【SS】梨子 「後悔を葬る7つのステップ」【ラブライブ!サンシャイン!!】

りこ SS


1: 2020/04/28(火) 20:30:18.07 ID:Y4AvmEGZ
弔電

ご息女様のご訃報に接し、呆然としております。

彼女の太陽のように輝く笑顔は、私に人生の転機を与えてくださりました。あの時、あの笑顔、あの言葉がなければ、今こうして大勢の人の前に立つことはできていませんでした。

今は遥かな地より、安らかなご永眠をお祈りします。
黒澤 ルビィ

2: 2020/04/28(火) 20:31:18.57 ID:Y4AvmEGZ
夜中の2時。
携帯の着信音が鳴り、画面から溢れる光がうっすらと開けた私の瞳に鋭く突き刺さる。


梨子 「…………はい、桜内です」

『夜分に申し訳ありません。沼津市立病院でご遺体の搬送を……』


職場からの連絡と分かった途端、返事もしないまま体を起こし、着替える。
隣で寝ていた善子ちゃんが、眠い目を擦りながら寝室の明かりをつける。


善子 「着替えるなら、明かりくらいつけなさいよ」

梨子 「ごめん、起こしちゃった? 明日一限からなのにごめんね」

善子 「私のことはいいって、いつも言ってるでしょ。何か食べるものいる?」

3: 2020/04/28(火) 20:32:17.91 ID:Y4AvmEGZ
「じゃあ」と言うと、菓子パンとパックの豆乳を用意し、袋に入れて持たせてくれた。


梨子 「ありがと、行ってくるね」


夜中の澄んだ冷たい空気に晒され、思わず体を縮める。車に乗りこみ、ハンドルを素手でこすり暖を取る。

到着したのは病院ではなく職場。遺体搬送車に乗り換えるためだ。


梨子 「お疲れ様です。搬送車の鍵を……」

「用意してあるよ、遅くにお疲れ様」

4: 2020/04/28(火) 20:33:52.23 ID:Y4AvmEGZ
梨子 「いえ。では行ってまいります」

「岩永クンなら、休憩室にいると思うよ。今回は彼と一緒にね」


言われたとおり休憩室に向かうと、背もたれに体を預け、退屈そうに天井を見上げている青年がいた。刈り上げたモミアゲに、ワックスで固めた短めの頭髪。髭も短く整っており、若々しい印象を与えるが、これでも私の5つ上の先輩だ。


岩永 「おっ、おつかれ。いやぁ煙草でも吸ってたかったんだけど、ねぇ」


軽く笑みを返し、駐車場へと向かう。
スモークフィルムの貼られたハイエースに乗り、エンジンをかける。助手席に座った岩永さんは、大きなあくびをしながら、短めの髪をボリボリとかく。
こういうところは、ちょっとオッサンっぽい。

5: 2020/04/28(火) 20:35:37.11 ID:Y4AvmEGZ
岩永 「今回のご遺体は、ウチの安置所に置くんだとさ」

梨子 「ご自宅での安置って、やっぱり減ったんですか? 」

岩永 「アパートなんかに住んでる人も増えたし、なにより“迷惑かも”って考えがあるみたいで、ね」

梨子 「…………浮かばれないですね。そんな扱いされるなんて」

岩永 「気持ちはわかるけど、ね」


鞄からファイルを取りだし、搬送するご遺体の情報の書かれた用紙を見ながらつぶやく。

6: 2020/04/28(火) 20:36:58.45 ID:Y4AvmEGZ
岩永 「少なくとも僕達だけは、ご遺体に真摯に向き合わないと、ね」

梨子 「はい……承知しています」

岩永 「なら大丈夫。さて、そろそろかな」


街灯の間から、大きな建物が見える。
沼津市立病院。今日搬送するご遺体がある場所だ。

岩永さんの言っていたとおり、私たちは人の死に真摯に向き合わなくてはいけない。

そして最期の時間を、美しく彩る。


それが私たち、“葬儀屋”の仕事だ。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

7: 2020/04/28(火) 20:40:37.58 ID:Y4AvmEGZ
人生初めての葬式を、みんなは覚えているだろうか。曽祖父母か、あるいはその親戚か。


私にとっての人生初の葬式は、

大切な、友達のものだった。

8: 2020/04/28(火) 20:41:47.19 ID:Y4AvmEGZ
焼香の列に並んだ時からもう既に、足の震えが止まらなかった。

大学に進学して、3年目の出来事だった。


死んだ。……あの千歌ちゃんが、死んだ。

不幸な事故だったと聞いた。居眠り運転していたトラックに巻き込まれ……

あっけなく、私の太陽は沈んだ。

9: 2020/04/28(火) 20:43:53.20 ID:Y4AvmEGZ
その事実を、体が拒絶する。ふと気づくと、前の人と体5つ分ほど距離が空いてしまっていた。

慌てて両足に力を入れ、すり足気味で前に進むが、今度は動悸が荒くなる。


梨子 「すぅーーっ……ふーーっ……んっ……」


ガタタンッ!!!


梨子 「!?」


霊前の方で、突然何かが落ちるような音がした。顔を上げると、柩の前で曜ちゃんが膝から崩れ落ちているのが見えた。

10: 2020/04/28(火) 20:44:42.82 ID:Y4AvmEGZ
曜 「うぁぁ……っ…ぁ……!! あぁぁぁ……!!!」

美渡 「っ曜ちゃん!」

曜 「あぁぁっ……!! 千歌ちゃんっ…!! うわぁぁぁぁぁっ!!!!」


肩を支えに行きたかった。でも、そうしたら。
私も同じようになる、そんな気がした。私だって今、ギリギリなのだ。こうして立っていられるだけでも、奇跡に近い。


曜 「千歌ちゃ……っ……ぁっ……んぐっ……」


震える膝を両手で押えながら、曜ちゃんは柩の窓に近付く。千歌ちゃんの顔があるであろう、その窓部分を覗き込むと、曜ちゃんの涙はまた溢れ出した。

11: 2020/04/28(火) 20:47:03.71 ID:Y4AvmEGZ
美渡さんと、先に焼香を済ませていたダイヤさんの肩を借りながら、曜ちゃんは自分の席に戻る。

すすり泣きが聞こえる中、ついに自分の番が回ってくる。


梨子 「……千歌ちゃん……っ……はぁ……っ……」


千歌ちゃんのご両親と、志満さん、美渡さんに一礼し、おぼつかない手つきで焼香を済ませ、意を決して窓に視線を落とす。


瞬間、全身の震えが止まった。


千歌ちゃんは、あまりにも綺麗だった。

12: 2020/04/28(火) 20:48:33.32 ID:Y4AvmEGZ
事故現場は凄惨を極めたと聞いていた。死因も頭部外傷によるものだったはずだ。

そんなこと、感じさせないほど、その顔は美しかった。敷き詰められた花は、Aqoursのメンバーカラーの9色で染められており、みんなで千歌ちゃんの旅立ちを見守っているかのようだった。


梨子 「千歌ちゃん……よかったね……こんなに、綺麗にしてもらって」


ふと顔を上げると、葬儀屋と思われる人達と目が合った。会釈を返され、こちらも合わせて会釈をする。

私の足は、自然とその人達の元へと向かっていた。


梨子 「あの……ありがとうございます」

「……いえ、これが私たちの役目ですから、ね」


その誇らしげな顔を、今でもよく覚えている。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

13: 2020/04/28(火) 20:49:55.69 ID:Y4AvmEGZ
「この度はご愁傷さまです」


納棺師に合わせ、遺族の方々に向け頭を下げる。
入社一年目。まずは、納棺から火葬までの一連の流れを肌で覚えるため、各役職の人と行動を共にすることになった。


※納棺・・・遺体を棺に納めること。


大回りでご遺体の元へと向かう。
納棺師の安川さんが、故人を挟んでご遺族の反対側に座し、深く頭を下げる。合わせて私も、その後ろで再度頭を下げる。

安川さんはいかにもベテランという風貌で、そばに居るだけでも安心感に包まれる。

14: 2020/04/28(火) 20:52:08.85 ID:Y4AvmEGZ
安川 「恐れ入ります。只今より、故人様の安らかな旅立ちを願って、納棺の儀、執り行わせていただきます。それではまず、お体を清めさせていただきます」


安川さんが顔かけを取る。そこに現れた顔を見て、思わず肩に力が入る。
高校生くらいだろうか? まだ若く、可憐な女性だった。
外傷は見当たらず、今にも瞳が開きそうなほど、安らかな顔であった。

布で遺族の方に見えぬよう隠しながら、綿花を鼻、口に含ませる。
普段と反対側にかけられた掛け布団を外し、肘、肩、手首をほぐしていく。布擦れの音だけが静かに響き渡り、こちらだけでなく、遺族の方にも緊張感が現れているのが伝わる。
が、安川さんは違う。慈しみに満ちた表情で、かつ真っ直ぐにご遺体に向き合い、納棺の儀を進める。

15: 2020/04/28(火) 20:53:17.80 ID:Y4AvmEGZ
再び掛け布団をかけ直し、衣服を外していく。遺族にも、そして自身にも肌が見えぬよう、慎重に。布団の隙間から衣服が抜き出され、それを布団の上にかける。そして掛け布団を、ご遺体と衣服の間から抜き出すと、裸に衣服がかかっただけの状態になる。
不謹慎かもしれないが、この一連の流れを、私は一種の芸術のように感じた。それは一部の遺族の方も同じであろう。安川さんの一挙一動に、魅入られているような瞳をしている者もいる。


アルコールを浸した布を手に取り、布団の隙間から手を入れ、体を清めていく。


「……っ!!」


父親だろうか? その行為を見てぎょっとしたように体を強ばらせ、安川さんを見る視線が鋭くなる。
気持ちは分かる。愛娘の裸体を、見ず知らずの男性が直接拭いているのだ。それが必要な儀式だとしても、抵抗があるのは当然だ。

16: 2020/04/28(火) 20:55:32.82 ID:Y4AvmEGZ
しかしその視線を払い除けるかのように、安川さんは流れるように、かつ丁寧に体を清めていく。

足先まで清め終わると、今度は死装束を用意する。袖に安川さん自身の手を通し、広げて見せる。背中から装束を通し、腰に帯を巻き、袖を通させる。

納棺の儀を拝見すると聞いた時、何が出来ることがあればお手伝いしよう、と考えていたが、いざ目の前で見ると、介入する隙など全く無かった。
納棺師と、ご遺体だけの世界がそこにはあり、みなその空間に漂う、不思議な空気感に体を預けていた。

17: 2020/04/28(火) 20:56:11.29 ID:Y4AvmEGZ
布擦れの音に混じっていたすすり泣きの声も、気付けば収まっていた。

装束を着せ終わり、数珠を手に握らせると、再びご遺体の肩と肘をほぐす。

安川さんはご遺族の方へと向き直り、頭を下げる。体を拭いた際に若干の抵抗感を示していた父親であろう人物も、瞳を涙で滲ませながら、深々と頭を下げ返した。


安川 「ご息女様は、お化粧などされていましたでしょうか」


「……お父ちゃん」


安川さんの問いかけに対して、真っ先に言葉を返したのは、故人の姉であった。
父親は、何かを渋っている様子だった。

18: 2020/04/28(火) 20:56:58.42 ID:Y4AvmEGZ
母 「……この娘ね、お化粧をしたいって、生前主人に言っていたんです」

父 「…………美しい娘だった。だから化粧なんぞしなくても、十分だと……」

姉 「でもだから……っ!! みんなに、合わせられなかったから……っ……ぁぁ…っ……!!」


姉はついに大粒の涙を流し始めた。
詳しいことは知らないが、死因は練炭による自〇だったと聞く。“みんなに合わせられない”という言葉から察するに、いじめだろうか。
こんな綺麗な子が……どうして。


父 「今更化粧をさせたからってなんだッ!!」

梨子 「……っ!?」


突然の大声に、体が反応する。

19: 2020/04/28(火) 20:59:06.27 ID:Y4AvmEGZ
父 「当てつけみたいじゃないか……そんなもの」

母 「あなた…」

姉 「……っ!!」 ダダッ!!


