璃奈「愛さんボード『しくしく』」【SS】

りなあい SS


1: 2021/01/15(金) 23:20:43.92 ID:nASmiqWB
――――――
7月 教室の外


愛「失礼しました~っ!」


愛「ふぅ~……キンチョーしたなぁ……」


愛「……はぁ」



愛「……辞めなきゃ、かも」

2: 2021/01/15(金) 23:24:13.46 ID:nASmiqWB
――――――
教室


―――「じゃね、璃奈~、また明日!」


璃奈「うん。璃奈ちゃんボード『バイバイ』!」


……最近話せる友達が増えた。

まだ表情は硬いままだけど、普通だったらこんな時に嬉しくなって思わずにやけたりするのかな。

きっとそれもこれもスクールアイドルを始めたから。


私は天王寺璃奈。虹ヶ咲学園の1年生。

こんな私を一言で表すなら、無表情。

望んでこんな表情をしてる訳じゃないけど、どうしても変えられない。

……無愛想でいつも不機嫌な顔をしてるように思われる。

だから今まで友達なんて、ほぼいなかった。誰かから声援を貰う事なんてなかった。

だけど今の私は、昔じゃ想像もできない日々を、私は過ごしている。


いつも無表情で、愛想のない私。

そんな私の手を引いてくれたのは……

3: 2021/01/15(金) 23:25:23.68 ID:nASmiqWB
――――――
部室


璃奈「こんにちは」ガラガラ


かすみ「やっほー! りな子!」

歩夢「こんにちは。今日、愛ちゃんは?」

璃奈「愛さんは二者面談。進路のことで先生と話してる」


侑「あー……そっかぁ、二者面談かぁ」

侑「私、進路希望の紙、どこやったかな……」

せつ菜「……侑さん、なくしたんですか?」ギロッ

侑「ヒッ! こっ、怖いよせつ菜ちゃん~、会長の顔になってるぅ~……」

せつ菜「もう侑さんっ! スクールアイドルに熱が入るのはいいですけどそこをおろそかにしてはだめですよ!」

侑「さ、探せばあるから~……」

歩夢「あはは……」


果林「愛、確かそのあとバスケ部の助っ人に行くみたいなこと言ってたわ」

果林「いつも引っ張りだこで忙しそうよね」

彼方「頑張り屋さんだなぁ……彼方ちゃんが代わってあげたいねぇ……」

しずく「思ってもないことを……寝ながら言われても説得力ありません」

彼方「そんなことないよ~、ダムダムしちゃうよ~♪ ダムダムきゅっ、ダムダム~♪」


……愛さん。宮下愛。

同好会の元気印で、楽しいことにいつも全力な笑顔の天才。


私ともっとも遠くて、私と最も近い人。

4: 2021/01/15(金) 23:26:28.52 ID:nASmiqWB
愛「……」

愛「……ふーっ」

愛「そんな難しい顔すんな、アタシ」

愛「……よしっ!」

———……

愛「おいーっす!」ガラガラ

エマ「あ、愛ちゃん! チャオ~♪」

かすみ「あれぇ? バスケの助っ人、行かないんですか?」

愛「あはは! いやーシューズ部室に忘れちゃってさー」

愛「1時間くらいしたら練習に戻るよ!」


せつ菜「進路面談どうでしたか?」

愛「いや~、別に問題なかったよ! アタシはこの通り! ブイッ!」

歩夢「ふふ、さすが愛ちゃん。成績いいもんね」


璃奈「……愛さんはすごい」

璃奈「情報処理学科2年、前期中間テスト総合1位」

果林「えええええっ!?!」

かすみ「そんな頭いいんですか?! 愛先輩って!」

愛「アハハ……たまたまだよ」

愛「アタシ、見た目こんなんだからさ……中身くらいしっかりしないと思って!」

5: 2021/01/15(金) 23:29:46.85 ID:nASmiqWB
愛「んじゃっ! 今日はごめんね果林。帰ってきたら約束通りフリ合わせよーね♪」

果林「え、えぇ。ま、待ってるわ」

愛「そいじゃまたねー」ガラガラ


愛さんはシューズだけ取るとそのままそそくさに部屋から出て行ってしまった。


しずく「……愛さんってかっこいいですよね」

しずく「見た目がギャルだなんて謙遜して、中身もしっかり磨こうとしてて」

彼方「勉強もできて、助っ人できるくらいスポーツもできるもんねぇ……」

かすみ「も~~~愛先輩っていろいろずるいです! ギャップ萌えって奴ですか?!」

エマ「おばあちゃんのことも大切にしてるしね~♪」

果林「なんなの……完璧じゃない……っ!」ボーゼン


同好会の愛さん評価はまさにオーバーフローしそうな勢い。

本当に欠点が見当たらない人だと、私も思う。


明るくて、頭もよくて、スポーツ万能で、家族想い。

何よりいつも周りを元気にする、楽しいの天才。みんなの人気者。

初対面の人もすぐに愛さんのことを好きになる。


だから、私は疑問に思う。

なんで愛さんはこんな無愛想な私と、仲良くしてくれるんだろう?


