しずく「彼方さん、1週間だけ私のお姉ちゃんになって頂けませんか?」 彼方「ん~?」【SS】

かなしず SS


1: 2020/11/23(月) 09:07:25.68 ID:6lbMzTjC
しずく「実は、今度演劇部の役柄で最愛の姉を持つ妹というものがあるんです」

しずく「より完璧な妹キャラに仕上げるべく」

しずく「実際に妹を持っている彼方さんにお姉ちゃんになって頂きたいなと思いまして」

彼方「それならエマちゃんもお姉ちゃんではなかろうか」

しずく「エマさんもそうなのですが……」

しずく「この妹の姉のキャラ像が彼方さんにぴったりだったので、彼方さんにお願いしたいんです」

しずく「もちろん、家にまで押し掛けるつもりはありません」

しずく「部活が始まる前などに、ほんの少しお付き合いいただければ十分ですので」

しずく「……ダメ……でしょうか?」

彼方「ん~……ほんとに彼方ちゃんで大丈夫~?」

しずく「はいっ大丈夫です」

彼方「そっかぁ……」

彼方「じゃぁ、協力するよ~」

彼方「彼方ちゃん、頑張るねぇ~……」

しずく「はいっ、宜しくお願いします。姉さん」

4: 2020/11/23(月) 09:12:22.02 ID:6lbMzTjC
[1日目]

――ガラッ


しずく「姉さん、お帰りなさい」

彼方「ぉぉぅ……た、ただいま~」

しずく「お夕食の準備は出来てますけど……どうします?」

しずく「先にお風呂にしますか?」

彼方「え、えぇっと……ん~……」

しずく「……はっきりしてください」

彼方「ふぇぁっ!?」

彼方「じゃ、じゃぁお夕飯……かなぁ」

しずく「分かりました」

しずく「温めておくので、着替えてきてください」

彼方「は、はぁ~い」

6: 2020/11/23(月) 09:18:13.40 ID:6lbMzTjC
彼方「しずくちゃん着替えてきたよ~」

しずく「温め終わっているので、どうぞ席についてください」

彼方「……あ、コッペパン」

しずく「私の特製料理です……味に、自信はありますけど」

しずく「口に合うかは……」

彼方「えへへ~大丈夫だよ~」

彼方「いただきま~す」

しずく「……どうぞ勝手に召し上がってください」フイッ

ガブッ
   モグモグ

彼方「ん~っ、美味しいよ~」

しずく「そ、そうですか?」ニコッ

しずく「ぁ……コホンッ」

しずく「そうですか……それは良かったです」

10: 2020/11/23(月) 09:27:53.68 ID:6lbMzTjC
しずく「……ふぅ」

しずく「どうでしょう? あんまり感情を表に出そうとしない妹キャラなんですが」

彼方「感情は出てたかなぁ……」

彼方「いきなり急かしてきたのはちょっとびっくりさせられたよ~」

しずく「すみません……」

しずく「この妹、お姉さんのことは好きなんです」

しずく「好きなんですけど、照れ隠しで言動が冷たくなってしまっていると言いますか……」

しずく「でも、褒められると嬉しくて表情が綻んでしまう……というのが可愛らしいんです」

しずく「表に出さない感情は、姉を慕う気持ちでしょうか」

しずく「お疲れ様です……って言いたいのに」

しずく「それを言えなくて、はっきりしてくださいって急かしてしまうんですが……人を叩く手が痛むように」

しずく「この妹はその自分の言葉に少しだけ傷ついていたりもするんです」

12: 2020/11/23(月) 09:36:11.96 ID:6lbMzTjC
彼方「あと、コッペパン……これかすみちゃんが作ったやつでは……」

しずく「ふふっ……そうですね」

しずく「今日はちょっと準備できていなかったので」

彼方「えっ、いやいや~」

彼方「そんなわざわざ準備しなくていいんだよ~?」

しずく「いえ……」

しずく「姉のことを思い、しかし手荒く扱てしまう自分に辟易しながら」

しずく「少しでも喜んでもらおうと一生懸命料理を作る妹の気持ちになってみたいんです」

しずく「彼方さん、ちょっと抱き着いても良いですか?」

彼方「へ? 良いよ~? おいで~」

しずく「では、失礼します」

.....ギュッ

彼方「……よしよし」

ナデナデ

しずく「ん………」

しずく「……好きです。姉さん」

彼方「へへへっ……彼方……お姉ちゃんも、しずくちゃんが好きだよ~?」

しずく「っ……」ギュッ

彼方「おっと……よしよ~し」

ナデナデ

14: 2020/11/23(月) 09:44:51.58 ID:6lbMzTjC
しずく「彼方さん、良い匂いがしますね」

彼方「え~? 汗臭かったりしない~?」

しずく「いえ、全然」

しずく「エマさんが自然的な華やかな香りだとするなら」

しずく「彼方さんは陽の光の……ふんわりとして柔らかな包み込まれる優しい匂いです」

彼方「そうかなぁ~? そうかねぇ~……」

彼方「喜んでもらえて嬉しいよ~」

しずく「……」

スンスンッ
   スンスンッ
 ギュッ

しずく「もうしばらく、桜坂しずくとしてこうしていても良いですか?」

彼方「いいよ~」

しずく「……すみません」

彼方「良いって良いって~」

ナデナデ

しずく「………」

17: 2020/11/23(月) 10:06:39.05 ID:6lbMzTjC
――――――
―――
[2日目]


しずく「姉さん、姉さん……起きてください」

彼方「ん……ぅ……ぐぅぐぅ……」

しずく「まったく……姉さんは……」

しずく「……でも、いつも私たちの為に、姉さんは頑張ってくれているんですよね……」

しずく「なのに、私はいつもいつも……」

しずく「……」フルフル

しずく「姉さん、姉さん……まだ、起きませんか?」

ユサユサ
  ユサユサ

彼方「ぐぅぐぅ……」

しずく「………」

しずく「……私は姉さんを嫌ってなんかいません……本当ですよ、姉さん」

……チュッ

彼方「っ!?」

バッ

しずく「……早く起きない姉さんが悪いんですよ?」

しずく「………姉さん」

しずく「はぁ……」フルフル

しずく「姉さん、姉さん! ほら、起きてください! 遅刻してしまいますよ!」

18: 2020/11/23(月) 10:12:51.33 ID:6lbMzTjC
彼方「ん……んぅ……お、おはよ~」

しずく「はい、おはようございます」

しずく「朝食の準備は出来ていますから、顔を洗って下りてきてください」

しずく「まったく……しっかりしてくださいね」

彼方「う、うん……ごめんねぇ~?」

しずく「いえ……まぁ、姉さんは姉さんですべきことはしていますし咎める理由はありませんけど」

しずく「妹としては……もう少ししっかりして貰いたいですね」

彼方「あはは……頑張るよぉ~……」

しずく「はぁ……良いですから、早く顔を洗ってきてくださいね」

スタスタスタ
    
しずく「……また、酷いことを言ってしまった」

しずく「寝ている姉さんになら、あんな……」サワッ

しずく「………」

しずく「っ……」フルフル

しずく「姉さんのこと、私は好きですよ」ボソッ

23: 2020/11/23(月) 10:31:38.06 ID:6lbMzTjC
しずく「……ふぅ」

しずく「彼方さん、すみません」ペコリ

彼方「え、ぁ、ううん……大丈夫だよ~」

しずく「演技とはいえ、頬にキスしてしまって……」

彼方「んーん、大丈夫だって」

彼方「ほっぺのキスは海外だと挨拶でされることもあるって聞いたからねぇ」

彼方「ちょっと驚いたけど……しずくちゃんの唇柔らかかったし~?」

しずく「やわ……な、何言ってるんですかっ」

しずく「もぅ……どうして私の方が恥ずかしがってるんですか……」

しずく「…………」

しずく「彼方さんにとっては挨拶みたいなものですか?」

彼方「へぇ? う~ん……そうだねぇ」

しずく「でしたら、彼方さんもしてください」

彼方「なぜに!?」

しずく「私だけするのは不公平ですし……どうぞ」

彼方「不公平って……うん~?」

しずく「……私の唇、柔らかかったんですよね?」

彼方「え、ぁ、う、うん……そうだねぇ」

しずく「では彼方さんもどうぞ」

彼方「彼方ちゃんには読めない流れがあるのかなぁ~?」

26: 2020/11/23(月) 10:42:35.24 ID:6lbMzTjC
彼方「……」

彼方「ほんとにするの?」

しずく「……彼方さんが嫌なら、良いですけど」

彼方「う……」

彼方「そういうのは、ちょっと狡いぞ~?」

しずく「ぁ……」

彼方「良いよ~じゃぁ、しずくちゃんのほっぺに……キスしちゃおうかねぇ?」

ツンツンッ

しずく「んっ……」

彼方「動いちゃだめだよ~?」

しずく「は、はいっ……」ドキドキ

彼方「………」

しずく「っ………」ドキドキドキ.....

――チュッ

しずく「っっ!」

彼方「ん……これでいいかな~?」

しずく「はい……」ドキドキ

しずく「確かに、唇の柔らかさが感じられますね……」

しずく(良く分からなくなっちゃったけど……もう一回は頼めない……)

しずく「勉強になりました」

彼方「そっかぁ~……ならよかったよ~」ニコッ

しずく「あ、ありがとうございます……」フイッ

27: 2020/11/23(月) 10:57:58.22 ID:6lbMzTjC
しずく「彼方さんって、遥ちゃんにあいさつでキスしたりするんですか?」

彼方「うん~……小さい頃はねぇ」

彼方「最近はもうしないかなぁ~?」

しずく「……出来たらしたいとか、思います?」

彼方「えぇ~? ん~……特に思わないかなぁ……」

彼方「彼方ちゃんは遥ちゃんが大好きだけど」

彼方「遥ちゃんが嫌がるようなことはしたくないしねぇ」

彼方「それに、挨拶って言っても海外であって、ここは日本だからね」

しずく「そう、ですよね……」

彼方「しずくちゃんは、したいの?」

しずく「そうですね……どうでしょう」

しずく「私が演じている妹は、姉を慕っていて、普段表に出せない……つまりため込んでいるからこそ」

しずく「こうして、寝ているお姉さんの頬にキスしてしまうんですが……」

しずく「……私は、普段……そうですね」

しずく「オフィーリアになら、することもあります」

彼方「しずくちゃんちのワンちゃんだよね~」

しずく「はいっ」

しずく「もうとっても可愛くて……ついつい、してしまうんです」

彼方「ふふふっ、そっかぁ~」

28: 2020/11/23(月) 10:58:59.75 ID:6lbMzTjC
続きはまた後ほど

34: 2020/11/23(月) 14:39:54.17 ID:6lbMzTjC
彼方「そしたら、彼方ちゃんはしずくちゃんが妹だったらついついしちゃうかもねぇ~」

