【SS短編集】にこぱなSS書いたよ

SS


1: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:37:44.12 ID:1fKYj2CS.net
初SS初投下。短めです。ノンケ話なので薄味。設定は結構適当。
容赦の無いご意見お待ちしてます。

2: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:39:40.73 ID:1fKYj2CS.net
#先輩と後輩

「かよちん、にこちゃん。お買い物いってくるね!」

「凛ちゃん、いってらっしゃい」

「車に気をつけなさいよ」

にこちゃんお母さんみたいだにゃー。そう言いながら凛ちゃんは備品の買い出しに出かけました。
今日は他のみんなは出払っています。穂乃果ちゃん達二年生は生徒会のお仕事で、絵里ちゃんはそのお手伝いをしています。
希ちゃんはバイトで、真姫ちゃんはおうちの用事で帰りました。残った私達はステージに使う小物を部室で作っています。

「わざわざ今日行かなくても良かったのに」

にこちゃんが呟きます。そうなんです。本当は凛ちゃんも一緒に作ることになっていたのですが。
お裁縫が苦手なので、買い出しに出かけるという理由をつけて逃げ出したのでした。

3: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:40:57.74 ID:1fKYj2CS.net
「凛ちゃんはお裁縫が苦手だから……」

「だからこそ、させたかったんだけど」

私の言葉に、苦笑するにこちゃん。

「帰ってきたら尻ひっぱたいてでもやらせるとしましょう」

「ふふ、凛ちゃんピンチだね」

花陽は凛を甘やかしすぎるから、私は厳しいぐらいでちょうどいいのよ。
そう言ったにこちゃんの顔は楽しそうでした。

4: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:42:08.60 ID:1fKYj2CS.net



「ねえ、花陽」

少し疲れました。手を止めて小休憩です。
タイミングを見計らっていたのか、にこちゃんが声をかけてきました。

「今日、部活するのは私と花陽と凛だけよね?」

「えっと、部活に来る前に絵里ちゃんと偶然会ったんだけど。
 その時に今日中に片付きそうにないわって言ってたから、私達だけだと思うよ」

「わかった。ありがと」

生徒会のことが気になったのでしょうか?
にこちゃんはグループ全体の管理をしているので、生徒会の状況は絵里ちゃんか希ちゃんに聞いていて知っているはずなのですが。
少し、不思議に思いました。気になった理由が気になりした。

(うーん。でも、わざわざその事を確かめるの変かな……。)

湧きでた疑問に首をひねっていると、にこちゃんが訝しげな顔でこちらを見ているのが目に入りました。

5: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:43:01.99 ID:1fKYj2CS.net
「さっきから変な顔してるけど、どうしたの?」

「ぴゃぁ!?……なんでもないよ?」

「ならいいんだけど」

どうにか誤魔化せたようです。
にこちゃんは気にした様子もなく作業に戻っています。

(私って顔に出やすいのかな)

そんな考え事をしながら、私も続きをはじめることにしました。
 
 

6: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:44:45.20 ID:1fKYj2CS.net



「……」

「……」

(とても静かです)

先程の会話から、何かお話しようかな、とにこちゃんの様子を伺っているのですが……。
にこちゃんは深刻そうな顔で黙々と作業をしているので、少し声をかけづらい状況です。

(いつもは、もっとお喋りしてるんだけどな)

私とにこちゃんは二人きりになることが結構あります。
みんなで分担しているお仕事でいつも一緒なので、そういう機会が多かったりします。
そういった時に、普段はしない希ちゃん面白い話や、家族の微笑ましい話をしてくれるのです。
今日は特別なお話どころか、普通の会話すらありません。

(どうしたんだろう?)

もしかして、怒らせるようなことをしてしまったかと不安になってしまいます。

(でも、さっきまではいつものにこちゃんでした)

さっきまで。そうです、生徒会の話をしてから変わってしまったんです。
にこちゃんの普段とは違う行動と表情。小さな疑問が、心のなかで膨らんでいきます。
とにかく、にこちゃんにどうかしたのかと聞いてみよう。そうすればわかるはずです。

7: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:45:55.79 ID:1fKYj2CS.net
ガタッ

「!」

声をかけようとした瞬間、にこちゃんが急に席を立ちました。
何も言わずに私のほうに歩いてきます。私の後ろに立って、頭を引き寄せて、そして抱きしめられました。

「花陽」

「ひゃいっ」

思わず、変な声で返事をしてしまいました。
構わずにこちゃんは続けます。

「あんたは良い子だわ」

「う、うん」

「だから褒めてあげる」

「……えっ?」

にこちゃんは、私の頭を撫ではじめました。
 
 

8: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:47:24.90 ID:1fKYj2CS.net



「終わり。続きはまた今度ね」

撫でる手があまりにも気持ちよくて、夢心地だった私は言葉を返せませんでした。
意識がハッキリした頃には、にこちゃんは何事もなかったかのように作業の続きをはじめていました。
今のひとときは一体なんだったのでしょうか……。
疑問に口を開こうとしたその時、部室の扉が開きました。

「たっだいまだにゃー!」

「おかえり。ちゃんと買えた?」

「もちのにゃーだにゃー!」 

「何よそれ……」

買い出しから帰ってきた凛ちゃんが、買い出しの報告をしています。
私は話を切り出すタイミングを逃してしまいました。

「かよちん?」

展開についていけず、ぼーっとしている私を凛ちゃんが不思議そうに見つめています。

「……あ、おかえりなさい凛ちゃん。お疲れ様」

返事をすると笑顔になった凛ちゃんは、買ってきたものをいそいそと取り出し始めました。
にこちゃんに品物を確認してもらっています。

9: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:48:18.10 ID:1fKYj2CS.net
「うん、お釣りと領収書もオッケーよ」

「それじゃ、凛は生徒会のお手伝いに―――」

「待ちなさい」

さり気なく部室から逃げようとした凛ちゃんの腕を、にこちゃんががしっと掴んでいます。

「あんたもそろそろ簡単な裁縫ぐらいは出来ないとね」

「凛は出来なくても困らないもん」

「やんなさい。部長命令よ」

「横暴だにゃー…」

絶望の表情で凛ちゃんがうなだれています。さしもの凛ちゃんも、にこちゃんの本気の部長命令にはかないません。
でも、これでにこちゃんに先程のことを尋ねることは出来なくなりました。
なんとなく、凛ちゃんの前でそれをすることに躊躇いを覚えたのです。

(今日はもう聞けないでしょうか)

それでも、今聞かなければ、無かったことになってしまうかもしれない。何故かそんな考えが頭から離れません。

(……あっ)

焦った気持ちが手元を狂わせていたのか。
縫い目が、荒れています。

10: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:49:08.85 ID:1fKYj2CS.net



