【SS】侑「シニガサキ…?」【ラブライブ!虹ヶ咲】

SS


3: (たこやき) 2022/06/12(日) 20:58:53.42 ID:qRQ2dVk9
かすみ「知ってますか~?」

かすみ「ここ、部室棟にまつわる怪談を…!」

<ヒュードロドロドロ

侑「うわぁSEまで用意してて本格的だね」

しずく「ムード作りは大事ですからね」


かすみ「…部室棟って4階までありますよね」

かすみ「4…それすなわち死…」

かすみ「…そう!部室棟の4階はなんと、死の世界とつながってるんです…!」
 
6: (たこやき) 2022/06/12(日) 21:12:37.94 ID:qRQ2dVk9
エマ「そうなんだ~」

歩夢「4階ってよく通るけど大丈夫かな…?」

ランジュ「無問題ラ!死はいつだって人の側にあるものなんだから」

彼方「哲学的だねえ」

栞子「人はいつ命を落とすかわからない。だからこそ今この時を大切に…」

かすみ「あーもー!かすみんの話をさえぎらないでくださいよ!」

かすみ「怪談、続けますよ!?」

「「「はーい」」」
 
8: (たこやき) 2022/06/12(日) 21:23:59.25 ID:qRQ2dVk9
かすみ「普通だったら、そんな世界に行くことなどできません」

かすみ「しかし、ある時間にある場所であることをすれば…」

かすみ「なんと!向こう側へと迷い込んでしまうんです…!」

<デデーン

かすみ「使うのは、みなさんもよくご存知…!そう、部室棟のエレベーター…!」

愛「階段は使わないんだー。怪談だけに!」

侑「ぷおおお!w」

かすみ「もー!さっきからフインキぶち壊しですよ!」

璃奈「かすみちゃん、続けて」

かすみ「むー。邪魔しないでくださいよ?」

侑「ごめんごめん~。ちゃんと聞くからさ」

かすみ「まったくぅ…」
 
12: (たこやき) 2022/06/12(日) 21:35:38.05 ID:qRQ2dVk9
かすみ「行き方は簡単です!」

かすみ「まず1階でエレベーターを呼ぶボタンを押し、エレベーターを1階まで降ろしてください」

かすみ「エレベーターが降りてきたらそれには乗らず、上の階へ昇ります」

かすみ「同じようにエレベーターを呼ぶのを2階3階でもして、最後は4階」

かすみ「ここで初めてエレベーターに乗って、階数ボタンは押さずにドアを閉じます」

かすみ「そして4時44分44秒になったらドアを開ける…」

かすみ「…すると!」

かすみ「そこには死体だらけの世界が広がってるんです…!」

<ピャアアアアアアア
 
16: (たこやき) 2022/06/12(日) 21:43:19.70 ID:qRQ2dVk9
璃奈「これがツナガルコネクト…」

ミア「な、なんだ、そんなものか。ボクは全然怖くなんかないぞ」

果林「あらあら、脚がふるえてるわよ」

ミア「Shut up!」

愛「そんなことになったら愛さん、アイス片手に絶叫しちゃうよ。愛スクリームってね!」

侑「ぶもも!w」

せつ菜「改めて考えてみると、エレベーターをむだに動かしすぎですね」

せつ菜「電気代がもったいないです」

彼方「どうせ私たちの高い学費から支払われるんだから、ガンガン使ってやりゃあいいんだぜ」

エマ「おぬしもわるよのぉ」
 
17: (たこやき) 2022/06/12(日) 21:49:41.28 ID:qRQ2dVk9
かすみ「ちょっとー。もっとみんなに怖がってほしかったんですけど~」プクー

歩夢「ごめんね?四八(仮)でホラー耐性ついちゃって」

しずく「んー正直なところ、死の世界という設定がいまいちピンと来ないんですよね~」

果林「あの世とは違うの?」

栞子「なぜそのようなわかりにくい世界観にしたのでしょうか」

かすみ「そんなのかすみんに言われても困りますよー」

愛「え、かすかすが考えた怪談じゃないの?」

かすみ「かすかすじゃありません!…これは人伝てで聞いた話なんです」

璃奈「七不思議、みたいなもの?」

ミア「ああ、よくある根拠のないrumorか」

侑「……」
 
19: (たこやき) 2022/06/12(日) 21:57:27.36 ID:qRQ2dVk9
侑「ねえ!そのエレベーターのやつさ、みんなでやってみない?」

せつ菜「面白そうですね」

愛「いいね、やろやろ!」

ランジュ「きゃあっ!みんなであの世に殴り込みね!」

歩夢「本当に違う世界につながっちゃったらどうしよう?」

侑「まさか、そんなわけないよー」

しずく「これは怖いもの見たさでやってみる流れですね。私も参加します」

璃奈「じゃあ、私も」

栞子「止めた方がいいのでしょうか。しかし…」

彼方「帰れなくなったら遥ちゃんに心配かけちゃうから、彼方ちゃんはパス~」

果林「そもそもこんな多人数で行けるものなの?」

かすみ「あ、たぶん一人じゃないと行けないと思いますよ」

かすみ「当人以外がエレベーターに乗ると失敗しちゃう~って聞きました」

エマ「一人かあ。だれが行くかじゅうようだね」

せつ菜「では、ここは言い出しっぺの侑さんが行ってみるのはどうでしょう」

侑「えっ、いいの!?」
 
20: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:02:34.12 ID:qRQ2dVk9


せつ菜「では、私と愛さんとランジュさんで各階のボタン押し係をします」

侑「よろしくね」

愛「ゆうゆ、ほんとに別世界に行けたらLINEしてね!」

侑「わかった!自撮り写真送るよ」

ランジュ「ほんとはアタシが行きたかったけれど…今回は侑にゆずってあげるわ」

侑「ありがとね、ランジュちゃん」


侑「うードキドキするなあ」

歩夢「大丈夫だよ侑ちゃん。私がちゃんと外で見てるから」

侑「うん、ありがとう歩夢」
 
22: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:13:05.09 ID:qRQ2dVk9
歩夢「エレベーター…1階まで降りたね」

侑「2階…3階…」

侑「…きた、4階」

チーン

歩夢「今さらだけど私たち…」

歩夢「エレベーターを利用したい人からしたら、きっとすごく迷惑なことしてるよね」

侑「そうだね。だからなるたけ早く検証終わらせなきゃ」

侑「じゃあ乗るね」

歩夢「侑ちゃん」

侑「…いってきます、歩夢!」

歩夢「…うん、いってらっしゃい」

ガシャン
 
24: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:18:13.36 ID:qRQ2dVk9
侑(4時44分05秒…)

侑(あとちょっと待てばいいんだね)

侑(ガラス張りだから外がよく見えるけど、別段何か変わった様子とかはないなあ)

侑(…30秒)

侑(もうそろそろ出る準備しとこうか)

侑(でもこれ、44秒ぴったりにドアを開けれるかな?)

侑(ちょっとでもズレたら無効とかないよね?)

侑(まあよくあるうわさ話だし、真偽のほども危ういところだけど)

侑(……あれ?)

侑(いつの間にかガラスが曇って外が見えない…)

侑(……)

侑(41…)

侑(42…)

侑(43……)

侑「…オープン!」

ウィン
 
26: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:25:16.07 ID:qRQ2dVk9
侑「……」

侑(んー?見た感じ、いつもの校舎だ)

侑(やっぱりうわさだったんだー。ちょっとだけ期待してたんだけどなー)

侑「……あれ?」

侑「歩夢…?」

侑(ドアの前に歩夢が待ってたはずなのに…)

侑(どこ行ったんだろ…?)

侑「もー歩夢ー!」

侑「驚かせようたってそうはいかないよ!」


ベチャ

侑「ベチャ?」

侑(何これ…)

侑(床に、血が……)

侑「……あれ」

侑「エレベーター、動かない…」ポチポチ
 
31: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:34:22.46 ID:qRQ2dVk9
ヒタ..

侑「足音…?」

ヒタ..

侑「だれか近づいてきてる…」

ヒタ..

侑「……歩夢?」


「……」ヒタヒタ

侑(…だれだろう)

侑(私、この人を知ってるような…)

「ドコ…ドコ…」ヒタヒタ

侑(え?)

侑(何かしゃべってる…?)
 
32: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:40:26.13 ID:qRQ2dVk9
「アア…ドコ…」ヒタヒタ

侑(虹ヶ咲の制服だ…どうやら生徒みたい…)

侑(スラットした身体に、豊満なおっ〇〇…)

侑(けど青っぽい髪はボサボサで、肌もボロボロで…)

「ドコ…」ヒタヒタ

侑「……」

侑(いや、まさか…)

侑(そんなわけ…)

「ア…」

侑「え」

侑(まっ白に濁った目が…)

侑(こっちを見てる…!)
 
33: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:46:07.62 ID:qRQ2dVk9
「アア…アアア…」

侑「あ、えーっと…」

侑「こんにちは?」

「アアアアアアアアッ!」グアッ

侑「うわあっ!?」

侑(襲われる──)


ガンッ

「グアアッ!?」
 
35: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:52:04.20 ID:qRQ2dVk9
「もう、だめだよ。この子に手を出しちゃ」

侑「え…」

侑(腰まで伸びたライトピンクの長髪)

侑(私に見せたことないような凛々しい顔)

侑(でもなんか、心なしか体格も少し大きくなってるような気がする…)

侑(ぽむ玉はないけど…)

侑(…私が見間違えるわけがない)


侑「……歩夢!」

アユム「…危ないところだったね、ユウちゃん」
 
36: (たこやき) 2022/06/12(日) 22:56:49.38 ID:qRQ2dVk9
「アアア…」ヒタヒタ

侑「…あの人、どこか行っちゃった」

アユム「大丈夫だよ。〇してないから」

侑「ころ…」

アユム「ユウちゃん」

アユム「さっきみたいなやつは近づいたら襲ってくる場合もあるからさ」

アユム「気をつけなきゃ…だね」

侑「…え、えっと」

侑「ほんとに歩夢、だよね?」

アユム「うん。そうだよ」

侑「なんか雰囲気変わった?」

侑「なんというか…すごくかっこいいね!」

アユム「ふふっ、ありがと」
 
39: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:03:29.59 ID:qRQ2dVk9
侑「…歩夢?」

侑(さっきからずっと私の顔を見つめてくる…)

アユム「…ユウちゃん」ギュ

侑「わあ」

アユム「少しだけ抱きしめさせて…」

アユム「あなたの温度を肌で感じたいの…」

侑「うん…いいけど?」

侑(歩夢からは血と汗が入り混じったようなにおいがする…)

侑(…体は引き締まってガッチリしてる。いつの間に鍛えたんだろ…?)

侑(でもおっ〇〇は歩夢を感じさせるもちもち係数だ…)ムニ
 
40: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:08:00.89 ID:qRQ2dVk9
侑「ところで歩夢はどうしてそんな格好してるの?」

侑「物騒な金属バットまで持って…」

侑「あ!もしかして演劇部の人とかにメイクしてもらったの?」

侑「床の血とか、さっきの人とかも何かの撮影? もしくはドッキリだったりして」

アユム「そうだったらいいのにね…」

侑「あ、歩夢?」

アユム「…ちょっと移動しようか」

アユム「こっちの世界のことは…実際に見てもらえれば、よくわかると思うよ」

侑「うん…?」

侑(なんか、今の歩夢…)

侑(言葉の端々に影を感じさせるなあ…)
 
41: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:14:06.84 ID:qRQ2dVk9


侑「うわ!」

侑「なっ、何これ…」


「ジュギョウ…ジュギョウデスヨォォォ」

「オナカガスイタラ…ゴハンタベルヨ…」

「ナガシマショウ…ナガシマショウ…」

侑「身体がボロボロの人がたくさんいる…」

侑「血まみれなのに普通に動き回ってる人もいるし…」

アユム「残念ながら、あれはもう人じゃないんだよ」

侑「え、どういうこと?」

アユム「…ユウちゃん、どうか驚かないで聞いてね?」


アユム「アレは一見、生きているように思えるけど…」

アユム「もうとっくに、生命としては死んでるの」

侑「死…!?」

アユム「そしていつからかな」

アユム「世間ではアレのことを『死者』と呼ぶようになったんだ」
 
42: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:19:33.04 ID:qRQ2dVk9
侑(目の前に広がるむごたらしい現実…)

侑(死の世界…)

侑(つながった…)

侑(ここは、私が知ってる虹ヶ咲じゃないんだ…)

侑「ああ…頭がクラクラしてくる」フラッ

アユム「ユウちゃん!死者に近づいちゃだめ!」

侑「あ」


「ニイイ?」ヒタヒタ

「ワタシダヨォォォ」ヒタヒタ

侑「わあ!こっち向かってきた!」

アユム「…ユウちゃんは下がってて」

侑(歩夢が、金属バットを構えて…)

アユム「……しね」ブンッ

侑(思いっきり、死者の頭にスイングした…!)
 
