【SSコンペ】やがてひとつの物語【ラブライブ!虹ヶ咲】

かすみん SS


2: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:15:18.00 ID:jBOmce2V
※企画説明
https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1685782999

※アニメ時空でのおはなしです。

※約5800文字
 
4: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:17:11.10 ID:jBOmce2V
午前の練習も段落。部室のソファーの誘惑に耐えきれず、かすみんは素直に腰掛けます。

部室の隅から聞こえるしず子の歌声。次のライブに向けての最終調整かな?

親友の贔屓目抜きにしても素晴らしい歌声。悔しいけれど。

――きっと一緒ならどんな結末でも……

「「ハッピーエンドに変わる」」

しず子の歌声に合わせて声を重ねてみたり。

栞子「やがて一つの物語、いい曲ですよね」

かすみ「でっしょ~! しず子の曲の中で一番好きかも」

栞子「さっき歌声を聞きながらすごく幸せそうな顔をされていましたよ?」

かすみ「ちょっと恥ずかしいよお~」テヘヘ
 
5: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:22:28.81 ID:jBOmce2V
そう、私はこの曲が本当に好き。

だってこの曲に出てくる「あなた」って、絶対かすみんのことじゃん?

否定的になっていたしず子を激励したのもかすみんだし!?しず子といつも一緒にいるのはかすみんだし!?

聴いているこっちが恥ずかしくなるくらいストレートの歌詞だけど、
それでも「大好きなしず子がもしかしたら私のことを思って歌ってくれている?」と考えると嬉しくて仕方ない。

作詞は侑先輩だけど、これがしず子の作詞だったらもう告白同然だよね。

でも、逆にそうでなくて良かったのかな。

だって本当にしず子の言葉だったら、きっと恥ずかしすぎて今みたいに澄まして聴けないもん。

秘密の妄想は妄想だから良いんです。
 
6: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:27:43.59 ID:jBOmce2V
そんな幸せ気分に浸っていたからかも。それとも、今日が土曜日で朝早くから
ぶっ通しの練習で疲れていたからかも。気がつけばかすみんは……

――
―――
「はっ!」

気が付くと午後の1時過ぎ。ちょうどお昼休憩が終わるタイミング。

「なんで起こしてくれなかったんですかぁ~!」

と言っても何も返事は帰ってこない。見渡しても誰もいない。

みんな練習に行っちゃったのかな?

ふと気づけば私の体には彼方さんのカーディガンがかけられていました。

寝かせてくれたのかな?と先輩の優しさが身にしみます。

でも練習でみんなに後れを取るわけにはいきません!

だってかすみんは世界一可愛いアイドルなんですから!

練習に向かおうとソファーから起き上がると、机の上に一冊のノートが。

「なんだろう……」

誰かの宿題のノートかな?と思いながら表紙をのぞき込むと、そこには【作詞作曲ノート】の文字。

きっと侑先輩が置いていったノートかな。
 
8: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:33:36.26 ID:jBOmce2V
「めちゃくちゃ気になる……」

勝手に見ちゃいけない!でも少しくらいなら……と迷っていると、
表紙の下の方に書かれた【ぜったい秘密!!】の警告が。

「やっぱり秘密ですか。ぐぬぬぬぬ……」

でも、でも。
でも「秘密」と言われると余計に気になる。そう、かりぎゅら効果! りな子に教えてもらいました。

このノートを見れば侑先輩が「あなた」を誰のことと想定していたかが分かるかも。

侑先輩が「あなたはかすみちゃんのことだよ」と認めれば、なんだか勇気が出ます。

しず子と特別な関係になりたい。それを裏付ける証拠が欲しい。

部室を見まわして誰もいないことを確認してから、そっとノートを開いてみる。

ノートには作曲のヒントとなるようなエピソードや設定がびっしり。やっぱり侑先輩ってすごい!

ぺらぺらとページをめくっていくうちに目的のページを発見。

「えっとなになに……――どういうこと?」
 
10: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:38:58.23 ID:jBOmce2V
内容は相手の分からない誰かとの会話のメモ。
そこにはとある劇の脚本のあらすじのようなものが書かれていました。

そこに書かれているストーリーはまさに「やがてひとつの物語」そのもの。

そのストーリーさえも、かすみんとしず子に重なる部分がたくさん!

