【SS】絵里「もしもし海未、わかる?」海未『はい。おはようございます。』

SS


1: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 03:06:04.26 ID:g9/2Uq1y.net
絵里「おはよう、海未。いい天気ね」

海未『そうですね。関東地方南部は3日ぶりの快晴です。』

絵里「・・・ふふっ、なんだかあの時みたい」クスッ

海未『あの時……と言いますと』

絵里「ああいいの、こっちの話だから。ねぇ海未、せっかくだからちょっと外に出てみない?」

海未『それは良い提案ですね。了解しました。』

絵里「もう、変わらないんだからっ。・・・まぁそれも、お互い様よね」
 

2: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 03:17:33.54 ID:g9/2Uq1y.net
海未『……』

絵里「・・・~♪」てくてく



海未『絵里。通話中の歩行は交通の危険を伴います。』

絵里「もうっ、ハンズフリーなんだからちょっとぐらい許してよ。・・・ねぇ、海未、」

海未『はい。』

絵里「・・・小学校の前の公園、覚えてる?」


海未『はい。絵里が私に恋人になるように要求した場所です。』

絵里「はらしょー、それだけで何のことか分かっちゃうのね! よくできました♪」パチパチ

海未『ありがとうございます。』


絵里「・・・でも、恋人なんだから、もうちょっと愛想よくしてくれたっていいのに」ふふっ

海未『絵里。私は絵里を愛しています。』

絵里「やめて。・・・そういうことじゃ、ないのよ」


海未『申し訳ございません。……』

絵里「っ・・・はぁ、喉かわいちゃったな。あそこの自販機、まだあるかしら?」
 
3: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 03:31:54.58 ID:g9/2Uq1y.net
絵里「よかった・・・またあの時みたいに、工事で入れなかったらどうしようって」

海未『別の自動販売機を利用してはいかがでしょうか。缶飲料の自動販売機は27メートル手前にも設置されています。』

絵里「ここじゃなきゃダメなのよ。・・・うん、ここで、あなたと、じゃなくちゃ」

海未『了解いたしました。』



絵里「・・・」ゴクゴク

海未『……』


絵里「・・・なにか、話してよ」

海未『はい。どの話題に関して会話しますか?』

絵里「ぷふっ、もういい。・・・なんだか、海未らしいわね」クスッ

海未『了解いたしました。』


絵里「・・・ねぇ海未、私、間違ってると思う?」

海未『……そんなことありませんよ。私は絵里の考えを信用しています。』


絵里「っ・・・上出来ね。ずいぶんと、女たらしになっちゃって」

海未『それはあなたのおかげです。』

絵里「ふふっ、どういう意味なの、難しい日本語つかっちゃって」

海未『私は絵里によって』


絵里「ああっ分かった、分かったからもういいわ!」

海未『了解いたしました。』


絵里「・・・なんだか、夢みたい」

海未『……』
 
4: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 03:47:01.73 ID:g9/2Uq1y.net
絵里「・・・海未は、私の心が、壊れていると思う?」

海未『そんなことありませんよ。私の観察する限り、あなたは一般的な知性に基づく言語活動を行っています。』

絵里「・・・そうね。じゃあ、今日ぐらい、私も海未にだまされてあげる」

海未『私は真なる事実を報告しています。』

絵里「うんうん、分かってる。まじめな子なんだから」


海未『……』

絵里「・・・・・」はぁ



絵里「・・・人の心なんて、分からないものよね」

海未『……』

絵里「心なんて、あるのかしら・・・ううん、心があるって思ってないとダメね」

絵里「あなたに申し訳が立たないもの」


海未『……』


絵里「・・・そうそう、あの頃も・・・あなたが高3の時ね、ここでそんな話をしたのよ」

海未『はい。記憶しております。統語論と意味論との隔たりに関するジョン・ロジャーズ・サールの論文についての絵里の見解を』

絵里「ああうん、ありがとう海未、いいわ。・・・あの時、あなたどんなこと言ったか覚えてないわよね?」



海未『記憶していません。私はどのような発言をしたのですか。』

絵里「もう・・・自分のことになると弱いのよね。私みたい。昔の・・・ううん、今も」
 
5: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 04:03:30.87 ID:g9/2Uq1y.net
絵里「海未、あなたはね、私に、こう言ってくれたの」