思い立ったかのように、姉はどこかへと飛び出していった。一分としないうちに戻ってきた姉の手に握られていたのは、化粧道具一式だった。


姉 「…これっ、私の……っ!! 使って、ください」

父 「おまえっ……! 隠れてそんなものっ!」


安川さんは化粧品を受けとり、父親に視線を送る。顔を合わせ、父親は一度俯いたあと、目線だけを安川さんに向けたあと、深々とお辞儀をした。


安川 「…………承知しました」

20: 2020/04/28(火) 20:59:55.99 ID:Y4AvmEGZ
手慣れた手つきで、化粧を施し始める。
ふと遺影を見ると、たしかに故人はノーメイクであった。父親が、十分だと言うのも理解できるほど、整った顔立ちで、にこやかに笑っている。
だが、今の会話のせいだろうか。どこか寂しげにも見えた。彼女の隣に映っている人が、誰もいないようにも感じた。制服を着ているので、集合写真や、誰かとの記念撮影だと思うのだが。


梨子 (……そっか、やっぱり)


思わず、故人に向けて合掌する。
その行為を、後にも安川さんが咎めることはなかった。

化粧を施し終えた姿を、父親が背中を伸ばして、正座のまま覗き込む。口から、大きく息を吸い込んだのが分かった。ついには声をあげながら、泣き出した。


安川 「…………それでは、棺に納めさせていただきます。皆様も、お手伝いくださりますよう、お願い致します」

21: 2020/04/28(火) 21:01:01.16 ID:Y4AvmEGZ
身内を中心に、数人の男性が立ち上がり、故人の横たわっている布団を囲む。個人の顔の近くには、父親の姿があった。

持ち上げ、棺に納めるまで、父親は彼女の顔から目線を一時たりとも離さなかった。


安川 「それでは、柩に入れる副葬品を、お詰めください」


母親が、恐らく故人の愛着していたであろう衣服、姉は雑誌を入れる中、父親は正座をした膝の上に握り拳を震わせ、俯いていた。
そんな中、ボソッと呟いたのが聞こえた。


父親 「……化粧品は、入れてもいいんですか」

安川 「えぇ、もちろんでございます」

父親 「…………いいか?」

姉 「うん。……新しいの、買ってよね」

父親 「……あぁ」

22: 2020/04/28(火) 21:01:46.00 ID:Y4AvmEGZ
副葬品が詰め終わり、最後に遺族の方が順番に最後の別れをする。
母は柩に体を潜らせ、故人の体を力強く抱きしめた。そんな母親の背中を、姉がそっと包む。
2人の肩を、父親が大きな手のひらで、ぐっと抱き寄せる。

その光景に、親戚の方々も涙をこらえきれない様子だった。


安川 「……それでは、蓋を閉じさせていただきます」


安川さんから視線が送られる。立てかけてあった柩の蓋を2人で抱える。ずっしりとした重さが全身に伝わり、檜の香りが、優しく全身を包む。

そっと蓋を乗せ、少しずつ滑らせながら蓋を閉じていく。ついに完全に蓋がされると、遺族の方へと向き直り、深く一礼をする。

独特の緊張感の中、私たちはその場をあとにした。

23: 2020/04/28(火) 21:02:24.35 ID:Y4AvmEGZ
玄関へと向かう途中、何者かに呼び止められた。父親だった。


父 「……あの、ありがとうございました」


安川さんは、軽く一礼を返す。


父 「……あんなに綺麗になるんなら、許してやればよかった。私はねぇ、周りに合わせるのが嫌いだったんです」

梨子 「……。」

父 「“みんなやってるから”……。そう言っていつも物をねだるあの二人を、私は愚かしく感じていました」

24: 2020/04/28(火) 21:03:19.28 ID:Y4AvmEGZ
父 「でもだから……こんなことに……なっ…て……」


その場で膝をついた父親は、再び声をあげながら泣いた。


帰りの車に乗ったあとも、最後に父親に言われた言葉が、強く脳裏に焼き付いていた。


『……今日のあいつ、世界で一番綺麗でした』


安川 「……後悔」

梨子 「えっ?」

25: 2020/04/28(火) 21:04:11.17 ID:Y4AvmEGZ
安川 「この仕事をしていると、人の強い後悔に何度も立ち会う。……桜内クンは、耐えられそうかい?」

梨子 「……まだわかりません、でも」


梨子 「そうした“気付き”の時間に……最後の時間に携わって、お手伝いできるのを、誇りに思います」


うん、うん、と、安川さんは嬉しそうに頷いた。
帰りの途中で奢ってもらった肉まんは、冷えた体に温もりを与え、そして引き締めていた涙腺を、瞬く間に綻ばせていった。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

26: 2020/04/28(火) 21:05:03.59 ID:Y4AvmEGZ
本日はここまでとさせていただきます。

続きはまた後日、よろしくお願いします

36: 2020/04/29(水) 19:11:33.68 ID:cjDyApy8
善子 「……目の下、赤い」

梨子 「えっ」

善子 「やっぱり辛いの? その仕事」

梨子 「いや、そういうわけじゃ」


軽くため息をついた善子ちゃんは、半分ほど残ったコーヒーをグイッと飲み干した。


善子 「人の死に立ち会うって言うのは、やっぱり辛いものよ。例えそれが、赤の他人でもね」

梨子 「……分かってる、つもり」

善子 「…………。」

37: 2020/04/29(水) 19:12:34.02 ID:cjDyApy8
沈黙が流れる。
私がコーヒーを啜る音と、食洗機の回る音だけが、リビングに響く。

その沈黙を破ったのは、インターフォンの音だった。


善子 「あっ、きたきた」


スリッパをパタパタと鳴らしながら、善子ちゃんが玄関へと向かう。
玄関扉の空いた音が聞こえ、リビングに入ってきた人物に挨拶をする。


梨子 「こんばんは」

花丸 「こんばんはっ、梨子ちゃん」

38: 2020/04/29(水) 19:13:56.90 ID:cjDyApy8
善子 「約束のもの、持ってきてくれたって」

花丸 「ふっふーん」


ガサゴソと鞄の中を漁り、平たい箱を取り出して私に差し出してくる。


梨子 「あーっ!! 数珠! 本当に持ってきてくれたんだ」

花丸 「オラからの、ささやかな就職祝いずらっ」

善子 「葬儀屋やるなら、いいものは1つくらい持っておかないとね」

39: 2020/04/29(水) 19:15:26.14 ID:cjDyApy8
梨子 「今日、通夜の研修の時でも、先輩が高そうな数珠付けてるの見て。それで連絡したんだ」

花丸 「高価なものかは分からないけど、代々伝わってきたものだよ。綺麗でしょ」

梨子 「そんな大切なもの……よかったの?」

花丸 「うん。梨子ちゃんが使ってくれるのが、一番いいと思うから」


花丸 「でも、びっくりしたよ。梨子ちゃんが葬儀屋さんになるなんて」

梨子 「いい仕事だよ。先輩も優しいし」

花丸 「……つらく、ない?」

40: 2020/04/29(水) 19:16:20.97 ID:cjDyApy8
梨子 「どうして?」

花丸 「あの日のこと、思い出したりとか」

善子 「ずら丸……!」

梨子 「ううん、大丈夫」

善子 「梨子……」


梨子 「でも、忘れたわけじゃない。今日の研修中だって、ずっと千歌ちゃんの顔がちらついてた」

花丸 「じゃあ……」

41: 2020/04/29(水) 19:17:52.71 ID:cjDyApy8
梨子 「私はあの日、葬儀屋の人達に救われた。綺麗な顔に戻して、素敵な祭壇を作ってくれて」

梨子 「千歌ちゃんがしっかり旅立てたのは、あの人たちのおかげだって、そう思った」

善子 「……。」

梨子 「私、あの人達みたいになりたいの。千歌ちゃんの時のように、綺麗な姿で向こうに送り届けて、それが、少しでも残された人達の支えになったらって」

花丸 「梨子ちゃん…」

梨子 「だから大丈夫。ありがと、心配してくれて」

善子 「梨子……」


その時、どこからかアラーム音が鳴り響いた。

42: 2020/04/29(水) 19:19:05.53 ID:cjDyApy8
花丸 「あっ、オラの携帯……あぁぁっ!!!」

善子 「な、なによ。急に大声出して」

花丸 「テレビ! つけていい?」

梨子 「いいけど……あっ、そうか!」


花丸ちゃんがテレビをつけると、ちょうど音楽番組が始まるところだった。
今日のゲスト紹介に、見慣れた顔が映し出される。


善子 「そっか、今日だったわね、ルビィが出るの」

花丸 「ルビィちゃん、ますます可愛くなったずら」

43: 2020/04/29(水) 19:19:36.39 ID:cjDyApy8
ソファに3人で体を寄せ、テレビに釘付けになる。高校卒業と同時にデビューし、瞬く間に大人気スターとなったルビィちゃん。

ファンの大歓声の中登場したルビィちゃんは、堂々と歌を披露し、会場をピンクのサイリウムと熱気で包み込んでいった。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

44: 2020/04/29(水) 19:20:56.13 ID:cjDyApy8
『ルビィさんのステージでした! みなさん、いかがでしたか!?』


観客が巨大な声援で答える。
ルビィちゃんは汗を頬に伝わせながら、みんなに向かって嬉しそうに手を大きく振る。


曜 「…………。」


『ありがとうございました! 来月は、ついに初めてのソロでのドームライブです! みなさん、楽しみにしてい…………』

プツンッ――!!


曜 「…………っ……!!」


握っていたリモコンをテレビに向かって投げつけようとし、既のところで踏みとどまる。
真っ暗な部屋の中、床に叩きつけられたリモンコンの鈍い音だけが響く。


曜 「……薄情者……っ……!!」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

45: 2020/04/29(水) 19:23:04.54 ID:cjDyApy8
梨子 「ここで、新婦様の生い立ちを紹介させていただきます」


マイクの前に立ち、台本を開いて読み始める。
傍らでは白い光をウエディングドレスが反射させており、一層輝いて見える。


梨子 「1992年4月14日、フミカ様は桜吹雪に祝福されるように……」


新婦の生い立ちを出生から語り、それに合わせてスライドショーには新婦の思い出の写真が次々と映し出される。


梨子 「そして去年の10月。3年間交際を続けていたユウスケ様と、ついにご婚約されました」


梨子 「……式の準備を進めていたある日。フミカ様は突然、病に伏せられました」

46: 2020/04/29(水) 19:25:15.18 ID:cjDyApy8
梨子 「ユウスケ様や、ご家族の方に必死に支えられながら、病魔と闘って来ましたが」


すぅっ、と一呼吸置いて続ける。


梨子 「今月7日。皆に見守られる中、静かに息を引き取られました」


そよ風が、どこからか吹き頬を撫でる。
マネキンに着せられたウエディングドレスは柩の傍らに置かれ、その柩の中では、そのドレスを着るはずだったフミカさんが、安らかに眠っている。


