【SS】せつ菜「勇気のかけら」【ラブライブ!虹ヶ咲】

ななせつな SS


3:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:21:59.59 ID:WBe1vUan
その日、私は裏庭でお昼寝をしていた。
午後の実習が早めに終わってしまったから、部活の時間になるまでほんのちょっぴりお休みしようと思って。

本当は、そんな風に過ごしてちゃいけないのはわかってた。
私は──私達は、やらなくちゃいけないことがあった。
もっと貪欲に、もっと禁欲的に、いなくちゃいけなかった。

それなのに甘えてしまっていた。

どうせ部活の時間になれば厳しい練習が待っているんだから、なにも自主練をしてまで追い込む必要はないって。

そう、甘えてた。

だから──


『せつ菜ちゃん: 業務連絡です』

『せつ菜ちゃん: 本日から、同好会の活動はしばらくお休みとします』

『せつ菜ちゃん: 再開する際には改めてご連絡します』


こんなことになったのは、当然だった。
私達のせいだった。

──────
────
──

5:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:24:01.75 ID:WBe1vUan
かすみ「えーっ!?こんなに筋トレやるんですか!?」

せつ菜「はい!頑張りましょう!」

かすみ「かすみんー、もっと歌って踊って可愛いポーズの練習とかしたいんですけどぉ」

せつ菜「ふむ…それも大事ですね。わかりました」コク

かすみ「やったぁ!さすがせつ菜せんぱい、話がわかりますねぇ──」

せつ菜「では、筋力トレーニングが終わるのが概ね18時の見込みなので…20分頃からやりましょうか!すべてやると最終下校時刻を越えてしまうので、日替わりでダンス・歌・ポーズや演出などを取り入れるということで」

かすみ「えっ。き、筋トレの後にやるんですか…てっきり筋トレを削って入れるのかと…」

せつ菜「そうしたいところですが、今のラブライブ!の水準を考えると、筋力の底上げは絶対に必要ですからね。逆算して、毎日これくらいの筋力トレーニングは必須の範疇ですから」

かすみ「うげぇ…」

6:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:26:02.32 ID:WBe1vUan
せつ菜「さあ、ではやりましょう!まずはランニングに行きますよ、皆さん!」オーッ

かすみ「は……はぁ~~い」

エマ「あはは…ほんとに、結構な量のトレーニングだね」

彼方「だね~。彼方ちゃん、毎日こんなについていけるかなぁ」

エマ「わたしもそんなに自信ないよぉ。でもせつ菜ちゃんが考えてくれたメニューなんだから、きっとこれが一番いいんだよね」

彼方「ですなー」

かすみ「……もーっ、彼方せんぱいにエマせんぱい!行きますよ!おさぼりしてたらせつ菜せんぱいに言いつけちゃいますからね!」

エマ「いけない。わたし達も行かなくっちゃ」

彼方「がんばりますか~」


せつ菜ちゃんは唯一のステージ経験者で、知識も豊富で、後輩ながらに逞しく私達を引っ張ってくれた。

…………
……

7:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:28:03.69 ID:WBe1vUan
しずく「すみません、今週は木曜日と金曜日も、演劇部の方に顔を出してほしいと言われていまして…」

せつ菜「うーん…そうですか…」

せつ菜「しずくさん、演劇部でも筋力トレーニングはされていますよね。どんなメニューか教えていただけますか?」

しずく「はい、演劇部では、──────」

せつ菜 ムム…

しずく「どうしましたか?」

せつ菜「いえ、やっていることが違うので仕方のないことではあるんですが、スクールアイドルとしては不要なメニューも多いなと思いまして」

しずく「それは…そうなのかもしれませんね。でもインナーとか肺活量はスクールアイドルにも活きますし、向こうは向こうでそれなりに追い込んでいるので…」

せつ菜「……不要などころか、スクールアイドルの身体の使い方を考えると、むしろあまり鍛えてほしくない部位への負荷も多いような…」ブツブツ

しずく「せつ菜さん?」

せつ菜「…………すみません、しずくさん。えっと…」カキカキ…

せつ菜「演劇部に参加する日は、筋力トレーニングの内容をこういう風に変更しておいてもらえますか?」っ紙

しずく「え?それって、どういう…」

8:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:30:04.33 ID:WBe1vUan
せつ菜「しずくさんは、まだ舞台には立ちませんよね?一方ラブライブ!のステージには立つことになるので、身体づくりはスクールアイドルを基準にしてほしいんです。演劇部の方に参加するのは構わないので、しずくさんのメニューを変えるだけなら部にもご迷惑はかからないでしょうから」

