1: 2021/01/01(金) 17:30:27.27 ID:LpU5/e1D
「離婚……?」
その言葉の意味は分かる。
お母さんとお父さん。そのどちらか、もしかしたらどっちもが、他人になってしまうこと。
お母さんが何か言っている。聞き慣れた声はひどく落ち着いていて、とても冷たくて。
聞きたくない、耳を塞ぎたい。でも、胸がぎゅーってなって、体が動かない。
今まで自分には縁のないことだと思ってた。けれど大人たちは、子供達(わたしたち)の知らないところで勝手に話を進めてしまう。
「あなたの為でもある」そんな体のいいお為ごかしを使って────。
その言葉の意味は分かる。
お母さんとお父さん。そのどちらか、もしかしたらどっちもが、他人になってしまうこと。
お母さんが何か言っている。聞き慣れた声はひどく落ち着いていて、とても冷たくて。
聞きたくない、耳を塞ぎたい。でも、胸がぎゅーってなって、体が動かない。
今まで自分には縁のないことだと思ってた。けれど大人たちは、子供達(わたしたち)の知らないところで勝手に話を進めてしまう。
「あなたの為でもある」そんな体のいいお為ごかしを使って────。
2: 2021/01/01(金) 17:33:20.91 ID:LpU5/e1D
「りーな子!おはよどぅわぁああ!?」
朝。かすみちゃんが私を見るなり、飛び上がって驚いた。なんだろう、虫でも付いてたのかな?顔をペタペタ触っていると、かすみちゃんと同じくらい驚いた顔のしずくちゃんと目が合う。
「り、璃奈さんどうしたの? 目の下酷いクマだよ!」
「き、救急車! い、117、117!」
心配そうに駆け寄ってくるしずくちゃんに、慌てて時報に電話をかけるかすみちゃん。2人がこんなに取り乱すなんて……確かに昨日は眠れなかったけど、そんなにひどい顔してたのかな……?
「なんでもない。昨日ちょっと夜更かししちゃって……」
流石に家庭の事情なんて話せるわけもなくて、璃奈ちゃんボードで顔を隠してごまかす。
「もぉ~、ちゃんと寝ないとお肌に悪いんだよ!」とぷんすか怒るかすみちゃん、それを「 まぁまぁ」と宥めるしずくちゃん。
当たり前だけど、2人はいつも通りで、授業も、休み時間も、部室も、何も変わらなくて、昨日のことがまるで悪い夢みたいに思えてきて、私もいつも通りでいられたと思う。
朝。かすみちゃんが私を見るなり、飛び上がって驚いた。なんだろう、虫でも付いてたのかな?顔をペタペタ触っていると、かすみちゃんと同じくらい驚いた顔のしずくちゃんと目が合う。
「り、璃奈さんどうしたの? 目の下酷いクマだよ!」
「き、救急車! い、117、117!」
心配そうに駆け寄ってくるしずくちゃんに、慌てて時報に電話をかけるかすみちゃん。2人がこんなに取り乱すなんて……確かに昨日は眠れなかったけど、そんなにひどい顔してたのかな……?