――今日は、新婦の告別式だ。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

47: 2020/04/29(水) 19:26:22.71 ID:cjDyApy8
短いですが、本日はここまでとさせていただきます

また明日、よろしくお願いします

70: 2020/05/01(金) 12:33:04.61 ID:6tBuBuMh
更新乙

>>52
ssの雰囲気的にレスしにくいのもあるのでは

53: 2020/04/30(木) 23:17:54.19 ID:uSuv7K01
ユウスケ 「…………結婚式を、挙げたいんです」

梨子 「えっ?」


よもや、葬儀屋でその言葉を聞くことになるとは思いもしなかった。
しかし、お客様は至って真面目な様子だ。


梨子 「お話を、お伺いしても?」

ユウスケ 「は、はいっ!」


ユウスケ 「実は妻が……いえ、妻になるはずだった人が、病気で亡くなりまして」

54: 2020/04/30(木) 23:19:15.24 ID:uSuv7K01
梨子 「……ご愁傷さまです」

ユウスケ 「全然私は大丈夫ですので! そんなにしんみりしないでください!」

梨子 「いえその……ごめんなさい」


必死に涙をこらえる。葬儀屋として、プロとして、ここは涙なんて流してはいけない。


ユウスケ 「そちらに通夜なども手配してもらっているのですが。その、告別式の件で」

梨子 「結婚式風にしたいと?」

ユウスケ 「えぇ。告別式には、挙式に招待するはずだった友人とかも呼ぶつもりなんです」

55: 2020/04/30(木) 23:20:07.69 ID:uSuv7K01
梨子 「……お任せ下さい。必ず、素敵な結婚式をご提供します」

ユウスケ 「……! よろしくお願いします!」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

56: 2020/04/30(木) 23:21:45.73 ID:uSuv7K01
「……引き受ける前に、ちゃんと相談して欲しかったなぁ」

梨子 「も、申し訳ありません!」


つい引き受けてしまったが、イレギュラーな告別式だ。いや、そうでなくても上にしっかり確認をするべきだった。研修を終え、正社員になった身とはいえ、まだ2年目の新米なのだから。


「……でも、そういった願いは、即決してもらえた方がお客様も喜ぶだろうからなぁ」


岩永 「いいんじゃないですか?」

57: 2020/04/30(木) 23:22:54.04 ID:uSuv7K01
梨子 「岩永さん」

岩永 「急ぎましょう。2日後なんでしょ、告別式」

梨子 「は、はい! お客様の予約されていた式場とも連絡はついてます」

岩永 「とりかかろう。まずはウェルカムボード、引き出物。その他諸々、持ってこれるものは全部持ってこよう、ね」

梨子 「はい、すぐに!」


急いで、岩永さんとその場をあとにする。


「えっ……あぁ……まぁ、いいか」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

58: 2020/04/30(木) 23:24:17.70 ID:uSuv7K01
広い会場で、弔問客がそれぞれテーブルを囲んで食事をしながら会話を楽しむ。
本物の結婚式のように、みんな笑顔で楽しんで欲しいというのは、新郎のユウスケさんのお願いだった。私たちにも、結婚式スタッフのように、にこやかに仕事をして欲しいとの事だった。

この光景だけ見ていると、まるで本当に結婚式に参列しているかのようだった。思わず、笑みがこぼれる。


岩永 「……桜内クン、そろそろ、ね」

桜内 「あっ、すいません」


慌ててマイクスタンドの方へと向かう。
軽くスポットライトが私を照らし、それに気付いた周りの人達が会話をやめ、一斉に前を向く。

59: 2020/04/30(木) 23:25:00.57 ID:uSuv7K01
桜内 「それではここで、ご両家を代表して新婦様のお父様より、ご挨拶がございます」


ウェディングドレスを着せされたマネキンの隣に座るユウスケさんの背筋が、びしっと伸びる。


フミカさんのお父さんがマイクの前に立ち、一礼する。


「本日はお忙しいなか、フミカ、ユウスケくんの結婚披露宴にご出席いただきまして誠にありがとうございました。両家を代表し、心より感謝申し上げます」

「……ここで勝手ながら、ユウスケくんにずっと言っていなかったことがありますので、この場をお借りしたく存じます」

60: 2020/04/30(木) 23:27:47.79 ID:uSuv7K01
「結婚、おめでとう」


ユウスケ 「っ……!」


「実は私、2人の結婚には反対しておりました。というのも、私とユウスケくんがはじめて顔を合わせたのは、結婚の申し出の時でした」

「もう秋に差しかかるという頃だったというのに、顔は汗まみれでした。あまりに忙しなく、私は不安を覚えておりました」

「……もしあの時。私が2人の結婚を即決できていたなら、式に間に合ったかもしれません」


梨子 「…………。」


「フミカが病に伏してから、私はすっかり光を失ってしまいました。大切な、一人娘でした」

61: 2020/04/30(木) 23:28:18.33 ID:uSuv7K01
「ですがユウスケくんは、決して光を失わなかった。彼は、見舞いに来る度、帰る直前までずっと、フミカの手を握っていました」

「こんなに立派な式を挙げられたのも、ユウスケくんの強い意志があってこそです」

「本当に、ありがとう」


ユウスケさんの方へと向き直り、深く礼をする。ユウスケさんも立ち上がり、涙を流しながら頭を下げる。


「フミカ、見ているか? 君の夫は、立派な人だ」

「彼が倒れそうな時、今度はフミカが、背中を押してやってください」

62: 2020/04/30(木) 23:29:14.05 ID:uSuv7K01
結びの言葉を言い終え、深く一礼する。
溢れんばかりの拍手が、会場を包む。


桜内 「…………これをもちまして、ユウスケ様、フミカ様の結婚披露宴をおひらきとさせていただきます」

桜内 「新郎新婦は皆様のお見送りのため先に出口へと参ります。皆様、盛大な拍手をもってお見送りください!」


ひとり、またひとりと席を立ち、会場の外へと向かう。両家の父親を含めた何人かの男性は、柩の方へと向かう。

柩が抱えられ、ユウスケさんはその横を歩く。

ゆっくりと、霊柩車へと向かう。

63: 2020/04/30(木) 23:29:37.62 ID:uSuv7K01
会場を出ると、参列者が霊柩車までの道の両端を埋めていた。


「おめでとー!!!」

ひとりが声をあげると、次々とお祝いの言葉があがる。


通っていく柩とユウスケさんに向かって、紙吹雪が舞う。ユウスケさんは、本当に幸せそうだった。


ついに柩が霊柩車に納められる。


静まった会場に、クラクションが鳴り響いた。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

64: 2020/04/30(木) 23:30:31.18 ID:uSuv7K01
梨子 「善子ちゃんは結婚したい?」

善子 「ブフォッ!!?!?」

梨子 「お行儀が悪いわよ、善子ちゃん」

善子 「なななな何言い出すのよ急にっ!!」

梨子 「いや、ただ気になっただけ」

善子 「そんな急に言われても……! たしかに学校も卒業したし、そういうの考えなきゃいけない時期だけど」

梨子 「私は主婦としていてくれて、助かってるけどね」

善子 「……梨子は?」

65: 2020/04/30(木) 23:31:34.22 ID:uSuv7K01
梨子 「私? 私はまだ、実感がわかないというか、今は仕事に集中したいし……」


善子 「……なんだ、てっきりやっとその気になったのかと」ボソボソ


梨子 「善子ちゃん?」

善子 「な、なんでもないっ!!!」


ドタドタと足音を鳴らしながら、善子ちゃんは浴室に行ってしまった。
少しすると、シャワーの音が聞こえてくる。


梨子 「結婚……かぁ」


鞄から小さな箱を取り出す。
蓋を開くと、小さな指輪が照明の光を反射させキラリと光る。

66: 2020/04/30(木) 23:34:55.62 ID:uSuv7K01
梨子 「働き始めてからコツコツ貯めて、やっと買ったんだけど……」


善子ちゃんに結婚の意思がなければ意味が無い。
上手く聞き出そうとしたが、失敗してしまった。


梨子 「……はぁ、どうしよう」


ピリリリ!!


梨子 「はい、桜内です」


着信音が鳴り、すぐに電話をとる。
そういえば最近、1コールで電話を取れるようになった気がする。


梨子 「……事故、ですか」

67: 2020/04/30(木) 23:40:50.95 ID:uSuv7K01
『すいません、人が足りない状況でして。今、出られませんか?』

梨子 「大丈夫です。すぐに向かいます」


梨子 「善子ちゃーん? ごめん、ちょっと仕事」


「んー」とだけ、軽く返事が返ってくる。
急いで着替え、まずは職場へと向かう。

職場へ向かう車の中。電話を切る前に言われた一言が、ずっと脳裏から離れずにいた。


『今回は搬送車に“棺” を積んで、故人様を納棺した状態でご遺族の方の家までお願いします』


梨子 (……納棺した状態で、か)

ーーーーーー
ーーーー
ーー

71: 2020/05/01(金) 23:42:55.74 ID:6tBuBuMh
岩永 「桜内くん、今回のご遺体なんだけど」


遺体搬送車で病院に向かう途中。ずっと何か言いたげだった岩永さんが、重い口を開いた。


梨子 「大丈夫です、把握してます。その場で棺に納めるってことは、“そういうこと”ですよね」

岩永 「……うん。相当酷い状態らしい。どうしても辛かったら、他の人が来るまで待つことも出来るから、ね」

梨子 「いえ。この仕事に就くと決めた時から、覚悟はしていたつもりです」

岩永 「頼もしい……ね。僕はまだ慣れない」

72: 2020/05/01(金) 23:44:37.76 ID:vxq7l/lZ
梨子 「岩永さんでもですか?」

岩永 「昔のことを思い出しちゃって、ね」

梨子 「昔のこと?」

岩永 「……いや、なんでもない」


岩永さんは何かを誤魔化すかのように、おもむろにファイルを鞄から取り出す。
横目で見ると、資料にはこれから搬送する方と思われる人の情報が載っていた。


梨子 「……あれ、その人って」

岩永 「桜内くんも見覚えがあった? 今話題の、新米アイドルだよ」

73: 2020/05/01(金) 23:45:44.97 ID:vxq7l/lZ
梨子 「やっぱり。この間見た音楽番組に出てた娘に似てたので……」

岩永 「昔アイドルやっていただけに、詳しいね」

梨子 「や、やめてくださいっ」


大人になってから、アイドルをやっていたことを突っ込まれるとなかなかに恥ずかしい。


岩永 「あはは、ごめんごめん」

梨子 「友達が出てたんです、その番組」

岩永 「ルビィちゃんでしょ? いいなぁ、あんな大スターと友達だなんて。今度紹介して欲しいなぁ、なんて、ね」


他愛もない冗談を言い合いながら、病院へと向かう。岩永さんは、少しでも私が明るくなれるようにと気を遣ってくれた。

74: 2020/05/01(金) 23:46:23.01 ID:vxq7l/lZ
病院が見えてくると、岩永さんはファイルを閉じて鞄にしまい、深呼吸をした。


『昔のことを思い出しちゃって、ね』


その言葉が、ご遺体を納棺する時も、ずっと脳裏から離れずにいた。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

75: 2020/05/01(金) 23:47:20.02 ID:vxq7l/lZ
ご遺族の家は、故人のグッズで満たされていた。
直筆サインの入ったデビューシングルのポスターに、オリジナルデザインのサイリウム。

親戚などに配る用だろうか? 棚には同じCDが何十枚単位で収まっている。

柩を居間に運び入れ、挨拶を済ませる。


母親が涙をすすりながら、柩の扉部分に近付く。


岩永 「……っ!!」ガバッ!