「もしかして……これってしず子が考えた私たちの物語だったりして?」

あり得ないと思いつつも、そのことを否定する証拠は一つもない。

しず子の曲について侑先輩が相談を持ち掛けるとしたら、きっとしず子自身でしょ?

そして、しず子は熱くなると自分の世界の中に入り込んで演劇の話が止まらなくなる。これはもしかして……

――実質しず子が作詞をしたのでは?
――実質しず子からの告白、いやプロポーズでは……?

かすみんは恥ずかしすぎて赤面、きっと耳までまっかっかです。

「も~、どんな顔してしず子の歌を聞いたらいいかわからないよ!」

そんな天にも舞い上がるような気分でノートを読み進めていると、気になる書き込みが一つ。
 
12: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:45:29.56 ID:jBOmce2V
――しずくには絶対に私の脚本のことを言わないでほしい。

あれ? おかしいです。

侑先輩の話し相手がしず子だったら、こんなことを言わないはずです。

興奮は落胆へと姿を変えました。私がしず子だと思っていた人物はしず子ではありませんでした。

「まぁ、そんな都合のいい話はないよね……」

こんな時こそ笑顔! 私が勝手に勘違いをして舞い上がっただけ。

それでも期待で持ち上げられた分、落下のダメージは絶大です。

ノートを読み進めると、侑先輩の話し相手は演劇部の部長であることが分かりました。

でも、どうして部長さんが書いたお話であることをしず子に秘密にしたがるのでしょうか。

「まさか……」

私の脳裏にひとつの可能性が――いや、ひとつの物語が浮かびました。

もしかしてこの物語はしず子に思いを寄せる部長の物語なんじゃないかって。

だからしず子に絶対に知られたくないんじゃないかって。
 
13: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:50:45.18 ID:jBOmce2V
一度考え始めると、もうかすみんの頭はぐるぐるでいっぱい。

別にしず子とかすみんは付き合っているわけではないけど……

でも、こんなこと恥ずかしいですけど、私たちは実は両想いなんじゃないかって思うことが
無いことも無いかなって……かすみんの妄想かもしれませんが。

だから、しず子が私以外の人と結ばれるなんてことを想像すらしなかった。

一度もなかったから、一度考えたら――怖い。
自分の知らないしず子がいることが――怖い。

気分は天国から地獄。




だから、かすみんは真相を確かめることにしました。
 
14: (しうまい) 2023/06/16(金) 18:55:58.13 ID:jBOmce2V
演劇部で作成した脚本はすべて部室に置いてあるんだよ、そんなことを前にしず子は言ってた。

なんでも演劇部にとって脚本は命。だから歴代の台本は例外なくすべて保管しているんだとか。

演劇部の部室に行けば、しず子の曲のもとになった脚本が読めるかもしれない。

その中に何かヒントが書いてあるかもしれない。

演劇部は土曜日は休みだったはず。だからしず子は今日、同好会の練習に顔を出している。

演劇部の部室の鍵はしず子のカバンに入っている。そして今部室には誰もいない。

いけないことだってわかっている。

でも。

かすみんは悪い子です。目的のためなら何でもします。

だから、しず子のカバンに伸びるかすみんの手を、私は止めることができませんでした。
 
16: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:01:15.04 ID:jBOmce2V
――
―――
ガチャリ

頬を流れる冷や汗とともに、演劇部の部室の鍵が開く音が廊下に鳴り響く。

震える右手を左手で抑えながら、ゆっくりと鍵を引き抜く。

幸い周りには人の姿は無い。でも、誰かに見られた瞬間すべてが終わり。

かすみんは校内のちょっとした有名人です。だから、絶対に目撃されるわけにはいきません。

「シ、シツレイシマース」

息を止めながらなるべく音が鳴らないように引き戸をゆっくりを開け、
つま先立ちのまま部室に入り、再び音が鳴らないようにゆっくりと扉を閉める。

「ふぅ……」

大きく深呼吸。息を止めれば音が出なくなるわけではないけれど、なぜか息を止めて
しまいます。いたずらでコッペパンを靴に入れるときとか。

全体を見渡すとハンドルをぐるぐる回して移動できる可動式の本棚。

きっと脚本や資料が置いてある棚なのかな。あんな本棚図書館でしか見たことないのに
部室にあるなんて……どれだけお金持ちなんだろう?