「なんでもない。昨日ちょっと夜更かししちゃって……」
流石に家庭の事情なんて話せるわけもなくて、璃奈ちゃんボードで顔を隠してごまかす。
「もぉ~、ちゃんと寝ないとお肌に悪いんだよ!」とぷんすか怒るかすみちゃん、それを「 まぁまぁ」と宥めるしずくちゃん。
当たり前だけど、2人はいつも通りで、授業も、休み時間も、部室も、何も変わらなくて、昨日のことがまるで悪い夢みたいに思えてきて、私もいつも通りでいられたと思う。
5: 2021/01/01(金) 17:40:30.36 ID:LpU5/e1D
けど家に帰ると、それはやっぱり夢なんかじゃなくって。
離婚が決まってから、お父さんとお母さんは帰りが早い。お金のこととか、いろいろ話し合ってるみたい。そんなの聞きたくなくて、すぐ自分の部屋で布団を被る。
これは悪い夢なんだ。
明日になって学校に行けば、かすみちゃんに会える。しずくちゃんに会える。愛さんに会える。歩夢さんに会える。侑さんに会える。せつ菜さんに会える。果林さんに会える。エマさんに会える。彼方さんに会える。
学校に行けば、いつも通りが待ってる。
だから早く、早く覚めて……!目を瞑って、それだけを考えてた。
窓の外が明るくなると、ベッドから飛び起きる。まだ学校が始まる時間じゃないけれど、私は支度を済ませて家を出る。
朝一番に部室に行って、誰よりも早く朝練を始めて、放課後はできるだけみんなと一緒にいて、夜は布団に潜ってただ目を瞑る。
そんな生活が、何日か続いた。
「りなりー、何があったの?」
離婚が決まってから、お父さんとお母さんは帰りが早い。お金のこととか、いろいろ話し合ってるみたい。そんなの聞きたくなくて、すぐ自分の部屋で布団を被る。
これは悪い夢なんだ。
明日になって学校に行けば、かすみちゃんに会える。しずくちゃんに会える。愛さんに会える。歩夢さんに会える。侑さんに会える。せつ菜さんに会える。果林さんに会える。エマさんに会える。彼方さんに会える。
学校に行けば、いつも通りが待ってる。
だから早く、早く覚めて……!目を瞑って、それだけを考えてた。
窓の外が明るくなると、ベッドから飛び起きる。まだ学校が始まる時間じゃないけれど、私は支度を済ませて家を出る。
朝一番に部室に行って、誰よりも早く朝練を始めて、放課後はできるだけみんなと一緒にいて、夜は布団に潜ってただ目を瞑る。
そんな生活が、何日か続いた。
「りなりー、何があったの?」
6: 2021/01/01(金) 18:00:04.51 ID:LpU5/e1D
愛さんが、真剣な眼差しで私を見つめる。
放課後の部室には全員集まっていて、みんなが不安そうに私を見ていた。
「……別に、なにも無いよ……」
「今までそうやってはぐらかしてきたけど、もう限界。りなりー最近鏡見た? あんまりこういうこと言いたく無いけど……酷い顔してるよ?」
愛さんに言われて、部室の鏡に目をむける。
ほっぺたはやつれ、血走った目の下には大きなクマ。青白い肌はカサカサに乾燥していて、髪もぐちゃぐちゃな、私によく似た女の子が、不思議そうに私を見返していた。
「愛さん。そんなに詰め寄っては……」
「でも、このままじゃりなりーが───」
せつ菜さんに愛さんが言い返す。
2人が、お父さんとお母さんが言い合っている姿と、かさなる。
やめて。違う、あれは夢なの。現実のことじゃ、無いの。
「やめて!!!」
気づけば私は立ち上がっていて、自分でも驚くくらい大きい声が出た。
ぐにゃり。途端に、視界が歪む。まるで水の中にいるみたいに、みんなの顔が揺らいでいる。まるで空にいるかのような不思議な浮遊間に包まれて、私は、黒の中に落ちていった。
放課後の部室には全員集まっていて、みんなが不安そうに私を見ていた。
「……別に、なにも無いよ……」
「今までそうやってはぐらかしてきたけど、もう限界。りなりー最近鏡見た? あんまりこういうこと言いたく無いけど……酷い顔してるよ?」
愛さんに言われて、部室の鏡に目をむける。
