【SS】きな子「CO2排出権取引、っすか？」真緑「はい！！」

真緑「地球環境の保護と経済活動の両立ができる素晴らしい投資なんです、知っていましたか？」

きな子「はぁ……」

真緑「むっ、意識が低いですね？地球は今、滅びようとしています！私たち人類が出す二酸化炭素によって！！」

真緑「それを阻止する方法は唯一、脱炭素社会つまりカーボンニュートラルの実現しかありません！これは全人類が叶えるべき目標！いま、世界各国もそれを達成すべく努力しています！！」

真緑「そのカーボンニュートラル実現方法のひとつがこの、CO2排出権取引、なんですっ！！」ﾊﾞﾝｯ

きな子「はにゃ！？」

きな子「と、とりあえず落ち着くっす……」

真緑「し、失礼しました......つい熱くなってしまって」ﾍﾟｺｯ

きな子「いいっす。それで……詳しく聞かせてほしいっす、その環境に優しい必ず儲かる投資について」

真緑「はい！！」

真緑「CO2排出権取引は、地球温暖化対策として政府が各企業に排出上限基準、つまりキャップを割り当て、それをもとに企業同士が余ったCO2排出権を売買する仕組みのことです！」

真緑「英語ではキャップアンドトレードと呼ばれ、国際社会ではSDGsの観点から、現在アツい注目を浴びています！地球温暖化だけに！」

真緑「この取引の例として、Aという企業が環境に配慮した経営努力によって総排出量がキャップ以下になった場合。キャップと実際の排出量に余裕をもった分をCO2排出権として所有していても、今まで何の価値がなかったものをカーボンクレジットとして金融商品化することで……」

真緑「……排出量がキャップを超過してしまったBという企業にAがカーボンクレジットを売り、購入したBは超過した排出量をAの余ったカーボンクレジットで相〇する……このカーボンオフセットにより、ABともにキャップをクリアできるというお互いメリットのある取引なんです！」

真緑「Aは省エネ設備導入や森林経営など環境保護の努力が目に見える利益となって還元できますし、Bは超過してしまってもカーボンクレジットを購入することでキャップを達成し、環境に配慮した目に見える結果として投資家たちにアピールできます」

真緑「この取引制度でAはますます環境保護に力を注ぎますし、Bは購入コストを気にして排出量を減らそうと環境保護を意識していくようになる……」

真緑「……まさに！！需要と供給によって成り立つ市場経済と環境保護を両立させた最高のシステムといえるでしょう！！」

きな子「はぁ……」

きな子「それで、この取引に山田さんが参入することでどういうメリットがあるっすか？」

きな子「聞いたところだと、単に企業同士の売買で第三者の介入なしに終わってしまいそうっすが……？」

真緑「よくぞ聞いてくれました！！」ﾊﾞｯ

きな子「はにゃ！？」ﾋﾞｸｯ

真緑「Bのような企業が個別にカーボンクレジットを探して、個別に価格を決めて購入するという方法では大変コストがかかります。それでは誰もキャップを守りませんし、クレジットを買いません」

真緑「そこで！ABの間に市場が介入することで、その日その時の需給バランスで決められた市場価格でカーボンクレジットをスムーズに売買できるようになってます！」

真緑「もちろん市場は企業間だけでなく、一般投資家も差金決済でカーボンクレジットを取引することが可能なんです！」

真緑「今流行りとあって、カーボンクレジット市場は価格変動が激しく、小さな投資で大きな利益を必ず得られる大変魅力的な金融商品！来年には日本でも取引が開始され、将来性も約束されています。知っていましたか？」

真緑「環境保護もできて、お金もたくさん手に入る……最高のシステムだと思いませんか！！」

きな子「なるほど……」

きな子「……だから投資の資金として100万円を融資希望、ということっすね？」

真緑「はい！環境保護活動で忙しい私は、汗水たらしてガツガツ働いてお金を稼ぐヒマなんてないんです！」

きな子「……投資も画面を見続けてガツガツ取引しないといけないんじゃないっすか……？」

真緑「そこは大丈夫です！繰り返しになりますが、このCO2排出権取引は差金決済で投資が可能なんです」

真緑「この素晴らしい投資を私に紹介してくれたプロの取引業者さんに証拠金としてお金を預けて運用してもらい、私はただ配当金をいただくだけ！」

真緑「利回りは7％、2か月ごとに配当金をもらいます」

真緑「ひとくち100万円からの投資になってて。今回オニナッツファイナンスさんからお借りする以外、親が私のために用意した定期、輝夜ちゃんの貯金、それに算数の弱い娘からお金を借りて合計300万円を投資するつもりです！」

