【SS】善子「in this unstable world」【ラブライブ!サンシャイン!!】

よしこーヨハネー魔術 SS


2: 2021/05/19(水) 23:53:11.10 ID:Ff7rLwrG
6年後ぐらいのAqours

3: 2021/05/19(水) 23:58:58.58 ID:Ff7rLwrG
「スクールアイドル団体部門の優勝は──静真高校スクールアイドル部ッ!!、"Aqours"の3人です!!!」
善子「……!──ルビィっ!ずらま──」

ルビまる「「善子ちゃ~~んっ!!!」」ダキッ

4: 2021/05/20(木) 00:01:29.73 ID:CHmB+InK
ーーーーーーーーー

善子「もうっ、急に抱きつくことないじゃない…」

ルビィ「だ、だって!嬉しかったからついっ…!」

花丸「も~!ルビィちゃんが一番に泣いちゃうから、まるの涙引っ込んじゃったよ」グスンッ

ルビィ「えへへ、それなら大丈夫……もう、流れてるから」

花丸「え……?」ポロポロ

花丸「うっ…ううっ…っ!!ルビィちゃんのばかぁーっ!」ダキッ

ルビィ「ごめんね……頑張ったもんね。私たち」

善子「……そうね」

5: 2021/05/20(木) 00:03:14.39 ID:o9nAezMG
……そう。9人の"Aqours"で掴んだ──浦の星女学院で優勝した年から、Aqoursとしては3年連続の優勝を果たした。

善子(まぁ……これで卒業した先輩の力が大きかった、なんて声は聞かなくてよさそうね)

タッタッタッタッ

「──先輩!」

ルビィ「あ、みんなっ!」

後輩「3連覇おめでとうございます!感動しましたっ…!」

花丸「みんなの前でいいとこ見せれてよかったずら~♪」

後輩「津島先輩!ソロ部門も頑張ってください!」

善子「……召集までもう時間ないわね…わたし、先に行くわ」

6: 2021/05/20(木) 00:04:10.12 ID:CHmB+InK
ルビィ「うんっ!善子ちゃん、がんばルビィ!」

花丸「ダブル優勝、期待してるずら!」グッ

善子「うん……いってきます」

後輩「津島先輩、ファイトです!」
"スクールアイドル個人の部"──昨年から新設された部門で、団体の部と同様、決勝は予選を勝ち進んだファイナリスト8名で行われる。

……新設されたというものの、競争は熾烈を極めており、今年のエントリーは団体の部の約5倍。

そして私は、そのファイナリスト8名の内の1人として、最後のラブライブに出場する──

7: 2021/05/20(木) 00:05:17.23 ID:CHmB+InK
ーーーーーーーーー
アナウンサー「──さぁ!お次はここ数ヶ月で急速な成長を遂げており、今もっとも勢いがあるスクールアイドルといっても過言ではないでしょう!」

アナウンサー「それでは会場の皆さん!リトルデーモンになる準備はできてるかぁーーっ!?」
\イェ----イ!!!/
アナウンサー「では、会場のボルテージが上がったところでお呼びしましょう!──エントリーナンバー4番、津島ヨハネちゃんです!!」
ドワァアアアアアアアアアアア──!!!
善子(1人でいるのが慣れているからかしら…──ソロの形式は割と、ヨハネの型にハマった)

善子(……多分、個人でやった練習が、結果に直接繋がるから…だと思う)

善子「…………──それでは聴いてください」
ヨハネ「Daydream Warriors」

8: 2021/05/20(木) 00:07:06.40 ID:CHmB+InK
ーーーーーーーーー

ルビィ「惜しかったね、善子ちゃん…あと1歩でメダル貰えてたのに」

善子「……仕方ないわよ。エントリーの順番は、予選の結果で決まってるからね」
ファイナリスト8人中4位。
これが、私のスクールアイドル生活最後の大会の結果だった。
花丸「でも全国で4位だよ?…善子ちゃんが遥か彼方、遠い存在になってしまうんだね~…」

善子「そんな……変わらないでしょ。たまたまソロがわたしに合ってたってだけだし」

ルビィ「インドア派なのがいい方向に行ったのかもね♪」クスッ

善子「う、うるさいわねっ!そんなにストレートに言わないでよっ…!」

善子(……でもまぁ……)
……全国で4位、か。
善子「……まぁ、こんなもんでしょ」ボソッ

17: 2021/05/20(木) 01:07:48.83 ID:CHmB+InK
タッタッタッタッ──
「す、すみません!どうしても会わせて頂けないでしょうかっ!?」

後輩「つ、津島先輩はライブ終わったばかりだからまたの機会に…!この後すぐに表彰式もあるので!」

「1分──いや、10秒で構いません!ひと言お話を…!」

善子「……ん?なんの騒ぎ?」

後輩「あっ……いや、どうしても津島先輩に会いたいっていうファンの方がいて…」
「!?ヨハネちゃんっ!」パァ
見た感じ中学生…といったところかしら。

19: 2021/05/20(木) 01:26:51.77 ID:CHmB+InK
善子「クックックッ……貴女かしら?この堕天使ヨハネに謁見を望む者というのは…♪」

「ほ、ほんものの…ヨハネちゃんだぁ…!」

後輩(津島先輩!こういうファンは強く言っておかないと、後々めんどくさくなりますから…)ヒソヒソ

善子「……別に構わないわよ──もうこれで、最後になるんだし」

ルビィ「……っ」

善子「サインが欲しいのかしら?……いや、やっぱり今のはスター気取りみたいになったからなしで…!」

花丸「いーや、今の善子ちゃんは正真正銘、トップアイドルの1人ずら♪」

善子「ゔっ!……ずら丸だけには聞かれたくなかった…」

20: 2021/05/20(木) 01:27:41.39 ID:CHmB+InK
女の子「い、いえ!ひと言だけ、どうしても伝えたいことがあって…!」

善子「ひと言?……それだけでいいの?」

女の子「はいっ!──私、今日のヨハネちゃんのライブ、どのスクールアイドルよりも感動しましたっ!」

女の子「感動したところはいっぱいあって……ダンスや歌ももちろん──あ、間奏の時のダンスのとことか特にっ!一番感動したのは最後のシャウト──!!」アセアセ

ルビィ「えへへ…ひと言ぐらいじゃ収まらなさそうだね♪」クスッ

女の子「あぅ……///……え、えと、その──わ、わたしっ、高校でスクールアイドル始めますっ!!それで、それでっ──!」

女の子「ヨハネちゃんみたいな……見てくれる人全員に、感動を与えられるようなスクールアイドルになってみせますっ!」

21: 2021/05/20(木) 01:32:49.74 ID:CHmB+InK
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──4年後。

津島善子、大学4年生


:沼津実家


善子「ただいま~」ガチャ

善子ママ「あら、おかえりなさい。早かったわね」

善子「向こうにいてもやることないしね……これ、頼まれてたシュウマイ」ガサッ

善子ママ「あらありがと♪……どう?教師への道は」

善子「ぼちぼち……模擬授業の先生と、後輩からのコメントで心が折れそう…」

22: 2021/05/20(木) 01:33:42.48 ID:CHmB+InK
善子ママ「最初なんてみんなそんなもんよ~……あ、もしかしてアドバイス全部真に受けてるんじゃないでしょうね?」

善子「……え?ダメなの?」

善子ママ「先生のはまだしも、同じ大学生目線のコメントなんでしょ?参考程度で流しときなさい」

善子「そういう…ものなのかしら…?」

善子ママ「そーいうものよ。実習のあいさつにはいつ行くの?」

善子「今週1回顔出して、本格的なのは夏にやるつもり」

善子ママ「久しぶりの静真高校ね。最初の印象が大事だから、シャキッとね」

善子「わかってる……あ、あと今週の土曜日、大会にでるわ」

23: 2021/05/20(木) 01:34:23.25 ID:CHmB+InK
善子ママ「あら、スクールアイドルの?GWなのによくやるわね」

善子「うん。オープン大会っていって、どの年代でもでられる大会だから…」

善子「……多分、それが……最後のライブになる……かも」

善子ママ「あらあら…」

善子ママ「……それって、観に行っていいってこと?」

善子「!だ、ダメよ!絶対にっ!」

善子ママ「パパも見たがってたわよ~。大学の動画は、全部見尽くしたみたいだけど♪」クスッ

善子「は、はぁっ!?ママ、私がみられるの好きじゃないって知ってるでしょ!やめさせてよね…っ!」

善子ママ「そんなのパパの自由でしょ~。そんなに嫌だったら、パパに直接言いなさい」

善子「くぅ……ちょっとランニング行ってくるわ。帰ったら絶対に言うからねっ!」

善子ママ「今から?ゆっくりすればいいのに…なに食べたい?何時に帰ってくるの?」

善子「……最近ご飯作れてないから、お肉食べたい。夕方までには帰るわ」

善子ママ「はーい。デザートにあんたが好きないちごケーキ作っておくね♪」

善子「……楽しみにしとく」ガチャ

24: 2021/05/20(木) 01:35:49.17 ID:CHmB+InK
ーーーーー

<内浦>


プシュ-


ブルルルルルルル.......


