【SS】しずくとマイクのエゴ【ラブライブ!虹ヶ咲】

しずく SS


2: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:49:18.71 ID:1IPOGQic
「じゃ、じゃあまた明日!」

「あ、あの!かすみさん!少しだけ時間を…」

「…///」コクリ

「?」

「え?!じゃあ…」

「私…かすみさんのこと、好きです」

「えへへ…嬉しい…」

「え…?」

「かすみんとずっと一緒にいてくれませんか?」

「私と付き合ってくれませんか?」

「だから…」

「これからもずっと一緒にいたいです」

「私、ずっと好きでした」

「2人きりでお買い物したり、2人きりでご飯を食べたりしたいです」

ドキドキ…

「…ごめんなさい」

「かすみさん?」

「え……」

「ええっと…」

「か、かすみん…他に…」

「すぅー…はぁー…」

「そっか…本当の気持ちを言ってくれて…ありが

かすみ「うわぁ!!」

かすみ「はぁ…はぁ…」

かすみ「もう…ぐちゃぐちゃ…」

かすみ「制服のまま寝ちゃったし…はぁ」

かすみ「かすみんのかわいい…」

かすみ「…最低」
 
3: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:49:48.64 ID:1IPOGQic
───
──

結局私って好きだったのかな。

もちろんあの人も好き。その気持ちは変わらない。

でも私を好きでいてくれる人も好きだっていうことを知らなかった。

あんなこと言われるまでそんなこと頭の中になかったけどさ。

同じくらい大好き。

結局1つは捨ててしまった。

あのじめっとした笑顔、嘘ってすぐわかるのに。

素直に悲しいって言ってくれた方がどんなに気が楽だったんだろう。

この罪悪感を引っ張ったままお付き合いしなくちゃいけないのかな。

かすみ「でも、かすみんは自分の気持ちを大事にしただけなんだから…………」

そう言い聞かせて、今はこの罪悪感から逃げることしかできない。

最低!ほんとにありえないよ!

…って言っても、もう過ぎちゃったことは変えられないけどさ。

かすみ「こんにちはー」
 
4: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:50:09.66 ID:1IPOGQic
侑「あ、かすみちゃん!」

歩夢「今日はみんな早いね」

果林「あら?かすみちゃん、今日はヘアピンつけてきてないの?」

かすみ「あれ?あ、ほんとだ…」

侑「かすみちゃんがそういうを忘れるって珍しいね」

かすみ「今日は寝坊しちゃって…」

せつ菜「また寝坊ですか?肌が荒れてしまいますよ?」

かすみ「わ、わかってますよ」
 
5: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:50:39.83 ID:1IPOGQic
しずく「…」

彼方「しずくちゃん?どこ行く」

しずく「演劇部の活動があるのを忘れてしまって、今から行かなくちゃ行けないんです」

侑「え?でも今日はこっちで練習するって」

しずく「ごめんなさい、今日は」

かすみ「し、しず」

しずく「ごめんなさい」

待って。なんて言えなかった。

ぱたりとドアが閉まった後、しず子と深い溝ができちゃった気がした。
 
7: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:51:04.25 ID:1IPOGQic
エマ「絶対今の嘘だよね…?」

果林「そうね…顔が真っ赤になってたし…」

侑「かすみちゃん…?」

かすみ「は、はい」

侑「…ごめん、なんでもないや」

果林「あら、かすみちゃん、何か知ってるの?」

かすみ「ふえっ?!」

果林「しずくちゃんが出て行ってから体が震えてるわよ」

かすみ「あ、えーっと…」

璃奈「喧嘩しちゃったの?」

かすみ「そういう訳じゃないんだけどね?」
 
8: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:51:21.46 ID:1IPOGQic
愛「ん?どゆこと?」

かすみ「しず子の許可が必要かなぁーって…」

エマ「許可?」

かすみ「許可っていうか、かすみんから言えることなのかなー…みたいな」

果林「何よそれ、はっきり言いなさいよ」

かすみ「うぅ…でも…」

愛「じゃあ愛さんが聞いてこよっか?」

かすみ「先輩がですか?!」

愛「別に大丈夫っしょ?しずくのためにもね」

かすみ「まぁしず子が話せるなら…それでいいかもです」

果林「愛が行くなら私も行こうかしら」

璃奈「私も行くっ」

せつ菜「私も…しずくさんが心配なので」

彼方「私も心配だから行こうかな〜」 

エマ「あんまり大人数で行っちゃうとプレッシャーになっちゃうから私はここにいるね」

侑「じゃあ私と歩夢もここに残るね」

侑「かすみちゃんもね」

かすみ「はい…」
 
9: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:51:50.31 ID:1IPOGQic
───
──

侑「しずくちゃんと何があったの?」

かすみ「…………」

歩夢「かすみちゃん?」

かすみ「かすみんから話せません」

かすみ「かすみんが言う権利がないです」

エマ「権利?言えない理由があるってこと?」

かすみ「うまく言葉にはできないですけど…しず子が私のためにくれた精一杯の感情なんです」

かすみ「かすみんが勝手にバラしたりはできません」

かすみ「それだけは嫌です、しず子の気持ちを弄ぶことは絶対やです」

侑「だから果林さんに言い寄られた時も言わなかったの?」

かすみ「まあ…はい…すごく怖かったですけど」

エマ「かすみちゃんも果林ちゃんも声が震えてたね」

エマ「果林ちゃんもそれだけしずくちゃんのこと心配してるってことだから許してあげて?」

かすみ「元々かすみんが悪いので別に大丈夫です」

侑「じゃあ愛ちゃん達が帰ってくるまで待とっか」

かすみ「ごめんなさい」

侑「かすみちゃんが謝ることじゃないよ」

侑「かすみちゃんって本当に優しい子なんだね」

かすみ「…かすみんなんて最低ですよ」

エマ「全然最低なんかじゃないよ」

エマ「しずくちゃんと何があったかはよくわからないけど、しずくちゃんの気持ちを考えられてるんだから優しい子だよかすみちゃんは」

そんなわけない。

優しかったら振るわけないんだから。
 
10: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:52:36.08 ID:1IPOGQic
───

──

私の得意な外面を作れていたはずなのに!

なんで感情がとまらなくなっちゃうの?!

もう断られたんだから、もう切り替えないとダメなんだってば!

しずく「はあ…」

愛「おーい!しずくー!」

しずく「あ、愛さん?!」

しずく「私、これから演劇」

果林「あんなに顔真っ赤にしてどうやって演劇の練習するのよ」

しずく「それは…」

璃奈「かすみちゃんと何かあったの?」
 
11: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:53:05.40 ID:1IPOGQic
しずく「ううん、大丈夫だよ本当に」

そうそう。みんなに心配させないような表情で

璃奈「絶対嘘」

しずく「本当だってば」

せつ菜「何か私たちにできることがあれば…」

しずく「心配しないでください、大丈夫ですから」

璃奈「大丈夫だったら部室から出ない」

本当になんでもないから。

しずく「もう大丈夫だから」

しずく「今日は…今日だけは…もうやめて…ください…」

彼方「そんなに涙流してまで頑張らなくてもいいんだよ?」

しずく「本当に大丈夫ですって」

彼方「本当に〜?」
 
12: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:53:34.32 ID:1IPOGQic
しずく「…」

璃奈「声、すごく震えてる」

しずく「うん…うん…」

しずく「あはは…恥ずかしいですね…人前で涙なんて」

愛「悲しいことあったら抱え込んじゃダメだぞっ!」

しずく「そんな…抱きつかれちゃったら気持ちが抑えられなく…」

彼方「よしよし、頑張った頑張った」

しずく「はい…本当に…ごめんなさい…ごめんなさい…」

愛「落ち着くまで私の中で泣いていいよ」

璃奈「喧嘩したの?」

しずく「好きだったのに…好きなのに…」
 
13: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:54:03.77 ID:1IPOGQic
頭がやめてって言ってるのに言うことを聞いてくれない。

こんなこと言いたくなかったのに。

果林&愛&璃奈「…!」

せつ菜「…………え」

果林「だった…?」

愛「かすみんなんで…!」

愛「アタシ、かすみんのとこ」

果林「だめよ愛、今かすみちゃんに問い詰めても何も進歩しないわ」

しずく「いいんです」

しずく「私が好きでもかすみさんがそうではなかったというだけですので」

愛「でも…」

しずく「本当に大丈夫ですよ」

しずく「落ち着きたいので少しだけ1人にしてくれませんか?」

果林「分かったわ。璃奈ちゃん、愛、戻るわよ」

愛「うん…愛さんはいつでも相談に乗るからね!」
 
15: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:54:19.96 ID:1IPOGQic
しずく「ありがとうございます」

彼方「…………」

果林「ほら、彼方も撫でてないで戻るわよ」

彼方「しずくちゃん、いつでも頼ってね…」

しずく「ありがとうございます、本当に」

璃奈「………」

果林「璃奈ちゃん?どうしたの?」

璃奈「…しずくちゃん」

しずく「どうしたの?」

璃奈「…なんでもない」

璃奈「私たちがいるから、大丈夫」

しずく「うん、ありがとう」
 
16: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:55:30.43 ID:1IPOGQic
───

──

かすみ「結局しず子来なかったし…」

せつ菜「かすみさん」

かすみ「あ、先輩」

せつ菜「帰る前に少しだけ生徒会室によってもいいですか?」

かすみ「いいですよ」

せつ菜「ありがとうございます」

せつ菜「一応まだ隠さなきゃいけないので…右の髪を編んでくれませんか?」

かすみ「は、はい」

せつ菜「そんな緊張しなくても…ありがとうございます」

かすみ「かすみん上手くできるか心配で…」

せつ菜「かすみさんもやってみませんか?」

かすみ「わ、私もですか?!ちょっと編むには短い気がしますけど…」

せつ菜「ふふっ、そうですね」

菜々「じゃあもう少し伸びたら編んであげますね」
 
17: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:55:50.79 ID:1IPOGQic
かすみ「あ、ありがとう…ございます…///」

菜々「じゃあ行きましょうか」

菜々「あ、その前に」

菜々「はいっ」

かすみ「なんですか?急に手を…」

菜々「繋がないんですか?手」

かすみ「あ、あぁ!はい!繋ぎます繋ぎます!」

菜々「意外とかすみさんの手って冷たいんですね」

かすみ「せつ…先輩の手、すごくあったかいです」

菜々「手が冷たい人ってすごく優しいって聞きますよ?」
 
18: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:56:21.29 ID:1IPOGQic
かすみ「…そんなことないですよ」

