【SS】「音楽室の亡霊」

SS


3: (茸) 2023/04/03(月) 22:39:28.78 ID:OC8WbCln
東京の下町にある私の実家、和菓子屋「穂むら。」から歩いて15分くらいに今は使われてない高校の校舎がある。
私が幼稚園生くらいまでは地元のお姉さん達が通っている姿をよく見かけた。
子供だった私にはお姉さん達が素敵な大人の女性に見えて憧れたし、母も祖母もその学校に通っていた事もあって、私や妹も当然そこに通うと思っていた。
 
4: (茸) 2023/04/03(月) 22:39:57.33 ID:OC8WbCln
しかし、私が10歳になった頃には少子化の影響や建物の老朽化などの問題が積み重なり、とうとう廃校となってしまった。
時の流れは残酷であんなに憧れた制服も今じゃ思い出せないくらい私の中ではモノクロの思い出へと変わっていった。
 
5: (茸) 2023/04/03(月) 22:40:19.24 ID:OC8WbCln
現在、私は中学生。私の通う中学校ではある噂で持ち切りとなっていた。

「あの学校って昔は音楽で有名だったんだって。今でも音楽室にはピアノが置いてあって、夜な夜な女学生の霊が弾いてるんだって。で、その曲を聴いた人は・・・」

「呪われるんでしょう?」
 
6: (茸) 2023/04/03(月) 22:41:14.01 ID:OC8WbCln
教室の片隅で私の話を遮る様に幼馴染が口を開いた。彼女は呆れた様に私の目を見て続けた。

「どこにでもある話です。まさか中学生にもなってそんな話を信じてるんですか?」

別に私も心の底では幽霊を信じている訳ではない。けれど、超常現象やオカルトを娯楽として楽しみたいタイプで、私からすれば彼女の物言いは野暮なのだ。少し腹が立った私は彼女に挑発する様に言葉を投げかけた。
 
7: (茸) 2023/04/03(月) 22:41:39.71 ID:OC8WbCln
「そんな事言って、本当は怖いだけじゃないの?」

彼女はクールで冷静に見えてかなりの負けず嫌いなので、挑発にはだいたい乗っかってくる。

「怖がってる?私が?」

今回も当然、私の挑発に簡単に乗っかって来た。
 
8: (茸) 2023/04/03(月) 22:42:01.68 ID:OC8WbCln
「だって、怖い話をすると必ず遮るし」

「それはあなたが余りにもくだらないからでしょう」

「じゃあ、怖くないんだね?」

「怖くないです」

こうなってしまえば彼女は後に引けない。
 
9: (茸) 2023/04/03(月) 22:42:49.38 ID:OC8WbCln
「じゃあさ、今晩例の学校に肝試しに行こうよ。怖くないんだから平気だよね?」

私がそう提案すると彼女は少し間を置いて、深く息を吸った。

「夜に出歩いたら親に怒られます」

確かに彼女の言う通り夜に子供だけで出歩いていたら親に怒られる可能性はある。けれど、別に非行に走る訳でもないし他の子達だって結構夜に遊び歩いてたりする。彼女は少し真面目すぎるきらいがあった。
 
10: (茸) 2023/04/03(月) 22:43:14.81 ID:OC8WbCln
「じゃあさ、おばさんには私の家に泊まるって言いなよ。それなら怒られないでしょ?」

「でも、嘘を吐くなんて・・・」

「やっぱり怖いんだ?」

「怖くありません!!!」

やはり彼女は簡単に挑発に乗った。
 
11: (茸) 2023/04/03(月) 22:43:58.13 ID:OC8WbCln
午後7時。私達は例の学校の前にいる。肝試しをするには若干早い様な気もする。私は母に友人が泊まりに来る事、夕飯は外食で済ませる事を伝えて家を出て来た。

「廃墟には全然見えませんね」

老朽化が問題となっていた割には全然綺麗な見た目をしているし、廃墟と呼ぶには雰囲気がない。よっぽど私の家の方がボロい。
 
12: (茸) 2023/04/03(月) 22:44:37.21 ID:OC8WbCln
校門が低いおかげで校庭へは簡単に侵入できた。しかし、よくよく考えれば校舎は鍵が掛かっている可能性がある事に気がついた。当然、正面玄関は鍵が掛かっていた。その周りの窓も全て閉まっている。

