【SS】璃奈「できた。時間が止まるスイッチ」侑「ひゃっほーーーい!」ポチーッ【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


1: (茸) 2022/09/26(月) 19:22:28.22 ID:twGUxJYs
璃奈「……」

侑「ほんとに時間が止まってるみたい!よーし!さっそく步夢のところに~」クルッ

步夢「……」

侑「なーんだ、こんなところにいたんだね步夢~」

侑「さっそくおっ〇〇を~」モミッ

侑「あれ?なにか胸ポケットに……」カサカサッ

侑「えっ……」

侑「これ…遺書だ」




みたいなね
 
19: (たこやき) 2022/09/26(月) 20:19:21.40 ID:tUqMJasv
侑「なにこれ……なんで……?」ガサガサ



ごめんなさい。でも、もうそれしか書くことができません。

明日が来るのが怖いと思ってしまったんです。もっと自分がしっかりしていたら。

私がもっと「普通の子」だったら。「普通の子」だったら。明日が来るのが怖いなんて、思わなかったんです。

お母さん、ごめんなさい。お父さん、ごめんなさい。今まで育ててくれて、ありがとうございました。

私と仲良くしてくれたみんな、ごめんなさい。

ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。


上原歩夢





侑「は……? な、に……これ……?」パサッ

侑「もう一枚……落ちた……?」



侑ちゃんへ



侑「──ッ」バッ
 
20: (茸) 2022/09/26(月) 20:20:20.91 ID:twGUxJYs
やったぜ
 
31: (たこやき) 2022/09/26(月) 20:43:21.33 ID:tUqMJasv
侑(指が震えて、折ってある便箋を開くことができない。歯がガチガチする。寒い。寒気がする)



侑ちゃんへ

最後に、会いたいなって、おもいました。

侑ちゃん、ごめんね。よわくて、ひきょうで、ずるいわたしで。

いつも一緒にいてくれて、こんな私に優しくしてくれて。

いつもいつも、一緒にいれるだけで幸せだったのに。侑ちゃんと一緒にいられれば、だいじょうぶって思ってたのに。

でも、やっぱりだめでした。

侑ちゃんにすら見捨てられてしまうんじゃないかって、思ってしまって。

もう、そうなってしまったら、おしまいでした。

明日が来るのが怖くて。侑ちゃんに嫌われてしまう日が、いつか必ず来るんだって。

本当の私を、侑ちゃんに知られてしまったら。きっと。侑ちゃんも。

侑ちゃん。最後に会えた私は、最後まで貴女の中の私でいましたか?

また、会いたいです。

歩夢



侑「は……?」
 
36: (たこやき) 2022/09/26(月) 20:49:56.01 ID:tUqMJasv
侑(全速力でフルマラソンしたって、こうも心臓は狂わない。こうも呼吸が早くならない)

侑(死ぬ? 歩夢が? 自〇? 死ぬ? なんで? なにが? なんで? どういうこと?)

侑「あ、ゆむ……?」

歩夢「……」

侑「歩夢!! 歩夢!!!」ガシッ

侑(そうだ、時間、時間──っ)

侑(……時間を動かして、どうする? 遺書持って問いただす? なんで死ぬの。どうして?)

侑(──そんなの聞いてどうする? 歩夢を救える? 私が泣き叫べば、歩夢は死なない? 嘘だ。一番苦しくてつらいのは、歩夢だ)

侑(……「歩夢が自〇しようとしていることを私が知っている」と歩夢が知ったら。歩夢は、どう思う……?)

侑「……」

侑(……時間は動かす。でも、歩夢を死なせはしない。絶対に死なせなんてしない)

侑(遺書を、元通りに戻す。折りたたんで、歩夢の胸ポケットに戻す)

侑(いつものバカな私はもうどこかに行っていた)
 
45: (たこやき) 2022/09/26(月) 21:10:31.42 ID:tUqMJasv
侑「……冷静に……まずは、時間を止める前と同じ感じに──」

侑(時間を止める前と同じ状態になろうと、歩夢に背を向けようとして……できなかった)

侑(怖い。時間は絶対に止まっているのに。歩夢から目を離してしまったら、次の瞬間に居なくなってしまっているんじゃないか)

侑(頭の中がぐちゃぐちゃになる。歩夢と死。十六年生きてきて、連想することのなかった人と事象が、最悪の形で結びついて──)

侑「っぐ、ぉ、え」

侑(ぐるぐる世界回っていて、ぐちゃぐちゃの頭が現実を受け止めきれなくて。胃の中のものが押しあがってくる)

侑「うぐ……っ」

侑(その場にうずくまる。でも吐いてる場合じゃない。立って、やることやらなきゃ)

侑「──っふ!!」バチンッ

侑(思い切り頬をひっぱたいて、ぐちゃぐちゃになってる頭をどうにか冷静にしようとする)

侑「……とにかく……まずは、今日は、ずっと一緒に、居よう」

侑「一緒に、居て。絶対に──歩夢を離しちゃいけない。まずは、今日を乗り越えよう」

侑(深呼吸して。私はボタンをもう一度押した)
 
84: (たこやき) 2022/09/27(火) 21:04:47.12 ID:o4VlBroe
璃奈「──でも侑さん、くれぐれも悪用しちゃだめだよ」
歩夢「──侑ちゃん、璃奈ちゃんと一緒にいたんだね」

侑(璃奈ちゃんの注意に重なって聞こえた、幼い頃から聞き続けた、優しい声に振り向かされる)

侑「ッ」バッ

侑(歩夢が目の前で動いている。きっと物凄い速さで振り向いた私に目をぱちりと瞬きさせて)

侑(でもうっすらと笑みが浮かんでいて。どこにも、おかしなところなんて見当たらなくて)

侑(見当たらなくて。ぜんぜん、いままでずっと、苦しんでいたなんて、気づけなくて。明日も明後日も、ずっと続いていけるような気がして)

侑(──今まで、一番長く歩夢の隣で過ごしてきて、私は何をしてきたんだ? 歩夢の何を、見ていたんだ?)

侑「あ、ゆむ……」

歩夢「侑ちゃん? どうしたの?」

侑(不安げな歩夢の顔が、私をのぞき込む。その胸に、痛悔と絶望を宿らせているのに。歩夢は、私を、思いやる)

侑「……大丈夫だよ。ちょっと驚いちゃって」

璃奈「侑さん、顔色が悪い。何か副作用でも出た?」

歩夢「副作用……? 副作用ってなに?」
 
86: (たこやき) 2022/09/27(火) 21:11:22.31 ID:o4VlBroe
璃奈「えっと、侑さんに頼まれて作った──」

侑「歩夢!!」

歩夢「へっ!?」
璃奈「!?」

侑(叫んだ。時間停止のボタンの事なんて、言えるわけがない。いつもの私の言動を考えたら、歩夢は間違いなく気づく)

侑(常日頃冗談みたいにセクハラしまくってる私だ。歩夢なら私がバカみたいに胸を揉んで、遺書に気付く──そう思われても仕方ない)

侑「……ちょっとさっきから体調悪くてさ。璃奈ちゃんが作った特製ジュースを飲んだんだけど、ちょっとやっぱり、調子が出なくて」

璃奈「……?」

侑(璃奈ちゃんに目で訴えかけた。話を合わせて)

璃奈「……」コクン

歩夢「え……侑ちゃん、大丈夫なの?」

侑(心配そうな歩夢の顔。やめてよ、そんな顔しないでよ。今歩夢は何を考えているの。どうして他人を思いやれるの)

侑「今日はちょっと部活も休もうと思うんだけど……歩夢、一緒に帰ってくれないかな?」

歩夢「そんなに酷いの……? じゃあ荷物を……」

璃奈「みんなには私から連絡しておく。2人の荷物も後で持って行くから。歩夢さん、侑さんをお願い」

歩夢「ありがとう璃奈ちゃん……ごめんね?」

侑「──っ」

侑(私に宛てた遺書の内容が蘇る。謝罪の言葉たち。ごめんね。侑ちゃん。よわくて、ひきょうで、ずるいわたしで。死のうとした歩夢が、謝っていて)

侑「──ぉ、え”っ」

歩夢「侑ちゃん!?」
璃奈「侑さん!!」
 
87: (たこやき) 2022/09/27(火) 21:19:01.14 ID:o4VlBroe
侑(また胃の中のものがこみ上げそうになって、うずくまった私に二人の声が降り注ぐ)

璃奈「歩夢さん、どうしよう」

歩夢「侑ちゃん!? 侑ちゃん!! 侑ちゃん、大丈夫!?」

侑「だ、いじょうぶ……ちょっと気持ち悪くなっただけ……」

歩夢「侑ちゃん、ほら、立てる?」

侑(歩夢が伸ばしてくれた手を取って立ち上がる。璃奈ちゃんの不安げな表情が目に入ってきた)

侑「璃奈ちゃん、大丈夫。ジュースは関係ないから」

侑(ジュースは暗喩。たぶん璃奈ちゃんは気付いてくれるはず)

歩夢「璃奈ちゃんごめんね? みんなにお願い。すぐ帰らなきゃ」

璃奈「うん……。侑さん歩夢さん、気をつけて……」

侑(璃奈ちゃんの不安げな声を背中で受け止めながら、私は歩夢の肩を借りながら歩き出した)
 
94: (たこやき) 2022/09/27(火) 22:00:58.89 ID:o4VlBroe
──────

────

──夕方 侑の部屋

侑(二人で私の部屋に戻った後、ソファベッドに横になった私の様子を歩夢はずっと見ていてくれた)

歩夢「侑ちゃん、帰ってきたときより顔色もだいぶよくなったかな。体調はどう? 吐き気は?」

侑「ありがと歩夢。今はもうずっとマシだよ。さっきが一番きつかった」

歩夢「そっか……よかった。でも今日は一日安静にしないとだね」

侑「さすがに今日は大人しくしてるよ。歩夢も見張ってくれてるんでしょ?」

歩夢「ということは、私が見張ってないと大人しくしないってこと?」

侑「そうかも」クスクス

侑(冗談めかしながらも、私の頭はこれ以上ないってくらい必死だった。歩夢と一緒にいる方法。怪しまれないように、自然と一緒にいる方法)

歩夢「もー、侑ちゃんってば」クスクス

侑「せっかくだし、今日一日私の見張りをしてくれないかな? お母さんもお父さんも家にいるのに、なんかちょっと、心細くって」

歩夢「え、っと」

侑(一瞬、一瞬だけ、歩夢が戸惑ったのを、私は見逃さなかった)

侑「あ、もしかして何か用事とかあった? だとしたらごめん、迷惑かけちゃったよね」
 
97: (たこやき) 2022/09/27(火) 22:30:08.31 ID:o4VlBroe
侑(畳み掛ける。吐いた嘘に罪悪感なんてない。顔で笑っていても頭の中は罪悪感を感じる余裕すらない)

歩夢「う、ううん! 大丈夫だよ! ちょっとびっくりしただけだから。じゃあ、いったんおうちに戻るね」

侑「あー待ってよ、私もついていっていい?」

歩夢「へ……?」

侑(歩夢をまっすぐ見据える。……歩夢の部屋に行けば、なにかわかることがあるかもしれない)

歩夢「ふふ、今日は侑ちゃんちょっと甘えんぼさん?」

侑「あはは! ……かもね。なんだか歩夢と離れたくないって気がするんだ」

歩夢「──……ヘンな侑ちゃん」クスクス

侑(……歩夢の。歩夢の……私にあてた遺書について、思い出す)

侑(歩夢は私と一緒にいることで幸せだって感じてくれていた。一緒にいられれば大丈夫だって思ってくれていた)

侑(でも、『本当の歩夢』を私が知ったら。私が歩夢を見捨ててしまったら。歩夢はそれを恐れて、その日がきっと来ると恐れて、この選択をしたんだ)

歩夢「じゃあ行こっか、侑ちゃん」

侑「うん。行こう、歩夢」

侑(ベッドから降りて、私は歩夢の後を追った。本当の歩夢って? 私が知らない歩夢って? そして、歩夢を嫌いに──見捨ててしまうような、本当の歩夢って……?)
 
114: (たこやき) 2022/09/28(水) 22:28:13.28 ID:4h4dcTWU
──歩夢の部屋

侑(歩夢の部屋は別段変わったところはなかった。……たぶん、歩夢のお母さんもお父さんも、多分歩夢の内側にある『何か』に気付いていないんだ)

侑(きっと、歩夢の内側は、全く外に漏れ出してはいない)

歩夢「侑ちゃん、着替えるから後ろ向いてて?」

侑(……いつもの私──)

侑「えー、生着替え見せてよー。歩夢の柔肌が見たいんだよ私は」

歩夢「もー。侑ちゃん、体調不良だからってなんでも『良いよ』って言うわけじゃないからね?」

侑「はーい」クルッ

侑(……胸ポケットに入った遺書を見られるのは歩夢的に問題だ。でも、同時に私が歩夢の着替えを見たいと意地を張れば、藪蛇だ。これでいい、これくらいでいいはず)

歩夢「ねえ、侑ちゃん」

侑「ん?」
 
116: (たこやき) 2022/09/28(水) 22:32:06.06 ID:4h4dcTWU
歩夢「……ごめんね」

侑「どーしたの、急に」

侑(足の裏から背筋を駆け上がってくる、悪寒。つま先から頭のてっぺん、髪の先まで、一気に緊張で強張っていく。それをなんとか、必死にかき集めた平常心で力任せに抑えつけた)

歩夢「……この前、侑ちゃんの部屋で、我儘言ったこと」

侑(私の部屋。我儘。忘れるわけがない。歩夢が、初めてあんなに激昂したこと。自分の感情を、あんなにも強く強く、訴えてくれたこと)

侑「覚えてるよ。歩夢が自分の気持ちを、伝えてくれたこと」

侑(お互い背中合わせで、だからこそ言えることなのかもしれない)

歩夢「……侑ちゃんを困らせちゃったよね」

侑(歩夢の声が陰る。悔いているんだろうか。高咲侑だけの上原歩夢でいる。だから、上原歩夢だけの高咲侑でいてほしい、という、祈り)

侑(あの時私は、押し倒されて身動きができなくなった。歩夢の祈りを、願いを、撥ねつけることができなかった。互いだけの互いでいる、そう約束したのは、間違いなく私達だったから)

