【SS】ラブライロンパ!Ô

ゆう AqoursーSS


1: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:27:09.37 ID:tvqq+GiU
ラブライブ×ダンガンロンパ パロss
μ's、Aqours、虹、その他
話の展開上、キャラ死亡、残酷な描写、不快な表現等があります。苦手な方はブラウザバック推奨。
どこかで見たネタや二番煎じのトリックがあるかも知れません。
トリックの内容にはあまり期待しないで下さい。
地の文あり。
章ごとに更新。
規制回避の為、3〜5分毎の投稿。
かなりの長編のためダレると思いますが、自己満足で気長にやっていきます。

2: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:28:10.27 ID:tvqq+GiU
真っ直ぐな想いが みんなを結ぶ 

見たことない夢の軌道 追いかけて

いこう 明日へ 虹のMelodies────

────────────

6: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:48:46.89 ID:tvqq+GiU
… ……Test tu e abi es … …

…Top Se ret " ee f Life Pr je t" Temp rary n e
Cat g ry Le el EN
Su ject D scri s the b olog cal re ords of Art ficial Li e orm No. 53……

〜年 ○月×日

 ようこそ 世界へ

 「   」は目を覚ます。「   」は見渡した

 知らないもの 知らないこえ 知らないひと

 世界は水 泡 透明で青い たくさんの白 ときどき黒
 わたしは だれ?

─────────────

7: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:49:49.29 ID:tvqq+GiU
『私立虹ヶ咲学園』

 ~様々な分野において秀でた才能を持つ少年少女を、その才覚問わず向かい入れ、最高峰の環境をもってさらなる能力の向上を目的とする政府公認の超特権的なスカウト制の学園。

 元々は国内最大の国際展示場を学校として改築したのが始まりらしく、一教育施設の規模としては最大級。自由な校風に、生徒一人ひとりに合わせた多種多様な教育プログラム。

 そこに入学した生徒は日本の未来を担う人材として、輝かしい将来と成功を約束される~

 ────って、世間では羨望のまなざしで見られ、日々ニュースやネットで話題の的になっている。

 そんな虹ヶ咲学園にこの私、上原歩夢はスカウトされた。

8: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:51:13.31 ID:tvqq+GiU
歩夢「ふー……ああ、緊張するなぁ」スー、ハー

 周辺の酸素を全部肺に取り込む勢いで深く息を吸い込む。そしてゆっくりと吐く。
 目の前に広がるのは近未来な造りの巨大な建造物。
 圧巻な光景に多少怖気づくも、私は勇気を持ってその一歩を踏み出した。

歩夢(入った……! 敷地内にっ)

 門をくぐる。この先に一体どんな超高校級の人たちが待っているんだろう。

歩夢(えっと、集合場所はエントランスホールだったよね。地図を見ると……こっちかな?)スタスタ

歩夢(地図がないと絶対に迷っちゃう。立地を覚えるのに時間かかりそう)

 地図と睨めっこを続けながらも、なんとか目的のエントランスホールに到着。

9: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:53:37.48 ID:tvqq+GiU
歩夢(案内する人ぐらいいてもいいのに。なんか不親切……)

 もしかしたら、ここからすでに超高校級としての能力が試されているのかもしれない。
 他の人はどこだろう。壁にかけられた時計を見ると、まだ時間には大分余裕があるし一番乗り?

歩夢(ふふ。なんか嬉しいな。昔からこういうところばっかり褒められるんだけどね)

 なんて、ほんとは緊張して早く起きちゃっただけなんだけど……
 途中で寝ることがないように気を引き締めなきゃ!

