【SS】朝香果林~スレッド立ったらSS書く~【ラブライブ!スクスタ】

SS


1: 2021/03/29(月) 18:08:25.27 ID:AWTkXqmc
どうせ立たないからスレ立てテスト

5: 2021/03/29(月) 18:13:16.25 ID:AWTkXqmc
こんなはずじゃなかったので何も考えてないから題材ください
※果林メイン
※地の文か台本形式かも要望有れば(なければコンマ偶数で地の文、奇数で台本)

>>6

6: 2021/03/29(月) 18:14:38.92 ID:GfOQoMnO
絵里ちゃん相手に体を売る

12: 2021/03/29(月) 18:36:38.11 ID:AWTkXqmc
虹ヶ咲学園でスクールアイドルとして活動する傍ら、読者モデルとしても活動をしている
もちろん、そもそもが服飾科専攻の私の将来にとって
必ず役に立つだろう。なんて、漠然としたものもあったけれど
モデルとして仕事をしている一番の理由となるのは、私自身の生活のためだった。

仕送りがないわけではないけれど
あくまで最低限だし、スクールアイドルの活動も含めて自由に学校生活を送りたいってなると
やっぱり、少しは働く必要もあった。

――のだけど

「はぁ……」

手元の通帳の残高はほんの数百円
ベッドに放ったお財布の中身は数千円
読者モデルという、そこまで給与の高くはない仕事
かつ、ここ最近はあまり出来ていないということもあって、自由に生きるなんてことは到底できていなかった

「やっぱり、やるしかないかしら」

同じく読者モデルをやっている知人から紹介された、稼ぎのいいアルバイト
好きな時に出来て、かなりの高収入も狙えるとかいう話

直接話を聞いて、危なそうだったらやめよう
そんな気持ちで……知人から聞いたアドレスに、仕事をしたいとメールを送ってみた

17: 2021/03/29(月) 18:48:37.67 ID:AWTkXqmc
メールを送って、
少し後悔しつつも、送信完了の一文が表示されてはどうしようもないとベッドに身体を倒す

教えてくれた知人とはそれなりに仲が良いから、
決して変な仕事は紹介してこないだろうなんて甘さもあった

「……返事、来なければ」

明日になっても返事がないままだったら、その知人に連絡してみようとか
返事が来ても「ごめーん。冗談だよ~」なんて返事が来るとか
やり取りがあって会うことになったら、ただその知人と遊ぶだけとか
そんな、ただの冗談の可能性も考えながらメールアドレスを "秘密のお仕事" なんてそれっぽく登録してみる

「ふふっ、なんて」

そんな苦笑をすりつぶすように――スマホが震える

「あ……」

1~3までの日程の候補
待ち合せの場所
相手の服装の目印などを記載された、長いようで簡潔なメール
最後のおまけのように、
日程を選んで、自分の目印を記載または写真を添付して返信して欲しいという内容が追記されていた

「予定は……この日なら練習、無かったわよね?」

1~3のうち、空いている2番を選んで
自分の格好の目印、お気に入りの鞄の写真フォルダから漁って、送る

返事は「宜しくお願いします」という一言だけだった

19: 2021/03/29(月) 18:58:04.58 ID:AWTkXqmc
――秘密のお仕事当日。

昼休みに、エマ
HRが終わった後に彼方
せっかく練習がないから遊びに――なんてありがたいお誘いを断って、足早に寮に戻って身支度を整える

シャワーを浴びるかどうか。少し悩む
時計を見ればまだ時間があるけれど、
体育も練習もなかった今日は、別に身体が汚れていなければ不快感もない。
シャワーだって、朝に浴びたばっかりだ。

「ん……んん~……っ」

悩みに悩んで、着替えを用意してシャワーを浴びる
話を聞くだけにしろ、対外的には身綺麗な子だとみられたかったからだ。

「こんな感じで……」

20分程度でさっと済ませて着替え、
自分だと分かって貰うための、お気にいりのショルダーバッグを肩にかけて部屋を出る

約束の時間までは、まだまだ時間がある。
けれど、確実に辿り着くためにはどれだけ時間があっても安心はできなかった

22: 2021/03/29(月) 19:08:33.43 ID:AWTkXqmc
案の定――。

そう言っちゃうと、怒られるかもしれないけど
3時間はあった待ち合わせまでの猶予が残り十数分になっても私は目的地にいなかった。

地図アプリは見た。
見たはずだったし、その指示通りに進んだはずなのに、
目的地の近くにあるはずのコンビニは、緑色ではなく青色の方。

すぐ先のファーストフード店のところを右折と言ったのに、
どれだけ歩いてもそのお店が見当たらない

――そんなこんなで迷いに迷った挙句

「キミ、どうかしたの?」

「えっ? あっ」

「迷子……かな?」

不審者――は、たぶん私。
立派な制服に身を包んだ警察の人に声をかけられて、パトカー同乗はさすがに拒否
見回りに使う自転車を引いた警察の人と一緒に、私はどうにか目的地へと辿り着いた

24: 2021/03/29(月) 19:27:14.23 ID:AWTkXqmc
周囲の人たちからの奇異の視線を浴びながら、警察の人と別れて辺りを見回す。
待ち合わせ場所として指示されたお店の前であることを確かめてから、ようやく一息

中々たどり着けなくて焦ったせいか、
せっかく綺麗にした体はちょっぴり汗ばんでしまっていた

「……?」

時間を見て見ると、約束の時間3分前
なのに、目印として教えてくれた鞄を持っている人は見当たらない

「おかしいわね……迷子?」

自分じゃないんだから――なんて。
ちょっぴり自虐めいたことを思いながらスマホを出して、例のメールアドレスを引っ張り出す。
待ち合せ場所についたこと、告知通りのバッグを肩にかけていること
事務的なことを書きつつ、ついでに「お待ちしてます」なんて書いてみる

