しずく「私とキスしてください。侑さん」【SS】

しずく SS


1: 2021/01/11(月) 09:41:52.30 ID:sLR8IMWM
侑「は?」

しずく「は?」

3: 2021/01/11(月) 09:44:55.79 ID:sLR8IMWM
侑「え?脈絡無くない?」

しずく「物語というのは大抵、唐突に始まるものですよ」

しずく「ですから、私とキスしてください」

侑「ちょ、ちょっと待ってよ。しずくちゃん、なんで私なの?」

しずく「私、侑さんのこと、まだほとんど知らないですし」

しずく「侑さんだって、私について知ってることあまり無いでしょう?」

しずく「ならば、これをきっかけに詳しく知ろうじゃありませんか」

侑「いやそのためにキス、っていろいろ過程をすっ飛ばしすぎだから!」

5: 2021/01/11(月) 09:47:38.51 ID:sLR8IMWM
しずく「過程をすっ飛ばす作品なんていくらでもありますよ」

しずく「侑さんはデウス・エクス・マキナという言葉をご存知ですか?」

侑「うーん、せつ菜ちゃんが貸してくれた漫画のいくつかに、そんな名前の神様が出てきたよ」

しずく「そうですね。漫画も含め、創作物に触れている方なら、名前くらいは聞いた事があるかもしれません」

しずく「舞台装置の神様で、端的に言えばご都合的展開を作る演出技法のひとつです」

侑「へえ、物に神が宿るという思想は、昔の外国にもあったんだねえ」

しずく「食いついて欲しいのはそこじゃ無いんですけど…」

7: 2021/01/11(月) 09:49:44.71 ID:sLR8IMWM
侑「でも、よくあるよね。最終曲面でひっくり返すことが不可能なほどの逆境に立たされた主人公に、唐突に『力が欲しいか?』みたいに語りかけて、超パワー与えて去っていく神様」

侑「それで主人公は特に神様に感謝することなく、それを自分の力と思って、最後までずーっと顧みてもらえず終わる、みたいな」

しずく「それはよく分かりませんが、でもだいたいそんなものだと思ってもらえれば結構です」

しずく「批判されることもある手法ですが、時にはこれくらい分かりやすいほうが痛快だという方もいらっしゃいます」

しずく「ストレス社会の現代。そんな中で、理不尽をあっさり消し飛ばすという、物語内でしかできないような体験をさせてくれるわけですから」

しずく「だって、ただでさえ現実が厳しいのに、創作上でさえそれが叶わないなんて、なんだか寂しくありませんか?」

侑「確かに──。私も音楽科に転科できたけど、2期でほんとは失敗してました、なんてなったら辛すぎるよ」

しずく「そのメタ表現もよく分かりませんが…」

8: 2021/01/11(月) 09:52:33.39 ID:sLR8IMWM
しずく「まあ侑さんの場合、ピアノを演奏する姿で成長過程が段階的に描写されていたので、ご都合とまではいかないと思いますよ」

侑「え?私がピアノの練習してたって、なんでしずくちゃんが知ってるの?」

しずく「せつ菜さんと一緒にアニガサキ1期見ましたから」

侑「メタいなあ」

しずく「まあとにかく、過程や因果を超越するご都合的展開は必ずしも悪とは言えないのですよ」

しずく「かの文豪──芥川龍之介も合理性や設定に拘泥すると面白みが無くなると言っておられました」

しずく「時に、そういう荒唐無稽な物語が人を救うこともあるのですよ」

しずく「というわけで、侑さん。私とキスをしましょう」

侑「そこに戻ってくるかあ」

9: 2021/01/11(月) 09:55:36.20 ID:sLR8IMWM
しずく「私、侑さんとキスしたいんです…」

侑「で、でも…」

しずく「なら侑さん、悔しくないんですか?」

侑「何が?」

しずく「私と侑さん、1度もアニガサキで名前を呼びあったことないんですよ?」

侑「え!?本当に!?」

しずく「璃奈さんの開発したタイムマシンで未来に行き、そこで手に入れたアニメのブルーレイボックスがここにあります」

しずく「一緒に視聴してみましょう」

13: 2021/01/11(月) 09:58:43.08 ID:sLR8IMWM
──アニガサキ視聴終了──

しずく「どうでした?」

侑「本当だ…。私たち…1度も名前呼びあってないじゃん…」

侑「こんなん悲しすぎるよ…」

しずく「そうです。私たちは脚本の犠牲になったのです」

しずく「いえ、プロの方々がおそらく様々な困難や障害に阻まれながらも、これがベストのものであると判断し、世に出したものですから、それ自体を殊更に指摘して批判するつもりはありません」

