1: (アウアウ) 2023/11/02(木) 04:21:18 ID:aflPmwGISa
冬毬とマルガレーテのLiella!加入SSです。3期が来たら正史に塗りつぶされますが良かったら読んで下さい。
また、スレ立て現在書き終えていないので不定期更新になります。SSを書くのも初めてなので大目に見て下さると幸いです。
また、スレ立て現在書き終えていないので不定期更新になります。SSを書くのも初めてなので大目に見て下さると幸いです。
2: (アウアウ) 2023/11/02(木) 04:27:10 ID:aflPmwGISa
夏休みの頃からでしょうか。姉者の様子がおかしい、というよりも雰囲気が変わっていっていることにはなんとなく気づいていました。
シフトに追われつつアルバイトに勤しんでいる様子はなく、だからといって帰りが早くなることもなくむしろ遅くなっていて。以前よりもエルチューブの登録者数、再生数、高評価数を気にしなくなった割には編集に時間をかけていたり。
なによりほぼ口癖だったのに「マニーマニー」とうるさくなくなったこと。もちろんマニーを大切にしなくなったというわけではないのですが。 そんな変化を見せていた姉者のことを、しかし私はコミットに調べようとはしませんでした。受験勉強の真っ最中だというのにそんなことに時間を割くことは合理的とは言えませんし、クリティカルな悪化をしているというわけでもないのですから、あとでゆっくりと話しを聞けばいい、そう考えていました。
日々はどんどんと過ぎていき、いつしか季節は冬になっていました。
シフトに追われつつアルバイトに勤しんでいる様子はなく、だからといって帰りが早くなることもなくむしろ遅くなっていて。以前よりもエルチューブの登録者数、再生数、高評価数を気にしなくなった割には編集に時間をかけていたり。
なによりほぼ口癖だったのに「マニーマニー」とうるさくなくなったこと。もちろんマニーを大切にしなくなったというわけではないのですが。 そんな変化を見せていた姉者のことを、しかし私はコミットに調べようとはしませんでした。受験勉強の真っ最中だというのにそんなことに時間を割くことは合理的とは言えませんし、クリティカルな悪化をしているというわけでもないのですから、あとでゆっくりと話しを聞けばいい、そう考えていました。
日々はどんどんと過ぎていき、いつしか季節は冬になっていました。
3: (アウアウ) 2023/11/02(木) 04:30:31 ID:aflPmwGISa
年も明けて一週間経った日、私とこたつでみかんを食べていた姉者が急に聞いてきました。
「冬毬はどこの高校を受験するんですの?」
「今まで全くそんな話をしてこなかったのに、どういう風の吹き回しですか姉者」
姉者は少しバツの悪そうな顔をしますが、ぱっと笑顔に戻ります。
「だって私よりも冬毬の方がずっと頭がいいんですの。下手に勉強を見たりアドバイスをしたりするよりも、ただ黙って見守る方がいいという姉の優しさなんですの!」
「なるほど、さすが姉者です。的確な判断に感服いたしました」
「うっ・・・・・・純粋な視線が痛いんですの」
何故かダメージを負っている様子の姉者、それはそれで可愛いです。お茶を一口飲んで私は最初の質問に答えました。
「公立も受けますが、第一志望は結ヶ丘女子高等学校。姉者と同じ高校です」
しばらくぽかんと不思議そうな顔をしていた姉者が首をかしげながら尋ねてきます。
「どうしてですの?冬毬の成績であればもっと上のレベルの高校に行けるはずなんですの・・・・・・。て、もしかして」
何か怪しく目を光らせた姉者を手で制してきちんと理由も説明します。
「実は結ヶ丘は今年から、普通科の受験問題の難化を発表しています。入学希望者数の爆発的増加がきっかけだそうです。こちらがエビデンスになります」
私がスマートフォンの画面に映しだした公式サイト、ページを開くと昨年の秋に行われた学校説明会での理事長の話が再生されます。受験者数の増加見込みについて、創立の理念の一つとも言える音楽科のさらなる拡充、普通科に加えて特進科の新設を検討している、などなど。
「それと、これが今年の受験問題のサンプルです」
配布されたものをファイルから取り出して姉者に見せると、しばらく眉間にしわを寄せてうんうんと唸りながらにらめっこをした後にどてっとこたつに額を打ち付けました。
「何ですのこれは、こんなのとけっこないんですの~」
「一応中学数学の範疇のはずですが・・・・・・」
悲鳴を上げる姉者、やっぱり可愛いです。
「冬毬はどこの高校を受験するんですの?」
「今まで全くそんな話をしてこなかったのに、どういう風の吹き回しですか姉者」
姉者は少しバツの悪そうな顔をしますが、ぱっと笑顔に戻ります。
「だって私よりも冬毬の方がずっと頭がいいんですの。下手に勉強を見たりアドバイスをしたりするよりも、ただ黙って見守る方がいいという姉の優しさなんですの!」
「なるほど、さすが姉者です。的確な判断に感服いたしました」
「うっ・・・・・・純粋な視線が痛いんですの」
何故かダメージを負っている様子の姉者、それはそれで可愛いです。お茶を一口飲んで私は最初の質問に答えました。
「公立も受けますが、第一志望は結ヶ丘女子高等学校。姉者と同じ高校です」
しばらくぽかんと不思議そうな顔をしていた姉者が首をかしげながら尋ねてきます。
「どうしてですの?冬毬の成績であればもっと上のレベルの高校に行けるはずなんですの・・・・・・。て、もしかして」
何か怪しく目を光らせた姉者を手で制してきちんと理由も説明します。
「実は結ヶ丘は今年から、普通科の受験問題の難化を発表しています。入学希望者数の爆発的増加がきっかけだそうです。こちらがエビデンスになります」
私がスマートフォンの画面に映しだした公式サイト、ページを開くと昨年の秋に行われた学校説明会での理事長の話が再生されます。受験者数の増加見込みについて、創立の理念の一つとも言える音楽科のさらなる拡充、普通科に加えて特進科の新設を検討している、などなど。
「それと、これが今年の受験問題のサンプルです」
配布されたものをファイルから取り出して姉者に見せると、しばらく眉間にしわを寄せてうんうんと唸りながらにらめっこをした後にどてっとこたつに額を打ち付けました。
「何ですのこれは、こんなのとけっこないんですの~」
「一応中学数学の範疇のはずですが・・・・・・」
悲鳴を上げる姉者、やっぱり可愛いです。
4: (アウアウ) 2023/11/02(木) 04:42:15 ID:aflPmwGISa
「・・・・・・でも」
しばらくして顔を上げた姉者は不思議な微笑みを浮かべていました。
「そんなに入学希望者が増えているなら結ヶ丘は安泰、恋先輩も喜びますの。今まで頑張って活動して甲斐があってよかったんですの」
「れん先輩?」
姉者の知り合い、学校で何か一緒にされている方でしょうか。首をかしげる私をよそに、すっと立ち上がった姉者はてきぱきとみかんの皮を拾いながら言いました。
「こっちの話ですの。そんなことより、問題がこんなに難しいなら最後まで気が抜けませんの。後片付けは私に任せて、冬毬は早く勉強に戻るんですの」
「・・・・・・アグリーです」
確かにちょっと長めの休憩になってしまっています。姉者の好意に感謝しつつ自室に戻ろうとすると、背後で小さくつぶやくのが聞こえました。
「私も、もっと頑張らないといけませんの」
「・・・・・・?」
エルチューブか何かの話でしょうか。などと思いつつ勉強を再開して少しすると、何やら電話をしながらドタバタと姉者が家を出て行く音がします。
「もしもしきな子、今暇ですの?なるほど、それは都合がいいんですの――違いますの、人のことをなんだと思って――はいですの。いつもの場所で待ち合わせでいいんですの?――じゃあ、また後でですの」
間を置いて大きな声。
「ちょっと出かけてきますの~!」
冬の外に出るとは思えない、姉者らしいパワフルな声でした。
しばらくして顔を上げた姉者は不思議な微笑みを浮かべていました。
「そんなに入学希望者が増えているなら結ヶ丘は安泰、恋先輩も喜びますの。今まで頑張って活動して甲斐があってよかったんですの」
「れん先輩?」
姉者の知り合い、学校で何か一緒にされている方でしょうか。首をかしげる私をよそに、すっと立ち上がった姉者はてきぱきとみかんの皮を拾いながら言いました。
「こっちの話ですの。そんなことより、問題がこんなに難しいなら最後まで気が抜けませんの。後片付けは私に任せて、冬毬は早く勉強に戻るんですの」
「・・・・・・アグリーです」
確かにちょっと長めの休憩になってしまっています。姉者の好意に感謝しつつ自室に戻ろうとすると、背後で小さくつぶやくのが聞こえました。
「私も、もっと頑張らないといけませんの」
「・・・・・・?」
エルチューブか何かの話でしょうか。などと思いつつ勉強を再開して少しすると、何やら電話をしながらドタバタと姉者が家を出て行く音がします。
「もしもしきな子、今暇ですの?なるほど、それは都合がいいんですの――違いますの、人のことをなんだと思って――はいですの。いつもの場所で待ち合わせでいいんですの?――じゃあ、また後でですの」
間を置いて大きな声。
「ちょっと出かけてきますの~!」
冬の外に出るとは思えない、姉者らしいパワフルな声でした。
5: (アウアウ) 2023/11/02(木) 04:44:43 ID:aflPmwGISa
実のところ、私は姉者に少し苦手意識があります。
やってみなければ分からないと、何でもかんでも試してみるところから始める姉者は、とてもフロンティアスピリットにあふれた人であると同時に、時には狡くて卑怯な手を使うほど貪欲です。そんな姉者を見ていて、私は思ってしまうのです。
どうしてそんな無駄なことばかりするのだろう、と。
自分の持つリソースには限りがあります。徹底的な合理化、リスクマネジメントをした上での最大限のリターンの確保に努める。堅実にこれを繰り返せば目標の達成もマネーのゲットも容易、わざわざあの手この手と試す必要もありません。
なぜそんな夢を追うようなことををするのでしょう、夢でお腹は膨れないのに。
だから姉者のことが苦手で。でもそれ以上に。
大好きな姉者をそんな冷ややかな目で見てしまう可愛げの無いのない自分が、どうしようもなく嫌いです。
やってみなければ分からないと、何でもかんでも試してみるところから始める姉者は、とてもフロンティアスピリットにあふれた人であると同時に、時には狡くて卑怯な手を使うほど貪欲です。そんな姉者を見ていて、私は思ってしまうのです。
どうしてそんな無駄なことばかりするのだろう、と。
自分の持つリソースには限りがあります。徹底的な合理化、リスクマネジメントをした上での最大限のリターンの確保に努める。堅実にこれを繰り返せば目標の達成もマネーのゲットも容易、わざわざあの手この手と試す必要もありません。
なぜそんな夢を追うようなことををするのでしょう、夢でお腹は膨れないのに。
だから姉者のことが苦手で。でもそれ以上に。
大好きな姉者をそんな冷ややかな目で見てしまう可愛げの無いのない自分が、どうしようもなく嫌いです。
12: (ワッチョイ) 2023/11/02(木) 13:22:52 ID:Q/efJ/Yc00
恙なく私の受験は終わりました。第一希望としていた結ヶ丘女子高等学校に無事合格し、あとは中学校の卒業を待つだけの日々を過ごしていた私が自宅でアプリのパズルゲームをしていると、とんでもなく上機嫌な姉者が帰ってきました。
「とっまっりー」
部屋に飛び込んできたかと思うとぎゅうっと抱きしめられて、何が何やら分からず私は目を白黒とさせてしまいます。
「私たち、やりましたの!遂に一等賞を取ったんですの!」
「ちょ、ちょっと姉者急にそんなことを言われても何の話か分かりません。まずはナレッジの共有から始めて下さい」
と言ってもなかなか離れてくれない姉者を取りあえず撫でること数分、ようやく落ち着いた姉者はパソコンを取り出して動画や記事を見せながら説明してくれます。
「すくーる、あいどる?」
「そうですの、まあ簡単に言えば学校でアイドル活動をする部活動なんですの」
「・・・・・・姉者がそんなことをしているなんて知りませんでした」
「話そうか迷っていたんですけれど、受験勉強中に色々見せても、と思って止めておきましたの」
そういえば、夏から姉者の雰囲気が変わったと感じていたことをふっと思い起こしました。ようやくその原因を知ることができて納得すると同時に、「受験だから」とお互いに遠慮していたところが、姉者と言外でコンセンサスが取れていたかのようでちょっと嬉しいです。
「そのスクールアイドル全国大会のラブライブ!で、私たちLiella!が優勝いたしましたの~」
確かにそのラブライブ!公式サイトには『優勝校 結ヶ丘女子高等学校 Liella!』と記されています。メンバーの写真の中に笑顔で観客に手を振る姉者の姿を確認することもできました。
学校説明会でもあった入学希望者数の増加というのも、このように生徒がめざましい活躍をしていることも理由の一つなのでしょう。そう納得しつつ、一つ気になったことを姉者に尋ねてみます。
「とっまっりー」
部屋に飛び込んできたかと思うとぎゅうっと抱きしめられて、何が何やら分からず私は目を白黒とさせてしまいます。
「私たち、やりましたの!遂に一等賞を取ったんですの!」
「ちょ、ちょっと姉者急にそんなことを言われても何の話か分かりません。まずはナレッジの共有から始めて下さい」
と言ってもなかなか離れてくれない姉者を取りあえず撫でること数分、ようやく落ち着いた姉者はパソコンを取り出して動画や記事を見せながら説明してくれます。
「すくーる、あいどる?」
「そうですの、まあ簡単に言えば学校でアイドル活動をする部活動なんですの」
「・・・・・・姉者がそんなことをしているなんて知りませんでした」
「話そうか迷っていたんですけれど、受験勉強中に色々見せても、と思って止めておきましたの」
そういえば、夏から姉者の雰囲気が変わったと感じていたことをふっと思い起こしました。ようやくその原因を知ることができて納得すると同時に、「受験だから」とお互いに遠慮していたところが、姉者と言外でコンセンサスが取れていたかのようでちょっと嬉しいです。
「そのスクールアイドル全国大会のラブライブ!で、私たちLiella!が優勝いたしましたの~」
確かにそのラブライブ!公式サイトには『優勝校 結ヶ丘女子高等学校 Liella!』と記されています。メンバーの写真の中に笑顔で観客に手を振る姉者の姿を確認することもできました。
学校説明会でもあった入学希望者数の増加というのも、このように生徒がめざましい活躍をしていることも理由の一つなのでしょう。そう納得しつつ、一つ気になったことを姉者に尋ねてみます。
13: (ワッチョイ) 2023/11/02(木) 13:26:27 ID:Q/efJ/Yc00
「ところで、このラブライブ!という大会は優勝者に賞金か、あるいは副賞の類があるのでしょうか」
二度三度と瞬きを繰り返した姉者はやがてこめかみを押さえつつ深々とため息をつきました。
「あのね、冬毬。スクールアイドルはさっきも言った通り部活動の一種なんですの。なので賞金なんてものはありませんの!」
「なっ」
今度は私が何度も目をパチパチとさせるターンです。
「姉者がインセンティブもなしにそのような活動をしているなんて。いえ、そんなはずはありません。きっとインフルエンサーとして、何かしらの方法でマニーを稼ぐ算段を立てているに違いありません」
「妹にまでこう言われるとややショックですの・・・・・・。イメージ戦略のためにも、ちょっと日頃の言動を見直す必要がありそうなんですの」
若干ゲンナリとした表情をする姉者ですが、私にとってこれは本当に衝撃的な事態でした。回収の見込みが薄いどころか無償で何かに取り組む姉者なんてここ数年見たことがありませんでしたから、スクールアイドルが一体どのように、どれほどの影響を姉者に与えたのか。ふつふつと興味が湧いてきました。
「姉者」
「なんですの?」
「もし良ければ、姉者の活動実績を見せていただけないでしょうか」
「そんなことでしたらお安いご用ですの。ライブや練習風景をエルチューブにアップしていますの、そちらから視聴するのが手っ取り早いかと。あ、見終わった後は高評価チャンネル登録、コメントにSNSへの拡散っ、をよろしくですの~」
「承知いたしました」
抜け目のない姉者の言葉にどこか安心しつつ、私はエルチューブを起動してイヤホンを取りに自室へと向かいました。
二度三度と瞬きを繰り返した姉者はやがてこめかみを押さえつつ深々とため息をつきました。
「あのね、冬毬。スクールアイドルはさっきも言った通り部活動の一種なんですの。なので賞金なんてものはありませんの!」
「なっ」
今度は私が何度も目をパチパチとさせるターンです。
「姉者がインセンティブもなしにそのような活動をしているなんて。いえ、そんなはずはありません。きっとインフルエンサーとして、何かしらの方法でマニーを稼ぐ算段を立てているに違いありません」
「妹にまでこう言われるとややショックですの・・・・・・。イメージ戦略のためにも、ちょっと日頃の言動を見直す必要がありそうなんですの」
若干ゲンナリとした表情をする姉者ですが、私にとってこれは本当に衝撃的な事態でした。回収の見込みが薄いどころか無償で何かに取り組む姉者なんてここ数年見たことがありませんでしたから、スクールアイドルが一体どのように、どれほどの影響を姉者に与えたのか。ふつふつと興味が湧いてきました。
「姉者」
「なんですの?」
「もし良ければ、姉者の活動実績を見せていただけないでしょうか」
「そんなことでしたらお安いご用ですの。ライブや練習風景をエルチューブにアップしていますの、そちらから視聴するのが手っ取り早いかと。あ、見終わった後は高評価チャンネル登録、コメントにSNSへの拡散っ、をよろしくですの~」
「承知いたしました」
抜け目のない姉者の言葉にどこか安心しつつ、私はエルチューブを起動してイヤホンを取りに自室へと向かいました。
14: (ワッチョイ) 2023/11/02(木) 13:34:01 ID:Q/efJ/Yc00
結論から申し上げますと、想定していたよりもずっとハイレベルなパフォーマンスを見せる姉者の姿がありました。いえ、姉者だけではありません。他のLiiella!のメンバーの皆さん全員が輝いて見えるほどの素晴らしいステージでした。
それと比較して普段の練習風景は真剣ではあるものの普通の女子高生の日常といった雰囲気で、そんなギャップもまた魅力の一つと言った感じです。
「姉者、楽しそうです」
思わずそう呟いてしまいました。何事にも全力を尽くす姉者ではありますが、この動画ではなぜかいつも以上に気合いが入っているように見えました。これほどの熱意を持って練習した先で優勝を掴み取ったのですから、先ほどの喜びようも当然でしょう。
それにしても、優勝ですか。
ごろっと布団に転がって天井を見上げているとちょっとだけ空しさを感じます。少し前まで近くにいてああでもないこうでもないと騒いでいた姉者がどこか遠い世界に人になってしまったかのような気持ちになってしまって。夢なんか叶うわけがない、そう嘯いていた自分が恥ずかしくて姉者に顔見せできません。
(・・・・・・)
目を瞑って益体もない考えを追い出します。人には人にあったアサインをするのが合理的ですから。やはりがむしゃらになって夢を追いかけるなんてことは私にはできません。スクールアイドルの活動に本気で打ち込んでいらっしゃる方々は迷いなく最初の一歩を踏み出すことができる人なのでしょう。
もう一度Liella!の動画を開くと、そこにはとても私には真似できそうもない素敵な笑顔で歌って踊る姉者とメンバーの皆さんの姿、それを見ているだけで少し幸せになる。私にはこれだけで十分です。
(そういえば)
大会と言うからには他にもたくさんのスクールアイドルの方がいらっしゃるのでしょう。せっかくの機会なので見識を広げておくのも悪くありません。
ラブライブ!とエルチューブで検索をすると最初に今見たばかりの今年の本戦の動画、少しスクロールすると東京大会のリストが出てきました。まずはこれから見ていくことにして、私は再生ボタンをタップしました。
それと比較して普段の練習風景は真剣ではあるものの普通の女子高生の日常といった雰囲気で、そんなギャップもまた魅力の一つと言った感じです。
「姉者、楽しそうです」
思わずそう呟いてしまいました。何事にも全力を尽くす姉者ではありますが、この動画ではなぜかいつも以上に気合いが入っているように見えました。これほどの熱意を持って練習した先で優勝を掴み取ったのですから、先ほどの喜びようも当然でしょう。
それにしても、優勝ですか。
ごろっと布団に転がって天井を見上げているとちょっとだけ空しさを感じます。少し前まで近くにいてああでもないこうでもないと騒いでいた姉者がどこか遠い世界に人になってしまったかのような気持ちになってしまって。夢なんか叶うわけがない、そう嘯いていた自分が恥ずかしくて姉者に顔見せできません。
(・・・・・・)
目を瞑って益体もない考えを追い出します。人には人にあったアサインをするのが合理的ですから。やはりがむしゃらになって夢を追いかけるなんてことは私にはできません。スクールアイドルの活動に本気で打ち込んでいらっしゃる方々は迷いなく最初の一歩を踏み出すことができる人なのでしょう。
もう一度Liella!の動画を開くと、そこにはとても私には真似できそうもない素敵な笑顔で歌って踊る姉者とメンバーの皆さんの姿、それを見ているだけで少し幸せになる。私にはこれだけで十分です。
(そういえば)
大会と言うからには他にもたくさんのスクールアイドルの方がいらっしゃるのでしょう。せっかくの機会なので見識を広げておくのも悪くありません。
ラブライブ!とエルチューブで検索をすると最初に今見たばかりの今年の本戦の動画、少しスクロールすると東京大会のリストが出てきました。まずはこれから見ていくことにして、私は再生ボタンをタップしました。
15: (アウアウ) 2023/11/03(金) 00:30:31 ID:3lLnGeYMSa
「じゃあ色々と終わったら連絡よろしくですの。学校の案内をいたしますの!」
「ありがとうございます。では行ってきますね姉者」
入学式の日になりました。今日、在校生は授業がなく休みだそうですが、Liella!の練習でいつも通りの時間に起きていた姉者と一緒に結ヶ丘へ登校し、校舎の前で分かれました。
張り出されていたクラス分けの紙を確認し自分の教室まで歩いて行くと、なぜかそこで人だかりができています。
「ねえあの子、間違いないよね」
「わざわざ結女に来たってどういうつもりなの」
「正直嫌なんだけど、感じ悪かったし!」
式の前に各々の教室で待機をしているはずが、そこでクラスメイトと思われる子たちが集まってひそひそと何か話をしています。何事でしょうかと人の隙間から教室の中を覗いてみると、凜として際立った存在感を放つ、それでいて花にとまった蝶のような静けさをまとった少女が自分の席に座っていました。
私も彼女のことは知っています。気品のある紫色の長髪とエメラルドのように輝く瞳。誰も寄せ付けないような気高い表情は見間違えるはずもありません、つい数ヶ月前に姉者たちと東京大会で競い合ったウィーン・マルガレーテです。
どうしてここにとは私も思いましたが、立ち止まっていても仕方が無いので思い切って教室に足を踏み入れました。
「あっ」
背中にクラスメイトたちの視線を感じますが、気にすることなく座席表を確認して席に着いたのですが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ウィーン・マルガレーテ
おにづかとまり
初期の座席表にありがちな五十音配置はたまたま私と彼女を左右の席順にしていました。さすがに少し気まずさを感じつつ机の上の資料を確認していると、不意に隣から声がしました。
「下らない」
声の主は当然マルガレーテ。
「人の噂話ばかりしていても何にもならないわ。そんな子とっをしている暇があるなら、少しでも今の自分が何をするべきか考えて、成長できるように努力をするべきよ」
迷いなんて一切ないように聞こえるその力強い声に、私の中で何かがふるえるような感覚がありました。
でも。
「アグリーです。必要なナレッジの収集をするため以上に噂話へ耳を割く時間は合理的とは言えません。タスク管理がきちんとできていれば、そんなことをする暇はないはずです」
私は彼女の意見に賛成です。まだ入り口の前でまごまごとしているクラスメイトたちの気持ちも分からないではありませんが、マルガレーテの言葉の方が私はすんなりと受け入れることができます。
と、マルガレーテがくるりと振り向いて私のことをじっと見つめてきたかと思うと、やがて不思議そうな顔をして尋ねてきました。
「あなた、どこかで会ったことがあるかしら」
「いえ、私とあなたに面識はありません。ただ・・・・・・」
彼女が感じたデジャブには心当たりがあります。
「ただ?」
「あなたと姉者はお会いしたことがあるのではないですか」
「あねじゃ?」
もったいぶっても仕方が無いので素直に教えることにしました。
「私は鬼塚冬毬といいます。Liella!のメンバー、鬼塚夏美の妹です」
一瞬目を見開いたマルガレーテはすぐにぷいっとそっぽを向いてしまいました。それとほぼ同時にクラスメイトたちが教室に入ってきて、少しだけ賑やかな空気が広がります。
「鬼塚冬毬」
そんな中再び不意を突く声。
「知っていると思うけれど、私はウィーン・マルガレーテ。・・・・・・よろしくね」
「はい、こちらこそ」
少し間を置いてマルガレーテは言いました。
「こう言っては何だけど。あまり似ていないわね、あなたたち」
「・・・・・・アグリーです」
ぎごちないような、意外とそうでもないような。私とマルガレーテの最初の出会いでした、
「ありがとうございます。では行ってきますね姉者」
入学式の日になりました。今日、在校生は授業がなく休みだそうですが、Liella!の練習でいつも通りの時間に起きていた姉者と一緒に結ヶ丘へ登校し、校舎の前で分かれました。
張り出されていたクラス分けの紙を確認し自分の教室まで歩いて行くと、なぜかそこで人だかりができています。
「ねえあの子、間違いないよね」
「わざわざ結女に来たってどういうつもりなの」
「正直嫌なんだけど、感じ悪かったし!」
式の前に各々の教室で待機をしているはずが、そこでクラスメイトと思われる子たちが集まってひそひそと何か話をしています。何事でしょうかと人の隙間から教室の中を覗いてみると、凜として際立った存在感を放つ、それでいて花にとまった蝶のような静けさをまとった少女が自分の席に座っていました。
私も彼女のことは知っています。気品のある紫色の長髪とエメラルドのように輝く瞳。誰も寄せ付けないような気高い表情は見間違えるはずもありません、つい数ヶ月前に姉者たちと東京大会で競い合ったウィーン・マルガレーテです。
どうしてここにとは私も思いましたが、立ち止まっていても仕方が無いので思い切って教室に足を踏み入れました。
「あっ」
背中にクラスメイトたちの視線を感じますが、気にすることなく座席表を確認して席に着いたのですが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ウィーン・マルガレーテ
おにづかとまり
初期の座席表にありがちな五十音配置はたまたま私と彼女を左右の席順にしていました。さすがに少し気まずさを感じつつ机の上の資料を確認していると、不意に隣から声がしました。
「下らない」
声の主は当然マルガレーテ。
「人の噂話ばかりしていても何にもならないわ。そんな子とっをしている暇があるなら、少しでも今の自分が何をするべきか考えて、成長できるように努力をするべきよ」
迷いなんて一切ないように聞こえるその力強い声に、私の中で何かがふるえるような感覚がありました。
でも。
「アグリーです。必要なナレッジの収集をするため以上に噂話へ耳を割く時間は合理的とは言えません。タスク管理がきちんとできていれば、そんなことをする暇はないはずです」
私は彼女の意見に賛成です。まだ入り口の前でまごまごとしているクラスメイトたちの気持ちも分からないではありませんが、マルガレーテの言葉の方が私はすんなりと受け入れることができます。
と、マルガレーテがくるりと振り向いて私のことをじっと見つめてきたかと思うと、やがて不思議そうな顔をして尋ねてきました。
「あなた、どこかで会ったことがあるかしら」
「いえ、私とあなたに面識はありません。ただ・・・・・・」
彼女が感じたデジャブには心当たりがあります。
「ただ?」
「あなたと姉者はお会いしたことがあるのではないですか」
「あねじゃ?」
もったいぶっても仕方が無いので素直に教えることにしました。
「私は鬼塚冬毬といいます。Liella!のメンバー、鬼塚夏美の妹です」
一瞬目を見開いたマルガレーテはすぐにぷいっとそっぽを向いてしまいました。それとほぼ同時にクラスメイトたちが教室に入ってきて、少しだけ賑やかな空気が広がります。
「鬼塚冬毬」
そんな中再び不意を突く声。
「知っていると思うけれど、私はウィーン・マルガレーテ。・・・・・・よろしくね」
「はい、こちらこそ」
少し間を置いてマルガレーテは言いました。
「こう言っては何だけど。あまり似ていないわね、あなたたち」
「・・・・・・アグリーです」
ぎごちないような、意外とそうでもないような。私とマルガレーテの最初の出会いでした、
17:5日の0時からワッチョイ再導入予定 (アウアウ) 2023/11/03(金) 18:32:42 ID:06.r62yUSa
入学式とガイダンスも終わったので私はすぐに姉者にコンタクトを取りました。
『本日のタスクすべて終了いたしました。姉者はどちらにいらっしゃいますか』
少しして返信がきます。
『冬毬、ごめんですの』
『今とっても立て込んでまして、迎えに行けませんの』
『取りあえず4―B教室まで来てほしいんですの』
『承知いたしました』
そんなやりとりをしている間にさっさとマルガレーテは教室を出て行ってしまいました。もうちょっと話をしたかったと思っていると、またクラスメイトがこそこそと言い合っているのが聞こえてきました。
「やっぱ感じ悪いね」
「すごいやりにくいよ、もう最悪」
私もマルガレーテが去年の東京大会でどのような言動をしていたのか、それに対するスクールアイドルファンの反応はどうだったのか、リサーチをしたので知っています。ですが・・・・・・。
(いえ、気にしても仕方の無いことです)
過去はどうあれ覆りません、それについて考えることは時間の無駄です。そんなことより早く姉者の元へ向かわなくては。指示された4―B教室というのをマップで確認したところどうやら旧校舎、普通科の校舎の最上階のようです。
階段を上っていくと一つの小さな教室にたどり着きました。「学校アイドル部」とスクールアイドルと似ている単語が看板でついているその教室から何やら騒がしく声が聞こえてきます。
「かのん、今日こそきちんと説明してもらいマスよ」
「だから言い出せなかっただけなんだって、気まずいじゃん!」
「それにしたって限度ってものがあるでしょうが!私たちがどんな気持ちで春休みを過ごしていたか、考えなさいったら考えなさい!」
「本当に、せめて私にはひとこと欲しかったよ、かのんちゃん」
「ごめんっ。ごめんってちぃちゃん」
「千砂都先輩だけじゃなくて私たちにも謝ってくれよ・・・・・・」
「メイちゃんまで!?うう、ごめんみんな~」
「まあまあ、かのんさんの言い出しにくかったというのも分かりますし、皆さん許してあげましょう?」
なにやら責任追及のような会話に混ざって聞き慣れた声がしました。
「まったく。かのん先輩の性格上言えなかったのは分かりますけども、もしSNSでこんな立ち回りをしたら大、炎、上間違いなしですの。今回は水に流しますけど、次は無いと思うんですの」
「うう、ありがとう恋ちゃん夏美ちゃん」
姉者の存在を確認できたので安心しつつ、向こうのやりとりが一区切りついたようなので少し緊張しつつ扉をノックしました。
「ん、誰か来たみたいっす」
ととっと軽い足音がして扉が開くと、そこには栗色の髪の先輩。人懐こそうなその瞳と見つめ合うこと数秒、彼女はぱあっと顔を輝かせました。
「もしかして新入生、入部希望の子っすか!?えっと、取りあえず部室に入って下さいす!大丈夫、先輩たちが優しくするっすよ~!」
「いえ、私は」
やたらとハイテンションな彼女の勘違いを訂正しようとすると、こんどは後ろからなぜか白衣を着ているクールな雰囲気の先輩が出てきました。
「大丈夫、躊躇わないで。私が開発したこの『スクールアイドル養成ギプス』を付けて練習をすれば、あなたもすぐに一流のスクールアイドルになれる」
何やら怪しげな道具を取り出して勧めてくるのをどう対処したものかと考えていると、ペしりと音がしてクールな先輩が頭を押さえます。
「痛い・・・・・・」
「人の妹に変なものを渡さないで下さいですの。きな子も、気持ちは分かりますけれど早とちりしすぎですの」
「夏美ちゃんがノってくれないのは想定外・・・・・・え?」
一瞬部屋の空気が止まり、最初に再起動した先輩が姉者に詰め寄ります。
「夏美、今あんた妹って言ったわよね!?」
「すみれ先輩も他の方も一旦落ち着いて下さいですの、今から自己紹介させますから。おいで、冬毬」
「はい、姉者」
姉者の先導で部屋に入ると一気に八人もの視線の的になってしまい、さすがに緊張してしまいます。それが春休みの間に何度も動画で見たLiella!の皆さんともなるとそんな気持ちがどんどん強くなっていきます。姉者に学校案内をしてもらうだけのつもりだったのですが。
ホワイトボードの前で全員と対峙、改めてメンバーの皆さんの顔をしっかりと確認できます。
扉を開けてくれた、動画越しの印象と違わない優しそうな表情の桜小路きな子先輩。
一緒に出迎えて妙なマシンを渡そうとしてきた若菜四季先輩。
腕を組んでいてキリッとした美人なのは平安名すみれ先輩。
その隣で興味津々といった顔をしているのが唐可可先輩。
お団子から伸びる髪の毛を可愛らしく揺らしているの米女メイ先輩。
一番落ち着いていて物腰の柔らかそうな雰囲気の葉月恋先輩。
部としてのリーダーで、見るからに活発そうな嵐千砂都先輩。
そして。
半べそで『私はホウレンソウを怠りました』と書かれたボードを持っている澁谷かのん先輩。
「あんまりなんじゃない!?」
「かのんさん、少し静かにしていていただけませんか」
「はい・・・・・・」
恋先輩にぴしゃりと叱られてかのん先輩は大人しくなりました。Liella!のリーダーでとても美しい歌声をお持ちのはずの方なのですが、一体何があったのでしょうか・・・・・・。
小さく咳払いをして私は口を開きます。
「初めまして、Liella!の皆さん。いつも姉者がお世話になっております。私は本日結ヶ丘に入学いたしました鬼塚冬毬と申します、一年生としてまだまだ未熟な点はございますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
深々と一礼して数秒、何の反応もないので何かおかしなことを言ってしまったのかと不安に駆られながら顔を上げると、皆さんそろって狐につままれたような顔をしていらっしゃいます。
「冬毬、えっと。本当に夏美の妹なのか?」
メイ先輩に怪訝な表情で尋ねられました。
「はい」
「姉ではなく?」
「姉なのに後輩になるのはおかしいです」
「いやそうだけどさ・・・・・・背も高いし」
「むしろ姉者が平均を下回っているだけですので」
「それはそうか」
「ちょっと、余計なことを言わなくていいんですの冬毬」
『本日のタスクすべて終了いたしました。姉者はどちらにいらっしゃいますか』
少しして返信がきます。
『冬毬、ごめんですの』
『今とっても立て込んでまして、迎えに行けませんの』
『取りあえず4―B教室まで来てほしいんですの』
『承知いたしました』
そんなやりとりをしている間にさっさとマルガレーテは教室を出て行ってしまいました。もうちょっと話をしたかったと思っていると、またクラスメイトがこそこそと言い合っているのが聞こえてきました。
「やっぱ感じ悪いね」
「すごいやりにくいよ、もう最悪」
私もマルガレーテが去年の東京大会でどのような言動をしていたのか、それに対するスクールアイドルファンの反応はどうだったのか、リサーチをしたので知っています。ですが・・・・・・。
(いえ、気にしても仕方の無いことです)
過去はどうあれ覆りません、それについて考えることは時間の無駄です。そんなことより早く姉者の元へ向かわなくては。指示された4―B教室というのをマップで確認したところどうやら旧校舎、普通科の校舎の最上階のようです。
階段を上っていくと一つの小さな教室にたどり着きました。「学校アイドル部」とスクールアイドルと似ている単語が看板でついているその教室から何やら騒がしく声が聞こえてきます。
「かのん、今日こそきちんと説明してもらいマスよ」
「だから言い出せなかっただけなんだって、気まずいじゃん!」
「それにしたって限度ってものがあるでしょうが!私たちがどんな気持ちで春休みを過ごしていたか、考えなさいったら考えなさい!」
「本当に、せめて私にはひとこと欲しかったよ、かのんちゃん」
「ごめんっ。ごめんってちぃちゃん」
「千砂都先輩だけじゃなくて私たちにも謝ってくれよ・・・・・・」
「メイちゃんまで!?うう、ごめんみんな~」
「まあまあ、かのんさんの言い出しにくかったというのも分かりますし、皆さん許してあげましょう?」
なにやら責任追及のような会話に混ざって聞き慣れた声がしました。
「まったく。かのん先輩の性格上言えなかったのは分かりますけども、もしSNSでこんな立ち回りをしたら大、炎、上間違いなしですの。今回は水に流しますけど、次は無いと思うんですの」
「うう、ありがとう恋ちゃん夏美ちゃん」
姉者の存在を確認できたので安心しつつ、向こうのやりとりが一区切りついたようなので少し緊張しつつ扉をノックしました。
「ん、誰か来たみたいっす」
ととっと軽い足音がして扉が開くと、そこには栗色の髪の先輩。人懐こそうなその瞳と見つめ合うこと数秒、彼女はぱあっと顔を輝かせました。
「もしかして新入生、入部希望の子っすか!?えっと、取りあえず部室に入って下さいす!大丈夫、先輩たちが優しくするっすよ~!」
「いえ、私は」
やたらとハイテンションな彼女の勘違いを訂正しようとすると、こんどは後ろからなぜか白衣を着ているクールな雰囲気の先輩が出てきました。
「大丈夫、躊躇わないで。私が開発したこの『スクールアイドル養成ギプス』を付けて練習をすれば、あなたもすぐに一流のスクールアイドルになれる」
何やら怪しげな道具を取り出して勧めてくるのをどう対処したものかと考えていると、ペしりと音がしてクールな先輩が頭を押さえます。
「痛い・・・・・・」
「人の妹に変なものを渡さないで下さいですの。きな子も、気持ちは分かりますけれど早とちりしすぎですの」
「夏美ちゃんがノってくれないのは想定外・・・・・・え?」
一瞬部屋の空気が止まり、最初に再起動した先輩が姉者に詰め寄ります。
「夏美、今あんた妹って言ったわよね!?」
「すみれ先輩も他の方も一旦落ち着いて下さいですの、今から自己紹介させますから。おいで、冬毬」
「はい、姉者」
姉者の先導で部屋に入ると一気に八人もの視線の的になってしまい、さすがに緊張してしまいます。それが春休みの間に何度も動画で見たLiella!の皆さんともなるとそんな気持ちがどんどん強くなっていきます。姉者に学校案内をしてもらうだけのつもりだったのですが。
ホワイトボードの前で全員と対峙、改めてメンバーの皆さんの顔をしっかりと確認できます。
扉を開けてくれた、動画越しの印象と違わない優しそうな表情の桜小路きな子先輩。
一緒に出迎えて妙なマシンを渡そうとしてきた若菜四季先輩。
腕を組んでいてキリッとした美人なのは平安名すみれ先輩。
その隣で興味津々といった顔をしているのが唐可可先輩。
お団子から伸びる髪の毛を可愛らしく揺らしているの米女メイ先輩。
一番落ち着いていて物腰の柔らかそうな雰囲気の葉月恋先輩。
部としてのリーダーで、見るからに活発そうな嵐千砂都先輩。
そして。
半べそで『私はホウレンソウを怠りました』と書かれたボードを持っている澁谷かのん先輩。
「あんまりなんじゃない!?」
「かのんさん、少し静かにしていていただけませんか」
「はい・・・・・・」
恋先輩にぴしゃりと叱られてかのん先輩は大人しくなりました。Liella!のリーダーでとても美しい歌声をお持ちのはずの方なのですが、一体何があったのでしょうか・・・・・・。
小さく咳払いをして私は口を開きます。
「初めまして、Liella!の皆さん。いつも姉者がお世話になっております。私は本日結ヶ丘に入学いたしました鬼塚冬毬と申します、一年生としてまだまだ未熟な点はございますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
深々と一礼して数秒、何の反応もないので何かおかしなことを言ってしまったのかと不安に駆られながら顔を上げると、皆さんそろって狐につままれたような顔をしていらっしゃいます。
「冬毬、えっと。本当に夏美の妹なのか?」
メイ先輩に怪訝な表情で尋ねられました。
「はい」
「姉ではなく?」
「姉なのに後輩になるのはおかしいです」
「いやそうだけどさ・・・・・・背も高いし」
「むしろ姉者が平均を下回っているだけですので」
「それはそうか」
「ちょっと、余計なことを言わなくていいんですの冬毬」
18:5日の0時からワッチョイ再導入予定 (アウアウ) 2023/11/03(金) 18:32:59 ID:06.r62yUSa
姉者につっこまれてしまいました。やや場の空気がほぐれたところでまたきな子先輩が聞いてきます。
「えっと、それで冬毬ちゃんはスクールアイドルを、Liella!に入るつもりで今日ここにきてくれたんすか?」
「勘違いさせてしまい申し訳ありません。今のところその予定はありません、本日は姉者に学校を案内してもらうスケジュールを組んでいたのでこちらへ参ったのですが」
ちらりと視線を走らせるとかのん先輩が「たはは」と冷や汗をかきながら笑っています。動画ではあんなに格好良かったのに。なんでしょう、このギャップは。
