【SS】かすみ「本当に幽霊はいたんですか?」【ラブライブ!虹ヶ咲】

かすみん SS


1: 2019/01/03(木) 14:38:16.90 ID:/W/MyE0J
愛「すごーいでっかいお屋敷!」

エマ「ワクワクするね!」

歩夢「何よりここに来るまでの吊り橋がそれっぽい感あったよね!」

愛「それっぽい感ってなに?」

歩夢「わかんない」

愛「ええ……」

果林「何ヘーベーあるのかしら」

彼方「それ意味わかって言ってる?」

せつ菜「あはは」

かすみ「金持ちの家じゃないですか」

璃奈「言い方最悪だよね。」

かすみ「そこまでいう?」

しずく「まあかすみさんの発言は置いておいて」

かすみ「あとから言及するみたいな言い方怖いわね」

しずく「どうせ誰も使ってない古い屋敷なんで好きに使っていいとのことです!」

愛「助かるー!」

2: 2019/01/03(木) 14:38:53.59 ID:/W/MyE0J
せつ菜「学校だとなかなか場所が取れませんけど、ここだと音も気にしなくていいんですよね!」

しずく「えぇ、後ろは山岳、前は渓谷となっててお隣さんも2キロ先なので気にする必要0です!」

愛「すごー!」

歩夢「まるで2000年代のエ ゲみたいだね!」

愛「何、エ ゲまで守備範囲内なの?」

歩夢「…………」

璃奈「音だし放題じゃん。」

かすみ「夜中も騒ぎ放題ですね!」

果林「まぁいやらしい……」

かすみ「は?」

せつ菜「電波が繋がらないの、すごくないですか?」

歩夢「わかる、なんだか遠く離れた国に来たような感覚になるよね!」

せつ菜「ですよねー!」

しずく「では早速広間に荷物まとめましょう!」

「「「はーい!」」」

3: 2019/01/03(木) 14:39:56.19 ID:/W/MyE0J
ーー大広間

果林「夜はここで雑魚寝?」

せつ菜「……!」

しずく「いえ、それもいいですけど西棟は2階建で7つ部屋があるのでそこを使ってもいいかと」

せつ菜「寝る時間が別々だといけませんしそれがいいですね!」

璃奈「急に早口……」

かすみ「まあせつ菜さんのアイデンティティを守るためにもそれが一番ですかね」

果林「7つだと何人か2人組にならなきゃ行けないみたいだけど……かすみちゃん」

かすみ「しず子、助けてください」

しずく「果林さんとかすみさんトークで盛り上がりたいのも山々ですが、流石に同じ屋根の下で盛られるのも困りますし……いいですよ」

果林「そこまで盛らないわよ……」

かすみ「そこまでって何?」

歩夢「あともう1組は……」

愛「一緒に寝る?」

歩夢「いいの?」

愛「すーちゃん不足で死んじゃうでしょ」

歩夢「別にそんなことないけど」ガクガク

愛「もう内股震えてるし」

歩夢「だって予定合わなくてあの人これないなんて言うから……」グスン

せつ菜「歩夢さんはあの人のことが大好きですね!」

彼方「仮にもアイドルなのに心に決めた人がいるなんて」

エマ「すどうりり……」

璃奈「それ以上言わないで。」

エマ「ごめんなさい」

4: 2019/01/03(木) 14:40:40.50 ID:/W/MyE0J
しずく「ではここ中央棟に台所や大広間があって、西棟に寝室、東棟がお風呂になってるので、練習が終わった組から適当にお風呂はいったりしましょうか」

しずく「練習に使う武道場は寝室のある建物の奥にあります」

しずく「建物が横一列に並んでるイメージですね」

愛「おっけー! ラストは20時とかにしとく?」

果林「そうね、今が16時だから……ヒートアップしてもそれくらいにはカタをつけましょうか」

しずく「離れに武道場が3つあるので、とりあえず今日は学年ごとに別れましょう」

璃奈「わかった。」

しずく「庭にある池や井戸は好きに使ってくださいね!」

歩夢「池を使うって?」

しずく「まあ鯉を見て寛いだり……」

歩夢「さすがお嬢様……」

エマ「鯉! みたい!」

せつ菜「では、スピーカーは各自持ってきたモノとiPadのBluetoothで賄うと言うことで……」

しずく「ひとまず解散です!」

5: 2019/01/03(木) 14:41:10.49 ID:/W/MyE0J
ーー3年組

果林「綺麗な鯉ね」

エマ「わぁー!」

エマ「ニシキ鯉?」

彼方「だねー」

彼方「苔も貼ってないし水草も整ってて綺麗」

果林「ここ3、4年人が来てないって言うからどんなものかと身構えちゃったけど」

彼方「トトロのあのレベルを想像しちゃってたよ」

エマ「そんなことなかったね!」

果林「でも井戸が使えるってのはカッコいいわよね、レトロで」

エマ「日本のレトロ! フンイキありますね!」

彼方「だねー、まあレトロというか……」

果林「ホラーじゃなくてよかったわ」

彼方「……さぁ、どうだろ?」

果林「え?」

6: 2019/01/03(木) 14:41:34.93 ID:/W/MyE0J
果林「どういうこと?」

彼方「いや、何かおかしいと思ってね」

エマ「おかしいって?」

彼方「ほら……このお屋敷って、ここ数年人来てないんだよね?」

果林「らしいわね」

エマ「鯉のこと?」

エマ「鯉は割とどんなトコロでも生きていけるらしいよ?」

彼方「まあ、鯉そのものはね……」

彼方「ウチもさ、昔家の前にツボ? みたいなの置いてメダカ飼ってたんだけど」

彼方「何もしないとすぐ苔が生えたりして汚れちゃってたんだよね」

エマ「…………」

彼方「それにしてもこの池、綺麗だよね」

7: 2019/01/03(木) 14:42:14.11 ID:/W/MyE0J
ーー1年組

かすみ「ところでしず子、幽霊の件だけど」

しずく「はい」

璃奈「私もそれ、気になってた。」

かすみ「実際どういう話なんだっけ、もう話してる?」

しずく「いえ、そういえばみなさんにはまだ詳しい話ししてませんでしたね」

璃奈「だってミーティングの時にしずくちゃんが合宿の提案したら、せつ菜さん話も聞かずノリノリだったもん」

しずく「『行きます! 行きたいです、行きましょう!』って感じでしたね」

かすみ「さすが演劇部」

しずく「もう、褒めても何も出ないですよ」

かすみ「褒めてないよ」

しずく「腹立つ……」

璃奈「で、幽霊って実際なんなの?」

しずく「もともとこの屋敷はひいひいお爺ちゃんのお家で、しばらく前までは親戚の集まりはここだったんですけど」

かすみ「ですけど?」

しずく「15年くらい前から、子供たちが『誰かいる』って騒ぐようになりだして」

璃奈「誰か……」

しずく「もちろん大人は子供が言い合わせて大人をからかっているのだと流しましたが、それ以降何年にもかけてそれは続きました」

しずく「それからしばらく経って13年前、子供の1人の女の子が裏山で大怪我をしたんです」

8: 2019/01/03(木) 14:42:41.24 ID:/W/MyE0J
かすみ「裏山?」

しずく「あ、そうそう、ここの裏庭には少し登ったところにウチが管理しているお社があるんです、そこが子供たちの遊び場になってて」

しずく「そこでかなりの高さで頭を打ってしまって、意識を失ってしまうくらいで……」

しずく「なかなか帰ってこないと不安になった大人が見つけたので大事には至らなかったんですけど」

璃奈「それで……?」

しずく「そう、そのお社は他より高くなってるところに建っているんですけど、すぐ隣が3メートルの段差になってて」

しずく「2人で遊んでいた女の子は、いとこの中でも1番歳上の子が飛び降りて下まで誘ってきたので、勇気を出して飛び降りてしまったんです」

かすみ「3メートルって……」

しずく「普通に大怪我ですよね、でも先に降りた子は平気だったんです」

しずく「この話は目を覚ました女の子が大人に話したのですが、おかしな点があるんです」

璃奈「おかしな点?」

しずく「1番歳上の子は、その時間ずっと家に居たんですって」

しずく「女の子は、その時間そこに居ないはずの子と遊んでいた……」

9: 2019/01/03(木) 14:43:09.82 ID:/W/MyE0J
しずく「そんなことがあってから、これ以上何か起きてはシャレにならないということで集まりは他の場所でするようになったんです」

かすみ「ひえ……大怪我で済んで良かったですね……」

しずく「えぇ、すぐに見つけられたのも不幸中の幸いでした」

璃奈「でも、それって……子供が言ったことでしょ?」

璃奈「怪我をした時の夢とか、他の子と間違えたとか……」

かすみ「たしかに、怪我をした時の言い訳なんかの可能性もありますよね」

かすみ「だったら幽霊と決めつけるのは……」

しずく「いえ、この話に関しては私ははっきりと本当だって言い切れるんです」

しずく「……私はね」

かすみ「え」

璃奈「あ」

しずく「そうです」

しずく「大怪我をした女の子は、私なんです」

10: 2019/01/03(木) 14:43:34.78 ID:/W/MyE0J
ーー大広間

愛「怖ーーーーーーーーーーーー!」バタンッ

歩夢「今夜眠れない……」ガクガク

かすみ「そんなに?」

せつ菜「直接手をくださいのが幽霊ぽくて良いですね!」

エマ「本人は危害を加えてないのに周りがそうなっちゃうなんて……」

エマ「バンシィ的な……」

かすみ「あんな夜泣きするだけのザコと一緒にしてあげないでもらえますか?」

璃奈「それにしても、それだけで来なくなるなんて、不思議といえば不思議だよね。」

愛「でもたしかに、親戚で集まるなら荷物も増えるだろうし、それであの吊り橋を渡るもの不便といえば不便だよね」

歩夢「たしかに、下まで10……15メートルくらいあったもんね」

歩夢「あんなつり橋だと怖がっちゃう子もいただろうし」

愛「そういう不便さもあって集まらなくなったのかもねー」

11: 2019/01/03(木) 14:44:05.28 ID:/W/MyE0J
しずく「お風呂上がりました~」

果林「ねえみんな、この子絶対逆サバしてるわ」

しずく「かすみさんが可哀想なので実際より小さく報告してるんです」

かすみ「ショック!」

愛「そいえば、お風呂の湯気凄くなかった?」

しずく「この季節ですからね」

歩夢「前が見えないレベルなんてびっくりだよ」

愛「しかもめちゃ広いから奥の方まで見えないっていうね」

歩夢「部屋の中なのに洞窟みたいでワクワクしちゃった」

12: 2019/01/03(木) 14:44:37.18 ID:/W/MyE0J
せつ菜「ところで彼方さんは?」

璃奈「みてない。」

エマ「先に寝ちゃったのかな?」

愛「LINEも返信ないねー」

歩夢「無理に起こしちゃうのも可哀想だよね」

愛「慣れない場所に移動ってそれだけでも疲れるしね」

愛「無理に起こさず、夜中に起きてもいいように晩御飯1人分残しておこっか!」

エマ「だね~」

せつ菜「今日の担当は私たちだったので、台所お借りして作ってみました!」

果林「え」

かすみ「え」

歩夢「味見助かった~!」

愛「あと盛り付け~!」

せつ菜「自信ありです!」フンス

果林「あ……」ホッ

かすみ「あ……」ホッ

愛「じゃ、ご飯にしよっか!」

13: 2019/01/03(木) 14:45:02.04 ID:/W/MyE0J
ーーしずくとかすみの部屋

かすみ「なんか旅館みたいでワクワクするわね」

しずく「そうですか?」

かすみ「しず子からすればむしろ懐かしい部屋ですかね」

しずく「そうですねー、懐かしいというかなんというか」

かすみ「明日は6時起きでしたよね?」

しずく「そうですよ~」

かすみ「じゃ、早めに寝よっか。夜更かしは美容の大敵ですし」

しずく「ま、枕投げは!?」

かすみ「しませんよ!」

しずく「じゃあ一方的に投げさせてもらいますね」ボフンッ

かすみ「でっ」

かすみ「やりましたね!!」バフンッ

しずく「きゃっ」

しずく「女の子の顔に枕を投げつけるなんて何事ですか!!」

かすみ「あなたからやったんでしょ!!」

かすみ「きゃってなによきゃって!」

14: 2019/01/03(木) 14:45:38.28 ID:/W/MyE0J
ーー璃奈の部屋

/ギャ-ギャ-\

璃奈(何してるんだろ……)

璃奈(それにしても、あの話。)

璃奈(ちょっと練習に集中できなかったな……)

璃奈(なんか話してる時のしずくちゃん、ちょっと雰囲気あって怖かったな。)

璃奈(さすが演劇部。)

璃奈(あ、そういえば……)

璃奈(今日のお風呂……誰が沸かしてくれたんだろ。)

璃奈(あれだけ広いから、さっと洗うだけでも大変そうなのに……)

璃奈(もしかして幽霊かな?)

璃奈(……なわけないか。)

璃奈(というか、雨、降ってきた。)

璃奈(なんだかあの話を聞いた後だと……少し不安になる。)

璃奈(もう寝よう。)

15: 2019/01/03(木) 14:46:48.12 ID:/W/MyE0J
ーー次の朝

せつ菜「おはようございます!」

しずく「おはようございます」

璃奈「朝から衣装に着替えてるんだ。」

せつ菜「あはは」

歩夢「キマってるね~」

愛「朝はぬか漬け~」ポリポリ

歩夢「昨日多めにお米炊いててよかったね」

かすみ「パン派ですけどたまにはご飯もいいですね」

かすみ「ところで3年生のみなさんは起きてきませんね」

歩夢「果林さんは少し前にお風呂に向かってたよ?」

しずく「言ってましたね」

かすみ「ほー、女子力ですかね」

愛「……にしても、遅くない?」

しずく「……たしかに」

愛「様子見てくるね」

かすみ「あ、わたしもいきます」

16: 2019/01/03(木) 14:47:43.58 ID:/W/MyE0J
ーー大浴場

歩夢「果林さーんいますかー」

かすみ「あんまり長湯……って大丈夫ですか!」タタッ

歩夢「た、倒れてる……!」

かすみ「他の人呼んできてください!」

かすみ「果林先輩、果林先輩、しっかりしてください!」

果林「」

歩夢「あ……あ……」ガクガク

かすみ「こんな裸で風邪なんて……って歩夢先輩!」

歩夢「あ……」

かすみ「何してるんです」
歩夢「かすみちゃん……」

歩夢「……は、端の方」

かすみ「……え?」

歩夢「湯船の、端の方……」

かすみ「端の方って、何があ……」クルッ

 歩夢の指差す方向に目線を向けたかすみは、目に飛び込んできたそれを一瞬、本物かどうか見分けがつかなくなった。
 昨日は不自然に濃い湯気で見えなかった場所。広い浴場の角。見覚えのある人。それだけならなんともない。
 ただ、歩夢が震えてる理由はすぐにわかった。

かすみ「……彼方先輩?」

 呼びかけても、うつ伏せになった彼方はピクリとも動かない。いつもの寝息も聞こえない。
 不自然に乾いた髪はその身体にへばりつき、身体の下には嫌に水がたまっていた。
 動かない人間を、その時初めて見た。

