【SS】千歌「曜ちゃんにお手紙を」【ラブライブ!サンシャイン!!】

SS


1: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:30:43.10 ID:mgW1r0zW
「記憶を徐々に失う病、かぁ……」

私は、海をながめていた。寄せては返す波の音が、今はただただ空虚で頭に響く。
いつもであれば、ここは心落ち着く場所であるはずだったけど――とても、落ち着けるような状態ではなくて。

記憶を徐々に失う病――唐突に、目の前に突きつけられた現実。
一昨日、道を急いでいたら、転んで頭を打ってしまった。
思い切り打ち付けたわけじゃないけど、頭を打つということの危険性は把握しているつもりで……念のためにと、病院に向かった。
そこで頭の状態を詳しく診てもらって、転んだ際の出血や内傷はないと聞いて――ほっとした、その直後に言い渡されたことだ。

「見たことも聞いたこともない症例だが、脳が記憶を失うように作用している」――と。病名は、進行性記憶障害――
そう聞いた時、医者が何を言っているか全く分からなかった。言葉の意味が理解できないのではなく、現実感がない――
「そんなことあるはずない」とも思ったし、失礼と分かっていても「医者の酷い勘違いじゃないか」とも考えた。

医者から一言、明日もう一度状態を診るから必ず来るようにと言われた。
その言葉は印象的で、昨日になっても忘れることなどなく、やっぱり何かの間違いだと軽い気持ちで病院へと向かった。

「間違いない」そう、深刻そうな表情で告げた医者の表情も……脳裏に焼き付いている。

(やっぱり、何かの間違いだよ……)

だって、何も忘れていない。今まで過ごしてきた時間も、思い出も、この綺麗な海を何度も眺めていたことも。
Aqoursのみんなのことだって、欠けている記憶など全く思いつかなくて――大好きなみんなと過ごした日々は、今も昨日の出来事のように思い出せる。
 
2: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:32:37.99 ID:mgW1r0zW
「……あれ」

「……ちゃ~ん……」

「はぁ、はぁ……よう、ちゃ~ん!」

暗闇に閉ざされたような心境を、切り裂くような明るい声。何度聞いても忘れない――千歌ちゃんの声だ。
でも、なんだか全力で走っているようで――ざっ、ざっと砂浜を歩いて私のもとにたどり着いた時は、肩で息をしていた。

「千歌ちゃん……大丈夫?」

「あはは、だいじょぶ……って、そうじゃなくて!」

はあ、はあと呼吸を荒げていても、声ははっきりと聞こえた。私も千歌ちゃんも、Aqoursにいるうちにすっかり鍛えられたのかも。

「曜ちゃんの方こそ……その……」

……そうだった。つかの間忘れていたけれど、私は今「進行性記憶障害」を患っている。
千歌ちゃんやAqoursのみんなにメッセージを送ったら、千歌ちゃんがいてもたってもいられないと私に会いに来てくれたんだ。

「うん、まあ……大丈夫、かな?」

「……大丈夫なの!?」

「あはは。だってほら、忘れてることなんて全くないし……やっぱり、何かの間違いだって」

半ばそうだと信じ込んで、半ばそうであってほしいと願うように――何かの間違いだと言った。
千歌ちゃんを心配させたくないのもあるし、自分に言い聞かせるように放った言葉でもあって――
 
3: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:34:37.34 ID:mgW1r0zW
少しの間をおいて、千歌ちゃんがおもむろに口を開く。

「でも、やっぱり……心配、だよ……」

「……だよね~……」

うつむく千歌ちゃんを見て、私も少しうつむいてしまった。
もしもこの病が医者の言う通りであるのなら……私は、時が経つにつれ何もかもの記憶を失うことになってしまう。
Aqoursを結成してから今までに起きたことも、みんなと楽しく過ごしたことも。
そして――16年間近くず~っと一緒に過ごしてきた、大切な幼馴染である千歌ちゃんのことも。

「そ、そうだ! まだ治す方法があるかも知れないよ!」

「えっ、そうなんだ!?」

さっきから一転、顔をあげて目を輝かせる千歌ちゃん。私はやや目を逸らしながら、言葉を続ける。

「……医者に『治療法は今まで見つかってない』って言われてるけどね……」

「……え……ええ~っ!?」

……そう、確かにそう言われた。現時点で治療法は見つかってないと。
二回目の診療の時、医者は「過去に症例はあるようだけど、いずれも病の進行を止めることはできなかったらしい」……そう言っていた。
そして、続けて「……ごめんなさい」と一言。謝ることじゃないって、あの時はそう言ったけど――それとはまったく別に、やっぱり不安はぬぐえなくて。
 
4: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:35:34.12 ID:mgW1r0zW
「……」

お互い、沈黙する。そのことを思い出すと、急に焦燥感や不安が込み上げてきた。
少ししてから、千歌ちゃんは小さく「よし」と呟く。唐突に出てきたその言葉に、「どうしたの?」と問いかける間もなく――

「こうなったら、治療法を探すしかないよ!」

「……」

「……ええ~っ!?」

今度は私が驚く番みたい。千歌ちゃんの突拍子もない提案に、目を丸くしてしまった。
……医者から治療法無しって言われてるんだけど……そう思いながら、千歌ちゃんの目を見つめた。

(……そっか)

――やっぱり千歌ちゃんは本気で言ってる。その目はやる気に満ちていて――その表情を見ると、つい私も顔がほころんでしまう。
やる気があるだけじゃなくて、私のために言ってくれていることが強く伝わってくる。それなら――

「……うん、わかった!」

『私も応えるしかない!』 そう思った。
千歌ちゃんが本気なら、私も本気になろう。自分のために、そして私を案じてくれている千歌ちゃんのために――

「私もこのまま終わりたくない! なんとしてでも、治療法を見つけよう!」
 
6: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:37:07.50 ID:mgW1r0zW
そう意気込んでもう一度千歌ちゃんの方を見つめると、今度は神妙な面持ちでたたずんでいた。

「……どうしたの?」

「……」


「……で~……どうやって探そうか?」

「……」

「……何も考えてなかったの!?」

「あはは……ごめんごめん。もちろん本気で言ってるんだよ? ただ、いざとなると……どこから手をつければいいんだろう、って……」

「……まあ、そうだよね。実は私も、どこから手をつければいいのかわからないや……」

う~ん、と考え込む私と千歌ちゃん。
確かに、医者ですら見つけていない病気の治療方法ってどこで探せばいいんだろう。とにかく、情報を得られるところ――

「……そうだ! 学校の図書室なんてどうかな?」

「おおっ、名案だね~。曜ちゃん!」

学校の図書室――あんまりお世話になることはないけど、花丸ちゃんに会いにいったり、たまにいくことはある。
もっとも、夏休みの今、花丸ちゃんは図書室にいないと思うけど……学校は解放されてるから、まずはそこで情報を集めてみよう。
 
7: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:38:21.64 ID:mgW1r0zW
「……それじゃあ、明日お昼に図書室で! 寝坊しちゃダメだよ?」

「千歌ちゃんこそね。じゃあ、また明日!」

別れのあいさつを終えると同時に、またダッシュで家へと帰る千歌ちゃん。すっかり元気になったみたい。
私も、早く行かないと――次のバスに間に合わないかもしれない。くるりと海岸を背にして、バス停の方へと走る。

不安が全部消えたわけじゃないし、まだやることはいっぱいある。家族に病気のことを話さないといけないし、Aqoursのみんなにもしっかり伝えておきたい。
明日図書室で治療法を探すことも、うまくいくと決まったわけじゃないし――

でも、それでも――千歌ちゃんと話してから、心が軽くなった気がする。
体も少し、軽くなった気がして――バス停へ向けた足は、不思議なほどに軽快だった。
 
9: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:40:10.65 ID:mgW1r0zW
「……ふう~……」

曜ちゃんと会ってから、自分の部屋に戻って――ようやく一息つけた。
正直、曜ちゃんから病気のことを聞いた時は気が気でなかったけど……曜ちゃんが元気そうで、ひとまずは安心した。

(……でも……)

「忘れてることなんて全くない」――曜ちゃんは、そう言ってたけれど。
でも、それは『今のところ』の話。もし、曜ちゃんの病が事実で――それが、進行してしまったら。
――みんなとの……私とのかけがえのない思い出が、何もかも曜ちゃんの中から消えてしまうなんて。
私でさえも、それが恐ろしくて、不安でたまらなくて……曜ちゃん自身は、きっと私より大きな不安を抱えてるんだろうな。

「……ううん、弱気になっちゃダメだっ」

そう、治療法を見つけようって言いだしたのは私自身だ。不安や恐怖はあるけれど――
それでも――大切な幼馴染を、そして自分自身を救うために、今は前に進むしかない。

「それにしても……」

「曜ちゃんと二人で図書室かぁ……ふふっ」

ふっと、曜ちゃんと二人で図書室にいる想像をしてみる。
今まで、図書室に二人きりなんてなかったから……これが初めてのことだけど。なんだか楽しそう――かも。

「……とりあえず、ご飯食べないと!」

少し想像を膨らましていたら、下の階からお母さんの声が聞こえてきた。
なんにせよ、きっと明日は楽しい日になるはず! 寝坊だけは、しないようにしないと――
 
10: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:42:21.65 ID:mgW1r0zW
「おはよう……」

