0
1: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:09:13 ID:???00
江戸は浅草、隅田川沿いの暗い夜道を一人の女が走っていた。
亡者「ォオオオオオ」ザッザッ
ポルカ「また~!?」タッタッタッ
踊りを生業とする大道芸人のポルカはまたしても化け物に追いかけられていた。
以前は人斬りを目撃したと勘違いされたことが原因だったが、今回は心当たりがない。
亡者「ォ……」
ポルカ「あれ、意外と足遅いな」タッタッタッ
毎晩のように追いかけられ続けたせいか、今の彼女に足の遅い化け物など脅威ではないようだ。
花火「染霊術・青海波」
大きな水の波が亡者を襲った。
前作
【SS】花火「火花―HIBANA―」 序~No.1~🆓
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11224/1757335016/
亡者「ォオオオオオ」ザッザッ
ポルカ「また~!?」タッタッタッ
踊りを生業とする大道芸人のポルカはまたしても化け物に追いかけられていた。
以前は人斬りを目撃したと勘違いされたことが原因だったが、今回は心当たりがない。
亡者「ォ……」
ポルカ「あれ、意外と足遅いな」タッタッタッ
毎晩のように追いかけられ続けたせいか、今の彼女に足の遅い化け物など脅威ではないようだ。
花火「染霊術・青海波」
大きな水の波が亡者を襲った。
前作
【SS】花火「火花―HIBANA―」 序~No.1~🆓
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11224/1757335016/
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2: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:12:03 ID:???00
花火「貴女って魑魅魍魎に好かれるのね」
ポルカ「本当勘弁だよ! 今度はなんか目撃したわけじゃないし」
花火「まあ、最近怪異騒ぎが多いからね」
ポルカ「いやー助かったよ」
花火「随分と余裕そうだったけど」
“呉服屋”の花火はこうして着物の力を借りて怪異を退治している。
本来は秘密裏に行うものだが、救助した人々には幾らか知られてしまっている。
花火「それよりあの亡者はどこから来たの?」
ポルカ「仲見世から外れたところにある裏道を通ろうとしたら後ろから追いかけられたんだよ」
花火「それっておかしくないかしら? まさか仲見世から来たとでもいうの?」
ポルカ「え? よくわかんないけどああいうのって地面から生えてきたりするんじゃないの?」
花火「裏道に死体が放置されていた……? いや流石にそれは」
亡者は死んだ人間が邪気を取り込み動き出すものだ。
墓以外にも野垂れ死んだ者の死体が転がっていることはあるが、流石に仲見世のすぐそばの裏道に死体が放置されていることはない。
花火「呼び寄せた者がいる……」
そう言うと花火は駆け出した。
ポルカ「花火ちゃん! ……あれ、何か落とした?」
その何かを拾って顔を上げると、すでに花火の姿はなかった。
ポルカ「本当勘弁だよ! 今度はなんか目撃したわけじゃないし」
花火「まあ、最近怪異騒ぎが多いからね」
ポルカ「いやー助かったよ」
花火「随分と余裕そうだったけど」
“呉服屋”の花火はこうして着物の力を借りて怪異を退治している。
本来は秘密裏に行うものだが、救助した人々には幾らか知られてしまっている。
花火「それよりあの亡者はどこから来たの?」
ポルカ「仲見世から外れたところにある裏道を通ろうとしたら後ろから追いかけられたんだよ」
花火「それっておかしくないかしら? まさか仲見世から来たとでもいうの?」
ポルカ「え? よくわかんないけどああいうのって地面から生えてきたりするんじゃないの?」
花火「裏道に死体が放置されていた……? いや流石にそれは」
亡者は死んだ人間が邪気を取り込み動き出すものだ。
墓以外にも野垂れ死んだ者の死体が転がっていることはあるが、流石に仲見世のすぐそばの裏道に死体が放置されていることはない。
花火「呼び寄せた者がいる……」
そう言うと花火は駆け出した。
ポルカ「花火ちゃん! ……あれ、何か落とした?」
その何かを拾って顔を上げると、すでに花火の姿はなかった。
