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1: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:33:57 ID:???00
かなせつSSです
物騒なタイトルだけど中身は別にそこまで深刻じゃないです
七夕と一切関係ない内容です
物騒なタイトルだけど中身は別にそこまで深刻じゃないです
七夕と一切関係ない内容です
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2: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:34:31 ID:???00
「彼方さんはいつ私を死なせてくれるんですか!?」
…ふむ。
私こと近江彼方は困惑している。
目の前でいじらしい眼差しで爆弾発言をするは、同じスクールアイドル同好会に所属する優木せつ菜ちゃん。
真面目で真っ直ぐで情熱的、まるで太陽のような女の子だが、時々どうも斜め上にぶっ飛んだ発言をしがちである。
それなりに付き合いは長いし慣れたもんだとは思っていたが、今回ばかりはさすがに普段の眠気が吹き飛んだ。
…ふむ。
私こと近江彼方は困惑している。
目の前でいじらしい眼差しで爆弾発言をするは、同じスクールアイドル同好会に所属する優木せつ菜ちゃん。
真面目で真っ直ぐで情熱的、まるで太陽のような女の子だが、時々どうも斜め上にぶっ飛んだ発言をしがちである。
それなりに付き合いは長いし慣れたもんだとは思っていたが、今回ばかりはさすがに普段の眠気が吹き飛んだ。
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3: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:35:29 ID:???00
死なせてくれる、とは何ぞや?
私が優木せつ菜ちゃんを狙うアサシンにでも見えていたというのか?
それも気になるが、『死』をもたらす行為に対して『くれる』とは?
いつの間に自らの死を望むほど追い詰められていたのだろうか?
そしてせつ菜ちゃんに引導を渡す役目をわざわざ私に託そうとしたのか?
…この子は私に対してそこまでドロドロとした歪んだ感情を抱いていたのかね。
悲しいやら、曲がりなりにも特別に見られて照れ臭いやら。
いや、照れ臭くはないか。ただただ純粋に困る。
無言で頭を悩ませ、目の前のせつ菜ちゃんもバツの悪そうな表情で黙りこくっている。
部室の中には、不規則なリズムで窓を叩く雨音だけが響く。
気分穏やかな時に聞けば情緒的な自然の音も、この微妙な空気の中では口を開くことを躊躇わせ、言いようのないもどかしさを加速させるノイズにしかならない。
発言した本人がこの場にいるのだし、いっそ直接聞いて強引に話を進めてしまおうか。
いや、向こうが黙ってる以上そうする他にない。
私が優木せつ菜ちゃんを狙うアサシンにでも見えていたというのか?
それも気になるが、『死』をもたらす行為に対して『くれる』とは?
いつの間に自らの死を望むほど追い詰められていたのだろうか?
そしてせつ菜ちゃんに引導を渡す役目をわざわざ私に託そうとしたのか?
…この子は私に対してそこまでドロドロとした歪んだ感情を抱いていたのかね。
悲しいやら、曲がりなりにも特別に見られて照れ臭いやら。
いや、照れ臭くはないか。ただただ純粋に困る。
無言で頭を悩ませ、目の前のせつ菜ちゃんもバツの悪そうな表情で黙りこくっている。
部室の中には、不規則なリズムで窓を叩く雨音だけが響く。
気分穏やかな時に聞けば情緒的な自然の音も、この微妙な空気の中では口を開くことを躊躇わせ、言いようのないもどかしさを加速させるノイズにしかならない。
発言した本人がこの場にいるのだし、いっそ直接聞いて強引に話を進めてしまおうか。
いや、向こうが黙ってる以上そうする他にない。
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4: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:36:47 ID:???00
「せつ菜ちゃんや」
「はい!」
うむ、いい返事。
「自分を死なせてくれだなんて、そんなこと軽々しく言っちゃいけないよ。せつ菜ちゃんのことが大好きな人は大勢いるんだから」
「今回は私が聞いたから良かったけど、彼方ちゃんでなければショックで死んでいたところだよ」
「せつ菜ちゃん、悩めるお年頃なのはわかるけどもっと自分の命を大事にしなきゃ」
なるべく感情的にならないよう優しく諭してみる。
こういう話は真っ向から怒ったり泣いたりしたら、かえって自分を追い詰めちゃうからね。