「け、結局寝坊しちゃったんだね、千歌ちゃん……」

「た、楽しみであんまり眠れなくて……!」

「……そ、そうなんだ。そう言われるとがみがみ言えないかも……」

曜ちゃんの言う通り、結局こうなってしまった。
ご飯を食べて、お風呂に入って――あんまり手をつけてない夏期課題を進めて、寝る……までは良かったんだけど。
寝つく前にまた今日のことを想像したら、とっても楽しくて……いつまで起きてたかはわからないけど、あんまり眠れなかったみたい。

「そ、それはともかく! さっそく、医療関係の本を漁ってみようよ!」

「そうだね。でも、図書室結構広いし、どこにあるのやら……」

「大丈夫、昨日花丸ちゃんにメールで聞いておいたから!」

私と曜ちゃん、同じ棚で別々に本を探す。
これが大事なことだってことはよくわかってるつもりだけど、それでも、やっぱり曜ちゃんと一緒に何かするのは楽しいな。
小さい頃から、ずっとそうだったっけ――

(……)

ただ、中学生の頃から、私は曜ちゃんと一緒に何かすることがちょっと少なくなった気がする。
もちろん、大体は一緒に居たくらいだけど――「一緒に何かやる!」って本気で意気込んだのは、Aqoursを結成した時かな。
 
11: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:43:45.38 ID:mgW1r0zW
「……千歌ちゃん? どうしたの?」

「……ううん、なんでもないっ。ほら、早く探しちゃおう!」

でも、Aqoursを結成したから今がある。そう考えると、私が曜ちゃんと二人でここにいられるのが、なんだか特別なことのように思えてきて――
無性に嬉しくなってしまった。つい緩みそうになった口元をごまかすかのように、また本を探し始める。

「とりあえず、この辺りかな。よいしょ……っと」

「ええっ!? それ全部読むの!?」

「全部は読まないけど……気になったところはちゃんと読むつもり。 千歌ちゃんも一緒に読むんだよ?」

「ううっ……で、でも頑張る!」

何冊もの分厚い本を抱えて、机へと向かう曜ちゃん。結構重そうだけど、それを軽々と運んでいる。
考えてみると、本を選ぶスピードも早かったし……曜ちゃんってやっぱりすごい――じゃなくて!

(私もちゃんと探さないと! え~っと、記憶に関する本……これとか……あれとかも?)
 
12: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:45:03.73 ID:mgW1r0zW
何冊か本を見繕って、曜ちゃんが待つ机に運ぶ。どさっ、という音とともに積まれた本は……どれも分厚い。

「向かい側でもいいけど……せっかくだから、隣同士やろっかっ」

「ふふっ、なんかいいね。そういうの!」

曜ちゃんの隣の椅子を引いて、そこに座る。
クラスでも、隣同士ではあるけど――こうやって図書室のテーブルに座ってみると、なんだか新鮮な気持ち。

「え~っと、どの本から読んでいく?」

「まずは曜ちゃんが持ってきた本から読んでみようか。記憶に関する病気をまとめた本……?」

……

「……難しいね……って、私が持ってきた本だけど」

「漢字もたくさんあるし、英語で書かれてるところもあるし……なんだか眠く……」

「ね、寝ちゃダメだよ千歌ちゃん!?」

……

「あっ、ここに書いてない?」

「どれどれ……おおっ、ホントだ! 『進行性記憶障害について』……良く見つけたね、千歌ちゃん」

「流し読みしてたら、運良くって感じだけどね……あはは」
 
13: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:46:56.15 ID:mgW1r0zW
なんとか見つけた1ページには、進行性記憶障害の概要が小さく載っていた。
やっぱり珍しい症例らしくて、ホントに小さくだけど――ページの内容に目を凝らして、それを読み上げる。

「えっと……『治療法は存在しない』……」

「むぅ、やっぱり本でもダメかぁ……まあ、お医者さんが知らないくらいだし当然かもしれないけど……」

「あ、でも『裏を返せば、何かの治療法無しに治る可能性もある』とも書かれてあるね」

「なるほどね~、確かにそうかも」

「なんにせよ、症例が少なすぎて医学関係の人でもお手上げみたい……」

少しの間、重い空気が流れる。
……そう簡単に解決できることじゃないって、わかってはいたけど。
曜ちゃんと一緒に作業をするのが楽しくて、どこかへ消えてしまったはずの不安は――また、私の心に影を作っていた。

「……ねえ」

「……どうしたの? 曜ちゃん」

重い空気を振り払うかのような、曜ちゃんの呼びかけ。
不安をぬぐい切れないまま、私はそれに応える。
 
14: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:49:08.27 ID:mgW1r0zW
「もし、私の病気が確かに存在していて、それが進行したら――今ある現実も、忘れちゃうのかな」

「……っ」

そう、曜ちゃんの言う通りだ。曜ちゃんから聞いた話――進行性記憶障害の症状が進行したら。
今あるこの現実も、曜ちゃんの中では消えてしまう。
心地の良い風が吹き込む図書室で、隣同士で本を読む――この大切な時間が、私の中にしか残らない。

「……私は嫌だな。千歌ちゃんとの思い出が消えちゃうなんて」

「だから……」

「……だから?」

「なんとしてでも治療法を探そうっ! うつむいてる場合じゃないよ、千歌ちゃんっ」

さっきから一転、曜ちゃんは明るい声でにっこりと笑った。日が差す図書室の中で、その笑顔は――輝くほど眩しいもので。
心に差していた影が、一気に消えていく。少し大げさな言い方だったけど、それも全部――私のためを思ってなんだろうな。
そうだ。私はたまにこんな調子で、先のことを考えると暗くなって、時に投げ出しちゃうこともあったけど――
それを止めてくれて、支えてくれてたのは――曜ちゃんだ。

「……うんっ、そうだよね。他の本も読んでみよう!」

「ふふっ、それでこそ千歌ちゃんだよ」

曜ちゃんの一言は、なんだかちょっと気恥ずかしかったけれど――私の一番近くにいて、ずっと一緒だったからこそ言える言葉だって、わかってる。
私も「その明るさこそ曜ちゃんだっ」とか、言い返したくなっちゃったけど……その言葉は飲み込もう。まだ、積んである本もたくさんあるし――
 
15: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:51:00.82 ID:mgW1r0zW
「ダメだぁ~……」

「結局、あの後は何も見つからなかったね……もうバスの時間になっちゃったし」

曜ちゃんがちらりと時計を見る。いくつも積んだ本の中で、「進行性記憶障害」について記されているものは1冊だけだった。
まだ読み切ってない本もあるし、諦めたくはないけど――バスの時間が迫ってるし。

「今日はここまでにしておこっか……」

「そうだね。でも、千歌ちゃんと一緒だとこういうのも楽しいね」

少し照れくさそうに、でもまっすぐ伝えてくる曜ちゃん。
私も、曜ちゃんと一緒に居て楽しかった。時間があるならば、夜まででも作業していたい――そんなくらいに。

「さっ、いこう。曜ちゃん」

「本も片付けたし、忘れ物もなし……うん、オッケー」

図書室を出て、廊下に出る私たち。夕日が差し込む廊下は、どことなく幻想的だった。
 
16: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:53:27.86 ID:mgW1r0zW
「それでね、善子ちゃんが~……」

「あははっ」

他愛もない話をしながら、曜ちゃんと帰り道を歩く。
善子ちゃんが練習中、盛大に尻もちをついたお話なんだけど――あの光景が面白くって、つい勝手に話しちゃった……

「そっか……そういえば、Aqoursで練習ってしてないよね」

「うん、曜ちゃんが大変だしね。病院にも通わないといけないし、仕方ないよ」

「それに……みんな心配してるし」

「……そう、だよね」

曜ちゃんの病が発覚した昨日から、それまで毎日のようにやっていたAqoursでの練習はしていない。
私からしても、それは当然のことだと思うけど――症状が症状だし。
でも、曜ちゃんは少し暗い顔をしていて……その横顔を見ていると、私もつい暗くなってしまいそうで。

「……曜ちゃんが気にすることじゃないよ?」

「うえぇ、なんでわかったの!?」

思い切り顔に出ていたからなんだけど――曜ちゃんは変な声を出した後、目を見開いて私の顔を見ていた。

「……ぷっ……ふふ……」

「そ、そんなにおかしかった!?」

その顔につい吹き出してしまったら、曜ちゃんはまたびっくりしてる。でも、私が思ってた通りのリアクションというか――
ずっと一緒に居るうちに――ううん、Aqoursを結成してからもっと、かな。曜ちゃんの考えることとか、心境とかが……なんとなくわかるようになってきた。
超能力者じゃないし、完全にわかるわけじゃないけど……中学生の頃とか、梨子ちゃんのこととかですれ違いそうになったことだって、ないわけじゃないし。
 
17: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:54:44.96 ID:mgW1r0zW
それでも、曜ちゃんはずっと私のことを思ってくれていた。私が曜ちゃんを大切に思っているのと、同じくらいに。
だから、私が曜ちゃんの力になれるなら――私は何も惜しまない。相手が曜ちゃんでないと、きっと意味はないと思うから