咄嗟に、岩永さんが間に割って入る。

76: 2020/05/01(金) 23:48:24.58 ID:vxq7l/lZ
母 「な、何するんですか!?」

岩永 「……少し、よろしいでしょうか」


岩永さんが、故人の父に視線を向ける。


岩永 「ご息女様のことなのですが。事故の際に負った損傷が、極めて大きなものでして」

父 「そんな……」

岩永 「こちらも尽力したのですが、手の施しようがなく……」

父 「でも、せめて最後に顔だけでも……」

77: 2020/05/01(金) 23:49:18.20 ID:vxq7l/lZ
岩永さんは静かに頷き、柩の扉をゆっくりと開く。そこからご遺体の姿を覗き込むと、父はハッと息を飲んだ。
それを見て、岩永さんは再び扉を閉める。


父 「…………見ない方が、いい」

母 「そんな、私なら大丈夫よ!」

父 「見るなッ!!」


梨子 「…………。」


父 「……マホも、きっと今の姿は見られたくない」


母はその場で泣き崩れた。
2人が落ち着いた頃に、私達は挨拶をしてそっとその場をあとにした。

帰りは、岩永さんが運転をしてくれた。

78: 2020/05/01(金) 23:50:16.27 ID:vxq7l/lZ
岩永 「……大丈夫?」

梨子 「はい、なんとか」


岩永さんの目線が、私の足元に向く。
途中何も言わずコンビニに車を停めた。


岩永 「……行ってきな」

梨子 「っ……ごめん、なさい」


駆け足でトイレへと向かう。
緊張の糸が一気に解け、溜まっていた感情を、全て形にして吐き出した。


梨子 (あぁ……プロ失格だ、私)

79: 2020/05/01(金) 23:50:43.72 ID:vxq7l/lZ
何度も何度も、損傷の酷かった遺体の姿がフラッシュバックする。
ふと、自分の手に目をやる。先程まで見ていた遺体の手の面影が重なる。親指の付け根から手のひらにかけて大きく裂け、肉片が剥き出しになっていた。

咄嗟に自分の手をさする。
なんの突っかかりもない、滑らかな感触に、安心感を覚えた。


息を整え車に戻ると、岩永さんがペットボトルの水を渡してくれた。
水を飲みながら私は、携帯で故人の所属していたアイドルグループの曲を流す。

岩永さんがリズムに合わせて指でハンドルを叩く姿を見て、少し気分が和らいだ。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

80: 2020/05/01(金) 23:51:25.82 ID:vxq7l/lZ
時刻は夜中の1時。
家に帰ると、善子ちゃんはもうベッドで寝ていた。起こさないようにパジャマに着替えていると、寝室から善子ちゃんの香りが漂ってきた。

そっと枕元に近付き、善子ちゃんの手を握る。
手でさすりながら自分の顔の近くに手を運ぶと、善子ちゃんの香りをより強く感じた。

うっすらと、善子ちゃんが目を開ける。


善子 「……リリー?」


寝ぼけているのだろうか。昔の呼び方で私の名前を呼ぶ。


梨子 「ごめん、起こしちゃった?」

81: 2020/05/01(金) 23:52:29.54 ID:vxq7l/lZ
善子 「……泣いてる」

梨子 「えっ?」


言われて始めて、頬に涙が伝うのを感じた。
善子ちゃんが私の手を解き、涙を拭ってくれる。


善子 「リリー、つらいの?」

梨子 「……ううん、大丈夫だよ、よっちゃん」


善子ちゃんの胸に顔をうずめる。
生きている人間の肌、香り。当たり前のように思っていたもの全てが恋しかった。

ぎゅっ、と、善子ちゃんが私の体を抱きしめる。

82: 2020/05/01(金) 23:53:21.26 ID:vxq7l/lZ
顔を上げると、善子ちゃんと私の鼻先同士がくっつきそうになる。恥ずかしくなって少し俯くと、クイッと顎を上げられる。


梨子 「……っ」


――そのまま、唇を合わせた。


触れるだけの軽いキスの後、お互いの顔をじっと見つめる。
再び唇を重ねると、善子ちゃんから舌を絡めてくる。両耳を押えられ、舌と舌の絡む音が脳に直接流し込まれる。

シャツのボタンを自ら外していくと、善子ちゃんもパジャマを脱いでいく。

83: 2020/05/01(金) 23:54:13.75 ID:vxq7l/lZ
梨子 「ーーーっ!」ビクッ


ブラの隙間から手を入れられ、指先で丁寧に撫でられる。そのまま押し倒され、善子ちゃんが上に覆い被さった。


――今夜は、眠れそうにない。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

84: 2020/05/01(金) 23:54:59.02 ID:vxq7l/lZ
通夜の準備のため、いつもより早めに支度をする。静かに寝息を立てている善子ちゃんの頭を撫でる。


善子 「…んぅ…………ぇへへ……」


まるで撫でられた猫のごとく、嬉しそうに声を漏らす。


梨子 「……行ってきます、善子ちゃん」


善子ちゃんの額にキスをする。

化粧台の引き出しから小さな箱を取りだし、枕元に置く。
善子ちゃんが、受け取ってくれることを信じて。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

85: 2020/05/01(金) 23:56:03.07 ID:vxq7l/lZ
梨子 「お、押さないでくださいっ!!!」


通夜が始まる少し前。
私を含めた数人のスタッフは、会場に押し寄せるマスコミに揉まれていた。


岩永 「ご遺族の希望で、取材はお断りさせていただいてます! お引き取りください!!」


マスコミは全く耳を貸さない。
今にも押し寄せる人波が、私達を超えそうだ。


「会場の様子だけでも!!」
「ご遺族はもう到着されてますか!?」
「ほかのメンバーは!?」

86: 2020/05/01(金) 23:56:41.64 ID:vxq7l/lZ
岩永 「あぁ……っ!! くっそ!!!」


人混みの後ろでは、野次馬と報道陣がチラホラと見える。こうしている間にも、次々とマスコミが到着し、人波の圧は増していく。


梨子 「お引き取りくださ……あぁっ!!!」

岩永 「桜内くん!!」


マスコミに押され、ついに尻もちをついて倒れ込んでしまった。隙ありと言わんばかりに、マスコミがなだれ込んでくる。


梨子 「あぁっ、待って!!」


マスコミが会場に押し入ろうとした、その時だった。クラクションの大きな音が、どこからか鳴り響いた。

87: 2020/05/01(金) 23:57:28.83 ID:vxq7l/lZ
岩永 「……なんだ? 霊柩車じゃないよな?」

梨子 「……あれは?」


見ると、マスコミの群れの後ろに、黒塗りの大きな外車が停まっていた。

運転席から黒服が出てきた。後部座席の扉を開くと、先行して運転手と同じような黒服が何人も降りてくる。
異様な光景に、マスコミも思わず足を止め、カメラを向ける。

降りてきたのは、サングラスをかけた少女だった。しかしどこか圧倒的なオーラがあり、歩くだけで人の海が割れていく。

88: 2020/05/01(金) 23:58:03.04 ID:vxq7l/lZ
そして真っ直ぐ私の元へと向かってきたその人物は、手を差し伸べてきた。


??? 「……大丈夫?」

梨子 「あっ、はい……」


手を借り、立ち上がる。
ホコリを払って、助けてくれたその人へと向き直る。
サングラスを外したその少女は、私のよく知る人物だった。


ルビィ 「……久しぶり、梨子ちゃんっ」

梨子 「る、ルビィちゃん!!?」

89: 2020/05/01(金) 23:58:39.40 ID:vxq7l/lZ
本日はここまでとさせていただきます。

レス、大変励みになります
また明日よろしくお願いします

97: 2020/05/03(日) 21:42:21.22 ID:Ay5XdzB6
周りのマスコミ陣が一斉にざわめき立つ。


梨子 「どうしてここに?」

ルビィ 「通夜の時間は仕事が入ってるから、せめて顔だけでも出しておこうと思って」

梨子 「そっか、同業者だもんね」

ルビィ 「同じ事務所なんだ。本当に、どうして急にこんなことに……」


「あ、あのっ!!!」


梨子 「っ?」


「マホさんとルビィさんは同じ事務所ですが、今のお気持ちを!!」

98: 2020/05/03(日) 21:43:30.69 ID:Ay5XdzB6
「こちらにもお願いします!」
「訃報をいつ知りましたか!?」


記者のひとりが質問したことを皮切りに、他の記者も一斉に質問をなげかける。


ルビィ 「ごめん、梨子ちゃん。案内して」

梨子 「う、うん。こっち」


黒服に守られながら、ルビィちゃんが着いてくる。マスコミを抑えている岩永さんに会釈し、私は会場に向かう。


ルビィ 「マホちゃん、来たよ」

ルビィ 「すぐにメンバーの2人も来てくれるから。だから安心してね」

99: 2020/05/03(日) 21:44:45.29 ID:Ay5XdzB6
ルビィ 「……喧嘩したままお別れなんて、酷いよ」


梨子 「喧嘩?」


ルビィ 「うん。同時期にデビューしたのに、私の方が先にドームライブが決まってさ」

ルビィ 「調子に乗るな、って怒られた。いつまでも芽の出ない私たちをバカにしてる、って」

ルビィ 「……確かにそうだったかも」


梨子 「ルビィちゃん」


ルビィ 「調子に乗ってるつもりなんてなかった。バカにするなんて、そんなのもっとありえない」

100: 2020/05/03(日) 21:45:56.09 ID:Ay5XdzB6
ルビィ 「でも怒られたってことは、そう見えたんだよね。ルビィも、思ってもないこと言われて、ムキになっちゃって」

ルビィ 「まだ怒ってるよね……ごめんね……」

ルビィ 「ごめんね……っ……ごめんね……」


「……違うよ」


ルビィ 「えっ?」


会場に姿を現したのは、2人の女性だった。


「一番後悔していたのは、マホちゃんだよ」

101: 2020/05/03(日) 21:47:43.13 ID:Ay5XdzB6
ルビィ 「結菜ちゃん、亜実ちゃん!」


うっすらと思い出した。音楽番組で見た事のある顔。故人であるマホさんと同じグループだった2人だ。


亜実 「憧れの人にそんな顔されちゃ、マホだって不本意でしょ」

ルビィ 「憧れ……?」

結菜 「知らなかったの? マホちゃん、本当にルビィちゃんのこと尊敬してたんだよ」

亜実 「誰もが認めるスターだ、って。いつも言ってた。耳にタコができるほどね」

102: 2020/05/03(日) 21:50:27.24 ID:Ay5XdzB6
結菜さんはルビィちゃんに手を差し伸べる。手を借りて立ち上がるのを見ながら、亜実さんはパイプ椅子に腰かける。


亜実 「だからこそ、それで同じアイドル名乗ってる自分が、惨めに思えたんだとさ」

ルビィ 「そんな…っ!」

結菜 「それであんなこと言っちゃった、って。すごく後悔してたんだよ」

亜実 「謝ろうにもあんた、いつも忙しそうだし」

ルビィ 「…………。」


マホ 『いつか、ルビィちゃんと同じくらい! ううん、もっともーっと沢山の人集めて、ライブしようね!』


結菜 「私たちが最後に話した時、そう言ってた」

103: 2020/05/03(日) 21:54:05.22 ID:Ay5XdzB6
亜実 「そんな夢半ばで……どうするのさ、これから。なぁ、マホ」


亜実さんはゆっくりと立ち上がり、マホさんの元へと歩み寄る。


結菜 「……夢、もう叶わないのかな」

ルビィ 「……あの、ルビィがこんな事言うの、変かもしれないけど! そのっ」


亜実 「辞めないよ」


ルビィ 「っ!」


亜実 「辞めるわけないでしょ、アイドル」

104: 2020/05/03(日) 21:57:08.19 ID:Ay5XdzB6
結菜 「……そうだよね。ここで辞めたら、それこそマホちゃんが、安心して逝けないよ」

ルビィ 「2人とも……」


亜実 「……マホが言ってたみたいに、でっっっかいドームでライブしてさ」

亜美 「オープニングで、モニターにドンッ! って映し出してやるんだ。マホの顔と名前」

結菜 「いいねぇ、それ」

ルビィ 「……ルビィも、呼んでよね。ライブ」

亜実 「どうかなぁ?」

ルビィ 「えーっ!?」

結菜 「チケットも争奪戦になるから、ちょっと難しいかもね」

ルビィ 「そんなぁ!! 酷いよ2人とも!」

105: 2020/05/03(日) 21:57:56.37 ID:Ay5XdzB6
3人の笑い声が、静かな会場に響く。
その声に混じり、外から大勢の人の声が聞こえてくる。

