桜坂しずく(28)「わたしの理想のヒロイン」【長編SS】

しずく SS


340: 2020/09/01(火) 22:41:11.82 ID:ubFFJAoo
ー翌日ー

あの後私はしずくちゃんと別れて家に帰ってからずっと曲作りに専念している。

睡眠や食事をすることも忘れ、ひたすら曲を作ることに没頭した。

きっと歩夢ちゃんが見ていたら止められるだろう。

あなた(イメージがどんどん沸いてくる……!)

あなた(こんなに曲作りが楽しいと思ったのは同好会以来だ!)

あなた(早く……早く……!)

あなた(この曲をしずくちゃんに……!!)



そして2日後──

341: 2020/09/01(火) 22:48:48.23 ID:ubFFJAoo
あなた「出るかな……」

プルプルプル

しずく「はい、もしもし。どうしました?」

あなた「しずくちゃん、曲出来たよ!!」

しずく「え!本当ですか!!」

あなた「うん!まだ一曲だけど、一旦聴いてほしい!!」

あなた「オーダーのイメージと合っているか確認したいし、なによりしずくちゃんに早く聴いてほしい!」


しずく「分かりました!私も早く聴きたいです!!」

しずく」場所は、あのバーでいいですか?夜からになっちゃうんですけど」


あなた「うん、待ってるね」

しずく「仕事が終わったら飛んで行きます!!」



ピッ

あなた「ふふ。しずくちゃん、喜んでくれるかな」

曲を入れたプレイヤーをギュッと優しく握りしめた。

347: 2020/09/03(木) 00:23:32.46 ID:VbgBcpmf
ーーーー

あなた「私から見た色んな役を演じるしずくちゃんを表現してみたんだ」

あなた「しずくちゃんそのもののイメージと、演じるしずくちゃんのイメージを上手くミックスできたと思うんだけど……どうかな?」 

しずく「…………」グスッ

あなた「え、泣いてるの!?はい、ティッシュ!」

しずく「ありがとうございます……」

348: 2020/09/03(木) 00:29:17.72 ID:VbgBcpmf
あなた「大丈夫?しずくちゃん……」

しずく「大丈夫です、こうしてまた曲を作ってくれた事が嬉しくて」

しずく「それに、こんなに私の事を見てくれているなんて……」グスッ


あなた「そんなに喜んでくれるなんて、こっちまでもらい泣きしちゃいそうだよ」

しずく「お酒が入ってるので少し涙脆くなってるのかもしれませんね」

あなた「ちょっと風に当たろっか」

349: 2020/09/03(木) 00:32:51.66 ID:VbgBcpmf
あなた「あ、そうだ!折角だから曲ができた記念にあそこの観覧車乗ってみない?」

しずく「観覧車?お台場のですか?」

あなた「うん、いっつも見てたのによく考えたら一回も乗ったことなかったなって。一回乗ってみたいなって思ってたんだけど、どうかな?」

しずく「もちろん!私も先輩と一緒に乗りたいです!!」

あなた「そうと決まれば早くお代払って行こうか!」スッ

しずく「あ、お金なら私が……」

あなた「大丈夫。今日は全部私に払わせて!なんだかそういう気分なんだ!」

しずく「そういうことなら、お言葉に甘えちゃいますね」

350: 2020/09/03(木) 00:33:02.28 ID:VbgBcpmf
あなた「ほら、早く行こう!」ガシッ

しずく(あ、手……)

しずく「……///」ギュッ

351: 2020/09/03(木) 00:38:29.89 ID:VbgBcpmf
しずく「あ、先輩。今丁度頂上ですよ!」

あなた「うわぁ……夜景が綺麗だね!まぁしずくちゃんの方が綺麗だけどね」

あなた「なんて、今時こんなのはクサいかな。あ、しずくちゃんが綺麗って思ってるのはホントだよ」


しずく「え……?」

あなた「スラッとしてて顔も綺麗で、もう雰囲気からして美人って感じだって思った」

あなた「実を言うとね、最初にしずくちゃんのお芝居を見た時何て綺麗な子なんだろうって見惚れちゃったんだ」


しずく「そうだったんですか……」

352: 2020/09/03(木) 00:43:58.90 ID:VbgBcpmf
あなた「うわっ、これじゃまるで告白みたいだよね!今でも、私もこんな風になれたらなぁって思うよ!」

しずく「先輩も綺麗ですよ」

あなた「またまたぁ、お世辞はいいってば。私なんかしずくちゃんに比べたら全然だし」


しずく「…………お世辞なんかじゃないんだけどなぁ」ボソッ


あなた「え?」

しずく「いえ!こちらの話です!」

353: 2020/09/03(木) 00:55:17.31 ID:VbgBcpmf
観覧車から見えるこの東京の夜景のように、今の私の心はキラキラ輝いている。


あなた(そうだ、長らく忘れてた。これがトキメキなんだ)


長年ソングライター活動をしていても見つけられなかったものが、やっと見つけられたんだ。


しずくちゃんのおかげでこんな私にも再び夢を見ることができた。

しずくちゃんのおかげでふさぎ込んでいた私が救われた。 

しずくちゃんのおかげであの頃のトキメキを取り戻すことができた。


本当に、しずくちゃんには感謝しかない。


あなた(願わくは、こんな時間がいつまでも続きますように……)

354: 2020/09/03(木) 01:00:36.41 ID:VbgBcpmf
ーーーー

あなた「ふー、楽しかった!」

あなた「どうする?またバーに戻る?それともお開きにする?」

しずく「そうですね……明日も早いので、今日はここでお開きにさせてもらってもいいですか?」

あなた「あ、ごめんね。忙しいのにわざわざ来てもらって……。どうしても直接聴いてもらいたくて」

しずく「いえ!私も直接聴きたかったですし、気にしないでください!」


しずく「今日はありがとうございました!先輩の曲をいただけて、とっても嬉しかったです!」ニコッ

あなた「喜んでもらえてよかった」

あなた「…………」

355: 2020/09/03(木) 01:05:50.41 ID:VbgBcpmf
あなた「…………」モジモジ

しずく「先輩?」

あなた「いや、あの……」

あなた「あはは……」


しずく「どうしました?」

あなた「あのさ……」

あなた「もし、しずくちゃんさえよければなんだけど」


    しずくちゃんと一緒に


あなた「これからも」


    仕事をしたい


あなた「ずっと一緒にいたいな」


    そう思った

356: 2020/09/03(木) 01:10:45.26 ID:VbgBcpmf
あなた「なんて、まだ気が早いかな……」

しずく「……っ!!わっ私も……!!」

あなた「ほんと?嬉しいなぁ」

しずく「…………」










しずく「先輩……」





     「好きです」





あなた「私もし──」

言い終わる前に私の口はなにか柔らかいもので塞がれた

357: 2020/09/03(木) 01:12:34.38 ID:VbgBcpmf
それは一瞬の事だったのか、それとも何十秒も経っていたのか
とにかく何をされたのか分からなかった

少し意識がはっきりしだし、それを認識した瞬間



あなた「!?」
 


ドンッ



体は反射的にそれを拒んでいた。

358: 2020/09/03(木) 01:13:46.94 ID:VbgBcpmf
あなた「あっ……いや……その──

しずく「ごめんなさい」

あなた「え!?ちょっと!」

突然しずくちゃんは私に背を向け走り出した。


私も追いかけようとはするけれど、先程の事に体が動揺しているのか、上手く動かない。

そうしている間にもしずくちゃんは離れていく。

359: 2020/09/03(木) 01:16:49.51 ID:VbgBcpmf
あなた「しずくちゃん!!待って!!」

あなた「あっ!!」ガッ

やっと足が動いたと思ったら、今度はもつれて転んでしまった。

あなた「いったぁ……日頃の運動不足がこんなところで……」


あなた「……!それよりしずくちゃんは!!」

慌てて顔を上げて確認するも、既にしずくちゃんは視界から消えていた。

360: 2020/09/03(木) 01:21:01.90 ID:VbgBcpmf
あなた「しずくちゃん…………」





ポツッ……ポツッ……





ザァァァァァァァァァ





まるで追いかけられないまま地に這いつくばる私を嘲笑うかのように、篠突く雨が私の身体を刺す。

雨に打たれながらふと手を伸ばした唇には、まだほのかに温もりが残っていた。

379: 2020/09/07(月) 04:19:30.81 ID:BLpooA3+
ーーーー



しずく『先輩……』

あなた『しずくちゃん?どうしたの?』


しずく『先輩こそどうしたんですか?早く服を脱いでください。犬は服なんか着ませんよ?』

あなた『え?ちょっと、しずくちゃん!?』

しずく『先輩……犬は喋ったりしません。ほら、この首輪も付けて、ワン以外喋らないで』グイグイ

あなた『ちょっ……しずくちゃん、やめ……』

しずく『ほら、ほらほら。先輩、早く♡』

あなた『ワ、ワ──』

383: 2020/09/07(月) 21:38:10.43 ID:BLpooA3+
あなた「──わぁぁぁ!!!」ガバッ

ここは…………家のソファか。

あなた「うわ、汗で服がへばりついてるよ」ベトォ


「さっきのは夢か。よかった…………。なんだったんだあの夢……」

と言いつつも、もう既にあまり思い出せないでいるが、理解できないことをやらされようとしていたということはなんとなく覚えている。

どうせすぐに忘れるだろうし、うなされるほどの夢なら思い出さないほうがいいだろう。

384: 2020/09/07(月) 21:44:19.24 ID:BLpooA3+
あなた「いつのまに寝ちゃってたんだろう」

薄目をこすりながら現状を把握する。

服装は昨日のまま。

テーブルには350mlのストゼロが3本散乱。

どうやら飲んでいるうちに寝落ちしてしまったのだろう。


ふと昨日のしずくちゃんのあれも直前のお酒で酔っていただけじゃないかとも思った。

いや、そもそも──



「好きです」



しずくちゃんははっきりそう言った。
それなら冗談扱いする方がかえって失礼だ。


あれからしずくちゃんに電話はしていない。
しずくちゃんからの通知もない。

386: 2020/09/07(月) 21:52:23.34 ID:BLpooA3+
水を飲もうと立ち上がろうとすると、足元に何か軽いものが当たった。

あなた「紙だ。なんの紙だろう」

広げてみると、それはくちゃくちゃの譜面紙だった。しずくちゃんの曲を書き記したものだ。


ああ、家に帰ってきてからのことが蘇ってきた。

ーーーー

あなた『こんな曲なんて意味無いよ!』グチャグチャ

あなた『何がしずくちゃんそのもののイメージだ!』

あなた『私は本当のしずくちゃんの事なんにも分かってなかったんだ!!』 


あなた『あれがしずくちゃんの本心だったんだ。あんな事を思ってるなんて全然知らなかったし気付きもしなかった』

あなた『それなのに、こんなしずくちゃんを分かった風な曲を作って、私バカみたいじゃん!!』



あなた『分かんないよ……』

あなた『もうしずくちゃんが分からないよ…………』


ーーーー

387: 2020/09/07(月) 22:02:12.83 ID:BLpooA3+
あの時私は反射的に突き飛ばした。
あれは嫌悪感……だったのかな。自分でも良くわからない。

