ダイヤ「お抹茶をいただけますか。薄茶ではなく、濃茶で。」【SS】

SS


1: 2021/01/03(日) 21:06:52.96 ID:EYPVDKgU
〜沼津 プラサヴェルデ〜

携帯電話が振動した。メールが来ている。
送信者は『父』だ。

ダイヤ「ルビィ」

ルビィ「ダイヤもか……」

基本的に仕事は全て個々人に裁量を与えている。
なので『父』から呼び出しがあるというのは一種の緊急事態ということだ。

千歌「今日も練習疲れたね〜帰りにクレープ食べて行かない?」

花丸「クレープ!賛成ずら〜」

ダイヤ「ごめんなさい…今お父様から連絡があって、まっすぐ帰ってこいと言われてしまいました…」

ルビィ「同じくルビィも…」

千歌「そっか〜2人とも大変だね。片付けもしておくから、気にしないで!」

ダイヤ「恩にきます。ではお言葉に甘えますわね」

ルビィ「ありがとう!感謝すルビィ!」

鞠莉「急ぐんでしょ?車手配するわよ?」

ダイヤ「鞠莉さん、お気遣いありがとう。ですが、それには及びませんわ」

ルビィ「お姉ちゃん!急ごう!!」

ダイヤ「はーい。今行きますわよ。では皆さん。お疲れ様でした」

千歌「気をつけてね〜!」

2: 2021/01/03(日) 21:07:23.75 ID:EYPVDKgU
〜海鮮定食 食事処黒澤〜

ルビィ「ゆっくり話しすぎだよ。お父様からの呼び出しだよ」

ダイヤ「ごめんなさい。でも、必要以上に急いでも怪しまれるわよ」

ルビィ「能天気だなぁ」

食事処黒澤はプラサヴェルデから歩いて2分ほどの場所にある黒澤系列の飲食店だ。表向きは。

店員「お嬢様!今日はどちらの席で?」

ダイヤ「第2個室は空いていますか?」

定員「はい!」

定員「注文は…?」

ダイヤ「マグロのかま定食を。煮込みでじっくりお願いしますわね」

ルビィ「私も同じく」

定員「かしこまりました!ではこちらにどうぞ」

〜第2個室〜

定員「では、ごゆっくり」

ダイヤ「ありがとうございます」

ルビィ「慣れないんだよね、これ」

ダイヤ「そろそろ動きますわよ」

静かに部屋そのものが地下に進み始める。
目の前には当然定食はない。あの注文がエレベーター使用の合言葉になっている。

3: 2021/01/03(日) 21:08:49.84 ID:EYPVDKgU
ルビィ「個室そのものがエレベーターって、もう少し他のアイデアなかったのかな」

ダイヤ「そうね。逆にここまで大胆だと気付かれにくいのかもしれないわね」

ルビィ「そうかなぁ」

ダイヤ「さぁ、そろそろね」

ダイヤ「ルビィ、段差になってるから気をつけて」

ルビィ「分かってるよ。もう、一々姉さん面しないでよ」

ダイヤ「姉ですもの」

ルビィ「…そういう設定でしょ」

ダイヤ「ルビィ…」

地下に降りた個室から出ると、目の前には沼津全域を移動可能な地下シャトルが待っている。

ルビィ「黒澤屋まで」

地下シャトル『音声及ビ虹彩確認。エージェントルビィトエージェントダイヤト合致シマシタ。20秒後二出発シマス』

ダイヤ「忘れ物ないわね」

ルビィ「だから!」

ダイヤ「姉面するな、でしょ」

ルビィ「ふん…」

4: 2021/01/03(日) 21:09:43.04 ID:EYPVDKgU
〜呉服の黒澤屋 2階 諜報機関黒澤屋本部〜

黒澤屋は表向きは黒澤グループの呉服屋だ。
しかし、裏の顔はどの国家にも属さない独立諜報機関『黒澤屋』である。
店の第3試着室は『黒澤屋』本部への直通エレベーターとなっている。
店の階段からは本部へたどり着けない構造で作られている。

本部会議室の扉の前でダイヤとルビィは眼鏡を着用した。
ダイヤは細い金縁の眼鏡を、ルビィは太めのピンク縁フレームのメガネだ。

ダイヤ「ダイヤとルビィ、到着しました」

黒澤父「入っていいよ」

ダイヤ「失礼します」

ルビィ「失礼します」

部屋の円卓には父が1人座っていた。
黒澤家15第当主で、諜報機関黒澤屋の現スパイマスター、黒澤大亜だ。

ダイヤ「コーラルお姉様と、ルベライトお姉様だけですか」

部屋には父しかいないが、ダイヤとルビィの目には2人の『姉』の姿が眼鏡を通して映し出されていた。

黒澤父「みんな忙しいからね。2人以外は集まれたから先に会議…といっても報告だけだけどね。済まさせてもらった」

黒澤父「コーラルは今回の話の重要関係者で、ルベライトは2人に話があるからと残ってくれているんだ」

ダイヤ「そうでしたか。お父様、話というのは」

黒澤父「単刀直入にいう。パールが死んだ。〇されたんだ」

5: 2021/01/03(日) 21:10:30.06 ID:EYPVDKgU
ルビィ「…え?」

ルビィ「冗談…ですよねお父様」

黒澤父「信じられないのもわかる。だが事実だ」

ルビィ「パールおじさんは唯一の暗〇担当エージェントですよね?」

ルビィ「戦闘のプロだよ…?なのに〇された…?」

ダイヤ「パール叔父様は暗〇のプロフェッショナルではあっても、戦闘も絶対的強さを誇るわけではありませんわ」

ルビィ「そういう話じゃ…そういう話じゃないでしょ!」

ダイヤ「…だとしても、叔父様の戦闘能力はジュエルズの中でも透輝お兄様と並ぶ程でした」

ダイヤ「正直私も信じられません…叔父様が…〇されたなんて」

ルビィ「コーラルはおじさんと一緒の任務についていたんだよね?何をしていたの?」

ダイヤ「ルビィ、コーラルお姉様を責めても仕方な…」

ルビィ「うるさいなぁ!!コーラル!答えてよ!」

6: 2021/01/03(日) 21:11:06.77 ID:EYPVDKgU
コーラル「遠距離からの狙撃よ…そうでなきゃ私が先に気づいて相手を〇してるんだから」

