりたいことやってたら、家追い出されたけどね」

真姫「私も」

穂乃果「……人生間違えちゃったかな?」

真姫「何言ってんの、これからじゃない」

穂乃果「本当にこれからなのかな」

真姫「また変なこと言ってる」

穂乃果「ひょっとしたら、もう終わってるんじゃないのかな」

真姫「あんた、最近ネガティブね」

穂乃果「ちょっと考えてるだけだよ」

真姫「苦手なら、あんまり頭使わない方がいいわよ」

穂乃果「そっちこそ」

真姫「……あー……なんだか、こっちまで虚しくなってきたじゃない」

穂乃果「………」

真姫「……凛のところ行ってくるわ」

穂乃果「え、今から?」

真姫「帰る場所ないのよ、とりあえず病院で朝までいるわ。穂乃果は来ないの?」

穂乃果「……んー、私は、明日にする」

真姫「早く来てあげなさいよ」

穂乃果「わかってる、わかってる」

真姫「それじゃ」

穂乃果「うん……」





穂乃果「……」

穂乃果「世の中、不公平だよ」

穂乃果「全然うまく出来てないじゃん……こんなの……」



90: 2015/08/03(月) 03:26:40.29 ID:wSzHfVWm0
………………………………………








カラカラカラ……

穂乃果「……」

希「すぅーっ、すぅーっ」

穂乃果(……寝てるし)

穂乃果(みんな呑気だよね……バーカ……)

穂乃果(供えもの、なんか無いかな)

穂乃果(へへっ、まだお酒あるじゃん、ラッキー……)

穂乃果(……)

希「すぅー……すぅ……」

穂乃果(……)

穂乃果(……なんだよっ、もうっ!!)

穂乃果(ああああ、クソっ、クソっ……何で私だけ、こんなに、こんなに……)

穂乃果(こんなに、セコい生き方しなくちゃいけないの……!)

穂乃果(クソっ……クソっ……)

91: 2015/08/03(月) 03:27:12.43 ID:wSzHfVWm0







希「朝やで」

穂乃果「……」

希「いつ帰ってきたんか知らんけど、起きてるんやろ?」

穂乃果「……ん」

希「ほら、若い子がダラダラしてたらあかんやろ?」

穂乃果「うるさいなぁ……」

希「外出て掃除し、掃除。ほら、ホウキ」

穂乃果「掃除なんか、毎日やってるじゃん」

希「毎日やることに意味があるの。ほら、立って立って」

穂乃果「ふんっ……」


93: 2015/08/03(月) 03:28:42.30 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「くそっ、くそっ」

希「そんな汚い言葉使ったらあかんよ」

穂乃果「なんで私が、何で私だけがっ……」

希「……」

穂乃果「こんな、こんな……誰が……」

希「人のせいにするのは最低やで、穂乃果ちゃん」

穂乃果「……してないでしょっ!」

希「全部、自分が悪いんや。いい加減に諦めり」

穂乃果「……なんの、なんの話かもわかってないくせに」

希「被害者ぶるのはやめり」

穂乃果「うるさいっ!!!」

希「……うるさいのはどっちや、まったく……」


95: 2015/08/03(月) 03:31:44.41 ID:wSzHfVWm0
海未「……」


海未「……えっ」

海未「穂乃果っ!」

穂乃果「……?」

海未「穂乃果っ!何してるんですか、こんなところで!!穂乃果!」

穂乃果「……」

希「穂乃果ちゃんの保護者ですか」

海未「はい、そうです」

希「……な、来たで、お迎え」

穂乃果「ふん……何が保護者だよ……」

海未「ああ、穂乃果がお世話になったんですか、すみません、すみません」

希「いやいや、話し相手が欲しかっただけですから」

海未「園田海未です。お名前は」

希「東條希です」

海未「東條さん……ありがとうございます」



穂乃果(これ、しゃこーじれーってやつ……?面倒くさ……)



希「いい子でしたよ、穂乃果ちゃんは」

海未「本当に、すみませんでした……」

希「いやいや……」

穂乃果(話長いなぁ……)


海未「穂乃果」

穂乃果「……」

海未「帰りましょう」

穂乃果「どこにさ」

海未「家にです」

穂乃果「追い出されたんじゃ無かったの」

海未「だから、今度は連れ戻すんです」

穂乃果「家にはもう一人いるよ」

海未「説得します、私が……そして、そのあとは……」

穂乃果「セッキョー?……飽きたよ、もう……」

海未「とにかく、帰ります。これ以上無関係の人に迷惑をかけてはいけません」

穂乃果「……うるさいなぁ」


希「穂乃果ちゃん」

穂乃果「何」

希「怒るで」

穂乃果「……」

希「早く帰り」

穂乃果「……なんだよ、なんだよ……クソっ」



96: 2015/08/03(月) 03:32:33.35 ID:wSzHfVWm0
海未「ことりは今、買い物に出てるみたいですね……入りなさい」

穂乃果「……」

海未「入りなさい!」

穂乃果「……ふん」

海未「そこに座りなさい」

穂乃果「……」

海未「……何が言いたいかわかりますか」

穂乃果「わかんないよ」

海未「……わかりますかっ!!」

穂乃果「……」

海未「……どれだけ、どれだけ迷惑をかけたら、気がすむんですか……あなたは……あなたは……」

穂乃果「……」

海未「こっちを向きなさい!」

穂乃果「……うるさい!!」

97: 2015/08/03(月) 03:33:29.45 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「うるさい、うるさい、うるさい……みんな、みんな説教ばっかり、グチグチグチグチ……」

海未「……」

穂乃果「気持ちいいんでしょ!私をバカにするのがっ、上に立った気分になれて!もういいよ!聞きたくないよっ!」

海未「……穂乃果」

穂乃果「こんな家、知るもんか、こんな家……クソっ、クソっ」

海未「穂乃果!!」



パァン……


穂乃果「……」

海未「最低です……あなたは、あなたは」

穂乃果「……」

海未「あなたは最低ですっ……」




穂乃果(……)

穂乃果(……叩かれた?)

穂乃果(……真姫ちゃんと同じだ)

穂乃果(……痛いのに)

穂乃果(……どうしてだろう、やり返す気が起きないのは)


98: 2015/08/03(月) 03:33:57.88 ID:wSzHfVWm0
海未「どれだけ心配したと思ってるんです、何でわかってくれないんです」

穂乃果「……」

海未「あなたを叱って、嬉しかったことなんて、いままで一度もありません、一度も!」

穂乃果「……」

海未「だから、だから……」

穂乃果「もういいよ」

海未「良くありません!」

穂乃果「わかったよ……もう、わかったよ」

海未「……本当ですか?」

穂乃果「……うん」

海未「……本当に」

穂乃果「うん」

海未「……」



穂乃果(なんでそんなにすぐ信じられるの)

穂乃果(また泣いてる)

穂乃果(バカだ)

穂乃果(この人はバカなんだ)

穂乃果(そうじゃないと説明できない)

穂乃果(納得もできない)

穂乃果(……)

99: 2015/08/03(月) 03:34:34.36 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(……私の部屋)

穂乃果(……元のまんま)

穂乃果(……)



ガチャン



穂乃果(……玄関から音が……帰ってきた?)

穂乃果(……さぁ、どうするの)

穂乃果(どうするの、二人とも……)



100: 2015/08/03(月) 03:35:22.22 ID:wSzHfVWm0
ことり「……連れて帰ってきたの」

海未「そうです」

ことり「反省してるの」

海未「わかりません」

ことり「海未ちゃんにはきちんと謝ったの」

海未「……いいえ、謝るということは」

ことり「それじゃあ、ダメだよ、ダメだよ…」

海未「……違います、あなたは間違っています」

ことり「……」

海未「逃げているだけです、あなたは……穂乃果から」

ことり「……逃げてる?」

海未「穂乃果を追い出して、安心したかっただけです」

ことり「違うよ」

海未「違いません!あなたは……」

ことり「……違うよ」

海未「あの子の家は、ここなんです……家族は、私たちだけなんです」

ことり「……」

海未「私たちが責任を放棄して、それが何になるんですか……」

ことり「……」

海未「出来の良い子とは言えません、酒は飲む、タバコは吸う、ケンカはする……何度も何度も、警察の方のお世話になりました」

ことり「……うん」

海未「だったら私たちは、その度に、何をしたんでしょうか」

ことり「やめて、海未ちゃん」

海未「悪いのは穂乃果です。だけど、私たちが目を背けては」

ことり「やめて!!」

海未「穂乃果を……誰が助けてあげるんですか……」

ことり「……優しいんだよ、海未ちゃんは、優しすぎる」

海未「……」

ことり「なんでも穂乃果ちゃんにすぐに言っちゃうんだから、だから、私の出番なんて無かったの」

海未「……」

ことり「今、部屋にいるの?」

海未「はい」

ことり「私が二人で話すよ」

海未「……」

ことり「大丈夫。ちゃんと話すから。待ってて」

海未「わかりました」



穂乃果(……)


101: 2015/08/03(月) 03:36:09.15 ID:wSzHfVWm0
コンコン

ことり「入るよ」

穂乃果「……」

ことり「返事しないなら、入るよ」

穂乃果「……」


ガチャ



ことり「……」

穂乃果「……」

ことり「おかえり」

穂乃果「……」

ことり「ここ、座るよ」

穂乃果「……」

ことり「この一週間……」

穂乃果「……」

ことり「なにか、嫌なこと、あった?」

穂乃果「家を追い出された」

ことり「それ以外で」

穂乃果「神社で変な女に捕まった」

ことり「へぇ……他には?」

穂乃果「頭おかしいヤツにロシアに連れて行かれた」

ことり「……ふぅん」

穂乃果「……友達が、ケガした」

ことり「……他には?」

穂乃果「……なんでいちいち言わなくちゃいけないの、面倒くさい」

ことり「……他には、もう無い?」

穂乃果「……ありすぎて、言えない」

ことり「じゃあ、楽しかったことは?」

穂乃果「ない」

ことり「ひとつも?」

穂乃果「ない」

ことり「……そっかぁ」


102: 2015/08/03(月) 03:36:42.90 ID:wSzHfVWm0
ことり「……ね、覚えてる?はじめに、穂乃果ちゃんと会った時のこと」

穂乃果「覚えてない」

ことり「まだ小学校入ったばっかりだったもんね、覚えてないよね」

穂乃果「お父さんとお母さんは……」

ことり「……」

穂乃果「私の入学式の日に……」

ことり「……ごめんね」

穂乃果「何で謝るの」

ことり「……本当の家族じゃなくて、ごめんね」

穂乃果「やめてよ、やめてよ……謝らないでよ、やめて……」

ことり「海未ちゃんは穂乃果ちゃんのお母さんと知り合いだった」

穂乃果「……私も、よく会ってたよ」

ことり「私と海未ちゃんのこと、ずっと応援してくれてた、二人とも……」

穂乃果「……けど、私は」

ことり「……」

穂乃果「なんで、私を……引き取ったの、なんで?」

ことり「……」

穂乃果「教えてよ!なんのつもりで!こんな……!」

ことり「違うよ」

穂乃果「違うって……」

ことり「忘れちゃった?穂乃果ちゃんがお願いしたの」

穂乃果「……私が?」

ことり「そう。お願いしたのは、私じゃない。海未ちゃんでもない」

穂乃果「……嘘だ、嘘だ」


103: 2015/08/03(月) 03:37:31.83 ID:wSzHfVWm0
ことり「両親のいない子は児童養護施設に入るの、誰も引き取り手がなかったらね」

ことり「穂乃果ちゃんの親戚の人は、みんなもう介護の必要なお年寄りだったり、仕事があったりして、そんなの誰もいなかった」

ことり「だから、仕方ない。そうなる筈だったの、最初はね?」

ことり「そしたらね、突然穂乃果ちゃんが海未ちゃんのところに来たんだ」

ことり「『知らないところに行くのはいやだ、海未ちゃんとことりちゃんと一緒に住みたい』……って」

穂乃果「そんなの言ってない」

ことり「言ったよ」

穂乃果「言ってない!」

ことり「忘れるわけないよ……あんなに嬉しかったんだもん」

穂乃果「……」

ことり「でもね、私と海未ちゃんは普通の関係じゃない、結婚も出来ない、言っちゃえば、変なひとたち」

ことり「だから、ダメだって言ったよ、初めはね。私も、海未ちゃんも」

ことり「でも、穂乃果ちゃんは強情だった『ごはんも、せんたくも、ゆきほのおせわも、全部やるから、おねがい』って……」

ことり「無理に決まってるのにね。そんなの、絶対出来るわけないのにね」

ことり「それでも、その時は信じちゃったの」

ことり「何でだろうね。無理だってわかってたのにね?」

ことり「その間ずっと、穂乃果ちゃんは海未ちゃんの服を持って離さなかったの」

ことり「……それから、何日も二人で話し合った。穂乃果ちゃんの親戚の人とも、何日も」

ことり「……何日も」

ことり「結局、穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんの二人は施設に送られた」

ことり「当たり前だよね、そんなの……子供のお願いなんて、聞いてられないよ」

ことり「ずっと泣いてた、会えなくなる訳じゃないのに、穂乃果ちゃんはずっと泣いてた」

ことり「……それから、何日か経った」

ことり「また穂乃果ちゃんが家に来た」

ことり「抜け出して来たんだ」

穂乃果「覚えてない」

ことり「本当に?」

穂乃果「……本当に」

ことり「初めは送り返したよ」

ことり「それでも、2回、3回、4回……何回も、何回も戻ってきた」

ことり「いくら注意されても、何回も抜け出して来た」

ことり「……6回目くらいだったかな……私と海未ちゃんは、決めた」

ことり「……このままじゃキリがない。だから、『一年だけ』……って」

ことり「一年だけ、私たちと家族になって、それで諦めて貰おうって……」

穂乃果「……」



ことり「……だけど、ダメだった」

ことり「穂乃果ちゃんがいなくなるのが耐えられなくなったから」

ことり「一年は二年に、三年に、四年に……」

ことり「……」

ことり「……ごめんね」

ことり「……ごめんね、ごめんね……」


104: 2015/08/03(月) 03:38:03.23 ID:wSzHfVWm0
ことり「……」

穂乃果「……そんなの……」

穂乃果「なんで……」

穂乃果「なんで、思い出せないんだろ」

穂乃果「3歳とかじゃないのに……小学生の頃なのに……」

穂乃果「……なんで、覚えてないんだろ」


ことり「……」


105: 2015/08/03(月) 03:38:43.87 ID:wSzHfVWm0
海未「ごはん、出来ましたよ」



ことり「……行こっか」

穂乃果「……」

ことり「おなか、空いたでしょ?」

穂乃果「……」

ことり「……ね?」

穂乃果「……うん」

ことり「よし、行こ」

106: 2015/08/03(月) 03:39:33.55 ID:wSzHfVWm0
海未「三人で食事をするのも久しぶりですね」

ことり「うん」

海未「最近また仕事が忙しくなったとか」

ことり「この時期は注文も多いしね」

海未「無理しないでください」

ことり「うん、ありがとう、大丈夫だよ」

海未「……穂乃果」

穂乃果「……」

海未「食べないんですか」

穂乃果「今から食べるよ」

海未「顔色が良くないですよ」

穂乃果「……」

海未「穂乃果も、無理はしないでください」

穂乃果「無理ってなに」

海未「……身体を痛めるようなことって意味です」

穂乃果「……どうかな」

海未「……でも、またこうして家に戻ってきてくれて、嬉しいです、本当に、本当に……」

穂乃果「……連れてきたのはそっち……」

海未「なんだか、穂乃果がいないと、家が空っぽになってしまった気がして……」 

穂乃果「……」

海未「……うっ……うっ」

ことり「泣かないで、海未ちゃん」

穂乃果「苦手だよ、こういうの」

ことり「穂乃果ちゃん」

穂乃果「……」

ことり「絶対に忘れないで欲しいことが一つだけあるの」

穂乃果「……なに」

ことり「……絶対に変わらないことでもあるね」

穂乃果「……だからなに?」

ことり「……私たちは穂乃果ちゃんのことを愛してる」

穂乃果「……」

ことり「どんなことをされても、何を言われても、絶対に変わらない」

穂乃果「わかったよ……」

ことり「忘れないで」

穂乃果「……」


107: 2015/08/03(月) 03:40:12.99 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(……)

穂乃果(愛してるって、なに)

穂乃果(それって、どういうこと)

穂乃果(わかんないよ)

穂乃果(バカだから……わかんないよ、私)

穂乃果(私なんか、いつでも捨てていいのに)

穂乃果(何で連れて帰るの)

穂乃果(何で叱るの)

穂乃果(何でご飯食べさせるの)

穂乃果(……わかんない、ぜんぜん、わかんない……)


108: 2015/08/03(月) 03:41:14.96 ID:wSzHfVWm0
ことり「ごちそうさま」

海未「あ、食器、そのままでいいですよ、わたしが片付けますから」

ことり「うん、ありがとう」

海未「穂乃果ももう食べ終わりましたか」

穂乃果「……」

海未「お茶碗にご飯粒残ってますよ、ちゃんと綺麗に食べなさい」

穂乃果「……」

海未「そうです」

穂乃果「ん……ごちそーさん……」

海未「お風呂もすぐわきますからね」

穂乃果「……ん……いや、お風呂はまだいいや」

海未「どうしてですか、ちゃんと入ってないでしょう」

穂乃果「まだお昼だよ、夜でいいよ」

海未「……わかりました」

穂乃果「まだ汗もかきそうだし……」

海未「どこに行くんですか、穂乃果」

穂乃果「病院」

海未「どこか悪いんですか」

穂乃果「ちがう。友達が入院してる」

海未「……そこで少し待ってて下さい」

穂乃果「……」

海未「ほら、お見舞いにはフルーツですよ」

穂乃果「いいよ、そんなの」

海未「いいから持って行ってあげなさい」

穂乃果「……わかったよ」



109: 2015/08/03(月) 03:41:53.20 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「もしもし、花陽ちゃん」

穂乃果「今から病院行くんだけど、そっちいる?」

穂乃果「あ、それじゃあ今出たところ?何してるの?」

穂乃果「ふーん」

穂乃果「ん、言っとくね」

穂乃果「また後から来るの?わかった」

穂乃果「それじゃ、3時くらいまでいるからね」

穂乃果「うん」



ピッ



穂乃果(フルーツ、前に一回病室行ったときもういっぱいあったんだよなぁ……)

穂乃果(それに、こんなの持っていくの、私のガラじゃないし……)

穂乃果(お見舞いのなんか自分で買うよ、もう)

穂乃果(……どうしよっかなぁ、これ、捨てるわけにもいかないし、食べる気にもならないし……)

穂乃果(……)

穂乃果(今、いないかな……)

穂乃果(こっそり……)

穂乃果(……)