 それにしても、

歩夢「……暑いなぁ」

11: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:55:33.13 ID:tvqq+GiU
 燦々と照りつける太陽の熱。最近は日本近海に浮かぶ孤島が海底に沈んだとか、関東近辺で頻繁に地震が発生したり、それに誘発された活火山の活動が活発になったりと……
 何かと物騒な世の中になってきたりするのだ。

歩夢(まだ春先なのに、日本全体が蒸し風呂みたい)

「あー! やっと見つけた!」

歩夢「!!」ビクッ

 背後からの声に驚いて振り向く。
 同じ制服に同色のリボンタイを身に付けた少女が、こちらに小走りで近づいて来るのが見えた。
 間違いない。彼女も新入生であり、超高校級の才能を持つ子。

 嬉しさに自然と頬が緩んじゃう。やっぱり一人より二人だよね。

12: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:57:00.73 ID:tvqq+GiU
歩夢「あなたも新入生? 私はうえはr────ぁ、うぇ?」

 唐突に、生涯で初めて経験するような強烈な眩暈と浮遊感。
 喉を見えない手で万力の如く締め付けられるような圧迫感。視界の隅でチカチカと火花が散る。

 視界がゆがむ、、いきがっでき、なぃ

 せかいがまわる まわる、まわ、る……ぐる、ぐる ぐるぐるぐるrぐるgるgるぐggggggg……

 ────プツンッ

 何もかもが分からないまま、私の意識は途絶えた。
 それが はじまり 絶望の はじまり────────────────

 ────────────────────────

13: (はんぺん) 2021/06/15(火) 22:58:43.93 ID:tvqq+GiU
Prologue
「It's a Good Day to You Die」

15: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:04:47.27 ID:tvqq+GiU
 …… …………

 ここはどこ? 教室……?
 まさか、入学早々ぶっ倒れてここまで運ばれた!??

 いや、でも普通は保健室に運ぶよね?

「ううん、……?」

 なにかが、おかしい。

 教室と廊下を隔てる壁は、窓ガラスで区切られていて外部の様子が丸わかりになっている。
 廊下から教室の様子が丸見えだ。
 注意深く周囲を見渡す。

(黒板の代わりにホワイトボード。天井にはプロジェクター?)

(エアコンに、音響設備のようなものまで設置されてる……)

18: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:06:55.48 ID:tvqq+GiU
 木と金属を組み合わせた学生机に連結イス。机上にはLANコネクター?っていうんだっけ、それにコンセントもついてる。

 窓には黒いシャッターのようなものが下ろされていて、外からの光を完全に遮断している。
 なんだか息苦しいな……そういう演出というか、教室なの?
 時計がないから、今が何時かも分からないし。

「あのー? 誰かいませんかー?」

 廊下に向かって声を張り上げると、思った以上に反響して思わず口を押えた。
 やけに静かだ。他の生徒や先生はどこにいるんだろう?

「外、出てみようかな」

 どうせ教室には私一人だし、誰も怒りはしないはず。
てか、こっちには怒るだけの正当性があるしね!
 新入生を教室に一人、置き去りにするなんておかしいよ。

19: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:09:15.63 ID:tvqq+GiU
(わぁ、すごいな。きれい……)

 外に出てみると全体的に白を基調とした内装。清潔感のある空間が広がっていた。
 広々としたロビーにホール、各所には観葉植物(種類は不明)が置いてある。

(高校、いや、そこらの大学なんて比べ物にならないよ。そこかしこに意識の高さが見て取れるね)

 暫く歩くと、別の教室に人の影を発見。
 私と同じ状況のようで、不安そうに教室を散策していた。

「お、おーい」

 廊下から声をかけると、

「ふひゃっ!? え、って?」

 可愛らしい悲鳴を上げて、彼女はこちらを振り向いた。

20: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:15:09.26 ID:tvqq+GiU
「あはは。驚かせてごめんね。私は高咲侑。あなたは?」

「あ、う、上原歩夢です。よ、よろしくお願いします!」

 ぺこりと、上原さんはきれいなお辞儀を披露。
 ライトピンクの髪をハーフアップにしており、右サイドに三つ編みのお団子(シニヨン)を作っている。
 とても可愛らしく、女子力の高そうな子だ。