「絵文字をつけてみたり……」

業務連絡のはずだけど
まだ顔すら知らない相手にちょっとした遊び心はどうかと笑うと――スマホが震えた

――姿が確認できました

「えっ?」

その一文と一緒に、待ち合わせ場所でスマホを弄る私の写真が送られてきた

25: 2021/03/29(月) 19:34:51.48 ID:AWTkXqmc
「うそ……どこ!?」

慌てて顔を上げて辺りを見回す
予告されたバッグを目印にして行きかう人達を目で追うものの、
どれもこれも、全然違う。
なのに、相手からは私が見えている

「どうしよう……」

触れてはいけないものに触れてしまったかもしれない
関わるべきじゃなかった
悪いことに巻き込まれてしまうかもしれない

不安と恐怖に目の前が真っ暗になりそう――

「……果林」

「え……」

「ふふっ、ごめんなさい。怖がらせちゃったかしら?」

目の前に立つ、スーツを着込んだ人
男性っぽい装いながら、隠し切れないプロポーションはあからさまに美人で。

馴染みある声色から聞こえてきた私の名前
帽子に隠せなかった金色の髪と、アクアマリンのような瞳

「絵里……ちゃん?」

「そうよ。絢瀬絵里――お仕事の相手は、私」

27: 2021/03/29(月) 20:21:04.30 ID:AWTkXqmc
私と同じスクールアイドルとして活動している、絵里ちゃん
なぜかスーツに身を包んでいる絵里ちゃんは、
帽子を取って、本来の長い髪を解放する

「アドレスですぐに分かったわ、果林だって」

「……分かってたなら、教えてくれたって」

「ダメよ。教えたら、来てくれなかったかもしれないし」

秘密の高額バイト
絵里ちゃんが相手だって分かっていたら、私は来なかった?
それとも、それでも来てた?

「どうして、絵里ちゃんのことを紹介されたの?」

「ん~……偶然?」

誤魔化すように視線を逸らす絵里ちゃん
私との連絡に使っていたであろうスマホで口許を隠す仕草が、怪しく見えて

「本当かしら? 偶然にしては出来過ぎているような気がするんだけど」

連絡した時は絵里ちゃんじゃなくて、
途中で入れ替わった――なんて、それこそあり得ないことまで考える

「偶然よ。偶然」

絵里ちゃんはそれでも笑って、スマホを弄る
その直後に震えるスマホ
届いたメールは「宜しくね、果林」なんて悪戯心に満ちているように感じられた

「行きましょ? ア ル バ イ ト ♪ 」

29: 2021/03/29(月) 21:04:28.40 ID:AWTkXqmc
「行くって、どこに?」

「ついてきてくれたら、分かるわ」

絵里ちゃんはそういうと、私の手を掴む
少し強くて、絶対に離さないって意思を感じる手
誰でもする手の繋ぎ方
兄弟でも、姉妹でも、両親でも、友人でも
何の変哲もない、ありふれた繋がり

それはちょっとだけ――一方的

「……どうしてこんなバイトを雇ってるの?」

「何となく?」

「何となくって」

だんだんと人通りが少なくなりつつある路地を、左に行ったり右に行ったり
どこに行くのかを聞いても答えてくれない
何をさせられるのかを聞いても答えてくれない

「たまに、そういう気分になることがあるのよ」

「高いバイト代を払うだけの価値があるのかしら?」

「結果的には、プラスに働くこともあるわ」

引っ張られて、連れられて。

「ここよ」

――辿り着く、ホテル

「えっ?」

31: 2021/03/29(月) 21:42:41.20 ID:AWTkXqmc
「ちょ、ちょっと待って? ここ?」

「ええ」

休憩○○分、数千円
そんな感じの文字が並ぶ看板
ひっそりとしているくせにそれらしい主張はしっかりしてる

いくら私でも、このホテルが普通のビジネスホテルとかじゃないことくらいは分かる
何のためにあるのかくらい分かる
2人組が、どうしてここに来るのかだって――

「え、絵里ちゃんっ……不味いわ。ここは」

「不味いって、何が? 大丈夫よ」

絵里ちゃんはとても自信ありげに笑った
心配なんていらない
どこから来るのか想像もつかない力強さで、絵里ちゃんは私をホテルに引っ張り込もうとする

「だ、だって、ここ……ま、待ってっ」

「女の子が2人よ? 何か心配なことある?」

けれど――私はバイトするために絵里ちゃんと会った。
ここで働くなら、絵里ちゃんと会う必要はないはずで。

つまり――私のバイトは、この中で絵里ちゃんとすることのはず。

「だ、だって……」

考えて、想像して

「果林ってば――赤くなっちゃって」

絵里ちゃんは囁いて、妖艶な笑みで引く
踏みとどまっていた私の足は、崩れるように引き込まれた

34: 2021/03/29(月) 22:22:20.52 ID:AWTkXqmc
入ってすぐ、壁側に並ぶ沢山のパネル
部屋の内装みたいなものが写ってる傍ら、金額とかも載っていて
フロントの方に目を向けると、本来いるはずの人がいなかった