善子「……よっと」

善子「ここは変わらないわね。いつきても」



太陽いっぱいの光を浴びながら、徐々に足取りを早めていく──今日は、絶好のランニング日和ね。


「……はっ、はっ…」


小気味よいテンポで呼吸を刻みながら、キツすぎず、ダラけ過ぎないスピードを維持する。

内浦でのランニングを選んだ理由は景色を見たかったからだけではない。

……スクールアイドル最後になるであろう大会の前に、高校の頃の思い出に浸りたかったからだ。


善子(我ながら、センチな理由ね…)

25: 2021/05/20(木) 01:37:28.69 ID:CHmB+InK
ーーーーー


──どれぐらい距離を踏んだだろうか。

今日は、疲労を溜めすぎないように1時間程度のランニングのつもりだったのに…

善子(スマホで時間測っておくべきだったわね…失敗した…)

ランニングの途中、懐かしい景色を見た。

ライブの相談でよく利用していた松月。

夜中、1年生3人で買い出しに行ったコンビニ。

合宿で地獄をみた海岸。

ライブ費用を稼ぐために、部員総動員でバイトをした三津シー。


……そして千歌の家──"十千万旅館"にもすれ違った。


連休中だからか、旅館には多くの車が止まっていた。

通り過ぎる間際、旅館の玄関が開いたのを見て、思わず目を背けた。

──足早に、旅館の前を走り去った。

なぜ足を速めたか、自分でもよくわからない。

善子(千歌に後ろめたい気持ちはない…──むしろ、会って雑談でもしたいぐらい)

でも、できれば会いたくないという気持ちが勝ってしまった。

千歌の家の向かい側には梨子がいる。

……今でも、内浦に住んでいるのだろうか。


善子(……私は今、メンバーがどこで何をしてるか──何も知らない)

26: 2021/05/20(木) 01:39:16.35 ID:CHmB+InK
ーーーーーーーーー


津島善子、大学1年


善子『静真高校から来ました、津島善子です。高校の成績はラブライブ本選で団体部門優勝。ソロ部門では4位でした……大学ではソロを専門に頑張ります。よろしくお願いします』


パチパチパチ


『善子ちゃんっ、大学での目標はー!?』

善子『も、目標!?……えっと、大学3年で、Aランク……です』



\おぉー!/



監督『うちでも3年生でAランクに到達した選手はいない……期待してますよ、津島さん』

善子『が……がんばりまひゅっ!』

『今ので不安になったかも~』

善子『あ、あはは…』


高校最後のラブライブ大会が終わった後、多くの大学から推薦が来た。


推薦で大学を決めるのはあまり乗り気ではなかったけど……部活に打ち込める環境と、教師になりたいという夢を叶えるために、神奈川のとある大学に進学した。

27: 2021/05/20(木) 01:41:18.50 ID:CHmB+InK
監督『5月の大会の出場曲です。歌と振り付けはそのUSBに入ってるので、なくさないでくださいね』スッ

善子『あ、ありがとうございますっ』



大学のスクールアイドルは、高校と比べて大きく異なった。

曲も歌詞も振り付けも、大学が契約している企業から提供されたものを使って、大会に出場することになっている。



善子(……大学の成績次第でプロのアイドルになれるかが懸かっているから仕方ないのかもしれないけど…──やっぱりプレッシャーは感じるわね…)


さらに大学ではA~Eの5つのランクに分けられる。
最初は高校の実績関わらずEランクからスタートし、大会の成績に応じて、徐々にランクが上がっていく──というものである。

28: 2021/05/20(木) 01:42:46.38 ID:CHmB+InK
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プルルルル....



善子『あっ、もしもしルビィ?』

『久しぶり、善子ちゃん!そっちの大学はどう?』

善子『えーっと……人が多い……かしら?』

ルビィ『……ってそれだけ!?……善子ちゃんの大学デビューが心配になってきたよ…』ハァ

善子『し、失礼ね!一応部活には入ってるから友だちはできたわよっ!』

ルビィ『なら安心だね~♪静真に編入したときなんかみんなと馴染むまでに1ヶ月ぐらいかかったから…』

善子『黒歴史を思い出させないでよ……あんたもスクールアイドル部、入ったんでしょうね?』


ルビィは愛知の大学に進学した。
将来は、衣装のデザイナーになりたいらしい。

29: 2021/05/20(木) 01:53:44.39 ID:CHmB+InK
ルビィ『うんっ!おねぇちゃんから聞いてたけど…自分たちで曲とか準備しないのは、まだ慣れなさそう…』

善子『楽だけどね……もう5月の出場曲を渡されたわ』

ルビィ『えーっ!もう!?……ルビィなんかまだグループ決めの段階だから、全然スクールアイドルできてないよぉ…』

善子『団体はやることが多そうね……私はソロだから、動きが早いのかも』

ルビィ『そういうものなのかなぁ……先輩たち、フェスティバルに向けてピリピリしてるから、ちょっと雰囲気怖いよ』

善子『……それは……まぁ、わかる気がする……』

善子『でも、お互い頑張りましょ。私たちしかアイドル続けてないわけだし……また何かあったら連絡するわ』

ルビィ『うん!いつか一緒の大会に出れるといいね♪』

ルビィ『明日は朝練あるからもう寝るね。おやすみ善子ちゃん』

善子『ええ、おやすみなさい』

30: 2021/05/20(木) 01:56:19.00 ID:CHmB+InK
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『今年の新人大賞は──……大学の津島善子さんですっ!』


\ドワァアアアアアアアア!!!/


『おめでとう!善子ちゃんっ!』

『これで一気にCランクだな、さすが全国4位』

監督『おめでとう津島さん。これからも期待してるわ』

善子『ありがとうございます。慢心せずに頑張ります』


1年目は夏の関東大会でベスト24。


同じく冬は関東6位まで登り詰め、来年は全国大会である──"スクールアイドルフェスティバル"への出場権を獲得した。

31: 2021/05/20(木) 01:57:17.80 ID:CHmB+InK
『わたしたちと運動量が桁違いに多いダンスなのに、あの歌唱力をキープできるのは凄いよね……』

『ダンスもそうだが、善子の魅力はあの長いシャウトだな。体力がつけばさらに伸びるだろ』

善子『……』スッスッ


『フェスティバル、決まった』


『おめでとう!!ルビィは予選落ちだったよ……でも、来年はもっといい結果だすよっ!』


善子『……』

『善子ちゃん、バス出発するよ』

善子『あ…はいっ!今行きますっ』



このLINEを機に、ルビィとの連絡は徐々に減っていった。


ルビィが出場しそうな大会を片っ端から調べていったが……月日が経つにつれ、大会に名前が載らなくなった。



──それっきり、ルビィとは疎遠になってしまった。

32: 2021/05/20(木) 01:57:51.91 ID:CHmB+InK
2年の終わりには、全国で30人しかいないBランクになった。


順風満帆だった。


向かう所敵なしだった。


何もかもが順調に進んでいたにも関わらず、わたしは──


スランプに陥ったのだ。

33: 2021/05/20(木) 01:58:37.34 ID:CHmB+InK
ーーーーー


『津島先輩、調子悪かったのかなぁ……』

『ちょっ、そういうの聞かれたらまずいから……』

『……だって、関東1位がフェスティバルで予選落ちだよ?……レベル高すぎてへこんじゃうよね~』

善子『…………』

善子(また……勝てなかった……)

