【SS】姫乃「夏色三角形」【ラブライブ!虹ヶ咲】

ひめの SS


1: (らっかせい) 2022/06/10(金) 22:26:23.41 ID:odFmacqk
短編
 
5: (らっかせい) 2022/06/10(金) 22:40:10.75 ID:odFmacqk
千葉の親戚から、大きなスイカが届きました。

大きな段ボールの中には、緑のスイカが二つと、ピーナッツが添えられていました。

季節は6月。梅雨の一雨過ぎた頃です。
ちょうどその日は太陽が顔を出し、羊の様な雲が、空に沢山ぷかぷかと浮かんでいました。

梅雨前線はひとまず引っ込んでくれた様です。

久しぶりの陽射しに、縮こまんでいたをすーっと伸ばします。



姫乃「わぁ、スイカ。スイカ」ガサゴソ

母「こんな大きなスイカ、私たちで食べきれるかしら?」

母「どうしましょう?」

そんな事をぶつぶつ言いながら、母はスイカを指で弾きます。

ボーン、ボーンと低い音が響きました。

良く身の締まった美味しいスイカの証拠です。
 
6: (らっかせい) 2022/06/10(金) 22:49:44.48 ID:odFmacqk
母「うーん、一つは私達家族で消費しましょう」

母「もう一つは....ご近所さんにでも配ろうかしら?」

姫乃「華道の門下生さんにでも...あっ」

姫乃「あの、お母様。このスイカ、私が貰って行ってもいいでしょうか」

母「?」

母「いいわよ」



スイカを頂いた次の日、この日も、都合よく太陽が顔を出しました。

私は大きなスイカを、これまた大きなリュックサックに詰めて、りんかい線に乗り込みました。


Tokyo rinkai kosoku....