その声を聞いて、ルビィちゃんが若干ムスッとする。


ルビィ 「……そろそろ行くね。これ以上いると、迷惑だから」

結菜 「人気者は大変だねぇ。私たちも慣れておかないと」


ルビィちゃんを案内するため、私も会釈をしてその場をあとにする。

会場の外に向かう途中、ルビィちゃんに声をかけられた。


ルビィ 「梨子ちゃん、これ」

106: 2020/05/03(日) 21:59:38.07 ID:Ay5XdzB6
梨子 「……手紙?」

ルビィ 「渡して欲しいんだ。曜ちゃんに」

梨子 「えっ」


思わず足を止める。


ルビィ 「……もう私から連絡する手段がないんだ。LINEとか、全部ブロックされてるし」

梨子 「……知ってる」

ルビィ 「読むかどうかは、曜ちゃんに任せる。でも、渡すだけ渡してみて欲しいんだ」

107: 2020/05/03(日) 22:00:47.26 ID:Ay5XdzB6
梨子 「うん……わかった」


ルビィ 「…ルビィの“後悔”をよろしく。梨子ちゃん」


マスコミをかき分けながら、ルビィちゃんは車に戻る。扉を閉めると、追いかける記者を振り払うように、大袈裟にエンジンを鳴らして発車した。

ルビィちゃんの“後悔”が詰まった封筒には、私の手汗が滲んできてしまっていた。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

108: 2020/05/03(日) 22:01:52.14 ID:Ay5XdzB6
ピンポーン


梨子 「…………いるはずなんだけどなぁ」


アパートの呼び鈴を鳴らしたが、返事はない。
進学を機に一人暮らしを始めた曜ちゃんは、千歌ちゃんの死後、家に篭もりっきりになっていた。


ダイヤ 「梨子さん?」

梨子 「えっ、ダイヤさん!?」


突然声をかけてきたのは、ダイヤさんだった。


ダイヤ 「曜さんに、なにかご用ですか?」

梨子 「はい、渡すものがあって」

109: 2020/05/03(日) 22:03:56.52 ID:Ay5XdzB6
ダイヤ 「そうでしたか、では預かりますよ」

梨子 「いや、これは私から渡したいというか」

ダイヤ 「……そうですか」


ダイヤ 「あれから曜さんと殆ど顔を合わせていなかったようですが、今更何を渡そうと?」

梨子 「うっ……」


厳しい目線で問いかけてくる。
学生の頃、ダイヤさんが千歌ちゃんや善子ちゃんを怒っていたときの目線とは違う。どこか冷たく、威圧しているような印象を与えた。


梨子 「私といると、千歌ちゃんと3人でいた時のことを思い出しちゃうかもって」

110: 2020/05/03(日) 22:05:39.16 ID:Ay5XdzB6
ダイヤ 「……逃げたのですか?」

梨子 「そんなつもりじゃ!!」

ダイヤ 「そのつもりでなくても、そう受けとってしまいます」

梨子 「それは……っ」

ダイヤ 「葬儀屋になったと聞きました」

梨子 「はい…」


ダイヤ 「自分だけ前に進んで、立ち止まってしまった人は見捨てて行こうと?」

111: 2020/05/03(日) 22:07:02.48 ID:Ay5XdzB6
梨子 「っ!! なんなんですかさっきから!! 言いたいことがあるなら……」

ダイヤ 「みんなが」


食い気味にダイヤさんが答える。


ダイヤ 「みんながあなたのように、前を向けるわけじゃない。止まってしまった人には、支えが必要です」

ダイヤ 「それが一番できたのは、梨子さんではなかったのですか?」

梨子 「…………。」

ダイヤ 「その役目を放棄しておいて、今更」

梨子 「違いますっ!!!」


ダイヤ 「…………違う?」

112: 2020/05/03(日) 22:08:42.94 ID:Ay5XdzB6
梨子 「私が葬儀屋になったのは、ちゃんと目的があったからです!」


ダイヤ 「目的? それは、曜さんを支えることより優先すべきことだったのですか?」

梨子 「私の……私の目的はっ!」


その時、玄関の鍵が開く音がした。
ゆっくりと開かれた扉の隙間から、曜ちゃんが姿を見せた。上下グレーのスウェットで、髪もボサボサだった。


曜 「……声、丸聞こえ」

梨子 「ご、ごめん曜ちゃん」

曜 「久しぶり。……とりあえず入って」

113: 2020/05/03(日) 22:10:08.07 ID:Ay5XdzB6
ダイヤ 「お邪魔しますわね」

梨子 「お、お邪魔します」


家の中は、暗かった。
日も落ちかけているというのに、明かりが消えているのもあるが、どことなく、どんよりとした空気がその暗さを助長していた。


ダイヤ 「ゴミはせめて、一箇所にまとめてもらえると助かります」


ダイヤさんが棚からゴミ袋をひとつ取りだし、手慣れた手つきでゴミを集めはじめる。


曜 「……分かってる」

ダイヤ 「はぁ……」

114: 2020/05/03(日) 22:11:22.60 ID:Ay5XdzB6
梨子 「あの、ダイヤさんはいつも?」

ダイヤ 「はい、合鍵も持っています」

梨子 「そうだったんですね」

ダイヤ 「あ、忘れるところでしたわ」


ダイヤさんは少し厚みのある茶封筒を曜ちゃんに渡す。


梨子 「……それは?」

曜 「お金」

梨子 「お金?」

115: 2020/05/03(日) 22:13:31.14 ID:Ay5XdzB6
ダイヤ 「家賃を滞納する訳にもいきませんから。それに食費やら……」

梨子 「ダイヤさんが全部?」

ダイヤ 「ちゃんと私の仕事のお手伝いをしてもらっています」

梨子 「お給料ってこと? なんのお手伝いしてるの?」

曜 「秘密」

梨子 「…………そっか」

116: 2020/05/03(日) 22:15:02.38 ID:Ay5XdzB6
梨子 「最近、どう?」

曜 「ずっとこんな感じ」

梨子 「あぁーー……」


会話が弾まない。なるべく明るい雰囲気にしてから本題に入りたかったのだが。


曜 「渡すものがあるんでしょ」


曜ちゃんから切り出されてしまった。


梨子 「知ってたんだ」

曜 「知ってたというか聞こえてた」

117: 2020/05/03(日) 22:16:04.15 ID:Ay5XdzB6
梨子 「……これ、なんだけど」

曜 「……なにこれ、手紙?」

ダイヤ 「誰からですの?」


ダイヤさんが、曜ちゃんに渡した手紙を覗き込む。手紙をひっくり返すと、裏面には差出人の名前が書かれていた。


ダイヤ 「ルビィ!?」

曜 「――っ!!! あぁぁぁぁぁッッ!!!」


突然叫び出した曜ちゃんは、ルビィちゃんの手紙を引き裂いた。破かれた封筒から、便箋がこぼれ落ちていく。


梨子 「あっ!! なんてこと……っ」

118: 2020/05/03(日) 22:17:49.80 ID:Ay5XdzB6
曜 「今更っ!!! 2人そろってッ!!」


手に持った便箋を私に向けて投げつける。


ダイヤ 「落ち着いてくださいっ! 曜さんっ!!」

曜 「梨子ちゃんも知ってるでしょ!? 私がルビィちゃんと縁を切ったこと!」

梨子 「……知ってるよ。だからって!!」


曜 「私は絶対に許さないッ! 千歌ちゃんの葬式に、一度も顔すら出さなかったことッ!!」


梨子 「……っ」

119: 2020/05/03(日) 22:19:35.81 ID:Ay5XdzB6
曜 「果南ちゃんなんて、わざわざ海外から帰ってきたんだ。それなのに、あんな上辺ばかりの弔電なんかで済ませてっ」

梨子 「違う……! きっとなにか理由があって!」

曜 「理由?」

梨子 「ルビィちゃん言ってた! 後悔してる、って。ルビィちゃんだって、行けたなら絶対に来てたはずよ」

曜 「どんな理由があっても、来るべきでしょ!? 私たちがすごしたあの日々は……何だったのさ」

梨子 「曜ちゃん」

120: 2020/05/03(日) 22:22:30.05 ID:Ay5XdzB6
曜 「……いいよね、今や大スターだもん。所詮ルビィちゃんにとってスクールアイドルなんて、ただの夢への踏み台でしか」


バチンッ!!!


曜 「…………。」ヒリヒリ

ダイヤ 「梨子さんっ……!」

梨子 「……ルビィちゃんの何を知ってるの」

曜 「梨子ちゃんこそ」

梨子 「えぇ、そうよ! 私だって知らない。だからこそ、勝手にそんなこと言うもんじゃないっ!」

ダイヤ 「梨子さん」


梨子 「ルビィちゃんが入部してきた時のこと。忘れたの?」

121: 2020/05/03(日) 22:27:04.97 ID:Ay5XdzB6
曜 「……さぁ」

梨子 「ルビィちゃんは、本当にスクールアイドルが好きだった。その気持ちに嘘は絶対にない」

ダイヤ 「…………。」

梨子 「そんな純粋な気持ちを“踏み台”ですって? いくらなんでも、言っていいことと悪いことがあるでしょ?」


しばらく沈黙が続く。
ダイヤさんは破り捨てられた手紙を拾い集め、私に渡してきた。


ダイヤ 「今日のところは、一度お引き取り下さい。突然の事で、動揺もあるのでしょう」

梨子 「……分かりました、また来ます」

122: 2020/05/03(日) 22:28:34.86 ID:Ay5XdzB6
手紙を受けとり、ファイルにまとめて仕舞う。
ダイヤさんに見送られながら、アパートをあとにした。


曜 「…………。」グスッ

ダイヤ 「曜さん、大丈夫ですか?」

曜 「梨子ちゃん……怒らせちゃった」


曜 「勢いとはいえ、あんなこと……どうして私っ…! あんなこと……っ!!」

ダイヤ 「曜さん、落ち着いて」

曜 「もう無理だよ……。今更どうしたって、もうあの頃みたいには」

123: 2020/05/03(日) 22:30:21.82 ID:Ay5XdzB6
ダイヤ 「そんなこと」

曜 「全部私のせいなんだっ!! 私がAqoursを……あの毎日を、全部っ!!」

ダイヤ 「曜さん……っ」


震える曜さんの体を力いっぱいに抱きしめる。
大丈夫、大丈夫、と、自分にも言い聞かせるように囁く。

あの時、玄関先で。
私の問いかけに対して、梨子さんは逃げなかった。真摯に、まっすぐと。私の問いかけに答えていた。

希望はまだ残っている。
Aqoursが元通りになる、希望が。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

124: 2020/05/03(日) 22:33:07.70 ID:Ay5XdzB6
善子 「おかえり、梨子。遅かったじゃない」


エプロンをした善子ちゃんが出迎える。


梨子 「ごめん、寄り道してて」

善子 「連絡ぐらいしてよ。ご飯ちょっとまってて、温め直すから」


軽く返事をしてリビングに腰かける。
テレビをつけると、マホさんの通夜会場に現れたルビィちゃんのニュースが丁度やっていた。


善子 「あれっ、ルビィ?」

梨子 「知らなかったの?」

125: 2020/05/03(日) 22:35:53.35 ID:Ay5XdzB6
善子 「えぇ、今日あまりテレビつけなかったから」


しばらくすると、ルビィちゃんがスタッフと会話している姿が映し出される。
……というか、あれって


善子 「梨子!?」

梨子 「わわわっ……」

善子 「何よ、もしかしてルビィに会ってたから遅くなったの?」

梨子 「ま、まぁ、そんな感じ」

善子 「それならそうと言ってよ」

126: 2020/05/03(日) 22:37:16.97 ID:Ay5XdzB6
善子ちゃんは溜息をつきながらキッチンに戻る。
ルビィちゃんの姿を見て、曜ちゃんの家であった出来事を思い出していた。

曜ちゃんを叩いた手をさする。
人を全力で叩いたのは、生まれて初めてだった。


梨子 「はぁ」


鞄の隙間を覗くと、破かれた手紙が見えた。


梨子 (もう、戻れないのかな。あの日々に)