侑「そう、だね……驚いたし困ったのは、嘘じゃない。歩夢に嘘はつけないから」

侑「でも、歩夢が私の事を友達とか、親友とか、幼馴染とか、そういう枠を超えた存在として私を想ってくれてるんだ──」

侑「って、どこか嬉しかった気持ちもある、かな」

歩夢「ゆう、ちゃん……」
 
117: (たこやき) 2022/09/28(水) 22:35:41.97 ID:4h4dcTWU
侑(自分に問う。もし歩夢の遺書のことを知らなかったとして、私は、まったく同じ答えを、歩夢にできただろうか)

侑(──できる。それだけは間違いない、と思った。死んでほしくないから、とか、私自身が参っている、とかじゃない。これだけはきっと、変わらない私の根っこの部分だ)

侑「歩夢。歩夢があの時想って、私に伝えてくれた言葉の重みを、想いを、私は百パーセント理解できていないのかもしれない。でもね、歩夢──」

侑「私はあの夜の事を一生忘れない。歩夢の祈りを、願いを、私は一生忘れたりはしない。歩夢の想いを、簡単に受け流して忘れてしまえるほど、私はバカじゃないから」

侑「……いつも歩夢にバカなことして、怒られてるけどね」

歩夢「……」

侑「……」

侑(……衣擦れの音だけが部屋に響く。だから、歩夢から目をそらしていても、怖くはなかった)

侑(ただ待つ。歩夢は私の言葉に、どんなにしょうもなくてばかばかしい私の話だったとしても、無視だけは絶対にしない)

侑(だから、ただ、歩夢の言葉を待った。ひりつく空気と鈍重な静寂。世界に私と歩夢だけになってしまったような感覚に身を委ねて──)

歩夢「侑ちゃん、私ね……私、実はね……」

侑(真っ白な紙に、水滴が一つ落ちたように。歩夢の声が静寂を滲ませた)

侑「──ッ!」

侑(ドクンと心臓が耳の横で雄たけびを上げたような錯覚。全身がカッと熱くなって、首筋が痛くなるほど焼けついた。歩夢がなにか、大切なことを──)
 
119: (たこやき) 2022/09/28(水) 22:39:39.37 ID:4h4dcTWU
「歩夢? 侑ちゃん? お友達が来てるわよ? 同じ同好会の子ー!」

歩夢「えっ?」
侑「!!」

侑(なんでッ! いま、歩夢が──!!)

侑「なッ──」
歩夢「ゆ、侑ちゃん、きっと璃奈ちゃんだよ。荷物、カバンとか持ってきてくれた──」

侑「歩夢今何を言おうとしたの!?」バッ

歩夢「ゆ、侑ちゃん!?」ビクッ

侑「あ──……ッ」

侑(迸った感情にブレーキなんてなかった。思わず大きな声を出してしまって、きっと表情も強張ってた)

侑「あっ、ご、ごめん。ちょっと、なんか、熱が入っちゃってて。歩夢が、なんて答えてくれるか、すごく、その、気になっちゃって」

侑(しどろもどろに取り繕う。本気のしどろもどろと、嘘のしどろもどろ。混ざりあって、自分でも何言ってるのかわからなくなった)

歩夢「……ふふ、ヘンな侑ちゃん。大丈夫だよ。ちゃんと後で言うから」

侑「歩夢……」

侑(歩夢の表情。嬉しそうな、悲しそうな、幸せそうな、辛そうな。どう判断すればいいのかわからない。それが、私には苦しくて苦かった。歩夢を追い詰めたのは、私なんじゃないか)

歩夢「行こっか、侑ちゃん。着替えも終わったし、璃奈ちゃんに会いに行かなきゃ」

侑(私の前を通り過ぎていく歩夢。もうあの哀楽を溶け合わせた表情はどこにも見えなくなっていた)
 
135: (たこやき) 2022/09/29(木) 22:05:16.06 ID:Y5R166WZ
──マンション 中庭 ウッドデッキ

愛「ちっす、ゆうゆ体調は? マシ?」

侑「ありがと愛ちゃん。今はもうヘーキ。歩夢が診ててくれたから」

愛「流石歩夢。ゆうゆの元気の源か~?」ウリウリ

歩夢「や、やめてよ愛ちゃん……私何もしてなくて、ただおろおろしてただけで……」

璃奈「そんなことない。私が一番何もできてなかった。歩夢さんにどうしよう、どうしようって言うだけだった」

侑「いやいや、そもそも私が急に吐きそうになったのが悪いんだよ。急にうずくまって吐くのが一番ヤバい奴」

侑(おどけた私の言葉に、愛ちゃんはぷっと噴き出して、璃奈ちゃんは笑顔のボードを取り出した。歩夢は眉を八の字にしながらも、少し微笑んでいた──)

侑(荷物を持ってきてくれた璃奈ちゃんと、夜遅くなるからといって一緒についてきた愛ちゃんと四人で話していると、さっきの緊張が随分と溶けてきたように思えてくる)

愛「ゆうゆ、明日は学校これそ?」

侑「うん、大丈夫だと思う。今はもうほんとへーきだから」

愛「そかそか。ならよし。そだ、歩夢──」

歩夢「どうしたの愛ちゃん?」

侑(愛ちゃんがさりげなく歩夢へと近づいて、話始める。そして、その間隙をついて──)
 
137: (たこやき) 2022/09/29(木) 22:09:40.96 ID:Y5R166WZ
璃奈「侑さん」コソッ

侑「璃奈ちゃん?」

璃奈「これ、時間が止まるスイッチの説明書。本当は口頭で説明したかったけど……注意事項もまとめておいたから、よく読んでおいてね」

侑「……ありがとう、璃奈ちゃん」

侑(折りたたまれたルーズリーフを受け取りながら、パーカーのポケットに忍ばせたままのスイッチに、少しだけ触れる。これのおかげで、私は、気付くことができたんだ)

侑「ほんとに、ありがとう璃奈ちゃん」

璃奈「うん。ほんとに、よく読んでおいてね」

愛「さって、じゃりなりー、帰ろっか」

璃奈「うん」

侑(愛ちゃんはカバンを持って立ち上がる。それにならって璃奈ちゃんも)

歩夢「二人とも、ありがとう」
侑「ほんとに助かったよ……ありがと、二人とも!」

愛「今度カフェでなんか奢ってよ! それでチャラ!」
璃奈「侑さん、お大事に」
 
140: (たこやき) 2022/09/29(木) 22:14:01.57 ID:Y5R166WZ
侑(去っていく二人を眺めながら、私はもう一度ポケットの中のスイッチに触れた。手のひらに収まる、オンとオフに切り替えるだけのスイッチ)

歩夢「侑ちゃん、戻ろっか」ニコ

侑「そうだね。璃奈ちゃんにも愛ちゃんにも迷惑かけちゃったし。ほんとに今日はおとなしくさっさと寝るよ」

歩夢「えっと。私は──」

侑「一緒に寝ないの?」ニヤッ

歩夢「言うと思った」クス

侑(逃すはずがない。私の目の前から、居なくなってほしくないんだ、歩夢には。こんなにも怖いんだ。歩夢がいなくなってしまうのが)
 
141: (たこやき) 2022/09/29(木) 22:18:42.00 ID:Y5R166WZ
──────

────

──夜 侑の部屋

侑「狭くない? もうちょっと詰めよか?」

歩夢「大丈夫。侑ちゃんこそ狭くない?」

侑「じゃあもうちょっと詰めようかな」

歩夢「ひゃ! もう、侑ちゃんてば……」

侑(ソファベッドの背もたれをべたりと倒して、二人横になった。歩夢の顔が私の目の前にあって、ひどく落ち着かなくて、でも歩夢が目の前にいてくれて、ほっとする)

歩夢「でも、久しぶりだね。こうやって──侑ちゃんの部屋で一緒に寝るの」

侑「そうだね。前はもっとしょっちゅう、気軽にお互いの部屋に寝泊まりしてたのにね」

歩夢「うん──今は侑ちゃん、忙しいもんね」

侑(月明りに照らされた歩夢は、触れればそこから形を失ってしまいそうなほど儚くきれいだった)

侑(思い返す。遺書の言葉。本当の歩夢。私が見捨ててしまうような、本当の歩夢。……でも、逆に思うこともある。私と歩夢は当然のように一緒にいる。当然のように)

侑(当然……)
 
144: (たこやき) 2022/09/29(木) 22:24:02.31 ID:Y5R166WZ
侑「歩夢。歩夢はさ、どうして私と一緒にいてくれるの?」

歩夢「え……?」

侑(歩夢の目が、まるく開かれる。月明りに揺れる歩夢の前髪が、ひらひら光った)

侑「私、しょっちゅう歩夢にセクハラするでしょ。それでも嫌がらずに、歩夢は私に優しくて。どうしてかなって」

侑(……今こんな話をするべきなのかどうか、私にはよくわからなかった。でも、歩夢の表情を、ひらひらきらめく前髪を、霞のかかった金色の瞳を見ていると──)

侑(聞かなきゃいけないような気がした)

侑「本当は、嫌われてもおかしく──」
歩夢「嫌いになんてなれないよ。なるわけないよ、侑ちゃんを」

侑(俯いた歩夢の静かな、でも凛とした声。前髪の帳が表情を隠しているけれど、私はただ歩夢の言葉を待った)

歩夢「侑ちゃんこそ、どうして? どうしてずっと一緒にいてくれるの? 私だけの侑ちゃんでいてほしいなんて、ひどい我儘言って、困らせて」

歩夢「侑ちゃんだけじゃない。侑ちゃんも、侑ちゃんの周りのみんなも、困らせて。それでも侑ちゃんは私を嫌いにならなかった、それでも傍にいてくれて」

歩夢「どうして、どうしてなの、侑ちゃん」

侑(歩夢と過ごしてきた、あらゆる思い出が脳裏を駆け巡った。幼稚園で歩夢と一緒に読んだ絵本。小学校の遠足で二人で分け合って食べたお菓子の味)

侑(中学校の頃、一緒に歩いて帰った夕焼けの色。歩夢が遊んでたヘンなゲームのBGM。歩夢が初めて作ってくれた、焦げた卵焼きの味。全部一気に、閃いては消えて、最後に言葉が残った)

侑「──歩夢の傍にいたいからだよ」
 
146: (たこやき) 2022/09/29(木) 22:30:08.28 ID:Y5R166WZ
侑「私が傍にいたいんだ、歩夢の。歩夢が笑って、喜んで。それを一番隣で見ていたいんだ。一緒に喜びたい。笑いたい。悲しいことがあるなら少しでも和らげたい」

侑「歩夢には、幸せでいてほしいんだ」

侑(願いだった。自分を責めて、けれど誰にも気付かれないように隠して、明日が来るのを恐れるほどに苦しんだ、歩夢への願い)

侑「……幸せで、いてほしいんだよ」

侑(まずいな、と思った。声が滲んだ。肺の真ん中のほうから、喉の奥が、じんわりと苦しくなった)

侑「──っ、だって、歩夢が」

侑(死なないでよ、歩夢。私の前からいなくならないでよ。そんなのつらすぎるよ。ずっと一緒に、笑って、怒って、喜んで、悲しんで、それでも一緒に生きていけるって、当たり前に思ってたのに)

侑「……っく」

歩夢「侑ちゃん──」

侑(いきなり、今日、歩夢が、死のうとしてたなんて。そんなの嫌だよ。無理だよ。受け入れられるわけないじゃん。十六年ずっと一緒にいたじゃん。これからもずっと、ずっと仲良く──)

歩夢「私ね──侑ちゃんの事が、好きなの」

侑(まとまらない思考が、ただ一気に、引きちぎれた)
 
164: (たこやき) 2022/09/30(金) 21:27:37.62 ID:APWD2cT3
侑「あ、ゆむ……?」

侑(歩夢の言葉で、自分が俯いていたことを知って──目の前の歩夢が、泣いていたことを知る)

歩夢「好きなの、侑ちゃん。いつからか、なんてわからないけど──ずっと、ずっと、侑ちゃんの事が好きだったの。友達じゃないよ、恋してるの、侑ちゃんに」

侑(ぽろぽろと、歩夢の大きな目から、大粒の涙が零れ落ちていく)

侑「好き……? 私の、ことを? それは──」

侑(頭の中がこんがらがった。好き。恋。歩夢が。私を。死。歩夢が。今日。私の事が、好き?)

歩夢「侑ちゃん、ねえ、侑ちゃんは、私のこと、好き?」

侑(ぽろり、ぽろりと大粒の涙が歩夢の顔を濡らしていく。月光に輝いたそれは、まるで宝石みたいにきれいだった)
 
166: (たこやき) 2022/09/30(金) 21:30:50.46 ID:APWD2cT3
侑(──私は、歩夢の事が、好きなんだろうか。勿論好きだ。でも、それは愛だろうか、恋だろうか。同性愛とか普通の恋愛だとか、いろんな単語が駆け巡って、そして言葉が浮かび上がってきた)

侑(『普通の子』という意味。遺書に書かれた言葉。それは、そのことなんじゃないだろうか。歩夢が苦しんでいたのは、このこと──)

歩夢「……」

侑(歩夢の瞳。前髪。涙に濡れた長い睫毛。ぎゅうと握りこまれた拳が、私のシャツの裾を掴んで離さない)

侑(歩夢の幸せが、私と付き合うということなら。私は歩夢を幸せにしたい。けれど、私は、歩夢に恋を……していない。幸福でいてほしいということ、恋してるって、嘘を吐き続けられる……?)