かすみ「かすみんは手があったかい人は心もあったかいって聞いたことありますし」

菜々「そんなに謙遜しなくてもいいんですよ」

菜々「かすみさんは優しいって私が保証し続けますからね」

かすみ「し続けるって…まぁ嬉しいですけど」

かすみ「そんなこと言ってたら着いちゃったじゃないですか」

菜々「お話ししてるとやっぱりあっという間ですね」

かすみ「何か忘れ物とかしちゃったんですか?」

菜々「ちょうど2人きりでお話しする空間が欲しかったんです」

かすみ「2人で?」

菜々「はい」

菜々「…………」

菜々「…なるべくしずくさんの気持ちを尊重したいのでここに来ました」
 
19: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:57:02.70 ID:1IPOGQic
かすみ「…!」

菜々「ここなら誰にも聞こえないですし、しずくさんの気持ちは既に2人とも共有できてますしね」

かすみ「…なんの話をするんですか」

菜々「そんな身構えないでください」

菜々「できるだけリラックスしながらお話ししたいんです」

菜々「しずくさんは…かすみさんのことが好きだったんですね」

菜々「恐らくしずくさんがかすみさんに告白したんですよね?」

かすみ「…はい」

菜々「どうして断ったのか、教えていただけませんか?」

かすみ「私がせつ菜先輩のこと、好きだったからです」

かすみ「侑先輩と歩夢先輩には『自分の気持ちを大事にして』って言われたので…」

かすみ「断ったことが正解なのかはよくわかりませんけど、やっぱり先輩のことが好きだったので」

菜々「…ありがとうございます」

菜々「私もかすみさんのこと好きですよ」

かすみ「はい…//」

菜々「私がかすみさんのことが好きだからこそ…かすみさんが私のことを好きでいてくれるからこそ、お願いしたいことがあります」

かすみ「お願いしたいことですか?」
 
20: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:57:22.87 ID:1IPOGQic
菜々「はい」

菜々「私たち、別れましょう」

先輩の夕日みたいな優しい笑顔、本当に素敵だなあ。

かすみ「はい」

え?

かすみ「えっ…?」

菜々「かすみさんが私のことを好きだと思ってくれるからこそです」

かすみ「待ってください、意味が…」

菜々「いきなりで本当に申し訳ありません」

かすみ「本当ですよ!意味がわからないです!」

菜々「ちゃんと訳を説明しますから」
 
21: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:58:44.27 ID:1IPOGQic
かすみ「…冗談じゃないんですよね」

菜々「…」

菜々「はい、本当にごめんなさい」

かすみ「…どういう理由なんですか」

菜々「まず大前提として、私はかすみさんのことが好きなんです、大好きです」

菜々「それを加味した上でお話を聞いてください」

菜々「私は、皆んなが幸せそうに笑っている姿を見るのが大好きなんです」

知ってる。それが少し暴走しちゃうのもね。

そこも含めて好きになったんだから。

菜々「同好会の皆さんには特に、です」

菜々「もちろんしずくさんも例外ではありません」

かすみ「待ってくださいよ、それじゃあしず子が幸せになるためにこの話をしてるってことですか?」
 
22: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:59:13.62 ID:1IPOGQic
菜々「はい」

菜々「私たちが別れれば関係がもとに戻るんですから」

かすみ「確かに私もしず子が笑顔になって欲しいです!」

かすみ「でもそれはかすみんの好きって気持ちを…!」

菜々「そうですよね、かすみさんの大好きを蔑ろにしたくはありません」

菜々「でもそれ以上に…私は悲しんでいる人を横目に幸せになりたくないんです」

菜々「この決断で逆にかすみさんを悲しませてしまうのは分かっています」

菜々「でもかすみさんが私を好きでいてくれる、私がかすみさんを好きでいる、という事実だけで私は凄く幸せなんです」

菜々「本当に、心の底から幸せなんです」

菜々「なので…」

菜々「私のわがままを、聞いてくれますか?」

かすみ「…」

かすみ「…………」

かすみ「…………………………………………」

何を言っても聞かないだろーなー。この人は。
 
23: (しまむら) 2022/04/01(金) 21:59:37.39 ID:1IPOGQic
かすみ「…わかりました」

かすみ「ほんっと先輩って優しいですよね」

菜々「本当に…ありがとうございます」

かすみ「そのかわり約束して欲しいことがあります」

菜々「かすみさんのお願いならなんでも聞きますよ」

かすみ「髪が伸びたら…かすみんの髪、編んでくださいね」

菜々「もちろんです」

かすみ「あと!」

菜々「あと?」

かすみ「少しだけで良いので今日は一緒に帰りたいです」

菜々「いいですよ」

菜々「じゃあ早速行きましょう!」

そんな真夏の太陽だと言わんばかりの笑顔も好き。

好きなんですよ。かすみんは。
 
24: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:00:21.45 ID:1IPOGQic
───

──

恋人と話すことってなんだろう。

普通は何か話題を振るべき…だと思うけど、やっぱりこれでいい。

この1秒1秒を大切に感じたい。本当に幸せだから。

かすみさんも同じ気持ちだったらいいな。

これで最後だから。

かすみ「えへへ…」

菜々「どうかされました?」

かすみ「先輩の手、やっぱりあったかいです」

菜々「かすみさんの手も暖かいですよ」

かすみ「さっきは冷たいって言ってたじゃないですか」

菜々「なんか嘘ついてるみたいですね」

菜々「でも本当のことですからね?」

かすみ「先輩に限って嘘つくわけないですもんね」

菜々「じゃあ人生で一番最初の嘘、かすみさんにあげましょうか?」

かすみ「なんですかそれ…第一、ファンのみんなに嘘をついてるじゃないですか」
 
25: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:01:03.37 ID:1IPOGQic
菜々「どういうことですか?」

かすみ「生徒会長だっていうことを隠しながらスクールアイドルやってるじゃないですか」

菜々「あ、確かにそうでした…」

菜々「じゃあかすみさんのためだけの嘘をついてあげます」

かすみ「先輩にできるんですか〜?」

菜々「わ、分かりました」

菜々「…行きますよ?」

菜々「か、かすみさんのことなんかき…き…」

かすみ「き?」

菜々「近所に…いて欲しいです」

かすみ「…それ嘘だったら」

菜々「ああ!やっぱり今のは無しでお願いします!」

菜々「もう!かすみさんは意地悪なんですから!」

かすみ「えー…これかすみんが悪いんですか?」
 
26: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:02:05.51 ID:1IPOGQic
菜々「そうです!かすみさんが悪いんです!」

かすみ「せんぱーい、せつ菜先輩が出てますよー」

菜々「あっ!」

菜々「もう…かすみさんが…」

かすみ「かすみさんがなんですかー?」

菜々「もう…なんでもありません」

菜々「…それにしても、楽しい時間ってあっという間に過ぎるんですね」

かすみ「どういうことですか?」

かすみ「…あっ」

かすみ「…先輩の家ってここでしたっけ」

菜々「そういうことです」

菜々「でもまた明日会えますから」

かすみ「もっとお話ししたいです」

かすみ「だめですか?」

かすみ「こうやって一緒に帰れるのって最後になっちゃうんですよね」

かすみ「もう少しだけ歩きませんか?」

菜々「…そうですね」

菜々「私もまだかすみさんと繋ぎたいですしね」

かすみ「えへへ…じゃあいきましょっ」
 
27: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:03:01.91 ID:1IPOGQic
───

──

しずく「はぁ…はぁ…」

しずく「はぁ…はぁ…」

部長「ちょっとしずくー?」

しずく「はぁ…はぁ…」

『ごめんなさい』

え──────

ぱりん、と私の何かが割れていく。

また行き過ぎちゃったのかな。

一人で突っ走って、何も見えなくなって。

それを友情だと理解できてなくて。

『ごめんなさい、本当に』

もしかしたらダメかもとは思っていたけど本当に断られるとは思わなかった。なぜか大丈夫、できるって思っていた。

『いいの、大丈夫』

『ありがとう、すっきりしたよ』

しずく「はぁ…はぁ…!」

明日からどんな顔をしてかすみさんに会いに行けばいいんだろう。

これからも親友として接していきたい。

でも親友って何だろう。

かすみさんは親友って思ってくれてるのかな。

もしかしたら私を勇気付けるための嘘だったのかな。

そんないらない妄想までしてしまう。

いや、もしかしたら
 
29: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:03:56.36 ID:1IPOGQic
しずく「はあ…はあ……」

しずく「…っ!」

ほん…とう……に…………

私の好きな人が遠くに見えた。

遠くからでもその綺麗な髪色のおかげでよく分かる。



 

隣に人がいた。

綺麗な黒い髪。

私よりも圧倒的に端麗で、魅力的で、かっこいい。

かすみさんの隣が一番似合う人が、彼女の隣にいた。

しずく「あはは…私が敵うわけないか」

しずく「すぅ───…はぁーーー…」

しずく「よし、お稽古の準備しなきゃだぞしずくっ」

こぼれ落ちた涙を、汗で誤魔化せるといいな。

掴もうとした夢にさよならをしないと。

かすみさんとせつ菜さんが幸せになれますように。
 
30: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:04:38.77 ID:1IPOGQic
部長「おーい!しずくー!」

しずく「!!」

しずく「ぶ、部長?どうかされましたか?」

部長「どうかされましたかって…校庭何周走ってるの…」

しずく「あー…2周くらいですか?」

部長「もう4週目だよ…」

部長「いきなりこっち来てランニング参加するんだから…同好会はどうしたの?」

しずく「今日は演劇部でお稽古したいなって気分だったので」

部長「何かあった?」

しずく「いえ、本当に気分ですよ」

しずく「私にもそういう日があるんですよ?」

しずく「充分走りましたし早速お稽古しましょう!」

しずく「次の劇も私が主役をとりますからねっ!」

部長「その意気やよしっ!ほら、みんなも行くよー!」

部長「……同好会の部長に相談しておこうか」
 
31: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:05:33.64 ID:1IPOGQic
───

──

かすみ「…流石に暗くなってきちゃいましたね」

菜々「…少し寒くなってきましたしね」

かすみ「最後にあそこの公園寄りましょ?」

菜々「豊洲ぐるり公園でしたっけ?」

かすみ「そうですそうです」

かすみ「…最後に聞きたいんですけど」

菜々「?いいですよ」

かすみ「ほんの2日でしたけどかすみんと付き合って楽しかったですか?」
 
32: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:05:58.15 ID:1IPOGQic
菜々「楽しい…楽しいわけじゃなかったですね」

