1: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 15:31:17.08 ID:fNVBAPcl
短編
2: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 15:32:55.86 ID:fNVBAPcl
「ねえ、姫乃ちゃん。奥多摩にマスを釣りにいかない?」
エマさんに、釣り誘われたのは、7月の猛暑の激しい中でした。川へ行くのです。奥多摩の川原へ。
奥多摩、東京の一番端...何度か家族旅行で訪れたことはありますが、学生2人で、となると...この歳の少女は誰だって無いと思います。
さて、頭の中で、奥多摩をもう一度反芻させると、今度は川のせせらぎや、新緑の木々などが、私の頭の中に、瞬時に駆け巡りました。
そもそもの始まりは、明日の予定を話し合っていた時です。2人とも暇だったので、じゃあ明日!なんて急に決められてしまい、少し困惑した顔を私はしたと思います。
ですがエマさんはなんのその。ニコニコ、ニコニコ笑顔でそのまま押し切られてしまいました。
次の日、待ち合わせの駅で、ソワソワしながらエマさんを待ちました。なにぶん急なものですから、本当に奥多摩へ行くのか、もしかして、これは全部嘘でドッキリなんじゃないかと、疑がってかかります。
大きなリュックサックに、大きな水筒一つ、おにぎり二つ、そして相棒のカメラが一つ。これでエマさんが来なかったらどうしよう....
エマさんに、釣り誘われたのは、7月の猛暑の激しい中でした。川へ行くのです。奥多摩の川原へ。
奥多摩、東京の一番端...何度か家族旅行で訪れたことはありますが、学生2人で、となると...この歳の少女は誰だって無いと思います。
さて、頭の中で、奥多摩をもう一度反芻させると、今度は川のせせらぎや、新緑の木々などが、私の頭の中に、瞬時に駆け巡りました。
そもそもの始まりは、明日の予定を話し合っていた時です。2人とも暇だったので、じゃあ明日!なんて急に決められてしまい、少し困惑した顔を私はしたと思います。
ですがエマさんはなんのその。ニコニコ、ニコニコ笑顔でそのまま押し切られてしまいました。
次の日、待ち合わせの駅で、ソワソワしながらエマさんを待ちました。なにぶん急なものですから、本当に奥多摩へ行くのか、もしかして、これは全部嘘でドッキリなんじゃないかと、疑がってかかります。
大きなリュックサックに、大きな水筒一つ、おにぎり二つ、そして相棒のカメラが一つ。これでエマさんが来なかったらどうしよう....
3: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 15:35:51.47 ID:fNVBAPcl
「おーい、姫乃ちゃん!」
正面から声がしました。
見るとエマさんが、私の3倍もの大きなリュックを背負って、その姿はまるで熊の様に、のそ、のそ、のそと動いています。
「その荷物は?」
「釣りの道具とか、キャンプの道具とか色々。重そうに見えるけど、軽いんだよ」
「動きづらくないのですか?」
「ほら、私スイス人だから」
「は、はぁ...」
ここでも私は少し呆れた顔をしました。ですがエマさんはニコニコ笑顔でなんのその。早速電車に乗ろうと急かしてきます。
「お台場から2時間もかかるんだから早く早く」
背中を押されながら改札を抜けます。
この時間帯のりんかい線は人でひしめきあっていました。みんなどこに向かうんだろう。休日を過ごすのかな?お仕事かな?色々思いながら、新宿と青梅で乗り換えます。
エマさんは先ほどから車窓を眺めています。
奥多摩に誘っておいた癖に、自身が奥多摩に行くのは初めてな様で、時折景色を指差しては、あれは何?これは何?としきりに聞いてくるのでした。
正面から声がしました。
見るとエマさんが、私の3倍もの大きなリュックを背負って、その姿はまるで熊の様に、のそ、のそ、のそと動いています。
「その荷物は?」
「釣りの道具とか、キャンプの道具とか色々。重そうに見えるけど、軽いんだよ」
「動きづらくないのですか?」
「ほら、私スイス人だから」
「は、はぁ...」