だけどそう疑問に思うたび、私はこう思うんだ。

「愛さんにとって私は単なる一人の友達」

「深く考えるだけ無駄」って。

7: 2021/01/15(金) 23:32:44.86 ID:nASmiqWB
……——————
帰り道


愛「りなりー、最近楽しそうだね!」

璃奈「うん。この前のライブをきっかけに友達、できたから」

璃奈「お弁当、一緒に食べてる」

愛「そうかそうか! 愛さん、嬉しいなー!」

愛「大好きなりなりーが楽しそうにしてて!」

璃奈「……ぜんぶ愛さんのおかげ」

愛「あはは、そんなことないよ!」


同好会のあとの帰り道は大体愛さんと一緒に帰っている。

愛さんと一緒にいるのは本当に退屈しなくていつも楽しい話をしてくれる。

楽しい。

でも私は楽しい表情ができないから、時々申し訳なくなる。

愛さんはこんな私といて、楽しいのかなって。


愛「……りなりー、なんか難しいこと考えてたでしょ?」

璃奈「え……そんなことない」

愛「うそっ! なんかそんな表情してたもん」

璃奈「……なんでわかるの」

愛「わかるに決まってんじゃん!」ギュー

璃奈「わっ……!」

愛「いっつも一緒にいるんだからさ!」


……愛さんは不思議な人だ。

私の表情で気持ちがわかる人なんて、今までいなかった。

12: 2021/01/15(金) 23:37:04.54 ID:nASmiqWB
璃奈「あ、愛さん……恥ずかしいよ。こんな人の通りで、だ、抱きしめられて……」

愛「んー、聞こえない~!」


愛さんは私の言葉に反して、もっと強く抱きしめてきた。


璃奈「……いじわる」


いやだ……なんかもう、ひたすらに恥ずかしい。

だって愛さんにとって私は単なる友達の一人。

きっと私だけが、変に意識してるんだ。


璃奈ちゃんボード、使いたい……顔赤くなってるかも……

ってあれ? 用途変わってる……?


愛「だからさ……りなりー」ギュッ


愛「りなりーは、スクールアイドル頑張るんだよ」


璃奈「……え?」


璃奈「……愛さん?」

愛「……なーんてねっ♪」

愛「ほらっ、暗くなる前に帰ろ!」

愛「今日のぬか漬けは~~~なっにかな~~~~~!」

璃奈「……」


恥ずかしさで動揺していたから、聞き間違えたのかと思った。

でも確かに、愛さんは言ったハズ。


……りなりー……「は」?

14: 2021/01/15(金) 23:39:20.83 ID:nASmiqWB
――――――
愛の自宅


愛「ただいま~! おばーちゃん!」

愛「おっ! 今日のごはんも美味しそう!」

愛「あむっ……う~~~ん、サイコー!」

愛「やっぱりおばーちゃんのぬか漬け食べたら疲れも吹っ飛ぶな~!」


愛「えっ、なに?」

愛「……えぇっ?! お店のバイトが一気に3人も辞めちゃったの?」

愛「人手、足りてないんだ……」


愛「……ん、わかった。店番もっと出れるようにすんね!」

愛「うん、だいじょーぶ! そんな気使わないでよ!」


愛「おっけーおっけー!」


……——————


愛「……えぇっと、こんなもんかな」

愛「今月までに2年の範囲は全部終わらせて……」

愛「最低4時間くらい勉強しないと……ってカンジかなぁ」

愛「それで土日はもんじゃ焼きの手伝いして……」

愛「……」

愛「うん。それだけ勉強すれば、両立したって問題ないよね」

愛「……だから踏ん張る」


愛「うしっ! 気合い入れてがんばるぞ~~~! よぉっしゃ~~~!」

17: 2021/01/15(金) 23:46:09.03 ID:nASmiqWB
――――――
部室


彼方「すやぁ……」

愛「ねぇカナちゃ~ん」

彼方「おや……どうしたのかな愛ちゃん。エマちゃんの膝枕は渡さないぜぇ?」

エマ「うふふ♪」


愛「カナちゃんってさ、何時間くらい勉強してるの?」

彼方「勉強? うーん……学校とかバイトある日は5時間、休みの日は7.8時間くらいかなぁ……?」

彼方「とはいっても結構波があるからねぇ……」

彼方「受験直前とかテスト直前になったらもっとしてると思うよぉ」


果林「彼方ったら。そんな勉強したら頭爆発するわよ」

エマ「果林ちゃん」

エマ「しないよ?」

愛「果林」

愛「しないね」

果林「な、なによ二人で……ちょっとした冗談……っ」


愛「でもそっかぁ……いやぁカナちゃんはそれでいてバイトもしてるっていうんだから偉いよね!」

彼方「えへへ~、照れますな♪」

彼方「まぁ3年生だしぼちぼちねぇ……」


歩夢「愛ちゃん、勉強時間増やすの?」

愛「ま、まぁ進路希望面談もあったから、周りはどうなんだろうってね~」

愛「まだまだ全然先の話!」

かすみ「うぐぐ、また愛先輩が完璧超人に近づこうとしている……」

しずく「かすみさんじゃ頑張っても届かないから悔しがっても意味ないよ」

かすみ「ぐ、ぐああああ~~~!!! しず子ぉ~~~!!」ポカポカ

愛「あはは……てかごめんごめん! 部活中に勉強の話しちゃって!」

愛「よーしっ! とりあえず練習練習! 今日も愛さん、がんばるぞー!」


璃奈「……」

21: 2021/01/16(土) 00:02:45.48 ID:RMlyU6gj

30: 2021/01/16(土) 18:44:30.25 ID:RMlyU6gj
皆さま保守等ありがとうございます。
ほとんどここで書き込んだ経験ないので
非常に助かります!

31: 2021/01/16(土) 18:45:41.91 ID:RMlyU6gj
――――――
7月 校内食堂


愛「はい、りなりー! あーん♪」

璃奈「あむっ……」パクッ

愛「おいしー?」

璃奈「うん」

愛「よかった~♪」


愛「あっ、そういえば今日ね、おねーちゃんに会うんだよ!」

璃奈「……美里さんって人?」

愛「そうそう、急に呼ばれて! 久しぶりにご飯なんだー♪」

璃奈「そうなんだ」


……正直うわのそらで話を聞いていた。

ずっとあの時の言葉が引っかかっている。


「りなりーは、スクールアイドル頑張るんだよ」


どういうことなんだろう。愛さんは、どうなの?