「何やらお取り込み中らしいので失礼いたしますね」
「待って冬毬ちゃん!私を一人にしないで!!」
駆け寄ってきたかのん先輩のうるうるとした瞳に圧されてしまい、帰りにくくなってしまいます。「かのん、取りあえず座って下さい」と可可先輩に椅子に戻されるかのん先輩の助けを求める顔があんまりだったのでため息をついて頷きました。
「アグリー。ではそのようにリスケいたしますので、あくまでもオブザーバーとしての席を用意していただきます。メンバーの皆さんでのミーティングを続行して下さい。宜しいですか姉者」
「はいですの、ごめんね冬毬。学校案内はまた明日にして、かのん先輩の裁判を続行いたいたしますの!」
「そうかな?新入生に結ヶ丘の良さを知ってもらう方が有意義だと思うんだよね」
「かのんちゃん?」
「なんでもないよ、ちぃちゃん!」
こうしてLiella!の皆さんとのアイスブレイクを経た私は、そのままかのん先輩の裁判(?)に参加することになったのでした。
「えっと、それで冬毬ちゃんはスクールアイドルを、Liella!に入るつもりで今日ここにきてくれたんすか?」
「勘違いさせてしまい申し訳ありません。今のところその予定はありません、本日は姉者に学校を案内してもらうスケジュールを組んでいたのでこちらへ参ったのですが」
ちらりと視線を走らせるとかのん先輩が「たはは」と冷や汗をかきながら笑っています。動画ではあんなに格好良かったのに。なんでしょう、このギャップは。
「何やらお取り込み中らしいので失礼いたしますね」
「待って冬毬ちゃん!私を一人にしないで!!」
駆け寄ってきたかのん先輩のうるうるとした瞳に圧されてしまい、帰りにくくなってしまいます。「かのん、取りあえず座って下さい」と可可先輩に椅子に戻されるかのん先輩の助けを求める顔があんまりだったのでため息をついて頷きました。
「アグリー。ではそのようにリスケいたしますので、あくまでもオブザーバーとしての席を用意していただきます。メンバーの皆さんでのミーティングを続行して下さい。宜しいですか姉者」
「はいですの、ごめんね冬毬。学校案内はまた明日にして、かのん先輩の裁判を続行いたいたしますの!」
「そうかな?新入生に結ヶ丘の良さを知ってもらう方が有意義だと思うんだよね」
「かのんちゃん?」
「なんでもないよ、ちぃちゃん!」
こうしてLiella!の皆さんとのアイスブレイクを経た私は、そのままかのん先輩の裁判(?)に参加することになったのでした。
19:5日の0時からワッチョイ再導入予定 (アウアウ) 2023/11/03(金) 18:37:42 ID:g2MUcbAwSa
「実は海外でスクールアイドルの活動への注目が一気に高くなっているらしくて、私が留学する予定だったウィーンの音楽学校主催で試験的にラブライブ!の世界大会を開くらしいの」
「worldwide・・・・・・」
「一気に話が大きくなりマシたね」
世界大会とは想像の斜め上を行く話。ラブライブ!優勝経験者といえども世界を相手にするという可能性を示唆されて、皆さんそれぞれが緊張の面持ちをしていらっしゃいます。
その中で一人だけ表情の変わらない千砂都先輩。
「それで、かのんちゃんの留学中止になんの関係があるの?」
一切物怖じする様子のないその姿に部長の貫禄を感じます。
「向こうの学校としては昨年の優勝校の結ヶ丘とそのグループのLiella!を活動見本と日本の代表にしたいらしくて、春に行う予定の世界大会までは日本に残ってもらって、その後改めて留学に招きたいって言われたんだ。去年のLiella!の形を可能な限り維持して欲しいって」
「ようやく話の全体像が見えてきました」
「・・・・・・じゃあ」
頷く恋先輩の隣できな子先輩がおずおずとかのん先輩に尋ねました。
「かのん先輩は卒業まできな子たちと一緒に居てくれるっていることっすかね?」
「まあそういうことになる、かな。あははは」
一人また気まずそうに笑うかのん先輩でしたが、次の瞬間きな子と可可先輩が飛びついていきました。
「嬉しいっす!かのん先輩大好きっす!」
「最後までLiella!で一緒に歌えマスね!」
左右から抱きつかれて驚いていたかのん先輩でしたが、やがて穏やかな笑顔で頷きました。
「うん。みんなと歌えて私も嬉しいな」
なんだかんだと気持ちは同じらしく尋問のような空気はどこへやら、皆さん暖かい笑顔を浮かべています。
「少しいいでしょうか」
雰囲気が落ち着いたのを見計らって私は挙手しました。
「どうしました冬毬さん」
「はい。一つ気になっていることが」
ここへ来る前からの懸案事項、もしかしたらかのん先輩であれば答えを知っているかもしれないと尋ねてみます。
「ラブライブ!世界大会に向けたモデルケースにLiella!を起用、グループ内のシナジー維持のためにかのん先輩の留学を一年見送るというスキームについては理解できました」
そこで私は一旦言葉を切りました。彼女の名前を口にするのはまだ緊張してします。
「ウィーン・マルガレーテが結ヶ丘に入学しているのはどういう理由があるのでしょうか」
「はあ?マルガレーテが?」
「ちょっとかのん、それ本当なの?」
「えっと、そのことなんだけど」
焦りに焦っていたさっきまでとは違い、どこか心配そうな顔をするかのん先輩。
「そもそも今の話を聞いたのがマルガレーテちゃんからなんだよね。元々私と一緒にウィーンに戻る予定だったから。それで・・・・・・」
その際、マルガレーテはかのん先輩にこう言ったそうです。
「音楽学校に行けなくなったのは残念だけれど、これはこれで好都合よ。今年こそラブライブ!で優勝して、私の歌の価値を証明する。自分の力で夢を勝ち取ってみせるわ」
「worldwide・・・・・・」
「一気に話が大きくなりマシたね」
世界大会とは想像の斜め上を行く話。ラブライブ!優勝経験者といえども世界を相手にするという可能性を示唆されて、皆さんそれぞれが緊張の面持ちをしていらっしゃいます。
その中で一人だけ表情の変わらない千砂都先輩。
「それで、かのんちゃんの留学中止になんの関係があるの?」
一切物怖じする様子のないその姿に部長の貫禄を感じます。
「向こうの学校としては昨年の優勝校の結ヶ丘とそのグループのLiella!を活動見本と日本の代表にしたいらしくて、春に行う予定の世界大会までは日本に残ってもらって、その後改めて留学に招きたいって言われたんだ。去年のLiella!の形を可能な限り維持して欲しいって」
「ようやく話の全体像が見えてきました」
「・・・・・・じゃあ」
頷く恋先輩の隣できな子先輩がおずおずとかのん先輩に尋ねました。
「かのん先輩は卒業まできな子たちと一緒に居てくれるっていることっすかね?」
「まあそういうことになる、かな。あははは」
一人また気まずそうに笑うかのん先輩でしたが、次の瞬間きな子と可可先輩が飛びついていきました。
「嬉しいっす!かのん先輩大好きっす!」
「最後までLiella!で一緒に歌えマスね!」
左右から抱きつかれて驚いていたかのん先輩でしたが、やがて穏やかな笑顔で頷きました。
「うん。みんなと歌えて私も嬉しいな」
なんだかんだと気持ちは同じらしく尋問のような空気はどこへやら、皆さん暖かい笑顔を浮かべています。
「少しいいでしょうか」
雰囲気が落ち着いたのを見計らって私は挙手しました。
「どうしました冬毬さん」
「はい。一つ気になっていることが」
ここへ来る前からの懸案事項、もしかしたらかのん先輩であれば答えを知っているかもしれないと尋ねてみます。
「ラブライブ!世界大会に向けたモデルケースにLiella!を起用、グループ内のシナジー維持のためにかのん先輩の留学を一年見送るというスキームについては理解できました」
そこで私は一旦言葉を切りました。彼女の名前を口にするのはまだ緊張してします。
「ウィーン・マルガレーテが結ヶ丘に入学しているのはどういう理由があるのでしょうか」
「はあ?マルガレーテが?」
「ちょっとかのん、それ本当なの?」
「えっと、そのことなんだけど」
焦りに焦っていたさっきまでとは違い、どこか心配そうな顔をするかのん先輩。
「そもそも今の話を聞いたのがマルガレーテちゃんからなんだよね。元々私と一緒にウィーンに戻る予定だったから。それで・・・・・・」
その際、マルガレーテはかのん先輩にこう言ったそうです。
「音楽学校に行けなくなったのは残念だけれど、これはこれで好都合よ。今年こそラブライブ!で優勝して、私の歌の価値を証明する。自分の力で夢を勝ち取ってみせるわ」
24:5日の0時からワッチョイ再導入予定 (ワッチョイ) 2023/11/04(土) 14:22:23 ID:3aVBkQgw00
マルガレーテの入学先が結ヶ丘になったのは彼女の家族から澁谷かのんと同じ環境で歌の勉強をさせたいと、理事長に直接アポイントメントが取られた結果であって、彼女自身が望んだわけではないそうです。
「すみません、その口ぶりからしてマルガレーテさんは今年もラブライブ!に出場するつもりだと思うのですが、その場合Liella!はどうなるのでしょうか」
「確かにですの。今年も私たちがLiella!として活動していくのであれば、ラブライブ!出場と優勝が目標になりますの。ですがその場合、結ヶ丘から2グループがエントリーすることになってしまうんですの!」
恋先輩と姉者の疑問はもっともなものです。
「どうなんだろうな。同じ学校から2つのグループが出たっていう記録はないけど、実はルールで禁止しているわけじゃない」
「そもそも運営はそんなパターンを想定していないんだと思う」
「そりゃそうよ。でも困ったわね、仮にエントリーが断られたとしてもマルガレーテはそれで簡単に引き下がるような性格じゃないわよ」
全員考え込んでしまいますがなかなかいい考えは出てきません。沈黙の中「ちょっといいかな」と声を上げたのは千砂都先輩でした。
「マルガレーテちゃんのことはマルガレーテちゃんにも話を聞いてみないと分からないから一旦保留にしよ。それよりも私は部長として、みんなに確認しておきたいことがあるんだ」
極々真剣な口調で千砂都先輩は全員を見渡して問いました。
「さっき夏美ちゃんが少し言っていたけれど、Liella!の活動方針は今年も優勝を目指す、で本当にいいのかな。Sunny Passionさんが言ってたよね、ラブライブ!で連続優勝したグループはまだ一つもないって。でも、まだ誰も行ったことのない世界に飛び込む覚悟が、私も含めてみんなは本当にできているのかな?」
さらに重い沈黙の空気が部室に立ちこめます。うかつな発言だったと思ったのか、姉者はしかめっ面をして気まずそうに縮こまっています。
「すみません、その口ぶりからしてマルガレーテさんは今年もラブライブ!に出場するつもりだと思うのですが、その場合Liella!はどうなるのでしょうか」
「確かにですの。今年も私たちがLiella!として活動していくのであれば、ラブライブ!出場と優勝が目標になりますの。ですがその場合、結ヶ丘から2グループがエントリーすることになってしまうんですの!」
恋先輩と姉者の疑問はもっともなものです。
「どうなんだろうな。同じ学校から2つのグループが出たっていう記録はないけど、実はルールで禁止しているわけじゃない」
「そもそも運営はそんなパターンを想定していないんだと思う」
「そりゃそうよ。でも困ったわね、仮にエントリーが断られたとしてもマルガレーテはそれで簡単に引き下がるような性格じゃないわよ」
全員考え込んでしまいますがなかなかいい考えは出てきません。沈黙の中「ちょっといいかな」と声を上げたのは千砂都先輩でした。
「マルガレーテちゃんのことはマルガレーテちゃんにも話を聞いてみないと分からないから一旦保留にしよ。それよりも私は部長として、みんなに確認しておきたいことがあるんだ」
極々真剣な口調で千砂都先輩は全員を見渡して問いました。
「さっき夏美ちゃんが少し言っていたけれど、Liella!の活動方針は今年も優勝を目指す、で本当にいいのかな。Sunny Passionさんが言ってたよね、ラブライブ!で連続優勝したグループはまだ一つもないって。でも、まだ誰も行ったことのない世界に飛び込む覚悟が、私も含めてみんなは本当にできているのかな?」
さらに重い沈黙の空気が部室に立ちこめます。うかつな発言だったと思ったのか、姉者はしかめっ面をして気まずそうに縮こまっています。
25:5日の0時からワッチョイ再導入予定 (ワッチョイ) 2023/11/04(土) 14:28:51 ID:3aVBkQgw00
その隣を見るとラブライブ!の優勝旗が飾ってありました。いかにも重たそうに垂れ下がっていたその旗が、一瞬何の前触れもなく風が吹いたかのようにふわりと揺れます。
「みんな、聞いて」
よく通る澄んだ声でした。
「私たちが去年ラブライブ!で優勝に手が届いたのは、一年間頑張って諦めずに練習してきたから、結ヶ丘のみんなが応援してくれたから起こせた奇跡だと思う。ここにいる全員が一つに結ばれてあのステージに立つことができたのは、一生忘れられない最高の思い出」
かのん先輩のその声にLiella!全員の顔が明るいものになっていきます。
「二年連続の優勝はサニパさんにも、どんなスクールアイドルにもできなかったすっごく難しいことなんだと思う。でも私はLiella!のみんなと、結ヶ丘のみんなと、もう一度あの場所に立ちたいと思ってる。二度目の奇跡、起こしてみたい」
三度の静寂、ですが今回のそれはジリジリと逸る気持ちを抑えているような、不思議な充足感を湛えた空気。
(すごいですね)
つい十数分前まで全方位から責め立てられていたとは思えないメンバーを引っ張る力を見せてくれたかのん先輩の姿、それはまさしくLiella!のリーダーそのものでした。
「うん、私はかのんちゃんに賛成。みんなは?」
千砂都先輩がそう言ったのを皮切りに皆さん力強く頷きます。
「もちろん可可もです。Liella!が目指すのはやっぱりラブライブ!優勝デス!」
「仕方ないわね、やってやるったらやってやるわ。私たちの本気をもう一度見せてやろうじゃない!」
「気持ちは同じです。今の私たちの勢いのまま駆け抜けていきましょう」
「どうせ見るなら大きい夢っすよね。きな子も自分のできることを全力でやってみたいっす!」
「今までいないからって頑張らない理由はないもんな。今年も優勝を目指そう!」
「また一年、もっとみんなで練習すればきっと去年よりもいいパフォーマンスができる。victory」
そして、姉者も。
「史上初の連続優勝ともなれば、注目度も動画の再生数も爆上がり間違いなし、マニーが転がり込んできますの~」
「ちょっと夏美?」
「じょ、冗談ですのすみれ先輩」
姉者らしい、ガメツイ一言はついていましたが、揺るぎない熱意に満ちあふれた表情は他のLiella!の皆さんと同じです。
心が一つに重なった先輩たちは動画で何度となく見てきたLiella!そのもので、その一員として夢を追いかける姉者の姿はとても輝いています。
「みんな、聞いて」
よく通る澄んだ声でした。
「私たちが去年ラブライブ!で優勝に手が届いたのは、一年間頑張って諦めずに練習してきたから、結ヶ丘のみんなが応援してくれたから起こせた奇跡だと思う。ここにいる全員が一つに結ばれてあのステージに立つことができたのは、一生忘れられない最高の思い出」
かのん先輩のその声にLiella!全員の顔が明るいものになっていきます。
「二年連続の優勝はサニパさんにも、どんなスクールアイドルにもできなかったすっごく難しいことなんだと思う。でも私はLiella!のみんなと、結ヶ丘のみんなと、もう一度あの場所に立ちたいと思ってる。二度目の奇跡、起こしてみたい」
三度の静寂、ですが今回のそれはジリジリと逸る気持ちを抑えているような、不思議な充足感を湛えた空気。
(すごいですね)
つい十数分前まで全方位から責め立てられていたとは思えないメンバーを引っ張る力を見せてくれたかのん先輩の姿、それはまさしくLiella!のリーダーそのものでした。
「うん、私はかのんちゃんに賛成。みんなは?」
千砂都先輩がそう言ったのを皮切りに皆さん力強く頷きます。
「もちろん可可もです。Liella!が目指すのはやっぱりラブライブ!優勝デス!」
「仕方ないわね、やってやるったらやってやるわ。私たちの本気をもう一度見せてやろうじゃない!」
「気持ちは同じです。今の私たちの勢いのまま駆け抜けていきましょう」
「どうせ見るなら大きい夢っすよね。きな子も自分のできることを全力でやってみたいっす!」
「今までいないからって頑張らない理由はないもんな。今年も優勝を目指そう!」
「また一年、もっとみんなで練習すればきっと去年よりもいいパフォーマンスができる。victory」
そして、姉者も。
「史上初の連続優勝ともなれば、注目度も動画の再生数も爆上がり間違いなし、マニーが転がり込んできますの~」
「ちょっと夏美?」
「じょ、冗談ですのすみれ先輩」
姉者らしい、ガメツイ一言はついていましたが、揺るぎない熱意に満ちあふれた表情は他のLiella!の皆さんと同じです。
心が一つに重なった先輩たちは動画で何度となく見てきたLiella!そのもので、その一員として夢を追いかける姉者の姿はとても輝いています。
26: (アウアウ 65fc-b7e5) 2023/11/05(日) 17:41:52 ID:Ozv9y2iISa
でもそんな姉者と対照的に、私の心は重く沈んでいってしまいました。
また姉者が何もできない自分と離れて行ってしまうような気がするのが嫌で、そんな子供じみた嫉妬や独占欲を抱えている自分がちっぽけに感じて。せめて何か力になりたいと思うのに、このマイナスな気持ちを振りほどく方法が分からなくて、立ち止まってしまうのです。
体ばかり大きくなって、でも姉者の小さな体から放たれるパワーに私は全くもって追いつくことができていません。それなのに頭と口ばかり回してどんどん後れを取っていく。
夢を追う力も資格も無い私にできることが果たしてあるのでしょうか。
また姉者が何もできない自分と離れて行ってしまうような気がするのが嫌で、そんな子供じみた嫉妬や独占欲を抱えている自分がちっぽけに感じて。せめて何か力になりたいと思うのに、このマイナスな気持ちを振りほどく方法が分からなくて、立ち止まってしまうのです。
体ばかり大きくなって、でも姉者の小さな体から放たれるパワーに私は全くもって追いつくことができていません。それなのに頭と口ばかり回してどんどん後れを取っていく。
夢を追う力も資格も無い私にできることが果たしてあるのでしょうか。
27: (アウアウ e3c1-b7e5) 2023/11/05(日) 17:53:43 ID:UUoxffygSa
「なんかどんどんやる気出てきたな!千砂都先輩、明日から、いや今日から練習始めよう!」
「お、いいねメイちゃん。じゃあ今日から練習始めよっか。去年を越えるパフォーマンスをしなくちゃいけないんだから、練習はもっと厳しく効率的に行くよ」
「うう、身が引き締まる思いっす。きな子もメイちゃんに負けないくらい頑張るっすよ!」
気合い十分と行った様子のLiella!の皆さんの言葉に、何か少しだけ引っかかるものがありました、何でしょう。
「じゃあ私は歌詞を書かなくちゃね。きな子ちゃん、春休みの間に書きためとかしてた?」
「実は結構考えてあるんす。まだちょっと恥ずかしいっすけど、是非かのん先輩にもみんなにも読んで欲しいっす」
「私もステップとかフォーメーション、こうしたら格好いいかなって考えてあるけれど、まだまだ詰めが甘いと思うから千砂都先輩に相談したい」
「ありがとう四季ちゃん。次のライブに取り入れられるように一緒に考えてみようか」
「かのんさんたちの歌詞を待って、というわけには行きませんね。メイさん、私たちも少しずつ曲を作っておきましょう」
「そうだな。歌詞に合わなかったとしても、また別の歌で使えばいいから無駄にはならない。いくつかやってみようか」
「連続優勝のためには去年よりももっともーっとファンを増やさなければなりませんの。宣伝広告、すみれ先輩にもご協力いただきますの」
「ええ、もちろんよ夏美。でも可可の衣装作りの方も手伝わないと行けないし・・・・・・なんならそっちも夏美、いっしょにやる?」
「ナッツが協力してくれるなら百人力デス!ぜひSNS映えしそうな細かい装飾のアイデアをくれると助かりマス!」
ある程度は各々の仕事が決まっているようでそれぞれが動き始めたLiella!。ですが何と言うか、こう。よく言えば柔軟性に富んでいますが、悪く言えばまとまりが無く、あまりメソッドの共有が図られていないような、そんなイメージを抱きました。
(・・・・・・これです)
ぱちりとピースがはまったかのような答えが導かれます。これなら、これだけは自信を持って務められる自信がありました。私でも姉者とLiella!の助けになれる。
気づけば口が先に動いていました。
「お取り込み中ですが、よろしいですか?」
はっと皆さんが私の方に振り向きます。
「ガッデム!話し込んでいてすっかり冬毬のことを忘れていましたの!」
「ごめん冬毬ちゃん、せっかく入学したばかりなのにほったらかしにしちゃって。それで何かな、なんでも言って?」
「いえ、お構いなく姉者、かのん先輩。Liella!の活動を間近で見られて勉強になりましたので。そんなことより、フラッシュアイデアで申し訳ないのですが、一つ提案がございまして」
私の中で何かが動く音がしました。
「お、いいねメイちゃん。じゃあ今日から練習始めよっか。去年を越えるパフォーマンスをしなくちゃいけないんだから、練習はもっと厳しく効率的に行くよ」
「うう、身が引き締まる思いっす。きな子もメイちゃんに負けないくらい頑張るっすよ!」
気合い十分と行った様子のLiella!の皆さんの言葉に、何か少しだけ引っかかるものがありました、何でしょう。
「じゃあ私は歌詞を書かなくちゃね。きな子ちゃん、春休みの間に書きためとかしてた?」
「実は結構考えてあるんす。まだちょっと恥ずかしいっすけど、是非かのん先輩にもみんなにも読んで欲しいっす」
「私もステップとかフォーメーション、こうしたら格好いいかなって考えてあるけれど、まだまだ詰めが甘いと思うから千砂都先輩に相談したい」
「ありがとう四季ちゃん。次のライブに取り入れられるように一緒に考えてみようか」
「かのんさんたちの歌詞を待って、というわけには行きませんね。メイさん、私たちも少しずつ曲を作っておきましょう」
「そうだな。歌詞に合わなかったとしても、また別の歌で使えばいいから無駄にはならない。いくつかやってみようか」
「連続優勝のためには去年よりももっともーっとファンを増やさなければなりませんの。宣伝広告、すみれ先輩にもご協力いただきますの」
「ええ、もちろんよ夏美。でも可可の衣装作りの方も手伝わないと行けないし・・・・・・なんならそっちも夏美、いっしょにやる?」
「ナッツが協力してくれるなら百人力デス!ぜひSNS映えしそうな細かい装飾のアイデアをくれると助かりマス!」
ある程度は各々の仕事が決まっているようでそれぞれが動き始めたLiella!。ですが何と言うか、こう。よく言えば柔軟性に富んでいますが、悪く言えばまとまりが無く、あまりメソッドの共有が図られていないような、そんなイメージを抱きました。
(・・・・・・これです)
ぱちりとピースがはまったかのような答えが導かれます。これなら、これだけは自信を持って務められる自信がありました。私でも姉者とLiella!の助けになれる。
気づけば口が先に動いていました。
「お取り込み中ですが、よろしいですか?」
はっと皆さんが私の方に振り向きます。
「ガッデム!話し込んでいてすっかり冬毬のことを忘れていましたの!」
「ごめん冬毬ちゃん、せっかく入学したばかりなのにほったらかしにしちゃって。それで何かな、なんでも言って?」
「いえ、お構いなく姉者、かのん先輩。Liella!の活動を間近で見られて勉強になりましたので。そんなことより、フラッシュアイデアで申し訳ないのですが、一つ提案がございまして」
私の中で何かが動く音がしました。
29: (アウアウ 7e98-9db7) 2023/11/08(水) 18:12:28 ID:pfK9K/5sSa
「ねえねえ先輩に聞いたんだけど、鬼塚さんってLiella!の鬼塚夏美先輩の妹って本当なの?」
入学式から一週間がたち、オリエンテーションを経て少しずつ通常の学校生活に移っていくある日、クラスメイトからそう尋ねられました。
苗字が同じとはいえ、先日のメイ先輩のように本当に姉妹なのか?と確認してくる人は珍しくありません。私の方が身長は高いですし、顔立ちもあまり似ているわけではないので。
思えばマルガレーテ意外にそのように自己紹介はしていなかったのでこれは起こるべくして起こったことでしょう。
「はい。鬼塚夏美は私の姉者です」
「えー、ホントなんだー」
「すごーい」
「いいなあ」
羨望のまなざしを向けられますが、別に私への評価ではないのでなんとも反応しづらいところですが、姉者がきちんとLiella!の一員として評価されている事自体は喜ばしいことです。
教室内で聞こえる雑談からも分かっていましたが、やはりLiella!の人気は凄まじいもので、入学者の過半数がファンとして同じ学校に通いたいという気持ちで受験していたようです。スクールアイドルは商業重視の活動ではないとはいえ、私立学校のマーケティングとしては上手く機能していそうですね。
「ねえねえ、私三年生の平安名先輩のファンなの、サインとか貰えるかお姉さんに頼んでくれない?」
「あ、ずるい。なら私も四季先輩のがほしー」
「あたしは澁谷先輩が歌ってるの最前列で見たい!ねえ何とかならない?」
好き勝手に口々に要望を上げてくるのをどうしたものかと思っていると、彼女たちの背後で退屈そうにしているマルガレーテと目が合いました。彼女の何か含む物のあるその視線はすぐに外されて、机に伏せてしまいます。
「ていうか、鬼塚さんはLiella!に入らないの?姉妹でスクールアイドルって、映えるしそこそこ居るイメージなんだけど」
マルガレーテに意識を割かれている間に投げかけられた質問に、私はうっかり不用意に答えてしまいました。
「私は自身の適性を考慮して、スクールアイドルではなくマネージャーとして部に加入いたしましたので、Liella!に加入する予定はありません」
思えばこんな正直に答える必要は全くありませんでした、裏方に徹すると決めていたはずなのに、自分の詰めの甘さを反省するばかりです。
「えー、すごいじゃん!じゃあお願いできるよね、どうしよう色紙と小物系にしてもらうのどっちがいいかな」
「どっちもでいいじゃん。見る用と持ち歩き用みたいな感じで」
「それいい!じゃあ鬼塚さんよろしくね」
あまりにもハイテンション名クラスメイトにノーと言うのもはばかられたので「伝えておきます」とだけ言って誤魔化すのでした。
入学式から一週間がたち、オリエンテーションを経て少しずつ通常の学校生活に移っていくある日、クラスメイトからそう尋ねられました。
苗字が同じとはいえ、先日のメイ先輩のように本当に姉妹なのか?と確認してくる人は珍しくありません。私の方が身長は高いですし、顔立ちもあまり似ているわけではないので。
思えばマルガレーテ意外にそのように自己紹介はしていなかったのでこれは起こるべくして起こったことでしょう。
「はい。鬼塚夏美は私の姉者です」
「えー、ホントなんだー」
「すごーい」
「いいなあ」
羨望のまなざしを向けられますが、別に私への評価ではないのでなんとも反応しづらいところですが、姉者がきちんとLiella!の一員として評価されている事自体は喜ばしいことです。
教室内で聞こえる雑談からも分かっていましたが、やはりLiella!の人気は凄まじいもので、入学者の過半数がファンとして同じ学校に通いたいという気持ちで受験していたようです。スクールアイドルは商業重視の活動ではないとはいえ、私立学校のマーケティングとしては上手く機能していそうですね。
「ねえねえ、私三年生の平安名先輩のファンなの、サインとか貰えるかお姉さんに頼んでくれない?」
「あ、ずるい。なら私も四季先輩のがほしー」
「あたしは澁谷先輩が歌ってるの最前列で見たい!ねえ何とかならない?」
好き勝手に口々に要望を上げてくるのをどうしたものかと思っていると、彼女たちの背後で退屈そうにしているマルガレーテと目が合いました。彼女の何か含む物のあるその視線はすぐに外されて、机に伏せてしまいます。
「ていうか、鬼塚さんはLiella!に入らないの?姉妹でスクールアイドルって、映えるしそこそこ居るイメージなんだけど」
マルガレーテに意識を割かれている間に投げかけられた質問に、私はうっかり不用意に答えてしまいました。
「私は自身の適性を考慮して、スクールアイドルではなくマネージャーとして部に加入いたしましたので、Liella!に加入する予定はありません」
思えばこんな正直に答える必要は全くありませんでした、裏方に徹すると決めていたはずなのに、自分の詰めの甘さを反省するばかりです。
「えー、すごいじゃん!じゃあお願いできるよね、どうしよう色紙と小物系にしてもらうのどっちがいいかな」
「どっちもでいいじゃん。見る用と持ち歩き用みたいな感じで」
「それいい!じゃあ鬼塚さんよろしくね」
あまりにもハイテンション名クラスメイトにノーと言うのもはばかられたので「伝えておきます」とだけ言って誤魔化すのでした。
30: (ワッチョイ d72f-9db7) 2023/11/09(木) 07:27:35 ID:te8tGDRY00
入学式の日、私は自らをLiella!のマネージャーにして欲しいと申し出ました。
スクールアイドルの活動と一言で言ってもその内容は色々とあります。
歌詞と曲作り、ダンスの考案と練習、衣装も大抵は自前で作っていますし、基礎的な体力作りや発声練習も欠かせません。そういったステージに直結するものに加え、SNSやラブライブ!公式サイト上での宣伝活動、時たまいらっしゃる学外のファンへの対応もありますし、学生である以上勉強もおろそかにするわけにはいきません。
そういった多角的な活動の統括は部長の千砂都先輩が主に行っているようでしたが、ただでさえ役割が集中しすぎている上に、振り付けや練習メニューの作成、部長として学校や他の部活との連絡連携、三年生なので進路についても考えなければならないとなると、あまりにも多忙なのは火を見るよりも明らかです。
そんな千砂都先輩の仕事を分担すると同時に、他メンバーの役割の進行、フォローをするマネージャー業務は整理整頓や作業の効率化を得意とする私に適任と言える・・・・・・はずだったのですが。
着任して早々に自ら余計な手間を増やしてしまい申し訳なく思いながら放課後にサインの件をすみれ先輩に報告したところ、思いのほか快く了承していただけました。
「あらいいじゃない。サインくらいいくらでも書くわよ」
胸をなで下ろしながら『すみれ先輩、OK』とメモをしていると何やらガッツポーズしてブツブツ言っているのが聞こえてきます。
「ギャラクシー!とうとうここまで上り詰めてやったわよ!」
メンバーの経歴を調査した際、すみれ先輩は幼少期からショービジネスの世界で下積みをしていたとありました。
かのん先輩に見せてもらったグソクムシダンスはなかなか可愛かったので個人的にはお気に入りなのですが、すみれ先輩的には黒歴史らしいので、今のスクールアイドルとして華々しい活躍をしているのがやはり嬉しいのでしょう。
「私も別にいい。でもどうせならメイも一緒に書いて欲しい」
四季先輩にも了承していただいたのですが、何やら条件付きです。
「なんで私まで書くんだよ。四季のファンなんだから四季のだけでいいだろ。ほら、色々と面倒だったりするし・・・・・・」
「大丈夫。メイのサインには特殊な匂いを付けておく。これで持っているだけでどんどんメイのことが好きになる、メイの可愛さが広まって」
「何が大丈夫なんだよ!余計にやらねぇよ!」
まあ、何はともあれサインはしてくれそうで良かったです。
そんな話をしているうちにメンバーが全員そろったので練習前のミーティングの時間になりました。去年までは不定期に話し合いを行っていたようなのですが、私の発案で週三回を定例としました。
この方が諸々の作業の短期目標が立てやすくなりますし、ベクトルの調整や周知徹底も容易です。今日の議題だった新曲についてのイメージの共有、進捗報告も問題なく消化、ミーティングを終了しようとしたところで姉者が手を上げました。
「例のマルガレーテの件はどういたしますの。まだいい考えは出ていなかったはずですの」
「そうだったね。誰かマルガレーテちゃんと話できたりした?」
「そもそもまだ学内ではお会いできておりませんね。生徒会長としては不覚です、申し訳ありません」
「きな子は見かけはしたんすけど、すぐにどこかに行っちゃったから声はかけられてないっすね」
元々腰を据えて話をするような関係性でもなく、むしろ敵対的な関係だったので皆さん声をかけづらいのでしょう。マルガレーテの方からも避けている節があるのでなかなか難しそうです。
「こうなったら同じクラスの冬毬になんとかしてもらうしかないんですの。頼らせてもらってもいいですの?」
「もちろんです。お任せ下さい姉者」
そんなわけで私はマルガレーテにLiella!のマネージャーとしてコンタクトを取ることになりました。
スクールアイドルの活動と一言で言ってもその内容は色々とあります。
歌詞と曲作り、ダンスの考案と練習、衣装も大抵は自前で作っていますし、基礎的な体力作りや発声練習も欠かせません。そういったステージに直結するものに加え、SNSやラブライブ!公式サイト上での宣伝活動、時たまいらっしゃる学外のファンへの対応もありますし、学生である以上勉強もおろそかにするわけにはいきません。
そういった多角的な活動の統括は部長の千砂都先輩が主に行っているようでしたが、ただでさえ役割が集中しすぎている上に、振り付けや練習メニューの作成、部長として学校や他の部活との連絡連携、三年生なので進路についても考えなければならないとなると、あまりにも多忙なのは火を見るよりも明らかです。
そんな千砂都先輩の仕事を分担すると同時に、他メンバーの役割の進行、フォローをするマネージャー業務は整理整頓や作業の効率化を得意とする私に適任と言える・・・・・・はずだったのですが。
着任して早々に自ら余計な手間を増やしてしまい申し訳なく思いながら放課後にサインの件をすみれ先輩に報告したところ、思いのほか快く了承していただけました。
「あらいいじゃない。サインくらいいくらでも書くわよ」
胸をなで下ろしながら『すみれ先輩、OK』とメモをしていると何やらガッツポーズしてブツブツ言っているのが聞こえてきます。
「ギャラクシー!とうとうここまで上り詰めてやったわよ!」
メンバーの経歴を調査した際、すみれ先輩は幼少期からショービジネスの世界で下積みをしていたとありました。
かのん先輩に見せてもらったグソクムシダンスはなかなか可愛かったので個人的にはお気に入りなのですが、すみれ先輩的には黒歴史らしいので、今のスクールアイドルとして華々しい活躍をしているのがやはり嬉しいのでしょう。
「私も別にいい。でもどうせならメイも一緒に書いて欲しい」
四季先輩にも了承していただいたのですが、何やら条件付きです。
「なんで私まで書くんだよ。四季のファンなんだから四季のだけでいいだろ。ほら、色々と面倒だったりするし・・・・・・」
「大丈夫。メイのサインには特殊な匂いを付けておく。これで持っているだけでどんどんメイのことが好きになる、メイの可愛さが広まって」
「何が大丈夫なんだよ!余計にやらねぇよ!」
まあ、何はともあれサインはしてくれそうで良かったです。
そんな話をしているうちにメンバーが全員そろったので練習前のミーティングの時間になりました。去年までは不定期に話し合いを行っていたようなのですが、私の発案で週三回を定例としました。
この方が諸々の作業の短期目標が立てやすくなりますし、ベクトルの調整や周知徹底も容易です。今日の議題だった新曲についてのイメージの共有、進捗報告も問題なく消化、ミーティングを終了しようとしたところで姉者が手を上げました。
「例のマルガレーテの件はどういたしますの。まだいい考えは出ていなかったはずですの」
「そうだったね。誰かマルガレーテちゃんと話できたりした?」
「そもそもまだ学内ではお会いできておりませんね。生徒会長としては不覚です、申し訳ありません」
「きな子は見かけはしたんすけど、すぐにどこかに行っちゃったから声はかけられてないっすね」
元々腰を据えて話をするような関係性でもなく、むしろ敵対的な関係だったので皆さん声をかけづらいのでしょう。マルガレーテの方からも避けている節があるのでなかなか難しそうです。
「こうなったら同じクラスの冬毬になんとかしてもらうしかないんですの。頼らせてもらってもいいですの?」
「もちろんです。お任せ下さい姉者」
そんなわけで私はマルガレーテにLiella!のマネージャーとしてコンタクトを取ることになりました。
31: (ワッチョイ d72f-9db7) 2023/11/09(木) 07:37:53 ID:te8tGDRY00
「少しいいですか、マルガレーテ」
休み時間にはいつもヘッドホンをして突っ伏していて、昼休みにはどこかに行ってしまうマルガレーテに話しかけるのは一苦労でした。
アポを取ろうにも連絡先を知らないので困っていたところ、かのん先輩にSNSのアカウントを教えていただいたのでダイレクトメッセージを送りました。
かのん先輩はたまにメッセージを送ってみてもまず反応してもらえないと少し寂しそうにしていらっしゃいましたが、私が連絡したところ昼休みに中庭の隅のベンチに居ると簡潔な返事がきました。
行ってみると一人で黙々とサンドウィッチを食べているマルガレーテを発見、入学式以来ようやくまともに接触を取ることに成功しました。
「だめならどこに居るか教えないわよ」
「それもそうですね。隣、失礼します」
「ん」
中庭の中でもここは校舎から最も離れた場所に位置しています。池の対岸には偶に生徒が歩いているのが見えますが、わざわざここまで来ようという人はそうそう居なそうです。
「知ってる?」
マルガレーテが向こう岸にあるベンチを指さして言いました。
「あそこで告白すると恋が実るらしいわ」
「・・・・・・まさか」
エビデンス一つ無いただの噂話です。
「下らないわよね。そんな話ばっかりしているんだから、みんなそう」
「意外と回りの話を聞いているのですね」
外との関わりを一切絶っているように見えていました。
「聞きたくなくても聞こえてくるのよ。群れた鳥が鳴いているみたいで、とてもうるさい」
ざわりと吹いた風が回りの草木を揺らし、池の水面をキラキラと波立たせます。人気のなさから寂しさを感じさせるこの場所ですが、この景色だけで悪くないと感じました。それに何より――。
「それで、何の用?」
すっかりサンドウィッチを食べ終えたマルガレーテは口元をハンカチで拭いて尋ねてきます。
「確認したいことがございまして」
「澁谷かのんに頼まれたの?」
「かのん先輩というより、Liella!全体という方が正確です。マネージャーではありますが、比較的中立の立ち位置である私が代表として参りました」
「そう、まあどうでもいいけど」
気怠そうな表情は、ステージ上での覇気を放っているそれとは大きく違います。今の彼女の目には何が映っているのでしょうか。
「マルガレーテは今年もスクールアイドルとしての活動を続けると伺いました。それはもちろん、個人でのなのですよね」
「当然でしょう。私がスクールアイドルなんてくだ・・・・・・」
下らない、そう言おうとしたのでしょう。『ここがいかに下らない場所か』というインタビューでの彼女の発言は私もアーカイブで見て知っています。苦虫を噛み潰したかのような表情でマルガレーテは言い直しました。
「私がスクールアイドルの活動をしているのは自分の夢を叶えるため。澁谷かのんに勝って私の歌を証明するためでしかないわ。ファンにちやほやされたり、誰かと馴れ合ったりするためじゃない」
「ええ。マルガレーテのスタンスは理解している・・・・・・つもりです。ですがラブライブ!の大会は一つの学校から二つのスクールアイドルが出場することを恐らく想定していない、というのが私たちの見立てです。レギュレーションには記載されていませんが、高い確率で発生するアクシデントは避けるべきではないでしょうか」
「じゃあ何、冬毬は私に辞退しろって言うわけ?」
「いえ、そういうわけではありません。ですが一度意見を交換するための場に参加して欲しいと考えています。Liella!とマルガレーテの間にキャズムを残しておくのは、今後のことを考えると合理的とは言えないのではないでしょうか?」
じっとにらみ合うこと数秒、何も言わないままにマルガレーテは立ち上がり歩き始めてしまいます。
「待って下さい、まだ話は」
呼び止めようと慌ててその背中に声をかけると、足を止めたマルガレーテはくるりと振り向きました。
「代々木スクールアイドルフェス」
「え?」
「私が去年澁谷かのんに、Liella!に勝ったステージよ。実力で分からせてあげる、どちらがラブライブ!の大会にふさわしいのかを」
そう一方的に力強い声で宣言をしてまた歩き出したマルガレーテはすぐに歩みを止めます。今度はいくらか優しい声。
「もう昼休み終わるわよ。教室に戻るわよ冬毬」
「・・・・・・もうそんな時間でしたか」
思ったより早く過ぎていた時間に驚きつつ私は先を歩くマルガレーテを追いかけるのでした。
休み時間にはいつもヘッドホンをして突っ伏していて、昼休みにはどこかに行ってしまうマルガレーテに話しかけるのは一苦労でした。
アポを取ろうにも連絡先を知らないので困っていたところ、かのん先輩にSNSのアカウントを教えていただいたのでダイレクトメッセージを送りました。
かのん先輩はたまにメッセージを送ってみてもまず反応してもらえないと少し寂しそうにしていらっしゃいましたが、私が連絡したところ昼休みに中庭の隅のベンチに居ると簡潔な返事がきました。
行ってみると一人で黙々とサンドウィッチを食べているマルガレーテを発見、入学式以来ようやくまともに接触を取ることに成功しました。
「だめならどこに居るか教えないわよ」
「それもそうですね。隣、失礼します」
「ん」