「ねぇ……フロントに人がいないみたいだし、やめない?」

「ふふっ、ここはそういうところだから大丈夫」

何が大丈夫なのか分からない私を差し置いて楽し気にパネルを眺める絵里ちゃん
繋がれた私の手をちょっぴり引いて、気を引かせて来る

「果林はどの部屋が使ってみたい? お金は気にしなくていいわ
 バイトの給料から引いたりしないし、ちゃんと私が払うから。福利厚生ってやつね」

その使い方があってるのかはともかく
そもそも、私にはどの部屋がどういいのかなんて何も分からない
時間だって、どうしたらいいのかも。

「絵里……ちゃんは、こういうところよく使うの?」

「あら? こんなバイトを雇ってるくせに、知らないとでも?」

「っ……」

自信満々の、絵里ちゃんの笑顔
その笑顔にドキドキする
ちょっぴり、頬が熱い

――きっと、場所が場所だけに気後れしちゃってるだけ。

「な、なら……絵里ちゃんが選んでいいわ。良く分からないし」

「そう? ありがと」

35: 2021/03/29(月) 22:30:27.64 ID:AWTkXqmc
絵里ちゃんは頷くや否や、
迷わず一番高い金額が書かれている部屋を指さして、この部屋にすると言う

「今日は全室空室だから、運が良いわ」

「そういうの、分かるのね」

「部屋のパネルが消灯していなければ空室よ? 場所によっては空室って表示してくれるともあるけど
 いずれにしても選べないし……大丈夫。部屋で鉢合わせする心配はないから」

「そんな心配はしてないけれど……」

してないけど。
あったらあったで怖いから、一安心
私が誰かの行為を見てしまうのも
私と絵里ちゃんの行為を見られるのも――

「っっ!」

慌てて首を振る
迷いに迷っていたときよりもずっと、焦ってる
まるで練習でもあったかのように、体が汗ばんでるのを感じる

「――かわいい」

「ひぅっ!?」

耳元を擽る一際大人びた悪戯に、思わず間の抜けた声が漏れて
また、絵里ちゃんを楽しませてしまう

「時間はどうする? フレックス? それとも――宿泊?」

38: 2021/03/29(月) 23:28:37.32 ID:AWTkXqmc
「えぇっと……」

そう聞かれても。なんて迷う私
絵里ちゃんはしばらく黙っていたけれど、思い出したように時間の表記を指さす

「1時間で1万円ね」

「……えっ?」

「あとは……オプションで追加で支払うわ」

「オプションって、なに?」

「ふふっ」

絵里ちゃんは笑うだけ。
ただただ、嬉しそうに
自分の口元に人差し指を立てて――

「それは部屋に行ってから、ね?」

「怖いのだけど……」

「大丈夫よ。女同士だし……それにね? 私、道具は使わない主義なの」

「どう、ぐ……?」

何の話か分からない
でも、なんて言えばいいのか……体を庇いたくなった

「私の希望としては、宿泊かしら。換算するとそれだけで10万円支払うわ
 もちろん、その場合は寝るときに果林のことを抱きしめさせて貰うけど……それ以上はしないって約束する」

もちろん、オプションを許してくれるならそれ以上もあるけど
なんて、絵里ちゃんは微笑んだ

39: 2021/03/29(月) 23:46:52.59 ID:AWTkXqmc
「じゅ……10万円って、絵里ちゃん本気で言ってる?」

「本気も本気。このために、私……ことりのところでバイトしたりしてたんだから」

自慢気に言う絵里ちゃんだけど
果たしてそれは自慢して良いことなのかしら……?
でも、本人が良いって言うなら……

「そ、それなら、宿泊……でも」

「ほんとっ?」

「え、ええ……」

――10万円、抱かれるだけで

抱かれる

抱かれる――?

「ま、ままっ待って!」

「もう……なぁに?」

「抱きしめるって……その、あれ、よね? 抱き枕……的な……」

「ん~……さぁ? 果林は、どういうのを想像しているのかしら?」

40: 2021/03/30(火) 00:01:39.61 ID:IgYBqaGx
絵里ちゃんは怪しい笑顔を見せる
私のほうが背が高くて
視点的には優位に立っている――はずなのに。

「っ……」

見上げてくる絵里ちゃんに、勝てない。
目を逸らしても、顔を背けても
私よりもたった5cm低い絵里ちゃんの視線は、私の逃げ道を塞ぐように目の前に見える

「どんな、想像しているのかしら?」

「ふ、普通……普通のよっ!」

「へぇ?」

ニヤニヤとした絵里ちゃんの笑み
私が考えていることが、普通なんかじゃないって見透かしてる顔

「だ、だって……抱き枕的な抱擁で10万円が貰えるなんてそんなうまい話があるわけがないじゃない……」

きっと、私の顔は真っ赤
目は潤んでいるかもしれない
絵里ちゃんのことが嫌いだとか、そういうのじゃなくて。
ただ……すっごく恥ずかしい

「ふふっ……そうね」

「ほら、やっぱり」

「でも安心して? 絶対に優しくするって……約束するから」

41: 2021/03/30(火) 00:19:46.20 ID:IgYBqaGx
絵里ちゃんの手が、私を引っ張る
倒れていく私を、絵里ちゃんは優しく受け止めて――抱きしめてくれる

「……こんな風に」

優しい感触
温かい身体
子守歌のような優しい吐息
強すぎないローズの香り

目を閉じてしまったら、そのまま気を許してしまいそうな――

「ドキドキしてるの……本当に可愛いわ」

「ど、ドキドキなんて!」

「抱いてる相手のことくらい、分かっちゃうものよ」

声を荒げたことなんて気にも留めずに、
絵里ちゃんは私の首筋に口を近づけて――ふっっと息を吹きかけてくる

「んっ……」

「どうする? 優しく抱かれて10万円もらうか。
 そのドキドキした気持ちを押さえつけたまま――数時間を過ごすか」

「………」

言葉では答えられなかった
首を横には触れなかった
縦にさえも触れなかった
ただ、喉を鳴らしてしまったことを答えとしたかのように、

絵里ちゃんは――宿泊を選んだ

48: 2021/03/30(火) 13:22:18.93 ID:IgYBqaGx
部屋までの通路は、私の背でも高い位置にあるって感じる頼りない照明だけしかなくて
少し薄暗く、近づかなければ相手の顔が見えないくらい。

