【SS】ダイヤ「ま、鞠莉さん……いけませんわ、女性同士で恋愛だなんて……」鞠莉「Oh...そんなの気にする必要無いわよ!」【ラブライブ!サンシャイン!!】

まりー夜 SS


1: 2019/07/09(火) 22:50:37.34 ID:Nr4c9eHv
鞠莉「同性愛の歴史は古くて、紀元前25世紀にまで遡れるのよ?」

ダイヤ「紀元前……ですか?」

鞠莉「そうデース!エジプト第5王朝時代にカーヌムホテップとニアンカーカーヌムのお墓が立てられたんだけど、この二人の男性は同性愛者だったって言われているの!」

ダイヤ「そんな時代から、同じ性を持つ相手を好いたもの同士がいたのですね……」

鞠莉「そうなの!それに同性愛は必ずしも、お互いの情欲や敬愛から生まれるものってわけでもないのよ!?」

2: 2019/07/09(火) 22:55:03.59 ID:Nr4c9eHv
ダイヤ「えっ?そうなのですか?」

鞠莉「紀元前630年のクレタ島では、若者の教育と増えすぎた人口の抑制を目的として、成人の王子と未成年の少年との間の少年愛関係を正式に採用してるの!」

ダイヤ「年長者が同性の若者を相手に教育を施すというのは、昨今の書物でもよく設定として取り上げられていますわ!」

鞠莉「ダイヤもそういうの読むんだ!?」

ダイヤ「え、ええまあ、ルビィが読んでいたものを後学のために少し……ですわ」

鞠莉「言い訳ばっかり達者ねえ、もう!」

6: 2019/07/09(火) 23:03:13.91 ID:Nr4c9eHv
ダイヤ「しかし、そのクレタ島での習わしが後世へと伝播していったのでしょうか?」

鞠莉「その通りよ、ダイヤ!少年愛は古代ギリシアで広く見られたもので、彼らは学校やスポーツの場を全裸で過ごしたことからも、同性を性愛の対象として見る機会が増していったの!」

ダイヤ「なるほど、教育の機会が転じて同性愛を育む場となったのですね!」

鞠莉「オフコース!紀元前600年には、トルコ沿岸に浮かぶレスボス島において、レズビアンの語源となる出来事も生まれているのよ!」

7: 2019/07/09(火) 23:08:42.19 ID:Nr4c9eHv
ダイヤ「レズビアン……女性同士の同性愛に対する呼称はそんなにも古くから使われていたのですか!」

鞠莉「そうよ?当時のレスボス島は古代ギリシアに位置していて、そこには女流詩人のサッポーという女史が暮らしていたの。彼女はまた、サフィズムというこれもまた女性の同性愛を指す言葉の語源にもなっているわね」

ダイヤ「才覚ある女性というのは時代、場所を問わず存在していたのですね」

鞠莉「その才能に憧れる少女は多くいて、彼女はそんな後進のために、文芸・音楽・舞踊をはじめとする教育を施す学校を立ち上げたのよ」

8: 2019/07/09(火) 23:16:18.86 ID:Nr4c9eHv
ダイヤ「女性でありながら施設の運営を手掛けるほど、当時は女性の地位も高かったのかしら?」

鞠莉「それが、その学校でどのような授業が行われていたか、具体的な内容は残っていないの。サッポーの作品は頽廃的と揶揄され、同性愛を酷く迫害したキリスト教の時代より前、古代ギリシアに続く古代ローマでさえ、非難の的となっていたから……」

ダイヤ「古代ギリシアにおいて、能力ある女性に自立した立場が与えられたかどうか、文献が残っていないのですね?」

鞠莉「そうなの。ただ、サッポーはその学校で、自分の選んだ娘たちと、愛を綴った詩を読み合ったとは伝えられているわ」

ダイヤ「古代ギリシアの少年愛同様、教育と恋愛が複合的に絡み合ったというわけですか」

10: 2019/07/09(火) 23:23:56.03 ID:Nr4c9eHv
鞠莉「イエス!そのレスボス島で起きた一連の流れが、レスボスから文字をとってレズビアンへと繋がったの!」

ダイヤ「女性同士の恋愛が、それほどに深い文化の土壌の上に成り立っていたとは思いもしませんでしたわ!」

鞠莉「女性だけじゃないの!男性の、男性に対する愛は、このときにはすでに非常に一般的なものになっていたんだから!」

ダイヤ「今の世の中とは大違いですわね?」

鞠莉「キリスト教が広く世界に布教されるまでは、多くの国で多くの同性愛者が、平和に、そして時には戦争の火種となるほどに激しく、お互いを愛し合っていたの」

ダイヤ「戦争の火種に……」

13: 2019/07/09(火) 23:28:44.91 ID:Nr4c9eHv
鞠莉「勘違いしないで、ダイヤ?戦争に繋がるとはいえ、それは同性愛あってこそのもの。キリスト教社会でのホモフォビア、つまり同性愛嫌悪は、同性愛そのものが許されない迫害だから、同じ争いにしても、そこは大きく意味合いが異なるわ」

ダイヤ「どこがどう違ってくるのですか?」

鞠莉「まず、人が生まれて生きる上で、愛する対象が誰であるか、ということで差別されることはあってはならないの」

ダイヤ「確かに、キリスト教から派生して多くの宗派において、近年では同性愛そのものへの理解は示されることが多くなりましたが……」

鞠莉「その寛容性すら無かったのが、今私たちが話していた時代の、少し先で起きる出来事なのよ」

15: 2019/07/09(火) 23:36:26.37 ID:Nr4c9eHv
ダイヤ「……気になりますわね」

鞠莉「まず、少なくとも紀元前のうちは、同性愛者は今でいうところの人権をきちんと手にしていたわ!古代ギリシアのポリス、都市国家のひとつであるテーバイでは、なんと150組もの男性カップルで編成された部隊がいたの!」

ダイヤ「それほど多くの戦士が、同性愛者として立場を認められていたのですか!?」

鞠莉「残念ながら彼らは紀元前338年に、ピリッポス2世率いるマケドニア軍に敗退してしまったけれど、彼らの喪失を悲しんだピリッポス2世は、敵であるにも関わらず栄誉を讃えたのよ」

ダイヤ「それは同性愛者への奇異の目や、それに伴った、例えば珍しい生き物を誤って〇してしまったときの冷ややかな憐憫ではなく、人と人とが心で繋がっていた愛に対するはなむけですわね」

鞠莉「その通りよ、ダイヤ!」

16: 2019/07/09(火) 23:48:07.13 ID:Nr4c9eHv
鞠莉「紀元前80年には、古代ローマを代表すると言っても過言ではない偉人カエサルが、同盟国であるビテュニアの王ニコメデス4世と情事を持っていたり、その50年後のローマ帝国では、史上初と記録される同性婚も行われたの」

ダイヤ「同性婚もまた、今の世界では合法、非合法の論争が広く展開されていますわよね?それがそのような時代にはすでに認められていたのですか……」

鞠莉「1世紀に入ると、54年には暴君ネロがローマ皇帝に即位して、2人の男性と法的な儀式を経て結婚したわ。まあ、暴君という評価もキリスト教徒によってイメージ付けされたんけどね。あっ、それで、なんとネロと結婚したうちの1人には、皇后としての栄誉も与えられたの!」

ダイヤ「えっ!男性に皇后としての栄誉が!?」

17: 2019/07/09(火) 23:54:28.09 ID:Nr4c9eHv
鞠莉「何たって皇后の衣装を着飾らせたんだからね。それに、自身は花嫁衣装を着ていたそうよ?」

ダイヤ「自分は花嫁で相手は皇后の格好ですか……」

鞠莉「仮にお互いが性同一性障害であれば、体は男性で心は女性、そして女性を好き合っていたということになるわね。まあ、本人の個性というよりも、当時の文化的な側面の方が多い出来事だとは思うけれど」

ダイヤ「いずれにせよ、それほど複雑な愛の表現を理解できるほど、国民にもまた同性愛を受け入れる下地があったのでしょうね」

20: 2019/07/10(水) 00:13:02.69 ID:hwCHdT7A
鞠莉「そのことはローマ帝国随一とされる辣腕、トラヤヌスの治世でもまた感じ取ることが出来るわ」

ダイヤ「トラヤヌス、ローマ帝国を忌み嫌う中世キリスト教史観においても、その神話が産み出されるほどに卓越した賢人ですわ!」

鞠莉「彼も若い男性への愛欲を持っていたことが記録されていてね!それがどれほどの嗜好であったかというと、エデッサという都市の王アブガルスがあるときトラヤヌスに対立してしまったんだけど……」

ダイヤ「王と王とが思いがけず……」
 
鞠莉「その許しを請うために、自身の息子を献上したの!そしてトラヤヌスはなんと彼を許したのよ!」

ダイヤ「なんと!退っ引きならない事態に、娘ではなく息子の献上で許されるとは……」

鞠莉「そう!今の価値観では少し分かりにくいわよね!トラヤヌスは女性と結婚もしているし、絶対に男でないと困るということでも無かったのに!」

22: 2019/07/10(水) 00:16:01.43 ID:hwCHdT7A
ダイヤ「男と女とが、その性差なく、人間として等価に扱われていたのですね」

鞠莉「今後100年200年はその通りなんだけど、ついにキリスト教が絶大な力を手にして、一度歴史を引っくり返すときが来るわ」

34: 2019/07/10(水) 21:46:17.66 ID:R7qRsOev
鞠莉「同性愛は古代の国家において、人間の持つ性的嗜好としてはノーマルなものとして受け入れられてきたのよ。とは言っても、現代社会でもそうだけど、自分は週に7回異性と関係を持ちます、行為のために道具を使っています、なんて言わないわよね?」

ダイヤ「それは……まあ、そこまで明け透けに話される方には、お会いしたことがありませんわ……」

鞠莉「同性愛もそれと同じで、否定されることではないものの、公に口にするものでも無かったの」

ダイヤ「と言うことは、学生が全裸で暮らしていた古代ギリシアから時が流れ、人々に性に対する羞恥心のようなものが備わった、ということでして?」

鞠莉「まあ、羞恥心とまで言えるかはともかく、性への関心は隠すもの、という道徳が芽生えつつあったのは確かね」

35: 2019/07/10(水) 21:52:46.08 ID:R7qRsOev
鞠莉「現にこういう逸話と人物もいたわ!ハドリアヌスというローマ帝は、自身の愛したアンティノウスがナイル川に落ちて溺死した際、彼を神格化して彫像を残したの!これは130年の出来事かな」

ダイヤ「えっ!古代ローマと言えば多神教であることは存じておりましたが、皇族以外に神の地位が授けられたのですか!?」

鞠莉「そうなの!それほどにまで、その男性のことを皇帝は愛していたんだろうね!……でも、ハドリアヌスは自分が男色家だということを公言したことはないのよ」

ダイヤ「そこまでしておきながら……ですか」

鞠莉「見れば分かるのにね!でも、自分の口からは言わなかった、皇帝でさえも」

36: 2019/07/10(水) 22:03:20.62 ID:R7qRsOev
鞠莉「218年には、キリスト教関係無しにローマ史上最悪の暴君と記憶されるヘリオガバルス帝の時代が始まったんだけど、彼は相手の男女を問わず放蕩に明け暮れていたのよ」