43: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:26:03.57 ID:qRQ2dVk9
「ギァ!」バキッ

侑(うっ!骨が砕ける音が…!)

「ワタシダヨ…ワタシダヨォォォ」

アユム「……もう一発」ブンッ

「グヘッ!」メキッ

侑(頭部をつぶされ、血や内容物をまき散らしながら倒れた…)


アユム「…ふぅ」

アユム「ユウちゃん、ケガはない?」

侑「……あ、ああ」

侑「…〇した…の?」

アユム「うん。ユウちゃんを襲おうとしてたから」

侑「し、死者は…生き返ったりしないの?」

アユム「死んだ人間はよみがえらないよ」

侑「……そっか」

侑(もう動かなくなった死者の二人…)

侑(一応、手を合わせておこう…)ナムー

侑「できればさっきみたいに、〇さずに逃がしてあげたかったな…」

アユム「…ユウちゃんは優しいんだね」

アユム「私はそんな感情、もうとっくに捨てちゃったよ…あはは」
 
44: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:31:55.35 ID:qRQ2dVk9
アユム「…私のこと、嫌いになった?」

侑「え、いや…」

侑「私を守ってくれたんだから、むしろ感謝してるよ。ほんとに」

侑「…ねえ歩夢。ひとつ訊かせてほしいんだけど、いい?」

アユム「何、ユウちゃん?」

侑「…今ここにいる歩夢は」

侑「私の知ってる歩夢ではない…んだよね?」

アユム「…そうだね」

アユム「私はこの世界──死者がはびこる世界の上原歩夢だよ」

侑「そっか…」

アユム「私からすれば、あなたも私の知ってるユウちゃんとは少し違うみたいだけど…」

アユム「うん。そんなことは関係ないね」

アユム「どんなユウちゃんでも私が絶対に守るから。傷一つつけさせないから」

アユム「絶対にユウちゃんを元の世界へ帰してみせるよ」

侑「アユム…」

侑(アユムはずっとこの死者の世界で戦ってきたんだ…)

侑(感情を失くすくらい、必死に…)
 
45: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:37:55.40 ID:qRQ2dVk9
アユム「ところでユウちゃん」

アユム「ユウちゃんはこっちの世界にいる同好会メンバーに会ってみたい?」

侑「同好会…!?」

侑「うん!会いたい!」

侑「こっちの世界のみんなはどう暮らしてるのか、見てみたいよ!」

アユム「…ネタバレは万死に値する重罪だと思ってるんだけど」

アユム「今はユウちゃんのため思ってネタバレしちゃうね」


アユム「この世界の同好会メンバーは、ほとんどがもう死者になってるんだ…」

侑「え…!」

アユム「…会いに行くってことは、自我を失った同好会メンバーの姿を見なくちゃいけないってことなの」

アユム「それでも会いたい?」

侑「そんな…」

侑(みんながいない…?)

侑(この世界では…放課後部室に集まって)

侑(怪談話をしたりお菓子食べたりして和気あいあいと過ごす…)

侑(あの光景は、どこにもないんだ…)
 
46: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:40:31.12 ID:qRQ2dVk9
侑「…それでも、会ってみたい」

侑「それに『ほとんど』ってことは、まだ生きてるメンバーもいるってことでしょ?」

アユム「…もしかしたらその子も、少し見ない間に死者になってるかもしれないよ」

侑「それでも会いたいよ!」

侑「つらい現実が待ち構えてるかもしれないけど、会いたい!」

侑「…この世界のことは他人事には思えないし」

アユム「…わかった。案内するからついてきてね」

侑「うん」

アユム「あ、それと!」

侑「!」

アユム「もし少しでもケガしたら、すぐに言ってねっ!?」グワッ

侑「う、うん。ちゃんと報告するよ」

侑(びっくりした!急に大声…)

侑(そんなに大事なことなのかな?)
 
47: (たこやき) 2022/06/12(日) 23:46:59.27 ID:qRQ2dVk9
ホラーとは思ってなかったけどホラー寄りかもしれない
死者になった同好会メンバーの設定を全員分作れてないのでペース落ちます
 
59: (たこやき) 2022/06/13(月) 22:34:34.40 ID:Sr6oN7tJ


侑「はあ…はあ…」

侑「アユムぅ…ちょっと待って…」

アユム「がんばってユウちゃん」

アユム「電気が通ってないからエレベーターは使えないの。7階までは階段で行かないと」

侑「ひぃ…。いつも会議棟へは…文明の利器頼りだったから、きつい…」

侑「…アユムはこれだけ昇って、よく息切れしないね?」

アユム「うん。生活のために毎日続けてるからもう慣れっこだよ」

侑「生活…?」

アユム「あ、まだ言ってなかったね。私この学園に住んでるの」

侑「学園に…!?」

アユム「そうだよ。私だけじゃなく、ニジガクの生徒はみんな…かな」

アユム「……家にはもう、帰れないからね」
 
60: (たこやき) 2022/06/13(月) 22:40:53.26 ID:Sr6oN7tJ
アユム「…ユウちゃん。あれ、見える?」

侑「何あれ、壁…?」

アユム「そう、虹ヶ咲学園周辺を囲んでるバリケード」

アユム「死者が学園に入ってこれないように、虹ヶ咲の生徒みんなで作ったんだ」

侑「すご…。あんなでかい壁が学園周辺を囲んでるの…!?」

侑「…ん?でもバリケードがあるのに、今は学園内にも死者がいるよね…?」

侑「あのバリケードを越えた死者がいたってこと?」

アユム「ううん。あのバリケードはまさに完璧だったよ」

侑「じゃあどうして…」

アユム「……」


アユム「ユウちゃんは、ババアインパクト…ってわかるかな?」

侑「ババア…?」
 
61: (たこやき) 2022/06/13(月) 22:48:25.76 ID:Sr6oN7tJ
アユム「あのバリケードのおかげで、虹ヶ咲は死者の侵入を防ぐ安全領域になったんだ」

アユム「最初の頃は虹ヶ咲の生徒や教員だけで籠城して、うまくコミュニティを形成できてたの」

アユム「でも外界での死者が増加し、他所から避難してきた人も学園内に受け入れはじめて…」

アユム「次第に虹ヶ咲は、統率の取れない無法地帯になっていった」

アユム「そしてある日、避難済みの年配の女性が犬を連れ戻すために、バリケードの門を勝手に開けちゃったの」

侑「ババアインパクト…」

アユム「それからあっという間に、虹ヶ咲は死者が巣食う廃墟と化した」

アユム「唯一外とつながっていた門は完全に封鎖され、今やここは陸の孤島となったの」

アユム「…だから、私たちは死ぬまでこの学園から出られないんだ」

アユム「外は外で危険らしいから、学園から出るメリットはないけどね」

侑「こっちの世界では、そんなことが…」

アユム「慣れちゃえば学園生活もそんなに悪くないんだよ?」

アユム「…自分の身を守れさえすればね」

侑(私には無理そう…)
 
62: (たこやき) 2022/06/13(月) 22:52:53.42 ID:Sr6oN7tJ


侑「はあ…はあ…」

侑「ようやく、昇りきった…!」

アユム「ユウちゃん、おつかれさま」

侑「…ここにいるのって」

アユム「うん。あそこの部屋にいるよ」

侑(アユムが指さした先は、生徒会室…)

侑(せつ菜ちゃん…)
 
63: (たこやき) 2022/06/13(月) 22:55:48.46 ID:Sr6oN7tJ
一人目 ナカガワナナ

侑(扉をそーっと開けて…)キィィ

侑「……いた」


ナナ「ウ」カリカリ

ナナ「ウ、ウ、ウウ」カリカリ

侑(会長の席に着いてる死者…。あれがこっちの世界の菜々ちゃん…)

侑(うう、首がすごい角度に曲がってる…!喉が潰れてうめき声しか出せてないし…)

侑(意識があるかはわからないけど…一心不乱に何かを書き続けてるみたい…)

侑「…中に入っても大丈夫かな?」

アユム「いいけど、死者を刺激しないようにね」

アユム「もしユウちゃんに敵意を向けたら〇さなくちゃいけないから」

侑「うん…。そうならないよう気をつけるよ」
 
64: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:00:13.37 ID:Sr6oN7tJ
侑「失礼しまーす…」ソロリ

「カイチョォォ」

侑「!」

侑(菜々ちゃんだけでなく、副会長や書記の人もいる…!)

侑(…死者になってなお、みんな生徒会の業務をこなしてる…のかな)


ナナ「ウ、ウ、ウ」カリカリ

侑(ナナちゃんはさっきから何を書いてるんだろ…)

侑(もうちょっと、近づいてみて…)

ナナ「」グイッ

侑「!?」

侑(やばっ!気づかれた!?)
 
65: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:05:41.35 ID:Sr6oN7tJ
ナナ「ウ、ウ」カチカチ

侑(……ふぅ。よかった、こっちには気づいてないみたい)

ナナ「…ウ」カリカリ

侑(シャーペンの芯を補充して、また何か書き始めた…)

侑(んーぐちゃぐちゃで何書いてるかわかんないなあ…)

侑(…ん?)

侑(床に散らばった紙…)

侑(衣装のラフ画や、曲の歌詞みたいなものでびっしりだ…!)

侑「ナナちゃん…」

侑(…まだ、生きてた頃の記憶があるのかな)

侑(スクールアイドル…優木せつ菜の意識はあるのかな…)
 
66: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:11:12.55 ID:Sr6oN7tJ


バタン

アユム「…もういいの?」

侑「うん…」

アユム「同好会の仲間があんなことになって、ユウちゃんつらいよね…」

侑「ねえ、アユム」

侑「死者になった人って、生きてた頃のことを覚えてるの?」

アユム「どうかな。私も死者についてそこまで詳しいわけじゃないんだけど」

侑「でもさ、記憶があるからナナちゃん達は生徒会室にいるんじゃないかなって思うんだ」

侑「スクールアイドルのことも、まだ覚えてるんじゃないかな…?」

アユム「…」

アユム「その答えは、次の人を見ればわかると思うよ」

侑「講堂…」

侑(ここにいるのは…しずくちゃんかな?)
 