もうしずくちゃんの事も、自分自身の事さえも、ぜんっぜん分からなくなってしまった。

あなた「こんなんじゃとても曲なんて作れないよ……」

ようやく、歩き出せたと思ったのにまた逆戻りかぁ。

一緒に頑張るって言ったのに、これじゃあ果林さんに合わせる顔がないや。
はは。


曲作りもできなくなったし、これからどうしようか。

果林さんから借りた貯金もあるし、しばらくは持つだろう。
無くなったらまたバイトでその日暮らしでも──


グ~~


あなた「!」

盛大に腹の虫が鳴った。家には自分一人で誰にも聞かれていないとはいえ、顔がじわじわ赤くなる。

388: 2020/09/07(月) 22:07:08.79 ID:BLpooA3+
あなた「ってもう夕方!?そんなに寝てたんだ私……」

丁度いい。お昼と夕飯いっぺんに済ませちゃおう。

何を食べようかな。自分で作る気力は無いし、コンビニ弁当の気分でもないし……。

あなた「そうだ、久々にもんじゃ食べたいな」

そんな時脳裏に笑顔で踊る彼女の姿が浮かぶ。

彼女と話していると憂鬱な気分も吹き飛んだし、その笑顔には何度も励まされてきた。

あなた「空腹を満たすついでに、愛さんにあって色々話を聞いてもらおうかな」

390: 2020/09/07(月) 22:19:10.17 ID:BLpooA3+
ー門前仲町ー

あなた「あれ、シャッターが降りてる。今日は休みなのかな……」



「あれ?あら、あなた……愛ちゃんの!随分久しぶりね!」


あなた「美里さん!お久しぶりです!お体の方は大丈夫なんですか?」

美里「うん、おかげさまでね。どうしたの?ここに何か用でもあったの?」

あなた「久しぶりに愛ちゃんのもんじゃ焼きが食べたくなっちゃって。それでここに来たんですけどシャッターが閉まってるなーって」

あなた「あの、今日ってお店休みなんですか?」


美里「え?休みっていうより、お店ならずっと前に潰れちゃったけど……」


あなた「えっ」

397: 2020/09/09(水) 04:28:22.20 ID:Hh8AspNr
美里「知らなかったの?ほら、随分前大変な時期に自粛ムードになった事があったでしょ?」

あなた「あぁ……」

確かに、そんな事もあったっけ。

私は元々在宅での仕事だったからあまり気にならなかったけど、いろんなお店が大変だってニュースでも言ってたな。

美里「ここのもんじゃ屋もその煽りを受けちゃってね。個人経営だったから耐えられなかったみたい……」

あなた「そうだったんですか……」

そんな事になってたなんて、全然知らなかった……。

398: 2020/09/09(水) 04:40:57.71 ID:Hh8AspNr
美里「話したりはしなかったの?」

あなた「その、色々あって……」

美里「そう……」


美里「とにかく、もんじゃ焼きが食べたいなら愛ちゃんのお家に行ってみたら?今でもたまにお家でも作ってるみたいだし 」

美里「家の場所トークで地図送っておくから。愛ちゃんによろしく言っておいてね」

あなた「はい、ありがとうございます!」

あなた(卒業した後そのままもんじゃ屋を継いだって聞いてたから、てっきり今もここで働いてるんだと思ってたけど……)



卒業してから10年。

10年も経てば本当に色々な事が変わっていくんだ。

意固地になって外界との繋がりを断っていた私は、毎度の事ながらその事を痛感した。



あなた(しずくちゃんも……)

あなた「…………」

399: 2020/09/09(水) 05:07:50.09 ID:Hh8AspNr
愛ちゃんの自宅は都内のよくある2階建て8部屋のアパートだった。

ピンポーン 

美里さんから貰った画像と宮下という表札を確認してからインターホンを押す。

ガチヤッ

「わ!本当に来た!お姉ちゃんから聞いてたよ~」

あなた「あれ?」

「うわぁ~全然変わってないね!元気にしてた?」

え、誰このお姉さん。

400: 2020/09/09(水) 05:10:29.56 ID:Hh8AspNr
あれ、おかしいな。愛さんの家のピンポンを押したはずなのに知らない人が出てきたぞ。

部屋が間違っていないかもう一度携帯を見てからドアの横の部屋番号にも目を通す。
美里さんが間違えていなければ正しいはず。


それなら身体的特徴から、目の前のこの女性が誰か導き出してみよう。

ややグレーがかったダークトーンが綺麗なショートヘアに、それに似合ったビシッと決まっている黒スーツ

出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる理想的なボディ

違和感の無いナチュラルメイクに、見るからに真面目そうな顔立ち

美人でカッコいいデキる女性といった印象だ。


これらを総合的に考えると……


あなた「どちら様でしょうか」

「へっ!?」

401: 2020/09/09(水) 05:16:05.14 ID:Hh8AspNr
あなた「あの、愛さ……宮下さんのお宅であってますか?あ、もしかして同居人の方ですか?」

「ちょっ、冗談にしてはちょっと酷くない?」

「わ・た・し・が、宮下愛だよ!」

あなた「…………?」

「え、もしかして本当に忘れちゃった感じ……?」


あなた「…………」 


あなた「え!もしかして愛ちゃん!?」

愛(27)「だからさっきからそう言ってるじゃん!!」

402: 2020/09/09(水) 05:17:56.21 ID:Hh8AspNr
28でした

403: 2020/09/09(水) 06:23:54.54 ID:3XUfdn5X
スレタイのしずくの年齢って今の年齢じゃないのか

405: 2020/09/09(水) 11:15:22.12 ID:dzwAEPOf
>>403
桜坂しずく(27)の次スレだからね、しょうがないね
物語開始時から一年も経ってないだろうし

406: 2020/09/09(水) 20:09:43.65 ID:Hh8AspNr
>>403
スレ跨ぎで分かりにくくなってすみません


年齢は物語開始→数週間→現時点3月なので基本1年27 2年28 3年29です
>>197

414: 2020/09/14(月) 01:11:52.48 ID:zN7W18T6
愛「もー傷つくなぁ。まぁいいや。とりあえず入って入って」

あなた「あ、うん……」

愛「もんじゃ食べたいんだって?もういくつか作ってあるから早速食べてよ!」

あなた「ありがとう。おじゃまするね」


愛「ふふふふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~ふ~」

あなた(ほんとに目の前の人が愛ちゃんなんだ。随分変わったなぁ……)

415: 2020/09/14(月) 01:17:21.43 ID:zN7W18T6
ジュゥゥゥ

あなた「あ、いい匂い!」

愛「でしょ?」

あなた「家庭用のホットプレートでももんじゃ焼き作れるんだね」

愛「意外と高性能なんだよ。まぁ流石に実家で作ってたように本格的に、とはいかないんだけど……」

あなた「ううん、すっごく美味しそう!ねぇ、食べてもいいかな?」

愛「いいよ!あ、お箸持ってくるね」


愛「何か飲む?」

あなた「何があるの?」

愛「うーん、そんなに無いけど、ほろよいが何種類かくらい。それかお茶のほうがいい?」

あなた「じゃあほろよい頂こうかな」

愛「はーい」

416: 2020/09/14(月) 01:28:45.35 ID:zN7W18T6
愛「はい、お箸」

あなた「ありがとう!」

愛「それじゃあ」スッ

あなた「かんぱーい」カンッ


あなた「んん!これこれ!やっぱり愛ちゃんが作ったのがもんじゃ焼きの中で1番美味しいよ!!」

愛「あはは、嬉しい事言ってくれるじゃん!ほらほら、もっと食べろ~」ヒョイ

あなた「ありがとう!今日は来てよかった~」

愛「それでさ」

あなた「ん?」ハフハフ

愛「何年ぶりだっけ」

418: 2020/09/14(月) 21:56:32.44 ID:zN7W18T6
愛「卒業して以来だから、丁度10年くらい?」

あなた「……」

愛「なんで今日は会いに来てくれたの?」

愛「いや、勿論私は嬉しいし責めてる訳じゃないんだよ!」

愛「ただ連絡くらいしてくれてもよかったのにさぁ……って思って」ボソッ

愛ちゃんは目を横に反らし、消え入るような小さい声で呟いた。


10年も連絡を取っていなかった友達がふらっと現れて家に転がり込んで。怒ってもおかしくないのにこうやってあの時と変わらず受け入れてくれて。相変わらず皆優しい。

それが分かってたからこそ、皆に甘えたくなかった。甘えたら夢がそこで諦めてしまいまそうだったから。
そしてそんな優しい皆に今の自分の姿を見せるのが恥ずかしかった。

でもいつまでも逃げてはいられない。

既にそう心に決めた私には

あなた「うん、実は──」

もう自分の現状を話す事に抵抗は無かった。

ーーーー

419: 2020/09/14(月) 22:03:12.65 ID:zN7W18T6
愛「そっか。君も色々大変だったんだね……」

あなた「連絡取らなくてごめんね」


あなた「それより愛ちゃんだって色々大変なんじゃなかったの?」

愛「あー……うん。あっちの家見たんだよね」

愛「そう、私が潰しちゃったんだ。もんじゃ屋」

あなた「愛ちゃんのせいじゃ無いでしょ?あの頃はどこも人が減って大変だったんだから仕方ないよ!」

愛「皆そう言ってくれたよ。でも私が潰しちゃった事には変わりないから。私がもっと上手く経営できていれば……」グッ

あなた「愛ちゃん……」

420: 2020/09/14(月) 22:14:25.83 ID:zN7W18T6
愛「って、久々の再開なのに暗い話しない!!この事ならもう何年も前に区切りつけたから大丈夫!!」

愛「ほら、もっと飲んで飲んで!!」ゴポポポ
 

あなた「…………それで、今愛ちゃんは何の仕事してるの?」

愛「別に話す程の事でもないよ。一般企業の事務やってる。OLってやつ?」

あなた「ふーん……それで真面目な格好してるんだ。ギャルじゃなかったから最初誰か分からなかったよ」

愛「流石にこの歳までギャルしないよ~私達もう28だよ!」

あなた(もう28……)

もう、という言葉が重くのしかかる。
今、やっと見つけたと思っていた道が再び閉ざされてしまっている。

もう28なのにこんな事でいいのだろうか。

421: 2020/09/14(月) 22:21:10.45 ID:zN7W18T6
あなた「ねぇ愛ちゃん」

愛「ん?何?」

あなた「愛ちゃんはもし女の子に好きって言われたらどうする?」

愛「え?どうしたの急に!」

あなた「実はちょっと前女の子に告白されて」

愛「えぇ!?それで、返事は?」

あなた「多分、保留……」

愛「多分?」 

あなた「いや!保留!保留になってる!」

あなた(のかな……?)