ほっぺたはやつれ、血走った目の下には大きなクマ。青白い肌はカサカサに乾燥していて、髪もぐちゃぐちゃな、私によく似た女の子が、不思議そうに私を見返していた。
「愛さん。そんなに詰め寄っては……」
「でも、このままじゃりなりーが───」
せつ菜さんに愛さんが言い返す。
2人が、お父さんとお母さんが言い合っている姿と、かさなる。
やめて。違う、あれは夢なの。現実のことじゃ、無いの。
「やめて!!!」
気づけば私は立ち上がっていて、自分でも驚くくらい大きい声が出た。
ぐにゃり。途端に、視界が歪む。まるで水の中にいるみたいに、みんなの顔が揺らいでいる。まるで空にいるかのような不思議な浮遊間に包まれて、私は、黒の中に落ちていった。
8: 2021/01/01(金) 18:25:12.46 ID:LpU5/e1D
暗い、くらい、クライ、真っ暗な世界に、私はひとりぼっち。
右に行っても、左に行っても。前に行っても、後ろに行っても。真っ暗が終わらない。
やがて、私は足を止めた。もういいや。もう疲れた。もう一人でいい。
どこかもわからない場所でうずくまる。しばらくそうしていると、不意に体が柔らかくてあったかいものに包まれる。
顔を上げてるけど、やっぱ誰もいなくて。でもそう遠くはない先の場所に、輝く光を見つけた。
自然と足が輝きに向かう。それは透き通った透明なんかではない。赤色、黄色、青色、水色、橙色、紫色、緑色、いろんな色が混ざり合った、とても綺麗な虹色の光。
私も、あの輝きの中に入りたい。もう少しで届きそうなところで、手を伸ばす。輝きに触れた先から、私の身体は白い光になっていく───。
右に行っても、左に行っても。前に行っても、後ろに行っても。真っ暗が終わらない。
やがて、私は足を止めた。もういいや。もう疲れた。もう一人でいい。
どこかもわからない場所でうずくまる。しばらくそうしていると、不意に体が柔らかくてあったかいものに包まれる。
顔を上げてるけど、やっぱ誰もいなくて。でもそう遠くはない先の場所に、輝く光を見つけた。
自然と足が輝きに向かう。それは透き通った透明なんかではない。赤色、黄色、青色、水色、橙色、紫色、緑色、いろんな色が混ざり合った、とても綺麗な虹色の光。
私も、あの輝きの中に入りたい。もう少しで届きそうなところで、手を伸ばす。輝きに触れた先から、私の身体は白い光になっていく───。
9: 2021/01/01(金) 18:41:56.00 ID:+0muNQDF
「おや。璃奈ちゃんお目覚めかな~?」
知らない天井から隣へ視線を移すと、彼方さんの顔が近くにあった。甘い匂いの中に消毒液の匂い。ここが保健室だというのはすぐにわかった。でもなんで私はベッドに横になっているのか、なんで彼方さんが隣で添い寝してくれているのかはわからない。ぼやぼやする頭でぐるぐる考えていると、反対側から頭を撫でられた。顔を動かすと、果林さんが心配そうな顔で見つめてくる。
「寝不足による貧血ですって。このお肌の感じ、3日は寝てないでしょう?」
私は申し訳なくて目を伏せる。私のせいで、みんなに心配かけちゃった。怒鳴っちゃったし、嫌われたかな……。
ふわり、頬にひんやりした感触が触れる。果林さんの手だ。壊れ物に触るように優しくて、私の不安も拭ってくれるようだった。
「ねぇ璃奈ちゃん。例えば、彼方の妹の遥ちゃんが倒れちゃって」
「えぇ!? ははは遥ちゃんがぁ!?!?」
「いや、彼方例えばだってば……それで彼方が、遥ちゃんの看病に、家事にバイトで、同好会の練習に参加できないってことになったら、あなたはどうする?」
果林さんの質問の意味は、なんとなくわかった。だから私は迷いなく答える。
「……力になりたい。私にできることなら、なんでもする」
「正解。だから、私たちも同じよ」
ふふっと笑って、果林さんは私の左手を握ってくれた。きゅっと、力強いけど痛くなくて、『大丈夫』って伝えてくれる。
「……ダイバーシティの時、私を助けてくれたみたいに。私も、私達もあなたの力になりたいの」
「……うん」