いつもと流れる景色は変わりませんが、ちょっとだけ特別な日。
それを意識すると、心がワクワクして来るのです。
 
8: (らっかせい) 2022/06/10(金) 22:56:41.20 ID:odFmacqk
コンコン

姫乃「こんにちは。私です。姫乃です」

「はーい。ちょっとまってて」

ガチャリ

エマ「おはよう。今日もいい天気だね」

姫乃「ええ。最近は雨ばっかりで、こんなに晴れてくれると気分が良くなりますね」

エマ「さっきね、洗濯物干してたんだ!」

エマ「でね、畳もうとしたら...あっ、ごめんごめん。中入って」

姫乃「お邪魔します」

姫乃「今日はお二人にお土産を持ってきました。驚かないでくださいね。うふふ」

エマ「なんだろう?気になる~!」
 
9: (らっかせい) 2022/06/10(金) 23:03:41.56 ID:odFmacqk
姫乃「所で、果林さんは?」

エマ「今日はね、先生に呼び出されてて後から来るって」

エマ「勉強会のサボりじゃないから安心してね」

姫乃「そうなのですね...果林さんにもこれをお見せしたかったです」

姫乃「では、このリュックの中に」ガサゴソ


手が滑らない様に、慎重に、慎重に。
そっと、優しく持ち上げてあげます。

エマ「お?」

エマ「おぉ~!?」

テカテカとした面が見えた頃、エマさんは驚嘆の声を上げました。

エマ「こ、これは!!」

エマ「スイカだ!」
 
12: (らっかせい) 2022/06/10(金) 23:10:02.20 ID:odFmacqk
エマ「日本のスイカだ!」

エマ「まんまるなの初めて生で見た!」

エマ「本当に縞模様なんだね!」

姫乃「千葉の美味しいスイカですよ」

エマ「チバ?どこ?」

姫乃「ほら、空港のある県の」

エマ「あぁ!成田の所だね!」

エマ「そっかぁ。成田空港の周りは、何もないけど、スイカ育てているんだね」

エマ「スイカさん、こんにちは」

エマ「君も飛行機を見て育ったのかい?」ツンツン

スイカ「.....」

エマ「何も喋らないなぁ。喋らない子は食べちゃうぞ~!」

エマ「包丁で切っちゃうぞ~!」

姫乃「あはは....」
 
13: (らっかせい) 2022/06/10(金) 23:17:39.20 ID:odFmacqk
エマ「もうワクワクが抑えきれない!」

エマ「スイカ食べちゃおう。果林ちゃんが来る前に食べちゃおう」

エマ「でも待って。果林ちゃんもスイカ好きって前に言ってたし、それなりに食べるのかなぁ?」

エマ「うーん、うーん」

姫乃「あはは、エマさんってば、もう!」

姫乃「こんなに大きなスイカ、一回じゃ食べきれないですよ」

エマ「そうかなぁ....そうかも....」

エマ「どうする?来るまで待つ?」

エマ「...じゅるり」

姫乃「えーっと....すぐに頂きましょう!」

エマ「やったぁ!」
 
14: (らっかせい) 2022/06/10(金) 23:25:33.07 ID:odFmacqk
本当は果林さんとエマさんの3人で、イタリア語と国語の勉強のはずだったのですが、スイカの魔力には抗えませんでした。

私はキッチンをお借りして、スイカを分割していきました。

スイカ「....」

姫乃「お覚悟を!」

姫乃「ていやー!そりゃ!」ブスリ

スイカ「....」

ザク、ザクと繊維を断つ、みずみずしい音がします。

姫乃「それ、それ」パカリ

目一杯力をかけて、ようやく半分が割れました。

姫乃「ふぅ...スイカは食べるのに手間がかかりますね」

姫乃「こっち半分は冷蔵庫に入れてと....」

姫乃「半分...ちょっと多いかなぁ?」

姫乃「まあ、余っても冷蔵庫があるからいいか」

ザク...ザク

ていやっ!そりゃっ!
 
16: (らっかせい) 2022/06/10(金) 23:34:32.03 ID:odFmacqk
姫乃「エマさーん、スイカ切り終えました」

そう伝えて振り向くと、エマさんは、何故かベランダに椅子を出していました。

姫乃「何やってるんですか?」

エマ「うーんと、青空教室?」

姫乃「ぶっ....どこで覚えてきたんですかそんな言葉」

エマ「うーん、うーんと、思い出せないや」

エマ「でもね、外で食べたら気持ちいいだろうなって。あとね、これ」

エマ「洗面器」

エマ「ここにね、水と氷入れて、脚冷やすの」

エマ「ほら、こんな感じに」じゃぶじゃぶ

姫乃「私も靴下脱いでもいいですか?」

エマ「もちのろん!おいで」
 
18: (らっかせい) 2022/06/10(金) 23:43:16.30 ID:odFmacqk
エマ「ふふふーん」

エマ「じゃぶじゃぶ~」

脚を上下にパタパタさせながら、エマさんは無邪気に笑います。

白くほっそりとしたくるぶし、それとは対照的な健康的なふくらはぎ。しばらくジーッと見つめていると、なあに?と首を傾げて笑います。

姫乃「な、なんでもない、です」

エマ「それならよかった」

本当はほんの少しだけドキドキしていたのは内緒です。

そんな事も知ってか知らずか、エマさんがしきりにスイカを急かしてきます。

エマ「早く食べよう、食べようよう」

姫乃「ちょっと待っててくださいね」

姫乃「はい、これ」

エマ「ありがとう!」
 
20: (らっかせい) 2022/06/10(金) 23:57:30.28 ID:odFmacqk
エマ「いただきまーす!」

シャク シャク

エマ「!!!」

エマ「Delizioso!」

エマ「Anguria molto gustosa!」

エマ「あっ、ついつい美味しくてイタリア語でちゃった」

エマ「ふふっ、そういえば今日はイタリア語勉強会の日だったね」

エマ「私の言った言葉、翻訳してみて」

姫乃「ええっと... Anguriaが多分スイカで...」

姫乃「とっても美味しいスイカ、ですか?」

エマ「あたり!」

エマ「当たっても何も景品もないけど」

姫乃「そうなんですね....」パクっ シャクっ
 
22: (らっかせい) 2022/06/11(土) 00:07:43.20 ID:Y09roGMX
姫乃「!!」

一口食べた瞬間、スイカの甘みが広がり、スッと口の奥へ消えていきました。

甘さがもっとほしくて、二口目、三口目を食べていました。

姫乃「美味しい...」

シャク シャク

しばらく無言が続きます。


姫乃「そういえば...」

姫乃「スイスのスイカって、どんな感じですか?」

エマ「スイスのかぁ...」

エマ「スイスは夏も涼しいから、あんまり育ててないんだよね」

エマ「あと、外見の違いだったら、スイスのスイカは真っ暗かなぁ。縞模様じゃないの」

エマ「でね、食べ終わったら、ヤギとか、牛に皮をあげるの」

エマ「大きいと食べれないから、蹄で割って食べるんだよ。頭いいよねあの子達」

姫乃「へぇ、軽くカルチャーショックです。黒い丸いスイカ」

エマ「皮だけだよ?中身は赤だよ?」

エマ「さて、もう一個」



シャク シャク....
 