「………」

そのせいか、前を歩いて手を引いてくれる絵里ちゃんが頼もしく感じる
さっきからドキドキとして止まない胸の奥
目線は私の方が上でも、心はきっと絵里ちゃんを見上げてる

「そんな緊張しなくても大丈夫よ」

「……む、無理言わないで」

「――もう」

ぴたりと止まった絵里ちゃん
一歩遅れて止まったせいで、その悪戯な笑顔は目の前にあった

「果林ってば、あんまり可愛い顔しないで」

「かわいい……なんて、そんな何度も」

意地悪を考えている顔だって分かってるのに
アクアマリンの瞳が私を映すたびに
リップの塗られた艶やかな唇が、私の名前を形作るたびに

――恥じらってしまう

「全財産で雇いたくなっちゃうじゃない」

「っ……」

絵里ちゃんのもう一方の手が、私の頬に触れる
握り合う手よりも冷たく感じるのはどうしてだろう――なんて、知らんぷりをする
そんなことをしたって、私の顔は嘘をつけないのに。

49: 2021/03/30(火) 13:45:38.78 ID:IgYBqaGx
「果林……」

絵里ちゃんの顔が近づいて来る
殆ど抱き合っているような距離感の今、私に残された猶予はたったの5cm

「絵里ちゃん……っ……」

フロント前で抱かれたのとはまるで違う、絵里ちゃんの感触
優しくて、温かくて、柔らかで、近づきたくなるような匂いなのは変わらないのに、
ただ向かい合っているというだけで――心の弾みは倍以上に強くて。

このまま、目を瞑ってしまったら――?
もし――身を委ねたら、どうなるんだろう?

拒まず受け入れず、絵里ちゃんの名前を呼ぶだけだった喉が不自然に乾いて、
ごくっっと……つばを飲み込む。

向かい合う二人、近づく距離。
それの向かう先が何なのかは知っているし、
そんな雰囲気を使って後輩をからかうことだって、あったのに。

視界が急に暗くなる
目の前に見えていた絵里ちゃんは見えなくなって、
握られた手と頬から伝わってくる熱、空気に交じった匂い
そして――だんだんと近づいて来る絵里ちゃんの呼吸に、私はいっそう敏感になって

「――部屋に、着いてからね?」

「っあっ……」

耳を通って頭の中を直接擽った誘惑に、今までに聞いたこともないような声が漏れる私
近づくまでは長いのに、あっという間に離れていった絵里ちゃん

「……」

照明が消えたのではなく、
私が目を瞑っていたのだと気づくのに、時間はそうかからなかった

52: 2021/03/30(火) 14:56:38.66 ID:IgYBqaGx
絵里ちゃんに連れられるがままに、部屋の中
それらしいムードのある部屋なのかと思えば、
普通に電気を点けただけだとちょっぴり豪華なホテルの一室という感じで

「思っていたより、普通なのね……」

「がっかりした?」

「が、がっかりなんてっ!」

ずっと絵里ちゃんにリードされ続けて、すっかり早まってる胸の奥
抑えの利かない声は大きくて
でも、絵里ちゃんはそんな私の余裕のなさを楽しんでいるかのように、笑顔だった

「ふふっ、照明は切り替えることだってできるのよ?」

絵里ちゃんが証明のスイッチを押すたびに、部屋の空気は変わる
少しだけ暗くなったり、照明の色そのものが変化したり
ミラーボールのように光が回ったり

「果林は、暗い方がお好みかしら?」

「……わ、私は別に」

「自慢の身体だもの――見られたいわよね」

「っ……や、やめて……」

絵里ちゃんに褒められるのは嬉しい
嬉しいのに、その言葉の一つ一つで体が熱を帯びてしまうようで
じんわりと汗ばんだ体には、刺激が強い

「私はそのままでも良いけど、果林はどうする? シャワー、浴びたい?」

そんな私を見透かしたように、絵里ちゃんは部屋の奥にあるガラス張りのお風呂を指さした

53: 2021/03/30(火) 15:04:02.25 ID:IgYBqaGx
「シャワーって……ま、丸見えじゃない」

「そうだけど……なぁに? もしかして女の子同士でも気になっちゃうの?」

同性同士
それでも気になる人だって少なからずいるとは思うけれど
でも、私はそんなことなかった

温泉はもちろん、
虹ヶ咲のみんなとの合宿とか、そういうので一緒になることはあったし、
そもそも、着替えを一緒にしているから
見るのも見られるのも、特別恥じらったことなんてなかった

――なのに

「……か、隠せないの?」

「そうねぇ……」

今の私は、我慢できそうもなかった。
絵里ちゃんに見られたくない
絵里ちゃんのことを見たくない
それを考えるたびに、顔が真っ赤になってしまう。

その果てにある行為を、意識させられてしまったから。

「果林は汗の匂いを嗅がれるのと、裸を見られるのどっちが恥ずかしいの?」

「そんな質問……する?」

「ちなみに私は、果林が良いなら汗ばんだ体でも抱かせられるわ」

54: 2021/03/30(火) 15:19:27.11 ID:IgYBqaGx
恥じらいもなく堂々とした絵里ちゃんの宣言
そんなことを言われても困るわ。と、
普段ならすぐにでも答えられるのに……目を向けることさえできない

