【SS】すみれ「私がかのんの幼馴染……?」【ラブライブ!スーパースター!!】

SS


1: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 22:45:52.55 ID:rM1x0pDE
千砂都「それじゃあ、次のライブの事を決めていくよ!作詞はかのんちゃんで作曲は恋ちゃん。そしてセンターは……」

すみれ「決まってるわね。ショウビズ界で名を上げたこの私が……」

可可「かのんに決まってます。調子に乗るなデス、グソクムシ」

すみれ「誰がグソクムシよーっ!」

可可「事実ではありまセンか。ではさっさと練習しマスよ」

かのん「まぁまぁ……本当に私でいいの?」

恋「はい。今回の曲はかのんさんのキーに合わせて作りますので……」

かのん「そっか……じゃあ、がんばっちゃおうかな……」

すみれ「……」

4: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 22:48:02.53 ID:rM1x0pDE
放課後


すみれ「あーっ!もう!確かにかのんは人を惹きつける才能はあるし歌はうまいけど……たまには私にセンターを任せてくれたっていいんじゃない!?」

すみれ「……帰って神社の掃除しなきゃ……」

「ちょっとそこのあなた。もしかして今の人生に不満がありませんか?」

すみれ「誰よ!? あんたは……」

侑「私は通りすがりのもの……侑とでも呼んでください。ところで、何か不満がありそうな感じだったけど……」

すみれ「不満も不満。当然よ。本当なら私には輝けるスター街道が待っていたはずなんだから……。Liella!でセンターになって、ショウビズ界でも名をあげるのよっ!」」

侑「じゃあその人生、やり直してみませんか?」

すみれ「なによそれ。やりなおせるなら、さっさとやりなおしてみせないよ。私を最高のスターにしてったらしてっ!」

7: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 22:51:21.22 ID:rM1x0pDE
侑「わかったよ。その代わりに失うものがあっても文句はないね?」

すみれ「当然よ!大事なのは私の人生なんだから!」

侑「そう……じゃあ……あなたをお連れしましょう……新たな世界線に……」

突然、侑と名乗った少女の手から光が放たれ、視界が真っ暗になった。

そして目が覚めると私は――自室のベッドの上にいた。

8: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 22:54:32.50 ID:rM1x0pDE
すみれ「うん……朝? なんだったのかしらさっきのは……夢?」

だるい頭を起こして着替えて、登校の準備をして、学校へと向かった。

おはよー。おはよ! とあいさつが交わされるなか、私は一人で教室へ入っていく。

すみれ「はぁ……朝からだるいわね……一限目は数学か」

「すっみっれちゃーーーーーんっ!」

すみれ「なに!? この大声は」

9: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 22:57:38.94 ID:rM1x0pDE
かのん「おはよっ! すみれちゃん! 今日もかわいいね!」ダキッ

すみれ「か、かのん!? ていうかいきなり抱き着かないでよ!?」

かのん「いいじゃん。幼い頃からの仲なんだから!」

すみれ「幼い頃……? なに言って……」

教師「授業始めるわよー」ガラッ

かのん「はーい。すみれちゃん、またあとでね」

すみれ「え、ええ……」

どういう事? 何かがおかしい……。

10: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:01:15.19 ID:rM1x0pDE
放課後、一人で部室に行くと、すでにカギは空いていた。中にいるのは……。

すみれ(恋? なにをやっているのかしら。パソコンなんか見て……)

恋「むむ、むむむ……こ、これはっ!」

すみれ「なになに……禁断の恋? 恋ってばそんな趣味があったのね」

恋「はぅあぁっ!? す、すみれさん!? い、いつの間に……今の、み、見ましたか!?」

すみれ「見たけど……まぁ、私に免じて見なかったことにしておいてあげるわ」

恋「そ、そうですか、ありがとうございます。も、もちろん興味本位で、いや、興味があったわけではなく……たまたま、たまたまですから!」

すみれ(どっちよ……。恋はいつも通りね)

12: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:04:24.17 ID:rM1x0pDE
かのん「あ、すみれちゃんに恋ちゃん。早いね」

可可「スミレは友達いないデスからね」

すみれ「ちょっとそれ、関係ある?」

恋「千砂都さんはこれから来るのでしょうか?」

かのん「うん。千砂都ちゃんなら……」

千砂都「お、遅れてごめんねっ!」ガラッ

13: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:07:32.66 ID:rM1x0pDE
千砂都「日直の当番だったから……いろいろとやらなくちゃいけなくって……」

