【SS】歩夢 「開花宣言❁嶺上開花」

あゆむぽむ SS


157: 2021/01/03(日) 19:44:20.73 ID:yu6OL46H
【第5話】『牌は堕ちる、夢の世界へ』

~放課後 麻雀同好会 部室~


彼方 「せつ菜ちゃんに頼まれたんだ~。二人と対局して欲しいって」

侑 「せつ菜ちゃんが? どうして」

せつ菜 「まずはいろんな人と対局して、経験を積むのが一番かと思いまして」

歩夢 「どうして私まで…」

彼方 「あれれ~? せっかくの彼方ちゃんからの誘いなんだから、暗い顔しちゃダメだぞ~」

158: 2021/01/03(日) 19:45:38.25 ID:yu6OL46H
かすみ 「そうですよ先輩! 彼方先輩と打てるなんて、そうそうないんですから」

侑 「えっ、そうなの?」

しずく 「まぁ、一日に何回か打ったらすぐ寝ちゃいますからね」

彼方 「そういうこと。彼方ちゃんはレアキャラなのだぜ~」

かすみ 「ただねぼすけさんなだけじゃないですか」

しずく 「でも実力は確かだから…。私なんかよりもずっと強いし…」

侑 「えっ、しずくちゃんよりも強いの!?」

159: 2021/01/03(日) 19:46:38.94 ID:yu6OL46H
しずく 「事実私は勝ったこと無いですよ」

彼方 「えへへ~。ぶいっ」

侑 「トキメキが止まらないよ…! 早くやりましょ、彼方先輩!」

かすみ 「空いた席はかすみんが入ります! ルールはしず子の時と同じ、二人の合計得点でいいですよね?」

侑 「うんっ! よろしくお願いします!」

歩夢 「……よろしく、お願いします」

160: 2021/01/03(日) 19:47:34.06 ID:yu6OL46H
《対局開始》
東家:かすみ 南家:彼方 西家:歩夢 北家:侑


東一局、かすみの親。ドラは❸


歩夢 配牌
二六22777❷❹❾東東東

歩夢 (まただ…。また寄ってくる)

歩夢 (とりあえず前回と同じ。侑ちゃんをサポートできる牌を残しておこう)

歩夢 (侑ちゃんの捨牌を見て、慎重に…)

161: 2021/01/03(日) 19:48:54.63 ID:yu6OL46H
1巡目──。

侑 「…………。」 打:❺

歩夢 (一巡目から❺? 染め手※かな…?)


染め手・・・萬子、索子、筒子のどれかと字牌だけを集めた手牌。


その後──。

侑 「…………。」 打:四

侑 「…………。」 打:6

歩夢 (何を考えてるの侑ちゃん!? そんなに満遍なく、真ん中の牌ばかり切って…)

162: 2021/01/03(日) 19:50:33.94 ID:yu6OL46H
歩夢 (チャンタ…? いや、それにしても捨て方がおかしい。どういうこと…?)


侑 「……く……ま……」 打:5

彼方 「それだ~。ロンっ!」

歩夢 (あぁっ…! 当然だよ、そんな訳の分からない捨て方してたら…!)


侑→彼方 ロン
四五六七八九34❸❸南南南 ロン:5
南・ドラ2 5200

かすみ : 25000
彼方 : 30200(+5200)計 55200
歩夢 : 25000
侑 : 19800(-5200)計44800

163: 2021/01/03(日) 19:52:04.26 ID:yu6OL46H
東二局、彼方の親。ドラは二


歩夢 手牌
二二二七八668❹❹❽北白

歩夢 (ドラが暗刻。でも関係ない、侑ちゃんのサポートに……!)

侑 「……。」 打:5

次巡──。

侑 「…………。」 打:5

164: 2021/01/03(日) 19:53:23.36 ID:yu6OL46H
更に次巡──。

侑 「………………。」 打:5

歩夢 (さ、三連続同じ牌!? さっきからどうしちゃったの、侑ちゃん!)


侑に視線を向ける歩夢。そこで侑の“もうひとつの異変”に、初めて気付く。


歩夢 (…! 目の焦点が、定まってない!)

165: 2021/01/03(日) 19:55:08.95 ID:yu6OL46H
歩夢 (いや、確実に手牌に目線はいってる。でも、なんだろう……)

歩夢 (『牌を見てるのに見えていない』……そんな感じ)


彼方 「リーチ!」

歩夢 (リーチが入った! 気をつけて、侑ちゃん)

侑 「…………。」 打:❽

歩夢 (あぁっ…! また危険牌を!!)

166: 2021/01/03(日) 19:56:33.14 ID:yu6OL46H
数巡後──。

侑 「…………!」 打:❸

彼方 「ロンっ!」


侑→彼方 ロン
三四五123❷❷❹❺❻❼❽ ロン:❸
リーチ・ピンフ・裏1 5800

かすみ : 25000
彼方 : 36000(+5800)計 61000
歩夢 : 25000
侑 : 14000(-5800)計39000

167: 2021/01/03(日) 19:58:00.43 ID:yu6OL46H
歩夢 (どうして…! どうしてなの侑ちゃん、勝ちたくないの!?)

侑 「…………ま………く………ん……」

歩夢 (…? 何か、呟いてる?)


侑 「……こくし……むそ…う…やく…まん……」


歩夢 (……こくしむそう、国士無双>>0�?)

歩夢 (もしかして役満を狙ってた? でもおかしいよ、だって侑ちゃんはさっきから手出し※をしてた!)

168: 2021/01/03(日) 19:59:26.33 ID:yu6OL46H
※国士無双・・・下の形を揃える手役。役満。
一九19❶❾東南西北白發中 + その中からもう一枚

※手出し・・・手牌の中から牌を切り出すこと。逆にツモった牌をそのまま切ることを『ツモ切り』と言う。

169: 2021/01/03(日) 20:01:32.95 ID:yu6OL46H
歩夢 (ということは侑ちゃんの配牌は…)

侑 配牌(歩夢の予想)
二三三四六3468❷❼東北

歩夢 (こんな感じだったはず! ここから国士無双を狙うなんて、まともじゃないよ)

歩夢 (確かに侑ちゃんは初心者だけど、そんな無謀な打ち方をする子じゃない!)


彼方 「いい感じだね~」
かすみ 「にしし…」

歩夢 「……っ!!」

170: 2021/01/03(日) 20:02:57.12 ID:yu6OL46H
歩夢 (そっか。能力持ちのしずくちゃんよりも強いんだ。彼方先輩もきっと…!)


歩夢が彼方に目線を向けると、それに気付いた彼方が優しく微笑む。


彼方 「ふふっ、そうだよ~。これは彼方ちゃんの能力。侑ちゃんは今、夢の世界に連れてかれちゃってるんだ~」

歩夢 「やっぱり、彼方さんも能力持ちだったんですね…」

171: 2021/01/03(日) 20:04:30.02 ID:yu6OL46H
彼方 「彼方ちゃんはねぇ、向かい側に座ってる人に、役満の夢を見せられるんだぁ」

かすみ 「えぇっ! 能力教えちゃうんですか!?」


歩夢 「夢…?」

彼方 「今の侑ちゃんはどんな配牌が来ても、国士無双を目指せるって思い込んじゃうんだ~」

歩夢 「だからさっきから、真ん中の牌ばかり切ってたんだ…」

172: 2021/01/03(日) 20:05:31.17 ID:yu6OL46H
彼方 「もちろん、見せられる夢は国士無双だけじゃないよ。彼方ちゃんの欲しい牌に合わせて、見せる夢を変えられるんだぁ」

歩夢 「そんなの、対策のしようが……」

かすみ 「秘密にしておけばいいのに、なんでバラしちゃうんですか」

彼方 「いいのいいの。さぁ、次いっくよ~」


東二局一本場、彼方の親。ドラは1


侑 「国士……国士……」

173: 2021/01/03(日) 20:07:04.34 ID:yu6OL46H
歩夢 (侑ちゃん、まだ夢を見てる!)

歩夢 (侑ちゃんは役満の可能性があるかぎり、それを追い続けちゃう…)

歩夢 (どうすれば…! 何かないの!? 侑ちゃんを夢から目覚めさせる方法は…!)


歩夢 「…………っ!!!」


歩夢 (……可能性。そうか…そうすれば…!)

せつ菜 (どうやら気付きましたね。彼方さんの能力、その攻略法を)

174: 2021/01/03(日) 20:08:40.62 ID:yu6OL46H
歩夢 (でもその方法は…! “それ”をやるということはつまり…!)

せつ菜 (…そう。歩夢さん、あなたが全力で麻雀を打つことが絶対条件です)

歩夢 (…嫌だ。侑ちゃんにまで嫌われたら、私は…! 私は……!)


彼方 「リーチっ!」 打:❻


歩夢 (…っ! 7巡も経ってる! いつの間に…)

175: 2021/01/03(日) 20:10:28.96 ID:yu6OL46H
せつ菜 (もうこれ以上、悩む時間はありませんよ、歩夢さん。覚悟を決めるんです、さぁ!!)

歩夢 (もし侑ちゃんが振り込んで、跳満以上ならそこで勝負終了…。それは嫌だ。でも全力を出すのは…もっと……!)


同巡 歩夢 ツモ番

歩夢 「……!」


歩夢はツモった牌を見て、瞳を大きく見開き、そしてそのまま俯いてしまった。

176: 2021/01/03(日) 20:12:08.45 ID:yu6OL46H
せつ菜 (……ここまでですね。彼方さんと対局させれば、もしかしたらと思いましたが)

歩夢 「…………。」


──遠くから、声が聞こえる。

歩夢の脳裏に映し出されたのは、過去の記憶。

麻雀が大好きだった、あの頃の記憶。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

177: 2021/01/03(日) 20:40:01.43 ID:yu6OL46H
つづく

178: 2021/01/03(日) 20:42:30.88 ID:yu6OL46H
【次回予告】

かすみ 「国士無双って憧れますよね」

彼方 「確かに名前もカッコイイからね~。役満はなかなか出ないけど、覚えておかないと損することもあるから、この機に何個か覚えておこうか」


〇国士無双
一九19❶❾東南西北白發中 を揃え、その中からもう一枚揃える役満。

〇緑一色(リューイーソウ)
2、3、4、6、8、發 だけを使ってアガる。
緑の牌だけを使うので、緑一色と言う。

179: 2021/01/03(日) 20:44:08.29 ID:yu6OL46H
〇九蓮宝燈(チュウレンポウトウ)
萬子、索子、筒子いずれかの種類だけで
1112345678999 を揃え、1~9のうちどれかをもう一枚揃えると出来上がる役満。アガると死ぬ、という逸話もあるほど珍しい役満。

〇清老頭(チンロウトウ)
1、9の暗刻だけで手牌を揃える役満。
例)一一九九九111❶❶❶❾❾❾


かすみ 「色々あるんですね」

彼方 「彼方ちゃんの能力は役満を利用したものだからね~。役満についてはなんでも聞いてよ」


次回『開花宣言❁嶺上開花』

185: 2021/01/03(日) 22:16:08.79 ID:n2TJDfOJ
ついにタイトル回収か。期待

186: 2021/01/04(月) 00:54:54.48 ID:/R7eoePa
歩夢覚醒かな?
かすみんにも救いを…

184: 2021/01/03(日) 21:30:27.82 ID:0uLuiMwB
いいとこで切りよる
次回期待

188: 2021/01/04(月) 01:14:50.63 ID:uov4/2vH
めちゃめちゃ面白い
期待
アニメ化しないかな

191: 2021/01/04(月) 18:58:28.19 ID:VdPgNWa2
【第6話】『開花宣言❁嶺上開花』


歩夢の父は時々、親戚を家に集めては麻雀を打っていた。夜な夜な響く牌の音、大人たちの楽しそうな笑い声。小学生といえど、興味を持つなという方が無理な話だった。


『麻雀をやってみたい?』

あゆむ 『うん! おとーさんたち、いつもたのしそうなんだもん! ずるい!』

『まぁ…頭の運動にもなるし丁度いいか』


歩夢の雀力は、天性のものと言っても過言ではなかった。その才能は、打てば打つほど開花していった。


『いいか歩夢。まずは同じ牌を集めるところからだ。少しずつ覚えていくんだぞ』

192: 2021/01/04(月) 19:00:10.17 ID:VdPgNWa2
あゆむ 『おなじはいを、あつめる……』


あゆむ 手牌
二二二7889❸❸❺東東東


歩夢が望めば、ほぼその通りに牌が寄ってきた。
麻雀に愛されている。そう思わせるほどに。


『もうすっかり敵わないなぁ』

あゆむ 『わたし、つよい?』

『あぁ。誰よりも強いぞ歩夢』


あっという間に、父は歩夢に歯が立たなくなっていた。強くなればなるほど褒めてもらえるので、歩夢は喜んで麻雀を勉強し続けた。

193: 2021/01/04(月) 19:01:26.74 ID:VdPgNWa2
いつしか親戚との麻雀で卓に座るのは歩夢になり、対局の経験を重ねていった。

PTA会長を決める対局。
忘年会の幹事を決める対局。

負ける訳にはいかない対局も増えてきた歩夢は、さらに強くなため、麻雀の戦術本を読み漁るようになる。

小学生で麻雀の本を読み漁る女の子。
クラスメイトは好奇の目で見ていた。


「麻雀なんてオヤジっぽい」
「女の子っぽくない」

あゆむ 『……っ!?』


誰に何を言われても、歩夢は気にもとめなかった。だが…。

194: 2021/01/04(月) 19:03:01.46 ID:VdPgNWa2
ゆう 『麻雀なんて、変だよ、歩夢』

あゆむ 『やめて……やめてぇっ……!!』


もしその言葉を親友である侑に言われたら…。そう考えると、いつの間にか牌に触れることすら出来なくなっていた。


歩夢 (そうだ…。もう麻雀なんて打たない、そう決めたはずなのに)