しずく「えっ、と……」

かすみ「…演劇部でしず子だけ違うメニューをやるってことですかね?」

彼方「ぽい、かなあ」

かすみ「そういうのっていいんでしょうか。なんていうか、悪目立ちしちゃったりしませんかねぇ…」

せつ菜「よければ私から演劇部の方に話を通しておきましょうか。その方がしずくさんも──」

しずく「あっいえ、それは、大丈夫です。私が自分で話しますから…」

彼方「……う~ん…」


ちょっぴり「ん?」と思うことはあっても、筋は通っているように思えたし、なにより同好会のことを一生懸命に考えてくれてることがわかるから。
具体的に反論することはできなかったし、誰もしなかった。

…………
……

10:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:32:05.78 ID:WBe1vUan
彼方「あうっ」コケッ

エマ「彼方ちゃん!だいじょうぶ!?」

彼方「うん、平気~。ちょっぴり疲れてきちゃったかも、なんてねぇ…」ヘヘ

せつ菜「…彼方さんは、このくらいの時間になると体力が追いつかなくなることが多いようですね…」ムム

彼方「中学までそんなにスポーツとかしてこなかったからかな。長い時間動いてるとどうしても疲れちゃうかも~」

しずく「…っふう。やっぱりダンスって結構体力を使いますもんね。私もそろそろ疲れてきてしまいました」

彼方「せつ菜ちゃんは声も出しながらなのに、すごいなぁ」

せつ菜「ま、まあ…私は経験が長いので……」

エマ「ねえせつ菜ちゃん、ちょっと休憩にしよう。わたしもだし、みんな疲れてきちゃったよ」

せつ菜「ですが、まだ始めてから十五分ですよ?」

11:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:34:06.92 ID:WBe1vUan
エマ「うん…でもわたし達、こんなにしっかりダンスの練習するのって初めてだから」

せつ菜「……わかりました。では、五分休憩にしましょう」

彼方「ありがと~」ヘタ…

せつ菜「彼方さん、今のうちに少しいいですか」スッ

せつ菜「見ていた感じ、筋力トレーニングで体力を使いすぎているような気がします。身体の使い方に無駄が多いのが原因だと思うので、家で体幹のストレッチと腸腰筋のトレーニングをしてください。それから…」

彼方「か、帰ってからも…」

エマ「せつ菜ちゃん、せつ菜ちゃん。彼方ちゃんは体力が追いついてないって言ったのに、さらにトレーニングの量を増やしちゃって平気なの?」

せつ菜「ですが、根本を改善しないことには…」

しずく「だ…だったら、こうしませんか?部活の筋力トレーニングの時間を少し削って、体幹のトレーニングに充てるというのは!」

エマ「それ、いいかも!わたし達も一緒にできるもんね」

せつ菜「で、ですがそれでは体力づくりの計画が……」

12:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:36:08.39 ID:WBe1vUan
せつ菜「…いえ、皆さんのペースを守らないといけませんよね。月曜日までに全体のメニューの改善案を考えてきます」

彼方「ごめんね、彼方ちゃんが体力ないせいで…」

せつ菜「い、いえ。私達はグループですから、全員で支え合うのは当然のことですよ」

彼方「うん…」

かすみ ゼェハァ………

かすみ「…ちょっとはかすみんの心配してくださいよぉ…!」ヒーンッ

しずく「かすみさん、もう限界って言ってからもしばらく頑張れるんだもん」


思えばこの頃から、せつ菜ちゃんは苦しそうな表情をすることが多くなってたんだ。
それは肉体的な疲労とかってことじゃなくて、きっと──

…………
……

15:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:38:08.94 ID:WBe1vUan
────♪………


ハァ……ハァ………ッ


しずく「…どうでしょうか」フゥ…

せつ菜「はい。しずくさんはやはり肺が強いからか、ダンスしながらでも歌声がブレないのはすごくいいですね」

しずく「ありがとうございます!」

せつ菜「一方で、歌詞に対して感情が乗りすぎな部分は変わっていませんね。ソロなら世界観として特徴にできますが、グループだと浮いてしまうので、全体の雰囲気を見ながらそこはうまくコントロールしてほしいのですが」

しずく「うう…すみません……もうずっと言われてますよね。どうしても、情緒的な歌詞を口にしていると気持ちが高まってきてしまって…」

せつ菜「そうですね、ずっとお伝えしているはずですよ」ピシャリ

しずく「……っ」

彼方「せ、せつ菜ちゃん…!」

せつ菜「…あっ、す…すみません。その、しずくさんのいいところでもあるんです。ただ、グループで歌うということにもう少し焦点を置いてほしいといいますか…」

しずく「は…はい。わかっています」

エマ「せつ菜ちゃん、わたしはどうかな?」

せつ菜「エマさんは、そうですね。とても動きが大きくてしっかりしているのですが、そのせいで遅れている部分が──」

16:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:40:10.34 ID:WBe1vUan
彼方「しずくちゃん、平気?」ススス

