【SS】かすみ「かすみんです!」【ラブライブ!虹ヶ咲】

かすみんSS
1: 2020/12/29(火) 05:34:51.67 ID:844Yn0UH
 かすかす。
 それが私のアダ名。

 可愛くない。
 かわいくなりたい私には、まるで合わない渾名。

「カスカスさぁ、今度の休みーー」

 友達も、皆が私をそう呼ぶ。
 勿論、蔑称などではなく愛称ではある。だけど、私はその渾名を良くは思ってはいない。
 なので私は何度か訂正を試みたことはあるけれど、結局それが正されることはなかった。

 私、中須かすみ(14歳)の渾名はカスカスとして固まってしまった。

(かすかすなんて……可愛くない)

 大好きなコッペパンを頬張りながらも私は、友達の話に耳を傾ける。
 遊びの誘いのようだ。
 特に断る理由もないので私は、コッペパンの最後の一口を口の中に押し込み、二つ返事でOKをした。



 

2: 2020/12/29(火) 05:43:49.48 ID:844Yn0UH
 日曜日。
 部活もなく、他に予定もなかった私は、秋葉原の駅前で友達が来るのを待っている。
 駅前の至る所にはアニメや最近話題のスクールアイドルのポスターなどが貼られ、高所の電光掲示板にはレジェンドクラスのスクールアイドルの映像などが流れている。

(スクールアイドルか。私もあんな風に可愛くなりたいな)

 そんなことを思いながらも私は、友達が来るのを待つ。

 十分後。
 遅れて友達がやってきた。

「ごめんね、カスカス。待った?」

「いえ、待ってないですよ」

 本当は三十分は待った。だけど、自分を出したところで良いことがないことを知ってる私は、ぐっと堪える。

「そっか、よかった。じゃあ行こう」

「はい、行きましょうか」


 

3: 2020/12/29(火) 05:55:36.64 ID:844Yn0UH
 そうして私は友達と遊び、日が暮れた頃合いになると帰路に着く。
 疲れた。
 とても疲れた。

 別に友達と遊ぶのは嫌ではない。とても楽しい。だけど、私はふとした瞬間に奇妙な喪失感を覚えることがある。

 自分を押し殺しながら過ごす日々に僅かにストレスを感じる。

(……はぁ)

 夕焼けに伸びた影を踏みながら疲労に肩を落としていると、ふと電光掲示板に映る煌びやかな彼女たちの姿を見る。

(スクールアイドル。楽しいのかな?)

 キラキラと燦然と輝く笑顔は、とても魅力的だ。
 素直に憧れる。でもきっと私はああはなれない。


 

4: 2020/12/29(火) 06:04:27.53 ID:844Yn0UH
 そうして家路を歩いていると、ふと視界の端に袋いっぱいのコッペパンを抱えた女の子の姿を見付けた。

(あ、コッペパン)

 普段ならあまり気にも止めないだろうが、その子の抱えたものが大好物のコッペパンだったからかたまたま目に止まった。

「おっと、んっ」

 ふらふらと危なっかしく体力のコッペパンを抱える女の子。

「あの、大丈夫ですか? 手伝いますよ?」

 らしくなく私は声をかけた。
 私の声に気が付いた女の子は、顔を上げてこちらを見る。
 ふわふわのブロンドの髪に、整った顔立ち。同じくらいの年齢の可愛らしい女の子。

「あ、その、大丈ーー」

 言いかけた矢先、女の子は体勢を崩してコッペパンをばらまきそうになる。が、間一髪、私は荷物ごと彼女の体を掴み、そのまま支える。

「危ないですよ」

「あ、その、えっと、ありがとうございます」

 
 
 

5: 2020/12/29(火) 06:12:54.67 ID:844Yn0UH
「少し休憩したほうがいいですよ。折角、美味しそうなコッペパンなのにばらまいてしまっては勿体ないです」