せつ菜 『歩夢さん。私は今、本気です』

歩夢 (……せつ菜ちゃん)

せつ菜 『ですから、あなたも応えてください! 私に見せてください、あなたの麻雀を!!』

195: 2021/01/04(月) 19:04:30.65 ID:VdPgNWa2
せつ菜ちゃんは違った。私の麻雀を、受け容れようとしてくれた。私の大好きの気持ちを、一度たりとも否定しなかった。


歩夢 (カッコよかったなぁ…せつ菜ちゃん)


幻想を見せるほどに美しい姿、そして圧倒的な強さ。あれはまさに、“完成された麻雀”だった。


歩夢 (あんな麻雀、打ってみたいな…)

歩夢 (でも、いいの。私は麻雀で勝つことより、侑ちゃんとの繋がりの方が大事なんだ)

歩夢 (ごめんね、侑ちゃん。この牌は切るよ)


ツモってきた牌を切ろうとしたその時、頭の中に響いたのは、侑の声だった。

196: 2021/01/04(月) 19:05:35.70 ID:VdPgNWa2
侑 『私、好きだよ』

歩夢 「えっ…?」


──目の前にいたのは、小学生時代の侑。
…クラスの子達に馬鹿にされてた私を、侑ちゃんが助けてくれた時の言葉。


歩夢 「好き……って?」

侑 『歩夢が、大好きなものに夢中になってるところ。すっごく輝いてて、楽しそうなんだもん』

歩夢 「でも、こんなの変だし…」

侑 『変じゃないよ。歩夢が大好きなものなら、私は応援する』

歩夢 「侑ちゃん…」

197: 2021/01/04(月) 19:07:26.27 ID:VdPgNWa2
侑 『まぁでも、麻雀は難しそうだから、一緒にはできないかもだけど』

歩夢 「…っ!!」


歩夢の瞳から、涙が溢れ出る。
そうだ、思い出した。侑ちゃんに嫌われることを恐れて、押し〇してた私の想い。


歩夢 (私は嬉しかった…。侑ちゃんが麻雀に興味を持ってくれたことが)

歩夢 (小学生の頃…。あの日言えなかった言葉。今なら言える…!)


あゆむ 『侑ちゃんも一緒に、麻雀やろうよ!』

198: 2021/01/04(月) 19:09:16.74 ID:VdPgNWa2
歩夢 (そうだ…。私は…私は…っ!!)


──侑ちゃんと一緒に、麻雀が打ちたい!


歩夢 「カンっっっ!!!」


切ろうとした牌を手牌に戻し、高らかに宣言する。倒した4つの牌からは桜吹雪が舞い、自身と侑の体を包み込む。その光景は彼方やかすみ、しずく、そしてせつ菜の瞳にも映っていた。


せつ菜 (……!! きたっ…来ました…! これが歩夢さんの麻雀!)


歩夢 「お願い、目を覚まして!!」

歩夢 カン:[❶❶❶❶]

199: 2021/01/04(月) 19:11:01.94 ID:VdPgNWa2
歩夢がカンをしたのは❶。国士無双を作るのに必須の牌だ。❶が4枚使われたことで、国士無双の可能性は0%になる。


侑 「……っ! 私、何を!?」

歩夢 (彼方先輩の攻略法…! 狙っている役満の可能性を摘み取る!!)


歩夢 「もういっこ、カンっっ!!!」 [北北北北]

歩夢 「新ドラは…❶!」

歩夢 「ツモッ!! 嶺上開花!!」


歩夢 ツモ
七八123南南[北北北北][❶❶❶❶]ツモ:九
ツモ・嶺上開花・チャンタ・ドラ5
4000-8000の一本場

かすみ : 20900(-4100)
彼方 : 26900(-9100)計 47800
歩夢 : 42300(+17300)
侑 : 9900(-4100)計 52200

200: 2021/01/04(月) 19:14:35.56 ID:VdPgNWa2
東三局、歩夢の親。ドラは三


彼方 (やるねぇ、歩夢ちゃん。でも彼方ちゃんのの能力は、毎局使えるんだよ!)

侑 「…ぅ……っ…! ゃ…やく……まん…」

歩夢 「させないっ! カン!!」 [中中中中]

彼方 (中の暗槓! 国士だけじゃない、大三元も潰してきたね…!)


侑 「…っ! ありがとう、歩夢!」

201: 2021/01/04(月) 19:17:52.65 ID:VdPgNWa2
数巡後──。

侑 「ツモっ!」

侑 ツモ
二三四67❷❷❸❹❹❺❺❻ ツモ:8
タンヤオ・ピンフ・ツモ・ドラ1 1300-2600

かすみ : 19600(-1300)
彼方 : 25600(-1300)計 45200
歩夢 : 39700(-2600)
侑 : 15100(+5200)計 54800


東四局、侑の親。ドラは北


彼方 (国士や大三元じゃもう無理だね。こうなったら、奥の手…!)

侑 「…っ…!!? …ぁ……う…」

202: 2021/01/04(月) 19:21:56.76 ID:VdPgNWa2
彼方が見せたのは役満……九蓮宝燈の夢。


彼方 (彼方ちゃんの能力は、見せる役満の難易度が高ければ高いほど負担が大きい)

彼方 (これは彼方ちゃんにとって奥の手…!)


歩夢 「…カン!」 [三三三三]

彼方 「っ!?」

せつ菜 (九蓮宝燈の夢を見せていることを瞬時に察知。そして的確に三の暗槓…)

彼方 (歩夢ちゃんには、何が見えているの…?)

203: 2021/01/04(月) 19:25:13.71 ID:VdPgNWa2
7巡目──。

彼方 手牌
五六23477❷❷❸❻❼❽

彼方 (手はタンピン形。こうなったらもう一度、国士無双の夢を見せる!)


侑 「……。」 打:北

彼方 (…っ!? 堕ちない、どうして!?)

彼方 (まさかもう限界が? いや、彼方ちゃんの体力はまだ残ってる。そんなはずは…!)


2巡後──。

彼方 ツモ:東

204: 2021/01/04(月) 19:27:20.07 ID:VdPgNWa2
彼方 「くっ…!」 打:東


侑 「…………素敵な夢を見せてくれて、ありがとうございます。彼方先輩」

彼方 「…侑ちゃん?」

侑 「でも、そんなに素敵な夢、見るだけなんてもったいないです。叶えないと!!」


彼方 (…! 夢に堕ちなかったのは、それが夢じゃなく、既に現実だったから…!?)

彼方 「まさか…っ!!」


侑 「ロンッ!!! 国士無双!!」


彼方→侑 ロン
一九19❶❶❾南西北白發中
国士無双 48000

205: 2021/01/04(月) 19:30:57.48 ID:VdPgNWa2
《対局終了》
かすみ : 19600
彼方 : -22400(-48000)計 -2800
歩夢 : 39700
侑 : 63100(+48000)計 102800(勝)


歩夢 (勝った…けど…………)

侑 「勝った、勝ったよ! 歩夢のおかげだよ!」

歩夢 「…! 私の、おかげ…?」

206: 2021/01/04(月) 19:34:01.58 ID:VdPgNWa2
侑 「そうだよ、歩夢のおかげ! それに何あの花吹雪! すごいかっこよかったし、素敵だった!」

歩夢 「……! えへへっ……」


せつ菜 (…どうやら、もう心配はいらなそうですね)

ーーーーーー
ーーーー
ーー

207: 2021/01/04(月) 19:36:10.03 ID:VdPgNWa2
侑と歩夢が帰った後。しずくも稽古に戻り、部室には彼方とせつ菜、そしてかすみの三人がいた。


せつ菜 「…すごい勝負でしたね」

彼方 「うん。完敗だったよ~」

せつ菜 「まさか、あそこで歩夢さんが全力を出してくるとは…」

彼方 「またまた~。そのために彼方ちゃんと戦わせたんでしょ?」

せつ菜 「分かっていたんですか?」

彼方 「もちろん。歩夢ちゃんの能力は、彼方ちゃんにとって天敵とも言えるし…。だから彼方ちゃんと戦わせれば、歩夢ちゃんが全力を出してくれるって思ったんでしょ?」

208: 2021/01/04(月) 19:40:22.59 ID:VdPgNWa2
せつ菜 「…敵いませんね、彼方さんには」

かすみ 「それでわざと、能力を自分からバラしたんですね」

彼方 「そういうこと~」

せつ菜 「それにしても珍しいですね。あれだけ能力を使ったのに、まだ起きているなんて」

彼方 「不思議な感覚なんだ。いつもならもうぐっすりさんなはずなのに、全然眠たくなくってさ」


しかしさすがに疲れたのか、「お先に~」と言って彼方は先に帰ってしまった。せつ菜も忙しいようで、後に続くように部室から出ようとする。


かすみ 「かすみんはまだやることがありますから、先帰っててください」

せつ菜 「そうですか? あまり遅くならないように、気をつけてくださいね」

かすみ 「はい。お疲れ様です」

209: 2021/01/04(月) 19:43:59.38 ID:VdPgNWa2
……一人になった部室。使い終わった牌を綺麗に布巾で掃除するのが、かすみの日課だ。


かすみ 「はぁ…やっぱり彼方先輩は強いですね。歩夢先輩も、なんだか花が舞ってるように見えてすごく可愛かったですし…」

かすみ 「侑先輩も、あそこで役満をアガるなんて。底知れない強さを感じます」

かすみ 「……かすみんだって……かすみんだって」


かすみ 「……うぅ……ぐすっ……」


せっかく拭いた牌に、涙がこぼれ落ちる。


かすみ 「……また……役にたてなかった……」

かすみ 「……強く、なりたいよ……っ……」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

210: 2021/01/04(月) 20:07:35.36 ID:VdPgNWa2
つづく

211: 2021/01/04(月) 20:09:52.56 ID:VdPgNWa2
【次回予告】

侑 「歩夢。“新ドラ”って何?」

歩夢 「カンをすると、元々あったドラの横の牌をめくって、新しいドラに出来るんだ」

侑 「それを新ドラ(しんどら)って呼ぶんだね」

歩夢 「ちなみにカンの種類によって、新ドラが乗るタイミングが違うよ」

侑 「カンの種類。明槓※と暗槓だね」


※明槓(ミンカン)・・・手牌に三枚同じ牌があり、誰かがその牌を捨てるとカンをすることが出来る。また、ポンした牌とおなじ牌をツモった場合も、その牌を加えてカンできる。

212: 2021/01/04(月) 20:12:09.40 ID:VdPgNWa2
歩夢 「暗槓の場合は、すぐにドラが増えるけど、明槓の場合は、嶺上牌をツモって、打牌をした後にドラが増えるよ」

侑 「じゃあ明槓で嶺上開花をした時は、新ドラをめくれないんだね」

歩夢 「そういうこと! 私と対局する時は、特によく覚えておいてね」


次回『集いしは、Evergreen』

213: 2021/01/04(月) 21:02:16.64 ID:AlXv4PY2
no title

めちゃめちゃ面白くてこういう幻覚が見えた

次回も楽しみに待ってる

215: 2021/01/04(月) 22:04:27.50 ID:VdPgNWa2
>>213
イラスト…! めちゃくちゃお上手ですし、私のイメージしてた姿そのもので感動です…

本当にありがとうございます!

218: 2021/01/05(火) 00:35:56.77 ID:Ymi/vijM
>>215
そんなに喜んでもらえるとは…光栄です
本当に面白いので完結まで必ず追わせて頂きます!

