【SS】∬8`^ヮ^)「よっし、愛さんが糠漬けの怖ーい怪談を話しちゃうよ~!愛だけに!」【ラブライブ!虹ヶ咲】

あい SS


1: 2020/01/05(日) 01:03:33.00 ID:tTQW94hT
∬8` -ヮ-)「……という訳で、この話はこれでおしまい」

∬8`^ヮ^)「ま、これ以上話したら、愛さんも糠漬けになっちゃうかもしれないからね~」

∬8`^ヮ^)「さて、二人ともどうだった? 愛さんの話、ナカナカのモンだったっしょ?」

@cメ*◉ _ ◉リ 从||;°▭°||从

∬8`^ヮ^)「?」

从||;°▭°||从「愛さんの怪談、迫力があってとても怖い。璃奈ちゃんボード『ガクブル』」

∬8`^ヮ^)「あはは、ごめんねりなりー。それで歩夢は……」

@cメ*◉ _ ◉リ

∬8;`・ヮ・)「あ、あれ? おーい、歩夢ー?」

从||; -人-||从「……駄目みたい。歩夢さん、失神してる。璃奈ちゃんボード『死亡確認』」

2: 2020/01/05(日) 01:05:30.55 ID:tTQW94hT

……

@cメ*;> _ <リ「もう、愛ちゃんやりすぎ!」

∬8;`^ヮ^)「ごめんってば。歩夢が怖い話苦手なのは知ってたけどさ、これくらいなら大丈夫かなって」

@cメ*;> _ <リ「全然大丈夫じゃないよっ!すごく怖かったんだから!」

从||> ᴗ <||从「愛さんは話すの上手だから、つい怪談に引き込まれちゃう」

∬8`^ヮ^)「おっ、そうやって声に出して褒められるのはこーえーだね!」コエダケニ

∬8`^ヮ^)「でも、さっきの歩夢の話も怖かったなー。」

从||? ▭ !||从「うん。臨場感たっぷりだった。璃奈ちゃんボード『びっくり』」

@cメ*;> _ <リ「そ、そうかな? 怖がりだから、そんな怖くない話をしたつもりだったんだけど……」

∬8`^ヮ^)「まあ、あの話は歩夢にしかできないよねぇ」

4: 2020/01/05(日) 01:08:15.49 ID:tTQW94hT
从||> ᴗ <||从「やっぱり、この三人で集まると楽しい。」

∬8`^ヮ^)「おっ、りなりーもそう思う? 愛さん嬉しいなー」

@cメ*・ヮ・リ「それにしても、どうして怪談大会なんか企画したの?」

∬8`^ヮ^)「いやー、あえて冬に怪談やるって面白そうじゃん?」

∬8`^ヮ^)「それに、最近ファミ通組の三人で集まることってなかなか無かったからさ。
.       ちょうど良い機会かなって思って考えてみたんだよね」

∬8`^ヮ^)「軽いノリで考えてたから、歩夢が失神するなんて思ってなかったけどね」

@cメ*;> _ <リ「もう!」

从||> ᴗ <||从「愛さんや歩夢さんの意外な一面が見れた。璃奈ちゃんボード『ぶいっ♪』」

∬8`^ヮ^)「さて、それじゃあ次はりなりーの番だね」

从||> ᴗ <||从「まかせて。やるからには頑張る。」

@cメ*;> _ <リ「あ、あんまり怖い話にはしないでね?」

5: 2020/01/05(日) 01:10:02.86 ID:tTQW94hT
 


  

【怪談:天王寺璃奈】




.

6: 2020/01/05(日) 01:10:06.01 ID:c4+A2iWb
(……スレタイは何が愛とかかってるの?『こわあい』?)

7: 2020/01/05(日) 01:11:57.33 ID:tTQW94hT
>>6
そうです 表記が分かり辛くてごめんなさい……

8: 2020/01/05(日) 01:14:17.23 ID:tTQW94hT
――この話は、私のとっておき。

といっても。そんなに怖い話じゃない、と思う。

でも、いつかは歩夢さんと、愛さんに。
ううん、同好会のみんなにも話そうと思ってた話だから。
ちょっぴりドキドキしてるけど、ちゃんと話すから安心して欲しい。

 

それじゃあ、始めるけど。その前に二人に一つ質問。

今、璃奈ちゃんボードを外しているけど。
二人とも、私の顔を見て、どう思う?


