【SS】絵里「か、怪談話ぃ? み、みみ認めっ認めらられれれ」

SS


1: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:21:26.55 ID:dswKJfxs.net
絵里(って、思ってたのに……)



雪穂「希さん、ライターありましたよ」

希「おっ、助かったわー。ありがとなぁ、雪穂ちゃん」



亜里沙「皆さん、ザブトンひいておきました! どうぞ座って下さい!」

海未「ありがとうございます、亜里沙はよく気が回りますね」

亜里沙「えへへ……///」



凛「水の入ったバケツ? これって、何に使うの?」

にこ「万が一の為に用意しておけって、希が言ってたのよ。
    まあ、人様の家で火事でも起こしたらたまったもんじゃないし」

凛「へえー。少し用心しすぎな気もするけどにゃ」


絵里(まさか我が家で怪談話、やることになるなんて……)

絵里(拝啓おばあさま、エリーチカは生きてロシアに帰れないかもしれません)カタカタブルブル

2: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:23:58.18 ID:dswKJfxs.net
絵里(そもそもこんなことになった元凶は……)

希「えりち、そんな隅っこで何やっとるん?
   もう準備も大体終わった所やけど」

絵里「希ぃ……」

希「ちょ、ウチの方をそんな睨まんといてよー」

絵里「あなたが百物語やろう、なんて皆に言わなければこんな風にもなってないわよ!」

希「ひどいなー、ちゃんと全員の許可はとったやん?
  えりちだって、あの時はオーケー出してくれたし」

絵里「ええ、確かにね……そりゃあ認めもするわよ。
    亜里沙の方を先に懐柔されてたら私だって認めざるを得ないもの!」ギロッ

絵里「百物語なんて絶対イヤだって思ってる所に、亜里沙から電話が来て」
   

亜里沙『お姉ちゃん、ミューズの皆さんがうちでノーリョーパーティー開いてくれるって本当!?
     ハラショー! 亜里沙すごい楽しみにしてるね!』

絵里「なんて言われて、断れると思う!?」

希「えりち、どうどう」

3: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:26:57.63 ID:dswKJfxs.net
希「まあ、決まってしまったものは仕方ないやん?」

絵里「どの口が言うのよどの口が……」

希「でも、こうやって集まる機会ができて、うちは嬉しいんよ」

希「真姫ちゃん家の別荘での合宿で、えりちが先輩禁止を提案してくれた。
   それでえりちの思惑通り、グループ全体の絆は強くなった」

希「だからうちも考えたんよ。もっと皆と一緒になって、グループとして強くなるにはどうすべきか、って」

絵里「希……」

希「つり橋効果……とはちょっと違うかもしれんけど、皆で同じ経験をすれば、その分絆も深まるんやないか。
  そう思って、今回の百物語を計画したん」

絵里「……本音は?」

希「怪談に怯えるえりちの顔を堪能したい」

絵里「」スッ

希「冗談、冗談やって! だからグーは、グーやめよ、ね?」

4: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:29:01.59 ID:dswKJfxs.net
希「いたた……もう、冗談って言ったのに」

穂乃果「うわぁ、すっごく赤くなってる……」

ことり「希ちゃん、大丈夫? 氷とか持ってきた方が良い?」

希「うちは平気よ……まあ、デコピンで済んで良かったかな、はは」

絵里「」ムスッ

真姫「それで、そろそろ始めた方が良いんじゃないの?
    せっかく早い内に集まったんだし、帰りが遅くなるわよ」

希「せやね……それじゃあそろそろ始めよか」

希「百物語――もとい、二十物語を」

5: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:30:57.76 ID:dswKJfxs.net
希「今回はえりちの家が会場なので、合宿みたいに大勢で泊まることは出来ません。
   やから、皆は終わった後に各自帰宅する必要があるんやけど……」

にこ「百個もやってたら皆寝不足になっちゃうわよ!」

海未「それに、帰りがあまり遅くなるというのもよろしくありません」

希「という意見が来たため、ウチの方から折衷案を提案したんよ」

希「開始は午後六時から、話す話は皆で二十話。これなら、午後八時~九時には終わるし、蝋燭も燃え尽きずに済むんよ」

雪穂「お姉ちゃんたちは一人二話ずつ、私は亜里沙と二人でそれぞれ一話ずつ話せば丁度良いですしね」

花陽「そういえば、話す順番はどうするの?」

希「くじを持ってきたから、これで決めよっか」

にこ「相変わらず準備良いわね……」

希「基本的にはうちら九人と、雪穂ちゃんか亜里沙ちゃんのどっちかが話して一巡目が終了。
   その後もう一回くじを引き直して、二巡目を行う……という流れかな」

16: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:56:24.06 ID:dswKJfxs.net
今日はここまで
そんなに怖くならないと思います

>>6
百個書ききる体力は無かったです、申し訳ありません

7: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:33:20.63 ID:dswKJfxs.net
希「それじゃあ話す順番も決まったことだし、電気消すよー」



パチッ              コトン



亜里沙「ハラショー……! 火が揺らめいててとっても綺麗です!」

絵里「お、思ったよりも暗くないわね……」ビクビク

真姫「こうやって蝋燭に近付いてるからよ。
    ちょっと離れたら、誰か見分けるのも難しいんじゃないかしら」

穂乃果「うーん……」

ことり「? どうしたの、穂乃果ちゃん?」

穂乃果「いやぁ、こうやって見てたら、何かお誕生会みたいだなーって」

雪穂「お姉ちゃん……」

海未「……穂乃果、話し終わった後に蝋燭を全部吹き消したりしないで下さいね?」

穂乃果「さ、流石にそんなことしないってば!」

海未「心配です……」

9: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:37:50.75 ID:dswKJfxs.net
 第一話? 『とべるよ』 (高坂穂乃果)

穂乃果「それじゃあ穂乃果からだね……うん、始めるよ」

穂乃果「これは、私が友達と旅行してた時の話なんだけど」

ことり「友達と旅行!?」ガタッ

海未「誰とですか、穂乃果! 誰と行ったんですか!?」ガタッ

にこ「ちょっと二人とも、立ち上がらないでよ!
   蝋燭消えたら困るじゃない!」

ことり「あ……ご、ごめんなさい」シュン

海未「すみません……私としたことが」

にこ「ほら、穂乃果。続き話していいわよ」

穂乃果「あ、あはは……にこちゃん、ありがと。えっと、それで友達と旅行に行って、皆で色んな所を観光して。
      あちこち回って今日は楽しかったなー、 さあホテルに帰るぞー、って時に。穂乃果、友達とはぐれちゃったんだよね」

花陽「ハグレチャッタノォ!?」

10: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:39:29.57 ID:dswKJfxs.net
穂乃果「あの時は流石に焦ったなぁ……土地勘もないし、泊まるホテルの名前なんかも覚えてないし。
     迷子になるって分かってたら、多分必死で覚えてたんだけど」タハハ

亜里沙「それでどうやって、ホテルまで戻ったんですか?」

穂乃果「うん。そうやって困ってたら、親切なお姉さんが見かねたのか、助けてくれたんだ。
      私がホテルの特徴を言っただけで、簡単に分かっちゃうし、多分そういうのに慣れてる人だったんだね」

真姫「渡りに船だったって訳ね」

穂乃果「案内してもらって、なんとか無事にホテルの近くまで着いてね?
     お礼を言おうとお姉さんの方を向いたら、お姉さんがこう言ってきたんです」

『目を閉じて』

穂乃果「私もよく分からなかったんだけど、とりあえず言う通りにしてみたの。『こうですか』って。
     そしたら、手の上に何かが乗せられる様な感触がして……ついつい気になって目を開けちゃったんだよね」

凛「それで、どうだったの?」ゴクリ

11: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:41:09.91 ID:dswKJfxs.net
穂乃果「目を開けてみると、お姉さんはもうそこにはいなくて。
     ……代わりに、私の手の上には小さい袋が置いてあったんだ。透明な小分け袋」

希(……んん?)

穂乃果「小分け袋の中には、何か小麦粉みたいな粉が入っててね。
      『これってまさか』そう思ったとき、耳元で囁かれたんだ……お姉さんの声でね」






『トベるy 絵里「はいはいストップストップストップストーーーップ!!」


穂乃果「むー、邪魔しないでよ絵里ちゃん!」

絵里「するわよ! 途中から雲行きが怪しいとは思ってたけど!
    完ッ全にアウトよ、アウト! 時系列的にも!」

海未「あの、絵里……あんまりメタなお話はしない方が」

絵里「どう考えても完全に向こうからメタに寄せてるでしょ、今回は!」

12: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:43:06.49 ID:dswKJfxs.net
穂乃果「えー、せっかく頑張って考えてきたのに!」

絵里「怖いの方向性がズレてるのよ……ホラーというより、もはやサスペンスじゃない」

ことり「確かに怪談とはちょっと違うかも……」

真姫「『実際にありそうな怖い話』と言う意味ではある意味正しいけどね」

希「うーん……それじゃあ穂乃果ちゃんには悪いけど、一話目は何か別の話に変えてもらえんかな?」

穂乃果「そんなぁ! だって穂乃果、丁度二話しか話用意してないんだよ!?
     この場でもう一話用意するなんて無理だよお!」

絵里「こればっかりは、何とかして必死に思いついてもらうしかないわね」

穂乃果「うぅ……絵里ちゃんの鬼ー!」

希(多分あれ、えりちの変な強がりが暴走してるんやろなぁ……)

13: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:45:09.77 ID:dswKJfxs.net
 第一話(再) 『迷い小路』 (高坂穂乃果)

雪穂「なんかお姉ちゃん、迷ってばっかりじゃない?」

穂乃果「雪穂ひどい!」ガーン

雪穂「いや、だってさっきの話で道に迷ってたし、今回の話もタイトルがタイトルだし……」

穂乃果「それはそうだけど……でも今回の話はちょっと違うよ!
      私が迷ったんじゃなくて、道の方が迷わせて来たんだから!」

にこ「道の方が?」

穂乃果「うん。練習が終わって、ことりちゃんや海未ちゃんと別れて一人で帰ってた時なんだけどね。
     ほら、うちの近くに十字路ってあるよね? どうやってもあの十字路から抜け出せなくなってたんだ」

海未「そんな馬鹿な……穂乃果の家はあそこからすぐのはずでは」

14: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:48:12.36 ID:dswKJfxs.net
穂乃果「穂乃果だってそう思ったよ。だけど、どうやっても家に辿り着けなかった。
      直進しても、左右に曲がっても、引き返してみても。その十字路にまた戻ってきちゃうんだ」

真姫「練習で疲れてて、道を間違えてた……なんてことは?」

穂乃果「さっきの旅先みたいな所ならともかく、小さい頃から通ってる道だよ? いくら疲れてても間違えることなんてないよ。
      それに、同じところに戻ってきてるっていう証拠もちゃんとあった」

絵里「証拠?」

穂乃果「十字路の近くにあった電信柱に、ペタリ、ってシールを貼っておいたんだ。
      またここに戻ってきてたら分かるように」

希「いわゆるマーキングやね」

15: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/30(日) 02:52:43.56 ID:dswKJfxs.net
穂乃果「そうして十字路を進んでみると、その先にあったのは……もう何度目か分からない十字路。
     電信柱を確認してみると、さっきのシールが全く同じ位置に貼り付けてあって」