214: 2021/01/04(月) 21:17:05.38 ID:MW3Vyr5+
俺もEvergreenの能力が欲しい人生だった
かすみが得意げに教えてたのも歩夢が全部知ってたと思うと泣けてくる

216: 2021/01/04(月) 22:46:23.03 ID:A8CUpJRh
本当におもしろい
毎秒あげて…

217: 2021/01/05(火) 00:16:35.98 ID:X/JVKBCC
かすみ回来た!!!!
と思ったらエマ回かな? 焦らすねぇ

219: 2021/01/05(火) 00:43:33.21 ID:pHjfdUYn
緑の牌が集まりそうな能力やな

222: 2021/01/05(火) 19:01:45.58 ID:l9VqmmaY
【第7話】『集いしは、Evergreen』


せつ菜 「…では、次の問題です」


放課後。部室に集まった同好会メンバー。
今日は全員で麻雀の勉強をしていた。


せつ菜 「ドラが❹、あなたはちょうどテンパイをしたところです。形はこう」


手牌
二三78❶❶❷❸❹❺ [中中中] ツモ:四


侑 「❷ か ❺ を切ってテンパイだね」

せつ菜 「そうです。さてこの場合、❷ と ❺ どちらを切るのが正解でしょうか?」

267: 2021/01/05(火) 22:11:09.80 ID:l9VqmmaY
【次回予告】

しずく 「そういえば、>>222 の問題の解説がまだでしたね」

彼方 「おぉ~、よろしく頼むよしずくちゃん」


ドラ : ❹

手牌
二三78❶❶❷❸❹❺ [中中中] ツモ:四


しずく 「❷と❺、どちらを切ってテンパイにするかという問題ですね」

彼方 「エマちゃん曰く、答えは❺なんだよね?」

しずく 「はい。肝心なのは、どうして❺なのかです。❺に比べて、相手にロンされにくそうな❷を切ってしまいがちですが…」

223: 2021/01/05(火) 19:03:31.99 ID:l9VqmmaY
かすみ 「えぇっ、どっちも同じような気がしますけど…」

侑 「うーん、❺の方があたりやすそうだから、❷を切るのが正解…?」


?? 「答えは❺切りだよ~!」


突然部室に入ってきた少女は、自信満々に答えを言う。大きなキャリーバッグに麦わら帽子。いかにも旅行帰りという出で立ちだ。


せつ菜 「ふふっ。正解です、エマさん」

しずく 「エマさん! 帰国されたんですね!」

エマ 「チャオ~! あっ、この子たちが新しい部員だね?」

224: 2021/01/05(火) 19:05:03.33 ID:l9VqmmaY
侑 「初めまして。普通学科二年の高咲侑です」

歩夢 「同じクラスの、上原歩夢です」

エマ 「はじめまして! 国際交流学科三年、エマヴェルデだよ。よろしくね」

彼方 「思ったより早かったね~。2週間くらい?」

エマ 「うん! でもたくさん自然を感じてきたから、もう充電マックスだよ」


せつ菜 「さて、全員揃ったことですし…始めますか!」

侑 「えっ、勉強の続きじゃなくて?」

225: 2021/01/05(火) 19:06:42.89 ID:l9VqmmaY
かすみ 「というかせつ菜先輩、知ってたんですね。エマ先輩が帰国するの…」

せつ菜 「あっ……その……」

彼方 「あの顔は『伝え忘れた』って顔だね」

せつ菜 「そ、それはそれとして! 今日は大事なことを決めなくてはいけないんです!」

歩夢 「大事なこと?」

せつ菜 「はい! 今度行われる大会の、出場者決めです」

侑 「おぉ! 大会だー!」

せつ菜 「今回のは都内の高校が集まる小規模な大会で、どちらかと言うと交流戦に近いものですが」

226: 2021/01/05(火) 19:08:24.91 ID:l9VqmmaY
歩夢 「でも、他校の人と戦えるのは面白そうだね」

せつ菜 「ここで問題になるのが、ひとつの学校から出場できるのが、ペア一組だけということです」

彼方 「ということはこの中から二人だけ?」

かすみ 「よーし、今回こそ出場しますよー!」

しずく 「でも学校代表として出るわけですから、一人はせつ菜先輩で確定でしょうか?」

かすみ 「うぅ…たしかに。悔しいけど、交流戦なら部長が出てこそだし」

エマ 「じゃあせつ菜ちゃん以外の六人から一人を選ぶんだね。どうやって決めようか?」

227: 2021/01/05(火) 19:10:01.81 ID:l9VqmmaY
彼方 「いつも通り対局で決めようよ。歩夢ちゃんと侑ちゃんはシード権ってことで」

侑 「えっ、いいんですか?」

かすみ 「もちろんです! 新入部員なのに一回戦落ちじゃ可愛そうですから」

歩夢 「負けること、前提なんだ…」

かすみ 「いや……だって……」チラッ

エマ 「…?」

かすみ 「ま、まぁとにかく! まずはかすみん、しず子、エマ先輩、彼方先輩の四人でやります!」

彼方 「それで上位二人が侑ちゃんと歩夢ちゃんと対局だね。いいと思うよ~」

228: 2021/01/05(火) 19:11:33.00 ID:l9VqmmaY
エマ 「じゃあ早速はじめよっか! よろしくね~」

しずく 「はい。……頑張って二位を目指します」

かすみ 「かすみんも…」

侑 「なんか、二人ともすごい弱気じゃない?」

彼方 「すぐにわかるよ~…」

歩夢 「……?」

229: 2021/01/05(火) 19:13:36.33 ID:l9VqmmaY
《対局開始》
東家:エマ 南家:かすみ 西家:しずく 北家:彼方


エマ 「それにしても日本は暑いね~。汗が止まらないよ」

侑 「あ、じゃあ私たち、飲み物買ってくるよ! 歩夢、局が進む前に行ってこよ?」

歩夢 「そうだね、ちょっと行ってきます」

せつ菜 「すいません、よろしくお願いします」


全員から欲しい飲み物を聞き、自販機へと走る。自販機はロビーの方まで向かわないと無かったが、全員分を買って戻るのにそれほど時間はかからなかった。

230: 2021/01/05(火) 19:15:01.58 ID:l9VqmmaY
約十五分後──。


侑 「ただいまー! 買ってきたよー」

エマ 「あっ、ありがと~。ちょうど終わったところだよ」

歩夢 「終わった……? あぁ、一局目がってこと?」

せつ菜 「いえ、それが……」


《対局終了》
エマ : 121300(勝)
かすみ : -7100
しずく : -7100
彼方 : -7100


侑 「…………へ?」

231: 2021/01/05(火) 19:17:35.52 ID:l9VqmmaY
手に持っていたジュースが、手からするりと落ちる。歩夢が慌てて拾い上げ、机の上に並べる。


侑 (何が起こったの…? まだ二十分も経ってない! なのに、エマさん以外全員がトビ…?)

かすみ 「…………。」プシュー
しずく 「…………。」プシュー
彼方 「…………。」プシュー

歩夢 「さ、三人とも、しっかりして!」

かすみ 「……元々、無理な話だったんです。帰国直後のエマ先輩に勝とうなんて…」

侑 「それって、どういう…」

エマ 「さぁ、次は決勝戦だよ~」

232: 2021/01/05(火) 19:19:37.97 ID:l9VqmmaY
せつ菜 「…一応、同点の場合は東家に近い場所から順位が決まるので、かすみさんも進出ですね」

かすみ 「なんか不本意です…」


侑はしずくと彼方をソファに座らせ、頭に冷やしタオルを乗せる。買ってきたジュースをかすみが二人の前にお供えし、両手を合わせる。


彼方 「しずくちゃん、仏さんにされてるよ私たち」

しずく 「もうツッコむ元気もありません…」

侑 「あの二人がこんなになるなんて…。エマさん、一体どんな麻雀を?」

エマ 「さ、はじめよっか~」

233: 2021/01/05(火) 19:22:48.86 ID:l9VqmmaY
《対局開始》
東家:歩夢 南家:かすみ 西家:侑 北家:エマ


東一局、歩夢の親。ドラは三


「~~~♪」

侑 (…? 歌声?)


対局開始と同時に、優しい歌声が響き渡る。澄み渡るような美声。その声の主はエマだった。窓も開いていないのに、強い風が一瞬吹き、目を眩まされる。

閉じた瞳をゆっくり開くと、そこには信じられない景色が広がっていた。


侑 (えっ…ここはどこ? 草原?)

234: 2021/01/05(火) 19:24:52.26 ID:l9VqmmaY
先程まで部室にいたはずなのに、辺り一帯は見渡す限りの草原になっていた。その真ん中に、卓と自分たちだけがポツンと置かれている。


侑 (なんだろう…すごく穏やかな気分になる…)

侑 (緑の香り…。気持ちいい…)

侑 (…っ! ダメダメ、集中集中!)


歩夢 (エマさんを中心に広がってる? この感覚、似てる…せつ菜ちゃんと!)


1巡目──。

歩夢 配牌
二二七七七七55❻❻西西中 ツモ:7

235: 2021/01/05(火) 19:28:19.89 ID:l9VqmmaY
歩夢 (カンは出来るけど…。ここはまだ様子見)

歩夢 (一回戦での圧倒的な点差。まず能力持ちと見て間違いない。問題なのは、その内容)

歩夢 (能力が明らかになってない今、下手に動くのはかえって危険かも)打:中


侑 (…歩夢、様子見だね。私もアガりは目指すけど、まずはエマさんの能力を確かめよう)

侑 (あんなにわずかな時間で決着が着いたってことは、多分早上がり系の能力…)


7巡目──。

エマ 「ツモ!」

歩夢 (…! 早い、やっぱり早上がり系の能力!)

236: 2021/01/05(火) 19:32:50.37 ID:l9VqmmaY
侑 (予想は当たっていた。早上がりされ続けたから、あんなにすぐ対局が終わったんだ!)

歩夢 (問題は点数。わずか7巡で、どんな手を…?)


エマが倒した手牌を見て、二人は血の気が引くのを感じた。


エマ 「緑一色(リューイーソー)。役満だよ~!」

エマ ツモ
22334466888發發 ツモ:發
緑一色 / 8000-16000


歩夢 「…っ!? 役……満……!?」

侑 「嘘…まだ7巡だよ……?」


歩夢 : 9000(-16000)
かすみ : 17000(-8000)
侑 : 17000(-8000)
エマ : 57000(+32000)

237: 2021/01/05(火) 19:35:22.79 ID:l9VqmmaY
歩夢 (まぐれ…? いや、絶対に違う。一回戦での圧勝が、その証拠)

歩夢 (一回戦でのエマさんの最終的な点数は確か…121300点)

歩夢 (エマさんは東家、親だった。つまり…)


25000 →(+48000)→ 73000 →(+48300)→ 121300


歩夢 (なんで…気がつかなかったんだろう)

歩夢 (エマさんは一回戦、“役満を二連続でアガっていた”んだ!)

歩夢 (つまりエマさんの能力は、役満を早アガりする能力?)


侑 (…多分私と歩夢の予想は同じ。でも問題はその先。アガる役満が、毎回同じなのか否か)

238: 2021/01/05(火) 19:37:59.90 ID:l9VqmmaY
侑 (それによって、対策方法も変わってくる…)


歩夢 (…試しに、集めてみよう。緑の牌、緑一色の種を!)

歩夢 (お願い、来て……!)


東二局、かすみの親。ドラは西


歩夢 配牌
六六六779❽❽❽東東北白


歩夢 (…っ! 来ない、緑の牌が一つも!!)

歩夢 (私がこんなに念じたのに来ないってことは…つまり…)

239: 2021/01/05(火) 19:42:03.24 ID:l9VqmmaY
3巡目──。

侑 手牌
四五1237❶❷❸❻❽南發 ツモ:❺

侑 (歩夢のあの表情…。多分緑一色に使う牌を集めようとしたんだね。でも失敗した)

侑 (よし、一か八か。私も確かめにいこう。エマさんの能力…!)

侑 (…さぁ、どうだっ!?)打:2


エマ 「ふふっ、チー!」 [234]


侑 (…! きたっ!)

240: 2021/01/05(火) 19:46:57.68 ID:l9VqmmaY
そして10巡目──。

エマ 「ツモっ! 役満だよ!」

エマ ツモ
23466688發發 [234] ツモ:發
緑一色 / 8000-16000

歩夢 : 1000(-8000)
かすみ : 1000(-16000)
侑 : 9000(-8000)
エマ : 89000(+32000)


侑 (決まりだ…! エマさんの能力)

歩夢 (私が念じても手牌に来ない緑の牌。そして二連続の緑一色!)

侑・歩夢 ((『緑の牌が集まる』能力っ…!))

241: 2021/01/05(火) 19:51:04.45 ID:l9VqmmaY
せつ菜 (二人とも、能力は分かったようですね。ですが大事なのはその先)


侑 (能力は分かった。あとはその攻略法!)

歩夢 (エマさんより早くアガる? いや、ダメ。早アガりを目指せば、点数は安くなる。それだとこの点差を南場だけで逆転するのは不可能!)

侑 (一瞬でも隙を見せれば、また役満をアガられて、トビ……。…………ん?)


侑 (……この草原、こんなに狭かったっけ?)