422: 2020/09/14(月) 22:25:39.80 ID:zN7W18T6
愛「告白してきた子って君の知り合い?」

あなた「うん」

愛「知り合って何年くらい?」

あなた「知り合ったのは10年以上前かな」

愛「ふーん。じゃあ……」

あなた「ちょっと待って愛ちゃん!特定しようとしてない!?」

愛「あ、バレた?」

あなた「危ない危ない!言わされるところだったよ!」

愛「ごめんごめん、ちょっと気になっちゃってさ」

423: 2020/09/14(月) 22:57:08.98 ID:zN7W18T6
愛「でもアドバイス欲しいんでしょ?その子の事知らないとアドバイスできなくない?」

あなた「それは……そうかもしれないけど……」

あなた(しずくちゃんのプライバシーを言う訳にはいかないし)

あなた「今言った情報の中だけでお願い!」

愛「分かった。抽象的になっちゃうかもしれないけどいい?」

あなた「うん、ありがとう!」

424: 2020/09/14(月) 23:09:42.65 ID:zN7W18T6
あなた「それでもし愛ちゃんが、知り合いからそういう目で見られてたらどう思う?」

あなた「その……キスとかもしたいみたいで……」

愛「うーん……びっくりするかも」

あなた「だよね!?」

愛「女の子同士はちょっと私もよく分からないかな……。もし私がその立場になっても、君と同じですぐに答えは出せない気がする」

愛「でもその子と知り合って10年以上になるんでしょ?時期的に高校の知り合いとかかな」

あなた「……!」ドキッ

あなた(バレた……?)

愛「その子はそんな長く続いた関係が崩れるかもしれないのに勇気を出して告白してくれたんだから、なるべくその気持ちは受け入れたい……とは思うかな……」

愛「少なくとも女同士だから気持ち悪いとかは思いたくない」

あなた(気持ち悪い、か……)

私はしずくちゃんの事をどう思っているんだろう。

相変わらず答えは出ないが、確実言えることは、あの時私は確かにしずくちゃんを突き飛ばしたということだ。

あれは突然の事で動揺しただけなのか、それとも生理的な拒否感によるものだったのか……。

425: 2020/09/14(月) 23:18:45.65 ID:zN7W18T6
愛「君はどう思ってるの?」

あなた「分かんない……」

愛「うーん……難しいなぁ」


愛「とにかく私とか他の人がどう思うかじゃなくて、ちゃんと自分がその子の事をどう思ってるか考えて答えを出したほうがいいと思う」

愛「付き合ったほうがいいとか断ったほうがいいとかは言わないけど。その子は本心をさらけ出したんだから、ちゃんと君も自分の本心を伝えるべきだと思うよ」

愛「これは相手が男でも女でも変わらないだろうから」

あなた「私の……本心……」

今まで気付かなかったけれど、おそらくあれがしずくちゃんの本心。

なら今度は私が本心を伝える番だ。

ちゃんと自分の本心を探さなきゃ。私だけじゃない、しずくちゃんのためにも。

426: 2020/09/14(月) 23:29:05.70 ID:zN7W18T6
愛「ま、ゆっくり考えなよ。悩みならいつでも聞くから。あ、でも保留中ならなるべく早いほうがいいのかな」

愛「って……これで大丈夫だった?あんまり解決方になってないような気がするけど……」

あなた「うん、ありがとう!愛さんに相談してよかったよ!!」

愛「そう?それならよかった!」


あなた「それに話聞いてもらってちょっとスッキリしたかも!」

愛「ふーん、それじゃあ……」

あなた「え?」

愛「今度は愛さんの愚痴、いーっぱい聞いてもらおうかな!」

あなた「なんだ、そんな事。私で良かったら喜んで!」

私はすぐにその軽はずみな承諾を後悔する事になった。

427: 2020/09/14(月) 23:36:01.28 ID:zN7W18T6
ーーーー


~30分後~

愛「同僚が〇〇さんに色目使ってんじゃねーよ!ってさ。誰も使ってないってーの!!」

あなた「うんうん」


ーーーー


~1時間後~

愛「上司がいっつも私のお尻見てくんの!!オブラートにやめてって言ってんのにやめてくれないし!!!」

あなた「それは嫌だね……」


ーーーー


~2時間後~

愛「今日もしょうもない事でミスしちゃってさ……。なんで今更こんな事で間違えんのって、そんなの私が1番聞きたいよ!って……」

あなた「…………」


ーーーー


~3時間後~

愛「彼氏はいないのーとか結婚は30までにしたほうがいいとか言ってくんのよ!うるせぇ!そんなのアンタに関係無いだろ!!!!!」

あなた(いつまで続くのこれ……?)


ーーーー

432: 2020/09/16(水) 05:33:40.33 ID:YXthNKni
あなた「うーん……」

ジュゥゥゥ

あなた「はっ!!」ガバッ

あなた「こ、ここは!?」

愛「あ、起きた?」

あなた「愛ちゃん?えーっと……」

現状を把握するために寝起きの頭を高速回転させる。

一昨日と違って昨日の事はなんとなく覚えている。ほろ酔いのまま愛ちゃんの愚痴を聞いているうちに寝てしまっていたのだろう。

あなた(結局いつまで話してたのかな愛ちゃん……)

433: 2020/09/16(水) 05:37:54.42 ID:YXthNKni
あなた「っていうか2日連続お酒で寝落ちとか何やってるんだろう私……」

愛「え?なにか言った?」

あなた「いや、何でもないよ」

愛「もうすぐご飯できるからね。っていっても食パンとサラダと玉子焼きだけなんだけどね」

あなた「ありがとう」

434: 2020/09/16(水) 05:43:57.86 ID:YXthNKni
あなた「それにしても昨日愛ちゃんずっと喋ってたね」

愛「あー……ごめんね。ずっと愚痴聞かせちゃって。ちょっと溜まっちゃってて」

あなた「それはいいんだけど……」


あなた「ねぇ、愛ちゃん」

愛「ん?」

あなた「嫌なのに、何のために仕事してるの?」

愛「…………」

愛「そりゃあ生きていくためだよ」

そりゃそうだ。

至極真っ当な意見が返ってきた。

435: 2020/09/16(水) 06:11:17.57 ID:YXthNKni
私だって食べてくために別に好きでもないアルバイトをしていた。
でもそれは所詮ただのバイトだ。愛ちゃんとは違う。

あなた「それはそうなんだけど、どうせ仕事するならやっぱり夢を目指したり好きな事をする仕事の方がよくない?」

愛「まぁそうなんだろうけど、潰れちゃったしね」

あなた「あっ……ごめん……」


愛「今の仕事は別に嫌いじゃないけど、安定してるからね。家みたいに潰れる心配が無いから」

あなた「なんか、愛ちゃんっぽくないかも」ボソッ

愛「がっかりした?」

あなた「がっかりっていうより、意外だなって。愛ちゃんなら大人気ユーチューバーになったりもんじゃ屋再建したりとかするかなって」

愛「そっか、そんな道もあったかも」


愛「夢って残酷なんだよね。頑張る原動力にもなるけど、失敗した時にはそれだけ打ちのめされることになる。しばらく立ち直れないくらいに。私がやってきた事はなんだったんだろうつて」

私も近い境遇なので愛ちゃんの言葉が痛いほど分かった。

436: 2020/09/16(水) 06:21:54.79 ID:YXthNKni
愛「大人になっちゃったって事なのかな。大人ってもっと格好いいものだと思ってたけど」

愛「それでも頑張れる人はすごいと思う。せっつーとかしずくとか見てると本当にそう思うよ」

あなた「うん、私もそう思う……」

愛「そんな凄い人達とスクールアイドルできてよかったなって今でも思うんだ。この事は今でも私の財産だよ」

愛「ありがとうね」

あなた「こ、こっちこそ。私も愛ちゃん達と一緒に過ごした事は今でも大切な思い出だよ」

437: 2020/09/16(水) 06:27:19.06 ID:YXthNKni
愛「私思うんだ。皆を元気にしてあげたい、それは仕事じゃなくてもできるんじゃないかなって」

愛「プライベートではボランティア行ったり、ブログとかインスタにダジャレ投稿したりしてて」

愛「好きなこと仕事に出来なくてもさ、好きなことするために働いて、って生き方もいいと思うんだよね」

愛「皆が皆、好きを仕事にできる程強くないから」

あなた「そう、だね……」


あなた(イメージが消えてまた曲がかけなくなっちゃったし、いつまでもしがみついてないで、私も違う道探した方がいいのかな……)


愛「あ、そうだ。今度の日曜って空いてる?」

あなた「うん、空いてるけど、どうしたの?」

愛「見せたいものがあるの」


ーーーー

446: 2020/09/19(土) 01:34:00.95 ID:MxxWLtio
あなた「…………」スッスッ

私はスマホでとある調べものをしていた。

女同士、キスで検索。

自分の意見が大切だとは分かっているけれど、なかなか答えが固まらない。
スマホ世代の私としては、ついついネットに頼ってしまうのだ。 


あなた「色々出てくるけど、結構普通の事なのかな……。いや、でもネットの情報だし」

あなた「なになに?男性より唇が柔らかくて気持ちいい……」

自分の唇に手をやって、あの時のことを思い出す。
しかしあの時の感触を思い出す事は出来ない。

447: 2020/09/19(土) 01:55:01.84 ID:MxxWLtio
あなた「そんなつもりは無かったのにキスから恋が芽生えることも……」

あなた「そりゃあしずくちゃん程の美人、誰もが彼女にしたいと思ってるだろうけど……」

あなた「でも女同士だよ」


そんな中世間一般の意見を見つけた。

世間的にはまだまだ同性愛の理解が足りなくて認められておらず、差別的な目で見られることも多い。
それに、女性同士で愛し合うことの難しさという壁もある。


あなた「やっぱりそうなんだ。まぁ普通はそうだよね」

と普通ってなんだと頭に浮かびつつも安心してしまう自分がいた。
自分が多数派に属していると分かるとつい安心してしまう。

だからってしずくちゃんを否定しているわけじゃないと必死に自分自身に弁明する。

いけない、いけない。
「普通」はとかじゃなく、自分自身の答えを出さないといけないと愛ちゃんに言われたばかりなのに。

448: 2020/09/19(土) 01:57:20.84 ID:MxxWLtio
私はしずくちゃんを嫌ったことは無い。あの時だって。


ーーーー

ドンッ

あなた『あっ……いや……その──』

ーーーー


それなら、あの行動は女性同士の恋は普通では無いという私の先入観によるものだったのかな。


確かに驚きはした。まだ心の整理も十分にできていない。しずくちゃんは好きだけれど、恋人という意味で愛することができるかと言えば怪しい。

それでもこれだけは言える。

私は今でも偏見の目でしずくちゃんを見るつもりは無い。
しずくちゃんは、私にとって大切な人なんだから。


ーーーー

しずく『ごめんなさい』

ーーーー


でも、しずくちゃんの様子を見る限り彼女の目には、私の反応が差別的に映ってしまったのかもしれない。
だから耐えきれず急いであの場から去ってしまったののだろう。


あなた「ちゃんと謝らないと……」

449: 2020/09/19(土) 02:04:57.19 ID:MxxWLtio
あなた「それはそうと……」

思考が一段落したところで、ネットサーフィンしている間つい気になって開いておいた別タブを覗く。

あなた「ちょっと気になってたんだよね。女性同士って男の人の……アレが無いのにどうやってエ チするんだろうって……」


先程開いておいたタブは、正にその気になっていた女性同士のエ チの動画。
私のハートは、この歳になっても好奇心旺盛のようだ。知的好奇心と羞恥心とカリギュラ効果で心臓がバクバクしだす。


あなた「お……おぉ……」

動画が始まって映し出されたのは二人の裸の女性。男性はいない。

あなた「それにしても二人とも綺麗だ……」

しずくちゃん程では無いけれど。

450: 2020/09/19(土) 03:18:02.42 ID:MxxWLtio
あなた「え、えぇ……///」ドキドキ


手を濃厚に絡ませ合いながら行われる二人のキスは、舌まで使いだし、段々と激しさを増していく。


あなた「わわっ……!!」


↑スッ


お互いの秘部や胸を口や手で慰め始めたところで顔が真っ赤になり、慌ててブラウザを閉じた。


あなた「そ、そうだ!買い物!」パンッ

あなた「そろそろ夕飯の買い出しに行かないと!!うん!!」

あなた「お出かけ、お出かけ、楽しいな~」

あなた「あはは……///」

462: 2020/09/22(火) 11:21:36.30 ID:yPGixSMv
ーーーー

あなた「愛ちゃーん。来たよー」

ガチャッ 

愛「お、来たね?丁度今出ようとした所なんだ!一緒に行こ!」


あなた「それで、見せたい物って?どこ行くの?」

愛「ん?小学校。ここの近所のね」


あなた「えっ……」

愛「何?」

あなた「い、いや……」

あなた(小学校……?何しにいくの?私は何に付き合わされようとしてるの?)