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3: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:16:05 ID:???00
花火「ここがポルカの言ってた裏道……」
人気のない暗い道だったが、この先は人で賑わう仲見世に繋がっている。
花火「こんなところで亡者が出たら大騒ぎね」
裏道の中腹辺りに来ると、地面の様子が違っていた。
何かを引き摺った跡だった。
花火「外の方からここまで死体を運んで、ここで呪術を使ったということね」
人目に付かない場所で亡者を目覚めさせ、仲見世に放つ。
それが術者の狙いだろうと花火は推理した。
花火「そこへ偶然ポルカがやってきて、亡者はポルカを追いかけた。……後であの子にはお礼を言わなくちゃね」
幸か不幸か、亡者がポルカを追いかけたことで仲見世の平和は保たれた。
花火「でもポルカは誰も見ていない。そもそも目覚めた亡者に見つかれば術者が追われる。だとすれば――」
ぱん、と手のひらを合わせる。
花火「染霊術・檜扇(ひおうぎ)」
花火はその場で跳躍し、一気に屋根の上に登った。
人気のない暗い道だったが、この先は人で賑わう仲見世に繋がっている。
花火「こんなところで亡者が出たら大騒ぎね」
裏道の中腹辺りに来ると、地面の様子が違っていた。
何かを引き摺った跡だった。
花火「外の方からここまで死体を運んで、ここで呪術を使ったということね」
人目に付かない場所で亡者を目覚めさせ、仲見世に放つ。
それが術者の狙いだろうと花火は推理した。
花火「そこへ偶然ポルカがやってきて、亡者はポルカを追いかけた。……後であの子にはお礼を言わなくちゃね」
幸か不幸か、亡者がポルカを追いかけたことで仲見世の平和は保たれた。
花火「でもポルカは誰も見ていない。そもそも目覚めた亡者に見つかれば術者が追われる。だとすれば――」
ぱん、と手のひらを合わせる。
花火「染霊術・檜扇(ひおうぎ)」
花火はその場で跳躍し、一気に屋根の上に登った。
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4: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:18:32 ID:???00
ふわりと屋根に着地する。
花火「もう逃げたかしら……ん?」
花火のいる建物の二軒隣の屋根に梯子が見える。
花火は咄嗟に身を隠した。
「さっきの奴どこ行きやがった……まあいい、今度こそ」
汗だくの男が屋根に上がってきた。
何やら怪しげな道具を手にしている。
花火「また亡者を……!」
このままでは大勢の人が集まる場所に亡者が行ってしまう。
しかし亡者を目覚めさせた犯人を放っておくこともできない。
花火「ちょっと乱暴だけどっ」
身を隠していた花火は一気に男の元へ跳躍した。
花火「はぁっ!」
男は花火に気付くことすらできず、手刀と蹴りを浴びせられ屋根から落ちる。
花火は勢いのまま路地へ着地した。
花火「もう逃げたかしら……ん?」
花火のいる建物の二軒隣の屋根に梯子が見える。
花火は咄嗟に身を隠した。
「さっきの奴どこ行きやがった……まあいい、今度こそ」
汗だくの男が屋根に上がってきた。
何やら怪しげな道具を手にしている。
花火「また亡者を……!」
このままでは大勢の人が集まる場所に亡者が行ってしまう。
しかし亡者を目覚めさせた犯人を放っておくこともできない。
花火「ちょっと乱暴だけどっ」
身を隠していた花火は一気に男の元へ跳躍した。
花火「はぁっ!」
男は花火に気付くことすらできず、手刀と蹴りを浴びせられ屋根から落ちる。
花火は勢いのまま路地へ着地した。
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5: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:21:54 ID:???00
花火「染霊術・山路」
花火が手を地面につけると、土が隆起した。
男は盛り上がった柔らかい土の上に落ちた。
亡者「ォォォォオオオオ」ノロノロ
花火「行かせないわ。『山路』」
亡者の足下の土が隆起し、亡者の進行を止めた。
花火「こんなことのために起こされて……眠りなさい。染霊術・蓮華」