侑「敬語はいいよ。それに同い年でしょ? 気軽に行こうよ」

歩夢「あ、はい……うん。あなたも新入生、だよね?」

侑「うん!」

歩夢「……」ジー

侑「え、なに。なにか付いてる?」

歩夢「ううん。ねえ、私たちってどこかで会ったことある?」

侑「……うーん、ごめん。私は心当たりないかな」

21: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:17:22.96 ID:tvqq+GiU
歩夢「そっか。ごめんね突然。侑ちゃんって呼んでいいかな?」

侑「うん。じゃあ、こっちは歩夢って呼ぶね。あ、「ちゃん」いる?」

歩夢「歩夢でいいよ。よろしくね、侑ちゃん」

 一人目の新入生(なかま)を発見したことに安堵するも、すぐに気になっていたことを聞くことに。

侑「ねえ、歩夢。ここに来る前のこと覚えてる?」

歩夢「それが全く思い出せないの。エントランスホールまで行って、そこで……」

 ────意識を失った

 歩夢の顔が強張る。私と同じで、教室で目が覚めるまでの記憶が一切思い出せないみたいだ。

23: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:22:33.86 ID:tvqq+GiU
歩夢「これもさ、入学式の一環なのかな?」

侑「まさか、そんなこと……ありえるかも?」ウーン

 この学校なら何を仕掛けてきても納得してしまいそうな、そんな説得力をこの校舎全体から感じる。
 二人で校内を歩きながら、私は別の話題を振った。

侑「歩夢はさ、どんな超高校級なの?」

歩夢「うぇ!? ど、どんな……?」

侑「うん!」キラキラ

歩夢「そ、そんなに気になる?」タジ

侑「そりゃ気になるでしょ! 生の超高校級だよ? それに、これから一緒に生活していくんだから、いやでも知ることになるし!」

歩夢「それはそうだけど。って侑ちゃんもでしょ」

24: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:25:29.86 ID:tvqq+GiU
侑「そうだったね。はは、私はね! 私は……あれ」

 歩夢の言葉でふと、我に返る。超高校級の才能。私の……。
 うーん、私の才能って……なんだっけ?

歩夢「ええ!? 思い出せないの? そ、そんなことってある!?」

 そりゃそうだ。まがりなりにも超高校級の才能を見込まれてスカウトされたのに、肝心の才能をド忘れしましたなんていったら目も当てられない。

侑「うう、ほんとに思い出せないんだ。なんか、こう、記憶に靄がかかってるっていうか」アレー?

歩夢「まだ記憶が混濁してるから仕方ないのかも。ここに連れてこられた経緯も全く分からないんだし、しょうがないよ」

歩夢「そんなに落ち込まないで、ね?」ヨシヨシ

侑「うん……」ズーン

【超高校級の??? 高咲侑】

25: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:29:05.07 ID:tvqq+GiU
侑「で、歩夢の才能は?」

歩夢「もうっ。私? 私は“超高校級の優等生”って言われてる、のかな……」

【超高校級の優等生 上原歩夢】

侑「超高校級の優等生!? それってあの、成績性格品行ともにあまりに優れるため、理想の学生像の象徴として総理大臣から直々に勲章を授与されたって噂の!?」

歩夢「えぇ、そんな噂たってるの?」

侑「だって超高校級の優等生が在籍したクラスは、その一年何も問題を起こすことなく最高の学生生活を送れるって話だよっ? 受け持った担任も必ず昇進できるって」

歩夢「は、恥ずかしいよお。私なんてただ普通に生活してただけなのに……」

侑「いやいや、もっと誇っていいと思うけど。だって初対面の私でも、歩夢がすごく、すっごくいい人だって分かるもん!」

29: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:37:07.23 ID:tvqq+GiU
>>26
多分、そのはんぺんです
章ごとに書いて投稿するから期間空くと思うけど、立ってたら覗いて下され