可可「千砂都はマジメすぎるのデス。そんなの適当にやってすぐに終わらせればいいじゃありまセンか」

千砂都「そ、そんなのだめだよぉ……。みんなでやってる当番なんだから」

すみれ「うん……?」

可可「だから千砂都はダメなのデス! もっと強気でいないと人に使われっぱなしになりマスよ!?」

千砂都「ふぇ……そ、そんなことないよぉ……」

かのん「まぁまぁ、千砂都ちゃんだって色々大変なんだから……」

すみれ「ねぇ、ちょっと待って……千砂都、なんかあんたいつもと違わない?」

14: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:10:38.84 ID:rM1x0pDE
千砂都「ふぇ? いつも通りだけど……」

すみれ「違うわよ。あんたもっとこう、うるさいくらいに元気じゃない。なんか悪いものでも食べた?」

千砂都「そんなことないけど……き、気に障ったならごめんね……?」

すみれ「いちいち謝らなくてもいいけど……ああ、もう! 調子狂うわね……!」

千砂都「ひっ? ご、ごめんね……? すみれちゃん」

すみれ「だから謝らなくてもいいってば!」

すみれ(なにかおかしい……。かのんは千砂都の事をちぃちゃんと呼んでいたはずだわ。それに朝の事といい、千砂都といい……何かがいつもと違う……)

15: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:13:46.78 ID:rM1x0pDE
かのん「すみれちゃん、そういえば今日って仕事の日じゃなかったっけ?」

すみれ「仕事? バイトはしてないし家の用事は今日はないけど……」

かのん「またまたー。すみれちゃんのタレントの仕事だよ」

すみれ「タレント……? なに言って……」

ブーッブーッ

すみれ「あ、電話が……マネージャー!? 誰これ……はい、もしもし」

マネ『もしもし、すみれちゃん? 学校に迎えに行くって約束。もうすぐ着くから校門で待っててね。じゃ』

可可「まったく……仕事を忘れるとはタレントとしての自覚がありまセンね?」

すみれ「どういう事……?」

17: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:17:13.96 ID:rM1x0pDE
マネージャーの車の中で移動中、私はエゴサを始める。

すみれ(『平安名すみれ タレント』検索っと……いっぱい出てくるわね。雑誌の表紙モデル。ドラマの主演女優。NHKの大河ドラマの出演も決定しているみたい……なにこれ。私本当に有名人タレントになっちゃったってわけ!? しかもSNSのフォロワー数は……120万人!? ギャ、ギャラクシー!?)

マネ「今日のスケジュールは雑誌の撮影が2件にドラマ撮影が1件……夜は遅くなるけど家まで送って行ってあげるから」

すみれ「え、ええ。ありがとうございます……」

マネ「なによ、敬語なんか使っちゃって……いつもは偉そうにふんぞり返ってるのに……ふふっ」

普段の私、どんだけ偉そうなのよ。とりあえずはタメ語でいいってことね? そもそも、このマネージャーは私が幼い頃にショウビズ活動をしていたころについていたマネージャーと同じ人らしい。とりあえず探りをいれてみる。

すみれ「私ってほら、幼いころからショウビズ活動をしていたじゃない? 売れたのっていつ頃からだったっけ?」

マネ「何言ってるのよ。あなたは一生頭が上がらないわよね。幼馴染のかのんちゃんには」

すみれ「……え?」

18: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:20:19.28 ID:rM1x0pDE
マネ「あなたが幼い頃にタレントをやめようとしてた時、引き留めてくれたのがかのんちゃんでしょ? 今じゃこんなに有名になってるけど、かのんちゃんがいなければあなたは引退していたんだから……って話してくれたのはあなたよね?」

すみれ「え、ええ……そうね」

すみれ(本当にかのんが幼馴染だったんだ……確かに私は引退したはずだけど、あの頃にかのんが幼馴染になっていて、私を引き留めて励ましてくれたってこと?)