璃奈「……愛さん」

愛「んー? どしたん?」

璃奈「……最近、忙しい?」

愛「えっ?」

璃奈「……彼方さんに勉強のこととか聞いてたから」

璃奈「忙しいのかな、って」

愛「あはは……そっかぁ、心配させちゃったか~」

愛「だいじょーぶ! ちょっと受験のことでいろいろ考えてただけだから!」


璃奈「……スクールアイドル、やめるの?」

愛「えっ……?」

32: 2021/01/16(土) 18:48:15.33 ID:RMlyU6gj
愛「……い、いやいや~! なんでそうなるのさ~!」

愛「やめないよ! だってスクールアイドル愛してるもん! 愛、だけにっ!」

愛「……それに愛さん、人を笑わせたり楽しませるの、スキなんだ」

愛「ずっと続けるよ」


愛さんはニカッと笑顔を見せてそう言った。

いつも隣で見てきた頼もしい笑顔。


璃奈「……ごめん」

璃奈「なんか、心配になっちゃったの」

愛「あはは~、りなりーは寂しがり屋だな~」

愛「心配しないで。絶対辞めないから」

璃奈「……ホント?」

愛「当たり前だよ~!」

愛「愛さんはりなりーに、嘘つかないよ」

璃奈「……うん」


本人の口から「辞めない」と言ってもらえて私は心底安心してしまった。

愛さんはいつだって自分に正直で、前向きになんでも乗り越えようとする強い人。

きっと私が弱い人間でいつも愛さんに頼りっぱなしだから、余計に心配しちゃったんだ。

こんなんじゃ私、ダメだな……


とにかく、うん。愛さんは辞めない。

よかった。

33: 2021/01/16(土) 18:50:54.90 ID:RMlyU6gj
――――――
ファミレス


愛「……あー! おねーちゃん! こっちこっち!」

愛「いやぁ、久しぶりだね~! 元気してた?」

愛「うんっ! スクールアイドルも高校も楽しくやってるよ!」

愛「もう毎日楽しいことばかりってカンジ! あはは!」


愛「おねーちゃん、何食べる?」

愛「アタシは今日りなりーとハンバーグ食べちゃったから……」

愛「そうそう、ボードつけてる子!」

愛「同好会に入ったタイミングも一緒だったからねー」


愛「可愛くて素直で、本当にいい子なんだ♪」

愛「もしかしたら今一番、一緒にいる時間多いかも!」

愛「妹がいたらこんなカンジなのかなー、とか思うよね~」


愛「……まぁでも」

愛「おねーちゃんの前だと、アタシ、ちょっと甘えたい気分だったりして」


愛「えへへ……」

35: 2021/01/16(土) 18:52:30.47 ID:RMlyU6gj
愛「うん……うん、そうなんだよ」

愛「先生ね、スクールアイドルも部活動もみんな辞めなさいって言ってきたんだ」


愛「も~~~! なんでだよっ! ってツッコミたくなったよ!」

愛「たまたま成績トップ取っちゃったからかわかんないけどさ」

愛「部活とか全部辞めて勉強一本にしなさいって言うんだよ?」

愛「“2年生の今から勉強すればどんな最難関大学も受かる”って」

愛「勉強は好きだし言われた通り頑張りたいけど、自分が大好きなことを犠牲にするのは嫌なんだよねぇ……」


愛「だからスクールアイドルは絶対に辞めないよ」

愛「いい成績を残し続けて先生、黙らせちゃうもんねー!」


愛「……でもさぁ、うちのもんじゃ焼き屋さんもバイトが一気に辞めちゃってさぁ」

愛「お店の手伝いもしなくちゃいけないんだよねー……」

愛「さすがのアタシもちょっと大変だな~って思っちゃった……」

愛「いや~~~愛さんが3人くらいいれば解決なのにな~! 残念~♪」


愛「……ま、でも頑張るっきゃないからね! とにかくやるよ!」

36: 2021/01/16(土) 18:54:51.28 ID:RMlyU6gj
愛「……あっ! ていうかごめん!」

愛「こっちばっかり話しちゃって!

愛「しかも愚痴とか弱音みたいになっちゃった……」

愛「ら、らしくないよね~! あたしのキャラじゃないっていうか! ごめんごめん♪」


愛「で、おねーちゃんも話あったんだよね?」

愛「なになにー? もしかして結婚とか?!」

愛「あはは~! なんてジョーダン、ジョーダン……」


愛「……」

愛「そっかぁ……また検査入院するんだね」

愛「体調、あんまよくない?」

愛「……そんなの心配に決まってるよぉ。入院に慣れるなんてある訳ないじゃんか~」


愛「……えっ?」

愛「しゅ、手術するの……?」

37: 2021/01/16(土) 18:57:35.50 ID:RMlyU6gj
愛「な、なんで……?」


愛「……うん……うん……」


愛「……そっか。将来的にどこかでやった方がいい手術、なんだ」

愛「そんな重そうな手術じゃなくて安心したよ」

愛「……心配は心配だけど……」


愛「とりあえず手術の日までお見舞いに行くね!」

愛「……えっ? 勉強も店番も大変そう?」

愛「そんな事ないよ、いまはおねーちゃんが心配なんだから」



愛「……じゃーね、お姉ちゃんっ! 話せてよかったわ~~~」

愛「手術、頑張ってね! とっておきのダジャレでいっぱい笑わせにいくかんね~~~!」

愛「それで元気になったらもっとたくさんお話ししよ! 約束だよ♪」

愛「ウチのもんじゃ焼きも久々に食べに来てよ!」

愛「それで、えっと~……」


愛「……えっ?」

愛「……うん」


愛「アタシはだいじょーぶだよ」

愛「だいじょーぶ」


愛「だいじょーぶだって」ニコッ

38: 2021/01/16(土) 19:00:42.13 ID:RMlyU6gj
――――――
帰り道


愛「……」


愛「ははは……あーっはっはっはっは!」

愛「らしくない、らしくないっと!」


愛「なんていうか、いろいろ重なるな~。運勢悪いのかな? アタシ」

愛「あははは……」


愛「……こんな顔してアイドルなんてダメだよ」


愛「うんっ、へーきへーき。きっとみんな、うまくいくって」

43: 2021/01/17(日) 23:27:52.89 ID:jPHpooT3
――――――
7月 部室


侑「よし! じゃあ今日の練習も終わりだね!」

エマ「お疲れ様~♪」

せつ菜「ダンスのフリ、合ってきましたね!