17: 2019/01/03(木) 14:48:14.49 ID:/W/MyE0J
ーー大広間

璃奈「…………」

かすみ「…………」

エマ「…………」


愛「……ただいま」ガララ

愛「カリンと歩夢は布団で寝たままだったよ」

かすみ「そう、ですか」

愛「うん……かすみんは大丈夫?」

かすみ「私は……はい、平気です」

かすみ「なんか、現実的に受け入れられなくて、逆に」

かすみ「でも……ごめんなさい、彼方さんには、その」

エマ「……ごめんね、ごめんね」

エマ「かすみちゃんに手伝ってもらって、脱衣所に、引き上げて……身体を拭くまでは、がんば……ううん、できたけど」

エマ「服を着せてあげるのは……」グスッ

エマ「ごめんね、ごめんね、私、ごめんね、こわ、怖くなっちゃって……」ポロポロ

愛「仕方ないよ、一番辛いトコロやってくれてむしろありがとだよ」

愛「身体が冷たいって、触れるだけでも辛いのに」

愛「ありがとね」

エマ「うぐ……」ポロポロ

18: 2019/01/03(木) 14:48:47.91 ID:/W/MyE0J
かすみ「……すみません」

璃奈「かすみちゃんも、謝ることないって。」

愛「歩夢も倒れちゃって、あんな状況からアタシたちを呼びに来れただけでもすごいよ」

愛「もうすぐ助けを呼びに言ったしずくとせっつーが戻ってくるから……」


しずく「……ただいまもどりました」

せつ菜「…………」

璃奈「早かった、ね。誰か大人は……」

せつ菜「吊り橋がなくなってました」

璃奈「え」

エマ「…………」

せつ菜「吊り橋が……千切れて、渡れなくなってました」

愛「……そんな」

しずく「本当です、それも……向こう側のロープが刃物か何かで千切られていて」

かすみ「じゃ、じゃあ……」

愛「迎えにきてもらえない……」

せつ菜「電波も繋がらなければ、固定電話も契約していない……」

せつ菜「いますぐに救急車を呼ぶのは不可能ということです」

19: 2019/01/03(木) 14:49:28.73 ID:/W/MyE0J
エマ「…………」フラッ

しずく「エマさん!」ダキッ

璃奈「え、吊り橋が『壊れた』じゃなく『千切られた』ってのは……」

せつ菜「しずくさんの言う通り、人為的に壊された……感じがする、と言うことです」

せつ菜「本来力のかかり方的にちぎれるはずの場所ではないところで千切れてるといいますか……」

璃奈「……それが、向こう側なんだよね。」

せつ菜「はい……」

愛「誰かが……彼方を……あんなふうにして、向こう側に逃げた後、渡ってから千切った……ってこと?」

しずく「それが考えられますが……どうしてそんなことを」

せつ菜「わからないです……ただひとつ言えるのは、私たちの現状を外に伝えることは不可能だと言うことです」

20: 2019/01/03(木) 14:50:20.50 ID:/W/MyE0J
璃奈「も、もともと3泊4日の予定……」

璃奈「だから、それを過ぎれば家の人が不審に思って探してくれるはず。」

璃奈「しずくちゃんの家の人はこの場所も知ってるだろうし。」

しずく「そう……ですね」

せつ菜「手段としては渓谷を降りて、そのまま向こう岸に渡るか川を下ると言う作戦もありますが」

かすみ「特に掴む場所もなさそうな高い崖と、川の速さを考えると現実的ではないですね……」

かすみ「足場の岩もないし、途中で流されるとそれこそ命が危ない」

愛「裏山の方はどうなの?」

しずく「あっちの方は……子供心ながらですけど、ずっと山が続いてるだけで人がいるような場所はなかった気がします」

愛「じゃあ下手には動けない、と」

せつ菜「この季節に山で夜を越すのは無理がありますしね」

21: 2019/01/03(木) 14:51:15.21 ID:/W/MyE0J
かすみ「……わたし、先輩たちの様子みてきます」

かすみ「いま目がさめると、2人とも不安になってしまいます」

璃奈「そう、だね。」

璃奈「誰かそばにいてあげたほうがいいかも。」

せつ菜「では、わたしも行きます」

せつ菜「1人だと気が滅入ってしまいますよね……」

かすみ「……ありがとうございます」

璃奈「ありがとう。疲れたら変わるからね。」

愛「2人をよろしくね」

22: 2019/01/03(木) 14:52:23.90 ID:/W/MyE0J
ーー廊下

せつ菜「じゃあ、果林さんは愛さんの布団で寝てるってことですか?」

かすみ「ええ、流石に起きて1人だと不安になるだろうと……」

せつ菜「なるほど、心遣いですね!」

かすみ「……せつ菜先輩」

せつ菜「わたしも」

せつ菜「……わたしも、たぶんかすみさんと同じです」

せつ菜「考えないように、現実と思わないようにしています」

せつ菜「受け止めるのは……落ち着いてからって決めたんです」

かすみ「……そう、ですか」

せつ菜「って、いつもと同じ様に、というのは些か無理があるんですけどね!」

せつ菜「せめて気丈に振る舞ってないと、自分までやられてしまいます!」

かすみ「はは、ですね」

かすみ「あ、この部屋です」ガララ

せつ菜「お二人とも、まだ寝……」ピタッ


せつ菜「……歩夢さんがいない」

31: 2019/01/03(木) 19:44:44.07 ID:/W/MyE0J
ーー大広間

エマ「……ありがとう、温かいお茶飲んだら落ち着いたよ」

愛「うんうん、よかったよかった」

しずく「エマさん、優しいから辛くなっちゃうもの仕方ないですよね……」

しずく「助けが来るまで、もう少し頑張りましょう」

エマ「うん、だね」

愛「とりあえず、2人が起きるのを待って……これからのことを話し合おうか」

愛「アタシ的には集中できなくても体を動かすべきだと思うから……適当に部屋の掃除とかって思ったんだけど」

しずく「ですね、幸い適度に汚れていますし、みんなで同じところを……」


せつ菜「歩夢さんは戻ってきましたか!?」ガララ

しずく「え?」

璃奈「きてない。」

愛「! いなかったの?」

せつ菜「はい、近くの部屋を当たったんですけど、どこにもいなくなってて……!」

せつ菜「ひとまずかすみさんは果林さんの隣についてもらってて、わたしが皆さんに報告をと……」

32: 2019/01/03(木) 19:45:32.25 ID:/W/MyE0J
エマ「探してあげなきゃ」

エマ「歩夢ちゃんがはじめに見つけてあげたんだ、きっと不安になってるんだよ」

愛「手分けして探そう、怖くて隠れてるかもしれないから、もう一度探してみなきゃ」

しずく「私、昨日練習したところに行ってきます」

せつ菜「私も行きます。1人だと心細いですし」

璃奈「じゃあ、私たちは寝室を探してみるね。」

愛「だね、じゃあとりあえず、15分以内にはここに戻ってくるってことで」

せつ菜「了解です!」

34: 2019/01/03(木) 19:46:52.64 ID:/W/MyE0J
ーー庭

しずく「昨晩の雨で土がぬかるんでますね……」

せつ菜「ですね、地面も踏み固められてないので足跡も残らないくらいなんて」

せつ菜「ではとりあえず、私は2年生が練習していた武道場をみてきます!」

せつ菜「あそこだけは倉庫もあったのでその中も一応……」

しずく「わかりました、邪魔そうなものがあったら壊しても構わないので適当に避けておいてください」

せつ菜「わかりました、なるべく気をつけます!」

35: 2019/01/03(木) 19:49:23.89 ID:/W/MyE0J
せつ菜「とは言ったものの……」

せつ菜(本来は武道場なのであっても竹刀や掃除道具くらいかと思いましたが、思いの外モノが多いですね)

せつ菜(農具? クワや鉈なんかの刃物も多い)

せつ菜(かなり重たいし、埃をかぶっているものもある……ここに歩夢さんが隠れている可能性はなさそうですね)

せつ菜(あ、倉庫の奥にも出入り口がある)

せつ菜(農具なんかはこの出入り口から出し入れしてたんですかね)

せつ菜「いよいしょっ……と」ガコン

せつ菜(この外は……井戸の方ですね)

せつ菜「……さすがに井戸の中にはいないですよね?」ヒョイ

せつ菜(……深い、そこに水があるのはわかるけど、苔と砂埃がそうになって壁に張り付いてる)

せつ菜(随分と使われてないのが伝わってくるような……)

<ガサッ

せつ菜「!」

36: 2019/01/03(木) 19:51:14.76 ID:/W/MyE0J
せつ菜(いま、何か足音が……)キョロキョロ

せつ菜(まさか幽霊とか……なんて、あはは)

せつ菜(気のせいですかね)

しずく「何か見つかりました?」

せつ菜「!」

せつ菜「いいえ、いませんね……」

しずく「そうですか……こっちもです」

しずく「一旦部屋に戻りましょうか」

37: 2019/01/03(木) 19:54:12.85 ID:/W/MyE0J
ーー寝室

璃奈「この部屋は……」

璃奈(誰も居ない。2階は愛さんとエマさんに任せて、1階は私が調べたけど……)

璃奈(後はかすみちゃんたちがいる部屋だけ。)

璃奈(一応覗いておこうかな……)ガララ

かすみ「あ、りな子」

璃奈「かすみちゃん」

かすみ「歩夢先輩は……」

璃奈「今みんなで探してるところ」

璃奈「果林先輩はどんな感じ?」

かすみ「なんともないですよ」

かすみ「ただ目を覚ますのを待つ感じで……」


歩夢「あれ、2人とも」

璃奈「」ビクッ

38: 2019/01/03(木) 19:56:29.51 ID:/W/MyE0J
かすみ「あ、歩夢先輩!」

かすみ「どこにいたんですか!」

歩夢「お、お手洗い……」

かすみ「もう、そうなんならみんなあんなに慌てなくてよかったじゃないですか……」ホッ

歩夢「え、ご、ごめんなさい……」

果林「……ん」ゴソッ

かすみ「! 果林先輩!」

果林「ここは……えっと……」ピタッ

果林「んくっ……ごほっ」ゴホッゴホッ

璃奈「む、無理に起きないで、今はまだゆっくり……」

果林「ご、ごめんなさい……あの、えっと、わたしの夢……夢じゃない……? えっと」

璃奈「無理して話さなくていい、大丈夫、大丈夫。」サスサス

璃奈「でも……たぶん、夢じゃない。」


かすみ「と、とりあえず、みんな集まったら今後のことを話し合いましょうか」

歩夢「……だね」

39: 2019/01/03(木) 19:59:58.61 ID:/W/MyE0J
ーー大広間

愛「やっぱり、必要以上に敏感になってもダメだね」

エマ「だね……」

歩夢「心配させちゃってごめんなさい……」

せつ菜「でも、何事もなくて良かったです!」

歩夢「何事も……ね」

果林「あの……今、彼方は」

歩夢「お風呂の、脱衣所に……」

果林「……そっか」

エマ「タオルは、何枚か掛けて……保冷剤、置いてるよ」

愛「でもみんな、夜はお風呂一応……入りたいよね?」

璃奈「でも、彼方さんが……」

しずく「寝室……まで、運んであげれればあるいは」

せつ菜「私がします」

愛「1人じゃ無理でしょ、アタシも手伝う」

せつ菜「ありがとうございます」

40: 2019/01/03(木) 20:01:43.41 ID:/W/MyE0J
せつ菜「では、他の人で今後のことをお願いします」

愛「アタシたちはそれに賛成ってことで、何かあったらまた言うから」

璃奈「わかった。任せて。」

しずく「ひとまずはさっき話した方向で……」

愛「うん、お願いね」

せつ菜「では、また後で!」ガララ

エマ「せつ菜ちゃん……」

かすみ「……あの人もあの人で、耐えてるんです」

かすみ「みんなの前では気丈に振る舞おうと」

果林「やっぱりあの子は……強いわね」

かすみ「……ですね」

41: 2019/01/03(木) 20:02:29.17 ID:/W/MyE0J
しずく「歩夢さんと果林さんはさっきいませんでしたね」

しずく「一応、さっき確認してきたんですけど……実は……吊り橋が……」

エマ「壊されちゃってるんだ」

歩夢「…………」

果林「……なんでみんなが帰ろうとしないのかと思ったら」

しずく「携帯も繋がらない……固定電話も契約していないということでいますぐには帰れない状況なんです」

しずく「ですが、皆さん親御さんに帰る日付は連絡しているはずなので、3日後には助けが来ると言うことで」

かすみ「体を動かした方が気が紛らわされるってことで、適当に掃除でもしようかという話になって」

果林「なるほどね……」

歩夢「……いいんじゃ、ないかな」

かすみ「もちろんお二人や、状況も状況なのでキツイ人には簡単な場所をお任せするつもりですが」

果林「ありがとう」

しずく「では、ひとまずそういうことで」

しずく「夜までまだ時間があります……今日ちょっとでも作業するところ、分担しておきましょうか」

かすみ「そうね」

42: 2019/01/03(木) 20:03:32.50 ID:/W/MyE0J
ーー寝室

せつ菜「……タオルより、お布団の方が落ち着きますよね」

愛「だね」

愛「ごめんね……あと3日くらいは落ち着かないかも」

せつ菜「愛さん、行きましょう」

せつ菜「今はまだ、その時じゃありません」

愛「……うん」

せつ菜「ところで……」

せつ菜「…………」

せつ菜「いえ、なんでもありません」

愛「?」

愛「わかった、みんな待ってるし行こう」

せつ菜「……はい!」

愛「…………」

43: 2019/01/03(木) 20:04:11.56 ID:/W/MyE0J
ーー大広間

せつ菜「ただいま戻りました!」

歩夢「あ、ちょうど今分担が決まったところです」

愛「お、アタシたちはどこを磨けばいー感じ?」

しずく「エマさんと果林さん、それから愛さんで寝室のある建物の廊下と縁側を」

愛「りょーかい」

しずく「私とかすみさん、歩夢さんで大広間を」

かすみ「はい」

しずく「璃奈さんとせつ菜さんで……」

璃奈「お風呂を掃除したいんだけど、せつ菜さん、大丈夫?」

せつ菜「問題ないですよ、承知しました!」

璃奈「ありがとう。」コクン

かすみ「では、今日は早く寝るとしてそこそこ片付いたらまたここに集合ということで……」

44: 2019/01/03(木) 20:04:54.52 ID:/W/MyE0J
ーー大浴場

せつ菜「さて、まずは浴槽を使えるようにしましょうか!」

せつ菜「気後れはするでしょうが冷たい身体だと不安な気持ちも増してしまいますし……」

璃奈「うん。」

璃奈「……あの、こんなところに2人にさせてごめんなさい。」

せつ菜「そんなそんな、謝らないでくださいよ!」

璃奈「話したいことが、あって。」

せつ菜「!」

璃奈「せつ菜さんにしか、話せないこと。せつ菜さんだから、同じことを考えていそうなこと。」

せつ菜「…………」

璃奈「私は表情を顔に出すのが苦手。」

璃奈「そして表情が顔に出ないということは、他の人に比べて気持ちの切り替えが早いってことは、これまでの経験でなんとなくわかってる。」

璃奈「だからこんな状況なのに、私だけが真っ先に考えを巡らせることができたこと。」

璃奈「だれが彼方さんをころした?」

せつ菜「……そして、彼方さんをあやめて、吊り橋を切って逃げた人物」

せつ菜「そんな人はいない」

せつ菜「……ということに気づいている」

せつ菜「そうですね?」

璃奈「うん。さすがせつ菜さん。」

45: 2019/01/03(木) 20:05:32.60 ID:/W/MyE0J
璃奈「普段から演技で過ごしているあなたなら、多分私と同じで表に見せない領域があると思った。」

璃奈「正解だった。」

せつ菜「そうですね、この状況で璃奈さんなので話してしまいますが、間違いなく犯人は私たちの中にいます」

せつ菜「今ここで私でないことを証明できないので、個人名を出すことは避けたいですが……」

璃奈「そうだね。今私たちの2人だと、さっき彼方さんを寝室まで運んだせつ菜さんの方が怪しい。」

璃奈「こんな言い方最悪なのはわかってるけど。ごめんさない。」

せつ菜「いえ、それを理解してくださっているなら話が早い」

せつ菜「要は、証拠隠滅ができるということですよね」

璃奈「うん、そして、証拠がどこかにあるはず。」

璃奈「彼方さんを〇したのが個人的な事情ならまだいい。けど、無差別なら。もし2人目がいるなら。」

せつ菜「あと少なくとも3日生き残る必要がある」

せつ菜「そして、犯人さえわかって自白さえして貰えば、安全は確保できる」

46: 2019/01/03(木) 20:06:24.48 ID:/W/MyE0J
璃奈「だから証拠を探したい。特に、今回の場合は凶器。」

璃奈「血がなかったから、手段は限られてくるけど……それを特定するほど彼方さんをいじくりまわすなんてできない。」

せつ菜「絞〇です」

璃奈「!」

せつ菜「さっき確認しました。クビに細い糸の痣が見えました」

璃奈「さすがせつ菜さん……」

せつ菜「そしてつり糸のようなモノが倉庫にあった……あれですかね」

璃奈「なるほど……だとしたら昼間にそれを取り出せた2年生が怪しくなるけども。」

せつ菜「私が今のところ濃い……あはは、自分で自分の首を絞めているみたいですね」

せつ菜「そのうち違うって証拠を見つけます」

璃奈「うん。待ってる。」

璃奈「ここにせつ菜さんと来たのは、まずこの話をしたかったから。」

璃奈「その、言葉足らずだからせつ菜さんを疑っているような流れにしてしまったけど……」

璃奈「あなたは1人じゃない。」

璃奈「それが伝えたかった。」

せつ菜「……ありがとうございます」

せつ菜「また何かわかったらそれなりの方法で共有しましょう」

47: 2019/01/03(木) 20:10:06.42 ID:/W/MyE0J
ーー大広間

かすみ「このあたりの掃除といってもそこそこ広いですよね」

かすみ「同じ建物に台所もありますし……」

しずく「ちょっと離れてるんですけどね」

歩夢「なんなら御手洗いや玄関、廊下もあるし……」

歩夢「人なんて来ないだろうし、玄関開けて外の空気取り込んでくるね~」パタパタ

しずく「はーい」

しずく「ここも……今日は座布団をはたくくらいでいいですかね」

しずく「畳の掃除なんて面倒ですし」

かすみ「だね、じゃあ縁側でぱんぱんしとく?」

しずく「そうですね、行きましょうか」

48: 2019/01/03(木) 20:11:07.39 ID:/W/MyE0J
かすみ「そういえばしず子、次の演劇も本番近いんだっけ?」

しずく「そうね、といってもあと3週間あるけども」

かすみ「なんて演目?」

しずく「……『クラインリューゲ』という演目です」

かすみ「へー、ドイツ語的な響き」

かすみ「やっぱセリフとか全部覚えてるの?」

しずく「もちろん、まだ不安な場所はあるけどほとんど言えますよ」

かすみ「ほへー、かすみんもトップアイドルになったらドラマとか出たりするのかなぁ」

かすみ「だったらその時はコツとか教えてよね!」

しずく「なれますかね~」

かすみ「なによその言い方!」

しずく「なんでもないです~」

かすみ「むかつく~!」

しずく「ふふ、昨日のムカつき返しです」

かすみ「なにそれ……」

49: 2019/01/03(木) 20:14:56.28 ID:/W/MyE0J
ーー寝室棟

愛「にしても、カリンがなんともなくてよかった!」

エマ「だね」

果林「えぇ、心配させてごめんなさい」

果林「こんな状況だからこそ……歳上として気丈に振るわなきゃいけないのに」

愛「困ったときはお互い様ですよ~」

愛「かすみんならそう言うかな?」

果林「ふふ、そうね」

果林「……それにしても、あと3日」

愛「ちょっとの辛抱だよ」

エマ「でも、吊り橋を切って逃げるなんて……」

果林「本当に向こうから切られてたの……?」

エマ「え?」

50: 2019/01/03(木) 20:16:03.26 ID:/W/MyE0J
果林「もし、それを切った人がこっち側にいたりなんかしたら……」

愛「ちょ、やめなよカリン」

果林「あ、ごめんなさい、つい考えちゃって……」


エマ「……ひっ」

愛「ん? どーかした?」

エマ「いま……台所の方で何か見えた気が……」

愛「あ、窓から台所見えるんだ……どれどれ」ヒョイ

果林「なにも見えないわよ?」

エマ「……え」

愛「見間違えじゃ」
エマ「愛ちゃんも見えなかったの……?」

愛「え」

エマ「あの人影……」

愛「み、見えなったけど……」

エマ「…………」

エマ「つぎはわたしだ」

エマ「わ、わたしなんだ……幽霊が見えたから……つぎ、つぎは……」ハァッハァッ

果林「お、落ち着いてエマ、大丈夫よ、大丈夫」ギュッ

愛「見間違えなんて良くあるよ、大丈夫、気のせいだよ」アセアセ

愛(……やっぱりマズイ、心が不安定になってるんだ)

愛(こんなんじゃ3日なんて持つかどうか……)

51: 2019/01/03(木) 20:17:44.23 ID:/W/MyE0J
ーー

かすみ「ふう、すぐ終わりましたね」

しずく「ですね」

かすみ「戻ろっか」

しずく「あ、ごめんなさいちょっと御手洗い寄っていい?」

かすみ「じゃあ先に座布団持って帰ってるわね」

しずく「お願いします」ボスッ

かすみ「重っ」

しずく「お願いします~」

かすみ「ご、ごゆっくり……」


かすみ(というか歩夢先輩に何も言わず来たけど何してるのかな)

かすみ(玄関の方は……)チラッ

かすみ(いないし)

かすみ(大広間ですかね)

かすみ(なんかあの人ミリ単位で机の位置とか合わせてそうだし)

52: 2019/01/03(木) 20:18:50.07 ID:/W/MyE0J
ーーエマの寝室

エマ「…………」

愛「少しは落ち着いた?」

エマ「……うん、ごめん」

愛「なんか飲み物持ってくるよ、カリンもいる?」

果林「いえ、私はいいわ」

果林「ありがとう」

愛「んじゃちょっと行ってくる、すぐ戻るから!」

エマ「……うん、ありがとう」


愛(やばいなー、あのままだと本当にもちそうにない)

愛「……心が壊れちゃうよ」ボソ

愛(私だって平気なわけじゃないし……)

愛(ましてやこんな山の奥、昨夜は雨も降ったし天気もよろしくない)

愛(こんなんじゃいつ……)ピタッ


愛「……え?」

愛(あんなところに……)

愛「え」

愛「え、ちょ、ちょちょ」パタパタ

愛「危ないよー! 何してんの!?」ザッザッ

愛(井戸に……嘘でしょ!?)

愛(あんな高さから飛び込んだら死んじゃう!)

愛「ちょっと、待っ……」

68: 2019/01/04(金) 13:10:06.25 ID:PSbk9XVL
ーー

かすみ(というかこの屋敷、思いの外綺麗よね)

かすみ(この数年人が来てないみたいなこと言ってたけど……ホコリも言うほど積もってないし)

かすみ(掃除って聞いてなんなら上から下までホコリ掃除するくらいかと思ったのに、そんな必要なさそう)

かすみ(まさか、例の幽霊が掃除してたとか!)

