璃奈「私はシュレーディンガーの猫」

SS


1: 2020/09/14(月) 22:32:25.02 ID:qIa8zDv/
ポツリ…ポツリ…

愛(やばっ!?雨降ってきた!?早くウチに帰らないと……!)タッタッタ…
??「…………」


愛(ん……?道端に誰かうずくまってる……?)

愛(ニジガク中学部の制服……?あの子は……?)


璃奈「…………」


愛「お~い?りなりー、だよね……?」

璃奈「あ。愛さん、こんにちは」

愛「こ、こんにちは……じゃなくって!」

璃奈「……?」


愛(なんで……?傘もささずに地面にしゃがみこんで……?)


璃奈(“こんにちは”じゃない……?)

璃奈(あれ?もう“こんばんは”の時間かな―――?)





約1.5万字 モブが2人でます

3: 2020/09/14(月) 22:33:31.85 ID:qIa8zDv/
愛「どったの!?具合が悪いの!?」

璃奈「具合?私は元気だよ……?」

愛「ほんとに!?立てる!?歩ける!?アタシが負ぶってあげるから―――!!」


璃奈(……あぁ、そっか)


璃奈「ごめん、不自然だった……?」

愛「不自然っていうか……!」

璃奈「私は元気。ほら……立てるし、動ける」スッ…

愛「そっか……よかった……」

璃奈「……」

6: 2020/09/14(月) 23:27:10.43 ID:qIa8zDv/
璃奈「見て。愛さんが教えてくれたボディランゲージ『マッスル』」マッスル

愛「わぁ……!覚えててくれたんだ!」

璃奈「このポーズをすると力が沸いてくるんだよね?なんたって―――」チラッ

愛「なんたって……!マッスルが増すから!」

璃奈「うん、筋肉に勝るものはない。あるとすれば―――」チラッ


愛「マッスルにまっさるもの!それは週末の豪華客船の旅!」


璃奈「!?」

愛「金曜に出港するクルーザー……金にクルーザー……きんにくるーざー……」

愛「筋肉LOSER、だ・け・に!!!!!!!!」

璃奈「うん、そうなんだ」

7: 2020/09/14(月) 23:29:08.74 ID:qIa8zDv/
愛「それで、しゃがみこんで何してたの?」

璃奈「ブラジルの人と会話してた」

愛「????????」

璃奈「というのは嘘。この『箱』を見てたの」

愛「箱?」


璃奈「この―――棄てられた箱を」


愛(箱……確かに箱だ)

愛(Amaz○nでサコッシュを買ったときくらいの“少し大きめの箱”)

愛「何が入ってるの?」

璃奈「分かんない。でも―――多分、猫だと思う」

8: 2020/09/14(月) 23:30:57.20 ID:qIa8zDv/
愛「それより、屋根があるところに移動しよ?ここだと濡れちゃう……!」

璃奈「濡れちゃう?……あぁ、そういえば雨だね」

璃奈「ご心配なく。私には“これ”があるから」ヒョイ

愛「スケッチボード?」

璃奈「今日の授業で使ったの」

璃奈「こうやって……頭上に被せると雨が防げる」

愛「でもそれだとボードが……」

璃奈「ダメになったら、また新しいものを買えばいい」

璃奈「……というか、もうこれに“それ以外の使い道”がないし」

愛「使い道がない……?」

璃奈「今日が最後の授業だったから」

9: 2020/09/14(月) 23:33:24.56 ID:qIa8zDv/
璃奈「そういえば、愛さんは帰る途中?」

愛「へっ?……うん、駅からウチまでは徒歩だから」

愛(愛さん“は”……?)

璃奈「そうなんだ。気を付けて帰ってね」


璃奈「……私はもう少しこの箱を観察するから―――」


愛「……」

愛「よっこいしょういち!!」ヒョイ

璃奈「あ」

愛「私が箱を運ぶから!りなりーも移動するよ!」

璃奈「あ、うん……ありがとう」

10: 2020/09/14(月) 23:36:05.53 ID:qIa8zDv/
愛「とりあえず雨がしのげる場所まで来たけど……」

愛「この箱、どうする?」

璃奈「うーん……」


愛「中身が分からない箱って……ドキドキするけど……ちょっと不気味だよね」


璃奈「…………」


璃奈「私は猫が入ってると思う」

愛「ん?どうして?」

璃奈「まず、道端に棄てられるものって……ゴミか、あるいは飼いきれなくなったペットだと思うけど……」

璃奈「この箱はきれいに梱包がされてる。ゴミを棄てる人間はわざわざこんなことしない」

愛「確かに届きたてのAmaz○nみたいな箱だね」

璃奈「これは元飼い主の罪悪感の表れだと思う」

璃奈「それに……よく見て。箱の側面に……」

愛「あっ……『どうか拾ってあげてください』って……小さく書いてある」

璃奈「うん。この文字列はゴミに対して使用しない」


愛「……でも、どうして『猫』だと思ったの?」

11: 2020/09/14(月) 23:37:51.94 ID:qIa8zDv/
 

どうして―――?

その答えは『好きだから』 だよね きっと

それは『中身が分からない箱』も同じ

私“たち”は よく似ている
 

12: 2020/09/14(月) 23:39:37.29 ID:qIa8zDv/
璃奈「それは……」

愛「それは?」

璃奈「私のエゴだよ」

愛「えっ……」

璃奈「猫を飼いたい、という私の願望が生み出した都合のいい解釈だよ」

愛「……猫、飼いたいんだ?」

璃奈「うん。お家(おうち)、ひとりでヒマだし。飼えないけど」

愛「そっか……よし!」

璃奈「……?愛さん?」

愛「開けよう!この箱の中身を確かめよう!きっと猫が入ってるはず!」ガサゴソ

璃奈「あ、開いた」


璃奈・愛「これは――――――!!」

13: 2020/09/14(月) 23:41:02.19 ID:qIa8zDv/
猫「ニャーン……」

璃奈「猫だ……!」

愛「猫ちゃんだ♪かわいい♪」

璃奈「元飼い猫……みたいだね……?」

愛「お~、よしよし……♪」モフモフ

猫「!!」プルッ

猫「……♪」ゴロゴロ

璃奈「かわいい……♪」

愛「りなりーもモフろ?」

璃奈「えっと、私は……」

愛「あれ?猫アレルギー?」

璃奈「ううん、そうじゃなくて……」


璃奈「私、小動物に避けられるきらいがあるから」

14: 2020/09/14(月) 23:42:09.36 ID:qIa8zDv/
愛(……あぁ、そっか。それは―――)


