【SS】千歌「痩せこけたみかん」【ラブライブ!サンシャイン!!】

ちか夢夜空 SS


2: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:37:47.97 ID:FyLGXgdU
「ひぃ〜っ、忙しい〜!」


千歌「ぜんぜん片付け終わんないよぉ〜!」

千歌「てゆーか!なんで休みの日に団体さんなんか来るのさ〜!」

千歌「コッチは沼津に買い物行くつもりで色々準備してたってのに、もぅ!」

千歌「オマケに、あのお客さんたち遅くまで騒いでたし、変に絡んでくるし!」

千歌「もうちょっとで、隣から梨子ちゃんビーム撃って貰うとこだったよ!」
 
3: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:38:31.49 ID:FyLGXgdU
千歌「あ〜あ。せっかくの連休だったのになぁ」

千歌「……ん?あ、そっか」

千歌「千歌が休みの時って、大体みんなも休みか」

「千歌ぁー!」

千歌「!」

「お客さんの布団片すついでにー!廊下のみかん箱も捨てておいてー!」

千歌「ぇえ"〜っ、自分でやりなよー!」
 
4: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:39:22.22 ID:FyLGXgdU
「しいたけ!千歌の部屋でうんち!」

千歌「やめてぇー!!」

「ワン!」

千歌「しいたけ!?来ちゃダメだからね!」

「ホラホラ〜、もうすぐしいたけ行くよ〜?」

千歌「うるさいなぁ!今やるって言ってるじゃーん!」

「アォ〜ン」
 
5: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:41:13.03 ID:FyLGXgdU
千歌「もうっ!」

千歌「なんで千歌がやんなきゃなんないのさ!美渡ねぇがやればいいじゃん!」

千歌「空箱なんだから捨てるだけなのにさぁ……はぁ〜あ」

千歌「まったく、しょうがない姉だよ」スッ


…ゴロッ


千歌「ん?」

千歌「あっ」


千歌「……」
 
6: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:41:50.79 ID:FyLGXgdU
痩せこけた君よ。
 
7: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:42:17.75 ID:FyLGXgdU
厳しい冬の寒さを和らげ、卓上を美しく彩る筈だった

趣きと団欒の萌芽。


千歌「……」


この、寒風吹き荒ぶ往路を

しかし、興と倣い親しむべきとする、時節の風物。
 
8: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:43:08.09 ID:FyLGXgdU
雪面の太陽と謳っていたその熱も、今や形を潜め

目眩く甘露の味わいを、心躍らせる蜜の抵抗を想わせた、在りし日の姿は既になく

春風のそよぐ、板張りの廊下、その片隅へ。ただ、静かに横たわった

愛しき君よ。
 
9: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:43:52.93 ID:FyLGXgdU
己が本懐とは、常に相対する享楽の贄となり

しかし、生の余暇と悦び。その体現とも言える、充実した糧であった。

その、如何様にもなく、痩せこけてしまった君よ


この、侘しい胸の裡よ。



千歌「……」
 
10: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:44:46.82 ID:FyLGXgdU
「千歌ぁ!布団しまったのー!?」


千歌「……」

「千歌ぁ!!!」

千歌「!?」

千歌「は、はーい!今しまうー!」

「まだやってなかったの!?40秒でしまいな!!このバカ千歌!!」

千歌「ッ」カチンッ

千歌「千歌さまとお呼びっ!!!」
 
11: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:45:24.42 ID:FyLGXgdU
……ドダダダダダダダダッッ!!!!


千歌「ひっ!!?」

「ちぃかぁああぁああああっっっ!!!!!!」

千歌「うわっ!うわぁああぁあああああっっっ!!!!!!!」

美渡「いまなんつったぁああぁああっっ!!?!?」

千歌「ごめんごめんごめんっ!!もう言わないからぁ!!」
 
12: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:46:06.97 ID:FyLGXgdU
美渡「罰として!配膳と接客と風呂掃除もして貰うから!!」

千歌「ぇえ"〜っ!!そんなのムリだよぉ〜!」

美渡「泣き言なんか聞きたかないね!なんとかしな!」

「美渡〜」

美渡「なに!?」

志満「足音と声を静かにね」

志満「あと、千歌ちゃん」

千歌「?」
 
14: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:47:00.99 ID:FyLGXgdU
志満「その段ボール、畳んで外に出して置いてくれる?」

千歌「あ」

…ゴロッ

志満「?」

千歌「……」


千歌「……」



痩せこけた君よ。
 
15: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:47:44.10 ID:FyLGXgdU
空いた心と、その憂いに

美味と断ずるに余りある、一度の充足を。


遂行能わずとも、輪転の果てへ

座して待つ事に苦はなく、二度の邂逅を。


願わくば、最良の眠りと共に

その嘆きは夜露と変わり、三度の安寧を。
 
16: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:48:45.57 ID:FyLGXgdU
そして、この胸の裡へ去来する

幾度目かの、情愛の詩


痩せこけた君へ

光、有れかし。



千歌「……」
 
17: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:50:18.00 ID:FyLGXgdU
「オイ!」

千歌「!」

美渡「いくら暖かいからって、目ぇ開けて寝るな!」

千歌「ね、寝てないよっ!!」

志満「外へ出たお客さん達がもうすぐ戻るから、早めに捨ててね?」

千歌「はーい……」

千歌「……」

美渡「……」

美渡「千歌!」ピンッ

千歌「うっ!?」ビクッ
 
18: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:51:08.68 ID:FyLGXgdU
美渡「アンタ、ぼーっとし過ぎ!忙しいんだからシャキッとしなよ!このバカ千歌!」

千歌「ッッッ」カッチ-ン

千歌「ブ○!!」

美渡「ぁああぁああああああっっっ!!?!?!?」

千歌「ひゃぁああぁああああっっ!!?!?」

志満「二人とも〜、そろそろ怒るわよ〜?」

美渡「コイツが悪いんじゃん!!!」

千歌「志満ねぇ助けてぇ!!!」

ガコッ!
 