「に゛ゃ゛ー!」

凛ちゃんは悪戦苦闘しているようです。

「凛、もう少し丁寧に。ゆっくりでいいから」

「……うん」

「ほら、私の手元をよくみてなさい」

にこちゃんは凛ちゃんに付きっきりでお裁縫を教えています。
その姿は、妹の面倒を見る姉のようです。

(少し、羨ましくて、少し、寂しい)

複雑な気持ちを小物作りにぶつけていると、紅い瞳が私を見ていることに気が付きました。
チラリと目を向けます。目と目が逢って、数瞬後。にこちゃんは気恥ずかしそうに目を逸らしました。
頬には赤みがさしています。

(私のことも、ちゃんと見てくれているんだ)

私がにこちゃんをみているように、にこちゃんも私をみてくれている。
その事実だけで、なんともいえない感情が込み上げてくるのがわかります。早くなる鼓動の音が、聞こえます。
羨ましい気持ちや寂しい気持ちは、いつの間にか消えていました。

(続きはまた今度って言ってたよね)

焦る必要なんて、ありませんでした。

(また、今度)

何故にこちゃんは頭を撫でたのか。そして、この胸の高鳴りは何なのか。
その謎は、次の"また今度"まで、とっておきたいと思います。

11: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:50:29.16 ID:1fKYj2CS.net



ああ、花陽可愛い。

……その思いで、やってしまった。

近頃、花陽への後輩愛が膨れ上がっていたのは自覚していた。

出会った時から真面目に話を聞いてくれる素直さ。可愛らしい守りたくなる容姿。アイドルへの深い愛情と知識。

なによりμ’sの活動が休止したとき、独自に活動を始めた私についてきてくれた。可愛くならないわけがない。

しかし、しかしだ。アイドル研究部の部長として、部員には公平に接していかないといけないのだ。

だから凛のように、花陽を抱きしめ可愛がりたいのを必死に我慢していたのに……。

思えば、凛が買い出しへ行く前に、花陽を抱きしめて可愛がってたのを見ていたせいかもしれない。

二人きりの時なら公平に接するという信念に違反しないのではないか、という気の迷いが出てしまったのは。

何より、しばらく誰も部室に来ないことを確認してしまったのがいけなかった。これで自分を抑えきれなくなってしまった。

その結果、頭を撫でるという暴挙に出てしまった。妹弟以外を可愛がるというのは難しい。頭を撫でるのが限界だった。

しかも褒めてあげる、なんて唐突すぎる台詞を放っていきなり頭を撫で始める私。なんなんだ私は。恥ずかしい奴めと罵りたくなる。

だけど凛が帰ってくる足音が聴こえて、手を止めた時、"続き"をすることを宣言出来た自分を褒めてあげたい。

実のところ撫でている最中のことは、テンパっていたせいか記憶がない。だから次こそは堪能するのだ。

それに後輩の可愛いところを確認しておくのは、先輩であり部長である私の義務だ。

なんだ、何も問題はないじゃないか。これからも存分に可愛がることにしよう。

ああ、花陽可愛い。

12: (たこやき)@\(^o^)/ 2014/12/30(火) 14:51:24.03 ID:1fKYj2CS.net
終わり

29: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/01(木) 23:58:55.76 ID:swUeClDa.net
#アイドルの蕾と妹


その瞬間を見たのは、偶然でした。

お昼休みに、先生に頼まれていたお手伝いを終えて、校舎裏を通って教室に戻ろうとしていた時のことです。

人気のない場所で、二人の女生徒を見かけました。

緑のリボンと赤のリボンをしていたので、三年生と二年生なのでしょう。

見知らぬ三年生は後輩らしき二年生に、首飾りを渡そうとしています。

差し出す手は、隠し切れないほどに震えていて、顔が赤くなっているのがわかりました。

その様子を見た二年生は、震えた手に自分の手を重ねます。

微笑みながらゆっくりと指を絡ませ、首飾りを絡めとり、何かを囁きました。

言葉を聞いた三年生は、赤い顔を更に赤くして、そして溢れんばかりの喜びを滲ませた笑みを浮かべたのです。

心を通い合わせて、しあわせそうに笑いあう彼女と彼女。

気がつけば、私は二人に見惚れていたのです。

30: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/01(木) 23:59:32.92 ID:swUeClDa.net



(さっきの、何だったんだろう)

教室で、先程見た出来事について考えます。
こんな時に真っ先に相談する凛ちゃんは、今日は風邪でお休みです。
真姫ちゃんに話を聞いてもらおうと思いましたが、どこかへ行っているようです。

「かよちん、どうしたの?」

頭を悩ませている様子を見て心配したのか、クラスメイトに声をかけられました。
ちなみにクラスでは、凛ちゃんの影響でかよちんと呼ばれることが多いです。
せっかくなので、彼女に聞いてみることにしましょう。

「あのね、さっき校舎裏で――」

かくかくしかじか。すると話を聞いた彼女はそれが何なのか気がついたようで、知ってることを教えてくれました。

「その首飾りって、たぶんロザリオじゃないかな」

ロザリオ?と首をかしげます。

31: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/01(木) 23:59:56.73 ID:swUeClDa.net
「あー、かよちんは文化祭の頃忙しそうだったし、知らないのかな?」

彼女が更に加えてくれた説明を要約すると、文化祭で上演された演劇に、上級生が下級生にロザリオを渡すことによって"姉妹"になる、というお話があったそうです。
"姉妹"には特別な意味があって、単に仲の良い先輩後輩というだけではなく、もっと深い絆を表しているそうです。
なんでも、妹は姉のことを"お姉さま"と呼んで慕うんだとか。学校内では、その演劇の真似が流行していて結構な数の"姉妹"が誕生しているそうです。
丁寧に教えてくれた彼女に、お礼を言いました。

「それじゃあ、お礼として。頂きます!」

ぎゅっと抱きついてきました。

「ぴゃぁ!」

「凛ちゃんが抱きついてる見てて、やってみたかったんだよねー」

あうあうと何も言えず固まっている私に、悪びれずにそう言いながら満足した顔で去って行きました。
びっくりしましたが、とにかく。これで疑問は解消してスッキリです。

(でも、何かが……)

もう、心残りはないはずなのに。笑顔の彼女達が忘れられません。
その後の一日は悶々としたものでした。

32: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:00:33.06 ID:qpED14LB.net



「そのグッズは、こっちに並べて」

「はい、にこ先輩!」

「テンションあがりすぎでしょ」

今日のお昼休みは、にこちゃんが家から持ってきた資料を整理して、部室に並べるお手伝いです。
にこちゃん所有のアイドルグッズを、一番大切に扱うのは私だからという理由で抜擢されました。
貴重なグッズが見れる機会なので楽しみです。