@cメ*・ヮ・リ「どうって……可愛い顔だと思うよ?」

∬8`^ヮ^)「二重で目がパッチリしてるしねー、すごく愛らしい感じ?」アイダケニ


……ありがとう。二人から言われると、なんだか照れちゃう。

11: 2020/01/05(日) 01:17:26.48 ID:tTQW94hT
――口裂け女みたいになっちゃったけど。話を続けようと思う。


正直な話、私も自分の顔は、きゅーとで綺麗な方だと思ってる。
だけど、それは自分に自信があるわけじゃなくて。
自分の顔が仮初の物だってわかっているから。


それから、もう一つ。謝らなきゃいけないことがあるの。


私が感情を出すのが苦手だっていうのは、二人とも知っているはず。
だから、愛さんのアイデアで璃奈ちゃんボードを使ってる。
誰にでも私の感情が、ちゃんと伝わるように。


でも、これってそういう『設定』なの。ごめんなさい。


表情は『出せない』わけじゃなくて。『出さない』ように努力してる。
何年も出してないから、ぎこちないかもしれないけれど。
困った顔も、驚いた顔もできるし、やろうと思えば笑顔にもできる。ただ、しないだけ。

12: 2020/01/05(日) 01:19:31.43 ID:tTQW94hT
∬8;`^ヮ^)「ちょ、ちょっと待ってりなりー!」

∬8;`^ヮ^)「だったら璃奈ちゃんボードって必要なくない?」


……そう言われると思った。だけど、どうしてもアイドルをやるには必要。

みんなの前で歌って踊って、笑顔になるには。
璃奈ちゃんボードを重ね掛けしないと、大変なことになっちゃう。


@cメ*・へ・リ「大変なこと?」


うん。それをこれから話そうと思う。

13: 2020/01/05(日) 01:21:29.56 ID:tTQW94hT
歩夢さんと愛さんも高等部からの入学生。
そして私は中等部から虹ヶ咲に入学。


だから、もっと昔。小学生の私のことは知らないはず。


あのね。私の小学生の頃のあだ名、なんだと思う?


 


 

それはね。「ハダカデバネズミ」。

略して「ハデミ」って呼ばれてた。

14: 2020/01/05(日) 01:24:01.34 ID:tTQW94hT
……二人とも、優しい。怒ってくれてありがとう。
けど、私は全然気にしてない。だって、もう過去のことだから。


 
今の私の顔からは想像できないかもしれないけど。
私は小柄だし、顔も小さい。それに当時は、顔の皮膚が余っていたみたいで。
笑うと、目尻や口周りや顎先、そういった所全部に皺が出たりしたの。

それだけじゃなくて。
ちょうどその頃、前歯が乳歯から永久歯に生え変わり終えるころで。
その横の歯が犬歯まで一斉に抜けちゃってた。


だから「ハダカデバネズミ」。
今の私でもすんなり受け入れるくらいには、そんな顔してた。


そのせいで、毎日からかわれた。
指をさされて笑われた。陰口を言われた。
黒板にハダカデバネズミの画像と私の写真を、一緒になって張り出された。


……そんな毎日だったから。
私は、色んな人を恨んでいたし。何より自分の顔が嫌いだった。
醜くて、皺くちゃの自分が、何より大嫌いだったの。

16: 2020/01/05(日) 01:26:17.80 ID:tTQW94hT
――そして、そう。あれは3年生の秋の頃。
遠足で、近くの遊園地に行くことがあった。


班に分かれて行動するんだけど、当然私は余り物。
誰も「ハダカデバネズミ」を班に組み込みたくはないから、しょうがない。


でも、どこかの班に入らないといけないのが絶対の決まり。
時間の都合と、事なかれ主義。どっちもあったと思うけど。
それで、担任の先生はしぶしぶ、ある班に私を押し込んだ。


そんな感じだったから、班の計画決めの時には発言権なんかない。
私もそれを分かっているので何も喋らない。


くすくす笑い声が聞こえる中で、一つ嫌な想像をした。
例えば。私一人を置いてけぼりにして、皆で楽しんだり。
あるいは、戸惑う私を陰から眺めて、笑ったりするんじゃないかって。

