【SS】花陽「アイドル研究会!?入部します!」

SS


1: (茸)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 12:19:18.41 ID:0PeYyy5J.net
こういう世界だったらどうなるの?
廃校設定はなしで。

38: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 19:27:53.21 ID:WdYADGPN.net
にこ「――悪いけど、部員は募集してないの。帰ってくれる?」


それが最初の言葉だった。その物言いはあまりにもはっきりとしていて、完璧な拒絶を感じさせた。


アイドル研究会ってどんなことをするんだろう?

サイリウムの100本素振りとかするのかな、それともライブにそなえた体力づくり?

ううん、そんなわけないよね。きっとみんなでお菓子とか食べながらワイワイ楽しくアイドルについて語るんだよ。

それで、一緒に買物行ったり、ライブ行ったりして、高校生だから泊まりがけのイベントなんか行っちゃったりして――

ついさっきまでそんなことを考えていたから、私は今の状況にまったくついていけなかった。

何か言わないと、そう思うと余計にアワアワしてしまって何も思いつかない。

そ、そうだ。どうしてなのか聞かないと。定員なんですか?それとも何か条件があるとか―

花陽「…ぁ」

にこ「?」

花陽「…」

にこ「…とにかく。そういうことだから。」


黙っている私を見かねたのか、先輩は部室の中に入っていってしまった。

――ああ、どうして私ってこうなんだろう…


1だけどこんな感じで始まってその後入部したりなんやかんやあるんだ

44: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:44:18.94 ID:WdYADGPN.net
もう誰も書き込まないだろうから再利用する。迷惑だったら出ていくから言ってくれ。

にこ「――悪いけど、部員は募集してないの。帰ってくれる?」


それが最初の言葉だった。その物言いはあまりにもはっきりとしていて、完璧な拒絶を感じさせた。


アイドル研究会ってどんなことをするんだろう?

サイリウムの100本素振りとかするのかな、それともライブにそなえた体力づくり?

ううん、そんなわけないよね。きっとみんなでお菓子とか食べながらワイワイ楽しくアイドルについて語るんだよ。

それで、一緒に買物行ったり、ライブ行ったりして、高校生だから泊まりがけのイベントなんか行っちゃったりして――

ついさっきまでそんなことを考えていたから、私は今の状況にまったくついていけなかった。

何か言わないと、そう思うと余計にアワアワしてしまって何も思いつかない。

そ、そうだ。どうしてなのか聞かないと。定員なんですか?それとも何か条件があるとか―

花陽「…ぁ」

にこ「?」

花陽「…」

にこ「…とにかく。そういうことだから。」


黙っている私を見かねたのか、先輩は部室の中に入っていってしまった。

――ああ、どうして私ってこうなんだろう…

45: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:44:39.91 ID:WdYADGPN.net
凛「――それで?帰っちゃったの?」

花陽「うん…だって3年生の人だったし…部室の中に誰もいないみたいだったから…」

凛「確かに二人きりは気まずいにゃー…」

花陽「はあ…凛ちゃんは?陸上部行ったんでしょ?」

凛「うん!先輩たちも優しそうだったし凛はもう入部の約束してきちゃった~♪かよちんも一緒に入ろうよ!」

花陽「うん…あーあ…せっかくアイドルのお話できる友達ができるかも、って思ったのに…」

凛「…」

花陽「あ!ごめんね!凛ちゃんがアイドル全然わからないとかそういうのじゃなくて…」

凛「わかってるよ、かよちん。うーん…じゃあ、今日もう一回行ってみようよ。」

花陽「え?」

凛「どうして入部できないか知りたいんでしょ?凛が聞いてあげる!」

花陽「え、いいよいいよ!そんなの…」

凛「聞くだけ!ね?そしたらかよちんも納得するでしょ?それにかよちんのアイドル愛を聞いたらその先輩だってきっとかよちんを入れたくなっちゃうよ!」

本当にそうかなあ。私は凛ちゃんと向かい合ってお弁当を食べながら昨日会った先輩のことを思い出していた。

すっごく可愛い人だったなあ。やっぱりアイドルの研究する人ってアイドルくらい可愛く無いといけないのかな?

だとしたら私はきっと容姿の審査で落ちちゃったんだよ――

46: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:45:43.02 ID:WdYADGPN.net
にこ「…何?」

――部室の前で呼び止められた先輩は明らかに不機嫌だった。あわわ…だ、大丈夫かな…

凛「だから!どうして部員を募集してないのか教えてください!」

にこ「…どうして、って言われても…」

花陽「あ、あの…ひょっとして、定員オーバーとか…?」

凛「えーっ?小さな部室だけどそんなにいっぱい人がいるの?」

花陽「り、リンチャン!」

にこ「小さくて悪かったわね!うちはにこだけしかいないわよ!」

凛「ご、ごめんなさい!…でも、それならかよちんを入れてあげてもいいんじゃないですか?にこ…先輩。」

にこ「い、や、よ。うちはね、そんな軽々しく入れる部じゃないの。アイドルが好き?どうせニワカでしょ?」

凛「かよちんはニワカじゃありません!誰よりもアイドルのことを知ってます!」

花陽「も、もういいよ凛ちゃん…」



にこ「ふーん…◯◯の初ミリオンシングル。」

花陽「え?」

にこ「詳しいんでしょ?こんな常識も知らないの?」

花陽「え、えっと…◯◯◯◯」

47: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:46:09.00 ID:WdYADGPN.net
にこ「…??の第3期メンバーとプロフィール。」

花陽「~~~~~~~です。」

にこ「へえ、やるじゃないの。じゃ、こんなのはどう?…九州地方のスクールアイドル、各県でメジャーなのあげてみて?」



――ああ、そうか!そういうことだったんだ。



今、ここにきてわかった。これは入部テストだ。

本当にアイドルが好きで、その資格があるかどうかを試してるんだ。

昨日は私がはっきりしない態度だったから見限られちゃったんだね。


そうとわかったら頑張らないと! 私はそう思って受験の時と同じぐらい脳細胞をフル回転させた。

49: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:46:39.19 ID:WdYADGPN.net
にこ「――じゃ、△△のデビューシングルは?」

花陽「◯◯です!」

にこ「残念。違うわ。」

花陽「えっ?…で、でも…」

にこ「…フン。やっぱド素人ね。こっち来なさいよ。」

そう言うとにこ先輩は私達を部室の中に入れてくれた。


―――すごい!


壁一面を覆い尽くすアイドルグッズ、ポスター、タペストリーの数々!



にこ「ほら、見てご覧なさい。」

にこ先輩が一枚のCDを渡してきた。

にこ「A社からのメジャーデビュー前にね、B社から一枚だけシングルを出してるのよ。ま、すぐに移籍しちゃったけどね。」

花陽「…」

50: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:47:21.18 ID:WdYADGPN.net
にこ「わかった?にこは中途半端な仲間なんていらないの。わかったら…」

凛「で、でも…かよちんは最後以外全部正解して…」

花陽「す…」

にこ「いいから、もう出てって…」

凛「そこをなんとか…」

花陽「…すごいです!!」

「「わっ!」」

花陽「その知識!このグッズ!そ、そして…こ、これは…伝・伝・伝…!」

にこ「ああ!何勝手に!」

花陽「どうしてこれが…しかも2つも…」

にこ「それって何?すごいの?」



花陽「すごいなんてものじゃないよ凛ちゃん!これはね…」

51: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:48:04.68 ID:WdYADGPN.net
~略~

花陽「そ、尊敬します…!」

にこ「そ、そう?」

凛「凛はよくわからないにゃ…」

花陽「お願いします!ぜひご指導ご鞭撻の程を…」

にこ「…いやよ。」

花陽「ええっ!」

にこ「…いやなものはいやなの。」

花陽「そ、そんな…」


やっぱり、私なんかじゃダメなんだ。この人なら…って思ったのに…

崩れ落ちる私を凛ちゃんが支えたその時だった。



「――ええんやない?せっかく入りたいって言ってくれてるんやし。」



…いつの間にか入り口に人が立っていた。リボンの色…3年生だ。私は慌てて居住まいを正す。

52: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:48:49.63 ID:WdYADGPN.net
にこ「希…アンタ何しに来たのよ。」

希「新年度の部費の申請書。まだ出してへんよ。」

にこ「…部費なんてろくにおりてきたこと無いじゃない。…はいこれ!」

希さんって呼ばれた人に言われてにこ先輩はごそごそとカバンをあさって書類を取り出す。


希「おおきに。部費が欲しいんならそれなりに活動せんとなあ?」

にこ「うっさいわね…それができたら…にこだって…」


仲悪いのかな…にこ先輩の顔が曇ってる。


希「せやから新入生を入れたらええやん。」

にこ「だから!」



希「『アイドルの研究』だったらその子、にこっちにも負けてないと思うけど?」



にこ「え?」

53: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:50:07.24 ID:WdYADGPN.net
花陽「は、はい!にこ先輩の知識、熱意に感動しました!一緒にアイドルのことを語ったりできたらなって…」

にこ「…花陽とか言ったわね。アンタ、うちの部の活動内容知ってるの?」

花陽「え?ごめんなさい…はっきりは知らないんですけど…アイドルのことを語ったり、一緒にライブに行ったりするんですよね?」

にこ「…」

花陽「え?ひょっとして…違い、ました…?もっと高度な研究とか…」


希「…ううん。合っとるよ。そうやろ?にこっち?」

にこ「…そうね。その通りよ。」


希「だったら『何も問題ない』んとちゃうの?」


花陽「あ、あの…私、アイドルが好きで…アイドルが大好きで…さっきの入部試験は失敗しちゃったけど…見習いでもいいですから…」


凛「凛からもお願いします!かよちんなら立派な部員さんになれると思います!」

54: (家)@\(^o^)/ 2015/02/26(木) 22:50:53.61 ID:WdYADGPN.net
にこ「…」


希「にこっち?」





にこ「わかったわよ!入部を認めるわ!」

花陽「っ!」

凛「やったあ!」



凛ちゃんがわあっと声をあげて私に飛びついてきた。希先輩もうんうんってニコニコしてくれてる。



にこ先輩だけは赤いほっぺたでふてくされたようにそっぽを向いてたけど、今思い返せばちょっと泣いてた。




――その時の私はそんなこと気づかなかったけど。

78: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:39:10.61 ID:uHo9+dds.net
『先輩と私』

花陽「――~~~っ!もうさいっこうでしたね!にこ先輩!」ブンブン

にこ「うんうん!さすがにこの注目株の新人アイドルね!ネットに張り付いてチケットとった甲斐があったわ!」

花陽「本当に、本当にありがとうございます!」

にこ「いいのよ、にこも花陽みたいにわかってくれる子と一緒に見るほうが楽しいし!」

花陽「エ!?そんな、にこ先輩…」

にこ「あ…えっと…あ、あーあー、その…なんていうか…ちょっとお茶でも飲みながら語りましょうか。ね?」

花陽「…はい!」




あれから一ヶ月くらい。私とにこ先輩はとっても仲良しになっていた。

授業が終わると部活に行き、にこ先輩と思いっきりアイドルについて語らう。

放課後や休日はにこ先輩と一緒に街を歩いて買い物したり、ライブを見たり。私が思っていた通りの活動がそこにあった。

79: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:41:29.95 ID:uHo9+dds.net
最初はちょっと怖い人かな?って思ってたけど全然そんなことなくて。


にこ『――ほら、やっぱり似合うじゃない。』

花陽『で、でも…こんな可愛いお洋服…私が着てもいいのかな…』

にこ『何言ってんのよ。あんた可愛いから問題ないわよ。』

花陽『ピャア!?そ、そんな…』

にこ『ま、にこ程じゃないけどね~?もっと自分に自身を持ちなさいよ。』

花陽『先輩…じゃ、じゃあ思い切ってこのお洋服買っちゃおうかな…』

にこ『そうね、このお店そんなに高くないから大丈夫よ。にこもよく来るの。』


――にこ先輩はお洒落で、色んなお店もよく知っていて、面倒見がよくって、とっても素敵な人だった。

アイドルのことだけじゃない。自分の世界や信念を持っていて、私なんかとは正反対の理想の女の子。

お姉ちゃんがほしい、なんて思っていたこともあったけど、それってこんな感じなのかな?

とにかく、毎日がとっても楽しい!アイドル研究会に入ってよかった!

凛ちゃんは『最近全然遊んでくれないにゃー…』なんて愚痴ってたけど…

80: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:42:24.58 ID:uHo9+dds.net
でもね。一つだけ心配があるんだ。

それはね、私とにこ先輩の間に時々ある、こんなこと。



その日、あまりの興奮ぶりにカフェの店員さんにちょっとイヤな顔をされて、それでも散々喋り倒したその帰り道。

花陽「――あ、A-RISE…」

ふと目をやったUTXの巨大モニター。思わず足が止まってしまう。

にこ「…」


人気絶頂、スクールアイドルブームの火付け役A-RISE。何度も何度も見たPVがループしてるだけだけど、それでもやっぱり見入っちゃう。

キレキレのダンス。キレイな歌声。抜群のスタイル。こんな子達が私と同じ女子高生だとは思えない。


花陽「ふわあ…やっぱすごいですね…」

にこ「そうね…悔しいけど。」



花陽「え?悔しい…?」

にこ「あ、いや、…おっきな学校で羨ましい、って意味よ。」

81: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:43:40.29 ID:uHo9+dds.net
花陽「ああ、確かに。うちの学校、歴史はあるけどその分古くてちっちゃいですもんね。」

にこ「え、ええ。そうね。…せめて、部室にクーラーぐらいは欲しいわよね。」

花陽「ふふ、確かに。」



…そのままにこ先輩とモニターを見上げていた私はちょっとした疑問が湧き上がった。


花陽「…そういえば、うちの学校にはいないんですか?スクールアイドル。」


にこ「…」



花陽「先輩?」

あれ?何かまずいこと聞いちゃったかな?にこ先輩の顔色が一瞬だけこわばった気がする。




にこ「…いたわよ。昔、ね。」

花陽「ええっ!それ本当ですか?」

82: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:44:42.91 ID:uHo9+dds.net
すごいすごい!憧れのA-RISEみたいなスクールアイドルがうちの学校にもいたなんて!

今まで遠い世界の存在だった彼女たちが一気に身近な存在に感じられた。


花陽「ど、どんな人ですか?にこ先輩の知ってる方ですか?ひょっとしてお友達ですか!?」

にこ「え?いや、その…あの…ちょっと!落ち着いて!」

花陽「あ、すみません…」


にこ「…にこもね、よく知らないの。すぐに解散しちゃったみたいだから。」

花陽「そうなんですか…ちょっとその人達に会ってお話が聞きたいな、なんて思っちゃいました。」

にこ「そう…」


花陽「自分たちがステージで歌って踊るのってどんな気分なんでしょうね?歌はオリジナル?…衣装はやっぱ市販の改造かなあ…?」


にこ「ねえ、花陽。」


花陽「でも最初はプロのコピーも有りだよね。うちってそんなに立派な設備もないし…」


にこ「花陽。」


花陽「あ、ごめんなさい!なんでしょうか?」






にこ「…花陽はさ、やりたいの?その…スクール、アイドル…」

83: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:45:21.48 ID:uHo9+dds.net
花陽「え?」

にこ「だから、スクールアイドル、やりたい?」

花陽「…え?え?ええええええええ?む、無理無理!絶対無理です!私みたいな子がアイドルなんて!」

花陽「もう絶対駄目です!私なんて声もちっちゃいし、可愛くないし、にこ先輩みたいな人ならまだしも――」

にこ「ちょ、ちょっと、そうじゃなくて!やりたいかどうかだけ!それだけ!…本当にそれだけ。」

花陽「あ、なんだ。そういうことですか…その…やりたいかやりたくないかで言えば…」

にこ「…言えば?」









花陽「…やってみたい、です…」


顔を真赤にして小声でそう言った。普段の私だったら絶対こんなこと凛ちゃん以外の人には言えない。

でも、にこ先輩だったらいいかな。そう思ったの。それに、その時の先輩、すっごく真剣な目をしてたから。

84: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:46:02.82 ID:uHo9+dds.net
にこ「…」

花陽「え?先輩…?」


にこ「ねえ、花陽。…あのね…」


花陽「はい。」


にこ「…」








――あ、まただ。

そう、時々、こんなことがある。


なんでもはっきりとモノを言うにこ先輩が何か言いたそうにして言い淀む。

楽しくおしゃべりしてる時、何かを隠すように急に話題を変えたりする。

私の話がつまらない?どんくさいから一緒にいてもイライラするだけ?