かすみ(……なんて、幽霊は掃除なんてしないわよね)

かすみ(でも……掃除はしないとしても)

かすみ(あのしず子の話が本当だとしたら……人を……)


歩夢「かすみちゃん?」

かすみ「ひっ」ビクッ

69: 2019/01/04(金) 13:11:17.85 ID:PSbk9XVL
歩夢「お、驚かせちゃってごめんね?」

かすみ「あ、歩夢先輩ですか……幽霊かと思っちゃいましたよ」

歩夢「えぇ……」

かすみ「台所の方ですか?」

歩夢「う、うん、ちょっと手を洗いたくて」

歩夢「それより、しずくちゃんは?」

かすみ「御手洗いです」

歩夢「……そっか」

歩夢「あ、座布団、半分持つよ!」ヒョイ

かすみ「ありがとうございます」

70: 2019/01/04(金) 13:11:53.10 ID:PSbk9XVL
ーー大広間

せつ菜「璃奈さん、さっき外で物音が……」

璃奈「うん。聞こえた気がする。」

せつ菜「……私、ちょっと見てきま」


かすみ「あ、せつ菜先輩にりな子」

せつ菜「……おかえりなさいませ!」

璃奈「……お風呂、そこそこ綺麗になった。」

歩夢「ありがと~」

せつ菜「お湯は張っておいたんですけど良かったですかね?」

かすみ「いいんじゃないですか?」

歩夢「これだけ冷えてるとね」

歩夢「この時期だし夜は寒いよ」

せつ菜「ですね!」

璃奈「ところで、しずくちゃんは?」

かすみ「あぁ、御手洗いです」

璃奈「なる。」

71: 2019/01/04(金) 13:12:19.72 ID:PSbk9XVL
果林「愛~?」ガララ

かすみ「?」

せつ菜「愛さんならここにはいませんよ?」

果林「あれ、おかしいわね……」

かすみ「どうかしたんですか?」

エマ「えっと……私がちょっとパニックになっちゃって」

エマ「愛ちゃんが飲み物を取ってきてくれるって言ったんだけど……」

果林「それきり帰ってこなくて」

歩夢「……みてないよ」

エマ「…………」

エマ「も、もしかして幽霊に……」

果林「ちょ、エマ……」

璃奈「…………」

せつ菜「お手洗いかもしれませんし、ちょっとみてきますね」ガタッ

72: 2019/01/04(金) 13:13:02.98 ID:PSbk9XVL
ーー廊下

せつ菜「あれ、しずくさん」

しずく「? どうかしましたか?」

せつ菜「愛さんを見ませんでしたか?」

しずく「み、見てないですけど……」

しずく「どうかしたんですか?」

せつ菜「それが、どこにいったかわからなくなったみたいで……」

しずく「……お手洗いには私しかいませんでしたよ」

せつ菜「わかりました、他を探してみます」

しずく「わ、私も探します!」

せつ菜「……そうですね、他の方にも動いてもらうと昨日のように慌てることになってしまいます」

せつ菜「2人で探しましょう」

しずく「はい!」

せつ菜「しずくさんは寝室のあたりをお願いしていいですか!」

せつ菜「私は外を探してきます!」

73: 2019/01/04(金) 13:13:30.43 ID:PSbk9XVL
せつ菜(間違いない、さっきの物音は愛さんです!)

せつ菜(外から聞こえた……でも掃除の場所に外は含まれてなかったはず!)

せつ菜(どうして外に出た……どうして外にいた!?)

せつ菜(とりあえず武道場……!)ガララ

せつ菜「愛さん!」

せつ菜「……いません!」タタッ

せつ菜(倉庫は……!)

せつ菜(思えば少し鈍めの音だった、鈍器、農具?)

せつ菜(……だめ、既に最悪の場合を想定してしまってる、だめだだめだ)

せつ菜「……落ち着きなさいせつ菜、まだ最悪の場合と決まったわけじゃない」

せつ菜「愛さん……嫌ですよ私は!」ガララッ

せつ菜「いない!」

せつ菜(ほ、他に鈍い音が聞こえそうなところなんて……!)

せつ菜「!」ハッ


せつ菜「……井戸」

74: 2019/01/04(金) 13:14:03.38 ID:PSbk9XVL
せつ菜「…………」

せつ菜(……そんな、いや、でも確かめないと)

せつ菜(音が聞こえたのも思えばこの辺りからな気がしてくる……いや、でも)

せつ菜(そんな……井戸なんて、使うことは)

せつ菜(いや、いや、そんな、まさか)

せつ菜「…………」


 まさか、と井戸を覗き込んだせつ菜は、思わず目を背けてしまった。そのまま後ろを向いて、井戸を背にずりずりと座り込む。
 深呼吸をしても、まぶたの裏には目の前の地面より井戸の底の方が鮮明に浮かび上がる。暗くてよく見えないはずなのに、それだけは確かに見えた。……見間違えかもしれない。息を飲んでもう一度覗き込む。

 井戸の内側の苔が無造作にハゲて岩が露出している。さっきまでは確実になかった。
 井戸の底。やっぱり、見覚えのある背中が水に浮いている。黒い穴の底で、明るい髪の色が嫌に目立って見えた。

75: 2019/01/04(金) 13:16:44.78 ID:PSbk9XVL
ーー大広間 数時間後

璃奈「…………」

果林「……エマは、出てこないわ」ガララ

果林「扉につっかえか何かしてるみたいで……開かなくなっちゃってる」

しずく「そう、ですか」

かすみ「あれだけパニックになれば……仕方ないです」

かすみ「果林先輩はお風呂まだですよね?」

果林「えぇ……ところでせつ菜は?」

歩夢「まだお風呂です」

歩夢「ずっとシャワー浴びてて……」

しずく「……直接井戸の中に潜ったんですから」

果林「……え?」

76: 2019/01/04(金) 13:17:10.58 ID:PSbk9XVL
かすみ「せつ菜さんがここに愛さんのことを報告しに来て、すぐエマさんがパニックになりましたよね」

かすみ「果林先輩がエマさんを追いかけて行った後……」

かすみ「私たちは、5人で愛先輩を引き上げに行ったんです」

璃奈「さすがに、水に浸かったままなのは……マズいから。」

かすみ「でも、井戸の底なんてどうやってロープを通してもひっかからない」

果林「…………」

歩夢「……だから、近くの木にロープを固定して、その反対側に、私を結びつけてって」

歩夢「せつ菜ちゃんが言ってくれて」

かすみ「私たちがロープを支えて、せつ菜先輩は井戸の底まで降りて……愛さんの身体に別のロープを結んできてくれて」

かすみ「それで、愛さんを引き上げることができたんです」

しずく「愛さんは……今はとりあえず、武道場に寝かせています」

77: 2019/01/04(金) 13:19:07.49 ID:PSbk9XVL
果林「そんなことまで……」

果林「力になれなくて、ごめんなさい」

しずく「いえ、エマさんを1人にしないであげただけでも……」

歩夢「エマさん、今のどの部屋にいるんですか?」

果林「? エマの部屋だけど……」

歩夢「……そうですか」

かすみ「?」

璃奈「…………」ガサ

果林「じゃあちょっと、せつ菜のとこいってくるわね」

果林「私もシャワー浴びたいし」

しずく「わかりました」

かすみ「なら、私は何か簡単に食べられるものでも作っておきますね」

かすみ「お腹が空いては気分も落ち込みますし」

歩夢「……私も、手伝わせて」

78: 2019/01/04(金) 13:20:02.57 ID:PSbk9XVL
ーー台所

かすみ「といっても……」

かすみ「作れるのはカレーくらいですね……元からそのつもりでしたし」

歩夢「うん」

かすみ「包丁はー……あれ、ない」ガチャ

かすみ「ここでしたよね?」

歩夢「あー、えーとうん」

歩夢「こっちの方とかは?」

歩夢「あった、はい包丁」ヒョイ

かすみ「……ありがとうございます」

歩夢「カレーだよね? 包丁……予備とかないかな」キョロキョロ

かすみ「……あの」

歩夢「ん?」

かすみ「……いえ、なんでもないです」

かすみ(いま歩夢先輩が包丁を取り出したところ……さっき私も確認したけど)

かすみ(……そんなところには、さっきまでなにもなかったよ)

かすみ「…………」

79: 2019/01/04(金) 13:22:17.29 ID:PSbk9XVL
ーー大浴場

せつ菜「…………」

せつ菜(腕から井戸水の冷たさが消えない)

せつ菜(不自然にかたまった愛さんの腕の感触が消えない)

せつ菜(薄く赤く濁った水がまぶたの裏から離れない)

せつ菜(溺死じゃない……直接の死因は溺死かもしれないけど、頭を打ち付けていた)

せつ菜(誰かが愛さんの頭を何かで殴りつけた後……落とした?)

せつ菜(……だめだ、考えが回らない)

せつ菜(どんな方法で、なんて今は関係ない)

せつ菜「……誰がやったか、です」

せつ菜(あの時間、運悪く私は璃奈さんと2人でいた……他の人の動きを一切把握していなかった)

せつ菜(別の棟にいた愛さん、エマさん、果林さんは元より、かすみさん、しずくさん、歩夢さんの動きすら把握してない)

せつ菜(これでは本末転倒……)

80: 2019/01/04(金) 13:23:11.84 ID:PSbk9XVL
せつ菜(私は死ぬわけにはいかない、そしてこれ以上死んでほしくないし、手を汚して欲しくない)

せつ菜(何が目的かわからない以上、もうただお互いが目を離さないようにするしかない)

せつ菜「…………」

せつ菜「……あはは」

せつ菜(こんな紛らわしく考えてるけど、本当は私はわかっている)

せつ菜(こんな状況だけど、やっぱり友人として個人を疑いたくない……けどもう、さっき口にしてしまってある)

せつ菜(現時点で私の知る限りでアリバイがなく、糸や鈍器のある倉庫を把握していて、怪しいのは、2年生)

せつ菜(璃奈さんとそう話した)

せつ菜(そして愛さんがいなくなった今……私でないとすれば……もう、残るはただ1人)


果林「せつ菜」

せつ菜「」ビクッ

81: 2019/01/04(金) 13:23:54.69 ID:PSbk9XVL
果林「大丈夫? 随分と長いことここにいるみたいだけど」

せつ菜「……えぇ、今あがろうと思っていたところです」

果林「そう」

果林「……無理しないでね、あなたに責任なんてないんだから」

せつ菜「……そうですね」

せつ菜「あはは」

果林「…………」

82: 2019/01/04(金) 13:24:25.19 ID:PSbk9XVL
ーー大広間

せつ菜「かすみさん、歩夢さん、ご馳走様でした」

かすみ「お粗末様です」

歩夢「私は手伝っただけだから……」

しずく「布団は全員分ありますね?」

果林「……一応、ね」

璃奈「エマさんはやっぱお部屋から出てこない……」

せつ菜「仕方ないです」

果林「…………」

しずく「ひとまず今日はここにいるメンバーだけ、ここで寝ましょうか、あと2日の辛抱です」

歩夢「だね」

しずく「では、おやすみなさい……」

83: 2019/01/04(金) 13:24:58.00 ID:PSbk9XVL
ーー次の朝 3日目

<~~~~~~~~!

せつ菜「!」ガバッ

璃奈「何か聞こえた。」ムクリ

せつ菜「……悲鳴です」

せつ菜「皆さん起きてください!」

しずく「な、なにが……」ガバッ

せつ菜「寝室の方からエマさんの悲め……」ハッ


せつ菜「……うそ」

かすみ「……あ、え」

かすみ「か、果林先輩は……?」

せつ菜「……果林さんがいない」

歩夢「……急いで向かおう」タタッ

せつ菜(果林さんがいない……そして布団も冷たかった)

せつ菜(うそですよね……うそですよね果林さん……!)

84: 2019/01/04(金) 13:26:07.63 ID:PSbk9XVL
ーー寝室棟

エマ「あ、あぁ……」ヘナッ

かすみ「なにが……う゛っ」

 真っ先に駆けつけたかすみの反応に、他のメンバーもある程度察しはしたものの、目に飛び込んできた光景はあまりに悲惨だった。
 エマの部屋の襖を背に座り込む姿勢の果林の顔に、正面からクワが叩き込まれている。いびつに窪んだ顔からは、見たことない色の液体が漏れ出して、廊下や襖に水たまりを作っている。
 両手と両足をロープで縛られ、だらんと垂れた顎は、もう果林が2度と言葉を口にすることはないということを如実に物語っていた。

歩夢「こ、これは……」

エマ「うおぇ……っゲホッ」ゴホゴホ

エマ「なんで……なんで……」

せつ菜「……エ、エマさん、別の出入り口から」

エマ「…………」

85: 2019/01/04(金) 13:26:54.56 ID:PSbk9XVL
せつ菜「庭側の方から……ひとまず……」

エマ「……ううん、いい」

エマ「果林ちゃんの部屋借りるから」

歩夢「で、でも、何か食べないと身体が……」

エマ「こんなもの見せた後に食べられるわけないよ!」

歩夢「ごっごめんなさい……」ビクッ

エマ「というか……歩夢ちゃんでしょ」

歩夢「え」

せつ菜「は」

かすみ「あ」

86: 2019/01/04(金) 13:28:08.65 ID:PSbk9XVL
エマ「私みたんだよ……歩夢ちゃんが、昼頃、台所に包丁取りに行ってるところ……」

エマ「ずっと持ち歩いてたんでしょ……誰を〇そうとして!」

かすみ「……!」


歩夢『あった、はい包丁』ヒョイ

かすみ『……ありがとうございます』


歩夢「そ、そんな、あれは、違……」

エマ「包丁持ってたのは本当なんだ!」

エマ「愛ちゃんもそうやって!」

歩夢「違う!」

歩夢「愛ちゃんは包丁じゃなくて、頭を……」

エマ「なんで知ってるの!?」

エマ「やっぱりそうだ! 彼方ちゃんも同じようにして」


かすみ「やめてください!!」

歩夢「ひっ」

エマ「」ビクッ

87: 2019/01/04(金) 13:29:16.92 ID:PSbk9XVL
かすみ「もう……なんでそんなこと言えるんですか」ポロポロ

かすみ「歩夢さんが包丁持ってたのは確かに怪しいかもしれない……」

かすみ「でも愛さんが包丁で傷つけられていないのを知っているのは、歩夢さんも一緒に愛さんを引き上げてくれたからです!」

かすみ「1日目の時も歩夢さんはお風呂の時はずっと私と一緒にいたから違うってわかります!」

かすみ「最悪なことを決めつけてあげないでください……!」グスッ

エマ「…………」

エマ「……次は誰だろうね」タタッ

しずく「エ、エマさん!」

璃奈「…………」

しずく「私、追いかけてきます」

せつ菜「いえ、今は……そっとしておいた方が」

せつ菜「私たちも一旦、大広間に戻りましょう」

せつ菜「ごめんなさい果林さん……まだ少し、このままで」

102: 2019/01/05(土) 01:25:52.80 ID:VqcDARKO
ーー大広間

歩夢「…………」

せつ菜「…………」

かすみ「…………」

かすみ「きっと、幽霊です」

せつ菜「え?」

かすみ「幽霊が……彼方先輩を、愛先輩を、果林先輩を、あんなことにしてるんです」

かすみ「エマさんも、幽霊のせいで……」

かすみ「だから、歩夢先輩」

歩夢「いいよ、大丈夫」

103: 2019/01/05(土) 01:26:40.22 ID:VqcDARKO
歩夢「優しいね、かすみちゃんは」

かすみ「優しくなんか、ないです」グスッ

しずく「……あなたは、どうして包丁を」

歩夢「今ここで言っても、疑心暗鬼になるだけだよ」

歩夢「言い訳しようと、本当のことを言おうと、疑いが晴れるわけでもないし」

歩夢「……もしかしたら、わたしがやったのかもね」

せつ菜「……歩夢さん」

歩夢「ごめん、ちょっと外に行ってくる」

璃奈「わ、わたしも一緒に」

歩夢「いいの」

歩夢「……1人にさせて」

104: 2019/01/05(土) 01:27:16.19 ID:VqcDARKO
しずく「……大丈夫、ですかね」

せつ菜「1人になりたい時も、あると思います」

璃奈「うん。だね。」

かすみ「……私、何か飲み物もってきます」

しずく「私も手伝います」

しずく「1人にさせるのは……不安ですし」

かすみ「わかった、ありがとう」

璃奈「じゃあ、私たちはここで待ってるね。」

璃奈「しずくちゃん、その寝巻き可愛いね。」

しずく「……ありがとうございます」

かすみ「では……」ガララ

105: 2019/01/05(土) 01:28:55.74 ID:VqcDARKO
璃奈「…………」

璃奈「……行ったね。」

せつ菜「……はい」

璃奈「せつ菜さん、さっそくだけど、他の人が今日どう動いたか、情報共有しとこう。」

せつ菜「そうですね」

せつ菜「と行っても私はほとんど把握してませんが……」

……
………
…………

106: 2019/01/05(土) 01:29:38.11 ID:VqcDARKO
ーー

せつ菜「……おっけーです、だいたい把握しました」

璃奈「でも、昨日の掃除の時間に誰がどう動いたか把握できてても……果林さんがああなってしまった以上、エマさんの動きが全くわからない。」

璃奈「そして、まだ私たちがお互いに犯人でない証拠がない。」

せつ菜「ですね」

せつ菜「……それに、私はついさっきまで歩夢さんが犯人だと思ってました」

璃奈「!」

107: 2019/01/05(土) 01:30:17.93 ID:VqcDARKO
せつ菜「彼方さんの絞〇、包丁の件、井戸の件も……疑うことのできる点が多すぎました」

せつ菜「ですが、人を疑ってないかすみさんが1番冷静に事態を把握していて、歩夢さんが犯人ではないと教えてくれました」

せつ菜「私は……友人のことを、人〇しだなんて」

璃奈「仕方ない。この状況だから。」

璃奈「包丁の件は私も不審に思ったけど、多分あの人のことだし、護身用なんじゃないかな。」

璃奈「私たちにとっさに包丁を護身用に使う能力はないけど、もし私が犯人だとしたら、相手が包丁を持っていれば気後れはする。」

璃奈「だぶんあの人はそこまで見越してる。」

璃奈「だから、逆に怪しいと思うのも仕方ない。」

せつ菜「ですが、結局……」

108: 2019/01/05(土) 01:31:14.31 ID:VqcDARKO
しずく「ただいま戻りました」ガララ

せつ菜「!」ビクッ

かすみ「お茶で良かったですか?」

せつ菜「もちろん、頂けるだけでも!」

璃奈「ありがとう。」

かすみ「……ふう」

かすみ「……なんか、これまで起こったこと、全部夢になればいいのにな」

せつ菜「…………」

かすみ「なんて、ダメですね、こんなこと言ってちゃ」

せつ菜「いえ、私もそう思います」

せつ菜「なんなら、まだ初日で、悪い夢を見てるだけ、だったり……」

璃奈「だったら、いいのにね。」

109: 2019/01/05(土) 01:31:56.93 ID:VqcDARKO
璃奈「……ごめん、一瞬横になっていい?」

せつ菜「いいですよ、私の膝でも」

せつ菜「かすみさんとしずくさんも、少し横になったらどうですか?」

しずく「ですが……」

かすみ「え、でもこんな状況で……」

せつ菜「こんな状況だから、ですよ」

せつ菜「まだ助けが来るまで時間がかかります」

せつ菜「それにかすみさん、目の下、クマができちゃってますよ」

かすみ「……じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ」ゴロン

しずく「なら、わたしも」パタッ

せつ菜「ええ、おやすみなさい」

せつ菜「…………」

せつ菜(私がしっかりしなくては)

せつ菜(歩夢さんはあんなに心がやられてるし、いま平気な歳上は私だけ)

せつ菜(去年まで中学生だった子たちがこんなところで平気なわけがない)

せつ菜(ましてやこんな見慣れない土地で、ネットすら繋がらない)