かすみ「…どういうことですか?」

菜々「楽しい、ではなく幸せ、でしたよ」

菜々「とてもいい経験をさせていただきました」

かすみ「うわぁ…心臓に悪い嘘つかないでくださいよ」

菜々「今の嘘ついたことになるんですか?」

かすみ「なりますよぉ!も〜!ちょっと変なこと考えちゃったじゃないですかー!」

菜々「かすみさんに嘘をつけてよかったです」

かすみ「そんな笑顔向けられたら怒るに怒れないじゃないですか…」

かすみ「もう…今日のところは水に流してあげます」

菜々「ふふっ…ありがとうございます」
 
33: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:06:42.30 ID:1IPOGQic
菜々「それにしてもレインボーブリッジ、綺麗ですね…」

かすみ「先輩の方が綺麗ですよ」

菜々「これ以上褒めてたら私の手が熱くなっちゃいますよ?」

かすみ「かすみんの手が火傷するくらいですか?」

菜々「そうかもしれませんね」

かすみ「じゃあやってみますねっ」

菜々「ここでですか?!」

かすみ「いきますよ〜?」

かすみ「先輩は〜かすみんより可愛くて〜どんな髪型でも似合ってて〜」

菜々「本当に言うんですね…」

かすみ「元気いっぱいで〜ちょっと抜けてるところがあって、でもそこが可愛くて〜」

菜々「恥ずかしいですね…だけど嬉しいですよ」
 
34: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:07:49.25 ID:1IPOGQic
かすみ「スクールアイドルが大好きで、同好会を作ってくれて〜」

かすみ「かすみんを大切にしてくれて〜…すっごく頭が良くて〜…」

かすみ「お…思いやりがあって…」

かすみ「まだ別れたくないって思わせるような人で…」

かすみ「ほ、他の人のために、辛いことを率先してできる人で…」

かすみ「あはは…だめですね…先輩には泣き顔は見せたくなかったんですけどね」

菜々「そんなかすみさんも好きですよ」

かすみ「なら…どうして…」

かすみ「やっぱり納得できないです…」

かすみ「そんなにかすみんのことが好きなら!どうして…」

かすみ「私といると幸せだって言ってくれたじゃないですか!先輩だって幸せになる権利があるんです!」

かすみ「…もしかして、私以上に一緒にいて幸せな人が」

菜々「それは違いますっ!」

菜々「私は本当にかすみさんが好きなんです!」

菜々「誰にも待っていない可愛さを持っていますしいつも見せてくれる笑顔はとても素敵ですし」

かすみ「それなら証明してください!私が大好きだってことを!」

かすみ「…かすみんにキスしたら……先輩の考えを尊重しますから!」
 
35: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:08:56.56 ID:1IPOGQic
かすみ「目を瞑って10秒だけ待ちますから」

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あぁ…柔らかい…

もう、なんで涙なんか流してるんですか?

一生このままでいたいのはかすみんの方なんですからね。
 
36: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:09:44.19 ID:1IPOGQic
かすみ「なんで先輩が泣いてるんですか…」

菜々「ごめんなさい、かすみさんの気持ちを考えたら…」

かすみ「なんですか今更…これが正解じゃなかったらかすみんぷんぷんですからね」

菜々「正解でもそうでなくても私はあなたのことが大好きですよ」

かすみ「それは私もです」

菜々「それは良かった…」

菜々「では私はここで」

菜々「そろそろお母さんに怒られてしまうので」

かすみ「分かりました」

かすみ「また来週の同好会で会いましょ!」

菜々「はい!」
 
37: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:10:02.30 ID:1IPOGQic
菜々「……」

菜々「…あの、かすみさん」

かすみ「どうかしました?」

菜々「私の手を両手で包んでくれませんか?」

かすみ「いいですよ」

菜々「ふふっ…やっぱり優しいですよ、かすみさんは」

菜々「…では!」

かすみ「あ…まっ…」

かすみ「…………」

かすみ「手、冷たくなってきちゃった…」

かすみ「暖めてくださいよ…」
 
38: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:14:33.88 ID:1IPOGQic
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──

しずくさんがかすみさんのことを好きなのは薄々勘づいてはいた。

スクールアイドルフェスティバルあたりからかすみさんに視線が行くことが多かったから。

常に彼女の中心にはかすみさんがいるような、そんなオーラを出していた。

…それに気づいていたのにかすみさんの告白を受け入れてしまったのだ。本当に馬鹿としか言いようがない。

確かにあの時は舞い上がってしまったのだ。

私の大切にしている仲間からの告白なんて、信じられなかったし本当に最高の気分だった。

だからこそ、私はあの選択をとった。

最高の気分になるのは私ではないんだ。

菜々「ただいま」

母「遅かったじゃない、どうかしたの?」

菜々「少し野暮用が」

母「あら?あなた目が真っ赤じゃない」

菜々「え?」

母「何かあったの…?」

菜々「いや!なんでもない!」

菜々「本当になんでもないから」

菜々「少しだけ寒かっただけ」

私にとっては正解でも不正解でもある。何か不思議な感情に囚われる。

かすみさんにとっては不正解なんだろう。それは当たり前。

しずく『好きなのに…好きだったのに…』

でも…あんな悔しい、悲しい表情を見ていたら…私は…。

あの2人は幸せにならなくちゃいけない人たちなんだから。

ピロン

菜々「あれ?」

菜々「しずくさん?」

 

しずく<明日、ヴィーナスフォートに行きませんか?>
 
39: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:15:33.79 ID:1IPOGQic
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しずく「ごめんなさい、急に呼び出してしまって…」

せつ菜「気にしないでください、今日は特に予定もなかったので」

せつ菜「今日はどうされたんですか?」

しずく「実は日頃からお世話になっているせつ菜さんに何か物でお返ししたいなって思いまして…」

せつ菜「私にですか?!すごく嬉しいです!」

せつ菜「でも私はあまりしずくさんのために何かをできている訳ではないと思いますが…」

しずく「そんなことないですよ」

しずく「せつ菜さんが知らず知らずのうちに助けてるんです」

しずく「それこそ影のヒーローって感じです!」

せつ菜「おお!なんかかっこよくていいですね!」

しずく「では今度のライブで影のヒーロー×ヒロインみたいなのやってみませんか?」
 
40: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:17:08.80 ID:1IPOGQic
せつ菜「いいですね!是非やりましょう!!」

しずく「『漆黒のコートと帽子に身を包んだ影の英雄が今、1人の乙女を守るために暗躍するっ!』とかどうですか?!」

せつ菜「なんですかその展開!絶対面白いですよ!!英国紳士っぽく振る舞うのとアメコミらしさを全開にだすの、どちらがいいと思いますか?!」

しずく「あははっ!ノリノリですねせつ菜さん!」

せつ菜「ご、ごめんなさい…つい…///」

しずく「でもせつ菜さんらしくて素敵です」

せつ菜「本来の目的を忘れかけてしまうほどに熱くなってしまうのはなんとかしたいですね…」

しずく「私だってそうですよ?」

しずく「でもそれくらい熱くなれる物が身近にある方が楽しいですし幸せです」

しずく「あ、着きました!」
 
41: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:17:49.57 ID:1IPOGQic
せつ菜「…ふふ」

しずく「?どうかされました?」

せつ菜「いえ、なんでもないですよ」

せつ菜「というか私へのプレゼントなのに私が一緒にいていいんですか?」

しずく「別にサプライズって訳ではありませんから」

しずく「それに一緒に過ごす時間も楽しくさせられればなって思って」

せつ菜「しずくさんらしいですね」

しずく「あ、でもプレゼントは私に選ばせてください」

せつ菜「もちろんです!しずくさんのプレゼントなんて嬉しすぎます!」

しずく「えへへ…ちょっと恥ずかしいですよ」

しずく「じゃあ早速買ってきますね!」

せつ菜「はい、行ってらっしゃい!」

かすみさんが好きになる理由、なんとなくわかる気がするよ。

私もあの笑顔があれば…

…違うよね。今日はその気持ちとお別れするために来たんだから。

せつ菜「…………」

せつ菜「すみません」

店員「何かお探しですか?」

せつ菜「何かものを書けるスペース、ありますか?」
 
42: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:19:10.16 ID:1IPOGQic
———

——

喜んでくれるかな。

もしかしたら怒られちゃうかな。

どちらにせよ私はこのくらいしかできない。

そもそもこんなにも楽しい時間の中でもかすみさんのことを想像すること自体がきっとおかしいんだ。

しずく「お待たせしました」

しずく「では…」

しずく「せつ菜さん、いつもありがとうございます!」

しずく「これからもよろしくお願いしますね!」

せつ菜「本当にありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」

せつ菜「それで…私からもお礼がしたいんです」

しずく「そんな!いいですよ、私がお礼したかったからしただけで見返りなんて求めていません」

せつ菜「簡単なものなので受け取って欲しいです」

しずく「これは…なんですか?」

しずく「開けてもいいですか?」

せつ菜「あ!今はちょっと…家に帰ってからでいいですか?」

しずく「楽しみにしておきますね」

せつ菜「今度はどこに行きます?」

しずく「そうですね…」

しずく「せつ菜さんは何かありますか?」

せつ菜「私ですか?」

せつ菜「そうですね…結構お腹が空いてしまいました…」

しずく「せつ菜さんって甘いもの食べられますか?」

せつ菜「むしろ好きな方ですね!」

しずく「すごく美味しいお店知ってるので行きませんか?」

せつ菜「もちろんです!」
 
43: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:20:18.53 ID:1IPOGQic
───

──

せつ菜「……」

しずく「…………」

せつ菜「…あと…一口でしょうか…」

しずく「マウンテンパンケーキ、2人で食べようとしたの結構無謀でしたね…」

せつ菜「で、でも美味しいです!」

せつ菜「では最後の一口…」

せつ菜「…だめです、フォークを手に取るのが限界です…口に運べません…」

しずく「そのフォーク貸してください」

せつ菜「?どうぞ」

しずく「ありがとうございます」

しずく「はい、あーん」
 
44: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:23:14.56 ID:1IPOGQic
せつ菜「?!しししししずくさん??!!」