110: 2015/08/03(月) 03:42:26.63 ID:wSzHfVWm0
希「穂乃果ちゃん」

穂乃果「……げ」

希「何、その顔」

穂乃果「……」

希「感動の再会、やろ?」

穂乃果「まだ半日も経ってないじゃん……」

希「これ、お供え物?わざわざ来てくれたんやね、ありがとう」

穂乃果「いや、そんなつもりじゃ……」

希「神様、喜んでるよ」

穂乃果「……違うって……いらないから……」

希「どっちでもええよ、嬉しいから」

穂乃果「……」

希「あ、お供え物はありがたいけど、ウチの方にお礼はいらんよ、念のため言っとくけど」

穂乃果「そんなつもりないよ」

希「その代わり、また遊びに来てな」

穂乃果「……いつまで修行してんのさ」

希「死ぬまでやるよ、ここで」

穂乃果「……なに、そういう意味だったの?」

希「言ってなかったっけ?」


111: 2015/08/03(月) 03:42:52.68 ID:wSzHfVWm0
希「改めて、ありがとう、穂乃果ちゃん。楽しかったで」

穂乃果「別に楽しくなかったよ」

希「捻くれてるなぁ、園田さんに育てられたとは思われへんよ」

穂乃果「……ふん」

希「まあでも、またここに来てくれたってことは脈ありってことでええかな?」

穂乃果「気持ち悪いこと言わないで」

希「今度はえりちも一緒に呼ぼか」

穂乃果「やめて」

希「顔色変わったな」

穂乃果「やめてってば」

希「冗談冗談。あっちは穂乃果ちゃんに会いたがってるみたいやけど」

穂乃果「……そうだ、ずっと聞こうと思ってたんだけど……なんで私わざわざロシアに連れて行かれたの」

希「知らんよ、そんなんえりちに聞いて。ウチはただ音ノ木の後輩を捕まえたって報告しただけ。そしたらその子に会わせなさいって」

穂乃果「全然意味わかんない」

希「だから、真意は本人から直接聞いて」

穂乃果「やだよ、それ」

希「そんなに会いたくない?」

穂乃果「会いたくない」

希「えりち、悲しむやろなぁ」



112: 2015/08/03(月) 03:43:20.26 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……もう行く。約束してるから……」

希「ん、それじゃあね」

穂乃果「……ん」

希「また会おなー」

穂乃果「……」

希「待ってるでー」

穂乃果「……」


穂乃果(さてと……凛ちゃんに何か買って行ってあげないと)

穂乃果(げっ……でもあんまり持ってないや)

穂乃果(ロシアのお金なんて持ってても使えないし……邪魔だなぁ)

穂乃果(これは、おみやげ代わりにしよっと……それじゃ、なに買おっかなー……)

113: 2015/08/03(月) 03:45:05.00 ID:wSzHfVWm0
……………………………………………



穂乃果「入るよ」

凛「はーい」


カラカラカラ


穂乃果「……久しぶり」

凛「久しぶりー!待ってたよ!」

穂乃果「元気そうじゃん」

凛「頭は元気なのにベッドから動けないからイライラするにゃ」

穂乃果「だから来てあげたんだよ」

凛「もー……穂乃果ちゃんもあの時一緒に大怪我してくれたら横に話し相手が出来たかもしれないのに」

穂乃果「同情の余地なし、だね。せっかくお見舞いの品持ってきたのに」

凛「え、なになに」

穂乃果「あげない」

凛「はぁ~っ?」

穂乃果「ごめんなさいは?」

凛「謝るのはそっちの方だよ」

穂乃果「相変わらずなまいき……はい、これ」

凛「……なに?これ」

穂乃果「カップヌードル」

凛「……あははは、お見舞いにカップヌードル」

穂乃果「なに、いらなかった?」

凛「あ、貰っとく、貰っとく。ありがたーく、貰っとくよ」

穂乃果「ちぇ……」

凛「ありがと」

穂乃果「ん……」

凛「てっきり、タバコでも買ってくるのかと思ったけど」

穂乃果「……ちょっと考えたけどね」

凛「あのときさ、本当に死ぬかと思ったんだからね、あー、思い出すだけでブルっとする……」

穂乃果「見てるこっちのほうが怖かったよ、頭から血流してさ」

凛「あれ、そんなに酷かったっけ」

穂乃果「『ひゅう、ひゅう、ああああああ、ああ』……ってさ」

凛「やめるにゃ」

穂乃果「あははは、やめるやめる」

凛「お見舞いか、おちょくりに来たのかどっちかハッキリしてよ」

穂乃果「両方だよ、両方」


カラカラカラ


花陽「あ、穂乃果ちゃんもいるね」

凛「かよちーん」

114: 2015/08/03(月) 03:45:45.92 ID:wSzHfVWm0
花陽「退院いつだったっけ」

凛「忘れた」

花陽「忘れたって……」

凛「とーぶん学校行けないよ、あーあ」

穂乃果「よく言うよ、あんまり行ってないくせに」

凛「穂乃果ちゃんに言われたくないよ」

花陽「……お見舞いのこれ、食べていいかな」

凛「いいよ、一人じゃ食べきれないから」

花陽「このバナナ、誰の?」

凛「矢澤が持ってきたやつ」

花陽「矢澤?いつ来たの?」

凛「今日の朝来てたよ」

花陽「へー……案外暇なんだね」


穂乃果「矢澤さ、アイドル目指してたって」

凛「え?」

穂乃果「矢澤の同級生から聞いた」

花陽「アイドルって!」

凛「ぷっ、くくく、嘘はやめるにゃ」

穂乃果「ほんとだって!確かなスジから聞いたの!」

凛「確かなスジって、なに、あははひーっ、ひーっ、お腹痛い……ついでにケガしたところも痛い……」

穂乃果「……ね、花陽ちゃんに言いたかったんだ、面白いでしょ」

花陽「……矢澤がなれるわけないよ、オーラが無いもん、オーラが……」

凛「あははは、オーラって見えるの?」

花陽「まあ、若い頃はどんなんだったか知らないけどさ」

穂乃果「昔の矢澤って、あはは」

花陽「……でも、熱意があれば……あるいは……挑戦しない者が一番の敗者なのでは……」ブツブツ

凛「なに言ってんのかよちん?」

花陽「いや、いや、なんでも無いよ、凛ちゃん。タバコ吸う?」

凛「禁煙だよ。吸ったら天井のスプリンクラーが作動するにゃ」

花陽「はーっ、そう……」


115: 2015/08/03(月) 03:46:42.71 ID:wSzHfVWm0
カチン

シュボッ

凛「って、え、え!ちょっとかよちん、聞いてた!?」

花陽「……え、何が……?すーっ……ぷはぁ……」

凛「だから、だから、スプリンクラーって……!」

花陽「………へ?じゃぁ、もしかして……」


ジリリリリ!!



プシャアアアアアアアア!!



凛「にゃああああああああ」

花陽「ぴゃあああああああああ」




……………………………………………………………



「星空さん!困りますよ、こういうことされたら……」

凛「……け。わかったから、あっちいってて」

「……まったく」

花陽「ごめんね、ごめんね凛ちゃん」

凛「事故は起こりうるものだよ。最近悟りを開きかけてきたにゃ」

穂乃果「もーっ……花陽ちゃん、なんで話聞いてなかったの……」

花陽「……矢澤のことで頭がいっぱいで……」

穂乃果「なるほどね、つまり、矢澤が悪いわけだね」

凛「今度会ったらケツ蹴ってやるよ」

花陽「……うーん……まあ」


116: 2015/08/03(月) 03:47:31.47 ID:wSzHfVWm0
カラカラカラ

真姫「みんないるじゃない」

凛「やっほー真姫ちゃん」

真姫「……なんでみんな濡れてるのよ」

穂乃果「3Pだよ、3P」

真姫「そういう下品なネタ嫌いだって言わなかったかしら」

凛「やれやれ、真姫ちゃんはお嬢様脳だにゃー」

ベシッ

凛「痛ァァーーっ!!!」

真姫「そういうのも嫌いって言ったでしょ」

凛「うう……今ので全治3ヶ月は伸びた気がする……」

真姫「いいんじゃない?退院してまた事故するよりは」

凛「なんか、さっきからロクなことがないよ……」


穂乃果「ってかさ、真姫ちゃん、家帰れたの?」

真姫「まだよ。フラフラしてたところ」

凛「真姫ちゃん、図書館行って勉強してたらしいにゃ」

真姫「黙りなさい、凛」

凛「嘘じゃないのに」

真姫「凛の病室で一晩過ごしたから、疲れて寝に行っただけよ」

穂乃果「ほんとかなぁ」

真姫「穂乃果まで疑うわけ?」

穂乃果「だからさ、すぐ怒るのやめようよ」

真姫「は?怒ってないわよ、さっきから何?」

花陽「やめやめやめ!真姫ちゃん、やめ!……せめてさ、この4人くらいは仲良くしよ」

真姫「……」

穂乃果「……はーっ……」


117: 2015/08/03(月) 03:48:09.07 ID:wSzHfVWm0
………………

花陽「それじゃ、そろそろ帰るね」

穂乃果「私も……」

真姫「私は今晩もここでいるわ」

凛「えー、早く帰って親に謝ったら?」

真姫「それは意地でも無理よ。こうなったら持久戦なんだから」

凛「……」

穂乃果「じゃーね、二人とも」

花陽「ばいばーい」


118: 2015/08/03(月) 03:48:42.75 ID:wSzHfVWm0
花陽「後ろ乗りなよ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「ん……ありがと、安全運転でお願いね」

花陽「冗談になってないよ、それ」

穂乃果「あはは……生きてたから、こういうこと言えるんだよ」

花陽「穂乃果ちゃんはもう家には戻ったの?」

穂乃果「まあね、一応」

花陽「どうだったの」

穂乃果「なんとも言えないなぁ」

花陽「まぁ、そうだよね……よし、行くよっ」


ブォンブォンブォン



ブロロロロロロロロ!





ブオオオオン!!


花陽「………!」

穂乃果「ねぇーっ!!」

花陽「なにーっ!!?」

穂乃果「もうちょっとさぁー!」

花陽「えーっ!?」

穂乃果「もうちょっとさぁ、スピード落とさないーー!?」

花陽「穂乃果ちゃんの意気地なしーっ!!」

穂乃果「わかったよーっ!!もっと出して!もっと!!」

花陽「やあああああ!!!」



ブオォォン……

119: 2015/08/03(月) 03:49:14.72 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「はは、はははは……頭が変になりそうだった」

花陽「……カーブ、膝が地面についてたね」

穂乃果「ひぇー……ほんと、いつか死ぬよ、絶対……あー……」

花陽「……」

穂乃果「どうしたの」

花陽「……なんか穂乃果ちゃん、変わったね」

穂乃果「……?」

花陽「……いや、気のせいかな」

穂乃果「……なに、変わった?」

花陽「……なんか、冷めてるっていうか、前より……敏感になったっていうか……」

穂乃果「なにそれ、そんなに私ゲキアツだった?鈍感だった?」

花陽「……いや、そうじゃなくて、なんとなく……」

穂乃果「事故のせいじゃないかな」

花陽「そうなのかな」

穂乃果「ちょっぴり、自己防衛ホンノーが……目覚めちゃったってやつじゃないの」

花陽「……ううん、事故だけじゃない」

穂乃果「……」

花陽「何ていうか……人に対しても」

穂乃果「……そう?」


120: 2015/08/03(月) 03:49:55.35 ID:wSzHfVWm0
花陽「なにかあったの?……他に、何か」

穂乃果「……んー……」

花陽「……ごめん、多分気のせいだから」

穂乃果「……なんか、一つだけわかったことがあるんだよね……」

花陽「なに?」

穂乃果「世の中、思った以上訳わかんない大人だらけだってこと」

花陽「……知ってるよ、私も」

穂乃果「ううん、思った以上ってことだよ……そこが大事なんだと思う」

花陽「私たちよりも変?」

穂乃果「うん、本当に頭のおかしい人たち」

花陽「へー……」

穂乃果「……でもさ、訳わかんないなりに、なんとなくわかるところもある気がしたの」

花陽「……どういうこと」

穂乃果「……いや、なんか、上手く言葉にできないや」

花陽「へー……」

穂乃果「もうちょっとさ、ボキャブラリー?……っのがあれば、バシッと言えるのかもしれないけど」

花陽「なんだか、気になるなぁ」

穂乃果「まぁ、最後にはやっぱり訳わかんないってことで締めくくれるとは思うよ」

花陽「ふぅん……」

121: 2015/08/03(月) 03:50:28.02 ID:wSzHfVWm0
花陽「あの日さ、電話くれた日、どこにいたの?」

穂乃果「ロシア」

花陽「ロシア!?」

穂乃果「ラチされたの」

花陽「誰に!?」

穂乃果「オトノキの先輩に」

花陽「穂乃果ちゃん、それ、誰?先輩って?」

穂乃果「よくわかんない人だよ」

花陽「ロシアって……めちゃくちゃじゃん、本物のヤクザみたいなことするなぁ」

穂乃果「ん……まぁ、ヤクザっぽいね」

花陽「穂乃果ちゃん、そいつを倒して帰ってきたの?」

穂乃果「倒してなんかないよ」

花陽「……手伝うよ、私も。真姫ちゃんも呼んで……」

穂乃果「やめといた方がいいよ」

花陽「なんで!」

穂乃果「勝てないから」

花陽「……なんで、そんなに弱気なの!」

穂乃果「会ったらわかるよ、すぐ」

花陽「穂乃果ちゃん、やっぱり変わった」

穂乃果「変わってないよ」

花陽「違う、やっぱり違う」

穂乃果「そこまで言うならさ……一回会ってみなよ」

花陽「……」

穂乃果「会えばわかるよ、多分ね」

花陽「……だから、どんなやつなの」

穂乃果「説明しにくい」

花陽「ボキャブラリー?」

穂乃果「いくらあっても説明しにくい」

花陽「……面白そうだね、それ」

穂乃果「……わたしはあんまり会いたくないんだけど」

花陽「いいよ、呼んで。私の気がおさまらないから」

穂乃果「やっぱり真姫ちゃんも呼ぶ?」

花陽「オトノキの先輩なんでしょ、そいつ……あんまり調子のってるようじゃ……私たちがシメないと」


穂乃果(先輩って……まぁ……一応そうだけど)

穂乃果(ああ……言わなきゃ良かったかも、まためんどくさいことに……)

穂乃果(……真姫ちゃんが来るなら、余計に……)


122: 2015/08/03(月) 03:51:06.11 ID:wSzHfVWm0
カラカラカラ


穂乃果「……」

海未「おかえりなさい、穂乃果」

穂乃果「……ただいま」

海未「その……友達はどうでしたか」

穂乃果「元気だったよ」

海未「……良かったですね」

穂乃果「ん……」

海未「お風呂入りますか」

穂乃果「入る」





穂乃果(……事故のすり傷、だいぶ治ったけど)

穂乃果(……なんか、傷が無くなったらまた懲りずにケガしそう)

穂乃果(……すでにケガしそうな予定が一件入ってるし……)

穂乃果(やっぱりダメだよ、明日花陽ちゃんにちゃんと伝えよう)

穂乃果(冗談でラチって言ったけど、ただの旅行みたいなもんだから、恨むようなことじゃないって、ちゃんと説明しよう)

穂乃果(じゃないと……4人で入院だよ)

穂乃果(っていうか、そもそも真姫ちゃん、誘っても乗って来ないんじゃないかな)

穂乃果(真姫ちゃん、喧嘩が好きって訳じゃなくて、怒りっぽいだけだから……)

穂乃果(……万が一、絵里ちゃんと真姫ちゃんが殴り合いになったりしたら……)

穂乃果(……まずいよ、冗談抜きで死人が出る)

穂乃果(ああ……ダメだダメだ、今回だけは全力で阻止しないと……)

123: 2015/08/03(月) 03:51:35.58 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(……シケてるなぁ、私)

穂乃果(……喧嘩やるって聞いたら、飛びついてたのに……)

穂乃果(いつからだろ、いつから違和感が……)

穂乃果(……もしかしたら、初めからこんな感じだったかもしれなかった)

穂乃果(……あんな風に夜中に遊んだりし始めたのはいつからだっけ)

穂乃果(……家の二人を泣かせるようになったのは、いつからだっけ……)

穂乃果(……思い出せる、今でもハッキリと)

穂乃果(……そんなに、昔のことじゃないから……)