歩夢「うん、合宿中にもっと合うといいね!」


しずく「……」

かすみ「……ん? しず子、大丈夫?」

しずく「あっ、ごめん……ちょっと夏バテかな、ボーっとしちゃってた」

歩夢「たしかに。暑くなってきたもんね」


そろそろ学校も夏休みを迎え、みんな楽しみな合宿が待っている。

私も、楽しみ。友達とお泊りとかそういう経験なかったから。

食事も家族みたいに囲んでみんなで食べるのかな。

楽しみ。

きっとこの夏は、わくわくすることでいっぱいになるはず。

44: 2021/01/17(日) 23:30:12.35 ID:jPHpooT3
侑「合宿の日程なんだけどみんな都合の悪い日とかあるかなぁ?」

愛「あ、ゆうゆ」

愛「んーとね……この日はちょっと都合悪いかな」

侑「わかったよ、この日はなしっと……」


かすみ「むむっ! もしかして、また別の部活の助っ人ですかっ?」

エマ「あ! もしかして!」

エマ「日本の夏には“甲子園”っていうのがあるんだよね♪ それの助っ人とか?」

愛「あははは! そしたら愛さん、坊主にしなきゃ!」

彼方「エマちゃん。甲子園に女の子は出られないんだよ~」

エマ「え? そうなの?」

果林「甲子園のチアガールのこと言ってるんじゃないかしら」

歩夢「あはは……そうですね、そっちのことかも」


……みんな、やけにテンション高い気がする。

試験も終わって肩の荷が下りて、みんなとにかく気が楽になってるんだろう。

こういうのなんていうんだろう。“夏休みハイ”?


……愛さんは夏休みになっても忙しいんだなぁ。

もっとたくさん遊びたいけど、人気者の愛さんだからいろんな人に声かけられてるんだろうな。

だったら今のうちに、愛さんと二人の時間、もらい受けたい。うん。


璃奈「愛さん、練習終わったらクレープ屋さん、行かない?」

愛「今日? えーと、今日は……ちょっと待ってね」


愛「……うん、いいよ! いこっか!」

璃奈「嬉しい。璃奈ちゃんボード『にっこりん』!」

45: 2021/01/17(日) 23:31:16.66 ID:jPHpooT3
――――――
クレープ屋さん



璃奈「……それでねっ、はんぺんったら慌ててミルク呑んで」

璃奈「お皿ひっくり返しちゃったの」

璃奈「はんぺん、よっぽどお腹空かせてたんだと思う」

愛(ぼーっ……)