ここでも私は少し呆れた顔をしました。ですがエマさんはニコニコ笑顔でなんのその。早速電車に乗ろうと急かしてきます。
「お台場から2時間もかかるんだから早く早く」
背中を押されながら改札を抜けます。
この時間帯のりんかい線は人でひしめきあっていました。みんなどこに向かうんだろう。休日を過ごすのかな?お仕事かな?色々思いながら、新宿と青梅で乗り換えます。
エマさんは先ほどから車窓を眺めています。
奥多摩に誘っておいた癖に、自身が奥多摩に行くのは初めてな様で、時折景色を指差しては、あれは何?これは何?としきりに聞いてくるのでした。
6: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 15:40:04.19 ID:fNVBAPcl
一駅、また一駅と停車する度、人が少なくなっていきます
エマさんは相変わらず、青い目をキラキラと輝かせ、外に流れる風景を楽しんでいました。
そんなエマさんの横顔を眺める私。
本当に彫りが深いなぁ...私と違って目が青い。日本語が流暢すぎるから、きっと埼玉辺りから出てきたんじゃないの?って思ってたけど、やっぱりスイス人なんだ。
「ん?なあに姫乃ちゃん?」
「...横顔が綺麗だなって」
「お世辞?」
「いえ、本心からです」
「そっかぁ。ありがとう」
こう言っている間にも、景色は流れていき、目的地まで、また一駅、また一駅と近づいて行きます。
景色はすっかり緑に囲まれ、臨海部のお台場とは全く違った装いを見せます。緑に囲まれて点在する家々に、どこか妙な懐かしさを感じていました。
「ここ、本当に東京だよね?」
「ええ。信じられないけど、東京ですよ」
「東京って不思議だなぁ」
「私はエマさんが日本語を流暢に操る事の方が不思議です」
「そうかなぁ?...そうかも」
ピンポン。まもなく、奥多摩、奥多摩。
「降りないといけませんね」
「そうだねぇ」
「Prendi il tuo zaino dallo scaffale. Ci siamo」
「...?」
エマさんは相変わらず、青い目をキラキラと輝かせ、外に流れる風景を楽しんでいました。
そんなエマさんの横顔を眺める私。
本当に彫りが深いなぁ...私と違って目が青い。日本語が流暢すぎるから、きっと埼玉辺りから出てきたんじゃないの?って思ってたけど、やっぱりスイス人なんだ。
「ん?なあに姫乃ちゃん?」
「...横顔が綺麗だなって」
「お世辞?」
「いえ、本心からです」
「そっかぁ。ありがとう」
こう言っている間にも、景色は流れていき、目的地まで、また一駅、また一駅と近づいて行きます。
景色はすっかり緑に囲まれ、臨海部のお台場とは全く違った装いを見せます。緑に囲まれて点在する家々に、どこか妙な懐かしさを感じていました。
「ここ、本当に東京だよね?」
「ええ。信じられないけど、東京ですよ」
「東京って不思議だなぁ」
「私はエマさんが日本語を流暢に操る事の方が不思議です」
「そうかなぁ?...そうかも」
ピンポン。まもなく、奥多摩、奥多摩。
「降りないといけませんね」
「そうだねぇ」
「Prendi il tuo zaino dallo scaffale. Ci siamo」
「...?」
7: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 15:47:18.54 ID:fNVBAPcl
奥多摩の改札を抜けると、同じ東京都は思えない、別世界が広がっていました。
「田舎だねぇ」
「田舎ですねぇ」
「セミがたくさん鳴いてるね。お台場じゃあまり聞かないから新鮮だね」
「奥多摩には、ミンミンゼミが多いみたいですよ」
「ミンミンゼミ?」
「緑のセミです。知っていますか?今、画像検索かけますね」
「...やっぱりいいや。セミって気持ち悪いし」
「そうですか」
木陰がある所為か、お台場よりは、涼しいです。
風は川を駆け巡り、木々を揺らし、そして私の顔を撫でました。
マス釣り場まで、そんなに距離はない為、徒歩で移動です。
エマさんが、スマホを確認しながら先を歩きます。
歩くたび、その大きなリュックが、カランカランと乾いた音を立てました。
「田舎だねぇ」
「田舎ですねぇ」
「セミがたくさん鳴いてるね。お台場じゃあまり聞かないから新鮮だね」