しずく「えぇっ!?」

彼方「遥ちゃんも可愛いけど、しずくちゃんも可愛いからねぇ」

しずく「か、可愛いなんてそんなっ」

彼方「………」

ナデナデ

しずく「か、彼方さん?」

彼方「照れちゃって、可愛いねぇ」

しずく「も、もうっ……からかわないでくださいっ」

彼方「えへへ~さっきびっくりさせられた仕返し~」ニコッ

しずく「は?」

しずく(かわいい)

彼方「でもでもねぇ~? 可愛いって思ってるのは事実だよ~」

ナデナデ

しずく「も、もぅ……彼方さん酷いです……」

38: 2020/11/23(月) 15:46:37.83 ID:6lbMzTjC
彼方「姉さんって、呼ばないの~?」

しずく「今は桜坂しずくなので……」

彼方「そっかぁ……」

しずく「しょんぼりされても困ります……」

しずく「………」チラッ

しずく「……彼方さん的には、私からの呼称は姉さん。だと思いますか?」

彼方「ん~? というと~?」

しずく「えぇと……姉を呼ぶにもいろいろあるじゃないですか」

しずく「お姉ちゃん、姉さん、姉貴、姉ちゃん……」

しずく「ば、場合によっては……ですけど」

しずく「か……彼方って、呼び捨てにするのもありますし……色々ありますよね?」

彼方「おぉ~……確かに~」

彼方「しずくちゃんなら何て呼びそうかって話かぁ……」

しずく「は、はいっそうです……たとえばです。例えば」

しずく「私がカナ姉……とか、呼んだらおかしいと思いませんか?」

彼方「カナ姉は、う~ん……聞き馴染みがないからねぇ」

しずく「で、ですよね……はい」

39: 2020/11/23(月) 17:10:48.52 ID:6lbMzTjC
彼方「でも、しずくちゃんが呼び続けてくれれば……イイ感じになるかもしれないよ~?」

しずく「……無理です」

しずく「みんなの前でカナ姉なんて呼んでいたら何事かと思われちゃいますよ」

彼方「それもそうだねぇ」

彼方「カナ姉も悪くはないと思うけどなぁ……」

しずく「ですが、私であれば姉さん・お姉ちゃんが妥当かと」

しずく「そうは思いませんか? 姉さん」

彼方「……でも、カナ姉も悪くないよ~?」

しずく「……呼ばれたいんですか?」

彼方「ん~?」

しずく「呼ばれたいんですね……」

彼方「ちょっとだけ~」

ユサユサ

彼方「ちょっとだけ~」

ユサユサ....

しずく「わかりましたっ」

しずく「少しだけですからね」

しずく「もう……カナ姉は時々強引なんですから」

彼方「……カナ姉呼びなら、もうちょっと砕けた口調で良いんじゃないかなぁ?」

しずく「えぇっ……」

42: 2020/11/23(月) 17:46:18.83 ID:6lbMzTjC
しずく「待ってください、彼方さんっ」

彼方「彼方さん~?」

しずく「……カナ姉」

しずく「それはさすがにできませんよ」

しずく「彼方さ……カナ姉は年上ですし、先輩ですし、お姉さんじゃないですか」

しずく「なのに、砕けた話し方なんて」

彼方「そっかぁ……残念だねぇ」

しずく「……みんなが来たら、カナ姉は終わりですからね」

彼方「は~い」

しずく「………」

しずく「……もぅ……」

しずく「調子いいんですから」

しずく(姉への砕けた口調……)

しずく(という……演技だったら……?)

44: 2020/11/23(月) 19:37:32.47 ID:6lbMzTjC
しずく「……ねぇカナ姉」

彼方「ん~?」

しずく「明日のお昼は私が作っても良いかな?」

彼方「お昼……?」

しずく「そう、お弁当作ってくるから、一緒に食べない?」

彼方「お昼のお誘いかぁ……」

しずく「難しければ大丈夫だけど……」

しずく「学科も学年も違うから、気軽には会えないでしょ?」

しずく「だから……どうかなって思ったんだけど」

彼方「そうだねぇ」

彼方「……しずくちゃんがそこまで付き合ってくれるなら」

彼方「彼方ちゃんも、付き合ってあげるよ~」

ナデナデ

しずく「良いの?」

彼方「その代わり、しずくちゃんの分は彼方ちゃ……カナ姉に作らせてくれるかなぁ?」

45: 2020/11/23(月) 19:58:17.69 ID:6lbMzTjC
彼方「お弁当交換……姉妹でするのも面白いよねぇ?」

しずく「本当の姉妹なら、出来ないことだよ?」

彼方「本当の姉妹だと難しくても……彼方ちゃん達ならできるよねぇ?」

しずく「それはそうだけど……」

彼方「どうする~?」

彼方「妹を想うお姉ちゃんのお弁当……食べてみたいと思わない?」

しずく「っ……」

しずく「それは……」

しずく「それは狡くないですかっ!?」

しずく「そんなの……」

しずく(食べたい……)

彼方「あははっ……じゃぁ、決まりだねぇ?」

しずく「……お手柔らかにお願いします」

彼方「最高の愛妹弁当……作ってあげるね」

ナデナデ

しずく「……お願いします」

46: 2020/11/23(月) 20:26:54.31 ID:6lbMzTjC
――――――
―――

しずく(なんて……約束してどうするんだろう……)

しずく(愛妹弁当って何!?)

しずく(愛姉弁当が何だか違和感あったのかもしれないけど……)

しずく(彼方さんのお弁当……)

しずく(絶対に美味しいと言うのだけは確信が持てる)

しずく(……そして、私のものよりも絶対に美味しい)

しずく(けど……彼方さんよりもおいしいものを作ってみたい)

しずく(美味しいって言って貰えるような……)

しずく(あぁ……でも……彼方さんは不味くても美味しいって言って食べてくれそう)

しずく(美味しいの、作りたい)

しずく「………」

しずく「お母さん! 家の一番おいしい料理の作り方教えて!」

「しらす丼?」

しずく「なんでーっ!?」

52: 2020/11/23(月) 23:13:16.10 ID:6lbMzTjC
しずく(実家の味……なんて、ダメだし)

しずく(料理スキルだけは、演技力でどうにかなるものじゃない)

しずく(一朝一夕で上達させられるようなものでもない)

しずく(ならどうするか……)

しずく「……ということでどうかお願いします!」

歩夢『そう言われても困るよ~』

しずく「歩夢さんしかいないんです……」

歩夢『お料理の本を参考に――』

しずく「書店でチラ見したんですが……凝りすぎているんです」

しずく「参考通りに作ればどうにかなると思いますが」

しずく「けれど出来上がるのは……教科書通りの料理であって私が作りたい料理ではないんですよ」

しずく「……教えてください。愛情というスパイスって何ですか?」

歩夢『そんなこと言われても困るってば~っ!』

しずく「そこを何とかお願いしますっ!」

亜郵務『えぇ~っ……』

53: 2020/11/23(月) 23:15:02.01 ID:6lbMzTjC
>>52修正
最終行 亜郵務⇒歩夢


しずく(実家の味……なんて、ダメだし)

しずく(料理スキルだけは、演技力でどうにかなるものじゃない)

しずく(一朝一夕で上達させられるようなものでもない)

しずく(ならどうするか……)

しずく「……ということでどうかお願いします!」

歩夢『そう言われても困るよ~』

しずく「歩夢さんしかいないんです……」

歩夢『お料理の本を参考に――』

しずく「書店でチラ見したんですが……凝りすぎているんです」

しずく「参考通りに作ればどうにかなると思いますが」

しずく「けれど出来上がるのは……教科書通りの料理であって私が作りたい料理ではないんですよ」

しずく「……教えてください。愛情というスパイスって何ですか?」

歩夢『そんなこと言われても困るってば~っ!』

しずく「そこを何とかお願いしますっ!」

歩夢『えぇ~っ……』

54: 2020/11/23(月) 23:29:45.43 ID:6lbMzTjC
――――――
―――
[翌昼]

しずく(……朝早く起きて、作ったお弁当)

しずく(歩夢さんに懇願して籠め方を教わった愛情)

しずく(ただ、その人が喜ぶ顔を想像しながら、作ればいいと歩夢さんは言った)

しずく(出来上がったお弁当はとても質素なもの)

しずく(凝ったもののない、ありふれたお弁当)

しずく「………」ドキドキ

しずく(お昼時の、陽当たりの良いベンチ)

しずく(ここで……ただ、人を待っているだけなのに)

しずく「……妹でも、緊張するのかな」

しずく「相手がお姉さんであっても、こんなにドキドキするのかな」

ピロンッ

しずく「ん」チラッ

しずく「……あと少し」

しずく「……ふぅ」

しずく「美味しいって……言って貰えるかな」

しずく(お世辞じゃなくて、本当に)

55: 2020/11/23(月) 23:30:19.50 ID:6lbMzTjC
続きは明日

64: 2020/11/24(火) 23:02:32.47 ID:S5qS+/2T
しずく(………)

チラッ
  サッサッ
 チラッ
   モジモジ

しずく(……ちょっとリボン曲がってる?)

