【SS】かすみ(25)「かすみんって呼ばないでください」【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


1: (しまむら) 2021/06/21(月) 22:45:50.26 ID:ApFM7djO
かすみ「みーんなー!」

かすみ「宇宙一可愛い、スクールアイドルのかすみんだよ〜!」

かすみ「かすみんがみーんなをきゅん、きゅん! させちゃうよぉ〜!」

かすみ「応援してねっ!」

かすみ「えへっ!」ニコッ




ピピピピピピッ!! ──ピッ


かすみ(25)「……」

かすみ「はぁ……」

かすみ「最悪」


──その日の目覚めは、最悪な気分だった。

7: (しまむら) 2021/06/21(月) 22:49:51.75 ID:ApFM7djO
かすみ「……」

かすみ「……ねっむ……」


私の名前は中須かすみ。25歳。恋人無し。フリーターである。

スマホから奏でられるアラーム音で目を覚ます。

夢を見ていた。私が輝いていたけれど、同時に痛々しかった時の頃の思い出が夢の中で再現された。


かすみ(宇宙一可愛い?)

かすみ(皆をきゅんきゅんさせちゃう?)

かすみ「本当に……何言ってたんだろうなぁ……私は」

かすみ(きゅんきゅんしたいのは……私だっつの)


不意に鏡を見つめる。

髪もボサボサ。何も楽しくなさそうな、ときめきを感じられない瞳。そこには可愛くない私が映る。

──あの頃は本気で、宇宙一可愛いと思っていたんだけどなぁ。


かすみ「……」

かすみ(バイトの準備しよ)


そう思い私は、身体を起こした。

8: (しまむら) 2021/06/21(月) 22:53:41.71 ID:ApFM7djO
『──では、現在大ブレイク中のアイドルのこの方がゲストとして登場です!』


かすみ「……」アム

かすみ「……」モグモグ

かすみ「あっ……」


朝、トーストをかじりながら朝のニュースを見つめる。そこにはゲストとして、ある人が映っていた。


歩夢『おはようございます。上原歩夢ですっ』


かすみ「……歩夢……先輩……」


私の高校の時の先輩が、テレビに映っていた。

12: (しまむら) 2021/06/21(月) 22:57:16.54 ID:ApFM7djO
『いやぁ、上原さん。本当に美人ですねー』

歩夢『ふふっ、ありがとうございます』

『今度朝ドラマの主演にも決定していると聞きましたよ?』

歩夢『はいっ! ありがたいことに、なんと──』

ピッ!!


かすみ「……」


歩夢先輩をテレビで見るのは、これが初めてのことではない。

彼女は今や、有名人。

私とは別世界の人間だ。


かすみ「……」

かすみ「……私の方が」

かすみ「先にスクールアイドルだったのに」


歩夢先輩は、優しくて可愛くって、私の憧れだ。歩夢先輩の事は大好きだ。

──でも、そんな大好きな先輩に嫉妬してしまう自分がいる。

私、ひどい人間だよね。


かすみ(本当に私って)

かすみ(可愛くないよね)

ピローン

かすみ「……ん?」

かすみ(メッセージ……?)




17: (しまむら) 2021/06/21(月) 23:05:45.46 ID:ApFM7djO
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

しずく「あっ! かすみさんっ! こっちこっち」フリフリ

璃奈「待ってたよ、かすみちゃん」

かすみ「待たせてごめんね。2人とも」

かすみ「……でもさぁ」

かすみ「当日の朝にいきなり夜飲みに誘われても、正直困るんだけど……」ジトー

しずく「何か用事でもあったの?」

璃奈「気になる」

かすみ「あったら来れると思う?」

しずく「ならいいじゃん。最近会えてなかったし」ニコッ

璃奈「しずくちゃんと連絡取り合ってて、お互い夜フリーだったから、久しぶりに集まろってなったの」

璃奈「それでかすみちゃんも誘おうってなった」

かすみ「まぁそんなことだろうと思ったよ」

かすみ「……とりあえず久しぶりだね」

かすみ「しず子、りな子」

しずく「うんっ!」

璃奈「会いたかった」


久しぶりの親友二人との再会だった。

20: (しまむら) 2021/06/21(月) 23:14:38.39 ID:ApFM7djO
かすみ「──そんでね、心の底から思ったのよ。私のせいじゃないじゃん! って!」


飲み会開始から暫く経ち、話題は仕事への愚痴。

二人とは高校1年生の時からの親友だ。

遠慮なく話せる、本当に大好きな子達。

だからこそ、ありとあらゆる愚痴を吐き出せた。

──大人になってから、周りに気を遣うことが増えた。上手く生きるために必要なスキルだけど……ほんと息苦しい。

だから今こうやって集まって皆と話が出来て、久しぶりに楽しいと思えた。


しずく「かすみさん。飲みすぎだよ?」

しずく「話してる内容は凄く分かるけど、ちょっと落ち着こ?」

璃奈「酔い止めいる?」

かすみ「あぁ、ありがとうりな子」

かすみ「──ってそれ車酔いのやつじゃん! いらないよそんなのぉ!」

璃奈「ツッコミ入れられるくらいだから、まだ正常だね」

しずく「あはは……」

22: (しまむら) 2021/06/21(月) 23:22:47.96 ID:ApFM7djO
かすみ「うぅ……二人が羨ましいよぉ……」

かすみ「片や有名な女優……」

かすみ「片や有名な研究家……」

かすみ「私は……私は……」

かすみ「フリーター……しかもオペレーター……」

かすみ「うあああああん!! なんで私の人生こうなっちゃったのよぉ〜……!!」

かすみ「あの頃に戻りたいよぉ〜……!!」グスグス


酔いが回ってきた。個室と言えども外なのに、私はみっともなく泣き出してしまう。


璃奈「か、かすみちゃん。泣かないで?」ナデナデ

かすみ「うぅ……お金持ちなのに優しい……」

璃奈「言い方……」

しずく「……」

しずく「かすみさん」

しずく「今日、大事な話があったの」

かすみ「ふぇ……?」キョトン

26: (しまむら) 2021/06/21(月) 23:27:11.36 ID:ApFM7djO
しずく「もう一度、アイドルを目指してみない?」

かすみ「!?」

しずく「今度ね、私のマネージャーが企画するプロジェクトで──」

かすみ「無理だよ」


一気に酔いが、覚めた。


かすみ「私には無理だよ。しず子」

璃奈「……」

しずく「ど、どうして?」

しずく「が、頑張ってみようよ! ほら、かすみさん可愛いし」

かすみ「可愛くないよ」

かすみ「私は、もう可愛くない」

かすみ「……あの頃だって別に──」

しずく「か、かすみさん!!」バンッ!

かすみ「…………」

しずく「あっ」

しずく「ごめんなさい……」

かすみ「……」

29: (しまむら) 2021/06/21(月) 23:35:52.39 ID:ApFM7djO
かすみ「……そうやって私の事を思ってくれるのは嬉しいよ」

かすみ「でも、私には今更アイドルになんてなれないよ」

璃奈「……諦めるなんて、かすみちゃんらしくないよ」

かすみ「私らしいって、なに?」

璃奈「……」

かすみ「……何回もオーディションに受けた」

かすみ「アイドルになる為に、努力した」

かすみ「でも」

かすみ「お金と時間だけが、どんどん無くなった」

かすみ「精神と体力をすり減らして、色々なオーディションに受けても……結果は残念なお知らせばかり」

かすみ「事務所には所属してなかったし、直接家にお祈りメールばかりが届く」

かすみ「いいとこまで行っても、最後に落ちる」

かすみ「それが何年も続いたよ」

しずく「……」

璃奈「……」

38: (しまむら) 2021/06/21(月) 23:50:49.22 ID:ApFM7djO
かすみ「今ではもう、毎日生きるので精一杯だよ」

かすみ「最近になって、両親の凄さに気が付いたよ」

かすみ「毎日ご飯を作ってくれて、夜まで働いてくれて、虹ヶ咲学園に通わせてくれて、お小遣いは5000円だったけれど……可愛いお洋服も靴も化粧品もお気に入りのシャンプーも……あれもこれもなんでも買ってくれた」

かすみ「甘やかしてくれた」

かすみ「……お金を使ってくれたの」

しずく「……」

璃奈「……」

かすみ「そんな私が、いつまでも夢を追うだけの人生を歩んじゃ、ダメなんだよ」

しずく「……それでいいの?」

かすみ「へ?」

しずく「この前、歩夢さんとお仕事被った時に……歩夢さんも言っ──」

かすみ「────」


そんなつもりは、一切無かった。

でも、私は……その名前を聞いた瞬間──


かすみ「あの人の名前を、出さないでッ!!」

しずく「っ!!」ビクッ!!


──親友に、怒鳴ってしまった。

40: (しまむら) 2021/06/21(月) 23:56:27.31 ID:ApFM7djO
かすみ「──あっ」ハッ

しずく「…………」

かすみ「っ……」

璃奈「かすみちゃ──」

かすみ「ごめん、しず子。りな子」

かすみ「私、今日は帰る」

しずく「あっ、ま……待って!」

かすみ「ほんとごめん」


適当に1万円をテーブルに置き、逃げるように私はその場から立ち去ってしまった。

本当に、私って可愛くない。

心配してくれる親友二人に、こんな態度も取ってしまう。


かすみ(大っ嫌い)


昔は、自分の事が大好きだったのに。

あの頃にはもう、戻れないよ。

そう思いながら私は、涙を堪えながら家に帰宅した。

42: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:05:11.71 ID:QYJvPaYi
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

2人との飲み会から、一週間が経った。

しず子とりな子の2人からの連絡は、ない。


かすみ(愛想つかれちゃったかな……?)

かすみ(けど……2人は人生を成功させている)

かすみ(別に私がいなくたって……あの二人の人生はこのまま上手く進んでいくはずだ)

かすみ「別に……私がいなくたって……いい」

かすみ「……その方が……いいかもしれない……」


そう口には出すけれど、2人と会えなくなるのは辛い。

でも、あんな別れ方をしてしまったから、自分から何かメッセージを送ることが怖くて出来ない。

中須かすみは自分勝手な人間だなって思った。

44: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:12:08.74 ID:QYJvPaYi
かすみ(今日も……バイトか)

かすみ(オペレーターの仕事……毎日同じ事の繰り返しなんだよなぁ)

かすみ(何の意味もないよね……本当に)

かすみ(辞めたい)


おぉ、なんと情けない事か。

毎日生きる事に必死なのに、バイトまで辞めたいとは。──本当に情けない。


かすみ「……あの頃に……戻りたい」


自分が無敵だと思っていた、あの頃に戻りたい。

自分で二人に言ったのにも関わらず、私はそんな不可能な事を呟く。

──その時だった。スマホの着信音が鳴り響く。


かすみ「……?」

かすみ「メッセージ?」


デジャブだ。一週間前と同じような展開だ。

メッセージの内容は、とある人からのご飯のお誘い。


かすみ「え?」

かすみ「侑先輩……?」


それは、憧れの先輩からの連絡だった。

47: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:18:07.34 ID:QYJvPaYi
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「かすみちゃん! 久しぶりっ!」

かすみ「侑先輩、久しぶりですね」


居酒屋の予約された個室に入ると、そこには侑先輩がいた。

自然と笑みが零れる。

しず子とりな子とは多少は顔を合わせていたけれど、侑先輩とは本当に久しぶりだった。


かすみ「最後に会ったの、いつでしたっけ?」

侑「んー、彼方さん達の喫茶店がオープンした時じゃない?」

かすみ「あー、もう2年も前……」

侑「えっ!? そんな経つんだ! はぁ……時間経つのって早いね」

かすみ「ほんとですよね」

侑「ねー」

51: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:22:59.45 ID:QYJvPaYi
かすみ「そう言えば侑先輩、髪下ろされたんですね」

侑「さすがにもうツインテールは……ねぇ?」

かすみ「いや、多分似合いますよ?」

かすみ「あの頃と変わらず、可愛いままです。背だって変わらないですし」

侑「ちょっと! 私身長気にしてるのに……」

かすみ「あっ、ごめんなさい」

侑「別にいいけどさぁ……」

侑「──でも、あれだね」

かすみ「へ?」

侑「かすみちゃんもだよ」

侑「あの頃と変わらず」

侑「ずっと可愛いよ」

かすみ「…………」

53: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:25:30.40 ID:QYJvPaYi
かすみ「やめてくださいよ」

侑「へ?」

かすみ「私は、可愛くないです」

侑「……」

かすみ「お世辞でそう言ってくれるのは嬉しいですけど」

かすみ「私は、可愛くないです」プイッ

侑「……」

侑「ふふっ」ニコッ

かすみ「!?」

侑「不貞腐れてるかすみんもかわいいよ」

かすみ「は、はぁ!?」

かすみ「何言ってるんです!? 私は可愛くないですし、別に不貞腐れてないです」

かすみ「あと!」

かすみ「かすみんって呼ばないでください」

54: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:29:43.52 ID:QYJvPaYi
侑「えぇ〜、私の中でかすみちゃんはナンバーワンスクールアイドルを目指してるかすみんだからなぁ」

かすみ「黒歴史です」

侑「そんなことないと思うよ」

かすみ「もう! そんな話はいいじゃないですか!」

かすみ「そんな話より、私は侑先輩の話を聞きたいです」

侑「そう? 別に私の話だって面白くないと思うよ?」

かすみ「いいから、話してほしいです」

侑「うん。分かった」

56: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:39:02.21 ID:QYJvPaYi
侑先輩は昔から話すのが上手な方だった。

それに加えて聞き上手で、優しくて……みんなのサポートをしてくれた。

当然、私の事もたくさん助けてくれた。

自分よりも他人を優先できる人。

同好会が解散の危機に直面していた時も、みんなの糸を結び直してくれて……本当のスクールアイドル同好会が完成した。

私の事もずっと可愛いって言ってくれて、優しく撫でてくれて──憧れの先輩。


かすみ「へぇ……学校で音楽の教師をやってるんですね」

侑「うん。まだクラスは受け持ってないけれど……近々担任になるかもしれない」

かすみ「侑先輩が担任のクラスかぁ……」


想像するだけで、羨ましい。

こんな可愛い人が担任だなんて、羨ましいぞ若者達よ。


かすみ「侑先輩、生徒に好かれますよね絶対」

侑「うーん……嫌われてはないと思うけど」

侑「みんな私の事を『侑ちゃん先生』って呼ぶんだよね……教師としての威厳が……」

かすみ「そこが侑先輩の良い所だと思います。誰からも好かれる感じ」

侑「嬉しいけどさぁ……」

57: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:46:20.54 ID:QYJvPaYi
かすみ「そんな侑先輩ちゃん先生がどうして突然私をご飯に誘ってくれたんですか?」

侑「なんか多いよかすみちゃん」

侑「誘った理由かぁ……」

かすみ「はい」

侑「可愛いかすみんと久しぶりに会いたかったからかな」

かすみ「……だから私は──」

侑「かすみちゃん」

侑「自分を否定するの、ダメだよ」

侑「自身を腐らせちゃうよ」

かすみ「へ?」


さっきまで、ニコニコと笑顔で話していた侑先輩。

──でも今は、真剣な眼差し。


かすみ「急に……どうしたんです?」

侑「かすみちゃん」

侑「もう一度、アイドルを目指してみない?」

かすみ「え?」


今朝と、同じ感覚だ。

一週間が経ったのにも関わらず、まただ。

完全なデジャブ。


しずく『もう一度、アイドルを目指してみない?』


あの時のしず子と、侑先輩の姿が重なる。

61: (しまむら) 2021/06/22(火) 00:52:35.98 ID:QYJvPaYi
かすみ「なに……言ってるんですか」

侑「アイドル目指してみない?」

かすみ「……侑先輩」

かすみ「2人から何か、言われました?」

侑「んー?」


侑先輩がニコニコと笑う。

思えばここ、先週しず子達と飲んだ場所だ。

全く同じ場所。


侑「何の事?」

かすみ「……はぁ……」

かすみ「別に何も言わなくて良いです」

かすみ「……侑先輩、私はもうアイドルを目指しません」

かすみ「その夢は、捨てました」

侑「本気で言ってる?」

かすみ「……はい」

侑「本当に?」

かすみ「……」


真剣な表情。この人は昔からこうだ。

普段はすごく可愛いのに、こういう時は別人みたいになる。


侑「本当に、アイドル目指す夢は諦めたの?」

かすみ「……っ……」

62: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:01:45.18 ID:QYJvPaYi
かすみ「……今更、もう無理ですよ」

かすみ「絶対に……無理です」

侑「無理じゃない」

かすみ「……無理です」

侑「無理じゃないよ」

かすみ「……先輩に……何がわかるんですか。私が今まで……どれだけ努力してきたか、分かりますか?」

侑「ニジガクの時の姿は知ってるけど、それ以降は何も分からない」

侑「ただ、今のかすみちゃんも昔と変わらず可愛い事は分かるよ」

かすみ「……っ……だから、私は……可愛くないです」

侑「かすみんは誰よりも一番可愛いって言ってたでしょ?」

かすみ「現実を知ったんですよ。井の中の蛙だったんです。私は可愛くありません」

侑「それは何度だって言うよ? かすみちゃんは今も変わらず可愛いよ」

かすみ「……侑先輩」

かすみ「さっきから、何が言いたいんですか?」



侑「私が、かすみちゃんの夢を叶えられるように全力でサポートする」

かすみ「──え?」

67: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:10:52.41 ID:QYJvPaYi
侑「私は、みんなが夢を叶える為のサポートがしたいって……高校の時から言ってたよね?」

侑「それは今も変わらないよ」

かすみ「……ど、どうして……?」

侑「かすみちゃん達、スクールアイドル同好会の皆が私にたくさんトキメキを与えてくれたから」

かすみ「……」

侑「本当の事を言うとね」

侑「かすみちゃんの事、しずくちゃんと璃奈ちゃんから話を聞いたの」

かすみ「!!」

侑「かすみちゃんを救ってあげてほしいって言われた」

侑「しずくちゃん、私には何も出来ないのって泣いてたよ」

かすみ「……」

侑「余計なお世話だって、思うよね? こんな私の事を考えないで自分の事を考えなよって、二人に対してそう思うかもしれない」

かすみ「……」

侑「そう思っても仕方ないと思う」

侑「でもねかすみちゃん。大人になっても学生の時と変わらず……本気で自分の事を気を掛けてくれる友人って、すごく大切だよ?」

かすみ「……侑先輩……」

68: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:14:56.22 ID:QYJvPaYi
かすみ(しず子……りな子も)

かすみ「なんでこんな私の為に……」

侑「かすみちゃんの事が大好きだからだよ」

かすみ「!!」

侑「私もかすみちゃんの事が大好き」

かすみ「……」

侑「私、今はクラス持ってないからさ」

侑「時間は取りやすいよ」

侑「だから、全力でサポートできる」

かすみ「……」

侑「かすみちゃん……もう一回聞くね?」

侑「もう一度、アイドルを目指してみない?」

69: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:17:07.35 ID:QYJvPaYi
かすみ「……ですか……?」

侑「ん?」

かすみ「いいんですか……?」

かすみ「かすみん……もう一度アイドルを目指して……」

侑「それはかすみちゃんが決めることだよ」

かすみ「……わ、私は……」




かすみ「アイドルに……なりたいです……っ……!!」


そう言葉を発すると、涙が零れてしまった。

73: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:21:54.95 ID:QYJvPaYi
侑「かすみちゃん」スッ


本当は、アイドルになりたい。小さい頃からの、夢なんだもん。諦められるわけが、ない。

侑先輩が、私の涙をハンカチで拭いてくれる。

優しく頭を撫でてくれる。

あの頃を思い出す。侑先輩から撫でてもらうの、大好きだった。


侑「かすみちゃんの夢、私が叶えられるように全力でサポートするから」

かすみ「うん……うん……!」

かすみ「ありがとう……ございます……!!」

侑「かすみちゃん」

侑「アイドルの基本は?」

かすみ「!!」


なんだか懐かしい感覚だ。


かすみ「……っ……」ゴシゴシ

かすみ「笑顔……です!」ニコッ

侑「うんっ!」ニッコリ

74: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:28:23.15 ID:QYJvPaYi
侑「やっぱりかすみちゃんは可愛いなぁ……」ナデナデ

かすみ「うぅ……なんか恥ずかしいです」

侑「随分としおらしくなっちゃって……もっと自信持とうよ」

侑「かすみちゃんは可愛いよ?」

侑「あの頃と変わらず、ずっとね?」ニコッ

かすみ「……」

ギュッ

侑「どうしたの?」

かすみ「侑先輩は優しすぎます」ギュュュ

侑「皆が私に優しくしてくれたからだよ。だから私も皆に優しくしてるんだよ」

かすみ(スクールアイドル同好会以外の子達にも、誰にでも優しいくせに……良い人すぎ)

77: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:37:33.70 ID:QYJvPaYi
侑「さて、かすみちゃん」

侑「ちょっといいかな?」

かすみ「え? はい」


くっついていた侑先輩から、少し離れる。

侑先輩はカバンから、2つのヘアゴムを取り出した。

それを器用に結び──


侑「よしっ」

かすみ「あっ……」


──あの頃の姿に、戻った。


侑「やぁ〜……やっぱりちょっと恥ずかしいね」

侑「けど、この髪型はやっぱり気合い入るよ」グッ

かすみ「……」


侑先輩は、変わらない。

今も変わらず、あの頃と一緒だ。

優しくて、可愛くて──私の憧れの、大好きな先輩。


かすみ「侑先輩、可愛いです」ニコッ

侑「そう? ありがとう」

侑「みんなの方が可愛いけどね」

かすみ(相変わらず自己評価低い……自分の可愛さ知らないんだよなぁ侑先輩)

侑「じゃあ、かすみちゃん」

侑「久しぶりにマネージャーとして」

侑「キミを全力でサポートするから」

侑「よろしくねっ!」ニッコリ

かすみ「──はいっ!」ニコッ

かすみ「よろしくお願いします、侑先輩っ!」

79: (しまむら) 2021/06/22(火) 01:38:40.80 ID:QYJvPaYi
──これは私が

再びアイドルを目指す物語。

173: (しまむら) 2021/06/23(水) 19:19:09.98 ID:38ns9odS
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」


──全身から汗が溢れ出る。

膝に手を当て、真下を向き、息を整えるように呼吸をする。苦しい。

場所はお台場海浜公園。ストレッチ後にウォーキングし、徐々にスピードを上げランニングへ移行。合計20分くらい走ったのかな?