侑(──嘘を突き通せない。歩夢の生死がかかっているのに。それでも最後の最後に嘘は吐けない。付き合う二人に認識の誤差があれば、それはいずれ来る終わりの先送りだ)

侑「歩夢。私は──」

歩夢「ずるい質問だったよね──侑ちゃん、私わかってるよ」

侑「え──」

歩夢「侑ちゃんは普通の子だって。でも、きっと侑ちゃんは、私を世界で一番大切に想ってくれてるって」

侑(歩夢の事は大切だ。幸せになってほしいと思うし、幸せになるために何かできるなら、喜んでしたい)

侑(歩夢の未来を想って。明日に続いていける道は、ここにあると思った)
 
167: (たこやき) 2022/09/30(金) 21:34:07.47 ID:APWD2cT3
侑「……歩夢の言う通り、私はきっと、普通、なんだと思う。それでも、同時に、私と歩夢が付き合って、歩夢が幸せになれるなら──」

侑「それは私にとっても幸せだよ。きっと、私が他の誰かと付き合うこと以上に」

侑(恋じゃないけど、愛してる。それだけは嘘じゃないって、はっきり言える)

歩夢「ゆう、ちゃん……」

侑「歩夢。私と一緒になろう。一緒に生きて、笑って怒って泣いて喜んで。生きていこう」

侑(握りこまれた歩夢の拳に手を添える。触れて、初めて、歩夢が震えていることに気付いた。それくらい、いっぱいいっぱいだったんだ、私も)

侑(私の言葉に、歩夢はふるりと少し震えた。それが嬉しかったのか、驚きだったのか、ほかの何かの感情だったのか、わからなかった)

侑(じっと私を見つめる歩夢は、やがて、一度目を閉じて──また開いた)

歩夢「侑ちゃん──キス、して」
 
168: (たこやき) 2022/09/30(金) 21:37:25.32 ID:APWD2cT3
侑(歩夢が、濡れた瞳でこちらを見据える。歩夢の言葉に驚きはなかった。付き合っている二人が、同じベッドで寝ているんだから)

侑(同性に……いや、歩夢に口づけすることに、抵抗心はやっぱり生まれなかった)

侑「目、閉じて」

侑(そっと、歩夢のあごに手を添える。そのままほんの少しだけ歩夢の顔を持ち上げると、歩夢は目を閉じた。……驚くほど歩夢の顔は熱かった)

侑(ずっと一緒だった。物心ついたころから一緒だった。幼稚園も、小学校も、中学校も、今まで。ずっと一緒だった)

侑「──ん」
歩夢「ん……ぅ」

侑(布団の中で、歩夢の脚が静かに動いた。私は、歩夢の脚の間に、自分の左足を割り込ませて、歩夢の脚と絡めあった。歩夢ひとりじゃない。二人でいたい。そう、思った)

侑(これからも一緒だと、信じていた)

侑「……歩夢」

歩夢「侑ちゃん──大好きだよ」

侑(口づけが終わる。脚を絡めあったまま。顎に添えた手を、歩夢の手に近づけて、指を絡ませる。手のひらと手のひらが重なった)

歩夢「ゆうちゃん──」

侑「ごめん、私、汗凄いかも」

侑(照れくさくなって笑う。笑えた。歩夢がもう、自分で死を選ぶことはない。そう、なぜだか安心できた)

歩夢「──わたしも、手、汗ばんでるかも」

侑(歩夢も、照れたように、困ったように、微笑んだ)
 
170: (たこやき) 2022/09/30(金) 21:41:18.03 ID:APWD2cT3
歩夢「侑ちゃん、このまま……手をつないだまま、寝よう?」

侑「ふふ。いいね、恋人ならではだ──いや、付き合う前からやってたかな?」

歩夢「……そうかも。ねえ、侑ちゃん──」

侑「……ん?」

歩夢「私の事、すき?」

侑「──愛してる、歩夢」

侑(嘘偽りない感情だった。恋はなくても、私には幸せになってほしいという祈りがあった)

侑(まっすぐ歩夢を見据えて言うと、歩夢は月明りの下、頬を紅くした。少し俯いて、私の胸に顔をうずめて──何か、囁いた)

歩夢「……明日からまた──」

侑「え? 歩夢、今なんて──」

侑(思わず聞き返す。けれど、顔を上げた歩夢はただ微笑んで言った)

歩夢「侑ちゃん、おやすみ」

侑(歩夢の笑み。それがまるでスイッチだったように。私は襲ってきた睡魔に抗う暇もないまま──)

歩夢「……」

侑(眠りに落ちた。もう大丈夫、歩夢は死なない──そう思いながら)
 
194: (たこやき) 2022/10/01(土) 22:08:59.76 ID:RSGS1YZh
【SS】璃奈「できた。時間が止まるスイッチ」侑「ひゃっほーーーい!」ポチーッ【ラブライブ!虹ヶ咲】

 
212: (たこやき) 2022/10/03(月) 22:01:58.20 ID:48DRswVd
──────

────

──翌早朝 侑の部屋

侑(……カーテンの隙間からの朝日が僅かに差し込む以外に、部屋を照らすものはなかった)

歩夢「ん……ぅ……」

侑(歩夢はまだよく眠っている。私が寝ている間に──そういうこともなく、ただ穏やかに寝息を立てていた)

侑(良かった──昨日の事がなければ、歩夢を見張るために睡眠時間を時間停止スイッチで確保しようかと考えてたけど……そうする必要は、結果的にはなかった)

侑「ふぅ」

侑(なんとなく目が覚めた私は、璃奈ちゃんがくれた取説をぼんやりと読み進めていた)

侑(時間停止のスイッチをオンにした際に操作した人がほかの人と触れていれば、その人も停止した時間の中で一緒に行動できる、とか)

侑(停止したまま長時間放っておかないこととか。具体的には十五分が限度らしい。それ以上を超えると世界? が止まった時間を動かそうとして──)

侑(時が止まった世界から戻れなくなる、らしい。つまり睡眠時間を確保する方法を採っていたら……いや、怖すぎる考えはしないに限る)

侑(あとは誤作動しないようにオフにしている際はスイッチにロックをかけておくこと、とか)

侑(まあでも、流石にもう使う気にはならない。歩夢はこうやって今も──)
 
214: (たこやき) 2022/10/03(月) 22:05:11.48 ID:48DRswVd
歩夢「……」

侑(生きてる。もう、それだけでいい。しかも私たちが望む幸せの形を、私たちが叶えられている。もうそれだけで十分だ。ほかに何を望むことがある?)

侑「歩夢……」

侑(……ただ、今になって思うこともある。歩夢が同性愛者で、歩夢はそれを苦しんでいた。死を選ぶほどに。私は歩夢じゃないから、歩夢の苦しみはわからない)

侑(ただ……私が歩夢を同性愛者だからと言って見捨てる、嫌いになる……歩夢はそう思っていたのだろうか)

侑(……女子高だし、そういう子がいるのは比較的身近に感じてきた。特に愛ちゃんや果林さんには、いわゆる『ガチ恋』ファンというのは存在する)

侑(……いや、やめよう。歩夢の苦しみは、歩夢の立場にならないとわからない。自分でもわかっていることだ。私がそう思わないからと言って、歩夢の気持ちを自分の物差しで考えちゃいけない)

歩夢「ゆ……う……ちゃん」

侑(ぼんやりと、ふわふわと焦点の定まらない歩夢の目に笑みをこぼしながら、私は歩夢の頬に口づけする。もちろん私は歯磨き済み)

歩夢「……あれ……? ゆう、ちゃん……?」

侑「ここだよ。おはよ、歩夢」
 
217: (たこやき) 2022/10/03(月) 22:08:35.85 ID:48DRswVd
歩夢「あ……えっと……おはよう……侑ちゃん……」

侑(まだふわふわと、少し舌足らずでふにゃふにゃと喋る歩夢。かわいいな、と思って笑みが零れる)

侑「私が歩夢の寝起きの顔見るの、久しぶりかも」

侑(微笑んで言うと、だんだんと目の焦点があってきて、目覚めた歩夢の顔が見る間に赤くなっていく)

歩夢「っ~!! やだ、見ないでっ」

侑(ソファベッドの上で布団をかき集めて、真っ赤になった顔を隠す歩夢に私はこらえられず噴き出した)

歩夢「笑わないでっ」

侑「いいじゃん、これから見られる機会は増える一方なんだよ? 大丈夫大丈夫」

歩夢「うぅ……でも、心の準備が……」

侑「いいじゃん、全部見せてよ。今は見せられなくてもいいからさ。私と歩夢は、もう恋人同士なんだから。もっとお互いに、今まで見せられなかった部分も、ゆっくりさ、見せあっていこうよ」

歩夢「侑ちゃん……」

侑(座っていた椅子から降りると、さりげなく歩夢に近づいて、ベッドに腰かけた)

侑「ほら、例えば歩夢のおっ〇〇とかもさ──」ムニッ

歩夢「ひゃっ!?」
 
221: (たこやき) 2022/10/03(月) 22:11:47.87 ID:48DRswVd
侑「うへへ、もーっと揉んじゃうぞ~」モミモミ

歩夢「……ぁ……っん」

侑「へ……?」モミッ

侑(……歩夢の胸を揉んでいた手が止まりかけた。なに、今のえ ちな声は? なに?)モミモミ

侑「あの……うえはら、さん?」モミモミ

歩夢「っ……ゅ、う、ちゃ──」

侑(いつもの歩夢ならぺちんと私の手を叩いて注意するのがお決まりなのだけど。今の歩夢は、口元に手をやり、明後日の方向を見て、頬どころか耳まで真っ赤にしてしている)モミモミ

侑(……良かった。こんな歩夢、私以外の誰に見せられるだろうか。これは他の誰にも見せられないな。私はそう強く思った)モミュモミュ

歩夢「~~っ! もうっ、侑ちゃんっ」

侑「なんで!? 恋人同士でしょ!?」

歩夢「ばかっ!!」
 
225: (たこやき) 2022/10/03(月) 22:15:40.05 ID:48DRswVd
──────

────

──放課後 カフェ レインボー

愛「なる、それで歩夢は朝からご機嫌斜めと」

侑「ちょっとおっ〇〇揉んだだけなのにね」

愛「ゆうゆはデリカシーってのを覚えた方がいんじゃね?」

侑「私ほどデリカシズムに富んだ人間はいないと思うんだけどなぁ」

愛「デリカシズムってなんだ」

侑(放課後、私と愛ちゃんは歩夢と璃奈ちゃんをそれぞれ待つ間、私と歩夢の関係について少し話していた。もちろん、遺書の事とかは隠してる)

愛「まあでも、二人がくっついたのはいいことだと思うよ、愛さんは」

侑「うん?」

愛「ゆうゆはともかくとして。歩夢はゆうゆと恋人同士になれた、っていうのは凄く安心できることだと思うから」

侑「うーん?」

愛「ゆうゆは基本歩夢が一番だって考えてるだろうけど……それ以上に歩夢はちょっと不安になりやすいっぽいし」
 
228: (たこやき) 2022/10/03(月) 22:19:44.26 ID:48DRswVd
侑「不安になりやすい……」

侑(それは確かに、そうかもしれない。中学校くらいから、私がほかの子と仲良くしていると、ちょっとこう……いろいろあった。色々)

愛「ゆうゆってさ、アタシたちを特別扱いするでしょ? みんな平等に、でも特別に」

侑「特別……っていうか、ただ私はスクールアイドルを、みんなを応援したいって思ってるだけだよ。みんなを見てると、胸がどきどきして、わくわくして……」

愛「ゆうゆのいいところだよ。アタシたちのこと、めっちゃ好いてくれてるじゃん、ゆうゆ。でもね、アタシみたいに『りなりーだけを更に特別扱い』しないでしょ」

侑「……それは──」

愛「別に責めてるわけじゃない。良い悪いの話ではないから。愛さんはりなりーと付き合ってるからこそ、アタシにとってりなりーが一番大切だから、そういうことをするんだ」

侑「……」

愛「アタシの中で、りなりーが一番特別であるなら、それ相応の態度で示す──それは大切なことだと、愛さんは思う」

侑(……歩夢を、特別に……)

愛「ゆうゆはさ、歩夢を大切にしてるけど今までは恋人じゃなかった。でも、今日からは違う。アタシたちは決してマトモじゃない道へと踏み出してる以上──」

愛「りなりーを、歩夢を、それぞれ安心させ続ける必要がある。アタシがりなりーにそうしたように、歩夢を幸せにすると自分に誓って踏み出したなら──」

愛「決して不安にさせちゃいけない。付き合ったことで、アタシが、ゆうゆが、不幸になっちゃいけないんだ。それこそが、りなりーが、歩夢が、それぞれ一番苦しむ結末になる」

侑「……それは、確かに──……そう、だね」

愛「恋人を安心させ続けること。付き合う事が正しい選択であったと証明し続けること。そうするほかに、アタシたちの幸せはない。でもゆうゆはその茨の道を踏み出したんだ」

侑「……」

愛「世間的に、もっと言うなら世界から見て『普通じゃない』以上、ね」
 
229: (たこやき) 2022/10/03(月) 22:22:54.24 ID:48DRswVd
侑(愛ちゃんの言うことはもっともだと思った。私たちの関係は、私たちの間では納得できていても、世間が、世界が普通とするものではない)

侑(歩夢と結ばれたことで私と歩夢は共に生きていく──私たちの選択は、たとえ世界から受け入れられなくても、それでも、私は歩夢と付き合えて幸せだって証明し続けなくてはならない)

侑(決して、ただ心の中で思うだけではなくて。歩夢を前に、歩夢といられることが、幸せなんだって──)

愛「……なんてさ、講釈垂れたけど。幸せになってほしいんだよ、愛さんは二人に」

侑「いや、ありがとう愛ちゃん。ちょっと浮ついてたのかも、私。これで終わりじゃないんだよね」

侑(自分の言葉を反芻する。そう。終わったわけじゃない。ここからが始まりなんだ。二人幸せに在り続ける。これからが始まりなんだ)

侑「付き合ったからハイおしまい、じゃないもんね。歩夢を幸せにする。私も幸せでいる。それが、私たちが望むカタチ」

愛「そゆこと。もちろん、今のは愛さんとりなりーが望んだ関係だから。歩夢とゆうゆの望んだ関係は、また違うかもしれない。でも──」

愛「ゆうゆにとって歩夢は、歩夢にとってゆうゆは、お互い世界で一番特別な存在なんだってこと」

侑(愛ちゃんは、ふっと息を吐きながら少し椅子に身を預けた。愛ちゃんは璃奈ちゃんに想いを寄せられたとき、どう思ったんだろう──)

愛「おっ、アタシたちの特別が来たよ──りなりー!」

侑(愛ちゃんが席を立つ。笑顔で手を振る愛ちゃんに、私も振り向いて──)