ダイヤ「確か、自身の信仰する太陽神のみを主神とした皇帝でしたわね?」

鞠莉「イエ~ス!ここで一度、これまでの宗教的な慣習や制度、行事を無くしてしまったことが、キリスト教の振興に一役買っちゃったのかもね!」

ダイヤ「彼もまた男性と結婚したのでしょうか?」

鞠莉「彼は男性とも結婚したし、女性ともして、結局4回の結婚と5回の離婚を経て、妻として奴隷男性と5回目の結婚を果たしたのよ!」

ダイヤ「滅茶苦茶ですわ……!」

37: 2019/07/10(水) 22:12:30.47 ID:R7qRsOev
鞠莉「こうなってくるともう、その〇らな性生活への嫌悪から、同性愛異性愛という問題でもなく、全部引っくるめて皇帝を批判する人物も国内外に現れたの!」

ダイヤ「それはそうでしょうね……」

鞠莉「ただし彼には女装癖や性転換手術への興味があったことが記されていて、今ではトランスジェンダーの問題を抱えていたのではないかと考えられているわ」

ダイヤ「やはりそこへ収束するのですね……でも、可哀想ですわ、個人に異なる性が内在していることの知られていない時代ですもの……」

鞠莉「そうね!何故男性が男性を、女性が女性を、異性に対するそれと同じ感情でもって好きになってしまうのか、現代でさえはっきりしないのに、当時はそんなこと誰にも分からなかったんだから!」

38: 2019/07/10(水) 22:20:12.20 ID:R7qRsOev
ダイヤ「……先程、ヘリオガバルスの悪政がキリスト教伝播の一因だとおっしゃいましたが、そろそろその流れがローマへ訪れるのですか?」

鞠莉「うん、その通りよ。同性愛に絡めて話す前に、そこのところをはっきりさせておきましょう!」

ダイヤ「ギリシア、ローマにおいて、250年には人口の2%、300年代前半では17%、4世紀の後半ではすでにキリスト教徒の数が人口の半数を越えていたと聞いたことがあります。いったい何故ここまで爆発的な増加を成し遂げたのでしょうか……」

鞠莉「諸説あるけれど、国民が確固たる道徳を欲したというのが一番の理由ではないかしら」

39: 2019/07/10(水) 22:39:50.48 ID:R7qRsOev
ダイヤ「確固たる道徳……ですか」

鞠莉「多くの皇帝が国のためではなく、自分の都合で規律を変え続けていたからね。これまで通りのルールに従うだけでは、より良い国家、生活を成立させることは困難だと感じ始めていたのよ」

ダイヤ「なるほど……」

鞠莉「そこへ決定的とも思える出来事が起きたの!」

ダイヤ「ローマにキリスト教徒が増えた出来事……」

41: 2019/07/10(水) 22:45:58.98 ID:R7qRsOev
鞠莉「少し時代は遡るけれど、165年に天然痘と思われる疫病がローマを襲って、全人口の4分の1とも3分の1とも言われる人間の命を奪ったのよ!その後251年にはローマ全土ではしかが伝染して、1日に5000人が死んだとも言われるほどの猛威を振るったの!」

ダイヤ「それは聞いたことがありますわ!」

鞠莉「そのときにローマに暮らす、まだ健康な人々はどう対処したと思う?」

ダイヤ「現代ほど医療の発達していない時代ですわよね……ただ治ることを信じて、側で面倒を見てあげることしか出来ないのではなくて?」

鞠莉「甘いわ、ダイヤ。彼らは家族であっても見捨てて、遠く離れた病気の広まっていない土地へ逃げ出したの!」

ダイヤ「そんな……ひどい……」

42: 2019/07/10(水) 22:52:51.31 ID:R7qRsOev
鞠莉「だって怖いじゃない、得体の知れない病で次々と周囲の人が死んでいくなんて!」

ダイヤ「けれど……何か出来たはずですわ!」

鞠莉「そう、人と人とを繋ぐ絆をも奪い去った伝染病だけど、彼らには何かが出来たはず。……でも、ローマ人には出来なかった。ただ、その噂を聞き付けてローマへと足を踏み入れたキリスト教徒たちには出来たの……!」

ダイヤ「いったい何が……?」

鞠莉「ふふっ、それはさっきダイヤが言ったじゃない?病気が感染することも厭わず、ただただ病人の世話をし続けたの!」

ダイヤ「わたくしが言ったのは身近な人に対してですわ……!それをキリスト教徒は見ず知らずの人々のためにですか!?」

43: 2019/07/10(水) 23:00:11.96 ID:R7qRsOev
鞠莉「そうなの!もしかしたら彼らもまた、ローマにいるとされた数%のキリスト教徒を助けるために来たのかもしれない。けれど、どちらにせよ、家族からも捨てられ、路上でただ死んでいくだけの病人たちをひどく悼んで、宗教の壁を越えたケアをし始めたの!」

ダイヤ「素敵です……それこそまさに愛ですわ……」

鞠莉「イエス自身が正しく言ったとされる言葉に、こうあるわ」

鞠莉「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」

鞠莉「受けるよりは与える方が幸いである」

鞠莉「この言葉に感銘を受けたキリスト教徒、そしてその言葉に従う彼らの姿を目の当たりにしたローマ人が、そこに自分達の求めた永久の道徳心を見出だすのも当然だとは思わない?」

ダイヤ「その通りですわ!」

44: 2019/07/10(水) 23:10:13.51 ID:R7qRsOev
鞠莉「この考えを裏付ける論拠も、ローマがキリスト教を公認した後の355年、皇帝に即位したユリアヌスの記した手紙に描かれているわ」

ダイヤ「誰に当てた手紙ですの?」

鞠莉「ユリアヌスはキリスト教の広がりに脅威を覚えていたからね!当時ローマに存在したキリスト教優遇策の取り止めを決めて、ギリシア、ローマ宗教の復権を狙ったの。そしてその大祭司、アルキサノスに向けた手紙を書いたってわけ!」

ダイヤ「そこに、キリスト教徒が増えた一因が書かれているのですか」

鞠莉「ユリアヌスはこう記したわ!他者に対する人間愛、死者の埋葬に関する丁寧さ、よく鍛錬された生き方の真面目さがキリスト教を発達させた。それぞれの町に救護所を多く設置せよ。外来者が、我々の人間愛にあずかることができるように、ってね!」

ダイヤ「まさにさきほど鞠莉さんが言われた通りの特徴が挙げられていますわね」

45: 2019/07/10(水) 23:17:50.18 ID:R7qRsOev
鞠莉「大嫌いなキリスト教なのに、自分達の信じる宗教が伸び悩んでいるのはこの部分が足りないからだと認めるしか無かったのね!」

ダイヤ「しかし、後追いで対抗できるものでしょうか?」

鞠莉「ううん、ダメダメ!もう全く間に合わないよ!キリスト教徒が病人の看護をして、食事を与えて、排泄物の処理をして、死者は埋葬して、と献身的な行為に身を浸す姿をローマ人は見続けてたからね!」

ダイヤ「少なからず不信感を抱いている皇帝の言葉より、今見ている現実の方がずっと感動しますものね!」

鞠莉「そうだよ!そのうちに死亡率が下がり、快復した人、奇跡……そう、当時の人は病気の回復をキリスト教徒の成し遂げた奇跡と思ったでしょうね、奇跡を目の当たりにした人々がキリスト教に入信して、その数は飛躍的に向上していったのよ!」

46: 2019/07/10(水) 23:23:47.03 ID:R7qRsOev
ダイヤ「現在、世界には22億人を越えるキリスト教徒がいるとされますが、その増加の発端は信者たちによる献身だったのですね!」

鞠莉「それに、献身だけじゃないよ!どんなに腐敗した政治や困窮した生活、病気による死の恐怖に苦しんでも、生きることそのものに意味があって、死後、神のもとに安らぐことができる、という教えは彼らの心の支えになったの!」

57: 2019/07/12(金) 23:50:35.53 ID:iIb99DWN
ダイヤ「しかし、キリスト教が広まるにつれて、同性愛嫌悪の思想は人々の間に溶け込んでいくのでしょう?」

鞠莉「そうね。一般庶民が、というよりも、やはり皇帝やキリスト教の司祭の考えによるところが大きいんだけど……」

ダイヤ「そもそも何故キリスト教では同性愛が禁じられていたのですか?」

鞠莉「……それが、実は禁じられているわけではないのよ」

ダイヤ「えっ!?」

鞠莉「当然、宗派や個人によって解釈は異なるわ。それに、禁じられていないと言うのは言い過ぎかもしれない。ただ、順を追ってみると、何故同性愛だけが槍玉に挙げられたのかはまったく不明なの」

ダイヤ「どういうことでしょうか……?」

58: 2019/07/13(土) 00:06:27.15 ID:lPM16/H9
鞠莉「まずキリスト教徒が同性愛を嫌う原因となったのは、旧約聖書19章に描かれた、ソドムという街が神の裁きにより崩壊したエピソードにあると言われているの」

ダイヤ「ソドムという言葉は何だか聞き覚えがありますわ」

鞠莉「多くの小説や映画で、悪徳の象徴としてソドムという言葉は使われているからね!ダイヤはどこかで目にしたのかも!」

ダイヤ「悪徳の象徴……」

鞠莉「ソドムはあまりに酷い町だから、神はすでにここを滅ぼそうと考えていたの。でも、ロトというこの町に住む善人を救うために天使を二人遣わせたんだけど、ちなみにこの天使はどちらも男だと考えられているわ!なんとソドムの民は、この2人の天使を犯そうとするのよ!」

ダイヤ「天使に……!なんてことを思い付くのでしょうか……」

59: 2019/07/13(土) 00:11:41.82 ID:lPM16/H9
鞠莉「この企みが神の逆鱗に触れて、ロトは何とか救いだしたものの、やはりソドムは天から降り注ぐ炎と硫黄の雨によって滅ぼされてしまったのよ」

ダイヤ「物凄い仕打ちですわね……」

鞠莉「あまりにも衝撃的な出来事だから、同性に対する性欲は神が嫌うもののひとつだ、と受け入れられたわけね!」

ダイヤ「だから同性愛はキリスト教徒も嫌ったのですね!」

鞠莉「ところがそうじゃないのよ!」

ダイヤ「……?」

60: 2019/07/13(土) 00:17:55.04 ID:lPM16/H9
鞠莉「新約聖書で描かれる通り、イエス・キリストが神と新たな契約を結んだから、旧約聖書で約束された人と神との契約は全て無効化されているの」

ダイヤ「そうだったのですか……!」

鞠莉「だからソドムが同性愛を最大の罪として、それを理由に滅ぼされたのだとしても、キリスト教徒にはまったく関係ないってわけ!」

ダイヤ「では新約聖書で、イエスが新たに神と結んだ契約の中で、同性愛は禁じられたのでしょうか!?」

鞠莉「まあ結論からすればその通りなんだけど、その約束というのが少し難解……と言うか、難題なのよ」

61: 2019/07/13(土) 00:29:05.64 ID:lPM16/H9
ダイヤ「そんなにも守ることが難しい約束事をしてしまったのですか?」

鞠莉「新約聖書の著者の一人であるパウロが、ローマの都市コリントにある協会へ充てて書いた手紙にその一文が載っているわ」

鞠莉「正しくない者が、神の国を受け継げないことを知らないのですか。思い違いをしてはいけない」

鞠莉「みだらな者、偶像を礼拝する者、姦通する者、男娼、男色をする者、泥棒、強欲な者、酒におぼれる者、人を悪く言う者、人の物を奪う者は、決して神の国を受け継ぐことができません」

