【SS】璃奈「たとえば、姉妹愛について」【ラブライブ!虹ヶ咲】

はるかな SS


2: (らっかせい) 2022/09/30(金) 21:42:46.67 ID:tMLskuZn
<石碑>がある

この星の住所は「おとめ座銀河団・局部銀河群・銀河系 天の川銀河・オリオン腕・太陽系・第3惑星・地球」です。


<日本語の解読について>

日本語は、基本的に主語-目的語-動詞の文型をとります。
例文) ・私はご飯を食べる
   ・猫は魚が好きだ
   ・文字を石に刻む

主語と述語が倒置になることもあります。この場合には、助詞(て、に、を、は)の形が変化します。
例文)・ご飯を私は食べる
   ・魚が好きなのは猫だ
  ・文字の刻まれた石

主語が生き物か、生きていない物かによって、使われる動詞が異なります。
例文)・私がいる(主語は私、生きている)
   ・猫がいる(主語は猫、生きている)
   ・石がある(主語は石、死んでいる)
 


  以下の文章に含まれる単語とイデオム
・おはようございます
 挨拶の言葉。太陽が昇ってから少しの時間だけ使う。
・こんにちは
 挨拶の言葉。太陽が昇って暖かい時間に使う。
・こんばんは
 挨拶の言葉。太陽が出ていない間に使う
___________
_______
____
 
 
5: (らっかせい) 2022/09/30(金) 21:46:57.19 ID:tMLskuZn
こんにちは。或いはこんばんは。

いつか訪れる、遥か彼方からの親愛なるボヤージャーへ。

水と酸素を湛えた蒼き星、地球へようこそ。
本当は私がお出迎えをしなければいけないけど。きっとそれは無理。

いくら機械の身体と言えども、きっと朽ち果てている。

かつて、この星では人類と言う生き物が繁栄し、高度な文明を築いていた。しかし、ある事件によって、文明は崩壊し、地球を捨てた。

この星で何が起きたのか、古の言葉(我々ホモ・サピエンスが活動をして20万年過ぎたぐらいの・人類が文字を使い始めてから1万年ぐらいの)極東アジア地域で使われていた日本語を用いて、石碑に記そう。

始まりは些細な事だった....
 
 
6: (らっかせい) 2022/09/30(金) 21:52:34.94 ID:tMLskuZn
~とっても昔の遠い過去、始まりのできごと~


かすみ「うわぁ」

しずく「どうしたの?」

かすみ「見てよ、これ」

しずく「私達の大学生パロディの絵?」

かすみ「見て、すごく高身長で描かれてる」

しずく「?」

かすみ「これってさぁ、ありえないじゃん」

栞子「と、言うと?」

かすみ「女子は高校では身長伸びない」

璃奈「あー....」

しずく「生理来たら数年で身長止まるって奴?」

かすみ「そそ」

かすみ「私達、もう身長伸びない。大人になってもこのまんま」

璃奈「かすみちゃんは、そんなに小さいのが嫌なの?」

かすみ「せめて、160は欲しかったなぁって」

かすみ「いいよねぇ、しお子は」

栞子「そうですか?私は姉さんと比べると中途半端な高さだと思うので、そんなに身長が欲しいと思った事はないですが」

かすみ「うわぁ、贅沢な悩み」

 
 
7: (らっかせい) 2022/09/30(金) 21:58:22.14 ID:tMLskuZn
~帰り道~

璃奈「そっか、かすみちゃん、そんな事考えてたんだ」

璃奈「私は身長とか、気にした事なかった」

愛「りなりーも身長に対して何か思ってたり?」

璃奈「ううん。特にないよ。私はこれで十分満足してる」

愛「そっかぁ。だよね。高いと、別の問題出てくるし」

璃奈「そうなんだ...」

愛「たとえば、身長が大きすぎて、サイズフリーの服が入らないとか」

璃奈「大きいって洋服だと不便なんだね」

愛「愛さんは、それぞれの持ち味ってやつで勝負して欲しいなって思ってるよ。小さくても、大きくても良い!」

璃奈「....」

璃奈「でも、技術的には可能なんだ」

愛「何が?」

璃奈「身長を伸ばすスイッチ」
 
10: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:04:29.62 ID:tMLskuZn
~翌日~

璃奈「出来た。身長を伸ばすスイッチ」

かすみ「なにこれ~ほんとぉ?」しげしげ

璃奈「ほんとだよ。押すから、よーく見ててね」

ぽちぽちぽちぽち

しゅるしゅる

ピヨヨーン

璃奈「今、4回押したから少し伸びた。かすみちゃんと同じ身長になったはずだよ」

かすみ「ちょっと横に来て」

璃奈「うん」

かすみ「目線がおんなじ...これ、本当に身長伸びてるじゃん!!」

璃奈「一応、いろんな所も微調整してあって、身長が伸びたら、その分、服とか色々な物が伸びる様に微調整してある」

璃奈「服が、北斗の拳みたく弾け飛ぶのは、嫌だから」

かすみ「わぁ~!!」

かすみ「りな子やるじゃん!」

かすみ「ねえ、押していい?」

璃奈「良いよ」
 
11: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:08:56.96 ID:tMLskuZn
ぽちぽち

シュルシュル

ピヨヨーン!

かすみ「ねえ、今伸びたよね!?」

璃奈「うん、伸びたよ」

かすみ「横に来て」

璃奈「うん」

かすみ「うをおおおおおお!うをおおおおおお!」

かすみ「本当に伸びてる!!」

かすみ「夢の160cm台!ねえねえ、保健室に身長計りに行こ!」

璃奈「もっとたくさん押してみんな驚かせちゃおっか」

かすみ「良いねぇ。果林先輩より高身長目指しちゃお!」

ポチポチ

ピヨヨーン!
 
12: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:11:36.88 ID:tMLskuZn
かすみ「じゃじゃーん!」

果林「驚いた。私より大きいじゃない!」

果林「厚底履いてるとかじゃないわよね?靴脱いで」

かすみ「良いですよぉ~」ヌギヌギ

かすみ「ふっふーん!」

果林「本当だわ!すごいじゃない!成長期?」

かすみ「なんだと思います~?」

エマ「かすみちゃん、質問に質問で返すの少しウザいよ」

かすみ「んなっ!?急な毒舌!?」

かすみ「白状すると、りな子のスイッチです!」

かすみ「りな子!カモーン!」

璃奈「ぶいぶい✌」

エマ「おぉ...おっきくなってる」

エマ「天王寺さーん、どうしてそんなにおっきくなっちゃったの?」

璃奈「真面目にやってきたからだよ~!」

エマ・璃奈「ゲラゲラw」

果林・かすみ「?」
 
 
13: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:20:16.55 ID:tMLskuZn
果林「璃奈ちゃんはそんなすごいスイッチが作れるのね!」

璃奈「まあ天使天才だから」

エマ「おぉ~強気な発言!」

璃奈「一応、こんな感じで作ってみたんだけど」

璃奈「エマさんや果林さんは、既に身長が大きいし、スイッチ要らないよね」

果林「たしかにそうねぇ。でも、時々貸してくれると嬉しいわ」

果林「一応モデルやってるでしょ?ヒールとか履く時、身長が更に高く見えたら素敵だなって思ってたの」

果林「だから、時々貸してくれると嬉しいわ」

璃奈「了解👌」

エマ「うーん、私は要らないかなぁ」

璃奈「要らないっと、わかった!」

ドア「ガラガラ!」

彼方「みんな~お疲れ...!?えっ!?かすみちゃん!?」

かすみ「ふっふーん、彼方せんぱぁい!」

彼方「えっ?!えっ!?」

璃奈「彼方さん!」

彼方「ぎょえええ!?夢!?彼方ちゃん寝てないよね!?」

かすみ「夢じゃないですよ!!」
 
15: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:27:03.59 ID:tMLskuZn
かくして、同好会では身長を伸ばす遊びが流行った。

ポチポチ

ピヨヨーン!

しずく「ライブ前にスタイル良く見せたい時は便利だね」

璃奈「バレない身長にするのがネックだけど...」

しずく「あと...」

しずく「身長が元に戻るのが、結構個人差ある所とかかな」

璃奈「一応、押した回数と日付が比例しているみたいなんだけど」

璃奈「押したら押した分だけ威力が継続する。継続する時間は個人差があって、塩梅が難しい」

しずく「そうなると、連続で使えないからなぁ...」

しずく「...すぅはぁ...」

しずく「よしっ!ライブ行ってくるね!」

しずく「璃奈さん、お話してくれてありがとう!」

璃奈「うん!いってらっしゃい!」
 
16: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:34:43.98 ID:tMLskuZn
彼方「むむむむ....」

遥「お姉ちゃん、どうしたの?しずくさんのステージ、何か悪い所あった?」

彼方「そうじゃないよ。そうじゃない」

彼方「よかった。すごくよかった」

遥「そっか。変なお姉ちゃん」

彼方「むむむむむむ」

彼方「(しずくちゃん、めちゃくちゃスタイル良かった)」

彼方「(やっぱり、あのスイッチ使ったのかな?)」

彼方「(来週は彼方ちゃんのステージだよね)」

彼方「(あのスイッチ、まだ使ったことなかったけど)」

彼方「(来週使わせてもらおうかな?)」

彼方「むむむむむむむむむ」

遥「?」

遥「お姉ちゃん、退場時間だよ?」

彼方「むむむむむむむむむ」トボトボ
 
17: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:42:58.11 ID:tMLskuZn
璃奈「スイッチを借りたい?」

彼方「うん!遥ちゃんにね、少しでもいい所見せたいなって」

彼方「それにさぁ...」

彼方「それにさぁ、彼方ちゃんって、エマちゃんと果林ちゃんに比べたら、だいぶ身長低いじゃん」

彼方「だから、見劣りするっていうか、なんていうか...」

彼方「少し劣等感があるんだよね」

彼方「だからお願い!」

璃奈「そんなに頼み込まなくても...」

璃奈「貸しますから大丈夫」

彼方「やったぁ!遥ちゃん、待っててね~」

璃奈「でも」

彼方「でも?」

璃奈「使うなら、前日から、少しずつがいいかもしれないです。具体的には、夜みんなが寝てる間に」

璃奈「朝起きて、急に身長が伸びたらびっくりするから」

璃奈「夜のうちに、少しずつ身長を伸ばしていくといいと思います」

彼方「ふむふむ」
 
18: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:46:15.54 ID:tMLskuZn
彼方「注意事項はそれだけ?」

彼方「みんなが言ってる、身長縮む曜日が~とかは?」

璃奈「特になんとも」

璃奈「スイッチを押した回数に日数は比例するけど、緩やかに縮んで行くから大丈夫」

彼方「おっけい。これで彼方ちゃんも、高身長の仲間入りだぜ~」

彼方「目指せ160cm!」

彼方「ふふふんふ~♪」
 
20: (らっかせい) 2022/09/30(金) 22:56:56.22 ID:tMLskuZn
~遥・彼方宅~

遥「zzz」

彼方「キョロキョロ」

彼方「遥ちゃん、もう寝たかなぁ?」ヒョイ

彼方「うむ、寝てる寝てる」

ポチポチ

シュルシュル

ぽよよーん


彼方「おぉ...これが伸びるって事なのか」

彼方「今日はこれで満足かなぁ。明日も使うから、枕の周りにスイッチ置いておこう」

彼方「スイッチくん、明日も頼りまっせ」おやすみ
 
21: (らっかせい) 2022/09/30(金) 23:00:13.53 ID:tMLskuZn
彼方「うーん、うーん」

寝返りを打つ彼方さん

運良く、隣には身長を伸ばすスイッチがあった。

彼方「zzz」ゴロン

寝返りを打ったと同時に、スイッチは彼方の下へ潜り込む。

ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチのポチポチポチポチポチポチポチポチポチ.....

________
_____
___
 
24: (らっかせい) 2022/09/30(金) 23:08:09.51 ID:tMLskuZn
>>21
>彼方か彼方ちゃんへって入れてください。
 
22: (らっかせい) 2022/09/30(金) 23:01:56.97 ID:tMLskuZn
ピヨーン!

