【SS】ミア「第三の心臓」【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


1: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:09:14.27 ID:ZVwP17Nm
補完・捏造設定あり
以前こちらの不手際により落としていただいたもののリベンジです
 

4: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:12:07.69 ID:ZVwP17Nm
ランジュ『ミア!こんなところにいたのね』

ミア『?なに、急に』

ランジュ『新曲の件よ、できたかしら?』

ミア『は?何の話?』

ランジュ『何って、この間言ったじゃない。作ってくれるって』

ミア『この間……あー……気が向いたらって言ったでしょ』

ランジュ『向いてないの?』

ミア『向いてるように見える?』

ランジュ『なら今からね!そういえば要望も伝えてなかったじゃない。今からどんな曲にするか会議しましょ』

ミア『何言ってるんだ!ボクはこれから……あ』
 
6: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:12:41.26 ID:ZVwP17Nm
璃奈「……」ジー

ミア「璃奈、来てたんだ」

ランジュ「璃奈、你好!ミアと予定?」

璃奈「ううん、一緒に部室に行こうと思ってただけ」

ランジュ「なら、ランジュもついていくわ!一緒に行きましょう」

璃奈「うん」

ミア「まぁ……璃奈がいいなら」
 
8: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:16:03.37 ID:ZVwP17Nm
璃奈「さっき、2人で何話してたの?」

ランジュ「新曲のことよ!ミアに作ってもらうことになったの」

ミア「ことになってない。作るなんて言ってないから」

璃奈「そんな話してたんだ。英語だから分からなかった」

ミア「あぁ……そっか。さっきはそうだったね」

璃奈「2人で話す時は、いつもああなの?」

ランジュ「そういえばそうね。意識したことなかったわ」

ミア「言語野どうなってるんだ……」
 
9: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:19:34.53 ID:ZVwP17Nm
璃奈「話せるの?」

ミア「ちょっとだけね」

ランジュ「ミアったら、結構達者なのよ!初めて聞いた時なんか驚いちゃったもの」

璃奈「”初めて聞いた時”……2人とも、日本に来る前からの知り合いだよね?」

ランジュ「そうよ」

ミア「腐れ縁でね。って……これはもっと長い関係に使う言葉か」

ランジュ「いいじゃない。似たようなものよ」
 
10: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:20:07.27 ID:ZVwP17Nm
>>9
訂正

ランジュ「ミアの前だとつい、ね。たまに広東語の時もあるけれど」

璃奈「話せるの?」

ミア「ちょっとだけね」

ランジュ「ミアったら、結構達者なのよ!初めて聞いた時なんか驚いちゃったもの」

璃奈「”初めて聞いた時”……2人とも、日本に来る前からの知り合いだよね?」

ランジュ「そうよ」

ミア「腐れ縁でね。って……これはもっと長い関係に使う言葉か」

ランジュ「いいじゃない。似たようなものよ」
 
11: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:24:41.51 ID:ZVwP17Nm
璃奈「お友達……なんだよね」

ランジュ「そうよ!」
ミア「違う」

ランジュ「……」

璃奈「……」

ランジュ「照れ屋さんなの」

璃奈「わかる」

ミア「ちょっと」
 
13: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:28:30.28 ID:ZVwP17Nm
璃奈「日本に来る前って、どういう感じだったの?」

ミア「前ったって、そんなに長い訳でもないよ」

璃奈「私、知りたい」

ランジュ「教えてあげましょうか?」

ミア「バカ!余計なことは言わなくていい」

ランジュ「なによう、そんなに嫌がらなくたっていいじゃない。初めて会った時はね……」

ミア「はぁ……もういい、勝手にすれば」
 
14: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:29:37.75 ID:ZVwP17Nm
ミア(……嫌がりもするさ)

ミア(そもそも昔の話なんて好きじゃないのに)

ミア(……アイツにちょっとだけ、ほんのちょっとだけ救われたなんて、言えるはずがない)
 
15: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:33:39.10 ID:ZVwP17Nm
──パーティーの場というのが、とにかく嫌いだった。
“テイラー”として大人たちに会いに行き、上っ面の言葉を受け取って、ヘタクソな笑顔を浮かべるだけの時間は、とても居心地が悪かった。