124: 2015/08/03(月) 03:52:25.01 ID:wSzHfVWm0
私のはじまりは小学生の頃

それは私がこの家に来たときのこと

二人のことは海未ちゃん、ことりちゃんって……あの頃は、呼んでた

今じゃもう、名前さえ呼ばなくなったけど、その時はそんな風に呼んでた

海未ちゃんは日本舞踊、園田流の本家の娘

継承が決まっていたらしく、婿を迎えて籍を入れる直前まで来てたらしい

だけど、海未ちゃんはことりちゃんを愛してた。

どうしても親が決めた婚約に我慢できなかった

そのことは、自分の口で父親に言ったらしい

かなりモメたって聞いた

海未ちゃんは家を出た

ちょうど、海未ちゃんには姉がいた

結局、園田流は彼女が継いだらしい

それで、ことりちゃんと二人で暮らし始めた

けれど、日本じゃ同性婚は認められていない

二人の暮らしの世間からの目は冷たかった

それでも、自分たちで選んだことだと言って、負けずに生きてきたそうだ

ことりちゃんは服飾デザイナーだった

その仕事の関係で、私のお父さんとお母さんに出会ったらしい

私の両親は二人のことを応援していたらしい

たしかに、私もよく私も遊びに行ってた気がする

私と二人の家は親戚みたいな関係になりつつあったらしい


125: 2015/08/03(月) 03:53:05.09 ID:wSzHfVWm0
私の両親は、交通事故で死んだ

信号無視のトラックを避けて、壁に激突したらしい

事故現場は見てなかったけど、即死だって聞いた

後部座席にいた雪穂だけ助かった

私の両親は、その日の私の小学校の入学式に出られなかったのだった

それから、二人の家に引き取られた

……というより、私が滑り込んだ、っていう方が正しいかもしれない



私はクラスの中では明るかった

あの不気味な入学式の不安を拭い去ろうと無理やり明るく振舞ってたのかもしれなかった

友達も多い方だったと思う

だけど、みんなの両親は生きていた

私は時々、みんなと違うことを意識しなくちゃいけない場面に出くわした

私の小学校では『お父さんに感謝の手紙を送ろう』って内容の授業が毎年あった

けれど、何故か私の学年のときだけ、その授業は行われなかった

そのときは気づかなかったけど、他にも色々あったんだろうと思う

それでも、二人のことは大好きだった

海未ちゃんは私と外で遊んだり、勉強を教えてくれたりした

ことりちゃんは私にお菓子や服を作ってくれた

小学生の私はどれだけ違和感を覚えても、十分すぎるほど立派な家族だと思っていた

「私の家にはお母さんが二人いる!」

小学生の頭じゃ、そのくらいにしか考えてなかった

そのうち、私は中学生になった

126: 2015/08/03(月) 03:53:42.26 ID:wSzHfVWm0
中学生になって性的なことを知った

男と女がいて、その二人から子供が産まれる仕組みを知った

女は男を好きになるように作られている。そうハッキリと教師の口から聞いた

それから、二人がどこか欠陥のある、異常者のように見えてきた

でもそのときは微かに不信感が芽生えた程度だったし、何も問題は起きなかった

あくまで、そのときは、だった



ある同級生と口ゲンカになった

原因も内容もよく覚えてないけど、周りにもたくさん人がいたし、昼休みだった気がする

最後はお互いの悪口の言い合いみたいになっていた気がする

その子が言った

内容はちゃんと思い出せないけど、親がいないことをバカにされた内容だった気がする

私は怒った。それでもまだ手は出さなかった


その次に、家の二人のことをバカにされた

レズビアンだってことを笑ってきた



私は気がつくと飛びかかっていた

その子を押し倒して、首を力の限り絞め始めた

周りのみんなが私の服を掴み、引き剥がしてきた

私はわけの分からないことを叫んでいた

皆が私を見ていた異様な眼差しを今でも覚えている

別の星の人間を見るような目だった




その日は家庭連絡をされた上、早退した

理由は何であれ、人に危害を加えたらいつもは鬼のように怒られたはずなのに

家に帰った二人は私のことを抱きしめながら泣いていた




私が首を絞めた子は次の日から学校に来なくなった

その後彼女がどうなったかよく分からない

他にも、変化はあった

私のことに同情しつつも、私を腫れ物のように扱う雰囲気が出来ていた

別に、私と口ゲンカをした子を、私は恨んではいない

きっと、ここにいるみんな、私のことを心の底でそんな風に思っていたのだと知ってしまったからだ

ここにいる誰と大ゲンカになっても、最終的に私を攻撃する材料に、私の家族を持ってくる気がしたからだ

それから、家に帰るたびに泣きそうになった

出迎える二人の顔を見るたびに、怒りがこみ上げてきた

クラスメイトたちとは、喋らなくなってきた

みんな、私のことを馬鹿にしているように見えてきた

私も、みんなのことを心の中で馬鹿にし続けていた

一気に、世界が暗くなったような気がした


127: 2015/08/03(月) 03:54:11.78 ID:wSzHfVWm0
ある日、隣のクラスから私に話しかけに来た子がいた

医者の娘で、学年トップの成績、だけどめちゃくちゃ怒りっぽいことで何かと有名な真姫ちゃんだった

先輩の頭を壁に叩きつけたり、校外学習で他校の生徒を骨折させたりしたらしい

そのせいで何度も停学になってる危ない子だということも知っていた

それなのに、なぜかクラスメートには一切暴力はふるわないし、むしろ優しかったから、嫌われ者ではなかった

だけど、友達らしい友達は一人もいなかった




真姫「穂乃果だったっけ」

穂乃果「……真姫ちゃん、だよね」

真姫「なんだ、知ってたの」

穂乃果「……何かと、有名だし、知らない人いないと思うよ」

真姫「ふーん……穂乃果さ、なんか面倒くさいことになってるんだって?」

穂乃果「……別に」

真姫「なんとなく、気になったのよ、どんな子なのかなって」

穂乃果「こっちだって真姫ちゃんのことよく知らないよ」

真姫「……ね、放課後、ちょっと、話さない?」

穂乃果「……いいけど」

真姫「それじゃあ、待ってるわよ」

穂乃果「……何がしたいんだろ」


128: 2015/08/03(月) 03:54:43.95 ID:wSzHfVWm0
私は真姫ちゃんと色々な話をした

私の家の事情までがっつりと踏み込んで来たのに、不思議と嫌な感じがしなかった

遠慮も同情も一切なく、ただ、私のことを面白そうに見てた

最初に会った時と、それともう一つ、この時の会話の一部が妙に覚えている



真姫「とにかく、何かを盾に偉そうにしてる奴が嫌いなの」

穂乃果「盾って?」

真姫「家がどうとか、年齢がどうとか、性別がどうとか……そんなことを理由にして、強くなった気分でいる奴が大っ嫌いなの」

穂乃果「……でもさ、真姫ちゃん、噂で聞いてるだけだけど……ちょっとやりすぎなんじゃ……」

真姫「……仕方ないでしょ、怒ったら前が見えなくなるんだから」

穂乃果「それじゃ、真姫ちゃんも、家がどうとか言われるの嫌いなの?」

真姫「嫌い」

穂乃果「なんだか、それこそ強者の余裕って感じがして、ずるいなぁ」

真姫「いいでしょ、その話は別に」

穂乃果「あはは……でもさ、怒ると前が見えなくなるのは私もちょっと一緒かな」

真姫「……なんとなく、似てる気がしたから、話しかけに来たのよ」

穂乃果「でも真姫ちゃんほど酷くないよ、私」

真姫「何それ、意味わかんない……」

穂乃果「えー?わかるでしょ」

真姫「……」


129: 2015/08/03(月) 03:55:26.40 ID:wSzHfVWm0


それから、二人で遊ぶようになった


真姫「こんな体に悪い物、よく吸えるわね」

穂乃果「慣れたら案外悪くないよ、挑戦したら?」

真姫「……けほっ、けほっ!」

穂乃果「あーあ、違う違う、私も発見したんだけどね、これ、コツがあるの」



普通の友達は、いなくなっていった



真姫「面倒くさいから今日は帰らないわ」

穂乃果「じゃあ、私もー」

真姫「夜にダラダラするのも、悪くないでしょ」

穂乃果「へへへ、そうだね」



それでも、楽しかった


130: 2015/08/03(月) 03:55:53.23 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「オトノキ受けるの!」

真姫「そうよ」

穂乃果「賢いなぁ……私も、真姫ちゃんと同じ高校がいいよ……」

真姫「穂乃果だって勉強したら入れるわよ」

穂乃果「はぁ……それじゃ、頑張ろっかな……」

真姫「頑張りなさい」

131: 2015/08/03(月) 03:56:30.34 ID:wSzHfVWm0
海未「またこんな夜中に帰ってきて!」

ことり「海未ちゃん」

海未「ことりは穂乃果に甘すぎます!今日こそは、しっかりと……」





海未「穂乃果!またケンカですか!」

ことり「……」

海未「人を傷つけるなと、あれほどいったじゃないですか!」





海未「穂乃果……どうして、言うことを聞いてくれないんですか……」

ことり「……」

海未「……どうして、どうして……」





海未「……辛いことがあるなら、私に教えてください、お願いです……」

ことり「穂乃果ちゃん」

海未「……」


132: 2015/08/03(月) 03:57:03.94 ID:wSzHfVWm0

高校は音ノ木坂に入学できた

小学生のときから勉強はやらされてたから、なんとか間に合った

なんの因果か、ことりちゃんの母親は昔、この学校で理事長をやっていたことがあるそうだ

だから二人とも、受験のあたりは協力的だった

……それ以上に、真姫ちゃんと離れたくなかった気持ちが強かった

だから、入学してからの勉強はどうでもよかった

私たちは結局、中学生の頃のノリをそのまま高校に持ち込んだ

二人で馬鹿なことやって、それで楽しんでいた

音ノ木坂では凛ちゃんと花陽ちゃんと知り合った

二人も私たちと似たような境遇で、花陽ちゃんが凛ちゃんに勉強を教えてなんとか入学できたらしい

すぐに意気投合して、いつもの四人になった

仲間が増えたせいか、余計に気持ちが大きくなってきた

言葉もだんだん汚くなってきたけど、他に話す人もいなかったので、どうでもよかった


133: 2015/08/03(月) 03:57:35.40 ID:wSzHfVWm0

…………………………………………………………………………

海未「穂乃果?」

穂乃果「……んー……?」

海未「いつまでお風呂入ってるんですか、もう一時ですよ」

穂乃果「……そんなに入ってたっけ」

海未「明日は月曜日なんだから、学校いかないとダメですよ」

穂乃果「……学校、ね……」

海未「先に寝ますね、台所の電気消しておきますよ、おやすみなさい」

穂乃果「んー……おやすみ」

穂乃果(……)

穂乃果(……はぁ)



134: 2015/08/03(月) 03:58:10.80 ID:wSzHfVWm0
……………………………………



穂乃果「……」

にこ「おはよ」

穂乃果「……ん」

にこ「久しぶりじゃない、学校」

穂乃果「そーだね」

にこ「堂々としてるけど、遅刻よ、遅刻。もう15分も」

穂乃果「それじゃ、二限目からにしよっかな……」

にこ「待ちなさい、そうやってダラダラ引き延ばすつもりでしょ」

穂乃果「……」

にこ「ほら、早く教室行きなさい」

穂乃果「……ちぇ」

にこ「まったく……」

135: 2015/08/03(月) 03:58:42.12 ID:wSzHfVWm0
カラカラ

「……高坂」

穂乃果「……私の席、どこ」

「……そうか、いない間に、席替えしたんだったな、あそこだ」

穂乃果「……ん」

穂乃果(ふーっ……)

穂乃果(みんな、幽霊を見たみたいな顔してる……1週間ちょっとぶりだもんね)

穂乃果(……)

穂乃果(……今日は花陽ちゃん来てるかな)

穂乃果(できれば、真姫ちゃんも来てたらいいかな……いや、いない方がいいかも……)

穂乃果(とりあず、なんとか会わせないようにしないと……)

136: 2015/08/03(月) 03:59:11.59 ID:wSzHfVWm0
花陽「じゃあ、そういうのはいいってこと?」

穂乃果「だから、ラチなんて冗談だってば……本気にされるとは思ってなかったから」

花陽「ロシアに連れていかれたのは本当なんでしょ?」

穂乃果「あれは私が行きたいっていったから……(違うけど)」

真姫「ふーん……凛のお見舞いを放り出して、自分から旅行に行ったの?」

穂乃果(げっ……真姫ちゃん、いたんだ)

真姫「それはそれでなんだかハラが立つわね……」

穂乃果「誤解だよ、誤解」

真姫「何が誤解なのよ」

花陽「やっぱり本当は連れて行かれたんじゃないの?」

穂乃果「違うよ……(そうだけど)」

真姫「……なーんか。怪しいわね」

花陽「私はさ、本当かどうかは別にしてさ、一回会ってみるのがいいと思うの」

真姫「私もそう思うわ、そいつがどんな奴か確かめてやりたいわね」

穂乃果(なんで真姫ちゃんまで乗ってくるの!)

真姫「なによ、喧嘩なんかしないわよ、一目見てみるだけ」

穂乃果(だから、絶対に喧嘩するんだってば!)


137: 2015/08/03(月) 03:59:37.51 ID:wSzHfVWm0
花陽「どちらにしても、穂乃果ちゃんになにか吹き込んだのは間違いなさそうだし……」

穂乃果「だから、吹き込まれたりなんかしてないって」

真姫「先輩って、何者なのよ、二年生?それとも三年生?」

穂乃果「卒業生だよ」

真姫「……先輩ってそういう意味ね。ますます何者か気になってきたわ」

穂乃果「気にしなくていいってば」

真姫「そう言われるたびにますます気になるじゃない」

穂乃果(だから会っちゃダメだって!)

花陽「穂乃果ちゃん、そいつに連絡して」

穂乃果「……連絡先、知らないよ」

花陽「嘘でしょ、昨日は一回会ってみたらいいって言ってたのに」

真姫「いい加減にしなさい、穂乃果。隠し事は無しよ」

穂乃果「……」

真姫「穂乃果!」


穂乃果(ダメだ、もうこれ以上隠せない……)

穂乃果(……絵里ちゃんのこと、喋るんじゃなかった)

穂乃果(なんとかして、衝突は避けないと)

穂乃果(……仕方ない、こうなったら、最後の手段……)