あなた(……はっ!)

愛(想像)『うへへ……可愛い子いっぱいでよりどりみどりだね!大人よりちっちゃい子だね!じゅるり』

あなた(まさか児童誘拐!?)


あなた「犯罪にだけは巻き込まないでね」

愛「え?何が?」

468: 2020/09/24(木) 07:26:10.93 ID:pr/3YHGd
女子小学生「あ、愛ちゃん、おはよう!今日もよろしくお願いします!」

愛「皆おはよう!毎週早起きできて偉いね!!」

愛「えーと、いちにーさん……今日も全員いるね。それじゃあまず準備運動してから、グッパで別れてチーム戦やろっか」

「「「はい!!!」」」


あなた(これは……)

469: 2020/09/24(木) 07:31:35.71 ID:pr/3YHGd
カキーン

愛「フライだぞー!!取れる取れる!!ボールよーく見て両手でねー!!」

愛ちゃんが遠くにいる女子小学生にも聞こえるように声を張り上げる。

あなた(あ、取れた!)

愛「よーし!すぐ投げる!!」

バシュッ

愛「いいよー!!今のよく取れた!!きらちゃん上手くなってる!!」

470: 2020/09/24(木) 07:36:02.72 ID:pr/3YHGd
あなた「愛ちゃんが見せたいものってこれだったんだね。ソフトボール?」

愛「うん、小学生女子ソフトボールクラブの監督やってるんだ。近所で募集してたからやってみようかなって」

あなた「またどうして?」

愛「仕事で軽く落ち込んでた時に見つけてね。新しい趣味でも見つけようと思って応募したんだ」

あなた「そうだったんだ。愛ちゃんなら運動もできるし子どもウケもいいし、ぴったりだね!」

愛「ありがと!」

471: 2020/09/24(木) 07:39:30.63 ID:pr/3YHGd
愛「それにしても今日も晴れてよかった!」

愛「雨天ではボールを打てん!からね」

あなた「ぷっ……」

愛「お?笑った?」

あなた「愛ちゃんのダジャレ久しぶり!相変わらず面白すぎ!!」

愛「笑ってくれてよかった!皆笑ってくれないんだよ~」

あなた「えー?こんなに面白いのに?」

愛「不思議だよね。子どもってダジャレ好きだと思うんだけどなー」

474: 2020/09/24(木) 22:19:58.28 ID:pr/3YHGd
愛「君、何のために仕事してるのかって聞いたよね」

あなた「え?う、うん」

愛「これが私の答えかな」


愛「知ってる?子どもって私達が思ってる以上に色んな事吸収してくんだよ!」

愛「そんな子ども達の成長を見るのがほんっと楽しくってさ!それが楽しみで毎日仕事頑張ってるって感じ!」

愛「今年でもう2年目になるかな。
一回だけプロが教えてる小学生チームに勝ったこともあるんだよ!」

あなた「プロのチームに!?それは凄い!」

475: 2020/09/24(木) 22:27:04.42 ID:pr/3YHGd
あなた「ねぇ愛ちゃん」

愛「ん?」

あなた「愛ちゃんって結婚してないよね?」

愛「してないけど……なんで?」

あなた「いや、子ども好きなら自分の子ども欲しくなったりしないのかなって」

愛「うーん……欲しいけど、男と結婚するのは嫌かな」

愛「いっそ男いらないから子どもだけくれないかな?なーんて」

あなた「そ、そう……」


あなた(何か嫌な事でもあったのかな……)

あなた(仕事でもセクハラされるって言ってたし、苦手意識があるのかも)

476: 2020/09/24(木) 22:42:30.91 ID:pr/3YHGd
愛「って冗談だよ?やだなぁ、本気にしないでよ~」ポンポン

あなた「そ、そうだよね。あはは、びっくりした……」


あなた(結婚か……。私もいつかは自分の子どもが欲しいかな。特に今男の人との縁は無いんだけど)

あなた(それにまだ今の時代じゃ女の人同士で子どもは出来ないし)


あなた(…………)


あなた(なんで今自然に女の人同士の発想になったの?)

482: 2020/09/25(金) 18:25:37.84 ID:nQinKidx
あなた(そもそも女の人同士で結婚って法律でも認められてなかった気が……)

女子小学生A「あ、りなちゃん先生だ!」

あなた「ん?りなちゃん?」


あなた(璃奈ちゃんとおんなじ名前だ。懐かしい響き)


女子小学生B「ほんとだ!日曜日なのに!」

女子小学生C「おーい!りなちゃん先生~!!」ブンブン

女子小学生D「りなちゃん先生今日も可愛い~!」キャァァ

「こらーっ!ちゃん付けしないでっていつも言ってるでしょー!」

りなちゃん先生と呼ばれた人は、ここから少し遠くにいるために声を張り上げて怒った。


あなた(え、あの人……!)

背中に下ろせる程伸びてはいるけれど、あの時と同じピンクの髪に、大人にしては小さい身長。
それに左右にピョンと跳ねているクセっ毛に、妖怪アンテナの如くピョコンと可愛く立っているアホ毛。


あなた(間違いない!)

492: 2020/09/28(月) 00:02:14.11 ID:ws+h84p4
愛「はーい、皆!今は練習に集中集中!ってちょっと、どこ行くの!?」

愛ちゃんの静止の声も聞こえないまま、私の体は無意識に彼女の元へ走り出していた。



「はぁ……もう少し強めに怒った方がいいのかな。でもあんまり強くして怖がらせちゃったら可愛そうだし、でも距離感近すぎて言う事聞いてくれなくなったら困るし……」

あなた「璃奈ちゃん!!」

「あなたは……」


ーーーー

493: 2020/09/28(月) 00:05:12.75 ID:ws+h84p4
璃奈(27)「久しぶり!こんな所で会うなんてびっくりした!」

あなた「それはこっちの台詞だよ!ここにいるってことは先生やってるの?」

璃奈(27)「うん。もうすぐ4年目かな」

あなた「ってことは25からか……」


あなた「って、あれ?確か璃奈ちゃんって学校を卒業したら、デジタル系の仕事するつもりって言ってたんじゃ……」

璃奈(27)「うん、虹ヶ咲を出た後はプログラムを組む仕事をしていたの」

494: 2020/09/28(月) 00:10:55.65 ID:ws+h84p4
璃奈「元々何かを作るのは得意だったから自分の実力を活かす事ができて、とてもやりがいはあった」

璃奈「でもある日ふと学生時代の時の事を思い出して思ったの」


ーーーー

璃奈(15)『……私、もっとたくさんの人に気持ちを伝えたい。心を通わせて、繋がりたい』

璃奈(15)『みんなと繋がれて、本当に嬉しい。この「嬉しい」をこれからもずっと続けていきたい。みんなと一緒に笑っていきたい』

ーーーー


璃奈「私がしたいことってこういう事だったのかなって」

あなた「……」

あなた(璃奈ちゃんも、私と同じ壁にぶつかってたんだ)

495: 2020/09/28(月) 00:13:34.50 ID:ws+h84p4
璃奈「そう悩み始めていたある日」


ーーーー

『いやぁ、本当に天王寺くんに頼めば何でもパパっとやってくれるから助かるよ!まるで「ロボットみたい」だ!!』

ーーーー


璃奈「その上司の一言で、私の中の決定的な何かが崩れ去ったのをなんとなくだけど感じた」

璃奈「それは上司にとっては何気ない一言だったのかもしれない。でも今の仕事を続けるかどうか悩んでいた私にとっては、辞職を決意するには十分過ぎる一言だった」

496: 2020/09/28(月) 00:18:36.22 ID:ws+h84p4
璃奈「私が作ってるプログラムも誰かが繫がるために役に立っているのは分かってる」

璃奈「でも私はやっぱり直接皆と繋がりたいって、そう思ったの」

あなた「璃奈ちゃん……」


璃奈「その事を親に相談したら、『そう思うならやめたらいい。お金はこっちで出すから璃奈の本当にしたい事をすればいい』って……抱きしめて……くれた……」ズズッ

あなた「ハンカチいる?」スッ

璃奈「ありがとう……」

497: 2020/09/28(月) 00:21:40.08 ID:ws+h84p4
璃奈「そんなわけで、その後私は会社をやめて大学で教員免許を取って、今は学校の先生してる」

璃奈「教師の仕事は難しくて前の仕事と違って今でも怒られる事ばっかりだけど、たくさんの子どもと関われて、すっごく嬉しいの!」

あなた「そっか……璃奈ちゃんは今やりたい事をやれてるんだね!」

璃奈「うん!」

498: 2020/09/28(月) 00:28:10.88 ID:ws+h84p4
璃奈「生徒皆と仲良くなりたいっていうのは勿論なんだけど、特に自分みたいに一人ぼっちで寂しい子が出ないようにしていきたいって思ってるの」

璃奈「一人のほうがいいならそれでいいのかもしれないけど、そうじゃない子もいるから。そういう子は私みたいにならないようにしてあげたい」

璃奈「それに、一人に慣れちゃうのってやっぱり寂しいから」

あなた「そうだね……」

私はかつて屋上で璃奈ちゃんが告白した時を思い出し、ギュッと心が締め付けられた。
 

璃奈「今もクラスになかなか馴染めない子が一人いるんだけど、これを教えてあげてる」ヒョイ

あなた「あ、璃奈ちゃんボード!」

凄く懐かしい気持ちになって、つい声を張り上げてしまった。

璃奈「璃奈ちゃんボードじゃないけどね。うちのクラスの子の顔なんだ
これを使って伝えてみたら?って
ちゃんと嬉しいって感じてるのがみんなに伝わったって、言ってくれた時の顔は今でも忘れられない……