…そんな人じゃないのはわかっているけれど、ちょっとだけ心配になる。

85: (家)@\(^o^)/ 2015/02/27(金) 17:47:07.68 ID:uHo9+dds.net
にこ「…A-RISEもいいけど、今日のライブ最高だったわね!」


…やっぱり。


花陽「はぇ?は、はい!そうですね!プロとスクールアイドルではまた違った趣があるというか…」


白々しいなあ。あ、にこ先輩じゃなくて、私の受け答えのこと。


私だってわかるよ。先輩は本当にそんなこと話したかったんじゃない。今のは無理して作った声だった。


『今、何を言おうとしたんですか?』  それが聞けたら、にこ先輩ともっと仲良くなれる気がするのに。

私ってやっぱりダメだなあ…



にこ「あっ!そろそろ電車が混み始める時間じゃない?さっさと帰るにこ~♪」

それでも、大げさに手をふって歩くにこ先輩を慌てて追いかけた。



夕暮れ、人混みに紛れていく小さな背中を決して見失わないように。

108: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:09:58.20 ID:wq6UMKjO.net
『凛ちゃんと西木野さん』

花陽「…それでね、昨日行ったお店でにこ先輩とね…」

凛「…」

花陽「でね…あ、あれ?凛ちゃん聞いてる?」

凛「聞いてるよ。…にこ先輩とレアグッズ見つけたんだよね。」

花陽「あ、う、うん。そうなの。」

凛「ていうか!凛だって昨日メールしたのに、なんで返してくれなかったの?」

花陽「…あ!ごめんね!凛ちゃん…お風呂入ってから返信しようとしたらそのまま寝ちゃって…」

凛「…いいよ、別に。」

花陽「ほ、本当に、ごめん、ね?」

凛「…最近いーっつも先輩先輩って、かよちんは凛のことなんかどうでもよくなっちゃったの?」

109: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:11:14.90 ID:wq6UMKjO.net
花陽「そんなことないよ!凛ちゃん!凛ちゃんはとってもとっても大切なお友達だよ!」

凛「…あ…えへへ…かよちん~♪…で、でもそのコンタクトだってにこ先輩に言われたから変えたんでしょ?」

花陽「あ、うん…その方が顔が明るく見えるって…変、だったかな…」

凛「ううん!すっごく似合ってる!いいな~、今度は凛がメガネにしようかな?」

花陽「うん!今持ってるからかけてみる?」

そんな風にはしゃいでいたら、急に入り口のドアが開いた。



真姫「…」

凛「あ…行こっか、かよちん。」

花陽「うん。ごめんね、西木野さん。」


真姫「…別に。」

花陽「え?」


真姫「…別にいいって言ってるの。私だって、勝手に使ってるだけなんだし。」

110: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:13:52.87 ID:wq6UMKjO.net
そう、ここは音楽室。夏服に変わってから『教室は暑くてやってられないにゃ~』なんて言う凛ちゃんの提案で冷房の効いた音楽室で涼みながらお弁当を食べてたんだけど…

凛「そう?…ごめんね?凛達、なるべく静かにしてるから、気にしないでいいよ?」

真姫「別に…いいわよ。」

私達の方にはもう目もくれないで、西木野さんはピアノに楽譜をセットしている。


花陽「…あ、それで昨日のメールって…」

凛「かよちんの好きだっていうアイドルがテレビに映ってたから…」


ヒソヒソ声で話していると


真姫「――――♪」

西木野さんのピアノが始まった。



私はピアノとかよくわからないけど…すごく上手なんだなってことだけはわかる。

少し離れたここから見ていても西木野さんの指が何十本に増えたように見えるもの。



私達はおしゃべりすることも忘れて、西木野さんに見入っちゃった。

111: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:17:16.89 ID:wq6UMKjO.net
真姫「―――――♪………『パチパチパチパチ!』 ヴエェ!?」

演奏が終わって、思わず二人して思いっきり拍手しちゃった。

凛「すっご~い!遠くから聞いたことはあったけど、西木野さん本当に上手なんだね!なんていう曲か知らないけど、凛感動しちゃったにゃ~!」

私も凛ちゃんに合わせてうんうんと頷いた。


真姫「そ、そう…?別に、普通よ…」

あ、ちょっと顔が赤い。西木野さんって怖い人かと思ってたけど…実は違うのかも。

私と凛ちゃんはワクワクしながら次の曲を待った。


凛「…」


花陽「…」



真姫「…って、何?そんなに見られてるとやりづらいんだけど。」

花陽「あ、ご、ごめんね。」


そうだよね。私達に聞かせるために弾いてるんじゃないんだもの。

私達はできるだけ西木野さんの気が散らないように少しあさっての方向を向いた。


―――――♪

凛「…へぇ~、それ本当?かよちん。」

―――――♪

花陽「…うん。でね、実は…」

―――――♪


真姫「…」チラチラ

112: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:19:46.89 ID:wq6UMKjO.net
花陽「そしたら…それで…」

凛「ふふふっ、おかしいにゃ…」

―――――♪―――――♪

真姫「…」 チラチラ

―――――♪花陽「…ふふっ!やだもう!凛ちゃんってば!」

凛「あはははっ!」


真姫「…」


花陽「あ…」

西木野さんのピアノ、止まっちゃった。どうしよう、やっぱりうるさかったんだ。


凛「あ…ごめんね?…凛達やっぱり行くから…」

花陽「う、うん…本当に、ごめんね。」


そう言ってお弁当の空き箱を持って出ていこうとした時。

…――♪

西木野さんがおもむろにピアノを引き出した。




真姫「……愛してる、ばんざーい♪」

113: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:22:08.71 ID:wq6UMKjO.net
びっくりしちゃった。だって、だって――



真姫「――昨日に手をふって ほら 前向いて――♪」


…歌が終わった。

花陽「…」


凛「…」


真姫「…」


だって、あの西木野さんがこんな曲を知ってるなんて思わなかったから。

それだけじゃない。西木野さん、歌がすっごく上手だったんだもの!


真姫「…な、何か言ってよ…この曲だったら、知ってるでしょ?」


凛「…」


花陽「…」



真姫「ア、アイドルのことはよく知らないけど…好きなんでしょ?いつも話してるじゃない…だから…」



真姫「…あれ、違ったのかしら…あの子が中学の頃そう言ってたのに…」






「「…!」」

そして、私と凛ちゃんは顔を見合わせて、思いっきり、手が痛くなるくらい拍手した。

114: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:22:59.83 ID:wq6UMKjO.net
にこ「――ふうん。そんなすごい子がいるの。」

花陽「はい!しかもアイドルみたいにすっごく可愛いんです!」

にこ「へえ、ちょっと見てみたい気もするわね。」

花陽「あ、じゃあにこ先輩も一緒にお弁当食べませんか?明日から一緒に食べようって約束したんです。」

にこ「え?ど、どうしようかしらね。ク、クラスの友達とも約束してるしね。」

花陽「あ、そうですよね…ごめんなさい。」


にこ「あ、あーあー。まあ、行ってあげても?いいわよ?た、たまには静かに食べたいしね。」

にこ「クラスで食べてるとみんなにこの周りに集まって来ちゃって大変っていうか~?」

花陽「わあ、さすがですね。にこ先輩!」


にこ「ま、まあね。なんてったってにこは 『へえ~、そうだったん?』

116: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:24:23.45 ID:wq6UMKjO.net
花陽「あっ、こ、こんにちは!」

またいつの間にか希先輩が入ってきていた。

希「いや~、そんなに人気者やったなんて知らんかったわ。ひょっとしてエリチや2年生の子みたいに知らない人から告白されたり?」

花陽「エ゛ェェ!?こ、告白…!?」

希「いや~!そんな人気者のにこっちとお友達で、ウチ、嬉しい!」

にこ「…ぐっ…ぐぬぬ……悪いけど、今、神聖な部活中だから部外者さんは立ち入り禁止なんだけど!」



希「花陽ちゃん、元気やった?にこっちにいじめられてない?」

にこ「話を聞きなさいよ!」


花陽「そ、そんな…にこ先輩にはとってもよくしてもらってます…」

希「うんうん、だってさ。にこっち♪よかったなあ?かわいい後輩ちゃんができて。」


にこ「…フン!…で、なんなのよ。ま~た、アイツの使いっ走りでもしてるわけ?」

希「エリチのこと?…まあ、そう言われるとそうなような…違うような…」

にこ「なんなのよ、はっきり言いなさいよね。にこはまだるっこしいの嫌いなの。」

117: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:25:05.77 ID:wq6UMKjO.net
希「あんなあ、来月オープンキャンパスがあるのは知っとるやろ?」

私はコクコクと頷く。にこ先輩は頬杖をついて机をトントンしてるけど希先輩はどこ吹く風だ。

希「そんでな?最近UTXに生徒をとられ気味やし、このまんま生徒が少なくなったら廃校になるんやないか。なんて言われててな?」

花陽「えっ?」

希「あはは、根も葉もない噂や。半分冗談みたいなもの。――そういうわけでここで一つ新入生大量獲得出血大キャンペーンをやろう!ってなってな。」

にこ「出血してどうすんのよ!」


希「ま、要は今年はもう少し中学生の子達が楽しめるようなオープンキャンパスにしようってことなんや。」

ああ、それはいいかも。こんなに素敵な学校なのにうちは今ひとつ押しが弱い、っていうか、地味っていうか…



…私が言えた義理じゃないかな。

118: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:25:45.79 ID:wq6UMKjO.net
にこ「…話が全然見えないんだけど。さっさと要点だけ言いなさいよ。」

にこ先輩が苛立たしげに希先輩を睨む。…やっぱり仲悪いのかな…?


希「ああ、つまりな、にこっち――








  オープンキャンパスのステージ、出てみいひん?」

119: (家)@\(^o^)/ 2015/02/28(土) 22:26:46.64 ID:wq6UMKjO.net
今日はこんなもので。「愛してるばんざーい!」?あの世界のメジャーソングだろ?

125: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 00:00:08.66 ID:HwNwKJ/F.net

130: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:05:23.48 ID:HwNwKJ/F.net
『思い切って』

花陽「はあ…」

何回目のため息だろう。誰もいない校舎のはずれで私は昨日の出来事を思い出していた。

花陽「…ねえ、アルパカさん。どうしたらいいのかな。」

そうつぶやいてまたため息。…今日は部活ないのかな。にこ先輩、あの後どうしたのかな…


「――こんにちは♪今日も来ちゃった!」

花陽「あっ、こんにち、は…」

「ふわあ~…今日もモコモコだねえ~…かわいいよぉ~…」


よくアルパカ小屋で顔を合わせる先輩。目をキラキラさせながらアルパカをなでている。

とっても優しくて、可愛い人。いいなあ…この人みたいだったら、私だってもしかして…なんて思ってしまう。


「…あれ?どうしたの?なんだか元気ないみたいだけど…どこか調子が悪い?もしそうなら、保健室に行こうか?」

花陽「あっ、いえ!そうじゃないんです!大丈夫です!」

「本当?…無理しちゃダメだよ?」

花陽「ありがとうございます………はあ。」

「…」

あっ、いけない。またため息が出ちゃった。



「…あのね。何か辛いことや困ってることがあるなら、誰かに話すだけでもスッキリするよ?」

花陽「え?」


「もしよかったら…誰にもいわないから聞かせてくれない?」

花陽「で、でも…そんなの迷惑じゃ…」



「大丈夫、私――保険委員だから♪」

131: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:08:31.72 ID:HwNwKJ/F.net
『―――せやから、色んな部活や有志の団体にステージでパフォーマンスをしてもらってな?お客さんに楽しんでもらおうっていう――』

にこ『…悪いけど、頼む相手間違えてるんじゃないの?』

希『ううん。間違えてへんよ。ウチはアイドル研究部さんにステージに出てください、ってお願いしに来とるんや。』

にこ『…』


希『音ノ木坂学院のスクールアイドルとして、ね?』


花陽『え、え?えええええええ!?』

にこ『…じゃあますますお門違いね。うちは名前の通りアイドルの研究をする部なの。スクールアイドル部じゃないの。』

希『もちろん。よう知っとるよ。』

にこ『じゃあ話が早いわ。素人が真似事したって笑いものになるだけ。質の悪い冗談はやめて頂戴。』

希『うん――だからこそ、お願いしとるんよ。』

にこ『…ちょっと…』

花陽『え、でも、でも…』


希『大丈夫や花陽ちゃん。所詮たくさんある出し物の中の一つやから、気楽な気持ちで――』

バンッ!

にこ『…希。ちょっと話しましょ…どこか、別のところがいいわ。』

希『ウチはここでもかまわんよ。』

にこ『いいから…!…花陽、今日はお休みにするから。もう帰っていいわよ。』


花陽『え…?え…?』

132: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:10:35.00 ID:HwNwKJ/F.net
希「…屋上とは、また古典的やなあ。」

にこ「…余計なことしてんじゃないわよ。」


希「…何が?」

にこ「余計なことしないで!って言ってんの!」


希「だから、何が?」

にこ「嫌味のつもり?今更もう一度スクールアイドルをやれ、なんて!」


希「別に、そんな大げさなことやないよ。言ったやろ?お祭りの出し物なんやし、気楽な気持ちでええ、って…」

にこ「アイドルなめんじゃ無いわよっ!!」



にこ「気楽にとか!そんなことできるわけ無いでしょ!」

希「…ごめん。」

133: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:11:35.15 ID:HwNwKJ/F.net
にこ「…やめてよ。もう…そっとしておいてよ…」

希「…ごめん、迷惑、やったかな…にこっちの気持ちも考えんと…」

にこ「…」

希「花陽ちゃんも入ったことやし、いい機会だからって思ったんやけど…」



にこ「…そりゃ――やりたい、わよ!やりたいに決まってるじゃないっ…!」



にこ「でも、でも!そうなったらきっとまた…」

希「…本気にならずにはいられない?」



にこ「そうよ!…そしたらまた、花陽だってきっと――」

希「…」

134: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:15:02.44 ID:HwNwKJ/F.net
にこ「…それにね、花陽にはあんな思いをしてほしくないの。あんなのもう…」



希「優しいね、にこっち…花陽ちゃんが大切なんやね。」

にこ「そうよ!悪い? 可愛くて可愛くてしょうがないわよ!せめて卒業までは一緒にいてほしいって思ってるわよ!」

にこ「せっかく仲良くなったの!だからもう、もう…」



希「…にこっちはこのままでええの?」

にこ「…っ」

希「花陽ちゃんなら大丈夫…ウチはそんな気がするんや。」

にこ「なんでアンタにそんなことがわかるのよ。」

希「カードがそう告げとる…なんてな。…あとは、本当のこと言うと、ウチだってにこっちの友達やと思ってるから。」

にこ「…」



希「せやから、もう一度。そう思ってる。――なんや、ウチのワガママってわけやんなあ。」

にこ「何よそれ―――」

135: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:20:29.41 ID:HwNwKJ/F.net
「――きゃ~!それってすごいよぉ~!絶対見に行くからね!」

