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1: 警備員[Lv.3][新][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:47:27.69 ID:hPWkJ/qR
地の文、鬱展開あり。
アニメ時空です。
アニメ時空です。
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2: 警備員[Lv.3][新][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:48:21.86 ID:hPWkJ/qR
ザァァァァァァ……
雨が降っている。
空は昏く、思わず屈んでしまうほどに近い。
夏、だろうか。
肌を刺すひんやりとした雨でなく、じめっとした空気を纏いながら落ちてくるものは、私の身体に弾けて落ちた。
夢を見ているみたいだった。
最早汗か雨かも分からなくなった液体は、服と皮膚の間で粘りついている。
不快だ。
雨だというのに、傘もささずに立っている。足元はぬかるみ、動くのも億劫になった私は、ただ佇んでいる。
雨が降っている。
空は昏く、思わず屈んでしまうほどに近い。
夏、だろうか。
肌を刺すひんやりとした雨でなく、じめっとした空気を纏いながら落ちてくるものは、私の身体に弾けて落ちた。
夢を見ているみたいだった。
最早汗か雨かも分からなくなった液体は、服と皮膚の間で粘りついている。
不快だ。
雨だというのに、傘もささずに立っている。足元はぬかるみ、動くのも億劫になった私は、ただ佇んでいる。
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3: 警備員[Lv.3][新][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:49:30.87 ID:hPWkJ/qR
辺りを見渡すと、どうやら私は川を見渡せる高台にいるようだった。
木々の枝葉に雨が弾ける音が、頭に響く。
…いや、川だ。
一際轟音を放つそれは、大地を飲み込まんとするほどだった。
そんな、自然の脅威を目の当たりにしているのに、私はただ一点だけを、なにかを、じっと見ていた。
何だろう。あれは。
白い…
布か?
木々の枝葉に雨が弾ける音が、頭に響く。
…いや、川だ。
一際轟音を放つそれは、大地を飲み込まんとするほどだった。
そんな、自然の脅威を目の当たりにしているのに、私はただ一点だけを、なにかを、じっと見ていた。
何だろう。あれは。
白い…
布か?
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4: 警備員[Lv.3][新][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:50:40.70 ID:hPWkJ/qR
何か__流れている。
あれって…
嫌な__
嫌な光景だった。
見間違いじゃない。
紛れもなく人間が流れている。
私より一回り小さい娘は、川の轟音をかき消すほど、
静かで__
視界が、娘を中心に端から白くなってきて、
「あっ…」
確かに、その目と触れ合った。
あれって…
嫌な__
嫌な光景だった。
見間違いじゃない。
紛れもなく人間が流れている。
私より一回り小さい娘は、川の轟音をかき消すほど、
静かで__
視界が、娘を中心に端から白くなってきて、
「あっ…」
確かに、その目と触れ合った。
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5: 警備員[Lv.3][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:51:53.38 ID:hPWkJ/qR
…
……
………
部室の窓からオレンジ色が注がれる。部活を終え、この景色の中、制服に着替えながら皆と他愛もない話をする時間が、私は大好きだった。
にこ「…であるからして、リーダーには必要な要素が…」
花陽「あ!わかります!」
アイドル好きの2人が熱く語っているのを遠く聴きながら、練習着を頭から脱ぐ。
にこ「穂乃果!」
穂乃果「ふぁ、はい!?」
……
………
部室の窓からオレンジ色が注がれる。部活を終え、この景色の中、制服に着替えながら皆と他愛もない話をする時間が、私は大好きだった。
にこ「…であるからして、リーダーには必要な要素が…」
花陽「あ!わかります!」
アイドル好きの2人が熱く語っているのを遠く聴きながら、練習着を頭から脱ぐ。
にこ「穂乃果!」
穂乃果「ふぁ、はい!?」
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6: 警備員[Lv.3][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:52:27.82 ID:hPWkJ/qR
まだ頭を引っ込めただけの状態で、後ろから呼びかけられた。急ぎ声の方向を見る。
にこ「…とりあえず脱いじゃいなさい。」
呆れたような声が布越しに聞こえてくる。
にこちゃんの声だ。大きさから、机の向こう側にいるようだ。
穂乃果「う、うん。」
脱ぎ終わった練習着をロッカーに放り投げ、制服を着てにこちゃんの方へ歩く。
ホワイトボードには『リーダー論』と書いてあった。
あぁ、なるほどまたやってるのか。
にこちゃんと花陽ちゃん。共通するのはアイドルが大好きだということ。よく暇な時にこうして2人で語っているんだ。
にこ「…とりあえず脱いじゃいなさい。」
呆れたような声が布越しに聞こえてくる。
にこちゃんの声だ。大きさから、机の向こう側にいるようだ。
穂乃果「う、うん。」
脱ぎ終わった練習着をロッカーに放り投げ、制服を着てにこちゃんの方へ歩く。
ホワイトボードには『リーダー論』と書いてあった。
あぁ、なるほどまたやってるのか。
にこちゃんと花陽ちゃん。共通するのはアイドルが大好きだということ。よく暇な時にこうして2人で語っているんだ。
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7: 警備員[Lv.3][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:53:09.63 ID:hPWkJ/qR
にこ「見ての通り、今花陽とリーダーについて話してたんだけど、あんたの話も聞いておきたいと思ってね。」
穂乃果「え、でも私そんな立場じゃ。」
にこ「明確には決めてはないけど、リーダーみたいなもんでしょ、あんたは。」
穂乃果「そうなのかな…」
花陽「ズバリ、リーダーとはっ!」
間髪入れずマイクを向けるように手を差し出す花陽ちゃん。可愛らしくなって、乗ってあげることにした。
私はそれに口を近づけ、答える。
穂乃果「え、でも私そんな立場じゃ。」
にこ「明確には決めてはないけど、リーダーみたいなもんでしょ、あんたは。」
穂乃果「そうなのかな…」
花陽「ズバリ、リーダーとはっ!」
間髪入れずマイクを向けるように手を差し出す花陽ちゃん。可愛らしくなって、乗ってあげることにした。
私はそれに口を近づけ、答える。
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8: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:57:15.20 ID:hPWkJ/qR
穂乃果「そ、そうですね。皆の目線を揃えて、目標に向かって走らせられる人…かな?」
分かってる。物凄く抽象的だ。私は計算を立ててから行動するより、感情に任せて衝動的に振る舞う人。それは今までの経験で、嫌というほど分からされた。
それで迷惑をかけたこともしばしば…
花陽「なるほどなるほどぉ。」
にこ「何疑問系にしてんのよ。具体的には?」
そこ、やっぱり詰められちゃうかぁ。
穂乃果「えっ、えーっと。」
準備不足の面接を受けるかのように、私はさっきよりちょっと暗くなったオレンジの天井を見つめる。
分かってる。物凄く抽象的だ。私は計算を立ててから行動するより、感情に任せて衝動的に振る舞う人。それは今までの経験で、嫌というほど分からされた。
それで迷惑をかけたこともしばしば…
花陽「なるほどなるほどぉ。」
にこ「何疑問系にしてんのよ。具体的には?」
そこ、やっぱり詰められちゃうかぁ。
穂乃果「えっ、えーっと。」
準備不足の面接を受けるかのように、私はさっきよりちょっと暗くなったオレンジの天井を見つめる。
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9: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:58:00.48 ID:hPWkJ/qR
う~んと悩むそぶりを見せていると、後ろの扉が開く音が聞こえた。
海未「何も考えてませんよ、穂乃果は。」
扉を開けながら言う海未ちゃんは続けて、
海未「でもそれが結果的に上手くいく。穂乃果の良いところでもありますけどね。」
と、ニコッと笑って、後ろ手に扉を閉めた。
なぜかそれは、2人を納得させたみたいで、
にこ「そうかもね。ありがとう、穂乃果。」
花陽「なるほど、ふとした行動がメンバーの助けになる…と。」
海未「何も考えてませんよ、穂乃果は。」
扉を開けながら言う海未ちゃんは続けて、
海未「でもそれが結果的に上手くいく。穂乃果の良いところでもありますけどね。」
と、ニコッと笑って、後ろ手に扉を閉めた。
なぜかそれは、2人を納得させたみたいで、
にこ「そうかもね。ありがとう、穂乃果。」
花陽「なるほど、ふとした行動がメンバーの助けになる…と。」
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10: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:59:05.05 ID:hPWkJ/qR
なんだか恥ずかしくなって、猫背気味になる。
穂乃果「あ、あはは…参考になったなら良かったよ。あ、それって。」
視界に入ってきた海未ちゃんの手は、クリップで留められた紙束を掴んでいた。
海未「あぁ、これですか。いつものやつですよ。」
月末には毎回、次の月の部活予定表を海未ちゃんから配られることになっている。
今日がその日だったようで、海未ちゃんが回してください。と私に紙束を手渡した。
私はそれを隣にいたことりちゃんに渡し、内容を確認すると、一つの妙案を思いついた。
穂乃果「あ、あはは…参考になったなら良かったよ。あ、それって。」
視界に入ってきた海未ちゃんの手は、クリップで留められた紙束を掴んでいた。
海未「あぁ、これですか。いつものやつですよ。」
月末には毎回、次の月の部活予定表を海未ちゃんから配られることになっている。
今日がその日だったようで、海未ちゃんが回してください。と私に紙束を手渡した。
私はそれを隣にいたことりちゃんに渡し、内容を確認すると、一つの妙案を思いついた。
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11: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 01:59:47.68 ID:hPWkJ/qR
穂乃果「お泊まり会しない?」
海未「合宿、ということですか?ですがそれは前に。」
私たちは、音乃木坂学院アイドル研究部で、μ'sとしてスクールアイドルをしている。
6月ごろにも、皆の結束を高める目的で、真姫ちゃんの別荘で合宿をしたのだった。
確かそれは、私の思いつきだった。
そして、今も。
穂乃果「そう言うことじゃなくて!ほら!」
私は海未ちゃんに、予定表のある期間を勢いよく指示して言った。
海未「合宿、ということですか?ですがそれは前に。」
私たちは、音乃木坂学院アイドル研究部で、μ'sとしてスクールアイドルをしている。
6月ごろにも、皆の結束を高める目的で、真姫ちゃんの別荘で合宿をしたのだった。
確かそれは、私の思いつきだった。
そして、今も。
穂乃果「そう言うことじゃなくて!ほら!」
私は海未ちゃんに、予定表のある期間を勢いよく指示して言った。
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12: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:03:33.23 ID:hPWkJ/qR
海未「お盆…ですか?」
穂乃果「そう!お盆。ここならみんな休みで予定合わせやすいじゃない?行こうよ、夏の思い出だよ?」
海未「いや、しかしですね。」
海未ちゃんは片眉を下げながら、あたりを見渡す。応えたのはにこちゃんだった。
にこ「あんたね。お盆なんかみんな予定あるに決まってるでしょうが。本来、実家に帰ったりするための休みなのよ?」
花陽「確かに…私も、お盆はいつも帰省してるから。」
穂乃果「あ…」
そうだった。とは言えなかったが、皆にはバレていたらしい。
穂乃果「そう!お盆。ここならみんな休みで予定合わせやすいじゃない?行こうよ、夏の思い出だよ?」
海未「いや、しかしですね。」
海未ちゃんは片眉を下げながら、あたりを見渡す。応えたのはにこちゃんだった。
にこ「あんたね。お盆なんかみんな予定あるに決まってるでしょうが。本来、実家に帰ったりするための休みなのよ?」
花陽「確かに…私も、お盆はいつも帰省してるから。」
穂乃果「あ…」
そうだった。とは言えなかったが、皆にはバレていたらしい。
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13: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:04:17.26 ID:hPWkJ/qR
真姫「今頃気付いたの?…まぁ私は別にどちらでもいいけど。」
にこ「海未の言ってたことは本当だったみたいね…」
穂乃果「そ、そんなことないよ!私にも考えってものが…」
希「ほ~聞かせてほしいなぁ。でも、お泊まり会は楽しそうやね。」
希ちゃんは後ろから流し目にコチラを見てきて、私の左肩に手を置いて言う。
凛「凛もお泊まり会いいと思うな~。」
ことり「私もいいと思うっ。」
絵里「即答はできないけど、悪い提案じゃないわね。」
にこ「海未の言ってたことは本当だったみたいね…」
穂乃果「そ、そんなことないよ!私にも考えってものが…」
希「ほ~聞かせてほしいなぁ。でも、お泊まり会は楽しそうやね。」
希ちゃんは後ろから流し目にコチラを見てきて、私の左肩に手を置いて言う。
凛「凛もお泊まり会いいと思うな~。」
ことり「私もいいと思うっ。」
絵里「即答はできないけど、悪い提案じゃないわね。」
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14: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:04:50.60 ID:hPWkJ/qR
穂乃果「だよねだよね!」
意外にも賛成意見も多い。
こういう時は、多少強引に…
粘り強い交渉により、反対意見だったにこちゃん、花陽ちゃん、海未ちゃんも予定を合わせてくれ、全員参加となった。
後から聞いた話だが、にこちゃんとしては家族とのゆっくりした時間を送りたかったようだが、家族全員に背中を押され、決心したようだ。
家族思いのにこちゃんらしい。
行き先は前の合宿のように、真姫ちゃんに頼み込んで、西木野家の別荘に行くことになった。
意外にも賛成意見も多い。
こういう時は、多少強引に…
粘り強い交渉により、反対意見だったにこちゃん、花陽ちゃん、海未ちゃんも予定を合わせてくれ、全員参加となった。
後から聞いた話だが、にこちゃんとしては家族とのゆっくりした時間を送りたかったようだが、家族全員に背中を押され、決心したようだ。
家族思いのにこちゃんらしい。
行き先は前の合宿のように、真姫ちゃんに頼み込んで、西木野家の別荘に行くことになった。
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15: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:05:17.12 ID:hPWkJ/qR
真姫ちゃんは、案の定少し難しい顔をしたのち、首を縦に振ってくれた。
こうして、何も決まってない旅が始まったのだった。
…
こうして、何も決まってない旅が始まったのだった。
…
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16: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:11:38.64 ID:hPWkJ/qR
穂乃果「お~!ことりちゃん見て!琵琶湖だよ!琵琶湖!本当にあんな形なんだ!」
ことり「ほんとだ…!」
海未「こら、穂乃果…!少し声が大きいですよ…!」
旅行当日。
私たちは東京から飛行機に乗って、目的地へと向かっている。
真姫ちゃんによると、空港に着いても乗り継ぎでまた公共交通機関に乗る予定らしい。
こんな離れているところにも別荘があるなんて、さすが真姫ちゃんだ。
でも、前の合宿は割と近場だったのに、なんでこんな遠くなんだろう…
都会の喧騒から離れてほしいから…だろうか。まぁ、そこは気にしても仕方ないか。
ことり「ほんとだ…!」
海未「こら、穂乃果…!少し声が大きいですよ…!」
旅行当日。
私たちは東京から飛行機に乗って、目的地へと向かっている。
真姫ちゃんによると、空港に着いても乗り継ぎでまた公共交通機関に乗る予定らしい。
こんな離れているところにも別荘があるなんて、さすが真姫ちゃんだ。
でも、前の合宿は割と近場だったのに、なんでこんな遠くなんだろう…
都会の喧騒から離れてほしいから…だろうか。まぁ、そこは気にしても仕方ないか。
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17: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:12:36.89 ID:hPWkJ/qR
私たちは飛行機の3人席に、窓際から私、ことりちゃん、海未ちゃんの順に座っている。
ことり「でも、全員参加できてよかったね。」
こちらへと満面の笑みを浮かべながら言う。その後ろから、
海未「ことりが忘れもので一度家に帰ったのを聞いた時は、本当に肝が冷えましたよ…」
と、目を細めながら言った。
ことり「ほんとごめんっ!」
穂乃果「そういえば、何を忘れちゃったの?」
ことり「えへへ~これっ!」
ことり「でも、全員参加できてよかったね。」
こちらへと満面の笑みを浮かべながら言う。その後ろから、
海未「ことりが忘れもので一度家に帰ったのを聞いた時は、本当に肝が冷えましたよ…」
と、目を細めながら言った。
ことり「ほんとごめんっ!」
穂乃果「そういえば、何を忘れちゃったの?」
ことり「えへへ~これっ!」
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18: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:13:24.06 ID:hPWkJ/qR
そう言うと、ことりちゃんはなにやら荷物をゴソゴソし始め、
取り出したのは、クッションのような…
海未「ま、枕…?」
ことり「これがないと寝られないんです。」
そう言って座席と頭の間に挟んでみせる。
少し前屈みになって、海未ちゃんと顔を見合わせる。右目の瞼が痙攣していた。
穂乃果「ことりちゃんらしいや…」
つられて私も苦笑いを浮かべる。
海未「何がともあれ、間に合って良かったですけどね。」
海未ちゃんがほっと一息ついて言う。
取り出したのは、クッションのような…
海未「ま、枕…?」
ことり「これがないと寝られないんです。」
そう言って座席と頭の間に挟んでみせる。
少し前屈みになって、海未ちゃんと顔を見合わせる。右目の瞼が痙攣していた。
穂乃果「ことりちゃんらしいや…」
つられて私も苦笑いを浮かべる。
海未「何がともあれ、間に合って良かったですけどね。」
海未ちゃんがほっと一息ついて言う。
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19: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:14:39.91 ID:hPWkJ/qR
穂乃果「そう!全員参加だよ?やっぱ静かにしちゃいられないよ!」
海未「ダメです。公の場ですからね。」
ことり「穂乃果ちゃん、ボリューム下げて~。」
ことりちゃんがキャップを開けるような仕草をしながら言う。まだ喋ろうか、とも思ったが、後ろの海未ちゃんの目線を見ると、静かにせざるを得なかった。
穂乃果「すみませんでした…でも見て、にこちゃんもあんなに楽しそうに…」
私は逃げるように前の列へと会話を移す。
うん。自然な導入だ。
海未「ダメです。公の場ですからね。」
ことり「穂乃果ちゃん、ボリューム下げて~。」
ことりちゃんがキャップを開けるような仕草をしながら言う。まだ喋ろうか、とも思ったが、後ろの海未ちゃんの目線を見ると、静かにせざるを得なかった。
穂乃果「すみませんでした…でも見て、にこちゃんもあんなに楽しそうに…」
私は逃げるように前の列へと会話を移す。
うん。自然な導入だ。
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20: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:15:14.29 ID:hPWkJ/qR
あれ、なにかにこちゃんが絵里ちゃんに指をさしている。
何をしているんだろう。
絵里「あ!にこ、今UNOって言わなかったわよね。」
にこ「い、いや!言ってたわよ!」
希「ほんと~?聞こえんかったけど。」
にこ「す、スーパーアイドルのにこは、そんな大きい声出せないの~。」
希「いや、アイドルなんやから声は出さないけんやろ。にこっち、2枚な。」
にこ「ボケたんだから真面目に返さないでよね…あぁ絵里、自分でやるから手札に無理矢理グイグイするのやめて。」
前の列にいる3年生3人組は、μ's結成当初とは見違えるくらい仲良くなっている。
何をしているんだろう。
絵里「あ!にこ、今UNOって言わなかったわよね。」
にこ「い、いや!言ってたわよ!」
希「ほんと~?聞こえんかったけど。」
にこ「す、スーパーアイドルのにこは、そんな大きい声出せないの~。」
希「いや、アイドルなんやから声は出さないけんやろ。にこっち、2枚な。」
にこ「ボケたんだから真面目に返さないでよね…あぁ絵里、自分でやるから手札に無理矢理グイグイするのやめて。」
前の列にいる3年生3人組は、μ's結成当初とは見違えるくらい仲良くなっている。
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21: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:16:00.40 ID:hPWkJ/qR
穂乃果「なんだ、にこちゃんすっごい楽しんでるじゃん。」
もう少しだけ腰を浮かせて、前の列を眺める。
私の声で、3人とも後ろを振り向いた。
にこ「せっかく来たんなら楽しまなきゃ損でしょ。」
希「そのとーり!しかも今回の目的地は、神話が紡がれてきた由緒正しき場所よ。楽しみやん!」
絵里「またその話…予定が決まってからずっとこの調子よ。」
希「一応ウチ、神社で巫女やっとるからね。そういうのにも少しは興味あるんよ。」
希ちゃんはよく練習していた神社の巫女として働いており、結成当初から目をかけてくれていた。
にこ「えらくフランクな巫女ね…」
もう少しだけ腰を浮かせて、前の列を眺める。
私の声で、3人とも後ろを振り向いた。
にこ「せっかく来たんなら楽しまなきゃ損でしょ。」
希「そのとーり!しかも今回の目的地は、神話が紡がれてきた由緒正しき場所よ。楽しみやん!」
絵里「またその話…予定が決まってからずっとこの調子よ。」
希「一応ウチ、神社で巫女やっとるからね。そういうのにも少しは興味あるんよ。」
希ちゃんはよく練習していた神社の巫女として働いており、結成当初から目をかけてくれていた。
にこ「えらくフランクな巫女ね…」
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22: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:16:51.61 ID:hPWkJ/qR
希「時に海未ちゃん、日本で人の生贄は実在したと思う?」
通路側から海未ちゃんのほうを覗き込み、問いかける。
海未「え、わ、私ですか?」
海未ちゃんが目をぱちくりさせながら答える。その額には雫が見える。
希「海未ちゃん、今の話聞いてたやろ。」
海未「ええ、まぁ。」
にこ「ちょっと希。海未が困ってるじゃない。」
通路側から海未ちゃんのほうを覗き込み、問いかける。
海未「え、わ、私ですか?」
海未ちゃんが目をぱちくりさせながら答える。その額には雫が見える。
希「海未ちゃん、今の話聞いてたやろ。」
海未「ええ、まぁ。」
にこ「ちょっと希。海未が困ってるじゃない。」
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23: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:19:13.56 ID:hPWkJ/qR
希「いや、ウチの見立てだと、海未ちゃんはこういった話はいけるクチや。どう?」
問いかけの後、沈黙がややあって…
海未「生贄は…あったと思いますよ。どちらにせよ、人以外だといくつか事例もあります。」
と答えた。
希「ウチは反対やなぁ。神話っていうのは現実的な話を、人々に興味を持ってもらえるように抽象化しただけで…」
絵里「これは長くなりそうね…」
にこ「いいじゃない、お互い発散できてそうだし。穂乃果、ここは任せて。」
穂乃果「任せたよ…!」
私は頭を引っ込め、背もたれに体を預ける。
問いかけの後、沈黙がややあって…
海未「生贄は…あったと思いますよ。どちらにせよ、人以外だといくつか事例もあります。」
と答えた。
希「ウチは反対やなぁ。神話っていうのは現実的な話を、人々に興味を持ってもらえるように抽象化しただけで…」
絵里「これは長くなりそうね…」
にこ「いいじゃない、お互い発散できてそうだし。穂乃果、ここは任せて。」
穂乃果「任せたよ…!」
私は頭を引っ込め、背もたれに体を預ける。
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24: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:20:01.56 ID:hPWkJ/qR
私も少し調べたけど、今回の舞台はそんな興味深いところらしい。
一夏の思い出には、十分すぎるほどのシチュエーションだ。
私は外の景色を見ながら、そう思った。
同じ高さにある入道雲の、その向こう、燦々と輝く太陽が見える。今日も暑い夏である証だ。
花陽「ほんと、こんな遠くにも別荘があるなんて、ビックリだよ!」
後ろの列では、一年生がなにやら話をしているようだったので、少し聞き耳を立ててみることにした。
凛「前は洋館だったから、てっきりまた洋風の建物かと思ってたにゃ。」
写真でも見ているのだろうか。数秒間隔で歓声が上がっている。
真姫「まぁね。でも、今回は別に別荘ってわけじゃないわ。」
花陽「どういうこと?」
一夏の思い出には、十分すぎるほどのシチュエーションだ。
私は外の景色を見ながら、そう思った。
同じ高さにある入道雲の、その向こう、燦々と輝く太陽が見える。今日も暑い夏である証だ。
花陽「ほんと、こんな遠くにも別荘があるなんて、ビックリだよ!」
後ろの列では、一年生がなにやら話をしているようだったので、少し聞き耳を立ててみることにした。
凛「前は洋館だったから、てっきりまた洋風の建物かと思ってたにゃ。」
写真でも見ているのだろうか。数秒間隔で歓声が上がっている。
真姫「まぁね。でも、今回は別に別荘ってわけじゃないわ。」
花陽「どういうこと?」
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25: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:20:49.16 ID:hPWkJ/qR
真姫「お婆様が住んでたところなの。」
ははぁ、真姫ちゃんの実家、なのか。それでこんな遠くに。
凛「えぇっ!凛たちが泊まっても大丈夫なの?」
花陽「その…過去形…だったよね…?」
真姫「ええ…去年の末に亡くなったわ。」
声色に、少しばかり寂しさが混じった気がした。それは、普段なら気付かないようなものだったかもしれない。
いつも弱い部分を見せようとしないのもあってのことなのだろう。
凛「あ、ごめん…」
ははぁ、真姫ちゃんの実家、なのか。それでこんな遠くに。
凛「えぇっ!凛たちが泊まっても大丈夫なの?」
花陽「その…過去形…だったよね…?」
真姫「ええ…去年の末に亡くなったわ。」
声色に、少しばかり寂しさが混じった気がした。それは、普段なら気付かないようなものだったかもしれない。
いつも弱い部分を見せようとしないのもあってのことなのだろう。
凛「あ、ごめん…」
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26: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:21:37.56 ID:hPWkJ/qR
真姫「そんなに気にしなくても大丈夫よ。なんでも、西木野家では、大昔から子供が早死にするだかなんだか言われてたんだけど、お婆様は90歳まで生きたの。」
花陽「えっ!どういうことなの?」
真姫「まぁ、噂程度のことだと思って。たしか500年…だったかしら、子供の頃聞いた話だからうろ覚えだけど。まぁおそらく、お婆様を偉大に見せようと誇張されたってオチだと思うわ。」
花陽「そっか…それだともっと、私たちが行っても大丈夫なのかなって思っちゃうよ…」
真姫「私も小さい頃1、2回しか行ってないんだけど、とても良くしてもらったのを鮮明に覚えてるわ。…だから、その、お盆なら…」
凛「お盆…?」
花陽「真姫ちゃん…」ダキ
真姫「わっ!花陽!急に抱きつくなんてどうしたのよ…」
花陽「えっ!どういうことなの?」
真姫「まぁ、噂程度のことだと思って。たしか500年…だったかしら、子供の頃聞いた話だからうろ覚えだけど。まぁおそらく、お婆様を偉大に見せようと誇張されたってオチだと思うわ。」
花陽「そっか…それだともっと、私たちが行っても大丈夫なのかなって思っちゃうよ…」
真姫「私も小さい頃1、2回しか行ってないんだけど、とても良くしてもらったのを鮮明に覚えてるわ。…だから、その、お盆なら…」
凛「お盆…?」
花陽「真姫ちゃん…」ダキ
真姫「わっ!花陽!急に抱きつくなんてどうしたのよ…」
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27: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:22:29.97 ID:hPWkJ/qR
凛「…良くわからないけど凛も!」
真姫「全く…」
凛「それなら、この旅は楽しいものにしないとね!」
思わず、聞き入ってしまっていた。後ろでは、聞き耳を立てたことが恥ずかしくなるような会話がされていた。
なるほど、噂の真偽のところは怪しいけど、偉大な人だったのは間違いないだろう。
きっと真姫ちゃんも、お婆ちゃんに成長したところを見せたいんだね。
それに応える2人の姿…少し目が潤ってきた…
成長してるね3人とも…
海未「いや、それは詭弁でしょう。」
真姫「全く…」
凛「それなら、この旅は楽しいものにしないとね!」
思わず、聞き入ってしまっていた。後ろでは、聞き耳を立てたことが恥ずかしくなるような会話がされていた。
なるほど、噂の真偽のところは怪しいけど、偉大な人だったのは間違いないだろう。
きっと真姫ちゃんも、お婆ちゃんに成長したところを見せたいんだね。
それに応える2人の姿…少し目が潤ってきた…
成長してるね3人とも…
海未「いや、それは詭弁でしょう。」
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28: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:23:01.78 ID:hPWkJ/qR
右耳から興奮混じりの声が聞こえてきた。
その声で、涙が引っ込んだ。
そういえば議論の途中だったことを、無理やりにも思い出させられた。
ことり「まぁまぁ、海未ちゃん。」
にこ「あんたも、そんな白黒つけるようなことじゃないでしょ。」
列を超えて話すようなことじゃない。お互いが隣の席の人に制止されている。
希「ごめんごめん、ちょっと楽しくなってきちゃって…」
その声で、涙が引っ込んだ。
そういえば議論の途中だったことを、無理やりにも思い出させられた。
ことり「まぁまぁ、海未ちゃん。」
にこ「あんたも、そんな白黒つけるようなことじゃないでしょ。」
列を超えて話すようなことじゃない。お互いが隣の席の人に制止されている。
希「ごめんごめん、ちょっと楽しくなってきちゃって…」
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29: 警備員[Lv.4][新][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 02:24:08.50 ID:hPWkJ/qR
にこ「これだからオタクは…」
絵里「あなたもね。」
にこ「っるさいわね…」
ポーン
絵里「ほら、そろそろ着陸するから、その辺にしてね。」
ことり「ほら、海未ちゃんも。」
騒々しい。
これがμ'sだ。
個性的な9人が集まっている。
だからこそ、1人1人が際立つんだ。
今回の旅行で、もっと絆が深まればいい。
様々な思いを乗せ、飛行機は着陸した。
…
絵里「あなたもね。」
にこ「っるさいわね…」
ポーン
絵里「ほら、そろそろ着陸するから、その辺にしてね。」
ことり「ほら、海未ちゃんも。」
騒々しい。
これがμ'sだ。
個性的な9人が集まっている。
だからこそ、1人1人が際立つんだ。
今回の旅行で、もっと絆が深まればいい。
様々な思いを乗せ、飛行機は着陸した。
…
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32: 警備員[Lv.8(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 11:46:22.32 ID:S5E+xW7+
真姫「ここからは歩きよ。」
穂乃果「嘘でしょ…」
冷房の効いた場所から、日差しさす8月の日の下に晒された私たちに告げられたのは、余りにも非情な宣告だった。
既に飛行機、バスを乗り継いで正午も通り過ぎた頃だ。移動は意外と疲れるのに、ここからキャリーバッグを持って歩きとは、なかなか堪える。
あたりを見渡すと山、山、さらに山。
緑は目に優しいと聞くが、暴力的なまでに緑で覆い尽くされると、思わず目を細めてしまう。
希ちゃんによると、目的地は八岐大蛇伝説が生まれた土地らしく、飛行機の中ですごく楽しみそうに語っていたのを思い出した。
この自然を目の当たりにすると、分かる。
現在では大体のことが科学で解決するが、その知識がなければ、今でも私たちは神の介入があると信じてしまうだろう。
穂乃果「嘘でしょ…」
冷房の効いた場所から、日差しさす8月の日の下に晒された私たちに告げられたのは、余りにも非情な宣告だった。
既に飛行機、バスを乗り継いで正午も通り過ぎた頃だ。移動は意外と疲れるのに、ここからキャリーバッグを持って歩きとは、なかなか堪える。
あたりを見渡すと山、山、さらに山。
緑は目に優しいと聞くが、暴力的なまでに緑で覆い尽くされると、思わず目を細めてしまう。
希ちゃんによると、目的地は八岐大蛇伝説が生まれた土地らしく、飛行機の中ですごく楽しみそうに語っていたのを思い出した。
この自然を目の当たりにすると、分かる。
現在では大体のことが科学で解決するが、その知識がなければ、今でも私たちは神の介入があると信じてしまうだろう。
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33: 警備員[Lv.8(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 11:48:07.39 ID:S5E+xW7+
手をかざして見上げると、真夏の太陽は夏を喧伝するように輝き、それに呼応するように蝉は大合唱をしている。
にこ「こんな暑いのに歩けっての~?」
絵里「でも、行く道は木陰で涼しそうじゃない。うん、空気が美味しいわ。」
絵里ちゃんは深呼吸をして言った。
ことり「道の隣には川もあるしね!」
にこ「余計ジメジメしそうね…」
ことりちゃんの指差した道は、ガタガタのアスファルトは苔むしており、日が当たらないせいか、湿り気がある。
にこ「こんな暑いのに歩けっての~?」
絵里「でも、行く道は木陰で涼しそうじゃない。うん、空気が美味しいわ。」
絵里ちゃんは深呼吸をして言った。
ことり「道の隣には川もあるしね!」
にこ「余計ジメジメしそうね…」
ことりちゃんの指差した道は、ガタガタのアスファルトは苔むしており、日が当たらないせいか、湿り気がある。
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34: 警備員[Lv.8(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 11:48:36.79 ID:S5E+xW7+
真姫「ブツブツ言うのはいいけど、早く行きましょ。」
にこ「ぶつぶつ…」
凛「律儀にゃ…」
にこちゃんをはじめ何人かは不満を示したが、文句を言っても解決しないと諭され、歩くことで意見が一致した。
ガラガラガラ…
山道は谷になっており、川で冷やされた風がよく通っており、意外にも涼しい。
しかし、勾配は厳しい。遊びにきたとは言え、これでは合宿と運動量が変わらない。加えて、道も整備不足で足をくじきそうになる。
にこ「ぶつぶつ…」
凛「律儀にゃ…」
にこちゃんをはじめ何人かは不満を示したが、文句を言っても解決しないと諭され、歩くことで意見が一致した。
ガラガラガラ…
山道は谷になっており、川で冷やされた風がよく通っており、意外にも涼しい。
しかし、勾配は厳しい。遊びにきたとは言え、これでは合宿と運動量が変わらない。加えて、道も整備不足で足をくじきそうになる。
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35: 警備員[Lv.8(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 11:49:08.09 ID:S5E+xW7+
花陽「わっ…あっ!」
…特に、さっきから斜め前の花陽ちゃんの足取りが危なっかしい。
花陽「凛ちゃん。」
凛「え?かよちん何か言った?」
隣の凛ちゃんが耳に手を当て聞き直す。右隣を流れる川のせせらぎが意外と大きいからだろう。
花陽「凛ちゃんそっちに行くっ、あぁ!」
凛「かよちん!大丈夫!?」
不自然に一歩分横に歩幅を移したことで、バランスを崩し転けてしまいそうになったところを、間一髪で海未ちゃんが抱き止める。
…特に、さっきから斜め前の花陽ちゃんの足取りが危なっかしい。
花陽「凛ちゃん。」
凛「え?かよちん何か言った?」
隣の凛ちゃんが耳に手を当て聞き直す。右隣を流れる川のせせらぎが意外と大きいからだろう。
花陽「凛ちゃんそっちに行くっ、あぁ!」
凛「かよちん!大丈夫!?」
不自然に一歩分横に歩幅を移したことで、バランスを崩し転けてしまいそうになったところを、間一髪で海未ちゃんが抱き止める。
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36: 警備員[Lv.9(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:02:18.18 ID:S5E+xW7+
海未「全く、危ないですよ。」
花陽「あ、ありがとうございます…」
海未「山道なのにコロコロで来る人がありますか!ましてや、最近土砂崩れがあったみたいです。山を甘く見ると痛い目見ますよ。やはり登山はリュックに限ります。」
そう言って背中を向ける海未ちゃんが、やけに愛おしく思えて、
穂乃果「海未ちゃんは山が好きだもんね。」
ことり「あ!穂乃果ちゃん…!」
海未「穂乃果!聞いてくれますか!見てくださいあれを…」
地雷に触れてしまった。
花陽「あ、ありがとうございます…」
海未「山道なのにコロコロで来る人がありますか!ましてや、最近土砂崩れがあったみたいです。山を甘く見ると痛い目見ますよ。やはり登山はリュックに限ります。」
そう言って背中を向ける海未ちゃんが、やけに愛おしく思えて、
穂乃果「海未ちゃんは山が好きだもんね。」
ことり「あ!穂乃果ちゃん…!」
海未「穂乃果!聞いてくれますか!見てくださいあれを…」
地雷に触れてしまった。
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37: 警備員[Lv.9(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:02:55.63 ID:S5E+xW7+
…
その後20分ほど、あれが土砂崩れの跡だ、なんて、熱心に話す海未ちゃんに付き合っていると、目的地は突然現れた。
緑のトンネルを抜けた先は、勾配が緩くなっており、先に2つの建物が見えた。
左手にはかなり大きい建物があり、右手にはこれまた大きくて立派な日本家屋があった。
道を挟んで向かい合うように据えられたそれらは、年季を感じるが朽ちていない、と言う印象だ。ちゃんと手入れされている。
それらが、青々と茂る山の谷間に、ポツンとあるような感じだ。
その後20分ほど、あれが土砂崩れの跡だ、なんて、熱心に話す海未ちゃんに付き合っていると、目的地は突然現れた。
緑のトンネルを抜けた先は、勾配が緩くなっており、先に2つの建物が見えた。
左手にはかなり大きい建物があり、右手にはこれまた大きくて立派な日本家屋があった。
道を挟んで向かい合うように据えられたそれらは、年季を感じるが朽ちていない、と言う印象だ。ちゃんと手入れされている。
それらが、青々と茂る山の谷間に、ポツンとあるような感じだ。
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38: 警備員[Lv.9(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:06:16.47 ID:S5E+xW7+
凛「おぉ~!」
希「こういう系統のお家もあるなんてすごいなぁ。」
真姫「まぁね。」
にこ「ぐぬぬ…」
にこちゃんが悔しそうに恨めしく眺めている。
お決まりの流れだ。
道との境がない石畳を歩いて、玄関へと向かう。
扉を引いてみると、少しだけ土の匂いがした。
それもそのはず、玄関の床が土だった。昔ながらの家というのが1発で理解できた。
かなり広めな玄関から、左手の段差を登って障子を開けると、奥に細長くて広い部屋があった。左手には縁側があり、突き当たりには階段が見える。長机が置いてあり、9人でも窮屈なく囲むことができそうだ。
希「こういう系統のお家もあるなんてすごいなぁ。」
真姫「まぁね。」
にこ「ぐぬぬ…」
にこちゃんが悔しそうに恨めしく眺めている。
お決まりの流れだ。
道との境がない石畳を歩いて、玄関へと向かう。
扉を引いてみると、少しだけ土の匂いがした。
それもそのはず、玄関の床が土だった。昔ながらの家というのが1発で理解できた。
かなり広めな玄関から、左手の段差を登って障子を開けると、奥に細長くて広い部屋があった。左手には縁側があり、突き当たりには階段が見える。長机が置いてあり、9人でも窮屈なく囲むことができそうだ。
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39: 警備員[Lv.9(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:07:02.26 ID:S5E+xW7+
その部屋から右手の襖を開けると、キッチンがあった。どうやら玄関と繋がっているらしい。竈門の跡が遺っていたが、現在使われておらず、現代的な使いやすいものとなっている。川のせせらぎが聞こえる。家の裏手はさっきの川が流れているようだった。奥にはトイレとお風呂がある。
左の襖を開けてみると、仏間のような場所があった。床の間には掛け軸と、日本の刀が飾られていた。いかにも日本家屋って感じでかっこいい。
そして、さらに左の襖を開けると、さっきも見た長机が見えた。漢字の田のような形に部屋割りがされているようだ。
一階の全貌を見終わった私は、陽が差し込む縁側へと向かった。
窓を開けて、腰かけてみる。太ももに日光が当たる。
さっきは気付かなかったが、道の分岐の部分に大きな木と、小さな池があった。
左の襖を開けてみると、仏間のような場所があった。床の間には掛け軸と、日本の刀が飾られていた。いかにも日本家屋って感じでかっこいい。
そして、さらに左の襖を開けると、さっきも見た長机が見えた。漢字の田のような形に部屋割りがされているようだ。
一階の全貌を見終わった私は、陽が差し込む縁側へと向かった。
窓を開けて、腰かけてみる。太ももに日光が当たる。
さっきは気付かなかったが、道の分岐の部分に大きな木と、小さな池があった。
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40: 警備員[Lv.9(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:08:56.16 ID:S5E+xW7+
向かいにあったあの建物も見ることができた。
穂乃果「この屋敷よりも大きいんじゃない?」
なんて、独り言を呟いていると、
真姫「あれを、見てるの?」
穂乃果「うわぁ!真姫ちゃんか。そうだよ。あの建物何なんだろうなって。」
急に後ろから話しかけられた私は、驚いて腰を浮かせてしまった。
真姫「そんな大したものじゃないわ。」
言いながら真姫ちゃんは髪の先をいじる。真姫ちゃんの艶のある髪は、背景の和室と意外にもマッチしていた。
穂乃果「この屋敷よりも大きいんじゃない?」
なんて、独り言を呟いていると、
真姫「あれを、見てるの?」
穂乃果「うわぁ!真姫ちゃんか。そうだよ。あの建物何なんだろうなって。」
急に後ろから話しかけられた私は、驚いて腰を浮かせてしまった。
真姫「そんな大したものじゃないわ。」
言いながら真姫ちゃんは髪の先をいじる。真姫ちゃんの艶のある髪は、背景の和室と意外にもマッチしていた。
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41: 警備員[Lv.9(前12)][初](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:11:26.40 ID:S5E+xW7+
穂乃果「そんなことないよ!私、全然住めそうなくらい!」
熱くなった足を日陰に戻すように胡座をかき、少しおどけて、上の空を悟られないよう紛らわす。
真姫「なにいってんの、居住用じゃないわよ、あれ。」
穂乃果「そうなの?」
真姫「お婆様に、入るなって言われてたところだし、多分物置ってところなんじゃない?」
穂乃果「あ、お婆さんが…」
真姫「どうかした?」
言いながら、私の隣へ座ってきて、上目遣いになる。
熱くなった足を日陰に戻すように胡座をかき、少しおどけて、上の空を悟られないよう紛らわす。
真姫「なにいってんの、居住用じゃないわよ、あれ。」
穂乃果「そうなの?」
真姫「お婆様に、入るなって言われてたところだし、多分物置ってところなんじゃない?」
穂乃果「あ、お婆さんが…」
真姫「どうかした?」
言いながら、私の隣へ座ってきて、上目遣いになる。
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42: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:13:11.48 ID:S5E+xW7+
穂乃果「ごめんね、飛行機の中で聞いてて…」
真姫「あぁ、そのことね。いいのよ別に、隠すことでもないし、お盆だし、ね。」
穂乃果「真姫ちゃんにも、意外と信心深い面もあるんだね。」
そう思ったのは、真姫ちゃんは振る舞いがクールだし、親御さんが医者をやっているっていう薄すぎる根拠しかないけど…
真姫「何よ意外って。…よくお婆様がそこの仏間で手を合わせているところを見て来たからね。あの世があるにせよないにせよ、信じてた方が素敵じゃない?」
やっぱり、まだまだ知らないこと、意外なことがたくさんある。私たちは、出会って時間が経ってないからこそ、この旅が、お互いを知るきっかけになればいい。
穂乃果「それはごもっともだね…そうだ、仏壇開けないの?」
真姫「そういえば開いてるところ見たことないわね。こういうものなんじゃない?」
真姫「あぁ、そのことね。いいのよ別に、隠すことでもないし、お盆だし、ね。」
穂乃果「真姫ちゃんにも、意外と信心深い面もあるんだね。」
そう思ったのは、真姫ちゃんは振る舞いがクールだし、親御さんが医者をやっているっていう薄すぎる根拠しかないけど…
真姫「何よ意外って。…よくお婆様がそこの仏間で手を合わせているところを見て来たからね。あの世があるにせよないにせよ、信じてた方が素敵じゃない?」
やっぱり、まだまだ知らないこと、意外なことがたくさんある。私たちは、出会って時間が経ってないからこそ、この旅が、お互いを知るきっかけになればいい。
穂乃果「それはごもっともだね…そうだ、仏壇開けないの?」
真姫「そういえば開いてるところ見たことないわね。こういうものなんじゃない?」
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43: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:13:53.98 ID:S5E+xW7+
穂乃果「なんか不思議だね。」
真姫「ここら辺の風習かなんかでしょ。まぁ、拝むのはここだけじゃなくて、あっちの建物の方にもしてたしって、今はそれじゃなくて、あの建物の話でしょ?」
すっかり忘れてた。私はまた庭の方に目をむける。さっきよも少し眩しい。
穂乃果「あ、そうだった。確か入っちゃだめなんだったよね。」
真姫「口酸っぱく言われたのを覚えているわね。恐らくだけど、子どもに言って聞かせるための方便じゃない?ほら、夜に爪を切ってはいけないとか。」
穂乃果「あぁ、怪我防止ってことか。」
雷がなったらヘソを隠せも、なるべく背を低くして雷が落ちにくくするためだ、とかも聞いたことがある。
真姫「ここら辺の風習かなんかでしょ。まぁ、拝むのはここだけじゃなくて、あっちの建物の方にもしてたしって、今はそれじゃなくて、あの建物の話でしょ?」
すっかり忘れてた。私はまた庭の方に目をむける。さっきよも少し眩しい。
穂乃果「あ、そうだった。確か入っちゃだめなんだったよね。」
真姫「口酸っぱく言われたのを覚えているわね。恐らくだけど、子どもに言って聞かせるための方便じゃない?ほら、夜に爪を切ってはいけないとか。」
穂乃果「あぁ、怪我防止ってことか。」
雷がなったらヘソを隠せも、なるべく背を低くして雷が落ちにくくするためだ、とかも聞いたことがある。
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44: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:19:27.29 ID:S5E+xW7+
真姫「そういうこと。中に入ってるところを見たことないし、古くなった棚なんかが倒れて怪我するのを防ぐためだと思うわよ。そんなことより、早くその荷物を運んで来なさいよ。」
私の隣の荷物を指さながら言う。
私がは~いと、子供のような返事すると、ジトッとした目を向けられた。
先輩としてかっこがつかない。そう思いながら踵を返し、寝る部屋へと向かう。
昔ながらの急な階段を上がっると、廊下につながり、向かい合わせに8対の個室が用意されていた。
いや、登ってすぐ右に、もう一つ部屋がある。
窓が突き当たりと階段を登ったところにしかないので、少し薄暗くて気づかなかった。
珍しい間取りだと思う。
一階は違和感のない日本家屋と言った風だが、この2階は…
私の隣の荷物を指さながら言う。
私がは~いと、子供のような返事すると、ジトッとした目を向けられた。
先輩としてかっこがつかない。そう思いながら踵を返し、寝る部屋へと向かう。
昔ながらの急な階段を上がっると、廊下につながり、向かい合わせに8対の個室が用意されていた。
いや、登ってすぐ右に、もう一つ部屋がある。
窓が突き当たりと階段を登ったところにしかないので、少し薄暗くて気づかなかった。
珍しい間取りだと思う。
一階は違和感のない日本家屋と言った風だが、この2階は…
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45: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:19:53.27 ID:S5E+xW7+
いや、私が単に無知なだけかもしれないし、あまり人の家の間取りがどうとか言える立場じゃないだろう。私たちはお邪魔する身なのだ。
事前にあてがわれた部屋に、扉を開けて入る。
穂乃果「おぉ~、十分広いや。」
8畳くらいだろうか。1人用としては十分だ。部屋の中には、入ってすぐ机やテレビなどの家具があり、一人暮らしのワンルームのようだった。
これを9セットとは、いやはやおいくらか。改めて、ここは私たちの常識が通用しないことを確認し、荷物整理を始めた。
事前にあてがわれた部屋に、扉を開けて入る。
穂乃果「おぉ~、十分広いや。」
8畳くらいだろうか。1人用としては十分だ。部屋の中には、入ってすぐ机やテレビなどの家具があり、一人暮らしのワンルームのようだった。
これを9セットとは、いやはやおいくらか。改めて、ここは私たちの常識が通用しないことを確認し、荷物整理を始めた。
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46: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:20:42.87 ID:S5E+xW7+
皆も荷物を整理し終わり、今は9人で居間に集まっている。
机を囲んで、皆思い思いの体制でくつろいでいるようだ。
いや、ソワソワしているのが1人。
にこ「それで、なにするつもり?」
穂乃果「え?なにが?」
にこ「なにが?じゃないわよ!着いたはいいけどすることがないんだけど!」
穂乃果「あ、9人集まれば、何かしら楽しいイベントが起きるだろうとばかり…」
実際、私たちは合宿の経験あれど、1日遊ぶっていうことを経験していない。何をすればいいのか、まだ分からなかった。
机を囲んで、皆思い思いの体制でくつろいでいるようだ。
いや、ソワソワしているのが1人。
にこ「それで、なにするつもり?」
穂乃果「え?なにが?」
にこ「なにが?じゃないわよ!着いたはいいけどすることがないんだけど!」
穂乃果「あ、9人集まれば、何かしら楽しいイベントが起きるだろうとばかり…」
実際、私たちは合宿の経験あれど、1日遊ぶっていうことを経験していない。何をすればいいのか、まだ分からなかった。
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47: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:21:50.01 ID:S5E+xW7+
海未「そんなことだろうと思いました…そこで私に一つ提案があるのですが、山に…」
ことり「わ!わたしはとりあえず景色のいいところに行きたいな!」
遮るようにことりちゃんが言う。すかさず海未ちゃんも、
海未「いやだからそれ__」
花陽「それは気になります!」
驚いた。
さっき私が捕まったところを見ていたのか、花陽ちゃんも焦り気味に割って入っている。
ことり「だよねっ!」
真姫「でも外は相当暑いわよ?」
絵里「そうね、もし熱中症にでもなったら、近くにコンビニもないし、大変よ。」
ことり「わ!わたしはとりあえず景色のいいところに行きたいな!」
遮るようにことりちゃんが言う。すかさず海未ちゃんも、
海未「いやだからそれ__」
花陽「それは気になります!」
驚いた。
さっき私が捕まったところを見ていたのか、花陽ちゃんも焦り気味に割って入っている。
ことり「だよねっ!」
真姫「でも外は相当暑いわよ?」
絵里「そうね、もし熱中症にでもなったら、近くにコンビニもないし、大変よ。」
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48: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:22:16.19 ID:S5E+xW7+
海未「むう…」
海未ちゃんが梅雨の曇り空のような表情で、体育座りをしている。
希「真姫ちゃん、近場にいい景色のところってあるん?」
真姫「なくはないわね。ちょっと登ることになるけど。」
あ、海未ちゃんが五月晴れになった。
それなら、
穂乃果「よし!それにしよう!」
私たちのしばらくの予定が決まった。
…
海未ちゃんが梅雨の曇り空のような表情で、体育座りをしている。
希「真姫ちゃん、近場にいい景色のところってあるん?」
真姫「なくはないわね。ちょっと登ることになるけど。」
あ、海未ちゃんが五月晴れになった。
それなら、
穂乃果「よし!それにしよう!」
私たちのしばらくの予定が決まった。
…
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49: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:23:51.04 ID:S5E+xW7+
真姫「あそこよ。」
晴天の中、少し麓まで歩いた先、真姫ちゃんは切り立った丘を指差した。
不自然に丘だけがポツンとある。古墳か何かかと思ったけど、階段がある。登った先には少し開けた場所があった。
そこで一列になり、景色を見下ろしてみる。
海未「これは…」
ことり「綺麗…」
少しだけ傾いて色のついた日差しが、棚田へと差し込む。自然を極力利用しながら作られているのだろう、直線が少なくて美しい。
育ち盛りをアピールするように青々としたお米の葉。水面を這うアメンボ。その上を飛び交う赤とんぼ達。
正に人と自然が作り出した芸術と言えた。
晴天の中、少し麓まで歩いた先、真姫ちゃんは切り立った丘を指差した。
不自然に丘だけがポツンとある。古墳か何かかと思ったけど、階段がある。登った先には少し開けた場所があった。
そこで一列になり、景色を見下ろしてみる。
海未「これは…」
ことり「綺麗…」
少しだけ傾いて色のついた日差しが、棚田へと差し込む。自然を極力利用しながら作られているのだろう、直線が少なくて美しい。
育ち盛りをアピールするように青々としたお米の葉。水面を這うアメンボ。その上を飛び交う赤とんぼ達。
正に人と自然が作り出した芸術と言えた。
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50: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 12:40:09.24 ID:S5E+xW7+
花陽「お茶碗何杯分だろう…」
凛「見方が違うにゃ~…」
絵里「ハラショー!正に日本の原風景って感じね。」
希「ここまでのものを…スピリチュアルやね。」
にこ「妹たちにも見せてあげなきゃ。」
ことり「こんな素敵な場所を知ってるなんて…ありがとうね!」
真姫「そう、良かった。」
真姫ちゃんがそっけなく見える態度で言う。
振り向いたことりちゃんは笑顔だった。
私はふと、空を見上げてみた。緑の傘が差されている。
そよ風で髪がなびく。
それは私たちを照らす木漏れ日もそうであるように。
シャツと肌の間を風が縫う。
少し湿った香りがした。
…
凛「見方が違うにゃ~…」
絵里「ハラショー!正に日本の原風景って感じね。」
希「ここまでのものを…スピリチュアルやね。」
にこ「妹たちにも見せてあげなきゃ。」
ことり「こんな素敵な場所を知ってるなんて…ありがとうね!」
真姫「そう、良かった。」
真姫ちゃんがそっけなく見える態度で言う。
振り向いたことりちゃんは笑顔だった。
私はふと、空を見上げてみた。緑の傘が差されている。
そよ風で髪がなびく。
それは私たちを照らす木漏れ日もそうであるように。
シャツと肌の間を風が縫う。
少し湿った香りがした。
…
0
51: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:14:56.89 ID:S5E+xW7+
その後は家に帰るもの、外で遊ぶものに分かれて行動することになった。
私は凛ちゃんと時間内でどれだけ虫を取れるかの競争をすることにした。
そこ移動中、思わず私は凛ちゃんに、
穂乃果「真姫ちゃん家のところの庭にある建物に、危ないから入っちゃダメって言われたんだよね。」
と伝えると、
凛「でも、ダメって言われると、入りたくなっちゃうよね。」
という返答が来た。私はほんのり嬉しくなったのを覚えている。
…
私は凛ちゃんと時間内でどれだけ虫を取れるかの競争をすることにした。
そこ移動中、思わず私は凛ちゃんに、
穂乃果「真姫ちゃん家のところの庭にある建物に、危ないから入っちゃダメって言われたんだよね。」
と伝えると、
凛「でも、ダメって言われると、入りたくなっちゃうよね。」
という返答が来た。私はほんのり嬉しくなったのを覚えている。
…
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52: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:15:39.98 ID:S5E+xW7+
穂乃果「集中…」
私は開けた草原を見つけ、そこで数を稼ぐことにした。
揺れる草にバッタが飛び交っている。
少しずつじりじりと狙いを定める。
穂乃果「っとう!」
飛び込むように網を振り下ろす。
起き上がって網の中を見るが、捕まえれてはいなかった。
穂乃果「ざーんねん。…あれ?」
杉の木が茂る林の中、小さな祠のようなものが見えた。
穂乃果「さっきまでこんなのあったっけ…?」
私は開けた草原を見つけ、そこで数を稼ぐことにした。
揺れる草にバッタが飛び交っている。
少しずつじりじりと狙いを定める。
穂乃果「っとう!」
飛び込むように網を振り下ろす。
起き上がって網の中を見るが、捕まえれてはいなかった。
穂乃果「ざーんねん。…あれ?」
杉の木が茂る林の中、小さな祠のようなものが見えた。
穂乃果「さっきまでこんなのあったっけ…?」
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53: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:16:10.76 ID:S5E+xW7+
私は近づいて覗いてみる。
神社ではなさそうだ。一応声をかけたが返事はない。
朽ちかけた木の板を見つけ、拾い上げる。
穂乃果「小夜……社…人………?」
意味はまるでわからなかったが、このままでは良くないだろうと、私はそれを元に位置に戻そうとして、
サァァァァァ
草原そよぐその向こうに、
白い、狐を見た。
穂乃果「え、え?…」
見間違いかと思って目を擦る。
もうそこに狐はいなくなっていた。
その狐がどこか物悲しい表情をしていた気がした。
…
神社ではなさそうだ。一応声をかけたが返事はない。
朽ちかけた木の板を見つけ、拾い上げる。
穂乃果「小夜……社…人………?」
意味はまるでわからなかったが、このままでは良くないだろうと、私はそれを元に位置に戻そうとして、
サァァァァァ
草原そよぐその向こうに、
白い、狐を見た。
穂乃果「え、え?…」
見間違いかと思って目を擦る。
もうそこに狐はいなくなっていた。
その狐がどこか物悲しい表情をしていた気がした。
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54: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:16:52.72 ID:S5E+xW7+
その後、凛ちゃんと一緒に汗だくになって帰ってくると、先に家に帰っていた皆が庭でBBQの準備をしていた。
海未「もう、遅いですよ。」
穂乃果「えへへ、ごめんね。」
花陽「2人とも汗すごいよ…!シャワー浴びてくる?」
凛「大丈夫にゃ!穂乃果ちゃん、ちょっとこっちきて。」
凛ちゃんがホースを持ちながら手招きする。右手には蛇口が握られている。
ちょっと待ってその持ち方、嘘でしょ。
海未「もう、遅いですよ。」
穂乃果「えへへ、ごめんね。」