そのまま少しずつスピードを落として、ウォーキングをしようと思ったけれど、体力が持たずそのまま今の状態に至ってしまった。

体力トレーニングって、こんなに辛かったっけ?


侑「かすみちゃん、お疲れ様。はい、タオルだよ」

かすみ「あ、ありが、と……ございます……」


侑先輩がくたびれている私に近付き、声を掛けてくれる。なんだか懐かしい気分。辛かったけれど、少し気分が高揚した。

174: (しまむら) 2021/06/23(水) 19:27:48.39 ID:38ns9odS
侑「どうだった? 久しぶりの体力トレーニング」

かすみ「死ぬかと思いましたね」

侑「アイドルが言ってはいけない言葉だぁ……」


侑先輩からタオルを受け取り、汗を拭く。

いい匂いがする。侑先輩のタオルかな?


侑「かすみちゃんアイドル化計画の一つ、体力をスクールアイドル現役の時に戻そう」

侑「早速やってもらったけれど、所感はどう?」

かすみ「正直、ここまで体力が落ちてるとは思いませんでした」

侑「まぁ、社会人になると身体を動かす機会がほとんど無くなっちゃうからね……仕方ないよ」

かすみ「先は長いなぁ」

侑「とりあえず、ウォーキングできてないからこのまま歩くよ?」

かすみ「分かりました」


侑先輩が一緒に歩いてくれる。

夜の公園の海から来る夜風がすっごく気持ちいい。

176: (しまむら) 2021/06/23(水) 19:34:41.56 ID:38ns9odS
かすみ「侑先輩」

侑「ん〜?」

かすみ「……身体動かすのって、やっぱり楽しいですね」

侑「運動嫌いだったかすみちゃんからそんなことが聞けるだなんて思わなかったよ」

かすみ「むぅ……うるさいなぁ……」ムスー

侑「あははっ! ごめんごめん」

侑「頑張ってるかすみちゃんも可愛いよ?」

かすみ「!!///」

かすみ「っ……///」

かすみ「もー! 先輩、からかわないでくださいよぉ!」ポカポカ

侑「からかってないよ〜」ニコニコ


あの頃に戻ったみたいで──楽しい。

177: (しまむら) 2021/06/23(水) 19:40:12.47 ID:38ns9odS
侑「じゃあかすみちゃん」

侑「この後の練習メニューなんだけど」

かすみ「へ?」

かすみ「この……あと?」

かすみ「こんだけ走った後なのに……?」

侑「え? 当たり前じゃん」

侑「まだランニングしかしてないでしょ? オーバーワークにならない程度には練習メニューをたくさん考えてきたから」

侑「頑張ろーね! かすみちゃんっ!」ニッコリ

かすみ「…………」

かすみ「はい……」


自然と項垂れてしまう私がここにいた。

178: (しまむら) 2021/06/23(水) 19:49:47.12 ID:38ns9odS
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「はぁ〜……」

侑「温泉、気持ちいいねぇ〜」

かすみ「ですねぇ〜……」


侑先輩の練習メニュー完了後、私達はお台場にある温泉に来た。

侑先輩から行こうと提案があった。アメとムチが素晴らしい。大きい湯船でゆっくり出来るのが、最高に気持ちいい。


侑「お客さんも少ないし、ゆっくりできるね」

かすみ「平日の夜ですからね」

かすみ「というか先輩、明日学校の仕事があるんじゃ?」

侑「有給取った」

かすみ「へ?」

侑「明日もかすみちゃんとやりたいことあったし、休んだ」

かすみ「えぇ……」


ありがたいけど、大丈夫なのかと思った。

教師ってそんな簡単に休めるものなの?


侑「大丈夫大丈夫。今は働き方改革とかいうので休みやすい環境なんだよ。担任としてクラスを持ってたら話は変わってくるけどね」

かすみ「……私の心の声を読んでます?」

侑「読めるわけないじゃん」


侑先輩がくすくすと笑う。

可愛いなぁ。

180: (しまむら) 2021/06/23(水) 19:58:15.98 ID:38ns9odS
侑「かすみちゃん、明日は仕事休みだよね?」

かすみ「はい。前に侑先輩に渡したシフト通りです」

侑「おっけー。ありがとうね」

かすみ「いえいえ」

侑「……」ジー

かすみ「? 先輩、どうしました?」

侑「かすみちゃん」

侑「あの頃と全然体型変わらないね」

かすみ「」

かすみ「…………」

かすみ「……背は少しだけ伸びたんですけど」

侑「何センチ?」

かすみ「……1センチ」

侑「かわいい〜」ニコニコ

かすみ「やめてくださいよぉ! わたし、自分の体型気にしてるんですからね!?」

かすみ「ナイスバディになるんだろうなぁ〜って思ってたのに……高校生の時からなんにも変わらなくて……胸も大きくならないし……!!」

かすみ「うわーん!! なんで私だけこんなちんちくりんなままなんですかぁ!? しず子はすっごくスタイル良くなったのにぃ!!」

侑「わー! か、かすみちゃん! 他のお客さんも少しはいるから!」

かすみ「うぅ……」

侑「ほ、ほら! 私も変わってないし……ね?」

かすみ「侑先輩はあの時と変わってなくてもおっ〇〇大きいじゃん……」

侑「もう少しオブラートに包んでほしいかなぁ……」




181: (しまむら) 2021/06/23(水) 20:09:06.70 ID:38ns9odS
かすみ「うーん……気持ちよかったですねぇ」

侑「だねー」

かすみ「少し眠くなってきました」

侑「もういい時間だからね。明日に備えて、早く帰って休もう」

かすみ「そうですね」

侑「それじゃ、帰ろっか」

かすみ「はい」

侑「というわけでかすみちゃんの家まで道案内よろしく」

かすみ「はーい」

かすみ「──って、え?」

かすみ「道案内?」

侑「うん」

侑「これから暫くの間お世話になります」ニコッ

かすみ「え? え?」

かすみ「泊まるって事ですか?」

侑「うん。しばらくの間ね!」

かすみ「え、えぇぇぇぇ!?」

183: (しまむら) 2021/06/23(水) 20:22:00.10 ID:38ns9odS
侑「一緒にいた方が色々とアイドルのサポートがしやすいじゃん」

かすみ「そ、それはそうですけど! 突然過ぎますよ!」

侑「あれ? 前にこの事言ってなかったっけ?」

かすみ「初耳ですよ!」

侑「ごめんごめん」

侑「ダメ……?」

かすみ「……だ、ダメじゃないですけど……」

侑「衣食住たくさんサポートするよ」

侑「もちろん家賃も負担するよ」

かすみ「……それはいらないですよ」

侑「いやいや、タダで泊めてもらうってわけにもいかないし……」

かすみ「……」


私は知っている。
こうなったらこの人が止まらないって事を、よく知ってる。

本当に、あの頃から変わらない。

思ったらすぐに行動。それが侑先輩の思考だ。

──この考えと行動に、たくさん救われてきた。


かすみ「侑先輩が一緒にいてくれるだけでいいです」

かすみ「だからこれから……よろしくです」ペコリ


だから、思いっきり付き合おう。

その方が私も楽しいし、面白いもん。


侑「!!」パァァァァ

侑「ありがとう! かすみちゃん!」ニコッ


侑先輩の笑顔が、少し眩しく感じた。高校生の頃から変わらない、いい笑顔。

──私もあの頃と同じ笑顔を作れるように、努力しないと。

そう思った。

191: (しまむら) 2021/06/23(水) 21:44:30.77 ID:38ns9odS
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「おぉ〜……」

侑「かすみちゃんの家、結構広いね!」

侑「これなら一緒に住んでも問題なさそう!」ニコッ

かすみ「私の生活優先度の中で家の広さは重要だったので」

かすみ「駅から遠いですけれど、家賃もちょうど良いんですよ」

侑「良い所見つけたねぇ〜」

かすみ「しず子が紹介してくれたんです。知り合いが不動産会社を経営してるから〜とかなんとか言ってましたね」

侑「しずくちゃんが? 顔が広いなぁ」

かすみ「あの子テレビとか色々出ていて有名人ですからねぇ」

侑「……なるほど」


侑先輩が少し考え込む。真剣な表情だ。

色々と、考えてくれているんだろう。


かすみ(ありがたいなぁ)

侑「あっ、ごめんねかすみちゃん。少し考え事しちゃってた。荷物とかどこ置いていい?」

かすみ「荷物はそこに……」

かすみ「あっ」

侑「ん? かすみちゃん、どうしたの?」

かすみ「先輩の寝る為の寝具がないです」

侑「え? そこにソファあるじゃん。あれでいいよ」

かすみ「だ、ダメですよ! 私が」

侑「ならさ」

侑「かすみちゃんのベッドで一緒に寝る?」

かすみ「」

193: (しまむら) 2021/06/23(水) 21:54:48.15 ID:38ns9odS
かすみ「な、ななななな何言ってるんですか侑先輩!」

侑「え? 別に女同士だし良くない?」

侑「あっ、でもベッドってプライベートゾーンだし嫌だったりするか……」

かすみ「そ、そういうことじゃないです!!」

侑「嫌ではないの?」

かすみ「嫌じゃないんですけど……」

侑「?」キョトン


侑先輩が首を傾げる。可愛いけど本当にこの人は……。


かすみ「侑先輩」

かすみ「今では女の子が女の子を好きになることも昔ほど珍しい事じゃなくなったんですよ?」

侑「それと今が関係ある……? あっ、もしかしてかすみちゃん──」

かすみ「私は違います! 違うんですけど!」

かすみ「その! ……あの人に何か言われたりしませんかね?」

侑「あの人?」

かすみ「その……えっと……」

かすみ「歩夢先輩……」

侑「え? なんで歩夢の名前が今出るの?」

かすみ「えっ、だって歩夢先輩は……。あっ、もしかして最近歩夢先輩と連絡取ってなかったりするんですか?」

侑「ううん。毎日連絡取り合ってるよ?」

かすみ「なら……余計にダメじゃないですか。ほら、歩夢先輩、侑先輩の事大好きじゃないですか」

侑「? 私も歩夢の事大好きだけど?」

かすみ「あ゛ー!! なんか会話が上手く噛み合ってない気がするー!!」

侑「?」

194: (しまむら) 2021/06/23(水) 22:01:57.01 ID:38ns9odS
かすみ「と、とにかく! まずいですよ!」

かすみ「歩夢先輩に怒られちゃうかもしれないじゃないですか」

侑「いやいや大丈夫だよ」

侑「それにさ、歩夢だってかすみちゃんの事よろしくねって私に言ってきたもん」

かすみ「え?」

侑「歩夢、かすみちゃんの事すごく気にかけてたよ?」

かすみ「…………」

侑「かすみちゃん?」

かすみ「…………」


気にかける?

有名で、人生大成功している歩夢先輩が、こんな落ちぶれて燻っている私を?


かすみ「…………」

侑「か、かすみちゃ〜ん? おーい……」


なんだかすごく──


かすみ「ムカつくなぁ」ボソッ


イラッとした。

195: (しまむら) 2021/06/23(水) 22:14:12.28 ID:38ns9odS
侑「か、かすみちゃん? どうしたの?」

かすみ「…………」


有名人の忙しさは、私なんかでは想像がつかないものだと思う。

しず子から少しスケジュールを見せてもらった時があるけれど、すごく忙しそうだった。

歩夢先輩も同じだろう。今や色々な番組で引っ張りだこな彼女は、相当忙しいと思う。
こういうのは本当によくないし、どちらに対しても失礼になっちゃうと思うけれど、今の歩夢先輩はしず子よりも有名だし、相当なんだと思う。

でも、そんな人が私を気にかけていてくれているらしい。

同情かな? それとも、昔の知り合いだから純粋に気にかけてくれているのかな?

どちらにしろ、カーストである私に忙しい歩夢先輩が気にかけていることに──余裕を感じてしまい……イラッとした。

──私なんかに目を向けるな。


かすみ(忙しいだろうに私に気を掛けてくれているんだ! って……ポジティブに思えない辺り、本当に私って可愛くないよね)

かすみ(嫌になるなぁ、本当に)

200: (しまむら) 2021/06/23(水) 22:22:58.84 ID:38ns9odS
かすみ「侑先輩」

侑「う、うん」

かすみ「一緒のベッドで寝ましょう」

侑「!! いいの?」

かすみ「歩夢先輩が羨ましいって思うくらい、仲良〜く一緒におやすみしましょ」ニコッ

侑「わーい! やった! ありがとうかすみちゃん!」

かすみ「良いんですよ〜侑先輩〜!」

侑「かすみちゃんの寝顔を独占できるなんて、ときめいちゃう〜!」

かすみ「では、もう夜も遅いので寝る準備をしましょう!」

侑「うん!」

かすみ(……侑先輩、取っちゃうからね)

かすみ(歩夢先輩)

201: (しまむら) 2021/06/23(水) 22:30:17.72 ID:38ns9odS
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「さて、かすみちゃん。授業の時間です」

かすみ「はぁ……」

侑「あれ? なんかかすみちゃん元気ないね?」

かすみ「侑先輩が抱きついてきて寝付けなかったんですよ……」

侑「えぇ!? ご、ごめん。私は逆に寝心地良くて……」

かすみ「いや、いーんですけど……」

侑「そっかぁ、かすみちゃんを抱き枕にしちゃってたのかぁ」

侑「申し訳ない気持ちもあるけど、可愛いかすみんを抱き枕に出来たなんて……ときめいちゃう〜」

かすみ「先輩?」ジトー

侑「ご、ごめん。ほ、ほら! かすみちゃん! 私のヨーグルトあげるから」

かすみ「いらないですよ。……とりあえず話の続きをお願いします」

侑「う、うん」

202: (しまむら) 2021/06/23(水) 22:42:52.18 ID:38ns9odS
侑「今後、かすみちゃんが目指すアイドルの方向性を決めよう」

かすみ「アイドルの方向性?」

侑「うん」

侑「今やアイドルって、沢山の種類があるじゃない?」

かすみ「はい。昨今はアイドルブームですからねぇ〜」

侑「そうそう。学生までもがスクールアイドルとしてアイ活をしていて、全国大会まである」

侑「ずっと盛り上がってる」

かすみ「はい。だからこそ、大人になってもアイドルを目指す子が大きくて……倍率が凄いんですよね」

侑「そう。だからこそ、しっかりと方向性は決める必要がある」

侑「純粋にアイドルになりたいのか、“アイドル”という言葉がつくものにならなんでもいいのか」

侑「アイドルって、本当に沢山あるからね」

かすみ「…………」

侑「かすみちゃんは、どうしたい? どうなりたい?」

かすみ「私は……」

侑「うん」

206: (しまむら) 2021/06/23(水) 22:55:10.53 ID:38ns9odS
かすみ「その人がアイドルなのかアイドルじゃないかは、他人が決めるものだと思います」

かすみ「職業であるとは言え、誰も認めてくれなかったらそれはアイドルじゃないです」

かすみ「だから私は……」

かすみ「かすみんは、皆から認められるアイドルになりたいです」

かすみ「歩夢先輩みたいな……国民的な、誰からも認められるようなアイドルに」

侑「……うん! わかった」

侑「つまりは、歩夢みたいなアイドルになりたいってことだね?」

かすみ「……認めたくないですけど、そうですね」

侑「え? どうして?」

かすみ「だって、悔しいんですもん」

かすみ「私の方が先にスクールアイドルとして活動してたのに……」

侑「あははっ、嫉妬してるかすみんも可愛いよ?」ニッコリ

かすみ「もー! 侑先輩ってなんでも可愛いって言えばいいと思ってません!?」

侑「可愛いものは可愛いもん」

侑「それにかすみちゃんの嫉妬は、ただの嫉妬じゃない」

かすみ「え?」

侑「“羨ましい”じゃなくて、“悔しい”って思ってるんでしょ?」

侑「それって、気持ちは負けてない証拠だよ。かすみちゃんの心はまだ、折れてない」

かすみ「!!」

侑「絶対に、追い付こう。歩夢に」

かすみ「──はいっ!」

207: (しまむら) 2021/06/23(水) 23:08:02.88 ID:38ns9odS
侑「そうなるとかすみちゃん。やる事は沢山あるよ」

侑「歩夢は、ただのアイドルじゃない」

かすみ「え?」

侑「あの子はアイドルであり、歌手であり、最近では女優としても活動をしているタレントだよ」

かすみ「……」

侑「歌を歌って踊るライブを行う皆がイメージするアイドル活動以外にも、様々な仕事をマルチで行っている」

侑「作詞もしているし、バラエティ番組の司会のアシスタントもしてたりする」

かすみ「……」


改めて聞くと、歩夢先輩の凄さが分かった。本当に忙しそうだ。

……こんな所で燻っている自分が、情けなく感じた。

208: (しまむら) 2021/06/23(水) 23:23:32.42 ID:38ns9odS
侑「ただ、あの子はアイドルとしてオーディションに受かって、芸能界デビューを果たしたんだ」

侑「そんな歩夢が、なんでそれだけ色々な仕事が出来ていると思う?」

かすみ「……スキルがあるから?」

侑「その通り」

侑「歩夢、本当に色々な努力をしてたよ。私に音楽教えてって相談してきたこともあるし、寝る間も惜しんで努力してた」

侑「その結果、色々な事ができるようになった。そして、芸能界で重宝された」

かすみ「……」

侑「可愛くって、歌って踊れて、スクールアイドルの経験もある。色々な事が出来る。“こんな事までできる”っていうステータスは、テレビで使いやすいんだよね」

侑「テレビで子役の子達を紹介する時に“この子は実は特技がある!” ってコーナー見かけたりするでしょ? あぁいうのって、人の目を惹けるんだよね」

侑「芸能界で重宝されたあの子は、少しずつ有名になった。そして有名になると、交流も増えるし案件も増える。経験値が増えて、色々な仕事に呼ばれるようになった」

かすみ「……」

侑「この部屋も、しずくちゃんに紹介してもらったんでしょ? 不動産会社を経営してる知り合いがいるって言われて」

かすみ「はい」コクリ

侑「その人と知り合うきっかけができたのも、彼女達が有名になって色々な交流が増えたからだよ」

侑「そうやって、また少しずつ出来ることが増えていくんだ」

かすみ「…………」


再びアイドルを目指す。──それは、果てしなく遠い道のりな気がしてきた。

アイドルを目指して躍起になってたあの頃も、オーディションに受かることしか考えてなかった。

そして、なんで落ちた。結果、なんで落ちたのかあまり考えていなかった。

ただただ、がむしゃらにやってただけだった。何も考えずに、ずっと。

──私は、努力が足りていなかったのかもしれない。

209: (しまむら) 2021/06/23(水) 23:32:18.53 ID:38ns9odS
侑「かすみちゃん。これからやる事は沢山あるよ」

侑「私は全力でキミをサポートするし、出来ることはなんでもする」

侑「でも、一番大事なのはかすみちゃんの努力だよ」

かすみ「……はい」

侑「色々な武器を作ろう」

侑「これからは無駄なものなんて、何も無いから」

侑「これは無駄な事だなって思う事が無駄だよ」

かすみ「はいっ!」

かすみ「私、頑張ります」

侑「……いい表情だね! かすみちゃん」ナデナデ

かすみ「!! えへへ〜……!」にこ

210: (しまむら) 2021/06/23(水) 23:33:49.97 ID:38ns9odS
>>209 誤字修正

侑「かすみちゃん。これからやる事は沢山あるよ」

侑「私は全力でキミをサポートするし、出来ることはなんでもする」

侑「でも、一番大事なのはかすみちゃんの努力だよ」

かすみ「……はい」

侑「色々な武器を作ろう」

侑「これからは無駄なものなんて、何も無いから」

侑「これは無駄な事だなって思う事が無駄だよ」

かすみ「はいっ!」

かすみ「私、頑張ります」

侑「……いい表情だね! かすみちゃん」ナデナデ

かすみ「!! えへへ〜……!」ニコニコ

213: (しまむら) 2021/06/23(水) 23:40:34.31 ID:38ns9odS
侑「というわけでかすみちゃん」

侑「今日はこんなアイドルもいるんだっていう事を、研究しに行こう」

かすみ「え? どこに行くんですか?」

侑「現場」

かすみ「へ?」

侑「大丈夫、アポは取ってあるよ。上に話は通しておいてくれるってさ」

侑「さぁかすみちゃん? お出かけの準備して? あっ、音がなりにくい服装でお願いね」

かすみ「え? え?」

かすみ(げ、現場?)