一通り話すと先輩はいつもより一際可愛らしい声をあげた。

花陽「あ、あの…まだ決まったわけじゃ…」

「あ、ごめんね?でも花陽ちゃん可愛いから大丈夫!フリフリの衣装とか絶対似合うよぉ~。」

花陽「そ、そんな…私なんか…」

「やりたくないの?」

花陽「…ぅぅ…」



それは、本音を言えばちょっとやりたかったりも…する。

ううん、すっごくやってみたい。でも、そんなの無理だよ。私なんかじゃ…

そんなこと言えるはずもなくって、黙っていると先輩がゆっくりと話し始めた。



「…あのね、参考になるかはわからないんだけどね?私、幼なじみのお友達がいるの。元気で、明るくて、とっても素敵な女の子。」

137: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:35:18.12 ID:HwNwKJ/F.net
「もう一人の幼なじみと私といっつも3人組で…何かしよう、って言い出すのは必ずと言っていいほどその子なんだ。」

そう語る先輩の顔はどこか嬉しそうだった。本当に仲がいいんだ。私と凛ちゃんみたいなものかな。

「それでね、時々思いがけないことを言い出して、大変なことになっちゃったりするんだ。おかげで叱られたり、怖い思いをしたりもう散々!」

「…でもね、後悔したことは一度もないの。その子はいつも私の知らない世界を教えてくれる、新しい場所に連れてってくれるの。」

先輩はアルパカさんの首を撫でながらふふ、と笑った。…本当に仲良しなんだなあ、その人と。


「――だから、ね?思い切ってやってみてもいいんじゃないかな、って。」

花陽「…はい。」


「頑張って。応援してるから。絶対花陽ちゃんのステージ見に行くからね!」

花陽「あ、ま、まだ…」

「ふふ♪もう大丈夫かな?」

花陽「あ…ありがとうございます!……そ、その…えっと…」




「あ、ごめんね?名前教えてなかったっけ?私はことり―― 南 ことりです♪」

138: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:46:27.42 ID:HwNwKJ/F.net
花陽「――失礼します。」

にこ「ああ、昨日は悪かったわね。」

放課後、にこ先輩はいつものように窓際の席に座っていた。


花陽「にこ先輩。その…ひとつお話が…というかお願いが…」

ああ、やっぱりだめ!ことり先輩はああ言ってくれたけれど…やっぱり自信ないよ…

下を向いて口をモゴモゴさせているとにこ先輩の方から話しかけてきた。



にこ「…花陽。その前ににこから聞いてもいい?」

花陽「え?はい…」


にこ「アンタ、前に『スクールアイドやってみたい』って言ってたわよね。…それ、今でも変わらない?」

花陽「え…それは…で、でも私なんか…」

にこ「そういうのいいから。今でもアイドルになりたい、やってみたいって気持ちがあるのか聞いてるの。」

139: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:47:03.20 ID:HwNwKJ/F.net
強い口調に驚いて顔をあげるとじっと私を見つめているにこ先輩と目があった。

花陽「…ぁ…」

にこ「どうなの?」

花陽「…ぁ…ぅ…」

実際はほんの数分だったかもしれないけど。二人だけの部室で、それはすっごくすっごく長い時間だった。




にこ「…にこはね。」

にこ「にこは…やりたい。スクールアイドル、やりたい。ステージに立ちたい!」

まっすぐな言葉と視線。

にこ「…花陽は?」



私は…







花陽「…やりたい、です。」

勇気を振り絞ってそう、答えた。

140: (家)@\(^o^)/ 2015/03/02(月) 22:53:12.19 ID:HwNwKJ/F.net
そして沈黙、にこ先輩の目が一瞬大きく見開かれて

にこ「しょうがないわね~!じゃ、やるわよ!アイドル!」

いつものセリフが飛び出した。

花陽「は、はい!やりましょう!」

にこ「やるからには本気でやるからね!覚悟しなさいよ!」

花陽「はい!」





――変なの。

歌も、衣装も、振付も、何もかも決まってないのに、一体何が嬉しかったんだろう。

その時、私と先輩はお互いに、満面の笑みで喜んでいた。

176: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:07:24.74 ID:8VoeRhs/.net
『ライブにむけて』

凛「か~よちん!あとちょっと!頑張るにゃ~!」

花陽「はあ…はあ…り、リンヂャン…ぢょ、ぢょっとマッテ…」

凛「だめだめ~!かよちんが言ったんだよ!体力つけたいって!」

花陽「そ、そうだけど…」

凛「にこせんぱ~~い!大丈夫ですか~!」

にこ「…ゼエ…ハア…ど、どうって…ハア…こと…ない、わよ…」

凛「それじゃラスト1キロ!行ってみよ~!」


ああああ、凛ちゃん完全に楽しくなっちゃってるよ。

まだまだ人もまばらな朝の早い時間、私とにこ先輩は凛ちゃんと一緒に体力づくりに励んでいた。

『とにかくまずは体作りから始めましょ!』というにこ先輩の提案により凛ちゃんにトレーニング方法を聞いたのだけど…



――さすがに朝ごはんも食べずにこれはきつすぎるよ~!

ああ、ごはん、ごはん、真っ白ごはんとパリパリのお海苔で一杯、すっごく酸っぱいおばあちゃんの梅干しでもう一杯、それから…


『ライブまではダイエットね!これも没収!』

ああああ、そうだった!にこ先輩にそうやってお菓子を没収されたんだった…

じゃあ朝ごはんは一杯だけ?おかわりも無し?10時のおにぎりも?そ、そんなあ…!!



凛「かよちん!ファイトファイト!にこ先輩も!よーし!気持ちいいからもう1キロいっくにゃー!」

にこ「ゼエ…ハア…なめんじゃ…ゼエ…ゼエ…ない、わよ……これでも、昔…は、ねえ…ゼエ…ゼエ…」



うぅ…ダレカタスケテェー!!

177: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:08:21.72 ID:8VoeRhs/.net
真姫「…それで、花陽はこんなになってるわけ?」

凛「うん…ごめんねかよちん…凛、走ってたらちょっと楽しくなっちゃって…」

花陽「う、うん…大丈夫だよ…」

朝のホームルームが終わって、机にへばっている私を見かねて凛ちゃんと真姫ちゃんがやってきた。


真姫「そもそも、スクールアイドルなんて素人のお遊びでしょ?適当でもいいんじゃないの?」

花陽「…それは違うよ!スクールアイドルだってアイドルなんだもん!見てくれる人がいる以上適当なんて許されないよ!」

真姫「ご、ごめん。そんなつもりじゃなくて…」

花陽「あっ…ううん。私こそごめんね。…でも、にこ先輩とも約束したの。やるからにはちゃんとやろう、って。」

凛「かよちんえらいにゃ!」

花陽「だからね、歌も衣装も自分たちで作ることにしたんだ。…大変かもしれないけど、私達は私達にしかできないアイドルをやりたいの。」


真姫「…本気なのね、ごめん。バカにするようなこと言ったりして。」

花陽「だ、大丈夫だから!ね?」


凛「それで?衣装はかよちん、歌はにこ先輩が作るの?」

真姫「にこ先輩って人、作曲とか作詞とかできるわけ?なんだかちょっと変わった人みたいだったけど…」


花陽「だ、大丈夫だよ…多分。」

178: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:09:07.50 ID:8VoeRhs/.net
にこ「――ふーん。それなりにそろってるのね。」

図書委員の子に教えてもらった番号の棚には詩集やそれに関する本がズラリと並んでいた。

作詞、作曲、衣装作り、なんでも自分たちでやらないといけないのがスクールアイドルの辛いところよね。まあ、それだけオリジナリティが出せるってことなんだけど。



とにかく、ライブは来月の終わり頃。今頃衣装作りに奮闘している花陽のためにも早いとこ曲を作らないと――

にこ「…『現代作詞法』『青春詩集』『アルパカにも作れるポエム』…どれもパッとしないわね」


それにしても、図書室なんて入学した時の学校案内以来かしらね。カビ臭い本棚の背表紙をなぞりながら、よさそうな本を物色する。


うーん…なかなかにこの感性を刺激するようなものがないわね。



大体全体的に古臭いのよ。放課後だけど、ほとんど人がいないのも頷けるわ。もっとアイドル雑誌とか置けば少しは…

179: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:10:14.13 ID:8VoeRhs/.net
「あの、よろしいでしょうか。」

にこ「え?ああ、ごめんね。」

あら、まだ生徒がいたのね。にこが場所を譲ってあげるとその子がいくつかの詩集を手に取る。

ふーん…2年生か。清楚系アイドルってとこね。長い黒髪と品のある物腰。大和撫子キャラで売り出したら一定の層に根強い人気が出そう。

でもそれだけじゃちょっとパンチが弱いかな?…ぱっと見、スタイルもにことかぶるし、それならにこの方が可愛もんね。

そうねえ、例えば…覚えやすい決め台詞とか、見た目とのギャップとか…



「…あの、何か?」

にこ「えっ?ああ、ごめんね。なんでもないわ。」

「…?」

いけないいけない。ついアイドルに例えちゃった。…久々にライブなんてやるからかしらね。


にこ「さてと、にこも頑張らないとね。」

席についていくつかの詩集や作詞の教本を広げてみる。


にこ「…」


「…」


にこ「……~~フンフン♪」


「…」

180: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:10:54.62 ID:8VoeRhs/.net
にこ「……にこにー、にこにー、かわいいな…っと…」


「…」


にこ「フンフフフンフンフーフフーン…♪」


「…あの。」


にこ「フフフフフンフン♪フンフフーン♪」



「あの!」

にこ「ひゃっ!なに?」


「…その、上級生の先輩に僭越かとは存じますが、図書室では静かにしたほうがよろしいかと…」

にこ「え?あ、ああ…ごめんなさいね。」

「いえ…」

181: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:13:39.22 ID:8VoeRhs/.net
いけないいけない。ついつい調子が出ちゃった。にしても、上級生に向かって随分とはっきりモノを言う子ね。

…そうだ。


にこ「ねえ、ちょっといいかしら?」

「はい?」

にこ「あなた、詩とか好きなの?これ、どう思うかしら?」

「そう言われましても、私は人にものを言えるほどではないのですが……拝見します。」

遠慮するその子ににこはルーズリーフを押し付けた。さあ、どんな賞賛の言葉が出てくるかしらね。



にこ「…どう?どう?」

「…これは、先輩が書かれたのですか?」

にこ「え!?あ、いや…その…本の間に挟まってたの!」



「そうでしたか…では、率直に言っても問題ないですね…正直、これは…一言で言えば『あざとい』です。」

にこ「あ、あざとい!?」

182: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:14:26.35 ID:8VoeRhs/.net
「はい。繰り返し出てくるこの単語も意味不明ですが…とにかく『わざとらしい』です。」

にこ「わ、わざとらしい!?」

「もっと言えば『くどい』です。」

にこ「くどい!?…そ、そんな…にこの一大傑作が…」

「不自然なんですよね。とにかく全てが…――強くのみ 放つと思う射手はただ 矢色もつきて中りそろわず――」

にこ「は?」

「…良い物を作ろう作ろうとばかり思うと、かえって失敗します。もっと素直な気持ちで書いてもよろしいのではないでしょうか。」

にこ「…」


「感じたこと、常日頃より思っていることをありのままに表現することが大切…私はそう思います。」

にこ「感じたこと…常日頃から思っていること…」



その時、にこの中で何かが見えた気がしたの。こうしちゃいられない、こんなとこじゃダメ!



「まあ、これは私の個人的な考えですから、特に…あれ?」

183: (家)@\(^o^)/ 2015/03/04(水) 23:15:43.82 ID:8VoeRhs/.net
にこ「……ありがと!参考になったわ!」

そう、にこの今感じている気持ち。花陽が来て、それからのこと。本当に楽しいと思えるようになった今の気持ち。それを言葉にしないと、伝えないと!



にこ「…っと、ごめんね!」

危ない危ない、急ぎすぎてぶつかりそうになっちゃった。

「いえ、大丈夫です!」

元気に答えるその子を尻目ににこは部室へと急いだ。







「…文芸部の方だったのでしょうか。…まったく、穂乃果もあのくらい何かに夢中になって打ち込んでくれたら…」

「あっ、海未ちゃん探したよ~!ねえねえクレープ食べて帰ろうよ!」

「ああ、穂乃果。図書室では静かに――」

204: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:42:19.65 ID:Kb8uPTBJ.net
『二人の先輩』

にこ「――どう?」

花陽「すごくいいと思います!さすがにこ先輩!」

とうとう、にこ先輩の作詞が完成した。少し前に部室に飛び込んできた時は何事かと思ったけど…

私の顔を見たら急に言葉が浮かんできたみたい。えへへ、それってなんだか、ちょっと嬉しい。


真姫「へえ、いいんじゃないですか?」

凛「ふ~ん。おもしろい歌だにゃ~。」

一緒にお弁当を食べている凛ちゃんと真姫ちゃんも覗きこんで感想を漏らす。

3年生相手で初めは緊張していた凛ちゃんと真姫ちゃんだったけど、すぐに打ち解けたみたい。


花陽「じゃあ次は曲ですね。どうしましょうか。市販のソフトを使う手もありますけど…」

にこ「うん、それでね?真姫ちゃんにお願いなんだけどぉ~…これ、弾いて欲しいの!」

真姫「へ?」

にこ「だからね、練習するのには曲が必要でしょ?大丈夫、もうイメージはできてるから!真姫ちゃんは伴奏してくれるだけでいいの!」

真姫「ええ!?そんなの急に言われても…」

にこ先輩に押し出されるような形で二人はピアノの前に立つ。

にこ「じゃあ行くわね、最初は、~~~~~♪こんな感じ!」

真姫「…え?」

205: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:43:26.66 ID:Kb8uPTBJ.net
にこ「だから、~~~~~~♪って感じ!」

真姫「ちょ、ちょっと、そんなので分かるわけないでしょう?」

にこ「え?だから、こうだってば!~~~~♪」

真姫「ああ、もう…こう?」


真姫ちゃんが仕方ない、といった様子でピアノを爪弾く。

にこ「あっ!いい感じ!それでね?次はこんな感じなんだけど…」

真姫「はあ…」



凛「…なんだか全然違う気がするけど…」

花陽「あはは…」

真姫「…ああ、もう!イミワカンナイ!」

にこ「真姫ちゃん上手上手~♪次はね…」



…そんなこんなでなんとか曲は完成した。

半分くらい、いや…ほとんど真姫ちゃんに作ってもらったような気もするけど…ごめんね、真姫ちゃん。

206: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:44:52.40 ID:Kb8uPTBJ.net
凛「――かよちんばいばーい!衣装作りがんばってねー!」

真姫「それじゃあね、花陽。」

花陽「うん、二人ともバイバイ。」

二人に挨拶をしてトートバッグから作りかけの衣装とソーイングセットを引っ張りだす。一人で部室にいるのはちょっと寂しいから、少しここでやっていこうっと。

委員会のお仕事で遅れてくるにこ先輩が来る前にある程度仕上げておかないと!