亡者は動きを止め、ただの屍となった。
花火が手を地面につけると、土が隆起した。
男は盛り上がった柔らかい土の上に落ちた。
亡者「ォォォォオオオオ」ノロノロ
花火「行かせないわ。『山路』」
亡者の足下の土が隆起し、亡者の進行を止めた。
花火「こんなことのために起こされて……眠りなさい。染霊術・蓮華」
亡者は動きを止め、ただの屍となった。
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6: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:22:04 ID:???00
檜扇:風の加護。高く跳躍することが出来る上に落下が遅くなり宙を舞うように移動できる。
山路:土の加護。地面を隆起させたり土を操り壁を作ったりできる。
蓮華:偲びの加護。死者の魂を鎮める。
山路:土の加護。地面を隆起させたり土を操り壁を作ったりできる。
蓮華:偲びの加護。死者の魂を鎮める。
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7: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:24:19 ID:???00
翌日
花火「いらっしゃいませ、ってポルカじゃない」
ポルカ「こんにちは」
花火「昨夜振りね。貴女のお陰で騒ぎにならなかったわ。ありがとう」
ポルカ「えへへ、どういたしまして……ってそうだ」ゴソゴソ
花火「?」
ポルカが取り出したのは一枚の布切れだった。
端は破かれたように糸が出ていて、全体的に黒ずんでいるが、青海波の文様がかろうじて見える。
花火「それ! どこで落としたのかと思ったら」
ポルカ「花火ちゃんが走り出したときに落としたんだよ」
花火は大事そうにその布を受け取った。
花火「ありがとう。感謝するわ」
花火「いらっしゃいませ、ってポルカじゃない」
ポルカ「こんにちは」
花火「昨夜振りね。貴女のお陰で騒ぎにならなかったわ。ありがとう」
ポルカ「えへへ、どういたしまして……ってそうだ」ゴソゴソ
花火「?」
ポルカが取り出したのは一枚の布切れだった。
端は破かれたように糸が出ていて、全体的に黒ずんでいるが、青海波の文様がかろうじて見える。
花火「それ! どこで落としたのかと思ったら」
ポルカ「花火ちゃんが走り出したときに落としたんだよ」
花火は大事そうにその布を受け取った。
花火「ありがとう。感謝するわ」
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8: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:26:26 ID:???00
花火「……」チクチク
ポルカが帰った後、客は一人も来なかった。
花火は注文を受けた着物を仕立てていた。
花火「……こんな日に限って誰も来ない。思い出しちゃうわ」
去年の大晦日。
その日は雪が大層積もっていて外を歩く人はほとんどいなかった・
「ちょっと見回りをしてくるから、花火はご飯の支度をお願い」
花火が最後に見たのは、青海波に身を包んだ母の背中だった。
花火「……」チクチクチクチク
翌朝、吾妻橋の真ん中で倒れた母を見つけた。
着物の裾は破けて、手に握られていたのはその欠片だった。
花火「強かった母上を〇した奴がいる……今も何処かに」
花火は震えた。
それは自分も〇されるかもしれないという恐怖からでも、母の敵への怒りからでもなかった。
花火「母上。私にこの町を守れるでしょうか」
ポルカが帰った後、客は一人も来なかった。
花火は注文を受けた着物を仕立てていた。
花火「……こんな日に限って誰も来ない。思い出しちゃうわ」
去年の大晦日。
その日は雪が大層積もっていて外を歩く人はほとんどいなかった・
「ちょっと見回りをしてくるから、花火はご飯の支度をお願い」
花火が最後に見たのは、青海波に身を包んだ母の背中だった。
花火「……」チクチクチクチク
翌朝、吾妻橋の真ん中で倒れた母を見つけた。
着物の裾は破けて、手に握られていたのはその欠片だった。
花火「強かった母上を〇した奴がいる……今も何処かに」
花火は震えた。
それは自分も〇されるかもしれないという恐怖からでも、母の敵への怒りからでもなかった。
花火「母上。私にこの町を守れるでしょうか」