璃奈「……愛さん?」

愛「はうぁっ?!」

璃奈「!?」


普段の愛さんからはまるで聞いたことないような驚き声。


愛「ごめん、ボーっとしてた! な、なに?」

璃奈「えっと、あの、はんぺんが……」

璃奈「……夏バテ?」

愛「あー、しずくもなってたもんね! 愛さんもちょいバテたんかも!」

璃奈「そっか。私も気を付けよう」


……どことなくきごちなく、愛さんらしくない。

どうしちゃったんだろう。

スクールアイドルは辞めない、嘘はつかないって確かに愛さんは言った。

だけどやっぱり、どこか様子がおかしい。

どこかこう、キレがないというか……ぐったりしてるような感じ。

46: 2021/01/17(日) 23:32:25.67 ID:jPHpooT3
愛「いや~、いつ食べても美味しいね、ここのクレープ」


……ごめんね、愛さん。


わかるの。私。愛さんの表情がいつもと違うってこと。

無表情がコンプレックスで、常に自分の表情を気にしてる私だから。

普通の人よりも敏感なんだ。人の表情。

隠してるのかもしれないけど、わかるよ。

いまの愛さんは……


璃奈「……愛さん、疲れてる」

愛「え、そんなことないって~!」

璃奈「もういいよ、愛さん」

愛「へ?」

璃奈「無理しないで。疲れてる、よね?」


愛「……あ、あはは」

愛「そう、だね~……疲れてるは疲れてるかな……」

愛「ダメだよね!」

愛「アタシみんなを楽しませたりワクワクさせたりするのが好きでアイドルやってんのにさ~」


璃奈「なにかあったの?」

愛「……まぁいろいろと、ね!」

47: 2021/01/17(日) 23:35:20.50 ID:jPHpooT3
……愛さんは頑なに言おうとしない。

自分の弱い部分を見られるのが嫌なのかな、と思ったけどたぶん違う。

私に気を遣っているんだろう。


……でもそれはそれで、なんだか悲しい。

完璧超人な愛さんからしたら、私なんて頼りなさすぎるのかも。


だけど私は、愛さんのことが好きだから。

大切な人だと思うから……


璃奈「愛さん、私に頼って」

愛「えっ?」

璃奈「ちゃんと話聞かせて。今の愛さんのこと、すごく気になるよ」


璃奈「私は愛さんにたくさん助けられてきたから」

璃奈「友達もいっぱいできて、いまはスクールアイドルもやれてる」

璃奈「それは愛さんが友達になってくれて、私が変わるキッカケになったからだよ」

愛「りなりー……」

璃奈「だから私、愛さんに困ったことがあったら、今度は私が助けたいの」


璃奈「だめ……かな? 私じゃ」

愛「……ううん、そんなことは、ない」

璃奈「スクールアイドル、二人で頑張ろうよ」

璃奈「りなりーは、頑張るんだよ、なんて言わないで」

愛「!」

璃奈「……も、もちろん、二人だけじゃなくて、同好会のみんなで、でもあるけど」


愛「……」

愛「……あはは、そーだねっ!」

48: 2021/01/17(日) 23:37:09.25 ID:jPHpooT3
――――――
璃奈の自宅


愛「おじゃまします~……」

璃奈「うん。どうぞ」


私は愛さんを家に呼んだ。

こう家の中の方が落ち着いて話を聞けると思ったから。

どうせ今日もお父さんとお母さんは帰ってこないからね。


璃奈「適当にくつろいでて」

璃奈「りんごジュースでいいかな」

愛「ありがと! おかまいなく~」

愛「ひゃあ~、それにしても相変わらず広いリビングだよね!」

璃奈「うん……特に一人の時はだと広く感じる」

愛「おっ! 出た! この子確か猫型ロボットの……」

璃奈「アランだよ」

愛「ほんと猫好きだよね~、りなりー。よしよし~♪」

璃奈「猫は偉大。一人暮らし始めたら、いつか絶対に飼うんだ」

愛「君もはんぺんと同じくらい可愛いねぇ♪」


愛「癒されるなぁ……なんか最近バタバタしてたからさ」

璃奈「……とりあえずゲームでもする?」

愛「おっ! それ乗ったっ!! 久しぶりにやったりますかー!」

49: 2021/01/17(日) 23:39:15.72 ID:jPHpooT3
~~~♪


愛「よっしゃあ! やっと勝ったぞ~!」

愛「……てか手加減したんじゃないの?!」

璃奈「してない。普通に負けた」

璃奈「最後に赤コウラは3発は、ずるい」

愛「へへーん! 愛さん、勝負事にはいつも真剣だからねっ!」


子供みたいに喜ぶ愛さんを見て、年下の私ながら可愛いなと思った。

だけどやっぱり、いつも元気で無邪気な愛さんが一番愛さんらしい。


愛「あー、楽しかった!」

璃奈「私も」


愛「もうこんな時間か~」

愛「……今日はこのまま泊まっちゃおうかな、な~んて」

璃奈「いいよ。私もそのつもりだったし」

愛「え? そうなの?」

璃奈「ちゃんと歯ブラシとかパジャマも私より大きめな予備のとか、ある」

璃奈「他に必要なものがあればコンビニも近くにあるから」

愛「すごっ! 準備万端だね~」


璃奈「……いろいろお話、聞きたい」

愛「……そうだね。今日はせっかくだからりなりーと話したい気分」

愛「ちょっとおばあちゃんに電話するねっ」


電話をしに部屋を出た愛さん。

話したい気分、か。

よかった……私、ちょっと頼られてるのかな。

50: 2021/01/17(日) 23:41:44.20 ID:jPHpooT3
……―――


愛「いやぁ~、綺麗な髪だねぇ~」

璃奈「そうかな?」

愛「そーだよっ! 神がかってる! 髪だけにっ!」


あれからご飯を食べて、お風呂に入って、そして今、髪を乾かしてもらってる。

ソファの上の愛さん、そしてその下に私が座って。

もし愛さんが私のお姉ちゃんだったら、私は毎日笑わせてもらってたのかな。


璃奈「愛さん、お布団敷いた」

璃奈「寒かったりして言って」

愛「お~、ありがと! いやぁ、フカフカだねぇ……」

璃奈「お母さんが前に使ってたやつみたいだけど……ほとんど使ってないから新品同様なの」

愛「ラッキー♪ 堪能しちゃお!」


愛「……りなりー、今日はありがとね」


愛さんはボソッとつぶやいた。

私の髪を乾かすドライヤーの電子音に混じった小さな声で。


璃奈「……なにがあったの。聞かせて」


愛「うーん……」

51: 2021/01/17(日) 23:44:37.74 ID:jPHpooT3
ドライヤーの電源を切って、愛さんは話し始めた。


愛「なんか悪いことが一気にドーン!って重なるっていうかさ」