ピヨーン!!

彼方「zzzzzz」

遥「...zzz」

くか~
 
23: (らっかせい) 2022/09/30(金) 23:07:16.63 ID:tMLskuZn
~次の朝~

遥「おは.....よう御座います」

彼方「え~」コスコス



彼方さんの身長が、伸びた。

天井に着くくらい、伸びた。


彼方「ぎやぁぁああああ!!」

彼方「なにこれ!?なにこれ!?」

彼方「スイッチ...スイッチのカウント回数!」

彼方「ぎゃっ!?4万回以」

彼方「どうしよ、どうしよう。もっと身長が伸びたら...伸びたら?」

彼方「やばい、やばいよこれ!?」
 
33: (らっかせい) 2022/10/01(土) 23:40:12.94 ID:0EWxBmAf
しゅるしゅる

ピヨーン!

遥「...一体なにが起きてるの?」

彼方「これは!その!スイッチで!」


ミシミシ....ミシミシ


彼方「!?」

彼方「床が悲鳴を上げてる...?」



しゅるしゅる

ピヨーン!

彼方「や、やばい、こんな事考えてる間も伸びてる」

彼方「でなきゃ。ここからでなきゃ」

遥「出るってなに?なんなの?」

彼方「遥ちゃん、ベランダの扉開けて!」

遥「??」

彼方「良いから!早く!!」
 
34: (らっかせい) 2022/10/01(土) 23:47:47.17 ID:0EWxBmAf
結果として、彼方さんの身長は伸び続けた。

一時的に、近くの公園へ避難した。

「巨大女お台場に現る!?」って言う、捻りも何もないタイトルで下品なスポーツ紙にもニュースになったり、彼方さんのパンツを拝みに、たくさんの人が現れたりもした。

でも、面白がってたのも最初だけ。

すぐに問題も出てくる。

スイッチの仕様では、一緒に質量も増える様にしてある。

彼方さんがデカくなればなるほど、質量も増える。

彼方さんが、40mを越えた頃、お台場の地盤は沈下をはじめた。


彼方「ごめんね、璃奈ちゃん」


彼方さんは大きくなったから、動きがとっても緩やかだ。

喋り方も、たいそう間の抜けた、ゆっくりなものになる。


璃奈「ううん。私が悪いんです。こんな致命的なバグを放置してたなんて」

彼方「彼方ちゃん、この先どうなっちゃうんだろう...?」

璃奈「....それは」
 
35: (らっかせい) 2022/10/01(土) 23:57:39.42 ID:0EWxBmAf
璃奈「(スイッチの使用回数と伸び方は、個人差はあれど、比例の振る舞いを見せている」

璃奈「(スイッチのカウントの回数と、この比例から...)」

璃奈「(計算すると、彼方さんはこの後5,211kmまで巨大化する)」

璃奈「(月の直径は3,474km....月より大きい)」

璃奈「(そんな物を、地球に置いておける筈がない)」

璃奈「(どうしよう)」

彼方「璃奈ちゃん?」

璃奈「はっ!?」

璃奈「大丈夫、絶対なんとかして見せるから!」
 
40: (らっかせい) 2022/10/03(月) 23:07:38.71 ID:CeBRgiGo
「ピー ピー ご注意ください」

大きなトラックが10台以上。散水車も来ている。

彼方さんの身長は、60mを超えていた。


彼方「璃奈ちゃん、これは何?」


ウィスパーボイスであっても、地鳴りのように声が響く。

彼方さんが、少し揺れる度、肩からパタパタと鳥が飛ぶ。


璃奈「彼方さん、あのね」

璃奈「これからの計画を説明しようと思う」

璃奈「あのね、実はね...」
 
41: (らっかせい) 2022/10/03(月) 23:14:53.44 ID:CeBRgiGo
彼方「彼方ちゃん、宇宙へ行くの?」

璃奈「そう」

璃奈「彼方さんの身長がもとに戻るのは、この先何年後・いや、何百年・何千年後になるかもしれない」

璃奈「それまで、ずーっと、宇宙で待って貰う計画」

璃奈「彼方さんは、一人で孤独に耐えなきゃいけないんだけど...」

璃奈「ご家族にも...遥ちゃんにも、計画を話してあります」

彼方「そっかぁ」

彼方「うん、宇宙かぁ」

彼方「.....」

彼方「彼方ちゃん、特待生だからね。数学は苦手だけどね、単純な計算なら出来るんだ」

彼方「私、知ってるよ。この先、ものすごく大きくなるんでしょ?」

彼方「おっきくなるとね、みんなの声もよく聞こえるの」

彼方「時々...時々ね」

彼方「遥ちゃんがね、泣いてるの。お姉ちゃんが大きくなちゃったって」

彼方「だからね...」

彼方「みんなの為にもね、遥ちゃんの為にもね。宇宙に行くのは、賛成なんだ」
 
42: (らっかせい) 2022/10/03(月) 23:22:04.58 ID:CeBRgiGo
彼方「計画は何日後?」

璃奈「3日後。とっても急だけど」

彼方「そっかぁ。遥ちゃんと、ニジガクのみんなに会えるのは、後3日かぁ」

璃奈「彼方さん、宇宙に行く前の準備なんですけど」

璃奈「はじめに、熱いお茶を飲んで欲しいです」

璃奈「沼津産の熱いお茶を飲むと、水中の中でも息が出来る事が確認されています」

璃奈「それを応用して、真空状態でも、酸素を作り出せるお茶の開発に今回成功しました」

彼方「おぉ~」

璃奈「後は、長い間、食事をしなくても良くなる、神田産高エネルギーおにぎり」

彼方「おぉ~」

璃奈「お茶は散水車を使って、おにぎりはトラックを使って食べてください」

彼方「ありがとうねぇ。ありがとうねぇ」



パクパク ごくごく
 
44: (らっかせい) 2022/10/03(月) 23:32:47.14 ID:CeBRgiGo
~彼方ちゃんの出発前夜~

ランジュ「とっても優しい彼方へ」

ランジュ「ずーっと会えなくなるのは寂しいわ」

ランジュ「彼方は身長がおっきくなってしまったから、大きくなった分だけ、ゆっくり時間が流れるんですってね」

ランジュ「つまり、私達より長生きだし、この先1年を1秒の様に感じる瞬間があるってことね」

ランジュ「アタシがおばあちゃんになっても、彼方は高校生のままだなんてずるいわ」

ランジュ「でも、アタシは、おばあちゃんになっても彼方の事忘れないわ。彼方も、1年が1秒の様に感じる瞬間になっても、アタシ達の事、忘れないでね」

彼方「忘れないよぉ」メソメソ


彼方さんの目から涙が流れた。

普通の身長なら、かわいい涙だっただろう。乙女の涙だっただろう。

しかし、身長が80mに達した今、彼方さんの涙はゲリラ豪雨だ。



ミア「こら彼方!泣くんじゃないよ!更に地盤沈下しちゃうだろ!?」

栞子「ミアさん、こんな時までなんて事を!」

彼方「およよよ~」
 
45: (らっかせい) 2022/10/03(月) 23:38:54.41 ID:CeBRgiGo
同好会1人1人の送別の言葉が終わり、最後は遥ちゃんに移る。


遥「お姉ちゃん!」

遥「お姉ちゃん、宇宙に行ったら、絶対地球に戻ってきてね」

遥「絶対だよ。宇宙は広いから、どこか遠くへ行っちゃだめだよ」

彼方「わかってるよぉ」

遥「もし...もしお姉ちゃんが遠くへ行っても」

遥「お姉ちゃんが、広い宇宙で迷子になっても、私絶対探しに行くから!」

遥「約束だから」小指を出す

彼方「....うん」小指を出す


小さな小指と、人間の背丈もあるような小指が重なる。



ちょん!



指切りげんまん♪
 
46: (らっかせい) 2022/10/03(月) 23:51:19.10 ID:CeBRgiGo
発射まで5秒前...3・2・1!

発射!



彼方さんの腕に括りつけた、璃奈ちゃんスーツ30体が一斉に飛び立つ。

璃奈ちゃんスーツは1億馬力。彼方さんの身体なんて、ひとっ飛びで宇宙へ連れ出す。

大きな彼方さんが宙に浮かぶ姿は、さぞかし滑稽だっただろう。

パンツだって丸見えで、下品なスポーツ紙は表紙に彼方さんのパ〇〇ラを印刷した。


彼方さんは、地球の引力に捕まえられて、しばらくは地球の周りをぐるぐるしていた。

下品なスポーツ紙は、これまた彼方さんのパンツを激写し、月と並べて、お月見ならぬパンツ見の会を開いていた。



でも...でも....


些細な事から歯車は狂い出す。


彼方さんの手よって、この後、人類は、崩壊した。
 
54: (らっかせい) 2022/10/05(水) 21:31:28.81 ID:E/BgbWtu
トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン

トン ツー トン

トン ツー トン トン トン

ツー トン トン

ツー ツー

璃奈「こちら、EH 聞こえますか?聞こえますか?」

彼方「こちらMN聞こえています。おはよう」

璃奈「原宿技巧の信号機は問題はないですか?」

彼方「全然。むしろいいくらい」

璃奈「それはよかった」

璃奈「彼方さん、今日は何かありましたか?」

彼方「ううん、何にも。今日もずーっと寝てたかなぁ」

璃奈「たまには彼方さんの方から連絡をください」

彼方「んにゃぴ。気が向いたらね」
 
55: (らっかせい) 2022/10/05(水) 21:39:29.19 ID:E/BgbWtu
璃奈「彼方さん、不便だと思う事はありますか?」

彼方「んー」

彼方「時々、なんだけど...」

彼方「彼方ちゃん、とっても大きくなっちゃったでしょ」

彼方「ゾウとかそうだけど、大きな動物は、成長速度がゆっくりになるんだってね」

彼方「成長はゆっくりになるんだけど、認知する時間はその逆で、一瞬になってしまう」

彼方「でね、何が言いたいかって言うとね」

彼方「彼方ちゃんが瞬きをしている間に、体の周りに、ゴミが沢山ひっついている事があるの」

彼方「これ、何かなぁ?」

璃奈「うーん、なんだろう?」

璃奈「今のところ、何が彼方さんにひっついているのかわからないです。望遠鏡で覗きたいので、今の大体の座標を教えてください」

彼方「そうだねぇ、今はね、トロヤ群あたりかなぁ」

璃奈「了解です」
 
56: (らっかせい) 2022/10/05(水) 22:08:00.62 ID:E/BgbWtu
璃奈「どれどれ...彼方さんは」

璃奈「いた。でも寝てる」

璃奈「ひっついてるって、どういう意味だろう?」

璃奈「....ん?」

璃奈「小さな岩石の塊と...ん?」

璃奈「...スペースデブリ?」

璃奈「待って、こんなの、計算式にない」

璃奈「彼方さんの身長の伸びるスピードと、小さな岩石が引っ付くスピード」

璃奈「それは、彼方さんの活動ペースでは問題なく振り払える様調整出来るけど」

璃奈「スペースデブリ...これは予想出来なかった。地球の周りだけだとつい思ってたけど、あんな遠くまで漂っているなんて」

璃奈「このまま大きくなり続ければ、彼方さんが、磁力だって引力だって重力だって持つ様になってしまう」

璃奈「どうしよう...どうしよう」
 
57: (らっかせい) 2022/10/05(水) 22:20:09.19 ID:E/BgbWtu
その当時の私の財力と、知力では、璃奈ちゃんスーツの様な片道切符の宇宙船しか作れなくて。

彼方さんのいる、トロヤ群まで、往復可能な宇宙船の開発ばかり考えていたんだ。

もうちょっとだけ、私に勇気とちょっとの人類愛が有れば、皆死なずに済んだのかもしれない。

彼方さんが月と同じ大きさになった頃、彼方さんは引力と磁力を持ち始めた。

引力は潮の満ち引きと関係がある。

つまり、彼方さんが潮の満ち引きを司っているのと同じで、潮汐力は4倍になった。

海水面の水位が変われば、熱帯のマングローブは死滅するし、寒帯近くの海岸では、水没林だって出てくる。

草木の植生が死ねば、そこに住む生き物の生態系が変わる。

生態系が変われば生き物の生き方も変わる。

大気も影響を受け、雨水の侵食作用で地形も変わった。


かつてないバタフライ効果で、人類は簡単に絶滅の危機に直面した。
 
63: (らっかせい) 2022/10/07(金) 23:26:39.25 ID:BgFYxy6E
国営ラジオ放送「おはようございます。朝のニュースです。第二の月誕生の余波により、消滅したオセアニア並びにミクロネシアからの難民の補助とエクソダスについて、政府は...」

璃奈「....パチリ」

璃奈「おはよう」

立てかけられた虹ヶ咲メンバーの集合写真「....」

璃奈「みんな、おはよう」

遥「おはようございます」

遥「調子はどう?」

璃奈「うん、特に拒否反応とかは出てないみたい」

遥「よかったぁ。所で、小型ロケットの開発についてなんだけど」


歴史学の中で、インシデントに名前が付くように。

考古学の中で、何かの痕跡に名前が付くように。

彼方さんの事件には「第二の月」と言う名前が付き、余波には「エクソダス」と言う特定の表現が現れ始めた。
 
66: (らっかせい) 2022/10/09(日) 00:11:36.98 ID:o8cTilwX
ウィーン...ウィーン...