コーラル「対象に近づいて暗〇を実行しようとしたときに、狙撃されて亡くなったの。もちろん狙撃班の位置はそれで分かったから私が始末したけど」

ダイヤ・黒澤父・ルベライト「……」

ダイヤ「そうですか……」

黒澤父「報告は以上だ。対象の暗〇に失敗したので、任務はプランBに移行だよ」

ルビィ「プランB…私たちの出番ですね」

黒澤父「ああ。近々対象は日本に来ることがコーラルの調べでわかった」

黒澤父「イレギュラーな任務だ。暗〇…できるかい?」

7: 2021/01/03(日) 21:15:37.08 ID:EYPVDKgU
黒澤屋の仕事は『〇さず。〇されず。死なず。死なせず』が原則だ。

現代社会において人の死は大きな事件として取り扱われやすい。

目立つことの許されない諜報機関エージェントは、極力人の死に携わらないようにする。

当然イレギュラーな組織はある。イスラエルのモサド。
黒澤屋と同じく、どの国家にも属さない諜報機関である表向きは高級テーラーのイギリスの『キングスマン』、表向きは蒸留酒メーカーのアメリカの『ステイツマン』、表向きは醸造製品メーカーの日本の『キッコーマン』。

これらの組織は任務のためなら〇人も厭わない組織で、基本敵には接触注意と教えられる。

ダイヤ「やらざるを得ないでしょう。叔父様がいなくなった今、腹を括らなければ」

ルビィ「やるよ…やる。絶対に許さない」

黒澤父「コーラル、もう戻っていいよ。辛いところ報告ありがとう。では2人とも、任務の確認だ。といっても把握はできているね」

ダイヤ「シチリア系マフィアのビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ幹部、3大王の1人コロンターナの〇害ですわね」

黒澤父「ああ。そしてその素性を隠してオハラグループ会長の首席秘書として長年産業スパイとしても動いている」

8: 2021/01/03(日) 21:16:29.60 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「鞠莉さんのお父様の首席秘書…ね」

黒澤父「コーラルの情報では来週の水曜日にオハラグループ日本法人の株主総会が開かれ、その後に有力株主を招いたパーティを開くらしい」

黒澤父「ただ、そのパーティ会場が少し特殊でね」

ダイヤ「船の上で…オーケストラで踊るダンスパーティ…とかでしょうか?」

黒澤父「驚いたな。その通りだ」

ルビィ「そんなピンポイントで当たる?」

ダイヤ「急に閃きまして。なんとなく情景まで浮かびましたわ」

黒澤父「…そうか」

ダイヤ「承知しました。ルビィと共に準備に移ります」

ダイヤ「そういえば、ルベライトお姉様。話というのは?」

9: 2021/01/03(日) 21:17:07.95 ID:EYPVDKgU
ダイヤは眼鏡を通して父の左隣の位置にいるルベライトの方を見た。

ルベライトの瞳の色はコードネームとなっている宝石と同じ綺麗な赤色だ。

綺麗な顔立ちをしているが、変装技術のレベルが高いのか、1度目を離すと顔立ちがぼやける。

それはダイヤやルビィも同じだが、Aqoursのメンバーの前では意図的にオフにしている。

ルベライト「…いや、あなた達が心配だったのよ。パールは私もお世話になったし」

ルベライト「あなた達もまだ高校生でしょ。ショックなのはわかるわ。だから…」

ルベライト「無理、するんじゃないわよ。何かあれば相談しなさい。力になれると思うから」

ルビィ「ルベライト…ありがとう」

ルベライト「いいのよ。かわいい『妹』達のためだもの」

ルベライト「マスター、ありがとうございます」

黒澤父「もう、いいのかい?」

ルベライト「今から表の仕事があるから。では、失礼します」

10: 2021/01/03(日) 21:17:27.41 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「では、私たちも」

黒澤父「うん。お疲れ様。私ももう少ししたら家に戻るよ。先にお母さんとご飯食べててくれ」

ダイヤ「はい」

ルビィ「失礼します」

11: 2021/01/03(日) 21:26:19.64 ID:EYPVDKgU
〜黒澤家 ルビィの部屋の階段下〜

ルビィの部屋からは啜り泣く声が聞こえる。

パールは大亜の実の弟で、大亜を除く黒澤屋エージェントの中では最年長だった。
パールは暗〇担当エージェントではあったが、面倒見がよく慕われていた。
暗〇を担当していたのも、他のエージェントに精神的負荷の高い〇人業務を極力行わせたくなかったからだった。

黒澤屋のエージェントは、半分は黒澤グループ経営の孤児院から選ばれて訓練を積んだオールラウンドエージェント。
半分は外部組織からのスカウトで引き抜かれた専門分野を持ったスペシャリストエージェントだ。

黒澤屋のエージェントは12人という定員が決まっていて、構成員はコードネームとして宝石の名前が割り振られる。
それと同時に黒澤大亜を『父』として、疑似家族としてのコード割り振りも行われる。

黒澤大亜というのは当て字で、諜報機関としての黒澤屋の当主は必ず『黒澤ダイヤ』のコードネームが割り振られる。
そして、必ず当主だけは黒澤家の血族が担う決まりがある。

黒澤ダイヤは、紛れもなく黒澤家の血族であり、黒澤家と黒澤屋を継ぐエージェントだ。


ルビィ「おじさん…なんで……なんで……」

ルビィはパールちゃんポーチを抱きしめ泣いた。
小さい頃、ルビィにお土産と言ってパールがプレゼントしたものだった。
白くて丸い可愛らしいキャラクターになぜ自分のコードネームをつけたのか。
考えてなくて咄嗟に付けたのかもしれないが、大好きなパールからのプレゼンとが純粋に嬉しかった。

12: 2021/01/03(日) 21:26:55.61 ID:EYPVDKgU
〜黒澤家 大亜の書斎〜

ダイヤ「お父様」

黒澤父「気づいたか」

ダイヤ「コーラルお姉様が裏切ったのですね」

ダイヤ「ルビィの言った通り、同じ任務についていたにも関わらず」

ダイヤ「コーラル姉様の話が本当ならば、狙撃手を打つのではなく対象のコロンターナを狙撃する時間もあったはずですわ。叔父様は十分に対象に近づいていたのですから」

黒澤父「コーラルならば本来しないような失言だったね。他に誤魔化しようはいくらでもあったんだ。ルビィが感情的に質問をぶつけたのも大きかったのだろうね」

ダイヤ「姉様も自分の言葉に気づいているでしょう。すぐに身柄を押さえて連れてます」

ダイヤ「勘ですけど、恐らく今日か明日には今の拠点を捨てて、身を隠そうとするでしょう。

黒澤父「そうだね。できるかい?」

13: 2021/01/03(日) 21:31:04.43 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「パール叔父様には…可愛がっていただきました。私も、泣き出したいくらいに辛い…悔しい……」

ダイヤ「何よりも……」

ダイヤ「かわいい妹を泣かせたのを、私は許しません」

ダイヤ「『大曜丸』をお借りします」

黒澤父「あれはまだ最終メンテナンスが終わっていないが」

ダイヤ「飛びながらチェックしますわ」

黒澤父「わかった。気をつけて」

ダイヤ「はい。すぐに発ちます」

ダイヤが部屋を出て少ししてから、大亜は1人呟いた。

黒澤父「早いな…もう目覚め始めているのか」

黒澤父「『黒血(ブラッドオブダイヤモンド)』が」

15: 2021/01/03(日) 21:37:45.51 ID:EYPVDKgU
〜ブルックリン 路地裏アパートの1室〜

ダイヤはアパートの1室をノックした。
南北アメリカの情報収集を担当するエージェント、黒澤コーラルの拠点となっている部屋だ。
中には人の気配がする。間違いなくコーラルだとダイヤの勘が言っていた。