愛「いろいろあったんだよね」

璃奈「うん」


愛「先生から受験の為にスクールアイドル辞めろって言われたり」

愛「お店のバイトがいなくなって、お手伝い忙しかったりとかさ」


璃奈「……そうだったんだ」

璃奈「だから私に、スクールアイドル頑張れって言ったんだ」

愛「うん……最悪辞めたりすることもあるかなって思ったからね」

愛「でもせっかく始めたスクールアイドルだからさ、とにかく頑張るしかないって思って」


愛「一緒に頑張ってくれるりなりーのためにも辞めたくなかったしね」

璃奈「私のため……?」

愛「うん。だって心配してくれたじゃん?」

璃奈「……」


そうか。私のためでもあったんだ。

だから無理して、弱音を吐くこともなく、一人で頑張ろうって思ったんだ。

52: 2021/01/17(日) 23:46:55.22 ID:jPHpooT3
愛「それでね……実はおねーちゃんが、手術を受けなきゃいけないことになって」

璃奈「えっ……」

愛「そんな失敗するような手術じゃないみたいだけど心配は心配で」

愛「それが決定打になったっていうか……ちょっと疲れちゃったのかも」


璃奈「侑さんに言ってた合宿の都合悪い日ってもしかして」

愛「うん。手術の日なんだ。その日は近くにいたいから」

璃奈「そうだよね……」


……とことん真面目な愛さんにとって、

スクールアイドルは落ち込む姿を魅せちゃダメって思ってるのかな。

根っから明るいのは疑うことのない愛さんの姿だと思うけど、

どんなにしんどい時も意図的に明るく振る舞おうと我慢してた時もあったのかもしれない。


璃奈「……そっか。いろいろあったんだね」

璃奈「もっと相談とかしてくれても、よかったのに」

愛「あはは、同好会のみんなに迷惑はかけられないよ」

璃奈「……そんなことない。みんな仲間だよ」

愛「あはは……」

璃奈「それに考えてみてほしい」

璃奈「もし他の人が同じ状況になったら、愛さん絶対その子のこと助けるでしょ?」

璃奈「だから愛さんだって、いいんだよ」


愛「……」

54: 2021/01/17(日) 23:49:25.90 ID:jPHpooT3
愛「……ちょっと自慢みたいに聞こえるかもしれないけど」

愛「アタシさ、すっごい明るい性格だと思うんだ」

愛「勉強もスポーツも好きでクラスでも中心にいたし」

愛「病気がちなおねーちゃんをたくさん笑わそうとしてたしね」

愛「特におねーちゃんの前では、どんなことでも明るく楽しくしようって意識してたかも」

璃奈「うん……愛さんは明るいよ」

愛「いつも自分も周りも楽しませようってことしか考えてなかったからさ」

愛「……だから自分が追い込まれた時、どうしていいかわからなくなる時があるんだよ、多分」

愛「子供の頃から自分のことは自分でやる!って思ってたからね」


愛「……アタシもりなりーと似た部分あるのかもねっ!」

璃奈「私と?」

愛「辛かったり、悲しかったりする時、どんな顔していいかわかんないから」

璃奈「……そっか」

56: 2021/01/17(日) 23:53:46.94 ID:jPHpooT3
璃奈「……愛さんはすごい人。なんでもできて、いつも周りを明るくする」

愛「今はガチ落ち込み~……ってカンジだけどね」

璃奈「人に頼られてばかりだから、逆に誰かに頼るの、慣れてないんだと思う」

愛「うーん、そうかもね……」


愛さんは……これからもこんな感じなのかな。

どんなに辛いことがあっても、その気持ちを抑えたまま明るく振る舞うのかな。

感情表現の乏しい私が言うのも変かもしれないけど。

私はそんな愛さん、見たくない。


愛「……でもね、りなりー。本当にありがとう」ナデナデ

愛「話を聞いてもらうだけで、ずいぶん肩の荷が下りたよ」


璃奈「……愛さん、辛かったね」

璃奈「短い間に本当にいろいろあったんだね」


愛「……」

愛「ちょっ……りなりー、やめてよ」

愛「そういうのナシ」

璃奈「なんで?」

愛「だって愛さん」


愛「……泣きそうになっちゃうよ」

57: 2021/01/18(月) 00:00:46.46 ID:w2ooYipI
その言葉に思わずびっくりして、思わず振り返って顔を見ようとした。

慌てて顔を隠す愛さん。

いろんな人に頼られて生きてきた愛さんだから、

こうやって泣いてる姿とか今まで見られたことないのかもしれない。


璃奈「……泣いてもいいんだよ」

璃奈「こういう時は一人で頑張らなくてもいいと思う」

愛「……」

璃奈「周りのことに気を遣って楽しませるのはすごいと思う」

璃奈「でも自分の気持ちを抑え込んでばかりの、そんな愛さんは見たくないよ」


愛「……悲しくめそめそしてるアタシなんてキャラじゃないよ」

愛「そんな姿見せたら、みんなショック受けるかもじゃん……テンサゲさせちゃうかも」


そう言って愛さんは泣くのを無理やり我慢してるように見えた。

いつも明るく周りを楽しませようとする愛さんのモットーなんだろう。

悲しい姿は見せない、っていうのが。


……別にいいのに。

58: 2021/01/18(月) 00:03:10.72 ID:w2ooYipI
愛「……結局さ! どんな状況でも最後は私自身が頑張るしかないからねっ!」

璃奈「愛さん……」


愛「勉強もしっかりやってスクールアイドル両立させる!」

愛「家の手伝いもがっつり頑張る!」

愛「そしておねーちゃんのことも!」

愛「手術の不安を少しでも和らげるために、笑かしに行こうと思うしね!」


愛「自分が何を頑張らなきゃいけないのか、っていうのはしっかりわかってるんだ」

璃奈「……」


いかにも頭のいい、理系の愛さんらしい考え方だ。

どれだけ辛かろうか、弱音を吐こうが結局頑張らなきゃいけないのは自分だから。

余計に周りを巻き込もうとするのは得策じゃないとでも考えてるのかもしれない。


愛「でもね……こうりなりーに話を聞いてもらったのは、すごく力になったよ」

愛「ありがとう。感謝してる」

愛「また何かあったら話聞いてね? 頼らせてもらうよ~♪」


璃奈「……」


……なんなの。もう。

59: 2021/01/18(月) 00:05:18.06 ID:w2ooYipI
違うよ、愛さん。

またそうやっておどけて見せて、悲しい気持ちを誤魔化そうとしないでよ。

笑うことも泣くこともできない無感情な私は、

いつも楽しいことに全力な愛さんが羨ましかったのに。キラキラして見えてたのに。