知らない天井から隣へ視線を移すと、彼方さんの顔が近くにあった。甘い匂いの中に消毒液の匂い。ここが保健室だというのはすぐにわかった。でもなんで私はベッドに横になっているのか、なんで彼方さんが隣で添い寝してくれているのかはわからない。ぼやぼやする頭でぐるぐる考えていると、反対側から頭を撫でられた。顔を動かすと、果林さんが心配そうな顔で見つめてくる。
「寝不足による貧血ですって。このお肌の感じ、3日は寝てないでしょう?」
私は申し訳なくて目を伏せる。私のせいで、みんなに心配かけちゃった。怒鳴っちゃったし、嫌われたかな……。
ふわり、頬にひんやりした感触が触れる。果林さんの手だ。壊れ物に触るように優しくて、私の不安も拭ってくれるようだった。
「ねぇ璃奈ちゃん。例えば、彼方の妹の遥ちゃんが倒れちゃって」
「えぇ!? ははは遥ちゃんがぁ!?!?」
「いや、彼方例えばだってば……それで彼方が、遥ちゃんの看病に、家事にバイトで、同好会の練習に参加できないってことになったら、あなたはどうする?」
果林さんの質問の意味は、なんとなくわかった。だから私は迷いなく答える。
「……力になりたい。私にできることなら、なんでもする」
「正解。だから、私たちも同じよ」
ふふっと笑って、果林さんは私の左手を握ってくれた。きゅっと、力強いけど痛くなくて、『大丈夫』って伝えてくれる。
「……ダイバーシティの時、私を助けてくれたみたいに。私も、私達もあなたの力になりたいの」
「……うん」
11: 2021/01/01(金) 19:00:46.76 ID:LpU5/e1D
「おや。璃奈ちゃんお目覚めかな~?」
知らない天井から隣へ視線を移すと、彼方さんの顔が近くにあった。甘い匂いの中に消毒液の匂い。ここが保健室だというのはすぐにわかった。でもなんで私はベッドに横になっているのか、なんで彼方さんが隣で添い寝してくれているのかはわからない。ぼやぼやする頭でぐるぐる考えていると、反対側から頭を撫でられた。顔を動かすと、果林さんが心配そうな顔で見つめてくる。
「寝不足による貧血ですって。このお肌の感じ、3日は寝てないでしょう?」
私は申し訳なくて目を伏せる。私のせいで、みんなに心配かけちゃった。怒鳴っちゃったし、嫌われたかな……。
ふわり、頬にひんやりした感触が触れる。果林さんの手だ。壊れ物に触るように優しくて、私の不安も拭ってくれるようだった。
「ねぇ璃奈ちゃん。例えば、彼方の妹の遥ちゃんが倒れちゃって」
「えぇ!? ははは遥ちゃんがぁ!?!?」
「いや、彼方例えばだってば……それで彼方が、遥ちゃんの看病に、家事にバイトで、同好会の練習に参加できないってことになったら、あなたはどうする?」
果林さんの質問の意味は、なんとなくわかった。だから私は迷いなく答える。
「……力になりたい。私にできることなら、なんでもする」
「正解。だから、私たちも同じよ」
ふふっと笑って、果林さんは私の左手を握ってくれた。きゅっと、力強いけど痛くなくて、『大丈夫』って伝えてくれる。
「……ダイバーシティの時、私を助けてくれたみたいに。私も、私達もあなたの力になりたいの」
「……うん」
I
知らない天井から隣へ視線を移すと、彼方さんの顔が近くにあった。甘い匂いの中に消毒液の匂い。ここが保健室だというのはすぐにわかった。でもなんで私はベッドに横になっているのか、なんで彼方さんが隣で添い寝してくれているのかはわからない。ぼやぼやする頭でぐるぐる考えていると、反対側から頭を撫でられた。顔を動かすと、果林さんが心配そうな顔で見つめてくる。
「寝不足による貧血ですって。このお肌の感じ、3日は寝てないでしょう?」
私は申し訳なくて目を伏せる。私のせいで、みんなに心配かけちゃった。怒鳴っちゃったし、嫌われたかな……。
ふわり、頬にひんやりした感触が触れる。果林さんの手だ。壊れ物に触るように優しくて、私の不安も拭ってくれるようだった。
「ねぇ璃奈ちゃん。例えば、彼方の妹の遥ちゃんが倒れちゃって」
「えぇ!? ははは遥ちゃんがぁ!?!?」