しずく(唇は……)

タタッ

しずく「っ」ビクッ

彼方「やぁやぁ~お待たせ~」

しずく「い、いえっ!」

しずく「今来たばかりです」

彼方「そっかぁ、ごめんねぇ」

彼方「けど……待った価値は――あると思うぜ?」キリッ

しずく(えっかわ……)

しずく「ふっ……ふふっ……ふふふっ」

彼方「彼方ちゃん渾身のイケメン演技を笑ったなぁ~?」

しずく「いえっ、違……ふふっ……すみませ……」

しずく(ダメ……それは駄目ですよ彼方さん……っ)

しずく「ふふふっ……あははははっ」

彼方「むぅ……」

しずく(それはお姉さんじゃなく……お姉ちゃんですよ……っ)

66: 2020/11/24(火) 23:53:09.78 ID:S5qS+/2T
彼方「……コホンッ」

しずく(少し赤くなってるの好きです……)

彼方「じゃぁ、交換しようか~」

しずく「あ、待ってください」

しずく「………」

しずく(私は彼方さんの妹)

しずく(姉さんの妹)

しずく(姉さんが……好きで、不器用な妹)

しずく(不器用な……)

しずく「……ふぅ」

しずく「良いですよ。姉さん」

彼方「しずくちゃん、やる気だねぇ」

彼方「はい、お姉ちゃんの愛妹弁当」

しずく「愛妹弁当なんて、変なこと言わないでください」

しずく「まったく……いつもお弁当を作って貰っているお礼をしようかと思えば」

しずく「姉さんはほんと、私の気持ちなんて分かってくれないんですから」

67: 2020/11/25(水) 00:33:34.24 ID:Cb0D+7Gu
しずく(彼方さんのお弁当は……)パカッ

しずく(かにかま入りの卵焼き、唐揚げ……ピーマンとベーコンの炒めもの……)

しずく(品数は少なめだけどしっかりしてる……)

しずく(唐揚げだって……冷凍じゃない)

しずく(私が考えた冷凍という手段)

しずく(彼方さんにとっては、考える必要すらなかった……)

彼方「しずくちゃんの嫌いなものでもあった~?」

しずく「いえ……そんなことないですよ」

しずく「ただ、私の負けですね」

彼方「負け?」

彼方「まだ、食べてもいないのに?」

しずく「美味しいのは目に見えてるから……」

しずく「姉さん、開けないという手もありますよ?」

彼方「ん~……大丈夫大丈夫」

68: 2020/11/25(水) 00:59:51.48 ID:Cb0D+7Gu
彼方「おぉ~……タコさんウインナーだ~」

しずく(私が作ったのは卵焼き、ウインナー、ブロッコリーとベーコンの炒め物)

しずく(肉じゃが、しらすのふりかけ……)

しずく(……うぅ)

彼方「しっかり作れてると思うけどなぁ?」

彼方「全部、しずくちゃんが作ってくれたんでしょ?」

しずく「半分炒め物ですよ」

しずく「卵焼きに、青海苔含めてみようとしたんですけど……上手くいきませんでした」

彼方「焦がしちゃった?」

しずく「残念ながら」

しずく「それに……結局、レシピを参考にしたんです」

しずく「料理の本、インターネット……どれなら作れるかと調べて、作ってみて……失敗して」

しずく「ずいぶんと、簡単なものになってね……笑っていいですよ。姉さん」

彼方「……別に笑ったりはしないよ~」

彼方「彼方ちゃんだって、最初っから美味しく・上手く。そんな料理なんて出来なかったからねぇ」

彼方「でも……タコさんウインナーだけは、すっごく頑張ったなぁ……」

69: 2020/11/25(水) 09:12:20.75 ID:Cb0D+7Gu
彼方「意外にねぇ……タコの足が上手く開かなかったりして」

彼方「良く焦がしてたなぁ……」

しずく「彼方さんにもそういう時期があったんですね」

彼方「そりゃぁあるよ~」

彼方「………ふふっ」

彼方「じゃぁ、いただきま~す」

しずく「はいっ、どうぞ召し上がってください」

しずく「私もいただきます」

彼方「良いよ良いよ~召し上がれ~」

しずく(かにかまを中央に入れた卵焼き)

しずく(色も綺麗だし……何より変な焦げ方をしていない)

しずく(お箸で摘まんでも形が崩れるようなこともない)

しずく「……パクッ」

しずく「んっ」

しずく(塩じゃないっ)

しずく「彼方さんっ、これ……」

彼方「あぁ、ちょっと甘いダシを使ってるんだよねぇ」

彼方「煮物とかのお汁って意外とおいしいでしょ~?」

彼方「彼方ちゃん特製だし巻き卵~」

彼方「どぉどぉ~? 美味しい~?」

しずく「お、美味しいですっ」

しずく(噛むと広がるダシが混ぜ込まれた卵の仄かな甘さと、かにかまのほんのり塩みの効いた味付け)

しずく(……これは、良いですね……)

71: 2020/11/25(水) 09:44:30.40 ID:Cb0D+7Gu
彼方「しずくちゃんの卵焼きも美味しいよ~」

モグモグ
   モグモグ

しずく「一応確かめはしましたけど、塩辛かったりしてませんか?」

彼方「ん~ん」フルフル

しずく「それは良かったです」

しずく(彼方さんのお弁当は、とても優しい味がする)

しずく(優しくて……美味しくて……次から次にお箸が引っ張られていく)

しずく「………」チラッ

彼方「モグモグ……」

しずく「……この唐揚げ、小麦粉使ってないんですか?」

彼方「ん~? うん、そうだよ~」

彼方「代わりに薄力粉使ってるかな~」

彼方「初めから本来の唐揚げで作っちゃうと、お弁当として持ってきたときに衣がべちゃってしちゃうからねぇ」

彼方「冷めてもおいしく食べられる唐揚げだよ~」

72: 2020/11/25(水) 09:51:56.65 ID:Cb0D+7Gu
彼方「この煮物美味しいねぇ」

しずく「そ、そうですかっ?」

彼方「鶏肉がすっごく柔らかくていいねぇ……パサパサしてない」

しずく「圧力鍋使ってるの……関係あるんでしょうか?」

彼方「それもあるけど、下準備とかしっかりしてるからかなぁ」

彼方「卵も中までしっかりと……モグモグ」

彼方「ん~……ボーノだよ~」

しずく「ふ、ふふっ……エマさんですか?」

しずく(彼方さん、凄く美味しそうに食べてくれる)

しずく(凄く嬉しそうに食べてくれる)

しずく(……失敗作は入れてない)

しずく(可能な限り見栄えのいいものを詰め込んだ私のお弁当……)

しずく(……うれしい)

しずく(彼方さんのそんな幸せそうな姿が……私は)

74: 2020/11/25(水) 10:26:18.83 ID:Cb0D+7Gu
彼方「ん……ご馳走様でした」

しずく「ご馳走様でした……」チラッ

しずく「………」ドキドキ

しずく「あの……満足、出来ましたか?」

彼方「うん、美味しかったよ~」

彼方「味付けも丁度良かったし、しずくちゃんが早起きして頑張ってくれたんだなぁ……って言うのが良く分かる」

彼方「朝、早かったよね?」

しずく「いえっ、そんな……早起きは慣れていますし」

彼方「そっかぁ」

ポンポンッ

彼方「今なら彼方ちゃんのお膝を貸してあげようかな~って思ったんだけど」

彼方「要らないのかぁ……そっかぁ」

しずく「なっ……」

しずく「ぅ……」

しずく「た、食べてすぐ横になるのは……」

彼方「なら、肩を貸してあげよう」

彼方「おいでおいで~」

しずく「……じゃぁ、お言葉に甘えて」

75: 2020/11/25(水) 10:37:56.20 ID:Cb0D+7Gu
.....トンッ

しずく(彼方さんの匂いがする)

しずく(優しくて、温かい匂い)

しずく(彼方さんの心のような温かさ)

しずく「………」

しずく「彼方さんのお弁当、凄く美味しかったです」

しずく「味付けは比較的薄めですけど……おかずには丁度良くて」

しずく「ほんのり甘いだし巻き卵、噛みしめると染み込んだ旨味が出てくる唐揚げ」

しずく「苦みを限りなく抑えたピーマンとアクセントになるベーコンの炒め物」

しずく(いろんなことが考えられたお弁当)

しずく「美味しかったです……」

彼方「満足させられたみたいで、良かったよ~……」

彼方「しずくちゃんが普段食べてるものに比べたら、見劣りしちゃったと思うんだけどねぇ」

しずく「そんなこと、ないですよ」

しずく「良いお弁当でした」

しずく「……とても」

76: 2020/11/25(水) 10:54:23.77 ID:Cb0D+7Gu
彼方「………」

彼方「んっ……ふぁ……」

彼方「……ん」

しずく「眠いですか?」

彼方「いっつも寝てるからねぇ……体がすやぴを求めてるぜ……」

しずく「ふふっ……膝、貸しましょうか?」

彼方「ん~ん……このままで良いよ~」

彼方「……しずくちゃん」

しずく「はい?」

彼方「ん~……」

しずく(二人きり……)

しずく(ベンチで肩寄せ合って、暖かい陽の光を浴びて……)

しずく(彼方さんののんびりとした声が……)

彼方「姉さんって、呼んでなかったねぇ……」

しずく「あっ」

77: 2020/11/25(水) 11:01:52.07 ID:Cb0D+7Gu
バッ.....

しずく「ちっちちちちち……違うんですっ!」

しずく「あ、あくまで妹ですよ。妹」

しずく「妹がお姉さんに日頃の感謝の気持ちを込めてお弁当を作る」

しずく「そういうシチュエーションを味わってみたかっただけで」

しずく「別にその……お弁当交換して食べ合うときにまで妹キャラを維持しなくても良いかなーって、思っただけです」

しずく「普通に彼方さんのお弁当食べたいじゃないですか……変な拘りなしに」

彼方「そっかぁ……」

しずく「そうです……そうなんですよっ」

しずく「ははっ……あはは……」

彼方「期待しててくれたんだねぇ……」

しずく「き、期待なんて滅相もない……初めから美味しいお弁当を戴けると確信してました」

しずく「ただ……だとしても、普通に食べたかったんです」

しずく(偽りの妹としてではなく、桜坂しずく……私自身として)

しずく(妹の私ではなく、血の繋がりもない私の為のお弁当として……)

しずく(なんて……口が裂けても言えないけれど)

78: 2020/11/25(水) 11:16:56.42 ID:Cb0D+7Gu
彼方「まぁ……しずくちゃんの為に作ったからねぇ……」

しずく「ありがとうございます……我儘に付き合って頂いて」

しずく(彼方さんは、ただ妹役の私に作り返してくれただけのお弁当)

しずく(それでも美味しかった、優しかった)

しずく(……すごく)

しずく「………」

しずく(今日で3日目……あと4日間)

しずく(それが終わったら、私は妹ではなくなる)

しずく「……ふぅ」

トクンッ
   トクンッ

しずく「カナ姉……」

彼方「ん……zzz……」

しずく「あ……ふふっ」

しずく「……おやすみ、カナ姉」

しずく(10分だけ……アラーム……あった方が良いよね)

しずく「私も少し……寝るね」

.....トンッ

しずく(……この匂い、この温もり)

しずく(好き)

79: 2020/11/25(水) 11:36:47.80 ID:Cb0D+7Gu
――――――
―――
[4日目]