侑「歩夢っ」

侑(手を振った。両手でぶんぶんと。はにかんだ歩夢が視界に映った。嬉しそうに、くすぐったそうに。そんな歩夢を見て、私はただ、心臓の裏側がくすぐったくなった)
 
250: (たこやき) 2022/10/04(火) 20:59:34.68 ID:qyjFDdPO
──────

────

──夜 侑のマンション ベランダ

侑(転科試験の勉強の休憩にと、少し外を眺める。凛と輝く月と、確かに煌めく星と、囁くような風が肌を撫でる、静かで温かい夜)

侑(愛ちゃんの言葉がふと響いた)

──ゆうゆにとって歩夢は、歩夢にとってゆうゆは、お互い世界で一番特別な存在なんだってこと。

侑(……そうだよね。今までの特別じゃだめだ。心の中で思ってるだけじゃだめだ。ちゃんと態度で示さないと──)

侑(そこまで考えて、右のほうから──パーテーションの向こう、戸が開く音がした)

侑「歩夢?」

歩夢「侑ちゃん、やっぱり居た」

侑(ひょっこりと、髪を解いた歩夢がパーテーションから顔を出す。もう日中の不機嫌な歩夢はいない。謝り倒したからだ)

侑「私に会いに来たの?」

歩夢「……うん。ちょっと、顔が見たいなって」

侑「あはは、だったら呼んでよ。すぐ飛んで行くからさ」
 
251: (たこやき) 2022/10/04(火) 21:00:06.97 ID:qyjFDdPO
歩夢「侑ちゃんならほんとに飛んできてくれそう」

侑(くすくすと歩夢が笑う。夜風にふわりと吹かれて、歩夢の髪がふわふわと舞った。夜闇に散らばった髪が、月の光に浴びて煌めく)

侑「歩夢っ」

侑(本能。目の前にいて、確かに笑ってくれているのに。歩夢はどこか儚くて。闇に溶けてしまうんじゃないかと思って、私は歩夢に手を伸ばした)

歩夢「侑ちゃん……?」

侑(伸ばした手が、歩夢の頬に触れる)

歩夢「どうしたの、侑ちゃん」

侑(私の伸ばした手は、歩夢の手に包まれた。歩夢はそのまま目を閉じる。まるで私の手の感触を味わっているように)

侑「……わかんない。急に、歩夢に触れたくなったんだ」

侑(居なくなってしまうんじゃないか──とは言えなかった。どうしても、やっぱり遺書の事がちらつく。歩夢を信じていないわけじゃないけど……)

侑(そうやってぼんやり考えていると、ふと歩夢の頬に触れている手が熱くなってきたことに気付いた)

歩夢「……っ」
 
253: (たこやき) 2022/10/04(火) 21:00:47.70 ID:qyjFDdPO
侑「歩夢……?」

歩夢「……わかってる、わかってるよ……ヘンな意味じゃないってことくらい……」

侑「へっ……?」

歩夢「触れたい、って、別に、そういう意味じゃないもんね……」

侑(そういう、意味……意味……ヘンな意味……あっ、ああー……)

侑(今思えば、私が冗談のつもりでやってたセクハラの数々は、歩夢にとってはそれがどういうことなのか──少し自覚した。歩夢には本当にひどいことをしてきたんだ、私は)

侑(自責の念とともに、朝の歩夢を思い出す。私が少し揉んだだけで、ああやって顔を赤らめた歩夢。もし、もし──ベッドの上で、真剣に迫れば、どんな歩夢が見られるんだろう)

侑(これは、愛ではないんじゃないか、と思った。あらゆる歩夢を見せてほしいと思うことは、欲望だった。愛しているけど、これは私の我欲だった。でも、そうしたい、と思った)

侑「……抱かせてよ、歩夢」

歩夢「……へっ!?」

侑「全部見せて。歩夢の全部が見たいんだ。今までの冗談じゃない、本気で言ってるんだ」

歩夢「え、えっ、えっと、きょ、今日は、今日はダメ!」

侑「じゃあ今度の休みの日。デートしよう。で、抱かせてよ、歩夢の事」

歩夢「え、デ、だっ、デデデっ、デーぇ、えっ、ち、ぁ、えっと、えっと!?」

侑「もう決めたよ歩夢。え ちしよう、私と」

歩夢「ゆうちゃん!?」

侑「え ちするんだよ、歩夢は、私と」

歩夢「言い方ぁ!!」
 
254: (たこやき) 2022/10/04(火) 21:02:44.14 ID:qyjFDdPO
侑「大丈夫、ピアノしてるから爪はいつも短いし」

歩夢「そういうことじゃなくてぇ!!」

侑「こうしちゃいられない。歩夢とのデート、バッチバチに考えておくから」

侑(私は踵を返す。ウキウキしてきた、人生初のデートだ。歩夢と最高に楽しいデートをするぞ!)

歩夢「ゆっ、侑ちゃんっ」

侑「ん?」

侑(歩夢に声をかけられて、顔だけパーテーションから出す)

歩夢「え、っと。その」

侑「……?」

歩夢「デート、楽しみにしてるね」

侑「……私も!」

侑(はにかんだ歩夢に、私も笑顔で応えた。幸せだ、と思った)
 
276: (たこやき) 2022/10/05(水) 22:17:27.82 ID:MPomDd3H
【SS】璃奈「できた。時間が止まるスイッチ」侑「ひゃっほーーーい!」ポチーッ【ラブライブ!虹ヶ咲】

 
312: (たこやき) 2022/10/10(月) 19:40:15.73 ID:roLqdX1m
──────

────

──休日 夜 都内某所

侑「あー楽しかった!」

歩夢「私も! 侑ちゃんと二人でこうやってゆっくり遊ぶの、なんだか久々で……嬉しかった」

侑「……私もだよ。歩夢と二人で丸一日遊べて──嬉しかったし、すごく幸せだった。歩夢は? 幸せだった?」

歩夢「っ! ……わ、たしも……しあわせ、だよ」

侑「そっか──良かった」

侑(丸一日、朝から夜まで遊びつくした。歩夢と二人っきりだ。バッチバチに考えたデート──といっても、特別なことは何もしていない)

侑(お台場で二人ぶらついて、互いに服を選んでみたり、喫茶店で甘いものを食べながらとりとめのないことを話したり)

侑(カラオケに行って二人で騒いで、海を眺めながら散歩して……ただそれだけだった)

侑「でも今日は結構歩いたねー。私は歩夢ほど毎日ダンスの練習とか筋トレとかやってないから、脚にきたかも」

歩夢「実は私も……結構はしゃいじゃったから……」

侑「疲れちゃった? んー……じゃあちょっと『休憩』しよっか」

侑(さりげなく言った言葉に、歩夢は俯いて、そっと私の服の袖をきゅっと掴んだ)

歩夢「……うん、休憩……したいかな……」

侑「私も。じゃあ行こっか」

侑(袖をつかむ歩夢の手を握って、私は先導する。私だってきっとその声は震えていたと思う)
 
313: (たこやき) 2022/10/10(月) 19:40:45.16 ID:roLqdX1m
──都内ホテル

侑(あらかじめ調べておいたラブホに、私は堂々と入った。歩夢の手を引いて。別に誰かに見られているわけでもないけれど──)

侑(私たちは間違ったことをしているわけでもないのだから、おっかなびっくり入る必要もない、と思っただけだった)

侑(顔が見えないよう仕切られているロビーで、空いている部屋の番号を伝え、カギを受け取る。歩夢は私の後ろに隠れるように、ずっと俯いていた)

侑(そのまま歩夢の手を引いて、二人しか乗れない狭いエレベーターに乗りこんだ)

侑「歩夢、大丈夫?」

侑(歩夢にそっと声をかけると、歩夢ははじかれた様に顔を上げる)

歩夢「あっ……そ、その──侑ちゃん、手慣れてるな、って」

侑「調べた」

歩夢「へっ?」

侑「歩夢の全部を見せてもらうまで、スマートに進められるように調べたんだ。内心は……ものっそい緊張してる」

歩夢「……ぅ」

侑(また俯いてしまった歩夢の耳は、真っ赤だった。……自分より緊張している人を見ているとかえって冷静になれる、というのを実感しつつ──)

侑「歩夢、行こう」

侑(歩夢の手を引いて、私たち二人が夜を共にする部屋のフロアへと足を踏み入れた)
 
315: (たこやき) 2022/10/10(月) 19:41:18.37 ID:roLqdX1m
──────

────

──

「……侑ちゃん」

バスローブに身を包んだ歩夢が姿を現した。頬がほんのりと朱に染まっているのは、シャワーした以外の理由もあるんだろう、きっと。

「歩夢」

少し掠れた声が出た。緊張してるな、と思った。

「こっちおいでよ」

私の言葉にこくりと頷くと、静かに私の隣に腰かけた。ベッドのスプリングが少し軋む。部屋のエアコンの音がやけに大きく聞こえた。

少し体を強張らせる歩夢に、私はゆっくりとその歩夢の髪に手を伸ばす。そのまま手櫛でさらさらと撫でてみる。

歩夢は少しぴくりと体を震わせたけれど、特に何か言うこともなく私のされるがままになっていた。

「歩夢、良い匂いするね」

髪を撫でたまま呟く。もう囁き声すら互いの耳朶を打つほどの距離だった。

「そう、かな」

「うん。なんだか甘い香り。落ち着くなぁ」

「……私も──侑ちゃんの匂い、好きだよ」

「ほんと? じゃあ私のも嗅いで良いよ」
 
316: (たこやき) 2022/10/10(月) 19:41:58.47 ID:roLqdX1m
さらりと髪から手を放し、両手を広げて歩夢を受け入れる体制をとる。歩夢は少し視線をさまよわせ、恐る恐ると私へと手を伸ばす。

歩夢の顔が近づいてくる。大きく潤んだ目。朱に染まった頬。長い睫毛。甘い香り──。

「つかまえた」

「ひゃ!?」

近づいてきた歩夢を抱きしめて、二人でベッドに倒れこんだ。

「侑ちゃんっ?」

「歩夢……」

少し真剣な目をして囁くと、歩夢はゆっくりと目を閉じた。

そのまま、歩夢の少し厚みのある唇に、私の唇をくっつける。唇と唇が触れあう。ずっとこうしていたいような気がした。

「ん──」

歩夢が微かに声を漏らしたのをきっかけに、私は歩夢の上唇を両唇で優しく挟み込んだ。そのままむにむにと、歩夢の唇の感覚を味わうように。

ふにふに。むにむに。唇で挟んで──。
 
318: (たこやき) 2022/10/10(月) 19:42:37.82 ID:roLqdX1m
「ん、ふ──」

少しくすぐったそうに微笑んだ歩夢に、私は唇の隙間から舌を出して──歩夢の上唇を少し舐めてみる。歩夢は一瞬ぴくりと動いたものの、微かに口を開けたようだった。

「ん──……」

ちろちろと、上唇と下唇を舌で触れ続ける。歩夢の柔らかい唇が、徐々に私の舌で濡れていく。それがどうしようもなく私の胸を高鳴らせる。

「あ、ゆむ──」

「……っん」

顔を近づけたまま、歩夢を呼ぶ。歩夢はただ静かに、小さく──私の舌が歩夢の口の中に挿入れられるくらいに──開かれた。

顔をずらして、深く歩夢とキスができる状態に持っていって──そっと舌を挿入れた。

「んっ……!」
「は、ぁ……っふ……」

歩夢の口の中を、自分の舌が入り込んでいく。歩夢の咥内に、私の舌がある。全身がぞくぞくする。歩夢の口の中から、ぴちゃぴちゃと甘ったるい音がする。

そのまま歩夢の上あごを舌先で舐めて、前歯や奥歯を撫でつける。
 
319: (たこやき) 2022/10/10(月) 19:43:09.98 ID:roLqdX1m
「ふぁひゅむ──」
「ん──っ」

歩夢の舌が、私の舌先に僅かに触れた。そのまま歩夢の口の中で、私と歩夢の舌を絡め合わせる。今まで聞いたことのない音が、私たちの中で生まれた。

歩夢も私に顔を寄せて、私の舌と積極的に触れ合って、絡め合わせてくる。私も歩夢に体全体を寄せて、歩夢の足の間に自分の太ももを割って入らせる。

「ひゅう、ひゃ──」
「っふぁ、ん──」

歩夢の口の中をひたすらに自分の舌で〇す。多分きっと、〇す、ってこういうことなんだと思う。歩夢の吐息がより熱っぽくて、どろっとしていて、上ずったものになっている。

「は──ぁ……っ」
「ぅ──ん……」

どちらからともなく、顔を離す。顔が離れた拍子に、私たちの唇の間に、銀色に光る糸が繋がっていた。私たちはただそれを眺めていて──やがてぷつりと切れた。

……それがただお互いの咥内を、舌で自分たちを溶かしあおうとした結果の産物だったのか、私たちをつなぎ留める理性の糸だったのかはわからない。

もう我慢できない、今まで見たことのない歩夢を、自分の手で曝け出させたいと強く思った。
 
367: (たこやき) 2022/10/23(日) 22:16:24.31 ID:ZzwhhS7s
「電気、消すよ」

ベッドの横のテーブルに置いてあったリモコンに手を伸ばし、電気を消した。たぶんこれが歩夢を思いやれる最後の理性だったのだと思う。

「ゆうちゃ──あっ」

そのまま歩夢の上に覆いかぶさると、既にもうはだけかかっていたバスローブに手をかける。薄暗い中で、確かに私と歩夢の視線が絡み合った。

「……」
「……──」

暗闇の中で、歩夢が頷いた。暗闇の中、歩夢の白い肌が煌めく。バスローブをずらして歩夢の肌を露わにしていけばいくほど、私の鼓動も早くなっていく。

するりと脱げていくバスローブ。歩夢の肩を、二の腕を、デコルテを、そして、胸を、その薄い桃色の先端を、私の視界を埋め尽くしていく。

「歩夢──きれいだよ」

「っ……」

本心だった。この世界にある美しいと評されるもの、美麗であると讃えられるもの、そのあらゆるものを集めたとしても、歩夢には敵わないと思った。

「──あっ」

砂で作ったお城に触れるように。幾度となく触ってきた歩夢の胸に触れる。手が沈み込んでいく感じ。柔らかな感覚。

歩夢が漏らした声が、一段と艶がかかったような気がした。

「──っ」

どくん、どくん、と歩夢が生きている音が手のひらに伝わってくる。一瞬、遺書の事が頭のなかでちらついた。考えるな。忘れろ。目の前の歩夢だけに集中しろ。
 
368: (たこやき) 2022/10/23(日) 22:17:25.92 ID:ZzwhhS7s
歩夢に悟られる前に、両手で胸をゆっくりと揉む。私の手の動きに合わせて、ゆっくりと形を変える豊かな胸を視界に入れつつ、歩夢を見る