善子(弱点だった体のブレは体幹を鍛えて克服したはず──歌もダンスも衣装も、レベルの高いものを用意してもらったのはずなのにっ…!)グッ


『津島さん』


善子『!……か、監督……』

監督『残念だったわね。会場の空気に飲まれたかしら?』

善子『!い、いえ、そんなはずはっ……!』

監督『……津島さん。たしかに今のあなたはスクールアイドルとしての技術は格段に向上している……去年と比べて遥かにね』

監督『でも、なぜかライブに立つとパフォーマンスに息苦しさを感じる……』

34: 2021/05/20(木) 01:59:53.88 ID:CHmB+InK
善子『……息苦しさ?……ステップやリズム感のことでしょうか…?』

監督『……いいえ。いずれでもありません』

善子『……動画を何度も確認しましたが──監督の言う息苦しさの意味が、よくわかりません』

監督『……そうですか』

監督『その課題をあなた自身で解決できるまで、津島さんをフェスティバルに選出しません』



ザワッ



『うそっ……津島先輩が代表漏れ……!?』

善子『……っ』ギュッ

監督『少し、スクールアイドル以外のものに目を向けてみることです。それがあなたのために──部のためにもなるはずです』

善子『……はい』

35: 2021/05/20(木) 02:01:47.63 ID:CHmB+InK
ーーーーーーーー


「はぁっ……はぁっ……!!」

十千万旅館で上げたペースそのまま、必死に走り抜けた。

……今日は、こんなにハードな練習にするつもりなかったのに。

ようやくたどり着いたのは──目的地である、"浦の星女学院バス停前"。


善子「……っ」


坂を見上げた。
この長い坂をみると、高校生活の日々と、忘れかけていた思い出が徐々に蘇ってくる。


……この坂を登れば、1年間だけだったけど──慣れ親しんだ、浦の星女学院に会える。

……ここなら、わたしのスランプの原因が見つかるかもしれない。


すがるような思いで、この場所に来たんだ。


輝かしい、高校の思い出とともに、鮮明に──それが見つかるはず。


──1歩、足を踏み出した。

36: 2021/05/20(木) 02:03:07.02 ID:CHmB+InK
善子「……あっ……」



まるで足に鎖がつながれていると錯覚するような一歩だった。

瞬時に体が──いや、心が拒んでいることに気づいた。

あの唯一無二の輝きを纏った青春時代に対して──こんな澱んだ感情で向き合うのが、嫌なんだ。



……結局、わたしは何をするでもなく、浦の星を去った──


ーーーーーーー


善子(……潮時、なのかもしれない)

善子(でも、我ながらよくやったわよね。……引きこもりだった高校生が、全国大会に出場したのよ?)

善子(これ以上、スクールアイドルをやることに意味を見出せないのなら……もう──)


ザッ


「善子さん…?」

善子「……あっ」

ダイヤ「……お久しぶり、ですね」

37: 2021/05/20(木) 02:06:35.10 ID:CHmB+InK
ーーーーーーーーー

善子「久しぶり……買い物の帰り?」

ダイヤ「ええ、夕飯の食材を買ってきたところです。善子さんは?」

善子「私は……ランニングを、ちょっと」

ダイヤ「あぁ……来週、沼津のオープン大会に出場するのですよね」

善子「えっ……なんで知ってるの?」

ダイヤ「なぜって……そんなの、Aqoursの後輩だからに決まってるでしょう?」ニコッ

善子「……はぁ……」

ダイヤ「よかったら、わたくしの家に寄っていかれませんか?……あなたに会いたがってる方がいますの」

善子「……わたしに?」

39: 2021/05/20(木) 02:09:59.14 ID:CHmB+InK
ーーーーーーーーーー



:黒澤家



聖良「お久しぶりです。善子さん」

善子「お、お久しぶりです……聖良、さん」

聖良「あら、都会に揉まれましたか?タメ語でいいですよ。昔みたいに」

善子「い、いえ、結構です…」

聖良「どうして貴女がこんなところに……そういう顔をしてますね」フフッ

善子「……そんなこと、ないと思いますけど……」ペチペチ

ダイヤ「お二人とも、紅茶でよろしかったですか?」

聖良「ええ、お願いします」

ダイヤ「わかりました。善子さんは?」

善子「あ……砂糖とミルク、頂けるかしら」

聖良「……ふふっ」

善子「……今、バカにしましたよね?」

聖良「失礼しました。いいと思いますよ、甘党」

善子(ぐぬぬ……)

40: 2021/05/20(木) 02:13:08.86 ID:CHmB+InK
----------


ダイヤ「お待たせいたしました。どうぞ」カチャン

聖良「ありがとうございます」

善子「いただきます……で、どうしてあなたがここに?」カチャン

聖良「特に特別な理由はありませんよ。運良く大型連休にお休みをもらえたので、内浦に遊びに来ただけです」

ダイヤ「聖良さんとは大学が近かったので、卒業後もよくお会いしてましたの」

善子「へぇ……ちなみに、どこの大学だったんですか?」フ-フ-

聖良「……東京の、UTX大学です」

善子「!!ゆっ、UTXぅっ!?」

善子「UTXって……名門じゃないですか。スクールアイドルの……」

聖良「ええ、ありがたいことに推薦を頂きましてね」ズズッ

善子「そ、そうだったのね……」

ダイヤ「……」

42: 2021/05/20(木) 02:16:10.75 ID:CHmB+InK
「…………」



ダイヤ「そ、そういえば善子さんは来週のオープン大会に出場しますのよ」

聖良「そうですか。今の善子さんほどの実力であれば、ファイナリストぐらいは固いでしょう」

善子「……わたしのこと、知ってるのね」

聖良「……ええ。"1年足らずでフェスティバル出場を決めた超新星"と聞いています」

聖良「UTXでも、よく噂になってましたよ」

聖良「引退は冬のフェスティバルですか?それともオープンを勝ち抜いた後の秋の国体まで?」

善子「……」ズズッ

カチャン

善子「……わたし、今回のオープン大会で引退しようかなって……」

44: 2021/05/20(木) 02:19:54.04 ID:CHmB+InK
聖良・ダイヤ「!」

聖良「……へぇ?」

善子「まぁ……結果がよかったら、続けるかもしれませんけど……」

聖良「……引退を考えているのは、なぜですか?」

善子「……まぁ、いろいろあって…」

聖良「……就活で悩んでいるのであれば、そちらを優先していいと思います。終わってから復帰しても遅くないかと」

善子「……」

善子「楽しくないんです。スクールアイドル」

善子「自分が何のために続けているのか、わかんなくなっちゃって……」

聖良「……メンタル的な面、ですか」

善子「そんなところです」

聖良「……」ズズズ 

45: 2021/05/20(木) 02:22:29.68 ID:CHmB+InK
カチャン


聖良「──はっきり言いましょう」

聖良「惰性で続けるのなら、今すぐにでもスクールアイドルを辞めるべきです」

善子「……っ!」

ダイヤ「っ!聖良さんっ!」

聖良「周りには、そういうアドバイスをくれる人はいませんでしたか?」

聖良「強豪校であれば尚更です。フェスティバルの出場枠は1校に3つしかない──その大切な1枠を、無気力な選手に割けるほど甘い環境ではないはずですよ」


「……っ」ギュッ

46: 2021/05/20(木) 02:25:16.83 ID:CHmB+InK
善子「……なんで…」

善子「なんでスクールアイドルを続けてないあんたに、そんな風に言われなきゃいけないのよっ!」

ダイヤ「……っ」

善子「これでも全国レベルの練習はしてきたわよっ!でも……でもっ!いくら練習しても結果が──!」

善子「あっ…」

善子(こんなはずじゃなかったのに…こんなことをいうはずじゃ──!!)ガタッ!

善子「ご、ごめんなさい。取り乱して……失礼する──」


パシッ

47: 2021/05/20(木) 02:27:51.96 ID:CHmB+InK
席を立とうとした瞬間、腕を掴まれた──その手は、ダイヤだった。


ダイヤ「……よかったら、聞かせてくれませんか?善子さんの、大学のお話」

善子「で、でも…」

聖良「謝罪は結構ですよ。やっと本来の善子さんが垣間見えたので」

聖良「わたしからもお願いします。善子さんの悩み、話せば楽になるものかもしれません」

善子「……」



聖良とダイヤには、包み隠さず、ありのままの全てを話した。


初めてフェスティバルに出場した1年生。破竹の勢いだった2年生。そして──壁にぶつかってスランプを抜け出せないままでいる、現在のことまで。

48: 2021/05/20(木) 02:30:28.77 ID:CHmB+InK
「…………」



善子「……聖良はさ」

善子「なんで続けなかったの……スクールアイドル……」

聖良「……いえ、続けてましたよ。推薦入学ですからね」

善子「そ、そうだったの?(知らなかった…)」

聖良「──"Cランク"、でした」

善子「……えっ?」

聖良「私もソロを専門に活動して、引退した時点のランクはCランクでした」

善子「……嘘でしょ?あなたが……?」

聖良「……」

聖良「善子さん。先程、"楽しくない"と言いましたね」

聖良「ならば、少し視点を変えてみましょう──善子さんが高校卒業してまでスクールアイドルを続けようと思った原動力はなんですか?」

聖良「自分のパフォーマンスのため?……それとも、高校時の全国4位の実力に期待している"周り"の評価のためですか?」

49: 2021/05/20(木) 02:33:47.17 ID:CHmB+InK
聖良「あなたは一体──なんのためにスクールアイドルを続けてきたのですか?」

善子「……っ」

聖良「その答えがはっきりでない限りは、やはり大会には出場するべきではないと思います」

聖良「……あなたが、苦しむだけでしょうから」

善子(わたしが──大学で、スクールアイドルを続けようと思ったきっかけ……)


善子「…………」



──あれ?