67: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:16:11.20 ID:Sr6oN7tJ
二人目 オウサカシズク

侑(照明が点いてない真っ暗なステージ)

侑(くたびれた衣装を身にまとった死者達が、何かを演じてる…)

シズク「アウ…アエンア……」

侑「あれが、シズクちゃん…」

侑(ドレスを重たそうに引きずりながら、舞台の端から端まで行ったり来たりしてる)

侑(本来のしずくちゃんの声量ならここまで声が届くはずなのに、全然聞こえない…)

侑(他の演劇部の人もいるけど…とても同じ劇を演じてるようには見えないな…)

アユム「死者は、人間だった頃の習慣とかルーティンを永遠に繰り返すの」

アユム「あの舞台にいる人たちは、生きてた頃の名残りで劇を続けてるだけ」

侑「…」

アユム「あーあ、あそこの死者は足が腐って取れちゃってるね。テケテケみたい」

アユム「それでも死者は、ただひたすらに同じことを繰り返すんだ」

アユム「永遠に、永遠に。腐り果てるまで」
 
68: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:20:44.63 ID:Sr6oN7tJ
侑「じゃあ、生前の記憶は…」

アユム「そんなものはないと思うよ」

アユム「死者には理性も知能もない」

アユム「ただ人間だった頃の姿をトレースして、近くの人間を襲う。それだけ」

侑「……」

侑(死者になってもまだ人間性は残ってるんじゃないかとか、淡い期待を抱いてたけど…)

侑(この世界はどこまでも無慈悲だ…)

アユム「さっきの生徒会の人達みたいに仕事をし続ける死者もいれば、劇を演じ続けてる死者もいる」

アユム「校内を徘徊するだけの死者もいれば、江戸時代の拷問をしてる死者もいるんだよ」

侑「江戸時代の拷問!?」
 
69: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:27:20.18 ID:Sr6oN7tJ
アユム「…ユウちゃん、どうする?」

アユム「同好会メンバーに会いに行くの…ここでやめてもいいんだよ?」

侑「それは…」

侑「…ううん、会いたい」

アユム「ほんとに大丈夫…?」

侑「うん…」

侑(正直、心穏やかじゃないけど…)

侑「それに、もっとこの世界のことを知りたいよ」

侑「アユムのことも…」

アユム「ユウちゃん…」

アユム「…わかった。じゃあ次のところへ行こっか」

侑「うん!」

アユム「でもその前に、ちょっと寄り道してもいいかな?」
 
70: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:34:23.80 ID:Sr6oN7tJ


侑「わあ屋上…!初めて来たよ~!」

アユム「普段は中々来れないもんね」

侑「…それは?」

アユム「ラジオだよ。このハンドルを回すと充電されて、使えるようになるんだ」クルクル

アユム「このラジオで情報を集めるのは、私の毎日のルーティンだよ」

アユム「周波数は252kHz…」

ザー ザザッ

『…爆破により数万人の死傷者が出た模様…』ザー

アユム「今の世界ではネットはつながらないからね。ラジオは貴重な情報源なの」

侑「へー」

『…していたマザーの討伐に成功。死者が活動を…』ザー

アユム「……」

侑(アユム…。長い髪をなびかせ、ラジオの音に耳をすませてる…)

侑(……聞いてもいいのかな)

侑(この世界の高咲侑は、どうしてるのか…)
 
71: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:38:34.85 ID:Sr6oN7tJ
アユム「…この世界のユウちゃんが生きてるかどうか、知りたい?」

侑「!」

アユム「そろそろ訊かれるんじゃないかなと思って」

侑「…うん。アユムが嫌じゃないなら教えてほしい」

アユム「私は大丈夫だよ」

アユム「…そうだよね。やっぱり違う世界の自分のことは気になっちゃうよね」


アユム「……単刀直入に言います」

アユム「ユウちゃんは死んでるよ」

侑「っ…」

侑(そうじゃないかなとは思ってたけど…)

侑(いざ現実を突きつけられると、結構来るものがあるなあ…)

侑「…死者になった私は、どこで何をしてるんだろ?」

侑「部室か音楽室とかにいるのかな?それとも意外や教室でまじめに勉強とか…」

アユム「いないよ」

侑「え?」

アユム「ユウちゃんは死者にはなってないよ」
 
72: (たこやき) 2022/06/13(月) 23:41:11.22 ID:Sr6oN7tJ
侑(ユウは死者になってない…?)

侑(死んだら死者になる、この世界で…?)

侑「あ、アユム?それってどういう…」

アユム「…ユウちゃん。そろそろ行こっか」

侑「…」


侑(思えばたしかに、違和感はあった…)

侑(どうしてアユムは、私が違う世界の高咲侑だとわかったのか…)

侑(それは、こっちの世界のタカサキユウがすでにいない存在だから…?)

侑(ユウは人間として死んだ上に、死者としても死んだ…ってこと?)

侑(…アユムは答えたくなさそうだし、深く聞かないほうがいいかな)

アユム「さ、止まってるエスカレーターで1階まで降りるよ」

アユム「次は中庭に行くね」

侑(中庭…)

侑(…お昼寝してるのかな、彼方さん)
 
78: (たこやき) 2022/06/14(火) 22:26:56.70 ID:U6rekpZH
三人目 コノエカナタ

侑「すごい腐臭…」

侑「わっ!なんかあそこに死者が集ってる…」

アユム「ユウちゃん、そっちじゃなくて…。ほら、あれ」

侑「!」

カナタ「……」

侑(中庭でぐっすり…彼方さんだ)

侑(綿が飛び出したボロ枕で寝てる…)

侑「ぱっと見だと、まるで陽気に誘われてお昼寝してるだけに思えるけど…」

侑「ここからでも死斑が確認できる…」

侑「彼方さんは死者になっても、ずっと寝てるんだね」

アユム「…死者には食事や睡眠は必要ないんだ」

侑「え、そうなの?」

アユム「うん。だからあれはタヌキ寝入りだよ」

侑(ひどいことされたのに何もできず諦めること…って、それは泣き寝入りか)

侑(…)
 
79: (たこやき) 2022/06/14(火) 22:33:53.68 ID:U6rekpZH
アユム「あの人はあそこでずっと、寝たふりをしてるだけ」

アユム「無意識の行動だから、意味なんてないんだよ」

侑「…みんな、死者になっちゃってるんだね」

侑(アユムは生きてるから、誰でも彼でもなるわけじゃないんだろうけど)


侑「……うわっ!」

アユム「どうしたの?」

侑「あ、あれ…」ユビサシ

侑「死者が集って何かしてると思ったら…」

侑「あれ、猫を食べてる…よね…!?」

アユム「そうだね」

侑「…あの死者達は、人間だった時も習慣的に猫を食べてたってこと?」

アユム「まさか。あれはただ食事を模倣してるだけだよ」

アユム「さっきも言ったように、死者の行動に意味なんてないよ」

侑「そう…」

侑(体育館からバスケットボールをしてる音が聞こえる…多分バスケ部の死者なんだろうけど)

侑(これも全部、意味のない行動…なんだ)
 
80: (たこやき) 2022/06/14(火) 22:37:48.31 ID:U6rekpZH
四人目 アサカカリン

「ドコ…」ヒタヒタ

侑「あ!」

アユム「ちょうどよかった。あれが、四人目」

カリン「ドコ…アアア…」ヒタヒタ

侑「…」

侑(やっぱり、最初に私を襲ってきたのは果林さんだったんだ…)

侑(うう…一番見た目のギャップが激しいかも…)

侑「カリンさんは、ずっと学園内を徘徊してるんだね…」

アユム「このままだとまた襲ってきちゃう…」

アユム「ユウちゃん。次のところへはちょっと遠回りだけど、迂回していこっか」

侑「う、うん」

侑(カリンさん…迷子なのかな?)

侑(どうか目的地に着いてくれればいいんだけど…)


カリン「…ドコ」

カリン「……ドコナノ」
 
81: (たこやき) 2022/06/14(火) 22:42:48.84 ID:U6rekpZH


アユム「前まではあんな風に、校内を徘徊する死者も多かったんだ」

侑「じゃあ今は少ないほうなの?」

アユム「…まあね」ナデナデ

侑(アユム、肩に担いだ金属バットを撫でてる…)

侑(これは完全に〇ってるね…)

アユム「私もそうだし、生存者さん達の生活もあるから」

アユム「死者に徘徊されるとちょっと邪魔かなって」

侑「…そっか。アユムはこの学園内で暮らしてるんだもんね」

侑「ごはんとかってどう調達してるの?」

アユム「それはね、元々籠城のために備蓄しておいた食糧があるの」

アユム「あとは園芸部の庭園で野菜を育てたり、畜産同好会で飼ってる家畜をいただいたり、養殖マグロをさばいたり…」

侑「…改めて思ったけど、虹ヶ咲の設備ってすごいんだね」

アユム「水は、雨水を集めて濾過する装置を作った人がいて、そのおかげで困ったことはないよ」

侑「ほんとに学園だけで自給自足が成立してるんだ…すご…」
 
82: (たこやき) 2022/06/14(火) 22:45:40.82 ID:U6rekpZH
侑「ねえねえ、アユム以外にちゃんと生きてる人ってどれぐらいいるの?」

アユム「んー、学内にいる人で私が知ってるのは大体30人かな」

侑「一クラス程度…」

アユム「ただほとんどの生存者の人は教室とかに籠ってるの」

アユム「たまに食糧をかき集めに出てきたりするけど…」

侑「ここまでアユム以外の生存者に会ってないもんね…」

侑「…もしかして、普通に外を歩き回ってるアユムのほうが特殊なの?」

アユム「そうかもしれないね」

侑「ずっと金属バットを担いでウロウロしてるんだよね」

侑「アユムは普段、何してるの?」

アユム「え…?」

アユム「……何してる、かあ…」

アユム「んー、私は何をしてるんだろう…」

侑「アユム…?」

侑(「校内のパトロールだよ~」とか軽く返してくれると思ったら、まさかの長考…)

侑(そんなに難しい質問だったかな…?)
 
83: (たこやき) 2022/06/14(火) 22:52:56.91 ID:U6rekpZH
アユム「何してる、何してる…」

侑「アユム…。答えにくいなら別に答えなくていいよ?」

アユム「……」


アユム「強いて言うなら……『生きてる』かな」

侑「…生きてる」

侑(思わず反芻してしまうほどに胸にずっしりと来る言葉…)

侑(死の世界で生きてきたアユムだからこそ、その言葉に重みがある…)

アユム「……私、亡くなる前のユウちゃんと約束したの」

アユム「『アユムは絶対に生きて』…って」

アユム「だから私は…何があっても生きなきゃいけない」

侑「アユム…」

侑(掛ける言葉が見つからなくて…)

侑(それ以上、何も言えなかった…)
 
84: (たこやき) 2022/06/14(火) 22:55:56.80 ID:U6rekpZH


アユム「次はここの教室」

侑「…ここには誰がいるの?」

アユム「ランジュさんがいるよ」

侑「ランジュちゃんが…!」

アユム「ランジュさんは、この世界での生き残り方を教えてくれた恩師だよ」ナデナデ

侑(なるほど…。ランジュちゃんがアユムに金属バット殴打を教えたんだ…)

アユム「それと、ここにはもう一人いるの」

侑「もう一人…?」


コンコンコン

アユム「歩夢です」

コンコンコン

アユム「…入りますね」

アユム「ユウちゃん。一応念のため、すぐに逃げられる体勢でいてね」

侑「う、うん…」ドキドキ
 
85: (たこやき) 2022/06/14(火) 23:02:27.31 ID:U6rekpZH
五人目 ショウランジュ
六人目 ミフネシオリコ

侑(最初に目についたのは、異様な物体…)

侑(教室の端にある巨大な鉄檻)

侑(その中には、よく見知った顔が二人いた…)

アユム「ランジュさん…。やっぱり死者になってたんだ」

ランジュ「ランジュウウヨォォォ…」

ランジュ「アァーーーハハハハハハハハハ」

シオリコ「…」

侑(檻の中をウロウロするランジュちゃん…)

侑(一方、シオリコちゃんはじっと正座してる…)

侑「…どうして二人は、この檻の中に?」

アユム「ランジュさんはずっと日記を残してたみたい」

アユム「…ほら、あった。このノート」

侑「…!」

アユム「これを読んでいけば、真相に辿り着けるかもしれないね」

侑「……」
 
86: (たこやき) 2022/06/14(火) 23:06:18.47 ID:U6rekpZH
『ランジュノート!!!』

ペラッ

『今日から日記を書く!
栞子が感染してからすでに5日。栞子はいつ理性をなくして暴れだすかわからないからと言って、自ら檻に閉じ込められることを選んだ。これからはランジュが栞子をお世話するわ。』