しずく「はい。ずっと同じことを注意してもらっているのに直せていない私がいけないので」

彼方「グループでやるのって、色々難しいんだね」

しずく「みたいですね。私は歌というと、どうしてもミュージカルのようなものが根底にあるので、歌い方がそっちに寄ってしまって…」

彼方「なるほどねぇ。…それにしても、せつ菜ちゃん…」

しずく「…はい。せつ菜さんもお疲れのようですね」

彼方「彼方ちゃん達の練習も見てくれて、自分のこともやってるんだもんね」

しずく「そうですよね…」


せつ菜ちゃんは物事をはっきり言う子だけど、相手のこともしっかり尊重してくれる。
それが、少しずつ余裕のない言い方をすることが増えていたように思う。

…………
……

18:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:42:11.44 ID:WBe1vUan
ガチャ──


彼方「…せつ菜ちゃん。おはよう」

せつ菜「あ、彼方さん…おはようございます」

彼方「なんで朝から部室にいるの?」

せつ菜「その、少しダンスの練習をしていました」

彼方「えっ、一人で?」

せつ菜「はい。最近あまり練習できていなかったので」

彼方「あ…そっか、せつ菜ちゃん、部活の時間は私達の練習を見てくれてるんだもんね。ごめん…」

せつ菜「い、いえ、そんな。家でやるわけにもいかないですし、早起きは得意なので」

彼方「そういえば、昨日も最後だったよね。何時まで練習してたの?」

せつ菜「ああ…昨日は練習で残ったわけではないんですよ。ライブ用にステージを借りられないか、いくつかの施設にメールを送っていたんです」

彼方「そうだったの…!?」

19:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:44:13.00 ID:WBe1vUan
せつ菜「ラブライブ!の予選前に、経験を積むためと知名度を上げるために、数回ステージに立った方がいいかと思いまして」

彼方「もう~…そういうの一人でやらないで、頼ってくれたらいいのに。メールするくらい彼方ちゃん達だって

せつ菜「そんなことに時間を割くくらいなら、筋力トレーニングかダンスの練習をしてください」

彼方「ぅ……」

せつ菜「………っあ…違うんです、ごめんなさい…!」ハッ

彼方「う、ううん。ほんとのことだもんね。ごめんね、私達がもっと頼りになればいいんだけど、色んなこと任せちゃって」

せつ菜「すみません、そんなつもりじゃ…」

彼方「うん、わかってるよぉ」アハハ…

せつ菜「……っ」

彼方「…」

せつ菜「…で、では私はそろそろ行きますね。また放課後に」ガタ

彼方「は~い」


せつ菜ちゃんは何度も頭を下げてくれたけど、それは本当のことだったから。
でも、その言葉に気圧されずに、もう一歩踏み込むことができていたら…

…………
……

21:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:46:14.06 ID:WBe1vUan
ガチャ──


せつ菜「彼方さん…!」

彼方「あ、せつ菜ちゃん」

せつ菜「私、ノートをその辺りに置いていませんでしたか!?」キョロ

彼方「うん、あったよ。取りに戻ってくるかなーと思ってたとこ。はい」っノート

せつ菜「ありがとうございます」

せつ菜「……中、見ましたか?」

彼方「あはは、まさか~。勝手に見たりしないよ」

せつ菜「そ、そうですか。それでは私はお先に失礼します」ホッ…

彼方「うん、お疲れ様~」


──バタン…


彼方「………」

22:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:48:15.83 ID:WBe1vUan
──『ステージの使用許可が下りたのはいいけど、この状態でライブができるのか?』

──『エマさんとしずくさんはギリギリ。彼方さんとかすみさんは体力が足りていない』

──『歌、七割。ダンス、四割。かなり低めに設定したつもりなのに、######### 全員頑張っている。わかってる。』

──『ラブライブ!の予選が九月にあるって皆さんわかってるよね? ######### 全員同じ気持ち。私達はグループ。』

──『よくない言い方をしてしまった。謝りたかったけど、こっちを向いてくれなかった』

──『月末にライブは無理では。』

──『###############』

──『最悪。ダンス忘れかけてた。時間足りない。##### 私自身の問題。私自身の問題。』

──『全員でライブがしたい。エマさん、彼方さん、かすみさん、しずくさん、私。全員でライブがしたいのに、』


ごめんね、せつ菜ちゃん。

数滴の乾いた跡がノートの端を歪めていた。
ごめんね、せつ菜ちゃん。


彼方「────ごめんなさい────」

…………
……

25:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:50:17.49 ID:WBe1vUan
かすみ「こうやって~………えへっ♡」キャピッ