ちくちく ちくちく


う~ん…市販の衣装の改造だけど…結構大変だなあ…


「…じーっ…」

花陽「…」ちくちく


こんなことなら、ちょっと奮発して完全なレプリカを買ったほうがよかったかなあ…

…って、ダメダメ!にこ先輩に負けないように、頑張らないと!そんなことを考えていると。



ことり「じーっ…」

花陽「わあ!」

207: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:49:29.50 ID:Kb8uPTBJ.net
驚いた、いつの間にかことり先輩が近くで私の手元を覗きこんでいる。

ことり「あっ、ごめんね?びっくりさせちゃった?」

花陽「あ、いえ…」

ことり「…ひょっとしてそれ、ステージ衣装かな?」

花陽「はい、まだまだ完成には程遠いんですけど…」

ことり「そっか、大変だよね。ごめんね邪魔しちゃって。ステージ、絶対見に行くからね!頑張って!」

花陽「はい!」

ことり先輩にそう答えて作業を再開する。

うう…それにしてもお裁縫って結構難しい…家庭家の教材みたいにここをこうやって縫うって線が付いてればいいのに…




ことり「じーっ…」

花陽「あ、あの…何か…?」

ことり「あっ、ごめんね?…もしよかったら、ちょっとやらせてもらってもいい?」

花陽「え?はい…」


ことり「ありがとう。…よいしょ…」

わ、すごい。ことり先輩に渡したお裁縫道具はまるで踊っているかの様に衣装を作り上げていく。

208: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:51:03.85 ID:Kb8uPTBJ.net
花陽「す、すごいです…!」

思わず声をあげてしまった。まるでプロみたい、そう思っている間に私が今日中になんとか、と思っていたところまであっという間にできてしまった。

ことり「そんなことないよ~…えっと、ここはどうすればいいの?」

花陽「あ、はい!…一応、こんな感じにしたいんですけど…」


ルーズリーフに描いたデザイン画を見せるとことり先輩はわぁっと声を上げた。

ことり「わあ~かわいいねぇ~!…あ、でも…ここはちょっと直した方がいいかも?」

花陽「へ?」

ことり「ほら、普通のお洋服と違って激しく動いたりするでしょ?だから、ここが引っかかって破れたりしちゃうかも。」

花陽「あ…」

確かに、言われてみればそうかもしれない。

ことり「だからぁ…ここはこうして、ごまかしちゃえばいいんじゃないかな?そうしたらあんまり邪魔にもならないし、もっと可愛いと思うの。」


花陽「ふむふむ…」



ことり「ついでにこっちも直しちゃおっか、フワフワして見栄えが良くなると思うの。それからここの裏地も…」

209: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:53:09.30 ID:Kb8uPTBJ.net
にこ「―――…誰?」

部室に入ってきたにこ先輩が怪訝な顔で尋ねてきた。

ことり「あ!ごめんなさい!お邪魔してます!」

慌てて立ち上がったことり先輩に続いて私も急いで説明する。

花陽「えっと、こちら、南ことり先輩です!すっごく裁縫がうまくって、それで、お手伝いしてもらって…」

ことり「あの、私、可愛い衣装とか大好きで、もしよかったらお手伝いさせてもらえたらなぁ~って…」

にこ「…そ。」

それだけ言ってにこ先輩は自分の席にドッカと腰を下ろした。…どうしよう。勝手に部室に人を入れたから怒ってるのかな…

にこ「…あんまり部外者を入れるんじゃないわよ。」

そう言って自分の分の衣装を手にとる。


ことり「ごめんなさい…えっと…じゃあ、私…」

にこ「いいわよ、別に。」

ことり「え?」

にこ「アイドルには専属スタッフも必要だしね。今だけ准部員ってことにしてあげる。…ありがと。手伝ってくれて。」



ことり「あ、はい…!ありがとうございます!」

そう言ってことり先輩はにこにこしながら私に顔を寄せてきた。


ことり「…怖そうだけど、優しい人なんだね。」

花陽「はい。それはもう…」

私もにこ先輩を褒められてつい嬉しくなっちゃう。

210: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:54:52.32 ID:Kb8uPTBJ.net
「……え?アレ?」  「……」  「~~♪」 

3人でチクチクと衣装に針を通していく。多分この中で1番下手くそな私はことり先輩の指導を受けながらだ。

ことり「うん、そこはね…そう、そう。」

花陽「えっと、こうですか?」

ことり「そうそう!かよちゃん飲み込みが早くて上手だよ~♪」


花陽「えっ?かよ、ちゃん…?」

ことり「うん!かよちん、ってお友達に呼ばれてたでしょ?だからかよちゃん!……かわいいと思うんだけど…だめかな?」

そう言ってことり先輩は上目遣いで私を見上げてきた…うぅ…本当にかわいいよぉ…


花陽「あ、いえ…イヤじゃないです…全然…うれしいです…」

ことり「本当?よかった~!じゃあ、かよちゃんはこれからかよちゃん、ね♪」

にこ「…」




ことり「か~よちゃん♪えへへ♪」

花陽「こ、ことり先輩///」

211: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:56:41.70 ID:Kb8uPTBJ.net
にこ「…ねえ、遊びに来たんなら帰ってくれない?」

ことり「あ、ごめんなさい…」

にこ「花陽も、真面目にやんなさいよね。」

花陽「すみません…」

いけないいけない。そうだよね、にこ先輩の言うとおりだよ。

叱られた分名誉挽回しないと、そう思って一心不乱に針を動かしていると、



花陽「…痛っ!」

ことり「かよちゃん!?大丈夫?」

にこ「ちょっと!平気?」

花陽「あ、はい…少し刺しちゃっただけですから…」

にこ「血が出てるじゃない、待ってて、絆創膏がここに…」

にこ先輩が慌ててカバンを漁っていると。



ことり「…はむっ」

花陽「え?」

――ことり先輩に食べられちゃった。

212: (家)@\(^o^)/ 2015/03/09(月) 09:58:24.23 ID:Kb8uPTBJ.net
ことり「ちゅー…っと、はい、絆創膏。大丈夫?」

花陽「え、あ、その…ありがとうございます…///」

ことり「よかった、気をつけてね♪」



にこ「…帰る。」

花陽「え?」

にこ先輩の冷たい声。

にこ「用があるから帰る、って言ってんの。」

花陽「あ、じゃあ私もあと少ししたら一緒に…」


にこ「アンタはまだ衣装作りが残ってるでしょ!」

花陽「っ!」


にこ「あ…」

ことり「…」

にこ「…ごめん…また明日。」



止める間も無くにこ先輩は出て行ってしまった。



…どうしよう。私のせいだよね。私が真面目にやらなかったから…私は自分のバカさをただただ後悔していた。





*とりあえずこんなところで。仕事から帰ってきて元気だったら続きは夜にでも。

229: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:06:57.51 ID:PlAeg89D.net
『モヤモヤ』
にこ「―ちょっと、何よそれ。」

お昼休みの練習前、にこ先輩は屋上にやってきた希先輩に問いかけた。

希「ああ、気にせんといて。来校者用のビデオを撮るだけやから。」

花陽「え?それって…」

希「うん!『愛と感動のドキュメンタリー!音ノ木坂アイドル研究部汗と涙の日々に密着!~少女達は笑う!花も嵐も踏み越えて~』っていう…」


にこ「あっそ。始めるわよ、花陽。」

花陽「あっ?えっ?は、はい!」

希「…?なんや、つれないなあ、にこっち。ノッてくれてもええやん。」

花陽「あ、あの…」

希「ふふ。別に、アイドル研究部だけ撮ってるわけやないよ。学校紹介の映像の一部に使うだけやから、普段通りに、な?」

花陽「あ、そうなんですか…よかった。」



にこ「…」

あっ…にこ先輩を待たせちゃってる。

花陽「ご、ごめんなさい!にこ先輩!」

にこ「…別に。いちいち謝らなくていいわよ。」

花陽「…はい。」

230: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:07:31.41 ID:PlAeg89D.net
『昨日はごめんね、花陽。』

翌日、にこ先輩はドキドキしながら部室に顔を出した私に謝ってきた。

あれから、たくさんたくさんメールをしたけど、たった一通『怒ってない』って返ってきただけだったのに。

なんだか拍子抜けしちゃった。ひょっとしたら本当に怒っていなかったのかもしれない。

そうだよ、昨日はちょっと機嫌が悪かっただけかもしれない。本当に用事があって急いでいたのかもしれない。

そうだよ、きっと、そうだよね―――


~~~~~~~~♪

にこ「ハッ……ハッ…」

花陽「…ぇと……あっ…」

スピーカーから流れる音楽に合わせてステップを踏んでいく。

にこ先輩の踏むステップに私はドタドタとついていくのが精一杯。

希「…何度も、何度も反復練習を重ねる二人。華麗なステージを支えているのは彼女たちの地道な努力なのである。」

その上、今日は希先輩も見ている。ビデオで撮られている。そう思うと余計に気になって――




花陽「…ぁっ……きゃっ!」

231: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:08:34.73 ID:PlAeg89D.net
派手に転んでしまった。

にこ「…立てる?」

差し出されたにこ先輩の手をとって立ち上がる。

花陽「ありがとうございます…、あの、ごめんなさ」

にこ「もっかい。頭からやるわよ。」

にこ先輩がスピーカーの方に歩いて行く。

花陽「………はい。」


~~~~~~~~~♪

希「おお~~」

希先輩がパチパチパチと手を鳴らす。

よかった、今度は最後まで踊ることができた…でも。



にこ「…っ………どう、希?ちょっとしたものでしょ?」

希「うんうん。なかなかどうして、大したものやねえ。」


花陽「え?あ、あの…」

にこ「ああ、休憩にしていいわよ。今のはすごくよかったわ。」

232: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:08:56.43 ID:PlAeg89D.net
――――嘘。全然ダメだよ。そんなの、私が1番よく知ってるよ。

リズムがズレてる。動きが揃ってない。指先はよれよれ。バランスの悪い位置どり。表情だって作れてない。

にこ先輩が気づかないはずがない。それなのに、どうして…



どうして、何も、何も言ってくれないの…?

233: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:09:51.39 ID:PlAeg89D.net
にこ「ねえ、これ見てみてよ。」

にこ先輩がアイドル雑誌を突き出してくる。

花陽「わっ、すごい…こんなにランクが上がってる!」

記事の内容は私が注目していたアイドルの読者人気ランキング。にこ先輩、覚えていてくれたんだ。

にこ「さすが花陽ね。部長として鼻が高いわ。」

そう言って、また雑誌を自分の方に引き戻す。



やっぱり、なんだか変だ。

どこが変かって言われてもうまく答えられない。

いつも通りに話しかけてくれるし、優しくしてくれる。


…ちょっと褒められることが多くなったような気がするけど。


なんだか、にこ先輩みたいな『にこ先輩』と話している感じ。

どこか、何か、ちょっとした溝のようなものを感じてしまう…考え過ぎかな。

234: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:11:29.22 ID:PlAeg89D.net
あれから、ことり先輩も『邪魔しちゃったみたいだから』と言って、部室には来ていない。

静かな部室には先輩が雑誌をめくるかすかな音と、グランドで練習する部活の掛け声だけが聞こえる。


花陽「あ、あの…」

にこ「ん?」

花陽「今日は…練習…しなくても、いいんですか?」

にこ「ああ…お昼の時点で結構よかったからね。今日は休息よ。」



花陽「で、でも……いえ、なんでもありません…」


にこ「…何か食べに行きましょっか。おごるわ。」

花陽「え?」


にこ先輩が突然立ち上がってカバンを手に取る。

にこ「鍵閉めといて。」


どんどん先をいくにこ先輩。私は慌ててそれに続いた。

235: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:13:30.59 ID:PlAeg89D.net
『世界一かわいいにこにーとストーカーとアイツ』

にこ「――あっついわね…体育館の中なんて蒸し風呂じゃないの…」

3年生の合同体育。サウナと化した体育館をこっそりと抜けだして目立たない場所の外壁に持たれる。

体操着の胸元をパタパタと開いて風を取り入れると、木陰を渡ってきた涼しい風が心地よい。



希「――いけないんだ。せんせー、にこっちがサボってまーす。」

にこ「…アンタもでしょ。」

また来た。なんでいっつも都合よく出てくるのかしらね。もしかしてストーカー?


希「ふふ、せやね。隣ええ?」

にこ「イヤよ。」


希「ほんじゃ、お邪魔しまーすっと。」

にこの話を無視して隣に腰を下ろす。同じように胸元をパタパタと開くけどあまり効果はないみたい。…ざまあみろだわ。

236: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:16:24.44 ID:PlAeg89D.net
希「ふう…で、花陽ちゃんと何かあったん?」

にことは目を合わさずに希が問いかける。…本当、ストーカーなんじゃないかしらコイツ。

にこ「は?別に、なんにもないけど


……って!ちょっ!それやめっ!あっ、んっ…!」

希「素直じゃない子はも~っとわしわしするよ~?ん~?」

にこ「わかった!わかったから!やめてってば!…んっ!ひゃんっ…!」


にこ「――ってわけ。大したこと無い話でしょ。」

希「…」

にこ「…何よ…なんか文句あんの。」

希「ううん、にこっちはかわええなあ~!!」

にこ「ちょ!くっつくな!暑苦しいのよアンタ!」

希「ふふ、でも、そんな心配することあらへんよ。大丈夫。」


希「にこっちが素直に話せばええことやん。素直な気持ち、思ってることを。」

にこ「…それができたら苦労しないわよ…」

希「大丈夫やって、なんてったって花陽ちゃんは――」




「希。」


希の脳天気な声を遮る容赦無い口調。…あーあ、嫌なやつに見つかったわ。

237: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:19:19.28 ID:PlAeg89D.net
絵里「何してるの?いくら期末テスト後のレクリエーションだからってこんなの見つかったらただじゃ済まないわよ。」

希「やっほー、エリチもどう?真ん中空いてるよ~。」

絵里「ふざけないで、私はそんなことしないわ……矢澤さん、だっけ?」


うわ、こっちに来た。特に接点があるわけじゃないけど…なんかコイツ苦手なのよね…

人目をひくルックスとは裏腹な冷徹な態度っていうの?仕事一筋!みたいな。みんなに愛されるにことは正反対だもんね。

ちょっと…そんなに睨まなくても別にアンタの相方を取ったりしないわよ。


にこ「そうだけど…何?」

絵里「あなたも早く中に戻って。今なら先生も気づいてないわ。」

にこ「…気づいてないならいいじゃない。うまく誤魔化しといてよ。」

絵里「そうはいかないわ、私とあなた、直接は関係ないけど、これでも一応生徒会長なの。見過ごすことなんてできないわ。」


にこ「…めんどくさ。」

小さく毒づく。

希「エリチ、またそんな真面目っ子さんみたいなこと言って…」

絵里「私は真面目なんです。いつだって、全ての生徒がより良い学校生活を送れるように願っているわ。」



にこ「ええ~そうなのぉ~?じゃあじゃあ~、うちの部にも、も~っとたくさん予算くれたら嬉しいなあ~って。」

語尾にいっぱいハートマークをつけて話す。何よ、真面目ぶっちゃってさ。

238: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:20:23.55 ID:PlAeg89D.net
絵里「はあ?それとこれは関係ないでしょ?」