ダイヤ「はっきりと男色をする者は神の国に行けないと書かれているではありませんか!」

鞠莉「まあ、書かれてはいるけど……これ全部守れる?キリスト教徒は守ってると思う……?」

ダイヤ「……」

62: 2019/07/13(土) 00:44:36.66 ID:lPM16/H9
鞠莉「きっと、まあ私の考えでしかないし、現代の数字で悪いけれど……大体、同性愛者は7人に1人程度いると言われているの」

ダイヤ「思ったよりも多いですわね」

鞠莉「でも、人の悪口を言う人や、セ クスをする人、ものを際限なく欲しがる人の割合のほうが、ずっと多くない?」

ダイヤ「比べるまでもないでしょうね……」

鞠莉「新約聖書の中には、こんな言葉もあるの。これはマタイ伝だったかな」

鞠莉「人を裁くな。あなたがたも裁かれないようにするためである」

鞠莉「あなたがたは、自分の裁く裁きで裁かれ、自分の量る秤で量り与えられる」

63: 2019/07/13(土) 00:50:03.10 ID:lPM16/H9
ダイヤ「なるほど、鞠莉さんの言いたいことが分かってきましたわ。つまりこういうことですわね?7人に6人は異性愛者なのだから、同性愛を禁じられたところで何の問題もない、と」

鞠莉「ザッツライ!その通りよ、ダイヤ!嘘をつくのをやめましょう、って皇帝がルールを作るよね?でも彼は絶対に嘘をついちゃうよ!お酒は飲みすぎないようにしましょう、これも今後どうなるかは分からないよね!」

ダイヤ「自分の守れないルールを定めてしまうと、また自分も裁かれてしまいますものね」

鞠莉「そうなの!でも同性愛は違う!同性愛禁止なんて、特に気を張る必要もなく、守れる人には守れるでしょうね!」

64: 2019/07/13(土) 01:06:41.02 ID:lPM16/H9
鞠莉「現にキリスト教徒であった何人ものローマ皇帝たちは、何度もキリスト教の規律を違反して、教会から懺悔を求められているのよ」

ダイヤ「そうなのですか……」

鞠莉「散々ルール無視をしておいて、同性愛者には公衆の面前での火炙りの刑を科すって、ダブルスタンダードもいいとこよ!」

ダイヤ「えっ!火炙りなんてされるのですか!?」

鞠莉「まあこの話は追々ね!だから、キリスト教は確かに同性愛を禁じているでしょうけど、それが活きてくるのは死後の話よね?現世を生きるローマの民が同性愛を禁じられたのは、時の権力者たちによるところが大きいと考えるべきだと、私は思うのよ!」

68: 2019/07/13(土) 23:43:41.09 ID:o3UNj/w+
ダイヤ「つまり皇帝たちは、キリスト教に対する自らの背信を誤魔化すために、同性愛者に辛く当たったのですか……」

鞠莉「私はそう思っているわ。これはローマに限らず、その後多くのヨーロッパ諸国が、自国に古くからある同性愛の文化を捨て去り、キリスト教における禁忌として同性愛のみをあげつらったことからも確かでしょう」

ダイヤ「本当にキリスト教を思ってのことなら、他の罪に対しても同等の罰を与えますものね」

鞠莉「そうして同性愛者に科された罰は、本当に言葉にするのも躊躇うほどの邪悪さなのよ」

69: 2019/07/13(土) 23:51:45.27 ID:o3UNj/w+
鞠莉「5世紀、6世紀と掛けてキリスト教はその勢力を拡大して、同性愛を敵視した法律をいくつも植え付けていったわ。529年にユスティニアヌス1世が定めた刑法が、いかに同性愛者が嫌われていたのかを示す代表例と呼べるかも」

ダイヤ「それはどのような内容でしょうか?」

鞠莉「最近の日本でも、北から南まで大地震や大雨、家畜への伝染病や、あるいはヒアリのような外来生物の蔓延と、多くの災厄が降り注いでいるわよね?」

ダイヤ「本当に大変なことが続いていますわ……。被災者、被害者の方へは掛ける言葉も見当たりません……」

鞠莉「あれ全部同性愛者のせいなのよ」

ダイヤ「え?」

70: 2019/07/13(土) 23:56:45.88 ID:o3UNj/w+
鞠莉「だから死刑にするのよ、同性愛者は」

ダイヤ「え?」

鞠莉「神は同性愛が嫌いだからね。同性愛者を見付けるとその土地を荒らしたくなる性分なのよ、だから神の手を煩わせる前に自分達で同性愛者を〇さないとね」

ダイヤ「え?」

鞠莉「でも、同性愛者だって簡単には〇されたくないわよね?」

ダイヤ「はあ、まあ、何か〇されずに済む方法も用意されていたのですか?」

71: 2019/07/14(日) 00:03:22.82 ID:93rYF3/8
鞠莉「性器を切り落とすか、先端を尖らせた葦の茎を尿道に通して使い物にならなくすれば助けてもらえるわ」

ダイヤ「……」

鞠莉「フランス南部からイベリア半島に当たる地域を支配した、ゲルマン民族による西ゴート王国もこれと似た時期にカトリックへと国教を改宗して、ローマと同じく同性愛者への当たりを強くしていったの」

ダイヤ「そこでもまた同性愛者迫害の法律が……?」

72: 2019/07/14(日) 00:08:37.32 ID:93rYF3/8
鞠莉「同性愛者同士の性行為が発覚すればその両者は去勢される、というところからスタートして、それは着実に過酷さを増していったわ」

ダイヤ「同性愛者はどのような末路を辿ったのでしょうか……」

鞠莉「10世紀を越えるまで、肛門に焼け火箸を何度も突っ込まれてころされたり、ああ、この処刑方法は皇帝に適用されたこともあったわ」

ダイヤ「……」

鞠莉「あとは、八つ裂きにされて犬に肉片を食わさせたり」

ダイヤ「……」

73: 2019/07/14(日) 00:10:28.97 ID:93rYF3/8
鞠莉「でも、せっかく愛し合った二人ならば、死ぬときも二人一緒に死にたいと思わない?」

ダイヤ「そもそも死にたくないので何とも言えませんが、まあ一人で死ぬよりは……」

鞠莉「そうよね!だから、二人が永遠に結ばれるように、恋人同士で木に縛り付けられて火炙りにされるコースもあったのよ!」

ダイヤ「……」

74: 2019/07/14(日) 00:16:14.97 ID:93rYF3/8
鞠莉「もう全然キリストの意思とか関係ないわよね、これ」

ダイヤ「……こうした同性愛者への扱いの酷さは、徐々に収まっていくのでしょうか?」

鞠莉「収まるどころか、1791年にフランスが同性愛を非犯罪化するまでの間、西ヨーロッパではホモフォビアは激化し続けるのよ」

ダイヤ「まだ1000年以上も先ですわ……」

鞠莉「とは言え、どんなに禁止されても、人を好きになる気持ちを抑えることなんて誰にも出来ないわ!」

75: 2019/07/14(日) 00:27:35.09 ID:93rYF3/8
鞠莉「フランク王国に暮らすアルクィンという修道士は、10世紀頃、ちょうど同性愛者処刑の法律が生まれ続けていた時期ね、禁止されているにも関わらず、他の修道士宛てに愛を綴った詩を書き続けたのよ」

ダイヤ「まさに禁じられた愛を成し遂げようと……」

鞠莉「キリスト教の道を修めようとする人間ですら、人が人を想うという根源的な欲求に逆らうことは出来なかったの」

ダイヤ「そうした感情の裏付けが積み重なって、現代ではキリスト教が同性愛を認めつつあるのですね」

鞠莉「そうよ、認めているのは心の繋がりであって、体の繋がりには未だ否定的ではあるけどね!」

82: 2019/07/16(火) 00:48:59.62 ID:79UuCsjq
ダイヤ「10世紀にもなるとヨーロッパの各地に多くの国が勃興していると思いますが、未だキリスト教の影響下にない国々では、同性愛はどのように扱われていたのでしょうか?」

鞠莉「例えば……これまでローマ帝国と呼んでいたのは、基本的には395年に東西に分かれたローマのうちの西側だったんだけど、東側のローマ帝国、こっちはビザンツ帝国と呼ばれているわね、そこではどうだったかと言えば、やはり同性婚の文化は根付いていたようなの」

ダイヤ「まあ統治者が違えど、隣り合ってはいますものね」

鞠莉「離れたところでも、北欧に位置するスカンジナビアでは宗教的な異性装が文化として見られたのよ」

ダイヤ「異性装が受け入れられるということは、男性あるいは女性を、異性のつもりで受け入れることもまた必然の流れですわね」

83: 2019/07/16(火) 00:57:39.17 ID:79UuCsjq
鞠莉「あと、スカンジナビアではちょっと変わった家制度のような風習もあって、父親の土地を相続した息子だけが結婚できていたのよ」

ダイヤ「では相続できなかった兄弟たちはどのように過ごせば良いのですか?」

鞠莉「家に残ったところで役目もないし、外へ出ていくしかないよね。そうして国や街を守るための戦士の社会へと加わる習わしだったの!」

ダイヤ「完全に役目が分担されるのですか」

鞠莉「そうなの!それに、土地に残ったからといって簡単には結婚出来ないわ!この国の女性は純潔であることが期待されていたから、そもそもあまり外へは出なかったの」

ダイヤ「けれどそうであれば、慰安所へ勤める女性や、売春婦などはいなかったのではありませんか?」

84: 2019/07/16(火) 01:14:20.13 ID:79UuCsjq
鞠莉「もちろんそうなるわ!だから戦士たちの集まりでは、性欲の捌け口としての少年愛が、制度化して運用されていたのよ!」

ダイヤ「やはりどこの国であれ、同性愛が自然と発生していますわね」

鞠莉「話はまたキリスト教へと戻るけど、やっぱり聖職者であっても同性への興味は尽きなかったのよ」

ダイヤ「あれほど厳しく処罰の対象として取り上げていたのに、ですか!?」

鞠莉「1051年に、現在のイタリアの自治体であるラヴェンナに生まれたペトルス・ダミアニという修道者が、あまりに乱れたキリスト教社会における同性愛の蔓延について、厳しく指摘しているの」

ダイヤ「後にダンテが著作『神曲』の中で、聖人に値する活動を見せたと称賛する人物でしたよね」

85: 2019/07/16(火) 01:28:18.73 ID:79UuCsjq
鞠莉「とにかく正しくあろうと生きた人物だからね!当時のローマ教皇であるレオ9世へ何度も直談判したけれど、結局その時代に同性愛者が処罰されることはなかったわ。教皇もまた、同性愛を重大な罪だとは考えていたんだけど……」

ダイヤ「何故厳罰化に至らなかったのでしょうか?」

鞠莉「思ったよりもキリスト教徒に同性愛者が多くいたせいでしょうね……。もしくは同性愛者間で、マイノリティとしての意識が強く共有されていたせいかもしれないわ。ダミアニは酷く批判されて、教皇も彼を支持するほどには知識や理解がなく、肯定するのを躊躇われたのよ」

ダイヤ「なるほど……」

鞠莉「この後50年経っても、ローマ教皇は同性愛を特に危険視はしていなかったみたいで。やっぱりかつて同性愛者が処罰されていたのは、皇帝の意思によるところが大きかったのでしょうね」