真姫「……」

穂乃果「それで穂乃果、完全に訳がわかんなくなっちゃって。
      大声を上げながら、ひたすら目を瞑って走ってたら……お遣い途中の海未ちゃんにぶつかった」

にこ「え? 海未?」

海未「あの時の突進はそういう理由だったのですか……」

穂乃果「多分無我夢中で走ってたら、自分でも気付かない内に、あの十字路を抜け出してたんだと思う。
     本当に抜け出せて良かったと思ったよ。あの後海未ちゃんにお説教されて、むしろほっとしたもん」

花陽「確かに一生抜け出せなかったら……うぅ、ぞっとします」

希「これでこの話は終わり?」

穂乃果「うん。あ、でももうちょっとだけ。
     その十字路、通学路だからあれから毎日通ってるんだけど……電信柱に貼ってあったシールが無くなってるんだよね。
     普通ああいうのって、はがしたら跡が付くと思うんだけど、そういうのも全く残ってなかったんだ……不思議だと思わない?」




穂乃果「……穂乃果はいったい、『どこ』をさまよってたんだろうね?」




絵里「」ゾクッ

穂乃果「それじゃあ、ロウソク消すね? ふー、長いこと話したから喉がからからだよー」

28: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:16:41.60 ID:D3ja7V/K.net
 第二話 『まきちゃん』 (西木野真姫)

真姫「うちのパパの知り合い……というか、お世話になってた人に、お爺ちゃんの先生がいたのよ。
    白髪で眼鏡をかけた、ふくろうみたいな見た目の先生でね。
    お正月の挨拶とかでその先生の家に訪ねにいったりすると、よく可愛がって貰ってたわ」

ことり「優しい先生だったんだねぇ」

真姫「ええ……現役時代はとっても厳しい人だったらしいんだけどね」

にこ「年をとって丸くなった、ってやつかしら」

真姫「いつだったか、その先生が帰る前に頭を撫でてくれてね」

『真姫ちゃん。自分の思いを曲げずに、まっすぐに生きなさい。
 そうすればきっと、素敵な人になれるよ』

真姫「そう言ってくれたことは今も心に残ってるわ」

凛(でも真姫ちゃん、変なとこでひねくれてるよね)

真姫「……」ペシッ

凛「にゃっ!? ま、真姫ちゃん痛いにゃー!」

真姫「顔に出てるのよ、顔に」

29: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:18:36.45 ID:D3ja7V/K.net
真姫「それから半年くらい経った後かしら。
    丁度その頃、ピアノの発表会に向けて練習してたんだけど、どうしても綺麗に弾けないフレーズがあってね」

穂乃果「真姫ちゃんでもそんなことがあったんだ……」

真姫「それが悔しくて、ずっとそこばっかり練習してたんだけど、やっぱり上手く弾けなくて。
    最後の方はやけになって、半泣きで演奏してたと思う」

真姫「……そしたら誰かが肩に手をポン、っておいたの。皺だらけだけど暖かい、そんな手。
    はっとして振り向いたけれど、そこには誰もいなくて……代わりに、声が聞こえた」



『まきちゃん』



真姫「一言だけだったけど、確かにお爺ちゃん先生の声だった。
    あまりのことに泣き止んで暫く呆然としてたら……パパが帰ってきて、『先生が、亡くなられた』って」

雪穂「……」

真姫「あの時のあれは、先生の最後の挨拶だったんだと思う。
   『頑張れ』っていう、励ましの言葉だったんだって……ロウソク、消して良いわよね?」

希「もちろん。心の暖かくなる怪談話、ちゃーんと頂きました」

30: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:21:02.80 ID:D3ja7V/K.net
 第三話 『電話と鈴虫』 (園田海未)

海未「あれは確か中学の時……夏休みが終わって少しした頃でしょうか
    夜の鍛錬も終わり、趣味の読書に耽っていると、ことりから電話がかかってきました」



ことり『夜遅くにごめんね、海未ちゃん。あ、今って電話して大丈夫だった?』

海未『はい、稽古も終わりましたので。ことりの方から電話とは珍しいですね』

ことり『少しね、誰かとお喋りしたい気分になっちゃって』



海未「ことりが相手ですし断る理由もありません。私も時々、そんな気分になりますから。
     ことりとのお喋りは、色々な話題で盛り上がりました。穂乃果の話、学校の話、親友の話……」

雪穂(あれ?それってほとんどお姉ちゃんの話じゃないの?)

海未「十数分程経った頃でしょうか、ことりがこんなことを言ったのです」



ことり『ところで海未ちゃん、今外にいるの?』

海未『いえ、自分の部屋にいますが……何故ですか?』

ことり『そっちから鈴虫の声が聞こえてきたから、あ、外にいるのかな、って』

31: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:23:29.90 ID:D3ja7V/K.net
真姫「……!」

海未「流石の私も、血の気が引きましたよ」

亜里沙「? 鈴虫の声が聞こえるのが、そんなに怖いんですか?
     あんなに綺麗に鳴いてるのに」

海未「鈴虫の声というのは、実は電話では拾いきれない音なんですよ。
    仮にこちらで鈴虫が鳴いていたとしても、電話の向こうにいることりには……本来聞こえないはずなんです」

亜里沙「!」

海未「まして私がいたのは、物音ひとつしない自分の部屋。ことりの聞いた鈴虫の音は明らかに異質なもの」

絵里「ほ、ほら……電波の混線とかノイズとか、そういうのじゃないの?」

海未「その時の私も同じことを考えましたよ。幽霊の正体見たり枯れ尾花と言うように、案外原因はあっけないものかもしれない。
    ことりには失礼でしたが、一旦電話を切って再度私の方から掛け直すことにしました」

32: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:26:37.41 ID:D3ja7V/K.net
海未「結論から言うと……多分あれは混線やノイズの類ではありませんでした」

希「多分?」

海未「はい、改めてことりに電話をしたのですが……」



ことり『もしもし、海未ちゃん? こんな時間に電話なんて珍しいね』

海未『……何を言っているのですか、ことり? さっきまで電話していたじゃないですか』

ことり『えっ……私、電話なんてしてないよ?』

海未『……そんな、まさか』



海未「あの後、着信履歴を確認してみましたが……確かにことりからの着信は入っていませんでした。
    代わりに表示された着信先は……」



『怜喧縺代ヱ繧ソ繝シ繝ウ』



花陽「ひっ……」

海未「おそらく最初からずっと、私は『異形の何か』の手の上で踊らされていたのでしょう。ロウソク、消しますね」

34: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:29:36.09 ID:D3ja7V/K.net
 第四話 『移動教室』 (矢澤にこ)

にこ「さっきの海未の話の後だと、どうも話し辛いわね……」

凛「大丈夫だよにこちゃん! どんなネタでも、ちゃんと凛が怖がってあげるから!」

にこ「ありがとう、凛……ってぇ! それってほとんどにこに期待してないってことじゃない!
    もっとにこに関心持ちなさいよ!」

花陽「に、にこちゃん、落ち着いて……」

にこ「ったく……後で怖すぎて気絶したって知らないわよ?」

凛「望むところにゃ!」

絵里「」フルフル

希(うわぁ……えりちがとばっちり喰らって怯えとる)

35: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:32:19.42 ID:D3ja7V/K.net
にこ「それじゃあ、話すわね。うちの学校――音ノ木坂学院って、昔の生徒数が多かったからか結構空き教室が多いわよね?
    ま、そりゃあ廃校寸前だったんだもの、使わない教室だって増えてくるわけ」

ことり「確かに、授業で使わない教室って結構多いよね?」

希「そうやね。数学資料室とか、予備準備室とか、何に使うんやろって教室もあったりするし」

にこ「多分あまり空き教室を作りたくないんでしょうね。
   ……そのおかげで空き教室を部活や課外活動に使える人たちもいるんでしょうけど」

海未「使っている本人たちは気付いてないでしょうが、そう聞くと複雑な気持ちですね……」

にこ「そんな中で一部屋だけこの学校にも空き教室が存在してる。
    しかもただの空き教室じゃない。移動する空き教室なの」

雪穂「空き教室が……移動?」

36: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:36:57.92 ID:D3ja7V/K.net
にこ「ええ。見た目は普通の教室と同じなんだけれど、学校中をあちこち移動してるの。
   私が気付いただけでも七回は場所が変わってる」

真姫「アグレッシブね、その教室」

にこ「理科室の隣かと思いきや、美術室の隣へ。そうそう、三年の教室の間にも一時期あったわね」

絵里「ええっ!?」

にこ「何今更驚いてんのよ絵里……」

穂乃果「ねえ、その空き教室って動いてるだけなの?」

にこ「そうね、本当に動いているだけ。だから、特に実害とかはないわよ。かと言って私たちもその空き教室を使うことは出来ないけど。
    窓も扉も閉じてるし……多分どうやっても開かないから」

穂乃果「開かない? なんで?」

にこ「……鍵も鍵穴も無い。密閉されてるのよ、あの教室」









凛「ねえ、にこちゃん」

にこ「なによ」

凛「これって怖い話って言うより、不思議な話じゃないの……?」

にこ「……うっさいわね。ロウソク、消したわよ」

37: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:38:31.33 ID:D3ja7V/K.net
 第五話 『お供え物』(小泉花陽)

花陽「それじゃあ、次は私の番だね。怖い話じゃないと思うけど、聞いてください。
    ……えっと、皆の家には、お仏壇ってある? 無い家も最近はあるかもしれません。
    今からするのは、そのお仏壇とお供え物の話です」

海未「お供え物……ああ、なるほど」

真姫「海未? 何がなるほど、なのよ」

海未「いえ、花陽らしい話の選び方だな、と思いまして。
   ……すみません、水を差してしまいました。花陽、続きをお願いします」

花陽「はい。私の家では、朝と夕方にお仏壇にお供え物をするんだ。
    お供えするのは、お水と、それから炊き立てのご飯。いつもお婆ちゃまが用意してるんです」

真姫(ああ、花陽らしいってそういうこと)

花陽「お供えしたご飯……御仏飯っていうんだけどね、これは我が家だと皆のご飯と混ぜて頂くんだ。
    ご先祖さまと同じものをみんなで頂く、っていう考え方なのかな」

絵里「興味深い考え方もあるのね」

40: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 03:07:57.88 ID:D3ja7V/K.net
>>37,>>38
×お婆ちゃま → ○おばあちゃま でした。
申し訳ございません。

38: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/08/31(月) 02:41:01.78 ID:D3ja7V/K.net
花陽「それで、小学生の時なんですけど、あまりにお腹がすいてて……夕飯の前に、お供え物のご飯を食べちゃったんだ。
    『ご先祖様、ごめんなさい、花陽はもう我慢できません』そう思いながら一口、つまみ食いしちゃった」