しずく「私が口まで運んであげますよ?」

せつ菜「ええ?!ええ?!!」

せつ菜「いやそのでも、ええっと…間というか…時期というか…」

しずく「むぅ…」

せつ菜「ほっぺ膨らませながら見ないでください!」

しずく「せつ菜さんって意外とそう言うところあるんですね」

せつ菜「わ、分かりました!食べますよ!」

せつ菜「いただきます」 

しずく「…ふふ」

しずく「どうですか?」

せつ菜「ただただ恥ずかしいです…///」

せつ菜「そういうのは…!まぁいいです」

せつ菜「ごちそうさまでした!」

しずく「ごちそうさまでした!」

せつ菜「次は…って、もう陽が落ちる時間ですね」

せつ菜「しずくさんのお家は神奈川なんですよね」

せつ菜「そろそろお開きにしましょうか」

しずく「そうですね…あっという間でした」

しずく「また遊びに行きませんか?」

せつ菜「もちろんです!」

しずく「いきなり誘ってしまってごめんなさい、次からは事前に連絡しますね」

せつ菜「そんなにかしこまらなくても…親友なんですから」

せつ菜「今度は私から誘っちゃいますよ?」

しずく「あははっ!せつ菜さんならいきなり誘われても絶対行きますね!」

せつ菜「今度は鎌倉とか紹介してほしいです!」

しずく「是非是非!」

しずく「ではまた明日!」

せつ菜「はい!」

せつ菜さんには悪いことしちゃったかな。かすみさんに見立ててたなんて口が裂けても言えないや。

かすみさんと一緒にやりたかったこと、もっとあったけれど…。

私の物語はこれでおしまい。これからはかすみさんとせつ菜さんの物語だよね。

しずく「…よし」

しずく「2人が幸せになれますように…」
 
45: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:23:53.97 ID:1IPOGQic
───

──

私の思い、届いたかな。

ちょっと殴り書きになってしまったのは仕方ない。

菜々「それにしても、プレゼントかぁ…」

菜々「2年生になってから、本当に人に与えられてばかり…」

菜々「ふふ」

菜々「ありがとう」

ガサガサと紙袋をの中を覗く。
 
46: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:25:12.78 ID:1IPOGQic
菜々「わあ!素敵なマフ……ラ…………」

オレンジのマフラーが入っていた。

『かすみさんにはせつ菜さんしかいません。どうかお幸せに。』

小さいけれどとても凛々しい文章。心なしか少しだけ「幸」が滲んでいるように見える。

菜々「…え」

菜々「…なんで」

ああ。そうか。

彼女自身が恋心との訣別をしていたのに、私がまた引っ掻き回した。

私が2人を不幸にしてしまった。また。

菜々「あ、あぁ…」

菜々「ごめんなさい…ごめんなさい…」

ピロンピロンと着信音が鳴る。

菜々「もしもし…」

しずく「なにをしてるんですか!!!」

菜々「な、なにって…」

しずく「かすみさんを幸せにできるのはあなたしかいないんです!!!」

菜々「そ、それは違います」

しずく「ちが…!違くないですよ…!」

しずく「…私のことはいいですから」

しずく「…では」

菜々「……」

菜々「私、何してるんだろう…」

つー。つー。

ビジートーンが私の心をこれでもかと締め付けた。
 
48: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:27:52.85 ID:1IPOGQic
───

──

しっかりと私の声で伝えようか、スマホから伝えるか迷ったのですが…今日のしずくさんの綺麗な笑顔を見て、良い雰囲気のまま今日は別れたい。そう思ったので手紙として気持ちを伝えさせていただきます。

結論から言います。私とかすみさんは分かれました。
かすみさんが嫌いというわけではありません。彼女の素敵な笑顔や自らの理想の可愛いを求める姿を見ていると、私もしずくさんと同じ感情を抱かずにはいられませんでした。

同好会が私のせいで一時活動休止になってしまった時、真っ先に侑さん、歩夢さんの元に集まってくれたのはしずくさんとかすみさんだと聞いています。

侑さんのおかげで同好会は発足当時以上の勢いで活動を進めています。しかしそこまでに至るまでにかすみさん、しずくさんが盛り上げてくれたからです。本当に感謝しています。
その恩返し…と言っては語弊がありますが、私はしずくさん達に幸せになってほしいのです。

あなた方2人は幸せにならなければいけない人たちなのです。
私の好き以上にしずくさんの好きが大切にされてほしい。

しかし、それではかすみさんの気持ちが浮かばれない、しずくさんならきっとそう思うはずです。あなたは優しい心を持っているので。

その点に関しては私も罪悪感で胸がいっぱいでした。私を好きでいてくれる人はこの世界中でかすみさんだけしかいないのかもしれません。その心を裏切ってしまうのは非常に心が苦しくなりました。

しかしそれ以上に、私はしずくさんに幸せになって欲しかったのです。しずくさんのその気持ちが悲しいまま終わること…幸せではない人の横で幸せそうにかすみさんの手を取る私が許せなかったのです。

かすみさんも私の考えを理解してくれました。今思えば本当に申し訳ないことをしてしまいました。

でも、優しいですよね。本当に。

かすみさんもあなたを振ったことに対して罪悪感があったようです。同好会の部室でしずくさんがいない時、とても心配そうな顔をしていましたから。彼女はしずくさんのことを親友としてみてくれています。

だから…
もう一度しずくさんの気持ちを伝えてみませんか。
私の幸せはあなた方2人の幸せです。本当に、心の底からしずくさんには幸せになってほしい。
応援しています。どうかかすみさんとの記憶を沢山重ねていってください。
親友へ。
 
49: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:28:40.07 ID:1IPOGQic
───

──

侑「えー?!別れちゃったの?!」

かすみ「声が大きいですぅ!」

侑「《やりましたよ先輩!》って連絡くれたばっかりだったのに…」

かすみ「うう…でも仕方ないんです」

侑「もしかしてもう喧嘩しちゃったとか?」

かすみ「いえいえ!むしろ円満というかなんというか…」

歩夢「2日で別れたのに円満?」

かすみ「はい、一応笑顔で別れたので」

侑「ということはしずくちゃんではないんだね」

かすみ「まあ…しず子ではないですけど…」
 
50: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:30:33.15 ID:1IPOGQic
かすみ「というかなんで知ってるんですか?!?!」

侑「演劇部の部長さんから『しずくがなんか変だよ、何かあったの?』って連絡きたんだよね」

侑「しかもしずくちゃんが部室から出て行った時、なんかかすみちゃんが怯えてたし」

侑「もしかしたらしずくちゃんと付き合ってたけど喧嘩別れしちゃったのかなーって」

侑「でもそういうことじゃないんだね」

かすみ「すごいですね…探偵になれるんじゃないんですか?」
 
51: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:31:12.76 ID:1IPOGQic
侑「そう?じゃあ探偵として解決しないとねっ」

かすみ「侑探偵、私はどうすればいいですか?」

侑「うーーーーーーーーーーーーーん」

侑「歩夢はどう思う?」

歩夢「とりあえず…えーっと、かすみちゃんが付き合ってた子って誰のことなの?」

歩夢「教えてもらえたら私たちも解決しやすくなると思うけど」

侑「あ、そうそう!それ聞きたかったんだよね!」

侑「メッセでも《誰とは言いませんからね!》って言われちゃったし…」

歩夢「やっぱり教えられない?」

かすみ「…………」

かすみ「…隠してても意味ないですよね」
 
52: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:32:28.03 ID:1IPOGQic
侑「それはかすみちゃん次第だよ」

侑「せっかく好きな人を隠しながら相談してたのに今更出すのもなって考えるのも良いし、私たちを頼って教えてもらってもいいよ」

かすみ「あの時は恥ずかしいから言えなかっただけなんです」

かすみ「そんな変なプライドのせいで仲直りが遅くなるなんて最低ですよね」

かすみ「…私が好きな人はせつ菜先輩だったんです」

侑「そうなんだね」

かすみ「せつ菜先輩はかすみんが好きな人の為に別れたいって…」

歩夢「他にかすみちゃんが好きな人がいるってこと?」

かすみ「そうです」

歩夢「…ちょっと納得したかも」

歩夢「他の子の幸せを願うってせつ菜ちゃんっぽいよね」

かすみ「せっかく教えたんですし探偵さんは絶対解決しなきゃダメですよ!」

侑「出来る限りのことはするけどかすみちゃん次第なことは忘れないでね?」

かすみ「はい、それはわかってます」
 
53: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:33:56.78 ID:1IPOGQic
侑「じゃあ早速捜査を開始します!」

歩夢「シャーロック侑ちゃん、頑張って!」

侑「アユム・ワトソンくんもサポートよろしくね!」

歩夢「私が助手だなんて…サポートできるかな…」

侑「いてくれるだけで頭が冴えるから大丈夫!」

かすみ「依頼主の前でイチャイチャしないでください!」

侑「あははーごめんね」

侑「じゃあ何個か質問するね」

侑「かすみちゃんはせつ菜ちゃんの考えに納得できてないんだよね?」
 
54: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:35:22.15 ID:1IPOGQic
かすみ「うーーん…正直よくわからないです…」

かすみ「もちろん振られちゃったことはすごく悲しいですけど、先輩がこれからも好きって言ってくれたのでそれはそれですごく嬉しいというか…」

侑「好きって気持ちで十分ってせつ菜ちゃんは思ったんだね」

歩夢「それでも2人は別れちゃったんだね…」

かすみ「『わがままを聞いてくれますか?』って言われたら断れませんよ…」

侑「まあ起きちゃったことは今更変えられないよ」

侑「せつ菜ちゃんとはこれからどうしたいの?」

かすみ「んー…」

侑「やり直したい?」

かすみ「…あの子の気持ちを思うと、今からやり直しても後ろめたさがあります」
 
55: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:39:04.82 ID:1IPOGQic
侑「なるほどね」

侑「『あの子』ってしずくちゃんのことかな?」

かすみ「…誰にも言わないって、約束してくれますか?」

かすみ「しず子のくれた精一杯の気持ちは大切にしたいので、かすみん以外に知れ渡ってほしくないんです」

侑「うん、約束」

歩夢「絶対言わないから大丈夫だよ」

歩夢「まずはしずくちゃんとの関係を直すのが先なのかな?」

かすみ「そうですね」

かすみ「しず子とは変な感じで別れたままなので友達としてまた接したいです」
 
56: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:39:24.77 ID:1IPOGQic
歩夢「でもせつ菜ちゃんはしずくちゃんとかすみちゃん2人が幸せになって欲しいって思ってるんだよね?」

かすみ「はい…」

侑「かすみちゃんはさ、しずくちゃんのこと、好き?」

かすみ「…それはあれですよね」

侑「うん、恋愛対象として」

かすみ「……」

かすみ「わかりません」

かすみ「本当にわからないんです」

かすみ「せつ菜先輩のことは好きです、この気持ちは変わらないと思います」

かすみ「だけどしず子に好きって言われた時、しず子と一緒にいたら絶対幸せなんだろーなーとも思っちゃったんです」

かすみ「…これって好きっていう気持ちなんですか?」
 
57: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:40:13.21 ID:1IPOGQic
侑「うーん…」

歩夢「私はその気持ちも好きの形だと思う」

歩夢「突き詰めたらそれも好きって気持ちじゃないかな?」

歩夢「友達と一緒にいて『楽しい』じゃなくて『幸せ』って考えるのはかすみちゃんが心のどこかでしずくちゃんを気に掛けてたんじゃないかな」

かすみ「そういうものなんですか…」

歩夢「じゃあもし私とずーーーーっと一緒にいるってなったら幸せ?」

かすみ「え?!えぇっと…」

歩夢「大丈夫だよ、正直に答えて欲しいな」
 
58: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:41:10.17 ID:1IPOGQic
かすみ「多分一緒にお料理したり、お出かけしたりするのはすごく楽しそうです」