「これは……!あの有名なアイドルの!新人の頃に手売りしていたという、激レアCDじゃないですか!」

にこちゃんが持ってきたグッズを仕分けしていると、物凄いものを見つけてしまいました。

「にこ先輩!どうやって手に入れたんですか?」

「無名の頃に手売りしてるのを見て、なんとなくピーンと来て、一枚買ったのよ」

そしたらその後、トントン拍子に有名になっていったのよねー、と何でもないような風に手に入れた経緯を教えてくれました。
やっぱりにこちゃんは凄い。アイドルファンの鑑です!見習わなければなりません。

33: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:00:57.96 ID:qpED14LB.net
「流石にこ部長!」

「ふふん。もっと褒めてもいいのよ」

たまにですが、先輩禁止になる前のように"部長"や"先輩"と呼ぶことがあります。
にこちゃんが気まぐれに、そうするように言うからなのですが、実はそういうノリが好きだったりするので結構楽しかったりします。

「よっ、大統領!」

「その褒め方はどうなの……?」

にこちゃんの言葉に、顔を見合わせた私達の間に沈黙が訪れます。

「ぷっ」 「ふふっ」

おかしくなった雰囲気に耐え切れなくなったのか。
どちらからともなく、吹き出していたのでした。

34: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:01:37.60 ID:jDsGPkpJ.net



放課後、部室に来てね。お礼を渡したいの。
資料の整理を終えて、教室に帰ろうとした時に、にこちゃんに言われました。
最初は辞退したのですが、どうしてもというのです。

(にこちゃん、もう来てるかな)

今日は、μ’sの活動はお休みの日です。
ですが、放課後になると凛ちゃんと真姫ちゃんは三年生の教室に行ってしまいました。
希ちゃんに呼ばれたそうです。部室に用事があると伝えて、後で落ち合って一緒に帰ることになっています。

(お礼ってなんだろう)

一人部室に向かいながら、道すがら考えます。今日のお手伝いは、それ自体がご褒美みたいなものでした。
なので改めてお礼と言われた時は戸惑いました。

(もしかして、撫でてくれるのかな)

にこちゃんは二人きりになると、お礼やご褒美といっては、よく撫でてくれていました。
その優しい声とにこちゃんのぬくもりに、私は安らぎを覚えていたのです。
この頃はしてくれていないので寂しいと思う気持ちがありました。

(えへへ、久々に甘えられたらいいな)

そんな風に都合の良い考え事をしていたら、部室に到着しました。
部屋の電気がついているのが見えます。もう来ているのでしょうか。
恐る恐る、ドアを開きます。

「にこちゃん、いますか……?」

35: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:02:36.74 ID:jDsGPkpJ.net



天気。本日は快晴なり。少し寒いが、窓を開ける。ゆるい風が入ってきて、カーテンをゆらゆらとさせている。

部室。休憩時間に掃除は終わっている。立ち位置の確認も済ませている。

部員。二年生が確実に来ないことは把握済み。絵里と一年生は希に頼んで引きつけてもらっている。

シチュエーションはこれで良し。

本当は夕陽の中、思い出の場所で……みたいな事がしたかったけれど。

他のメンバーに不審に思われないという前提のそんな状況は、まずありえなかったので却下。

さて、どうしよう。準備はすべて終わってしまった。何かをしていないと足が震えだしそうだ。

そうだ、脳内で作り上げたストーリーの確認をしようか。

まず、部室に入ってた花陽に、遅かったわねって微笑みながら振り返って、

―――足音が聞こえる。

来た。花陽の足音が聴こえてくる。ゆったり歩いてくるのでわかりやすい。

ああしかしどうする私。予定通りに、本当に渡してしまうのか私。

いや、まだ受け取ってもらえるとは限らない。引かれてしまうかもしれない。

そもそもの話。学校内で流行っているらしいから大丈夫だと思っていたけど、花陽が知らなかったらどうする?

何してんのこの人と冷たい目で見られるかもしれない。いや、あの花陽に限ってそんなことはしないだろうけど。

ふぅ、落ち着け私。渡せる機会はそうは多くはない中、巡ってきたチャンスだ。

希にも協力してもらったのだし。結果はわからないけど、少なくとも渡そうとはしなければならない。

とりあえず、脳内ストーリーを思い出す。理想の、最高の自分を演じよう。

まず、部室に入ってた花陽に、遅かったわねって微笑みながら振り返って、

……それから、なんだっけ。

36: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:04:14.59 ID:jDsGPkpJ.net



遅かったわね。優しい声で、にこちゃんが言いました。
そして、そのまま固まっています。

「……」

「にこちゃん?」

「…あ、えーと。その、日頃のお礼というか、感謝というか」

ぎこちなく動き出したにこちゃんが、何かを言いよどんでいます。
体調が悪いんでしょうか。にこちゃんの白い肌に珠のような汗が浮かんでいます。
次第に顔が赤らんできていて、息も荒くなっています。

「あのね、」

潤んだ紅い瞳が、私を見つめています。熱に浮かされたように、自身の華奢な体を抱きしめています。
震えた手が、胸ポケットに時間をかけて引き寄せられ、ゆっくりと、怯えた手つきで、全身の力を振り絞って、何かを取り出しました。

「これ、」

懐から取り出された、紅い石が埋め込まれたロザリオに、私は心を奪われました。

「これを、花陽に、受け取ってほしいの」

いつか見た光景が、私に何かを訴えかけています。私は幸福に包まれた二人のことを、幾度となく思い出していました。
緊張に震える三年生の姿に、にこちゃんが重なります。微笑んでいた二年生の姿は、私になっています。
二人の姿が、いつの間にか私達に変わっていました。

37: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:04:39.89 ID:jDsGPkpJ.net
(……そっか。羨ましかったんだ)

幸せそうに微笑む二人。心が通じた二人。姉妹となった二人。
わかってみれば単純なこと。尊敬する部長に、追いつきたかった。頼りになる先輩に、甘えたかった。
にこちゃんと、もっと仲良くなりたかった。形ある絆が、欲しかった。

(あの時の二年生も、こんな気持ちだったのかな)

今、にこちゃんはロザリオに想いを載せて、私の心に手を伸ばしています。
勇気を振り絞った彼女に、私は何ができるでしょうか。

(にこちゃんが、不安そうに私をみている)

いつだって、二人の距離を近づけようとするのは、にこちゃんからでした。
私がしていたのは、ただ受け取るだけ。にこちゃんの心は、私に届いていました。
だけど、私の心は、にこちゃんに届いていたのでしょうか?