マネ「それがなければ、すみれちゃんはグソクムシで終わってたものね」

すみれ「ぐ、グソクムシ言うなーっ!」

マネ「ふふっ……そろそろつくわよ」

21: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:23:25.95 ID:rM1x0pDE
到着したスタジオで衣装に着替え、私は複数のカメラに囲まれる。

カメラマン「いいよ! すみれちゃん! 表紙になるんだからバッチリいいやつ撮ってあげるから!」

すみれ「は、はいっ! お願いします!」

マネ「……お疲れ様、すみれちゃん。次はテレビ局に移動してドラマの撮影よ」

すみれ「は、はひぃ……」

22: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:26:59.36 ID:rM1x0pDE
すみれ「つ、疲れたぁ~~~っ!!」

帰宅して私はベッドに突っ伏した。時間は23時を過ぎている。お風呂に入ってご飯も食べて……そういえばまだ学校の課題も終わってない……。

すみれ「売れっ子タレントってこんなに大変なのね……学業と両立……キツイわ……」

すみれ(でも、これが私の望んだ世界……スター街道……絶対にやりとげてみせるわ……)

でも、脳裏に浮かんでくるものがあった。それは千砂都の姿だ。

今日の状況を整理すると、多分幼い頃の私はかのんと出会って幼馴染になっていて、かのんに励まされてタレントで大成できた。だけど、かのんと幼い頃に出会わなかった千砂都は幼い頃の気弱な千砂都のままなんだ……。

失うものってこういうこと? 確かに今の千砂都がいいとは思わないけど……。

とりあえず今日はもう……疲れた……。

26: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:30:04.10 ID:rM1x0pDE
翌日、放課後。私はいつも通り部室に集合すると、他の四人もすでに集まっていた。

かのん「それじゃあ、次のライブの事を決めていくよ!作詞は私で作曲は恋ちゃん。そしてセンターは……」

すみれ「決まってるわね。ショウビズ界で名を上げたこの私が……」

可可「そうですね。スミレでいきまショウ」

すみれ「そうそう! 私がセンターで……え?」

可可「いつもスミレがセンターではありまセンか。何か不服でも?」

すみれ「いや、ないけど……いいの? 例えば、かのんがセンターとかでもいいのよ?」

可可「何を言っているのデスか? 知っているでショウ? かのんは……」

かのん「私はいいよ……そういうの向いてないし」

27: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:33:11.12 ID:rM1x0pDE
すみれ「どういう事?」

千砂都「かのんちゃんは……歌えないんだよ……人前だと緊張しちゃって……」

すみれ「そ、そうなの!? それはそのままってわけね!?」

千砂都「ひぇっ!? ご、ごめんなさぁい……!」

恋「すみれさんも知っているはずです。だからかのんさんにセンターは無理です」

すみれ「そう……なのね……」

例え過去の事が違っていても、かのんのトラウマに関しては同じのようだった。

でも待って。もし、そのトラウマを克服することができたとしたら……?

すみれ「ねぇ、かのん。明日って用事ある? あと千砂都も……」

28: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:36:20.03 ID:rM1x0pDE
翌日。今日は休日であり学校はお休みだけど、私は仕事だ。今日は300人規模の私のワンマンライブ。そこにかのんと千砂都を招待した。

関係者席に二人が来ている事を確認し、私はステージで歌い、踊る。一度ステージが終わり、客がアンコールをしている時だった。

マネ「すみれちゃん。あなたに言われた通り二人を舞台袖に連れてきたけど」

すみれ「ありがとう……。かのん、準備はできてる?」

かのん「ちょっとすみれちゃん、これって……? どういうこと?」

すみれ「アンコールで一緒に出ていくのよ。かのん、あなたがみんなの前でゲストとして歌うの。千砂都はそこでかのんを応援してあげて」

千砂都「いいけど、でも……かのんちゃんはみんなの前で歌う事ができないんだよ……?」

すみれ「それを今日、克服するのよ! そのお膳立てはしてあげる。後はあんたが勇気を出すだけよ」

アンコール!アンコール!

すみれ「ほら、ファンが呼んでる……行くわよ!」

かのん「ちょっと待って……うわあっ!?」

29: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:39:27.55 ID:rM1x0pDE
すみれ『みんなー! 今日はみんなに紹介した子がいるのー! 私の友達、かのんよ!』

かのん「ちょっとすみれちゃん……!」

すみれ『この子はとっても歌声がきれいなの! 一曲歌ってもらうから、みんなも応援してあげて!』

すみれ「ほら、かのん……マイク」

かのん「う、うん……」

かのん『は、はじめまして……澁谷かのんです……。一曲、歌わせてもらいます……』

震える声。揺れる膝。怖がっているのが見ていても分かる。だけど、これを乗り越えてこそ強くなれるのよ。かのんにはそれができるはず。

曲が始まった。そしてかのんは――。

30: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:42:33.29 ID:rM1x0pDE
かのん『ずっと……大切に……しまってた……』