善子(……続けようと思ったきっかけって、なんだったっけ…?)

50: 2021/05/20(木) 02:36:56.23 ID:o9nAezMG
ーーーーー


善子「思ったより、長居しちゃったわね…」

ダイヤ「いいえ……わたくしも善子さんのお話が聞けてよかったです」

ダイヤ「……少しは、楽になりましたか?」

善子「……どうかしら?でも、まだアイドルを続けたいとは思わない」

善子「……聖良の言う通りね。今の感じで大会に出るべきではないかも」

ダイヤ「そう……ですか……」

ダイヤ「善子さんがどんな選択を選んだとしても、わたくしは止めません」

ダイヤ「でもどうか……どうか、1人で抱え込むような事はしないでください」

ダイヤ「自分の弱みをさらけ出す──それも、1つの強さですよ」

善子「……ええ。そう、ね」

ダイヤ「どんな善子さんでも、わたくしはずっと善子さんのファンですから」ニコッ

善子「!……ありがとう。また連絡するわ」

ダイヤ「ええ、お気をつけて」


ガチャン

51: 2021/05/20(木) 02:37:37.05 ID:o9nAezMG
ダイヤ「……申し訳ありません。損な役を押し付けてしまって…」

聖良「いえ、いいんです。わたしも一度は通った道ですから」

聖良「……そんな時、ダイヤさんに救われた──そのときの恩返しぐらいに思ってください」

ダイヤ「わたくしは相談に乗っただけですわ……スクールアイドルから逃げないという選択をしたのは、あなたです」

聖良「……」


聖良「あの子は、理亞とよく似ていますね」ボソッ

52: 2021/05/20(木) 02:38:01.63 ID:o9nAezMG
やっていて、楽しいから続ける。
続けていたら、自然といい結果がついてきた──なに不自由なく。

しかし、ああいう天賦の才能を授かったタイプは壁にうち当たったときの受け取り方が常人と比べて重く、自分なりの答えに辿り着くまでに時間がかかる。


聖良(名門UTXでも……──いえ、名門だからこそ、ですか。それが原因で、辞める人は多かった)

聖良(……善子さん、数ある選択肢の──どれを選ぶかは、結局のところはあなたの心次第)

聖良(ここが、正念場ですよ……)

53: 2021/05/20(木) 02:38:41.99 ID:o9nAezMG
ーーーーー

善子(あの聖良が……Cランク止まりだったなんて)

善子(それでも、聖良はスクールアイドルを辞めなかった。4年間最後まで続けた──それは、スクールアイドルを上り詰める以外で続けることに意味を見出したからで……)


自分で答えを見つけなくちゃ、意味がない。


……なら私は?