鍵を開けて入った瞬間、銃声が聞こえた。
聞こえたと思った時にはダイヤの頭の合った位置を銃弾が通りすぎていた。

コーラル「…は?」

ダイヤ「お姉様…やっぱり…」

瞬間コーラルのからだはダイヤに組み伏せられた。コーラルの手からは拳銃が抜け落ちる。

コーラル「あそこで普通避けられる?この化け物…」

16: 2021/01/03(日) 21:41:25.41 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「お姉様の射撃はジュエルズでもトップ。間違いなく1発で私を仕留めてくるだろうと思ったのです」

ダイヤ「綺麗に眉間に1発ね。案の定でしたわ。お姉様の射撃は正確すぎる。弾道さえ読めれば避けるのは容易いですわ」

コーラル「頭ではわかっていても、普通実行できないのよ。予知でもできなきゃね」

コーラル「ほんと、化け物一家だわ」

ダイヤ「そんな言い方をしないでください…世のために必死に鍛錬を積んできたのです。お姉様もそうでしょう?」

コーラル「説教しにきたの?連れ戻しにきたの?はっきりしなさい…よ!」

コーラルは左手に隠し持っていた遠隔操作用のスイッチを押した。
部屋のあちこちから隠していた銃火器が現れる。

コーラル「見逃してくれれば蜂の巣にならずに済むわよ。そうでなければ一緒に穴だらけ」

コーラル「未来あるダイヤお嬢様がこんなところで裏切り者と心中なんてありえないわよね」

ダイヤ「お姉様…私は貴女を許せません。なんでパール叔父様を」

コーラル「…あなたは閉塞感を感じないのかしら?エージェントという生き方に。まあ、『ダイヤ』は別か……」

コーラル「もういい?そろそろ撃つわよ」

17: 2021/01/03(日) 21:46:22.47 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「(1度離してから捕える…?いや、すでに黒澤を裏切ったお姉様には躊躇いも何もない。離したからといって銃火器の一斉発射は止まらない。捨て身の覚悟でここまでするなんて)」

ダイヤ「(この状態では時計でのハッキングも間に合わない。音声操作…声を出した瞬間撃たれるか)」

ダイヤ「(離した後間髪入れずに抑えに行く。それしかない。この銃火器の数ではお姉様も一定の距離を取る必要があるはず。)」

ダイヤ「お姉様、どうぞ…」

コーラル「死ぬのは嫌よね。私もよ」

コーラルは立ち上がってすぐに後方のダイヤに回し蹴りを放った。

ダイヤ「っ……!」

ダイヤはこの体勢で避けに転じた場合バランスを崩すと判断し、蹴りをあえて顔面で受けた。
そして顔で止まった足を強く掴む。

コーラル「頭おかしいんじゃないの!?」

18: 2021/01/03(日) 21:47:14.00 ID:EYPVDKgU
コーラルは心中覚悟でスイッチを押した。
しかし銃火器はピクりともしない。

コーラル・ダイヤ「は?」

部屋の入り口がそっと開いた。
そこには数時間前に眼鏡越しに会話をしていた相手がいた。

ルベライト「まったく、荒れてる地区とはいえあまりバチバチやるんじゃないわよもう」

ルベライト「それと、黒澤はみんな何かしらのハッキング手段を持ってるのに操作を無線にしておくなんて、甘いわねコーラル」

ダイヤ「る、ルベライトお姉様…ですか?」

コーラル「なんであんたが…」

ルベライト「別に。こっちで表の仕事があったからついでに顔出しただけよ。」

ルベライト「頼みの銃火器がないんじゃ、コーラル、ここまでね」

安全と判断したダイヤは改めてコーラルの体を組み伏せた。

19: 2021/01/03(日) 21:50:27.46 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「お姉様。〇すつもりはありません。一緒に沼津に帰りましょう」

ダイヤ「それと、改めて聞きます。なぜ裏切ったのですか。パール叔父様を…〇してまで」

コーラル「言ったでしょ。閉塞感があるのよ。どんなに世界を救おうが賞賛もされない」

コーラル「金は確かに嫌ってほどもらってるわよ。でもそれが何?プライベートも仕事も境界線なんてなく、自分ではなく他人を演じて生きる人生」

コーラル「私の中のエージェントは、こんなのじゃなかった。それだけよ」

ルベライト「呆れた。随分と幼稚ね。それでよくあの訓練乗り越えられたわね」

コーラル「部外者のあんたは黙ってなさいよ」

コーラル「いいわ。どうせ黒澤家に帰っても私の未来は二重スパイの仕事をもらえればマシな方」

コーラル「教えてあげる。ボス、コロンターナは来週株主総会だけでなく、それに乗じて1トンを超え…あっ!…あぁああ」

ダイヤ「え?」

ルベライト「ダイヤ離れなさい!早く!Hanayo!!Ri……」

20: 2021/01/03(日) 21:51:49.58 ID:EYPVDKgU
ルベライトが言い切る前にコーラルの首から上は弾け飛んだ。
爆風自体は小さく、ルベライトとダイヤに怪我はなかった。

ダイヤ「口封じ…ですわね」

ルベライト「組み込み式で特定の情報に関連したワードを検出したら爆発する仕組みになっていたみたいね」

ダイヤ「……はぁ」

ダイヤ「もう…なんなのよ……叔父様…お姉様……」

ダイヤ「なにがどうなって……」

ルベライト「Rin。今回の流れをマスターに報告してちょうだい」

Rin『はいにゃ!』

ルベライト「処理は現地職員に頼むわ。ダイヤ、行きましょう」

21: 2021/01/03(日) 21:52:20.72 ID:EYPVDKgU
〜イースト川沿い〜

ダイヤ「表の仕事と言っていたけど…それだけですか?」

ルベライト「半分本当。半分こじつけね。マスターから指示は受けていたわ。会議の後すぐにね」

ダイヤ「そうだろうと思いました」

ダイヤ「不躾な質問で申し訳ないのですが、ルベライトお姉様の本名は……」

ルベライト「あぁ、気になるわよね。貴女は特に」

22: 2021/01/03(日) 21:52:52.44 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「はい。矢澤にこさんですね」