しずく「姉さんって、高校卒業したらどうするんですか?」

彼方「えっ?」

しずく「普通に大学に行く人もいれば、高卒で働く人もいますよね?」

しずく「姉さんはどうするのかと思って」

彼方「どうして~?」

しずく「妹として、ちょっと気になってるだけです」

しずく「姉が偏差値の低い大学に行くとか、笑われるので止めて貰いたいですね」

彼方「あはは……厳しいねぇ」

しずく「一般論ですよ」

しずく「それに、姉さんの学力なら普通に良い大学に入れます」

しずく「私なんかとは……大違い」ボソッ

彼方「えぇ~? そうかなぁ?」

しずく「そうですよ。私の成績なんて中間くらい(という設定)ですから」

彼方「ん……?」

彼方「あぁ、そういうこと……」

彼方「お姉ちゃんはどうかなぁ……専門学校に行くかなぁ」

彼方「ちゃんとした資格を取るには、高校卒業だけじゃダメって言うのもあるし……」

彼方「専門学校行って、資格試験受けて……出来る限りいい所に勤められたらいいなぁって」

彼方「俗っぽい話になっちゃうけどね」

しずく「……家から通うんですか?」

彼方「うん、そのつもりだよ~」

80: 2020/11/25(水) 11:48:25.71 ID:Cb0D+7Gu
しずく「そうですか、家にいるんですね」

しずく「……一人暮らしはしないんですか?」

彼方「え~? しずくちゃんはお姉ちゃんが家にいるのが嫌なのかね~?」

しずく「べ、別に嫌ではありませんよ。嫌では」

しずく「ただ……進学すれば何かが変わる。そう思っていただけです」

しずく「今まで隣の部屋から聞こえてきていた音が聞こえなくなる」

しずく「料理の準備する量が減って、取り皿も減って」

しずく「隣の椅子がガタガタ……って、音を立てなくなって」

しずく「……使われなくなる」

しずく「ただいまって言ってもお帰りって返らなくなって」

しずく「お帰りって言ってもただいまって返らなくなって」

しずく(彼方さんが卒業したら、同じように……)

しずく「……っ」ポロポロ

彼方「し、しずくちゃん!?」

しずく「っ!」グシグシ

しずく「ち、違いますから!」

しずく「別に……目にゴミが入っただけで……」

しずく(エマさんも、果林さんも……彼方さんと一緒にいなくなってしまう)

しずく「姉さんは、別に一人暮らししませんし……何も変わらないじゃないですかっ」

しずく「……だから、これは違いますっ」フイッ

81: 2020/11/25(水) 11:56:39.55 ID:Cb0D+7Gu
しずく(……これは演技)

しずく(演技の涙……)

しずく(小学校も中学校も、いつだって先輩は先に旅立って行ったじゃないですか)

しずく(なにより……私は地元の学校から、こんな場所にまで来ているじゃないですか)

しずく(だから――)

.....ギュッ
    ナデナデ

彼方「よしよし」

しずく「ね、姉さん……っ」

彼方「彼方ちゃんは傍にいるよ~」

しずく(いなくなるじゃないですか……)

彼方「大学に行くとしても家から通う」

しずく(私は本当の妹じゃない……)

彼方「就職したって、家から通える場所にするから」

しずく(それでも……私は……)

彼方「だから大丈夫」

彼方「私が卒業しても、いつだって連絡できるし会えるよ。しずくちゃん」

しずく「彼方さん……」

彼方「彼方ちゃんのいる場所は、変わらないからねぇ……」

82: 2020/11/25(水) 12:07:42.17 ID:Cb0D+7Gu
しずく(良い匂いがする……)

しずく(優しい匂い、温かい体温、柔らかい体……)

しずく(彼方さんを、感じる……)

しずく「………」

しずく「……姉さんは何言ってるんですか」

しずく「当たり前じゃないですか、何も変わりませんよ」

彼方「おやぁ……?」

しずく「さっきのだって目にゴミが入ったって言ったじゃないですか」

しずく「……まったく」

しずく「高校生にもなって、姉妹で抱き合うとか」

しずく「色々どうかって思いますけど」

彼方「えっ……」

しずく「でもまぁ……私も別に姉さんのこと……」

しずく「ですから、特別に今日は許してあげます」

ギュッ

しずく「許してあげます……今日だけですけどね」

彼方「……そっかぁ」

彼方「ありがとねぇ……」

ナデナデ

しずく「っ……」ドキドキ

83: 2020/11/25(水) 12:42:49.34 ID:Cb0D+7Gu
しずく(彼方さんの匂いが好き)

しずく(彼方さんの温かさが好き)

しずく(彼方さんの包み込む柔らかさが好き)

しずく(彼方さんののんびりとした声色が好き)

しずく「……」

しずく「……彼方さん」

彼方「ん~?」

しずく「あと、一年もないんですよね」

彼方「そうだねぇ」

彼方「あっという間だね」

しずく「………」

....ギュッ

しずく「……カナ姉」

彼方「ん~?」

しずく「お姉ちゃん」

しずく「姉さん」

しずく「……彼方」

彼方「どうしたの~? しずくちゃん」

しずく「……いえ、呼んだだけです」

84: 2020/11/25(水) 13:25:27.55 ID:Cb0D+7Gu
しずく(私が彼方と呼べるような歳だったとしたら)

しずく(そんな関係だったら……どうなってるんだろう)

しずく(彼方さんは、きっと……変わらずしずくちゃんって、呼ぶのかな)

しずく「……彼方さん」

彼方「どした~?」

しずく「しずくって、呼んでみて貰えませんか?」

しずく「彼方さんはみんなちゃん付けで呼ぶじゃないですか」

しずく「だから……少し変わった呼び方して貰いたいんです」

しずく「……ダメですか?」

彼方「ん~……呼び捨てかぁ」

彼方「ん……コホンッ」

彼方「……しずく」

彼方「しずく、これで良いかな~?」

しずく「もっとイケメンっぽく」

彼方「えぇ……」

85: 2020/11/25(水) 13:34:27.30 ID:Cb0D+7Gu
しずく「お願いします」

しずく「一回だけ、一回だけですから」

しずく「昨日の、そう……昨日のお弁当を持ってきたときのように」

彼方「うぐっ……」

彼方「やめて、言わないで……」

しずく「あの出来心を今一度!」

彼方「うぅぅ~……分かった!」

彼方「やってあげるよ~……もぉ~……」

彼方「しずくちゃんってば強引だねぇ」

しずく「……すみません」

彼方「ふふふっ、彼方ちゃんに惚れちゃぁ……いけねぇんだぜ?」

しずく「っ……」フイッ

しずく「何言ってるんですか」

彼方「ふふっ」

彼方「ではでは~あー……あー……コホンッ」

彼方「……しずく、お待たせ」キリッ

しずく「……ダメですね」

彼方「ダメ!?」

しずく「彼方さんにはやっぱり、しずく~お待たせ~っって駆け寄ってきてもらいたいです」

彼方「遅刻前提かぁ……」

しずく「いえ、時間にはしっかり間に合いますよ」

しずく(ただ、私は多分……すごく早く待ち合わせ場所に来ちゃいますから)

しずく「相手が早いんですよ」

彼方「むむむ……なら彼方ちゃんも頑張って早く行こうかねぇ」

しずく「ふふふっ、お願いしますね」

86: 2020/11/25(水) 13:43:47.56 ID:Cb0D+7Gu
しずく「あー……あー……」

しずく「んんっ……コホンッ」

しずく「彼方~、お待たせ~!」

しずく「ごめんね? 待たせちゃった?」

しずく「ごめんごめん……準備に手間取っちゃって」

しずく「今日のランチは奢るから、ね? それで許してよ」

しずく「ふふっ、ありがと……じゃぁ、いこっ」

しずく「……ふぅ」

しずく「こんな感じでどうでしょうか?」

彼方「おぉ~」パチパチパチ

彼方「いいねぇ……デートだねぇ」

しずく「で……デート……ですね。確かに」フイッ

87: 2020/11/25(水) 13:50:47.74 ID:Cb0D+7Gu
彼方「じゃぁしずくちゃん。今のもう一回」

しずく「え?」

彼方「良いから良いから」

しずく「えぇと……では」

しずく「彼方~、お待たせ~!」

彼方「ん……あぁ……しずく~……」フリフリ

しずく「えっ」

しずく「ご……ごめんね? 待たせちゃった?」

彼方「ん~……待ってないよ~……」

しずく「ごめんごめん……準備に手間取っちゃって」

しずく「今日のランチは奢るから、ね? それで許してよ」

彼方「そんなの気にしなくていいのに~」

しずく「ふふっ、ありがと……じゃぁ、いこっ」

彼方「ん、じゃぁレッツゴ~」ギュッ

しずく「っ」ビクッ

彼方「ぁ……手、握られるの嫌だった?」

しずく「そ、そんなことないですよ! びっくりしてしまって」

しずく「大丈夫です……」ドキドキ

彼方「あははっ……しずくちゃん素が出てる」

しずく「ぁっ」

彼方「彼方ちゃんの勝ち~……いぇ~い」ブイッ

しずく(かわいい)

88: 2020/11/25(水) 13:58:55.61 ID:Cb0D+7Gu
彼方「どうどう~?」

彼方「今度のは駄目じゃないでしょ~?」

彼方「ドキドキした? デートっぽい~?」

しずく「……良かったですよ」ドキドキ

しずく「ドキドキさせられました」

彼方「えっへん。彼方ちゃんだってやればできるのだぜ~」

しずく(ほんとう、ドキドキさせられました)

しずく(惚れたらダメなんじゃないんですか?)