138: 2015/08/03(月) 04:00:07.51 ID:wSzHfVWm0






にこ「立会人?」

穂乃果「私が真姫ちゃんと花陽ちゃんを抑えるからさ」

にこ「私が絵里をなんとかしろって?」

穂乃果「平和的解決だよ、平和的解決……」

にこ「暴れてる絵里を止められる自信あんまりないんだけど」

穂乃果「だから、暴れ出さないようになんとかして欲しいんだってば」

にこ「……」

穂乃果「友達が教え子とモメるんだよ……ほらさ、矢澤の立場上、見逃しちゃいけない気がするんだけど……」

にこ「会わないように出来ないの?」

穂乃果「努力したけど、無理っぽい」

にこ「そこはあんたが勝手に下手こいたんじゃない」



穂乃果「……表沙汰になったら、絵里ちゃん、辞職だろうなぁ」

にこ「……脅し?」

穂乃果「大丈夫じゃないかな、矢澤がいるなら、絵里ちゃんもちょっとは控えるでしょ」

にこ「……」

穂乃果「だって、見て見ぬフリしたら、矢澤が辞職ものだもんね」

にこ「……あんた」

穂乃果「どうしたの」

にこ「意外と、厄介なこと考えるわね……」

穂乃果「矢澤にしか出来ない仕事だってば」

にこ「……わかったわよ、しょーがないわね……いつなの?それ」

穂乃果「まだ決めてない」

にこ「どーせあんたらは暇でしょ……私と絵里で決めるわ」

139: 2015/08/03(月) 04:00:40.76 ID:wSzHfVWm0
にこ「もしもし」

絵里「どうしたの、にこ」

にこ「えーっ……穂乃果があんたに会いたいってさ」

絵里「へぇ、なにそれ、冗談?」

にこ「本気よ」

絵里「本気?……嬉しいじゃない」

にこ「穂乃果のダチも一緒よ」

絵里「友達も?」

にこ「どっちかというと、そいつらほうが絵里に会いたがってるみたい」

絵里「ふーん……おおかた、穂乃果から私の噂を聞いて……それで、興味本位って言ったところかしら」

にこ「穂乃果入れて三人なんだけどね、まぁ、揃いも揃ってどうしようもない奴よ」

絵里「ちょっと聞くけど、会うってどういう意味?」

にこ「会うは会うでしょ」

絵里「違うわよ。もしかして、ケンカ売られてるのかってこと」

にこ「さあ?でも穂乃果はケンカはして欲しく無いって言ってるわよ。他の二人は知らないけど」

絵里「バカバカしいわ。女子会のお誘いってわけ?」

にこ「私も行くわ」

絵里「……レフェリーかしら」

にこ「違うわよ、どっちかというと操縦士」

絵里「なにそれ」

にこ「あんたが変なことしないように見張ってる役目」

絵里「私を珍獣か何かと思ってるんじゃないの?」

にこ「実際そんな感じでしょ」

絵里「煽るわね」

140: 2015/08/03(月) 04:01:42.75 ID:wSzHfVWm0
絵里「行かないわよ。クソガキと遊んでる暇なんかないわ」

にこ「予定空いてないのかしら」

絵里「遊んでる暇がないってだけ」

にこ「じゃあ空いてるのね」

絵里「……えらく会わせたがるわね、誰の味方よ」

にこ「正義の味方よ」

絵里「下らない。よく言うわ」

にこ「いいこと教えてあげる」

絵里「何よ」

にこ「私は止めると言っただけで、止められるとは言っていないわ」

絵里「……それじゃ、私の好きにしろってこと?」

にこ「そうよ、私だって穂乃果の言いなりになんかなるわけないじゃない」

絵里「PTAと教育委員会の監視のせいで生徒を殴りたくても殴れない矢澤の代理をしろってこと?」

にこ「だから、好きにしなさい。あんただって表沙汰になったら面倒くさいのは私と同じでしょ……強制しないわよ」

絵里「あんた、私に何か期待してるでしょ」

にこ「さあね、でも絵里のことは信じてるわ」

絵里「信じてるって?」

にこ「……全部よ」

絵里「……」

にこ「どうするの」

絵里「……わかった、行くわ」

にこ「どっちに決めたの?ただのお喋り会にするか、ガキにお灸を据えるか」

絵里「どっちでもないわよ。後輩のファンコールに先輩が応えるだけ」

にこ「……真意のほどが計りかねるわね。まあいいわ、いつなら空いてる?」

絵里「明日の夜10時から」

にこ「早いけど、遅いわね」

絵里「明後日の朝、また向こうに戻るわ。今度は一ヶ月くらい」

にこ「……場所は、どこにするの」

絵里「好きにして」

にこ「わかった、それじゃまた連絡するわ」

絵里「じゃあね」

141: 2015/08/03(月) 04:02:10.92 ID:wSzHfVWm0
にこ「穂乃果」

穂乃果「連絡してくれた?」

にこ「明日の夜10時よ」

穂乃果「場所は」

にこ「どこでもいいわ」

穂乃果「じゃあさ、私たちがよく行く河原の広場があるんだ、そこで」

にこ「どこよ、そこ」

穂乃果「あとで地図送る」

にこ「はいはい」

穂乃果「……さっきから、えらく協力的だけど」

にこ「協力するわよ、教え子の頼みよ」

穂乃果「……クサい台詞言わないでよ、本当は楽しんでるんじゃないの?」

にこ「そんなことないわよ」

穂乃果「ちゃんと止めてよね」

にこ「努力するわ」

穂乃果「全力でね」

にこ「もちろん」

142: 2015/08/03(月) 04:02:47.27 ID:wSzHfVWm0
………………………………………………

真姫「面白いじゃない」

花陽「夜10時かぁ、かなり暗いね、足元気をつけないと……」

穂乃果「……その通りだけど、決闘じゃないんだよ、顔合わせ」

真姫「わかってるわよ。それに、決闘は法律で禁止されてるわ」

穂乃果「禁止されてるから、ますますやりそうな気がするんだよ」

花陽「穏便にやるよ」

真姫「そうよ、穏便にね」

穂乃果「……」

143: 2015/08/03(月) 04:03:30.60 ID:wSzHfVWm0
…………………………………

カラカラ

穂乃果「ただいま」

海未「……」

海未「……はっ……おかえりなさい、穂乃果」

穂乃果「昼寝……?」

海未「……ああ、気が付いたら寝てました、洗濯物取り込んで、掃除して、食事の準備をしないと……」

穂乃果「……」

海未「ご飯、七時くらいに食べましょう」

穂乃果「お腹空いてるの、もうちょっと早い方がいい」

海未「もう少し、早くですか……頑張ってみます」

穂乃果「……掃除」

海未「どうしました」

穂乃果「やる」

海未「……」

穂乃果「……どこ?」

海未「……ええ、それじゃあ、床掃除をお願いします、ホウキで掃いてあげてください」

穂乃果「……」

海未「穂乃果」

穂乃果「なに」

海未「ありがとうございます」

穂乃果「……掃除、慣れてるから」


144: 2015/08/03(月) 04:04:26.33 ID:wSzHfVWm0

………………………………………

花陽「明日だよ」

凛「そうだね」

花陽「どんなヤツなんだろ」

凛「厄介なことは確かだね」

花陽「……」

凛「かよちん、震えてるよ」

花陽「……そんなことない」

凛「ホントはこういうの、あんまり得意じゃないでしょ」

花陽「そんなことない」

凛「いいよ、今更べつに強がらなくても……」

花陽「強がりなんかじゃない!やるんだ……私が!」

凛「……」

花陽「……私が……」

凛「合わせてくれなくてもいいよ、凛に」

花陽「……」

凛「知ってるよ、かよちんがどんな子か。凛、知ってるから……」

花陽「違う」

凛「……あんまり、いい予感がしないんだ。このまま、送り出していいのかなって気がして……」

花陽「心配しないで、ちゃんとできる、見てて」

凛「かよちん!」

花陽「……」

凛「ケガ、しないでね」

花陽「……なんとかするよ」


145: 2015/08/03(月) 04:06:46.43 ID:wSzHfVWm0
…………………………………………

希「それじゃあ、明日は頑張ってな、えりち」

絵里「何が頑張るよ。大したことじゃ無いわ」

希「あんまり軽く考えてあげらんといてな、彼女らなりに必死やから」

絵里「……軽く考えては無いわよ。けど、音ノ木の学生じゃ無いなら無視してたところよ」

希「音ノ木じゃなかったら、かぁ……なんだかんだ言って、愛校心強いんやね」

絵里「腐れ縁みたいなものよ」

希「……ふーん」

絵里「それより、穂乃果はいつ家に戻ったのよ」

希「つい先日」

絵里「それじゃ、ひとまず一件落着ってわけ?」

希「さあね。これからも一筋縄じゃ行かないことは確かやと思うよ」

絵里「大丈夫、なんとかなるわ」

希「本当に?」

絵里「……色々、見てきた感じではね」

希「……えりちさ、大人になってから傷害とかで捕まったりしてないん?」

絵里「一度もないわ」

希「それじゃ、暴力を使ったことは?」

絵里「……無いとは言えないわね」

希「わおー……奇跡?」

絵里「違うわよ、時と場合を考えてるだけ」

希「バレないように?」

絵里「あと、こっちに正当性を残すのがコツよ」

希「綱渡りやなぁ」

絵里「何が?」

希「だって、発覚したら即辞職やろ?」

絵里「その時はその時よ」

希「んー……後先考えてへんなぁ」



146: 2015/08/03(月) 04:07:34.75 ID:wSzHfVWm0
絵里「ちょっとぐらい考えてるわよ」

希「ちょっとぐらい自分を抑えてる?」

絵里「努力はしてるわ」

希「……まだまだ子供やな、えりちも」

絵里「……あんたに言われたくないわよ……でも、まあそれでもいいわ」

希「ええの?」

絵里「自分の性格は捨てきれないからね」

希「んー……それじゃ、明日はどうなん?」

絵里「明日?」

希「大丈夫な自信あるん?……手出しても」

絵里「心配してくれてるの?」

希「ちょっとな」

絵里「なんとかするわよ」

希「……ふーん」

絵里「これまでも、そうして来たから……」

147: 2015/08/03(月) 04:08:15.87 ID:wSzHfVWm0







…………………………………………………




翌日

午後10時 10分前


穂乃果「行こっか」

真姫「……ん」

花陽「うん」

穂乃果「何度も言うけど、ケンカしに行くんじゃないよ」

真姫「知ってるわよ」

花陽「……」

穂乃果「……わかってる?」

真姫「わかってる」

穂乃果(……こりゃ、聞いてない)

148: 2015/08/03(月) 04:08:43.77 ID:wSzHfVWm0
絵里「もう着く?」

にこ「もうすぐよ、あそこの信号横の階段下りたところ」

絵里「……あそこの下、ね、なるほど……」

にこ「暗いわね」

絵里「橋から照明があるから、見えないほどじゃないわ」

にこ「それじゃ、私はここまで」

絵里「穂乃果と約束したんじゃないの?来なくていいのかしら」

にこ「んー……それじゃ、食中毒って言っといて」

絵里「教師失格ね」

にこ「人間として失格のあんたに言われたくないわよ」

絵里「それじゃ、またね」

にこ「また仕事終わったら飲みに行きましょ」

絵里「三人でね」

にこ「もちろん」

149: 2015/08/03(月) 04:09:16.47 ID:wSzHfVWm0
真姫「……」

花陽「……向こうに誰かいた、あの人?」

穂乃果「暗くてよく見えないなぁ、でも一人だし、違うんじゃないの」

真姫「金髪よ」

穂乃果「……本当だ」

花陽「矢澤がいないよ」

穂乃果「……クソっ……約束、破ったな!!」

真姫「いない方が好都合よ」

花陽「……もちろん」

穂乃果「止まって!二人とも」

真姫「……」

花陽「……」


穂乃果「絵里ちゃん!矢澤はどうしたの!」

絵里「にこは食中毒で倒れてるわ」

穂乃果「嘘でしょ!」

絵里「嘘じゃないわ、生ガキにやられたのよ」

穂乃果「そこで止まって!」

絵里「嫌よ」

穂乃果「……!」

絵里「顔が見えないじゃない」


……


真姫「……あんたが絵里ね」

絵里「初めまして」

花陽「こいつが……」

穂乃果「……」


150: 2015/08/03(月) 04:10:01.46 ID:wSzHfVWm0
絵里「久しぶりね、穂乃果」

穂乃果「……」

絵里「今日はお友達を紹介してくれるの?」

穂乃果「逆だよ。二人が絵里ちゃんを見たかったの」

絵里「……なら、まず自分たちから名乗りなさい。あんたは?」

真姫「……真姫よ」

絵里「真姫ね、なるほど。あんたは?」

花陽「花陽」

絵里「花陽?……花陽ね、ふふふ……」

花陽「何笑ってるの!」

絵里「あんたが一番弱そうだから、笑ってんのよ」

花陽「……!」

絵里「それじゃ、次は私の番ね……絢瀬絵里よ、よろしく」

花陽「このっ……!」

穂乃果「花陽ちゃん、ダメだって!あんな挑発乗ったら……絵里ちゃんも、やめてよ!」

絵里「……穏便に済ませたがってるってのは本当みたいね、穂乃果。良い心がけよ」

真姫「ペッ……いいわ、やる気なのね、あんた」

絵里「わざわざ大人を呼び出しといて、タダで済むと思ってるのかしら」

花陽「……どいて!真姫ちゃん」

真姫「……何よ」

花陽「……私にやらせて」

真姫「一人で?」

花陽「お願い」


151: 2015/08/03(月) 04:10:31.34 ID:wSzHfVWm0
真姫「ダメよ、負けるに決まってるじゃない」

花陽「……真姫ちゃんこそ、一人でやる気だったでしょ」

真姫「話が別よ、それは」

花陽「どうして!」

真姫「……だって花陽……」

花陽「弱いから?」

真姫「……」

花陽「わかってるよ、そんなの!自分が一番わかってるよ!」

真姫「……だったら黙ってなさい!」

花陽「……」

真姫「どうなるってのよ、そんな無駄なことして」

花陽「……」

152: 2015/08/03(月) 04:11:01.59 ID:wSzHfVWm0
絵里「めんどくさいわね、仲間割れ?」

穂乃果「二人とも……」

絵里「早くどうするか決めてくれないかしら?なんなら、いっぺんに来たらどうなの?」

真姫「……いいわ、決まったわよ、私が……」

花陽「私が相手だっ!!」

真姫「……!」

花陽「来い!」

真姫「花陽……!」

絵里「……いいわよ、そっちから来て」

花陽「……」

穂乃果「ダメだよ、花陽ちゃん」

花陽「……やらせて」

穂乃果「……」

花陽「……いいから、やらせて」


絵里「……茶番ね」

花陽「何が」

絵里「せめて、散るなら格好良く散ろうって考えかしら」

花陽「負けるつもりなんかないよ」

絵里「強がりはよしなさい、足……震えてるわよ」

花陽「黙れっ!震えてなんかない!」

絵里「どっちでもいいわ、来なさい」

花陽「……」

絵里「……」



153: 2015/08/03(月) 04:11:35.12 ID:wSzHfVWm0
ザッ

花陽「はっ!」ブォン

ベキッ……

絵里「……」

花陽(あ、当たった……?)

真姫(初発が命中?……違う!……避けなかった!)

絵里「やっぱり……」

花陽「……!」

絵里「……慣れてないでしょ、こういうの」

花陽「このっ!!」ブンッ

ガシッ

花陽「うっ」

絵里「……単純すぎ。……つまらないわね、何の面白みも無いわ」

花陽「は、離せっ!」

絵里「……」

ギリギリギリ……

花陽「いっ……痛たたた……」

絵里「……もう帰っていいわよ」

花陽「……!」

絵里「なんだか、見てたら……かわいそうになって来たわ」

花陽「ふざけるなっ!!!」ブンッ

絵里「はずれ」ヒョイ

花陽「………この、この……!!」



真姫「……いい加減に、マトモに闘いなさいっ!」

絵里「……外野は黙ってなさい。……それに、マトモな闘いになってないのはどっちのせいかしら」

真姫「……!」

穂乃果(……花陽ちゃん)

穂乃果(……花陽ちゃんは弱いわけじゃない、私とそんなに差があるとは思えないくらい……)

穂乃果(……だけど、あまりにも次元が違いすぎる……経験じゃ埋められないくらい、絶望的な実力差が……)

穂乃果(覚悟はしてたけど……)

154: 2015/08/03(月) 04:12:01.64 ID:wSzHfVWm0
花陽(もう一発……)

花陽(ああ……)

花陽(また届かない)

花陽(なら、蹴りで……)

花陽(……でも、やっぱりこれも避けられて……)

花陽(すぐに、間合いを詰められる……)

花陽(……ああ、何やってるの、押し返そうとして、手をあげたらまたスキが……)

花陽(ほら、掴まれた……バカ……)

花陽(あ、ダメだ……もうこれ、抜け出せない。こんな方向に関節曲がらないってば……)

花陽(何してくるつもりだろ、折るのかな)

花陽(折られたらどのくらい痛いのかな)

花陽(わかんないや、そんなの)

花陽(あれ、ああ、違う、折るんじゃない)

花陽(首だ)

花陽(なんだったっけ、頸動脈だ)

花陽(締められてる)

花陽(苦しい)

花陽(負けた)

花陽(勝負にならなかった)

花陽(相手にさえされなかった)

花陽(嫌だ)

花陽(嫌だ……)

155: 2015/08/03(月) 04:12:28.76 ID:wSzHfVWm0
花陽(ずっと知ってた。小さいんだ、私は)

花陽(自分より弱い人を探して、つけ込んで、調子に乗ってた)

花陽(それで、少しずつ強くなってた気がしてただけなんだ)

花陽(凛ちゃんが入院して、いろいろ考えた)

花陽(初めて一人にされて、気がついた)

花陽(私は、凛ちゃんみたいになりたかったんだ)

花陽(相手を選んで、慎重に……そんなズルい方法じゃなくて、もっと……スカっとしていたかった)

花陽(酒を飲んでも、タバコを吸っても、バイクでいくらスピードを出しても……)

花陽(結局、一人で見栄を張ってるだけ……殴り合いになると、さり気なく観戦役……)

花陽(ズルいよね……ズルい……)

花陽(いざ、一人で何かしろって言われたら……こんなにも何もできない)

花陽(何もできない……何一つ……)

花陽(よくわかったよ)

花陽(いい勉強になった)

花陽(もうわかったよ)

花陽(私、色々バカなことやってきたけど)

花陽(無理してたのかな)

花陽(本当は、友達が欲しかっただけなんだ)

156: 2015/08/03(月) 04:13:01.80 ID:wSzHfVWm0
ドサッ

花陽「……」

真姫「……花陽!花陽!」

花陽「……」

真姫「起きなさいっ!」

花陽「…………」

真姫「……花陽!」

絵里「揺すってあげなさい」

真姫「……!」

絵里「血の流れが悪くなってるだけよ、すぐ起きるわ」

真姫「花陽!」






花陽「…………んん」

真姫「……」

花陽「……はぁ……はぁ……」

真姫「だから言ったじゃない」

花陽「……」

真姫「弱いんだから、やめときなさいって」

花陽「……悔しい」

真姫「そりゃあね」

花陽「……悔しい……何も、相手にされなかった……傷一つ、つけてくれなかった……」

真姫「怪我したかったの?……凛の横のベッドで寝たかったの?」

花陽「……」

真姫「いいのよ、穂乃果はやる気ないみたいだし……初めから、私一人で、やるつもりだったから」

花陽「……」

真姫「そこで見てて」

花陽「……」

真姫「大丈夫」


157: 2015/08/03(月) 04:13:37.56 ID:wSzHfVWm0
絵里「できるだけ、優しく終わらせてあげたわよ、穂乃果」

穂乃果「……」

絵里「……忘れたのかしら、そんな目で見るなって言ったの……」

穂乃果「……最低だよ」

絵里「……知らないわよ、ここにいる全員、最低でしょ」

真姫「……こっちを見なさい」

絵里「……」

真姫「お待たせ。次は私よ」

絵里「……ふぅん」

真姫「言っとくけど、怪我させないように手加減とかいらないわよ」

絵里「手加減……?」

真姫「厄介事を避けたいから、花陽に傷を負わせなかったんでしょ?大人の考えそうなことだわ……どれだけ花陽を侮辱してるか、分かっても無いクセに……」

絵里「……」

真姫「……違う?」

絵里「……全然違うわ。バカじゃない?」

真姫「何がよ」

絵里「ただ単に、哀れすぎたからよ」

真姫「……ふぅん」

絵里「それに……言われなくても、あんたに容赦するつもりは無いわ」

真姫「それって、私を認めてくれてるわけ?お褒めの言葉かしら」

絵里「違うわ。個人的に気に食わないからよ」

真姫「あっそ。気に食わないって言うなら、こっちもよ」

絵里「……」

真姫「……」

絵里「来なさい」


158: 2015/08/03(月) 04:14:03.99 ID:wSzHfVWm0
真姫「……らあっ!!」ブンッ

ピシッ

絵里「……」

真姫(弾かれた、軽く……やっぱり素人じゃないわね)

真姫「何か格闘技の経験でもあるのかしら」

絵里「色々やったわ、自衛のためにね」

真姫(……関係無いわ、どんな技があっても!)

ヒュン!

真姫(……)

絵里「よく避けたわね」

真姫「……ふーっ……んっ!!」

ドッ!

ガシィン!!

絵里(組み合い……面白いじゃない)

真姫(まだぁ!もう一発!やあああっ!!)

ブオン!

絵里「…!」

ベキッ……

絵里「……」ポタポタ

絵里(頭突き……ね)

真姫「口から血出てるわよ」

絵里「ふんっ」グイッ

159: 2015/08/03(月) 04:14:44.65 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(すごい、真姫ちゃん、闘ってる……)

穂乃果(いやいや、感心してる場合じゃ無いってば!)

穂乃果(実力が近いって、お互い怪我するってことじゃん!)

穂乃果(うう、でも……邪魔できるような……)





絵里(……流石に、弱くはないわね)

絵里(……慣れてる感じだわ、場数は踏んでる)

絵里(でも……動きも全部力任せ、無駄だらけよ)



真姫「はぁーっ、はぁーっ……」

絵里(ほら……もう息上がってるわよ)

バキッ

真姫「ぐぅッ……」

絵里「……」

真姫「はぁッ……はぁ……!……クソッ!」









真姫(……強い)

真姫(格闘技の経験のある大人とは……何人も闘ったことはある……)

真姫(でも、どいつもこいつも、大した奴らじゃなかった)

真姫(懐に飛び込んだり……防具の無い人間を殴ることにビビって、タジタジするようなヤツらばっかり……)

真姫(こいつは違う)

真姫(なんの躊躇も無い)

真姫(多分、本当の意味で、暴力を利用してここまで生きてきた人間……)

真姫(ビビってるのはこっちかしら?……ダサいわよ、西木野!)

真姫(いつだって、闘うときは〇されるつもりで……そうでしょ!?)


160: 2015/08/03(月) 04:15:19.87 ID:wSzHfVWm0
真姫「オラアァアアッ!!」

絵里「……ッ!」

ゴスッ

真姫(ふんッ……)

絵里(……動きが良くなったわね)

真姫(もう一発ッ!!)

ビシッ!!

真姫(入った!)

絵里「残念」

ガッ

真姫(ッ……!不味いッ……掴まれ……)

グルンッ

真姫(回ッ……)

ドグシャアアッ!

真姫「んぐ……あ……」



絵里「ごめんなさい、暗くてよく見えなかったわね……まさか、投げたところが水溜りだったなんて」

真姫「ん……この……この……」

絵里「泥まみれよ」

真姫「クソァアアアアッ!!」

ベキィ

絵里「ぐっ……」

真姫「ふーっ……ふーっ……」

絵里「痛いじゃない……」

真姫「そうよ……殴られたら痛い、当たり前でしょ……」

ゴスッ

真姫「ぐはっ……」

ドサッ

絵里「……知ってるわよ、そのくらい」

161: 2015/08/03(月) 04:16:00.17 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(……真姫ちゃん)

穂乃果(立ってよ)

穂乃果(そんな泥水の中で、倒れないでよ)

穂乃果(負けないでよ、真姫ちゃん……)

真姫「はぁ、はぁ……」

絵里「下見て無いで、こっちを向きなさい」

真姫「……このッ……このッ……」

絵里「あんまり顔ばっかり殴るから、口の中、切れちゃったじゃない……」

真姫「……」

グイッ

絵里「顔を上げなさい」

真姫「……はぁ……はぁ……」

絵里「どんな気持ちかしら」

真姫「ペッ!」

ベチャッ

絵里「……」

真姫「はぁ……はぁ……」

絵里「……汚いわね」

真姫「……この……クソッ……」



絵里「……もう立てないの?」

真姫「……はぁ、はぁ」

絵里「どうかしら、負けるの……久しぶりじゃない?」

真姫「……ラァ!」ヒュン

パシッ

真姫「……」

絵里「おしい」

真姫「ぐぐ、ぐぐ…………」

絵里「もうやめときなさい。肩、ちゃんと動かないでしょ」

真姫「……誰が……」

絵里「……その眼……何も怖くないって感じの眼ね」

真姫「……」ギリッ

絵里「……試してあげる」


162: 2015/08/03(月) 04:16:34.36 ID:wSzHfVWm0
チャキッ

穂乃果(えっ)