「んっ……は、ぁ……」

「顔、見せてよ」

「だって……」

「暗くてわかんないよ」

「じゃあ、みせなくて──んぅっ」

こっちを見るのを渋る歩夢。ダメだよ、全部見せてもらわないと。

「ここ、すき?」

「は、ぁっ  っく  あぁっ」

私の手は胸全体から、その桃色の先端の方へ動かしていた。手のひらから指を動かすように。優しく花を摘むように。歩夢の硬く主張するその先を柔らかくつまんだ。

人差し指を先端に、触れるか触れないかくらいの距離で動かしてみる。時々、かりっ、と私の爪の先や指の腹がそこに触れるたび、歩夢がびくりと身体を震わせる。

「かわいいよ、歩夢」

「う そ──ひあっ」

目線を反らす歩夢を良いことに、私はぷくりと主張する桃色の胸の先端を指の腹で押し込んで、ぐりぐりと動かしてみる。

「あっ う”っ  そ、れっ だ、めッ」

「だめ?」

歩夢の脚がひたすらシーツの上を泳ぐ。私の指の先から与えられる快感を逃そうと、ひたすらに泳ぎ続ける。

「だめ、だめっ おねがっ むりっ」

乱れる。髪を振り乱して、シーツを脚でかき回して、ぎゅっと枕を握りしめて、その柔らかく優しい顔を真っ赤に染めて。

ああ、歩夢の顔が見たいな。
 
369: (たこやき) 2022/10/23(日) 22:19:20.24 ID:ZzwhhS7s
「こっち向いてくれたら、一旦指止めるよ」

そう囁けば、一瞬でこっち向いてくれた。だから指を止める。

顔どころか耳の端まで真っ赤だった。全身で熱を帯びた呼吸を続けて。その両目は興奮と快感で潤んでいて。口角から少しよだれまで垂らして。

幼稚園の、ううん。もっともっと小さなころから一緒だった歩夢。それが、こんな風に乱れているなんて。そして、こんなことをする間柄になるなんて。

背筋がぞくぞくとした何かが駆け巡って、それが私の頭の中を埋め尽くす。

歩夢の快感を堪える甘くて荒い吐息と、興奮と背徳で荒れた息が、ホテルの一室に静かに響いていた。

「ゆうちゃん……ひどい──よ……」

「……」

にぃ、と心の中の口角が吊り上がった。視界の片隅で歩夢が大きな瞳を震わせて──

「う”ぁっ」

悲鳴に似た嬌声が歩夢の喉から放たれた。腰をのけぞらせて、びくびくと震える歩夢。

私の口の中には、硬くこりこりとした感触の胸の先っぽがあった。

「あ”ッ なん”っ  で    むりっ  だッ」

そのこりこりとした所を、私の舌で丁寧に、丹念に舐める。蛇の舌遣いのように優しく焦らすように、ちろりちろりと。或いは、ぐっと押し込んでみたり。

そのまま、舌で押し込んだままぐりぐりと刺激を加えつつ、もう片方の先端を指でぐに、と挟んで──

「むり  い”っ」

ひときわ大きく、歩夢の身体が跳ねた。
 
370: (たこやき) 2022/10/23(日) 22:20:18.56 ID:ZzwhhS7s
肩で息をする歩夢に、私は際限なく生まれる欲望を隠そうとは思わなかった。

指が胸からお腹、お臍、鼠径部へとつぅと指を走らせて──。

くちり、と指が暖かくぬるりとしたものに触れた。

「──ぁ」

荒く息をする歩夢は、少し息を呑む。人差し指が、歩夢の大切な場所に触れている。暖かく、とろとろしていて、触れているだけで、気持ちよかった。

「歩夢──」

はっきりと、真正面から歩夢を見据えた。歩夢は一瞬視線を外そうとして──私の瞳に視線を合わせる。

「侑ちゃん──」

歩夢が何を言いたいのか、手に取るように分かった。静かに顔を近づけて、歩夢と何度目かの口づけをして──。

指を、歩夢のナカへと潜ませた。

私の口の中で、歩夢の熱っぽい吐息が溢れていく。指が、歩夢の中へと、中へと、暖かくとろりとしたナカへと、潜り込む。

優しく、傷つけないように。歩夢を愛している気持ちを人差し指に込めて、ゆっくりと指を進ませる。

歩夢の吐息と反応を体で感じながら、探っていく。メロディを作る上で、音を探す感覚によく似ている──ような気がした。

どこかにハマる音があるのと同じように、歩夢が最も気持ちよくなれる場所がある。

私の唾液なのか、歩夢の唾液なのか、それとも汗なのか涙なのか、もうよくわからない液体が私たちの間を零れていって──。

「ひあっ」

触れた。ここだ、と思った。とん、とん、と狭い歩夢のナカで僅かに第一関節をまげて、甘い刺激を与えてみる。

とん、とん、のリズムで歩夢の吐息が熱く激しく、溺れるような甘い嬌声が私の口の中で響く。

そのまま、指の腹ですりすりとその場所に触れ続ける。くち、くち、という音はいつのまにかぐちゅぐちゅという音に変わっていて、でも私はもうそんなこと気にしていられなかった。
 
372: (たこやき) 2022/10/23(日) 22:21:47.09 ID:ZzwhhS7s
歩夢の吐息のリズムが速度を増す。更に熱と糖度も増していく。けれど、焦らない。ただひたすら、メトロノームみたいに私は変わらないリズムで、歩夢のナカを触れ続ける。

歩夢の両腕が、私の背中に回される。ぐん、と歩夢に引き寄せられる。身体の前面が歩夢と密着して、もうこの暑さが私の体温なのか歩夢の体温なのかわからなくなった。

「あっ  あっ う”、あ”  ゆう、ちゃッ」

「ぐ──ッ」

私の名前を呼ぶと同時に、私の背中に歩夢の爪がぐっと食い込んだ。

そして、きゅっと人差し指が締め付けられる。指がちぎれるんじゃないかと思うほど、歩夢は私の指を締め付けていた。
 
373: (たこやき) 2022/10/23(日) 22:24:48.32 ID:ZzwhhS7s
どのくらいの時間がたったのか、私にはよくわからなかった。十秒くらいだった気がするし、十五分くらいだったような気もするし、三十分くらいだったような気もする。

歩夢が静かに、けれど肩を震わせているのに気付いた。

「歩夢……?」

顔を離すと、歩夢はぽろぽろと涙を流していた。

私はただ静かに、歩夢の言葉を待った。指がまだ、歩夢のナカで締め付けられている。

「こわいよ……こんなわたしが……こんなに、こんなに──しあわせで……」

きらきらひかる歩夢の瞳と、零れていく大粒の涙。汗で張り付いた前髪。シーツに散らばったブラウンの髪。朱を混じらせた白い肌。長い睫毛。ぷくりと膨らんだ唇。

「いいのかな、ゆうちゃん──わたし……」

歩夢の何もかもが愛おしいと思った。何もかもを捻じ曲げてでも、歩夢を幸せにしたい。そう思った。

「いいんだよ。私と、幸せになろう、歩夢。二人でおばあちゃんになるまで、ずっと幸せでいよう」

誓った。私と歩夢に、誓った。

きゅう、と私の人差し指がまた締め付けられた。
 
390: (たこやき) 2022/10/25(火) 20:45:52.76 ID:y2iX7XeT
──────

────

──翌日 虹ヶ咲学園 カフェ レインボー

愛「それで上手くいったの?」

侑「上手くいったよ」

侑(この前のように、私と愛ちゃんはレインボーでポテトをつまみながらお喋りしていた)

愛「上手くイかせたの間違いっしょ?」

侑「ぷっ! ……デリカシズムに欠けるんじゃないその発言は……んふっ」

愛「笑ってるゆうゆに言われても説得力ないぞ?」

侑(下ネタを軽々しく口にした愛ちゃんも悪いけど、笑ってしまった私も悪い。五分五分)

侑「……まあでも、璃奈ちゃん家でお泊りしてる体にしてくれた璃奈ちゃんと愛ちゃんには頭が上がりません」

愛「二人でお泊りっていってもね? ラブホ行ってきますとは言いにくいっしょ」

侑「Yes……って愛ちゃんはどこでシてるの?」

愛「え? ふつーにりなりーの部屋」

侑「うっわ聞きたくなかったなそれ!?」

愛「聞いておいてなんてリアクション……でも歩夢、ほんと良かったなぁって感じするなぁ」

侑「……私も、歩夢と恋人になれて良かったって思ってる。今思えば、歩夢に救われてるのは私だったのかも」

愛「お互いに小っちゃい頃から一緒にいるから、距離感バグってたんだよ」

侑「それはあるかも……」
 
391: (たこやき) 2022/10/25(火) 20:47:25.97 ID:y2iX7XeT
侑(二人で喋りながらまた前のように恋人を待つ。歩夢と璃奈ちゃんはもうすぐ──)

愛「お、りなりー来た」

侑(愛ちゃんの言葉で私は振り向く。カフェの外で璃奈ちゃんがぱたぱたと走ってくる)

侑(璃奈ちゃんだけが、レインボーの入口を目指して走っていく──歩夢は?)

侑「……」

愛「あれ? 歩夢がいないね。一緒に来るはずなのに──ゆうゆ、歩夢から連絡来てない?」

侑「なにも来てない」

侑(思わず椅子から立ち上がった。さっきまでヘラヘラ話をしていた気分が吹っ飛んでいた。首筋がびりびりする)

璃奈「愛さん、侑さん」

愛「どしたのりなり、そんな急いで。それに歩夢はどしたの? まだ部室?」

侑(戸を開けて私達が座っている席まで来て、ふぅふぅ、と息を整える璃奈ちゃん。指先がぴりぴりと震える。……おかしい。何が起きてるんだ?)

璃奈「──侑さん、歩夢さんこっちに来てない?」

侑「来てないけど──どうしたの?」

侑(璃奈ちゃんの言葉に、鼓動が早まっていく。一体何が起きたっていうんだ?)

璃奈「それが──」
 
392: (たこやき) 2022/10/25(火) 20:48:17.59 ID:y2iX7XeT
──────

────

──

侑(璃奈ちゃんの話を聞き終わる前に、私はレインボーを飛び出していた)

侑(歩夢を探して学内を走り回りながら璃奈ちゃんの話を思い返す)

──せつ菜さんがちょっと前に侑さんと二人で出かけた話をしてて。

侑(中学生のころにあった事件を、今更思い返した)

──せつ菜さんが好きなアニメの聖地で、せつ菜さんが撮った写真を皆に見せてたの。

侑(基本的に私と歩夢は一緒に行動していることが多かったから、私の友達は歩夢の友達でもあったし、歩夢の友達は私の友達でもあった)

──それで、せつ菜さんが侑さんと撮った写真があって、何をしたとか色々話してたんだ。

侑(でも、歩夢の知らない友達が私には何人かいて、その子たちと私で遊ぶことが時々あった)

──で、せつ菜さんが侑さんと何を食べたとか、ここで何を見たとかを話してたら──。

侑(ある日の放課後、私はその子たちと遊んでいて、たまたま歩夢と街で会った)

──歩夢さんがせつ菜さんを──。

侑(歩夢は今まで見たことないような表情で。私の隣にいたその友達を──)
 
393: (たこやき) 2022/10/25(火) 20:48:57.71 ID:y2iX7XeT
突き飛ばしたんだ。
 
394: (たこやき) 2022/10/25(火) 20:50:08.09 ID:y2iX7XeT
侑(幸いその友達は尻もちをついた拍子に手をねん挫しただけで済んだけれど。それよりそのあとの歩夢が──)

──せつ菜さんは体勢を崩して床に転んじゃったんだけど、けがとはなくて。それより歩夢さんが──。

侑(歩夢は私達の前から逃げ出した)

──泣きながら部室を飛び出して行っちゃって。せつ菜さんは泣いてる歩夢さんを心配してて。皆で歩夢さんを探してるんだけど……。

侑(あの時と全く一緒だ。あの時の歩夢と、きっと同じだ。何よりも誰よりも、自分に絶望した表情──今ようやく、全てがつながった気がした)

侑「歩夢……っ!」

侑(歩夢が、歩夢が自ら命を絶とうとした理由。同性愛を気に病んだからじゃない。歩夢はあの時私に真実を告げていたんだ)

──侑ちゃんこそ、どうして? どうしてずっと一緒にいてくれるの? 私だけの侑ちゃんでいてほしいなんて、ひどい我儘言って、困らせて。

侑(そうだ、これだ。これが、全てだったんだ)

──侑ちゃんだけじゃない。侑ちゃんも、侑ちゃんの周りのみんなも、困らせて。それでも侑ちゃんは私を嫌いにならなかった、それでも傍にいてくれて。

侑(高校生のころからじゃない。中学生、ううん、きっと歩夢が私を好きになってからずっと、歩夢はただ、歩夢だけの私でいてほしいという想いに、苦しんできたんだ)

侑(わかってなかった。何一つわかってなかった。同性愛なら璃奈ちゃんがいる。璃奈ちゃん以外にも、私の周りにもいたけど、私はずっとそんなことあまり気にしなかった)

侑(でも──歩夢のその誰か一人に向ける想いの強さは、重さは。私の周りで、歩夢だけしかいなかった)
 
395: (たこやき) 2022/10/25(火) 20:51:18.73 ID:y2iX7XeT
侑(そう。普通じゃなかったんだ。同性愛なんて私達にとっては異常なんかじゃない。私達にとっては『普通の子』だ)

侑(でも、歩夢の言う『本当の私』っていうのは──!)

