【SS】曜「雨傘の音」【ラブライブ!サンシャイン!!】

SS


1: 2021/04/30(金) 18:46:27.82 ID:bPK2SIKe
ようまり短編集

2: 2021/04/30(金) 18:47:18.67 ID:bPK2SIKe
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◆相合傘

鞠莉「雨、止みそうにないわね」

曜「う、うん」

鞠莉「どうしたの。さっきから何か気になってるようだけど」

曜「なんか、これって、いつもより距離が近いから」

鞠莉「そりゃあね、傘が一つしかないんだし、くっついてなきゃ雨に濡れちゃうじゃない」

曜「それは、そうなんだけど」

4: 2021/04/30(金) 18:48:32.04 ID:bPK2SIKe
鞠莉「ほーら、言ってるそばから離れてるわよっと」

曜「わわっ」

鞠莉「今日は寒いし、体が冷えちゃうわ。遠慮しないで、もっと寄るのっ」

曜「えへへっ。ありがと、鞠莉ちゃん」

なんか、あったかいな。

鞠莉「ふふっ、なんだか歌いたくなるわね」

曜「歌?」

5: 2021/04/30(金) 18:49:57.75 ID:bPK2SIKe
鞠莉「ほら、雨が傘を叩く音が、歌っているみたいにリズミカルに聞こえてこない?」

曜「鞠莉ちゃんにはそう聞こえるの?」

鞠莉「なんとなくね」

曜「そうなんだ。すごいね、私にはちょっと難しいかも」

鞠莉「きっと梨子は私よりもよく聞こえているはずよ。なんと言ってもピアニストだからね。よく言うでしょ、『雨音はショパンの調べ』って」

曜「よく言うかどうかはわからないけど、素敵だね、それ。普通の人よりも感受性が高いっていうか、繊細な感じがする。鈍感な私にはなおさら聞こえそうもないなぁ」

6: 2021/04/30(金) 18:51:17.89 ID:bPK2SIKe
鞠莉「曜もいいセンスを持ってるから、すぐにわかるわ」

曜「そうかな?」

鞠莉「きっかけさえあれば、きっとね」

曜「うーん。きっかけ、ねぇ」

確かに、子供の頃は雨の音にもっと耳をそばだてていたような気がする。

雨音、か――

7: 2021/04/30(金) 18:52:59.79 ID:bPK2SIKe
曜「…あ」

鞠莉「聞こえた?」

曜「うん。はっきりとじゃないけど、そんな気がする」

鞠莉「ふふっ、やっぱりマリーの見込んだとおりね」

雨が傘を打つ音が、騒がしいような。心地よいような。

鞠莉「雨、止みそうにないわね」

曜「だね」

でも、こういうのもたまには悪くない、かな。

8: 2021/04/30(金) 18:54:14.10 ID:bPK2SIKe
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◆吊り橋

曜「鞠莉ちゃんって、本当は吊り橋をダッシュで駆け抜けたいタイプでしょ?」

鞠莉「それを言ったら曜だってそうでしょうに。スピードとスリルが大好きじゃない」

曜「えへへ、まあね」

鞠莉「でもさっき『本当は』って言ったわね。今の私は、そうは見えない?」

曜「ん…」

鞠莉「聞きたいな、曜からどう見えてるか」

9: 2021/04/30(金) 18:55:47.36 ID:bPK2SIKe
曜「えっと…うまく言葉で言えないんだけど、複雑な状況の中で、バランスを取りながら頑張ってるっていうか」

鞠莉「色々なことに折り合いをつけながら?」

曜「…うん」

鞠莉「うふふっ。そっか、そう見えてるんだ」

曜「ごめんね、私、変なこと言ったかも」

鞠莉「謝らないの。的確だと思うわ。自分でも薄々はそう感じていたし、言ってもらえてよかったって思ってる」

10: 2021/04/30(金) 18:57:28.75 ID:bPK2SIKe
曜「家のこととか、お仕事とか、大変そうだから」

鞠莉「ね。色々あって、たまに挫けそうになっちゃうわ」

曜「…」

鞠莉「だけど、必要なことだと思ってる。思いどおりにならないことは多いけど、そういう自分も嫌いじゃないの。がむしゃらなのは大事だし、スリルやリスクも望むところだけど…今は、それだけではね」