エマ「わあ、かわいい!」

彼方「ほんと。こんなパフォーマンスされたら、彼方ちゃんがお客さんならイチコロだよ~」

かすみ「えへへ、そうですか?もっと褒めてください~」

せつ菜「…」

かすみ「どうですか、せつ菜せんぱいっ。かすみん可愛かったですよね?今のとこの振り付け、こっちに変えちゃいませんか?」

エマ「いいと思う、すっごく可愛い動きだし、ばえるよ!」

しずく「せっかくその動きを取り入れるなら、ここではかすみさんがセンターになった方がよくないでしょうか」

彼方「ん~、そしたら立ち位置ちょっぴり調整する?2メロ前からここをさ、しずくちゃんとせつ菜ちゃんがこう…」

しずく「あっ、いいですね。これならほとんど無理なく変更できそうです」

エマ「じゃあ、ここはわたし達がこっちに動きながら…」

かすみ「かすみんがこう動いて………こう!」キャピッ

彼方「いいねいいねぇ、可愛いねーお嬢ちゃん!」

せつ菜「……それって、かすみさんがやりたいだけの動きですよね」ポツ…

彼方「え?」

26:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:52:19.38 ID:WBe1vUan
せつ菜「振り付けは変更しません。立ち位置もこれまで通りでいきます」


シン……


かすみ「…どうしてですか」

せつ菜「曲調と噛み合わないからです。前後の振り付けとの雰囲気も合いませんし、変更するメリットがありません」

エマ「でも、可愛いよ?」

せつ菜「可愛い曲ならそれは大事なポイントですが、この曲はそうではありませんよね?」

しずく「それは、そうですけど……でもこれくらい思い切ったことができるのもスクールアイドルのよさじゃないでしょうか。プロのアイドルだとそうはいかないのだと思いますけど、私達には好きなことを表現してもいい自由があるはずです」

せつ菜「………確かに、そんな風に曲の雰囲気を無視して個性を取り入れているグループはいくつもあります。スクールアイドルならではの特徴といえるでしょう」

しずく「そ、そうですよね。だったら──」

せつ菜「ですが、それらの曲がラブライブ!の予選を通過した事例はほとんどありません」

せつ菜「曲との不協和を覆せるほどの圧倒的な個性とパフォーマンスがあれば話は別ですが、今の私達にそれは叶いません」

せつ菜「『大好き』を表現するには、まだ──実力が足りません」

27:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:54:20.35 ID:WBe1vUan
かすみ「………っ…そんなの……」ギリ…

せつ菜「それとも、たった一曲、たった一秒、好きなポーズができれば満足ですか?それで私達のラブライブ!が終わるとしても?」

かすみ「…かすみん達ならできるって、思ってくれないんですか」

せつ菜「…」

かすみ「せつ菜せんぱい、かすみんのこと『可愛い』って言ってくれたじゃないですか。『誰よりも可愛い』って、あんなに言ってくれたじゃないですか…!」

せつ菜「…スクールアイドルが大好きなんでしょう?やりたいんでしょう?それは自分が表現できればいいだけの、誰にも伝わらなくていいような、軽い気持ちじゃないと思っています」

かすみ「だから、一生懸命伝えようと思って──」

せつ菜「──『こんな』パフォーマンスでは、ファンのみんなに大好きな気持ちは届きませんよ!!」

かすみ「……!!」

せつ菜「今の私達がファンのみんなに向けてできることは、王道をしっかり歩んでいく姿勢を見せることだけです!やっと結成した私達のこれからを見ていてくださいと、誠心誠意でパフォーマンスするしかないんですよ!」

かすみ「だってッ……こんなの、全然可愛くないです!熱いとかじゃなくて、かすみんは可愛い感じでやりたいんです!」

かすみ「予選までまだ時間ありますよね?圧倒的な個性とパフォーマンスを下さいよ、せつ菜せんぱいが!私達に、教えてくれたらいいじゃないですか…っ!」

かすみ「信じてくださいよ──頑張りますからッ!!」

28:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 21:57:22.81 ID:WBe1vUan
せつ菜「…………っ……」

かすみ ハァ……ハァ…ッ

しずく「かすみさん…」

エマ「……せつ菜ちゃん、」

せつ菜「………今日は、終わりにしましょう。また後でグループに連絡します」フイッ

彼方「せつ菜ちゃん…!!」

せつ菜 ………ッ…

せつ菜 スタスタスタ……


──ギィ────バタン──


それから二日間、せつ菜ちゃんは練習に来なかった。

三日目、グループラインで『業務連絡』が告げられた──

──
────
──────

29:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:00:24.92 ID:WBe1vUan
数日後…


彼方「おつかれさまぁ~…」ガチャ…

しずく「彼方先輩、お疲れ様です!どうでしたか?」

彼方「だめぇ。今日も見つけらんなかったよ~」

しずく「そうですか…私も二年生の先輩達に聞いてみたんですけど、誰も…」フルフル

彼方「もう、どういうことなの?せつ菜ちゃんってほんとはニジガク生じゃないとか?」

しずく「それはさすがに、ない…と思います…けど……」

彼方「でもさ、彼方ちゃん達にお返事くれないのはまだしも、校内のどこにもいないし何組かもわかんないなんて、ちょっと不思議すぎない?」

しずく「…神出鬼没、ですから」

彼方「はぁぁ~~~疲れちゃったよぉ」ドサッ

エマ「あっ彼方ちゃん、お疲れ様。紅茶いれたところなの、飲むでしょ?」ヒョコ

彼方「のむ~~~」ノシ


『業務連絡』から三日目。
せつ菜ちゃんは、個人ライン・グループライン・通話、どれにも応答してくれなくて、ぱったりと音信不通になってしまっていた。

それに…

31:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:03:27.64 ID:WBe1vUan
エマ「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」コト