中庭の中でもここは校舎から最も離れた場所に位置しています。池の対岸には偶に生徒が歩いているのが見えますが、わざわざここまで来ようという人はそうそう居なそうです。
「知ってる?」
マルガレーテが向こう岸にあるベンチを指さして言いました。
「あそこで告白すると恋が実るらしいわ」
「・・・・・・まさか」
エビデンス一つ無いただの噂話です。
「下らないわよね。そんな話ばっかりしているんだから、みんなそう」
「意外と回りの話を聞いているのですね」
外との関わりを一切絶っているように見えていました。
「聞きたくなくても聞こえてくるのよ。群れた鳥が鳴いているみたいで、とてもうるさい」
ざわりと吹いた風が回りの草木を揺らし、池の水面をキラキラと波立たせます。人気のなさから寂しさを感じさせるこの場所ですが、この景色だけで悪くないと感じました。それに何より――。
「それで、何の用?」
すっかりサンドウィッチを食べ終えたマルガレーテは口元をハンカチで拭いて尋ねてきます。
「確認したいことがございまして」
「澁谷かのんに頼まれたの?」
「かのん先輩というより、Liella!全体という方が正確です。マネージャーではありますが、比較的中立の立ち位置である私が代表として参りました」
「そう、まあどうでもいいけど」
気怠そうな表情は、ステージ上での覇気を放っているそれとは大きく違います。今の彼女の目には何が映っているのでしょうか。
「マルガレーテは今年もスクールアイドルとしての活動を続けると伺いました。それはもちろん、個人でのなのですよね」
「当然でしょう。私がスクールアイドルなんてくだ・・・・・・」
下らない、そう言おうとしたのでしょう。『ここがいかに下らない場所か』というインタビューでの彼女の発言は私もアーカイブで見て知っています。苦虫を噛み潰したかのような表情でマルガレーテは言い直しました。
「私がスクールアイドルの活動をしているのは自分の夢を叶えるため。澁谷かのんに勝って私の歌を証明するためでしかないわ。ファンにちやほやされたり、誰かと馴れ合ったりするためじゃない」
「ええ。マルガレーテのスタンスは理解している・・・・・・つもりです。ですがラブライブ!の大会は一つの学校から二つのスクールアイドルが出場することを恐らく想定していない、というのが私たちの見立てです。レギュレーションには記載されていませんが、高い確率で発生するアクシデントは避けるべきではないでしょうか」
「じゃあ何、冬毬は私に辞退しろって言うわけ?」
「いえ、そういうわけではありません。ですが一度意見を交換するための場に参加して欲しいと考えています。Liella!とマルガレーテの間にキャズムを残しておくのは、今後のことを考えると合理的とは言えないのではないでしょうか?」
じっとにらみ合うこと数秒、何も言わないままにマルガレーテは立ち上がり歩き始めてしまいます。
「待って下さい、まだ話は」
呼び止めようと慌ててその背中に声をかけると、足を止めたマルガレーテはくるりと振り向きました。
「代々木スクールアイドルフェス」
「え?」
「私が去年澁谷かのんに、Liella!に勝ったステージよ。実力で分からせてあげる、どちらがラブライブ!の大会にふさわしいのかを」
そう一方的に力強い声で宣言をしてまた歩き出したマルガレーテはすぐに歩みを止めます。今度はいくらか優しい声。
「もう昼休み終わるわよ。教室に戻るわよ冬毬」
「・・・・・・もうそんな時間でしたか」
思ったより早く過ぎていた時間に驚きつつ私は先を歩くマルガレーテを追いかけるのでした。
32: (ワッチョイ 4d85-09cc) 2023/11/12(日) 04:49:01 ID:.EPEbeeg00
マルガレーテの突きつけてきた挑戦状を放課後の練習前に皆さんに報告します。反応はそれぞれでしたが、とりわけきな子先輩から好戦的とすら言えるレスポンスがあったのは意外でした。
「マルガレーテちゃんには負けられないっす。去年とは全然違うってところ、見せてやるっすよ!」
昨年代々木スクールアイドルフェスに出たLiella!は、当時二年生だった先輩たちに、まだ加入して間もないきな子先輩を含めた6人。
既に経験を積んである程度の知名度は持っていた先輩方に混ざって出た大会で、優勝を獲得できなかったとなれば、その時のプレッシャーはさぞ重いものだったでしょう。その再挑戦をしたい気持ちも理解できます
「でも本当にそれでいいのかな。この受けるってことは、負けたらラブライブ!に出られないってことだろう?でもそれって・・・・・・」
「なにを弱気になっているデスかメイメイ!」
メイ先輩の言葉を遮って可可先輩がどこからか広げてきた「必勝」の横断幕を掲げます。
「マルガレーテに優勝をさらわれたのもカコのこと。Liella!は去年の東京大会ではマルガレーテに勝って、ラブライブ!でも優勝しマシた!堂々と正面から受けて立ちましょう!」
「ちょっと落ち着きなさい可可。メイが言いたいのはそういう事じゃないわよ」
すみれ先輩が取りなしてメイ先輩に話を続けさせました。
「勝てば私たちはラブライブ!に出られる。でもそうしたらマルガレーテは出られない。私たちがマルガレーテの可能性の芽を摘んじゃう事になる」
「そうでした」
その状況を想像すると可可先輩も思うところがあるのか複雑そうな表情になります。
自分が言い出したことなのでプライドの高いマルガレーテが宣言を反古にするとは私も思いません。彼女の夢はラブライブ!優勝、ではありません。その先、自分の歌を多くの人に聴いてもらい評価されることなはずです。
結果としてではありますが、それを奪ってしまうというのは心苦しいものがありました。
「どうにかしてマルガレーテちゃんに考えを変えてもらうか、なにか別のいい方法を思いつかなくちゃいけない」
「どうにも難しい問題ですね。ですがフェスまでそう時間があるわけでもありませんし、早いうちに解決する必要があります」
「私たちの努力どうこうで解決する問題でないのがややこしいんですの」
ひとまずフェスにエントリーだけはしておこうということになり、皆さんが準備体操をしている間に済ませてしまおうとパソコンを起動しました。
(メールが来ていますね)
噂をすれば、といった感じで代々木スクールアイドルフェスティバルの運営からでした。わざわざメールを送ってくるとは一体何の要件かと思いながら開くと。
「・・・・・・えっ」
思わず声に出てしまうような内容がそこにありました。
「マルガレーテちゃんには負けられないっす。去年とは全然違うってところ、見せてやるっすよ!」
昨年代々木スクールアイドルフェスに出たLiella!は、当時二年生だった先輩たちに、まだ加入して間もないきな子先輩を含めた6人。
既に経験を積んである程度の知名度は持っていた先輩方に混ざって出た大会で、優勝を獲得できなかったとなれば、その時のプレッシャーはさぞ重いものだったでしょう。その再挑戦をしたい気持ちも理解できます
「でも本当にそれでいいのかな。この受けるってことは、負けたらラブライブ!に出られないってことだろう?でもそれって・・・・・・」
「なにを弱気になっているデスかメイメイ!」
メイ先輩の言葉を遮って可可先輩がどこからか広げてきた「必勝」の横断幕を掲げます。
「マルガレーテに優勝をさらわれたのもカコのこと。Liella!は去年の東京大会ではマルガレーテに勝って、ラブライブ!でも優勝しマシた!堂々と正面から受けて立ちましょう!」
「ちょっと落ち着きなさい可可。メイが言いたいのはそういう事じゃないわよ」
すみれ先輩が取りなしてメイ先輩に話を続けさせました。
「勝てば私たちはラブライブ!に出られる。でもそうしたらマルガレーテは出られない。私たちがマルガレーテの可能性の芽を摘んじゃう事になる」
「そうでした」
その状況を想像すると可可先輩も思うところがあるのか複雑そうな表情になります。
自分が言い出したことなのでプライドの高いマルガレーテが宣言を反古にするとは私も思いません。彼女の夢はラブライブ!優勝、ではありません。その先、自分の歌を多くの人に聴いてもらい評価されることなはずです。
結果としてではありますが、それを奪ってしまうというのは心苦しいものがありました。
「どうにかしてマルガレーテちゃんに考えを変えてもらうか、なにか別のいい方法を思いつかなくちゃいけない」
「どうにも難しい問題ですね。ですがフェスまでそう時間があるわけでもありませんし、早いうちに解決する必要があります」
「私たちの努力どうこうで解決する問題でないのがややこしいんですの」
ひとまずフェスにエントリーだけはしておこうということになり、皆さんが準備体操をしている間に済ませてしまおうとパソコンを起動しました。
(メールが来ていますね)
噂をすれば、といった感じで代々木スクールアイドルフェスティバルの運営からでした。わざわざメールを送ってくるとは一体何の要件かと思いながら開くと。
「・・・・・・えっ」
思わず声に出てしまうような内容がそこにありました。
34: (アウアウ a8d1-76dd) 2023/11/16(木) 04:00:14 ID:PwE3W4e6Sa
結論から申し上げますと、Liella!は代々木スクールアイドルフェスに出場しないことになりました。
運営から送られてきたメールの内容を要約すると本年のフェスへの参加をできれば辞退して欲しいとのこと。理由は東京都の新規スクールアイドルも多数参加するフェスで、ラブライブ!で優勝したLiella!が出場するのはバランスが悪いため、とのこと。
「そういえば去年サニパさんも出てなかったもんね」
そうかのん先輩たちは納得していらっしゃいました。結果としてマルガレーテの挑戦状を回避することはできましたが、問題の根本的な解決にはなっていません。
Liella!の二年連続優勝、マルガレーテの夢の成就。この二つを両立させるような画期的なプランを模索する毎日が続いたある日、その事件は起きました。
雨が降りそうな気配はありましたが、いつも通り朝練に出た姉者に付き合った後に登校。教室に入ろうとすると人だかりができていて何かきな臭い空気を感じました。
入学式のときとそっくりな状況、ある程度予想をしながら中の様子を窺うと、不機嫌そうに腕を組んでいるマルガレーテと数名のクラスメイトが対峙していてまさに一触即発といった雰囲気です。
「だから私は何も知らないって言っているでしょう。変な言いがかりを付けるのはやめて頂戴」
「そんなわけない、絶対ウィーンさんが何か余計なことをしたんでしょ!」
「何を証拠に。私にそんな権限があるわけが無いでしょう」
「じゃあ去年はどうやってフェストかラブライブ!に出てたの?」
「それは・・・・・・親の伝手というか」
「ほら怪しい。やっぱり負けたからってフェスにLiella!が出ないように何かしたんだ」
「そんなことはしていない!」
なんとなく話が見えてきました。
ちょうど昨日は代々木スクールアイドルフェスの出場グループが公表された日です。それを見たLiella!のファンであるクラスメイトの一部が暴走、マルガレーテが出場するのにLiella!が出場しないのはおかしいと考えているのでしょう。
事情を知らなければそのような憶測をしてしまうのも分からないではありませんが、間違いはきちんと正さなければなりませんし、なによりマルガレーテの名誉が理不尽に損なわれているのは見ていられません。
そう思って教室に入ろうとした瞬間、聞き捨てならない言葉が飛び出してきました。
運営から送られてきたメールの内容を要約すると本年のフェスへの参加をできれば辞退して欲しいとのこと。理由は東京都の新規スクールアイドルも多数参加するフェスで、ラブライブ!で優勝したLiella!が出場するのはバランスが悪いため、とのこと。
「そういえば去年サニパさんも出てなかったもんね」
そうかのん先輩たちは納得していらっしゃいました。結果としてマルガレーテの挑戦状を回避することはできましたが、問題の根本的な解決にはなっていません。
Liella!の二年連続優勝、マルガレーテの夢の成就。この二つを両立させるような画期的なプランを模索する毎日が続いたある日、その事件は起きました。
雨が降りそうな気配はありましたが、いつも通り朝練に出た姉者に付き合った後に登校。教室に入ろうとすると人だかりができていて何かきな臭い空気を感じました。
入学式のときとそっくりな状況、ある程度予想をしながら中の様子を窺うと、不機嫌そうに腕を組んでいるマルガレーテと数名のクラスメイトが対峙していてまさに一触即発といった雰囲気です。
「だから私は何も知らないって言っているでしょう。変な言いがかりを付けるのはやめて頂戴」
「そんなわけない、絶対ウィーンさんが何か余計なことをしたんでしょ!」
「何を証拠に。私にそんな権限があるわけが無いでしょう」
「じゃあ去年はどうやってフェストかラブライブ!に出てたの?」
「それは・・・・・・親の伝手というか」
「ほら怪しい。やっぱり負けたからってフェスにLiella!が出ないように何かしたんだ」
「そんなことはしていない!」
なんとなく話が見えてきました。
ちょうど昨日は代々木スクールアイドルフェスの出場グループが公表された日です。それを見たLiella!のファンであるクラスメイトの一部が暴走、マルガレーテが出場するのにLiella!が出場しないのはおかしいと考えているのでしょう。
事情を知らなければそのような憶測をしてしまうのも分からないではありませんが、間違いはきちんと正さなければなりませんし、なによりマルガレーテの名誉が理不尽に損なわれているのは見ていられません。
そう思って教室に入ろうとした瞬間、聞き捨てならない言葉が飛び出してきました。
35: (アウアウ a8d1-76dd) 2023/11/16(木) 04:04:22 ID:PwE3W4e6Sa
「ていうか、嫌われ者の自覚とか無いわけ?そんな無理矢理出たって、もう誰もあんたなんか応援しないし、認めないから」
確かに、マルガレーテは酷いことを言いました。
ラブライブ!という大会とそれを目指して努力しているスクールアイドル、そしてそれを応援する人たちをも見下すような発言はそうそう許されるものではないでしょう。
ですがだからといって、マルガレーテを攻撃し貶めていい理由にはなりません。それは合理的とはほど遠いただ感情をぶつけているだけの行為です。
「待って下さい、Liella!は――」
間に割って入ろうと教室に踏み入った瞬間、信じがたいものが目に映りました。
マルガレーテがぼろぼろと瞳から涙をこぼしていたのです。
「ちょっと、泣いたって、その・・・・・・」
怒りをぶつけていたクラスメイトもまさか泣き出すとは思っていなかったのか言葉が出てこない様子。
孤高と強かさを貫いていたスクールアイドルの姿がこうもあっけなく砕けることなど誰一人想像していなかったのでした。
「――っく」
潤んだ瞳を振りほどくようにマルガレーテは教室の外へ駆けだして行ってしまい、それと同時に予鈴が淡々と鳴り響きます。
「え、どうするのこれ」
「どうするって・・・・・・どうしようもないけど」
「いや、一番文句言ってたのあんたじゃん」
「は?私のせい?全員思ってた事じゃん!」
「別に私はそこまででもないというか」
「なにそれ、何急にいい子ぶってるわけ?」
「もう先生来ちゃうってば」
浅ましいほどの結束の弱さを見せる彼女たちに構っている場合ではありません、今の私がしなければならないことは明白でしたから。
「すみません」
声をかけるとクラスメイトたちがビクッと肩を震わせます。
「本日、鬼塚冬毬とウィーン・マルガレーテは所用で欠席すると先生にお伝えいただきますようお願いいたします。では」
返事を待つことなく教室を飛び出しましたが、廊下の左右を見ても既にマルガレーテの姿はありません。まだそう遠くまでは行っていないはずですが時間が経てば経つほどどんどん離れていってしまいます。
階段を駆け下りようとしたときちょうど登ってきた生徒に声をかけられました。
「あれ、どうしたの冬毬ちゃん」
声の主はかのん先輩でした。
確かに、マルガレーテは酷いことを言いました。
ラブライブ!という大会とそれを目指して努力しているスクールアイドル、そしてそれを応援する人たちをも見下すような発言はそうそう許されるものではないでしょう。
ですがだからといって、マルガレーテを攻撃し貶めていい理由にはなりません。それは合理的とはほど遠いただ感情をぶつけているだけの行為です。
「待って下さい、Liella!は――」
間に割って入ろうと教室に踏み入った瞬間、信じがたいものが目に映りました。
マルガレーテがぼろぼろと瞳から涙をこぼしていたのです。
「ちょっと、泣いたって、その・・・・・・」
怒りをぶつけていたクラスメイトもまさか泣き出すとは思っていなかったのか言葉が出てこない様子。
孤高と強かさを貫いていたスクールアイドルの姿がこうもあっけなく砕けることなど誰一人想像していなかったのでした。
「――っく」
潤んだ瞳を振りほどくようにマルガレーテは教室の外へ駆けだして行ってしまい、それと同時に予鈴が淡々と鳴り響きます。
「え、どうするのこれ」
「どうするって・・・・・・どうしようもないけど」
「いや、一番文句言ってたのあんたじゃん」
「は?私のせい?全員思ってた事じゃん!」
「別に私はそこまででもないというか」
「なにそれ、何急にいい子ぶってるわけ?」
「もう先生来ちゃうってば」
浅ましいほどの結束の弱さを見せる彼女たちに構っている場合ではありません、今の私がしなければならないことは明白でしたから。
「すみません」
声をかけるとクラスメイトたちがビクッと肩を震わせます。
「本日、鬼塚冬毬とウィーン・マルガレーテは所用で欠席すると先生にお伝えいただきますようお願いいたします。では」
返事を待つことなく教室を飛び出しましたが、廊下の左右を見ても既にマルガレーテの姿はありません。まだそう遠くまでは行っていないはずですが時間が経てば経つほどどんどん離れていってしまいます。
階段を駆け下りようとしたときちょうど登ってきた生徒に声をかけられました。
「あれ、どうしたの冬毬ちゃん」
声の主はかのん先輩でした。
37: (アウアウ be9b-76dd) 2023/11/18(土) 15:59:48 ID:AR4lqjXoSa
「もうすぐホームルームでしょ、どこ行くの?」
事情を知らないのでのんびりした様子なかのん先輩になんと説明したものか、そもそもそれを考える時間も惜しい状況です。
「インシデント発生中です。マルガレーテが精神的に危険な状態にあるので私は捜索に行きます」
私の端的な説明にかのん先輩の表情がさっと真剣なものに変わりました。
「マルガレーテちゃんが。まって、私も行くよ。どうしたらいい?」
「・・・・・・でしたら学校側へ連絡を。校外へ行ってしまっている可能性もあるので」
「分かった。理事長に連絡して、恋ちゃんにも相談してみるね。その後私もマルガレーテちゃんを探すよ!」
「ご協力、感謝いたします」
すぐにかのん先輩と別れてマルガレーテ捜索を再開します。手っ取り早く一人に慣れる場所としてトイレや更衣室、シャワールームを探してみますがいる様子はありません。
一階から順に空き教室を探している間に、窓の外でポツポツと雨が降り始め、いつもLiella!が練習をしている屋上にまでたどり着いた時にはすっかり本降りになっていました。
(そんなわけは無いと思いますが)
念のため屋上と部室も覗いてみますが当然マルガレーテの姿はありません。一体どこへと思いつつ部室の椅子に座って少しだけ休憩していると、かのん先輩からメッセージが届いていました。
事情を知らないのでのんびりした様子なかのん先輩になんと説明したものか、そもそもそれを考える時間も惜しい状況です。
「インシデント発生中です。マルガレーテが精神的に危険な状態にあるので私は捜索に行きます」
私の端的な説明にかのん先輩の表情がさっと真剣なものに変わりました。
「マルガレーテちゃんが。まって、私も行くよ。どうしたらいい?」
「・・・・・・でしたら学校側へ連絡を。校外へ行ってしまっている可能性もあるので」
「分かった。理事長に連絡して、恋ちゃんにも相談してみるね。その後私もマルガレーテちゃんを探すよ!」
「ご協力、感謝いたします」
すぐにかのん先輩と別れてマルガレーテ捜索を再開します。手っ取り早く一人に慣れる場所としてトイレや更衣室、シャワールームを探してみますがいる様子はありません。
一階から順に空き教室を探している間に、窓の外でポツポツと雨が降り始め、いつもLiella!が練習をしている屋上にまでたどり着いた時にはすっかり本降りになっていました。
(そんなわけは無いと思いますが)
念のため屋上と部室も覗いてみますが当然マルガレーテの姿はありません。一体どこへと思いつつ部室の椅子に座って少しだけ休憩していると、かのん先輩からメッセージが届いていました。
38: (アウアウ be9b-76dd) 2023/11/18(土) 16:02:32 ID:AR4lqjXoSa
『理事長が警備員さんに聞いてみたけど、外に行った様子はないって』
『恋ちゃんが一応、校舎周辺だけ見て回ってみるって言ってたよ』
『冬毬ちゃんも落ち着いてね』
『ありがとうございます』
雨も強くなっているのにそこまでしていただけるとは、先輩たちには頭が上がりません。立ち上がってもう少し丹念に探してみます。
防音室、楽器倉庫、ダンスルーム、保健室と色々と見ても見つかりません。都心の割にかなり広い校舎を持つ結ヶ丘で探し回るのは中々骨の折れることでした。
と、空が光るのが視界の端に映り、遅れて響いた雷の音に思わず窓の方を振り向いてしまいます。
(・・・・・・そういえば)
雨音の絶えない窓の外、そこはちょうどこの前マルガレーテと話をした中庭です。まだ見に行っていませんでした。いえ、ちらりとは目を走らせてはいたのですが、人がいる様子もなくこの雨でしたのでスルーしてしまっていたのです。
(きっとそこに居ます)
確信に近い推測が私の足を走らせました。今すぐ側に行かなければマルガレーテがどこか遠い手の届かないところへ言ってしまいそうな気がして。
せっかく、せっかく。
ずっと持ちっぱなしだった鞄から折りたたみ傘を取り出して中庭に出ます強い風が雨水を傘の中に吹き込ませ肩を濡らし、湿った下草がローファーをぐしょぐしょにしていきますが、そんなことはどうでもいいです。
だってそこにマルガレーテが居るのですから。
『恋ちゃんが一応、校舎周辺だけ見て回ってみるって言ってたよ』
『冬毬ちゃんも落ち着いてね』
『ありがとうございます』
雨も強くなっているのにそこまでしていただけるとは、先輩たちには頭が上がりません。立ち上がってもう少し丹念に探してみます。
防音室、楽器倉庫、ダンスルーム、保健室と色々と見ても見つかりません。都心の割にかなり広い校舎を持つ結ヶ丘で探し回るのは中々骨の折れることでした。
と、空が光るのが視界の端に映り、遅れて響いた雷の音に思わず窓の方を振り向いてしまいます。
(・・・・・・そういえば)
雨音の絶えない窓の外、そこはちょうどこの前マルガレーテと話をした中庭です。まだ見に行っていませんでした。いえ、ちらりとは目を走らせてはいたのですが、人がいる様子もなくこの雨でしたのでスルーしてしまっていたのです。
(きっとそこに居ます)
確信に近い推測が私の足を走らせました。今すぐ側に行かなければマルガレーテがどこか遠い手の届かないところへ言ってしまいそうな気がして。
せっかく、せっかく。
ずっと持ちっぱなしだった鞄から折りたたみ傘を取り出して中庭に出ます強い風が雨水を傘の中に吹き込ませ肩を濡らし、湿った下草がローファーをぐしょぐしょにしていきますが、そんなことはどうでもいいです。
だってそこにマルガレーテが居るのですから。
39: (アウアウ be9b-76dd) 2023/11/18(土) 16:04:34 ID:AR4lqjXoSa
誰も居ない中庭、池を大回りしたその先の草むらを踏み越えて、雨を遮るもの一つ無いベンチの裏側に、マルガレーテがうずくまっていました。
『マルガレーテの所在を確認しました』
それだけかのん先輩にメッセージを送ってから、そっと彼女に歩み寄ります。
「風邪を引きますよ」
傘をかざして声をかけますが返事はありません。
「こじらせて練習ができなくなれば、パフォーマンスへの影響も出ます。フェスに出るのでしょう?早く屋内に戻りましょう」
ばっと振り返ってこちらを睨みつける潤んだ視線からは、まさに手負いの獣といった印象を受けました。
「何しに来たの」
「何・・・・・・と聞かれると困りますが」
こういう時、なんと言えばいいのでしょう。
「それにもう別に練習なんてしなくていいでしょう。誰も私に期待なんてしていないんだから」
またうつむいてしまったマルガレーテぎゅと自分の膝を抱え込みます。
「誰も、私なんか」
私はマルガレーテについてほとんど何も知りません。
歌唱力がずば抜けていて歌について絶対的なプライドを持っていること。海外出身で人の目を引くの整った容姿に、歌唱力に負けず劣らず優雅な身のこなしが乗ったダンスがとても美しいこと。
これだけ。
プライベートについては先輩に聞きかじったり、SNSの投稿を少し見たくらいで、何も知らないのとほぼ同義です。
そんな私の言葉が彼女に届くとは思えませんが、でもこれだけは今、伝えておきたいと思いました。それが私のエゴでしかなくても。
『マルガレーテの所在を確認しました』
それだけかのん先輩にメッセージを送ってから、そっと彼女に歩み寄ります。
「風邪を引きますよ」
傘をかざして声をかけますが返事はありません。
「こじらせて練習ができなくなれば、パフォーマンスへの影響も出ます。フェスに出るのでしょう?早く屋内に戻りましょう」
ばっと振り返ってこちらを睨みつける潤んだ視線からは、まさに手負いの獣といった印象を受けました。
「何しに来たの」
「何・・・・・・と聞かれると困りますが」
こういう時、なんと言えばいいのでしょう。
「それにもう別に練習なんてしなくていいでしょう。誰も私に期待なんてしていないんだから」
またうつむいてしまったマルガレーテぎゅと自分の膝を抱え込みます。
「誰も、私なんか」
私はマルガレーテについてほとんど何も知りません。
歌唱力がずば抜けていて歌について絶対的なプライドを持っていること。海外出身で人の目を引くの整った容姿に、歌唱力に負けず劣らず優雅な身のこなしが乗ったダンスがとても美しいこと。
これだけ。
プライベートについては先輩に聞きかじったり、SNSの投稿を少し見たくらいで、何も知らないのとほぼ同義です。
そんな私の言葉が彼女に届くとは思えませんが、でもこれだけは今、伝えておきたいと思いました。それが私のエゴでしかなくても。
40: (アウアウ be9b-76dd) 2023/11/18(土) 16:06:20 ID:AR4lqjXoSa
「マルガレーテ」
私も彼女の正面に向かい合うようにしてしゃがみこみました。
「私はこの春休み、Liella!のマネージャーを務める事になってからはさらに意識的に姉者たちスクールアイドルの活動を調査しました」
初めて見るその世界はとても色鮮やかに見えて、何かに情熱的に向かい合うということをしてこなかった私にとっては眩しすぎて目をそらしそうになるほど。
でも。
「その際に去年のマルガレーテのパフォーマンスもチェックさせていただきました」
何の気なしに見た艶やかな蝶の舞いから、気づけば私はどうしても目を離すことができなくなっていたのです。
「まだ私は音楽やスクールアイドルについて、ナレッジの蓄積が十分な状態にあるとは言えません。ですがこれだけははっきりと言えます。貴女の歌はとても強く美しいものでした。少なくとも実力だけなら、姉者たちに引けを取ることはなかったでしょう」
だからこんなところで手折られないで下さい。
煌めくマルガレーテの姿をもっと見ていたい人だって居るのですから。
「私はマルガレーテの歌を聴いてスクールアイドルが本気で好きになりました。心から応援したいと思えるようになりました。誰も貴女に期待していないなんて嘘です。私がマルガレーテの歌を直接聴ける時をずっと待っています」
最後に思い切って想いを言葉にします。
「ウィーン・マルガレーテが、私は大好きです」
私も彼女の正面に向かい合うようにしてしゃがみこみました。
「私はこの春休み、Liella!のマネージャーを務める事になってからはさらに意識的に姉者たちスクールアイドルの活動を調査しました」
初めて見るその世界はとても色鮮やかに見えて、何かに情熱的に向かい合うということをしてこなかった私にとっては眩しすぎて目をそらしそうになるほど。
でも。
「その際に去年のマルガレーテのパフォーマンスもチェックさせていただきました」
何の気なしに見た艶やかな蝶の舞いから、気づけば私はどうしても目を離すことができなくなっていたのです。
「まだ私は音楽やスクールアイドルについて、ナレッジの蓄積が十分な状態にあるとは言えません。ですがこれだけははっきりと言えます。貴女の歌はとても強く美しいものでした。少なくとも実力だけなら、姉者たちに引けを取ることはなかったでしょう」
だからこんなところで手折られないで下さい。
煌めくマルガレーテの姿をもっと見ていたい人だって居るのですから。
「私はマルガレーテの歌を聴いてスクールアイドルが本気で好きになりました。心から応援したいと思えるようになりました。誰も貴女に期待していないなんて嘘です。私がマルガレーテの歌を直接聴ける時をずっと待っています」
最後に思い切って想いを言葉にします。
「ウィーン・マルガレーテが、私は大好きです」
41: (アウアウ 9cb4-76dd) 2023/11/18(土) 17:40:01 ID:LEQ3H/okSa
しとどに降り続く雨で私もマルガレーテも傘の甲斐なくずぶ濡れですが、不思議と寒くありませんでした。
「・・・・・・場所」
うつむいたままのマルガレーテがぽつりと言いました。
「え?」
「場所が違うわよ、告白するなら」
何を言っているのか理解するのに数秒、私の顔が寒いどころか熱いくらいに燃え上がります。
「い、今のはスクールアイドルとしてのという意味であって、そのような趣旨の発言ではないと申しますか」
ぷっと楽しそうに吹き出してマルガレーテは顔を上げました。
「冗談に決まってるでしょう」
その目は泣きはらして赤くなっていましたが、口元はおかしそうに笑っています。
「でもありがとう冬毬。・・・・・・こういう意味だったのね」
「意味、ですか?」
まだ赤いだろう頬から早く熱が引くことを願いながら尋ねます。
「ええ。去年東京大会でLiella!に負けたとき、澁谷かのんに言われたの」
『この結果は、聴いてくれたみんなの出してくれた答えだよ。スクールアイドルは一人じゃない、みんなと一緒だから素敵なライブが生まれるんだと思うの。それが伝わらないなら、マルガレーテちゃんにはスクールアイドルのステージに立って欲しくない』
「あの時は何を言っているのか全く分からなかった。歌は澁谷かのん以外私の敵じゃない、ステージ全体で見たって負けたつもりはなかったから」
ぐっと涙を拭って微笑んだその顔は今まで見てきたどんなマルガレーテとも違った魅力がありました。
「でも、誰かにこんな風に応援してもらえるのってこんなに嬉しいことなのね。きっとこれがスクールアイドルとして歌うってこと、ずっと知らなかったわ」
涙と雨粒が溶け合って輝く姿はまるで本物の宝石のようでした。
「・・・・・・場所」
うつむいたままのマルガレーテがぽつりと言いました。
「え?」
「場所が違うわよ、告白するなら」
何を言っているのか理解するのに数秒、私の顔が寒いどころか熱いくらいに燃え上がります。
「い、今のはスクールアイドルとしてのという意味であって、そのような趣旨の発言ではないと申しますか」
ぷっと楽しそうに吹き出してマルガレーテは顔を上げました。
「冗談に決まってるでしょう」
その目は泣きはらして赤くなっていましたが、口元はおかしそうに笑っています。
「でもありがとう冬毬。・・・・・・こういう意味だったのね」
「意味、ですか?」
まだ赤いだろう頬から早く熱が引くことを願いながら尋ねます。
「ええ。去年東京大会でLiella!に負けたとき、澁谷かのんに言われたの」
『この結果は、聴いてくれたみんなの出してくれた答えだよ。スクールアイドルは一人じゃない、みんなと一緒だから素敵なライブが生まれるんだと思うの。それが伝わらないなら、マルガレーテちゃんにはスクールアイドルのステージに立って欲しくない』
「あの時は何を言っているのか全く分からなかった。歌は澁谷かのん以外私の敵じゃない、ステージ全体で見たって負けたつもりはなかったから」
ぐっと涙を拭って微笑んだその顔は今まで見てきたどんなマルガレーテとも違った魅力がありました。
「でも、誰かにこんな風に応援してもらえるのってこんなに嬉しいことなのね。きっとこれがスクールアイドルとして歌うってこと、ずっと知らなかったわ」
涙と雨粒が溶け合って輝く姿はまるで本物の宝石のようでした。
43: (アウアウ e177-76dd) 2023/11/21(火) 19:10:48 ID:EfBa4cAgSa
「あ、こんなところにいましたの!」
唐突にガサガサと草をかき分けてやって来た人影の大きな声。
私とマルガレーテがびっくりして振り向くとそこには雨合羽を着て息を切らす姉者がいました。その後ろには同じく合羽を着て傘もさしたかのん先輩と恋先輩。
「姉者、こんなところで何を」
「それはこっちのセリフなんですの!ああもうこんなにびしょびしょになって。どんなに心配したことか」
「まあまあ夏美さん、取りあえず見つかって良かったじゃないですか。冬毬さん、マルガレーテさん。話は色々とあると思いますが、一度学校に戻りましょう?」
恋先輩の渡してくれたタオルで髪を拭きつつ校舎に戻っていきます。ちょっとむくれたような恥ずかしがっているような顔をしていたマルガレーテはさっと恋先輩の傘に入って先に行ってしまいました。
「まったく、冬毬はいつもは大人しいのに急にとんでもないことをするんですの」
「コンプライアンス的にグレーなことばかりする姉者に言われたくはありません」
「最近はそこまでのことはしていないんですの!」
などと姉者と言い合いをしていると、後ろからふふっと笑い声がします。
「なんですのかのん先輩」
ジト目で姉者が聞きました。
「仲いいなぁって。やっぱ姉妹っていいよね」
「それはまあ・・・・・・そうですけど」
ちらっとこっちを見てきた姉者と目が合います。にへっと笑う姉者が可愛くて、こちらも相好を崩してしまいます。
「あと冬毬ちゃん、ありがとうね」
急なお礼に何を言っているのか分からず首をかしげます。
「なんのことですか」
「マルガレーテちゃんのことだよ。私じゃきっとマルガレーテちゃんのことを見つけられなかったし、もし見つけても何もできなかった。冬毬ちゃんがいてくれて本当に助かったよ。だから、ありがとう」
改まったお礼を言われるというのはどうにも照れくさいものがあります。またも赤くなった頬を傘で隠しつつ小さく会釈しました。
「私は私のしたいことをしただけですから」
「ふふ。じゃあ早く戻ろっか」
少し弱くなってきた雨の中、私たちは結ヶ丘へ帰っていくのでした。
唐突にガサガサと草をかき分けてやって来た人影の大きな声。
私とマルガレーテがびっくりして振り向くとそこには雨合羽を着て息を切らす姉者がいました。その後ろには同じく合羽を着て傘もさしたかのん先輩と恋先輩。
「姉者、こんなところで何を」
「それはこっちのセリフなんですの!ああもうこんなにびしょびしょになって。どんなに心配したことか」
「まあまあ夏美さん、取りあえず見つかって良かったじゃないですか。冬毬さん、マルガレーテさん。話は色々とあると思いますが、一度学校に戻りましょう?」
恋先輩の渡してくれたタオルで髪を拭きつつ校舎に戻っていきます。ちょっとむくれたような恥ずかしがっているような顔をしていたマルガレーテはさっと恋先輩の傘に入って先に行ってしまいました。
「まったく、冬毬はいつもは大人しいのに急にとんでもないことをするんですの」
「コンプライアンス的にグレーなことばかりする姉者に言われたくはありません」
「最近はそこまでのことはしていないんですの!」
などと姉者と言い合いをしていると、後ろからふふっと笑い声がします。
「なんですのかのん先輩」
ジト目で姉者が聞きました。
「仲いいなぁって。やっぱ姉妹っていいよね」
「それはまあ・・・・・・そうですけど」
ちらっとこっちを見てきた姉者と目が合います。にへっと笑う姉者が可愛くて、こちらも相好を崩してしまいます。
「あと冬毬ちゃん、ありがとうね」
急なお礼に何を言っているのか分からず首をかしげます。
「なんのことですか」
「マルガレーテちゃんのことだよ。私じゃきっとマルガレーテちゃんのことを見つけられなかったし、もし見つけても何もできなかった。冬毬ちゃんがいてくれて本当に助かったよ。だから、ありがとう」
改まったお礼を言われるというのはどうにも照れくさいものがあります。またも赤くなった頬を傘で隠しつつ小さく会釈しました。
「私は私のしたいことをしただけですから」
「ふふ。じゃあ早く戻ろっか」
少し弱くなってきた雨の中、私たちは結ヶ丘へ帰っていくのでした。
46: (アウアウ a1e7-6a18) 2023/11/25(土) 16:07:39 ID:StD0XFmsSa
その後、シャワーを浴びて制服が乾くまでの間ジャージを着ることにした私とマルガレーテはスクールアイドル部の部室で待機することにしました。
既に休みということになっているので教室に戻るのも気まずいですし、まだクラスメイトたちとどんな顔をして会えばいいのか分からなかったので、正直ちょうどいいです。
ですがそれはそれとして、中庭で高ぶった気持ちのままに吐き出してしまった言葉の恥ずかしさがぶり返してきてマルガレーテとも目を合わせるどころか彼女の方を向くこともできずに妙な角度で椅子に座って読みもしない参考書を広げていました。
「私ね、お姉様みたいになりたかったの」
と、マルガレーテが話しかけてきました。弱くはなりましたが霧のような小雨が降り続く窓の外を見ている彼女の横顔は寂しそうに見えました。
「お姉様は小さい頃から天才と言われていて、両親や先生たちの期待を裏切らないような成果を出し続けて歌手として成功していった。そんなお姉様に憧れて私は歌を歌い続けてきた。だけど」
窓辺に置かれた手がぐっと握り混まれます。
「どれだけ頑張ってもお姉様には追いつけなかった、背中も見えなかった。私の歌が高く評価される事はなかったし、いつもお姉様と比較されて未熟と言われてばかり。挙げ句の果てには澁谷かのんから歌を学べなんて言われて・・・・・・悔しかった。勝って、周りの人間に見返させてやりたかった」
それが去年の私、そう言ってマルガレーテは自嘲気味に笑いました。
「本当の歌なんて、私も知らないの」
ステージの上とは全く違うマルガレーテの姿に親近感を覚え、気づけば参考書を閉じていました。
「私とマルガレーテでは見ているビジョンが異なるとは思います。ですが姉のことが遠く見るという点は理解できます」
「・・・・・・鬼塚夏美のこと?」
「ええ。私は昔から姉者より大人しく、背も高くて学業の成績も良かったので、周囲から褒められることが多かったです。でも・・・・・・」
『オニナッツ~!!あなたの心のオニサプリ。オニナッツこと、鬼塚夏美ですの!』
また利益にならない妙なことを始めたと、そう思っていたのに。
『遂に一等賞を取ったんですの!』
気づけば手が届かないほど遠くへ走って行ってしまう。
「なんでも挑戦する心の強さは私にはないものです。リスクばかり気にして模範解答ばかり求めてしまう私は、確かに大きな間違いは起こさないかもしれませんが成功は掴めないままです」
私はクラゲが好きです。海や水族館で見かける彼らは水の中でふわふわ漂い、波や水流でゆらり揺れているだけ。大きな野望を持たず、ただ提示されたタスクをこなしているだけの私となんだか似ている気がします。
「ですがマルガレーテはただ憧れるだけでなく、きちんと夢を持ち日本へ来て努力を重ねてきました。それはとても立派なことだと思います。・・・・・・だからこそ、本当はきっと分かっているはずです。Liella!の皆さんが、スクールアイドルがどれだけ練習をを積み重ねてきてステージに立っているのか。そしてそれを見て応援したいと思ったファンの方々の気持ちも」
マルガレーテのことをじっと見つめます。彼女の瞳の奥、滾るような情熱と燃える心がまだそこにあることを感じて。
「マルガレーテ」
「・・・・・・なによ」
「二点、提案がございます」
いつしか雨は止んでいました。
既に休みということになっているので教室に戻るのも気まずいですし、まだクラスメイトたちとどんな顔をして会えばいいのか分からなかったので、正直ちょうどいいです。
ですがそれはそれとして、中庭で高ぶった気持ちのままに吐き出してしまった言葉の恥ずかしさがぶり返してきてマルガレーテとも目を合わせるどころか彼女の方を向くこともできずに妙な角度で椅子に座って読みもしない参考書を広げていました。
「私ね、お姉様みたいになりたかったの」
と、マルガレーテが話しかけてきました。弱くはなりましたが霧のような小雨が降り続く窓の外を見ている彼女の横顔は寂しそうに見えました。
「お姉様は小さい頃から天才と言われていて、両親や先生たちの期待を裏切らないような成果を出し続けて歌手として成功していった。そんなお姉様に憧れて私は歌を歌い続けてきた。だけど」
窓辺に置かれた手がぐっと握り混まれます。
「どれだけ頑張ってもお姉様には追いつけなかった、背中も見えなかった。私の歌が高く評価される事はなかったし、いつもお姉様と比較されて未熟と言われてばかり。挙げ句の果てには澁谷かのんから歌を学べなんて言われて・・・・・・悔しかった。勝って、周りの人間に見返させてやりたかった」
それが去年の私、そう言ってマルガレーテは自嘲気味に笑いました。
「本当の歌なんて、私も知らないの」
ステージの上とは全く違うマルガレーテの姿に親近感を覚え、気づけば参考書を閉じていました。
「私とマルガレーテでは見ているビジョンが異なるとは思います。ですが姉のことが遠く見るという点は理解できます」
「・・・・・・鬼塚夏美のこと?」
「ええ。私は昔から姉者より大人しく、背も高くて学業の成績も良かったので、周囲から褒められることが多かったです。でも・・・・・・」