抱かれたときの絵里ちゃんは、まったく汗の匂いを感じなかった
私と違って汗一つかいていない、綺麗にしたままのような匂いだった

「あぁもうっ!」

抱かれた感触を思い出してしまう
あの温もりと、匂いと、その先に行われていたことを考えてしまう
振り払うように叫んだ私を、絵里ちゃんはやっぱり笑顔で見ていた

「どうしてこんな……意地悪するのよ」

「意地悪? もしかして――キス、されたかったのかしら」

絵里ちゃんが近づいて来る……ほんのり暗い、照明のまま
ゆっくり近づいて来る絵里ちゃんから、私の足は後ろに下がって逃れようとする

下がって、追われて、下がって、追われて

――ガツンッ

「きゃっ」

下げた踵が段差にぶつかって、背中から倒れこむ。
包み込む感触は、柔らかいベッドで。

「――意地悪なのはどっちなのかしら?」

起き上がる前に、絵里ちゃんの体が私に覆い被さった

55: 2021/03/30(火) 15:33:53.39 ID:IgYBqaGx
「会う前から、そわそわそわそわ……すっごく可愛くて
 私だって正体をばらしてからも、赤くなったり、目を逸らしたりして――」

私の頬に、絵里ちゃんの手が重なる
両手は自由だから、逃げようと思えば逃げられるのに……
どうしてか、心が弾むばかりで。

「さっきなんて……するつもりがないのに、キスをしそうになっちゃったわ」

「……それは、絵里ちゃんが」

絵里ちゃんが、それっぽい顔をするから
それっぽい雰囲気を作ってくるから
そんなことをするかのようなことばかり言うから

――だから、ずっとドキドキしちゃっていて。

「果林が悪いのよ。ずっと――私を誘うような可愛いとこばかりみせるから」

「んっ……」

唇が、重なった。
流れ込んでくる温もりは早鐘を打つ心臓にまで届いて……宥めてくれる

「っは……はっ……ぁ……」

一方的に近づいてきた、絵里ちゃんからのキス
そのほんの数秒の唇の触れ合いから産まれた満足感が、体の中から失われていく切なさに渇きを感じてしまう

――もう一回

そう、求めたくて堪らない

58: 2021/03/30(火) 16:22:17.35 ID:IgYBqaGx
「……ごめんなさい。キスはオプションだわ」

絵里ちゃんはその一回で満足したのか、申し訳なさそうに離れて行ってしまう
絵里ちゃんが覆いかぶさっているときはまるで動かせなかった身体はいともたやすく、起き上がれた

「基本的に、キスは5千円払おうと思ってるの……でも、どうかしら
 無理矢理しちゃったから、この一回に限り1万円でいい?」

「え……と」

キスの相場なんて知らない
いくら払われるべきなのか、私のキスはいくらで売れるのか
私よりも慣れている絵里ちゃんが5千円とか1万円とか言うなら、それが相場なのかもしれない

――でも。

「……1万円で良いわ」

「そう? 良かった」

「でも……」

唇に触れる空気が不快だった
さっきまでと変わらないはずなのに、
たった一度、絵里ちゃんと紡いでしまった感触が忘れられない

「その分……軽いキスなら1回分無料にするから……」

「………」

絵里ちゃんの顔が見れない
顔が熱くて、衣服に隠れた体の熱気が少し不快に感じる

「軽くなかったら、追加料金は必要かしら?」

絵里ちゃんはそんなことを聞いてきておきながら、
私の返答も待たずに、ベッドへと押し倒そうとしてきて――

「まぁ――いくらだって、払っちゃうけど」

もう一度、キスをした

60: 2021/03/30(火) 16:44:14.95 ID:IgYBqaGx
「……果林って、こういうバイトしたことあるの?」

「あるわけ、ないじゃない」

「でもそれにしては、誘い方が分かってるとおもうんだけど……嘘、ついてない?」

絵里ちゃんは私から静かに離れて、隣に座る
ベッドの厚みが僅かにへこんだ感覚が、背中に伝わってくる
キス1回5千円……1回だけ1万円で、特別サービス1回無料
それで結局、キス2回分の売り上げ
ここに来てからまだ数分なのにもう1万円貰えるというのが、少し怖い

「こういうのって、援助交際って言うんでしょう? 」

「まぁそうね……気になる?」

「……ううん、別に。なんだか少し怖いなって思っただけ
 彼方のバイトの給料よりも、私自身の読モの賃金よりもずっと多く早くお金が手に入っちゃうから」

金銭感覚が狂いそうになるし、
なにより、この程度で良いなら……なんて、のめり込んでしまいそうな可能性だってある
絵里ちゃんとのキスで1万円、宿泊で10万円
明日には数ヶ月分以上のお金が手元に来ることになる

「……そんな可愛いこと言って、また襲われたいのかしら?」

「絵里ちゃ――」

「嘘よ。ふふふっ冗談」

絵里ちゃんは笑ってベッドから立ち上がると、軽く体を伸ばして私を見下ろす
見下ろされるのは新鮮なはずなのに、なぜかそれが当然のように感じる

「どうする? 艶がかった果林の肌に触れてもいいの?」

「シャワー浴びるわ……」

61: 2021/03/30(火) 16:54:04.62 ID:IgYBqaGx
家を出る前に綺麗にしてきたから、実際にはそこまででもないはずだけど
服の下、肌着の裏側
汗ばんでいる感覚がどうにも気になって……シャワーを選ぶ