「奥多摩には、ミンミンゼミが多いみたいですよ」
「ミンミンゼミ?」
「緑のセミです。知っていますか?今、画像検索かけますね」
「...やっぱりいいや。セミって気持ち悪いし」
「そうですか」
木陰がある所為か、お台場よりは、涼しいです。
風は川を駆け巡り、木々を揺らし、そして私の顔を撫でました。
マス釣り場まで、そんなに距離はない為、徒歩で移動です。
エマさんが、スマホを確認しながら先を歩きます。
歩くたび、その大きなリュックが、カランカランと乾いた音を立てました。
8: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 15:58:29.90 ID:fNVBAPcl
「とーちゃく!」
「マス釣り場って、釣り堀的な何かだと思ってたんですが、川の流れそのものですね」
「こっちの方がやりがいがあるから、ね?」
「あっちで漁業権を買うんだって。2人分買ってくるね」
「ありがとうございます。私は釣り竿の準備をしておきますね」
エマさんは管理棟の方向へ走り去って行きました。
その間に、エマさんのリュックを探ります。
テント、折り畳み椅子、折り畳み机、はんごう、クッカー、ガスコンロ...釣り竿。
お目当てのものは一番奥にありました。
パーツをセットして、組み立てて、スプーンと呼ばれる擬似餌をセット。
ワクワクしてきたので、2、3度竿を振ってみました。
マスはどこにいるんだろう?
「マス釣り場って、釣り堀的な何かだと思ってたんですが、川の流れそのものですね」
「こっちの方がやりがいがあるから、ね?」
「あっちで漁業権を買うんだって。2人分買ってくるね」
「ありがとうございます。私は釣り竿の準備をしておきますね」
エマさんは管理棟の方向へ走り去って行きました。
その間に、エマさんのリュックを探ります。
テント、折り畳み椅子、折り畳み机、はんごう、クッカー、ガスコンロ...釣り竿。
お目当てのものは一番奥にありました。
パーツをセットして、組み立てて、スプーンと呼ばれる擬似餌をセット。
ワクワクしてきたので、2、3度竿を振ってみました。
マスはどこにいるんだろう?
10: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 16:06:28.98 ID:fNVBAPcl
マスそのものの姿はまだ見えません。
ですが、川の淵の部分に、何匹かの小魚が見えました。
小魚は、四角を描くように回遊しています。あれがきっと彼のテリトリー。
また何度か竿を降りました。
今度は、スプーンをどこに飛ばすか、どうやってリールを巻くかなんて考えながら、大きなマスを想像します。
「いい感じだね」
「わっ!?」
「ふふっ、2人分の漁業権、買ってきたよ。竿の組み立ては終わった?」
「あっ、ありがとうございます。竿も準備できたのでいつでも大丈夫です」
「ありがとね。ついでなんだけど、テントとか組み立て手伝ってもらっていい?」
「ええ、全然大丈夫です」
「じゃあそこ持って」
テントを日陰の涼しい場所に建てます。
これで避暑地も準備オッケー。さて、マスを狙います。
ですが、川の淵の部分に、何匹かの小魚が見えました。
小魚は、四角を描くように回遊しています。あれがきっと彼のテリトリー。
また何度か竿を降りました。
今度は、スプーンをどこに飛ばすか、どうやってリールを巻くかなんて考えながら、大きなマスを想像します。
「いい感じだね」
「わっ!?」
「ふふっ、2人分の漁業権、買ってきたよ。竿の組み立ては終わった?」
「あっ、ありがとうございます。竿も準備できたのでいつでも大丈夫です」
「ありがとね。ついでなんだけど、テントとか組み立て手伝ってもらっていい?」
「ええ、全然大丈夫です」
「じゃあそこ持って」
テントを日陰の涼しい場所に建てます。
これで避暑地も準備オッケー。さて、マスを狙います。
11: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 16:17:35.65 ID:fNVBAPcl
「それっ!」
第一投目。
川の流れが停滞している、かつ木の影になっている所を目指して。