璃奈「左腕、感度良好」

にぎにぎ

璃奈「右腕、問題なし」


SF作品の中では、高位の存在が人類の存在を脅かすと、一致団結して描かれる。

エクソダスは巨悪ではなかったけど、人類共通の解決問題だったはずなのに。

残された資源・海水面上昇の領土消失・人口減少と国力の低下。

それに伴う紛争・戦争の勃発。

トマス・ホッブズがリヴァイアサンの中で予想した通り、人間は本質的に利己的な動物だ。

自分のやりやすいだけを求めて、やさぐれてしまって、度量衡や貨幣経済なんて、機能を停止してしまった。



ジャンク品や廃品を寄せ集めて、戦争で失った左半身をちぐはぐな機械に置換する。


璃奈「.....遥ちゃん」

遥「うん、今日は尾翼の調整だね」


ジャンク品をさらにかき集めて、叩いて、溶接する。
 
67: (らっかせい) 2022/10/09(日) 00:17:48.95 ID:o8cTilwX
遥「お姉ちゃん、今何してるんだろうね?」

遥「原宿技巧は、宇宙空間でも1万年は通信可能だって言ってたけど」

璃奈「....彼方さんが、月の1.5倍の大きさになった頃から、通信が途絶えてる」

璃奈「....」


トンテンカン トンテンカン


遥「約束だからね」

トンテンカン トンテンカン

遥「宇宙は広いけど」

トンテンカン トンテンカン

遥「お姉ちゃんに、絶対に会いに行くから」

遥「ロケット作って、探しに行くから!」

トンテンカン トンテンカン
 
75: (らっかせい) 2022/10/11(火) 22:48:13.04 ID:OCwtYF9r
エクソダス。

それは、はじめ、旧約聖書における出エジプト記を指す言葉だった。

そこから転じて、国外へ移り住むこと、母国へのネガティブなイメージを抱いた海外移住を意味し、第二の月以降は国外脱出の意味へと転化した。


遥「わたしはひとりの使いを使わして、あなたに旅立たせ、その他の人々を追い払う」

遥「あなたがたは乳と蜜の流ながれる地ちにのぼりなさい」

遥「しかし、あなたがたは、かたくなな民たみであるから、わたしが道であなたがたを滅すことのないように、あなたがたのうちにあって一緒いっしょにはのぼらないであろう」

璃奈「旧約聖書の一文だね」

遥「うん、半分アレンジ入ってるけど」


完成したロケットを2人で見上げる。

エクソダスが国外脱出なら、地球から脱出する事は一体何ていうんだろうね?


遥「璃奈ちゃんに会えるのも、これで最後だね」

璃奈「うん。私はきっと、機械も体になってるだろうから、寿命とか気にしないで。寂しくなったら帰ってきて」
 
78: (らっかせい) 2022/10/12(水) 23:35:43.32 ID:Kgg1Yfgx
遥ちゃんが出発する日、その日はまんまるお月様が宇宙に昇っていた。

月と、彼方さんと、トロヤ群のいくつかの小惑星が地球に一度に接近する日で、ロケットを飛ばすにはちょうどいい。


遥「月が、綺麗だね。お姉ちゃんも、真っ直ぐ、綺麗にはっきりと見える」

璃奈「告白?」

遥「ううん。これは私の意思表示...。宇宙へ旅立って、お姉ちゃんのところに行くの」

遥「片道切符だっていい。コールドスリープだって乗せてある。何日でも、何年でも、何千年でも」

遥「璃奈ちゃん。発射準備と、お姉ちゃんの通信頼める?」

璃奈「任せて」

遥「これで最後だね。お姉ちゃんに、絶対会いにいく」

遥「でも、地球に戻ってくる時もあるかも。よろしくね」

璃奈「うん、よろしく」
 
79: (らっかせい) 2022/10/12(水) 23:40:23.11 ID:Kgg1Yfgx
トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン

トン ツー トン

トン ツー トン トン トン

ツー トン トン

ツー ツー

璃奈「こちら、EH 聞こえますか?聞こえますか?」

「..........」

璃奈「繰り返す。こちらEH 聞こえていますか?」

「..........」

璃奈「もうすぐ遥号が地球を出発して、彼方さんを目指します」

「...........」

璃奈「彼方さん、また会えますね」

「...........」

璃奈「それでは、88」
 
84: (らっかせい) 2022/10/14(金) 23:05:52.13 ID:c2MuePQc
遥「....すう、はぁ」

璃奈「左脳とのコネクト、完了。これより打ち上げ最終段階に入る」


いよいよロケットを打ち上げようとしたその瞬間、遥ちゃんにカウントダウンをするまでの少しの間、月と彼方さんから目を離したその刹那。


彼方「パチリ、むくり」


今まで、うんともすんとも言わなかった彼方さんが突然目覚めた。


彼方「....」バキバキ


むくりと伸びる。身体についた小惑星の破片や、スペースデブリを薙ぎ払う。


彼方「....」すいすい


そらに映る彼方さんは、宇宙空間で平泳ぎをした。


璃奈・遥「なんだあれ?」


そのまま、月に近寄ると...そのまま、身体を大きく捻らせて。



彼方「....!!」バッコーン!



彼方さんは、月を、蹴り飛ばした。
 
85: (らっかせい) 2022/10/14(金) 23:10:33.64 ID:c2MuePQc
璃奈「あっ!あぁ!!」

璃奈「彼方さんが、起きた。起きたと思ったら、月に近づいて、蹴り飛ばした!」

璃奈「ただでさえ、地球の重力は狂ってしまったのに!月がなくなったら、もっと狂ってしまう!」

遥「璃奈ちゃん!」

遥「璃奈ちゃん、ロケットの発射は!?」

遥「宇宙空間には、摩擦がないから。月を蹴り飛ばしたお姉ちゃんは、反動でそのまま遠くへ逃げちゃう!」

璃奈「えーっと、えーっと!」

璃奈「今再計算中...あっ!!」

璃奈「このまま重力が完全に狂ってしまう前に」

璃奈「地球を抜け出して。発射して」

璃奈「こんな別れになってしまうけど」

璃奈「遥ちゃん、お元気で」

遥「璃奈ちゃん、これまでありがとう。行ってくるね」

ロケット「ゴオオオオ!」
 
86: (らっかせい) 2022/10/14(金) 23:20:35.20 ID:c2MuePQc
彼方さんが月を蹴り飛ばした事により、地球の引力・月との均衡は完全に崩壊した。

第二の月事件が戦争や飢餓の引き金だった様に、この蹴り飛ばし事件はもまた、争いを生んだ。こうして人類は完璧に滅亡してしまった。

一部人類は、それでも逞しく生きて、遥ちゃんと同じように宇宙へ旅だったみたいだけど。

私はその人達の、その後を知らないから。


地球に残された人類は、今では私ただ1人。他の人類はいなくなっちゃったから、資源は使い放題。身体もロボットに置換されたから、研究し放題。


...でも、でも。
私はこの身体を、幸福だとは思わない。
人類滅亡のきっかけを作った人間が、長生きしてはいけないんだ。


せめて、せめて。

何事にも観測者が必要な様に。
私は、彼方さんと遥ちゃんの行く末を記録する観測者になろうと思う。

機械の身体に自戒を込めて。
時間の経過を罪と捉えて。


機械の身体のその先へ。
この石碑に、私の罰を刻もう。



🌟   🌟   🌟   🌟
 
87: (らっかせい) 2022/10/14(金) 23:26:05.87 ID:c2MuePQc
🌟   🌟   🌟   🌟


~時は戻って、彼方がスイッチを使った朝の事~

遥「お姉ちゃんが、大きくなった!?」

遥「なに!?何!?」

遥「公園に避難したけど、どう言うことなの!?」


しゅるしゅる

ピヨヨーン


彼方「あぁ!あぁ!」

遥「お姉ちゃん!どう言う事!?」

彼方「こ、これは!!その!璃奈ちゃんに貸してもらったスイッチで!」


しゅるしゅる

ピヨヨーン


彼方「また伸びてる!」

彼方「と、兎に角、身長が伸びちゃうの!!」

彼方「スイッチのせいで伸びちゃうの!!」
 
94: (らっかせい) 2022/10/16(日) 22:05:28.12 ID:LTksmbDd
お姉ちゃんが大きくなった。

なんだかよくわからないけど、見栄を張りたかった事が原因だった。


遥「お姉ちゃん、寒くない?」

彼方「うん、大丈夫だよぉ~」

遥「おうちから、ありったけの毛布持ってきたからね。寒くなったら遠慮しちゃだめだよ?」

彼方「全然。大丈夫だって」

彼方「それよりも、さぁ...」

彼方「こんな所、見られて大丈夫なの?」

彼方「最近、私のこと、写真撮る人多いじゃん」

遥「それは....それは....」
 
95: (らっかせい) 2022/10/16(日) 22:16:41.77 ID:LTksmbDd
お姉ちゃんは現代っ子には恰好の暇つぶしになった。

成長?するお姉ちゃんを、みんなこぞってSNSに投稿し始めた。

テレビは、プライバシーの侵害だとかで取り上げなかったけど、そんなの気にしない週刊誌は...


遥「そんな事ないよ?大丈夫だよ」

遥「お姉ちゃんは、何があっても私のお姉ちゃん。家族なんだから」

遥「....うん」


「守るよ」って言いかけたけど、口籠る。

そういえば、最近、学校の子達が話しかけてくれなくなったんだよね。

お姉ちゃんと関連してなければいいんだけど。


遥「あっ、もうこんな時間だ!」

遥「バイバイ、お姉ちゃん」

彼方「バイバイ。おやすみ」
 
96: (らっかせい) 2022/10/16(日) 22:24:59.62 ID:LTksmbDd
【お台場の巨大女の家族構成判明!!】


次の日の朝は、もう目紛しい日だった。

三流週刊誌が私達の家族構成をすっぱ抜いて、お姉ちゃんと私の、過去のアイドル活動ある事ない事書いて、お母さんと...それとお父さんの話まで。


母「私達がなにしたって言うのよ!!」

母「悪いのは、あんなスイッチ作った人間でしょ!」

遥「そんな事言わないで。誰も悪くないよ。ただちょっと、ボタンの掛け違いで」

母「終わりよぉ。もうこの家族は解散。終わり」

遥「そんな事言わないで。ね?ね?」


それからと言うものの、学校では無視される、物を投げられる。
ポストには脅迫の手紙が届く....