(私は、私を不甲斐なく思う)

ずっと、不安な思いをさせていたのかもしれません。
今も、不安な顔をさせています。だけど、これからでも遅くないはずです。
私に出来る、たったひとつのこと。

「―――嬉しいです、お姉さま」

差し伸べられた手を、大好きだという想いを込めて、掴もう。

38: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:05:46.98 ID:jDsGPkpJ.net



油断をすれば表情が緩んでしまいそうです。

「かよちん、どうしたの?」

唐突に凛ちゃんが、質問を投げかけてきました。
にこちゃんとは部室で別れて、凛ちゃんと真姫ちゃんと下校しています。
姉妹になったことは、みんなには秘密ということになりました。

「別に、何もないよ?」

よっぽど私の様子がおかしいのでしょうか。
凛ちゃんは納得いかなそうな顔をしています。

「もしかして、にこちゃんに……」

ドキリとします。

「伝伝伝借りれたのかにゃ?」

安心しました。ここで、何かされたという風にならないのが凛ちゃんです。
本人の前では、そういった感じのことをよく言いますが、本気で思ってるわけじゃないのです。

「そうなの。……といっても伝伝伝じゃなくて、同じぐらい凄い物なんだけど」

にこちゃんは用意周到です。凛ちゃんの質問をかわすためにと、例の激レアCDを貸してくれていました。

「凛ちゃんは興味ないかな、と思って見せなかったんだけど」

「……これ、凛も知ってるよ!テレビでやってたもん。にこちゃんもたまにはいいことするね」

やっと納得してくれたのか、満足そうに頷いています。

「凛も聴きたいにゃ~」

真姫ちゃんもCDを興味深そうに見ています。どうやら、私の家で鑑賞会の流れです。
野性的勘を持つ凛ちゃんと観察眼に優れた真姫ちゃん相手に、不審がられずに済むでしょうか。
凛ちゃん達がお家に帰るまでの、長い長い闘いが始まります。

……とっても、不安です。

39: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:06:41.18 ID:jDsGPkpJ.net



夢をみていたんだろうか?

予定は未定とはよく言ったものだ。格好良く決めるつもりだったのに、見事に全てがぶっ飛んで、よくわからないうちに全てが終わった。

頭の中の私が必死に操縦しようしているのに、実際の私はまったく意思どおりに動かなかった。

度胸はあるほうだと思っていたけど、こういうことに関しては違ったらしい。

つい先程の、生まれたての子鹿のように震えて、半泣きになっていた自分を思いだして憂鬱になる。

だけど、ロザリオを受け取って、抱きついてきた花陽の笑顔を思い出す。そうだ、受け取って貰えたんだ。

今になって実感が湧いてくる。胸が暖かくなってきて、涙がこみ上げてくる。

顔が火照っているのがわかる。心臓がドクドクと、激しく脈打っているのがわかる。

落ち着け、落ち着くんだ私。この後、希が結果を聞きに来る。それまでに、いつものアレで落ち着こう。

3、2、1。

にっこにこにー!

40: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 00:07:05.93 ID:jDsGPkpJ.net
終わり

47: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 11:31:07.80 ID:jDsGPkpJ.net



「で、にこっち。結果どうやったん?」

その顔みればわかるんやけど。という表情の希の質問に、私は満面の笑みでにっこにっこにーをしてやった。

「なるほど、わからん」

どうやら言葉にしないと、目の前の友人は納得してくれないようだ。

「くふっ。私ことスーパーアイドルにこにーは、ふふ、花陽の…うふふっ!」

「……もうええわ」

どうやら私が口を開かなかった理由がわかったようだ。
そう、テンションがわけわかんなくなってまともに話せないのだ。

「おめでと、にこっち」

コクコク、と頷く。希には感謝してもしきれない。色々と協力してもらった。
それに普段から、助けてもらっているし。

「これでにこっちも"お姉さま"になったんやね」

花陽に"お姉さま"と呼ばれたことを思い出して、顔が赤くなる。

「はー、でも寂しくなるわー。にこっちに甘えにくくなってもうたなあ」

わざとらしい顔で冗談を言う希を見ながら深呼吸をする。
スー、ハー。落ち着いてきた。

「いや、どっちかいうたら、スタイル的にも、うちのほうがお姉さんやし……」

煽られている。自分の目がだんだん、じとーっとしてくるのがわかる。
あー。あー。発声練習をする。顔も、少し表情筋が痛いが大丈夫だろう。

48: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 11:31:46.49 ID:jDsGPkpJ.net
「にこっちにロザリオあげたほうがええかな~?」

私の仏頂面をみて、見事に釣れたと思ったのか、希はにやにやしている。
さて。やるか。

「くく、どうしたん?」

「あんた、ちょっとこっち来なさい」

優しい、満面の笑みで希に告げる。
渋い顔から急に笑顔に変わったことに驚いたのか、言葉に逆らわずに希が近づいてくる。
バカめ。そこはもう私の間合いだ。

ゴンッ

即座に希のおでこに狙いを定め、全力を込めたデコピンをお見舞いしてやった。
希はふるふると頭を抱えて涙目になっている。私も指がすこぶる痛くて涙が出そうになる。

「いったぁ。なにするん、にこっち」

希は、いつだって他人との距離を測っては、心の境界線を引き直している。

「私はあんたとの距離を変えるつもりはないわ」

素直に、私もちゃんと構って欲しいと言えばいいものを、まどろっこしい奴だ。
花陽にかまけて、希を疎かにするとでも思ったのだろうか。途端に物凄くムカついてきた。
こいつには、私が感じていた友情を思い知らせてやらねばなるまい。だからデコピンだけでは、まだ足りない。
どうやらおかしくなったテンションは、未だに続いているようだ。
感情が抑えきれない。思うままに、私は啖呵を切っていた。

「だから、死んでも友達でいなさい、希」

噫、恥ずかしいセリフを言ってしまった。
希は呆気にとられている。徐々に言葉の意味を理解しはじめたのか、顔を赤らめて俯いている。
私はといえば、恥ずかしいのを誤魔化すため天井を眺めている。もちろん、誤魔化せているわけがない。
場に沈黙が降りる。

49: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 11:33:35.62 ID:jDsGPkpJ.net
(なんだこの空気。誰か助けて―――)

のぞみー。にこー。帰りましょー。

―――本当に助かった。絵里の声がする。これからは金髪の女神様として讃えてやってもいい。
天の声のお陰で、私は冷静になれた。だが希はまだ立ち直れていないようで、下を向いたままだ。