ダイヤ「髪型や輪郭…は、今は綿でも入れてるのでしょうか。違いますけど、瞳の色や耳の形、声で」

ダイヤ「眼鏡越しでは確証は持てませんでしたが、直接お会いして確信しましたわ」

にこ「貴女もスクールアイドルだものね。そりゃ気付くか」

にこ「これでも、こっちの仕事中に気付かれたことはないんだけどね。やっぱりプロフェッショナルは気付くわね」

ダイヤ「表の仕事もアイドルですもの。あえて目立つ仕事をするのも、ミスリードのためですわね」

ダイヤ「でも、だとしても、なぜこの仕事を……」

23: 2021/01/03(日) 21:59:36.02 ID:EYPVDKgU
にこ「あぁ、それは話すと長いけど……」

にこ「家族のために、お金欲しさでグレーゾーン…いや、それは自分への言い訳ね」

にこ「裏社会の仕事を手伝っていた時があったの。その時ピンチに陥っちゃってね。タイミングよくマスターつまり…ダイヤとルビィのお父さんにスカウトされたのよ」

にこ「ほんと…馬鹿だったわ」

ダイヤ「そうでしたか…」

ダイヤ「…ん?ルベライトお姉様、私とルビィが実の姉妹だと知っていたのですか!?」

ダイヤ「お父様とお母様、後は透輝お兄様にしか伝えれらていないものとばかり……」

にこ「にこでいいわよ。正直黒澤のコードネームってダサくて嫌いなのよ」

24: 2021/01/03(日) 22:00:10.43 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「だ、ださい……です、わよ…ね……」

にこ「そ、そういう意味では!ダイヤはダイヤで…あーもう面倒臭いわね!!」

にこ「まあ、私を直接スカウトしたのがマスターだから、色々聞いていたってのもあるし」

にこ「何より貴女は瑠璃さんそっくり。ルビィはパーツがマスターにそっくり」

にこ「瞳の色も同じだし、どう考えても姉妹でしょ。もし腹違いなら瑠璃さんはマスターを〇しているでしょうしね」

ダイヤ「まさか…そんなバレバレだとは……」

にこ「守るべき家族がいるとエージェントとしての判断が鈍るっていうのはわかるけどね」

25: 2021/01/03(日) 22:02:16.30 ID:EYPVDKgU
にこ「いや〜でも隠し通されるルビィもルビィよね。本当に訓練終了してるの?」

ダイヤ「…そのはずですが。そう言われると自信が」

にこ「ふふ、まあ、そういうところが可愛いのよね。妹って」

にこ「ダイヤもそうでしょ?」

ダイヤ「ええ。ええ!その通りですわ!ルビィったら姉面しないで!って言いながらも抜けてるところがあって本当にもう目が離せなくて!!」

にこ「わかったわかった!!」

にこ「今度また、ゆっくり話しましょう。私はそろそろ仕事に行くわ。今日は集大成なのよ」

ダイヤ「表の仕事ですか?それともこっちの?」

にこ「明日の朝刊…いや、今日の夕方のニュースでも見ればわかるわよ。ダイヤも早く帰りなさい。大曜丸の燃料補給はお願いしておいたから、もう終わってると思うわ」

26: 2021/01/03(日) 22:02:30.06 ID:EYPVDKgU
ダイヤ「何から何まで…ありがとうございます」

にこ「いいのよ。それとダイヤ」

ダイヤ「はい?」

にこ「コーラルに化け物って言われてたわよね」

にこ「確かに貴女の能力は年齢の割にかなり高いわ」

にこ「でもね、それはダイヤが自分のためではなく、世界中の人の平和を守るために努力した結果だわ」

にこ「誇りなさい。ダイヤ、貴女は誰よりも『人間』よ」

にこ「ダイヤと同じ組織で働けることを…まあ不本意な入社ではあったけど……」

にこ「私は誇りに思うわ」

33: 2021/01/04(月) 13:50:58.98 ID:gNvaa4YI
〜黒澤家〜

ダイヤ「お父様……」

ダイヤ「申し訳ありません、任務は対象の死亡を以って失敗しました」

黒澤父「ビステッカのことだ…これくらいの非道さは覚悟しておくべきだった。遅かれ早かれ始末されていただろう。気に止む必要はないよ」

黒澤父「コーラルは昔からどこか、ヒーロー願望の強い子でね」

黒澤父「きっと、イーサンハントのようなスパイ像を持っていたんだろう」

黒澤父「彼女の望むような人生を歩ませてあげることができなかったのは、養父である私の責任だ。結果として弟も失った」

ダイヤ「お父様、気持ちはわかりますが…今は…」

黒澤父「悲しむのは、後に回そう」

ダイヤ「コーラルお姉様は最後に何か言おうとした時に首のあたりに仕組まれた爆弾が発動したようでした」

黒澤父「ダイヤは、何を言いかけていたと考えているかな?」

ダイヤ「パーティーに乗じたテロも考えましたが、おそらくは……」

ダイヤ「や覚醒剤などの違法薬物の密輸入かと」

黒澤父「私も間違いなくそうだろうと踏んでいる。任務は対象の暗〇及び、」

ダイヤ「密輸の阻止ですわね」

34: 2021/01/04(月) 13:52:12.00 ID:gNvaa4YI
〜黒澤家 ルビィの部屋〜

ダイヤ「もう聞きましたわね。パール叔父様に続いてコーラルお姉様が〇害されました」

ダイヤ「ジュエルズのメンバーが2人も欠けるという非常事態です」

ルビィ「……聞きたくないよ」

ダイヤ「ルビィ……貴女もこの道を選んだ以上は仲間の死は決して珍しいものではないことを受け入れなさい」

ルビィ「うるさい……」

ダイヤ「ルビィ、誰も貴女にエージェントの道を強制はしなかったはずよ。選んだのは他でもない貴女よ」

ダイヤ「この苦しみを乗り越えずに、私を越えられますか?」

ルビィ「叔父さんも、コーラルも…小さい頃からずっと家にいた『家族』だったんだよ……」

ダイヤ「私たち黒澤は、血ではなく矜持と完璧な技術でつながる家族」

ダイヤ「無念を晴らすには、私たちの矜持と技術で以ってするほかないのよ」

ルビィ「ダイヤ……」

ダイヤ「ミッションに追加があるわ。対象の暗〇及び、違法薬物の密輸阻止よ」

ダイヤ「アメリカ駐在職員からの確かな情報よ。危険性が高いから静岡県警も東海麻取も海保もまだ動かせない」

ダイヤ「私たちでやるの。これ以上ビステッカに大切なのは奪わせない。戦うのよ、世界のために」

ルビィ「分かった。やるよ…私。ごめん……」

ダイヤ「いいのよ。ルビィの気持ちは私も痛いほどわかる」

ルビィ「だからこそ、やるんだよね」

35: 2021/01/04(月) 13:53:16.87 ID:gNvaa4YI
ルビィ「(黒澤のエージェントを2人も〇した相手……)」

ルビィ「(怖いよ…〇されたらどしようって…ダイヤまで死んでしまったらどうしようって……)」

ルビィ「がんばルビィ…するんだ……!」

ニュース「ジョン・F・ケネディ国際空港発の国際線で、イスラーム過激派による航空機のジャックが起きました」

ニュース「一般線かと思われた航空機は、台湾の総合商社『鐘商会』会長のプライベートジェットで、フライチームの航空機と同様の機体塗装が行われていました」

ニュース「結果として、それが今回のハイジャックに巻き込まれる形となったと考えられています」

ニュース「機体は太平洋上空で制御を失い墜落。ハイジャック犯と鐘商会会長を含む全ての乗員の死亡が確認されたようです」

ニュース「また、イスラーム過激派組織幹部のものと思われるサーバーから、鐘商会会長の裏帳簿と思われるデータが流出されており、内容は違法薬物の売買に関するものが大半を占めていると報告されています」

