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■約160000文字■東京に住む津島善子が伊豆半島にある、その不気味な村の名前を初めて聞いたのは、職場を訪ねてきた園田海未と名乗る私立探偵からだった。
昭和二十七年の梅雨明けした初夏のことである。
海未「はい。その黒澤家から、あなたを探すよう依頼されてお伺いした次第で」
職場の応接間で善子と相対するよう腰かけた海未は、帽子をとるなりそういった。
善子「なによそれ。知らないわ、そんな気持ち悪い村の名前も、その――」
海未「黒澤家です」
善子「その黒澤家とかいうのも」
怪訝そうな表情を浮かべる善子をよそに、海未は話を続ける。
海未「その家の、あなたのご親族が身柄を引き取りたいとの要望なのです」
善子「なぜ今更……?いままで放っておいたのに」
海未「それは、私からは詳細をお伝え出来ませんので」
海未「私の知り合いの法律事務所に黒澤家の代理人弁護士を待たせておりますので、このあとご一緒にいきましょう」
海未「ここから近いので、ぜひ!」
善子「はぁ……」
この私立探偵の勢いに押され、渋々応じた。
2023年10月2日 23:10
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