ヒュルルル。ぽちゃん。
「あら、距離が足りません」
「初心者だから仕方ないよ。そのままうまくリールを巻いてご覧。緩急をつけて、魚みたいに見せるんだ」
「こうですか?」
「そうそう。もうちょっと水面に近いといいかな」
ぐるぐる。ぐるぐる。
スプーンには何もついていません。
中々マスには会えませんね。
「今度は私がやってみるね」
エマさんが竿を持ち、岩に足をかけ、豪快に竿を投げました。
第一投目。
川の流れが停滞している、かつ木の影になっている所を目指して。
ヒュルルル。ぽちゃん。
「あら、距離が足りません」
「初心者だから仕方ないよ。そのままうまくリールを巻いてご覧。緩急をつけて、魚みたいに見せるんだ」
「こうですか?」
「そうそう。もうちょっと水面に近いといいかな」
ぐるぐる。ぐるぐる。
スプーンには何もついていません。
中々マスには会えませんね。
「今度は私がやってみるね」
エマさんが竿を持ち、岩に足をかけ、豪快に竿を投げました。
12: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 16:26:20.40 ID:fNVBAPcl
ヒュルルル ぽちゃん
岩の影になり、流れが緩くなっている所にスプーンが落ちました。
カリカリ...カリ
「ゆっくりね、ゆっくり引いてあげるの」
「魚がいるんだっってわかったら、次は上下に動かして」
その瞬間、エマさんの竿の先がピクピクと動きました。
「よしっ!きたっ!」
「ここからも焦らないで。針を掛ける様に、何回か竿をシャクって」
ぐるぐるぐるぐる。カリカリカリ。
リールが緩急を付けながら巻かれていきます。
「姫乃ちゃん、網っ!」
「はっ、はい!」
「おっきいよ。おっきいのがかかった!」
「後もうちょっと!」
「それっ!」
岩の影になり、流れが緩くなっている所にスプーンが落ちました。
カリカリ...カリ
「ゆっくりね、ゆっくり引いてあげるの」
「魚がいるんだっってわかったら、次は上下に動かして」
その瞬間、エマさんの竿の先がピクピクと動きました。
「よしっ!きたっ!」
「ここからも焦らないで。針を掛ける様に、何回か竿をシャクって」
ぐるぐるぐるぐる。カリカリカリ。
リールが緩急を付けながら巻かれていきます。
「姫乃ちゃん、網っ!」
「はっ、はい!」
「おっきいよ。おっきいのがかかった!」
「後もうちょっと!」
「それっ!」
14: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 16:32:56.37 ID:fNVBAPcl
見れば30cmを超える大きなマスが、銀色のお腹を見せながら水の中を引き摺られています。
「すごい...」
「網お願い!」
「あっ、はいっ!」
エマさんがマスを引きつけ、私がなんとか網でキャッチ。
マスは口をパクパクされながら、網の中でおとなしくしています。
「今日は初ヒットで大きなの釣れたから満足満足」
「私、こんな釣り初めてです」
「カメラで写真撮ってもいいですか?」
「いいよ。これだけ大きいんだから、何か大きさを測れるものがあればよかったんだけどなぁ。持ってくるの忘れちゃったよ」
「じゃあ、ほら、ブラックバス釣った時みたいに、自分の顔と比べる、とかはどうですか?」
「いいかも。姫乃ちゃん、お願いできる?」
「いいですよ。はいチーズ」
パシャリ
「すごい...」
「網お願い!」
「あっ、はいっ!」
エマさんがマスを引きつけ、私がなんとか網でキャッチ。
マスは口をパクパクされながら、網の中でおとなしくしています。
「今日は初ヒットで大きなの釣れたから満足満足」
「私、こんな釣り初めてです」
「カメラで写真撮ってもいいですか?」
「いいよ。これだけ大きいんだから、何か大きさを測れるものがあればよかったんだけどなぁ。持ってくるの忘れちゃったよ」
「じゃあ、ほら、ブラックバス釣った時みたいに、自分の顔と比べる、とかはどうですか?」
「いいかも。姫乃ちゃん、お願いできる?」
「いいですよ。はいチーズ」
パシャリ
16: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 16:47:39.03 ID:fNVBAPcl