花陽「2人とも汗すごいよ…!シャワー浴びてくる?」
凛「大丈夫にゃ!穂乃果ちゃん、ちょっとこっちきて。」
凛ちゃんがホースを持ちながら手招きする。右手には蛇口が握られている。
ちょっと待ってその持ち方、嘘でしょ。
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55: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:17:23.58 ID:S5E+xW7+
凛ちゃんと一緒に汗だくになって帰ってくると、先に家に帰っていた皆が庭でBBQの準備をしていた。
海未「もう、遅いですよ。」
穂乃果「えへへ、ごめんね。」
花陽「2人とも汗すごいよ…!シャワー浴びてくる?」
凛「大丈夫にゃ!穂乃果ちゃん、ちょっとこっちきて。」
凛ちゃんがホースを持ちながら手招きする。右手には蛇口が握られている。
ちょっと待ってその持ち方、嘘でしょ。
海未「もう、遅いですよ。」
穂乃果「えへへ、ごめんね。」
花陽「2人とも汗すごいよ…!シャワー浴びてくる?」
凛「大丈夫にゃ!穂乃果ちゃん、ちょっとこっちきて。」
凛ちゃんがホースを持ちながら手招きする。右手には蛇口が握られている。
ちょっと待ってその持ち方、嘘でしょ。
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56: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:18:09.12 ID:S5E+xW7+
穂乃果「うわぁっ!」
凄まじい勢いで顔面に水が噴射される。
凛「ご、ごめん!」
穂乃果「凛ちゃん…わざとじゃないだろうね…」
ことり「ほら、このタオル使って!」
穂乃果「ありがとう、ことりちゃん、もう一枚お願いしてもいいかな。」
ことり「え?あ、うん。」
凄まじい勢いで顔面に水が噴射される。
凛「ご、ごめん!」
穂乃果「凛ちゃん…わざとじゃないだろうね…」
ことり「ほら、このタオル使って!」
穂乃果「ありがとう、ことりちゃん、もう一枚お願いしてもいいかな。」
ことり「え?あ、うん。」
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57: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:18:29.24 ID:S5E+xW7+
私の意図を汲み取ってくれたのか、一度頷いて屋敷の中へ駆けていった。
穂乃果「さぁ、凛ちゃん。いっかい、そのホースを貸してみて。」
凛「ほ、穂乃果ちゃん…?」
お返しに一撃をお見舞いしたことは言うまでもない。
…
穂乃果「さぁ、凛ちゃん。いっかい、そのホースを貸してみて。」
凛「ほ、穂乃果ちゃん…?」
お返しに一撃をお見舞いしたことは言うまでもない。
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58: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:18:58.56 ID:S5E+xW7+
絵里「それじゃ、焼きはじめちゃうわよ?」
穂乃果「待ってました!」
凛「楽しみだにゃ!」
花陽「にこちゃん!お願いします!」
にこ「まっかせなさい!」
にこちゃんが素早い動きで肉を皿に乗せる。折り目のない、美しい仕上がりだ。
そして一仕事終わったように、満足げな表情でトングをカチカチいわせている。
穂乃果「待ってました!」
凛「楽しみだにゃ!」
花陽「にこちゃん!お願いします!」
にこ「まっかせなさい!」
にこちゃんが素早い動きで肉を皿に乗せる。折り目のない、美しい仕上がりだ。
そして一仕事終わったように、満足げな表情でトングをカチカチいわせている。
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59: ころころ(もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:20:02.98 ID:S5E+xW7+
ことり「前の合宿もそうだったけど、専属のシェフがついてるって言ってなかったっけ。」
希「そうなん?にこっち…」
にこ「あ、ま、まぁね、アイドルたるもの、家庭的な面も持ってないとね。」
花陽「勉強になります…」
凛「かよちんはもともと家庭的だにゃ~。」
凛ちゃんがそう言うと、皆が笑った。
そんな声と共に、白い煙が夜空へと立ち上る。一際輝く満月の元へ。
薄暗くなった山からは鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえる。もうお盆だ。秋ももう直ぐ来るのか。
都会で変わらぬ日常を過ごしていると、季節の移り変わりを感じるところは、ほぼ気温だけになっている。それどころか、春夏秋冬、今はそれさえ繰り返しになっている気がする。
希「そうなん?にこっち…」
にこ「あ、ま、まぁね、アイドルたるもの、家庭的な面も持ってないとね。」
花陽「勉強になります…」
凛「かよちんはもともと家庭的だにゃ~。」
凛ちゃんがそう言うと、皆が笑った。
そんな声と共に、白い煙が夜空へと立ち上る。一際輝く満月の元へ。
薄暗くなった山からは鈴虫やコオロギの鳴き声が聞こえる。もうお盆だ。秋ももう直ぐ来るのか。
都会で変わらぬ日常を過ごしていると、季節の移り変わりを感じるところは、ほぼ気温だけになっている。それどころか、春夏秋冬、今はそれさえ繰り返しになっている気がする。
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60: ころころ(もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:20:31.94 ID:S5E+xW7+
ふと立ち止まって、ビルの隙間からゆっくりと雲の形を見るだけでも、繰り返しの中で微かな変化を感じ取れると言うものだ。
にこ「ほら!穂乃果、ペース落ちてるわよ!」
穂乃果「あ、ありがとう!」
空をぼーっと見ていた私の左手の紙皿に、にこちゃんがお肉を乗っけてくれる。
その中の一枚を頬張る。
穂乃果「…!」
にこちゃんの焼いてくれたお肉は、いつもより美味しく感じた。
穂乃果「ずっとこの時間が続けばいいのに…」
にこ「ん?なんか言った?」
穂乃果「あ、いや、何でもないよ。」
つい、本心が、口をついた。
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にこ「ほら!穂乃果、ペース落ちてるわよ!」
穂乃果「あ、ありがとう!」
空をぼーっと見ていた私の左手の紙皿に、にこちゃんがお肉を乗っけてくれる。
その中の一枚を頬張る。
穂乃果「…!」
にこちゃんの焼いてくれたお肉は、いつもより美味しく感じた。
穂乃果「ずっとこの時間が続けばいいのに…」
にこ「ん?なんか言った?」
穂乃果「あ、いや、何でもないよ。」
つい、本心が、口をついた。
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61: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:21:44.18 ID:S5E+xW7+
それからは各自お風呂に入った。
髪を乾かして居間に戻ると、ことりちゃん、年少組はテレビを見ており、海未ちゃんと希ちゃんは難しい顔で何か話している。
それを眺めるにこちゃんと絵里ちゃんが、私に苦笑いした。おそらく、また飛行機の時のように語っているのだろう。
夜も更けてくると、1人ずつ自室へと向かった。私と凛ちゃんだけが、まだ居間に残っている。私がそろそろ日が変わる時間なので、寝る前の挨拶をしようと立ち上がって、
凛「穂乃果隊長!凛ね、あそこに潜入捜査をしたであります。」
その一言に、呼び止められた。
右手を口に寄せて、手招きをする凛ちゃん。
髪を乾かして居間に戻ると、ことりちゃん、年少組はテレビを見ており、海未ちゃんと希ちゃんは難しい顔で何か話している。
それを眺めるにこちゃんと絵里ちゃんが、私に苦笑いした。おそらく、また飛行機の時のように語っているのだろう。
夜も更けてくると、1人ずつ自室へと向かった。私と凛ちゃんだけが、まだ居間に残っている。私がそろそろ日が変わる時間なので、寝る前の挨拶をしようと立ち上がって、
凛「穂乃果隊長!凛ね、あそこに潜入捜査をしたであります。」
その一言に、呼び止められた。
右手を口に寄せて、手招きをする凛ちゃん。
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62: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:22:17.55 ID:S5E+xW7+
穂乃果「嘘!お宝とかあった!」
私がすぐ座り直し、興奮気味にそう言うと、凛ちゃんが申し訳なさそうに、
凛「いや、暗くてあんまり見えなかったけど、驚くほど何もなかったにゃ。」
と言った。
凛ちゃんは、すっからかんだったよ~と両手を広げてみせた。
ってことは、真姫ちゃんの推測は間違ってたってことか…
穂乃果「なんだ~、入っちゃダメって言うから、お宝でもあるのかと思ってたよ。」
凛「本当に、真姫ちゃんが優しさで言ってくれただけじゃないかな。」
穂乃果「そうかぁ、悪いことしちゃったな。」
凛「ダメだよ、穂乃果ちゃん。」
穂乃果「凛ちゃんも潜入してたでしょ!」
私がすぐ座り直し、興奮気味にそう言うと、凛ちゃんが申し訳なさそうに、
凛「いや、暗くてあんまり見えなかったけど、驚くほど何もなかったにゃ。」
と言った。
凛ちゃんは、すっからかんだったよ~と両手を広げてみせた。
ってことは、真姫ちゃんの推測は間違ってたってことか…
穂乃果「なんだ~、入っちゃダメって言うから、お宝でもあるのかと思ってたよ。」
凛「本当に、真姫ちゃんが優しさで言ってくれただけじゃないかな。」
穂乃果「そうかぁ、悪いことしちゃったな。」
凛「ダメだよ、穂乃果ちゃん。」
穂乃果「凛ちゃんも潜入してたでしょ!」
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63: 警備員[Lv.11(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 21:22:42.45 ID:S5E+xW7+
凛「凛たち共犯だね。」
そう言ったのち、凛ちゃんが吹き出すので、つられて笑ってしまった。
少しの静寂の後、おもむろに腕を組んで、凛ちゃんは語り始めた。
凛「真姫ちゃん、最初はほら、凛とかよちんが幼馴染だからさ、入りづらそうにしてるのは感じてたんだ。でも、最近はだんだん近づいてきてくれるようになって。嬉しいんだ。」
穂乃果「凛ちゃん…」
凛「だから、明日謝りに行こ?」
穂乃果「そうだね、そうしよう。」
じゃあ寝ようか、
そう言って自室へ向かおうとした時、
私は意識を失った。
そう言ったのち、凛ちゃんが吹き出すので、つられて笑ってしまった。
少しの静寂の後、おもむろに腕を組んで、凛ちゃんは語り始めた。
凛「真姫ちゃん、最初はほら、凛とかよちんが幼馴染だからさ、入りづらそうにしてるのは感じてたんだ。でも、最近はだんだん近づいてきてくれるようになって。嬉しいんだ。」
穂乃果「凛ちゃん…」
凛「だから、明日謝りに行こ?」
穂乃果「そうだね、そうしよう。」
じゃあ寝ようか、
そう言って自室へ向かおうとした時、
私は意識を失った。
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64: 警備員[Lv.3(前12)][苗][警](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:18:34.17 ID:S5E+xW7+
…
……
………
穂乃果「うぅ。」
最悪な目覚めだった。まず、上下感覚だけが戻ってきて、自分は何かにもたれかかっていることがわかった。
バンザイの格好で机に突っ伏しているのか、指先はこれは木の感触だと脳へ伝えている。
首を動かすのが怖い。首筋の筋肉が伸びきってる状態だ。意を決して伸びをする。
穂乃果「いっ…」
身体は生を実感するほどの激痛を発し、背中から音を鳴らしながら、私は目を開け、活動を開始した。
……
………
穂乃果「うぅ。」
最悪な目覚めだった。まず、上下感覚だけが戻ってきて、自分は何かにもたれかかっていることがわかった。
バンザイの格好で机に突っ伏しているのか、指先はこれは木の感触だと脳へ伝えている。
首を動かすのが怖い。首筋の筋肉が伸びきってる状態だ。意を決して伸びをする。
穂乃果「いっ…」
身体は生を実感するほどの激痛を発し、背中から音を鳴らしながら、私は目を開け、活動を開始した。
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65: 警備員[Lv.3(前12)][苗][警](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:19:17.86 ID:S5E+xW7+
体が重い。
やはり、私は座ったまま寝ていたらしい。それならこの痛みにも納得だ。
そう思って時計を見ると6時を示していた。
よくもまぁ、6時間ほど座ったまま起きずに寝ていたもんだ。
穂乃果「凛ちゃん…?」
昨日凛ちゃんが座っていた場所には、当然のように誰もいないことに気づく。
穂乃果「全く、ベッドにくらい連れてってくれてもいいのに。」
呆れて先に寝られたんだろうか…先輩が急にガクッと寝たらそりゃ呆れるか。
穂乃果「…今何時だろ。」
ポケットの携帯を取り出し、時間を確認しようとする。
穂乃果「あ、あれ?」
やはり、私は座ったまま寝ていたらしい。それならこの痛みにも納得だ。
そう思って時計を見ると6時を示していた。
よくもまぁ、6時間ほど座ったまま起きずに寝ていたもんだ。
穂乃果「凛ちゃん…?」
昨日凛ちゃんが座っていた場所には、当然のように誰もいないことに気づく。
穂乃果「全く、ベッドにくらい連れてってくれてもいいのに。」
呆れて先に寝られたんだろうか…先輩が急にガクッと寝たらそりゃ呆れるか。
穂乃果「…今何時だろ。」
ポケットの携帯を取り出し、時間を確認しようとする。
穂乃果「あ、あれ?」
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66: 警備員[Lv.3(前12)][苗][警](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:19:55.10 ID:S5E+xW7+
黒い画面から変わらない。充電が切れたのかな。確か充電器は荷物の中か…取りに行こう。
そう思って立ち上がろうとすると、階段から誰かが降りてくる足音がした。
海未「早いですね、穂乃果。」
穂乃果「ま、まぁね~。」
海未「…ここで寝ていたんでしょう。」
ことり「風邪ひいちゃうよ?穂乃果ちゃん。」
穂乃果「はい。気をつけます…」
開口一番痛いところを突かれ、ことりちゃんがそれを慰めてくれた。
そう思って立ち上がろうとすると、階段から誰かが降りてくる足音がした。
海未「早いですね、穂乃果。」
穂乃果「ま、まぁね~。」
海未「…ここで寝ていたんでしょう。」
ことり「風邪ひいちゃうよ?穂乃果ちゃん。」
穂乃果「はい。気をつけます…」
開口一番痛いところを突かれ、ことりちゃんがそれを慰めてくれた。
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67: 警備員[Lv.3(前12)][苗][警](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:20:22.43 ID:S5E+xW7+
海未「あなたははしゃぎすぎですよ。」
ことり「…そう言う海未ちゃんもね、寝る前の読書中に寝てたんだって。」
海未「ことり!言わないでください!」
穂乃果「移動とかもあって、みんな疲れてたんだよ。きっと。」
顔を赤らめて素早く2度頷く海未ちゃんを、ことりちゃんが楽しそうに眺めていた。
…
ことり「…そう言う海未ちゃんもね、寝る前の読書中に寝てたんだって。」
海未「ことり!言わないでください!」
穂乃果「移動とかもあって、みんな疲れてたんだよ。きっと。」
顔を赤らめて素早く2度頷く海未ちゃんを、ことりちゃんが楽しそうに眺めていた。
…
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68: 警備員[Lv.3(前12)][苗][警](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:21:30.55 ID:S5E+xW7+
3人でゆっくりしていると、ぞろぞろと皆階段を1人ずつ降りてきた。
花陽「みんな早いね~。」
希「早起きは三文の徳よ?」
絵里「穂乃果も早いわね。」
にこ「おおよそ、昨日はしゃぎすぎてダウンしたんでしょ。で、相手は凛ね?」
穂乃果「ご、ご名答。」
真姫「…凛はまだ、起きてないようね。」
かわいいところあるな~、遠足前夜のの小学生じゃあるまいし…なんて、様々な声が聞こえて来る。
言い返す余地もなく、赤面するしかなかった。
花陽「みんな早いね~。」
希「早起きは三文の徳よ?」
絵里「穂乃果も早いわね。」
にこ「おおよそ、昨日はしゃぎすぎてダウンしたんでしょ。で、相手は凛ね?」
穂乃果「ご、ご名答。」
真姫「…凛はまだ、起きてないようね。」
かわいいところあるな~、遠足前夜のの小学生じゃあるまいし…なんて、様々な声が聞こえて来る。
言い返す余地もなく、赤面するしかなかった。
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69: 警備員[Lv.3(前12)][苗][警](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:21:59.21 ID:S5E+xW7+
そして、テーブルに8人がついて、また手持ち無沙汰になる。
時刻は7時過ぎ。私は変な寝方をしたせいか、まだ頭が働かない。
いや、眠いのは皆同じなのか、沈黙が続く。
ことり「よし、花陽ちゃんっ!ちょっと朝食の準備を手伝ってくれる?」
耐えられなくなったのか、ことりちゃんは立ち上がって言う。
花陽「は、はい!もちろんです!」
にこ「私も手伝うわ。」
希「じゃあ私はお茶でも淹れよか。」
絵里「頼んだわ。」
穂乃果「ありがとうね~。」
料理班と希ちゃんがことりちゃんへ着いていき、キッチンの奥へと消えていった。
…
時刻は7時過ぎ。私は変な寝方をしたせいか、まだ頭が働かない。
いや、眠いのは皆同じなのか、沈黙が続く。
ことり「よし、花陽ちゃんっ!ちょっと朝食の準備を手伝ってくれる?」
耐えられなくなったのか、ことりちゃんは立ち上がって言う。
花陽「は、はい!もちろんです!」
にこ「私も手伝うわ。」
希「じゃあ私はお茶でも淹れよか。」
絵里「頼んだわ。」
穂乃果「ありがとうね~。」
料理班と希ちゃんがことりちゃんへ着いていき、キッチンの奥へと消えていった。
…
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70: ころころ(もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:22:34.49 ID:S5E+xW7+
希ちゃんが淹れてくれたお茶を飲んでいると、絵里ちゃんが話しかけてきた。
絵里「霧が、濃いわね。」
絵里ちゃんにつられて窓の外を見る。確かにその景色は霞んでおり、数メートル先しか見渡せないほどだった。
私が訝しげに眺めていると、絵里ちゃんは神妙な面持ちで、
絵里「私、昨夜は部屋の机で、亜里沙に送る写真を整理してたのよ。そしたら、そのままバタッと気を失ったように眠ってしまったの。記憶では、日付がそろそろ変わる頃だったかと思うのだけれど。もしかしたら穂乃果も…そうなんじゃないかと思ってね。」
と言った。
穂乃果「私も…同じだ。」
絵里「霧が、濃いわね。」
絵里ちゃんにつられて窓の外を見る。確かにその景色は霞んでおり、数メートル先しか見渡せないほどだった。
私が訝しげに眺めていると、絵里ちゃんは神妙な面持ちで、
絵里「私、昨夜は部屋の机で、亜里沙に送る写真を整理してたのよ。そしたら、そのままバタッと気を失ったように眠ってしまったの。記憶では、日付がそろそろ変わる頃だったかと思うのだけれど。もしかしたら穂乃果も…そうなんじゃないかと思ってね。」
と言った。
穂乃果「私も…同じだ。」
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71: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:23:09.31 ID:S5E+xW7+
日付けが変わるから、そろそろ席を立とうとしたところで凛ちゃんに呼び止められたことを思い出す。
絵里「偶然じゃ、なさそうよね。」
絵里ちゃんは腰を浮かせて私の方に小さく移動して言う。
私も頷く。
あんな寝方を絵里ちゃんもするなんて…
絵里「これはまさか…」
絵里ちゃんは、声を一段低くして、手招きしながら囁くように話し始め、
絵里「偶然じゃ、なさそうよね。」
絵里ちゃんは腰を浮かせて私の方に小さく移動して言う。
私も頷く。
あんな寝方を絵里ちゃんもするなんて…
絵里「これはまさか…」
絵里ちゃんは、声を一段低くして、手招きしながら囁くように話し始め、
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72: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:23:52.99 ID:S5E+xW7+
絵里「私たち、少しはしゃぎすぎて疲れてるのかもしれないわね。」
と、おどけた声音で、絵里ちゃんが悪戯に笑う。
穂乃果「…え?」
そこで、私はどうやら揶揄われていたことを知った。
絵里「驚かせてごめんなさい。ここのあたりは、雲海が有名で、この霧も湿った朝方によく起こる現象らしいの。あと数時間で晴れると思うわ。幸い今日は中日だし、初日で飛ばした分ゆっくりいきましょ。」
穂乃果「もう…!本当に心配になったじゃん!酷いよ絵里ちゃん。」
絵里「ごめんなさい。少しからかいたくなっちゃったの。」
穂乃果「む~…」
私が精一杯不平を目で表していると、キッチンの方から花陽ちゃんが出てきて、
花陽「朝ごはんできたよ~!」
と力強く言った。その声で皆が立ち上がり、テーブルに集まる。
と、おどけた声音で、絵里ちゃんが悪戯に笑う。
穂乃果「…え?」
そこで、私はどうやら揶揄われていたことを知った。
絵里「驚かせてごめんなさい。ここのあたりは、雲海が有名で、この霧も湿った朝方によく起こる現象らしいの。あと数時間で晴れると思うわ。幸い今日は中日だし、初日で飛ばした分ゆっくりいきましょ。」
穂乃果「もう…!本当に心配になったじゃん!酷いよ絵里ちゃん。」
絵里「ごめんなさい。少しからかいたくなっちゃったの。」
穂乃果「む~…」
私が精一杯不平を目で表していると、キッチンの方から花陽ちゃんが出てきて、
花陽「朝ごはんできたよ~!」
と力強く言った。その声で皆が立ち上がり、テーブルに集まる。
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73: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:24:38.84 ID:S5E+xW7+
花陽「料理長、説明を。」
にこちゃんは腰に手を当て、胸を張った。
にこ「花陽副料理長の強い要望で、献立ははお米と味噌汁よ。」
花陽「えへへ、どうしても和風が良くて…もちろん鮭もあります!」
いつの間にか組織図が作られてきたみたいだ…
希「この雰囲気にこの食事、言うことないやん。」
希ちゃんはもう既に手を合わせながら言った。確かに、卓上から食欲のそそる匂いが上がって来る。
皆が食べる体勢に入っている…が、まだやらないといけないことがある。
ことり「あとは…凛ちゃんを起こさないと。」
にこちゃんは腰に手を当て、胸を張った。
にこ「花陽副料理長の強い要望で、献立ははお米と味噌汁よ。」
花陽「えへへ、どうしても和風が良くて…もちろん鮭もあります!」
いつの間にか組織図が作られてきたみたいだ…
希「この雰囲気にこの食事、言うことないやん。」
希ちゃんはもう既に手を合わせながら言った。確かに、卓上から食欲のそそる匂いが上がって来る。
皆が食べる体勢に入っている…が、まだやらないといけないことがある。
ことり「あとは…凛ちゃんを起こさないと。」
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74: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:25:14.98 ID:S5E+xW7+
穂乃果「あ!私が行くよ!」
そうだ。昨日の文句の一つも言いに行かないと。そう思って私は、鼻歌を歌いながら階段を登る。
昨日よりも薄暗い廊下を進み、凛ちゃんの部屋の扉をノックする。
返答はない。
まだ寝てるとは…私よりも朝が苦手な人がいるなんてね。
穂乃果「凛ちゃん?入るよ~?」
声を出してもリアクションは返ってこなかった。
そうだ。昨日の文句の一つも言いに行かないと。そう思って私は、鼻歌を歌いながら階段を登る。
昨日よりも薄暗い廊下を進み、凛ちゃんの部屋の扉をノックする。
返答はない。
まだ寝てるとは…私よりも朝が苦手な人がいるなんてね。
穂乃果「凛ちゃん?入るよ~?」
声を出してもリアクションは返ってこなかった。
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75: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/27(土) 22:25:53.11 ID:S5E+xW7+
穂乃果「もう…朝だよっ!」
そう言いながら力強く開ける。
『え!?嘘!もう朝!?』
なんて、凛ちゃんなら言いそうなものなのに。
全く…これでも起きないか。
力技だけど、仕方ない。
意を決して、私は一気に布団をはいだ。
穂乃果「…え?」
そこに凛ちゃんは、いなかった。
そう言いながら力強く開ける。
『え!?嘘!もう朝!?』
なんて、凛ちゃんなら言いそうなものなのに。
全く…これでも起きないか。
力技だけど、仕方ない。
意を決して、私は一気に布団をはいだ。
穂乃果「…え?」
そこに凛ちゃんは、いなかった。
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78: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/28(日) 00:07:09.45 ID:vopyTpSg
部屋は私の部屋と同じような作りをしている。それなら、隠れるところなんてないはずだ。
布団は冷たい。布団から抜けて薄時間経っているのか…あるいは、そもそも布団に入ってないか。
くっ、一体どこに行ったって言うの!?
私1人で考えても仕方がない。半ば転げ落ちながら階段を降りる。事の異常性は皆気付いてくれたようだ。
穂乃果「凛ちゃんが…」ハァハァ
絵里「…まさか…穂乃果…!」
穂乃果「凛ちゃんが、いない…!」
…
布団は冷たい。布団から抜けて薄時間経っているのか…あるいは、そもそも布団に入ってないか。
くっ、一体どこに行ったって言うの!?
私1人で考えても仕方がない。半ば転げ落ちながら階段を降りる。事の異常性は皆気付いてくれたようだ。
穂乃果「凛ちゃんが…」ハァハァ
絵里「…まさか…穂乃果…!」
穂乃果「凛ちゃんが、いない…!」
…
0
79: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/28(日) 00:08:08.12 ID:vopyTpSg
そこからは大慌てで家中を探したが、どこにも見当たらない。山のほうに行ったのかと思ったが、それこそこの霧で探すのが困難だ。二次災害に繋がってしまう。
とすれば、
穂乃果「あとはここだけだね。真姫ちゃん。」
真姫ちゃんに入っちゃダメと言われたあの建物の扉の前に、私たちは立っている。
真姫「…」
真姫ちゃんは黙ったまま、静かに頷く。
海未「残りはここしかありません。入りましょう、穂乃果。」
穂乃果「よし、行くよ。」
とすれば、
穂乃果「あとはここだけだね。真姫ちゃん。」
真姫ちゃんに入っちゃダメと言われたあの建物の扉の前に、私たちは立っている。
真姫「…」
真姫ちゃんは黙ったまま、静かに頷く。
海未「残りはここしかありません。入りましょう、穂乃果。」
穂乃果「よし、行くよ。」
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80: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/28(日) 00:08:44.75 ID:vopyTpSg
私は扉を開けた。
そこには、
穂乃果「う…そ…」
花陽「うわぁぁぁぁ!!凛ちゃん!?凛ぢゃん!!」
夢を見ているみたいだった。
悪夢と言っていい。
が、この胸の痛みが、現実であることを強調するように脈打っている。
古めかしい建物の隣で、私たちは立ち尽くしている。そこには紙垂のついた注連縄で繋がれた柱があって、
その下で花陽ちゃんが泣き叫んでる。
言葉も出ない。
皆一様に荒い息遣いをして目を見開いているより他なかった。
そこには、
穂乃果「う…そ…」
花陽「うわぁぁぁぁ!!凛ちゃん!?凛ぢゃん!!」
夢を見ているみたいだった。
悪夢と言っていい。
が、この胸の痛みが、現実であることを強調するように脈打っている。
古めかしい建物の隣で、私たちは立ち尽くしている。そこには紙垂のついた注連縄で繋がれた柱があって、
その下で花陽ちゃんが泣き叫んでる。
言葉も出ない。
皆一様に荒い息遣いをして目を見開いているより他なかった。
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81: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/28(日) 00:09:33.54 ID:vopyTpSg
無理もない。つい昨日まで楽しく談笑してた人が、死んでしまったのだから。
日常から死が限りなく切り離された世界。
この光景をすぐ受け入れられるわけがない。
それに、ただ死んでいるんじゃない。
柱に、括り付けられている。
それは生前、紛れもなく、私たちの友達だった__
凛ちゃんそのものだった。
胸が焼ける。瞼を閉じても、あの光景が張り付いて離れない。
酷い。
これじゃまるで、
生贄じゃないか。
…
……
………
日常から死が限りなく切り離された世界。
この光景をすぐ受け入れられるわけがない。
それに、ただ死んでいるんじゃない。
柱に、括り付けられている。
それは生前、紛れもなく、私たちの友達だった__
凛ちゃんそのものだった。
胸が焼ける。瞼を閉じても、あの光景が張り付いて離れない。
酷い。
これじゃまるで、
生贄じゃないか。
…
……
………
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92: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:48:29.53 ID:6DVnHnUi
あれから何時間経っただろう。
私たちは家に戻ってきたが、誰も何もせず、ただ時間だけが過ぎていった。
ただ部屋にある古時計だけが、声を発し続けている。
重い空気だ。
何か言わなきゃいけないと誰もが思っているが、この一言でこの後の展開が変わってきまうんだ。
その重圧で、誰も口を出せないでいる。
花陽「凛ちゃん、ほんとにその…死んじゃったのかな。」
その長い沈黙を破ったのは花陽ちゃんだった。
私たちは家に戻ってきたが、誰も何もせず、ただ時間だけが過ぎていった。
ただ部屋にある古時計だけが、声を発し続けている。
重い空気だ。
何か言わなきゃいけないと誰もが思っているが、この一言でこの後の展開が変わってきまうんだ。
その重圧で、誰も口を出せないでいる。
花陽「凛ちゃん、ほんとにその…死んじゃったのかな。」
その長い沈黙を破ったのは花陽ちゃんだった。
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93: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:49:20.05 ID:6DVnHnUi
絵里「花陽、それはどういう__」
穂乃果「確かに…確証はまだないね。」
酷い同調だ。目に見えて凛ちゃんは血の気がなかったのは既に見てとれた。海未ちゃんの片眉が吊り上がっている。
花陽「私、行ってくるよ。」
穂乃果「私も行く。」
花陽ちゃんが危なっかしく立ち上がる。私は肩に手を巻き、あの建物へ促す。
希「ウチも行くよ。」
希ちゃんも立って、反対側を支えに来てくれた。
にこ「ごめん、私は行けないわ。」
ことり「私も…頼んでいいかな。」
穂乃果「確かに…確証はまだないね。」
酷い同調だ。目に見えて凛ちゃんは血の気がなかったのは既に見てとれた。海未ちゃんの片眉が吊り上がっている。
花陽「私、行ってくるよ。」
穂乃果「私も行く。」
花陽ちゃんが危なっかしく立ち上がる。私は肩に手を巻き、あの建物へ促す。
希「ウチも行くよ。」
希ちゃんも立って、反対側を支えに来てくれた。
にこ「ごめん、私は行けないわ。」
ことり「私も…頼んでいいかな。」
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94: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:49:39.88 ID:6DVnHnUi
無理もない。あの光景をもう一度見たいわけがないんだ。
穂乃果「無理しないで、ちょっと待っててね。ほら、花陽ちゃん。行こう。」
私は表情を伺うと、花陽ちゃんは顔を合わせてくれた。
が、
花陽「…はい。」
その目は、私を捉えていなかった。
…
穂乃果「無理しないで、ちょっと待っててね。ほら、花陽ちゃん。行こう。」
私は表情を伺うと、花陽ちゃんは顔を合わせてくれた。
が、
花陽「…はい。」
その目は、私を捉えていなかった。
…
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95: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:50:48.38 ID:6DVnHnUi
私はもう一度あの重い扉に手をかける。そして、かつて凛ちゃんだったものと改めて対面した。
瞼の裏に焼きついた景色と何も変わらないが、今度は中に入って間近で見る必要がある。歩みを進め、凸凹とした土の床を歩く。
さっきはそれどころじゃなかったけど、内装がある程度わかった。
この建物は、凛ちゃんも言っていた通り、仕切りがなく、広い空間があるだけだった。
天井も高いので、より広く見える。
まず、上から見て点を結ぶと四角形になるように、大きな柱が4つと、間に柱が2本あり、屋根へと繋がっている。
凛ちゃんは大きな柱の間にある柱に括り付けられていた。
それと、腰掛けられるようにか、一段高く畳が敷かれた場所が壁に対になるようにあり、それらは3つの柱で区切られている。
瞼の裏に焼きついた景色と何も変わらないが、今度は中に入って間近で見る必要がある。歩みを進め、凸凹とした土の床を歩く。
さっきはそれどころじゃなかったけど、内装がある程度わかった。
この建物は、凛ちゃんも言っていた通り、仕切りがなく、広い空間があるだけだった。
天井も高いので、より広く見える。
まず、上から見て点を結ぶと四角形になるように、大きな柱が4つと、間に柱が2本あり、屋根へと繋がっている。
凛ちゃんは大きな柱の間にある柱に括り付けられていた。
それと、腰掛けられるようにか、一段高く畳が敷かれた場所が壁に対になるようにあり、それらは3つの柱で区切られている。
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96: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:51:19.37 ID:6DVnHnUi
やっぱり倉庫か何かなのかな。でも、中に何も入ってないし…
私がキョロキョロしている間に、希ちゃんは亡骸に近づいて、確認してくれている。脈をとったり、ライトをつけたり消したりしている。
私が駆け寄ると、希ちゃんの動きが止まって、
希「息は…だめや。してない…死斑もある。瞳孔は…うん、やっぱり確実に亡くなってる…」
無情な宣告を突きつけられた。
花陽「そうだよね…」
言いながら、花陽ちゃんは膝から崩れ落ちる。
私がキョロキョロしている間に、希ちゃんは亡骸に近づいて、確認してくれている。脈をとったり、ライトをつけたり消したりしている。
私が駆け寄ると、希ちゃんの動きが止まって、
希「息は…だめや。してない…死斑もある。瞳孔は…うん、やっぱり確実に亡くなってる…」
無情な宣告を突きつけられた。
花陽「そうだよね…」
言いながら、花陽ちゃんは膝から崩れ落ちる。
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97: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:51:47.48 ID:6DVnHnUi
希「それに、首を絞められて、〇されたみたいやね。」
穂乃果「酷い…一体誰が…!」
花陽「…許せないよ。凛ちゃんを〇した挙句、こんな見せしめのようなことをして。」
花陽ちゃんが怒りを孕んだ声で言う。付近には土の床に、握りしめられたような跡があった。
希「ウチも辛いよ…花陽ちゃん。凛ちゃんの笑顔がもう見られないなんてな。」
穂乃果「下ろしてあげようよ。このままじゃ…凛ちゃん辛いと思うよ。」
目も当てられなくなった私は、凛ちゃんに巻かれた縄を解こうと手を伸ばす。
穂乃果「酷い…一体誰が…!」
花陽「…許せないよ。凛ちゃんを〇した挙句、こんな見せしめのようなことをして。」
花陽ちゃんが怒りを孕んだ声で言う。付近には土の床に、握りしめられたような跡があった。
希「ウチも辛いよ…花陽ちゃん。凛ちゃんの笑顔がもう見られないなんてな。」
穂乃果「下ろしてあげようよ。このままじゃ…凛ちゃん辛いと思うよ。」
目も当てられなくなった私は、凛ちゃんに巻かれた縄を解こうと手を伸ばす。
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98: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:52:22.37 ID:6DVnHnUi
希「…どうやろか。」
私の手を、希ちゃんは手をかけ、制止した。
穂乃果「どうして!?」
希「…現場は手をつけずに保存しとくのが鉄則よ。警察が来た時に、捜査しやすいように。」
気持ちは痛いほど分かる。手で締め〇されたなら、指紋が出て来るはずだ。当然、現場の保存は鉄則だろう。ただ、感情がそれを許さない。
希「穂乃果ちゃん、ウチを殴ってほしい。」
希ちゃんは酷く悲しい顔でそう呟いた。みんな悲しいに決まっているんだ。途端、自分が冷静さを欠いていたことに気付いた。
私は一つ、息を吐いて言う。
穂乃果「そんなことしないよ。希ちゃんも本心では、下ろしてあげたいと思ってるんでしょ。」
私の手を、希ちゃんは手をかけ、制止した。
穂乃果「どうして!?」
希「…現場は手をつけずに保存しとくのが鉄則よ。警察が来た時に、捜査しやすいように。」
気持ちは痛いほど分かる。手で締め〇されたなら、指紋が出て来るはずだ。当然、現場の保存は鉄則だろう。ただ、感情がそれを許さない。
希「穂乃果ちゃん、ウチを殴ってほしい。」
希ちゃんは酷く悲しい顔でそう呟いた。みんな悲しいに決まっているんだ。途端、自分が冷静さを欠いていたことに気付いた。
私は一つ、息を吐いて言う。
穂乃果「そんなことしないよ。希ちゃんも本心では、下ろしてあげたいと思ってるんでしょ。」
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99: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:52:49.58 ID:6DVnHnUi
希「そうやね…」
花陽「じゃあ、最後の、お別れをしてもいいですか。」
からっぽの空間に、花陽ちゃんはポツリと呟いた。
…
花陽「じゃあ、最後の、お別れをしてもいいですか。」
からっぽの空間に、花陽ちゃんはポツリと呟いた。
…
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100: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:53:27.82 ID:6DVnHnUi
にこ「どうだったの、凛は。」
帰るや否や、にこちゃんが振り向かずに聞いてきた。
花陽「亡くなってました。」
花陽ちゃんは、決意じみた声色で、そう言った。それはにこちゃん、みんなに伝わったらしい。
にこ「そう…」
そう言ってにこちゃんは、絶望した表情を浮かべた。
絵里ちゃんは、窓の外を向いて涙を流していた。
ことりちゃんは、凛ちゃんと呟きながら嗚咽していた。
海未ちゃんは、焦ったようになにか考え事をしていた。
真姫ちゃんは、机に突っ伏していた。
帰るや否や、にこちゃんが振り向かずに聞いてきた。
花陽「亡くなってました。」
花陽ちゃんは、決意じみた声色で、そう言った。それはにこちゃん、みんなに伝わったらしい。
にこ「そう…」
そう言ってにこちゃんは、絶望した表情を浮かべた。
絵里ちゃんは、窓の外を向いて涙を流していた。
ことりちゃんは、凛ちゃんと呟きながら嗚咽していた。
海未ちゃんは、焦ったようになにか考え事をしていた。
真姫ちゃんは、机に突っ伏していた。
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101: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:53:59.41 ID:6DVnHnUi
人の死は、重い。
現代では死とは隔絶された世界に生きている。
皆が当然明日は来るものだと考え、自分や周りにそれが訪れるは思い至らない。
それが、目の前に現れた。
それも、昨日まで楽しく話してた友達にだ。
この反応になるのも無理はなかった。
現実的じゃないことが起きすぎている。
にこ「なんなのよっ!何が起きてるの…?」
にこちゃんの叫びを拾う者はおらず、再び時計だけが音を刻み続けた。
ことり「…とりあえず、朝ごはん食べちゃおう。お腹空いてたら何も考えられないっ。」
現代では死とは隔絶された世界に生きている。
皆が当然明日は来るものだと考え、自分や周りにそれが訪れるは思い至らない。
それが、目の前に現れた。
それも、昨日まで楽しく話してた友達にだ。
この反応になるのも無理はなかった。
現実的じゃないことが起きすぎている。
にこ「なんなのよっ!何が起きてるの…?」
にこちゃんの叫びを拾う者はおらず、再び時計だけが音を刻み続けた。
ことり「…とりあえず、朝ごはん食べちゃおう。お腹空いてたら何も考えられないっ。」
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102: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:54:31.68 ID:6DVnHnUi
やりきれかくなったのか、ことりちゃんがそう切り出した。
絵里「そうね…」
皆同調し、私たちは遅めの朝食をとることにした。食欲も失せてしまったが、何もしないよりはマシだろう。
これを朝食と言っていいのかわからない。でも、具体的な時間はわからないし、時計を見る気にもならなかった。
あの時、目を見張るほど美味しそうだったものを口にする。
すっかり冷めてしまっている。
静かな朝食だ。周りからはすすり泣く声や、嗚咽が聞こえる。
…この鮭、少ししょっぱいや。
…
絵里「そうね…」
皆同調し、私たちは遅めの朝食をとることにした。食欲も失せてしまったが、何もしないよりはマシだろう。
これを朝食と言っていいのかわからない。でも、具体的な時間はわからないし、時計を見る気にもならなかった。
あの時、目を見張るほど美味しそうだったものを口にする。
すっかり冷めてしまっている。
静かな朝食だ。周りからはすすり泣く声や、嗚咽が聞こえる。
…この鮭、少ししょっぱいや。
…
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103: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 00:55:02.41 ID:6DVnHnUi
食器も片付けたところで、
希「…状況をまとめようか。」
希ちゃんが、一度腰を浮かし座り直してそう言った。
…
……
………
希「…状況をまとめようか。」
希ちゃんが、一度腰を浮かし座り直してそう言った。
…
……
………
0
104: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:06:52.95 ID:6DVnHnUi
テーブルを囲って、皆が希ちゃんに注目している。
希「まず、現状をまとめよう。海未ちゃんお願い。」
はい。と短く言って海未ちゃんは手を掲げる。
その手にはスマートフォンが握られていた。
海未「携帯電話ですが、この通り、全く動きません。充電がなくなったのかと思って、朝から充電していましたが、いまだ直らずです。皆さんはどうですか?」
それを聞いて皆携帯を取り出すも、同様に黒い画面を映すだけだった。
それを確認した海未ちゃんは、頷いて話を続けた。
海未「さらに、この家の電話は機能しませんでした。どこにかけてもつながりません。おそらく、電話線が切れてるのかと。」
真姫「そ、そんなはずはないわ!掃除や準備してくれたって、掃除を任せた人が一昨日、ここから連絡してきたのよ。」
希「まず、現状をまとめよう。海未ちゃんお願い。」
はい。と短く言って海未ちゃんは手を掲げる。
その手にはスマートフォンが握られていた。
海未「携帯電話ですが、この通り、全く動きません。充電がなくなったのかと思って、朝から充電していましたが、いまだ直らずです。皆さんはどうですか?」
それを聞いて皆携帯を取り出すも、同様に黒い画面を映すだけだった。
それを確認した海未ちゃんは、頷いて話を続けた。
海未「さらに、この家の電話は機能しませんでした。どこにかけてもつながりません。おそらく、電話線が切れてるのかと。」
真姫「そ、そんなはずはないわ!掃除や準備してくれたって、掃除を任せた人が一昨日、ここから連絡してきたのよ。」
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105: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:07:23.60 ID:6DVnHnUi
真姫ちゃんは驚き、興奮気味に言った。
海未「…どちらにせよ、一昨日から今日のうちに使用不能になったということですね。」
ことり「これじゃ、警察も呼べないね…」
花陽「それなら、山を下って助けを呼ぶ…?」
絵里「それは難しいでしょうね…麓に降りようにも、慣れない道をこの霧じゃあ無理よ。待っていた方が得策だと思うわ。」
記憶によれば、あの道は30分ほど歩く必要がある。途中崖のようなところもあったので、霧で足を滑らせるかもしれない。
そもそも、私たちはどの道を辿ればいいかがわからない。
海未「…どちらにせよ、一昨日から今日のうちに使用不能になったということですね。」
ことり「これじゃ、警察も呼べないね…」
花陽「それなら、山を下って助けを呼ぶ…?」
絵里「それは難しいでしょうね…麓に降りようにも、慣れない道をこの霧じゃあ無理よ。待っていた方が得策だと思うわ。」
記憶によれば、あの道は30分ほど歩く必要がある。途中崖のようなところもあったので、霧で足を滑らせるかもしれない。
そもそも、私たちはどの道を辿ればいいかがわからない。
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106: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:08:10.01 ID:6DVnHnUi
にこ「…そうだ!真姫、あなたならこの霧でも道がわかるんじゃないの?」
真姫「ここに来たのは1、2回だけ。昨日も携帯のGPSを見ながらだから…ごめんなさい。」
絵里「確か麓への道は、何本か枝分かれしてた記憶があるわ。ここで迷ったら一貫の終わり。最終手段とするべきよ。まぁ、現代人の辛いところね…」
にこ「こんな状況で待つしかないって言うの…?」
やはり、強行突破は難しいと考えていい。それに、凛ちゃんを〇した人間がこの辺を彷徨いているかもしれない。下手なことをするのは危険だ。
希「穂乃果ちゃん、その霧なんやけど。」
霧?あぁ、あのことか。
穂乃果「うん。あの霧、あまり吸い込まない方がいいと思う…成分とかはよく分からないけど、体に悪いってのはわかるんだ。」
真姫「ここに来たのは1、2回だけ。昨日も携帯のGPSを見ながらだから…ごめんなさい。」
絵里「確か麓への道は、何本か枝分かれしてた記憶があるわ。ここで迷ったら一貫の終わり。最終手段とするべきよ。まぁ、現代人の辛いところね…」
にこ「こんな状況で待つしかないって言うの…?」
やはり、強行突破は難しいと考えていい。それに、凛ちゃんを〇した人間がこの辺を彷徨いているかもしれない。下手なことをするのは危険だ。
希「穂乃果ちゃん、その霧なんやけど。」
霧?あぁ、あのことか。
穂乃果「うん。あの霧、あまり吸い込まない方がいいと思う…成分とかはよく分からないけど、体に悪いってのはわかるんだ。」
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107: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:08:53.11 ID:6DVnHnUi
さっき花陽ちゃんたちとあの建物に行った時、あの霧を吸い込んだのは数分だったが、軽く咳き込んだ。
この屋敷に戻ると、症状も和らいでいった。無関係とは言えないだろう。
ことり「ただの霧じゃないってこと?」
私は問いかけに頷いた。
絵里「確かに、この時間まで霧が深いだなんて、普通じゃないでしょうね…」
海未「そういうことです。まとめると、私たちは外部との連絡を断たれ、この館に閉じ込められたと言うことになりますね。」
この屋敷に戻ると、症状も和らいでいった。無関係とは言えないだろう。
ことり「ただの霧じゃないってこと?」
私は問いかけに頷いた。
絵里「確かに、この時間まで霧が深いだなんて、普通じゃないでしょうね…」
海未「そういうことです。まとめると、私たちは外部との連絡を断たれ、この館に閉じ込められたと言うことになりますね。」
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108: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:09:39.73 ID:6DVnHnUi
花陽「つまり、凛ちゃんに手をかけたのは。」
花陽ちゃんの言葉が重い。皆が吸い寄せられるように花陽ちゃんの方を見る。
希「…そうとは限らんよ、推理小説だと、得てしてどこかに抜け道があるもんや。」
穂乃果「そうだよ。この中にそんな人はいないと思う。」
私は希ちゃんに同調する。不明瞭な状況で、余計な争いは避けるべきだ。それに、本音でもある。
ことり「私もそんなこと考えたくないな…」
花陽ちゃんの言葉が重い。皆が吸い寄せられるように花陽ちゃんの方を見る。
希「…そうとは限らんよ、推理小説だと、得てしてどこかに抜け道があるもんや。」
穂乃果「そうだよ。この中にそんな人はいないと思う。」
私は希ちゃんに同調する。不明瞭な状況で、余計な争いは避けるべきだ。それに、本音でもある。
ことり「私もそんなこと考えたくないな…」
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109: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:15:27.67 ID:6DVnHnUi
希「それでやけど、凛ちゃんの遺体から何個か事実がわかった。まず、首を絞められて〇されたこと。死斑の様子から、死んでしまったのは少なく見積もっても3~6時間前。見た時間が9時頃やったから、まぁ朝早い時期やね。」
にこ「あんたそこまで…」
希「…なにか思考してないと、頭がおかしくなりそうなんよ。それで、その時間みんな何やってたんか聞きたいんや。」
絵里「待って希。まさか貴方…私たちを疑ってるの?」
それと同時に皆が皆の顔を見合う。
対する希ちゃんも予想の範囲の質問か、焦りはない様子だ。
希「絵里ち、むしろ逆や。ウチは一つずつ不明点を潰して、むしろ外部の犯行と、みんながシロだと確定させたいんよ。」
にこ「あんたそこまで…」
希「…なにか思考してないと、頭がおかしくなりそうなんよ。それで、その時間みんな何やってたんか聞きたいんや。」
絵里「待って希。まさか貴方…私たちを疑ってるの?」
それと同時に皆が皆の顔を見合う。
対する希ちゃんも予想の範囲の質問か、焦りはない様子だ。
希「絵里ち、むしろ逆や。ウチは一つずつ不明点を潰して、むしろ外部の犯行と、みんながシロだと確定させたいんよ。」
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110: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:16:08.23 ID:6DVnHnUi
海未「そうは言ってもですね、なにしろ個室です。アリバイを証明するのは難しいかと。」
個室で鍵もかかっていない。凛ちゃんを〇す条件としては、全員が揃っていると言えた。
希「確かにそうなんよなぁ…でも、まず話を聞くのは、」
穂乃果「私、だよね。」
当然だ。
今のところ、最後に凛ちゃんと喋っており、そのまま寝落ちした私が1番怪しい。
ことり「えぇ!?穂乃果ちゃん!?」
穂乃果「ことりちゃん。希ちゃんは、なにも私が犯人だと言いたいんじゃないよ。」
希「そういうこと。」
個室で鍵もかかっていない。凛ちゃんを〇す条件としては、全員が揃っていると言えた。
希「確かにそうなんよなぁ…でも、まず話を聞くのは、」
穂乃果「私、だよね。」
当然だ。
今のところ、最後に凛ちゃんと喋っており、そのまま寝落ちした私が1番怪しい。
ことり「えぇ!?穂乃果ちゃん!?」
穂乃果「ことりちゃん。希ちゃんは、なにも私が犯人だと言いたいんじゃないよ。」
希「そういうこと。」
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111: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:16:47.89 ID:6DVnHnUi
穂乃果「とは言っても、海未ちゃん達に話した通り、私はここで凛ちゃんと話していたら、急に眠気が来て、6時ごろ目が覚めたから…昨夜からずっとこの部屋にいたよ。」
私は昨夜のことを思い出しながら言う。あの眠気は尋常じゃなかった。絵里ちゃんの言うとおり、疲れていただけなんだろうけ。
海未「寝起きの穂乃果は、確かにそう見えましたね。」
花陽「…でも、急に眠くなってきたなんて、そんなことあるの?」
花陽ちゃんが鋭い目を向けてくる。そりゃ疑われるだろう。
穂乃果「そりゃ信じられないよね…でも、信じてほしい。私からはそう言うしかないんだ。」
根拠のない言葉だ。その代わり、語気を強める。少しでも信じてくれることを願った。
信じたいが、少し決めてに欠ける。そんな雰囲気の中、ひとり手を挙げる人がいた。
絵里「私も、昨夜急な眠気に襲われたわ。」
私は昨夜のことを思い出しながら言う。あの眠気は尋常じゃなかった。絵里ちゃんの言うとおり、疲れていただけなんだろうけ。
海未「寝起きの穂乃果は、確かにそう見えましたね。」
花陽「…でも、急に眠くなってきたなんて、そんなことあるの?」
花陽ちゃんが鋭い目を向けてくる。そりゃ疑われるだろう。
穂乃果「そりゃ信じられないよね…でも、信じてほしい。私からはそう言うしかないんだ。」
根拠のない言葉だ。その代わり、語気を強める。少しでも信じてくれることを願った。
信じたいが、少し決めてに欠ける。そんな雰囲気の中、ひとり手を挙げる人がいた。
絵里「私も、昨夜急な眠気に襲われたわ。」
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112: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:17:20.40 ID:6DVnHnUi
それは絵里ちゃんだった。
希「絵里ちも?」
絵里「えぇ。亜里沙へ送る写真を選定していた時にね。だから、穂乃果の言ってることも、嘘とは思えないわね。」
ありがとう…絵里ちゃん。
希「ふむ…そんな一筋縄にいかなそうやね。他のみんなは?」
それぞれ、すぐ眠りについた人や、布団で横になってた人…結論からすると、アリバイを証明できる人はいなかった。
希「ごめんなみんな。これじゃイタズラに心配させただけやね…」
希「絵里ちも?」
絵里「えぇ。亜里沙へ送る写真を選定していた時にね。だから、穂乃果の言ってることも、嘘とは思えないわね。」
ありがとう…絵里ちゃん。
希「ふむ…そんな一筋縄にいかなそうやね。他のみんなは?」
それぞれ、すぐ眠りについた人や、布団で横になってた人…結論からすると、アリバイを証明できる人はいなかった。
希「ごめんなみんな。これじゃイタズラに心配させただけやね…」
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113: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:28:03.86 ID:6DVnHnUi
海未「そもそも、私たちの中に犯人がいると決まったわけじゃありません。そもそも私たちは合宿で来ているんですから、昨夜にアリバイどうこうで行動するとも思えません。逆にそれが、私たちの中に犯人はいないという根拠にもなりえます。」
穂乃果「それに、こんな山奥だからって、施錠も曖昧だったはず。今夜はその辺をしっかりしていれば、ひとまず問題ないと思うよ。そして、霧が晴れるのを待とう。」
希「そうやね。」
私たちは、現状維持の結論を出した。消極的だが、まだ情報があまりにも足りない今、思い切って動くのも難しいだろう。
かくして、方針が決まってしまった。思考を放棄すると、
あぁ…あの光景が瞼から離れない。
穂乃果「それに、こんな山奥だからって、施錠も曖昧だったはず。今夜はその辺をしっかりしていれば、ひとまず問題ないと思うよ。そして、霧が晴れるのを待とう。」
希「そうやね。」
私たちは、現状維持の結論を出した。消極的だが、まだ情報があまりにも足りない今、思い切って動くのも難しいだろう。
かくして、方針が決まってしまった。思考を放棄すると、
あぁ…あの光景が瞼から離れない。
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114: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:28:39.99 ID:6DVnHnUi
空の頭を埋めるように、忌まわしい記憶が侵食してくる。私は逃げるように皆の顔を見渡す。
何の反応もない。
凛ちゃんの死に蓋をするようで、少し嫌な気持ちになった。
そう自虐していると、海未ちゃんが思いついたように顔を上げる。
海未「一つ聞いておきたいのですが、真姫…あそこはもともと何に使われてたものなのですか?」
真姫ちゃんに視線が集中する。
真姫「ごめんなさい、わからないの。お婆様にもよく教えられてないのよ。」
希「まぁまぁ海未ちゃん、ウチから見て、推測できることを話すよ。真姫ちゃん、間違えてたら訂正してな。」
真姫「頼んだわ…」
何の反応もない。
凛ちゃんの死に蓋をするようで、少し嫌な気持ちになった。
そう自虐していると、海未ちゃんが思いついたように顔を上げる。
海未「一つ聞いておきたいのですが、真姫…あそこはもともと何に使われてたものなのですか?」
真姫ちゃんに視線が集中する。
真姫「ごめんなさい、わからないの。お婆様にもよく教えられてないのよ。」
希「まぁまぁ海未ちゃん、ウチから見て、推測できることを話すよ。真姫ちゃん、間違えてたら訂正してな。」
真姫「頼んだわ…」
0
115: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:29:09.66 ID:6DVnHnUi
憔悴した真姫ちゃんに優しく微笑みかけたあと、希ちゃんは正面向いて話し始めた。
希「みんな、昨日見た棚田を覚えとる?」
絵里「あぁ、綺麗だったわね。あれがどうかしたの?」
希「どこか不自然に思わんかった?」
ことり「私は特に…」
ことりちゃんから『穂乃果ちゃんは?』という視線送られたので、私は首を傾げた。
海未「そう言えば、ポツンと丘だけがあって、不自然とは感じましたね。なんでここだけ盛られてるんだろうって。」
希「みんな、昨日見た棚田を覚えとる?」
絵里「あぁ、綺麗だったわね。あれがどうかしたの?」
希「どこか不自然に思わんかった?」
ことり「私は特に…」
ことりちゃんから『穂乃果ちゃんは?』という視線送られたので、私は首を傾げた。
海未「そう言えば、ポツンと丘だけがあって、不自然とは感じましたね。なんでここだけ盛られてるんだろうって。」
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116: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:29:35.75 ID:6DVnHnUi
あぁ、そう言えばそうだった。
ことりちゃんと頷き合う。
希「それなんやけど、あれはな、盛られたんやなくて、残されたものなんや。」
にこ「どういうことよ。」
希「まず、ここら一帯はその昔、製鉄が盛んに行われていたんや。昔は、もっぱら燃料として木炭が使われていた。」
ことり「たしかに、この辺は自然が豊かだし、木材には困らなさそうだね。」
希「まぁ、製鉄を一回行うのに、木炭を12トンくらい使うらしいから、相当な量が必要やね。」
絵里「規模がよくわからないわ…」
ことりちゃんと頷き合う。
希「それなんやけど、あれはな、盛られたんやなくて、残されたものなんや。」
にこ「どういうことよ。」
希「まず、ここら一帯はその昔、製鉄が盛んに行われていたんや。昔は、もっぱら燃料として木炭が使われていた。」
ことり「たしかに、この辺は自然が豊かだし、木材には困らなさそうだね。」
希「まぁ、製鉄を一回行うのに、木炭を12トンくらい使うらしいから、相当な量が必要やね。」
絵里「規模がよくわからないわ…」
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117: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:30:20.54 ID:6DVnHnUi
希「製鉄言うんやから、もちろん鉄が必要なんやけど、この辺は質のいい砂鉄がよく取れたんよ。それを取るためにな、かんな流しっていって、戦国時代頃から文字通り山を切り崩して、出てきた土を水で流し、その比重の重さで砂鉄と不要な土とをわけたんや。その時、神聖な土地は切り崩すわけにいかず、手付かずになった。それであの丘が残ったというわけなんよ。」
それで、残されたもの…か。
希「このように採れた砂鉄や木炭とかを使って製鉄を行っていた…それがあの建物、じゃないかと思う。製鉄の跡のようなものも見てとれたしな。」
真姫「そうだったのね…」
海未「たたら製鉄というやつですか…話は聞いたことありましたが、初めて見ましたね。」
にこ「私は聞いたことないわね。」
穂乃果「私もないなぁ。」
ことり「私もだよ~。」
それで、残されたもの…か。
希「このように採れた砂鉄や木炭とかを使って製鉄を行っていた…それがあの建物、じゃないかと思う。製鉄の跡のようなものも見てとれたしな。」
真姫「そうだったのね…」
海未「たたら製鉄というやつですか…話は聞いたことありましたが、初めて見ましたね。」
にこ「私は聞いたことないわね。」
穂乃果「私もないなぁ。」
ことり「私もだよ~。」
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118: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:31:06.53 ID:6DVnHnUi
海未「確か、もものけ姫の舞台のモデルになったんじゃなかったでしたっけ。」
にこ「あ!それなら知ってるわ。うちの妹たちと見たことあるわ。」
希「これが平時なら、心置きなく海未ちゃんと見学してたんやけどな…」
海未「そうですね…でも、あまり私たちが入るのはよくないんじゃないですか?」
それは、
希「あ、そうやった。」
どう言うこと?