絵里「そこで見てなさい、穂乃果」

穂乃果「待って、それはッ!!」

絵里「言っとくけど、偽物じゃないわ、ちゃんとした押収品よ」

真姫「……!」

ガボッ

真姫「んぐっ!」


絵里「どうかしら、拳銃……初めて口の中に入れたでしょ?」

真姫「はっ、はっ、はっ、はっ」

絵里「……弾、入れてきたか忘れたのよね……どっちかしら」

真姫「んっ!はぁ、はぁ!」

絵里「心配ないわ、サプレッサーついてるから……屋外だし、銃声もそれほど響かないわ……静かに死ねるわよ」

穂乃果「嘘でしょ!やめて!」

絵里「嘘だと信じたければどうぞ……もう何人も撃ってるわ。今更一人くらい、どうってことないわよ」

真姫「はぁ、はぁッ!はっ、はっ…!」

穂乃果「やめろ、やめろ、やめろおおおおッ!!」

ガチャン

絵里「……弾。入ってなかったら、いいわね。賭けましょ……ふふふ」

真姫「うぐ、はぁ、はっ、はっ……はっ……あ……」

絵里「死ぬの、怖いでしょ?……ふふふ」

穂乃果「やめろおおおおっ!!!」

163: 2015/08/03(月) 04:17:08.47 ID:wSzHfVWm0
パスン……


絵里「……」


穂乃果「………」


穂乃果「……空砲?」


絵里「冗談よ、冗談……」

穂乃果「……は、はは、はぁ……」

絵里「押収品なんて、警察が持ってるに決まってるじゃない……それに、人を撃ったことなんて一度もないわよ」

穂乃果「……」

絵里「モデルガンってわかりやすいように、金色に塗装されてるみたいだけど……まぁ、知らないわよね」

穂乃果「……だって……普通なら嘘だと思っても……絵里ちゃんだったら……本当に……」

絵里「……まだ、あんまり私のこと、知らないみたいね……よいしょ」

穂乃果「どこ行くの!」

絵里「帰るわ。全部終わったし」

穂乃果「待ってよ!まだ私が!」

絵里「あんたはもうこの前十分殴ったからいいわ。……それより買ってあげた服、大事にしなさい」

穂乃果「……待ってよ!」

絵里「……友達が気絶してるわ。怪我もあるから、病院に運んであげなさい」

穂乃果「……」

絵里「私は明日仕事。じゃあね。にこによろしく」




164: 2015/08/03(月) 04:17:38.25 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……」

花陽「穂乃果ちゃん」

穂乃果「どこに居たの、花陽ちゃん」

花陽「……向こう行ってた」

穂乃果「……」

花陽「真姫ちゃんは?」

穂乃果「負けたよ」

花陽「……うん」

穂乃果「何発か入れたけど……ダメだった、完全に……負けた」

花陽「……」

穂乃果「真姫ちゃん、起きて」

165: 2015/08/03(月) 04:18:27.78 ID:wSzHfVWm0
真姫「……!」

花陽「真姫ちゃん」

真姫「あいつは……!絵里は!」

穂乃果「帰ったよ」

真姫「帰った……」

花陽「……うん」

真姫「負けた?……私」

穂乃果「……うん」

真姫「……そう」

穂乃果「……」

真姫「クソッ……」

花陽「……」

真姫「……クソッ!クソッ……!クソッ……!」


穂乃果「……真姫ちゃん」

真姫「来ないでっ!」

穂乃果「……怪我……病院、行かなくちゃ」

真姫「いいから、ついて来ないで!」

花陽「ダメだよ、行こ」

真姫「……」

穂乃果「……ね」


166: 2015/08/03(月) 04:19:13.69 ID:wSzHfVWm0
真姫「……花陽」

花陽「どうしたの」

真姫「……肩貸して」

花陽「……うん」

真姫「……穂乃果の言う通りだったかもね」

穂乃果「へ?」

真姫「……止めといたほうが、良かったのかも」

穂乃果「……ううん、やっぱり、そんなこと無い気がする」

真姫「なにそれ?どっちよ」

穂乃果「良くわかんないけど、やっぱり会ったほうが良かったのかも」

真姫「……」

穂乃果「バカだから、上手く言葉にできないけど」

真姫「なにそれ……あっ……痛たた……」

花陽「大丈夫?」

真姫「平気よ……一本ちょうだい」

穂乃果「今?」

真姫「いいから!」

カチッ

真姫「すーっ……ふぅ……」

穂乃果「……」

真姫「なんか……シラけちゃったわね」

花陽「凛ちゃんがいないからかな?」

真姫「あー……ちょっとは関係あるかもね」

穂乃果「……それにしても、矢澤のやつ……」

花陽「すっぽかしたんでしょ」

真姫「いてもいなくても一緒よ、どうせ」

穂乃果「まあ、そうかもしれないけど」

真姫「ふふ……」

花陽「どうしたの」

真姫「……なんか全部、どうでも良くなってきたわ」

花陽「……私も、そんな感じ」

穂乃果「私も」

真姫「あー……上手く言葉に出来ないわね……なんか……」

花陽「負けちゃったね」

真姫「……負けたわね」

167: 2015/08/03(月) 04:19:42.48 ID:wSzHfVWm0
…………………………









凛「わーい、真姫ちゃんも入院だー!」

真姫「ふざけないで、あんたほど重症じゃないの、歩けない程じゃないし……すぐ退院するわよ」

凛「どうせホームレスなんだし、ゆっくりしていけばいいのに」

ビシッ

凛「んぎゃあああああ!!」

真姫「……もう自分の部屋戻るわ、痛がってなさい」

凛「ちょ、ちょっと待つにゃ」

真姫「何よ」

凛「昨日の話聞かせてよ、どうなったの!?結局、ブッ飛ばしたの?」

真姫「……」

凛「あれ」

真姫「……後で話すわ」

凛「……ちぇ」


168: 2015/08/03(月) 04:20:16.47 ID:wSzHfVWm0
にこ「真姫ー、いる?」

真姫「……」

にこ「あ、いるじゃない、お見舞いよー」

真姫「……」

にこ「何よ、お見舞いよ」

真姫「まぁ、良いわ……別に、穂乃果が勝手に呼んでただけだし」

にこ「まだそれ言ってるの?だから食中毒で行けなかったの」

真姫「何食べたのよ」

にこ「マグロ」

真姫「絵里は生ガキって言ってたけど」

にこ「じゃあ、両方同時に食べたのよ」

真姫「給料安いくせに贅沢してんじゃないわよ」

にこ「あ、そう。お金持ってる家はいいわねー……」

真姫「このっ……」

にこ「はいはい、怒らないの。ほら、トマト持ってきたわよ」

真姫「なんでトマトなの」

にこ「あんた好きだって書いてたじゃない。4月の自己紹介シートに」

真姫「……」

にこ「ほら、受け取りなさい」

真姫「凛にはバナナ持って行ったみたいだけど」

にこ「本当はスーパーで安売りしてるの適当に買ってきたの」

真姫「……そんなことだと思った」

にこ「嘘よ、嘘」

169: 2015/08/03(月) 04:20:48.58 ID:wSzHfVWm0
にこ「どうだった、絵里?」

真姫「……うっさいわね、ノーコメントよ」

にこ「何発シバいてやったの」

真姫「うるさい」

にこ「ちょっと、教えなさいよ」

真姫「……確か、ちゃんと当たったのが6発」

にこ「やるじゃない、将来有望ね」

真姫「なんの将来よ」

にこ「私のあとを継げるわ」

真姫「……意味わかんないんだけど」

にこ「私も昔一回だけ闘ったことあるわ、絵里と」

真姫「何発いれたの」

にこ「5発」

真姫「5発?私の勝ちね」

にこ「いや、勝ったのよ」

真姫「はぁ?」

にこ「だから、5発目で絵里に勝ったの」

真姫「……」

にこ「おっ、ちょっとはソンケーしてくれるかしら」

真姫「……今の絵里とは違うわよ」

にこ「はいはい、そうね……あんまり変わってないと思うけど」

真姫「なによ……ふん」

にこ「凛もあんたも早く退院しなさいよね」

真姫「余計なお世話よ……」

にこ「じゃあね。凛の部屋いってくるわ」

真姫「……」


170: 2015/08/03(月) 04:21:30.49 ID:wSzHfVWm0
にこ「やっほー、元気?」

凛「また来た」

にこ「何回来たっていいじゃない、どうせ暇でしょ」

凛「ふーんっ」

にこ「なにそっぽ向いてんのよ」

凛「矢澤は飽きたにゃ」

にこ「またそんなこと言って。ほら、バナナ持ってきたわよ」

凛「めんどくさ……何本持ってくるつもり?」

にこ「でも、前のやつ無くなってるわよ。ちゃんと食べたんじゃない」

凛「病院のクソ不味いメシよりはマシってだけだよ」

にこ「やっぱり欲しいんじゃないの、ここ置いとくわよ?」

凛「……」

にこ「なによ」

凛「べつに」

にこ「へ」


凛「あ、そうだ……昨日さ、どうなったの、矢澤も行ったんでしょ」

にこ「はぁ?穂乃果たちから何も聞いてないの?」

凛「さっきまで寝てたから知らないよ、かよちんと穂乃果ちゃんにケガがないのは知ってるけど。矢澤、見てたんでしょ」

にこ「私は食中毒で倒れてたわ」

凛「えっ、食中毒?……ぷくく……ダサっ……」

にこ「一日で治るあたりがすごいでしょーやるでしょー」

凛「生命力だけはゴキブリ並だにゃ」

にこ「また減らず口を叩く」

凛「何食べたの」

にこ「マグロの生ガキ乗せよ」

凛「うぷっ……なにそれ、きもちわる」

にこ「……確かに」


171: 2015/08/03(月) 04:22:15.50 ID:wSzHfVWm0
凛「じゃあさ、矢澤もなんにも聞いてないの」

にこ「絵里から聞いたわよ、ちゃんと」

凛「早く。その絵里って人はどうなったの」

にこ「ピンピンしてるわ」

凛「うそ」

にこ「本当よ、ちょっとだけケガはしたみたいだけど」

凛「じゃあ、真姫ちゃんが負けたの」

にこ「そうよ、残念だけどね」

凛「うそ……」

にこ「そんなに期待してたの」

凛「……」

にこ「ショック?」

凛「……最悪でも相討ちくらいだと思ってたのに」

にこ「まぁ、もう一回やったら結果はどうなるか知らないけどね」

凛「もちろんリベンジするよ、真姫ちゃんなら当然!」

にこ「……さあね、本人にその気があるか聞いてみないとわかんないわよ、そこは」

凛「絶対やるよ!真姫ちゃんは狙った獲物は逃がさないんだから!」

にこ「獲物って……」

凛「……ていうか、矢澤ってその絵里って人、同級生なんでしょ、連れてきてよ」

にこ「連れてきてどうするのよ」

172: 2015/08/03(月) 04:22:46.67 ID:wSzHfVWm0
凛「真姫ちゃんがやらないなら……凛がボコボコにしてやる」

にこ「あんたじゃ無理よ、やめときなさい」

凛「凛だって戦いの中で成長して、もう真姫ちゃんを抜かしたくらいに……」

にこ「なに妄想に浸ってんの、一撃でやられるわよ」

凛「うるさい、クソザコ矢澤になにがわかるにゃ」

にこ「なぁにぃ!クソザコですって!?」

凛「実際クソザコでしょ、じゃあさ、絵里って人と戦ってよ」

にこ「無理に決まってんじゃない」

凛「ほら、やっぱり」

にこ「……今は、ね」

凛「?」

にこ「それじゃ、もう帰るわ、またバナナ持ってきてあげるから」

凛「もういらないってば」

にこ「似合ってるわよ、バナナ」

凛「べー」

にこ「……煽り方が古いのよ、あんた」

173: 2015/08/03(月) 04:23:15.57 ID:wSzHfVWm0
…………………………………………………………





キーンコーンカーンコーン


穂乃果「……」

花陽「帰ろ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「あ、うん」

花陽「どこか寄ってく?」

穂乃果「んー……今日はいいかな」

花陽「……そっか」

穂乃果「なんかダルいし……家で寝とく」

花陽「……わかった」

174: 2015/08/03(月) 04:23:53.38 ID:wSzHfVWm0
カラカラカラ


海未「おかえりなさい、穂乃果」

穂乃果「……ん、ただいま……」

海未「今から夕飯のおかずを買いに行くんですけど、何か食べたいものありますか?」

穂乃果「……別に、無いかな」

海未「何でもいいんですよ」

穂乃果「……じゃ、からあげ」

海未「唐揚げですね!わかりました、買ってきます」

穂乃果(……今日の花陽ちゃんの弁当に入ってたから、テキトーに言っただけなんだけど)

穂乃果(……ま、いっか、唐揚げで……)

175: 2015/08/03(月) 04:24:24.38 ID:wSzHfVWm0
カリカリカリカリ

ことり「んー……なんかバランスが……」ゴシゴシ

穂乃果「……」

ことり「あ、おかえり!」

穂乃果「……ただいま……なんか今日帰ってくるの早いね」

ことり「なんか、体調悪くて……早退してきたの」

穂乃果「……その割には、仕事してるけど」

ことり「持って帰ってきたの、納期、迫ってるし……」

穂乃果「……ふーん、絵描くんだ」

ことり「うん、最初はデザイン案をこうやって紙に描いて……顧客の人に見てもらってから実物を作るの」

穂乃果「へー……」

ことり「あはは……もうかなり溜まっちゃってて……けっこう大変かな……」

穂乃果「……休んだら?」

ことり「こういうのは、信頼関係だから……もうちょっとだけ頑張らないとね」

穂乃果「……大変なんだ」

ことり「よしっ!まだまだ元気!いけるっ!」

穂乃果「……」


176: 2015/08/03(月) 04:25:11.91 ID:wSzHfVWm0
穂乃果「……ねぇ」

ことり「どうしたの」

穂乃果「補色ってわかる?」

ことり「うん、補色って、色の話?」

穂乃果「そうだけど」

ことり「?」

穂乃果「……オレンジの補色は?」

ことり「オレンジの補色……青だよ」

穂乃果「……ふーん」

ことり「……?どうしたの?」

穂乃果「いや、わかるかなーって思って」

ことり「はぁ、青色……あ、ちょうど、海未ちゃんの色だね、オレンジは穂乃果ちゃんだ」

穂乃果「……」

ことり「すごい、偶然だね、オレンジと青は補色……あれ、分かってて言ったの?」

穂乃果「……いや、別に」

ことり「えへへ、面白いね……」



穂乃果「……じゃあさ、ハレーションってわかる?」

ことり「うん、さっきの補色みたいにね……鮮やかな色同士をくっつけちゃうと、ギラギラしちゃって、見栄えが良くないの」

穂乃果「どうすればいいの」

ことり「お互い主張しすぎないように、片方の彩度を下げるか……間に、なにか挟むか」

穂乃果「挟むのは何色?」

ことり「うーん……薄い色ならいいんだけど……やっぱり白かな、よく使うのは」

穂乃果「……ふーん……白、かぁ」



ことり「ね、どこから聞いたの?こういう話」

穂乃果「……忘れた」

ことり「デザイン関係の人かなぁ、誰だろ?」

穂乃果「多分違うと思うよ」

ことり「んー……」

穂乃果「あ、もう一つ」

ことり「どうしたの?」

穂乃果「ハラショーって何?」

ことり「……」

穂乃果「……知らない?」

ことり「……ごめん、ちょっとわかんないや……あはは」

穂乃果「まあ、いいけど……(あとで検索してみよ……)」


177: 2015/08/03(月) 04:25:48.30 ID:wSzHfVWm0
海未「ただいま」

ことり「おかえり」

海未「……ことり、どうしても今やらないとダメですか?」

ことり「ちょっと、しょうがないかな、これだけは……大丈夫、その辺りの余力も考えてるから」

海未「すみません、苦労ばかりかけてしまって……」

ことり「ううん、お互い様だから」

海未「ありがとうございます……、ご飯、食べられますか?」

ことり「少なめにして欲しいな」

海未「わかりました、唐揚げもありますけど、食べますか?」

ことり「うーん……いいかなぁ」

海未「それじゃあ、お粥でも炊きましょうか」

ことり「うん、お願い」

178: 2015/08/03(月) 04:26:17.82 ID:wSzHfVWm0
穂乃果(……)

穂乃果(あの日から3日たったけど)

穂乃果(なんだか、胸にぽっかり穴が空いたような……)

穂乃果(変な気分だ)

穂乃果(最近、変だ)

穂乃果(……)


海未「穂乃果」


穂乃果(……)


海未「穂乃果ーっ、ご飯出来ましたよ、降りてきてください」


穂乃果(……んっ)

179: 2015/08/03(月) 04:26:48.55 ID:wSzHfVWm0
海未「どうぞ」

穂乃果「……あれ、一人?」

海未「ことりは先に寝ました」

穂乃果「……おかゆ、全然食べてないね」

海未「ええ、作ったんですけど……食欲がわかないみたいで」

穂乃果「……だからさ、休みとれないの?」

海未「今が一番忙しいから、これを乗り切れば、と言ってますが……」

穂乃果「……」

海未「……心配です」

穂乃果「……ん」

海未「……」



穂乃果(……肩を落として、うつむいて……)

穂乃果(……おかしいなぁ)

穂乃果(……こんなんだっけ)

穂乃果(もう二人とも、私とあんまり身長変わらないけど……)

穂乃果(ついこの間までは……)

穂乃果(……もう少し……大きかったような)


180: 2015/08/03(月) 04:27:16.57 ID:wSzHfVWm0
海未「穂乃果」

穂乃果「……どうしたの」

海未「……いえ、お願いが」

穂乃果「なに?」

海未「……ことりに、優しくしてあげて下さい」

穂乃果「……」

海未「何か不満があったなら……私の方に言ってください。何でも構いません、私になら……」

穂乃果「……」

海未「私に、私になら何を言ってもいいです……ちゃんと聞きます、ですから……」

穂乃果「わかったよ」

海未「……」

穂乃果「……わかった」

海未「……お願いです」

穂乃果「……うん」

海未「約束してください」

穂乃果「……うん」



181: 2015/08/03(月) 04:28:10.04 ID:wSzHfVWm0
……………………………………………






花陽(……)

花陽(どこ行こっかな)

花陽(もう12時だし、どこも閉まってるし……)

花陽(……あとでもう一回穂乃果ちゃん呼んでみよっかな)

花陽(うーっ……寒い寒い)




希「おっ」

花陽「……?」

希「音ノ木坂の制服やー、何年生?」

花陽「一年だけど」

希「一年?そっかぁ」

花陽「……」

希「ちょ、ちょっと待って、行かんといてよ」

花陽「今、忙しいから」

希「忙しい?嘘はあかんよ、そんなゆっくり歩いてるのに……」

花陽「何?……確かに、家に帰るつもりも無いけど……」

希「あはは、やっぱり不良や。いや、うちも音ノ木坂の卒業生やから。その制服見たら懐かしくなって。あ、でももう随分前やけどなー」

花陽「それじゃ、私には関係……」

希「穂乃果ちゃんの知り合い?」

花陽「……!」

希「もしかして、知り合いどころじゃなくて、友達?」

花陽(えっ、ちょ、ちょっと……もしかして、この人が……)


182: 2015/08/03(月) 04:28:41.70 ID:wSzHfVWm0
穂乃果『とにかく、ヤクザとかそんなんじゃなくても……世の中には、ヤバい大人がたくさん潜んでるんだよ!』

花陽『ヤバいって、どうヤバいの?』

穂乃果『なんていうかー……パッとみた感じじゃ分からなかったりするからタチが悪いの』

花陽『へぇー……』

穂乃果『前にも見たから花陽ちゃんもよくわかったでしょ!……絵里ちゃんみたいな人のことだよ!』

花陽『あの人はパッと見た感じからしてすでにヤバかったけど……』

穂乃果『それは私が散々言ってたからでしょ!……なんの予備知識も無かったら、騙されてるよ』

花陽『騙されたの?』

穂乃果『だって、外交官だよ?……まともな大人だと思うじゃん、普通……』

花陽『んー……まぁ……』

穂乃果『でもさ、絵里ちゃんに実際に会ってわかったでしょ』

花陽『うん……分かったよ、世の中には、ヤバい人がいる……』

穂乃果『とにかく、花陽ちゃんは突然わけわかんない挑発することあるから……今後も気をつけた方がいいよ』

花陽『むっ、わけわかんない挑発って!?』

穂乃果『身を守るためだよ、友達としての警告!』

花陽『ううん……』

穂乃果『元に、絵里ちゃんにケンカ売ろうとしたのは花陽ちゃんが初めだったじゃんか!』

花陽『うう……あのことは、ごめん……ちょっと、調子乗っちゃった……』

穂乃果『それはいいんだけど……花陽ちゃん、とにかくひとつだけ……「東條希」には近寄らないほうがいいよ』

花陽『東條希?誰?それ……』

穂乃果『学校の帰り道に神社あるでしょ?あそこに住んでるの。超ヤバい人』

花陽『超ヤバいって、どのくらい?』

穂乃果『もう、とにかくヤバいの!とにかく!』

花陽『なにかされたの?』

穂乃果『なにもされてないけど、危なかったの!』

花陽『そんなにヤバい人が……』

穂乃果『会ったら逃げたほうがいいよ!向こうから話しかけて来るかもしれないから、変な関西弁には気をつけて……』

183: 2015/08/03(月) 04:29:09.72 ID:wSzHfVWm0
花陽(ああ、忘れてたぁ!)