彼方「ありがとう。…かすみちゃんは?」

しずく「今日も来ていません」フル…

彼方「そっかぁ…」


ぽつんと空いた椅子。
かすみちゃんがお気に入りでよく陣取っていた席。

部室はすっかり広くなってしまった。

32:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:06:29.13 ID:WBe1vUan
彼方「かすみちゃんは音信不通になったりしてないよね?」

しずく「それは大丈夫ですよ、個人ラインでは普通にやり取りしていますから」

彼方「よかった」

エマ「練習、どうしよっか」

彼方「そう、だねぇ。この調子じゃ月末のライブだって参加できないかもしれないし、ラブライブ!の予選だってエントリーするか迷っちゃうもん」

しずく「あ、それ…なんですけれど…」

エマ「なあに?」

しずく「…部長が、もしスクールアイドル同好会の活動が少なくなるようなら演劇部にしっかり顔を出さないか、と。夏舞台に向けた練習が始まっていくので、一年生のうちはしっかり見ておいた方がいいだろうと…」

彼方「あー………」

エマ「同好会が、こんな状況なんだもんね…」

33:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:09:30.88 ID:WBe1vUan
しずく「すみません。不義理だとはわかっているんですけど、こうして部室に来ても学びがないのであれば、…その…」

彼方「ううん、それは当然のことだよ。彼方ちゃん達も、いつまでもこうして放課後の溜まり場として集まるだけじゃよくないよねぇ…」

エマ「そうだね…」

しずく「部室に誰も来なくなってしまったら、同好会は…どうなるのでしょうか…」

エマ「……わたしは来るよ」

彼方「エマちゃん」

エマ「わたしは、放課後にやらなくちゃいけないこととかないから。いつせつ菜ちゃんが戻ってきてくれてもいいように、来るようにするよ。一人でもダンスの練習はできるし、一人ならこの部室でもじゅうぶんな広さだもの」

彼方「彼方ちゃんもバイトがない日は来るようにするよ~。せつ菜ちゃんに会えたら連絡するからね」

しずく「ありがとうございます。かすみさんにも伝えておきますね」

34:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:12:35.20 ID:WBe1vUan
ピロン♪


エマ「…ぁ…」

彼方「どしたの?」

エマ「うん、スクールアイドルのイベント情報アプリなんだけどね。二週間前通知が来たの」

彼方「へ~。誰のライブ?」

エマ「わたし達のだよ」っスマホ スッ


『×月×日 (水) 15:00- 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 ダイバーシティ東京 フェスティバル広場大階段』


彼方「わーお…なんだか胸に来るねぇ…」ウッ

エマ「あはは…そうだね」

35:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:15:37.80 ID:WBe1vUan
しずく「それって、会場の利用申請とかって取り下げなくていいものなんでしょうか」

エマ「えっと、どうなんだろう…」

彼方「その辺みんなせつ菜ちゃんに任せちゃってたんだもんね…」


──せつ菜「ああ…昨日は練習で残ったわけではないんですよ。ライブ用にステージを借りられないか、いくつかの施設にメールを送っていたんです」

──せつ菜「そんなことに時間を割くくらいなら、筋力トレーニングかダンスの練習をしてください」


彼方「……彼方ちゃん、やっとくよ。たぶんあのパソコンからメールしてくれてたはずだから、連絡先すぐにわかると思うし」ガタ…

しずく「あ、ありがとうございます」

エマ「やっぱりライブはできないよね。こんな状態なんだもん」

しずく「そうですね…」

36:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:18:39.77 ID:WBe1vUan
カチカチ…


デスクトップの数少ないアイコンからメールボックスをひらき、最近のメールを確認していく。
通数が多くないおかげで、すぐにダイバーシティ東京の管理室宛のメールを発見できた。

さっとメールの履歴を確認して、そのままこのスレッドに返信しちゃえばいいよね…

…あれ?

せつ菜ちゃんがメールしたって言ってたの、先々週くらいだったよね。
っていうかこの日付、今週…?