にこ「な~んだ。がっかり~。にこがっかりして疲れちゃったなあ~?だからここで休んでていいかなあ~?いいよねぇ~?」

絵里「…」

あ、やば。目の端がピクピクしてる。



絵里「…じゃあ、こっちも言わせてもらうけど、希のビデオを見させてもらったわ。」

にこ「…は?」

希「ちょっとエリチ…」


絵里「…私の言いたいこと、わかるわよね。ここまで言えば。」

にこ「え~?にこわかんなぁ~い?っていうかぁ~、素人さんにアイドルのことなんかわかるんですかあ~?」

そこまで言うとアイツは一歩下がってかすかな声でリズムをとりはじめた。


絵里「…~~~♪」

にこ「え?」



――嘘でしょ、なんでコイツが歌えるの?踊れるの?にこ達の曲を。

239: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:21:00.56 ID:PlAeg89D.net
~~~~~~~~~♪

一通り踊り終わると呆然とするにこにアイツは言い放った。

絵里「……どう?さすがに全部…は無理だけれど。これでわかってもらえた?『素人さん』にも真似できるパフォーマンスのこと。」

にこ「なっ…!」


思わず頭に血が上りそうになった。

…でも、でも、悔しいけどコイツの言うとおり。ここで怒ってもにこの負け。

それだけじゃない、もっともっと悔しいのは…絵里の方がずっと上手だったってこと。

細かい振付は違ったり、アイドルっぽさでは負けてないけど…ダンスとしては完全に負けていた。



絵里「悔しかったら自分で評価を勝ち取ってみることね。そうしたら、生徒会としてそれにふさわしいバックアップを約束するわ。」

にこ「……ぐっ…!」



今度こそ、にこは何も言えなかった。



そうよ、コイツの言うとおりよ。昔も今も、にこはずっとにこのまま。自分では何もしないで文句を言うだけ――

240: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:22:06.84 ID:PlAeg89D.net
にこ「…」

絵里「…」

お互い、睨み合う。悔しいけど、負けだってわかってるけど。だから絶対に引きたくない。


希「はいはい、そこまで。」

絵里「希…」

希「あんな、にこっち。エリチはな、これでエリチなりに応援しているつもりなんよ。なあエリチ?」

にこ「は?」

絵里「ちょっと!別に私はそんな!」


希「だってあんだけ『スクールアイドルなんて素人のお遊びでしょ?学校の代表としてふさわしくないんじゃないかしら。』なんて言ってたやん。」

希「その割にはよう踊れてるやん。ウチのビデオ見ただけで。」

絵里「それは…その…亜里沙が……楽しみだって…音の木坂にもスクールアイドルがいるんだって…言うから…」

希「ふーん、ま、そういうことにしとこか…それにね。」



希「自分で言ってて苦しいこと、言ったらあかんよ。」

241: (家)@\(^o^)/ 2015/03/12(木) 21:23:26.00 ID:PlAeg89D.net
絵里「…」

希「ほんじゃ戻ろっか。にこっちも点呼までには戻ってくるんやで。」

にこを無視して話してた二人。希に促されてアイツ…絢瀬絵里が渋々戻っていく。

その途中でにこを振り返って一言、捨て台詞を残していった。

絵里「――矢澤さん。希はお祭りみたいなものって言ってるけどね。あなたは音の木坂の看板を背負って出ているの、それを忘れないでね。」

にこ「…わかってるわよ。」


今度こそ絵里は振り返らなかった。







*保守してくれた人達ありがとう。今日中にもう一回くらい投稿できるかもしれません。

245: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 00:10:14.43 ID:IRLEe+QB.net
だめだった。テへ☆エリチカが昭和の悪役みたいだな。

251: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 19:27:56.52 ID:IRLEe+QB.net
普通に海未が驚いてて映像が残ってるくらいだから、うまいと思ったんだけど違うのか。
まあ変なところはめをつむってくれると助かります。

254: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:39:27.52 ID:IRLEe+QB.net
『二人で一緒に』

凛「…ねえ、あんまり無理すると体壊しちゃうよ?」

もう辺りが暗くなりかけた神田明神の境内。ベンチに座っていた凛ちゃんが心配そうな顔で話しかける。

花陽「ありがと、凛ちゃん――でも、にこ先輩にこれ以上迷惑かけられないから。」



最近のにこ先輩の態度、私なりに考えてみたの。

そして出した結論。にこ先輩はあまりにも出来の悪い私に呆れちゃったんだよ、きっと。

いざアイドル活動してみたら『何この子!全然ダメじゃない!』って。

それに、最近先輩は元気がなくて何か考えこむ事が多い。きっと私とのステージが不安なのかな、って思う


じゃあ、私がしなくちゃいけないことは一つ――



花陽「…あつっ!」

凛「かよちん!大丈夫?ねえ、もう今日はやっぱり…」



花陽「ううん、平気…ごめんね凛ちゃん、先に帰ってていいよ。」

凛「かよちん…」

花陽「こんなんじゃ…こんなんじゃダメだよ…」

255: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:41:42.00 ID:IRLEe+QB.net
―――~~~~~~♪

花陽「っ…と!」

最後のポーズを決めて、私は思わず心のなかでガッツポーズをした。

うん!今日は今までで1番うまく踊れた!課題も克服出来てたし、にこ先輩もいつになくノッていたと思う。これなら…

にこ「…」

あれ?…ひょっとして、またダメだったのかな。

にこ「お疲れ、ちょっと確認してみましょ。」

二人でビデオカメラを覗きこむ。やっぱり、自主練習の成果が出てると自分でも思う。

花陽「ど、どうですか…?」

あ、また険しい顔。

花陽「わ、私としては結構いいんじゃないかな、って思ったり…」

にこ「…そうね。いいんじゃないかしら。」

嘘。これは何か隠してる時の顔だもん。本当は不満なんですよね。…やっぱり私じゃダメなのかな…


にこ「…じゃ、そろそろ上がりましょ。」

花陽「あ…その…」

にこ「?」


もう一回、本当はそう言いたかった。でも、これ以上私の都合でつきあわせる訳にはいかないよね。

それでも、このまま先輩と別れたくなかったから。こんな空気のままは、もういやだったから、私は提案した。


花陽「お、お茶して帰りませんか?」

256: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:45:20.36 ID:IRLEe+QB.net
~2~

どこか上の空の先輩を半ば無理やり連れだすようにして、目的のお菓子屋さんに向かって歩く。

夏の昼下がり、下町風情の残る商店街には人気もなく、どこかから風鈴の音が聞こえてくる。

花陽「ああ、あれです。特にお饅頭が美味しいんですよ、うちのお母さんも好きで…」

にこ「そう…」

先輩の気のない返事に心が折れそうになる。ううん、私が誘ったんだもの。少しでも前みたいに…

花陽「…」

…やっぱり気まずいなあ。そして、何か考えこむ先輩と一緒に曲がり角を曲がった瞬間。

花陽「きゃあっ!」

にこ「きゃっ!」

突然、私達はずぶ濡れになった。

257: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:48:01.99 ID:IRLEe+QB.net
「――わわっ!ごめんなさいっ!大丈夫?」

え、え?何が起きたの!?

にこ「ちょっと!なにすんのよ!」

「本当にごめんなさい!あんまり暑いから水撒きしようと思って…そしたらなんか楽しくなってきちゃったからホースでバーって…」

駆け寄ってきた女の子がペコペコと頭を下げる。

花陽「うぅ…」

直撃しちゃったみたい…シャツまでぐしょぐしょだよぉ…

「えっ、嘘!?しかも音の木の子!?…あっ、とにかく中に入って!タオル持ってくるから!」

音の木?そう言えばこの人、割烹着の中にうちの制服を着ている。

にこ「はあ?なに言ってんの?」

「ここ、穂乃果のうちなの!」

花陽「ほのか?」



穂乃果「うん!私、高坂穂乃果!」

顔を見合わせる私達を置き去りにして、穂乃果さんは慌ててお店の中に入っていった。

258: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:49:07.11 ID:IRLEe+QB.net
私達は穂乃果先輩(どうやら2年生らしい)のお部屋に通された。

穂乃果「本当にごめんね!とりあえずお風呂が沸くまでこれを着てて!穂乃果のお気に入りなんだ~。」

びしょ濡れの制服を渡して、下着姿になった私達に手渡されたのは穂乃果先輩のTシャツとジャージ。

大きく『ほ』って書いてあって、しかも色違い。こんなブランドあったっけ?


にこ「うわ、ダサ。」

にこ先輩がちっちゃくつぶやく。

穂乃果「制服綺麗にしてくるから、どうぞくつろいでね!その辺の漫画とか勝手に読んでいいから!」

穂乃果先輩がトットットと階段を降りていく音がする。明るくて元気な人だなあ。


にこ「…あの子、絶対にこのこと下級生だと思ってるわね。」

にこ先輩が不満そうに唇を尖らせる。


にこ「…くしっ!うう、夏とは言え、このままじゃ風邪引くわ。不本意だけどさっさと着替えましょ。」


花陽「…」


にこ「花陽?」

259: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:50:01.95 ID:IRLEe+QB.net
花陽「…ごめんなさい。私がお茶しよう、なんて言ったから…」

にこ「え?」


私って本当に、本当にどうしてこうなんだろう。

ドジで、どん臭くて、失敗ばっかりの私。先輩に迷惑かけてばっかりの私。ますます先輩に嫌われたよね。


にこ「…え?ちょっと!どうしたのよ!」

花陽「…っ…グス…」

自分が情けなくって、悔しくって、ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙が落ちてくる。


花陽「…グス…ヒック…迷惑かけて、ヒグッ、ばっかでっ、ごめんなさい…」

にこ「はあ?なに言ってるのよ…本当に大丈夫?どこか痛い?具合でも悪いの?」

花陽「だって、だって…先輩にっ、これっ、これ以上嫌われたくなくってっ…今日、だってっ…」

にこ「何言ってるのよ。花陽のこと嫌いになんかなってないわよ。」


花陽「だってっ、先輩っ、最近元気ないっていうか…私の事避けてるっていうか…」

にこ「そ、それは…」

260: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:50:52.98 ID:IRLEe+QB.net
花陽「…ごめんなさい。無理しなくていいです。先輩、優しいですもんね。」

にこ「…」


花陽「私、迷惑かけてるって自覚してますから。足手まといだって、知ってますから。」

にこ「…何よ、それ。」

花陽「反省、してますから。だから、だから…」


にこ「何よそれ!」

花陽「っ!」


にこ「勝手に決めてんじゃないわよ!いつアンタのこと嫌いになったなんて言ったのよ!んなことあるわけないでしょ!」

花陽「で、でも…」




にこ「…花陽だって、あのことりって子とすごく楽しそうだったじゃない!」

261: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:52:09.21 ID:IRLEe+QB.net
花陽「え?」

にこ「アンタこそ!にこよりあの子の方が好きなんでしょ?優しそうだし!上級生っぽいし!…同じ部のにこよりも懐いてるみたいだし…」

花陽「そ…そんなことありません!確かにことり先輩は素敵な人ですけど…私は…にこ先輩のこと…尊敬、してますし…」

にこ「…!」


花陽「だから…だから…最近、にこ先輩が遠慮してるから…私、もう、見捨てられたんだと思って…」

にこ「だからそれは…」


花陽「…呆れて、るんですよね?全然上達しない私に。」

にこ「違うわよ!そうじゃなくて…その…」




にこ「その…アイドル、やれるかも、ってなって本当は嬉しかったの。すごく嬉しかったの。でもね、それ以上に怖かったの…」



にこ「…本気でぶつかって、本気で叱ったら…きっと、にこのこと嫌いになるんじゃないかって…」




にこ「アンタとことりを見てたら、すっごく仲がよさそうで…だから…あの子みたいに優しくしないと…アンタに嫌われると思って…」

262: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:53:35.04 ID:IRLEe+QB.net
花陽「そんな…」

にこ「…がっかりした?こんな臆病な先輩で。」



花陽「…にこ先輩っ!」

花陽「私のこと、もっと叱ってくださいっ!」

にこ「え?」


花陽「ダメなところがあったら言ってくださいっ!思ったことは全部言ってください!いっぱいいっぱいダメ出ししてください!」

花陽「私、絶対先輩のこと嫌いになったりしません!逃げたりもしません!だから…遠慮はなしです!」




にこ「…ふふっ、何よ、それ。…アンタも大概ね。そっか…うん…ごめんね花陽。」



にこ「それじゃ、これで仲直りね。」

先輩が私の手をぎゅっと握ってくれた。

263: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:54:16.43 ID:IRLEe+QB.net
花陽「にこ先輩…!」

私、嬉しくて嬉しくて、思わず先輩に抱きついちゃった。


花陽「よかった…!私、本当ににこ先輩に嫌われたと思って…」

にこ「バカねっ、何度も言うけど、そんなことあるわけ無いでしょ。」

にこ先輩が私の頭をそっと撫でてくれる。




にこ「本当に、遠慮なしだからね。」

花陽「はい!」



にこ「すっごい厳しいわよ。もう大変よ。」

花陽「はい!」





にこ「…キツかったらいつやめてもいいからね。その時はにこも…」

花陽「そんなこと絶対ありません!」


にこ「…バカ。」


にこ先輩が私の頭をギュッと抱き寄せた。

264: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:55:10.54 ID:IRLEe+QB.net
とくん、とくん――白くて、すべすべしてて、ほんのり温かい小さな体から先輩の心臓の音が聞こえてくる。

うっすらと香る。先輩の香り、甘くて優しい、ほっとする香り。

そうしていると、なんだかにこ先輩のぬくもりが愛しくなって、一層強く先輩にしがみついてしまった。


にこ「花陽…」

花陽「にこ先輩…」


先輩の名前を呼んで、深く、静かに息を吸い込む。

どうしてだろう、胸の中が締め付けられるような切ない気持ちでいっぱいになる。


先輩の顔、こんなに近くで見るの初めてかも。


おっきくて、クリクリした黒目がちな瞳。


少し跳ね上がった長い睫毛。


小さくても形の良い鼻梁。


ほんのりと赤みが挿した頬。



そして、柔らかそうな桃色の唇。




私は――

266: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 21:56:30.65 ID:IRLEe+QB.net
穂乃果「ごめんね!お洋服乾くまでお饅頭でも食べてて、って…え?」

突然ふすまを開けた穂乃果先輩がピタリ、と動きを止める。

穂乃果「…もしかして、お邪魔だった?ごめんね?」



花陽「え?え?ピャアアアァ!!こ、これは違うんです!その!そうじゃなくって!」

にこ「そう!そうよ!誤解なの!あれよ!ほら!いわゆるひとつの百合営業的な!」

二人で必死で弁解する。弁解?何に?

穂乃果「あ、うん!大丈夫大丈夫!穂乃果、そういうのよくわかんないけど…海未ちゃんもよく告白とかされてるし!」


穂乃果「ほら、ね!女子校だしね!そういう漫画もあるし!え、えーと…あ、穂乃果、少し、いやしばらくお店番してるから!それじゃ!」

にこ「だから違うっての!ちょっと!待ちなさい!」




「もー!お姉ちゃん、さっきからうるさい!」

穂乃果「雪穂!来ちゃダメ!」

「なんでよ、亜里沙と勉強してるんだから少しは……ご、ゴメンナサイっ!!!」

「ハルァショー…!」




花陽「…ダレカタスケテエーー!!」

268: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 22:00:45.45 ID:IRLEe+QB.net
にこ「――まったく、最悪よ。」

花陽「そうですね…ふふ。」

お星様がまたたき始めた頃、私とにこ先輩は並んで帰り道を歩いていた。



にこ「何よ、嬉しそうじゃない。あんな目にあったってのに。」

花陽「えへへ、だってにこ先輩とまたこうして仲直りできたから…。」

そう言ってきゅっと先輩の手を握る。

にこ「…バカ。」



なんとなく無言になっちゃった。その橋を渡ったらお別れ。言わなくても同じことを考えてるってわかる。

270: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 22:03:53.55 ID:IRLEe+QB.net
にこ「…じゃ、にこはこっちだから。」

花陽「…はい、失礼します。にこ先輩。」



にこ「…あ、あのさ、それもやめましょ。その…呼び捨てでいいわよ。敬語もなし。」

花陽「え?」

にこ「遠慮なしって言ったでしょ?」

花陽「え、でも…」

にこ「ほら、また。にこがいいって言ってるの。どうせステージに立ったら先輩も後輩もないんだから、ね?」



花陽「そ、その…わかりました…ううん。わかったよ…に、にこ、ちゃん…」

なんだろ、恥ずかしいけど…ちょっとだけ、嬉しい。


にこ「…うん!花陽!また明日ね!」


にこちゃん…にこちゃん。私はにこちゃんが見えなくなるまで心のなかで繰り返した。

271: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 22:05:34.16 ID:IRLEe+QB.net
~~~~♪

花陽「…っと!」

にこ「…っし!!」

最後のポーズを決めて、凛ちゃんと希先輩がパチパチと拍手する。

凛「かよちん!やったね!いい感じだにゃ~!」

希「うんうん。ウチから見ても今までで1番よかったと思うよ。」


にこ「ダメね。全然ダメ。」

希「え?」

にこ「まだまだラスト前、ズレてるわよ。もう一回ラスト前のとこから。」

花陽「――いえ、頭からやりましょう!」


凛「かよちん?」

花陽「本番に向けて、全体的にもっと大きく動いたほうが見栄えがいいと思うの!…にこちゃん、もう一回お願い!」

凛「に、にこちゃん!?」

希「…へえ。」



にこ「…フン!オッケー!花陽!それでこそ、よ!」

273: (家)@\(^o^)/ 2015/03/13(金) 22:06:39.83 ID:IRLEe+QB.net
私とにこちゃんは頷き合ってスタートの位置に立つ。



希「――ほらね。やっぱり大丈夫やん。」


私とにこちゃん。夏の始まりの、青い青いお空の下で二人のステップが少しずつ揃っていく。


先輩についていくだけの私じゃない。


私に合わせるだけの先輩じゃない。



二人で、一緒に―――






~続く~

298: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 00:12:43.18 ID:AFTNzYjg.net
『ライブ!』