499: 2020/09/28(月) 00:34:17.81 ID:ws+h84p4
途中送信しちゃった



璃奈「璃奈ちゃんボードじゃないけどね。うちのクラスの子の顔なの」

璃奈「自分から混ぜてもらいたいって言うのも恥ずかしいし、どう溶け込んでいいか分からないって言ってたから。これを使って自分の気持ちを伝えてみたら?って作ったの」

璃奈「そしたら、ちゃんと私の気持ちがみんなに伝わったって。そう言ってくれた時の笑顔は今でも忘れられないの!」


璃奈「それにいろんな子から私も作って欲しい!って言われちゃった」テレテレ

あなた「凄い!流行ってるんだそのボード!」

璃奈「これを思いついた愛さんは本当に天才」

500: 2020/09/28(月) 00:44:18.51 ID:ws+h84p4
璃奈「ねぇ……」

あなた「え?」

璃奈「私、ちゃんと表情作れるようになったかな?人形や、ロボットみたいじゃない?」

真剣な顔で璃奈ちゃんが私の目を見つめてくる。
目は若干潤んでいて、八の字に眉尻を下げた璃奈ちゃんの表情は、どこの誰が見ても受け取る印象は同じだろう。

それに、この数分間話しただけでもはっきりと分かる。

あなた「勿論だよ!今の璃奈ちゃんを見て何を考えてるのか分からないとかウソっぽいなんて言う人なんて絶対いない!!」

あなた「自然に表情作れてるよ!!」

璃奈「そう……よかった!」パァァ

璃奈ちゃんの表情が見るからに明るくなっていく。

私が卒業する頃にはもうボードが必要ないくらいには表情を出せるようになってはいたけれど、しばらく見ないうちにここまで自然になっていたんだ。

あなた(きっといっぱい努力したんだろうな)

501: 2020/09/28(月) 00:51:42.33 ID:ws+h84p4
璃奈「そうだ、久々に会えたから、改めて新しいラインのアカウントと繋ぎ直してもらっていい?」

あなた「え、アカウント変わってないよ」

璃奈「え?でも既読付かないから……」

あなた「あぁ……それは……」

あなた(少し後ろめたいけど、もう皆に話すってはっきり決めたんだ)


私は皆に話したように、璃奈ちゃんにも『皆に甘えてしまわないように避けていたこと』、
『それなのにソングライターの道を挫折しかけて皆に顔を合わせにくくなってしまっていたこと』、
『だけど今は前を向き始めて皆にも会いに行っている事』を話し、避けていたことを謝った。

あなた(前を向けているか今はちょつと怪しいけど……)

502: 2020/09/28(月) 00:54:54.69 ID:ws+h84p4
あなた「本当にごめんね。これからは無視したりしないから」

璃奈「大丈夫、あなたが無事ならそれでいい。心配してたから」

あなた「本当にごめん……」

璃奈「新しい夢、叶えられるといいね。応援してる」

あなた「う、うん……」

あなた(ちょっと後ろめたい……)


璃奈「とにかく今日はありがとう。久しぶりにあなたに会えて嬉しかった!」ニコッ

あなた(か、可愛いっ……!)

507: 2020/09/29(火) 01:13:38.72 ID:0n46K53j
あなた「ってそうだ!愛ちゃんもいるんだよ!」

璃奈「え、愛さん?」

あなた「そう!今小学生の子の野球見てるんだけど、終わったらどこか食べに行こうって誘われてるんだ」

あなた「せっかくだから、久しぶりに3人でご飯でもどう?」

璃奈「あー……うん……。そうだね、行こう」

あなた「もしかして璃奈ちゃん忙しかった……?」

璃奈「いや、明日の準備もあるなって思っただけ。共学校に来たのもそのための忘れ物取りに来たからだし」

あなた「そっか。ごめん……」

璃奈「でも大丈夫。皆でご飯食べる機会なんてなかなか無いから、そっちを優先する」

あなた「いいの?」

璃奈「大丈夫。心配してくれてありがとう。愛さんの所行こう?」

508: 2020/09/29(火) 01:23:04.37 ID:0n46K53j
璃奈「愛さん、久しぶり」

愛「おー!りなりー!久しぶり~。会うのは久しぶりだね」

愛「それよりりなりーこの学校の先生だったの!?違う学校じゃなかったっけ!」

璃奈「前の学校は転勤になった。今年からここの学校で働いてる」

愛「へー、そうなんだ。そっちも色々大変だね」


あなた「ねぇ愛ちゃん。璃奈ちゃんも一緒にご飯誘ってもいいかな?」

愛「勿論勿論!でも練習終わるまでだから結構待つけど大丈夫?」

璃奈「大丈夫、待つのにはなれてる」


璃奈「それにあなたもいるから」

あなた「璃奈ちゃん……」

璃奈「いっぱい話そう?」

あなた「う、うん!」

509: 2020/09/29(火) 01:38:27.50 ID:0n46K53j
それから私は璃奈ちゃんと夕暮れ時まで語り合った。

お互いの暗い話はもう話したので、今度はただただひたすらオチのない話をダラダラと喋り続けた。
話自体は面白くはないかもしれないけれど、とても楽しかったし、璃奈ちゃんも同じ気持ちなのかボードの無い素顔からは、満面の笑みが零れ落ちていた。


友達って凄い。璃奈ちゃんや、同好会の皆とは10年以上会っていなかったけれど、会えばこうしてすぐに昔みたいに楽しく笑いあえちゃうんだから。

あなた(でも……)

脳裏に浮かぶのは、私の前から姿を消したしずくちゃんと、幼馴染故に1番距離を置いている歩夢ちゃん。

特にしずくちゃんとは、彼女の思いを汲み取るなら、もう以前のような友人関係には戻れないかもしれない。
断るにしても、受け入れるにしても。

かといって無かったことにして以前の友人関係に戻ろうとするのも、彼女の思いを否定する事になるような気がする。

私はどうすればいいのかな。
私はどうしたいのかな。

あなた(皆とまた笑い会える日は来るのかな……)


ーーーー

517: 2020/09/29(火) 21:43:01.72 ID:0n46K53j
愛「お待たせー2人とも。終わったよー」

あなた「あっ、愛ちゃん。もうそんな時間?」

気がついた時には既に練習は終わっていて、小学生の子達も既に片付けに取り掛かっていた。

璃奈「もうそんなに経ったんだ。あっという間」

あなた「ごめんね愛ちゃん。後半あんまり子ども達の事あんまり見てなかったよ……」

愛「ううん、大丈夫。大体私がやってる事は伝わっただろうしね」

あなた「指導に熱が入ってて楽しそうだなって思った!」

愛「うん!めっちゃ楽しいよ!」

518: 2020/09/29(火) 21:57:41.90 ID:0n46K53j
女子小学生A「ねぇりなちゃん先生!りなちゃん先生!!」

女子小学生B「なんで今日学校にいたの!?」

璃奈「わっ」

片付けを終えた子ども達が次々と璃奈ちゃんの方へ向かってくる。

きっと練習中は話しかけないようにと愛ちゃんに言われていたんだろう。子ども達が一斉に向かってくる様子からは、まるで待てを長時間させられた犬がやっと主人の許しを得て餌にガッつくような気迫を感じた。

璃奈「えーと……今日は忘れ物取りに来たの……」

女子小学生C「その隣の人誰!?」

女子小学生D「ねぇねぇなんの話してたのー?」

璃奈「わわわっ」

慌てふためき、助けを求めるようにこちらにアイコンタクトを送って訴えかける璃奈ちゃん。

愛「りなりー人気者だなー。でも困ってるみたいだし、ここは愛さんが助けてあげないとね。アイだけに!」

あなた「プッ」

519: 2020/09/29(火) 22:05:04.88 ID:0n46K53j
愛「はーいみんなー!もうそろそろ夜も遅いし、早く帰ろうなー」

愛「りなちゃん先生も疲れてるんだから、話があるなら明日にしてあげてね」

女子小学生A「えー?練習中ずっと我慢してたのにー」

愛「ほら、今日は皆にアイスあげるから。お母さんには内緒ね!」

「わー!アイス!!」

アイスに釣られて子ども達が一斉に捌けていく。
練習後のデザートって美味しいんだよね、と少し懐かしくなる。

愛「1人1個ずつだからねー」

520: 2020/09/29(火) 22:10:33.13 ID:0n46K53j
璃奈「ありがとう愛さん」

愛「いえいえ、りなちゃん先生」

璃奈「むっ……愛さんまでちゃん付け……」

愛「あはは!子ども達に愛されてるじゃん、りなりー」

璃奈「……うん、そうみたい。凄く嬉しい」

愛「私はいいと思うけどね、ちゃん付け。小学生なんだし」

愛「嫌われたり怖がられたりするよりはよっぽどいいと思うよ」

璃奈「……確かに」


女子小学生「愛ちゃんバイバーイ!!」

愛「おつかれー!気を付けてねー!」


愛「ほらね?私も練習中は愛コーチって呼ばれるけど、練習が終わったら愛ちゃんって呼ばれるんだ」

愛「授業中にふざけたりしてたりメリハリがついてないってわけじゃなかったら別にいいんじゃないかな」

璃奈「そうかも。愛さん、ありがとう」

愛「いーよこのくらい!それよりもうお腹ペコペコー!早く食べに行こ!」

521: 2020/09/29(火) 22:19:48.78 ID:0n46K53j
テクテクテク

愛「2人は何食べたい?」

璃奈「私は……」


あなた(あっ、今の人)

私の意識は、先程通りすがった指を絡ませて歩いていた女性2人に奪われた。

あなた(2人とも綺麗な人だったな。もしかしたらカップルだったり……)

「……る?」

「聞いてる?」

あなた「はっ……」

522: 2020/09/29(火) 22:23:01.15 ID:0n46K53j
あなた「えっ……何かな///」

愛「聞いてなかったの?りなりーが私のもんじゃ食べたいって。君はこの前も食べたからそれでもいい?」

あなた「う、うん。愛ちゃんのもんじゃ美味しいし、私は大丈夫だよ」

璃奈「大丈夫?ボーッとしてたみたい」

あなた「大丈夫、ありがとう璃奈ちゃん」

523: 2020/09/29(火) 22:27:39.61 ID:0n46K53j
愛「それじゃあ、このまま材料買って帰って──」

「あなた達は……!」
 
愛「ん?」

早速スーパーに向かおうとしたところ、後ろの声に呼び止められた。
なんだか懐かしい声だ。

愛「えっと……私達の事ですか?」

あなた「あ!お、おばさん……!」

振り返って顔を見た刹那、声の主を把握した。忘れるわけが無い。

愛「君、知り合い?」

あなた「歩夢ちゃんのお母さんだよ!」

愛「あー……そういえば見たことあるような……無いような……」

璃奈「なんとなく歩夢ちゃんと似てるかも」

524: 2020/09/29(火) 22:31:42.31 ID:0n46K53j
あなた「お久しぶりです……。どうしたんですか?そんなに大声出したりして」

あなた(あんまり会いたく無かったけど……)


歩夢母「あなたと、それとそこの2人も、歩夢と仲良かった子よね?」

愛「はい」

璃奈「そうですけど。あの、何か……」


歩夢母「あなた達で、歩夢を助けてくれないかしら」

あなた「えっ……」


ーーーー

535: 2020/10/01(木) 00:30:30.06 ID:Gce+TQEZ
こんな早く同好会の追加キャラ来ちゃうとは……

一通り終わったら栞子加入した設定で修正しようと思ってたけど後々どんどん増えるってなるとキリないねこれ

540: 2020/10/01(木) 17:37:09.47 ID:Gce+TQEZ
アニメはもう別物っぽいからいいとして
とりあえずこのスレ内では栞子出した時点での想定通り、とりあえず和解はしたけど入部はしてないくらいにしておこうかな

ありがとう

542: 2020/10/01(木) 23:39:23.27 ID:Gce+TQEZ
ーーーー

私達は今、歩夢ちゃんの部屋の前にいる。

あなた(正直まだ覚悟ができているとは言えない)


あなた『助ける……ってどういうことですか?』

歩夢母『それは……歩夢から聞いてもらえたら……。とにかく一度歩夢と話して欲しいの』


そう話す歩夢ちゃんのお母さんからは、歳だからなのかもしれないけれど、疲労感が見てとれた。


あなた(だけどこのまま先延ばしにしていても踏ん切りなんてなかなかつくもんじゃないし、いい機会なのかもしれない)

あなた(いつまでも逃げてちゃいけないんだ!)