『オニナッツ~!!あなたの心のオニサプリ。オニナッツこと、鬼塚夏美ですの!』
また利益にならない妙なことを始めたと、そう思っていたのに。
『遂に一等賞を取ったんですの!』
気づけば手が届かないほど遠くへ走って行ってしまう。
「なんでも挑戦する心の強さは私にはないものです。リスクばかり気にして模範解答ばかり求めてしまう私は、確かに大きな間違いは起こさないかもしれませんが成功は掴めないままです」
私はクラゲが好きです。海や水族館で見かける彼らは水の中でふわふわ漂い、波や水流でゆらり揺れているだけ。大きな野望を持たず、ただ提示されたタスクをこなしているだけの私となんだか似ている気がします。
「ですがマルガレーテはただ憧れるだけでなく、きちんと夢を持ち日本へ来て努力を重ねてきました。それはとても立派なことだと思います。・・・・・・だからこそ、本当はきっと分かっているはずです。Liella!の皆さんが、スクールアイドルがどれだけ練習をを積み重ねてきてステージに立っているのか。そしてそれを見て応援したいと思ったファンの方々の気持ちも」
マルガレーテのことをじっと見つめます。彼女の瞳の奥、滾るような情熱と燃える心がまだそこにあることを感じて。
「マルガレーテ」
「・・・・・・なによ」
「二点、提案がございます」
いつしか雨は止んでいました。
48: (アウアウ 367b-e5e5) 2023/11/29(水) 15:50:47 ID:1.lhJzUQSa
次の日。私は姉者に断りを入れてからいつもより早く登校しました。早く、と言っても普段がギリギリまで姉者やきな子先輩の練習に付き合ってからの登校なので、ややホームルームまでに余裕がある、といったくらいの早さですが。
私が教室に入ると気がついたクラスメイトたちが気まずそうな顔をします。特に昨日マルガレーテと言い争いをしていた人たちは教室の隅で何か談笑をしていたのですが、一斉に話をやめてこちらを睨むようなそれでいて目を逸らしているような奇妙な態度を取っています。
この状況、私個人としてはある意味どうでもいい事ではありましたが、これから起こることを想像すると果たして上手くいくだろうかと心配になってきます。
自分の席で本を読みながら待つこと数分、会話が徐々に復活してきたあたりの事でした。ガラッとドアを開け放って堂々とした態度でマルガレーテが登校してきました。
私が教室に入ったとき以上の緊張が走り、ひそひそ声すら聞こえない沈黙の幕が下りる中、何を気にする風でもないマルガレーテは少し教室内を見渡すと、そのままツカツカと隅の方へ向かいます。
(・・・・・・)
一瞬マルガレーテと目が合います。私の隣を通った時、小さな声で「大丈夫」と呟いたのが聞こえました。言われるまでもありません、私はマルガレーテのことを信じていますから。
昨日言い合いをしていたクラスメイトの前まで歩いていったマルガレーテ、相手の方が居心地悪そうに「何?」と尋ねた瞬間でした。
「ごめんなさい」
ばっと勢いよく頭を下げたマルガレーテにクラスメイトたちはきょとんとした顔をします。
「・・・・・・は?」
何か文句を言われるものだと思っていた思っていた様子の彼女たちはぽかんと口を開けたまま、まるで一時停止ボタンを押されたかのようです。そちらへ目を向けるでもなく頭を下げ続けているマルガレーテは言葉を続けます。
「去年、ラブライブ!やスクールアイドルを侮辱するような発言をしたこと、きちんと謝る。ごめんなさい。・・・・・・私なりに春休みや結ヶ丘に入学してからの一ヶ月、色々と考えていたわ。ただ勝つためじゃない、スクールアイドルとして歌うというのがどういうことなのか。そして教えてもらったの」
そこでマルガレーテが私に振り向きました。まったく想定していなかったことにびっくりしていると他のクラスメイトたちも私を注視するので、またしても顔が燃えそうになります。
「スクールアイドルは一人じゃないって事。ステージで歌うだけじゃない、応援してくれる人、学校の皆がいてそれに応えていくこと。その先でなりたい自分を目指していく事がスクールアイドルなんだって」
(・・・・・・さすがマルガレーテ、高い解像度です)
昨日私が提言したことの一つ目。それはきちんとクラスメイトに謝罪すること。彼女たちと関係を回復しないことには、代々木スクールアイドルフェスであろうとラブライブ!であろうと、「結ヶ丘女子高等学校のスクールアイドル」として出場することはできません。
無理に出たとしてもそれは形だけの存在、それは本当の意味でのスクールアイドルとはほど遠い物です。
そう言ったのは確かに私なのですが、さすがはマルガレーテ。私のつたない説明をきちんと消化し、心から同意した上で己の言葉として紡いでいるのを感じました。
「今すぐに、なんて甘いことは言わない」
またクラスメイトの方へ向き直って彼女は言います。
「応援なんていらない、でもせめて見ていて欲しいの。私が代々木スクールアイドルフェスで歌うところを。結ヶ丘のスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテを。・・・・・・よろしくお願いするわ」
深々した一礼をして踵を返し、マルガレーテが自分の席に戻っていこうとすると。
「まって!」
マルガレーテを泣かせたクラスメイトが大きな声で呼び止めます。黙って振り向いたマルガレーテに、複雑な表情をしつつも彼女は言いました。
「私も悪かった。昨日は言いすぎたって後からすごい後悔した。だから、ごめん。・・・・・・でも去年ああいう風に思ったのは本当。こんなに歌が上手くてダンスも綺麗なのに、なんでこんな酷いことを言うんだろうって。こんな人にLiella!が負けるのは絶対に嫌だって思ってた」
他のLiella!のファンのクラスメイトたちも同意な様子で頷いています。
「だから、まだウィーンさんの事は応援できない。心から応援したいって思えない。だけどあの歌は待ってる。見に行くよ、絶対」
その時のマルガレーテの表情は見えませんでした。ですがきっと自信に満ちた良い顔をしていたことでしょう。
「任せなさい。最高の歌を聴かせてあげる」
その瞬間の顔を見ていたであろうクラスメイトが、私は羨ましくなりました。
私が教室に入ると気がついたクラスメイトたちが気まずそうな顔をします。特に昨日マルガレーテと言い争いをしていた人たちは教室の隅で何か談笑をしていたのですが、一斉に話をやめてこちらを睨むようなそれでいて目を逸らしているような奇妙な態度を取っています。
この状況、私個人としてはある意味どうでもいい事ではありましたが、これから起こることを想像すると果たして上手くいくだろうかと心配になってきます。
自分の席で本を読みながら待つこと数分、会話が徐々に復活してきたあたりの事でした。ガラッとドアを開け放って堂々とした態度でマルガレーテが登校してきました。
私が教室に入ったとき以上の緊張が走り、ひそひそ声すら聞こえない沈黙の幕が下りる中、何を気にする風でもないマルガレーテは少し教室内を見渡すと、そのままツカツカと隅の方へ向かいます。
(・・・・・・)
一瞬マルガレーテと目が合います。私の隣を通った時、小さな声で「大丈夫」と呟いたのが聞こえました。言われるまでもありません、私はマルガレーテのことを信じていますから。
昨日言い合いをしていたクラスメイトの前まで歩いていったマルガレーテ、相手の方が居心地悪そうに「何?」と尋ねた瞬間でした。
「ごめんなさい」
ばっと勢いよく頭を下げたマルガレーテにクラスメイトたちはきょとんとした顔をします。
「・・・・・・は?」
何か文句を言われるものだと思っていた思っていた様子の彼女たちはぽかんと口を開けたまま、まるで一時停止ボタンを押されたかのようです。そちらへ目を向けるでもなく頭を下げ続けているマルガレーテは言葉を続けます。
「去年、ラブライブ!やスクールアイドルを侮辱するような発言をしたこと、きちんと謝る。ごめんなさい。・・・・・・私なりに春休みや結ヶ丘に入学してからの一ヶ月、色々と考えていたわ。ただ勝つためじゃない、スクールアイドルとして歌うというのがどういうことなのか。そして教えてもらったの」
そこでマルガレーテが私に振り向きました。まったく想定していなかったことにびっくりしていると他のクラスメイトたちも私を注視するので、またしても顔が燃えそうになります。
「スクールアイドルは一人じゃないって事。ステージで歌うだけじゃない、応援してくれる人、学校の皆がいてそれに応えていくこと。その先でなりたい自分を目指していく事がスクールアイドルなんだって」
(・・・・・・さすがマルガレーテ、高い解像度です)
昨日私が提言したことの一つ目。それはきちんとクラスメイトに謝罪すること。彼女たちと関係を回復しないことには、代々木スクールアイドルフェスであろうとラブライブ!であろうと、「結ヶ丘女子高等学校のスクールアイドル」として出場することはできません。
無理に出たとしてもそれは形だけの存在、それは本当の意味でのスクールアイドルとはほど遠い物です。
そう言ったのは確かに私なのですが、さすがはマルガレーテ。私のつたない説明をきちんと消化し、心から同意した上で己の言葉として紡いでいるのを感じました。
「今すぐに、なんて甘いことは言わない」
またクラスメイトの方へ向き直って彼女は言います。
「応援なんていらない、でもせめて見ていて欲しいの。私が代々木スクールアイドルフェスで歌うところを。結ヶ丘のスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテを。・・・・・・よろしくお願いするわ」
深々した一礼をして踵を返し、マルガレーテが自分の席に戻っていこうとすると。
「まって!」
マルガレーテを泣かせたクラスメイトが大きな声で呼び止めます。黙って振り向いたマルガレーテに、複雑な表情をしつつも彼女は言いました。
「私も悪かった。昨日は言いすぎたって後からすごい後悔した。だから、ごめん。・・・・・・でも去年ああいう風に思ったのは本当。こんなに歌が上手くてダンスも綺麗なのに、なんでこんな酷いことを言うんだろうって。こんな人にLiella!が負けるのは絶対に嫌だって思ってた」
他のLiella!のファンのクラスメイトたちも同意な様子で頷いています。
「だから、まだウィーンさんの事は応援できない。心から応援したいって思えない。だけどあの歌は待ってる。見に行くよ、絶対」
その時のマルガレーテの表情は見えませんでした。ですがきっと自信に満ちた良い顔をしていたことでしょう。
「任せなさい。最高の歌を聴かせてあげる」
その瞬間の顔を見ていたであろうクラスメイトが、私は羨ましくなりました。
49: (アウアウ d085-e5e5) 2023/11/30(木) 18:44:03 ID:2KmMUQd2Sa
一つ目の提案はマルガレーテのポジションの再設定、あくまでも概念的な物でしたが、二つ目の提案はより実践的にフェスまでにスクールアイドルとしての在り方を体で覚えると言うものでした。
具体的には。
「改めて、ウィーン・マルガレーテよ。よろしく」
放課後の練習をLiella!と合同で行うという物です。部長の千砂都先輩以下、メンバー全員の承諾は昨日のうちに得てあります。
「マルガレーテさん」
拍手で迎えてから最初にマルガレーテに話しかけたのは恋先輩でした。
「何?」
「クラスメイトの皆さんとは仲直りできましたか?」
いつになく真剣な表情をしている恋先輩、マルガレーテがちらりと少し不安そうな視線を送ってきたので頷き返します。
「きちんと謝ったし、伝えたいことはきちんと伝えたわ」
「そうですか。なら良かったです」
多くを聞くことはなく、恋先輩は微笑んで頷きました。今回の件で恋先輩は直接何かを頼んだ訳ではないですが色々と協力していただいています。生徒会長として色々と思うところがあったのでしょうか、とてもありがたいです。
「じゃ、練習始めるよ。基礎練習はマルガレーテちゃんも一緒に、その後のライブに向けての練習は、せっかくだし個々人のパフォーマンスを見せ合って意見交換にしよっか」
千砂都先輩の言葉を聞いて姉者がいそいそとスマホを取り出しました。
「未だ謎多きスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテの練習を独占取材ですの!しかもLiella!とのコラボともなれば再生回数爆上がり間違いなし、マニーの香りがいたしますの~」
マルガレーテが何か文句を言いそうになったところでメイ先輩が釘を刺してくれます。
「おい夏美、公開していないステージについての情報を流すのはNGだからな」
さらにすみれ先輩の追い打ちが。
「大丈夫よメイ、投稿前に私がちゃんとチェックしておくから」
「わかってますの、少しは信頼するんですの!」
などと話をする姉者たちを見ていたマルガレーテがこそっと耳打ちしてきます。
「ねえ、Liella!っていつもこんな感じなの?」
「ええ、概ね」
「ふーん」
姉者に続いて可可先輩と四季先輩が二人の共同制作という怪しげな撮影装置を取り出してきて大騒ぎしているのを眺めていていたマルガレーテはふんと鼻をらします。
「やっぱり下らない」
そう言いつつもほのかに笑っているマルガレーテを見ていると、やはりこのサジェストは正解だったと私は思うのでした。
具体的には。
「改めて、ウィーン・マルガレーテよ。よろしく」
放課後の練習をLiella!と合同で行うという物です。部長の千砂都先輩以下、メンバー全員の承諾は昨日のうちに得てあります。
「マルガレーテさん」
拍手で迎えてから最初にマルガレーテに話しかけたのは恋先輩でした。
「何?」
「クラスメイトの皆さんとは仲直りできましたか?」
いつになく真剣な表情をしている恋先輩、マルガレーテがちらりと少し不安そうな視線を送ってきたので頷き返します。
「きちんと謝ったし、伝えたいことはきちんと伝えたわ」
「そうですか。なら良かったです」
多くを聞くことはなく、恋先輩は微笑んで頷きました。今回の件で恋先輩は直接何かを頼んだ訳ではないですが色々と協力していただいています。生徒会長として色々と思うところがあったのでしょうか、とてもありがたいです。
「じゃ、練習始めるよ。基礎練習はマルガレーテちゃんも一緒に、その後のライブに向けての練習は、せっかくだし個々人のパフォーマンスを見せ合って意見交換にしよっか」
千砂都先輩の言葉を聞いて姉者がいそいそとスマホを取り出しました。
「未だ謎多きスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテの練習を独占取材ですの!しかもLiella!とのコラボともなれば再生回数爆上がり間違いなし、マニーの香りがいたしますの~」
マルガレーテが何か文句を言いそうになったところでメイ先輩が釘を刺してくれます。
「おい夏美、公開していないステージについての情報を流すのはNGだからな」
さらにすみれ先輩の追い打ちが。
「大丈夫よメイ、投稿前に私がちゃんとチェックしておくから」
「わかってますの、少しは信頼するんですの!」
などと話をする姉者たちを見ていたマルガレーテがこそっと耳打ちしてきます。
「ねえ、Liella!っていつもこんな感じなの?」
「ええ、概ね」
「ふーん」
姉者に続いて可可先輩と四季先輩が二人の共同制作という怪しげな撮影装置を取り出してきて大騒ぎしているのを眺めていていたマルガレーテはふんと鼻をらします。
「やっぱり下らない」
そう言いつつもほのかに笑っているマルガレーテを見ていると、やはりこのサジェストは正解だったと私は思うのでした。
50: (アウアウ 71e6-f3c0) 2023/12/05(火) 18:13:15 ID:gTF38NcwSa
二週間が経ち、私たちの日常はマルガレーテを中心として少しずつ変わっていきました。
クラスにおいてのマルガレーテはまだ積極的に話しかけられるとまではいきませんが、以前のような腫れ物扱いの空気感は全くなくなりました。何やらお菓子作りについてクラスメイトと話をしている光景も見られ、徐々に馴染んでいっている様子です。
部では恋先輩と何かと気が合うらしく、 クラシックや乗馬経験などについてよく話をしています。すっかり態度の軟化した可可先輩と留学生ならではの話をしたり、意外なところでは四季先輩の研究に興味を持って実験を見に行っていたりと、いろいろなマルガレーテの姿を見ることができました。
可可先輩とメイ先輩による伝説のスクールアイドル講義を私と一緒に受講した際にはどんな練習後よりも疲れ果てた顔をしていて、その光景を姉者に配信されていたと知ったときはとても不機嫌になってしまい、取りなすのが大変でした。
そんな日々が過ぎていき、気づけばフェスは三日前に迫っていました。
その日、すみれ先輩が実家の用事で早く帰ることになっていたため、全体での練習は早めに切り上げられました。
私はフェスの後に予定しているLiella!のライブ関連の進捗確認、スケジュール調整や広告準備をするために部室に残っていました。その作業も終わったのでパソコンの電源を落とし、部室の鍵を返しに行こうと思い、ふと気になって屋上の鍵を確認すると、開いていることに気づきました。
扉の向こうに誰かいるのでしょうか、そっと覗いてみるとそこにはマルガレーテとかのん先輩の姿がありました。二人とも今来たばかりの様子です。
「もう、やっと二人で話せるよ。マルガレーテちゃん私のことずっと避けてるんだもん」
クラスにおいてのマルガレーテはまだ積極的に話しかけられるとまではいきませんが、以前のような腫れ物扱いの空気感は全くなくなりました。何やらお菓子作りについてクラスメイトと話をしている光景も見られ、徐々に馴染んでいっている様子です。
部では恋先輩と何かと気が合うらしく、 クラシックや乗馬経験などについてよく話をしています。すっかり態度の軟化した可可先輩と留学生ならではの話をしたり、意外なところでは四季先輩の研究に興味を持って実験を見に行っていたりと、いろいろなマルガレーテの姿を見ることができました。
可可先輩とメイ先輩による伝説のスクールアイドル講義を私と一緒に受講した際にはどんな練習後よりも疲れ果てた顔をしていて、その光景を姉者に配信されていたと知ったときはとても不機嫌になってしまい、取りなすのが大変でした。
そんな日々が過ぎていき、気づけばフェスは三日前に迫っていました。
その日、すみれ先輩が実家の用事で早く帰ることになっていたため、全体での練習は早めに切り上げられました。
私はフェスの後に予定しているLiella!のライブ関連の進捗確認、スケジュール調整や広告準備をするために部室に残っていました。その作業も終わったのでパソコンの電源を落とし、部室の鍵を返しに行こうと思い、ふと気になって屋上の鍵を確認すると、開いていることに気づきました。
扉の向こうに誰かいるのでしょうか、そっと覗いてみるとそこにはマルガレーテとかのん先輩の姿がありました。二人とも今来たばかりの様子です。
「もう、やっと二人で話せるよ。マルガレーテちゃん私のことずっと避けてるんだもん」
51: (アウアウ d985-f3c0) 2023/12/05(火) 18:14:42 ID:eJun8.hASa
かのん先輩らしからぬストレートな物言いですが、これに関しては歴然とした事実です。練習の時意外にかのん先輩がいるときは、決まってマルガレーテは借りてきた猫のようになっているか、トイレか何かと理由を付けていなくなります。
「・・・・・・私は千砂都先輩に呼ばれて来たんだけれど」
「えへへ、ちぃちゃんに協力してもらっちゃった」
いたずらっぽくかのん先輩は笑い、そのまま気さくな雰囲気で話を続けます。
「どう、スクールアイドルの活動は?」
「別にどうも何もないわ。ただちょっと騒がしいだけ」
「私はマルガレーテちゃんが毎日来てくれてとっても嬉しいな。ありがとう」
「冬毬に言われたから来てるだけよ。そんな話をするために呼んだわけ?」
やや苛立った様子を見せるマルガレーテに対してかのん先輩は落ち着いたまま少し真面目な顔になります。
「マルガレーテちゃんの夢は、今も変わらない?お姉さんと同じ学校に入って、音楽一家の一員として世界中で活躍したい。今もそう思ってる?」
「何を聞くかと思えば、当然でしょう。そのために私は今ここにいるんだから」
「そうだよね、うん」
二人しかいない状況以上に静かに感じる屋上。盗み聞きは良くないと思いつつも離れ難いところです。
「私もね、夢があるんだ」
再びかのん先輩が口を開きます。
「マルガレーテちゃんに夢があるみたいに、私にも夢があるの。世界に歌を響かせたい、自分の歌でみんなを笑顔にすること。だから、かな。すごく怖かったの、私が歌うことで、マルガレーテちゃんの夢を奪ってしまうかもしれないことが」
黙りこくっているマルガレーテ。二人の間に以前どのようなやりとりがあったのか具体的なことは私は知りません。かのん先輩が以前話してくれたことも部分的な事でしかありませんでしたら。
「私は歌が好き、ずっと歌っていたい。歌えなくなったのを克服して、みんなで歌うことの楽しさを知って。でも楽しいだけじゃ叶わない夢があるって分かって、それがずっとモヤモヤして今まで迷っていたんだけれど」
夕焼けの中静かに吹いた風が二人の髪を揺らし、ドアの隙間から私のもとへもかすかに届きます。
「でも、答えは簡単だった」
「・・・・・・何だったのよ」
「それはね」
思わず私は耳をそばだてました。
「私は歌が好きだってこと」
「は?」
「は?」
歌が好きなだけでは解決しない悩みの答えが、歌が好き。あまりに非合理的な答えに思わずマルガレーテと全く同じ反応をしてしまいます。思ったより大きな声が出てしまったので慌てて口を押さえましたが、聞こえていないでしょうか。
「意味分かんないんだけど、なんかうさんくさいし」
「あはは、そうだよね」
「・・・・・・私は千砂都先輩に呼ばれて来たんだけれど」
「えへへ、ちぃちゃんに協力してもらっちゃった」
いたずらっぽくかのん先輩は笑い、そのまま気さくな雰囲気で話を続けます。
「どう、スクールアイドルの活動は?」
「別にどうも何もないわ。ただちょっと騒がしいだけ」
「私はマルガレーテちゃんが毎日来てくれてとっても嬉しいな。ありがとう」
「冬毬に言われたから来てるだけよ。そんな話をするために呼んだわけ?」
やや苛立った様子を見せるマルガレーテに対してかのん先輩は落ち着いたまま少し真面目な顔になります。
「マルガレーテちゃんの夢は、今も変わらない?お姉さんと同じ学校に入って、音楽一家の一員として世界中で活躍したい。今もそう思ってる?」
「何を聞くかと思えば、当然でしょう。そのために私は今ここにいるんだから」
「そうだよね、うん」
二人しかいない状況以上に静かに感じる屋上。盗み聞きは良くないと思いつつも離れ難いところです。
「私もね、夢があるんだ」
再びかのん先輩が口を開きます。
「マルガレーテちゃんに夢があるみたいに、私にも夢があるの。世界に歌を響かせたい、自分の歌でみんなを笑顔にすること。だから、かな。すごく怖かったの、私が歌うことで、マルガレーテちゃんの夢を奪ってしまうかもしれないことが」
黙りこくっているマルガレーテ。二人の間に以前どのようなやりとりがあったのか具体的なことは私は知りません。かのん先輩が以前話してくれたことも部分的な事でしかありませんでしたら。
「私は歌が好き、ずっと歌っていたい。歌えなくなったのを克服して、みんなで歌うことの楽しさを知って。でも楽しいだけじゃ叶わない夢があるって分かって、それがずっとモヤモヤして今まで迷っていたんだけれど」
夕焼けの中静かに吹いた風が二人の髪を揺らし、ドアの隙間から私のもとへもかすかに届きます。
「でも、答えは簡単だった」
「・・・・・・何だったのよ」
「それはね」
思わず私は耳をそばだてました。
「私は歌が好きだってこと」
「は?」
「は?」
歌が好きなだけでは解決しない悩みの答えが、歌が好き。あまりに非合理的な答えに思わずマルガレーテと全く同じ反応をしてしまいます。思ったより大きな声が出てしまったので慌てて口を押さえましたが、聞こえていないでしょうか。
「意味分かんないんだけど、なんかうさんくさいし」
「あはは、そうだよね」
52: (ワッチョイ c830-26e1) 2023/12/06(水) 13:45:02 ID:HBz/H4m200
おかしそうに笑うかのん先輩をあきれた表情でマルガレーテは見ています。
「でも歌も夢も私とずっと一種にいてくれたのは、私の歌が好きな気持ちが消えなかったからだと思うの。大好きな気持ちに嘘をつかなければ、ずっと夢を追いかけ続けていられる。立ち止まりそうになっても走り出した理由を忘れない」
夢があるのは素晴らしいことです。そしてその先を見据えていることも。
未だ夢の一つも持てていない私からすれば得体の知れない世界、そんな世界にいつか私も行けるのでしょうか。
「目を閉じて」
「・・・・・・ん」
「マルガレーテちゃんも歌は好き?」
「そりゃあ、まあ」
「そしたら初めて思い切って歌を歌った時みたいに声を飛ばしてみて、私は歌が好きだって」
「なにそれ」
戸惑いつつもマルガレーテは口を開きます。
「私は歌が好き」
「声が小さいよ!二人しかいないんだから、もっと大きな声で!」
「ああもう、私は!歌が好き!」
薄暗さが広がり一番星の光る空にマルガレーテの綺麗な声が響き渡りました。歌が好き、強いその気持ちが輝くのを確かに感じました。
「伝わったよ、マルガレーテちゃんの気持ち。今の気持ちのままステージで歌ってみて、マルガレーテちゃんの心がきっとフェスに来てくれたみんなにも届くよ。それに、ご両親にも」
「・・・・・・ほんとう?」
「うん、絶対!」
マルガレーテは嫌そうにしていましたが、彼女の両親が「澁谷かのんの下で歌を学びなさい」と言っていたのは、技術的なことではなく案外こういうことだったのかもしれないと、ふと私は思うのでした。
「こんなところかな、スクールアイドルの先輩として言えることは。じゃあ帰ろうか」
かのん先輩がリュックを拾い上げるのを見て私は慌てて立ち上がります。バレる前に撤退しなくては。
「澁谷かのん」
「ん、なに?」
「その、礼を言うわ。ありがとう」
恥ずかしそうなぼそっとしたマルガレーテの声。
「えー。せっかくお礼を言ってくれるなら、恋ちゃんたちに言うみたいに言って欲しいなぁ」
「んぐっ・・・・・・ありがとう、ございます、カノンセンパイ」
「ん~、やっぱ先輩っていいよね言葉の響きが。きな子ちゃんに初めて呼ばれたときのことを思い出したよ」
私はドアノブにそっと鍵を引っかけてそそくさとその場を離れました。
マルガレーテは新しい舞台へと足を踏み出しました。これからの彼女の活躍ぶりはきっと今まで以上の物になることでしょう。それはファンとしてとても楽しみなことで、でも。
(私は、どうしたら良いのでしょう)
マネージャーとしての全力を尽くす、それだけでは何か物足りないような、姉者やマルガレーテに追いつけないような。
自分も何かしてみたい、そんな風に胸が騒ぐのを感じつつもまっすぐ帰路へつきました。
「でも歌も夢も私とずっと一種にいてくれたのは、私の歌が好きな気持ちが消えなかったからだと思うの。大好きな気持ちに嘘をつかなければ、ずっと夢を追いかけ続けていられる。立ち止まりそうになっても走り出した理由を忘れない」
夢があるのは素晴らしいことです。そしてその先を見据えていることも。
未だ夢の一つも持てていない私からすれば得体の知れない世界、そんな世界にいつか私も行けるのでしょうか。
「目を閉じて」
「・・・・・・ん」
「マルガレーテちゃんも歌は好き?」
「そりゃあ、まあ」
「そしたら初めて思い切って歌を歌った時みたいに声を飛ばしてみて、私は歌が好きだって」
「なにそれ」
戸惑いつつもマルガレーテは口を開きます。
「私は歌が好き」
「声が小さいよ!二人しかいないんだから、もっと大きな声で!」
「ああもう、私は!歌が好き!」
薄暗さが広がり一番星の光る空にマルガレーテの綺麗な声が響き渡りました。歌が好き、強いその気持ちが輝くのを確かに感じました。
「伝わったよ、マルガレーテちゃんの気持ち。今の気持ちのままステージで歌ってみて、マルガレーテちゃんの心がきっとフェスに来てくれたみんなにも届くよ。それに、ご両親にも」
「・・・・・・ほんとう?」
「うん、絶対!」
マルガレーテは嫌そうにしていましたが、彼女の両親が「澁谷かのんの下で歌を学びなさい」と言っていたのは、技術的なことではなく案外こういうことだったのかもしれないと、ふと私は思うのでした。
「こんなところかな、スクールアイドルの先輩として言えることは。じゃあ帰ろうか」
かのん先輩がリュックを拾い上げるのを見て私は慌てて立ち上がります。バレる前に撤退しなくては。
「澁谷かのん」
「ん、なに?」
「その、礼を言うわ。ありがとう」
恥ずかしそうなぼそっとしたマルガレーテの声。
「えー。せっかくお礼を言ってくれるなら、恋ちゃんたちに言うみたいに言って欲しいなぁ」
「んぐっ・・・・・・ありがとう、ございます、カノンセンパイ」
「ん~、やっぱ先輩っていいよね言葉の響きが。きな子ちゃんに初めて呼ばれたときのことを思い出したよ」
私はドアノブにそっと鍵を引っかけてそそくさとその場を離れました。
マルガレーテは新しい舞台へと足を踏み出しました。これからの彼女の活躍ぶりはきっと今まで以上の物になることでしょう。それはファンとしてとても楽しみなことで、でも。
(私は、どうしたら良いのでしょう)
マネージャーとしての全力を尽くす、それだけでは何か物足りないような、姉者やマルガレーテに追いつけないような。
自分も何かしてみたい、そんな風に胸が騒ぐのを感じつつもまっすぐ帰路へつきました。
54: (アウアウ 7e05-26e1) 2023/12/07(木) 03:36:20 ID:dwJl9jpASa
代々木スクールアイドルフェス当日は土曜日で結ヶ丘は休日です。と言ってもLiella!は基本的に練習のために登校しているのですが、今日は一人欠席していました。
他でもないマルガレーテです。
「『集中したいから今日は一人にして欲しい。心配はしなくていい、完璧なステージを約束する』だそうです」
連絡は来ていたのでそのまま千砂都先輩にお伝えします。
「まあそういうタイプだよねマルガレーテちゃんは。気持ち分かるなぁ」
そう言って千砂都先輩は笑います。
「すっかり聞くのを忘れていたけれど、私たちはステージを見に行って良いの?」
四季先輩が首をかしげます。
「見られて緊張するってガラじゃないでしょうけど、フェスに出るのはマルガレーテだけじゃないものね」
「でも毎日頑張っていたマルガレーテちゃんのステージ、きな子も見てみたいっす!」
するとメイ先輩が不敵な笑みを浮かべました。
「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、当然オンライン視聴のチケットはばっちり用意してあるぜ。可可先輩、機材の用意はできてるか?」
「完璧でぇす。マルガレーテだけでなく他のスクールアイドルの勇士も見届けマスよ!」
どうやら問題ないようです。せっかくなら行きたかったですが、そういうことならリスケいたしましょう。
「では練習が終わったら私たち全員で鑑賞会としましょうか」
そう私が言うと九人がきょとんとした顔でこちらを見てきます。何かおかしなことを言ってしまったでしょうか、戸惑っていると姉者がすっと歩み寄って手を握りました。
「冬毬は代々木公園で、現地でマルガレーテの事を見てあげるんですの。きっと、いえ、絶対待ってますの!」
「そう、でしょうか」
周りを見ると全員大きく頷いていらっしゃったのでなんだか自信がつきました。私としてもその場で見たい気持ちがとても強かったので、その方がありがたいです。
「では鬼塚冬毬、皆さんの分もスクールアイドルのステージを視察して参ります。お気遣いありがとうございます」
かのん先輩がにっこり笑って言いました。
「冬毬ちゃん、楽しんできてね」
「アグリー、行って参ります」
他でもないマルガレーテです。
「『集中したいから今日は一人にして欲しい。心配はしなくていい、完璧なステージを約束する』だそうです」
連絡は来ていたのでそのまま千砂都先輩にお伝えします。
「まあそういうタイプだよねマルガレーテちゃんは。気持ち分かるなぁ」
そう言って千砂都先輩は笑います。
「すっかり聞くのを忘れていたけれど、私たちはステージを見に行って良いの?」
四季先輩が首をかしげます。
「見られて緊張するってガラじゃないでしょうけど、フェスに出るのはマルガレーテだけじゃないものね」
「でも毎日頑張っていたマルガレーテちゃんのステージ、きな子も見てみたいっす!」
するとメイ先輩が不敵な笑みを浮かべました。
「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、当然オンライン視聴のチケットはばっちり用意してあるぜ。可可先輩、機材の用意はできてるか?」
「完璧でぇす。マルガレーテだけでなく他のスクールアイドルの勇士も見届けマスよ!」
どうやら問題ないようです。せっかくなら行きたかったですが、そういうことならリスケいたしましょう。
「では練習が終わったら私たち全員で鑑賞会としましょうか」
そう私が言うと九人がきょとんとした顔でこちらを見てきます。何かおかしなことを言ってしまったでしょうか、戸惑っていると姉者がすっと歩み寄って手を握りました。
「冬毬は代々木公園で、現地でマルガレーテの事を見てあげるんですの。きっと、いえ、絶対待ってますの!」
「そう、でしょうか」
周りを見ると全員大きく頷いていらっしゃったのでなんだか自信がつきました。私としてもその場で見たい気持ちがとても強かったので、その方がありがたいです。
「では鬼塚冬毬、皆さんの分もスクールアイドルのステージを視察して参ります。お気遣いありがとうございます」
かのん先輩がにっこり笑って言いました。
「冬毬ちゃん、楽しんできてね」
「アグリー、行って参ります」
55: (アウアウ fefe-26e1) 2023/12/07(木) 03:40:38 ID:M32l9fMYSa
代々木公園は多くのスクールアイドルファンで賑わっていました。皆さんそれぞれがペンライトやうちわを持っていて楽しむ準備は万端といった様子です。
と、声が聞こえてきました。
「ねえあの子、結ヶ丘の子じゃない?」
「ほんとだ。Liella!じゃなくてまさかウィーン・マルガレーテが出るだなんてね。去年も中学生なのに出てたし」
「でも配信とかだとの様子とか見てると、最近マルガレーテも丸くなったって言うか」
「去年からしたら信じられないよね」
姉者の動画投稿や配信の甲斐もあってか、世間的なマルガレーテの評価もある程度改善されているようです。少し安心していると「鬼塚さん」と呼びかけられたので振り向くと、クラスメイトたちが集まっていました。
「ちゃんと私たちも来たよ」
「楽しみだね、マルガレーテちゃんの歌」
「ええ。皆さんもフルコミットな応援をよろしくお願いいたします。必ず良きシナジーを生むことになるでしょう」
「ふるこみっと?うん、頑張るね!」
彼女たちとも別れ、舞台の近くでマルガレーテの番を待ちます。マルガレーテはトリを任されているので、そこまでは様々な学校のスクールアイドルのパフォーマンスを鑑賞させていただきました。
以前運営の方からメールをいただいた通りの初出場となるグループから、ラブライブ!予選、あるいは本戦にも出場経験があるグループまで幅広い層のスクールアイドルのステージは、参考になる場面も多くとても勉強になり、また楽しむことができます。
写真や動画では無いそのステージを目に焼きつけるその瞬間瞬間が、何にも変えられない思い出として刻まれていきました。
そして。
幕が上がりました、マルガレーテのステージです。
と、声が聞こえてきました。
「ねえあの子、結ヶ丘の子じゃない?」
「ほんとだ。Liella!じゃなくてまさかウィーン・マルガレーテが出るだなんてね。去年も中学生なのに出てたし」
「でも配信とかだとの様子とか見てると、最近マルガレーテも丸くなったって言うか」
「去年からしたら信じられないよね」
姉者の動画投稿や配信の甲斐もあってか、世間的なマルガレーテの評価もある程度改善されているようです。少し安心していると「鬼塚さん」と呼びかけられたので振り向くと、クラスメイトたちが集まっていました。
「ちゃんと私たちも来たよ」
「楽しみだね、マルガレーテちゃんの歌」
「ええ。皆さんもフルコミットな応援をよろしくお願いいたします。必ず良きシナジーを生むことになるでしょう」
「ふるこみっと?うん、頑張るね!」
彼女たちとも別れ、舞台の近くでマルガレーテの番を待ちます。マルガレーテはトリを任されているので、そこまでは様々な学校のスクールアイドルのパフォーマンスを鑑賞させていただきました。
以前運営の方からメールをいただいた通りの初出場となるグループから、ラブライブ!予選、あるいは本戦にも出場経験があるグループまで幅広い層のスクールアイドルのステージは、参考になる場面も多くとても勉強になり、また楽しむことができます。
写真や動画では無いそのステージを目に焼きつけるその瞬間瞬間が、何にも変えられない思い出として刻まれていきました。
そして。
幕が上がりました、マルガレーテのステージです。
56: (アウアウ becd-26e1) 2023/12/07(木) 03:44:27 ID:o.4vJENMSa
「優勝、ウィーン・マルガレーテ」
現地、オンラインの視聴者の投票の結果、マルガレーテは見事に優勝を勝ち取りました。
どんな苦境に立っても折れることなく、光り輝きながら未来を切り開いていくその姿は、まるで西洋の伝説に出てくる剣のような力強さと美しさでした。
去年その賞を獲得したマルガレーテはトロフィーを抱きつつも退屈そうな表情をしていましたが、今の彼女は嬉しいような照れくさいような甘酸っぱい顔をしています。
「マルガレーテさん、二年連続の優勝となりますが何かコメントは?」
司会の方がマイクを差し出します。受け取ったマルガレーテは一瞬逡巡する様子を見せましたが、すぐに真っ直ぐ前を見つめて堂々とした態度で口を開きました。
「去年と変わらないわ、ただ自分のやるべき事をしてきただけ。でも、私が今ここに立てていること、スクールアイドルとしてここにいられるのは、結ヶ丘の同級生たち、そしてスクールアイドルの先輩、Liella!のおかげ。私を受け入れて支えてくれたみんなに感謝している」
少し間を置くとマルガレーテは会場全体をゆっくりと見渡します。今日初めてマルガレーテを知った人には蠱惑的に、去年の彼女を知る人には挑戦的に微笑み、クラスメイトの姿をみとめるとちょっと拗ねたような表情でそっぽを向きます。
一瞬、私とも目が合いました。初めてマルガレーテの本気の歌を直に聴いた感動の熱が冷めないでいる私は、その冷たく燃え上がる瞳に見つめられた時間が永遠のように感じられました。
(これが私の大好きな、歌)
声に出さずとも、そう言うのが確かに聞こえました。
「・・・・・・去年の私の発言で不快に感じた人にはこの場を借りて謝罪させてもらうわ、ごめんなさい。だけど期待して欲しい、今ここに立っているのはスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテだから」
そうしてマルガレーテが劇場に立つ女優のような丁寧かつ可憐なお辞儀をすると、自然と会場中から拍手が沸き立ちました。
その中でもちろん私も手を叩いていました。誰よりも大きな音だったはず、そう思っています。
現地、オンラインの視聴者の投票の結果、マルガレーテは見事に優勝を勝ち取りました。
どんな苦境に立っても折れることなく、光り輝きながら未来を切り開いていくその姿は、まるで西洋の伝説に出てくる剣のような力強さと美しさでした。
去年その賞を獲得したマルガレーテはトロフィーを抱きつつも退屈そうな表情をしていましたが、今の彼女は嬉しいような照れくさいような甘酸っぱい顔をしています。
「マルガレーテさん、二年連続の優勝となりますが何かコメントは?」
司会の方がマイクを差し出します。受け取ったマルガレーテは一瞬逡巡する様子を見せましたが、すぐに真っ直ぐ前を見つめて堂々とした態度で口を開きました。
「去年と変わらないわ、ただ自分のやるべき事をしてきただけ。でも、私が今ここに立てていること、スクールアイドルとしてここにいられるのは、結ヶ丘の同級生たち、そしてスクールアイドルの先輩、Liella!のおかげ。私を受け入れて支えてくれたみんなに感謝している」
少し間を置くとマルガレーテは会場全体をゆっくりと見渡します。今日初めてマルガレーテを知った人には蠱惑的に、去年の彼女を知る人には挑戦的に微笑み、クラスメイトの姿をみとめるとちょっと拗ねたような表情でそっぽを向きます。
一瞬、私とも目が合いました。初めてマルガレーテの本気の歌を直に聴いた感動の熱が冷めないでいる私は、その冷たく燃え上がる瞳に見つめられた時間が永遠のように感じられました。
(これが私の大好きな、歌)
声に出さずとも、そう言うのが確かに聞こえました。
「・・・・・・去年の私の発言で不快に感じた人にはこの場を借りて謝罪させてもらうわ、ごめんなさい。だけど期待して欲しい、今ここに立っているのはスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテだから」
そうしてマルガレーテが劇場に立つ女優のような丁寧かつ可憐なお辞儀をすると、自然と会場中から拍手が沸き立ちました。
その中でもちろん私も手を叩いていました。誰よりも大きな音だったはず、そう思っています。
58: (アウアウ 4d08-26e1) 2023/12/07(木) 13:51:57 ID:01wIqzlUSa
「マルガレーテ」
すっかりステージが片付けられ人気もまばらになった代々木公園。池の畔に佇んでいた彼女の背中に声をかけます。衣装から制服に着替えたマルガレーテ、いつもと同じ姿のはずなのにどこか違って見えてしまいます。
「遅いわよ冬毬。ずいぶん待たせるじゃない」
「すみません、近くのコンビニで買い物をしていたもので」
フェスが終わったらここで待っていて欲しいとSNSでお願いをしておりました。レジ袋から缶のココアを取り出してマルガレーテに差し出します。