「当然と言えば当然ですね。諦めて帰りますか?」

「ここまで来て帰るのはイヤ」

私達は裏庭に周り窓を一つずつ確認していった。
 
13: (茸) 2023/04/03(月) 22:45:19.71 ID:OC8WbCln
「あっ!ここの鍵開いてるよ!」

一ヶ所だけ窓の鍵が開いていたのだった。

「ラッキーですね」

「普段の行いが良いからだね」

「普段の行いが良い人はこんな事しませんが」
 
14: (茸) 2023/04/03(月) 22:45:55.89 ID:OC8WbCln
私達は窓から校舎へ侵入するとスマホの灯りを頼りに歩き始めた。やはり、夜の学校は暗くとても不気味だった。あんなに強がっていたのに彼女もしっかり私の手を握っている。

「あ、あれ~怖いのかな?」

「ま、まさか。全然怖くないです」

そう言いながらも私の手を強く握りしめる。
 
15: (茸) 2023/04/03(月) 22:46:37.34 ID:OC8WbCln
「なんか・・夜の学校って不思議だよね」

「ですね」

「そう言えば・・・来週の遠足楽しみだよね!!!」

「そうですね」

「そう言えば。ほむまんの新作が出来たんだよ」

「そうなんですね。母が喜びます」

私達はワザとらしく明るい話題を繰り広げる。
 
16: (茸) 2023/04/03(月) 22:47:06.85 ID:OC8WbCln
「音楽室って・・・どこら辺なのかな?」

ポロン。ポロン。私の問いに答える様にどこからか微かにピアノの音色が聴こえた気がした。

「ねえ。聴こえた?」

「な、なんの事ですか?」

ポロン、ポロン。確かに聴こえる。上の階から聴こえて来る。
 
17: (茸) 2023/04/03(月) 22:47:43.90 ID:OC8WbCln
「ど、ど、どうします?」

「どうするって・・・・・行くでしょ」

私達は音色を頼りに行くと、3階まで辿り着いた。

「ここ・・・だよね?」

「そうですね。ここから聴こえて来ます」

目の前には音楽室と明示された教室が。確かに中からピアノの音が聴こえる。お互いに確認し合ってもどちらも扉を開けようとしなかった。
 
18: (茸) 2023/04/03(月) 22:48:22.57 ID:OC8WbCln
「ジャンケン。ジャンケンで負けた方が開けよう」

「わ、分かりました」

こう言うのはだいたい言い出しっぺが負ける。グーを出して負けた私は扉越しに教室の中を確認した。確かにピアノが置いてあるのは確認出来る。

私は覚悟を決めて扉を開ける事にした。扉に指をかけ勢いよく扉を開けた。
 
19: (茸) 2023/04/03(月) 22:48:57.76 ID:OC8WbCln
ババーーーーーン。

「きゃぁぁぁぁああああ」

扉を開けたと同時に音楽室の中からピアノを叩く音と少女の悲鳴が響き渡った。つられて私達も悲鳴をあげ私は驚いて尻もちをついた。

そこまでがだいたい15秒。悲鳴をあげきって放心状態のまま部屋の中を見回すとピアノの横に同い年くらいの少女が立っていた。
 
20: (茸) 2023/04/03(月) 22:49:36.95 ID:OC8WbCln
「だ、誰?」

少女は私達に向かって呟く。

「そっちこそ。こんな所で・・・何してるの?まさか・・・幽霊?」

私が訪ねると彼女は暫く黙った後、急に笑い出した。

「え、え、なんで笑ってるのかな?この人?」

「さ、さあ?」

「うふふ。ごめんなさい。でも、ビックリした。まさか、この時間にここに人が来るなんて」
 
21: (茸) 2023/04/03(月) 22:50:44.43 ID:OC8WbCln
私も落ち着いたのかようやく彼女の輪郭を認識する事が出来てきた。私より少し背が高く、髪は茶色がかったウェーブヘア。目が大きく少し吊り目、鼻筋がしっかり通っており、薄い唇。いわゆる美人の系統で、何より彼女は綺麗な声をしていた。