璃奈「私にそのつもりはないんだけど、私の“表情”は威嚇と認識されるみたい」

愛「そ、そうなんだ。でも、だいじょ~ぶだよ!この子、人懐っこいみたいだから!」

猫「ニャーン」ゴロゴロ

愛「ほらほら!この子も言ってるよ!」

璃奈「じゃあ……」ジリジリ…

猫「……!」プルッ

璃奈「あっ……」

猫「!!!!」ジー…

愛「あはは……この猫ちゃんは引っ込み思案なのかな~?なんて……」

璃奈「……」


璃奈「ぴえん」

15: 2020/09/14(月) 23:43:53.71 ID:qIa8zDv/
愛「それで、どうしよっか?この猫ちゃん?」

愛「ウチは飲食だから猫を飼うのは“ありよりのなし”かな~」

璃奈「同じく。私のお家はペット共生不可……」カキカキ…


璃奈「……」キュッキュッ…


愛「ん?りなりー、なに書いてるの?」

璃奈「対猫用近接支援システムを作ってる」

愛「たいねこ……?えっと、スケッチボードにりなりーの似顔絵を描いて……?」

璃奈「うん。私の『にっこりん』な似顔絵だよ」

愛「へぇ~……!りなりー上手だね!」

璃奈「そう?ありがとう」

愛「そういえば授業でスケッチボードを使ったって言ってたね!」

璃奈「うん。中学部には美術の授業があるから」

愛「中学部“には”?」

璃奈「高等部では選択科目じゃないかな?」

愛「あ~、言われてみればそうかも」

璃奈「私の5番目くらいに好きな科目。絵を描くの好きだし」

璃奈「でも今日が最後の授業だった。だから、このスケッチボードはお役御免」

16: 2020/09/14(月) 23:44:54.01 ID:qIa8zDv/
璃奈「―――できた。対猫用近接支援システム。Close Cat Support System、略してCCSS」

愛「りなりーの似顔絵?それをどうするの?」

璃奈「実はこのボードは小さな“のぞき穴”が開いてる」

愛「ふむふむ?」

璃奈「私の『にっこりん』な似顔絵を外に向けて、このスケッチボードを顔の前に構えることで……」シャキン

愛「おぉ……!」

璃奈「見て。これで猫さんから恐れられることはない。最強だ」

璃奈「なぜなら気配を消せて、私の“““圧”””も消せるから」


愛(……!これは―――!)

17: 2020/09/14(月) 23:46:10.55 ID:qIa8zDv/
璃奈「いざ」

猫「……!」プルッ

璃奈「おー、よしよし。怖くないよー」サワサワ

猫「……」

璃奈「うーん」

璃奈「視認性が悪いし、操作性も悪い。おまけに猫さんの反応も優れない……」

璃奈「実験は失敗か―――」


猫「……ニャーン♪♪」ゴロゴロ


璃奈「……!!やった!!実験は成功だ!!見て愛さん―――!!」

愛「……♪♪」ニコニコ

璃奈「―――あれ?愛さん、どうして笑って……?」

璃奈「私、そんなにシュールだった?」

愛「いや……?なんでだろう!自分でも分かんないかも!」

璃奈「そう……ま、愛さんが楽しいならそれでいいけど……♪」

18: 2020/09/14(月) 23:47:37.90 ID:qIa8zDv/
 

どうして―――?

その答えは『嬉しいから』 だよ

キミが『似顔絵』に 描いたように

アタシ“たち”は 同じ表情をしてるよ♪
 

19: 2020/09/14(月) 23:49:34.91 ID:qIa8zDv/
宮下家近隣
璃奈「おじゃましまーす……」

愛「どうぞ~!あがってあがって!」

璃奈「う、うん。でも……」


璃奈「ここ、愛さんのお家じゃないよね?」


愛「うん!ここは愛さんの友だちのおばあちゃんのお家だよ!」

璃奈「友だちのおばあさん?その“友だちさん”は虹ヶ咲の生徒?それとも他校?」

愛「んん??御年90歳のおばあちゃんだよ??」

璃奈「……????どういうこと????」

愛「あはは!えっとね、その友だちがおばあちゃんなの!」

璃奈「おばあさんが友だち……?愛さんの世界観はすごい……」

20: 2020/09/14(月) 23:50:38.82 ID:qIa8zDv/
璃奈「でもよかったの?ここで猫さんを飼うって?」

愛「うん!メッセしたらOKもらったよ!」

璃奈「そんなにあっさり……愛さんの人望はすごいね?」

愛「えへへ、そういってもらえると嬉しいけど……」

愛「ここのおばあちゃんはペットの里親募集活動をしてるの!」

璃奈「里親募集?」

愛「飼い主のいないペットを保護・管理し、飼い主を募集し、譲渡を行う活動だよ」

愛「募集・譲渡はおばあちゃんが引き受けてくれるみたいだから、アタシたちは管理……つまりお世話を行うよ!」

21: 2020/09/14(月) 23:51:47.00 ID:qIa8zDv/
璃奈「お世話……大丈夫かな?」

愛「だいじょ~ぶ!その道のプロのおばあちゃんにみっちり仕込まれた愛さんが付いてる!」

愛「それに、りなりーも猫に詳しいでしょ?“そういうふう”に見える!」

璃奈「そう?ご明察の通りで、私は猫と暮らすビジョンがあるから、それなりに勉強してる」

璃奈「でも、私の気掛かりは“それ”じゃなくて―――」


璃奈(なんだろう?この違和感……)