にこ「あ!それなら知ってるわ。うちの妹たちと見たことあるわ。」
希「これが平時なら、心置きなく海未ちゃんと見学してたんやけどな…」
海未「そうですね…でも、あまり私たちが入るのはよくないんじゃないですか?」
それは、
希「あ、そうやった。」
どう言うこと?
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119: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:32:02.89 ID:6DVnHnUi
穂乃果「ちょ、ちょっとっ、説明してくれる?」
希「う、うん。製鉄をする人にとって、あそこは神聖な場所。特に、製鉄なんて技術が今ほど高くなかったから、運頼りなところがあったんよ。それこそ神頼み。ということで、信仰されている神がおったんや。その言い伝えによると、」
希「製鉄をする建物にはな、女性が入ったら神様に祟られるらしいんよ。」
希「う、うん。製鉄をする人にとって、あそこは神聖な場所。特に、製鉄なんて技術が今ほど高くなかったから、運頼りなところがあったんよ。それこそ神頼み。ということで、信仰されている神がおったんや。その言い伝えによると、」
希「製鉄をする建物にはな、女性が入ったら神様に祟られるらしいんよ。」
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120: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:32:27.36 ID:6DVnHnUi
穂乃果「あっ……」
ドキッとした。
心臓が飛び出そうだった。
その声は私が思ったより大きかったようで、ことりちゃんは心配そうに見ている。海未ちゃんは怪訝そうな顔をしている。絵里ちゃんは希ちゃんの方を見て、にこちゃんは大きな目を見開いている。真姫ちゃんは俯いていて、花陽ちゃんの視点は動かない。
希ちゃんは__
希「穂乃果ちゃん、話してくれる?」
その目は鋭かった。
…
ドキッとした。
心臓が飛び出そうだった。
その声は私が思ったより大きかったようで、ことりちゃんは心配そうに見ている。海未ちゃんは怪訝そうな顔をしている。絵里ちゃんは希ちゃんの方を見て、にこちゃんは大きな目を見開いている。真姫ちゃんは俯いていて、花陽ちゃんの視点は動かない。
希ちゃんは__
希「穂乃果ちゃん、話してくれる?」
その目は鋭かった。
…
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121: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:44:45.74 ID:6DVnHnUi
穂乃果「凛ちゃんは、昨日の夕方、あそこに入った。それは昨夜、私が聞いた。」
そう、消え入るような声で呟いた。
穂乃果「真姫ちゃん、ごめんね、止めることができなくて。でも許してあげて、凛ちゃんは、真姫ちゃんと仲良くなれたこと、すごく嬉しかったって、昨日言ってたんだよ。」
真姫「そう…」
真姫ちゃんは俯いたまま肩を振るわせた。
そう、消え入るような声で呟いた。
穂乃果「真姫ちゃん、ごめんね、止めることができなくて。でも許してあげて、凛ちゃんは、真姫ちゃんと仲良くなれたこと、すごく嬉しかったって、昨日言ってたんだよ。」
真姫「そう…」
真姫ちゃんは俯いたまま肩を振るわせた。
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122: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:45:09.86 ID:6DVnHnUi
私は花陽ちゃんのところへ向かい、
穂乃果「花陽ちゃんも、無理しなくていいからね。」
そう言って抱きしめた。
花陽「うっ…あぁ…!!」
私の背中を掴んで花陽ちゃんは泣いた。
泣いても何も解決しないかもしれない。
ただ私たちには、落ち着けるほどの余裕が欲しかった。
決して罪悪感がないわけじゃない。
凛ちゃん、向こうで怒ってね。
…
穂乃果「花陽ちゃんも、無理しなくていいからね。」
そう言って抱きしめた。
花陽「うっ…あぁ…!!」
私の背中を掴んで花陽ちゃんは泣いた。
泣いても何も解決しないかもしれない。
ただ私たちには、落ち着けるほどの余裕が欲しかった。
決して罪悪感がないわけじゃない。
凛ちゃん、向こうで怒ってね。
…
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123: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:45:40.83 ID:6DVnHnUi
花陽「ありがとうございます。落ち着きました。凛ちゃんが見てたらこんなの私らしくないって、怒られちゃいますから。」
そう言って花陽ちゃんは小さく笑った。
真姫「私も、大丈夫だから。」
花陽「進めてください。」
海未「分かりました…そうすると凛は、あそこに入って祟られ、亡くなってしまった。という線もなきにしもあらず…と。」
希「そうやなぁ…まぁこんな霧の深くて、電波も不自然につながらない…そうすると敵はこの世ならざる者、かもしれんな。」
ことり「この世ならざる者…」
にこ「正気?といつもならツッコむところだけど、こんないかれた状況を考えるとそうも言ってられないわね。」
そう言って花陽ちゃんは小さく笑った。
真姫「私も、大丈夫だから。」
花陽「進めてください。」
海未「分かりました…そうすると凛は、あそこに入って祟られ、亡くなってしまった。という線もなきにしもあらず…と。」
希「そうやなぁ…まぁこんな霧の深くて、電波も不自然につながらない…そうすると敵はこの世ならざる者、かもしれんな。」
ことり「この世ならざる者…」
にこ「正気?といつもならツッコむところだけど、こんないかれた状況を考えるとそうも言ってられないわね。」
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124: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:46:13.71 ID:6DVnHnUi
希「なにせ、分からんことが多すぎるからね。色んな可能性、解決策を打った方がいいと思う。」
皆半信半疑の様子ではあるが、これにも異論はなく進む。そうなると、気になることがある。
穂乃果「この世ならざるものって言ったら…神様とか?」
希「そうやね、神様や幽霊ってところかなぁ。」
穂乃果「それなら、製鉄にまつわる神様って…」
希「うん、金屋子神っていう神様よ。」
聞いたことなかった。前の会話から見るに、海未ちゃんは知っているのか。
皆半信半疑の様子ではあるが、これにも異論はなく進む。そうなると、気になることがある。
穂乃果「この世ならざるものって言ったら…神様とか?」
希「そうやね、神様や幽霊ってところかなぁ。」
穂乃果「それなら、製鉄にまつわる神様って…」
希「うん、金屋子神っていう神様よ。」
聞いたことなかった。前の会話から見るに、海未ちゃんは知っているのか。
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125: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:46:44.41 ID:6DVnHnUi
ことり「かな…や?」
皆も思い当たらなかったようで、見合わせては首を傾げている。
希「かなやごかみ、濁点がない場合もあるね。これが、この地方一帯で製鉄に従事するひとに信じられてきた神様よ。」
にこ「それってどんな神様なの?おどろおどろしいものなの?」
希「いやいや、白い狐に乗った女の神様って伝わってる。」
海未「…?」
穂乃果「白い、狐。」
また狐だ。
皆も思い当たらなかったようで、見合わせては首を傾げている。
希「かなやごかみ、濁点がない場合もあるね。これが、この地方一帯で製鉄に従事するひとに信じられてきた神様よ。」
にこ「それってどんな神様なの?おどろおどろしいものなの?」
希「いやいや、白い狐に乗った女の神様って伝わってる。」
海未「…?」
穂乃果「白い、狐。」
また狐だ。
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126: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:47:29.49 ID:6DVnHnUi
希「また、火の神であるとも言われとるんよ。」
にこ「製鉄だからってことね。」
それは、理解できる。けど、狐に乗る意味は何だろうか。女神と言えばという共通認識があったんだろうか。
当然だが、顎に手を当てる私をよそに話は進む。
希「そういうことやね。あと、さっきも言った通り、女性が鉄を作る場所に入ることは極端に嫌うんよ。あと犬も嫌いみたい。」
ことり「なんで女の人は入れないんだろう…」
海未「相撲の土俵にもそういう考え方がありますよね。」
にこ「製鉄だからってことね。」
それは、理解できる。けど、狐に乗る意味は何だろうか。女神と言えばという共通認識があったんだろうか。
当然だが、顎に手を当てる私をよそに話は進む。
希「そういうことやね。あと、さっきも言った通り、女性が鉄を作る場所に入ることは極端に嫌うんよ。あと犬も嫌いみたい。」
ことり「なんで女の人は入れないんだろう…」
海未「相撲の土俵にもそういう考え方がありますよね。」
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127: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:47:56.21 ID:6DVnHnUi
希「そうやね。この日本では、穢れっていう考え方があるんよ。出産の穢れ、生理の穢れ、そして、死の穢れ。それぞれは順に、白不浄、赤不浄、黒不浄と、忌み嫌われていたんや。そして、女性はそのどれもが当てはまるからって理論やないかなぁ。」
希ちゃんは皆を見渡して続ける。
希「でも、金屋子神は、そのなかでも、黒不浄、つまりは死を好むとされている。」
穂乃果「死を…好む?」
希「そう、だから製鉄がうまくいっていない時なんかには、遺体をその…」
希ちゃんが花陽ちゃんを気にかけるよう一瞥した。花陽ちゃんは小さく大丈夫です。とだけ言った。
希「くくりつけると、いい鉄ができるっていう、言い伝えがあったみたいなんよ。」
希ちゃんは皆を見渡して続ける。
希「でも、金屋子神は、そのなかでも、黒不浄、つまりは死を好むとされている。」
穂乃果「死を…好む?」
希「そう、だから製鉄がうまくいっていない時なんかには、遺体をその…」
希ちゃんが花陽ちゃんを気にかけるよう一瞥した。花陽ちゃんは小さく大丈夫です。とだけ言った。
希「くくりつけると、いい鉄ができるっていう、言い伝えがあったみたいなんよ。」
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128: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:48:28.96 ID:6DVnHnUi
海未「どうしてそんなこと…」
希「まぁ今の価値観ではそんなことしても何の意味もないよ。けど、当時は偶然性の強い製鉄。偶然うまくいったときの、今でいう願掛けみたいなもんよ。そこは理解してあげな。」
にこ「ちょ、ちょっと待って!話が変な方向になってるわよ!これからどうするかを考えなきゃいけないんじゃない?」
にこちゃんが慌てながら言ううと、希ちゃんは咳払いをして、話し始める。
希「そうやね、もし金屋子神が犯人だと仮定すると、解決策として、有効かは分からんけど、私がその神に許しを乞いてみるよ。」
にこ「会話でもするっての?。」
希「例えば何か願いがある時、神様に向かって謙ってお願いする定型文みたいなものがあるんよ。」
私は頭の中で、厄年か何かの時、お賽銭の箱の奥空間で正座している時をイメージしていた。
希「まぁ今の価値観ではそんなことしても何の意味もないよ。けど、当時は偶然性の強い製鉄。偶然うまくいったときの、今でいう願掛けみたいなもんよ。そこは理解してあげな。」
にこ「ちょ、ちょっと待って!話が変な方向になってるわよ!これからどうするかを考えなきゃいけないんじゃない?」
にこちゃんが慌てながら言ううと、希ちゃんは咳払いをして、話し始める。
希「そうやね、もし金屋子神が犯人だと仮定すると、解決策として、有効かは分からんけど、私がその神に許しを乞いてみるよ。」
にこ「会話でもするっての?。」
希「例えば何か願いがある時、神様に向かって謙ってお願いする定型文みたいなものがあるんよ。」
私は頭の中で、厄年か何かの時、お賽銭の箱の奥空間で正座している時をイメージしていた。
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129: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:49:25.02 ID:6DVnHnUi
希「もっとも、金屋子神さんに届くかは分からんけどな。ウチの力不足や。」
ことり「そんな!解決策を考えてくれるだけで十分だよ!」
海未「そうですね…これで終わることを願ってます。」
絵里「それじゃ、まとめるわよ。」
そう言って絵里ちゃんは、現状を紙にまとめた。
ことり「そんな!解決策を考えてくれるだけで十分だよ!」
海未「そうですね…これで終わることを願ってます。」
絵里「それじゃ、まとめるわよ。」
そう言って絵里ちゃんは、現状を紙にまとめた。
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130: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:49:49.59 ID:6DVnHnUi
・外部との連絡は断たれ、私たちはこの館から出られない。
・私たちの中に決定的に疑わしい人はいない。夜にはしっかりと施錠して、霧が晴れるのを待つ。
・凛はたたらの建物に入って祟られたのか、その解決策として、希が祝詞をあげる。
・私たちの中に決定的に疑わしい人はいない。夜にはしっかりと施錠して、霧が晴れるのを待つ。
・凛はたたらの建物に入って祟られたのか、その解決策として、希が祝詞をあげる。
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131: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:50:16.83 ID:6DVnHnUi
にこ「それじゃ、善は急げよ、早速行きましょう。」
そう言ってにこちゃんが立ち上がる。
花陽「でも…この霧だよ?」
にこ「少しなら大丈夫なはず…そうよね穂乃果。」
穂乃果「うん…数分なら大丈夫。希ちゃん、どれくらいの時間が必要なの?」
希「その数分で、何とかするよ。」
真姫「決まりね。」
…
そう言ってにこちゃんが立ち上がる。
花陽「でも…この霧だよ?」
にこ「少しなら大丈夫なはず…そうよね穂乃果。」
穂乃果「うん…数分なら大丈夫。希ちゃん、どれくらいの時間が必要なの?」
希「その数分で、何とかするよ。」
真姫「決まりね。」
…
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132: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:50:56.93 ID:6DVnHnUi
たたら場の扉の前に着く。
私たちは横一列で正座して、下を向いて手を合わせている。
その一歩先には希ちゃんがいる。
希「始めるよ。」
これが日本語なのか。
ところどころ意味はわかるが、文脈が掴めない。
ダメだ。お祓いに集中しないと。
凛ちゃん…我が部の元気印。私とは先輩後輩の仲だったけど、意外と共通点も多く、良好な関係を築いてた…と思う。
これから話せないと思うと…やりきれない。だからこそ、強く想いを込めて念じた。
しばらく目を瞑っていると、「よし、終わった。」という声が聞こえてきた。
希「ふぅ、こんなところかな。即席やけどこれで大丈夫なはず。戻ろか。」
私たちは横一列で正座して、下を向いて手を合わせている。
その一歩先には希ちゃんがいる。
希「始めるよ。」
これが日本語なのか。
ところどころ意味はわかるが、文脈が掴めない。
ダメだ。お祓いに集中しないと。
凛ちゃん…我が部の元気印。私とは先輩後輩の仲だったけど、意外と共通点も多く、良好な関係を築いてた…と思う。
これから話せないと思うと…やりきれない。だからこそ、強く想いを込めて念じた。
しばらく目を瞑っていると、「よし、終わった。」という声が聞こえてきた。
希「ふぅ、こんなところかな。即席やけどこれで大丈夫なはず。戻ろか。」
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133: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:51:43.87 ID:6DVnHnUi
いつの間にか終わっていたみたいだ。
辺りを見渡しながら屋敷へ戻る。周りからは咳払いが聞こえてきた。
思えば昨日、あそこから来たんだっけ。
私は昨日を思い出し、歩いて来た道を遠い目で眺めた。
その上に、
あれは、なんだろう。
その道に、立ち入り禁止とでも言わんとするように、頭上くらいの高さで縄がかかっているように見えた。
辺りを見渡しながら屋敷へ戻る。周りからは咳払いが聞こえてきた。
思えば昨日、あそこから来たんだっけ。
私は昨日を思い出し、歩いて来た道を遠い目で眺めた。
その上に、
あれは、なんだろう。
その道に、立ち入り禁止とでも言わんとするように、頭上くらいの高さで縄がかかっているように見えた。
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134: (もみじ饅頭) 2024/04/29(月) 01:52:46.13 ID:6DVnHnUi
不思議に思った私は、海未ちゃんに声をかける。
穂乃果「海未ちゃん…あれ、見える?」
海未ちゃんは振り返って、私が指差した方向を見る。しばらく目を細めて
海未「あれは…!穂乃果、誰にも言わないでください。」
と、私の腕を掴み、真剣な眼差しで囁いた。
穂乃果「う、うん。」
もしかして私、見てはいけないものでも見たんだろうか。私の胸の高鳴りをよそに、私たちは屋敷の方に戻った。
…
穂乃果「海未ちゃん…あれ、見える?」
海未ちゃんは振り返って、私が指差した方向を見る。しばらく目を細めて
海未「あれは…!穂乃果、誰にも言わないでください。」
と、私の腕を掴み、真剣な眼差しで囁いた。
穂乃果「う、うん。」
もしかして私、見てはいけないものでも見たんだろうか。私の胸の高鳴りをよそに、私たちは屋敷の方に戻った。
…
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140: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/30(火) 23:08:20.41 ID:ADH1N6z2
ぐぅ~…
戻ったや否や、花陽ちゃんのお腹が音を鳴らした。
花陽「あっ…ごめんなさい。お腹空いてて。」
花陽ちゃんは赤面して俯く。
絵里「あら、もうこんな時間なのね。色々なことがありすぎて忘れてたけど。」
絵里ちゃんに言われ時計を見る。
午後5時を指していた。
にこ「…腹が減ってはなんとやらよ!腕によりをかけて作るわ!ことり、行くわよ!」
ことり「はい!にこちゃん、いや、料理長さん!」
戻ったや否や、花陽ちゃんのお腹が音を鳴らした。
花陽「あっ…ごめんなさい。お腹空いてて。」
花陽ちゃんは赤面して俯く。
絵里「あら、もうこんな時間なのね。色々なことがありすぎて忘れてたけど。」
絵里ちゃんに言われ時計を見る。
午後5時を指していた。
にこ「…腹が減ってはなんとやらよ!腕によりをかけて作るわ!ことり、行くわよ!」
ことり「はい!にこちゃん、いや、料理長さん!」
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141: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/30(火) 23:08:45.21 ID:ADH1N6z2
花陽「あ、わたしも。」
花陽ちゃんが立ちあがろうとすると、にこちゃんが手のひらを向けて制止した。
にこ「あんたはゆっくりしておきなさい。」
ことり「私が臨時副料理長を務めます!」
そう言って、2人はキッチンの方へ向かって行った。
花陽「にこちゃん…ことりちゃん…」
俯きながら、噛み締めるように花陽ちゃんは言った。私は隣へ座り、震える背中をさすることしかできなかった。
…
花陽ちゃんが立ちあがろうとすると、にこちゃんが手のひらを向けて制止した。
にこ「あんたはゆっくりしておきなさい。」
ことり「私が臨時副料理長を務めます!」
そう言って、2人はキッチンの方へ向かって行った。
花陽「にこちゃん…ことりちゃん…」
俯きながら、噛み締めるように花陽ちゃんは言った。私は隣へ座り、震える背中をさすることしかできなかった。
…
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142: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/30(火) 23:09:14.02 ID:ADH1N6z2
各自仮眠を取ったり、話し合いをしていると、キッチンの方からにこちゃんが勢いよく出て来た。
にこ「できたわよ!名付けて、にこにー宇宙No.1…」
ことり「カレーですっ!」
にこ「ちょっと!まだ私が名前を言ってる途中でしょうが!」
言ってる間にも、ことりちゃんは配膳を続けている。にこちゃんは大きく項垂れた。
ことり「はい!穂乃果ちゃん。」
ことりちゃんが目の前に皿を置いてくれた。
にこ「できたわよ!名付けて、にこにー宇宙No.1…」
ことり「カレーですっ!」
にこ「ちょっと!まだ私が名前を言ってる途中でしょうが!」
言ってる間にも、ことりちゃんは配膳を続けている。にこちゃんは大きく項垂れた。
ことり「はい!穂乃果ちゃん。」
ことりちゃんが目の前に皿を置いてくれた。
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143: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/04/30(火) 23:10:00.61 ID:ADH1N6z2
穂乃果「こっとりちゃんっ、ありがとう~!」
いつものあの匂いが唾腺を刺激する。具材が何であれ美味しくなる魔法の食べ物だ。
穂乃果「う~ん、美味しそう!こういう時はがっつり食べられるカレーだよね!分かってるぅ!」
海未「こういう雰囲気でのカレーは、やはり鉄板ですよね。」
絵里「合宿の時を思い出すわね。」
ことり「しっかり花陽ちゃんはお皿を別にしてるからね!」
花陽「助かります!」
にこ「もう…」
いつものあの匂いが唾腺を刺激する。具材が何であれ美味しくなる魔法の食べ物だ。
穂乃果「う~ん、美味しそう!こういう時はがっつり食べられるカレーだよね!分かってるぅ!」
海未「こういう雰囲気でのカレーは、やはり鉄板ですよね。」
絵里「合宿の時を思い出すわね。」
ことり「しっかり花陽ちゃんはお皿を別にしてるからね!」
花陽「助かります!」
にこ「もう…」
0
165: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/01(水) 23:23:38.57 ID:gAzOQwQo
希「さぁ、それじゃあ合唱しましょか!」
「「「いただきます。」」」
海未「うん!美味しいです!」
穂乃果「結局、空腹は一番のスパイスってことだね。」
にこ「もっと褒めなさい!私を!」
絵里「みんな感謝してるから。ほら、あなたも食べましょう。」
朝の騒動を忘れさせてくれるような光景に、私の心とお腹を満たす。この時だけは、何もかも忘れられるような気がした。
…
「「「いただきます。」」」
海未「うん!美味しいです!」
穂乃果「結局、空腹は一番のスパイスってことだね。」
にこ「もっと褒めなさい!私を!」
絵里「みんな感謝してるから。ほら、あなたも食べましょう。」
朝の騒動を忘れさせてくれるような光景に、私の心とお腹を満たす。この時だけは、何もかも忘れられるような気がした。
…
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166: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/01(水) 23:24:08.47 ID:gAzOQwQo
ご飯を食べ終わり、昨日のように各自自由な時間を過ごしている。
にこちゃんは花陽ちゃんが元気になれるように、アイドルの話をしており、希ちゃんと真姫ちゃんはなにやら難しい顔をして、机に肘をついて考え事をしているようだった。
私は海未ちゃんとことりちゃんに話しかけてみることにした。
穂乃果「何やってるの?」
ことり「あ、穂乃果ちゃん。海未ちゃんがさっきの話し合いの時、気になったところがあったみたいで…」
海未「そうなんです。希がさっき言ってた、金屋子神の容姿を覚えていますか?」
にこちゃんは花陽ちゃんが元気になれるように、アイドルの話をしており、希ちゃんと真姫ちゃんはなにやら難しい顔をして、机に肘をついて考え事をしているようだった。
私は海未ちゃんとことりちゃんに話しかけてみることにした。
穂乃果「何やってるの?」
ことり「あ、穂乃果ちゃん。海未ちゃんがさっきの話し合いの時、気になったところがあったみたいで…」
海未「そうなんです。希がさっき言ってた、金屋子神の容姿を覚えていますか?」
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167: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/01(水) 23:24:29.50 ID:gAzOQwQo
穂乃果「あの、狐に乗った女神っていう?」
正直、今はあの縄が気になってしょうがないけど、海未ちゃんに口止めされているので、話を合わせることにした。
海未「そうです。それを、どこかで見た気がして…」
あの時…確かに、金屋子神の風貌を聞いた海未ちゃんは息を吸って考え事をしていたように見えた。
ことり「穂乃果ちゃん心当たりある?」
穂乃果「う~んそうだなぁ…特に何も思いつかないや。」
正直、今はあの縄が気になってしょうがないけど、海未ちゃんに口止めされているので、話を合わせることにした。
海未「そうです。それを、どこかで見た気がして…」
あの時…確かに、金屋子神の風貌を聞いた海未ちゃんは息を吸って考え事をしていたように見えた。
ことり「穂乃果ちゃん心当たりある?」
穂乃果「う~んそうだなぁ…特に何も思いつかないや。」
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168: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/01(水) 23:24:57.88 ID:gAzOQwQo
ことり「そうだよねぇ。」
穂乃果「あ、でも昨日、白い狐を見たよ!狐も意外と可愛い顔してるんだね。」
ことり「えぇ~!いいなぁ。」
穂乃果「そしたら希ちゃんが狐に乗ってる神様とか言うから、もうびっくりしたよ。偶然があるもんだなと思ったよ。」
海未「…それって、どこでですか?」
海未ちゃんが難しい顔をしながら言ので、私は慌てて記憶を探った。
穂乃果「う~ん、虫取りに夢中で詳しい位置は覚えてないんだよね、気付いたら祠があって、そこで見たよ。」
穂乃果「あ、でも昨日、白い狐を見たよ!狐も意外と可愛い顔してるんだね。」
ことり「えぇ~!いいなぁ。」
穂乃果「そしたら希ちゃんが狐に乗ってる神様とか言うから、もうびっくりしたよ。偶然があるもんだなと思ったよ。」
海未「…それって、どこでですか?」
海未ちゃんが難しい顔をしながら言ので、私は慌てて記憶を探った。
穂乃果「う~ん、虫取りに夢中で詳しい位置は覚えてないんだよね、気付いたら祠があって、そこで見たよ。」
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171: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/02(木) 23:51:58.31 ID:yF/LxThT
海未「祠…ですか。」
さらに難しい顔になった。やっぱりあの祠には何かあると考えていいのかな。
ことり「関係があるのかな…穂乃果ちゃん、なにか気になるところとかなかった?」
穂乃果「気になるところか…ちょっと背筋がひんやりする空気だった…としか。」
正直虫取りに夢中で、あまり覚えていないというのが本音だ。
海未「…そうですか。」
さらに難しい顔になった。やっぱりあの祠には何かあると考えていいのかな。
ことり「関係があるのかな…穂乃果ちゃん、なにか気になるところとかなかった?」
穂乃果「気になるところか…ちょっと背筋がひんやりする空気だった…としか。」
正直虫取りに夢中で、あまり覚えていないというのが本音だ。
海未「…そうですか。」
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172: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/02(木) 23:52:27.54 ID:yF/LxThT
海未ちゃんは表情を動かさず、考え込むポーズを取る。
ことり「…希ちゃんが解決してくれたから大丈夫だよっ!明日にはきっと霧も晴れてる。」
穂乃果「そうだね。今日1日で色んなことが起きすぎてる。一度頭を休めて、今はそれを願うしかないよ。」
海未「確かにそうですね。」
一抹の不安を抱えながら、2人に断って、私はシャワーを浴びに行った。
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ことり「…希ちゃんが解決してくれたから大丈夫だよっ!明日にはきっと霧も晴れてる。」
穂乃果「そうだね。今日1日で色んなことが起きすぎてる。一度頭を休めて、今はそれを願うしかないよ。」
海未「確かにそうですね。」
一抹の不安を抱えながら、2人に断って、私はシャワーを浴びに行った。
…
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173: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/02(木) 23:52:56.90 ID:yF/LxThT
もうそろそろ24時が近づいていた。
絵里ちゃんと私が、意識を失ったように眠った時刻へ。
私は紙に何かを書いている絵里ちゃんのもとへ向かった。
穂乃果「昨日の続き?」
絵里「あぁ、穂乃果。今は、昨日の続き。亜里沙に送る写真を決めておこうと思って。ほら、今ケータイがあんなじゃない?」
そう言って、絵里ちゃんは黒い画面の携帯をこちらに見せる。
穂乃果「なるほどね。明日には、きっと使えるようになるよ。」
絵里「そうね…なんてったって希のスピリチュアルパワーですもの。あの子の占い、よく当たるのよ。」
絵里ちゃんと私が、意識を失ったように眠った時刻へ。
私は紙に何かを書いている絵里ちゃんのもとへ向かった。
穂乃果「昨日の続き?」
絵里「あぁ、穂乃果。今は、昨日の続き。亜里沙に送る写真を決めておこうと思って。ほら、今ケータイがあんなじゃない?」
そう言って、絵里ちゃんは黒い画面の携帯をこちらに見せる。
穂乃果「なるほどね。明日には、きっと使えるようになるよ。」
絵里「そうね…なんてったって希のスピリチュアルパワーですもの。あの子の占い、よく当たるのよ。」
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174: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:03:27.12 ID:bljon9hP
穂乃果「ふふっ。仲良いよね、希ちゃんと。」
絵里「一年生からの仲ってのもあるわね。まぁ、あなた達3人には勝てないけど。」
絵里ちゃんが私に笑顔を向ける。海未ちゃんとことりちゃんは小さい頃からの仲だ。でも、そんなのは関係ない。
穂乃果「長さじゃないよ、こういうのは。」
そう言うと絵里ちゃんはそうね、と呟いて、遠い目をした。
私は時計をチラ見して、前屈みになり口に手を当てる。内緒話のジェスチャーだ。
穂乃果「…もうそろそろだね。日付が変わるの。」
絵里「一年生からの仲ってのもあるわね。まぁ、あなた達3人には勝てないけど。」
絵里ちゃんが私に笑顔を向ける。海未ちゃんとことりちゃんは小さい頃からの仲だ。でも、そんなのは関係ない。
穂乃果「長さじゃないよ、こういうのは。」
そう言うと絵里ちゃんはそうね、と呟いて、遠い目をした。
私は時計をチラ見して、前屈みになり口に手を当てる。内緒話のジェスチャーだ。
穂乃果「…もうそろそろだね。日付が変わるの。」
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175: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:03:57.30 ID:bljon9hP
絵里ちゃんは私の言わんとすることが伝わったようで、
絵里「言ったでしょ、希のスピリチュアルパワーはすごいの。それに、昨日のは疲れてただけ。きっとそうよ。」
手元のメモを見ながら、絵里ちゃんは言った。
穂乃果「そうだね…とにかく、何事もないことを祈ろう。」
絵里「穂乃果、じゃあわたしはそろそろ。」
穂乃果「うん、おやすみなさい。」
絵里「おやすみなさい。」
絵里ちゃんは皆にも挨拶し、自室へと登って行った。
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絵里「言ったでしょ、希のスピリチュアルパワーはすごいの。それに、昨日のは疲れてただけ。きっとそうよ。」
手元のメモを見ながら、絵里ちゃんは言った。
穂乃果「そうだね…とにかく、何事もないことを祈ろう。」
絵里「穂乃果、じゃあわたしはそろそろ。」
穂乃果「うん、おやすみなさい。」
絵里「おやすみなさい。」
絵里ちゃんは皆にも挨拶し、自室へと登って行った。
…
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176: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:08:23.74 ID:bljon9hP
その後、私はしっかりと施錠していることを確認して、残った皆ととそれぞれ個室へと入っていった。
私は布団にくるまり、考える。
この霧が、明日も晴れなかったら。
こんな事態になってるんだ。
何が起きても不思議じゃない。
霧が晴れず、誰かが死んで…
いや、もしかしたら私の番かも知れない。
嫌だよ…
私…もうちょっとみんなと一緒にいたい。
みんなと、歌いたい。
μ'sとして…
私は布団にくるまり、考える。
この霧が、明日も晴れなかったら。
こんな事態になってるんだ。
何が起きても不思議じゃない。
霧が晴れず、誰かが死んで…
いや、もしかしたら私の番かも知れない。
嫌だよ…
私…もうちょっとみんなと一緒にいたい。
みんなと、歌いたい。
μ'sとして…
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177: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:08:51.38 ID:bljon9hP
…あ、でも凛ちゃんはもう…
私たちが運命の糸を手繰り寄せあって、出会った奇跡が、こんな理不尽に崩れていいのか。
一度しまっていた、やりきれない気持ちが込み上げてくる。もう2度と、ステージに立つことは叶わないのか。
穂乃果「っく…ひぐっ…」
とめどなく、涙が溢れてきた。
みんな前では、と胸を張っていたけど、1人になっちゃうと…こんなにも…
私たちが運命の糸を手繰り寄せあって、出会った奇跡が、こんな理不尽に崩れていいのか。
一度しまっていた、やりきれない気持ちが込み上げてくる。もう2度と、ステージに立つことは叶わないのか。
穂乃果「っく…ひぐっ…」
とめどなく、涙が溢れてきた。
みんな前では、と胸を張っていたけど、1人になっちゃうと…こんなにも…
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178: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:09:21.68 ID:bljon9hP
トントン
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179: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:09:51.21 ID:bljon9hP
ノックの音が部屋中に響く。
突然のことに全身が固まり、感覚が研ぎ澄まされる。
まさか、次は私の番だったのか…!
まずい…どうすれば、窓から出るか!?
空回りする私の頭をよそに、扉の向こうからは聞き慣れた安心する声が聞こえてきた。
「穂乃果…ちょっといいですか。」
穂乃果「海未ちゃん…!」
安堵で重くなった身体を起き上がらせ、袖で涙を拭き、扉を開ける。
そこには、人差し指を口に当てる海未ちゃんが立っていた。
突然のことに全身が固まり、感覚が研ぎ澄まされる。
まさか、次は私の番だったのか…!
まずい…どうすれば、窓から出るか!?
空回りする私の頭をよそに、扉の向こうからは聞き慣れた安心する声が聞こえてきた。
「穂乃果…ちょっといいですか。」
穂乃果「海未ちゃん…!」
安堵で重くなった身体を起き上がらせ、袖で涙を拭き、扉を開ける。
そこには、人差し指を口に当てる海未ちゃんが立っていた。
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180: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:14:17.97 ID:bljon9hP
海未「あの縄の件です。少しお時間いただけますか。」
小声でそう言う海未ちゃんは、少し汗ばんでおり、息づかいも荒い。
穂乃果「もちろんだよ。さ、入って。」
私は海未ちゃんを布団の方に促そうとするが、
海未「いえ、ちょっとついて来てください。」
穂乃果「ど、どうしたの?」
言うが早いか、海未ちゃんは私の手を引き、向かった先は、あの縄の下だった。
小声でそう言う海未ちゃんは、少し汗ばんでおり、息づかいも荒い。
穂乃果「もちろんだよ。さ、入って。」
私は海未ちゃんを布団の方に促そうとするが、
海未「いえ、ちょっとついて来てください。」
穂乃果「ど、どうしたの?」
言うが早いか、海未ちゃんは私の手を引き、向かった先は、あの縄の下だった。
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181: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:14:55.37 ID:bljon9hP
海未ちゃんが暗闇から縄だけを切り取る。近くでよくみると結構厚みがある。紙垂もあり、神社でよくみるような形だ。
…いや、なんだろう。少し違和感がある。
私たちがよく踊りの練習をしてきた、神田明神とは。
その違和感は風の音に乗って、暗闇にに消え去った。空気を切る音が響いている。
両脇には黒い木々が揺れ動き、隣には黒い水が流れていいる。私たちが昨日歩いて来た道だ。
夜になるとやっぱり少し怖い。
海未「ちょっと見ててくださいね。」
海未ちゃんは懐中電灯を私に預け、道の方を照らすよう指示する。
呆気に取られる私をよそに、海未ちゃんは、助走をつけ一気に走り出した。
…いや、なんだろう。少し違和感がある。
私たちがよく踊りの練習をしてきた、神田明神とは。
その違和感は風の音に乗って、暗闇にに消え去った。空気を切る音が響いている。
両脇には黒い木々が揺れ動き、隣には黒い水が流れていいる。私たちが昨日歩いて来た道だ。
夜になるとやっぱり少し怖い。
海未「ちょっと見ててくださいね。」
海未ちゃんは懐中電灯を私に預け、道の方を照らすよう指示する。
呆気に取られる私をよそに、海未ちゃんは、助走をつけ一気に走り出した。
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182: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:15:56.51 ID:bljon9hP
あの道の先に向かって、縄の下を抜けていく…
夜の闇に消えたと思ったら、回れ右をしたのか返ってきた。
穂乃果「ん?今何をしたの?」
海未「私は、戻ったわけじゃないんです。」
海未ちゃんの言ってることがさっぱりわからない。要領を得てない顔をしていたのがバレたのか、海未ちゃんは頷きながら、
海未「百聞は一見にしかず。穂乃果も向こうに走って行ってみて下さい。」
と言った。
意味がよくわからない。確かに海未ちゃんはこちら向きで走って来たはずだ。
きっとそれは、向こうで方向転換したからなはずで…
夜の闇に消えたと思ったら、回れ右をしたのか返ってきた。
穂乃果「ん?今何をしたの?」
海未「私は、戻ったわけじゃないんです。」
海未ちゃんの言ってることがさっぱりわからない。要領を得てない顔をしていたのがバレたのか、海未ちゃんは頷きながら、
海未「百聞は一見にしかず。穂乃果も向こうに走って行ってみて下さい。」
と言った。
意味がよくわからない。確かに海未ちゃんはこちら向きで走って来たはずだ。
きっとそれは、向こうで方向転換したからなはずで…
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183: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:16:26.60 ID:bljon9hP
穂乃果「え~、やだよ、怖いし。」
夜の森は想像以上に暗い。いつもの街灯が点いてる夜道とは暗さのレベルが違う。藪の中から何か出てきそうな、そんな恐ろしさがある。
海未「お願いします。」
穂乃果「わかったよ…」
よく分からないけど、海未ちゃんの真剣な目に背中を押され、つま先を2、3度地面に打ちつける。
穂乃果「じゃ、じゃあいくよ。」
海未「懐中電灯を照らして待ってます。」
縄の下を潜り抜け、夜の闇に紛れる。
彩度の消えた、明暗だけで彩られた世界の中、湿った風を切り裂いて、下っていく。
穂乃果「何も見えない…山肌に落ちたらどうしよう。」
相変わらずのガタガタ道だ。来た時と同じように、足をくじきそうになる。
夜の森は想像以上に暗い。いつもの街灯が点いてる夜道とは暗さのレベルが違う。藪の中から何か出てきそうな、そんな恐ろしさがある。
海未「お願いします。」
穂乃果「わかったよ…」
よく分からないけど、海未ちゃんの真剣な目に背中を押され、つま先を2、3度地面に打ちつける。
穂乃果「じゃ、じゃあいくよ。」
海未「懐中電灯を照らして待ってます。」
縄の下を潜り抜け、夜の闇に紛れる。
彩度の消えた、明暗だけで彩られた世界の中、湿った風を切り裂いて、下っていく。
穂乃果「何も見えない…山肌に落ちたらどうしよう。」
相変わらずのガタガタ道だ。来た時と同じように、足をくじきそうになる。
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184: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:16:54.45 ID:bljon9hP
穂乃果「おっと…」
夜であることや、霧も相まって、見通しが悪い。目が光を捉えることだけに集中している。
あ、光が見えた。街灯か?いや、それにしては位置が低い。腰の高さくらいだ。それに、麓までこんなに短かったっけ。真姫ちゃんによれば分岐してるはずじゃ…
海未「おかえりなさい。穂乃果。」
整理がつかないまま、海未ちゃんと対面する。私はしばらく固まったように何も喋れなくなっていた。
穂乃果「えぇ!?わ、私、まっすぐ走って行ってたよ…?どういうこと、信じられない…!」
ややあって、ようやく喋れるまで脳が回復してきた。同時に私はどっと疲れを感じ、片膝をつく。顎の先から汗が滴り落ちた。
海未ちゃんはしゃがんで背中に手を当ててくれた。汗で背筋がヒヤリとした。
夜であることや、霧も相まって、見通しが悪い。目が光を捉えることだけに集中している。
あ、光が見えた。街灯か?いや、それにしては位置が低い。腰の高さくらいだ。それに、麓までこんなに短かったっけ。真姫ちゃんによれば分岐してるはずじゃ…
海未「おかえりなさい。穂乃果。」
整理がつかないまま、海未ちゃんと対面する。私はしばらく固まったように何も喋れなくなっていた。
穂乃果「えぇ!?わ、私、まっすぐ走って行ってたよ…?どういうこと、信じられない…!」
ややあって、ようやく喋れるまで脳が回復してきた。同時に私はどっと疲れを感じ、片膝をつく。顎の先から汗が滴り落ちた。
海未ちゃんはしゃがんで背中に手を当ててくれた。汗で背筋がヒヤリとした。
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185: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:17:41.33 ID:bljon9hP
海未「気持ちは分かります…私も、最初試した時は、気でもおかしくなったかと思いました。でも、山のほうに入ろうにも、この縄は木々を伝っているのがわかります。おそらく、円を描くように。」
海未ちゃんは懐中電灯で、伝うように暗闇に縄を映している。
周囲の木々に、ずらっと縄が張られているのが見えた。
まるで巨大な蛇のしめつけられてるかのようだった。正にここは、獲物を抜け出せなくするためのとぐろの中だ。
穂乃果「もしかして、海未ちゃん。私たち…閉じ込められてる?」
海未「そう、なるでしょうね。それも、ここが現世かどうかすら不明です。」
海未ちゃんは懐中電灯で、伝うように暗闇に縄を映している。
周囲の木々に、ずらっと縄が張られているのが見えた。
まるで巨大な蛇のしめつけられてるかのようだった。正にここは、獲物を抜け出せなくするためのとぐろの中だ。
穂乃果「もしかして、海未ちゃん。私たち…閉じ込められてる?」
海未「そう、なるでしょうね。それも、ここが現世かどうかすら不明です。」
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186: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:18:07.02 ID:bljon9hP
元の肉体はとうにあの世に…って笑えない冗談だ。
穂乃果「そうなると、敵は次元を超越した力の持ち主…ってことになるね。やっぱり希ちゃんの言ってた神様か何かなのかな。」
海未「…とりあえず、霧もありますし、いつまでもここにいるのは危険です。一旦穂乃果の部屋に戻りましょう。」
穂乃果「う、うん…」
海未ちゃんの後ろを歩く。
その間も会話はなく、1人で考える時間はあったものの、全く考えはまとまらなかった。
私の頭の中には、砂利を蹴る足音だけが響いていた。
…
穂乃果「そうなると、敵は次元を超越した力の持ち主…ってことになるね。やっぱり希ちゃんの言ってた神様か何かなのかな。」
海未「…とりあえず、霧もありますし、いつまでもここにいるのは危険です。一旦穂乃果の部屋に戻りましょう。」
穂乃果「う、うん…」
海未ちゃんの後ろを歩く。
その間も会話はなく、1人で考える時間はあったものの、全く考えはまとまらなかった。
私の頭の中には、砂利を蹴る足音だけが響いていた。
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187: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:19:52.98 ID:bljon9hP
海未「あの縄はおそらく、道切りと呼ばれるものです。」
私の部室の布団の上に座ると、海未ちゃんは間髪入れずに言う。
穂乃果「道切り?」
私も向かい合うように座り、問うた。
海未「昔から農村では、病気や邪気などのよくないものが、外から入ってくると信じられて来ました。そして、先ほどのように、道の上に縄を垂らすんです。『ここから先は神の領域だから入ってはいけないぞ。』と言う意思表示ですね。一種の魔除けのようなものです。」
穂乃果「魔除け…狛犬みたいなものなの?」
私の部室の布団の上に座ると、海未ちゃんは間髪入れずに言う。
穂乃果「道切り?」
私も向かい合うように座り、問うた。
海未「昔から農村では、病気や邪気などのよくないものが、外から入ってくると信じられて来ました。そして、先ほどのように、道の上に縄を垂らすんです。『ここから先は神の領域だから入ってはいけないぞ。』と言う意思表示ですね。一種の魔除けのようなものです。」
穂乃果「魔除け…狛犬みたいなものなの?」
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188: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:20:24.66 ID:bljon9hP
海未「そうなりますね。しかし、狛犬などとは違って、その縄…注連縄の役割は境界を示すことにあります。もっとも、藁で作った蛇や、草鞋を使用する場合もありますが。」
威嚇して魔を追い払うんじゃなくて、単に境界を示しているってことか…
穂乃果「自分たちの陣地を、その良くないもの達に伝えるためってことでいい?」
海未「そのイメージで大丈夫です。」
海未「それなら、鳥居でもいいはずじゃない?」
海未「意味は大体同じですが…病気が蔓延するのを防ぐための、一時的なものなので、注連縄を用いたんじゃないかと。」
なるほど…鳥居を建設するまでの時間差もある。鳥居が完成する前に病気が入ってきたら…本末転倒だろう。
威嚇して魔を追い払うんじゃなくて、単に境界を示しているってことか…
穂乃果「自分たちの陣地を、その良くないもの達に伝えるためってことでいい?」
海未「そのイメージで大丈夫です。」
海未「それなら、鳥居でもいいはずじゃない?」
海未「意味は大体同じですが…病気が蔓延するのを防ぐための、一時的なものなので、注連縄を用いたんじゃないかと。」
なるほど…鳥居を建設するまでの時間差もある。鳥居が完成する前に病気が入ってきたら…本末転倒だろう。
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189: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:20:57.55 ID:bljon9hP
道の上に注連縄を垂らす…でもさっき見たのは、木々を伝って囲うように縄が設置されていた。そこは道でもないのにも関わらずだ。
私はそのことを海未ちゃんに質問してみた。
海未「そこなんですよね…本来なら、道の上だけで事足りるはずなんです…何か、執念じみたものを感じます…そもそも、それなら私たちはこんな状況に陥ってるのか説明がつかない…」
海未ちゃんが顎に手を当てて、眉間に皺を寄せている。
魔が外から入ってくるなら、道切りがあるにも関わらず、私たちに災厄が降り注いでいる理由が説明できない。
内は私たち、縄を超えた先は…外。
いや、
穂乃果「もしかして…逆なんじゃない?」
私はそのことを海未ちゃんに質問してみた。
海未「そこなんですよね…本来なら、道の上だけで事足りるはずなんです…何か、執念じみたものを感じます…そもそも、それなら私たちはこんな状況に陥ってるのか説明がつかない…」
海未ちゃんが顎に手を当てて、眉間に皺を寄せている。
魔が外から入ってくるなら、道切りがあるにも関わらず、私たちに災厄が降り注いでいる理由が説明できない。
内は私たち、縄を超えた先は…外。
いや、
穂乃果「もしかして…逆なんじゃない?」
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190: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:21:33.33 ID:bljon9hP
海未「…どういう意味ですか?」
穂乃果「主観的に見ると、私たちが内で縄を挟んで外だよね。」
海未「…そうなりますね。」
穂乃果「でも、縄の中には間違いなく魔が充満しているでしょ?私たちが、外なんだよ。私たちが災いをもたらす方と思われていて、ここから脱出できないようにしている、んじゃないかな。」
海未「…なぜです?」
穂乃果「それは…分からないけど…」
海未「そうだとすると…笑えない状況ですね。しかも、もう2つの推測が浮かびます。」
穂乃果「なに?」
穂乃果「主観的に見ると、私たちが内で縄を挟んで外だよね。」
海未「…そうなりますね。」
穂乃果「でも、縄の中には間違いなく魔が充満しているでしょ?私たちが、外なんだよ。私たちが災いをもたらす方と思われていて、ここから脱出できないようにしている、んじゃないかな。」
海未「…なぜです?」
穂乃果「それは…分からないけど…」
海未「そうだとすると…笑えない状況ですね。しかも、もう2つの推測が浮かびます。」
穂乃果「なに?」
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191: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:22:05.54 ID:bljon9hP
海未「一つ目は、先ほども見た通り、この世界は何かしらの結界の中にあり、私たちが知る現世とは違うこと。」
その通りだろう。
結界かなんだか知らないが、最早私たちの常識が通用する場所、相手ではない。
海未「そして、もし、この世界に私たち以外いないとなると…犯人は、μ'sの中にいる。」
穂乃果「待って、あの意味の分からない超能力を持ってる人がμ'sにいるっていうこと?」
海未「いや、おそらくですが、μ'sにはそんな人いないでしょう。」
穂乃果「だったら!」
その通りだろう。
結界かなんだか知らないが、最早私たちの常識が通用する場所、相手ではない。
海未「そして、もし、この世界に私たち以外いないとなると…犯人は、μ'sの中にいる。」
穂乃果「待って、あの意味の分からない超能力を持ってる人がμ'sにいるっていうこと?」
海未「いや、おそらくですが、μ'sにはそんな人いないでしょう。」
穂乃果「だったら!」
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192: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:23:39.19 ID:bljon9hP
海未「ただ、神とでも言いましょうか。あくまでその上位存在は、場を作ってるだけ、なんじゃないかと。」
穂乃果「〇させるような状況を作り出すけど、実行犯は人間と…」
海未「あくまで可能性ですけどね。」
空いた口が塞がらない。背筋に冷たいものを感じた。
それは海未ちゃんもだったようで、2人の間に沈黙が流れる。唾さえ飲み込めないほどだった。
穂乃果「その説だと、〇人犯も自主的に〇しているわけじゃないってことだよね。」
なぜこんなことを言ったのか分からない。海未ちゃんは訝しんだ顔でこちらを見て、そうですね、とだけ答える。
穂乃果「〇させるような状況を作り出すけど、実行犯は人間と…」
海未「あくまで可能性ですけどね。」
空いた口が塞がらない。背筋に冷たいものを感じた。
それは海未ちゃんもだったようで、2人の間に沈黙が流れる。唾さえ飲み込めないほどだった。
穂乃果「その説だと、〇人犯も自主的に〇しているわけじゃないってことだよね。」
なぜこんなことを言ったのか分からない。海未ちゃんは訝しんだ顔でこちらを見て、そうですね、とだけ答える。
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193: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:24:05.18 ID:bljon9hP
穂乃果「私たちの中にいたのが確定したら…どうする?」
聞いたはいいが、私ですら答えを持っていなかった。
海未「穂乃果はどうなんです。」
穂乃果「私は…」
許したい。と喉まで出ていたところで、飲み込んでしまった。ことりちゃん、海未ちゃんが〇されたらと思うと…気が狂ってしまいそうだった。
分かってる。今私は明確に命の順番をつけてしまった。最低だ。既に1人犠牲が出たというのに。
穂乃果「分からない…」
そう、項垂れて言った。
聞いたはいいが、私ですら答えを持っていなかった。
海未「穂乃果はどうなんです。」
穂乃果「私は…」
許したい。と喉まで出ていたところで、飲み込んでしまった。ことりちゃん、海未ちゃんが〇されたらと思うと…気が狂ってしまいそうだった。
分かってる。今私は明確に命の順番をつけてしまった。最低だ。既に1人犠牲が出たというのに。
穂乃果「分からない…」
そう、項垂れて言った。
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194: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:24:33.45 ID:bljon9hP
海未「無理もないですよ。あなたは悪くありません。それはμ'sの全員に言えることです。悪いのは、この状況を作り出した存在です…ただ、これだけは忘れないで。貴女は、いつまでも優しい、そのままの穂乃果でいてほしい。」
穂乃果「海未ちゃん…」
そんな、縁起でもないこと言わないでよ。
穂乃果「約束、守れるか分からないよ?」
海未「大丈夫です。貴女なら。」
そう言って、私の肩に手を乗せ見つめる海未ちゃんには、少なからず確信が込められている気がした。
こんなでもμ'sのリーダーなんだ。最悪な結果だけは避けなければならない。私は胸に手を当て、海未ちゃんに微笑み返した。
穂乃果「海未ちゃん…」
そんな、縁起でもないこと言わないでよ。
穂乃果「約束、守れるか分からないよ?」
海未「大丈夫です。貴女なら。」
そう言って、私の肩に手を乗せ見つめる海未ちゃんには、少なからず確信が込められている気がした。
こんなでもμ'sのリーダーなんだ。最悪な結果だけは避けなければならない。私は胸に手を当て、海未ちゃんに微笑み返した。
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195: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:25:04.07 ID:bljon9hP
穂乃果「…明日、みんなで外を探してみる?」
言った後思う、何も誰も出てこなかったら。それは、終わりの始まりだ。
海未「どう…なんですかね。混乱を招くのは明らかですし、ひとまず隠しておくほうが得策かと思います。」
穂乃果「隠し事みたいで嫌だけど、仕方ないね。なんだかんだ明日になったら霧が晴れてるかもしれないし。絵里ちゃんも言ってたよ、希ちゃんのスピリチュアルパワーはすごいって。」
私は精一杯の笑顔を作った…つもりだった。海未ちゃんは見透かしたように、悲しそうに笑って、
海未「…それもそうですね、今は考え込んでも仕方ありません。」
と言った。
気まずくなったのと、現実逃避したい気持ちもあり、ふいに時計を見る。
言った後思う、何も誰も出てこなかったら。それは、終わりの始まりだ。
海未「どう…なんですかね。混乱を招くのは明らかですし、ひとまず隠しておくほうが得策かと思います。」
穂乃果「隠し事みたいで嫌だけど、仕方ないね。なんだかんだ明日になったら霧が晴れてるかもしれないし。絵里ちゃんも言ってたよ、希ちゃんのスピリチュアルパワーはすごいって。」
私は精一杯の笑顔を作った…つもりだった。海未ちゃんは見透かしたように、悲しそうに笑って、
海未「…それもそうですね、今は考え込んでも仕方ありません。」
と言った。
気まずくなったのと、現実逃避したい気持ちもあり、ふいに時計を見る。
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196: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:25:31.08 ID:bljon9hP
もう数秒で12時を示していた。
もうこんな時間…
12時…あ!