私にとって、スクールアイドルを続ける意味って──


~~~~~♪♪



善子「……?」


歌声だ。


海岸の方から──アカペラの歌が聞こえる。


少し、太陽が沈み始めた海岸で、子どもたちが2人の女性を取り囲むように歌っていた──

54: 2021/05/20(木) 02:39:26.93 ID:o9nAezMG
「消さない、消さない、消さないように。
ここから始まろう。次は飛び出そう──♪」

花丸「それは階段なのか?それとも扉か?確かめたい夢に出会えて」

千歌「良かったねって、呟いたよ──」



ララララ… ララララ… ララララ…

55: 2021/05/20(木) 02:39:57.42 ID:CHmB+InK
善子「……この……歌は……」



なんの前触れもなく、急に目の前の景色がぼやけ始めた。

頭の中にすっと入ってきて、胸の奥底に溶け込む一つ一つの歌詞。


善子「……えっ?……あれ……どうして、わたし……」グスッ


善子「……──っ!!」ダッ


考える前に、体が動いていた。

遥か昔に出会っていた感情に、導かれるまま──探している答えが見つかりそうな気がして、思わず駆け出した。

56: 2021/05/20(木) 02:40:49.48 ID:o9nAezMG
ーーーーー

「ねーねーまるおねぇちゃん!次なにうたう!?」

花丸「うーん……じゃあ次は"ユメ語るよりユメ歌おう"!」

「やったー!あの曲好きっ!」

千歌「私も好きー♪じゃあいくよ?せーの……」


「千歌っ!……ずらまる!」


善子「はぁっ……はぁっ…….」

57: 2021/05/20(木) 02:42:06.78 ID:o9nAezMG
「おねーちゃんだれー?」

「美人さんだっ!」


花丸「善子、ちゃん…」

千歌「……みんな、ちょっとだけ旅館に戻っててくれるかな?おねえちゃんたち、お話しないといけないの」


「「えーっ!?」」

「あとでお歌歌ってくれるよね!」


花丸「もちろんずら♪」


「きれいなおねーちゃん!3ぷんだけだからねっ!」


ダッ


善子「……ありがとう。十分よ」

善子「……久しぶりね。千歌、ずら丸」

58: 2021/05/20(木) 02:43:07.71 ID:o9nAezMG
花丸「一瞬、誰だかわからなかったよ。成人式のときに会ってるはずなのに」クスッ

千歌「ほんと、美人さんになったよね~♪」

善子「あ、ありがとう……ほんとに久しぶりね。ずっと向こうにいて、沼津にすら戻って来れなかったから…」

「…………」


善子「……あの、えっと、実は──「すとーっぷっ!!」

善子「な、なによ?」

千歌「お話するその前に…」

スッ

千歌「おかえりなさいっ、善子ちゃんっ!」ニコッ

花丸「おかえり。善子ちゃん」

59: 2021/05/20(木) 02:44:43.55 ID:o9nAezMG
善子「──っ!」

わたしの目の前に差し出された、白く、小さな手。

あのときの、ド派手な堕天使衣装の千歌たちと、今の、少しだけ大人になったわたしたちを重ね合わせながら──


ギュッ


その手をあのときと同じように、強く、強く握り返した。


善子「……ええ、ただいま」ニコッ

千歌「えへへ…♪」

あぁ、この人は──ほんとに変わらない。あの頃と同じ、太陽みたいな笑顔をしていた。

60: 2021/05/20(木) 02:46:10.47 ID:CHmB+InK
ーーーーー


千歌「……"スランプ"、かぁ……」

善子「……ごめんなさい。せっかく再会したのに、湿っぽい話になっちゃって…」

善子「でも驚いたわ。千歌が沼津で働いてるなんて」

千歌「そう?意外かな?」

善子「ええ、てっきり旅館で働いてるのかと思ってた。ずら丸は図書館の職員になりたいって前から聞いてたから……資格、取らないといけないんだっけ?」

花丸「うん。今月試験があるから緊張するずら~…」

善子「……ずらまるなら、きっと大丈夫よ」

花丸「うーん……その言葉は去年ぐらいに聞きたかったかなぁ…」

善子「ど、どうして?」

花丸「ほんとはその時、大学院に行くか悩んでたから…」

善子「……連絡くれたら、いくらでも相談乗ったのに」

花丸「ううん、いいの。あの時のまるも、友だちに頼っちゃいけないなって思ってたから」

61: 2021/05/20(木) 02:47:58.62 ID:o9nAezMG
善子「……千歌は、他の2年生と今も連絡とってるの?」

千歌「もっちろん!曜ちゃんは大学で航海士の勉強してて~、梨子ちゃんはもうプロのピア二ストで、海外のコンクールに出場してるんだって♪」

花丸「あとは……果南ちゃんはダイビングの資格とって、海外の店で働いてるんだっけ?」

千歌「そう!鞠莉ちゃんもホテル経営でバリバリ働いてるって聞いたよっ」

善子「で、ダイヤは綱元の後継ぎ……か」


善子「……凄いわね、みんな。」

善子「わたし、みんなのこと何にも知らなかった……余裕がなさすぎて、笑っちゃうわ」

千歌「……でも、安心したでしょ?みんな元気そうで」ニコッ

善子「……うん」

善子(みんな、それぞれの夢に向かって頑張ってるんだ…)

善子(……──スクールアイドルとは違う、輝きをめざして……)

62: 2021/05/20(木) 02:50:19.84 ID:o9nAezMG
……潮が満ちてきた。もうすぐ、日が沈み始める合図だ。



善子「……最初、千歌がスクールアイドル続けないって聞いた時、びっくりした」

善子「あなただけは、続けるだろうなってずっと思ってたから」

千歌「そーかなぁ?……わたし、みんなと比べてアイドル感なかったでしょ?」アハハ...



……その自己評価が低いところ、今も変わらないのね。



善子「それでも、あなたはリーダーで、優勝した。7000グループのトップに立ったのよ?」

善子「……どうして、辞めちゃったのよ…」



無意識に、右手に力が入った。

63: 2021/05/20(木) 02:52:49.39 ID:o9nAezMG
善子「あなたが大学でも続けていたら……わたしだってっ…!」

花丸「……善子ちゃん…」



なんて偏狭な感情なんだろう。
わたしはスランプの原因を、千歌に押し付けようとしてる。


わたしをこの世界に誘ってくれたのは、あなただから。


あなたがスクールアイドルを続けていたなら、躓いた時に真っ先に相談しただろうに!



独りよがりで、空虚な観測──それでも、千歌がスクールアイドルを続けなかった理由を、はっきり聞いておきたかった。

64: 2021/05/20(木) 02:55:32.66 ID:o9nAezMG
千歌「うーん…辞めるっていうのはちょっと違うかな」

千歌「……わたしがスクールアイドルを続けなかったのはね?──続ける必要がなかったから、だよ」

善子「……どういうこと?」

千歌「さっきの子どもたち、みてたでしょ?あんな感じでね、たまにAqoursの歌を内浦の子どもたちと一緒に歌ってるんだ」

千歌「……わたしには、おっきいライブ会場も──満員のお客さんも必要ないの」

千歌「Aqoursの歌さえあれば、どんなところだってわたしたちの思いは伝えられるから!」

千歌「わたしがずっと大切にしていたのは、Aqoursみんなとの思い出だけ……」

善子「……千歌……」

65: 2021/05/20(木) 02:58:14.98 ID:o9nAezMG
千歌「わたしはね。善子ちゃんには善子ちゃんの歌でスクールアイドルの素晴らしさを伝えていって欲しいし、これからもスクールアイドルを続けて欲しいと思ってる。──……でもね」

千歌「でも、これだけは知っててほしい……──スクールアイドルじゃなくっても、善子ちゃんの思いを伝えることはできるよっ!」

千歌「だから、辛い時は逃げていいんだよ。投げ出したっていい。悩んだ時は……いつでもここに戻って来て欲しい」

千歌「善子ちゃんとAqoursの思い出は、絶対に消えない──ずっと、ずっとここに残っているから!」

66: 2021/05/20(木) 03:02:27.71 ID:o9nAezMG
花丸「……千歌ちゃんのいう通り。みんな、場所は違うけどAqoursの思い出や経験を励みに頑張ってる。それはまるも同じ」

花丸「月日が経ったら、そのことを忘れちゃうかもしれない……けど、人の原動力って、大切な思い出や経験から奮起されるものなの」

花丸「それは善子ちゃんも同じだって、まるは思うよ?」

善子「……っ……」ポロポロ

善子「あ、あれ?私、こんなはずじゃ…」ポロポロ

千歌「あわわっ…!大丈夫!?ハンカチ…!……はいっ!」

花丸「……善子ちゃん」ギュッ

善子「もう、恥ずかしっ…」ポロポロ

花丸「大丈夫。いいんだよ、善子ちゃん」

67: 2021/05/20(木) 03:04:32.28 ID:CHmB+InK
善子「わたし……怖かったの……みんながスクールアイドルから離れたらっ……もう、ずっと離れ離れになっちゃうんじゃないかって…!」

善子「途中でルビィとも連絡取れなくなっちゃって──このまま1人で続けるのかなって考えたら怖くてっ……!」

千歌「そんなわけないじゃん!……みんなと連絡とったとき、いつも善子ちゃんの話になるんだよ?」

善子「……わ、わたしの?」グスン

千歌「曜ちゃんも果南ちゃんも、あんなステップはいっぱい練習しないと身につかないって……きっとAqoursの頃よりもっと努力してるんだっていってたよ」

花丸「……実はね、善子ちゃんには内緒だったけど……ずっと前から、ルビィちゃんに善子ちゃんのこと相談されてたんだ」

花丸「善子ちゃんが、どんどん遠い存在になっていく──でも、辛いけど中途半端で終わりたくないって、何回も……」

善子「ルビィが……そんなこと……」

花丸「善子ちゃんは知らないと思うけど、善子ちゃんのこと、一番尊敬してたのはルビィちゃんなんだよ?友だちとして──ライバルとしても」

花丸「だから、ルビィちゃんと話してあげて?昔のこと……今のこと。お互いがどう思ってたか、ぶつけ合って」

善子「……うん…っ!」

68: 2021/05/20(木) 03:06:53.41 ID:o9nAezMG
4年間、溜まりきった感情が、堰を切ったよう溢れ出した。