『日記2回目!
栞子とお話しした。他愛もない話だった。まだ会話する能力は残ってるみたい。あと歩夢に武器の扱いを指南した。今日はそれだけ。カ口リーメイトはもうあきたわ!』

『日記3回目!
栞子が退屈そうだったのでランジュのダンスを見せてあげた。とても喜んでくれた。すごくうれしい。食べ物がなくなりそうなので明日は栞子の分も合わせてもらってこなくちゃ!』

『日記4回目!
今日は朝から外に出た。栞子がすごくさびしそうな顔をしていたので早く帰ろうと思った。園芸部で野菜をもらおうと思ったら部員は死者になっていた。急いできゅうりを取って逃げたら、たまたま会った歩夢にカッパみたいですねと笑われた。でも歩夢の目は笑ってなかった。』
 
87: (たこやき) 2022/06/14(火) 23:11:31.49 ID:U6rekpZH
ペラッ

『栞子の様子がおかしい。アタシ以外の誰かの声が聞こえているみたい。会話をしていても、たまに変なことを言うようになった。肌も荒れてきた。もう長くはないのかもしれない。』

『栞子はごはんを食べなくなった。口に入れてもすぐにこぼれてしまう。ランジュお手製のおかゆを作ってむりやり食べさせた。栞子は喜んでいなかった。私もおかゆを食べた。かゆ うまい』



『日記?日目…あれから何日経ったのかしら?もうわからないわ。
栞子は完全に死者となった。死者になったらあばれるかもしれないと言っていたのに、じっさいは正座していてとても大人しい。まだ栞子は生きてるんじゃないかとかん違いしてつらくなる…』

『しおり子は何のために生きてるの?いや、もう生きてないの?苦しいのならランジュが助けてあげたい。
助けるためにはころすしかない?ころせばしおり子は救われるの?
わからないわからないわからない。』



『なんにちめ???
知らないうちにかんせんしていたのね
うでにきずがあった
いつかんせんした?かっぱになったとき?
まだ日きはかける
まだ大じうぶだわ
まだ』
 
89: (たこやき) 2022/06/14(火) 23:13:50.60 ID:U6rekpZH
ペラッ

『きこえる』

『マザーがわたしをよんでる』





『めいわく いや
わたし おりのなか
しおりこ いつしょ』


『ずつと いつしょ』
 
90: (たこやき) 2022/06/14(火) 23:19:51.88 ID:U6rekpZH
侑「……」

アユム「…誰にも迷惑をかけないよう、自分の意思で檻に入ったんだね」

侑「…どうして」

侑「どうしてこんな世界になっちゃったの…?」

侑「誰も救われないよ…」

アユム「でもね、この二人はまだマシなほうだと思うよ」

アユム「自らが望んだ『終わり』を迎えられたんだから」

侑「…そうなのかな」

ランジュ「アァーーアアー」

シオリコ「…」

アユム「…そろそろ出よっか」

侑「うん…」

スタスタスタ



「……シオ…リコ」
 
101: (たこやき) 2022/06/15(水) 22:39:12.30 ID:TfPSzpOo


侑「……」

アユム「えーっと、1階の女子トイレのどこかに…」

アユム「あ、いた。七人目だよ」

侑「!」

侑(あれは、かすみちゃん…)
 
102: (たこやき) 2022/06/15(水) 22:42:36.48 ID:TfPSzpOo
七人目 ナカスカスミ

カスミ「イィ…」

カスミ「イイイィ…」

侑(鏡を見てる…?)

侑「もしかして、笑顔の練習でもしてるのかな」

侑「ああやって笑顔を磨くのはかすみちゃんにとって、スクールアイドルとしての習慣だったもんね…」

アユム「へー。頑張ってるんだね」

侑「…アユムもでしょ?」

アユム「ううん。それはそっちの世界の歩夢だけだよ」

アユム「私はスクールアイドルじゃないから」
 
103: (たこやき) 2022/06/15(水) 22:45:25.86 ID:TfPSzpOo
侑「え、そうなの?」

侑「じゃあこっちの同好会はアユムなしで活動してるんだ?」

アユム「んー、というより」

アユム「その同好会自体、こっちの世界には存在してないんだよ」

侑「え」

アユム「こっちの虹ヶ咲にはそもそも、スクールアイドル同好会なんてないの」

侑「ええっ!?」

侑(ここに来て新事実発覚…!)

侑(やっぱり元の世界とはだいぶ違うんだなあ…)
 
105: (たこやき) 2022/06/15(水) 22:49:47.74 ID:TfPSzpOo


アユム「次の部屋は…」

侑「…う、うわあ!!」ドタッ

アユム「ユウちゃん!大丈夫?怪我はない!?」

侑「…うん、大丈夫」

アユム「よかった…」

侑「そ、それよりアユム…!あの部屋の中…」

アユム「…ああ、あの部屋」

侑(部屋の天井から何かがいっぱい垂れてると思ったら…)

侑(首吊り用のロープが、電車の吊り革みたいに均一に並んでる…!)

アユム「あれは自〇部屋だよ」

侑「自〇…」

アユム「こんな世界だからね…」

アユム「生きる希望がなくなったら、死にたくなっちゃうのも無理はないよ」
 
106: (たこやき) 2022/06/15(水) 22:53:30.50 ID:TfPSzpOo
アユム「ねえユウちゃん」

アユム「人生に絶望した人や、すでに感染が始まってる人達が一番恐れたことは何だと思う?」

侑「なんだろ…」

アユム「…死者となった自分が、他の人に迷惑を掛けることだよ」

侑「……」

アユム「少し前まではよく屋上から身投げする光景が見られたんだけど…」

アユム「その人達は結局、自〇後のつぶれた身体のまま死者になっちゃったの」

侑「うう、死んでも死ねないんだ…」

アユム「自〇は死者を量産するだけだとわかったから、死にたい人達は誰にも迷惑をかけないよう密室で死ぬことにしたの」

アユム「そしてできたのが、この自〇部屋」

アユム「…でもどうやら失敗したみたい」

侑「……ドアが開いてて、中には誰もいないね」

アユム「うん…。施錠してたはずなのに、出てきちゃったんだって」

アユム「首の折れた死者達が、ぞろぞろと…」
 
107: (たこやき) 2022/06/15(水) 22:57:12.27 ID:TfPSzpOo


ガリガリボリボリ

侑「うっ…」

侑(動かなくなった死者を、他の死者達がむさぼってる…)

アユム「大丈夫、いつもの光景だよ」

アユム「ああやって死体処理をしてくれるから、まだ構内はきれいに保たれてるんだよ」

侑(きれい…?血溜まりやつぶれた肉片が目につくけど…)

侑(この世界ではこれがきれいだと認識されてるのかな)


侑「……あれ?」

侑(校舎の中は照明が点いてなくて、ずっと暗かったのに…)

侑(あそこの教室からは明かりが漏れてる…!)

侑「科学室だ…」

アユム「ユウちゃん。やっと私以外の生存者に会えるかもね」

アユム「…まだ死者になってなければの話だけど」
 
108: (たこやき) 2022/06/15(水) 23:00:19.40 ID:TfPSzpOo
ピンポーン

『……はい』

アユム「歩夢だよ」

『……今、開けるね』

カチャ


侑(薬品のかおり…)

侑「お邪魔しまーす…」

アユム「久しぶりだね、天王寺さん」

「……うん。13日と22時間ぶり、上原さん」

侑(あのぱっつん髪にあのサイズ、あの声は…)

侑(…間違いない!)

侑「リナちゃん…!」

リナ「……知らない人」
 
114: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:20:23.11 ID:gxzNAwDS
八人目 テンノウジリナ

侑(そっか。同好会がないから、ユウとリナちゃんは知り合ってすらないんだ)

侑(だったら、最初の挨拶は…)

侑「初めまして、高咲侑です!」ペコリ

リナ「……初めまして」ペコリ

侑「えっとー」

侑(私が別世界から来たこと、リナちゃんに話してもいいのかな…?)

リナ「……あなたも、違う虹ヶ咲から来たの?」

侑「え!…うん、そうだよ」

侑(びっくりした…。私の心を読まれたのかと思ったよ)

リナ「……心は読んでないよ」

侑「…」

侑(多分顔に書いてあったんだろうね…)
 
115: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:24:45.00 ID:gxzNAwDS
侑「気になってたんだけど、どうしてこの部屋だけ電気が点いてるの?」

リナ「……PCや家電が使えるよう、発電してるから」

侑「発電?」

アユム「ここの屋上にエネルギー発電の機械が置いてあって、この部屋だけ電気が通うようにしてあるんだよ」

リナ「え、えと……発電量が少ないから、この部屋の分しか電気を供給できない…」

リナ「学校全体への供給は……今の環境じゃ不可能…」

侑「すごいねリナちゃん。電気がないなら自分で作っちゃうなんて!」

リナ「……私はすごくない」

リナ「ぜんぶ、愛さんのおかげ…」

侑「!」

侑「ねえ、もしかしてアイちゃんもここにいるの!?」

リナ「……愛さんは、あそこの扉の向こうにいる」

リナ「……会いたいなら、どうぞ」

侑「うん!アイちゃんに会いに行こう…!」

侑(アイだけに!)
 
116: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:29:26.54 ID:gxzNAwDS
九人目 ミヤシタアイ

侑「……」

侑(リナちゃんが生きてるのがわかって、浮かれて……すっかり忘れてた)

侑(そうだ…。この世界は残酷なんだ)

アイ「オォネエエエェチャアアアン」

アイ「アイサンーヌヌヌアー?」

侑(腕と脚を拘束され、壁にハリツケにされてるアイさん…)

アイ「アイサンアイサンアイサンアイサンアイサン」

アイ「エェーーーへヘヘヘヘヘヘ」

侑「っ…」

リナ「……愛さんは、自らハリツケにされるのを望んだ」

侑「…そうなんだろうね」

侑(シオリコちゃんみたいに、アイちゃんも…)
 
117: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:33:20.58 ID:gxzNAwDS
侑「…なんだろう?」

侑「アイちゃんの腕に黒い痕がたくさんあるけど…」

アユム「わあ、ほんとだ」

リナ「……それは、注射の痕」

侑「注射…?」

リナ「うん…」

リナ「……死者化を遅らせるための、薬…みたいなもの」

侑「そんなものがあるの…!?」

リナ「……当時生きてた、科学部や化学部の人達と作った」

アユム「……」

リナ「……でも、どれだけ改良しても、完全には止められなかった」
 
118: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:38:15.78 ID:gxzNAwDS
リナ「……」

侑「?」

リナ「……結局、愛さんの死者化は止められなかった」

侑(気のせいかな…)

侑(今、リナちゃんの表情が少し変わったような…)

侑(…そういえば璃奈ちゃんボードはこっちではつけてないのかな?)
 