穂乃果「海未ちゃん、まずい!あっ…」
目の前の視界が捻じ曲がる。
強烈な眠気が私を襲った。
くそ、また。
ダメだった、か。
振り向こうとしながら倒れる海未ちゃんを最後に、私は意識を失った。
…
……
………
もうこんな時間…
12時…あ!
穂乃果「海未ちゃん、まずい!あっ…」
目の前の視界が捻じ曲がる。
強烈な眠気が私を襲った。
くそ、また。
ダメだった、か。
振り向こうとしながら倒れる海未ちゃんを最後に、私は意識を失った。
…
……
………
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197: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:26:33.11 ID:bljon9hP
穂乃果「はっ!」
パジャマが汗でぐっしょりと濡れている。
体を動かすたびにひんやりして気持ち悪い。
そんなこと気にしている場合じゃない。まずは霧だ。晴れていたらすぐに麓に降りよう、それで、全て終わるはずだ。
海未「穂乃果、起きましたか。」
穂乃果「うわぁ!びっくりした。」
横には少し寝癖のついた海未ちゃんが座っていた。珍しい姿だ。
穂乃果「あれ、海未ちゃん?あ、そっか…」
昨日ここで12時を迎えたのだった。
海未「そういうことです。変な体制で数時間も眠ってたようですね…おかげで、身体中が音を立ててますよ。」
パジャマが汗でぐっしょりと濡れている。
体を動かすたびにひんやりして気持ち悪い。
そんなこと気にしている場合じゃない。まずは霧だ。晴れていたらすぐに麓に降りよう、それで、全て終わるはずだ。
海未「穂乃果、起きましたか。」
穂乃果「うわぁ!びっくりした。」
横には少し寝癖のついた海未ちゃんが座っていた。珍しい姿だ。
穂乃果「あれ、海未ちゃん?あ、そっか…」
昨日ここで12時を迎えたのだった。
海未「そういうことです。変な体制で数時間も眠ってたようですね…おかげで、身体中が音を立ててますよ。」
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198: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:26:59.43 ID:bljon9hP
海未ちゃんが首や腕を動かすたびに、乾いた破裂音が響く。
海未「しかし、これではっきりしましたね。やはりこの世界は、普通じゃなさそうです。」
注連縄の怪異と、この決まった時間の気絶…この世ならざる者が介入している証拠としては十分だ。
ただ、まだ唯一の希望がある。
穂乃果「居間に出て、外を確認しよう。」
海未ちゃんは、私が言わんとすることを理解したようで、流し目で頷いた。
海未「しかし、これではっきりしましたね。やはりこの世界は、普通じゃなさそうです。」
注連縄の怪異と、この決まった時間の気絶…この世ならざる者が介入している証拠としては十分だ。
ただ、まだ唯一の希望がある。
穂乃果「居間に出て、外を確認しよう。」
海未ちゃんは、私が言わんとすることを理解したようで、流し目で頷いた。
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199: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:27:26.48 ID:bljon9hP
階段を降りると、既ににこちゃんと希ちゃんがおり、にこちゃんはテーブルに頬杖をしている。双方憔悴しきっており、お世辞にもよく眠れたとは言えなかった。
にこ「穂乃果、海未、おはよう。」
希「おはよ~。」
渇いた声で挨拶をする。
穂乃果「おはよう。」
海未「おはようございます。」
それは私たちの声も同様だった。
にこ「ダメよ。まだ。」
私が窓の方へ歩くのを見て、察したのようににこちゃんがテーブルに目を向けたまま言った。
にこ「穂乃果、海未、おはよう。」
希「おはよ~。」
渇いた声で挨拶をする。
穂乃果「おはよう。」
海未「おはようございます。」
それは私たちの声も同様だった。
にこ「ダメよ。まだ。」
私が窓の方へ歩くのを見て、察したのようににこちゃんがテーブルに目を向けたまま言った。
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200: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:27:57.13 ID:bljon9hP
希「相変わらずや。でも、この時間帯なら、自然現象って筋もあるけどな。」
にこ「ほんと、そう願うわ。」
にこちゃんは、諦めたように机に突っ伏してしまった。
海未「…2人とも、あまり眠れてなさそうですね。」
にこ「当然よ…って、あんたもでしょ。」
希「やっぱり、12時で意識が飛ぶのは間違いなさそうやな。昨日は形式上でも、疑うような真似してごめん。」
希ちゃんが机に手を当てて頭を下げた。希ちゃんは立場上やらざるを得なかったんだ。私には責める感情なんてない。
にこ「ほんと、そう願うわ。」
にこちゃんは、諦めたように机に突っ伏してしまった。
海未「…2人とも、あまり眠れてなさそうですね。」
にこ「当然よ…って、あんたもでしょ。」
希「やっぱり、12時で意識が飛ぶのは間違いなさそうやな。昨日は形式上でも、疑うような真似してごめん。」
希ちゃんが机に手を当てて頭を下げた。希ちゃんは立場上やらざるを得なかったんだ。私には責める感情なんてない。
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201: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:29:03.75 ID:bljon9hP
穂乃果「いや!全然気にしないで、大丈夫だよ。」
私が海未ちゃんに目を合わせると、頷きで返事をしてくれた。
昨夜は海未ちゃんとほぼ同時に、麻酔のように意識が飛んでいったことを明かした。
にこ「どうやって…なんでそんなこと…」
にこちゃんは窓の外のたたら場の方を見やる。
希「どうやら本腰入れて取り掛かる必要がありそうやな。」
にこ「本腰ったって…このままじゃ霧を掴むようなものよ?」
希「その霧を、晴らすんじゃなく、具現化するんや。絶対に正体を暴いてみせる。」
私が海未ちゃんに目を合わせると、頷きで返事をしてくれた。
昨夜は海未ちゃんとほぼ同時に、麻酔のように意識が飛んでいったことを明かした。
にこ「どうやって…なんでそんなこと…」
にこちゃんは窓の外のたたら場の方を見やる。
希「どうやら本腰入れて取り掛かる必要がありそうやな。」
にこ「本腰ったって…このままじゃ霧を掴むようなものよ?」
希「その霧を、晴らすんじゃなく、具現化するんや。絶対に正体を暴いてみせる。」
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202: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:29:39.64 ID:bljon9hP
海未「霧…ですか。」
穂乃果「頼りにしてるよ。」
希「と言っても、まだまだ手がかりは掴めてないんやけどね。」アハハ
にこ「前途多難ね…」
苦笑いだが、笑いは笑いだ。
こうやって少しずつ、日常に戻していければ。
私はそう願った。
でも、
薄々皆気がついてるかもしれない。
昨日と全く条件が同じであるならば__
穂乃果「頼りにしてるよ。」
希「と言っても、まだまだ手がかりは掴めてないんやけどね。」アハハ
にこ「前途多難ね…」
苦笑いだが、笑いは笑いだ。
こうやって少しずつ、日常に戻していければ。
私はそう願った。
でも、
薄々皆気がついてるかもしれない。
昨日と全く条件が同じであるならば__
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203: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:30:51.34 ID:bljon9hP
しかし、それだけは冗談でも言える気にならず、押し黙ることしかできなかった。
そして時間が経つにつれ、ことりちゃん、花陽ちゃんが降りてきた。
そして、真姫ちゃんが降りてきて、
ダッッ
瞬間、希ちゃんは真姫ちゃんを押し退けて階段を駆け上る。
危なっかしいその背中に、振り解かれないよう私も階段を蹴った。
階段を登り終わり、薄暗い廊下の方を見ると、ちょうど希ちゃんが絵里ちゃんの部屋の扉を開けようとするところだった。
そして時間が経つにつれ、ことりちゃん、花陽ちゃんが降りてきた。
そして、真姫ちゃんが降りてきて、
ダッッ
瞬間、希ちゃんは真姫ちゃんを押し退けて階段を駆け上る。
危なっかしいその背中に、振り解かれないよう私も階段を蹴った。
階段を登り終わり、薄暗い廊下の方を見ると、ちょうど希ちゃんが絵里ちゃんの部屋の扉を開けようとするところだった。
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204: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:32:35.49 ID:bljon9hP
希「えりち!!!」
私も少し遅れて、駆け込むように部屋の中を見る。希ちゃんの口は大きく開いている。
穂乃果「の、希ちゃん…!これ…また…!」
絵里ちゃんの部屋には、誰もいなかった。
目を瞑って数秒深呼吸する希ちゃん。
その息は少し震えていた。
海未「どうかしましたか!?…これ…!」
ことり「絵里ちゃん…嘘…」
にこ「くそッ…」
真姫「絵里…」
花陽「…」
私も少し遅れて、駆け込むように部屋の中を見る。希ちゃんの口は大きく開いている。
穂乃果「の、希ちゃん…!これ…また…!」
絵里ちゃんの部屋には、誰もいなかった。
目を瞑って数秒深呼吸する希ちゃん。
その息は少し震えていた。
海未「どうかしましたか!?…これ…!」
ことり「絵里ちゃん…嘘…」
にこ「くそッ…」
真姫「絵里…」
花陽「…」
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205: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:33:06.38 ID:bljon9hP
皆も私達に追いついたようで、思い思いの方法で不平を表していた。
希「行こう。」
意を決したのか、希ちゃんが歩き始める。
それにつられるように私たちは一列で歩いた。
向かう先は、
あの建物だ。
昨日と同じ、霧が深い中歩みを進める。希ちゃんが扉を開け、中を見渡すと、
凛ちゃんの左隣の柱に、絵里ちゃんが括られていた__
…
……
………
希「行こう。」
意を決したのか、希ちゃんが歩き始める。
それにつられるように私たちは一列で歩いた。
向かう先は、
あの建物だ。
昨日と同じ、霧が深い中歩みを進める。希ちゃんが扉を開け、中を見渡すと、
凛ちゃんの左隣の柱に、絵里ちゃんが括られていた__
…
……
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206: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:33:47.13 ID:bljon9hP
にこ「終わったんじゃなかったの!?」
玄関の扉を閉めたにこちゃんは、焦ったように言った。その唇は震えており、焦燥が他の人にも伝播する。
ことり「私たち…これから1人ずつ…?」
真姫「もう、終わりなのよ…」
霧はまだ晴れない。
夜に意識を失う。起きたら誰かの死体を発見する。それがこの世界の普通らしい。
次は私の番だと考えるのは、自然なことだった。
玄関の扉を閉めたにこちゃんは、焦ったように言った。その唇は震えており、焦燥が他の人にも伝播する。
ことり「私たち…これから1人ずつ…?」
真姫「もう、終わりなのよ…」
霧はまだ晴れない。
夜に意識を失う。起きたら誰かの死体を発見する。それがこの世界の普通らしい。
次は私の番だと考えるのは、自然なことだった。
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207: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:34:15.13 ID:bljon9hP
海未「お、落ち着いて下さい。」
海未ちゃんが宥めるも、もはや聞く耳を持たない。しゃがみ込んで肩を振るわせるだけだった。
花陽「…」
穂乃果「みんな、やめてよ…!仲間割れしても良いことないって!こんなんじゃ、相手の思う壺だよ!?」
にこ「相手って誰よ!神様だか何だか知らないけど、そんなもの信じれると思う!?」
海未「この状況をこの中の誰が作れるというんですか!」
にこ「そんなの私が知ったこっちゃないわよ!」
海未ちゃんが宥めるも、もはや聞く耳を持たない。しゃがみ込んで肩を振るわせるだけだった。
花陽「…」
穂乃果「みんな、やめてよ…!仲間割れしても良いことないって!こんなんじゃ、相手の思う壺だよ!?」
にこ「相手って誰よ!神様だか何だか知らないけど、そんなもの信じれると思う!?」
海未「この状況をこの中の誰が作れるというんですか!」
にこ「そんなの私が知ったこっちゃないわよ!」
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208: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:34:50.68 ID:bljon9hP
まずい、みんなの緊張度が上がっている。誰かが叫ぶたびにことりちゃんは身体を震わせている。
海未「それに抗うには、私たちが一枚岩になって、解決策を探らなきゃいけないんですよ!ことりもそんなこと言わずに元気出してください!」
ことり「むりだよ…絵里ちゃんが死んじゃった、凛ちゃんも死んじゃった。このまま私たちも。」
海未「ことり!しっかりしてください!」
にこ「それにね、言っちゃ悪いけど、外も霧で覆われて、おそらく外から誰も入ってこれないこの異常な状況で、こんなことがおきたら、普通…」
ダメだ。それ以上は。
穂乃果「にこちゃん!」
海未「それに抗うには、私たちが一枚岩になって、解決策を探らなきゃいけないんですよ!ことりもそんなこと言わずに元気出してください!」
ことり「むりだよ…絵里ちゃんが死んじゃった、凛ちゃんも死んじゃった。このまま私たちも。」
海未「ことり!しっかりしてください!」
にこ「それにね、言っちゃ悪いけど、外も霧で覆われて、おそらく外から誰も入ってこれないこの異常な状況で、こんなことがおきたら、普通…」
ダメだ。それ以上は。
穂乃果「にこちゃん!」
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209: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:35:26.13 ID:bljon9hP
私の後、会話を紡ぐ人はいなかった。息遣いだけが壁に反響している。
にこ「…ごめん。私麓を目指してみる。」
玄関の扉を開けようとするにこちゃんの右手を掴んだのは、海未ちゃんだった。
海未「そんな!危険です!」
にこ「もう助かるにはこれしかないの。無理とわかっても何か行動しないと。私は行くわ。」
海未「あっ。」
説得虚しく、海未ちゃんの手を振り解いて、またも外に出ようとした。
希「それまでや、にこっち。」
にこ「…ごめん。私麓を目指してみる。」
玄関の扉を開けようとするにこちゃんの右手を掴んだのは、海未ちゃんだった。
海未「そんな!危険です!」
にこ「もう助かるにはこれしかないの。無理とわかっても何か行動しないと。私は行くわ。」
海未「あっ。」
説得虚しく、海未ちゃんの手を振り解いて、またも外に出ようとした。
希「それまでや、にこっち。」
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210: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:35:53.32 ID:bljon9hP
その声で、足が止まる。
希ちゃんは、目を開いたまま、その赤い目から頬にこぼれ落ちるものを一瞥もくれず、にこちゃんをじっと見てもう一度、
希「それまでや。」
と言った。
決意を持った希ちゃんの目に、皆が吸い寄せられている。
希「行っても、無駄や。」
真姫「どう言うことよ。」
希「この世界からは出られんよ。いや、この結界の中からは。」
希ちゃんは、目を開いたまま、その赤い目から頬にこぼれ落ちるものを一瞥もくれず、にこちゃんをじっと見てもう一度、
希「それまでや。」
と言った。
決意を持った希ちゃんの目に、皆が吸い寄せられている。
希「行っても、無駄や。」
真姫「どう言うことよ。」
希「この世界からは出られんよ。いや、この結界の中からは。」
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211: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:36:33.08 ID:bljon9hP
穂乃果「え、いやそれは。」
海未「希!あなたまさか…!」
希ちゃんも気づいているの!?いつからだろう。タイミングとしては私が気付いた時かな…でも試すような時間があったとは思えない…
希「やっぱり海未ちゃん、気付いてたんやね。人が悪いやん。」
そう言って力なく笑う希ちゃん。
にこ「はぁ?あんたら何言って__」
希「そこまで言うなら行ってみるといいよ。」
にこ「…どういうことよ、海未。」
海未「希!あなたまさか…!」
希ちゃんも気づいているの!?いつからだろう。タイミングとしては私が気付いた時かな…でも試すような時間があったとは思えない…
希「やっぱり海未ちゃん、気付いてたんやね。人が悪いやん。」
そう言って力なく笑う希ちゃん。
にこ「はぁ?あんたら何言って__」
希「そこまで言うなら行ってみるといいよ。」
にこ「…どういうことよ、海未。」
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212: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:37:12.59 ID:bljon9hP
海未ちゃんは昨日のやりとりを皆に語った。にこちゃんはみるみる顔色が薄くなっていく。花陽ちゃんは途中目眩を起こして、真姫ちゃんに介抱されていた。
にこ「なにかの冗談でしょ…」
花陽「ど、どうなってるの…」
真姫「こうなったら、その結界とやらの中を徹底的に探し回るしかないでしょ。」
当然そうなるだろう。私からするとそれは避けたいんだけどな…
私が喋るより前に、希ちゃんの口が開いた。
希「それもええけど、何も出てくるとは思えんなぁ。」
にこ「なにかの冗談でしょ…」
花陽「ど、どうなってるの…」
真姫「こうなったら、その結界とやらの中を徹底的に探し回るしかないでしょ。」
当然そうなるだろう。私からするとそれは避けたいんだけどな…
私が喋るより前に、希ちゃんの口が開いた。
希「それもええけど、何も出てくるとは思えんなぁ。」
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213: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:37:56.10 ID:bljon9hP
ことり「そもそもこの世界を作ったのも、そのこの世ならざる者、なのかな。」
希「…分からないことを語っても仕方ないやん。分かることから並べていこう。今日は、えりちが犠牲になった。これで、凛ちゃんと合わせて2人よ。敵が何者かはわからない。ただ、絶対に正体を暴いてみせる。これは、"人間"からの宣戦布告や。」
鬼気迫る希ちゃんの言動で、皆に緊張が走る。
人間、と言うのを強調した物言いには、強いメッセージが込められていた。
にこ「ちょっと、外出て来るわ…」
海未「あ、だからにこ!」
駆け寄る海未ちゃんの方は向かなかったが、にこちゃんは歩みを止めた。
にこ「悪かったわね。海未。ちょっと頭を冷やしてくるわ。」
そう言い残して、後手で扉を閉めた。
希「…分からないことを語っても仕方ないやん。分かることから並べていこう。今日は、えりちが犠牲になった。これで、凛ちゃんと合わせて2人よ。敵が何者かはわからない。ただ、絶対に正体を暴いてみせる。これは、"人間"からの宣戦布告や。」
鬼気迫る希ちゃんの言動で、皆に緊張が走る。
人間、と言うのを強調した物言いには、強いメッセージが込められていた。
にこ「ちょっと、外出て来るわ…」
海未「あ、だからにこ!」
駆け寄る海未ちゃんの方は向かなかったが、にこちゃんは歩みを止めた。
にこ「悪かったわね。海未。ちょっと頭を冷やしてくるわ。」
そう言い残して、後手で扉を閉めた。
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214: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/03(金) 00:38:25.40 ID:bljon9hP
希「さぁ、上がろ。」
穂乃果「…うん。」
希ちゃんは段差を上り、障子の奥へ消えていった。その背中は丸くなっていた。
私はことりちゃんに手を差し伸べる。その手を取り、お礼を言いながらことりちゃんは立ち上がった。
横を見ると、真姫ちゃんは花陽ちゃんに何か囁いて、立ち上がらせていた。
穂乃果「行こう。」
なんとか私たちは、首の皮一枚で、まとまることができた。
…
穂乃果「…うん。」
希ちゃんは段差を上り、障子の奥へ消えていった。その背中は丸くなっていた。
私はことりちゃんに手を差し伸べる。その手を取り、お礼を言いながらことりちゃんは立ち上がった。
横を見ると、真姫ちゃんは花陽ちゃんに何か囁いて、立ち上がらせていた。
穂乃果「行こう。」
なんとか私たちは、首の皮一枚で、まとまることができた。
…
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217: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:45:29.29 ID:mgm8eymC
にこ「待たせたわね。」
やがて、にこちゃんが戻って来て、机に手をついて座った。
それを見た希ちゃんは、短く言う。
希「海未ちゃん。」
海未「はい。まず、状況を整理します。12時からおそらく6時まで、私たちは何らかの原因によって意識が飛びます。おそらく被害者はその間に〇害されていると思われます。」
ことり「意識を奪われてる間に…」
海未「はい。これは絵里の身体からも分かることでした。死亡推定時刻は凛より少し早いくらいですが、意識を失っている間なのは変わりません。そして、絵里の〇害方法も、凛と同じく首を絞められてのものでした。」
やがて、にこちゃんが戻って来て、机に手をついて座った。
それを見た希ちゃんは、短く言う。
希「海未ちゃん。」
海未「はい。まず、状況を整理します。12時からおそらく6時まで、私たちは何らかの原因によって意識が飛びます。おそらく被害者はその間に〇害されていると思われます。」
ことり「意識を奪われてる間に…」
海未「はい。これは絵里の身体からも分かることでした。死亡推定時刻は凛より少し早いくらいですが、意識を失っている間なのは変わりません。そして、絵里の〇害方法も、凛と同じく首を絞められてのものでした。」
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218: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:46:07.58 ID:mgm8eymC
穂乃果「首を絞められてのことだから、意識があると当然被害者から抵抗されるはず。凛ちゃんと絵里ちゃんに、その様子がないってことだね。」
海未「それもありますね。手を離そうと引っ掻くことで、爪に皮膚の破片などが挟まることも考えられますが、これも見られませんでしたからね。」
どうやら海未ちゃんや希ちゃんの鑑識は完璧らしい。辛い役回りだけど、できる人は限られてくる。本当にありがたい。
海未「それで、なんですけど、絵里はあの建物の中を見たにしろ、入ってはいません。希、金屋子神があそこに入ること以外で起こる可能性のある性質はあるのですか?」
希「う~ん、何個かあるけど、ウチらに当てはまるとは思えんな。」
それでも、と私が聞くと、犬と麻が嫌いらしかった。確かに私達には関係のないことだ。
海未「それもありますね。手を離そうと引っ掻くことで、爪に皮膚の破片などが挟まることも考えられますが、これも見られませんでしたからね。」
どうやら海未ちゃんや希ちゃんの鑑識は完璧らしい。辛い役回りだけど、できる人は限られてくる。本当にありがたい。
海未「それで、なんですけど、絵里はあの建物の中を見たにしろ、入ってはいません。希、金屋子神があそこに入ること以外で起こる可能性のある性質はあるのですか?」
希「う~ん、何個かあるけど、ウチらに当てはまるとは思えんな。」
それでも、と私が聞くと、犬と麻が嫌いらしかった。確かに私達には関係のないことだ。
0
219: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:46:38.79 ID:mgm8eymC
海未「と言うことです。金屋子神が相手という説は外れの可能性が高いです。」
穂乃果「それで、思ったんだけど…」
私は手を挙げながら言った。
穂乃果「…こんな力技できるのって、私たちには無理じゃない?だから、」
昨日の話では、〇人鬼がμ'sの中にいる可能性も触れられていたが、ここは隠すべきだろう。
海未ちゃんは私の意図が分かったようで、
海未「やはり犯人は人智を超越した者だと。」
と結んでくれた。私はは力強く頷いた。
穂乃果「それで、思ったんだけど…」
私は手を挙げながら言った。
穂乃果「…こんな力技できるのって、私たちには無理じゃない?だから、」
昨日の話では、〇人鬼がμ'sの中にいる可能性も触れられていたが、ここは隠すべきだろう。
海未ちゃんは私の意図が分かったようで、
海未「やはり犯人は人智を超越した者だと。」
と結んでくれた。私はは力強く頷いた。
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220: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:47:12.45 ID:mgm8eymC
希「ウチもそれには賛成よ。状況証拠もそうやけど、この中にそんな人はおらん。」
ことり「それは私も!」
にこ「…そりゃ私もそんなこと考えたくないわよ。」
真姫「そうはそうね。」
良かった。みんな納得してくれたようだ。そこで通じ合えているのなら、ひとまず問題ないはず。
海未「それで、この事態を引き起こした者の手掛かりなのですが、昨日希が言っていた、金屋子神の姿形について、似た風貌を見たことがあります。」
ことり「それは私も!」
にこ「…そりゃ私もそんなこと考えたくないわよ。」
真姫「そうはそうね。」
良かった。みんな納得してくれたようだ。そこで通じ合えているのなら、ひとまず問題ないはず。
海未「それで、この事態を引き起こした者の手掛かりなのですが、昨日希が言っていた、金屋子神の姿形について、似た風貌を見たことがあります。」
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221: ころころ(もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:47:53.08 ID:mgm8eymC
穂乃果「あ、昨日の…」
海未「荼枳尼天です。」
穂乃果「だき…なんて言ったの?」
聞き慣れない単語だったので、ふりがながあっているかすら分からない。
にこ「だに…?」
それはにこちゃんも同じだったようで、小声で呟き頭を傾げている。その隣の希ちゃんは知っているようだった。
希「だきにてん、やね。でも確かあれは仏教だったはずよ。」
海未「えぇ。その神様も金屋子神と同様、死を好み、死肉を喰らう魔女、であると伝えられています。」
ことり「性質も似てるんだね。」
海未「荼枳尼天です。」
穂乃果「だき…なんて言ったの?」
聞き慣れない単語だったので、ふりがながあっているかすら分からない。
にこ「だに…?」
それはにこちゃんも同じだったようで、小声で呟き頭を傾げている。その隣の希ちゃんは知っているようだった。
希「だきにてん、やね。でも確かあれは仏教だったはずよ。」
海未「えぇ。その神様も金屋子神と同様、死を好み、死肉を喰らう魔女、であると伝えられています。」
ことり「性質も似てるんだね。」
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222: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:48:28.90 ID:mgm8eymC
海未「神仏習合…ということでしょうね。荼枳尼天は、中国に伝わった際には既に狐と結びついており、そのことから日本では稲荷信仰と習合しました。」
花陽「どういうことですか?」
海未「もともと荼枳尼天はヒンドゥー教の女神カーリーの侍女でした。ご存知の通り、この女神は死や破壊を好んだとされています。」
知らないよ。というツッコミの間も与えてくれないまま、海未ちゃんは続ける。
海未「そこから転じて、収穫後の土地に活力を与えるということで、豊穣の神の側面もあったみたいなんです。」
破壊の後には創造が、ということだろうか。
希「そこから同じく豊穣を祈る稲荷信仰とくっついたと…」
花陽「どういうことですか?」
海未「もともと荼枳尼天はヒンドゥー教の女神カーリーの侍女でした。ご存知の通り、この女神は死や破壊を好んだとされています。」
知らないよ。というツッコミの間も与えてくれないまま、海未ちゃんは続ける。
海未「そこから転じて、収穫後の土地に活力を与えるということで、豊穣の神の側面もあったみたいなんです。」
破壊の後には創造が、ということだろうか。
希「そこから同じく豊穣を祈る稲荷信仰とくっついたと…」
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223: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:49:02.48 ID:mgm8eymC
にこ「で、それが何って言うのよ。」
海未「金屋子神というのは、出発点が製鉄にまつわる神といえど、稲荷信仰の影響を強く受けていたんじゃないかと思うんです。」
希「もう一声欲しいなぁ。」
私は希ちゃんの言葉を受けて、海未ちゃんに2度頷いて、解説を促す。希ちゃんが理解できてないなら、当然私たちも同様だ。
海未「そもそも、稲荷信仰の由来とは何かから説明します。そのためには、ここの総本山である、伏見稲荷神社を知る必要があります。の山城国風土記によれば、渡来系である秦氏の祖先が稲で富を築き、餅を射た時、その餅が白鳥になって京の山へ降り立った。その山に社を建てた。と言う内容があります。似ていませんか、希。」
希「うん。金屋子神の成り立ちも、白鷺に変身して桂の木に飛来したとあるね。」
海未「金屋子神というのは、出発点が製鉄にまつわる神といえど、稲荷信仰の影響を強く受けていたんじゃないかと思うんです。」
希「もう一声欲しいなぁ。」
私は希ちゃんの言葉を受けて、海未ちゃんに2度頷いて、解説を促す。希ちゃんが理解できてないなら、当然私たちも同様だ。
海未「そもそも、稲荷信仰の由来とは何かから説明します。そのためには、ここの総本山である、伏見稲荷神社を知る必要があります。の山城国風土記によれば、渡来系である秦氏の祖先が稲で富を築き、餅を射た時、その餅が白鳥になって京の山へ降り立った。その山に社を建てた。と言う内容があります。似ていませんか、希。」
希「うん。金屋子神の成り立ちも、白鷺に変身して桂の木に飛来したとあるね。」
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224: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:49:36.24 ID:mgm8eymC
花陽「桂の木…道にあった大きな木がそれですね。」
希ちゃんは頷く。私は縁側で見た、陽の光を浴びて大きな深呼吸をしている大木を思い出した。あれが…もう2日前なのか。あれが最後の青空の思い出だ。
海未「それに、製鉄を伝えたのは渡来系と言われています。であれば、秦氏の神を信仰するのは不思議ではありません。」
海未「風貌もそうですし、眷属が狐という共通点もありますし、稲荷とは『鋳成』である。という説もあります。無関係ではないでしょうね。」
それは、希ちゃんを説得させるほどだったらしく、
希「…なるほどね。」
と呟いた。
希ちゃんは頷く。私は縁側で見た、陽の光を浴びて大きな深呼吸をしている大木を思い出した。あれが…もう2日前なのか。あれが最後の青空の思い出だ。
海未「それに、製鉄を伝えたのは渡来系と言われています。であれば、秦氏の神を信仰するのは不思議ではありません。」
海未「風貌もそうですし、眷属が狐という共通点もありますし、稲荷とは『鋳成』である。という説もあります。無関係ではないでしょうね。」
それは、希ちゃんを説得させるほどだったらしく、
希「…なるほどね。」
と呟いた。
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225: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:50:23.10 ID:mgm8eymC
海未「そこで、希に稲荷信仰にまつわる解決策がないかおしえていただきたいんですが、どうでしょうか。」
希「稲荷信仰か…分かった。効き目のところは正直自信ないけど、昨日とは別の祝詞を上げてみるよ。」
どうやら解決法が定まったらしい。ただ、ことりちゃんと花陽ちゃんの頭の上には?マークが見える。
にこ「あんたらなんでそんな詳しいのよ…要するに、金屋子神がお稲荷さんに深い関係があるから、それに則った形で解決を図ろうってことね。」
海未「そういうことです。」
にこちゃんが上手く要約してくれ、納得したように皆立ち上がる。
希「稲荷信仰か…分かった。効き目のところは正直自信ないけど、昨日とは別の祝詞を上げてみるよ。」
どうやら解決法が定まったらしい。ただ、ことりちゃんと花陽ちゃんの頭の上には?マークが見える。
にこ「あんたらなんでそんな詳しいのよ…要するに、金屋子神がお稲荷さんに深い関係があるから、それに則った形で解決を図ろうってことね。」
海未「そういうことです。」
にこちゃんが上手く要約してくれ、納得したように皆立ち上がる。
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226: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:50:53.27 ID:mgm8eymC
真姫「そうと決まれば早く済ませましょう。」
ことり「希ちゃん!お願い。」
希「任されたよ。」
私はドアを開け、霧がかった世界を歩く。間違いなく、私たちの歩みは進んでいる。
この世界の解明、敵の正体…まだまだわからないことだらけだが、着実に。
でも…
この心のモヤモヤは何だろう…
それはまるで、より深い霞に誘われているかのように。徒に時と労力を消費している気がしてくる。
私は道に下がった注連縄を一瞥して、半ば受動的に、たたら場へと歩みを進めた。
…
ことり「希ちゃん!お願い。」
希「任されたよ。」
私はドアを開け、霧がかった世界を歩く。間違いなく、私たちの歩みは進んでいる。
この世界の解明、敵の正体…まだまだわからないことだらけだが、着実に。
でも…
この心のモヤモヤは何だろう…
それはまるで、より深い霞に誘われているかのように。徒に時と労力を消費している気がしてくる。
私は道に下がった注連縄を一瞥して、半ば受動的に、たたら場へと歩みを進めた。
…
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227: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:56:07.22 ID:mgm8eymC
海未「ちょっと、いいですか。」
そう海未ちゃんに話しかけられたのは、希ちゃんの祝詞も終わって少し経った、窓の外が薄暗くなってくる頃だった。
私たちがここに来てからもう3日目。
さらに、昨日からスマホもテレビも使えないこの空間は、現代人の私たちにとって耐え難いものだった。
疲れ切り、やることもない私たちは言葉もなく、各自思い思いに過ごしているだけだった。
そんな時、海未ちゃんにあのたたら場に行かないかと誘われた。
穂乃果「入っても大丈夫なの?あそこ。」
海未「大丈夫です。こうなった原因は金屋子神によるものではないのは確認したはずです。」
そう海未ちゃんに話しかけられたのは、希ちゃんの祝詞も終わって少し経った、窓の外が薄暗くなってくる頃だった。
私たちがここに来てからもう3日目。
さらに、昨日からスマホもテレビも使えないこの空間は、現代人の私たちにとって耐え難いものだった。
疲れ切り、やることもない私たちは言葉もなく、各自思い思いに過ごしているだけだった。
そんな時、海未ちゃんにあのたたら場に行かないかと誘われた。
穂乃果「入っても大丈夫なの?あそこ。」
海未「大丈夫です。こうなった原因は金屋子神によるものではないのは確認したはずです。」
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228: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:56:55.39 ID:mgm8eymC
正直、それよりも凛ちゃんと絵里ちゃんの亡骸を見たくなかったって言うのが本音だ。
何をするつもりかと思ったが、海未ちゃんもとにかく動いて、解決を早めたかったのだろう。焦りが頬を伝って落ちた。
動いてないと、おかしくなってしまいそうだから。
その気持ちは理解できる。
穂乃果「いいよ。ただ、2人だけでこそこそしててよからぬ勘違いされてもいけないし、ことりちゃんも呼ぼう。」
海未「わかりました。」
その後、ことりちゃんも快諾してくれ、私たちはまた、あの場所へと足を踏み入れた。
何をするつもりかと思ったが、海未ちゃんもとにかく動いて、解決を早めたかったのだろう。焦りが頬を伝って落ちた。
動いてないと、おかしくなってしまいそうだから。
その気持ちは理解できる。
穂乃果「いいよ。ただ、2人だけでこそこそしててよからぬ勘違いされてもいけないし、ことりちゃんも呼ぼう。」
海未「わかりました。」
その後、ことりちゃんも快諾してくれ、私たちはまた、あの場所へと足を踏み入れた。
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229: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:57:20.77 ID:mgm8eymC
穂乃果「それで、話って何?」
海未「…はい。お二人はこの空間で、気になることはありませんか?」
急な質問に、ことりちゃんと目を合わせ苦笑いをする。だだっ広い空間というだけで、他の感想を持ち合わせていなかった。
穂乃果「ごめん。何にも違和感ないや。」
海未「この柱ですよ。」
海未ちゃんはペチペチと木の柱を叩きながら言った。
確かに私の腕では一周できなさそうな、太い柱があるが、それでもピンとは来ない。
ことり「それがどうかしたの?」
海未「…はい。お二人はこの空間で、気になることはありませんか?」
急な質問に、ことりちゃんと目を合わせ苦笑いをする。だだっ広い空間というだけで、他の感想を持ち合わせていなかった。
穂乃果「ごめん。何にも違和感ないや。」
海未「この柱ですよ。」
海未ちゃんはペチペチと木の柱を叩きながら言った。
確かに私の腕では一周できなさそうな、太い柱があるが、それでもピンとは来ない。
ことり「それがどうかしたの?」
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230: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:58:02.34 ID:mgm8eymC
海未「凛や絵里が縛り付けられてるこの柱は、全部合わせて、12本あります。」
ことり「あれ、6本じゃない?」
確かに、おそらくたたら製鉄が行われていたであろう、跡地を囲うように、6本柱がある。ただ…
穂乃果「いや、こことあそこの畳が敷かれているところを合わせて12本になるね。」
一段上がって畳が敷かれたところに3本、反対側にも同じような構造があるので、6本増える計算となる。
海未「そうなんです。それに、この柱たちを上から見て点を結ぶと円になります。」
私とことりちゃんは天井を見上げて確認する。
ことり「あれ、6本じゃない?」
確かに、おそらくたたら製鉄が行われていたであろう、跡地を囲うように、6本柱がある。ただ…
穂乃果「いや、こことあそこの畳が敷かれているところを合わせて12本になるね。」
一段上がって畳が敷かれたところに3本、反対側にも同じような構造があるので、6本増える計算となる。
海未「そうなんです。それに、この柱たちを上から見て点を結ぶと円になります。」
私とことりちゃんは天井を見上げて確認する。
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231: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:58:35.68 ID:mgm8eymC
そう…か。確かによく見れば、楕円ではあるけど、円形になっている。
海未「円…12これが意味するものとは何か。私はおそらく、十二支じゃないかと考えます。」
ことり「十二支…ねうしとらってやつだよね。」
海未「そうです。」
穂乃果「最近はお正月の時にしか聞かないね…でも待って、海未ちゃん。だとするとさ、基準となる柱があるはずじゃない?円だから、どこを基準にするかで配置は変わっちゃうよ。」
ことり「そっか!時計でも、12時を1番上にしないと、文字がなかったら針がどこを指してるか分からないもんね。」
海未「その通りです。基準となる柱はおそらく…あの柱です。」
海未「円…12これが意味するものとは何か。私はおそらく、十二支じゃないかと考えます。」
ことり「十二支…ねうしとらってやつだよね。」
海未「そうです。」
穂乃果「最近はお正月の時にしか聞かないね…でも待って、海未ちゃん。だとするとさ、基準となる柱があるはずじゃない?円だから、どこを基準にするかで配置は変わっちゃうよ。」
ことり「そっか!時計でも、12時を1番上にしないと、文字がなかったら針がどこを指してるか分からないもんね。」
海未「その通りです。基準となる柱はおそらく…あの柱です。」
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232: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 01:59:50.27 ID:mgm8eymC
海未ちゃんが振り返って指を差した。
それは、凛ちゃんが括られている柱だった。大きな柱に比べると細いが、人をくくりつけるには十分な太さだった。
確かに、あの柱の右端から注連縄がでてきて、時計回りにそれぞれの柱に巻きついて、また左端に戻っている。
穂乃果「なるほど…確かにそうと言われればそうだね。」
海未「さらに、十二支は子を北に、方位も表すことができます。一昨日の夕陽の方位から考えると、北はあの基準となる柱で間違いありません。」
初日の縁側から光景から鑑みると、そうだと思わざるを得ない。
それは、凛ちゃんが括られている柱だった。大きな柱に比べると細いが、人をくくりつけるには十分な太さだった。
確かに、あの柱の右端から注連縄がでてきて、時計回りにそれぞれの柱に巻きついて、また左端に戻っている。
穂乃果「なるほど…確かにそうと言われればそうだね。」
海未「さらに、十二支は子を北に、方位も表すことができます。一昨日の夕陽の方位から考えると、北はあの基準となる柱で間違いありません。」
初日の縁側から光景から鑑みると、そうだと思わざるを得ない。
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233: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:00:16.26 ID:mgm8eymC
ことり「だとすると、なんであそこに凛ちゃんが括り付けられてるんだろう。」
穂乃果「確かに。問題はそこだよね。」
海未「それはおそらく…誕生日です。」
穂乃果「誕生日!?まさか、そんなことで?」
なんとも呆気なく感じる推理に、思わず声が漏れる。
確かに凛ちゃんと絵里ちゃんが隣になっているけど、それだけで判断するのは…
海未「十二支で時間や年を表すことは先ほども言いましたが、月も同様に表すことができるんです。」
穂乃果「確かに。問題はそこだよね。」
海未「それはおそらく…誕生日です。」
穂乃果「誕生日!?まさか、そんなことで?」
なんとも呆気なく感じる推理に、思わず声が漏れる。
確かに凛ちゃんと絵里ちゃんが隣になっているけど、それだけで判断するのは…
海未「十二支で時間や年を表すことは先ほども言いましたが、月も同様に表すことができるんです。」
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234: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:01:25.59 ID:mgm8eymC
ことり「でも、子が時間で言えば12時を表しているとすると、月は12月を表すはずじゃないかな。」
その通りだろう。子の刻とは午後11時~午前1時を指すと聞く。
海未「はい。ことりの言う通り、子は12月です。現代では。」
穂乃果「まさか、旧暦…?」
海未「そうです。旧暦に直すと1ヶ月時計回りにずれて、本来子は現代で言うところの11月を表します。」
ことり「そして凛ちゃんの誕生日は11月1日。その左隣の絵里ちゃんは10月21日…」
その通りだろう。子の刻とは午後11時~午前1時を指すと聞く。
海未「はい。ことりの言う通り、子は12月です。現代では。」
穂乃果「まさか、旧暦…?」
海未「そうです。旧暦に直すと1ヶ月時計回りにずれて、本来子は現代で言うところの11月を表します。」
ことり「そして凛ちゃんの誕生日は11月1日。その左隣の絵里ちゃんは10月21日…」
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235: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:02:15.89 ID:mgm8eymC
これで配置の謎は推測できた…けど、まだわからないことがある。
穂乃果「なるほどね…でも、順番が分からないな。子ときたら次は丑のはず…逆回りなのかな…」
海未「そこまでは…」
穂乃果「それならみんなに共有しようよ!行こ!」
海未「待ってください!それについて聞きたくて、ここに呼んだんです。これを推理すると言うことは、次はお前の番だ。と暗に示してしまうのと同義です。指名された側はどんな気持ちになりますか?」
ことり「そりゃあ…何をするかわからない、錯乱しちゃうかも…」
穂乃果「なるほどね…でも、順番が分からないな。子ときたら次は丑のはず…逆回りなのかな…」
海未「そこまでは…」
穂乃果「それならみんなに共有しようよ!行こ!」
海未「待ってください!それについて聞きたくて、ここに呼んだんです。これを推理すると言うことは、次はお前の番だ。と暗に示してしまうのと同義です。指名された側はどんな気持ちになりますか?」
ことり「そりゃあ…何をするかわからない、錯乱しちゃうかも…」
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236: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:02:47.11 ID:mgm8eymC
海未「そういうことです。死刑囚ですら明日死ぬと言われると自〇する程なんです。ましてや、無実である私たちが耐えられるわけがありせん。これを共有することは、コミュニティの崩壊に繋がる可能性があります。軽率にはできません。」
穂乃果「でも、このまま黙ってるのも…」
ことり「ゴホッ…」
天井に、日光を取り入れるためか隙間がある。そこから少量の霧が入ってきていた。
あぁ、すっかり忘れてた…
穂乃果「ことりちゃん、大丈夫?」
海未「…そろそろ戻りましょう。このことは他言無用でお願いしますね。」
その念押しに頷き、3人とも重い足取りで下を向き、この建物から出たところで、
にこ「遅かったわね。」
にこちゃんに呼び止められる。
穂乃果「でも、このまま黙ってるのも…」
ことり「ゴホッ…」
天井に、日光を取り入れるためか隙間がある。そこから少量の霧が入ってきていた。
あぁ、すっかり忘れてた…
穂乃果「ことりちゃん、大丈夫?」
海未「…そろそろ戻りましょう。このことは他言無用でお願いしますね。」
その念押しに頷き、3人とも重い足取りで下を向き、この建物から出たところで、
にこ「遅かったわね。」
にこちゃんに呼び止められる。
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237: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:03:19.48 ID:mgm8eymC
にこ「こんなところで3人。何してたのよ。まさか、次の獲物でも相談してたの?」
海未「なっ、そんなわけ__」
にこ「じゃあ何してたってのよ。みんな不安がってんのよ!その中で単独行動なんて、疑ってかかるべきでしょう。」
そうだよね。私たちも疑われて然るべき立場なんだ。
にこ「何してたのよ。答えて。」
2人ともこの問いに答えられず、押し黙っている。
にこ「答えられないことでもしてたの?」
海未「なっ、そんなわけ__」
にこ「じゃあ何してたってのよ。みんな不安がってんのよ!その中で単独行動なんて、疑ってかかるべきでしょう。」
そうだよね。私たちも疑われて然るべき立場なんだ。
にこ「何してたのよ。答えて。」
2人ともこの問いに答えられず、押し黙っている。
にこ「答えられないことでもしてたの?」
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238: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:03:53.39 ID:mgm8eymC
穂乃果「…にこちゃんはさ、大病を患ったとして、余命を宣告されるか、されないか。どっちの方がいい?」
にこ「なっ、あんた何言ってんのよ!」
穂乃果「どっち?」
にこ「わ、私は、分かった方、が助かるわね。いろいろ整理つけたいし。」
穂乃果「私も同じだ。」
私はそう言ってニコッと笑う。分かってる、今の私は冷静さを欠いている。
仲間のために頑張って認められなかった怒りを、あろうことか仲間に向けてしまっている。
にこ「なっ、あんた何言ってんのよ!」
穂乃果「どっち?」
にこ「わ、私は、分かった方、が助かるわね。いろいろ整理つけたいし。」
穂乃果「私も同じだ。」
私はそう言ってニコッと笑う。分かってる、今の私は冷静さを欠いている。
仲間のために頑張って認められなかった怒りを、あろうことか仲間に向けてしまっている。
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239: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:04:20.54 ID:mgm8eymC
穂乃果「それについて話してたんだよ。そうと決まれば話し合いだよ!」
海未「っく…穂乃果!」
きっと、物事を動かすには、これくらいの方がいい。おそらくその時私は、そんなことを考えていた。
見切り発車が過ぎます。と言う海未ちゃんの声を尻目に、私は屋敷へと戻っていった。
…
海未「っく…穂乃果!」
きっと、物事を動かすには、これくらいの方がいい。おそらくその時私は、そんなことを考えていた。
見切り発車が過ぎます。と言う海未ちゃんの声を尻目に、私は屋敷へと戻っていった。
…
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240: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:05:14.22 ID:mgm8eymC
希「柱の謎…?」
穂乃果「そう!たたら場にあるあの柱について、少し分かったことがあるから、共有したくて。それじゃ海未ちゃん、よろしく。」
真姫「なっ…」
海未「本当あなたって人は…分かりました。」
海未ちゃんはまず、この話し合いで、次に亡くなる方を当ててしまうことが良いことなのかの確認をとり、全員が頷いたことを見てから一つ深呼吸をして、さっき私たちとした話を語り始めた。
…
穂乃果「そう!たたら場にあるあの柱について、少し分かったことがあるから、共有したくて。それじゃ海未ちゃん、よろしく。」
真姫「なっ…」
海未「本当あなたって人は…分かりました。」
海未ちゃんはまず、この話し合いで、次に亡くなる方を当ててしまうことが良いことなのかの確認をとり、全員が頷いたことを見てから一つ深呼吸をして、さっき私たちとした話を語り始めた。
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241: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:05:41.11 ID:mgm8eymC
海未「と、いうことで、柱は十二支を表していて、対応する誕生月の方が、1日に1人ずつあそこに括られてしまうのではないかと思うのですが…どうでしょう。」
真姫「まさかそこまで…」
にこ「でも、仮にそうだとして何が分かったって言うのよ。今わかってることは、もしこの事態が続いたとして、いつかあそこに張り付けられますよってだけじゃない。」
にこちゃんの言う通り、まだ対応が分かっただけの段階だ。その順番までは解読できていない。
逆回りか、それとも方位が…と考えていると、スッと希ちゃんが手を挙げた。
希「いや、少し捕捉できるかもしれん。」
海未「希?」
真姫「まさかそこまで…」
にこ「でも、仮にそうだとして何が分かったって言うのよ。今わかってることは、もしこの事態が続いたとして、いつかあそこに張り付けられますよってだけじゃない。」
にこちゃんの言う通り、まだ対応が分かっただけの段階だ。その順番までは解読できていない。
逆回りか、それとも方位が…と考えていると、スッと希ちゃんが手を挙げた。
希「いや、少し捕捉できるかもしれん。」
海未「希?」
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242: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:06:35.64 ID:mgm8eymC
海未ちゃんが問うと、希ちゃんは一度腰を浮かせて話し始める。
希「まず、陰陽五行説について話すな。」
にこ「はぁ?何言ってんの。それとこれと関係あるの?」
花陽「と、とりあえず最後まで聞いてみようよ。」
毎度のことながら、希ちゃんや海未ちゃんの話は少々回りくどいところがある。結論を急かしたくなる気持ちも分かる。
しかし、自分の結論、主張をこの場の全員が納得する状態で出したいのだろう。大体の場合、希ちゃんが話し終わると何も口出しできない。
いや、それとも、今回は、
海未「この世界の全てのものは火・土・金・水・木の元素からなるっていうあれですか?」
希「まず、陰陽五行説について話すな。」
にこ「はぁ?何言ってんの。それとこれと関係あるの?」
花陽「と、とりあえず最後まで聞いてみようよ。」
毎度のことながら、希ちゃんや海未ちゃんの話は少々回りくどいところがある。結論を急かしたくなる気持ちも分かる。
しかし、自分の結論、主張をこの場の全員が納得する状態で出したいのだろう。大体の場合、希ちゃんが話し終わると何も口出しできない。
いや、それとも、今回は、
海未「この世界の全てのものは火・土・金・水・木の元素からなるっていうあれですか?」