曜「そう思うのは、理事長だから?それとも大人だから?」

12: 2021/04/30(金) 19:01:32.97 ID:bPK2SIKe
鞠莉「ふふ、一歳しか違わないわよ?そうね…未来の可能性って沢山あるんだって思うけど、本当にモノにできるチャンスは数少ないと思うの。それこそ奇跡と呼びたくなるくらいね」

曜「うん」

鞠莉「だからこそ、貴重なチャンスを手放すわけにはいかない。たとえ当たって砕けたとしても、やらずに悔いを残す方がもっと嫌だもの」

曜「うん、うんっ」

鞠莉「だから、その時がやってきたら、全速力で駆け抜けましょう」

曜「みんなで全速前進ヨーソローだね!」

鞠莉「ふふっ、その曜の口癖に、今の私たちに大切なことが全てが詰まっている気がする」

曜「さあ、鞠莉ちゃんも一緒に!」

鞠莉「ええ!ヨーソローっ!」

13: 2021/04/30(金) 19:02:54.06 ID:bPK2SIKe
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◆けして色あせない

鞠莉「曜、お待たせ。帰りましょ」

黄昏の世界で鞠莉ちゃんが優しく微笑む。

鞠莉「寄りたい所があるんだけど、いい?」

これが夢だってことはわかってる。どうしてかって?最近、毎日の様にこの光景を夢で見てるから。

鞠莉「ここから見る海の色が大好きなの。大きくて、優しくて、包み込まれているみたいで、悩んだり困ったりしてることがちっぽけに思えてくるから」

夢の中でリピートを繰り返す、想い出の世界。

鞠莉「さ、ぶっちゃけトーク!しましょ?」

夕暮れに染まる横顔が、今日も私の心を離さない。

15: 2021/04/30(金) 19:04:13.56 ID:bPK2SIKe
……………………………………

◆放送

『2年生の渡辺曜さん、2年生の渡辺曜さん。至急理事長室にお越しください』

曜「えっ、私?」

千歌「曜ちゃん、何かしたの?」

曜「ううん、心当たりは全く」

千歌「ほんとにー?優等生の曜ちゃんだけど、実は陰でとんでもなく不良なことをしてたりとか」

曜「あははっ、するわけないって」

16: 2021/04/30(金) 19:05:09.88 ID:bPK2SIKe
千歌「なら、どうして呼び出されちゃったのかな。こんなこと今までなかったよね」

曜「うーん…」

梨子「理事長室ってことは、鞠莉ちゃん関係なんじゃない?」

曜「あ、梨子ちゃん」

梨子「わざわざ校内放送を使ったってことは、何か大事なことがあるのかも」

曜「私に?」

千歌「鞠莉ちゃんが曜ちゃんをお呼び出し、大事なこと…まさか、次期理事長に曜ちゃんをご推薦とか!?」

17: 2021/04/30(金) 19:06:39.85 ID:bPK2SIKe
曜「いやいや、それこそ無いでしょ」

千歌「わからないよ。鞠莉ちゃんのことだから、自分の後継者に曜ちゃんを選ぶってことは充分にありうる」

曜「え、えー?」

千歌「曜ちゃん、もし曜ちゃんが理事長になった暁には、期末テストの問題をもっと簡単に…」

梨子「こーら、公私混同しないの。曜ちゃんも、理由はどうあれ、呼び出されちゃったんだから、早く行かないと」