楽しいことに全力なら、悲しいことにも全力になってよ。ずるいよ。

そんなことで嫌いになる訳ないよ。


愛さんの……わからずや。

62: 2021/01/18(月) 02:51:05.03 ID:w2ooYipI
――――――
寝室


璃奈「……電気消すね」

愛「うん、おやすみ! 明日朝ごはん一緒につくろーねっ」

璃奈「……うん。おやすみ」カチッ


暗闇。私はベッドの上でずっとモヤモヤしていた。

愛さんは強い。きっとどんなことも乗り越えられる。

だけどあまりに強すぎて、誰にも頼ろうとしない。

ぜんぶ自分で受け止めて、ぜんぶ自分で解決する。

すごくかっこいいと思う、だけど。


璃奈(頼ってほしい、なんて)

璃奈(私のエゴ、なのかな)

璃奈(愛さんの弱ってる気持ちにつけこんで)

璃奈(必要とされてるって思われたいって。自分が満たされたいだけなのかな)


……わからないけど。

とにかく……少なくとも私の前では、愛さんに無理しないでほしいんだ。


だからもう、強行突破、する。

65: 2021/01/18(月) 18:21:00.00 ID:w2ooYipI
愛「……ん~……むにゃむにゃ」

璃奈「……」


璃奈ちゃんボードで使ってるスケッチブックを携えて、

私は眠っている愛さんの前に立った。そして……


愛「……ん、うわぁっ!」

璃奈「ん!」

愛「ぬあっ、なにするのりなりー?!」


私は……眠る愛さんに覆いかぶさった。

そして泣き顔の璃奈ちゃんボードを愛さんの顔面に押し付ける。

ぎゅうっと、その泣き顔を。

66: 2021/01/18(月) 18:24:45.36 ID:w2ooYipI
璃奈「愛さん」


璃奈「泣いて」


愛「なっ、泣いて……?! は、はぁ!?」

愛「や、やだよっ、なんで泣かせようとするのさ!」

愛「変なボード押し付けないで!」

璃奈「いいから泣いて」


璃奈「……愛さんボード『しくしく』」

愛「えっ?」

璃奈「いま私が愛さんに被せてるボードだよ」

璃奈「愛さんボード『しくしく』」


璃奈「愛さん、頑張りすぎないで」


璃奈「泣いたっていいんだよ」


璃奈「そんなことで誰も嫌いにならないよ」


愛「な、なんでよ。愛さん、別に泣く必要ないから!」

璃奈「ある」

67: 2021/01/18(月) 18:26:13.48 ID:w2ooYipI
璃奈「愛さんは楽しいの天才だよ。間違いなく」

璃奈「でも……悲しい、っていう気持ちに対しては、へたっぴすぎる」

愛「んなっ……」


璃奈「スクールアイドル辞めろとか」

璃奈「勉強で忙しいのに家の手伝いしなくちゃいけなくなったりとか」

璃奈「いろいろ無理なことを頼まれたと思ったら」

璃奈「大好きなお姉さんが手術しなくちゃいけなくなるなんて……」


愛「……」


璃奈「そんな嫌なこと重なったら誰だって辛いに決まってるよ」

璃奈「ぜんぶ頑張る、なんて言葉だけで、その気持ちを片付けちゃダメ」

璃奈「だからこれ。愛さんボード『しくしく』」


愛「……なにそれ」

愛「そんなこと言ったって……しょうがないじゃんか」

愛「クヨクヨしてたって、前に進めないじゃん」

愛「ネガティブな感情で生きてるのって、時間の無駄」

愛「……アタシはそう思ってるんだけど」

68: 2021/01/18(月) 18:28:44.33 ID:w2ooYipI
愛「……」


璃奈「……私は愛さんがすき」

璃奈「すきなの」


璃奈「だから……どんな愛さんでも私は傍にいる」

璃奈「ずっと味方だよ」

璃奈「だから嫌なことがあったら我慢しないで、教えて」


愛「……よくわかんないよ、愛さん」

愛「りなりーが何言ってるか、わかんない」


愛「……アタシの場合は泣き虫なスクールアイドルじゃダメなんだよ」

愛「みんなに楽しいって思ってもらいたい、共有したいっていうのが私の目指す場所だから」

璃奈「うん」

愛「だから落ち込んでるアタシじゃダメなんだって」

愛「アタシのキャラじゃないんだってば」


愛「……もういいよ。離れて」

69: 2021/01/18(月) 18:38:47.83 ID:w2ooYipI
璃奈「……それなら素直に悲しい気持ちも受け止めて」


璃奈「“悲しい”をまるごと、愛さんの“楽しい”っていう気持ちでぶっ飛ばしてよ」

璃奈「それでこそ愛さん、だと思う」

愛「っ……!」


璃奈「辛かったら、そのキモチ、我慢しないで」

璃奈「ちゃんと話して」


璃奈「難しいことがあったら二人で頑張ろうよ……」

璃奈「わ、私だって、愛さんに頼りたいんだから、だから……」

愛「りなりー……」

70: 2021/01/18(月) 18:40:33.20 ID:w2ooYipI
……自分の顔が赤く、染まってるような気がした。

こんなに自分の気持ちをつらつらと話したのは生まれて初めて、かもしれない。

きっとそれは、いつもまっすぐ私と仲良くしてくれる愛さんだからだ。


悲しい顔を見られたくないだろうと思ってボードで愛さんの顔を隠したつもりだった。

でも私も、いまの顔を見られるのは、とんでもなく恥ずかしい。きっとお互い様。


愛「……あは」

愛「あはは……そうだね」

愛「そう、だよね、りなりー。そうだよね……」

71: 2021/01/18(月) 18:42:03.48 ID:w2ooYipI
璃奈「……泣いていいよ」

璃奈「ボードで顔見えてないから。どんな顔してもわかんないよ」


愛「……や、わかるでしょ。いくらなんでも」

愛「無理あるよ」

璃奈「ううん、わかんない」


愛「……嘘つき……わかるに決まってるじゃん」

璃奈「……うん」

愛「嘘つきりなりーだ」

璃奈「うん」

璃奈「……愛さんボード『しくしく』」


愛「……っ」

愛「……ぐすっ……うっ……」

愛「う、うっ、ぐすっ、ひっく……」


璃奈「……愛さん」

72: 2021/01/18(月) 18:44:36.24 ID:w2ooYipI
愛「辞めたくないよ、スクールアイドル……っ」

璃奈「うん」

愛「なんで勉強に集中して辞めろなんて言われなきゃいけないんだよ……っ」

璃奈「うん」

愛「好きなこと辞めてまで勉強なんか頑張れるかっつーの……」

璃奈「そうだよね」


愛「……てかバイトも身勝手にやめんなよ……っ」

愛「アタシの家族に迷惑かけてさぁ……」

璃奈「うんうん」