119: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:43:36.12 ID:gxzNAwDS


リナ「……ごめんなさい。お客さんに飲み物も出してなかった」

侑「いやいや、全然構わないよ!」

アユム「気持ちだけで十分だよ」

リナ「……そういうわけにはいかない」

リナ「愛さんなら、しっかりお客さんのことをもてなすはず」

侑「リナちゃん…」

リナ「……賞味期限切れのインスタントコーヒーしかないけど、いい?」

コポコポコポ


侑「うう、苦い…」

アユム「ユウちゃんはお砂糖ミルクなしでコーヒー飲めないもんね」

侑「それを言うならアユムだって!」

アユム「こっちの私は飲めるんだよ」ゴクゴク

侑「私の知らないアユムがいる…」
 
120: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:47:26.98 ID:gxzNAwDS
リナ「……不思議」

リナ「……こことは違う並行時空があって、どういうわけか世界をまたいで来たなんて…」

侑「うん…。改めて考えてみると、私が置かれてる状況ってすごく非科学的だね」

リナ「ううん、これは科学の範疇、むしろ専門分野と言っていい」

リナ「死者がいる世界といない世界が同時に存在していて、ある特異点から互いに干渉し合えるものだと仮定すると…」

侑「あはは。リナちゃん、得意分野の話になるとイキイキしだすね」

リナ「あっ…。ご、ごめんなさい…」

侑「いいよいいよ!お話、もっと聞かせてよ!」

侑「私も…どうして自分がこの世界に来れたのか、知りたいし」

リナ「……もしかして、果たすべき使命があるからここに来た…なんて思ってるの?」

侑「どうかなー。でも何かの力が働いて、それが私をこの世界へと引き寄せた…ような気がするんだ」

リナ「にじみ出る主人公感…」
 
121: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:51:18.29 ID:gxzNAwDS
アユム「ねえユウちゃん」

アユム「もし仮に、ユウちゃんが何か目的を持ってこの世界に来たのだとしたら…」

アユム「その目的って、なんだろうね?」

侑「んー…」

侑「世界を救う……とか?」

リナ「……面白い。愛さんなら笑ってる」

侑(リナちゃんは笑わないんだね…)


リナ「……高咲さん、あなたは偶然、この世界に迷い込んで来ただけの存在」

リナ「特別でもなんでもない、ただの人間だと自覚するべき」

侑「ただの人間…」

リナ「……あなたにできることは、何もない」

侑(ひどい言われようだ。実際その通りなんだけど…)

侑(私はアユムみたいに死者をなぎ倒したり、リナちゃんみたいに薬を開発したりできないもんね)
 
122: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:53:25.15 ID:gxzNAwDS
アユム「…じゃあ、そろそろお暇しよっか」

侑「そうだね」

侑「リナちゃん、コーヒーありがとう!おいしかったよ」

リナ「……よかった」

アユム「じゃあ、行こ」

侑「うん」

スタスタスタ

リナ「……」



リナ「ま、待って!」

侑「?」

リナ「っ…」

侑「リナちゃん…?」
 
123: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:56:03.36 ID:gxzNAwDS
リナ「高咲さん…」

リナ「いや、侑さん…」

リナ「……あなたは、向こう側の私と、その…お友達…なんだよね?」

侑「うん、友達だよ」

リナ「……あの」

リナ「すごくおこがましいのは、重々承知…」

リナ「でも、お別れの前に、聞いてほしい…」

リナ「……私の、懺悔を」

侑「懺悔…」

アユム「…聞いてみようか」

侑「…うん」

リナ「……ありがとう」
 
124: (たこやき) 2022/06/16(木) 22:59:55.04 ID:gxzNAwDS
リナ「……私は他人とうまく話せなくて、高校に入ってからずっとクラスで浮いてた」

リナ「そんな時、愛さんが話しかけてくれて、気づいたら仲良くなってて…」

リナ「それから私はずっと、愛さんと一緒にいた」

リナ「……世界が厄災へ見舞われても」

―――――――――――――

アイ『世界中がパンデミックで大パニックか…』

アイ『あー、笑えないなあ』

リナ『愛さん…』

アイ『!』

アイ『だ、大丈夫だってりなりー!これだけでっかいバリケードがあるんだし、そう簡単に突破されないって!』

アイ『それにもし突破されても…愛さんが絶対、りなりーのこと守ってみせるから!』

リナ『愛さん…!璃奈ちゃんボード「安心」!』
 
125: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:04:15.76 ID:gxzNAwDS
リナ「……それから少し経った頃」

リナ「近隣住民や生徒の家族も、ニジガクバリケード内に迎え入れることになったの」

―――――――――――――

アイ『お姉ちゃん!』

ミサト『愛ちゃん…!』

アイ『あ、りなりー。紹介するね』

アイ『この人は私のお姉ちゃん!』

ミサト『川本美里です。りなりーちゃんのことはいつも愛ちゃんから聞いてるよ』

リナ『は、初めまして…』

アイ『もーりなりー緊張しすぎ!』

リナ『…璃奈ちゃんボード「ドキドキ///」』

ミサト『あはは、りなりーちゃんかわいいね』

アイ『でしょー!』

ミサト『うん、妹にしたいくらいだよ~』

リナ『…お姉ちゃん』ギュ

アイ『順応早っ!?』
 
126: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:09:27.54 ID:gxzNAwDS
リナ「……そんなある日、あの事件が起こった」

リナ「俗に言う、ババアインパクト…」

リナ「死者と生者が入り混じる中、パニックになった人が訳もわからずに暴れ、お姉ちゃんを何回も刺したの」

リナ「そしてお姉ちゃん……美里さんは、死者になった」

―――――――――――――

アイ『…………』ブツブツ

リナ『…あ、アイさん』

アイ『…オネエチャン』

アイ『オネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャンオネエチャン』

リナ『っ!』

アイ『……あはは、大丈夫だって』

アイ『りなりーは、私が守るから…』

アイ『守るから守るから守るから絶対にりなりーは私がりなりーは私が絶対に絶対に絶対に守るから守るよ大丈夫だから』

リナ『……』

―――――――――――――

リナ「……それ以来、アイさんはおかしくなった」

リナ「今になって思うと、アイさんは私を守ることに執着してたのかも…」
 
127: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:12:48.26 ID:gxzNAwDS
アイ『…これでよしっと!』カチッ

リナ『突然電気が切れたと思ったら、発電機のコードが外れてたなんて…』

アイ『んー、死者がコードに引っかかって外れたのかなあ』

リナ『…とにかく、あまり外にいるのは危険。早く戻ろう』

タタタタ

アイ『……りなりー!!』

リナ『え』

―――――――――――――

リナ「……私は物陰に隠れていた死者に気づかず、不用意に近づいちゃった」

リナ「死者は、私を目掛けて襲いかかってきた」

―――――――――――――

『ニヘェェェ!』グワッ

リナ『!?』
 
128: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:15:40.40 ID:gxzNAwDS
アイ『おらぁーっ!』シュ

『グギィィ!!』バタッ


リナ『愛さん…!』

リナ『ありがと、愛さん。助けてくれて…』

リナ『…?』

リナ『愛、さん…?』

アイ『……』

アイ『ああ…よかった…』

アイ『りなりーが、無事で…』

ポタ ポタ

リナ『っ…!』

―――――――――――――

リナ「愛さんは私を庇い、死者の攻撃を受けてしまった…」

リナ「……その頃にはすでに、死者になる条件は判明してた」

リナ「マザーコミュニティ内で死亡するか…」

リナ「傷口から入った鱗粉で、感染するか…」

リナ「感染した愛さんはもう、死者になることは避けられなかった」

リナ「私の、せいで…」
 
129: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:20:18.42 ID:gxzNAwDS
侑「……リナちゃんは、アイさんを感染させちゃったことを懺悔したいの…?」

侑「そんなのしょうがないよ…。死者がどこにいるかなんてわからないんだし…」

侑「それにアイちゃんだって、リナちゃんのために体を張れたなら…」

リナ「違う、違うの」

リナ「……懺悔したいのは、そのあと…」
 
130: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:24:53.06 ID:gxzNAwDS
リナ「……感染した愛さんは、自らハリツケにされることを選んだ」

リナ「自分を実験台にして、死者化を100%止める薬を完成させてほしい…って」

―――――――――――――

リナ『はい、あーん』

アイ『あーーーん』パクッ

ボリボリボリ

アイ『んーうまい!』

リナ『…ほんとに?』

アイ『うん!りなりーが作ったお漬物、さいこー!ハリツケにされた甲斐があったよ』

リナ『……それなら、よかった』

―――――――――――――

リナ「……愛さんが育ててた漬物を、私が引き継いだけど…」

リナ「漬物石がどこかへ行ったり、私の知識不足で全部だめになっちゃってた」

リナ「代わりに乾燥させたきゅうりをあげたら、愛さんは喜んで食べてた…」

リナ「……もうすでに、愛さんの味覚や視覚は機能してなかったんだ」
 
131: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:29:49.55 ID:gxzNAwDS
リナ『…痛い?』

アイ『ううん、ぜんぜん平気!』

アイ『りなりーはちゅうしゃ上手だから、ぜんぜんいたくないよ!』

リナ『……』

―――――――――――――

リナ「……愛さんの痛覚が完全になくなった」

リナ「皮膚は変色し、傷も治らなくなってた」

リナ「死者化が進行すると、全身の細胞が徐々に死んでいくことがわかった」

リナ「薬を注射しても、進行は完全には止められない…ただの時間稼ぎにしかならなかったの」

リナ「そして…」

―――――――――――――

アイ『……りなりー。なにかいった?』

リナ『え?何も…』

アイ『…なんだかさっきから、だれかのこえがきこえるんだ』

アイ『……だれかが、よんでる…』

―――――――――――――

リナ「……マザーの声が聞こえる」

リナ「……それが、死者化の最終フェーズだった」
 
132: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:32:13.94 ID:gxzNAwDS
アイ『ああ……こえが…する…』

アイ『わたしを……よんでる…』

リナ『愛さん…』

―――――――――――――

リナ「薬のおかげで、愛さんが完全に死者になるのをなんとか食い止めることができてた」

リナ「でも…そのせいで、愛さんはずっと苦しみ続けた」

リナ「苦しいのに、死者にもなりきれず……かといって治ることもない…」

リナ「薬を与えなければ…」

リナ「これ以上、愛さんが苦しむことはない…」

―――――――――――――

アイ『きこえる……きこえるよ、マザー…』

リナ『…………』





リナ『……愛さん』

リナ『……もう、楽になって』
 
133: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:35:35.69 ID:gxzNAwDS
リナ「……私は、愛さんを死者にした」

リナ「愛さんは、死者になりたくなかったはずなのに…」

リナ「私が薬を与えるのを止めたから…愛さんは、ああなった…」

アイ「ハリイイイツケエエエエモノオオオ」

侑「……」


リナ「……わからない」

リナ「あの時、どうすればよかったのか…」

リナ「私には、わからない…」

侑「リナちゃん…」

侑「…リナちゃんは、それが正しいと思ってやったんでしょ?」

侑「だったら…間違いなんてことはないよ」

リナ「……」

アユム「…ユウちゃんは、ほんとに優しいね」
 
134: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:39:41.06 ID:gxzNAwDS
リナ「……でも、私ももうすぐ、愛さんと同じ苦しみを味わえる」

侑「え…?」

リナ「……見て」ヒラ

侑「!?」

侑(リナちゃんの腕…)

侑(注射の黒い痕がいっぱい…!)

リナ「……結局、私も感染しちゃった」

リナ「毎日毎日薬を打って、死ぬまで苦しみ続ける……それが私の贖罪」

リナ「……もしかしたら、死者になった後もずっと、私は注射を打ち続けるのかも」

リナ「ずっと、ずっと、ずっと」

リナ「……話は終わり。不快にさせたなら、ごめんなさい、侑さん」

リナ「……聞いてくれてありがとう、満足した」

リナ「……さようなら。どうかあなたは幸せになって…」
 
135: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:41:45.61 ID:gxzNAwDS


アユム「…ユウちゃん。行くよ」

侑「……」

アユム「…天王寺さんも言ってたでしょ?『ユウちゃんにできることなんて何一つない』って」

アユム「だから、ユウちゃんが悲しむ必要なんてないんだよ」

侑「……わかってる、けど…」

侑(それでもやっぱり…つらいものはつらいよ…)


アユム「…いよいよここが最後の場所だよ」

侑「ここは…学生寮…」

アユム「さ、中に入ろ」
 
136: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:43:24.33 ID:gxzNAwDS
十人目 ミアテイラー

侑(うっ…。扉を開けたら、部屋に溜まった異臭が一気に押し寄せてきた…!)