笑顔を見せて心を落ち着けさせて、死にたい衝動を抑えさせる。
そうして落ち着いたところで悩みを打ち明けさせて、私なりに力になれる手段を探す。
大変だけど、自分の死を望むほど追い詰められてる当人はその何倍も大変だからね。
それで人の命を救えるなら安いものだよ。
「はい!」
うむ、いい返事。
「自分を死なせてくれだなんて、そんなこと軽々しく言っちゃいけないよ。せつ菜ちゃんのことが大好きな人は大勢いるんだから」
「今回は私が聞いたから良かったけど、彼方ちゃんでなければショックで死んでいたところだよ」
「せつ菜ちゃん、悩めるお年頃なのはわかるけどもっと自分の命を大事にしなきゃ」
なるべく感情的にならないよう優しく諭してみる。
こういう話は真っ向から怒ったり泣いたりしたら、かえって自分を追い詰めちゃうからね。
笑顔を見せて心を落ち着けさせて、死にたい衝動を抑えさせる。
そうして落ち着いたところで悩みを打ち明けさせて、私なりに力になれる手段を探す。
大変だけど、自分の死を望むほど追い詰められてる当人はその何倍も大変だからね。
それで人の命を救えるなら安いものだよ。
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5: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:37:50 ID:???00
…と、彼方ちゃん流のカウンセリングでせつ菜ちゃんを落ち着けようとしたのだけど、どうも様子がおかしい。
さっきのような切羽詰まった雰囲気は無くなったが、今度はどこか気まずそうにモジモジとしている。
まるで子供が何か悪いことしたのを隠してる時のような。
「あの、彼方さん…」
せつ菜ちゃんがおずおずと口を開く。
「さっきのは…えっと、そういう深刻な話じゃなかったんです」
「少し、事情を聞いてくれませんか」
さっきのような切羽詰まった雰囲気は無くなったが、今度はどこか気まずそうにモジモジとしている。
まるで子供が何か悪いことしたのを隠してる時のような。
「あの、彼方さん…」
せつ菜ちゃんがおずおずと口を開く。
「さっきのは…えっと、そういう深刻な話じゃなかったんです」
「少し、事情を聞いてくれませんか」
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6: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:38:47 ID:???00
「その…小耳に挟んだ話なのですが、ある言葉を『月が綺麗ですね』と訳した文豪がいるそうなんです」
「それで、ですね。その返しが『私、死んでもいいわ』だそうなんです」
「今では信憑性が低い創作話とされていますが、その、まあ……ロマンがあると言いますか…………」
…なるほど。事情はわかった。
要は彼方ちゃんにそういうことを言ってもらいたかったわけか。
いきなり「死なせてくれ」と言われた時は本気で心配してしまったが、詰まる所たまによく起こる暴走癖の一種だったらしい。
ともかく、いじめだとか家庭崩壊だとかそんなネガティブな話じゃないようだ。
いやあ、良かった良かった。
外の雨模様はともかく、こちらの気分は随分と青空が見えるようになった。
これにて一件落着……
……と、言いたいところだったが。
「それで、ですね。その返しが『私、死んでもいいわ』だそうなんです」
「今では信憑性が低い創作話とされていますが、その、まあ……ロマンがあると言いますか…………」
…なるほど。事情はわかった。
要は彼方ちゃんにそういうことを言ってもらいたかったわけか。
いきなり「死なせてくれ」と言われた時は本気で心配してしまったが、詰まる所たまによく起こる暴走癖の一種だったらしい。
ともかく、いじめだとか家庭崩壊だとかそんなネガティブな話じゃないようだ。
いやあ、良かった良かった。
外の雨模様はともかく、こちらの気分は随分と青空が見えるようになった。
これにて一件落着……
……と、言いたいところだったが。
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7: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:40:15 ID:???00
「でも、何でせつ菜ちゃんは、彼方ちゃんにそんなこと言ってほしくなったの?」
「それも、今」
せつ菜ちゃんが話してたことなら彼方ちゃんも知っている。
現文の授業で、先生がこんな逸話があると教えてくれたのが妙に印象に残っているのだ。
別にその先生はものすごい文学マニアというわけじゃない普通の人。
あとで自分でその逸話を調べたら、件の文豪が有名なこともあってすぐに見つかった。