ダイヤ「これは…ルベライトお姉様の……」

ルビィ「え、つまりこれで3大王のうち2人が……」

ルビィ「残るのはコロンターナだけ」

ダイヤ「(自身の痕跡は一切残さず、情報操作だけでこれだけの仕事を)」

ダイヤ「(まさにエージェントとして理想の仕事、完璧な行動真理をついた作戦)」

ダイヤ「(さすがは数多のファンの心を掴んで離さなかったスーパースクールアイドル…)」

ダイヤ「(そして現役のスーパーアイドル、『矢澤にこ』)

ダイヤ「お見事です」

36: 2021/01/04(月) 13:54:24.75 ID:gNvaa4YI
〜シェラトン・ブルックリン〜

部屋には8体のデフォルメされたキャラクターのホログラムが浮かんでいる。
にこの『黒澤七つ道具』である8台のスーパーコンピューター『μ’s』のホログラムだ。
声をかけるだけでありとあらゆる機器に接続しコントロール権を奪うことが可能だ。
部屋の電気を点けるのと変わらない作業量で、空を飛ぶ航空機ですらラジコンのように扱うことができる。

にこ「Kotori、瑪瑙にかけてもらっていいかしら」

Kotori『は〜い!にこちゃん、ちょっと待っててね!』

にこ「ありがと」

にこ「もしもし、瑪瑙?上手くいったわね。いや…実行したのは私と『μ’s』だけど、経済コントロールのスペシャリストの貴方の協力があってこそよ」

にこ「まあ、アジア担当は貴方なんだからもっと頑張って欲しかったとは思うけどね。結果オーライよ」

にこ「ええ、次はビステッカの方ね。表の仕事が終わり次第日本に戻る予定」

にこ「ええ、じゃあ」

にこ「ふぅ……」

にこ「水曜日よね。間に合うかしら」

Nozomi『にこっち、表の仕事も忙しいもんね』

にこ「本来なら幸せなことなんだけどね」

にこ「ありがとうみんな、少し休みたいからホロ切っていいわよ」

そういうと8体のホログラムはスッと消えた。

にこ「我ながら気持ち悪いわよね。いつまで引きずるんだか……」

37: 2021/01/04(月) 13:55:26.41 ID:gNvaa4YI
〜水曜日 黒澤家〜

ダイヤ「ドレスは下着まで含めて全て防刃・防弾仕様」

ルビィ「時計は場に合わせてクロスシーではなくタンク…いつも思うけど男性エージェントは時計のサイズが大きくて操作しやすそうじゃん。ずるくない?」

ダイヤ「大きいサイズが似合うようになればいいのよ。さぁ、準備はできたけど懸念材料が一つ…」

ルビィ「?」

〜駿河湾海上 淡島付近豪華客船パーティ会場〜

鞠莉「こんばんは〜娘の鞠莉と申します!楽しんでいってくださーい!」

ルビィ「あぁ……」

オハラグループのパーティには、当然ながら会長の娘の鞠莉も参加していた。
本来であればこの段階でのミンション遂行は見送るべきとも考えたが、エージェントが2人も〇された以上はそうも言ってられなくなったのだ。