「Heyミア!新曲聴いたよ。素晴らしかった!」

ミア「ありがとう」

「ミア!今度の曲はどんなテイストで行くのかしら?」

ミア「気分次第かな」

「ミア、あの曲は良かったよ。Cメロの展開が……」

ミア「それはどうも」
 
16: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:36:30.49 ID:ZVwP17Nm
おべっかだとは思わない。ボクには確かな実績がある。
彼らだってそれを認めることはやぶさかではない筈だ。

それでも、どうしてだろう。ここはひどく息苦しくて、身動きがとれないような気さえする。
 
17: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:39:38.36 ID:ZVwP17Nm
彼らがボクを見る目は、決まって複雑なものだった。
尊敬。嫉妬。欲望。天才作曲家ミアに対する目。
それと同時に感じるのは、憐憫。歌から逃げ、テイラーの末席を汚す”落ちこぼれ”に対する憐みの目。ボクはそれが嫌いだった。

どうして、そんな目をするんだろう。
どうして、欲以外に何も持っていないおまえたちが、そんな視線を向けてしまえるのだろう。
 
18: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:42:47.01 ID:ZVwP17Nm
ミア、ミア、ミア。
下卑た笑顔と、定型句のような称賛。

それから逃げるように小走りでホールを突っ切っていき、勢いのままテラスに駆け込む。癖のようなものだった。

それでも、息苦しさは消えないまま。
肺に飛び込んでくる空気はしんと冷えていて、肺を突き破るようで。
空いた穴から空気が漏れて、また息苦しくなる。

──息がしたい。

手すりにもたれかかって、頭を預ける。
何も視界に入れたくなかった。
 
19: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:45:04.86 ID:ZVwP17Nm
そこに。

「──お疲れかしら、ミス・テイラー?」

嵐が訪れる。
 
20: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:48:24.87 ID:ZVwP17Nm
声をかけてきたのは、背の高い女だった。
ボクよりいくつか年上。顔立ちもプロポーションも美しい、パーティーの場に相応しい美女。
明らかに、”こういう場”に慣れているようなにおいがする。

──コイツは、きっと関わっちゃいけないやつだ、と、そう思った。
 
21: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:52:12.59 ID:ZVwP17Nm
ミア「……やあ。ごめんね、少し気分が悪くなってさ」

???「大変。人を呼びましょうか?」

ミア「大丈夫。風に当たればすぐに戻る」

???「そう」

ミア「……行かないのかい?」

???「だって、つまらないんだもの」

ノッポ女はそう言い放ち、ご丁寧にジェスチャー付きで心底退屈といった顔をした。

「年の近そうなアナタとお話したいと思って」
 
22: (たこやき) 2021/12/29(水) 00:57:58.67 ID:ZVwP17Nm
ミア「ボクから話すことは何もないさ」

出ていけという精一杯の念を込めて呟く。
そんな余裕はない、なんて口が裂けても言えなかった。

???「そう」

女は少し黙ると、カツカツと音を響かせてボクのいる手すりの方へと歩み寄ってきた。
そのまま項垂れるボクの側で足を止めると、同じように手すりに体を預ける。

──ああ、コイツもか。勘弁してくれ。今、そういう気分じゃないんだ。
無理やりにでも理由を付けて場所を変えようと思ったその時、女が口を開いた。
 
23: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:00:20.46 ID:ZVwP17Nm
???「アナタの仮面は、随分と薄っぺらなのね」

ミア「……は?」

???「ここにいる人たちとは大違い。”つまらない、こんな所にいて何になるんだ”って本音がダダ漏れよ」

ミア「何を──」

???「そういうの、うまく隠すものよ?その年なら仕方ないかもしれないけれど」

──なんだ、こいつ。

いきなり現れては僕を心配する素振りなんか見せて。
かと思ったら、興味もないご高説を垂れて。
 
24: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:04:01.63 ID:ZVwP17Nm
それでも。
その時、一番頭に来たのはそこじゃなくて。

ミア「──子供扱い、するなよ」

絞り出すように言い放って、女を睨みつける。

???「やっとこっちを見たわね」

女は妖しい笑みを浮かべと思うと、すぐさま目を細めて子供のように笑ってみせた。

???「アタシは鐘 嵐珠。ミア、ランジュとお友達にならない?」
 
25: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:08:20.46 ID:ZVwP17Nm
────────────
────────