「えっと、そう、かもしれませんね。わかりました」

 女の子は頷き、近くのベンチにそっとコッペパンの袋を起き、そのまま腰を下ろす。

「あの、ありがとうございます」

 お礼を言われるが、私はお礼を言われるようなことはしてはいない。
 そもそも私が声をかけなければ彼女がバランスを崩すこともなかっただろうし。

「コッペパン、好きなの?」

「はい、大好きです」

 これだけのコッペパンを買うのだからまあそうだろう。

「あ、そうです。助けてくれたお礼におひとつどうぞ」

 コッペパンをひとつ貰った。

「えっと、ありがとうございます」

6: 2020/12/29(火) 06:20:04.96 ID:844Yn0UH
 貰ったコッペパンを一口。ぱくりと食べる。

「!!」

 その瞬間、衝撃を受けた。
 なにこの、コッペパン。凄く美味しい。
 食べて直ぐにほんのりと口の中に広がるバターの風味と、もちもちの食感。
 
「なにこれ凄く美味しい!」

 コッペパンに目がない私は思わず女の子との距離感が近くなる。
 鼻と鼻が触れ合うほどの近距離で、私はコッペパンの感動を彼女に伝える。と、彼女も少し照れながら答えてくれた。

 同じくらいの年齢の子で、コッペパンのことでここまで盛り上がれたのは初めてだった。 

8: 2020/12/29(火) 06:31:37.29 ID:844Yn0UH
「そんなに喜んでくれるならよかった」

「うん、だった私ほんとうにコッペパンのことが好き。大好き」

 コッペパンを食べている時だけは本当の幸せを実感できる。
 不純物の一切ない、中須かすみにとっての至福を得られる。
 だから私は、コッペパンが好き。
 これさえあればほかの食べ物はいらないくらいに大好きだ。

「コッペパンを食べる以外に幸せなことはないの?」

「ないわけではないよ。ただ、これ以外の幸せは余計なものが混じるだけ」

 友達と遊ぶのも楽しい。だけど、そこには自分を押し殺さなくてはならないストレスも僅かにある。
 それが一切ないのがコッペパンというだけ。

「ふーん、そうなんだ。かすみんも大変なんだね」

「!!?」

 折角食べたコッペパンを吹き出すかと思った。

「か、かすみん?なんですかそれは」
 

9: 2020/12/29(火) 06:39:33.64 ID:844Yn0UH
「えっ、だって中須かすみだから多分かすみんなんだろうなーって。ど、どうしたの?」

 かすみん。そんな呼ばれ方をしたのは初めてだった。

「あ、あの、も、もう一回」

「えっ」

「もう一回、その呼び方で私のことを呼んでくれませんか?」

「えっと、かすみん?」

「!」

 不思議としっくりきた。
 今までずっと呼ばれ続けてきたカスカスというアダ名。
 全く可愛さの欠けらも無い渾名。
 そんなあだ名ばかりだから私は自分の名前のことも嫌いになりかけていた。
 だけど……。

(かすみん、かすみん、んん! すっごいいい響きです)

 そのあだ名は、私の中の名前コンプレックスを一蹴するほどの甘美なものであった。


 

10: 2020/12/29(火) 06:47:50.56 ID:844Yn0UH
「あ、あの、もしかして馴れ馴れしかったかな? 中須さんの方が良かった?」

 不安そうな表情の彼女に対して私は笑って答える。

「ううん、かすみんで!」

 私の。
 中須かすみにとって唯一可愛くなかった部分でもある渾名。
 カスカスという渾名。
 それがなくなればきっと私は、ありのままの自分を表出化することができる。

 可愛くないところが一切ない。可愛いの永久機関ともいえるこの私。
 中須かすみが、自分をさらけ出せる。

「むふふ」

 不思議だ。先程まで靄がかっていた世界が、こんな些細なことで、鮮やかなものへと変わってしまった。

12: 2020/12/29(火) 06:58:13.74 ID:844Yn0UH
 中須かすみは可愛くないといけない。
 可愛くない部分のある私なんて、きっと認められるわけがなかった。
 自分のことを認めることができない環境は苦痛を伴う。
 自己否定は苦しいものだ。
 私はコッペパンを頬張る。