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243: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:07:47.21 ID:mgm8eymC
希「そう。それぞれがバランスを取り合ってこの世界を形成するって考え方。もっと言うと、火・土・金・水・木の順で相生、つまり相手の助けとなる良い関係とされている。」
ことり「火は土の助けになり、土は金の助けになる、っていう順番だね。」
希「そういうことやね。一方で、火には水、土には木、金には火、水には土、木には金のように、これの関係は相剋って言って、打ち消し合おうとするものとされてるんよ。」
穂乃果「なんかRPGの相性みたいだね…」
ことり「意識はしてそうだね。」
希「金屋子神は火の神やから、火の要素を持つのはわかるよな。そして、死を好む特徴。これは死体が土性をもっているからだとされているんよ。あと、あそこの道にもある、桂を好むとされているけど、木編をとると、」
花陽「土が2つ…」
希「そう。このことから、土性を好むと言われている。」
ことり「火は土の助けになり、土は金の助けになる、っていう順番だね。」
希「そういうことやね。一方で、火には水、土には木、金には火、水には土、木には金のように、これの関係は相剋って言って、打ち消し合おうとするものとされてるんよ。」
穂乃果「なんかRPGの相性みたいだね…」
ことり「意識はしてそうだね。」
希「金屋子神は火の神やから、火の要素を持つのはわかるよな。そして、死を好む特徴。これは死体が土性をもっているからだとされているんよ。あと、あそこの道にもある、桂を好むとされているけど、木編をとると、」
花陽「土が2つ…」
希「そう。このことから、土性を好むと言われている。」
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244: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:08:16.93 ID:mgm8eymC
火→土→金は相生の関係なので、製鉄の神である金屋子神ということもあり、ここは頷けるところだ。
海未「ちょっと待ってください。では、金屋子神というのは…火、土2つの要素を持っているということですか?」
希「そういうことやね。そして、その2つの要素を持っているものが、狐なんよ。」
穂乃果「また…」
狐だ。
希「土性は毛の色から、火性は、狐火という言葉もあるように、火との関係も強い。」
花陽「じゃあ、やっぱり私たちの相手は狐…」
海未「ちょっと待ってください。では、金屋子神というのは…火、土2つの要素を持っているということですか?」
希「そういうことやね。そして、その2つの要素を持っているものが、狐なんよ。」
穂乃果「また…」
狐だ。
希「土性は毛の色から、火性は、狐火という言葉もあるように、火との関係も強い。」
花陽「じゃあ、やっぱり私たちの相手は狐…」
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245: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:08:48.64 ID:mgm8eymC
希「の可能性が高いってだけやな。ここまで長々と説明してきたけど、この五行には、十二支が対応しとるんよ。」
ここで例の十二支が出てくるのか。
海未「まさか…」
希「そう、凛ちゃんの子と、絵里ちの亥、これは共に、水性に対応しとるんや。」
にこ「火性の相剋ね!他に水性を持つ月はないの?」
希「あの2つの月だけなんよ。」
ここで例の十二支が出てくるのか。
海未「まさか…」
希「そう、凛ちゃんの子と、絵里ちの亥、これは共に、水性に対応しとるんや。」
にこ「火性の相剋ね!他に水性を持つ月はないの?」
希「あの2つの月だけなんよ。」
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246: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:09:21.91 ID:mgm8eymC
にこ「それなら次は土性の相剋…!」
水が10、11月なら、木は時計回りの順番だから…
ことり「…!に、にこちゃん!」
何かに気付いたのか、ことりちゃんが小声で止めようとする。
花陽「続けてください。」
花陽ちゃんは冷たく言って、希ちゃんを一点に見つめている。
まさか…
希「う、うん。土性の相剋は木性。そしてこれに対応するのは、1月と2月、次は__」
水が10、11月なら、木は時計回りの順番だから…
ことり「…!に、にこちゃん!」
何かに気付いたのか、ことりちゃんが小声で止めようとする。
花陽「続けてください。」
花陽ちゃんは冷たく言って、希ちゃんを一点に見つめている。
まさか…
希「う、うん。土性の相剋は木性。そしてこれに対応するのは、1月と2月、次は__」
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247: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/04(土) 02:09:56.80 ID:mgm8eymC
花陽「私、ですね…」
無表情だが口角だけを上げ、ふっと息を吐きながら、花陽ちゃんはそう言った。
花陽「少し…1人にさせてください。」
真姫「っ花陽!」
にこちゃんが、追いかけようと立ち上がる真姫ちゃんの肩を掴んで首を横に振った。
パタン、障子を閉める音だけが弾けて落ちた。
…
……
………
無表情だが口角だけを上げ、ふっと息を吐きながら、花陽ちゃんはそう言った。
花陽「少し…1人にさせてください。」
真姫「っ花陽!」
にこちゃんが、追いかけようと立ち上がる真姫ちゃんの肩を掴んで首を横に振った。
パタン、障子を閉める音だけが弾けて落ちた。
…
……
………
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251: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:21:00.03 ID:WcSjQDuo
海未「良かったのでしょうか…これで。」
それはこの場の全員が思っていたことのようだった。
ことり「海未ちゃんだけが責任を感じちゃダメ。この場の全員が、追うべき責任だよ。」
希「そうやね。私たちが花陽ちゃんにできることは、この災厄を終わらせることや。
にこ「でも時間が…」
現実は非情だ。
気持ちを整理する時間さえ与えてくれないみたいだ。
ちらりと、時計に目をやる。
針は既に、23時を通り過ぎていた。
残った私たちは、結局何もできず、皆同様に気まずそうな表情を浮かべていた。
とにかく私は、限りある時間で何か掴みたかった。
それはこの場の全員が思っていたことのようだった。
ことり「海未ちゃんだけが責任を感じちゃダメ。この場の全員が、追うべき責任だよ。」
希「そうやね。私たちが花陽ちゃんにできることは、この災厄を終わらせることや。
にこ「でも時間が…」
現実は非情だ。
気持ちを整理する時間さえ与えてくれないみたいだ。
ちらりと、時計に目をやる。
針は既に、23時を通り過ぎていた。
残った私たちは、結局何もできず、皆同様に気まずそうな表情を浮かべていた。
とにかく私は、限りある時間で何か掴みたかった。
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252: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:21:22.89 ID:WcSjQDuo
穂乃果「海未ちゃん、その後の順番は?」
海未「ここから先は、分からないんです…もしかしたらこれで最後かもしれませんし。」
にこ「全く…これで明日霧が晴れてたら許さないわよ。」
ことり「晴れてたら万々歳なんじゃ…」
またも沈黙、当然だが、時計を見るたびに、24時が近付いている。カチ、カチという音で心臓の鼓動をコントロールされているかのような気持ちになる。
意識を失うまであと少し。その間に真相を暴くのは難しい。
とは言え、このまま見〇しにして、いいんだろうか…花陽ちゃんが何か遺せるチャンスは、もうこの時間内しかないんだ。
海未「ここから先は、分からないんです…もしかしたらこれで最後かもしれませんし。」
にこ「全く…これで明日霧が晴れてたら許さないわよ。」
ことり「晴れてたら万々歳なんじゃ…」
またも沈黙、当然だが、時計を見るたびに、24時が近付いている。カチ、カチという音で心臓の鼓動をコントロールされているかのような気持ちになる。
意識を失うまであと少し。その間に真相を暴くのは難しい。
とは言え、このまま見〇しにして、いいんだろうか…花陽ちゃんが何か遺せるチャンスは、もうこの時間内しかないんだ。
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253: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:21:46.40 ID:WcSjQDuo
今までの人生を通じて、何を思い、何を感じ、どう行動したのか。その為人、全て聞いて記憶する必要がある。じゃないと、花陽ちゃんが浮かばれない。
さっきことりちゃんは、皆の責任と言った。それは違う。私の考えなしの行動で、この事態を招いたんだ。もし誰か責任を取るべきなら、私が取るべきだ。
私は机を叩いて、立ち上がる。
穂乃果「私、花陽ちゃんのところへ行く。」
海未「なっ!どうするつもりですか!」
ことり「それなら、私も行くよ!」
私の腕を抱え込むようにすることりちゃん。その目は心配の色が宿っている。
いつもありがとうね、ことりちゃん。
さっきことりちゃんは、皆の責任と言った。それは違う。私の考えなしの行動で、この事態を招いたんだ。もし誰か責任を取るべきなら、私が取るべきだ。
私は机を叩いて、立ち上がる。
穂乃果「私、花陽ちゃんのところへ行く。」
海未「なっ!どうするつもりですか!」
ことり「それなら、私も行くよ!」
私の腕を抱え込むようにすることりちゃん。その目は心配の色が宿っている。
いつもありがとうね、ことりちゃん。
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254: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:22:08.85 ID:WcSjQDuo
穂乃果「いや、私だけで大丈夫だよ。この霧、のこともあるし。だから、私だけでいいの。大丈夫。ほんとに危なくなったら、ちゃんと帰るから。」
依然として首を振り、離さないことりちゃんに、にこちゃんが優しく語りかける。
海未「そんな、危険です!いつもあなたは!」
いつの間にか私の隣にいた海未ちゃんは、玄関への道を塞ぐように立っていた。
にこ「穂乃果がそうしたいなら行ってやりなさい。」
海未「でも!」
にこ「それに、あの子も…寂しいだろうから…」
依然として首を振り、離さないことりちゃんに、にこちゃんが優しく語りかける。
海未「そんな、危険です!いつもあなたは!」
いつの間にか私の隣にいた海未ちゃんは、玄関への道を塞ぐように立っていた。
にこ「穂乃果がそうしたいなら行ってやりなさい。」
海未「でも!」
にこ「それに、あの子も…寂しいだろうから…」
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255: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:22:26.82 ID:WcSjQDuo
ことり「…」
その一言で、食い下がっていたことりちゃんはその腕を解き、海未ちゃんは諦めたように半身になった。その唇は噛み締められている。
…ほんと、2人には隠し事ができないね。
希「5分前くらいから呼びかけるな。無茶はせんこと、ええ?」
真姫「霧を吸い込みすぎないようにね。」
穂乃果「うん。ここで待ってて。」
そう言い残して、私は自ら夜の闇へと溶け込んでいった。
…
その一言で、食い下がっていたことりちゃんはその腕を解き、海未ちゃんは諦めたように半身になった。その唇は噛み締められている。
…ほんと、2人には隠し事ができないね。
希「5分前くらいから呼びかけるな。無茶はせんこと、ええ?」
真姫「霧を吸い込みすぎないようにね。」
穂乃果「うん。ここで待ってて。」
そう言い残して、私は自ら夜の闇へと溶け込んでいった。
…
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256: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:22:54.78 ID:WcSjQDuo
夏の夜。
普通であれば、蛙やコオロギの鳴き声があってもいい頃合いだ。
ただこの世界では、一切の声がない。
木々の擦れる音のみが聴覚を支配している。
霧によるものなのか、湿気がまとわりついて気持ち悪い。少し梅雨の匂いがする。
なんてことを考えていると、気付けばたたら場の前に着いた。
穂乃果「花陽ちゃ~ん!入るよ!」
普通であれば、蛙やコオロギの鳴き声があってもいい頃合いだ。
ただこの世界では、一切の声がない。
木々の擦れる音のみが聴覚を支配している。
霧によるものなのか、湿気がまとわりついて気持ち悪い。少し梅雨の匂いがする。
なんてことを考えていると、気付けばたたら場の前に着いた。
穂乃果「花陽ちゃ~ん!入るよ!」
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257: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:23:15.54 ID:WcSjQDuo
2つノックをした後、数秒待って返事がなかったので、扉に手をかけた瞬間、
花陽「入らないで!!!」
花陽ちゃんの声が、無音の闇をつんざいた。
穂乃果「ご、ごめんね。」
驚きのあまり、扉から手を離し一歩後ろに飛び跳ねる。
花陽「…何の用ですか。」
少しだけ開いた扉を閉めながら、花陽ちゃんは言った。
穂乃果「花陽ちゃんとお話、したくて。」
花陽「入らないで!!!」
花陽ちゃんの声が、無音の闇をつんざいた。
穂乃果「ご、ごめんね。」
驚きのあまり、扉から手を離し一歩後ろに飛び跳ねる。
花陽「…何の用ですか。」
少しだけ開いた扉を閉めながら、花陽ちゃんは言った。
穂乃果「花陽ちゃんとお話、したくて。」
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258: 警備員[Lv.8(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:23:48.44 ID:WcSjQDuo
花陽「…海未ちゃんによると、私はあと数分で死ぬみたい…せめて、凛ちゃんのもとで死にたいと思ってここにいるの。」
穂乃果「…ほんと、ごめん。」
花陽「そこは…大丈夫です。私が死ぬことには変わりないし…死に方を選べるのは、凛ちゃん達より恵まれてます…とにかく、私のことなんか放っておいて、早く次の解決策を探して下さい。」
穂乃果「…だからなんだよ。」
花陽「…え?」
扉の向こうからトン、と音が聞こえる。花陽ちゃんの手が触れたのだろうか。
穂乃果「…ほんと、ごめん。」
花陽「そこは…大丈夫です。私が死ぬことには変わりないし…死に方を選べるのは、凛ちゃん達より恵まれてます…とにかく、私のことなんか放っておいて、早く次の解決策を探して下さい。」
穂乃果「…だからなんだよ。」
花陽「…え?」
扉の向こうからトン、と音が聞こえる。花陽ちゃんの手が触れたのだろうか。
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259: ころころ(もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:25:14.61 ID:WcSjQDuo
穂乃果「もう少しで訊けなくなる。花陽ちゃんの想いも、願いも。このままだと、花陽ちゃんがどんな人生を送り、どんな想いを抱いたか、わからないままなんだ。」
扉の向こうからは返事がない。でも、きっと花陽ちゃんは聞いてくれてるはずだ。
私も扉に手を当て、続けて語りかける。
穂乃果「私ね、死んでしまったら、それで終わりなんかじゃないって思うんだ。本当の終わりは、生者からも忘れられた時。その時が来ると、存在したことが誰の中からも消えてしまう…だからね、私は、花陽ちゃんのこと、もっと知りたいの。ダメ、かな。」
またも静寂。さっきの大声のせいか、木々のざわめきが心なしか大きいように感じた。
花陽「…凛ちゃんと私は、ずっと昔からの友達だった。」
花陽ちゃんが、消え入りそうな震えた声で喋り始める。
扉の向こうからは返事がない。でも、きっと花陽ちゃんは聞いてくれてるはずだ。
私も扉に手を当て、続けて語りかける。
穂乃果「私ね、死んでしまったら、それで終わりなんかじゃないって思うんだ。本当の終わりは、生者からも忘れられた時。その時が来ると、存在したことが誰の中からも消えてしまう…だからね、私は、花陽ちゃんのこと、もっと知りたいの。ダメ、かな。」
またも静寂。さっきの大声のせいか、木々のざわめきが心なしか大きいように感じた。
花陽「…凛ちゃんと私は、ずっと昔からの友達だった。」
花陽ちゃんが、消え入りそうな震えた声で喋り始める。
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260: ころころ(もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:26:11.61 ID:WcSjQDuo
花陽「私、その頃から奥手で…あまり自分の意思が弱かったから…その…よく男の子からかわれてたの。それをね、凛ちゃんが助けてくれたんだよ。」
花陽「そのあと凛ちゃんに、ちゃんと自分の思いを伝えなきゃダメ、と強く言われて、その男の子たちと話し合ったの。そしたら、男の子たちも虐めてやろうとかはなかったみたいで、仲直りできた。問題にしっかり向き合えば、状況は180°変わるんだなぁって教えてもらった。私にとって凛ちゃんはヒーローだった。」
花陽ちゃんの声色に、優しさがこもる。
花陽「高校に入ってからも私は、μ'sに入りたかったのに、後一歩の勇気が出ない。そんな中、私の想いに気付いてくれて、励ましてくれたのも凛ちゃんや真姫ちゃんだった…」
穂乃果「2人に背中を押してもらってたね。」
私はあの日の夕陽を思い出す。あの涙も、あの笑顔も。
花陽「そのあと凛ちゃんに、ちゃんと自分の思いを伝えなきゃダメ、と強く言われて、その男の子たちと話し合ったの。そしたら、男の子たちも虐めてやろうとかはなかったみたいで、仲直りできた。問題にしっかり向き合えば、状況は180°変わるんだなぁって教えてもらった。私にとって凛ちゃんはヒーローだった。」
花陽ちゃんの声色に、優しさがこもる。
花陽「高校に入ってからも私は、μ'sに入りたかったのに、後一歩の勇気が出ない。そんな中、私の想いに気付いてくれて、励ましてくれたのも凛ちゃんや真姫ちゃんだった…」
穂乃果「2人に背中を押してもらってたね。」
私はあの日の夕陽を思い出す。あの涙も、あの笑顔も。
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261: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:26:41.90 ID:WcSjQDuo
花陽「そう。その後2人もμ's入ったじゃない?あれ、流されてとかじゃないんだよ。凛ちゃんは、誰よりも「女の子」に憧れがあるのに、出せないでいた。真姫ちゃんも、音楽に対しての情熱は誰よりも強い。それを穂乃果ちゃん達が見つけ出してくれた。ありがとうね。」
花陽ちゃんは懐かしむように、そして、弾むように話す。
穂乃果「私たちは最後の手を添えただけ。みんなの意思がこの結果を生んだんだよ。」
花陽「えへへ。そう言ってくれて嬉しい。凛ちゃんとは昔からの仲だけど、真姫ちゃんも同じくらい大切で…私…私たちは、それぞれ夢や憧れを叶えて、最高の瞬間を迎えてた。でも__」
花陽ちゃんの口が止まる。歯を食いしばっていたのか、その後の声に震えが混じる。
花陽ちゃんは懐かしむように、そして、弾むように話す。
穂乃果「私たちは最後の手を添えただけ。みんなの意思がこの結果を生んだんだよ。」
花陽「えへへ。そう言ってくれて嬉しい。凛ちゃんとは昔からの仲だけど、真姫ちゃんも同じくらい大切で…私…私たちは、それぞれ夢や憧れを叶えて、最高の瞬間を迎えてた。でも__」
花陽ちゃんの口が止まる。歯を食いしばっていたのか、その後の声に震えが混じる。
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262: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:27:14.57 ID:WcSjQDuo
花陽「凛ちゃんは…あんなことになっちゃって、絵里ちゃんも…最悪なこと言っちゃうとね、私、絵里ちゃんがあんなことになって、少し安堵したところも、あって…」
穂乃果「…聞かせて?」
花陽「これで…天国の凛ちゃんも寂しくないかなっ…て…最低だよね。」
その懺悔は、私の奥底にもあるものだ。花陽ちゃんも、それに気付いていたのか。
いや、開き直れば、この問いに答えは出せないんだ。トロッコ問題…かけがえのない親友を選ぶか、数人の友達を選ぶか…人は無意識的に優先順位をつけるものなのかもしれない。
今は友人が1人ずつ死んでいく以上な状況だ。自我を保つために、最低限この人だけは…というラインを作ることは責められないことだろう。
でも…私はそれに抗いたかった。
穂乃果「…聞かせて?」
花陽「これで…天国の凛ちゃんも寂しくないかなっ…て…最低だよね。」
その懺悔は、私の奥底にもあるものだ。花陽ちゃんも、それに気付いていたのか。
いや、開き直れば、この問いに答えは出せないんだ。トロッコ問題…かけがえのない親友を選ぶか、数人の友達を選ぶか…人は無意識的に優先順位をつけるものなのかもしれない。
今は友人が1人ずつ死んでいく以上な状況だ。自我を保つために、最低限この人だけは…というラインを作ることは責められないことだろう。
でも…私はそれに抗いたかった。
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263: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:27:46.36 ID:WcSjQDuo
穂乃果「確かに人が死んでる以上、褒められたことじゃないかもしれない。でも、私も海未ちゃんやことりちゃんになにかあったらと思うと、共感できる部分はあるよ。」
花陽「ありがとう。でもね、今日私が死ぬのは、その罰なんじゃないかと思って。」
それは…違う。
あくまでも悪いのはこの世界を作った者であり、私たちではないんだ。
穂乃果「そんなことない。それは間違ってる。」
花陽「だから、天国に行けるか分からないけど、絵里ちゃんに謝ってくるよ。穂乃果ちゃん、そろそろ時間だから屋敷に戻って。」
遠くを見ると、焦ったようにこっちに手を振る皆が見える。
花陽「ありがとう。でもね、今日私が死ぬのは、その罰なんじゃないかと思って。」
それは…違う。
あくまでも悪いのはこの世界を作った者であり、私たちではないんだ。
穂乃果「そんなことない。それは間違ってる。」
花陽「だから、天国に行けるか分からないけど、絵里ちゃんに謝ってくるよ。穂乃果ちゃん、そろそろ時間だから屋敷に戻って。」
遠くを見ると、焦ったようにこっちに手を振る皆が見える。
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264: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:28:22.85 ID:WcSjQDuo
時間は既に5分を切っているんだ。
おそらくもう、1分も無いだろう。
ごめん…みんな。
穂乃果「行かない。私は限界まで花陽ちゃんのことが知りたい。それが、私たちが負うべき責任。」
花陽「そんな!?やめて!穂乃果ちゃんに何かあったらみんな悲しんじゃうよ!」
そんな言い方…嫌だ。花陽ちゃんだってみんなの大切な仲間だ。
穂乃果「大丈夫、私は、花陽ちゃんたちを覚えるために絶対に生きる。みんなを覚えて残るの!だから、限界まで聞きたい!」
おそらくもう、1分も無いだろう。
ごめん…みんな。
穂乃果「行かない。私は限界まで花陽ちゃんのことが知りたい。それが、私たちが負うべき責任。」
花陽「そんな!?やめて!穂乃果ちゃんに何かあったらみんな悲しんじゃうよ!」
そんな言い方…嫌だ。花陽ちゃんだってみんなの大切な仲間だ。
穂乃果「大丈夫、私は、花陽ちゃんたちを覚えるために絶対に生きる。みんなを覚えて残るの!だから、限界まで聞きたい!」
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265: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:28:47.30 ID:WcSjQDuo
ことりちゃんは泣き崩れ、海未ちゃんが外に出ようとするのを、にこちゃんと真姫ちゃんが必死に止めている。希ちゃんは時間を確認して、間に合わないと悟ったか、膝をついた。
その時、扉が少し開いた。
そこには、涙混じりの笑顔で、手を差し伸べる花陽ちゃんがいた。
私はその手を強く掴む。
その時、扉が少し開いた。
そこには、涙混じりの笑顔で、手を差し伸べる花陽ちゃんがいた。
私はその手を強く掴む。
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266: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:29:07.05 ID:WcSjQDuo
花陽「…あの時、私を見つけてくれた穂乃果ちゃんには伝えておきたいの…私ね、μ'sに入れて、本当に、良かった…!」
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267: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/05(日) 01:29:24.69 ID:WcSjQDuo
穂乃果「__!」
何か言わなきゃ、と思ったのも束の間、
プツン、と私の意識は途切れた。
…
……
………
何か言わなきゃ、と思ったのも束の間、
プツン、と私の意識は途切れた。
…
……
………
0
270: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 16:28:24.34 ID:jXaoYSps
穂乃果「うっぷ…うぉぇ…」
最悪な寝起きだった。
ここのところ最悪な寝起きしか経験してない。
でもこの体調…起きれただけマシと思ったほうが良さそうだ。内臓がぐるぐると内容物を出そうと必死に蠢いている。
私はおそらく6時間、霧の中過ごしていた。
体の限界ギリギリまで、溜まっていたものを吐き出し、屋敷へと匍匐前進をする。
穂乃果「うっ…」
ダメだ。吐き気や倦怠感で思考がまとまらない。今は安全なところに逃げるのが先決だ。
石畳に肘が擦れる。
痛い、気分が悪い、悔しい。1人の身に余るほどの不快な気持ちを抱え、思わず悪態をつく。
最悪な寝起きだった。
ここのところ最悪な寝起きしか経験してない。
でもこの体調…起きれただけマシと思ったほうが良さそうだ。内臓がぐるぐると内容物を出そうと必死に蠢いている。
私はおそらく6時間、霧の中過ごしていた。
体の限界ギリギリまで、溜まっていたものを吐き出し、屋敷へと匍匐前進をする。
穂乃果「うっ…」
ダメだ。吐き気や倦怠感で思考がまとまらない。今は安全なところに逃げるのが先決だ。
石畳に肘が擦れる。
痛い、気分が悪い、悔しい。1人の身に余るほどの不快な気持ちを抱え、思わず悪態をつく。
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271: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 16:28:48.49 ID:jXaoYSps
穂乃果「くそ…なんで…」
まだ今日も霧が晴れていない。
それに、起きた時私の手には何も握られていなかった。
夢を追いかけ、それをμ'sに託してくれた花陽ちゃんは…
今にも叫び出してやり場のない怒りをぶつけたかったが、今はそれどころじゃなかった。
吐き出しても吐き出しても吐き気は治らない。
出す胃液も無くなってしまった。
私は何とか玄関までたどり着き、力尽きた。
…
まだ今日も霧が晴れていない。
それに、起きた時私の手には何も握られていなかった。
夢を追いかけ、それをμ'sに託してくれた花陽ちゃんは…
今にも叫び出してやり場のない怒りをぶつけたかったが、今はそれどころじゃなかった。
吐き出しても吐き出しても吐き気は治らない。
出す胃液も無くなってしまった。
私は何とか玄関までたどり着き、力尽きた。
…
0
272: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 16:29:32.34 ID:jXaoYSps
穂乃果「…っぷ。」
次に目覚めた時は、自室の布団の中だった。
玄関までの記憶しかないので、誰かが運んでくれたんだろうか。
まるで飲み会後のお父さんだ。
この後お母さんに怒られるのが一連の流れだろう。
吐き気は朝よりマシになっているが、依然本調子とは程遠い。
でもこれでいい。これで花陽ちゃんの記憶が体に刻み込まれたはずだ。
そう思って目を開けると、ことりちゃんが枕元で座ったままうたた寝をしている。
目のクマが酷い。
さすがに精神的、肉体的にも限界がきているようだった。
次に目覚めた時は、自室の布団の中だった。
玄関までの記憶しかないので、誰かが運んでくれたんだろうか。
まるで飲み会後のお父さんだ。
この後お母さんに怒られるのが一連の流れだろう。
吐き気は朝よりマシになっているが、依然本調子とは程遠い。
でもこれでいい。これで花陽ちゃんの記憶が体に刻み込まれたはずだ。
そう思って目を開けると、ことりちゃんが枕元で座ったままうたた寝をしている。
目のクマが酷い。
さすがに精神的、肉体的にも限界がきているようだった。
0
273: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 16:29:55.71 ID:jXaoYSps
私も人のこと言える状態じゃないと思うけど。
穂乃果「ことり、ちゃん。」
看病してくれたお礼をするため、私はことひたゃんの太ももを2度叩いた。
ことり「…!穂乃果ちゃん。」
そう言って涙ながらに私の方へ近づいて、
パンッ!
頬に平手打ちをされた。
穂乃果「ことり、ちゃん。」
看病してくれたお礼をするため、私はことひたゃんの太ももを2度叩いた。
ことり「…!穂乃果ちゃん。」
そう言って涙ながらに私の方へ近づいて、
パンッ!
頬に平手打ちをされた。
0
274: 警備員[Lv.9(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 16:30:16.06 ID:jXaoYSps
ことり「…もうっ!心配したんだから…!穂乃果ちゃんがいなくなったら…私…!」
そうだ。心配させてしまったことを謝るのが先だったね。
穂乃果「ごめんね、ことりちゃん。勝手なことして。でも、花陽ちゃんを一人にしたくなくて。」
ことり「分かってる…でも…!もう無茶しないでね…」
穂乃果「分かった…ありがとう。」
ことり「うん…うん…!」
そうだ。心配させてしまったことを謝るのが先だったね。
穂乃果「ごめんね、ことりちゃん。勝手なことして。でも、花陽ちゃんを一人にしたくなくて。」
ことり「分かってる…でも…!もう無茶しないでね…」
穂乃果「分かった…ありがとう。」
ことり「うん…うん…!」
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275: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 18:42:05.45 ID:jXaoYSps
穂乃果「そうだ、花陽ちゃんは…?」
ことりちゃんがさらに絶望じみた顔つきをして、首を左右に振った。
穂乃果「くっ…ダメだったんだね。一度手を合わせに行くよ。」
拳を地面に叩けつけたい気分だったが、肩に力が入らない。
ことり「あっ…やめておいた方が…」
穂乃果「なんで?」
ことり「花陽ちゃん、前の2人とは違った〇され方で…その…」
穂乃果「…え?」
なんでも、鋭利な刃物で首をひと切りされていたらしい。血の気の引いた花陽ちゃんの顔がこびりついていると、ことりちゃんは涙ながら言う。
ことりちゃんがさらに絶望じみた顔つきをして、首を左右に振った。
穂乃果「くっ…ダメだったんだね。一度手を合わせに行くよ。」
拳を地面に叩けつけたい気分だったが、肩に力が入らない。
ことり「あっ…やめておいた方が…」
穂乃果「なんで?」
ことり「花陽ちゃん、前の2人とは違った〇され方で…その…」
穂乃果「…え?」
なんでも、鋭利な刃物で首をひと切りされていたらしい。血の気の引いた花陽ちゃんの顔がこびりついていると、ことりちゃんは涙ながら言う。
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276: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 18:42:27.76 ID:jXaoYSps
穂乃果「〇す方法が…変わった?」
聞けば、
ことり「そして、海未ちゃんが昨日言ってたみたいに、柱に括り付けられてた。推理は、正しかったよ。」
ちっとも嬉しくなさそうにことりちゃんは言う。
それは…どうして?
凛ちゃん、絵里ちゃんは首を絞められての〇害だった…でも花陽ちゃんは刃物を使って…?〇人は〇人だ。その時点で酷いのは間違いない…けど、その〇し方に〇意が増えているような気がする。
この2日…昨日のうちに刺激するようなことをしたんだろうか…
聞けば、
ことり「そして、海未ちゃんが昨日言ってたみたいに、柱に括り付けられてた。推理は、正しかったよ。」
ちっとも嬉しくなさそうにことりちゃんは言う。
それは…どうして?
凛ちゃん、絵里ちゃんは首を絞められての〇害だった…でも花陽ちゃんは刃物を使って…?〇人は〇人だ。その時点で酷いのは間違いない…けど、その〇し方に〇意が増えているような気がする。
この2日…昨日のうちに刺激するようなことをしたんだろうか…
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277: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 18:42:53.34 ID:jXaoYSps
穂乃果「いよいよ、全滅するまで許してくれそうにないね…」
ことり「…ちょっと、みんなを呼んでくる。」
私たちは結局、誰の、何を刺激して、何をされているのか全く状況が掴めていない。
海未ちゃんや希ちゃんによって、いくつか犯人像は上げられているが、どれも正解には至っていないようだ。
そもそも、私たちは何も罪を犯してないわけだし、恨まれる道理もない。理不尽な罰だけが先行し、精神的に参ってしまっている。
このまま、私たちも…そんな悲観的な未来を、容易く想像できてしまう。
ことり「…ちょっと、みんなを呼んでくる。」
私たちは結局、誰の、何を刺激して、何をされているのか全く状況が掴めていない。
海未ちゃんや希ちゃんによって、いくつか犯人像は上げられているが、どれも正解には至っていないようだ。
そもそも、私たちは何も罪を犯してないわけだし、恨まれる道理もない。理不尽な罰だけが先行し、精神的に参ってしまっている。
このまま、私たちも…そんな悲観的な未来を、容易く想像できてしまう。
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278: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 20:33:16.22 ID:jXaoYSps
海未「穂乃果、起きたんですね。」
穂乃果「う、海未ちゃん。」
扉を開けたのは、今まで見たこともない顔をした海未ちゃんだった。
ことり「もう穂乃果ちゃんにはお灸を据えたよ、その辺にしてあげて。」
ことりちゃんのフォローもあり、ややあって一息つき、
海未「…穂乃果、ああいった独りよがりなことは、もうしないでください。」
と目を瞑ったまま言った。
ことり「あぁ見えて今朝物凄く心配してたんだよ。」
それは…あの腫れた目を見ればよく分かる。
穂乃果「う、海未ちゃん。」
扉を開けたのは、今まで見たこともない顔をした海未ちゃんだった。
ことり「もう穂乃果ちゃんにはお灸を据えたよ、その辺にしてあげて。」
ことりちゃんのフォローもあり、ややあって一息つき、
海未「…穂乃果、ああいった独りよがりなことは、もうしないでください。」
と目を瞑ったまま言った。
ことり「あぁ見えて今朝物凄く心配してたんだよ。」
それは…あの腫れた目を見ればよく分かる。
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279: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 20:33:49.70 ID:jXaoYSps
希「お、穂乃果ちゃん起きた?」
希ちゃんも来てくれたみたいだ。その顔は安堵の笑顔を示していた。
穂乃果「ご迷惑を、」
希「ええってええって、…お2人からしごかれただろうし。」
穂乃果「いやぁ…あはは。」
希「それに、花陽ちゃんは感謝しとると思うよ。」
穂乃果「…うん。」
そうだ。
花陽ちゃんたちが残したものを私が伝えなきゃいけない。
希ちゃんも来てくれたみたいだ。その顔は安堵の笑顔を示していた。
穂乃果「ご迷惑を、」
希「ええってええって、…お2人からしごかれただろうし。」
穂乃果「いやぁ…あはは。」
希「それに、花陽ちゃんは感謝しとると思うよ。」
穂乃果「…うん。」
そうだ。
花陽ちゃんたちが残したものを私が伝えなきゃいけない。
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280: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 20:34:18.57 ID:jXaoYSps
穂乃果「そういえば、にこちゃんと真姫ちゃんは?」
希「…あの2人はな、ちょっと精神的に参ってるみたいで、今自室でお休み中よ。」
無理もないか。
ことり「私たちも目覚めたら身体中痛かったもん。しょうがないよ。」
海未「起きて穂乃果が昨日の位置から動いてて…見つけたと思ったら、花陽があんなことになって…正直私もショックが強いです。もう何しても無駄とさえ思ってしまいました。」
穂乃果「…そうだよね。」
絶望が、蔓延している。
私たちは二度、解決策を模索して実行してきた。それを嘲笑うかのように日々増えていく脱落者の姿を見て、一介の高校生の精神が持つわけない。
それは私たちとて一緒で、もう限界寸前だった。でも、私にはやることがある。
希「…あの2人はな、ちょっと精神的に参ってるみたいで、今自室でお休み中よ。」
無理もないか。
ことり「私たちも目覚めたら身体中痛かったもん。しょうがないよ。」
海未「起きて穂乃果が昨日の位置から動いてて…見つけたと思ったら、花陽があんなことになって…正直私もショックが強いです。もう何しても無駄とさえ思ってしまいました。」
穂乃果「…そうだよね。」
絶望が、蔓延している。
私たちは二度、解決策を模索して実行してきた。それを嘲笑うかのように日々増えていく脱落者の姿を見て、一介の高校生の精神が持つわけない。
それは私たちとて一緒で、もう限界寸前だった。でも、私にはやることがある。
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283: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:03:16.00 ID:jXaoYSps
穂乃果「花陽ちゃんは…すごいよ。」
海未「穂乃果…?」
穂乃果「絶望に打ちひしがれて、助けを求めて…それでも叶わないって知って…最期になんて言ったと思う?」
…
花陽『…私ね、μ'sに入れて、本当に、良かった…!』
…
穂乃果「そう言っていたんだ。…正直、3人も犠牲になって、正気でいろって方が酷だと思う。でも私たちは、記憶で、そしてμ'sという絆の中で繋がってる。」
ことり「うん…そうだね…!」
穂乃果「だから、どんな結末になろうと、それだけは忘れずにいよう。」
海未「穂乃果…?」
穂乃果「絶望に打ちひしがれて、助けを求めて…それでも叶わないって知って…最期になんて言ったと思う?」
…
花陽『…私ね、μ'sに入れて、本当に、良かった…!』
…
穂乃果「そう言っていたんだ。…正直、3人も犠牲になって、正気でいろって方が酷だと思う。でも私たちは、記憶で、そしてμ'sという絆の中で繋がってる。」
ことり「うん…そうだね…!」
穂乃果「だから、どんな結末になろうと、それだけは忘れずにいよう。」
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284: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:03:39.24 ID:jXaoYSps
昨夜の花陽ちゃんとの話で、この世界での私のやるべき目標が定まった。
それは、『皆を団結させ、1人でも多く元の世界に戻すこと』だ。
私ができることを、一つずつやっていこう。
この言葉は、皆にも届いたようで、
ことり「うわぁん…!」
ことりちゃんが私に抱きついてきて、
希「…そりゃあそうやん。あの9人は、ウチにとって…」
それは、『皆を団結させ、1人でも多く元の世界に戻すこと』だ。
私ができることを、一つずつやっていこう。
この言葉は、皆にも届いたようで、
ことり「うわぁん…!」
ことりちゃんが私に抱きついてきて、
希「…そりゃあそうやん。あの9人は、ウチにとって…」
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285: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:03:56.37 ID:jXaoYSps
希ちゃんも包むように抱きついてくれて、
海未「…すみません。」
海未ちゃんが寄り添うように肩を組んできて、
4人で、ひとしきり泣いた。
不安も、絶望も、全て洗い流すように。
…
海未「…すみません。」
海未ちゃんが寄り添うように肩を組んできて、
4人で、ひとしきり泣いた。
不安も、絶望も、全て洗い流すように。
…
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286: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:35:08.47 ID:jXaoYSps
それでも、無情に時は流れる。私たちは何か手を打つことを迫られた。
それで私は思い当たる。藁にもすがる思いだったかもしれない。
穂乃果「祠…」
海未「穂乃果?」
穂乃果「海未ちゃん!あの祠だよ!私には分からなかったけど、みんななら何か手掛かりが掴めるかも!」
ことり「この前言ってた!」
希「ん?ごめん穂乃果ちゃん。説明してくれる?」
…
それで私は思い当たる。藁にもすがる思いだったかもしれない。
穂乃果「祠…」
海未「穂乃果?」
穂乃果「海未ちゃん!あの祠だよ!私には分からなかったけど、みんななら何か手掛かりが掴めるかも!」
ことり「この前言ってた!」
希「ん?ごめん穂乃果ちゃん。説明してくれる?」
…
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287: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:35:33.61 ID:jXaoYSps
私が説明している間、希ちゃんは腕を組んで何か思案しているようだった。
希「なるほどそんな所が…しかも白い狐までセットで。確かにこれは匂うね…」
希ちゃんは腕組みをほどき、腰に手を当てて俯きがちに言う。
穂乃果「でしょ?あそこにいけば何か掴めるかも!」
海未「でも、あの霧もあります…リミットもある中で探すのも大変ですよ。」
穂乃果「大丈夫、私は6時間吸ってこれだから!」
ことり「…笑い事じゃないよ、もう。」
希「なるほどそんな所が…しかも白い狐までセットで。確かにこれは匂うね…」
希ちゃんは腕組みをほどき、腰に手を当てて俯きがちに言う。
穂乃果「でしょ?あそこにいけば何か掴めるかも!」
海未「でも、あの霧もあります…リミットもある中で探すのも大変ですよ。」
穂乃果「大丈夫、私は6時間吸ってこれだから!」
ことり「…笑い事じゃないよ、もう。」
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288: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:36:04.40 ID:jXaoYSps
穂乃果「…えへへ、ごめんね。でも、場所も大体なら覚えてるし、無理はしないって約束する。」
ことり「…じゃあ私はついていくよ、どこまでもっ。」
海未「私も行きます。」
3人で希ちゃんの方を見ると、希ちゃんは見渡して苦笑いをする。
希「…ウチも行くよ。と言いたいけど、あの状態のにこっちと真姫ちゃんをここに残すのはちょっと心配やな。」
確かに、不安定らしい2人を残すのは心配だ。でも、希ちゃんの祠に対する見解も欲しいのが本音だ。
どうしようか…と悩んでいると、入り口の方から声が聞こえた。
ことり「…じゃあ私はついていくよ、どこまでもっ。」
海未「私も行きます。」
3人で希ちゃんの方を見ると、希ちゃんは見渡して苦笑いをする。
希「…ウチも行くよ。と言いたいけど、あの状態のにこっちと真姫ちゃんをここに残すのはちょっと心配やな。」
確かに、不安定らしい2人を残すのは心配だ。でも、希ちゃんの祠に対する見解も欲しいのが本音だ。
どうしようか…と悩んでいると、入り口の方から声が聞こえた。
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289: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:36:39.29 ID:jXaoYSps
にこ「私は大丈夫だから、行ってきなさい…」
穂乃果「にこちゃん!?」
声の方を見ると、入り口の枠に手を着いいるにこちゃんが立っていた。
少し、鼻声だった。
希「にこっち、ほんまに大丈夫?」
にこ「心配されることはないわ。アイドルになるんだから、これくらい楽勝よ!…さすがに、あんたちに着いてはいけないけどね。」
にこちゃんが恥ずかしそうに頭を掻く。
その手はわずかに震えており、いつも気にしていた綺麗な黒髪には、艶がなくなっていた。
穂乃果「にこちゃん!?」
声の方を見ると、入り口の枠に手を着いいるにこちゃんが立っていた。
少し、鼻声だった。
希「にこっち、ほんまに大丈夫?」
にこ「心配されることはないわ。アイドルになるんだから、これくらい楽勝よ!…さすがに、あんたちに着いてはいけないけどね。」
にこちゃんが恥ずかしそうに頭を掻く。
その手はわずかに震えており、いつも気にしていた綺麗な黒髪には、艶がなくなっていた。
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290: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:37:06.01 ID:jXaoYSps
穂乃果「にこちゃん、」
希「…分かった。にこっち、何かあったら思いっきり叫んで、ウチらを頼りにするんやで?」
希ちゃんがにこちゃんの頭を撫でる。
にこ「希…」
希「真姫ちゃんは頼んだよ。」
にこ「うん。」
気持ちよさそうに目を閉じて揺られていた。
…
希「…分かった。にこっち、何かあったら思いっきり叫んで、ウチらを頼りにするんやで?」
希ちゃんがにこちゃんの頭を撫でる。
にこ「希…」
希「真姫ちゃんは頼んだよ。」
にこ「うん。」
気持ちよさそうに目を閉じて揺られていた。
…
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291: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:37:39.24 ID:jXaoYSps
にこちゃんを部屋に見送り、私たち4人は屋敷を後にする。
にこちゃんが心配ではあるけど、よく知る希ちゃんが大丈夫だと判断したなら、それを信頼するしかない。
海未「そういえば、結界、あれは大丈夫なんでしょうか…」
穂乃果「あ。」
血の気が引くのを感じる。完全に忘れてた…
ことり「忘れてたの?穂乃果ちゃん…」
穂乃果「獣道だから大丈夫かと…」
海未「注連縄がこの一帯を囲んでいることを一緒に見ていたでしょう…」
にこちゃんが心配ではあるけど、よく知る希ちゃんが大丈夫だと判断したなら、それを信頼するしかない。
海未「そういえば、結界、あれは大丈夫なんでしょうか…」
穂乃果「あ。」
血の気が引くのを感じる。完全に忘れてた…
ことり「忘れてたの?穂乃果ちゃん…」
穂乃果「獣道だから大丈夫かと…」
海未「注連縄がこの一帯を囲んでいることを一緒に見ていたでしょう…」
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292: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:38:03.46 ID:jXaoYSps
希「とりあえずそこに行ってみよっか。すぐ帰って来たんじゃにこっちに顔向けできんしな。」
穂乃果「わかった。案内するよ。」
私は半ば祈るように、記憶を辿って歩みを進めた。
…
石を伝って川を渡り、川沿いを歩いたその先、確かこの獣道から来たはず…
穂乃果「…あ。」
川の向こう岸には、確認した通り、縄がずらっと張り巡らされていた。やっぱりあそこにはいけないのか…と思ったが、
穂乃果「わかった。案内するよ。」
私は半ば祈るように、記憶を辿って歩みを進めた。
…
石を伝って川を渡り、川沿いを歩いたその先、確かこの獣道から来たはず…
穂乃果「…あ。」
川の向こう岸には、確認した通り、縄がずらっと張り巡らされていた。やっぱりあそこにはいけないのか…と思ったが、
0
293: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:38:28.91 ID:jXaoYSps
海未「穂乃果、これ…!」
穂乃果「縄がこの獣道だけ垂れてない…!」
ことり「それなら、脱出できるんじゃ!」
希「いや、それは無理そうよ。見て…」
希ちゃんの指差した先は、獣道の両端に沿うように、縄が両側の木々を伝っている。
穂乃果「何でこの道だけ…」
希「誘われているようにも見えるね。」
ことり「本当に行っても大丈夫なのかな…」
穂乃果「縄がこの獣道だけ垂れてない…!」
ことり「それなら、脱出できるんじゃ!」
希「いや、それは無理そうよ。見て…」
希ちゃんの指差した先は、獣道の両端に沿うように、縄が両側の木々を伝っている。
穂乃果「何でこの道だけ…」
希「誘われているようにも見えるね。」
ことり「本当に行っても大丈夫なのかな…」
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294: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:38:58.49 ID:jXaoYSps
確かに、不安はある。罠のようにも見える。ただ、この世界を作った誰かがいるとすると、この道は意図されたものだ。
今は、少しでも情報が欲しい。
穂乃果「行くしか…ないよ。」
希「そうやね。こんな不自然に抜け道があるなんて、罠なんか、それとも、気付いて欲しがっているんか…ともあれ、穂乃果ちゃんは先頭を頼むな。」
穂乃果「…了解!」
そこは考えても仕方ない。もとより私たちはもう動くしか道はないんだ。
あいもかわらず深い霧の中、私たちは列になって歩く。
今は、少しでも情報が欲しい。
穂乃果「行くしか…ないよ。」
希「そうやね。こんな不自然に抜け道があるなんて、罠なんか、それとも、気付いて欲しがっているんか…ともあれ、穂乃果ちゃんは先頭を頼むな。」
穂乃果「…了解!」
そこは考えても仕方ない。もとより私たちはもう動くしか道はないんだ。
あいもかわらず深い霧の中、私たちは列になって歩く。
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295: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:39:25.53 ID:jXaoYSps
後ろが気になって見てみると、最後尾にいる海未ちゃんの顔が霞んでいた。両側の縄のおかげで、迷わず進めることができた。
ぬるく湿った空気が服を抜け、水分だけ残していく。地面はぬかるんでおり、歩きにくい。
それでも、私たちは数十分霧と草を分け入って進んだ。
ことり「本当にこの辺に祠があるの?」
穂乃果「確かこの辺のはず!」
希「やけど、引き返す時間も考えな…そろそろ戻った方が。」
ことり「一旦休憩…あっ、そっか。」
ことりちゃんは周りの霧を見渡し、悔しそうに拳を握りしめる。
海未「この霧の辛いところですね。」
ぬるく湿った空気が服を抜け、水分だけ残していく。地面はぬかるんでおり、歩きにくい。
それでも、私たちは数十分霧と草を分け入って進んだ。
ことり「本当にこの辺に祠があるの?」
穂乃果「確かこの辺のはず!」
希「やけど、引き返す時間も考えな…そろそろ戻った方が。」
ことり「一旦休憩…あっ、そっか。」
ことりちゃんは周りの霧を見渡し、悔しそうに拳を握りしめる。
海未「この霧の辛いところですね。」
0
296: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:39:50.97 ID:jXaoYSps
穂乃果「…私の記憶によれば、もう少しのはず!もうちょっと進んでみよう。」
私の記憶が正しければ…たしか、この獣道を、進んだ先に__
穂乃果「あ、あれ…?」
そこに広がっていたのは、
美しい景色の草原ではなく、
ただ、土が__
海未「どうかしましたか?」
ことり「これって…」
希「ここ?この土…最近あの崖が崩れたものやな…まさか、ここなん?」
穂乃果「え、え?」
ひらけた先の、奥の方。
祠が、土に飲み込まれるように、崩れていた。
私の記憶が正しければ…たしか、この獣道を、進んだ先に__
穂乃果「あ、あれ…?」
そこに広がっていたのは、
美しい景色の草原ではなく、
ただ、土が__
海未「どうかしましたか?」
ことり「これって…」
希「ここ?この土…最近あの崖が崩れたものやな…まさか、ここなん?」
穂乃果「え、え?」
ひらけた先の、奥の方。
祠が、土に飲み込まれるように、崩れていた。
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297: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:40:20.07 ID:jXaoYSps
穂乃果「あ、あそこ!あの祠だよ!」
急いでそこまで行こうと駆け出すも、凸凹とした湿った土と、折れた木の幹が散乱しているせいで、上手く足が進まない。
転げ、這いながらようやく辿り着く。
近付いてみると、祠の内部に土が入り込んでいる。酷い有様だ。
穂乃果「何で…ついこの間まで。」
海未「…穂乃果!本当にここですか?この数日の間に大雨は降ってないはずですよ。それに、この山肌…少なくとも、崩れてから1、2ヶ月は経っています。ここで虫取りだなんて有り得ません。」
そんなの、私だって信じられない。私の見間違いなのか…?
急いでそこまで行こうと駆け出すも、凸凹とした湿った土と、折れた木の幹が散乱しているせいで、上手く足が進まない。
転げ、這いながらようやく辿り着く。
近付いてみると、祠の内部に土が入り込んでいる。酷い有様だ。
穂乃果「何で…ついこの間まで。」
海未「…穂乃果!本当にここですか?この数日の間に大雨は降ってないはずですよ。それに、この山肌…少なくとも、崩れてから1、2ヶ月は経っています。ここで虫取りだなんて有り得ません。」
そんなの、私だって信じられない。私の見間違いなのか…?