侑は辺りを見渡す。あれだけ広大に広がっていた草原が、最初の頃に比べて半分ほどに狭まっている。あれだけ感じていた緑の香りも、少し弱まっているようにも思えた。

242: 2021/01/05(火) 19:55:01.14 ID:l9VqmmaY
侑 (…! そうか、もしかしたら…)

侑 「ごめんみんな、ちょっとお手洗い行ってきてもいいかな?」

侑 (…歩夢!)


侑は歩夢にアイコンタクトを送る。

侑がトイレの個室に入り、少しすると隣の個室に人が入ってくる音が聞こえた。


歩夢 「…侑ちゃん?」

侑 「歩夢! よかった、来てくれたんだね」


二人は個室の壁を挟んで作戦会議をする。


歩夢 「なにか思いついたの? 攻略法」

243: 2021/01/05(火) 19:58:16.40 ID:l9VqmmaY
侑 「確証はないけどね。まず、エマさんの能力」

歩夢 「緑の牌を集める能力…だよね」

侑 「よかった、歩夢も同じこと考えてた」

歩夢 「あの2を切った時、確かめにいったでしょ」

侑 「あ、バレてた?」

歩夢 「侑ちゃんの表情で何となくわかったよ。何年一緒にいると思ってるの?」

侑 「えへへ…。っと、それより、攻略法だ」


二人は状況を整理する。

244: 2021/01/05(火) 20:02:20.84 ID:l9VqmmaY
エマは一局目、7巡で面前でアガった。

しかし二局目は、鳴きもしつつ10巡かけてアガっていた。それでも早い方なのだが、明らかにスピードは落ちている。


侑 「歩夢は気付いた? エマさんを中心に広がってた草原。あれがどんどん狭くなっていたの」

歩夢 「言われてみれば…たしかに。最初は部室の面影が無くなるほどだったもんね」

侑 「これは予想なんだけど、あの草原の広さと能力の強さは比例するんじゃないかな」

歩夢 「つまり…あの草原が無くなるか、すごく狭くなるまで耐えるってこと?」

245: 2021/01/05(火) 20:07:07.06 ID:l9VqmmaY
侑 「そう。だからあの草原が消えるまで、早アガりに徹する。勝負はその後だ」

歩夢 「でも、いいのかな…。今までと違ってチーム戦じゃないのに、二人で協力みたいなこと」

侑 「どっちみちこのままじゃ二人とも負けるだけだよ! 私は、何としても勝ちたい…」

歩夢 「……そうだね、分かった。勝ちにいこう」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

247: 2021/01/05(火) 20:10:59.65 ID:l9VqmmaY
連投規制回避のため、一旦時間置きます

249: 2021/01/05(火) 21:26:59.62 ID:l9VqmmaY
東三局、侑の親。ドラは❶

歩夢 配牌
二六六七八九九569❺❻中

侑 配牌
二四五七57❷❷❹❻❽❽❽


歩夢 (よし、私はピンフに…)
侑 (私はタンヤオ狙い!)


3巡目──。

侑 「チー!」 [二三四]

せつ菜 (早アガり狙い? 一位は諦めて、二位を狙いにいった……?)

250: 2021/01/05(火) 21:29:14.36 ID:l9VqmmaY
7巡目──。

侑 手牌
五七5❷❷❹❻❽❽❽ [二三四] ツモ:六

侑 (タンヤオ、❺待ちのテンパイ)

侑 (でも、今の親は私。歩夢も配牌はよさそう。なら私が無意味に連チャンする理由はない!)

侑 (お願い、歩夢!)打:❷


せつ菜 (…テンパイを無視しての打:❷。なるほど。侑さん、まだ諦めてませんね)

エマ (普通ここまで点差が開いたら、みんな諦めるか、二位を狙いにいくけど…)

せつ菜 (素晴らしいです、侑さん)

251: 2021/01/05(火) 21:31:28.01 ID:l9VqmmaY
そして次巡──。

歩夢 手牌
二三六六七八九九567❺❻ ツモ:一

歩夢 (よし、❹ ❼待ちテンパイ!)打:六


侑 (…! この巡目で打:六ってことは、歩夢、テンパイしたね!)

侑 (多分点数は安い! なら差し込みに回る)

侑 「これか…!?」 打:5

歩夢 「…………。」

侑 「違う! なら…」

252: 2021/01/05(火) 21:33:46.38 ID:l9VqmmaY
次巡──。

侑 「これだ!」 打:❹

歩夢 「ロンっ!」


侑 → 歩夢 ロン
一二三六七八九九567❺❻ ロン:❹
ピンフのみ / 1000

歩夢 : 2000(+1000)
かすみ : 1000
侑 : 8000(-1000)
エマ : 89000

253: 2021/01/05(火) 21:35:38.92 ID:l9VqmmaY
東四局、エマの親。ドラは西


東四局に入った途端──。辺りの草原は一気に範囲を狭め、ついに卓をギリギリ囲えるほどの広さとなる。


侑 (やっぱり、この草原は局が進むと小さくなるんだ!)


エマ 配牌
224466發發發八九❺南西

エマ (私の力の源…草原は残り僅か。でも能力は残っている。なら、終わらせにいっちゃおう!)

エマ 打:❺


緑一色を目指しての 打:❺。
エマが見せた、気の緩み。それを二人は見逃さなかった。

254: 2021/01/05(火) 21:37:31.24 ID:l9VqmmaY
侑 (1巡目から打:❺! つまりエマさんは…)

歩夢 (まだ緑一色を狙っている!)

侑 (この隙、絶対に逃さない!)


侑 (歩夢っ!!)打:❾

歩夢 「カンっ!」 [❾❾❾❾]

エマ 「……?」

侑 (次は、これっ!)打:❽

歩夢 「ポンっ!」 [❽❽❽]

255: 2021/01/05(火) 21:39:26.13 ID:l9VqmmaY
せつ菜 (…この二人、まさか)

エマ (そっか、私にツモらせない作戦…!)


侑 (そう、エマさんがツモれず…)

歩夢 (私たちが緑の牌を捨てなければ!)

侑・歩夢 ((緑一色の可能性は、無くなる!))


歩夢 (そして、テンパイした私が待つのは…)

エマ 「……うぅ…」 打:九

256: 2021/01/05(火) 21:41:34.47 ID:l9VqmmaY
歩夢 (緑の牌以外っ!!)


歩夢 「ロン!」

エマ → 歩夢 ロン
九九55 [七七七][❽❽❽][❾❾❾❾] ロン:九
トイトイ / 3200

歩夢 : 5200(+3200)
かすみ : 1000
侑 : 8000
エマ : 85800(-3200)


せつ菜 (…お見事です、二人とも。緑の牌以外で待つことで、エマさんが必然的に切る事になる牌を狙い撃つ)

エマ (…やるね、二人とも)

257: 2021/01/05(火) 21:43:47.32 ID:l9VqmmaY
南一局、歩夢の親。

南入した瞬間、辺りの草原は完全にその姿を消す。そこには、いつもの部室の景色があった。


侑 (やった! エマさんの能力は東場限りのもの! これでやっと高打点を狙いにいける!)

歩夢 (よかった…これでやっと…)


「~~~♪」


侑 「ッ!!?」


部屋中に響く歌声。──エマだ。

258: 2021/01/05(火) 21:46:09.79 ID:l9VqmmaY
侑 (まさか…まさかっ!?)


侑の嫌な予感は的中する。エマが歌うと同時に、せっかく姿を消した草原が、またしても広がる。その広大さは、東一局の時を遥かに凌駕するものだった。


歩夢 「そ、そんな……!」

侑 (ダメだ…この広大さ、多分緑一色のアガりまで5巡もかからない! 間に合わない…)


せつ菜 (…さすがに諦めるでしょう、これでは)

259: 2021/01/05(火) 21:48:45.03 ID:l9VqmmaY
エマ (ごめんね二人とも。せっかく頑張ってたけど、私だって勝ちたいんだ)

歩夢 (……こんなの、もう、無理…………)


パァンッッ!!!


せつ菜 「…っ!?」


突如部屋に響く、何かを叩いたような音。


侑 「…………。」ヒリヒリ

歩夢 「侑ちゃん?」

エマ (自分の頬を叩いた……どうして?)

260: 2021/01/05(火) 21:51:19.31 ID:l9VqmmaY
侑 (…諦めるな!)

侑 (諦めるな私ッ!! 絶対に勝つ方法はある! 勝負を放棄するな、勝ちにいくんだ!!)


せつ菜 「……なるほど」


歩夢 「侑ちゃん……そう、だよね」

パァンッッ!!

歩夢 「……私も、勝ちたい!」ヒリヒリ


エマ (……二人とも、やる気だね。)

エマ 「なら私も、全力で────」


せつ菜 「そこまでです!!」

261: 2021/01/05(火) 21:53:34.05 ID:l9VqmmaY
せつ菜がそう声をかけると、草原は再びその姿を消す。エマは背もたれに寄りかかり、大きく息を吐いた。


かすみ 「どうして…まだ南入したばかりですよ」

せつ菜 「あれだけの点差。そして再び能力を使われても諦めなかった、その覚悟が見れただけで十分です」

エマ 「ふぅー…………」

せつ菜 「エマさん、それ以上能力を無駄遣いしないでください。私と同じで、限度がある能力なんですから」

エマ 「えへへ、ごめん。つい…」


侑 「限度……? それって、どういう…」

262: 2021/01/05(火) 21:56:01.87 ID:l9VqmmaY
エマ 「私の能力はね、スイスの大自然を感じることで充電されるの。溜まった充電を放出すると、さっきみたいに草原が広がるんだ」

歩夢 「その間、緑の牌が集まるってことですか?」

せつ菜 「その通りです。そして充電式ということは、当然充電切れもあります」

侑 「…もしかして、一時帰国してたのって」

エマ 「うん、能力を使いすぎちゃって、充電が切れちゃったんだ~」

かすみ 「だから言ったんです。帰国直後のエマ先輩に勝つ方が無理な話だって…」


せつ菜 「さて、では大会への出場者もこれで決まりですね」

263: 2021/01/05(火) 21:58:23.27 ID:l9VqmmaY
侑 「そうだね、今回は残念だったけど…」


せつ菜 「侑さん、あなたに決まりです」


侑 「えっ……ええええ!? 私!? なんで!?」

かすみ 「一位はエマ先輩でしたよね!?」

エマ 「そうだけど…。そもそもせつ菜ちゃんが出場する時点で、私は出られないんだよ」

侑 「どういうこと?」

エマ 「お互いの能力はぶつかり合うんだよ。共存しやすい能力同士ならいいんだけど…」

264: 2021/01/05(火) 22:00:50.34 ID:l9VqmmaY
せつ菜 「…私の炎、エマさんの草原まで燃やしてしまうんです…」

歩夢 「あぁ……なるほど……」


考えてみれば当然のことだ。あれだけの熱気、そして炎を放つせつ菜の麻雀。エマの大自然と共存できるはずがない。


せつ菜 「というわけで、現時点で二位であり、そして最後まで諦めなかった侑さん、あなたに決めました」

歩夢 「…! おめでとう、侑ちゃん」

侑 「…ありがとう。でも、いいの?」

265: 2021/01/05(火) 22:03:02.37 ID:l9VqmmaY
かすみ 「悔しいですけど、せつ菜先輩の言うことはごもっともですし…」

歩夢 「私も。侑ちゃんが諦めない素振りを見せなかったら、とっくに諦めてたもん」

侑 「……そっか、ありがとう。私頑張るよ」


麻雀同好会、トーナメント戦。

大会の出場者は、せつ菜と侑ペアに決定した。

ーーーーーー
ーーーー
ーー

266: 2021/01/05(火) 22:07:23.92 ID:l9VqmmaY
対局終了後、部室にはせつ菜とかすみだけになっていた。全員で対局したこともあり、時間はいつもより遅くなっていた。


せつ菜 「かすみさん、今日は一緒に帰りましょう。そろそろ暗くなってしまいそうですから」


そう言って荷物をまとめ、せつ菜は部室から出ようとする。そんなせつ菜の袖を、かすみが掴んだ。


かすみ 「…………。」グイッ

せつ菜 「……かすみさん?」


かすみ 「…大事なお話が、あるんです」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

つづく

268: 2021/01/05(火) 22:15:21.03 ID:l9VqmmaY
❷を切った場合
二三四78❶❶❸❹❺ [中中中]


しずく 「さて、ここでドラの❹を引いてきました」

彼方 「…あっ、せっかくのドラなのに、使っちゃうとテンパイが崩れちゃうよ~」

しずく 「そうですね。では、❺を切っていたらどうなるでしょう?」


❺を切った場合
二三四78❶❶❷❸❹ [中中中] ツモ:❹


彼方 「…あ! ❶を切れば…」

269: 2021/01/05(火) 22:18:41.70 ID:l9VqmmaY
手牌
二三四78❶❷❸❹❹ [中中中]


彼方 「ドラを二つ使って、テンパイも維持できたよ~」

しずく 「はい、その通りです! 何を引いたら得するか、損するか、を考えながら打つのが大事だと分かる問題ですね」

彼方 「……………………すやぁ」

しずく 「人の解説中に寝ないでください!」


次回『天運の炎、心に灯る』

270: 2021/01/05(火) 22:26:14.79 ID:VqQeYJ7E
今回も面白かった
最近面白いssが増えてるけどこれが一番の楽しみ

271: 2021/01/05(火) 22:44:00.50 ID:Vdt/xxdG
攻略法があるのがすごい面白い。
リューイーといえば、毛沢東も使ってってたっけ?