愛「そっか!りなりーは愛さんと違って、このお家に“通いにくい”かも?」

愛「アタシんちはすぐそこだけど!そもそもりなりーは“こっち方面”だっけ?」

璃奈「うーん……」

璃奈「確かに“それ”は問題だけど、別に問題じゃない」

愛「そうなの?」

璃奈「うん。私は門限も、終電もない。その代わりにタクシー代があるから」

愛「そっか……」

璃奈「それに……」

愛「それに?」


璃奈「私はもうすぐ春休みだから」

22: 2020/09/14(月) 23:54:16.17 ID:qIa8zDv/
愛「えっ!?もう春休みなの!?はっや~!?」

璃奈「内部進学が決まったから」

璃奈「お受験もない、登校もない。だから実質春休み」

愛「おっ、そうなんだ!りなりーおめでと~!同じ学校だね♪」

璃奈「ありがとう……そういうわけで、私は毎日ここに通える」

愛「毎日!?そんな無理しなくていいよ!りなりーに会えて愛さ……おばあちゃんは嬉しいと思うけど!」

璃奈「無理じゃない。そもそも私がまいた種。それくらいはする」

愛「……そっか!一緒にがんばろうね、りなりー!」

璃奈「うん。ありがとう、愛さん」

璃奈「それで―――」キョロキョロ

愛「ん?どうかした?」


璃奈「―――おばあさんは、どこ? ご挨拶に伺いたいんだけど―――?」


愛「えっ!?えっとね……」

愛「あぁ!思い出した!おばあちゃんは出張でニューヨークに行ってるんだった!」

璃奈「へぇー、そうなんだ」

璃奈(90歳のおばあさんが出張でニューヨーク、って……)

愛「このお家の鍵はアタシが持ってるから、ここに来るときは愛さんちに寄ってね!」

璃奈「うん、分かった」


璃奈(……ま、細かいことはいっか……♪)

23: 2020/09/14(月) 23:55:50.07 ID:qIa8zDv/
数日後
璃奈「ほら、こっちにおいでー……『プルート』」

プルート「ニャーン♪」

璃奈「おー、よしよし」

プルート「……♪」ゴロゴロ

璃奈「……♪」


ガララッ


愛「ちっす~!りなりー!愛さんも春休み突入だよ~!」

璃奈「あ、愛さん。ちっすー」

愛「りなりーに任せっきりでごめんね!今日からアタシも“本腰いれて”お世話するよ!」

璃奈「うん、助かる」


愛「そのために!まずはダジャレ100連発だ!いくぞぉ―――!!」


璃奈「いや、なんでそうなるの?」

愛「ダジャレに必要なのは語彙力!つまり日本語を仕入れてなきゃいけない!」

愛「日本語仕入れて……にほんごしいれて……に・ほんごしいれて……」

愛「本腰いれて、だ・け・に!!!!!!!!」

璃奈「うん、そうなんだ。がんばってね」

24: 2020/09/14(月) 23:56:58.44 ID:qIa8zDv/
愛「それでどう?馴れた?」

璃奈「うん、大分“慣れた”よ。CCSSの使い方」

愛「いやそっちの“なれた”か~い!」ビシッ

璃奈「ボードを持ったままのお世話は、最初は手間取ったけど……」

愛「だろうね」

璃奈「コツをつかんだ。要するに、猫さんの警戒さえ解ければ、私は戦力が2倍になる」

愛「なるほど!両手が使えてスーパーモフモフタイムだね!」

璃奈「うん。だけど猫さんはとっても気まぐれ」

璃奈「ちょっと油断したら、すぐに警戒モード」

愛「う~ん難しいね!こんなにかわいいのに……」サワサワ

璃奈「え、愛さん?」

プルート「……」ジー…

愛「どうだ!羨ましいだろう!キミもこうやってモフモフされるがよい!」モフモフ

璃奈「いや、ちょっ……?愛さん?私は猫じゃないんだけど……」

25: 2020/09/14(月) 23:58:13.96 ID:qIa8zDv/
 

~間~


璃奈「そして、これが改良したCCSS」バンッ

愛「りなりーの似顔絵が描かれたスケッチボードだね」

璃奈「これの機能は、もはや近接支援にとどまらない」

愛「ほ~う?見せたまえ」

璃奈「まずは基本機能のアップグレード。表情パターンを追加した」ペラペラ

愛「お~!にっこりな顔、ほわわんな顔、うっとりな顔……」

璃奈「人間が猫に見せる表情を想定して、レパートリーを増やした」

愛「プルートの反応は?」

璃奈「まあまあ。ボードを使い分けることで近接成功率が少し上がった」

愛「他は?」

26: 2020/09/14(月) 23:59:25.47 ID:qIa8zDv/
璃奈「いちばんの自信作はこれ、このボード」バンッ

愛「りなりーの似顔絵の“眼のところ”が大きく開いてるね?のぞき穴?」

璃奈「これは猫じゃらしを出し入れするための穴」

愛「あ~なるほど」

璃奈「この穴から猫さんの“狩猟対象”を出現させる」

璃奈「反応せざるを得ない。そういう本能《システム》だから」

愛「気になる!やってみて!」

璃奈「分かった。おーい、プルート」

プルート「ニャーン」

璃奈「いくよー……」


璃奈『ビックリして……眼が……こんなになっちゃった』ヒョイ(ボードから猫じゃらしを出す)


プルート「!!!!」シュバババ

愛「わ……すごい絵面……」

27: 2020/09/14(月) 23:59:25.56 ID:qIa8zDv/
璃奈「いちばんの自信作はこれ、このボード」バンッ

愛「りなりーの似顔絵の“眼のところ”が大きく開いてるね?のぞき穴?」

璃奈「これは猫じゃらしを出し入れするための穴」

愛「あ~なるほど」

璃奈「この穴から猫さんの“狩猟対象”を出現させる」

璃奈「反応せざるを得ない。そういう本能《システム》だから」

愛「気になる!やってみて!」

璃奈「分かった。おーい、プルート」

プルート「ニャーン」

璃奈「いくよー……」


璃奈『ビックリして……眼が……こんなになっちゃった』ヒョイ(ボードから猫じゃらしを出す)


プルート「!!!!」シュバババ

愛「わ……すごい絵面……」

28: 2020/09/15(火) 00:01:08.81 ID:EHX41TaP
璃奈「そういえば、どうして『プルート』って名前にしたの?」

璃奈「プルートの名を持つペットといえば、有名どころではディ○ズニーの……」

愛「グワッグワッwwwカッコイイ ナマエ ダロwww(ヘリウムガス)」

璃奈「それはドナルド」

愛「猫なのにプルート!!犬じゃない!!」ゲラゲラ

璃奈「うーん、分からない」

愛「っていうのは半分冗談で」

璃奈「半分」

愛「この子を初めて触ったとき『プルっと』身震いしたの。その反応が印象的だったからプルート!」

璃奈「なるほど、それならいいと思う。感覚的な命名」

愛「でしょ!」



璃奈「それに―――この子は『黒猫』じゃないから」
 

29: 2020/09/15(火) 00:02:27.05 ID:EHX41TaP
 

黒猫

エドガー・アラン・ポーの短編小説

語り手は『その猫』が好きだった

《怪物》になってしまった そのときまで
 

30: 2020/09/15(火) 00:04:36.61 ID:EHX41TaP
数日後
璃奈「今日はプルートが新しい飼い主さんに譲渡される日……」

プルート「ニャーン……」

璃奈「大丈夫だよ。きっと、いい人だから」

璃奈「……」

璃奈「愛さん、まだかな……?」



数分前
愛「アタシはおばあちゃんの帰国を出迎えに行くから!りなりーはお留守番よろしくね―――!」



璃奈(おばあさん……ほんとにニューヨークに行ってたんだ……)


ゴロゴロ…


璃奈(雷鳴……愛さん大丈夫かな?)