そんな普通の人でも少しネットや図書室を漁ればマニアックな知識を手に入れられる時代に、
人よりマニアックなせつ菜ちゃんが今まで知らなかったなどありえるだろうか、いいや、ない。
そして、そんなとっくの昔に知ってそうな話をなぜ今になってし出したのか、という疑問も浮かぶ。
知ったばかりの知識を嬉しそうに共有したがる子供のような生態のせつ菜ちゃんだが、
以前から知ってるようなことは何かしらのきっかけでスイッチが入らない限り自分から披露することはない。
何より、その手の話をする時はあんないきなり「死なせてください」などと物騒な文句から始めず、
初心者にもわかりやすいよう順序立てて丁寧に説明してくれる子だ。勢いが良すぎて話が入ってこないことが多いのが難だが。
さてさて、どうしてあんなせつ菜ちゃんらしくないことをしたのか、そのらしくないことをした本人から聞いてみようじゃないか。
「それも、今」
せつ菜ちゃんが話してたことなら彼方ちゃんも知っている。
現文の授業で、先生がこんな逸話があると教えてくれたのが妙に印象に残っているのだ。
別にその先生はものすごい文学マニアというわけじゃない普通の人。
あとで自分でその逸話を調べたら、件の文豪が有名なこともあってすぐに見つかった。
そんな普通の人でも少しネットや図書室を漁ればマニアックな知識を手に入れられる時代に、
人よりマニアックなせつ菜ちゃんが今まで知らなかったなどありえるだろうか、いいや、ない。
そして、そんなとっくの昔に知ってそうな話をなぜ今になってし出したのか、という疑問も浮かぶ。
知ったばかりの知識を嬉しそうに共有したがる子供のような生態のせつ菜ちゃんだが、
以前から知ってるようなことは何かしらのきっかけでスイッチが入らない限り自分から披露することはない。
何より、その手の話をする時はあんないきなり「死なせてください」などと物騒な文句から始めず、
初心者にもわかりやすいよう順序立てて丁寧に説明してくれる子だ。勢いが良すぎて話が入ってこないことが多いのが難だが。
さてさて、どうしてあんなせつ菜ちゃんらしくないことをしたのか、そのらしくないことをした本人から聞いてみようじゃないか。
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8: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:41:39 ID:???00
「……かすみさんに…」
「そろそろ、言うべきことは言っておくべきだ、と言われまして…」
なるほど、かすみちゃんに余計なことを吹き込まれたのか。
おのれかすかす。あとでほっぺむにむにの刑に処す。
ただ、かすみちゃんの言ってた『言うべきこと』というのは。
それで飛び出た発言がアレということは……
要は、そういうことなのだろう。
「そろそろ、言うべきことは言っておくべきだ、と言われまして…」
なるほど、かすみちゃんに余計なことを吹き込まれたのか。
おのれかすかす。あとでほっぺむにむにの刑に処す。
ただ、かすみちゃんの言ってた『言うべきこと』というのは。
それで飛び出た発言がアレということは……
要は、そういうことなのだろう。
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9: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:42:24 ID:???00
正直なところ、せつ菜ちゃんの気持ちには気付いている。
何かと一緒に出かけたがったり、さりげなく手を繋ごうとしてきたり。
彼方ちゃんが苦手な数学で頭を悩ませていると、問題の解き方含めて丁寧に教えてくれたこともあった。
それでお礼を言って褒めてやると顔をくしゃくしゃにして喜んだり。
言葉には出さなくとも、ここまでわかりやすい反応を見せられて何とも思わないほど初心ではない。
周りから生暖かい視線を向けられるのにも慣れてきたものである。
しかし、それは向こうも同じようで、せつ菜ちゃんもまた私の気持ちに気付いてそうな節がある。
こちらから手を繋ごうとすると何も言わずそっと繋いでくれたり、ワガママを装ってせつ菜ちゃんに構おうとすると素直に応じたり。
ファンに声をかけられてご機嫌な様子のせつ菜ちゃんに、わざとらしくむくれて後ろから抱きついてやった時は
「変な関係じゃないですから」と耳打ちして弁解していた。
彼方ちゃんの自惚れでなければ、わざわざそんな弁解をするのは自分にそういう気持ちを向けられてる自覚があるからだろう。
こう見えてせつ菜ちゃんは存外他人から向けられる好意に聡い。自分にそういった目を向けられることは察せるが、対処の仕方はイマイチわからないようだ。