かすみ「でもせつ菜先輩とかしず子と同じくらいかって言われると…」

かすみ「ごめんなさい…あんまりいい言葉が見つからなくて」

歩夢「ううん、全然大丈夫」

歩夢「正直に答えてくれてありがとう」

歩夢「でもこれでちょっとはわかったかな?」

かすみ「私がしず子のことが好きなこと、ですか?」

歩夢「うん!」

かすみ「…ほんのちょっとだけわかった気がします」

かすみ「まだまだそんな実感がなくて」
 
59: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:42:25.48 ID:1IPOGQic
歩夢「人から言われただけじゃなかなか実感が湧かないよね」

歩夢「ゆっくりでいいから自分で自覚することって大事だよ」

侑「歩夢…すごーい…」

歩夢「えへへ…」

侑「じゃあそのことはかすみちゃんが追々解決していくとして…」

侑「次はしずくちゃんとまた仲良くしたいって悩みを解決しなきゃね」

かすみ「そうですね」
 
60: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:43:01.77 ID:1IPOGQic
侑「仲直りって言ってもかすみちゃんは別に悪いことしたわけじゃないと思うんだけどなー」

かすみ「…しず子にとっては悪いことですよ」

侑「もちろんその結果はしずくちゃんにとって欲しいものじゃなかったとは思うよ」

侑「でもしずくちゃんの気持ちに応えてあげたっていう行為自体は悪いことじゃなくない?」

侑「そのまま答えを有耶無耶にしてせつ菜ちゃんと付き合う方がよっぽど悪いことだよ」

かすみ「そんなことはしませんよぉ!それだけはだめですよ」

侑「そう!そこそこ!」

侑「その時点でかすみちゃんはなるべくしずくちゃんが傷つかないような行動をしたってことじゃないかな?」
 
61: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:44:03.19 ID:1IPOGQic
かすみ「でもそれにしず子と仲直りするヒントなんてあります?自分の気持ちを正直に伝えるって当たり前のことじゃないですか」

侑「まあそういう捉え方もあるかもしれないけど…」

侑「かすみちゃんの行動は無意識に『相手の気持ちをちゃんと考えられる』っていうことなのかなーって思ったよ!」

侑「私はよく1人で突っ走っちゃうタイプだからさ、そういうのはすっごくかっこいいと思うしかすみちゃんの長所だよ!」

かすみ「ポジティブすぎません?」

かすみ「第一同好会が活動休止になっちゃったのはかすみんがせつ菜先輩の気持ちを考えられなかったのがいけなかったんですし…」

歩夢「その出来事があったから相手の気持ちを考えられるかすみちゃんになれたんじゃないかな?」

侑「きっとそうだよ!かすみちゃんは自分が思ってる以上に成長してるんだと思う!」
 
62: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:44:28.95 ID:1IPOGQic
かすみ「お二人に言われると…えへへ」

かすみ「そんな気がしてきました」

侑「人の気持ちを考えられるいつも通りのかすみんならきっと大丈夫」

かすみ「いつも通り…」

歩夢「いつも通りしずくちゃんに話しかけていつも通りお出かけに誘ったり一緒に帰ったりすればいいんじゃないかな?」

かすみ「…少し怖いです」

歩夢「拒絶されちゃうかもってこと?」

かすみ「はい、かすみんにそんな権利あるのかなって」

歩夢「でも仲良くなれなかったらせつ菜ちゃんの願いが叶わなくなっちゃうんじゃないかな」

侑「せつ菜ちゃんのことを想うなら頑張らないといけないよ?」

侑「かすみちゃんのためにも、大好きな人の為にも、親友の為にも、ね?」

かすみ「……はい」

かすみ「悩んでるのは私だけじゃないですもんね」

かすみ「明日の同好会で仲直りできるといいなあ…」
 
64: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:47:22.98 ID:1IPOGQic
───

──

これからかすみさんにどう接していけばいいんだろう。

かすみさんにとっては『せつ菜さんとの関係を壊してしまった人』か…。

嫌だなあ。こんなとこになるならしなければよかった。

しずく「…………」

かすみさんの笑顔ってどんな顔だったっかな。

心の底から私に笑いかけてくれてたのかな。

もしかしたら私がかすみさんのためにやってたことって本当にかすみさんのためだったのかな。

迷惑だったよね。きっと。
 
65: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:48:13.27 ID:1IPOGQic
璃奈「しずくちゃん、大丈夫?」

しずく「ん?大丈夫だよ」

璃奈「嘘はやめて」

しずく「あはは…」

しずく「…ちょっと疲れちゃったかな」

璃奈「ちゃんと寝れた?」

しずく「あんまり」

璃奈「じゃあ私のここ、使って」

しずく「さ、流石に膝枕は恥ずかしいよ…//」

璃奈「彼方さんは幸せそうにしてるよ」

璃奈「もしかしたらしずくちゃんも元気になれるかも」

しずく「うん…」

しずく「じゃあちょっとだけ」

璃奈「うん」
 
66: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:48:38.76 ID:1IPOGQic
璃奈「辛かったら、話さないとダメ」

しずく「うん」

璃奈「私を頼ってほしい」

しずく「うん」

璃奈「…………」

しずく「かすみさんとせつ菜さんが付き合ってたの、知ってる?」

璃奈「そうなんだ…知らなかった」

しずく「でも別れちゃったんだって」

璃奈「急だね」

しずく「うん」

しずく「別れちゃった原因を作ったのは私なんだけどね」
 
67: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:49:45.32 ID:1IPOGQic
璃奈「え?」

しずく「せつ菜さんってばすごく優しいんだよ?」

しずく「『私に幸せになって欲しいからかすみさんと別れた』って」

しずく「ねえ璃奈さん、私、どうすればいいかな?」

しずく「かすみさんにも嫌われちゃうし、せつ菜さんには気を遣わせちゃうし」

しずく「璃奈さんとか果林さんにも心配かけちゃったし」

しずく「どうすればいいかな」
 
68: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:50:00.65 ID:1IPOGQic
璃奈「どうすれば…………」

しずく「…」

しずく「あはは…」

しずく「ごめんね、変なこと聞いちゃって」

しずく「もう少しだけこのままでいていい?」

璃奈「うん、何時間でもいいよ」

しずく「ありがとう…」
 
69: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:50:19.78 ID:1IPOGQic
───

──

璃奈「…………」

「どう?」

璃奈「寝てる」

璃奈「すごく疲れてた」

愛「まあそうだよね…」

愛「りなりーは何かアドバイスできた?」

璃奈「…全然」

愛「そっか」

璃奈「人の気持ちを考えて、その人のために行動するなんてこと、私にはできない」

璃奈「だからあの時も、私は逃げちゃった」
 
70: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:51:40.25 ID:1IPOGQic
愛「あの時?」

璃奈「しずくちゃんが悩んでた時に、かすみちゃんだけに任せちゃって…」

璃奈「私は何もできないって思って、逃げちゃった」

璃奈「ボードで隠しちゃった」

璃奈「あの日からしずくちゃんとかすみちゃんってすごく仲が良くなった気がするし、今思うとあれがきっかけだっなのかなって」

璃奈「私も行ってあげればこんなことにならなかったのかな」

愛「それは反省しちゃいけないよ?好きになる気持ちは全然悪いことじゃないしね」

愛「というかそれでりなりーは1人で解決したいって思ってたの?」
 
71: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:53:40.63 ID:1IPOGQic
璃奈「うん。私も関わってるし、何より親友だから」

璃奈「愛さんに頼らないやりかたで頑張りたいって」

愛「ライブで人の心を動かせたりなりーならできるよ」

璃奈「愛さんの言葉って本当に元気出る」

璃奈「好き」

愛「にひひ〜ありがとっ」

愛「んじゃアタシは部室に行くね」

愛「まだまだ夕方は寒いんだからりなりーも遅くならないようにね」

璃奈「あ、うん」

璃奈「ばいばい」

愛「ばいばい!」

璃奈「…本気なのに」
 
72: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:54:59.50 ID:1IPOGQic
───

──

空を見上げれば心が落ち着くらしい。

じゃあどうしてスカイブルーに染まった空を見上げてこんなにも心が痛いんだろう。

こんなにも同好会に顔を出したくない日はない。

ラブコメのヒロインはこんな気持ちなんだなあ。

面白おかしく描写されているけど、そんなことは全くなくて。

もし私がヒロインの1人だったら1番人気が低いんだろう。

『そんなことないですよ』

って言ってくれる人もそばにいない。

他人の恋を応援しようとして空回りするヒロインなんてヒロインでもなんでもない、ただの悪役。むしろそっちの方がお似合いかもしれない。

せつ菜「はあ…」

せつ菜「こんにちは」
 
73: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:56:10.23 ID:1IPOGQic
果林「ほら、せつ菜きたわよ」

エマ「彼方ちゃ〜ん羊さんが少しお休みしたいって言ってるよ〜」

彼方「むむむぅ…羊さんが言うならしょうがない…………」

果林「ほんとエマの膝枕が気に入ってるのね」

彼方「むぅ…このままがいい~こっちの方が頭が回るよ~?」 

エマ「じゃあ今日だけだよ?」

彼方「ありがと~」

せつ菜「ええと…私に何かお話があるんです?」

果林「少しせつ菜に相談したいことがあったのよ」

彼方「彼方ちゃんたちだけじゃ難しいからせつ菜ちゃんも相談に乗ってもらおうかなーって」

せつ菜「私ですか?あまり役には立たないと思いますが…」

果林「そんなことないわよ、せつ菜の意見は参考になるから」

せつ菜「ありがとうございます、私にできることならなんでもいいですよ」

果林「助かるわ」
 
74: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:57:16.88 ID:1IPOGQic
果林「さて…じゃあどこから話しましょうか」

果林「私、好きな人がいるの」

せつ菜「はい」

果林「でももう一人、その人のことが好きって子がいるの」

せつ菜「!」

果林「あなたならどうする?」

せつ菜「…どこから聞いたんですか」

せつ菜「私は彼女の気持ちを弄ぶつもりはないので、正当な理由がない限りはお話しするつもりはありません」

果林「別に私はあなたの事とは一言も言ってないけれど?」

せつ菜「でも明らかにこれは…!」

せつ菜「…いえ、なんでもありません」

せつ菜「今のことは忘れていただけませんか?」

果林「ええ」

果林「私はせつ菜みたいなまっすぐな子の意見を聞きたいって思ってるだけ」

果林「もちろん答えたくなかったら答えなくていいわよ」
 
75: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:57:43.99 ID:1IPOGQic
せつ菜「いえ、大丈夫です」