曜「そうだね、行ってみるよ」

千歌「出頭、ご苦労様です。お勤め頑張ってね!」

曜「だから、悪いことしたわけじゃないってば!」

18: 2021/04/30(金) 19:07:52.63 ID:bPK2SIKe
曜「理事長室…入る時はいつも緊張しちゃうな。身嗜みを整えて、と」

コンコン

「はーい」

曜「私です、渡辺です」

「どうぞ、私一人よ」

曜「失礼しまーす」

鞠莉「いらっしゃい。呼び出しちゃってごめんね?」

19: 2021/04/30(金) 19:09:39.47 ID:bPK2SIKe
曜「放送で流れたからびっくりしたよ。それで、私はどうして呼ばれたの?」

鞠莉「それはね、テストよ」

曜「テスト?期末テストとかの関係?」

鞠莉「違う違う、放送機器のテストよ。ちゃんと動くかどうかのね」

曜「つまり、試験放送ってこと?」

鞠莉「それそれ。先生方から点検しておいてねって言われたから」

20: 2021/04/30(金) 19:10:47.00 ID:bPK2SIKe
曜「それなら、単に『試験放送です』って言うだけでよかったんじゃない?」

鞠莉「それじゃ楽しくないもの。それにね、ちょうどお茶するお相手が欲しいなって思っていたところだったし」

曜「それは公私混同とか、職権濫用って言うんじゃない?」

鞠莉「そんな難しい言葉知りまセーン」

曜「あははっ、普通に誘ってくれればいいのに。みんなから注目されちゃったよ」

鞠莉「埋め合わせはするわ、とびっきりの美味しいコーヒーでね。お砂糖は一つでいい?」

21: 2021/04/30(金) 19:13:20.05 ID:bPK2SIKe
曜「うん、ミルクは――」

鞠莉「多めでしょ。心得ておりますっ」

曜「へへ、さすが。ところで、さっきの放送の声、鞠莉ちゃんだったんだね」

鞠莉「そうよ、気付かなかった?」

曜「全然気づかなかったよ。落ち着いた綺麗な声で、アナウンサーみたいだった」

鞠莉「褒めてもらえると気分がいいわ。はい、お待たせ」

22: 2021/04/30(金) 19:14:44.31 ID:bPK2SIKe
曜「ありがと、いただきます。ん、美味しい」

鞠莉「放送と言えば、曜は町内放送をしたことがあったわよね」

曜「ん、そうだっけ?」

鞠莉「ほら、ちかっちと梨子の3人で」

曜「ああ、ファーストライブの告知のとき?懐かしいね」

鞠莉「ええ。私がAqoursに入る前のことで、まだ友達にすらなってなかったわ」

23: 2021/04/30(金) 19:16:26.81 ID:bPK2SIKe
曜「そう考えると、一緒のグループで活動してるって、すごいことだよね」

鞠莉「こうしてお茶してることもね。きっと、そういう巡り合わせだったのよ。私たちの」

曜「…巡り合わせ、か」

鞠莉「どうかした?」

曜「鞠莉ちゃん、私たち、やればきっとできるよね?」

鞠莉「当然よ、Aqoursは無敵のパーフェクトナインだもの」

24: 2021/04/30(金) 19:18:05.96 ID:bPK2SIKe
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◆車