つい数日前に、メールを返信した履歴がある。
誰が。
ううん、一人しかいない。
どうして。
いつの間に。

37:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:21:41.77 ID:WBe1vUan
頭の中でいっぱいになった「?」を抱えながらメールをひらいて、つい声が漏れる。


彼方「………これって…」

エマ「彼方ちゃん、どうかしたの?」

彼方「エマちゃん、しずくちゃん。見て」

しずく「なんですか?………………………これって…」

エマ「…どういうこと……?」

彼方「わかんない。けど、書いてあることを素直に読むなら…」


彼方「……しずくちゃん。かすみちゃんにすぐ連絡できる?」

*

38:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:24:44.16 ID:WBe1vUan
キリがいいので、連投リセットもかねて少し休憩します

41:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:40:36.94 ID:WBe1vUan
*

某日、ダイバーシティ東京・フェスティバル広場。

私は一人、控え室で震えていた。


『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、生LIVE!! ダイバーシティ東京 フェスティバル広場大階段 ×月×日 (水) START 15:00』


手元のポスターでは、きごちない笑顔を浮かべた五人が並んでいる。
近江彼方、エマ・ヴェルデ、中須かすみ、桜坂しずく、そして優木せつ菜──虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のフルメンバーだ。

今日は、この五人で結成のお披露目ライブ。

一年間、虹ヶ咲学園のスクールアイドルを名乗りソロで活動してきた私だけど、今年度からはグループとして活動していくことにした。
ラブライブ!は学校単位で参加することになるから、その予選前にそれを表明しておくためのミニライブ。

皆さんと一緒に、ライブをする──はずだった。

43:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:43:39.09 ID:WBe1vUan
私には知識があった。

昔から大好きで追いかけていたスクールアイドル達が、そしてラブライブ!が、どんな風に盛衰してきたか。

私には経験があった。

最大で三年間のチャンスしかないスクールアイドルを、一年の無駄もなく始めることができた。

私には実績があった。

立てるだけのステージに立ち、出られるだけの大会に出て、徐々に知名度が上がっていくのを感じていた。

私には目標があった。

ラブライブ!の予選を突破し、本選を勝ち抜き、頂で優木せつ菜ここにありと高らかに叫ぶ──そんな夢が。

44:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:46:41.06 ID:WBe1vUan
私には知識があった。

だからわかっていた、ソロでラブライブ!を勝ち抜くことはできないと。

私には経験があった。

これをもってすれば新たなメンバーをすぐに一定のレベルまで引き上げることができる。

私には実績があった。

客寄せパンダばんざいだ、新生のグループが数多のライバルから一歩先んじるための差異になるなら。

私には目標があった。

だから嬉しかった。
全てが揃った状態で、強くて二年目(ニューゲーム)を始められることが。

45:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:49:43.22 ID:WBe1vUan
スクールアイドルに興味を持つ人達が集まってくれて、五人のグループとなった。
ややグループ偏重の気があるラブライブ!において、これはベストに近い人数といえた。

目指す舞台はラブライブ!、その意識は全員共通していて。

私が持てる全ての知識と経験を、余すことなく伝えた。
スクールアイドルとして活動するなかで私が得た知見の全てを注ぎ込むことで、新生したばかりのグループには通常成し得ないほどの『知識』と『経験』を備えられるように。
無我夢中で取り組んだ。

そして、わかった。

ああ、このグループでは間に合わない──今年のラブライブ!には間に合わない、と。

わかってしまった。

46:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:52:45.77 ID:WBe1vUan
一つ、体力が足りない。
一つ、熱量が足りない。
一つ、調和が足りない。
一つ、時間が足りない。

足りない、足りない、足りない、足りない、足りない。

足りない、足りない、足りない、足りない、足りないんだ。

なにもかも足りないことがわかってしまった。

体力を作ることも、熱量を生み出すことも、調和を醸成することも、できていない。間に合わない。
それらに時間を割けば、自分の時間も足りなくなる。
それらに時間を割いても、皆さんと私の間にはなぜだかどんどん距離がひらいていくようで──

信頼が、足りない。

47:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 22:55:47.59 ID:WBe1vUan
私は私の経験と知識と実績と目標だけを信じすぎた。

目の前で一緒にがんばろうとする仲間達、一人ひとりを見ていなかった。

経験の身につけ方が違う。
知識の活かし方が違う。
実績へのこだわりが違う。
目標が違う。

そんなことに気づかないまま闇雲に声を張るだけの私だったから、届かなくて当然だった。
気づけば皆さんは私のことを信じられなくなっていて、私も皆さんのことを信じられなくなっていた。

私達は、グループになれてすらいなかった──

48:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:04:07.35 ID:WBe1vUan
スタッフ「そろそろお願いいたします」

せつ菜「──はい」スッ


ステージに立つと、心ばかりの歓声が出迎えてくれた。
一方、戸惑う声の数々が風に乗って届く。


「あれ、せつ菜ちゃん一人?」

「新しいグループのお披露目だったよね?」


せつ菜「……っ」


そう、今日は新しいグループのお披露目ライブだった。
私は、仲間達とともにここに──このステージに、立ちたかった………!