かのん『……ッ!」

かのん『やっぱり……やっぱり私には無理だよっ!!』

すみれ「かのん!?」

かのんはマイクを投げ出して舞台袖へと逃げ出してしまった。

すみれ『あ……えと……代わりに、私が歌うわね!』

そうやってどうにか場を繋ぎなおしたが、かのんはステージには戻って来なかった。

31: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:45:39.05 ID:rM1x0pDE
終焉後、楽屋に戻るとかのんと千砂都が待ってくれていた。

かのん「お疲れ様、すみれちゃん。ごめんね? 逃げ出しちゃって……」

すみれ「いえ、私の方こそごめんなさい。あんたがそんなにも悩んでいたの……知らなくて」

かのん「ううん。すみれちゃんが私のためにやってくれたってこと分かってるよ。でも私……ダメだったよ……歌おうと思ったけど……身体が、喉が……言うことをきいてくれなかった……」

かのん「ごめんね……ごめん、ね……っ!」

かのんは嗚咽交じりに泣いた。悔しさで身が震えているのが分かる。私はそんなかのんに対してかける言葉が見つからなかった。

千砂都「帰ろう、かのんちゃん……」

かのん「そうだね……千砂都ちゃん……」

すみれ「また、ね……二人とも……」

32: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:48:46.88 ID:rM1x0pDE
無理だった。私にはかのんのトラウマを克服してあげることができなかった。

あの時、かのんがトラウマを乗り越えて歌えたのはどうして……? 同じような状況だったはず……それとも、私には役不足だったってこと?

いや、まだ私にはやらないといけないことがある。

かのんの事は時間が解決してくれると信じたい。やらないといけないことのもう一つは、千砂都のこと。

せめて千砂都を元の世界の千砂都に戻してあげたい。そのためにできることは――。

34: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:51:52.71 ID:rM1x0pDE
次の月曜日の放課後。

次のライブの日程や会場が決まったこともあり、曲はかのんと恋に任せて、私と千砂都と可可は町に繰り出していた。

すみれ「さぁ、ビラ配りをやるわよ!」

可可「やけにはりきっていマスね。なにかあったんデスか?」

すみれ「別に? ほら、頑張りましょう、千砂都!」

千砂都「う、うん……でも、こういうの苦手だなぁ……」

可可「ちょっとスミレ! ククもいるんデスからがんばろうって言ってクダサイ!」

すみれ「がんばりましょ」

可可「テンションに差がアリマスね!? くぅ~二人には負けないデスよ!」

35: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:55:00.85 ID:rM1x0pDE
すみれ「とりあえず、渋谷まで来たけど……ちょっと可可来なさい。千砂都は先にビラを配ってて」

千砂都「え、ええ……?」

可可「何ですかスミレ、ってひっぱらないでクダサイ!」

千砂都から離れたところで可可に耳打ちする。

すみれ「いいこと。これは作戦よ。千砂都の弱気を克服するための作戦!」

可可「作戦……デスか。それは面白そうデスけど勝算はあるんデスか?」

すみれ「……ない」

可可「ただの思い付きデスね!? これだからスミレは……」

すみれ「うるっさいわね! いいから協力しなさいったらしなさい!」

36: (もんじゃ) 2021/11/05(金) 23:58:09.23 ID:rM1x0pDE
離れたところから千砂都を見守る。がんばりなさい、千砂都!

千砂都「う……うぅ……ライブの……ライブがあります……これ……その……」

可可「まったくダメですね。見てられまセン」

すみれ「大丈夫よ。千砂都の中に眠る血がこれから目覚めるから」

可可「むっ!? 誰かに声をかけられてイマスね」

すみれ「本当!? どれどれ……」

千砂都はチャラい男二人に声をかけられていた。

37: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:01:18.59 ID:mYj30gcO
男1「君かわいいね。その制服、ユイジョの子でしょ?」