結論から言うと、第一印象は最悪だった。
頭から爪先まで失礼と不遜で満たされたようなその女……ショウ・ランジュは、ボクの内心なんて構いやしないという風に手を差し伸べてみせた。

ミア「……ジョークが下手だね」

ランジュ「まさか。本当よ」

ミア「アジアには友達になりたい相手を罵る文化があるのかい?驚きだよ」

ボクはふんと鼻を鳴らす。不機嫌さを隠そうという気はとっくに失せていた。
 
26: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:11:55.84 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「仮面、剥がれてるわよ。薄っぺらいのが」

ミア「おまえには必要ないね」

ランジュ「あら、それらしくなってきたじゃない。うわべの言葉しか話せない彼らよりよっぽどいいわ」

正直、彼らの態度については同感だった。
同意するのが癪かどうかはともかくとして、ろくに相手を見て話そうともしない大人たちに辟易していたのは事実。

そう思ってしまったのが気に入らなくて、そっぽを向く。

ランジュ「アナタはどうしてここに?」

ミア「ボクのことは知っているだろ。テイラーとして……」

ランジュ「そんなことを聞いているんじゃないわ。そのテイラー家の才女がどうしてこんな隅っこにいるのかしら、って」
 
27: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:14:58.54 ID:ZVwP17Nm
才女。その言い草が鼻について、今度はあからさまにヤツを突っぱねる。

ミア「少なくとも、おまえとお話する為にいる訳じゃない」

ランジュ「ランジュはアナタとお話したいわ」

ミア「おまえ、耳ついてるの?」

ランジュ「立派なのがついているわ。絶対音感のがね」

ミア「……それならボクの言ったこともよく聞こえてるはずだろう。戻ったらどうだい?」
 
28: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:19:16.98 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「……嫌よ。あんな所。ランジュの後ろにあるものしか見えていない、それを隠せてない。ランジュを見ていても、それは嫉妬か憐れみか」

ランジュ「そんな人達と話したって、何も楽しくなんてないわ」

そう呟いたランジュの目は、どこか遠くを見ているようだった。

──同じことを、考えやがって。
コイツがここに来た理由が、なんとなくわかった気がした。

しばらくの沈黙。ボクから話してやることなんてないから、コイツが黙ればそのまま場が静まり返る。
ダンスホールの喧騒に比べれば、いくらかマシだった。コイツが黙ってさえいればだけれど。
 
29: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:22:53.33 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「あなたの曲」

ミア「……?」

ランジュ「聴いたの。この間」

ミア「そう」

ランジュ「素敵だった」

ミア「……そう」

ランジュ「技術的な話は専門外だから、気取った言い方すらできないけれど」

ランジュ「ランジュは好きよ。アナタの曲」

それは、今日もらったどんな言葉よりも強く、重く、まっすぐで。
ふうん、と、それ以上の言葉を返す気になれなかった。
 
30: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:27:28.93 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「……そろそろ戻らなきゃ」

ミア「そうかい」

ランジュ「それじゃあね、ミア。次に会ったらまたお話しましょう。これ、連絡先」

ミア「いらない」

ランジュ「つれないの。受け取るだけ受け取っておいて」

ランジュは苦笑すると、ヒールの音をひどくゆっくりと鳴らして歩き始めた。

ミア「おまえ」

ランジュ「?」

ミア「……音楽の趣味は、悪くないみたいだね」

ボクは振り向かず言った。
いつの間にか、ひゅうと喉が鳴る音がしていた。
 
31: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:30:59.71 ID:ZVwP17Nm
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────────

璃奈「やっぱり、最初はそんな感じだったんだ」

ミア「というか誰でもそうなるだろ。初対面だよ」

ランジュ「パーティーの場よ?初対面上等じゃない」

ミア「やかましい。態度ってものがあるだろ」

ランジュ「それを嫌がってた癖に」

ミア「コイツ……」

璃奈(ランジュさんが優位に立ってるの、珍しい)

璃奈「その後はどうなったの?最初に会ったのは偶然なのに」

ミア「それが、コイツときたら……」
 
32: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:34:24.90 ID:ZVwP17Nm
────────────
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ミア「……」