86: 2019/07/16(火) 01:37:10.70 ID:79UuCsjq
ダイヤ「その50年後にあたるのは1100年頃ですか?何か同性愛を肯定する出来事でもあったのでしょうか?」

鞠莉「当時の教皇はウルバヌス2世といって、彼はとある告発を受けたの」

ダイヤ「どのような?」

鞠莉「フランス国王と関係を持った男が、そのコネで、オルレアンという土地の司教の位に就いた、というものよ!」

ダイヤ「枕営業ではありませんか!」

鞠莉「しかもその男は別の大司教の恋人でもあって、宗教が性を利用して政治に取り込もうとしたわけなの」

87: 2019/07/16(火) 01:42:39.43 ID:79UuCsjq
ダイヤ「大問題ですわ!」

鞠莉「でもローマ教皇は大して問題視しなかったみたい。オルレアン司教に就いた男はその後40年も務めあげて、大司教もまた周囲の人々から非常に尊敬されて暮らしたんだって!」

ダイヤ「なぜですの……」

鞠莉「まあこの少しあと、1102年のロンドン教会会議で、イングランドの人々に同性愛は罪深いことだと知らしめるための措置をとったことで、キリスト教における同性愛の扱いの流れは大きく変わるんだけどね」

93: 2019/07/16(火) 23:41:57.36 ID:IxMPW579
ダイヤ「案外すぐに訪れたではありませんか。何かきっかけがあったのですか?」

鞠莉「ベルナルドゥスという、後に聖人認定された神学者がいるの。彼は厳しい自己節制を元に聖性を手にしていて……聖性というのはイエスに似た人になるってことよ。思想や言動まですべてにおいてね!その徳の高さや説教師としての資質の高さから尊敬されていたのよ」

ダイヤ「聖人認定……。話を遮って悪いのですが、キリスト教では偶像や神以外のものを崇拝することを禁止していますわよね?何故ロザリオやマリア像、聖人といった実在した人物まで崇めているのでしょうか?」

鞠莉「言葉遊びといってしまえばそれまでだけど、神に対するものは崇拝で、それ以外の聖なるものに対しては崇敬という言葉を使うのよ」

ダイヤ「拝むと敬う、の違いですか?」

94: 2019/07/16(火) 23:50:57.93 ID:IxMPW579
鞠莉「そんなところよ。彼らは神を信仰しているの。そしてそれ以外の聖性の高い存在に対しては尊敬をしているのよ」

ダイヤ「何か言い訳のようにしか聞こえませんが……」

鞠莉「そんなことないわよ!部外者が一見するとマリア様や聖人そのものを拝んでいるように見えるけれど、キリスト教徒はその崇敬を通して、神の姿を見ているのよ?」

ダイヤ「なるほど……。何もない空間を見て神を思い起こすよりも、神の教えを全うした存在を前にしたほうが、よりはっきりとした信仰心が湧くということですか」

鞠莉「そういうことよ!それで、聖人認定されるほどに道徳的に優れたベルナルドゥスが同性愛に否定的だったから、これはもう従うしかないわよね」

95: 2019/07/17(水) 00:08:23.20 ID:LZLI7PcP
ダイヤ「するとキリスト教内でもついに同性愛が厳しく糾弾されるようになったのですか」

鞠莉「そのはずなんだけど、はっきりとした記録が残っていないのよね」

ダイヤ「ええ……そうなのですか」

鞠莉「例えば1327年には、イングランド王であったエドワード2世が同性愛を理由に、肛門に焼けた火箸を何度も挿入されて〇されたと残されてるんだけど、これも本当かどうか分からないのよ」

ダイヤ「中世はそのようなことが多くはありませんか?」

鞠莉「ルネサンス期までの中世ヨーロッパは暗鬱とした時代だって言われるけど、最近ではエジプトや中国から技術や文化が流れてきて、意外と安定した成長を見せていたなんて考えられるようになってるし」

96: 2019/07/17(水) 00:17:47.10 ID:LZLI7PcP
ダイヤ「多くの国が生まれては消えて、宗教もまた様々な派閥が争っていたので、歴史を一本化して記せなかったのでしょうね」

鞠莉「そうだと思うわ。14世紀に、同性愛の発覚がもとで死刑にされたうち名前が残っているカップルも、たったの2組しかないのよ」

ダイヤ「少ないですわね……」

鞠莉「14世紀にイタリアでルネサンスが起きてからはまた多くの記録が残されるようになって、色々な出来事が見てとれるけどね」

ダイヤ「そう言えばルネサンスという言葉はよく聞きますが、恥ずかしながら正確な意味というか語源を存じ上げませんの……」

97: 2019/07/17(水) 00:26:45.76 ID:LZLI7PcP
鞠莉「英語で言えばリバース、再び誕生するってことよ!ルネサンスはフランス語で、re-再び、naissance-誕生ね!ギリシア、ローマの文化を再生しよう、って時期なの」

ダイヤ「そうだったのですか!」

鞠莉「およそ1000年に渡ってキリスト教がギリシア、ローマの文化を壊し続けたせいで多様性が失われたでしょう?これから先の時代は急速に文化が発展していくのよ!」

ダイヤ「となれば、同性愛はまた許容されていくのですか!?」

鞠莉「ううん、逆よ逆。まあ、ここまで数百年の間の記録がないから実際はどうだったか分からないけれど、少なくともこの先、同性愛に対する逆風は熾烈さを増すばかりよ!」

98: 2019/07/17(水) 00:41:28.04 ID:LZLI7PcP
ダイヤ「古代ギリシアやローマの考えに回帰するのなら、自然とキリスト教とは距離が置かれていくのではありませんか?同性愛嫌悪の多くはキリスト教由来でしょうし、何故、より厳罰化される流れが生まれたのでしょう」

鞠莉「当時すでにヨーロッパでは、カトリック教徒が数多くいたの。古代ローマでキリスト教が力を持ち始めた流れは覚えてるわよね?ということは、キリスト教、引いては聖書の教えの原点もまた、古代ギリシア、ローマ時代にあるのよ」

ダイヤ「ルネサンスに乗じて調べてみようと思うのも当然ですわね」

鞠莉「特にアルプス、イタリアとフランスに跨がる山脈ね、アルプス以北では、ルネサンスの意識が宗教上のものと結び付きやすかったのよ。古代ローマ発祥の地である地中海沿岸からは距離があるから、より冷静に時間を掛けて調べ事が出来たのかもね」

99: 2019/07/17(水) 00:50:19.54 ID:LZLI7PcP
ダイヤ「宗教改革が起きて、カトリック教会からプロテスタントが生み出されたのもちょうどこの時期ではありませんでしたか?」

鞠莉「そうよ!ルネサンスで聖書の原典に遡って研究した人たちを人文主義者と呼ぶのだけど、彼らの活動によって、今自分達の信仰するキリスト教の在り方がどうもおかしいんじゃないか、って多くのキリスト教徒たちが疑念を抱いたのがきっかけね!」

106: 2019/07/19(金) 01:10:00.90 ID:2ird3BC+
ダイヤ「そうしてプロテスタントを汲む国において、同性愛が忌避されるようになったのですわね?カトリックと違い、聖書に書かれたことが最重要視されるそうですから!カトリックは先程鞠莉さんが話した通り、聖母マリアや聖人のように、聖書に無い対象も崇敬していますし」

鞠莉「まあそう言えなくもないけど……」

ダイヤ「違うのですか?」

鞠莉「まず始めに、ソドミー法、ソドミーというのは口内性交や肛門性交、獣姦、自慰等を指すのだけど、この法律を制定したのがイングランド王のヘンリー8世なの」

ダイヤ「イングランドですか」

107: 2019/07/19(金) 01:26:39.36 ID:2ird3BC+
鞠莉「イングランドでも宗教改革の煽りを受けて、当時国内にあったカトリックの修道院を解散させたりと、ローマ教皇を中心としたカトリック教会との関係を絶つことになったのよ」

ダイヤ「カトリックから分離したのなら、やはりプロテスタントということではありませんか?」

鞠莉「違うの、イングランド国教会と名付けられたイングランドにおけるキリスト教の集いは、教え自体はカトリックの物なのよ」

ダイヤ「カトリックから離れた目的が分かりませんわ……」

鞠莉「ヘンリー8世は個人的な離婚問題を発端に、ローマ教皇と仲違いをしていたのよ。離婚には教皇の許可が必要なのだけど、妻が他国の王の娘だったことから、国際的ないさかいに発展することを恐れた教会側は離婚に反対して、それに抗議したことがきっかけでね」

108: 2019/07/19(金) 01:32:18.39 ID:2ird3BC+
ダイヤ「はあ、複雑ですわね……」

鞠莉「それで、ヘンリー8世はカトリックの教えを守りたいけど、カトリック教会のままではいられなくなって、分離したってわけ」

ダイヤ「だからプロテスタントというわけでもないと」

鞠莉「そうなの。そうなるとヘンリー8世としては、決して自分が間違っていたから捨てられたわけではないと、自分の行動の正しさを人民と神とに示したいじゃない?だからソドミー行為を禁止するソドミー法を制定して、神の教えに従った正しい宗派であると見せ付けたのよ!」

ダイヤ「これもまた自分の都合のためですわね!」

109: 2019/07/19(金) 01:40:54.38 ID:2ird3BC+
鞠莉「死刑に処される法律なのに、結局1861年になるまで刑が執行されることはなかったところからしても、やはり見せかけだけの法案だと言っていいと思うわ!」

ダイヤ「ソドミー法が指導したのは何年ですの?」

鞠莉「1533年だから、実に300年もの間、有名無実な法だったのよ!あ、とは言え、本国では運用されなかったものの、北アメリカにあったバージニア植民地というイギリス領では、1624年にソドミーの罪で絞首刑に遭った人もいたけどね!」

ダイヤ「遠く離れた地で行われたというのも、結果だけが欲しかったように見えますわ……」

鞠莉「ちなみにソドミー法は性別に問わず適用されて、1649年にはレズビアン行為に対して有罪判決が出ているわ!このとき、一方の女性は16歳ということで不起訴処分になっているけど」

110: 2019/07/19(金) 01:50:03.15 ID:2ird3BC+
ダイヤ「1600年代と言えば日本では江戸時代に入っているではありませんか。日本では男色文化が長く定着していたと聞いたことがありますが、キリスト教も迫害されていますし、どのような扱いだったのですか?」

鞠莉「日本で男色と言えば、やっぱり武士同士のそれが有名よね!ダイヤはこの言葉を知ってる?」

鞠莉「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり!」

ダイヤ「ああ、聞いたことはありますわ!確か葉隠という書物に記された言葉ではありませんか?」

鞠莉「さっすがダイヤ!よく知っているわね!誤解されがちな言葉だけど、武士に生まれたからには目的のためには死も厭わないって意味じゃなくて、自己を〇した先に利害に囚われない真実が見える、って意味なんだって!」

ダイヤ「はあ、なるほど……勘違いしていましたわ!」

111: 2019/07/19(金) 02:01:31.38 ID:2ird3BC+
鞠莉「まあ言葉の意味は置いといて、そんな今にも残る一節の書かれた本なんだけど、この葉隠の中にも男色の作法について書かれているくらい、この時代の武士にとって男色は当然の風習だったのよ!」