────♪……


せつ菜「♪走り出した! 思いは強くするよ 悩んだら 君の手を握ろう──」

…………
……

49:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:09:24.61 ID:WBe1vUan
────♪……


アウトロが抜け、歓声が私を労う。


せつ菜 ハァ……ハァ………ハァ…ッ


いつの間にこうも衰えてしまったのだろう。
たった一曲、踊っただけなのに。
すっかり息が上がってしまい、情けない自分に苦笑いが漏れそうになる。

本当はもう一曲と、軽いMCの時間まで頂いている。
だけど、私が一人でやるような曲はもうない。
MCで話すようなことも、ない。

まばらに立つ観客達の視線を受けながら、歯噛みする。

50:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:14:38.16 ID:WBe1vUan
聞きたいことがあるのはわかっている。
伝えてほしいことがあるのはわかっている。
わかっているなら、応えるべきだということも。

だけど、私にはそれを口にする勇気がない。

グループ結成は白紙になった、と。
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は崩壊した、と。

口にしてしまえば、もう後には戻れなくなるから。

情けない。

自分が切り捨てたくせに、どこかでまだ皆さんとやり直せる可能性に期待してる。
ここで明言さえしなければいつかきっとその機会が来るんじゃないかと、期待してる。

皆さんを裏切った責任も取らずに、目の前のファンすら裏切ろうとしている。

私には、勇気が──足りない──


────♪……


せつ菜「………!?」ハッ

51:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:19:51.62 ID:WBe1vUan
それは、五人の曲。
自分のソロ曲の練習を疎かにしてまで繰り返し歌って踊った私達の曲。

それがどうして今、流れる。

事務局のスタッフさんには、一曲しかやらないと連絡したはずなのに。
ううん、そもそも音源を渡してすらいない。
この曲が流れるわけがないのに──


「さあさあせつ菜せんぱい、出番が終わったなら引っ込んじゃってください!」

せつ菜「………っ…!」


その声の主は疑いようもなくて。
顔を上げると、世界一可愛い後輩が強気な視線を寄越していた。

53:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:25:17.12 ID:WBe1vUan
その隣には彼方さんが、エマさんが、しずくさんがいて。

四人がイントロに合わせて階段を下りてくる。


せつ菜「どう、して……」


彼方「ごめんねぇ、せつ菜ちゃん。今から彼方ちゃん達だけで踊るから、ちょっと後ろで待っててくれる?」


私が言葉を返すより早くイントロが終わってしまい、四人のパフォーマンスが始まった──

…………
……

55:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:30:43.32 ID:WBe1vUan
────♪……


かすみ「……っ、ありがとぉ…ございましたぁ……!」

彼方「はぁ…はぁ…… ちょっぴり、お話ししていいんだよね?」

しずく「はい。MCの時間も取ってあると、先ほどスタッフさんに確認しましたから」

エマ「せつ菜ちゃ~ん、もう終わったから上がっておいでよ~!」


「せつ菜ちゃん、呼ばれてますよ」

「こういうことだったんですね!驚いちゃった~」

「ほらほら、早く行かないと」グイッ

せつ菜「あ、えと、はい…」ットト


ファンの皆さんに背中を押され、手を振るエマさんに引かれるように、よろよろとした足取りで四人の元へ向かう。

56:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:35:53.18 ID:WBe1vUan
辿り着くと、すっと皆さんが分かれ、真ん中に場所ができる。


かすみ「せつ菜せんぱいが、うちの同好会の部長さんなんですから。真ん中に立ってくださいよ」

せつ菜「は、はい…」

かすみ「まー?ぷかぷかしてたら、すーぐかすみんが部長の座もセンターも奪っちゃいますけど!」

しずく「かすみさん、それって『うかうかしてたら』の間違いじゃない?」

かすみ「い…いいの!ぷかぷかの方が可愛いでしょ!」

エマ「はいはい、まだライブの途中なんだから静かにしなくちゃだめだよ」

彼方「えーっと…せつ菜ちゃんが、私達のパフォーマンスにびっくりしてなんにも言えなくなっちゃってるみたいなので、とりあえず彼方ちゃんが司会しま~す」

せつ菜「えっ!?だ、だって…」

彼方「みなさん、どうでしたか~?せつ菜ちゃんのパフォーマンスにはやっぱり敵わないけど、彼方ちゃん達四人でなんとかせつ菜ちゃん一人分くらいにはなったんじゃないかなーって、思ってま~す」


「よかったよー!」

「可愛かった~!」

「せつ菜ちゃんの勝ちだよー!」


彼方「ありゃりゃ、ちょっと耳の痛い言葉も聞こえますなぁ」

57:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:41:01.40 ID:WBe1vUan
彼方「ほんとは、この前せつ菜ちゃんに『こんな下手っぴなパフォーマンスでステージに立たせられるかー』って怒られちゃって、今日も踊れない予定だったんだ」