ランジュ「……」

件のパーティーからいくらか時間が経った頃。
授賞式だか何だか、大きなイベントに家族ごと駆り出されたボクの目の前に、ソイツはいた。

いつものように隅で項垂れているボクを目ざとく見つけては、満面の笑みで手を振って近寄ってくる。

ミア「……なんでいるんだ」

ランジュ「偶然よ」

これまでの人生で一番大きなため息が出た。
 
33: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:37:39.95 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「そんなに嫌がることないじゃない。ランジュは友達に会えて嬉しいわよ」

ミア「なった覚えないし。おまえに懐かれる覚えはもっとないし」

ランジュ「言ってくれたじゃない、音楽の趣味がいいって」

ミア「いちいち覚えてたの?変な奴」

ランジュ「あれから結構勉強したのよ」

ミア「音楽をかい?それは殊勝な話だね」

ランジュ「一流の講師についてもらったんだから。これでアナタと違うのは経験の量くらいのものよ」

随分と自慢げな様子で鼻を鳴らしてみせるランジュ。
一流の講師様は、その差がどれほど大きなものなのか教えてはくれなかったようだ。
 
34: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:41:19.74 ID:ZVwP17Nm
ミア「熱心なことで。そうまでしてボクに取り入りたいのかい?」

ランジュ「?何を言っているの」

ミア「いいよ、そういうの。でも悪いけど、ボクに大した力は……」

ランジュ「どうでもいいわよ、そんなこと」

ミア「どうだか」

あしらうように言い放つと、ランジュは難しい顔をして少し考え込む。
するとにやりと笑みを浮かべ、またも口を開いた。
 
35: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:46:35.16 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「────アナタに取り入りたいのなら、いくらでも方法はあるわ」

その笑顔は、”いいこと”を思いついた子供のように無邪気で。
それと同時に、その行いに伴うものを何一つとして自覚していないようでもあって。
まるで、虫の足をちぎって喜ぶ子供のような────

そこまで考えて、ぞ、と、悪寒が走った。

ランジュ「勿論、今回はそんなことしないわよ?だってお友達になりたいんだもの」

耐えかねて視線を逸らしそうになったその時、ヤツの表情が人懐っこい笑みに戻る。
それに安心してしまったのが、少し癪だった。

ミア「……そう」
 
36: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:50:57.43 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「あの時は陳腐な誉め言葉しか出なかったけれど、今ならもっとアナタの満足する言葉を与えてあげられるわ」

その言葉に何か引っかかるものを感じて、一瞬返事をするのが遅れる。

ランジュ「……ミア?」

ミア「……何でもない。褒めたいなら好きにすればいいよ」

ランジュ「なら、好きにするわね!」

それからランジュは、ボクの曲を饒舌に褒め称え始めた。
やれコード進行がどうだ、展開がどうだ、前例がどうだと。

どこか聞き覚えのある言葉と、褪せた麗句で。
誰でも言うことはできないけれど、誰からも聞いた言葉。

──おまえも、”そう”か、と。
熱を上げるヤツとは対照的に、ボクの心は徐々に冷えていった。
 
37: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:52:38.76 ID:ZVwP17Nm
全てを聞き終わったボクは、悪態をつくように呟く。

ミア「……何が言いたいんだ」

ランジュ「?だから、アナタの音楽は素晴らしいって話を」

ミア「そういうの、聞き飽きたんだ」

ランジュの口調は、彼らとまるきり同じだった。
──ボクのことを下卑た目つきで見つめる、あの大人たちと。

ミア「要らないよ。言った側が気持ちよくなるだけの、聞こえのいい賛美なんて」
 
38: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:54:15.69 ID:ZVwP17Nm
すぐにしまった、と思った。
言いたい言葉を放って気持ち良くなりたがってるのはどっちだ。

事情なんて何も知らない相手にこんな言葉をぶつけても、反発されるだけなのは容易に想像ができた。

ミア「……ッ」

ランジュ「……」

謝罪の文字が頭に浮かんでは、すぐさま掻き消える。
自分の言ったことが間違いだったと訂正する気にはなれなかった。
 
39: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:54:46.83 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「……ミアが欲しかった言葉は、違うの?」