穂乃果「うえぇ!? 食べちゃったのぉ!?」

花陽「うん……でも、不思議だったのはその味。
   普段食べているご飯と同じ味のはずなのに、味がほとんどしなかったの」

ことり「味がしないって……普通のご飯なのに?」

花陽「その後、お婆ちゃまに見つかって、ちょっとだけ怒られて。
    お米の味がしなかったことを聞いたらね、」



花陽祖母『ご先祖様はね、ご飯の湯気を召しあがるの。
       でもそれだけじゃ味気ないから、一緒にご飯の味も頂いているんだよ』



花陽「だって。 ご先祖さまも、ご飯がおいしくてついつい食べ過ぎちゃうんだろうなぁ、って思いました。
    こういう話でも、大丈夫?希ちゃん」

希「うん。素敵なお話やったよ、花陽ちゃん」

44: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:20:18.75 ID:5SOp1+ck.net
絵里(花陽の話が、怖いのじゃなくて本当に良かった……おかげで少し落ち着いたわ)

花陽「絵里ちゃん……?」

絵里(ああもう、どうして皆こうも怖い話が出来るの!?
    こういうのが得意そうな海未はともかく、穂乃果やにこがあそこまで怪談話すのが上手なんて思わないわよ……)

亜里沙「お姉ちゃん、お姉ちゃんってば」

絵里「え、ああ……どうしたの亜里沙?」

亜里沙「次、お姉ちゃんが話す番だよ?」

絵里「あ、そ、そういえばそうだったわね!」

にこ「まったく、さっきから反応がないまま押し黙ってたし……ひょっとして喋る内容、忘れてたりしないわよね?」

絵里「それは無いわよ! ちょっとぼーっとしてただけだから!」

にこ「それならいいけど……それじゃあさっさと話しちゃいなさいよ」

絵里「ええ、任せて」(落ち着くのよエリーチカ、大丈夫怖くないロウソクもまだ明るいし怖くない怖くない……)

45: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:23:43.21 ID:5SOp1+ck.net
 第六話 『Вампир камень』 (絢瀬絵里)

絵里「私が話すのは、古くから伝わるロシア民話の一つ。ロシア怪談、とでも言えば良いのかしら。
    多分亜里沙もよく知っている話だと思うわ」

亜里沙「うん。亜里沙もロシアにいるとき聞いたことがあるよ」

絵里「……昔々、ある所に一人の娘がいた。娘は働き者で、屈託のない笑顔をいつも周囲に振りまいていた。
    『あの子は太陽みたいな子だ』なんて評判が、隣町にまで届いていたらしいわ」

希「太陽みたいな子かぁ……まるで穂乃果ちゃんみたいやね」

絵里「ただ、彼女にも悩みはあった。いつも働いているせいで、肌が日焼けして、同年代の他の子よりも赤くなっていた。
    それも魅力の一つだとは思うんだけど……その娘はそうは思っていなかったのね」



『ああ、私も綺麗な白い肌になれれば良いのに』



絵里「そんな時、吹雪の夜に一人の老人が彼女の家を訪ねてきたの。
    旅の途中で吹雪に遭ってしまった。すまないが一晩泊めてくれまいか……と。娘はこれを快く引き受けた。
    次の日、老人はお礼を言うと、旅立つ前に娘に白い鉱石を渡した」



『お嬢さん、泊めてくれてありがとう。お礼にこれを差し上げよう。
 これは魔法の鉱石でな。一晩身に付ければ、どんな肌でも白くなる。
 二晩身に付ければ、粉雪の様に白くなる。三晩身に付ければ、湖の氷の様に透き通る』

46: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:30:22.17 ID:5SOp1+ck.net
にこ「何だか都合の良い話ね。その人もどうしてそんな物持ってるのよ」

真姫「でもにこちゃん、そんな石があったら欲しいんじゃないの?」

にこ「……い、要らないわよ。そんなものなくたって、にこの可愛さは宇宙一だしぃ~?」

海未(今間違いなく迷いましたね)

凛(ちょっと欲しいかも、とか多分思ってたにゃ)

絵里「まあ、確かに都合の良い話よね……でもとにかく、彼女は喜んだ。これで私も皆みたいに白い肌になれる。
    娘はその石に紐を通して、首飾りにして三日三晩肌身離さず持っていた」

絵里「すると、老人の言った通り、彼女は透き通るような白い肌を手に入れた。
    その美しさに、周りの人たちは目を奪われるようになった……ここで止めて置けば良かったんだけど、ね」

雪穂「まだ、続きがあるんですか?」

絵里「ええ……自分の美しさに気を良くした彼女は、こんなことを思ってしまったの」

『ずっとこの首飾りを着けていれば、もっと私は美しくなれるんじゃないか』

絵里「これが彼女にとっては過ちだった」

47: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:33:33.50 ID:5SOp1+ck.net
絵里「それから一週間後くらいかしら、娘はぱったりと姿を見せなくなった。
    働き者だった彼女が突然いなくなるなんておかしいわよね? 不思議に思った娘の雇主は、彼女の家を訪ねた」

花陽「……どうだったの?」ゴクリ

絵里「――娘はベッドの上で事切れていた。その肌は見惚れる程真っ白だったそうよ。
    そして彼女の胸の上には、あの鉱石が深紅に輝いていたの」

雪穂「えっ、鉱石って白だったはずじゃ」

絵里「彼女の死因は失血死だった。そう、あの石は持ち主の血液を吸い取る石だったってわけ。
    ……使い方を間違えなければ、その娘は命を失わずに済んだかもしれないわね」

にこ「……」    

絵里「その石は『Вампир камень』……日本語に直すと、『吸血石』ね。
    そんな風に呼ばれて、今でもロシアのどこかに存在しているらしいわ。ロウソク、一つ消すわよ」

絵里(大丈夫よね? 落ち着いて言えたし、怖がってることなんてバレてないわよね?)

48: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:35:10.60 ID:5SOp1+ck.net
 第七話 『うちのお父さん』 (高坂雪穂

雪穂「うちのお父さんって、顔に似合わず案外怖がりなんですよ。
    その癖、幽霊?とかそういうのによく遭遇する体質らしくて」

希「それは大変そうやね」

雪穂「この前も、真っ暗な厨房に向かって怒鳴ってたんですよ。
    その声に驚いて、私やお母さんもすぐ駆けつけたんです」

穂乃果「ええっ、そんなことあったの!?」

雪穂「お姉ちゃん、その日は海未ちゃんちにお泊まりしてたじゃん……お父さんが怒鳴っている理由はすぐ分かりました。
    真っ暗な中に確かに誰かのシルエットがあったから。ひょっとして泥棒!?って思いましたよ」

真姫「まあ、普通はそう思うわよね」

雪穂「それでお父さんがじりじりとその影に近付いて、お母さんが厨房の電気を付けると……そこには誰もいませんでした」

凛「やっぱり、お化けか何かだったんだ」

雪穂「はい。ただ、その後が大変だったんですよ。お父さんが顔を青くして震えだして、自分の部屋に引きこもっちゃうんですから
    『特に被害は無かったけど……あの人も怖がってるし、お祓いしようかしら』なんて言ってた母との違いが、印象的でした」

穂乃果「確かにうちのお母さんなら、幽霊相手でも気にしないよねぇ」

雪穂「ロウソク、消します……ところでお姉ちゃん、もう一つ怪談思い出さなくて良いの?」

穂乃果「ああっ、そうだった!」

雪穂「まったくもう……」

49: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:37:08.84 ID:5SOp1+ck.net
 第八話 『境界線』 (東條希

希「次はウチやね。これはこの前懐かしくなって、白線の上だけ歩いて帰ってた時の話なんやけど」

にこ「いやいや、あんた高校生にもなって何してんの……」

希「んー、ちょっとしたお茶目やん?」

凛「でも、凛もよくやったなー。『白線以外は鮫がうようよいる!』とか思いこんだりするよね!」

穂乃果「そうそう! 『横断歩道の黒い所はマグマだから踏んじゃダメ!』とか!」

希「地域や人によっていろいろなパターンがあるんよね、この遊び。と、それはともかく。
  童心に返ったウチは、白線を渡り歩いて家に帰ろうとしたん。
  途中途中、横断歩道の白いとこや、歩道の縁石とかも利用して」

海未「昔穂乃果が『裏ルールだよっ!』とか言いながら縁石を飛び移っていたのを思い出します」

希「そうやって家の近くまで来た時、近所に住んでるおばあちゃんとすれ違ったんよ。
   ……こういうのって、知り合いに見られると結構恥ずかしいよね」

ことり「あはは……なんか分かるかも」

希「まあでも気にしてない風を装って『こんにちは。今日も暑いですね』って挨拶して。
  鍵を開けて家に入った所で気が付いたんよ」

希「『あれ、確かあのおばあちゃん、去年お亡くなりになったんじゃなかったっけ』って」

真姫「……!」

50: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:39:34.19 ID:5SOp1+ck.net
希「そう、確か去年の冬頃かな。その家の玄関に忌中札が貼ってあって、今時珍しいなぁ、なんて思ったのを覚えとる」

花陽「そ、それじゃあ希ちゃんが会ったのって」

希「間違いなくそのおばあちゃんの幽霊やんな。でも、不思議と怖い気持ちはせんでな?
   なんでやろなぁ、って思ってたら、ふとカレンダーが目に入って、ああ、って納得した」

凛「?」

希「その日は七月の十三日、お盆の入りの日やったんよ。
   おばあちゃんも、それでこっちに帰ってきてたんやろな。で、ここからが本題」

にこ「え、今ので終わりじゃないの?」

希「ちっちっち、まだもうちょっとだけ続くんや。
   お盆っていうんは、さっきのおばあちゃんみたいにあの世の魂がこちら側に返ってくる期間やん?」

海未「はい、昔からそう言われていますね」

希「すると、あの世の魂がこっち側に必要以上に多くなる。それが原因で、あの世とこの世の境界線が『揺らぐ』。
   こういう曖昧な時に、境界線の上にウチらが立つと、霊感のない人でも霊が見えるようになるんよ」

真姫「境界線ってどんなのよ。そう言われても私達じゃ分かんないわ」

希「境界だったらどんなのでも。ウチらが作ったものでも、それを境界と思っている人が多ければ、十分それは境界線になる。
   ……それこそ歩道と車道の間にある『白線』ですら、その効果はあったんやし」

真姫「……なまじ体験談を聞いた分、説得力があるわね」

希「ふふ。来年まで覚えててくれたら是非やってみてな。普段と違う世界が見えるかもしれんよ?
   それじゃあロウソク、消すよー」

51: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:41:11.86 ID:5SOp1+ck.net
   九話 『鏡さん、教えてよ』 (南こと

海未「ことり、このタイトルはもしや」

ことり「べ、別に変な意味とかはないの! ただ、あの、タイトルにぴったりだっただけで!」

海未「いえ、私も何か言うつもりではないので、別に構いませんが……」

ことり「でも、その、ごめんね……えっと、それじゃあ話します。
     中学の頃の七不思議の一つに、鏡にまつわる怪談があってね」

にこ「まあ、七不思議には大抵入ってるわよね。鏡の怪談」

ことり「うん。でもうちの学校のは結構珍しいというか、特別だった。
    『零時ぴったりに、二階の踊り場にある姿見に向かって三回願いを言うと、その願いが叶う』っていう怪談」