272: 2021/01/05(火) 23:19:50.70 ID:0Q5YSLhQ
麻雀全くわからんが面白い

273: 2021/01/05(火) 23:30:45.10 ID:X/JVKBCC
かすみん…
今回も乙でした。麻雀やってない人でも読めてるってのは凄いな

274: 2021/01/06(水) 00:16:05.26 ID:H4ounTaB
毎日楽しみに見てるぞ
頑張ってください

280: 2021/01/06(水) 19:14:37.21 ID:3vzmt6JE
【第8話】『天運の炎、心に灯る』


~二週間後 大会当日~


麻雀同好会のメンバーは、今回の大会主催である藤黄学園の正門前に集まっていた。会場は藤黄学園の体育館。既に他校の制服を着た女子高生達が次々と受付を済ませている。


侑 (いよいよ大会当日か…でも…)

せつ菜 「さぁ、行きますよ侑さん!」

かすみ 「せつ菜先輩なら大丈夫です! 侑先輩も、頑張ってくださいね! かすみんの分まで!」

侑 「うん、頑張るよ」

侑 (結局、せつ菜ちゃんとは一度も練習出来なかった。一回くらい、本番前に一緒に打っておきたかったんだけど)

281: 2021/01/06(水) 19:16:02.65 ID:3vzmt6JE
歩夢 「今回の参加校は全部で八校だね」

彼方 「トーナメント形式だから、三回勝てば優勝だね。ふぁいと~……ふぁぁ」

しずく 「もう、観戦中に寝ないでくださいよ、彼方さん」

侑 「八校か…思ったよりも少ないね」

せつ菜 「高校生にはまだ、麻雀はそれほど広まってない証拠ですね。…もっと麻雀の面白さが広まれば良いのですが」


せつ菜は残念そうに少しうつむく。


侑 「せつ菜ちゃん…」

282: 2021/01/06(水) 19:17:33.36 ID:3vzmt6JE
「ねぇ、あの人ってせつ菜さんじゃない?」
「本当だ本当だ…! サインとかくれるかな…」


せつ菜 「…いけませんね。騒ぎになると藤黄学園さんに迷惑ですから、行っちゃいましょう」


受付を済ませ、体育館へと向かう。出場者はアリーナに設置された全自動の雀卓で麻雀を打つ。それ以外は二階に用意された観客席で応援をする。

二階には幾つかモニターが設置されているので、離れていても対局の内容は鮮明に見られる。


しずく 「私たちはここまでですね。あとは二階で応援しています」

侑 「ありがとう、頑張るよ! せつ菜ちゃん、今日はどんな風に打つ? 作戦とか……」

283: 2021/01/06(水) 19:19:27.07 ID:3vzmt6JE
せつ菜 「…そうですね、特に決めていなかったのですが。強いて言うなら…」


せつ菜 「極力振り込まないようにだけしてもらえれば、何をしても構いませんよ」

侑 「結構大雑把だね…」

かすみ 「まぁせつ菜先輩が出場する以上、ほぼ負けは有り得ないですからね」

侑 「えぇっ? 確かにせつ菜ちゃんは強いけど、あんまり慢心するのは危険というか」

しずく 「…あれ、もしかして侑さん、せつ菜さんのことあまりご存知では…」

侑 「麻雀を始めたきっかけはせつ菜ちゃんだったけど、そこまで詳しくは…」

284: 2021/01/06(水) 19:20:28.78 ID:3vzmt6JE
エマ 「大会に出ればきっと分かるよ~。ほらほら、時間になっちゃうから行っておいで」

侑 「わぁぁ…っ…押さないでください…! 自分で行きますから…」

歩夢 「侑ちゃん、頑張ってね!」

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285: 2021/01/06(水) 19:22:56.31 ID:3vzmt6JE
~開会式~


姫乃 「この度は、藤黄学園主催、都内高校麻雀選手権にご参加いただきまして、誠にありがとうございます」

姫乃 「司会進行は私、綾小路姫乃と」

涼 「相川涼が担当します。よろしくお願いします」


壇上に上がった司会の二人がルールや時間配分について説明をする。参加者はみな二人の方を向いて真剣に話を聞いている。

大会のルールは、しずくや彼方と対局した時と同じ、チーム戦ルールだ。ペアの合計点数で競う形になる。


姫乃 「そしてなんと今回は…あの“現役女子高生最強”である、優木せつ菜さんにもご参加頂いております!」

侑 「えぇっ!!?」

286: 2021/01/06(水) 19:25:08.57 ID:3vzmt6JE
せつ菜は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、周りの歓声に手を振って応える。


侑 「せつ菜ちゃん、何その肩書き…」

せつ菜 「えっと、一応私、全国大会を二連覇してまして…」

侑 「対局を見て、強いなぁとは思ってたけど、まさかそれほどとは…」

せつ菜 「学校のエントランスに、トロフィーも飾ってあるのですが。ご覧になったことは?」

侑 「気にも止めてなかった…。どうせバスケとか野球のだろうなぁと…」

せつ菜 「あはは、まぁそうですよね」


そう言って笑うせつ菜の顔が、侑にはどこか悔しそうにも見えた。


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287: 2021/01/06(水) 19:27:38.79 ID:3vzmt6JE
一回戦。


同好会に入部してから約一ヶ月の侑はこの日、初めてせつ菜の対局を生で“感じる”。


侑 (なにこれ……想像以上だ…っ!!)

侑 (動画で見ていた時は、炎が見えるように“感じているだけ” だと思ってた!)


せつ菜 「ツモっ! 4000オール!」

せつ菜 「ロンッ!! 12000!!」


侑 (せつ菜ちゃんがアガる度、吹き出す炎の勢いが増す…!)

侑 (それだけじゃない、アガりの速さがどんどん加速していく!)

288: 2021/01/06(水) 19:29:34.26 ID:3vzmt6JE
侑 (チームとはいえ、私も負けてられない!)


東三局一本場、せつ菜の親。ドラは❽

侑 配牌
二四五1455❸❺❻❼東西

侑 (よし、タンピン系に向かえる好配牌! 10巡もあればテンパイ出来る!)


5巡目──。

せつ菜 「リーチです!」 打:2


宣言牌を叩きつけると、勢いよく火花が散る。


侑 (っ! いくらなんでも早すぎる! あんなに好配牌だった私でさえ、まだ一向聴なのに!)

289: 2021/01/06(水) 19:31:50.84 ID:3vzmt6JE
同巡──。

侑 手牌
四五六4555❸❸❺❺❻❼ ツモ:發

侑 「くっ…!」 打:發


次巡、せつ菜 ツモ番──。

せつ菜が山に手を伸ばすと、炎が腕に渦巻き、ツモ牌にも輝かしい炎が纏う。


侑 (この感覚…まさか…)

290: 2021/01/06(水) 19:33:58.31 ID:3vzmt6JE
せつ菜 「一発ツモッ!!!」

せつ菜 「裏ドラが一つで、跳満です!」


侑 (これがせつ菜ちゃんの……いや……)


“現役女子高生最強”、優木せつ菜の麻雀──!


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291: 2021/01/06(水) 19:36:26.04 ID:3vzmt6JE
彼方 「流石の強さだね~」

かすみ 「もうこれ、応援する必要ありますか?」

エマ 「こういうのは応援するっていう気持ちが一番大事なんだよ。頑張れ~二人とも!」

歩夢 「何度見てもかっこいいなぁ…せつ菜ちゃんの麻雀」


せつ菜がアガる度、観客席で歓声があがる。


しずく 「強いだけじゃないのが、せつ菜さんの魅力なんです」

292: 2021/01/06(水) 19:38:30.97 ID:3vzmt6JE
かすみ 「さっきも1000点アガれば逃げ切りって時に、わざわざ倍満をアガってましたからね」

歩夢 「たしかに…だから魅力的に感じるのかも」

しずく 「観ている人も熱くさせ、楽しませてくれる麻雀。それがせつ菜さんにファンが多い、一つの理由なんです」

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293: 2021/01/06(水) 19:40:38.53 ID:3vzmt6JE
~決勝戦~


侑 (なんか、あっという間に決勝に来ちゃった)

侑 「私とくに何もしてないや…」

せつ菜 「そんなことありません。ここは二人でたどり着いたステージですよ!」

侑 「そう言ってもらえるとありがたいよ」


姫乃 「やはり決勝に残ったのはお二人でしたね」


侑 「あれっ、確か藤黄学園の…」

涼 「涼と姫乃です。改めてよろしくお願いします」

294: 2021/01/06(水) 19:42:39.74 ID:3vzmt6JE
姫乃 「主催の私たちが決勝進出なんて、なんだか申し訳ないような気もしますが…」

せつ菜 「いえ、お二人ともかなりの打ち手と聞いてましたから。決勝はこの対決になると思ってましたよ」

涼 「あのせつ菜さんに、そこまでの評価を貰えるなんて、嬉しいわ。では、始めましょうか」


侑 「このオーラ…! これは苦戦になる予感…!」


《対局開始》
東家:涼 南家:せつ菜 西家:侑 北家:姫乃


東一局、涼の親。ドラは2

295: 2021/01/06(水) 19:45:12.64 ID:3vzmt6JE
せつ菜 捨牌
51南❸❶12

姫乃 (序盤からピンズ、ソーズの連打。見え見えのマンズ混一色ですね……。ならば!)

涼 「…………。」コクッ

涼 打:2


侑 (…この二人まさか、無言でコミュニケーションを?)

姫乃 (涼さんにはマンズと字牌を抱えてもらいます。そう易々と、高打点はアガらせませんよ!)

涼 (そしてせつ菜さんの手が詰まっているうちに、姫乃にアガらせる…!)

296: 2021/01/06(水) 19:47:28.71 ID:3vzmt6JE
数巡後──。

姫乃 「ツモっ! 3000-6000!」


侑 (うっ…先を越された!)

せつ菜 「……なるほど」


姫乃 ツモ
二三四234❷❸❹❺❻❽❽ ツモ:❹
タンヤオ・ピンフ・ツモ・三色・ドラ1 / 3000-6000

姫乃 : 37000(+12000)
涼 : 19000(-6000)計 56000
せつ菜 : 22000(-3000)
侑 : 22000(-3000)計 44000

297: 2021/01/06(水) 19:50:59.37 ID:3vzmt6JE
東二局、せつ菜の親。ドラは❸


せつ菜 捨牌
三八❷❻❺一


姫乃 (今度はソーズの混一色狙いですか。先を越されたばかりなのに、随分と欲張りですね)

涼 (姫乃、どうする?)

姫乃 (今度は私が字牌とソーズを止めます。アガり役はお願いします)

涼 (了解!)打:8


侑 (すごい、この二人! 無言なのに、完璧にコミュニケーションが取れてる。私と歩夢でさえ、ここまでのコミュニケーションは難しいのに!)


姫乃 (私たちが一緒に打った時間は、優に五百時間を超えます)

涼 (姫乃の考えてることなんて、目線だけで手に取るようにわかるわ!)

298: 2021/01/06(水) 19:54:35.50 ID:3vzmt6JE
せつ菜 「…混一色は、もう厳しそうですね」

侑 (…? せつ菜ちゃん?)


次巡──。

せつ菜 打:北

更に次巡──。

せつ菜 打:北

せつ菜 (もっと…もっと高く!)

せつ菜 打:北


姫乃 (北を三連打!? まさか、せつ菜さん…!)

299: 2021/01/06(水) 19:59:25.43 ID:3vzmt6JE
涼 「…やるね。流石は現役女子高生最強…」


侑 (せつ菜ちゃん、混一色を止められたと察知して、諦めるんじゃなく、むしろ逆!)


13巡目──。

せつ菜 手牌
112345567789東 ツモ:5

せつ菜 「私の麻雀に、降りなんて存在しません! リーチ!」 打:東


せつ菜を中心に広がっていた、燃え盛る炎の景色はさらに拡大する。卓はおろか、会場全体を包み込むように、あちこちから炎や溶岩が吹き出す。

その炎たちは竜巻のようにせつ菜の体を包み込む。この場の流れを支配している人物…それは誰が見ても明らかだった。

300: 2021/01/06(水) 20:03:39.62 ID:3vzmt6JE
涼 (おそらく清一色テンパイ! 有り得ない、ソーズは姫乃が抱え込んでるはず!)