ミア「……ああ」

自分に嘘は吐きたくなかった。
そうしたら、おまえにあげた言葉まで嘘になってしまうから。

ミア「そんな言葉、要らない」

ランジュ「……ランジュはあげたかったわ」

ミア「わかってる。けど……けどっ」
 
40: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:57:24.93 ID:ZVwP17Nm
おまえだけだった。あの場で、ボクの音楽にあの言葉をかけてくれたのは。
ショウ・ランジュ──おまえだけだったんだよ。

ミア「あれで十分だった。あのままでよかった。おまえ、言ったろ」

ミア「ボクの曲が──好きだって」

ランジュ「……」

ミア「それでよかった。それがよかったんだ」

こんなのはただの身勝手だ。
ボクが欲しい言葉を、ボクのワガママを、相手に押し付けてるだけ。

──友達でもない、相手に。
 
41: (たこやき) 2021/12/29(水) 01:57:49.04 ID:ZVwP17Nm
ミア「……」

ランジュ「……」

それからあいつは。
いつものように、自分から沈黙を破った。

ランジュ「──そんなことでよかったの?」

あっけらかんとした声色で。心底不思議だという顔をして。
あいつはそう言い放っただけだった。

ミア「……は?」
 
42: (たこやき) 2021/12/29(水) 02:00:46.74 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「それならそうと言ってくれればいいじゃない!好きよ、ミアの曲!大好き!」

ミア「ちょ、ちょちょ!おまえ、何ともないの?」

ランジュ「何ともないって、何が」

ミア「何って……酷いこと言ったのに」

ランジュ「関係ないわよ。ランジュは言いたいことが言えたんだから、満足だわ」

ランジュ「その上でアナタが欲しい言葉があるのなら、いくらだってあげる。何だってしてあげる。それがランジュよ!」

その答えは、どこまでも自分本位で。
コイツがどういうやつなのかが、とてもよく分かった気がした。
 
43: (たこやき) 2021/12/29(水) 02:02:31.72 ID:ZVwP17Nm
────────────
────────

家に帰ってから、曲を作った。
誰の為でもない、ボクの曲を作った。

そうやって曲を作るのは随分と久しぶりで、ひどく懐かしい気分になった。
 
44: (たこやき) 2021/12/29(水) 02:03:14.83 ID:ZVwP17Nm
一旦区切ります
 
47: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:04:54.87 ID:ZVwP17Nm
────────────
────────

その日から少しだけ、どこか足取りが軽くなったような気がしていた。
背負っていた沢山の荷物が少しだけ減ったような、そんな気分。

これはきっといいことなんだと思っていた。
気分がいい分には何も悪いことなんてないと、当然のように。
 
48: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:05:26.11 ID:ZVwP17Nm
けれど。

身軽になるということは、重みを忘れるということだ。
ボクがこれまで普通だと思っていたことを、そう思えなくなるということだ。

それに気付いたのは、それから少し後のことだった。
 
49: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:13:17.03 ID:ZVwP17Nm
それは、何気ない一言だった。
「らしくない」と、パパが言った。ランジュと会った後に作った曲を聴いたらしかった。

怒っている訳ではない。機嫌が悪い訳でもない。
ただ、幼稚で、稚拙なものを冷笑するような、あしらうような──

無垢な悪意が、そこにはあった。
 
50: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:14:00.07 ID:ZVwP17Nm
それからパパは、ボクに激励の言葉をくれた。
期待していると、お前の実力は折り紙付きだと。心の底からそう言っていた。

何かが切れる音がした。

ボクはパパに礼を言うと、気付かれないよう家を飛び出した。
 
51: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:17:15.93 ID:ZVwP17Nm
走った。転びそうになりながら、何かから逃げるように走った。

走りながら、覚束ない手先でスマホを操作する。
もう片方の手に握っていたのは、くしゃくしゃになったメモ書きだった。

ミア「ショウ・ランジュ」

ミア「何だってしてあげるって、言ったな」

その日、ボクは初めて──

ミア「────ボクを、どこかへ連れていけ」

誰かに”価値”を見出されることが、とても恐ろしいことだと気付いた。
 
52: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:24:18.63 ID:ZVwP17Nm
────────────
────────

ヤツは、すぐに駆け付けてきた。
曰く、あの時からしばらくこっちに滞在しているらしかった。

夜の帳が降り、なおも煌めく明かりをよそに、ボクらはベンチに座り込む。
俯くボクと、そこにやってきたランジュ。いつかの夜と同じだった。

ランジュ「……」

ミア「……」

ランジュ「何があったの?」

ミア「言いたくない」

ランジュ「そう」
 
53: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:25:13.29 ID:ZVwP17Nm
そこから先の言葉を言うべきか、少し悩んで。
それでも、言っておかなければならないと思って、口を開く。