「……さ、バス停までダッシュでいこうっ。負けたらジュースおごりね!」

「えっ、それズルいよ千歌ちゃん!」

だっ、と強くアスファルトを蹴る。自分で考えていたことだけど、なんだか気恥ずかしくなって――振り切るかのように、走り出した。
私は半ばフライング気味だったけど、曜ちゃんはすぐ私に追いついて……やっぱり、曜ちゃんって走るの速い……
夕日に向かって走る私たちは、なんだか青春を描く漫画の1コマのように思えて――私の心の中に、強く強く、焼き付いた。
 
18: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:56:07.02 ID:mgW1r0zW
「あ~あ、結局負けちゃったかぁ……」

全力ダッシュでくたくた、その上ジュースはおごりだし……自分で言いだしたことだけど。
ご飯とお風呂を済ませたら、もうすでに外は暗くなっていて――今なら、星が良く見えるかもしれない。
今日は色々やったし、息抜きにもいいかなと、海岸に星を見にいこうとした時……スマホから着信があった。
相手は――果南ちゃんみたい。

「もしもし?」

『もしもし、千歌? ごめんね、こんな夜遅くに』

「ううん、大丈夫。むしろ、ちょっとさみしかったからちょうど良かったかも」

……曜ちゃんと別れた後、私は少し心細さを感じていた。曜ちゃんがいなくなったのもそうだし、心配なのもあったし――
……部屋に私一人だけ、っていうのもあるかもしれない。だから、果南ちゃんの声を聞いて、少し安心した。

「それで、どうしたの?」

『曜のこと。さっきまで、梨子ちゃんとも少し話してたんだけどね』

「えっ、梨子ちゃんと……その、大丈夫だった?」

『大丈夫……ではないかな。すっごく心配してたし、やっぱり梨子ちゃんも不安みたいで――』

「……そうだよね。Aqoursを結成してから、いつも一緒に居たし――」
 
19: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:57:00.28 ID:mgW1r0zW
すれ違いそうになったことは確かにあったけど、曜ちゃんと梨子ちゃんはとっても仲良しだった。
同じ二年生で、私を含めた3人でAqoursとしてずっと活動してきて……

『……だから『千歌がいるから大丈夫』、って返しておいたよ』

「……そんなこと言ったの!? もう、私が知らないところで……」

『ふふっ。でも、そう言ったら梨子ちゃんもちょっと笑ってた。それなら大丈夫だね、って』

「……そっか、良かった」

果南ちゃんと同じように、私もえへへと小さく笑う。梨子ちゃんも果南ちゃんも、私を信頼してくれてるのが嬉しかった。
Aqoursのリーダーとして、少し力不足を感じたりしたこともあったけど――リーダーをやっていてよかったって、思うこともある。
 
20: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:58:25.74 ID:mgW1r0zW
「……ところで、果南ちゃんは大丈夫?」

『う……そういうとこ鋭いよね、千歌……』

なんとなく思ったことをそのまま言葉にしたけど、それを受けた果南ちゃんはちょっとたじろいでるみたい。
私って鋭いのかな、自分ではピンとこないけど……それよりも、さっきより少し暗い果南ちゃんの声が気になった。

『……うん、まあ……私も大丈夫じゃないかな。やっぱり』

「だよね~……」

私と曜ちゃんをいつもお姉さんのように見守ってくれていたのが、果南ちゃん。
私と曜ちゃんだけじゃなくて……3人とも幼馴染として、時間さえあればずっと一緒に居た。
同じくらい、時を共にしている――その果南ちゃんが、動揺しないわけないよね……

『……曜の病気が本当にあるものなら、私たちが過ごしてきた時間が、全て無くなっちゃうんでしょ?』

『私と千歌の中にいくつも残っている大切な思い出も、曜の中では消えてしまう――』

『……もし、そうなったら……私は、耐えられない』

「……」
 
21: (dion軍) 2020/02/13(木) 17:59:34.72 ID:mgW1r0zW
いつも飄々としている果南ちゃんが呟く、重い言葉。それは、頭の中で何重にも響くように感じられた。
でも、私もきっとそうだ。曜ちゃんの中から、私たちの思い出が消えてなくなっちゃう――想像すらしたくないけれど、それが曜ちゃんの病。

『……そうだ。それで、治療法は見つかった?』

「ううん、今日は図書室にこもりっきりだったけど、何も見つからなかった」

「病気についての記述は見つけたけど――」そう続けた。でも、やっぱり決定的な治療法は見つからない。
そう簡単に見つかるようなものじゃないって、わかっていたつもりだけど――

『そっか。それで、曜の調子はどうだった? 何か、変わったところとかは……』

「……ううん、いつもの曜ちゃんだった。私が知ってるとおりの、明るくて元気な曜ちゃん」

病気からほど遠いところにいるかのような、曜ちゃんの明るい笑顔――今でも、はっきりと覚えてる。

『良かった……って言っていいのかはわからないけど、それを聞いてひとまず安心したよ』

「うん、私もそんな感じっ」

『それで、この後はどうするの? また図書館にこもる?』

「……」
 
22: (dion軍) 2020/02/13(木) 18:00:37.53 ID:mgW1r0zW
……この後の事、全く考えてなかった……!
曜ちゃんと走ったバス停までの道も、お互い走るのに全力で、全く話さなかったし……結局、明日とか、今後の予定についても話さずじまい。

「……何も考えてないっ!」

『あはは、千歌らしいね』

「……あのね、果南ちゃん。ちょっと思ったんだけど……」

『どうしたの?』

治療法を探すのはとっても大切なことだけど、もう一つやりたいことが思い浮かんだ。

「私ね――明日、曜ちゃんとゆっくり話してみようかなって……今、思いついたんだけどね」

『……うん、いいと思うっ』

電話越しに聞こえる果南ちゃんの声は、いつものように明るくて、透き通っていた。
もう一つ、やりたいこと――そうだ。このまま病が進行したら……果南ちゃんと話したように、曜ちゃんの中では何もかもが消えてしまう。
その病をいまだに信じてないし、信じたくない――認めたくない。でも、それを曜ちゃんが患っているのも事実で。
……それなら、そうなってしまう前に。何もかもが消えてしまう前に……一度、曜ちゃんと話がしたい。
 
23: (dion軍) 2020/02/13(木) 18:01:31.03 ID:mgW1r0zW
「そうだ、果南ちゃんは……」

『私は……遠慮しておこうかな。ほら、二人きりでゆっくり話してきなよ』

「ええ~っ!? もう、遠慮しなくても……でも、それならそうさせてもらうね」

「遠慮しておく」――果南ちゃんはそう言ったけど。その裏にある思いが、何となくわかった。
――多分、踏み出せないんだと思う。曜ちゃんに何かがあったら、すでに記憶の消失が進行していたら――
私も、曜ちゃんと話そうって思った時、同時に思い浮かんだこと。一抹の不安が頭をよぎった。
 
24: (dion軍) 2020/02/13(木) 18:02:41.68 ID:mgW1r0zW
『……さ、私はこの辺にしておこうかな。千歌も、明日は寝坊しないようにしないとだしね』

「む、さすがにお昼には起きてるよっ! 朝は……怪しいけど」

『あはは、曜に連絡忘れちゃダメだよ? それじゃ、おやすみ』

「おやすみ」と返す間もなく、ぷつんと切れる果南ちゃんとの通話。
それでも、話す前と比べると、心は軽くなっていた。ただ、果南ちゃんがいるだけで救われているようで――ちょっと大げさだけど

「さあ、私も曜ちゃんにメッセージを送らないと!」

「え~っと……『お昼に海岸で待ってる』……これでいいや」

……やっぱり朝起きれるかは少し不安だった。待ち合わせ時間をお昼にして――と。
スマホを見たら、もう11時を回っていて……そんなに時間が経ったようには思えなかったけど、果南ちゃんと話していたらあっという間だったみたい。

「い、いくら待ち合わせがお昼とはいえ、早く寝ないと……!」

部屋の電気を消して、ベッドに潜る。昨日の様に、曜ちゃんと話すのはとても楽しみではあったけど――
病気が進行してないか、とか、何か忘れたりしてないか、とか……重い不安もやっぱりあって。
複雑な気持ちは抱えたまま、眠ると同時に消えてもらおう――そう思いながら、目をつむった。
 
32: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:30:08.54 ID:QRYwRJoi
――ちゅんちゅん、と小鳥が鳴く声が聞こえる。

「ふあぁ~っ……」

昨日はぐっすり眠れたみたいで、疲れもとれていた。
ただ……心境は複雑なまま。期待と不安と恐怖がまぜまぜになっていて――全く整理がつかなかった。

「……っと。もう会う約束をしちゃったんだし!」

今はそのことを考えよう。整理がつかない気持ちを吹っ切って、曜ちゃんに会いに行こう。
――二人だけで、話しに行こう。

「まずは朝ご飯を……って、髪ぐしゃぐしゃになってる!? こんなんじゃ美渡ねえに笑われちゃう~!」

どたばたと洗面台へ向かう私。これじゃあ、美渡ねえだけじゃなくて曜ちゃんにも笑われちゃいそう……
でも、この期に及んでそんなことを考えてる自分が、すこしおかしくて。やっぱり大丈夫かも――なんて、軽いことを考えちゃった。
 
33: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:31:32.19 ID:QRYwRJoi
「そろそろかな……?」