絵里ちゃんは汗をかいてる私でも、喜んで抱きしめてくれると思う
むしろ、その方が興奮するなんて言ってくるかもしれない
でも、私が嫌

「………」

抱くなら綺麗な私にして欲しい
抱かれるなら綺麗な私でありたい
どうして? って、聞かれると困るけど――

「……ねぇ、あんまり見つめないで貰えないかしら」

ガラス張りの浴室
そのガラスを挟んで向かい側にいる絵里ちゃんからのまじまじとした視線
服を脱ごうにも脱げずにいる私を、絵里ちゃんは嬉しそうに眺めて

「果林、そっちよ。そっちの……壁のを見て見て」

「壁……?」

言われるがままに指さす方向に目を向けると、何かのパネルがあって

「それで見えなく出来るわ」

「………」

適当なボタンを押すとカーテンのようなものが降りてきて、
瞬く間に絵里ちゃんの姿が見えなくなった。

「初めから教えて!」

思わず怒鳴った私に、絵里ちゃんの笑い声が返ってきた

62: 2021/03/30(火) 17:19:48.53 ID:IgYBqaGx
「まったくもう……」

初めから見えなくすることができるなら、こんなにも緊張することなんてなかった
普通に脱いで、シャワーを浴びて、体を綺麗にして
それで……

「………」

唇に触れる
絵里ちゃんと2回も重なった唇
柔らかくて、優しい絵里ちゃんのキス
身体の奥にまで溶け込むようなその感覚が、恋しくなる

「っっっ!」

首を振って、全開でシャワーを出す。
シャワーヘッドから降り注ぐお湯の雨に打たれながら、顔を洗う
熱いのはお湯のせい
唇の名残惜しさは、気のせい

――もう1回

「~~~~っ!」

キスをして、離れていく絵里ちゃんの魅惑的な表情が忘れられない
艶やかな唇と、もしかしたら引いていたかもしれない糸の軌跡
女の子同士なのに、お金のためなのに、どうしても……

――これから先のことに、期待してしまう自分がいた

63: 2021/03/30(火) 18:07:43.68 ID:IgYBqaGx
あれもこれもと気になって、時間のかかってしまったシャワー
用意されていたバスローブに着替えて出ると、
ソファに座って髪を弄っていた絵里ちゃんが顔を上げた

「援助交際の時にシャワーを浴びるなら早めに出てあげるのが優しさよ?」

「そ、そう……なのね」

「普通は宿泊じゃないし……長くて3時間とかだから
 1時間の中の30分40分をシャワーでとられちゃうのは、ちょっとね?」

「ごめんなさい」

「ふふっ、果林が私以外に体を売らないなら――気にする必要はないわ
 私だったら、明日の朝まで帰さないから」

絵里ちゃんは悪戯っぽく……でも、絶対に本気な顔つきで言う

「それじゃぁ、私も入ってくるけど――見たい?」

「み、見たくないわ」

「そう……残念ね」

絵里ちゃんがバスルームに消えていく
私が下ろしたままのカーテンの奥は、しっかりと見えなくなっている
ちゃんと見えてないことに、ちょっぴり安心……する間もなく

カーテンが上がっていく

「絵里ちゃん!?」

「私はむしろ、見て貰いたいから」

もうすでに生まれたままの姿な絵里ちゃん
見せつけるようにしてくる絵里ちゃんから、私は必死に顔を背けて耳を塞いだ

64: 2021/03/30(火) 18:51:28.83 ID:IgYBqaGx
「もう……見てくれたっていいじゃない」

浴室から出て、絵里ちゃん開口一番口を尖らせての一言
私と同じバスローブに身を包んでいる絵里ちゃんは、
普段と違って、髪をまっすぐ下に下ろしたままで――湯上りの、上気した頬が艶めかしく感じられる

「い、嫌よ……」

「これから抱かれるのに……慣れておかなくていいの?」

「だ、抱くって……そんな……」

ベッドに座る私に近づいて来る絵里ちゃん
さっきみたいに押し倒されるかも――なんて、身構えた私の気持ちをよそに、
絵里ちゃんは隣に座って、そうっと手を握って来た

「果林は……どんなふうに抱かれたい?」

「どんなって、そんなこと聞かれても困るってば……私、そんな経験ないんだから」

「そんな難しいことじゃないわ」

絵里ちゃんはそう言って――私に身体を寄せてくる

「絵里ちゃん……?」

温かい身体、私と同じシャンプーの匂い
私と同じはずなのにドキドキしてしまう私を、絵里ちゃんは見上げて

「激しくか、優しくか……どっち?」

「そ、そんなの優しい方が……」

「激しくなら5万円、優しくなら、2万円ね」

5本指、2本指
にっこりと笑いながら見せてきて来るけれど、迷うはずもなく。

「優しくして」

ちょっぴり残念そうな絵里ちゃん
けれど、その残念そうな表情も一瞬で

「分かったわ」

まずは1回――キスをした

66: 2021/03/30(火) 19:19:39.10 ID:IgYBqaGx
「んっ……」

「……5千円追加ね」

ぼそりと呟く絵里ちゃん
私の手を擦って手首を上り、肩へ
絵里ちゃんの手は私の身体を調べるように動いて……優しく、ベッドへと押し倒そうとしてくる

抵抗せずに受け入れて横になった私に、覆い被さる絵里ちゃんの長い髪が垂れてくる
私と同じ匂いのはずなのに、全然違って感じる匂い
ただでさえドキドキしているのに、それをまた激しくさせようとしてくるような……

「果林って……本当に可愛いわよね」

「そんな、こと……」

お世辞かもしれないけれど、私は可愛い寄りも綺麗と言われることの方が圧倒的に多い
美人で、スタイルも良くて……そんな風に持て囃されるばかりで
可愛いなんて誉め言葉は、そんなに聞こえたことがなかったし
自分には、きっと似合わない言葉だと思っていたのに。