ミア「……おまえのせいだ」
 
54: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:28:17.01 ID:ZVwP17Nm
ミア「おまえが……ボクの曲が好きだなんて言ったから」

ミア「誰かに『ボク』を求めてほしいって、受け入れてほしいって……そう、思っちゃったじゃないか」

ランジュ「……」

誰が何を言ったって、関係なかった。
褒めそやされたって、崇められたって、それはボクがこなした仕事に対する成果でしかなかった。
 
55: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:28:50.42 ID:ZVwP17Nm
──ああ、そうだ。
ボクは、誉め言葉なんていらない。

ただ、共感して欲しかった。
ボクの作ったものを、それがいいねって、心から言って欲しかった。

“素晴らしい”じゃなくて、”好きだ”って言って欲しかった。
 
56: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:31:17.47 ID:ZVwP17Nm
ミア「ボクに面と向かってそう言ったのは、おまえだけだ……だから」

ミア「……ここから先は、聞かなかったことにしてもいい」

ランジュ「言って」

毅然とした声に、思わず顔を上げて隣を見やる。
そこには、かつて見たことがない程に真剣な表情のランジュがいた。
 
57: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:31:49.06 ID:ZVwP17Nm
ミア「──責任、取ってよ」

ミア「おまえがずっとそばにいて、ボクの曲が好きだって言って」
 
58: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:35:05.11 ID:ZVwP17Nm
ランジュは少しだけ目を見開いて、そのまましばらく固まっていた。

ミア「気に入らない曲があるならそう言っていい。嘘は言わなくていい」

ミア「ただ……好きだと思った曲を、好きだって言って欲しい」

欲望が、我儘が口をついて出る。
して欲しいことだけを、一方的に、押し付けるように。
コイツは、嫌ならば明確に拒否する人間だという確信があったから。

だからこそ、妥協なんてしてやらない。
要求の全部が通るか、通らないか。ヤツが選ぶのは、きっとその2つだけだ。

ミア「どこでもいい。なんでもいい。だから──」

ミア「ボクを、受け入れてよ」
 
59: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:35:50.40 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「……ねえ、ミア」

ミア「……?」

ランジュ「アタシね、今すっごく気になってるものがあるの」

それからランジュは少しだけ考えるそぶりを見せた後、ボクに向かってにやりと笑ってみせた。

ランジュ「なんでもいいのよね」

その笑顔はこれまでで一番純粋で、それゆえに邪悪だった。
 
60: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:38:50.09 ID:ZVwP17Nm
────────────
────────

某日、某空港。

和やかな雰囲気の発着場を、何度目かのコール音が切り裂く。
若干気後れしながらもため息をついて、スマホの電源を落とした。

その様子を見ていたランジュが苦笑する。

ランジュ「許可、きちんと取ったんじゃなかったの?」

ミア「許可なら取ったよ。納得はされなかったけど」
 
61: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:39:25.14 ID:ZVwP17Nm
ミア「……しかし、まさか日本とはね」

ランジュ「言ったでしょ?スクールアイドルの本場なの。本当にすっごいんだから!」

ミア「アイドルって言ったってアマチュアでしょ。曲のクオリティだって並だし」

ランジュ「ふふ、そうね。ミアの曲には遠く及ばないかも。なんたって最高の作曲家だもの。ランジュの曲、楽しみにしてるわ!」

ミア「はいはい」

露骨に上機嫌なランジュをあしらっているうちに、場内アナウンスがボクらの番号を読み上げる。
出立の時がすぐ目の前に迫っていた。
 
62: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:42:42.04 ID:ZVwP17Nm
ランジュ「そろそろね。行きましょう、ミア!」

ミア「ん。……あ、そうだ」

ランジュ「どうしたの?……わっ」

ぐい、とランジュの袖を引っ張って、顔を寄せる。
瞬時に内緒話だと理解したヤツは、少しだけ笑みを浮かべた。

ミア「あのこと……向こうに着いたら、もう話題に出すの禁止ね」

ランジュ「あのことって?」
 
63: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:43:29.52 ID:ZVwP17Nm
ミア「ボクが日本に行く理由とか、おまえといる理由とか……」