こんなに人目を気にせず泣いたのは、いつぶりだろう。


不安、孤独、プレッシャー……自分がこんなにもぐちゃぐちゃに混ざった感情を、無意識のうちに溜め込んでいたことに驚いた。



……でも、弱いわたしの負の感情を、丸ごと全部受け止めてくれる仲間がいる。


わたしのことをずっと見てくれる、応援してくれる人がいる。


──わたしは、なんて幸せ者なんだろう。



善子「わたし……今日、内浦にきて、ほんとによかった…っ」

69: 2021/05/20(木) 03:09:00.66 ID:o9nAezMG
ーーーーー


千歌「これだけ泣いたらもうだいじょぶだねっ!」

花丸「オープン大会、応援してるずら!」

善子「……ありがとう。たぶん、いつもとは違う景色で歌えると思う」

善子「……あのね?よかったら、その……」

善子「応援に……来てくれないかしら……?」

千歌「もっちろん♪」

花丸「実はすでにチケットは予約済みずら♪」ズランッ

善子「えっ……ええっ!?そうだったの!?」

千歌「だって善子ちゃんの地元凱旋だよ?見にいくに決まってんじゃん!」

花丸「ほんとはサプライズの予定だったけど、こんなタイミングで会えると思ってなかったから……」

善子「そ、そうだったのね……」

70: 2021/05/20(木) 03:11:03.75 ID:CHmB+InK
善子「……なら、半端なパフォーマンスは見せられないわね」

善子「大学4年間の努力。すべて出し切って見せるわ」

花丸「その意気ずら♪」

善子「じゃあこれで……子どもたちには、時間守れなくてごめんって伝えといて」

千歌「うん!……じゃあお詫びに!Aqoursの時の善子ちゃんの動画見せとくね~♪」ニシシ

善子「そ、それはダメっ!!絶対にっ!」

花丸「カリスマ堕天使の姿を見せたらみーんなリトルデーモンになっちゃうかもね~」クスクス

善子「や、やめてっ!大学ではもう堕天使キャラは封印してるんだから…っ!」

千歌「ふふっ♪……じょーだんだよ♪また、内浦にきてね!」

花丸「今度は、Aqoursみんなで──」

善子「……うん、楽しみにしとく」

72: 2021/05/20(木) 03:13:27.05 ID:o9nAezMG
ーーーーー


善子(……ルビィに電話…)ゴクリ

善子「ううぅ~……緊張する…っ!」

善子(……でも、ルビィと話がしたい。できれば直接会って……)

善子「……えいっ!」ポチッ



プルルルルルル....プルルルルル....



善子「」ドキドキ



オカケニナッタデンハハ──



善子「んん……忙しい、のかしら」


夕日がだいぶ沈み始めてきた。
終バスの時間が近づいている。

73: 2021/05/20(木) 03:19:54.04 ID:o9nAezMG
善子「……仕方ないわね」

善子「今日は、帰ろう──」

善子「……」テクテク


……結局、わたしのスクールアイドルの原動力って、なんだったんだろう。

千歌と花丸と話して、思い出しそうで──なにか掴めそうな感じだったのに。

きっかけは確かにあったはず……でも、それが思い出せずにいる。


……もっと記憶の奥底に。



『──ここがAqours最後の練習場所だよっ!』


善子「……あっ…!」クルッ

善子「……"淡島神社"…!」

74: 2021/05/20(木) 03:32:05.24 ID:o9nAezMG
続きます

82: 2021/05/21(金) 00:20:10.11 ID:8JdRHl0N
ーーーーー


津島善子、高校3年生



:淡島神社 



ルビィ『ここが……三代目Aqoursの──最後の練習場所だよっ!』バ-ンッ

善子『クッ……この下から眺める果てしなく広がる階段…!……見てるだけでしんどくなるわ…』

花丸『まるたちがスクールアイドルを始めるきっかけになった場所……ここを最後に選ぶなんてっ……!』

花丸『まさしく、エモエモのエモ!こんな粋な計らいをするとは──さすがは、我らがリーダーずら!ルビィちゃん!』

ルビィ『えへへ、実はずっと前から決めてたんだぁ……♪喜んでもらえてなによりだよ~♪』

善子『……盛り上がってるところ悪いんだけどさ。わたし、その時まだ入部してないのよね…』アハハ...

ルビィ・花丸『……』

ルビィ『あっ、明日は東京入りだから、今日はぱぱっと終わらせるよー!』

花丸『き、気合い入れて行くずら~!』

善子『ちょっ……一言ぐらいフォロー入れなさいよぉ!』

83: 2021/05/21(金) 00:20:44.47 ID:8JdRHl0N
ーーーーー

善子『……んで、メニュー内容は?大会前だけど』グイグイ

ルビィ『ちょっとキツイかもしれないけど──頂上までの階段ダッシュを、7分で登り切りたいと思うの』

善・丸『な…ななふんっ!?』

ルビィ『果南ちゃんがね、ここを7分で登りきれれば……どんな曲でも、最後まで笑顔で歌い切れるって教えてくれたの』

ルビィ『だからね、最後の大会の前に達成しておきたいんだ。この3人で』

善・丸『……』

ルビィ『で、でもね!わたしたちがやってきた練習なら、きっとこのタイムを超えられると思うのっ!……だから…──!』

花丸『うん……やろうっ。果南ちゃんを超えてみようよっ!まるたちでっ♪』

善子『まったく、果南も厄介な置き土産を残していったものね……』

善子『……よろしい。我らAqoursの最後の試練……必ずや成し遂げてみせようぞっ!』ギランッ!

ルビィ『!ありがとうっ!……2人とも♪』

84: 2021/05/21(金) 00:22:05.85 ID:8JdRHl0N
──ザッ


ルビィ『それじゃあルビィが先頭で引っ張るから……最後のウォッチは、花丸ちゃんが止めてね?』

花丸『合点ずらっ!』

善子(……あぁ……やっぱり嫌だな──この走る前の緊張感…)


正直、今までは走り込みのメニューは好きではなかった。

スタミナがないというのは、とうの昔に"体育の授業"という名の悪魔の45分間で、嫌というほど味合わされてきたから……


……そして、その永遠に付き纏ってきたヨハネの苦手要素は、否が応でもスクールアイドルにも反映される。


目の前の現・静真高校スクールアイドル部部長は明確な堕天使の弱点を見過ごすはずがなく──この一年間わたしは、誰よりも走り込まされてきたのだった……


ルビィ『じゃあいくよっ!──よーい、スタート!!』

85: 2021/05/21(金) 00:22:59.10 ID:8JdRHl0N
ーーー


山の中腹まできた。


目の前のルビィのペースは落ちる気配がなく、後ろのずら丸もヨハネの背中にぴったりついている。


善子(このペースを維持できれば──もしかしたら)


しかし、この淡島神社の階段は、頂上に近づけば近づくほど、斜面が急になる──経験上、本当の地獄はここからなのだ。

善子(……油断は禁物、ね)



この目の前の、小さな背中を真後ろで追いかけながら──



ルビィのおかげで、今日の練習についていけてるんだなって──意識のほんの片隅で感じたんだった。

86: 2021/05/21(金) 00:24:49.82 ID:8JdRHl0N
ーーーーー 



──坂道、終盤。



ルビィ『──っ、ペースあげるよっ!』


リーダーが下した──今思えば、わたしたちへの最後の指令。


おそらく、この足を一度でも止めてしまったら地面に倒れ込んでしまうに違いない。


しかもペースを下げても、余計体がキツくなる…正真正銘の、地獄の時間。


それならいっそのこと残りの力を使い切って──という意図であろう。


善子『ぎょっ…御意っ!』


ルビィに届くか届かないかわからないほどの情けない掠れ声が、喉の奥から捻り出た。


花丸『りょ、了解ずらぁ~~~~!!!』


対して、今まで聞いたことのないようなバカでかい声を張り出したのは、副部長の国木田花丸。


ルビィ『……』ニコッ


2人の声に安心したのか、ルビィはちらりとこちらを向いて、微笑んだ。


先輩が卒業するごとには涙を流し、ライブ前の緊張で耐えられず──部長の立場に苦悩し、毎夜わたしたちに電話をかけていた──あの時の弱虫のルビィは、もういない。

87: 2021/05/21(金) 00:25:34.70 ID:6UevHMOb
目の前にいるのは、ラブライブの名門・静真高校スクールアイドル部を背負う、"黒澤ルビィ"


ルビィの頭の上から、悠然とそそり立つ鳥居が視界に入ってきた。


そして、そのさらに上には、雲ひとつない青空が広がっている──!



ラストスパート!



わたしたちはその青空に飛び込むように──最後の石段を、蹴り上げた。


ルビィ『はぁ……はぁ……!』

善子『はぁっ、はあっ……っ!!た、タイムは!?』

花丸『……──!6分……!!!、56秒っ!』

善子『6分……ってことは…っ!』

ルビィ『……──な、な、──』


『『『7ふん切れたぁーー!!!』』』

88: 2021/05/21(金) 00:27:45.18 ID:6UevHMOb
ーーーーー

善子「はぁ……はぁ……はぁ……──!!!」

善子「やっ、やっと頂上についた…!」ゼェゼェ

善子(タ、タイムは──!?)チラッ 

──6.52

善子「!やたっ!!──みたか!?堕天使ヨハネの底力を…っ!」グッ

善子「……はぁっ……しんどっ…」ヘタッ

大きく息をついた瞬間、ふっと力が抜け──自然と最後の石段に腰を下ろす形になった。

善子「……よかった。あの頃よりはちゃんと成長してるようね…」

善子「──あっ」

すると目の前には茜色の太陽と、内浦の海が一体となった景色があって── あの時も3人でこの景色を見たんだっけ……

89: 2021/05/21(金) 00:28:10.22 ID:6UevHMOb
善子「……休んでられないわね。フェリーの時間もあるし……急ごう……」

神社の前で二礼二拍手一礼の儀式を終えた後、当初の目的だった絵馬の前に立った。

善子「……記憶が正しいなら……確か、ここにかけたはず──」

幾多の人が、幾多の夢を描いてきた、膨大な量の絵馬。