「――本当に、あそこで間違いないのですね?穂乃果。」

「うん、ヒデコ達がことりちゃんと3年生があの部屋に入っていくのを見たって…」

「ことり…どうして私達に相談してくれなかったんですか…?…いえ、気づけなかった私達のせいですね…」

「…ことりちゃん。最近一人でどこかにいくことが多かったものね。」

「最初に3年生の先輩から呼び出しがあった時にキチンと問いただすべきだったのです!私達がその場にいれば…」

「…どうして?ことりちゃん。あんなにいい子なのに…」


「…本人はそんな素振りは全然見せませんが、ことりのお母様はこの学校の理事長です。反感を持つ人が居てもやむをえないことかと…」

「そんな!ことりちゃんはそんなことでえばったり、意地悪したりしないよ!」

「当たり前です!…だからこそ、一刻も早くことりを解放してあげないといけません!」

「海未ちゃん…」

299: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 00:13:28.19 ID:AFTNzYjg.net
「穂乃果…少し、荒事になるかもしれません。あなたはここで…」

「やだ!」


「穂乃果…」

「やだもん!ことりちゃんも、海未ちゃんも、穂乃果の大事な親友だもん!そんなことできるわけないよ!」

「穂乃果…わかりました。我ら三人、生まれし日、時は違えども――…あなたと出会えた事を誇りに思います。」

「海未ちゃん…!穂乃果だって!二人に出会えたこと、絶対忘れないよ!」



「…最後にもう一度、穂むらのお饅頭が食べたかったですね。」

「…ふふ。帰ったらいっぱいご馳走してあげる!」



「楽しみにしています…では、参りましょう。――いざ!」

300: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 00:14:57.77 ID:AFTNzYjg.net
にこ「――あっ、ちょっとズレてる。うん、うん、そう、オッケー!」

ライブを一週間後に控えた放課後。私とにこちゃんとことり先輩はステージのセット作りに精を出していた。

にこ「おおっ、即席にしてはいい感じじゃない!」

花陽「ことり先輩のおかげです!」

ことり「えへへ、ありがと。にこ先輩のご指名だもの。頑張らなくっちゃね!」

そう笑いかけられたにこちゃんは少し顔を赤くしてそっぽを向く。

にこ「…フン!」


『――この前は、ごめん。』


『衣装、アンタが直してくれたんでしょ?…正直、すっごく可愛かったわ。』


『虫のいい話かもしれないけど…アンタの…ことりの力が必要なの。お願い!力を貸して!』




ことり「~~♪」

ことり先輩が上機嫌で飾り付けを仕上げていく。

301: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 00:16:19.89 ID:AFTNzYjg.net
にこ「よし!じゃ、ステージの方に運びましょ!」

ことり「はい!かよちゃん、そっちを持って。」

花陽「はい!」


このセットは当日まで特設ステージの舞台袖に保管される。

ことり先輩と一緒にセットを持ち上げた瞬間。




「 た の も お お お お お !!」

「い ざ !尋 常 に ! 勝 負! 」





――勢い良く開いたドアが、セットを破壊した。

302: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 00:17:52.71 ID:AFTNzYjg.net
穂乃果「――ほんっと~にごめんなさい!」

海未「文芸部さんにはなんとお詫びをすればよいのやら…」

にこ「だから!文芸部じゃないって言ってんでしょ!アイドル研究部!」

花陽「ま、まあまあにこちゃん…そのくらいで…」

穂乃果「そうだよ、ね?花陽ちゃんの言うとおり…」

ことり「ええ…穂乃果ちゃんがそれを言うの…?」


にこ「ことりの言うとおりよ!大体アンタは2回目でしょ!」

海未「えっ?どういうことですか、穂乃果?」

穂乃果「あ、いや…それは…その~…」

海未「あなたという人は…見ず知らずの先輩や後輩にまで迷惑をかけて…」

穂乃果「見ず知らずじゃないよ!ちゃんと友達になったもん!」

海未「部活は知らなかったじゃないですか!」

穂乃果「そ、それは…だって…バタバタしてて…」

海未「言い訳無用です!大体あなたは…」


ことり「…ストップ!」

穂乃果・海未「「え?」」

ことり「…二人とも。ことりのことを心配してくれたのはすっごく嬉しいの。…でもね。」




にこ「――どうしてくれるわけ?これ。」

…笑顔でも、人を怖がらせることができるんだなあ。メモしておかないと。


ちょっとだけ、続きは明日。

307: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 09:58:04.83 ID:AFTNzYjg.net
~ 2 ~

穂乃果「――あっ、海未ちゃ~ん!もう遅いよ~!」

海未「すみません、弓道部の方に来た方たちの対応に追われて…」

穂乃果「穂乃果とことりちゃんだけじゃ大変だったんだよ!そこ、飾り付けよろしくね!」

海未「はあ…まさか当日までお手伝いするハメになるなんて…」

ことり「あはは…まあ、仕方ないよ。にこ先輩もスタッフが足りない、って言ってたし。」

海未「そもそも、もとはと言えばことりが黙っているのが悪いんです!ちゃんと教えてくれればこんな…」


穂乃果「もー!いいから急いで!もうすぐうちの番だよ!」

海未「うち、って…別に私達はアイドル研究部に入部したわけではないのですが…」

ことり「准部員、だもんね。あれ?臨時スタッフだったっけ?」

穂乃果「そうだっけ?でも、ここまで一緒に頑張ってきたんだもん!関係ないよ!」

海未「一緒に、というか…自分でまいた種のような気もしますが…」



ことり「ふふ、でも、海未ちゃんだって楽しみだよね?あの二人のライブ。」

海未「そうですね…確かに、あれだけの情熱を目の当たりにしていると、最後まで見届けたい、成功して欲しい、という気持ちになります。」

ことり「うん!ことりも!」

穂乃果「穂乃果も!」

308: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 09:58:59.93 ID:AFTNzYjg.net
花陽「――うぅ…笑顔…笑顔…」

ステージの袖、何度も手鏡を覗き込んで引きつった顔をグニグニと動かす。

凛「かよちん緊張しすぎー!にこ先輩を見てみるにゃ!」

にこ「…」

さすがはにこちゃん。何も言わずに静かにステージ脇から外を見つめている。


花陽「…なんだろ。ちょっと怖い顔してる…?」

真姫「まあ、気持ちはわかるけどね。私だってピアノの発表会の前は緊張したし。」

花陽「え?真姫ちゃんが?」

真姫「私が、ってどういう意味よ…でも始まっちゃえばすぐにピアノに集中できたわ。緊張なんて最初だけよ。」

凛「そうそう!そういう時はお客さんを野菜だと思えばいいんだよ!」

花陽「う、うん…」


凛「へーきへーき!みんな置物だよ!かよちんなんて誰も見てないって思えばいいにゃ~!」

花陽「えっ、そ、それもどうなの…?」

309: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:00:18.88 ID:AFTNzYjg.net
にこ「こら、馬鹿言ってんじゃないわよ!」

急ににこちゃんが会話に入ってきた。

凛「にゃ?」


にこ「野菜?置物?ファンになんてこと言うのよ!」

真姫「…いや、今日がはじめてのステージなのにファンも何もいないでしょ…」

にこ「いい、花陽!笑顔ばっか気にしてガッチガチになってたら見てる方もハラハラするわ。」

花陽「は、はい…」


にこ「アイドルってのはね、笑顔を見せる仕事じゃないの!笑顔にさせる仕事なの!そこんとこ忘れんじゃないわよ!」

花陽「…!」


にこ「大丈夫よ。今までやってきたことを思い出して。アンタならきっとみんなを笑顔にできる。」

花陽「…うん!」


にこちゃんの言葉に少し、胸が軽くなる。

そうだよね。下ばっか向いて笑顔の練習してたって、お客さんには見えないよ。

310: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:01:48.72 ID:AFTNzYjg.net
あれだけ練習したんだもの。きっとお客さんは喜んでくれるよね。

にこ「そう、いい顔してるじゃない…それにね、にこには『とっておき』があるの。とっておきの魔法、がね。」

花陽「え?」

魔法?…なんだろう。


にこ「さ、そろそろ行くわよ。」

凛「頑張ってね!かよちん!凛達思いっきり応援するから!」

凛ちゃんが「HANAYO」とデコレーションされたうちわを取り出す。

真姫「わ、私は別に…」

真姫ちゃんは「NIKO」のうちわ。

二人共…ありがとう。


花陽「…うん!いってきます!」

そして、ステージへ向かう階段に足をかける。

311: (おいしい水)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:03:08.02 ID:7qbSiqBQ.net
一応言わせて頂くとNICOな

313: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:03:44.42 ID:AFTNzYjg.net
>>311
あっ、そうだった。すまん。訂正で。

312: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:03:19.14 ID:AFTNzYjg.net
希「―――続きまして、我が音ノ木坂学院が誇るスクールアイドル!アイドル研究部のスペシャル・ライブをお届けします!」

希「今日が初ステージ、初ライブという彼女たち、今日、あなたは歴史の目撃者となる!」

希「それでは、張り切ってどうぞ!」


演出のスモークが焚かれ、私とにこちゃんがステージに踊り出る。


最初は軽快なステップで、素人だけど素人っぽくならないようにしないと。


リハーサルの位置に立って、まずは明るく、元気に自己紹介。




花陽「みなさん、はじめまして!音ノ木坂学院アイドル研究―」



改めて客席に目を向けた瞬間、無数の視線とぶつかった。



花陽「ぁ…」

314: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:04:43.40 ID:AFTNzYjg.net
いつの間にこんなにたくさんの人が集まっていたんだろう。

だめ、続けなきゃ。イントロが終わっちゃう。

そう思っても思っても声が出てこない。


一度意識しちゃうともう頭のなかはグルグルまわって何も考えられない。


どうしよう、どうしよう、ステージってこんなに高かったっけ?


あの中学生、私なんかよりずっとずっと可愛い。あっ、今笑われた…ような気がする。


あんな子がスクールアイドル? なんで黙ってるの? つまんない…




――どうしよう 怖い


怖い 怖い 怖い 怖い 怖い――






にこ「にっこにっこにー!」

315: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:05:25.90 ID:AFTNzYjg.net
花陽「えっ…?」

にこ「あなたのハートににこにこにー!笑顔届ける矢澤にこで~っす!」

にこ…にー…?いつの間に練習したんだろう。私の知らないアクションでにこちゃんがかわいくポーズを決めた。


にこ「あれれ~?花陽ちゃんったらどうしたのぉ~?お話できないなら、にこがこの会場のみーんなのハート、奪っちゃうぞ♪」

そのままシナを作ったにこちゃんが私の顔を覗き込む。


にこ「ほら、今ならまだカバーできるわよ。」

マイクに入らないように小声でささやいて私の背中を軽く押してくれた。


花陽「あ、あの…えと…その…」

花陽「…にっこにっこにー!小泉花陽です!よろしくおねがいします!」


びっくりした。にこちゃんの真似をしたら自分でも信じられないくらいに大きな声が出たの。


にこ「わあ~!花陽ちゃんかわいいにこ~っ!ま、にこほどじゃないけどね~?」

にこちゃんのマイクパフォーマンスに会場がドッとわく。

316: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:07:15.01 ID:AFTNzYjg.net
その時、不意に、みんなが、見えた―


垂れ幕を広げてるお父さんとお母さん。鉢巻きしてるお祖父ちゃんにお祖母ちゃま。


あっちでブンブンうちわをふってるのが凛ちゃん。その隣で恥ずかしそうにしてる真姫ちゃん。


ステージ脇で心配そうに手を組んでいることり先輩。なぜかガッツポーズの穂乃果先輩。背筋を伸ばしている海未先輩。


希先輩も袖から見守ってくれている。お隣の生徒会長さんはこっちをキッとにらんでる。


――なんだ、みんなが、一緒なんだ――



…ドキドキが、おさまった。

うん、やれる。…これなら、やれる!


心臓が、頭が、すぅっと冷えていく。脚がしっかりとステージを踏みしめてる。おへその下にぐっと力が集まっていく。

317: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 10:08:57.62 ID:AFTNzYjg.net
にこ「…さ、それじゃ、そろそろいくわよ!にこ達のデビュー曲!」

にこちゃんの元気な声。


花陽「はい!聞いてください!」

私もそれに続く。



にこ・花陽 「「after school NAVIGATORS!」」






~続く~

325: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 21:59:01.74 ID:AFTNzYjg.net
~3~

花陽「――ふう。」


舞台袖にひっこんでも、まだ体の中で何かが弾けて踊りまわってるみたい。

嘘みたい。この私が、こんな私が、大勢の人の前で歌って踊っちゃった。


本物のアイドルみたいに、ライブしちゃったよ!

どうしよう、どうしよう、心がフワフワして、ウキウキして、どうにもおさまらない!こんな気もち初めて!


にこ「――おつかれ、花陽。」

花陽「にこちゃん!私、私――」

ああ、どうしよう!うまく言葉が見つからないよ!


にこ「うん。いいのよ。きっとにこも同じ気もちだから。」

花陽「うん…うん!」

にこちゃんに飛びついて思いっきり抱きしめあう。



にこ「ねえ花陽、やっぱアイドルって…」

花陽「最高、です!」

にこ「…ふふっ」

思わず顔を見合わせて笑っちゃった。

326: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:00:42.71 ID:AFTNzYjg.net
それから、まだ順番を控えている他の部活の邪魔にならないように目立たないところに移動して、改めてにこちゃんにお礼を言ったの。

花陽「本当に、何もかも本当に、にこちゃんのおかげだよ!ありがとう!」

花陽「もしにこちゃんが居てくれなかったら、私きっとあのまま逃げ出しちゃってた!さすがにこちゃん…にこ先輩!」

にこ「…」


花陽「いつあんなキャラ考えてたの?それにあのフレーズ、本当に魔法みたい!嘘みたいに緊張が――」

にこ「あのね、花陽。にこね、初めてじゃないの。」

花陽「え?」


にこ「ステージに立つの。初めてじゃないの。」

それから、にこちゃんは1つずつ話してくれた。


本当は最初からアイドルに憧れていたこと。

スクールアイドルに挑戦していたこと。


仲間とうまくいかなかったこと。


一人ぼっちになっても頑張っていたこと。



でも、何もかもうまくいかなくて、部室にこもっていた時のこと。



そして、私が来たこと――

327: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:01:41.53 ID:AFTNzYjg.net
にこ「ごめんね。遠慮は無し、なんて言いながら、こんな大事なこと黙っておいて。」

花陽「…」

にこ「もっと早く言えばよかったわね。そうしたら花陽の不安も少しは…」


花陽「…すごいです!」

にこ「え?」

花陽「一人だけでも頑張るなんて花陽には絶対できない!…しかもブランクがあったにも関わらずあのパフォーマンス…やっぱりにこちゃんはすごいよ!」

にこ「花陽…」


花陽「…私にとってにこちゃんは、優しい先輩で、すっごく大事な友だちで、1番尊敬してる人。それは絶対変わらないよ。」

にこ「…グスッ…あ、ありがと…花陽…ありがと…」

花陽「やだ…にこちゃん…泣いたら私まで涙が出てきちゃうよ…」


二人してなんだか湿っぽくなってしまったその時。

328: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:02:56.20 ID:AFTNzYjg.net
穂乃果「―――……はーなーよーちゃーん!」

花陽「ピャ!?」

穂乃果「んも~~~~っ!すっごい!すごいよ花陽ちゃん!穂乃果、感動しちゃった!」

ことり「すっごくよかった~!衣装もイメージ通りだったね!」

海未「私はこのようなことには疎いのですが…素晴らしいステージだったと思います。」

花陽「皆さん…」


凛「…いたいた!かよち~ん!すっごく可愛かったよ~!ねえねえ、凛達見えた?もう真姫ちゃんなんて大声で『L・O・V・E!花陽ーっ!』って」

真姫「そんなこと言ってないでしょ!嘘ばっかり言わないで!」

凛「またまた~、真姫ちゃん夢中でステージ見てたにゃ~。」

真姫「それは!…その…」

凛「ほら!真姫ちゃんも感動してたってさ!」

花陽「ふふ、ありがと。凛ちゃん、真姫ちゃん。」


にこ「…フン!アンタたちにもようやくにこ達の凄さがわかったみたいね?」

真姫「凄さっていうか…まあ、普通に良かったんじゃない?」

凛「う~ん、かよちんは可愛かったけど、あの挨拶はちょっと寒くないかにゃ?」

にこ「アンタ達ねえ…!」



「すいませーん!ステージに参加した各部は集まってください!終了の挨拶と伝達事項がありまーす!」

329: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:03:58.82 ID:AFTNzYjg.net
――特設ステージ前に集められた私達に向かって生徒会長さんが流暢に話しかける。

絵里「みなさん、ありがとうございました。おかげでステージは盛況を極め、オープンキャンパスを楽しんでもらうという試みは大成功だったと言えます。」

絵里「これからも各部はそれぞれの目標に向かって努力し、よりよい成果をあげられるように頑張りましょう。」

絵里「それでは、事前の説明と、生徒会役員の指示に従い片付けを開始してください。本日はお疲れ様でした。」

まばらな拍手が送られると、どの部もぱらぱらと片付けにうつっていった。


花陽「ごめんね。お手伝い頼んじゃって…」

凛「別にいーよ。陸上部は特に何もやることなかったし。」

真姫「私も、まあ、この部に関わりがあると言えなくもないから…」

穂乃果「とか言って、本当は一人で帰るのが寂しいだけだったりして~?」

真姫「そんなことありません!」


花陽「あはは、じゃあ、私達も行こっか、にこちゃん。」

にこ「…」


花陽「にこちゃん?」

にこ「っ!」


え?なんで?突然走りだしたにこちゃんがあっという間に壇上に上っちゃった!