544: 2020/10/01(木) 23:46:50.26 ID:Gce+TQEZ
コンコンコン

あなた「歩夢ちゃん?入るね……」

ガチャッ


見慣れた部屋の扉を開いて見たものは

「お母さん?勝手に入らないでっていつも言っ……て…………」

髪はボサボサで、顔つきもあの頃のまま時が止まったように幼く

「うそ…………」

地味な下着にシャツ1枚という色白な肌が目立つ格好でこちらを見ている、変わり果てた幼馴染の姿だった。

550: 2020/10/03(土) 08:52:10.32 ID:HU3UzVOP
歩夢「みっ、見ないでぇぇぇ!!!」

あなた「わっ!」

歩夢ちゃんはこちらを少しの間見つめた後、顔を隠しながらバタンともの凄い勢いで扉を締めた。

あなた「歩夢ちゃん!?」

歩夢「ご、ごめんね。私今こんなだから、化粧だってしてないし……。だからリビングに行ってて?シャワーも浴びたいし今はちょっと……」

あなた「分かったよ。1時間後くらいにまたきたらいいかな?」

しばらく待っても返事は特に無い。

あなた「とりあえず2人ともリビングに行こう?」

私はその無言を了承と受け取り、歩夢ちゃんにも聞こえるようにわざと大きめの声で、愛ちゃんと璃奈ちゃんを促した。

551: 2020/10/03(土) 08:54:36.04 ID:2xX4q/UY
リビングに戻るや否や、歩夢ちゃんのお母さんがもの凄い形相で詰め寄ってきた。

歩夢母「あ、歩夢はどうだったの!?」

あなた「え、えぇと……」

形相に既視感を感じ流石親子だなと思いながらも、その気迫に圧倒されて言葉が出てこない。

璃奈「歩夢ちゃん、一旦シャワー浴びたいから少し待っててって言って、1時間後また訪ねることになりました」

答えられない私の代わりに璃奈ちゃんが簡潔に話してくれた。

歩夢母「そ、そう……、それならよかった。てっきり追い返されたのかと」

愛「でも雰囲気的には……」

愛ちゃんはその先こそはっきりは言わなかったけれど、言わんとすることはなんとなく分かる。

あれはかつての私と同じ、他人を避け、拒絶する目だ。
果たして1時間後、ちゃんと話ができるかどうか……。

552: 2020/10/03(土) 08:55:52.63 ID:HU3UzVOP
愛「それで、歩夢ちゃん何があったんですか?助けてってことは何か病気とかですか?」

歩夢母「病気……そうね、そうかもしれないわね」

歩夢母「私にもどうしたらいいか分からないの……」

あなた「歩夢ちゃんと話ができるか分かりませんし、よかったら詳しく話してもらえませんか?」

歩夢母「そうね……あの子の口から話させるのも辛いかもしれないし……」

553: 2020/10/03(土) 08:57:09.58 ID:HU3UzVOP
歩夢母「あの子はね、卒業後大学に進学したの。そうしてそのまま何の問題もなく一般企業に就職して、これで一安心ねって思って思っていたわ」

歩夢母「たまに疲れた表情を見せる時はあったけれど、まだ仕事に馴れてなくてしんどいだけだと思ってた」

歩夢母「だけど違ったのよ。ある日の朝急にあの真面目な歩夢が泣きながら行きたくない……って」

あなた「……」

歩夢母「ただ仕事が嫌になって行きたくないって風じゃなかったから、どうしたの?って聞いてみたら歩夢こう言ったの」

歩夢『ごめんなさい……。もう心が耐えられないみたい……』

あなた「……」

私は何も言えなかった。

554: 2020/10/03(土) 09:00:30.51 ID:HU3UzVOP
歩夢母「歩夢、会社でよく失敗をしちゃってたらしいの。それに加えて男性社員にセクハラに近い事をされたり、女性の同僚にはいびられたり色々辛い目にあってたみたい」

愛「それ、私も同じです……」

話を聞いていて愛ちゃんの状況と似ているなと思ったその時、愛ちゃん自身が口を開く。

愛「歩夢ちゃんも同じ状況だったんですね。私だって辛いもん。きっと歩夢ちゃんも辛かったと思います!」

歩夢母「そう、あなたもなの……。あなたが話してくれたらきっと歩夢も共感してくれるわ……」

璃奈「あなたは私達に助けてって言いました。ということはひょっとして歩夢ちゃんは今引きこもりになっていて、それを何とかしてほしいってことですか?」

私も薄々感じてはいたけれど、璃奈ちゃんはそうスッパリと言い切った。

歩夢母「…………実はそうなの。もう4、5年になるかしら。会社を辞めてからずっと部屋に引き篭もってしまって」

歩夢母「私が勧めてしまった手前私からはあまり強くは言えなくて……。でも私の方が先に死ぬし、いつまでもこのままって訳にはでしょ?もうどうしていいか分からなくて……」

あなた「その時私達を見かけたって事ですね」

歩夢ちゃんのお母さんはゆっくりと、小さくうなずく。

555: 2020/10/03(土) 09:07:12.73 ID:HU3UzVOP
愛「私、歩夢の気持ちすっごく分かるよ
!歩夢が立ち直れずにいるなら、力になりたい。友達だもん!」

璃奈「私も。それに、引き篭もりの生徒に携わった事もあるから力になれるかも。まだ1件だけだけど……」

歩夢母「あなた達……ありがとう。歩夢もいい友達を持ったのね」


しかしそんな2人の好意も──


歩夢「その子と2人きりにさせてほしい」


歩夢ちゃんには届かなかった。

567: 2020/10/07(水) 17:24:41.12 ID:826YWAgu
愛「歩夢?どうして!?」

璃奈「歩夢さん……私達の事嫌いになっちゃったの?」

あなた「多分そうじゃないと思う」

璃奈「え?」


あなた「きっと会うのが怖いんだよ。皆成長してるのに、それに比べて自分は……って」

愛「私達そんな事で責めたりしないって!」

あなた「うん、それは私がよく分かってる。皆と会ったけど、私の事責めるような子は誰もいなかった」

愛「だったら……」

568: 2020/10/07(水) 17:27:53.04 ID:826YWAgu
あなた「私もずっと怖かったから分かるんだ」

あなた「愛さん、こういう問題って複雑なんだよ。自分でうまく心の折り合いをつけるしかない」

あなた「それには時間が必要なんだ。多分今歩夢ちゃんは私達が来てびっくりしてるだろうから……」

愛「……分かったよ。まだ心の奥がもにょっとするけど、無理に会って歩夢を傷付けたら本末転倒だもんね」

璃奈「私も分かった。それじゃあ私達はまたリビングで待ってる」

愛「歩夢をよろしくね」

あなた「うん、ありがとう」


あなた(それにしても何で私だけいいんだろう)

1番仲がいいからだとは思うけれど、私の場合は逆に1番の仲である歩夢ちゃんにだけは知られたくはなかった。
だから頑なに拒み続けていたし、会うのだって今よりずっと後にしようと思っていた。

あなた(まぁそんな事今考えても仕方ないか)

569: 2020/10/07(水) 17:41:34.43 ID:826YWAgu
改めて扉に向き直り、深呼吸してからノックをする。

あなた「歩夢ちゃん?私一人だけだよ。入っていいかな?」

歩夢「うん、どうぞ」


あなた「入るねー?」ガチャッ


扉を開けると、薄っすらと頬をピンクのチークで肌を可愛く映し、白とピンクのフリフリ服で着飾ったなんとも可愛らしい幼馴染の姿があった。

あなた「あ、歩夢ちゃん…………」

あなた「その、久しぶり……」

ギュッ

あなた「あっ……」

歩夢「ずっと会いたかった」

あなた「…………ごめん」

570: 2020/10/07(水) 17:48:01.00 ID:826YWAgu
あなた「…………」


歩夢「…………」


あなた「…………」


お互いを抱きしめあい、長年の空白期間を埋めるように無言のまま時が過ぎていく。


あなた「ねぇ歩夢ちゃん」

歩夢「なに?」

あなた「聞かないの?なんでずっと無視してたのか。普通怒ってもおかしくないのに……」

歩夢「そんな事どうでもいいよ。こうして今、あなたが傍にいるんだから」

あなた「…………」

罰せられないという罪悪感に苛まれながら、私はよりいっそう抱きしめる力を強くした。

575: 2020/10/08(木) 04:58:19.52 ID:ESu9bvCP
歩夢「ふふ、幼稚園の時みたいだね。ねぇ、覚えてる?こうして砂場で抱き合ったことあったよね」

あなた「またそんな前の話?流石に覚えてないよー」

歩夢「えぇ?酷いなぁもう」ポムッ

あはは、と軽く笑うと、それに釣られて歩夢ちゃんも手を抑えて上品に笑った。

よかった。

少し前に対面した時こそ面食らったけれど、目の前の彼女は私の知っている歩夢ちゃんそのものだったので、すぐに違和感無く受け入れることができた。



いや、何か引っかかる……。

576: 2020/10/08(木) 05:11:52.26 ID:ESu9bvCP
そうだ。違和感が無い事こそが違和感なんだ。
目の前の彼女は、あまりにも私の知っている歩夢ちゃんそのものすぎる。

今まで会った皆は身体的なものであったり精神的なものであったり、大なり小なり何かしらの変化があった。
環境も変わって、あれから10年も経ったんだ。それが当然だろう。

現に歩夢ちゃんもさっきはあんなにズボラな感じだった。
にも関わらず、今の彼女の姿はまるでそんなものを感じさせない。さしずめ高校の頃に戻ったような感覚。

それは比喩では無く、時が戻ったみたいに、本当にあの頃の歩夢ちゃんそのものなんだと感じた。


あなた(高校の頃のトキメキが忘れられない私とおんなじだ)