凛「鏡にお願い事? 確かに珍しいね」

ことり「でしょ? それでね、実際にお願い事を叶えた子が一人同級生にいたの。
    穂乃果ちゃんと海未ちゃんは覚えているよね? Cちゃんって子」

穂乃果「うん、覚えてるよ! あ、確かその子、二年で何か雰囲気変わったよね?」

海未「雰囲気だけではありませんよ。勉強の方の成績も軒並み上がっていたじゃありませんか。
    ……もしやこれらは全部、怪談の影響だと言うのですか」

ことり「うん。Cちゃんって私と同じ保健委員で、仲も良かったから聞いてみたんだ。
    『Cちゃん、ここ最近凄いよね。何か秘訣とかあったの?』って感じで。そしたら、」



『頭が良くなる方法を教えてくださいって、あの鏡にお願いしたの』



ことり「そう返されました。あの時は何か言えない秘密があって、誤魔化してるのかな。
    悪いことしちゃったな。って思って、その話はおしまいになったんだけど……」

52: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:44:09.36 ID:5SOp1+ck.net
ことり「いつだったかな。Cちゃんの言ってることってやっぱり本当だったのかな、って思い始めたんだ」

にこ「そりゃまた、どうしてよ」

ことり「美術の授業か何かで、自画像を描きなさいっていうテーマが出てね。
    皆で手鏡を用意して、自分の顔を見ながら絵を描くの。その時にことり、見ちゃったんだ」

花陽「見ちゃったって……何を?」

ことり「Cちゃんの鏡に映ったCちゃん。ううん、言い方が悪いかも。鏡の向こうにいた『本物のCちゃん』。
    こっち側では普通の顔してるのに、鏡の向こう側では泣きじゃくってるCちゃんの顔が写ってたの」

絵里「」ブルブル

ことり「鏡にお願い事をすると、確かにお願いを叶えてくれる。でも、それはこちらの自分の頭がよくなったりするわけじゃない。
     鏡の向こうの自分が出てきて、願い事の叶った自分に成り代わっちゃうんです」

希「そうして願いをした子の方は、鏡に閉じ込められてしまう……と」

ことり「……あの鏡の中に、まだCちゃんはいるのかな。鏡の前を通ったら、またCちゃんに会えたりしないかな。そう思っちゃいます。」

雪穂「うわぁ……私、暫くあの鏡の前通れないかも」

ことり「ご、ごめんね? 多分お願い事しなければ、大丈夫だから!
    それじゃあ、ロウソク消すね?」

53: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:47:23.40 ID:5SOp1+ck.net
   十話 『オレンジの香り』 (星空

凛「あ、次は凛の番だね。やっと話せるにゃー」

真姫「やっと話せるって……結構茶々入れてたじゃない」

凛「それはそれ、これはこれなの! えっと、凛は鼻が利くのが自慢なんだ。
   どんな遠くからでも、匂いだけで皆の事を探せるんだよ」

亜里沙「プロフィールの特技の所にも書いてましたよね! 私覚えてます!」

凛「えへへ……亜里沙ちゃん、覚えてくれたんだ。嬉しいなあ。
  それでね、皆の匂いをかぎ分けることも出来るんだ。例えば、かよちんはふわふわーってしてて、ほんわかした香り、みたいに」

花陽「り、凛ちゃん! その、恥ずかしいよぉ……」

凛「ごめんごめん。でもそれくらい、凛は鼻に自信があるってこと。
   そんな凛だけど、小学生の頃からずっと嗅いでる匂いがあるの。あ、かよちん以外でね?」

海未「それが、オレンジの香り……ですか?」

凛「うん。どこかさっぱりした、オレンジの香り。
  でね、この匂いを辿っていくと、公園に居る女の子の所に辿り着くの」

ことり「女の子?」

凛「小学生かな、いっつもオレンジのランドセルを背負った女の子。
   多分、この子の使ってるシャンプーかなにかの香りなんじゃないかな」

真姫「花陽、良かったわね。浮気じゃないみたいよ」

花陽「え、浮気って、そんな、えっ」

凛「真姫ちゃんは凛を何だと思ってるの……」

54: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/01(火) 02:48:55.04 ID:5SOp1+ck.net
にこ「それで、その女の子のどこが怪談なのよ」

凛「だってその子、小学生なんだよ」

にこ「はぁ? 別に今時小学生が高いシャンプー使ってたっておかしくないじゃない」

凛「違う違う。その子、『凛が小学生の頃からずっと』小学生のままなんだよ」

にこ「……えっ」

凛「最初に見た時から、何も変わってないの。まるで時間が止まってるかみたいに。
   時々立ってる場所が変わるから、完全に動かないってわけじゃないみたいだけど」

海未「……それは中々に、奇怪ですね」

凛「あの子が一体どんな子なのか、凛には分からない。分かるのは、いつもその子からオレンジの香りが漂ってくるってことだけ。
  ……これで凛の話はおしまい! ロウソク、消しちゃうね!」

59: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:20:56.04 ID:IKfaks16.net
   ξ
  ,┴,
  1'~!  フッ
  ||
  ┴┴

「……これで丁度一人一回ずつ、話し終わったわけやね」

「ロウソクが十本消えると、こうも違うのね」

「もう、互いの顔もはっきり見えないですね」

「うぅ、やっぱり怖い……」

「大丈夫にゃ!」ギュッ

「ひゃっ!? り、凛ちゃん!? びっくりしたぁ」

「あ、ごめんね……でも、凛がいるから大丈夫だよ!」

「……うん、そうだね。ありがとう」ギュッ

「暗がりに乗じて何やってんのよあんたら……」

「ねえ、ところで気になってたんだけど」

「どうしました? 穂乃果」

「絵里ちゃん途中からずっと黙ってたよね? 私、心配なんだけど……」

「そういえば……」

60: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:25:56.22 ID:IKfaks16.net
「私のことなら心配いらないわ。ちゃんと聞いてるわよ」

「あっ、絵里ちゃんいた。でも、さっきからちっとも喋ってない気が……」

「……ほ、ほら! 私、人の話に聞き入っちゃうタイプでしょ!?
 だから口数も少なくなるっていうかね! うん、そういうのだから!」

「そ、そうなんだ……まあ、大丈夫ならいいかな」

「ええ。私は平気だから」

(いやいや、えりち、全然大丈夫じゃないやん。声も身体もガッタガタ震えてるし……)

「ねえ、希。休憩はこれくらいにして、そろそろ後半始めない?」

「せやね。じゃあ、雪穂ちゃん以外は皆くじを引いてなー」ズイッ

「おわっ! 急に手を突き出さないでよ、驚くじゃないの!」

「いや、こうせんと皆よく見えへんし」

「にこちゃん、文句言ってるとくじ無くなっちゃうわよ」

「うー、お願いします神様、どうか出来る限り順番が後ろになりますように……」

「穂乃果ちゃん、まだ話すお話決まってなかったんだ……」

61: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:28:05.98 ID:IKfaks16.net
    話 『お兄ちゃんの話』 (小

えっと、私からでいいんだよね? それじゃあ話します。

私、穂乃果ちゃんや絵里ちゃん、にこちゃんのこと、時々羨ましいなぁって思うの。妹や兄弟がいて、羨ましいなぁって。

いろんなことが共有できて、いつも一緒に楽しめて。喧嘩したりすることもあるけれど、すぐに仲直りしちゃうし。

花陽は一人っ子だから。そういうのに、憧れちゃうんです。……うん、ありがとうね。

でも、花陽がそういうのに憧れるのって、一人っ子っていうのが理由だけじゃないのかもしれないんだ。

実は私、お兄ちゃんがいたかもしれないんです。

……凛ちゃんも初耳? そっか、やっぱり凛ちゃんも覚えてないんだ。ううん、仕方ないの。だって私も、もううっすらとしか覚えてないから。

63: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:31:10.75 ID:IKfaks16.net
私のお兄ちゃんは、ちょっと悪戯好きなところもあったけれど、大好きなお兄ちゃんでした。

小学生の頃、お兄ちゃんが花陽のこっそり取っておいたお菓子を食べちゃって喧嘩したことがあったんだけど。

その時もお兄ちゃん、泣いている私の部屋におにぎり持ってきたりして。『ごめんな』っていう置き手紙も残して。

変に不器用だったけど、そういう所で優しいお兄ちゃんでした。それで私達も仲直りしてね。

他にも、もっと色んなことがあったりしたの。一緒に川や海に行ったりもしたはずなの。

それなのに、全部ぜんぶ、頭にもやがかかってるみたいに思い出せない。段々私の記憶からも、お兄ちゃんが消えて行ってる。

64: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:34:27.38 ID:IKfaks16.net
お兄ちゃんが消えたのは……ちょうど私が音ノ木坂学院に入学してすぐ、かな。

家に帰って来た時に、お兄ちゃんの靴がなかったから、お母さんに聞いてみたの。

『何言ってるの? あ、分かった。お兄ちゃんがいたらいいのに、とか思ったんでしょう。
 ……あれ、でも凛ちゃんはお兄さんいなかったわよね? 新しいお友達の影響かしら』

あまりのことに、声も出ませんでした。何言ってるの、って言いたいのはこっちの方なのに。

お母さんがとぼけてるだけかもしれない。そうだ、きっとそうだよ。お兄ちゃんとひどい喧嘩をしたから、だからそんなこと言ってるんだ。

そう思って私は、他の家族にも聞いて回りました。おじいちゃまにも、おばあちゃまにも、帰ってきたお父さんにも。

……でも、皆知らないって。お兄ちゃんに関することが、皆の中から綺麗に消えちゃってたんです。

まるでお兄ちゃんが、最初からいなかったかのように。

65: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:37:09.59 ID:IKfaks16.net
私はお兄ちゃんの痕跡を必死で探したの。お兄ちゃんはここにいたんだってことを確認するために。

お兄ちゃんの部屋は、書斎になってました。お兄ちゃんの私物は、全部無くなっていました。

家族写真のアルバムも一枚一枚しっかり確認したけど、お兄ちゃんは写ってなくて。おかしいよね、どれも一緒に撮ったはずなのに。

ただ、最後の一枚……私の高校入学の記念に取った家族写真にだけは、お兄ちゃんがいました。私の肩に手を置くお兄ちゃんが。

だけど、日が経つうちにどんどん薄くなって……今ではもう、その写真にもお兄ちゃんは写っていません。

いつか私もお兄ちゃんの事、完全に忘れちゃうのかな。……嫌だ、嫌だよ、そんなの!

お兄ちゃんのこと、忘れたくない、絶対に、絶対……。










あ……ごめんね。何の話してたんだっけ。思い出せないや。

この話は終わりです。ロウソク、消しますね。

66: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:39:47.31 ID:IKfaks16.net
       『あけて』 (

ハラショー……花陽さんのお話、すごくハラショーでした。よし、亜里沙も負けないように頑張ります!

私が話すのは、お姉ちゃんと同じロシアの民話です。小さいころに聞いて、思わず泣いちゃったほどの話なんですよ。

あー! 雪穂、笑わないでよ! そりゃ、あんまり怖くないかもしれないけど、あの頃は本当に怖かったんだから!