17: 2020/01/05(日) 01:27:36.36 ID:tTQW94hT
当日。その通りになった。
自由行動が始まって、生徒たちが思い思いのアトラクションに向かう中。
気付いたら他の班員はいなくて。ぽつりと私だけ取り残された。


先生も多分、ある程度の予想はしていたと思う。
だけど。


『どうしたの、璃奈ちゃん。ちゃんとついていかなかったの』


そうやって笑顔を浮かべながら、やんわりと注意を含んだ声をかけるだけ。

先生からすれば、散らばった他の班員を見つけて探すよりも。
その場にいる私を叱る方が楽だから。

18: 2020/01/05(日) 01:29:20.25 ID:tTQW94hT
「大丈夫。集合時間まで、集合場所にいる」

そう言って、私も残る方を選択した。
今更班の子たちに追いついても、楽しい遠足は出来ないって、わかっていたから。



そのうち、担任の先生は見回りにいって。
残された私は、観覧車の見えるベンチで、集合時間までに何周回るのかを数えて過ごすつもりだった。


一周回って、二週回って、三週回って。
十周と少し、回ったくらい。熱中して周りが見えなくなり始めたころ。


  

『やぁ』

 


背後から。
突然、声をかけられたの。

20: 2020/01/05(日) 01:31:40.27 ID:tTQW94hT
びっくりした。
他の3年生の子でも、先生でもない、知らない人の声。
当時の私に話しかけてくる人がいるなんて、久しぶりのことだったから。


でも、何より驚いたのは、声をかけられた方を振り向いた後。
辺りを見回しても、誰もいなかった。




――本当に、誰もいなかったんだよ?




3年生全体で80人くらいだったかな。それと先生が何人か。
他のお客さん。遊園地のスタッフの人。大道芸人みたいなパフォーマーの人。
そういったものが、振り返った次の瞬間に、全部消えちゃった。

残ったのは、近くにあった船をひっくり返すようなアトラクションの、海賊をイメージしたようなBGMだけ。

21: 2020/01/05(日) 01:34:33.19 ID:tTQW94hT
もう一度視線を回すと――今度は、視界の端で何かが動くのが見えた。

遠くの、メリーゴーランドの裏側。
赤や青、緑の粒の塊が、にょきっと顔を出すのが見えたの。

m&m'sのチョコレートって言えば、分かる?
あんな感じの色とりどりが、ふんわりと宙に浮かんでいて。

それが束になった風船だと気付くのに時間はかからなかった。
それから、それを手に持った「何か」のことも。


『やぁ』


その「何か」はもう一度、さっきと全く同じ音程と抑揚でそう言った。
私の目の前まで迫ってきた「何か」は――


 

――茶色の、着ぐるみ。
確か。ううん、間違いない。そこの遊園地のマスコットだった。

22: 2020/01/05(日) 01:37:19.69 ID:tTQW94hT
茶色をベースにした、でっぷり太った体に、白いもじゃもじゃのひげ。
口元からは二本の牙が生えていたから、セイウチか何かをモチーフにしてあったと思う。