姫乃 (ダメです…。配牌以降、ソーズが一つたりとも私の手元に来ませんでした…)

涼 (どういうこと…? 運がいいなんてレベル、遥かに超えている…!)

姫乃 (不思議な感覚。まるでせつ菜さんの欲しがっている牌が全て、炎と共に……)


──せつ菜の手元に、導かれているよう。


せつ菜 「これで…決まりです!」

侑 (また腕に炎の渦が! 一回戦と同じだ、せつ菜ちゃんが待ち牌をツモる時は、絶対に炎が宿る!)

301: 2021/01/06(水) 20:07:39.15 ID:3vzmt6JE
姫乃 (腕に炎……つまり……!)


せつ菜 「一発ツモッ!!!」

せつ菜 ツモ
1123455567789 ツモ:5
リーチ・一発・ツモ・清一色 / 8000オール

姫乃 : 29000(-8000)
涼 : 11000(-8000)計 40000
せつ菜 : 46000(+24000)
侑 : 14000(-8000)計 60000

302: 2021/01/06(水) 20:11:15.31 ID:3vzmt6JE
一旦時間置きます

303: 2021/01/06(水) 21:20:49.95 ID:3vzmt6JE
~数十分後~


侑 (最初は苦戦になるかも、と思ってたけど)


南三局 終了時点

姫乃 : 15700
涼 : 1800 計 17500
せつ菜 : 51800
侑 : 30700 計 82500


侑 (一、二回戦と同じ…。圧倒的な点差でもうオーラスか)

侑 (でもオーラスは姫乃さんの親。下手に振り込めば逆転される可能性だってある)

侑 (私かせつ菜ちゃんが1000点でもアガれば終わり。優勝がかかってるんだ、ちゃっちゃとアガって決めにいこう)

305: 2021/01/06(水) 21:22:41.60 ID:3vzmt6JE
オーラス、姫乃の親。ドラは9


侑 手牌
二八358❶❷❼❼東北白中

侑 (ぅぐ…。早くアガりたい時に限ってこの配牌。バラバラじゃん…)

侑 (こうなったら頼みはせつ菜ちゃん…)


せつ菜 「…………!!!」


侑 「うぁ…あっつ……」

侑 (何この熱気…!? 東二局で清一色をアガった時の比じゃない!)


せつ菜 (1000点でもアガれば優勝。そんなことは分かっています)

306: 2021/01/06(水) 21:23:53.25 ID:3vzmt6JE
せつ菜 (でもダメなんです…! みんなが求めている私の麻雀…“優木せつ菜の麻雀” は…!)

せつ菜 (みんなに、麻雀を好きになってもらうために!!!)


12巡目──。


姫乃 「リーチですっ!」

侑 (来たっ! 絶対に振り込めない親のリーチ!)

侑 (まだ二向聴。ここは降りよう…勝負は次局)


せつ菜 「……!」 打:八

侑 「えぇっ!?」

姫乃 「…逆転されるかもしれないこの局面、一打目に危険牌ですか」

307: 2021/01/06(水) 21:25:41.83 ID:3vzmt6JE
侑 「せつ菜ちゃん…! どうして…!」

せつ菜 「…アタリ、ですか?」

姫乃 「……いえ、通しです」


侑 「ふぅ……」


侑 (なんであんな危険牌を即で…。通ったからいいものを…)

侑 (私は安牌を…)打:❺

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ーー

308: 2021/01/06(水) 21:26:58.77 ID:3vzmt6JE
~観客席~

かすみ 「何回観てもヒヤヒヤします…せつ菜先輩の麻雀は」

彼方 「でも絶対に当たらない。あれはせつ菜ちゃんに与えられた力だからね」

しずく 「力…」

彼方 「そう。せつ菜ちゃんが血も滲むような努力で身につけた力、そして運」

エマ 「それが、観る人を惹き付けるんだよ!」

歩夢 「…………すごい!」


しずく 「そして危険を顧みず進むからこそ…辿り着く。常人ではたどり着けない境地に…!」

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309: 2021/01/06(水) 21:28:33.45 ID:3vzmt6JE
15巡目──。


せつ菜 (来ました…っ!!!)

せつ菜 手牌
一九19❶❾東東南南西白中 ツモ:北


せつ菜 打:南


涼 「…本当に、すごい麻雀を打ちますね。せつ菜さんは」

せつ菜 「これが、私の麻雀ですから」


侑 (…! ここに来て、安牌の南! てことは…)

姫乃 (…たどり着きましたね、せつ菜さん)


侑・姫乃 ((国士無双、テンパイ……!))

310: 2021/01/06(水) 21:29:56.26 ID:3vzmt6JE
せつ菜 (国士無双、發待ち!)

せつ菜 (ですが、發はもう場に三枚捨てられている。つまり、後は山に一枚のみ!)


続く侑は安牌を変わらず連打。姫乃も待ち牌をツモれず、ツモ切り。涼はせつ菜の安牌を切る。


せつ菜 (…感じます。こんなに私の体が熱を帯びたのは、いつ以来でしょう)

侑 「あっつ……! うわぁっ!?」


いつの間にか背後に現れた火山が噴火する。心臓ごと揺さぶられるような振動を感じた侑は、手牌が倒れないよう慌てて両手で抑える。

311: 2021/01/06(水) 21:32:02.92 ID:3vzmt6JE
せつ菜 (見ててください、侑さん、みなさん!)


あちこちから再び炎が吹き出し、せつ菜の体を包み込む。そして腕に渦巻いた炎が、せつ菜の指先を赤く照らす。


侑 (ツモる直前のこの光景! 来た…!)

涼 「…ここまで、ですかね」


せつ菜 (これが私の…優木せつ菜の麻雀です!)

312: 2021/01/06(水) 21:33:43.37 ID:3vzmt6JE
…………異常事態は、せつ菜がツモ牌に指を触れた、その時に起こった。

あれほど激しく地を鳴らしていた火山の噴火はピタッとやみ、それだけではなく、せつ菜を中心に広がっていた炎の幻想は見る影もなく消えた。

腕に渦巻いていた炎は、小さな火の粉となり、先程までの熱気が嘘のように、残酷な冷気がせつ菜を襲う。


侑 (……? せつ菜、ちゃん?)

せつ菜 「……! …………っ」


せつ菜は震える手でツモ牌をつまみ、指の腹で牌の図面をなぞる。

そしてそのまま、せつ菜の指は力を失い…………


──捨牌の場所に、ツモ牌を落とした。

313: 2021/01/06(水) 21:36:03.32 ID:3vzmt6JE
侑 (…ツモれなかった? しかもこれは…)

せつ菜 打:一

侑 (まだ…通ってない牌!!)


姫乃 「…………神がかった麻雀も、長くは続かなかったようですね」

侑 「まさか…」


姫乃の手牌は、ゆっくりと。残酷に。

倒され、その全貌を明らかにした。


姫乃 「…ロンです」

314: 2021/01/06(水) 21:38:43.04 ID:3vzmt6JE
せつ菜 → 姫乃 ロン
一二二三三12399❶❷❸ ロン:一
リーチ・ピンフ・一盃口・三色同順・純チャン・ドラ2


侑 (…っ!! でも倍満、24000! まだギリギリ私たちが勝ってる、勝負はまだこれから…)

姫乃 「……裏ドラが」


姫乃が裏ドラを捲ると、姿を現したのは8。
つまり、ドラはまたしても9。

315: 2021/01/06(水) 21:41:50.08 ID:3vzmt6JE
侑 (…裏が乗って親の三倍満。つまり…)

一二二三三12399❶❷❸ ロン:一
リーチ・ピンフ・一盃口・三色同順・純チャン・ドラ2・裏2 / 36000

姫乃 : 51700
涼 : 1800 計 53500(勝)
せつ菜 : 15800
侑 : 30700 計 46500


せつ菜 「…………。」

侑 「私たちの、負け……?」

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316: 2021/01/06(水) 21:44:04.78 ID:3vzmt6JE
~観客席~


かすみ 「…嘘です」

しずく 「かすみさん…」

かすみ 「嘘です、嘘です嘘です嘘です!! あそこでせつ菜先輩が發をツモれない訳ありません! インチキです、藤黄が何かしたんです!!」

エマ 「かすみちゃん! 落ち着いて!」

かすみ 「せつ菜先輩が負けるはずないんです! だって、だって……!!」


「せつ菜さんの対局、楽しみにしてたけど…」
「最後無駄に放銃して、期待はずれだったね」


かすみ 「ッ!!! 訂正してください! 期待はずれってなんですか!! せつ菜先輩は誰よりも、誰よりも…っ!!!」

317: 2021/01/06(水) 21:46:12.52 ID:3vzmt6JE
彼方 「かすみちゃん、だめっ!」


「えっ…何?」
「せつ菜さんと同じ学校の人だよ。怖っ…行こ」


かすみ 「待ってください! まだ謝罪の言葉を聞いてませんよ!!」

しずく 「かすみさん…」

かすみ 「せつ菜先輩は誰よりも、誰よりも…」


かすみ 「カッコよくて……強いんです……っ…!」


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ーー

319: 2021/01/06(水) 21:48:55.89 ID:3vzmt6JE
~休み明け 放課後~


エマ 「…どう?」

しずく 「ダメです。全然出ません」

彼方 「部室に来ないどころか、電話にも出ないなんて…」

かすみ 「…………。」

エマ 「心配だね……」


侑 「大変だよっ!!」 ガチャッ!


しずく 「侑さん、歩夢さん」

歩夢 「私たち、せつ菜ちゃんを迎えに行こうと思って、あちこち教室をまわってたんだけど…」

320: 2021/01/06(水) 21:51:40.57 ID:3vzmt6JE
侑 「いなかったんだよ…」

彼方 「そっか、学校にも来てなかったか…」

侑 「違うよ! そもそも、優木せつ菜って名前の生徒がいなかったんだよ!!」

しずく 「ど、どういうことですか!?」

歩夢 「言葉のままの意味だよ。どのクラスにも、優木せつ菜ちゃんって子は在籍してなかった」

侑 「それで、エントランスにあるトロフィーを見てきたんだ」

エマ 「トロフィー?」

321: 2021/01/06(水) 21:54:09.82 ID:3vzmt6JE
侑 「せつ菜ちゃんが、高校生大会で全国制覇した時のトロフィー。目立つところに飾られてたのに、賞状は見つけづらいところにあった」

歩夢 「先生に言ったら、貸してくれたんだ。……これ、見て」


賞状には、受賞者の名前が刻まれていた。


彼方 「優勝……中川菜々」

しずく 「たしか、生徒会長の!?」

侑 「正式な大会だから、本名じゃなくちゃいけなかったんだ。つまり、優木せつ菜は偽名で…」

エマ 「なんで…会長さんが? 名前まで変えて…」

かすみ 「そんなことどうでもいいですっ!!」

322: 2021/01/06(水) 21:57:42.67 ID:3vzmt6JE
歩夢 「かすみちゃん…」

かすみ 「じゃあ会長に会いに行きましょう! きっと、生徒会室にいるはずですよね!?」

侑 「だめだよ…かすみちゃん」

かすみ 「どうしてっ…!」


歩夢 「せつ菜ちゃん……菜々ちゃんは、今日から休学になってる。もう学校には、しばらく来ないみたい」


かすみ 「きゅう……がく……?」

323: 2021/01/06(水) 22:01:12.29 ID:3vzmt6JE
彼方 「そんな…彼方ちゃん達、何も聞いてない」

しずく 「せつ菜さん、そんなに責任を感じて…?」



エマ 「…! ねぇ、あれって?」


エマが指さしたのは、せつ菜のロッカー。
扉は閉まっているが、隙間から何かがはみ出ていた。


侑 「これって……」

歩夢 「手紙だ…せつ菜ちゃんからの」

侑 「『麻雀同好会のみなさんへ』。……読んでみよう」

324: 2021/01/06(水) 22:04:16.91 ID:3vzmt6JE
侑が手紙の封を開けようとしたその時、かすみがその手紙を強引に奪い取った。


侑 「!? かすみちゃん…?」

かすみ 「ダメです…読まないでください!」

歩夢 「何を言ってるのかすみちゃん、せつ菜ちゃんが残した手紙なんだよ、読まなくちゃ」

かすみ 「ダメなんです! …どうせ、かすみんへの悪口が書いてあるに決まってるんです!」

侑 「え……? それって、どういう…」


かすみ 「…………からです」


侑 「えっ、なんて…?」

325: 2021/01/06(水) 22:08:11.07 ID:3vzmt6JE
かすみ 「……かすみんの……せいだからです」

歩夢 「かすみちゃん?」

かすみ 「かすみんのせいなんですっ!! こうなったのは…! あの時、せつ菜先輩の炎が消えたのも、全部かすみんのせいなんですっ!!!」

侑 「かすみちゃん!? 待って!」


かすみはそう言って、手紙を持ったまま部室から飛び出してしまった。残された同好会メンバーには、かすみの言葉が理解出来なかった。


侑 「……追いかけよう」

ーーーーーー
ーーーー
ーー

つづく

326: 2021/01/06(水) 22:11:26.57 ID:3vzmt6JE
次回、最終話
『強くて、可愛い』

327: 2021/01/06(水) 22:15:20.40 ID:3vzmt6JE
明日は投下をお休みさせていただきます

明後日、最終話です。ぜひ最後までお付き合いください。よろしくお願い致します

329: 2021/01/06(水) 22:20:27.72 ID:+IRkIU1n
もうすぐ最終話って嘘だよな!