もう……それでは、話しますね。

とある村のはずれに、一人の男性が住んでいました。彼は猟師だったので、毛皮や肉を売り、生計を立てていました。

ある年の冬のこと、寒波が村を襲いました。吹雪が何日も何日も続くほどの、強い寒波でした。

吹雪が続いていては、男も猟に出ることが出来ません。

幸い、男の家には食料や燃料の蓄えがありましたから、彼は吹雪を耐えしのぐことにしました。

猟に出れない彼が出来ることは、居間の暖炉の前で銃を磨きながら暇な時間を過ごすことだけでした。

67: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:43:35.52 ID:IKfaks16.net
吹雪が続いて五日目でしょうか。男の家の窓は、打ち付ける雪に時折キシキシと音を立てます。

男がいつもの様に銃を磨こうとすると、扉を叩く音が聞こえてきました。



『こんばんは、あけてください』



強い風の中、やけにはっきりと聞こえたか細い声。声の主は女性のものでした。



『さむい、さむい、あけてください』



おそらく、命からがらここを見つけた旅人だろう。そう思って男は、窓際に銃を置いて家の扉を開けようとしました。

が、扉を開ける直前。男は踏みとどまりました。今はまだ蓄えがあるが、あと三日もすればそれも尽きてしまう。

そんな状態で旅人を泊めたら、万一吹雪が長引いたときに、自分は耐えしのぐことが出来なくなってしまう。

68: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:46:06.93 ID:IKfaks16.net
扉の向こうから、なおも声は聞こえてきます。



『はやく、はやく、あけてください』



男は、扉に向かってこう言いました。「悪いが、開けることはできない」

……一瞬、扉の向こうの音が止まりました。それから、返ってきたのはドンドンドンドン!!と扉の向こうを猛烈に叩く音。

その音に男は怯みました。やっこさん、家に押し入ってくる気だな。そう思った男は窓際に置いた銃を取ろうとして。

見てしまったのです。窓に張り付く、長い黒髪を振り乱した女性の姿を。

聞いてしまったのです。その女性の口から発する言葉を。



『 あ け て く だ さ い 』

69: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:49:17.83 ID:IKfaks16.net
……男は、もはや気が気ではありませんでした。銃を持って立ち向かう勇気は、男の中から消えてしまったのです。

自分の部屋に鍵をかけ、ベッドに飛び込み、ガタガタ震え始めました。すると、



バタン



扉の『閉まる』音。それから、コツ、コツ、コツ。まるで、家の中をやせぎすの誰かが歩くような音。

男はたまらず叫びました。「やめろ! お前なんぞ家にいれてやるもんか!」

途端に、コツコツ音は無くなりました。聞こえるのは、男の荒くなった息の音だけ。

どうやら、追い出せたようだ。震えながらもそう思い、男はほっとしました。その瞬間、男の耳元で。

70: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:50:57.49 ID:IKfaks16.net
                     






                           『   あ    け    て   』









. ?
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)

71: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:54:22.37 ID:IKfaks16.net
……ベッドの上の男が目を覚ますと、既に吹雪はおさまっていました。

どうやら長い間、男は気絶していたようです。あの女の姿はありません。

それどころか、家の中を誰かが踏み荒らした形跡もありません。扉の鍵も閉まっていたままでした。

……それから、この村では、この様な言い伝えが受け継がれるようになったそうです。

『吹雪の夜は何があっても扉を開けてはならない。雪が、人ならざるものを連れてくる』、と。

これで亜里沙の話はおしまいです。

皆さん、ありがとうございました……ところで途中、何か物音しませんでしたか? バタン、って。

72: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 02:56:27.01 ID:IKfaks16.net
       『台本板』

前の二人、本当に凄かったね~……ことりもさっきから、震えが止まりません。

それじゃあ、私も頑張って話そうかな。今度は小学校の頃の話。

皆は台本板って覚えてる? そう、小学校の図書室で本を借りる時に使ってたあの板のこと。

あれを使ってると、本を借りてます、って気持ちになるから、返す時も忘れずに済むの。

これはそんな台本板のお話。

73: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 03:00:11.74 ID:IKfaks16.net
えっと、あれはいつだったか忘れちゃったけど、確かクッキーの作り方の本を借りに行ったときかな。

ジンジャークッキーのレシピが載ってる本が家にはなくて、それで借りに行ったの。

その本を見つけて、台本板を代わりに差し込もうとした時にね。不思議なものがあるのに気が付いちゃったんだ。

それはね……黒い台本板。ね、あんまり見ないでしょ。

他の学年の台本板じゃないのかって? 最初はそう思ったけど、どうも違うみたいだったの。

だって、一面だけじゃなくて、他の面も真っ黒に塗られてたから。普通台本板って、前から見える部分だけ色を塗って、そこに名前を貼るでしょ?

だから私、間仕切りの代わりに使ってるのかなぁ、なんて思って。

貸出カウンターにいる司書の先生に「あの黒い台本板って、何なんですか?」って聞いてみたの。

75: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 03:03:26.52 ID:IKfaks16.net
そしたら司書の先生の顔つきが急に変わって、またか、って。

どうしたんだろう……そう思ってたら、司書の先生がその黒い台本板を持ってきたの。

……よおく見るとね、その台本板、黒く塗ってあるわけじゃなかった。

炭だった。真っ黒に焦げた、ぼろぼろの台本板で。思わずひぃっ、って悲鳴をあげちゃった。

その先生が言うには、火事で亡くなった生徒の持ち物なんじゃないかって。

それで、本が好きだったから、今でもこうやって本を借りに来ているんじゃないかって。そう説明されました。

話を聞いて、その子はすっごく本が好きだったんだなぁ、とか、可哀想だな、とかあの時は思ったの。

76: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/02(水) 03:04:56.81 ID:IKfaks16.net
でも最近、あの先生の言ったことって、実は作り話だったんじゃないか、って気付いたんです。

多分、生徒の恐怖心を和らげるための優しい嘘だったんじゃないかって。なんでかって?

だって普通、台本板って家に持って帰らないで、学校に置いておくものなんです。

火事にあった子の幽霊の仕業なら、台本板が燃えて炭になっているのは、おかしくないかな。

それに……その後私、見ちゃったんです。

本棚の中ほどに二つ並んでいる、黒い台本板。

一人に配られる台本板は、一つだけ。それじゃあ、私の見た光景はなんだったんでしょう。

……あの小学校も、音ノ木坂学院にひけをとらないほど、長い歴史のある学校でした。

ひょっとしたら、その長い歴史の間に何かあったのかもしれません。

黒い台本板がいくつもできるような、そんな出来事が……。

話を終わります。ロウソク、消しますね。

83: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:26:01.30 ID:o18DgxYF.net
       『放送室の怪』

次は私ね。これは、放送部の友達に聞いた話なんだけど……な、なによ。からかわないで。

……あーもうっ! 話に移るからにやにやするの止めなさいよ! 見えなくても分かってるんだから!

はあ……それじゃ話すわよ。それでその子も放送部だから、放送室の怪談とかには詳しいの。

放送室は学校の全体に声を届ける拡散力がある。外の世界を遮断する厚い扉と防音設備がある。

だからこそ、自分の存在を知ってほしい、っていう幽霊が集まりやすい。

部屋の中で何が起こっても外からだと全く分からない。逆にいえば、何が起きても不思議じゃない。

この二つの理由が重なるから、放送室では怪奇現象が起こりやすいんだって……その子の受け売りだけどね。

今回話すのは、そんな放送室にあるカセットテープの話。

84: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:28:10.76 ID:o18DgxYF.net
放送室の放送って、いつか私達がやったみたいにその場で直接話すだけじゃないの。

時々クラシックを流したり、過去の対談をリバイバルとして放送したりもする。

そういう時のために、CDやカセットテープもたくさん用意してあるみたい。

……だけどその中に一つだけ、厳重に封印されたテープがあるらしくて。

それが今回話すカセットテープ。そうね……呪いのカセットテープ、とでも言えば良いのかしら。

あまりに厳重に保管されていたから、聞いた人は一週間後に死ぬとか、死んだ放送部長の声が入ってる、とか。

そんな感じで、長年部員の間では噂のタネになってたらしいわ。

85: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:29:48.07 ID:o18DgxYF.net
でも、そのテープの封印が一度だけ解かれたことがあるそうよ。

今から七、八年前のことかしら。当時放送部では肝試し企画をやろう、ということになったらしいのよね。

その企画に特に入れ込んでいた当時の放送部長が、テープの封印を解こうと言い出した。

丁度良い機会だし、私たちで封印を解いて中身を解明してみよう、ってね。

勿論反対する部員も多かった。だけど、最後には部長の熱意や企画の成功という名分に押し負けて、とうとう聞くことになったの。

件のテープは、放送室の引き出しの奥に閉まってあった。鎖でぐるぐる巻きにされた、物々しい小物箱の中にね。

何とか鎖を取り払って、取り出したテープをレコーダーで聞いてみると……少し拍子抜けかもしれないわね。

所々ノイズが聞こえてくるだけで、あとはほぼ無音のテープだった。部員の中には安堵する顔もあれば、落胆する顔もあったそうよ。

ただ、部長はどちらでも無かった。テープを聞き終えた後、真顔でこう言い放ったの。

『せっかくだし、このカセットテープを使って企画を進めよう。その方が面白そうだし、このテープも名前に箔が付く』

87: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:32:43.50 ID:o18DgxYF.net
部長の提案はこうだった。もともと放送室で直接怪談を語るっていうのが本筋の企画だったけれど、それではつまらない。

だから、各自このカセットテープに怪談を録音していこう。そうして最後にこの怪談は呪いのカセットテープを使用しています、と皆に発表する。

そっちの方が皆も怖がるだろう、って……なかなかとんでもない発想よね。ただでは転ばないっていうか。

まあ、特にテープは普通だったしそれくらいなら、と部員たちは賛成したの。それで企画が始まったんだけど。

……そのテープ、録音でいくら上書きをしても、ノイズが残るのよ。いや、残るだけだったらまだ古いからで納得できる。

ノイズの位置が、録音する度に変わっていく。しかも、その音も大きく、はっきりと聞こえるようになってきたの。

この時点で、やめようと部長に進言した部員もいた。何かがおかしい、そのテープを使うのをやめよう、って。

でも、部長はそれを認めなかった。せっかく怪奇現象が起こってるんだ、むしろ好都合じゃない、そう言って聞く耳を持たなかった。

88: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:34:38.45 ID:o18DgxYF.net
そして、企画もいよいよ最終日。その日は部長が怪談を流す予定だったの。

けど……その怪談が流れることは無かった。部長はそのテープと一緒に、交通事故に遭ってしまったから。

一緒に登校してきた友人の話だと、彼女はずっと何かをぶつぶつ呟いてたみたい。

大丈夫かな、話しかけた方が良いかな、どうすれば。そう友人が思っているうちに、彼女は突然走り出して。

そのまま車道に飛び出して……即死だったそうよ。

でも、彼女の持っていたテープは不思議なことに無事だった。他の荷物なんて、ぐちゃぐちゃに潰れていたのによ?