ダイヤ「今日の私たちの姿と技術ならば、余程の接近をしないことにはバレないとは思いますが……」

ダイヤ「巻き込みたくはありませんわ……」

ルビィ「ダイヤさぁ」

ルビィ「鞠莉ちゃんや果南ちゃんに入れ込みすぎじゃない?」

ルビィ「そんなんで任務に集中できるの?」

ダイヤ「ルビィ…花丸さんがここにいても同じことが言える?」

ルビィ「!?い、言える…もん……」

ダイヤ「ふふ、ならいいけど。さて、ターゲットのお出ましよ」

会場にオハラグループ会長と首席秘書が参加者の拍手に囲まれ入ってきた。

38: 2021/01/04(月) 13:56:58.22 ID:gNvaa4YI
ルビィ「ここで撃っちゃうのが1番簡単なんだけどな……」

ダイヤ「目立ってしまっては台無し……さて、落ち着いたようですし密輸品の探索を行いましょう」

ルビィ「税関は通って来てるんだよね、この船。そんな簡単に見つかるかな」

ダイヤ「そう、税関を通っているということは、あからさまな方法ではないということ」

ルビィ「つまり、普通は考えつかない形での密輸方法。食品、そのものとか?」

ダイヤ「過去にマグロのお腹に覚醒剤が隠されて密輸された事例があるけれど、今回はそんな中身を入れ替える程度のものではないはず」

ルビィ「とりあえず食料庫にいってみよう」

ダイヤ「正攻法で医療物品庫も確認しましょう。2手に別れるわよ。私が食品庫に行くわ」

39: 2021/01/04(月) 13:57:44.38 ID:gNvaa4YI
〜客船 食料庫〜

食料庫には多種多様な食料品が置かれている。イタリア系だからか、パスタも豊富に置かれている。

ダイヤ「パスタ……アメリカへの帰りもあるとはいえ、一度にこれだけのパスタを積むかしら…ざっと1トン以上は余裕であるわよね……1トン以上…まさか」

ダイヤはパスタを適当に取り出して携帯型検査キットで確認した。

ダイヤ「このペンネ…覚醒剤の反応が…まさかね…」

続いてマルキス試薬とシモン試薬を用いた試験を行った。
青藍色から橙色に変化していく試験管を見てダイヤは確信した。

ダイヤ「これだけの量全てが…薬物……」

他のパスタも確認していく。
覚醒剤だけではない。コカイン、MDMA、ありよあらゆる違法薬物がパスタに姿形を変えて密輸されようとしている。

首席秘書「綺麗なお嬢さん、迷子かな」

ダイヤ「……!」

入り口には拳銃を構えた首席秘書が立っている。
完璧な偽造とはいえ、これだけの違法薬物が心配で見に来たのだろう。
簡易検査に時間を使いすぎていた。

40: 2021/01/04(月) 13:58:39.54 ID:gNvaa4YI
首席秘書「食料庫に持ち込むような道具じゃないな。何者だ?」

首席秘書「キングスマン…は今はまだ壊滅状況か。ステイツマン…も今は内部改変に手一杯…ゴールデンサークルを始末した後だしな……」

首席秘書「そうか、キッコーマンか。政府系機関は我々に挑む組織力はないだろうしな」

ダイヤ「あんな血の匂いを醤油の香りで誤魔化すような方々と一緒にされたくありませんが、まあそんなところですわ」

首席秘書「そうか。てっきりキッコーマンかと思ったが。うん?まさかアメリカで接触してきた女の仲間か?」

首席秘書「てっきり2重スパイでもするのかと思ったら、本当に裏切っていたようだな、君たちのことを。我々に取り入ろうとするとは本当に愚かだ」

ダイヤ「黙りなさい」

鞠莉「パパ、もう部屋に戻っちゃうの?」

鞠莉パパ「ごめんよ鞠莉、まだ仕事が少し残っていてね。おや、食糧庫の扉が開いているな」

ダイヤ「…!」

首席秘書はオハラ親子の声が聞こえた瞬間、下卑た笑みを浮かべた。

41: 2021/01/04(月) 13:59:29.12 ID:gNvaa4YI
鞠莉パパ「誰かいるのかな?あぁ!!」

鞠莉「きゃあ!!」

首席秘書は躊躇いなく鞠莉の父親の両足を撃ち抜いた。その後すぐに鞠莉の首に手を回し抱え込んだ。

首席秘書「会長すいませんね。もう貴方のところでは情報を得尽くしたので、少し手荒にさせていただきます」

鞠莉パパ「ら、ラルド君…なぜ……」

ダイヤ「そんな……」

鞠莉「その声、ダイヤ!ダイヤなの!?」

首席秘書「おや、知り合いか。それは好都合」

コロンターナは鞠莉の父親を蹴り飛ばし入口から遠ざけた。
そのまま鞠莉を抱えて部屋の奥に移動する。

首席秘書「流石に入り口付近は目立つ。それに、ここに立てば入り口と私の間に綺麗に君が入る」

首席秘書「もう1人いただろう。パーティ参加者の顔や誰と一緒にいたかは把握している」

首席秘書「仮に入ってきても君が邪魔で私は撃てないだろう」

ルビィ「ダイヤ。医薬品庫は何も……」

ルビィ「えっ」

首席秘書「噂をすればだ。この廊下の先に用がある人間なんて、会長のご家族くらいしかいないとはいえ、手短に済まさないとな」

42: 2021/01/04(月) 14:00:32.66 ID:gNvaa4YI
首席秘書「おっと、黒髪のお嬢さん。後ろを振り向いたりするなよ。指で合図を送るのもなしだ。言う通りにしなさい。出ないと鞠莉お嬢様のこめかみに風穴ができますよ」

鞠莉「ひっ……」

ダイヤ「ルビィ。撃ちなさい。私のことは気にしないで。コロンターナを」

鞠莉「ダイヤ…これは何?なんなのよ……パパは?パパは大丈夫よね?」

首席秘書「お嬢様、お気持ちはわかりますがお静かに」

鞠莉「貴方もよ…なんなのよ……教えてよ」

首席秘書「物分かりが悪いですね。賢いはずですが。みんな死ぬのですよ。私以外」

ルビィ「……」

ルビィは不思議と落ち着いていた。ダイヤもだ。

ルビィは拳銃を構えた。銃口の先にはダイヤが。その延長にコロンターナが見える。

コロンターナを撃とうとすれば必然ダイヤにも当たる。だが、黒澤姉妹はそうはならないと確信していた。

43: 2021/01/04(月) 14:01:40.07 ID:gNvaa4YI
ルビィ「(この位置なら、コロンターナから引き金の動きは見えない)」

ルビィ(ダイヤ、任せたよ)」

ルビィは引き金を引いた。銃弾はダイヤの体を貫くかに思えたが、ダイレクトにコロンターナの拳銃を持つ手を貫いた。

首席秘書「な…!」

ルビィが引き金を引くか引かないかの瞬間、ダイヤは膝を抜いてその場に倒れ込んだ。
そのダイヤの動きに反応して鞠莉の頭を撃つ隙もなく、ルビィのはなった銃弾がコロンターナの手を撃ち抜いたのだ。

転がったコロンターナの拳銃をダイヤは遠くに蹴り飛ばし、鞠莉を奪取し自分のそばに置いた。

ダイヤ「ルビィも甘いわね。頭を撃ち抜かないとは……」

ダイヤ「ルビィの優しさのおかげで寿命が伸びましたわね」

首席秘書「どう言うことだ……あの小娘の弾を狙って避ける術なんてないはずだ……」

ダイヤ「最近妙に勘が冴えていてね。根拠はないけれど、分かるのよ」

44: 2021/01/04(月) 14:03:21.50 ID:gNvaa4YI
首席秘書「そうか…お前、黒澤だな……まさか実在するとは」

首席秘書「予知にも似た超直感、間違いない……『黒血』!黒澤、しかも黒澤ダイヤか」

ダイヤ「?なんのことですか…?それよりもルビィ!!オハラさんの応急処置を!動脈を撃ち抜かれていたら命に関わるわ!!」

ルビィ「わかった!!」

首席秘書「どうせここまで追い詰められてんだ。とことんやってやろう」

コロンターナは柔術の構えを取った。

ダイヤ「ここで息の根を止めます。鞠莉さん。ルビィの方へ行きなさい」

鞠莉「だ、ダイヤ……」

ダイヤ「早く!!」

首席秘書「よそに構う暇があるのかな?」

ダイヤ「くっ……」

ダイヤ「(この男…強い)」

首席秘書「私は元々会長のボディガードとして近づいて今の地位にいる…私1人相手するなんて大したことないと油断したかな?」

ダイヤが間合いを取ろうとした時に首席秘書の蹴りが繰り出された。

ダイヤ「(これを受ければ隙が作れる)」

しかし、ダイヤの腹筋に走った衝撃は打撃ではなく斬撃だった。

45: 2021/01/04(月) 14:04:50.96 ID:gNvaa4YI
ルビィ「……ダイヤ?」

ダイヤ「まさか……刃の義足……?」

首席秘書「同じパフォーマンス出せればこっちの方が便利だろう?」

首席秘書「すごいな。結構深く入ったと思ったが倒れないのか」

首席秘書「さあ、たった今、船に仕込んだ時限爆弾のスイッチを押した。あと10分で爆発する。私は悠々と逃げさせてもらうとしようかね」

ダイヤ「(朦朧とする……鞠莉さんのお父様の傷は深い。ルビィを治療から離れさせることはできない)」

ダイヤ「(ここで使わずいつ使うの……)」

弱々しい動きでダイヤは空に蹴りを放った。

既に歩いて入り口に向かうコロンターナには、蹴りは当たるはずはない。

しかし、その瞬間コロンターナはうめきながら倒れ込んだ。

コロンターナの背中には、ダイヤの靴先から飛び出した小さい刃が刺さっている。

46: 2021/01/04(月) 14:06:43.67 ID:gNvaa4YI
ダイヤ「奥の手は…見た人間全てを消せる状況でもないと、情報漏洩した場合弱点にしかなり得ない」