海岸で、海を眺めていた。「お昼に」だなんて、曖昧なメッセージを曜ちゃんに送っちゃったけど……きっと、これだけで通じると思う。
日差しが海面で反射して、キラキラと眩しく輝いた。海はどこまでも、広くて青くて――いつまでも見ていられそうな気がする。

「……お~い!」

ざーっ、という海の音に交じった、人の声。砂浜の方に振り返ると、こちらに走ってくる曜ちゃんが見える。

「……自分でやっといてなんだけど、よくこの時間ってわかったね」

「あはは、千歌ちゃんのことだし!」

びしっ、と敬礼を決めながら私をまっすぐ見つめる曜ちゃん。やっぱりいつもの曜ちゃんだ――ちょっと安心しちゃった。

「それで、どうしてここに?」

「……なんとなく、かな。曜ちゃんと話がしたいな、って――ふと思って」

「……そっか」

私が海岸の方に向き直ると、曜ちゃんは同じように海へと目を向けた。
心地の良い少しの風が吹いていて、海は穏やかで……私も曜ちゃんも何も話さなかったけど、その沈黙が私には心地よかった。
 
34: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:32:25.13 ID:QRYwRJoi
――少ししてから、口を開いたのは私の方。

「……記憶の方は、大丈夫?」

曜ちゃんは一度私の顔を見てから、海の方へと視線を戻す。
水平線を見つめるその横顔は、いつもより綺麗で、カッコよくて――ドキッとしちゃった、かも。

「うん、今のところはね。何も忘れてないよ」

「じゃあ、昨日の晩御飯は?」

「え~っと、ハンバーグにサラダに……」

指を折って数える曜ちゃん。しっかり覚えてるみたい――私は覚えてないんだけど……!
考えてみると、曜ちゃんって昔から記憶力も良かったし……なんだかちょっと悔しいけど。

「ま、まあ、晩御飯の話はともかく……他に変わったこととかは?」

「全く無いよ、いつも通りっ」

にっこりと笑う曜ちゃん。その笑みを見ると、私も自然と笑ってしまった。
やっぱり、何かの間違いなのかな――まだ不安はあるけど、それ以上に安心した。ほっ、と思わず息をつくくらいに。
 
35: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:33:21.36 ID:QRYwRJoi
「ねえ、千歌ちゃん」

「な~に?」

「……私ね、ずっと千歌ちゃんに憧れてたんだ」

――唐突に、幼馴染が放った言葉。

「……そっか」

でも、その意味はすぐに理解できて――私は小さく、そう返した。
何もかもがわかった、ってわけじゃないけど……きっと、曜ちゃんが私のことを「すごい」って思うことは、何度もあったのかな。
――私が曜ちゃんに対して何度も抱いた感情と、同じように。

「……って、突然だね!?」

「えっ……いや~、あはは……なんだか、言いたくなっちゃって」

遅れてツッコむと、曜ちゃんは頬をかきながら明後日の方向に目をそらしていた。
その姿を見て「ふふっ」と小さく笑う。さっきのカッコいい横顔はどこへやら、だけど……私は、こっちの曜ちゃんの方が好きかな。
 
36: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:34:43.39 ID:QRYwRJoi
「ほら、Aqoursができてからこうやって二人きりで話すことって、意外と少なかったから」

海の方へと視線を戻して、曜ちゃんがぽつりと呟く。
そういえば、そうだったかも。昨日こそ、二人きりで作業をしたけど……二人でゆっくり話したのは――確かに少ない。
昨日図書室で会ったこととか、夜に新しいステップを練習していた時とか、二人で会ったことは何度もあったけど……こうやってゆっくりお話しすることは、なんだか新鮮だった。

それなら――私も、しっかり言葉にしておかないと。

「うん――私も、曜ちゃんにずっと憧れてた!」

「……ふふっ、そっか」

こうやって、言葉にするのはちょっと恥ずかしかったけど……それでも、勇気を出して、絶対伝えておかないといけないこと。
曜ちゃんは、私と同じように小さく笑った。きっと、伝わってくれたんだと思う。
 
37: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:36:19.80 ID:QRYwRJoi
「……そうだ、曜ちゃんって明日は大丈夫?」

「明日? 午前中は病院に行くからダメだけど、午後なら大丈夫。また、図書室に集合?」

「よ、よくわかったね……そう。今度は、果南ちゃんも呼んでみようかなって」

「いいね、それ! すっごく楽しそうっ」

「私ってそんなにわかりやすいのかなぁ……」なんて愚痴は置いておいて、私は明日も曜ちゃんと会いたかった。
それで、果南ちゃんも呼んで――3人で情報集め。曜ちゃんの病気が本当にあるものかはわからないけど、やっぱり今は情報が欲しい。
あとは……やっぱり、3人で集まると楽しそうっていうのもあるけど……!
曜ちゃんも同じことを思っていたらしくて、さっき以上にいきいきとしてるように感じられた。

その後は、色々なことを話した。Aqoursの他のみんなはどうしてるかな、とか、練習中にあった面白かったこととか。
あとは、小さい頃の思い出とかについても話して――波の音が感じられないくらいに、私も曜ちゃんも夢中になっていて……

「……って、もうこんな時間だ!? 千歌ちゃん、続きは明日でっ」

「あはは……確かに話し込んじゃったね。うん、果南ちゃんは私が誘っておくから、また明日に!」

「うう、またダッシュかぁ……でもバスを逃すわけにはいかない……! じゃあね、千歌ちゃんっ」

「気を付けて~」

私に背を向けるや否や、すごい勢いで走っていく曜ちゃん。あの調子で転んだりしないといいけど、大丈夫かな……
さあ、私もそろそろ家に帰らないと。果南ちゃんのことも誘わないといけないし……ちょっとお話ししたいしっ。
 
38: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:39:07.57 ID:QRYwRJoi
「……もしもし、果南ちゃん?」

『やっほー、千歌。今日はどうだった?』

スマホから聞こえる果南ちゃんの声は、やっぱり明るかった。
曜ちゃんも果南ちゃんも、いつも通り――いや、心の中は違うかもしれないけど。それでも、そう見える二人の存在が、今はただ温かかった。

「曜ちゃんと海岸で~……ずっと話してた!」

『ずっとって……どのくらい?』

「今さっきお風呂とご飯を終わらせたくらい!」

『お昼から夕方まで……って、大分話し込んだね……』

本当に、時を忘れちゃうほどたくさん話した気がする……
それでも、まだ話し足りないってくらいで――うずうずするほどに、私の中で話したいことはたくさんあった。

『でもまあ、気持ちはわかるよ。私も千歌や曜と二人きりで会ったら、そのくらい話し込んじゃうと思うし』

『もちろん、3人でもね』

電話越しに、果南ちゃんがにこっと笑うのがわかるようだった。
私も同じ気持ち。もし、果南ちゃんと海岸で二人きりだったら――今日と同じくらい、ず~っと話し込んでたと思う。

「そうそう、それで~……明日は3人で図書室に集まろうって話をしてて!」

『3人で……って、私も?』

「そうだよっ」

果南ちゃんはやっぱり、ちょっと悩んでるみたい。
もちろん、私は3人で会いたい。でも、果南ちゃんがなかなか踏み切れない気持ちも、ちゃんと分かってるつもり……だったんだけど。
 
39: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:40:22.89 ID:QRYwRJoi
「……ごめん、唐突だったかな?」

『そんなことないよ、大丈夫。でも、曜の話を聞いてからでもいいかな』

唐突過ぎたって謝ったけど、果南ちゃんは優しい声で大丈夫だといってくれた。
そうだった、先に曜ちゃんの話をしておくべきだったかも。と言っても、私が見た限りでは変わったことはなかったんだけど

「曜ちゃんは……いつも通りだったかな。元気そうだったし、忘れたりしていることもないって」

「果南ちゃんと3人で会おうって言ったら、すっごく喜んでた! あ、でも無理にってわけじゃなくて――」

『あはは、大丈夫だって。千歌は心配性だなぁ、もう……』


『……そうだね。それなら、私も行こうかな』


少し間があいた後、果南ちゃんはそう言った。その声は、どことなく嬉しそうで――安心しているようにも思えた。

「……よかった。曜ちゃん、きっと果南ちゃんと会えたら喜ぶと思うから」

『ふふっ。そう言われると、なおさら行かないわけにはいかないね』

果南ちゃんが決心してくれてよかったって――心から、そう思った。
さっき思ったように、曜ちゃんと会って何かあったら怖いとか、踏み切れないとか……その気持ちもよくわかってる。

でも――それでも果南ちゃんは、3人でやろうといってくれた。
――昔みたいに、ずっと私たち二人を見守ってくれていたように。
 
40: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:41:47.16 ID:QRYwRJoi
「よしっ、じゃあ明日のお昼に図書室で!」

『は~い。まさかとは思うけど、寝坊しないでね?』

「し、しないよっ……多分。それじゃ、おやすみなさい」

『うん、おやすみ』

通話を切って、スマホの画面を見る。もう、こんな時間……相変わらず、誰かと話しているときは時間が経つのが早いみたい。
曜ちゃんや果南ちゃんだけじゃなくて、Aqoursのメンバーみんなに共通すること。スマホの電池が切れそうになったことなんて、何度もあったし。