エマさんは、先ほどから2匹、3匹と釣り上げ絶好調。
一方の私は、1匹も釣れずボウズです。
「ねえ、ちょっと休憩しない?」
「そうですね。お台場よりは涼しいですが、やっぱり疲れます」
「さっき釣ったマスなんだけどさ」
「調理してもいい?」
「調理?」
私が不思議がっていると、エマさんはマスを取り出し、マスの頭を石で殴りつけました。
「あっ!」
「頭は急所だからね。こうしてあげると大人しくなるから」
リュックから、まな板、ナイフを取り出し、あっという間にマスは捌かれて行きました。
「燻製セットを持ってきたの。内臓も、皮も、ヒレも、綺麗に洗ったら全部使うよ」
「その前に軽く塩を揉み込むの」
マスの身に塩をふりかけ、よく揉んでいきます。
あのリュックにこれ程の沢山のものが入っていたとは。あんなものからこんな物まで。燻製セットまで入っていたなんて。
「30分もしたら出来上がるでしょう。それまで休憩にしよっか」
「その間にお昼ご飯も食べちゃいましょう」
「じゃあもう1匹調理して食べよっか。丸焼きがいいかも」
「私も手伝いますね。何をしたらいいですか?」
「えーっとね...」
一方の私は、1匹も釣れずボウズです。
「ねえ、ちょっと休憩しない?」
「そうですね。お台場よりは涼しいですが、やっぱり疲れます」
「さっき釣ったマスなんだけどさ」
「調理してもいい?」
「調理?」
私が不思議がっていると、エマさんはマスを取り出し、マスの頭を石で殴りつけました。
「あっ!」
「頭は急所だからね。こうしてあげると大人しくなるから」
リュックから、まな板、ナイフを取り出し、あっという間にマスは捌かれて行きました。
「燻製セットを持ってきたの。内臓も、皮も、ヒレも、綺麗に洗ったら全部使うよ」
「その前に軽く塩を揉み込むの」
マスの身に塩をふりかけ、よく揉んでいきます。
あのリュックにこれ程の沢山のものが入っていたとは。あんなものからこんな物まで。燻製セットまで入っていたなんて。
「30分もしたら出来上がるでしょう。それまで休憩にしよっか」
「その間にお昼ご飯も食べちゃいましょう」
「じゃあもう1匹調理して食べよっか。丸焼きがいいかも」
「私も手伝いますね。何をしたらいいですか?」
「えーっとね...」
17: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 16:59:09.13 ID:fNVBAPcl
ミーンミンミンミン。
セミが大合唱をする中、私はマスに齧り付いていました。
小さなマスの丸焼きを、二人で半分こ。
身がほくほくしていて美味しいですね。
もうちょっと食べたい、なんて思ったり。
「もう1匹食べちゃう?」
「いえ、持って帰る分がなくなってしまうので、遠慮しておきます」
「そっかぁ。じゃあもっとたくさん釣らないとだね」
「果林ちゃんに彼方ちゃん。沢山の人にお裾分け出来るほどにじゃんじゃん釣っちゃお」
「マスを釣るコツってありますか?」
「うーん、マスの気持ちになってとか?」
「....よくわからないです」
「まあそのうちコツとか掴んで、大きなのが釣れる様になるよ」
「そうだといいのですが...」
再び竿を手にしてマスを狙います。
マスの気持ちになって。もし目の前に餌が落ちてきたら?
川の流れの激しい所より、緩やかな方がマスとしては居心地がいいのかも。
「ここかなぁ....」
ヒュルルル。 ぽちゃん。
セミが大合唱をする中、私はマスに齧り付いていました。
小さなマスの丸焼きを、二人で半分こ。
身がほくほくしていて美味しいですね。
もうちょっと食べたい、なんて思ったり。
「もう1匹食べちゃう?」
「いえ、持って帰る分がなくなってしまうので、遠慮しておきます」
「そっかぁ。じゃあもっとたくさん釣らないとだね」
「果林ちゃんに彼方ちゃん。沢山の人にお裾分け出来るほどにじゃんじゃん釣っちゃお」
「マスを釣るコツってありますか?」
「うーん、マスの気持ちになってとか?」
「....よくわからないです」
「まあそのうちコツとか掴んで、大きなのが釣れる様になるよ」
「そうだといいのですが...」
再び竿を手にしてマスを狙います。
マスの気持ちになって。もし目の前に餌が落ちてきたら?