花陽(穂乃果ちゃんがあんなに注意してくれてたのに……!)

花陽(ヤバいよぉ、目の前にいる。射程圏内……私一人じゃ、どうしようも無いよ……)

花陽(もうケンカはしないって、決めたのに……)

花陽(どうしよう、今から突然ダッシュで逃げても捕まるかな……)

花陽(捕まったら、どうなるんだろう、全身の骨を折られて、鍋にされて食べられるかも……)

花陽(ああ、あの日、負けた時以来……どうも、ネガティヴな考え方が抜けない……)

花陽(とにかく、とにかく私一人じゃどうしようもない、隙を見つけて、逃げ出さなくちゃ……)





花陽「えーっと、と、東條……希……さん、ですか?」

希「おっ、知ってるん?やっぱり、穂乃果ちゃんの友達やろ?」

花陽「は、はい、え、で、でも、あのー……私、早く家に帰らないと行けなくて、もう夜も遅くて、あはは……」

希「さっきは帰らへんって言ってたけど?」

花陽「うっ」

希「嘘ついたん?」ズイッ

花陽(あ、ダメだ、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバいよ)

希「……」


184: 2015/08/03(月) 04:29:46.46 ID:wSzHfVWm0
花陽(あああああ)

希「ほんとは?」

花陽「ひ、ひ……暇、です」

希「そうなん? やった!ウチもここで一人で寂しいから……ちょっとだけ話し相手になって欲しいなぁ」

花陽「わ、わかりました」

希「じゃあ、あがって?外、寒いから。お茶出すよ」

花陽「お、おじゃまします(ダメだ、連れこまれた……)」

希(穂乃果ちゃんの友達……それにしては、妙に礼儀正しいというか……あ、もしかして穂乃果ちゃん、ウチの昔のこと喋ったなぁ……道理で……)







希「そこ、座って」

花陽「は、はい」

希「すぐお茶持ってくるから」


花陽(……どうしよう、逃げるなら今のうち?)

花陽(いやいやいや……ダメだよ、そんなの怒るに決まってる)

花陽(通学路で待ち構えられて……電柱の裏から現れて、ボコボコに……そして鍋にされて……)

花陽(やっぱり、ここは穏便に話を聞いて……なんとか、平穏無事にすませないと……)

花陽(過剰にビビって情けないけど……実際会ってみたら、やっぱりわかる)

花陽(この人も、やっぱり……ヤバい人だって……そんな雰囲気がプンプン漂ってくるよ……発言の節々から……)

130 : (舞妓 どすえ)@転載は禁止:2015/07/23(木) 22:28:07.78 ID:4P3LLvEi
希「お待たせ」

花陽「あ、ありがとうございます」

希「そんな緊張しなくてもええんよ」

花陽「いや、別に、緊張、して、ないです」

希「……」

花陽(沈黙、マズイよ、なにか喋らないと)

花陽「……ほ、穂乃果ちゃんとはどこで知り合ったんですか?」

希「穂乃果ちゃん?ちょうど、境内の石段に座ってたんよ、それをウチが見つけたのが最初やね」

花陽(全てのはじまりはそこに……)

希「それで、帰るとこ無いっていうから、ウチが泊めてあげたんよ(無理やりやけど)」

花陽「は、はぁ……それじゃ、穂乃果ちゃんは何日もここで」

希「そう」

花陽(……大変だっただろうなぁ)

希「最初は文句ばっかりやったけど……なんだかんだ言って、よく働いてくれてたで」

花陽(穂乃果ちゃんが?……ほんとかなぁ)

希「最後は、家の人が迎えに来たけどなぁ、そこでお別れ。一回その後も来てくれたけどね、嬉しかったなぁ」


185: 2015/08/03(月) 04:31:04.07 ID:wSzHfVWm0
すみません、貼り付け前のレス表示消し忘れました

186: 2015/08/03(月) 04:31:58.48 ID:wSzHfVWm0
花陽「そうだ、希さんは絵里って人とは……」

希「えりち? 友達やで」

花陽「……穂乃果ちゃんと引き合わせたのも、希さん?」

希「違うよ、絵里ちはここにふらっと遊びに来ただけ。そのとき色々話したら、泊めてる穂乃果ちゃんの話に食いついて……」

花陽「興味って……それで、穂乃果ちゃんはロシアに連れて行かれて……」

希「穂乃果ちゃんのこと話したら、家が無いなら何日か預かってみたいって言われたんよ。ロシアに行ったのはただの絵里ちの仕事の都合」

花陽「……そんな軽く」

希「……軽い?……それは違うけど、まあ、ええかな……ところで、あの日以来……穂乃果ちゃん、何か変わったかな?」

花陽「いや、そんな変わったって程じゃないですけど……ちょっとだけ」

希「ちょっとだけ?」

花陽「前より、大人しくなっちゃった気が……」

希「そう思う?」

花陽「はい、あくまで、少しだけ……」

希「ふうん……えりち、とりあえず上手くいったってことなんかな?」

花陽「……?あの、上手くいったって……?」

希「えりち、すごく不器用やから、あはは……何回聞いても、全部ただの気まぐれって返してきたけどなぁ」

花陽「なにか考えがあったんですか?」

希「……最後の夜、帰る前に教えてくれたんよ」

花陽「穂乃果ちゃんに何かしたかったんでしょうか」

希「そう。穂乃果ちゃんにも……その友達にも、な」

花陽「私も」

希「あの日、絵里ちに会ったんやろ?」

花陽「……はい」

希「最初は、穂乃果ちゃんだけのつもりだったみたいやけどね。呼ばれたから追加しただけで……」

花陽「……」

187: 2015/08/03(月) 04:32:46.31 ID:wSzHfVWm0
希「花陽ちゃん、やったっけ?」

花陽「はい」

希「一番、人間を変えるものって何やと思う?」

花陽「……わかりません、やっぱり……失敗とか?」

希「失敗もあるけど……それはあくまで自分の中での出来事。一番人間を変える出来事はいつも他人からやってくる。外からの強烈なショック……そう思うんよ」

花陽「ショックですか……」

希「そう。それもとびきり大きなやつ。お説教とか、ちょっとしたイザコザとか、その程度のものじゃなくて……もっともっと、目が醒めるような出来事」

花陽「……」

希「まぁ……みんなじゃなくて、これはウチらみたいな、どうしようもない……鈍い人間くらいの話かも知れへんなぁ」

花陽「どうしようも無いって、そんな……」


希「花陽ちゃんも、えりちに会って何か変わった?」

花陽「……もう、ケンカはやめようかと」

希「おっ……すごい、前進やね」

花陽「違います、後退です……いろいろ粋がってたけど……私はやっぱり、こういうの、弱いって、わかったから……」

希「でも、えりちに挑んだんやろ?」

花陽「自分の小ささを知らなかっただけ……いわゆる、飛んで火にいる夏の虫ってやつです」

希「……ええよ、それでいい。立派な前進や」 


188: 2015/08/03(月) 04:33:18.96 ID:wSzHfVWm0
花陽「どの方向に行っても……中途半端なんです。なにもかも」

希「……ふぅん」

花陽「小さい頃は、友達が一人しかいなくて……その子と、ずっと一緒にいたんです」

希「今も一緒なん?」

花陽「はい、今は怪我で入院してますけど」

希「その子と一緒にいて……今みたいな感じに?」

花陽「その子は悪くないんです!……見栄を張って、ただ合わせている私が、カッコ悪いだけで……」

希「無理に友達に合わせてる……嫌われるのが怖いん?」

花陽「違います!……いや、でも……もしかしたら、違わないかもしれません……」

希「……」

花陽「でも……もういいんです、もう……」

希「……少しずつ、気付いていったら大丈夫。今の自分がダメと思えたなら、それは最高のチャンスなんよ」

花陽「……」

希「それでいい。ショックを受けて、その後は、どう動くか自分の頭で悩んで、考えて……もう一回、自分で進むこと」

花陽「じゃあ、ショックって、もしかして……」

希「えりちは、具体的には何も教える能力も無いし、そんな立場の人間でも無いって、ちゃんと自覚してた」

花陽「……」

希「だったらどうすればいいか……全部、一度白紙に戻してあげること、その手伝いをするのが一番だって、考えた」

花陽「白紙に……」

希「思いっきり、転ばせてあげる仕事……そして、もう一回、考える時間を与える仕事。酷い汚れ役やろ?」

希「でも、それ以上に……自分より汚れた人間になって欲しく無い……誰よりも、そう思ってた」

希「信頼してたんよ。後輩たちを。音ノ木坂の生徒を、穂乃果ちゃんたちを……」

希「必ず、立ち上がれるって。ギリギリのところでも……それから、自分の頭で考えて、新しい道を進めるって。何せ、賢い子たちやからね……」

189: 2015/08/03(月) 04:33:44.08 ID:wSzHfVWm0
花陽「……それじゃあ、あれは全部、考えて」

希「そう」

花陽「穂乃果ちゃんを酷い目に合わせたのも、私とまともに戦ってくれなかったのも、真姫ちゃんをあれだけ追い詰めたのも……」

希「……えりちのしたことが、正しいことか、ウチには分かれへん。でも、間違ってるか、それも分からへん」

花陽「……」

希「……どうなんかな?社会人として、大人として、まともな行動では無いことは確かやね」

希「でも、今は少なくとも……良くも悪くも、何かが変わり始めてる」

希「……とにかく、ここからどうなるか、それはもう、えりちの仕事じゃない」

希「……あとは、一人一人……次の一歩を、どう進み始めるか。そこが問題なんよ……」

花陽「……」





花陽(ふざけた人だよ、本当に……)

花陽(自分のことは棚に上げて、私たちをどうにかしようなんて……)

花陽(……でも)

花陽(……自分の今の立場があるのに)

花陽(……どうして、そこまでするのか、それが一番わからない)

花陽(ただの後輩の人生に、自分の人生もかけて突っ込んでくるなんて……)

花陽(穂乃果ちゃんの言う通りだよ……)

花陽(世の中には、ヤバい大人がいる)

花陽(強いとか怖いとか、そんなのじゃなくて……)

花陽(理解を超えたレベルの意志を持った……そんなヤバい大人が……)

190: 2015/08/03(月) 04:35:50.94 ID:wSzHfVWm0
ここから新規

191: 2015/08/03(月) 04:36:22.24 ID:wSzHfVWm0


希「……なんか……ごめんな」

花陽「えっ」

希「ううん、やっぱり、勝手なことした気がするから」

花陽「勝手なことって……」

希「楽しそうにしてる子たちをひっ捕えて、どうにかしようなんて……」

花陽「……」

希「この歳になってもまだ、わがままな所が治ってないような……あかんなぁ」

花陽「……でも、きっと、そんなこと無いと思います」

希「……?」

花陽「いや、なんでも無いです……」

希「ふふふ……いいんよ、無理にフォローしてくれなくても」



192: 2015/08/03(月) 04:36:48.32 ID:wSzHfVWm0

花陽「ところで……希さんってなんでここに住んでるんですか」

希「んー、何というかお仕事……かな」

花陽「お仕事?」

希「色々あるんよ、その辺りは」

花陽「ふぅん……」

希「花陽ちゃんもやってみたい?」

花陽「いや、私はべつに……」

希「まぁ、普通の子は興味ないよなぁ」

花陽「希さんは興味あったんですか」

希「……まあね」

花陽「ふぅん……」

希「いい仕事やで?たまにちょっと寂しいけど……」

花陽「……」

希「花陽ちゃん、何かやりたい仕事とかある?」

花陽「特に……」

希「それじゃあ、自分に出来そうな仕事は?」

花陽「……わからないです」

希「まだ高校の一年やもんな、わからへんよね」

花陽「……」

希「大人になりたい?」

花陽「……」

希「まぁ、なりたくなくても、いつかはなるんやけどね……年とれば」

花陽「どうなるのか、わかりませんから……自分が」

希「これからのこと?」

花陽「今は……楽しいです、友達もいるし……」

希「これからも出来るよ、友達くらい」

花陽「……今がいいんです」

希「今が?」

花陽「……今の友達が好きなんです」

希「そっかぁ」

花陽「……これからどうなるかなんて、わかりません……私には……」



193: 2015/08/03(月) 04:37:21.51 ID:wSzHfVWm0

希「……大丈夫。今が好きなら、これからも好きになれるから」

花陽「……どうしてですか」

希「花陽ちゃんだけが今から離れていくわけじゃないから」

花陽「……」

希「時間が進むのは、みんな一緒。そうやろ?」

花陽「……はい」

希「うちに残ってるのはそんな友達だけやけど……でも、それだけでうちは十分」

花陽「……」

希「十分すぎるくらいに……な」

194: 2015/08/03(月) 04:37:48.61 ID:wSzHfVWm0


花陽「あっ……雨」

希「あれ、降ってきたなぁ」

花陽「傘持ってきてない……」

希「色々喋ってくれてありがと。……そろそろ帰る?傘なら貸してあげるで?」

花陽「……」

希「どうしたん?」

花陽「止むまでいてもいいですか?」

希「……もちろん」

花陽「……もう少し、聞いてみたいです」

希「うちの話?」

花陽「……帰っても、仕方ないですし……」

希「悪い子やなぁ……」

花陽「悪いんですかね、私って……」

希「いいや、悪い子やね」

花陽「……そうなんですかね」






195: 2015/08/03(月) 04:38:14.75 ID:wSzHfVWm0




…………………………………………………………





「真姫」

真姫「……」

「起きてるんだろ」

真姫「……」

「ケンカか?」

真姫「……ん」

「誰とやったんだ?」

真姫「忘れた」

「……治療費、持ってないだろ」

真姫「……友達に借りるから」

「どうやって返すんだ」

真姫「……」

「……その金はどうやって返すんだ」

真姫「……なんとかするわよ……もう帰って」

「だめだ」

真姫「……帰って」

「娘だ」

真姫「……ちがう」

「娘が入院している」

真姫「……」

「俺は親だ」

真姫「……」




196: 2015/08/03(月) 04:38:43.05 ID:wSzHfVWm0

「泣いてるのか」

真姫「泣いてない」

「こっちを向いてみろ」

真姫「嫌」

「……泣いてるんだろ」

真姫「……」

「悔しいのか」

真姫「……」

「負けたのが悔しいか?」

真姫「……ちがう」

「何が悔しいんだ」

真姫「……」

「退院はいつだ」

真姫「……明日の朝」

「……迎えに行く」

真姫「……」

「帰るぞ」

真姫「……」

「また明日な、おやすみ」

真姫「……」



197: 2015/08/03(月) 04:39:12.07 ID:wSzHfVWm0



真姫「………」

真姫「うぐっ……ぐっ、くっ……」

真姫「クソっ……クソっ……クソっ!!クソっ……!」

真姫「何が……何が娘よっ……」

真姫「何がっ……!」

真姫「くそっ……」

真姫「あああっ……」

真姫「……」

真姫「……はぁ……はぁ」

真姫「なによ……」

真姫「くそっ……」

真姫「……くそっ!」

真姫「………」


198: 2015/08/03(月) 04:39:39.66 ID:wSzHfVWm0


真姫「……」


ガチャン


真姫「……」

凛「……起きてる?」

真姫「……」

凛「あ、起きてる!やった!」

真姫「……凛、動けるの」

凛「松葉杖使ったらね。真姫ちゃんいくら待っても来てくれないし、こっちから来たにゃ」

真姫「……後にしてくれる?」

凛「後で?何かあるの?」

真姫「……気分じゃないの」

凛「えー……せっかくこの前の話聞こうとしたのに」

真姫「この前って?」

凛「もちろん、真姫ちゃんが戦った相手の話!」

真姫「……後にして」

凛「えーっ、聞きたいよお、約束したのに」

真姫「約束なんかしてない」

凛「絶対したよー!負けちゃったみたいだけど……それでも!カッコいい戦いざまを話すって……」

真姫「……何が、カッコいいよ……ふざけてる」

凛「え?」

真姫「……こんなにカッコ悪いやつ、いるわけないでしょ……」

凛「……?まぁ、そんなに嫌ならいいけど、後ならいいんだよね、後っていつ?明日?」

真姫「……明日もだめ」

凛「なんで?」

真姫「退院、明日の朝だから」

凛「えっ!もう退院!?いいなぁ」

真姫「……」


199: 2015/08/03(月) 04:40:17.35 ID:wSzHfVWm0


凛「あっ、でもでも、真姫ちゃん、家ないんだから、凛の病室でまた泊まってよ」

真姫「……」

凛「そしたらさ、また色々喋れるし……」

真姫「……うん」

凛「……どうしたの?」

真姫「……凛、お金持ってる?」

凛「お金?200円くらいしか無いよ」

真姫「ふふふ……200円、ね」

凛「あーっ!笑った!」

真姫「あははははは……たったの200円……たったの!あははは……」

凛「……変だよ」

真姫「……何がよ」

凛「……何かあったの?」

真姫「何かって……変?退院できるのが、嬉しくて嬉しくて堪らないから……だから笑ってるに決まってるじゃない」

凛「……」

真姫「いいでしょ、お先に失礼するわ……あはは……」

凛「……違うよ、嘘ついてる……」

真姫「嘘?何の嘘よ」

凛「わかんないけど、嘘ついてる」

真姫「だから、何の根拠があるの」

凛「……見たよ」

真姫「……何を」

凛「さっき、真姫ちゃんのお父さんがこの部屋から出てくるの、見たよ」

真姫「……」


200: 2015/08/03(月) 04:40:45.84 ID:wSzHfVWm0

凛「真姫ちゃん、退院したら家に帰るの?」

真姫「……」

凛「……そうなの?やっぱり!」

真姫「……そうね」

凛「……もう!だと思ったよー、まあ仕方ないよね、凛だって家追い出されたらいつかは帰らないと餓死するし……」

真姫「……」

凛「結局、お金に困るんだよねー」

真姫「……」

凛「はあーあ、面倒くさいにゃー、色々と」

真姫「……惨めよね」

凛「?」

真姫「馬鹿馬鹿しい……」

凛「真姫ちゃん、さっきから何言ってるの?」

真姫「……出て行って」

凛「……えーっ」

真姫「……いいから出て行って!」

凛「……わかったよ、じゃあ、凛はもう少し入院してるから……また遊びに来てね」

真姫「……」

凛「おやすみー」

真姫「……」



ガチャン



201: 2015/08/03(月) 04:43:09.70 ID:wSzHfVWm0


真姫(……)

真姫(……親とか、家とか)

真姫(……一番、嫌いなのに)

真姫(私は、そこから結局……)

真姫(……くそっ!)