31: 2020/09/15(火) 00:06:04.79 ID:EHX41TaP
 
ピンポーン…

??「ごめんくださ~い。里親募集の件で来たんですけど~」

璃奈(……!?予定より1時間早い……!?とりあえず対応しないと……)


ガララッ


璃奈「こ、こんにちは。私はお手伝いの天王寺璃奈です。よろしくお願いします」ペコッ

C「ご丁寧にどうも~。私は『C』っていうの。よろしくね~」

璃奈(わぁ、オトナっぽい人……)

璃奈(愛さんと同じ“ギャル”の系統で、愛さんよりもっと遠い延長線上にいそうな人)


璃奈(……ただ、愛さんが第一象限のギャルなら、この人は第二象限のギャルって感じ……)

32: 2020/09/15(火) 00:07:10.56 ID:EHX41TaP
C「リナちゃんは小学生?しっかりしてるね~。おねえさんナデナデしてあげる~」サスサス

璃奈「あの……私、中学生……」

C「へぇ~、ごめんね?キミ、お人形さんみたいでカワイイね~」


璃奈「……」


璃奈「ごめんなさい、責任者が遅れてます。少しお時間をいただいても……」

C「別にい~よ~。おねえさんヒマだし。何して遊ぼっか?」

璃奈「えっと……」

C「にらめっこでもしよっか?あっ(笑)それだと私が負けちゃうね(笑)」


璃奈「……」

33: 2020/09/15(火) 00:09:07.22 ID:EHX41TaP
璃奈「猫、見ますか?あなたが飼う予定の―――」

プルート「……」

璃奈(プルート?引っ込み思案を発揮してると思ったけど……もしかして怯えてる?)

C「あ~、そうそう思い出した。猫」

C「お~い、私のこと覚えてる~?」

プルート「……」プイッ

C「あ~あ、フラれちゃった~」

璃奈「……?『覚えてる?』って、どういう……?」


C「おねえさん、猫を“取り返しに”来たの」


璃奈「えっ……」

プルート「……」

C「そういえばさ~……キミ……『テンノウジ』っていうんだよね~……」

璃奈「え……はい……」

C「ふ~ん……今回の“標的”はあの天王寺か~……」


C「――――――当ったり~♪」
 

34: 2020/09/15(火) 00:10:42.77 ID:EHX41TaP
 
ゴロゴロ…ピシャア!!

愛「ひゃっ!?」ビクッ

愛(やばっ!?このタイミングで雷……!?まじぱおん……)


??「―――愛よ……」


愛(早く止みますように早く止みますように……)プルプル…

??「愛よ、公衆の面前で醜態を晒すでない……」

愛「早く止みますように早く止みますように早く止みますように……!」プルプル…

??「相変わらず……自己暗示を口ずさんだところで、雷の恐怖は消せぬ」

??「なぜなら口ずさんだところで……口ずさんだ……くちずさんだ……」

??「朽ちずサンダー、じゃからな」

愛「は?」

35: 2020/09/15(火) 00:11:57.79 ID:EHX41TaP
B「恐怖で記憶が飛んだか?お主の知人のばあさん、『B』じゃよ」

愛「あ~!おばあちゃんだ~!久しぶり~!」

B「久しぶりだと?頻繁に文通していた儂らが?」

愛「初手お小言~!そっちも相変わらずだね~!」

B「ふん……さて、今日は新しい里親さんとのアポが入っておるな?急ぐぞ」

愛「おっけ~!あっ、でもでも!アタシ、お土産が買いたい~!」

B「やれやれ。土産の価値を顧みれば、今の愛はそれに相応しくないことが分かる」

愛「え~!?買いたい買いたい~!」

B「NYの土産は儂の家に発送済みじゃ。正論が3つある。諦めよ」

36: 2020/09/15(火) 00:13:09.80 ID:EHX41TaP
愛「やだ~!買いたい買いたい買いたい~!!」

B「全く、しょうがないねぇ……40秒で選んできな」

愛「やった~!何にしようかな~!」


ピロリンピロリン♪


愛「う~ん、りなりーが喜びそうなものは~……」

B「おや、愛よ?電話に誰も出んわ?」

愛「あれっ!?アタシのスマホだ!コールに誰も出んとおこーるぞ~!なんちゃって☆」

B「いいから早く出なさい」

愛「……あれ?りなりーからだ?」


愛「もしもしりなりー?どったの―――?」




 『――――――私の猫、返してくれる?』
 


37: 2020/09/15(火) 00:14:35.13 ID:EHX41TaP
愛『もしもしりなり―――』

璃奈(愛さんにつながった……!?受話音量をゼロにして……)

愛『~~~~!!!!』


璃奈(愛さん……お願い……!)


C「ねぇ聞いてる~?キミはおしゃべり“も”苦手なんだね~?」

璃奈「あなたに……猫は渡せません……」

C「はぁ~……さっきも言ったけどさ~」

C「あの猫は私がたまたま道端に“置き忘れた”ものなんだよね~」

璃奈「置き忘れた、って……」

C「知ってる~?イシツブツオウリョウザイ、っていうの。ハンザイだよ~?」

璃奈「……」

38: 2020/09/15(火) 00:16:14.33 ID:EHX41TaP
璃奈(猫は遺失物法の対象外……つまり『これ』は犯罪をちらつかせた脅し……)

C「というわけで、キミのお父さんかお母さんの連絡先を教えてね~」

C「あっ(笑)知らなかったらお勤め先でもいいよ~(笑)」

璃奈「あなたに猫は……プルートは渡せません……!」


C「あはっ!プルート!」


璃奈「えっ……」

C「捨て猫に『プルート』って名付けたの!いい趣味してるね(笑)」

璃奈「……!違う……!」

璃奈(愛さんはそんな思いで命名したんじゃない……!)