330: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:06:09.16 ID:AFTNzYjg.net
にこ「…待ちなさいよっ!」

絵里「…何かしら?」

にこ「どうだったの?にこ達のステージ。」

絵里「…」


海未「ちょっと、にこ先輩。これは一体…」

私達も慌てて追いかけてきたけど、にこちゃんはそんなことお構いなしといった様子で生徒会長さんを睨みつけている。


にこ「黙って。…やっぱり『素人のお遊び』?」

絵里「…そのことについては、謝るわ。あの時はついカッとなって…」

にこ「そんなことどうだっていいわよ。今日のことを聞いてるの、答えなさいよね。」


絵里「…っ」


にこ「…」





絵里「…ハラショーだったわ。」

331: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:07:14.19 ID:AFTNzYjg.net
にこ「…」


花陽「…え?」


ことり「は、はらしょ…?」


にこ「…は?なに言ってんのアンタ?」


絵里「…えっ?だ、だから…その…ハラショ…」

凛「ねーねー真姫ちゃん、ハラショーって何?」

真姫「ロシア語ね。すばらしい!とかすごい!とかそんな感じだった気がするわ。」

穂乃果「へえ~、そうなんだ!で、なんでロシア語で言ったの?なんとなく?」

海未「まさか?生徒会長ですよ?きっと何がしかの深い意図があるはずです。」


絵里「…」



希「えっ?そうだったんエリチ?」

332: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:09:38.53 ID:AFTNzYjg.net
絵里「…希っ!」

希「あはは…ごめんごめん。」

絵里「もう!さっさと行くわよ!私達も後片付けがあるんだからね!」


希「あっ、もう…みんなゴメンな。そんじゃまた!」

希「にこっち!花陽ちゃん!最高のステージやったよ!また今度ゆっくり遊びに行くからね!」

希先輩がぷりぷり怒る絵里先輩を追いかけていったけど…何か悪いことしちゃったかな…



にこ「…くっ…ふふ…あははははっ!!なにあれ!結構かわいいとこあんじゃないの!」

花陽「に、にこちゃん…?」


にこ「さっ、さっさと片付けて打ち上げよ!あんた達も特別に参加させてあげる!」

333: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:10:23.70 ID:AFTNzYjg.net
―― その夜 絢瀬家

絵里「『…どの部活もみんなすばらしいステージを披露してくれました…』っと…こんなものでいいかしらね。」


亜里沙「お姉ちゃん?まだ起きてるの?」

絵里「亜里沙、あなたこそ、もう寝ないとダメじゃない。」

亜里沙「うん…なんか眠れなくって…それ、今日のステージ?」

絵里「ええ、学校のホームページにアップしたの。」

亜里沙「そうなんだ、お疲れ様…あっ、にこさんとハナヨさん!」



亜里沙「やっぱり素敵…亜里沙も高校生になったら、スクールアイドルやりたいな。」

絵里「えぇ!?ちょっと本気!?……ほら、こんなの素人じゃない。とても見れたものじゃないわ。」

亜里沙「そうかなあ、そりゃ、お姉ちゃんから見たらそうかもしれないけど…私の友達もすごいすごいって言ってたんだよ?」

絵里「ううん!ダメダメ!ぜんっぜんダメ!ちっともハラショーじゃないんだから!」

亜里沙「えっ、хорошоがどうかしたの?」



絵里「…なんでもないわ。」

334: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:10:50.96 ID:AFTNzYjg.net
亜里沙「?…あっ、そうだ!お姉ちゃん、この動画のデータくれない?ウオークマンに入れたいの!」

絵里「いいけど…こんなもの、何がいいのかしら……はい、どうぞ。」

亜里沙「ありがと!おやすみ、お姉ちゃん!」

絵里「もう…早く寝なさいよ。」




亜里沙「えへへ…お姉ちゃんはああ言ってるけど、絶対にこさんとハナヨさんはすごいんだから!」

亜里沙「ちゃんとした評価を見れば、お姉ちゃんも考えを変えるよね…っと。」



亜里沙「えっと…これで…いいのかな?いいよね?ここにみんな投稿してるみたいだし…」

亜里沙「…?なんかいっぱい出てきたけど…ちゃんとアップされてるからいいよね。」


亜里沙「ふふ、楽しみだな…」

335: (家)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:11:29.05 ID:AFTNzYjg.net
―― 動画のアップロードと参加登録が完了しました ――

      LOVE LIVE! 公式運営サイト








~ 続く ~


この後はサクッと終わらそうかと思います

363: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:06:09.33 ID:csfSDhIP.net
『ラブライブ!』

にこ「…はあ…」

花陽「…ふう…」

夏休み目前の部室―私達はまだあの熱気の中にいるみたい。


にこ「…よかったわねえ…」

花陽「すごかったですねえ…」

にこ「また、やりたいわね…ライブ。」

花陽「やりましょうよ…また…」

具体的な日時や予定はないままそんな気もちだけ膨れていく。


花陽「…たとえば、文化祭とか?」

にこ「…はあ?アンタねえ、もっと志は大きく持ちなさいよ!」

花陽「え?」


にこ「例えば…街頭ライブとか?」


花陽「えっ?…じゃ、じゃあ…ネットに動画投稿しちゃったり?」


にこ「そ、そしたら…ひょっとして、もっと人気が出ちゃったりして…」


花陽「ま、まさか…」




「「ラ ブ ラ イ ブ と か !!」」

364: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:06:58.60 ID:csfSDhIP.net
にこ「…」

花陽「…」

二人して顔を見合わせると、静まった部室にセミさんの声がじいじいと響く。



にこ「…ま、まあ、そのくらい志は大きく持ちなさいよねってことよ。」

花陽「は、はい!」


にこ「いい?あんなもんでいい気になってちゃダメよ!花陽!」

花陽「はい!」

素早くパソコンを立ち上げ、ラブライブのサイトを表示する。


にこ「1位は!」

花陽「やはりA-RISEです!」

にこ「さすがね!次は!」

花陽「◯◯です!」

365: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:07:57.17 ID:csfSDhIP.net
にこ「そうでしょうね…いい?スクールアイドルの上の方にはまだまだすごいのがこんなにいるのよ!」

花陽「はい!」

にこちゃんが上位ランカーのページを少しずつスクロールしていく。


にこ「…くっ、この子達、この前結成したばかりじゃないの。」

花陽「…すごい…一気に伸びてる…」

にこ「…予想通り、とはいかないみたいね。」


花陽「Lucky…OTEMO-YAN…Shika⇒Okehan…」


にこ「…george…音の木坂学院アイドル研究部…」



花陽「…え?」


にこ「…は?」





「「ええええええええええええぇ!?」」

366: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:10:44.76 ID:csfSDhIP.net
絵里「…来る頃だと思ったわ。」

にこ「ふふっ…ふふふふっ……いいのよぉ~?そんな、無理にカッコつけなくてもぉ~?」

会長さんの脇に手をついたにこちゃんがにやにやと笑いかける。


花陽「生徒会長さん…いえ…絵里先輩…!」

絵里「ちょ、ちょっと…そんな目で見ないでよ…」

にこ「…ったく。アンタも素直じゃないわよね。…ああ、いいのいいの、にこは全部わかってるから!」

絵里「だからそれは!」

花陽「え?」



絵里「…なんでもないわ。」

にこ「あっ、そうそう、今回は結果オーライだったけど今度からはちゃんとマネージャーを通して…」

絵里「…」

にこ「ま、特別ににこのこと、にこ、って呼んでもいいわよ?アンタも親しみを込めて名前で呼んであげる。感謝しなさいよね?」


希「あー、それで?にこっち何か用があったんと違う?」

にこ「ああ、そうそう。忘れるとこだったわ…はい、これ。」

にこちゃんが机の上にズラリと書類を広げる。

367: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:11:52.58 ID:csfSDhIP.net
絵里「…何、これ?」

にこ「何って…見てわかるでしょ?」

希「機材リスト…衣装費…遠征費…その他諸々の予算の申請書やね。」

にこ「そっ、ちゃんとした活動に必要な、正当な予算申請よ。」

希「…確かに、ぱっと見る限り常識的な範囲の予算みたいやね。」

にこ「と~ぜんよねぇ~!やっぱりにこってやりくり上手っていうかぁ~?」


絵里「…わかりました。こちらで精査した後、必要な分を配分します。」

にこ「ありがとっ、絵里!」

絵里「…それで?他に要望がないならあとはこっちで…」



にこ「おっとぉ~!1番大事なものがまだ残ってるわよ?」

絵里「はぁ?…まだ何かあるわけ?」

368: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:14:17.36 ID:csfSDhIP.net
にこ「はい!ここにサインしてくれるだけでいいからね♪」

絵里「何なのよまったく―――……はあぁ!?」

絵里「ちょっと!何よこれ!こんなの認められないわ!」


にこ「『生徒会は評価にふさわしいバックアップを約束する』…そう言ったわよね?」

絵里「で、でも…」

にこ「言 っ た わ よ ね?」

絵里「…ぐっ…」


希「ふふ、一本とられたね、エリチ。」

絵里「…ああ、もう!」

ぐしゃぐしゃと乱暴にサインがされる。




~ 契約書 ~

私、絢瀬絵里は音ノ木坂学院アイドル研究部の専属ダンスコーチとして、

同部のラブライブ優勝のために惜しみない協力を約束します。




にこ「オッケー♪――あっ、早速今日の放課後からお願いできるかしら?」

369: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:15:14.23 ID:csfSDhIP.net
ことり「――へえ~!ラブライブ!?やったね、かよちゃん!」


そういえば、最初にことり先輩に会ったのもここだったっけ。

アルパカさんの首をなでつけることり先輩を見ながら、ライブの相談をしたことを思い出す。


花陽「あ、はい…えへへ…あの、それで今日はことり先輩にお願いが…」

ことり「ん、なあに?」



花陽「その…ことり先輩、スクールアイドルになってくれませんか?私達と一緒に!」

370: (家)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:17:04.46 ID:csfSDhIP.net
ことり「え…」

花陽「にこちゃ…にこ先輩も准部員なんて言ってますけど…本当はことり先輩が入ってくれたらって…」

ことり「…」

花陽「お願いします!本当の部員になって…私と、にこちゃんと一緒に、ラブライブに出てください!」




ことり「…にこちゃん、か。」

花陽「あ…」

ことり「ごめんね、かよちゃん。それはできないの。」

花陽「えっ…」



ざあ、と風が吹いて私達の間を吹き抜ける。


たなびく長い髪を抑えながらことり先輩が寂しそうに笑った。



ことり「――私ね、留学するの。」



~続く~ 次で最後にします

379: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:15:14.27 ID:mNuL/AF2.net
『 笑顔の魔法 』

凛「――あれ?かよちんだ!お~い!か~よち~ん!」

凛「えへへ、かよちんみ~っけ!」

満開の桜の下、ブンブンと手を振りながら、ぎゅっと飛びついてきた凛ちゃんを受け止める。

花陽「もう、凛ちゃんってば、頭に花びらついてるよ。」

凛「えへへ、ありがとかよちん!」


にこ「――変わんないわねえ、アンタ達。」

凛「あっ、にこ先輩!ご卒業おめでとうございますにゃ!」

真姫「…まったく、急に走り出すんじゃないわよ…」

髪の毛をクルクルといじりながら真姫ちゃんが近づいてくる。

真姫「にこ先輩、ご卒業おめでとうございます。」

にこ「二人ともありがと。今日会えてよかったわ。」


本当、そう思う。うちの学校は小さいから卒業式は一年生も全員参加なの。

最後ににこちゃんと二人が会えて良かった。


そう思っていたら、

穂乃果「…あっ、花陽ちゃん達だ!お~い!」

海未「ご卒業おめでとうございます。」


絵里「…あら?どうしたの、みんな揃って。」

希「やっほー、なんや送別会でもやっとるん?」


見知った人たちがどんどん集まってきた。

381: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:15:59.38 ID:mNuL/AF2.net
にこちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん、穂乃果先輩に海未先輩、絵里先輩、希先輩――

わあ、これってすごい偶然!…こうなったら、本当はもう一人、ここにいてほしかったな。


凛「わ~!ひょっとして、このメンバーで集まるのって久しぶり?」

海未「そうですね、最後に会ったのは確か…」

希「ラブライブの本戦前やったね。」

穂乃果「そうそう!あの時は学校にお泊りして楽しかったな~!」

真姫「そうかしら?関係もないのに手伝わされて大変だったわ。」

絵里「ほんとにね、開始ギリギリまで準備するんだもの…まったく、受験生に何させるのよ。」

にこ「はっ、このスーパーアイドルのスタッフとして参加できたのよ?受験なんかよりよっぽど価値があるわよ。」



花陽「ふふ…でも、あの時は楽しかったです。すっごく賑やかで…部室があんなに人や衣装や小道具でぎゅうぎゅう詰めになって…」

にこ「…そうね。」


凛「あ…そっか、来年からはかよちん…」


花陽「…」

382: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:16:48.72 ID:mNuL/AF2.net
希「…ま、新入生も入ってくるんやし、心配することないよ。」

真姫「そ、そうよ!それにもし私がど~しても暇だったら遊びに行ってあげないこともなかったり…」

真姫ちゃんが顔を赤くしてる。

海未「と、いうことは一人は部員が確保できたということですね。よかったですね、花陽。」

真姫「どうしても暇だったら!って言ってるでしょ!それに入部する気はないわ!あくまでも花陽の友達!」

ふふ、それでも嬉しいよ。ありがとう、真姫ちゃん。


絵里「花陽さん、私の後任の子は物分かりがよくて親切な子だから…何かあったら相談してちょうだい?きっと力になってくれるわ。」

花陽「ありがとうございます。絵里先輩。」


にこ「…ま、後一人がもうすぐ戻ってくるし。大丈夫でしょ。」

穂乃果「そうだよ!穂乃果だって、ず~っと待ってるんだからね!」


花陽「ことり、先輩…」



そう、アイドル研究部3人目の部員。今は遠い遠いところにいることり先輩。

もうすぐ帰ってきてくれるんだ。

383: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:17:19.81 ID:mNuL/AF2.net
海未「ことりがあちらに行く前は永遠の別れのように感じましたが…こうしてみるとあっと言う間ですね。」