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9: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:29:17 ID:???00
花火「暑いわね……」
七月に入り、夜でも風がないと暑く感じるようになってきた。
仕事終わりに花火は昨夜の事件現場周辺を歩いていた。
花火「昨日の男もまた何者かに呪術を教わったようね」
昨夜の男は墓荒らしの常習者だったらしい。
墓を掘り起こして死体を用意したのはこの男にとってたやすいことだが、墓荒らし風情に呪術など使えるはずがない。
花火「私たちの手の内を探ろうとしている。なら昨晩もどこかから見ていた?」
花火は周囲を見回す。
建物には窓があり、忍び込めばここから様子を見ることは出来そうだ。
花火「でも向こうの裏道は見えない」
一体目の亡者を作り出した道と二体目の方の道は二軒挟んだ位置にある。
建物の中から覗いていては、どちらか一方しか見られない。
花火「やっぱり考え過ぎかしら」
結局あの時他に誰かがその場にいたという痕跡を見つけることは出来なかった。
七月に入り、夜でも風がないと暑く感じるようになってきた。
仕事終わりに花火は昨夜の事件現場周辺を歩いていた。
花火「昨日の男もまた何者かに呪術を教わったようね」
昨夜の男は墓荒らしの常習者だったらしい。
墓を掘り起こして死体を用意したのはこの男にとってたやすいことだが、墓荒らし風情に呪術など使えるはずがない。
花火「私たちの手の内を探ろうとしている。なら昨晩もどこかから見ていた?」
花火は周囲を見回す。
建物には窓があり、忍び込めばここから様子を見ることは出来そうだ。
花火「でも向こうの裏道は見えない」
一体目の亡者を作り出した道と二体目の方の道は二軒挟んだ位置にある。
建物の中から覗いていては、どちらか一方しか見られない。
花火「やっぱり考え過ぎかしら」
結局あの時他に誰かがその場にいたという痕跡を見つけることは出来なかった。
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10: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:32:45 ID:???00
数日後、花火はとある任務で夜の浅草見附へとやってきた。
花火「驚いた。ひょっとして私が護衛する飛脚って貴女なの?」
玲「驚いたのはこっちだよ。てっきり侍の護衛が着くものだと」
浅草見附で初めて顔を合わせた女飛脚の玲と花火。
飛脚も人を護衛するのも一般には男がするものだ。
花火「刀を差した侍では飛脚の脚に着いていけないでしょ」
玲「着物を着た女性にも難しそうだけど、まあいいや」
極秘任務のため、二人にも最低限の情報しか伝えられていない。
手紙を運ぶこと、その手紙を狙うものが襲撃する可能性があるということだけが伝えられた。
玲も無駄に首を突っ込むことはしなかった。
玲「わざわざ夜に運ぶのはなんでなんだろう」
花火「人混みに紛れて敵を見失わないためよ。それより暗い中を走るのは平気?」
玲「任せてよ。夜目が効くのが私の売りだからね」
花火「驚いた。ひょっとして私が護衛する飛脚って貴女なの?」
玲「驚いたのはこっちだよ。てっきり侍の護衛が着くものだと」
浅草見附で初めて顔を合わせた女飛脚の玲と花火。
飛脚も人を護衛するのも一般には男がするものだ。
花火「刀を差した侍では飛脚の脚に着いていけないでしょ」
玲「着物を着た女性にも難しそうだけど、まあいいや」
極秘任務のため、二人にも最低限の情報しか伝えられていない。
手紙を運ぶこと、その手紙を狙うものが襲撃する可能性があるということだけが伝えられた。
玲も無駄に首を突っ込むことはしなかった。
玲「わざわざ夜に運ぶのはなんでなんだろう」
花火「人混みに紛れて敵を見失わないためよ。それより暗い中を走るのは平気?」
玲「任せてよ。夜目が効くのが私の売りだからね」
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11: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:34:38 ID:???00
タッタッタッ
玲「本当に着いてくるとはね」
