SS日野下花帆ーSS蓮ノ空ーSS
最初に見た時から、太陽のような女だった。 ただ、それは夏至の日に昇る、鬱陶しいほどに高らかな太陽に似ていた。 日野下花帆という名前。突拍子もないポジティヴな脳。スクールアイドルクラブ。彼女について知っていることはそれくらいだ。 しかしながら、これは仕方のない話なのである。元来人の輪に入るというものが苦手な自分には、和気藹々と喋り続ける少女たちの声を西瓜泥棒のようにこっそりと盗み聴くしかできなかったのだ。「それで、その時梢センパイが……」「ふふっ、流石乙宗センパイですね。綴理先輩なんて……」 鼈のように身体を縮め、無関心の体で真っ黒な黒板をぼうっと眺めていても、耳だけは欹てて音を集めているのが私の常であった。 昼飯はもう食い終わっている。コッペパンとチョコレートコロネをひとつずつ。それと紙パックのカフェオレだけで、5分もあれば腹に流し込める量だ。元来少食かつ健康に気を遣える人間ではなかったが、親の目がないとどうにも悪食が悪化してしまうものだ。 今頃クラスメイトの大半は購買部に駆け込んでいるだろうが、あんな人混みに飛び込むなんて思えば食欲も失せてくる。朝のうちに買っておけば、カフェオレが微温くなる以外に問題は無いではないか。 ちらりと教室の奥……件の日野下花帆の机を見た。無邪気に笑いながら雲雀のように喋る彼女と隣にもう一人、髪を両側で結った少女が笑っている。確か、彼女もスクールアイドルクラブのメンバーだった気がする。良く覚えていなかった。
2023年6月11日 22:10
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