悲しみにくれる部員たちは、このテープを聞くことにした。部長の最後の作品だから皆で聞こう、ということになって。

そのテープは、どうやら中身も無事だったようで、ちゃんと彼女の怪談が入ってた。

ただ、その怪談に交じって、後ろで女性の声が重なっていたの。どんな声かって?



『死ね……死ね……死ね……』



そう繰り返す、怨嗟の溢れる女性の声。部員たちは恐怖のあまり、テープを途中で切った。

……でもね。切る直前に、部員たちには聞こえちゃったのよ。

怪談を語る時の声とは全く異なった、部長の、たすけて、っていう声。

……皮肉にも噂通りになってしまったそのテープは、再びお蔵入り。今でも放送室の机の中に封印されてるらしいわ。

ロウソク、消すわね。

89: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:37:24.14 ID:o18DgxYF.net
       『くらのおく』

かよちんのお家にはね、立派な蔵があるんだ! 中は二階建てになっててね、上の方にも荷物がしまえるようになってるの。

凛も昔はかよちんと一緒に、よくその蔵の中を探検したりしたなぁ。こうやって懐中電灯を持って、気分はまるで、お宝を探す探検隊! 

でも、大抵はかよちんのお父さんやお爺ちゃんに見つかって怒られておしまい。

子供二人で何かあったら大変だ、あそこは危ないからあんまり奥に行っちゃだめだ、って。

それでも、夏にはこっそりかよちんと一緒にね、蔵の中に入ってたりしてたんだ。

だって蔵の中って、ひんやりしてすっごく涼しいんだよ! それが気持ちよくて、ついつい入っちゃうの。

90: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:40:08.53 ID:o18DgxYF.net
中学生になってからはあんまりそんなことしなかったけど……この前、久しぶりに蔵の中に入ったんだ。

かよちんのお婆ちゃんに頼まれたんだ。漬けてある梅干しの様子が見たいから、蔵から持ってきてくれないか、ってね。

だから、凛とかよちんの二人で梅干しの入った壺を探しに行ったの。

久しぶりの蔵の中は、やっぱり涼しかった。だけど、改めて見ると、小さい頃に見えなかったものや道具がいっぱいあったよ。

いかにも、って感じの巻物とか、古びた木製のタンスとか。そういうのを見ると、宝探しみたいでちょっとわくわくするよね。

お婆ちゃんから大体の場所は聞いてきてたから、簡単に梅干しの壺は見つかって。さあ、早く持っていこう、って時に。

凛の気のせいかもしれないけど。

ちりん、ちりん。

蔵の奥の方から、そんな音がした。

91: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:42:12.05 ID:o18DgxYF.net
思わずそっちの方を見たけど、まっくらで何も分からない。

高い所についてる通気窓や、開けっ放しの扉から光は差し込んでたけど、それでも全然見えないの。

まるで、ずうっと奥の方まで、蔵の中が続いてる……そんな風に感じたんだ。

懐中電灯を向けてよく見ようとすると、凛ちゃん、どうしたの、ってかよちんが不安そうに声をかけてきた。

かよちんにはさっきの音が聞こえなかったんだ、やっぱり凛の気のせいだったのかも。

そう思って、何でもないって言おうとすると、また奥の方から、ちりん、ちりりーん、って。

……二人で顔を見合わせちゃったよ。こんどはかよちんも聞こえたみたいだった。

気のせいなんかじゃなかった。蔵の奥で、何かが鳴ってる。

92: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:44:46.06 ID:o18DgxYF.net
凛ちゃん、もう出よう。

壺を片手で抱きかかえたかよちんは、空いた方の手で凛の手をぎゅっと掴んで、震えてた。

凛だって早くこの蔵から出たかったよ。蔵の奥に何がいるのか、凛の頭じゃ予想もつかないもん。

それでね、二人で一歩、蔵の扉の方に近付いたらね。


ちりりりりりりりり!

           ちりりりりりりりん!


音がまるでこちらに迫ってくるみたいに、大きくなって。

たまらず凛、にゃああああああ、って叫びながら、かよちんの手を引っ張って外まで走っちゃったよ。

そしたら、音はぴたり、と止まっちゃった。凛もかよちんも、心臓がばくばくしてたと思う。

そのまま蔵の扉を急いで閉めて、かよちんのお婆ちゃんの所まで戻って、ようやく落ち着いた。

かよちんのお婆ちゃん、凛たちの様子を見て最初はびっくりしてたよ。何かあったのか、って。

93: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:46:27.62 ID:o18DgxYF.net
だけど凛たちが蔵の中で起きたことについて話すと、何かを思い出したような顔をしたんだ。

そう、出してあげないとね、って。

それから凛たちに、音の鳴る方に緑色の箱があるから、それを持ってらっしゃい。大丈夫、怖いことは起きないから。って言ったの。

なんでそんなこと分かるんだろう、って思ったんだけど、不思議と安心感があってね。

かよちんと二人で手をつないで、もう一回蔵の中に入ったんだ。そうしたらまた、ちりん、ちりんってあの音がする。

言われた通り、音の鳴る方に向かうと……うん、緑色の細長い箱があって。それを持ち上げたら、箱の中から、ちりんって音がした。

どうやらあの音は、その箱から鳴ってたみたいなんだ。

94: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/03(木) 02:48:00.63 ID:o18DgxYF.net
かよちんのお婆ちゃんの所に戻ると、かよちんのお婆ちゃんが箱を開けてくれたの。

中から出てきたのは……風鈴だった。水色のグラデーションの中を、赤と黒の金魚が泳いでる、すごく綺麗な風鈴。

長いこと、蔵の外に出してなかったから、息が詰まっちゃったんだろうね。

夏が終わる前に出してほしい、出してほしい、って。それで二人のことを呼んでたのよ、きっと。

かよちんのお婆ちゃんがそう言いながら指先で金魚をなぞると、ちりん。返事をするみたいに風鈴が鳴ったの。

……ちょっぴり、いや、かなり怖かったけど。風鈴さんにも悪気は無かったんだし、許してあげることにしたにゃ。

今もお化け風鈴さんは、かよちんの家に飾られて、ちりん、ちりん。涼しげな音を立ててるよ。

これで凛の話は終わりっ!

103: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 01:42:27.81 ID:Gx9X5Cnb.net
       『髪切り蟲』

先程の凛の話、時節にもあった素敵な怪談でした。……はい、思わず聞き入ってしまいましたよ。

それでは私も、とっておきの話をしましょうか。

私はこの様に髪を長く伸ばしていますが、一年ほど髪がなかなか伸びない時期がありました。ええ、小学五年生あたりでしょうか。

あの頃の私の髪は……今よりほんの少し短いくらいでしたか。同じクラスにも、ここまで伸ばしている人は少なかった様に思います。

それもあって、髪が伸びていないことに初めて気が付いたのは、穂乃果やことりに指摘されてからでした。

『あれ、海未ちゃん……なんか髪伸びるの、遅くない?』

穂乃果のその一言がきっかけで、髪の長さを気にするようになったのですが……それから一か月ほど、毎日長さを測ってみたんです。

しかし長さは変わりませんでした。普通一か月もすれば、1cmほどの違いは出てくるはずなのです。

一体どういうことなのか、不思議には思いましたが、その時はそれどころではありませんでした。

……穂乃果が、私の髪の成長の様子を日記にして自由研究にするなどと言い出したのを止めるのに精一杯でしたから。

ええ、忘れてはいませんよ。

104: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 01:44:02.14 ID:Gx9X5Cnb.net
髪が伸びなくなってから、三か月後のことでしょうか。

どうにも寝つきが悪い日がありまして。ベッドの上で横になって呼吸を整えて、やっとうとうとし始めたのですが。

どこからか、物音が聞こえ始めたんです。刃物と刃物を合わせるような、シャキン、シャキン、という音でした。

驚いて起きると……音は私の背中のあたりから聞こえます。まさか、と思い髪の毛の先の方を見てみると。

そこには、黒い鋏を持った虫……そうですね、どちらかというとクワガタに近い見た目でしょうか。

その虫が、私の髪の毛を切っている所でした。髪が伸びないと言いましたが……それは誤りで、本当は髪が切り揃えられていたのです。

慌ててその虫を手で追い払おうとすると……手に何も感触がありません。いつの間にか、その虫は消えてしまっていました。

加えて不思議なことに、切られた方の髪も見つからないのです。ベッドの上をいくら探しても、切られた髪は出ては来ませんでした。

105: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 01:48:34.14 ID:Gx9X5Cnb.net
それからその虫――『髪切り蟲』は、私が寝静まるごとに髪の毛を切り取っていくのです。

何とか切られまいとしても、どうやら私のあの虫に触ることすら出来ないようでした。

……気味は悪いのですが、髪が少し切られるだけで他に大した被害はありません。

どうしようもない以上、私にはこの虫を放っておく以外の選択肢はなかったのです。

このまま、一蓮托生の関係で私に一生ついて回るのでしょうか。時々そう考えて、少しぞっとしたこともあります。

……しかし、この奇妙な虫との共生生活は意外な形で終わるのです。

その年の春休み。ああ、穂乃果とことりも覚えていますよね。

事故に遭ったんですよ、私。

106: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 01:51:37.84 ID:Gx9X5Cnb.net
あれは母からの頼まれ事を終えた、帰りのことですか。

横断歩道を渡っている所に、わき見運転をしていた車が突っ込んできたのですよ。

人間、咄嗟のことには身体が動かないと言いますが、まさにそれでしたね……もっとも今なら、日々の鍛錬不足と自省しそうですが。

避けることも適わず、私は跳ね飛ばされ……意識が戻った時にいたのは、病院のベッドの上。

側には父と母、それから穂乃果とことり。二人とも私が起きた途端に泣きながら抱き付いてきて。

それで私も何故か泣いてしまいましたよ。その様子を、父と母は黙って見守ってくれていました。

それから、医師の先生が入ってこられて。両親と私に、怪我の具合を伝えに来たのですが。

『……奇跡とでも言うべきでしょうか、全く外傷が見当たりません。一日検査入院するだけで退院できるでしょう』

思わず耳を疑いました。あのように車に跳ね飛ばされて、傷の一つも付かないなど、ありえるのでしょうか。

いやしかし、実際に身体はどこも痛くありませんでした。

穂乃果やことりに抱き付かれた時でさえ、痛みは感じなかったのですから。

107: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 01:55:00.80 ID:Gx9X5Cnb.net
結局、その日は入院して病院で一人夜を明かすことになったのですが。

寝ようとした時に、枕元に黒い何かがあるのが目に入りました。

よくよく確認してみると……それは髪切り蟲でした。いえ、正しくは髪切り蟲の死骸でしょうか。

私がしばらく見つめていると、それは空間に溶けるように静かに消えて行きました。

あの虫はそれきり、一度も私の前には現れません。髪もまた伸びる様になりました。

……今になって思えば、あの虫は私の身代わりとなってくれたのではないでしょうか。

古来より、『髪は女の命』と言いますよね。

単なる比喩表現の一つと言えばそれまでですが、どうにも私はそうだとは言い切れません。

あの虫は私の髪……すなわち生命力を蓄えており。そして、私が負うはずの怪我を肩代わりしてくれた。

私には、そんな気がするのです。

これで私の話は終わりです。ロウソク、消しますよ。

109: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:02:39.63 ID:Gx9X5Cnb.net
       『部室の影』

いよいよロウソクの数も少なくなってきたわね。

十本消えたあたりから周りは見え辛くなってたけど、流石にここまで暗いとあんたらがいるかどうかすら……わひひゃう!