せつ菜「…………」

せつ菜「そうですね、私なら…」

せつ菜「自分の好きという気持ちを隠します」

果林「隠した後は?」

せつ菜「私はそれ以上なにも関わりません」

果林「そう」

エマ「ん~…それってすごく悲しいね」

せつ菜「どうしてですか?」

せつ菜「彼女たちが何も知らずに幸せになれるなら、それは良いことではありませんか?」

エマ「それじゃあせつ菜ちゃんが報われないじゃん」

せつ菜「それでも私は彼女たちの幸せを願います」

せつ菜「私が一晩だけ枕を濡らせばいいだけですから」
 
76: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:58:17.38 ID:1IPOGQic
彼方「それは一晩じゃなくて一生後悔すると思うけどな~」

せつ菜「では彼方さんはどうしますか?」

せつ菜「もう一人の気持ちを押しのけて好きな人と付き合えますか?」

彼方「それは…」

せつ菜「…………」

せつ菜「…もういいですか?」

果林「ええ。ありがとう、参考になったわ」

せつ菜「お役に立てたなら幸いです」

果林「でも私にはわからなかったわ」

せつ菜「分からない?」

果林「ええ」

果林「そんな声を震わせてるのにそれは願いになるのかしら?」

果林「そんな願いは絶対に届かないと思うわ」

せつ菜「そんな綺麗事言われても困ります」

せつ菜「気持ちを隠して2人が幸せになる、という事実さえあればいいんです」

果林「それに」

果林「あなたなら『あの時言っておけばよかった』、『あの時気持ちを伝えていれば今頃どうだったんだろう』って絶対考えるわよ」

せつ菜「…お手洗いに行ってきます」

そんな願いは絶対に届かない?

そんなこと言われても。

じゃあどうすれば良いの?自分勝手に物事を進めて良いの?

自分勝手に行動した結果同好会はどうなった?

確かに私は私の幸せをつかみたい。

後悔なんてしたくない。そんなの当たり前じゃん。

でも2人の幸せも祈りたい。

どうすればいいの?

「…あ」

かすみ「…こんにちは」

ああ。最悪のタイミングだ。
 
77: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:59:11.61 ID:1IPOGQic
———

——

果林「『彼女の気持ちを弄ぶつもりはない』ねえ…」

エマ「私たちにできることってあるのかな…?」

果林「助けを求められたら行動するだけでいいと思うわ」

彼方「そうだね、せつ菜ちゃんも隠したがってたもんね」

エマ「そっかあ、見守ってあげることが一番の支えなのかもね」

エマ「そういえばなんで果林ちゃんって三人の関係知ってたの?」

果林「そういう噂って風よりも早く届くものなのよ」

彼方「ほんとうに?彼方ちゃんそんな話聞いたこともなかったよ〜」

エマ「本当に?」

果林「ええ……多分?」

彼方「別に隠すようなことじゃなくない?」

果林「……この前寮に帰ろうとしたらいつのまにか公園にいたのよ」

果林「その時にせつ菜とかすみちゃんが2人で何か話していたのを見かけたのよ」

果林「まあその時…色々と、ね?」
 
78: (しまむら) 2022/04/01(金) 22:59:56.48 ID:1IPOGQic
彼方「え〜?また迷子になっちゃったの〜?」

果林「迷子じゃないわ!ただぶらつきたいなっておもってただけよ」

果林「まあそれはともかくしずくちゃんと2人の関係がそこで段々と読めてきただけよ」

エマ「でも何もせつ菜ちゃんにあそこまでいう必要はあったのかな…」

果林「泣きながらかすみちゃんとキスしてたのよ?本人が一番納得いってないなんて明白じゃない」

彼方「ええ?!///」

エマ「ん?どうしたの?」

彼方「いやあ…そういうことするんだ…って」

エマ「愛し合ってたら普通にすると思うよ?」
 
79: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:00:24.26 ID:1IPOGQic
果林「それだけ好きなのに自分の正義を貫くのはせつ菜らしいわね」

エマ「せつ菜ちゃんはどっちを選ぶと思う?」

果林「さあ…」

果林「ともかく本当にあなたたちが居て助かったわ」

果林「ありがとう、私だけだったら喧嘩になっていたかもしれない」

彼方「可愛い後輩のためなら何でもできるよ」

エマ「うん!できるかぎりのことはしてあげたいよね!」

エマ「果林ちゃんもお疲れ様」

果林「お礼に膝枕してくれるかしら?」

彼方「あー!エマちゃんの膝枕は彼方ちゃんのものだぞ〜!」

彼方「早い者勝ちだよね~…zz」

果林「か〜な〜た〜?」

彼方「うう…果林ちゃん怖い〜…エマちゃん助けて〜…」

果林「エマは私の味方でしょ?」

エマ「うーん…」

エマ「じゃあ明日は自分の力で起きるならいいよ?」

エマ「そうしたら果林ちゃんに膝枕してあげてもいいかな?」

果林「もう!エマまで!」
 
80: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:02:22.67 ID:1IPOGQic
───

──

かすみ「…………」

せつ菜「…………」

かすみ「…元気ですか?」

せつ菜「…普通です」

かすみ「そうですか…」

せつ菜「しずくさんはいるんですか?」

かすみ「今日は一緒じゃないです」

かすみ「私が振った日から連絡すら取ってなくて…」

かすみ「でも今日でちょっとだけ仲直りできたならって」
 
81: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:02:56.27 ID:1IPOGQic
せつ菜「本当にごめんなさい」

かすみ「なんで先輩が謝るんですか」

せつ菜「私はかすみさんもしずくさんも幸せにすることができませんでした」

かすみ「しず子がどうかしたんですか?」

せつ菜「貴女と別れた後、しずくさんに言われたんです」

せつ菜「『お幸せに』って」

せつ菜「きっとどこかで私たちが付き合ってることが漏れてしまったのでしょう」

かすみ「かすみんが一緒に帰りましょって言った時ですかね」

かすみ「ごめんなさい」

せつ菜「いえいえ、かすみさんが謝ることはないですよ」

せつ菜「私も一緒に帰りたいと思っていたので」

かすみ「あはは…」
 
82: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:04:50.84 ID:1IPOGQic
せつ菜「あはは…」

せつ菜「…」

せつ菜「あの…いきなりですけど気になってることがあります」

かすみ「なんですか?」

せつ菜「かすみさんはしずくさんのことが好きなんですか?」

かすみ「…はい」

せつ菜「私よりですか?」

かすみ「…わかりません」

かすみ「もう優劣なんかつけたくないです」

かすみ「先輩もしず子も好きです」

せつ菜「そうですか」

せつ菜「それは良かったです」

かすみ「どういうことですか?」

せつ菜「かすみさんは一歩前に進みたいですか?」

かすみ「この悩みをきれいに解決するなら…」

せつ菜「かすみさんならきっと解決できますよ」

かすみ「私が、ですか?」

せつ菜「ええ」

せつ菜「なぜならあなたのことが好きではなくなりましたから」

せつ菜「嫌いになりました」

せつ菜「嘘ではありません」

せつ菜「…あなたに幻滅しました」
 
83: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:06:36.75 ID:1IPOGQic
かすみ「はい」

かすみ「ありがとうございました」

かすみ「今日はお休みするって言っておいてくれませんか」

かすみ「さよなら」

これでいい。

どんなに心の中の私が自身の幸せを求めても、やっぱり人の幸せを願った方がいい。

それこそが私らしいって信じてるから。

心配しないでかすみさん。今は辛いって思うかも知らないけど、必ずしずくさんがあなたを幸せにしてくれるから。

せつ菜「あはは……果林さんに怒られちゃうかな」

ありがとうかすみさん。あなたといた2日間は本当に幸せでした。
 
84: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:09:14.57 ID:1IPOGQic
───

──

嘘だよね。きっと。

すっごく優しい嘘。先輩の幸せじゃなくて私たちの幸せを心の底から願ってる。

嘘だよね。

嘘。

かすみ「じゃあなんであんなに凛々しく言えるんですか」

空気に問いかけても意味がないってわかってる。

声も震えてなくて、本心で言っているようだった。

嘘。嘘って信じたい。

かすみ「しず子…」

親友の名前を呼ぶ。

答えてくれるはずもないのに。相談する資格すらないのに。私が振った相手を呼んでしまう。

「ごめんね」

「私のせいで…」



どうして。

なんで答えてくれるんだろう。

なんでいちゃうんだろう。

「か、かすみさん?」

しず子が悪いんだよ。

「待って、まっ……」
 
85: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:10:57.50 ID:1IPOGQic
しず子のシャンプーの匂いが鼻をくすぐる。

菜々先輩とは違う柔らかさ。ちょっとだけ顔を上げなきゃ触れられない。

しず子は私のこと、最低って思ってるよね。

かすみ「ぷふぁ…」

しずく「…ん」

しすく「かすみさ……はぅ…」

もっとしず子を感じていたい。

本当にしず子なのかな?菜々先輩にも見えてきた。

もしかしたら菜々先輩の代わりとしてしず子を?むしろそんな気がしてきた。

よくわからない。もう何でもいい。

しずく「んぅ…」

かすみ「…ごめんなさい」

しずく「ううん、大丈夫」

しずく「少し驚いただけから」

しずく「はい、ハンカチ」

しずく「涙拭かなきゃね」

かすみ「ありがと」

しずく「今日はお休みするの?」

かすみ「うん」

しずく「そうなんだ」

しずく「実は私もお休みするんだ」

かすみ「うん」

しずく「……」

かすみ「……」

しずく「……」

かすみ「……」

かすみ「…えーっと」

かすみ「どこか行く?」

しずく「2人きりで?」

かすみ「しず子がそう言わせたじゃん」

しずく「ふふ、そうだね」

しずく「じゃあ行こっか」 

ほんとかすみんって最低な子だなあ。

嫌な事から逃げて逃げて逃げてばかりでさ。結局楽な道行こうとしてるだけだよね。

でもしず子とちょーっとだけ悪いんだよ?