「さあ、今日も早めに寝ておこうかな」

やっぱり楽しみなのはおんなじだけど、いつもみたいに明日のことを考えてたら寝坊……とかはしないようにしないと。
電気を消して、ベッドに潜り込む。心も体もあったかくて、気持ちの良い眠気にいざなわれて――
 
41: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:44:39.16 ID:QRYwRJoi
眼鏡をかけて、ベランダに出る。どうやら雲がかかっているみたいで、昨日と違って星は一つも見えなかった。

「……はあ……」

正面の壁にもたれかかって、腕と顔を置く。そういえば、前もこんなことがあったっけ。
梨子ちゃんが電話をかけてくれる前、千歌ちゃんが私の家に来てくれる前……同じように、眼鏡をかけてこうしてもたれかかっていた。
そして、心もまた、同じようで――まるで、空は自分の心境を表すかのようだった。いくつもの分厚い雲が流れていて、輝くものは何一つもない。

(……嘘――)

(――千歌ちゃんに、嘘をついちゃった……)


そうだ――私は、嘘をついた。



本当は――昨日の晩御飯の事なんて、覚えてない。



 
42: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:46:22.20 ID:QRYwRJoi
あの時は、千歌ちゃんに晩御飯の内容を聞かれて――とっさに好物を並べただけ。
ただ、忘れたとか、思い出せない――とかじゃなくて。

――もう、さっき食べた晩御飯の内容ですら、すっかり忘れてしまった。

「……でも……」

それでも、不思議なことに、今日千歌ちゃんと二人で話したことははっきりと覚えている。
それだけじゃなくて、昨日千歌ちゃんと図書室で作業をしていたことも、二人で夕日に向かって走ったことも――鮮明に思い出せる。
 
43: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:47:52.42 ID:QRYwRJoi
私自身も「進行性記憶障害」について、ネットで調べてみたりしたけど――情報は一つも出てこなかった。
医者も「進行を止めることは出来そうにない」って――悲しそうに、申し訳なさそうに言っていた。

今まで症状が出てなかったから現実感もなかったし、「何かの間違い」とか「大したことない」とか、そんなことを考えていたけれど――
……でも、やっぱり甘かった。だって、ついさっきの事すら思い浮かべられない――その現実が、重くのしかかるようで。

(……それでも、まだ……『大切な思い出』は忘れていない)

千歌ちゃんと今までずっと一緒に居たこと、果南ちゃんと3人で海で遊んだこと。梨子ちゃんとすれ違いそうになって、それでも繋ぎとめてくれたこと。
Aqoursのみんなとの思い出も、どんな練習をしたとかも――全部、私の中で欠けていることはない。
この現実がある以上、楽観視することは全くできないけど……それでも、大切な思い出を忘れるわけにはいかない。
――いや、忘れたくない。
 
44: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:50:12.09 ID:QRYwRJoi
「そうだ……」

ついさっきのことが思い出せなくても、私にはいくつもの――この、大切な思い出がある。
例えどんな病であっても、進行を止められなくても……このことだけは、絶対に譲れない。私は、絶対に忘れない。

(それに、まだ治療法がないって決まったわけじゃないし……明日、少しでも何か情報を見つけないと!)

不安をぬぐって、明日のことを考える。
果南ちゃんと、千歌ちゃん……3人で作業をするのは、この現実をつかの間忘れてしまうくらい、楽しみで――
でも、真面目に情報を探さないといけないのも事実。それなら――

「よしっ」

ぱんっ、と両手で強く頬を叩いた。よくあるアクションではあるけれど、やっぱりこうすると気合が入る。
そうと決まったら、今日は早く寝て明日に備えないと。眼鏡を外して、ベランダの窓を閉める。

ベッドに入って……ふと思った。これが何かの夢で、本当は「進行性記憶障害」なんてなくて、朝目覚めたら何もかもいつも通り――
そんなことにならないかな……なんて考えちゃったけど。
――ううん、それじゃダメだ。現実と向き合わないと――! 頭の中でもう一度、気合を入れ直す。
心配事なんて、明日また起きてから考えればいい……そう思いながら、私は目を閉じた。
 
45: (dion軍) 2020/02/15(土) 00:50:45.64 ID:QRYwRJoi
ここまでで
今日中に再開できると思います
 
48: (dion軍) 2020/02/15(土) 12:50:21.47 ID:QRYwRJoi
「はあ、はあ……おまたせっ!」

がらりと扉を開けて、中を見やる。すでに曜ちゃんと果南ちゃんは本を読んでるみたいで……
つまり……また遅刻……!

「遅かったね、千歌。また寝坊?」

「『また』って言わないでよ~! ……まあ、その通りなんだけど」

「あはは、でも千歌ちゃんらしくて良かったよ」

「そうかなぁ……とにかく、ごめんっ」

お昼って言っておきながら、ここに着いたのは2時くらい……一応、お昼ではあるけど。
でも、二人は怒ることもなく、楽しそうに……でも真剣に、本を読み漁っていた。

「曜ちゃん、具合はどう?」

「相も変わらず大丈夫だよ。千歌ちゃんこそ、走ってきたみたいだけど……大丈夫?」

「私は大丈夫! ほら、Aqoursを始めてから体力もついたし。ふふんっ」

「おおっ、ランニングの成果が出てるね。それなら、もう何周か増やして……」

「えっ、それはダメだよ果南ちゃん……」

ただでさえ限界なのに、もう何周か増やされたら……なんだか目が回りそう……
それにしても、果南ちゃんは増やしても大丈夫なのかな。曜ちゃんも私も体力はそこそこある方だと思ってるけど、やっぱり果南ちゃんには敵わなそう……
 
49: (dion軍) 2020/02/15(土) 12:52:41.32 ID:QRYwRJoi
「う~ん、それにしても……本を読むのって難しいね」

「あはは、果南ちゃんが図書室にいることって少ないしね。私も人のこと言えないけど……ということで」

「千歌に手伝ってもらおうか」

「もちろんっ」

また、机の上に分厚い本が何冊か積まれている。その何冊かには目を通したみたいで、机の別の場所に重ねられていた。
果南ちゃんと曜ちゃんは、隣りに座っていて……私はそれに向かい合うように、正面の椅子を引いた。

「さすがに3人並ぶよりはこっちの方がいいよね。それで、何か情報はあった?」

「今のところ全く……私も曜も、ここに積んである通り分厚い本をいくつも見たんだけどね」

「う~ん、さすがレアな病というか……」

「レアって……」

確かにレアではあるかも知れないけど……当の本人である曜ちゃんは、まるで気にしてないかのようにそう言った。
私も、しっかり本に目を通さないと……積まれている本の一冊を手に取って、机に広げる。

それからしばらくは、3人とも何も話さなかった。ただ、それが気まずいものとは全く感じなくて――
私もずっと黙っていて――果南ちゃんも、曜ちゃんも。真剣に、ひたすら本を読み漁っていた。
 
50: (dion軍) 2020/02/15(土) 12:53:53.21 ID:QRYwRJoi
ぺらぺらと、本をめくる音だけが図書室に響く。
そうしながら、目を通していた本の一つに……気になる記述を見つけた。

「あっ、これ……曜ちゃんの病気について書いてある!」

「おおっ、すごいね千歌ちゃん!」

「私にも見せて、千歌」

身を乗り出してくる二人に、少し得意げに本を向ける。
前に見つけた本では、小さく書かれていただけだけど――この本には、そこそこ詳しく書いてあるみたい。

「え~っと、なになに……『進行性記憶障害の症例の一つに、完全に記憶が喪失されなかったものがある』……!」

「ほんとっ!?」

「そうだね、確かにそう書いてある。記憶の大部分は失われたって書いてあるけど……『いくつか、当人にとって重要な事柄を覚えていた』だって」

すらすらと本を読む果南ちゃん。それより、ここに書いてあることって本当なの……!?
もしそうなら、曜ちゃんの病が本当にあるものだとしても、一部の記憶は残るかもしれない……!
 
51: (dion軍) 2020/02/15(土) 12:55:00.95 ID:QRYwRJoi
「でも、当人にとって重要なことってなんだろ?」

ちょっと曖昧な記述に引っかかった私は、疑問を投げかけた。
続く記述も軽く読んでみたけど――その症例については、少なくともここには書いてないみたいだし……

「重要なこと……印象に残ってることとか、大切な思い出とか?」

「……っ」

「……曜? どうしたの?」

「……ううん、なんでもない。その後に書いてあることは?」

一瞬、曜ちゃんの表情が険しくなった気がした。果南ちゃんも、それが気になったみたいだけど――
曜ちゃんに続きを促されるがままに、そのページを全部読み進めてみた。

「……う~ん、他はやっぱり『基本的には全ての記憶が失われる』『有効な治療法はない』って……」

「そっか……良いことと悪いことがいっぺんに、って感じだね」

果南ちゃんも、少し表情を険しくしながらそう言った。
私も、うつむきながら考え込む。有効な治療法がない、基本的には全ての記憶が失われる――
今、曜ちゃんに記憶の欠落は見られないけど……やっぱり、この本に書いてある通りの症状が出たら――
 