真姫(……強くなってやる)

真姫(一人で、一人だけの力で……)

真姫(今度は、誰にも負け無いように……)

真姫(誰よりも、強く……)

202: 2015/08/03(月) 04:43:38.22 ID:wSzHfVWm0

………………………………………





にこ「やっほ」

凛「んー」

にこ「バナナ持ってきたわよ」

凛「ん」

にこ「待ってたでしょ」

凛「別に待ってないけど……」

にこ「もうだいぶ良くなったみたいじゃない、そろそろ退院?」

凛「もうちょっとね」

にこ「早く退院してまた暴れたいってところかしら」

凛「んー……」

にこ「真姫はいつ退院したんだっけ」

凛「おとつい」

にこ「じゃあ暇になったでしょ」

凛「もう慣れた」

にこ「ふーん……」

凛「それより!……あの絵里って人は……」

にこ「まーたそれ?しつこいわね」

凛「だから!真姫ちゃんの仇を!」

にこ「やめときなさいって言ってるでしょ」

凛「なんで!」

にこ「いつもの4人で話し合ってみなさい、きっと止められるから」

凛「……なんでそこまで」

にこ「絵里は強いわ」

凛「知ってるよ」

にこ「わかってないわよ、どれほどか」

凛「いくら強いっていっても人間でしょ」

にこ「そうね……まぁ、人間ね」

凛「だったらやってみなくちゃ……」

にこ「強いって、そういう意味じゃないわよ」

凛「どういう意味?」

にこ「……」

凛「ねぇ!」

203: 2015/08/03(月) 04:44:07.79 ID:wSzHfVWm0

にこ「……やればわかるわ、だから前もって忠告しておくの」

凛「なにその言い方、まるで戦ったことあるみたいな……」

にこ「あるわよ」

凛「えっ」

にこ「ずっと前だけどね」

凛「いつ!」

にこ「ちょうど、高2の冬……いまぐらいの季節ね」

凛「……どっちが勝ったの」

にこ「どっちでもいいわ、そんなの」

凛「負けたんでしょ」

にこ「勝ったわよ」

凛「……矢澤が?」

にこ「そう」

凛「……」

にこ「でも、あのときはたまたまというか……」


204: 2015/08/03(月) 04:44:44.26 ID:wSzHfVWm0


凛「……すごい!」

にこ「えっ」

凛「すごい、すごい、すごいにゃー!矢澤!思ってたよりすごい!ねぇねぇ、そのときどんな風に勝ったの!?どうやって戦ったの!?」

にこ「ちょ、ちょっと、引っ張らないでよ」

凛「教えてよー!気になるんだって!」

にこ「あー、もう」

凛「早くー!」

にこ「昔の話はしないって決めてるの」

凛「なんでー!出し惜しみしないでよー」

にこ「かっこ悪いからよ」

凛「かっこ悪くなんかないよー」

にこ「はあーあ……まだまだ子供ね……」

凛「あっ、なにその言い方……」

にこ「賢い人間はケンカなんかしないわけ。ケンカ自慢なんて頭の悪さを言いふらしてるようなものじゃない」

凛「凛はバカだからいいもんねー、矢澤もそんなに頭良くないくせにー」

にこ「いっとくけど公務員試験って結構難しいのよ、そのへんわかってる?」

凛「そういうのはいいから、教えてよー、暇なんだから」

にこ「暇には慣れたんじゃないの」

凛「やっぱり一生慣れないよ、面白い話はすぐ聞きたい、そんなの当たりまえでしょ!」

にこ「面白くないってば」

凛「知的好奇心がビンビンだにゃ」

にこ「……」

凛「教え子の頼みだよー話してよー」




205: 2015/08/03(月) 04:45:11.02 ID:wSzHfVWm0


にこ「……」

凛「じゃあ、始めっ!まず、ケンカの原因は?」

にこ「なんとなくよ」

凛「えっ……なんとなく?」

にこ「なんとなくね」

凛「へー……?」

にこ「それだけ」

凛「えー」

にこ「ただちょっとお互いピリピリしててね」

凛「なんで?」

にこ「もう一人、友達に希ってやつがいてね」

凛「ふんふん」

にこ「そいつがいなくなったの」

凛「いなくなった?」

にこ「まあ実際は一人旅に出てたみたいだけど……黙って行ったからわかんなかったわ、突然のことだったし」

凛「ふーん、自分探しってやつ?」



206: 2015/08/03(月) 04:46:02.90 ID:wSzHfVWm0


にこ「知らないけど、色々悩んでたみたい、」

凛「思春期ってやつだね」

にこ「そうかもね」

凛「でも、それとなにが関係あるの?」

にこ「バランスの問題よ」

凛「バランス?」

にこ「私と絵里と希……三人だったから、仲が良かったのかもしれないの」

凛「んー?」

にこ「絵里も私も、なんていうか……意地張るっていうか、素直じゃないっていうか……そんなところがあったからね。ちょくちょく言い合いになったりしてたの」

凛「へー」

にこ「でも、いつも危なくなったら希が止めてくれたの」

凛「殴り合いになる前に?」

にこ「そう。せめて三人くらいは仲良くしようって言ってね……」

凛「あはは、せめてって……まるで他に仲いい人がいないみたい」

にこ「いなかったわよ」

凛「誰も?」

にこ「いなかったわ」

凛「……」

にこ「変なヤツらだったからね」

凛「ふーん……」

にこ「それに、多けりゃいいってもんでもないでしょ」

凛「あっ、そこにはちょっと賛成ー」

207: 2015/08/03(月) 04:46:33.22 ID:wSzHfVWm0


にこ「希がいなくなって、しばらくは二人だったわ」

凛「二人になったからケンカ?」

にこ「すぐじゃないわよ。最初は穏やかだったわ」

凛「へー」

にこ「でも、口数はいつもより少なかったけどね」

凛「それも希って人のせい?」

にこ「わかんないけど、もともと私と絵里が知り合ったのは希経由だから……二人になると、そうなるのも当然だったかも」

凛「あはは、気まずい関係」

にこ「そうね、実は気まずかったのかもしれないわね」

凛「それで、照れ隠しで殴り合い?」

にこ「原因はなにか忘れたけど……またちょっとした言い争いになってね……そこからヒートアップ」

凛「おーおー」

にこ「ストッパーがいないからね……そのままどんどんお互い興奮していって……最初で最後よ、あそこまでいったのは」

凛「おー!いよいよだね!」


208: 2015/08/03(月) 04:46:59.06 ID:wSzHfVWm0

にこ「……今でも若干後悔してるの」

凛「なんで?」

にこ「先に手を出したのは私だから」

凛「そんなのいいじゃん、別に……やらなきゃやられるんだよ」

にこ「大事なのよ、そこは」

凛「そんなに重要?」

にこ「約束だったの」

凛「三人の?」

にこ「そう。絶対に三人では喧嘩しないって」

凛「ふぅん」

にこ「希が約束させた。私たちはそれを守ることにして……破ったのは私」

凛「だからさ、そんなのどっちでもいいんじゃないの?何回も言うけど、先にやらなきゃ、やられて……」

にこ「絵里は約束を守るわ。絶対に先に手を出したりしない」

凛「そんなのわかんないじゃん」

にこ「わかるわよ」

凛「なんで」

にこ「そう信じてるから。私が」

凛「……よくわかんないや」



209: 2015/08/03(月) 04:47:29.60 ID:wSzHfVWm0



にこ「そこから私がもう一発。絵里は殴り返して来なかった」

凛「それも約束があったから?」

にこ「……そうかもね。だけど、しばらく固まって……覚悟したのか……突然動き出したわ」

凛「おおっ」

にこ「二発分。食らってやったわよ」

凛「わざと?」

にこ「わざとね。だってそうしないと不公平じゃない」

凛「ひえーっ」

にこ「でもさすがに効いてね。たった二発だけど、クラっと来たの。でもこれでお互い二発ずつ……勝負はそこからよ」

凛「ごくり」

にこ「……でもあんまり覚えてないわ、そっからは」

凛「えー」

にこ「とりあえず、頑丈さがウリだから、私は……ボコボコにされながら、なんとか食らいついて押し倒して……」

凛「おお」

にこ「そこから、馬乗りになってね。3発。顔に思いっきり……それでおしまい」

凛「おわり?」

にこ「倒れながらぼそっと……絵里が言ったわ……負けた。って」

凛「へぇぇ……」



210: 2015/08/03(月) 04:47:57.11 ID:wSzHfVWm0


にこ「……それ以上、何もできるわけないでしょ。そこで終わりよ。私は立ち上がって、絵里を起こして……その後、しばらくぼーっと横に並んで座ってたわ」

凛「何してたの」

にこ「ぼそぼそ喋ってた気もする」

凛「ふーん」

にこ「……あれ以来、やめようと思ったの」

凛「ケンカを?」

にこ「……ちっともいいものじゃないわ、あんなの」

凛「勝ったのに」

にこ「勝ったのかどうか、怪しいといえば怪しいし……しかも先に手を出したのは私だし……スッキリしないの」

凛「……」

にこ「私は絵里に早く負けてって言って欲しかったし……絵里も、その気持ちがわかってくれたんだと思う。考えてみれば、あそこから逆転くらいできたはずなのに……」

凛「でもやめたんだよね」

にこ「お互い、もうやりたくなかったから」

凛「じゃあ勝っても嬉しくなかったの」

にこ「ぜんぜん」

凛「そのあとは?」

にこ「ちょっとの間絵里とは会わなくなったわ……希が帰ってくるまで」

凛「いきなり帰ってきたの?」

にこ「いきなりよ。ただいまって言って……私たちは、おかえりって言って……それで、もう一回三人で合流したの」

凛「へぇー」

にこ「……希は知らないわ、このことは。だけど、多分どこかで察してたんだと思う。元どおりの三人になったけど……三人とも、もうどこか変わってた」

凛「変わったって、どんなふうに」

にこ「よくわかんないけど、もう前みたいにずっと一緒ってわけじゃなくなった。そのまま卒業したわ」

凛「ふーん……仲悪くなったんだ」

にこ「違うわよ。ずっと仲は良かった」

凛「でもあんまり会わなかったんでしょ」

にこ「お互いから離れられたの……それって、必ずしも仲が悪いこととイコールじゃないわ」

凛「ふーん……よくわかんないや」

にこ「そのうちわかるわよ、いいタイミングがあればね」


211: 2015/08/03(月) 04:48:23.60 ID:wSzHfVWm0


凛「あ、でもさ、どちらにしろ……矢澤が絵里って人に勝ったことに変わりはないんだよね」

にこ「……まぁ」

凛「じゃあさ、なんで戦っても勝てないとかいうの」

にこ「〇す気で来られたらどうなってたかわからないから」

凛「〇す気で?」

にこ「……それに、あの時より今の方がずっと強いし、シロートじゃ逆立ちしても無理。勝てないわ」

凛「戦ったことがないと強さがわからないって言ってたよね」

にこ「〇気を感じるわ。ありふれた表現だけど、本物のね。……でも私と戦った時にはそれはほとんどなかった。それでも十分恐ろしかったわ」

凛「……」

にこ「あとは当事者から……真姫から聞いてみなさい。直接ね」

凛「……」

にこ「それからどうするか決めなさい」

凛「考えとく」

にこ「そう、よく考えた方がいいわ」

凛「……」

にこ「考えることは大事よ。……動く前に、何事も……それができたらケンカなんてバカなことには……」



212: 2015/08/03(月) 04:49:00.71 ID:wSzHfVWm0


凛「あっ」

にこ「何?」

凛「むふふ」

にこ「何よ」

凛「アイドルになりたかったってのは?」

にこ「……その話はやめなさい」

凛「これが一番気になるよー、教えてよー」

にこ「……若い頃の話よ」

凛「今でもなりたい?」

にこ「当たり前じゃない」

凛「……」

にこ「何よ」

凛「いや……うん」

にこ「はっきり言いなさいよ」

凛「……」


213: 2015/08/03(月) 04:49:26.97 ID:wSzHfVWm0

にこ「そろそろ帰るわね、お大事に」

凛「あー最後にもうひとつ」

にこ「何」

凛「なんでセンセーになったの」

にこ「あんたらみたいな生徒をどーにかするためよ」

凛「なにそれ」

にこ「生徒の種類だけ教師も種類がいるって話」

凛「んー……?」

にこ「これだけ。それじゃね」

凛「えー、もうちょっといてよ」

にこ「……初めてね、そんなこと言われたの」

凛「暇だもん」

にこ「仕事残ってるの」

凛「そんなのあとでいいじゃん」

にこ「どぅめどぅめどぅめ」

凛「あははは」

にこ「そんじゃあね」

凛「次は?次はいつ来るのー」

にこ「バナナ食べ終わったらね」

凛「へーい」

にこ「補給しにきてあげるわ、それじゃ」



214: 2015/08/03(月) 04:49:59.72 ID:wSzHfVWm0


……………………………………………………………






ガシャンッ

海未「……!」

ことり「……」

穂乃果「……?」

ことり「……あれ?」

海未「ことり!……大丈夫ですか!?」

ことり「……あはは、ちょっと倒れちゃった、かな?……平気だよ、お皿割っちゃった、片付けとくね」

海未「私がやりますから、片付けは!……平気なはずがないでしょう!」

ことり「ありがとう、でも大丈夫だから……」

穂乃果「……熱あるんじゃないの」

海未「ええっ」

穂乃果「息、荒いよ」

ことり「……」

海未「本当ですね、熱い……」

ことり「風邪ひいちゃったかな……ほら、寒いし、最近……」

海未「穂乃果……寝室まで連れて行くので、片付けをお願いします」

穂乃果「……ん」

ことり「ごめんね、ごめんね」

穂乃果「……」


215: 2015/08/03(月) 04:50:25.59 ID:wSzHfVWm0


穂乃果(……ただの風邪)

穂乃果(……ただの風邪に決まってるよ)

穂乃果(……)

穂乃果(……ただの風邪で倒れる?)

穂乃果(……)

穂乃果(……やめてよ)

穂乃果(……めんどくさいじゃんか)

穂乃果(こんなの、別に私、望んでないのに)

穂乃果(……)

穂乃果(……やめてよ)


216: 2015/08/03(月) 04:50:51.61 ID:wSzHfVWm0

海未「穂乃果」

穂乃果「どうしたの」

海未「救急車を呼びます、それから病院まで一緒に行きます」

穂乃果「……私も」

海未「穂乃果も」

穂乃果「私も行くよ」

海未「ええ……準備をしてください、行きましょう」









穂乃果(……)

穂乃果(……なにそれ)

穂乃果(救急車……)

穂乃果(大げさだなぁ、いちいち……)

穂乃果(ちょっと倒れたくらいで……)

穂乃果(大げさだよ、大げさ……)

穂乃果(……)



217: 2015/08/03(月) 04:51:19.34 ID:wSzHfVWm0



ことり「はぁー、はぁーっ」

海未「しっかりしてください、大丈夫です、大丈夫です、私がいます」

穂乃果「……」

海未「……私がいます……穂乃果も……そばにいますから」

穂乃果「……」

海未「大丈夫です……」

穂乃果「……」


218: 2015/08/03(月) 04:51:48.12 ID:wSzHfVWm0

「疲労が溜まるようなことが」

海未「仕事が忙しかったみたいです」

「そうですか」

海未「大丈夫なんでしょうか、容態は!」

「少々、お待ちください」

海未「お願いします」

「……最善を尽くします」

海未「……お願いします」

「……わかりました」


219: 2015/08/03(月) 04:52:14.16 ID:wSzHfVWm0


穂乃果「や」

凛「……」

穂乃果「寝てる?」

凛「……」

穂乃果「お見舞いって言いたいけど……、たまたま用事ができちゃって……」

凛「……」

穂乃果「家の一人がね、ぶっ倒れちゃって」

凛「……」

穂乃果「また乗っちゃったよ、救急車さ」

凛「……」

穂乃果「凛ちゃんも一回乗ったよね?……あー、あのときは覚えてないかぁ」

凛「……」

穂乃果「まいったよ……突然だからね、こんな夜に……」

凛「……ここにいていいの」

穂乃果「あ、起きてるじゃん……なんか今どっかの部屋に連れて行かれてて、やることないし……」

凛「……」

穂乃果「……戻った方がいいと思う?」

凛「うん」

穂乃果「……なんだろ、戻りたくない」

凛「……」

穂乃果「……なんでかな」

凛「……」

穂乃果「……わかんないや」

凛「……」

穂乃果「ごめん、眠いよね、出て行くよ」

凛「……」

穂乃果「じゃあね、また……」



220: 2015/08/03(月) 04:52:43.97 ID:wSzHfVWm0



穂乃果「どうなの」

海未「わかりません」

穂乃果「……」

海未「待ちましょう、今はただ、祈りながら……」

穂乃果「過労ってやつかな」

海未「……バカです、私は、バカです……こんな風になるまで……」

穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「ねぇ」

海未「……」

穂乃果「私のせいかな」

海未「……そんな」

穂乃果「ほら、いつも帰ってくるの遅いし……学校もあんまり行かないし……それで、何か……」

海未「……」

穂乃果「私と住むと……疲れるんじゃないかな、って……」

海未「……」

穂乃果「……あのまま、出て行ってたほうが……」

海未「……二度とそんなこと言わないで下さい」

穂乃果「……」

海未「……絶対にです」

穂乃果「……わかったよ」



221: 2015/08/03(月) 04:53:09.86 ID:wSzHfVWm0



穂乃果「……長いね」

海未「……」

穂乃果「……いつまでかかるのかな」

海未「……」

穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「……熱、下がったかな」

海未「……」

穂乃果「……どうなるのかな」







穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「そろそろかなあ……」

海未「……」

穂乃果「……まだかな」

海未「……穂乃果」

穂乃果「……なに?」

海未「……手を」

穂乃果「……」

海未「……握らせてください」

穂乃果「……ん」

海未「……」

穂乃果「……」

海未「……ありがとうございます」

穂乃果「……」


222: 2015/08/03(月) 04:53:56.75 ID:wSzHfVWm0
……………………………………………





カチン


穂乃果「ふーっ……」

穂乃果「……」

希「あれっ」

穂乃果「……」

希「穂乃果ちゃん、どうしたん?」

穂乃果「……」

希「んー?」

穂乃果「病院、こっから案外近いね」

希「そうやなぁ、歩いてすぐやね」

穂乃果「……」

希「お見舞いの帰り?」

穂乃果「ちがうよ」

希「……」

穂乃果「……なんで私、ここにいるのかな、あはは……」

希「何かあったん?」

穂乃果「……」


223: 2015/08/03(月) 04:54:24.48 ID:wSzHfVWm0


希「タバコやめり」

穂乃果「……ん」

希「……」

穂乃果「ここが本堂?」

希「そうやね」

穂乃果「ふーん……」

希「お祈りしに来たんかな、と思ったんやけど、ちがう?」

穂乃果「……信じてないよ、そんなの」

希「じゃあ何しに来たん?」

穂乃果「……」

希「手を合わせて」

穂乃果「……」

希「目閉じて」

穂乃果「……」

希「静かに、お願いするんよ、こうやって……」

穂乃果「……」



224: 2015/08/03(月) 04:54:51.37 ID:wSzHfVWm0


希「……ちゃんとやった?」

穂乃果「……うん」

希「……じゃあ大丈夫」

穂乃果「……」

希「……あとは、自分次第や」

穂乃果「……意味あるの?」

希「無くてもいいんよ」

穂乃果「……どういうこと」

希「強くお願いすることで、そのぶんだけ自分の中のお願いも大きくなるから」

穂乃果「……」

希「お祈りはその儀式。ほら、そう考えてもいいんと違うかな?」

穂乃果「……」



226: 2015/08/03(月) 04:56:08.09 ID:wSzHfVWm0
希「あがってく?」

穂乃果「ううん」

希「ええの?」

穂乃果「戻らなくちゃいけないところが」

希「家?」

穂乃果「んー……」

希「友達のところ?」

穂乃果「……」

希「それとも、家族のところ?」

穂乃果「……ん」

希「……そっか、それじゃ、今度はみんなで遊びに来てな」

穂乃果「……」

希「待ってるでー」

穂乃果「……」

希「ばいばーい」

穂乃果「……!」

ダッ

希「あれれ……走らんでもいいのに……」


227: 2015/08/03(月) 04:56:37.43 ID:wSzHfVWm0


穂乃果(……)

穂乃果(……少しずつでいい)

穂乃果(……近づいていってやる)

穂乃果(……正しくなくてもいい)

穂乃果(……自分が納得するように……自分が、やりたいように)

穂乃果(今なんかよりずっと……楽しく生きてやるっ……!)