「絵里が呼んでるわね」

「そ、そうやね」

「何キョドってんのよ」

「……だって。恥ずかしいんやもん」

赤い顔で上目遣いをしてくる。何こいつ可愛い。こういう面をもっと押し出していけばいいのに。
μ’sが誇る抱きしめ魔たちが放っておかないことだろう。

「行くわよ」

「うー…」

何かを言いたげにしていて動かない。
友達でいなさいといった手前言いにくいけれど、希も妹みたいに思えてくる。

「ったく、仕方ないわねー」

無理やり手を掴んで、小指と小指を絡ませる。
素直に言えないなら、希の好きなスピリチュアルで片を付けるとしよう。

「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指切った」

私達の友情は嘘じゃない、と希の顔を真正面から見据える。どうやら、やっと返事をする気になったようだ。

「……うん。これからもずっと、友達、やん」


終わり

50: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/02(金) 11:35:05.75 ID:jDsGPkpJ.net
にこのぞっぽくなってしまったんで後出し

59: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:01:38.94 ID:85o9x2uh.net
#アイドルのお年玉


1月1日。午前10時頃。

神田明神での初詣を終えて、外に出ようとしている私と凛ちゃんと真姫ちゃんですが。人混みでなかなか進めません。
十分ほど境内の人波を掻き分け続けて、ようやく外にでることが出来ました。
ふぅ。お参りするのも一苦労です。

「それにしても、巫女姿の希ちゃん、すっごく綺麗だったにゃ~」

一息ついた凛ちゃんが嬉しそうに話し出します。
今年も希ちゃんは神社でお手伝いをしていたので、先程までお話していました。
忙しそうでしたので、お話出来たのは少しだけでした。残念です。

それにしても凛ちゃんは、希ちゃんの巫女姿を見てからというもの、ずっと感動しています。
かくいう私も、その気持ちに何度でも同意してしまうほどに、希ちゃんの姿は美しいものでした。
自信家の真姫ちゃんも、巫女服勝負じゃ勝てそうにないわね、と言ってしまうほどです。

成人になって、さらに大人の妖艶さを増した希ちゃんの巫女姿。単なるお手伝いと思えないほど、神社の雰囲気に馴染んでいました。
社務所に詰めている希ちゃんの前に、御札を求める参拝客が妙に多かったのは見間違いではないでしょう。
希ちゃんの周囲は一種の聖域と化していました。

(むむっ、もしかしてこれは……!)

アイドルが放つ独特のオーラに、似ている…ような、似ていないような…。
もしかしたら、アイドル活動の参考になるかもしれません。次の、アイドル研究の題材は巫女さんで行こうと思います。
ううむ。巫女さんとアイドル。これは深いテーマになりそうです。

60: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:04:23.48 ID:85o9x2uh.net
「…よちん!かよちん!きいてるのー?」

巫女さんについて考えていたせいか、話を聞き逃してしまいました。
アイドルのことになると、周りが見えなくなってしまうのが私の悪い癖です。

「あ、ごめんね。えっと、どうしたの?」

「この後、ついてきて欲しいところがあるって言ってたけど、どこに行くの?」

そうでした。この後に、二人を連れて行く場所があるのです。
この事は前日に急遽決まったことなので、詳しいことは二人には言っていません。いえ、言うなと言われているのです。
それに、私も何があるのか知らなかったりします。

「えっとね、川沿いにある小さな公園に用事があって。凛ちゃんと真姫ちゃんについてきて欲しいの」

我ながら、嘘がつけない性格です。
話に挙げた公園はとても小さくて、元旦とはいえイベントがあるようなところではありません。
普通なら不審がられます。だけど二人は特に疑うこともなくついてきてくれるようです。
一応、サプライズなので助かりました。
私を信じてくれる優しい彼女たちに感謝です。

「それじゃ、いっくにゃー!」

61: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:08:36.75 ID:85o9x2uh.net



公園の中央に、変な帽子に派手な衣装着て、更に色眼鏡をかけたツインテールの少女が仁王立ちしていました。
確認するまでもありません。にこちゃんです。初遭遇した時に見た、強烈な印象を残す衣装です。

「よく来たわね!」

にこちゃん、と二人は口々に呟き呆然としています。

「……その変な衣装、まだ持ってたのかにゃ」

驚きから立ち直った凛ちゃんが、さっそく呆れたように毒を吐いています。しかし、声に喜びの色を感じたのは気のせいではないでしょう。
真姫ちゃんはショック状態が続いてるようで、ヴぇええと唸っています。
それもそのはずです。にこちゃんに、三人でこうして会うのは一年以上ぶりだからです。

「にこちゃん」

私が呼びかけると、にこちゃんがこちらを向いてグッとサムズアップをしました。
二人を公園に連れてきて驚かせるという依頼は達成されたようです。

意味わかんない!

立ち直った真姫ちゃんから、いつものセリフが飛び出ました。
そろそろ、二人に説明をしないといけません。でも、その前にしなければいけないことがひとつ。
にこちゃんも同じことを考えているようです。

「花陽。凛。真姫。あけましておめでとう」

新年の挨拶は大切です。
特ににこちゃんのように、芸能界を生きる人にとっては、尚更。

62: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:12:01.34 ID:85o9x2uh.net



挨拶を終えて、少しの沈黙のあと。
凛ちゃんと真姫ちゃんの言葉がマシンガンのように、にこちゃんに降り注ぎました。
まるで、スキャンダルを起こしたアイドルのようです。実際にアイドルではありますが。

本物のアイドルがこんなところで油売ってていいのかにゃ
大晦日にカウントダウンライブあったんじゃないの?家で寝てなさいよ
にこちゃんがCD出すだなんて生意気だにゃ
この前のラブライブ最終予選どうだった?当然見たわよね?
新しく入ってきた一年生の子のことよく知らないよね。創設者として無責任だにゃ
どうしてμ’sの同窓会に来なかったのよ。みんな寂しがってたわよ。私はなんとも思わなかったけど!
凛たちの様子も、見に来て欲しかったのに
なんでもっと連絡しないのよ
ぜんぜん来てくれなくて寂しかった
にこちゃんのばか

最初は冷たくしていた二人も、言い募る間に感情が高ぶったのでしょう。途中から本音がこぼれ落ちています。
実は、学校を卒業する前から事務所にスカウトされていたにこちゃん。
候補生だった最初の半年は、レッスンの時間以外は暇だったようで、よく会いに来てくれていました。
一緒に遊びに出かけたり、プロから学んだ技術を教えてくれていたりと、色々と世話を焼いてくれたのです。