侑「はぁ〜……久しぶりに会えるの楽しみだなぁ」

かすみ「……」ポカーン


ここから何が始まるのか、分からなかった。

──けれど、ここから何かが始まる気がした。

214: (しまむら) 2021/06/23(水) 23:52:19.80 ID:38ns9odS
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

せつ菜「侑さん! お久しぶりですっ!」ギュッ

侑「うん! せつ菜ちゃん久しぶり〜! ──あっ、菜々ちゃんの方が良いかな?」ギュッ

せつ菜「ふふっ、せつ菜は今や私のソウルネームですから、侑さんのお好きな方で構いませんよ?」

侑「ならせつ菜ちゃんでっ」

せつ菜「はい!」


かすみ「…………」


手を繋ぎ、ぴょんぴょん跳ね、年甲斐も無く楽しそうな先輩方二人を私は眺めていた。

──というか、困惑していた。

とりあえず、挨拶しよう。

216: (しまむら) 2021/06/24(木) 00:02:43.96 ID:+WTSJeFJ
かすみ「菜々先輩、お久しぶりです」ペコリ

せつ菜「わぁ……! かすみさん! お久しぶりですっ!」ペカー

かすみ(あの時と全く変わらない笑顔……肌綺麗だなぁ……)ジー

せつ菜「ん? どうしました?」

かすみ「いえ、なんでも」

侑「久しぶりにせつ菜ちゃんと会えて嬉しいんだよね? かすみちゃん」ニコニコ

かすみ「まぁ、はい」

侑「あらま、意外と素直だ」

せつ菜「『そ、そんなわけないじゃないですかぁ! ぷいっ!』って言いそうですもんね、かすみさん」

かすみ「言いませんよ。どんなイメージですか」

せつ菜「かすみさん、大人になっちゃったんですねぇ……」シュン

かすみ「なんで悲しそうなんですか……」

かすみ「それにしてもここって」

せつ菜「はい! アフレコ現場の関係者控え室です!」

侑「せつ菜ちゃんに頼んで、招待してもらったんだぁ〜」

218: (しまむら) 2021/06/24(木) 00:13:04.77 ID:+WTSJeFJ
せつ菜「私が書いたライトノベルが、今度アニメ化するんです!!」

せつ菜「もぉー……本っ当に嬉しいですっ!」

侑「本当に良かったね、せつ菜ちゃん」

せつ菜「はいっ! 侑さん、報告した時にお祝いしてくれて本当にありがとうございました!」

侑「いーえ!」ニコッ

かすみ「…………」


知らなかった。せつ菜──菜々先輩が今、どんな仕事をしているのか。

いや、自分から少し皆との交流を避けていたんだ。

しず子とりな子とはたまに会っていたけれど、それ以外の方とは……。


かすみ「あの、菜々先輩」

せつ菜「かすみさん、あの頃みたいにせつ菜でいいですよ?」

かすみ「……せつ菜先輩」

かすみ「おめでとうございます。そして、何も知らなくてごめんなさい」

せつ菜「え? 何がですか?」

かすみ「……その……せつ菜先輩が今やってらっしゃるお仕事とか、アニメ化が決まった事とか知らなくて……」

219: (しまむら) 2021/06/24(木) 00:19:07.20 ID:+WTSJeFJ
せつ菜「謝ることじゃないですよ! 全然気にしないで下さい!」

せつ菜「それに、今こうして久しぶりにかすみさんと会えて嬉しいですっ!」

せつ菜「大事なのは、今ですよっ」ペカー

かすみ「……はいっ! 私も今こうしてせつ菜先輩と会えるの、嬉しいです」ニコッ


あの頃と変わらない笑顔、安心する。


「優木せつ菜先生。お話中に申し訳ございません。監督が呼んでいまして」

せつ菜「あっ、はい。ありがとうございます! すぐ行きますっ」

せつ菜「侑さん、かすみさん。少し席を外しますが、ゆっくりしていて下さいっ!」スタスタ

侑「行ってらっしゃい〜」フリフリ

かすみ「……侑先輩」

侑「ん?」

かすみ「ここに連れてきてくれたのって、やっぱり意味があったりしますよね?」

侑「もちろん」コクリ

220: (しまむら) 2021/06/24(木) 00:32:30.62 ID:+WTSJeFJ
侑「かすみちゃん、ここはアフレコ現場」

侑「ここには様々な方がいるよ」

侑「音響監督やミキサー、録音助手などの音響関係の方々。監督、演出家、制作プロデューサー。せつ菜ちゃんみたいな原作関係の方も勿論、色々な方が集まっている」

かすみ「……」

侑「そして、メインでお仕事する人達は誰だと思う?」

かすみ「声優さん……ですか?」

侑「そう!」

侑「かすみちゃん。最近の声優って、色々な活動をしてるんだ」

侑「そんな声優とかすみちゃんが目指すアイドルって、何か繋がりがあると思う?」

かすみ「……もしかして」

かすみ「アイドル声優、ですか?」

侑「そう!」

かすみ「確かに……最近すごく目立ってますよね。アイドル声優」

侑「声優ユニットがあるくらいだからね。中には紅白歌合戦に出た事がある声優さん達もいるくらいだよ」

かすみ「え? それって凄くないですか?」

侑「うん。凄いことだよ」


侑「かすみちゃん、アイドル声優って道もあると思うんだよね」

かすみ「え?」

侑「純粋なアイドルを目指してるかもしれないけれど、こういう道も目指せるよ。多大な努力は当然必要だけどね」

かすみ「……」

221: (しまむら) 2021/06/24(木) 00:39:52.98 ID:+WTSJeFJ
侑「まぁ、今日はそんなアイドルもいるんだなって研究だし」

侑「それ以外にも、沢山学べることがあると思う」

かすみ「学べること……」

侑「うん。芸能人の方々の挨拶だったり、現場の雰囲気。収録の様子。普段知れない事も知る事ができる。貴重な時間だよ?」

かすみ「!!」

かすみ(侑先輩……本当に色々考えてくれてる)

かすみ(私も色々と、頑張らないと!)

かすみ「……はい! いっぱい吸収しますっ!」

侑「その意気だよ!」ナデナデ

かすみ「はい!」





せつ菜(2人とも楽しそう……早く話に行きたい〜!!)

「せつ菜先生。あのお二人はご友人ですよね?」

せつ菜「はい!」

せつ菜「私の大切な、大好きな友人達ですっ!」ペカー

224: (しまむら) 2021/06/24(木) 00:48:00.16 ID:+WTSJeFJ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「うーん……楽しかったぁ!」

侑「かすみちゃんはどうだった?」

かすみ「なんか色々と……凄かったです」

かすみ「普段何気なく見てるアニメって、あんな感じで作られてるんだなぁって思いました」

侑「だよねだよね! はぁ……語りたいこと沢山あるけれど、せつ菜ちゃんはこの後もお仕事あるって言ってたからなぁ」

かすみ「色々と忙しそうでしたもんね」

侑「うん」

かすみ「ただ、まぁ……また今度会いましょうよ。一緒に、ご飯食べ行きましょう」

侑「うんっ! そうだね!」

かすみ「はい!」


前までは同好会の皆と会うのが、少し怖かった。けれど、今日久しぶりにせつ菜先輩と会えて……楽しかったし、やっぱり嬉しかった。

少し、前向きになれた気がする。

ただ、それにしても……。


かすみ「侑先輩」

侑「ん?」

かすみ「……最近の声優さん」

かすみ「可愛い方や美人な方が多すぎません?」

侑「かすみちゃん」

侑「わかる」

かすみ「ですよね!?」

228: (しまむら) 2021/06/24(木) 00:55:21.92 ID:+WTSJeFJ
侑「いや、本当に可愛い子ばかりだった」

侑「特に大西さんって方が本当に可愛くて……ときめいちゃう〜」ホッコリ

かすみ「…………」

かすみ(あれ? 自分から話題を振っておいてあれだけど)

かすみ(なんかモヤモヤする)

かすみ「……侑先輩」

侑「ん?」

ギュッ

侑「え?」

かすみ「…………」ギュュュュ

侑「か、かすみちゃん?」

かすみ「も、もっと……かすみんの事も褒めてほしいです……」

侑「!!///」キュンッ

侑「──かすみちゃん!! 可愛いよッ!!」ギュュュュ

かすみ「……あ、当たり前じゃないですか!////」


我ながら、本当にめんどくさい女だと思った。


かすみ(……あれ?)

かすみ(私……可愛いって言われても)

かすみ(否定しなかったな)


──やっぱり少しずつ、前向きになれているんだろう。そう思えた。

232: (しまむら) 2021/06/24(木) 01:11:50.40 ID:+WTSJeFJ
かすみ「それにしてもせつ菜先輩、すごいなぁ」

かすみ「楽しそうだったし、今幸せなのかもしれませんね」

侑「……うん。そうだね」

侑「せつ菜ちゃんは今、幸せだと思う。──でもね、かすみちゃん」

侑「せつ菜ちゃん、本当は漫画家になりたかったみたいだよ」

かすみ「え?」

侑「でも、応募作品を沢山描いて色々な出版社に送っても、入選しなかった。最終選考で落ちたこともあったみたい」

かすみ「……」

侑「色々と悩んでたよ。相談にも乗ってた。……その中で、気分を変えるためにライトノベルを書いて応募したら、まさかの大賞作品。こうしてせつ菜ちゃんはライトノベル作家としてデビューしたみたい」

かすみ「……それって……」

侑「すごく、複雑かもしれないね」

かすみ「…………」

侑「でもあの子は、折れなかった。私の道はこれだ! って思えたみたいで、今も頑張ってる」

かすみ(せつ菜先輩……そうだったんだ)

かすみ「……ごめんなさい……」

侑「謝ることじゃないよ」

侑「ただ、将来ってのは本当に、どうなるか分からないよ」

かすみ「……」

かすみ「私、頑張ります」

かすみ「絶対に、アイドルに……なります」

侑「……うん! その意気だよ! かすみちゃん」ニコッ

233: (しまむら) 2021/06/24(木) 01:21:22.89 ID:+WTSJeFJ
侑「そう言えばかすみちゃん。パソコンって持ってないよね?」

かすみ「え? パソコンですか? 持ってないですね」

侑「買いに行こう」

かすみ「へ?」

侑「仕事で使えるし、今後の活動の為にパソコンは必要不可欠だよ。今から買いに行こう!」ギュッ

かすみ「え、えぇ!? いや、そんなお金に余裕は……」

侑「何言ってるの。私が買ってあげるよ」

侑「かすみちゃんアイドル化計画の為に必要な経費だもん!」

かすみ「え、えぇぇぇぇ!?」

侑「ほーら行くよっ!」グイッ


そのまま、手を引っ張られる。

──侑先輩、本気で私の為に色々とやってくれているし、色々と考えてくれている。

なんで、こんなに優しいんだろうか。

分からない。分からないけれど……。


かすみ「ゆ、侑先輩! 自分で走りますから……!」

かすみ「て、手を……!!////」


──侑先輩の事が、愛おしく感じた。

235: (しまむら) 2021/06/24(木) 01:41:00.83 ID:+WTSJeFJ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「…………」グデー

「な、中須さん大丈夫? すごく疲れてるね」

かすみ「あ〜、ごめんね。平気平気〜……」


中須かすみ25歳。絶賛筋肉痛でございます。

ここ最近夜はトレーニング、昼間は仕事と中々にハードだ。

学生の頃は何かに集中できたけど、大人は考える事もやるべき事も多くて中々大変だ。

でも、夢の為に、支えてくれる侑先輩の為に頑張らないと。


「まぁ、今日は受電担当だからピークまでは暇だもん。ゆっくり休も?」

かすみ「うん。心配してくれてありがとねー」

「うん」コクリ

かすみ(コールセンターのオペレーター。暇な時は本当に暇なんだよなぁ……毎日同じ事の繰り返しだし……)

かすみ(この時間……無駄な気が──)


侑『これは無駄な事だなって思う事が無駄だよ』


かすみ「!!」

かすみ(……そうだ。無駄なことなんてない。この時間に出来る事もある)

かすみ(コールセンターで出来ること、学べること……そうだ!)

かすみ「あっ、ねぇねぇ」

「んー?」

かすみ「敬語マニュアルと、NGワード集って、どこのファイルに保存してあったっけ?」


──ここでも学べることは沢山ある。

それは、自分で見つけるんだ。

無駄な事なんて、何も無い。

237: (しまむら) 2021/06/24(木) 01:50:37.95 ID:+WTSJeFJ
かすみ「ただいま〜」

侑「おかえり! かすみちゃん!」

侑「ご飯作ってあるよ〜」

かすみ「ありがとうございます! 侑先輩大好き!」

侑「はぁ……癒される」

かすみ「私の方が癒されてますよ」クスクス


家に帰ると、先輩がお出迎えしてくれる。この生活にもだいぶ慣れた。

一緒に寝るのは中々慣れないけれどね。

私は仕事始めが10時からで、就業が19時の為、どうしても侑先輩の方が家に着くのが早くなってしまう。


かすみ「今度は私が先輩のご飯作りますからね」

侑「ほんと? かすみちゃん料理得意だから楽しみ〜」

かすみ「任せてくださいっ!」

239: (しまむら) 2021/06/24(木) 02:03:27.01 ID:+WTSJeFJ
かすみ「そう言えば先輩。今日の体力トレーニングはどこでやるんですか?」

侑「あっ、その事なんだけどねかすみちゃん」

侑「先に渡したいものがあるんだ」

かすみ「え?」

侑「はい、これ」スッ

かすみ「これは……カードキー?」

侑「うん」

侑「ようやく借りられたんだ〜」

かすみ「借りられた?」

侑「そっ! 24時間、何時でも利用可能なレンタルスペース。それはそこの鍵だよ」

かすみ「レンタルスペース……?」

侑「そのレンタルスペースね、防音なの」

侑「そこでなら、いつでもボーカル練習できるよ」ニコッ

かすみ「!!」

侑「とりあえず3ヶ月分借りたよ」

かすみ「3ヶ月分!? ゆ、侑先輩、それすごく高かったんじゃ……?」

侑「いや、そうでもないよ? 数日で借りるとそこそこするけど、結構な日数で借りたから割引も効いたよ」ニコッ ナデナデ

かすみ「……」

かすみ「なんで……そんなに……色々してくれるんですか?」

侑「え? だって全力でサポートするって約束したじゃん」

かすみ「私、他人ですよ……?」

侑「友達だし、大事な後輩だよ」

かすみ「…………」

240: (しまむら) 2021/06/24(木) 02:11:38.40 ID:+WTSJeFJ
侑「私、今すごく楽しいんだ」

侑「学生の頃に戻ったみたいでさ」

かすみ「…………」

侑「可愛いかすみちゃんとも一緒にいれるし。本当に楽しい」

かすみ「…………」

侑「頑張るって言ってくれて、ありがとうね」

侑「かすみちゃん」ニコッ ナデナデ

かすみ「…………」


優しく頭を撫でてくれる侑先輩。

色々とサポートしてくれる侑先輩。

本当に、優しすぎる。いつか危ない人に騙されちゃうんじゃないかって思うくらいだ。

お人好しな、侑先輩。優しい。すっごく嬉しい。

すごく、嬉しいはずなのに──


かすみ「……っ……!」ポロ、ポロ

侑「か、かすみちゃん!?」


──涙が溢れ出てしまった。

243: (しまむら) 2021/06/24(木) 02:22:37.90 ID:+WTSJeFJ
侑「ご、ごめん! よ、余計なお世話だった……?」

かすみ「ううん……違うの……っ……!!」ポロポロ

かすみ「私……夢、諦めてたのに……落ちぶれちゃってた……のにぃ……!!」

かすみ「もう、諦めなきゃって……思ってたのに……」

かすみ「こんなに……こんなに……!」

かすみ「……ひっぐ……ぅ……っ……!!」

かすみ「……かすみんの……為に……頑張ってくれる……っ……方がいて……!」

かすみ「……なんで、もっと早く……もっと、頑張らなかったんだろ……って、思っちゃって……っ……」

かすみ「嬉しいのに……同時に……悲しくなっちゃって……申し訳なくて……ひぐ……っ!!」

侑「かすみちゃん……」

ギュッ

侑「よしよし。泣かないで? かすみちゃん。いい子、いい子」ナデナデ

かすみ「うぅ……うっぐ……」ギュッ

かすみ「わたし……頑張ります……頑張ってアイドルに……なります……!!」

侑「うん。ファイトだ。かすみん」

かすみ「侑……先輩……っ!」ギュュュュ

侑「…………」


侑「……かすみちゃんが本当に困っていた時に……助けてあげられなくて……ほんと、ごめんね……」ボソッ

280: (しまむら) 2021/06/24(木) 23:45:38.71 ID:+WTSJeFJ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「さて、かすみちゃん。今日はお互い休みの日!」


いつもよりテンション高めの侑先輩。昨日泣いちゃったから、励まそうとしてくれているのかな?


侑「ここ最近疲れも溜まってきただろうから、オフの日にしよう」

かすみ「え? いいんですか……?」

侑「休むことも大事だよ」ナデナデ

かすみ「……はいっ!」


なんだか、気を使わせてしまった感がある。

ただ、言われてみればそうだ。ここ最近、疲れが溜まって来ている気がする。お言葉に甘えてみることにした。


侑「どこか行きたいところとかない? お出かけして気分変えよ?」

かすみ「……うーん……そうですねぇ……」

侑「どこでもいいよ?」


行きたいところ。そう聞かれると中々思い浮かばないものである。

ただ、この前せつ菜先輩と会って、少しだけやりたいことができた。

折角休みの日を侑先輩が作ってくれたんだ。今日、実行しよう。


かすみ「侑先輩」

かすみ「私の行きたいところは──」




281: (しまむら) 2021/06/24(木) 23:55:34.51 ID:+WTSJeFJ
彼方「ふわぁぁぁあああ……」

彼方「いい天気だね〜」

彼方(ぽかぽか陽気、開店準備も終わって、お客さんを待つこの時間がなんだかんだ一番好きかも)

彼方(ゆっくりできるからね)

彼方「平和だなぁ……」

彼方「……すやぁ……」


カラカラン


彼方「!! ね、寝てないよっ! いらっしゃいま──」

侑「彼方さん、久しぶりっ!」ニコッ

かすみ「……お久しぶりです」ヒョコッ ペコリ

彼方「!?」

彼方「おっ……おぉ!?」

彼方「侑ちゃんに、かすみちゃん!?」

282: (しまむら) 2021/06/25(金) 00:03:03.77 ID:IWoW4XWN
彼方「わ、わぁぁ……!」

トテトテトテッ

彼方「久しぶり〜!」

ギュッ

侑「わっとと!」

かすみ「わっぷっ!」

彼方「会いたかったよー、二人とも〜!」ギュュュュ

彼方「どうしたのさ急に〜!」


彼方先輩からいきなり抱きつかれる。

すごく柔らかい。それにいい匂いがする。

でも、少し苦しかった。


かすみ「か、彼方先輩……く、くるし……」

彼方「あっ、ごめーん」パッ

彼方「抱き心地が良くってつい〜。二人ともあの頃と変わらず小さくて可愛いね〜」ニコニコ

かすみ「褒められてるのになんか複雑です……」ジトー

侑「あはは……」

286:1(茸) 2021/06/25(金) 08:03:27.03 ID:05jyGsqG
彼方「でも、急にどうしたの? すっごく嬉しいけれど……」

かすみ「その……久しぶりに皆さんと会って話がしたいなって思って」

かすみ「……中々来れなくて、ごめんなさい。メッセージも反応出来なくて……」

彼方「……」


少し、ぽかーんっとした彼方先輩。
その後すぐに笑って、何故か私の頭を優しく撫でてくれた。


彼方「会いに来てくれて、ありがとうね〜」ニコニコ

かすみ「……///」


優しい手つき。お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁっ学生の頃から思っていた。


彼方「よしっ、決めた」

彼方「今日の午前中はお店閉めるね」

侑「へ?」

かすみ「え?」

彼方「ふっふっふ〜……久しぶりに花を咲かせようね〜」ニッコリ


本当に、相変わらず──自由な方だなって思った。

でも、そういう所が好きだったりする。


彼方「みんな呼んでくるから、ちょっと待ってて〜」ニコッ

287: (茸) 2021/06/25(金) 08:14:13.96 ID:05jyGsqG
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

エマ「かすみちゃん! 侑ちゃん! 久しぶり〜」ニッコリ

果林「2年ぶりくらいかしら?」

侑「うん! そうだと思うっ」


私がここに来たかった理由。それは──元3年生組のこの方々と会えるからだ。

カフェ『La Bella Patria』

近江姉妹とエマ先輩、そして果林先輩が経営する喫茶店である。夜はBARとして営業もしている。


果林「それにしても、かすみちゃん〜?」

かすみ「は、はい」

ギュュュュュュ!!