川の流れの激しい所より、緩やかな方がマスとしては居心地がいいのかも。
「ここかなぁ....」
ヒュルルル。 ぽちゃん。
19: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 17:10:26.94 ID:fNVBAPcl
新鮮な獲物が目の前にいる様に見せて...
竿を上下に、スプーンを目立たせて...
シャク...シャク....
その時、竿がピクピクと振動したのです。
「来たっ!」
咄嗟にリールを巻きます。
でも、慎重に、慎重に...
お願い、かかっていて!
カリカリカリ....
水面に沈む系を辿ると、その先には...
銀色のお腹が、水中で光っていました。
「やっった!」
「エマさーん!私釣れました!」
「姫乃ちゃんよかったね!今網を持ってくるよ!」
竿を上下に、スプーンを目立たせて...
シャク...シャク....
その時、竿がピクピクと振動したのです。
「来たっ!」
咄嗟にリールを巻きます。
でも、慎重に、慎重に...
お願い、かかっていて!
カリカリカリ....
水面に沈む系を辿ると、その先には...
銀色のお腹が、水中で光っていました。
「やっった!」
「エマさーん!私釣れました!」
「姫乃ちゃんよかったね!今網を持ってくるよ!」
20: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 17:16:06.49 ID:fNVBAPcl
網の中でマスはパクパクと息をしています。
先程のエマさんが釣り上げたマスよりは、少し小柄ですが、それでも十分なサイズです。
「姫乃ちゃんよかったね」
「ええ、釣り上げる瞬間ってほんと楽しいですね」
「そうだ!姫乃ちゃん、カメラ貸してよ」
「写真撮ってあげる!」
「お願いします...ちょっと恥ずかしいですねこういうのは」
「顔の横にマスを持ってきて...そうそう」
「恥ずかしがっちゃダメだよ。はいチーズ」
パシャリ。
先程のエマさんが釣り上げたマスよりは、少し小柄ですが、それでも十分なサイズです。
「姫乃ちゃんよかったね」
「ええ、釣り上げる瞬間ってほんと楽しいですね」
「そうだ!姫乃ちゃん、カメラ貸してよ」
「写真撮ってあげる!」
「お願いします...ちょっと恥ずかしいですねこういうのは」
「顔の横にマスを持ってきて...そうそう」
「恥ずかしがっちゃダメだよ。はいチーズ」
パシャリ。
21: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 17:27:21.21 ID:fNVBAPcl
釣りをするって楽しいですね。
ちょっとだけコツを掴んだので、2匹目を狙います。
ヒュルルル。ぽちゃん。
リールをぐりぐりしてあげれば、そのうち...
ピクピク...ピクピク
よしっ!いまだ!
早すぎず、遅すぎず、冷静にリールを巻きます。
今度も銀のお腹が水面にゆらゆらと揺らめいていました。
「順調だね」
「ええ、マスの気持ちになるってよく分かりました」
「今日は誘ってよかったよ。こんなに釣れたから」
「もうちょっと釣っていたいですが、電車がないのが残念ですね」
「これぐらいで引き上げよっか。調理と下処理もしないといけないから」
「今日は誘っていただきありがとうございます」
「うん、私も楽しかった!また来ようね!」
「はい!」
ちょっとだけコツを掴んだので、2匹目を狙います。
ヒュルルル。ぽちゃん。
リールをぐりぐりしてあげれば、そのうち...
ピクピク...ピクピク
よしっ!いまだ!