凛、あんた首筋触って驚かせようとすんのやめなさい! 笑い声こらえてんのバレバレなのよ!

まったく……後で覚えときなさいよね。

さて、それじゃあ話そうかしら。

皆はオトノキ七不思議、つまりうちの学校の七不思議って知ってる?

希は当然として……ふんふん、なるほど。結構な人数が知ってるのね。

でも、学校の七不思議なんてよくいうけど、実際に学校にまつわる怪談は七つだけじゃない。そうでしょ?

さっき私が話した移動教室も、真姫ちゃんの話した放送室の話も、七不思議には入ってないわけだし。

今から私の話す怪談も、そういった中のひとつ。舞台は……うちの部室。

そう、これはアイドル研究部室の怪談なの。

110: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:04:12.84 ID:Gx9X5Cnb.net
確かあれは……あまり言いたくないけど、私が職員室で説教と反省文を喰らってた時かしら。

もしかしたら後半から参加できるかも、って思ってたけど、予想以上に説教が長くて。

全部聞き終わって反省文に移る頃には、もう練習時間は終わってた。

海未とか絵里が聞いたら、自業自得だとかきっと言うんでしょうね。

そんなことを考えながらのそのそ書いてると、穂乃果が部室の鍵を渡しに来たの。

ちゃんと施錠しておいたから、後は頑張ってね、ファイトだよ!

それだけ言って自分だけさっさと戻っていった。あの様子だと、ことりと海未を待たせてたのね。

そういう訳で、ミューズの中では私一人だけが学校に残ってた、と思う。

111: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:06:12.37 ID:Gx9X5Cnb.net
反省文を書き終えて提出し終えた頃には、もう日はとっぷりと暮れていた。

急いで帰らないと。そう思って下駄箱に向かってたんだけどね。途中で大事なことに気が付いたのよ。

今日家でじっくり見るつもりだったアイドル誌、部室に置き忘れてきちゃった、って。

……なによ。にこにとっては死活問題だったの! 悪い!?

それで、アイドル誌を取りに行くために部室に戻ることにしたの。

そうして部室に続く廊下を歩いていたら、何かおかしいことに気付いた。

部室の電気がね、点いているの。

112: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:10:50.84 ID:Gx9X5Cnb.net
最初見た時は、穂乃果が電気を点けたまま鍵を閉めたんだと思ってた。うっかりしてるわね、って。

でも、近付いてみるとどうにもそうじゃなさそうでね。

部室の扉にかけてあるカーテンに、人影が映ってた。それに声まで聞こえてきたの。

流石の穂乃果でも、部室に人がいる状態で鍵なんてかけるわけないじゃない?

とりあえず、部室のドアに耳をあてて中の様子を伺ってみたのよ。

そしたら、聞こえてきたのは……皆の話し声。

『わたし無理』とか、『ちょっと寒くないかにゃ?』とか、そういう感じでね。

一瞬ドッキリかしらと思ったけど……すぐに違うって分かった。

最終下校時刻なんてもうとっくに過ぎてる。私は例外にしても、学校に残ってる生徒なんていないはず。

そもそも、海未や絵里もいるのにそんな時間まで残っているなんてありえない。

……じゃあ部室の向こうで喋ってるのは、一体誰なの。

113: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:13:40.05 ID:Gx9X5Cnb.net
部室の向こうからは、相変わらず話し声が続いていたわ。

そりゃあ私だって怖かったけど、アイドル誌が部室にあるんだもの。帰るわけにもいかなかった。

だから、鍵を開けて一喝したのね。そうすれば、相手も怯むんじゃないかと思ってね。

こらぁ! あんたら、部室で何してんの! って。

でも、最後の方は尻すぼみに終わったわ。

だって部室、さっきまであんなに騒がしくて、人影もあったはずなのに。

誰も、いないんだもの。

114: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:15:13.33 ID:Gx9X5Cnb.net
呆然としてると、部室の電気がいきなり消えて。もうアイドル誌どころじゃなかった。

部室の鍵を閉めて、ダッシュで逃げ帰ったわよ。本当に怖かったんだから。

でも……一番怖かったのは必死に鍵を閉めてる時かしらね。

震える手で鍵を回してたら、また中から声が聞こえたのよ。

にっこにっこにー、って。

最後に聞こえたのは、何度も録画した映像を通して聞いたことのある声。

いつ聞いてもうっすら違和感のある、あの声。

……ええ、間違いない。あれは、私自身の声だったわ。

これで話を終わるけど……あんたたちも、夜の部室には気を付けなさい。

115: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:21:24.64 ID:Gx9X5Cnb.net
       『消える七不思議』

ついに私の番まで来ちゃったかぁ……あ、話の方は大丈夫だよ! 本当だってば!

さっきのにこちゃんの話もあって、やっと思い出したんだ。 いやー、助かったよー。

えっとね、これはうちのお母さんから聞いた話。お母さんもこの学校の卒業生だから、大先輩から聞いた話ということになるのかな。

うん、そう。この話も音ノ木坂学院の怪談なんだ。それもただの怪談じゃなくて、ちゃんとした七不思議のひとつ。

オトノキ七不思議には入っていない、「八番目の七不思議」。それがこの怪談なんだ。

そういう意味でも、消える七不思議って言えるのかも。

次の世代に受け継がれないまま消えていった七不思議。

あってはならないものとして、七不思議から消されてしまった七不思議。

ほら、何だかぴったりな名前じゃない?

116: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:24:28.73 ID:Gx9X5Cnb.net
名前の話はこれくらいにして、怪談の中身の方に移るけれど。

この七不思議はね、一人の生徒を作りだすんだ。ううん、人間になっちゃうっていうのが正しいかな。

それでその生徒になって、皆と一緒に三年間を過ごすの。それ以外は何もしない。

先生や他の生徒にばれちゃったりしないのかな、って思ったけど、お母さんが言うにはそういうことは無いんだって。

怪異の力っていうのかな。人を一人簡単に作りだせる程の強い力を持ってるから、皆に気付かせないようにすることも出来るらしいの。

そうやって私達の中に溶け込んで、一緒に学園生活を楽しんで。

卒業式を迎えると……その七不思議は消えちゃうんだ。

152: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:50:33.38 ID:Gx9X5Cnb.net
訂正

>>116 2~3行目

誤「この七不思議はね、一人の生徒を作りだすんだ。ううん、人間になっちゃうっていうのが正しいかな。

  それでその生徒になって、皆と一緒に三年間を過ごすの。それ以外は何もしない。」

正「この七不思議はね、一人の生徒を作りだすんだ。ううん、生徒になっちゃうっていうのが正しいかな。

  学校の生徒になって、皆と一緒に三年間を過ごすの。それ以外は何もしない。」

>>147 6行目
誤「『…………ので、……り……すね』」

正「『…………、……り……すね』 」

117: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:26:27.44 ID:Gx9X5Cnb.net
消えちゃうっていっても、姿形が消えてなくなるだけじゃくて。

三年間で残したもの、まるごと消しちゃうの。在籍していた記録も無くなっちゃうし、皆の記憶からも自分のことだけを抜き取っちゃう。

黒板の落書きから卒業アルバムの写真、寄せ書きの一文字に至るまで。とにかく全部を消しちゃうんだ。

そうしてリセットボタンを押すかの様にこの世から一旦いなくなった後……次の年の入学式に、また七不思議は現れる。

こうしてその七不思議はここ、音ノ木でずっと高校生活を繰り返してるんだって。

ひょっとしたらあなたの友達の中にも、その七不思議がこっそり紛れているのかもね。

そう言ってお母さんは、この話をおしまいにしました。

でも私、少し寂しいなって、そう思ったんだ。

118: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:28:51.24 ID:Gx9X5Cnb.net
きっとその七不思議は、学校……音ノ木坂学院のことや、そこに通う子たちや先生たちのことが、大好きなんだよ。

その大好きって気持ちが抑えられなくて、だから音ノ木の生徒の一員として現れてるんだと思う。

それで自分は学校から出られないから、最後に皆の記憶を消してるんだろうけど……やっぱりそんなの、寂しすぎる。

もしかしたら七不思議……ううん、七不思議さんも寂しいってこと、自分で分かってるのかもしれない。

だから時々、こんな七不思議があるんだっていう噂だけを広めて、自分の足跡を、ちょっとだけ残していくんじゃないかな。

そうじゃなきゃ、誰もそんな七不思議があるってことにすら気付かないから。

……私、その七不思議さんと友達になりたい。友達になって、寂しくなんかないよって伝えてあげたい。

どんなに遠く離れてても、記憶から消えちゃっても。心で通じ合ってれば、絶対に思い出せるから。だから、寂しくなんかないって。

そう、言ってあげたいんだ。

最後の方は何だか怪談っぽくなくなっちゃったけど、これで私の話は終わり。

ロウソク、消しちゃうね。

119: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:33:08.00 ID:Gx9X5Cnb.net
       『百物語』

さて、最後はウチの番やね。せっかくのラストだし、ウチもちょっとだけ張り切っちゃおうかな。

今こうやってウチは話しているけど、ウチの方から皆のことは全然見えんなぁ。

多分皆も、ロウソク一本が光る中で同じようになってるんと違うかな。

ほとんど真っ暗闇の中、自分以外の人たちがいるのかいないのかも分からない。

周りはどうなっているんやろか。自分の隣にいるのは、本物の誰かさんやろか。

そういう風に疑心暗鬼になったが運の尽き。それだけで簡単に恐怖感というのは生まれてしまう。

せやからウチ、百物語っていうんは、それ自体が一つの怪談やと思っとるん。

これから話すのも、そんな話。まあ、軽く聞き流すくらいの気持ちで大丈夫よ。

120: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:35:10.87 ID:Gx9X5Cnb.net
百物語っていうのが始まったころは、今よりもきまりが厳しく取り決められててな。

行う日だとか、服装だとか。ロウソク以外にも準備するものがあったりだとか。

でもって、その中にはこういうきまりもあった。

百物語を行う時、話は九十九話までしか話してはいけない。

これは、百話語り終えてしまうと本物の怪異が出てきてしまう、と信じられていたからなんよ。

怪談話が百話集まると、それだけ大量のエネルギーがこの場に集まることになる。

それを目当てにして、怪異が寄ってくる……という寸法やね。

逆に言えば、怪異を呼び寄せたり、不可思議なことを起こすために百物語を用いることもできるんやけどね。

121: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:36:31.19 ID:Gx9X5Cnb.net
これだけだと怪談とは言えないし、もう少しだけ続けよか。

百物語で呼び出される怪異っていうんは、話の内容によっても変わってくるんよ。

恐怖の大きさは勿論、話し手の想いの強さとか、話す内容の指向性とか。

要は、話の質と語り手の技量。出てくる怪異は主に、この二つに大きく影響されるんや。

……そういえば、今回の話。ふふ、話の内容が結構偏っとらんかった?