「いや、彼方例えばだってば……それで彼方が、遥ちゃんの看病に、家事にバイトで、同好会の練習に参加できないってことになったら、あなたはどうする?」
果林さんの質問の意味は、なんとなくわかった。だから私は迷いなく答える。
「……力になりたい。私にできることなら、なんでもする」
「正解。だから、私たちも同じよ」
ふふっと笑って、果林さんは私の左手を握ってくれた。きゅっと、力強いけど痛くなくて、『大丈夫』って伝えてくれる。
「……ダイバーシティの時、私を助けてくれたみたいに。私も、私達もあなたの力になりたいの」
「……うん」
I
12: 2021/01/01(金) 19:01:30.21 ID:LpU5/e1D
怖かった。みんなの負担になるんじゃないかと思うと。
怖かった。みんなと同じ気持ちじゃないかもと思うと。
結局私は、変わっていなかった。独りで段ボールの中に閉じこもってた、あの時と。
けれどみんなは、そんな私の段ボールを取り払って、手を握ってくれる。そんなみんなを疑うなんて、私はどうかしてた。
「……けて……」
想いが溢れて、言葉が零れる。
抱きしめてくれる彼方さん。手を握ってくれる果林さん。その背後のカーテンの奥にある、7つの影。
もう、独りじゃない。私は───
「……みんな、たすけて───」
ひとりじゃ、ないんだ。
怖かった。みんなと同じ気持ちじゃないかもと思うと。
結局私は、変わっていなかった。独りで段ボールの中に閉じこもってた、あの時と。
けれどみんなは、そんな私の段ボールを取り払って、手を握ってくれる。そんなみんなを疑うなんて、私はどうかしてた。
「……けて……」
想いが溢れて、言葉が零れる。
抱きしめてくれる彼方さん。手を握ってくれる果林さん。その背後のカーテンの奥にある、7つの影。
もう、独りじゃない。私は───
「……みんな、たすけて───」
ひとりじゃ、ないんだ。
15: 2021/01/01(金) 19:23:44.99 ID:LpU5/e1D
───1週間後。
ステージの袖、璃奈ちゃんボードを被り、呼吸を整える。
「ライブをやろうよ!」そう提案してくれたのは侑さんだった。私が想ってることを、歌で、ダンスで、二人に観てもらう。今まで二人をライブに誘ったことはなくて、動画とかで観たっていう感想は聞いた事があるけど、直接観に来てくれるのはこれが初めてだった。離婚の話が出てから時間ができたっていうのは、皮肉な話だけど、それでもこのチャンスを逃すわけにはいかない。
袖の幕から客席を見る。最前列のお父さんとお母さん。それ以外にお客さんはいない。途端に、周りの温度が急激に下がったような気がした。寒い、体が震えて動かない。
違う、私は怖いんだ。今までのライブとは違う。応援する人がいてくれたライブとはちがう。血の繋がった両親なのに、味方が一人もいない、アウェーのライブのようで……。
がたがた、次第に震えは体全体に伝播する。
ステージの袖、璃奈ちゃんボードを被り、呼吸を整える。
「ライブをやろうよ!」そう提案してくれたのは侑さんだった。私が想ってることを、歌で、ダンスで、二人に観てもらう。今まで二人をライブに誘ったことはなくて、動画とかで観たっていう感想は聞いた事があるけど、直接観に来てくれるのはこれが初めてだった。離婚の話が出てから時間ができたっていうのは、皮肉な話だけど、それでもこのチャンスを逃すわけにはいかない。
袖の幕から客席を見る。最前列のお父さんとお母さん。それ以外にお客さんはいない。途端に、周りの温度が急激に下がったような気がした。寒い、体が震えて動かない。
違う、私は怖いんだ。今までのライブとは違う。応援する人がいてくれたライブとはちがう。血の繋がった両親なのに、味方が一人もいない、アウェーのライブのようで……。
がたがた、次第に震えは体全体に伝播する。
18: 2021/01/01(金) 19:27:08.57 ID:LpU5/e1D
「はぁ、はぁ、はぁっ……!」
心臓がうるさい。呼吸もうまくできない。
歌い出しなんだっけ? 振り付け、最初に出す足はどっちだっけ??