しずく(良いんですか? 惚れちゃって)

しずく「……彼方さんは意地悪ですね」ボソッ

彼方「何か言った~?」

しずく「いえなんでも……」

しずく「彼方さん、演劇部入りませんか?」

彼方「お誘いは嬉しいけどねぇ……掛け持ちは、無理かなぁ……」

しずく「ふふふっですよね……言ってみただけです」

89: 2020/11/25(水) 14:18:25.63 ID:Cb0D+7Gu
――――――
―――
[5日目]


しずく「姉さん、姉さん」

彼方「ん~?」

しずく「………」

しずく「私がもう少し、愛想のいい妹だったら良かったなって思ったりはしませんか?」

彼方「どうしたの急に」

しずく「いえ……」

しずく「私って基本的に笑わないじゃないですか」

しずく「姉と妹なのに……話し方も他人みたいで」

しずく「もっと可愛らしい妹だったらよかったって、思ったことはありませんか?」

彼方「ないかなぁ~?」

しずく「……本当に?」

彼方「嘘はつかないよ~……」

彼方「だって、しずくちゃんはたとえ笑顔が少なかったとしても」

彼方「お姉ちゃんの可愛い妹であることに、変わりはないからねぇ」

90: 2020/11/25(水) 14:28:59.71 ID:Cb0D+7Gu
しずく「……姉さんは優しいですね」

彼方「普通だよ」

しずく「普通なわけないじゃないですか」

しずく「私の友達は、姉妹であっても喧嘩をするといいます」

しずく「嫌いあっている姉妹もいると聞いたことがあります」

しずく「……私のような妹は、嫌われる妹だと自覚してます」

しずく「でも……でも姉さんは、そんな私を好きだと言ってくれる」

しずく「……それが普通なわけないじゃないですか」

彼方「しずくちゃん?」

しずく「……私は、姉さんが嫌い」

しずく「料理も掃除も勉強もアルバイトもなんだってやって……」

しずく「こんな妹のことまで大切にしてくれて」

しずく「優しくて暖かくてあぁきっと幸せにしてくれるんだなって感じる姉さんが……お姉ちゃんが大嫌い!」

彼方「え……え?」

彼方「どうしたの、急に」

彼方「ねぇ……しずくちゃん?」

91: 2020/11/25(水) 14:36:56.57 ID:Cb0D+7Gu
しずく「どうして優しくするんですか」

しずく「どうして何も変わらないんですか?」

しずく「どうして嫌いになってくれないんですか?」

しずく「どうして……」

しずく「こんな妹なんですよ? 姉さん……」

彼方「そんなこと、言われたって」

彼方「しずくちゃんは私の妹だから」

彼方「あたりが強くても、嫌いになって欲しがってても」

彼方「何があっても……しずくちゃんは私の妹だから」

彼方「だから……私は変わらずしずくちゃんが好きだよ。妹として、愛してる」

しずく「……だから、私は姉さんが嫌い」

彼方「しずくちゃん……」

しずく「その全部を……いつかはほかの誰かに捧げてしまう姉さんが、大っ嫌いっ!」

ガタンッ
   タッタッタッ

――ガラッ

彼方「あ……待って!」

92: 2020/11/25(水) 14:42:53.50 ID:Cb0D+7Gu
――ガラッ

しずく「……ふぅ」

彼方「………」

しずく「すみません、嫌いだとか大嫌いだとか言って」

彼方「ううん、良いんだけど……」

しずく「なにか?」

彼方「この演劇って、いったいどういう内容なのかなぁ……って」

しずく「えっ……ぁ……それは……」

彼方「優しいお姉さんと、お姉さんが好きだけど不器用な妹」

彼方「二人だけの舞台なの?」

しずく「と、登場人物はほかにもいますけど……その」

しずく「えぇと……」

しずく「ま、まず最初が妹役のオーディションで!」

しずく「だから、妹と姉の描写を重点的に抜粋してあるといいますか……」

しずく「実は、姉が高校卒業後に結婚するんです」

彼方「結婚!?」

93: 2020/11/25(水) 14:58:51.82 ID:Cb0D+7Gu
彼方「え……大学云々の台詞は?」

しずく「あれは姉が妹に知られないように嘘をつくシーンです」

しずく「なので、アドリブでお願いしましたよね?」

しずく(本当は……違うけど)

彼方「あ、あぁうん……」

しずく「このお姉さんは高校では人気のある綺麗なお姉さんで」

しずく「お金持ちの人が目をつけて、縁談を持ちかけたんですよ」

しずく「結婚すれば多少は暮らしも楽にできるかもしれない……」

しずく「親は知っていますが、妹は知らない……自分で伝える。そう考えているんですが」

しずく「実はこの妹……知っているんです」

しずく「お姉さんが好きだからこそ、自分に言わず結婚を決めたお姉さんが嫌い……じゃない」

しずく「えっと……」

しずく「お姉さんを嫌いになろうと……」

彼方「言動は照れ隠しじゃ――」

しずく「あっ……は、はい。そうです」

しずく「最初はそうだったんですけど、この縁談の件をきっかけにより酷くなったというか……」

しずく(さすがにきつい……)

しずく「話が実際にどんなものかって言うのは、全体的な台本がないと読みかねるんですけど」

しずく「基本的には、姉妹の話らしいです」

しずく(………)チラッ

しずく(でも……あと、あと2日だけ)

しずく「そういうわけです。はい」

94: 2020/11/25(水) 15:09:18.23 ID:Cb0D+7Gu
彼方「………」

彼方「なるほど~」

彼方「姉妹愛? が主軸の物語なんだねぇ」

彼方「……綺麗なら、果林ちゃんが良かったかもね~」

しずく「そ、そんなことないですよ」

しずく「果林さんも良いですけど」

しずく「なんというか……妹に黙って縁談するようなキャラには見えないというか」

彼方「そうかなぁ……」

しずく「それに……このお姉さんはおっとり系らしいので」

彼方「ははぁ……」

彼方「じゃぁこの後、仲直りするのかな」

しずく「そうですね、そのよて……そうなっています」

しずく「……あの、彼方さん」

彼方「ん~?」

しずく「実際、私って妹としてどうですか?」

彼方「というと?」

しずく「遥さんとはまるで違う妹キャラで接してみていますが……」

しずく「彼方さんにとっては、そんな妹はどうなのかなと……思いまして」

95: 2020/11/25(水) 15:16:54.40 ID:Cb0D+7Gu
彼方「嫌いって言われたりすると……ちょっと、あれだけど」

彼方「でも、彼方ちゃんはこの台本みたいな妹でも」

彼方「普段のしずくちゃんみたいな妹でも」

彼方「変わらず、大好きだったと思うよ~」

彼方「……口が悪いのは、怒らなきゃってなるけど」

彼方「照れ隠しにちょっとつんつんしてるのは、それはそれで可愛いと思うし」

彼方「しずくちゃんみたいに、真面目で出来た妹って言うのも良いと思う」

彼方「彼方ちゃんの手がかからないという意味では……ちょっと寂しくなるかもしれないけどねぇ……」

しずく「私……手がかかる妹だと思いますよ」

彼方「ふふっ……そうかもしれないねぇ」

ナデナデ

彼方「でも、それも悪くないよ」

彼方「わがままを言えるって……大事なことだよ」

しずく「彼方さん……」

彼方「彼方お姉ちゃんが付き合ってやるぜ……なんてねぇ~」

96: 2020/11/25(水) 15:40:56.07 ID:Cb0D+7Gu
しずく「……でしたら、あの」

彼方「ん~?」

しずく「明日、彼方さんのところに泊めて頂くことはできませんか?」

彼方「えっ」

しずく「彼方さんと遥さんに諸々問題が無ければで良いので……」

彼方「ん~……」

彼方「分かった、聞いておくね~」

しずく「お願いします」

しずく(……私は、私はどこまで)

しずく(……でも)

しずく(………)

彼方「お客さん用のお布団あったかなぁ……」

しずく「あ、私……もしあれなら彼方さんと同じベッドで……」

彼方「えぇ~それはちょっと、難しいかなぁ」

彼方「そんなに大きいわけじゃないから、狭いと思うよ~」

しずく「そ、そうですか」

しずく「………」

97: 2020/11/25(水) 15:52:24.62 ID:Cb0D+7Gu
――――――
―――
[6日目]


しずく(遥さんは大歓迎、お母様も良いとのことで)

しずく(彼方さんのところに泊まれることになった)

しずく(彼方さんの家……)

しずく「……お邪魔します」

彼方「どうぞどうぞ~」

彼方「今はまだ、遥ちゃんもお母さんも帰ってきてないから」

しずく(つまり……二人きり?)

彼方「しずくちゃんの家に比べると――」

しずく「いえ、そんなことないですよ」

スンスンッ

彼方「しずくちゃん!?」

しずく「ぁっ……すみません。つい」

しずく「彼方さんの匂いがしたので……」

彼方「彼方ちゃんの匂い……?」

クンクン
  クンクン

彼方「におう?」

しずく「良い匂いですよ? 変な臭いじゃなく……ほんとうに」

しずく(制汗剤が、邪魔だけど……)

98: 2020/11/25(水) 16:05:29.01 ID:Cb0D+7Gu
彼方「しずくちゃんは今日、彼方ちゃんのベッドを使っていいよ~」

しずく「えっ? いいんですか……?」

しずく「ほかにベッドないんじゃ……」

彼方「床に厚いお布団敷いて、それを敷布団として使うから大丈夫だよ~」

しずく「そんな……」

しずく「一緒に寝られませんか?」

しずく「……やっぱり、自分だけベッドを借りるなんて」

彼方「大丈夫大丈夫」

彼方「彼方ちゃんはいっつも、ベンチとかで寝てたからねぇ」

しずく「確かにそうですけど……」

しずく(一緒に寝たい……)

しずく(でも、これ以上の我儘は駄目だよね)

しずく「すみません、無理言って」

彼方「ん~ん」

彼方「しずくちゃんの家までは遠いからねぇ」

彼方「同じ部のメンバーとしては、暗い時間に一人で家に帰すのは心配だから」

彼方「今日は安心だよ~」

100: 2020/11/25(水) 16:24:08.66 ID:Cb0D+7Gu
彼方「それで、今日は妹の練習はいいの~?」

しずく「あ……そうですね」

しずく「そしたら、あの……部屋でやらせて貰っても良いですか?」

彼方「いいけど、遥ちゃんと共同だから」

彼方「遥ちゃんが返ってきたら、終わりだよ~」

しずく「大丈夫です」

しずく(たぶん)

ガチャッ....

しずく「お邪魔します……」

彼方「どうぞどうぞ~」

彼方「狭いけどねぇ」

彼方「ベッドは上が遥ちゃんで、下が彼方ちゃん」

彼方「左側が遥ちゃんで、右側が彼方ちゃん」

しずく「……なんだか、良いですね」

彼方「そう~?」

しずく「だって、二人が仲良くなければ絶対にやっていけない部屋じゃないですか」

しずく「……だから、簡単には言えないですけど、私は……」

しずく(少し、羨ましい)

101: 2020/11/25(水) 16:54:02.25 ID:Cb0D+7Gu
しずく「彼方さん、ベッドに座って貰っていいですか?」

彼方「ん」

しずく「……はぁ……ふぅ……」

トクンッ
   トクンッ
 トクン....