ダイヤ「武士というと男の社会ではありせんか。古代の国々同様、周囲に異性がいないことから同性愛へと発展したのではありませんか?」

鞠莉「そういった面もあるとは思うけど、禁欲的な事情も大きかったそうよ!」

ダイヤ「どういうことですか?」

鞠莉「当時の日本って遊郭もあるし、武士は結婚もしているし、まあ当時の結婚は当日まで相手の顔も分からないから何とも言えないけど、異性に不自由することってそうは無いのよ。例えば大奥って分かるかしら?」

ダイヤ「将軍のために多くの女性が生活をしていた住居ですか?」

112: 2019/07/19(金) 02:15:25.14 ID:2ird3BC+
鞠莉「そう!大奥を擁する徳川将軍でさえ、男色を嗜んでいたのよ!と言うか、3代将軍の家光があまりに男色家だったそうで、それを心配して大奥を作ったと言われるんだけど。まあその後も計7人の将軍が同性との関係を持ちたがったんだけどね!」

ダイヤ「そうなると決して異性の不足だけが理由では無さそうですわ」

鞠莉「日本の男色文化の始まりは奈良、平安時代に仏教が広まったことに由来するみたいなの」

ダイヤ「そこは女人禁制だったのでしょう?」

鞠莉「そうよ!仏教ではセ クスそのものが禁じられていることが多くて、女性がいる意味なんて無いからね!」

113: 2019/07/19(金) 02:20:04.35 ID:2ird3BC+
ダイヤ「しかし、同性相手であっても禁止されているのでは?」

鞠莉「稚児灌頂、ちごかんじょうという儀式によって洗礼された子供が相手なら、性行為に至ってもオーケーなの!」

ダイヤ「なぜです……?」

鞠莉「洗礼された稚児は観音菩薩の化神となるでしょう?つまり生身の人間ではなく、この世の無い至高の者となるから、信仰の対象としての稚児を崇拝しそれと交わることはかまわない、ってことなのよ!」

ダイヤ「?」

鞠莉「構わないのよ!」

ダイヤ「?」

114: 2019/07/19(金) 02:22:51.52 ID:2ird3BC+
鞠莉「それに釈迦は妻子への煩悩を絶つために男色の道へ進んだそうだし、やっぱり男相手なら大丈夫なのよ!」

ダイヤ「何がやっぱりなのですか?」

鞠莉「男色は倫理的で禁欲的ってことよ!」

ダイヤ「?」

115: 2019/07/19(金) 02:22:56.19 ID:2ird3BC+
ひとまず終わり

119: 2019/07/19(金) 23:34:09.71 ID:J49Sl11X
鞠莉「そんなわけで日本では男色が受け入れられて広がって、武士作法と合わさった衆道という文化に繋がったのよ!」

ダイヤ「無理に受け入れる流れが作られたような気がしましたが……それほど同性との繋がりに興味をお持ちでしたのでしょうね……」

鞠莉「そうだ!吉原という遊女屋が集まる遊郭は有名だと思うけど、陰間茶屋という言葉も聞いたことはある?」

ダイヤ「かげま……ちゃや?山の麓にあるような喫茶店のことでしょうか?」

鞠莉「ノンノン!陰間というのは、歌舞伎の女役見習いのことなの!彼らは女性の心を学ぶために男性と関係を持っていたんだけど、そこから転じて若い男娼のことを陰間と呼ぶようになったのね!」

120: 2019/07/19(金) 23:49:32.55 ID:J49Sl11X
ダイヤ「つまり陰間茶屋とは、男娼の集まる売春宿のことですわね?」

鞠莉「正解!高額だったから町民は滅多に利用できなかったんだけど、江戸時代では一般庶民の間にまで、同性と結ばれる行為を嗜む文化が浸透していたのよ!彼らはお金があまり無いから、茶屋を介さずに陰間と関係を持っていたみたい!」

ダイヤ「武士も町民もそれほど男色に熱をあげていて、何か問題は起きなかったのですか?例えば異性との付き合いで起きるような浮気ですとか、取り合いですとか」

鞠莉「起きたよ!同じ陰間を好きになって〇し合いに発展したり、武士に至っては、君主への忠誠よりも男色相手との関係を優先したりと、道徳心はズタボロよ!」

ダイヤ「思った以上に社会問題化していますわね……」

121: 2019/07/20(土) 00:10:56.66 ID:ZlrTs1eB
鞠莉「だから姫路藩3代目当主の池田光政は家中での衆道を禁止して、違反した家臣を追放したり、1652年には江戸町奉行所が、若衆歌舞伎という官能的な芝居をする見世物を禁止したり、日本では宗教的な事情ではなくて、秩序維持のために同性愛は制限されていくの!」

ダイヤ「しかし結局秩序が乱れるとなれば、キリスト教社会が同性愛を禁じたことも正しかったのではありませんか?」

鞠莉「……うーん、そう言えなくも無いけれど、これってルールがはっきりと明示されていないから起こったと思うのよ」

ダイヤ「ルールですか……?」

鞠莉「実際、17世紀中盤以降に男色が禁止され始めてからも、公然と同性愛が行われることは無くなったけど、風習としては残り続けていたの。さっき話した葉隠にしても、出版されたのは1716年なわけだし」

122: 2019/07/20(土) 00:24:45.61 ID:ZlrTs1eB
ダイヤ「はあ、なるほど。つまり同性愛そのものが社会に仇なすわけではなく、行きすぎた行為に制限を与えるだけで、無事コントロール出来るというわけですね?」

鞠莉「そういうこと!男色のうち、どこまでが他人に許容されるのか分かっていないから、君主に逆らったりとエスカレートしたわけであって。他の法律を思えば分かる通り、いきなり全面禁止でその刑罰が処刑や長期刑なんて行為、そうそう無いわよ!」

ダイヤ「〇人や窃盗のような、明らかに他社に不利益を与える対象くらいでしょうね」

鞠莉「これも同性愛者よりも異性愛者のほうが多いことから来る、認識のすれ違いが原因だと思うわ」

ダイヤ「男色が流行ったとは言え、やはり異性愛者が多数を占めるのは仕方ありませんわ。それに、自分が興味の無いものは、相手がどんな気持ちで嗜んでいるのか本当には分かりませんもの」

123: 2019/07/20(土) 00:37:05.95 ID:ZlrTs1eB
鞠莉「日本だけでなく、陰間茶屋のような存在は同時期の他国にもあったの。ロンドンの話をしましょうか」

ダイヤ「ソドミー法が制定されて以来、イングランドでの同性愛の扱いは未だ悲惨なものなのですか?」

鞠莉「前に話したときには機能していなかった法律だけど、もうこの頃には何人もの同性愛者がその犠牲になっていたわ!例えばロンドンの陰間茶屋にあたる建物はモリー・ハウスと呼ばれていて、同性愛者の出会いの場として展開されていたのよ」

ダイヤ「そこの利用客に適用されたのでして?」

鞠莉「クラップという男性が開くモリー・ハウスで強制捜査が行われて、オーナーをはじめ、3人の利用客までもがタイバーンという処刑地に運ばれて絞首刑にされたの!」

ダイヤ「ついに同性愛者が本格的に処罰され始めたことが窺えますわね……」

128: 2019/07/20(土) 23:44:40.16 ID:C7djrllo
鞠莉「この時代になるとようやく、罪刑法定主義という考え方が多くの国で取り入れられ始めたの」
 
ダイヤ「どの犯罪がどれだけの刑罰を受けるかあらかじめ設定しておくことですわね」

鞠莉「アメリカでもそれは同じで、第3代アメリカ合衆国大統領トーマス・ジェファーソンによる草案では、強姦、重婚、ソドミーの処罰は、男の場合は去勢されて、女の場合は軟骨を通して鼻に小さくとも直径0.5インチの穴を1つ開けられる、というものだったのよ!」

ダイヤ「前二つと違って明らかに双方の同意、あるいは個人の意思で行われた行為ではありませんか!何故処罰が等価なのですか!?」

129: 2019/07/21(日) 00:01:25.64 ID:e25it0D9
鞠莉「キリスト教の影響力によって、でしょうね!アメリカではその後ヨーロッパの多くの国が同性愛を非犯罪化していく中でも、なんと2003年になるまでソドミー法が残り続ける州がいくつもあったのよ!」

ダイヤ「そんなにも最近まで同性愛嫌悪は続いていたのですか!?」

鞠莉「同じくキリスト教が力を持ち続けるロシアでは、2013年にもなって、未成年者に同性愛を宣伝する行為を禁止する法律を制定したりと、いかにキリスト教徒にとって同性愛が憎き存在であるか窺い知れるわね!」

ダイヤ「他の欧州諸国でもキリスト教は依然力を持っていたはずですが、何故、同性愛を非犯罪化することになったのでしょう?」

130: 2019/07/21(日) 00:09:18.79 ID:e25it0D9
鞠莉「契機は間違いなく、1789年に発起したフランス革命になるわ!」

ダイヤ「封建制打倒の資本主義革命という認識しかありませんでしたが……」

鞠莉「そもそもフランス人が領主から解放されようと動いたのは、自然権や平等主義、社会契約説、人民主権論といった、理性による人間の解放を唱える啓蒙思想が広がっていたせいなの!」

ダイヤ「一人一人が独立した人間として生きる社会を望んだのですわね!」

鞠莉「フランス革命後の政府は、新しい法典を選択するのだけど、そこではソドミーは犯罪ではないとされていたのよ!」

131: 2019/07/21(日) 00:17:27.13 ID:e25it0D9
ダイヤ「だから他の国もそれに倣い、ソドミーを非犯罪化して行くのですか」

鞠莉「そうよ!1811年にはオランダ、1813年にはバイエルン王国、長らくポルトガルという西欧の影響下にあったブラジルも、フランス革命を励みに独立へ向けて動いて、独立後の1830年にはソドミーの非犯罪化を成し遂げたわ!」

ダイヤ「瞬く間に個人の嗜好が認められていきますわ!」

鞠莉「一方でさっきも話題に挙げたロシアなんかは、1832年に制定した新しい刑法の中で、同性愛行為を5年以下のシベリア流刑に処する犯罪としたんだけどね!」

ダイヤ「実質的に死刑宣告ですわね……」

132: 2019/07/21(日) 00:32:37.52 ID:e25it0D9
鞠莉「ロシアがそんなことをするから、従属国であるポーランドも同性愛行為を違法としたのよ」

ダイヤ「ロシアに関係の無い国では同性愛の違法化は停滞していたのでしょうか?」

鞠莉「うーん、ドイツでは同性愛行為、特に男性によるそれは反自然的だとして、1871年に犯罪行為とされたわ」

ダイヤ「反自然的という思想がキリスト教由来であると思えますわね」

鞠莉「そうね!だけど、ナチスなんかは自分達の言いなりにならないユダヤ教徒やキリスト教徒の存在を嫌がっていたのに、この法律には特に賛同して、数多くの同性愛者の命を奪い去ったのよ」

138: 2019/07/22(月) 23:25:16.40 ID:UNou81qx
ダイヤ「ナチスと言えばユダヤ人の虐〇が有名ですが、同性愛者に対しても強硬策をとっていたのですね」

鞠莉「同性愛者は子孫を残せない劣った存在だと、ドイツでは見なされていたからね!彼らはアーリア人こそが最も優れた人種であり、その血筋を後世へ伝えることが責務だと考えていたの!ユダヤ人を迫害したのも、アーリア人に劣る彼らがのさばることに嫌気が差したからよ」