せつ菜(苦しい、ですよね……)ウトウト

せつ菜(…………)

110: 2019/01/05(土) 01:34:26.85 ID:VqcDARKO
ーー裏山

歩夢(……もうみんなのことなんて信用できない)

歩夢(助けを呼ばなきゃ)

歩夢(助けを呼ばなきゃ……なんとか連絡を取らなきゃ)

歩夢(いくら山の中だからって電波が届かないなんて私はじめてそんなの聞いた、きっと誰かが妨害電波とかとばしてるんだ)

歩夢(だったら……山の上まで行っちゃえば助かる、助かるんだ)

歩夢(高いところ……たしか、お社があるって行ってた)

歩夢(でもなんて言えば来てくれるんだろう……『同級生に〇されました』なんて言ったところで信じてくれるわけない)

歩夢(……なら)

歩夢「…………」ポチポチ

111: 2019/01/05(土) 01:36:07.20 ID:VqcDARKO
…………
………
……

歩夢(簡単だよね、通報してから、下で火事を起こしちゃえばいいんだ)

歩夢(台所でマッチを1本だけ拝借しておいてよかった)

歩夢(包丁は……流石にバレちゃったし)

歩夢(でも仕方ないよ、私が1番初めに彼方さんを〇したのはあの中の誰かだって気づいたんだから)

歩夢(護身用だもん)

歩夢(1番初めに見つけた時、すぐに気づいた)

歩夢(彼方さんの白い首に細い痣が見えた)

歩夢(見たことあるからわかった。あれは髪の毛を束ねたやつだ)

歩夢(まさか、自分の手首以外で見ることになるとは思ってなかったけど)

歩夢(そしてお風呂に入ってて勝手に髪の毛が束になって首に絡まるわけがない)

歩夢(誰かがやったんだ)

112: 2019/01/05(土) 01:37:32.11 ID:VqcDARKO
歩夢(でも、すぐに気を失っちゃったから、たしかなことはわからなかった)

歩夢(だから、目を覚ましてすぐ、誰かに見つかる前に、彼方さんの死体を確認しに行った)

歩夢(間違いなく髪の毛だ)

歩夢(流石に彼方さんの髪の毛を生きてるうちにむしってそれで〇すのは不自然すぎるから、多分使ったのは〇した本人の髪でしょ)

歩夢(髪の毛で〇したってことは、髪が短い果林さん、かすみちゃんには無理だ)

歩夢(果林さんにそんな度胸があるとは思えないし、かすみちゃんはいい子だからそんなことあるわけない)

歩夢(かすみちゃんはいい子だから)

歩夢(うまいこと逃げ切ってくれるといいな)

113: 2019/01/05(土) 01:38:05.86 ID:VqcDARKO
歩夢(というかやっぱり、包丁なんて使用頻度の高いものを拝借したのは失敗だった)

歩夢(警戒したつもりだったのにエマさんに見つかってるし、かすみちゃんにもだいぶ怪しまれてしまった)

歩夢(流石に護身用にしてはやりすぎだったな……)

歩夢(まあ、どのみち疑われたしもうお終い)

歩夢(助けが来るまでに、まだ誰か〇されて、本当の犯人がみんなにバレちゃえばいいけど)

歩夢(というか、犯人、エマさんだよね?)

歩夢(エマさんだよね?)

114: 2019/01/05(土) 01:38:58.57 ID:VqcDARKO
歩夢(だって明らかに怪しいじゃん)

歩夢(髪の毛だってそこそこ長いし、愛さんを井戸に突き落としたのもエマさん)

歩夢(だってあの時掃除の場所一緒だったし)

歩夢(そのとき果林さんと一緒にいたことにしてアリバイを作るために、夜中に果林さんも〇した)

歩夢(間違いないじゃん)


歩夢「あれ?」

歩夢(……てことは)

歩夢「私がエマさんを〇せば全部終わる?」

115: 2019/01/05(土) 01:39:28.65 ID:VqcDARKO
ーー

歩夢「あった、灯油」

歩夢(大広間にストーブあったから予備くらい普通にあると思ったんだよね)

歩夢(……あれ、でも灯油って2、3年で使えなくなるんじゃなかったっけ?)

歩夢(ま、いっか火がつけば)

歩夢「よいしょっと……」タプン

歩夢(エマさんは今2回の奥の部屋にいるだろうから……1階の廊下と、階段を途中まで灯油まみれにして)ドプドプ

歩夢(火をつける)シュボッ

歩夢(私は2階の1番階段側の部屋に隠れる)

歩夢(で、エマさんが火事に気づいて出てきたところを倉庫から持ってきた鉈でパスっと)

116: 2019/01/05(土) 01:40:35.19 ID:VqcDARKO
歩夢(消防にはもう連絡したし、じきに救助が来るはず)

歩夢(やっぱり山の上まで行けば電波は通じた)

歩夢(お社ってのがみつかんなくてわかんなかったけど)

歩夢(そういえばさっき1階に灯油撒くとき、なんか湿ってたような……)

歩夢「果林さんの血とか体液かな?」

歩夢「まあ死んじゃってるし仕方ないよね」

歩夢「生きてる人が助からなきゃ」

歩夢(待っててね……もうすぐ帰るから)

歩夢(エマさんを〇して、全部終わらせるから)

125: 2019/01/05(土) 12:03:53.59 ID:VqcDARKO
…………
………
……

しずく「……さん、みなさん!」

せつ菜「!」カバッ

しずく「火事です、寝室棟が燃えてます!」

かすみ「え!?」

璃奈「……!」バッ

かすみ「エ、エマさんが!」

せつ菜「私いってきます!」

せつ菜「しずくさんは2人を連れて外へ出ててください、火事となれば救助が望めます!」

しずく「わ……わかりました!」

126: 2019/01/05(土) 12:04:22.06 ID:VqcDARKO
かすみ「わ、私も……!」

しずく「ダメです!」ギュ

かすみ「しず子!」

しずく「大勢行っても邪魔になるだけです!」

かすみ「…………」

璃奈「消火器とかは、ないんだよね?」

しずく「はい……残念ながら」

璃奈「じゃあ、いっても邪魔になる。」

璃奈「ひとまず、外に出よう。」

璃奈「こっちの建物にまで回ってきたら大変なことになる。」

かすみ「でも……!」

しずく「かすみさん……!」ガシッ

しずく「幽霊が……幽霊が、私たちを〇そうとしてるんです」

しずく「全員で行ったら思う壺です、今はせつ菜さんを信じましょう……!」

かすみ「!」

かすみ「……わかりました」

璃奈「…………」

127: 2019/01/05(土) 12:04:50.61 ID:VqcDARKO
ーー

せつ菜「あつっ」ザザッ

せつ菜(1階が火の手……でも何故!?)

せつ菜(発火するものなんて何もなかったはず……!)

せつ菜(うたた寝なんて最悪だ、犯人が音を立てて動いていたというのに……!)

せつ菜「こんな時だってのに……!」

せつ菜(とにかく、2階へ!)

せつ菜「…………」ハッ

せつ菜「…………」

せつ菜(……彼方さん、果林さん)

せつ菜(ごめんなさい、今はあなたたちを連れ出す力が……私にはない……)タタッ

128: 2019/01/05(土) 12:05:24.83 ID:VqcDARKO
せつ菜(エマさんがいる部屋は、たしか一番奥!)

せつ菜(ここです!)

せつ菜「エマさん、外に火が……」ピタッ

エマ「うわあああああ!」ガバッ

 せつ菜が勢いよく襖を開けると、中から鬼の形相のエマが包丁を構えて飛び出してきた。

せつ菜「いづッ……」ドサッ

 とっさに右に転げて交わしたが、左手を嫌な角度で地面に着いてしまい、鈍い痛みが走る。

エマ「あなたを〇せば! みんな助かる!」

せつ菜「ちょ、何言ってるんですか!」

せつ菜「下が燃えて……!」

129: 2019/01/05(土) 12:06:26.83 ID:VqcDARKO
エマ「うるさい!」ヒュンッ

せつ菜「ひっ……」サッ

 エマが半狂乱で包丁を振り回し、せつ菜を斬りつけようと向かってくる。痛む手首で後ろに下がるが、すぐに突き当たりの壁にぶつかってしまう。

エマ「あんなに死体に触れられて……平気なわけない!!!」

せつ菜「……! そんな!」

エマ「彼方ちゃんだってそうだ……せつ菜ちゃんの衣装にはロープがついてるし、それで〇したんでしょ……」

エマ「愛ちゃんも、愛ちゃんも愛ちゃんも2年生だから落としたんだ井戸に井戸に……」

エマ「せつ菜ちゃん背ちっちゃいから井戸に落とせるもん……愛ちゃん……」ブンッ

せつ菜「い、言ってることが支離滅裂です……!」

130: 2019/01/05(土) 12:06:57.50 ID:VqcDARKO
せつ菜「エマさん、一旦下に降りてください! ここは危険です!」

エマ「だから〇されそうなあなたは危険知ってる!!!私が危険!!!」

 エマは金切り声で叫ぶと、振り回していた包丁を両手で持ってせつ菜の顔に向けて突き出してきた。

せつ菜「何言ってるんですか!!」

 せつ菜がそれを横に転んで避けると、包丁は壁に突き刺さった。エマがそれを抜こうと引っ張っているうちに、せつ菜は立ち上がってエマから距離を取る。

エマ「待って待って〇さないで私は〇さないで」

エマ「待って抜くまで待って包丁」グイグイ

せつ菜「落ち着いてください! 包丁から手を離してください!!!」

131: 2019/01/05(土) 12:07:24.87 ID:VqcDARKO
 背中にじっとり汗をかいたせつ菜は両手を下に向けてエマをなだめようとするも、エマはすぐに包丁を抜いて大きく振りかぶり、せつ菜の左腕を刃先でかすった。

せつ菜「い……ッ」ピュッ

 1、2センチの切り傷から勢いよく血が飛び出してくる。
 興奮しているせいか思いの外痛みがないものの、ぼとぼとと遠慮なしに床に落ちていく血を見て、せつ菜は頭が真っ白になりそうなのを必死で堪える。

エマ「だって私見た気がする昨日の夜にあなたが夜歩くの!!!」

せつ菜「歩いてないですよ!!!」

エマ「みたみたみたみたみたみた!!!」

エマ「あなたが〇したの!!!」

せつ菜「〇してない!!!」

132: 2019/01/05(土) 12:07:50.60 ID:VqcDARKO
せつ菜(とにかく包丁が危なすぎる……あれを離してもらわないと!)

せつ菜(でもやたらめったら振り回されると近づけもしない!)

せつ菜(だったら……)タタッ

エマ「! まて!」

エマ「みんなのところには行かせない……!」

せつ菜(パニックで火事になってることに気づいてないなら……!)

せつ菜(階段を降りるふりをして……!)

エマ「とま…………きゃっ!」ズルッ

 曲がり角を曲がり、階段を降りようとしたエマに火の手が襲いかかり、せつ菜に気を取られていたエマは思わず包丁を手放してしまった。
 そして、そのまま床に突き刺さった包丁の持ち手に、足を滑らせたエマの頭が、勢いよく

エマ「ンずッ」ゴンッ

 聞いたことのない音を立ててぶつかった。

133: 2019/01/05(土) 12:08:13.09 ID:VqcDARKO
せつ菜「エ、エマさ……」

 頭を打ったエマは、燃える階段をずりずりと流れ落ちて、どさりと踊り場に落下した。
 壊れた人形のような姿勢で、白目をむいて泡を吹きながら、びくんびくんとひきつけを起こすエマを、階段の上で、せつ菜は呆然と見守った。

せつ菜「わ、私、そんなつもりじゃ……」

 エマはしばらくびくびくと足や腰を震わせた後、急に動かなくなった。口から溢れた白い泡が、燃え盛る炎の中で、ぱちぱちと音を立てて弾けていた。


歩夢「……せ……つ菜ちゃん、だったの?」ガララ

 手前の襖が開くと、鉈を持った歩夢がふらふらと歩いて出てきた。
 呆然と立ち尽くしていたせつ菜は、力なく歩夢の方を振り返る。

せつ菜「……ぇ」

134: 2019/01/05(土) 12:13:20.95 ID:VqcDARKO
せつ菜「わた……違う、私じゃ……」

歩夢「急にせつ菜ちゃんきたから……様子を見るために黙ってたら……」

歩夢「たしかに……せつ菜ちゃん……」

歩夢「エマちゃんのいう通り……やたら死体の処理……引き受けてたよね……」

せつ菜「違う……違う……」フルフル

歩夢「普通死体ってそのまま残すよね……なのに……」

歩夢「もしかして証拠を消すため……?」

歩夢「ダイニングメッセージとか隠してた……?」

せつ菜「違う、私はただ……みなさんが元気で帰れるように……」

歩夢「元気で……? はは、もう元に戻れるわけないのに」

135: 2019/01/05(土) 12:14:08.12 ID:VqcDARKO
歩夢「おかしいよ」ザッ

せつ菜「私じゃない……!」サッ

 一歩近づいてきた歩夢を見て、せつ菜はとっさに身を守るものを、と床に刺さった包丁を抜いた。

歩夢「!」

歩夢「やっぱり私も〇す気だったんだ……」

せつ菜「! 違います!」

せつ菜「これはただ……あ、あなたが……刃物を持ってるから……」

歩夢「犯人はせつ菜ちゃん……犯人はせつ菜ちゃん……」ハッ

歩夢「そういえばせつ菜ちゃん、髪長いし」

せつ菜「……だからなんでさっきから2人ともわけわからないこと言うんですか!!!!」

136: 2019/01/05(土) 12:14:43.57 ID:VqcDARKO
歩夢「…………」

せつ菜「…………」ハァ…ハァ…

歩夢「じゃあ、その包丁はなに?」

せつ菜「知りませんよ……!!!エマさんが持ってたんですよ!!!」

歩夢「ずっと部屋にいたエマさんが包丁持ってるわけないじゃん」

せつ菜「私だってそう思ってますよ!!!」

歩夢「自分でやったことの記憶が抜けてるの?」

せつ菜「違う違う違う違う違う」

137: 2019/01/05(土) 12:15:13.33 ID:VqcDARKO
歩夢「……〇さなきゃ」

せつ菜「!」

 口を開かずに歩夢が呟くと、握っていた鉈を上に振りかぶり、せつ菜に向けて振り下ろした。

せつ菜「い゛ぁ」ブチブチ

 錆びた鉈は狙いこそ外したものの、せつ菜の長い髪に絡まって、歩夢が腕を反対側に引っ張るとぶちぶちと音を立てて抜けた。
 そして、バランスを崩して前のめりになったせつ菜にもう一度鉈を振り下ろそうとした歩夢は、全身に力が入らないことに気付く。


歩夢「……………………ぁぇ?」ポタ…


せつ菜「………………ぁっ……」


 バランスを崩したせつ菜は、右手を前に出して、その手に包丁を握っていたことを思い出す。恐る恐る顔を上げると、歩夢の下腹部には、自分の手が握っている包丁が、深々と埋まっていた。

歩夢「ぃたぃ…………ぃぃぃいい゛」ガクンッ

せつ菜「ぁっ、ぁっ、ぁっ」

138: 2019/01/05(土) 12:15:38.22 ID:VqcDARKO
せつ菜「ご、ごめんなさっ、ごめんなさいっちが、ちがうっ」

 思わずせつ菜が包丁から手を離すと、歩夢はそのまま膝から床に崩れ落ちた。
 包丁伝いにポタポタと垂れる血と、自分の左手の切り傷の痛みと、小刻みに震える歩夢と、勢いを増す炎と、人が焼ける匂いと、自分が人の身体に刃物を刺してしまったという事実に、せつ菜は何も考えられなくなる。

せつ菜「すぐぬきます!」ガシッ

歩夢「゛゛゛ぬかないて゛っ」

せつ菜「しん、しんじゃいますよ!?」

歩夢「し゛ぬ、し゛んじゃうから゛っ」

せつ菜「いいから! ぬきますよ……!」ズバッ

歩夢「ん゛ん゛ん゛ん゛ぁぁぁぁぁぁ゛」ボトボトボトッ

 せつ菜が勢いよく包丁を抜くと、手元が狂ってそのまま左に大きく腹が裂けて、歩夢の服の中と床に、血なのか内臓なのか判断のつかない固まりがぼとぼとと音を立てて流れてきた。

139: 2019/01/05(土) 12:16:07.22 ID:VqcDARKO
せつ菜「もうだいじょうぶです!」

せつ菜「ぬけました! ぬけました!」

歩夢「んふ゛ふ゛ふ゛ぅぅぅぅ……」ビクッ

歩夢「……づづづづづぃたぃぃたぃぃたぃぃたぃ」

せつ菜「ぬきましたよ? もうぬきましたよ!?」

歩夢「…………ふっ、ふっ、゛っ、゛っ……」ズルズル

 歩夢は落ちたモノを拾うように腕を丸めると、そのまま前屈姿勢になって、勢いよく頭を床に打ち付けて、そして動かなくなった。

 せつ菜は座り込んだままぼーっとそれを眺めた後、炎の熱と煙の匂いに鼻を突かれて、何が起こっているかをゆっくりと理解した。

せつ菜「……ぁぁぁぁああああ」

せつ菜「ああああああああああ!!!」

せつ菜「私じゃない!!!私じゃない!!!」

140: 2019/01/05(土) 12:19:56.73 ID:VqcDARKO
ーー外

かすみ「やっぱり遅すぎます!」

かすみ「歩夢先輩もどこにもいないし!」

璃奈「たしかに。不自然すぎる。」

しずく「……まだ間に合います」

璃奈「私たちが気がついてから10分ちょっと。まだ芯までは燃えきってないはず。」

かすみ「行きましょう!」

しずく「まってください」タタッ

璃奈「…………」

しずく「…………」バシャッ

かすみ「!?」

しずく「急ぎです。台所やお風呂まで釣ってる時間はありません」

しずく「池の水をかぶってから行きましょう」

かすみ「…………」コクン

141: 2019/01/05(土) 12:20:22.52 ID:VqcDARKO
…………
………
……

しずく「……ッ」

しずく(肉の焼ける匂いが……!)