C「あれあれ~?もしかして怒ってる~?でも―――」バンッ!!

璃奈「……!!」ビクッ


C「“この顔”じゃ分かんないな~(笑)」クイッ


璃奈「……やめて……」

C「教えてあげようか?怒りを最も上手く表現する方法は、暴力だよ♪」

C「おねえさんを思いっきりぶん殴っていいよ♪それでイシャリョウ上乗せ♪」

璃奈「……どうすれば……」


C「ほら!怒ってるなら怒らないと!それが“普通の”人間だよ♪」


璃奈「どうすればいいの、愛さん――――――」
 

43: 2020/09/15(火) 21:25:54.98 ID:EHX41TaP
 


ガラッッ



愛「お前か?」



C「ヒィッ!?」

璃奈「愛さん……!」

愛「このっ!離れろっ!」グイッ

C「うぐっ……!?」


愛「りなりー!大丈夫!?プルートは!?」

璃奈「う、うん……大丈夫……」

璃奈(すごい迫力……これが愛さんの『怒りの感情』……)

愛「……下がってて」スッ

璃奈「……!」コクリ

44: 2020/09/15(火) 21:30:26.78 ID:EHX41TaP
C「ちっ……『ミヤシタ』か……」

愛「あのさ?」キッ

C「おっと!?私は“何もしてない”よ~。ホントホント」

愛「……」スッ…

C「スマホ?それが何か?」

愛「発言証拠。脅迫罪に抵触する」

C「くっ!?……そこをどけ!」バッ

愛「しまっ……!?待てっ!」ダッ


C「……!」タッタッタッ

愛「!!!!」ダダダダッ


C「疾っ!?こうなったら……!」チャリンチャリン

愛「駐輪ママチャリを奪って逃走!?追い着けない!!」

C「あっぶね~……間一髪―――」


B「全く……老いぼれを捨て置くとは……」ブツブツ…


C「あれ?なんだあのババア……?」

愛「おばあちゃん!その人を止めて!」

45: 2020/09/15(火) 21:36:49.52 ID:EHX41TaP
B「しかし愛は相変わらず足が疾い!鍛錬の跡が見える!」

C「なんなんだこのババア……!?そこをどけ!!」チャリンチャリンチャリン

愛「なっ!?おばあちゃん危ない!!」

B「全く……」スッ…

C「なんなんだこのババア!?避けねぇ―――!?」


B『―――自ら転ぶ車と書いて、自転車ッ―――!』カッッ


C「なっ……!?」ユラッ…


ズシャア…


愛「自転車が……転んだ……!?」

C「でも……痛くない……!?どうなって―――!?」

B「その転び方は損傷を“左ハンドル”に限定できる。覚えておけ」

B「ちなみにそのママチャリは儂の愛車。どれ、漕ぎやすかっただろう?」

46: 2020/09/15(火) 21:38:42.85 ID:EHX41TaP
璃奈「あの、ありがとうございます……」

B「感謝は不要。儂はただ暴走自転車の眼前に突っ立っていた一介のババア」

愛「これはね、どういたしましてって言ってるの!」

B「ふん……それより天王寺某、儂はお主に謝罪しなければならない」

璃奈「どうして……?」

B「里親募集に“ならず者”の侵入を許した落ち度、儂はその責任者じゃ」

B「お主を危険な目に遭わせてしまった。本当に申し訳ない」

璃奈「えっと……」

B「代償は必ず行う。さて、Cとやら?」

C「はい?」

B「お主は『プルート』の元飼い主である。YesかNoか」

C「は?……Yes、名前は違うけど」

47: 2020/09/15(火) 21:40:13.20 ID:EHX41TaP
B「ならばよし。お主を“矯正”し、一件落着じゃ」

C「はぁ?」

璃奈「どういうこと?」


愛「あ~、なるほど。おばあちゃんは不良更生活動もしてるの」


B「そうじゃ。それすなわち模範飼い主の育成」

璃奈「つまり『真っ当なCさん』がプルートの新しい飼い主……?」

B「安心せい。儂の“生徒”の再犯率は0%」

B「それにしばらくは日本にいる故、プルートのお世話は儂も手伝う」

C「儂も手伝う、って……まさか……」


B「―――さて、Cとやら……」


B「真人間になるまで、ここ門前仲町から出られないと思え――――――」
 

48: 2020/09/15(火) 21:42:55.54 ID:EHX41TaP
数日後 もんじゃ屋(宮下家)
璃奈「―――それで、Cさんはどうなったの?」

愛「それはこの動画を見れば分かるかも」スッ

璃奈「わぁ、プルート……!チャンネル登録しとこ……♪」


カランカラン…


愛『ありがとうございました~!またのお越しをお待ちしてま~す!』


愛「……よし、今日はこれにて閉店!ごめんね、待たせちゃって」

璃奈「ううん。むしろ、お邪魔にならなかった?傍から見て、私は何も注文しない客」

愛『ノンノン!キミは無意識に“スマイル”を注文したね!いらっしゃいませ!ご注文をお伺いします―――!』

璃奈「テンションたっか……」

愛「それにりなりーのかわいさはお店に商売繁盛をもたらすよ!まるで招―――」


璃奈「まね……?」


愛「まね……マネーが無くても構わね~!なんちゃって☆」

璃奈「……?もしかして疲れてる?今のは3点」

愛「星っ!3つです!ありがとうございます、いただきました!」

璃奈「まぁいいや」

49: 2020/09/15(火) 21:44:00.15 ID:EHX41TaP
璃奈「それで、私がここに招かれた理由は?」

璃奈「愛さんちのもんじゃ屋さん、そろそろ閉店時間だよね?」

愛「ふっふっふ……もんじゃ屋とは表の顔!夜はスナックバーになるのだ……!」

璃奈「え?そうなの?」

愛「りなりーも晴れて高校生!ということで愛さんの特製オリジナルカクテルを振る舞うよ―――!」シャカシャカ