何度か『がちこい』の対処の仕方を果林ちゃんに相談してたのを見たことがある。
スクールアイドル同士でもない限り、いちファンとの関係はなるべく深すぎない程度に抑えたいらしい。
何かと一緒に出かけたがったり、さりげなく手を繋ごうとしてきたり。
彼方ちゃんが苦手な数学で頭を悩ませていると、問題の解き方含めて丁寧に教えてくれたこともあった。
それでお礼を言って褒めてやると顔をくしゃくしゃにして喜んだり。
言葉には出さなくとも、ここまでわかりやすい反応を見せられて何とも思わないほど初心ではない。
周りから生暖かい視線を向けられるのにも慣れてきたものである。
しかし、それは向こうも同じようで、せつ菜ちゃんもまた私の気持ちに気付いてそうな節がある。
こちらから手を繋ごうとすると何も言わずそっと繋いでくれたり、ワガママを装ってせつ菜ちゃんに構おうとすると素直に応じたり。
ファンに声をかけられてご機嫌な様子のせつ菜ちゃんに、わざとらしくむくれて後ろから抱きついてやった時は
「変な関係じゃないですから」と耳打ちして弁解していた。
彼方ちゃんの自惚れでなければ、わざわざそんな弁解をするのは自分にそういう気持ちを向けられてる自覚があるからだろう。
こう見えてせつ菜ちゃんは存外他人から向けられる好意に聡い。自分にそういった目を向けられることは察せるが、対処の仕方はイマイチわからないようだ。
何度か『がちこい』の対処の仕方を果林ちゃんに相談してたのを見たことがある。
スクールアイドル同士でもない限り、いちファンとの関係はなるべく深すぎない程度に抑えたいらしい。
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10: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:43:51 ID:???00
話は少し逸れたが、ともかく私たち2人はお互いの気持ちになんとなく気付いていながら、
それを真正面から伝えることもなく何とも言えない関係をダラダラと続けているのである。
それを見兼ねたかすみちゃんが、せつ菜ちゃんに発破をかけた結果が先ほどの「死なせてくれるのか」に繋がったわけだ。
ごめんよかすみちゃん、かすみちゃんなりに彼方ちゃん達に気を遣ってくれてたんだね。でもやっぱりほっぺむにむにの刑に処す。
しかし、いくらお願いされたからといって「月が綺麗ですね」などと素直に言うのは気が引ける。
別に言わされている感じが嫌だとか、ずっとこの関係のままでいたいというわけではない。
それを真正面から伝えることもなく何とも言えない関係をダラダラと続けているのである。
それを見兼ねたかすみちゃんが、せつ菜ちゃんに発破をかけた結果が先ほどの「死なせてくれるのか」に繋がったわけだ。
ごめんよかすみちゃん、かすみちゃんなりに彼方ちゃん達に気を遣ってくれてたんだね。でもやっぱりほっぺむにむにの刑に処す。
しかし、いくらお願いされたからといって「月が綺麗ですね」などと素直に言うのは気が引ける。
別に言わされている感じが嫌だとか、ずっとこの関係のままでいたいというわけではない。
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11: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:44:56 ID:???00
ただ、たとえ定型分だとしても「死んでもいい」なんて言葉をせつ菜ちゃんから聞きたくないのである。
最初こそ突然すぎて何かを感じる余裕もなかったが、後から冷静になって想像してみると、うん、嫌だ。
本気でなかったとしても、そんな残酷な言葉を彼方ちゃんに向かって言われたくはない。
逸話を作った人よ、日本人の奥ゆかしさを表現するならもっと穏やかな言葉を使ってほしかったぜ。
だからといって直接言葉で伝えるのも恥ずかしい。
奥ゆかしいというより、この場合はただ私が弱虫なだけ。
冗談のノリで抱きついて言葉にすることはあれど、そうでもしないと恥ずかしさで自分がどうにかなりそうだったから。そうやって逃げてただけのこと。
お互いの気持ちだってなんとなくわかるだけ。否、下手をすればそのわかってるつもりの気持ちが勘違いの可能性すらある。
日頃『なんとなく』と軽く考えていた気持ちをいざ口にしようとすると、普段の反動でその気持ちは重く感じられ、
日常的に動かしていた唇と喉はまるで呪われたかのように動かせなくなる。
最初こそ突然すぎて何かを感じる余裕もなかったが、後から冷静になって想像してみると、うん、嫌だ。
本気でなかったとしても、そんな残酷な言葉を彼方ちゃんに向かって言われたくはない。
逸話を作った人よ、日本人の奥ゆかしさを表現するならもっと穏やかな言葉を使ってほしかったぜ。