ミア「ウウウアウ……アアアウウ……」

侑「……」

侑(椅子に座って、忙しなく手を動かしてる)

侑(もしかしてミアちゃん…作曲してるのかな…)

ミア「……アンアァアァ…」

侑「ハンバーガーを手に取った…」

侑「…でも、紙包しかないけど」

ガリッ ガリッ

ボリッ ボリッ

侑「うわっ!?」

侑(自分の指を食べてる…!?)

アユム「食事の模倣…だね」

侑(うわ、うわぁ…)
 
137: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:45:20.23 ID:gxzNAwDS
ミア「アア……ヌアアアアァ……」

アユム「ほとんど指がないのに、一生懸命にキーボードを叩いてるね」

アユム「かわいそうに」

侑「…」

侑(電気がないから、パソコンも何も起動してないけど…)

侑(もし、作曲できる環境が整ってたら…)

侑(死者になったミアちゃんは、どんな曲を作ってたんだろう…?)

侑(…って、こんなことを考えるのは不謹慎かな)

侑「……救われないなあ」

アユム「…救いようがないからね」

アユム「さあ、次の部屋に行こう」
 
138: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:47:57.17 ID:gxzNAwDS
十一人目 エマヴェルデ

侑「……あっ!」

エマ「…チアアアアアアアアンンン」

侑(ベッドの上で、正座?してるエマさん…)

侑(その膝の上には、漬物石のようなものが置かれてる…)

侑(これって…)

侑「……江戸時代の拷問だあ…!」

侑(ほんとにあったんだ…)

アユム「まさか自分を痛ぶるのが習慣とは思わないけど…」

アユム「一体この死者は何がしたいんだろうね」

侑「たしかに…。何が目的で石を膝に載せてるんだろ…?」
 
140: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:49:28.55 ID:gxzNAwDS
侑(エマさん…。石を大事そうに撫でてる…?)

侑(石が趣味なんて聞いたことないけど…)

侑(…いや、これも何かの模倣なのかな?)

侑(でも、何を真似てるんだろう…)


エマ「…チアアアアアアアアンンン」

エマ「…ンンンチアアアアアアアアアアアアアア」

侑「……あっ!」

侑「そうか…!そういうことだったんだ…!」

アユム「…ユウちゃん?」

侑「アユム!ちょっと探したい人がいるの!」

侑「一緒に来てくれる?」

アユム「え?うん、いいけど…」

侑「ほら、行くよ!」タタタタ

アユム「ま、待って!ユウちゃん!」
 
141: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:51:21.06 ID:gxzNAwDS


カリン「ドコ…ドコ…」ヒタヒタ

侑「はあ…はあ…」

侑「…見つけた!」

アユム「…あの死者がどうしたの?」

侑「…ちょっと見てて!」

アユム「あ、ユウちゃん!」


カリン「アア…ドコ…」ヒタヒタ

侑「…おーい!こっちだよー!」

カリン「アッ…」

カリン「アアアアアアッ!」グワッ

侑「…っと!間一髪…!」ヒョイ

アユム「ユウちゃん…!!」
 
142: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:53:31.62 ID:gxzNAwDS
侑「このままカリンさんを、エマさんのところまで連れていきたいの!」

侑「アユム!手伝ってくれない?」

アユム「…ユウちゃん」

アユム「いくら向こうの世界で大切な友達なんだとしても…」

アユム「ユウちゃんを傷つけるなら、私は容赦なくその死者を〇すよ…!?」

侑「大丈夫!攻撃はぜんぶ、避けるから!」

カリン「アアアアアアッ!」ガバッ

侑「うおーっと!?あぶなー!」ノケゾリ

アユム「ユウちゃん!」

アユム「どうしてそこまでして…」

侑「……私なんかが、この世界を救えるわけないけどさ」

侑「私がこの世界のためにできることなんて、何もないんだろうけど…」

侑「それでも…一つでもいいから、笑顔を咲かせたいんだ」

侑「たとえそれが、すでに死んだ人間だろうと…!」

アユム「…」
 
143: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:55:15.00 ID:gxzNAwDS
アユム「……言っても、無駄なんだね」

アユム「…わかった。手伝うよ」

侑「ありがとアユム!」

アユム「ユウちゃんを傷つけさせないためだからね」

アユム「さ、行くよ」ブンッ

カリン「アゥ…」

侑「あれ?カリンさん、なんだかアユムのこと怖がってない?」

アユム「…死者に記憶力なんてないよ」

アユム「知性も理性もないのが、死者なんだから」
 
144: (たこやき) 2022/06/16(木) 23:57:57.78 ID:gxzNAwDS


アユム「ほら、早く入って。殴るよ?」グイグイ

カリン「アア…イヤ…」ヒタヒタ

侑「さて、どうなる…」


エマ「…チアアアアアアアアンンン」

エマ「…ンンンチアアアアアアアアアアア」

カリン「……」

カリン「アア…」

カリン「アアアアア……」



カリン「……ミツケタ」

エマ「……カリンンチアアアァ」
 
145: (たこやき) 2022/06/17(金) 00:00:03.78 ID:FSAFl2Ek
アユム「…………うそ」

侑「やった!エマさんが漬物石を捨てて、カリンさんを膝枕してる…!」

エマ「カリンンンチアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッ」ナデナデ

カリン「アア…エマ…」

カリン「イタ…ココニイタノ…」


アユム「…………嘘、だよ」

アユム「あの死者は、校内を徘徊することしかできないはず…」

アユム「なのに、どうして…違う行動を取ってるの…!?」

侑「…私は死者のことなんて、これっぽっちも知らないけどさ」

侑「でも、死者にも生きてた頃の記憶とか…残ってるんじゃないかな?」

アユム「そんな、わけ…」

エマ「カリンンンンンンンチアアアアアアアアァ」ナデナデ

カリン「ココ…エマ…イルノ…」

アユム「……」

侑「…じゃあね、二人とも」

侑(どうかこの二人に、幸多からんことを…)
 
147: (たこやき) 2022/06/17(金) 00:04:35.21 ID:FSAFl2Ek


アユム「……今ので、十一人目」

アユム「そして」


十二人目 ウエハラアユム

侑「アユムが十二人目だね」

アユム「うん」

アユム「あと一人はどこにいるのかわからないの…ごめんね?ずっと探してはいるんだけど、情報がなくて…」

侑(あと一人…?もう十二人全員に会ったけど…)

侑(…あ、こっちの世界のユウのことかな?でも死んでるって言ってたよね…?)

アユム「同好会メンバーを巡るツアーはこれでおしまいだよ」

侑「案内してくれて助かったよ。すごく目まぐるしかったけど…」

侑「でも、アユムが暮らす世界のことを知れて…よかった」

アユム「そう言ってもらえると嬉しいなあ」
 
148: (たこやき) 2022/06/17(金) 00:06:19.47 ID:FSAFl2Ek
アユム「……ねえ、ユウちゃん」

アユム「…ユウちゃんは、元の世界に帰りたい?」

侑「!」

侑「まあ、帰れるなら帰りたいところだけど…」

侑「…いやー、こっちの世界にはエレベーターを使って来たんだけどさー」

侑「電気が通ってないからエレベーターが動かなくて、帰れないんだよねえ…」

アユム「…私、帰る方法知ってるよ」

侑「え、ほんとに!?」

アユム「うん。そんなに難しいことじゃないよ」

侑「……そっか」

アユム「帰るなら部室棟に行こ」

アユム「そこから元の世界へと戻れるよ」

侑「……うん」

侑(アユム…)

侑(ずっと無感情だったけれど…。でも、心なしかイキイキしてるように思えたんだ…)

侑(もし、私がこの世界からいなくなったら…)

侑(アユムは、どうなるの…?)
 
161: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:32:39.90 ID:FSAFl2Ek


アユム「……今の手順、ちゃんと覚えた?」

侑「うん…。行きよりも帰りのほうが簡単なんだね」

アユム「これで、ユウちゃんともお別れ…だね」

侑「……」

アユム「ねえ、ユウちゃん」

アユム「ユウちゃんは、こっちの世界のユウちゃんの最期…知りたがってたよね」

侑「知りたいというより、単に気になったというか…」

侑「今となってはもう気にしてないよ」

アユム「…ううん、聞いてほしいの」

侑「…アユム?」

アユム「…タカサキユウが、どのようにして死んだのか」

アユム「ユウちゃんにこそ聞いてほしい」

アユム「どうか、聞いてほしい…」

侑「…わかった。話して」

アユム「…うん」
 
162: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:36:07.01 ID:FSAFl2Ek
―――――――――――――

『死者がいたぞ!〇れー!』

『や、やめて…!私は、死者じゃない…』

『うるせー!』ザクッ

『あはははは!もう何もかもおしまいだあ…!』


ユウ『……』

ユウ『…ふぅ、行ったみたい』

ユウ『アユム。もう出てきていいよ』

アユム『…ユウちゃん』

ユウ『死者が虹ヶ咲に侵入してからというものの、ずっとこんな感じだね…』

ユウ『こんな時こそ、生きてる人間同士で協力しなきゃいけないっていうのに…』

アユム『……ユウちゃん』ギュ

ユウ『アユム…』

ユウ『大丈夫!私はいつもアユムの傍にいるから!』

ユウ『だからもう怖がらなくてもいいんだよ』

アユム『ユウちゃん…!』

アユム『うん…!私、ユウちゃんの傍から離れない…!』

ユウ『アユム…』

ユウ『っ…』
 
164: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:39:35.88 ID:FSAFl2Ek


『ぐわっ!』バタッ

『やっと倒したわ…!早くこの暴徒達を檻にぶち込みましょう!』

『はい』


ユウ『人間同士の〇し合いも段々少なくなってきたみたいだね』

ユウ『これも、ランジュって人が暴徒を抑えてくれるようになったからかな』

アユム『うん…。よかった…』

ユウ『……』

ユウ『さっき聞いた話なんだけどさ…』

ユウ『生存者や感染初期の人たちが集まって、集団自〇を企画してるんだって…』

ユウ『死者になっても生存者に迷惑をかけない方法を模索してる…って話してたよ』

アユム『……ユウちゃん…?』

アユム『…いやあ!』ガバッ

ユウ『あ、アユム!?』

アユム『ユウちゃん、死んじゃやだ…!』

アユム『ずっと私の傍にいてくれるんでしょ…?』

アユム『ユウちゃん、ユウちゃん、ユウちゃん…!』
 
165: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:41:29.23 ID:FSAFl2Ek
ユウ『…誰も参加するなんて言ってないよ?』

アユム『……ほんとに?』

ユウ『そう、アユムの早とちりだよ』

アユム『……』

アユム『ユウちゃん…私の知らない間に、どこかへ行っちゃう気がして…』

アユム『私、怖いよ…』

ユウ『アユム…』

アユム『ずっと私の傍にいて…』

アユム『私を離さないで…』

アユム『私だけのユウちゃんでいて…』

ユウ『……』


ユウ『……うん…』
 
167: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:44:21.61 ID:FSAFl2Ek


ユウ『…アユム、いつになくごきげんだね』

アユム『うん♪今日はいっぱい食糧分けてもらえたからね』

ユウ『…それだけ、生きてる人がへってる…ってことでもあるけどね』

アユム『卵焼き…いや、これだけあればオムライスもできそう…!』

アユム『ねえユウちゃん!今日の晩ごはんは何がいい…』



アユム『……ユウちゃん…?』

ユウ『…』

アユム『……どうして、そんなところでへたり込んでるの…?』

ユウ『…ごめん』

アユム『なんで…謝るの…?』

アユム『…とにかく、部屋まで戻ろう!肩貸して!』

ズルズルズル

アユム『はあ…はあ…はあ…はあ…』

ユウ『アユ…ム…』
 
168: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:47:52.58 ID:FSAFl2Ek


アユム『』

ユウ『…』

アユム『……ユウちゃん』

アユム『怪我、してたの…?』

アユム『いつから…』

ユウ『……ずっと前』

アユム『……どうして?』

アユム『どうして怪我してること…私に言ってくれなかったの…!?』

アユム『もっと早くわかってたら、なんとか処置できたかもしれないのに…!』

ユウ『……ごめん、どうしても言いだせなかった』

アユム『なんで…なんでなんでなんで……』

アユム『……』


アユム『私、か…』

アユム『私が…ずっと不安定だったから…』

アユム『心配かけないように…私を気遣って…』

アユム『私のせいで…ユウちゃんは…』

ユウ『……ごめん、アユム…。ちゃんと言うべきだったよね…』

ユウ『……ごめん』
 
169: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:51:24.65 ID:FSAFl2Ek
ユウ『……私、こわいんだ…』