善子 「て言うか、さ」

128: 2020/05/03(日) 22:38:48.12 ID:Ay5XdzB6
気付くと、キッチンに行ったはずの善子ちゃんが目の前に立っていた。


梨子 「どうしたの?」

善子 「……いつ気付くのよ」

梨子 「えっと、何に?」

善子 「はぁー…………」


呆れたように溜息をついた善子ちゃんが、目の前に手のひらを突き出してくる。


善子 「んっ!!」

129: 2020/05/03(日) 22:40:25.55 ID:Ay5XdzB6
梨子 「えっ」


突き出された左手の薬指には、指輪があった。


梨子 「…………あっ」

善子 「……ありがと、これ」

梨子 「……ははっ、あは…っ……」


色々なことがあって、混乱して忘れていた。

すごく複雑な気持ちだった。

Aqoursがどんどん、元に戻れなくなっていくような気がして。私だけがこんな幸せな思いをして。


善子 「ちょっと、泣かないでよ」

130: 2020/05/03(日) 22:41:06.04 ID:Ay5XdzB6
梨子 「あはは……っ、ごめん善子ちゃん…ごめん」

善子 「…ちゃんと籍を入れられないのは残念だけど、いつか式だけでも、ね」

梨子 「うんっ……うん」


善子ちゃんは屈んで、私に目線を合わせる。
軽いキスをして、電子レンジの音が鳴るまで、お互いを抱きしめ続けた。

食事のあいだも、善子ちゃんは指輪を照明の光に当てたりしながら、眺め続けていた。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

131: 2020/05/03(日) 22:42:36.81 ID:Ay5XdzB6
本日はここまでとさせていただきます。

前日は更新できず申し訳ありませんでした
保守してくださった方、レスをくださった方、ありがとうございました

また明日、よろしくお願いします

138: 2020/05/04(月) 20:42:58.07 ID:KYYXzQZw
安川 「まだ、悩んでるのかい?」

梨子 「分かりますか」

安川 「伝わってくるよ。気持ちは分かるけど」


遺体搬送のために車を走らせる。
今回は、向かっている先が特殊だった。


梨子 「拘置所って、意外と近くにあるんですね」

安川 「私もこの道40年になるけど、死刑囚の葬儀は初めてだ」

梨子 「死刑囚……」

139: 2020/05/04(月) 20:43:56.58 ID:KYYXzQZw
安川 「死刑囚ってのはほとんどの場合、拘置所で火葬されるんだけどね」

梨子 「はい、岩永さんも驚いてました。死刑囚の遺体の引受を希望する遺族は少ないって」

安川 「断るというよりかは、引受先が見つからないってことも多いけどね。でも今回は違った」

梨子 「ご遺族が、引受を希望したと?」

安川 「その通り」


拘置所に着き、車を停める。
だけど私は、なかなか車を降りれずにいた。


梨子 「…………。」

140: 2020/05/04(月) 20:45:44.37 ID:KYYXzQZw
安川 「死刑っていうのは、死をもって罪を清算するってことだ」

梨子 「死をもって、ですか」

安川 「僕たちの仕事は、故人の罪のない安らかな来世を願って、弔うことだ」

梨子 「……私、少し調べたんです。故人のこと」


梨子 「連続〇人犯なんですよね」

安川 「……そう聞いている」

梨子 「〇された人や、その遺族だっているんです」

安川 「…………。」

141: 2020/05/04(月) 20:47:17.60 ID:KYYXzQZw
梨子 「その人達の思いって、犯人の死だけで晴れるものなんですか?」


梨子 「……私には、分かりません」

安川 「それを決めるのは僕たちじゃない」

梨子 「――っ」

安川 「さっきも言ったよね? 僕たちの仕事が何なのか」

梨子 「……そうですね、申し訳ありませんでした」

安川 「いいんだ。悩むのも考えるのも大切なことだ。生きている人間の特権でもある」

142: 2020/05/04(月) 20:48:30.48 ID:KYYXzQZw
梨子 「生きている人の?」

安川 「そうだよ。死んだら、悩むことも出来ないだろう?」


安川 「行くよ、桜内くん」

梨子 「はい」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

143: 2020/05/04(月) 20:49:53.89 ID:KYYXzQZw
善子 「さて、と……ゴミ出し行かないと」


まとめてあったゴミを持ってゴミ捨て場へと向かう。気のせいかもしれない道中なにかと視線を感じた。


善子 「何よ、変な感じね……」

「聞いた? 津島さんと同居してる……」
「桜内さんでしょ? 本当、なんであんな仕事」

善子 「……?」


井戸端会議をしていた主婦2人に視線を送ると、逃げるようにその場から離れていく。
そんなことが、家に戻るまでに2度もあった。

144: 2020/05/04(月) 20:50:54.94 ID:KYYXzQZw
善子 「なんなのよ一体……ん?」


ふとポストを見ると、今にも溢れそうなほど手紙が入っていた。毎日チェックしているので、溜まるようなことは無いはずなのだが。


善子 「んっしょ、っと……何かしら」


家に戻り、居間の机に手紙を広げる。

145: 2020/05/04(月) 20:51:39.12 ID:KYYXzQZw
善子 「何よこれ。差出人も、切手も無いし。怪しさ全開じゃない……」


取り敢えず一通選んで開封する。
白い封筒の中には、便箋が1枚だけ入っていた。


善子 「…………ひぃっ!!?」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

146: 2020/05/04(月) 20:52:32.85 ID:KYYXzQZw
一日の業務を終え、退勤しようとした時。携帯の着信が鳴った。


梨子 「……はい、もしもし」

鞠莉 『ハーイ、梨子。久しぶり』

梨子 「鞠莉さん、どうしたんですか急に」

鞠莉 『うん、大丈夫かなと思って』

梨子 「えっ、何がですか?」

鞠莉 『……もしかして、知らないの?』


鞠莉 『……噂になってるわよ』

147: 2020/05/04(月) 20:53:50.36 ID:KYYXzQZw
梨子 「噂?」

鞠莉 『本当に何も知らないのね……』

梨子 「私、何か噂されてるんですか?」

鞠莉 『……心当たりが無いわけじゃないでしょ? 今すぐ善子のところに帰ってあげて』

梨子 「善子ちゃんの?」

鞠莉 『きっと今、大変な思いをしてるから』

梨子 「う、うん。分かった」

鞠莉 『じゃあ、絶対だからね』

148: 2020/05/04(月) 20:55:18.74 ID:KYYXzQZw
そう言って、電話は切れてしまった。
結局、直接的なことは何も言われなかった。
いても立ってもいられず、大急ぎで家路につく。


梨子 「善子ちゃんっ!!」


玄関の扉を開けたが、善子ちゃんは迎えてくれなかった。見ると、居間の明かりだけがぽつんと点いていた。

居間の食卓に、善子ちゃんは腰掛けていた。俯き、その周りだけ重力が増しているような感覚。


机の上には、沢山の手紙と、善子ちゃんに渡した婚約指輪が置かれていた。


梨子 「善子……ちゃん?」

149: 2020/05/04(月) 20:57:07.27 ID:KYYXzQZw
善子 「……梨子」

梨子 「なに、これ……っ」


手紙の内容は、酷いものだった。
見ているだけで吐き気を催す。死刑囚を弔わんとする私と、同居している善子ちゃんに向けられた誹謗中傷の嵐。


善子 「本当なの?」

梨子 「えっ」

善子 「あの〇人鬼の葬儀を担当してるって」

梨子 「…………うん」

150: 2020/05/04(月) 20:59:12.15 ID:KYYXzQZw
善子 「今すぐ辞めて」


私が答えると一瞬の隙もなく、善子ちゃんは立ち上がり、懇願してきた。


梨子 「ごめん……こんな辛い思いさせて」

善子 「私よりも梨子よ! ……梨子は真剣に頑張ってるのに、色々言われるのが、よっぽど辛い」

梨子 「善子ちゃん」

善子 「……どうしても、やらなきゃダメなの?」

梨子 「仕事だから」

151: 2020/05/04(月) 21:00:08.49 ID:KYYXzQZw
善子 「梨子の意思は?」

梨子 「それは……」


善子 「……梨子がちゃんと答えを出すまで、この指輪は、はめられない」


そう言い残して、指輪と手紙を机の上に置いたまま、善子ちゃんは寝室に篭ってしまった。

机に広がる手紙をぐしゃぐしゃにまとめる。


梨子 「――っ!?」


カミソリが混ざっていた。中指の腹からつぅーっと血が流れる。

152: 2020/05/04(月) 21:00:33.49 ID:KYYXzQZw
垂れた血が、婚約指輪にかかる。慌ててシンクで洗い流すと、自分がはめている指輪と、善子ちゃんの指輪がカツンと当たる。


梨子 「善子ちゃん、ごめんね……ごめんね」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

153: 2020/05/04(月) 21:01:50.73 ID:KYYXzQZw
岩永 「で、話って?」

梨子 「今私が担当している、仕事について…」


昼休憩をしていた岩永さんに声をかける。


岩永 「……そうか」

梨子 「あの、出来ればでいいのですが」

岩永 「タバコ」

梨子 「えっ?」

岩永 「タバコでも吸いながら話したいんだけど、いいよ、ね」

154: 2020/05/04(月) 21:02:42.93 ID:KYYXzQZw
梨子 「私、吸えないんですけど」

岩永 「知ってるよ」


戸惑う私をよそに、そそくさと喫煙所に向かって歩き出してしまう。


岩永 「ふぅっ……」

梨子 「ケホッ、えっと、それで話なんですけど」

岩永 「代わって欲しい、って言うんでしょ」

梨子 「……はい。申し訳ありません」

岩永 「なに、謝ることじゃない。人それぞれ向き不向きってものがあるから、ね」

155: 2020/05/04(月) 21:04:04.40 ID:KYYXzQZw
岩永 「……安川さんには、話したの?」

梨子 「はい。代わりが見つかれば、代わってもいいよとのことで」

岩永 「そうか…」

岩永 「てっきり俺は、安川さんの方が代わりたいと思っているものかと」

梨子 「安川さんが……? どうして」

岩永 「もしかして、知らないの? 安川さんのお孫さんのこと」

梨子 「お孫さん……?」

岩永 「あっちゃー……そっか。まぁ入ってきたばかりだもん、ねぇ」

156: 2020/05/04(月) 21:05:04.09 ID:KYYXzQZw
梨子 「あの、さっきから何のことだかさっぱり」

岩永 「……俺が教えたって、言わないでよ?」


岩永さんは周りを確認して、静かに語りだした。


岩永 「…………ってこと」

梨子 「……っ!」

岩永 「まぁそういうことだから。じゃ、俺が代わるって安川さんに伝えてくるね」

梨子 「ま、待ってくださいっ!!」

157: 2020/05/04(月) 21:06:21.61 ID:KYYXzQZw
岩永 「ん?」

梨子 「……私、もう一度話してきます」


岩永さんに礼を言ってから、急いで安川さんの元に向かう。
思わず大声で呼んでしまい、安川さんは突然のことに驚いていた。


安川 「そ、そんな大声で呼ばなくても」

梨子 「ごめんなさい! つい……」

安川 「で、代わりは見つかったかい?」

158: 2020/05/04(月) 21:07:19.76 ID:KYYXzQZw
梨子 「そのことで、お話が……」


梨子 「……お孫さんのこと、聞きました」

安川 「…そっか。聞いちゃったか」

梨子 「どうして言ってくださらなかったんですか?」

安川 「聞かれなかったから」

梨子 「そんな……」


安川 「そうだよ。僕の孫娘はね、あの男に〇されたんだ」

梨子 「今回弔う……あの人に」

159: 2020/05/04(月) 21:08:25.39 ID:KYYXzQZw
安川 「うん。名前を見た時驚いた。そっか、やっと執行されたんだって、安心もしたけど」