52: (dion軍) 2020/02/15(土) 12:56:26.90 ID:QRYwRJoi
「……うわ、またバスの時間……!」

沈黙を遮るかのように、時計を見ながら曜ちゃんが言った。なんか、毎回こんな感じで別れてるような――

「それなら仕方ないね。せっかく情報が多そうな本を見つけたところだけど、続きはまた明日にしよっか」

「そうだね、この本は覚えておかないと……あ、そうだ!」

「どうしたの、千歌?」

「明日はさ、この本を借りてカフェで続きをやるのはどう?」

ふふふ、我ながら名案……かはわからないけど、二人にそう提案してみる。
「図書室でやるのも楽しいけど、気分転換もかねて――」そう続けた……まあ、ジュースを飲んだりケーキを食べたりしたいっていうのもあるけど。

「カフェかぁ、確かに楽しそうっ」

「あんまり騒げないけどね。真剣にやるならちょうどいいかも」

曜ちゃんも果南ちゃんも賛成みたい。
私は本の貸し出し手続きをして、それをかばんの中にしまった。今、カウンターには誰もいないけど。
 
53: (dion軍) 2020/02/15(土) 12:57:27.71 ID:QRYwRJoi
「私も気になった本を借りておこうかな。千歌みたいに決定的な記述は見つけられなかったけど、気になる本がいくつかあるし」

「ごめんっ、私はもうそろそろ行かないと! それじゃ、また明日!」

ゆっくりとカウンターに向かう果南ちゃんとは正反対に、廊下へとどたばた走っていく曜ちゃん。
手を振って曜ちゃんを見送ると、貸し出しを終えた果南ちゃんが私の元に歩いてきた。

「さ、私たちも帰ろうか」

「そうだね、今日はありがとう。果南ちゃん」

「私こそ、誘ってくれてありがとね」

かばんを抱えて……二人並んで、廊下をゆっくりと歩く。
曜ちゃんと並んで歩くのとは、また違う感覚があったけど――ただ果南ちゃんと歩くだけでも、私の心は不思議なほどに穏やかだった。
ただ、一つだけ気になることもあって――

――……あの時の曜ちゃんの表情は、何だったんだろ……
 
54: (dion軍) 2020/02/15(土) 12:59:39.06 ID:QRYwRJoi
「……う、う……」

フラフラと自室を歩き、椅子に座る私。前のように、眼鏡をかけて星を見にいく――そんな余裕は、今の私にはなかった。


(――頭が……割れる……)


(……いた、い……)


思えば、図書室で作業をしている時から小さな頭痛があった。
その痛みはどんどん増していて、図書室から出る頃には――少しふらついてしまうくらい、痛みは強くなっていて。


『印象に残ってることとか、大切な思い出とか?』


あの時の果南ちゃんの言葉が、ズキズキと痛む頭の中で反芻される。
印象に残ってること……大切な、思い出――
 
55: (dion軍) 2020/02/15(土) 13:01:46.24 ID:QRYwRJoi
(私の、大切な思い出……)


(――大切な思い出って、なんだろう……)


今日、千歌ちゃんや果南ちゃんと一緒に居たことは覚えてる。そして――たとえ頭痛があっても、それが楽しい時間であったことも。
でも……私にあった、大切な思い出って――


もう、昔のことがはっきりと思い出せない……――


なんでだろ……病気のせいっていうのはわかる。記憶が失われるって、医者も言っていた。
でも……それでも。千歌ちゃんや果南ちゃんとの、Aqoursのみんなとの思い出は絶対に忘れないって――そう、思ってた、のに……!
 
56: (dion軍) 2020/02/15(土) 13:05:17.57 ID:QRYwRJoi
……Aqours……?


――Aqoursって、何人だっけ……


「なんで……」


かけがえのないものであるいくつもの思い出が、音を立てて崩れていくかのようだった。
違う、こんなところで落ち込んでいられない。明日は、楽しみな約束があったはず……


「……誰と……どこ、に……」


――もう、それも覚えていない。大切な人との、大切な約束だったはずだ。なのに……なのに――!


(たいせつな、ひ、と……)


思い出そうとすればするほど、それを止めるかのように頭痛が増した。
目の焦点が合わない。視界がぼやけて、ぐらつく。このままじゃ……倒れ、ちゃう……


(かなん、ちゃ……――)


(――ちか、ちゃ……ん……)


………
……

 
59: (dion軍) 2020/02/15(土) 18:51:41.16 ID:QRYwRJoi
「はあ、はあ……!」

静かな夜を切り裂くかのように、夢中で走る私。
「曜ちゃんが倒れた」……そうお母さんから聞いた時には、すでに玄関を飛び出していて――

(曜ちゃん……曜、ちゃん……!)

病院の自動ドアをくぐり、曜ちゃんのいる病室へと向かう。
すっかり息は上がっていたけど、それすらも忘れてしまうほどに――曜ちゃんが心配で、不安で……怖かった。

「曜ちゃんっ!」

思わず強く開けてしまった引き戸から、空気が爆ぜるかのような音がして。
もう、周りのことが見えてないんだって――自分でも、よくわかった。

病室を見回すと、あおむけに寝ている一人の女の子――曜ちゃんがいた。
目が眩むほど息を乱している私とは正反対に――すうすうと、安らかな寝息を立てている。
綺麗な銀色の髪、水色の患者衣を着て、白いベッドに眠っていて――その姿は、ガラスでできた彫像のように綺麗だったけど……触れたら、粉々に散ってしまうようにも見えた。
……でも――


(……良かった。無事……だったんだ……)


駆け寄って、近くにあった椅子に座って――曜ちゃんの左手を、ぎゅっと握る。
曜ちゃんは、すうすうと眠っているままだったけど……命に別条がないことは、私でもわかった。
どのくらい、症状が重かったのかはわからないけど……でも、この様子なら、多分目を覚ますのもすぐだと思う。
 
60: (dion軍) 2020/02/15(土) 18:53:00.31 ID:QRYwRJoi
「……ぐすっ……うぅ……」

無事だとわかって、曜ちゃんの手を握ってから――私は、思わず泣き出してしまった。

さっき、受付の人と医者が話していた。倒れたのは、恐らく「進行性記憶障害」の影響だ、と。
私は、全く気付かなくて……急激に症状が進行したのかもしれないけど……それでも、あんまりに突然で。
でも、図書室で見た、あの曜ちゃんの険しい表情は――もしかすると、それによるものだったのかなって。

果南ちゃんは、私のことを「鋭い」って言ってくれたけど――大切な幼馴染のことにも、気づけないなんて。
……やっぱり、私、バカだ……

「う、う……ぐすっ、うわぁぁん……」

曜ちゃんの手を、両手で包み込むように握り直して――私はそのまま、布団の上に伏せた。
曜ちゃんの異変に気づけなかったこと、でも今無事でいてくれること――後悔と安心が、ごちゃごちゃになっていた。
明日の予定も、このままじゃ――3人で集まるの、とっても楽しみだった。そしてきっとそれは、曜ちゃんも同じで――

「ぐすっ……よう、ちゃん……」

目を閉じても、溢れてくる涙は止まらなくて……握っている曜ちゃんの手を、布団を、小さく濡らしていく。
でも――今だけは、もう少し泣いていたいな――

………
……

 
61: (dion軍) 2020/02/15(土) 18:54:42.33 ID:QRYwRJoi
(……ここ、は……どこ、だろ……)

――ふと目をあけると、私は真っ暗な場所にいた。
直前のことは、しっかり覚えていて……多分、泣き疲れて寝てしまったんだと思う。だから、これは……

(私の見ている、夢……)

夢の中の世界だって、すぐわかった。でも、それでも――無限に続いてるかのような闇の中に、一人……
思わず怖くなってしまって、助けを呼ぼうとしたけど……声が、出ない。体も、満足に動かせない……


(……あ、あれ……! 曜ちゃんっ)


必死に辺りを見回していると、真っ暗な空間に一人――私に背中を向けている、曜ちゃんがいた。
「曜ちゃんっ!」――そう声を上げて、駆け寄りたいのに。声も体も、今の私じゃ……
 
62: (dion軍) 2020/02/15(土) 18:56:01.55 ID:QRYwRJoi
――唐突に、頭の中に声が響く。曜ちゃんの声、だ――


『千歌ちゃん、果南ちゃん……気付、いて――!』

『私、苦しい……頭が、痛い、よ……』


――頭にだけでなく、全身に響いているかのような、曜ちゃんの叫び。
そうだ、私――気付かな、かった。いや……気付けなかった。曜ちゃんが、苦しんでいることに。

「ごめん」って謝って、今すぐ抱きしめに行きたかった。でも、やっぱり、体は動かなくて。

(よう、ちゃん……! 待っ――)

曜ちゃんの声が途切れたと同時に、私の見ている曜ちゃんが――消えていくのが見えた。
足から、体……そして、頭が。順々に、塵になっていくように――そして、霧になるかのように。やがてそれは、見えなくなった。

(……なん、で……)

『違う――』

(曜ちゃんっ!?)

また、頭の中に響く声。辺りを見回すと、さっきとは別の場所に、背を向けて立つ曜ちゃんがいる。
 
63: (dion軍) 2020/02/15(土) 18:57:47.35 ID:QRYwRJoi
『違う、私が――私が、言い出せないだけだ……』

『千歌ちゃん、果南ちゃん――ごめん』

――違う、違う違う! 曜ちゃんが悪いんじゃない!
私が、私が気づけなかっただけだ……! ずっと――16年もずっと、近くにいたのに……!