あなた(私も一度は前を向き始めていたけれど、今はもう……)


そんな私にとって、
今の歩夢ちゃんからは不気味さだけでなく

どこか心地良ささえ感じられた。

581: 2020/10/08(木) 17:48:23.59 ID:ESu9bvCP
あなた「私からもらう物なら病気でも嬉しいなんて言うんだもん。びっくりしちゃったよ」

歩夢「もう、それは冗談だってば!」

歩夢「でもあなたが看病してくれたのは嬉しかったなぁ」

2人で過去の思い出にまつわる談義に花を咲かせる。

当然のように、卒業後の話題が挙がることは無い。

「ちょっといいかなー?」

そんな中コンコンとドアが鳴れば、歩夢ちゃんが一転して不安な表情を浮かべる。

あなた「大丈夫、愛ちゃん達だよ。すぐ戻ってくるから」

服の裾を握ってくる歩夢ちゃんを優しく引き剥がし、ドアノブに手をかける。

582: 2020/10/08(木) 17:56:33.32 ID:ESu9bvCP
あなた「どうしたの2人とも」

愛「ごめん、私達明日仕事だしそろそろ帰るね……」

璃奈「私も明日の授業の 準備があって……」

スマホで時間を確認してみれば、時計は夜の8時を示していた。そんなに歩夢ちゃんと話していたんだ。

愛「歩夢のこと、任せてもいいかな……?」

あなた「仕事無くて時間あるし、任せて?」

愛「ありがとう……」

正直歩夢ちゃんのためというよりは、自分がこの空間が心地良いからという側面の方が強かった。

583: 2020/10/08(木) 18:03:40.51 ID:ESu9bvCP
愛「友達が困ってるのに助けてあげられないなんて、なんか嫌だな……。仕事があるって言ったけど、仕事仕事、仕事より友達の方が大事じゃん!」

愛「やっぱり私明日休んで──」

璃奈「愛さん、私達がいても」

愛「……っ」

璃奈ちゃんがそこまで言った所で愛ちゃんは察したようだ。今現在自分達がいても何も出来ないという事に。

あなた「愛ちゃん、ありがとう。歩夢ちゃんは私に任せて愛ちゃんはお仕事頑張ってね」

584: 2020/10/08(木) 18:11:40.24 ID:ESu9bvCP
璃奈「私達で力になれる事があったら何でも言ってね」

あなた「ありがとう!2人がいるなら心強いよ」


愛「今日は一緒にご飯食べられなかったけどさ、またいつか食べに行こうよ」

璃奈「どうせなら、いつか10人で集まりたい」

愛「10人か……そういえばエマっちは卒業してそうそうスイスに帰っちゃったから、10人で集まった事って無かったね」

あなた「私も集まりたいな……。うん、いつか集まろうね」

愛「約束だよ!それじゃあね!」

璃奈「またね」


あなた「うん、またね」


ダッダッダッ

585: 2020/10/08(木) 18:15:02.48 ID:ESu9bvCP
ガチャッ

2人の足音が遠ざかっていくのを確認したのか、ゆっくりと歩夢ちゃんが扉を開けた。

あなた「2人とも帰ったよ」

歩夢「そう……」


歩夢「ねぇ、もう遅いし今日は泊まっていかない?」

あなた「え?そうだなぁ。久しぶりだしそれもいいかも」

歩夢「やった!それじゃあご飯一緒に食べよう?」

あなた「おばさんの手料理美味しいんだよね」

587: 2020/10/08(木) 18:28:07.14 ID:ESu9bvCP
あなた「すみません、おばさん。今日泊まっていっても──」

そこまで言いかけて思考がフリーズした。

「あなた、今まで何してたの」

あなた「お、お母さん……!」

お母さんは椅子から立ち、ゆっくりと私ににじり寄ってくる。

あなた「あの……その……これは……」ビクッ

ギュッ

あなた「あっ……」

母「自立するっていうのはね、誰にも頼らないって事じゃ無いのよ!連絡もしないで、こっちがどれだけ心配したと思ってるの!!」


あなた「お母さん……ごめんなさい」


歩夢「…………」

588: 2020/10/08(木) 18:34:56.26 ID:ESu9bvCP
母「とにかく逃さないからね。今日は家に泊まっていきなさい」

歩夢「あっ……」

あなた「え、今日は歩夢ちゃんの家に泊まろうと……」

母「ふーん、散々親に心配かけといてごめんで終わりなのね」

あなた「……泊まります」


あなた「ごめんね歩夢ちゃん。今日は……」

歩夢「そういうことなら仕方ないよね……」


歩夢「また明日ね」

あなた「うん」



ーーーー

594: 2020/10/11(日) 13:19:01.49 ID:N7Mjo0AE
あなた「勝手に家を飛び出してすみませんでした」

母「まったく、連絡くらいしなさい……。あなたの事だからどこかで生きてるとは思っていたけど」

あなた「ごめんなさい……。連絡したら、そのまま甘える事になるかと思って……」

母「とりあえずその事はまあいいわ。それで、仕事は何やってるの?」

あなた「一応ソングライター……。今はちょっとお休みしてるんだけど、もうすぐ大きな仕事が……」

母「ふーん、ソングライターね……。ちゃんと食べて行けてるの?」

あなた「うん……」


母「…………元気でやってるならいいわ」

母「これからは最低でも一年に一回は連絡しなさい。分かった?」

あなた「はい。心配かけてごめんなさい……」

595: 2020/10/11(日) 13:32:50.80 ID:N7Mjo0AE
お母さんと何年ぶりかに一緒にご飯を食べた後、自室に戻って1000件近い歩夢ちゃんのメッセージをスクロールでざっと確認した。

主にそのメッセージの殆どは「会いたい」、「どこにいるの」、「寂しい」と言った内容のものだった。

しかし仕事で辛い思いをしたと言っていたのに、意外にも「助けて」といったSOSのような文字は無い。
歩夢ちゃんは他人に心配をかけさせようとせず1人で抱え込むところがあったからかな。

たとえ直接的なSOSは無かったとしても、ちゃんと普段から話をしていればもしかしたら気付けたのかもしれない。
もしもの話に意味はないけれど。


あなた「やっぱり次歩夢ちゃんに会う時謝ろう」

596: 2020/10/11(日) 13:36:04.98 ID:N7Mjo0AE
ベランダに出た後しずくちゃんにメッセージを送る。

数分待ったけど既読はつかない。忙しいだろうし当然か。そのうちつくだろう。


ツイッターで検索をかけてみると、ちょうど今テレビ番組が放送されているらしく、今日もSNSではしずくちゃんの話題で持ちきりだった。

ツイートに添付されている画像を開く。
相変わらずため息が出るほどの美人だ。

つい最近までこんな美人と一緒にいて、それで……


あなた「キスされたんだ。半ば告白に近い形で」
 

あなた「…………」

597: 2020/10/11(日) 13:40:12.49 ID:N7Mjo0AE
唇に触れるけれどあのときの感触は思い出せない。

なんて贅沢な悩みなんだろうと我ながら思う。男の人なら二つ返事だろう。

あなた「次に会う時までにはちゃんと自分の意見をはっきりさせないとね……。はいともいいえとも言えてないんだから」

でも私は女性だし、しずくちゃんは部活の元後輩だ。

あなた「私はしずくちゃんの事を……」

ガラガラ

歩夢「あっ」

あなた「歩夢ちゃん」

左側の窓が開いて、歩夢ちゃんがベランダから顔を出した。

歩夢「私もあなたのこと考えてたの。なんだか心が通じ合ってる感じだね」

あなた「う、うん。そうだね」

598: 2020/10/11(日) 13:43:25.18 ID:N7Mjo0AE
歩夢「懐かしいよね。昔はこうやってどちらからともなく出てきて」

歩夢「悩み事があるときもよくベランダに出てたっけ……」

歩夢「今も何か悩み事あるの?」

あなた「悩み事?」

仕事に曲にしずくちゃんの事、将来の事……。

あなた「悩み事だらけだだよ……。でもこうして話してると紛れる気がする」

歩夢「そう?それならよかった」

599: 2020/10/11(日) 13:50:58.04 ID:N7Mjo0AE
歩夢「そういえば、お仕事は今何やってるの……?」

あなた「実は今仕事してないんだ」

歩夢「えっ!?」


そのまま私は歩夢ちゃんにも私の今までを話した。


あなた「元々は皆と連絡できる状況にいたら甘えちゃうと思って連絡を断ってたんだけど、今度は落ちぶれて仕事もしなくなったのを知られたくなくてずっと無視してた」

あなた「それがズルズル続いちゃって……本当にごめん」

歩夢「ううん、今こうして話せてるから私はもう気にしないよ」


歩夢「それに、私も仕事で辛い事があってね」

歩夢「朝本当にベッドから起き上がれなくて、自然と涙も出てきて。その時あぁ、私壊れちゃったんだなって思った」

歩夢「その後仕事を辞めてからはずっと家にいるの」

600: 2020/10/11(日) 14:04:36.27 ID:N7Mjo0AE
あなた「辛かったね……」

歩夢「あなただって辛かったでしょ?」

あなた「…………」

あなた「だって……頑張って頑張って、皆との交流を断ってまで甘えずに頑張ったのに」

何気ない言葉だったけれど、それに呼応して心の奥底から本音とダイヤモンドが溢れ出す。

あなた「それなのに数年間ずっと頑張っても全然芽が出ないなんて悔しいじゃん!」

あなた「確かに厳しい道だって覚悟して踏み込んだよ!」


あなた「でもやっぱりなんの成果も出ないのはキツすぎるよ……」

あなた「殆ど音楽の作業と生きるためにバイトするだけの毎日になってさ」

601: 2020/10/11(日) 14:05:55.26 ID:N7Mjo0AE
>>600

あなた「音楽の作業をするためと生きるためにバイトするだけの毎日になってさ」

602: 2020/10/11(日) 14:26:03.41 ID:N7Mjo0AE
あなた「結局覚悟が足りなかったって事かな……」

顔を少し上げると、歩夢ちゃんが手をヒョイヒョイさせ手招きをしていた。

あなた「なに?歩夢ちゃん」

ポンポン

あなた「あっ……」


歩夢「疲れたでしょ?あなたは今までいっぱい頑張ったんだし、もう頑張らなくてもいいんじゃないかな」

あなた「…………」

歩夢「ねぇ、明日も来るよね?一緒にゲームしようよ」


結局私はしずくちゃんの事を理解だきなかった。それどころがまだ私が知らないしずくちゃんの顔なんて山ほどあるかもしれない。

そうだ……やっぱり私に今のしずくちゃんサポートなんて荷が重すぎたんだ。


一回きりの人生だ。楽しく過ごした方がいいに決まってる。

それならしばらくはこうして歩夢ちゃんと昔のように遊ぶのもいいかもしれない。


これからどうするかはいずれ考えればいいか──

ーーーー

612: 2020/10/15(木) 05:29:47.04 ID:en3wiQ2L
「……て」

あなた(んん……)

「ねぇ起きて」

あなた「ん……ふぁぁ……」

歩夢「あ、やっと起きた」

あなた「歩夢ちゃん、おはよう」

歩夢「うん。おはよう、あなた」

あなた「なんだかこうして起こしてもらうのも懐かしいな」

歩夢「ふふ、そうだね!顔洗ったら朝ごはん食べよう?」

あなた「はーい」

613: 2020/10/15(木) 05:34:28.06 ID:en3wiQ2L
母親「おはよう。久しぶりの家のベッドはよく眠れた?」

あなた「うん、快眠!お、この匂いは卵焼き!」

歩夢「私が作ったんだよ」

あなた「やった!歩夢ちゃんが作る卵焼き大好きなんだ!いただきまーす」ヒョイ

母親「こら!手掴みしない!」

あなた「ふぉめんふぁふぁい」モグモグ

ゴクンッ

あなた「んっ……!」

あなた(この卵焼き……)

あなた「美味しい!!!」

あなた(10年前より格段に進化してる!!!)