全力で走る玲に対し、花火は着物の裾を手で持ち上げて、まるで小走りのような格好で着いていった。
花火は麒麟の文様の着物をまとっている。
花火「貴女は気にせず走って頂戴」
花火は汗一つかかずにそう言うと、周囲の警戒を続けた。
花火「身を隠せる場所が多いわね……」
浅草見附から出発した二人は、馬喰町を通って竜閑川を目指していた。
竜閑川は平川(現在の日本橋川)に繋がっており、江戸城外周を回って一ツ橋門から御庭番所のある本丸へ入る。
玲「川まではまだかかるよ」
襲撃を受けるのであれば見通しの良い川沿いが安全と判断してこの道程を選んだのだが、最初はどうしても建物の多い町中を通る必要がある。
玲「本当に着いてくるとはね」
全力で走る玲に対し、花火は着物の裾を手で持ち上げて、まるで小走りのような格好で着いていった。
花火は麒麟の文様の着物をまとっている。
花火「貴女は気にせず走って頂戴」
花火は汗一つかかずにそう言うと、周囲の警戒を続けた。
花火「身を隠せる場所が多いわね……」
浅草見附から出発した二人は、馬喰町を通って竜閑川を目指していた。
竜閑川は平川(現在の日本橋川)に繋がっており、江戸城外周を回って一ツ橋門から御庭番所のある本丸へ入る。
玲「川まではまだかかるよ」
襲撃を受けるのであれば見通しの良い川沿いが安全と判断してこの道程を選んだのだが、最初はどうしても建物の多い町中を通る必要がある。
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12: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:37:23 ID:???00
玲「川が見えてきた」
十分ほど走り、竜閑川に辿り着いた。
花火「……拍子抜けね。襲撃するならここだと思ったのに」
二人は一旦立ち止まり、息を整えつつ周囲を見回す。
花火「川沿いを通ることが予想できるからそこに罠を仕掛けているかもしれないわ」
玲「足元には気を付けるよ」
二人は再び走り出した。
竜閑川は人工的に掘られた川であり、真っ直ぐ川幅が狭い。
真っ直ぐとは言え暗くて先は見えないが、対岸は少なくとも人の有無は確認できる。
花火「小さな橋がいくつもかかっているのが気がかりね」
橋があるということはそれだけ死角が増えるということだ。
しかし身を隠せそうな場所もまた橋くらいしかないということでもある。
十分ほど走り、竜閑川に辿り着いた。
花火「……拍子抜けね。襲撃するならここだと思ったのに」
二人は一旦立ち止まり、息を整えつつ周囲を見回す。
花火「川沿いを通ることが予想できるからそこに罠を仕掛けているかもしれないわ」
玲「足元には気を付けるよ」
二人は再び走り出した。
竜閑川は人工的に掘られた川であり、真っ直ぐ川幅が狭い。
真っ直ぐとは言え暗くて先は見えないが、対岸は少なくとも人の有無は確認できる。
花火「小さな橋がいくつもかかっているのが気がかりね」
橋があるということはそれだけ死角が増えるということだ。
しかし身を隠せそうな場所もまた橋くらいしかないということでもある。
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13: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:43:07 ID:???00
玲「あれが竜閑橋だね」
気付けば平川まで着いてしまった。
道のりとしては半分と少しといったくらいだ。
花火「もう堀まで着いてしまったわ」
ここから先は竜閑川よりも太い平川沿いを通っていく。
途中にある橋は神田橋のみで見通しもいい。
花火「襲って来ないならさっさと行きましょう」
二人は再度走り出す。
玲「……」
花火「……」
走りだして数秒、花火は異変に気付いた。
花火(足音が一つ多い……後ろね)
自分と玲のものではない足音が聞こえた。
花火は無言で玲に合図を出した。
気付けば平川まで着いてしまった。
道のりとしては半分と少しといったくらいだ。
花火「もう堀まで着いてしまったわ」
ここから先は竜閑川よりも太い平川沿いを通っていく。
途中にある橋は神田橋のみで見通しもいい。
花火「襲って来ないならさっさと行きましょう」
二人は再度走り出す。
玲「……」
花火「……」
走りだして数秒、花火は異変に気付いた。
花火(足音が一つ多い……後ろね)