何とか叫び声を上げようとしても、それが声になることはない。
そして、背を向けたままの曜ちゃんが、一歩進んだかと思ったら――さっきと同じように、消えていった。

(こんな……こんなのって……)

『明日は、3人でカフェに行くんだよね。私、楽しみだな――』

『記憶は、少し消えちゃってるけど――明日くらいは、迎えられますように』

まるで私の心を砕くかのように、曜ちゃんは明るい声でそう言った。
あの時から、もう記憶が消えて――目を動かして、曜ちゃんが視界に入った時は……また同じ。
 
64: (dion軍) 2020/02/15(土) 18:59:07.16 ID:QRYwRJoi
『千歌ちゃんや果南ちゃんとの、Aqoursみんなとの思い出は絶対に忘れないって――そう、思ってた、のに……!』

(よう、ちゃ……うぅ……)

もう、心は限界だった。声にならない嗚咽を漏らす。
いくら呼びかけようとしても、いくら追いかけようとしても――私を拒むかのように、曜ちゃんは消えていく。


『ああああっ! なんで、なんでっ!?』

『なんで思い出せないの!? あんなに大切だったのに……! かけがえのないもの、だったのに……!』


がんがんと、自分の頭を両手で何度も叩く曜ちゃん。その声は今までよりも悲痛で、私の心をずたずたに切り裂く。
「もう、やめて――」そう言おうとしても、声が出ることもなければ、体が動くこともなかった。

そして、また、同じように。頭を叩き続けながら、足から頭まで、塵になって――すべて、消えてしまった。
 
65: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:00:25.46 ID:QRYwRJoi
「あ、あっ……う、うぅ……!」

突如、体に熱が戻った。私は膝から崩れ落ちるかのように、その場に座りこんだ。
声も出るし、体も動く――けど、もはや体は言うことを聞かなくて、嗚咽に似た悲鳴をあげることしかできなかった。

皮肉だな――曜ちゃんがいなくなった後に、体が動くように――声をあげられるようになる、なんて。


――突然、視界が真っ白に染まった。あまりの出来事に、その眩しさに、つい目を閉じてしまう。
 
66: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:03:13.59 ID:QRYwRJoi
――気付くと、今度は真っ白な世界にいた。
私の目の前には……大好きな幼馴染、曜ちゃんが――私の目を、優しい表情で見つめていた。

「……よう、ちゃ……」

『千歌ちゃん』

凛とした曜ちゃんの声。駆け寄ろうとした体は、思わずその声の前に止まってしまった。

『私ね、千歌ちゃんのこと――大好きだよっ』

『――それじゃあね』

そう小さく、でもはっきりと告げる曜ちゃん。そして、私に背を向けると――途方もないほどに白が続くその先に、歩き始めた。

「よう、ちゃ――待っ……て……!」

熱が戻った体を動かす。限界まで、声を張り上げる。歩き始める曜ちゃんを止めるために、曜ちゃんに追いつくために。
でも、歩いているはずの曜ちゃんと、走っている私との距離は――どんどん、広がっていく。

「待って――待ってよ、曜ちゃんっ……!」

いくら声を張り上げても、曜ちゃんに届くことはなくて――いくら走っても、曜ちゃんに追いつけなくて。

「――わたし、もっ……私もっ!」

「曜ちゃんのこと、だい――す……」

私の叫び、それは――真っ白な世界に。曜ちゃんとの距離に――遮られてしまった。
――世界が、白より白く染まっていく。私は、目をあけていられなくて、それでも――必死に叫んだ。

………
……

 
67: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:06:32.15 ID:QRYwRJoi
「……っ!」

ぱっ、と目を開く。そうだ、私――泣き疲れて、寝ちゃってたんだ……
なんだか、長い夢を見ていた気がする――夢の中に、曜ちゃんが出てきて……

(……そうだ!? 曜ちゃん、は……)

曜ちゃんの手は握ったまま、伏せていた顔をあげる。私が寝ている間、曜ちゃんは――

――顔をあげた先には、水色の澄んだ瞳が見えた。
 
68: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:09:13.17 ID:QRYwRJoi
「……曜ちゃんっ!」

きょとんとした顔で、私を見つめる曜ちゃん。
その様子には、何もおかしなところはなくて――思わず、声を上げてしまった。

「曜ちゃんっ……よか、った……」

「……ぐすっ……ひっく……」


「……だいじょう、ぶ……?」


曜ちゃんの手を、強く握り直す私。こうやって、目を覚ました曜ちゃんに安心して――また、泣いちゃった。
でも、本当に良かった――手を握ったままうつむいて泣く私を、曜ちゃんはゆっくりと見つめているようで。

「どんな言葉をかけよう」あふれ出る感情を抑えながら、そう考えた時――先に、曜ちゃんが口を開いた。
 
69: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:11:33.64 ID:QRYwRJoi




「えっと……キミは……誰?」



――え……?


「曜ちゃん……私、だよ? チカ、だよ……?」


曜ちゃんの瞳を見つめて、手をぎゅっと握る私。なんで――初対面、みたいに……
ふと、一つの記憶が頭をよぎる。『基本的には、全ての記憶が失われる』――


「曜ちゃん……覚えて、ないの……?」


「え、えっと……あはは、その……」


困り顔で頬をかく曜ちゃん。その姿は、私が知っている曜ちゃんと全く同じで。
だからこそ――今ある現実が、受け入れられなかった。曜ちゃんが、私のことを――覚えて、ない……


「曜ちゃんっ……! 私、私だよっ……チカ、高海千歌だよっ……!」


声を張り上げ、曜ちゃんの元へと身を乗り出す。
それとほぼ同時に、後ろからがたんと音がした。今の声を聞いた医者や看護師が、駆け付けたんだと思う。でも――
 
70: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:15:01.58 ID:QRYwRJoi
「曜ちゃんっ! 私のこと……私の、こと……!」


大声を上げると、私は後ろから羽交い締めにされた。「落ち着いて」と、そう促された。
でも――でもっ! 必死にもがいて、声を張り上げるけど――私は押さえられたまま、病室の出口へと引きずられていく。


「曜ちゃんっ、曜ちゃんっ……!」

「忘れないで――曜、ちゃん……っ! チカの事、忘れ――ない、で……!」


入れかわるように、医者が病室へと入る。「ごめんなさい」そう、ぽつりと呟いて――


――病室の引き戸が、ぴしゃりと閉められた。
 
71: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:17:19.51 ID:QRYwRJoi
……病室には、私と知らない人の二人きりだった。
私が入院していて、この人が「医者」だってことはわかるけど……一体、どんな人なんだろう?

……さっきの、私と同じくらいの女の子は――

「……調子はどう?」

「調子……は……どう、でしょうか……?」

医者への返事に困って、思わず疑問形で返してしまう。
――今、私はどういう状態なんだろう。入院しているってことは、何かの病気なのかな……

「……あの……さっきの、子は……」

オレンジ色の短い髪に、三つ葉のヘアピンを付けていた女の子。
「曜ちゃん」って叫びながら、その髪を揺らして、必死に私へ呼びかけ続けていた――

「……あの子は、あなたの親友」

「千歌……『高海千歌』っていう子」

『たかみ、ちか』……漢字だとどう書くんだろう。初めて聞く名前、だけど――
私の名前は、きっとあの子が言う「よう」って名前……? じゃあ、私の名前を叫んでいたのかな――
 
72: (dion軍) 2020/02/15(土) 19:19:26.79 ID:QRYwRJoi
さっきの子がどうしても気になって、うつむいて白い布団を見ながら、色々なことを考えていたら――
医者が「ねえ」と、私の思考を遮る。

「どうしたんですか?」

「『どうしたんですか』って……いや、なんでもない」


「ただ、あなたは今――泣いているみたい、だから……」


「あなたは、泣いている」――泣いてなんか、いないのに。
でも、どうしてそう言うんだろう。泣くほど悲しいことが、あったのかな……全く、見当はつかないけど――

――なんとなく、左手で頬に触れてみた。


「……あ、れ……?」


「――私……なんで、泣いてるんだろ……」


温かさが残る左手に、触れる雫。そこでようやく、自分が泣いていることに気づいた。
 
76: (dion軍) 2020/02/15(土) 20:59:28.70 ID:QRYwRJoi
あの後、私は病院から出て――整理がつかない気持ちのまま、海岸に来た。
海は日中とは違って、深い青色に染まっていた。その吸い込まれそうな暗い海を、一人見つめる女の子――果南ちゃんだ。

「……千歌……」

私に気付いた果南ちゃんは、海を背にして向き直った。その顔は暗い海よりも暗いようで、声も重々しかった。
――さっき、私が送ったメッセージ……果南ちゃんにも、曜ちゃんのことを伝えたから。

「果南、ちゃん……曜ちゃん、が……――」

消え入りそうな声で、果南ちゃんへと話しかける。

「……うん」

果南ちゃんは、私のことを心配そうに見つめていたけど――そう言ったきり、何も話すことはなくて。
お互いが沈黙する。それは――いつもと違って、とても長く感じられて――夜のせいだからか、わからないけど。
 
77: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:02:22.32 ID:QRYwRJoi
「私……曜ちゃんのことに、気付けなかった……」