330: 2021/01/06(水) 22:27:47.96 ID:H4ounTaB
え、最終回なの?死にそう

332: 2021/01/06(水) 22:56:09.45 ID:Mxhmc8ym

待ってるよ。

334: 2021/01/07(木) 00:10:47.37 ID:DahJG09D
最終回マジか
寂しいけど読み返しやすいボリュームで嬉しい

335: 2021/01/07(木) 07:13:26.19 ID:SbpQVofH

一気読みしてしまった

342: 2021/01/08(金) 19:02:13.62 ID:Z/X+pg8A
【最終話】『強くて、可愛い』


せつ菜 『…大事な話、ですか?』


ほとんど使われてない教室に逃げ込んだかすみが思い出していたのは、大会の出場者を決める対局をした日のこと。

二人きりの部室で、帰ろうとするせつ菜を引き止めたかすみは、涙を瞳に滲ませながらせつ菜に訴えかけていた。


かすみ 「強く、なりたいんです」

せつ菜 「何を言ってるんですか。同好会に入ったばかりの時に比べたら、格段に強く…」

かすみ 「その程度じゃダメなんです!!」

343: 2021/01/08(金) 19:03:38.56 ID:Z/X+pg8A
せつ菜 「っ…! かすみさん…?」

かすみ 「最近、分からなくなってきたんです。かすみんが同好会にいる意味ってなんだろうって」

せつ菜 「そんな…。かすみさんがいてくれるおかげで、雰囲気も明るくなってすごく楽しいですよ」

かすみ 「しず子との対局の時だって!!」


せっかく慰めてくれているせつ菜の言葉を半ば遮って、心の内を涙とともにぶちまける。


かすみ 「しず子がアガれないなら、かすみんがさっさとアガればよかった…!」

かすみ 「彼方先輩の時なんて、手も足も出なくて…。何をするにも先を越されて…!」

344: 2021/01/08(金) 19:04:30.92 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「大会出場の枠まで、新入部員の侑先輩に譲って…!」

かすみ 「不甲斐なくて…っ……情けなくて…!」

かすみ 「かすみんは、強くて可愛い雀士になりたいんですっ!!」


かすみが人前でここまで感情を顕にするのは、珍しいことであった。現にせつ菜も、かすみの秘めていた思いを、ただ黙って受け止めるのに必死だった。


かすみ 「…せつ菜先輩。かすみんに、麻雀を教えてください」

せつ菜 「私が、ですか?」

かすみ 「せつ菜先輩と打ちたいんです…!! 本気のせつ菜先輩と打って、かすみんも誰かの役に立てるくらい、強くなりたいんです!」

345: 2021/01/08(金) 19:06:13.66 ID:Z/X+pg8A
せつ菜は少し考えたあと、かすみの眼をまっすぐ見つめて、いつも以上に真剣な表情で話す。


せつ菜 「かすみさん、ごめんなさい。私では…」

かすみ 「…能力に、“限度”があるからですか?」

せつ菜 「あれ…私、言ったことありましたっけ?」

かすみ 「エマ先輩の対局の後、自分で言ってましたよ」


せつ菜 『エマさん、それ以上能力を無駄遣いしないでください。“私と同じで、限度がある”能力なんですから』


せつ菜 「あはは…うっかりしてました…」

346: 2021/01/08(金) 19:07:27.10 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「かすみんがこれ以上強くなるためには、せつ菜先輩の力が必要なんです!」

せつ菜 「私の力…?」

かすみ 「本気の先輩に本気でぶつかれば、掴める気がするんです! かすみんに足りない何かが!」

せつ菜 「……かすみさんは、どうしてそんなにも強くなりたいと思うんですか?」

かすみ 「…笑わないでくださいよ」


かすみは少し躊躇い、せつ菜から少し目を逸らして言葉を続ける。

347: 2021/01/08(金) 19:09:07.88 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「…かすみんがアガれなかった時、牌が泣いているように見えるんです」

せつ菜 「牌が泣いている…?」

かすみ 「せっかくかすみんの元に来てくれたのに、かすみんが弱いせいで無駄になって…」

かすみ 「牌の泣き声が聞こえるんです。役に立てなかった、って! 悪いのはかすみんなのに!」

せつ菜 「かすみさん…」

かすみ 「かすみんが弱いせいで、大好きな麻雀に悲しい思いをさせるなんて、もう耐えられないんですっ!!」

せつ菜 「…かすみさんは本当に、麻雀が大好きなんですね」

348: 2021/01/08(金) 19:10:49.87 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「無理なお願いなのは分かってます! でも…っ、一度でいいんです。お願いします…!」

せつ菜 「無理なお願い……。確かにそうですね」


せつ菜はそう言いながら、麻雀卓の方に歩み寄る。伏せられた牌に手を伸ばすと、その腕に炎が渦巻く。

伏せられたまま牌を十三枚選び抜き、手元に並べる。並べられた牌は眩く輝いていた。


せつ菜 「…私の能力は言うなれば」


──せつ菜が手牌を開く。

せつ菜 手牌
一一一二三四五六七八九九九


せつ菜 「『運の前借り』なんです」

349: 2021/01/08(金) 19:12:42.99 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「運の前借り…?」

せつ菜 「私は今後の人生に訪れる幸福や、運を前借りして、瞬間的に“今”の自分の運を最大限に高めることができます」

かすみ 「それって、自分の未来を犠牲にしてるってことですか?」

せつ菜 「…そういうことになります」

かすみ 「どうしてですか!? どうしてそこまでして…」

せつ菜 「そうですよね。今後の人生そのものを捧げて麻雀を打っている訳ですから、おかしいと思うのが普通の感覚です」

350: 2021/01/08(金) 19:14:14.98 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「じゃあなんで!」


せつ菜 「…恩返しなんです、麻雀への」


せつ菜 「私の夢は、麻雀の楽しさを多くの人に知ってもらうことです」

かすみ 「麻雀の楽しさを…?」

せつ菜 「私の人生がこんなにも熱く、輝かしく、そして希望に溢れたものになったのは、麻雀のおかげなんです」

せつ菜 「私の人生をここまで楽しくしてくれた麻雀。私に出来る恩返しは、もっとこの楽しさを、多くの人に広めることだけです」

351: 2021/01/08(金) 19:15:29.15 ID:Z/X+pg8A
せつ菜 「この炎は、そんな情熱を現したものなんです。私の心に灯る炎、そのものなんです」

かすみ 「…かすみんでも、強くなれますか?」

せつ菜 「もちろん。熱い気持ちがあれば、絶対に想いは届きますよ」

かすみ 「せつ菜先輩…っ」

せつ菜 「さ、かすみさん。座ってください」

かすみ 「えっ」

せつ菜 「特訓、するんでしょう? 他のみんなには秘密ですよ」

352: 2021/01/08(金) 19:16:43.82 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「で、でも! せつ菜先輩は自分の未来を犠牲にして…!」

せつ菜 「いいんです。かすみさんのためなら」

かすみ 「かすみんのためなら…?」

せつ菜 「言ったでしょう、これは恩返しだって。私のこの炎が、麻雀を愛してくれる人のために使えるなら、本望です」

かすみ 「でもっ」

せつ菜 「心配しないでください! 私の心の炎は、そう簡単に消えたりしません!」

かすみ 「せつ菜先輩っ…ありがとうございます」

353: 2021/01/08(金) 19:17:56.00 ID:Z/X+pg8A
部活が終わった後の、二人だけでの秘密の特訓。
一対一の麻雀、それはツモるのも捨てるのも、通常の二倍。だからこそ考えさせられ、判断の勉強にもなった。

せつ菜は、常に全力だった。

たとえ練習でも、炎を絶やすことは無かった。かすみの全力に応えるため、炎を惜しみなく使い続けた。


──結果、その炎は、最悪のタイミングで尽きることとなった。


ーーーーーー
ーーーー
ーー

354: 2021/01/08(金) 19:19:07.25 ID:Z/X+pg8A
侑 「いた! かすみちゃん!!」

かすみ 「っ!?」


教室の扉を勢いよく開け、かすみの姿を確認した侑は大声で名前を呼びながら駆け寄る。それに続いて、同好会のメンバー全員が教室に入る。みんな、心配そうにかすみを見ている。


侑 「…ねぇ、かすみちゃん。大丈夫?」

かすみ 「大丈夫なわけないです。自分のせいで先輩が休学したんですよ」

歩夢 「かすみちゃん、何か知ってるの? せつ菜ちゃんがああなった理由…」

355: 2021/01/08(金) 19:20:14.65 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「…せつ菜先輩は、運を使い果たしたんです」

しずく 「使い果たした?」

かすみ 「せつ菜先輩の能力は、運の前借りです。使うのにも限度があるんです」

歩夢 「運の前借り…」

かすみ 「せつ菜先輩は自分の未来の運を使って、自分の運を高めてたんです。あの炎は、その運が形になったものです」

歩夢 「でもちょっと待ってよ! それって、自分を犠牲にして打ってたってことじゃ!?」

侑 「だから公式戦でしか打たなかったんだ。運を浪費しないように…」

356: 2021/01/08(金) 19:21:46.91 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「そうです。そのはずだったんです。なのにかすみんが無理を言ったせいで…! かすみんが二人だけで特訓したいなんて言ったから!!」

かすみ 「せつ菜先輩は運を使い切ったんです! あのツモの瞬間、せつ菜先輩の運は尽きて、そのまま放銃して…負けて…!」

エマ 「そんな…」

かすみ 「かすみんが特訓に付き合ってなんて言い出さなければ、まだせつ菜先輩の炎は残ってたんです!! 全部全部、かすみんのせいなんです!」


かすみは大声をあげて泣き出した。皆しばらく呆然としていた。せつ菜が自身の未来を犠牲にして打っていたという事実、そしてかすみの自責の念。それらは簡単に受け止めきれるものでは無かった。


侑 「ねぇ、かすみちゃん。まだ入部して日の浅い私が言うのもなんだけどさ」

357: 2021/01/08(金) 19:23:15.81 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「…なんですか」

侑 「せつ菜ちゃんは、そんなことでかすみちゃんを責めるような人じゃないと思うんだ」

彼方 「そうだよ。せつ菜ちゃんだってきっと分かってた。こうなる可能性もあるって」

かすみ 「でもっ」

侑 「ずっと同好会にいるかすみちゃんなら、分かると思う。せつ菜ちゃんの気持ちの強さ。それに、二人だけで練習もしてたんでしょ?」

かすみ 「せつ菜先輩の気持ち…」

歩夢 「受け止めてあげようよ。せつ菜ちゃんの残した、その想い」

358: 2021/01/08(金) 19:24:55.98 ID:Z/X+pg8A
かすみは手紙をしばらく見つめる。涙をポロポロと零しながら、ついに封を開けて中身を取り出し、内容を読み上げていく。


『麻雀同好会のみなさんへ

申し訳ありません。直接会ったら名残惜しくなってしまいそうで、このような形でお別れを言うことにしました。』


かすみ 「…なんでせつ菜先輩が謝るんですか」


手紙には、せつ菜の能力のことが書かれていた。
自分の未来の運を使っていたこと、そしてそれが尽きたこと。そして、そのせいで敗北した事への謝罪。
かすみとの特訓については一切触れず、そしてもちろん、かすみを責めるような文言は一文字もなかった。

359: 2021/01/08(金) 19:26:51.67 ID:Z/X+pg8A
『私はしばらく休学しますが、麻雀を辞めたりはしません。再び心の炎を灯して、まだ戦えると証明できるほど強くなって、きっとまた帰ってきます。どうか私の事、忘れないでください』


侑 「忘れるわけ…っ……ないよ…」


『最後に、同好会メンバーひとりひとりに、伝えたいことがあります。まず、彼方さん』

『あなたの麻雀を打っている時の笑顔が大好きでした。本当に楽しそうで、普段の様子からは考えられないほどハキハキしていて。もう、練習中に寝たらダメですよ?』


彼方 「…がんばるよ、えへへ」

360: 2021/01/08(金) 19:28:27.53 ID:Z/X+pg8A
『しずくさん。あなたにはいつも苦労ばかりかけていました。彼方さんを起こしたり、かすみさんを叱ったり。厳しくしすぎたと悩んでたことも知っていました。でも、みんなあなたの事が大好きですよ』