自分と玲のものではない足音が聞こえた。
花火は無言で玲に合図を出した。
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14: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:45:54 ID:???00
玲「!」ダッ
合図とともに玲は全速力で走り、花火は振り返り敵を探した。
花火「居た。竜閑橋で待ち伏せしてたのかしら」
花火が振り返ると走る人らしき影が止まった。
花火「どう来る……?」
花火とその影は互いに構え、動かなくなった。
花火「……っ! まさか!」
ビュン
花火が異変に気付き玲の方を振り返ろうとした瞬間、体の真横を疾風が駆け抜けた。
「ヒョオオオオオオ!」
トラのような黄色と黒の縞模様。
しかしその尾は蛇であった。
鳥のような鳴き声に反して、顔は猿のようである。
花火「鵺!?」
鵺は目にも留まらぬ速さで玲を猛追した。
合図とともに玲は全速力で走り、花火は振り返り敵を探した。
花火「居た。竜閑橋で待ち伏せしてたのかしら」
花火が振り返ると走る人らしき影が止まった。
花火「どう来る……?」
花火とその影は互いに構え、動かなくなった。
花火「……っ! まさか!」
ビュン
花火が異変に気付き玲の方を振り返ろうとした瞬間、体の真横を疾風が駆け抜けた。
「ヒョオオオオオオ!」
トラのような黄色と黒の縞模様。
しかしその尾は蛇であった。
鳥のような鳴き声に反して、顔は猿のようである。
花火「鵺!?」
鵺は目にも留まらぬ速さで玲を猛追した。
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15: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:47:58 ID:???00
花火「染霊術・麒麟!」ダッ
花火は鵺を追った。
麒麟の駆け足は鵺に勝るとも劣らぬ速さだった。
花火「間に合わないっ!」
鵺に追いつくことは出来るが、それよりも鵺が玲に追いつく方が早い。
玲「……!」タッタッタッ
玲は花火から、何があっても振り返らず走り続けろと言われていた。
玲は何者かに追われていることに気付きながらも、花火を信頼して走り続けた。
花火「染霊術・辻が花!」
花火の周囲に旋風が巻き起こった。
花火が腕を振り下ろすと、かまいたちが鵺目掛けて飛んでいった。
鵺「ヒョォォオオォ!!」ズサー
かまいたちは鵺の左後ろ脚を切り刻み、鵺は奇怪な鳴き声を上げて転んだ。
花火は鵺を追った。
麒麟の駆け足は鵺に勝るとも劣らぬ速さだった。
花火「間に合わないっ!」
鵺に追いつくことは出来るが、それよりも鵺が玲に追いつく方が早い。
玲「……!」タッタッタッ
玲は花火から、何があっても振り返らず走り続けろと言われていた。
玲は何者かに追われていることに気付きながらも、花火を信頼して走り続けた。
花火「染霊術・辻が花!」
花火の周囲に旋風が巻き起こった。
花火が腕を振り下ろすと、かまいたちが鵺目掛けて飛んでいった。
鵺「ヒョォォオオォ!!」ズサー
かまいたちは鵺の左後ろ脚を切り刻み、鵺は奇怪な鳴き声を上げて転んだ。
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16: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:53:32 ID:???00
花火「間一髪ね……」
玲と鵺の距離が十分離れたのを確認しながら後ろを振り返る。
先程まで居た人影はいなくなっていた。
花火「先にこっちを片付けましょう」
鵺は起き上がると花火には見向きもせず玲を追いかけ始めた。
しかし脚を切られたことで玲の足に着いていけそうもなかった。
花火「辻が花!」シュバババ
風の刃を纏った両腕を十字に組み、突撃する。
鵺「オオオオオオン!」
花火「飛んだ!?」
鵺は翼もなしに飛行を始めた。
さらに鵺は川辺から川の上へと移動した。
これでは速さで追いついても鵺の元には辿り着けない。
花火「ここで襲撃したのはこれが狙いか」
鵺「キョオオオオオオ」バチバチバチ
咆哮に合わせて鵺の身体から雷が迸る。
玲と鵺の距離が十分離れたのを確認しながら後ろを振り返る。
先程まで居た人影はいなくなっていた。