璃奈「飲まないよ?」

愛「ぎゃふん!」

璃奈「……ねぇ愛さん、ヘンな仕事してないよね……?」ジー…

愛「してないしてない!!そんな真摯に訴えないで!?ジョーダンだから!!」

璃奈「うん。そのタイプの“お戯れ”は人を選ぶから、気を付けてね」

愛「はい……お詫びに、璃奈ちゃんにはこれを差し上げます……」スッ…

璃奈「なにこれ?ミルクティー?」

愛「タピオカミルクティーからタピオカを抜き取ったミルクティー、通称タヒオカミルクティー!愛さんの中で飲みやすいと話題!」

璃奈「ありがとう。じゃあ、私は帰るね」

愛「ちょ!?ちょ!?ちょ!?」

50: 2020/09/15(火) 21:45:36.76 ID:EHX41TaP
璃奈「それで?私がここに招かれた本当の理由は?」ゴクゴク

愛「えっと……りなりー、進学が決まったじゃん?」

璃奈「うん、そうだね」

愛「だから、それを祝う会だよ!」

璃奈「え、そうなの?」

愛「うん!そうだよ!」

璃奈「え?そんなことで祝ってくれるの?」

愛「あれ?価値観の相違?」

璃奈「うん。私の中で、それは祝うほどのことじゃないから。だってうちの両―――」

愛「りょう?」


璃奈「……」


璃奈「……了解、祝ってくれてありがとう。私は何をすればいいかな?」

愛「ふっふっふ……!りなりーには、愛さんの特製オリジナルもんじゃを食べてもらいます―――!」

51: 2020/09/15(火) 21:48:12.33 ID:EHX41TaP
璃奈「わぁ……!目の前で焼いてくれるんだ……!楽しみ……!」

愛「実演は専門店ならではの醍醐味だね!りなりー、アレルギーとかは?」

璃奈「特に。でも熱いのは苦手かも」

愛「おっけ~!じゃあ水はこれくらいで……」シャカシャカ


愛「まずは~……具材をドーン!」ジュー


璃奈「おぉー。いい音、いい匂い……」

愛「でしょ!鉄板の上で焼かれてく具材を五感で楽しんでね!あっ、でも“触覚”はダメだよ!熱いからね!」

愛「あと『愛さんの特製』って言ったけど、味付けはお好みで微調整してね!」

璃奈「うん、分かった」

璃奈(お好みで……)


璃奈「そういえば、もんじゃ焼きとお好み焼きって似てるね。違いは何?」


愛「違い?……う~ん、なんだろ?」

52: 2020/09/15(火) 21:50:44.93 ID:EHX41TaP
愛「焼くのが先か混ぜるのが先か―――これじゃない?」

璃奈「な、なるほど……?」

愛「ぶっちゃけ、違いは『形態』じゃない?だってカ口りーは同じ!」

璃奈「へぇー、意外と大雑把。そういうのにこだわる風土だと思ってた」

愛「フードだけに!……確かに、この2つを混同すると“おこ”な人たちはいるね」

愛「いわゆる“つう”な人たち。でも“みんな”が気にするのはそれじゃない」

愛「美味しさ、価格、話題性……最近だと、映えがよっぽど大事みたいだね!」

璃奈「はぇー」

愛「……っと、具材が焼けてきた!ここからが腕の見せ所!」

璃奈「わくわく」

愛「具材を“土手”にして生地を流し込む!」ジュー

愛「見ててね!アタシの手練手管!映えとか言ってれんテクだよ―――!」

53: 2020/09/15(火) 21:52:39.67 ID:EHX41TaP
璃奈「……ごちそうさまでした」ペコッ

愛「ありがとう~!ふーふーしながらはむはむしてるりなりーかわいかったよ!」

璃奈「こういう食事は新鮮だった」

愛「いいでしょ!もんじゃ焼き!1つの料理を一緒に食べられる!」

璃奈「うん、よかった」

璃奈「……それに、隠し味?まさか“アレ”が入ってるとは思わなかった」

愛「それを気付かせないテクニックだからね!具材の自由度が高いもんじゃならではの仕掛け!」

璃奈「愛さん、いつの間に『はんぺん』を仕込んだの?全く気付かなかった」

愛「うふふ!でも美味しかったでしょ?」

璃奈「うん、合うんだね」

54: 2020/09/15(火) 21:53:42.06 ID:EHX41TaP
愛「実演の利点は視覚と味覚を強く結びつけられること!」

璃奈「キャベツ、イカ、お肉……目の前で焼かれてく具材を見て、私は“定番もんじゃ”を食べると思ってた」

愛「ところがどっこい、それは『愛さん特製もんじゃ』でした!クロスモーダル効果の悪用だね!」

愛「食べてみるまで分からない!食のビックリ箱だよ!」

璃奈「楽しかった。また食べたい」


璃奈「……えっと、お代はいいんだよね?今日はごちそうさまでした―――」

愛「おおっと!?まだ帰さないよ!」

璃奈「!?」

愛「まだ別にプレゼントが用意してあるから!ちょっと待っててね―――!」

55: 2020/09/15(火) 21:55:06.98 ID:EHX41TaP
愛「じゃじゃ~ん!進学祝いのプレゼントだよ!」

璃奈「わ、ありがとう……!」

璃奈「って……愛さん、これは……?」


愛「はい!『箱』だよ!!」


璃奈(箱……確かに箱だ)

璃奈(梱包箱とは少し違う、無○良品に売ってそうな“しっかりとした箱”。でも……)

56: 2020/09/15(火) 21:59:02.76 ID:EHX41TaP
璃奈「うわ……でかでかと『箱』って書かれてる……これはさすがの璃奈ちゃんもドン引き……」


愛「ちょ!?ちょ!?ちょ!?」

璃奈「ごめん、嘘。嬉しい」

愛「ほっ……」

璃奈「ハッキリと『箱』って書いてあると安心するね。わざわざ『そう』表記するということは、この箱は爆弾や盗聴器の類じゃない。これは受取人が返品してしまわないための配慮で、これの役割が“収納”であることを意味している。決して爆発や録音は起こらない。そうだよね?愛さん?」