……かつて堕天使キャラを演じていたとしても、さすがに人の夢を覗くという罪悪感はさすがに拭えなかった。


善子「神様……失礼します」ボソッ

90: 2021/05/21(金) 00:29:02.95 ID:6UevHMOb
数年前の記憶を手がかりに、絵馬を一枚一枚、丁寧にめくっていく。


2020年、2019──徐々に年数を重ねていくにつれ、大学のこと、高校のことを思い出し……様々な感情が膨らんでいく。


そして、求めていた2016年。



わたしたち最後のAqoursが、最後の優勝を飾った年。



……そして、ついに"それ"を見つけた。



その絵馬に書かれていた内容はあまりに抽象的すぎて──勢いで書いたのではと疑われても仕方のないような代物。


それでも、あの時わたしがどのような思いでこの絵馬に書き、ここに残したか──今ならわかる。



善子「ずっと……ずっとここに、あったのね?」

善子「……"ヨハネ"の、大切な思い」



『"全リトルデーモンたちに、夢を与えるアイドルに"』

91: 2021/05/21(金) 00:29:36.66 ID:6UevHMOb
ーーーーー


善子『あーしんど……ちょっと休んだらさっさと帰りましょ』

花丸『賛成ずら~……あ、帰りに果南ちゃんのお店に寄ってもいいかな?おじさんに乾燥わかめをもらう約束してたから♪』

善子『あんた、喉からっからの状態でよく乾燥した食べ物のこと考えられるわね…』

花丸『おいしいんだよ?善子ちゃんにもおすそわけしてあげるね』

善子『……まぁ、もらうけど』

ルビィ『……ねぇ、ふたりとも。せっかくだし絵馬書いてかない?』

よしまる『『絵馬??』』

善子『絵馬って……下の売店で買えるやつじゃないの?』

ルビィ『そう♪実は3人分、買っておいたんだぁ』ニコッ

花丸『いいね!書こう書こう♪』

善子『今日はとことんサプライズね~…』

92: 2021/05/21(金) 00:31:03.87 ID:6UevHMOb
ーーーーー

善子『うーん…いざ書くとなると何も浮かばないわ』

ルビィ『ライブに向けて…達成したいこととか…夢とか?』

花丸『……あ、まるかけそうかも』カキカキ

善子『……夢……か』

善子『うーーーん……』

善子(……こんな感じかしら)

ルビィ『……』

93: 2021/05/21(金) 00:32:15.70 ID:6UevHMOb
ーーーーー


ラブライブ大会後 帰りの電車


花丸『Zzz...』

ルビィ『花丸ちゃん、寝ちゃったね』

善子『あれだけ動いて泣けば、ね』

善子『……ふふっ、こんなに幸せそうな寝顔ができるのはずらまるの長所ね』

ルビィ『記者さんたちからの取材の方が、ライブよりも疲れちゃったんだって』クスッ

善子『……意外ね。語彙力ある方だからうまく返せそうだけど』

ルビィ『でも、すごい良いこと話してたよっ。多分善子ちゃんが見たら泣いちゃうかも』

善子『……そんなに?……じゃあ、ちゃんと雑誌買わなくちゃね』

ルビィ『もー、ルビィたちが載ってるやつぐらいちゃんと買わなくちゃ……見返したいな~って時に中古で値上がりしてたら、将来後悔するよ?』

善子『でも自分のインタビューって恥ずかしくない?……なにより、親に見られたくないのよね……』

ルビィ『また思春期の子みたいなこと……もう大人にならなくちゃダメなんだよっ』

善子『わたしはまだ子どもでいいの。未だにライブ直前に姉に電話するよりマシでしょう』

ルビィ『へぇ!?な、な、なんでそのこと──!!』

善子『え……普通にみんな知ってるわよ?』

ルビィ『そ、そんなぁ……知られたくなかった…』

94: 2021/05/21(金) 00:32:57.84 ID:6UevHMOb
『…………』

善子『んと……1年間おつかれさま。部長』

ルビィ『あ……うん、ありがとう。でもほんと、優勝できて安心したよ』

ルビィ『……』

ルビィ『……わたし、千歌ちゃんみたいにみんなを導けたかな?』

善子『……』

95: 2021/05/21(金) 00:34:05.96 ID:6UevHMOb
グリグリ


ルビィ『ふぇ?……ちょ、ちょっと、髪型崩れちゃうっ!』

善子『……あんたさ、いつから自分のこと"ルビィ"って言わなくなったんだっけ?』

ルビィ『えぇ?いつだっけ……って、今そんなこと関係ある?』

善子『大有りよ』

善子『……導けたか、だなんて。当たり前でしょ?その結果の優勝なんだから』

善子『例え優勝できなかったとしても……部員の誰一人ルビィのせいだなんて思わないし』

善子『それにルビィやずらまるがいたから……わたしもソロに集中できたのよ』

善子『感謝してるわ。感謝しても、しきれないぐらい』

ルビィ『そっか……よかったぁ……』

ルビィ『……でもよかったね。善子ちゃんも』ボソッ

96: 2021/05/21(金) 00:34:57.99 ID:8JdRHl0N
善子『?……なにが?』

ルビィ『最後、挨拶にきてくれた子。あそこまで尊敬されたら、スクールアイドルやってきた甲斐があったんじゃない?』

ルビィ『……"夢を与える、スクールアイドル"』

善子『!……あ、あんたっ!絵馬みてたの!?』

ルビィ『ご、ごめんね?あのときちらっと視界に入っちゃったから』

善子『……まぁ、いいけど…』

善子『……』

善子『わたしが加入したときさ、千歌がステージで好きを表現することがスクールアイドル……って言ったの覚えてる?』

97: 2021/05/21(金) 00:35:56.50 ID:8JdRHl0N
ルビィ『……うん』

善子『だから、1年の時はそれを極めたくて練習してきたの。2年の時もそう』

善子『……千歌の言う通りだったわ。好きを表現できれば結果が残せたし、パフォーマンスも目に見えて変わったと思う』

善子『でも、3年生になってからかしら…それだけじゃ、満足できなくなってきた』

善子『もっと……もっとステージに立ちたい』

善子『ずっと悩んでたけど──わたし、大学でもスクールアイドル続ける』

ルビィ『……!』

善子『わたし、今日でスクールアイドルは卒業だと思ってた。みんなと同じように大学に行って……どこかに就職して、仕事するんだろうなって』

善子『でも、今はちょっと違うの』

善子『スクールアイドルのステージが──1番、わたしの夢を叶えられる場所なんだと思う』

98: 2021/05/21(金) 00:36:21.36 ID:8JdRHl0N
ルビィ『……』

ルビィ『……わたしもね、色々やってきて……スクールアイドルの子たちの衣装を作ってみたいなって、思ってたんだ!』

ルビィ『わたしも続けるよ。スクールアイドル♪』

ルビィ『……今日のファンの子みたいに、善子ちゃんには誰かに夢を与える力があると思う』

ルビィ『善子ちゃんならきっと――きっと大丈夫だよ!夢を与えるスクールアイドルになれる!』

善子『……っ!』

善子『じゃあ、約束ね』

99: 2021/05/21(金) 00:36:42.75 ID:8JdRHl0N
ルビィ『……約束?』

善子『わたしとルビィの夢――中身は違うけど、スクールアイドルを続ける理由だから』

善子『絶対にお互いの夢を諦めないこと……そして、叶えること!……いいわね♪』

ルビィ「──!うんっ!約束だよ。忘れちゃダメだよ、善子ちゃん♪」

100: 2021/05/21(金) 00:37:22.11 ID:8JdRHl0N
ーーーーー


次のライブが──スクールアイドルとして、最後のライブ。


善子(大学4年間の活動は、誰かの夢になれていたのかしら──?)


忘れていた、大切な思い。


今、わたしが目指しているのはオープン大会で優勝すること?


……Aランクで、スクールアイドルを終えること……?



違う。わたしが一番叶えたいのは──!



善子「ヨハネのステージを見て──1人でも多くの人に、スクールアイドルを目指してもらうこと……!」ギュッ

101: 2021/05/21(金) 00:38:03.15 ID:8JdRHl0N
ーーーーー



──むかし、一緒に夢を追いかけていた親友から、着信が残っていた。


その時はたまたま、次のライブで後輩が着る衣装の生地を沼津のお店で探していたから、その連絡に気がつかなかった。


久しぶりの名前の表示に嬉しさを感じる反面──なにを告げられるのかという多少の不安感は……長時間のバスの中でも拭えなかった。


人気のないバス停に着き、折り返しの電話かける。


1コール目、2コール目──


『──もしもし、ルビィ?』


──でた。

102: 2021/05/21(金) 00:38:34.07 ID:8JdRHl0N
ルビィ「久しぶりだね……善子ちゃん」

『久しぶり…あ、いま大丈夫?』

ルビィ「うん。今バスで内浦に着いたところなの」

『え!?じゃあ近くにいるってこと…!?』

ルビィ「近く……って善子ちゃん、いま内浦にいるの!?」

『そ、そうなのっ。淡島のフェリーで戻ってて……』

ルビィ「フェリー…」ボソッ


右手に広がる海に、視線を向けた。

確かに、夕焼けを一心に浴びた淡島フェリーが、ゆったりとこちらの陸地に向かっているのがわかる。

103: 2021/05/21(金) 00:39:09.19 ID:6UevHMOb
ルビィ「でも、なんで内浦に…?」

『……』

『……わたしね。来週、オープン大会に出るの』

ルビィ「……知ってる。千歌ちゃんと花丸ちゃんと、応援に行くよ」

『ほ、ほんとに!?ルビィもなんだ……』

『そ、それでね……多分、その大会が──スクールアイドル、最後の大会になると思う』

ルビィ「……そっか。そう……なんだね……」

104: 2021/05/21(金) 00:40:01.94 ID:6UevHMOb
知っていた。でも、知らないふりをした……興味を持ってない、ふりをしてしまった。


世代を代表するこのスクールアイドルを、片時も目を離したことがなかったのに。


大会の動画は言わずもがな。SNSも、ブログも……栄光も挫折も、全部追ってきた。



できることなら、一言でも声をかけてあげたかった。



でも、もうその時には彼女とは到底肩を並べられない次元にいる──ルビィの声なんて届かないかもしれない……そう思い込んでいた。