ダイヤ「だからルビィたちのいる今は使いたくなかった。近接戦闘中は自分にかすった瞬間に終わってしまいますしね」

ダイヤ「細胞膜の電位依存性ナトリウムチャネルを抑制する神経毒です。皮膚に当たった瞬間に毛細管現象で血管に流れ込む……」

ダイヤ「もう、聞こえていないでしょうけどね……」

ルビィ「ダイヤ!!!」

ダイヤ「ルビィ…オハラさんの処置は……」

ルビィ「終わったよ…命に問題もない」

ダイヤ「よかった…じゃあ、鞠莉さんとオハラさんを連れて脱出しなさい。爆弾は後7分程度で爆発…よね。乗員の皆様も1人も死なせないように、頑張れる?」

ダイヤ「私は置いていきなさい。多分、内臓が傷ついている。助からないわ」

鞠莉「ちょっと…冗談でしょ……ねえ、ルビィ、ダイヤは何を言ってるの…?」

47: 2021/01/04(月) 14:08:10.22 ID:gNvaa4YI
ダイヤ「最期にこれだけは伝えたいの。ルビィ、貴女は私の本当の妹よ。孤児院出身ではなく、本当の私の妹なの。」

ルビィ「……え?」

ダイヤ「『ダイヤ』は任せたわよ」

ルビィ「なんで…なんで今そんなこと言うの!?」

ダイヤ「いきなさい…時間がないわ」

ルビィ「死なせない!!『死なず。死なせず。』。私はまだダイヤを…お姉ちゃんを助けられると判断してる!!」

鞠莉「ねえルビィ!私にできること、あるかしら…?」

ルビィ「…お姉ちゃんのこと、抱えられる?私はオハラさんを!」

鞠莉「任せて…!」

ルビィ「ごめんね、巻き込んじゃって…」

鞠莉「後でちゃんと説明してよね」

ダイヤ「ばか…その判断はブッブーですわよ……」

ルビィ「うるさい!!走るよ!鞠莉ちゃん大丈夫?」

鞠莉「オフコース!体力には自信あるもの!」

鞠莉「ダイヤも、後で覚悟してなさいよ!!」

48: 2021/01/04(月) 14:09:45.57 ID:gNvaa4YI
ルビィ「(この状態じゃ爆弾をハッキングするのはきっと間に合わない……)」

ルビィ「(搭乗者を逃すには艦内放送機器のハッキングで放送を)」

ルビィ「(あと3分…間に合うか考える暇があったら…やるしかない!!)」

ルビィがハッキングを行おうとした時、船の外から爆音でプロペラ音が聞こえた。

鞠莉「……何?」

直後、ダイヤとルビィの時計から声が流れた。

にこ「よく頑張ったわね。爆弾は一気に機能停止させたわ。もうゆっくり脱出しなさい。ヘリは目立っちゃったけど、オハラグループのパーティにメディアが入ってる設定で乗り切るわ」

ルビィ「ルベライト!?」

ダイヤ「にこ…さん……?」

ルビィ「ゆっくりする暇ないよ!!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!!」

にこ「え?ダイヤのこと?やばいの?」

ルビィ「死んじゃう…死んじゃうよぉ……」

にこ「わかった!!!」

ヘリコプターが4人の進む廊下の窓まで近づいてきた。
にこが搭乗口を開けて大きな声で呼びかけている。

にこ「乗れる!?乗りなさい!なんとしても!!」

にこ「そこの金髪のお嬢さんも!ダイヤのこと離しちゃダメよ!!!」

鞠莉「は、はい!!!」

49: 2021/01/04(月) 14:10:34.09 ID:gNvaa4YI
〜黒澤グループ経営病院〜

ダイヤ「…………ここは」

にこ「目が覚めたのね。よかったわ。はい、りんご剥いておいたわ」

ダイヤ「ルベライトお姉様……?」

ダイヤ「私は…どれだけ寝ていましたか……?」

にこ「4時間」

ダイヤ「え?」

にこ「4時間」

ルビィ「お姉ちゃ……ダイヤ!!!内臓微塵も傷ついてないじゃん!!なんなの!?心配して損した!!」

ダイヤ「だってああいう傷受けるの初めてで…考えうる最悪のパターンで伝えれば、必死に助けてくれるかと……」

ルビィ「最初っから助けられるき満々だったの!?はらたつ!!」

ダイヤ「でも……」

ルビィ「……何?」

ダイヤ「ありがとう。嬉しかったわ。さすがは我が妹!かわいいでちゅね!よくできまちたね〜!」

ルビィ「な、何、きも」

にこ「妹って伝えてからこっちに振り切れたのね……」

50: 2021/01/04(月) 14:11:17.92 ID:gNvaa4YI
ダイヤ「にこさんも、ありがとうございます。お忙しい中助けに来ていただいて……」

ルビィ「え、にこって、あのアイドルの矢澤にこ?元μ’sの?」

にこ「そうよ。直接会うのは初めてね、ルビィ」

ルビィ「うわわぁ……!!」

ダイヤ「でも少し気になっていまして……」

にこ「ん?何が?なんでも言ってみなさい」

ダイヤ「ブルックリンでも、今回の船上でも、タイミングが絶妙すぎませんか?」

ダイヤ「ギリギリのラインを見計ってるというか…」

ダイヤ「極力は干渉しないようにしているような」

ダイヤ「今回、救援してもらって言うのも図々しいのですが、8分でも早く来てもらえれば私は七つ道具を出さずにすみました」

ダイヤ「考えたくないですが、にこさんは何か黒澤としての仕事以外に思惑があるのでは?」

にこ「ぎく!!」

ダイヤ・ルビィ「ぎく!?」

51: 2021/01/04(月) 14:12:28.57 ID:gNvaa4YI
ダイヤ「なんですか…?その反応は……?」

ルビィ「まさか、2重スパイとか……?」

にこ「ぎくぎく!!」

ダイヤ「に〜こ〜さ〜ん〜〜〜!?!?」

黒澤父「私が許可してるんだ」

ダイヤ「お父様!?」

にこ「ま、マスタ〜〜〜!助かったわ!!」

黒澤父「ちなみに4重スパイだよ。と言っても黒澤以外の三つは国内の政府系機関だし」

黒澤父「諜報活動というよりは、組織間の情報の橋渡しをしているんだ。そうだよね?ルベライト?」

にこ「え、えええええ!そうよ!4重スパイ!そうよ!!」

黒澤父「反応が変じゃないか?まさか……」

にこ「言いがかりよ!言いがかり!!!」

黒澤父「どこだ?言いなさい」

にこ「ひ、ひぃぃ………MI6です……」

ルビィ「5重スパイ……?」

52: 2021/01/04(月) 14:13:36.32 ID:gNvaa4YI
黒澤父「長官は知り合いだ。全く私に内緒で?今からイギリスに行くよ。あとヘリコプターもしかしてキッコーマンからパクった?」