しずく「ですが、それとは別に──もっと感情的な部分で悔しいでしょう?」

侑「うん、これは悔しいよ。私、もっとしずくちゃんと仲良くしたかったよ」

侑「もっとお話したかったよ」

14: 2021/01/11(月) 10:02:06.81 ID:sLR8IMWM
しずく「だから、私がこうして設けてるではありませんか」

しずく「二次創作的に侑さんとお話を作る機会を」

侑「でも、これどうせ公式じゃないし…。私たちも動かないし声だって無いよ…?」

しずく「そうですね。でも、それを理由にして私がこの台本をゴミとして捨ててしまえば、私たちの仲のいい姿は誰にも見られず埋もれて行ってしまう」

しずく「二次創作的な台本はそれでいいんですよ」

しずく「無いなら作れば良い、がモットーです」

侑「うう…。でもそれって自分を慰めてるだけじゃないの?」

しずく「それっていけないことでしょうか?」

侑「え?」

15: 2021/01/11(月) 10:05:37.74 ID:sLR8IMWM
しずく「私はそうは思いません。見たかった光景を自分で創作して補完する」

しずく「公式には決してなれないけど、創作する私自身が納得出来ればそれでいい」

しずく「そして私のこんな稚拙な台本を公開することで、侑さんやこれを見ている誰かの心が少しでも救われるなら、私は嬉しいです」

しずく「もしかしたらこれを見て、『よし、自分ももっと侑ちゃんとしずくちゃんの絵を書こう。2人のSSを書こう』と触発される方もいるかも知れない」

侑「そうなのかな…」

しずく「そうです。そうやって私たちを好きだと言ってくれる人の輪が広がれば、より私たちの可能性も広がっていくのです」

侑「うん…。なんかそれって楽しそう」

17: 2021/01/11(月) 10:11:00.32 ID:sLR8IMWM
侑「決してアニメほど多くの人に見てもらえるわけではないし、それは違うよと言う人もいるかもしれないけど」