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298: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:41:35.11 ID:jXaoYSps
私は焦ったように辺りを見渡していると、記憶と一致するものを見つけた。
穂乃果「いやここなんだ…これを見て。」
私は、祠の残骸と一緒に土砂に埋もれ、頭だけを出している木の板を指差す。
希「やっと追いついた。穂乃果ちゃん、大丈夫?…っ…これって。」
希ちゃんが咳き込むことりちゃんを支えながら、私が指した方向を見る。
海未「希…」
希「永正10年…?」
海未「永正と言ったら…確か1500年頃だったでしょうか…」
穂乃果「いやここなんだ…これを見て。」
私は、祠の残骸と一緒に土砂に埋もれ、頭だけを出している木の板を指差す。
希「やっと追いついた。穂乃果ちゃん、大丈夫?…っ…これって。」
希ちゃんが咳き込むことりちゃんを支えながら、私が指した方向を見る。
海未「希…」
希「永正10年…?」
海未「永正と言ったら…確か1500年頃だったでしょうか…」
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299: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:42:52.76 ID:jXaoYSps
希「そうやね。」
ことり「そんな前だったら…崩れちゃうのも仕方ない気もするね。」
希「いや、この祠は死んでない。土砂崩れが起きる前から、手入れされているように見えるな。」
海未「確かに、瓦なんかも土を除けば綺麗なものです。建立は昭和辺りに見えます。」
希「うん。いずれにせよ、獣道の入り口だけ抜け穴のように結界が外され、道を沿って注連縄が施されていた。まるで、この場所を私たちに見つけて欲しいかのように。」
穂乃果「見つけて欲しい…か。そうだ!」
私は急いで祠を埋める土砂の方へ登り、木の板を掘り起こそうと、手で掘り進める。
私ではさっぱり読めなかったけど、皆なら読めるんじゃないか。
ことり「そんな前だったら…崩れちゃうのも仕方ない気もするね。」
希「いや、この祠は死んでない。土砂崩れが起きる前から、手入れされているように見えるな。」
海未「確かに、瓦なんかも土を除けば綺麗なものです。建立は昭和辺りに見えます。」
希「うん。いずれにせよ、獣道の入り口だけ抜け穴のように結界が外され、道を沿って注連縄が施されていた。まるで、この場所を私たちに見つけて欲しいかのように。」
穂乃果「見つけて欲しい…か。そうだ!」
私は急いで祠を埋める土砂の方へ登り、木の板を掘り起こそうと、手で掘り進める。
私ではさっぱり読めなかったけど、皆なら読めるんじゃないか。
0
300: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:43:23.21 ID:jXaoYSps
爪の中に土が入る。普段なら、アイドルとして気にするところだが、今はそれどころじゃない。3人も協力してくれたおかげで、なんとか引き抜くことに成功し、急いで土の山を下る。
文字は少し掠れていたが、読めないほどではない。私はそれを希ちゃんに手渡す。
穂乃果「希ちゃん‥なんて書いてある?」
希「これは…!海未ちゃん、見てみ。」
海未「…なるほど。ことり、ちょっと持ってて下さい。」
ことり「え、なになに?」
不思議そうにことりちゃんが両手で受け取る。私もその隣に行って覗き込む。
文字は少し掠れていたが、読めないほどではない。私はそれを希ちゃんに手渡す。
穂乃果「希ちゃん‥なんて書いてある?」
希「これは…!海未ちゃん、見てみ。」
海未「…なるほど。ことり、ちょっと持ってて下さい。」
ことり「え、なになに?」
不思議そうにことりちゃんが両手で受け取る。私もその隣に行って覗き込む。
0
301: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:45:00.40 ID:jXaoYSps
小夜……社人………
わかる?という顔を向け、私を見ることりちゃん。私は目を閉じて首を振った。
海未「まず、その文章は5文字、4文字に分かれています。」
小夜……社/人………ってことか。思考する私をよそに、海未ちゃんは続ける。
海未「最初の5文字の方は、小夜明神社と書いてあります。ここは、この祠に祀られている人物の名です。」
ことり「人物?神様じゃなくって?」
人間が神になる話は、古今東西見ることができる。でも、それは大抵…
わかる?という顔を向け、私を見ることりちゃん。私は目を閉じて首を振った。
海未「まず、その文章は5文字、4文字に分かれています。」
小夜……社/人………ってことか。思考する私をよそに、海未ちゃんは続ける。
海未「最初の5文字の方は、小夜明神社と書いてあります。ここは、この祠に祀られている人物の名です。」
ことり「人物?神様じゃなくって?」
人間が神になる話は、古今東西見ることができる。でも、それは大抵…
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302: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:45:37.47 ID:jXaoYSps
海未「はい。むしろ後ろの4文字の方が重要です。これはおそらく、人身御供かと。つまり、この祠は、小夜という名前の、人身御供として犠牲になった人を祀るためのものだと考えられます。」
ことり「それで、人物か…この地で人身御供だなんて…」
希「尻尾が見えてきたね。私たちにこれを見つけ出して欲しかったってことなんかな…それとも…あれ?」
海未「どうかしましたか?」
希ちゃんは祠の方へ歩き出す。それについて行くと、中は絵画が無造作に錯乱しており、その額縁には寄贈者が彫られていた。
ことり「それで、人物か…この地で人身御供だなんて…」
希「尻尾が見えてきたね。私たちにこれを見つけ出して欲しかったってことなんかな…それとも…あれ?」
海未「どうかしましたか?」
希ちゃんは祠の方へ歩き出す。それについて行くと、中は絵画が無造作に錯乱しており、その額縁には寄贈者が彫られていた。
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303: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/06(月) 23:46:11.21 ID:jXaoYSps
そこには、
穂乃果「真姫ちゃん…」
希「…」
確かに、西木野家と刻まれていた。
…
穂乃果「真姫ちゃん…」
希「…」
確かに、西木野家と刻まれていた。
…
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308: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:44:52.15 ID:N3Z3KNlP
希「西木野家が一枚噛んでるってことで間違いなさそうやな。」
私たちはこれまで、この中に犯人はいないということでかろうじて団結することができていた。
それを崩す証拠が出た今、何が起きるか分からない。
ことり「でも、真姫ちゃんがやったとは思えないよ!」
そうだ。この地域一帯に影響力を持っていたと思われる西木野家だ。関係していることは予想できていた。
海未「もちろん、そうと決まったわけじゃありません。西木野家で昔何かがあっただけで、真姫だって何も知らされてないかもしれません。それに、精神的に参っています。下手に刺激するのは得策じゃありません。」
私たちはこれまで、この中に犯人はいないということでかろうじて団結することができていた。
それを崩す証拠が出た今、何が起きるか分からない。
ことり「でも、真姫ちゃんがやったとは思えないよ!」
そうだ。この地域一帯に影響力を持っていたと思われる西木野家だ。関係していることは予想できていた。
海未「もちろん、そうと決まったわけじゃありません。西木野家で昔何かがあっただけで、真姫だって何も知らされてないかもしれません。それに、精神的に参っています。下手に刺激するのは得策じゃありません。」
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309: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:45:16.00 ID:N3Z3KNlP
ただ、直接的でないとしても、関係している証拠が出てきてしまった。それを冷静に判断することが、今の私たちにできるのだろうか。
結果、黙るしかなくなってしまった。
ことり「ゲホッゴボッ…」
ことりちゃんが咳き込む。顔色も少し悪い。霧の影響で間違いない。私も空咳が増え始めている。
希「あぁ、そろそろ戻らなな。」
穂乃果「ことりちゃん、肩持って。」
結果、黙るしかなくなってしまった。
ことり「ゲホッゴボッ…」
ことりちゃんが咳き込む。顔色も少し悪い。霧の影響で間違いない。私も空咳が増え始めている。
希「あぁ、そろそろ戻らなな。」
穂乃果「ことりちゃん、肩持って。」
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310: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:45:36.81 ID:N3Z3KNlP
ことり「ありがとう…」
気持ちにも、身体にも相当鞭打っている私たちは、霧によるリミットのおかげで、最低限屋敷の方向に向かうことができた。
これから、どうなってしまうんだろう…と、1、2歩と、歩みを進めた時、
キャァァァァァァ!!?
麓の、屋敷の方から微かに悲鳴が聞こえた。
海未「悲鳴!?」
希「まさかさっき言った…にこっち?」
にこちゃんと一緒にいるのは真姫ちゃんか…!くそッ。
胸騒ぎがする。
気持ちにも、身体にも相当鞭打っている私たちは、霧によるリミットのおかげで、最低限屋敷の方向に向かうことができた。
これから、どうなってしまうんだろう…と、1、2歩と、歩みを進めた時、
キャァァァァァァ!!?
麓の、屋敷の方から微かに悲鳴が聞こえた。
海未「悲鳴!?」
希「まさかさっき言った…にこっち?」
にこちゃんと一緒にいるのは真姫ちゃんか…!くそッ。
胸騒ぎがする。
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311: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:46:04.44 ID:N3Z3KNlP
穂乃果「…ゆっくり考えさせてもくれないってことだね。」
ことり「私は走れないから、みんな先に行って。」
ことりちゃんが膝に手をつきながら言う。そんな姿で…できるわけないよ。
穂乃果「それは無理、置いてけないよ。海未ちゃん、希ちゃん、先にお願い。私はことりちゃんをおぶっていく。」
ことり「そんな!急がないと…」
穂乃果「無理しちゃダメって…さっきことりちゃんが言ったでしょ。」
ことり「そうだけど…」
ことり「私は走れないから、みんな先に行って。」
ことりちゃんが膝に手をつきながら言う。そんな姿で…できるわけないよ。
穂乃果「それは無理、置いてけないよ。海未ちゃん、希ちゃん、先にお願い。私はことりちゃんをおぶっていく。」
ことり「そんな!急がないと…」
穂乃果「無理しちゃダメって…さっきことりちゃんが言ったでしょ。」
ことり「そうだけど…」
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312: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:46:26.10 ID:N3Z3KNlP
海未「穂乃果…ことりをお願いします。」
穂乃果「こっちは任せて、早く言ってあげて。」
希「海未ちゃん、行こう。」
海未ちゃんが頷いて、希ちゃんの背中を追った。その陰はあっという間に霧に飲まれていった。
…
穂乃果「こっちは任せて、早く言ってあげて。」
希「海未ちゃん、行こう。」
海未ちゃんが頷いて、希ちゃんの背中を追った。その陰はあっという間に霧に飲まれていった。
…
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313: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:46:48.61 ID:N3Z3KNlP
獣道を、肩を組みながら2人で歩く。
ことりちゃんは時折咳払いをしているが、まだ1時間も外に出てないので、命には別状ないはずだ。
ことり「次の番は誰だと思う?」
穂乃果「…え?」
ことり「なんとなく、私だと思うんだぁ。」
何を、言ってるの。そんなの、嫌だよ。
ことりちゃんは答えに迷う私を見て、苦笑いをした。
ことり「えへへ、冗談。」
穂乃果「もう~、置いてっちゃうよ?」
ことりちゃんは時折咳払いをしているが、まだ1時間も外に出てないので、命には別状ないはずだ。
ことり「次の番は誰だと思う?」
穂乃果「…え?」
ことり「なんとなく、私だと思うんだぁ。」
何を、言ってるの。そんなの、嫌だよ。
ことりちゃんは答えに迷う私を見て、苦笑いをした。
ことり「えへへ、冗談。」
穂乃果「もう~、置いてっちゃうよ?」
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314: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:47:20.63 ID:N3Z3KNlP
私は頬を膨らませ、肩の手を外すための手首を握る振りをする。
ことり「あ、いや~待って。」
眉毛が八の字になることりちゃんを見て、何だかおかしくなった。
穂乃果「えへへ、冗談。」
明日死ぬ気がするって時より、私に先に行かれるのが嫌だなんて。
ことり「ぷっ…」
少し意地悪。
ことりちゃんの笑顔、久々に見た気がした。
やっぱり癒される。ことりちゃんはこうじゃないと。
ことり「あ、いや~待って。」
眉毛が八の字になることりちゃんを見て、何だかおかしくなった。
穂乃果「えへへ、冗談。」
明日死ぬ気がするって時より、私に先に行かれるのが嫌だなんて。
ことり「ぷっ…」
少し意地悪。
ことりちゃんの笑顔、久々に見た気がした。
やっぱり癒される。ことりちゃんはこうじゃないと。
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315: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:47:45.48 ID:N3Z3KNlP
ことり「…でも、明日私がいるという保証はない。…だからねっ、伝えておきたいの。」
そう言ったことちゃんは、力強い意気込みとは裏腹に、少し逡巡したように目線を動かし、
ことり「いつだって、私1人だと見れない景色を見せてくれる…そんな穂乃果ちゃんが、わたしは大好き!」
と言った。
さっきの笑顔よりも、何十倍も素敵な表情で。
穂乃果「うん!私もだよ!」
そう返して、ことりちゃんを抱き寄せた。
そう言ったことちゃんは、力強い意気込みとは裏腹に、少し逡巡したように目線を動かし、
ことり「いつだって、私1人だと見れない景色を見せてくれる…そんな穂乃果ちゃんが、わたしは大好き!」
と言った。
さっきの笑顔よりも、何十倍も素敵な表情で。
穂乃果「うん!私もだよ!」
そう返して、ことりちゃんを抱き寄せた。
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316: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:48:03.21 ID:N3Z3KNlP
ことり「前にもこんなことがあったよね…」
異様に霧が立ち込めている状況に、日常の花が咲く。
異常な世界に、普通が生まれた気がして、
酷くほっとした。
…
異様に霧が立ち込めている状況に、日常の花が咲く。
異常な世界に、普通が生まれた気がして、
酷くほっとした。
…
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317: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:48:32.04 ID:N3Z3KNlP
しかし、この屋敷を見ると、異常な世界へ引き込まれる。
ことり「悲鳴が聞こえたって…みんな大丈夫かな。」
穂乃果「大丈夫、きっと。」
玄関へと進み、意を決して障子を開けると、
希「あ、穂乃果ちゃん。」
苦笑いの希ちゃんが立っていた。
穂乃果「大丈夫だった!?」
希「あ~あれな。」
ことり「悲鳴が聞こえたって…みんな大丈夫かな。」
穂乃果「大丈夫、きっと。」
玄関へと進み、意を決して障子を開けると、
希「あ、穂乃果ちゃん。」
苦笑いの希ちゃんが立っていた。
穂乃果「大丈夫だった!?」
希「あ~あれな。」
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318: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:48:57.65 ID:N3Z3KNlP
希ちゃんが、机に手を置いて座っているニコちゃんの方へ目線をやる。
にこ「心配させたわね…真姫が夢から覚めた時に、悲鳴を上げながら飛び起きたのよ。今は落ち着いてゆっくり寝てるから。」
ことり「そっか…てっきりにこちゃんの声かと思ったよ。真姫ちゃんは心配だけど、何も起きてなくて安心だね。」
結構な距離だったし、判別は難しいだろう。
穂乃果「ほっ…穂乃果はもっと、刃傷沙汰でもあったんじゃないかと…」
海未「表現が妙に古いですよ…」
希「私たちが見たものについて、にこっちに伝えたけどええよな?」
穂乃果「もちろんだよ。」
にこ「心配させたわね…真姫が夢から覚めた時に、悲鳴を上げながら飛び起きたのよ。今は落ち着いてゆっくり寝てるから。」
ことり「そっか…てっきりにこちゃんの声かと思ったよ。真姫ちゃんは心配だけど、何も起きてなくて安心だね。」
結構な距離だったし、判別は難しいだろう。
穂乃果「ほっ…穂乃果はもっと、刃傷沙汰でもあったんじゃないかと…」
海未「表現が妙に古いですよ…」
希「私たちが見たものについて、にこっちに伝えたけどええよな?」
穂乃果「もちろんだよ。」
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319: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:49:26.31 ID:N3Z3KNlP
にこ「驚いたわよ…」
希「この件に関して、西木野家が関わってるとみてよさそうや。」
ことり「今まで敵対してるのは神様だと思ってたけど…人間ってことでいいんだよね。」
希「人間の恨みによって怪異が起こる…これはいくつか事例があるね。お菊井戸とかが1番有名なんじゃないやろか。」
穂乃果「1枚…2枚…って数えるやつかな?」
希「そうそう。似たような話は色々あるんやけど、数える話は、『番町皿屋敷』やね。」
希「この件に関して、西木野家が関わってるとみてよさそうや。」
ことり「今まで敵対してるのは神様だと思ってたけど…人間ってことでいいんだよね。」
希「人間の恨みによって怪異が起こる…これはいくつか事例があるね。お菊井戸とかが1番有名なんじゃないやろか。」
穂乃果「1枚…2枚…って数えるやつかな?」
希「そうそう。似たような話は色々あるんやけど、数える話は、『番町皿屋敷』やね。」
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320: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:52:16.70 ID:N3Z3KNlP
言うと、希ちゃんは改まって話し始めた。
希「ある屋敷に、菊という下女がおった。ある日彼女は、主人が大切にしていた皿10枚のうちの1枚を割ってしまった。それを聞いた主人は皿の代わりに菊の中指を切り落とし、監禁した。」
ことり「ひどい…」
希「なんとか抜け出した菊は、井戸に身を投げてしまった。すると間もなくその井戸から「一つ…二つ…』と数える女の声が響いた。その後生まれた奥方の子供には、中指がなかったそうな。」
希「その後もその声は収まらんから、たまらず主人はある僧に読経を依頼した。ある夜、読経してたところに皿を数える声が聞こえた。「八つ…九つ…』そこで、僧は『十』と呟くと、菊の亡霊は『あらうれしや』と言って消えたとさ…」
ヒュゥゥ…
希「ある屋敷に、菊という下女がおった。ある日彼女は、主人が大切にしていた皿10枚のうちの1枚を割ってしまった。それを聞いた主人は皿の代わりに菊の中指を切り落とし、監禁した。」
ことり「ひどい…」
希「なんとか抜け出した菊は、井戸に身を投げてしまった。すると間もなくその井戸から「一つ…二つ…』と数える女の声が響いた。その後生まれた奥方の子供には、中指がなかったそうな。」
希「その後もその声は収まらんから、たまらず主人はある僧に読経を依頼した。ある夜、読経してたところに皿を数える声が聞こえた。「八つ…九つ…』そこで、僧は『十』と呟くと、菊の亡霊は『あらうれしや』と言って消えたとさ…」
ヒュゥゥ…
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321: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:52:49.63 ID:N3Z3KNlP
穂乃果「うぅっ…」
背筋が冷たくなる…真夏にはとっておきの…って…
にこ「…あんた、ちょっと楽しくなってんじゃないわよ。」
希「あ、バレた?」
そう言ってニシニシと笑う。
ことり「あはは…この話を参考にすると、ある人が酷い目にあって、恨みを持ったまま死んじゃって、復讐するために現世に幽霊として現れるってことかな。」
希「敵が人身御供となった人間、恨む対象が西木野家だと筋は通る仮定できたけど…まだもう少し情報が必要やな。」
背筋が冷たくなる…真夏にはとっておきの…って…
にこ「…あんた、ちょっと楽しくなってんじゃないわよ。」
希「あ、バレた?」
そう言ってニシニシと笑う。
ことり「あはは…この話を参考にすると、ある人が酷い目にあって、恨みを持ったまま死んじゃって、復讐するために現世に幽霊として現れるってことかな。」
希「敵が人身御供となった人間、恨む対象が西木野家だと筋は通る仮定できたけど…まだもう少し情報が必要やな。」
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322: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:53:13.20 ID:N3Z3KNlP
海未「それなら、やっぱり真姫に聞いてみるしかないんでしょうか。」
にこ「待ちなさい。今の状態の真姫にそんな質問するのは危険よ。それに、そんな曖昧な状態で事実だけを突きつけると、何するか分かんないわよ。」
にこちゃんが天井を指しながら片目を瞑り言った。
海未「しかしですね…」
ことり「真姫ちゃん、何かあったのかな…」
確かに、今手にしている情報だけだと『昔のことなんて知らない』と言えば、容易にしらばっくれることができる。
やはり公開するべきタイミングは、全て解明した時…というのが理想だ。
ただ、今晩も1人…
にこ「待ちなさい。今の状態の真姫にそんな質問するのは危険よ。それに、そんな曖昧な状態で事実だけを突きつけると、何するか分かんないわよ。」
にこちゃんが天井を指しながら片目を瞑り言った。
海未「しかしですね…」
ことり「真姫ちゃん、何かあったのかな…」
確かに、今手にしている情報だけだと『昔のことなんて知らない』と言えば、容易にしらばっくれることができる。
やはり公開するべきタイミングは、全て解明した時…というのが理想だ。
ただ、今晩も1人…
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323: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:53:41.79 ID:N3Z3KNlP
…あぁ。
ここで私は、既に真姫ちゃんが敵であると認識していることに気づいて、少し嫌になった。
にこ「それより、この屋敷を探すことが先決だと思うわ。私は仏間を探すから。」
そう言ってにこちゃんは仏間へ消えていった。
海未「それじゃ、私たちも少し探索しましょうか。」
穂乃果「じゃあ、私はこの部屋を探してみる。」
ここで私は、既に真姫ちゃんが敵であると認識していることに気づいて、少し嫌になった。
にこ「それより、この屋敷を探すことが先決だと思うわ。私は仏間を探すから。」
そう言ってにこちゃんは仏間へ消えていった。
海未「それじゃ、私たちも少し探索しましょうか。」
穂乃果「じゃあ、私はこの部屋を探してみる。」
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324: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:53:59.86 ID:N3Z3KNlP
ことり「じゃあ私はあっちにするね。」
海未「希…?」
海未ちゃんが仏間の方をじっと見て固まる希ちゃんに声をかけると、ビクッと飛び跳ねて振り向く。
希「ん、あ、いや、なんでもないよ。ウチはあっちな。」
そう言って、希ちゃんはキッチンの方へ小走りで歩いて行った。
…
海未「希…?」
海未ちゃんが仏間の方をじっと見て固まる希ちゃんに声をかけると、ビクッと飛び跳ねて振り向く。
希「ん、あ、いや、なんでもないよ。ウチはあっちな。」
そう言って、希ちゃんはキッチンの方へ小走りで歩いて行った。
…
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325: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:54:25.34 ID:N3Z3KNlP
穂乃果「ん~やっぱり何もないな…」
あの後私は机の下へ入ったり、押し入れを開けてみたりしたが、何も出てこず、肩をすくめるばかりだった。
この部屋には何もないと思って、縁側に出てみる。窓ガラスの向こうはとう日が暮れて、霧のモヤが見えるだけだった。
私は障子を閉め、縁側の窓を開けてみる。
案の定、霧が縁側に侵食してきて、障子をノックしている。
私はそこに座ってみて、1人黄昏る。
一つ息を吐いたのち、道に大きな桂の木を見る。初日には煌々とした陽の光に照らされて生き生きとしていたが、今はただ黒い輪郭を見せているだけだった。
あの後私は机の下へ入ったり、押し入れを開けてみたりしたが、何も出てこず、肩をすくめるばかりだった。
この部屋には何もないと思って、縁側に出てみる。窓ガラスの向こうはとう日が暮れて、霧のモヤが見えるだけだった。
私は障子を閉め、縁側の窓を開けてみる。
案の定、霧が縁側に侵食してきて、障子をノックしている。
私はそこに座ってみて、1人黄昏る。
一つ息を吐いたのち、道に大きな桂の木を見る。初日には煌々とした陽の光に照らされて生き生きとしていたが、今はただ黒い輪郭を見せているだけだった。
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326: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:54:54.65 ID:N3Z3KNlP
…あの時、真姫ちゃんと喋ったっけ。
…
真姫『まぁ、拝むのはここだけじゃなくて、あっちの建物の方にもしてたし…』
…
ふと、その言葉を思い出した。
それは、どこなのだろうか。真姫ちゃんの言う通り、たたら場なのか?
製鉄を営む身からすると、神聖な場所なのは間違いないだろう。
ただ、少し違和感がある。
…
真姫『まぁ、拝むのはここだけじゃなくて、あっちの建物の方にもしてたし…』
…
ふと、その言葉を思い出した。
それは、どこなのだろうか。真姫ちゃんの言う通り、たたら場なのか?
製鉄を営む身からすると、神聖な場所なのは間違いないだろう。
ただ、少し違和感がある。
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327: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:55:16.13 ID:N3Z3KNlP
神聖な場所と言えど、やはり製鉄の建物だ。温度などをしくじると水蒸気爆発するかもしれないような場所に、神様を在中させるだろうか。
きっとそれは、俗世と隔てたもっと奥の…
穂乃果「あれ…?」
たたら場の先、森の斜面に、丸太を横たわらせただけの階段のようなものが見える。
あれは…なんだろう…
私が腰を浮かせようとした瞬間、
海未「わっ!すごい霧…!穂乃果、何やっているんですか!」
穂乃果「あ、」
言うより前に、海未ちゃんは私の服の襟を持って、猫のように居間へと連れ去ってしまった。
…
きっとそれは、俗世と隔てたもっと奥の…
穂乃果「あれ…?」
たたら場の先、森の斜面に、丸太を横たわらせただけの階段のようなものが見える。
あれは…なんだろう…
私が腰を浮かせようとした瞬間、
海未「わっ!すごい霧…!穂乃果、何やっているんですか!」
穂乃果「あ、」
言うより前に、海未ちゃんは私の服の襟を持って、猫のように居間へと連れ去ってしまった。
…
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328: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:55:47.94 ID:N3Z3KNlP
戻ると、もうすでに皆は集まっており、机に座っている。
穂乃果「どうだった?」
私の問いかけに、すぐさま答えるものはおらず、皆一様に首を振るだけだった。
希「ダメや、めぼしいものはなかったよ。」
ことり「こっちもだよ。」
にこ「私も。まぁしょうがないわ、そうやすやすと出てこないものよ。」
穂乃果「そうだよね…」
海未「くっ、人身御供なんてなんで…どんな理由で…そんなの、無駄死にと変わらないじゃないですか!」
穂乃果「どうだった?」
私の問いかけに、すぐさま答えるものはおらず、皆一様に首を振るだけだった。
希「ダメや、めぼしいものはなかったよ。」
ことり「こっちもだよ。」
にこ「私も。まぁしょうがないわ、そうやすやすと出てこないものよ。」
穂乃果「そうだよね…」
海未「くっ、人身御供なんてなんで…どんな理由で…そんなの、無駄死にと変わらないじゃないですか!」
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329: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:56:13.94 ID:N3Z3KNlP
希「海未ちゃん!そんなの、その時代や犠牲となった人に失礼や!前提として、彼らを知恵のない者と下に見たら、本質は掴めんくなるんよ。私たちだって、信じているのは誰かが見つけた科学。神を信じるのと、対象が変わっただけや。」
海未「ですが…いや、すみませんでした。」
希「わかれば__
いいんよ。と希ちゃんが言い終わる前に、ガタンと何かが落ちたような音が、部屋の外に響いた。
ことり「な、なに?」
穂乃果「ちょっと行ってくる。」
扉を開けると、
真姫「うぅ…頭が…」
唸る真姫ちゃんがいた。
海未「ですが…いや、すみませんでした。」
希「わかれば__
いいんよ。と希ちゃんが言い終わる前に、ガタンと何かが落ちたような音が、部屋の外に響いた。
ことり「な、なに?」
穂乃果「ちょっと行ってくる。」
扉を開けると、
真姫「うぅ…頭が…」
唸る真姫ちゃんがいた。
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330: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:56:40.01 ID:N3Z3KNlP
穂乃果「真姫ちゃん大丈夫!?」
真姫「うっ…ぅ…」
ことり「真姫ちゃん!」
私の声に気付いたのか、ことりちゃんが入り口から飛び出てきた。
ことりちゃんは慣れた手つきで、真姫ちゃんを抱えた。
真姫「い、嫌っ!!」
真姫ちゃんが弾けるようにことりちゃんを突き飛ばし、壁へもたれかかる。
その時、ことりちゃんが一瞬戸惑いの表情を見せたが、それはすぐ悲しそうなものに変わり、
ことり「寝かせてあげた方がいいかも…」
と、やはり悲しそうな声で言った。
真姫「うっ…ぅ…」
ことり「真姫ちゃん!」
私の声に気付いたのか、ことりちゃんが入り口から飛び出てきた。
ことりちゃんは慣れた手つきで、真姫ちゃんを抱えた。
真姫「い、嫌っ!!」
真姫ちゃんが弾けるようにことりちゃんを突き飛ばし、壁へもたれかかる。
その時、ことりちゃんが一瞬戸惑いの表情を見せたが、それはすぐ悲しそうなものに変わり、
ことり「寝かせてあげた方がいいかも…」
と、やはり悲しそうな声で言った。
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331: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:57:03.21 ID:N3Z3KNlP
海未「私が運びます。」
穂乃果「じゃあそっちお願い。」
私が真姫ちゃんの足を持とうとするも、
真姫「い、いや、大丈夫。1人で歩けるから…」
明らかに大丈夫じゃない顔で、そう言われた。
あの脂汗…焦点の定まらない目…危険な状態だ。
希「そんな、無理せんでも…」
真姫「大丈夫…」
その後、なんとか真姫ちゃんの部屋まで送り届け、布団に寝かせてあげた。
穂乃果「じゃあそっちお願い。」
私が真姫ちゃんの足を持とうとするも、
真姫「い、いや、大丈夫。1人で歩けるから…」
明らかに大丈夫じゃない顔で、そう言われた。
あの脂汗…焦点の定まらない目…危険な状態だ。
希「そんな、無理せんでも…」
真姫「大丈夫…」
その後、なんとか真姫ちゃんの部屋まで送り届け、布団に寝かせてあげた。
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332: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:57:33.65 ID:N3Z3KNlP
その後を皆がついて来てたようで、真姫ちゃんの部屋に集合することになった。
真姫「…ありがとう。もう良くなったから。」
ことりちゃんが温めた牛乳を飲みながら、真姫ちゃん力なく笑った。
にこ「…無理しないでね。」
希「もうそろそろやな…」
希ちゃんが時計を見る。
針は23:30を指していた。
今夜もまた、この中の誰かと会えなくなる…そう考えると、胸が苦しい。
今まで、水→木と来ている。それなら、次は土になる可能性が1番高い。となると…3、6、9、12月か…
真姫「…ありがとう。もう良くなったから。」
ことりちゃんが温めた牛乳を飲みながら、真姫ちゃん力なく笑った。
にこ「…無理しないでね。」
希「もうそろそろやな…」
希ちゃんが時計を見る。
針は23:30を指していた。
今夜もまた、この中の誰かと会えなくなる…そう考えると、胸が苦しい。
今まで、水→木と来ている。それなら、次は土になる可能性が1番高い。となると…3、6、9、12月か…
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333: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:57:57.06 ID:N3Z3KNlP
全員の顔色を見る。同じことを考えているのか、一様に白い顔をしている。
私は、今でも…信じたい。
希「みんな、私な、今日私の番でもいい思てるとこもあってな。」
穂乃果「えっ!?」
にこ「希!?」
ついこの前、ことりちゃんの口から同じようなことを聞いたばかりだ。
希「だって、μ'sの1人でも残ってくれれば、必ず解決してくれる。現に、事態は良い方向に進んでるやろ?」
私は、今でも…信じたい。
希「みんな、私な、今日私の番でもいい思てるとこもあってな。」
穂乃果「えっ!?」
にこ「希!?」
ついこの前、ことりちゃんの口から同じようなことを聞いたばかりだ。
希「だって、μ'sの1人でも残ってくれれば、必ず解決してくれる。現に、事態は良い方向に進んでるやろ?」
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334: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:58:21.50 ID:N3Z3KNlP
にこ「そうだけど…私は嫌よ、死ぬのは。」
希「そりゃウチだって死にたくはないよ。けど、みんながウチを覚えてる間は、みんなの中でウチは生きてる。花陽ちゃんも、そう言ってたんやろ?」
穂乃果「そうだね。私も、賛成だな。」
私はその問いかけに、自然と口角があがって、力強くそう答えた。
海未「まだ何にも解決してないのに…全くあなたたちは…もちろん、私も賛成です。」
ことり「じゃあ、円陣組もうよ!久しぶりにっ。今朝はさ、全員集合してなかったし!」
そう言ってことりとゃんはVサインを作って見せた。
希「そりゃウチだって死にたくはないよ。けど、みんながウチを覚えてる間は、みんなの中でウチは生きてる。花陽ちゃんも、そう言ってたんやろ?」
穂乃果「そうだね。私も、賛成だな。」
私はその問いかけに、自然と口角があがって、力強くそう答えた。
海未「まだ何にも解決してないのに…全くあなたたちは…もちろん、私も賛成です。」
ことり「じゃあ、円陣組もうよ!久しぶりにっ。今朝はさ、全員集合してなかったし!」
そう言ってことりとゃんはVサインを作って見せた。
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335: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 00:59:18.60 ID:N3Z3KNlP
にこ「ええっ、こんな時に?って、今朝って何よ。」
穂乃果「それは今いいの!にこちゃん、こんな時だからこそだよ!ほら、真姫ちゃんも!」
真姫「わ、わかってるわよ。」
真姫ちゃんはやおら起き上がり、その手をいつもの位置に寄せる。
もちろん、隙間は空けてある。
見てくれているかもしれないから。
海未「ふふっ、なんだか懐かしいですね。」
希「よっしゃ、気合い入れよか!」
穂乃果「それは今いいの!にこちゃん、こんな時だからこそだよ!ほら、真姫ちゃんも!」
真姫「わ、わかってるわよ。」
真姫ちゃんはやおら起き上がり、その手をいつもの位置に寄せる。
もちろん、隙間は空けてある。
見てくれているかもしれないから。
海未「ふふっ、なんだか懐かしいですね。」
希「よっしゃ、気合い入れよか!」
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336: 警備員[Lv.5(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/08(水) 01:00:00.16 ID:N3Z3KNlP
私は皆の顔を見渡したのち、天を仰ぎ大きく息を吸って叫ぶ。
穂乃果「いち!」
ことり「に!」
海未「さん!」
真姫「よん」
にこ「なな」
希「はち!」
穂乃果「μ's!ミュージックスタート!」
…
穂乃果「いち!」
ことり「に!」
海未「さん!」
真姫「よん」
にこ「なな」
希「はち!」
穂乃果「μ's!ミュージックスタート!」
…
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340: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:40:56.46 ID:Ycbdp3tQ
私は自室に戻り、数分の猶予を得る。
穂乃果「…」
目が冴えて眠れない。体に力が入らないが、頭くらいなら働かせることができる。どうせ寝る準備をしなくても寝られるので、今日あったことをまとめよう。
やっぱり思い浮かぶのは、あの祠だ。
あそこあった名前は、西木野…
そして、作られた年代は、永正10年と書かれていた。
海未ちゃんによれば、1500年頃らしい。
今からおよそ500年前か。
そう言えば、飛行機で聴いたけど、西木野家は約500年前から、子供が長く生きれないらしい。
穂乃果「…」
目が冴えて眠れない。体に力が入らないが、頭くらいなら働かせることができる。どうせ寝る準備をしなくても寝られるので、今日あったことをまとめよう。
やっぱり思い浮かぶのは、あの祠だ。
あそこあった名前は、西木野…
そして、作られた年代は、永正10年と書かれていた。
海未ちゃんによれば、1500年頃らしい。
今からおよそ500年前か。
そう言えば、飛行機で聴いたけど、西木野家は約500年前から、子供が長く生きれないらしい。
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341: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:41:19.07 ID:Ycbdp3tQ
もしこれが事実であれば、一種の呪いと言ってもいいだろう。
両方とも500年前だ…偶然だろうか?
いや違う。あの祠に西木野家が関係していることは間違いない。ただ、何の因果だ?
思い当たる特徴…
やはり製鉄だろう。
柱に縛り付けるなど、この災厄は金屋子神を模倣している点もある。
さらに、山を切り開き、土を流す事でその比重で土と砂鉄とを分ける技術、鉄穴流しは、戦国時代頃から運用されたらしい。
両方とも500年前だ…偶然だろうか?
いや違う。あの祠に西木野家が関係していることは間違いない。ただ、何の因果だ?
思い当たる特徴…
やはり製鉄だろう。
柱に縛り付けるなど、この災厄は金屋子神を模倣している点もある。
さらに、山を切り開き、土を流す事でその比重で土と砂鉄とを分ける技術、鉄穴流しは、戦国時代頃から運用されたらしい。
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342: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:41:43.46 ID:Ycbdp3tQ
戦国時代の期間を応仁の乱~大阪夏の陣だとすると、1467年~1615年だ。
人身御供発生、西木野家の呪いの始まり、鉄穴流しの発祥。
この3つの出来事は、全て同じ時期に被っていたとしたら。
それならば、1つ仮説を立てよう。
それは、麓の農家を営む人たちと、山で製鉄を営む人たちの争いがあった。という体で話を進める。
鉄穴流しによって、上流から大量の砂の混じった水が流れ出る。
人身御供発生、西木野家の呪いの始まり、鉄穴流しの発祥。
この3つの出来事は、全て同じ時期に被っていたとしたら。
それならば、1つ仮説を立てよう。
それは、麓の農家を営む人たちと、山で製鉄を営む人たちの争いがあった。という体で話を進める。
鉄穴流しによって、上流から大量の砂の混じった水が流れ出る。
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343: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:42:10.23 ID:Ycbdp3tQ
当然、それは下流へと流れていくだろう。
そうなれば、川の底は上がり、氾濫が多発するし、水路に入れば詰まることになる。
そういった中で農民民と製鉄民との間で軋轢が生まれ、ついには実力行使に出る。その際に命を落としたものを祀るため…?
いや違う。
それだと、人身御供という語を使うだろうか。
海未ちゃんが飛行機の中で言っていた…
人柱…人身御供はしばしば若い純潔な少女が選ばれ、沼、川に入ったり、生き埋めになるらしい。
そして、生贄を求めるのは水神が多い。
それを踏まえると、まず氾濫が起きる。そして、人身御供の少女が犠牲になる。それが500年前。
そうなれば、川の底は上がり、氾濫が多発するし、水路に入れば詰まることになる。
そういった中で農民民と製鉄民との間で軋轢が生まれ、ついには実力行使に出る。その際に命を落としたものを祀るため…?
いや違う。
それだと、人身御供という語を使うだろうか。
海未ちゃんが飛行機の中で言っていた…
人柱…人身御供はしばしば若い純潔な少女が選ばれ、沼、川に入ったり、生き埋めになるらしい。
そして、生贄を求めるのは水神が多い。
それを踏まえると、まず氾濫が起きる。そして、人身御供の少女が犠牲になる。それが500年前。
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344: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:42:44.97 ID:Ycbdp3tQ
少女が犠牲になった後、成仏できなかった彼女は、氾濫の原因を知る。そして、西木野家に後継を作らせないため、呪いをかける。
でもそうなると、真姫ちゃんのおばあちゃんや、お母さんはなんで…
…あの祠を建てたのがおばあちゃんだとすると、それによって呪いは封じ込まれた。
しかし、去年の末に亡くなってしまい、祠も土砂崩れにより崩壊してしまった。
それを見て怒った少女の霊は、この災厄を産み出した…
とすれば…辻褄は合う。
でも、なんでわざわざ1人ずつ、しかもあんな柱に縛るようなことを…
普通の娘が、たたらのことや五行説を知ってるとは思えない。
でもそうなると、真姫ちゃんのおばあちゃんや、お母さんはなんで…
…あの祠を建てたのがおばあちゃんだとすると、それによって呪いは封じ込まれた。
しかし、去年の末に亡くなってしまい、祠も土砂崩れにより崩壊してしまった。
それを見て怒った少女の霊は、この災厄を産み出した…
とすれば…辻褄は合う。
でも、なんでわざわざ1人ずつ、しかもあんな柱に縛るようなことを…
普通の娘が、たたらのことや五行説を知ってるとは思えない。
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345: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:43:05.28 ID:Ycbdp3tQ
私は一昨日と今日の光景を思い出す。あの時__
なるほど、そういう事か。
円陣、楽しかったなぁ。
私は意識を自ら手放した。
…
……
………
なるほど、そういう事か。
円陣、楽しかったなぁ。
私は意識を自ら手放した。
…
……
………
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346: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:43:36.47 ID:Ycbdp3tQ
私は目を開ける。
ここに来て5日目の朝だ。
私は、今日も何とか生き延びることができた。
しかし、代わりに…
考えても仕方ない。
頭を振り、頬を叩く。
私はおそらく、この世界の真相を掴んだ。
今日で全て、終わらせるんだ。
穂乃果「本当に、それでいいの…?」
私が説明すれば…ある者は救われ、ある者は不幸になる。
甘いのは分かっている。既に人も死んでいる。それは今朝もだろう。
でも私は…最後まで皆を信じたい…それだけだ。
ここに来て5日目の朝だ。
私は、今日も何とか生き延びることができた。
しかし、代わりに…
考えても仕方ない。
頭を振り、頬を叩く。
私はおそらく、この世界の真相を掴んだ。
今日で全て、終わらせるんだ。
穂乃果「本当に、それでいいの…?」
私が説明すれば…ある者は救われ、ある者は不幸になる。
甘いのは分かっている。既に人も死んでいる。それは今朝もだろう。
でも私は…最後まで皆を信じたい…それだけだ。
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347: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:44:04.90 ID:Ycbdp3tQ
思い悩みつつゆっくり居間に降りると、私以外はもう集合していた。
…いや、
鼓動が上がる。
ついにこの時が来てしまったのか。
ことりちゃんがいない。
皆悟ったような顔をし、たたら場へと重い足取りで向かう。
…いや、
鼓動が上がる。
ついにこの時が来てしまったのか。
ことりちゃんがいない。
皆悟ったような顔をし、たたら場へと重い足取りで向かう。
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348: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:44:30.32 ID:Ycbdp3tQ
扉を開けた先には、
あぁ…嘘だ…本当に…
いつになったら慣れるんだろうか。
私は膝から崩れ落ちる。
横には、腰を抜かした海未ちゃんがいた。
私の目の前には、血まみれのことりちゃんが括られていた。
…
私は、最悪の予想ができていなかったのかもしれない。
ことりちゃんは、もう最初に会った時を覚えていないくらい、昔からの知り合いで…かけがえのない人で…
あぁ…嘘だ…本当に…
いつになったら慣れるんだろうか。
私は膝から崩れ落ちる。
横には、腰を抜かした海未ちゃんがいた。
私の目の前には、血まみれのことりちゃんが括られていた。
…
私は、最悪の予想ができていなかったのかもしれない。
ことりちゃんは、もう最初に会った時を覚えていないくらい、昔からの知り合いで…かけがえのない人で…
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349: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:44:57.94 ID:Ycbdp3tQ
この世界に飛ばされ、数々の仲間の死を見てきた。ただ漠然と、「死ぬ」という予想はできていたはずだった。その後の感情も、想定していたはずなのに、足に力が入らない。
私が今までしてきたことは…なんだったんだろうか。今までのものが一瞬で崩れ去っていくような気がした。
それはこの世界の出来事だけではない。
隣の海未ちゃんを見やる。
もはや涙も流せないような状態だが、悲痛な感情は容易に見て取れた。
私たちは、3人で完成する関係だった。
2人同士でも仲がいいのはもちろんだが、やっぱり3人揃った時は安心する。
そんな風景を思い出して、また涙が出てきた。
私が今までしてきたことは…なんだったんだろうか。今までのものが一瞬で崩れ去っていくような気がした。
それはこの世界の出来事だけではない。
隣の海未ちゃんを見やる。
もはや涙も流せないような状態だが、悲痛な感情は容易に見て取れた。
私たちは、3人で完成する関係だった。
2人同士でも仲がいいのはもちろんだが、やっぱり3人揃った時は安心する。
そんな風景を思い出して、また涙が出てきた。
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350: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:45:20.08 ID:Ycbdp3tQ
あれが最期だなんて…
もう…どうでも…
脳が勝手に足に命令を送るのをやめ、その場にへたり込もうとする。
その肩を、掴んだ人がいた。
にこ「ことりは、なんて言うと思う?」
穂乃果「…え?」
にこ「にこはね、あんたより知り合って長くないけど、それくらいは分かるわよ。」
穂乃果「なに…を。」
もう…どうでも…
脳が勝手に足に命令を送るのをやめ、その場にへたり込もうとする。
その肩を、掴んだ人がいた。
にこ「ことりは、なんて言うと思う?」
穂乃果「…え?」
にこ「にこはね、あんたより知り合って長くないけど、それくらいは分かるわよ。」
穂乃果「なに…を。」
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351: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:45:43.17 ID:Ycbdp3tQ
にこ「悲しんでくれて、ことりはそりゃ嬉しいとは思うわよ…でも彼女なら、穂乃果にはいつまでも進み続けて欲しいって思ってるんじゃないかしら。」
…
ことり『いつだって、私1人だと見れない景色を見せてくれる…そんな穂乃果ちゃんが、わたしは大好き!』
…
穂乃果「あ…」
にこ「それにあんた、花陽にも顔向けできないわよ。」
花陽ちゃん…そうだ。私がここでへこたれたら、ことりちゃんの、みんなの無念を誰が晴らす?
にこ「辛いのはみんな同じ….もちろん私も辛いわ…でも、もう1人だけの命じゃないの。そして、全てが終わったら、また会いに行ってあげなさい。その時は…笑顔で。」
希「それでも、辛かったら泣いてええんよ。」
…
ことり『いつだって、私1人だと見れない景色を見せてくれる…そんな穂乃果ちゃんが、わたしは大好き!』
…
穂乃果「あ…」
にこ「それにあんた、花陽にも顔向けできないわよ。」
花陽ちゃん…そうだ。私がここでへこたれたら、ことりちゃんの、みんなの無念を誰が晴らす?