侑「歩夢……ッ」

侑(走り続けて息が苦しくなった。それでも立ち止まれない。止まりそうになる脚は、遺書の事を思い返せばまだ動けた)

侑(時間との勝負だ。最悪のケースを想像する。せつ菜ちゃんを突き飛ばしてしまったこと、きっとそれは歩夢にとって衝動的なことだったと思う)

侑(それでも歩夢にとって自分がしたことは、受け入れられないようなことだ。皆を困らせて、私に嫌われてしまうようなこと。そしてその歩夢が『本当の歩夢』なんだ──)

侑(それを気に病んで、命を絶とうとしていたのなら──……お願い、歩夢が見つかるまで、時間が止まってくれたら──)

侑「時間……?」

侑(そうだ。時間。私には時間を止めるスイッチがある。限度は十五分。それさえ頭に入れていれば、大丈夫だ)

侑「歩夢、すぐ行くから──」

侑(私はポケットからスイッチを取り出すと、急いでオンに切り替えた)
 
409: (たこやき) 2022/10/26(水) 21:40:07.27 ID:b9mk0T9k
──────

────

──虹ヶ咲学園 屋上

歩夢(止まれなかった。私だけの侑ちゃんなのに。私だけの侑ちゃんに──。そんな思いが私の頭のてっぺんから爪先までを埋め尽くしてしまって)

歩夢(気付けばせつ菜ちゃんを突き飛ばしていた。楽しそうに侑ちゃんとの思い出を話すせつ菜ちゃんが、憎くて憎くて仕方なかった)

歩夢(ううん。せつ菜ちゃんだけじゃない。同好会のみんなも、侑ちゃんと親しげに話すクラスメイトの皆も。憎くて憎くて、悔しかった)

歩夢(私だけの、侑ちゃんなのに)

歩夢「……ッ」

歩夢(……ずっとこの思いと戦ってきた。私だけの侑ちゃんなわけがない。侑ちゃんは侑ちゃん。私だけの侑ちゃんだなんて、存在しない)

歩夢(侑ちゃんと仲良くする人を憎んで、憤って、暴力をふるうなんて、おかしい。確かに私は侑ちゃんが好きだけど、そんな風に人に乱暴するなんて、絶対にどうかしてる)

歩夢(だからずっとずっと、堪えてきた。私は間違ってる、おかしな子だ、まともじゃないって)

歩夢(でも、侑ちゃんと仲のいい子を見るたびに、どうしようもなく苛々して、苦しくて、居なくなってほしいと思い続けて)
 
410: (たこやき) 2022/10/26(水) 21:41:55.33 ID:b9mk0T9k
歩夢(でも同時に、そんなのは私の頭が、心が、どうかしてるって。ちゃんと理解できていて。理解しているのに。その思いは、ずっとずっと止まらなくて)

歩夢(ある日気付いたの。私は普通じゃないって。異常者なんだって。侑ちゃんが好きで、自分一人の侑ちゃんでいてほしくて。異常なまでの独占欲。自分でも抑えられないほどの凶暴な私)

歩夢(私はまともじゃない。普通じゃない。そう気づかされてから、侑ちゃんが好きであればあるほど、私はますます自分の異常性に怯えていった)

歩夢(侑ちゃんの周りの人を傷つける。苦しめる。侑ちゃんを独占するために、ほかの人に暴力を振るう)

歩夢(周りの人を私が傷つける。人として間違ってる、狂ってる、おかしいのに。それをわかっているのに、私はいつも侑ちゃんを独占したくて独占したくて、たまらない)

歩夢(そして、侑ちゃんの事も傷つける。侑ちゃんは私を優しい人間だと思ってくれてる。本当は違う。本当は全然まともじゃない。自分の欲望のために、人を平気で傷つける、異常者で──)

歩夢(彼方さんと一緒にお昼寝する侑ちゃんを見て。果林さんと練習メニューを考える侑ちゃんを見て。エマさんが作ったお菓子を食べる侑ちゃんを見て)

歩夢(せつ菜ちゃんと二人で出かける侑ちゃんを見て。愛ちゃんのダジャレで笑う侑ちゃんを見て)

歩夢(璃奈ちゃんと新しいボードを考える侑ちゃんを見て。しずくちゃんの演技を見ている侑ちゃんを見て。かすみちゃんをかわいいとほめる侑ちゃんを見て)

歩夢(何もかもをめちゃくちゃにしたいと思ってしまって。みんな居なくなってほしいと思ってしまって。そういう思いを抱えていることに気付いて──)

歩夢(皆に会うのが。侑ちゃんに会うのが。明日が来てしまうのが、怖いと思った)
 
411: (たこやき) 2022/10/26(水) 21:44:30.05 ID:b9mk0T9k
歩夢(そしてすぐ次に、死んじゃおう、と思った。自分の欲望のためだけに平気で人を傷つける人間なんて、居ないほうがましだ)

歩夢(死のうと思ってからはあっという間だった。その日のうちに遺書を書いて、次の日死ぬ直前に侑ちゃんに会って、お別れしたらすぐ死のうと思ってたけど……)

歩夢(侑ちゃんは体調が悪かったみたいで、一緒に過ごすことになった。それでも、すぐ明日には死のうと考えていて)

歩夢(──でも。侑ちゃんはなんだか、まるで私が居なくなることに気付いているんじゃないかって思うくらい、私とずっと向き合ってくれた)

歩夢(……侑ちゃんの言葉を聞いているうちに、死ぬ前に好きという気持ちを伝えたいと思った。そして、伝えた)

歩夢(侑ちゃんは一瞬驚いたけど、私が望む以上の答えを、気持ちを、想いを私にくれた。侑ちゃんの想い。私はもう他人を傷つける必要なんてないって思った)

歩夢(こんなにも私を愛してくれる侑ちゃんなら、誰かを嫉妬して、憎んで、乱暴な気持ちにならなくて済む、そう、思った)

歩夢(侑ちゃんはたくさん愛してくれた。私の全部を、侑ちゃんは丁寧に優しく愛してくれた。嬉しくてうれしくて、本当に死んじゃうんじゃないかと思った)

歩夢(好きな人と結ばれて、あんなにも愛してくれて。もう、誰かを傷つけることなんてないって、そう思えて、嬉しかったのに)

歩夢(それでも、ダメだった。今日、結局私はせつ菜ちゃんを突き飛ばした。私だけの侑ちゃんなのに、どうしてせつ菜ちゃんが。そう思ってしまって、赤くてドロドロした、マグマみたいな感情が──)

歩夢(気付けば私はせつ菜ちゃんを突き飛ばしていた。驚いたみんなの顔。もうダメだって、思った。侑ちゃんと結ばれて、こんなにも愛されているのに。私の欲望は止まらなかった)

歩夢(私のこの異常な独占欲は、止まることはない。侑ちゃんからの愛と、侑ちゃんを独占したいという気持ちは、私の中で繋がらなかった)

歩夢(泣きたいのはきっと突き飛ばされたせつ菜ちゃんのほうなのに。私は自分に救いなんてないことがわかって、泣いて、逃げ出した)

歩夢「……」
 
412: (たこやき) 2022/10/26(水) 21:47:17.72 ID:b9mk0T9k
歩夢(死にたくない。死にたくない。でもそれ以上に、自分の欲望のために平気で他人を傷つける自分が、嫌で嫌で仕方なくて、消えてしまおう、と思った)

歩夢(皆を不幸にする。そして何よりも、侑ちゃんを悲しませる。それは、それだけは、したくない。侑ちゃんを悲しませるくらいなら、死ぬ)

歩夢(目の前には三角を逆にした、不思議なデザインの、虹ヶ咲学園を代表する建物が見えた)

歩夢(ベンチの上に立って、そのまま手すりに片足を乗せる)

歩夢(夕焼けが眩しかった。最期に、侑ちゃんの顔が見たかったな)

歩夢(もう片方の足も、手すりに乗せた。不安定な丸い手すりの上で、私はぼんやりと立ち上がっていた)

歩夢「……ごめんね」

歩夢(ぽつりと呟いて、私は──ゆっくりと、身体を前に倒した)
 
432: (たこやき) 2022/10/29(土) 22:13:35.67 ID:YS+Fhivq
「歩夢ーーーーーーーーーーーッ!!」

歩夢「きゃっ!!」

歩夢(身体を倒した方向と逆方向。ベンチのほうに、身体が引っ張られて──)

「うぐっ!」

歩夢「あっ!?」

歩夢(私を引っ張ったであろう人と、床にもんどりを打って倒れた)

歩夢「うっ……うぅ……?」

「はっ……はっ……歩夢……」

歩夢(聞き覚えのある声。頭を、心を、そのすべてを占める、愛おしい人の声──)
 
433: (たこやき) 2022/10/29(土) 22:15:20.71 ID:YS+Fhivq
──

────

──────

侑(どこだ、どこだ! どこにいるの、どこにいるの歩夢!)

侑(時を止めてから十分は経った気がする。スマホのタイマーも当然時が止まってしまえば数字は一秒も動かない。頼りになるのは自分の感覚だけだ)

侑(耳に痛すぎるほどの静寂と動かない生徒たちを横目に走り続ける。無駄に広い校内が嫌になる)

侑「はっ はっ はっ ──っく!」

侑(目に入ってくる汗が鬱陶しい。もう最悪の状況しか脳裏をよぎらない)

侑(立ち止まって、荒い息を整える。顎の先を滴り落ちていく汗)

侑「はーっ……はーっ……」

侑(熱い体温を、風が冷ましていく)

侑「……か、ぜ?」

侑(顔を上げる。窓から入ってくる風。汗を垂れ流す私を不思議そうに見る周りの生徒。そして──)

侑「……電話……璃奈ちゃん?」

侑(スマホを取り出して、通話を繋げる。片手間でスイッチを取り出すと、オンに入っていたはずのスイッチはオフになっていた。おまけにオンに入らない)

璃奈『侑さん! 十五分を超えちゃダメって!』

侑(よろよろと歩きながら、璃奈ちゃんの珍しく荒い語調を聞く)

侑「……璃奈ちゃん。なにが──」

璃奈『十分を越えると強制でオフにするようにして、おまけに私のスマホに通知が入るようにしてる。侑さん、十五分を超えるとこっちに戻ってこれなくなる』

璃奈『説明書は渡したよね? 侑さん、歩夢さんを探すために使ったの?』

侑「そう、だよ……。まだ、歩夢は見つかってないから──」
 
435: (たこやき) 2022/10/29(土) 22:17:51.25 ID:YS+Fhivq
愛『スイッチの事、りなりーから聞いたよ! ゆうゆ、何をそんなに焦ってるの? 妬いちゃって思わず手が出て、逃げ出しちゃった。それだけ──』

侑(愛ちゃんの声が割り込んでくる。何も知らない、愛ちゃんの言葉。歩夢を探しているというのに、邪魔をする璃奈ちゃん)

侑「二人とも何もわかってないくせに!!」

侑(怒鳴った。歩夢の命がかかっているのに、二人はまるで他人事で──)

侑「歩夢がどれだけ苦しんでるか!! 何も知らないくせに!!」

愛『ゆうゆ、落ち着いて。ごめん、失言だったよ。怒らせるつもりはなかったんだ。歩夢がどうでもいいとか、そういうつもりじゃなかったんだ』

侑(愛ちゃんの冷静な謝罪に、頭が冷える。周りの生徒も心配そうに私を眺めてる)

侑「……ごめん。でも、時間が──」

「侑ちゃん、上原さんを探してるの?」

侑「……っ知ってるの!? 歩夢は!? 歩夢はどこ!?」

「きゃぅ! う、上原さんなら屋上に──」

侑(……頭の中が真っ白になった。そのあとすぐに思ったのは、歩夢の事だった)

侑「ッ!!」

愛『ゆうゆ! 待って、アタシたちもそっちに行くから! どこにいるの! ゆう──』

侑(もう事情を話している時間も惜しかった。スイッチが使えない以上、本当に間に合わなくなる)
 
436: (たこやき) 2022/10/29(土) 22:20:21.47 ID:YS+Fhivq
侑(階段を一段飛ばして駆け上がる。もうただ祈るだけだ。間に合ってくれれば他にはもう何もいらない)

侑(屋上に出るドアを蹴り飛ばすように開けると──)

侑「歩夢ーーーーーーーーーーーッ!!」

侑(手すりの上に立つ歩夢。この世で一番見たくない光景を、視界が捉えている。吐き気よりも、恐怖よりも、絶望よりも、何に向けてかわからない、真っ赤な憤怒が私を満たしていく)

侑(突っ走った。歩夢の身体がぐんぐんと手すりの向こう側に向かっていく。間に合え。間に合え。間に合え)

侑(間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え!!)