果林「全然メッセージに返信もないし、お店にも顔を見せに来ないだなんて……ひどいじゃないの?」

かすみ「いひゃいいひゃい〜! ご、ごめんなさい〜!!」

果林「ふふっ、冗談よ。相変わらず柔らかいほっぺたで羨ましいわ」ニコッ

かすみ「子供っぽいって事ですか?」ジトー

果林「可愛いって事よ」


くすくすと笑われる。褒められている気がしない。

彼方先輩も果林先輩も、すぐに私の事をからかってくる。
可愛がられているのかもしれないけれど、私はもっと大人として扱って欲しい。学生の頃と私の扱い方が全く変わらなかった。

288: (茸) 2021/06/25(金) 08:22:43.56 ID:05jyGsqG
侑「そういえば彼方さん。今日遥ちゃんはお休みなんですか?」

彼方「うん。東雲学院の同窓会があるとかで朝からお出かけしたよ」

侑「そっかぁ〜……会いたかったなぁ」

エマ「また今度お店に来てくれれば、会えるよ? 遥ちゃんのエプロン姿すっごくかわいいから見に来てあげてっ」

侑「はいっ!」

彼方「えっへん!」

果林「なんで彼方が誇らしげなのよ」

彼方「自慢の妹が褒められているから!!」

果林「そう……」

かすみ「それにしても本当に立派なお店ですね。イチから建てたんですよね?」

彼方「そーだよ〜」

エマ「2階と3階がわたし達の生活スペースなの」

果林「ほんと……色々と大変だったわね」

彼方「えっへへ〜。だねぇ〜」

彼方「でもこれは」

彼方「私のやりたかった事だから」ニコッ


彼方先輩は、幸せそうな笑顔で語る。

289: (茸) 2021/06/25(金) 08:37:03.80 ID:05jyGsqG
東雲学院で1年生からセンターを務める、彼方先輩の妹の近江遥。あだ名は、はる子

彼女はその実力をメキメキと伸ばし、彼女が3年生の頃にラブライブ優勝を果たした。

本当に、すごいや。

そんな彼女は東雲学院を卒業してすぐに、アイドルとして芸能界デビューを果たした。

デビューして間もないのに、彼女は地上波で沢山姿を現した。

トークも上手。歌も上手い。ダンスもキレッキレ。SNSで上げる写真も可愛いものばかりで、彼女は大人気だった。

付いた呼び名は、天才。

私の友人の中で、一番早く大成した。内心めちゃくちゃ嫉妬していたのを覚えている。

でも──


遥『私、引退します』


──突然の引退宣言。テレビの前で物凄く驚いたよ。

はる子は嵐のように突然現れ、これまた嵐が過ぎた後のように姿を消したのだった。

290:続きは夜更新します。(茸) 2021/06/25(金) 08:49:26.57 ID:05jyGsqG
そんな彼女は、どうなったかと言うと……。


遥『お姉ちゃん』

遥『はい。これ受け取って』

彼方『へ?』

遥『私の貯金の一部。これで暫く遊べるし、なんでも出来ると思うよ』

彼方『え? えぇ!?』

遥『学生の頃、私に好きなようにやらせてくれたよね?』

遥『今度は私がお姉ちゃんを支える番だよ』

遥『これからは、お姉ちゃんがやりたいことをやって?』

遥『もう、私は守られるだけの子じゃないから』

彼方『遥ちゃん……』


──これが、このお店が出来るきっかけだったと聞いた。

300: (しまむら) 2021/06/25(金) 22:49:15.08 ID:IWoW4XWN
果林「ほんと、あの時は突然びっくりしたわ」

エマ「わたしなんかスイスからまた日本に戻ることになったもんね〜」

彼方「いやはやぁ〜、おふたりには感謝してますよ〜?」

彼方「でも私、こうして皆と一緒に何かしたかったの。それに、さ……一緒に歳をとっていきたかったんだ〜」ニコニコ

果林「もう誕生日が嬉しくない歳になってきたけれどね」

彼方「まぁね〜」

エマ「でもわたし、いますっごく幸せで楽しいっ!」

果林「……まぁ、そうね」ニコッ

彼方「私も幸せだよ〜!」ギュッ

侑「はぁぁぁ……! 仲良し過ぎてときめいちゃう〜」ウットリ

かすみ(ほんと、いつまでも仲良しな先輩達だなぁ……)

かすみ(微笑ましいや)

308: (しまむら) 2021/06/26(土) 03:50:31.43 ID:F07u0z3G
侑「それにしても、元有名アイドルと元カリスマ読者モデルがいるお店だし、大繁盛してるんじゃない?」

侑「お料理が上手な彼方さんもエマさんもいるし!」

彼方「モチのロンだぜ〜。雑誌に取り上げられたりもしたし、結構いい感じなんだよ」

果林「ただ……その、ね?」

エマ「出会いは……ないよねぇ〜……」

彼方「……そうだね……」


先程まで楽しげな雰囲気だったのに、いきなりどよーんとした空気になる。

意外と気にしてるんだね。


彼方「バスケ部のあの子、結婚したみたいだよ?」

エマ「oh......」

果林「どんどん先越されるわね……」

彼方「もうさ、3人で結婚する?」

果林「一人余るじゃないの」

エマ「えぇ!? 彼方ちゃんも果林ちゃんも大好きだから、どちらかなんて選べないよぉ……」

彼方「私と結婚してください」スッ
果林「私と結婚してください」スッ

エマ「えぇ!? 選べないよー!!」

侑「あはは……」

かすみ「仲良すぎですね……」




309: (しまむら) 2021/06/26(土) 04:02:35.15 ID:F07u0z3G
彼方「じゃあ、侑ちゃんとかすみちゃん、また遊びに来てね〜」

エマ「待ってるからね〜!」

果林「特にかすみちゃんね」

かすみ「わ、わかりましたって……」

侑「また遊びに来るねー!」


彼方さん達に見送られながら、お店を後にする。

お昼からピークに入るそうで、さすがに営業再開しないと……ということらしい。

そもそも急遽午前中をお休みにしてたし、その辺大丈夫なんだろうか?

休みも気分で決めることもあるらしい。
でもそんな所が、ある意味彼方さんが持つお店らしく、あの人の自由な雰囲気を味わえて結構好き。


侑「やぁ〜、楽しかったね! かすみちゃん!」

かすみ「ですね。やっぱりいつ会っても、あの頃と同じ雰囲気で話すことが出来て楽しいです」

侑「いくつになっても変わらないんだろうなぁって安心感があるよね」ニコッ

310: (しまむら) 2021/06/26(土) 04:52:45.36 ID:F07u0z3G
>>309 誤字修正


彼方「じゃあ、侑ちゃんとかすみちゃん、また遊びに来てね〜」

エマ「待ってるからね〜!」

果林「特にかすみちゃんね」

かすみ「わ、わかりましたって……」

侑「また遊びに来るねー!」


彼方先輩達に見送られながら、お店を後にする。

お昼からピークに入るそうで、さすがに営業再開しないと……ということらしい。

そもそも急遽午前中をお休みにしてたし、その辺大丈夫なんだろうか?

休みも気分で決めることもあるらしい。
でもそんな所が、ある意味彼方先輩が持つお店らしく、あの人の自由な雰囲気を味わえて結構好き。


侑「やぁ〜、楽しかったね! かすみちゃん!」

かすみ「ですね。やっぱりいつ会っても、あの頃と同じ雰囲気で話すことが出来て楽しいです」

侑「いくつになっても変わらないんだろうなぁって安心感があるよね」ニコッ

311: (しまむら) 2021/06/26(土) 04:59:56.00 ID:F07u0z3G
侑「かすみちゃん、この後の予定はどうする?」

かすみ「そうですねぇ……」

かすみ「そうだ。少し、虹ヶ咲学園の周辺を歩きませんか?」

侑「えっ? いいねぇ! 懐かしい気分になりそう!」

かすみ「彼方先輩達と話していたら、なんか行きたくなっちゃいまして」

侑「私も行きたいっ!」

侑「行こっ、かすみちゃん!」ニコッ

ギュッ

かすみ「あっ……」

侑「ほーら、早く〜!」

かすみ「は、はい!////」


天真爛漫に、私に笑顔を向けてくれる侑先輩。

可愛い。そのまま手を引っ張ってくれる。

本当にこの人は、いつも私の手を引っ張ってくれる。

いつも、いつも。


かすみ(なんで……こんなに優しいんだろう?)

かすみ(不思議な人。今だに私の事可愛いって言ってくれるし)

かすみ(学生の頃から、ずっと変わらない。かすみんの事を、ずっとずっと可愛いって言ってくれる)

かすみ「…………」

侑「ん? かすみちゃんどうしたの?」

かすみ「……いえ! なんでもないですよ〜!」ニッコリ

かすみ(いつもありがとう。侑先輩)

かすみ(大好き)

312: (しまむら) 2021/06/26(土) 05:18:54.84 ID:F07u0z3G
侑「うわ〜! なっつかしい〜!」


虹ヶ咲学園周辺を探索する。本当に懐かしい。

多少周りのお店だったりは変わっていたけれど、雰囲気はあまり変わらない。

虹ヶ咲学園前駅から目に映る大きい校舎は、いつ見ても圧巻だ。

こんな学園に通わせてもらえていただなんて、本当に親に頭が上がらない。学費も高かっただろう。今度久しぶりに実家にでも顔を出そうかなぁ。

そんな感じで物思いに耽ながら、侑先輩と歩く。

何か目的がある訳では無いけれど、適当に歩く。

途中、コッペパンが売られている売店を見つけた。侑先輩が目をキラキラさせながら食べたいって言ってたので、買うことになった。

お互いに好きな味を買い、一口交換する。……間接キスになってしまい、少し恥ずかしくなる。

私、もう25歳なんだけどなぁ……。


侑「おいひ〜ねぇ〜、かすみひゃん〜!」モグモグ

かすみ「ほーら先輩? お口周りにクリーム付いちゃってますよ?」フキフキ

侑「ありがと〜」ニコッ

かすみ「いーえ」


──本当に、懐かしい気分になる。

こんな時間がずっと続いてほしい。

315:1(茸) 2021/06/26(土) 08:57:35.26 ID:KX9DgIuJ
璃奈「あれ? 侑さんに……かすみちゃん?」

侑「あっ、璃奈ちゃん!」

かすみ「!! り、りな子……」

璃奈「こんな所で、奇遇だね。二人でお出かけしてたの?」

侑「うんっ! デート」

かすみ「ちょ、せ、先輩!?」

璃奈「うらやましい」

かすみ「りな子も本気にしないで!」

かすみ「──というか、こんな所で何してるの!?」

璃奈「虹ヶ咲学園まだ在籍している恩師に、今度発表するレポートの報告をしてきたところ」

侑「へぇ〜! そうだったんだ」

璃奈「うん」コクリ


りな子は今、有名な研究家だ。
詳しい仕事内容は難しくて分からないけれど──勉強をする事が仕事だって言っていた。勉強が苦手な私としては、本当にすごい仕事を選んだなって思う。

ただ、彼女の職業はそれだけじゃない。

何かのゲームで、プロゲーマーとして活躍もしている。

そのゲームの配信+色々な実験を行っている動画を投稿したり等、最近流行りのYouTuberとしても活躍している。

前にこの子の動画観たけど、普通に面白かった。登録者数も10万人を超えている。

元1年生組、私以外大成しすぎでは?

──って、今はそんな事考えていないで、やる事やらないと。


かすみ「りな子。この前は本当にごめん」ペコリ


私はこの子に謝らないといけない。

316:1(茸) 2021/06/26(土) 09:04:50.16 ID:KX9DgIuJ
かすみ「この前、しず子と一緒に……私の為に色々と話して、提案してくれたのに……元気付けようとしてくれたのに……私は空気悪くして帰っちゃって……」

かすみ「本当にごめんなさい」

侑「かすみちゃん……」

璃奈「…………」

かすみ「りな子。私、またアイドル目指す事にしたよ」

かすみ「もう一度、頑張ってみようと思ってる」

璃奈「!!」


りな子がチラッと侑先輩の方を見る。侑先輩は優しく微笑んで、軽く頷いていた。


璃奈「ありがとう」

侑「かすみちゃんが決めたことだから、私にお礼を言う必要はないよ」ニコッ

璃奈「……かすみちゃん」

かすみ「うん」

璃奈「もう一度、夢に向かって頑張ろうとしてくれてありがとう」

かすみ「ううん。お礼を言うのは私の方だよ」

璃奈「──でもこの前の飲み会の件はゆるさない」

かすみ「──へ?」

璃奈「絶対に許さない」グッ

かすみ「サムズアップしながら2回言わないで!?」

かすみ「ゆ、許してくれないの!?」

317: (茸) 2021/06/26(土) 09:10:03.12 ID:KX9DgIuJ
璃奈「うん」

璃奈「しずくちゃん、あの後泣いてたよ?」

璃奈「大切な友達を泣かせちゃダメ」

かすみ「うっ……」

璃奈「私も泣いちゃった」

かすみ「ほ、本当……?」

璃奈「1リットルの涙が出た」

かすみ「本当に言ってる!?」

璃奈「ウソ」

かすみ「もぉー!!」

璃奈「かすみちゃん、反応がオーバーだからすき」

かすみ「もっと好きな部分を見つけてよ!」

璃奈「というわけでかすみちゃん」

璃奈「絶対に許さないから──頼みたい事があるの」

かすみ「え?」

璃奈「もう一度、スクールアイドルのかすみんに戻ってお手伝いしてほしい」

かすみ「か、かすみん……?」


りな子の口元が、少しだけ緩んでいる気がした。

319: (茸) 2021/06/26(土) 09:22:12.20 ID:KX9DgIuJ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

───────────────

♪〜

『りなチャンネル!』

璃奈『どーも皆さんこんばにちは。りなりーです』

璃奈『今日も楽しい実験をやっていくよ』

璃奈『今日の実験はこれ』

デデンッ!!

『ゴムってどれだけ耐久力あるの?』

璃奈『ゴムの力を持った主人公が活躍する作品をみんな知っているかな?』

璃奈『その強さを、今日は証明したいと思う』

璃奈『そんな今日の動画。ゲストがいるの』

璃奈『きて』

かすみ『みなさーん! こーんにーちはー!!』

かすみ『元スクールアイドルの、かすみんだよ〜? 知っている方もいるかな〜? この子とは学生の頃からぁ──』

璃奈『というわけで今日は150km/hを投げられるピッチングマシーンのアランカスタムMk-IIIを用意した。ここにある輪ゴムを──』

かすみ『ちょっとぉ! 私まだ自己紹介中なんだけど!』

璃奈『というわけでかすみちゃん。この輪ゴムをあの板にとりあえず5000本くらい結んでほしい』

かすみ『さては私の事雑用させる為に呼んだでしょ!?』

───────────────


愛「ぷっはっはっはっは!!」

愛「いい反応するねぇ、かすかすぅ〜!」

かすみ「…………」

璃奈「うん。楽しかった」


りな子から当然の仕事を要求されてからはや数日。

──私は愛先輩が経営するお店の『もんじゃ 宮下』で公開処刑を受けていた。

320: (茸) 2021/06/26(土) 09:29:21.62 ID:KX9DgIuJ
愛「でも本当に面白いよこの動画。かすかす、本当に5000本の輪ゴムが貫通しちゃった後に輪ゴム1万本結んだの?」

かすみ「結びましたよ!! あそこから2時間半かけてね!!」

かすみ「あとかすかすって呼ばないでください!」

愛「じゃあかすみん」

かすみ「かすみんとも呼ばないでください」

愛「あはは! どっちやねんって!」

かすみ「普通に名前で呼んでくださいよ」

愛「そう言えば今日ゆうゆは?」

かすみ「話を逸らさないで下さいよ。……侑先輩は用事があって来れないそうです。残念がってましたよ」

愛「愛さんもゆうゆに会いたかったなぁ……また今度来てって伝えておいて?」

かすみ「自分で連絡して下さい」

愛「辛辣!」

かすみ「ぷいっ!」プイッ

愛「25歳でぷい発言はまずいっしょかすみん」

かすみ「急にマジにならないで下さい」

322:続きは夜更新します。(茸) 2021/06/26(土) 09:38:28.35 ID:KX9DgIuJ
愛「それじゃ、二人ともゆっくりしていってね〜」スタスタ

璃奈「ありがとね、愛さん」

かすみ「べーっだ!」

璃奈「かすみちゃん、楽しそう」

かすみ「……愛先輩も本当に変わらないね」

かすみ「相変わらずやりにくいったらありゃしないよ」プイッ

璃奈「ふふっ、そうだね」


りな子が優しく微笑む。可愛い笑顔だ。


かすみ「それで、今日はなんで突然ご飯に誘ってくれたの?」

璃奈「うん。大事な話があった」

かすみ「大事な話?」

璃奈「私の思った通りだった」

かすみ「何が?」

璃奈「かすみちゃんはやっぱりすごい子だよ」

璃奈「あの頃と変わらない。私の憧れのスクールアイドルのままだよ」

かすみ「……なにさ急に」

璃奈「かすみちゃん」

璃奈「私の経営する会社に、入ってほしい」

かすみ「え……?」


りな子の表情は、真剣だった。

真っ直ぐ私を見つめてくる。

328: (しまむら) 2021/06/26(土) 23:35:43.57 ID:F07u0z3G
かすみ「会社……? え?」

璃奈「うん」

璃奈「ありがたいことに、私はそこそこ稼がせてもらってる」

かすみ「それは知ってるけど……」

璃奈「税金も結構掛かる。だから会社を立ち上げているの」

かすみ「それは知らなかったけど……そこに私を誘う理由は何?」

璃奈「タイミング合う時でいいから、私の動画のお手伝いをしてほしい」

かすみ「……りな子。答えになってないよ」

329: (しまむら) 2021/06/26(土) 23:48:04.71 ID:F07u0z3G
かすみ「私を誘うメリットがりな子にあるの?」

璃奈「かすみちゃんが出ている動画、結構伸びてる。評価も高い。愛さんからもウケてたでしょ?」

かすみ「まぁ……」

璃奈「本当に、タイミング合う時でいい。それ以外はかすみちゃんの自由な時間を過ごしてもらって、構わない。夢に向かって、トレーニングとスキルを磨く時間を作って」

璃奈「今のかすみちゃんが仕事で稼いでいるくらいのお給料も払う」

かすみ「ほ、本気で言ってるの!?」ガタッ

璃奈「うん」


つい、立ち上がってしまう。
私を見つめるりな子の表情から、冗談を言っている気配はない。

この子、本気だ。

330: (しまむら) 2021/06/26(土) 23:58:40.94 ID:F07u0z3G
璃奈「かすみちゃんだって、今後オーディションを受ける時のエントリーシートかなんかで、アルバイトって書くよりも所属している会社があった方がいいでしょ?」

かすみ「そ、それはそうだけど……」

璃奈「まだ私の会社は、芸能事務所として機能できる兆しは見えない。芸能界にコネも繋がりもないからね。だけど、いつかそんなプロダクションも作りたいなとは考えてる」

かすみ「……」

璃奈「かすみちゃんがオーディションに受かってどこかの事務局に入るまでの期間での所属で構わない」

璃奈「悪い話ではないでしょ?」


悪い話どころか、ほぼ私しか得しない話だ。

アルバイトという肩書きでは無くなって、お金も出る。動画の撮影以外は、自由に過ごしていい。
りな子は別に動画ばかりを撮っているわけでないから、結構自由な時間は取れると思う。今よりも、トレーニングに時間を割くことが出来る。


かすみ「……どうしてそこまでしてくれるの?」

璃奈「かすみちゃんの力になりたいから」

かすみ「……わけがわからないよ……」

かすみ「どうして私の為に……そんな……」

璃奈「私は、かすみちゃんから受けた恩を、お返ししてるだけ」

かすみ「お返し……?」

璃奈「うん」

331: (しまむら) 2021/06/27(日) 00:09:00.42 ID:nduFxqwn
かすみ「私……そんな、何もしてないよ」

璃奈「かすみちゃんは、いたずらっ子だった」

璃奈「いつも自分を一番に見せる為に、色々といたずらしてたよね?」

かすみ「……うん」

璃奈「でも、誰かが本当に困っている時なんかは、必死に動いてくれた。助けてくれた」

璃奈「かすみちゃんは、侑さんと同じ。他人の為に動ける人だよ」

かすみ「……でも……そんな……恩って言われる事はしてないよ」

璃奈「かすみちゃん」

璃奈「ダメなところも武器に変えるのが、一人前のアイドルだよ」

かすみ「!!」

璃奈「私の人生初のライブの前の日、みんなに迷惑掛けたあの日」

璃奈「かすみちゃんは、私に優しくそう言ってくれた」

璃奈「──私があの一言で、どれだけ救われたと思う?」

かすみ「りな子……」

332: (しまむら) 2021/06/27(日) 00:17:28.84 ID:nduFxqwn
璃奈「まぁ、ここまで色々言ったけれど」

璃奈「私は、あなたの助けになりたいだけ」

璃奈「大切な友達が、もう一度夢に向かって頑張ってる」

璃奈「それを全力で応援したい」

璃奈「この気持ちに、細かい理由なんている?」

かすみ「……」

璃奈「まぁ、でも……決めるのはかすみちゃんだよ」

璃奈「どうか前向きに、検討してほしい」

かすみ「……」

かすみ「少し、考えさせて」

璃奈「分かった」

璃奈「決まったらいつでも良いから、連絡して」

かすみ「うん。わかった」

334: (しまむら) 2021/06/27(日) 01:02:22.47 ID:nduFxqwn
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「そっか、璃奈ちゃんからそんな話があったんだね」

かすみ「はい……」

侑「かすみちゃんは、どうしたいの?」

かすみ「そりゃ……ありがたい話だとは思うんですけど……」

侑「けど?」

かすみ「そんなに甘えていいのかなって思っちゃって」


友人からお金までもらう待遇を受けていいのだろうか。そう思ってしまう。

そうなってしまうと、学生の頃と関係が変わってしまうんじゃないか? 友人のまま、過ごす事が出来るのか?