念のためゆっくりと音が鳴らないように鍵を閉め、その本棚へ。するとそこには歴代の脚本が年代別にび ちり!

部長さんが脚本を書いたのであれば今年か去年か一昨年のはず。

「えっとえっと……あれ?」

一通り見ても、それらしき脚本は見当たらず。

「部長さん捨てちゃったのかな……」

そんなことを考えていると、どこからともなく足音が――

「やばいっ……」
 
17: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:06:48.81 ID:jBOmce2V
この廊下を使う人は演劇部の人とは限らないけれど、念のため本棚の裏の見えないスペースに隠れます。

柔軟やっていて本当に良かった!結構無理な体勢かも!

「でさー、この前部長がさ―」

「えっ、うっそー」

話し声が徐々に大きくなるにつれて、かすみんの心臓の音も制御不能に。

「いやほんとだよー」

「いや信じられなーい!」

徐々に声が近づき、嫌な汗が全身からじわじわと湧いて出てくる。

もし見つかったら――

もししず子の鍵を盗んで部室に侵入したことがばれたら――

「それでさ、」

声がちょうど部室の扉の前で止まり――





ガチャ


恐れていたことが起こりました。かすみん絶賛ピンチです。
 
18: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:12:07.50 ID:jBOmce2V
部員A「あった~!やっぱり昨日水筒ここに忘れて行っちゃったんだ~」

部員B「うっかりさんだな~」

部員A「ね~。私もびっくり」

部員B「ほら、早く帰ろ!それ洗わなきゃでしょ?」

部員A「うん!」

侵入者がいることなど疑いもせずに、演劇部の部員二人組は部室を後にしました。

まさか本当に誰か入ってくるとは……念のため隠れておいて正解!

一気に全身から力が抜け、掌には滴るほどの汗。

「ふ、ふぅ~」と、安堵した瞬間、隣の本棚の最下段に気になる一冊のノートが。

その段に入っている他のノートはほとんど背表紙が日焼けしているのに、よく見るとそのノートだけは真新しい色のまま。

かすみんは「もしや!」と思い隠れていたスペースから起き上がり、そのノートの中身を確認すると……、
結果は予想通り。侑先輩のノートに書かれていた物語と同じ内容でした。

「やっぱり部長さんは……」

思わぬ恋のライバルの登場に動揺が走ります。だって相手はしず子が尊敬してやまない部長さんだよ?

そんなのかすみんが不利すぎるよ……

しかもあんな涼しい顔をして自分としず子の恋の物語をしず子に歌わせるなんて……ちょっと引いちゃうかも……

ノートを読み進めていくと、最後のページに半分に折りたたまれたA4の紙が。

「なんだろう?」

中身を確認すると――



 ――そこにはこの物語の真相が語られていました。
 
19: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:18:17.57 ID:jBOmce2V
この物語はやはり部長さんのお話でした。

部長さんは高校2年生の時、恋に落ちました。

部長さんは2年生の頃からすでに演劇部の中核メンバーで、すさまじいプレッシャーにストレスを感じていたそうです。

そんな状態の部長さんを優しく包み込んで支えてくれた方がいたそうです。

気づけば部長さんは恋に落ちていました。

昼休みの稽古を終えて教室に戻る途中の中庭のベンチで、その方は毎日寝ていたそうです。

「ほら、もうすぐ授業始まるよ。起きて」

寝ている彼女を起こし、一緒に教室まで帰る。

そんなどこにでもあるありきたりな日常を送っていくうちに、二人の関係はどんどん縮まっていきました。
 
20: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:23:26.15 ID:jBOmce2V
その年の夏休み、部長さんはその方に告白をしました。お二人は無事結ばれました。