ダイヤ「そのアーリア人という言葉はよく聞きますが、ドイツ人とは、民族移動でも知られるゲルマン人を祖先に持つ人々ではないのですか?二つの民族の血を受け継いだということでしょうか?」

鞠莉「アーリア人というのは……うーん、言い方は悪いけれど、実はそんな人種は存在しないのよ」

ダイヤ「えっ!?ではナチスドイツは、存在しない血を根拠に、ユダヤ人や同性愛者を処理する方針をとったと……?」

139: 2019/07/22(月) 23:36:21.47 ID:UNou81qx
鞠莉「平たく言ってしまえばそういうことね。紀元前、遥か数千年も昔に、サンクスクリッド語を話す人々がインドに侵入して、そこで文明を築いたのよ。インドやヨーロッパで使われる言語の原型は、すべて彼らの子孫によって生み出されたとされるの」

ダイヤ「ヨーロッパ文明の祖と呼ぶべき人たちですか!」

鞠莉「自分達のことをアーリアと呼んでいたから、マックス・ミュラーというドイツ生まれでイギリスへ渡った19世紀の学者が、その言葉にちなんで、インド人やヨーロッパ人の共通の祖である彼らを指してアーリア人と名付けたの」

ダイヤ「……すると、アーリア人はいたのではありませんか」

鞠莉「いなかったのよ、近年になって科学的な調査が行われた結果ね」

140: 2019/07/22(月) 23:51:02.45 ID:UNou81qx
ダイヤ「なるほど……」

鞠莉「サンクスクリッド語が紀元前から使われていて、ギリシア語やラテン語に類似した特徴を持つことは確かだけど、いったいどの言語が最初に成立したのかは分からないし、それらの元となった祖語がまた別にあるはずなのよ」

ダイヤ「では何故ドイツではアーリア人がすべての始まりだと受け入れられていたのでしょう?」

鞠莉「マックス・ミュラーはじめ、当時の言語学者たちが神話の研究も手掛けていて、善子ちゃんもビックリな壮大な設定をアーリアの歴史に導入したせいよ」

ダイヤ「設定と言うと怒られますわ」

141: 2019/07/23(火) 00:04:26.01 ID:3vbqcU60
鞠莉「聞けばダイヤも驚くわよ?彼らはこう主張したの!現代の人類は、大西洋にあったアトランティス大陸の第四根源人種から進化した第五根幹人種という段階にあって、その人種はアーリア人種であり」

ダイヤ「もう付いていけませんわ……」

鞠莉「まだ始まったばかりよ!アトランティス大陸の生き残りである聖なる教師たちによる選別を受け、そして進化させられた現代の指導者であるアーリア人は神人であり、ドイツ人こそがアーリアの叡智を受け継ぐ正統な民族とされたの!」

ダイヤ「……」

鞠莉「アーリア人の共通イメージは金髪、高貴で勇敢、勤勉で誠実、健康で強靭ってことなんだけど、当時のドイツ人はこのイメージに近付けるよう日々努力して、その励む精神こそがアーリア人の証とも言われたわけ!」

142: 2019/07/23(火) 00:11:35.69 ID:3vbqcU60
ダイヤ「まさかこの与太話をドイツ中で信じていたわけでは」

鞠莉「信じていたのよ!自分達は高潔なるアーリアの血筋で、この世の文明を起こした智恵を受け継いだ神聖な人種だとね!ナチスが生まれるより以前、すでに民衆思想の一部になっていたのよ!」

ダイヤ「……信じられませんわ、このようなオカルトが国をナチズムへと傾倒させただなんて」

鞠莉「信じなくてもヒトラーはこれを謳って政治家になっているわけだし、信じるしかないわよ」

ダイヤ「ヒトラーは何と?」

143: 2019/07/23(火) 00:19:41.91 ID:3vbqcU60
鞠莉「我が闘争という著作の中で、人種は大まかに三段階に分けられ、最上位がアーリア人種で、中でも雑種化していない純粋民族であるゲルマン民族が最も上等である、と書いているの!」

ダイヤ「はっきりと明言していましたわ……」

鞠莉「アーリア人は文化を創生出来るけど、ユダヤ人は破壊することしか出来ないのよ。だから危険な存在であるユダヤ人を自分達の生存圏、生存圏というのもドイツで生まれた言葉なんだけど、簡単に言えば国家が自給自足できる領域ね、ここから排除しなくてはならなかったの」

ダイヤ「同性愛者もまた、純粋なアーリアであるドイツ人を増やすことが出来ないから、生存圏で養う必要がないということですか」

鞠莉「そういうこと!」

144: 2019/07/23(火) 00:28:00.89 ID:3vbqcU60
ダイヤ「聞きそびれていましたが、そもそもユダヤ人が標的になった理由を聞かせてもらえまして?」

鞠莉「ユダヤ人はユダヤ教を信仰するから、キリスト教徒の増えたヨーロッパでは疎ましい存在でしょ?だからナチスに限らず、ヨーロッパ人は基本的に何百年もユダヤ人を嫌い続けていたのよ。ナチスはその嫌忌思想に乗じただけなの!」

ダイヤ「はあ、そうだったのですね……」

鞠莉「それでユダヤ人と同性愛者は同様に迫害を受けるんだけど、少なくとも後者に対してのそれは、当初そこまで過激なものではなかったのよ」

ダイヤ「すぐに捕らえられて死刑というわけではなさそうですわね」

鞠莉「まず女性同性愛者は危険視されなかったんだけど、これはいざとなれば無理にでも子供を作らせることが出来るからでしょうね」

145: 2019/07/23(火) 00:36:16.26 ID:3vbqcU60
ダイヤ「すると男性だけが?」

鞠莉「まあその男性にしても、アーリア至上主義の思想を受け入れて恋人との関係を絶てばそれで無罪放免だったのよ。そもそもドイツ国内にいても、ドイツ人でなければ同性愛は許容されていたしね」

ダイヤ「程度の軽い踏み絵みたいなものですか」

鞠莉「ところが1933年の5月に、ドイツにある性科学研究所が国の部隊に襲撃されて、そこに収容されていた5万点以上もの蔵書や絵画が焚書されたことによって、同性愛文化が根絶される流れが生まれたの」

ダイヤ「突然雲行きが変わりましたわね……」

鞠莉「同性愛者の多く集まるバーやクラブも閉鎖させて、翌年にはゲシュタポと呼ばれる秘密国家警察が、国内の同性愛者の名簿を集めて管理し始めたわ」

147: 2019/07/23(火) 00:47:46.29 ID:3vbqcU60
ダイヤ「たった1年で急加速しすぎではありませんか」

鞠莉「1871年にドイツは同性愛を禁じる法律を制定したって話はしたよね?1935年にはさらに拡大解釈できるように改訂して、同性愛行為を意図するか、あるいは思っただけでもそれは同性愛行為をしたとされることになったのよ」

ダイヤ「思っただけで、とはどのように判断するのですか?」

鞠莉「まず名簿を見て自宅へ行くでしょ?そして本人を遠目に見るの。何かあいつ同性愛行為をしたいと思ってそうだな~、と警察が思ったら強制収容所送りよ!」

ダイヤ「でしょうね……」

鞠莉「例えば同性愛者がそれを理由に捕まって拘置所に入るでしょ?道徳を説いてもらって改心したから彼は釈放されるのよ。それで帰る姿を見ながら、やっぱり反省してないかもな~、と警察が思ったら、強制収容所送りよ!」

ダイヤ「でしょうね……」

148: 2019/07/23(火) 00:54:38.07 ID:3vbqcU60
鞠莉「でもそんなことをしていたら二度手間じゃない?1938年にはさらに進んで、同性愛者であれば有罪判決後、即強制収容所送りにしてもよいとされたの」

ダイヤ「かつての各国における同性愛者迫害に比べてかなり病的ですわね……」

153: 2019/07/23(火) 23:56:16.56 ID:jedHUNun
鞠莉「結局1933年から1945年までの間に、5千人~60万人もの同性愛者が強制収容所送りになったと言われているわ」

ダイヤ「数字の開き具合がおかしいのでは?」

鞠莉「あまりにも流れ作業的に裁判を行ったせいで、男性女性をそれぞれ何名ずつ処罰したかなんて記録が残っていないのよ。後年の研究で、それぞれの学者がおおよその数字を出しただけであって」

ダイヤ「最終的には女性も捕まっていたのですか?」

鞠莉「と、言われているわ。これも明確な資料がそれほど残ってないみたい。ダイヤはピンクトライアングルって聞いたことある?」

155: 2019/07/24(水) 00:17:36.01 ID:Dp02KDso
ダイヤ「いえ、初めて耳にしますわ」

鞠莉「強制収容所に送られた囚人は、それぞれ罪状によって色の異なる三角形の胸章を着けさせられていたのよ。男性同性愛者の場合はラベンダーピンクで、女性はブラックだったと残されているわ」

ダイヤ「では女性も対象であったということですわね」

鞠莉「さっきも言った通り、何人が捕まったかは定かじゃないけどね!」

ダイヤ「その男性の胸章の色を取って、ピンクトライアングルと呼ぶのですか……そう言えば、同性愛者によるデモ活動で、シンボルと思われる虹色の旗を掲げる人々がピンクの服を着ていることがありますが、もしかしてピンクトライアングルから着想したのでしょうか?」

156: 2019/07/24(水) 00:34:34.06 ID:Dp02KDso
鞠莉「それは……たぶんあまり関係ないわ」

ダイヤ「そうでしたか……」

鞠莉「でも、レインボーフラッグがデザインされる前は、ピンクトライアングルが同性愛者たちの活動シンボルだったのよ?ナチスの被害を受けた人たちは戦後に補償を受けられたのに、同性愛者の虐〇虐待は記録の少なさから実状が知られず、何の助けも得られなかったから……」

ダイヤ「それで自ら流用することで、ナチスによる同性愛者迫害が忘れてはならない出来事であることを広めたのですね!」

鞠莉「そういうことよ!ちなみにデモで目にするピンク色というのは、単純にピンクがセクシャリティを想起させる色だからなの!この場合は性的本能という意味もあるけど、性の振る舞いという意味合いが強いわね!」

157: 2019/07/24(水) 00:47:19.11 ID:Dp02KDso
ダイヤ「そういうことでしたか!」

鞠莉「ピンクトライアングルのピンクも、性をイメージする色ということで与えられたもかもしれないけどね!まあ、そうやって囚人の罪を色分けしたから誰が何の罪で収容されたか丸分かりで、強制収容所内での看守による同性愛者への扱いはとても悲惨なものとなったのよ」

ダイヤ「それは他の罪よりも重く見られたのですか?」

鞠莉「政治犯にわざと同性愛者の胸章を着けで収容所送りにしたくらいにはね。ナチスドイツを政治的に否定するよりも、ただ同性を好きであるということが重罪だったわけ」

ダイヤ「物凄い価値観ですわ……」

158: 2019/07/24(水) 00:58:13.23 ID:Dp02KDso
鞠莉「ナチス隊員の中には同性愛は治る病気だと信じる人も多くいて、彼らを正しい思想へ導くために善意から屈辱と重労働を与えていた人もいたのだから目も当てられないわ!」