ランジュ「どうして?」

ミア「どうしてって……これでもテイラーの名前は汚したくないんだよ。顔だってそれなりに知られてるし、誰に聞かれるか分かったもんじゃない」

ランジュ「そういうことね。分かったわ!」

ミア「……信用できないんだけど」
 
64: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:45:21.10 ID:ZVwP17Nm
ややあって、ボクはため息をついてからさらに顔を寄せる。

ミア【……おまえ、隠し事とか無理でしょ】

ランジュ「!」

ミア【だから、これは秘密の暗号。どうしてもあのことを話したくなったら、こっちで言って】

ミア【広東語なんて、誰も分からないだろうし】

ランジュ「……」
 
65: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:45:55.57 ID:ZVwP17Nm
ミア「さ、行こ」

呆けた表情をしたランジュを解放して、搭乗ゲートへ急ぐ。
ちらと振り返ると、心の底から驚いたような顔をしているのが見えた。

ガキっぽい癖にいつも妙な余裕のあるアイツに、一発かましてやった。
それが少しだけ嬉しくて、足取りが軽くなる。

ランジュ【ミア……ミア、ミアっ!わかったわ!こっちでも沢山お話ししましょう!】

ミア「ちょっ……分かんない分かんない!まだ初心者だから!」
 
66: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:48:04.16 ID:ZVwP17Nm
────────────
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璃奈「……」

ミア「はぁ……」

ランジュ「こうして、ミアはランジュと一緒に日本までついて来ることになったのよ!」

璃奈「すごい、駆け落ちみたい」

ランジュ「でしょう!それに気づいた時は急に恥ずかしくなったりしたものよ!」

ミア(なんで同じこと考えてるんだ……!)

ミア(にしても、意外だったな。今の話、要所要所が端折ってあった)

ミア(ボクが言って欲しくない話……最後の方とか、結構ぼかしてあったし)

ミア(コイツなりに気を遣ったのかな。癪だけど)
 
67: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:48:42.18 ID:ZVwP17Nm
璃奈「ということは、広東語はやっぱりランジュさんの為に……」

ミア「違う」

ランジュ「やっぱりそう思うわよね!きゃあっ、ミアったら!」

ミア「違うってば!抱き着くな!」

璃奈「でも、そうじゃないと説明がつかない」

ランジュ「そうよね、そうよね!もう、本当ランジュのこと好きなんだから!」

ミア「そうじゃなくて……!」
 
68: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:50:15.72 ID:ZVwP17Nm
璃奈「観念した方がいい。『むんっ』」

ランジュ「そうよ、ランジュは嫌がったりしないわ!」

ミア「だから……っこの!」グイッ

ランジュ「きゃっ!?」

璃奈(胸倉!?)

ミア【言ったでしょ……広東語を覚えた理由】

ランジュ「!」

ミア【さっきみたいな誰にも話したくないことを、おまえとだけ話せるようにする為】

ミア【だから、自分の為!絶対ランジュの為なんかじゃないから!】
 
69: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:50:35.70 ID:ZVwP17Nm
パッ

ランジュ「……」

璃奈(……何言ってるか分からない……)

ランジュ「……ッ!」パァァッ

ミア「なんで嬉しそうな顔するワケ!?」

ランジュ「だって、どう考えたって照れ隠しじゃない!」

璃奈「そうなの?」

ミア「っな……!わざわざ言葉変えたんだから通訳するな!しかも違うし!」
 
70: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:53:25.58 ID:ZVwP17Nm
ランジュ【それじゃあ、やっぱりこっちでお話しましょうよ!秘密の暗号だものね!】

ミア「璃奈の前でやるなっての!秘密じゃなくなるだろ!」

璃奈「大丈夫。分からない」

ランジュ「今のはね……」

ミア「だから通訳したら秘密じゃないんだって!もう……勝手にしろ!!」
 
71: (たこやき) 2021/12/29(水) 11:54:55.35 ID:ZVwP17Nm
おしまい

参考:第三の心臓/はるまきごはん
(インスピレーション元であり曲そのものは本作とあまり関係ありません)
https://youtu.be/uSuyiF9SYrM
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1640704154/

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