しずく「……姉さん」

しずく「私、姉さんが好きです」

しずく(好きなんです)

しずく「優しくて、温かくて、いつもニコニコしていて……のんびりしていて」

しずく(私にとっての……平穏の象徴)

しずく「姉さんがいてくれるだけでいいと……本当に思っていました」

しずく「けれど……姉さんは結婚してしまうんですよね?」

しずく(いつかきっと……)

しずく「……いなくなってしまうんですよね?」

彼方「それは……」

しずく「……嫌です」

しずく(彼方さんが誰かのものになってしまうなんて……私は絶対に嫌ですっ!)

しずく「姉さんが誰かのものになってしまうなんて……私は絶対に嫌ですっ!」

102: 2020/11/25(水) 17:09:51.35 ID:Cb0D+7Gu
しずく「結婚なんてしないでください」

しずく「私と一緒にいてください」

しずく「私だけをずっと愛してください」

しずく「私だけのお姉ちゃんでいてください」

しずく「私に向けてくれていた愛情を……減らさないでください」

しずく「お姉ちゃん……自分の為に、生きてください……」

彼方「………」

彼方「しずくちゃんのために生きることが、お姉ちゃんの為になるんだよ」

彼方「結婚して、離れ離れになるかもしれない」

彼方「けど……でもね……」

彼方「お姉ちゃんがしずくちゃんのお姉ちゃんに変わりはなくて」

彼方「お姉ちゃんがしずくちゃんを……妹を大切に思う気持ちも、愛情も何も変わらないよ」

しずく「……離れていくのが嫌なんです」

しずく「いなくなってしまうのが嫌なんです……姉さん」

しずく「お願いだから……あんな人となんて結婚しないでください!」

103: 2020/11/25(水) 18:16:15.90 ID:Cb0D+7Gu
彼方「しずくちゃん……ごめんね……」

しずく「っ……」

しずく「姉さんっ!」

ドンッ

彼方「わっ……」

....ギシッ

しずく「姉さんは私の姉さんなんです」

しずく「私だけの姉さんなんです……」

しずく「誰かのものになってしまうくらいなら……今、ここで……」

彼方「ぅ……」

しずく「……一緒に……」

しずく「姉さん……」

――ガチャ

遥「お姉ちゃん、寝ちゃって――えっ?」

しずく「あっ……」

遥「お姉ちゃん!?」

104: 2020/11/25(水) 18:54:45.79 ID:Cb0D+7Gu
遥「も~っ!」

遥「もーっ、もーっ、もーっ!」バンバンッ

遥「心配したんだからっ!」

彼方「あはは……ごめんねぇ」

しずく「すみません」

しずく(ドアを開ける音に気付かなかった……)

遥「お姉ちゃんは足しか見えないし、しずくさんはそのお姉ちゃんに覆い被さるようにしてるし」

遥「しずくさんはなんだか怖い感じで……」

遥「もーっ!」

彼方「でも大丈夫だよ~遥ちゃん」

彼方「本当に、ただ演劇の練習してただけだから」

遥「ならいいけど……」

しずく「心配かけさせてすみません」

しずく(遥さん……彼方さんの妹……)

しずく(……遥さんも彼方さんが結婚するとなったら祝福出来ないのかな?)

しずく(それとも……祝福できるのかな?)

105: 2020/11/25(水) 20:06:02.20 ID:Cb0D+7Gu
――――――
―――
[夜]

しずく(彼方さんの匂いがする……)

しずく(良い匂い……)

しずく(枕も布団も……全部彼方さんの匂い)

スンスン
   スンスン....

しずく(好き……)

彼方「し~ず~く~ちゃ~ん~?」

しずく「っ」ビクッ

彼方「あんまり……ね?」

しずく「は、はい……すみません」

しずく(顔赤くなってるの……好き)

しずく(匂いを嗅がれるのが、恥ずかしいのかな……)

しずく「でも、大丈夫ですよ」

しずく「……匂いを嗅がれるってことは、その人にとっては好きな……良い匂いってことですから」

彼方「しずくちゃんっ」

しずく「……私、彼方さんの匂い好きです」

しずく「彼方さんの匂いを嗅いでいると、幸せな気分になるんです」

107: 2020/11/25(水) 21:03:26.38 ID:Cb0D+7Gu
彼方「し、しずくちゃん……?」

しずく「……すみません、変ですよね」

しずく「でも、好きなものは好きなんです」

しずく「どうしようもないくらい」

しずく(それはきっと……)

しずく「……彼方さん、良い匂いですよ」

彼方「だ、だからっ……」

彼方「そういうのは……ね?」

スッ.....
   ギュッ

彼方「ん……」

彼方「しずくちゃん?」

しずく(視覚も嗅覚も聴覚も触覚も……彼方さんに満ちている)

しずく(じゃぁ……味覚は?)

しずく(なんて……)

しずく「……明日、デートしませんか?」

彼方「えっ……この流れで?」

しずく「この流れだからですよ……どうですか?」

110: 2020/11/25(水) 22:07:39.05 ID:Cb0D+7Gu
しずく「最後の一日を、私にいただけませんか?」

彼方「最後って……一週間妹のやつ?」

しずく「はい」

彼方「……変なことしない?」

彼方「におい、嗅いだりしない?」

しずく「………」

しずく「……しません」

彼方「今考えたよね?」

しずく「考えましたけど……」

彼方「し~ず~く~ちゃ~ん~?」

しずく「しません!」

しずく「しませんからっ」

しずく「このベッドの中以外では……」ボソッ

彼方「……なら、良いよ~」

しずく「やった」

しずく「では宜しくお願いしますっ!」

彼方「はいは~い」

彼方「よろしくね~」

彼方「…………」

114: 2020/11/26(木) 09:47:04.70 ID:iFNuAu4D
――――――
―――
[7日目]
しずく「ん……んぅ……」ゴソッ

しずく「ん……あふ……」

キョロキョロ.....

.......。

しずく「あっ……そうだった」

しずく(彼方さんの家だった……)

チラッ

しずく「……え、早」

しずく(まだ7時前なのに彼方さん布団まで畳んでいなくなってる……)

しずく(というより、いつもより私が遅いのかな……これは)

しずく「………」

しずく(遥さんの寝息は聞こえるから、音を立てないようにしないと……)

ギッ....
  スタスタスタ
 ガチャッ

彼方「あ、しずくちゃん早いねぇ~」

しずく「っ」

彼方「おはよ~」

しずく「お、おはようございます」ドキドキ

しずく(エプロン……主婦っぽい彼方さんっ)

115: 2020/11/26(木) 09:59:57.61 ID:iFNuAu4D
彼方「よく眠れた?」

しずく「はい、おかげさまで」

彼方「それは良かった」

しずく(何かすごく幸せな夢を見ていた気がする)

しずく(……すごく)チラッ

彼方「遥ちゃんはまだ寝てたよね?」

しずく「え、あ、はいっ」

彼方「あと1時間……んー。30分もしないで起きると思うけど……ごはんはどうする?」

しずく「遥さんと一緒が良いです。彼方さんもですよね?」

彼方「そうだねぇ」

彼方「……あ、そうそう」

彼方「今日のお昼はどうする予定? もしいいなら、お弁当作っちゃおうかなって思ってるんだけど」

しずく「えっ」

しずく「え……い、良いんですか?」

彼方「お休みの日に遥ちゃんとお出かけするときは、基本的にお弁当作ってるからねぇ」

彼方「いつもと変わらないよ~」

しずく「だったら……あ、いえ、その……私も手伝わせてください」

彼方「ん……じゃぁお手伝いお願いしようかな」

彼方「洗面所で顔と手を洗ったらおいで~」

しずく「はいっ」

しずく(……なんだか、本当の姉妹になった気分っ)

116: 2020/11/26(木) 10:08:36.19 ID:iFNuAu4D
カチッカチカチ....
  チッチッチッチ....ボッ
カチャッ
   ジューッ.....
 コンコンッ
カパッ....
   コンコンッ
 カパッ
  コンコンッ
    カパッ
 シャッシャッシャッ.....

彼方「~♪」

しずく(彼方さん、手際が良い)

しずく(私とは全然比べものにならない……お母さんと同じくらい、凄い)

しずく(………)

しずく(お弁当のお手伝いって思ったけど……もしかして私、邪魔では?)

しずく(彼方さんと結婚したら、毎日こんな風なのかな)

しずく(朝起きたら)

しずく(朝ごはんの良い匂いを際立たせながら……エプロン姿の彼方さんがおはようって言ってくれて)

しずく(朝から美味しいご飯を食べさせて貰って……行ってきますって、仕事に行く)

しずく「幸せなんだろうなぁ……」

彼方「ん~? 何が?」

しずく「え……あ、あははっ……何でもないです」

しずく(彼方さんとの結婚生活想像してたとか、言えない)

117: 2020/11/26(木) 10:36:05.54 ID:iFNuAu4D
彼方「しずくちゃん、これ食べてみて」

しずく「い、いただきます」

彼方「味が薄いか濃いか……あと、しずくちゃんが好きかどうか」

しずく「……モグモグ」

しずく「モグモグ……ゴクッ」

しずく「美味しいですよ。このくらいの味付けが好きです」

彼方「良かった。じゃぁ、あとは――」

しずく「私、洗い物やっちゃいますね」

彼方「おぉぅ……ありがとねぇ~」

しずく「いえ、なんというか……料理している彼方さんが凄く楽しそうなので……見ていたいです」

彼方「え?」

しずく「え……あっ、いえっ……すみません」フイッ

彼方「照れるねぇ……」

しずく「っっ……」

カチャカチャ
  カチャカチャ....

しずく(あぁ……もう……演技、演技っ!)