花火「先にこっちを片付けましょう」
鵺は起き上がると花火には見向きもせず玲を追いかけ始めた。
しかし脚を切られたことで玲の足に着いていけそうもなかった。
花火「辻が花!」シュバババ
風の刃を纏った両腕を十字に組み、突撃する。
鵺「オオオオオオン!」
花火「飛んだ!?」
鵺は翼もなしに飛行を始めた。
さらに鵺は川辺から川の上へと移動した。
これでは速さで追いついても鵺の元には辿り着けない。
花火「ここで襲撃したのはこれが狙いか」
鵺「キョオオオオオオ」バチバチバチ
咆哮に合わせて鵺の身体から雷が迸る。
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17: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:56:37 ID:???00
花火「まずい!」
鵺は川の上から玲を狙った。
鵺「ヒョオオオオオオ!」バチバチバチ
花火「辻が花っ!」シュバババ
雷撃が放たれる寸前、風の刃が鵺の顔をかすめた。
ドゴーン
玲「っ!?」タッタッタッ
攻撃を喰らったせいか雷撃がわずかに逸れ、玲の足下に当たった。
直接雷撃こそ喰らわなかったが、衝撃で小石の破片が玲に当たった。
花火「あの人も肝が据わってるわね……」
鵺は再び雷を纏い始める。
花火「次はさせない! 染霊術・青海波!」
花火は青海波の加護で川の上を走った。
麒麟の加護で得た俊足で瞬く間に鵺の元へ辿り着いた。
花火「染霊術・辻が花!」
風の刃を纏った手刀で、鵺は一刀両断された。
鵺は川の上から玲を狙った。
鵺「ヒョオオオオオオ!」バチバチバチ
花火「辻が花っ!」シュバババ
雷撃が放たれる寸前、風の刃が鵺の顔をかすめた。
ドゴーン
玲「っ!?」タッタッタッ
攻撃を喰らったせいか雷撃がわずかに逸れ、玲の足下に当たった。
直接雷撃こそ喰らわなかったが、衝撃で小石の破片が玲に当たった。
花火「あの人も肝が据わってるわね……」
鵺は再び雷を纏い始める。
花火「次はさせない! 染霊術・青海波!」
花火は青海波の加護で川の上を走った。
麒麟の加護で得た俊足で瞬く間に鵺の元へ辿り着いた。
花火「染霊術・辻が花!」
風の刃を纏った手刀で、鵺は一刀両断された。
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18: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:56:52 ID:???00
・鵺:猿の顔、トラの脚、蛇の頭の尻尾を持つ妖怪。不気味な鳴き声を上げ雷を操る。
・辻が花:旋風の加護。かまいたちでなんでも切り裂く。
・麒麟:駿馬の加護。馬の駆け足ほどの速さで走れる。
・辻が花:旋風の加護。かまいたちでなんでも切り裂く。
・麒麟:駿馬の加護。馬の駆け足ほどの速さで走れる。
0
19: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 21:59:05 ID:???00
玲「いやぁ凄いね。何が起こってたか見えなかったけど」
花火「貴女もね。よく平然と走り続けられたものだわ」
玲「仕事だからね」
花火「さて、手紙を渡さないと」
玲「え? 要る?」
花火「……驚いた。貴女気付いてて引き受けたの?」
玲「まあ薄々ね。夜に届ける依頼はあるけど、大体理由があるからね」
花火「襲撃者を見失わないように、なんて方便は無理があったかしら」
玲「どうだろう。私も完全に疑ってたわけじゃないし」
花火「貴女もね。よく平然と走り続けられたものだわ」
玲「仕事だからね」
花火「さて、手紙を渡さないと」
玲「え? 要る?」
花火「……驚いた。貴女気付いてて引き受けたの?」
玲「まあ薄々ね。夜に届ける依頼はあるけど、大体理由があるからね」
花火「襲撃者を見失わないように、なんて方便は無理があったかしら」
玲「どうだろう。私も完全に疑ってたわけじゃないし」
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20: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 22:01:45 ID:???00
花火「とにかく、騙すようなことをしたのは謝るわ」
玲「あなたがそうしたわけじゃないでしょ? それに守ってくれたし」