まるで前もって、何を話すか示し合わせてたかみたいに。

122: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:38:18.74 ID:Gx9X5Cnb.net
例えば、学校にまつわる話。



『ただの空き教室じゃない。移動する空き教室なの』

『中学の頃の七不思議の一つに、鏡にまつわる怪談があってね』
               
『放送室では怪奇現象が起こりやすいんだって』



例えば、何かが消える話。



『お母さんが厨房の電気を付けると……そこには誰もいませんでした』

『お兄ちゃんに関することが、皆の中から綺麗に消えちゃってたんです』

『卒業式を迎えると……その七不思議は消えちゃうんだ』



そして……何かが聞こえる話。



『あれは、先生の最後の挨拶だったんだと思う』

『そっちから鈴虫の声が聞こえてきたから』

『あけてください』

『二人のことを呼んでたのよ、きっと。』

『聞こえてきたのは……皆の話し声』


.

123: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:40:22.08 ID:Gx9X5Cnb.net
こうしてウチらの話した怪談のおかげで、この場には相当大きなエネルギーが溜まってる。

それにウチが最初に話した境界の話。あれにも話は関連してくるん。

今のウチらの状態は、自分以外が認識できん状態。すなわち、境界が曖昧になっている状態。

そして話が始まった時間は午後六時。これは逢魔時、昼と夜が丁度移り変わる時間帯やね。

つまりウチらは「昼と夜の境界線上」で、「境界の揺らいだ」状態を作った。

するとな、さっき説明したみたいに……そう、向こうの世界と繋がりやすくなるんよ。

さあ、これで舞台は完成。怪異の出やすい環境は整った。

ウチがこのまま、本来語ってはいけないはずの最終話を語り終えたら……

124: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:42:28.21 ID:Gx9X5Cnb.net
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              ゝ;:; !:;从;ノ       
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      「……一体、『何』が現れるんやろな?」             
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        (  _   ,、'"    ̄   
         `ー--─'"  

125: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:46:49.46 ID:Gx9X5Cnb.net
おっと。残念ながら、もうウチの話は止められないよ?

それに百物語を途中でやめたりしたら、もっと大変なことが起こるかもしれんしね。

そんなことしたら、いくらウチでも何が起きるか分からんもん。

……そろそろウチの話は終わり。

くれぐれも暴れたりして、怪我とかせんようにしてな?

明るくなるまでは、じっとしてた方がええと思うよ。

それじゃあ……ロウソク、消すね。

126: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 02:48:18.25 ID:Gx9X5Cnb.net
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138: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 21:42:44.22 ID:Gx9X5Cnb.net
「……」

「だ、誰か助けてえぇーー!!」ギュウウウ

「かよちん、大丈……ギ、ギブギブ! かよちん、痛いにゃー!」ギリギリ

「り、凛さんが大丈夫じゃなくなってます!」

「ふぇええん、穂乃果ちゃぁぁん」ガシッ

「ちょ、ことりさん!? 私です、雪穂です!」

「ええっ、雪穂ちゃん!?」

「穂乃果はここだよ……おわっぷ!」ズデッ

「穂乃果、大丈夫ですか!?」

「あたた……何かにつまずいたみたい」

「ちょっと希、どこにいるの!? 返事しなさいよ!」

「そうよ! ただじゃおかないんだから!」

139: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 21:50:32.27 ID:Gx9X5Cnb.net
パチッ



希「……ひどいなー。ウチは普通に怪談を話しただけやん?」

にこ「流石に限度ってもんがあるでしょうが!
    というか、オカルトが絡んだ時のあんたの『普通』は、世間一般の『普通』からは程遠いのよ!」

希「せやけど、忠告はちゃんとしたやんな? 電気もすぐ点ける予定やったし」

真姫「あんなの逆効果よ逆効果! それに本当に何か出てきたらどうするつもりだったの!?」

希「いや、略式もいいとこやったから、多分何も出てこないと思うんやけど……あれ? 真姫ちゃん、泣いてる?」

真姫「泣いてない!!」

140: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 21:54:44.99 ID:Gx9X5Cnb.net
花陽「怖い……怖いよぉ……」

雪穂「は、花陽さん、ストップ! それ以上やると、凛さんが危険です!」

花陽「え……あ、ああっ!? 凛ちゃん!?」

凛「えへへ……かよちんが怖くなくなったのなら、凛は本望にゃ……」

花陽「り、凛ちゃーん!?」



穂乃果「うーん……穂乃果、何につまずいたの……」

絵里「」

穂乃果「……えっ」

絵里「」チーン

穂乃果「うぇえええええ!? 絵里ちゃんっ!?」

海未「絵里! しっかりしてください、絵里!」

……

141: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:00:33.74 ID:Gx9X5Cnb.net

……

絵里「う、うーん……」

亜里沙「お姉ちゃん! ああ、良かったぁ」

希「お目覚めみたいやね、えりち」

絵里「亜里沙、希……? あれ、確か私、怪談話してて……えっ!?」

希「っとと。えりち、落ち着き。まだ安静にしてないと」

絵里「皆は!? 怪談話は!?」

希「ああもう、一旦落ち着いてったら」

142: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:06:33.08 ID:Gx9X5Cnb.net
亜里沙「怪談は終わったし、雪穂や海未さんたちももう帰っちゃったよ」

希「えりちのことが心配そうだったけど、夜も遅かったし。
   ウチと亜里沙ちゃんの二人で何とかするってことで、納得してもらったん」

絵里「そう……情けない所、皆に見せちゃったわね」

希「そうでもないと思うよ? ちょっとショックが強すぎた、くらいに皆捉えてるから」

亜里沙「最後の希さんの怪談、インパクトがありましたもんね」

絵里「……うん。気絶してて良かったかも」

亜里沙「それじゃお姉ちゃん、ちょっと希さんと残りの後片付けだけ済ましてきちゃうね」

絵里「分かったわ。希も、何だか申し訳ないわね」

希「ええよ別に。お互い様お互い様」

143: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:09:55.69 ID:Gx9X5Cnb.net
希「いやー、今日はごめんね亜里沙ちゃん。えりちの介抱も手伝ってもらったし」

亜里沙「いえいえ、大丈夫ですよ。今日はいろいろありましたけどとっても楽しかったですもん! それに……」

希「それに?」

亜里沙「お姉ちゃんを気絶させたのって、多分私……ですよね」

希「……気付いてたん?」

亜里沙「お姉ちゃんが気絶してたのが分かってからですけど。
      私が話してた時に聞こえたあのバタンって音、あれはお姉ちゃんが倒れた音だったんだな、って」

希「そっか……」

144: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:13:12.37 ID:Gx9X5Cnb.net
亜里沙「……あの、希さん。気になることがあるんです」

希「奇遇やね。ウチも気になることがあるんよ」

亜里沙「お姉ちゃんが気絶したのは、私の話の途中。それからずっと気絶してたことになりますよね」

希「うん。だからウチらはえりちの話を聞いていないはず」

亜里沙「それなのに誰も気にせず最後まで怪談話は進んでいました」

希「それだけじゃない。えりちが話していないってことは消えたロウソクは全部で十九本。
   なのに、ウチが消したロウソクは二十本目……どう考えてもおかしいやんな?」

亜里沙「……あの怪談話で、何が起きたんですか」

希「ウチも分からんなぁ。えりちが話してたもんやと思ってたし。でも……お、あったあった」

145: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:17:34.82 ID:Gx9X5Cnb.net
亜里沙「?」

希「じゃーん! これを見れば、その謎も解けるんと違うかな」

亜里沙「これは……ビデオカメラ?」

希「当たり。実はな、何か不思議なことが起きても記録に残せるように、始まる前にこっそり用意しといたんよ」

亜里沙「なるほど……ということは」

希「そう。何でロウソクが全部消えたのか、これで分かるやんな」

亜里沙「……怖いけど私、知りたいです。一体何が起きたのか」

希「それじゃ、一緒に見てみよっか。あ、えりちには内緒にしといてな?
   本当に怪奇現象が起きたって知ったら、また倒れそうな気がするし」

147: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:27:51.80 ID:Gx9X5Cnb.net
希「問題のシーンは……うん、ここらへんかな。真姫ちゃんの話の後あたり」

亜里沙「真姫さんの後は、お姉ちゃんが話す番でしたよね」

希「だから、ここを再生してみれば……よし」ポチッ



真姫『ロウソク、消すわね』


   『……』

   『…………ので、……り……すね』

   『これは…………、私…………よ』   
   
   『……』フッ

   『……』

凛『かよちんのお家にはね……』


亜里沙「! 希さん、今のって」

希「声が小さすぎて全部は聞き取れんかったけど……うん。えりちの声じゃないことは確かや。
   その誰かさんが、えりちの代わりに怪談を話して、ロウソクを消したんやね」

希(でもあの声……なんか聞き覚えがある気がする。誰の声やったっけ……?)

亜里沙「あの、希さん。音を大きくすることってできませんか?」

希「あ、うん、出来るよ。ちょっと待っててな……よし。
   それじゃあ、もう一度再生してみるやん」ポチッ

148: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:36:26.86 ID:Gx9X5Cnb.net
亜里沙「……!?」

希(……ああ、そっか。この声って)

希「何で忘れてたんやろな、あなたのこと」ボソッ

亜里沙「……希さん、今何か言いました?」

希「んー? ウチは何も言っとらんよ?」

亜里沙「そうですか……ところであの声って、一体?
     ま、まさか本物のお化けの声だったりするんじゃ……」ブルッ

希「ううん、そんな怖いものではないんよ。あれは、そうやね……」

希「ウチらのことが心配で出てきた、世話焼きさんってとこかな」

亜里沙「世話焼きさん?」

希(『どんなに遠く離れてても、記憶から消えちゃっても。心で通じ合ってれば、絶対に思い出せる』
   ……穂乃果ちゃんがそう言ってたけど、その通りやんな)

希(思い出したよ、あなたのこと。
  多分ずっと、ウチらのことを見守ってくれてたんやね……本当にありがとう)

149: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:42:08.89 ID:Gx9X5Cnb.net
ザザッ、ザッ……


        『……』



        『それじゃあ、代わりに私が話しますね』



        『これはつい最近のことなんですけど』


        
        『私、消えちゃったんですよ』


        
        『……』フッ



……ブツッ。




153: (はんぺん)@\(^o^)/ 2015/09/05(土) 22:52:41.31 ID:Gx9X5Cnb.net
 スタートした時はここまで長くなるとは思ってませんでした
 九月に入る前に終わらせたかったのですが……お付き合いありがとうございました
 ふがいない点が多々見られるので、次は気を付けたいですね
 エピローグは元々こう終わらせるつもりでしたが、微妙かもしれません
 すっきりしない終わり方と感じる方もいるでしょうし
 

それでは、読んでいただきありがとうございました

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1440868886/

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