私はそれでもお姉ちゃんを思っていたけど、お母さんは疲れ切っていた。
 
97: (らっかせい) 2022/10/16(日) 22:46:51.35 ID:LTksmbDd
「おじゃまします」バタン

璃奈「彼方さんについて、お話があります」


お姉ちゃんの解決方法を探してきてくれたであろう璃奈ちゃん
に、こんな時でもお母さんは睨みを効かせた鋭い視線を送る。


母「....」

遥「なんでしょうか?」

璃奈「はっきり、結論だけ言うと」

璃奈「この先、彼方さんは木製の衛星ガニメデと同じぐらい5,211kmまで巨大化します」

璃奈「そこで提案なのですが」

璃奈「彼方さんを宇宙についれていこうと思うのです」
 
103: (らっかせい) 2022/10/18(火) 23:39:28.20 ID:Grx3x6rM
璃奈ちゃんの計画は、私達では全然理解できない壮絶なものだった。

璃奈ちゃんスーツ?まずそれからわからない。昔、体育祭の時に何かあったような...


遥「とどのつまり、お姉ちゃんと一緒にいれる時間は少ないんだね」

璃奈「うん。お茶の開発・おにぎりの準備・原宿技巧との連帯。あと一週間」

母「...それがかなちゃんにとって、最善の手なの?」

璃奈「....」

璃奈「はい。今のままでは、地球に止まる事は出来ません」

璃奈「地球から脱出させてあげる事が最善です」

母「...そう」


お母さんは、どこかほっとした様な、それでもどこか諦めた様な、複雑な顔をしていた。
 
104: (らっかせい) 2022/10/18(火) 23:46:24.01 ID:Grx3x6rM
お姉ちゃんは大きくなり続ける。

ゾウやクジラが大きくて、その分寿命が長いのと同様に。
お姉ちゃんが大きくなればなるほど、寿命も伸びる。

私達が歳を取っても、お姉ちゃんはずーっと生き続ける。

それは、お姉ちゃんの瞼の瞬き一瞬が、私達の寿命と同じになる時が来ると言うことらしい。


遥「...」

遠くからお姉ちゃんを見つめる。

遥「....うるうる」

遥「......ずびっ」

遥「....お姉ちゃんが、大きくなっちゃった」

遥「...大きくなって、もうずっと会えない」


帰り道一人になってズビズビと泣く。

そのうち人目が気になり出して、近くの公園のドームの中で、一人で泣いた。


遥「...別れたくなんてないよぉ」

遥「ずっと一緒にいたいのに」

遥「同じ時を過ごしてたいのに」
 
105: (らっかせい) 2022/10/18(火) 23:55:21.63 ID:Grx3x6rM
泣いても喚いても明日はやってくる。

とうとう、お姉ちゃんの地球脱出の日がやってきた。


遥「お姉ちゃん」

彼方「なあに?」

遥「離れていても、姉妹だよ」

遥「ずっとお姉ちゃんの事、想ってる」

彼方「私もおんなじ」

遥「お姉ちゃん、宇宙に行ったら、絶対地球に戻ってきてね」

遥「絶対だよ。宇宙は広いから、どこか遠くへ行っちゃだめだよ」

彼方「わかってるよぉ」

遥「もし...もしお姉ちゃんが遠くへ行っても」

遥「お姉ちゃんが、広い宇宙で迷子になっても、私絶対探しに行くから!」

遥「お姉ちゃんにとって、一瞬でも、私にとって、永遠になっても。必ず、会いに行くから」

遥「約束だから」小指を出す

彼方「....うん」小指を出す



本当はね、ゆびきりげんまんしたかったんだけど。

大きすぎるから、出来ないや。

姉妹の背中は大きいとはよく言ったものだけど。


遥「大きすぎだよぉ、お姉ちゃん」
 
106: (らっかせい) 2022/10/18(火) 23:58:29.31 ID:Grx3x6rM
ゴオオオオオ!

爆音を轟かせながら、璃奈ちゃんスーツ30体が一気に加速する。


彼方「ばいびー。ばいびー」

遥「戻ってくるって約束したのに、ばいびーはないでしょ」


吊り上げられたお姉ちゃんは、パ〇〇ラ防止の黒パンツをこれでもかと見せながら、宇宙に登っていった。
 
109: (らっかせい) 2022/10/19(水) 22:08:01.60 ID:b3kacr2r
それからと言うものの、特に変わりもなく日々を過ごす。

お姉ちゃんは宇宙に浮いていた。

明るい時でも、暗い時でも、ゆっくり、月と同じスピードで、でも月よりはだいぶ小さかった。


トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン

トン ツー トン

トン ツー トン トン トン

ツー トン トン

ツー ツー


遥「こちらEH聞こえていますか?繰り返す。こちらEH」

彼方「こちらMN聞こえています」

遥「お姉ちゃん、遥だよ」

彼方「んにゃぴ、声でわかるよ」

遥「どう、今日は何かあった?」

彼方「うーん、そうだねぇ」
 
111: (らっかせい) 2022/10/20(木) 23:18:30.47 ID:UFOrZlOR
彼方「人間のゴミって凄いんだね。月の周りにもたくさん漂ってる」

彼方「ねえ、もしかしたら、宇宙は、地球の海と似ているのかもしれない」

彼方「地球の海は、海水で満たされていて、循環するのに4,000年かかるんだってね」

彼方「宇宙は広がり続けているけれど、人間の遺した遺物や、岩石、氷なんかも漂って」

彼方「めぐり巡って元あった場所に戻ってくるのかも」


お姉ちゃんは巨大になった。

だからその分、ゆっくり間延びした声で話す。昔も間延びした感じだったけど。


遥「お姉ちゃんは壮大な事を言うんだね」

遥「それにしても、スペースデブリはそんな所まで漂ってるんだ」

遥「ぶつからない様にね」

彼方「今私が何メートルあると思ってるの?スペースデブリなんてごま粒みたいなものだよ」

遥「そっか、そっか」
 
112: (らっかせい) 2022/10/20(木) 23:32:08.14 ID:UFOrZlOR
そのごま粒に悩まされるなんて、誰が想像できただろう。

宇宙空間では、岩石や氷は絶えず衝突を繰り返し、星として大きくなっていく。

大きくなっていったものは、さらに別の存在と衝突し...

それを繰り返して大きくなっていったのが地球だ。

その当時の地球にも、毎日たくさんの小惑星、星屑達が降り注いでいた。

でも、地球には、大気があるから、大気との摩擦に絶えきれない小さな星屑は、流れ星として散っていく。

一方で、お姉ちゃんは...

お姉ちゃんの周りには、沼津産お茶のお陰で、酸素の膜があった。

酸素の膜は、大気ほど厚くないから、スペースデブリはそのままお姉ちゃんにくっついた。

どんどん、どんどん大きくなって、お姉ちゃんは月と同じくらいの引力を持ち始めた。

異常事態を最初に察知したのは璃奈ちゃんだ。

でも、なかなか解決方法は見つからなくて....

お姉ちゃんが原因で、地球は次第におかしくなっていった。
 
113: (らっかせい) 2022/10/20(木) 23:40:26.72 ID:UFOrZlOR
璃奈「遥ちゃん、ご飯できたよ」

遥「ありがとう。お母さんも呼んでくるね」

璃奈「ごめんね。私、あんまり料理得意じゃないから、配給の缶詰を少しだけ加工したものしか作れなくて」

遥「ううん、気にしないで。シェルターに匿ってくれてるんだもん。文句は言えないよ」

母「はるちゃん、ご飯できたの?」

遥「お母さん!みんなでいただきます、しよ?」

3人「いただきます」


地球がお姉ちゃんのバタフライ効果を受け始めた頃から、お姉ちゃんとの通信が途絶えている。

初めは、磁場とか色々考えた。

でも、連れてきた青髪の原宿技巧の人曰く、

「機械にはなんの問題もない。お姉さんが通信を無視している以外あり得ない」
 
114: (らっかせい) 2022/10/20(木) 23:55:23.18 ID:UFOrZlOR
ラジオ「現在、カザフ~ウズベク間の緊張が高まっています」

ラジオ「その余波で、旧共産圏の国々は核の行使を避けるために....」


当時は世界各地で紛争が勃発していた。

紛争のせいで、物資の輸入に制限がかかり、資源の少ない日本では司法機関がまず弱体化し、治安が悪くなった。

そこに漬け込んで、エクソダスからの不正な移民が出入りして、実にカオスだ。

とりわけ、私達家族は、第二の月とエクソダスの直接的な原因の一部であるから、人から命を狙われたりする。

璃奈ちゃんは、みんなに秘密で私達の事を保護してくれた。


璃奈「このスープ、配給品だけど美味しいね」

母「ミネストローネ?なのかな?」

遥「ねえ璃奈ちゃん、今度、特殊マスク貸してよ。たまには外でお買い物して、料理を作りたいな」

璃奈「遥ちゃんと、遥ちゃんのお母さんの二人分でいい?」

遥「うん!ありがとう!」
 
115: (らっかせい) 2022/10/21(金) 00:07:28.69 ID:jBDxcPB+
璃奈「どこ行く?東の市場?」

遥「うん!お野菜がいっぱいある所。この前ジャンク品バラしたのと、タイヤで作ったサンダルが結構良い値で売れてね」

遥「ちょっと良いの買ってこようと思うの」

母「パプリカとか売ってないかしらね?私、パプリカ好きなの。色も綺麗だし、栄養あるし」

遥「じゃあパプリカね!シチューに入れちゃえ」


この時点で、空に黒い物体が映っていたらしい。

前述の通り、国力は低下していた。もし第二の月以前なら、もっと早くにアラートが鳴っていただろう。

ようやく鳴ったアラートに疑問を示す間もなく。


母「はるちゃん!危ない!」ドン!


空中の黒い物体は、閃光を撒き散らしながら炸裂した。
 
116: (らっかせい) 2022/10/21(金) 00:17:21.49 ID:jBDxcPB+
遥「ケホッ」

遥「な、なに?」パラパラ

遥「お、お母さん!!」

遥「瓦礫に、挟まってる!」

母「....うぅ」

璃奈「...いたぃ」

遥「璃奈ちゃんも!」

母「はるちゃん、よく聞いて」

母「私、もう助からないと思うの」

母「だって、頭からこんなに血が流れてるでしょ?それに、下半身も潰されてて、感覚がないの」

遥「やだよ!やだよ!!」

母「璃奈ちゃんを助けてあげて」

母「かなちゃんも、助けてあげて。絶対に、会いに行ってあげて」

母「ゆびきり、げんまん....」

遥「お願い、死なないで!今瓦礫退かすから!」

遥「ふん、ふん....動いて!動いてよ!!」

遥「.....やだよぅ」

母「はる...ゆびきり、ゆびきり」

遥「...ゆびきりげんまん」


ゆびきりげんまん 嘘ついたら針千本のます 指切った


母「.......」生気を失った目

遥「ヒック...ヒック」

遥「璃奈ちゃん、今助けるからね」
 
120: (らっかせい) 2022/10/22(土) 21:31:58.54 ID:jRaVnM/Z
璃奈ちゃんの傷は重く、ラボの溶媒液にしばらく浸かってもらっている。

こうすると、細胞が自己再生を起こして...とかよくわからないけど、傷が塞がってくるるんだって。

傷が治癒するまでの1年間、この溶媒液の中で療養する必要がある

ゆらゆらと揺れる璃奈ちゃん。

遥「....神秘的」

璃奈「.....」

遥「....あのね、璃奈ちゃん、私ね」

遥「ロケットを作ろうと思うの。宇宙のお姉ちゃんに会いに行きたいだ」

遥「今度の勝手に学術書借りてくね」
 
122: (らっかせい) 2022/10/23(日) 22:47:49.77 ID:jW7GluBC
遥「まずロケットってなんだろう?」

遥「宇宙第一速度?」

遥「物理学?ぶっつり、物理学...?」


ペラペラ.....


遥「溶接ってなんだろう?」

遥「とりあえず、光を直接見ちゃいけないんだね」


カキカキ


遥「これがバーナー?」

遥「火、どうやってつけるんだろう?」

ブオオォォォ!

遥「わっ!」

遥「あっつ!」
 
123: (らっかせい) 2022/10/23(日) 22:53:48.73 ID:jW7GluBC
トンチンカン!

トンチンカン!

カン!カン!


遥「デモで、小さなロケットを宙に打ち上げてみよう」

遥「この燃料の量と、風向なら、50m垂直方向に上がるはず」

遥「3、2、1、発射!」


ぴょん!


遥「あれ?」


フスフス....