彼方「でもね、悔しかったからみんなでこっそり練習して、せつ菜ちゃんに内緒で踊っちゃった~」


彼方さんが話す、ウソとホントを混ぜた話。
話し方もあるのだろうか、決して自分達を過剰に卑下したり、あるいは私を責めたりするようには、聞こえなくて。

ファンの皆さんも、和やかな表情で聞いていた。


エマ「せつ菜ちゃん」ボソ

せつ菜「はい…」

エマ「せつ菜ちゃんがいなくなってね、わたし達、すごく悲しかったよ。一緒に頑張りたかったのに、もうそれができないんだって思うと、泣いちゃいそうだった」

しずく「でも、それは私達がせつ菜さんの期待に応えられなかったからですよね。ご自分の時間を割いてまでたくさん向き合ってくださったのに、私達がなかなかレベルアップできなかったから」

せつ菜「それは…」

かすみ「ほんとはわかってたんです、せつ菜せんぱいが言ったこと。まだまだ実力が足りなくて、やりたいことをやりたいようにやるには早いってこと。でも、悲しくて、悔しくて、それを素直に認められませんでした」

かすみ「なにもかも足りないってことくらいわかってましたけど、かすみんは、かすみん達は──せつ菜せんぱいに信じてほしかったんです。一緒に頑張れる仲間だって」

せつ菜「…っ、すみ…ません、でした……」

58:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:46:29.11 ID:WBe1vUan
しずく「彼方さんが、せつ菜さんが今日一人でライブをしようとしていることに気づいてくれまして。どうするべきかみんなで話し合ったんです」

せつ菜「それで、こんな形に…?」

かすみ「はい」

かすみ「だって、負けたくなかったんですもん」

せつ菜「……!」

かすみ「せつ菜せんぱいに連絡つかなかったから五人で練習することもできなくて、なんとか四人用に変更して練習したんですよ。すっごく大変だったんですからね」

エマ「かすみちゃん、一人でずっと練習してたんだもんね」

かすみ「わああっ、言わないでくださいよぉ!」

彼方「んん~~?ちょっとキミ達ぃ、彼方ちゃんの癒やしトークの最中なんだから騒がしくしないでほしいのだがねぇ」

かすみ「も…もういいですよ、つなぎは!マイク貸してください!」パシッ

彼方「おっと」

59:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:51:36.32 ID:WBe1vUan
かすみ「とゆーわけでぇ、この優木せつ菜せんぱいは、今日からかすみん達とグループを結成しまーす!といってもリーダーは実質このかすみんなのでせつ菜せんぱいは引き立て役っていうか、」

しずく「貸してね」ヒョイ

かすみ「あっマイクぅ!」

しずく「ご覧いただいたように、私達とせつ菜さんでは、パフォーマンスにまだまだ大きな差があります。それでも、この人と一緒に、この全員で、グループとして成長していきたいと思っています」

しずく「どうか、どうか皆さんのご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします──」ペコッ

彼方「しずくちゃんってば堅いな~。まあ、それがいいとこなんだけどね。よろしくお願いしまーす」ペコッ

エマ ペコッ

かすみ「あわわっ、お…お願いしますっ!」ペコッ

せつ菜「…………っ!!」

60:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/08(水) 23:56:40.33 ID:WBe1vUan
私は諦めた。
この全員でステージに立つことを。

皆さんがスクールアイドルを「大好き」だと言う言葉を、想いを、信じられなくて。

一緒にやっていくのは無理だと思って身を引いてしまった。

それなのに、この人達は。

決して、上出来なパフォーマンスではなかったと思う。
やっぱり余計な動きがあって、体力は足りていなくて、一体感も全然で、ラブライブ!優勝なんて口にするのも憚られるような、そんなパフォーマンスだった。

それ、なのに。


────トクン──トクン────ドクンッ──


私の胸は熱く震えてやまない。
今すぐに、五人で歌いたい。踊りたい。
そう思ってしまうほどに、胸は熱く震えて高鳴る。

どこまで行けるかはわからない。
もしかしたら、もしかしたら私一人きりの方が高いところまで行けてしまうのかもしれない。
もしかしたら、またばらばらになってしまうときが来るのかもしれない。

それでも、私は──この人達と────

61:ぬし ◆z9ftktNqPQ (星の眠る深淵) 2021/09/09(木) 00:01:43.92 ID:qL1RTYC1
せつ菜「~~~~~~~~~ッッ」ブルブル…ッ


────この人達と一緒に、スクールアイドルをやりたい。


せつ菜「私達は、今日から!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会として、五人で活動していきます!!」


信じる勇気をありがとう。

助け合える仲間がいることが、手を取り合える仲間がいることが、きっと力になる。

そう信じる。

この五人でいるならば、怖くない。


せつ菜「どうか────どうか、よろしくお願いいたします!!!」ペコォォッッッッッ!!


私は、皆さんと一緒に夢を繋ぐんだ──!



終わり

66: (SIM) 2021/09/09(木) 07:11:37.65 ID:frOnwp/F
アニメ補完SS好き
乙です

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1631103597/

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