だからといって直接言葉で伝えるのも恥ずかしい。
奥ゆかしいというより、この場合はただ私が弱虫なだけ。
冗談のノリで抱きついて言葉にすることはあれど、そうでもしないと恥ずかしさで自分がどうにかなりそうだったから。そうやって逃げてただけのこと。
お互いの気持ちだってなんとなくわかるだけ。否、下手をすればそのわかってるつもりの気持ちが勘違いの可能性すらある。
日頃『なんとなく』と軽く考えていた気持ちをいざ口にしようとすると、普段の反動でその気持ちは重く感じられ、
日常的に動かしていた唇と喉はまるで呪われたかのように動かせなくなる。
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12: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:45:39 ID:???00
そんな逃げ場のない状況に追いやられたにも関わらず、逃げちゃいけないにも関わらず、
彼方ちゃんは、また逃げた。
彼方ちゃんは、また逃げた。
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13: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:46:34 ID:???00
「…ねえ、せつ菜ちゃん。さっきのことなんだけど」
「せっかくなら、私たちのオリジナルの言い方にしない?」
「オリジナルの言い方、ですか?」
「うん。ありきたりな言葉で伝えるのもなんか面白くないな~って思ってさ」
半分うそ。そのありきたりな言葉が恥ずかしいから誤魔化したいだけ。
「何より、せつ菜ちゃんってそういうの好きでしょ?」
そういうのになら言えるのに。
ずるい。
「はい!大好きです!」
そういうのなら言ってもらえるのに。
ずるい。
「じゃあ、今から考えるからちょっと待っててね」
目に見えて待てなかったから急かされたのに。
かすみちゃんから急かされるくらい、せつ菜ちゃんは待ち遠しい気持ちだったろうに。
彼方ちゃんのばか。
ものよりずるいひきょうもの。
自分の性分にここまで嫌気が差したのは生まれて初めてだ。
「せっかくなら、私たちのオリジナルの言い方にしない?」
「オリジナルの言い方、ですか?」
「うん。ありきたりな言葉で伝えるのもなんか面白くないな~って思ってさ」
半分うそ。そのありきたりな言葉が恥ずかしいから誤魔化したいだけ。
「何より、せつ菜ちゃんってそういうの好きでしょ?」
そういうのになら言えるのに。
ずるい。
「はい!大好きです!」
そういうのなら言ってもらえるのに。
ずるい。
「じゃあ、今から考えるからちょっと待っててね」
目に見えて待てなかったから急かされたのに。
かすみちゃんから急かされるくらい、せつ菜ちゃんは待ち遠しい気持ちだったろうに。
彼方ちゃんのばか。
ものよりずるいひきょうもの。
自分の性分にここまで嫌気が差したのは生まれて初めてだ。
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14: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:47:54 ID:???00
でも、こうして待たせた本人に宣言してしまった以上、何も言わないで済ませるという手段は取れなくなった。
そこだけはまだ良かったのかもしれない。
さて、肝心の台詞がまったく思い浮かばない。
さすがにあの文豪に匹敵するロマンチックな〇し文句は求められていないとはいえ、一から考えるのは難しい。
月が綺麗の反対というと、太陽が眩しい?星が光ってるね?すっぽんが美味しそう?
…ないな。
ならばもう少し私たちらしく。
一緒に寝たい。羊を数えたい。遥ちゃんのお姉ちゃんになってほしい。
アニメに出たい。小説を書こう。あなたを私のヒロインにしてください。
……いまいち。
こんなどちらか一方に寄せた台詞は、果たして私とせつ菜ちゃんらしいと言えるのか。
この手の問題は難しく考えないほうがいいとは頭ではわかってるが、簡単に考えるとなんだか雑に考えたように思えて嫌だ。
今回は彼方ちゃんがいつまでも焦らしたのが原因だから尚更である。
彼方ちゃん、特待生になれるくらいの成績はあると自負してるけど、一から詩を書くのは畑違いなんだよねえ。
おのれ1分前の彼方ちゃん。できるのならば唇をつねって黙らせてやりたい。軽率な発言を後悔する羽目になるのはおぬしだぞ。
そこだけはまだ良かったのかもしれない。
さて、肝心の台詞がまったく思い浮かばない。
さすがにあの文豪に匹敵するロマンチックな〇し文句は求められていないとはいえ、一から考えるのは難しい。
月が綺麗の反対というと、太陽が眩しい?星が光ってるね?すっぽんが美味しそう?