かすみ「うっ……」フラッ

璃奈「煙、吸わないようにね。」

かすみ「わかってます……!」

かすみ「2階、でしたよね!」

かすみ「だったらもし煙吸って倒れたりしてたら……」

しずく「端の方はまだ燃えてません、急ぎましょう!」

璃奈「…………」コクン

142: 2019/01/05(土) 12:20:49.58 ID:VqcDARKO
ーー

せつ菜「…………」

せつ菜(あれ……今私はなにを見ているんでしょう)

 炎が周り、床が抜け始めた2階の廊下で、せつ菜はぼーっと宙を眺めて座り込んでいた。膝のソックスには目の前の歩夢の血がじっとり染み込んでいて、朦朧とする頭の中と膝の感覚が遠く離れていくような感覚を覚えた。


かすみ「ひっ……」

しずく「エ、エマさん……!?」

璃奈「……!」

 階段下で、半分焦げ始めているエマの死体を見つけた1年生が、悲鳴をあげて立ち止まる。
 せつ菜はゆっくりと階段下を振り返る。

かすみ「! せつ菜先輩!」

かすみ「そこにいるのは歩夢さんですか!? 早く降りてきてください!」

かすみ「そこにいたら煙……が……」ピタッ

143: 2019/01/05(土) 12:21:23.76 ID:VqcDARKO
璃奈「!」

かすみ「せ、せつ菜先輩……」

せつ菜「…………」

かすみ「そ、その血は……?」

せつ菜「あぁ……」ネト…

 せつ菜の左半身は、ぱっくりと割れた肩と胸に空いた穴から流れた血で、真っ赤に染まっていた。
 せつ菜はゆっくりとそれを確認して、呟くように答えた。

せつ菜「身に……覚えがないんです」

せつ菜「歩夢さんに切られたのか……それとも自分で切ったのか……」

しずく「…………」

せつ菜「私……自分で嫌なことを……忘れてるのかもしれません……」

せつ菜「璃奈さん……言いましたよね……」

璃奈「…………」

せつ菜「私たち自身も、犯人ではない証拠なんてない……」

せつ菜「もしかすると、犯人は……私……だったの……か……も……」ドサッ

144: 2019/01/05(土) 12:21:57.05 ID:VqcDARKO
かすみ「せつ菜さん!!!」タタッ

しずく「かすみさん!」ガシッ

璃奈「かすみちゃん!」ガシッ

かすみ「なんで止めるんです!」

しずく「もう間に合いません!」

かすみ「まだ生きてる!」

璃奈「だめ。もうあの傷は助かれない。」

かすみ「なんで2人ともそんな薄情なんですか!!!」

しずく「薄情なんじゃない!」パチンッ

かすみ「い……っ!」

しずく「助かる人が助からないでどうするんですか!」ズルズル

145: 2019/01/05(土) 12:22:37.31 ID:VqcDARKO
かすみ「でも……!」

しずく「今上まで行ったら確実に間に合わな……」ミシッ

かすみ「! 危ない!!」ドンッ

璃奈「あ」

しずく「え」

 かすみがしずくを押しのけると、次の瞬間しずくが立っていた場所に2階の床が燃え尽きて落ちてきた。しずくと璃奈はバランスを崩して倒れこむ。

璃奈「かすみちゃ……」

 しずくを押しのけたかすみは、そのまま床に押し潰されるように、下敷きになった。
 人の大きさほどの木片が、小さな身体を押しつぶす。

かすみ「…………」

かすみ「……あいてて」

しずく「かすみちゃん!!!」

璃奈「いま助ける……!」グググ…

かすみ「はは……ごめんなさい、私のせいで」

かすみ「2人で……先に……逃げ……」カクッ

璃奈「! かすみちゃん!」

しずく「かすみ……かすみちゃん!」

…………
………
……

146: 2019/01/05(土) 12:23:45.29 ID:VqcDARKO
ーー

 その後、歩夢の通報により駆けつけた救助隊により、しずく、璃奈、かすみは救出された。
 しずく、璃奈は軽いやけどやかすり傷で済んだものの、かすみは頭蓋骨、あばら、右脚の骨折、背中の大火傷等入院を余儀なくされる状態で、もう少し救助が遅れていれば命の保証はなかった。

 他の6名に関しては、後日焼け跡から5名の遺体、離れの武道場から1名の遺体が発見された。
 5名のうち1名の遺体に関しては、身元確認が困難なほど頭蓋骨を破壊されており、切られた吊り橋、電波の届きにくい場所などの情報もあったためか、凄惨な事件としてしばらく世間を騒がせた。

150: 2019/01/05(土) 17:11:34.62 ID:VqcDARKO
ーー2週間後 病院

かすみ「…………」

璃奈「かすみちゃん。」ガララ

かすみ「りな子……ご無沙汰してます」

璃奈「うん。面会、今日は大丈夫だって聞いて。」

かすみ「……ごめんなさい、まだ少し……怖くて」

璃奈「しずくちゃんがずっと謝りたがってた。さっき連絡したからすぐ来ると思う。」

かすみ「……そっか」

かすみ「…………」

璃奈「…………」

151: 2019/01/05(土) 17:12:08.59 ID:VqcDARKO
かすみ「……幽霊は」

璃奈「!」

かすみ「……幽霊は、何がしたかったんでしょうね」

璃奈「人を〇して、なんになるんだろう。」

璃奈「仲間が増えるのかな。」

かすみ「だとしたら……今頃地球の上は人でいっぱいですよ」

璃奈「……幽霊なんてのが、いればね。」

かすみ「…………」

かすみ「……じゃあ」

かすみ「犯人は、なにがしたかったんだろう」

璃奈「……さあ。」

璃奈「本人に聞くしか、ないんだろうね。」

152: 2019/01/05(土) 17:12:56.27 ID:VqcDARKO
璃奈(当然だけど、警察はまだ犯人を捕まえていない……)

璃奈(どころか、せつ菜さんか歩夢さんのどちらかが犯人という筋で話が通りそうにすらなっている。)

璃奈(私たちの証言は、精神が弱った子供の信憑性がない情報として処理されてしまう。)

璃奈(もう、私しか犯人を知っている人はいない。)

璃奈(……何をもって犯人とするのかは、わからないけど。)

璃奈(だって、過程はもう知る由もないけど、あの3人……エマさん、歩夢さん、そしてせつ菜さんたちは、間違いなく心中に近い形だろうし。)

153: 2019/01/05(土) 17:14:07.12 ID:VqcDARKO
璃奈(火事が起こって、エマさんを助けに行ったせつ菜さんに何があったかは知らない……)

璃奈(あの肩の傷、胸の穴が他人に傷つけられたものなのか、自分でやったものなのかもわからない。)

璃奈(エマさんが何でどう頭を打ってあそこに倒れていたのかもわからない。)

璃奈(どうして、せつ菜さんはあんなに一緒に悩んだのに、目の前にいた歩夢さんがあんなに悲惨な姿だったのかもわからない。)

璃奈(わからないことだらけだけど、ひとつわかるのは、あの3人に関しては被害者加害者があの中で完結する、ということ。)

璃奈(じゃあ犯人は誰のことなんだろう。)

璃奈(……あの凄惨な事件を始めた人物のことじゃないかな。)

154: 2019/01/05(土) 17:14:44.55 ID:VqcDARKO
璃奈(私にはもうわかっている。)

璃奈(はじめからわかっていた。)

璃奈(犯人を探していながら、個人を疑いたくないと人を攻めることに負い目を感じていたせつ菜さんに、遠慮するべきではなかった。)

璃奈(きちんと伝えていれば、せつ菜さんもここにいたかもしれない。)

璃奈(歩夢さんも、エマさんも。)

璃奈(……言い訳だ。)

璃奈(私が認めたくなかったんだ。)

璃奈(友人が人を〇しているところなんて、現実として受け止めきれるわけない。)

璃奈(犯人ではない証拠を、むしろ探していた。)

155: 2019/01/05(土) 17:15:19.88 ID:VqcDARKO
璃奈(でも結局、それはみつからなかった。)

璃奈(最後まで、私の中で犯人は変わらなかった。)

璃奈(彼方さんの首を絞め、愛さんを井戸に落とし、果林さんの顔にクワを叩き込んだ人物。)

璃奈(証拠なんてどうでもいい。アリバイなんてどうでもいい。)

璃奈(だって私は、見た。)

璃奈(息をしていない彼方さんの首に、束ねた髪の毛を食い込ませて、満足そうな顔をしていた人を、私は見た。)

璃奈(怖くて逃げ出してしまった。あの時、大声を出していれば、何か変わったかもしれない。変えられたかもしれない。)

璃奈(真っ先に忘れようとしてしまった。みてないことにしようとしてしまっていた。)

璃奈(その光景を、今でも夢に見る。)

璃奈(彼方さんを〇していた……)

156: 2019/01/05(土) 17:15:48.68 ID:VqcDARKO
璃奈「……しずくちゃん。」

かすみ「え?」

璃奈「そろそろくるっぽい。」

璃奈「私、玄関まで迎えに行ってくる。」

かすみ「わかった、待ってるね」

かすみ「……待ってるね」

璃奈「…………」

璃奈「…………」ガララ



かすみ「……本当に」

かすみ「…………」

かすみ「本当に、幽霊は……」

…………
………
……

157: 2019/01/05(土) 17:20:25.53 ID:VqcDARKO
ーー

しずく「……かすみさん」ガララ

かすみ「しず子」

かすみ「……りな子は?」

しずく「あぁ、外のベンチで風を浴びてますよ」

かすみ「そっか」

かすみ「ねえしず子」

しずく「はい、なんでしょう」

かすみ「演劇の方はどう?」

しずく「……しばらくお休みさせてもらってましたが、ここ2、3日は練習に参加してます」

かすみ「演目は『クライン』……なんだったっけ」

しずく「……『クラインリューゲ』です」

かすみ「…………」

158: 2019/01/05(土) 17:21:30.57 ID:VqcDARKO
かすみ「……あの3日間」

かすみ「きっと、幽霊の仕業だよね」

しずく「えぇ、そうですね」

かすみ「ゆっくり私たちを追い詰めて行って……最後は、せつ菜さんたちまで、あんなふうにして」

かすみ「なのに……私たちだけ生き残って」

しずく「生き残っただなんて……そんな言い方、やめてください」

しずく「あんなに大勢、一度に死ぬなんて……普通のことじゃないんです」

しずく「あっては、いけないことなんです……」グスッ

 ベットの隣に座るしずくが、顔を歪ませて涙をこぼす。震える声は、冷たく寂しい病室に空虚に響く。

かすみ「…………」

 動かない脚に暑さを感じながら、かすみは布団の下でシーツを握りしめた。

159: 2019/01/05(土) 17:22:01.48 ID:VqcDARKO
かすみ「……しず子は、幽霊がやったと、思ってる?」

しずく「…………」

しずく「……はい」

かすみ「りな子は、信じてなかったみたいだけど」

しずく「……あの人らしいです」

かすみ「だね」

かすみ「ところでさ、ちょっと気になってたこと聞いてもいい?」

しずく「いいですよ」

かすみ「愛さんがいない、ってなった時……しず子とせつ菜先輩、2人で外を探したの?」

しずく「……そうですよ」

しずく「どうかしたんですか?」

かすみ「いや、せつ菜先輩が戻ってきた時、しず子靴を履いていなかったのに……くるぶしに泥が付いていたの、なんでかなって思ったから」

しずく「そうですか」

160: 2019/01/05(土) 17:23:13.63 ID:VqcDARKO
かすみ「じゃあさ、まだ聞いてもいい?」

しずく「どうぞ?」

かすみ「なんで2日目の夜、着替えてたの?」

しずく「? 着替えてないですよ、気のせいじゃないですか?」

かすみ「……そっか」

かすみ(なんで)

かすみ「なんで果林さんを見つけた後、お茶を出す時、湯飲みに何か入れてたの?」

しずく「入れてないですよ?」

かすみ(なんで、嘘をつくんです)

かすみ「……じゃあ、あのとき、包丁を取り出してたのは、何?」

しずく「身に覚えがないですね」

かすみ(どうして、まだ嘘をつけるんですか……)

かすみ「次でラスト」

かすみ「クラインリューゲ、そんな演目、ないんだよね」

しずく「…………」

161: 2019/01/05(土) 17:25:13.94 ID:VqcDARKO
かすみ「ふと気になって、調べたんです」

かすみ(入院して何も考えず過ごして、でもやっぱり、考えてしまって)

かすみ(あの日のことを思い出した。何か引っかかってた)

かすみ(この人に演劇の話題を振って、ましてや演目の名前を聞いて、中身を話さないわけがない)

かすみ(事細かに中身を話さないってことは、きっとそれが……存在しないから)

かすみ「ドイツ語で正解でしたね」

かすみ「……意味は」

しずく「…………」

かすみ「……『小さな嘘』」

しずく「…………」クスッ

かすみ「……どこからが嘘なんですか?」

かすみ「どこまでが……あなたにとっての、『小さな』なんですか?」

しずく「……さあ」

かすみ「じゃあ、最後に、せめてこれだけ、嘘か本当なのか、教えてください」

しずく「……いいですよ」

かすみ「…………」

かすみ「……ふぅ」

かすみ「あなたが、合宿に行ってはじめに話してくれたこと」

かすみ「あの屋敷で、昔、あなたが怪我をした話」

かすみ「けど……けど、本当に」


かすみ「本当に幽霊はいたんですか?」

162: 2019/01/05(土) 17:26:00.47 ID:VqcDARKO
しずく「…………」

かすみ「…………」

しずく「……いませんよ」

しずく「幽霊ってネタを出しておけば、不安になればそっちに気がとられて途中で私が犯人だとバレるような面白くない展開にならないと思ったんですよ」

しずく「なんならお社なんてのもありませんし、あの屋敷、普通に毎年親戚の集まりで使ってますし」

かすみ「……そっか」

しずく「あと、せっかくなのでネタバラシしておくと……」

しずく「愛さんを探すとき私は部屋の中を探しましたし、2日目の夜は着替えてましたし、コップには少し眠たくなるお薬を入れましたし、包丁はこっそりエマさんにプレゼントするために持って行きました」

しずく「まあ結局、使ったのはせつ菜さんだったみたいですけど」クスクス

しずく「あ、靴下の泥はあれですね、愛さんを井戸に誘った時に愛さんが走ってくるものですからその時飛び散っちゃったんです」

しずく「誰も気づいてくれないと思ってましたけど、かすみさんは気がついていたんですね」

かすみ「……まあね」

163: 2019/01/05(土) 17:28:29.26 ID:VqcDARKO
しずく「彼方さんのあたりは特に何もないんですか?」

かすみ「ないことは、ないけど……」

しずく「教えてくだいよ。もうここまで話してるんですから」

かすみ「……あの時は、むしろ嘘をついたのはりな子」


せつ菜『ところで彼方さんは?』



璃奈『みてない。』



かすみ「……何かみてたんだろうね」

かすみ「だってあの子の性格なら、あの聞かれ方をしたらまず他の人の返事を待つはず」

かすみ「それなのに、すぐみてない、と答えるなんて、不自然すぎる」

しずく「あー、なるほど」

しずく「気づきませんでした、さすがです」

かすみ「…………」

164: 2019/01/05(土) 17:29:37.96 ID:VqcDARKO
かすみ「しず子じゃなくて、犯人に質問」

しずく「はい」

かすみ「……どうしてこんなことを?」

かすみ「直接3人も〇めて、最後はエマさんたちが〇しあうよう仕向けた」

かすみ「正気の沙汰じゃありません」

しずく「待ってください待ってください」

しずく「それは誤解があります」

しずく「たしかにエマさんに包丁を渡したのは私ですが、火事を含め歩夢さんについては私何も知りませんよ?」

しずく「火事なんて大ごとにしたのでもうあの屋敷は使えませんし……」

165: 2019/01/05(土) 17:33:16.76 ID:VqcDARKO
しずく「私はただみなさんがどんな気持ちになるのか知りたかっただけなので、歩夢さんやせつ菜さんがどんな気持ちで人を〇したのかは知りませんよ」

しずく「むしろちょっと引きました。あんなに疑われて人〇そうとします? 普通……」

しずく「せつ菜さんも……かなり抱え込んでましたけど、結局ああなってしまうし」

しずく「そのあたりは私は触れてないということで……私が直接〇めたのは4人ですね。今回は」

かすみ「………………は?」

かすみ「『4人』?」

しずく「えぇ。彼方さん、愛さん、果林さん、それから」

しずく「璃奈さん」

かすみ「……あんたっ!」ズキッ

かすみ「いづ……ッ」ガクッ

しずく「あぁ! 暴れないでください……」アセアセ

しずく「あなたは怪我人ですから……もう」

しずく「怪我がひどくなってしまいますよ」

かすみ「りな子は、どこに……!」

しずく「さっきも言ったじゃないですか、外のベンチですよ」

しずく「あ、かすみさんは外出禁止だから知らないんですっけ」

166: 2019/01/05(土) 17:35:43.75 ID:VqcDARKO
しずく「携帯はここ使えないので救急車呼べませんね~」

かすみ「! ナースコール……」スッ

しずく「だーめ」チョキッ

かすみ「い゛゛゛…………」ビクッ

 ナースコールに手を伸ばしたかすみの人差し指を、ポッケから手を抜いたしずくが大きな裁ちバサミでチョキンと止める。
 第二関節に感じたことのない冷たい痛みが走り、かすみは思わず体が仰け反る。

しずく「ナースコールとは考えましたね。でもダメです。今は2人きりがいいので」ガシッ

しずく「悪いことする指はこうです」チョキチョキ

 しずくはかすみの右手首を握ると、一本ずつ丁寧に指に切れ目を入れていった。清潔なベットのシーツが、かすみの血で真っ赤に半纏を作っていく。

かすみ「゛~~~~~!!!」ガバッ

しずく「あー、やっぱいくら研いでもハサミじゃ骨は無理ですね」

しずく「まあ、そのボロボロの右手じゃもう何もできないでしょうけど」

かすみ「……ぃ゛っ、ひっ、ひっ」ガクガク

しずく「まあまあ、そう怯えないでくださいよ」

167: 2019/01/05(土) 17:37:04.57 ID:VqcDARKO
しずく「ラストなんでしっかり質問しておきましょう」

しずく「今どんな気持ちですか?」

かすみ「……づっ、っふぅ、っふぅ゛…………!」

かすみ(ダメだこの人もう狂ってる!)

かすみ(いえ、もうというかなんというか……これは、元から?)

かすみ(狂っているわけではなく、元からがこうなんですか?)