不安な気持ちがある。だから、悩んでしまう。


侑「それに加えて、関係性が変わっちゃうんじゃないかって思ってたりする?」

かすみ「……侑先輩、やっぱりエスパーなんじゃないですか?」

侑「顔に書いてあるよ〜?」ニッコリ

かすみ「……」

336: (しまむら) 2021/06/27(日) 01:31:33.23 ID:nduFxqwn
侑「大丈夫だよ、かすみちゃん」

侑「キミ達の関係は、何も変わらないよ。彼方さん達だって、学生の頃と何も変わってないでしょ?」

かすみ「……そうだとは思いますけれど……」

侑「かすみちゃん」

侑「世の中ってさ。結構人の繋がりが重要だし、人生に関わってくると思うんだ」

かすみ「え?」

侑「私が音楽の教師になったのも、虹ヶ咲学園で先生から推薦された専門学校に行ったからだし」

かすみ「……」

侑「璃奈ちゃんの気持ちを、素直に受け止めても良いんじゃない?」

侑「かすみちゃんの力になりたいって思わせたのも、かすみちゃんの今まで行動が返ってきてるだけだよ」

かすみ「先輩……」

侑「ね?」ニコッ

338: (しまむら) 2021/06/27(日) 01:45:44.86 ID:nduFxqwn
かすみ「……侑先輩」

かすみ「少し、電話してきます」

侑「うん。行ってらっしゃい」

かすみ「はい」


怖くない気持ちがないかと言えば、嘘になる。

これから先、どうなるのか分からないから。

でも、そんなのはどんな人生を歩んだって、同じなのかもしれない。

侑先輩も、りな子も。あの時のしず子だって、私の為を思って、行動してくれている。

この行為は、無駄に出来ない。──コネみたいだなって、思うし、思われると思う。

そう思われないようにする為には、実力を付ければいいんだ。結局、きっかけを成功に出来るかは自分自身の力だ。
誰からも、認められるようになろう。努力しよう。

──あの人みたいに。


prrrrrr!! ──ピッ

かすみ「もしもし、りな子?」

かすみ「急にごめん。今日の話なんだけどね──」




344: (しまむら) 2021/06/27(日) 23:41:38.78 ID:nduFxqwn
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「上原さん、本日の撮影ありがとうございました!」

歩夢「いえ、皆さんも本当にありがとうございました。貴重な体験ができましたよっ」ニコッ

歩夢「あっ、スタッフの皆さんにクッキー作ってきたので、後で食べて下さい。糖分たっぷり、甘めのやつです」

「あ、ありがとうございます! 戴きます!」

歩夢「美味しく食べてくださいねっ!」ニコッ

スタスタスタスタ

歩夢「…………」

歩夢「……ふぅ……」

しずく「歩夢さん!」タッタ

歩夢「あっ、しずくちゃん!」

歩夢「撮影お疲れ様〜」

しずく「はいっ! お疲れ様でした」ニコッ

しずく「歩夢さん……本当に演技も上手でしたね……すごいです」

歩夢「そんなことないよ。しずくちゃんが色々教えてくれたおかげだよ?」

歩夢「ありがとうね」ニコッ

しずく「い、いえ! 歩夢さんが努力した結果ですから」

345: (しまむら) 2021/06/28(月) 00:17:24.41 ID:BxLDicXe
しずく「そう言えば歩夢さん、最近かすみさんがすごく頑張ってるのを知ってますか?」

歩夢「うん。侑ちゃんから聞いてるよ」

しずく「はぁ〜……かすみさんがまた夢を追いかけてくれるって、連絡してくれたんです。嬉しかったなぁ……」ニコニコ

しずく「前に話したオーディションの話も受けてくれて、なんと最終選考まで残ったみたいなんです!」

歩夢「しずくちゃん。それ言っちゃっていいの?」

しずく「あっ……ご、ごめんなさい。聞かなかったことにしてください……」

歩夢「ふふっ、しずくちゃんの少し天然さんな所すごく可愛いと思う」ニコッ

しずく「うぅ……恥ずかしい……」

歩夢「ふふっ」ナデナデ

歩夢「…………」

歩夢「……ふぅん」

歩夢「そっか。……かすみちゃん、頑張ってるんだ」

しずく「そうなんです! かすみさんと一緒にお仕事できるかもしれないなんて、本当に嬉しいですっ。──あっ、歩夢さん! この璃奈さんの動画に出てるかすみさんも可愛くてですね!」キラキラ

歩夢「…………」




347: (しまむら) 2021/06/28(月) 01:36:28.33 ID:BxLDicXe
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「かすみちゃん。オーディションの最終選考の結果って、今日電話で来るんだっけ?」

かすみ「はい。そう聞きました」

侑「そっか……」

侑「うわぁ……すっごい緊張してきた……」

かすみ「なんで先輩が緊張するんですか」クスクス

侑「だって……かすみちゃん頑張ってたの1番近くで見てたもん」

侑「だから自分の事のように感じちゃって……うぅ……」

かすみ「やれる事はやってきました」

かすみ「あとは、結果を待つのみです」

侑「……うん」

349: (しまむら) 2021/06/28(月) 02:07:41.43 ID:BxLDicXe
りな子のお誘いを受けて、少し時間が経った。

前のアルバイトも辞め、今はりな子の動画のお手伝いとトレーニングに取り組む日々。

意外と動画撮影もトーク力やアドリブ力が必要になってくるので、良い経験になる。本当に、無駄な事なんて何も無い。

少しずつ、考えも前向きになってこれたし、アイドルへの道も良い方向に進んできている。

──あと、しず子にもあの後連絡を取った。この前の態度と悲しい気持ちにさせてしまったことを、誠心誠意謝った。
そして、今の状況をしず子に伝えた。彼女は涙を流しながら喜んでくれた。また夢に向かって頑張ろうと思ってくれて、ありがとうって言ってくれた。

……本当に、人との出会いに恵まれたと思う。

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆と会えた事が、人生の中で一番神様に感謝する事かもしれない。

そんなしず子から、ありがたいことに居酒屋で話を聞いたプロジェクトのオーディションのお誘いを受けた。まだ有効期間だったらしい。、

一般人の中からキャストを募集し、5名のアイドルグループを作るプロジェクト。26歳以下であれば誰でも受けることが出来るオーディションで、私はそれに応募する事にした。

2回の審査に合格し、最終選考まで残ることが出来た。

──その結果が、今日……私の元に入る。


かすみ(大丈夫。やれることは、やった)

かすみ(あとは、信じるしかない)


そんな時だった。

──私のスマホの着信音が、部屋に鳴り響いた。

355:1(茸) 2021/06/28(月) 09:17:23.83 ID:AnymEHV4
侑「!!」

かすみ「!!」


私と侑先輩の身体が同時にビクッとする。

侑先輩と目が合う。スマホの画面には審査員から教えてもらっていた携帯番号── 『オーディション 結果が来る番号』と予め登録しておいた──からの着信。

先輩は静かに頷く。私もこくりと頷き、唾を飲み込む。──緊張する。

この感覚は一生慣れる気がしない。

私はスマホに表示される応答をタップし、電話を受ける。


かすみ「もしもし、中須かすみです」

『あっ、中須かすみさんですね? こんばんは。AMSプロダクションの○○です。この度は当社のオーディションの為に足を運んで頂き、ありがとうございました。その結果をお伝えさせて頂きたく、連絡致しました。今、少々お時間頂いてもよろしいですか?』

かすみ「はい。大丈夫です。よろしくお願いします」


淡々としている。あくまでも仕事で連絡しているという雰囲気が拭えない。

心臓がドクンドクンと鼓動する。吐きそう。震えそうになる声を何とか抑え、答える。

侑先輩は静かに私を見つめていた。

356: (茸) 2021/06/28(月) 09:22:50.88 ID:AnymEHV4
『ありがとうございます。結果なのですが』

かすみ「……」


──やれることは、やったと思っていた。


『残念ながら──』

かすみ「!!」


──現実は、甘くなかった。

結果は、不合格。


かすみ「………………」

『────』

『──? ──〜?』

かすみ「……っ……」

『……──』


電話越しに何か言われていたけれど、全く耳に入ってこない。

気が付けば、電話は切れていた。

時間が止まったような感覚だった。

でも、時計の針の音は部屋に鳴り響いている。無情にも時間は過ぎていくんだ。

358: (茸) 2021/06/28(月) 09:31:45.24 ID:AnymEHV4
侑「……かすみちゃん……」


私の表情を見て、侑先輩は察してくれたのかな? 静かに私の事を抱きしめてくれた。

そして、耳に届く。


侑「ごめんね」

かすみ「!!」


なんで、謝るの?

なんで、私よりも先に泣くの? 涙を流すの?

謝らなければいけないのは、私の方なのに。

侑先輩からは、沢山助けてもらった。それに、色々してくれた皆にも、顔を向ける事が出来ない。


かすみ「……侑先輩……」

かすみ「ごめんなさい」


──喜んでもらいたかったなぁ。

自然と涙が零れ始める。

この日は何も出来ないまま、夜が明けた。

375: (しまむら) 2021/06/28(月) 22:42:32.02 ID:BxLDicXe
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

あの日から、少しだけ時間が経った。


璃奈「それじゃみんな」

かすみ「まったね〜!!」


今日はりな子との動画撮影の日。

あの日から、ご飯もあまり喉が通らない。何をするにしても、気力が湧かない。

──でも、身体は意外と動いた。りな子には迷惑、かけられないし。


璃奈「かすみちゃん。今日もお疲れ様。ありがとうね」

かすみ「ううん。全然いいよ。こちらこそいつもありがとうね」

璃奈「…………」

璃奈「かすみちゃん」

かすみ「んー?」

璃奈「次がある。だから、焦っちゃダメだよ?」

璃奈「かすみちゃんの夢への一歩は、再開し始めたばかりなんだから」

かすみ「……うん」


──でも、気は使わせてしまっている。

早く次に向けて切り替えなければいけないのは、分かってる。
けど、そんなに私は強い人間じゃない。

強い人間だったら、一度心を折っていない。


璃奈「とりあえず今は──」

prrrrrr!!

かすみ「!!」ビクッ

璃奈「!!」ビクッ

かすみ「ご、ごめん。スマホ、マナーモードにするの忘れてた……」

璃奈「別に大丈夫。動画の撮影終わったあとで良かった。出て大丈夫だよ?」

かすみ「う、うん」


突然鳴り響くスマホの着信音。

画面には──


かすみ「え? 歩夢先輩……?」


──今の私とは天と地の差がついてしまった、大人気アイドルの名前が表示されていた。

379: (しまむら) 2021/06/28(月) 23:39:42.54 ID:BxLDicXe
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

侑「ここで、合ってるよね?」

かすみ「歩夢先輩から送られてきた住所はここですね」


歩夢先輩から突然連絡が来た。すごく困惑しながら電話を取った。

その内容はと言うと……。


歩夢『あっ、かすみちゃん。久しぶり』

歩夢『今日の夜、予定空いてたりする?』


ごく普通の、ご飯のお誘い。

会話したのもかなり久しぶりで、緊張しながら電話を取った。なのに、歩夢先輩は本当に普通だった。

懐かしい話をするのでもなく、現在の心境を聞くのでもなく──まるでいつも通りの連絡のような雰囲気すら感じた。

侑先輩も同様に、歩夢先輩からお誘いを受けたようだ。時間を合わせて彼女が待つ場所まで向かい、今お店に辿り着いたところだ。

場所は渋谷。あまり人生で来る事は無さそうな、とっても高そうなバーに招待された。
……ダメだ、上手く表現出来ない。語彙力が足りない。ただ、一言。──あまりにも場違い過ぎる。


かすみ「もう少しお上品な服装で来ればよかったかもです」

侑「まぁ……とりあえず入る?」

かすみ「ですねぇ……」


戸惑う25歳とその先輩。ひとまず立ち止まっていても仕方ない。勇気を出してお店の中に入った。

お店の中は──とても静か。静寂に包まれた空間。

そこに、歩夢先輩がいた。

380: (しまむら) 2021/06/29(火) 00:02:49.80 ID:BZ31NfI5
歩夢「待ってたよ。侑ちゃんとかすみちゃん」

歩夢「こっちこっち〜」


小さく手を振り、私達を呼ぶ。


侑「ごめん歩夢。待たせちゃった?」

歩夢「ううん。全然待ってないよ。今日は貸切にしたから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ?」

侑「あっ、バレちゃってた? 緊張してるの」

歩夢「ふふっ、分かるよ」ニコッ

かすみ「…………」


歩夢先輩と侑先輩が話しているのは、本当に久しぶりに見た。

そもそも、歩夢先輩と会ったのが久しぶりだし当たり前か。

──すごく、綺麗。


歩夢「かすみちゃん、久しぶりだね」ニッコリ

かすみ「え、あっ……は、はい」

歩夢「? どうしたの? もしかして緊張してる?」

かすみ「し、してませんよ!」

歩夢「本当〜?」


にこにこと笑顔を私に向けてくる。

悔しいけれど、可愛い。

382: (しまむら) 2021/06/29(火) 00:41:44.12 ID:BZ31NfI5
侑「それにしても……こんな高そうなお店を貸切にしたの?」

歩夢「うん。あんまり人が多いと落ち着かないし」


渋谷のバーを貸切。どんだけお金がかかったのか気にはなったけれど、聞かない事にした。


侑「それにしても、どうして今日は突然集まろって言ってきたの?」

歩夢「うーん。理由は二つあるんだ」

歩夢「1つは侑ちゃんと久しぶりに会いたかったから。忙しくて時間取れなかったからね」

侑「確かに会うのは久しぶりかも……」

歩夢「でしょ?」

かすみ(……忙しくて時間取れなかった、かぁ)

かすみ(いつか言ってみたいよ。そんな言葉)

歩夢「もう1つはね」

歩夢「かすみちゃんに用があったの」

かすみ「私に?」

歩夢「うん」


にこにこと、笑っている。

私を見つめて。

──なんだろう、この雰囲気。

なんか、怖い。──歩夢先輩、怒ってる?

笑顔なのに、ものすごい違和感を覚える。なに、これ?

そんな中、歩夢先輩が口を開いた。

389:1(茸) 2021/06/29(火) 07:46:12.17 ID:0hpGZH5T
歩夢「ねぇ、かすみちゃん」

かすみ「は、はい」

歩夢「しずくちゃんから聞いたよ。オーディションの最終選考まで残ったんでしょ?」

かすみ「!!」

かすみ「……はい……」

歩夢「……頑張った?」

かすみ「そ、そんなの当たり前じゃないですか!」

歩夢「ふぅん」

侑「歩夢……?」

歩夢「そっかぁ、頑張ったんだ。そっかそっか」


うんうんと一人で小さく首を頷かせている歩夢先輩。目を瞑り、勝手に一人で納得している様子だ。

相手している私は、困惑することしかできない。

──ただ、そんな困惑もすぐに別の感情へと移り変わる事になる。




歩夢「その結果、最終選考で落とされたんだね」

かすみ「……は?」

390: (茸) 2021/06/29(火) 07:54:36.31 ID:0hpGZH5T
歩夢「ふふっ。なんで知ってるの? って言いたげだねぇ」

歩夢「別に、結果は侑ちゃんからもしずくちゃんからも聞いてないよ」

かすみ「じゃあなんで……!」

歩夢「最終選考まで残ってるんですよってしずくちゃんから聞いてから、結構時間も経ってるからね。オーディションの結果は基本的に1、2週間くらいで届くはずだし」

かすみ「…………」

歩夢「そんな中で、今のかすみちゃんの表情を見たら分かるよ」

歩夢「あぁ、この子最終選考で落とされたんだなって、ね」

かすみ「……っ……!」

歩夢「ねぇ、かすみちゃん。あなたは自分で頑張ってるって言ってたよね?」

侑「歩夢! かすみちゃんは──」

歩夢「ごめん侑ちゃん。今は静かにしてて?」

歩夢「今はかすみちゃんとお話してるの」

侑「っ……」

かすみ「……」

391: (茸) 2021/06/29(火) 08:04:26.92 ID:0hpGZH5T
歩夢「かすみちゃん」

歩夢「本当に頑張ってるんだよね?」

かすみ「……さっき肯定しましたけど?」

歩夢「本当に、頑張った?」

歩夢「やれる事、全部やった? 自己満じゃなくて、誰からも全力でかすみちゃんは頑張って努力していたって認められるくらい、頑張った? 誰一人欠けることなく、あなたを見ていた全員から」

かすみ「やれることはやりましたよ!!」

歩夢「本当に?」

かすみ「っ」

歩夢「本っ当に頑張ったって、心の底から言える?」

歩夢「100パーセント力を出し切った?」

歩夢「努力した?」

歩夢「どこかで妥協している所はなかった?」

歩夢「──心のどこかで、もう大丈夫だなって安心してなかった?」

かすみ「何が言いたいんですか!?」ガタッ!!


──つい、椅子から立ち上がってしまう。歩夢先輩を睨んでしまう。

歩夢先輩は、私から一切目を逸らさずに話し続ける。

392: (茸) 2021/06/29(火) 08:11:29.71 ID:0hpGZH5T
歩夢「考えが甘い」

かすみ「!!」

歩夢「じゃあさ、別に頑張ったかどうかは別にもういいよ」

歩夢「その後の対応について話そっか」

かすみ「…………」

歩夢「かすみちゃん、オーディションに落ちた今……何してる?」

歩夢「まさか無気力になったり心が折れていたりしないよね?」

歩夢「かすみちゃん、オーディションで落ちた時になんで落とされたかとか理由を聞いたりした? 最終選考まで残ったんだから、期待もされていたと思うし、聞けば教えてくれたかもしれないよ?」

かすみ「ッッッ」

歩夢「オーディションの最後で落ちちゃうなんて、結構あるあるなの。かすみちゃんもよく知ってるでしょ?」

かすみ「…………」

歩夢「スタート地点に立つまでが、1番大変なんだから」

かすみ「……立ってからも大変だと思うんですけど」

歩夢「立ってもない子が偉そうな事言わないでほしいなぁ」

かすみ「……出来る人は違いますよね……!」


減らず口が、止まらない。黙って話を聞く事が出来ない。

──間違った事は、別に言われてないのに。

393: (茸) 2021/06/29(火) 08:25:17.77 ID:0hpGZH5T
歩夢「出来るようにしただけだよ」

歩夢「自分の時間を使って、努力した」

歩夢「その結果だよ」

かすみ「……あなたに凡人の気持ちが分かりますか!?」

歩夢「……」

かすみ「どれだけ努力しても! 追い付けない部分はあるんですよ!!」

かすみ「私の苦労も知らない癖に!! 偉そうな事言わないでッ!!」

歩夢「……」

かすみ「はぁ、はぁ……!」

歩夢「私の苦労を、知らない……ねぇ」


歩夢先輩が立ち上がり、私の目の前まで歩いてくる。

歩夢先輩の方が身長が高いため、私は見下ろされる形になる。

──見下すな。


かすみ「……なんですか」

歩夢「かすみちゃん。──悲劇のヒロインごっこは、楽しい?」

かすみ「」


口元は笑っていた。──でも、歩夢先輩の目は笑っていなかった。

394: (茸) 2021/06/29(火) 08:35:48.91 ID:0hpGZH5T
侑「歩夢ッ!!」

歩夢「……」

侑「……言い過ぎだよ」

侑「かすみちゃんは、頑張ってたよ」

侑「私は、一番近くで見てた」

かすみ「侑先輩……」

歩夢「侑ちゃん」

歩夢「侑ちゃんも、侑ちゃんだよ」

侑「!!」

歩夢「侑ちゃん、前にしずくちゃん達からかすみちゃんの状況を聞いて……悩んでたよね?」

歩夢「『私はかすみちゃんが本当に悩んでいた時に助けてあげる事が出来なかった』って」

かすみ「!!」

侑「……っ……」

歩夢「かすみちゃんが昔、アイドルを目指して頑張っていた時に……オーディションに落ち続けて心が折れていた時に、助けてあげることが出来なかったって」

侑「…………」

かすみ「侑……先輩……」

395:続きは夜更新します。(茸) 2021/06/29(火) 08:46:42.35 ID:0hpGZH5T
歩夢「だから、私は侑ちゃんの背中を押したんだよ?」

歩夢「かすみちゃんの所に行ってあげてってさ」

歩夢「その結果が……これ?」

侑「…………」

歩夢「侑ちゃん、どこかでかすみちゃんを甘やかしていなかった?」

侑「っ……」

かすみ「侑先輩を責めないで下さいッ!!」

歩夢「責めてないよ。侑ちゃんが優しいのは知ってる」

歩夢「昔からそうだもん」

かすみ「……」

歩夢「ただ、優しくするのだけじゃかすみちゃんの為にならないよ。そんな甘えた、中途半端な付き合いをするくらいなら」

歩夢「──もう、サポートは辞めた方がいいよ」

歩夢「お互いのためにならないから」

侑「…………」

かすみ「────」

かすみ「ゆ、侑先輩……?」

侑「……」

かすみ「……わ、私から離れたり……しないですよね?」

かすみ「サポート……やめたり……しないですよね……?」


怖くて、声が震えてしまう。

──侑先輩が、離れてしまう気が気がして、落ち着かない。


侑「…………」


侑先輩の表情は──暗かった。

438: (しまむら) 2021/06/30(水) 02:59:04.42 ID:iCDBjnwl
侑「歩夢」

歩夢「……なに? 侑ちゃん」

侑「ごめん。私……」

侑「このままかすみちゃんのサポート……続ける」

侑「まだ、夢の途中だもん。まだ、私がここで離れたら、それこそ中途半端だよ」

歩夢「……」

かすみ「!! ゆ、侑先輩……!!」パァァァァ

侑「ただ、歩夢は私達の事を心配してくれているのも分かってる」

侑「ありがとうね歩夢。そして……ごめんね」

かすみ「!!」

歩夢「……侑ちゃんが決めたならそれでいいよ」

侑「ありがとう。歩夢」

440: (しまむら) 2021/06/30(水) 03:11:12.23 ID:iCDBjnwl
侑「かすみちゃんもごめん。私、歩夢の言う通り──」

かすみ「侑先輩。謝らなくて大丈夫です」

侑「!!」

かすみ「侑先輩が謝る要素、何もないです」

侑「かすみちゃん……」


心配そうに私を見つめる侑先輩。

思えば私は、本気になれていただろうか? また、夢に向かって全力で努力していただろうか?
自分の中では、必死にやっていた。そう、思っていた。

──でも、結果は落選。

なぜ、落ちたんだろうか? その事を考えず、ただ無気力になっていた。

まだ、夢へ向かって再び歩み始めてから、“1回しか落ちてないのに”。

私は、周りの方々にこれだけ支えてもらっているのに──勝手に腐り始めようとしていたんだ。

442: (しまむら) 2021/06/30(水) 03:18:34.17 ID:iCDBjnwl
かすみ「歩夢先輩」

かすみ「さっき、悲劇のヒロインごっこは楽しいかって聞きましたよね?」

歩夢「うん。聞いたよ?」

歩夢「楽しい?」ニコッ


──歩夢先輩から、ありがた〜〜〜いお言葉を沢山頂いた。

正しい事だと思う。
言われていて、確かになって思う所は多々あった。

それに歩夢先輩は、本当に努力をしたんだと思う。その結果が、しっかりと今……結果として現れている。

でも──


かすみ「歩夢先輩」

かすみ「──」スゥゥゥゥゥ

かすみ「楽しいと思いますかぁぁああああああ!?」

歩夢「っ!?」ビクッ!!