遥「あれっ?これって、どこかに引火して...る...」

遥「逃げろ!!」


ロケット「パン!💥」


遥「ケホケホっ」

遥「道はまだまだ遠いよ....」
 
125: (らっかせい) 2022/10/24(月) 22:52:52.98 ID:W1n4HjE7
トンテンカン、トンテンカン。

部品を作るのも、バーナーを操作するのも、液体燃料を詰めるのも。

璃奈ちゃんが目覚めるまでに、作っては失敗しての繰り返し。

お陰でだいぶ上手に出来る様になった。


遥「よし...」

遥「アーム確認。神経回路接続良好」


私は研究者じゃないから、四六時中ロケットの事を考える事は出来なかった。

でも、空いた時間を使って、ジャンク品だけど、璃奈ちゃんの為に腕を作った。
 
126: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:00:18.80 ID:W1n4HjE7
ざっぱん!

培養管から水がコポコポと引いて行き、璃奈ちゃんが目覚める。


璃奈「....パチリ」

璃奈「おはよう、遥ちゃん」

遥「会うのは、久しぶりだね」

遥「おはよう、璃奈ちゃん」

璃奈「世界と、遥ちゃんの、調子はどう?」


璃奈ちゃんは起きたばかりだから、舌がよく回らない。

きっと頭もモヤモヤして、上手く働かないだろう。


遥「あのね、あの後、アフリカ同盟国っていうのが発足してね、そのあと、ヨーロッパ連合って言うのが出来てね....」


一生懸命、やさしい言葉で説明したけど、璃奈ちゃんに伝わったかな?


遥「それでね、私は、お姉ちゃんに空いに行くことにしたの」

遥「ロケットを使って」
 
127: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:05:55.77 ID:W1n4HjE7
璃奈ちゃんは、変えず、うんうんと頷いていた。

そのあと、眠たいと言って、ベッドへふらふらと入った。


遥「....」


宇宙を見上げる。

もはや月以上に大きくなったお姉ちゃんは、ただ何も言わずに、寝息をたてているのかわからない程静かに、宙に浮かぶ。


遥「待っててね。お姉ちゃん」


届きやしないけど、宇宙に向かって小指を突き出す。


遥「ゆびきり、忘れてないよね」

遥「たったひとりの、お姉ちゃんだもん」

遥「絶対、会いに行くから」
 
128: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:25:16.37 ID:W1n4HjE7
ねじねじ....


遥「たとえ人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも、愛がなければ、わたしは騒がしいどら、やかましいシンバル」

遥「信心と希望と、愛と。三つのものは語り尽くせない。もっとも大いなるものは愛」

璃奈「コリント人への手紙?」

遥「そう」

遥「愛ってなんだろうね。私のお姉ちゃんへの気持ちも愛なのかな?」

璃奈「....そうなのかもね」

璃奈「私達は、愛を知るには幼すぎる。愛を分けるにも不十分すぎる」

璃奈「愛がもうちょっと有れば、みんなは。人類は」

遥「.....ごめん」

璃奈「ううん、気にしないで」

遥「私、ケジメ付けに行くね。私の力じゃ、もう地球はどうにも出来ないけど....」

遥「お姉ちゃんと一緒に、長い時間を過ごそうと思う」

璃奈「私も、ずーっと地球で待ってる。遥ちゃんが、いつか帰ってくる日も。他の生命体が、地球の事見つけてくれるその日まで」

遥「これで、最後のパーツだね」

遥「璃奈ちゃん、今までありがとう」

璃奈「こちらこそ、腕とかありがとう」
 
129: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:28:59.02 ID:W1n4HjE7
遥「....すぅ、はぁ....」

遥「こちらコックピット、準備オーケー」

璃奈「了解。MNとの通信にこれより入る」


ツー トン....


璃奈「こちら、EH 聞こえますか?聞こえますか?」

璃奈「繰り返す。こちらEH 聞こえていますか?」

璃奈「もうすぐ遥号が地球を出発して、彼方さんを目指します」

璃奈「彼方さん、また会えますね」

「...........」

璃奈「それでは、88」


これからお姉ちゃんに会えるのだと思い、気分が高揚していた。

高揚しすぎていて、思いが一方通行なのかもしれないなんて事、すっかり忘れていたんだ。
 
130: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:31:57.30 ID:W1n4HjE7
彼方「パチリ...ムクリ」

彼方「...ぱきり」

彼方「すいすい」


遥「お姉ちゃんが、起きた?」

ロケットの窓越しにお姉ちゃんを注視する。

お姉ちゃんは、そのまま、月まで平泳ぎをして....


彼方「バッコーン!」


お姉ちゃんが月を蹴った。
 
131: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:35:23.54 ID:W1n4HjE7
彼方「....ふらふら」

遥「璃奈ちゃん!!」

遥「宇宙空間には、摩擦がないから。月を蹴り飛ばしたお姉ちゃんは、反動でそのまま遠くへ逃げちゃう!」

璃奈「えーっと、えーっと!」

璃奈「今再計算中...あっ!!」

璃奈「このまま重力が完全に狂ってしまう前に」

璃奈「地球を抜け出して。発射して!」

璃奈「こんな別れになってしまうけど」

璃奈「遥ちゃん、お元気で」

遥「璃奈ちゃん、これまでありがとう。行ってくるね」

ロケット「ゴオオオオ!」
 
132: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:45:06.96 ID:W1n4HjE7
なんて無理矢理な別れなんだろう。

涙が流れていた。Gに耐えての涙なのか、璃奈ちゃんとの別れの涙なのか、お姉ちゃんに会えなくなっちゃった涙なのか、よくわからなかった。

気持ちの整理も全然つかなくて、時間がどれくらい経ったのか、初めはわからなかった。


遥「青い...暗い....」


はじめに地球は青かったって言った人、誰だっけ?

ロケットが地球の周りを何回かぐるぐるし始めて、ようやく気がついた。

気がついたら、今度は体がふわふわし始めた。

ジュースが目の前に浮いている。

掴もうとするけど、ジュースも自由に動き回る。


遥「わぁ、わぁ」


お姉ちゃん、こんな状況でずーっと過ごしてたんだね。

お姉ちゃんの事、なんだか見直しちゃった。



宇宙船遥号はこのようにして航海を始めた。

お姉ちゃんに逢えるかは、まだわからないけど....
 
133: (らっかせい) 2022/10/24(月) 23:49:48.95 ID:W1n4HjE7
🌟  🌟  🌟  🌟


誰がこんなんになるって予想できた?

私は、ちょっとだけ身長伸ばしたかっただけなのに。


メキメキメキ.....


家の床が悲鳴をあげる。

しまった!質量が!!


彼方「遥ちゃん!ベランダ開けて!」

遥「えっ?えっ?」

彼方「いいから早く!!」


ガラガラ....


彼方「ほいさっ!」ピョーン



それから、近くの公園に避難して....

どうしよう。これから、彼方ちゃんはどうなっちゃうんだろう?
 
138: (らっかせい) 2022/10/26(水) 22:22:40.44 ID:nd6S1Wi2
ピヨヨーン!

彼方「わぁ、わぁ!」

身長はどんどん伸び続けた。

伸びる身長と焦る心。

彼方ちゃんのBPMは190になったぞ!


彼方「どうしよう、どうしよう」

彼方「とりあえず、しゃがんで、このままやり過ごして」

彼方「....」

彼方「お願い...お願い...」
 
143: (らっかせい) 2022/10/29(土) 15:27:52.32 ID:B6Oai8wt
おめめをぎゅーって瞑る。

身体もなるべく小さく見えるように丸めて。

背が伸びなかった頃は、よく寝ていたから、寝てるだけに見えるのかな?

それでも、時々暇になって目を開けて、また瞑ってを繰り返した。


彼方「...」むむむ


実は、大きくなってしまった弊害がいくつかあって、耳がよく聞こえるようになった。


猫の耳は遠くの音を聞くためにあんなに大きいんだって。

人間の耳も、そこそこ高性能で、高性能がそのまま大きくなったら?

大きなパラボナアンテナが沢山の音を捉えるように、大きくなった私の耳も、たくさんの音を捉え始めた。
 
144: (らっかせい) 2022/10/29(土) 15:31:29.62 ID:B6Oai8wt
....パシャリ!

ピ口リン!



彼方「(またか....)」

カメラのシャッター音が沢山聞こえる。

多分、私の事を写真か何かに撮ってるんだ。

不埒なやつらめ。彼方ちゃんがそのままの大きさだったら今頃警察に突き出してるんだからな!


...ヒック、...ヒック


彼方「(遥ちゃんの声!?)」

彼方「(どうして泣いているんだろう?)」
 
145: (らっかせい) 2022/10/29(土) 15:40:14.26 ID:B6Oai8wt
遥「お母さん、そんな事、言わないで」

母「どうするのよ!ねえ!私達!どうすればいいのよ!」

彼方「(.....あっ)」

彼方「(...うるうる)」


時々、お母さんと遥ちゃんが喧嘩をしている。
原因はわかってる。私だもの。


彼方「ぐすん」


遥ちゃんが持ってきてくれた毛布をハンカチ代わりにして泣く。

ごめんね。ごめんね。

初めから見栄を張らなければ、こんな事にならなかったんだ。
 
150: (らっかせい) 2022/10/31(月) 22:26:31.96 ID:WsxGIA6p
人間の耳、彼方ちゃんの身長が伸びる毎に、高性能パラボナアンテナは、更に純度を増していき...


コソコソ....コソコソ....


自分が、雑踏の中で1人立ち尽くしている気分だった。

ずっと誰かの話し声が聞こえる。


彼方「....気になって、寝れない」

彼方「......それでも、無視するしかない」


このあたりかな、だんだん心が沈んでいったのは...
 
151: (らっかせい) 2022/10/31(月) 22:31:59.14 ID:WsxGIA6p
璃奈「...さん!」

彼方「...ZZZ」

璃奈「彼方さん!」

彼方「んにゃぴ?」

彼方「何だぁ、璃奈ちゃんか」


雑踏の様な中にいては、誰か私を呼びかける声も、うまく聞こえない。


璃奈「彼方さん、お話があります」


ピー ピー ご注意下さい


彼方「璃奈ちゃん、これは何?」

璃奈「彼方さん、あのね」

璃奈「これからの計画を説明しようと思う」

璃奈「あのね、実はね...」

璃奈「彼方さんをこれ以上地球に留める事は不可能」

璃奈「宇宙へ、行きませんか?」
 
152: (らっかせい) 2022/10/31(月) 22:41:52.05 ID:WsxGIA6p
宇宙かぁ...宇宙。

人間の話し声から逃げられるなら、宇宙も悪くなさそうだなぁ。


彼方「計画は何日後?」

璃奈「3日後。とっても急だけど」

彼方「そっかぁ。遥ちゃんと、ニジガクのみんなに会えるのは、後3日かぁ」


おうおう、なんだなんだ。

このお茶ってのが宇宙でも息が出来る様になるもので、おにぎりってのが、食べなくてもいい様になるんだね。

ふむふむ、モグモグ...

美味しかったぜ。余は満足じゃ...
 
153: (らっかせい) 2022/10/31(月) 22:48:34.93 ID:WsxGIA6p
世界一静かな部屋の中に居ると、自分の心臓の鼓動が邪魔になるって言うけど...

他人のノイズの中では、自分が何を喋っているのかが時々わからなくなる。

わからなくなって、ぼんやりして、また話しかけられて。


遥「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

彼方「はっ!」

遥「お姉ちゃん、私だよ。遥だよ」

遥「お姉ちゃん、大きくなったから、神経回路も長くなって、反応するのが少し遅いのかな?」

彼方「そうかもねぇ」

彼方「遥ちゃん、今日は何があったの?」

遥「あのね、あのね」
 
154: (らっかせい) 2022/10/31(月) 22:54:03.30 ID:WsxGIA6p
カモメ「キャア!キャア!キャア!」


肩に留まったカモメの鳴き声で、朝が来たのだと気づく。

あっ、この野郎、彼方ちゃんの髪の毛に巣を作ろうとしているな!

ちょっと脅して....脅して....