「……あの、かすみん?」

 この子のおかげでそこに気が付いた。
 気が付くことができた。

(私は自分のことが好き。可愛い自分はもっと好き)

 私は多分ナルシストというやつなのだろう。
 でもそれは決して悪ではなければ、欠点ですらない。私の長所だ。
 ならばその長所を最大限に生かすべきだろう。
 だってかすみんはこんなにもーー。

(可愛いんだから)




 私は貰ったコッペパンを飲み込むとベンチから飛び上がる。

「ねえ、コッペパンの子!ありがとうございます!」

 私は彼女にお礼を伝える。

「えっ、あの、どういたしまして?」

13: 2020/12/29(火) 07:10:04.72 ID:844Yn0UH
「さてと」

 そうと決まればやることは一つ。
 環境改善だ。
 
「それじゃあそろそろかすみんは行きますね。荷物、大丈夫?」

「あ、はい。少し減りましたから」

「よかった。本当にありがと」

「!」

 気のせいか、それとも夕焼けのせいかコッペパンの子の頬が紅潮し、そしてそれを隠すように俯いた。

「ううん、よくわからないけど私で役に立てたなら……」

 わからないのは当然。
 かすみんの心の内を知る事が出来るのは、かすみんだけ。

「じゃあかすみんは行きますね」

「えっと、はい」
 
 そうして私は彼女と別れ、帰路につく。

 私は可愛らしくスキップをしながら歩いていると、ふと思う。

(そういえばかすみん、あの子の名前、聞いてない)

 かすみんと同じでコッペパン好きな女の子。その情報しかなく、どこの誰なのかもわからない。

(……かすみんの恩人でもあるし、名前くらいは聞いておけばよかったかな)

 


 

14: 2020/12/29(火) 07:20:52.80 ID:844Yn0UH
 それからはやることが早かった。
 翌日から私は「カスカス」と呼ばれ続ける度に「かすみんです」と訂正するように心がけた。

 最初こそ困惑した友達とかに色々聞かれたりもしたが、徹底してかすみんですと言い続けた。

 結果、わたしのあだ名の比率がかすみんのほうが高くなってきた。

 その頃くらいだ。
 私の可愛いの追求が研究の域にまで達したのは。
 どうすればかすみんの可愛さを最大限に引き出せるか。
 どの角度が一番可愛いのか。
 そうしてそうなってくると必然的に誰もが目標がある。
 それこそが、あの時にはただ見上げるだけだった世界。
 スクールアイドルの世界だ。

(スクールアイドル……、きっとかすみんなら最高のスクールアイドルになれる)

15: 2020/12/29(火) 07:29:46.92 ID:844Yn0UH
 高みの存在として憧れてたスクールアイドルに、私がなれる。
 その自信を持てたことで私は、さらに可愛さを磨き上げるための研究をしていく。

 そうして中須かすみの名前が有名になればまたいつかあのコッペパンの子に会えるかもしれない。
 その時には今度こそ名前を聞こう。そして、ついでにあのコッペパンの売ってるお店の場所も。

「さてと、その為には勉強も頑張りますか」

 こうして可愛い可愛いかすみんは日々を可愛く邁進していく。
 

16: 2020/12/29(火) 07:37:48.86 ID:844Yn0UH
ーー

 翌年。春。
 虹ヶ咲学園の普通科一年教室。
 最初のホームルームの時間。
 一人一人の自己紹介が始まり、いざ彼女の番になる。
 彼女は立ち上がり、ありのままの自分の姿で言う。

「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のかすみんです!♡♡よろしくおねがいします♡」

 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1609187691/





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