愛「ご……ごめん……?怒ってる……?」

璃奈「怒ってないよ」

愛「そ、そっか」

57: 2020/09/15(火) 22:00:30.46 ID:EHX41TaP
璃奈「こちらこそごめん、揶揄する意図はなかった。というのも―――」

愛「というのも?」


璃奈「私、嬉しいことがあると口数を増やそうとするみたい」


愛「そうなんだ?」

璃奈「……もっと“別の表現”を使えたらいいんだけど」

璃奈「多弁に努めることで、私の感情は伝わるかな?これは一般的にポジティブな表現かな?」

愛「うん!コミュニケーションの語源は“共有すること”!その最たるコモンセンスが言語だから、そのソリューションは理に適ってる!」

璃奈「……?今のは何が“かかった”ダジャレなの?ちょっと何言ってるか分かんなかった」


愛「ダジャレを言ったのは、誰じゃ―――?」

58: 2020/09/15(火) 22:02:34.32 ID:EHX41TaP
愛「そんなことより!箱を開けてみてよ!」ニコニコ

璃奈「うん、そうする。楽しみ」ゴソゴソ…

愛「……♪」ニコニコ

璃奈「……」ゴソゴソ…


璃奈「あれ?開かない……?」


璃奈「ねぇ?この箱、どうやって開けるの?愛さん?」

愛「開かない?開かないよね!?」ニコニコ

璃奈「あ、その顔。『愛さんのことだからもっと面白いことを考えてますよ』って顔」

愛「いや~!それほどでも~!」


璃奈「もしかしてこの箱、鍵が掛かってる?」


愛「っとここで~!?」

璃奈「!?」

愛「2つ目のプレゼントだあ~!じゃじゃ~ん!」

璃奈「……????何も出てこないけど……?」


愛「―――問題!『この箱の中身は何でしょう? 3回の質問で当ててください!』」


璃奈「は?」

59: 2020/09/15(火) 22:16:09.40 ID:EHX41TaP
愛「2つ目のプレゼントは『これ』だよ!さぁ!キミにこの難問が解けるかな!?」

璃奈「あ、ふーん……なるほど、そういうプレゼント」

愛「YesかNoで答えられるタイプの質問でよろしく!」

璃奈「うん、分かった」

愛「ちなみに、この問題の“報酬”は箱の鍵だよ!」

愛「つまり、これを正答できなければ1つ目のプレゼントは正真正銘、箱になる―――!」


璃奈「じゃあ1つ目の質問」


愛「何でも聞いてね!」


璃奈「愛さんは」



愛「愛さんは~~~~????」



璃奈「――――――私のこと、好き?」
 


60: 2020/09/15(火) 22:23:13.08 ID:EHX41TaP
愛「…………へっ!?」

璃奈「どう?」

愛「えっ!?えっ!?えっ!?えっ!?えっ!?えっ!?」

璃奈「うん」

愛「あれっ!?因果律がおかしい!?世界がバグってる!!」

璃奈「バグってないよ。早く質問に答えて?」

愛「えっ!?でも―――」


璃奈「だって、そういうプレゼントでしょ?箱の中身を推論するために、何でも3回まで質問できる謎解きプレゼント」



璃奈「つまり、何でも3回まで質問できる権利」



愛「そ、そんなぁ……」

61: 2020/09/15(火) 22:26:17.77 ID:EHX41TaP
 

璃奈「愛さんは、私のこと、好き?」

愛「い……Yes……」


璃奈「そう。続いて2つ目の質問。私のこと、嫌い?」

愛「No!」

璃奈「……」


璃奈「3つ目の質問」




璃奈「私のこと、ほんとはどう思ってる?感情表現が苦手な私のこと。はじめて出会ったときどう思った?話してみてどう思った?一緒に過ごしてみてどう思った?―――YesかNoで答えられるタイプの質問に要約するけど――――――」





璃奈「私に対して、気を遣ったこと、ある?」





愛「……」
 

62: 2020/09/15(火) 22:28:06.68 ID:EHX41TaP
 

 それは 即答できるタイプの質問

 即答しなければならない質問

 『私のこと嫌い?』という質問は 有無を言わさず 数秒後に答えが決まってしまう

 だから 決まってしまう前に 答えないと


  答えないと――――――
 

63: 2020/09/15(火) 22:30:07.33 ID:EHX41TaP
 
愛「……」


愛「…………」



愛「……………………」




愛「…………………………………………ある」




璃奈「……そっか。ありがとう、ごめん」
 

64: 2020/09/15(火) 22:33:29.49 ID:EHX41TaP
愛「……」

璃奈「……」



璃奈「ちなみに、箱の中身は推論できたよ」



愛「えっ!?!?!??!!?」

璃奈「おそらく『Amaz○nギフトカード』。あるいはそれに類する商品券」

愛「おおむね正解!?!?!??!!?」


璃奈「おおむね?じゃあ『何か書かれた紙』。どう?」


愛「せ、正解……!」

愛「どうして分かったの……?」

璃奈「んー……なんとなく、かな?」

愛「なんとなくか~」


璃奈「……箱を持ち上げたとき、箱の重さしか感じなかった」

璃奈「そんな軽さのプレゼントを、こんな大きさの箱に入れないと考えた」

璃奈「箱を開ける前の期待値をわざわざ潜り抜けるようなこと、愛さんはしないかな、って」

65: 2020/09/15(火) 22:35:58.72 ID:EHX41TaP
愛「はい、報酬の鍵だよ」

璃奈「ありがとう。では早速……」カチャカチャ…

愛「……」スゥ…

璃奈「あ、開いた。予想通り『何か書かれた紙』が入ってる。なになに……」



璃奈「りなりーが欲しいもの、何でもひとつあげるよ券」

愛 『りなりーが欲しいもの、何でもひとつあげるよ』



璃奈「ふーん、何でも……」

愛「うん」

66: 2020/09/15(火) 22:38:13.75 ID:EHX41TaP
璃奈「そういえば、私が箱の中身を正答できなかった場合はどうする予定だったの?」