胸には名札がついていたけど、真っ黒に塗りつぶされていて。
そのせいで、私も名前までは思い出せない。ごめんなさい。

だけど、そのマスコットは本来は喋らないはずだった。
身振り手振りだけで会話する、普通の着ぐるみと変わらないキャラクター。

それが今、私の目の前で。
くぐもっていたけど、女の人のような、ボーイソプラノのような。
身体に似つかわしくない声で、私に喋りかけている。



『やぁ』



マスコットは、丸い大きな黒目をこちらに向けて、三度目の挨拶。


不思議と恐怖は無かった。
あったのは、自分の喉に対する焦り。
今までそんなことなかったのに、突然声が上手く出せなくなった。

声を出そうとしても、出てくるのは空気と、掠れた小さな音だけ。
まるで、自分じゃない力で、喉が押さえつけられているみたいに。

23: 2020/01/05(日) 01:40:14.79 ID:tTQW94hT
 
『あ、返事は大丈夫。首を縦はイエス、横はノー。オッケーかな?』


そういってマスコットは、右手の人差し指と親指で丸を作った。
もっとも指が太すぎて、綺麗な丸が作れていなかったけど。


『君は迷子かな?』


首を横に振った。

私のいるこの場所は、スタートでもあるし、ゴールでもある。
そこから一歩も動いてないから、迷子なわけではない。


『お友達とはぐれたのかい?』


これも横。
あの子たちは友達じゃなかったから、はぐれたわけじゃない。


『じゃあ――』


顎に手を当て数秒黙った後、やけにオーバーに拳を掌に打ち付けると、
そのマスコットは上機嫌にこう言った。


『君は「独り」なんだねっ!』


そこで私は初めて首を縦に振った。

26: 2020/01/05(日) 01:44:20.22 ID:tTQW94hT
そういえば、前に、ネットで調べたことがあった。

「ハダカデバネズミ」って、女王を中心としたコロニーを形成する、蟻の様な習性をもった哺乳類。
だから、独りでは生きていくことなんてできない。

私は、独りの「ハダカデバネズミ」。

生きることも拒絶されて、醜い顔面を引っ提げて、のうのうと、こんなところまで来ちゃった。それが私。


 


そんな私に向かって、マスコットは『ヨーソロー!』と叫ぶと、持っていた風船を全て空に放った。

今にも雨が降り出しそうな曇天に、カラフルが吸い込まれてやがて消えていく。

その最後の一つが消えるか消えないかのところで、マスコットは私の手を掴んで走り出した。

マスコットの足元からは、歩くたびに、幼児用サンダルの様なぴよぴよが聞こえてきて、思わず私は笑顔になった。

27: 2020/01/05(日) 01:49:01.92 ID:tTQW94hT
『わあ! Pretty bomb a head! ってね!』

笑顔を見て、マスコットはそう言ってくれた。
もちろん当時の私にはその英語の意味は分からなかったけど
私の醜形を前向きに捉えてくれている事だけは理解できた。



私たちはいくつものアトラクションに乗った。

メリーゴーラウンドのユニコーンに跨るワタシを、柵の外からマスコットが見ていて。
私たちは互いが見えるたびに千切れるほど腕を振った。

コーヒーカップは、ハンドルを回し過ぎたせいで、マスコットがカップの外に放り出されちゃった。
だけど、くるくる三回とちょっと回って綺麗に着地してから、『ナイス着地であります!』とおどけてくれた。

本当は身長制限があって乗れないはずのジェットコースターにも特別に乗せてくれた。
それが嬉しくって、結局何回も乗っちゃった。

激しいジェットコースターでマスコットの頭もとれちゃいそうだったけど、
必死に抑える姿が何だかおかしくて、楽しかった。




本当に楽しかった。

死んでもいいと思った。

もう、私の人生で、これ以上楽しい事なんて何も起きないって思った。

29: 2020/01/05(日) 01:52:15.23 ID:tTQW94hT
――最後に、マスコットが私を連れて行ったのは。
人気アトラクションの陰にひっそりと建っていたミラーハウスだった。

私は、入るのを拒んだ。

ここまでかかっていた「幸せの魔法」が、一気に解ける気がしちゃうから。

自分に刻まれた皺の一本一本が、ひしひしと現実を突きつける。

このマスコットだって、現実逃避の末に私が生み出した「イマジナリィフレンド」かもしれない。
その時の私は、現実の不幸よりも、妄想の中の幸福を強く望んでいた。



お願いだから、そこには入りたくないの。



喋れない代わりに、首が取れるんじゃないかって思うくらい、強く横に振った。

それでもマスコットは優しく、背中を押してきて。
最終的に私は根負けしてしまった。

彼(彼女?)を信じたいという気持ちもどこかにあったのかもしれない。

30: 2020/01/05(日) 01:54:36.68 ID:tTQW94hT
ミラーハウスの中は、外とは比べ物にならないほどひんやりしていて。

秋と言えど残暑という言葉がぴったりな、皮膚に張り付くような湿気は無い。
無音と、無数の鏡だけがそこにあった。


私は、薄くだけ目を開き、なるべく自身の鏡像が視界に入らない様に心がけた。

でも、マスコットは言う。


『目を開けて、璃奈ちゃん』


マスコットは喋れないはずの私の名前を知っていた。

それに驚いたせいか、思わず目を開いてしまった。



――私を取り巻くすべてに、私が映っていた。



.