にこ「い、今!?アイドルの仕事が…!それにヘリは成田から一番近くて性能の良いヘリがキッコーマン所有のだったから少し借りただけ……」

黒澤父「キャンセルだ。ヘリも返しに行く。じゃあね、2人とも。ゆっくり休んだら日常に戻りなさい」

ダイヤ「あ、あの、お父様!鞠莉さんと、オハラさんは」

黒澤父「安心しなさい。知られてしまったものは仕方ないしね。各国での拠点の提供などの協力者になってもらう。今まで通りに接しなさい。最初は難しいかもしれないけどね」

ダイヤ「そうですか…ありがとうございます」

黒澤父「うん」

黒澤父「2人とも。厳しいミッションだったと思うけど、よくやったね。100点とはいかないけど、期待以上だった」

ダイヤ・ルビィ「はい!」

53: 2021/01/04(月) 14:14:41.12 ID:gNvaa4YI
〜数ヶ月後 イタリア騒動後〜

果南「これで本当にしばらくのお別れだね」

ダイヤ「そうですわね……」

ダイヤ「では、先に帰りますわね。今日は楽しかったですわ。東京に行く勇気が湧きました」

鞠莉「ダイヤ……」

果南「じゃあね。気をつけて」

ダイヤは海岸沿いを自宅方向に歩き出した。

寂しさはあるけど、前向きに。これは一時のお別れだと果南は自分に言い聞かせた。

果南「……あれ」

果南「鞠莉、ダイヤの顔ってわかるよね」

鞠莉「当たり前でしょ」

果南「そうだよ、当たり前なんだよ。でもなんで……?」

鞠莉「…………」

果南「何その顔、鞠莉。何か知ってるの」

鞠莉「ノー…コメント……」

果南「っ……!ダイヤ!!待って!!!」

果南は走ってダイヤを追いかけた。不安と寂しさで胸が張り裂けそうだった。

54: 2021/01/04(月) 14:15:49.48 ID:gNvaa4YI
ダイヤ「果南さん?」

果南「そうだよね、この顔だよね。でもなんで?少しでも目を逸らすと消えちゃうの……ねえ、ダイヤだよね?」

ダイヤ「果南さん。私はエージェントとして働いてるの」

果南「……え?なんの話?」

ダイヤ「14の頃に訓練を始めて、国のため、世界のために諜報活動や工作活動をしてきました」

ダイヤ「ですので、果南さんや鞠莉さんとはエージェントになる前からの友人。2人との付き合いに仕事は一切関係ないわ。かけがえのない、心から信じ合える友達よ」

果南「待って…話が飲み込めないよ。鞠莉!鞠莉は知っていたの!?」

ダイヤ「知らせるつもりはなかったけど…鞠莉さんは私の失態で巻き込んでしまったので、仕方なく話しました」

果南「ルビィは!?ルビィは妹なんだよね!?」

ダイヤ「もちろんです、かわいい大切な妹ですわ」

ダイヤ「でも、ルビィも同じくエージェントです」

果南「そんな……」

ダイヤ「もう、今後これまで通りに会うのは難しくなるかもしれない。巻き込みたくないから。だから、存在感を弱めるために心理誘導と視線誘導を意識的に切ったの。だから記憶の中の私の像が薄れてゆくのよ」

ダイヤ「果南さん、話を聞いてくれてありがとう。スッキリしたわ。隠し事はしたくないもの」

55: 2021/01/04(月) 14:17:34.55 ID:gNvaa4YI
ダイヤ「最後に、ハグをしてもらえますか」

果南「うん……」

果南がダイヤの背中に腕を回したと同時に、ダイヤは手に隠していた注射を果南の首に打った」

果南「……え?」

ダイヤ「安心して。果南さんのための薬です」

果南「……ばか………」

鞠莉「だ、ダイヤ……?」

ダイヤ「ベンゾジアゼピン系睡眠薬の健忘の副作用を強化するように置換基を設定したものです」

ダイヤ「投与前後20分程度の記憶が抜け落ちるはずです。絶対ではないですが」

ダイヤ「鞠莉さん、ごめんなさい。果南さんをご自宅までお願いしても?」

鞠莉「うん……わかったわ……」

鞠莉「ダイヤは、いいの……?世界のために誰かのために自分を押し〇す生き方で…いいの?」

ダイヤ「鞠莉さん、ありがとう。優しいわね」

ダイヤ「でもね、これは私が望んだのよ。確かに黒澤に生まれた影響はあります」

ダイヤ「それ以上に、私はこの仕事に誇りを持っています。他の誰でもなく、これが私、黒澤ダイヤの生き方なの」

56: 2021/01/04(月) 14:18:00.70 ID:gNvaa4YI
〜黒澤家〜

ダイヤ「ただいま帰りましたわ」

黒澤母「ダイヤさん。お帰りなさい。あら、泣いてるの……?」

ダイヤ「少しだけ…少しだけ…寂しくて……」

黒澤母「お別れしてきたのね……」

ダイヤ「(薬を使っても、果南さんの記憶が抜け落ちていないことを祈る自分がいる……)」

ダイヤ「(『黒澤』の一族しかしらない、本当の自分を知ってくれた友人……)」

黒澤母「何か飲む?」

ダイヤ「ええ、お母様、ありがとう」

ダイヤ「(今はただ、この感情を飲み込みたくて…)」

57: 2021/01/04(月) 14:19:02.08 ID:gNvaa4YI
ダイヤ「お抹茶をいただけますか。薄茶ではなく、濃茶で。」

58: 2021/01/04(月) 14:28:32.86 ID:csysMwKa
終わりかな?
面白かった

60: 2021/01/04(月) 16:37:50.44 ID:70M9VE44
にこちゃんとμ'sが気になるんだが

61: 2021/01/04(月) 19:36:04.48 ID:gNvaa4YI
読んでくださりありがとうございます。『完』を入れ忘れましたがひとまず終わりです。
にこ関係を始めとして、かなり匂わせ描写が多くなりました。
その辺りはタダでさえ冗長の文章が更に冗長になるな〜と思い端折りました。感想いただけたら嬉しいです。

62: 2021/01/04(月) 21:47:27.58 ID:Vd6EF99T

元ネタがなんだって言ってるレスあるけど元ネタあるの?

63: 2021/01/04(月) 21:57:52.33 ID:2usTTLVJ
キングスマンってスパイ映画
人気作だし実際面白いけどナンセンスなグロシーンもあるから苦手な人は注意

64: 2021/01/04(月) 22:02:31.90 ID:gNvaa4YI
>>62
63の方の言う通り、世界観は勝手に映画『キングスマン』と共通。もうすぐ映画最新作やるので。
タイトルは007のオマージュですね。
あとは細かい部分で他のアニメや漫画のリスペクト(ぱくり)を少々。
キッコーマンは「〇〇マン」って名前の組織が欲しかっただけのウケ狙いです。

59: 2021/01/04(月) 15:07:26.65 ID:lXCd1iZR
名作

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1609675612/

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