しかし、これもよく聞くように、恋愛は告白がゴールではありません。

かすみんはまだそういった経験がないのでよくわからないのですが。


相手の方は特待生で奨学金をもらっているので、普通の生徒以上に毎日勉強に追われていました。

また、それと同時に家計を支えるために近所のショッピングモールの食品コーナーでアルバイトもしていました。

そんな状況に加え、夏を過ぎると大会や文化祭、さらにはオープンキャンパスなどで
演劇部の活動もハードになっていきました。

端的に、二人には恋愛をする時間も余裕もなかったのです。

それでも、昼休みの練習終わりに中庭へ赴き、ベンチで寝ている彼女を起こし、一緒に教室に帰る習慣は
どんなことがあっても欠かさずに続けていたそうです。

ただ、自分でも気が付かないうちにその行動は自発から義務へと変わってしまいました。

自分はあの子のと付き合っているのだから、あの子との時間をとらなければいけない。

自分はあの事付き合っているのなのだから、あの子との時間を大切にしなければいけない。

賢いお相手さんはその変化に気がついてしまいました。

自分達の多忙さが、お互いを苦しめている、と。
 
21: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:29:45.94 ID:jBOmce2V
別れを切り出したのはお相手さんの方からでした。

「きっとこのまま付き合っても、私たちは幸せになれないよ。」

部長さんは言いました。今はそうかもしれないけれど、生活に余裕が出てきたらきっとうまくやれる、と。

「余裕が出てくるって、いつ?」

優しい表情で問うその言葉に、部長さんは何も言い返せません。答えを出せない質問は困ってしまいます。

「昼休みにすやぴしているところを起こしてもらって、のんびりお話ししながら一緒に教室へ帰ったよね。
あの時間は今でも幸せだったと思うよ……」

そう言い残し、部長さんの前から姿を消してしまったと言います。
 
23: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:34:53.71 ID:jBOmce2V
お互いの夢や目標。それはもちろん大切なことだけれど。
そのせいで共にありたいと願う両者が離れ離れになってしまう。

そんな現実を否定したくて、部長さんはこの物語を書いたそうです。


短い間だったけれど、部長さんはその方からたくさん励まされたそうです。

自分のすべてを肯定してもらいました。演劇に行き詰った時も、自分が嫌いになりそうな時も。

最後の結末まで一緒にいたい。そうすればきっとハッピーエンドになるから。

そんな自分の希望を落とし込んだ物語が、この脚本でした。
 
24: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:40:10.68 ID:jBOmce2V
「えぇ……」

正直かすみんは混乱の嵐の中を遭難中。

だって自分の未練たらたらの恋心を脚本に落とし込んで、しかもそれを自分の大切な後輩に歌わせますか普通!?

真相はかすみんが想像していたような夢物語ではなく、その何倍も生々しく、真っ黒色。

「ははは……」

思わず出る乾いた笑い。もうどんな顔してしず子の歌を聞いたらいいかわからないよ……。

苦笑いしながら紙とノートをもとの場所に戻しドアに向かおうとしたその時――

「どうやらとんだ泥棒ワンちゃんが入り込んじゃったみたいだね」
 
25: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:47:04.02 ID:jBOmce2V
まるで心臓に杭を打ち付けられたと錯覚するほど、一気に鼓動が強く、そして速く脈打つ。

バレた……?一体いつから……?

今の……部長さんの声だよね……?

再び全身から嫌な汗が吹き出し、呼吸が速くなる。

「まぁ、読まれちゃったなら仕方がないか」

「私はね、まだ彼方のことをあきらめていないの。だからあの曲は、うちのしずくを介した彼方へのラブレター。分かる?」

「私たちきっとこんなハッピーエンドを迎えられるはず、ってね」

「本当は彼方自信に見つけてもらいたかったけれど――まぁそれはいいや」

「今日のことを誰にも言わなければ、私もあなたのことは見逃してあげるわ。だから……」

「――わかっているね?」

ふふっと不気味な笑い声を上げながら、部長さんは部室から出ていきました。








あーあ、こんな秘密なら知らなければよかった。
でも、後悔してももう遅いです。後悔先に立たず、ですから。
 
26: (しうまい) 2023/06/16(金) 19:48:08.10 ID:jBOmce2V
以上になります

コンペのお陰で久しぶりにSSを書くことができて良かったです

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
 
27: (しまむら) 2023/06/16(金) 19:55:00.05 ID:YVGXBfWs
前半のかすみんウキウキからの😨
 
29: (茸) 2023/06/16(金) 20:27:26.69 ID:em669IHg
部かなは新しい
 
30: (もんじゃ) 2023/06/16(金) 22:33:31.32 ID:ASWQ7Mdv
🤯
 
31: (しまむら) 2023/06/16(金) 23:00:58.36 ID:3XUtQTfI
やがてひとつの物語が部長の歌にしか思えなくなったw
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1686906753/

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