そしてなにより、周りに求められる"津島善子"を演じて──何かに追い迫られたような表情でステージに立つ彼女になにを伝えればいいのか、わからなかった。


『──で、そのオープン大会用のライブの衣装をルビィに作って欲しいのよね』

105: 2021/05/21(金) 00:40:59.91 ID:6UevHMOb
ルビィ「……へ?」

ルビィ「た、大会って……来週の……丁度今日だよね?」

『も、もちろん衣装も曲も、大学から貰ってたんだけどねっ!……でも最後なら、わたしらしく派手にやってやろうかと思って……1から作り直すことにしたのっ!』

『……もう一度、堕天使としてステージに立ちたいの』


──"堕天使"


あの頃はタダのおふざけでしか捉えられなかった──でも、明確に"津島善子"という人を表現するフレーズ。


その懐かしいフレーズに、胸が高鳴る。

106: 2021/05/21(金) 00:42:59.94 ID:6UevHMOb
『だ、だからっ!!──リトルデーモン4号よっ!』

ヨハネ『今一度、堕天使ヨハネの招きに応じよっ!……というか主からのお願いだから!絶対服従!!』

突拍子もない提案。冗談のつもりで言っているのかわからなくて、未だに整理がついていない。


──でも!!


この胸の高鳴り。すぐにでも動き出したい、誰かに話したい、相談したい──!!

『……で、でも、どうしてもイヤなら、無理は言わない…』

『わたしはもう一度──』



ヨハネ『もう一度……──"Aqours"全員で、頂点に立ちたいのっ!』


『……だから……ルビィ…』


後半につれて、急にボリュームを絞ったかのように萎れていく声。

107: 2021/05/21(金) 00:43:39.78 ID:6UevHMOb
それでも、その言葉からあの頃の善子ちゃんを思い起こすのには十分だった。


周りからの注目を浴びたいくせに、周りの空気感に人一倍気を使っちゃう。


電話越しだったけど──確かに、わたしがよく知るあの頃の堕天使ヨハネ様が、そこにいた。



ルビィ「……もう少しで、船乗り場つきそう?」

『え?…うん。そろそろ着くかも…』

ルビィ「……わかった。すぐに行く。走っていくよ」

『え?……いや、そんなに急がなくてもい──』

ルビィ「いーのっ!ルビィが決めたことなんだから!!」

ルビィ「善子ちゃんが船から降りる前に、着いてみせるから!」

108: 2021/05/21(金) 00:44:19.08 ID:8JdRHl0N
ルビィ「……また1人で先に行っちゃったら──ルビィ、怒るからねっ!」

『お、怒る!?なんで──』プッ



ルビィ「──よしっ!!」



どんな経緯かはわからないけど、善子ちゃんはルビィに頼りたいらしい。

その事実にちょっとだけ──ちょこっとだけ、口元が緩んだ。

生地のタイムセールでこれでもかと詰めまくってぱんぱんに膨れた紙袋を胸に抱えて、駆け出した。

彼女にずっと伝えたかった、積年の思いも詰めこんで。

109: 2021/05/21(金) 00:45:55.14 ID:8JdRHl0N
ーーーーー


ルビィ「はぁ、はぁ……はぁ……」

善子「……ほんとに走ってきた…」

ルビィ「──そ、それで!1から作るって……!」

善子「え、ええ……」

ルビィ「ほ、ほんとに今から作るの!?というかあと一週間でしょ?……一週間で用意できるのっ!?」ズイッ

善子「と、とりあえず歌詞は千歌とずらまるに……で、曲は千歌繋がりで、梨子に頼んだっ!」

善子「曲はこんな感じに仕上げてもらうつもり……」ペラッ

ルビィ「えーっと……"人は変わり続けるもの"、"力を合わせないとこの世は生きていけない"……?」

善子「そ、そうっ!表裏一体をテーマにしたくて……」

ルビィ「……ふーん……」

善子「ど、どう?いいの浮かびそう…?」

110: 2021/05/21(金) 00:46:39.44 ID:8JdRHl0N
ルビィ「"表裏一体"……じゃあ、白と黒を基調にしてみよっか。背中に羽をつけて、片方づつを白と黒で分けるとか」

善子「!!それ、めっちゃいいっ!」

ルビィ「ハイソックスは?」

善子「欲しいっ!」

ルビィ「絶対領域、好きだもんね……ミニハットとかも付けてみる?」

善子「~~!!だいすきっ!!」

ルビィ「……もうっ、また沼津に素材買いに行かなくちゃいけないじゃん……」

善子「ご、ごめん……費用はちゃんと出すからっ!」

ルビィ「……お金なら気にしないで?衣装は曜ちゃんにも相談してなんとかしてみるから──とにかくっ、善子ちゃんは、振り付け作りに集中することっ!」

善子「御意っ!ぶっ倒れるぐらい激しいやつ、入れてやるわっ!」ギランッ

111: 2021/05/21(金) 00:47:24.93 ID:8JdRHl0N
ルビィ「……はぁ……」

善子「……よかった。ルビィに頼んで」ボソッ

ルビィ「へ?」

善子「スクールアイドルの衣装を担当したいって……夢、だったものね」

ルビィ「……うん。一応、これでも衣装リーダーなんだよ?フェスティバルの共通衣装の提供もしたし♪」

善子「フェ、フェスティバルの!?嘘でしょ……?」

ルビィ「ふふん♪もしかして、大会出てないからスクールアイドル辞めたかと思ってた?」

善子「ゔっ……」

善子「ごめんなさいっ!わたし、夢を叶えるって約束、忘れちゃってた……今日、やっと全部思い出したの……」

善子「わたしから持ち出したのに……ね」

112: 2021/05/21(金) 00:48:17.90 ID:8JdRHl0N
ルビィ「……」

ルビィ「多分、いいことより悩んだことの方が多かったと思う……でも、後悔はしてないよ」

ルビィ「ルビィは、スクールアイドルを続けてよかったって、思ってる」

ルビィ「……善子ちゃんは?」ジッ

113: 2021/05/21(金) 00:51:55.89 ID:8JdRHl0N
善子「……」

善子「わたしは……言葉じゃなくてステージで伝える。だって……だってわたしは──」

善子「スクールアイドルだもの」

114: 2021/05/21(金) 00:52:47.27 ID:8JdRHl0N
ルビィ「……そっか」クスッ

「…………」

善子「……ふふっ」

ルビィ「……どうしたの?」

善子「いや、ルビィ呼び、完全に直ったわけじゃないのね」

ルビィ「あ……あははっ♪善子ちゃんのヨハネ呼びがうつっちゃったのかも……」

善子「……そうかも」


誰がどんな風に時を過ごしても、変わるものは必ずあるし、変わらないものもある。

そのあり方に対して是非を問えるものは、いない。

……ただ、たまには昔を思い出して、あの日の忘れ物を拾いに行くのもいいのかもしれない。

花丸が言ってたように。

115: 2021/05/21(金) 00:56:12.34 ID:8JdRHl0N
ルビィ「……うゆゅ……っ!!!」

善子「……?な、なによいきなり……?」

ルビィ「もーっ!もっと早く言ってよーっ!ラストライブなんでしょ!?しっかりしなさいっ!」

善子「た、確かに付け焼き刃でライブに臨むかもしれないけどっ!──でも」

善子「Aqoursが味方についた時のわたしは負け知らずなんだから……!」

ルビィ「……」クスッ

ルビィ「善子ちゃんの4年間と、いろんな経験を積んだAqoursのみんながサポートするラストライブ──」

ルビィ「今までで最っ高のライブにしようねっ!──ヨハネ様♪」

116: 2021/05/21(金) 00:59:08.47 ID:8JdRHl0N
ーーーーー


ワ-ワ-


MC「さぁ!静岡スクールアイドルオープン大会もついに大詰め!!次が最後のパフォーマーによるライブとなります!」

MC「実は今回の大会は初参加!!ついに沼津が誇るあの伝説のAqoursのメンバーが凱旋ですっ!!──みんなでお呼びしましょう……"堕天使ヨハネ"ちゃんをッ!!」 



ドワァアアアアアアア!!!!



ヨハネ「クックックッ……懐かしのリトルデーモンの諸君!……おはヨハネ!!」


『おは善子~!!!」


ヨハネ「だからヨハネよ!!……まぁ、出迎えご苦労、とでも言っておこうかしら……」

117: 2021/05/21(金) 01:01:45.89 ID:8JdRHl0N
ヨハネ「さて、この度我が長い雌伏の時を経て──再び堕天した理由は他でもない……」

ヨハネ「かつてこの地に巻き起こした狂信的熱狂を、この会場全員に思い出させてやることよッ!!」

ヨハネ「今宵は一夜限りのEaster(復活祭)を、10000人がひしめくこの舞台で──1人残らずリトルデーモンになって、未来永劫語り継いでもらうわっ!!」



ヨハネ「人は、無垢なままでは乗り越えられない壁にぶつかる……でも、友と手を取り合えば──壁はきっと、乗り越えられる」

ヨハネ「我が同胞に、福音がもたらされることを願って……」ボソッ

118: 2021/05/21(金) 01:02:35.37 ID:6UevHMOb
…………


ヨハネ「──それでは、聞いてください」

ヨハネ「in this unstable world」

119: 2021/05/21(金) 01:04:48.30 ID:6UevHMOb
終わりです。スレ立て保守ありがとうございました

120: 2021/05/21(金) 01:21:16.51 ID:fqzp7Scd
乙でした
高校のその先のスクールアイドルなんて想像できなくてめっちゃ面白かったです
雰囲気も良くて好き

121: 2021/05/21(金) 01:29:11.36 ID:BC7/U+NX
乙、一つ一つのシーンが素晴らしい

122: 2021/05/21(金) 01:33:21.66 ID:GYHWRZtL
良かった

123: 2021/05/21(金) 01:45:19.26 ID:bvAMfPXX
こういうのでいいんだよ

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1621435860/

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