「お疲れ様でした」
「気が利くのね、ありがとう」
「やけどしないように、気をつけて下さいね」
「そんなに心配しなくてもだいじょう、あちっ」
お手本のようなボケを披露するマルガレーテ、私たちは顔を見合わせて吹き出しました。
ベンチに置かれたトロフィーを見やります。街頭の灯りを受けてさっきまでのマルガレーテのように輝くそれを見て私も意を決しました。
「最高の舞台でした。優勝も当然です」
「だから言ったでしょう、任せなさいって」
「そうですね、私も大船に乗ったつもりで今日のステージを鑑賞していましたが・・・・・・、そんな貴女にお話があってこの場を設けさせていただきました」
ココアに労いの気持ちは確かにありました。ですがこれにはまた別の意図があります。
マルガレーテの好みはチョコレート、本当はホットチョコレートがよかったのですが、生憎とコンビニでは購入できなかったので代替品としてココアを選択しました。
ネゴシエーターとして取引相手の趣向を把握し、アテンドするのは当然の事ですから。
プレゼンの時間です、今日この日のための一ヶ月でした。
「なによ改まって」
不思議そうな顔をするマルガレーテに、まずは結論から伝えます。
「マルガレーテ、Liella!に加入していただけませんか?」
「・・・・・・え?」
すっかりステージが片付けられ人気もまばらになった代々木公園。池の畔に佇んでいた彼女の背中に声をかけます。衣装から制服に着替えたマルガレーテ、いつもと同じ姿のはずなのにどこか違って見えてしまいます。
「遅いわよ冬毬。ずいぶん待たせるじゃない」
「すみません、近くのコンビニで買い物をしていたもので」
フェスが終わったらここで待っていて欲しいとSNSでお願いをしておりました。レジ袋から缶のココアを取り出してマルガレーテに差し出します。
「お疲れ様でした」
「気が利くのね、ありがとう」
「やけどしないように、気をつけて下さいね」
「そんなに心配しなくてもだいじょう、あちっ」
お手本のようなボケを披露するマルガレーテ、私たちは顔を見合わせて吹き出しました。
ベンチに置かれたトロフィーを見やります。街頭の灯りを受けてさっきまでのマルガレーテのように輝くそれを見て私も意を決しました。
「最高の舞台でした。優勝も当然です」
「だから言ったでしょう、任せなさいって」
「そうですね、私も大船に乗ったつもりで今日のステージを鑑賞していましたが・・・・・・、そんな貴女にお話があってこの場を設けさせていただきました」
ココアに労いの気持ちは確かにありました。ですがこれにはまた別の意図があります。
マルガレーテの好みはチョコレート、本当はホットチョコレートがよかったのですが、生憎とコンビニでは購入できなかったので代替品としてココアを選択しました。
ネゴシエーターとして取引相手の趣向を把握し、アテンドするのは当然の事ですから。
プレゼンの時間です、今日この日のための一ヶ月でした。
「なによ改まって」
不思議そうな顔をするマルガレーテに、まずは結論から伝えます。
「マルガレーテ、Liella!に加入していただけませんか?」
「・・・・・・え?」
59: (アウアウ 4261-26e1) 2023/12/07(木) 13:56:48 ID:6SsfBU1ISa
虚を突かれた表情を見せる彼女に私はプランを提示していきました。
「今年のLiella!の目標はご存じですか」
「それは、二年連続の優勝でしょう?」
「はい。ですがこれはとても難しい課題です。どんなに人気を博し実力のあるスクールアイドルでもこれまでその夢を叶えることはできませんでした。それは先日の可可先輩とメイ先輩のお話で知っていますね」
「ええ、まあ」
「歴代の優勝グループは概ね前年と同じかそれを上回るパフォーマンスをするように心がけていたはず。それでもたどり着けなかった二年連続の優勝をするためにはアプローチを変える、それ以上の事をしなければなりません」
非常に簡単なロジックですが、為し得るのは難しい。しかしそれを突破する手が今の結ヶ丘に揃っています。そんな僥倖をフルに生かすべきです。
「連続の優勝はあり得ない、そんな予定調和を壊す武器に貴女はなり得るのです、マルガレーテ。去年Liella!とラブライブ!出場を争ったライバルである貴女が加入するというのは、ラブライブ!の歴史を見ても類のないこと、大きな話題を呼ぶのは間違いありません」
それに、と私は続けます。
「これはマルガレーテの夢を叶えるためにも適切な選択になると、私は考えています」
「どういうこと?」
眉をひそめるマルガレーテ。先ほどよりも真剣な表情は、私の話に興味を持っていただけている証左です。
「マルガレーテも今年の目標はラブライブ!で優勝し、ご両親に自分の歌を認めてもらうこと、そしてお姉さんと同じ音楽学校へ入学し自分の歌を証明すること。ですが現状、この大きな障害となっているのがLiella!です」
マルガレーテはぎゅっと自分の体を抱きしめています。去年の敗北を思い出させてしまったでしょうか、少し申し訳なく思いました。
「去年のように出場を賭けて戦うか、あるいは以前お話ししたようにそもそもエントリーの問題にぶつかりかねないのが今の私たちの状態です。しかしマルガレーテがLiella!の一員となれば、目標を同じくしてラブライブ!に望むことができます。そしてその状態のLiella!は間違いなく」
確信を持って私は告げました。
「去年とは比較にならないほど、魅力的で優勝を勝ち取る力を持ったスクールアイドルになるでしょう」
原宿と渋谷、日本有数の賑わいを見せる街に近いというのに、どうしてこの代々木公園はこんなにも静かなのでしょうか。まるで夜明け前の星空のよう。
ふと、そんなどうでも良いことを私は思いました。
「もう一度言います、マルガレーテ」
碧の目を見つめて。
「代々木スクールアイドルフェスで二年連続の優勝を果たした実力、Liella!のラブライブ!二度目の優勝のために、そして何より貴女の夢を叶えるためにも貸してくれませんか。これはLiella!のマネージャーとしての依頼、そして貴女のファンとしてのお願いです」
姿勢を正し、ぐっと頭を下げます。マルガレーテがイエスと言うまで、いつまでもそうしているくらいの気持ちで。こんなに何かに一生懸命になるのは生まれて初めてでした。
「・・・・・・顔を上げて、冬毬」
どれくらい時間が経ったでしょうか。マルガレーテにそう言われて私はゆっくりとマルガレーテの方を見上げます。
泣いているような笑っているような、不思議な表情をしたマルガレーテ。また、初めて見る彼女の顔でした。
「あなたの気持ちは伝わったわ。でもLiella!の了承は取れているの?」
「・・・・・・いえ。コンセンサスを得ずに私の独断でこの交渉を行っています。ですが」
9人全員の顔を一人一人思い浮かべて言いました。
「マルガレーテを拒否するメンバーは一人もいません」
「そうね。そうかも」
おかしそうに笑って、そして遂にマルガレーテは頷きました。
「分かったわ、Liella!に入ってあげる。でも約束して冬毬」
マルガレーテは小指を立てます。
「必ず、Liella!が優勝するって」
「はい。私も全身全霊で応えていきます」
かたくほどけないように、小指をマルガレーテと結び合わせます。
十人目のLiella!が誕生したこの日を、私はずっと忘れないでしょう。
「今年のLiella!の目標はご存じですか」
「それは、二年連続の優勝でしょう?」
「はい。ですがこれはとても難しい課題です。どんなに人気を博し実力のあるスクールアイドルでもこれまでその夢を叶えることはできませんでした。それは先日の可可先輩とメイ先輩のお話で知っていますね」
「ええ、まあ」
「歴代の優勝グループは概ね前年と同じかそれを上回るパフォーマンスをするように心がけていたはず。それでもたどり着けなかった二年連続の優勝をするためにはアプローチを変える、それ以上の事をしなければなりません」
非常に簡単なロジックですが、為し得るのは難しい。しかしそれを突破する手が今の結ヶ丘に揃っています。そんな僥倖をフルに生かすべきです。
「連続の優勝はあり得ない、そんな予定調和を壊す武器に貴女はなり得るのです、マルガレーテ。去年Liella!とラブライブ!出場を争ったライバルである貴女が加入するというのは、ラブライブ!の歴史を見ても類のないこと、大きな話題を呼ぶのは間違いありません」
それに、と私は続けます。
「これはマルガレーテの夢を叶えるためにも適切な選択になると、私は考えています」
「どういうこと?」
眉をひそめるマルガレーテ。先ほどよりも真剣な表情は、私の話に興味を持っていただけている証左です。
「マルガレーテも今年の目標はラブライブ!で優勝し、ご両親に自分の歌を認めてもらうこと、そしてお姉さんと同じ音楽学校へ入学し自分の歌を証明すること。ですが現状、この大きな障害となっているのがLiella!です」
マルガレーテはぎゅっと自分の体を抱きしめています。去年の敗北を思い出させてしまったでしょうか、少し申し訳なく思いました。
「去年のように出場を賭けて戦うか、あるいは以前お話ししたようにそもそもエントリーの問題にぶつかりかねないのが今の私たちの状態です。しかしマルガレーテがLiella!の一員となれば、目標を同じくしてラブライブ!に望むことができます。そしてその状態のLiella!は間違いなく」
確信を持って私は告げました。
「去年とは比較にならないほど、魅力的で優勝を勝ち取る力を持ったスクールアイドルになるでしょう」
原宿と渋谷、日本有数の賑わいを見せる街に近いというのに、どうしてこの代々木公園はこんなにも静かなのでしょうか。まるで夜明け前の星空のよう。
ふと、そんなどうでも良いことを私は思いました。
「もう一度言います、マルガレーテ」
碧の目を見つめて。
「代々木スクールアイドルフェスで二年連続の優勝を果たした実力、Liella!のラブライブ!二度目の優勝のために、そして何より貴女の夢を叶えるためにも貸してくれませんか。これはLiella!のマネージャーとしての依頼、そして貴女のファンとしてのお願いです」
姿勢を正し、ぐっと頭を下げます。マルガレーテがイエスと言うまで、いつまでもそうしているくらいの気持ちで。こんなに何かに一生懸命になるのは生まれて初めてでした。
「・・・・・・顔を上げて、冬毬」
どれくらい時間が経ったでしょうか。マルガレーテにそう言われて私はゆっくりとマルガレーテの方を見上げます。
泣いているような笑っているような、不思議な表情をしたマルガレーテ。また、初めて見る彼女の顔でした。
「あなたの気持ちは伝わったわ。でもLiella!の了承は取れているの?」
「・・・・・・いえ。コンセンサスを得ずに私の独断でこの交渉を行っています。ですが」
9人全員の顔を一人一人思い浮かべて言いました。
「マルガレーテを拒否するメンバーは一人もいません」
「そうね。そうかも」
おかしそうに笑って、そして遂にマルガレーテは頷きました。
「分かったわ、Liella!に入ってあげる。でも約束して冬毬」
マルガレーテは小指を立てます。
「必ず、Liella!が優勝するって」
「はい。私も全身全霊で応えていきます」
かたくほどけないように、小指をマルガレーテと結び合わせます。
十人目のLiella!が誕生したこの日を、私はずっと忘れないでしょう。
60: (アウアウ 731b-26e1) 2023/12/07(木) 13:59:45 ID:JTqoIiiASa
マルガレーテ編終了です。
ここまで読んでくれている方ありがとうございます、ここから冬毬編になります。
ここまで読んでくれている方ありがとうございます、ここから冬毬編になります。
65: (アウアウ 1446-26e1) 2023/12/08(金) 15:22:38 ID:sFQ03KdsSa
姉者について、Liella!のメンバーに尋ねてみました。
「え、夏美ちゃん?そうだなあ、急に動画の撮影ですの~ってカメラとか向けられると困っちゃうけど、でも私は自分からああいうことできないから、行動力に助けられているかも」
「良くも悪くもとにかくうるさいって感じかな夏美は。特に四季と何か企んでいる時はかなり面倒くさい、でもあいつらが楽しそうにしているのを見るとなんか和むんだよな、分かるだろ?」
「いてくれるとすごく助かるわね。動画を撮るだけでも私と違った意見やもっと工夫したやり方を提案してくれるから。でもたまにグソクムシ先輩って呼んでくるのだけは勘弁して欲しいわ」
「ナッツはこう、お金に汚・・・・・・図々・・・・・・とにかく!何でもかんでも頑張ってくれているのはとっても嬉しいデス!それに意外と冷静な判断もしてくれるので困ったときには意見を聞いたりしていマスね」
「夏美さんですか。そうですね、私の知らないネットやSNSのサービスやお約束のようなものを熟知していらっしゃるので勉強させていただいてます。ソーシャルゲームについても最近はお話ししていますね」
「冬毬には悪いけど、正直迷惑なことが多いかも。勝手に写真とか動画を撮ったりしてくるし。でもだからこそ目を離せないって思わせてくるのが夏美先輩の魅力なのかもしれないわね」
「夏美ちゃんはある意味一番話していて楽しい存在かも。メイやきな子ちゃん、先輩たちとマルガレーテちゃん、誰とも違うリズム感を共有できている気がする。それはダンスの時も同じ、ピッタリ息が合ったときはすごく嬉しくなる」
「なんていうかマルじゃない、マルでいようとしてないのを感じるんだよね。マルでいることを良しとしていないっていうか、それが私と違っていてすごく面白い子だなって。え、分かんない?」
「え、夏美ちゃん?そうだなあ、急に動画の撮影ですの~ってカメラとか向けられると困っちゃうけど、でも私は自分からああいうことできないから、行動力に助けられているかも」
「良くも悪くもとにかくうるさいって感じかな夏美は。特に四季と何か企んでいる時はかなり面倒くさい、でもあいつらが楽しそうにしているのを見るとなんか和むんだよな、分かるだろ?」
「いてくれるとすごく助かるわね。動画を撮るだけでも私と違った意見やもっと工夫したやり方を提案してくれるから。でもたまにグソクムシ先輩って呼んでくるのだけは勘弁して欲しいわ」
「ナッツはこう、お金に汚・・・・・・図々・・・・・・とにかく!何でもかんでも頑張ってくれているのはとっても嬉しいデス!それに意外と冷静な判断もしてくれるので困ったときには意見を聞いたりしていマスね」
「夏美さんですか。そうですね、私の知らないネットやSNSのサービスやお約束のようなものを熟知していらっしゃるので勉強させていただいてます。ソーシャルゲームについても最近はお話ししていますね」
「冬毬には悪いけど、正直迷惑なことが多いかも。勝手に写真とか動画を撮ったりしてくるし。でもだからこそ目を離せないって思わせてくるのが夏美先輩の魅力なのかもしれないわね」
「夏美ちゃんはある意味一番話していて楽しい存在かも。メイやきな子ちゃん、先輩たちとマルガレーテちゃん、誰とも違うリズム感を共有できている気がする。それはダンスの時も同じ、ピッタリ息が合ったときはすごく嬉しくなる」
「なんていうかマルじゃない、マルでいようとしてないのを感じるんだよね。マルでいることを良しとしていないっていうか、それが私と違っていてすごく面白い子だなって。え、分かんない?」
66: (アウアウ 1446-26e1) 2023/12/08(金) 15:45:33 ID:sFQ03KdsSa
「きな子ちゃんについてっすか?」
自主練習に充てられた日曜日でした。姉者は「三年生になった先輩たちのドキュメンタリーを撮影いたしますの~」と言って朝早くからメイ先輩と出かけていきました。
そんなわけで普段よく姉者と練習に取り組んでいるきな子先輩に、お話をうかがうことにしました。Liella!のメンバーの皆さんからスクールアイドル鬼塚夏美のナレッジを収集する一環にして、一番深い話をしていただけそうな気がして最後に回していたのです。
ランニング後に軽いストレッチをしながらきな子先輩は答えてくれます。
「んー。真面目な子っすよね、夏美ちゃん。冬毬ちゃんと似てると思うっす」
「似てる?」
真面目、私と似ている。生まれて初めてと言っても過言ではない評価を受けて戸惑い、思わずオウム返しをしてしまいました。
「はいっす。確かに変な計画をしてたりよく分からないスムージーを作ってきたりするんすけど、でも後になってみたらそれが良い方向性を作っているっていうことが多くて。さすがCEOっすね」
「・・・・・・なるほど」
「冬毬ちゃんもきな子たちの事を考えて先の予定を事細かに決めてくれていてとても助かるっす。やり方は違っていても、結果的にみんなのためを思ってくれているところが似てるなって思うんすよ」
きな子先輩はとても素直な方なので、本心からそう言って下さっているのでしょう。なんだか気恥ずかしくなってしまいます。
ですが姉者が夢を持ってそういった行為をしているのに対して、私はあくまでも自分で割り振った業務と考えているのはやはり違うところなのではないか、とも思ってしまいます。
「あと、とっても可愛いっす。抱きしめたくなるっす~」
アグリー、それについては強く同意できます。
「はい、冬毬ちゃんもこっち来るっすよ」
「? はい」
何かと思って近づくと急にむぎゅっと抱きしめられてとてもびっくりしました。汗と制汗剤、シャンプーの香りがふわっと漂ってきて良い感じ・・・・・・ではなくて。
「ちょ、何ですか急に」
「だって冬毬ちゃんも夏美ちゃんと同じくらい可愛いんすよ。だからこうやって練習の疲れを癒やしているんすよ」
「は、はあ」
そう言われてしまうと振りほどくこともできません。身長的には姉者ほどではないにしろ私より小さなきな子先輩が抱きついてくるこの状況、むしろきな子先輩方がよっぽど可愛らしいと申しますかなんというか。
自主練習に充てられた日曜日でした。姉者は「三年生になった先輩たちのドキュメンタリーを撮影いたしますの~」と言って朝早くからメイ先輩と出かけていきました。
そんなわけで普段よく姉者と練習に取り組んでいるきな子先輩に、お話をうかがうことにしました。Liella!のメンバーの皆さんからスクールアイドル鬼塚夏美のナレッジを収集する一環にして、一番深い話をしていただけそうな気がして最後に回していたのです。
ランニング後に軽いストレッチをしながらきな子先輩は答えてくれます。
「んー。真面目な子っすよね、夏美ちゃん。冬毬ちゃんと似てると思うっす」
「似てる?」
真面目、私と似ている。生まれて初めてと言っても過言ではない評価を受けて戸惑い、思わずオウム返しをしてしまいました。
「はいっす。確かに変な計画をしてたりよく分からないスムージーを作ってきたりするんすけど、でも後になってみたらそれが良い方向性を作っているっていうことが多くて。さすがCEOっすね」
「・・・・・・なるほど」
「冬毬ちゃんもきな子たちの事を考えて先の予定を事細かに決めてくれていてとても助かるっす。やり方は違っていても、結果的にみんなのためを思ってくれているところが似てるなって思うんすよ」
きな子先輩はとても素直な方なので、本心からそう言って下さっているのでしょう。なんだか気恥ずかしくなってしまいます。
ですが姉者が夢を持ってそういった行為をしているのに対して、私はあくまでも自分で割り振った業務と考えているのはやはり違うところなのではないか、とも思ってしまいます。
「あと、とっても可愛いっす。抱きしめたくなるっす~」
アグリー、それについては強く同意できます。
「はい、冬毬ちゃんもこっち来るっすよ」
「? はい」
何かと思って近づくと急にむぎゅっと抱きしめられてとてもびっくりしました。汗と制汗剤、シャンプーの香りがふわっと漂ってきて良い感じ・・・・・・ではなくて。
「ちょ、何ですか急に」
「だって冬毬ちゃんも夏美ちゃんと同じくらい可愛いんすよ。だからこうやって練習の疲れを癒やしているんすよ」
「は、はあ」
そう言われてしまうと振りほどくこともできません。身長的には姉者ほどではないにしろ私より小さなきな子先輩が抱きついてくるこの状況、むしろきな子先輩方がよっぽど可愛らしいと申しますかなんというか。
68: (アウアウ 84bb-26e1) 2023/12/11(月) 01:46:27 ID:urgum6lASa
「ん、ん~?」
と、きな子先輩が離れたかと思えば何やらペタペタと私の肩や腕を触ってきます。
「なななんですか」
「いや、何というか。夏美ちゃんやきな子の練習をよく手伝ってもらってるだけあって、冬毬ちゃんも結構しっかりした体をしてるなと思って」
スクールアイドルはステージ上で歌いながら踊るという中々ハードなパフォーマンスを行います。吹奏楽部が体育会系とはよく言ったものですが、スクールアイドルも分類としては文化系にあたりますが、実質はまさしく体育会系の部活動なので自然と筋力や体力がついていきます。
付き合い程度とはいえ、練習を共にしている私も必然的にそれなりに身体能力は向上しているということでしょう。
「きな子が一年生の時はちょっと走っただけでヘロヘロで、かのん先輩たちに追いつくなんてむりだったすから、冬毬ちゃんはやっぱりすごいっすよ」
「ありがとうございます」
ふんふんと頷いていたきな子先輩ははたと思いついた風に手をぽんと打ちます。
「冬毬ちゃん、こういうステップとかはできるっすか?」
そして簡単なステップをして見せてくれます。こんな風に軽く動いているところを見ると、去年のきな子先輩というのが全く想像できません。
「こう、ですか?」
とても基礎的なものだったので見よう見まねでやってみます。
「おお~。じゃあこれはどうっすか?」
「こんな感じ、ですか?」
もう少し難しいステップ、うまくできた気はしませんが、きな子先輩は目を丸くして拍手してくれました。
「すごいっす、すごいっす!全然行けちゃうんすね」
「ずっと見てきましたから」
ただの見よう見まねとは言え褒められて悪い気はしません。ガラにも浮ついた気分になっていると、いきなりきな子先輩にとんでもないことを言われました。
「ねえ、冬毬ちゃんもLiella!に入らないっすか?」
その言葉を聞き、内容を吟味し、意味を理解するまでに優に五秒は要しました。
「いやぁ前からきな子思ってたんすよ、後輩が欲しいなって。世界大会とかの都合でメンバーをなかなか増やすわけにはいかないっていうのは仕方ないんすけど、でもやっぱり『先輩』っていうのに憧れてて。マルガレーテちゃんはいるっすけど、入っても全く問題ないほどの実力があってあんまり後輩って感じがしないっす。でも冬毬ちゃんがLiella!のメンバーになってくれたら、理想の後輩になってくれそうな雰囲気があるんす!」
熱弁を振るうきな子先輩を慌てて制止します。
「ちょ、ちょっと待って下さい。少しステップが踏めるくらいでスクールアイドルになるというのは理論が飛躍しています。それにマネージャーではありますが、今でも先輩後輩の関係は構築されてます」
「それはまあ、そうっすけど」
ちょっと考える様子を見せたきな子先輩は首をかしげて聞いてきます。
「冬毬ちゃんはスクールアイドルになることに興味はないんすか?」
心が跳ねる音が聞こえました。
あの日、かのん先輩とマルガレーテが話しているのを立ち聞きしていた時と同じように胸が騒ぎます。
と、きな子先輩が離れたかと思えば何やらペタペタと私の肩や腕を触ってきます。
「なななんですか」
「いや、何というか。夏美ちゃんやきな子の練習をよく手伝ってもらってるだけあって、冬毬ちゃんも結構しっかりした体をしてるなと思って」
スクールアイドルはステージ上で歌いながら踊るという中々ハードなパフォーマンスを行います。吹奏楽部が体育会系とはよく言ったものですが、スクールアイドルも分類としては文化系にあたりますが、実質はまさしく体育会系の部活動なので自然と筋力や体力がついていきます。
付き合い程度とはいえ、練習を共にしている私も必然的にそれなりに身体能力は向上しているということでしょう。
「きな子が一年生の時はちょっと走っただけでヘロヘロで、かのん先輩たちに追いつくなんてむりだったすから、冬毬ちゃんはやっぱりすごいっすよ」
「ありがとうございます」
ふんふんと頷いていたきな子先輩ははたと思いついた風に手をぽんと打ちます。
「冬毬ちゃん、こういうステップとかはできるっすか?」
そして簡単なステップをして見せてくれます。こんな風に軽く動いているところを見ると、去年のきな子先輩というのが全く想像できません。
「こう、ですか?」
とても基礎的なものだったので見よう見まねでやってみます。
「おお~。じゃあこれはどうっすか?」
「こんな感じ、ですか?」
もう少し難しいステップ、うまくできた気はしませんが、きな子先輩は目を丸くして拍手してくれました。
「すごいっす、すごいっす!全然行けちゃうんすね」
「ずっと見てきましたから」
ただの見よう見まねとは言え褒められて悪い気はしません。ガラにも浮ついた気分になっていると、いきなりきな子先輩にとんでもないことを言われました。
「ねえ、冬毬ちゃんもLiella!に入らないっすか?」
その言葉を聞き、内容を吟味し、意味を理解するまでに優に五秒は要しました。
「いやぁ前からきな子思ってたんすよ、後輩が欲しいなって。世界大会とかの都合でメンバーをなかなか増やすわけにはいかないっていうのは仕方ないんすけど、でもやっぱり『先輩』っていうのに憧れてて。マルガレーテちゃんはいるっすけど、入っても全く問題ないほどの実力があってあんまり後輩って感じがしないっす。でも冬毬ちゃんがLiella!のメンバーになってくれたら、理想の後輩になってくれそうな雰囲気があるんす!」
熱弁を振るうきな子先輩を慌てて制止します。
「ちょ、ちょっと待って下さい。少しステップが踏めるくらいでスクールアイドルになるというのは理論が飛躍しています。それにマネージャーではありますが、今でも先輩後輩の関係は構築されてます」
「それはまあ、そうっすけど」
ちょっと考える様子を見せたきな子先輩は首をかしげて聞いてきます。
「冬毬ちゃんはスクールアイドルになることに興味はないんすか?」
心が跳ねる音が聞こえました。
あの日、かのん先輩とマルガレーテが話しているのを立ち聞きしていた時と同じように胸が騒ぎます。
69: (アウアウ b57c-26e1) 2023/12/11(月) 01:51:21 ID:sH9EPfmkSa
何かしたい、何者かになりたい。ずっとくすぶっていた名もない気持ちが「スクールアイドル」というベクトルが与えられた事で一気に明瞭な気持ちに変わっていきます。
・・・・・・ですが。
「興味がない、と言えば嘘になります」
それこそ春休みに動画を見ていたときから自分がスクールアイドルになったらと妄想をしたことは何度かあります。しかし、それらの妄想は全て脇に追いやってきました。なぜなら、私にはスクールアイドルになる資格がないからです。
スクールアイドルとはただステージの上で歌って踊っていればいいというものではありません。クラスメイトや学校、家族や近隣地域の皆さんに応援されて初めてその形を作るもの。マルガレーテの一件から特にその認識は深くなりました。
だとするのであれば。私はやはりスクールアイドルになるわけにはいきません。私は夢を追いかけ続けていた姉者の行動を「無駄」と決めつけてきたのですから、誰かに応援されるべき存在ではないのです。
「ですが、私は性格上スクールアイドルの適性があるとは思えません。皆さんのように可愛らしく振る舞っている自分も想像できませんから」
そんな話をきな子先輩にするのも筋違いなので、もっともらしく、また実際にそう思っている事を理由として伝えます。なのですが、きな子先輩は首を横に振りました。
「やってもないのに向いてるかどうかなんて分からないっすよ、冬毬ちゃん」
それはどこか聞いたことがあるような言葉でした。そのデジャヴはタハっと笑ったきな子先輩にすぐネタばらしされます。
「って、これはきな子が夏美ちゃんに言われたことなんすけどね」
「姉者がそんなことを」
確かに姉者が言いそうなことです。なんでもまずはやってみる、やはり私とは大違いですね。そう思っているときな子先輩に手をぎゅっと握られてしまいました。
「少しでもスクールアイドルとしての活動に興味があるなら、冬毬ちゃんにも一歩を踏み出して欲しいっす!もしも何か悩みがあるならきな子がちゃんと聞いてあげるっすよ、先輩っすから!」
とても明るいきな子先輩の笑顔を見ていると何も言えなくなってしまいます。断るに断り切れず絞り出すように私は言いました。
「マネージャーとしての活動の参考程度の仮加入、であれば検討します」
「ほんとっすか!嬉しいっす!」
そのままぴょんぴょん飛び跳ねるきな子先輩にぶんぶんと手を振られて体を揺らしながら、内心頭を抱えてしまいます。結局その日曜日は今後の自分がどのように立ち振る舞えば良いのかを考えているだけで終わってしまうのでした。
・・・・・・ですが。
「興味がない、と言えば嘘になります」
それこそ春休みに動画を見ていたときから自分がスクールアイドルになったらと妄想をしたことは何度かあります。しかし、それらの妄想は全て脇に追いやってきました。なぜなら、私にはスクールアイドルになる資格がないからです。
スクールアイドルとはただステージの上で歌って踊っていればいいというものではありません。クラスメイトや学校、家族や近隣地域の皆さんに応援されて初めてその形を作るもの。マルガレーテの一件から特にその認識は深くなりました。
だとするのであれば。私はやはりスクールアイドルになるわけにはいきません。私は夢を追いかけ続けていた姉者の行動を「無駄」と決めつけてきたのですから、誰かに応援されるべき存在ではないのです。
「ですが、私は性格上スクールアイドルの適性があるとは思えません。皆さんのように可愛らしく振る舞っている自分も想像できませんから」
そんな話をきな子先輩にするのも筋違いなので、もっともらしく、また実際にそう思っている事を理由として伝えます。なのですが、きな子先輩は首を横に振りました。
「やってもないのに向いてるかどうかなんて分からないっすよ、冬毬ちゃん」
それはどこか聞いたことがあるような言葉でした。そのデジャヴはタハっと笑ったきな子先輩にすぐネタばらしされます。
「って、これはきな子が夏美ちゃんに言われたことなんすけどね」
「姉者がそんなことを」
確かに姉者が言いそうなことです。なんでもまずはやってみる、やはり私とは大違いですね。そう思っているときな子先輩に手をぎゅっと握られてしまいました。
「少しでもスクールアイドルとしての活動に興味があるなら、冬毬ちゃんにも一歩を踏み出して欲しいっす!もしも何か悩みがあるならきな子がちゃんと聞いてあげるっすよ、先輩っすから!」
とても明るいきな子先輩の笑顔を見ていると何も言えなくなってしまいます。断るに断り切れず絞り出すように私は言いました。
「マネージャーとしての活動の参考程度の仮加入、であれば検討します」
「ほんとっすか!嬉しいっす!」
そのままぴょんぴょん飛び跳ねるきな子先輩にぶんぶんと手を振られて体を揺らしながら、内心頭を抱えてしまいます。結局その日曜日は今後の自分がどのように立ち振る舞えば良いのかを考えているだけで終わってしまうのでした。
70: (アウアウ 2b11-26e1) 2023/12/12(火) 18:16:09 ID:PP5LPK4ASa
「どうしましょう、マルガレーテ」
「知らないわよ」
次の日のお昼休み、例の中庭のベンチで私はマルガレーテに泣きつきましたがしらっとした反応しか返ってきません。
「自分でその道を選んだのならやりきるしかないでしょう。新しい場所に飛び込んでやってみる、とても大切なことよ」
マルガレーテらしい物言いですし私もそう思うのですが、自分のこととなると戸惑いの気持ちの方が強くなってしまいます。
「別に私がそうしたいと思ったわけではないのです。ただきな子先輩に言われたのを断り切れなくて」
私の必死のエクスキューズも虚しく、マルガレーテは我関せずといった様子のまま昼ご飯を食べ続けています。今日の彼女の昼食は珍しくおにぎりです。具に色々な種類があるのを物珍しそうに見ながら選んでいました。
「私、前から思っていたのだけれど」
少しスカートの上に散った海苔を払ってマルガレーテは言います。
「どうして冬毬はそこまでラブライブ!の優勝に拘っているの?そこまでスクールアイドルになる気がないと主張しているのに」
改まって聞かれてしまうと困ってしまいます。それこそ姉者が参加しているから、スクールアイドルの活動を応援したいと思えるようになったからと言うのは簡単ですが、それがスクールアイドルにならない理由には繋がらないのです。
「あなたにとって、歌って何?」
歌。夢を持たない私にとってのそれはなんなのでしょうか。今までそんなことを考えたこともありませんでした。
「私にとっての歌は生きている意味。夢を叶える手段で夢そのもの。大好きで、私からは切っても切り離せないもの。・・・・・・冬毬がどうすればいいのかが分からないなら、自分にとって歌と夢がなんなのかを考えるところから始めてみるといいんじゃないかしら」
そう言ってマルガレーテは立ち上がります。スマホを見てみるともう昼休みも終わりの時間、彼女といるとあっという間に時間が過ぎてしまいます。ふわりと吹いた向かい風が前髪を乱していくのが少し鬱陶しく感じました。
「マルガレーテ」
「何?」
先を行く彼女を呼び止めて尋ねてみました。
「私はスクールアイドルになっても良いのでしょうか」
大きな瞳を瞬かせて彼女は笑います。
「私がなれるんだもの、冬毬がなれないなんて事はないわ」
「そう、ですか」
マルガレーテがそう言ってくれるのであれば少し自信が持てます。放課後の練習に向けて私は気持ちを奮起させるのでした。
「知らないわよ」
次の日のお昼休み、例の中庭のベンチで私はマルガレーテに泣きつきましたがしらっとした反応しか返ってきません。
「自分でその道を選んだのならやりきるしかないでしょう。新しい場所に飛び込んでやってみる、とても大切なことよ」
マルガレーテらしい物言いですし私もそう思うのですが、自分のこととなると戸惑いの気持ちの方が強くなってしまいます。
「別に私がそうしたいと思ったわけではないのです。ただきな子先輩に言われたのを断り切れなくて」
私の必死のエクスキューズも虚しく、マルガレーテは我関せずといった様子のまま昼ご飯を食べ続けています。今日の彼女の昼食は珍しくおにぎりです。具に色々な種類があるのを物珍しそうに見ながら選んでいました。
「私、前から思っていたのだけれど」
少しスカートの上に散った海苔を払ってマルガレーテは言います。
「どうして冬毬はそこまでラブライブ!の優勝に拘っているの?そこまでスクールアイドルになる気がないと主張しているのに」
改まって聞かれてしまうと困ってしまいます。それこそ姉者が参加しているから、スクールアイドルの活動を応援したいと思えるようになったからと言うのは簡単ですが、それがスクールアイドルにならない理由には繋がらないのです。
「あなたにとって、歌って何?」
歌。夢を持たない私にとってのそれはなんなのでしょうか。今までそんなことを考えたこともありませんでした。
「私にとっての歌は生きている意味。夢を叶える手段で夢そのもの。大好きで、私からは切っても切り離せないもの。・・・・・・冬毬がどうすればいいのかが分からないなら、自分にとって歌と夢がなんなのかを考えるところから始めてみるといいんじゃないかしら」
そう言ってマルガレーテは立ち上がります。スマホを見てみるともう昼休みも終わりの時間、彼女といるとあっという間に時間が過ぎてしまいます。ふわりと吹いた向かい風が前髪を乱していくのが少し鬱陶しく感じました。
「マルガレーテ」
「何?」
先を行く彼女を呼び止めて尋ねてみました。
「私はスクールアイドルになっても良いのでしょうか」
大きな瞳を瞬かせて彼女は笑います。
「私がなれるんだもの、冬毬がなれないなんて事はないわ」
「そう、ですか」
マルガレーテがそう言ってくれるのであれば少し自信が持てます。放課後の練習に向けて私は気持ちを奮起させるのでした。
72: (アウアウ 2492-410a) 2023/12/14(木) 04:09:14 ID:Db2Ljva2Sa
今日の練習前ミーティングの内容は夏休み後に行われる結ヶ丘文化祭とさらにその後、ラブライブ!に向けてLiella!のパフォーマンスをどのように展開していくかについてでした。
(去年この時期に披露した楽曲がビタミンSUMMER!ですか)
ミーティングをサマリーにまとめつつ思い起こします。映像でしか見たことはありませんが姉者がセンターを務めた他、メイ先輩と四季先輩が初めてステージ上で歌った曲。何より優勝した九人が揃った楽曲であり、伝聞でしかないとは言え私としても思い入れの深い曲になっています。
この曲が一番好きと言って下さるファンの方も多くいらっしゃりなんだか嬉しい気持ちになります。
そうしているうちに練習が始まりました。
「じゃあ十一人になったことだし、気合いを入れていこう!」
「ちょっと待って下さい、何度も申し上げていますがあくまでもマネージャー業務の参考としての参加です。基本的にLiella!は十人ということでお考え下さい」
皆さんが気まずそうな表情をしますが、きちんと釘は刺しておきました。私にも譲れないものがあるので、きちんとした線引きが必要です。
「ともかく練習は一緒にやるんだから、冬毬ちゃんもそんな固くならないで、ね?」
「・・・・・・はい」
かのん先輩に諭されて渋々首肯します。私だって空気を乱したいわけではないですから。
「じゃあ準備体操、ランニングからいくよ」
先を行く千砂都先輩に続いて続々と部室を出て行く中、一瞬姉者と目が合いました。何か言いたげなその表情をあえて無視して私はマルガレーテの背中を追います。
梅雨の時期の屋外練習は貴重なものです。てきぱきと準備体操、ストレッチを済ませて私たちはすぐに郊外へ繰り出しました。
ランニングは基本的に代々木公園を回ることをメインとしています。他の場所ですとどうしても人と車の交通量が多いですからベストな選択と言えるでしょう。
「やっぱり冬毬ちゃんはすごいっすねぇ」
隣を走るきな子先輩に声をかけられます。
「きな子が運動音痴っていうのもあったと思うっすけど、こんなにきちんと走れるなんてそれだけで偉いっすよ」
「そうだな。最初の頃なんて体力空っぽになって、体育の授業の間ずっとへばってたもんな」
「ちょっとメイちゃん!そこまで言わなくていいっす!」
「わりぃわりぃ。でもあの頃のきな子はそれはそれで支えがいがあって可愛かったぞ?」
「うう。なんだか複雑な気分っす」
「メイも最初は授業中うとうとしていて可愛かった。写真撮ってあるけど、見る?」
「だーっ、そんなもの見せるな!ていうか何授業中にそんなことしてるんだよ、ただでさえ四季は色々目を付けられているのに、スマホなんか見つかったら終わりだぞ」
「スマホじゃない。シャーペンに仕込んだ極小カメラ」
「なお悪いわ!」
二年生の先輩方がそんな話をしながら走っている中、実のところ私は黙々と走るので精一杯でした。ついて行く事はできます、ペースを落とさないでいられるのも我ながら高評価です。ですがきな子先輩が思ってくれているほどの余裕はないのでした。
(思った以上に、きついです)
これを毎日こなしている先輩方の基礎体力と私の付け焼き刃の体力では雲泥の差があるのだとまざまざと見せつけられた気分です。本当にこんなことで大丈夫なのでしょうか。
と、後ろから颯爽と私たちを抜き去っていく二人。
「なに話ながら練習してるのよ」
一人はマルガレーテ、まったく息が上がっている様子はなく余裕の表情。同じ一年生ではありますが、私と彼女のキャパシティには途方もない差があることは分かっています。分かっているのですが・・・・・・。
「そうそう。そんなに楽ならもう一週追加しちゃうよ」
こちらも余裕しゃくしゃくと言った風の千砂都先輩。恐ろしい提案に震え上がります。
「うげー。きついからやめてくれよ」
「走るっす、ちゃんと走りますっから!」
「できなくはないけど、so hard」
三人とも嫌そうにしつつも決してやってやれないということはない雰囲気を醸し出しています。さすが二年生、積み重ねたものが違います。そういえば姉者はと思って振り返ってみると。
「どうしましたの、冬毬」
なんとも重たく邪魔そうなスマホをセットした自撮り棒を構えながら走っていました、練習風景の動画用でしょうか。運動会では万年最下位だった姉者からは想像もできないようなスタミナです。
「・・・・・・いえ」
ただただ足を動かすしかない、そう思うばかりでした。
(去年この時期に披露した楽曲がビタミンSUMMER!ですか)
ミーティングをサマリーにまとめつつ思い起こします。映像でしか見たことはありませんが姉者がセンターを務めた他、メイ先輩と四季先輩が初めてステージ上で歌った曲。何より優勝した九人が揃った楽曲であり、伝聞でしかないとは言え私としても思い入れの深い曲になっています。
この曲が一番好きと言って下さるファンの方も多くいらっしゃりなんだか嬉しい気持ちになります。
そうしているうちに練習が始まりました。
「じゃあ十一人になったことだし、気合いを入れていこう!」
「ちょっと待って下さい、何度も申し上げていますがあくまでもマネージャー業務の参考としての参加です。基本的にLiella!は十人ということでお考え下さい」
皆さんが気まずそうな表情をしますが、きちんと釘は刺しておきました。私にも譲れないものがあるので、きちんとした線引きが必要です。
「ともかく練習は一緒にやるんだから、冬毬ちゃんもそんな固くならないで、ね?」
「・・・・・・はい」
かのん先輩に諭されて渋々首肯します。私だって空気を乱したいわけではないですから。
「じゃあ準備体操、ランニングからいくよ」
先を行く千砂都先輩に続いて続々と部室を出て行く中、一瞬姉者と目が合いました。何か言いたげなその表情をあえて無視して私はマルガレーテの背中を追います。
梅雨の時期の屋外練習は貴重なものです。てきぱきと準備体操、ストレッチを済ませて私たちはすぐに郊外へ繰り出しました。
ランニングは基本的に代々木公園を回ることをメインとしています。他の場所ですとどうしても人と車の交通量が多いですからベストな選択と言えるでしょう。
