【SS】果南「幼馴染からの重い誕生日プレゼント」【ラブライブ!サンシャイン!!】

ちかなん SS


1: (笑) 2018/02/10(土) 10:29:37.07 ID:tnaG+/07
 
鞠莉の家でみんなから盛大に誕生日を祝ってもらった後、私は高海家の炬燵で蜜柑を貪っていた。


「そっかぁ。果南ちゃんが海外にねぇ」


洗い物を終えた志満ねぇが右側に腰を下ろす。


「立派よねぇ。それに比べてうちの子ときたら……」


対面にいらっしゃるのが高海家のボスこと千歌のお母さん。

私が今こうしているのはお世話になった高海家へのご挨拶……ではなく、

千歌が「今日はうちに泊まっていって!」と、しつこく迫るもんだから根負けしたというわけ。

本当はまだ打ち明けるつもりはなかったんだけど、普段は内浦にいないお母さんもいたから丁度いい機会だと思い海外に行くことを伝えた。

2: (笑) 2018/02/10(土) 10:34:43.94 ID:tnaG+/07
「あいつ、どうすんだろうね。母さん何か聞いてないの?」


左側で雑誌を読みながら話すのは美渡ねぇ。


「今はラブライブに集中するんだって~」

「ラブライブねぇ……。ラブライブで優勝したら進学有利になるかな?」

「さぁ?」


さすが美渡ねぇ。考えたこともなかった。

千歌はどうするんだろうか。進学するのか、志満ねぇみたいにここで働くのか、美渡ねぇの様に沼津で働くのか。

3: (笑) 2018/02/10(土) 10:37:37.56 ID:tnaG+/07
ふと思い返すと、千歌とそういった類の話をまったくしてなかったことに気付く。

まぁ私が意図して避けてた面もあるんだけどね。

渦中の人物は私が海外に行くことを打ち明けると

『なにそれ、私聞いてないんだけど! 果南ちゃんの馬鹿! もう知らない!』

と、怒ってどこかへ行ってしまったのだ。自分の部屋だとは思うけど。

黙っていた私が悪い自覚はある。本当は誰よりも早く千歌に伝えるつもりだった。

けど、言えなかった。勇気がなかった。怖かった。それは私が千歌に対して、幼馴染以上の感情を抱いているから。

4: (笑) 2018/02/10(土) 10:41:31.20 ID:tnaG+/07
ずっと、妹みたいな存在だと思っていた。

あの日、あの時。がむしゃらに飛び続ける千歌を私は何度もやめさせようとした。傷付いていく姿を――泣きそうになる顔を見ていられなくて。

「絶対にできるとこ果南ちゃんに見せてあげるんだから!」

去り際に聞こえた千歌の叫びに私の胸は高鳴った。私だって恋に恋する女子高生だ。自分のために一生懸命になる姿にときめいたっていいじゃない。

例えそれが妹みたいな存在でも。



そして約束の時間。千歌は宣言通り見せてくれた。

『どうだ! 見たか! にししっ』

朝日よりも眩しい笑顔に私の心は射抜かれる。

5: (笑) 2018/02/10(土) 10:46:42.35 ID:tnaG+/07
それからというもの、千歌との距離感がわからなくなって気軽にしていたハグも出来なくなり、