ユウ『このまま死者になったら、私…』

ユウ『だれかを、おそったりするんじゃないかって…』

ユウ『そして、また死者をふやしちゃうんじゃないかって…』

アユム『ユウちゃん…』

ユウ『……ねえ、アユム…』

アユム『な、何!?ユウちゃん…!』

ユウ『……アユムに、頼みがあるの…』

アユム『頼み…?』

ユウ『うん…』


ユウ『……私を、ころしてほしい』
 
170: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:56:11.92 ID:FSAFl2Ek
アユム『…………』

ユウ『じさつ部屋…って、あったでしょ?』

ユウ『あれもけっきょく…失敗したみたい…』

ユウ『死者を完全に、ころすには…人の手じゃないといけないんだ…』

ユウ『……だから、アユムの手で…ころしてほしい』

アユム『…………わたしが』

アユム『…………ゆうちゃんをころす?』

ユウ『……さっきからさ、こえが聞こえるの…』

ユウ『もうそろそろ…私はりせいを、なくしちゃう気がする…』

ユウ『……ああ、また聞こえた…』

ユウ『呼んでる…』





『……マザーが呼んでる』

―――――――――――――
 
171: (たこやき) 2022/06/17(金) 22:59:02.43 ID:FSAFl2Ek
アユム「……ユウちゃんは『死者は頭がなければ死ぬ。だから私の頭をつぶしてほしい』って言ったの」

アユム「だから私は廊下に落ちてた金属バットを拾って、撲〇することにした」

アユム「きれいに〇せるようにユウちゃんの頭にレジ袋をかぶせて」

アユム「"レジ袋"を何回も殴りつけた」

アユム「何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も」


侑「…………」

アユム「…その時からかな?」

アユム「私の感情はなくなっちゃった」

アユム「死者を〇すことに躊躇いもなくなっちゃった」
 
172: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:04:43.70 ID:FSAFl2Ek
アユム「……言いたいことはわかるよ」

アユム「あの時…何がなんでも〇すべきじゃなかった」

アユム「それでも私はユウちゃんを手に掛けた」

アユム「……多分私自身、とっくに壊れてたんだと思う」

アユム「ユウちゃんも……おかしくなってたんだよ」

侑「……」

アユム「そしてユウちゃんは死者になることはなく…ただ死んだ」

アユム「結果的に、ユウちゃんの望みは叶えられたんだ」

アユム「そして実はね。ユウちゃんは最期に、私に遺言を残してたの」

アユム「正確に言うのなら、約束…かな」
 
173: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:07:02.63 ID:FSAFl2Ek
―――――――――――――

ユウ『……アユム』

ユウ『ぜったいに…生きて…』

ユウ『私のぶんまで…アユムに生きてほしい…』

―――――――――――――

アユム「……この約束があったから、私はこれまで生きてこられた」

アユム「私はこの約束に、生かされてきたの」

侑(ユウと交わした最期の約束…)

侑(それがアユムにとっての、生きる希望だったんだ…)
 
174: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:09:57.07 ID:FSAFl2Ek
侑「……つらいのに、がんばって話してくれて…ありがとう」

アユム「ううん。ユウちゃんには知っててほしかったから」

侑「……」

侑「あ、アユム!」

アユム「ん?」

侑「……あのさ」

侑「もしよかったら…」

侑「私と一緒に…向こう側の世界に帰らない?」

アユム「え…」

侑「死者がいない世界…!平和な世界だよ!」

侑「アユムはこれまでいっぱいつらい思いをしてきたんだし…」

侑「もう、楽になってもいいと思うんだ!」

侑「だから、さ」

侑「私と一緒に来ない…?」

アユム「……」
 
175: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:14:26.04 ID:FSAFl2Ek
アユム「……だめだよ、ユウちゃん」

アユム「侑には歩夢がいる…」

アユム「私が入っていける隙なんてないよ」

侑「で、でも…」

アユム「…ユウちゃんはきっと、同情してくれてるんだよね?」

アユム「ユウちゃんは優しいから…」

アユム「でもね、一時の感情に流されて行動しちゃだめだよ」

侑「っ!」

アユム「…帰るのは、ユウちゃんだけ」

侑「……」

侑(アユムは、これからもずっと…)

侑(この死者がはびこる世界で、生きていくんだ…)

侑(私が想像もできないような、苦しみを抱いて…)
 
176: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:20:23.16 ID:FSAFl2Ek
アユム「……ねえユウちゃん」

アユム「お別れの前にね…」

アユム「私の頼み、聞いてもらってもいいかな?」

侑「頼み…」

侑「うん。私にできることならなんでも!」

アユム「…ありがと、ユウちゃん」
 
177: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:23:33.32 ID:FSAFl2Ek
アユム「私ね、今すぐ死にたいの」

侑「え」

アユム「ユウちゃんがいないこの世界で、生きてる意味なんてないから」

アユム「本当はユウちゃんを〇した後、すぐに追いかけるつもりだったの」

アユム「でも私、死ねないんだ」

アユム「『生きてほしい』って、ユウちゃんの思いを託されちゃったから…」

アユム「ユウちゃんと約束したから…だから死ねないの」

アユム「あはは、おかしいよね…?」

アユム「死にたいのに死ねないんだよ?」

アユム「私、死者じゃないのにねえ…?変だなあ…」

アユム「死者よりも私のほうが不死だなんて…すごい皮肉だよね?」


侑「アユ…ム…?」
 
178: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:26:06.03 ID:FSAFl2Ek
アユム「ユウちゃん。どうか私の頼みを聞いてほしい」

侑「!」

アユム「すごく簡単なことだから…」

侑「ま、待って!そんなのできないよ!」

アユム「どうして…?」

侑「だ、だって…」

侑「こ、こここっちのユウを…〇したみたいに…」

侑「アユムのことを…〇せ……ってことでしょ…!?」

侑「そんなの、私には…」

アユム「違うよ、ユウちゃん」

侑「え…?」

アユム「ユウちゃんにしてもらいたいのは大変なことじゃないの」

アユム「わざわざユウちゃんの手を煩わせたりしないから安心して」

侑「……じゃあ、頼みって…何?」

アユム「それはね?」

アユム「ただ一言、私に言ってほしいんだ」
 
179: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:28:28.29 ID:FSAFl2Ek
.





アユム「『もう死んでもいいよ』……って」





 
 
180: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:32:00.18 ID:FSAFl2Ek
アユム「あなたは、ユウちゃんとは少し違うけど…」

アユム「…でも、ユウちゃんには違いないもんね」

アユム「だからあなたに、ユウちゃんとの約束を上書きしてほしいの」

アユム「『生きてほしい』を、『死んでもいいよ』に塗り替えてほしいの」

侑「…………」

アユム「部室棟のエレベーター前でオドオドしてるユウちゃんを見かけた時ね」

アユム「まさに運命だって思ったんだ」

アユム「別世界のユウちゃんが、約束を変えてくれたなら…」

アユム「私はようやく、この世界から解放されるから…」

侑「……そんなの、言えないよ…」

アユム「ユウちゃんは、こっちの世界に来た理由を知りたがってたよね」

アユム「多分ユウちゃんは、私を楽にさせるためにはるばる別世界から来てくれたんだよ」

アユム「ユウちゃんの一言で、私を助けられるんだよ」

アユム「お願い、ユウちゃん」

アユム「真に私のことを考えてくれるんだったら、言ってほしい」

アユム「『死んでいいよ』って」

アユム「『今すぐ死ね』って」
 
181: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:34:45.83 ID:FSAFl2Ek
侑「…………………………………………」

侑(恐らく…いや間違いなく…)

侑(私が死ねと言えば、アユムはすぐに死ぬ)

侑(言わなければ、アユムは一生苦しみ続ける…)

侑(ああ、トロッコ問題は苦手だ…)

侑(どちらを選んでも救われない…)

侑(救いようがない…)

侑(アユムにとっての幸福が死ぬことであれば、私は約束の上書きをするべきなのかもしれない)

侑(死んでほしくないという私の思いなんて一時の衝動で、理性のない感情論なんだから)

侑(でも、私がトロッコの進路を変えたせいでアユムが死んだのなら…)

侑(私は一生、罪悪感に苛まれる…)

侑(果たして何をもってして、ハッピーエンドと呼べるのだろう?)

侑(……わかんないよ、そんなの)

侑(わかんない、わかんない、わかんない…)
 
182: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:37:46.67 ID:FSAFl2Ek
アユム「ユウちゃん?早く言ってほしいな」

アユム「早く私を解放して」

侑「…………」


侑「……言えない」

アユム「…どうして?」

侑「アユムを…死なせたくない…」

アユム「…」

侑「……つらいことも多いだろうけど…でも、希望を捨てたらずっとつらいだけだと思う」

侑「アユムはもっと、笑顔でいてほしい…」

侑「アユムには、笑顔が似合うから…」

侑(トロッコ問題。第三の解答…)

侑(絞り出した答えは、ありきたりな偽善だった…)

アユム「……聞きたかったのは、そんなきれいごとじゃなかったんだけどなあ…」

アユム「ああ、本当に…」

アユム「……ユウちゃんは、優しいんだね…」
 
183: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:41:05.80 ID:FSAFl2Ek
アユム「……じゃあね、侑ちゃん」

アユム「私はまた生きなくちゃいけなくなったから…もう行くよ」

アユム「向こうの歩夢は、大事にしてあげてね」

侑「……うん」

侑「……バイバイ、アユム」


「グゲェ!」バキィ

「ギャウゥ!」メキッ

侑「……」

侑(遠くの方で、死者の頭をかち割る音がコンボしてる…)

侑(…今の私にできることは、精々…)

侑(自分の行動は間違ってなかったと、思い込ませることだけだった…)

侑「……………………」

侑「……帰ろう」
 
184: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:46:03.08 ID:FSAFl2Ek
―――――――――――――

アユム『元の世界への帰り方は簡単』

アユム『目をつぶったままこの階段を13段降りるの』

アユム『そして13段目のところで止まり、後ろを振り返れば…』

アユム『元の世界へと戻れてたよ。前の時はね』

―――――――――――――

侑「……」

侑「…1」

侑(ナナちゃん…)

侑「…2」

侑(シズクちゃん…)

侑「…3」

侑(カナタさん…)

侑「…4」

侑(カリンさん…)

侑「…5」

侑(ランジュちゃん…)

侑「…6」

侑(シオリコちゃん…)
 
185: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:49:21.82 ID:FSAFl2Ek
侑「…7」

侑(カスミちゃん…)

侑「…8」

侑(リナちゃん…)

侑「…9」

侑(アイちゃん…)

侑「…10」

侑(ミアちゃん…)

侑「…11」

侑(エマさん…)

侑「…12」

侑(……)

侑(アユム…)
 
186: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:54:46.36 ID:FSAFl2Ek
侑(……13)

侑(……さあ帰ろう、私達の世界へ)


侑(おもむろに後ろを振り返り、そして──)
 
187: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:57:24.45 ID:FSAFl2Ek
侑(……あれ?)

侑(目をつぶったまま13段降りて、振り返って…)

侑(…で、いつ目を開けていいんだろう?)