千砂都「へ……? は、はい……」

男2「俺らと遊びにいかね? カラオケいこーぜ」

千砂都「いや……私は……それよりもライブが……」

男1「え? なにきみアイドルやってんの? マジ? ウケる。俺らの前で踊ってほしいな」

男2「一緒にいこうぜ、ほら」

千砂都「え、ちょっと待って……きゃあっ!」

すみれ「あーもう、見てられないわ……」

39: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:04:24.01 ID:mYj30gcO
すみれ「ちょっとあんたたち! 誰に向かってナンパしてんのよ!?」

千砂都「す、すみれちゃん……!」

男1「お? この子の友達、一緒に遊ぶ?」

男2「2対2でちょうどいいじゃん。そういやきみ、どこかで見たような……」

すみれ「あんたらみたいな下級ヤローに興味はないのよ! さっさとお家に帰りなさい!!」

私は叫んでナンパ野郎達を追い払った。

千砂都「あ、ありがとう……すみれちゃん……」

可可「まったく、どっちが野蛮かわかりまセンね?」

すみれ「うるっさいわね……まったく」

40: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:07:34.92 ID:mYj30gcO
結局日が暮れて、公園のベンチで三人でたこ焼きを食べている。

千砂都は弱気だけど相変わらずたこ焼きは好きみたいで、今日一番の笑顔で頬張っている。

可可「ほら、頬にソースがついてマスよ?」

千砂都「ん……ありがとう、可可ちゃんっ」

可可「まったく……手のかかる子デスね?」

千砂都「ふふっ……」

その二人の横で、私は頭を抱えた。

結局、私には千砂都の弱気を直してあげることができなかった。それもかのんだからできたのだ。私には無理だ。

失うものってこういうことだったのかな……。

41: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:10:45.99 ID:mYj30gcO
たこ焼きを食べ終わって帰路につく。

「おーい、すみれちゃーーーーーん!!」

聞きなれた大声。声の方を向くと、大通りの向かいに手を振るかのんと佇む恋のすがたが見えた。部活終わりに二人で帰っていたのだろう。

かのん「今そっちに行くから!」

信号が変わると同時に、かのんが横断歩道をかけてこちらへと走ってきた。まったく、落ち着きのない子ね。

しかし、かのんの声を遮るように車のエンジン音が響き渡った。

赤信号を無視したトラックが――かのんをめがけて突っ込んできたのだった。

すみれ「か、かのん!?」

かのん「あ……」

42: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:14:05.69 ID:mYj30gcO
全てがスローモーションに見えた。かのんに向かって突っ込んでくるトラック。立ち尽くすかのん。

その止まったような時の中に飛び込む姿があった。

千砂都「かのんちゃーーーーーーん!!!!」

私の脇を抜けて千砂都がかのんの元へ駆け寄りかのんを突き飛ばした。

と、同時に――千砂都がトラックに衝突し、5メートルほど吹き飛ばされてコンクリートの上に転げ落ちた。手足を投げ出して、糸の切れた人形のようにピクリとも動かない。

かのん「千砂都ちゃん……千砂都ちゃん!?」

我に返ったかのんが千砂都に駆け寄る。血をまき散らした千砂都は身動きもしない。

恋「きゅ、救急車! 今すぐ救急車を……!」

可可「うそ、デス……こんなことが……あ、ああ……」

43: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:17:15.96 ID:mYj30gcO
かのん「千砂都ちゃん! 目を開けてよ! 千砂都ちゃん!!」

千砂都「かのん……ちゃん……よかった、無事で……」

かのん「待ってて千砂都ちゃん! すぐに救急車が来るから!」

千砂都「ううん。いいの……私、いつもみんなに迷惑かけてばかりだったけど、最後はかのんちゃんの役にたってよかったよ…。本当はね、私、かのんちゃんのこと……」

かのん「千砂都ちゃん……? 千砂都ちゃん!? いや……いやぁあああああああああああああああああッ!!!!」

すみれ「うそ……嘘よ……こんな結末……絶対に認めない!!」

後ずさりして、振り向き、私はその場から逃げ出した。頭が真っ白で、胸が締付けめられるように痛くて、私は必死になってどこへ行くでもなく走り続けた。

44: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:20:27.88 ID:mYj30gcO
気が付けば私は学校の屋上にいた。