20: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:51:54.49 ID:FyLGXgdU
千歌「んぁ!?」

志満「?」

美渡「お?」

…ゴロゴロッ

志満「あらま」

美渡「おぉ、まだ入ってたんだ」

千歌「……」


千歌「……あぁ」
 
21: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:52:32.16 ID:FyLGXgdU
生きる事を至上とするならば

どうして、食べる事のあかしを否定するのでしょう。

懸命にもがく、この大海原を

どうして、糧も無しに泳ぎ切れるというのでしょう


それは、余暇を持つ者の運命なのかも知れません。
 
22: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:53:13.04 ID:FyLGXgdU
私たちの渇きは、斯様にも縋り付いて離さない。

満ち足りる事のない渇きが、執拗に

何処どこまでも離さない。


ならば、共に受け入れる事が肝要でしょうか

恒久的な価値のない、この多様な空の下で


痩せこけてしまった君よ

芽吹くその日まで。
 
23: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:54:33.50 ID:FyLGXgdU
千歌「……」

美渡「いや〜、てっきり全部食べたもんだと思ってたけど」

志満「取り忘れてたのねぇ」

美渡「まぁ、あんだけ食べたら、そりゃ一個くらい見逃すよ」

志満「去年は豊作だったから、ご近所の方からも沢山貰えたものねぇ」

美渡「……それにしても、あはは」

美渡「もうコレ、完全にシワシワじゃん」

「こんなん、ミカンじゃないよ」
 
24: (浮動国境) 2021/12/21(火) 20:55:09.61 ID:FyLGXgdU
千歌「……」

志満「千歌ちゃん」

志満「勿体ないけど、それは調理場のゴミ箱に捨てて来てくれる?」

美渡「ダッシュでな!」

千歌「……」

ギュムッ!

美渡「ぃいいっ!!?!?」

千歌「ッ」バッ

志満「!」

タッタッタッタッ……
 
25: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:00:17.28 ID:FyLGXgdU
美渡「なんだぁああっ!!?!?」

志満「美渡。声」

美渡「いやっ!アイツが私の足踏んづけたから──」

志満「お客さん」

美渡「!」

美渡「あ、あははっ、どうもすみませぇ〜ん」

志満「騒がしくてごめんなさいねぇ」
 
26: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:00:55.46 ID:FyLGXgdU
美渡「〜っ」

志満「……それとね」

志満「あんまり、千歌ちゃんにいじわるしたら駄目よ?」

美渡「だからアイツが」

志満「……」

美渡「うっ」

美渡「……はいはい、分かりましたよぉ」

志満「はい、は一回」

美渡「はぁ〜い」
 
27: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:02:05.91 ID:FyLGXgdU
「ハァッ、ハァッ、はぁ……っ」


千歌「ッッッ」ハァ ハァ

千歌「っ」

千歌「……美渡ねぇのバカ」

千歌「ホント、でりかしーの欠片もないんだからさ!」

千歌「酷いこと言うよ、まったく」

千歌「ホントにさ……」

千歌「……」
 
28: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:02:34.39 ID:FyLGXgdU
──それだけの事だった。
 
29: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:03:15.41 ID:FyLGXgdU
多くの仲間たちを、その頭上に見送ってきた

数ある者たちの中、ただ一人残された存在


それが、君だったのだ。


果たすべき本懐を、無惨にも散らされた

そんな仲間たちを尻目に


一人、君は残った。
 
30: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:03:49.64 ID:FyLGXgdU
千歌「……」


或いは、今此処で土の中に埋めてしまえば

君の本懐は、果たされるのかも知れない。


正しく、そうで有ろうとする遺伝子

その本懐を、果たす事が出来るのかも知れない


……きっと、そうなのだろう。
 
31: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:05:00.58 ID:FyLGXgdU
それとも、いつか巡り巡って

君はまた、私の元へと帰ってしまうのだろうか


君を育んだ、母なる樹木は

それを、望んでいるのだろうか。


千歌「……」



千歌「……」
 
32: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:08:07.00 ID:FyLGXgdU
ならば、

今ここに、未完の物語を閉じよう。


痩せこけた

酷く、痩せこけてしまった君


がらんどうの箱。その中へ一人残された

憐れなる果実。
 
33: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:10:15.92 ID:FyLGXgdU
この、愚かな私を

身勝手極まる、こんな私を


どうか

どうか、赦さないでくれ


後へ続く私を

先へ行く君よ。
 
34: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:10:51.78 ID:FyLGXgdU
千歌「……」


千歌「……」


千歌「……っ」


千歌「……」




千歌「美味しいよ」



【終】
 
35: (浮動国境) 2021/12/21(火) 21:11:17.31 ID:FyLGXgdU
お粗末さまでした。
 
36: (もなむす) 2021/12/21(火) 21:23:00.05 ID:JjMvwL1F
詩的
 
37: (SIM) 2021/12/21(火) 21:37:04.84 ID:7tr6C8e3
年の瀬に儚げな雰囲気が良い
乙みかん
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1640086602/

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