そんな優しい顔見せられたら意識しちゃうに決まってんじゃん。
 
86: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:12:34.23 ID:1IPOGQic
───

──

まさかかすみさんからくるなんて思わなかった。

まだ膝枕の中で夢を見ているのかと思う。

ドキドキが止まらないけど自然体に。いつもかすみさんに接しているみたいに。

しずく「今日はどこか行く予定あるの?」

かすみ「あんまり決めてないんだよね」

かすみ「だけど何も考えないで歩くのもいいかなーって」

しずく「かすみさんらしくて素敵だよ」

かすみ「もぉーなにそれ」

かすみ「それじゃあかすみんがいつもてきとーな人みたいじゃん」

しずく「同好会の活動以外は意外と適当じゃないかな…」

かすみ「可愛いの練習も本気だよぉ!」
 
87: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:12:56.58 ID:1IPOGQic
しずく「確かに今日のかすみさんはかわいいかも?」

かすみ「かもってなに!」

しずく「でも可愛いって言ったら照れるじゃん」

かすみ「もう照れないし」

しずく「本当に?」

かすみ「ほんと」

しずく「今日も可愛いよ」

かすみ「…………っっっ//」

かすみ「うん、ありがとうございます」

しずく「あははっ!全然隠せてないじゃん」

かすみ「今日はたまたまだもん!」

しずく「そういうことにしておくね?」

かすみ「ぐぬぬ…」

かすみ「そう言うしず子だって可愛いし」

しずく「っ?!///」

かすみ「あー!しず子も照れてる〜!」

しずく「そんないきなり言われたら照れるよ!」

かすみ「あははっ!しず子が悪いんだからねー!」

しずく「あ!逃げたなー!」

かすみさんに心の底から笑いかけたのっていつぶりだろう。

かすみさんの笑顔ってやっぱり素敵だなあ。

やっぱりかすみさんのこと、好き。

大好き。

せつ菜さんとかすみさんに何があったかはわからないけれど、この気持ちは止めちゃいけないんだと思う。

せっかくせつ菜さんから貰った願いは、せつ菜さんのためにも叶えてあげないと。

心の底の私がそう叫んでる。
 
88: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:15:28.68 ID:1IPOGQic
───

──

菜々「少し出かけてきます」

母「こんな早くから?」

菜々「少しだけ散歩してこようかなって」

母「朝ごはんまでには帰ってきてね」

菜々「うん」

菜々「ふぅー…」

オレンジ色かあ。私の好きな系統の色をちゃんと理解してくれてるのかな。

菜々「ごめんねマフラーさん、私なんかよりもっと優しい人を暖めたかったよね」

菜々「ごめんなさい」

黒い衣装をきてるわけじゃないけれど、正義のヒーローになれたのかな。

こういうのもありだよね。決して幸せではなかったかもしれないけれど、達成感で溢れているような。
 
89: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:17:19.77 ID:1IPOGQic
菜々「ふふっ…本当にヒーローみたい」

早朝に独りで歩くのも、何かを達成した後って感じがして気分がいい。

菜々「…ってあれは…愛さーん!」

愛「ん?あれ!せっつーじゃん!おはよ!」

菜々「おはようございます」

菜々「ランニングをしてるんですか?」

愛「うん!冬場はレインボーブリッジ開いてないから学校まで走ってるんだよねー」

菜々「そうなんですね、呼び止めてしまってごめんなさい」

愛「ううん、全然だいじょーぶ!」

愛「せっかくだし一緒に行かない?」

菜々「ランニングはいいんですか?」

愛「走らなかった分同好会でめっちゃ動くからね!」

菜々「そうですか」

菜々「ありがとうございます」

愛「ん?別に感謝されることしてなくない?」

菜々「ちょうど人と歩きたかったので」

愛「うん?まあ1人って寂しいもんね!」

菜々「はは…そうですね」
 
90: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:18:43.09 ID:1IPOGQic
愛「うう〜にしても寒いよ〜…」

菜々「ジャージだけは流石に寒くないですか?」

愛「いやーウィンブレ着てもいいんだど動きづらいからねー」

菜々「マフラーお貸ししましょうか?」

愛「まじ?でもせっつーが寒くなっちゃわない?」

菜々「私は大丈夫ですよ」

菜々「はい、どうぞ」

愛「ありがと!せっつーがオレンジって結構珍しいね?」

菜々「そうでしょうか?」

愛「いつも赤っぽいイメージあるからかなー?」

菜々「実はしずくさんがプレゼントしてくれたんです」

愛「すっごーい…さすがだね」

菜々「私も人を笑顔にするような人間になりたかったです」

愛「せっつーはいっつも笑顔にしてんじゃん」

菜々「菜々として笑顔にしたいです」
 
91: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:19:04.34 ID:1IPOGQic
愛「ん〜…なんか朝から湿っぽいぞー!」

愛「ほら、愛さんと一緒にマフラーの中入ろ!」

菜々「うわあ!?でも身長的に愛さんが…」

愛「そーゆーのはいいのいいの!」

愛「どう?あったかいっしょ?」

菜々「…そうですね、とても」

菜々「とっても暖かいですよ」

愛「でしょー?」

最後くらい

菜々「かすみさんと入りたかったな…」
 
92: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:21:35.39 ID:1IPOGQic
愛「…ん?」

菜々「え?」

愛「今…かすみんって…」

菜々「え?いやそんなことは…」

愛「えー絶対言ったよかすみさんって」

菜々「そうでしょうか?」

愛「なんでかすみんのこと呼んだの?」

菜々「うーん、よくわからないです」

愛「んーーー?」

愛「今日のせっつーなんか変じゃない?」

菜々「そうかもしれません」
 
93: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:21:55.27 ID:1IPOGQic
愛「あ、もしかしてかすみんと喧嘩しちゃったの?」

菜々「ええっと…そんなところです」

菜々「でも解決したので大丈夫ですよ」

愛「ほんと?それなら心配ないね!」

菜々「ええ」

菜々「…………」

愛「…………」

菜々「…………」

愛「…………」 

本当に解決したの?

もう何もわからないよ。

こんなはずじゃないのはわかってる。

本当は嫌われたくなかったよ!

本当は好きでいたかった!!

好かれてもいたかったのに!!!!
 
94: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:23:01.36 ID:1IPOGQic
愛「じゃあさ、私はお医者さん役ね?」

菜々「…?」

愛「解決するのはせっつー自身!だけど私はそのお手伝いだけするってこと!」

菜々「いきなりなんの話ですか?」

愛「迷ってるんでしょ?」

愛「二つの気持ちに」

愛「どっちも大事だよね」

菜々「なんで…」

愛「だって友達じゃん」

愛「それに今を変えたいでしょ?」

菜々「…はい」

菜々「でも私が迷ってるだけなんですよ」

菜々「愛さんがどうこうできる問題じゃないんです」
 
95: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:23:24.73 ID:1IPOGQic
愛「じゃーあ…アタシは薬を渡してあげるね」

菜々「お薬?」

愛「うん!今を変えられるかもしれない魔法の薬だよ!」

愛「それを使うのも使わないのもせっつーの自由!これでいい?」

菜々「どんな薬なんですか?」

愛「んーーーーーーー」

愛「どんなのがいい?」

菜々「ええ?!私が考えるんですか?!」

愛「一緒に考えよっ!」

愛「今だけアタシが患者さん役でせっつーとおんなじ悩みを抱えてるって感じで!」
 
96: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:28:03.48 ID:1IPOGQic
菜々「ええっと…」

愛さんが患者さんだとしたら……

菜々「そんなの一つしかありません」

菜々「大好きを叫ばないと、絶対後悔すると思います」

愛「なるほどね〜!だそうですよ、せっつー!」

菜々「え、いやそれは愛さんのための薬であって……」

愛「せっつー先生いわく絶対後悔するんだってさ」

愛「まあこの薬を使うかどうかはせっつー次第だけどね」

 



 

絶対後悔するんだって。

彼方さんにも言われたっけ。

私ってほんと何もかも気付くのが遅いよね。

でも今からでも遅くない気がする。

菜々「私は今、後悔していると思っていますか?」

愛「うん」

菜々「やっぱりそう見えるんですね」

愛「うん」

菜々「…どうやったらその薬を服用できますか?」

愛「!!!」

愛「あの子にかけてあげたい言葉を口にしてみて!」

菜々「…わかりました!」

菜々「すぅーーー…」

菜々「…きです」

菜々「大好きーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

また私は人に与えられちゃったのかな。

…ううん、これは私が見つけた気持ち。私が作った気持ち。

しずくさんのためにも、私の気持ちを見つけれくれた人たちのためにも、私は本当の気持ちを彼女に伝えなくちゃ。

…なにより、私のためにも。
 
97: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:30:07.53 ID:1IPOGQic
───

──

しずく「璃奈さんありがとう、かすみさんと仲直りできたよ」

璃奈「本当に?璃奈ちゃんボード『よかったよかった』」

璃奈「でも私、何もしてないよ」

璃奈「しずくちゃんの勇気にありがとうって言ってあげて」

しずく「ううん、璃奈さんに打ち明けられたから気持ちが整理できたし璃奈さんがいなかったら私、潰れてたかも」

しずく「本当にありがとう」

璃奈「『テレテレ』///」

しずく「それにかすみさんからアプローチしてくれたからそれに乗っかっちゃっただけだし、私は何もできてないけどね」
 
98: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:30:26.60 ID:1IPOGQic
璃奈「じゃあ告白するの?」

しずく「うん、もちろんしたいけど…」

璃奈「せつ菜さんがいるから?」

しずく「…うん」

しずく「私、せつ菜さんの恋を応援しようって思って色々なことしたの」

しずく「結局それがぜんぶ裏目に出ちゃって…」

しずく「やっぱり告白するのは少しわがまますぎるよね」

璃奈「私だったら絶対告白する」

璃奈「目の前にずっと一緒にいたい人がいるのに想いを伝えないのは、絶対後悔する」

璃奈「かすみちゃんが振り向いてくれるまで、好きって言い続けないとだめ」

璃奈「…だと思う」

璃奈「ごめんなさい、私もこういう経験で成功したことなくて」

しずく「璃奈さんもそういう気持ちがあるんだね」

璃奈「あ、うん『///』」

璃奈「でも私のことよりも自分のことを気にかけてあげて」
 
99: (しまむら) 2022/04/01(金) 23:35:04.98 ID:1IPOGQic
しずく「ありがとう、かすみさんとせつ菜さんに迷惑がかからないかなってやっぱり心配しちゃうよ…」