璃奈「報酬の鍵がなければ、この箱はただの箱だよね?」

愛「あ、それは、りなりーが悩んでたらヒントをあげるつもりだったの」


愛『こんな難問、分からないよね?だったら、りなりーが欲しいものを言ってみて!』


愛「……って」

璃奈「なるほど、その条件があれば私が何を言っても正解になるね」

璃奈「私の回答は『私が欲しいもの』で、箱の中身は『私が欲しいものが手に入る権利』」

璃奈「この2つは同一であると言い張ることができる」

67: 2020/09/15(火) 22:40:26.22 ID:EHX41TaP
璃奈「でも、愛さんらしくて、愛さんらしくないプレゼントだね?」

愛「どういうこと?」

璃奈「うーん、説明が難しい……」

璃奈「愛さんのセンスなら、もっと“模範解答的な”プレゼントを用意できるのでは?というニュアンス」

愛「模範解答的……?」

璃奈「例えば、美味しい食べ物とか、流行りの化粧品とか」

愛「……実は」

璃奈「実は?」


愛「……りなりーの欲しいものが、分からなかった……」


璃奈「……そっか」

璃奈「ちなみに、私はこの難問の解答の1つを知ってたよ」

愛「そんなぁ」

68: 2020/09/15(火) 22:41:53.30 ID:EHX41TaP
璃奈「それで、あるんでしょ?『3つ目』のプレゼントが?」

愛「えっ!?どうして……!?」

璃奈「これは私の感覚だけど……」


璃奈「1と2だけを並べる場合、『総数は2』という前置きが存在する」

璃奈「そして何の前置きもなく1と2を並べる場合、『3以降』が存在する」


璃奈「私ならそれを意識するから」

69: 2020/09/15(火) 22:43:27.10 ID:EHX41TaP
 

 だけど 『プレゼントの数』は 一般的に前置きしない

 いやらしいから

 これは 私の屁理屈だよ

 もっと欲しいな? もっと もっと


  ―――いやらしいかな?
 

70: 2020/09/15(火) 22:44:39.66 ID:EHX41TaP
愛「……うん。あるよ、3つ目」

璃奈「……!」


愛「3つ目のプレゼント。 『天王寺璃奈のスケッチボード(仮)』 」


璃奈「スケッチボードとマジックペン……?既視感のある組み合わせ……」

璃奈「もしかして、対猫用近接支援システム?」

愛「その応用だよ。CCSSの近接範囲を拡張するの」

璃奈「拡張……?」

71: 2020/09/15(火) 22:46:35.92 ID:EHX41TaP
愛「―――りなりーは『2人目』なの」

璃奈「2人目……?」

愛「1人目はアタシの“おねーちゃん”」

璃奈「美里さん?」

愛「うん」

愛「ちいさいころからアタシは、おねーちゃんの“部屋”によく遊びに行ってた」

愛「おねーちゃんを幸せにしたかった。だからアタシはダジャレを開発した」

璃奈「そうだったんだ……」

愛「それがアタシの1つ目の発明」


愛「―――アタシもキミと同じ感覚だよ、りなりー」


愛「アタシは『キミ』と『3人目以降の全ての人』に手を差し伸べる方法を思いついたの」

愛「それがアタシからりなりーへの3つ目のプレゼントで、アタシからりなりーへのたった1つのお願い」

璃奈「この『天王寺璃奈のスケッチボード(仮)』が……?」

愛「うん」


 愛「アタシと一緒に、シュレーディンガーの猫になって欲しいの」
 

72: 2020/09/15(火) 22:47:53.07 ID:EHX41TaP
 


  シュレーディンガーの猫


  箱の中の猫は 生きているか 死んでいるか
 


73: 2020/09/15(火) 22:51:23.86 ID:EHX41TaP
璃奈「シュレーディンガーの猫に……『なる』……?とは……?」


愛「これはアタシの解釈だけど……」

愛「シュレーディンガーの猫の“性質”の1つは微視的な世界を巨視的な世界として説明すること」

愛「そしてシュレーディンガーの猫の“功績”の1つは量子力学を知らない多くの人に量子力学を知らしめたこと」

愛「多くの人は『原子崩壊確率50%』に関心がなくて『猫の生死』に関心がある」

愛「だからアタシみたいなJKがシュレーディンガーの猫を知ってる」


璃奈「えっと、つまり……」

璃奈「天王寺璃奈のスケッチボード(仮)は微視的な私の感情を巨視的に表現できる」

璃奈「そして『私』を知らない多くの人に『私』を知らしめることができる」

璃奈「それは『私みたいな人』をみんなに知ってもらえる……そういうこと?」


愛「うん、アタシはそう考えてる」

璃奈「うーん……」

74: 2020/09/15(火) 22:52:36.21 ID:EHX41TaP
愛「あはは……やっぱり突拍子もないよね……」


璃奈(確かに突拍子もない……愛さん、本気で言ってるのかな……?)

璃奈(でも、その『突拍子のなさ』は……『シュレーディンガーの猫になる』かも……!)


璃奈「分かった。やってみる」

愛「……!!ほんとに!?」

璃奈「一考したい。これは愛さんの願いでもあるから」


璃奈「……それに、Cさんのことでちょっと……」

愛「……!?何かあったの!?」

璃奈「あのおばあさんから、改めてCさんと一緒に謝罪したい、って言われた」

愛「そ、そうなんだ?」

璃奈「うん。でもそういうとき、どういう“表情”をすればいいか分からない」


璃奈「だから、そこで実験する。天王寺璃奈のスケッチボード(仮)の実用性について」

75: 2020/09/15(火) 22:53:13.56 ID:EHX41TaP
璃奈「それを愛さんに手伝って欲しい。ううん―――『手伝って欲しい』じゃない」ヒラッ…


愛「……!その紙……!」

璃奈「『何でもひとつあげるよ券』を行使する。愛さんに拒否権はない」



璃奈『愛さんはこのボードの有用性を見極めるために、私に付き添わなければならない』



璃奈「―――欲しいものは、これ」


愛「……うふふ!おっけ~!」

璃奈「ありがとう」

76: 2020/09/15(火) 22:54:14.30 ID:EHX41TaP
璃奈「ところで、天王寺璃奈のスケッチボード(仮)って、長い名前だね」

愛「アタシのネーミングセンスは折り紙がつかないからね!何かいい名前はある?」


璃奈・愛「う~ん……」


愛「『テェノーディンナーの板』はどう?」

璃奈「却下」

愛「ぴえんぴえん」


璃奈「……ふふ」


愛(……!!いま笑って―――!!)

77: 2020/09/15(火) 22:55:33.64 ID:EHX41TaP
璃奈「ねぇ、愛さん」フンス

愛「あ、その顔。『私は天才だからもっといい名前を思いつきましたよ』って顔」

璃奈「その通り。発表します」

愛「ドゥルルルルル……」





璃奈「その名も――――――」





おわり

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1600090345/

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