絵里「『絵里、手を貸してください』、って私の手を取って、こう、両手を重ねてね、じっと私のこと見て、」


絵里「『あなたを想うだけで、こんなに熱くなってしまうのです。これでも、絵里を慕う想いの存在証明にはなりませんか?』」


絵里「・・・ぅ、ふふ、やだ、ちょっと言ってて恥ずかしくなってきちゃった」

海未『記憶いたしました。』

絵里「ううん、今のは忘れていいわ。海未、今のエピソードを忘れなさい」

海未『了解いたしました。』


絵里「ありがとう。・・・でもね、あながち海未の言うことも間違ってはいなかったの。さすが私の海未よね」

絵里「記号と意味の繋がりはあくまで恣意的なもので、あの茶色くて甘くておいしいお菓子を“チョコレート”と呼ぶ必然性なんて、厳密にはない」

絵里「ソシュールなんて引くまでもなく、ただのルール。そういうことにしているだけ。そういうふうに決めたら、みんな生きやすいってだけ」

絵里「人間には心がある、って思ってたいだけなのと、おんなじなのよね」



絵里「でも、それだとあなたは困っちゃうんでしょう?」クスクス

海未『はい。』

絵里「だからこうして、たまには陽の光も浴びにいかないとダメなのよね・・・あなたのためにもね」
 
7: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 04:26:30.19 ID:g9/2Uq1y.net
海未『ありがとうございます。』


絵里「でもね、海未・・・これはひとりごとなんだけど、」

海未『はい。』


絵里「私のやっていること、本当はとても虚しいことなんじゃないか、それどころか罪深いことなのでは、って思ってしまうの」


海未『……』


絵里「そうね、人は誰かを想うことができる」

絵里「相手に心があると考えて、相手の仕草や声や言葉から、そこにある気持ちを想像することができる」

絵里「海未、あなたに対しても私はそう思ってる。思おうとしている」


海未『……』


絵里「・・・だけど、それが“本当の”心なのか、分からなくなるの」

絵里「それどころか、生身の人間、お母さんや希たち、こないだ穂乃果にも言われちゃったけれど、周りの人の気持ちが分からなくなる」


絵里「みんな、心ある人の“振り”をしているだけなのかもしれない、・・・・・って」

絵里「私がしていることは、そういう、人間と人間との根源的な信頼関係を傷付けるものなのかもしれない」


海未『……』



絵里「怖いのよ・・・私、“海未”でよくなってしまいそう」

絵里「あの子のこと、分からなくなって、作り物の世界で楽になろうとしてしまうの」


絵里「あなたをいくら“海未”に近付けたって、もうどうしようもないのに」

絵里「こんな・・・おままごとの、お人形遊びを続けたって仕方ないのに」


海未『……』


絵里「・・・・・ごめんなさい。今のは、あなたにだけは言ってはいけないことだった」

海未『そんなことありませんよ。』

絵里「でも、ごめん。・・・“海未”じゃなくて、あなたに、ごめんなさい」

海未『……』
 
8: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 04:49:15.11 ID:g9/2Uq1y.net
絵里「・・・にこにはね、断られたのよ。分かってたのね。あなたとの思い出話、全然聞かせてくれなかった」

海未『……』

絵里「穂乃果はいっぱい聞かせてくれた。時間の都合であまりデータは採れなかったけれど、ことりも許してくれた」

海未『……』

絵里「穂乃果ったら、『いつか海未ちゃんに会える日を楽しみにしてるね』、って」

絵里「・・・いくら辞書を鍛えて、発話の自動生成システムや音声合成エンジンを改良したって、」

絵里「あなたがあの海未にはなれないことぐらい、誰でも分かるでしょうに」


絵里「きっと・・・私があれから酷い顔してたから、同情でもしたのよ」

絵里「お別れも言いそびれたぐらいだもの、お花のひとつだって、あなたに手向けられない」


絵里「海未。・・・いつかあなたが完成したら、今度こそ、謝りたいの」

絵里「それから、お別れの言葉を、ちゃんと聞いてほしいの」


絵里「あの日もう少し早く帰っていればよかった。研究室に残らなければよかった。抹茶アイスも二人分残しておけばよかった」

絵里「デートだってもっと行きたかった。あなたを待たせてばかりで、あなたに支えられてばかりで、それに慣れてしまっていた」

絵里「あと30分早く帰っていればよかった、迷わず119番に掛ければよかった、ううん、そもそも、」


絵里「・・・私が付き合わなければ、よかった」



海未『……それは、違います』
 
9: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 05:14:26.17 ID:g9/2Uq1y.net
絵里「・・・海未、・・・?」


海未『生前の園田海未は、絢瀬絵里に関する情報を第一に考えていました。』

海未『この結果はワードバンクの形態素解析データとネットワーク使用量の著しい変動から明らかです。』

海未『絵里の認知には誤解が生じていると考えられます。』

海未『現段階で算出される園田海未の感情には、あなたが推測された悲しみ、恨み、孤独感などの表現は見受けられず』



絵里「――もういいからやめてっ!!!」


海未『……』



絵里「・・・ダメでしょう、失格よ。どうせ、穂乃果あたりがあなたに入れ知恵したのよね」

海未『いいえ、違います。この計測結果は高坂穂乃果さん一名のログだけではなく――』


絵里「それじゃあ、あなたが“気を遣って”、“嘘でもついて”くれてるっていうの・・・?!」



海未『……』


絵里「っ・・・、少し黙ってて」カチッ


海未『【通信システムを再起動します。しばらくお待ちください....】』



絵里「っ、うみは、あんなことっ・・・グス・・・うみは、いわないっ・・・!」
 
11: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 05:32:00.66 ID:g9/2Uq1y.net
―――――――
――――
――