怖い。緊張感とは違う、絶対失敗できないという重圧。二人の繋がりを、私が更に壊してしまうかもしれない、恐怖。
(みんな、ごめんなさい───)
やっぱり、私は───
「───りなりー!」
ポンっ、と。背中を押された。
ほんの一瞬、だけどとても温かいそれは陽だまりの中のように、私を温めてくれる。
そしてそれは、一度だけではなかった。
「璃奈さん、大丈夫だよ」
「かすみん達がついてるからね!」
「璃奈ちゃんのライブ、楽しみだなぁ」
「璃奈ちゃんの頑張り、私たちは知ってるからね」
「さいっこーにカッコいいですよ、璃奈さん!!」
「Force!璃奈ちゃん!」
「終わったらまた一緒にすやぴしようね~」
「ライバルだけど仲間、よ」
9回、背中を押されて、私は前に進む。
バラバラなみんなの、ばらばらな言葉。
でも、同じ気持ちだ。
背中が熱い。今なら、どんな事だってできる気がする。
「───いってきます」
心臓がうるさい。呼吸もうまくできない。
歌い出しなんだっけ? 振り付け、最初に出す足はどっちだっけ??
怖い。緊張感とは違う、絶対失敗できないという重圧。二人の繋がりを、私が更に壊してしまうかもしれない、恐怖。
(みんな、ごめんなさい───)
やっぱり、私は───
「───りなりー!」
ポンっ、と。背中を押された。
ほんの一瞬、だけどとても温かいそれは陽だまりの中のように、私を温めてくれる。
そしてそれは、一度だけではなかった。
「璃奈さん、大丈夫だよ」
「かすみん達がついてるからね!」
「璃奈ちゃんのライブ、楽しみだなぁ」
「璃奈ちゃんの頑張り、私たちは知ってるからね」
「さいっこーにカッコいいですよ、璃奈さん!!」
「Force!璃奈ちゃん!」
「終わったらまた一緒にすやぴしようね~」
「ライバルだけど仲間、よ」
9回、背中を押されて、私は前に進む。
バラバラなみんなの、ばらばらな言葉。
でも、同じ気持ちだ。
背中が熱い。今なら、どんな事だってできる気がする。
「───いってきます」
19: 2021/01/01(金) 19:28:17.83 ID:LpU5/e1D
曲が始まる。
いつもより声が通る気がする。
いつもより体が軽い気がする。
客席のお父さんは相変わらず無表情だけど、歌に合わせて体が左右に揺れていた。
お母さんは最初は驚いた顔をしてたけど、徐々にその顔が笑顔になって、サイリウムを振ってくれていた。
届くかな?違う。絶対届けるんだ。
ねぇ、お父さん、お母さん。
私ね、素敵な友達がたくさんできたんだ───。
いつもより声が通る気がする。
いつもより体が軽い気がする。
客席のお父さんは相変わらず無表情だけど、歌に合わせて体が左右に揺れていた。
お母さんは最初は驚いた顔をしてたけど、徐々にその顔が笑顔になって、サイリウムを振ってくれていた。
届くかな?違う。絶対届けるんだ。
ねぇ、お父さん、お母さん。
私ね、素敵な友達がたくさんできたんだ───。
20: 2021/01/01(金) 19:29:27.75 ID:LpU5/e1D
「歌を歌えるようになったし、踊れるようにもなった」
「まだうまく笑えないし、できないことはたくさんあるけど」
「こらからもできるようになるところを、2人に見ていて欲しいの」
その日の夜、私は二人に、改めて気持ちを伝えた。
「だから……だから、お願い。離婚なんてしないで」
それでも───
「ずっと、ずっと私のお父さんと、お母さんでいて───」
結論から言うと、私には2人の考えを完全に変えることはできなかった。
「まだうまく笑えないし、できないことはたくさんあるけど」
「こらからもできるようになるところを、2人に見ていて欲しいの」
その日の夜、私は二人に、改めて気持ちを伝えた。
「だから……だから、お願い。離婚なんてしないで」
それでも───
「ずっと、ずっと私のお父さんと、お母さんでいて───」
結論から言うと、私には2人の考えを完全に変えることはできなかった。
21: 2021/01/01(金) 19:32:32.80 ID:LpU5/e1D
せめて私が卒業するまでは離婚は見送る、という話に落ち着いたらしい。私の知らない、長い年月をかけて生まれた亀裂は、そう簡単に埋まるものではなかったみたい。