31: 2020/01/05(日) 01:56:37.81 ID:tTQW94hT
でも。映っていた「私」は、私であって、私ではなかった。

その一枚一枚が、微妙に現実の私と違っている。

目元だったり、口元だったり、鼻筋だったり、おでこの広さだったり。


今いる私の場所から遠い場所の鏡ほど、現実の私からかけ離れていく。

一番端の、奥の、暗い、隅の、鏡に映った私は、美しかった。


もう、私であるべきパーツなんて一つもない。
それでも、あれは私だと、浅ましくもそう思った。


マスコットは、いつの間にか持っていた小振りなハンマーを私に握らせた。



『最後の鏡に映った君が、本当の君になるんだよ』







そう言い終わるか終わらないかの内に、私はめちゃめちゃにハンマーを振り回した。

32: 2020/01/05(日) 01:58:06.59 ID:tTQW94hT
目がぱっちりした私の鼻が砕けて、弾け飛ぶ。

鼻筋の通った私が、目玉を飛び出させて、砕け散る。

愛らしい口元の私が、頭蓋をカチ割られて、崩れ去る。



もう、私は、誰を、何を、どこを、ぶち壊しているのか分からなくなっていた。


何十、何百、何千の私を〇した。
辺り一面が、私のパーツの海に溺れた。
歩くたびに、私の部品が、パリパリと音を立てた。


私は、予備の部品の、あまりの、鉄くずの部分なのに、
じゃあ、この足元に散らばる幾千の"私"はなんなのだろう。



もう頭が狂いそうだった。



いや、もう狂っていた。




ただ、醜悪な自分を〇すことだけに、喜びを見出していた。

33: 2020/01/05(日) 02:00:13.89 ID:tTQW94hT
――パンパンッ!



マスコットが手を叩いて、私を止めた。

気が付けば、もう残り2枚の鏡しか残っていなかった。


最初に自分が映った、醜くグロテスクな鏡。
最後に自分が見た、美しく、麗しい鏡。


マスコットは言う。



『この鏡は、どこかの宇宙、どこかの世界の君なんだ』

『この鏡に映るのは、君と同じように悩み、嘆き、それでもなお生きようとした、どこかの誰か』

『君はそんな大勢の「他人の自分」を〇したんだよ』

『さぁ、最後の選択だ。君は、誰を〇して誰になるんだい?』



――マスコットの真っ黒な眼が、大きく見開かれていた。

大きさなんて変わらないはずなのに、めいっぱいに広がったその瞳を、鏡の中の私に向けていた。
爪なんか無いはずの茶色の手が、ぎりりと、万力の様に私の肩に食い込んでく。