話す時も私の心を射抜いた笑顔がちらついてまともに顔を見れなかったり……とまぁ、中々のへたれっぷりだった。

最近はマシになったとはいえ、お泊りの誘いは気が気じゃなかった。今はまた別の意味で気が気じゃない……。


「あいつはいつまで不貞腐れてるんだか」

「ごめんねぇ。千歌ちゃんったら果南ちゃんのこと大好きだから」

「いえいえ……黙っていた私が悪いので……」


千歌の怒りは当然で、今日はもう二月の十日。私が内浦を去るのに一ヶ月と僅かしかない。

ラブライブの決勝も控え、終わった後は卒業式をしてあっという間にお別れ。自分でも中々ひどいことをしたなと反省する。

ギリギリまで伏せて言い逃げせずに済んだと前向きに考えるべきか……。

6: (笑) 2018/02/10(土) 10:50:23.07 ID:tnaG+/07
そんな殊勝な心がけとは裏腹に、少しだけ嬉しかったりもする。

千歌が私との別れを惜しんでくれたこと。これがもし「あっ、そうだったんだー。お土産よろしく!」

なんて軽く言われたら私が泣きながら家に帰っていたところだ。めんどくさい女の自覚はある。自覚はね。


「果南ちゃんどうする? 今日は私と一緒に寝る?」


志満ねぇからの魅惑的な誘い。もちろん断る。


「寝たいところですが、そろそろ千歌に謝ってこようと思います」

「殴られない様に気を付けなー」

「はい……」

7: (笑) 2018/02/10(土) 10:55:16.88 ID:tnaG+/07
美渡ねぇのアドバイスを胸に受け止め、立ち上がろうと炬燵に手を置くと後ろで勢いよく襖が開いた。


「果南ちゃん、ちょっと来て」


振り返ると、神妙な面持ちの千歌が立っていた。
 

「千歌、もっと静かに開けなさい」

「う、ごめんなさい……。果南ちゃん浜辺まで行くから暖かくしてね」


お母さんに窘められいつもの千歌が帰ってきた。

「う、うん」私は返事をしつつ美渡ねぇから借りた寝間着の上にコートを羽織り、千歌の後ろを付いていく。

8: (笑) 2018/02/10(土) 10:59:32.15 ID:tnaG+/07
 

街灯と月明かりに照らされた静寂の砂浜。


ここは私が千歌に特別な感情を抱いた場所だった。


歩みを止め、じっと海を見つめる千歌の後ろ姿に私から声を掛ける。


まるで私の言葉を待っている様に思えたから。

10: (笑) 2018/02/10(土) 11:02:57.49 ID:tnaG+/07
「留学のこと、黙っててごめん」

「うむ。千歌は怒っています」

「反省します……」

「でもね、おかげで決心がついた。今日しかない。今しかないって」

「決心?」

「うん……私ね、ずっと果南ちゃんにプレゼントしたいものがあったんだ」

「本当はそのために呼んだわけなんだけど……」

14: (笑) 2018/02/10(土) 11:19:12.88 ID:tnaG+/07

「誕生日プレゼントならもう貰ったよ?」

「あれは……みんなの前ように……義理チョコ? みたいな」

「義理誕生日プレゼントってなにさ」

「もー! 笑わないでよ!」

 
いつもの空気が私達の間に戻ってきた。

 
「それで、何をくれるのかなん?」

15: (笑) 2018/02/10(土) 11:22:46.43 ID:tnaG+/07
内心ドキドキしつつも平静を装う。

義理チョコという例えから、今渡されるのは本命誕生日プレゼント。

千歌は自分で言った言葉の意味をわかっているのだろうか。私、期待しちゃうよ?