でも、それもデビューまでの話。
候補生の頃から人気があったらしく、すぐに頭角を現しました。

持ち前のトーク力と対応力。みんなを笑顔にさせるという信念からの、いつだって全力のパフォーマンス。
アイドルが好きな人たちに受け入れられないわけがないのです。

もちろん、爆発的に売れたというわけではありません。まだまだトップアイドルには遠いみちのりです。
練習を重ねて、一歩ずつ、着実にアイドルとして成長しています。

だから、今はとっても重要な時期。一緒に遊ぶ時間なんて、ありませんでした。
数少ない休みの日だって、家族との時間を邪魔するわけにはいきません。
お仕事を邪魔してはいけないと、連絡すら控えていました。

そんなにこちゃんに、久しぶりに会えたのです。

63: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:16:03.95 ID:85o9x2uh.net
「ごめんね」

浴びせかけられた幾つもの言葉に対しての、たった一言の返事。
だけど、それだけで二人の心は溶かされてしまって、ボロボロと涙をこぼしています。

「ってか、あんたたち私の事好きになりすぎじゃない?」

苦笑しながら言いますが、私達にとっては当然のことだったりします。
二年前、にこちゃん達がいなくなってからのアイドル研究部は大変でした。

μ’s解体とともに、変わらざるをえなくなったアイドルの形。
新入生が入ってきて、びっくりするほど増えた部員に、ラブライブ優勝校という重圧。
役職の重さに、不安で押し潰されそうだった私達。

急激に生徒が増えたことに伴い日常業務が激増して、部活動に参加出来なくなっていた穂乃果ちゃん達。
余計な重荷を背負わしたくない一心で、相談することを避けていました。

今考えると、それがいけなかったのでしょう。
自分たちでやらなければいけないという思いに囚われ、結果何もできないという悪循環に陥っていました。
穂乃果ちゃん達も似たような状況だったらしいと、後で聞きました。

そんな時、アイドル研究部の様子をにこちゃんが見に来たのです。
潰れかけていた私達は、にこちゃんを見て泣いてしまいました。
新入生を上手く指導できないこと。言葉に従ってくれないこと。本気でやっていない子に対してどうしたらいいかわからないこと。
様々なことを聞いてもらいました。

にこちゃんは私達の気分が落ち着いたところで、生徒会に殴りこみをかけて、穂乃果ちゃんたちを尋問しました。
生徒会の人手が全く足りていないことが判明したら、今度は理事長室に突撃して、現状を訴えました。
速やかに人員を増加することを要求して、問題が解決されるまでアイドル研究部の活動を停止させることを確約させました。

上から下まで巻き込んだ大騒動によって、生徒会の仕事量は激減し、穂乃果ちゃん達は部活動に復帰できるようになりました。
そして、私達と穂乃果ちゃん達の両輪が揃って、ようやくアイドル研究部は上手くいくようになったのです。

私達も穂乃果ちゃん達も、よくも悪くも抱え込むタイプばかりです。
あの時、にこちゃんが来なければどうなっていたでしょうか。あまり考えたくありません。

だけど、そんなことがあったからこそ。
窮地を救ってくれたにこちゃんのことを、誰だって大好きになるに決まっています。

「ちょ、ちょっと!苦しいってば」

でも、二人は元からにこちゃんが大好きでした。ただ、素直ではなかっただけです。
その件で深まった絆が、素直に甘えさせるようになったのでしょう。

「もう、しょうがないわね」

少し目を離した隙に、どさくさに紛れてにこちゃんを抱きしめています。
後輩に慕われるにこちゃんというのは、一番弟子としても"妹"としても喜ぶべきことなのですが。

(二人に、取られないよね?)

独占欲が顔を覗かせました。
大丈夫だとわかっていても、やっぱり複雑な心境です。

「ほら、花陽も来なさい」

(私は、単純なんでしょうか)

手招きをしている姿を見ただけで、不安に思う心なんて、もうどこにも残っていませんでした。

64: (豚)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:17:20.72 ID:85o9x2uh.net



「場所変えるわよ」

もう抱擁は十分だと思ったのか、言い終わるなり歩き出しました。
名残惜しそうな私達に構うことなく進みます。仕方なく、にこちゃんの後ろを仔鴨の様についていきます。
見覚えのある道に、どこに向かっているのか見当がつきました。

「にこちゃん、もしかして、その場所って…」

「私の家よ」

ヴぇええ。
まさか元旦から家に連れて行かれるとは思っていなかったのか、真姫ちゃんのお約束が響き渡ります。
凛ちゃんも目を見開いています。四人で遊んでいた時も、家に招待されることはありませんでした。

「お家の人は大丈夫なの?」

「ママはむしろ歓迎してたわ」

ウチって親戚少ないから正月暇なのよね。
少し寂しげな表情で呟いています。

「それにうちの妹達も喜ぶから大丈夫よ」

大好きな先輩の家に招かれるというのは、それだけで嬉しいものです。
凛ちゃんと真姫ちゃんのテンションが上がったのがわかります。

65: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:18:13.52 ID:85o9x2uh.net
「こころちゃん達と会うの久しぶりだにゃー。大きくなってるかなー?」

「…………えぇ。大きくなってるわよ」

たっぷりと間を開けた言葉。
凛ちゃんは地雷を踏んでしまったようですが、まだ気が付いていません。

「特にこころちゃんは育ち盛りだろうし、貧相な体のにこちゃんより、スタイル良くなってたりして~」

ちょっと凛!
真姫ちゃんの必死そうな声で、やっと凛ちゃんも気がつきました。
でも、遅かったようです。

「……」

にこちゃんの目が死んでいました。
ありふれた悲しみの果てとはこういうのを言うんでしょうか。海未ちゃんに確認したいところです。

「凛」

「な、なに?」

「あんたも、覚悟しときなさい」

「えっ」

「さ、着いたわ。開けるわよ」

66: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:19:21.23 ID:85o9x2uh.net



ただいまー、というにこちゃんを最初に出迎えたのは、こころちゃんでした。

「お帰りなさい、お姉さま。あっ、皆さんをお連れしたのですね。花陽お姉さま、凛さん、真姫さん。あけましておめでとうございます。」

新年の挨拶をする私につられて挨拶を返す二人。
深々とお辞儀をした女性に混乱しているようです。

「あれ?にこちゃんってお姉さんいたっけ?」

「凛、現実を見るのよ……。この子がこころよ。」

「もう、何を仰ってるんですか凛さん。こころはいつでもこころですよ」

ころころとおかしそうに笑うこころちゃん。にこちゃんに負けず劣らず可愛いです。
私がそんなことを考えている一方、二人は呆然としています。絵里ちゃんのように口が半開きです。

でも、それも仕方ない事かもしれません。
あの小さかったこころちゃんが、しばらく会わない間に自分より大きくなっているなんて普通は考えないでしょうから。
しかも、年齢の割に発育しているバストの存在。少なくとも、にこちゃんと凛ちゃんよりは……。