花火「それは仕事だから。さ、形だけだけど手紙を届けましょ。今日は御庭番所に泊めてくれるそうよ」
二人は御庭番所の奥へと入っていった。
花火「駒形の呉服屋でございます。手紙をお届けに参りました」
どたどた
花火が部屋に入ろうとしたとき、後ろから御庭番衆の侍が大慌てで駆け込んできた。
花火「何事?」
「……鵺を呼び寄せたと見られる者を、捕えられなかった。二人〇された」
よく見るとその御庭番衆も怪我をしている。
花火「え?」
御庭番は部外者の玲の前である事も忘れ話し始めた。
「只の人と思って近づいたら、化け物であった……」
今回の作戦、それは手紙の輸送を餌に一連の怪異事件の黒幕を誘き寄せることだった。
花火「人じゃなかったの?」
「わからん……それと妙に、酒臭かった……」
花火「酒?」
その黒幕が誘いに乗り姿を現したまでは良かったものの、御庭番衆三人が返り討ちに遭ってしまった。
玲「……ほら、あなた達に比べたら私なんて走って逃げるだけだったでしょ」
黒幕について新たな情報を得たが、その代償は大きかった。
花火は懐にある布切れをぎゅっと握りしめた。
玲「あなたがそうしたわけじゃないでしょ? それに守ってくれたし」
花火「それは仕事だから。さ、形だけだけど手紙を届けましょ。今日は御庭番所に泊めてくれるそうよ」
二人は御庭番所の奥へと入っていった。
花火「駒形の呉服屋でございます。手紙をお届けに参りました」
どたどた
花火が部屋に入ろうとしたとき、後ろから御庭番衆の侍が大慌てで駆け込んできた。
花火「何事?」
「……鵺を呼び寄せたと見られる者を、捕えられなかった。二人〇された」
よく見るとその御庭番衆も怪我をしている。
花火「え?」
御庭番は部外者の玲の前である事も忘れ話し始めた。
「只の人と思って近づいたら、化け物であった……」
今回の作戦、それは手紙の輸送を餌に一連の怪異事件の黒幕を誘き寄せることだった。
花火「人じゃなかったの?」
「わからん……それと妙に、酒臭かった……」
花火「酒?」
その黒幕が誘いに乗り姿を現したまでは良かったものの、御庭番衆三人が返り討ちに遭ってしまった。
玲「……ほら、あなた達に比べたら私なんて走って逃げるだけだったでしょ」
黒幕について新たな情報を得たが、その代償は大きかった。
花火は懐にある布切れをぎゅっと握りしめた。
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21: ◆9eb0UKWm★ 2025/09/09(火) 22:05:00 ID:???00
~幕間~
「ぐふっ……!」ポタポタ
女の吐いた血は白い雪を鮮やかな赤に染めた。
「はぁ、はぁ……染霊術、が……」
視界がぼやける。
積もった雪のお陰で足音がよく聞こえた。
足音は遠ざかっていく。
ドサッ
(一先ず退けた……これでもう)
染霊術を封じられ、追い詰められた末に一矢報いたものの致命傷を負ってしまった。
女は己の死を悟った。
「……っ、まだ……死ねない……!」
このまま死ねば、何も知らない娘が自分と同じ道を辿る。
そうすればこの町を守る者がいなくなる。
ビリッ ビリビリッ
着物の裾を破り、それを決して離さぬよう握りしめた。
女のひらいた血路の先が、自分と違う運命に繋がっていると信じて。
「はな、び……」
女が最期に口にしたのは、花火(きぼう)だった。
破~No.2~ おわり
「ぐふっ……!」ポタポタ
女の吐いた血は白い雪を鮮やかな赤に染めた。
「はぁ、はぁ……染霊術、が……」
視界がぼやける。
積もった雪のお陰で足音がよく聞こえた。
足音は遠ざかっていく。
ドサッ
(一先ず退けた……これでもう)
染霊術を封じられ、追い詰められた末に一矢報いたものの致命傷を負ってしまった。
女は己の死を悟った。
「……っ、まだ……死ねない……!」
このまま死ねば、何も知らない娘が自分と同じ道を辿る。
そうすればこの町を守る者がいなくなる。
ビリッ ビリビリッ
着物の裾を破り、それを決して離さぬよう握りしめた。
女のひらいた血路の先が、自分と違う運命に繋がっていると信じて。
「はな、び……」
女が最期に口にしたのは、花火(きぼう)だった。
破~No.2~ おわり
引用元: https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11224/1757419753/