「準備するから目瞑ってて、絶対開けちゃダメだよ」

「へーい」


目を瞑り、暗闇に身を任せる。

波の音と時々聞こえる車の音に耳を傾けながら千歌を待つ。

待つ……。待つ……。待つ……。

16: (笑) 2018/02/10(土) 11:25:40.22 ID:tnaG+/07
「……まだ?」

「あ、あともうちょっとだから! 言うの忘れたけど結構重いから気を付けてね……」

「え、重いの?」


とても重そうな物は持ってなかった様に見えるけど……。

念の為、膝を軽く曲げる。傍から見たら間抜けなポーズだ、千歌早く。

18: (笑) 2018/02/10(土) 11:29:24.91 ID:tnaG+/07
 

――不意に、両手を握られた。


二月の寒さを忘れるくらいに暖かい彼女の温もりを感じていると、唇に柔らかい感触がした。


十八年生きていて初めての感触。けれど、それはすぐにわかった。


キスだ。

20: (笑) 2018/02/10(土) 11:34:23.37 ID:tnaG+/07
思わず目を開けてしまう。

眼前に広がるのはぎゅっと目を瞑り、月明かりの下でもハッキリとわかるくらいに真っ赤になった千歌の顔だった。

唇から伝わる彼女の想いが私の体を包んでいく。寒さなど、もはや感じない。


唇を当てるだけの子供みたいなキスだったけれど、それがとても千歌らしくて、愛おしくて、離れていくのが名残惜しかった。


「どうだ! 十七年来の幼馴染のファーストキスだぞ! 重いだろ!」


そう言って無邪気に笑う千歌。きっと私の顔も同じように赤いのだろう。

21: (笑) 2018/02/10(土) 11:37:53.97 ID:tnaG+/07
「うん……重い。すっごく重いよ」


指で自分の唇に触れる。そこにある彼女の温もりを確かめるように。


「い、嫌だった?」


無邪気さが一変、私の反応に心配になったらしい。


「嫌なわけない。嬉しいよ……人生で一番の誕生日プレゼント。ありがとう千歌」

「良かった……」


まさか千歌も、私のことをそう想っていてくれたなんて思いもしなかった。

それもずっと――。

23: (笑) 2018/02/10(土) 11:43:00.13 ID:tnaG+/07
 
ほっと胸を撫で下ろし、顔を上げた千歌の表情はらしくないほど真剣で、深呼吸をしてから今日一番重い言葉を口にした。



「果南ちゃんのこと待っててもいいですか」



私はその言葉の意味をすぐには理解出来なかった。


「待っててもって、別にあっちに住むわけじゃないんだから――」

「そうじゃなくて」


儚さを含んだ千歌の声色に私はようやく察した。千歌は恐れている。二人が離れ離れになること。時間は人を変えてしまうことを。


私だって怖い。それでも――千歌は勇気を出した、私と違って。なら次は私だ。私が想いを伝える番だ。

24: (笑) 2018/02/10(土) 11:47:34.72 ID:tnaG+/07
「……待っててほしい」


必死に紡ぎ出した言葉はあまりにも弱々しかった。だから――



「必ず戻るって誓うから、私のこと後もう少しだけ待っていてほしい!」

 

波の音を掻き消すように叫ぶ。彼女の心に届くように。


「本当に? 帰ってきて顔も見たくない、とか言わない?」

「うぐ……言わないよ。約束する、絶対」


私の渾身の叫びも虚しく軽口で返されてしまった。夏の私を鑑みればそう思われても仕方ないのはわかるけど……。


「わかった……信じてあげる。代わりに私のこと抱きしめて……果南ちゃん得意でしょ?」

「それ、嫌味入ってる?」

「入ってないと思った?」


今日の千歌には到底敵いそうになかった。

25: (笑) 2018/02/10(土) 11:52:25.58 ID:tnaG+/07
「だからね――」


「私のこと、他の子にはしないくらい強く抱きしめて」


いつもとは逆の立場で、千歌は両手を広げる。私よりも少し小さいその体に吸い込まれるように飛び込む。


背中に腕を回し、ぎゅっと力を込める。


私の想いを伝えるために。二人の心が離れてしまわないように。


今はまだ幼馴染の彼女を――強く、強く抱きしめる。


 






おわり

26: (笑) 2018/02/10(土) 11:53:55.71 ID:tnaG+/07
ありがとうございました。果南ちゃん誕生日おめでとう千歌ちゃんとお幸せに。

28: (笑) 2018/02/10(土) 11:55:30.68 ID:PziPTR8f
ちかなんすき

29: (神宮) 2018/02/10(土) 11:58:05.12 ID:sZekyq/v
乙乙
これは良いちかなん

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1518226177/

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