かすみ(だとしたら……私たちが今まで接してきて、友達だと思ってた人は……演技……)

かすみ「……最悪です」

しずく「シンプルですね~笑」

かすみ「最悪」

しずく「今のあなた顔まで火傷で包帯巻いてるんですから、割と怖いですよ」

しずく「その『最悪』は今の気持ちですか、それとも呪いですか?」

168: 2019/01/05(土) 17:39:03.04 ID:VqcDARKO
かすみ(痛い……痛い痛い痛い痛い)ズキズキ

かすみ(でももう……私には何もない)

かすみ(顔も半分は火傷で元の形じゃなくなって、足も繋がってる部分は痛むのに先の方はもう感覚がない、そしていまので右手はもう使えない)

かすみ(じゃあ……今の私にできることって)

しずく「じゃあそろそろ会話が成り立たなくなってくる頃ですし、終わりにしましょうか」

かすみ「!」ビクッ

しずく「はい、あーん」ズボッ

かすみ「おご゛……ッ」

 痛みに肩を震わせ、ぜぇぜぇと呼吸をしていたかすみの口に、しずくが勢いよくハンカチを突っ込む。

かすみ「゛……っ゛……っ」

170: 2019/01/05(土) 17:53:29.71 ID:VqcDARKO
しずく「これで大声出せませんね」

しずく「じゃあ、あとは……」ドスッ

かすみ「キュ゛…………ッ」ビクンッ

 しずくはかすみの上に馬乗りになると、隠していたナイフをかすみの腹にずぷりと埋め込んだ。何かを探すような手つきで、中をゆっくりとかき混ぜる。

かすみ(熱い……熱い熱い熱い)

かすみ(ないないないない意識がなくなるなくなる痛い痛い)

 口から赤い泡を吹き出しながら、かすみは白い天井を見上げる。消えそうになる意識の中で、慌てふためく自分の中で、一つだけ冷静に何をすればいいのか判断をしている自分がいる。それに従え、それに従え、

かすみ(左手は動く、右のポケット、さっき裁ちバサミをしまってた、届く、届け)ググッ

かすみ(……だめだだめだバレるバレるなら!)バッ

しずく「何してるんですか」ガシッ

かすみ「゛゛゛ッ!」

 真っ赤でべとべとになった右手をしずくの頬に伸ばそうとして、ナイフを持つ手と反対側の手でそれをベットに押さえつけられる。

しずく「お仕置きです」ベリッ

かすみ「゛~~~~~~!!!!」ビクビクッ

 人差し指の切り傷に、しずくの細い指がねじ込まれる。真っ白な骨が見える傷が、細い指によって歪に広げられていく。
 脳みそが痒みを感じる程の痛みが走るが、かすみは必死でその痛みと自分を別物だと思いこませようとハンカチを食いしばる。

171: 2019/01/05(土) 18:03:11.18 ID:VqcDARKO
かすみ(両手が塞がってる今なら……!)バッ

しずく「あ」

 しずくがナイフを手放し、かすみを止めようとした頃には、かすみはポケットから裁ちバサミを奪い取っていた。震える手で、がっしりとそれを握りしめ、スカートを切り裂いてそれを振りかぶる。

 しずくが前のめりにお腹を庇うと、かすみはその裁ちバサミをしずくの首筋に突き立てた。

しずく「………………ぁ゛っ」ズボッ

かすみ「゛ーーーーッ!」ザクッ

 右手の拘束が緩んだのを感じて、かすみは一度抜いたハサミをもう一度首に突き立てる。抜いた傷穴からさらさらの血が噴き出して、ハサミを突き立てるかすみの手が真っ赤に染まる。

しずく「…………ぉあ」カクンッ

かすみ「…………」

 しずくの力が抜けて、自分の上にどさりと崩れ落ちたのを確認すると、さらに奥まで差し込まれたナイフの痛みを感じるよりも早く、かすみは目を閉じた。

かすみ「………………」

しずく「………………」

172: 2019/01/05(土) 18:04:06.06 ID:VqcDARKO
ーー

 数分後、駆けつけた警察によって2人は発見された。
 通報者である璃奈は、しずくと会う前に電話をかけ、警察に電話をつなげたまましずくと会話し、そして自分の口から状況を伝える間も無くしずくの手によって息を引き取った。

 布の摩擦音のせいで途切れ途切れではあるものの、璃奈たちによる不審な会話が送られてきた警察は、すぐに現場に駆けつけた。
 ベンチには、力なく横たわった幼い少女の遺体があった。
 病室も同じくかすみ、しずくの遺体がベットに重なり合っており、先ほどの会話と状況からしずくが襲いかかりかすみが抵抗した、とみられているが、
 一連の事件の犯人がしずくなのか、それともショックを受けたしずくによる心中なのか、真実は定かではない。

174: 2019/01/05(土) 18:09:04.71 ID:VqcDARKO
一旦おしまい。
次の更新で各死亡シーン含めたしずく目線の投下します

183: 2019/01/05(土) 23:32:28.56 ID:VqcDARKO
ーー

しずく(私は役者でした)

しずく(幼い頃から親の指導で日本舞踊を習い、スポーツを学びましたが、自分自身で出会ったもの、それが演劇)

しずく(踊り、スポーツ、歌、どんなことも人並みにはできました)

しずく(私は、お勉強が好きでしたから)

しずく(ですが……どれもうまくいって上の中、完璧なものはありませんでした)

しずく(しかし、演劇だけは違いました)

しずく(どんな、お稽古場、親戚の場でもその場の望む人柄を演じてきた私にとって、何かを演じるというのは難しくないこと)

しずく(演劇の才能はすぐに開花しました)

しずく(与えられた役柄をこなす、このキャラクターの気持ちになる、それは楽しいことでした)

しずく(ある時です)

しずく(とあるキャラクターの性格、考え方が、過去のある時点での私と一致しました)

しずく(そのキャラクターを演じるのは楽しく、そして周りからの評価もずば抜けてよかった)

しずく(私は気づきました)

しずく(演じるということは空想ではなく、回想なのだと)

184: 2019/01/05(土) 23:33:12.53 ID:VqcDARKO
しずく(それからの私の伸びは早かった)

しずく(どんな役も、演じる前にそのキャラクターとなるべく似た経験をしました)

しずく(それが難しければ、似た経験をした人から話を聞く)

しずく(考え、話すのではなく、思い出して、話す)

しずく(想像にいる人物ではなく、過去にいた人物を自分で再現するのです)

しずく(当然楽しかった)

しずく(そしてある時与えられた役は)


しずく(人〇しの役でした)

185: 2019/01/05(土) 23:34:01.41 ID:VqcDARKO
ーー

しずく「うーん」テクテク

しずく「人〇しなんて、したことありませんし……ましてやそんな知り合いもいませんし」

しずく「どうしましょう」

しずく「おや」

猫「ニャ-」

しずく「猫ちゃんです」

しずく「さすが鎌倉は程よい田舎ですね」

しずく「おいでー」チョイチョイ

猫「ニャ-」

しずく「ふふ、かわいい」ナデナデ

しずく「…………」

しずく「……あ、そうだ」

186: 2019/01/05(土) 23:34:32.67 ID:VqcDARKO
猫「」ピクッ…ピクッ

しずく「ふぅ、やっと死にました」

しずく「意外に動物って死なないんですね……」

しずく(そして、こんな感覚ですか)

しずく(胸に風が通るような、スーッとした感覚)

しずく「……まだわかりませんね」

しずく「まあ……時間が経てばわかりますかね?」

187: 2019/01/05(土) 23:36:43.64 ID:VqcDARKO
ーー

しずく(しかし、時間が経っても人〇しの感覚が理解できることはありませんでした)

しずく(だから、私はやってみることにしました)

しずく(するなら、徹底的に)


愛「すごーいでっかいお屋敷!」

エマ「ワクワクするね!」

しずく(ワクワクしますし、ちょっと緊張してきました)

しずく(今日から私は人〇しです)

しずく(一番初めに〇すのはお風呂が一番遅かった人ですかね……発見が遅れそうなので)

かすみ「金持ちの家じゃないですか」



璃奈「言い方最悪だよね。」 



かすみ「そこまでいう?」 



しずく「まあかすみさんの発言は置いておいて」 



かすみ「あとから言及するみたいな言い方怖いわね」 



しずく「どうせ誰も使ってない古い屋敷なんで好きに使っていいとのことです!」 



愛「助かるー!」

しずく(……好きに使ってしまいましょう!)

188: 2019/01/05(土) 23:37:27.31 ID:VqcDARKO
ーー夜 お風呂

果林「じゃあ私、先上がってるわ」

果林「のぼせないようにね~」

しずく「はーい♪」

しずく(……さて、みなさん気づいてない人もいましたが……明らかにのぼせてそうな人が浴槽の端に1人いますね)

しずく(高い温度でお湯はりしてよかった、外が寒いのもあって湯気がとにかく濃い)

しずく(これで最後に残った……彼方さんが見つからずに済みました)

しずく(ですが、まだ起こしてはだめです)

しずく(髪の毛を……)ブチブチッ

しずく(人の髪毛は強いです、数を束ねさえすればトラックくらいは引っ張れるんですから)

しずく(だから、ちょっと数本束ねさえすれば……)ギュッ

しずく(お手製の凶器です)

189: 2019/01/05(土) 23:38:01.96 ID:VqcDARKO
しずく(さあ、これで彼方さんを起こさないように……)バシャバシャ

しずく「…………」スゥ

しずく「…………」ハァ

しずく(流石に緊張しますね)

しずく「……彼方さん」チョンチョン

彼方「……んぁ」

彼方「しずくちゃん……えっと、私」フラッ

しずく「おとと、のぼせてるんですよ、あがりましょう」

しずく「ほら、肩に捕まって……」ガシッ

彼方「うん……」

しずく(よし、想像通りのぼせて意識が朦朧としています)

しずく「…………」パッ

彼方「え」グラッ

しずく(いまです!)ギュゥッッッ

彼方「カ………………っ」ガシッ

しずく「暴れないでください……!」ギュゥッッッ…

190: 2019/01/05(土) 23:39:13.79 ID:VqcDARKO
彼方「……゛っ、なん…………」グググ…

しずく「なんで、ってそれは……私の"お勉強"のためですよ」ギュゥッッッ

しずく(おおおぉ、人の首ってこんなに食い込むんですね……!)

彼方「…………゛っ」ググ…

彼方「…………」

しずく(あ、力が抜けてきました)

彼方「」カクッ

しずく「あ」

しずく「死んじゃった」

しずく「…………」

しずく(……これが、人〇しですか)

しずく(さっきまで話してた人が、もう2度と話せなくなるという感覚)

しずく(私の把握してない10数年間が、この人にもあったのだろうという感覚)

しずく(これからも生きて行くはずだった人間が、私の手で死んでしまうという感覚……)

しずく「悲しいですね」グスッ

しずく(思わず涙が出てしまいました)

191: 2019/01/05(土) 23:39:47.40 ID:VqcDARKO
しずく(さあ、残りの処理もきちんとしないと)

しずく(あ、残りってのはコレですね)バチャン

しずく(万が一生きてても困るので、うつ伏せに水に浮かばせときます)

しずく(これなら息もできませんし時期に死ぬでしょう)

しずく「…………」

しずく(……流石に心臓はもう動いてないですよね?)ピト

彼方「」

しずく(……よし、安心です)

しずく(では、みなさんのところに向かいましょう!)

しずく「~~♪」

しずく(これに気がついた時の皆さんの反応も楽しみですね!)

192: 2019/01/05(土) 23:40:54.11 ID:VqcDARKO
ーー深夜

しずく「思いの外みなさん気づかないものですね……」テクテク

しずく(想像だともう気づいてパニックになる人がいてもおかしくないと思ったのですが)

しずく(でも、おかげで違和感なく吊り橋に細工ができますね)

しずく(みなさん今頃ぐっすりですから)

しずく「……着いた」ギシ…

しずく(このお屋敷……毎年来てますけど、吊り橋を支えているのがロープしかないって不安にもほどがありますよね)

しずく(なんか最近の吊り橋は金具とかチェーンでがしがしに固めてあるイメージ強いんですけど)

しずく(昔のまんまですもんね、これ)ザクザク

しずく(この間下見に来た時に大まかな傷は入れておいたので、あとは強度を限界にして……)ザクザク

しずく「……やっぱノコギリでも結構キツイですね」

しずく(そして、切れ目のあたりにしっかり油を塗り込んでおいて……)ヌリヌリ

しずく「着火!」ボッ

しずく(ライターって怖いんですよね、こんな手元で火がつくなんて)

しずく(喫煙者の方は慣れるものなのでしょうか)

しずく(……さて、これで私は布団に戻るだけ)

しずく(こうしておけば、あたかも犯人が向こう岸で普通に切って逃げたようにしか見えません)

しずく(完璧ですね!)

193: 2019/01/05(土) 23:41:56.64 ID:VqcDARKO
ーー2日目 昼間

かすみ「ふう、すぐ終わりましたね」

しずく「ですね」

かすみ「戻ろっか」

しずく「あ、ごめんなさいちょっと御手洗い寄っていい?」

しずく(御手洗いが遠い位置にあって本当に助かりました、適当に時間稼ぎができます)

かすみ「じゃあ先に座布団持って帰ってるわね」

しずく「お願いします」ボスッ

かすみ「重っ」

しずく「お願いします~」

かすみ「ご、ごゆっくり……」

しずく(……さて)

しずく(せっかくですし井戸を使いたいところですよね)

しずく(ここでかすみさんを誘っても良かったのですが……あの子は心が強そうなのでまだ残しておきましょう)

しずく(いまだと……心が弱ってるエマさんか、逆に他の人の支えになってる愛さんですかね)

しずく(せつ菜さんはああみえてもたぶん、愛さんのサポートくらいの強さしかないでしょうし)

しずく(なんだか考えてたらワクワクしてきました、やっぱ愛さんがいいです!)

しずく「…………」ピト

しずく(よかった、井戸の石は固い)トントン

しずく(これなら思い切りぶつけても石の方が砕けたりはしませんね)

しずく(あとは誰か1人になってる人を呼べればいいんですけど……)キョロキョロ

しずく(えっ)


愛「…………」スタスタ


しずく(……本当ですか?)

しずく(やったー! なんてタイミング!)

しずく(今朝の占いが良かったからですかね!)

194: 2019/01/05(土) 23:43:19.36 ID:VqcDARKO
しずく(よし、ではここで私の演技力を試してみましょう)ガサッ

しずく(少し物音を立てて……)


愛「…………」ピタッ


しずく(よし、止まった)

しずく(イメージは……そうですね、かすみさんとの待ち合わせに遅れた時の私)

しずく(前の日にずいぶん楽しみにしてましたから、それに遅れてしまってかなり申し訳なかった……あの感じで)

しずく「…………」ガサッ

愛「……え?」

しずく(井戸の縁に足をかけて、飛び込もうとせんとみえる体勢)

愛「え」

愛「え、ちょ、ちょちょ」パタパタ

しずく(……きた! スリッパのまま駆け出してますねこれ)

しずく(よその家のスリッパなのに、泥の上を走るなんて……よっぽど慌ててますね)

愛「危ないよー! 何してんの!?」ザッザッ

愛「ちょっと、待っ……」

しずく「はい♪」ガシッ

 愛の足音がすぐ後ろまで来ると、しずくはくるりと身を翻し、愛の頭を両手で掴んだ。髪の毛が少し滑ったので、爪を食い込ませて力を入れる。

愛「え?」

 何が起こったか理解できない愛の表情をしっかりと目に焼き付けて、その走ってきた勢いをそのままに、全力で愛の鼻頭を井戸の縁に叩きつけた。

195: 2019/01/05(土) 23:44:38.10 ID:VqcDARKO
愛「……づあ゛ッ…………」カクンッ

しずく「まだ意識ありますか? まだ意識ありますか?」ブンブン

愛「…………」

 鼻が明日の方向を向いて、蛇口を捻ったような量の鼻血が溢れる愛の頭をぶんぶんと振りながら、しずくは愛に呼びかけた。黒目がぐるぐると動き回り、生きてる人間には思えない。

しずく(キモ……)

愛「……し、しず……なん」

しずく「あ、意識あった」ブンッ

愛「き゛ッ」ガコンッッ

 改めて今度は後ろ頭を角に叩きつけると、今度こそ愛は白目を向いて顎をだらんと垂らした。
 手足の先がピクピクと震えている。

しずく(……ふぅ)ゾクッ

しずく(なんとも言えない達成感……こんなのなかなか経験できませんよ)

しずく(これで死ん……では、ないですよね、まだ)

しずく(だってにゃんこは結構叩きつけないと死にませんでしたし)

しずく(じゃあ……髪が長くないので面白みにはかけますが、貞子ごっこしてもらいましょう)ドサ…

しずく「よいしょ」ボトン…

しずく(さ、手を洗って戻りましょう)

しずく(せっかくですし、井戸に落とすのは黒髪ロングヘアのせつ菜さんがよかったですね~)

しずく(あ、それか、私とか)

196: 2019/01/05(土) 23:45:46.06 ID:VqcDARKO
ーー愛発見後

せつ菜「……この、中です」

かすみ「そんな……」

歩夢「愛、ちゃんが」

璃奈「…………」チラ

しずく「どうかしました……?」

璃奈「……ううん、なんでも。」

せつ菜「ロープは……だめです、輪っかを作っても姿勢的に引っかからない」

歩夢「この桶を使っても……だめだね」

せつ菜「…………」

せつ菜「……私が、降ります」

歩夢「えっ」

かすみ「せ、せつ菜ちゃん……?」

せつ菜「あの向かいの木にロープを固定して……その反対に、私を結んでください」

せつ菜「これだけ長さがあれば、肩、腰にぐるりと回しても井戸の底まで降りる余裕はあるはずです」

璃奈「なら、私がいく。」

璃奈「体が小さい方が……」

せつ菜「年下に無理はさせられません」

せつ菜「……といっても、たかが一歳ですが」

せつ菜「私も小柄な方です、任せてください!」

197: 2019/01/05(土) 23:46:28.30 ID:VqcDARKO
しずく「…………」ジ-ン

しずく(すごいです)

しずく(感動しました)

しずく(こういった追い詰められた状況、ある程度の社会性を保ちながら、極力自分の心を守ろうとする歩夢さん、かすみさんたちがいるのとは反対に)

しずく(自分の精神的ダメージをかえりみず他の人の心を守るために自ら辛い役割を引き受ける……)

しずく(それも、半分自分のわがままという形で)

しずく(これだと周りも任せよう、となるわけです)

しずく(なんという自己犠牲の精神!)

しずく(もちろん前者が悪いなんて言いません。性善論を唱えるつもりはないですし、むしろ自分を守るのが一番賢い)

しずく(だって全員が自分を守ってれば、最も安全に乗り越えられるんですから)

しずく(だから……全員を守っているつもりで、頼る人、支える人を作ってしまい悪い方向へと流れを持っていく良い人が、追い詰められるとどうなるのか)

しずく(楽しみですね!)

198: 2019/01/05(土) 23:48:39.28 ID:VqcDARKO
ーー夜 大浴場

せつ菜「…………」

せつ菜「…………」ゴシゴシ

せつ菜「……取れない」ポツリ

しずく「……せつ菜さん」

せつ菜「!」ハッ

せつ菜「あはは……大丈夫ですよ」

せつ菜「先、あがっておいてください」

しずく「……わかりました」

しずく「のぼせてしまう前に、ちゃんとあがってきてくださいね」

せつ菜「はい……」ニコ

しずく(私に心配をかけまいと、作り笑いまで見せてくれる)

しずく(本当に……良い人です)

199: 2019/01/05(土) 23:49:23.98 ID:VqcDARKO
ーー深夜 廊下 縁側

しずく「……ふう」

しずく(2日目の夜……もうだいぶ皆さん参ってきましたね)

しずく(とくにせつ菜さん)

しずく(平気そうなふりしてますけど、あれはかなり強がってますよね)

しずく(あの人もほぼ常に演技してるような人ですし、なんとなくわかります)

しずく(良い人では、あるんですけどね)

しずく(ですが、2日目にしてほぼ全員集合で寝るとは、かなりの好判断)

しずく(こういうときは集団でかたまられるのが1番怠いですから)

しずく(私が先生なら花マルあげちゃいます)

しずく(まあ今回は私が犯人なのでちょっと厄介なんですけど)

しずく(でもそのおかげで精神的に1番参ってる人にさらにダメージを与えやすくなりました)

しずく(いまからエマさんが病んでいくのはあなたのせいなんですからね~せつ菜さん)クスクス

200: 2019/01/05(土) 23:50:32.20 ID:VqcDARKO
しずく(さて、出てくるときにちょっと足をぶつけたので多分起きると思うんですけど……)


果林「あら、しずく」

果林「起きてたの?」

しずく「」ビクッ

しずく「か、果林さんですか……」ホッ

しずく(しっかり怯えたふりはしておきましょう)

果林「お、驚かそてごめんなさいね」

しずく「いえ、私こそ……」

果林「眠れないの?」

しずく「ええ……こんなことが、起こってますから」

しずく「よかったら、池の方に行きませんか?」ザッ

果林「えぇ、もちろん」ザッザッ

しずく「……果林さんは、どう思いますか?」

果林「ど、どうって……」

しずく(ここで誰かをすでに疑ってるなら……犯人の話題を出すはずですが)

果林「……正直私は、私たちの中に犯人がいると思う」

しずく(がっつり誰かを疑ってますねこの人)

果林「吊り橋だって……なんとかすれば、あとから千切れるような仕掛けがあるだろうし」

果林「私は……」

201: 2019/01/05(土) 23:52:40.02 ID:VqcDARKO
果林「…………」

しずく「……私は?」

果林「ごめんね、いまから私最低なこと言うわ」

しずく(友人を疑う時点で最低ですよ)

果林「でも私には、彼方のあんな姿を見て限界だった私には」

果林「あんなに死体に触れて平気な……ましてや、井戸にまで潜って、直接触れる」

果林「そんなことが平気なんて、もうそうとしか思えないの」

果林「せつ菜が犯人なんじゃないかって」

しずく(面白くなってきました)

しずく「……せつ菜、さんが」

しずく(よりにもよってみんなのために頑張っているせつ菜さんですか)

しずく(せつ菜さん、悲惨ですね……)

しずく(本人が聞いたらあの笑顔も流石に崩れますかね?)