みんなにそのことを話すと、すごく残念がっていた。こんな顔をさせたくなかったなのに、申し訳なさで胸が押しつぶされそう。
「───でも、残念なんて思わない。私が2人の心を、もう一度繋げてみせるよ」
そう、チャンスが消えたわけじゃ無いんだ。
すぐにでも別れてしまいそうな二人を、私の卒業まで繋ぎ止めておく事ができた。これは決して無駄なんかじゃない。
頑張ってくれたみんなの為にも、今度は私が、お父さんとお母さんを、もう一度繋げてみせるんだ。
「……璃奈ちゃんは、強いね」
歩夢さんがそう言ってくれるけど、私は首を横に振る。
「強くなんて無い……みんなが一緒にいてくれるから、強くなりたいって思えるの。全部、みんなのおかげ」
だから伝えたい。
心から溢れてくる気持ちを、そのまま口にした。
「───ありがとう、みんな大好き!」
みんなにそのことを話すと、すごく残念がっていた。こんな顔をさせたくなかったなのに、申し訳なさで胸が押しつぶされそう。
「───でも、残念なんて思わない。私が2人の心を、もう一度繋げてみせるよ」
そう、チャンスが消えたわけじゃ無いんだ。
すぐにでも別れてしまいそうな二人を、私の卒業まで繋ぎ止めておく事ができた。これは決して無駄なんかじゃない。
頑張ってくれたみんなの為にも、今度は私が、お父さんとお母さんを、もう一度繋げてみせるんだ。
「……璃奈ちゃんは、強いね」
歩夢さんがそう言ってくれるけど、私は首を横に振る。
「強くなんて無い……みんなが一緒にいてくれるから、強くなりたいって思えるの。全部、みんなのおかげ」
だから伝えたい。
心から溢れてくる気持ちを、そのまま口にした。
「───ありがとう、みんな大好き!」
22: 2021/01/01(金) 19:33:38.44 ID:LpU5/e1D
部室内が静まり返る。
みんなが、目を丸くして私を見つめていた。
どうしたんだろう……そういえば璃奈ちゃんボードを使っていなかった。
慌ててボードを掴もうと手を伸ばしたけど、愛さんが急に抱きついてきて届かなかった。
そこからまるで雪崩のようにみんなが抱きついてきたから全員で転んじゃって、数秒の沈黙の後、部室内が笑い声に包まれた。
ふと、視界に入った部室の鏡。そこに映る10人の中に、無表情の女の子は、1人もいなかった。
璃奈「笑える話」
終わり。
みんなが、目を丸くして私を見つめていた。
どうしたんだろう……そういえば璃奈ちゃんボードを使っていなかった。
慌ててボードを掴もうと手を伸ばしたけど、愛さんが急に抱きついてきて届かなかった。
そこからまるで雪崩のようにみんなが抱きついてきたから全員で転んじゃって、数秒の沈黙の後、部室内が笑い声に包まれた。
ふと、視界に入った部室の鏡。そこに映る10人の中に、無表情の女の子は、1人もいなかった。
璃奈「笑える話」
終わり。
25: 2021/01/01(金) 20:02:51.68 ID:ehhyo8G1
これは上質なりなりーss
26: 2021/01/01(金) 20:06:13.99 ID:riQ/vXoY
すっごいときめいちゃった!
23: 2021/01/01(金) 19:36:57.37 ID:zbFOUb3t
短いながらにタイトル回収が綺麗で良かった
27: 2021/01/01(金) 20:21:10.59 ID:R2NoZDiF
乙乙アンド乙
泣きそう
泣きそう
29: 2021/01/02(土) 02:09:46.18 ID:zWpQ1Cnt
いいね
コンパクトで良い話だった
コンパクトで良い話だった
30: 2021/01/02(土) 03:45:53.03 ID:hPw++q98
控えめに言って最高
31: 2021/01/02(土) 04:05:18.63 ID:UL28aVD/
良かった 素晴らしい
32: 2021/01/02(土) 07:46:55.96 ID:rlXOi9LC
新年から素晴らしい話をありがとう
28: 2021/01/01(金) 22:52:27.28 ID:KJ1dZhqa
めっちゃいい話だった
乙
乙
引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1609489827/