25: (らっかせい) 2022/06/11(土) 00:28:35.19 ID:Y09roGMX
「エマ~、姫乃~今帰ったわ!」

エマ「果林ちゃーん、お帰り~!ドア開いてるよ~」

ガチャ

果林「ごめんなさいね、遅れてしまって...ってあれ?どこにいるの?」

エマ「ベランダ!」

果林「へ?」

姫乃「こっちです!」

果林「まぁ!」

果林「随分と楽しそうじゃない。スイカまで食べちゃって」

エマ「果林ちゃんの分も残してあるよ。こっちにおいでよ」

果林「それじゃあお邪魔するわ」

果林「どれどれ」
 
26: (らっかせい) 2022/06/11(土) 00:36:52.21 ID:Y09roGMX
果林「へぇ、これ姫乃からのお土産なのね」

姫乃「はい、親戚からの贈り物で。もう、こんなにおっきなスイカで、半分は冷蔵庫の中に仕舞ってあります」

果林「明日からスイカライフね。ミアとランジュにも分けてあげましょう」

果林「あっ、そういえばね」

果林「途中、コンビニで面白い物買ったのよ」

果林「これ」

姫乃「ラムネ!」

エマ「?」

エマ「レモネード?」

果林「それみたいな物よ。これ、どうやって開けるかわかる?」

エマ「なになに?」

エマ「口の所に何か挟まってる」

エマ「分からないなぁ。分からないけど、味が知りたいから早く開けて」

果林「もー、エマってば、風情も何もないのね」

果林「はいはい、ちょっと貸して」
 
27: (らっかせい) 2022/06/11(土) 00:42:38.21 ID:Y09roGMX
果林「ほら、ここにね、ピンクのを置いて」

果林「大きく振りかぶって!」

ポン!

果林「っ...しばらく待つのよ」

果林「とっとこれでいいかしらね」

果林「はいどうぞ」

エマ「ありがとう!」

姫乃「果林さん、開けるの上手ですね」

果林「まあね。これだけは子供の頃からずーっとやってるから」

エマ「....!!」

エマ「おぉ、サイダー」

果林「どう、気に入った?」

エマ「もちのろん!」
 
28: (らっかせい) 2022/06/11(土) 00:52:50.61 ID:Y09roGMX
その後も、ラムネを飲んだり、だらだらしながら時間を過ごします。

果林「小さい頃は、夏になると、ずーっとスイカばかり食べていたわね」

果林「でも、親元を離れると、もうさっぱり」

果林「スイカって大きいじゃない。スーパーでも手を出し易い値段じゃない」

果林「そうすると、どんどん、どんどん機会が失われていくの」

エマ「わかる様な気がするなぁ。私も、日本に来てあんまりスイーツ食べなくなっちゃった」

エマ「だからね、今日ね、本当に嬉しいの」

姫乃「私もたまたまで」

姫乃「....スイカって、案外青春の味なんですね」


食べかけのスイカを青空に透かします。

夏色三角形、赤いスイカ。

大人になって、一人暮らししたら、スイカも食べなくなっちゃうのかな?

一抹の寂しさを感じていたら、飛行機が一つ、キーンと飛んでいました。
 
29: (らっかせい) 2022/06/11(土) 01:06:16.22 ID:Y09roGMX
エマ「このスイカはね、空港の近くで採れたんだって」

果林「友達出来た、スイカの名産地~って奴ね」

姫乃「へ?」

果林「えっ?知らないの?」

エマ「知らない」

果林「割とマイナーなのね。ってエマ、私の分食べたでしょ?」

エマ「知らなーい!」

姫乃「新しく切って来ますよ」

果林「ごめんなさい、お願いね」

すくっと立ち上がってスイカを切りに行きます。
後では、果林さんが、先ほどのスイカの名産地の歌を流して、エマさんに説明していました。


姫乃「なかよしこよし、かぁ」

そのフレーズに、少し嬉しくなりながら、またスイカを切りました。


ザク!ザク!



おしまい
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1654867583/

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