きな子「そうっすか……それにしても利回りが最低でも7パーセント？かなり高いっすね」

真緑「はい！さすがプロですよね！その配当金で私は環境保護活動に集中できます！」

きな子「……」

きな子「……審査の結果、100万円ご融資するっす」

真緑「本当ですか！？ありがとうございます！」

きな子「ただし、利息は月利1.25％の複利で手数料込の月18回払いで月々7万円の返済になるっす。本当に大丈夫っすか……？」

真緑「大丈夫です！小さな努力と小さなリスクで大きく資金を手に入れて美しい私たちの地球を守る使命が私にありますから！」

真緑「それに300万の7％配当なら21万円。初回の返済以降ずっと安定的に配当されるお金で返済するので問題ありません！」

きな子「……わかったっす。この借用証書にサインと印鑑をお願いするっす」ｽｯ

真緑「はい！」ｶｷｶｷ

ポン

きな子「……問題ないっすね」

きな子「では……100万円っす、改めてください」ｽｯ

真緑「確かに！ありがとうございます」

真緑「一緒に地球を救っていきましょう！！」

きな子「えっ、あ、はいっす……」

真緑「おかげで助かりました、ありがとうございます！」ﾍﾟｺｯ


スタスタ

バタン


きな子「はぁ……疲れたっす……」ﾍﾅﾍﾅ

メイ「おつかれ。お前の客、いつも変わったのばっかりで大変だなー」ﾆﾔﾆﾔ

きな子「……米女さんも充分パンチの効いた見た目っすけど」ﾎﾞｿｯ

四季「……ふふっ」

メイ「あ？んだとコラ」ｷﾞﾛｯ

きな子「はにゃ！？じょ、冗談っすよ……！」

メイ「ふん……」

きな子「ところで、あの排出権取引？って、そんなに儲かるものっすかねぇ？」

メイ「さあな、知らね」

きな子「……」

「それ、オニ怪しいですの！」ﾋｮｺ

きな子「！？」ﾋﾞｸｯ

きな子「社長……！」

夏美「目に見えない金融商品への投資で高配当をうたう排出権取引業者……オニ怪しいですの、でもマニーのにおいがするですの！」ﾆｬﾊｰ

きな子「怪しい……いったいどういうことっすか？」

夏美「そもそも、公認の証券取引所が行う排出権の取引は企業間だけのはずですの。個人投資家が参入できる可能性はありえないはずですの」

夏美「あるとするなら──排出権の値段だけを決済する非公式のCFD取引ですの」

きな子「し－えふでぃ……？」

夏美「通称、証拠金取引ですの。少額の証拠金を証券会社とか専門の取引業者に預けて、マニーを預かった業者はこれを担保に、何十倍の金額で株価指数や商品先物価格に投資する仕組みですの。最大20倍のレバレッジをかけますの」

きな子「ふぇ！？じゃあ山田さんが預けた300万で、業者が勝手に6000万円分の取引を！？」

夏美「そうですの。儲かれば大部分のマニーを手数料として業者が吸い上げ、大きな損失が出たら客が預けたマニーから損害をカバーする。もし損失額が証拠金を超過しても、その分を客に請求すれば良い……どっちみち損せず得をするのは業者だけですの」

きな子「はぇー、金融のセカイは怖いっす……」

夏美「何度かの配当金でオイシイ思いをしてしまったら、配当金欲しさに預けるマニーを増やしていくようになるし、親戚友人知人を紹介するようになるですの」

きな子「じゃあ山田さんも……？」

夏美「多分。もしそうなったら、絶対に逃がしてはいけませんの！ウチにとって最高のお客様ですのー！」

きな子「ふぇ、どうしてっすか？」

夏美「環境保護に貢献したい、楽して大きく儲けたい、そんなピュアでマニーのない意識高い若者たちを彼女が勧誘して、ウチを紹介するよう仕向けさせる……彼女にはその才能があるですの」

きな子「えっ、それって……」

ポン

夏美「……それが、食うか食われるかの金融のセカイで、食う側でいられるために必要なことですの」ﾎﾟﾝﾎﾟﾝ

きな子「は、はいっす……」



きな子（あの純粋無垢すぎる環境活動家の娘は、一体どうなってしまうっすかー！？）

すみません続きはないっす
真緑ちゃんを追ってる過程で2026年に排出権取引が東京証券取引所で始まるニュースを見て
あっこの娘ピュアだから最近流行ってる排出権取引詐欺に引っかかって善意で友達紹介しそうって思った勢いでつくりました
真緑ちゃんごめんなさい