璃奈「本当の気持ちを言ってくれることは、全然迷惑じゃない」

しずく「どうして?」

璃奈「それだけかすみちゃんとせつ菜さんを信頼してるってことだから」

璃奈「だから本当の気持ちをぶつけてくれてありがとう、って思うはず」

璃奈「だから頑張って!璃奈ちゃんボード『ファイト!』」

しずく「…うん!ありがとう!!」

カチッ、と心の中の枷が外れた気がする。

今の私なら真っ直ぐな想いを伝えられるはず。

ありがとう、私の親友。
 
100: (もんじゃ) 2022/04/01(金) 23:44:10.84 ID:A3YF0R94
───

──

愛「うまくいった?」

璃奈「ありがとう、愛さんがいたから勇気が出せた」

愛「そんなことないよ!りなりーが一人で頑張ってしずくの気持ちを変えたんだよ?」

璃奈「でも愛さんはそういうことすごく簡単そうにやるから羨ましい」

愛「アタシも1番最初はすっごくビビってたと思う」

愛「一歩目ってなかなか踏み出しづらいしね!今日のりなりーはMVPだよ!」

璃奈「ありがとう『テレテレ』」

璃奈「じゃあ…」

愛「うん?」

璃奈「じゃあ愛さん、ご褒美ちょうだい」

愛「ご褒美?うーーーん…なににしよっかな〜」

璃奈「私が決めていい?」

愛「うん!できることならなんでもしてあげる!」

璃奈「ほんと?」

愛「うん!どーんとこいっ!ってやつ!」

璃奈「わかった」

璃奈「ちょっとだけボードを持ってて欲しい」

愛「ん?いいよー」

璃奈「ボード越しからじゃない、100%の私の気持ちを受け取ってほしい」

璃奈「私、愛さんのこと───」 
 
101: (もんじゃ) 2022/04/01(金) 23:45:06.89 ID:A3YF0R94
───

──

今は2点差の延長12回裏ツーアウト満塁って感じだよね。

「…………」

「落ち着いて…深呼吸…」





 

キーンコーンカーンコーン

かすみ「んん〜!やっとお昼休みぃ…」

ピロン

しずく<今日のお昼一緒に食べたいな>

かすみ<いいよ!>

しずく<ありがとう!じゃあかすみさんの教室まで行くね!>

かすみ<結構遠くない?>

しずく<全然平気!ちょっと待っててね!>

かすみ<おっけー!>

かすみ「えへへ…もう、変なところで優しんだから…」

かすみ「…ん?」

ふと教室がざわつく。

「あの!」

「かすみさん!」
 
103: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:26:23.89 ID:q3vC74z4
───

──

しずく「…♫」

ドキドキが止まらないけれど、すごく楽しみな気持ちもある。

もし私の願い通りにならなかったとしても、今日の私なら、今日からの私なら乗り越えられる気がする。

「あの!」

「かすみさん!」

しずく「あ…………」

しずく「まぁそうだよね…」

私が恋を応援してしまったんだから、きっと今から…

それでも。

私の気持ちが伝わるまで、それでも…!

しずく「かすみさん!」
 
104: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:26:47.10 ID:q3vC74z4
菜々「…!」

菜々「しずくさん…」

菜々「想っている気持ちは同じでしょうか」

しずく「はい、せっかくあなたがくれた希望を無駄にしないためにも」

菜々「…本当にごめんなさい、結局私の気持ちは抑えることができませんでした」

しずくさんには本当に申し訳ないことをしてしまった。

自分史上最大のわがままを今貫こうとしてる。

でもしずくさんなら私とかすみさんが付き合っても心の底から応援してくれる。

私の大好きを叫びたい。

しずく「私だってそうです」

しずく「でもこれが私たちにとって最善の選択だと思います」
 
105: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:27:08.28 ID:q3vC74z4
かすみ「ちょっとー二人で何話してるんですかー」

菜々&しずく「あ、かすみさん!」

かすみ「まったく…すごい視線が送られてきてるの気づいてないんですか?」

菜々&しずく「あっ!//」

菜々「なんか出鼻を挫かれてしまった気分です…」

しずく「そうですね…やっぱり今日は…」

かすみ「なんでそうなるんですかぁ!」

かすみ「だいたい菜々先輩!まだかすみんはほんのちょっとだけ許してませんからね!」

せつ菜「うっ…その節は本当に申し訳ありませんでした」

かすみ「はあーー…いいですよ、もう怒ってないですし」
 
106: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:27:28.01 ID:q3vC74z4
かすみ「どうせしず子のためにかすみんのことが嫌いーなんて言ったんですよね?かすみんはなんでもお見通しなんですから」

しずく「……」

かすみ「まあもうそのお話はいいです、しず子もこうやって来てくれたんですから」

菜々「許してくれるんですか?」

かすみ「…先輩は大切な親友です!これでいいですか?」

菜々「うん…ありがとう…ございます」

かすみ「……」

かすみ「で、せつ菜先輩はどうしてここへ?」

せつ菜「しずくさんと同じ理由です」

かすみ「しず子と?」
 
107: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:27:48.21 ID:q3vC74z4
しずく「…うん」

しずく「かすみさんごめんなさい」

しずく「私、ここに来た理由がもう一つあるの」

かすみ「…!」

どんな理由なの、って聞けるほどの空気じゃなくなった。

せつ菜先輩もしず子も、まっすぐ見つめてくる。

ここで決めなくちゃいけない。

別に嫌じゃないんだけどね。2人とも覚悟を持ってきてくれたんだから私はそれに応えないと。

でも…。

このまま世界が止まっちゃえばいいのに。
 
108: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:28:47.33 ID:q3vC74z4
せつ菜「かすみさん、そしてしずくさん、私のわがままに付き合わせてしまったこと、本当に反省しています」

せつ菜「誰かのために行動する、それは素晴らしいことです」

せつ菜「でもそれはただの迷惑になってしまっているとやっと理解できました」

せつ菜「しずくさんに『お幸せに』と願われたのに私はそれを蔑ろにしてしまいました」

せつ菜「そして果林さんや愛さんにも勇気をもらって私は気づきました」

せつ菜「この気持ちだけは、やっぱり叫ばなきゃいけないって」

せつ菜「ただただ叫ぶのではなく、しずくさんとかすみさんの前で叫ぶんだ、って」

せつ菜「…なので」

せつ菜「かすみさん、また私とやり直してくれませんか?」

せつ菜「私はかすみさんのことが好きです!!!」

せつ菜「1000年後も貴女と一緒に過ごしたいです!!」

黄色い声に私たち3人が包まれる。

でもそんなこと気にしない、そんなのを吹き飛ばすかのような、燃えるような目で見つめてくる。
 
109: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:30:56.66 ID:q3vC74z4
しずく「私は!」

かすみ「!」

しずく「私はせつ菜さんのような元気や太陽みたいな笑顔は持っていません!」

しずく「でもこの想いだけは負けない自信があります!」

しずく「貴女が本当の私を私にくれた時、私にはかすみさんしかいないって…そう思いました!」

しずく「怒った顔も、頬を染めている顔も、天使みたいな笑顔も、綺麗な涙が伝う顔も、幸せに溢れているような貴女の香りも、その綺麗な手も何もかもが大好きです!」

しずく

きっと演劇部で培ってきた大きくも綺麗な…波紋が一切ない美しい湖みたいな声が周りを一瞬で静寂にする。

かすみ「…………」

かすみ「か、かすみんは…」

かすみ「私は…」
 
110: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:40:15.91 ID:q3vC74z4
かすみ「…しず子」

しずく「…!」

かすみ「最後に、私から…」

───ありがとう。

私の気持ちに正直に答えてくれて。

ヒロインにはなれないけれど…ずっとずっと親友でいられるんだよね。

これからもその髪飾りをつけていてほしいな。

ほんの一瞬でも貴女の記憶と私の記憶が重なってたって、証明してほしいな。

それだけで私は幸せだよ。
 
111: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:40:42.43 ID:q3vC74z4
───

──

菜々「はぁー…はぁー…」

かすみ「先輩」

菜々「あ、おはようございます」

かすみ「じゃあ行きましょっか」

菜々「ええ」

かすみ「今日は同好会に来るんですか?」

菜々「うーん怪しいですね…この時期は忙しくなりますし」

かすみ「そうですか…残念です」

菜々「あ、じゃあ代わりに…」

かすみ「?」

菜々「ちょうど髪も伸びてそうなので編んであげますね?」
 
112: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:43:59.70 ID:q3vC74z4
かすみ「今ですか?!」

菜々「言ったじゃないですか『髪が伸びてきたら編んであげます』って」

菜々「もう手慣れてますからすぐできますよ」

かすみ「ありがとうございます」

かすみ「じゃあ右側にお願いします」

菜々「はぁー…はぁー…」

かすみ「悴んでるんですか?」

かすみ「ほら、かすみんの首で温めてください」
 
113: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:44:37.19 ID:q3vC74z4
菜々「なんか首を締めてる感じですね…」

かすみ「も~~!!雰囲気ぶち壊しですよぉ!」

菜々「ああ!別にそんなつもりじゃないんです!」

かすみ「あったかくなったんですから早くやってくださいね!」

菜々「…………」

菜々「ま、まだ冷たいな〜」

菜々「やっぱり足りないな〜」

かすみ「な、何をして欲しいんですか」
 
114: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:45:05.20 ID:q3vC74z4
菜々「…お願いします」

かすみ「そんな手を差し伸べられても…」

かすみ「…じゃあこれでいいですか?」

かすみ「はぁー…はぁー…///」

菜々「…///」

かすみ「1番あったかくなる方法がこれしかなかったんですからあ!///」

菜々「いえいえ私のお願い通りというか…ありがとうございます…///」

菜々「おかげさまで暖かくなりましたよ」

菜々「お返しにかすみさんを可愛くしてあげますからね」

かすみ「……♪」

菜々「ふふ、とても上機嫌ですね」
 
115: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:45:40.55 ID:q3vC74z4
かすみ「可愛いを人から貰うってとっても珍しいですから」

かすみ「どんな髪型になるのか楽しみなんです」

菜々「絶対可愛いです!私も楽しみにしてます」

菜々「…………はい、できました!」

かすみ「ありがとうございます!」

かすみ「撮るのでもっと寄ってくれませんか?」

菜々「ええ?!かすみさんの三つ編みを撮るだけなんですよね?」

かすみ「それもありますけどこれを作ってくれた人とも撮りたいなーって」

かすみ「…あと1人で撮るのは寂しいじゃないですか」

かすみ「せっかくだから好きな人と撮りたいです」

菜々「そうですね」

菜々「私も大好きな人と撮りたいです」

かすみ「えへへ…じゃあ早速撮りましょ!」

菜々「あ、その前に」

菜々「このマフラー、一緒に巻いて撮りましょう?」

かすみ「素敵なマフラーですね」

菜々「そうでしょう?私の親友から貰ったんです」

かすみ「やっぱりセンスありますよね」

菜々「ええ、本当に」

かすみ「ふふ…じゃあ撮りますね」

かすみ「はい、チーズ!」

おしまい
 
116: (しまむら) 2022/04/02(土) 00:48:20.54 ID:q3vC74z4
連投していたらめちゃくちゃ長くなってました
ここまでみてくれてありがとうございました
 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1648817316/

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