にこ「辛いのはみんな同じ….もちろん私も辛いわ…でも、もう1人だけの命じゃないの。そして、全てが終わったら、また会いに行ってあげなさい。その時は…笑顔で。」
希「それでも、辛かったら泣いてええんよ。」
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352: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:46:12.95 ID:Ycbdp3tQ
希ちゃんが両手を開けて膝をつく。
正直甘えたい。希ちゃんの胸に飛び込みたい。
ただ、今は。
私は右足を踏み出し、立ち上がる。
穂乃果「涙は、この世界を出た時のために取っておくよ。」
にこ「…その調子よ。」
海未「穂乃果…そうですよね。」
穂乃果「ことりちゃん、みんな…見ててね。」
正直甘えたい。希ちゃんの胸に飛び込みたい。
ただ、今は。
私は右足を踏み出し、立ち上がる。
穂乃果「涙は、この世界を出た時のために取っておくよ。」
にこ「…その調子よ。」
海未「穂乃果…そうですよね。」
穂乃果「ことりちゃん、みんな…見ててね。」
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353: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:46:36.53 ID:Ycbdp3tQ
希「海未ちゃん、ほら、もうちょっとだけ、頑張りや。」
希ちゃんが手を差し伸べ、海未ちゃんがそれを掴んだ。
海未「すみません。希、ありがとうございます。」
ありがとう。みんな。
みんなに助けられて。全く…理想のリーダーとは程遠いよ。
でも私、何をすべきなのか、分かったよ。
穂乃果「また会おうね。ことりちゃん。」
亡骸にそう告げて、私はたたら場を後にした。
…
希ちゃんが手を差し伸べ、海未ちゃんがそれを掴んだ。
海未「すみません。希、ありがとうございます。」
ありがとう。みんな。
みんなに助けられて。全く…理想のリーダーとは程遠いよ。
でも私、何をすべきなのか、分かったよ。
穂乃果「また会おうね。ことりちゃん。」
亡骸にそう告げて、私はたたら場を後にした。
…
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354: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:50:02.78 ID:Ycbdp3tQ
ふぅっと息を吐く。
昼下がりの時間ではあるけど、少し遅めの朝食も済ませて、戦の準備は万端だ。
希ちゃんにアイコンタクトをする。
希ちゃんは少し目を見開き、頷いた。
もう、迷わない。
私は…
さぁ、全てを終わらせる時だ。
凛ちゃん、絵里ちゃん、花陽ちゃん、ことりちゃん、見ていてね。
穂乃果「すっかり、寂しくなったね。もう5人になっちゃったよ。」
穂乃果「初日はさ、楽しかったよね。みんな思い思いの夏をたのしんで。これから一緒に絆を深めていければ…って思ってた。」
昼下がりの時間ではあるけど、少し遅めの朝食も済ませて、戦の準備は万端だ。
希ちゃんにアイコンタクトをする。
希ちゃんは少し目を見開き、頷いた。
もう、迷わない。
私は…
さぁ、全てを終わらせる時だ。
凛ちゃん、絵里ちゃん、花陽ちゃん、ことりちゃん、見ていてね。
穂乃果「すっかり、寂しくなったね。もう5人になっちゃったよ。」
穂乃果「初日はさ、楽しかったよね。みんな思い思いの夏をたのしんで。これから一緒に絆を深めていければ…って思ってた。」
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355: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:50:30.45 ID:Ycbdp3tQ
穂乃果「凛ちゃんが死んじゃって…絵里ちゃんも花陽ちゃんも、ことりちゃんも。みんな悲しんで、泣いて、それでも、私はみんなを信じてた。」
穂乃果「それはみんなも同じだと思う。」
私の言葉に、皆が頷く。
穂乃果「でも、私、真相がわかっちゃった。」
にこ「穂乃果!?」
海未「いいんですか!?」
穂乃果「それはみんなも同じだと思う。」
私の言葉に、皆が頷く。
穂乃果「でも、私、真相がわかっちゃった。」
にこ「穂乃果!?」
海未「いいんですか!?」
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356: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:50:57.30 ID:Ycbdp3tQ
周りのざわつきに見向きもせず、私は真姫ちゃんの目を刺すように見る。
真姫「いいわ。聞かせて。」
穂乃果「真姫ちゃん、まず確認なんだけど、西木野家では、500年前から産まれてくる子供が悉く短命で苦労したんだってね。」
真姫「聞いてたのね。そうよ。」
穂乃果「昨日、ここから数100メートル先に、ちょっとした祠に行ったよ。そこには、西木野って書かれていた。何か知らない?」
真姫「…そんなこと言われても困るわ。」
穂乃果「そっか、そうだよね。そこにはね、人身御供って書かれていたよ。この辺で何があったのかな。」
真姫「さぁ、昔の話でしょ。」
真姫「いいわ。聞かせて。」
穂乃果「真姫ちゃん、まず確認なんだけど、西木野家では、500年前から産まれてくる子供が悉く短命で苦労したんだってね。」
真姫「聞いてたのね。そうよ。」
穂乃果「昨日、ここから数100メートル先に、ちょっとした祠に行ったよ。そこには、西木野って書かれていた。何か知らない?」
真姫「…そんなこと言われても困るわ。」
穂乃果「そっか、そうだよね。そこにはね、人身御供って書かれていたよ。この辺で何があったのかな。」
真姫「さぁ、昔の話でしょ。」
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357: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:51:22.53 ID:Ycbdp3tQ
穂乃果「そう。永正って年号が書いてあったよ。およそ500年前だね。そして、さっき言った西木野家の呪いも500年前だ。これから分かることは、少なくともその犠牲となった少女が、西木野家に恨みを持った状態であるということ。思い当たる節はある?」
真姫「だから、あんまり家の過去の話なんか聞いたことないわ。」
やっぱり、真姫ちゃんは知らないというスタンスを取り続けるか。
それならば…少し希ちゃんの真似事をしてみよう。
穂乃果「まぁそうだよね。多分これは、製鉄による川の氾濫。」
希「なるほど、製鉄には木が必要。それによってハゲ山になって、保水力がなくなれば…」
真姫「だから、あんまり家の過去の話なんか聞いたことないわ。」
やっぱり、真姫ちゃんは知らないというスタンスを取り続けるか。
それならば…少し希ちゃんの真似事をしてみよう。
穂乃果「まぁそうだよね。多分これは、製鉄による川の氾濫。」
希「なるほど、製鉄には木が必要。それによってハゲ山になって、保水力がなくなれば…」
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358: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:51:50.31 ID:Ycbdp3tQ
穂乃果「それによって、生贄となった少女は、怒って西木野家に呪いをかけた。」
にこ「待ってよ!じゃあなんで真姫のお母さんとかは長生きできてるの?」
穂乃果「おそらく、真姫ちゃんのおばあちゃんが、祠を建てたから。」
海未「確かにあれは、そんなに古いものじゃありませんでした。」
穂乃果「そして、今になってまた呪われたのは、土砂崩れで祠が壊されたことによる、少女の怒りだと思うんだよ。」
にこ「でも…それでも真姫がなんで。」
にこ「待ってよ!じゃあなんで真姫のお母さんとかは長生きできてるの?」
穂乃果「おそらく、真姫ちゃんのおばあちゃんが、祠を建てたから。」
海未「確かにあれは、そんなに古いものじゃありませんでした。」
穂乃果「そして、今になってまた呪われたのは、土砂崩れで祠が壊されたことによる、少女の怒りだと思うんだよ。」
にこ「でも…それでも真姫がなんで。」
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359: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:52:22.25 ID:Ycbdp3tQ
穂乃果「逆に考えて欲しいんだ。私の説によれば、犠牲になった子はおそらく、農家のいち娘。その子が金屋子神の性質を知ってたと思う?これは、誰かから教えてもらったものだと思う。そして、少女の側に立つと、最初にコンタクトを取るのは、」
真姫「まぁ、私よね。」
ここで認めてくるか。それによって、皆驚いた表情になる。
海未「でも、まだ推測の域を出てませんよ。」
穂乃果「その通りだよ。これは単なる私の仮説。ただ、これ以上補強できなくもないんだよ。」
海未「…というと?」
穂乃果「私たちを囲うこの結界。それに使われている注連縄に、少し違和感を覚えたの。なんかちがうなぁって。」
真姫「まぁ、私よね。」
ここで認めてくるか。それによって、皆驚いた表情になる。
海未「でも、まだ推測の域を出てませんよ。」
穂乃果「その通りだよ。これは単なる私の仮説。ただ、これ以上補強できなくもないんだよ。」
海未「…というと?」
穂乃果「私たちを囲うこの結界。それに使われている注連縄に、少し違和感を覚えたの。なんかちがうなぁって。」
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360: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:52:53.47 ID:Ycbdp3tQ
にこ「私には何も分からなかったけど。」
穂乃果「にこちゃん。あれは、注連縄の向きが逆なんだ。」
希ちゃんか海未ちゃんなら、反応するはず。
海未「…出雲大社!」
希「なるほど…そこまでは気付かんかったな。」
穂乃果「そう。出雲大社のしめ縄の向きが逆なのは有名な話だよね。」
真姫「それがなんだって言うのよ。単に真犯人が、この土地にちなんだ方法を取ってるだけでしょ。」
私もそう思う。ただ、この世界を作った人はもう少し考えているみたいだ。
穂乃果「にこちゃん。あれは、注連縄の向きが逆なんだ。」
希ちゃんか海未ちゃんなら、反応するはず。
海未「…出雲大社!」
希「なるほど…そこまでは気付かんかったな。」
穂乃果「そう。出雲大社のしめ縄の向きが逆なのは有名な話だよね。」
真姫「それがなんだって言うのよ。単に真犯人が、この土地にちなんだ方法を取ってるだけでしょ。」
私もそう思う。ただ、この世界を作った人はもう少し考えているみたいだ。
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361: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:54:48.50 ID:Ycbdp3tQ
穂乃果「私もそう思って放置してたんだけど、仮説と結びつくとこがあったよ。希ちゃん、出雲大社の主人祭は…?」
希「…大国主大神やろ?」
穂乃果「そう。でも、さっき言った3つの出来事が重なる時期…中世では、これが違ったんだ。」
希「いや、あそこは昔から…」
穂乃果「出雲大社の荒垣入り口には、鳥居があって、これは毛利家が寄進したもので、これが1666年。そこには、『一を日神といい、二を月神といい、三を素戔嗚というなり、日神とは地神五代の祖天照太神これなり、月神とは月読尊これなり、素戔嗚尊は雲陽の大社の神なり』
と刻まれていて、当時の主人祭はスサノオだったみたい。でも、希ちゃんの言う通り平安時代まではちゃんと大国主大神だったよ。」
希「…大国主大神やろ?」
穂乃果「そう。でも、さっき言った3つの出来事が重なる時期…中世では、これが違ったんだ。」
希「いや、あそこは昔から…」
穂乃果「出雲大社の荒垣入り口には、鳥居があって、これは毛利家が寄進したもので、これが1666年。そこには、『一を日神といい、二を月神といい、三を素戔嗚というなり、日神とは地神五代の祖天照太神これなり、月神とは月読尊これなり、素戔嗚尊は雲陽の大社の神なり』
と刻まれていて、当時の主人祭はスサノオだったみたい。でも、希ちゃんの言う通り平安時代まではちゃんと大国主大神だったよ。」
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362: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:55:13.97 ID:Ycbdp3tQ
旅行前に気になって、ほんのちょっとだけ調べていたことが役に立った。
海未「なぜ変わったのでしょうか…」
穂乃果「出雲大社の近くにお寺があるみたいで、ここが出雲国引き、国作りの神をスサノオとしていたみたいで、これが一般に広まったことによるみたい。それだけ、出雲の地はスサノオに対する信仰が強かったんだろうね。まぁ、ちょっとした都市伝説のような出で立ちだよ。」
にこ「あんた、なんでそんなこと…」
穂乃果「この旅行が楽しみすぎて、ちょっとね。」
海未「神仏習合ですか…よく軌道修正できましたね。」
希「それは分かったよ。でも、それが…あ。」
海未「なぜ変わったのでしょうか…」
穂乃果「出雲大社の近くにお寺があるみたいで、ここが出雲国引き、国作りの神をスサノオとしていたみたいで、これが一般に広まったことによるみたい。それだけ、出雲の地はスサノオに対する信仰が強かったんだろうね。まぁ、ちょっとした都市伝説のような出で立ちだよ。」
にこ「あんた、なんでそんなこと…」
穂乃果「この旅行が楽しみすぎて、ちょっとね。」
海未「神仏習合ですか…よく軌道修正できましたね。」
希「それは分かったよ。でも、それが…あ。」
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363: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:55:38.50 ID:Ycbdp3tQ
穂乃果「スサノオと言えば、八岐大蛇伝説だよね。これって私の仮説と似てない?」
海未「ええっと確か、八岐大蛇の人身御供に出される娘がいて、それを聞いたスサノオは八岐大蛇に酒を飲ませてから首を切り落とした…」
穂乃果「八岐大蛇は、その正体が荒れ狂う斐伊川という説があるんだよ。製鉄によって木材を大量に使用した結果氾濫したとすれば。」
希「英雄のいない物語の完成やね。」
にこ「で、真姫がやったっていう直接的な証拠には!?」
穂乃果「確かにね。でも、状況証拠で良ければ。昨日、海未ちゃんが人身御供云々の話をした時、真姫ちゃんの体調がおかしくなったよね。その子、今取り憑いてるでしょ。」
海未「ええっと確か、八岐大蛇の人身御供に出される娘がいて、それを聞いたスサノオは八岐大蛇に酒を飲ませてから首を切り落とした…」
穂乃果「八岐大蛇は、その正体が荒れ狂う斐伊川という説があるんだよ。製鉄によって木材を大量に使用した結果氾濫したとすれば。」
希「英雄のいない物語の完成やね。」
にこ「で、真姫がやったっていう直接的な証拠には!?」
穂乃果「確かにね。でも、状況証拠で良ければ。昨日、海未ちゃんが人身御供云々の話をした時、真姫ちゃんの体調がおかしくなったよね。その子、今取り憑いてるでしょ。」
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364: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:56:16.20 ID:Ycbdp3tQ
真姫「…」
真姫ちゃんは私の問いかけに答えない。
穂乃果「で、取り憑かれた真姫ちゃんは、その少女に私たちを〇すよう仕向けられた。それがおそらく12時から6時の間。」
希「じゃあ穂乃果ちゃん!真姫ちゃん部屋を探せば何か見つかるかもしれんってこと?」
穂乃果「いや、慎重な真姫ちゃんのことだから…部屋には何も残ってないと思うよ。おそらく、肌身離さず持ち歩いてると思う。昨日、ことりちゃんが抱えた時、頭が痛いはずなのにまず逃げることを選んだ…それが答えなんじゃないかな。」
海未「失礼します…」
真姫ちゃんは私の問いかけに答えない。
穂乃果「で、取り憑かれた真姫ちゃんは、その少女に私たちを〇すよう仕向けられた。それがおそらく12時から6時の間。」
希「じゃあ穂乃果ちゃん!真姫ちゃん部屋を探せば何か見つかるかもしれんってこと?」
穂乃果「いや、慎重な真姫ちゃんのことだから…部屋には何も残ってないと思うよ。おそらく、肌身離さず持ち歩いてると思う。昨日、ことりちゃんが抱えた時、頭が痛いはずなのにまず逃げることを選んだ…それが答えなんじゃないかな。」
海未「失礼します…」
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365: 警備員[Lv.3(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/09(木) 21:59:42.04 ID:Ycbdp3tQ
真姫ちゃんは、ボディチェックしようとする海未ちゃんを片手で静止させ、なにやらゴソゴソと肌着を脱ぐような仕草を見せ、
真姫「もう…いいわ。」
ナイフを、机に置き、
にこ「真姫…」
突き通すような目つきで、私を見て、
真姫「それなら__
どう?私を〇してみる?」
そう、口角を上げて言った。
…
真姫「もう…いいわ。」
ナイフを、机に置き、
にこ「真姫…」
突き通すような目つきで、私を見て、
真姫「それなら__
どう?私を〇してみる?」
そう、口角を上げて言った。
…
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379: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:44:16.03 ID:uUBHX0NM
希「…真姫ちゃんが絵里ちらを〇したんか?」
真姫「これ見たら分かるでしょ。」
真姫ちゃんは机の上のナイフを指差して言う。
その瞬間、机の上に膝を乗せ殴りかかろうとする希ちゃんを、すんでのところで海未ちゃんが止めた。
希「このっ!!はなせ!よくもっ!!」
海未「や、やめてください希!一度真姫の話も聞くべきです!何か…何か理由があるはずです。」
そう冷静に語りかけるも、希ちゃんは冷静さを欠いている状況だ。
真姫「これ見たら分かるでしょ。」
真姫ちゃんは机の上のナイフを指差して言う。
その瞬間、机の上に膝を乗せ殴りかかろうとする希ちゃんを、すんでのところで海未ちゃんが止めた。
希「このっ!!はなせ!よくもっ!!」
海未「や、やめてください希!一度真姫の話も聞くべきです!何か…何か理由があるはずです。」
そう冷静に語りかけるも、希ちゃんは冷静さを欠いている状況だ。
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380: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:44:43.66 ID:uUBHX0NM
親友の仇が判明したんだ。私も、同じ立場だ。
希「なんの理由って言うんよ!そんなっ!絵里ちを〇していい理由なんかあるわけないやろっ!」
もちろん、そんな理由あるはずがない。
穂乃果「海未ちゃん、希ちゃん、2人ともその通りだよ。この際、知ってることを全部言ってもらうよ。真姫ちゃん。」
真姫「…」
海未「どうなんですか?」
真姫「私は、部屋で待ってるから。私を〇すか〇さないか、決まったら来て。リミットは、23:30までにするわ。」
希「なんの理由って言うんよ!そんなっ!絵里ちを〇していい理由なんかあるわけないやろっ!」
もちろん、そんな理由あるはずがない。
穂乃果「海未ちゃん、希ちゃん、2人ともその通りだよ。この際、知ってることを全部言ってもらうよ。真姫ちゃん。」
真姫「…」
海未「どうなんですか?」
真姫「私は、部屋で待ってるから。私を〇すか〇さないか、決まったら来て。リミットは、23:30までにするわ。」
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381: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:45:06.94 ID:uUBHX0NM
なるほど、そうくるか。
希「ウチらを〇すタイミングを図るつもりやろ!こら!!」
希ちゃんの叫びが全く聞こえてないのか、澄んだ顔で真姫ちゃんは部屋から出て行ってしまった。
…
空の部屋に、希ちゃんの息遣いだけが聞こえる。
やがて諦めたように、ズレた机を元通りにして座った。
穂乃果「多分真姫ちゃんに、私たちを眠らせるような力はない。少なくとも日中の真姫ちゃんは無害だと思う…」
希「ウチらを〇すタイミングを図るつもりやろ!こら!!」
希ちゃんの叫びが全く聞こえてないのか、澄んだ顔で真姫ちゃんは部屋から出て行ってしまった。
…
空の部屋に、希ちゃんの息遣いだけが聞こえる。
やがて諦めたように、ズレた机を元通りにして座った。
穂乃果「多分真姫ちゃんに、私たちを眠らせるような力はない。少なくとも日中の真姫ちゃんは無害だと思う…」
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382: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:45:39.24 ID:uUBHX0NM
希「それなら、今のうちに〇すしかないんやない?」
海未「…やはり今は情報が偏っています。その状況で、後戻りができない選択肢をとるのは少し怖いですね…」
希「何を臆病になっとるんよ!あいつが全ての元凶なんやろ?〇せば全て終わるはず…」
にこ「私が代わりに話すわ。」
海未「にこ…?」
希「まさか、昨日の悲鳴の時?」
にこ「その通りよ。その時知ったの。西木野家のことと、犯人である真姫のことも。」
希「やっぱり…」
海未「話して下さい。」
にこ「ええ。真姫が寝ている間にね、様子を見ようと思って部屋に入ったの。そしたら、読みかけの古めかしい本と、真姫の日記をがあって、その中を見てみると…」
海未「…やはり今は情報が偏っています。その状況で、後戻りができない選択肢をとるのは少し怖いですね…」
希「何を臆病になっとるんよ!あいつが全ての元凶なんやろ?〇せば全て終わるはず…」
にこ「私が代わりに話すわ。」
海未「にこ…?」
希「まさか、昨日の悲鳴の時?」
にこ「その通りよ。その時知ったの。西木野家のことと、犯人である真姫のことも。」
希「やっぱり…」
海未「話して下さい。」
にこ「ええ。真姫が寝ている間にね、様子を見ようと思って部屋に入ったの。そしたら、読みかけの古めかしい本と、真姫の日記をがあって、その中を見てみると…」
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383: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:48:10.22 ID:uUBHX0NM
にこちゃんが話す真実は以下の通りだ。
・西木野家は鉄穴流しを開発した後独立して、莫大な富を築いたが、氾濫が起き、人身御供まで起きたこともあり、麓の民衆が暴徒化し、活動期を農期とずらすなど、対応を余儀なくされた。さらにここから子供が短命になる呪いが始まるが、真姫ちゃんのお婆さんが祠を建て、呪いは鎮静化した。
ここまでは私の話の通りだ。
さらに…
にこ「真姫にその少女が取り憑いたのは初日の24時。私たちが意識を失っている間に、少女は計8人の生贄を要求したそうよ。まぁ私たち全員のね。」
穂乃果「なんで…」
・西木野家は鉄穴流しを開発した後独立して、莫大な富を築いたが、氾濫が起き、人身御供まで起きたこともあり、麓の民衆が暴徒化し、活動期を農期とずらすなど、対応を余儀なくされた。さらにここから子供が短命になる呪いが始まるが、真姫ちゃんのお婆さんが祠を建て、呪いは鎮静化した。
ここまでは私の話の通りだ。
さらに…
にこ「真姫にその少女が取り憑いたのは初日の24時。私たちが意識を失っている間に、少女は計8人の生贄を要求したそうよ。まぁ私たち全員のね。」
穂乃果「なんで…」
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384: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:48:48.39 ID:uUBHX0NM
にこ「わからないわ。まぁ、霊に正論が通じるとも思えないけど。日記には、たたら場に巻きつける、あたり一帯を注連縄で囲むとか、この世界の詳細な設定が書かれていたわ。」
新しい真実を知る。
それはまさか、この世界を…デザインしたのは真姫ちゃん…?
そうなると、話が変わってくる。
希「やっぱりノリノリやったんやない?」
にこ「どうかしら、日記の最後には「私が全てを終わらせる。」と書かれてあって、こんなの見て私は緊張の糸が張りつめていたんだけど、真姫がうなされながら、むくっと起き上がったから、悲鳴をあげたってわけ。」
新しい真実を知る。
それはまさか、この世界を…デザインしたのは真姫ちゃん…?
そうなると、話が変わってくる。
希「やっぱりノリノリやったんやない?」
にこ「どうかしら、日記の最後には「私が全てを終わらせる。」と書かれてあって、こんなの見て私は緊張の糸が張りつめていたんだけど、真姫がうなされながら、むくっと起き上がったから、悲鳴をあげたってわけ。」
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385: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:49:49.55 ID:uUBHX0NM
やっぱり、あれはにこちゃんのものだったんだね。
穂乃果「よく、誤魔化せたね。」
にこ「運良くうなされてる途中だったから…今来たっていうのを装ったわ、汗にびっくりした体で…」
海未「…なるほど。」
にこ「あ、あと、人身御供だけど、あれはそういった儀式に精通した者が起こしたものじゃないだろうとも書かれてあったわ。だから、今のように成仏できなかったんだろうって。」
希「それは…ウチも思ってた。普通だったら祠は人身御供とセットの時期に作られるべきなのに、建立は比較的最近。建て替えただけかと思ってたんやけどね。」
にこ「まぁ、私の知っていることはこれくらいね。」
穂乃果「よく、誤魔化せたね。」
にこ「運良くうなされてる途中だったから…今来たっていうのを装ったわ、汗にびっくりした体で…」
海未「…なるほど。」
にこ「あ、あと、人身御供だけど、あれはそういった儀式に精通した者が起こしたものじゃないだろうとも書かれてあったわ。だから、今のように成仏できなかったんだろうって。」
希「それは…ウチも思ってた。普通だったら祠は人身御供とセットの時期に作られるべきなのに、建立は比較的最近。建て替えただけかと思ってたんやけどね。」
にこ「まぁ、私の知っていることはこれくらいね。」
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386: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:50:16.28 ID:uUBHX0NM
希「…なんで、黙ってたん。」
希ちゃんはおそらく、昨日のうちに気付いていた。膝の上には小さく拳が握られている。
にこ「…ごめんなさい。私もそれを見た時は許せなかったわよ…でも、後ろから聞こえるの、真姫のうなさてる声が。なんだか哀しくなったのよ…多分彼女は不本意なんだって。」
希「…そっか。」
その上で、助けになれなかったっていうこともあるんだろう。その表情は少なくとも怒りではなかった。
にこちゃんご全てを語り終わると、しばし沈黙が流れた。
希ちゃんはおそらく、昨日のうちに気付いていた。膝の上には小さく拳が握られている。
にこ「…ごめんなさい。私もそれを見た時は許せなかったわよ…でも、後ろから聞こえるの、真姫のうなさてる声が。なんだか哀しくなったのよ…多分彼女は不本意なんだって。」
希「…そっか。」
その上で、助けになれなかったっていうこともあるんだろう。その表情は少なくとも怒りではなかった。
にこちゃんご全てを語り終わると、しばし沈黙が流れた。
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387: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:50:49.10 ID:uUBHX0NM
希「…でも真姫ちゃんは、まだウチらを〇そうとしとるってことやろ?それなら、やられる前にやるしかないやん。」
希ちゃんが沈黙を破って言った。
私たちは狙われた獲物、当然の対応だろう。
1人でも多く元の世界へ戻すのが私の役目だ。それならば、希ちゃん意見に賛成するべきだ。
でも、
海未「待ってください。気になる点があります。真姫はなぜ、この世界をこのようなデザインにしたのでしょうか。」
その謎が残っている。
希「デザインもなにも、真姫ちゃんも〇すことに同意したって言うことやろ。」
海未「それだと、私たちは一夜でとっくの昔に土の中にいるべきじゃないですか?これを、1夜ずつ、それも柱に括り付けるなんて、回りくどいことをした理由があるはずです。」
希ちゃんが沈黙を破って言った。
私たちは狙われた獲物、当然の対応だろう。
1人でも多く元の世界へ戻すのが私の役目だ。それならば、希ちゃん意見に賛成するべきだ。
でも、
海未「待ってください。気になる点があります。真姫はなぜ、この世界をこのようなデザインにしたのでしょうか。」
その謎が残っている。
希「デザインもなにも、真姫ちゃんも〇すことに同意したって言うことやろ。」
海未「それだと、私たちは一夜でとっくの昔に土の中にいるべきじゃないですか?これを、1夜ずつ、それも柱に括り付けるなんて、回りくどいことをした理由があるはずです。」
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388: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:51:48.17 ID:uUBHX0NM
穂乃果「確かに、あの祠に続く獣道が行けるようになっていたことは気になるね。」
海未「そうです。1日に1人しか〇してはいけない、というルールが前提として仮にあったとしても、8人全員の死を望んでいるなら、死体は隠しておくなりして、少なくとも柱にくくりつけるなんて、回りくどいことをするべきじゃないはずです。」
希ちゃんが押し黙る。それなりの納得させる論理があったという証拠だ。
にこ「真姫は、気付いて欲しかったんじゃないかしら。」
穂乃果「それって、私たちに止めてほしいってことかな。」
希「それなら!やっぱり〇したらな。」
にこ「そうかも…知れないわね。」
海未「そうです。1日に1人しか〇してはいけない、というルールが前提として仮にあったとしても、8人全員の死を望んでいるなら、死体は隠しておくなりして、少なくとも柱にくくりつけるなんて、回りくどいことをするべきじゃないはずです。」
希ちゃんが押し黙る。それなりの納得させる論理があったという証拠だ。
にこ「真姫は、気付いて欲しかったんじゃないかしら。」
穂乃果「それって、私たちに止めてほしいってことかな。」
希「それなら!やっぱり〇したらな。」
にこ「そうかも…知れないわね。」
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389: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:52:20.21 ID:uUBHX0NM
海未「待ってください。」
希ちゃん意見に待ったをかけたのは、またもや海未ちゃんだった。
海未「そうですね…怪異を倒すような人柱伝説は古今東西多く見られますが、フォーマットはほとんど同じなんですよね。」
にこ「急に何よ…」
海未「この災厄は人身御供がテーマとなっていると思われます。敵を知るには、まずこれについてまとめるべきでしょう。」
希「…確かにね。それこそ、八岐大蛇や、今昔物語の大猿退治なんて例もあるけど、流れが大体同じってこと?」
希ちゃん意見に待ったをかけたのは、またもや海未ちゃんだった。
海未「そうですね…怪異を倒すような人柱伝説は古今東西多く見られますが、フォーマットはほとんど同じなんですよね。」
にこ「急に何よ…」
海未「この災厄は人身御供がテーマとなっていると思われます。敵を知るには、まずこれについてまとめるべきでしょう。」
希「…確かにね。それこそ、八岐大蛇や、今昔物語の大猿退治なんて例もあるけど、流れが大体同じってこと?」
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390: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:53:12.72 ID:uUBHX0NM
海未「そうなんですよ。まず、人身御供となった哀れな少女がいました。このように怪物は定期的に人柱を要求します。これを、共同体の外部よりやってきた主人公が、怪物を倒すことで、人身御供は終わった。という流れになります。」
にこ「当然私たちは人柱だろうから、真姫を〇すしか、やっぱり助かる方法はないのかしら。」
希「そうやね。実際1日に、ウチらの中から1人ずつ〇され、柱に括り付けられてる。そしてそれを行なっているのは真姫ちゃんだった。」
私たちの結論は出揃った。
にこ「…ここまで根拠を出されると、どうしようもないわね。」
後は、私がそれを伝えに行って、行動するだけ。
…この胸のざわつきはなんだ。
にこ「当然私たちは人柱だろうから、真姫を〇すしか、やっぱり助かる方法はないのかしら。」
希「そうやね。実際1日に、ウチらの中から1人ずつ〇され、柱に括り付けられてる。そしてそれを行なっているのは真姫ちゃんだった。」
私たちの結論は出揃った。
にこ「…ここまで根拠を出されると、どうしようもないわね。」
後は、私がそれを伝えに行って、行動するだけ。
…この胸のざわつきはなんだ。
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391: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:53:38.98 ID:uUBHX0NM
でも、これを覆すのは、誰にもできないものだと思っていたが、やはり待ったをかけたのは、
海未「待ってください。昨日ことりが死んだことで、水、木、火を飛ばして土と来ました。次の犠牲は、おそらく私です。なので、私の首に免じて__
真姫を、許してやってほしいのです。」
何を…言ってるの。
穂乃果「海未ちゃん!?」
他の2人も焦ったように、机を叩いて叫ぶ。
にこ「あんた何言ってんの!?」
希「正気なん!?」
海未「待ってください。昨日ことりが死んだことで、水、木、火を飛ばして土と来ました。次の犠牲は、おそらく私です。なので、私の首に免じて__
真姫を、許してやってほしいのです。」
何を…言ってるの。
穂乃果「海未ちゃん!?」
他の2人も焦ったように、机を叩いて叫ぶ。
にこ「あんた何言ってんの!?」
希「正気なん!?」
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392: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:54:08.30 ID:uUBHX0NM
海未ちゃんは3人からの驚きの視線を受け止めた後、口を開いた。
海未「すみません…私の独りよがりな自己満かもしれません…ただ、真姫だってやりたくないはずです。ある意味、真姫も被害者なのかもしれません。」
希「だからって…!」
海未「私も…おかしいとは思います。みんなを、ことりを〇したことは本当に憎いです。」
希「なら!」
海未「どうも…このまま真姫を〇すんじゃ、解決しない気がする…そんなところですかね。」
気が、する…そんな、ことって。
穂乃果「嫌だよ!私、海未ちゃんもいなくなったら…私…!」
私は海未ちゃんの腕を抱えて懇願する。それに対して、海未ちゃんは暖かく笑って言う。
海未「すみません…私の独りよがりな自己満かもしれません…ただ、真姫だってやりたくないはずです。ある意味、真姫も被害者なのかもしれません。」
希「だからって…!」
海未「私も…おかしいとは思います。みんなを、ことりを〇したことは本当に憎いです。」
希「なら!」
海未「どうも…このまま真姫を〇すんじゃ、解決しない気がする…そんなところですかね。」
気が、する…そんな、ことって。
穂乃果「嫌だよ!私、海未ちゃんもいなくなったら…私…!」
私は海未ちゃんの腕を抱えて懇願する。それに対して、海未ちゃんは暖かく笑って言う。
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393: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:54:41.75 ID:uUBHX0NM
海未「大丈夫です。穂乃果、貴方は強い。私にさまざまな景色を見せてくれました。貴方は、私にとっての、英雄です。」
ことりちゃん、一昨日はこんな気持ちになったんだね。
見送る側はこんなにも…
穂乃果「うっ…海未ちゃぁぁん…!!」
にこ「…本当にいいの?」
海未「私が死んだ後のことは、あなたたちに任せます。ただ、今日1日だけは猶予としてほしい。」
希「そんなっ…!…いやはや、首をかけられるとはね。何も言い返せんわ…分かった。今日のところは海未ちゃんに賭けるよ。」
ことりちゃん、一昨日はこんな気持ちになったんだね。
見送る側はこんなにも…
穂乃果「うっ…海未ちゃぁぁん…!!」
にこ「…本当にいいの?」
海未「私が死んだ後のことは、あなたたちに任せます。ただ、今日1日だけは猶予としてほしい。」
希「そんなっ…!…いやはや、首をかけられるとはね。何も言い返せんわ…分かった。今日のところは海未ちゃんに賭けるよ。」
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394: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:55:09.30 ID:uUBHX0NM
今回は、海未ちゃんの覚悟が違うのということが伝わったみたいで、2人とも引き下がった。
まずい、まずいまずい…!!
穂乃果「ぐっ…」
このままじゃ海未ちゃんが…!
海未ちゃんの胸の中に飛び込み、抱きしめる。視覚、聴覚を削ぎ落とし、空っぽの頭をフル回転させて、なんとか打開する一手を探った。
私が人質になる…?いや、それだとダメなんだ。でも、他の人を危険に晒すわけにもいかない。
その時、暗闇の中、柔らかい手で、耳を塞がれたような感触を受ける。
まずい、まずいまずい…!!
穂乃果「ぐっ…」
このままじゃ海未ちゃんが…!
海未ちゃんの胸の中に飛び込み、抱きしめる。視覚、聴覚を削ぎ落とし、空っぽの頭をフル回転させて、なんとか打開する一手を探った。
私が人質になる…?いや、それだとダメなんだ。でも、他の人を危険に晒すわけにもいかない。
その時、暗闇の中、柔らかい手で、耳を塞がれたような感触を受ける。
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395: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:55:34.60 ID:uUBHX0NM
海未「穂乃果、私が逝く前に、これだけは約束して下さい。」
脳に海未ちゃんの声が響く。おでこを重ねているようだった。
穂乃果「…え?」
海未「絶対に、復讐心に囚われないで。穂乃果は、この物語を終わらせる鍵だと思ってます。」
穂乃果「…意味がわからないよ。」
視覚が回復して、海未ちゃんの顔を見ると、やはり暖かく笑って、
海未「直感ですからね。」
と言った。
脳に海未ちゃんの声が響く。おでこを重ねているようだった。
穂乃果「…え?」
海未「絶対に、復讐心に囚われないで。穂乃果は、この物語を終わらせる鍵だと思ってます。」
穂乃果「…意味がわからないよ。」
視覚が回復して、海未ちゃんの顔を見ると、やはり暖かく笑って、
海未「直感ですからね。」
と言った。
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396: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:56:53.08 ID:uUBHX0NM
私の負けだね。
にこ「…わかった。それなら今晩は盛大にいきましょ。腕によりをかけて作るわ。」
希「私も手伝うよ。」
にこ「…穂乃果は、海未といなさい。」
穂乃果「うん…ありがとう。」
気を利かせてくれたのか、そう言って2人はキッチンの方へ向かっていった。
…
にこ「…わかった。それなら今晩は盛大にいきましょ。腕によりをかけて作るわ。」
希「私も手伝うよ。」
にこ「…穂乃果は、海未といなさい。」
穂乃果「うん…ありがとう。」
気を利かせてくれたのか、そう言って2人はキッチンの方へ向かっていった。
…
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397: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:57:20.36 ID:uUBHX0NM
私は、海未ちゃんを連れて縁側へと向かった。
窓を開けると、夏の夕方の湿った風が入ってくる。霧が入ってくるが、部屋には障子があるので大丈夫だ。
今は、2人で外の風にあたりたかった。
穂乃果「1人になっちゃうよ。私。」
海未「穂乃果…」
穂乃果「ことりちゃんがいなくなって…海未ちゃんまでいなくなったら…一体誰が私を叱ってくるれの?」
海未「常に私が見ていると思って、背筋を正して下さい。」
穂乃果「ははっ、そりゃ心強いや。」
どこかで風鈴の音がする。
窓を開けると、夏の夕方の湿った風が入ってくる。霧が入ってくるが、部屋には障子があるので大丈夫だ。
今は、2人で外の風にあたりたかった。
穂乃果「1人になっちゃうよ。私。」
海未「穂乃果…」
穂乃果「ことりちゃんがいなくなって…海未ちゃんまでいなくなったら…一体誰が私を叱ってくるれの?」
海未「常に私が見ていると思って、背筋を正して下さい。」
穂乃果「ははっ、そりゃ心強いや。」
どこかで風鈴の音がする。
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398: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:57:54.38 ID:uUBHX0NM
穂乃果「海未ちゃんさっき言ってたけど、英雄って、なんなんだろうね。」
海未「英雄…ですか。それはやはり、強大な敵と勇敢に闘い、そして打ち倒す…そういうイメージですかね。」
穂乃果「それで…いいのかな。それで本当に、終わるのかな。」
ふと、不安が口をつく。
海未「穂乃果…」
穂乃果「…ごめんね、こんなこと聞いて。」
最期の時間だと言うのに…私はずっと海未ちゃんに甘えてばかりだ。
海未「いえ…ですが、勇敢に闘う、というところは、言わば過程です。そこは人によって、相手によってアレンジ可能なんじゃないでしょうか。結果、誰かを救うことになれば。」
海未「英雄…ですか。それはやはり、強大な敵と勇敢に闘い、そして打ち倒す…そういうイメージですかね。」
穂乃果「それで…いいのかな。それで本当に、終わるのかな。」
ふと、不安が口をつく。
海未「穂乃果…」
穂乃果「…ごめんね、こんなこと聞いて。」
最期の時間だと言うのに…私はずっと海未ちゃんに甘えてばかりだ。
海未「いえ…ですが、勇敢に闘う、というところは、言わば過程です。そこは人によって、相手によってアレンジ可能なんじゃないでしょうか。結果、誰かを救うことになれば。」
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399: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:58:32.76 ID:uUBHX0NM
穂乃果「過程…か。ふふっ、確かにそうだね。私、もう少し頑張ってみるよ。」
海未「楽しみにしてますよ。」
どこかで風の吹き抜ける音がする。
穂乃果「前にも…こんなことあったよね。ことりちゃんとさ。」
海未「そうでしたっけ?」
穂乃果「海未ちゃんの縁側で、3人でぼーっとして。風鈴も鳴ってたかな。」
海未「楽しみにしてますよ。」
どこかで風の吹き抜ける音がする。
穂乃果「前にも…こんなことあったよね。ことりちゃんとさ。」
海未「そうでしたっけ?」
穂乃果「海未ちゃんの縁側で、3人でぼーっとして。風鈴も鳴ってたかな。」
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400: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:59:01.92 ID:uUBHX0NM
海未「そんなこともありましたね。あれも確か今のような時期でしたよね。」
穂乃果「そう。気付いたら海未ちゃんの膝の上でさ。こうやって。」
海未「あっ穂乃果。」
穂乃果「久々だなぁ~。やっぱり安心するよ。なんか眠くなってきちゃういそう。」
海未「ご飯ができるまであと少しかかりそうですし、一休みして下さい。」
穂乃果「そうするよ~。」
穂乃果「そう。気付いたら海未ちゃんの膝の上でさ。こうやって。」
海未「あっ穂乃果。」
穂乃果「久々だなぁ~。やっぱり安心するよ。なんか眠くなってきちゃういそう。」
海未「ご飯ができるまであと少しかかりそうですし、一休みして下さい。」
穂乃果「そうするよ~。」
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401: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:59:27.27 ID:uUBHX0NM
…
……
………
チリーン…
ミーンミンミンミンミー…
穂乃果『暑いね~。』
海未『夏ですからね。』
ことり『次は何して遊ぶ?』
穂乃果『そうだなぁ、海未ちゃんの膝枕で寝る!』
ことり『あ~ずるい!私も!』
海未『ふ、2人とも…!仕方ないですね。』
穂乃果「ふふ~ん。』
チリーン…
…
……
………
……
………
チリーン…
ミーンミンミンミンミー…
穂乃果『暑いね~。』
海未『夏ですからね。』
ことり『次は何して遊ぶ?』
穂乃果『そうだなぁ、海未ちゃんの膝枕で寝る!』
ことり『あ~ずるい!私も!』
海未『ふ、2人とも…!仕方ないですね。』
穂乃果「ふふ~ん。』
チリーン…
…
……
………
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402: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 02:59:57.67 ID:uUBHX0NM
そんな、どこかで見た景色、記憶。
いや、夢か。
私はずっと、こうして生きていきたかった。
にこ「できたわよ。穂乃果、海未ってうわぁ!窓開けてんじゃない。」
海未「どうしても夜風に吹かれたくって…すみません。」
にこ「って咳き込んでるじゃない。ほら、穂乃果、起きなさい。」
海未「穂乃果、ご飯食べましょう。」
穂乃果「起きてるよ~….」
バレないように、涙を拭きつつ、私は立ち上がった。
…
いや、夢か。
私はずっと、こうして生きていきたかった。
にこ「できたわよ。穂乃果、海未ってうわぁ!窓開けてんじゃない。」
海未「どうしても夜風に吹かれたくって…すみません。」
にこ「って咳き込んでるじゃない。ほら、穂乃果、起きなさい。」
海未「穂乃果、ご飯食べましょう。」
穂乃果「起きてるよ~….」
バレないように、涙を拭きつつ、私は立ち上がった。
…
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403: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:00:30.74 ID:uUBHX0NM
希「それじゃ合掌しよか。」
「「「いただきます。」」」
食べながら、机を見渡し、
穂乃果「やっぱり、少なく感じるね…」
思ったことを口にする。
にこ「まぁ、ね。」
穂乃果「あ、ごめんね。」
「「「いただきます。」」」
食べながら、机を見渡し、
穂乃果「やっぱり、少なく感じるね…」
思ったことを口にする。
にこ「まぁ、ね。」
穂乃果「あ、ごめんね。」
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404: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:00:52.41 ID:uUBHX0NM
希「いや、そろそろウチらもな。考えんといけんかもね。」
海未「何をですか?」
希「みんなを忘れないための、方法を。」
穂乃果「よし、じゃあ、みんなに対して思ってること、特徴なんかを出していこうよ。」
それから、みんなのことを話した。
忘れないために、いや、思い出すために。
海未「何をですか?」
希「みんなを忘れないための、方法を。」
穂乃果「よし、じゃあ、みんなに対して思ってること、特徴なんかを出していこうよ。」
それから、みんなのことを話した。
忘れないために、いや、思い出すために。
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405: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:01:25.05 ID:uUBHX0NM
凛ちゃんがどれだけ、明るくて、みんなの気持ちを晴れやかにさせていたか。
絵里ちゃんがどれだけ、みんなのために考え動き、尽くしてくれていたか。
花陽ちゃんがどれだけ、アイドルのことが好きで、情熱を持っていたか。
ことりちゃんがどれだけ、可愛らしくて、衣装作りを楽しんでやっていたか。
海未ちゃんがどれだけ、頑張り屋さんで、みんなをまとめてくれていたか。
希ちゃんがどれだけ、一歩引いたところからみんなを見ていてくれたか。
にこちゃんがどれだけ、過去と決別するほどの勇気を持っていたか。
私がどれだけ、μ'sのことが大好きだったか。
そして、真姫ちゃんがどれだけ、天邪鬼で、素直じゃないけど、純粋な女の子だったか。
絵里ちゃんがどれだけ、みんなのために考え動き、尽くしてくれていたか。
花陽ちゃんがどれだけ、アイドルのことが好きで、情熱を持っていたか。
ことりちゃんがどれだけ、可愛らしくて、衣装作りを楽しんでやっていたか。
海未ちゃんがどれだけ、頑張り屋さんで、みんなをまとめてくれていたか。
希ちゃんがどれだけ、一歩引いたところからみんなを見ていてくれたか。
にこちゃんがどれだけ、過去と決別するほどの勇気を持っていたか。
私がどれだけ、μ'sのことが大好きだったか。
そして、真姫ちゃんがどれだけ、天邪鬼で、素直じゃないけど、純粋な女の子だったか。
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406: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:01:46.87 ID:uUBHX0NM
そして、未来の話を。
その間は全て忘れて、笑顔で、そして腹を割って語り合えた気がした。
…
希「…そろそろ行かなな。」
楽しい時間はすぐ終わる。
やれやれと言いながら、にこちゃんも続く。
私は海未ちゃんの手を取って、真姫ちゃんの部屋へと向かった。
…
その間は全て忘れて、笑顔で、そして腹を割って語り合えた気がした。
…
希「…そろそろ行かなな。」
楽しい時間はすぐ終わる。
やれやれと言いながら、にこちゃんも続く。
私は海未ちゃんの手を取って、真姫ちゃんの部屋へと向かった。
…
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407: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:02:17.25 ID:uUBHX0NM
さぁ…回答を真姫ちゃんに突きつける時だ。
4人並んで扉の前に立ち、私は右手を顔の高さまで上げた。
重力に従うまま、3回扉を叩くと、扉の中から声がする。
「えらく待たせてくれたじゃない。」
底冷えのする声。
本当に扉の向こうに、真姫ちゃんが立っているのだろうか。
海未ちゃんが背中に手をやってくれる。
私が怯えて…どうする。
穂乃果「…ごめんね。私、どうも期限をつけられると後回しにするたちで…」
「…まぁいいわ。それで、答えは?」
4人並んで扉の前に立ち、私は右手を顔の高さまで上げた。
重力に従うまま、3回扉を叩くと、扉の中から声がする。
「えらく待たせてくれたじゃない。」
底冷えのする声。
本当に扉の向こうに、真姫ちゃんが立っているのだろうか。
海未ちゃんが背中に手をやってくれる。
私が怯えて…どうする。
穂乃果「…ごめんね。私、どうも期限をつけられると後回しにするたちで…」
「…まぁいいわ。それで、答えは?」
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408: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:02:56.31 ID:uUBHX0NM
希ちゃんは、ニッと笑っており、にこちゃんは、真剣な表情で私を見つめ、ひとつ、頷いた。
海未ちゃんは__
背中の手が震えている。
それならば、
みんなで手を繋いで、乗り切るんだ。
あの時のように。
私は、海未ちゃんに笑顔を向ける。
返ってきた表情ははっきりと覚えていない。ただ、悲しみにも喜びにもとれるようなものだった。
海未ちゃんは__
背中の手が震えている。
それならば、
みんなで手を繋いで、乗り切るんだ。
あの時のように。
私は、海未ちゃんに笑顔を向ける。
返ってきた表情ははっきりと覚えていない。ただ、悲しみにも喜びにもとれるようなものだった。
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409: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:03:25.32 ID:uUBHX0NM
私は大きく息をつき、
穂乃果「…簡単だったよ。私、私たちは真姫ちゃんを。」
穂乃果「許すよ。」
と、ドアに手を当てて言った。
しばらく沈黙が流れる。
その間は、驚きか、それとも呆れか。
「アハハハハハはハハハは!!」
途端、機械じみた声が家中に響いた。
にこ「な、なに!?」
穂乃果「…簡単だったよ。私、私たちは真姫ちゃんを。」
穂乃果「許すよ。」
と、ドアに手を当てて言った。
しばらく沈黙が流れる。
その間は、驚きか、それとも呆れか。
「アハハハハハはハハハは!!」
途端、機械じみた声が家中に響いた。
にこ「な、なに!?」
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410: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:03:52.07 ID:uUBHX0NM
その時、
大きく空間が捻じ曲がるのを感じ、勢いよく片膝をつく。
希「嘘やろ!まだ日付は変わってないはずやん!」
消えゆく意識の中、扉が開くのが見えた。
私は海未ちゃんの手を探しながら意識を手放した。
…
……
………
大きく空間が捻じ曲がるのを感じ、勢いよく片膝をつく。
希「嘘やろ!まだ日付は変わってないはずやん!」
消えゆく意識の中、扉が開くのが見えた。
私は海未ちゃんの手を探しながら意識を手放した。
…
……
………
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411: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:04:18.72 ID:uUBHX0NM
穂乃果「はっ!!」
なんだ!?
私はさっき、真姫ちゃんに許すことを伝えて、それで、急に意識が飛んで…それで…
落ち着け。
まず見えるのは、ここが一面黒い世界だと言うこと。
〇風景な、色のない世界。
ここが床なのかさえ分からない。
立ってるのか、座っているのか分からない。まるで無重力の世界にいるようだった。
穂乃果「ここ…どこ?」
なんだ!?
私はさっき、真姫ちゃんに許すことを伝えて、それで、急に意識が飛んで…それで…
落ち着け。
まず見えるのは、ここが一面黒い世界だと言うこと。
〇風景な、色のない世界。
ここが床なのかさえ分からない。
立ってるのか、座っているのか分からない。まるで無重力の世界にいるようだった。
穂乃果「ここ…どこ?」
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412: 警備員[Lv.6(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/11(土) 03:05:24.76 ID:uUBHX0NM
聞こえるのは、
「初めまして、だね。」
穂乃果「うわぁ!!」
びっくりして飛び退き、声の主を見る。
穂乃果「まさか…貴女は…」
「私はサヨって言うの。よろしくね。」
ぴょんと跳ねる声の主は名をサヨと言った。
推定ではあるが、年齢は12、3のように見える。私より一回りほど小さい。
サヨ…さよ…小夜…あ。
穂乃果「貴女が…まさか。」
小夜「そう。私が、人柱として祀られてる張本人だよ。」
「初めまして、だね。」
穂乃果「うわぁ!!」
びっくりして飛び退き、声の主を見る。
穂乃果「まさか…貴女は…」
「私はサヨって言うの。よろしくね。」
ぴょんと跳ねる声の主は名をサヨと言った。
推定ではあるが、年齢は12、3のように見える。私より一回りほど小さい。
サヨ…さよ…小夜…あ。
穂乃果「貴女が…まさか。」
小夜「そう。私が、人柱として祀られてる張本人だよ。」
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416: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:41:53.11 ID:2WxlMqHI
いや、おかしい。
わざわざ会いに来るなんて…何を考えているんだ…?
小夜「…そんな怖い顔しないで。何もしない…というか、できないから。」
彼女の言い方に、少し引っかかる。
穂乃果「できない…?」
小夜「私はね。真姫にとりついているのは、もう1人の私かな。「私」から、憎悪だけが分裂した姿。あの子は、この世の全てを憎んでいる…あぁ、呆気に取られてるね。」
穂乃果「いや…そりゃあ。でも、なんで。」
小夜ちゃんはすぐさま返答しようとしたが、頭を少し振って、
わざわざ会いに来るなんて…何を考えているんだ…?
小夜「…そんな怖い顔しないで。何もしない…というか、できないから。」
彼女の言い方に、少し引っかかる。
穂乃果「できない…?」
小夜「私はね。真姫にとりついているのは、もう1人の私かな。「私」から、憎悪だけが分裂した姿。あの子は、この世の全てを憎んでいる…あぁ、呆気に取られてるね。」
穂乃果「いや…そりゃあ。でも、なんで。」
小夜ちゃんはすぐさま返答しようとしたが、頭を少し振って、
0
417: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:42:14.24 ID:2WxlMqHI
小夜「悪いけど、時間がない。彼女に取り憑いている私は、もう暴走を始めている。」
と答えた。
穂乃果「じゃあ、何でここに呼んだの?」
小夜「それは…聞きたいことがあって。」
穂乃果「…なに?」
小夜「なんで、あんなに仲間達のことを信じ続けていられるんだろうって。」
そんな、ことか。
これについて私は、カッコつけて言える立場じゃない。何度も心が折れかけたし、一度は真姫ちゃんを見〇しにしようとさえした。
と答えた。
穂乃果「じゃあ、何でここに呼んだの?」
小夜「それは…聞きたいことがあって。」
穂乃果「…なに?」
小夜「なんで、あんなに仲間達のことを信じ続けていられるんだろうって。」
そんな、ことか。
これについて私は、カッコつけて言える立場じゃない。何度も心が折れかけたし、一度は真姫ちゃんを見〇しにしようとさえした。
0
418: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:42:46.06 ID:2WxlMqHI
でも、でもね、心のどこかでは
穂乃果「私たちは一つだと信じていたから。」
真正面にそう言うと、小夜ちゃんはへたり込んで、
小夜「…はは。やっぱり羨ましいなぁ…私もそんな人達が…」
と力なく呟いた。
これが、私たちに災厄をもたらした敵の正体なのか。その背中は小さい。倒すどころか、途切れる寸前じゃないか。
穂乃果「私たちは一つだと信じていたから。」
真正面にそう言うと、小夜ちゃんはへたり込んで、
小夜「…はは。やっぱり羨ましいなぁ…私もそんな人達が…」
と力なく呟いた。
これが、私たちに災厄をもたらした敵の正体なのか。その背中は小さい。倒すどころか、途切れる寸前じゃないか。
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419: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:43:08.69 ID:2WxlMqHI
私の中にまた1つ、甘いと言われかねない感情が生まれた。目線を揃えて尋ねてみる。
穂乃果「小夜ちゃん、貴女の人生を教えて?」
小夜ちゃんは顔を上げる。
小夜「…え?でも時間が…」
穂乃果「いいの、私が聞きたいんだよ。」
私はどうしても、この子の力になりたくなっていた。
…
……
………
穂乃果「小夜ちゃん、貴女の人生を教えて?」
小夜ちゃんは顔を上げる。
小夜「…え?でも時間が…」
穂乃果「いいの、私が聞きたいんだよ。」
私はどうしても、この子の力になりたくなっていた。
…
……
………
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420: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:44:39.62 ID:2WxlMqHI
そ、そうだなぁ。どこからはなせばいいか…あ、そうだね、じゃぁ生い立ちから。
私の家、というか村全体だね。土地が痩せててあまり裕福じゃなかったから、質素な生活を送ってた。
冬なんてほんと、生きているのが不思議なくらいだった。
それでも、そんなに不満はなかったかな。これが普通だと思ってたし、家族との時間もそれなりにあったから。
でも、ある年にお米の収穫量が激減して…もともとギリギリのところだったのが、ついに備蓄も切れてしまったみたいで。
空腹って思ったよりも辛くてね、お腹が焼けるように痛いんだよ。そうなるともう人間は人間じゃなくなってしまう。
私の家、というか村全体だね。土地が痩せててあまり裕福じゃなかったから、質素な生活を送ってた。
冬なんてほんと、生きているのが不思議なくらいだった。
それでも、そんなに不満はなかったかな。これが普通だと思ってたし、家族との時間もそれなりにあったから。
でも、ある年にお米の収穫量が激減して…もともとギリギリのところだったのが、ついに備蓄も切れてしまったみたいで。
空腹って思ったよりも辛くてね、お腹が焼けるように痛いんだよ。そうなるともう人間は人間じゃなくなってしまう。
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421: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:45:05.46 ID:2WxlMqHI
近所で子供を〇してそれを食べて、またその犯人を〇して食べる…そんな地獄のような状態だった。
そんな時、親が言い争ってるのを見かけて、何だと思ったら、私に迎えが来たみたいで。
うん。そう。身売りだよ。あの時は辛かったなぁ…裏切られたって気分だった。
それからは労働をするために….言い換えると商品にするために、必要最低限の教育を受けた。勿論生やさしいものじゃなかったよ。分からなかっただけで暴力…暴力…あ、今は体罰って言うの?そう、それ。
何人か同世代がいたんだけど、あんな環境だから、みんな感情も無くなってしまってたよね。今思えば、それが1番の目的だったのかもね。
そんな時、親が言い争ってるのを見かけて、何だと思ったら、私に迎えが来たみたいで。
うん。そう。身売りだよ。あの時は辛かったなぁ…裏切られたって気分だった。
それからは労働をするために….言い換えると商品にするために、必要最低限の教育を受けた。勿論生やさしいものじゃなかったよ。分からなかっただけで暴力…暴力…あ、今は体罰って言うの?そう、それ。
何人か同世代がいたんだけど、あんな環境だから、みんな感情も無くなってしまってたよね。今思えば、それが1番の目的だったのかもね。
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422: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:46:13.75 ID:2WxlMqHI
…揺れてる。この世界も長く持たないよ。いいの?私から有用な情報を引き出すのは今しかないんだよ?こんなことに費やして…
…変なの。まぁいいけど。
それで、何ヶ月か経った時、私にお迎えが来た。流されるまま手を引かれてたどり着いた場所は、またもや質素な家で、男女1組が迎えてくれた。
この家が良くしてくれてね、今まで食べたことないようなものを食べさせてもらった。それが1ヶ月くらい続いた。
…幸せだった。衣食住足る生活もそうだけど、ようやく、信頼できる人が現れたんだ。そう思ってた。
でもね、違ったんだよ。それは、全部。
…
…変なの。まぁいいけど。
それで、何ヶ月か経った時、私にお迎えが来た。流されるまま手を引かれてたどり着いた場所は、またもや質素な家で、男女1組が迎えてくれた。
この家が良くしてくれてね、今まで食べたことないようなものを食べさせてもらった。それが1ヶ月くらい続いた。
…幸せだった。衣食住足る生活もそうだけど、ようやく、信頼できる人が現れたんだ。そう思ってた。
でもね、違ったんだよ。それは、全部。
…
0
423: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:46:42.94 ID:2WxlMqHI
うん。ありがとう。もう大丈夫。
人身御供ってね、言わば神様の供物。神様に気に入られなきゃ意味がない。だから、私にたらふく食べさせた。
雨の降るある日、私は突然外に連れ出された。昨日まで普通に喋ってた人たちも口を聞いてくれなかった。
向かう先は、荒れ狂う茶色の濁流。振り向く暇さえなく、私はそこに強制的に落とされて死んじゃったんだ。
でも、死んだ後も私は、なぜが現世にしがみついたままだった。
後から分かったことだけど、私は別に人身御供なんかじゃなくて…まぁ表向きはそうなんだけど。その時麓の農耕民と、山の製鉄民でいざこざがあったみたいでさ。その争いに利用されたみたいなんだよ。
人身御供ってね、言わば神様の供物。神様に気に入られなきゃ意味がない。だから、私にたらふく食べさせた。
雨の降るある日、私は突然外に連れ出された。昨日まで普通に喋ってた人たちも口を聞いてくれなかった。
向かう先は、荒れ狂う茶色の濁流。振り向く暇さえなく、私はそこに強制的に落とされて死んじゃったんだ。
でも、死んだ後も私は、なぜが現世にしがみついたままだった。
後から分かったことだけど、私は別に人身御供なんかじゃなくて…まぁ表向きはそうなんだけど。その時麓の農耕民と、山の製鉄民でいざこざがあったみたいでさ。その争いに利用されたみたいなんだよ。
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424: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:47:11.32 ID:2WxlMqHI
ほら、村の娘が1人洪水で死んじゃったぞ、どうしてくれる。ってね。
だから、普通人身御供の後建てられる碑、祠のようなものが建てられなかった。そのせいで私は現世、来世、どちらにも居場所がないまま、中途半端に漂ってたんだと思う。
せめて…供養はして欲しかったな。
洪水が、製鉄によって引き起こされた事を知った私は…西木野家を恨んだ。
うん。逆恨みだよね。今考えると。でも、ちゃんと人身御供に関わった人間も呪ったよ。
そんな中、ある人が私を見つけてくれた。うん。真姫ちゃんのお婆さんって言えば分かりやすいかな。
だから、普通人身御供の後建てられる碑、祠のようなものが建てられなかった。そのせいで私は現世、来世、どちらにも居場所がないまま、中途半端に漂ってたんだと思う。
せめて…供養はして欲しかったな。
洪水が、製鉄によって引き起こされた事を知った私は…西木野家を恨んだ。
うん。逆恨みだよね。今考えると。でも、ちゃんと人身御供に関わった人間も呪ったよ。
そんな中、ある人が私を見つけてくれた。うん。真姫ちゃんのお婆さんって言えば分かりやすいかな。
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425: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:47:39.22 ID:2WxlMqHI
あんな凄惨な状況の中、みんなを鼓舞し続けて…
その後、祠も建ててくれた。私たちの居場所を作ってくれた。今でも感謝してる。
でも…
うん。お盆にふらっと寄ってみると、祠は壊されていて…家には誰もいなかった。
私は、また裏切られた、また居場所がなくなったと思って、あの人を強く憎んだ。
やっぱり、人を信じなきゃ良かったって。
そんな中、やってきたのがあなたたち。私はそれを見て、ちょっぴり羨ましくなってしまった。
その後、祠も建ててくれた。私たちの居場所を作ってくれた。今でも感謝してる。
でも…
うん。お盆にふらっと寄ってみると、祠は壊されていて…家には誰もいなかった。
私は、また裏切られた、また居場所がなくなったと思って、あの人を強く憎んだ。
やっぱり、人を信じなきゃ良かったって。
そんな中、やってきたのがあなたたち。私はそれを見て、ちょっぴり羨ましくなってしまった。
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426: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:48:05.68 ID:2WxlMqHI
私はね、13の時に死んじゃったから…もうちょっと生きていればってね。羨ましいと同時に、妬ましくなった。良くないことだと思って、この気持ちを止めようとしたんだけど…この制止する気持ちと、向こうは純粋な恨み嫉みで、分裂しちゃったってっ。
ありがとう…でもね、私は抱きしめてもらえるような子じゃない。
そんなの関係ないって…500年…も年上なんだぞっ、私は…
おっと…そろそろ気付かれたか…もうこの世界も長く持たない…穂乃果、ありがとう、もう大丈夫だよ。
やっぱり、貴女で良かった。もう…未練はないかな。
ありがとう…でもね、私は抱きしめてもらえるような子じゃない。
そんなの関係ないって…500年…も年上なんだぞっ、私は…
おっと…そろそろ気付かれたか…もうこの世界も長く持たない…穂乃果、ありがとう、もう大丈夫だよ。
やっぱり、貴女で良かった。もう…未練はないかな。
0
427: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:48:26.62 ID:2WxlMqHI
穂乃果、私がここに呼んだ理由を教えるね。
私は、お婆さんに石のような物の中に封印されているんだ…どうにかそれを見つけ出して…
私を〇して__
…
……
………
私は、お婆さんに石のような物の中に封印されているんだ…どうにかそれを見つけ出して…
私を〇して__
…
……
………
0
428: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:49:02.64 ID:2WxlMqHI
真姫「ほんっとうに…くだらない。みんなを〇しておいて、それでいて許すだなんて。」
真姫は床を踏み鳴らし、悪態をつく。
転がる4人の前で。
真姫「あぁ、誰から〇そう。」
もうこの際、順番なんて関係なかった。私が作ったデタラメな順番だったから。
時間が稼げりゃ、なんでもいいのよ。
そう思ったものの、結局他の理由もないので、自らが決めた順番通り〇すことに決めた。
まずは、海未からだ。
真姫は転がる海未の上に跨り、凶器を取り出す。
真姫は床を踏み鳴らし、悪態をつく。
転がる4人の前で。
真姫「あぁ、誰から〇そう。」
もうこの際、順番なんて関係なかった。私が作ったデタラメな順番だったから。
時間が稼げりゃ、なんでもいいのよ。
そう思ったものの、結局他の理由もないので、自らが決めた順番通り〇すことに決めた。
まずは、海未からだ。
真姫は転がる海未の上に跨り、凶器を取り出す。
0
429: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:49:56.15 ID:2WxlMqHI
とうに覚悟はついていた。
それに、もう4人〇した。実践経験も積んだんだ。
包丁を、振り上げて、
海未「…ま、き…」
真姫「なっ…」
歪みが、広がっている。
これは、想定外だ。意味もわからず、ただ目を開き口を開け閉めすることしかできない。
次は意識のある時に、とでも言うのか。要求がエスカレートしている。
それに、もう4人〇した。実践経験も積んだんだ。
包丁を、振り上げて、
海未「…ま、き…」
真姫「なっ…」
歪みが、広がっている。
これは、想定外だ。意味もわからず、ただ目を開き口を開け閉めすることしかできない。
次は意識のある時に、とでも言うのか。要求がエスカレートしている。
0
430: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:50:23.23 ID:2WxlMqHI
真姫「まずい…」
その声は、果たして音になっていただろうか。
それを拾うものなど…
海未「真姫…事情は分かりませんが、それはまた聞きましょう。」
海未は意識がはっきりしてきたみたいで、クリアな発音になっていた。
真姫「ええ。向こうで教えるわね。」
海未「それに、今じゃ話せないでしょうし。」
真姫「…どこまで知ってるの?」
その声は、果たして音になっていただろうか。
それを拾うものなど…
海未「真姫…事情は分かりませんが、それはまた聞きましょう。」
海未は意識がはっきりしてきたみたいで、クリアな発音になっていた。
真姫「ええ。向こうで教えるわね。」
海未「それに、今じゃ話せないでしょうし。」
真姫「…どこまで知ってるの?」
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431: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:50:57.71 ID:2WxlMqHI
海未「さぁ、それは分かりません。ただ、私じゃ、解決できない。それだけは分かります。」
真姫「そう。」
振り上げたものを、海未の首元へと突き刺した。
ガァッっという声にならない音が鈍く響いた。
海未「ま、き…もっと左…」
っ…この!