「……ちゃ…」

侑(途中で目を開けたら失敗しちゃうのかな…?)

侑(失敗したら、もう二度とできないとかないよね…!?)

「…うちゃ…」

侑(…ん?この声はアユム…?)

侑(戻ってきたのかな…。でも、何をしに…)

「侑ちゃん!」バチッ

侑「いたっ!?」

侑(あっ!思わず目を開けちゃった…!)

侑(……)



侑「……歩夢…?」

歩夢「侑ちゃんっ…!」
 
188: (たこやき) 2022/06/17(金) 23:59:39.94 ID:FSAFl2Ek
侑「……」

侑(ライトピンクのミディアムヘアに、立派なぽむ玉…)

侑(瞳をうるうるさせて、今にも泣き出しそうな愛らしい顔…)

歩夢「よがっだ……」

歩夢「侑ぢゃん、いだよぉ…」

侑「歩夢…」

ギュ

歩夢「え……ええっ!?///」

歩夢「ゆ、侑ちゃん!どうしたの急に…!」

侑「ちょっとだけでいいから、こうさせてほしい…」

侑(温かくて…いいにおい…)

侑(身体のどこに触れてもしっかりと柔らかい…)

侑(おっ〇〇も、歩夢を実感させるもちもち係数だ…!)

侑「歩夢…」

侑「……ただいま」

歩夢「え…?」

歩夢「……おかえりなさい」
 
189: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:05:39.43 ID:CBRIgsiF
かすみ「あー!いなくなったと思ったら、何二人でいちゃいちゃしてるんですかー!」

侑「かすみ、ちゃん…?」

侑「本物のかすみちゃんだあ…!」ペタペタ

かすみ「ええっ!な、なんですか侑先輩…?そんなにかすみんがかわい…」

侑「かすみちゃん~!」ムニムニ

かすみ「んーっ!ほっへをふにふにひなひへ~!」

歩夢「……侑ちゃん」ニコッ

侑「あ、ごめん。つい嬉しくて…」

かすみ「はあ…はあ…消えたと思ったら急に現れて、今度はかすみんのほっぺをむにむにして…」

かすみ「侑先輩、一体どうしたんですか…?」

かすみ「というかどこ行ってたんですか…!心配しましたよ!」

侑「えっと、それは…」
 
190: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:11:53.16 ID:CBRIgsiF
愛「あー!ゆうゆいるじゃん!」

しずく「侑先輩!無事でよかったです」

エマ「よかったあ。侑ちゃん見つかったんだね」

ランジュ「もう、どこ行ってたのよー!心配したじゃないの!」

璃奈「侑さん、いた…。璃奈ちゃんボード『安堵』」

彼方「侑ちゃんは神出鬼没だね~」

せつ菜「おかえりなさい!侑さん!」

ミア「まったく、人騒がせなベイビーちゃんだ」

栞子「侑さんが見つかって、本当によかった…」

果林「みんなにこれだけ心配をかけたんだから…きっちり訳を説明してもらわなくちゃねえ?」

侑「みんな…!」

侑「生きてる…!」

歩夢「侑ちゃん…?」

かすみ「何言ってるんですか…?頭でも打ちました?」
 
191: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:17:21.11 ID:CBRIgsiF
侑(その後、私がいなくなってからの経緯を全員から同時に問い質され…)

侑(聖徳太子さながら……ほんとはあたふたしながら、なんとか全員の質問に答えた)

侑(迷ったけど、私が別世界に行った話はみんなには内緒にしておいた)

侑(…やっぱり、どうしても話す気にはなれなかったから…)

果林「……で、結局侑はずっとトイレにいた…ってオチなのね」

ミア「2時間もshitだと…!?」

侑「あはは…。うっかり変なもの食べちゃったのかも…」

愛「そっかー、別世界はないのかー。LINE、楽しみにしてたんだけどなあ」

璃奈「並行時空から連絡が可能なら、電波が混線して大変なことになる」

歩夢「連絡できたらよかったのに…スマホの電源を切っちゃってるなんて…」

侑「ま、万が一にも通話状態になって、恥ずかしいものが流れたら嫌だったから…」

せつ菜「とにかく無事でよかったです!」

彼方「それに尽きるねぇ」
 
193: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:22:46.28 ID:CBRIgsiF
翌日

侑(…あれ?)

侑(部室棟のエレベーター、封鎖されてる…)

侑(工事でもやるのかな…)

侑「……あ、かすみちゃん!」

かすみ「侑先輩!同好会前に会えるなんて運命ですね~☆」

かすみ「で、かすみんに何かご用でも?」

侑「あー、ちょっと訊きたいことがあってさ」

かすみ「なんですかなんですか!?プライベートなことは企業秘密ですけど、先輩なら…」

侑「……ねえ、かすみちゃん」

侑「昨日の死の世界につながるエレベーターの怪談ってさ…」

かすみ「…あー、あのホラ話ですね」

侑「…あれ確か、人から聞いた話だって言ってたよね?」

かすみ「はい。私があんな話を考えられるわけありませんよ~」

侑「…じゃあさ」

侑「誰から聞いたかとかって…覚えてる?」
 
195: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:32:14.67 ID:CBRIgsiF
かすみ「んー…誰から聞いたんでしたっけ…?」

侑「いつ聞いたとか、どこで聞いたーとかでもいいよ」

かすみ「んーーー…」

かすみ「……あ、そうです!」

かすみ「確か、先週の部長会で聞いたんでした!」

侑「部長会…」

かすみ「誰からーというより、みんなで噂してる感じでしたよ」

かすみ「まあ実際にやってみようなんて言ってる人はいませんでしたが」

侑「うっ…」

かすみ「…それがどうかしたんですか?」

侑「あ、いやー…。ちょっと気になっただけ」

かすみ「そうですかー?」
 
196: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:37:49.70 ID:CBRIgsiF


侑「今日も練習お疲れ様ー!」

「ほらほら着替えるよー!」「ぎゃー!脱がさないでくださいよー!」「ほれほれ、ここが弱いんじゃろ~?」「何をしてるんですか…」

侑「……」

侑(元の世界に帰ってきてから、ずっと気になってた…)

侑(改めて考えてみると、どうにも納得できないことがいくつかある…)

侑(向こう側にはスクールアイドル同好会はないのに、何故アユムは私が同好会にいるのを知ってたんだろう?)

侑(それに何故か、誰が同好会メンバーなのかを把握してたし…)

侑(アユムやリナちゃんとの会話でも、おかしいところはあった…)

侑(……なんか、まるで…)

侑(私の前にも、あの世界に誰かが来ていたかのような…)

侑(あー。エレベーターの噂を流した人物を特定できれば、何かわかるかと思ったんだけどなあ…)
 
198: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:46:31.86 ID:CBRIgsiF
せつ菜「お疲れ様です、侑さん」

侑「あ、せつ菜ちゃん。お疲れ様ー」

せつ菜「いやはや、昨日は大変でしたね」

侑「うん…。ごめんね?私のせいでみんなに迷惑掛けちゃって…」

せつ菜「ああ、それは別にいいんですよ」

せつ菜「それより、侑さんが無事で何よりでした」

侑「…?」

侑「…ああ、いなくなったんじゃないかって心配させちゃったもんね」

侑「一言くらい連絡入れるべきだったよね…あはは」

せつ菜「…そうですね」


せつ菜「"向こう"からでもこちらへ連絡できれば、皆さんに心配を掛けることはありませんでしたね」

侑「……」

侑「……せつ菜、ちゃん?」
 
199: (たこやき) 2022/06/18(土) 00:56:24.72 ID:CBRIgsiF
―――――――――――――

『改めて考えてみると、エレベーターをむだに動かしすぎですね』

『では、ここは言い出しっぺの侑さんが行ってみるのはどうでしょう』

『あと一人はどこにいるのかわからないの…ごめんね?ずっと探してはいるんだけど、情報がなくて…』

『おかえりなさい!侑さん!』

―――――――――――――

侑(……ずっと引っ掛かってた違和感)

侑(……つながった)


侑「……私の前に、あの世界に行ってたのは…」

せつ菜「おや、お気づきになりましたか」

せつ菜「そうです!私ですよ!」ペカー

侑「まさか、せつ菜ちゃんもあの世界に行ってたなんて…」

せつ菜「…それで、アユムさんはどうなりましたか?」

侑「……」

侑「アユムなら、生きてるよ」

せつ菜「え」

せつ菜「……あー、そうですか…」

せつ菜「それは…想定外ですね」

せつ菜「まさか侑さんが、約束の上書きをせずに帰ってくるとは…」

侑「っ…!」
 
200: (たこやき) 2022/06/18(土) 01:03:34.67 ID:CBRIgsiF
侑「……せつ菜ちゃんは、アユムとユウのこと…知ってるんだね?」

せつ菜「はい!」

せつ菜「私はアユムさんから、ユウさんとの顛末を聞きました」

せつ菜「アユムさんは言っていました。『なんとかしてユウちゃんとの約束を変えたい』…と」

せつ菜「しかし、それができるのは約束を交わしたユウさんのみで、ユウさんは亡くなられてる…」

せつ菜「私はアユムさんの力になるため、打開策を考えました」

せつ菜「そして、ユウさんの代わりに侑さんが、約束を変えに行けばいいことに気がついたんです」

侑「……」

せつ菜「侑さんなら、アユムさんを約束という名の呪縛から解き放ってくれると期待していました」

せつ菜「なのでどうしても行ってもらいたかったんですよ」

せつ菜「死者がはびこる世界──シニガサキへと」

侑「シニガサキ…?」

せつ菜「ああ、私が勝手に呼んでいるあの世界の名前です」

せつ菜「ピッタリでしょう?荒廃的な雰囲気なんかが特に」
 
202: (たこやき) 2022/06/18(土) 01:14:36.01 ID:CBRIgsiF
歩夢「……あれ?せつ菜ちゃん着替えないの?」

せつ菜「侑さんとお話があったもので。部屋の鍵は私が締めておきます」

歩夢「うん、お願いね」

歩夢「侑ちゃんは…」

侑「…私も話があるから。歩夢は先に帰ってて」

歩夢「うん…わかった」トボトボ


侑「……いろいろと、訊きたいことはあるんだけど」

侑「…せつ菜ちゃんは、アユムは死んだほうがいいと思ったの?」

せつ菜「うーん…。その辺は倫理観だとか難しい話になってくるので、答えるのは控えさせてください」

侑「…?」

侑(じゃあなんで、約束を変えさせようとしたの…?)

せつ菜「……私の目的は、もっとビッグスケールなんです」

侑「…せつ菜ちゃんは、一体何をしようとしてるの…?」

せつ菜「至極明快なことです」

せつ菜「私はシニガサキを壊したいんですよ」

侑「!?」
 
203: (たこやき) 2022/06/18(土) 01:18:29.68 ID:CBRIgsiF
せつ菜「あの世界を救うためには、まるごと壊してしまうしかありません」

せつ菜「これ以上、苦しみを生まないためにも…」

せつ菜「知ってしまったのなら、見て見ぬ振りはできませんからね…」


せつ菜「…侑さん!」

せつ菜「私と一緒に、シニガサキ世界を壊しましょう!」

侑「ええ!私も…!?」

せつ菜「……いざ、戦争です!」



おわり
 
205: (たこやき) 2022/06/18(土) 01:21:47.77 ID:CBRIgsiF
話を練れば長編にできそうだけどそんな能力ないのでこの辺で終わっておきます。
(犯人バレで終わるつもりがオチが見つからなくてズルズル引っ張った末にテ口リストになっちゃった。完)
 
206: (たこやき) 2022/06/18(土) 01:24:27.21 ID:CBRIgsiF
一応書いておくと、死者の元ネタは「SIREN」に出てくる屍人です。
主に生前の習慣を模倣するって設定をパクってます
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1655034971/

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