「やっぱり冬毬ちゃんはすごいっすねぇ」
隣を走るきな子先輩に声をかけられます。
「きな子が運動音痴っていうのもあったと思うっすけど、こんなにきちんと走れるなんてそれだけで偉いっすよ」
「そうだな。最初の頃なんて体力空っぽになって、体育の授業の間ずっとへばってたもんな」
「ちょっとメイちゃん!そこまで言わなくていいっす!」
「わりぃわりぃ。でもあの頃のきな子はそれはそれで支えがいがあって可愛かったぞ?」
「うう。なんだか複雑な気分っす」
「メイも最初は授業中うとうとしていて可愛かった。写真撮ってあるけど、見る?」
「だーっ、そんなもの見せるな!ていうか何授業中にそんなことしてるんだよ、ただでさえ四季は色々目を付けられているのに、スマホなんか見つかったら終わりだぞ」
「スマホじゃない。シャーペンに仕込んだ極小カメラ」
「なお悪いわ!」
二年生の先輩方がそんな話をしながら走っている中、実のところ私は黙々と走るので精一杯でした。ついて行く事はできます、ペースを落とさないでいられるのも我ながら高評価です。ですがきな子先輩が思ってくれているほどの余裕はないのでした。
(思った以上に、きついです)
これを毎日こなしている先輩方の基礎体力と私の付け焼き刃の体力では雲泥の差があるのだとまざまざと見せつけられた気分です。本当にこんなことで大丈夫なのでしょうか。
と、後ろから颯爽と私たちを抜き去っていく二人。
「なに話ながら練習してるのよ」
一人はマルガレーテ、まったく息が上がっている様子はなく余裕の表情。同じ一年生ではありますが、私と彼女のキャパシティには途方もない差があることは分かっています。分かっているのですが・・・・・・。
「そうそう。そんなに楽ならもう一週追加しちゃうよ」
こちらも余裕しゃくしゃくと言った風の千砂都先輩。恐ろしい提案に震え上がります。
「うげー。きついからやめてくれよ」
「走るっす、ちゃんと走りますっから!」
「できなくはないけど、so hard」
三人とも嫌そうにしつつも決してやってやれないということはない雰囲気を醸し出しています。さすが二年生、積み重ねたものが違います。そういえば姉者はと思って振り返ってみると。
「どうしましたの、冬毬」
なんとも重たく邪魔そうなスマホをセットした自撮り棒を構えながら走っていました、練習風景の動画用でしょうか。運動会では万年最下位だった姉者からは想像もできないようなスタミナです。
「・・・・・・いえ」
ただただ足を動かすしかない、そう思うばかりでした。
73: (アウアウ 9eaa-410a) 2023/12/14(木) 05:30:31 ID:22.CQq16Sa
またある日のこと。
「うーん、うん?」
練習後、ダンスの合わせをした動画を確認していた千砂都先輩が首をかしげます。
「冬毬ちゃん、ちょっといいかな」
「はい」
作業を中断し、何かと思って近寄ってみるとパソコンの画面には私が踊っている姿が映し出されていました。ループで再生されているのを見ていますが特に問題があるようには思えません。
「あの、何か?」
「うーん。動きに問題があるっていうわけじゃないんだけど、ていうかそれについては練習時間を考えればむしろよくできてる。マルをあげちゃおう」
練習時間を考えれば。何気ないその言葉が重く響きます。
「細かいところは追々でいいんだけれど、何か気づかないかな?」
「特に、何も」
ちょっと腕組みをして考えていた千砂都先輩がパソコンを操作してかのん先輩が踊っているところを映します。
「どうかな、見比べてみて」
「それはまあ・・・・・・切れが違うといいますか。かのん先輩の方が難易度は高いでしょうし」
「そうなんだけど、もっと顔を見て顔!」
言われてじっくりと見返してみます。するとようやく千砂都先輩の言わんとしている事が伝わってきました。
「かのん先輩の方が、楽しそう?」
「そう、それ!ハナマル!」
私はいつものように淡々とステップを踏み手足を動かすばかりでしたが、かのん先輩はとても表情豊かに動き、またそれに合わせて動き全体に華やかな雰囲気が漂っています。
思い返してみればただの練習段階では皆さん真剣な顔で踊っていますが、合わせやリハーサルではこのかのん先輩と同じように笑顔で踊っていたように思えます。
「まだ練習を始めたばかりで難しいとは思うけれど、もう少し意識してみて。それだけでずっと良くなると思うから。この辺はマルガレーテちゃんも似たような課題があるけど」
確かに千砂都先輩の仰っている事は合理的です。スクールアイドルとしてパフォーマンスをするのであれば、何よりファンの皆さんに楽しく見てもらう必要があります。そのためにはまず自分が楽しそうにしなければなりません。
ですが。
「私が本番でステージに立つことはありません。なるべく努力はいたしますが、ニーズのないことにはそこまで注力するべきではないかと」
言ってしまってから、千砂都先輩の顔を見て感じが悪かったと猛省します。鬼塚冬毬、最大の失態です。マネージャーとして部長の千郷先輩との信頼関係は一番大事だというのに、何をしているのでしょうか私は。
「すみません、失言でした。忘れて下さい」
じっと見つめられているとあまりに怖くて震え上がります。部の活動に加入してすぐの頃、すみれ先輩に「千砂都を怒らせたら一番怖いから気をつけなさい」と注意されたのを思い出しました。
「ねえ冬毬ちゃん」
「なんでしょうか」
「そうやって自分の可能性を狭めるの、良くないと私は思うな」
パタンとパソコンを閉じた千砂都先輩は、いつも部の仕事をしている時よりもずっと真剣な表情をしていらっしゃいます。
「自分にはできない、向いてないって思い込んじゃってないかな。確かに冬毬ちゃんはLiella!に入るつもりはないのかもしれない。でも、いつかもしやってみたいと思ったときに、練習でやらなかったことは本番になってもできないよ」
ズシリと胸に突き刺さりました。口ばかり動かして行動しない癖、直そうと思っていたはずなのに、千砂都先輩に直接指摘されたことで何も変わっていない自分が白日の下に晒されます。
私が黙って立ち尽くしていると、千砂都先輩は「えへん」と咳払いをして立ち上がりました。そこにいたのはいつも通りのにこやかで元気な千砂都先輩です。
「ごめん、言い過ぎちゃったかも。でもせっかくならみんなで楽しくダンスしたいって私は思ってるから、ちょっとだけ頑張ってみてね!」
うぃっすーと軽い挨拶と共に千砂都先輩は部室を出て行きました。トットットと軽い足音が離れていくのを確認して、私は近くにあった椅子に座り込みます。
(私の、可能性)
そんなもの、本当にあるのでしょうか。何もかも他の先輩方に後れを取っていて、楽しそうにすることすらできない私に一体何ができるというのでしょう。
そのまま机に突っ伏すと、腐るような重い感情の泥にドップリと浸かっているようでどんどん体が重くなっていきます。本当にこんな下らない自分が、大嫌いです。
「うーん、うん?」
練習後、ダンスの合わせをした動画を確認していた千砂都先輩が首をかしげます。
「冬毬ちゃん、ちょっといいかな」
「はい」
作業を中断し、何かと思って近寄ってみるとパソコンの画面には私が踊っている姿が映し出されていました。ループで再生されているのを見ていますが特に問題があるようには思えません。
「あの、何か?」
「うーん。動きに問題があるっていうわけじゃないんだけど、ていうかそれについては練習時間を考えればむしろよくできてる。マルをあげちゃおう」
練習時間を考えれば。何気ないその言葉が重く響きます。
「細かいところは追々でいいんだけれど、何か気づかないかな?」
「特に、何も」
ちょっと腕組みをして考えていた千砂都先輩がパソコンを操作してかのん先輩が踊っているところを映します。
「どうかな、見比べてみて」
「それはまあ・・・・・・切れが違うといいますか。かのん先輩の方が難易度は高いでしょうし」
「そうなんだけど、もっと顔を見て顔!」
言われてじっくりと見返してみます。するとようやく千砂都先輩の言わんとしている事が伝わってきました。
「かのん先輩の方が、楽しそう?」
「そう、それ!ハナマル!」
私はいつものように淡々とステップを踏み手足を動かすばかりでしたが、かのん先輩はとても表情豊かに動き、またそれに合わせて動き全体に華やかな雰囲気が漂っています。
思い返してみればただの練習段階では皆さん真剣な顔で踊っていますが、合わせやリハーサルではこのかのん先輩と同じように笑顔で踊っていたように思えます。
「まだ練習を始めたばかりで難しいとは思うけれど、もう少し意識してみて。それだけでずっと良くなると思うから。この辺はマルガレーテちゃんも似たような課題があるけど」
確かに千砂都先輩の仰っている事は合理的です。スクールアイドルとしてパフォーマンスをするのであれば、何よりファンの皆さんに楽しく見てもらう必要があります。そのためにはまず自分が楽しそうにしなければなりません。
ですが。
「私が本番でステージに立つことはありません。なるべく努力はいたしますが、ニーズのないことにはそこまで注力するべきではないかと」
言ってしまってから、千砂都先輩の顔を見て感じが悪かったと猛省します。鬼塚冬毬、最大の失態です。マネージャーとして部長の千郷先輩との信頼関係は一番大事だというのに、何をしているのでしょうか私は。
「すみません、失言でした。忘れて下さい」
じっと見つめられているとあまりに怖くて震え上がります。部の活動に加入してすぐの頃、すみれ先輩に「千砂都を怒らせたら一番怖いから気をつけなさい」と注意されたのを思い出しました。
「ねえ冬毬ちゃん」
「なんでしょうか」
「そうやって自分の可能性を狭めるの、良くないと私は思うな」
パタンとパソコンを閉じた千砂都先輩は、いつも部の仕事をしている時よりもずっと真剣な表情をしていらっしゃいます。
「自分にはできない、向いてないって思い込んじゃってないかな。確かに冬毬ちゃんはLiella!に入るつもりはないのかもしれない。でも、いつかもしやってみたいと思ったときに、練習でやらなかったことは本番になってもできないよ」
ズシリと胸に突き刺さりました。口ばかり動かして行動しない癖、直そうと思っていたはずなのに、千砂都先輩に直接指摘されたことで何も変わっていない自分が白日の下に晒されます。
私が黙って立ち尽くしていると、千砂都先輩は「えへん」と咳払いをして立ち上がりました。そこにいたのはいつも通りのにこやかで元気な千砂都先輩です。
「ごめん、言い過ぎちゃったかも。でもせっかくならみんなで楽しくダンスしたいって私は思ってるから、ちょっとだけ頑張ってみてね!」
うぃっすーと軽い挨拶と共に千砂都先輩は部室を出て行きました。トットットと軽い足音が離れていくのを確認して、私は近くにあった椅子に座り込みます。
(私の、可能性)
そんなもの、本当にあるのでしょうか。何もかも他の先輩方に後れを取っていて、楽しそうにすることすらできない私に一体何ができるというのでしょう。
そのまま机に突っ伏すと、腐るような重い感情の泥にドップリと浸かっているようでどんどん体が重くなっていきます。本当にこんな下らない自分が、大嫌いです。
74: (ワッチョイ 790c-410a) 2023/12/16(土) 02:05:25 ID:NVOt4AqI00
「怒られた?」
唐突に声をかけられてびくっと体を跳ね起こします。声のした方を振り返ると四季先輩がいらっしゃいました。
「怒られては・・・・・・はい、怒られました」
あれはお説教と言って相違ないでしょう。一瞬反論しようとしましたが素直に認めました。
「聞いていたのですか」
「忘れ物を取りに来て少しだけ聞こえてきた。まあ聞こうと思えば後から聞き直せるけれど」
「どういう意味ですか」
「この部屋の音声は全て集音機器に録音されている。だから後で私のパソコンで確認ができ」
「今すぐ消して下さい。、それと装置も外して下さい。重大なコンプライアンス違反です!」
四季先輩は無自覚にとんでもないことをするまさにマッドサイエンティストです。おとりとした見た目にだまされてはいけません、Liella!のなかで最も警戒心を持って当たらなければいけない人なのでした。
四季先輩は私の監視の下で機械を回収ししつつ話しかけてきます。
「千砂都先輩はすごい人。意味のない怒り方はしない」
「そう、ですね」
「私も昔同じような注意を受けた。真剣なのはいいことだけれど、もっと楽しく踊ろうって」
機械を鞄にしまうところまでを見届けましたが、まだ別の細工や仕掛けがあるかもしれません。 今度部室の隅から隅まで掃除と精査をしましょう。四季先輩が代わりに鞄から何か別のものを取り出しました。
「これ、飲む?」
ボトルの中にはとろみのある赤い液体が入っています。
「ラズベリーベースのオリジナルドリンク、味の感想が欲しくて。危ないものは入ってないから大丈夫」
「・・・・・・いただきます」
四季先輩を信用していただくことにしました。紙コップに注いでもらい一口だけ口にすると、瞬間、甘酸っぱく深みのある味が舌と鼻を刺激します。
「美味しいです」
「ありがとう、きっとみんな喜ぶ」
「? はい」
Liella!の皆さんに配るつもりなのでしょうか。
「話ちょと戻るけど、千砂都先輩に楽しく踊ってって言われたときに私は考えた。どうして私のダンスは楽しそうに見えないんだろうって」
ラズベリージュースを飲みながら四季先輩の話を傾聴します。
「私はずっと自分が可愛くないって思っていた。だからその分ダンスは格好良く見せなくちゃって思って、そればっかり考えていることに気づいた。でもそれは違うってことにも気づいの、だってLiella!に入る前にメイが言ってくれたことを思い出したから。可愛いって」
メイ先輩がそんなことを。四季先輩がメイ先輩のことを可愛いと言っているのは何度も見ていましたが、その逆を目にしたことはなかったのでちょっとびっくりしました。
「それからはもっと気軽に踊るようにした。もちろん、他のメンバーたちとのリズムは合わせるけれど、変に気負うのは止めた。そうしたら自分でも分かるくらいずっと良いダンスができるようになって、もっとスクールアイドルの活動が楽しくなった」
四季先輩はダンスにかけては千砂都先輩に次ぐ実力のある方です。そんな人の実体験にもとづく言葉はとても励みになります。
「自由に踊って、冬毬ちゃん。何も難しいことは考えなくて良い。ステージの上での自分は最高だって、そう思い込めばいい」
「自分が最高・・・・・・」
まだまだ未熟者の私にそんな勘違いが許されるのでしょうか。
「大丈夫。冬毬ちゃんのことを可愛いと思ってくれる人はたくさんいる。私も、千砂都先輩も、マルガレーテちゃんも。何より夏美ちゃんが」
姉者。そんなことを思ってくれているでしょうか。
「また迷っていることがあったら教えて。何でも楽しく思える装置を作っておくから」
「そんな不気味なものの開発は今すぐに中止してください」
「冗談。冬毬ちゃん、ファイトー」
そう言って四季先輩は帰っていきました。本当にただの冗談なのか、信じ切れないところが怖いです。自分も帰ろうと思い荷物をまとめていると四季先輩からメッセージが届いていました。
『言うのを忘れてた』
『さっきのジュース、クワガタのエサの試作品だから、何か気づいたらレポートにして送って欲しい』
『よろしく』
みんなとはクワガタのことだったのですか。ふと自分のお下げを両手で持って上にして鏡の前に立ってみます。
「クワガタ」
一、二秒そうしていてあまりにバカバカしいので頭をぶんぶんと振って元に戻します。こんなの最低です、あとでメイ先輩に苦情のメールを送っておこうと強く心に決めました。
唐突に声をかけられてびくっと体を跳ね起こします。声のした方を振り返ると四季先輩がいらっしゃいました。
「怒られては・・・・・・はい、怒られました」
あれはお説教と言って相違ないでしょう。一瞬反論しようとしましたが素直に認めました。
「聞いていたのですか」
「忘れ物を取りに来て少しだけ聞こえてきた。まあ聞こうと思えば後から聞き直せるけれど」
「どういう意味ですか」
「この部屋の音声は全て集音機器に録音されている。だから後で私のパソコンで確認ができ」
「今すぐ消して下さい。、それと装置も外して下さい。重大なコンプライアンス違反です!」
四季先輩は無自覚にとんでもないことをするまさにマッドサイエンティストです。おとりとした見た目にだまされてはいけません、Liella!のなかで最も警戒心を持って当たらなければいけない人なのでした。
四季先輩は私の監視の下で機械を回収ししつつ話しかけてきます。
「千砂都先輩はすごい人。意味のない怒り方はしない」
「そう、ですね」
「私も昔同じような注意を受けた。真剣なのはいいことだけれど、もっと楽しく踊ろうって」
機械を鞄にしまうところまでを見届けましたが、まだ別の細工や仕掛けがあるかもしれません。 今度部室の隅から隅まで掃除と精査をしましょう。四季先輩が代わりに鞄から何か別のものを取り出しました。
「これ、飲む?」
ボトルの中にはとろみのある赤い液体が入っています。
「ラズベリーベースのオリジナルドリンク、味の感想が欲しくて。危ないものは入ってないから大丈夫」
「・・・・・・いただきます」
四季先輩を信用していただくことにしました。紙コップに注いでもらい一口だけ口にすると、瞬間、甘酸っぱく深みのある味が舌と鼻を刺激します。
「美味しいです」
「ありがとう、きっとみんな喜ぶ」
「? はい」
Liella!の皆さんに配るつもりなのでしょうか。
「話ちょと戻るけど、千砂都先輩に楽しく踊ってって言われたときに私は考えた。どうして私のダンスは楽しそうに見えないんだろうって」
ラズベリージュースを飲みながら四季先輩の話を傾聴します。
「私はずっと自分が可愛くないって思っていた。だからその分ダンスは格好良く見せなくちゃって思って、そればっかり考えていることに気づいた。でもそれは違うってことにも気づいの、だってLiella!に入る前にメイが言ってくれたことを思い出したから。可愛いって」
メイ先輩がそんなことを。四季先輩がメイ先輩のことを可愛いと言っているのは何度も見ていましたが、その逆を目にしたことはなかったのでちょっとびっくりしました。
「それからはもっと気軽に踊るようにした。もちろん、他のメンバーたちとのリズムは合わせるけれど、変に気負うのは止めた。そうしたら自分でも分かるくらいずっと良いダンスができるようになって、もっとスクールアイドルの活動が楽しくなった」
四季先輩はダンスにかけては千砂都先輩に次ぐ実力のある方です。そんな人の実体験にもとづく言葉はとても励みになります。
「自由に踊って、冬毬ちゃん。何も難しいことは考えなくて良い。ステージの上での自分は最高だって、そう思い込めばいい」
「自分が最高・・・・・・」
まだまだ未熟者の私にそんな勘違いが許されるのでしょうか。
「大丈夫。冬毬ちゃんのことを可愛いと思ってくれる人はたくさんいる。私も、千砂都先輩も、マルガレーテちゃんも。何より夏美ちゃんが」
姉者。そんなことを思ってくれているでしょうか。
「また迷っていることがあったら教えて。何でも楽しく思える装置を作っておくから」
「そんな不気味なものの開発は今すぐに中止してください」
「冗談。冬毬ちゃん、ファイトー」
そう言って四季先輩は帰っていきました。本当にただの冗談なのか、信じ切れないところが怖いです。自分も帰ろうと思い荷物をまとめていると四季先輩からメッセージが届いていました。
『言うのを忘れてた』
『さっきのジュース、クワガタのエサの試作品だから、何か気づいたらレポートにして送って欲しい』
『よろしく』
みんなとはクワガタのことだったのですか。ふと自分のお下げを両手で持って上にして鏡の前に立ってみます。
「クワガタ」
一、二秒そうしていてあまりにバカバカしいので頭をぶんぶんと振って元に戻します。こんなの最低です、あとでメイ先輩に苦情のメールを送っておこうと強く心に決めました。
76: (アウアウ 134f-410a) 2023/12/19(火) 18:50:35 ID:dlqI7QB6Sa
その夜、宿題を終わらせて飼っているクラゲをぼうっと眺めていると、姉者がひんひんと泣きながら私の部屋に転がり込んできました。
「とまり~助けてなんですの」
「どうしました姉者」
見ると右手には数学の教科書、左手に問題集を持っています。
「このままだとまずいんですの~。期末テストで赤点を取ったら夏休みは補修確定、練習も合宿もままならなくなりますの!」
相変わらず成績はギリギリの低空飛行らしい姉者、よく可可先輩や恋先輩に勉強を教えてもらっているのを見かけていましたが、ついに来るところまで来ましたか。
「姉者、私は一年生です。その単元までの学習はしていないのですが」
「冬毬ならきっとすぐ分かるんですの!取りあえず明日までにこれは終わらせないとまずいんですの!」
「でしたらいつものように先輩方に質問すれば良いのでは」
「今日三年生は恋先輩の家でお泊まりゲーム大会をしていますの、邪魔はできないんですの」
そう言えばそんな話をしていたような気がします。というか、三年生の皆さんはそんなことをしている余裕はあるのでしょうか。卒業後の五人の様子を思い浮かべてみて・・・・・・全員なんとかなっているイメージしかありません。なんでしょうか、あのハイスペックな方々は。
「というわけで、ご協力いただきますの」
姉者には三年生の爪の垢を煎じて飲ませるべきかもしれません。
「はあ。分かったので見せて下さい」
幸いなことに数学は私の得意かつ好きな教科ですので未履修であっても割とすぐに理解できます。だからこそ姉者も頼ってきたのでしょうが。少しインプットの時間をいただき、姉者がどこでつまずいているのかをヒアリングした後に解き方の手順を教えます。
「つまりこの項がこうなって・・・・・・こうですの?」
「正解です。さすが姉者」
姉者は決して地頭が悪いというわけではないのですが、要領があまりよくないので証明問題の順番や数式の計算が雑でつまらないミスが多いのが特徴です。間違った解法を覚えたままゴリ押ししている時なんて目も当てられない惨状が広がっています。
ですがきちんと懇切丁寧に教えていけば、最終的には解けるようになってくれるので教え甲斐はあります。
「冬毬のおかげで助かりましたの。明日はジュースをおごってあげますの」
「どういたしまして」
安心感からか蕩けた表情をしている姉者はとても可愛らしく、思わずヨシヨシと頭を撫でてしまいました。
「あの、姉者」
「なんですの?」
そんな可愛い姉者を見ていると、放課後の四季先輩との会話が思い出されてどうしても聞きたくなってしまいます。
私はスクールアイドルに足るほど可愛いのかを。
「何を黙っていますの、タイムイズマニーなんですの~」
しかしいざ尋ねようとすると恥ずかしくて口が重くなってしまいます。そんな私の頬をツンツンといじって催促してくる姉者、苦し紛れに私は別の質問をしました。
「姉者は、どうしてスクールアイドルになろうと思ったのですか?」
「藪から棒になんですの。まあ別にお答えしていいですけれど」
天井を見上げて姉者は話し始めました。
「とまり~助けてなんですの」
「どうしました姉者」
見ると右手には数学の教科書、左手に問題集を持っています。
「このままだとまずいんですの~。期末テストで赤点を取ったら夏休みは補修確定、練習も合宿もままならなくなりますの!」
相変わらず成績はギリギリの低空飛行らしい姉者、よく可可先輩や恋先輩に勉強を教えてもらっているのを見かけていましたが、ついに来るところまで来ましたか。
「姉者、私は一年生です。その単元までの学習はしていないのですが」
「冬毬ならきっとすぐ分かるんですの!取りあえず明日までにこれは終わらせないとまずいんですの!」
「でしたらいつものように先輩方に質問すれば良いのでは」
「今日三年生は恋先輩の家でお泊まりゲーム大会をしていますの、邪魔はできないんですの」
そう言えばそんな話をしていたような気がします。というか、三年生の皆さんはそんなことをしている余裕はあるのでしょうか。卒業後の五人の様子を思い浮かべてみて・・・・・・全員なんとかなっているイメージしかありません。なんでしょうか、あのハイスペックな方々は。
「というわけで、ご協力いただきますの」
姉者には三年生の爪の垢を煎じて飲ませるべきかもしれません。
「はあ。分かったので見せて下さい」
幸いなことに数学は私の得意かつ好きな教科ですので未履修であっても割とすぐに理解できます。だからこそ姉者も頼ってきたのでしょうが。少しインプットの時間をいただき、姉者がどこでつまずいているのかをヒアリングした後に解き方の手順を教えます。
「つまりこの項がこうなって・・・・・・こうですの?」
「正解です。さすが姉者」
姉者は決して地頭が悪いというわけではないのですが、要領があまりよくないので証明問題の順番や数式の計算が雑でつまらないミスが多いのが特徴です。間違った解法を覚えたままゴリ押ししている時なんて目も当てられない惨状が広がっています。
ですがきちんと懇切丁寧に教えていけば、最終的には解けるようになってくれるので教え甲斐はあります。
「冬毬のおかげで助かりましたの。明日はジュースをおごってあげますの」
「どういたしまして」
安心感からか蕩けた表情をしている姉者はとても可愛らしく、思わずヨシヨシと頭を撫でてしまいました。
「あの、姉者」
「なんですの?」
そんな可愛い姉者を見ていると、放課後の四季先輩との会話が思い出されてどうしても聞きたくなってしまいます。
私はスクールアイドルに足るほど可愛いのかを。
「何を黙っていますの、タイムイズマニーなんですの~」
しかしいざ尋ねようとすると恥ずかしくて口が重くなってしまいます。そんな私の頬をツンツンといじって催促してくる姉者、苦し紛れに私は別の質問をしました。
「姉者は、どうしてスクールアイドルになろうと思ったのですか?」
「藪から棒になんですの。まあ別にお答えしていいですけれど」
天井を見上げて姉者は話し始めました。
77: (アウアウ 134f-410a) 2023/12/19(火) 18:51:08 ID:dlqI7QB6Sa
「冬毬も知っている通り、私は昔からいろいろなことに挑戦しては失敗してきましたの。何をやっても向いていないと思わされるばかりで、夢のまた夢といったことばかり、最終的には将来のためにマニーを貯めるということしか思いつきませんでしたの」
まあ、それも上手くいっているとは言いがたかったんですけれど。そう言って姉者は苦笑いしつつも懐かしそうな顔をします。
「結ヶ丘に入学したころの私の目標はエルチューブの再生数を増やして収益化を図り、マニーをゲットすることでしたの。ぶっちゃけ現役女子高生の生活を動画化すればチョロいもんだと思っていたんですけれど、やってみると大変な上に数字も出づらくて悩んでいて。そこで出会ったのがLiella!でしたの」
なんと狡く安直な考え、ですがそれを実際にやってみるという行動力はさすが姉者と言ったところ。尊敬に値しますし見習っていきたいです。
「当時のLiella!は昨年優勝のサニーパッションに名指しで評価されたこともあり、今年の優勝候補として持て囃されていましたの。ですが新入生を迎えて出場したフェスでは謎の中学生、マルガレーテに負けたことで評価が一転二転するなどとにかく話題に事欠かないグループ。噂の源泉はマニーの源泉、私はLiella!を利用して再生数を伸ばすことを考えたんですの」
この辺りは春休みに調査したのと相違ない話です。姉者が最初からスクールアイドルに参加するつもりではなかったということもメイ先輩たちから聞いています。
「その過程できな子たちと北海道に行くことになったんですけれど、その時にきな子たちのことを・・・・・・まあ、応援したくなったというのが一番のきっかけなんですの」
まあ、それも上手くいっているとは言いがたかったんですけれど。そう言って姉者は苦笑いしつつも懐かしそうな顔をします。
「結ヶ丘に入学したころの私の目標はエルチューブの再生数を増やして収益化を図り、マニーをゲットすることでしたの。ぶっちゃけ現役女子高生の生活を動画化すればチョロいもんだと思っていたんですけれど、やってみると大変な上に数字も出づらくて悩んでいて。そこで出会ったのがLiella!でしたの」
なんと狡く安直な考え、ですがそれを実際にやってみるという行動力はさすが姉者と言ったところ。尊敬に値しますし見習っていきたいです。
「当時のLiella!は昨年優勝のサニーパッションに名指しで評価されたこともあり、今年の優勝候補として持て囃されていましたの。ですが新入生を迎えて出場したフェスでは謎の中学生、マルガレーテに負けたことで評価が一転二転するなどとにかく話題に事欠かないグループ。噂の源泉はマニーの源泉、私はLiella!を利用して再生数を伸ばすことを考えたんですの」
この辺りは春休みに調査したのと相違ない話です。姉者が最初からスクールアイドルに参加するつもりではなかったということもメイ先輩たちから聞いています。
「その過程できな子たちと北海道に行くことになったんですけれど、その時にきな子たちのことを・・・・・・まあ、応援したくなったというのが一番のきっかけなんですの」
78: (ワッチョイ 128d-dab3) 2023/12/21(木) 07:18:01 ID:C9rTcNUs00
「どんなことがあったのですか」
尋ねると姉者はしかめっ面をします。
「珍しくずいぶんずけずけと聞いてくるんですの。何かあったんですの?」
「・・・・・・少し思うところがありまして」
ふわりふわりと、水槽の中でクラゲが踊ります。拠り所も目的もないはずなのにどこか楽しげに、ゆらりゆれて。姉者が私の顔をのぞき込みます。
「何か悩んでいることがあるなら言って欲しいんですの。これでも私は冬毬の姉ですの」
いっそ全部話してしまいたい。可愛くないドロドロとした自分の感情を洗いざらい吐き出してしまいたい、そんな気持ちを私はぐっと飲み干します。
「そうですね、強いて言うのであれば姉者の話の続きが気になって仕方がないというのが悩みです」
「むう。なんか違うんですの~」
頬を膨らませつつも姉者は話を再開してくれました。
「集中して練習しただけあってきな子たちのパフォーマンスはとても成長しましたの。目標にしていた一年生の時の先輩たちを越えるというのも、決して実現不可能な夢物語でないところまで。ですがそこで千砂都先輩からより高度な課題を出されてしまって、三人揃って頭を抱えてましたの」
なんとも想像しやすい光景です。千砂都先輩はこと練習にかけては非常に厳しくストイックな方、先日のランニングのことを思い出しました。
「そんな三人を間近で見ていて私は思うことがありましたの」
「なんですか」
そこで姉者はにいっとちょっと嫌な笑みを浮かべました。
「腹が立つなって思ったんですの!」
尋ねると姉者はしかめっ面をします。
「珍しくずいぶんずけずけと聞いてくるんですの。何かあったんですの?」
「・・・・・・少し思うところがありまして」
ふわりふわりと、水槽の中でクラゲが踊ります。拠り所も目的もないはずなのにどこか楽しげに、ゆらりゆれて。姉者が私の顔をのぞき込みます。
「何か悩んでいることがあるなら言って欲しいんですの。これでも私は冬毬の姉ですの」
いっそ全部話してしまいたい。可愛くないドロドロとした自分の感情を洗いざらい吐き出してしまいたい、そんな気持ちを私はぐっと飲み干します。
「そうですね、強いて言うのであれば姉者の話の続きが気になって仕方がないというのが悩みです」
「むう。なんか違うんですの~」
頬を膨らませつつも姉者は話を再開してくれました。
「集中して練習しただけあってきな子たちのパフォーマンスはとても成長しましたの。目標にしていた一年生の時の先輩たちを越えるというのも、決して実現不可能な夢物語でないところまで。ですがそこで千砂都先輩からより高度な課題を出されてしまって、三人揃って頭を抱えてましたの」
なんとも想像しやすい光景です。千砂都先輩はこと練習にかけては非常に厳しくストイックな方、先日のランニングのことを思い出しました。
「そんな三人を間近で見ていて私は思うことがありましたの」
「なんですか」
そこで姉者はにいっとちょっと嫌な笑みを浮かべました。
「腹が立つなって思ったんですの!」
79: (ワッチョイ 128d-dab3) 2023/12/21(木) 07:20:43 ID:C9rTcNUs00
「腹が立つ、ですか?」
予想外の言葉に戸惑います。
「ええ。確かに千砂都先輩が出した課題はあの時の三人にはまだ難しいものでしたの。ですけれどそれは、着実に成長して夢へ進んでいたことの証明なんですの。夢をかなえるあと一歩のところまで来ていて立ち止まっているなんて・・・・・・なにをやっても上手くいかなかった私がバカみたいで、それが無性に腹が立って。だから発破をかける意味も込めて言ってやったんですの」
いつしかとても挑戦的な笑顔になっている姉者。
「諦めるくらいなら、夢なんて語って欲しくないってね」
それは、ずっと夢を探し続けてきた姉者にお似合いな〇し文句と言えました。
「それからは何となく、三人の熱に当てられて練習に参加するようになってましたの。Liella!に入ったわけではないので、今の冬毬みたいな感じなんですの」
「姉者にもそんな時期が合ったのですね」
「冬毬とお揃いなんですの~」
嬉しそうに笑う姉者。状況は確かに似ていますが動機や経緯が全く違うのではと思いつつ私も頬を緩めてしまいます。
「そのあと、たまたま家族の用事でいらしていたかのん先輩にLiella!に勧誘されたのが、直接的な入った理由なんですの。きな子には意地を張って私には夢なんかないと言っていたのを聞かれてしまっていて」
『夢がないなら、みんなと一緒に同じ夢を追いかけてみない?』
『私も色々挫折してきたよ。結ヶ丘の音楽科に入るっていう夢を持っていたけどそれは失敗しちゃって』
『でも、可可ちゃんやみんなが教えてくれた。みんなとなら頑張れるよって』
『お互い欠けてるところや届かないところを補い合って、一緒に夢を追いかけることはできるよって』
「なーんて言われて。気づけばLiella!に入ることになっていたんですの」
「そして歌ったのが、ビタミンSUMMER!というわけなんですね」
「そうですの、さいっこうのライブだったんですの」
ビタミンSUMMER!のライブの様子は何度も繰り返し目にしてきたので分かります。この上なく楽しそうで充実した姉者の姿、他のメンバーとの絆を確かに感じる映像でした。
「・・・・・・私には本当に夢はなかったんですの。強いて言うなら、夢を追いかけることをずっと夢見ていたんですの。何をしたらいいのかも分からなかった私に、答えをくれたきな子たちとかのん先輩には頭が上がらないんですの」
予想外の言葉に戸惑います。
「ええ。確かに千砂都先輩が出した課題はあの時の三人にはまだ難しいものでしたの。ですけれどそれは、着実に成長して夢へ進んでいたことの証明なんですの。夢をかなえるあと一歩のところまで来ていて立ち止まっているなんて・・・・・・なにをやっても上手くいかなかった私がバカみたいで、それが無性に腹が立って。だから発破をかける意味も込めて言ってやったんですの」
いつしかとても挑戦的な笑顔になっている姉者。
「諦めるくらいなら、夢なんて語って欲しくないってね」
それは、ずっと夢を探し続けてきた姉者にお似合いな〇し文句と言えました。
「それからは何となく、三人の熱に当てられて練習に参加するようになってましたの。Liella!に入ったわけではないので、今の冬毬みたいな感じなんですの」
「姉者にもそんな時期が合ったのですね」
「冬毬とお揃いなんですの~」
嬉しそうに笑う姉者。状況は確かに似ていますが動機や経緯が全く違うのではと思いつつ私も頬を緩めてしまいます。
「そのあと、たまたま家族の用事でいらしていたかのん先輩にLiella!に勧誘されたのが、直接的な入った理由なんですの。きな子には意地を張って私には夢なんかないと言っていたのを聞かれてしまっていて」
『夢がないなら、みんなと一緒に同じ夢を追いかけてみない?』
『私も色々挫折してきたよ。結ヶ丘の音楽科に入るっていう夢を持っていたけどそれは失敗しちゃって』
『でも、可可ちゃんやみんなが教えてくれた。みんなとなら頑張れるよって』
『お互い欠けてるところや届かないところを補い合って、一緒に夢を追いかけることはできるよって』
「なーんて言われて。気づけばLiella!に入ることになっていたんですの」
「そして歌ったのが、ビタミンSUMMER!というわけなんですね」
「そうですの、さいっこうのライブだったんですの」
ビタミンSUMMER!のライブの様子は何度も繰り返し目にしてきたので分かります。この上なく楽しそうで充実した姉者の姿、他のメンバーとの絆を確かに感じる映像でした。
「・・・・・・私には本当に夢はなかったんですの。強いて言うなら、夢を追いかけることをずっと夢見ていたんですの。何をしたらいいのかも分からなかった私に、答えをくれたきな子たちとかのん先輩には頭が上がらないんですの」
80: (ワッチョイ 128d-dab3) 2023/12/21(木) 07:25:43 ID:C9rTcNUs00
そう締めくくった姉者は「うーん」と長い伸びをします。
「たくさん話したら疲れましたの。冬毬、視聴料として何か飲み物が欲しいんですの」
「承知いたしました。何かご希望はございますか姉者」
「ではカフェラテを注文いたしますの、砂糖もよろしくですの~」
「分かりました。では少々お待ちください」
立ち上がり台所に向かいます。お湯を沸かしながら姉者の話を反芻し、元はと言えば話を逸らすために聞いた話ですが、とても有意義で良い話を聞かせていたことに感謝します。
やはり私と姉者は違うということがよく分かりました。がむしゃらにたくさんの夢を見てきた姉者と、それを傍観するばかりで夢を見てこようともしてこなかった私。
姉者のように夢を追いかける資格が、私にあるとは思えませんでした。
『少しでもスクールアイドルとしての活動に興味があるなら、冬毬ちゃんにも一歩を踏み出して欲しいっす!』
『せっかくならみんなで楽しくダンスしたいって私は思ってるから、ちょっとだけ頑張ってみてね!』
『自由に踊って、冬毬ちゃん。何も難しいことは考えなくて良い。ステージの上での自分は最高だって、そう思い込めばいい』
期待された分はなんとか応えてみせます。ですが、私にできるのは精々そこまでです。その後はマネージャーとしての本分に戻りましょう。
ほんの少しでも皆さんと夢を見られた、それだけで満足です。
「たくさん話したら疲れましたの。冬毬、視聴料として何か飲み物が欲しいんですの」
「承知いたしました。何かご希望はございますか姉者」
「ではカフェラテを注文いたしますの、砂糖もよろしくですの~」
「分かりました。では少々お待ちください」
立ち上がり台所に向かいます。お湯を沸かしながら姉者の話を反芻し、元はと言えば話を逸らすために聞いた話ですが、とても有意義で良い話を聞かせていたことに感謝します。
やはり私と姉者は違うということがよく分かりました。がむしゃらにたくさんの夢を見てきた姉者と、それを傍観するばかりで夢を見てこようともしてこなかった私。
姉者のように夢を追いかける資格が、私にあるとは思えませんでした。
『少しでもスクールアイドルとしての活動に興味があるなら、冬毬ちゃんにも一歩を踏み出して欲しいっす!』
『せっかくならみんなで楽しくダンスしたいって私は思ってるから、ちょっとだけ頑張ってみてね!』
『自由に踊って、冬毬ちゃん。何も難しいことは考えなくて良い。ステージの上での自分は最高だって、そう思い込めばいい』
期待された分はなんとか応えてみせます。ですが、私にできるのは精々そこまでです。その後はマネージャーとしての本分に戻りましょう。
ほんの少しでも皆さんと夢を見られた、それだけで満足です。
81: (ワッチョイ 128d-dab3) 2023/12/21(木) 07:26:30 ID:C9rTcNUs00
「でも今は、私にも夢があるんですの。冬毬」
85: (アウアウ 1d36-207a) 2023/12/28(木) 05:06:01 ID:aUtY9bpUSa
なんとか期末試験を乗り越え――主に姉者がですが――夏休みに入る前に練習風景を撮影した動画をアップロードしました。
練習前に部室のノートパソコンでその確認をしつつ、ちらほらとやってくる感想を見ているうちに気になるコメントを見てしまいました。
『なんかマルガレーテの他にも増えてない?』
『この子誰?』
数はそう多くありませんが私が映っている場面もいくつかあったのでそれらに反応したのでしょう。今までは映っていてもカットしていたので、ネット上のファンからしてみれば唐突な登場に驚くのも無理はありません。
何かしらの形で自己紹介しておくべきでしょうか。そう思った矢先にまたコメントが上がります。
『オニナッツ妹らしいよ』
『なんかどんどん増えてくよね。五人の時が一番良かったのに』
『私は九人の方が良いかな。優勝メンバーだし実力もどんどん上がってる』
『新入生の子も悪くないけど、これならLiella!も連覇は無理かなぁ』
「可可もういる?撮影の準備がしたいんだけど・・・・・・って冬毬しかいないのね。おかしいわね、先に部室に行ってるって言っていたのに」
急にすみれ先輩が部室に入ってきたので私は慌ててノートパソコンを閉じます。いずれ見ることにはなるかもしれませんが、今は見られたくないコメントでした。
より正確に言うのであれば、このコメントを読んでいるところを見られたくありませんでした。
怪訝そうな表情をしてすみれ先輩が尋ねてきます。
「何をそんなに血相を変えてるのよ。なんか変なことでも、あっ」
そこでしたり顔をしたすみれ先輩。
「ああそういう。冬毬もそういうタイプだったかぁ、うんうん。でもそのパソコンで変なサイトとか開くもんじゃないわよ、見なかったことにしといてあげるから」
「ち、違います!」
間違いなく何かとんでもない勘違いをされています。
「別に怒んないわよ。やっぱ真面目な子ほどつい気になっちゃう時もあるものなのかしらね。ほら、早く消しときなさい。履歴もね」
にやにやとしているすみれ先輩をちょっと恨みがましく見つつも私は再びノートパソコンを開き、動画サイトを閉じました。全く見ているものは違うのですが!