歩夢「きゃっ!?」

侑(歩夢の胴に腕を回した。間に合う。間に合った。そのまま渾身の力で床に倒れこむ)

侑「うぐっ!」

歩夢「あっ!?」

侑(ごろごろと、歩夢とともに屋上の床を転がった。あちこち身体を打ち付けるけど、歩夢だけは絶対に離すものかときつく抱きしめた)

歩夢「うっ……うぅ……?」

侑「はっ……はっ……歩夢……」

侑(歩夢に覆いかぶさるように──私はただ歩夢の上に居た)

歩夢「……侑ちゃん」

侑「……歩夢……なにやってるの……」

侑(もう。もう何も考えられなかった。目の前で微笑んでいる歩夢。頭がおかしくなりそうだった)
 
437: (たこやき) 2022/10/29(土) 22:22:12.13 ID:YS+Fhivq
歩夢「凄いね、侑ちゃん。顔が見たいなって思ったら、ほんとに飛んできてくれたんだもん」

侑(私の汗が、歩夢の頬へと零れ落ちていく)

歩夢「嬉しいな……侑ちゃんに会えて、嬉しいよ」

侑(もう無理だ、と思った。それでも、ただ、呻くように私は言った)

侑「歩夢……なんで……ッ」

歩夢「……私ね。おかしいの。侑ちゃんがこんなにも愛してくれるのに、侑ちゃんを独り占めしたいの」

侑(歩夢は微笑んだまま呟く。私の汗が歩夢の頬に落ちて、それが代わりに涙みたいに流れていった。どうして笑ってるの。なんでそんなに──)

歩夢「ただ嫉妬するだけなら、良かったのに。傷つけようって思っちゃうの。侑ちゃんと仲のいい人に、乱暴しようって、傷つけて、居なくなっちゃえって思っちゃうの」

侑(歩夢の頬に落ちていく液体が、汗なのか涙なのかわからなくなった)

歩夢「中学生のころはね。私と侑ちゃんの共通のお友達なら、まだ大丈夫だったの。でもね。高校になって、もっとひどくなって」

侑(微笑んだまま話し続ける歩夢。私の荒い息が、近くに聞こえたり遠くに聞こえたりした)

歩夢「クラスメイトの子も、同好会のみんなも、居なくなっちゃえって思っちゃうの。傷つけて、傷つけて──私だけの侑ちゃんにしたいって、思っちゃって」

侑(私だけの──歩夢だけの私──……)

歩夢「でもね? 侑ちゃんが私の事愛してるって言ってくれて、もう大丈夫かなって思えたの。あんなに愛してくれて、愛されて、独り占めしたいなんて思わなくなるくらい幸せだったんだよ?」
 
439: (たこやき) 2022/10/29(土) 22:24:06.35 ID:YS+Fhivq
侑(そうだよ。歩夢が死にたいって思わないくらい、愛したつもりだったんだ)

歩夢「でもね──やっぱり私、ダメだったの。侑ちゃんを独り占めしたいって気持ちは、全然収まらなかったの。さっき、侑ちゃんと遊んだことを楽しそうに喋ってるせつ菜ちゃんを見て──んむっ」

侑「ん──……」

侑(口づけた。もう、これ以上歩夢にこんなこと言わせたくなかった。聞いたのは私だけれど──もう……もう、十分だった)

侑「……っ」

歩夢「は……ぁ……ゆう、ちゃん……?」

侑(……歩夢が何をしたっていうんだ。自分がおかしいってことに気付いているからこそ、苦しんでいる。何をしたっていうんだ、歩夢が……)

侑(ゆっくりと、歩夢の上から立ち上がる。そのまま歩夢に手を差し伸べて、歩夢を立たせる)

侑「……歩夢。行こう」

歩夢「行くって……?」

侑(……ポケットの中のスイッチを触った。もう、歩夢の心は限界だ。さっきからずっと、微笑んでいる。私にできることは、できることは──たった一つだけある)

侑「……もしもし。璃奈ちゃん? さっきはごめんね──うん。もう大丈夫、歩夢は見つかったから。うん。それより──聞きたいことがあるんだけど──」

侑(私の隣で、歩夢がきょとんとしながら首を傾げた。ぶらんと揺れた前髪が、夕焼けを反射して煌めいた)
 
452: (たこやき) 2022/10/30(日) 23:07:32.91 ID:AIh6B+eV
──────

────

──

侑(たどり着いた。もう辺りは暗く、私と歩夢以外人気はなかった)

歩夢「侑ちゃん……ここって……」

侑「そう。歩夢が私だけに歌って踊ってくれた場所だよ」

歩夢「うん……覚えてるよ。侑ちゃんだけのスクールアイドルになろうって決めた場所」

侑「……歩夢。私は歩夢を幸せにしたい。例え、例え……世界を捻じ曲げてでも」

侑(それだけは変わらない。たとえ何を犠牲にしても。歩夢が幸せである世界を私は選ぶ)

歩夢「……侑ちゃんの気持ち、すごく、すごく嬉しいよ。でもね……だめなの。私が幸せでも、侑ちゃんを、侑ちゃんの周りを傷つけ続けるの。それは……それは……」

侑(そのためなら、なんだってする)

侑「歩夢。二人で生きていこう。ここじゃない。別の──誰も知らない、私たち二人だけの世界で」

歩夢「……侑ちゃん? 何を言ってるの……?」

侑(歩夢が不思議そうな、怪訝そうな顔をする──。それでも私は、ポケットに入れたスイッチを取り出す)

侑「歩夢、これはね──」

──ゆうゆッ!!

侑(説明しようとした私の言葉をかき消す、鋭い声が辺りを制した)
 
453: (たこやき) 2022/10/30(日) 23:08:40.87 ID:AIh6B+eV
愛(階段の一番上、床下のライトに照らされて、ゆうゆと歩夢が居た)

愛「ゆうゆッ!!」

愛(ゆうゆがりなりーに掛けた最後の電話の内容は、耳を疑うような、絶望的なものだった)

愛(『二人一緒に時を止められる』『十五分を越えて時を止め続けると時が止まった世界から帰ってこれなくなる』『元の世界と時を止めた世界、二つの世界が生まれる』そして──)

愛(りなりーには危険性を確かめるため──そういうお題目で聞いたらしいけど、アタシは誤魔化せない──!)

愛「ゆうゆ! 歩夢も! そのスイッチをこっちに渡して!」

侑「愛ちゃん……どうしてここに?」

愛(ゆうゆが歩夢の前に立ちはだかる。歩夢は──歩夢は、私を見て、怯えたような、怒っているような、そんな表情で……ゆうゆの後に隠れた)

愛「歩夢! そんな思いつめなくたっていいよ! せっつーは全然気にしてない!」

侑「違うんだよ、愛ちゃん。もう、そういう話じゃないんだ」

愛「え……?」

愛(ゆうゆは静かに言った。その表情、眼は……異様なまでに穏やかだった。まるでもう、全てを悟ってしまったかのような)

侑「ねえ、愛ちゃん。言ってくれたよね。『一番大切であることを、態度で示し続ける』って」

愛「……」

愛(階下から、ゆうゆを見つめる。アタシが言った言葉を、ゆうゆは今繰り返している)

侑「付き合ったことで、私が不幸になっちゃいけない。私と歩夢、二人とも幸せじゃないといけないって」

愛「言った。言ったよ。でも、こんなのはおかしい、間違ってる!! アタシたちの記憶からも、この世界からも消えて、二人だけの世界で生きていくなんて!!!」

侑「……」

歩夢「侑ちゃん……どういうこと……?」
 
455: (たこやき) 2022/10/30(日) 23:09:55.43 ID:AIh6B+eV
愛「そのゆうゆが持ってるスイッチ、それは時間を止めるスイッチなんだ。そして十五分を超えて時間を止め続けると、世界が時間を動かして、時を止めた人間は時間が止まった世界に閉じ込められちゃうんだ!!」

侑「……そういうことだよ。歩夢。時が止まった世界で……二人で生きていこう。それなら、もう、私は歩夢だけの私でいられる」

愛「ゆうゆッ!! そんなの絶対だめだ! 愛さん絶対に許さないから!」

侑「大丈夫だよ。すぐにこっちの世界は『最初から私達が居なかった世界』に書き換えられる。世界がそう、修正するんでしょ。だったら問題ないよ」

愛「あるッ! ゆうゆと歩夢の事、忘れちゃうんだよアタシ達!! そんなの、そんなのッ!!」

侑「……愛ちゃん。歩夢ね、さっき学校の屋上から飛び降りようとしたんだよ」

愛「……え?」

愛(ゆうゆの言葉が、理解できなかった。学校? 屋上? 飛び降り?)

侑「私を独占したくてしたくてしょうがなくて、私に近づく子を、傷つけてしまいたくなる、その衝動に」

愛(唖然と、歩夢を見つめる。けれどゆうゆが歩夢を庇う)

愛「なにを──……」

侑「愛ちゃん。愛ちゃんだったらどうする? 璃奈ちゃんが、死を選ぶほどに苦しんでいて。でも、愛ちゃんは璃奈ちゃんが望む幸せな世界に連れていけるとしたら」
 
456: (たこやき) 2022/10/30(日) 23:11:18.28 ID:AIh6B+eV
愛(答えに窮する。逡巡する。りなりーが死ぬ? でも、そんな不安を抱えなくてもいい世界に連れて行ける……? だめだ、考えるな! 歩夢だ、歩夢に!)

愛「歩夢ッ! 歩夢は!? 歩夢はどう思うの!?」

愛(ゆうゆの陰に隠れる歩夢に叫んだ。ゆうゆがそう思っていても、歩夢の同意がなければ、ゆうゆだってそんな決断は下せない)

愛「愛さん、歩夢のこと忘れたくないよ!!」

歩夢「スイッチ? とか、時間を止める、とか、よくわからないけど……でも、二人の真剣な表情で、言ってることは本当なんだって、わかるから──」

愛(歩夢はそう前置いて、続ける)

歩夢「愛ちゃん……ごめんね。侑ちゃんを独り占めしたいっていう気持ちもあるけど──それと一緒に、私の友達を傷つける私がいる……そのことが、もう、嫌なの」

愛「あゆ、む……っ」

歩夢「愛ちゃんの事だって。友達なのに。侑ちゃんの傍にいるってだけで、愛ちゃんを傷つけて、居なくなっちゃえって、思う私がいるの」

愛(──もし、もしりなりーがそういった自分に苦しんでいるとして……アタシがゆうゆの立場だったら……どうする……?)

歩夢「それが嫌で嫌で、死んじゃおうって思ったの。皆を傷つけて、侑ちゃんを困らせる私なんて、私が一番許せないから」

愛「……それでも……それでも……愛さんは二人に……」

愛(階上の二人を見上げる。ここで二人を止めなきゃ、二人を実質見〇すことになる。いや、見〇した事すら忘れて生きていくことになる!)

愛(それは、それだけは──……でも、もし逆の立場だったら……? りなりーを……)
 
457: (たこやき) 2022/10/30(日) 23:13:30.36 ID:AIh6B+eV
侑(愛ちゃんはただ、私達を階下から見つめ続けるだけで、ただ苦しそうに顔をゆがませている)

歩夢「侑ちゃん……いいの?」

侑(歩夢の声は震えていた。初めて二人でラブホテルに行った時と同じだ。自分以上に緊張している人がいると、却って自分は落ち着ける)

侑「歩夢を幸せにしたい。その為ならなんだってする。それだけだよ。そして歩夢が幸せだって笑ってくれるなら、私にとってそれが幸せなんだよ」

侑(……これだけは、変わらないたった一つの気持ちだった。歩夢を幸せにする。その為なら──何もかもを捻じ曲げてでも、成し遂げてみせる)

侑「歩夢こそ──皆にも、お父さんとも、お母さんともお別れになっちゃうけど……それでも、いいかな」

歩夢「……私達は、元からいなかったことになるんだよね」

侑「そうだよ。最初から、上原歩夢も、高咲侑も、居なかったことになる」

歩夢「……それなら。それなら──良いよ。私達が居なくなっても、誰も悲しまないなら」

侑(決まった。終わりだ。そして、始まりだ。私と歩夢は、ここで消える)

愛「ま、待って! ゆうゆ! だめだ! 歩夢! まだきっと何か、なにか手段が、もっといい方法がある!!」

侑(階段を駆け上がってくる愛ちゃん。愛ちゃんとの付き合いは一年に満たないけど、こんな必死な表情は、初めて見たな──私はそう思った)

侑「愛ちゃん。ありがとう。さよなら」

愛「ゆうゆッ!!」

侑(微笑んだ。そのまま歩夢の手を握る。歩夢の手は震えていたけれど、確かに、しっかりと握り返してきて──私はスイッチをオンにした)
 
458: (たこやき) 2022/10/30(日) 23:15:20.06 ID:AIh6B+eV
愛「ゆうゆ──……」

愛(階段を駆け上ったアタシは、そのてっぺんで立ち止まった)

愛「ゆう、ゆ……?」

愛(……?)

愛「ゆうゆって……なんだ?」

愛(虚空に伸ばされた右手。アタシの頬を流れていく涙。けれどなぜ階段を駆け上ったのか、手を伸ばしたのか、なんで泣いてるのか)

愛(アタシには──わからなかった)

璃奈「愛さん、ここに居たんだ」

愛(振り向けば階下に、アタシの最愛の少女が居た)

愛「りなりー……」

璃奈「ここのマンションに、お友達がいるの?」

愛「いや? 居ないよ。ごめんりなりー、さ、帰ろっか」

愛(階段を下りていく。……アタシ、なんでここにいたんだろ)

愛「……?」

愛(振り向いて、階上を見上げる。やっぱりそこには、何もなかった)
 
485: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:06:22.93 ID:9d2QG+iu
侑(私達に手を伸ばす、髪を振り乱し必死な表情を浮かべる愛ちゃんが、私達の前で時を止められていた)

侑(もう後僅か、間一髪で私達は──……助かった、とは言えない。けれど、救われるわけにはいかない)

侑(……この決断を、私は──これから永遠に続く一瞬を、後悔する時が来るのだろうか。いや、悲しんでも、苦しんでも、後悔はしないと思う)

侑「歩夢」

歩夢「……」

侑(凍ってしまったように動きを止めた愛ちゃんを見つめる歩夢。少し驚いたようにも見えるけれど、すぐ歩夢は私を見つめ返してきた)

歩夢「本当に──時間が止まってるんだね」

侑(歩夢は微笑む。私はその表情を瞼の裏に、脳みその奥深くに、心のど真ん中に、しっかりと刻み込んだ)

侑「そうだよ。実はね、璃奈ちゃんにこれを作ってもらった時、歩夢のおっ〇〇を揉ませてもらおうと思って作ったんだ」

歩夢「えっ」

侑(歩夢の表情が微笑んだまま凍り付く。愛おしい、と思った)

侑「歩夢、ちょっと散歩しよう」

侑(かたく繋いだまま、私は歩夢の手を引いて歩き出した。凍り付いた愛ちゃんを横目に、私達は階段を下りていく)

歩夢「さよなら、愛ちゃん。ごめんなさい──」

侑(愛ちゃん。ありがとう。愛ちゃんの事も、忘れないから)
 
487: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:08:32.17 ID:9d2QG+iu
侑(特に何を喋ることもなく、私達は時が止まった世界を歩き続けた。見慣れたマンション、ビル、それらを歩夢は不思議そうに眺めている)

侑(いつも柔らかい表情を浮かべる顔。瞳、睫毛、頬、耳、鼻、唇。前髪のひらつき、シニヨンの丸っこさ、一房跳ねた髪の毛に、肌の白さ、ほっそりとした首)