しずく 「…っ……ありがとう…ございます……!」


『エマさん。あなたの優しい歌声にいつも癒されていました。でも、能力は無駄遣いしたらダメですよ? それと…“あの人”を一日でも早く、同好会に迎えてあげてください。それがあの人にとって、きっと救いになるはずです』


エマ 「うん…っ、ありがとう。まかせて」

361: 2021/01/08(金) 19:30:26.92 ID:Z/X+pg8A
『歩夢さん。あなたの秘めていた強さには驚かされました。きっとあなたは、同好会を更に上のステージへ導いてくれる。そう信じています。だからもう、大好きの気持ちを隠さないでください』


歩夢 「うん……っ……うん…!」


『侑さん。あなたが私を見て麻雀を始めたと言ってくれた時、飛び上がってしまうくらい嬉しかったです。私の大好きが届いた瞬間でした。私のやってきたことは間違いではなかったと、あなたが証明してくれました。これからもあなたの気持ちを、沢山麻雀にぶつけてください。あなたには、底なしの可能性を感じます』


侑 「せつ菜ちゃん…っ……」

362: 2021/01/08(金) 19:32:02.51 ID:Z/X+pg8A
『──そして、中洲かすみさん』


かすみ 「っ……」


『かすみさんには、二つお願いがあります。

まず一つ目。
私の代わりに部長になってください。

麻雀を愛する気持ちで、かすみさんの右に出る者はいません。私は知ってました、かすみさんが放課後こっそり、牌や卓の掃除を毎日していてくれたことを。

だからきっと、牌の声が聞こえたんだと思います。麻雀にまっすぐ向き合ったかすみさんだからこそ、牌も応えてくれたんです。

部長には、かすみさんのような人が一番相応しいです』

363: 2021/01/08(金) 19:34:13.01 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「かすみんが……部長……っ…?」


かすみが視線を向けると、みんな黙って頷いた。異論なんて、あるはずがなかった。


『そして二つ目。

かすみさん、私の想いを継いでください。

麻雀を心から愛するあなたになら出来ます。その大好きな気持ちを麻雀にぶつけて、見る人を魅了してください。そして世界中に、麻雀の楽しさを伝えてください!

かすみさんの心にも、きっと炎は宿っているはずです。その熱い想いが、輝かしい未来に繋がることを、祈っています』


かすみ 「……っ…うぅ……うぁぁ…っ…!」

364: 2021/01/08(金) 19:36:26.45 ID:Z/X+pg8A
最後まで読み切る前に、かすみはその場に膝をついて泣き崩れた。手紙に涙が染み込んでいく。

侑はかすみに歩み寄り、そっと頭を優しく撫でた。手紙を拾い上げ、最後の一枚を読み上げる。


侑 「──そして、最後に」


『そして、最後に。

私は、みなさんと一緒に打つことがあまり出来ませんでしたが、同好会での日々が本当に楽しかったです!

もし、また同好会に戻ることが出来たら。

今度はみなさんと一緒に楽しく、何十時間でも何百時間でも、ずっと打っていたいです。


──私は、みなさんの麻雀が、大好きです!』

365: 2021/01/08(金) 19:38:34.50 ID:Z/X+pg8A
侑 「…スクールアイドル同好会、優木せつ菜より」


手紙を読み終え、皆その場で涙を流し続けた。

溢れ出る涙を必死に抑え、一番初めに言葉を発したのはかすみだった。


かすみ 「みなさん…」

侑 「かすみ…ちゃん…?」


かすみ 「……一局、打ちませんか?」


その言葉に、みんなの顔が一斉に明るくなる。


彼方 「…じゃあ、早い者勝ちだ~。いっそげー!」

366: 2021/01/08(金) 19:40:50.30 ID:Z/X+pg8A
しずく 「あぁっ、ずるいですよ彼方さん! 私だって!」

かすみ 「あぁっ!? かすみんが言い出したのに! 置いてかないでください!!」


同好会の部室に向かって走り出す。結局、かすみはビリだった。だが、卓の席は一つ空いていた。


かすみ 「…えっ」

侑 「ほら、部長。座って」

かすみ 「…ありがとうございます」

エマ 「対局開始ー! いっくよー!」

368: 2021/01/08(金) 19:43:16.79 ID:Z/X+pg8A
《対局開始》
東家:エマ 南家:彼方 西家:かすみ 北家:侑


東一局、エマの親。ドラは❺


「~~♪」


エマが歌うと同時に、広大な草原が部室の景色を塗り替える。


かすみ 「…本気、ですね! エマ先輩!」

エマ 「もちろん。かすみちゃんの本気には、私の本気で応えるよ!」


一巡目 かすみ 手牌
三四五六八3533459南

369: 2021/01/08(金) 19:45:38.05 ID:Z/X+pg8A
かすみ (エマ先輩のこの圧倒的な力…。侑先輩と歩夢先輩の二人がかりでも勝てそうになかった)

かすみ (そんな先輩にかすみんが勝つには…)


せつ菜 『かすみさんの心にも、きっと炎は宿っているはずです』


かすみ 「…そうですよね。牌はきっと、応えてくれます」


……かすみがツモ牌に手を伸ばす。

その瞬間、明るかったはずの部室が突然暗闇に染まる。そしてかすみの背後に現れたのは──。


侑 「……なに、あれ」

370: 2021/01/08(金) 19:48:13.05 ID:Z/X+pg8A
彼方 「鳥…?」


それは、巨大な鳥。羽の一枚一枚全てが赤く燃え盛り、眩い輝きが暗闇を照らす。その姿は伝説上の生物──不死鳥そのものだった。

不死鳥から放たれた炎が、辺り一面に広がっていた草原を赤く塗り替える。そしてツモ山に伸びるかすみの腕に、不死鳥が一体化する。

炎が腕に渦巻き、かすみの手牌、そして触れる牌全てが目を眩ませるほどの輝きを放つ。


かすみ (…聞こえる、牌の声が)


かすみ ツモ番
三四五六八35❸❸❹❺❾南 ツモ:❹

371: 2021/01/08(金) 19:50:29.59 ID:Z/X+pg8A
かすみ (もう目を背けない。かすみんの熱い想いを、全部ぶつける!)打:❾

侑 「……これって、もしかして」


辺りに広がっていたのは、まさにせつ菜が支配していたあの空間、そのものだった。

いつの間にか現れた火山から炎が吹き出し、その勢いはかすみがツモる度に強くなる。


エマ ツモ:❼

エマ (っ! 緑の牌が、来ない!)


かすみ 「せつ菜先輩の想いは、絶対にかすみんが受け継いでみせます!」

かすみ 手牌
三四五六八35❸❸❹❹❺南 ツモ:4

372: 2021/01/08(金) 19:52:46.12 ID:Z/X+pg8A
かすみ (見ててください、先輩!)打:南


彼方 (すごい迫力…! せつ菜ちゃんと同じ、いやそれ以上…!?)


かすみ 「これがかすみんの、麻雀ですっ!!」

かすみ 手牌
三四五六八345❸❸❹❹❺ ツモ:八

かすみ 「リーチッ!!!」 打:六


宣言牌を叩きつけると、火花が舞い散る。
場はかすみの熱に支配されていた。そしてその気迫に、圧倒されていた。それは、観戦している二人にとっても同じであった。

──かすみがツモ山に手を伸ばす。

腕に渦巻く炎はさらに勢いを増し、辺りを赤く照らす。

373: 2021/01/08(金) 19:54:39.83 ID:Z/X+pg8A
かすみ (これはせつ菜先輩、そしてかすみんの)

かすみ 「心の炎ですっ!!!!」


侑 「まさか…!」
彼方 「…!」
エマ 「かすみちゃん…!」


かすみ 「ツモッ!!!!!!」

かすみ ツモ
三四五八八345❸❸❹❹❺ ツモ:❺
リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・ピンフ・三色同順・一盃口・ドラ2

374: 2021/01/08(金) 19:57:08.26 ID:Z/X+pg8A
かすみ 「…裏ドラは、ふたつ!!」

侑 「さ、三倍満…!? たった4巡で!?」


しずく 「これが、かすみさんの麻雀!」


……かすみの炎は、終局まで途切れることは無かった。


かすみ 「…繋ぎましたよ。せつ菜先輩の心」


ーーーーーー
ーーーー
ーー

375: 2021/01/08(金) 19:59:49.22 ID:Z/X+pg8A
【エピローグ】


あれから一週間。


彼方 「そういえば今日だね、新生徒会長の発表」

歩夢 「緊急代理とはいえ、学校から直々に指名されるなんてすごいよね。どんな子なんだろう」

エマ 「噂だと、一年生の子みたい」

かすみ 「えぇー!? もしかしてかすみん…」

しずく 「絶対にないです」

376: 2021/01/08(金) 20:02:53.70 ID:Z/X+pg8A
せつ菜の休学願は正式に受理された。

優木せつ菜はみんなの前から完全に姿を消したが、彼女の残したものはとても大きかった。

彼女の大好きの気持ちは、これから多くの人々を突き動かすこととなる。


……そう、これはほんの序章。


愛 「その動画、麻雀だ。りなりー好きなの?」

璃奈 「たまたま見て、面白そうって思った」

愛 「ふーん、優木せつ菜か…カッコイイじゃん」


後に“伝説”と称され、麻雀が若い世代に広く知られるきっかけとなった雀士。

377: 2021/01/08(金) 20:06:00.53 ID:Z/X+pg8A
『おぉーっと、せつ菜選手! 鮮やかなツモアガりだーー!!!』

果林 「…………。」

エマ 「果林ちゃん、帰ろ?」

果林 「っ! え、えぇ。行きましょ」

エマ 「…何、見てたの?」

果林 「なんでもないわ。ほら、急ぎましょ」

エマ 「果林ちゃん…」


その誕生の第一幕。

378: 2021/01/08(金) 20:09:23.15 ID:Z/X+pg8A
──勝負の世界に魅せられた、少女がいた。

これは、“麻雀”の世界で長く語り継がれることとなった、伝説の女子高生雀士の物語である。


その少女の名は──。


かすみ 「さぁみなさん、始めますよ!」


歩夢 「…よしっ!」
侑 「今日は勝つぞー!」


「「「「「「対局開始!!!!」」」」」」


ーーーーーー
ーーーー
ーー

379: 2021/01/08(金) 20:12:24.36 ID:Z/X+pg8A
【SS】歩夢 「開花宣言❁嶺上開花」
~1st Season~

[完]

382: 2021/01/08(金) 20:15:38.43 ID:Z/X+pg8A
これにて 1st Season 完結です

途中でのレスやイラストなど、とても励みになりました。最後までお付き合い、本当にありがとうございました。

これを機に、麻雀の楽しさがもっと広まればと思います。


2nd Season、書き進めてますので今暫くお待ちください。

384: 2021/01/08(金) 20:21:37.01 ID:0u/Bc+jO
めっちゃ面白かった。素晴らしいSSをありがとう。せつ菜ちゃんが雀鬼流を極めて帰ってくるのを待ってるね。

385: 2021/01/08(金) 20:37:00.71 ID:A6AZy+ST
最高だった、ありがとう

383: 2021/01/08(金) 20:17:37.09 ID:37lIDJk/
2ndseason...その言葉が聞きたかった

390: 2021/01/08(金) 21:25:09.77 ID:xrLw63Qr
めっちゃ面白かった
2nd seasonも楽しみにしてるよ

392: 2021/01/08(金) 22:40:47.67 ID:yuD3pShJ
2nd seasonありがとう!!!!!
葬儀屋の人だったのか
あれめちゃめちゃ好きだった

398: 2021/01/09(土) 09:39:37.27 ID:+U49b82f
かすみが報われて良かった
これは続編楽しみすなぁ

401: 2021/01/10(日) 01:02:41.69 ID:sobAYO5Z

能力麻雀面白い

402: 2021/01/10(日) 03:02:58.29 ID:2xIz6JD+
2nd seasonはいつ始まりますか?

403: 2021/01/10(日) 20:26:18.55 ID:AK9SjgUR
>>402
一応三月までを目標に書き進めてます

多分別スレになります。書き上がったら続編だとわかるスレタイで建てますので、その時はまたよろしくお願いします

404: 2021/01/11(月) 01:42:36.80 ID:WyHh21z6
今年度中か、楽しみにしてる

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1609331532/

【SS】「開花宣言❁嶺上開花」 ~近江彼方 外伝~【ラブライブ!】
『もう彼方ちゃんとは麻雀やらない!』 『気味が悪い…』 麻雀が大好きだった。 でも私が牌を握れば、その分人は離れていった。 ──私の能力は 彼方 「人を、堕とす能力……」 こんな能力があるせいで、私の卓は崩壊する。 誰も楽しめないし、誰の役にも立たない。 ただただ相手を、不快にさせるだけの能力。 彼方 (だから、私は) ──牌に触るのを、やめた。
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