「まあそれはさておき。今日は夏休みになる前に合わせの動画を撮るのよね、冬毬の調子どんな感じ?」
悪くない、そう答えようとしたときに先ほどのコメントが脳裏をちらつきました。
『Liella!も連覇は無理かなぁ』
「・・・・・・あまり良くはないないです。十人での撮影を推奨します」
そう言うとすみれ先輩はとても心配そうな顔をします。
「え、大丈夫なの?体調とか悪い?」
すっと歩み寄ってきておでこをちょんと付けられます。少しびっくりして思わず硬直してしまいました。
「熱はなさそうね。だるかったりするの?」
「いえ。体調的には問題はないと申しますか」
そう言いかけたところでドアの方から叫び声が上がりました。
練習前に部室のノートパソコンでその確認をしつつ、ちらほらとやってくる感想を見ているうちに気になるコメントを見てしまいました。
『なんかマルガレーテの他にも増えてない?』
『この子誰?』
数はそう多くありませんが私が映っている場面もいくつかあったのでそれらに反応したのでしょう。今までは映っていてもカットしていたので、ネット上のファンからしてみれば唐突な登場に驚くのも無理はありません。
何かしらの形で自己紹介しておくべきでしょうか。そう思った矢先にまたコメントが上がります。
『オニナッツ妹らしいよ』
『なんかどんどん増えてくよね。五人の時が一番良かったのに』
『私は九人の方が良いかな。優勝メンバーだし実力もどんどん上がってる』
『新入生の子も悪くないけど、これならLiella!も連覇は無理かなぁ』
「可可もういる?撮影の準備がしたいんだけど・・・・・・って冬毬しかいないのね。おかしいわね、先に部室に行ってるって言っていたのに」
急にすみれ先輩が部室に入ってきたので私は慌ててノートパソコンを閉じます。いずれ見ることにはなるかもしれませんが、今は見られたくないコメントでした。
より正確に言うのであれば、このコメントを読んでいるところを見られたくありませんでした。
怪訝そうな表情をしてすみれ先輩が尋ねてきます。
「何をそんなに血相を変えてるのよ。なんか変なことでも、あっ」
そこでしたり顔をしたすみれ先輩。
「ああそういう。冬毬もそういうタイプだったかぁ、うんうん。でもそのパソコンで変なサイトとか開くもんじゃないわよ、見なかったことにしといてあげるから」
「ち、違います!」
間違いなく何かとんでもない勘違いをされています。
「別に怒んないわよ。やっぱ真面目な子ほどつい気になっちゃう時もあるものなのかしらね。ほら、早く消しときなさい。履歴もね」
にやにやとしているすみれ先輩をちょっと恨みがましく見つつも私は再びノートパソコンを開き、動画サイトを閉じました。全く見ているものは違うのですが!
「まあそれはさておき。今日は夏休みになる前に合わせの動画を撮るのよね、冬毬の調子どんな感じ?」
悪くない、そう答えようとしたときに先ほどのコメントが脳裏をちらつきました。
『Liella!も連覇は無理かなぁ』
「・・・・・・あまり良くはないないです。十人での撮影を推奨します」
そう言うとすみれ先輩はとても心配そうな顔をします。
「え、大丈夫なの?体調とか悪い?」
すっと歩み寄ってきておでこをちょんと付けられます。少しびっくりして思わず硬直してしまいました。
「熱はなさそうね。だるかったりするの?」
「いえ。体調的には問題はないと申しますか」
そう言いかけたところでドアの方から叫び声が上がりました。
86: (アウアウ 8e55-207a) 2023/12/28(木) 05:22:57 ID:sZeP/WPMSa
驚いて私とすみれ先輩がそちらを見るとワナワナと震えている可可先輩がいらっしゃいました。
「ななな、何をやってやがるデスかこのグソクムシは!こともあろうに冬毬に手を出すとは許されません!」
「ちょっ、可可。あんた何か勘違いしてない?」
焦った様子のすみれ先輩が取りなそうとするも可可先輩のヒートアップは止まりません。
「いいえ言い訳は聞きませんよグソクムシ、ただでさえ普段から下級生から手紙やプレゼントをもらっているのは見逃しているというのに、部内でまでそんなことをするとは。出るところに出やがれデス!かーのーんー!」
「ああもう、だから勘違いだって言ってるでしょう!」
もうすぐ皆さんいらっしゃるというのに、バタバタと出て行った二人をあっけにとられつつ見送ります。場面だけ見て勘違いするとはなんとも似たもの同士というか、お似合いと言いますか。まあ、仲が良いのはいいことですが。
今度は誰にも見られないように自分のスマホで動画サイトを開きました。先ほどよりもコメントが増えていて大半は肯定的なものなのですが、良くない反応もそれなりにはあります。SNSなんてそんなものだとは思いますが、やはり一度気になってしまうと目についてしまうものです。
姉者たち二年生もとても悩んだという話は聞きましたが、最終的には優勝にたどり着くことができましたし、マルガレーテも実力だけ見ればそれに匹敵する存在。ただ私だけが一歩も二歩も遅れているです。
Liella!の夢は誰もたどり着けなかった二年連続の優勝です。あの日九人で誓った光景も、私自身がそれを叶える策としてマルガレーテを勧誘した日のことも昨日の事のように思い出せました。
(皆さんの夢を叶える確率を最も高める合理的な方法は何かなどと、考えるまでもないこと・・・・・・なのですが)
いいのでしょうか。
今になってほんの一ヶ月にも満たない日々が走馬灯のように思い起こされます。
一緒に夢を見ようと誘ってくれる人がいて。
可能性を捨ててはいけないと叱咤してくれる人がいて。
励ましてくれて可愛いとも言ってくれる人がいて。
今こうして一人でいるから認められます。楽しかったのです。姉者やきな子先輩、かのん先輩たちやマルガレーテと形だけでも同じ夢を追いかけていられる環境が、とても。
自分一人では届かない世界に飛び込めたことが、本当に夢のようでした。
なのに、本当にこれでいいのでしょうか。
「ななな、何をやってやがるデスかこのグソクムシは!こともあろうに冬毬に手を出すとは許されません!」
「ちょっ、可可。あんた何か勘違いしてない?」
焦った様子のすみれ先輩が取りなそうとするも可可先輩のヒートアップは止まりません。
「いいえ言い訳は聞きませんよグソクムシ、ただでさえ普段から下級生から手紙やプレゼントをもらっているのは見逃しているというのに、部内でまでそんなことをするとは。出るところに出やがれデス!かーのーんー!」
「ああもう、だから勘違いだって言ってるでしょう!」
もうすぐ皆さんいらっしゃるというのに、バタバタと出て行った二人をあっけにとられつつ見送ります。場面だけ見て勘違いするとはなんとも似たもの同士というか、お似合いと言いますか。まあ、仲が良いのはいいことですが。
今度は誰にも見られないように自分のスマホで動画サイトを開きました。先ほどよりもコメントが増えていて大半は肯定的なものなのですが、良くない反応もそれなりにはあります。SNSなんてそんなものだとは思いますが、やはり一度気になってしまうと目についてしまうものです。
姉者たち二年生もとても悩んだという話は聞きましたが、最終的には優勝にたどり着くことができましたし、マルガレーテも実力だけ見ればそれに匹敵する存在。ただ私だけが一歩も二歩も遅れているです。
Liella!の夢は誰もたどり着けなかった二年連続の優勝です。あの日九人で誓った光景も、私自身がそれを叶える策としてマルガレーテを勧誘した日のことも昨日の事のように思い出せました。
(皆さんの夢を叶える確率を最も高める合理的な方法は何かなどと、考えるまでもないこと・・・・・・なのですが)
いいのでしょうか。
今になってほんの一ヶ月にも満たない日々が走馬灯のように思い起こされます。
一緒に夢を見ようと誘ってくれる人がいて。
可能性を捨ててはいけないと叱咤してくれる人がいて。
励ましてくれて可愛いとも言ってくれる人がいて。
今こうして一人でいるから認められます。楽しかったのです。姉者やきな子先輩、かのん先輩たちやマルガレーテと形だけでも同じ夢を追いかけていられる環境が、とても。
自分一人では届かない世界に飛び込めたことが、本当に夢のようでした。
なのに、本当にこれでいいのでしょうか。
87: (アウアウ 7687-207a) 2023/12/28(木) 05:26:59 ID:yOO8eYvkSa
その時自分の胸の奥から声が聞こえてきました。
「どうしてそんな無駄なことをするのですか」
とても聞き覚えのある、大好きな人を平気で否定しそうな可愛げのない冷たい声でした。
「・・・・・・大丈夫です、何をすればいいかは分かっています」
立ち止まる理由はありませんでした。夢でお腹は膨れない、徹底した合理化を行うべきです。
「どうしてそんな無駄なことをするのですか」
とても聞き覚えのある、大好きな人を平気で否定しそうな可愛げのない冷たい声でした。
「・・・・・・大丈夫です、何をすればいいかは分かっています」
立ち止まる理由はありませんでした。夢でお腹は膨れない、徹底した合理化を行うべきです。
89: (アウアウ 80ef-207a) 2024/01/01(月) 11:30:55 ID:hjQqR14YSa
「一つ提案しても宜しいでしょうか」
ほどなくして十人が集まりました。ぶつぶつと文句を言い合いつつ可可先輩とすみれ先輩が機材の準備をする中、私は全員を見渡して言いました。
「どうしました、冬毬さん」
恋先輩が首をかしげ、他の面々も急な私の改まった発言に何事かといった表情をしています。私は小さく咳払いをして口を開きました。
「今日は夏休みに向けての課題の可視化のために現時点でのパフォーマンスを撮影するということでしたが、スキームの見直しをした結果やはり私は十人での撮影をするべきだと考えます」
ワンテンポ置いて声をかけてくれたのはきな子先輩。
「そんなに気負わなくても大丈夫っすよ冬毬ちゃん。夏休みの間にたくさん練習すれば」
「いえ。それは合理的ではありません」
しかしその言葉を私は切って落とします。
「夏休みの間に実力を大きく伸ばすスクールアイドルが多いということはきな子先輩もよくご存じのはずです」
パソコンを開き、用意しておいた簡素なパワーポイントを示しつつ淡々と説明をしていきます。論より証拠ですから。
「一昨年のかのん先輩たちもSunny Passionさんたちと合同練習をしたことがきっかけの一つとなり大きく注目を集めていますし、去年のきな子先輩たちの合宿練習とその風景の動画投稿が、実力向上のみならず人気上昇に大きく寄与していたことは明白です」
ダンスパフォーマンスのビフォーアフターを切り抜いた動画、SNSのフォーロー数や高評価の伸びや動画再生数の増えた時期のグラフなど、火を見るより明らかなエビデンスがいくらでもあります。
「Liella!に限った話ではありません。歴代の優勝校を見ても一学期の間から注目を大きく集めていたというグループは実はさほど多くありません。皆さん夏の間に大きく成長し、それがファンの獲得に繋がっているのです」
「なら冬毬ちゃんも同じくらい頑張れば、きっとなんとかなるよ」
そうかのん先輩も言ってくれますが私は首を横に振ります。
「いいえ、それでは間に合いません。いいですか、皆さんの目標は二年連続の優勝、その奇跡を起こすと誓ったはずです。本来私がここにいるのもスクールアイドルの活動をするためではありません。無駄な時間を徹底的に削って極限まで練習に集中してもらい、必勝の実力を身につけていただくためです。そのために私は『マネージャー』になったのです」
誰とも目を合わせたくなかったので視線はずっとパソコンに向けていました。顔を上げたらきっと絆されて何も言えなくなってしまいます。
「そもそもこんな話をしている時間すら本来惜しいのです。普段であればとっくに練習を始めていますから。・・・・・・私は皆さんのことが、Liella!のことが大好きです。大好きだからこそこの数週間で理解しました、そんなに突き詰めても自分の能力がそれに足りないことを。皆さんのポテンシャルに強がって付いていくの精一杯なんです」
ほどなくして十人が集まりました。ぶつぶつと文句を言い合いつつ可可先輩とすみれ先輩が機材の準備をする中、私は全員を見渡して言いました。
「どうしました、冬毬さん」
恋先輩が首をかしげ、他の面々も急な私の改まった発言に何事かといった表情をしています。私は小さく咳払いをして口を開きました。
「今日は夏休みに向けての課題の可視化のために現時点でのパフォーマンスを撮影するということでしたが、スキームの見直しをした結果やはり私は十人での撮影をするべきだと考えます」
ワンテンポ置いて声をかけてくれたのはきな子先輩。
「そんなに気負わなくても大丈夫っすよ冬毬ちゃん。夏休みの間にたくさん練習すれば」
「いえ。それは合理的ではありません」
しかしその言葉を私は切って落とします。
「夏休みの間に実力を大きく伸ばすスクールアイドルが多いということはきな子先輩もよくご存じのはずです」
パソコンを開き、用意しておいた簡素なパワーポイントを示しつつ淡々と説明をしていきます。論より証拠ですから。
「一昨年のかのん先輩たちもSunny Passionさんたちと合同練習をしたことがきっかけの一つとなり大きく注目を集めていますし、去年のきな子先輩たちの合宿練習とその風景の動画投稿が、実力向上のみならず人気上昇に大きく寄与していたことは明白です」
ダンスパフォーマンスのビフォーアフターを切り抜いた動画、SNSのフォーロー数や高評価の伸びや動画再生数の増えた時期のグラフなど、火を見るより明らかなエビデンスがいくらでもあります。
「Liella!に限った話ではありません。歴代の優勝校を見ても一学期の間から注目を大きく集めていたというグループは実はさほど多くありません。皆さん夏の間に大きく成長し、それがファンの獲得に繋がっているのです」
「なら冬毬ちゃんも同じくらい頑張れば、きっとなんとかなるよ」
そうかのん先輩も言ってくれますが私は首を横に振ります。
「いいえ、それでは間に合いません。いいですか、皆さんの目標は二年連続の優勝、その奇跡を起こすと誓ったはずです。本来私がここにいるのもスクールアイドルの活動をするためではありません。無駄な時間を徹底的に削って極限まで練習に集中してもらい、必勝の実力を身につけていただくためです。そのために私は『マネージャー』になったのです」
誰とも目を合わせたくなかったので視線はずっとパソコンに向けていました。顔を上げたらきっと絆されて何も言えなくなってしまいます。
「そもそもこんな話をしている時間すら本来惜しいのです。普段であればとっくに練習を始めていますから。・・・・・・私は皆さんのことが、Liella!のことが大好きです。大好きだからこそこの数週間で理解しました、そんなに突き詰めても自分の能力がそれに足りないことを。皆さんのポテンシャルに強がって付いていくの精一杯なんです」
90: (アウアウ d4b8-207a) 2024/01/01(月) 11:39:04 ID:cOUQRvEISa
ひとつ息をしました。静かな部屋に響くのは私の声だけ。
「連続優勝を目指すLiella!に私の存在は不要なベクトルです。もしこれ以上私が練習に参加し続けていれば、よりそのメソッドは不明瞭になっていき、皆さんの描いた夢もどんどんと遠のいて行きます。私の存在がそのような事態を起こすくらいであれば」
強く意思を持って告げました。
「私はマネージャーも辞めます」
間髪入れずに反論したのはすみれ先輩でした。
「ちょっと冬毬、思い詰めすぎよ。私だって自分に自信を持てないことがたくさんあったわ。それでも諦めないで続けることが一番大事なの」
「すみれの言う通りデス。諦めない気持ちが一番大事、可可もずっとその気持ちで去年までも、今年もやってきました。冬毬はいつも頑張ってマス、ここで止めてしまうのはもったいないデス」
続く可可先輩も優しく言ってくれます。お二人の言葉はとても温かくて、こんな言葉をかけて貰える私はとても幸せ者なのだと思います。
「私たちだって今も先輩たちに追いつけているかずっと不安なんだ。それでも必ずできるって気持ちを曲げずに毎日練習してる。だから冬毬も、もうちょっとだけ一緒にやってみないか」
メイ先輩の真っ直ぐな瞳も真に私のことを思ってくれているのが伝わります。本当に、こんな先輩たちで良かったです。
「・・・・・・やはり時間をいたずらに消化してしまうようですね」
私はノートパソコンを閉じました。ライブの計画や動画と配信の企画案、練習の短期・長期目標など、私が残した成果がたくさん入っていて、まるで宝箱のようだと感じました。今後の皆さんに十分生かされることを願うばかりです。
「大変お世話になりました。とても、楽しかったです」
そうして無理矢理に部室を出て行こうとした瞬間でした。
「冬毬!」
「・・・・・・っ」
どうあがいたところですぐにまた顔を合わせるのです、逃げるなんて全くもって非合理。
そう分かっていても、声を振り切るようにして私は部室から駆けだして行きました。
「連続優勝を目指すLiella!に私の存在は不要なベクトルです。もしこれ以上私が練習に参加し続けていれば、よりそのメソッドは不明瞭になっていき、皆さんの描いた夢もどんどんと遠のいて行きます。私の存在がそのような事態を起こすくらいであれば」
強く意思を持って告げました。
「私はマネージャーも辞めます」
間髪入れずに反論したのはすみれ先輩でした。
「ちょっと冬毬、思い詰めすぎよ。私だって自分に自信を持てないことがたくさんあったわ。それでも諦めないで続けることが一番大事なの」
「すみれの言う通りデス。諦めない気持ちが一番大事、可可もずっとその気持ちで去年までも、今年もやってきました。冬毬はいつも頑張ってマス、ここで止めてしまうのはもったいないデス」
続く可可先輩も優しく言ってくれます。お二人の言葉はとても温かくて、こんな言葉をかけて貰える私はとても幸せ者なのだと思います。
「私たちだって今も先輩たちに追いつけているかずっと不安なんだ。それでも必ずできるって気持ちを曲げずに毎日練習してる。だから冬毬も、もうちょっとだけ一緒にやってみないか」
メイ先輩の真っ直ぐな瞳も真に私のことを思ってくれているのが伝わります。本当に、こんな先輩たちで良かったです。
「・・・・・・やはり時間をいたずらに消化してしまうようですね」
私はノートパソコンを閉じました。ライブの計画や動画と配信の企画案、練習の短期・長期目標など、私が残した成果がたくさん入っていて、まるで宝箱のようだと感じました。今後の皆さんに十分生かされることを願うばかりです。
「大変お世話になりました。とても、楽しかったです」
そうして無理矢理に部室を出て行こうとした瞬間でした。
「冬毬!」
「・・・・・・っ」
どうあがいたところですぐにまた顔を合わせるのです、逃げるなんて全くもって非合理。
そう分かっていても、声を振り切るようにして私は部室から駆けだして行きました。
92: (アウアウ 49c0-6b00) 2024/01/03(水) 16:01:29 ID:5zt6jBuYSa
真夏を目前にして街は喧噪と活気で溢れていました。
原宿はいつものように海外からの観光客がたくさんいらっしゃいましたし、渋谷はテストから解放された学生たちでいつにも増して賑わっていました。人の波の中を歩いていると何も見えなくなりそうになります。
息苦しくなり、ふと見上げたビルのモニターに今年活動を始めたスクールアイドルの動画が映し出されていました。ラブライブ!を目指して毎日頑張って練習し続けてきたのでしょう。彼女らは今一番注目されているグループです。諦めない気持ち、とても素晴らしいことだと思います。
画面が映画のCMに切り変わったので、歩くのを再会します。人混みを避けるようにして路地の階段を入り、目的もなく足を運んでいるつもりで坂を登っていくと気づけば代々木公園に来ていました。
日も気づけばずいぶん落ちてきています。意識はしていませんでしたが、ずいぶんと歩き回っていたようでした。
(まだ、家には帰りたくないです)
もう少し、もう少し。そう引き延ばしていた結果がこれです。何という無駄な時間でしょうか。この時間でテストの復習や部屋の掃除、最悪ゲームでもしていた方がよっぽどマシな過ごし方です。
公園に入って少し歩くと代々木スクールアイドルフェスの会場のステージに着きました。マルガレーテの眩いほどに輝く優勝は今でも思い出す度に胸の奥を熱くさせます。
その二年前、かのん先輩と可可先輩が課題としてフェスに参加し、新人特別賞を受賞したのもこの場所です。Liella!の前身となるクーカーの歌ったTiny Starsは私も大好きな曲、何度となく聴いたものでした。この曲は珍しく可可先輩が詞の大筋を書いたと聞いています。日本に来てまでスクールアイドルをしたいという強い憧れと情熱、とても羨ましく思います。
私はあんな風になれないでしょうから。
「本当に、奇跡の物語です」
思わずそう呟いてしまいました。
原宿はいつものように海外からの観光客がたくさんいらっしゃいましたし、渋谷はテストから解放された学生たちでいつにも増して賑わっていました。人の波の中を歩いていると何も見えなくなりそうになります。
息苦しくなり、ふと見上げたビルのモニターに今年活動を始めたスクールアイドルの動画が映し出されていました。ラブライブ!を目指して毎日頑張って練習し続けてきたのでしょう。彼女らは今一番注目されているグループです。諦めない気持ち、とても素晴らしいことだと思います。
画面が映画のCMに切り変わったので、歩くのを再会します。人混みを避けるようにして路地の階段を入り、目的もなく足を運んでいるつもりで坂を登っていくと気づけば代々木公園に来ていました。
日も気づけばずいぶん落ちてきています。意識はしていませんでしたが、ずいぶんと歩き回っていたようでした。
(まだ、家には帰りたくないです)
もう少し、もう少し。そう引き延ばしていた結果がこれです。何という無駄な時間でしょうか。この時間でテストの復習や部屋の掃除、最悪ゲームでもしていた方がよっぽどマシな過ごし方です。
公園に入って少し歩くと代々木スクールアイドルフェスの会場のステージに着きました。マルガレーテの眩いほどに輝く優勝は今でも思い出す度に胸の奥を熱くさせます。
その二年前、かのん先輩と可可先輩が課題としてフェスに参加し、新人特別賞を受賞したのもこの場所です。Liella!の前身となるクーカーの歌ったTiny Starsは私も大好きな曲、何度となく聴いたものでした。この曲は珍しく可可先輩が詞の大筋を書いたと聞いています。日本に来てまでスクールアイドルをしたいという強い憧れと情熱、とても羨ましく思います。
私はあんな風になれないでしょうから。
「本当に、奇跡の物語です」
思わずそう呟いてしまいました。
93: (アウアウ 248c-6b00) 2024/01/03(水) 16:04:10 ID:w0Q6.e8oSa
「やっと見つけた。こんなところにいたのね冬毬」
その時、背中から声がしました。振り返るまでもなく分かります、大好きな強く美しい声ですから。
「何をしに来たのですか」
「何って、勝手にどこかに行ったマネージャーを探しに来たに決まっているでしょう」
「・・・・・・そんな言い方ではまるで私がサボっているみたいではないですか」
「実際サボっているじゃない」
振り向いて彼女を睨みつけて言いました。
「先ほども申し上げた通り、私はスクールアイドル部マネージャーは辞めました。どこで何をしていようが自由です」
その私の視線を気にする風でもなくマルガレーテは鼻で笑います。
「あんなの誰も認めてないわよ」
「部活動は学生の自主性が重んじられていますから、参加するのも辞めるのも私にイニシアチブがあります」
「ああ言えばこう言う。冬毬って本当に、いえ、本当は面倒くさいタイプなのね」
「マルガレーテだけには言われたくありません」
良くも悪くもプライドの高い彼女とコンタクトを取ることは、決して嫌ではありませんでしたが、かなり面倒なことでした。それも私が望んでやったことなので文句を言う筋合いはないのですが。
「別にLiella!のマネージャーを続けようがどうしようが、私にはどうでも良いこと。でも冬毬、あなたは私と約束したはずよ。私の入るLiella!が優勝できるように頑張るって」
「それは・・・・・・」
言葉に詰まります。その話をしたのも同じ代々木公園でした。
「私があの場にいることがデメリットになるのであれば、撤退するのが最善の手だというまでです」
「デメリットってこれのことかしら」
マルガレーテが例の動画サイトのコメント欄をスマホに表示させます。私だけでなく、マルガレーテや他のメンバーに対する様々な評価がそこにありました。
「こんな外野の意見なんて無視しておけば良いのよ。私だって去年から今まで散々言われてきたもの。それでも実力で分からせれば、評価は後から付いてくるものよ」
「そうはいきません。Liella!は誰もが認めるようなスクールアイドルにならなくてはいけないのですから。それにそれはマルガレーテのように力がある人ができることです、私のような凡庸な人間にはできません」
しばらく黙っていたマルガレーテはふいっと踵を返します。
「付いて来て」
どこへ行くのかと思いつつその背中を追いました。歩きながらマルガレーテは話を続けます。
「ちょっと話は変わるけれど。前に私が言ったことは覚えてるかしら、歌と夢が自分にとって何なのかを考えてみればいいんじゃないって」
「はい」
「それで自分の夢は見つかった?」
公園を出て渋谷駅の方へマルガレーテは歩いて行きます。一体どこへ行くつもりなのでしょうか。
94: (アウアウ 394a-6b00) 2024/01/04(木) 18:32:16 ID:/zedgY.YSa
「・・・・・・分かりませんでした、結局自分が何がしたかったのか。Liella!の優勝はあくまでもLiella!の夢であって私自身のものではありませんし」
私には何もないのです。人を楽しませるだけの歌やダンスの技術はもちろん、夢を諦めないで取り組み続ける強さや、そもそも夢を見つける貪欲さ。そしてそれを応援する素直な心さえも。
そう思っているとマルガレーテが驚くようなことを言い出します。
「そう。じゃあ私が冬毬の夢が何かを教えてあげるわ」
「は?」
思わず足を止めそうになりましたが、先を行くマルガレーテは足を止めません。
「冬毬が本当にやりたいこと、叶えたいと思っている夢は」
「待ってください」
なんだか急に怖くなって止めようとしてしまいました。合理的な理由は何一つないのですが、自分の全てがマルガレーテに詳らかにされてしまうような気がして、それがどうしようもなく恐ろしくなったのです。
それでもマルガレーテは止まってくれず、遂に決定的な台詞が告げられました。
「夏美先輩を追いかけて、追いつくこと。そして一緒にスクールアイドルとしてラブライブ!で優勝すること。そうでしょう?」
マルガレーテの足も止まりません。渋谷のスクランブル交差点に溢れる人々もまるで意に介する風もなく進んでいく姿は、まるで周りの人たちが彼女のために道を作っているようにすら見えました。
「どうして、そう思うのですか」
そんな彼女の背中に問いかけると、端的な答えが返ってきました。
「冬毬は私と同じだから」
赤信号で立ち止まったマルガレーテがすっと振り返ります。どこかいつもより穏やかな表情をしています。
「私はずっとお姉様に憧れていたわ。誰よりも歌がうまくて、いつも私の一歩も二歩も先を行くお姉様がとても大きな存在で大好きだったから、私も歌が好きになったし、上手くなりたいって思ったわ。だけどそれはとても難しいことで、どうしたらいいのか分からなくて立ち止まってしまったの」
信号が青に変わって再びマルガレーテは歩き出します。
「そんな私に両親が出した課題がラブライブ!で優勝すること。日本のクラブの大会なんて私の望んだものと全然違う。そう思ったけれど、これが最後のチャンスだと思ったから私はこの街にやってきた」
マルガレーテはビルの中に入っていきました。エスカレーターに乗るとスマホを取り出して何やら操作を始めます。
「冬毬も同じ。夏美先輩が好きだから結ヶ丘に入学して、大好きだからスクールアイドルの活動に協力したくて、少しでも同じ夢を追いかけたくてマネージャーになったんでしょう。だったら、最後までその夢をやり遂げるべきだわ」
エスカレーターからエレベーターに乗り換えます。高速で空へ昇る二人きりの空間で私は口を開きました。
「マルガレーテの考えを否定はしません。私がずっと姉者を追いかけていたこと、それが意識的にしろ無意識的にしろ事実だというのは認めます。ですが」
そこで一旦言葉を切りました。こんな私を見せたらマルガレーテは呆れるでしょうか、それとも私を軽蔑するのでしょうか。告解するかのような気持ちで声を絞り出しました。
「マルガレーテと私は違います。私も姉者のことは大好きです、でも大好きなはずの姉者のことを・・・・・・わたしはずっと見下していたのですから」
私には何もないのです。人を楽しませるだけの歌やダンスの技術はもちろん、夢を諦めないで取り組み続ける強さや、そもそも夢を見つける貪欲さ。そしてそれを応援する素直な心さえも。
そう思っているとマルガレーテが驚くようなことを言い出します。
「そう。じゃあ私が冬毬の夢が何かを教えてあげるわ」
「は?」
思わず足を止めそうになりましたが、先を行くマルガレーテは足を止めません。
「冬毬が本当にやりたいこと、叶えたいと思っている夢は」
「待ってください」
なんだか急に怖くなって止めようとしてしまいました。合理的な理由は何一つないのですが、自分の全てがマルガレーテに詳らかにされてしまうような気がして、それがどうしようもなく恐ろしくなったのです。
それでもマルガレーテは止まってくれず、遂に決定的な台詞が告げられました。
「夏美先輩を追いかけて、追いつくこと。そして一緒にスクールアイドルとしてラブライブ!で優勝すること。そうでしょう?」
マルガレーテの足も止まりません。渋谷のスクランブル交差点に溢れる人々もまるで意に介する風もなく進んでいく姿は、まるで周りの人たちが彼女のために道を作っているようにすら見えました。
「どうして、そう思うのですか」
そんな彼女の背中に問いかけると、端的な答えが返ってきました。
「冬毬は私と同じだから」
赤信号で立ち止まったマルガレーテがすっと振り返ります。どこかいつもより穏やかな表情をしています。
「私はずっとお姉様に憧れていたわ。誰よりも歌がうまくて、いつも私の一歩も二歩も先を行くお姉様がとても大きな存在で大好きだったから、私も歌が好きになったし、上手くなりたいって思ったわ。だけどそれはとても難しいことで、どうしたらいいのか分からなくて立ち止まってしまったの」
信号が青に変わって再びマルガレーテは歩き出します。
「そんな私に両親が出した課題がラブライブ!で優勝すること。日本のクラブの大会なんて私の望んだものと全然違う。そう思ったけれど、これが最後のチャンスだと思ったから私はこの街にやってきた」
マルガレーテはビルの中に入っていきました。エスカレーターに乗るとスマホを取り出して何やら操作を始めます。
「冬毬も同じ。夏美先輩が好きだから結ヶ丘に入学して、大好きだからスクールアイドルの活動に協力したくて、少しでも同じ夢を追いかけたくてマネージャーになったんでしょう。だったら、最後までその夢をやり遂げるべきだわ」
エスカレーターからエレベーターに乗り換えます。高速で空へ昇る二人きりの空間で私は口を開きました。
「マルガレーテの考えを否定はしません。私がずっと姉者を追いかけていたこと、それが意識的にしろ無意識的にしろ事実だというのは認めます。ですが」
そこで一旦言葉を切りました。こんな私を見せたらマルガレーテは呆れるでしょうか、それとも私を軽蔑するのでしょうか。告解するかのような気持ちで声を絞り出しました。
「マルガレーテと私は違います。私も姉者のことは大好きです、でも大好きなはずの姉者のことを・・・・・・わたしはずっと見下していたのですから」
95: (アウアウ f330-6b00) 2024/01/05(金) 15:59:47 ID:XrtzR2g2Sa
エレベーターのドアが開きます。恐る恐るマルガレーテの表情を窺いますが、その視線をかわすように先にエレベーターから降りていってしまいました。
仕方がないのでそれに続いていくと、何やら受付の横を素通りして壁のキーをタップして鉄扉の中に入っていきます。戸惑っていると「何してるの、こっちよ」と声をかけられたので慌てて私も中に入りました。
「父の関係者がここで仕事をしていてね、部屋をたまに使わせてもらってるの」
私の疑問に答えるようにそう言いつつ、目で続きを促してきます。さらに上へ行くエレベーターに乗り込みつつ話を再開しました。
「ご存じの通り、私と姉者では計画や目標を立てる上でのスタンスが大きく異なります。真逆と言ってもいいほどに。やりたいこと、興味を持ったものなら何でもやるという姉者の姿勢は、私にとっては無駄なものにずっと映っていました」
耳がツンと痛くなって、地上がどんどんと遠ざかっているのが分かります。それと同時に喉の奥が熱くなっていき、目を何度も瞬かせてしまいます。
「大好きな姉者の努力を認められない、応援できない私はとても嫌な子なんです。こんな自分が大嫌いなんです。でもそんな性格もなかなか変えられなくて、ずっと中途半端な態度をとり続けて、挙げ句の果てに皆さんを困らせて。本当に最低なんです。そんな私が、みんなに応援されるスクールアイドルなんて、できるわけ、ないんです。やるべき、じゃないんです」
表情のない機械音がエレベーターの到着したことを知らせます。音もなく開いたそこから出ることもできず、ただただみっともなく涙を拭っている自分が惨めになりました。
と、そんな私の手をマルガレーテが優しく握ってくれました。嗚咽を上げる私を連れて歩くマルガレーテはそっと呟くように言います。
「そんなに自分を悪く言わないで冬毬。あなたが嫌な子なら、あなたよりも多くの人に嫌な態度を取った私はどうなっちゃうのよ」
「マルガレーテは、いいんです。だってあんなに、強くて、格好いいんですから」
「ありがとう冬毬。でも私だって醜態を晒したことくらいあるわ」
『私は、この結果を認めない!』
『私よりあなたたちの方が上だなんて。そんな評価を下すステージも、観客も、みんな下らない』
「私も何もかも嫌になったわ。去年Liella!に負けて、かのん先輩に負けて。自分に愛想が尽きたし、嫌いになりそうだった。消えてしまいたくなるくらい。・・・・・・でもね」
マルガレーテがぎゅっと両手で私の手を包み込みます。