侑「少なくともそんな未来を想像して、楽しそうと思える私がここにいるのは事実だ」

しずく「クサすぎて見てられないと腐されるのも、悪くないでしょう」

しずく「公式にはあらゆる制約がありますが、少なくとも今この物語の私たちには、無限の可能性があるのですから」

侑「うん。ありがとう」

侑「脈絡無いなんて言ったけどさ──」

侑「私、こうやってしずくちゃんと話をしている間に、なんだかしずくちゃんを好きになってきたよ」

しずく「嬉しいです。儚い夢かもしれませんが、侑さんとこうしてお話できて──」

しずく「好きになってもらえて嬉しいです」

侑「しずくちゃん…」




侑「────!」キッ





侑「しずくちゃん──私とキスしてほしい」

しずく「脈絡無くないですか?」

侑「は?」

18: 2021/01/11(月) 10:14:26.16 ID:sLR8IMWM
侑「いや、あるよ!この流れはどうみたってする流れでしょう!?」

しずく「うう、けどこういうのはもっと段階を踏むべきですよ…。こんなの許されません///」

侑「そもそもキスして、って最初に言ったのしずくちゃんじゃん!」

しずく「それはそうなんですけど…。その、いざ侑さんの覚悟が決まられると…急に恥ずかしくなってきてしまいました」

侑「なにそれ!ダメだよ…。いま私、完全にそういうモードになっちゃったんだよ」

しずく「でも侑さん、よく考えてみてください」

しずく「もし今ここでキスしてしまったら…」

しずく「スレタイ回収してオチが付いたで終わってしまいますよ?」

侑「いいじゃん!なんの問題も無いじゃん!過程や因果をすっとばすのも悪くないって話の流れだったじゃん!」

19: 2021/01/11(月) 10:18:21.65 ID:sLR8IMWM
しずく「けど侑さん、見たくありませんか?」

しずく「侑さんとキスに至るまでに、手を繋いでドキドキする私や、侑さんと仲良くしてる歩夢さんを見て嫉妬する私──」

しずく「そういう日常の何気ないやり取りで一喜一憂する姿を」

侑「うっ…。確かにそんなしずくちゃん可愛すぎるよ…」

しずく「そう。過程をすっとばすのは悪いことばかりではありませんが、それはやはり王道があるからこそなんですね」

侑「うう。でも、わざわざここでやらなくたっていいじゃん!もうスレタイ詐欺じゃん!」

侑「そういうのはさっきしずくちゃんが言った通り、これを見て触発された誰かが書いてくれるよ!」

しずく「しゃらくせえです!!」

侑「なんで江戸っ子!?」

21: 2021/01/11(月) 10:21:44.53 ID:sLR8IMWM
しずく「私が!そういうふうに!したいと言ってるのです!」

しずく「誰がなんと言おうと!外野がなんと言おうと!私がそうしたいのです!」

しずく「台本を作るなら、時にはこういう精神も大事ですよ」

しずく「1番いけないことは、やりたい自分の気持ちに嘘をつくことです」

侑「しずくちゃん…。もしかしてそれを伝えるために、こんな事を…」

しずく「はい…。ですから──」

しずく「私とキスしてください。侑さん」

侑「ってまた最初に戻ってるー!これ無限ループするやつじゃん!」

しずく「もう──仕方ない人ですね!」




チュッ






侑「────!///」

24: 2021/01/11(月) 10:24:56.24 ID:sLR8IMWM
しずく「侑さんがしないから…私からしちゃいました…」

侑「しずくちゃん…不意打ちは卑怯だよ…」

しずく「全然してくれない侑さんが悪いんですよ」

侑「も、もう…。こんなに可愛いしずくちゃん見たら…私っ…」

しずく「いいですよ…。んっ…」

侑「あっ…」

侑(しずくちゃんが、目を閉じて唇をつんととがらせてる──)

侑(しずくちゃん──こんなに可愛かったんだ…)

侑「───大好きだよ」

26: 2021/01/11(月) 10:27:10.01 ID:sLR8IMWM
私はしずくちゃんの唇に、そっと自分の其れを重ねた。

甘くて、柔らかくて、心地よい感触と彼女の味が、私の心を染め上げる。

私はこんなにも愛らしい女の子が、ずっと近くにいたのにも関わらず、

一度も名前を呼ばずにあの世界の幕を閉じてしまったというのか。

本当に…ひどい女だよ、私。

27: 2021/01/11(月) 10:28:42.30 ID:sLR8IMWM
ごめんね、しずくちゃん──。

「侑さん……やっとキスしてくれましたね」

「うん…。私、しずくちゃんが好き」

「誰よりも──しずくちゃんのことが大好き」

「そんな…侑さんには歩夢さんがいるでしょう?」

「それなのに良いのですか?こんなご都合的展開、誰も納得しませんよ」

「関係ないよ」

28: 2021/01/11(月) 10:30:27.99 ID:sLR8IMWM
「ご都合的展開だって悪くないと言ったのは誰?」

「他の世界の私は、歩夢が一番好きかもしれないけど──」

「私は──この世界の私は──!」





「しずくちゃんが一番大好きなんだよ!!」






「───!」

「だから、ずっと私と一緒にいて」ギュッ…

「────」

「────はい」

「私も───あなたが大好きです」

30: 2021/01/11(月) 10:32:29.94 ID:sLR8IMWM
「しずくちゃんは、私の理想のヒロインだよ」

「嬉しいです。侑さんにそのように言っていただけて……」




『大好き』

『──くすっ…あははははは!』




「ねえ、もう一回キスしてもいい?」

「はい。一回と言わず、何度だってしてください」

「うん。しずくちゃん──」

「なんですか?」

「────愛してる」



チュッ

31: 2021/01/11(月) 10:34:01.60 ID:sLR8IMWM
──これも神の手によりねじ曲げられた物語かもしれない。

──けれど、愛し合う私たちは確かにここにいる。

──どれだけ荒唐無稽だと罵られようと、

──誰がなんと言おうと、

──これはハッピーエンドだ。



おわり

32: 2021/01/11(月) 10:36:15.75 ID:vi7y/X7x
連日のゆうしずで体調がすこぶる良い

33: 2021/01/11(月) 10:40:55.90 ID:nziYO9Ss
ゆうしずはいくらあってもいいからね

35: 2021/01/11(月) 10:49:34.23 ID:hE+yAmqm
おつおつ
最近ゆうしずスレ多すぎて笑う

36: 2021/01/11(月) 11:17:20.65 ID:fil60myG
テンポの良いやりとりが読んでいて楽しかったです!!!!!
素晴らしいゆうしずでした!!!!!

37: 2021/01/11(月) 11:50:41.76 ID:5CHkupCc
マジでここ数日ずっとゆうしず見てる気がするw
乙です

39: 2021/01/12(火) 06:14:47.68 ID:r35qldxC
メタや台本の話するのもしずくらしさの一つでいいと思う

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1610325712/

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