逃がさないよ。

無言の圧力で、マスコットはそう言っていた。

無数の私の屍の上で、私は、何者になるかを選択しなければならなかった。

35: 2020/01/05(日) 02:02:18.66 ID:tTQW94hT
答えはとうに決まっているはずだった。


醜い私が死ぬのが正解に決まっていた。



でも、振り続けた腕がダルくて、

     熱を持っていて、


 重くて、                痛くて、
        仕方がなくて、

                         どうしようもなくて、

だから、振り上げられなくて、

                  決して死ぬのが怖いんじゃなくて、

  〇したことに後悔なんてなくて、


今更友達がほしくなんてなくて、        呪った人たちに謝りたくなんてなくて、


   お父さんお母さんにごめんなさいなんて言いたくなくて


泣きたくなくて、

           逃げたくなくて、
                                 喚きたくなくて、


                 しゃがみ込みたくなくて――



――もうどうにでもなれって、ハンマーを、醜い私が映る、鏡に向かって振り上げて。




「鏡像のハダカデバネズミ」を完全に消すため、頭上に掲げたハンマーを振り下ろした。

36: 2020/01/05(日) 02:03:29.62 ID:tTQW94hT
沢山の鈴が鳴るような、金属のたわんだ唸り声が響いた。









――鏡には、ヒビが入っただけで、割れていなかった。





鏡に映るワタシは、泣き顔で、いつも以上にぐしゃぐしゃで、それでも、安堵の中で、歪な笑顔を浮かべていた。

ヒビのせいで、福笑いのパーツみたいに目も鼻も口も、本来の位置には無かったけど、それは少しだけ自分が好きになれるような笑い顔だった。



マスコットは軽く頷いた後、ヒビが無い方の遠くの鏡を指差して、



『いつか君もあの子の様になれる』



と言ってくれた。



私はそれが嬉しくて、同時に悲しくて、マスコットの胸に噛り付くように泣き伏せた。









『ただ、行為には責任が、責任には代償が伴うんだよ』

37: 2020/01/05(日) 02:04:13.28 ID:tTQW94hT
――ミラーハウスを出ると、既にそこは元の世界に戻っていた。

走り回る子供、それを追う先生、風船を配るマスコット。

やがて、私に気付いた先生が、私の班の生徒を引き連れて、やってきた。

『ちょっと、璃奈ちゃん、どこ行ってたのっ!?』

いつもこちらに向けるような、昼行燈で曖昧な笑顔ではない。
あまりの剣幕だったので、私は思わず笑ってしまった。



瞬間、生徒たちが悲鳴を上げた。



先生も泡を吹いて失神した。

一番気の強い子が、私を指差しながら、上ずった声でこう言った。

『お前っ、顔っ、化けものっ!!!』

そう言いながら、泣きじゃくる隣の子のポーチから手鏡を取り出すと、私に投げてよこした。

その鏡に映る自分を見て、私は気付いてしまった。




――なるほど、これが代償なのだ、と。

38: 2020/01/05(日) 02:05:05.40 ID:tTQW94hT
……ふぅ。これが、私が素顔を、そして笑顔を。

二つのどちらも出せない理由。


∬8;`-_ -)「……」

∬8;`^ヮ^)「……いやー、りなりーって怖い話上手いねー!」

∬8;`^ヮ^)「びっくりして、ひっくり返っちゃいそうだったよ!思わず!」


……ううん。作り話なんかじゃない。全部ぜんぶ、本当のこと。


@cメ*・へ・リ「ねえ、璃奈ちゃん」

@cメ*・へ・リ「代償って、どういうこと?」


歩夢さんも、愛さんも。私の笑った顔って、見たことある?


∬8`^ヮ^)「もー、りなりーは最近よく微笑んだりしてるじゃん!
      表情も柔らかくなったしさ!」

違う。もっとちゃんとした、にっこり笑顔。

@cメ*・へ・リ「それは……確かに見たことないかも」


だったら、丁度いい機会。二人とも、ちょっと並んでくれる?

40: 2020/01/05(日) 02:06:06.73 ID:tTQW94hT
 

@cメ*・ヮ・リ ∬8`^ヮ^)    「こう?」                   ( 川川从


@cメ*・ヮ・リ ∬8`^ヮ^)                           ( 川川从「うん、そこでいい」


@cメ*・ヮ・リ ∬8`^ヮ^)                           ( 川川从「じゃあ、いくね」


@cメ*・ヮ・リ ∬8`^ヮ^)    「……」                  ( 川川从



@cメ*;゚ヮ゚リ ∬8;`゚ヮ゚)                           ( 川川从 ニッ






@cメ*;゚м゚リ ∬8;゚×゚)                            ( 川川从 ニィィ……






@cメ*;゚м゚リ ∬8;゚×゚)      「……」                   ( 川川从


.

41: 2020/01/05(日) 02:07:04.46 ID:tTQW94hT
   












                  ね?












.

42: 2020/01/05(日) 02:07:31.91 ID:tTQW94hT
【怪談:天王寺璃奈】終

47: 2020/01/05(日) 03:27:42.65 ID:Hq82dua/
笑うとミラーハウスの中で壊しまくった平行世界の自分の顔の醜いパーツを寄せ集めた顔になってしまい、それが今の美少女顔になれた代償って事かな

70: 2020/01/05(日) 23:36:12.69 ID:gO53vpG0
いいホラーSSだった、おつ
>>47
福笑いのパーツみたいってのはそういう意味か

71: 2020/01/05(日) 23:41:31.98 ID:gJdgFKSi

冬といえば怪談SS いい感じに怖かった

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1578153813/

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