ダイヤ「精神に訴えかければ矯正できると信じていたのですね……」

鞠莉「他にも同性愛を伝染病と考えて、他の囚人や看守に移らないよう隔離して餓死へと追いやったり、他の囚人よりも罪が重いのだからと、より危険な任務を割り当てたりと、同性愛者が強制収容所を生き抜く道筋はことごとく潰されていったの」

ダイヤ「あらゆる思想から同性愛者が追い詰められていますわ……」

鞠莉「唯一平穏なときと言えば、それは同性愛者の囚人が運良く管理職や事務職を与えられたときでしょうね」

159: 2019/07/24(水) 01:03:57.02 ID:Dp02KDso
ダイヤ「へえ、そのようなこともあるのですか」

鞠莉「本当に時々だけどね!そうして囚人たちの班長になった人は、囚人から性的な行為をしてもらう代わりに、食事を多く与えたり、他の囚人の虐待から彼らを守ってあげたのよ!とは言っても、他の看守からの虐待は受けるし、本当に気休め程度でしかなかったのだけれど」

ダイヤ「ですが、一時とはいえ安全が買えるというのは大きいですわ!」

鞠莉「まあ囚人班長がその若い囚人に飽きて〇して、また違う囚人に慰めてもらうなんてこともあって、様相はカオスになっていくけどね……」

ダイヤ「ええ……そうですか……」

160: 2019/07/24(水) 01:08:01.78 ID:Dp02KDso
鞠莉「やっぱり彼らが助かるには、強制収容所へ運ばれる前に病気を治すことだけだったの」

ダイヤ「病気とは同性愛のことですわね。屈辱や重労働によらない治療法などあったのですか?」

鞠莉「屈辱は屈辱よ……その方法は去勢するというものなの」

ダイヤ「治療と言いますか……」

鞠莉「性欲も同性への興味も無くなるし、これは治療よ!」

ダイヤ「治療だとして、それを受ける方はいたのですか?」

161: 2019/07/24(水) 01:21:27.20 ID:Dp02KDso
鞠莉「はじめは選択できたのだけど、ナチスは同性愛の根治的治療に興味があって、ひとまず全員去勢することにしたのよ」

ダイヤ「嫌な予感がしますわ……」

鞠莉「去勢は失敗することもあるし、もっとノーリスクで治療だけ成し遂げたいわよね。そこで後世の病人のために、今の同性愛者には犠牲になってもらうことにしたの」

ダイヤ「犠牲……」

鞠莉「ナチスドイツの人体実験では双子に対するものが有名かしら?双子を縦に半分に切り裂いて、それぞれの半身を縫い合わせて復活を祈ったり」

ダイヤ「……」

鞠莉「双子以外では、筋繊維を取り除いて再生しないか見られたり、傷口に破傷風菌を塗りつけてその経過を調べたり、傷にガラス片を入れて回復の度合いを比べたり。同性愛の治療のために呼ばれたはずなのに、次第にこうした多くの実験を試す道具として扱われていったのよ」

164: 2019/07/25(木) 00:03:43.97 ID:DQEbArM8
ダイヤ「本当におぞましいことが起きていたのですね……」

鞠莉「しかも彼らの地獄は、ドイツが敗戦して、連合国軍によって強制収容所からユダヤ人はじめ多くの囚人が解放されてからも、まだ終わらなかったのよ」

ダイヤ「どうしてですか!?」

鞠莉「同性愛者が捕らえられていたのは、刑法第175条に基づく立派な犯罪としてだったからよ!」

ダイヤ「確かに……人種を理由に捕まったユダヤ人とは経緯が違いますわ!」

165: 2019/07/25(木) 00:10:55.48 ID:DQEbArM8
鞠莉「だから彼らは、刑期が終わるまでの期間、服役することを要求されたの」

ダイヤ「せっかく自由の身になれると思ったのになんという仕打ちでしょうか!」

鞠莉「それにこの問題はさらに尾を引くのよ。ドイツは第二次世界大戦後に、その反省からナチスに関わる文化風習や法律を改正していくのだけど、東ドイツでは1968年、西ドイツではなんと1994年になるまで、175条は有効とされ続けていたのよ!」

ダイヤ「では戦後以降も同性愛を理由に有罪判決を受けた人々は、謂れの無い罪によって苦しみ続けたのですね……」

166: 2019/07/25(木) 00:21:07.83 ID:DQEbArM8
鞠莉「彼らは前科の汚名を晴らすために長く戦い続けてきて、ようやくその有罪判決が無効とされたのはほんの2年前、2017年になってのことだっていうから驚きよ!」

ダイヤ「報われて良かったですわ!」

鞠莉「存命と見られる犠牲者でさえ5000人だというから、どれほど多くの人々がこの法律に苦しめられたかと思うと胸が痛むわ……」

ダイヤ「同感ですわ、鞠莉さん!」

鞠莉「こうしてようやくナチスによって苦しめられた同性愛者は平穏を取り戻したってわけ」

ダイヤ「ドイツ以外の国では同性愛者は徐々に認められつつあったのでしょうか?」

172: 2019/07/27(土) 00:44:25.55 ID:WDX63NdF
鞠莉「1836年にはイギリスで、同性愛に対する最後の処刑が行われたりと、世界的には同性愛はもう犯罪ではないとする国が増えていくわね!まあイギリスの場合は絞首刑が懲役刑になっただけで、まだまだ当たりは強いけれど!」

ダイヤ「それでも進歩には違いありませんわ!」

鞠莉「皮肉にもこの流れを加速させたうちの一人に、カール・ハインリヒ・ウルリヒスという、名前の響きで分かる通りにドイツ人がいたのよ。同性愛者の権利を認めるべきだと1867年に宣言したんだけど、まさか自国があんなことになるとは思いもよらなかったでしょうね!」

ダイヤ「ドイツにもそのような先進的な方がいたのですか」

173: 2019/07/27(土) 00:55:43.98 ID:WDX63NdF
鞠莉「他にもクラフト=エビングという医学者がいて、両性愛、異性愛という単語を初めて現在の意味で用いたり、マグヌス・ヒルシュフェルトという内科医が、科学人道委員会という同性愛者保護の団体を立ち上げたりと、ナチスの発足までは非常に革新的な国家だったのよ」

ダイヤ「そうだったのですか。その意思を引き継いで、他の国で同様の団体が生まれたりもしましたか?」

鞠莉「そうね、1897年にはイングランドのカイロネイア団が結成されたわ!アメリカでは1903年にニューヨークの発展場が摘発されて26人もの男性が逮捕されたのだけど、そうしたことに反発する流れから、1924年にはシカゴで同性愛者のための人権協会が作られたの!」

ダイヤ「何だか世界全体が大きく動き始めた感じがしますわね」

174: 2019/07/27(土) 01:07:51.69 ID:WDX63NdF
鞠莉「そうなってくると同性愛者たちの集いでは、より仲間同士の結束を強めるために、自分達を指す特有の呼称を用いるようになったの!」

ダイヤ「例えばゲイやホモといった言葉でしょうか?」

鞠莉「そうよ、正解!1910年代には男性同性愛者をファゴットと呼ぶ文化があったそうだけど、1920年に入るとゲイという言葉も生まれてくるの」

ダイヤ「ファゴットとは楽器の?」

鞠莉「語源は同じはずよ!イタリア語でファゴットは、棒の束を表すのよ!ちなみにさらに元を辿ると、ラテン語のファスキス、これは棒という意味ね、そこへ行き当たるのだけど、ファスキスはファシストの語源でもあるのよ」

175: 2019/07/27(土) 01:15:02.89 ID:WDX63NdF
ダイヤ「ナチスが自らを国家社会主義なんて自称して、決してファシズムと名乗らなかったのはそのせいかもしれませんわね!」

鞠莉「何だか自意識過剰に思えて面白いわよね!今ではファゴット、省略してファグというのは同性愛者への蔑称として使われることが多くて、やっぱりゲイという言葉がよく好まれるのだけど、この言葉の歴史も相当深いのよ!」

179: 2019/07/27(土) 22:35:14.35 ID:2Yw+wfEd
ダイヤ「関係があるか分かりませんが、ルビィの服飾ケースの中に古い時代の装飾ボタンがいくつかありまして。そこにゲイナインティーボタン?という、金属ボタンにガラス玉の嵌め込まれたものがあるのですが、このゲイというのは」

鞠莉「あっ、そうよ!ゲイ・ナインティーボタンのゲイは、同性愛者を指すゲイと同じ言葉なの!正確には、同性愛者という意味を持つ前の使われ方だけどね!」

ダイヤ「意味合いが変わったということですか」

鞠莉「ゲイ・ナインティーボタンはイギリスではヴィクトリアンボタンと呼ばれていてね、ヴィクトリア女王がイギリスを治めていた1837年から1901年、ヴィクトリア朝に生まれたボタンだからそう名付けられたのよ」

ダイヤ「ではゲイ・ナインティーボタンという呼称はどちらの国で用いられていたのです?」

180: 2019/07/27(土) 22:47:14.21 ID:2Yw+wfEd
鞠莉「英語であることから察する通り、同時期のアメリカよ!1890年代のアメリカをゲイ・ナインティーズと呼ぶことがあるの!ゲイという言葉はそもそも、お気楽だとか、いい気分だとか、目立ちたいなんて意味で使われていたのよ!」

ダイヤ「19世紀後半のアメリカと言えば、西部劇の舞台となる時代ではありませんか?確かに自由気ままに暮らしているイメージがありますわ!」

鞠莉「白人がインディアンの土地を征服して開発していた頃ね。1890年にはすべてのインディアンの掃討が完了したと報告されて、アメリカがアメリカとして真に独立した時代なのよ」

ダイヤ「目下の任務が一段落してまさにいい気分を感じていたのでしょうね!」

181: 2019/07/27(土) 22:59:09.69 ID:2Yw+wfEd
鞠莉「まあそんなわけで特に性的な何かを指す言葉じゃなかったんだけど、ゲイという言葉は幅広い意味にも対応できたから、17世紀には、享楽と放蕩に明け暮れるって意味を与えられて、売春婦やプレイボーイに対してゲイと呼ぶ風習もあったわけ」

ダイヤ「便利な言葉ですわね!」

鞠莉「あとは、自分の享楽しか考えてない人って人としての魅力に欠けるでしょ?だから20世紀中頃には中年の独身男性がゲイと呼ばれていたり、あるいはその自由気ままさからやっぱりゲイは独身を指したり、同じ対象に使われるにも多方向から色んな意味を与えられていたのよ」

ダイヤ「日本語では該当する言葉が見当たりませんわ」

182: 2019/07/27(土) 23:06:45.06 ID:2Yw+wfEd
鞠莉「近年ではイギリスやアメリカの若者言葉で、相手をバカにする意味合いでゲイが使われることもあるのよ。でも、ちょっと感覚的に分かりづらくて」

ダイヤ「お前はゲイだ、と言えば、それは女々しいとか男なのに男が好きなのか、といった罵倒のように思えますが」

鞠莉「この場合のゲイに、性的な、もしくは同性愛を指す意味合いは全く無いのよ。バカやアホと言ってるに過ぎないの」

ダイヤ「ですが、ゲイが同性愛者を指すことは存じ上げているのではありませんか?」

鞠莉「それはそうだけど、例えば日本人が悪口としてクソと言ったとき、果たして脳裏にうんこが浮かんでいるか、と言うと近いかしら」

183: 2019/07/27(土) 23:17:30.57 ID:2Yw+wfEd
ダイヤ「まあ、浮かんでは……いないでしょう……」

鞠莉「そんなわけでゲイという言葉は使い勝手がいいのよ。気ままという、ゲイの持つ意味の通りの言葉ね。気ままであり制約に縛られない、そうした範囲設定の自由な言葉が性生活の在り方にまで拡大された結果、1920年にはゲイが同性愛者を指すゲイとして機能し始めるの」