果林「実は掃除の時間、エマが台所で人影を見たって」

果林「台所は大浴場への途中にあるし、もしかしてせつ菜……刃物とか……」

しずく「……そう、ですか」

果林「だからさっき、お風呂に入る前に服の中に隠してないか探したけど……その時はお風呂にまで持って入ってたみたいで」

果林「だから、シャワーが長かったのも、もしかしたらそれを見られないように服の中に隠すためとか」

果林「結局私より長かったし……」

しずく(つまりさっきは、心配してるふりして疑ってたってことですか……)

しずく(なかなか名女優ですね)

しずく(私ほどではありませんが)

202: 2019/01/05(土) 23:53:57.83 ID:VqcDARKO
しずく(これだけ告白させたら、そろそろですかね)

しずく(ネタバラシして自分を責めてもらいましょう)

しずく「でも他にアリバイがない人もいますよ……?」

果林「……それは」

しずく「例えば……私とかすみさんと別れて作業をしていた歩夢さんや、エマさんに確認が取れない今、あなたも」

果林「それは!」


しずく「あと、私とか」

果林「え?」

しずく「私がやってないって言い切れますか?」

しずく「こんなにべらべら喋ってくれましたけど」

果林「し、しずく、急に様子が……」

しずく「だって私……演劇部ですし」

果林「え、え、どういう……」

しずく「震えてますよ、果林さん」

しずく「かわいいですね」

果林「」ビクッ

しずく「そろそろ気づきました?」

しずく「愛さんが〇された時、私もアリバイないんですよね」

しずく「あなたが知らないのも無理はありませんが……かすみさんに御手洗いに行く、と嘘をついてちょっとお散歩したんです」

しずく「井戸の様子でもみようかなーって」

果林「あ……あ……」

しずく「次に通りかかった人をお誘いしようかと思ったら、一番お人好しな人が通りかかったもので」

しずく「あえて物音を立てながら、井戸に飛び込もうとしました」

203: 2019/01/05(土) 23:55:27.17 ID:VqcDARKO
しずく「なるべく精神的に限界そうな悲壮感を醸し出しながら演じたつもりなんですけど、愛さんになら伝わったと自負しています」

しずく「そしたら愛さん……ふふ、やっぱり良い人です」

しずく「いえ、良い人でした」

しずく「止めに来てくれたので……その頭を掴んで、そのまま井戸の角にドスンと」

しずく「あの人が全力で走ってきてくれてたのもあって、2回くらいぶつければ意識は奪えました」

しずく「私、こんなに細い腕だけど力はあるんですよ」

果林「…………」ガクガク

しずく「安心してください、あなたは井戸の角にドスンなんてしませんから」

しずく「そして愛さんを井戸にぽちゃんして、あたかも御手洗いから出てきましたみたいな雰囲気で歩いてたら、せつ菜さんに出会ったので……」

しずく「あとはご存知の通りですね」

しずく「幽霊の話題出してますし、井戸ってそういう場所なのでどうかと思いましたがかすみさんあたりはしっかり怯えてくれてますね」

しずく「あなたは薄情にもせつ菜さんを疑ってますけど」

しずく「あ。これコツなんですよ?」

しずく「自分を責めるように仕向けたら、人って悲鳴があげられなくなるんです」

しずく「だって今の果林さん、最低ですもんね?」

果林「……や」

しずく「や?」

果林「……い、いや、最低なのは……あなたよ、しず」

しずく「うるさい」パチンッ

204: 2019/01/05(土) 23:56:38.71 ID:VqcDARKO
果林「いっ……」ヒリヒリ

しずく「うるさいですよ」

果林「あなたは!」

しずく「もう」ガシッ

しずく「大声出したらみんな起きちゃうじゃないですか」ボチャンッ

果林「ぶっ……~~!」バシャッ

しずく「お水でも飲んで落ち着いてください」

果林「かっ…………はガっ……」バシャバシャ

しずく「ん~、思ったより寒いですね!」バシャンッ

果林「……んッ……んくッ……」ゴクッ

しずく「面白いですよね、しばらく沈めてたまにちょっとだけ水面に浮かばせてあげると空気と水を一緒に飲み込んでしまう」

しずく「まるで金魚です!」

しずく「エマさん喜びますかね?」

果林「゛~~~~!」

しずく「って、水の中だからもう聞こえませんよね、ごめんなさい」

果林「゛~~……」

果林「…………」カクッ

しずく「意識を失いました」

しずく(さて、人はこの程度では死にません、強いので)

しずく(まずはコレを引き上げて……)バシャッ

しずく(手と足を縛っておきましょう)

205: 2019/01/05(土) 23:57:41.46 ID:VqcDARKO
ーー廊下

しずく(エマさんの部屋の前にやってきました)

しずく(果林さんを襖を背にそっと座らせてあげます)

しずく(倒れちゃわないように100均の粘着テープで襖に固定しておきましょう)ペタッ

しずく(目はアロンアルファで開かないようにします)ベトッ

しずく(これ溶けたりしませんかね? まあいいや)

しずく(ここからが急ぐポイントですね)

しずく(果林さんを運ぶのに使ったクワの持ち手の端を天井から紐で結んで吊します)ギュッ

しずく(落としたら音がするので要注意です)

しずく(そして鉄の部分あたりを紐で結んで、天井にひっかけて……)シュルシュル

しずく(エマさんが襖を開けたら、紐が緩んで果林さんの顔にクワが叩き込まれるようにセットします)

しずく(そこそこ重たいので不安でしたが、紐の端に返しを付けたので安定感ありますね)

しずく(ピタゴラスイッチみたいで楽しいです)

しずく(さあ、これでトドメを刺すのはエマさんです)

しずく(あとでカメラを回収するのを忘れないようにしないと)

しずく(果林さんが起きて助けを求めても襖を開ける、エマさんが外に出ようとしても襖を開ける、どのみち果林さんは顔からドスン)

しずく(目が塞がってるからクワを避けることもできない)

しずく(ちょっと扉が開けばクワが命中するので、これは完璧です)

しずく(写真を撮っておきたい感ありますけど一期一会ということで、果林さんのぶんまで目に焼き付けておきましょう)


しずく「ふぁ……」

しずく(……私もそろそろ寝ましょう)

しずく(あ、でも寝巻き濡れてる)

しずく(一応着替えますか……お色直ししたの、誰か気づいてくれますかね?)

206: 2019/01/05(土) 23:59:11.01 ID:VqcDARKO
ーー3日目 果林発見時

歩夢「こ、これは……」

エマ「うおぇ……っゲホッ」ゴホゴホ

しずく(これは……思いの外ひどいですね)

しずく(ここまでグロいと人〇しというかまた別の何かですよ……)

エマ「なんで……なんで……」

しずく(やったのはあなたなんですよ……あなたが無用心に重たい襖を開けさえしなければ、果林さんは助かったのに……)

しずく(果林さんかわいそう……)

せつ菜「……エ、エマさん、別の出入り口から」

エマ「…………」

しずく(こんな時も他人の心配、さすがせつ菜さんです)

せつ菜「庭側の方から……ひとまず……」

エマ「……ううん、いい」

エマ「果林ちゃんの部屋借りるから」

しずく(この状況で果林さんの部屋借りられるって逆にすごくないですか?)

しずく(私だったら無理ですね)

歩夢「で、でも、何か食べないと身体が……」

エマ「こんなもの見せた後に食べられるわけないよ!」

歩夢「ごっごめんなさい……」ビクッ

しずく(エ、エマさん、思いの外弱り切ってますね……)

しずく(他の人に当たり散らすってことは、もう社会性の維持すら頭にない)

しずく(食事もとってないし、死ぬことに対する恐怖のあまり生への執着がなくなってます)

しずく(こんな人間滅多に触れられません、しっかり目に焼き付けておきましょう)

エマ「というか……歩夢ちゃんでしょ」

歩夢「え」

せつ菜「は」

かすみ「あ」

しずく(なるほど)

207: 2019/01/05(土) 23:59:57.36 ID:VqcDARKO
エマ「私みたんだよ……歩夢ちゃんが、昼頃、台所に包丁取りに行ってるところ……」

エマ「ずっと持ち歩いてたんでしょ……誰を〇そうとして!」

かすみ「……!」

しずく(幻覚の話ですかね?)

しずく(むしろ私は井戸の現場を見られていないかと内心ヒヤヒヤしていたのですが……)

歩夢「そ、そんな、あれは、違……」

エマ「包丁持ってたのは本当なんだ!」

しずく(本当なんですか)

エマ「愛ちゃんもそうやって!」

歩夢「違う!」

歩夢「愛ちゃんは包丁じゃなくて、頭を……」

エマ「なんで知ってるの!?」

エマ「やっぱりそうだ! 彼方ちゃんも同じようにして」

しずく(こ、この人そんなに歩夢さんを責めるんですか)

しずく(よっぽど確信しているのか、あるいは……)


かすみ「やめてください!!」

歩夢「ひっ」

エマ「」ビクッ

208: 2019/01/06(日) 00:00:45.24 ID:mq+cXqEO
かすみ「もう……なんでそんなこと言えるんですか」ポロポロ

かすみ「歩夢さんが包丁持ってたのは確かに怪しいかもしれない……」

かすみ「でも愛さんが包丁で傷つけられていないのを知っているのは、歩夢さんも一緒に愛さんを引き上げてくれたからです!」

しずく(かすみさん……)

かすみ「1日目の時も歩夢さんはお風呂の時はずっと私と一緒にいたから違うってわかります!」

かすみ「最悪なことを決めつけてあげないでください……!」グスッ

しずく(せつ菜さんですら声をあげられなかったこの状況……)

しずく(ここぞという時に勇気を出せるのは、さすがかすみさんです)

しずく(実は一番強い?)

エマ「…………」

エマ「……次は誰だろうね」タタッ

しずく「エ、エマさん!」

璃奈「…………」

しずく「私、追いかけてきます」

せつ菜「いえ、今は……そっとしておいた方が」

せつ菜「私たちも一旦、大広間に戻りましょう」

せつ菜「ごめんなさい果林さん……まだ少し、このままで」

しずく(……さて、どうしましょうか)

209: 2019/01/06(日) 00:01:24.28 ID:mq+cXqEO
ーー台所

かすみ「……なかなか沸きませんね」

しずく「……ですね」

しずく(私は今からエマさんとお話に行きたいのですが……さっき止められたばかりですし、ちょっと行きにくいですね)

しずく(あんまり体には良くないんですけど、ちょっと眠たくなるやついっちゃいましょうか)

しずく(それにはかすみさんの目線が邪魔なので……)

しずく「乾燥棚の食器、片付けますか」

しずく「かすみさん、このお皿お願いします」カチャ

かすみ「はい」

しずく(ささっと)トトト…

しずく(ばっちりです)

しずく(それから、包丁も……エマさんにプレゼントしたいですから)カチャ…

しずく(ふふ、歩夢さんをこれで攻めておいて、自分がこれを使う……ここに疑問を抱くほど、頭はまだ働きますかね?)

かすみ「…………」

かすみ「あ、沸きました」

しずく「よかったです、じゃあ普通にインスタントのお茶で……」

かすみ「ですね」

210: 2019/01/06(日) 00:02:44.15 ID:mq+cXqEO
ーー大広間

せつ菜「…………」

かすみ「…………」スピ-

しずく(……って、睡眠薬ってこんな即効性あります?)

しずく(まあみなさん限界だったのでしょう……かわいそうに)

しずく(さてと)スタッ

しずく(この辺りでそろそろパンチを加えてみましょう)

しずく(寝てる間に1人〇しておいて、目を覚ましたら隣に……ってものいいですが)

しずく(流石に寝てる人の隣で静かに〇すのは無理がありそうですね)

しずく(ここはおとなしくエマさんのところに行きましょうか)

211: 2019/01/06(日) 00:04:03.39 ID:mq+cXqEO
ーー

しずく(ただ私が〇し続けても単調になってしまう……なら)

しずく「……エマさん」コンコン

エマ「」ビクッ

しずく「大丈夫です、私です」

しずく「あの、エマさんがここにいるのって、もしかして……」

エマ「…………」

エマ「……しずくちゃんも、気づいたんだ」

しずく「は、はい……」

エマ「犯人はせつ菜ちゃんだ」

しずく(え?)

エマ「私がみんなを助けなきゃ」

しずく(また意外な人を疑ってますねこの人……)

しずく(あぁ、でもたしかにアリバイを把握してないし、あの人やたら死体に触れてましたし)

しずく(エマさんは死体が苦手なタイプぽいですし、そういう人からすれば怪しいんでしょうか)

しずく(勉強になりました)

エマ「だから、わたしがせつ菜ちゃんを……」

エマ「〇さなきゃ」

しずく「でも……どうやって、その……こ、〇す、つもりだったんですか?」

エマ「それは……もう、首を絞めるとか……」

しずく(いやロープや髪の毛なしでそれはキツイですよ)

212: 2019/01/06(日) 00:05:38.12 ID:mq+cXqEO
しずく「わたしも……それ、考えたんですけど」

しずく「もし力が足りなくて抵抗されたら、こっちの身が危ないと思って、怖くて……」グスッ

しずく「わたし、持ってきちゃったんです」ポロポロ

エマ「!」

エマ「……包丁」

しずく「で、でも、ごめんなさい、私」

しずく「エ、エマさん……私もう、怖くて」ポロポロ

しずく「こんなことする私、最低じゃないかって」

しずく「足も手も、こんなに震えて、立つのがやっとで」ガクガク

エマ「……しずくちゃん」

エマ「大丈夫、ありがとうね」ギュ

エマ「あとは私がやるから、任せて」

しずく「い、いいんですか……」ズビッ

エマ「しずくちゃんは、みんなのところに戻って安全にしてて」

しずく「じゃ、じゃあ私……せつ菜さんがここに来るように、なんとかしてみます」

エマ「わかった、お願い」

エマ「あとのことは、任せて」

しずく「…………」コクン

213: 2019/01/06(日) 00:06:34.18 ID:mq+cXqEO
ーー

しずく(完璧です)

しずく(よし、あとはせつ菜さんが上手いことここにきてくれれば……)ハッ

しずく「……あれは」ササッ


歩夢「よいしょっと……」タプン


しずく(え、えぇ)

しずく(何してるんですかあの人)

しずく(そんな灯油なんて……)ハッ

しずく(歩夢さんはエマさんを疑っているんですかね)

しずく(それで、あの建物ごと焼き〇してしまおうと……)


歩夢「…………」シュボッ

歩夢「…………」タタタ…


しずく(え?)

しずく(2階に上がっていった……)

しずく「? うーん」

しずく(火に気づいたエマさんが出てきたところをねらう……?)

しずく(にしても、自分が帰るのはどうするつもりなんだろう……)

しずく(もう頭が働いてないんですかね)

しずく(かわいそうに)

しずく(まあ、これでせつ菜さんをエマさんの部屋の前に呼び出す準備ができましたね)

しずく(あ、でももう呼び出さなくても上で2人が〇しあってくれるんだ)

しずく(まあ3人に増えたらどうなるのかも気になりますし、一応差し向けますか)

214: 2019/01/06(日) 00:07:30.53 ID:mq+cXqEO
しずく(いえ、でも悩みどころですね……あれだけ丁寧に追い詰めたせつ菜さんを、他の人に譲ってしまうのはいかがでしょう)ウ-ム

しずく(私の手で〇してあげたい気もする……けど、これ以上は怪しすぎる……)ハッ

しずく(あれ、私、いつの間に)

しずく(はじめはただ人〇しの気持ちが知りたかっただけだから、1人〇せればそれで良かったのに……)

しずく(いつのまにか心の底から楽しんでます、この状況を)

しずく(こんなの……こんなの、本当に初めてです)

しずく(もしかすると、私……これに出会うために、演劇をやってたのかな)

しずく(そうかもしれません!)

しずく(だったらやっぱり……ここはエマさんを信じてみましょうか!)

しずく(仲間を信頼します!)

しずく(では、火事がひどくなったあたりで皆さんを起こしましょう)

215: 2019/01/06(日) 00:11:28.37 ID:mq+cXqEO
ーー

かすみ「やっぱり遅すぎます!」

かすみ「歩夢先輩もどこにもいないし!」

璃奈「たしかに。不自然すぎる。」

しずく「……まだ間に合います」

璃奈「私たちが気がついてから10分ちょっと。まだ芯までは燃えきってないはず。」

かすみ「行きましょう!」

……
………
…………

しずく(私も、状況が気になって仕方ありませんでした……!)

しずく(エマさんはせつ菜さん〇せたかな、それとも歩夢さんが邪魔したかな、誰が死んでるかな)

しずく(誰が……)ビクッ

かすみ「ひっ……」

しずく「エ、エマさん……!?」

しずく(えぇ……頭蓋骨ってこんなに白いんですか!)

しずく(ほっぺたのところが爛れてる……結構前にここに投げ出された、ってことは……)

璃奈「……!」

せつ菜「…………」

かすみ「! せつ菜先輩!」

しずく(せつ菜さんが生きてる!)パァ

しずく(やっぱりあの人は本当に強かったんですね!)

しずく(あの表情……もう心は死んでるのでしょうが、エマさんがもう死んでる……反撃したってことですよね!)

かすみ「そこにいるのは歩夢さんですか!? 早く降りてきてください!」

しずく(歩夢さんも……ん? なにかみえます)

しずく(……腸? うえぇ、そこまで裂いたってことはせつ菜さん、だいぶ狂ってますね)

しずく(急に襲ってこないといいですけど……)

かすみ「そこにいたら煙……が……」ピタッ

216: 2019/01/06(日) 00:12:14.07 ID:mq+cXqEO
璃奈「!」

かすみ「せ、せつ菜先輩……」

せつ菜「…………」

しずく(……うそ)

かすみ「そ、その血は……?」

せつ菜「あぁ……」ネト…

しずく(ま、まるで赤いカーディガンじゃないですか……)

しずく(肩の切り傷……あれは刃渡り的に歩夢さんが持ってた鉈ですかね)

しずく(でも、あの胸の穴……あれは包丁でしょうし、エマさんにあれをされてから歩夢さんを〇しきれるとは思えません)

しずく(ってことは……)

しずく(自分でやったってことですか?)

せつ菜「身に……覚えがないんです」

せつ菜「歩夢さんに切られたのか……それとも自分で切ったのか……」

しずく「…………」

せつ菜「私……自分で嫌なことを……忘れてるのかもしれません……」

しずく(そこまで限界だったとは……せつ菜さん)

しずく(かわいそうに)

せつ菜「璃奈さん……言いましたよね……」

璃奈「…………」

せつ菜「私たち自身も、犯人ではない証拠なんてない……」

せつ菜「もしかすると、犯人は……私……だったの……か……も……」ドサッ

217: 2019/01/06(日) 00:14:39.38 ID:mq+cXqEO
かすみ「せつ菜さん!!!」タタッ

しずく「かすみさん!」ガシッ

璃奈「かすみちゃん!」ガシッ

しずく(見るものは見ました、あとは生きて帰らないと)

しずく(……こんなところで2人につまらない死に方をされても困りますしね)

かすみ「なんで止めるんです!」

しずく「もう間に合いません!」

かすみ「まだ生きてる!」

璃奈「だめ。もうあの傷は助かれない。」

しずく(この人も嫌に冷静ですね……というか、私が犯人なのもうわかってるんじゃ?)