68: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:20:26.45 ID:85o9x2uh.net
「お茶をご用意しますね」

丁寧な口調と物腰。その後ろ姿は小学生には見えません。
にこちゃんと並んでいれば、誰だって彼女のほうを姉だと思うことでしょう。

「玄関でつったってないで上がりなさいよ」

「それよりにこちゃん、こころちゃんって確か、」

「今年で中学生よ。それ以上は言わないで。悲しくなるから」

「わかったにゃ……」

身長だけならともかく、胸の大きさも負けた事実に気落ちしてるようです。
普段は、こっちのほうが踊りやすいにゃー、と気にする風ではありませんが、流石に小学生に負けたのは心にくるものがあるようです。

69: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:25:55.06 ID:85o9x2uh.net


凛ちゃんがヘコむという一幕のあと、居間で寛いでいたご家族(にこちゃんのママとここあちゃんとこたろうくんです)に挨拶を終えて、にこちゃんの部屋に通されました。
にこちゃんは普段着に着替えたみたいで、以前見かけたことのある服を着ています。
こころちゃんが用意してくれたお茶とお菓子を頂いたところで、にこちゃんが用件を切り出しました。

「さて。花陽、凛、真姫。あんたたちを呼んだのは、ちゃーんと理由があるわ」

二人はいったいなんなのかと興味津々です。私も、はやく知りたいです。

「やっさしくて、かわいい~、スーパーアイドルにこにーからの、スペシャルな―――」 

「早く言うにゃ」

「……最後まで言わせなさいよ。お年玉渡すために呼んだのよ」

えぇ!と三人の声が重なります。まさかお年玉を貰えるとは思いませんでした。

「私も、成人してるわけだし。しかも一応、働いてる社会人だし?可愛い可愛い後輩たちに、ト・ク・ベ・ツにあげようかと思ってね」

夢ではない確認をしているのか、凛ちゃんと真姫ちゃんはほっぺたをつねり合っています。
その様子に失礼な後輩たちね、といいながらも言葉を続けます。

「ま、別に現金渡そうってわけじゃないから。安心して受け取りなさい」

「ちなみに三人とも別のものだから。人の見て僻むんじゃないわよ」

「それじゃ、まずは凛から」

最初に指名された凛ちゃんがそわそわしています。

70: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:28:10.39 ID:85o9x2uh.net
「はいこれ」

そういって紙袋からサイン色紙のようなものを取り出しました。
にこちゃんのサインっていうオチじゃないのかにゃー、と呟きながらサインを見た凛ちゃんの動きが止まりました。

「え?にこちゃんこれマジかにゃ?本物?本当に?」

どうやら、にこちゃんのサインではないようです。

「それ手に入れるの苦労したんだからね……。事務所の社長がその人と知り合いだからっていうんで頼み込んだんだから」

ま、これも私が将来を有望視されてるからこそ為せる技よね!と一人自画自賛するにこちゃんはスルーです。
凛ちゃんの後ろからサインを覗き込みます。見てもわかりませんでした。少なくともアイドルではないようです。
だけど色紙に書いてある名前を読み上げる真姫ちゃんの声に、思い当たるフシがありました。
確か世界的に有名なダンサーのものです。私がいつだったか、凛ちゃんの憧れの人といって、にこちゃんに教えた覚えがあります。

71: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:29:32.65 ID:85o9x2uh.net
「次は真姫ね」

真姫ちゃんはあらぬ方向を凝視しています。これはとっても嬉しいけど素直に喜ぶのが恥ずかしい時にする行動です。
ただ、まだお年玉を取り出していないのに、既に手を差し出しているところが可愛いです。
そんな可愛らしい真姫ちゃんにツッコミを入れることなく、紙袋から取り出したカードのようなものを手渡しました。

なんだろう?とカードを確かめ始めた真姫ちゃんが、固まりました。
先程の凛ちゃんと違って、驚いているというよりは焦っているような感じがします。
真姫ちゃんの後ろから覗き込みます。

『矢澤にこファンクラブ 会員No.1』

これはもしかして!ついに、にこちゃんにも専用のファンクラブが出来たのでしょうか。

「真姫、最初の会員はあんたよ。あ、今年度分の会費は私が出したけど来年からは真姫のほうで頼むわね?」

意味わかんない!どうして私がにこちゃんのファンクラブに入らなきゃいけないわけ!意味わかんない!

「あっれ~、真姫ちゃん。にこが知らないと思ってたの?矢澤にこ応援サイト最大手、にこにーにこちゃんねるを運営するマッキーのこ・と♪」

ヴぇええええ!!

本日最大のヴぇええが飛び出ました。今日の真姫ちゃんはこればっかり言ってる気がします。
真姫ちゃんの顔が羞恥で顔が真っ赤になっています。でも、会員カードはしっかりとお財布の中に入れていたので大丈夫でしょう。
後は、管理人のことをバラしたのが私だということに気付かれないことを祈るだけです。

72: (豚)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:31:20.56 ID:85o9x2uh.net
「最後は花陽ね」

一体何を貰えるのでしょうか。全く予想がつかなくてどきどきします。

「……はい、これ」

大きめの封筒を渡されました。中に書類が何枚か入っているようです。
渡そうとした時に一瞬ためらったようにみえたのが気になりましたが、先に書類の内容を確かめます。

「えーと、履歴書と、……企画書?」

『アイドルによるアイドルのためのアイドルラジオ(仮)
 日本中のアイドルについて語るラジオ番組
 パーソナリティ 矢澤にこ アシスタント 1名』

にこちゃんがラジオ番組のパーソナリティを務めることに驚く前に、気になる一文が目に入りました。
アシスタント1名。同封された履歴書と、この一文。これはつまり、そういうことなんでしょうか。

「トーク力とアイドルの知識を買われてラジオ番組を貰えたはいいんだけど」

「予定してたアシスタントの子が逃げ出しちゃってね」

「うちの事務所で自由にしていい枠だったから、逆に困ってたみたいで」

「私がちょうどいい子知ってますって手を上げたのよ」

「もう許可はとってあるから。あとは花陽の意思次第」

収録は夜だから、大学のほうは問題ないと思うわ。花陽も18だし問題ないでしょ?アイドルの知識は豊富だし、はまり役かなって。
μ’sの時にラジオ番組みたいなことしてたしね。もちろん、不都合があるなら断ってちょうだい。無理強いするつもりはないから。
返事は今日じゃなくてもいいわ。そうね、一週間後までに連絡をくれたら―――