しずく(いつもの……私……)

しずく「ふぅ……」

しずく(でも、いつもの私を演じたって……結局……)チラッ

しずく(………)ドキドキ

118: 2020/11/26(木) 11:20:08.23 ID:iFNuAu4D
遥「おはよう、お姉ちゃん。しずくさん」

彼方「おはよ~」

しずく「おはようございます、遥さん」

遥「今日の朝は豪華だねっ」

彼方「そんなことないよ~いつも通り、いつも通り」

彼方「遥ちゃんも顔洗っておいで~」

彼方「ご飯食べよう」

遥「は~い」

タタタッ

彼方「……今日は、どうするの?」

しずく「いつも遥さんとお出かけするときはどんな感じですか?」

彼方「一緒に家を出てるけど……」

しずく「なら、私達もそうしたいです……ダメですか? 姉さん」

彼方「いいよ~」

彼方「じゃぁ、朝ごはん食べたら準備して、いこっか~」

しずく「宜しくお願いしますっ」

121: 2020/11/26(木) 13:23:44.24 ID:iFNuAu4D
――――――
―――

しずく(食事を終え、彼方さんと一緒に家を出る)

しずく(同時に行ってきますを口にして……玄関が締まる音を聞く)

しずく(本当の姉妹がそんなにもタイミングを合わせているのかは知らないけれど)

しずく(でも、私にとっては家族のようで……とても心地いい感じがした)

彼方「しずくちゃん、嬉しそうだねぇ」

しずく「はい……とっても」

しずく「彼方さんとこうして休日に二人きりなんて初めてじゃないですか?」

彼方「ん、そうだったかな……?」

しずく「そうですよ」

しずく「同好会の練習で休みの日に遭うことは少なくありませんでしたが」

しずく「ほかの皆さんもいらっしゃいましたし、練習して……みんなで少し寄り道で解散」

しずく「そう言うものだったじゃないですか」

彼方「確かに……」

しずく「だから、今はドキドキしてます」

彼方「デートだからねぇ」ニコッ

しずく(……もう少し、薄着の方が良かったかな)

122: 2020/11/26(木) 13:36:42.46 ID:iFNuAu4D
しずく「彼方さんって、私服だとなんだか大人っぽいですね」

彼方「普段は子供っぽいってことかな~?」

しずく「そういうわけでは……」

しずく(可愛いが子供っぽいという意味であれば、そうかもしれないけど)

しずく(でも可愛いのは服装うんぬんよりも仕草かな……)

しずく「普段見てるのは練習着か制服ばっかりなので、判断基準にはなりませんよ」

彼方「そう言うしずくちゃんは制服を着ているときよりも可愛らしく見えるねぇ」

彼方「かすみちゃん達に比べれば大人びているように感じるけど」

彼方「でもやっぱり、1年生だね」

しずく「……そうでしょうか?」

彼方「うん、可愛いよ~」

しずく「可愛い、ですか……ふふふっ」

しずく「ありがとうございます」

しずく(かすみさんが可愛いって言われたい気持ちって……こういうものなのかな?)

しずく(だとしたら……分かる気がする)

しずく「彼方さん、もう一回。可愛いって言って貰えませんか?」

彼方「おやおや……かすみちゃんかな~?」

しずく「はいっ、しずみんですっ」

彼方「ん~……かわいい」

しずく「ふ、ふふっ……ありがとうございます」

彼方「可愛いよ、しずくちゃん」

しずく「あ、ありがとう……ございます……っ」フイッ

しずく(絶対顔赤い、絶対……)

124: 2020/11/26(木) 14:14:45.00 ID:iFNuAu4D
しずく(いつも、校内のどこか……陽当たりの居場所で寝ていたりする面影は薄く)

しずく(それでもおっとりとしたお姉さん的な様子の残る彼方さんと二人で、並んで歩く道)

しずく(家から約1時間半の道のり)

しずく(往復で考えれば倍の時間で、長く道草を食うなんてなかった街並みは、新鮮で)

しずく(なのに……その真新しさが、記憶に残しにくい)

テクテク
   テクテク.....

しずく「………」チラッ

.....ギュッ

彼方「ん?」

しずく「あ……手、握られるの嫌ですか?」

彼方「ん~ん。良いよ~」

しずく「良かったです」

しずく「それで……この映画を、一緒に見ませんか?」

彼方「ん~? 良いよ~」

しずく「では、時間までアクアシティを……いえ」

しずく「先に海浜公園でお弁当を戴きませんか?」

彼方「お腹空いてる~?」

しずく「そんなことは、無いですけど……」

しずく「お弁当は早めに食べた方が良いと思いまして……」

彼方「なら、映画はこの時間のを見て……そのあとお弁当にしよう」

彼方「それで映画の前に、軽くお店を見て回るのはどうかな?」

しずく「それも良いですね……」

彼方「……」

グイッ

しずく「ぇ……ぁ、彼方さんっ!?」

彼方「考えるのはあとあと~、今は行くよ~」

しずく「は、はいっ」

彼方「デートは何も計画的じゃないとダメってわけじゃないからねぇ……映画の時間に間に合えば大丈夫~」

しずく「そう、ですねっ」

125: 2020/11/26(木) 14:33:54.59 ID:iFNuAu4D
――――――
―――

しずく「映画のチケット買ってきました」

彼方「じゃぁお金――」

しずく「いえ、ペアの無料チケット持ってたのでお金は大丈夫です」

しずく(ないけど……)

しずく(お礼というか……なんというか)

彼方「そう~?」

しずく「はい、大丈夫ですよ」

しずく「使ってくれって貰ったはいいものの期限も近かったので」

しずく「……映画はこの時間……まだ少し時間ありますから、お店見て回りませんか?」

彼方「いいねぇ」

彼方「ん……ペットショップあるけど、見に行く?」

しずく「え?」

彼方「しずくちゃん、好きでしょ~?」

しずく「でも、良いんですか?」

しずく「私のしたいことばっかり……」

彼方「良いよ~しずくちゃんが楽しんでくれるなら」

彼方「私も嬉しいからねぇ~」

126: 2020/11/26(木) 14:45:03.06 ID:iFNuAu4D
ワンワンワンッ
    ワンッ!
 ワンワンッ!

彼方「おぉ……」

彼方「おいでおいで~」

しずく(……かわいい)

しずく(彼方さんにも、後で良いお店見つけて何かお礼しようかな……)

チラッ

しずく「……あ、これオフィーリアにいいかも」

彼方「何か良いのあった~?」

しずく「あ、はいっ……」

しずく「これ、あの子に買っていこうかなって思って」

しずく「あ、でも……」

彼方「荷物になっちゃうかな……?」

彼方「なら、あとで帰りにもう一度買いに来る?」

しずく「そんな、二度手間になっちゃいますよっ」

彼方「買い物なんてそんなものだよ~」

彼方「あとでやっぱりあそこのがいいかも~……なんてねぇ~」

彼方「それに、その方が長くデートできるよ?」ボソッ

しずく「っっ……」

しずく(ず、狡いっ!)

しずく「彼方さんっ、それは反則ではっ!?」

彼方「むふふ~油断大敵~」

しずく「むぅ……っ」

しずく(……そんなところも、好きだけど)

127: 2020/11/26(木) 15:21:23.75 ID:iFNuAu4D
彼方「……子犬ってかわいいねぇ」

しずく「ですよねっ、可愛いですよねっ」

しずく「最初はおぼつかない足取りだったり……本当にちっちゃくて……」

しずく「私の両手にも収まっちゃうような小ささから……だんだんと大きくなって」

しずく「名前を呼ぶと顔を上げたり、近づいてきてくれたりして……」

しずく「もちろん、大きくなってもそれは変わりませんけど」

しずく「こっそりと顔を覗かせたりすると……じーっと見つめてきて」

しずく「隠れると、探しに来てくれるんです」

しずく「逃げると追いかけてきて……遊びだって思って嬉しそうに尻尾を振っているのがとても可愛いんですよ」

しずく「それでですね、お散歩いこうって声をかけたり」

しずく「声をかけなくてもリードの音がするだけで駆け寄ってきたりして――あ」

しずく「す、すみません……私ってば、つい……」

彼方「ん~ん」

彼方「しずくちゃんがすっごく幸せそうに話してくれるから、全然続けてくれていいんだよ~?」

彼方「しずくちゃんがオフィーリアちゃんを凄く好きなんだなぁって、良く分かるよ~」

彼方「それに、オフィーリアちゃんのことを話すしずくちゃんは」

彼方「とぉ~っても……かわいいよ~」

しずく「ぅ……」フイッ

しずく「……つ、次のお店! 次のお店に行きましょう……っ」グイッ

彼方「はいは~い」

128: 2020/11/26(木) 15:39:03.18 ID:iFNuAu4D
しずく「彼方さんはこういうのが似合うと思いますよ」

彼方「巻きスカート?」

しずく「巻きスカート風です」

しずく「この部分でちゃんと縫い止められているのでそれっぽく見せてるだけです」

しずく「上はこういう……あぁ、でも……こっちの方が……」

彼方「しずくちゃんは、こっちかなぁ~?」

しずく「シースルー……?」

しずく「ま、待ってください……そういう大人っぽいのはちょっと」

彼方「大丈夫大丈夫~しずくちゃんなら似合うよ~」

しずく「それは肩が……っ」

サッ
     サッ.....
 ジーッ

彼方「うん、いける」

しずく「見ただけで合わせられても困りますっ」

しずく「こういう大人っぽいのは果林さんや彼方さん達の分野ですよ……」 

129: 2020/11/26(木) 15:45:25.08 ID:iFNuAu4D
彼方「しずくちゃんしずくちゃん」

しずく「はい――って……何ですかそれ……」

彼方「しずくちゃん、もうちょっと明るい色の着てみないかな~って」

しずく「それでワインレッドですかっ?」

しずく「からかってますよねっ!?」

彼方「そんなことないよ~?」

しずく「からかってる顔じゃないですか……」

しずく「それなら彼方さんはこれです、これっ」

しずく「胸元がちょっぴり大胆なやつです!」

彼方「えっ……」

彼方「………」

彼方「……ん」チラッ

キョロキョロ

しずく「彼方さん?」

彼方「しずくちゃんが見たいなら……試着で見せてあげてもいいよ?」

しずく「え……えっ?」

彼方「なんてね~」

しずく「……も……もぅ……彼方さんっ!」

しずく(見たいって言っちゃったらどうするの!?)

130: 2020/11/26(木) 16:10:14.78 ID:iFNuAu4D
彼方「ん~……真面目に選ぶなら……」

しずく「彼方さん、そろそろ時間ですよ」

彼方「あ、もうそんなに?」

しずく「はい……ちょっと盛り上がりすぎました」

しずく(何も買わないのに騒いじゃうなんて)

しずく(少し悪いことをした気分になりますけど……)

しずく「良いのがあったらまた後で来ましょう」

彼方「そうだねぇ」

しずく(彼方さん、最初はからかってたけど)

しずく(一応、凄く真面目に選んでくれてた……)

しずく(寝ている顔も、笑っている顔も……良いけど)

しずく(真剣な彼方さんも……)

しずく(彼方さん、映画で寝てくれないかな……)

しずく(もし、寝てくれたら……)

彼方「しずくちゃん、いくよ~」

ギュッ

しずく(手……)

彼方「はやくはやく~」

しずく「はいっ」

131: 2020/11/26(木) 16:22:25.25 ID:iFNuAu4D
ジュリエットハボクガ!
        ロザリー!
 ズキューン.....