穂乃果(少しずつ……少しずつ……!)

穂乃果(今なんかより、ずっと……!)


228: 2015/08/03(月) 04:57:06.34 ID:wSzHfVWm0


穂乃果「はぁーっ、はぁーっ」

海未「穂乃果!」

穂乃果「はぁ、はぁ」

海未「なにやってたんですか!」

穂乃果「はぁーっ……はぁ……ことりちゃんは」

海未「……」

穂乃果「どうなったの!」

海未「点滴を受けています、この部屋で……」

穂乃果「それじゃあ……」

海未「……そっと、寝かせてあげてください」

穂乃果「……!」

ガチャッ

海未「穂乃果!」




229: 2015/08/03(月) 04:57:44.75 ID:wSzHfVWm0



穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「……」

穂乃果「……ううっ」

ことり「ほのか……ちゃん」

穂乃果「行かないでよ」

ことり「……うん」

穂乃果「……お願い」

ことり「……大丈夫、どこにも行かない」

穂乃果「……」

ことり「……迎えに来てくれたんだね」

穂乃果「……」

ことり「……名前、久しぶりに呼んでくれたね……ありがとう」

穂乃果「……」

ことり「……帰え っか……三人で、また……」

海未「……」

穂乃果「……うん」

ことり「……三人で」


230: 2015/08/03(月) 04:58:42.65 ID:wSzHfVWm0












…………………………………………………………………………








231: 2015/08/03(月) 04:59:09.21 ID:wSzHfVWm0

にこ「こらっ!」

真姫「げっ……」

凛「矢澤!」

にこ「あんたら、またコソコソと……タバコ吸ってたでしょ!」

穂乃果「吸ってないってば!」

花陽「いいがかりだよお!」

にこ「本当に?持ち物チェックするわよ」

バッ

にこ「あーっ、なんで隠すのよ」

凛「乙女のプライバシーの侵害だにゃー」

にこ「ぬぅわにが乙女よ、バカじゃないの」

凛「べー」

にこ「やましいことがあるんでしょ、結局」

真姫「もーいいからあっち行ってよ」

にこ「2年にもなったのに……後輩に恥ずかしいところ見せないでよね」

穂乃果「あはは」

にこ「はーい、授業そろそろ始まるわよ、解散解散!」パンパン

真姫「……ん」

凛「へへん、サボっちゃうにゃ~」

花陽「行こっか、凛ちゃん」

凛「えーっ、最近なんかみんなまじめ……」

穂乃果「別に今まで通りだって、今まで通り……」

凛「むー」


232: 2015/08/03(月) 04:59:37.50 ID:wSzHfVWm0



真姫「……」

花陽「どうしたの、真姫ちゃん」

真姫「……春は眠いわ」

凛「また単語帳持ってる……」

真姫「いいでしょ、勉強したって……」

凛「それじゃ、今日は遊べないね」

花陽「えへへ」

真姫「……なによそれ」

凛「かよちんとパフェ食べに行くんだー」

真姫「……」

花陽「……真姫ちゃんも来る?」

真姫「ふんっ」

凛「来る?」

真姫「……」

花陽「ね」

真姫「……なによ、行かないなんて言ってないでしょ……それに、たまには息抜きもいいわ」

凛「やっぱりね」

花陽「あはは」

真姫「……あれ、穂乃果は?」

凛「用事あるって」

花陽「何の用事かなぁ……」

真姫「さぁ」

凛「よーし、それじゃゴーっ!」



233: 2015/08/03(月) 05:00:04.15 ID:wSzHfVWm0



絵里「どうするの?」

穂乃果「んー……」

絵里「長いわね……」

穂乃果「だって、初めてだからわかんないし……」

絵里「まあ、頑張りなさい」

穂乃果「えーっ……絵里ちゃん、選んでよ、詳しそうだし……」

絵里「アドバイスはするけど、一から選ぶのは穂乃果の仕事よ」

穂乃果「なんで」

絵里「そういうものだから」

穂乃果「んー……定番なら、花、とか……?わかんないけど……いやいや、なんか違うなぁ……花って……」

絵里「そうかしら」

穂乃果「……じゃあ、食べ物……なんかあるかな」

絵里「食べ物……あの辺に色々売ってるけど」

穂乃果「あっ、じゃあ、これは?」

絵里「いいじゃない」

穂乃果「うう、でも高いなぁ……」

絵里「はい」

穂乃果「えっ」

絵里「お小遣い」

穂乃果「……いいよ、そんなの」

絵里「いいから受け取りなさい、税金は国民を幸せにするためのもの……違うかしら」

穂乃果「教科書通り……」

絵里「じゃあ問題ないでしょ。ほら」

穂乃果「……ありがと」

絵里「喜ぶわよ」

穂乃果「そうかなぁ」

絵里「思ってる以上にね」


234: 2015/08/03(月) 05:00:30.74 ID:wSzHfVWm0





穂乃果「えーっと、これ、ふたつ……ください」






235: 2015/08/03(月) 05:01:09.69 ID:wSzHfVWm0
……………………………………




穂乃果「だからうるさいって!」

海未「なんですかその態度は!!」

穂乃果「ふんっ、出掛けてくるね」

海未「待ちなさい!どこに行くんですか!」

穂乃果「ちょっとした用事だよ!ふん!」

バタン

ことり「……また出て行ったの?」

海未「ううう、ことり……少し行儀を注意しただけであの怒りよう……」

ことり「ふふっ……」

海未「……どうしたんですか」

ことり「……恥ずかしかったんだよ、きっと」

海未「……何がですか?」

ことり「台所に置いてたの、見た?」

海未「……ケーキ、ですか?あれ、なんでしょうか」

ことり「海未ちゃんが買ってきたの?」

海未「……?違いますけど」

ことり「じゃあ、やっぱり穂乃果ちゃんだ」


236: 2015/08/03(月) 05:01:35.76 ID:wSzHfVWm0

海未「……?なんで、急にケーキなんて……穂乃果、そんなに好きでしたっけ」

ことり「あはは……」

海未「……しかもふたつ……こんなに食べたら太ってしまいますよ……」

ことり「もう、海未ちゃん、鈍いんだから……」

海未「?」

ことり「今日はなんの日でしょう?」

海未「……?」

ことり「えへへ」

海未「あっ……」

ことり「そうだよっ」

海未「……母の日」

ことり「さ、食べよっか!……紅茶いれるね」

海未「……穂乃果」

ことり「………」

海未「……うっ、うっ……」

ことり「ありゃりゃ…」

海未「うっ……ううううう……」

ことり「嬉しいね、海未ちゃん」

海未「……本当に、本当に……しょうがない子です、本当に……」

ことり「……うん」

海未「……帰ったら、お礼を言いましょう」

ことり「うん」

海未「……ありがとうございます、と……」


237: 2015/08/03(月) 05:02:10.54 ID:wSzHfVWm0





………………………………………………………………


雪穂「……」

穂乃果「……それで、今さっき出掛けてきて……おしまい」

雪穂「ふぅん」

穂乃果「……長かったかな」

雪穂「……ちょっとね」

穂乃果「どう思う?」

雪穂「んー……あんまり、周りの人に迷惑かけないようにね」

穂乃果「むぅ……」

雪穂「でも、色々あったんだね」

穂乃果「そうだよ、色々あった……どれどれ、雪穂も何があったのか話してみなさい……」

雪穂「私はそんなに話すことないよ……お姉ちゃんと違って、真面目だから」

穂乃果「えー」




238: 2015/08/03(月) 05:03:49.41 ID:wSzHfVWm0



雪穂「……それに、久しぶりすぎて、どこから話せばいいのか……」

穂乃果「小学校一年のときから!」

雪穂「覚えてないよ、そんなの」

穂乃果「えー、でも雪穂と会ってないのはそこからだし……」

雪穂「施設を出て行ったのはお姉ちゃんの方でしょ。そっちが脱走者だよ、脱走者」

穂乃果「む……」

雪穂「とにかく、高坂家の恥にならないように……それだけ気をつけてね。ねー、お父さん、お母さん」

穂乃果「恥なんかじゃないって……」

雪穂「そうだ、お供え物、買って来た?」

穂乃果「まんじゅう」

雪穂「……ありゃ、被った」

穂乃果「……まあ、仕方ないでしょ、それは」

雪穂「もしかして、いつも腐ったまんじゅう置いていってたの……」

穂乃果「腐ったやつ?私かな」

雪穂「やっぱり……あれはね、ちゃんと供えたら回収しないとだめなんだよ」

穂乃果「へー……」

雪穂「へーじゃないってば……」

239: 2015/08/03(月) 05:06:14.62 ID:wSzHfVWm0


雪穂「………」

穂乃果「………」

雪穂「お父さん、お母さん……雪穂です、それと、お姉ちゃんです……」

穂乃果「……」

雪穂「……二人とも、元気です……」

穂乃果「………」

雪穂「……何やってるの」

穂乃果「お願い事」

雪穂「神社じゃないんだよ」

穂乃果「わかってる。でもいいの」

雪穂「……ふーん……さ、掃除するよ、掃除」

穂乃果「え、今やるの?お盆とかじゃなくて……」

雪穂「せっかく二人揃ったんだから、今やろうよ」

穂乃果「はいはい……」

雪穂「周りのゴミ拾って。私は磨くから」

穂乃果「んー……」


240: 2015/08/03(月) 05:06:43.86 ID:wSzHfVWm0


希「やあ」

穂乃果「わっ!」

希「……お墓まいり?」

穂乃果「そうだけど……本当、どこにでも現れるね……」

希「スピリチュアルやろ?」

穂乃果「神社と墓地って関係ないでしょ……墓地は寺じゃないの」

希「おっ、よく覚えてるね、感心感心……」

穂乃果「おかげさまでね……」

希「……あの子は?」

穂乃果「妹」

希「あれ、妹いたっけ……」

穂乃果「一緒に住んでないの。久々に連絡とれて、それで今日会ったわけ……10年ちょいぶりに」

希「ふーん……色々あるんやね」

穂乃果「そういうこと、色々あるの……」



241: 2015/08/03(月) 05:07:10.74 ID:wSzHfVWm0


穂乃果「はぁー……」

希「えりちが今日穂乃果ちゃんと会うって言ってたけど」

穂乃果「会ったよ」

希「何してたん?」

穂乃果「……いいでしょ、別に。会うくらいたまにはするよ」

希「うんうん……それと、にこっちは元気?」

穂乃果「うるさいくらいにね」

希「花陽ちゃんは?」

穂乃果「……あれ、会ったことあったっけ……」

希「いわゆる『まぶだち』やで?」

穂乃果「死語……」

希「他の友達も元気かな?」

穂乃果「まあね」

希「穂乃果ちゃんの家族は?」

穂乃果「元気だよ」

希「南さん、大丈夫?」

穂乃果「また心配して……大丈夫だってば」

希「優しくしてあげらなあかんよ」

穂乃果「大丈夫だって」

希「ほんまに?」

穂乃果「約束したから」

希「そっか」

穂乃果「……納得したの?」

希「約束したなら大丈夫」

穂乃果「……」

希「その人が大切であればあるほど……な」



242: 2015/08/03(月) 05:08:07.29 ID:wSzHfVWm0

雪穂「お姉ちゃん、ちゃんとやってる?」

穂乃果「あー、はい、はい、はい!」

希「行ってあげり」

穂乃果「ん!じゃ、また!」

希「うん……また。」








雪穂「もう、すぐサボるし……」

穂乃果「知り合いに会ったんだって」

雪穂「誰、あの人」

穂乃果「変人」

雪穂「またそんなこという……」

穂乃果「本当に変人なんだってば……世の中にはね、いろんな大人がいるの」

雪穂「いろんな大人がいれば、お姉ちゃんみたいにいろんな子供もいるけどね」

穂乃果「……イヤミだなぁ」

雪穂「大人だって、大人になる前は子供なんだから、当たり前でしょ」

穂乃果「……まあ、そうだけどさ」


243: 2015/08/03(月) 05:08:36.31 ID:wSzHfVWm0

穂乃果「雪穂」

雪穂「なに」

穂乃果「友達はいる?」

雪穂「いるよ、たくさん」

穂乃果「そっか」

雪穂「お姉ちゃんは?」

穂乃果「たくさんじゃないかもしれないけど、いるよ」

雪穂「ふうん」

穂乃果「……どうしようもない友達かもしれないけど、でも、大切な友達が。」

雪穂「そっか」

穂乃果「楽しい?」

雪穂「何が」

穂乃果「毎日」

雪穂「まあね」

穂乃果「よかった」


244: 2015/08/03(月) 05:09:05.76 ID:wSzHfVWm0


花陽「おいしー!」

真姫「んっ……そうね」

凛「穂乃果ちゃんも来れば良かったのにねー」

花陽「何やってるのかなぁ」

真姫「寝てるんじゃないの」

凛「あはは……あ、かよちん、このパフェ……バナナ食べてくれる?」

花陽「え、嫌いだっけ」

凛「嫌いじゃないけど……入院中に矢澤に100本くらい食べさせられたから……ちょっとのあいだ見たくないにゃ」

真姫「……お大事に」



245: 2015/08/03(月) 05:11:03.01 ID:wSzHfVWm0


絵里「もしもし」

にこ「あ、絵里」

絵里「今こっち帰ってるの、三人で会いましょ」

にこ「いいわよ、三人でね」

絵里「どこ行く?」

にこ「美味しいものが食べたいわ」

絵里「んー、何にする?」

にこ「絵里が決めていいわよ」

絵里「なにそれ、丸投げ?」

にこ「信用してるの」

絵里「……なにそれ」

にこ「いいもの食べてるんでしょー普段からー」

絵里「そんなことないわよ」

にこ「こっちはソーメンばっかりよ、なんとかしてよね」

絵里「……まず、無駄遣いをやめなさい」

にこ「……してないわよ」

絵里「本当?」

にこ「本当に」

絵里「信用してるわよ」

にこ「……はいはい」



246: 2015/08/03(月) 05:11:29.63 ID:wSzHfVWm0


雪穂「お姉ちゃんは?」

穂乃果「楽しいよ」

雪穂「ふうん……」

穂乃果「時々、嫌なこともあるけど、全体としてみれば……悪くないかも」

雪穂「私、音ノ木坂うけるよ」

穂乃果「えっ!?」

雪穂「受かればいいけどね。受かったら後輩になるよ、よろしく」

穂乃果「……」

雪穂「どうかした?」

穂乃果「まいったなぁ……」

雪穂「不都合でも?」

穂乃果「……いいとこ見せないとね」

雪穂「そんなに意識しなくてもいいよ」

穂乃果「お姉ちゃんは妹の前で見栄を張りたがるものなの。」

雪穂「……何それ」

穂乃果「……まあ、子供にはわかんないよね、ふっふっふ……」

雪穂「何それっ!」

穂乃果「あはは……はぁー……」

雪穂「いい天気だね」

穂乃果「……うん、いい天気……」


247: 2015/08/03(月) 05:12:35.52 ID:wSzHfVWm0






穂乃果(…………少しずつでいい)

穂乃果(少しずつ、昨日より、前に)

穂乃果(正しくなくても、褒めてくれなくてもいい)

穂乃果(ただ、自分が納得できる方に)

穂乃果(昨日より、楽しい方に)

穂乃果(……少しずつ、少しずつ……)







248: 2015/08/03(月) 05:13:26.07 ID:wSzHfVWm0
おわり

251: 2015/08/03(月) 05:17:31.30 ID:wSzHfVWm0
長くなってすみません
設定いろいろ違いますが、μ'sが役者の劇みたいな感じで読んでもらえればと思います

では

255: 2015/08/03(月) 05:45:24.32 ID:PZMLyvooO
面白かった 乙

256: 2015/08/03(月) 05:47:51.32 ID:aGra9b6DO
穂・乃果でちょっと草生えたけど面白かった
完走マジ乙

257: 2015/08/03(月) 05:49:42.46 ID:9k3z8ZkPO

無事に完結してよかった

260: 2015/08/03(月) 07:00:31.50 ID:R2P1dY4eO
面白かった

262: 2015/08/03(月) 07:13:48.89 ID:Jar4otfeO
お疲れ様です!しっかり終わらせてくれて嬉しい

263: 2015/08/03(月) 07:22:58.62 ID:pfhweYjZO
こっちが荒れないでよかった

265: 2015/08/03(月) 07:29:46.60 ID:G7AF6A5Q0
おつ

269: 2015/08/03(月) 08:12:33.83 ID:PIVrrcpHo
最後まで読めてよかった
ありがとう

313: 2015/08/04(火) 11:11:33.56 ID:x6f7VsFso
タイトルからは予想もしないエンドだった
面白かったよ

引用元: undefined

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