──これだけ好き勝手言われるだけじゃ、終われない。

443: (しまむら) 2021/06/30(水) 03:23:20.87 ID:iCDBjnwl
侑「か、かすみちゃん?」


侑先輩が目をぱちくりさせている。急に大きな声出してごめんなさい。

でも、我慢しない。ここまで言われたんだ。

──今の気持ちを全部ぶつけてやる。


かすみ「ぜんっぜん楽しくないよ!!」

かすみ「ポジティブに考えられなくなるし!! 過去の自分に縋ることだって増えた!!」

かすみ「ただ……悲劇のヒロインごっこってなんですか!?」

かすみ「その言い方、すっごくムッカァ〜って来るんですけど!?」

歩夢「……」


歩夢先輩は、静かに私を見つめる。

私の言葉を、静かに聞いてくれている。

447: (しまむら) 2021/06/30(水) 03:39:25.02 ID:iCDBjnwl
かすみ「大体、頑張ったかどうか問い詰められましたけど……別に歩夢先輩はまたアイドルを目指してからの私の行動は見てませんよね!?」

かすみ「近くで見ていた侑先輩とかから言われたら確かになぁ〜ってなりますけど、急に突然現れた歩夢先輩からそんな事言われたくないんですけど!?」

かすみ「ま、まぁ確かにオーディション落ちた後に凹んでたのはダメですけど、すぐに切り替えられなかったんだから仕方ないじゃん!!」

かすみ「不合格通知を受けるのすら久しぶりだったんだもん!!」

かすみ「普通に考えたら……凹みますから!!」


めちゃくちゃな事を、好き勝手に言い散らす。


かすみ「それに、努力って確かに大事ですけど……それだけで全部なんでも出来るかって言われたら大違いですからね!?」

かすみ「自分の考えを、押し付けないでくださいよ!」

歩夢「…………」

かすみ「それに……歩夢先輩!!」

歩夢「……なに?」

かすみ「上から私を見下ろして、好き勝手言って……なんです? 神様にでもなったつもりですか!?」

かすみ「──いっちばんかわいいのは私なんですからね!? 上に立ったつもりかもしれませんが!」

歩夢「!!」

侑「!!」

かすみ「見下していられるのも、今のうちだから!!」

歩夢「……へぇ……」


歩夢先輩の口元は──緩んでいた。

448: (しまむら) 2021/06/30(水) 03:58:57.66 ID:iCDBjnwl
歩夢「努力に勝る天才なしって言葉があるよ?」

歩夢「それに私、別にかすみちゃんの事見下してないよ?」

かすみ「才能というものがあるのも確かですよ? 努力は大切ですが、それだけで何とかなるわけでないですよね?」

かすみ「あと、普通に見下してますよね? 今」

歩夢「かすみちゃん身長伸びてないもんね〜?」

かすみ「ほら!! 今だってばかにしましたよね!? それで見下してないってよく言えますよね!?」

歩夢「愛情だと受けとめて欲しいなぁ」

かすみ「受けとめるわけないじゃないですか!!」

歩夢「素直じゃないね」

かすみ「私がこういう性格だって、昔から知ってますよね!?」

歩夢「うん。正直めんどくさいって思ってるよ」

かすみ「言い方!!」

かすみ「歩夢先輩だってめちゃくちゃめんどくさい性格してますからね!?」

歩夢「……うるさいね、かすみちゃん」

かすみ「べーっだ!」

歩夢「25歳にもなって、それキツいよ?」

かすみ「年齢なんて関係ないですから。歩夢先輩だって16歳の時にうさぴょんしてましたよね?」

歩夢「は?」

侑「ふ、2人とも〜……? お、落ち着いて〜?」

かすみ「落ち着いてます!」
歩夢「落ち着いてるもん!」

侑「あっ、うん……はい」

452: (しまむら) 2021/06/30(水) 04:59:20.64 ID:iCDBjnwl
かすみ「とにかく!!」

かすみ「今に見ててくださいよ歩夢先輩」

かすみ「あなたなんか、追い抜いてあげます」

かすみ「見上げさせてあげますよ」

歩夢「……」

かすみ「スクールアイドルの経験は、私の方が長いんですから!!」

歩夢「……そんな学生の時の話されてもねぇ〜」

かすみ「学生の時だけじゃない」

歩夢「!!」

かすみ「私は……小学生の頃からスクールアイドルだった」

かすみ「……周りから認められてはいなかったですけど……始めたいって思った時は! 小さい頃だった!!」

かすみ「始めたいって思った時から、もう始まっているんですよ!!」

歩夢「……」

かすみ「絶対に、追い抜いて見せますから!」

かすみ「歩夢先輩に……あなたに!!」

歩夢「…………」

歩夢「そっか。頑張ってね」ニコッ

かすみ「ああああああ!! その余裕そうな対応も、出来なくさせますからねっ!!」

453: (しまむら) 2021/06/30(水) 05:12:17.16 ID:iCDBjnwl
かすみ「……侑先輩!」

侑「う、うん。どうしたのかすみちゃん」

かすみ「私、先に帰ります」

侑「え?」

かすみ「……歩夢先輩。せっかくのお誘い申し訳ないですが、今日は帰ります。一応!! 謝っておきます」

歩夢「なに? トレーニングでもしなきゃって思って即実行って感じ?」

かすみ「………………」

かすみ「そんなわけないじゃないですか!!」

歩夢「間が空きすぎてバレバレだよ? かすみちゃんってほんとわかりやすいよね〜」

かすみ「マスター!! この人にカ口りーの高い食べ物とお酒を持ってきてください!!」

歩夢「あっ、わざわざ注文してくれてありがとうねかすみちゃん。あと私、たくさん動いてるから別に太らないよ」

かすみ「むきー!!」

侑(遊ばれてるなぁかすみちゃん……)

454: (しまむら) 2021/06/30(水) 05:18:02.97 ID:iCDBjnwl
かすみ「──とにかく! 私は今日は帰ります」

かすみ「侑先輩。ごめんなさい。ゆっくり楽しんでくださいっ」

侑「え、そ……その……」

かすみ「久しぶりの幼馴染との再会なんですから!」

侑「う、うん……分かった」

侑「気を付けてね?」

かすみ「はい!」ニコッ

かすみ「──では歩夢先輩。さようなら!!」

スタスタスタスタ

侑「…………」

歩夢「侑ちゃん。座ろっか?」

侑「あっ、うん」

歩夢「よいしょっと。……何か飲む?」

侑「……うーん……どうしよっかなぁ……」

歩夢「…………」

歩夢「侑ちゃん」

侑「ん?」

455: (しまむら) 2021/06/30(水) 05:26:25.21 ID:iCDBjnwl
歩夢「あの子、また暴走すると思うんだよね」

侑「え?」

歩夢「だってほら、かすみちゃんって空回りするタイプだし。それにあの子は愛されキャラだから、今日みたいな感じで正面から詰められた経験もあんま無いと思う。だから……内心は結構凹んでると思うよ?」

侑「歩夢……」

歩夢「かすみちゃんの所に行きたいんでしょ?」

侑「!!」

歩夢「まだ追い付けると思う」

侑「……」

歩夢「また誘うよ。その時に今回の埋め合わせはよろしくね?」

歩夢「侑ちゃんっ」ニコッ

侑「……──ごめん! 歩夢!」

侑「行ってくる!」

タッタッタッタ

歩夢「…………」

歩夢「行ってらっしゃい。侑ちゃん」

456: (しまむら) 2021/06/30(水) 05:36:40.28 ID:iCDBjnwl
歩夢「…………」


かすみ『それに、努力って確かに大事ですけど……それだけで全部なんでも出来るかって言われたら大違いですからね!?』

かすみ『自分の考えを、押し付けないでくださいよ!』


歩夢「…………」


かすみ『上から私を見下ろして、好き勝手言って……なんです? 神様にでもなったつもりですか!?』

かすみ『──いっちばんかわいいのは私なんですからね!? 上に立ったつもりかもしれませんが!』

かすみ『見下していられるのも、今のうちだから!!』


歩夢「ふふっ」


かすみ『絶対に、追い抜いて見せますから!』

かすみ『歩夢先輩に……あなたに!!』


歩夢「それでいいんだよ」

歩夢「もっと、ぶつかり合おう」

歩夢「──喧嘩しようよ。かすみちゃん」

歩夢「次は──ステージの上でね」

483: (しまむら) 2021/07/02(金) 00:18:48.31 ID:aLT7Etay
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スタスタ

かすみ(さて……何しよっかなぁ)

かすみ(とりあえず、また体力トレーニング? いや、歌の練習かな?)

かすみ「うーん……」

かすみ(歌の練習するなら、レンタルスペースまで行かないとだね。渋谷からなら走っていけるだろうし)

かすみ「うん。そうしよう」


バーを出て、とりあえずこれから何をするのか一人で考える。

──歩夢先輩と話して、なんか気合が入った。

正直、あの人が言ったことは正しい事も多いと思った。

だけど、自分の発言と自分の行動に自信が持てていなかったのは──もっとダメなんじゃないかな? って思えてきた。

ただ黙って好き勝手言われるよりも、自分の想いをぶつけた方が絶対良いに決まっている。

自分の気持ちを、真っ直ぐ行動にするんだ。

──あの時みたいに。スクールアイドルとして、宇宙一かわいいかすみんで会った時のように。


かすみ「よし、行──」

タッタッタ!

侑「かすみちゃん!」

かすみ「!!」ビクッ!!

かすみ「ゆ、侑先輩!? どうしたんですか?」

侑「トレーニングするんでしょ? 私もお手伝いする!」

かすみ「え!?」

484: (しまむら) 2021/07/02(金) 00:31:02.78 ID:aLT7Etay
かすみ「い、いや。侑先輩は歩夢先輩とこれから約束があるじゃないですか」

侑「歩夢とはまた今度ご飯を食べることにしたよ。だから手伝わせて?」

かすみ「だ、ダメですよ! 歩夢先輩、すっごく忙しいんですから……次はいつご飯行けるか分からないんですよ!?」

侑「分かってる。でも今はかすみちゃんとの時間を優先にしたい」

侑「ダメかな?」

かすみ「うっ……」

かすみ「そりゃ手伝ってくれるのは嬉しい……ですけど……」

侑「ならさ。手伝わせてよ」

侑「次は……絶対オーディションに合格できるように色々考えるから」

侑「ね?」

かすみ「…………」


本当に、侑先輩は優しい。

──でも、この優しさの理由は……。


かすみ「……侑先輩……」

かすみ「私に優しくしてくれるのって」

かすみ「──罪悪感があるからですか?」

侑「え?」

488:1(茸) 2021/07/02(金) 07:50:31.86 ID:6CHAqATO
かすみ「さっき……歩夢先輩が言ってましたよね?」

かすみ「侑先輩が悩んでいたって」

侑「…………」

かすみ「私が本当に困っていた時に……何もできなかったからって……」

侑「…………」

侑「ごめんかすみちゃん。正直に言うね?」

侑「罪悪感は、あるよ」

かすみ「!!」

侑「覚えてるかな……?」

侑「かすみちゃん、1回だけ私に連絡してきた時あったんだよ?」

侑「相談したいことがあるから、どこかのタイミングで会えませんか? って」

かすみ「…………」


正直、覚えていなかった。

──でも、私が誰かに相談したい状況になっていた時は……多分アイドルを目指し、何度もオーディションに落ちて心が折れていた時だと思う。


侑「私さ。その時にまた今度ねって話を流しちゃったんだ。専門学校が忙しいからって言い訳してさ」

侑「別に……タイミングを作ろうと思えば作れた」

侑「……でも……私は……自分の事を優先に考えちゃったんだ……」

かすみ「侑先輩……」


侑先輩の表情が──また暗くなる。

489: (茸) 2021/07/02(金) 08:07:42.04 ID:6CHAqATO
侑「それからかすみちゃんから連絡が来る事は、無かった」

侑「私からも連絡をしなかった。本当に、流しちゃってたの」

侑「かすみちゃんがどんな状態だったのか……想像もしていなかったの……」

侑「……しずくちゃん達からかすみちゃんの事を聞いた時……本当に後悔したよ」

かすみ「…………」

侑「本当に……ごめんね。かすみちゃん」


侑先輩が、頭を下げる。深々と。

本当にこの人は、人が過ぎる。お人好し過ぎる。すごく申し訳なさそうに頭を下げている。

──でも、そんなのいらない!


かすみ「侑先輩」

かすみ「──謝らないでくださいッ!!」

侑「……」

かすみ「侑先輩がそんなに罪悪感を覚えること、ないです」

かすみ「自分の事第一優先ですよ?」

かすみ「それに、私はそんな話覚えてもなかった……だから侑先輩が謝る必要……ないんですよ」

侑「…………」

かすみ「それに侑先輩」

かすみ「謝るのは私の方です」

侑「へ?」

490: (茸) 2021/07/02(金) 08:17:02.30 ID:6CHAqATO
かすみ「私は……もう一度アイドルを目指しました」

かすみ「そう誓いました」

かすみ「でも、本当に全力で自分から動いていたのかな? って……思い始めました」

侑「か、かすみちゃんは頑張ってたよ!」

かすみ「ううん。違うんです」

かすみ「私は、周りの人達が作ってくれたレールに沿って、ただ走っていただけでしたもん」

かすみ「侑先輩が考えてくれたメニューをこなして、りな子の会社に入って……しず子が紹介してくれたオーディションを受けた。それだけです」

かすみ「自分からは何もしてなかったんです。ただ、身体を動かしていただけ……」


それで──アイドルになれるわけない。


かすみ「侑先輩。聞いてほしいです」

かすみ「もう一度、宣言します」

侑「……」

かすみ「私は、アイドルになりたいです!」

かすみ「……その上で、お願いがあります」

侑「……うん」

かすみ「私と一緒に、歩いて下さい。アイドルまでの──夢への一歩を」

侑「!!」

491: (茸) 2021/07/02(金) 08:30:44.08 ID:6CHAqATO
かすみ「まだまだ私がトレーニングやれるって時は言います」

かすみ「侑先輩がオーバーワークを気にして優しくしてくれるのは知ってますけど、自分の身体の事は自分が一番分かります。自分の意見をどんどん出します」

かすみ「もう……手を繋いで引っ張ってもらうだけなのは、嫌だから!」

かすみ「私は、アイドルを目指して全力で取り組みます!!」

かすみ「だから……侑先輩……」

かすみ「一緒に歩いて」

かすみ「私と一緒に」

侑「……」


侑先輩へ向けて、手を伸ばす。

こんな事をお願いする時点で、間違っているのかもしれない。

──でも、侑先輩は私が最終選考で落ちた時、泣いてくれた。それだけ私の為に本気になってくれているんだ。

だから、侑先輩の為に──ううん。応援してくれるみんなの為に、頑張らないといけない。
もちろん、自分のためでもあるけれどね。


かすみ「私は、あなたの前でちゃんと夢を叶えたいんです」

かすみ「だから侑先輩」

かすみ「お願いします!!」

かすみ「──私と一緒に、歩いて下さいっ!」

494:続きは夜に更新します。(茸) 2021/07/02(金) 08:42:09.08 ID:6CHAqATO
侑「──かすみちゃん!」

かすみ「へ!?」


手を繋がれるのでは無く、侑先輩から抱きつかれる。


かすみ「ゆ、侑先輩!?」

侑「頑張ろう。一緒に! ──絶対に、夢を叶えようっ!」

かすみ「侑先輩……」

侑「もう一度夢を目指してくれて、ありがとうね」

侑「かすみちゃん!」

かすみ「……ふふっ」クスクス

かすみ「本当に侑先輩って良い人で、お人好しですよね〜。優し過ぎます。いつか悪い人に騙されちゃいますよ?」

侑「え?」

かすみ「──でも、そんな優しくて人の事を第一に想いやれるあなたが……大好きです」

侑「──へ!?」

かすみ「ふふっ」ニコッ

かすみ「先輩」

かすみ「ここから──かすみんのワンダーランドが復活するんです!」

かすみ「宇宙一かわいい私を、見ててくださいねっ!」

518: (しまむら) 2021/07/03(土) 00:31:51.31 ID:ttm8oc5o
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

かすみ「はっ、はっ、はっ」


朝、私は早起きをしてお台場海浜公園の中をランニングする。

最近ではルーティンと化している。最初はキツかったけれど、今となっては楽しさすら感じる。
少しずつ夏が近づいてきて暑くなってきたけれど、走りながら感じることが出来る風が気持ちいい。

ジョギングと併せて1時間くらい外で行動し、家に戻る。


かすみ「ただいま〜」


家に着き、靴を脱ぎながら挨拶をするけれど返事がない。


かすみ「あれ? 侑先輩〜?」


侑先輩の姿が無かった。

代わりにテーブルの上に複数のおにぎりと1枚の紙がある。


かすみ「?」

かすみ(え〜っと。ごめん! かすみちゃん。今日早番なのすっかり忘れてた!!!!)

かすみ(ランニングの邪魔をしたくないから、メッセージは送らずここに残しておくね〜)

かすみ(おにぎり食べてね! かぁ……)

かすみ「先輩、早番だったんだ。遅刻しなきゃいいけど……」


とりあえず、おにぎりはありがたく頂くことにした。


かすみ「!! ──ん〜! おいしいっ!」モグ モグ


こんな二人の生活も、大分慣れてきた。

522: (しまむら) 2021/07/03(土) 00:45:47.45 ID:ttm8oc5o
かすみ「ごちそうさまでしたっ」

かすみ(さて、今日は何をしようかな)

かすみ(そろそろオーディション、受けないとだから)

かすみ(今日はオーディションを探してみよっかな)

かすみ(その後ダンスの練習をして、夕方にりな子の所に行ってお仕事のお手伝いをしよう。よし、決まり)


お皿を洗いながら、今日のプランを考える。

毎日の自分の行動を決めて、動く。無気力だった頃と比べたら、毎日が充実し始めたと思う。

──そんな事を考えている時だった。

インターホンが鳴る。


かすみ「え? はーい」


別に声は届かないのは分かってるけど、返事をする。

そのままテレビドアホンで相手を確認する。

宅急便のようだった。


かすみ(なんだろ?)


とりあえずそのまま出て、対応する。

届き物は小さな箱。すごく軽い。何も入ってないんじゃないかってくらい軽い。

──時間指定便の物だった。


かすみ「!!」


この荷物を送ってきた人物は──歩夢先輩だった。

私はすぐに中身を開け、確認する。


かすみ「え? はがき?」


箱の中身は、まさかのはがき。


かすみ「なんでわざわざ……」


疑問点多数あり。とりあえず裏面を見ると、そこにはQRコードが印刷されていた。

523: (しまむら) 2021/07/03(土) 00:54:36.82 ID:ttm8oc5o
かすみ「え? 何これ?」

かすみ「こわ……」


とりあえずスマホでQRコードを読み取ることにした。

わざわざ歩夢先輩が送ってきたんだ。何かあるはずだ。

表示されたURLは動画サイトのものだった。そのままアクセスする。

アクセスすると、そのまま自動で動画が再生される。

動画タイトルは──『夢を追う人達へのお知らせ』というものだった。

つい先程upされたものなのに、既に数万再生されている。歩夢先輩が人気なのは知っているが、動画サイトで見るとそれが数字として現れている。

悔しいけどすごいや。


歩夢『動画を観ている皆さん、こんにちはっ!』

歩夢『上原歩夢です』

歩夢『今日は皆さんに告知したい事があって、この動画を投稿しましたっ』

532:1(茸) 2021/07/03(土) 09:17:05.72 ID:8qgQG8gu
歩夢『タイトルにもある通り、夢を追う人達への大切なお知らせがあります』

歩夢『この度、私が所属するプロダクションが新たなアイドルタレントを募集することになりました』


かすみ「!?」


歩夢『オーディションがありまして、その詳細内容と募集要項は動画概要欄のURLにて確認できますので、みてくださいっ』

歩夢『これは──夢を追っているが、中々叶える事が出来ない方。一度夢を諦めたけれど……もう一度追いたい方などの夢をサポートする為のプロジェクトです』

歩夢『第一、第二、最終選考の3回のオーディションがあります。そしてなんと、最終選考は地上波で全国生中継!』

歩夢『当日のサプライズもありますっ』

歩夢『夢を追う全ての方々。是非とも参加をお待ちしております!』

歩夢『お知らせは以上ですっ。ご視聴ありがとうございました! またね〜』フリフリ


そこで動画が終わる。

たった30秒の動画。私はそれを観終わってすぐに、歩夢先輩へ電話を掛けた。

──忙しいかもしれない? そんなの考慮する余裕は無かった。

歩夢先輩は、ワンコールで電話に出た。

533: (茸) 2021/07/03(土) 09:18:41.92 ID:8qgQG8gu
歩夢『もしもし?』

かすみ「どういうことですか」

歩夢『何がかな?』

かすみ「しらばっくれないでくださいよ」

かすみ「わざわざ時間指定便であんなの送って来て……ワンコールで電話に出て……全部狙ってやってますよね?」

歩夢『ん〜たまたまなんじゃない?』

かすみ「へぇ、なら歩夢先輩は相当暇人なんですね?」

歩夢『ううん。忙しいよ? 今だってドラマの撮影中だもん』

かすみ「ならこんな電話に出ないでそっちに集中してくださいよ」

歩夢『今は休憩時間中なの。私が一言休憩したいって言うと、皆すっごく気を遣い始めるの』

歩夢『なんでだろ? 不思議だよね〜』

かすみ「…………」

かすみ(分かってて言っているのか、本当に分かってないのか……)

かすみ(歩夢先輩の行動の意図が、全く分からない)