2度目の刃の後、海未が喋ることはなかった。
真姫「そう。」
振り上げたものを、海未の首元へと突き刺した。
ガァッっという声にならない音が鈍く響いた。
海未「ま、き…もっと左…」
っ…この!
2度目の刃の後、海未が喋ることはなかった。
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432: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:52:05.65 ID:2WxlMqHI
真姫「ごめんなさい…」
これでまた、明日が来る。そう思って、一旦座ろうとしたところで、
希「あ、あれ?」
にこ「なによこれ…身体…動かないぃ。」
これでまた、明日が来る。そう思って、一旦座ろうとしたところで、
希「あ、あれ?」
にこ「なによこれ…身体…動かないぃ。」
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433: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:52:24.56 ID:2WxlMqHI
真姫「…嘘でしょ。」
呪われてるのか。
いや、呪われているんだ。
だからこそ、私が終わらせなきゃならない。
遅かれ早かれこうなることはわかっていた。
見られたからには、もう、止まれない。
…
呪われてるのか。
いや、呪われているんだ。
だからこそ、私が終わらせなきゃならない。
遅かれ早かれこうなることはわかっていた。
見られたからには、もう、止まれない。
…
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434: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 00:52:55.83 ID:2WxlMqHI
にこ「ぐっ…カハッ…まぎ…」
首にナイフが刺さってる状態で…よく…
真姫「…またね、すぐ会いに行くわ。」
短く別れを告げ、踵を返す。
もう柱に括るようなことはしない。あんなのは、軽い足止めのようなもの。もはや意味をなさないだろう。
真姫「もう、あと1人なのね。」
そう言って、
穂乃果がいないことに気付く。
真姫「ここで意識を失ってたはず…!」
そこで振り返った理由は、私にも分からない。
分かるのは、穂乃果に頬を殴られたこと。
同時に、胸が少しスッキリしたこと。
首にナイフが刺さってる状態で…よく…
真姫「…またね、すぐ会いに行くわ。」
短く別れを告げ、踵を返す。
もう柱に括るようなことはしない。あんなのは、軽い足止めのようなもの。もはや意味をなさないだろう。
真姫「もう、あと1人なのね。」
そう言って、
穂乃果がいないことに気付く。
真姫「ここで意識を失ってたはず…!」
そこで振り返った理由は、私にも分からない。
分かるのは、穂乃果に頬を殴られたこと。
同時に、胸が少しスッキリしたこと。
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435: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:02:36.68 ID:2WxlMqHI
…
……
………
薄暗い廊下に対峙する2人。
床には3人の亡骸が転がっており、返り血で壁が赤く染まっている。
酷い光景だ。
穂乃果「ごめんね…」
拳が痛む。生まれて初めて本気で人を殴った。
こんなにも痛むのか。
が、痛みなんてどうでも良かった。
……
………
薄暗い廊下に対峙する2人。
床には3人の亡骸が転がっており、返り血で壁が赤く染まっている。
酷い光景だ。
穂乃果「ごめんね…」
拳が痛む。生まれて初めて本気で人を殴った。
こんなにも痛むのか。
が、痛みなんてどうでも良かった。
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436: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:03:01.47 ID:2WxlMqHI
真姫「謝らないでいいわ。ほんと、貴女達、いくら引き裂こう仲間割れさせようとしても、全く意味がない。挙げ句の果てには〇人鬼の私を許すだなんて、どうかしてるんじゃないの?」
真姫ちゃんが口元を拭いながら言った。
穂乃果「当たり前のことだよ。真姫ちゃんだって、μ'sの仲間だから。」
真姫「相変わらず甘いわね。滅多刺しにしたのよ。貴女のその仲間を…ことりも。」
穂乃果「それは、真姫ちゃんの本心なの?」
真姫「…当たり前よ。」
穂乃果「そっか。それは許せないな。みんなに謝ってもらうよ。」
真姫ちゃんが口元を拭いながら言った。
穂乃果「当たり前のことだよ。真姫ちゃんだって、μ'sの仲間だから。」
真姫「相変わらず甘いわね。滅多刺しにしたのよ。貴女のその仲間を…ことりも。」
穂乃果「それは、真姫ちゃんの本心なの?」
真姫「…当たり前よ。」
穂乃果「そっか。それは許せないな。みんなに謝ってもらうよ。」
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437: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:03:49.18 ID:2WxlMqHI
真姫「だったら、」
穂乃果「そんなに死に急がないの…場所を移そう。ここじゃ少し気分が悪い。」
真姫「…いいわよ。じゃあ、仏間にでも行こうかしら。」
穂乃果「そうだね。」
…
真姫「穂乃果、これ使いなさい。」
仏間に降りて早々、真姫ちゃんがこちらに手を差し出してきた。
穂乃果「これ…」
渡されたのは、飾ってあった刀だった。
やっぱり真姫ちゃんは。
穂乃果「そんなに死に急がないの…場所を移そう。ここじゃ少し気分が悪い。」
真姫「…いいわよ。じゃあ、仏間にでも行こうかしら。」
穂乃果「そうだね。」
…
真姫「穂乃果、これ使いなさい。」
仏間に降りて早々、真姫ちゃんがこちらに手を差し出してきた。
穂乃果「これ…」
渡されたのは、飾ってあった刀だった。
やっぱり真姫ちゃんは。
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438: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:04:54.21 ID:2WxlMqHI
真姫「貴女とは、正々堂々と闘いたいと思ってたの。これで最後にしましょう。」
刀を抜きながら真姫ちゃんは言った。
それに応えるように私も鞘に手をかけた。
懐かしい…あの日のことを思い出す。
ある英雄譚の、最終章が始まる。
穂乃果「その前に、お酒なんてどう?」
切先から見える真姫ちゃんは、その問いかけに笑う。
真姫「卑怯な手ね。」
刹那__
真姫ちゃんは地面を蹴り、懐へ飛び込んできた。
刀を抜きながら真姫ちゃんは言った。
それに応えるように私も鞘に手をかけた。
懐かしい…あの日のことを思い出す。
ある英雄譚の、最終章が始まる。
穂乃果「その前に、お酒なんてどう?」
切先から見える真姫ちゃんは、その問いかけに笑う。
真姫「卑怯な手ね。」
刹那__
真姫ちゃんは地面を蹴り、懐へ飛び込んできた。
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439: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:30:34.48 ID:2WxlMqHI
穂乃果「っく…!」
胴を薙ぎ払おうとするのを全力で回避する。
この速さ…本気で〇しに来てる…!
こんな狭いところで…正気!?
後ろへステップしたのを見て、真姫ちゃんはさらに踏み込んでくる。
次は…面か!
刀を…よく見ろ…!
穂乃果「ふっ…ぐ。」
これもギリギリで躱し、空いた胴に脚蹴りをくらわせた。
胴を薙ぎ払おうとするのを全力で回避する。
この速さ…本気で〇しに来てる…!
こんな狭いところで…正気!?
後ろへステップしたのを見て、真姫ちゃんはさらに踏み込んでくる。
次は…面か!
刀を…よく見ろ…!
穂乃果「ふっ…ぐ。」
これもギリギリで躱し、空いた胴に脚蹴りをくらわせた。
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440: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:31:06.46 ID:2WxlMqHI
真姫ちゃんは少しよろける。
今だ…
私は外に出て、庭の方へ駆け上った。
…
穂乃果「…」
霧が満ちる庭に足を運ぶ。
相変わらず、見通しが悪い。
その霧の先から、
真姫「いつまでも逃げてばっかり…」
真姫ちゃんがお世辞にもアイドルらしい顔とは言えない表情で、姿を現した。
今だ…
私は外に出て、庭の方へ駆け上った。
…
穂乃果「…」
霧が満ちる庭に足を運ぶ。
相変わらず、見通しが悪い。
その霧の先から、
真姫「いつまでも逃げてばっかり…」
真姫ちゃんがお世辞にもアイドルらしい顔とは言えない表情で、姿を現した。
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441: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:31:30.09 ID:2WxlMqHI
穂乃果「驚いたよ。あなたがこんなに動けるだなんて。」
真姫「そりゃどうも。」
穂乃果「…でも海未ちゃんより弱いね、あなた。」
真姫「言ってなさい。」
短く言って再び真姫ちゃんは地面を蹴る。
こんな時、海未ちゃんなら、
真姫「そりゃどうも。」
穂乃果「…でも海未ちゃんより弱いね、あなた。」
真姫「言ってなさい。」
短く言って再び真姫ちゃんは地面を蹴る。
こんな時、海未ちゃんなら、
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442: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:32:01.49 ID:2WxlMqHI
…
穂乃果『あぁっ!いった~い!』
ことり『大丈夫!?』
海未『穂乃果!まだです!まだ引きつけてください。』
穂乃果『無理だよ!怖いもん!』
海未『言ってる場合ですか!ここは戦場ですよ。』
ことり『海未ちゃん家の庭だよ…』
穂乃果『平和そのものじゃん!』
海未『…格上の相手なら、自分から動くのは危険です。相手が豪で来るなら柔で。隙を見つけたら全力で打つ。これを徹底して下さい。いつか、役に立つ日が来ます。』
穂乃果『よく分かんないけど…よし、もう一本!』
…
穂乃果『あぁっ!いった~い!』
ことり『大丈夫!?』
海未『穂乃果!まだです!まだ引きつけてください。』
穂乃果『無理だよ!怖いもん!』
海未『言ってる場合ですか!ここは戦場ですよ。』
ことり『海未ちゃん家の庭だよ…』
穂乃果『平和そのものじゃん!』
海未『…格上の相手なら、自分から動くのは危険です。相手が豪で来るなら柔で。隙を見つけたら全力で打つ。これを徹底して下さい。いつか、役に立つ日が来ます。』
穂乃果『よく分かんないけど…よし、もう一本!』
…
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443: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:56:30.34 ID:2WxlMqHI
…こんな遠い昔の記憶が役に立つなんて。
真姫ちゃんの全てを見ろ。
剣先、呼吸、目線。
次は面だ、軌道から体をずらす。
次は胴。
次は、
次は…
私は真姫ちゃんの猛攻を、ギリギリで交わすことを終始徹底している。
真姫ちゃんの全てを見ろ。
剣先、呼吸、目線。
次は面だ、軌道から体をずらす。
次は胴。
次は、
次は…
私は真姫ちゃんの猛攻を、ギリギリで交わすことを終始徹底している。
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444: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:56:56.80 ID:2WxlMqHI
闇の中から、霧を裂いて刃が振り下ろされる。
私は右足を出して半身になる。
そこは刃の通り道じゃない。
真姫「…このっ!」
決めきれない苛立ちからか、次第に焦りの色が見える。
…そろそろか。
私はバックステップを取り、霧の中でギリギリ相手が見える位置に陣取る。
左肩を前に半身になり、少し、前傾姿勢をとって、右手の刀はなやしておく。
私は右足を出して半身になる。
そこは刃の通り道じゃない。
真姫「…このっ!」
決めきれない苛立ちからか、次第に焦りの色が見える。
…そろそろか。
私はバックステップを取り、霧の中でギリギリ相手が見える位置に陣取る。
左肩を前に半身になり、少し、前傾姿勢をとって、右手の刀はなやしておく。
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445: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:57:22.08 ID:2WxlMqHI
こうすれば真姫ちゃんはまず、霧の中から無防備な私の頭が見えるだろう。
想定通り、剣先が私の頭目掛けて振り下ろされてくる。
穂乃果「今だ。」
右手に力を込め、ムチのように相手の刀を薙ぎ払う。
ここからは流れを切らすな。
一気に相手の右脇に肩を寄せ、左手で服を掴む。右手の刀は首に当てる。
真姫ちゃんは一瞬ひきつった顔を見せたが、すぐに目を閉じた。
まだだ。
想定通り、剣先が私の頭目掛けて振り下ろされてくる。
穂乃果「今だ。」
右手に力を込め、ムチのように相手の刀を薙ぎ払う。
ここからは流れを切らすな。
一気に相手の右脇に肩を寄せ、左手で服を掴む。右手の刀は首に当てる。
真姫ちゃんは一瞬ひきつった顔を見せたが、すぐに目を閉じた。
まだだ。
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446: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:57:46.26 ID:2WxlMqHI
掴んだ服を引っ張り、右手で左肩を押す。
上半身に回転の力を加えたところで、最後は左足で膝カックン。
倒れる真姫ちゃんの右手を蹴り飛ばし、刀を放棄させる。
馬乗りとなって、今度こそ首に刀を押し付ける。
勝負はその数秒にて、呆気なく終わった。
枯葉の舞い上がる音が聞こえる。
真姫「負けたわ。ひと思いに斬って、痛くしないで…って、わがままね。穂乃果、あとは任せたわ。」
真姫ちゃんが諦めたように目を閉じながら言う。
上半身に回転の力を加えたところで、最後は左足で膝カックン。
倒れる真姫ちゃんの右手を蹴り飛ばし、刀を放棄させる。
馬乗りとなって、今度こそ首に刀を押し付ける。
勝負はその数秒にて、呆気なく終わった。
枯葉の舞い上がる音が聞こえる。
真姫「負けたわ。ひと思いに斬って、痛くしないで…って、わがままね。穂乃果、あとは任せたわ。」
真姫ちゃんが諦めたように目を閉じながら言う。
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447: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:58:38.28 ID:2WxlMqHI
穂乃果「やっぱり真姫ちゃん、こうなることを望んでたんだね…」
真姫「…なんのこと?」
穂乃果「これは独り言。黙って聞いて。真姫ちゃんは、小夜ちゃんを道連れにしようとしてるでしょ。」
私が小夜という名前を出すと、真姫ちゃんは大きく目を開けた。驚きを隠せない様子だ。
穂乃果「私はずっと、私たちが生贄になってると思ってた。」
真姫「今更何よ。いいから、早く〇しなさい。」
真姫「…なんのこと?」
穂乃果「これは独り言。黙って聞いて。真姫ちゃんは、小夜ちゃんを道連れにしようとしてるでしょ。」
私が小夜という名前を出すと、真姫ちゃんは大きく目を開けた。驚きを隠せない様子だ。
穂乃果「私はずっと、私たちが生贄になってると思ってた。」
真姫「今更何よ。いいから、早く〇しなさい。」
0
448: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 01:59:58.75 ID:2WxlMqHI
穂乃果「違ったんだ。真姫ちゃんだったんだ、生贄は。」
真姫「なにを、」
甘い考え…いや、これは違う。私の、当初の目的と合致しているんだ。
穂乃果「真姫ちゃん、助けに来たよ。」
ようやく、目が合ったね。
…
真姫「なにを、」
甘い考え…いや、これは違う。私の、当初の目的と合致しているんだ。
穂乃果「真姫ちゃん、助けに来たよ。」
ようやく、目が合ったね。
…
0
449: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 02:00:20.98 ID:2WxlMqHI
今回はここまでです。
0
450: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:16:51.87 ID:2WxlMqHI
穂乃果「私ね、会って来たの。小夜ちゃんから全て聞いたの。」
真姫「…まさか、だってあの子は。」
穂乃果「悪いけど時間がないんだ。真姫ちゃんという依代をなくした彼女は、何をしでかすか分からない。私は彼女を__」
「いい友情を見せてもらったよ。」
後ろから声と柏手が聞こえ、振り向く。
立っていたのは、小夜ちゃんだった。
穂乃果「…」
いや、違う。
これは、
取り憑いていたんじゃないのかと思い、真姫ちゃんを見ると、固まったまま動かない。
真姫「…まさか、だってあの子は。」
穂乃果「悪いけど時間がないんだ。真姫ちゃんという依代をなくした彼女は、何をしでかすか分からない。私は彼女を__」
「いい友情を見せてもらったよ。」
後ろから声と柏手が聞こえ、振り向く。
立っていたのは、小夜ちゃんだった。
穂乃果「…」
いや、違う。
これは、
取り憑いていたんじゃないのかと思い、真姫ちゃんを見ると、固まったまま動かない。
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451: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:17:17.12 ID:2WxlMqHI
用済みと判断されたのか。
これが、もう1人の小夜ちゃんなんだね。
穂乃果「初めましてかな。こちらとは。」
小夜「やっぱりあいつ、なにか吹き込んだのか?」
底冷えのする声。腹を貫かれるようだ。
あの時…扉の中から聞こえたものだ。真姫ちゃんだと思っていた。
穂乃果「どうかな。」
どこまでハッタリが効くか分からないが、そう虚勢をはってみせた。
小夜「…っはは。私はね、感動しているんだよ。仲間が〇されているにも関わらず、許す選択をした。」
これが、もう1人の小夜ちゃんなんだね。
穂乃果「初めましてかな。こちらとは。」
小夜「やっぱりあいつ、なにか吹き込んだのか?」
底冷えのする声。腹を貫かれるようだ。
あの時…扉の中から聞こえたものだ。真姫ちゃんだと思っていた。
穂乃果「どうかな。」
どこまでハッタリが効くか分からないが、そう虚勢をはってみせた。
小夜「…っはは。私はね、感動しているんだよ。仲間が〇されているにも関わらず、許す選択をした。」
0
452: 警備員[Lv.7(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:17:38.44 ID:2WxlMqHI
ケラケラと笑いながら言う。
穂乃果「あなたが、真姫ちゃんに全て指示してたんだよね。」
小夜「いや、全てではない。注連縄で囲ったり、〇す順番を決めたり、あれらは奴が決めていた。おおかた、これで時間を稼ぐ気だったんだろうな。」
やっぱり、デザインは真姫ちゃんのものだったんだ…
…時間を…稼ぐ?
穂乃果「時間を…?」
穂乃果「あなたが、真姫ちゃんに全て指示してたんだよね。」
小夜「いや、全てではない。注連縄で囲ったり、〇す順番を決めたり、あれらは奴が決めていた。おおかた、これで時間を稼ぐ気だったんだろうな。」
やっぱり、デザインは真姫ちゃんのものだったんだ…
…時間を…稼ぐ?
穂乃果「時間を…?」
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453: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:25:42.15 ID:2WxlMqHI
小夜「貴様らに真相を突き止めさせる、な。そして、我の味方だと騙し、完全に乗り移させ、自分もろとも貴様に〇させる気だったんだろう…そんなこと、我が気付かないわけないことも知らずにな。」
穂乃果「じゃあ貴女は、真姫ちゃんの策略に乗ったふりをして…?」
小夜「そういうことだ。全く意味のないことをしおって。そもそも、そんなことでは死なんというのに。」
そうしてまたケラケラと笑う。
小夜「しかしだな、そのおかげで今回は楽しめたぞ。いつも、何回やっても…呆気なく終わってたからな。そこで、取引をしないか?」
穂乃果「取引…?」
完全にペースを握られている。と言うより、話の腰を折るのは危険だと、全身が理解しているんだ。
穂乃果「じゃあ貴女は、真姫ちゃんの策略に乗ったふりをして…?」
小夜「そういうことだ。全く意味のないことをしおって。そもそも、そんなことでは死なんというのに。」
そうしてまたケラケラと笑う。
小夜「しかしだな、そのおかげで今回は楽しめたぞ。いつも、何回やっても…呆気なく終わってたからな。そこで、取引をしないか?」
穂乃果「取引…?」
完全にペースを握られている。と言うより、話の腰を折るのは危険だと、全身が理解しているんだ。
0
454: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:26:05.33 ID:2WxlMqHI
小夜「その娘を〇せ。さすれば、お前の命だけは助けてやる。奴がどこまで話したかわからんが、そこの娘とは因縁がある。」
穂乃果「そんなデタラメ!」
小夜「デタラメじゃない。この世界を作ったのは私だ。元の世界に連れて帰ることを約束しよう。一人ぼっちと感じるのは嫌だろう。辛い記憶も消してやるぞ。」
これは…どうなの?嘘を言っているようには見えないけど…
小夜「まだ信じないようだな。…こっちの世界というのは面倒なもんでな、出された贄に値する対価を出さないと後々面倒なんだ。」
穂乃果「ほんとにできるの…?」
小夜「できる。」
穂乃果「そんなデタラメ!」
小夜「デタラメじゃない。この世界を作ったのは私だ。元の世界に連れて帰ることを約束しよう。一人ぼっちと感じるのは嫌だろう。辛い記憶も消してやるぞ。」
これは…どうなの?嘘を言っているようには見えないけど…
小夜「まだ信じないようだな。…こっちの世界というのは面倒なもんでな、出された贄に値する対価を出さないと後々面倒なんだ。」
穂乃果「ほんとにできるの…?」
小夜「できる。」
0
455: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:32:23.01 ID:2WxlMqHI
もしかしたら、これが最後のチャンスなのかも知れない。元の世界でやり残したこと…沢山ある…それに、雪穂、お父さんお母さん。みんなにまた、会えるなら。
真姫ちゃんを見下ろす。
腕にほんのちょっとだけ力を込めれば…元の世界に帰れる。
この、腕に、
ほんの、ちょっとだけの。
…できるわけがない。
μ'sの皆を連れて帰る。
それが私の信念だ。ここを曲げるわけにはいかない。
真姫ちゃんを見下ろす。
腕にほんのちょっとだけ力を込めれば…元の世界に帰れる。
この、腕に、
ほんの、ちょっとだけの。
…できるわけがない。
μ'sの皆を連れて帰る。
それが私の信念だ。ここを曲げるわけにはいかない。
0
456: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:32:39.51 ID:2WxlMqHI
外部からはたかが数ヶ月の関係に見えるだろう。しかし、そんなことは関係ない。
私の、責任を放棄するわけにはいかないんだ。
穂乃果「…今までずっと見てたんでしょ?なら答えなんて、いくらあなたでもわかるでしょ。」
小夜「ハハハハハ!!こりゃあいい!ますます奪いたくなったぞ小娘ぇぇ!!」
穂乃果「くっ…!」
ものすごい勢いで小夜ちゃんが襲いかかってくる。まずい、この体勢だと避けれない…!
私は瞼を閉じて身を固めることしかできなかった。
鈍い音と、液体の垂れる音が霧に反響する。
私の、責任を放棄するわけにはいかないんだ。
穂乃果「…今までずっと見てたんでしょ?なら答えなんて、いくらあなたでもわかるでしょ。」
小夜「ハハハハハ!!こりゃあいい!ますます奪いたくなったぞ小娘ぇぇ!!」
穂乃果「くっ…!」
ものすごい勢いで小夜ちゃんが襲いかかってくる。まずい、この体勢だと避けれない…!
私は瞼を閉じて身を固めることしかできなかった。
鈍い音と、液体の垂れる音が霧に反響する。
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457: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:33:03.18 ID:2WxlMqHI
穂乃果「……え?」
ものすごい勢いで小夜ちゃんが飛んできて…それで、衝撃で飛んでいったはずなのに。
穂乃果「痛く…ない…?」
恐る恐る目を開くと、視野全体に、血の花が咲いていた。
目の前には、お腹を手で貫かれた真姫ちゃんがいた。
小夜「こやつ、あの体勢から突き飛ばして身代わりに…」
真姫「いっ…て…」
穂乃果「真姫ちゃん…!大丈夫!?」
ものすごい勢いで小夜ちゃんが飛んできて…それで、衝撃で飛んでいったはずなのに。
穂乃果「痛く…ない…?」
恐る恐る目を開くと、視野全体に、血の花が咲いていた。
目の前には、お腹を手で貫かれた真姫ちゃんがいた。
小夜「こやつ、あの体勢から突き飛ばして身代わりに…」
真姫「いっ…て…」
穂乃果「真姫ちゃん…!大丈夫!?」
0
458: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:54:59.79 ID:2WxlMqHI
真姫ちゃんは小夜ちゃんにまとわりつくようにして振り返り、叫ぶ。
真姫「行って!!!」
有無を言わさぬ視線。私は慌てて立ち上がり、急ぎ走る。
何かの叫び声が聞こえたが、もはや振り返る隙も余裕もない。
真姫ちゃんが作り出したこの時間を、無駄にしちゃだめなんだ!
穂乃果「どこかに石が…石があるはずなんだ。」
仏壇の中か!?
いや、私たちはあそこで真剣に戦おうとしていた。あの子がそんな危ないことを許すとは思えない。
真姫「行って!!!」
有無を言わさぬ視線。私は慌てて立ち上がり、急ぎ走る。
何かの叫び声が聞こえたが、もはや振り返る隙も余裕もない。
真姫ちゃんが作り出したこの時間を、無駄にしちゃだめなんだ!
穂乃果「どこかに石が…石があるはずなんだ。」
仏壇の中か!?
いや、私たちはあそこで真剣に戦おうとしていた。あの子がそんな危ないことを許すとは思えない。
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459: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:55:22.09 ID:2WxlMqHI
くそッ、こんな時に…
…
真姫『まぁ、拝むのはここだけじゃなかったし、あの建物の方にも土下座してたもの。』
…
指差していた方向は確か…あそこか。あの階段の先…
あそこにいるんだね。小夜ちゃん。
私は地を蹴り上げ、たたら場の方へ急ぐ。
真姫ちゃんは、大丈夫だろうか。
さっきまで聞こえていた声が、全く聞こえなくなっている。
…
真姫『まぁ、拝むのはここだけじゃなかったし、あの建物の方にも土下座してたもの。』
…
指差していた方向は確か…あそこか。あの階段の先…
あそこにいるんだね。小夜ちゃん。
私は地を蹴り上げ、たたら場の方へ急ぐ。
真姫ちゃんは、大丈夫だろうか。
さっきまで聞こえていた声が、全く聞こえなくなっている。
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460: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:55:41.67 ID:2WxlMqHI
後ろ髪を引かれる思いだが、振り向けない。
今は急ぐしかないんだ。
私はたたら場をすり抜け、裏手の山を駆け上り、蛇行する山道に敷かれた、丸太の足場を蹴った。
何度か落ち葉に滑って転げ回りながら、進み、その先に苔むした石の鳥居が見えた。
穂乃果「間違いない。この景色さっきの…」
暴れる息遣いを無理やり押し込みながら、鳥居をくぐる。階段を危なっかしく登り、社の元へ走る。
私は社の扉を開け、御神体を__
今は急ぐしかないんだ。
私はたたら場をすり抜け、裏手の山を駆け上り、蛇行する山道に敷かれた、丸太の足場を蹴った。
何度か落ち葉に滑って転げ回りながら、進み、その先に苔むした石の鳥居が見えた。
穂乃果「間違いない。この景色さっきの…」
暴れる息遣いを無理やり押し込みながら、鳥居をくぐる。階段を危なっかしく登り、社の元へ走る。
私は社の扉を開け、御神体を__
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461: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:56:03.70 ID:2WxlMqHI
…どこからか落ち葉の砕ける音が。
穂乃果「…っく。」
なにかが、私の胸を貫いた。
片目を開けると、細長いものが見える。
刀…?
小夜「気付いてるのか?」
穂乃果「く…そ。」
刀から滴り落ちる自分の血を見て、真姫ちゃんがもういないこと、私は負けたことを悟る。
小夜「あの屋敷に火を放った。もうじきこの世界も消す。興醒めだ。」
言いながら、さらに奥へと刀を押し込まれる。
穂乃果「…っく。」
なにかが、私の胸を貫いた。
片目を開けると、細長いものが見える。
刀…?
小夜「気付いてるのか?」
穂乃果「く…そ。」
刀から滴り落ちる自分の血を見て、真姫ちゃんがもういないこと、私は負けたことを悟る。
小夜「あの屋敷に火を放った。もうじきこの世界も消す。興醒めだ。」
言いながら、さらに奥へと刀を押し込まれる。
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462: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 17:56:23.66 ID:2WxlMqHI
穂乃果「ぁあぁ…!!」
やがて刀は抜かれ、私の胸から泡が弾ける。
下の方から炎が爆ぜる音がする。
穂乃果「こんなところ…で…おわり…」
ダメだ。もう意識が飛んでいく…
私は目を瞑り、意識を手放そうとする。
が、瞼の裏には一つの景色が浮かび上がってきた。
走馬灯か?思い出すのは。
やがて刀は抜かれ、私の胸から泡が弾ける。
下の方から炎が爆ぜる音がする。
穂乃果「こんなところ…で…おわり…」
ダメだ。もう意識が飛んでいく…
私は目を瞑り、意識を手放そうとする。
が、瞼の裏には一つの景色が浮かび上がってきた。
走馬灯か?思い出すのは。
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463: 警備員[Lv.2(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 18:25:58.98 ID:2WxlMqHI
…
絵里『変わることを恐れないで突き進む勇気。私はあの時、あなたの手に救われた。』
ことり『私、自分の気持ち分かってたのに…』
海未『その代わりに連れて行って下さい、私たちの知らない世界へ。』
μ'sのリーダー…いや、高坂穂乃果を信じてくれていたみんなの声と、
花陽『穂乃果ちゃん達が見つけ出してくれた。ありがとうね。』
真姫『穂乃果、あとは任せたわ。』
この災厄に巻き込まれても尚、私を頼りにしてくれた声。
絵里『変わることを恐れないで突き進む勇気。私はあの時、あなたの手に救われた。』
ことり『私、自分の気持ち分かってたのに…』
海未『その代わりに連れて行って下さい、私たちの知らない世界へ。』
μ'sのリーダー…いや、高坂穂乃果を信じてくれていたみんなの声と、
花陽『穂乃果ちゃん達が見つけ出してくれた。ありがとうね。』
真姫『穂乃果、あとは任せたわ。』
この災厄に巻き込まれても尚、私を頼りにしてくれた声。
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464: 警備員[Lv.2(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 18:26:23.17 ID:2WxlMqHI
凛『最近はだんだん近づいてきてくれるようになって。嬉しいんだ。』
希『みんながウチを覚えてる間は、みんなの中でウチは生きてる。』
にこ『後ろから聞こえるの、真姫のうなさてる声が。なんだか哀しくなったのよ。』
誰かのためにと、お互いが想い合う声。
小夜『私を、〇して。』
そして…
…
思い出したよ、みんなの声。
希『みんながウチを覚えてる間は、みんなの中でウチは生きてる。』
にこ『後ろから聞こえるの、真姫のうなさてる声が。なんだか哀しくなったのよ。』
誰かのためにと、お互いが想い合う声。
小夜『私を、〇して。』
そして…
…
思い出したよ、みんなの声。
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465: 警備員[Lv.2(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 18:26:44.57 ID:2WxlMqHI
不甲斐ない私を支えてくれる、心地よい声。今私が息絶えると、この声を裏切ることになってしまう。
それだけは、嫌だ。
もう一人の命じゃない…か。その通りだよにこちゃん。
胸を貫かれたからなんだっていうんだ。絶対に諦めてない…!
穂乃果「うぉおおおぉ…!!」
小夜「なんだと…!」
この焦りよう、やはりここに秘密があると見ていい。振り上げた腕を下ろすだけだ!
それだけは、嫌だ。
もう一人の命じゃない…か。その通りだよにこちゃん。
胸を貫かれたからなんだっていうんだ。絶対に諦めてない…!
穂乃果「うぉおおおぉ…!!」
小夜「なんだと…!」
この焦りよう、やはりここに秘密があると見ていい。振り上げた腕を下ろすだけだ!
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467: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 18:58:22.21 ID:2WxlMqHI
穂乃果「あっ!」
右手を切られた…!?
ならば左手で!
吹き飛ぶ右手をギリギリでキャッチし、刀を持ちかえる。
アドレナリンが出ているのか、痛くも痒くもない。
さすがにこの事態は予想してなかったのだろう。次の攻撃は来ない。
小夜ちゃん、御免…!
…
右手を切られた…!?
ならば左手で!
吹き飛ぶ右手をギリギリでキャッチし、刀を持ちかえる。
アドレナリンが出ているのか、痛くも痒くもない。
さすがにこの事態は予想してなかったのだろう。次の攻撃は来ない。
小夜ちゃん、御免…!
…
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468: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 18:58:42.58 ID:2WxlMqHI
甲高い音が響いた。
何かに…当たった…石か…?
硬い手ごたえがしたと思えば、辺りは白の世界に染まっていた。
…
やけに高い音。耳がキンキンして何も聞こえない。
次第に音がクリアになっていく。聞こえるのは、
ばちばちと音を立てて炎が上がる音と、
悲鳴だ。
何かに…当たった…石か…?
硬い手ごたえがしたと思えば、辺りは白の世界に染まっていた。
…
やけに高い音。耳がキンキンして何も聞こえない。
次第に音がクリアになっていく。聞こえるのは、
ばちばちと音を立てて炎が上がる音と、
悲鳴だ。
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469: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 18:59:03.90 ID:2WxlMqHI
小夜「くそっ!こんなことで!人間なんて!」
悲しい悲鳴だった。
だんだんと小夜ちゃんの身体が崩壊していっている。
その姿は、先ほどの厳かな雰囲気がするりと抜けていた。年端もいかない、ごく普通の少女だ。
普通の境遇であれば、友達と野原を駆け回っているような…
成功したのか。
私の足元には、真っ二つになった黒い、石が落ちていた。
私はそれを拾い上げ、小夜ちゃんの方へ歩く。
悲しい悲鳴だった。
だんだんと小夜ちゃんの身体が崩壊していっている。
その姿は、先ほどの厳かな雰囲気がするりと抜けていた。年端もいかない、ごく普通の少女だ。
普通の境遇であれば、友達と野原を駆け回っているような…
成功したのか。
私の足元には、真っ二つになった黒い、石が落ちていた。
私はそれを拾い上げ、小夜ちゃんの方へ歩く。
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470: 警備員[Lv.2(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 18:59:26.78 ID:2WxlMqHI
小夜「くそッこんなことなら、辛い目に遭うなら…産まれてこな__」
穂乃果「そんなこと言わないで。」
私は右手で小夜ちゃんの口を押さえる。
そんなこと…言っちゃダメだ。
小夜「お前に何が…」
穂乃果「その境遇に関しては私から何も言えない。壮絶で…凄惨な、私の人生経験じゃとても慰めの言葉なんて言えない。」
穂乃果「…でもね、産まれてこなければ、色々な人に会えなかった…そう考えたら、真姫ちゃんのお婆さんにだって。」
小夜「…うるさい!」
穂乃果「そんなこと言わないで。」
私は右手で小夜ちゃんの口を押さえる。
そんなこと…言っちゃダメだ。
小夜「お前に何が…」
穂乃果「その境遇に関しては私から何も言えない。壮絶で…凄惨な、私の人生経験じゃとても慰めの言葉なんて言えない。」
穂乃果「…でもね、産まれてこなければ、色々な人に会えなかった…そう考えたら、真姫ちゃんのお婆さんにだって。」
小夜「…うるさい!」
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471: 警備員[Lv.2(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 19:32:09.79 ID:2WxlMqHI
穂乃果「ほら、見て。この塊、玉鋼っていうんだよ。これは、この製鉄の世界で、最も尊くて、貴重なもの。それこそ神よりも。真姫ちゃんのお婆さんは、そこに小夜ちゃんの居場所を作ったんだ。間違いなく、貴女を1人の家族として大切にしていた証拠だよ。」
小夜「…そんなこと…そんなことして欲しいなんて思ったことない!」
「嘘だよ。」
穂乃果「ええっ!?」
後ろから急に話しかけられて、驚いて振り向く。立っていたのは、小夜ちゃんだった。
呆気に取られている私に笑顔を向け、もう1人の小夜ちゃんの手を取る。
小夜「…そんなこと…そんなことして欲しいなんて思ったことない!」
「嘘だよ。」
穂乃果「ええっ!?」
後ろから急に話しかけられて、驚いて振り向く。立っていたのは、小夜ちゃんだった。
呆気に取られている私に笑顔を向け、もう1人の小夜ちゃんの手を取る。
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472: 警備員[Lv.2(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 19:32:34.53 ID:2WxlMqHI
白小夜「私はね、あのお婆さんから、母の愛を教えてもらった。遠い遠い記憶、母に抱えられてた頃の、あの感情を。そして穂乃果、貴女達から友情を教えてもらった。逆境でも、互いを信じ抜く心を。」
黒小夜「そうかもな…」
そんなこと、過大評価だよ。私は…
穂乃果「私1人じゃ何にもできないから…今だってそう。」
そう、思ったことを口にした。
白小夜「穂乃果。」
黒小夜「私を、私達を見つけてくれて、ありがとう。」
黒小夜「そうかもな…」
そんなこと、過大評価だよ。私は…
穂乃果「私1人じゃ何にもできないから…今だってそう。」
そう、思ったことを口にした。
白小夜「穂乃果。」
黒小夜「私を、私達を見つけてくれて、ありがとう。」
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473: 警備員[Lv.2(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 19:32:53.17 ID:2WxlMqHI
言い終わり、2人は目を瞑った。気持ちが一つになったのか、突然光に包まれたかと思うと、小夜ちゃんは1人になっていた。
小夜ちゃんは、ぽかんとしている私に手を差し伸べる。
小夜「穂乃果、お礼はいつか必ずするね。」
穂乃果「…うん!」
私は残った片手で、小夜ちゃんの小さな手を掴んだ。
小夜「じゃあ。」
短く言って、小夜ちゃんは天に昇って消えていった。
小夜ちゃんは、ぽかんとしている私に手を差し伸べる。
小夜「穂乃果、お礼はいつか必ずするね。」
穂乃果「…うん!」
私は残った片手で、小夜ちゃんの小さな手を掴んだ。
小夜「じゃあ。」
短く言って、小夜ちゃんは天に昇って消えていった。
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474: 警備員[Lv.2(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 19:33:12.18 ID:2WxlMqHI
穂乃果「終わったのか…いっつ…」
炎でオレンジ色に染まる世界に、1人残された私は、意識を保つので精一杯だった。アドレナリンが切れたのか、切れた腕、貫かれた胸から凄まじい激痛がする。
胸の穴からはボコボコと音が聞こえる。
もう息すらまともにできない。
火は森にも引火していたようで、枝が炎を纏いながら落ちてくる。それが落ち葉に燃え広がり、もはや逃げ場などなかった。
穂乃果「お前は…」
燃え盛る炎を破って来たのは、あの日見た狐の姿だった。
白い狐。神の眷属。
炎でオレンジ色に染まる世界に、1人残された私は、意識を保つので精一杯だった。アドレナリンが切れたのか、切れた腕、貫かれた胸から凄まじい激痛がする。
胸の穴からはボコボコと音が聞こえる。
もう息すらまともにできない。
火は森にも引火していたようで、枝が炎を纏いながら落ちてくる。それが落ち葉に燃え広がり、もはや逃げ場などなかった。
穂乃果「お前は…」
燃え盛る炎を破って来たのは、あの日見た狐の姿だった。
白い狐。神の眷属。
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475: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:10:19.88 ID:2WxlMqHI
穂乃果「良くやった…って受け取っていいんだよね。」
凛々しい顔をしながら、木にもたれかかる私の横へ駆け寄ってきた。
私はその肩に手を置き、引き寄せる。
私は初日のBBQを思い出していた。
あれが迎え火だとすると、
穂乃果「この炎は差し詰め、送り火ってことか…私ももう。」
この炎に乗って、天に向かおう。
皆に会いに。
凛々しい顔をしながら、木にもたれかかる私の横へ駆け寄ってきた。
私はその肩に手を置き、引き寄せる。
私は初日のBBQを思い出していた。
あれが迎え火だとすると、
穂乃果「この炎は差し詰め、送り火ってことか…私ももう。」
この炎に乗って、天に向かおう。
皆に会いに。
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476: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:10:36.80 ID:2WxlMqHI
バギッガラガラ…
真横の木が倒れてくるのを最後に、
私は息絶えた。
こうして、
ある英雄譚は、終わりを告げたのだった。
…
……
………
真横の木が倒れてくるのを最後に、
私は息絶えた。
こうして、
ある英雄譚は、終わりを告げたのだった。
…
……
………
0
477: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:11:08.97 ID:2WxlMqHI
私は目覚る。
手の感触から呼び起こされるのは草原の上だ。
瞼からは日光の温もりを感じる。
ここが、天国ってやつなのかな。
景色に興味が湧いて、私は目を開いた。
木陰の下、やはり草原の上で寝転んでいた。
渇いた風が心地よい。
木漏れ日の向こうに、大きな白い鳥が見えた。
目を細めて見てみるも、サワサワと音を立てて揺れ動く葉に遮られて、見えなくなってしまった。
穂乃果「この景色…どこかで。」
手の感触から呼び起こされるのは草原の上だ。
瞼からは日光の温もりを感じる。
ここが、天国ってやつなのかな。
景色に興味が湧いて、私は目を開いた。
木陰の下、やはり草原の上で寝転んでいた。
渇いた風が心地よい。
木漏れ日の向こうに、大きな白い鳥が見えた。
目を細めて見てみるも、サワサワと音を立てて揺れ動く葉に遮られて、見えなくなってしまった。
穂乃果「この景色…どこかで。」
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478: 警備員[Lv.4(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:11:36.60 ID:2WxlMqHI
「穂乃果…?」
穂乃果「海未…ちゃん…?」
私は這うように声のする方を向く。
そこには、眠たそうに目を擦って座っている海未ちゃんがいた。
穂乃果「う、海未ちゃぁぁんっ!!」
海未「ほ、穂乃果…」
ことり「ん、なに~?」
穂乃果「海未…ちゃん…?」
私は這うように声のする方を向く。
そこには、眠たそうに目を擦って座っている海未ちゃんがいた。
穂乃果「う、海未ちゃぁぁんっ!!」
海未「ほ、穂乃果…」
ことり「ん、なに~?」
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479: ころころ(もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:20:12.71 ID:2WxlMqHI
にこ「え、どういうこと。」
穂乃果「みんな…」
良く見ると、道のそばにあった桂の木を中心に、放射状にに私たちは寝転がっていた。
ポケットの中から携帯を取り出して、画面を見る。そこには、8/15日の表示があった。
久しぶりの見慣れたこの画面に、ひどく安心した。
戻って来れたんだ…!
穂乃果「みんな…助かったんだ…良かった。」
私は海未ちゃんの手を握ったまま、また木陰へと寝転んだ。
穂乃果「みんな…」
良く見ると、道のそばにあった桂の木を中心に、放射状にに私たちは寝転がっていた。
ポケットの中から携帯を取り出して、画面を見る。そこには、8/15日の表示があった。
久しぶりの見慣れたこの画面に、ひどく安心した。
戻って来れたんだ…!
穂乃果「みんな…助かったんだ…良かった。」
私は海未ちゃんの手を握ったまま、また木陰へと寝転んだ。
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480: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:20:33.43 ID:2WxlMqHI
私の視界に、見慣れない白い彼岸花が入る。
酷く季節外れだ、と私は無意識に口角が上がった。
深呼吸して、ひたいに手をかざしてみる。
遠くから蝉の声が聞こえてきた。
私は彼女に心の中でお礼を言い、
大きく伸びをして、また瞼を閉じた。
…
……
………
酷く季節外れだ、と私は無意識に口角が上がった。
深呼吸して、ひたいに手をかざしてみる。
遠くから蝉の声が聞こえてきた。
私は彼女に心の中でお礼を言い、
大きく伸びをして、また瞼を閉じた。
…
……
………
0
481: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:31:49.43 ID:2WxlMqHI
ミーンミーンミンミンミン…
穂乃果「っと、こんなもんかな。」
海未「こんな威厳のない感じでいいんでしょうか…」
ことり「こういうのはきっと、気持ちだから!ね!穂乃果ちゃん。」
穂乃果「そう言うこと。さっすがことりちゃんだよ。」
海未「…それもそうですね。」
絵里「そうね。きっと、喜んでくれてるはずよ。」
穂乃果「っと、こんなもんかな。」
海未「こんな威厳のない感じでいいんでしょうか…」
ことり「こういうのはきっと、気持ちだから!ね!穂乃果ちゃん。」
穂乃果「そう言うこと。さっすがことりちゃんだよ。」
海未「…それもそうですね。」
絵里「そうね。きっと、喜んでくれてるはずよ。」
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482: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:32:06.30 ID:2WxlMqHI
にこ「この私が作ったんだから、当然よ。」
希「暑いだの重たいだの言っとって、ほとんど最後の飾り付けしかしてないやん…」
凛「希ちゃん、スーパーアイドル様、をバカにしちゃダメなんだよ。」
花陽「なるほどなるほど…その振る舞い、勉強になります。」
にこ「うん花陽、こんなことメモしなくていいからね~。」
あの惨劇から1年後。
それぞれ大学生になったり、受験勉強しなきゃいけなくなったり、部を引っ張っていくようになったりした。
私たちはもう一度お盆に、この地に集まって、彼女の祠を作ってあげることにした。
希「暑いだの重たいだの言っとって、ほとんど最後の飾り付けしかしてないやん…」
凛「希ちゃん、スーパーアイドル様、をバカにしちゃダメなんだよ。」
花陽「なるほどなるほど…その振る舞い、勉強になります。」
にこ「うん花陽、こんなことメモしなくていいからね~。」
あの惨劇から1年後。
それぞれ大学生になったり、受験勉強しなきゃいけなくなったり、部を引っ張っていくようになったりした。
私たちはもう一度お盆に、この地に集まって、彼女の祠を作ってあげることにした。
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483: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:32:28.81 ID:2WxlMqHI
皆思い思いの装飾を施したので、主題がよく分からなくなっていた。
でも、これでいい。
…いや、これだからこそいいんだ。
私は、はしゃぐみんなを眺めた後、ここから少し離れた祠の奥の、少し開けた、見通しの良い麓の様子が見える場所へ行く。
この匂いは。
そこには真姫ちゃんがいた。
穂乃果「黄昏てるの?」
でも、これでいい。
…いや、これだからこそいいんだ。
私は、はしゃぐみんなを眺めた後、ここから少し離れた祠の奥の、少し開けた、見通しの良い麓の様子が見える場所へ行く。
この匂いは。
そこには真姫ちゃんがいた。
穂乃果「黄昏てるの?」
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484: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:32:48.21 ID:2WxlMqHI
体育座りしながら景色を見ている真姫ちゃんの隣へ、腰掛けながらちょっかいをかけた。
真姫「そういうんじゃないわよ。ただ…」
真姫ちゃんは俯きがちに、目をキョロキョロさせる。
穂乃果「前のことは、みんな気にしてないよ。」
言うと、真姫ちゃんは目をパチクリさせる。
真姫「それは…もうみんな大丈夫って言ってくれたから。」
穂乃果「そっか。」
真姫「そういうんじゃないわよ。ただ…」
真姫ちゃんは俯きがちに、目をキョロキョロさせる。
穂乃果「前のことは、みんな気にしてないよ。」
言うと、真姫ちゃんは目をパチクリさせる。
真姫「それは…もうみんな大丈夫って言ってくれたから。」
穂乃果「そっか。」
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485: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:33:11.54 ID:2WxlMqHI
あの日から、真姫ちゃんは学校に来れなくなっていた。花陽ちゃんと凛ちゃんによると、みんなに合わせる顔なんてないから。ということだった。
この手で友達を〇した…結果的に戻ったとは言え、その事実は消えない。
気持ちは分かる。でも、幸い怪我人も死者もいない。しかも、事情があってのことだから、私たちが許したのなら、そこまで気にすることじゃない。
そんな中、にこちゃんが追い返されても足繁く通って、ついには部室まで手を握って連れてきてくれた。
『大学生って暇なのよね~。』とか言いながら、恥ずかしそうにあさっての方を眺めていたのが懐かしい。
その後、私たちは何とかスクールアイドルを再開できた。
この手で友達を〇した…結果的に戻ったとは言え、その事実は消えない。
気持ちは分かる。でも、幸い怪我人も死者もいない。しかも、事情があってのことだから、私たちが許したのなら、そこまで気にすることじゃない。
そんな中、にこちゃんが追い返されても足繁く通って、ついには部室まで手を握って連れてきてくれた。
『大学生って暇なのよね~。』とか言いながら、恥ずかしそうにあさっての方を眺めていたのが懐かしい。
その後、私たちは何とかスクールアイドルを再開できた。
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486: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:47:58.34 ID:2WxlMqHI
私たちの目標であったラブライブには出場できなかったけど、この際それはもういい。
この9人で、歌って踊って…見てくれる人が笑顔になってくれる。それこそがアイドルの本分だろうし、それだけで毎日が幸せで、言うことがなかったからだ。
真姫「あのね、そうじゃなくって。」
真姫ちゃんが切り出す。
景色に見惚れて黄昏ていたのは私の方だった。
それをなるべく悟られないように返答する。
穂乃果「なに?」
真姫「歳を重ねることが、こんなにも嬉しいことだなんて思わなかった。」
穂乃果「え?」
この9人で、歌って踊って…見てくれる人が笑顔になってくれる。それこそがアイドルの本分だろうし、それだけで毎日が幸せで、言うことがなかったからだ。
真姫「あのね、そうじゃなくって。」
真姫ちゃんが切り出す。
景色に見惚れて黄昏ていたのは私の方だった。
それをなるべく悟られないように返答する。
穂乃果「なに?」
真姫「歳を重ねることが、こんなにも嬉しいことだなんて思わなかった。」
穂乃果「え?」
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487: 警備員[Lv.1(前12)][苗警](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 22:48:25.11 ID:2WxlMqHI
真姫「こうやって、景色を見るたびに古い記憶が呼び出され、それを共有できる仲間がいる。それが、たまらなく嬉しくなった…ってだけよ。」
穂乃果「…そっか。」
記憶で、私たちは繋がっているんだ。
カナカナカナカナ…
真姫ちゃんにつられて、蝉時雨響く天を見上げる。気づけば、夕日に染められて淡い茜色になっており、東の空には1番星が見える。
雲が空を駆けるように流れているのを見ていると、少し湿り気のある気持ちの良い風が、私たちの間をするりと抜けた。
後ろで仲間の声が聞こえる。
でも、振り向かなかった。
なぜだか、もう少しこの景色に見惚れていたい。そう思った。
穂乃果「…そっか。」
記憶で、私たちは繋がっているんだ。
カナカナカナカナ…
真姫ちゃんにつられて、蝉時雨響く天を見上げる。気づけば、夕日に染められて淡い茜色になっており、東の空には1番星が見える。
雲が空を駆けるように流れているのを見ていると、少し湿り気のある気持ちの良い風が、私たちの間をするりと抜けた。
後ろで仲間の声が聞こえる。
でも、振り向かなかった。
なぜだか、もう少しこの景色に見惚れていたい。そう思った。
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488: 警備員[Lv.1(前12)][苗](もみじ饅頭) 2024/05/12(日) 23:06:13.25 ID:2WxlMqHI
穂乃果「ある英雄譚」 終
こんな長編書いたことなかったので、エタらずに済んで安心してます。
前作
穂乃果「夏空の綿雲」
これも宜しければ是非。
こんな長編書いたことなかったので、エタらずに済んで安心してます。
前作
穂乃果「夏空の綿雲」
これも宜しければ是非。
引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1714150047/