「幽霊じゃないんだよね?」

私の問いに彼女はまたクスクス笑った。

「幽霊に見える?」

「見えない」

私は大袈裟に首を横に振ってみせた。
 
22: (茸) 2023/04/03(月) 22:51:22.29 ID:OC8WbCln
「どうしてこんな時間にこんな所でピアノを弾いていたのですか?」

「ここは私の秘密の場所なの。落ち込んだ時とか気分が晴れない日にここにピアノを弾きに来るの。あなた達こそどうして?」

私達はここに来た経緯を説明すると彼女はまた大きく笑った。

「なるほど。じゃあ、私が幽霊の正体なんだ」

そう言う事になるのだろう。結局、幽霊の正体なんてフタを開けてみればこんなもんだ。
 
23: (茸) 2023/04/03(月) 22:51:58.99 ID:OC8WbCln
「でも、ここはどうやって?」

「昔ね。まだ、ここが廃校になる前にママに連れてきて貰った事があって。本当に小さい頃で記憶も微かなんだけど、ここでピアノを弾きながら皆んなで歌を歌ったの」

遠い目をして思い出を語る彼女を私達はただ見つめていた。

「これも何かの縁だし一曲くらい聴いていかない?」

「いいの?」

「うん。それじゃあ、とっておきのを」

部屋中にピアノの軽やかな音色が響き渡る。
 
25: (茸) 2023/04/03(月) 22:58:59.51 ID:OC8WbCln
私はこの曲をどこかで聴いた事があった。遠い昔、どこかで私はこの曲を聴いてる。どこだろう?思い出そうとしてもいい思い出せない。

「愛してるばんざーい。ここで良かった」

それまで、ピアノの演奏に徹していた彼女が急に歌い出した。思い出した。やっぱり、私はこの歌を知ってる。幼い頃、皆んなで歌った曲だ。

「大好きだばんざーい 頑張れるから 明日に手を振ってほら 前向いて」

「知ってたのね。この曲」

私は、いや、私達は小さい頃にここで出会っている。
 
26: (茸) 2023/04/03(月) 22:59:09.76 ID:OC8WbCln
エピローグ
 
27: (茸) 2023/04/03(月) 23:07:54.84 ID:OC8WbCln
二人で歩く帰り道。私達は今日の出来事を話していた。

「実は私もあの曲を聴いた記憶があったんです」

「やっぱり?私達、小さい頃にあの子に会ってるんだよ」

本当に小さい頃。まだ、妹が生まれる前だったと思う。私は母に連れられてあの学校を訪れた事があった。今まで忘れていたけど、あの歌を聴いて思い出した。

「こんな偶然あるんですね」

「そうだね。そう言えば、あの子の名前聴くの忘れてたね」

名前も年齢も学校も何も聴いていなかった。私達が知ってるのは落ち込んだ時にたまにあそこでピアノを弾いてる事だけ。

「また聞きに行けば良いじゃないですか」

「そうだね」
 
28: (茸) 2023/04/03(月) 23:16:31.00 ID:OC8WbCln
「ただいま」

「お邪魔します」

家に着くと玄関には見覚えのない靴が置いてあった。

「誰か来てるみたい」

「その様ですね」

靴を脱いで居間の方に顔を出すと見知った顔がコタツでくつろいでいた。

「あら。お帰りなさい。お邪魔してます」

「絵里おばちゃん!来てたんだ!」

「こんばんわ」

「お姉さんね。二人とも大きくなったわね」

来客は母の友人の絢瀬絵里さん。近くまで来たついでに饅頭を買いに顔をだしたら母に捕まったらしい。

「ちゃんと挨拶しなさい」

母が台所からお茶を持って歩いて来た。
 
29: (茸) 2023/04/03(月) 23:22:44.54 ID:OC8WbCln
「ねえ。お母さん」

「なに?」

「小さい頃にさ、私って音ノ木坂学院に行った事ある?お母さんと一緒に」

私の問いに母は少し考えて思い出した様に話し始めた。

「あったあった。この子達が幼稚園くらいの時にμ'sのメンバーで学校に集まったよね?」

「そうね。真姫と花陽の所も子供を連れて来てたわよね。懐かしいわね」

「急にどうしたの?」

「ううん。ちょっと思い出しただけ」
 
30: (茸) 2023/04/03(月) 23:22:50.89 ID:OC8WbCln

 
34: (しまむら) 2023/04/03(月) 23:44:56.65 ID:1y1AMxDp
おつ

心地よい読後感
 
32: (もんじゃ) 2023/04/03(月) 23:28:31.59 ID:qob7FL6U
こういう感じのss好き
 
35: (はんぺん) 2023/04/04(火) 01:34:00.91 ID:wFnsG1Vt
おつ
こういう雰囲気の作品好きよ
 
36: (やわらか銀行) 2023/04/04(火) 07:20:17.59 ID:a+TLJBpa

とても良かったです
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1680529045/

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