かすみ「なんで2人ともそんな薄情なんですか!!!」

しずく「薄情なんじゃない!」パチンッ

かすみ「い……っ!」

しずく「助かる人が助からないでどうするんですか!」ズルズル

しずく(こんなところであなたを失うわけにはいきません!)

218: 2019/01/06(日) 00:15:19.05 ID:mq+cXqEO
かすみ「でも……!」

しずく「今上まで行ったら確実に間に合わな……」ミシッ

しずく(あ)

しずく(マズイです)ヒヤリ

かすみ「! 危ない!!」ドンッ

璃奈「あ」

しずく「え」

しずく(か、かすみさん……!?)フラッ

璃奈「かすみちゃ……」

かすみ「…………」

かすみ「……あいてて」

しずく「かすみちゃん!!!」

璃奈「いま助ける……!」グググ…

かすみ「はは……ごめんなさい、私のせいで」

かすみ「2人で……先に……逃げ……」カクッ

璃奈「! かすみちゃん!」

しずく「かすみ……かすみちゃん!」

しずく(しっかりしてくださいよ、あなたは最後にとっておきたいのに……!)

…………
………
……

219: 2019/01/06(日) 00:17:41.99 ID:mq+cXqEO
ーー病院前

しずく「…………」

しずく(あれから1週間と5日)

しずく(やっとかすみさんが面会できる状態になったそうで)

しずく(エピローグまでたどり着いたというわけですが)

しずく(その前に1人……璃奈さんがいますね)


璃奈「……しずくちゃん。」

しずく「あ、璃奈さん」

璃奈「ちょっと、そこの影のベンチ、座ろ。」

しずく「……いいですよ」

璃奈「犯人、まだ捕まってないんだってね。」

しずく「ですね」

璃奈「早く捕まるといいね。」

しずく「そうですね」

璃奈「……私、誰か知ってるんだ。」

しずく「そうなんですか」

璃奈「果林さん、あんな姿になってたから……みんな気づいてなかったけど、あの時、廊下、濡れてた。」

璃奈「だからたぶん……果林さんの死因はアレじゃない。」

璃奈「溺死だ。」

璃奈「火事の中に飛び込む前に入った池の中、砂利石が何かが暴れたみたいに散らかってた。」

璃奈「鯉じゃあんなにならない。」

しずく「……そうですか」

220: 2019/01/06(日) 00:18:54.69 ID:mq+cXqEO
璃奈「もし果林さんが水に沈められて〇されたなら、犯人も水に濡れてるはず。」

しずく「たしかに、そうですね」

しずく「だから廊下も多少湿っていたと……納得です」

璃奈「ところでしずくちゃん、2日目の夜、お色直ししてたよね、何故か、パジャマを。」


璃奈『しずくちゃん、その寝巻き可愛いね。』

しずく『……ありがとうございます』


しずく「気づいてもらえました? 嬉しいです」

璃奈「…………」

璃奈「それから、愛さんが井戸に落ちた時に、1人だった時間があるのも、歩夢さんと、かすみさん、そして……」

しずく「…………」

璃奈「ねぇ、もう、わかってるでしょ。」

璃奈「私が誰を犯人と思ってるか。」

璃奈「間違っていないんでしょ。」

璃奈「だって私……」

璃奈「だって私、見たもん、あの日、お風呂で彼方さんの首に……」

璃奈「ずっと後悔してた、あのとき何かしてれば、わたしが迷わずにいればみん」ドスッ

しずく「話が長い」ググ…

璃奈「゛゛゛゛゛゛……」ポタ…

221: 2019/01/06(日) 00:19:43.91 ID:mq+cXqEO
しずく「はい、お腹に力入れて、ひっひっふー、ひっひっふー」

しずく「まだ話せる方ですか?」

璃奈「ぃ……ぃ゛たい……」ポタポタ

しずく「微妙なラインですね、まあいいです」

しずく「やっぱ彼方さんの時見られちゃってたんですね」

璃奈「゛゛…………」コクン

しずく「一番初めにお風呂に入ったのは彼方さん、そして最後に出たのが私、その前が果林さんで、その前があなた」

しずく「果林さんやたら風呂上がりの手入れが長いので冷や冷やしたんですけど……まさか、あなたの方に見られるとは」

璃奈「……し゛、しん……ぱい、だったから……のぼせ、て、ないか゛゛……」

しずく「優しいんですね」グリッ

璃奈「ふ゛゛ッ……」

しずく「まあ私より一番はじめに入ってうたた寝なんかしてた彼方さんの心配をする方が正解だったのですが」

しずく「ところで私だけでは結論が出せないのでお聞かせ願いたいんですけど、せつ菜さん、結局2人を〇した犯人なんですかね?」

璃奈「゛゛ッ……ぇ゛……ぃ……」ビクッ

しずく「……流石にもう無理ですかね」

しずく「じゃあもし限界なのが演技で、まだ助けを呼ぶ元気が残ってたらアレなので一応言っときますけど」

しずく「私、今からかすみさんを刺しますよ」

璃奈「……゛゛!」

しずく「そして、ここは例の屋敷から近い病院……つまりそんなに大きくないです」

しずく「報道陣がやってくるのを防ぐためにもある程度症状が良くなってもここに残りましたよね」

222: 2019/01/06(日) 00:21:37.03 ID:mq+cXqEO
しずく「そして小さな病院なので、本格的な緊急手術なんて並行して2つもできません」

しずく「わかりますか?」

しずく「あなたが助けを呼ぶということは、かすみさんを〇すことになるということです」

しずく「そのポケットの中のスマホがどこに繋がってるかは知りませんが」

しずく「まだ電話をかけ直せる体力があるとして……あなたはかすみさんを〇せますか?」

しずく「それでは、そういうことで」

しずく「いままでお世話になりました、璃奈さん」ズボッ

璃奈「ぉ゛ぁ………………っ」ドロッ…

しずく「ここが見つかりにくいベンチってのもアレですね、御誂え向きというか」テクテク


しずく「~~♪」

しずく「あなた~の理想~のヒ~ロイ~ン~♪」

しずく「それでは、あと1人ですね」

223: 2019/01/06(日) 00:23:01.86 ID:mq+cXqEO
ーー

しずく「……かすみさん」ガララ

かすみ「しず子」

かすみ「……りな子は?」

しずく「あぁ、外のベンチで風を浴びてますよ」

かすみ「そっか」

かすみ「ねえしず子」

しずく「はい、なんでしょう」

かすみ「演劇の方はどう?」

しずく「……しばらくお休みさせてもらってましたが、ここ2、3日は練習に参加してます」

かすみ「演目は『クライン』……なんだったっけ」

しずく「……『クラインリューゲ』です」

かすみ「…………」

しずく(そろそろ気づいてくれましたかね?)

かすみ「……あの3日間」

かすみ「きっと、幽霊の仕業だよね」

しずく「えぇ、そうですね」

しずく(幽霊だなんて……かわいい♡)

かすみ「ゆっくり私たちを追い詰めて行って……最後は、せつ菜さんたちまで、あんなふうにして」

かすみ「なのに……私たちだけ生き残って」

しずく「生き残っただなんて……そんな言い方、やめてください」

しずく「あんなに大勢、一度に死ぬなんて……普通のことじゃないんです」

しずく「あっては、いけないことなんです……」グスッ

かすみ「…………」

224: 2019/01/06(日) 00:23:45.79 ID:mq+cXqEO
かすみ「……しず子は、幽霊がやったと、思ってる?」

しずく「…………」

しずく「……はい」

しずく(さっきクラインリューゲの確認したってことはあとから問い詰められるでしょうし、せっかくなら嘘ついておきましょう)

かすみ「りな子は、信じてなかったみたいだけど」

しずく「……あの人らしいです」

かすみ「だね」

かすみ「ところでさ、ちょっと気になってたこと聞いてもいい?」

しずく(きました)

しずく(ここで全てのつじつまを合わせた後……かすみさんがどんな顔をするのか楽しみです)

しずく「いいですよ」

かすみ「愛さんがいない、ってなった時……しず子とせつ菜先輩、2人で外を探したの?」

しずく「……そうですよ」

しずく「どうかしたんですか?」

かすみ「いや、せつ菜先輩が戻ってきた時、しず子靴を履いていなかったのに……くるぶしに泥が付いていたの、なんでかなって思ったから」

しずく「そうですか」

225: 2019/01/06(日) 00:24:14.51 ID:mq+cXqEO
かすみ「じゃあさ、まだ聞いてもいい?」

しずく「どうぞ?」

かすみ「なんで2日目の夜、着替えてたの?」

しずく「? 着替えてないですよ、気のせいじゃないですか?」

しずく(割とみんな見てるんですね~意外です)

かすみ「……そっか」

かすみ「なんで果林さんを見つけた後、お茶を出す時、湯飲みに何か入れてたの?」

しずく「入れてないですよ?」

しずく(そんなことまで!)

しずく(さすがですね……)

かすみ「……じゃあ、あのとき、包丁を取り出してたのは、何?」

しずく「身に覚えがないですね」

しずく(せっかく気をそらしたのに、全く意味なかったんですね、あれ……)

かすみ「次でラスト」

かすみ「クラインリューゲ、そんな演目、ないんだよね」

しずく「…………」

しずく(やっときましたー! ずっとネタバラシしたくて仕方なかったんです)

226: 2019/01/06(日) 00:24:56.42 ID:mq+cXqEO
かすみ「ふと気になって、調べたんです」

かすみ「ドイツ語で正解でしたね」

かすみ「……意味は」

しずく(……よし)

かすみ「……『小さな嘘』」

しずく「…………」クスッ

しずく(さすが、かすみさんです)

かすみ「……どこからが嘘なんですか?」

かすみ「どこまでが……あなたにとっての、『小さな』なんですか?」

しずく「……さぁ、ご想像にお任せします」

かすみ「じゃあ、最後に、せめてこれだけ、嘘か本当なのか、教えてください」

しずく「……いいですよ」

かすみ「…………」

かすみ「……ふぅ」

かすみ「あなたが、合宿に行ってはじめに話してくれたこと」

かすみ「あの屋敷で、昔、あなたが怪我をした話」

かすみ「けど……けど、本当に」


かすみ「本当に幽霊はいたんですか?」

227: 2019/01/06(日) 00:25:39.34 ID:mq+cXqEO
しずく「……いませんよ」

しずく「幽霊ってネタを出しておけば、不安になればそっちに気がとられて途中で私が犯人だとバレるような面白くない展開にならないと思ったんですよ」

しずく「なんならお社なんてのもありませんし、あの屋敷、普通に毎年親戚の集まりで使ってますし」

しずく(というか、よくあんな見え見えの作り話し信じましたよね)

しずく(大怪我したってなら傷跡くらい見せるのが定番でしょうに)

しずく(私はしてないのでもちろん綺麗な身体をしていますが)

かすみ「……そっか」

しずく「あと、せっかくなのでネタバラシしておくと……」

しずく「愛さんを探すとき私は部屋の中を探しましたし、2日目の夜は着替えてましたし、コップには少し眠たくなるお薬を入れましたし、包丁はこっそりエマさんにプレゼントするために持って行きました」

しずく「まあ結局、使ったのはせつ菜さんだったみたいですけど」クスクス

しずく(周りを守るために自分を追い詰め、そして最後は自害する……絵に描いたような善人でした)

しずく「あ、靴下の泥はあれですね、愛さんを井戸に誘った時に愛さんが走ってくるものですからその時飛び散っちゃったんです」

しずく「誰も気づいてくれないと思ってましたけど、かすみさんは気がついていたんですね」

かすみ「……まあね」

228: 2019/01/06(日) 00:27:12.29 ID:mq+cXqEO
しずく「彼方さんのあたりは特に何もないんですか?」

しずく(冥土の土産です、ここまで観察力がある人が私の気づいていない点を教えてくれると嬉しいのですが)

かすみ「ないことは、ないけど……」

しずく「教えてくだいよ。もうここまで話してるんですから」

かすみ「……あの時は、むしろ嘘をついたのはりな子」

しずく(ん?)

かすみ「……何かみてたんだろうね」

かすみ「だってあの子の性格なら、あの聞かれ方をしたらまず他の人の返事を待つはず」

かすみ「それなのに、すぐみてない、と答えるなんて、不自然すぎる」

しずく「あー、なるほど」

しずく「気づきませんでした、さすがです」

かすみ「…………」

かすみ「しず子じゃなくて、犯人に質問」

しずく「はい」

かすみ「……どうしてこんなことを?」

かすみ「直接3人も〇めて、最後はエマさんたちが〇しあうよう仕向けた」

かすみ「正気の沙汰じゃありません」

しずく(あららら)

しずく「待ってください待ってください」

しずく「それは誤解があります」

しずく「たしかにエマさんに包丁を渡したのは私ですが、火事を含め歩夢さんについては私何も知りませんよ?」

しずく(さすがにそれは深読みですよ、初犯の私にそこまでの頭脳プレーは無理です)

しずく「火事なんて大ごとにしたのでもうあの屋敷は使えませんし……」

229: 2019/01/06(日) 00:27:53.01 ID:mq+cXqEO
しずく「私はただみなさんがどんな気持ちになるのか知りたかっただけなので、歩夢さんやせつ菜さんがどんな気持ちで人を〇したのかは知りませんよ」

しずく「むしろちょっと引きました。あんなに疑われて人〇そうとします? 普通……」

しずく「せつ菜さんも……かなり抱え込んでましたけど、結局ああなってしまうし」

しずく「そのあたりは私は触れてないということで……私が直接〇めたのは4人ですね。今回は」

しずく(さて、ここで璃奈さんが〇されたことを知ったら、かすみさんはどんな顔をするでしょう)

かすみ「………………は?」

かすみ「『4人』?」

しずく「えぇ。彼方さん、愛さん、果林さん、それから」

しずく(いい顔です、いい具合に歪んでます)

しずく「璃奈さん」

かすみ「……あんたっ!」ズキッ

かすみ「いづ……ッ」ガクッ

しずく「あぁ! 暴れないでください……」アセアセ

しずく「あなたは怪我人ですから……もう」

しずく「怪我がひどくなってしまいますよ」

かすみ「りな子は、どこに……!」

しずく「さっきも言ったじゃないですか、外のベンチですよ」

しずく「あ、かすみさんは外出禁止だから知らないんですっけ」

しずく(そろそろ、璃奈さんがポッケに隠してた携帯に繋がってた……警察? ですかね)

しずく(到着する頃だと思います)

しずく(カタをつけましょうか)

230: 2019/01/06(日) 00:28:35.64 ID:mq+cXqEO
しずく「携帯はここ使えないので救急車呼べませんね~」

かすみ「! ナースコール……」スッ

しずく(では早速)

しずく「だーめ」チョキッ

かすみ「い゛゛゛…………」ビクッ

しずく(いつも思うんですけど……ひきつけとか、痛みで体が反ったり痙攣したりするの、ちょっとエ いですよね)

しずく「ナースコールとは考えましたね。でもダメです。今は2人きりがいいので」ガシッ

しずく「悪いことする指はこうです」チョキチョキ

しずく(指って思ったより骨がほとんどなんですね……全然切れません)

かすみ「゛~~~~~!!!」ガバッ

しずく「あー、やっぱいくら研いでもハサミじゃ骨は無理ですね」

しずく「まあ、そのボロボロの右手じゃもう何もできないでしょうけど」

かすみ「……ぃ゛っ、ひっ、ひっ」ガクガク

しずく「まあまあ、そう怯えないでくださいよ」

しずく(もう病室の扉を開けた時の憂いを帯びた表情のかすみさんはどこにもいません)

しずく(ただ私に怯える小さな女の子です)

231: 2019/01/06(日) 00:29:23.46 ID:mq+cXqEO
しずく「ラストなんでしっかり質問しておきましょう」

しずく「今どんな気持ちですか?」

かすみ「……づっ、っふぅ、っふぅ゛…………!」

しずく(さあ、これが最後です、この一連の私の人生の最盛期、どんな言葉で締めくくられるのか)

かすみ「……最悪です」

しずく「シンプルですね~笑」

かすみ「最悪」

しずく「今のあなた顔まで火傷で包帯巻いてるんですから、割と怖いですよ」

しずく「その『最悪』は気持ちですか、それとも呪いですか?」

232: 2019/01/06(日) 00:30:17.14 ID:mq+cXqEO
しずく(なるほど、『最悪』)

しずく(もし私が生きて家に帰るとすれば、この先しばらくは夢で見そうな表情でした)

しずく(たった4文字でまとまってしまう……『最悪』こそ、わたしのなかの最高だったのかもしれません)

しずく「じゃあそろそろ会話が成り立たなくなってくる頃ですし、終わりにしましょうか」

かすみ「!」ビクッ

しずく「はい、あーん」ズボッ

かすみ「おご゛……ッ」

しずく(家にある1番いいハンカチです、しっかり味わってくださいね)

かすみ「゛……っ゛……っ」

しずく「これで大声出せませんね」

しずく「じゃあ、あとは……」ドスッ

しずく(できればあの包丁があれば泣ける話として締めくくれたのですが……)

しずく(流石にあれは警察さんが持って行っちゃったのでなしですね)

しずく(家にあった普通に生ハムとか切るやつです)

かすみ「キュ゛…………ッ」ビクンッ

しずく(んー……やっぱ切れ味悪いですね、中でしっかり混ぜとかないと)グリグリ

しずく(これ、もう一周回って痛くなかったりするんですかね?)

しずく(おや、かすみさんが何か手を伸ばそうとしてますね)
 
しずく「何してるんですか」ガシッ

かすみ「゛゛゛ッ!」

しずく(私のほっぺたが血で汚れちゃうじゃないですか)

しずく「お仕置きです」ベリッ

かすみ「゛~~~~~~!!!!」ビクビクッ

233: 2019/01/06(日) 00:31:28.99 ID:mq+cXqEO
かすみ「…………!」ガバッ

しずく「あ」

しずく(マズイ)

しずく(油断してた……ハサミ持っていかれ……)フラッ


しずく「………………ぁ゛っ」ズボッ

かすみ「゛ーーーーッ!」ザクッ

しずく(゛゛゛○*****・・!!!!)

しずく(痛いです……めちゃくちゃ痛い!!!)

しずく(か、体の力が抜ける……)

しずく「…………ぉあ」カクンッ

しずく(痛い……痛いです)ドクドク

しずく(ですがまあ、どのみちかすみさんを〇した後私も死ぬ予定でしたので……)ズキッ

しずく(だって、演劇を超える楽しさを見つけてしまって、それの最高をもう味わってしまったんです)

しずく(後私が知りたいものといえば、〇される側の気持ち)

しずく(それを……実感している今が……私の……人生の……)

しずく(……最高なのかも、しれません…………)


かすみ「………………」


しずく「………………」

234: 2019/01/06(日) 00:40:01.09 ID:mq+cXqEO

235: 2019/01/06(日) 00:42:00.24 ID:si+2Kcen
おつおつ その2つと同じ作者さんってことかなん?

236: 2019/01/06(日) 00:46:51.66 ID:SxS/am/R
乙乙
しかし初めて読んだ虹ssが惨劇系になるとは思わなんだ

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1546493896/

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