早すぎず、遅すぎず、冷静にリールを巻きます。
今度も銀のお腹が水面にゆらゆらと揺らめいていました。
「順調だね」
「ええ、マスの気持ちになるってよく分かりました」
「今日は誘ってよかったよ。こんなに釣れたから」
「もうちょっと釣っていたいですが、電車がないのが残念ですね」
「これぐらいで引き上げよっか。調理と下処理もしないといけないから」
「今日は誘っていただきありがとうございます」
「うん、私も楽しかった!また来ようね!」
「はい!」
22: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 17:33:35.70 ID:fNVBAPcl
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
あの後、私は2匹追加で釣り上げ、エマさんは7匹釣りました。
行きでは空っぽだった、私の大きなリュックは、マスで満たされ、エマさんのクマの様なリュックは更に膨らんでいます。
「景色綺麗だね」
「東京でも空がこんなに綺麗に染まるんだね」
行きと同じく、帰りでも、エマさんは景色を眺めています。
「綺麗な桃色ですね。お台場じゃ、空を見上げるって、意識した事なかったかも」
「おんなじ東京の空なんだ。不思議だねぇ」
「不思議ですね。世の中は不思議だらけです」
「ねえ、あれは何かな?」
「えーっと、あれはですね....」
あの後、私は2匹追加で釣り上げ、エマさんは7匹釣りました。
行きでは空っぽだった、私の大きなリュックは、マスで満たされ、エマさんのクマの様なリュックは更に膨らんでいます。
「景色綺麗だね」
「東京でも空がこんなに綺麗に染まるんだね」
行きと同じく、帰りでも、エマさんは景色を眺めています。
「綺麗な桃色ですね。お台場じゃ、空を見上げるって、意識した事なかったかも」
「おんなじ東京の空なんだ。不思議だねぇ」
「不思議ですね。世の中は不思議だらけです」
「ねえ、あれは何かな?」
「えーっと、あれはですね....」
23: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 17:41:05.79 ID:fNVBAPcl
ピンポン。次は、虹ヶ咲学園前。虹ヶ咲学園前。
「私ここで降りるね」
「エマさんさようなら。今日は誘っていただきありがとうございました」
「また釣りに来ようね。奥多摩巡りでもいいかも」
「いいですね。次の予定空けておきますね」
「それじゃあね、さようなら」
「さようなら」
エマさんがクマの様な大きなリュックを揺らしながら下車します。プシュという音と共に、ドアが閉まり、エマさんの姿が小さくなっていきました。
その背中を見ながら、今日のマス釣りの感覚を、心の中で少しずつ、少しずつ言葉にしていきます。
お母さんには、なんて話そう。お父さんには、マスの燻製作りの様子を、どうやって伝えよう。
言葉をゆっくり、丁寧に紡いでいるうちに、私は思うのです。
今日は、悪くない1日だったと。
「私ここで降りるね」
「エマさんさようなら。今日は誘っていただきありがとうございました」
「また釣りに来ようね。奥多摩巡りでもいいかも」
「いいですね。次の予定空けておきますね」
「それじゃあね、さようなら」
「さようなら」
エマさんがクマの様な大きなリュックを揺らしながら下車します。プシュという音と共に、ドアが閉まり、エマさんの姿が小さくなっていきました。
その背中を見ながら、今日のマス釣りの感覚を、心の中で少しずつ、少しずつ言葉にしていきます。
お母さんには、なんて話そう。お父さんには、マスの燻製作りの様子を、どうやって伝えよう。
言葉をゆっくり、丁寧に紡いでいるうちに、私は思うのです。
今日は、悪くない1日だったと。
24: (SB-iPhone) 2021/07/23(金) 17:41:15.00 ID:fNVBAPcl
おしまい
25: (SIM) 2021/07/23(金) 17:48:10.81 ID:OnruJ/Uh
乙
雰囲気が良かった
やっぱりにほスイなん日本なぁ…
雰囲気が良かった
やっぱりにほスイなん日本なぁ…
26: (茸) 2021/07/23(金) 17:50:45.27 ID:W8zHvura
奥多摩なら行ったことあるわ
浮き橋とか綺麗だった
浮き橋とか綺麗だった
27: (もんじゃ) 2021/07/23(金) 19:13:59.59 ID:MOD/ygj4
まーたにほスイ良SSが生まれたのか
引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1627021877/