ダイヤ「宗教的な伝統や性的な慣習に囚われないという状態を示すのにちょうどいい言葉ですものね!」

鞠莉「この辺りから出版物の中でも、ゲイが同性愛者を表す言葉として使われるのよ。一番古いとされるものは、1922年にガートルード・スタインというアメリカの詩人が書いた、ミス・ファーとミス・スキーンでしょうね」

184: 2019/07/27(土) 23:22:27.71 ID:2Yw+wfEd
ダイヤ「たまたま意味が被った、であるとか、ちょっと流行に乗ったというのではなく、明らかに意図してゲイを使っているのですか?」

鞠莉「あいつらは…ゲイだ。やつらはゲイになるってのがどういうことかをちょいとお勉強したのさ。まったくきちょうめんなほどのゲイだったね。」

鞠莉「まあ明らかと言って良いでしょう!他にも多くの劇作家や役者が、ゲイを同性愛者と認識した上で、ゲイという言葉を発するようになっていくのよ」

188: 2019/07/28(日) 23:49:12.02 ID:LnCUHBfO
ダイヤ「鞠莉さんの話を聞くと、今から1世紀も前にはすでに同性愛が広く受け入れられている印象を受けますが、どうしてここ最近になっても、LGBTの方々が世界中でその人権を認めてもらおうと活動しているのですか?」

鞠莉「その質問の前提が違うということよ!広く受け入れられてはいなかった、が正しいのよ」

ダイヤ「そうであれば、ここまでの話もまた正しくない部分があったのでしょうか?」

鞠莉「そういうことではないの、物事には順序があってね!」

189: 2019/07/28(日) 23:54:03.78 ID:LnCUHBfO
鞠莉「まず多くの国が同性愛を非犯罪化したでしょ?でも法で許されたからといって、国民の心情までもが同時にポジティブな方向へ変わるわけではないのよ、当たり前だけどね」

ダイヤ「それはそうですわ」

鞠莉「国によって同性愛者が嫌悪された理由は千差万別だけれど、そもそも8割以上の人は異性愛者なわけだし、生理的に受け付けなかったり、理解しようにも感覚がまるで分からないということは当然あるでしょう」

ダイヤ「すると歩み寄ろうにも難しいですわね」

190: 2019/07/29(月) 00:01:11.08 ID:36lbSJ7m
鞠莉「だから勇気ある先駆者たちが、いったいどれほど自分達は世間に受け入れられているのかを計り始めたのよ」

ダイヤ「どのようにして?」

鞠莉「例えば2016年に日本の労働組合総連合会が発表した統計によると、実に35パーセントもの人たちが、自分の上司が同性愛者であった場合、それを嫌だ、あるいはどちらかと言えば嫌だ、と答えたとされているのよ」

ダイヤ「やっぱり全く受け入れられていないではありませんか!」

191: 2019/07/29(月) 00:06:35.72 ID:36lbSJ7m
鞠莉「これって逆に言えば、事前に同性愛者だとカミングアウトしているのに人の上に立つことを許された場合、同性愛に対する理解もまた同時に、その投票数の数だけ存在すると受け取れるわよね?」

ダイヤ「はあ、なるほど……」

鞠莉「アメリカでは1961年に、ホセ・サ リアという人物が、自身を同性愛者だと認めた上で公職の候補に名乗りを上げて、市政委員に当選しているのよ」

ダイヤ「他の国々でも、まずは政治家を目指す同性愛者が増えたのですわね」

192: 2019/07/29(月) 00:19:25.30 ID:36lbSJ7m
鞠莉「例えば日本では1971年に参議院議員選挙に立候補した東郷健が有名かしら?まあ落選してしまったんだけどね」

ダイヤ「いきなりそう上手くは行かないでしょうし」

鞠莉「特にアメリカではこの流れが継続して、1974年のキャシー・ゴザチェンコ、1975年のエレイン・ノーブルはそれぞれ市議会議員、議会下院議員になったりと、やっぱり同性愛者を認める一般人がいることが分かってきたの」

ダイヤ「国民もまた彼らの当選を見て、自分達の仲間が多くいると勇気を貰えたわけですか」

193: 2019/07/29(月) 00:28:20.47 ID:36lbSJ7m
鞠莉「こうした動きを後ろから支えていたのは、何と言っても1957年にエヴァリン・フーカーという心理学者が出した研究結果でしょうね。同性愛者も異性愛者同様、社会に適合していることを示して発表したのよ」

ダイヤ「同性愛嫌悪は、個人の思想によるところが大きいと証明されたのですね!」

鞠莉「これを受けてアメリカ精神医学会が同性愛を疾患の項目から取り除いたり、後には1992年にWHOが、疾病及び関連保健問題の国際統計分類から同性愛を除くことに繋がったりしたんだよ!」

ダイヤ「法が変わり、代表者に同性愛者が増え、そして病気でもないことが分かってようやく、昨今のLGBT団体の活動へ繋がっていくのですか」

鞠莉「自分達は決してアブノーマルな存在ではないと前向きになることが出来たからね!」

199: 2019/07/30(火) 23:29:13.78 ID:xsdg/ihB
鞠莉「この頃になると女性同士の恋愛、いわゆるレズビアンの関係にある人たちも声を挙げはじめたの」

ダイヤ「それは世界的にですか?」

鞠莉「例えばアメリカでは、50年代には都市部でレズビアンバーが増大したのよ。その後、マッカーシズムという保守運動をきっかけに迫害されるのだけど、やっぱり70年代になる頃にはフェミニズムや公民権運動からの流れで、同性愛者の権利も認めようと動き出したりね」

ダイヤ「フェミニズムと公民権運動?」

200: 2019/07/30(火) 23:36:39.78 ID:xsdg/ihB
鞠莉「フェミニズムは女性解放思想、社会における女性の権利を認めようという動きで、公民権運動は女性ではなく、黒人に対するものよ」

ダイヤ「なるほど、社会的弱者に同性愛者が含まれていたということですか!」

鞠莉「日本でも大正から1970年頃に掛けて、変態性欲、普通の人は性欲を抱かない対象を好む嗜好を嫌悪する考えが広まっていたの」

ダイヤ「現在とは変態の言葉の持つ意味合いが少し違うのかもしれませんが、名前からして蔑視する気満々ですわね……」

201: 2019/07/30(火) 23:53:16.45 ID:xsdg/ihB
鞠莉「そんな中で世界的な動きに後押しされてか、1971年には日本初のレズビアンサークルが出来たりと、自分達の存在を隠さなくなったわけ。この集まりは5年で500人ほどのメンバーになって、会誌まで出していたわ」

ダイヤ「中々に大々的ですわ」

鞠莉「1972年にはスウェーデンが世界で初めて、性同一性障害の方が法律上の性を変更することを認めて、1975年にはパナマがそれに追随したりと、性の在り方が決して生まれつき決定付けられたものではないという考えが広まっていった時期なのよ」

202: 2019/07/31(水) 00:03:05.74 ID:MA25/5Ch
ダイヤ「男性でありながら男性を好む、女性でありながら女性を好む、そしてまたそれぞれの肉体を持ちながらも心ではまた別の性を有する、という多様性が認められ始めたのですか」

鞠莉「同性愛とは心の繋がりだけではなく、その心を持つ肉体あってのことですもの。現代になってようやく、そのことに人類は思い当たったのよ」

ダイヤ「人は自分の体と心に正直に生きて良いのですね」

鞠莉「……だから、女性同士で恋愛することって、全然後ろめたくなんかないの」

ダイヤ「……」

203: 2019/07/31(水) 00:04:55.38 ID:MA25/5Ch
鞠莉「だから、ダイヤも同じことを思ってくれているのなら……」

ダイヤ「……」

鞠莉「……目を閉じて」

ダイヤ「……」

鞠莉「それがダイヤの気持ちの合図だから……」

204: 2019/07/31(水) 00:06:51.02 ID:MA25/5Ch
ダイヤ「わたくしも、鞠莉さんのことを……」

鞠莉「ダイヤ……好きよ……」

ダイヤ「鞠莉さん……」

善子「こらぁーーーっ!学校で何てことしてるのよ!!!!??」

鞠莉「What!?」

ダイヤ「善子さん!?」

205: 2019/07/31(水) 00:10:48.87 ID:MA25/5Ch
善子「全然部室に来ないから探しに来たのに、変なシーン見せ付けないでもらえないかしら!」

ダイヤ「変!?聞き捨てなりませんわ、善子さん!同性愛は全く変なんてことありませんのよ!?」

善子「ってヨハネ!同性愛は変じゃなくても二人とも高校生でしょ!それって不健全性的行為、いわゆる不純異性交遊にあたるのよ!?」

ダイヤ「不純ですって?わたくしと鞠莉さんは心から愛し合っているのですわ!」

鞠莉「そうよ!邪魔しないでよ!」

207: 2019/07/31(水) 00:13:23.72 ID:MA25/5Ch
善子「例え愛し合っていても同性同士であっても、未成年を法的に保護するという見地から不良行為のひとつとして定められているの!例えば1996年に東京都で~

208: 2019/07/31(水) 00:16:51.43 ID:MA25/5Ch
花丸「鞠莉ちゃんとダイヤさん、一週間の謹慎処分みたいずら」

千歌「生徒会長と理事長が何やってるんだろね……Aqoursのリーダーとして不面目だよ」

花丸「その不面目って言葉、実は仏教用語なんだよ。人間の生活活動や意識活動以前の生かされてある命の有り様・姿のことを面目といって、これお釈迦様が~

209: 2019/07/31(水) 00:17:23.50 ID:MA25/5Ch
花丸「鞠莉ちゃんとダイヤさん、一週間の謹慎処分みたいずら」

千歌「生徒会長と理事長が何やってるんだろね……Aqoursのリーダーとして不面目だよ」

花丸「その不面目って言葉、実は仏教用語なんだよ。人間の生活活動や意識活動以前の生かされてある命の有り様・姿のことを面目といって、これはお釈迦様が~

210: 2019/07/31(水) 00:17:27.16 ID:MA25/5Ch
終わり

213: 2019/07/31(水) 00:44:22.35 ID:6rpoEIme
乙!
凄い勉強になるスレだった そして善子と花丸の知識もなんかヤバそうw

214: 2019/07/31(水) 12:42:00.48 ID:fr42cC33
面白かった
仏教編も見たいわ

216: 2019/08/01(木) 06:53:44.22 ID:oHfHgsIV

告白に時間かけすぎぃ

217: 2019/08/01(木) 20:58:29.22 ID:tlaiNd6e

218: 2019/08/02(金) 02:19:37.41 ID:WdP0er3L
乙です、切り口が斬新で面白かったし考えさせられた
世界史好きとしてすごく楽しいSSだったわ
是非また何か書いてほしい

219: 2019/08/02(金) 14:01:26.07 ID:plNgGuXv
おつおつ
こういう面白くて雑学も身につくSS好き
善子と花丸それぞれがメインの話も見てみたいので気が向いたら書いてくださいな

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1562680237/

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