梨子 「なんでそんな仕事、安川さんに」

安川 「違うよ。僕から志願したんだ。僕が弔いたいって」

梨子 「どうして……!?」

安川 「もちろん、息子にも反対されたよ。どうしてあんなやつ、って」

梨子 「ならっ」

安川 「でもね、桜内クン。これは私がやるからこそ意味があるんだと思う」

160: 2020/05/04(月) 21:09:17.31 ID:KYYXzQZw
梨子 「安川さんが……?」

安川 「あの日も言ったでしょ? 彼の罪は、彼自身の命で精算された」

梨子 「だからって」

安川 「今彼に必要なのは、せめて来世は、罪を〇す必要のない、安らかな人生を送れるように誰かに弔ってもらうことだ」

安川 「弔うのも、赦しを与えるのも、僕が最適なんだよ」

梨子 「……。」


言葉が出なかった。
安川さんの仕事観に、ただ圧倒されていた。

161: 2020/05/04(月) 21:10:36.74 ID:KYYXzQZw
安川 「僕はね、この仕事に誇りを持ってるから」

梨子 「……っ!!」

安川 「でも、考え方も人それぞれだ。桜内くんが、無理に合わせる必要も無いよ」

梨子 「……もう一度、考える時間をください」

安川 「うん。まだ通夜まで時間もあるからね」


一度自分のデスクに戻り、頭を抱える。
私は何のためにこの仕事に就いたのか? 私の目的は? もう一度、自分の想いを整理した。


梨子 「……ん?」


ふと、自分の鞄に入っていた手紙が目に入った。
ルビィちゃんが、曜ちゃんに宛てて書いた手紙だ。クリアファイルに入れたままになっていた。

162: 2020/05/04(月) 21:12:15.34 ID:KYYXzQZw
梨子 「……ごめん、ルビィちゃん」


クリアファイルを持って、トイレに駆け込む。
破かれた手紙を繋げ合わせて、内容を読んでみる。


梨子 「……ははっ、やっぱりすごいや、Aqours」


涙が溢れて止まらない。
まだAqoursの想いは繋がっていた。

なら、私がここで、投げ出すわけにはいかない。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

163: 2020/05/04(月) 21:13:23.97 ID:KYYXzQZw
退勤後。車に乗ろうとすると、突然声をかけられた。ダイヤさんだった。


梨子 「……こんばんは」

ダイヤ 「通夜、結局担当したのですね」

梨子 「もう、耳に入ってましたか」

ダイヤ 「えぇ。あれだけ批判を受けておきながら、よくもまぁ」

梨子 「これが、私の仕事ですから」

ダイヤ 「教えて下さりませんか? 梨子さんはどうしてそこまでして、葬儀屋の仕事を?」

梨子 「……。」

164: 2020/05/04(月) 21:14:36.93 ID:KYYXzQZw
ダイヤ 「あの時梨子さん、言いましたわよね? 葬儀屋になったのは、目的があるからだと」

梨子 「……はい」

ダイヤ 「それはどのようなものなのですか? あれだけの目に遭って、それでも成し遂げたい目的とは……」


すぅっ、と息を整え、まっすぐ目を見て答える。


梨子 「今から、伝えに行こうと思っていたところです。曜ちゃんに」

ダイヤ 「曜さんに?」

梨子 「ルビィちゃんの手紙、読んだんです」

165: 2020/05/04(月) 21:15:13.11 ID:KYYXzQZw
ダイヤ 「あの手紙を……」


梨子 「ルビィちゃんの気持ちと、私の目的は同じでした。Aqoursはまだ、繋がっていたんです!」


ダイヤ 「Aqoursが、繋がっていた……」

梨子 「ダイヤさんも来てください。私だけだと、鍵も開けてくれるか分かりませんから」

ダイヤ 「……分かりました」


ダイヤさんを助手席に乗せ、曜ちゃんの家に向かう。

166: 2020/05/04(月) 21:16:39.05 ID:KYYXzQZw
――――曜ちゃんへ

突然のお手紙、驚いたかな?
まずは、受け取ってくれてありがとう。そして、ごめんなさい。

あの日からずっと、謝る機会を探してました。でも、いつまでもなかなか切り出せなくて。

曜ちゃんには、辛い思いばかりさせてしまいました。


ダイヤ 「梨子さん、スピードを出しすぎでは」

梨子 「…………。」

ダイヤ 「梨子さん? 聞いてますか?」


今更ルビィが何を言っても、言い訳になるかもしれないけど。これだけは、伝えたかった。

167: 2020/05/04(月) 21:17:37.23 ID:KYYXzQZw
私があの日、千歌ちゃんの葬式に行けなかったのは、千歌ちゃんに安らかに旅立って欲しかったからです。

あの頃でも、私の行く先々にはマスコミが集まってしまっていました。もし参列したら、迷惑をかけてしまう。

そう考えると、どうしても会場に行くことが出来ませんでした。


――でも今、すごく後悔しています。


梨子 「着いたっ……!」

ダイヤ 「梨子さん、ちょっと、待ってください!」


私がお葬式に行かなかったせいで、Aqoursはバラバラになってしまった。

168: 2020/05/04(月) 21:19:02.98 ID:KYYXzQZw
迷惑とか、関係なかった。最後に千歌ちゃんの顔をみんなで見て、みんなで弔うのが、何よりも大切だったのに。

あの時の私は、逃げていただけだったのかもしれません。

迷惑をかけるとか自分に言い訳をして、千歌ちゃんのことから目を逸らそうとした。


――もし、曜ちゃんが許してくれるなら。


梨子 「ダイヤさん、早く!」

169: 2020/05/04(月) 21:20:03.73 ID:KYYXzQZw
ダイヤ 「今開けますから、 急かさないでください」

ガチャッ!

梨子 「曜ちゃんっ!!!」

曜 「わぁっ!? な、なにごと!?」


私のお願い、聞いてください。


梨子 「やり直そう!! 千歌ちゃんのお葬式!」


もう一度、千歌ちゃんのお葬式をしませんか。

181: 2020/05/07(木) 00:00:03.05 ID:UxDrtrLI
ーーーーーー
ーーーー
ーー


岩永 「友達の葬式をやり直したい?」

梨子 「は、はいっ」

岩永 「どういう風の吹き回し? 例の〇人犯の葬式を担当するって決めた矢先、そんな突拍子もないこと」

梨子 「安川さんに言われて、思い出したんです。私がどうして葬儀屋になろうとしたのか」


梨子 「……私は、大切な人達の後悔を断ち切るために、葬儀屋になったんです」

182: 2020/05/07(木) 00:01:03.10 ID:UxDrtrLI
岩永 「大切な人達?」

梨子 「はい。だから、ここで私だけが逃げる訳にはいかないと思ったんです」

岩永 「……。」


岩永さんは吸い終わった煙草を灰皿に押し込む。そしてまた新しい煙草を取り出して火をつけ、大きく吸い込んだ。


岩永 「……いいんじゃないかな」

梨子 「えっ、いいんですか」

岩永 「いいんですか、って。聞いてきたのはそっちでしょ?」

梨子 「そうですけど。断られるか、渋られるかのどっちかだと思っていたので」

183: 2020/05/07(木) 00:02:21.20 ID:UxDrtrLI
岩永 「遺族の後悔を晴らすのは、葬儀屋の本懐でもある。手伝わない選択はないよ、ね」

梨子 「岩永さん……」

岩永 「それにね、僕も千歌ちゃんの葬式を、あのまま終わらせたくなかったんだ」


岩永さんの言葉を聞いて、ぎょっとする。


梨子 「ど、どうして千歌ちゃんのことだと?」

岩永 「桜内くんがやり直したい葬式なんて、それくらいしかないでしょ」

梨子 「そうかもしれませんけど……」


岩永 「実は僕ね、Aqoursのファンだったんだ」

184: 2020/05/07(木) 00:03:39.33 ID:UxDrtrLI
梨子 「そうだったんですか!?」

岩永 「うん。千歌ちゃんの遺体修復を担当したのは僕だったんだけどね。目の前にした時はショックだったよ」

梨子 「……この前、事故遺体を搬送した時言ってた“昔のことを思い出す”って、千歌ちゃんのことだったんですね?」


岩永さんはただ黙って頷いて答える。
悲しげな表情で、壁にもたれかかる。


岩永 「葬儀の会食の時、曜ちゃん怒ってたよね? ルビィちゃんが葬式に来なかったことに」

梨子 「……はい」

岩永 「ダメだよ、このままじゃ千歌ちゃんの葬式が台無しになる、って。そう思いながらも、その時の僕には何も出来なかった」

185: 2020/05/07(木) 00:04:56.37 ID:UxDrtrLI
梨子 「立場もありますから、仕方ないですよ」

岩永 「千歌ちゃんもそうだけど、このままだと曜ちゃんにも大きな後悔が残る。そう思った」


事実そうだ。
ルビィちゃんに憤りを覚えているのは勿論だが、今の曜ちゃんは、千歌ちゃんの葬式を台無しにしてしまったことへの罪悪感が一番強いだろう。


岩永 「……だから、ね。賛成だよ、葬式をやるの」

梨子 「岩永さん……」

186: 2020/05/07(木) 00:06:25.46 ID:UxDrtrLI
岩永 「亡くなって、遺体を安置して。納棺するのを見届ける」

岩永 「そこからお通夜、告別式。それが終わったら出棺。火葬をして最後のお別れをする」

岩永 「その7つのステップを通して、人は初めて故人との後悔に向き合って、精算できるんだ」


梨子 「7つのステップ……」

岩永 「断ち切ろうよ、Aqoursの後悔」

梨子 「……はいっ。ありがとうございます」


深く頭を下げた私の瞳から、涙が滴り落ちる。
「よしっ」と自分に気合をいれた岩永さんは、半分ほど残っていた煙草の日を消し、上司の元へと向かっていった。ついて行った私は、その背中にかつてないほどの安心感を覚えていた。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