…ないな。
ならばもう少し私たちらしく。
一緒に寝たい。羊を数えたい。遥ちゃんのお姉ちゃんになってほしい。
アニメに出たい。小説を書こう。あなたを私のヒロインにしてください。
……いまいち。
こんなどちらか一方に寄せた台詞は、果たして私とせつ菜ちゃんらしいと言えるのか。
この手の問題は難しく考えないほうがいいとは頭ではわかってるが、簡単に考えるとなんだか雑に考えたように思えて嫌だ。
今回は彼方ちゃんがいつまでも焦らしたのが原因だから尚更である。
彼方ちゃん、特待生になれるくらいの成績はあると自負してるけど、一から詩を書くのは畑違いなんだよねえ。
おのれ1分前の彼方ちゃん。できるのならば唇をつねって黙らせてやりたい。軽率な発言を後悔する羽目になるのはおぬしだぞ。
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15: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:49:43 ID:???00
どうしようもないことにぐるぐると頭を悩ませていると、ふっと外の景色に目が移った。
先程まで水滴が窓にぶつかっては垂れていたのが、今は新しい水滴の突撃もなく、外のパラパラという音もいつの間にか止んでいた。
窓を開ければ、一面を覆い尽くしていた雨雲の隙間に青が見え、白と黄色の混じった光がスポットライトのように地面へ伸びていた。
雨上がり、晴れ。
私たち。
そうだ、虹。
先程まで水滴が窓にぶつかっては垂れていたのが、今は新しい水滴の突撃もなく、外のパラパラという音もいつの間にか止んでいた。
窓を開ければ、一面を覆い尽くしていた雨雲の隙間に青が見え、白と黄色の混じった光がスポットライトのように地面へ伸びていた。
雨上がり、晴れ。
私たち。
そうだ、虹。
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16: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:51:00 ID:???00
「雨、止んだね」
即興で浮かび上がった台詞。
返しも何も考えてない、いまいち情緒に欠けた無茶振り同然の文章。
それでも、私たちらしいといえばこれだと感じて口からこぼれたのがこれなのだ。
台詞の不格好さと、それでも言ってしまったことへの気恥ずかしさから顔を向けられない。
せつ菜ちゃんの言葉を、じっと外を眺めた姿勢で待つ。
たった一言でも、格好悪くてもいい、最悪その返事がお断りでもいい。
ただマイクを託した先へ、この告白劇を先に進めてほしい。
即興で浮かび上がった台詞。
返しも何も考えてない、いまいち情緒に欠けた無茶振り同然の文章。
それでも、私たちらしいといえばこれだと感じて口からこぼれたのがこれなのだ。
台詞の不格好さと、それでも言ってしまったことへの気恥ずかしさから顔を向けられない。
せつ菜ちゃんの言葉を、じっと外を眺めた姿勢で待つ。
たった一言でも、格好悪くてもいい、最悪その返事がお断りでもいい。
ただマイクを託した先へ、この告白劇を先に進めてほしい。
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17: ◆VAZmkvlw★ 2025/07/07(月) 12:52:31 ID:???00
実時間10秒にも満たない時間の後、覚えのある感触が背中にドンとぶつかる。
「生きたいです!」
生きたいです、か。
安直だけど、私たちらしいと思えば悪くない。
やっとの思いで部室の方に向き直ると、彼方ちゃんの方からぎゅっと抱き返してやる。
窓辺に光が射した。
おしまい
「生きたいです!」
生きたいです、か。
安直だけど、私たちらしいと思えば悪くない。
やっとの思いで部室の方に向き直ると、彼方ちゃんの方からぎゅっと抱き返してやる。
窓辺に光が射した。
おしまい
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18: ◆3wSdZ6eQ★ 2025/07/07(月) 13:18:45 ID:???00
かなせつハッピーエンド!!
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19: ◆XZEjQVMv★ 2025/07/07(月) 14:39:15 ID:???00
良いね
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21: ◆jxwbRfNP★ 2025/07/07(月) 17:01:22 ID:???Sa
ええ話やキュンとした
乙
乙
引用元: https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11224/1751859237/