614: 2020/10/15(木) 05:35:56.03 ID:en3wiQ2L
歩夢「よ……よかった!喜んでくれて!!」

歩夢「いっぱい練習したんだ。いつかあなたに食べてもらえるようにって……」

あなた「そうなんだ……。すっごく美味しいよ!」

歩夢「うん、ありがとう!嬉しい!!」

615: 2020/10/15(木) 05:39:29.29 ID:en3wiQ2L
歩夢「じゃあ私先に戻ってるから後で家に来てね」

あなた「あれ?歩夢ちゃんは一緒に食べないの?」

歩夢「私はもう食べちゃったから。それに……」

あなた「それに?」

歩夢「久しぶりにあなたと一緒に遊べるんだもん。色々準備したいの!」

歩夢「それじゃあまた後でね!」

バタンッ

あなた「準備……昨日言ってたゲームの事かな」

母親「ちょっといい?」

あなた「え?うん、どうしたの?」

母親「歩夢ちゃんの事なんだけど」

あなた「歩夢ちゃんの……?」

617: 2020/10/15(木) 05:42:47.04 ID:en3wiQ2L
母親「歩夢ちゃんが今朝家に来てびっくりしたよ。歩夢ちゃん、ここ数年ずっと夜型みたいな生活してたって聞いてたから」

あなた「え、そうなの?」

母親「それが今日急に早起きして卵焼き作ったもんだからちょっとびっくりしちゃって」

母親「この卵焼きだってね、仕事辞めてああなった後でもずっと作り続けてたんだって」

母親「歩夢ちゃんにとってあなたの存在は原動力になるみたいね」

あなた「…………」

618: 2020/10/15(木) 05:54:36.47 ID:en3wiQ2L
母親「上原(母)さんは歩夢ちゃんを近いうちに更生させたいみたいだけど、私は時間をかけてゆっくりでもいいと思ってるの。心の傷っていうのは本人にしか分からないしさ」

母親「あなたがいれば歩夢ちゃんも前を向けるようになるんじゃないかしら。まぁちょっと依存が強いようにも見えるけど」


母親「あなたもしばらくは家にいてもいいわよ。お金も余裕が無いなら別に入れなくてもいいし」

あなた「え……いいの……?」

母親「歩夢ちゃんの事もあるし。それに、卒業した後すぐ一人暮らしなんてしんどい事も色々あっただろうし」

母親「ほら、今日は歩夢ちゃんとゲームするんでしょ?早く食べていっぱい遊んできたら?」

あなた「う……うん!」

619: 2020/10/15(木) 06:17:04.77 ID:en3wiQ2L
ガチャッ

あなた「お待たせ歩夢ちゃん」

歩夢「あ、いらっしゃい」

あなた「あ、自分の部屋にテレビ置いたんだ」

歩夢「そうなの。昔はリビングでしてたよね」

あなた「うんうん!うわぁ、懐かしいなぁ。このゲーム機!」

あなた「ねぇ、何のゲームするの?」

歩夢「えっとね、色々考えたんだけど、とりあえずこれかな」つ

あなた「人生○ーム ハッピーファミ○ー」

あなた「人生○ームのゲームだ!ゲーム版もあるんだね!」

あなた(きっと皆でワイワイ盛り上がる楽しいゲームなんだろうなぁ)

歩夢「早速遊ぼう?」

あなた「うん!」
    

644: 2020/10/25(日) 21:21:43.63 ID:3jJ2gYOq
歩夢「これやるの初めてなんだ」

あなた「そうなの?」

歩夢「うん。去年買ったんだけど、人生ゲームってみんなで遊ぶ物でしょ?あなたと一緒に遊ぶのを楽しみにしてたんだ」

あなた「そうだったんだ。まぁ……確かにcpuとだけやってもね」

ゲーム内音声「プレイするキャラクターを選んでね!」

歩夢「私この茶髪のキャラでいくね」

あなた「じゃあ私はツインテールのキャラにしよっと」

歩夢「cpuあと2人いれるね」

あなた「うん」

歩夢「それじゃあ、始めるよ!」


その後私はすぐに思い出した。


どうして忘れていたんだろう。



歩夢ちゃんが好きだったゲームの事を……。

645: 2020/10/25(日) 21:32:05.78 ID:3jJ2gYOq
あなた「ねぇ……なんかさっきから3とかばっかじゃない?」

歩夢「たしかに、これだけやってるのに最高の8が1回も出てないかも」

明らかに出目が少なめになるように調整されたルーレット。出目を調整するためのアイテムも無い。


あなた「うわ、また同じイベント……これで何回目……?」

歩夢「3回目かな」

あなた「1プレイの内に3回もイベント被るってどれだけボリューム無いのこれ」

面白くもなく、しかも1ゲーム中ですら被りまくるイベント。


歩夢「あ、見て。また子どもが生まれたよ」

あなた「うん……全く同じ顔の……」

人生ゲームは一生を通してのゲームなのに最初から最後まで一切顔が変わらず、
生まれてくる子どもも、性別にかかわらず親と全く同じ顔のクローン仕様。何人生まれても全て一緒の顔。


人生ゲームって、こんなにつまらないゲームだっけ……。

なんというかこのゲーム、つまらないや退屈を通り越して虚無に近い。

cp2人入れて更にプレイ時間が水増しされたこの時間は、もはや拷問に近かった。

646: 2020/10/25(日) 21:36:07.52 ID:3jJ2gYOq
あなた「ねぇ歩夢ちゃん」

歩夢「なに?」

あなた「これってもしかして……クソゲー?」

歩夢「そうみたい」

あなた「…………」
   


人生って なんなんだろう

 
5時間近く続いたこのゲームで私はそんな事を思った。


とにかく心に誓ったことは──


あなた「もう一生人生ゲームしたくない……」

656: 2020/10/27(火) 00:14:56.03 ID:jJyClgEH
「みんな ゴールおめでとう!」

「1位は…
歩夢さんです!」

歩夢「やった!」

あなた(やっと終わった……)

最後は順位だけの発表で、最終金額が表示されないのはガッカリだけど、もうそんなのどうでもいい。やっとこのクソゲーから解放されるんだから……。

歩夢「ふふっ」

まぁ歩夢ちゃんが楽しそうにプレイしてたし、一緒にいるだけで楽しかったっていうのはあるんだけど。

657: 2020/10/27(火) 00:16:39.19 ID:jJyClgEH
歩夢「次は何で遊ぶ?」

あなた「え“っ」

あなた(またこういうのをやるの!?)

あなた「ねぇ歩夢ちゃん。その、マ○カーとかスマ○ラとかないの?」

歩夢「無いよ」

あなた「あ、そうなんだ……」

歩夢「うーん……一人用だけどこのゲームはどうかな。面白いよ」

あなた「一人用!?」

あなた(一人用ならプレイしなくて済む!)

658: 2020/10/27(火) 00:17:03.76 ID:jJyClgEH
あなた「うん、見たい見たい!歩夢ちゃんの凄いプレイみたいな~」

歩夢「え、そう……?私もそんなに上手くないよ」

といいつ満更でもない様子だ。

あなた(これで休憩できる……)

660: 2020/10/27(火) 00:19:29.07 ID:jJyClgEH
ウエカラクルゾ キヲツケロ!

ナンダコノカイダンハ

セッカクダカラオレハ コノアカノトビラヲエラブゼ

あなた「あはは、なにこれ」

どうせこれもクソゲーなんだろうけど、見てるぶんにはまぁまぁ面白いかもしれない。

オープニングらしきものが終了し、画面はセーブデータ選択画面に移った。

歩夢「ねぇ、やってみる?」

あなた「え、私がやるの!?」

歩夢「ちょっとだけでいいから」

あなた「うーん……まぁ、ちょっとだけなら」

661: 2020/10/27(火) 00:23:41.61 ID:jJyClgEH
あなた「あ、始まった」

ゲームがスタートすると、何やら人が複数映し出されていた。

コノヤロー

クッソォ

あなた「え、なんか食らってる!?」

歩夢「標準合わせてこのボタンで攻撃して!」

あなた「え、これシューティングゲームなの!?こういうの得意じゃないんだけどな……」

662: 2020/10/27(火) 00:34:33.60 ID:jJyClgEH
あなた「ってこれ操作性悪っ!」

歩夢「昔のゲームだからね」

あなた「そういうものなの?」


あなた「っていうか敵狙いにく!!全然当たんないんだけど」

オーノ

あなた「あ、死んだ」

663: 2020/10/27(火) 00:38:04.03 ID:jJyClgEH
あなた「くっ……もう一回!コンティニュー!」ピッ

ヤリヤガッタナ

あなた「ちょっ、いきなり食らったんだけど!無敵時間とかないの?」

クッソォ

コノヤロー


Game Over


あなた「えっもう死んだの」


ECOLE テーレレー


あなた「クソゲーじゃんこれ!!」

664: 2020/10/27(火) 00:39:52.54 ID:jJyClgEH
あなた「難易度設定とかないのこれ?いきなり難しすぎるよ」

あなた「あ、オプションがあった。ここかな」ピッ


Option Setting…



サウンド  ▷ステレオ モノラル
      終了


あなた「…………」

665: 2020/10/27(火) 00:43:59.32 ID:jJyClgEH
歩夢「代わろうか?」

あなた「いやっ、なんか悔しい!もうちょっとやってみる!!」

その後何度も奮闘するも、結局1面をクリアすることはできなかった。


あなた「こんなの無理だよ……歩夢ちゃん、パス」

歩夢「分かった。頑張るね」

そう言ってコントローラーを受け取った歩夢ちゃんは軽々と敵を倒していき、1時間くらい経つ頃には全ステージをクリアしていた。

あなた「すご……」

歩夢「ふふっ、クソゲークソゲー」

666: 2020/10/27(火) 00:52:51.83 ID:jJyClgEH
あなた(何が楽しかったのかいまいち分からないけど、歩夢ちゃんが楽しそうならそれでいいか)

歩夢「次はチーター○ン2にする?結構前に話題になったファイナル○ード(s○itch版)にする?そ、れ、と、も……」

あなた「い、いや、クソゲーはもう……」

歩夢「楽しいよ?」 

あなた「…………うん」

昔から私は、歩夢ちゃんの笑顔には逆らえないのだった。


ーーーー


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