534: (茸) 2021/07/03(土) 09:21:04.33 ID:8qgQG8gu
かすみ「歩夢先輩」

かすみ「はがきの裏にあったURLからあの動画観ましたよ。本当に、何がしたいんですか?」

歩夢『誰でも参加できるし、かすみちゃんにとっても良い話かな? って思ってね』

かすみ「……それでわざわざ私の家までお知らせを送ってきたんですか? 時間指定便まで使って」

歩夢『予約投稿の時間に合わせたの。それにちゃんと荷物として送った方が時間指定守ってくれる気がしたし』

歩夢『どの道このプロジェクトの内容はかすみちゃんの耳に入ったと思うよ? 地上波でも宣伝するみたいだし』

かすみ「…………」

歩夢『ちょっとした優しさだよ。あんまり気にしないで』

かすみ「気にするに決まってるじゃないですか」

かすみ「そもそも言いたいことは沢山あるんですよ」

かすみ「なんです? あのタイトル。『夢を追う人達へ大切なお知らせ』って名前なのに、募集している人達を絞りすぎだと思うんですけど? タイトル詐欺です」

歩夢『あのタイトルの方が色々な人に観てもらえて再生数が稼げるってマネージャーが言ってたよ?』

かすみ「ずるじゃん……」

歩夢『世の中そんなもんだよかすみちゃん』

535: (茸) 2021/07/03(土) 09:45:38.91 ID:8qgQG8gu
歩夢『それで、参加する気はあるの?』

かすみ「……参加しない理由が見つかりません」

歩夢『そっか。なら頑張ってね』

歩夢『全国のアイドルを目指す若者達が集まるだろうから、何十万人が参加するんじゃない?』

歩夢『その中で最終選考に選ばれるのは30人。中々厳しいよ?』

かすみ「……言っちゃっていいんですか? それ」

歩夢『かすみちゃんが周りに言いふらさなきゃ良いだけだよ』

かすみ「…………」

かすみ「歩夢先輩」

歩夢『どうしたの?』

かすみ「昔のあなたは、何事にも一生懸命ぶつかってて、必死に頑張っていました」

かすみ「そんな所がすっごく可愛いって思っていました」

かすみ「でも、今のあなたはどこか余裕ぶっていて、達観した態度で」

かすみ「なんか……面白くなさそうです」

歩夢『…………』

536: (茸) 2021/07/03(土) 09:46:10.76 ID:8qgQG8gu
かすみ「このプロジェクトを教えてくれた事、お礼は言います。ありがとうございます」

かすみ「ただ、その余裕な態度が取れないくらい……私は立派なアイドルになりますから。あなたを追い抜く」

歩夢『うん。楽しみにしてるね』

かすみ「……」

歩夢『あと、これだけ言っておくね』

かすみ「はい?」

歩夢『私も最終選考で皆を審査する側なの』

歩夢『かすみちゃんが最終選考まで残れるか分からないけれど』

歩夢『中途半端な仕上がりだったりしたら』

歩夢『容赦なく落とすから』

かすみ「!!」

歩夢『それじゃあまたね、かすみちゃん』


そこで歩夢先輩との電話が切れた。


かすみ「…………」

537: (茸) 2021/07/03(土) 09:49:41.07 ID:8qgQG8gu
歩夢「…………」

コンコンコン ガチャ

しずく「歩夢さん? 監督達がそろそろ再開したいって仰ってましたよ?」

歩夢「あっ、しずくちゃん。うん。分かった」

歩夢「戻ろっか」

しずく「はい!」

歩夢「そうだしずくちゃん。今度の7月29日、スケジュール空いてたりする?」

しずく「え? 今から1ヶ月と少し先ですね……多分空いてますよ?」

歩夢「ならさ、テレビに出ない?」

しずく「へ?」

歩夢「私が企画したプロジェクトの最終選考が生中継されるの。ゲストとして呼ぶよ?」

しずく「え? へ?」

歩夢「ふふっ」

歩夢「多分、面白いのが見れるよ」




550: (茸) 2021/07/03(土) 20:07:40.66 ID:8qgQG8gu
侑「へぇ、そんな事があったんだね」


夕方、りな子の動画の手伝いが終わって今は夜。自由な時間である。

私と侑先輩はレンタルスペースに来て、ダンス練習をするために柔軟体操をする。侑先輩はお手伝いに来てくれたんだ。本当にありがたい。

そんな中、今日起きた話の内容を全て侑先輩に伝え終わったという状況である。


かすみ「そーなんですよ!! 歩夢先輩、ぜぇったい全部わかった上でこのはがき送って来ましたよ! これだけ準備すれば、必ず私がこのオーディション受けるって!」

侑「まぁまぁかすみちゃん。多分歩夢なりの思いやりだよ?」

かすみ「回りくどいんですよやり方が! 普段忙しいのかもしれませんが、これだけ手が込んでるやり方するなら直接会いに来て内容を伝えた方が絶対楽に決まってます!!」

かすみ「それに……学生の頃なら……絶対直接渡してくれたと思うのに……」

侑「なるほど」

侑「かすみちゃんは歩夢が変わっちゃったんじゃないかって思ってて、寂しいんだね?」

かすみ「!!」

かすみ「そう……かも、しれません……」

侑「かすみちゃん、歩夢に懐いてたもんね」

かすみ「な、懐いてないです!!」

侑「そっかそっか〜。私も歩夢の後輩だったらかすみちゃんと同じように懐いてたんだろうなぁ」ニコッ

侑「想像しただけでときめいちゃう」

かすみ「だから懐いていませんってばぁ!!」


何故か頭をなでなでされる。

本当に子供扱いされてばかりだ。これは一生変わらないのかもしれないなぁ。

551: (茸) 2021/07/03(土) 20:31:14.43 ID:8qgQG8gu
侑「かすみちゃん」

侑「歩夢はスクールアイドルの時とあんまり変わってないよ?」

かすみ「へ?」

侑「確かにあの頃と比べると落ち着いたし、慌てる事も無くなったけど」

侑「あの頃と一緒で、優しい歩夢のままだよ」

かすみ「……幼なじみ贔屓してません?」ジトー

侑「あははっ、してないよ〜」

かすみ「むぅ……」

侑「とりあえず、そのオーディションには参加するんだよね?」

かすみ「当然です。もうエントリーも済ませてあります」

かすみ「最終選考まで残ってる期間は1ヶ月とちょっとですし、第一選考まではあまり時間もありません。気合い入れて練習して!」

かすみ「ぜぇ〜〜〜〜〜ったい!! 最後まで残りますから!!」

侑「うん。気合いも充分だね。──よし、柔軟体操も終わり!」

かすみ「せんぱい! ありがとうございますっ!」ニコッ

侑「いえいえ」ニッコリ

552: (しまむら) 2021/07/03(土) 21:09:54.33 ID:ttm8oc5o
侑「選考の内容とかってもう発表されてたりするの?」

かすみ「えっと、まず第一選考でビジュアルとポージングを見てもらいます。それが突破出来たら、第二選考で体力トレーニング及びダンスで審査されます」

かすみ「最終選考は、地上波生中継の場で歌と踊りを披露するという内容らしいです」

侑「第一選考でかなり絞ってきそうだね……」

かすみ「はい」コクリ

侑「でも、それなら第二選考突破に向けたメニューを組んで準備しないとだね」

かすみ「へ?」

侑「かすみちゃんの可愛さなら、第一選考は難なく突破できるよ」ニッコリ

かすみ「ッ!!////」

かすみ「と、当然です!! わ、私は宇宙一かわいいんですから!////」

侑「うん!」


胸を張るが、顔の熱さは治まらない。

こういう事平気で言うんだから。この人はほんとにもう……。

553: (しまむら) 2021/07/03(土) 21:42:51.70 ID:ttm8oc5o
かすみ「とにかく、今は出来ることを全力でやります」

かすみ「その為に、秘策も考えてきました」

侑「え? 秘策?」

かすみ「はい」

prrrrrr!!

かすみ「あっ、早速連絡が来た。侑先輩、出ていいですか?」

侑「え? うん。大丈夫だよ?」

かすみ「ありがとうございます」ピッ

かすみ「あっ、もしもし? 着いた? ──うん。そう、201のレンタルスペースだよ〜。ありがと。うん。鍵は開いてるからそのまま入って大丈夫だよ?」

侑「……」

ガチャッ

侑「──え!?」

スタスタ

遥「こんばんは! かすみちゃん、侑さん!」

侑「は、遥ちゃん!?」

かすみ「はる子、急にこんな事お願いしてごめんね? 必ずお礼はするから」

遥「ううん。全然大丈夫ですよ! かすみちゃんが本気でアイドル目指してるってお姉ちゃんからも聞いてたし、かすみちゃんは大事な友達だもん。お安い御用です」ニコッ

侑「か、かすみちゃん!? これどういう状況!?」

かすみ「私からはる子にお願いしたんです。ダンスレッスンをしてほしいって」

遥「頼まれましたっ」

侑「ま、マジか」

かすみ「この短い期間でもっと自分を仕上げる為には、なりふり構っていられません。やれる事は全部やります」

かすみ「こうでもしないと、国民的アイドルである上原歩夢には追い付けない。天才の手を借りて、そのスキルを自分のモノにしないといけません」

かすみ「生活面でも、バランスの取れた今後の食事メニューをこちらに書いてまとめました。ダンス練習だけでなく歌の練習も、もっとやります」スッ

かすみ「もう一度、夢に向かって──全力で努力します」

侑「かすみちゃん……」

555: (しまむら) 2021/07/03(土) 21:52:09.30 ID:ttm8oc5o
侑「色々……考えたんだね」

かすみ「はい」

かすみ「もう、引っ張られるだけでなく……自分から動くって決めました」

かすみ「絶対に──アイドルになります!」

かすみ「だから、よろしくお願いします」ペコリ

侑「……わかった!」

侑「出来ることはなんでもするからね、かすみちゃん!」

かすみ「はい! ありがとうございます!」

かすみ(待ってて下さい、歩夢先輩)

かすみ(必ず、最終選考まで残って)

かすみ(ビックリさせちゃいますからね!!)

556: (しまむら) 2021/07/04(日) 07:35:54.62 ID:iLaWlGVq
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私には、大好きな子達が沢山いる。

幼馴染の侑ちゃんは勿論、私にスクールアイドルを始めるきっかけを作ってくれた優木せつ菜ちゃんこと中川菜々ちゃん。

しずくちゃん。璃奈ちゃん。エマさん。彼方さん。果林さん。そして──かすみちゃん。

私は同好会メンバーの皆が大好き。あの子達との日々は、かけがえのない宝物。

その中でも、特に印象に残っている思い出がある。


かすみ『ちーがーいーまーすー!』

かすみ『歩夢先輩! こうです! えへっ』キャピ

歩夢『え、えっとぉ……え、えへっ?』

かすみ『笑顔が硬すぎなのとポーズもぎこちないです!』

歩夢『む、難しいよぉ!!』

かすみ『難しくないですよ! 歩夢先輩、可愛いんですから自信もってください』

歩夢『へ!? か、かわいい?』

かすみ『まぁ、かすみんが一番可愛いですけれど!』エッヘン

歩夢『…………』


侑ちゃんはよく私の事を可愛いって言ってくれた。

けど、あんまり他の人達からは言葉にして言われた事がなかった。
だから、恥ずかしくもあったけれど──


歩夢『えへへっ、ありがとう! かすみちゃん』ニコッ

かすみ『!! ──その笑顔ですよ、歩夢せんぱいっ!』

歩夢『へ?』


──嬉しかった。恥ずかしかったけれど、ね。

575: (しまむら) 2021/07/04(日) 23:22:47.48 ID:iLaWlGVq
>>556 内容修正。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

私には、大好きな子達が沢山いる。

幼馴染の侑ちゃんは勿論、私にスクールアイドルを始めるきっかけを作ってくれた優木せつ菜ちゃんこと中川菜々ちゃん。

しずくちゃん。璃奈ちゃん。愛ちゃん。エマさん。彼方さん。果林さん。そして──かすみちゃん。

私は同好会メンバーの皆が大好き。あの子達との日々は、かけがえのない宝物。

その中でも、特に印象に残っている思い出がある。

それは、後輩のかすみちゃんとの日々。


かすみ『ちーがーいーまーすー!』

かすみ『歩夢先輩! こうです! えへっ』キャピ

歩夢『え、えっとぉ……え、えへっ?』

かすみ『笑顔が硬すぎなのとポーズもぎこちないです!』

歩夢『む、難しいよぉ!!』

かすみ『難しくないですよ! 歩夢先輩、可愛いんですから自信もってください』

歩夢『へ!? か、かわいい?』

かすみ『まぁ、かすみんが一番可愛いですけれど!』エッヘン

歩夢『…………』


侑ちゃんはよく私の事を可愛いって言ってくれた。

けど、あんまり他の人達からは言葉にして言われた事がなかった。でも、かすみちゃんはわりと私の事を可愛いと言ってくれた。

だから、恥ずかしくもあったけれど──


歩夢『えへへっ、ありがとう! かすみちゃん』ニコッ

かすみ『!! ──その笑顔ですよ、歩夢せんぱいっ!』

歩夢『へ?』


──嬉しかった。恥ずかしかったけれど、ね。

557: (しまむら) 2021/07/04(日) 07:43:41.30 ID:iLaWlGVq
かすみ『せ〜んぱ〜い〜! スクールアイドルに興味がおありなんですかぁ〜?』



かすみ『かすみんは生徒会に目をつけられているので……』



かすみ『この前、かっわいい〜写真が撮れたんですぅ! 歩夢先輩、見てくださいっ!』



かすみ『特訓しましょう……! 歩夢先輩……!!』

かすみ『仲間だけどライバル……仲間だけどライバルですよぉ!!』


いつも自分が一番可愛いと自信たっぷりで、何事にも全力でぶつかっていたかすみちゃん。
本当に可愛くって、大切な後輩であると同時に──憧れの子だった。

558: (しまむら) 2021/07/04(日) 07:49:20.81 ID:iLaWlGVq
歩夢『誕生日おめでとうかすみちゃん! はい、プレゼント』

かすみ『あ……ありがとうございます……』

歩夢『他に何かしてほしい事とかない?』

かすみ『してほしい言葉に……』

かすみ『にひひひ……何でもいいんですかぁ〜?』ニヤニヤ

歩夢『うん! 何でも言って!』

かすみ『……』ポカーン

かすみ『……歩夢先輩と話していると調子が狂います……』

かすみ『かすみんが悪い子みたいじゃないですか……』

歩夢『え?』


──思い出は、沢山ある。




「おーい。歩夢ちゃ〜ん?」

歩夢「へ?」ハッ

歩夢「あっ……マネージャー……」

歩夢「ごめんなさい。うたた寝してしまってました」

584:1(茸) 2021/07/05(月) 08:44:47.19 ID:GHhmONGd
>>558 誤字修正


歩夢『誕生日おめでとうかすみちゃん! はい、プレゼント』

かすみ『あ……ありがとうございます……』

歩夢『他に何かしてほしい事とかない?』

かすみ『してほしい事……』

かすみ『にひひひ……何でもいいんですかぁ〜?』ニヤニヤ

歩夢『うん! 何でも言って!』

かすみ『……』ポカーン

かすみ『……歩夢先輩と話していると調子が狂います……』

かすみ『かすみんが悪い子みたいじゃないですか……』

歩夢『え?』

かすみ『そうですね! なら、今日かすみんと遊んでくださいっ!』

かすみ『朝から夜まで、いっぱい遊びましょうっ』

歩夢『うんっ! いいよっ』ニッコリ


──思い出は、沢山ある。




「おーい。歩夢ちゃ〜ん?」

歩夢「へ?」ハッ

歩夢「あっ……マネージャー……」

歩夢「ごめんなさい。うたた寝してしまってました」

559: (しまむら) 2021/07/04(日) 08:00:35.82 ID:iLaWlGVq
「別にええんやけど……大丈夫? 疲れ溜まってきてる?」

歩夢「いえ、大丈夫です。本当に少しだけうたた寝してしまっただけですから」

「そっかぁ。まぁ、何かあったらすぐに相談してなぁ?」

歩夢「はいっ!」ニコッ

「それにしても歩夢ちゃん、寝てる時良い笑顔だったけど何か良い夢でも見てたん〜?」ニヤニヤ

歩夢「……秘密ですっ」

「えぇ〜? ウチにだけ教えて? ね?」

歩夢「ダメです。秘密」バッテン

「ちぇ」

歩夢「…………」


──本日、7月29日。

オーディション最終選考の日。

オーディション参加人数──24万人。

最終選考に選ばれたメンバー、30人。


歩夢「…………」ペラッ


名簿表を確認すると、見知った子の名前がある。

──中須かすみ。


歩夢(よく残ってくれたね。あなたの今の底力を、私に見せてね)

歩夢(かすみちゃん)


オーディション最終選考が──もうすぐ始まる。

578: (しまむら) 2021/07/04(日) 23:53:46.66 ID:iLaWlGVq
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

7月29日。ついにこの日がやってきた。

朝起きた時、つい寝坊したと思ったけれどいつもより2時間早く目が覚めてしまった。
目覚ましのアラームが鳴るはるか前に起きてしまう事に、あぁ……私は緊張しているんだなぁという正直な気持ちを実感させられる。

第一、第二選考と毎回こんな感じだった。

──本日、ついに最終選考。

現場入りも終わり、広い会場に最終選考メンバーとして残った30人が集まり、一列に並ぶ。


かすみ(ついに、ここまで来たんだ)

かすみ(やれる事は、全部やりきった)

かすみ(出来るとこを、全力で努力した)

かすみ(頑張ろう、中須かすみ)


胸に手を当て、静かに深呼吸する。

そうこうしていると──会場に歩夢先輩がやってきた。


歩夢「皆さん、こんばんは。上原歩夢です」

歩夢「ここまで本当に頑張ったね。皆さんにはまず、最終選考まで残れた事に誇りを持ってほしいかな。あなた達は24万人の中から選ばれたファイナリストです」

歩夢「本当におめでとう」ニコッ

585:1(茸) 2021/07/05(月) 08:46:24.75 ID:GHhmONGd
>>578 誤字修正

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

7月29日。ついにこの日がやってきた。

朝起きた時、つい寝坊したと思ったけれどいつもより2時間早く目が覚めてしまった。
目覚ましのアラームが鳴るはるか前に起きてしまう事に、あぁ……私は緊張しているんだなぁという正直な気持ちを実感させられる。

第一、第二選考と毎回こんな感じだった。

──本日、ついに最終選考。

現場入りも終わり、広い会場に最終選考メンバーとして残った30人が集まり、一列に並ぶ。


かすみ(ついに、ここまで来たんだ)

かすみ(やれる事は、全部やりきった)

かすみ(出来ることを、全力で努力した)

かすみ(頑張ろう、中須かすみ)


胸に手を当て、静かに深呼吸する。

そうこうしていると──会場に歩夢先輩がやってきた。


歩夢「皆さん、こんばんは。上原歩夢です」

歩夢「ここまで本当に頑張ったね。皆さんにはまず、最終選考まで残れた事に誇りを持ってほしいかな。あなた達は24万人の中から選ばれたファイナリストです」

歩夢「本当におめでとう」ニコッ

582: (しまむら) 2021/07/05(月) 08:16:59.98 ID:G2yI0ByC
本日の夜完結予定です。日は跨ぐ可能性ありますがよろしくお願いします。

589: (茸) 2021/07/05(月) 23:01:26.88 ID:HSOim65I
歩夢「本日のオーディションの内容は、前に通知していた通りです。皆さんにはこの場で歌とダンスを披露してもらいます」

歩夢「世に出回っている既存曲でもいいですし、自分の作ったオリジナル曲でも、なんでもいいです」

歩夢「そして、これはこの後生中継が始まります。長丁場になるかと思うから、少しでも体調が悪くなったりしたら遠慮せずにすぐに言ってください」


かすみ(テレビでそんな情けない姿晒したくないけどね)


歩夢「ちなみに、今日の最終選考の結果なのですが」

歩夢「本日その場で確認できます」

かすみ「!?」


歩夢先輩のその一言で、会場が少しザワつく。

590: (しまむら) 2021/07/05(月) 23:06:02.69 ID:G2yI0ByC
歩夢「歌とダンスの披露後に、点数が付けられます」

歩夢「その点数の付け方なんだけれど……スタッフさん、ごめんなさい。ステージの幕をあげてください」


一列に並ぶ私達の後ろにあった幕が開放される。──そこには多くの人達が椅子に座り、私達を見つめている。

何だか、その人達はソワソワしている。早く声を出したいって雰囲気が漂っている。


歩夢「別所で募集していた、あなた達の歌を本日現地で聞いて頂けるお客様です。この方々は1人1ポイントずつ持っていて、皆の歌を評価できるの」

歩夢「一人ずつ、歌う度に集計時間が用意されていて、お客様が毎回点数を付ける。皆さんの歌が良いと感じたらポイントを入れる。その合計点が90点を越えたら」

歩夢「最終選考突破。合格です」

歩夢「この方々の人数は合計で90人。つまり全員から評価されて点数を入れてもらえれば合格って事だね」


かすみ(簡単に言わないでほしい。全員からって……)


歩夢「簡単に言うなって思うよね?」


かすみ「!!」ドキッ


歩夢「流石に厳しすぎるので、救済処置として」

歩夢「私も皆を点数で評価するよ。私の持ち点は10点。つまり、80人の方から点を入れてもらって、私が良かったと思って10点を入れたら」

歩夢「その時点で合格となります」

歩夢(まぁ、本当は30点くらい私が持ちたかったけれど……止められたんだよね)

591: (しまむら) 2021/07/05(月) 23:08:52.42 ID:G2yI0ByC
歩夢「まぁ、ここまで長く説明したけれど、やる事は単純だよ」

歩夢「歌って踊って、皆に認めてもらい評価してもらえばいい」


かすみ「…………」


歩夢「皆さんには、期待してます」

歩夢「無事このオーディションに合格して」

歩夢「私が所属する新しいアイドルタレントとして──新たな人生を歩もうね」


かすみ「…………」グッ


拳を握り、気合を入れる。

──絶対に、合格してみせる。

自分の為に。今まで、支えてくれたみんなの為に。侑さんの為に。
絶対、夢を叶えよう。


歩夢「さぁ、もうすぐ生中継も始まります」

歩夢「各自、夢を叶える準備をしてねっ」ニッコリ




592: (しまむら) 2021/07/05(月) 23:24:58.50 ID:G2yI0ByC
歩夢「テレビの前の皆さん! こんばんは〜!」

歩夢「上原歩夢です」

歩夢「本日は、アイドルになる夢を叶える為に、全国から集まった若き精鋭達の努力する様子が生中継されます」

歩夢「ご視聴中の皆さんも、応援してくれたら嬉しいですっ!」

歩夢「では、みんな──入場をお願いします!」


事前にリハーサルのあった様に、進行していく。

メンバーが一列に綺麗に並びながら歩き、入場し終える。


かすみ(よし、綺麗に並べた)

かすみ(この様子がテレビに映ってるんだよね?)