カモメって、こんなに、砂粒みたいに小さかった?

逆を返せば、私は、こんなに大きくなってしまった?


彼方「あぁ...あぁ...」

恐ろしさが後からやってくる。

怖くなっても、今日は宇宙に行く日だぞ。

怖くなったって、何も変わらないぞ。
 
155: (らっかせい) 2022/10/31(月) 23:00:09.78 ID:WsxGIA6p
宇宙への怖さではなく、自分への怖さでドキドキする。

あっという間に、送別の言葉の時間になった。



遥「お姉ちゃん」

彼方「なあに?」

遥「離れていても、姉妹だよ」

遥「ずっとお姉ちゃんの事、想ってる」


遥ちゃん、泣かないで。


彼方「私もおんなじ」

遥「お姉ちゃん、宇宙に行ったら、絶対地球に戻ってきてね」

遥「絶対だよ。宇宙は広いから、どこか遠くへ行っちゃだめだよ」

彼方「わかってるよぉ」

遥「もし...もしお姉ちゃんが遠くへ行っても」

遥「お姉ちゃんが、広い宇宙で迷子になっても、私絶対探しに行くから!」

遥「お姉ちゃんにとって、一瞬でも、私にとって、永遠になっても。必ず、会いに行くから」

遥「約束だから」小指を出す

彼方「....うん」小指を出す


とりあえずの作戦で、宇宙に逃げ出そうと思うけど....

この先、どうなってしまうんだろう?

本当に、戻って来れるのかな?
 
156: (らっかせい) 2022/10/31(月) 23:02:34.88 ID:WsxGIA6p
璃奈「彼方さん、腕を前に出して下さい」

彼方「了解だよぉ~」

璃奈「璃奈ちゃんスーツ、出動!」

璃奈ちゃんスーツ「ウィーン ウィーン」

璃奈「璃奈ちゃんスーツ、発進!」


ゴオオオオオ!!


彼方「ばいび~、ばいび~」


時々、執着は愛だって言う人、いるけどさ。

自分勝手な事言うと、地球への愛着って、この時、薄れて居たのかもね。
 
161: (らっかせい) 2022/11/02(水) 22:32:31.40 ID:WybfgnpC
大気圏を抜ける間、ちょっと熱かったのを覚えてる。

だから踏ん張る為にぎゅっと目を瞑っていた。

成層圏に入ったって、璃奈ちゃんから通信が入った時は、逆に寒くなった。

カーディガン着たまま大きくなってよかったなぁって思っていた。この時もずーっと目を瞑っていた。


トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン

トン ツー トン

トン ツー トン トン トン

ツー トン トン

ツー ツー


彼方「!!」パチリ

彼方「通信の音だ。出なきゃ」

璃奈「こちらEH聞こえていますか?」

彼方「こちらMN、聞こえています」

璃奈「彼方さん、宇宙はどうですか?」

彼方「宇宙....?宇宙...あっ!」
 
162: (らっかせい) 2022/11/02(水) 22:38:31.00 ID:WybfgnpC
「あの小さくてきれいな青いエンドウ豆のようなものが地球であることに衝撃を受けました」

「親指を立て片目を閉じると、親指が地球を覆い隠しました。自分が巨人になったとは思えなかった」

「逆にとてもとても小さな存在に感じたのです」


最初に月に降り立った人類、アームストロング船長の言葉が瞬時に湧き出てきた。

蒼い美しい星が、漆黒の中に浮いていた。

今は私の方が随分と小さいから、エンドウ豆のサイズではなかったけど...

いや、待てよ。地球の民から見れば、彼方ちゃんがエンドウ豆な訳で。
 
163: (らっかせい) 2022/11/02(水) 22:46:04.11 ID:WybfgnpC
彼方「璃奈ちゃん!璃奈ちゃん!地球は青かった!」

璃奈「ガガーリン?」

璃奈「何はともあれ、彼方さんが元気そうでよかった」

璃奈「このまま時間をかけて、ラグランジュポイント付近に行って貰います」

璃奈「それまで、璃奈ちゃんスーツがお供します」

彼方「了解」


璃奈ちゃんスーツに引っ張られる。

体を動かしてないのに引っ張られていく感じが不思議だった。
 
165: (らっかせい) 2022/11/03(木) 22:00:17.44 ID:9alKSySH
ラブライブ?ポイントだっけ?

月と地球の引力の均衡が取れているポイントのことなんだって。


璃奈「プロジェクト、完了」

璃奈「璃奈ちゃんスーツ達へ告ぐ。帰投せよ」

璃奈ちゃんスーツ「プシュ!」


私の腕から縄が外されて、璃奈ちゃんスーツ達のエンジンから青い炎が噴射しする。

ヒューッと、光の尾を引きながら、璃奈ちゃんスーツ達は地球へ引き返していった。

後はスペースデブリとして地球と月の間を漂うんだって。


彼方「はぁ....来ちゃったよ、宇宙」


想像以上に何もない所だった。

私以外の声は聞こえない。何故なら、振動を伝えてくれる存在、すなわち空気が私の周り以外にはないからだ。

独り言と、通信だけが頼りになる。
 
166: (らっかせい) 2022/11/03(木) 22:12:32.95 ID:9alKSySH
上も下もない自由。

くるくる回ったり、日当たりの良い場所に行きたい時は息を使う。

彼方「ふぅ~!」

小惑星探査機はやぶさのエンジンは、地上では1円玉を動かすのがやっとなぐらい、小さくて弱い物だった。

でも、はやぶさは、そんな小さなエンジンであるにも関わらず、60億kmのボヤージュを完遂した。

垂直抗力とか難しい事わかんないけど、宇宙では、ほんのちょっとの力で、どこまでも進み続ける。

彼方ちゃんもそれを応用して、ほんのちょっとのため息を使って移動する。

時々加減を間違えて、超絶スピンの彼方ちゃんが出来上がるけど....

なんだか、顕微鏡で見た微生物を思い出すなぁ。

ゾウリムシとか、ミジンコとか、色々動き回っていたけど、あれもこんな感じだったんだろうな。
 
167: (らっかせい) 2022/11/03(木) 22:26:24.70 ID:9alKSySH
彼方「うーん、はじめての宇宙、やる事ないなぁ」

彼方「そういえばさ、私、時計持ってないし」

彼方「現地時間とか考えずに、いきなり通信入れるのってなんか失礼だと思うの」

彼方「それに疲れたし...今日はもう寝ちゃえ~」

彼方「スヤピ.....」


宇宙での寝心地はそうだなぁ、全身何も接着する面がない感覚を味わった事がなかったからね。

不思議でふわふわした感覚だったんだ。
 
174: (らっかせい) 2022/11/06(日) 22:48:45.98 ID:6zl+rIpy
むくり...

今が朝か昼か、それとも夜なのか?

いや、地球の自転によって、朝昼夜と決められていたのだから、時間なんてなくていいんだ。


彼方「むにゃむにゃ」

彼方「はっ!」


月食や日食があるように、地球もまた、角度によっては太陽を覆い隠す。

重なった地球から、太陽の光がわずかに漏れ、指輪のダイヤモンドの様に、一点から光が差し込む。


彼方「綺麗....」


まだ宇宙に来てほんのちょっとだけど、良いもの見ちゃったな。
 
175: (らっかせい) 2022/11/06(日) 23:04:47.90 ID:6zl+rIpy
彼方「むふふ。むふふ」

彼方「さてと....」のびー

彼方「おや?」

彼方「こんな所に、鼻くそみたいな小さな粒がついてる」

彼方「なんだろう?」

彼方「うーん、わからんね」

彼方「そいや」指でパチン

彼方「今日もいい日だ。何をしようか、何処へ移動しようか」


最近時間が長く感じる。

璃奈ちゃんから話は聞いていた。

生き物自身が認知する時間って、その生き物の脈拍によって長さが違うんだって。
 
176: (らっかせい) 2022/11/06(日) 23:10:44.74 ID:6zl+rIpy
人間の時間の認知、1秒1分1時間って言う単位の素は、脈拍から来ている説があるんだって。

ネズミは小さい動物で、象は大きな動物。

ネズミは小さい分、心臓も小さくて、脈も早い。

脈もその分短くて、人間よりも時間を長く感じているんだって。

象はその逆で大きな動物。

じゃあ、ゾウよりも大きくなった私は?

どんどん時間が長くなっていく。

人間の人生が、私の瞬きと同じくらいになりそうだ。


彼方「...」
 
178: (らっかせい) 2022/11/07(月) 00:05:34.08 ID:pFFnYD8t
ごめんなさい🙇‍♂
 
180: (らっかせい) 2022/11/07(月) 22:41:48.65 ID:pFFnYD8t
それから、身長について。

地球にいた頃は、周囲のものが多すぎて、それらがスケールの役割をして、自分自身がえらく大きく見えた。

宇宙は、私より大きいもの、小さいものの沢山のものに囲まれている。

彼方ちゃんは、月の軌道より少し外のあたりにいるらしいんだけれど。

月との距離感がイマイチだから、自分の大きさって全然わかんないや。


彼方「ぼーっ」

彼方「宇宙は、暇だねぇ」

彼方「勉強も、アルバイトもない」

彼方「いっぱい寝ようか」

彼方「スヤピ」
 
181: (らっかせい) 2022/11/07(月) 22:51:35.83 ID:pFFnYD8t
夢の中で彼方ちゃんは魚だった。

鱗の硬い、四つヒレのある魚で、瞬きをした次の瞬間、サンショウウオみたいなブヨブヨなので、次はトカゲ、またその次は小さな、小さなネズミだった。

ネズミの姿で一生を過ごし、子を産み、そして力尽きた。


彼方「パチリ」

彼方「変な夢」

彼方「おや、おやおや、おやおやおやおや?」


身体の周りに、豆粒とも毛玉とも見分けのつかないものがたくさん付いている。


彼方「パチリ、パチリ」


もう一二回瞬きをすると、毛玉たちは更に増えていた。


彼方「なんだねチミたちは!」バサバサ

彼方「んも~!」
 
182: (らっかせい) 2022/11/07(月) 22:54:57.48 ID:pFFnYD8t
トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン

トン ツー トン

トン ツー トン トン トン

ツー トン トン

ツー ツー


彼方「誰からだろう?遥ちゃんかな?」


遥「こちらEH聞こえていますか?繰り返す。こちらEH」

彼方「こちらMN聞こえています」

遥「お姉ちゃん、遥だよ」

彼方「んにゃぴ、声でわかるよ」

遥「どう、今日は何かあった?」

彼方「うーん、そうだねぇ」
 
183: (らっかせい) 2022/11/07(月) 22:58:43.10 ID:pFFnYD8t
彼方「さっきさぁ、目覚めたら、洋服に豆みたいな、ごま粒みたいなのが沢山着いてて」

彼方「よく見たら、スペースデブリ。ソーラーパネルの一部だったやつとか、プラスチックっぽい何かとか」

彼方「人間のゴミって凄いんだね。月の周りにもたくさん漂ってる」

彼方「ねえ、もしかしたら、宇宙は、地球の海と似ているのかもしれない」

彼方「地球の海は、海水で満たされていて、循環するのに4,000年かかるんだってね」

彼方「宇宙は広がり続けているけれど、人間の遺した遺物や、岩石、氷なんかも漂って」

彼方「めぐり巡って元あった場所に戻ってくるのかも」

遥「お姉ちゃんは壮大な事を言うんだね」

遥「それにしても、スペースデブリはそんな所まで漂ってるんだ」

遥「ぶつからない様にね」

彼方「今私が何メートルあると思ってるの?スペースデブリなんてごま粒みたいなものだよ」

遥「そっか、そっか」
 
184: (らっかせい) 2022/11/07(月) 23:01:44.82 ID:pFFnYD8t
トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン

トン ツー トン

トン ツー トン トン トン

ツー トン トン

ツー ツー


彼方「おや、次から次へと」

彼方「今度は璃奈ちゃんかな?」

璃奈「こちら、EH 聞こえますか?聞こえますか?」

彼方「こちらMN聞こえています。おはよう」

璃奈「原宿技巧の信号機は問題はないですか?」

彼方「全然。むしろいいくらい」

璃奈「それはよかった」

璃奈「彼方さん、今日は何かありましたか?」

彼方「ううん、何にも。今日もずーっと寝てたかなぁ」

璃奈「たまには彼方さんの方から連絡をください」

彼方「んにゃぴ。気が向いたらね」
 
185: (らっかせい) 2022/11/07(月) 23:03:03.06 ID:pFFnYD8t
璃奈「彼方さん、不便だと思う事はありますか?」

彼方「んー」

彼方「時々、なんだけど...」

彼方「彼方ちゃん、とっても大きくなっちゃったでしょ」

彼方「ゾウとかそうだけど、大きな動物は、成長速度がゆっくりになるんだってね」

彼方「成長はゆっくりになるんだけど、認知する時間はその逆で、一瞬になってしまう」

彼方「でね、何が言いたいかって言うとね」

彼方「彼方ちゃんが瞬きをしている間に、体の周りに、ゴミが沢山ひっついている事があるの」

彼方「これ、何かなぁ?」

璃奈「うーん、なんだろう?」

璃奈「今のところ、何が彼方さんにひっついているのかわからないです。望遠鏡で覗きたいので、今の大体の座標を教えてください」

彼方「そうだねぇ、今はね、トロヤ群あたりかなぁ」

璃奈「了解です」
 
186: (らっかせい) 2022/11/07(月) 23:06:57.92 ID:pFFnYD8t
彼方「今日はそこらへんにあった大きめの岩石のカケラを枕にしてスヤピしよう」

彼方「ゴワゴワしてるね」

彼方「zzzzzz」


ピヨヨヨーン

ピヨヨヨーン

ピヨヨヨーン

ピヨヨヨーン

ピヨヨヨーン

ピヨヨヨーン


私が長い眠りにつく度、身長はこれでもかと伸び続ける。

次起きる頃は、どれくらいの大きさになってるんだろう?
 
190: (らっかせい) 2022/11/08(火) 23:24:15.86 ID:2ODV5QzZ
彼方「ふわぁ~」

彼方「ここは....?」

彼方「宇宙のどこ?」

彼方「月は手前に、地球は左に」

彼方「うむ、いつもの場所....で、私が握っていたこの石は何?」

彼方「そういえば...寝る前枕にした岩があったような」

彼方「岩が、石に.....」
 
191: (らっかせい) 2022/11/08(火) 23:27:20.72 ID:2ODV5QzZ
よく見ると、月より一回り小さいぐらいまで成長している。

彼方「わぁ....」

彼方「埃もこんなに沢山。全部叩かなきゃ」パンパン

彼方「ふぅ、スッキリ」


コショコショコショ


コショコショコショ


彼方「えっ?何?なんの音?」


コショコショコショ

コショコショコショ
 
194: (らっかせい) 2022/11/09(水) 23:52:21.05 ID:23Fyw3CI
宇宙って私以外に何か生命体はいないはずなのに...

この音は、前に聞いたことのある音だ!

そうだ...これは!


彼方「宇宙に来る前聞いた、雑踏のような音...?」

彼方「でも、今更どうして?」


コショコショコショ

コショコショコショ


彼方「わっ、聞きたくない!聞きたくない!」
 
195: (らっかせい) 2022/11/09(水) 23:57:36.52 ID:23Fyw3CI
トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン


彼方「うぅ...こんな時に地球からの通信」

彼方「こちらMN。聞こえています」

遥「あぁ!お姉ちゃん?」

遥「あのね、あのね」

遥「聞いて!給付型奨学金受かったの!」

彼方「おっ!本当ぉ?すごいじゃん!」


こんな事を話してる間にも、コショコショコショが聞こえてくる。


通信機「コショコショコショ」

彼方「....」

遥「それでね、それでね!」

遥「お姉ちゃん?どうしたの?具合悪い?」

彼方「ん、ううん、違うよ」


直感的に理解してしまった。

地球にいた頃、耳が大きすぎてパラボナアンテナと化してしまったように。

今度も、パラボナアンテナ化して、何かの音を捉えている。


遥「バイバイ」

彼方「バイバイ」
 
204: (らっかせい) 2022/11/14(月) 21:30:11.45 ID:oGJGXnP0
何度目かわからない地球の夜明け。

夜明けというよりは、回転の方が適切だなぁ。

私は回り行く地球と、その更に奥で輝く太陽の光をぼんやりと見つめていた。


コショコショコショ

コショコショコショ


彼方「!!」

地球が太陽の光を浴びるのとほぼ同時に、雑踏の様な声のボリュームが上がった。


彼方「この声ってもしかして....」

彼方「地球全体の、生物の声?」
 
205: (らっかせい) 2022/11/14(月) 21:36:02.03 ID:oGJGXnP0
コショコショコショ

コショコショコショ


彼方「うぅ....」

彼方「うるさい」


地球との距離は離れているけれど、身体は大きくなり続けるから、生命の声はどんどん大きくなる。


彼方「耳を、塞いで....」ギュッ

彼方「通信も、聞きたくない」

彼方「お願い、静かにさせて」


私は目をギュッと瞑って、睡眠に専念した。

寝て、起きてしまったら更に寝る。

ずっとこの繰り返し。地球からの通信は、全て聞こえていたけど無視した。

身を縮めていると、スペースデブリが引っ付いてくる。
だけれども、今はそんな物に構っていられる余裕もなく、塵も積もって少し大きめな塊になる。
 
206: (らっかせい) 2022/11/14(月) 21:42:00.45 ID:oGJGXnP0
塊になれば引力を持ち始め、地球の潮汐力は崩壊した。

その頃には、月よりも数回り大きくなって宇宙空間を漂っていた。当然ながら、文明の崩壊を迎えた人類の怨嗟の声だってキャッチする。

余計身をかがめ、耳を塞いで寝た。
通信は全部無視した。

そんな中...

トン ツー トン トン

トン ツー トン

ツー トン

トン ツー トン

トン ツー トン トン トン

ツー トン トン

ツー ツー

璃奈「こちら、EH 聞こえますか?聞こえますか?」

彼方「..........」

璃奈「繰り返す。こちらEH 聞こえていますか?」

彼方「..........」

璃奈「もうすぐ遥号が地球を出発して、彼方さんを目指します」

彼方「.......」

璃奈「彼方さん、また会えますね」

彼方「...........」

璃奈「それでは、88」
 
208: (らっかせい) 2022/11/15(火) 22:37:39.76 ID:1D+4VD0m
わかんないや。

こういう時、なんて言えばいいんだろう?

私の所為で、人類は、お母さんは。

それなのに、どうして会いにくるの?約束なんて、私からすっぽかしているのに。


彼方「やめて、お願い、来ないで」


遥ちゃんの事、嫌いになったわけじゃないよ。でも、今は顔向け出来ないんだ。

会いたくないって思ったら、反射的に月の方へ体を動かしていた。

宇宙には空気がないけど、腕をもがもが動かして、側から見れば水泳みたいだったと思う。


それから、月の近くへ行って....


ばっこーん!


月を思いっきり蹴り飛ばした。
 
209: (らっかせい) 2022/11/15(火) 22:46:03.87 ID:1D+4VD0m
作用反作用って物理の授業で習ったんだっけな?

もう何年も前のことだから、あやふやだけど。

反作用ってのを使って、地球からどんどん等加速度で離れていく。

私を追いかける遥ちゃんは私より遅いスタートと速度だから追いつくことはない。


彼方「さよなら地球。さよなら遥ちゃん」

彼方「.....」

彼方「あなたが、妻の声に聞き従い、食べてはならないとわたしが命じておいた木から食べたので、土地は、あなたのゆえにのろわれてしまった」

彼方「あなたは、顔に汗を流して糧を得、ついに、あなたは土に帰る」

彼方「このようなわけで、一人の人によって罪が世に入り、罪によって死が入り込んだように、死はすべての人に及んだのです」

彼方「......」

彼方「寝よう」
 
210: (らっかせい) 2022/11/15(火) 22:53:41.63 ID:1D+4VD0m
数年ぶりに夢を見た。

多分小さい頃の風景で、お父さんと教会に行った時の記憶なのかもしれない。

父「かな、はる」

父「二人とも、こちらへ来なさい」


そう言って、父は私達の頭を撫でる。


かなた・はるか「?」

父「こんな言葉があります」

父「わたしは、自分の内には、つまりわたしの肉には、善が住んでいないことを知っています」

父「善をなそうという意志はありますが、それを実行できないからです」

父「この後、キリストによる、罪の救済が説かれますが、私はこう考えています」

父「罪はその人の愛によって浄化されるのだと」
 
211: (らっかせい) 2022/11/15(火) 23:07:20.62 ID:1D+4VD0m
🌟 🌟 🌟

地球と月との引力が崩壊してから何百年経っただろう?

ロボットに置換された私の体はまだ動き続けていた。

潮汐力と引力の崩壊は、大気中の窒素と酸素の割合を変化させ、地上は植物の楽園になっていた。

待機中の窒素を根球に蓄える植物はとりわけ繁茂し、すなわちジャガイモ類を中心とした生態系が築かれつつある。

ジャガイモは乾燥させるとよく燃える。
燃える物も有れば、爆発するもの、脂が良く取れる物、その他諸々。

小さなシェルターを運営するには欠かせない。


璃奈「ぽちっとな」

REC🔴

璃奈「2947年12月11日」

璃奈「今日の天気、曇り」
 
212: (らっかせい) 2022/11/15(火) 23:13:33.83 ID:1D+4VD0m
璃奈「メカりなりー、応答せよ」

ウィーン ウィーン

ひとりぼっちでは地球はあまりにも広すぎる。

なので各地域ごとにメカりなりー(正確にいうと私のバックアップ)を配置して、周囲の状況確認を行なってもらっている。


メカりなりー「こちら東アフリカ地区」

メカりなりー「特になし」

璃奈「了解」

メカりなりー「こちら極東地区」

メカりなりー「特になし」

璃奈「了解」
 
213: (らっかせい) 2022/11/15(火) 23:20:18.86 ID:1D+4VD0m
璃奈「さてと、私本体も出歩いてみよう」


大気の比率の変わった現在の地球は、人類には数十分しか立ち寄れない酷所である。

ロボットである私はそんな物気にしなくていいのだけれども。

さらにいうと、大気には窒素が多いので、夜空の見え方もほんのちょっとだけ変わってしまった。

星が大きく見えるようになった。


璃奈「天は玄く地は黄色、宇宙は広く広大無辺 」

璃奈「日月のぼり傾き欠ける 星や星座が並び広がる 」


そう呟いて、宇宙を眺めた時だった。

視界の端に、流星、いや大きい!

彗星が映っていた。
 
221: (らっかせい) 2022/11/18(金) 01:08:42.54 ID:5LHI8A/J
明日更新します
 
223: (らっかせい) 2022/11/18(金) 22:12:51.63 ID:5LHI8A/J
🌟  🌟  🌟  🌟


夏の夜空に浮かぶ天の川。

これは、扁平な銀河の中心部が見えている物らしく、私達人類の地球は、この銀河の袖の方にあるらしい。

何度目かのコールドスリープの後、私は宇宙で銀河を眺めていた。


遥「生体認知ソナー発動」

コーン

コーン

コーン

.....

遥「....」

遥「生体反応、なし」
 
224: (らっかせい) 2022/11/18(金) 22:33:02.02 ID:5LHI8A/J
宇宙船遥号が航海を始めて何年経ったんだろう。

宇宙は広い。
観測可能な範囲で生体ソナーを打ち、コールドスリープをしながら移動しての繰り返しで、もう何年たったのだか数えていられなくなった。

数えていられないのだから、自分の歳も思い出せない。


遥「今日もいない。お姉ちゃんはいない」

遥「コールドスリープの準備しないと」


コールドスリープって棺桶みたいだなぁ。
次、本当に目が覚めるのかなぁ?