侑(すこしだけふっくらとした腕、私より少し長い指、いつも暖かい手のひら。柔らかいおっ〇〇の感触。人差し指を引きちぎるんじゃないかと思わせた締め付け。そのすべてを、思い返して、脳裏に焼き付けていく)

歩夢「わ──侑ちゃん。凄い、観覧車が──」

侑(視界に見えた観覧車を見つけた歩夢が、そちらの方へ駆けていく。止まった世界で見えたイルミネーションは不思議な輝きを見せていた)

侑(するり、とかたく繋いでいた手が離れた。歩夢のぬくもりを手のひらに覚えさせる。大丈夫、私はきっと生きていける)

侑(璃奈ちゃんに確認したのは、全部で四つ。『触れ合っていれば、二人一緒に時を止められる』『十五分を越えて時を止め続けると時が止まった世界から帰ってこれなくなる』『元の世界と時を止めた世界、二つの世界が生まれる』そして──)

侑(『オフにするときは、繋がっていなくていい』ってこと)

侑(歩夢が観覧車を見つめている間、私は周りを見回した。足音の響かない街並み。太陽の昇らない水平線。夜の続くこの世界──)

侑(一番大切な人を、こんな世界に閉じ込めるわけにはいかない。歩夢、ごめんね。私は歩夢の事を愛してるんだ)

侑(もし歩夢の事が好きだったら、ほんの少しでも、歩夢に恋をしていたら、きっと私は歩夢と二人でこの世界で生きていくことを選んだと思う)

侑(でも、違う。私は、私の歩夢への想いは、愛だ。例え──例え……)

侑「歩夢」

侑(最後の最後の最後まで、私は歩夢の中の侑で居たかった。覚悟を決める。ポケットに忍ばせたスイッチに手をかけた。もう時間は、きっとない)
 
489: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:09:23.57 ID:9d2QG+iu
歩夢「侑ちゃん? どうしたの? こっちで一緒に見ようよ──」

侑(屈託なく微笑む歩夢。この十分足らずの時間は、私がこれから永遠に続く一瞬を生き続けるための、準備時間だ)

侑(歩夢が私を忘れてもかまわない。同好会の皆がいてくれるなら、きっと歩夢の新しい幸せは見つかる)

侑(歩夢の幸せが、私の幸せだ。大丈夫、歩夢が幸せなら、例え歩夢の近くにいられなくても──私は、この永遠の一瞬を生きていける)

侑「歩夢っ」
 
490: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:10:38.62 ID:9d2QG+iu
叫んだ。心の中の、あらゆる感情全てを吐き出す為に。目の前の、誰よりも何よりも、世界を捻じ曲げてでも、幸せにしたいと思った、たった一人の、私の最愛の女の子。

上原歩夢。ずっとずっと、ずっとずっと一緒だった。おばあちゃんになるまで、一緒にいられると思ってた。

時が止まった世界で、幼稚園の頃歩夢と一緒に読んだ絵本を読んでみるよ。きっと、歩夢が隣にいないから寂しくなるだけかもしれないけど。

時が止まった世界で、小学校の遠足の時に歩夢と一緒に選んで買ったお菓子も食べるよ。きっと歩夢が隣にいないから味気なく感じるかもだけど。

時が止まった世界で、中学校の頃、歩夢と一緒に通った道を歩いてみるよ。夕焼けも見れないし、歩夢もいないから、ただの散歩になっちゃうけど。

時が止まった世界で、歩夢の部屋に沢山あるヘンなゲームで遊んでみるよ。電気が使えるかどうかわかんないけど。

時が止まった世界で、歩夢が初めて作ってくれた卵焼きの味も、再現してみるよ。あの焦げて苦くて、世界で一番おいしかった卵焼きの味。

歩夢との思い出、そのありとあらゆるものを、思い返す。これから生きていくうえで、酸素と同じくらい大切なものになるから。

その大切なものすべてをかき集めて、私は歩夢をまっすぐ見据える。

……叶うのならば、歩夢の隣に居たい。傍に居たい。一番近くで一緒に笑って悲しんで喜んで怒って、歩夢がこれから体験するであろうあらゆるものを、一緒に感じたかった。

でも、歩夢が私を好きでいる限り、それは叶わないのなら。私は私の願望だって捨ててみせる。

歩夢の未来を、私という存在で閉ざすわけにはいかない。

態度で示すよ、歩夢。私が一番大切なのは──歩夢。歩夢なんだよ。

ありったけの想いを、歩夢に伝えられる最後の言葉を、私は声に出す。
 
492: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:12:29.39 ID:9d2QG+iu
「侑ちゃん?」

振り向いた歩夢。幸せにね。

「愛してるよ、歩夢」
 
493: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:15:49.15 ID:9d2QG+iu
──────

────

──

愛「あれ? 歩夢? こんなとこで何やってんのー?」

歩夢「……え」

璃奈「歩夢さんもここにいたんだね。お散歩?」

歩夢「え……っと。あれ? なんで私ここにいたんだろう……?」

愛「お? 愛さんと一緒かー? 愛さんもさ、なんでかわかんないけどここにいたんだよ。しかもあそこの階段を駆けあがっててさ」

歩夢「あそこ……って、私のMVに使った場所?」

愛「そうそう。ここ、歩夢はなんか縁でもあんの?」

歩夢「あ……そうだ。そうだよ。私、元々ここに住んでたんだ。幼稚園の頃かな? そのあたりで別のマンションに引っ越すことになって。無意識にここにきてたのかも」

璃奈「歩夢さんが昔引っ越してたの知らなかった」

歩夢「私も。なんだか今思い出しちゃった。なんでだろう……今までずっと忘れてたのに」

愛「良いじゃん良いじゃん、忘れてたことを思い出すってのは、良いことだよ」

歩夢「忘れてた……うん、そうだね──忘れてたことを思い出せたのは、良いこと……だよね」

璃奈「愛さん、歩夢さん、そろそろ帰らないと。もう真っ暗だよ」

愛「お? 確かにりなりーの言う通りだ。歩夢も送ってくよ。道順的にりなりーのマンションの道すがらだしね」

歩夢「わ、ありがとう愛ちゃん──でも愛ちゃんは大丈夫なの?」

愛「え? あー、うん。まあね」

璃奈「……お泊り」

歩夢「あっ──……ああー……」
 
494: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:16:24.64 ID:9d2QG+iu
愛「はいはい! 帰ろう帰ろう! ほらりなりー帰るよ!」

璃奈「あわわ、愛さん押さないで」

愛「ほら歩夢も、帰るぞー! 音楽科は課題が多いんだから、早く帰って宿題やんなきゃっしょ!」

歩夢「あ、うん──」

歩夢(私に背を向けて歩いていく愛ちゃんと璃奈ちゃんの後を追って──立ち止まる。振り向いた視界には大きな観覧車が、緑色に輝いて──ふっとそのイルミネーションは消えていった)

歩夢(……さ! 早く帰って課題済ませて、新しい曲を作らなきゃ! みんな期待してくれてるし、ファンの人たちも待ってるし、もっともっとがんばらないと──!)

歩夢(真っ暗になった観覧車から視線を外すと、私は愛ちゃんたちの後を追いかける。なぜだか今日は良い曲が書けそうな気がした──)
 
497: (たこやき) 2022/11/03(木) 00:21:50.41 ID:9d2QG+iu
──そういえばりなりー、またなんかヘンなスイッチを作ったって?

──これ。

──なにこれ?

──別の世界……いわゆる平行世界に行けるスイッチ。

──まーたとんでもないものを……。

──二人とも、何の話?

──いや、なんかりなりーがトンデモ発明を……。

──これは凄い。例えば時間を止める、とかより凄いかもしれない。

──璃奈ちゃん、よくわからないけど危ないのはダメだよ──……。




璃奈「できた。時間が止まるスイッチ」侑「ひゃっほーーーい!」ポチーッ  了
 
505: (こんにゃく) 2022/11/03(木) 01:16:11.05 ID:fHz1KMCN
救いはないのですか...?
 
506: (マシュマロ) 2022/11/03(木) 01:22:51.04 ID:pbab1Nq6
永遠の一瞬で残ってる侑ちゃん

あまりにも悲しすぎる
でも、本人はこれで良かったんじゃないかな
 
503: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 00:40:18.31 ID:TSXl67Oh
日ずらしてありがとうございます
これ昨日読むと絶対眠れない

とても素晴らしいSSだった
お疲れ様でした
 
507: (しうまい) 2022/11/03(木) 01:25:00.36 ID:j3S9THZ/
大切な人を守るために消えるって王道だよな
 
508: (しまむら) 2022/11/03(木) 01:30:38.34 ID:pTHOHTHt
普通にふたり一緒かと思ったらもっと切なかった
侑ちゃんの愛もめちゃくちゃ強い
 
511: (しうまい) 2022/11/03(木) 01:50:19.38 ID:wNlYvzuP
Twitterの韓国の絵師の方がこのSSを読まれてて、この作品と>>1に感謝のイラストを描かれてたぞ

【SS】璃奈「できた。時間が止まるスイッチ」侑「ひゃっほーーーい!」ポチーッ【ラブライブ!虹ヶ咲】



 
514: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 02:17:28.34 ID:SmMBuecF
>>510
この方の拡散で見に来た
前からラ板にあるのは知ってたけど単なるネタSSと思ってスルーしてたわ…
一気に読んでしまった
素晴らしい物語をありがとう
 
516: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 02:35:28.99 ID:++7sxmJK
>>1 から拾ってネタSSのはずだったのに超シリアス名作ゆうぽむSSを書いたレジェンドたこやき
 
517: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 02:43:33.07 ID:60vBtTnf
永遠の一瞬ってそういうことか
悲しいけど幸せな終わり方でもあるのかな
切なくて素敵なお話ありがとうございました
 
518: (しうまい) 2022/11/03(木) 02:47:47.80 ID:xKrNySCn
百合描写からラストに向けての緊張感や設定の使い方、最後の少し希望のありそうな終わり方まで良すぎる
今年1番の良SSかもしれん
ありがとう
 
524: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 03:26:51.27 ID:kTRxr+Un
たぶん同じ人から来た
侑ちゃんが歩夢に恋してたのでなく歩夢を愛してたからこその結末かあ……
良い物を読ませて頂きました。ありがとう。
 
527: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 04:41:41.23 ID:l/5f+D27
時間が止まってる世界がもう一つの世界として分離される前に時間が止まってる歩夢を見る侑ちゃんの気持ちを考えるだけでもう辛い
もう少し私欲を持ってもいいよ….一緒に幸せになろうよ…
心のぽむたちが号泣してる……..
 
530: (茸) 2022/11/03(木) 05:59:41.76 ID:hnHtIgkB
ある意味究極の愛の形か…
 
531: (たこやき) 2022/11/03(木) 07:04:50.12 ID:EcGS9jA7
とんでもない名作だったな。
最初から読んでて本当に良かった。
 
538: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 11:50:57.31 ID:60vBtTnf
神作家たこやき
過去のSS作品あるなら教えてください
 
542: (たこやき) 2022/11/03(木) 14:46:17.25 ID:9d2QG+iu
>>538
全部は覚えてないから覚えてるやつ
URL貼れなかったから題名だけ

海未「誕生日に菊の花を貰ってしまいました」

善子「大好きはもう隠さない」

花丸「マルは曜さんが嫌い」

侑「これは私が持っちゃいけないモノだったんだ」
【SS】侑「これは私が持っちゃいけないモノだったんだ」【ラブライブ!虹ヶ咲】
「歩夢が部屋に来るの、久しぶりだね」 同好会が始まってからは本当に部屋に来る機会が減ったような気がする。 そもそも機会なんてなくても、入り浸ったりしていたはずなんだけど。 「そうだね──」 部屋の奥に進む私を歩夢が視線で追って──ぴたりと、まるで縛り付けられたように『そこ』で止まった。 電子ピアノ。お小遣いをため込んで叩いた私の未来と夢への第一歩となる、大切なものだ。 「っ」 歩夢が息を呑んだ。 まあピアノの運指もまともにできなかった私が、いきなりあんな大層なものを部屋に置いていたらそりゃびっくりするよね。

歩夢「侑ちゃんは私のものなんだから!」せつ菜「侑さんは渡しませんよ!!!」
【SS】歩夢「侑ちゃんは私のものなんだから!」せつ菜「侑さんは渡しませんよ!!!」【ラブライブ!虹ヶ咲】
歩夢「年明けから侑ちゃんの部屋に来るなんてちょっとどうかなって思うよ! ねえ侑ちゃん!」 侑「うん、そうだね」ポチポチ 歩夢「お正月は家族団らんの日なんだから! ね、侑ちゃん!」 侑「うん、そうだね」カチカチ せつ菜「むっ! そういう歩夢さんこそ昨日からずっとこの部屋にいると聞きましたよ! 侑さんから!」 侑「うん、そうだね」カチャカチャ せつ菜「家族団らんを邪魔しているのは歩夢さんの方です! ですよね、侑さん!」 侑「うん、そうだね」カチャカチャカチャカチャ 歩夢「う……で、でも私は幼稚園の頃からずっと一緒に年越ししてたもんね! 侑ちゃん!」 侑「うん、そうだね」ポチポチポチポチ せつ菜「では今年の年越しは私も一緒に迎えましょうね! 侑さん!」 侑「うん、そうだね」カチャカチャポチポチ 歩夢「嫌ぁっ!」ドンッ 侑「う"んっ!?」ドサッ せつ菜「あっ!? い、いきなりそんな、侑さんを、お、押し倒すだなんて……///」 歩夢「ゆっ、侑ちゃんと年を越すのは私だけでいいの!」ギュウッ 侑「ぐえっ。歩夢、ギブギブ」ペシペシ せつ菜「わ、私も……私だって!///」ドサッ ギュッ 侑「ふぐぅっ!? ぜ、ぜづ な"ぢゃ くるし──」バシバシ 歩夢「せ、せつ菜ちゃん!? なにしてるの!?」ギュウウウウッ! せつ菜「歩夢さんこそ!」ギュウウウウウウウ!! 侑(あっ私死ぬなこれ……)スッ

愛「──お前か?」栞子「ぁ、ちが、違うんです、宮下さん」
 
540: (もんじゃ) 2022/11/03(木) 14:28:47.37 ID:PyMmvQGs
神SSだった
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1664187748/

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