「私、やります。いえ、やらせてください!」

覚悟を尋ねるように言葉を重ねるにこちゃんに、ハッキリと意思を伝えます。
本物のアイドルに一歩近づく、魔法のチケット。
ラジオで評価されれば、にこちゃんの事務所でアイドルの候補生になれるかもしれません。番組を視聴したどこかの事務所に、拾ってもらえるかもしれません。
にこちゃんが持ってきてくれた、せっかくのチャンス。夢を叶えるために。自分の可能性にかけてみたいと思います。

「そう。頑張りなさい」

燃えたぎる私を見た彼女の瞳もまた、燃え盛っていました。

73: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:34:20.73 ID:85o9x2uh.net



予期せぬお年玉にしばしの間、感動するやら恥ずかしがるやら燃えるやらしていた私達。
にこちゃん家族と楽しいひとときを過ごしていたのですが、あっという間に正午になってしまいました。
にこちゃんママからのお昼のお誘いがありましたが、午後からは各々に用事があるのでお暇することにしました。

「決勝のステージ、ちゃんと見てるから」

帰路についた道すがら、にこちゃんの別れ際の言葉が、頭の中でリフレインしていました。
決勝のステージ。私達にとって最後のラブライブ。あの舞台の上で、かつてのμ’sの残り香を感じることができるのも、最後です。
感傷的な気分が消えてくれません。二人も同じことを思っているのでしょうか。雰囲気が沈んでしまっています。

―――アイドルが暗い顔なんてしちゃ駄目よ。

見てるから、と言われたせいでしょうか。
アイドル研究部部長の、三年生のにこちゃんのお叱りが聞こえたような気がしました。

(しっかりしろ、小泉花陽)

今の部長は私。にこちゃんじゃありません。いつまでも甘えていては、駄目。この空気は、私が変えるんだ。
二人に、そして私自身に、活を入れるために檄を飛ばします。

74: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:37:42.34 ID:85o9x2uh.net
「凛ちゃん、真姫ちゃん。優勝旗、にこちゃんに見せてあげようね!」

いきなりの優勝宣言は飛ばし過ぎました。二人は面食らっていて、少し恥ずかしいです。
にこちゃんならもっと壮大なことを言いそうなので、私はこれぐらいがちょうどいいと思ったのですが。

「……そうだね。お年玉、貰っちゃったもんね。器が小さいにこちゃんのことだから、優勝しなきゃとってもうるさいに決まってるにゃ」

しょぼくれた顔を一転。不敵に笑った凛ちゃんが憎まれ口を叩きます。

ふん、お年玉分は頑張ってあげなくもないわ。もちろん、最初から優勝のつもりだけど!
普段通りのお澄まし顔に戻った真姫ちゃんも、当然のように宣言をしています。

どうやら、私の思いはちゃんと二人に届いているようです。
先ほどまでの沈黙が嘘のように、決勝についての意気込みを、笑顔で語っています。

それにしても。
もしかしてお年玉をくれたのも、この展開を読んでいたからなんでしょうか。

(はあ、敵わないなあ)

アイドルになってから、そういう部分に磨きがかかっているようです。
隠しデレはにこちゃんの素敵なところではありますけれど。

とにかく、お膳立てはして貰ったのです。
後は全力で、私達の物語をやりきるだけです。

やりきって、その後に。

(また、新しい物語を始めるために)

全てが終わったあと、私は、また走り出します。

(にこちゃん、少しだけ待っててね)

全速力で、あなたに肩を並べるアイドルに、絶対なってみせるから。



終わり

75: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 20:48:04.80 ID:85o9x2uh.net
にこぱなSSはこの話で終わりです。
ちなみに、真姫ちゃんが「」つけて話さないのは、書き始めたときに何となく自分に課した制約のせいです。
無駄に難しいことするもんじゃないね。
にこぱなもっ増。

80: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 22:46:55.72 ID:85o9x2uh.net



「そういえば花陽。あなただけ、なにかおかしくなかった?」

「え?かよちんが?どこかおかしかったかにゃ?」

ぎくぎく。いつもの真姫ちゃんになった途端にこれです。
吊し上げられてしまうのでしょうか。違いますように。

「どこかおかしかったかな?花陽はいつもどおりダヨ?」

「こころちゃん見ても驚いてなかったじゃない」

流石真姫ちゃんです。あの時は動揺していたはずなのに、私の様子を覚えているなんて。
言葉を聞いた凛ちゃんもアレ?という顔をしています。

「それに、こころちゃんが新年の挨拶をしたとき」

「花陽のこと、花陽お姉さまって言ってたわよね?」

「妙に親しい感じだったけど。これって、どういうことかしら」

「私達はこころちゃんには二年近く会ってないはずだけど」

淡々と、優しい声で質問してくる真姫ちゃん。ただ、顔は般若のようになっています。怖いです。
凛ちゃんの顔に、徐々に理解が広がっていくのがわかります。

つまり真姫ちゃんはこう言いたいのです。
私は、二人に黙って、にこちゃんの家族に会っていた。
自分一人だけ、にこちゃんとの距離を近づけるために。

「花陽?」「かーよーちーんー?」

「え、えっとね!たまにね、こころちゃん達のお世話してたの!」

ほら、にこちゃんデビューしてから忙しくなったよね?だから、にこちゃんのママが出張の時とかも
妹さんたちの面倒見れなくなっちゃって、その話を偶然聞いた私が、面倒みるよって立候補したの。
それで、こころちゃんの成長に驚かなかったの。

「ね?おかしくないでしょ?」

81: (プーアル茶)@\(^o^)/ 2015/01/07(水) 23:15:09.98 ID:85o9x2uh.net
「そうね、何もおかしくないけど。私達に一言も言わなかったのはおかしいわね」

「うっ」

追求の手を逃れることはできませんでした。

「かよちん?」

凛ちゃんが真顔で私を見つめています。怖いです。

「更に言うなら、」

まだあるようです。名探偵真姫ちゃんです。
もう勘弁してくれないでしょうか。

「公園でにこちゃんと会った時も、反応薄かったわよね」

「……」

「待ち合わせの連絡とってたのが花陽だったから、会った時もそんなに感じなのかしらって思ってたのだけど」

「改めて考えると、一番にこちゃんにベッタリだった花陽がそれっておかしいわよね」

「……」

「えっ?……それって、もしかして、かよちんは久しぶりじゃなかったってこと?」

「あるいは、そうかもね」

「……」

私を射抜くような、二対の獣のような瞳。

「どうなの?」「どうなのにゃ?」

いつの間にか、逃げられないように前後を塞がれています。
前門の凛ちゃん、後門の真姫ちゃん。
絶体絶命です。

「に、」

「に?」「に?」

にこちゃん。
いつもこんな気持ちだったんだね。
私にも、使わせてね。

「にっこにっこにー!」



終わり

引用元: undefined

タイトルとURLをコピーしました