「……もう5千円、追加しなきゃ」

絵里ちゃんは何度も可愛いって私を見て、愛おしそうに頬を擦りながら――唇を重ねてくる

「んっ……っ……」

「っふ……んっ……」

キスをして、離れて、キスをして
絵里ちゃんは自分で決めた5千円という私の唇の価値に、惜しげもなくつぎ込んでくる

「っは……はっ……んっ……」

キスが続いて、ほんのりと息苦しさを感じ始めるころ――

「っあっ!」

シャワーを浴びる前よりも酷く汗ばんだように感じる私の首に、絵里ちゃんは口づけをした

68: 2021/03/30(火) 20:17:26.27 ID:IgYBqaGx
「んっ……」

「ちゅ……っふ……」

「ひぁっ……っ……」

首筋を這う絵里ちゃんの唇
挟み込むように動いたり、滑らせるように動いたり
絵里ちゃんの艶やかさが私の首に塗りこまれていく……そのくすぐったさに、変な声が出てしまう。

「大丈夫よ、果林のそんな声も――可愛いから」

「絵里ちゃ……んっ……」

名前を呼ぶ時間さえくれずに、絵里ちゃんは唇を重ねてくる
触れさせるだけのキスから、押し付ける重量感のあるキスへと変化して――

「っは……」

「んっ……っ……」

唇同士が弾ける、小さな水跳ねの音が聞こえる

「はっ……は……んっ」

「……っふ」

ベッドの上に投げ出していた私の手に、絵里ちゃんに手が触れる
指の一本一本に絡みつく……特別な握り方

「大丈夫よ――任せて」

絵里ちゃんのその言葉に、私の心は揺れ動く

70: 2021/03/30(火) 20:56:49.41 ID:IgYBqaGx
絵里ちゃんのもう一方の手が、私の肩を撫でる
始まりとは真逆に肩から腕、手首と下って……横へとズレて、お腹の辺り
バスローブの上から、絵里ちゃんの手が私の体をなぞっていく

「果林、バスローブも似合うわね」

「そう、かしら……」

「そうよ。すっごく……魅力的よ」

「んっ……」

絵里ちゃんは可愛いって言うだけじゃなく、
私を褒めるたびに、私へとお金をかけてくれる

泊まるだけで10万円
無理矢理なキスで1万円
優しい抱き方で2万円
そして……キス、キス、キス、キス、キス……
キスだけで10万円に達しちゃうんじゃないかって程に、絵里ちゃんは躊躇なく唇を重ねてくる

ドキドキさせられる心が、一際弾む絵里ちゃんの接吻
柔らかくて、優しい……唇だけの接触なのに、甘さを覚えるキス

「果林……」

「んっ……っ……」

ベッドの上で、何度も唇を重ねる
はだけた襟の部分には――キスマークがつきそうなほどの熱いキス

72: 2021/03/30(火) 21:28:02.70 ID:IgYBqaGx
「果林……」

「絵里ちゃん……んっ……」

名前を呼ばれると、キスの感覚がより強く感じられる
胸の奥にまで染み込む絵里ちゃんのキスは、
それでも、唇同士の触れ合いから先には潜らない
映画やドラマで見るような大人のキスには至らない

それは、なんだか――

「っふ……ふふっ……果林ったら、そんな顔して誘ってるの?」

「そんな、顔?」

「キスして欲しいって、顔」

絵里ちゃんはそう言って、またキスをしてくれる
優しくて、甘い……でも、優しすぎて物足りなさを覚えるようなキス

「もうっ……果林が可愛いから、お金無くなっちゃうじゃない」

そんなことを言うくせに、絵里ちゃんはキスをする
お金をかけることへの躊躇いなんて微塵も感じさせずに、
私の唇を奪って、首筋へと口づけをして……綺麗な笑顔を見せて――またキスをして

「じゃぁ、これくらいにして……ゆっくり抱かせて貰っていいかしら?」

「え?」

「優しいのは……ここで終わり。あとは激しくしたくなっちゃうもの」

絵里ちゃんはそう言って、名残惜しそうに私から離れていく

「あとは果林を抱き枕にするだけで我慢するわ。12万円分、ゆっくり抱かせてね?」

73: 2021/03/30(火) 21:38:22.84 ID:IgYBqaGx
「え……」

バスローブを脱がすことさえなく
ただただ、キスをして、体に触れるだけで終わり?

何度もキスをした
首筋も、唇にも
何度も何度もキスをして――10万円分くらいは追加料金が発生したとは思う

でも、その金額は絵里ちゃんが勝手に決めた金額で
そもそも、お金自体を気にしているような感じではなくて……

「ほら、果林……こっちきて?」

絵里ちゃんはもうすっかり、寝るモード
ベッドの右側に行って、横になろうとさえしてる
そのあっさりとした態度に……私はちょっとだけ、ムッとしてしまう

――私は、まだこんなにドキドキしてるのに

「絵里ちゃん……本当にもう終わりで良いの?」

「ん~……優しくしてって言われたから、仕方がないんじゃない?」

74: 2021/03/30(火) 22:10:21.16 ID:IgYBqaGx
「……本当に?」

「なぁに? もう少し稼ぎたいの?」

絵里ちゃんは少し考える素振りを見せて、小さく息を吐く
私を見る目はひたすらに優しい
さっきまでもそうだったけれど、その時よりも表情が柔らかい

「いまのところ、果林には23万5千円払う予定なのよ?」

「にっ……」

23万5千円
今まで聞いたこともないような、お給料
ある程度お金を貯めたとき、
あと半年お金を貯めればこのくらいはいくかな……なんて思ったかもしれない金額

少なくとも、まだ高校生の私には過ぎた金額にも思えるそれを
絵里ちゃんはたった1日で使い果たし、私はたった1日で稼いでしまった

「もちろん、あと3倍くらいでも払うことはできるけど」

「……」

絵里ちゃんはまだまだお金を払えるらしいけど
でも、そんな……たくさんのお金をもらうなんて……

――でも

「にっ、23万……なのよね?」

「ええ」

「な、なら……10万円キャンペーンとか、どうかしら」

「10万円キャンペーン?」

75: 2021/03/30(火) 22:47:19.04 ID:IgYBqaGx
10万円ごとにキスなら無料でしてもいい……なんていうキャンペーン
23万円なら、2回までどんなキスだって出来る