穂乃果「なんだかんだでネットでお話とかできるしね!」

海未「穂乃果…あなたが1番大変だったではないですか…大泣きして、寂しいから見送りに行かない!って駄々をこねだして…」

穂乃果「うっ…それは…だって…」

海未「結局にこ先輩たちと一緒に迎えに行ったんじゃないですか!全くあなたという人は…」

穂乃果「いや~、ははは…先輩たちにはお世話になりました!」


にこ「いいわよ、別に。その分よく働いてもらったしね。」

海未「そうですよ。散々迷惑をかけたのですからもっと―」



穂乃果「そっか…そうだよね…よし!決めた!私、ことりちゃんが帰ってきたらアイドル研究部に入る!」

384: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:19:03.82 ID:mNuL/AF2.net
海未「はあ!?バカですかあなたは!来年は受験生でしょう!」

穂乃果「だってことりちゃんが留学したせいで、全然思い出作れなかったんだよ!」
  
海未「…う。」

穂乃果「だから穂乃果はアイドル研究部でことりちゃんと一緒に、ことりちゃんがいなかった分の思い出までたくさん作るの!」

海未「…き、気もちはわかりますけど…」

穂乃果「ううん、私やるよ!やるったらやる!…よろしくお願いします!花陽部長!」

花陽「えぇぇ!?」


にこ「へえ、それならアンタ達3人でユニット組んでみなさいよ。結構いい線いくかもしれないわよ?」

花陽「えっ!?た、確かに…客観的に考えてみると結構バランスがいいかも…」

真姫「―ちょっと、私は!?」

凛「え?真姫ちゃんやっぱりやる気なの?」

真姫「…じゃなくて!私は別に!」


にこ「どっちなのよ…アンタは海未と組めば?」

真姫「違うってば!大体、新入生だって入ってくるんでしょ?その子達はどうするのよ!」

花陽「あ…」


そっか、新しく入ってくる子たちを勧誘しないといけないんだよね…とりあえずことり先輩が帰ってくるまでは一人で…

385: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:20:26.49 ID:mNuL/AF2.net
絵里「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫よ。」

花陽「え?」

絵里「うちの妹…亜里沙って言うんだけどね。あなた達の事を見て、絶対にアイドル研究部に入るって意気込んでるわ。」

花陽「本当ですか?」

絵里「ええ、よろしくね。あなたの事もかなり尊敬してるみたいだから… それで、ね。その…」

花陽「?」


絵里「…あのね、花陽さん。うちの妹はその…すごく純粋で、素直な子なの。」

花陽「はい?」

絵里「だからね、あまり、その…変なことを教えないでほしい、って言うか…」

絵里「どうも女子校のことも勘違いしているみたいで…ああ、もう…」


希「もう、心配症やなあ。花陽ちゃんがそんなことするわけないやろ?」

絵里「うぅ…そうね…それはわかってるんだけど…」

にこ「そうそう、任せときなさい?アンタの妹はうちの新部長が立派なスクールアイドルに仕立ててあげるから。ね?花陽?」

花陽「は、はい!任せて下さい!」

386: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:21:45.15 ID:mNuL/AF2.net
にこ「にしても…まさかアンタの妹がね~…?姉の因果が妹に報い、ってやつかしら?」

絵里「もう…いつまでも言わないでよ…その、今はスクールアイドルだっていいな、って思ってるんだから…」

照れながらつぶやく絵里先輩。最初は怖い人かと思ったけど、本当は優しくて可愛らしい人だった。



絵里「…ひょっとしたら、この8人でスクールアイドルをやる可能性もあったのかもしれないわね。」


にこ「…ちょっと、一人忘れてるわよ。9人でしょ?ことりも入れて。」



穂乃果「――おおっ!?それいいね!音ノ木坂学院のピンチに颯爽と現れた9人のスクールアイドル!その名は…!」

凛「その名は?」



穂乃果「…ミュ、ミュー…ミュー…          

   


     
     ミュータントガールズ!」

387: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:22:10.23 ID:mNuL/AF2.net
海未「なんですかそれは…」

穂乃果「あはは、昨日テレビでそんな映画やってたからさ…」

真姫「センスないわね…」

希「まあまあ、名前はともかく面白そうやん!」


花陽「…スクールアイドル、この、9人で…」


にこ「…」





もしかしたらあったかもしれない未来を夢見て、私達は青い空を見上げる。


春の風が静かに木々の間を吹き抜けていった。

388: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:22:38.29 ID:mNuL/AF2.net
絵里「…じゃ、私達は生徒会の子達とのお別れがあるから。」

希「それじゃね、みんな!神社で会ったら声かけてな?」



にこ「あ――ちょっと希!絵里!」

絵里「?」

にこ「あー…その…今度、一緒に御飯でも食べに行きましょうよ。」

にこ「…友達なんでしょ。にこ達。」

希「にこっち…」

にこ「な、何よ。アンタが言ってたんじゃないの。」

希「…うん…うん!…グスッ……えへへ…」

絵里「…私も喜んで、にこ。」

にこ「…その、色々とありがと。すごく助かったわ。」



にこちゃんと希先輩、それに絵里先輩。最初はとっても仲が悪いのかな、と思った。

でも、今なら分かる。3人が3人ともお互いの事を認めて、信頼しあってるんだ。

握手を交わす先輩たちを見て、少し、入部した時のことを思い出す。

389: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:24:03.52 ID:mNuL/AF2.net
凛「さてと、凛も陸上部の先輩たちのところに戻らないと!」


真姫「私も、そろそろ来賓室からパパが出てくると思うから。一緒に帰るわ。」


海未「では私も弓道部の方に、それでは皆様ごきげんよう。」


穂乃果「あっ!穂乃果も途中まで一緒に行くよ!」



――それぞれが自分の帰るべきところに帰っていく。

やがて、中庭の樹の下には私とにこちゃんだけが残った。



にこ「…最後に、部室行きましょうか。」

花陽「…はい。」



最後、という言葉を聞いた瞬間。涙がこぼれそうになった。

だめだよ。まだダメ――

390: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:24:38.59 ID:mNuL/AF2.net
にこ「―これとこれとこれはあげる。それから―」

花陽「えっ!?イインデスカ!?こ、こんな貴重な…!」

にこ「いいのよ、部長なんだからこんくらい持っとかないと箔が付かないでしょ…あっ。」

備品の整理をする中、ふと手が止まる。


にこ「これも…置いとくわね。」

花陽「あ…」

それは一冊のスケッチブック。


ことり『――使えるかどうかはわからないけど、もしよかったら――』


あれから、何度もお世話になったことり先輩の置き土産。

にこ「まったく、こんなに使い切れないわよ。あの子、どんだけライブするつもりでいたのかしら。」


パラパラとスケッチブックをめくりながらその衣装を一つ一つ見ていく。

『不思議の国のアリス?』 『ハロウインがモチーフ!』 『冬のイメージで。』

どのページにもことり先輩の可愛らしい文字とイラストが並んでいた。

391: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:25:09.95 ID:mNuL/AF2.net
にこ「つかいきれなかった分はアンタが使いなさい。ここ、置いとくから。」

にこちゃんが窓際に置かれたトロフィーにスケッチブックを立てかけた。

花陽「…」

にこ「…」

窓からの光を受けて、燦然と輝くそれを見つめ、しばらく二人共無言になってしまう。






―― ラブライブ!準優勝 音ノ木坂学院アイドル研究部 ――

392: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:25:59.84 ID:mNuL/AF2.net
花陽「…ごめんね…」

にこ「やめなさいよ。」

花陽「ううん、私がもっと…」

にこ「やめなさい、つってんの。バカ。」

トン、とおでこをつつかれた。


にこ「話題性では勝ってたでしょ?結成して間もない無名のユニットがA-RISEを脅かした…」

にこ「負けたんだから、十分なんて言わないわよ。でも、悪くは無いわ。」

花陽「う、うん…」


にこ「いい?アンタはね、卒業したら『ラブライブ優勝校のリーダー』っていう肩書を引っさげてにことアイドルユニットを組むの!」

にこ「…そうじゃないと、アンタが卒業する頃、宇宙ナンバーワンアイドルになっているにこにーと釣り合いが取れないでしょ?」


花陽「…ふふ。うん、そだね。」

393: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:26:39.43 ID:mNuL/AF2.net
にこ「ちょっと、何笑ってんのよ。言っとくけどにこは本気よ?」

花陽「ううん、ごめんね。…ありがと、にこちゃん。」




にこ「…先に待ってるから。ちゃんと来なさいよ。」

花陽「…うん!」

突然、きゅっと抱きしめられた。


にこ「ありがと。大好きよ。」


花陽「…!」

耳元でそっとつぶやかれる。


花陽「…私も、大好き、ですっ…」


後はもう、何も言わずに強く、強く抱き合っていた――遠く離れても、決して、二人の心と夢が離れないように。

394: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:27:15.50 ID:mNuL/AF2.net
にこ「それじゃ、ここでお別れしましょ。湿っぽいのはゴメンだわ。」

花陽「…うん。」

あちらこちらですすり上げる声と歓声がこだまする校舎の前で私達は最後の握手をかわす。

にこ「落ち着いたらまたうちに来なさいよ。チビ達も喜ぶわ。」

花陽「うん…」

にこ「そんな顔すんじゃないわよ。アイドルはいつも見られてるんだからね。」

花陽「うん…」

にこ「…じゃ、行くわね。」

すっと手がほどかれる。

花陽「…あ、ご卒業、おめでとうございますっ…!」

にこ「…」




――にこちゃんは手をふってくれたけど、もう私のことは振りかえらなかった。

395: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:28:07.56 ID:mNuL/AF2.net
人混みに紛れ、にこちゃんが消えていく。

行ってしまう。にこちゃんが、行ってしまう。


そう思ったら、いつの間にか駆け出していた。


「きゃっ!」

花陽「ご、ごめんなさい!」

他の生徒にぶつかりそうになりながら走って走って、校門を飛び出す。


もつれる足で横断歩道を渡ると、階段の下の桜並木に小さな背中を見つけた。



花陽「にこちゃんっ…にこちゃんっ……にこ先輩っ!!」



階段の上から、息を弾ませ叫んだ。

397: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:29:42.18 ID:mNuL/AF2.net
涙に滲む彼方の花びらの中で、にこちゃんが振り向く。それは、何度も見たあの表情、あの優しい眼差し。


――しょうがないわねえ


声が聞こえなくても、なにも言わなくてもわかる。


――アイドルは人を笑顔にさせる仕事よ!


うん、うん。そうだよね。そうだった、そうだよ、私は笑わないと。笑顔で、お互いに笑顔でお別れできるように。

音の木坂に通じる階段の上と下、私とにこちゃんはゆっくりと手を伸ばす。

親指、人差し指、小指をピンとたてて、桜の下のにこちゃんと一緒に、最後のとっておきの笑顔の魔法。


どこに居ても大好きな先輩が私のことを見つけてくれるように。

私が迷わずに先輩のことを見つめていられるように。


高く、高く、大きく、大きく――


「「 にっこにっこにー! 」」



~ 終わり ~

399: (家)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:31:27.21 ID:mNuL/AF2.net
おしまいです。最後まで見てくれた人、コメントや保守してくれた人、ありがとうございます。
遅くてすみませんでした。

今更ながらスレタイは「アイドル研究会」じゃなくて「アイドル研究部」ですね。
後でレズレズしいおまけがあるかもしれません。

400: (たこやき)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:32:51.45 ID:pKHcu5Lu.net
お疲れ
素晴らしかった

401: (新疆ウイグル自治区)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:36:48.74 ID:gxHd6xvn.net
素晴らしいわ

402: (笑)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:37:51.23 ID:z/1vy8BF.net
うわああああこれは名作や

403: (プーアル茶)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:38:00.60 ID:ouby1D2D.net

新鮮ですごくよかったです!

405: (庭)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:45:07.62 ID:jTgDqcr+.net
乙!
地の文の情景描写がかなり好みだわ
やっぱ師弟関係最高や

428: (家)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 22:45:42.54 ID:jU5n1ItL.net
『 秘密 』

「――ふう…やっぱり送っちゃえばよかったかも…」

大げさな荷物を引きずりながらため息をついちゃった。

なんて、今更後悔しても遅いよね。早くみんなに会っておみやげを渡したかったんだもの。

ことり「えっと…メールでは…みんなが来てくれるって…」

ドキドキしながら見知った顔を探す。


ことり「あっ…」

こっちが先に気づいちゃった。

穂乃果ちゃんも海未ちゃんも変わってないなあ。

かよちゃんはちょっと大人っぽくなったかも。


おーい!ここだよ!って手をふろうとした瞬間。心臓が跳ね上がった。

穂乃果ちゃんの陰から出てきたにこ先輩。


手首に巻いたブレスが急に熱を持った気がした。

429: (家)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 22:46:19.21 ID:jU5n1ItL.net
――それは、留学前の本当に僅かな時間。

3人で過ごした放課後の日々。

私のことを「必要だ」って言ってくれたあの人。

穂乃果ちゃんや海未ちゃんの陰に隠れてパッとしない私を欲してくれた彼女のそばにいるだけで心が温かくなってくる。


花陽「ねえ、にこちゃん。これなんだけど…」

にこ「そうねえ…アンタはどう思う?ことり。」

ことり「えっと…いいと思いますよ。にこ先輩。」



――ここにいるのは好き。でも『にこちゃん』と『にこ先輩』の違いを再確認させられる度に辛くなる。



それでもいい。少しだけでも同じ思い出を持てるのなら。

430: (家)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 22:46:45.97 ID:jU5n1ItL.net
にこ「じゃあ、それで行きましょ…あっ。」

何か小さいものが転がる音がする。


にこ「あーあ…ボタンとれちゃった…その辺落ちてない?」

何かに引っ掛けた拍子にブレザーのボタンが取れちゃったみたい。

私達は揃ってごちゃごちゃと物が置かれた部室の床を探しまわる。


ことり「う~ん…?…あっ…」

やがて、ロッカーの陰に小さな光るものを見つけ、声をかけようとする。

ことり「にこ先輩…」




――その時、気づいちゃったの。誰もことりの事を見てないって。

431: (家)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 22:47:12.51 ID:jU5n1ItL.net
震える指先が勝手に動いて、ポケットにそっとボタンを隠す。


どうしよう、こんなのいけないことだよね。人のものを勝手に取ったりして。





ことり「あっ…ありましたよ。」


――最低。嘘ついちゃった。

432: (家)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 22:48:04.11 ID:jU5n1ItL.net
にこ「ああ、ありがとう。まったく…」

ことり「つけてあげましょうか?」

にこ「別に、こんくらい自分でやるわよ。ちょっと針と糸貸して。」

ソーイングセットを手渡して、ボタンをむしりとったブレザーの胸元をぎゅっと掴む。バレてないよね。


にこ「~♪」

やだな…鮮やかな手つきでボタンを付けるにこ先輩を見てたらなんだか自分がすごく惨めで、情けなくて、泣きたくなってきた。


花陽「よかったね、にこちゃん。」

ごめんね。かよちゃん。


このくらいなら、許してくれる?



好きな人から心臓に一番近いボタンを受け取る。卒業前の定番の儀式。



それは、私には絶対にかなわない願いだから。

433: (家)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 22:48:38.14 ID:jU5n1ItL.net
――私に気づいた穂乃果ちゃんが大きく手をふる。

私も大きく手をふって歩き出す。


ことり「ただいま、穂乃果ちゃん。海未ちゃん。かよちゃん。」



ことり「それから…にこちゃん。」


ブレスに通したボタンをそっと撫でて、誰にも聞こえないようにつぶやいた。



~ 本当に終わり ~

434: (大阪府)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 23:01:40.21 ID:ewAqQFlx.net
まさかのことにこ片想い
よかった乙
また書いてね

439: (やわらか銀行)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 08:31:27.27 ID:5L11lYdj.net
長い間乙

442: (茸)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 19:23:29.66 ID:rBkV5Fa+.net
面白かったです

443: (わたあめ)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 21:51:49.35 ID:4auOYh6x.net
これは名作ですわ

引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1424920758/

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