「……っ……違う! 千歌が、千歌が気付けなかったら……きっと、誰にも気付けなかった……」

「でも……もし、気付いてあげられてたら……もっと、色々なことを……伝えられた、のに……!」

果南ちゃんは、私のことを慰めてくれて――でも。
私の心には、いくつもの厚い雲がかかっていた。まるで――星一つ見えない、今の夜空のように。

「……っ!」

「千歌っ!?」

だん、と強く砂浜を蹴る。こんな、こんな苦しみを背負うくらいなら――

いっそこの青い海に、溶けてしまえば――

「千歌、待ってっ!」

「離して! 離し、てっ!」

でも、それは後ろから抱きついてきた果南ちゃんに止められた。
私は意地になって海へと身を投げようとするけど――いつもよりずっと強いような、果南ちゃんの力で制止された。
 
78: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:04:07.88 ID:QRYwRJoi
「……はあ、はあ……ごめ……ごめん、私……」

「ち、か……」

息を荒げながらも、果南ちゃんに謝る。そうだ……こんなことをしても、何にもならない、のに――

「……千歌の気持ちは、わかるよ」

果南ちゃんは私を抱きしめる手を緩めて、ゆっくりと話す。私に語りかけるかのように――あるいは、海に語りかけるかのように。

「私も、千歌が来るまで……この海に沈んでしまえたら、って……何度も思った」

「でも、そうするとさ……」

果南ちゃんは私の方を見つめると、力なく、小さく笑った。


「残された千歌が、きっと……壊れちゃうと、思うから……」
 
79: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:05:21.04 ID:QRYwRJoi
「かなん、ちゃ……」

「私も同じだよ」


「曜が全ての記憶を失って、その上千歌もいなくなったら――私、もう……生きていけない、よ……」


果南ちゃんの頬を涙が伝った。いつもクールで飄々としていて、私と曜ちゃんを見守っていてくれた……果南ちゃんの涙。
その涙を最後に見たのは、もう、いつだったか思い出せないけど……

「うぅ……ぐすっ……うわぁぁぁぁん!!」

「千歌……」

泣きじゃくる私を、両腕で抱きしめて、受け入れてくれる果南ちゃん。その腕は、いつもより温かいように思えた。
何も言葉にできない、泣き喚く私の頭をゆっくりと撫でて――それから、小さく呟いた。
 
80: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:06:26.70 ID:QRYwRJoi
「前を向くしかないよ、千歌――」


「戻ることはできない……から……」


「うぅ、う……ひっく……うわぁぁぁん……」

果南ちゃんの服を、私の涙が濡らす。それでも、果南ちゃんは私をずっと抱きしめていてくれた。
――果南ちゃん自身が、同じように涙を流していても。

いつの間にか、夜は明けていて――水平線から差す太陽が、私たちのことを静かに照らしていた。
 
81: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:12:50.27 ID:QRYwRJoi
私は、誰もいないカフェで、頬杖をついていて――目の前には、無造作に置かれたボールペンと、一枚のポストカード。
お昼ごろに入ったはずなんだけど、もうすっかり夕方になったらしくて――窓からは、綺麗な夕日が見えていた。

「むう……」

――あの後、曜ちゃんとは会っていない。曜ちゃんを担当している医者から聞いた話だと、どこか遠くの療養所にいるらしい。
医者は私のことを気にかけてくれているみたいで、たまに曜ちゃんの様子とか、どんなことがあったかをメールで送ってくれる。
でも、やっぱり――症状は完全に進行したようで……残った記憶は、何一つもないみたい。

「……え~っと、『お・元・気・で・す・か』と……」

「……う~ん……」

とりあえず良くある書き始めを選んでみたけど、なんだか……次の言葉が探せない。
なんとなく手持ち無沙汰なように思えて――ボールペンをくるりと回してみたり、すっかり冷たくなった紅茶を飲んでみたりしたけれど。
それでも、筆が進むことはなくて……

(そっか……)

(今は……遠いん、だね……)

今、私が伝えたいことって……なんだろう。しばらくうんうん唸りながら考えて……思いついたのは、たった一つの言葉。
紅茶をまた、一口飲む。相変わらず冷たかったけど――さっきよりは少し温かくて、少し甘い気がした。


「……P.S.……『どうもありがとう』」


たった二行の手紙になっちゃったけど、これでいい、よね――
最後にひとこと、オマケみたいに……伝えておこう。「P.S.『どうもありがとう』」

「よしっ」

書き終えたポストカードをしまい、冷めきった紅茶を飲み干して――席を立つ。
カフェを出た私の前に輝く、オレンジ色の夕日は――あの日見た夕日と、同じように――心に焼き付いた。
 
82: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:15:45.91 ID:QRYwRJoi
――ポストカードを出して、家に帰る。
自分の部屋へと戻ってかばんを置くと――机の上に、一つの封筒があった。


宛名は私で、差出人は……曜ちゃん、だ――
封をあけて、三つ折りにされた手紙を開く。


そこには、小さく三文字だけ書かれていた。


私は、その手紙を――くしゃくしゃになってしまうくらい、ぎゅっと握って――胸に抱えて、抱きしめた。

私の頬を、涙が伝って……手紙の上に、ぽとりと落ちて。それは、黒いインクで書かれた文字を滲ませた。
 
83: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:17:05.95 ID:QRYwRJoi



「大丈夫」



 
84: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:17:34.35 ID:QRYwRJoi
~fin~
 
85: (dion軍) 2020/02/15(土) 21:18:09.56 ID:QRYwRJoi
以上で完結です
読んでくれた方に感謝を、ありがとうございました
 
93: (dion軍) 2020/02/17(月) 19:04:29.56 ID:1pvCmGy4
数は少ないですが過去作をいくつか挙げます、よろしければ

果南「クリスマスは妹と」千歌「彼女じゃないの?」 (短編)
果南「クリスマスは妹と」千歌「彼女じゃないの?」【ラブライブ!SS】
1: 2019/12/24(火) 18:49:12.69 ID:a/tcyJ84 ~クリスマス、千歌の家~ 果南「ふぅ、やっぱり千歌の家は落ち着くね~」 千歌「果南ちゃんはもう何回も来てるもんね」 ...


花丸「爪が剥がれた夕暮れ時」 (短編)
【SS】花丸「爪が剥がれた夕暮れ時」【ラブライブ!サンシャイン!!】
2019/06/19(水) 19:15:50.42ID:gp0WXv3c ある夕暮れ時――オラ、国木田花丸は図書室の真ん中で床にうずくまっていた。 花丸「ぐうっ……うぅ……」 こうすると落ち着くとか、疲れたから横になっているとか……ではなくて。 命の危機に瀕して……もいない。ただ単に、指先に走る激痛のせいで動けないだけ。 ……激痛、という言葉でも足りないくらいに痛いけど…… この耐え難い痛みを上手く表現できる言葉は、長く本を読んで過ごしてきたマルでも全く思いつかなかった……痛すぎて考える余裕もないし。 花丸「うぅ……う……」 どうして図書室の中心でうずくまるに至ったのか。 さっき、マルは図書室にある本を整理していたんだ。下校時間までにはまだ時間があるし、図書委員としてのお仕事をって。 どうせ、今日も誰も来ないし……夕方の今まで誰も来ていないし。ずーっと本を読んで静かに過ごせるから、マルはいいんだけどね。 それで、本棚を眺めて、散らばってる何冊かの本を元の場所に戻して……そのあと 両手で抱えても重いくらいの分厚い辞書があったんだけど……それを頑張って持って、元の本棚に戻そうって思った時…… 「わっ、とと……」 つまづいたと同時に……持ち方が悪かったのか、小指の爪に本の表紙が引っ掛かって 「あっ……ぎいぃいいぃいやぁ~~!!」 なんて悲鳴を上げながら、激痛とともにぱったりと倒れこんだ。 転んだから痛い……のもそうだけど、それよりはるかに痛いのが……辞書に食い込んだせいで爪が剥がれた小指。 ついさっき変な悲鳴を上げた恥ずかしさなんて、一瞬でどこかに消えてしまった。本当に、ただただ痛い…… ちょうど目の前に剥がれた爪が落っこちていて、それは真っ赤に染まっていて……グロい、の一言に尽きるずら。 目を背けたいのはやまやまだけど、もはや顔を動かすことすらできないほど……痛い。


曜「千歌ちゃんが記憶喪失になった……」 (長編)
曜「千歌ちゃんが記憶喪失になった……」
■約140000文字■ 千歌「ええっと……」 千歌「……あなたは、誰ですか?」 千歌「ごめんなさい。私、記憶喪失みたいで……あ、もう知ってますか? えへへ」 千歌「だから、あなたが誰かわからないけど……でも、いい人なんじゃないかって思います」 千歌「どうしてそう思うかって? それは直感です、ふふん……って、あ、あれ?」 千歌「あ、あの……どうして、そんな悲しそうな顔を……私、何かマズいことを……!?」 千歌「よ、よくわからないけど……その、落ち着いてほしいな。あなたがうつむいてるのを見ると、私――どうしたら、いいのか……」

 
95: (SB-iPhone) 2020/02/17(月) 23:46:27.15 ID:3c5DBNoE
>>93
あなただったか…
良作をありがとう
 
96: (関西地方) 2020/02/18(火) 21:57:24.19 ID:85Kpb93l
P.S.の向こう側か、すごくしっくりきた
切なくていいお話
 
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引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1581582643/

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