車は夕暮れの海沿いを走っていた。

行き先や目的があるわけじゃない。鞠莉ちゃんの車に乗せてもらって、二人だけのあてのないドライブだ。

曜「車でさ、どこにでも行けたらいいのにね」

ハンドルを握る鞠莉ちゃんに話しかける。

鞠莉「どこにでも?」

曜「遠いところとか、普段行けないところとか、それこそ海外とか、飛行機や船の代わりにさ」

鞠莉「素敵な発想ね、もっと聞かせて」

曜「ものすごいスピードで走ったりしたら、海や山を越えたり、地形や障害物を無視して進めたりできるんじゃないかな」

25: 2021/04/30(金) 19:19:15.22 ID:bPK2SIKe
鞠莉「ワープみたいな?」

曜「ああ、いいね、ワープ。そういうのできないかな」

鞠莉「技術の進歩を待つしかないわね。それか、魔法を使えるようになるか。どちらにしても大変よ」

曜「そうだね…ね、鞠莉ちゃん」

鞠莉「ん?」

曜「イタリアまでは迎えに行けないけどさ、私が免許を取ったら、いつかドライブに付き合ってくれる?」

鞠莉「もちろん。楽しみにしてるわ」

26: 2021/04/30(金) 19:20:36.04 ID:bPK2SIKe
鞠莉ちゃんが微笑む。夕陽が海に沈んでいく。

曜「綺麗だね」

鞠莉「そうね。夕暮れがとっても綺麗」

鞠莉ちゃんが、なんだけどな。

鞠莉「あの日を思い出すわね。初めてぶっちゃけトークをしたときのことを」

曜「つい最近のことのようで、だいぶ昔のことのような気もするんだ」

鞠莉「わかるわ。時の流れって、案外気まぐれだから」

曜「また、見に行きたいね」

鞠莉「行きましょう。いつだって付き合うわ」

この横顔を、このままずっと見ていたいんだ――なんてね。

27: 2021/04/30(金) 19:21:37.01 ID:bPK2SIKe
……………………………………

◆紙飛行機

夕暮れの浜辺に立って、遠くに見える淡島へと向き直る。私はぐっと息を吸い込み、紙飛行機を持った右腕を大きく振りかぶった。

曜「えいっ!」

掛け声とともに、紙飛行機を力いっぱい空へと飛ばす。

紙飛行機は海風に乗って、思いの外高く舞い上がった。

もしかしたら、本当に海を越えられるかも、なんて期待が胸をよぎったけど。

曜「あ…」

風の勢いに押し流されたのか、紙飛行機はくるっと向きを変え、私の頭上を飛び去っていった。

28: 2021/04/30(金) 19:22:54.40 ID:bPK2SIKe
曜「届くどころか、まさかのマイナスとは」

この展開は流石に予想していなかった。紙飛行機はゆらゆらと風に流されながら、10メートルほど先の砂浜に落下した。

曜「ま、そういうこともあるよね」

苦笑いしながら、紙飛行機を回収しに向かう。と、誰かが紙飛行機をそっと拾い上げた。

「落とし物よ」

曜「え…?」

29: 2021/04/30(金) 19:24:14.11 ID:bPK2SIKe
私が目にしたのは、紙飛行機の砂を払いながら微笑みを浮かべる鞠莉ちゃんの姿だった。

曜「鞠莉、ちゃん?」

鞠莉「楽しそうなことやってるわね。思えばちかっちも、前に紙飛行機を飛ばしてたっけ」

曜「どうして、ここに」

鞠莉「なんとなく。強いて言うなら巡り合わせ、かな」

巡り合わせ――

30: 2021/04/30(金) 19:25:29.91 ID:bPK2SIKe
曜「そっか。そうなのかも」

鞠莉「曜こそ、どうして紙飛行機を?」

曜「なんとなく。強いて言うなら巡り合わせ、かな」

鞠莉「まあ、うふふっ」

曜「えへへっ!」

紙飛行機は鞠莉ちゃんのもとに届いた。偶然なのはわかってるし、思い描いた形とは少し違ったけれど。

鞠莉「さ、行きましょう」

曜「うんっ!」

想い続けていれば、届くのかもしれない――そう信じられそうな気がするんだ。



終わり

31: 2021/04/30(金) 19:27:21.07 ID:bPK2SIKe
全弾撃ち尽くしました。ちょっとしんみり系な側面のようまりでした。

↓は前に書いたものです。よろしければ併せてお願いします。

鞠莉「全速前進ヨーソロー!曜ちゃん天気予報の時間だよ!」
https://fate.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1619437207/

ありがとうございました。

32: 2021/04/30(金) 19:28:14.12 ID:tL2mnbca
語彙力なさすぎて上手く言えないけどなんか綺麗ですごい好き
乙でした

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1619775987/

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