こんなにずーっとひとりぼっちなんだもん、寂しくなっちゃった。


遥「あっ」

遥「この軌道って」
 
226: (らっかせい) 2022/11/20(日) 00:55:13.46 ID:co/5u2qG
遥「そうか、そうか」

遥「今、地球の近くまで戻ってきたんだね」

遥「璃奈ちゃん、元気にしてるかなぁ?」

遥「久々に顔を出してみよう」


ポチポチ

宇宙船の行先を地球に設定する。

ここからだと、最大船速で40年ぐらいだろう。


遥「この軌道上だと、地球に通信が出せないなぁ」

遥「もうちょっと近くになったらでいいかなぁ?」

遥「じゃあ、コールドスリープを用意して....」

遥「おやすみなさい」
 
227: (らっかせい) 2022/11/20(日) 01:13:39.62 ID:co/5u2qG
夢を見た。

夢の中で夢を見ていると気づく、不思議な夢。

夢の中では、璃奈ちゃんが宇宙について講義をしている。


璃奈「彗星ってあるよね」

璃奈「彗星は生命誕生の特定のアミノ酸が含まれるから、生命誕生は彗星によって引き起こされたって考えてる人もいる」

璃奈「じゃあ、この彗星はどこからきたのかっていうと、太陽系の外に、彗星のふるさと、オールトの雲と呼ばれる小惑星群があって」

璃奈「ここの塵とかクズみたいな小惑星たちが寄せ集まって彗星が作られて、太陽の引力によって飛来してくる」

璃奈「じゃあ、それを確かめたいって、誰でも思うよね」

璃奈「1977年、NASAはボイジャー1号と2号を打ち上げた」

璃奈「この二つは当初、木製以降の惑星を観測する為に打ち上げたんだけど、海王星を通り過ぎてそのまま太陽系の外を目指して活動している」

璃奈「このふたつには、地球外生命体とのコンタクトも期待されていて」

璃奈「地球の住所といくつかの言語、そして音楽が搭載されている」

璃奈「一種のタイムカプセルみたいな物だね」

璃奈「この宇宙は広いから、本当に見つけてくれる生命体がいるかどうかわからないけど」


璃奈ちゃんはそう言って話を締めくくった。
 
228: (らっかせい) 2022/11/20(日) 01:22:40.74 ID:co/5u2qG
プシュ~

おはようございます。

無機質なAIの声。
胡蝶の夢があるなら、その逆もあるので。

あっと言う間に40年が過ぎたみたい。

初めて宇宙に来た感覚なんて、もう全然思い出せないけど、初めて見た時のままの姿の地球がそこにはあった。

ちょっと緑が増えたかな?


遥「さてと、どこに降りようかな?」


目視で平坦そうな場所を探す。

潮汐力の崩壊や月の重力の崩壊によって、海岸線と地形はいくらか変わってしまったけれど、内陸部の砂漠、平野等は影響が比較的少ないはず....

そのうち、キョロキョロあたりを見回していたら....


遥「あっ」


ボウっと尾を引く彗星。
何もない漆黒の宇宙空間に、彗星が光り輝いていた。
 
229: (らっかせい) 2022/11/20(日) 01:34:01.70 ID:co/5u2qG
遥「さっき見た夢のままみたい」

遥「このまま地球に落ちるなんて事は、まさかないだろうけど」


彗星はちょうど地球を通り過ぎている様に思えた。

彗星の事を頭に留めつつも、宇宙船を操縦し、着陸に備える。


遥「こちら宇宙船遥号。繰り返す。こちら宇宙船遥号」

ぴー!がー、がー

ぴこぴこ、がー!がー!

璃奈「こちらEH。遥ちゃん、お久しぶり」

遥「久しぶり。もう何年になるかな?変わった事はある?」

璃奈「大気中の窒素の割合が変わって、酸素が薄くなっちゃった」

璃奈「着陸しても、しばらく待ってて。呼吸器持っていかないと、今の地球では遥ちゃんは活動できない」

璃奈「扉も開けちゃダメだよ。遥ちゃんの宇宙船は扉が一つしかない。空気の緩衝地帯がないから、汚染されたら一発アウト」

遥「うん、わかった」

遥「多分ね、中東エリアの、地中海沿岸の地域になりそう」

遥「着陸したら、また通信入れるね」

璃奈「うん、待ってる。シェルターに来たら、いっぱいお話しようね」

遥「うん!」
 
230: (らっかせい) 2022/11/20(日) 01:41:20.22 ID:co/5u2qG
大気圏に突入して、ガタガタと宇宙船が揺れる。

ふんわりとGが私を襲う。

重力って久しぶりだなぁ。


遥「ただいま、帰ってきたよ」

遥「地球は、なんだか重いね」

遥「真っ直ぐ歩けるかなぁ?」


ゴゴゴゴゴ.....

ガタン!プシュ!


遥「着陸したみたい」

遥「窓の外を見てみよう」

遥「わぁ」

遥「背の低い草がいっぱい生えてる。ここ、昔は砂漠だったはずなのに」

遥「ネズミとかウサギがいるね。野生動物の楽園だ」

遥「あれ...?何か大きいのが動いてる?」

遥「なんだろう.....?」

遥「えっ?」


忘れもしない、その姿は.....


お姉ちゃんが、そこにはいた。
 
232: (らっかせい) 2022/11/20(日) 21:46:49.99 ID:co/5u2qG
🌟  🌟  🌟


月を蹴ってから、惰性で宇宙を漂い続けた。

すやぴとおめめぱっちりんこの繰り返しを何千、何万と繰り返したかわからない。

遠く、地球から離れてしまえば、それまでのひそひそ声なんて聞こえなくなったけど。

宇宙空間に、私以外の自問の声だけ。

次第に、自分が思った事を口にしているのか、それとも思っているだけなのか、わからなくなってきた。

本当に言語を喋っているのだろうか?

それすらも危うい。
 
233: (らっかせい) 2022/11/20(日) 21:53:50.55 ID:co/5u2qG
彼方「あお、あうあう」

彼方「あぁ...あぁ...」


時間を置いた炭酸が、どんどん気の抜けた味になっていく様に。

私の自我も、だんだん崩壊を始めた。

初めの頃は、綺麗だなぁとか思いながら見ていた銀河の天の川も、岩石も氷の塊も、今では光やただの粒にしか見えない。


彼方「あぁ...あぁ...」


何千万回目かの後悔。

涙を流しても一人。だってここは宇宙だから。

うるさい、うるさいと思って、罪から逃げ出してしまったけど。

逃げ出した先に、何か楽なものがあると思っていたけど。

罪と向き合うべきだったんだ。

地球のそばで時間を過ごす、それに向き合ってくれる遥ちゃんと璃奈ちゃん。

私はどうしてそんな人達を手放してしまったんだろう。
 
234: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:00:14.02 ID:co/5u2qG
寝て、起きて、泣いて、寝て。

ずーっとそれの繰り返し。

このまま、ずーっとひとりぼっちで宇宙を彷徨い、そして死ぬんだ。


彼方「うわぁあん」

彼方「誰か、助けてよぉ!」


トン ツートントントン
ツー トントントン
ツー ツー トントン ツー


彼方「えっ?」

彼方「今の音って」


誰もいないはずの宇宙空間に、謎のモールス信号がいきなり響いていた。
 
235: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:04:38.21 ID:co/5u2qG
彼方「キョロキョロ」

彼方「多分、こっち」

彼方「ふぅ~!」

彼方「確か、この辺りに」


小さな岩石の密集地からモールス信号は発せられていた。

私の耳がパラボナなだけであって、きっと音の発生源は小さいはずだ。


彼方「あっ!」

彼方「これ?」

彼方「金ピカの、箱?」

彼方「なんだろう?」


岩石の一つに、小さな金ピカの箱が座礁していた。

耳がパラボナなら、眼は顕微鏡になっている。

その箱を、よーく、よーく眺めると...
 
236: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:13:43.55 ID:co/5u2qG
いくつかの言語...あれ?これ、日本語じゃない?

それに、多分人間の写真....

地球からこんな遠くまでやってきたのかなぁ?


彼方「....あれ?」

久々に人間に会えた気分になって、いつのまにか涙を流していた。

後悔の涙じゃなくて、これは懐かしさの涙。


彼方「....戻ろう」

彼方「地球に帰ろう」


そう決意した時、視界の端に、大きな彗星が映った。

映った瞬間、いつか物理の授業でやったことを思い出す。


「彗星はオールトの雲に起因し、そして周期性をもって地球に回帰します」

「それが、75年周期のハレー彗星であったり、エンケ彗星であったりします」

「もちろん、それよりながい周期を持つ彗星もあります」
 
237: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:22:39.22 ID:co/5u2qG
彼方「地球に帰る方法は....これしかない!」

彼方「ふぅ~!!」


彗星に近づいて、その上に跨った。

それからの間、ずーっと遥ちゃんの事、璃奈ちゃんの事、お母さんの事、色々考えながら一睡もしなかった。

ずーっとぐるぐる考えが巡って、時間ってのを認知できなくなってしまったけど、すごく時間が掛かったんだろう。

途中、大きな土星を横切って、木星も横切って、ついに蒼き星、地球が見えた頃、大きく息を吸った。


彼方「ふぅ~!」


このまま大気圏に突入する。


あぁ、そういえば。

彗星に跨がれたって事は、だいぶ小さくなったって事なのかな?

地球の重力に惹きつけられて、自由落下する。

そのままでは地面に叩きつけられてしまう為、大きく吸った息を長く、長く吐いて、着地の衝撃を和らげた。


彼方「ふぅ~!!!」

彼方「ううううっ!!!!」

彼方「わぁああああああ!」

彼方「あっ!」
 
238: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:26:20.81 ID:co/5u2qG
地面が近くなっていくと同時に、私の体は萎み始めた。

まるで、風船の空気が抜けていく様な、そんな感じだった。


彼方「わああああああ!」ふわり

彼方「はぁ、はぁ、着陸、成功」

彼方「成功したはいいんだけど、ここ、どこ?」

彼方「下草がいっぱい生えてる。とりあえず、人類を探さないと」


ゴゴゴゴゴゴ!


彼方「今度は何?...ロケットだ!ロケットが宇宙から降りてきた!!」

彼方「とりあえず、近くに行ってみよう」

テクテク....
 
239: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:33:28.40 ID:co/5u2qG
🌟  🌟  🌟  🌟

璃奈ちゃんは、外に出るなと言われている。

でも、目の前にはお姉ちゃんがいて...これ、幻想じゃないよね。

確かめたい。幻でもいい!
そう思ったら、扉を開いていた。

バタン!


彼方「へ?」

遥「お姉ちゃん!!」


走って、抱きついて、強く強く抱きしめた。


遥「お姉ちゃん、ようやく、ようやく会えたね」

遥「ずーっと、ずーっと探してた」

彼方「遥ちゃん?本物の遥ちゃんなの?」

彼方「ちょっと大人っぽくなったね」

彼方「彼方ちゃんも....ぐすっ、会えて、よがっっだ!」

彼方「ごめんね、ごめんね。お母さんも地球のことも」

遥「.....」ぎゅーっ

遥「私がお姉ちゃんの愛になるから」

遥「お姉ちゃんも、私の愛になって」

彼方「.....うん」
 
240: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:35:45.77 ID:co/5u2qG
遥「さ、お姉ちゃん、ロケットの中に来て。美味しいものたくさん食べよ。いっぱい話そ」

彼方「ふわぁ、なんだか眠くなっちゃった。

遥「ベッドもあるんだよ...」

あはは

えへへ
 
241: (らっかせい) 2022/11/20(日) 22:42:42.04 ID:co/5u2qG
🌟  🌟  🌟

私が呼吸器を持って駆けつけた頃には、結論から言うと、二人は宇宙船のベッドのなかで冷たくなっていた。

現在の酸素濃度では、人間はだんだん、眠くなる様に意識が霞んでいき、そして死ぬ。

彼方さんを宇宙船の中に招いて、そしてそのまま眠る様に。


ロケットのままでは野生動物に食べられてしまうので、二人用のお墓を作った。


あぁ、そういえば私は近江姉妹の観測者であるから、この顛末も描き加えないと....

そういえば、石碑のタイトルも決まってない。

そうだなぁ、タイトルは


「たとえば、姉妹愛について」




おしまい
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1664541605/

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