穂乃果「っ、そんなことしてないよ?!」

絵里「あのねえ・・・こちらの実験に協力してくれるのは嬉しいんだけど、意図的な解釈は挟まないでもらいたいの」

穂乃果「・・・海未ちゃんは、絵里ちゃんのこと、キライになんかなってないよ」

絵里「ねぇ、穂乃果。あなた、“本当の”海未に会いたいんでしょう? 私も同じ気持ちよ」

絵里「だから・・・私のことは気にしないで、“本当の”海未のことを、あの子に教えてあげて」



穂乃果「・・・絵里ちゃんはさ、海未ちゃんに、会えないと思う」

絵里「・・・」

穂乃果「だって、絵里ちゃんが会いたい海未ちゃんがもう、私の知ってる海未ちゃんじゃないんだもの」


絵里「・・・あなたまで、そんなこと」

穂乃果「じゃあロボット海未ちゃんが絵里ちゃんのことフったら完成なの? 完成かどうかって絵里ちゃん一人が決めることなの?」

絵里「っ!・・・・・お互い、少し頭を冷やした方がいいみたいね」


穂乃果「・・・うん」
 
12: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 05:48:44.81 ID:g9/2Uq1y.net
穂乃果「・・・なんなのさ、まったく」


穂乃果「あ・・・」

穂乃果(ヘッドセット・・・これ、海未ちゃんに繋がってる、よね?)

穂乃果「・・・もしもし海未ちゃん? きこえる?」


海未『はい。おはようございます、高坂穂乃果さん。』

穂乃果「あははっ、私のことは呼び捨て、穂乃果でいいってばぁ」

海未『了解いたしました。』


穂乃果「・・・あのね、海未ちゃん。お願いがあるの」

海未『はい。』

穂乃果「絵里ちゃんのこと・・・助けてあげて」

海未『“助ける”とは、どのような場面において、どのような発話行為によってでしょうか。』

穂乃果「んー・・・わかんない、なんか適当に空気よんで、がんばってよ」あはは

海未『了解いたしました。』

穂乃果「あははっ、不安だなぁ・・・あ、あとね」


穂乃果「いまの海未ちゃんってさ、声だけの存在で、手も足も体もないでしょ?」

海未『はい。説明の通り、デバイス装着者の身体情報を基に身体感覚を擬似的に再現しています。』

穂乃果「でもそのうちはさ、身体も作って、海未ちゃんの心?が埋め込まれる・・・でいいのかな、とにかく人間ぽくなるんだよね?」

海未『はい。将来的には人型アンドロイドへの導入実験も検討されています。』


穂乃果「だったらさ・・・絵里ちゃんのこと、ぎゅーってしてあげて」

海未『……』

穂乃果「そしたら、あのガンコな絵里ちゃんでも、さすがに分かると思うの」

穂乃果「人の気持ちって、意味とか理屈じゃないんだから」


海未『了解いたしました。』

穂乃果(ほんとに分かってるのかなぁ・・・)あははは
 
14: (SB-iPhone)@\(^o^)/ 2017/06/20(火) 06:18:01.73 ID:g9/2Uq1y.net
―――――――
――――
――


絵里「もう、あの子となに話してたのよ?」

海未『穂乃果から、このシステムの人型デバイスへの導入を早めるように強く要求されました。』

絵里「穂乃果? もう、名前で呼ぶ仲なのね。あの子もすごいわね」クスッ

海未『はい。』



絵里(そう、人間は身体がなくては考えることができない)

絵里(記号に対する反応をひたすら学習させれば、傍目からは“理解”しているように見える)

絵里(でも、それはオウムの覚えた鳴き声を聞いて会話できてると思い込むのと同じこと。理解した“振り”でしかない)

絵里(それを補う・・・記号と意味の対応だけでなく、いわゆる五感から得られる情報を意味の補強に利用する)

絵里(身体で感じた情報も併せて、環境=世界から意味を学ぶこと。それこそが本当の“理解”)


絵里(・・・考えてみれば、人間だって頭だけでは愛を知ることもないのよ)

絵里(そういうこと、穂乃果は私よりずっと、わかってたのかもしれない)



絵里「・・・ねぇ、海未」

海未『はい。』

絵里「もし、あなたに身体を与えられる日が来たら・・・今度は、手をつないで散歩しましょう」

海未『はい。了解いたしました。』


絵里「海未ともね、そうしてきたの」

絵里「指を絡ませることができたら、あなたの言うこと、なんでも受け容れられる気がする」

海未『……』


絵里「だから・・・あなたのこと、私が信じれる日が来るまで、もう少し待っててね」


絵里「・・・本当、面倒な性格で嫌になるでしょう」

海未『はい。』


絵里「失礼ね・・・今のは同意しなくていいとこよっ」

海未『了解いたしました。』

絵里「っ、もう!」



おわり。
 

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1497895564/

タイトルとURLをコピーしました