かすみ(流石に……緊張する……)


バクバクと、心臓が鼓動する。

でも、それと同時にワクワクもした。

まるで、ライブ前の緊張感。この感覚を味わうのは久しぶりだった。

スクールアイドルの時にいつも味わっていた、この感覚。

──堪らない。


かすみ(早く──歌いたい)

593: (しまむら) 2021/07/05(月) 23:39:29.57 ID:G2yI0ByC
歩夢「さぁ、メンバーの入場も終えまして」

歩夢「本日、この番組の進行をサポートしてくれるゲストの紹介も致します」

歩夢「入場してくださいっ」

スタスタスタスタ

かすみ「!?」

しずく「テレビをご覧の皆さん、こんばんは。桜坂しずくです」

しずく「本日は番組進行を上手にサポート出来るよう、精一杯頑張りたいと思います。よろしくお願いしますっ」ニコッ

かすみ(し、しず子!? ──ゲストに呼ばれるだなんて、聞いてないよ!?)

しずく(かすみさん、すっごいおめめをぱちくりさせてる。ごめんね、内緒にしなきゃいけなかったの!)

歩夢「桜坂さん、本日はよろしくお願いしますね」ニコッ

しずく「はい!」ニッコリ

歩夢「──あと、もう一人いらっしゃいます」

歩夢「本日のサプライズなのですが、伝説の方をゲストとしてお呼び致しました。なんと、司会進行をして頂けるとの事です」

歩夢「入場、お願いします!」

かすみ(で、伝説……?)

594: (しまむら) 2021/07/05(月) 23:52:13.30 ID:G2yI0ByC
タッタッタッタッタ!!

「みなさーん! こんにちはー!!」

かすみ「!?!?!?」ビクッ!!

穂乃果「シンガーソングライターの、高坂穂乃果でーす! 本日は司会進行として頑張ります!」

穂乃果「オーディションを受けるみんな!」

穂乃果「ファイトだよっ!」


かすみ(こ、高坂穂乃果さん!?)

かすみ(スクールアイドルが目指す祭典、ラブライブで優勝を果たした……誰もが憧れるグループのμ'sのリーダー!)

かすみ(今や世界で評価されるシンガーソングライターで、本当に伝説の方だ!)


皆、生中継という事を忘れてザワついている。驚きが隠せない気持ちは分かる。

中には感動して泣いている子までいる。気持ちは分かる。μ'sと言えば本当に伝説の存在だし、その元リーダーが同じ空間にいるんだ。

でも、涙でメイク落ちちゃうよ?

597: (しまむら) 2021/07/06(火) 00:03:55.44 ID:v0bsi8Cf
歩夢「高坂さん。本日はお忙しい中本当にありがとうございますっ」

穂乃果「キミのプロダクションの社長にはお世話になってるからねっ。呼ばれたら来るよ!」

歩夢「その中でも時間を作って頂いたので──」

穂乃果「もー! 硬いよ歩夢ちゃん? それにさぁ、名前で呼んでよ〜」

歩夢「いや、番組中ですし……」

穂乃果「いいのいいの〜。そっちの方が和気あいあいとした雰囲気になって皆の緊張ほぐれると思うよ?」

穂乃果「ね? しずくちゃん?」

しずく「え? あっ……は、はい!!」

穂乃果「うーん、素直でいい子だね〜」ポンポン

しずく「そ、そんな……恐れ入ります」

かすみ(しず子もめちゃめちゃ緊張してそう……)

歩夢「……わかりました。では穂乃果さん。お手数お掛けしますが、本日はよろしくお願いします」

穂乃果「はーい!」

穂乃果「では、まずは番組の説明とオーディションの内容についてなんですが──」ペラペラ


人が変わったように、落ち着いた様子のまま穂乃果さんは番組を進行させていく。

599: (しまむら) 2021/07/06(火) 00:20:30.79 ID:v0bsi8Cf
穂乃果「では、続いてオーディションメンバーの紹介です。──そこのあなた!」ピシッ!

かすみ「!? はい!」

歩夢「…………」

穂乃果「自己紹介と簡単な自己PRをよろしくっ!」ニコッ

しずく「な、なぜ突然あの方に……?」

穂乃果「なんとなく!」ニッコリ

かすみ「…………」


なんとなく、かぁ。中々目の付け所が良い方だ。

──ここで指名されたのも、何かの縁かもしれない。


かすみ「……」ニコッ


──伝説の方に、名前を覚えて帰ってもらおう。


かすみ「こんばんは〜!」

かすみ「中須かすみでぇっす!」

かすみ「今日はぁ〜」

かすみ「──この場の誰よりもかわいいのは私だって事を証明する為に来ましたっ!」キャピ

かすみ「合格目指して頑張りますっ!」ニコッ


“この場の誰よりもかわいいのは私”。全方位に向けた、宣戦布告だ。

周りの空気が、変わる。でも、関係ない。私は私に出来ることをやるだけだ。

この場で一番可愛いのは、かすみんである私なんだから。
それを証明するだけだ。

600: (しまむら) 2021/07/06(火) 00:39:52.12 ID:v0bsi8Cf
穂乃果「おぉ〜、意気込みもばっちりだね!」

かすみ「はいっ!」ニコッ

穂乃果「うんうん。若いっていいねぇ〜。──では次の方、自己紹介をお願いしますっ!」


そのまま少しずつ番組は動き、刻々と歌と踊りの時間が近づく。

気が付けば、歌う順番を決める所まで番組が進行していた。

用意された箱の中から数字が載っているボールを取り出す。書かれた番号は、1番。

──私は、一番目に歌う事が決まった。


かすみ「中須かすみ、1番です」

穂乃果「おぉ! 今日は何かと一番に縁があるねキミ」

しずく「では中須かすみさん。皆さんが番号を引き終わりましたらすぐに実技を見させて頂きますので、こちらの席で待機をお願いします」

かすみ「はい」コクリ


しず子に席まで誘導される。
目が合った瞬間、頑張れって言っているような気がした。

私、頑張るよしず子。


歩夢「…………」


歩夢先輩は、私を静かに審査席から見つめていた。

何を思っているんだろうか。想像が出来ない。今のあなたの考えは、正直な所分からない。

だから──中須かすみはかわいいって事以外、考えられないようにする事にした。


かすみ(見ててください。歩夢先輩)

かすみ(私の──歌と踊りを!)

601: (しまむら) 2021/07/06(火) 00:48:11.39 ID:v0bsi8Cf
穂乃果「ではでは、皆の番号が引き終わったみたいなので」

穂乃果「早速1番の方に披露して頂きたいと思います!」

穂乃果「観客の皆も準備はオッケー!?」


穂乃果さんの声に合わせて、お客さん達から歓声が上がる。待ってましたと言わんばかりだ。

かすみ「……」

歩夢「中須かすみさん。準備は出来ていますか?」

かすみ「──はい」

歩夢「では、早速見させて頂きます」

歩夢「よろしくお願いします」

602: (しまむら) 2021/07/06(火) 00:58:20.03 ID:v0bsi8Cf
かすみ「はい。中須かすみ、歌います。よろしくお願いしますっ」

かすみ「──」スゥゥゥゥゥ


静かに、息を吸う。

──これまで、本当に色々な事があった。


しずく『もう一度、アイドルを目指してみない?』


きっかけは、親友からの一言。でも、この時の私はまだ──腐っていた。


侑『もう一度、アイドルを目指してみない?』


──でも、それでも私を救おうとしてくれた人がいた。


せつ菜『大事なのは、今ですよ』


──過去ではなく、今を生きる事が大事だって分かった。


彼方『でもこれは』

彼方『私のやりたかった事だから』


──自分の本当にやりたい事が、見つかった。

606: (しまむら) 2021/07/06(火) 01:16:12.77 ID:v0bsi8Cf
璃奈『かすみちゃん』

璃奈『ダメなところも武器に変えるのが、一人前のアイドルだよ』


──親友から返ってきた言葉もあった。

私は、本当にダメダメになっていた。

自分に自信が無くなって、夢を勝手に諦めて、ネガティブになっていた。

皆がいなかったら、今も変わらなかったと思う。

本当に、良い人達と出会えた。


歩夢「…………」


歩夢先輩だって、きっと私の事を思ってくれている。……と思う。

ただ今は、後輩として気にかけてもらっている気がする。

それはいやだ。あなたには──対等な立場で見て欲しい。


かすみ(私は)

かすみ(世界一かわいいアイドル)


今から歌うのは、私の一番自信がある歌。

──私は昔、しっかりとファンの皆のから投票してもらって、同好会の中で一番になれた。

その時、記念に侑先輩が作ってくれた歌。

その特別な歌の名前は──


かすみ「世界一かわいいのは、この私!」

かすみ「かすみんなんですからねっ!」


【無敵級ビリーバー】

609: (しまむら) 2021/07/06(火) 01:45:44.95 ID:v0bsi8Cf
歩夢「……」


かすみちゃんが歌う。

歌もダンスも、スクールアイドルの時より確実にレベルアップしていた。
小柄な身体を自分の特徴として最大限に活かした、あざといけれど心に残る動き。とっても可愛らしい。私には出来ない動きだ。

いや、私だけじゃない。かすみちゃんにしか出来ないモーションを完成させていた。

本当にこの期間、たくさん努力をしたんだろう。


かすみ「♪〜!」


歩夢「……」


──すっごく楽しそうな笑顔が、かわいい。



『歩夢せんぱいっ! かすみん、今日もかわいいですかぁ〜?』

『うん。可愛いよかすみちゃんっ』

『うぐっ……と、当然ですよ! えっへん!』

『あれ? かすみちゃん照れてる?』

『照れてないです!』プイッ



歩夢「……」


かすみちゃんは、私の仲間でライバルの子。とっても可愛い、私の憧れの女の子。

そんな子が──日の目を浴びずに腐っていて、いいわけが無いの。

余計な事をしてしまったかもしれない。酷いことだって沢山言ってしまった。
今までの私の行動は、エゴだったかもしれない。

でも、それでも私は──かすみちゃんとまた一緒に歌いたかった。

──同じアイドルとして。


かすみ「I’m a sweetie cutie braver────!!」

「「「──────!!」」」


歓声が響き渡る。

世界一かわいいアイドルのかすみんが、ここにいた。


歩夢「……」

歩夢「おかえりなさい」

歩夢「待ってたよ」

歩夢「かすみちゃん」ニコッ

610: (しまむら) 2021/07/06(火) 01:52:10.95 ID:v0bsi8Cf
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

オーディションも終わり、数ヶ月が経ちました。

今の私が何をしているか、説明します。


かすみ「こんにちは〜!」

かすみ「新人アイドルの、中須かすみで〜す」

かすみ「よろしくお願いしますっ!」


正直に伝えます。驚かないで下さいね?

──ビラ配り。


かすみ「………………」

かすみ「思ってたのと違う─────ッ!!」


アルバイトのような事をしていた。

612: (しまむら) 2021/07/06(火) 02:02:10.86 ID:v0bsi8Cf
「──で?」

「道端で突然大声を上げたと?」

かすみ「……はい」

「はぁ……」

「このお馬鹿! そんなことするアイドルがどこにいるのよ!」

かすみ「だ、だって! せっかくアイドルになれたのに、やってる事はビラ配りばかりじゃないですかぁ!」

かすみ「もっとアイドルらしい事がしたいですよー!」

「ぬぁに言ってんのよ! 考えが甘い! こういった地道な活動も大切なの! 歩夢だってやってたんだからね!? ビラ配りで作れる関係もあるし、ちゃんとやりなさい!」

かすみ「うぅ……申し訳ございません」ペコリ

「たくっ。……まぁ、反省してるならいいわよ」

「まぁまぁ社長〜。かすみちゃんも反省しとるし、そんな怒んなくたってええやん。シワが増えるよ?」

「うっさい!」

かすみ「……」

「あっ、そーだかすみちゃん。歩夢ちゃんが呼んどったよ?」

かすみ「へ? 歩夢先輩が?」

「うん。駐車場にいるってさ」

かすみ「へ? 駐車場……?」

614: (しまむら) 2021/07/06(火) 02:10:31.47 ID:v0bsi8Cf




スタスタスタスタ

かすみ「こんにちは、歩夢先輩」

歩夢「あっ、かすみちゃん来た。遅刻だよ?」

かすみ「いや、遅刻も何も突然呼ばれたんですけど……」

歩夢「冗談だから軽く流してよ。じゃ、とりあえず乗って?」

かすみ「へ? どっか行くんですか?」

歩夢「うん。大事なお仕事があるの」

かすみ「はぁ……」

歩夢「かすみちゃん、この後スケジュール空いてるでしょ?」

かすみ「今のかすみんはビラ配りするかレッスンするしか無いので……」

歩夢「あっ、ごめん」

かすみ「謝らないで下さいよ……」

歩夢「まぁでも、わりと最初はそんなもんだよ? とりあえず今日はお手伝いして欲しいことがあるの」

かすみ「いいですけど……。あっ、ちなみに歩夢先輩はどれくらいの期間、ビラ配りとかの下積みしてたんです?」

歩夢「3週間」

かすみ「やっぱり練習します」

歩夢「だーめ! 手伝って! かすみちゃんの力が必要なの!」

かすみ「……はぁい……」

615: (しまむら) 2021/07/06(火) 02:18:08.93 ID:v0bsi8Cf
かすみ「てか歩夢先輩、車運転出来たんですね」

歩夢「うん。免許証あると便利だし。フォークリフトの免許も持ってるよ?」

かすみ「いや、それなんの意味があるんです!?」

歩夢「ライブ演出に使えるかなぁって」

かすみ「えぇ……」

歩夢「とりあえず、発進するよ?」

かすみ「事故らないで下さいね? 歩夢先輩、おっちょこちょいなんですから。私まだ死にたくないですので」

歩夢「かすみちゃんが座ってる側だけ削れるかもしれない」

かすみ「事故宣言!?」

歩夢「冗談だよ。車傷付けたくないし」

かすみ「私の心配をしてくださいよぉ!!」

歩夢「あっはは!」ニコッ

かすみ「……」ポカーン

歩夢「ん? どうしたのかすみちゃん?」

かすみ「いや、えっと。……歩夢先輩」

かすみ「最近、よく笑うようになったなぁって」

歩夢「あっ、確かにそうかも」

616: (しまむら) 2021/07/06(火) 02:24:58.64 ID:v0bsi8Cf
かすみ「なにか理由、あるんですか?」

歩夢「うーん」

歩夢「うーーーーん……」

歩夢「うーん……」

歩夢「……秘密っ」

かすみ「はいはい……言うの渋ってたのでそう言うと思いましたよ」

歩夢「まぁ、色々あるんだよ」

かすみ「そうですか」

歩夢「うん」

歩夢「──ただ、一つ言いたいことがあるの」

かすみ「え?」

歩夢「かすみちゃん」

歩夢「あなたとまた一緒にアイドルになれて、すっごく嬉しい」

かすみ「!!」

歩夢「もう一度夢を目指してくれて、ありがとうね」

かすみ「…………」


何も言えなかった。

ただ、少しだけ視界がぼやけた。


かすみ「……っ……!」


私は歩夢先輩に顔を見られないように、窓側に顔を向ける。

涙を流している自分の顔が、窓に映っていた。

617: (しまむら) 2021/07/06(火) 02:37:49.69 ID:v0bsi8Cf
オーディションで歌い終わった時、皆からの点数が明かされた。

点数は、歩夢先輩のも含め91点。

中々ギリギリではあったけれど、私はオーディションに合格する事ができた。

発表された後のことは、あんまり覚えていない。

とにかく、涙が止まらなかった。そして、進行サポートだったしず子もすっごく泣いていたのは覚えている。
穂乃果さん、すっごく焦ってたなぁ。申し訳ない事をしてしまった。

ただ、晴れて合格は出来たものの──当然落ちる子達もいる。合格者はわずか私含めて5名。

それに加えて私は元々歩夢先輩と同じ学校出身だったという事で、中々物議を醸していたみたいだ。

全て中須かすみの為に作られた、出来レースだったのではないかと。

そう言われても、否定は出来ないのかもしれない。
私は、たくさんの人に支えてもらってアイドルになれたのだから。

でも、そんな評価のまま終わりたくない。だから私は、これからも全力で努力し続けなければいけない。

ビラ配りも、大事なお仕事だ。しっかりとやっていこう。

618: (しまむら) 2021/07/06(火) 02:47:00.93 ID:v0bsi8Cf
オーディションが終わり家に帰ると、侑先輩に抱きつかれた。

そのまま2人でわんわんと泣いたのを覚えている。

侑先輩は、本当に喜んでくれた。あの時は嬉しかったなぁ。

今は侑先輩も忙しくなってしまい、二人の同居生活も終わってしまった。
だから、家に帰ると中々寂しい。

──侑先輩に、会いたいなぁ……。






歩夢「──すみちゃん。かすみちゃん」

かすみ「……ん〜……?」ウトウト ポー

歩夢「着いたよ?」

かすみ「!!」ガバッ

かすみ「ご、ごめんなさい! 私……うたた寝しちゃってました……!」

歩夢「ううん。大丈夫だよ?」

かすみ「運転してもらってたのに、本当にごめんなさい」

歩夢「よく侑ちゃんも隣の席で寝てるから、あんまり気にしないで?」

歩夢「むしろ安心してもらってるんだなぁって思えて、嬉しくなるよ」ニコッ

かすみ「うぅ……ほんとごめんなさい。運転ありがとうございました」ペコリ

歩夢「いいからいいから。さっ、かすみちゃん降りて?」

歩夢「今日の主役は、あなたなんだから」

かすみ「え?」


車から降りると、目の前には彼方先輩の喫茶店がある。

619: (しまむら) 2021/07/06(火) 02:50:36.78 ID:v0bsi8Cf
歩夢「さっ、入った入った〜」

かすみ「え? えぇ!?」


歩夢先輩にそのまま背中を押され、お店の中に詰め込まれる。

入ってすぐに、私の耳にはクラッカーの音が届く。


かすみ「えぇ!?」


何事かと思った。

中には──虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆がいた。はる子もいる。

皆、笑顔で私を見つめていた。

622: (しまむら) 2021/07/06(火) 03:05:06.78 ID:v0bsi8Cf
璃奈「かすみちゃん、本当におめでとう。世界一可愛かった」

しずく「夢を叶える事ができて、本当に良かった! おめでとうかすみさん!」

遥「かすみちゃん、本当におめでとうございます! 頑張ってたもんね……!」

せつ菜「おめでとうございますかすみさん! 素晴らしい歌と踊りでしたよ! 私もまたアイドルやりたくなりましたっ!」

愛「愛さんも感動したし、お店にいたお客さん達もすっごく褒めてたよ! おめでとかすかすぅ〜!」

彼方「あっ、私のお店のお客さんも褒めてた〜。すごかったよかすみちゃん〜! おめでとー!」

エマ「透き通るような歌声、可愛かったし綺麗だったよかすみちゃん〜! おめでと〜! あと、果林ちゃんもかすみちゃんのオーディション結果見た瞬間に泣いてたよ?」

果林「ちょ、エマ!? なんで言うのよ! ……ま、まぁ……本当におめでとうかすみちゃん。凄かったわよ?」

かすみ「」ポカーン

侑「かすみちゃん」

かすみ「!!」

侑「中々皆のタイミングが合わなくってさ、遅くなっちゃったんだけど……」

侑「今日はかすみちゃんのオーディション合格おめでとうパーティだよ」

侑「本当におめでとう、かすみちゃん!」

かすみ「…………」


みんなの笑顔が、眩しかった。

なんて言っていいか、分からなかった。


かすみ「……っ……」


──ただ、身体は動いた。


バッ──ギュッ!!

侑「おっとっと!」ギュッ

かすみ「…………」ギュュュュュ


侑先輩が、優しく抱きとめてくれた。
私はそんな侑先輩を、ぎゅっと抱きしめる。

623: (しまむら) 2021/07/06(火) 03:10:10.53 ID:v0bsi8Cf
彼方「おおっ!」

エマ「おあついね〜」ニコニコ

歩夢「…………」ジトー

かすみ「みんな、ありがとう……!!」

かすみ「大好きっ!!」ニッコリ

侑「──うんっ!」ニコッ


皆が私にそのまま抱きついて来る。

暑いけど──嬉しい。

皆、大好き。

624: (しまむら) 2021/07/06(火) 03:18:23.54 ID:v0bsi8Cf
歩夢「かすみちゃん? 最近侑ちゃんとのスキンシップが激しくない?」ニコニコニコニコ

かすみ「そんな事ないですよ?」

果林(歩夢、妬いてるわね)

彼方「今日は美味しいもの沢山作ったよ〜! 貸切だから盛大な祝おうぜ〜!」

エマ「ぜぇ〜!」

遥「私も料理手伝いました!」

せつ菜「私もです!!」

璃奈「あわわわわわ……! そ、それ大丈夫なの……?」

しずく「璃奈さん、流石にもう10年も経つんですから……せつ菜さんの料理の腕も上がってるはずです」

侑「あれ? しずくちゃん。なんかそれ嫌な予感がするんだけど……フラグじゃない?」

しずく「え?」

愛「たしかに! そうだ、かすかす料理得意だよね? ちょっと確認して見てほしいんだけどっ」

せつ菜「皆さんひどくないですか!?」

かすみ「……愛先輩!」

愛「え?」

625: (しまむら) 2021/07/06(火) 03:19:39.89 ID:v0bsi8Cf
かすみ「かすかすじゃなくって」

かすみ「かすみんです!!」

かすみ「私の事は──」




かすみ「かすみんって呼んでください!」

626: (しまむら) 2021/07/06(火) 03:19:49.57 ID:v0bsi8Cf
おしまい。

629: (たまごやき) 2021/07/06(火) 03:51:28.19 ID:9yibcOWJ
ええ話やなぁ。・(つд`。)・。

632: (もんじゃ) 2021/07/06(火) 05:42:03.44 ID:rLhxXfCM
乙です
すごくよかったです

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1624283150/

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