187: 2020/05/07(木) 00:08:36.23 ID:UxDrtrLI
曜 「やり直す……? 葬式を?」

梨子 「そう! このまま後悔を残したままなんて、絶対だめだよ!」

曜 「……今更無理だよ」

梨子 「曜ちゃんっ!」

曜 「私に千歌ちゃんの葬式に参加する資格なんて無いッ!! 私が台無しにしたんだ……」

梨子 「……本当に、そのままでいいの?」

曜 「ッ!! うるさい……うるさいっ!!」


傍においてあったリモコンを投げつけようとする。私は咄嗟に曜ちゃんの手首を押さえつける。そのまま壁へと曜ちゃんの体を押し付ける。

188: 2020/05/07(木) 00:09:44.01 ID:UxDrtrLI
曜 「ぐっ……!」

ダイヤ 「梨子さんっ!」

梨子 「……読んで」


曜ちゃんの胸に、テープで繋ぎ合わせたルビィちゃんの手紙を押し当てる。
曜ちゃんは手紙に一度視線を落として、私をキッと睨みつける。


梨子 「……本当はルビィちゃんのこと、もう許してるんでしょ?」

曜 「っ!」

梨子 「お願い。ルビィちゃんの気持ち、聞いてあげて」


曜ちゃんから手を離す。胸元に押し当てた手紙が、ヒラヒラと落ちる。曜ちゃんはしばらく床に落ちた手紙を見つめた後、ゆっくりと拾い上げ、読み始めた。

189: 2020/05/07(木) 00:11:18.54 ID:UxDrtrLI
曜 「……そうだよ。もうとっくに許してる」

ダイヤ 「曜さん……」

曜 「私が許せないのは、あの時の私自身。後悔しても、しきれない」

曜 「怒ってるだろうなぁ……千歌ちゃん。最後のお別れの場所で、あんなに怒り散らして」


壁に背中をつけたまま、曜ちゃんはその場に座り込む。


曜 「……無理なんだよ、今更何しても」

曜 「Aqoursをバラバラにしたのは私。滅茶苦茶に壊して、もう二度と戻らない」

190: 2020/05/07(木) 00:13:01.67 ID:UxDrtrLI
曜 「…………もう、二度と」


梨子 「戻せる」


屈んで、曜ちゃんに目線を合わせる。


梨子 「……いくら後悔してもいい。それが生きてる人間の特権だから」

曜 「生きてる人間の特権……?」

梨子 「うん。でもね、それと向き合うのも、断ち切るのも、私たちにしか出来ないことなんだよ」

曜 「……。」

梨子 「……千歌ちゃんは、私たちを後悔させるために生まれてきたの?」

191: 2020/05/07(木) 00:14:21.93 ID:UxDrtrLI
曜 「……違う」

梨子 「私たちが千歌ちゃんに伝えなくちゃいけない想いは、後悔なんかじゃない」

曜 「…………うん」


曜ちゃんは俯き、千歌ちゃんの前を呟きながら涙を流していた。
私は携帯を取り出し、とある人物に電話をかけて曜ちゃんに渡す。


曜 「……?」

梨子 「出て」

曜 「……もしもし」


曜 「…………ルビィ、ちゃん」


ダイヤ 「ルビィ!?」

192: 2020/05/07(木) 00:16:07.81 ID:UxDrtrLI
曜 「うんっ…………違うんだ。私の方こそ」

曜 「……ごめん、ごめん……っ……!」


受話口から、微かにルビィちゃんの声が聞こえる。その声も、曜ちゃんと同じように震えていた。
曜ちゃんはひたすら、涙を流しながら謝罪と感謝の言葉を繰り返していた。


ダイヤ 「……私達も準備をしないと、ですわね」

梨子 「…………はい」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

193: 2020/05/07(木) 00:17:10.53 ID:UxDrtrLI
納棺には、千歌ちゃんの家族と、Aqoursの8人が立ち会った。


岩永 「それでは、柩に入れる副葬品を、お詰めください」


美渡 「……私たちは、最初の時に詰めたから。今回はみんなが入れてあげて」

果南 「ありがとうございます」


みんな、思い思いの副葬品を詰めていく。
空っぽの棺だったのに、8人全員が副葬品を詰め終わる頃には、蓋が閉まるか不安になるほどパンパンになっていた。


ダイヤ 「ふふっ、果南さん、なんなのですかこれは」

194: 2020/05/07(木) 00:17:48.48 ID:UxDrtrLI
果南 「いいじゃんか。向こうでダイビングする時必要でしょ?」

曜 「これ、本当に全部燃やしちゃうの? ルビィちゃんのサイン入りCDとか、今とんでもない価値なんじゃ……」

ルビィ 「あははっ……言ってくれれば何枚でも書くよ。それよりこの黒い羽根……」

善子 「何よ、いいじゃない! これでも思い出深いものなのよ!」

花丸 「あの時のまだとってあるなんて、さすが“善い子”の善子ちゃんずらね」

善子 「うぅ~……」

鞠莉 「あれれぇ~? 『だからヨハネよ!』とは言わないの?」

195: 2020/05/07(木) 00:19:07.08 ID:UxDrtrLI
善子 「も、もう大人だし……」

ルビィ 「えぇー。久しぶりに聞きたかったなぁ」


志満 「……変わらないわねぇ、みんな」

梨子 「ごめんなさい、うるさくって」

美渡 「いや、むしろこうあるべきだったんだよ。千歌の葬式は」


岩永さんにアイコンタクトを送る。


岩永 「…それでは、蓋を閉じさせていただきます」


立ち上がり、蓋を持つのを手伝う。
持ち上げる前に、瞳を閉じて息を整える。

196: 2020/05/07(木) 00:19:59.13 ID:UxDrtrLI
梨子 「……すぅーっ……ふぅーっ……」


『……ちゃん……梨子ちゃん』


梨子 「えっ?」


目を開くと、光の海が広がっていた。
その中に一人、私に微笑みかけながら名前を呼んでくる人物がいた。


千歌 『久しぶり!』

梨子 「……久しぶり」

197: 2020/05/07(木) 00:21:44.12 ID:UxDrtrLI
千歌 『…ごめんね、私のためにここまでしてもらっちゃって』

梨子 「ううん。それに、これはAqoursのみんなのためでもあるから」


千歌 『……曜ちゃん、元気になったみたいでよかった。それだけが心残りだった』

梨子 「やっぱり、Aqoursはこうでなくっちゃ」


棺を囲んで、楽しそうに笑い合うAqoursの光景が浮かぶ。


梨子 「……みんなから贈り物。届いてるよ」

千歌 『わぁっ!!? こ、こんなに!?』


千歌ちゃんは棺の中から、副葬品を嬉しそうに1つずつ取り出していく。

198: 2020/05/07(木) 00:23:40.69 ID:UxDrtrLI
千歌 『だ、ダイビングスーツ……?』

梨子 「それ、果南ちゃんから」

千歌 『あぁっ! ルビィちゃんのCD! これ聴いてみたかったんだぁ』


千歌 『これは……手紙?』


千歌ちゃんが両手いっぱいに手紙を抱える。


梨子 「曜ちゃんからだよ。曜ちゃん、毎日千歌ちゃんに宛てて手紙を書いてたんだよ」

千歌 『すごいや、こんなに……』

梨子 「……愛されてるね、千歌ちゃん」

千歌 『うん……すごく嬉しい』


千歌 『そういえば、梨子ちゃんは何を入れてくれたの?』

199: 2020/05/07(木) 00:24:29.90 ID:UxDrtrLI
梨子 「私は……これ」


棺の中から写真を一枚探り出し、千歌ちゃんに手渡す。


千歌 『これは……写真? 善子ちゃんと梨子ちゃんが映ってる』

梨子 「結婚を決めた日の写真だよ。私たち、結婚することにしたんだ」

千歌 『ふーん……そっかぁ』

梨子 「えっ、反応薄くない?」

千歌 『どんな反応期待してたの?』

梨子 「いやもっとほら、『うそー!?』とか、『付き合ってたのー!?』とか」

千歌 『いやだって……二人とも分かりやすかったし』

200: 2020/05/07(木) 00:26:05.62 ID:UxDrtrLI
梨子 「……バレてたの?」

千歌 『うん。みんな知ってたと思う』

梨子 「うっそ……」

千歌 『あははっ』



千歌 『ねぇ、梨子ちゃん。今、幸せ?』

梨子 「……うん。分けてあげたいくらい」

千歌 『そっか』


突然、意識が薄らいでいく。
視界がどんどん狭まっていくのを感じた。


梨子 「待って……千歌ちゃん、まだ……」

201: 2020/05/07(木) 00:27:11.39 ID:UxDrtrLI
千歌 『……ずっと見守ってるから。しばらくこっちに来ちゃダメだよ? みんなにも言っておいてね』

梨子 「千歌ちゃん……千歌ちゃん……っ」

千歌 『梨子ちゃんには待ってくれてる人がいるでしょ? 私の分まで、幸せにね』


視界が黒に染る。
何も見えない暗闇の中、千歌ちゃんの香りがふわっと漂い、包み込む。


『…………ありがとう。梨子ちゃん』


ーーーーーー
ーーーー
ーー

「……こーー? ……りーーーこーー!?」

202: 2020/05/07(木) 00:28:16.84 ID:UxDrtrLI
梨子 「……っ!!」ガバッ!!


名前を呼ばれていることに気付き、慌ててベッドから飛び起きる。朝日の光が瞳に刺さり、思わず 「うぅっ」 と声が出る。


善子 「早く起きなさいよ! 式に遅れる!」

梨子 「式……? あぁ……そっか」


――今日は、善子ちゃんとの結婚式だ。


善子 「寝ぼけてないで早く!」

203: 2020/05/07(木) 00:29:38.30 ID:UxDrtrLI
梨子 「わ、分かってるってば」


歯を磨きながらテレビをつけると、ちょうど朝のニュース番組がやっていた。


『今回のピックアップはこちら! 二人組ユニットとして衝撃の再デビューを果たした、黒澤ルビィさんと渡辺曜さん!』


大歓声の中、ステージ上でパフォーマンスをするルビィちゃんと曜ちゃんが映し出される。


梨子 「……ふふっ」

善子 「いつまでテレビ見てるの!! 遅れるってば!!」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

204: 2020/05/07(木) 00:30:33.58 ID:UxDrtrLI
式場の扉を開くと、沢山の人がお見送りをしてくれていた。
無数の花弁が舞う中、私と善子ちゃんはみんなに祝福の声をかけられながら進む。


鞠莉 「Happy marriage!!」

果南 「おめでとー!」

ルビィ 「2人とも、綺麗だよ」

ダイヤ 「花嫁が2人というのも、いいものですわね」


花道を通り終え、みんなの方へと向き直る。
みんな、私たちのことを祝福してくれていた。

千歌ちゃんの遺影を抱えた美渡さんが視界に入る。Aqoursの9人が揃って挙式に参加出来たことに、私はこの上ない幸せを感じていた。

205: 2020/05/07(木) 00:31:15.02 ID:UxDrtrLI
善子ちゃんがくるっと後ろを向き、ブーケを投げようと力を込める。


空へと放たれたブーケは、綺麗な弧を描いて、人混みの中へと飛んでいく。


花丸 「あぁーっ!!」

ダイヤ 「これはスキャンダルの予感、ですわね」


ブーケを掴み取ったその少女は、恥ずかしそうにくせっ毛を人差し指でクルクルと巻きながら、はにかんでいた。

ーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ーー

206: 2020/05/07(木) 00:31:37.63 ID:UxDrtrLI
梨子 「後悔を葬る7つのステップ」

―完―

207: 2020/05/07(木) 00:32:22.66 ID:UxDrtrLI
これにて完結となります

お付き合い頂き、ありがとうございました

208: 2020/05/07(木) 00:34:05.59 ID:3eDrFpWf
めちゃくちゃ良かったです
ありがとうお疲れ様

209: 2020/05/07(木) 00:45:20.57 ID:AIHLBFKq
いいssだった
ありがとう

210: 2020/05/07(木) 01:09:05.75 ID:Dowly71c

良いSSだった

失礼だけどようこそ亡霊葬儀屋さんを参考にされた?

217: 2020/05/07(木) 22:18:36.60 ID:UxDrtrLI
>>210
『ようこそ亡霊葬儀屋さん』という作品は知らなかったので調べてみたのですが、いい作品ですね

参考にしたのは、葬儀屋に関するサイトや動画、映画『おくりびと』とかですね

211: 2020/05/07(木) 01:51:02.48 ID:KFl5epED
乙。いいSSだった

212: 2020/05/07(木) 03:32:18.53 ID:72HcETWV
素晴らしかった
鬱展開になるのかと安直に思っていただけに、希望に向かっていくラストには感動した
お話の運びが上手く、内容もまとまっていて、心から乙と言いたい
改めて素晴らしいssをありがとう

213: 2020/05/07(木) 05:53:43.25 ID:hxKaFoFV
素敵なSSをありがとう

214: 2020/05/07(木) 08:57:10.02 ID:RYdMsJAn
久しぶりにこんな素晴らしいss読みました。ありがとうございます!!

215: 2020/05/07(木) 19:22:08.73 ID:gQWIsMBn
完結するのずっと待ってた
素晴らしいssをありがとう

216: 2020/05/07(木) 19:50:54.55 ID:3U2tdgUG
色々と込み上げてくるものがあって泣いてしまった

218: 2020/05/08(金) 08:23:41.37 ID:vXCgkNwO
すごく雰囲気がよかった
これは良いss

220: 2020/05/08(金) 22:33:51.71 ID:SoK71kV8
感動をありがとう…

224: 2020/05/10(日) 18:33:34.75 ID:U6P3VYDH
完結おつ、良かった

225: 2020/05/11(月) 18:04:36.80 ID:BJpF6jlB
面白かった乙

226: 2020/05/12(火) 01:49:59.06 ID:pmzlPdQa
暗い話かと思いきや終盤にはある種の爽やかさすら感じさせるというか、綺麗に締められてて良かった
すごく良かったです

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1588073418/

タイトルとURLをコピーしました