しずく「……」チラッ

彼方「………」

しずく(あ、彼方さん真剣に見てる……)

しずく(ラブロマンスだと、アクション等に比べて爆発音みたいなものがないから)

しずく(彼方さんなら寝ちゃうかもしれないって思ったけど……)

しずく(全然そんな様子がない)

しずく(……手、握っていいかな)

スッ....
    ギュッ

彼方「?」

しずく「………」チラッ

彼方「………」ニコッ

しずく(いいんだ……)

しずく(……女の子同士だから、かな)

しずく(私が男の子だったら……そもそも、彼方さんとこんな近くには居られなかったよね……)

132: 2020/11/26(木) 16:38:30.17 ID:iFNuAu4D
マタノオコシヲ――


彼方「……ん……っ」

彼方「いやぁ……映画ってこう、なんで疲れるのかなぁ?」

しずく「ずっと座っているのと、大きな映像と音……」

しずく「画面……? をずっと見ているからだと思いますよ」

しずく「ふぅ……」

しずく「そうしたら、どうしましょう?」

彼方「14時前……先に買い物しちゃって、海浜公園いく?」

しずく「お弁当大丈夫ですか?」

彼方「いつも、8時頃に作って、12時だから……」

彼方「今日は出る前に用意したから、10時頃……」

彼方「まだまだ平気だよ~」

しずく「なら、さっきのペットショップもう一度行って……それから海浜公園に……」

しずく「彼方さん、ベンチで座ってますか?」

彼方「平気平気~彼方ちゃんも一緒に行くよ~」

133: 2020/11/26(木) 16:47:09.97 ID:iFNuAu4D
――――――
―――

しずく「公園……涼しいですね」

彼方「そりゃね~」

彼方「ん~……あっちの方にしよっか」

しずく「彼方さんにお任せします」

テクテク
   テクテク

しずく(もう自然と、歩くときには手を繋いでる……)

しずく(私から言うでも、彼方さんから言うでもなく)

しずく(当たり前のように手を伸ばし、手を取り……引き合って……)

しずく(これが姉妹?)

しずく(それとも、これは……)

テクテク
  テクテク......

しずく(私はこの手を……)

彼方「この辺にしようかな~」

しずく「そうですね、良いと思います」

134: 2020/11/26(木) 16:55:36.79 ID:iFNuAu4D
彼方「じゃじゃ~ん」

パカッ

彼方「彼方ちゃん特製弁当~」

彼方「なぁんて~……一緒に作ったから分かっちゃってるよねぇ」

しずく「ふふっ、そうですね」

しずく「……いただきます」

彼方「いただきま~す」

モグモグモグ....

しずく「映画どうでした?」

彼方「まさかあそこでヒロインが死ぬとは……」

しずく「ですよね……やっぱり思いますよねっ」

しずく「病気だとかなんだとかあるわけでもなく事故って……」

彼方「いやぁ……波乱万丈のラブロマンスだったねぇ」

しずく「ロマンスというか、ラブサスペンスですよ……」

しずく「ん……美味しい……」

彼方「でしょでしょ~ 味見して貰ったからしずくちゃん好みになってるよ~」

135: 2020/11/26(木) 17:02:55.16 ID:iFNuAu4D
しずく「………モグモグ」

しずく「ゴクッ……」チラッ

しずく「………」

ドクンッ
   ドクンッ.....

しずく「あの……彼方さん」

彼方「ん~?」

しずく「こんな時に、あれなんですけど……一つ謝らないといけないことがあって」

彼方「なになに~?」

彼方「ベッドで匂い嗅いでたことなら……もう、良いよ~?」

しずく「それは、えっと……すみません」

しずく「そうじゃなくて……実は、妹キャラの選考があるなんて、嘘だったんです」

彼方「ん……」

しずく「彼方さんなら、台本の相手役をお願いしたら受けてくれると思って……」

彼方「知ってたよ~」

しずく「すみませ――……え?」

彼方「だって、妹キャラになるのなんてほんの数分であとは基本、しずくちゃんだったし」

彼方「桜坂しずくとしてこうしていたい。なんて言われたらねぇ~」

しずく「あ……」フイッ

彼方「だから、しずくちゃんが彼方ちゃんとお近づきになりたいのかなぁ……って、思ったし」

彼方「彼方ちゃんだって、慕われて嫌な気はしないから全然良いよ~って受け入れてたんだよねぇ」

137: 2020/11/26(木) 17:18:18.09 ID:iFNuAu4D
しずく「え……ま、え……」

しずく「じゃぁ、私が頬にキスしたのも……」

彼方「演技だと思ってなかったかな」

しずく「じゃぁ……キスしてくれたのも……」

彼方「しずくちゃんがして欲しそうだったからねぇ」

しずく「あっ……あぁっ」

しずく「ぜ、全部……っ」

しずく「ならっ、あの結婚とかの話も……」

彼方「えへへ~」

しずく「……進路の話も」

彼方「そうだねぇ」

しずく「……全部わかったうえで付き合ってくれてたんですか……」

彼方「でも、こうして嘘でしたって教えてくれたなら変わらないんじゃないかなぁ?」

しずく「ぜ、全然違いますっ」

しずく「だって、だって……だとしたら……私……」

彼方「一生懸命なしずくちゃん、可愛かったよ」

しずく「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」バッ

彼方「しずくちゃっ――」

しずく「今は駄目です、私の顔を上げさせたりしたら彼方さんの匂いを嗅いで嗅いで嗅ぎまわります」

しずく「オフィーリアのように鼻をこすりつけてくんくんしますっ!」

彼方「それは、周りの目が怖いねぇ……」

138: 2020/11/26(木) 17:28:41.19 ID:iFNuAu4D
彼方「しずくちゃん……」

彼方「……コホンッ」

彼方「しずく、大丈夫?」

しずく「呼び捨ては駄目ですっ……ダメですよ、彼方さん」

彼方「でも、彼方って――」

しずく「忘れてください」

しずく「あれは演技です、演技」

しずく「全部、何かしらの演技だったんです……」

しずく「でないと……」

しずく(そうでなければ……私)

しずく(彼方さんに告白してしまったことになる……っ)

しずく「私、もう生きていけません……」

彼方「大げさだよ~」

彼方「彼方ちゃんは嬉しかったよ?」

彼方「しずくちゃんにあんなにも好きになって貰えてて……」

彼方「正直、同好会での彼方ちゃんはあんまりいいとこなかったからねぇ~」

彼方「下に見られてても不思議じゃないなぁって思ってた」

しずく「下に見るなんて、そんな!」

彼方「うん、しずくちゃん達はそんな子じゃないけどね……そう思われても仕方がないって思ってたよ~」

139: 2020/11/26(木) 17:37:15.00 ID:iFNuAu4D
彼方「だから、嬉しかった」

彼方「だから……彼方ちゃんも、付き合ってた」

彼方「しずくちゃんがどこまで想ってくれてるのか知りたくて……」

彼方「だから……私もごめんなさい」

しずく「っ、そんな!」バッ

彼方「やっと、顔上げてくれたねぇ」

しずく「ぁ……」

彼方「ありがとねぇ、しずくちゃん」

スッ.....
  グシグシ....

彼方「恥ずかしくって、泣いちゃうなんて……可愛いねぇ」

しずく「つ、次可愛いって言ったら……匂い嗅ぎますよ……」

彼方「いいよ~おいで~」

しずく「え……」

彼方「抱きしめてる間なら……してもいいよ~」

しずく「い、良いんですか?」

彼方「どうぞどうぞ」

彼方「今なら、人もいないみたいだからねぇ」

140: 2020/11/26(木) 17:44:32.58 ID:iFNuAu4D
....ギュッ

しずく「………スンスン」

彼方「ありがとねぇ」

ナデナデ

しずく「……っ」

しずく「彼方さんは酷いです……知っていたなら、教えて欲しかった」

彼方「うん、ごめんねぇ」

しずく「私……」

しずく「私は姉さんが好きです」

しずく「ずっと一緒に居たいです」

しずく「ほかの誰にも渡したくない……誰のものにもなって欲しくない」

しずく「だから……姉さん」

しずく「キス……して良いですか?」

しずく「最初で最後の姉さんの初めてを、私にください」

彼方「おや……」

しずく「ダメなら、首を振ってください」

しずく「良ければ、目を――」

――チュッ

しずく「んっ……」

彼方「思い立ったが吉日。迷えば機を逃すよ。しずくちゃん」ボソッ

しずく「っ……っっ~っ!」

141: 2020/11/26(木) 17:57:56.67 ID:iFNuAu4D
彼方「はい、おしまい」

しずく「ず、狡い……」

彼方「へっへ~ん」

彼方「隙を見せたしずくちゃんが悪いんだぜ~?」

しずく「責任!」

彼方「ん?」

しずく「責任……とってください」

しずく「ここまで、私をドキドキさせたんですから……」

しずく「女優の心を挫いたんですから……」

しずく「責任とって、私が女優になれるように立ち直らせてください」

彼方「いいけど……」

彼方「立ち直ったら終わりで良いのかな~?」

しずく「良く、ないです……」

しずく「出来るのなら……末永く」

しずく「そう、ですね……」

しずく「大女優の専属栄養士に……なってください」

彼方「ん~……なら、彼方ちゃんも色々頑張らないとだねぇ」

彼方「……けど、良いよ~」

彼方「今専属は無理だけど……未来の大女優のお傍付きに、なってあげよう」

彼方「彼方ちゃんだって……しずくちゃんのこと、好きだからねぇ」

142: 2020/11/26(木) 18:01:36.38 ID:iFNuAu4D
終わり。

たまに強い彼方ちゃん

143: 2020/11/26(木) 18:11:38.01 ID:tr1lYSSP
大変素晴らしかったです
かなしすまた書いていただきたい…

144: 2020/11/26(木) 18:12:53.03 ID:Gdzsem2e
お疲れ様。しずくの心情がすごく良かった次も期待してるわ

145: 2020/11/26(木) 18:18:02.86 ID:AIsHaYbN
浄化されたわ…
お疲れ様でした

146: 2020/11/26(木) 19:14:34.01 ID:CDiZJI4X
めちゃくちゃ良かったよ

147: 2020/11/26(木) 19:15:24.12 ID:UOOderbC
これは好きになるわ

150: 2020/11/26(木) 21:50:44.54 ID:PDOyBpn2
かなしずの聖典が今ここに誕生した
素晴らしいの一言に尽きる

151: 2020/11/27(金) 00:40:55.96 ID:MbZ204+Y
良いものを見させて貰った
また書いてくれ

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1606090045/

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