――なんて

「ふっ……ふふふっ、あははははっ」

「っ」

絵里ちゃんの大きな笑い声
お腹を抱えるほどに笑う絵里ちゃんはひとしきり笑った後に「ごめんなさい」と、
悪びれる様子もなく呟いて。

「果林……そんなにキスして欲しいの?」

「べ、別にそんなじゃ……」

「もうっ……キャンペーンなら、仕方がないわね」

絵里ちゃんは困ったように笑いながら、手招きする
して欲しいなら、自分から来て
そう言われているみたいなのに……私は躊躇わずに、近づいていた

ベッドの上を這うように進んで、絵里ちゃんの腕の中
優しく抱きしめてくれる力加減が、心地いい

「ほら……果林」

「んっ……っ……」

唇同士を触れ合わせるキス
触れ合わせて――ほんの少し傾けられると、唇同士が抱き合うように絡む

「っん……っ……」

「ん……」

さっきまでのキスよりも長いキス
僅かな息苦しさを塗りつぶす絵里ちゃんの感触に、少し、めまいがする

76: 2021/03/30(火) 23:32:43.52 ID:IgYBqaGx
「っは……」

「あと、1回」

「んっ……んんっ……!」

休む間もなく、2回目のキス
唇を押し付けて、すり合わせて……小さく開いた唇同士が深く交わる

「んっ……」

「ちゅ……っふ……んっ……」

長く、深く、熱く
そんな絵里ちゃんとの唇の交わりは――たった数秒間
絵里ちゃんはすぐに離れて、私の両肩を押すようにして距離を取る

「はい……おしまい」

「……ん」

もっとしたい
もっと、激しくしてくれてもいい
そんなことを考える自分がいるのを……私は内側に隠して、絵里ちゃんを見る

「………」

これは、援助交際
お金をもらう対価として、体を許す……そんなつまらない関係

「おしまい?」

「ええ、おしまいよ」

77: 2021/03/30(火) 23:39:48.08 ID:IgYBqaGx
腕に抱かれるまま
私の全てを絵里ちゃんにすべてを委ねていく
激しくして欲しいって言ってたら、もっと先までしてくれたのかしら

もっと強く、もっと深く、もっと広く……
私の体を余すところなく、その手で触れてくれたのかしら
優しい口づけで……絵里ちゃんの所有物だなんて、痕をつけてくれたのかしら?

「……くれた?」

「なぁに?」

――くれた。なんてそんなの、まるで

顔が熱くなっていく
高鳴りが納まらないまま……痛みさえ覚えてしまう
だって、してくれたのかもしれないなんて考え方

そんなの……自分が、して欲しいみたいじゃない

「な、何でもないわ……ごめんなさい。大丈夫……」

「そう?」

「ええ……このまま、抱いて寝てくれてもいいから」

78: 2021/03/30(火) 23:59:56.22 ID:IgYBqaGx
今までしたこともないキスを味わって
絵里ちゃんに、愛されて
女の子同士なんておかしいはずなのに……その心地よさにのめり込んでしまいそうで。

「……ねぇ、果林」

「なに?」

「もしもまた、お金に困ったら私に連絡してね?」

そんなにないことだとは思うけど。
前置きをした絵里ちゃんは、私のことをぎゅっと抱きしめて
抱きしめる腕はゆっくりと上にあがってきて、頭を撫でてくれる
ベッドの上で寄り添っているからこその距離感

「ほかの誰かに、あんまり体を許しちゃだめよ?」

「………」

絵里ちゃんの声が耳元に残る
腕の中に抱かれているせいで、その顔は見えないけれど
とても、私を気遣ってくれているように聞こえる

「絵里ちゃんは、いろんな人を雇ってるのに?」

「……それもそう、ね」

79: 2021/03/31(水) 00:19:29.52 ID:P3YO2a56
私の意地悪な返しに、絵里ちゃんは困ったような笑い声を交えながら答える。
少しだけ申し訳なさが込められているのは……気のせい、なのかしら?

でも、分かって欲しい
自分は色んな人に身体を許しているくせに
私には、ほかの人にはダメだなんて言うなんて狡いって。

――だから

「……正規雇用、してくれないかしら」

「え?」

「今日、23万円もいらないから……1週間、1万円とか」

「果林が良いなら、それで雇うわ!」

絵里ちゃんの一際嬉しそうな声

私が他の人には体を売らなそうだからなのか
ただ、自分の払うお金が減ったからなのか
顔を見ればきっと……その答えがわかるのに。

自分の顔を見られたくなくて、絵里ちゃんの顔を見ることができなかった

「ふふっ、とりあえず……1年は約52週間だから、52万円払わせて貰うわね?」

「分割払いにして……」

「嫌よ。ほかの誰かに買われたくないもの」

「……もう……分かったわ。お買い上げありがとうございます」

もっと嬉しそうにしたらいいのに。
そんなぼやきを入れる絵里ちゃんの胸に頭を預けながら、目を瞑る

私達はお金だけの、関係
どっちかにその必要が無くなったら、切れてしまう関係
だから、少しだけ思ってしまう

――女の子同士でも、妊娠できてしまえばいいのに、なんて

80: 2021/03/31(水) 00:26:31.64 ID:P3YO2a56
卑猥なのは書けないのでこれで終わりです

ボツ案:高校卒業後、就職も進学も出来ずに地元に戻るに戻れず援助交際を始めて絵里と会う

81: 2021/03/31(水) 00:27:54.95 ID:OJat1rci

とても良かった
本当にありがとう

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1617008905/

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