「そんな私にもう一度夢を見させてくれたのは、私と私の歌を大好きだと言ってくれた貴女なのよ、冬毬。貴女がいたから私は今こうしてここにいることができるの。そんな冬毬のことが、私も大好き」
仕方がないのでそれに続いていくと、何やら受付の横を素通りして壁のキーをタップして鉄扉の中に入っていきます。戸惑っていると「何してるの、こっちよ」と声をかけられたので慌てて私も中に入りました。
「父の関係者がここで仕事をしていてね、部屋をたまに使わせてもらってるの」
私の疑問に答えるようにそう言いつつ、目で続きを促してきます。さらに上へ行くエレベーターに乗り込みつつ話を再開しました。
「ご存じの通り、私と姉者では計画や目標を立てる上でのスタンスが大きく異なります。真逆と言ってもいいほどに。やりたいこと、興味を持ったものなら何でもやるという姉者の姿勢は、私にとっては無駄なものにずっと映っていました」
耳がツンと痛くなって、地上がどんどんと遠ざかっているのが分かります。それと同時に喉の奥が熱くなっていき、目を何度も瞬かせてしまいます。
「大好きな姉者の努力を認められない、応援できない私はとても嫌な子なんです。こんな自分が大嫌いなんです。でもそんな性格もなかなか変えられなくて、ずっと中途半端な態度をとり続けて、挙げ句の果てに皆さんを困らせて。本当に最低なんです。そんな私が、みんなに応援されるスクールアイドルなんて、できるわけ、ないんです。やるべき、じゃないんです」
表情のない機械音がエレベーターの到着したことを知らせます。音もなく開いたそこから出ることもできず、ただただみっともなく涙を拭っている自分が惨めになりました。
と、そんな私の手をマルガレーテが優しく握ってくれました。嗚咽を上げる私を連れて歩くマルガレーテはそっと呟くように言います。
「そんなに自分を悪く言わないで冬毬。あなたが嫌な子なら、あなたよりも多くの人に嫌な態度を取った私はどうなっちゃうのよ」
「マルガレーテは、いいんです。だってあんなに、強くて、格好いいんですから」
「ありがとう冬毬。でも私だって醜態を晒したことくらいあるわ」
『私は、この結果を認めない!』
『私よりあなたたちの方が上だなんて。そんな評価を下すステージも、観客も、みんな下らない』
「私も何もかも嫌になったわ。去年Liella!に負けて、かのん先輩に負けて。自分に愛想が尽きたし、嫌いになりそうだった。消えてしまいたくなるくらい。・・・・・・でもね」
マルガレーテがぎゅっと両手で私の手を包み込みます。
「そんな私にもう一度夢を見させてくれたのは、私と私の歌を大好きだと言ってくれた貴女なのよ、冬毬。貴女がいたから私は今こうしてここにいることができるの。そんな冬毬のことが、私も大好き」
96: (アウアウ 9c52-6b00) 2024/01/05(金) 16:04:05 ID:6G/PSJ.ESa
「わたし・・・・・・、私は」
そんなことを言ってもらえるようなことは、何もしていません。
「目を開けて、冬毬」
導かれるようになんとか涙を抑えて目を開くと、そこには予想もしていなかった景色が広がっていました。
「――っ」
広いホールになっている部屋の窓ガラスの向こう側には、飛行機から地上を見下ろしたときのような世界が広がっていました。
すっかり夜になった街の灯りが星のように足下で煌めいていて、渋谷だけでなく表参道や原宿まで映し出す夜景は、まるで宇宙の真ん中にいるかのようです。
「ここは私が日本に来て一番好きになった場所。辛かったり悲しくなったりしたときはいつもここに来ていたわ。どう、とても良い場所でしょう?」
「はい、素敵です」
思わず涙も飲み込んで見とれていると、手を離したマルガレーテが私の後ろの方を見やって言いました。
「私は冬毬のことが大好き。でも私よりずっと貴女のことが好きな人がいるってことも忘れないでね」
予感がしました。振り向きたくない気持ちと、今すぐにでも駆け寄りたい気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合って何もできなくなってしまいます。
「冬毬、探しましたの」
そんな私よりもずっと行動的で、いつだって先にいて私のことを呼んでくれるのです。
姉者は。
そんなことを言ってもらえるようなことは、何もしていません。
「目を開けて、冬毬」
導かれるようになんとか涙を抑えて目を開くと、そこには予想もしていなかった景色が広がっていました。
「――っ」
広いホールになっている部屋の窓ガラスの向こう側には、飛行機から地上を見下ろしたときのような世界が広がっていました。
すっかり夜になった街の灯りが星のように足下で煌めいていて、渋谷だけでなく表参道や原宿まで映し出す夜景は、まるで宇宙の真ん中にいるかのようです。
「ここは私が日本に来て一番好きになった場所。辛かったり悲しくなったりしたときはいつもここに来ていたわ。どう、とても良い場所でしょう?」
「はい、素敵です」
思わず涙も飲み込んで見とれていると、手を離したマルガレーテが私の後ろの方を見やって言いました。
「私は冬毬のことが大好き。でも私よりずっと貴女のことが好きな人がいるってことも忘れないでね」
予感がしました。振り向きたくない気持ちと、今すぐにでも駆け寄りたい気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合って何もできなくなってしまいます。
「冬毬、探しましたの」
そんな私よりもずっと行動的で、いつだって先にいて私のことを呼んでくれるのです。
姉者は。
97: (アウアウ baa1-6b00) 2024/01/09(火) 16:11:50 ID:qeNlc3IUSa
「どうして、ここに」
そう聞くと「たはっ」と少し恥ずかしそうな笑みを姉者は浮かべました。
「私なりに一生懸命探したんですけれど見つからなくて。そうしたらマルガレーテからここに来てと連絡をもらったので、急いで来たんですの」
そういえば先ほど一瞬スマホをいじっていました。あの時に姉者にメッセージを送っていたのでしょう。
ゆっくりと歩み寄ってきた姉者が思いっきり背伸びをして頭を撫でてくれました。
「小さい頃は泣いてる冬毬をこうやってなだめてましたけれど、今じゃ一苦労なんですの」
そう言いながらつま先立ちの姉者はよろけて私の肩につかまり、私もそれを抱き止めるようにして支えました。
「冬毬は大きくなったんですの。ちょっと身長を分けて欲しいんですの」
「それは、できません」
微笑む姉者を見ていると収まりかけていた涙がまたボロボロとこぼれそうになって、慌てて私は上を向いて堪えます。
「ねえ冬毬」
「・・・・・・何ですか姉者」
どうにか泣くのを押さえて姉者に聞くと、いつもとは全く違う真剣な眼差しで言われました。
「Liella!に、入って欲しいんですの」
姉者のとても真摯なお願い、それでも私はぶんぶんと首を横に振ります。
「できません」
「どうしてって、私が入ればLiella!のパフォーマンス向上の妨げになりますし、それにレビューを見ても私は戦力外で」
そう言うと背後から小さな声で「まだそんなこと言って」と呆れた様子の声が聞こえてきました。
「そんな客観的な理由なんかどうでもいいんですの。冬毬自身は、スクールアイドルをやりたくないんですの?」
「ですが、だって」
自分にできるかどうかではなく、やりたいかどうか。そんなのはもちろん、マルガレーテの言うとおり私の夢は姉者と同じ夢を追いかけることなのですから、やりたいに決まっています。でも。
「私はスクールアイドルをすることも、姉者と一緒に何かをすることもやるべきじゃないんです。私は、私はずっと何かに挑戦しては失敗している姉者を、無駄なことをしていると決めつけて馬鹿にしてきたんですから」
私のこの言葉はきっと姉者を傷つけてしまうでしょう。今後もう好いてもらえないかもしれません。でもいいんです。自業自得、少しでも罪滅ぼしになるのなら。
しかし。姉者の反応は想定していたどれとも違うものでした。
一瞬目を丸くした姉者は苦笑いしてこう言ったのです。
「そんなこと。知ってますの」
そう聞くと「たはっ」と少し恥ずかしそうな笑みを姉者は浮かべました。
「私なりに一生懸命探したんですけれど見つからなくて。そうしたらマルガレーテからここに来てと連絡をもらったので、急いで来たんですの」
そういえば先ほど一瞬スマホをいじっていました。あの時に姉者にメッセージを送っていたのでしょう。
ゆっくりと歩み寄ってきた姉者が思いっきり背伸びをして頭を撫でてくれました。
「小さい頃は泣いてる冬毬をこうやってなだめてましたけれど、今じゃ一苦労なんですの」
そう言いながらつま先立ちの姉者はよろけて私の肩につかまり、私もそれを抱き止めるようにして支えました。
「冬毬は大きくなったんですの。ちょっと身長を分けて欲しいんですの」
「それは、できません」
微笑む姉者を見ていると収まりかけていた涙がまたボロボロとこぼれそうになって、慌てて私は上を向いて堪えます。
「ねえ冬毬」
「・・・・・・何ですか姉者」
どうにか泣くのを押さえて姉者に聞くと、いつもとは全く違う真剣な眼差しで言われました。
「Liella!に、入って欲しいんですの」
姉者のとても真摯なお願い、それでも私はぶんぶんと首を横に振ります。
「できません」
「どうしてって、私が入ればLiella!のパフォーマンス向上の妨げになりますし、それにレビューを見ても私は戦力外で」
そう言うと背後から小さな声で「まだそんなこと言って」と呆れた様子の声が聞こえてきました。
「そんな客観的な理由なんかどうでもいいんですの。冬毬自身は、スクールアイドルをやりたくないんですの?」
「ですが、だって」
自分にできるかどうかではなく、やりたいかどうか。そんなのはもちろん、マルガレーテの言うとおり私の夢は姉者と同じ夢を追いかけることなのですから、やりたいに決まっています。でも。
「私はスクールアイドルをすることも、姉者と一緒に何かをすることもやるべきじゃないんです。私は、私はずっと何かに挑戦しては失敗している姉者を、無駄なことをしていると決めつけて馬鹿にしてきたんですから」
私のこの言葉はきっと姉者を傷つけてしまうでしょう。今後もう好いてもらえないかもしれません。でもいいんです。自業自得、少しでも罪滅ぼしになるのなら。
しかし。姉者の反応は想定していたどれとも違うものでした。
一瞬目を丸くした姉者は苦笑いしてこう言ったのです。
「そんなこと。知ってますの」
98: (アウアウ 8f74-47e2) 2024/01/11(木) 02:15:26 ID:rr2Lji/kSa
「え?」
本当の本当に想像の斜め上を行く言葉に頭がフリーズしてしまいました。姉者が私の両頬を手で包みます。小さくても温かい手でした。
「私が何年冬毬の姉をやっていると思いますの。そんなの分かってるんですの。・・・・・・そんな冬毬をどうにか見返してやりたくて、姉らしいところを見せてやりたくて、ずっと一人ではできなそうな挑戦ばっかりしてきた私の方が、よっぽど格好悪いんですの」
そう言って恥ずかしそうにする姉者。そんなの、そんなのってありません。やっぱり姉者は狡いんです。
「でもLiella!に入って、みんなで練習して、歌って、優勝することができて思ったんですの。誰かと一緒に夢を叶えることが、そのために頑張ることがとっても楽しいことだって。夢を諦めない力になるって」
姉者がぎゅうっと抱きしめてくれます。
「もう一度言いますの冬毬」
「・・・・・・はい」
とても大きい姉者の抱擁にただただ包まれて。
「私はただ、大好きで可愛い妹と、毎日練習して少しずつ成長してラブライブ!の優勝を目指したい。去年自分が歩いた道を、景色を一緒に見たい。それが今の私の夢なんですの。この夢を叶えられるのは他でもない、冬毬しかいないんですの」
私は姉者の目が好きです。何もかも似ていない姉者と唯一同じに感じられるのが瞳だと思っていたから。
「わがままな姉の夢を叶えてくれますの?」
でも今は、もう一つ同じものが見つかりました。
二人一緒に同じ夢を追いかける。それが私と姉者の夢。
「あ、あねじゃぁ」
ずっと優しく頭を撫でてくれる姉者に甘えて、堰を切ったように溢れて流れる涙で姉者の肩と髪をびしょびしょにして、私はずっとわんわん泣き続けていました。
本当の本当に想像の斜め上を行く言葉に頭がフリーズしてしまいました。姉者が私の両頬を手で包みます。小さくても温かい手でした。
「私が何年冬毬の姉をやっていると思いますの。そんなの分かってるんですの。・・・・・・そんな冬毬をどうにか見返してやりたくて、姉らしいところを見せてやりたくて、ずっと一人ではできなそうな挑戦ばっかりしてきた私の方が、よっぽど格好悪いんですの」
そう言って恥ずかしそうにする姉者。そんなの、そんなのってありません。やっぱり姉者は狡いんです。
「でもLiella!に入って、みんなで練習して、歌って、優勝することができて思ったんですの。誰かと一緒に夢を叶えることが、そのために頑張ることがとっても楽しいことだって。夢を諦めない力になるって」
姉者がぎゅうっと抱きしめてくれます。
「もう一度言いますの冬毬」
「・・・・・・はい」
とても大きい姉者の抱擁にただただ包まれて。
「私はただ、大好きで可愛い妹と、毎日練習して少しずつ成長してラブライブ!の優勝を目指したい。去年自分が歩いた道を、景色を一緒に見たい。それが今の私の夢なんですの。この夢を叶えられるのは他でもない、冬毬しかいないんですの」
私は姉者の目が好きです。何もかも似ていない姉者と唯一同じに感じられるのが瞳だと思っていたから。
「わがままな姉の夢を叶えてくれますの?」
でも今は、もう一つ同じものが見つかりました。
二人一緒に同じ夢を追いかける。それが私と姉者の夢。
「あ、あねじゃぁ」
ずっと優しく頭を撫でてくれる姉者に甘えて、堰を切ったように溢れて流れる涙で姉者の肩と髪をびしょびしょにして、私はずっとわんわん泣き続けていました。
99: (アウアウ 72de-47e2) 2024/01/11(木) 02:56:06 ID:g6aycMkwSa
夏はあっという間です。
パフォーマンスの徹底的な底上げのため、厳しくも優しく練習に付き合ってくれた千砂都先輩には頭が上がりません。
その代わりに他のLiella!の練習メニューの調整、動画投稿や生放送の作業、合宿の予算管理など部の仕事は全力で務めさせていただきました。合宿の終わりに、満面の笑みで「ハナマルだよ、冬毬ちゃん!」と褒めてもらったのは良い思い出です。
ちなみに歌について質問したかのん先輩からは「まずは楽しく歌うことが一番だよ」としか言ってもらえませんでした。恐らくですが、天才肌なのであまり教えるのは得意ではないのだと思います。いえ、本心からもそう思っていらっしゃることとは思いますが。
練習でくたくたになった体に鞭打って、夏休みの課題にも計画的に取り組みます。中学校までの私であれば七月中にさっさと終わらせていたのですが、高校に上がり単純に量が増えたことに加え、練習に多くの時間を取られてはそんな簡単には行かなかったので、八月中旬までじっくりと時間をかけていました。
どうせ最後の三日くらいになると姉者が泣きついてくるので、その分のバッファも持たせた完璧な計画です。
そんな忙しい日々の合間にマルガレーテと水族館に遊びにも行きました。普段の彼女からは全く想像できないことでしたが、サメの水槽の前に来ると目をキラキラと輝かせてちっとも動こうとしないのです。
それを後から指摘すると「冬毬には言われたくないわ。どれだけクラゲを見させられたと思っているの」とクレームを付けられてしまいました。そんなに長時間いたつもりはないので、エビデンスの提出を求めたいところです。
マルガレーテにも歌い方についてアドバイスを求めたのですが、かのん先輩と同じように「思ったままに歌えば良い歌になるわ」とだけ言われました。この二人、やはり似たもの同士なのでしょうか。
パフォーマンスの徹底的な底上げのため、厳しくも優しく練習に付き合ってくれた千砂都先輩には頭が上がりません。
その代わりに他のLiella!の練習メニューの調整、動画投稿や生放送の作業、合宿の予算管理など部の仕事は全力で務めさせていただきました。合宿の終わりに、満面の笑みで「ハナマルだよ、冬毬ちゃん!」と褒めてもらったのは良い思い出です。
ちなみに歌について質問したかのん先輩からは「まずは楽しく歌うことが一番だよ」としか言ってもらえませんでした。恐らくですが、天才肌なのであまり教えるのは得意ではないのだと思います。いえ、本心からもそう思っていらっしゃることとは思いますが。
練習でくたくたになった体に鞭打って、夏休みの課題にも計画的に取り組みます。中学校までの私であれば七月中にさっさと終わらせていたのですが、高校に上がり単純に量が増えたことに加え、練習に多くの時間を取られてはそんな簡単には行かなかったので、八月中旬までじっくりと時間をかけていました。
どうせ最後の三日くらいになると姉者が泣きついてくるので、その分のバッファも持たせた完璧な計画です。
そんな忙しい日々の合間にマルガレーテと水族館に遊びにも行きました。普段の彼女からは全く想像できないことでしたが、サメの水槽の前に来ると目をキラキラと輝かせてちっとも動こうとしないのです。
それを後から指摘すると「冬毬には言われたくないわ。どれだけクラゲを見させられたと思っているの」とクレームを付けられてしまいました。そんなに長時間いたつもりはないので、エビデンスの提出を求めたいところです。
マルガレーテにも歌い方についてアドバイスを求めたのですが、かのん先輩と同じように「思ったままに歌えば良い歌になるわ」とだけ言われました。この二人、やはり似たもの同士なのでしょうか。
100: (アウアウ 5234-47e2) 2024/01/11(木) 03:01:15 ID:1KniSfT.Sa
そんな夏も終わりかけのある日、休憩時間にベンチに仰向けになって座っていた私の額にそっと冷たいものが置かれました。
目を開けると人懐こい笑みを浮かべたきな子先輩がいます。
「冬毬ちゃん、お疲れ様っす」
冷たいものはスポーツドリンクのペットボトルでした。受け取りつつ身を起こして頭を下げます。
「ありがとうございます」
「例には及ばないっす。きな子、先輩すから」
先輩なのになぜか私やマルガレーテにもしたっぱのような話し方をするきな子先輩は小動物のような可愛らしさがあって、良い意味で先輩らしくなく親しみやすいです。
隣に座って自身も美味しそうに飲み始めたきな子先輩に、私はまだ大事なことを言っていなかったことを思い出しました。
「きな子先輩」
「ん、なんすか?」
「私のことをLiella!に誘っていただいて、ありがとうございました」
きょとんとした顔で目をパチパチしていたきな子先輩、すぐに優しい笑顔になります。
「それも別にお礼を言われるようなことじゃないっす。きな子が冬毬ちゃんとスクールアイドルをやりたいなって思っただけっすから。それに・・・・・・」
そこで一旦言葉を切ったきな子先輩はきょろきょろと左右を見渡します。
「実は春の頃からずっと夏美ちゃんが『どうにかして冬毬をLiella!に誘いたいんですの~』って言い続けてたから、きな子がタイミングを見計らって誘っただけというのもあるっす」
姉者のマネがさっぱり似ていないのはさておき、中々興味深い情報です。
「あ、でもこの話は言っちゃダメっすよ。『冬毬には恥ずかしいので絶対ナイショですの』て言われてるんすから」
「今全部話していますが」
「これはあれっす。先輩と後輩の秘密っす」
きな子先輩には今度、姉者のモノマネとコンプライアンスについての講義をするとして。姉者にも躊躇ってしまうようなことがあって、しかもそれを私にひた隠しにしていたなんて。
(姉者、格好悪いです)
「なんで急にニヤニヤしてるんすか」
「んっん。何でもないですよ」
「何というか、悪だくみしている時の夏美ちゃんに似てるっすね・・・・・・」
目を開けると人懐こい笑みを浮かべたきな子先輩がいます。
「冬毬ちゃん、お疲れ様っす」
冷たいものはスポーツドリンクのペットボトルでした。受け取りつつ身を起こして頭を下げます。
「ありがとうございます」
「例には及ばないっす。きな子、先輩すから」
先輩なのになぜか私やマルガレーテにもしたっぱのような話し方をするきな子先輩は小動物のような可愛らしさがあって、良い意味で先輩らしくなく親しみやすいです。
隣に座って自身も美味しそうに飲み始めたきな子先輩に、私はまだ大事なことを言っていなかったことを思い出しました。
「きな子先輩」
「ん、なんすか?」
「私のことをLiella!に誘っていただいて、ありがとうございました」
きょとんとした顔で目をパチパチしていたきな子先輩、すぐに優しい笑顔になります。
「それも別にお礼を言われるようなことじゃないっす。きな子が冬毬ちゃんとスクールアイドルをやりたいなって思っただけっすから。それに・・・・・・」
そこで一旦言葉を切ったきな子先輩はきょろきょろと左右を見渡します。
「実は春の頃からずっと夏美ちゃんが『どうにかして冬毬をLiella!に誘いたいんですの~』って言い続けてたから、きな子がタイミングを見計らって誘っただけというのもあるっす」
姉者のマネがさっぱり似ていないのはさておき、中々興味深い情報です。
「あ、でもこの話は言っちゃダメっすよ。『冬毬には恥ずかしいので絶対ナイショですの』て言われてるんすから」
「今全部話していますが」
「これはあれっす。先輩と後輩の秘密っす」
きな子先輩には今度、姉者のモノマネとコンプライアンスについての講義をするとして。姉者にも躊躇ってしまうようなことがあって、しかもそれを私にひた隠しにしていたなんて。
(姉者、格好悪いです)
「なんで急にニヤニヤしてるんすか」
「んっん。何でもないですよ」
「何というか、悪だくみしている時の夏美ちゃんに似てるっすね・・・・・・」
101: (アウアウ 8fd0-47e2) 2024/01/11(木) 03:02:45 ID:YbLJmJ36Sa
きな子先輩が複雑な表情をしている中、不意に私のスマホが電子音を鳴らします。メールの着信音でした。確認するとラブライブ!大会運営からのメールです。
「どうかしたんすか」
覗き込みながらきな子先輩が尋ねてきます。
「いえ、大したことではありません」
今の私たちにはもう関係のない話ですが、エントリーのレギュレーションを明確にしようと思い、ちょっとしたついでに運営へメールを送っていたのですが、丁寧なことにその返信を返してくれたのでした。
要約すると、協議の結果、一校から複数のスクールアイドルがエントリーすることに問題がないとされたこと、以後それをレギュレーションに明記することを決定したとのことでした。
今後は一つの学校から二つ、あるいは三つ以上のスクールアイドルが出てくるなんてこともあるかもしれません。未来のスクールアイドルに少しでも力になれたのなら、まんざら無駄でもなかったかもしれません。
日々は過ぎていき、夏休みも終わりです。
何者でもなかった私の真っ白な日常は、気づけば彩り豊かに染められていて、本当に楽しい毎日でした。
そして。
「どうかしたんすか」
覗き込みながらきな子先輩が尋ねてきます。
「いえ、大したことではありません」
今の私たちにはもう関係のない話ですが、エントリーのレギュレーションを明確にしようと思い、ちょっとしたついでに運営へメールを送っていたのですが、丁寧なことにその返信を返してくれたのでした。
要約すると、協議の結果、一校から複数のスクールアイドルがエントリーすることに問題がないとされたこと、以後それをレギュレーションに明記することを決定したとのことでした。
今後は一つの学校から二つ、あるいは三つ以上のスクールアイドルが出てくるなんてこともあるかもしれません。未来のスクールアイドルに少しでも力になれたのなら、まんざら無駄でもなかったかもしれません。
日々は過ぎていき、夏休みも終わりです。
何者でもなかった私の真っ白な日常は、気づけば彩り豊かに染められていて、本当に楽しい毎日でした。
そして。
102: (ワッチョイ 2727-47e2) 2024/01/15(月) 17:09:30 ID:BWybRbTA00
結ヶ丘の文化祭は夏休みが終わってから比較的すぐ、九月の中旬に行われます。
文化祭のLiella!のステージ、それが私の初舞台となります。
「本当に、大丈夫でしょうか」
正直なところ不安はあります。どれだけ努力しても足りないと思うことはありますし、それが怖いと思う気持ちはどうしても消えません。緊張で今にもへたり込んでしまいそうになるくらい。
「大丈夫、自信を持って冬毬」
そんな私の手を取ったのはマルガレーテ。
「貴女は最高のスクールアイドルよ。Liella!の一員として堂々と胸を張りなさい」
「そうそう。冬毬はなんと言ってもこの私の後輩なんだから、ギャラクシーな活躍を期待してるわよ!」
続いてにこやかにそう励ましてくれたすみれ先輩。その後ろからひょっこりと可可先輩が顔を出します。
「ちょっとすみれ、そんな変なプレッシャーをかけないで下さい。冬毬、初めてのライブの楽しさ、お思いきり味わうといいデス」
「練習中の冬毬ちゃん、最高に楽しんでた。いつも通りやれば大丈夫」
四季先輩がメイ先輩の衣装を直しながら大きく頷いてくれました。
「スクールアイドルが好きな人なら、絶対に今の冬毬のことを好きになってくれる。私が保証するよ」
昔からスクールアイドルを見続けてきたメイ先輩にそう言ってもらえるのはとても励みになります。
そうしているうちに、いよいよ舞台に立つ時間が目の前に来ました。初めてLiella!を動画で見たときから、ずっと夢見てきた場所。
「力抜いてね、冬毬ちゃん」
最終確認のために、手伝ってくれている生徒会の皆さんと話をしていた千砂都先輩と恋先輩も戻ってきます。
「色々あったけど、冬毬ちゃんは今日まで頑張ってきた。努力は自分を裏切らないよ!」
「そうですね。むしろ冬毬さんの練習している姿に、私たちの方が奮起させられるくらいでしたから」
私がいることで他の皆さんの力にもなれる。皆さんがいるから私も自分に負けずにここまで来られた。みんなで作るスクールアイドルの楽しさが、私の背中を押してくれたことが本当に素晴らしいと感じています。
「冬毬ちゃんの初ステージっすもんね。きな子も先輩として完璧なパフォーマンスをするから、大船に乗った気持ちでいて欲しいっす!」
ふんすと気合いを入れているきな子先輩、実に頼もしいです。
「ふふ。みんな気合い十分って感じだね」
私たちを見渡して笑顔でそう言うかのん先輩。
「かのん先輩」
「どうしたの、冬毬ちゃん」
私はまだまだ未熟なスクールアイドルですが、それでもこの皆さんと過ごした日々で分かったことがありました。
「スクールアイドルは仲間と歌って踊るのを楽しむというだけではなく、その日々を通して自分の夢を叶えるための活動なのですね」
ちょっと瞳を見開いたかのん先輩がすぐに優しい顔で頷きました。
「冬毬ちゃんの夢は叶いそう?」
「・・・・・・ええ、きっと」
「大丈夫、冬毬ちゃんはここまで走ってきた。夢まで、飛べるよ」
幕が上がります。姉者の手をぎゅっと握りしめました。少しだけ震えていた手が、それだけで落ち着きを取り戻します。
「行きますの冬毬。センターを思いっきり楽しむんですの」
ニッと笑う姉者。背中を追う私じゃない、隣に立てることがこんなにも嬉しいなんて。
「アグリー、お任せ下さい姉者。最高の舞台にしてみせます」
ここから先が、私と姉者が胸に描いたステージです。ふと見上げた空は、夏の熱い空気と冬の澄んだ青が混ざりあった不思議な色をしていました。
文化祭のLiella!のステージ、それが私の初舞台となります。
「本当に、大丈夫でしょうか」
正直なところ不安はあります。どれだけ努力しても足りないと思うことはありますし、それが怖いと思う気持ちはどうしても消えません。緊張で今にもへたり込んでしまいそうになるくらい。
「大丈夫、自信を持って冬毬」
そんな私の手を取ったのはマルガレーテ。
「貴女は最高のスクールアイドルよ。Liella!の一員として堂々と胸を張りなさい」
「そうそう。冬毬はなんと言ってもこの私の後輩なんだから、ギャラクシーな活躍を期待してるわよ!」
続いてにこやかにそう励ましてくれたすみれ先輩。その後ろからひょっこりと可可先輩が顔を出します。
「ちょっとすみれ、そんな変なプレッシャーをかけないで下さい。冬毬、初めてのライブの楽しさ、お思いきり味わうといいデス」
「練習中の冬毬ちゃん、最高に楽しんでた。いつも通りやれば大丈夫」
四季先輩がメイ先輩の衣装を直しながら大きく頷いてくれました。
「スクールアイドルが好きな人なら、絶対に今の冬毬のことを好きになってくれる。私が保証するよ」
昔からスクールアイドルを見続けてきたメイ先輩にそう言ってもらえるのはとても励みになります。
そうしているうちに、いよいよ舞台に立つ時間が目の前に来ました。初めてLiella!を動画で見たときから、ずっと夢見てきた場所。
「力抜いてね、冬毬ちゃん」
最終確認のために、手伝ってくれている生徒会の皆さんと話をしていた千砂都先輩と恋先輩も戻ってきます。
「色々あったけど、冬毬ちゃんは今日まで頑張ってきた。努力は自分を裏切らないよ!」
「そうですね。むしろ冬毬さんの練習している姿に、私たちの方が奮起させられるくらいでしたから」
私がいることで他の皆さんの力にもなれる。皆さんがいるから私も自分に負けずにここまで来られた。みんなで作るスクールアイドルの楽しさが、私の背中を押してくれたことが本当に素晴らしいと感じています。
「冬毬ちゃんの初ステージっすもんね。きな子も先輩として完璧なパフォーマンスをするから、大船に乗った気持ちでいて欲しいっす!」
ふんすと気合いを入れているきな子先輩、実に頼もしいです。
「ふふ。みんな気合い十分って感じだね」
私たちを見渡して笑顔でそう言うかのん先輩。
「かのん先輩」
「どうしたの、冬毬ちゃん」
私はまだまだ未熟なスクールアイドルですが、それでもこの皆さんと過ごした日々で分かったことがありました。
「スクールアイドルは仲間と歌って踊るのを楽しむというだけではなく、その日々を通して自分の夢を叶えるための活動なのですね」
ちょっと瞳を見開いたかのん先輩がすぐに優しい顔で頷きました。
「冬毬ちゃんの夢は叶いそう?」
「・・・・・・ええ、きっと」
「大丈夫、冬毬ちゃんはここまで走ってきた。夢まで、飛べるよ」
幕が上がります。姉者の手をぎゅっと握りしめました。少しだけ震えていた手が、それだけで落ち着きを取り戻します。
「行きますの冬毬。センターを思いっきり楽しむんですの」
ニッと笑う姉者。背中を追う私じゃない、隣に立てることがこんなにも嬉しいなんて。
「アグリー、お任せ下さい姉者。最高の舞台にしてみせます」
ここから先が、私と姉者が胸に描いたステージです。ふと見上げた空は、夏の熱い空気と冬の澄んだ青が混ざりあった不思議な色をしていました。
103: (ワッチョイ 2727-47e2) 2024/01/15(月) 17:10:08 ID:BWybRbTA00
ひたむきに夢を追いかける姉者が大好きで。
眩いほど輝きながら歌うマルガレーテが大好きで。
こんな強情な私を受け入れて下さったLiella!の皆さんが大好きで。
そう素直に思えるようになった自分を、愛せるようになりました。
眩いほど輝きながら歌うマルガレーテが大好きで。
こんな強情な私を受け入れて下さったLiella!の皆さんが大好きで。
そう素直に思えるようになった自分を、愛せるようになりました。
104: (ワッチョイ 2727-47e2) 2024/01/15(月) 17:12:34 ID:BWybRbTA00
文も時間も長くなりましたが終わりです。
お付き合いいただいた方、ありがとうございました。
お付き合いいただいた方、ありがとうございました。
110: (アウアウ 7762-e87a) 2024/01/18(木) 02:13:55 ID:PgOSklV.Sa
蛇足ですが、少しだけあとがきのようなものを。
書くきっかけになったのがJItNWの二番での冬毬パート「自分愛せること!」です。一番でのマルガレーテパート「今日は予定調和壊す煌めきの武器になる」も、マルガレーテ編で強く意識しました。
他にもLiella!の歌詞をたくさん使わせていただきました。とてもいい歌詞の歌がいっぱいあるので、是非今一度、歌詞をじっくり味わって聞いてみて欲しいです。
書くきっかけになったのがJItNWの二番での冬毬パート「自分愛せること!」です。一番でのマルガレーテパート「今日は予定調和壊す煌めきの武器になる」も、マルガレーテ編で強く意識しました。
他にもLiella!の歌詞をたくさん使わせていただきました。とてもいい歌詞の歌がいっぱいあるので、是非今一度、歌詞をじっくり味わって聞いてみて欲しいです。
105: (スプー 5f04-b5c8) 2024/01/15(月) 17:27:49 ID:4Wjdc0eUSd
乙。
やりたいからやるっていうラブライブ!のテーマをベースに、それを自覚してもなおその気持ちを優先できなかった杓子定規な冬毬を、マルガレーテと夏美が溶かしていく描写が良かった
やりたいからやるっていうラブライブ!のテーマをベースに、それを自覚してもなおその気持ちを優先できなかった杓子定規な冬毬を、マルガレーテと夏美が溶かしていく描写が良かった
106: (ワッチョイ f364-59a4) 2024/01/16(火) 08:45:08 ID:V0l7j4.g00
乙~。たいへん面白かったです。
冬毬がマルガレーテの心を優しく溶かし、そのマルガレーテが冬毬の手をグイと引っ張る。二人がスクールアイドルとして歩み出す展開にワクワクしました。
冬毬がマルガレーテの心を優しく溶かし、そのマルガレーテが冬毬の手をグイと引っ張る。二人がスクールアイドルとして歩み出す展開にワクワクしました。
108: (アウアウ d26d-a629) 2024/01/16(火) 12:39:36 ID:epvSRVBMSa
乙!
めちゃくちゃ良かった。
読みやすかったし2期の話も細かく活用されててかなり上手いと思った
めちゃくちゃ良かった。
読みやすかったし2期の話も細かく活用されててかなり上手いと思った
109: (スプー c931-50f2) 2024/01/17(水) 15:50:31 ID:JjIuczhgSd
スバラシイSSノヒト…
引用元: https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11177/1698866478/l50