夕日が建物に隠れかけて夜空が見え始めていた。額から大量に流れる気持ち悪い汗を拭うように吹く冷ややかな風。最悪な気分でも世界の様相は変わらない。

すみれ「これが失うものってこと……こんなの……こんなの私が望んだ世界じゃないっ!」

「……それがあなたの答え?」

聞き覚えのある声。振り向くとその姿はあった。

すみれ「侑……」

侑「言ったよね? 望みが叶うなら何を失ってもいいって……」

すみれ「確かに承諾したわ……だけど、これは私の望んだ世界じゃない。かのんも千砂都も……私の知っている二人じゃない……。ねぇ、戻してよ……私の元いた世界に……」

侑「それは無理だよ」

すみれ「そんな……」

45: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:23:38.81 ID:mYj30gcO
侑「一度変わった世界を元に戻すのは不可能だよ。でも、今の状況を変える方法が一つだけあるよ?」

すみれ「なに……それは」

侑「平行世界といってね? 似ているようで違う世界線が無数に存在しているんだよ。だからまた世界線を変えればいいんだ」

すみれ「よく分かんないけど……どうすればいいの?」

侑「簡単だよ。すみれちゃんがこの世界からいなくなればいいんだ」

そう言って、侑は私にナイフを手渡してきた。

侑「すみれちゃんがこのナイフで自害すればすみれちゃんの存在は無くなる。でもそうすればかのんちゃんの幼馴染は千砂都ちゃんになって世界は元通りになるよ」

すみれ「そう……。私がいなくなれば全て丸く収まるのね」

私は首にナイフを突き立てた。

46: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:26:46.26 ID:mYj30gcO
この世界は私のワガママだ。

本当に大事なものを見失い、無いものをねだった私への罪だ。

だからそれを私が償えば世界は元通りになる。私だけがいない、もとの世界に。

すみれ「恋、可可……そして、千砂都、かのん……ごめんね、私……さよならっ……!」

そうして私はナイフで自らの首を切った。

49: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:29:54.89 ID:mYj30gcO
すみれ「……はっ!」

気が付くと、私は自室のベッドの上にいた。ドッと冷や汗をかいていて気持ちわるい。

さっきのは夢……?

だるい頭を起こして着替えて、登校の準備をして、学校へと向かった。

50: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:33:21.03 ID:mYj30gcO
おはよー。おはよ! とあいさつが交わされるなか、私は一人で教室へ入っていく。

すみれ「はぁ……朝からだるいわね……一限目は数学か」

「おはよう、すみれちゃん」

背後からの声。そこにいたのは――、

すみれ「おはよう、かのん……」

かのん「何か顔色悪いね? 大丈夫?」

すみれ「え、ええ……」

かのんだ。いつも通りのかのんだった。

51: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:36:35.60 ID:mYj30gcO
すみれ「ねぇ、かのん……私たちって幼馴染で……」

「うぃっすー! かのんちゃん!」

その声に驚く。その主はもちろん――。

かのん「ちぃちゃん! おはよう!」

千砂都「うぃっす、うぃっす、うぃーーーっす!!」

かのんと千砂都の二人で指を合わせて突き上げる。いつもの光景だ。

すみれ「ねぇ、一応確認したいんだけど、かのんと千砂都は幼馴染よね?」

千砂都「そうだけど……どうかした?」

すみれ「いえ……なんでもないわ……」

52: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:39:44.39 ID:mYj30gcO
その後、スマホで「平安名すみれ」をエゴサしてみた。出てくるのは幼少期のショウビズ活動でのこととグソクムシのこと。それ以外には特にヒットはしなかった。SNSのフォロワー数も数十人だ。

あれは本当に夢だったのかしら……?

屋上でふけっていると、背後からかのんが来た。

かのん「珍しいね、一人でここにいるなんて」

すみれ「私はいつも一人よ……。ねぇ、かのん……。もし、なんだけどさ……私とかのんが幼馴染だったとした、あんたはどうする?」

かのん「うーん。それはそれで面白そうだけど、今はちぃちゃん以外は考えられないかな」

すみれ「そうよね……それが当然の世界よねっ!」

この世界には私の栄光はないけれど、本当に大切なものはもうすでに持っているから――これ以上を望んだりはしない。

これが私の望んだ、本当の世界なんだ。

53: (もんじゃ) 2021/11/06(土) 00:43:09.32 ID:mYj30gcO
侑「もし、人生をやり直せるとしたらあなたはどうしますか?」

侑「あの頃の後悔、あの時の選択、やり直したいとは思いませんか……?」

侑「あなたに、大切なものを失ってでもやり直す覚悟があるのなら……」

終わり

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1636119952/

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