愛「……おねーちゃん」

愛「手術……絶対上手くいってね……絶対に」

璃奈「……大丈夫だよ」


愛「おねーちゃん、元気でいてよっ、これからもずっと……」

愛「不安なんだよっ、わたし、不安なんだよぉ……」

璃奈「うん」

愛「いなくなられたりしたら、わたし……わたしぃ……」


璃奈「……大丈夫だよ、愛さん。大丈夫」ナデナデ

73: 2021/01/18(月) 18:45:58.76 ID:w2ooYipI
愛「……ボード、外していいよ」

璃奈「落ち着いた?」

愛「うん」


言われた通りにボードを外すと、愛さんは目を真っ赤にして涙を浮かべていた。


愛「……りなりー」ダキッ

璃奈「うん。愛さん」ナデナデ


抱きしめられたので、それに応えるように愛さんの頭を撫でた。

いつもの頼もしい愛さんと違う。アイドルが好きな、一人のか弱い女の子。


愛「……アタシさ、ずっとりなりーのこと頼られる側だろうなって思ってた」

璃奈「たまたまだよ」

璃奈「私はこれからも、愛さんを頼りにしちゃうよ。璃奈ちゃんボード『よろしく!』」

愛「……あはははは!」


愛「……うん! そうだねっ!」

74: 2021/01/18(月) 18:48:31.41 ID:w2ooYipI
ふと時計を見るともう夜中の2時だった。


愛「……なんか目、冴えちゃったよ」

璃奈「……夜更かししてもへーきだよ。明日は学校休み」


愛「んなら、明日どこか遊びいこっか?」

璃奈「……うん」

愛「どこ行きたい?」

璃奈「どこでもいいよ」

璃奈「愛さんとなら」


愛「……なんていうか、今日のりなりーはイケメンだね」

璃奈「それをいうなら今日の愛さんは、いつも以上に可愛い」

愛「なっ……」

愛「……なんだよなんだよなんだよーっ!」


恥ずかしくなったのか、愛さんは布団を被ってそのまま出てこなくなってしまった。


愛「もーっ! 今日は寝る! おやすみっ!」


……うん。きっと愛さんとなら。

どこへ行ったって、何があったって楽しいよ。


璃奈「……おやすみ」

77: 2021/01/18(月) 22:41:50.63 ID:w2ooYipI
――――――
3月 とあるスーパー



愛「おおおおっ!? このキャベツ、やっす~! お買い得っ♪」


……あの日からだいぶ長い時間が経った。

今日は愛さんのもんじゃ屋さんで同好会みんなで集まってパーティをする。

私は愛さんと買い出しにきていた。


璃奈「愛さん、カート持ってきた」

愛「ん! サンキュー、りなりー!」

愛「えーと、みんなの分と、これはゆうゆの分……っと」

璃奈「うん……10人、みんなの分、だね」


……あれから愛さんは1年通して成績トップを保ち続けた。

実力でスクールアイドルを辞めさせようとした先生を黙らせて、もう何も言ってこなくなったみたいだ。


もんじゃ屋さんは愛さんが今まで助っ人をしてきた部活の友達がバイトとして入ったらしい。

「今度は私たちが愛さんを助けるよ!」

と何人も応募してきて、むしろ多すぎて困ったくらいだ。みんな愛さんが好きなんだなぁ。


そして愛さんのおねーさんの手術も成功。

以前と見違えるほど体調がよくなったみたい。

「前よりも過ごせる時間が増えた!」「手術受けてくれてよかった!」と愛さんは笑っていた。


……ほら。だから、私の言った通り。

愛さんはどんな辛いことも、その楽しい性格でぶっ飛ばせるんだよ。

78: 2021/01/18(月) 22:45:46.17 ID:w2ooYipI
璃奈「……ふふっ♪」


愛「……あれ?! あれあれあれあれっ?!」


愛「りなりー……いま完全に笑ったよね?」


璃奈「え……そ、そんなこと、ないと思うよ」

璃奈「表情出ない私がそんな、こんなとこで、笑う訳ないじゃん……」

愛「うそ! うそうそうそうそ! ぜーったい笑ったよっ!」

璃奈「こ、これを見たんじゃないかな。ほら。璃奈ちゃんボード『にっこりん』!」


愛「……いやいや違うって~! ボードで顔隠すなーっ!」

璃奈「や、やめてっ……恥ずかしいよ」

愛「こらこら~♪ 見せろってーのっ!♪」

璃奈「……♪」


可笑しい。ほんとに可笑しくて、笑ってしまう。


受験が近くなっても、大学に行っても、大人になっても、私はこれからもこの人のそばにいたいと思う。

だってどんな“楽しい”ことも二人ならもっと楽しくなって、

どんな“悲しい”ことも、二人なら絶対に乗り越えていけるはずだから。



璃奈「愛さん、すき」

愛「うんっ! 私もだよ!」


おわり

80: 2021/01/18(月) 22:46:54.42 ID:w2ooYipI
以上です!
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
りなあいは尊いの天才です。

75: 2021/01/18(月) 21:03:47.55 ID:Iqurfu8G
素晴らしい

79: 2021/01/18(月) 22:46:51.23 ID:5Ta8Z8ws
名作不可避

81: 2021/01/18(月) 22:47:58.54 ID:YT4hasiW
おつ
りなあい好きのワイ大歓喜、過去作あったら是非教えて欲しい

82: 2021/01/18(月) 22:48:25.77 ID:sopvjYlx

素晴らしかった

83: 2021/01/18(月) 22:49:27.11 ID:DLCT67AJ
すばらしい正統派りなあい
おつ

85: 2021/01/18(月) 23:04:00.82 ID:XjsyXfn2
俺の中で一番のりなあいSSに躍り出ました
本当にありがとう

86: 2021/01/18(月) 23:18:25.70 ID:DQtcjRX4
やはり、りなあい、なんだよなあ

88: 2021/01/19(火) 08:09:55.95 ID:5rxFY1Gl
silent tonightを彷彿とさせる凄くいいSSだった

90: 2021/01/20(水) 00:02:00.24 ID:4sH8Yl6E
ありがとう…
りなあいありがとう…

89: 2021/01/19(火) 20:42:00.05 ID:rs/+zL/V
素晴らしすぎるりなあい
ありがとう…ありがとう…

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1610720443/

タイトルとURLをコピーしました