27: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:32:56.48 ID:tvqq+GiU
侑「すっごくときめいちゃうよ!」

歩夢「うう……///」

 歩夢の顔がピンクに染まる。超高校級って言っても私と同じで、普通の人間なんだ。
 ふふ。早く私も自分の才能を思い出さないとね。

歩夢「もう! 私の話しはこれでお終い! 他の人探しに行くよ!」スタスタ

侑「あー、待ってよ歩夢ー!」トテテッ

V╮<で、勲章ってほんとにもらったの?
@<し、しらないっ!

ーーーーーーーー

30: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:40:13.65 ID:tvqq+GiU
 歩夢と二人で校舎内を進む。やっぱりどこの窓ガラスも、黒いシャッターが下りていて外の様子が分からない。
 清潔感のある綺麗な校舎内が、どこか無機質で冷たい印象を与えるのもこれが原因だ。おまけに明かりがついているとはいえ、薄暗いし。

侑「……まるで監獄だね」

歩夢「怖いこと言うのやめてよ。本当にそう見えてきちゃう」

「あのー? 誰かいますかー!?」

 !!

 どこかから反響して聞こえてくる声。
 顔を見合わせる。思った通り、他にも同じ境遇の生徒がいたのだ。

侑「ここっ、ここにいるよ!」

歩夢「あ、いたよ!」

「はあ、はあ。よかったぁー! 私一人しかいないんじゃないかって、心配で心配で」

31: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:43:21.54 ID:tvqq+GiU
侑「その気持ち分かるよ」ウンウン

歩夢「あなたは?」

「私は高坂穂乃果! “超高校級の看板娘”やってます!」ブイッ

【超高校級の看板娘 高坂穂乃果】

侑「看板娘って、あの老舗甘味処『穂むら』の高坂穂乃果!?」

穂乃果「お、穂乃果のことをご存知?」

侑「もちろん! その類稀なる天性の接客スキルで、来店者のリピーター率は脅威の120パーセントオーバー!」

歩夢「100超えてるんだ。す、すごいね」

侑「穂乃果ちゃんに接客されたら、必ず常連になっちゃうって言われてるんだよ。人が人を呼んで「穂むら」を全国レベルにまで押し上げたとか!」

穂乃果「あはは。改めて言われると照れちゃうね。今度ぜひ「穂むら」においでよ! 自慢のほむまんをご馳走するから!」ギュッ

32: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:48:12.62 ID:tvqq+GiU
歩夢「ほむまんって、看板メニューの? 確か人気商品すぎて半年先まで予約で一杯って」アワワ

侑「わあ、ほんと!? 嬉しいなぁ。やったね歩夢」

穂乃果「えへへ。あ、そうだ。あなたたちは?」

 私と歩夢は穂乃果ちゃんに簡単な自己紹介をする。
 私は才能を伝えることはできなかったけど、彼女は「これから思い出していこうよ! きっと大丈夫!」と太陽のような笑顔で励ましてくれた。

穂乃果「よーし! 他にも新入生はいるはず。侑ちゃん、歩夢ちゃん、行こう!」

 橙色の髪。サイドテールがぴょんっと揺れる。魅力的な笑顔で前向きな子だ。確かに、こんな子に接客してもらえたらまた来てしまうのも頷ける。
 薄暗い校舎内に光が差したような、一転してムードを変えてしまう力があるみたい。

 歩夢、穂乃果ちゃん、私の三人は時折り談笑を交えながらも先へ進む。

34: (はんぺん) 2021/06/15(火) 23:57:09.28 ID:tvqq+GiU
侑「……」

 進む、か。果たして進めているのだろうか。当てもなく、彷徨っているだけではないか。

 拭い去れない不安な状況。私は無意識に隣を歩く歩夢の手を強く握りしめていた。

歩夢「あ、ふふ。どうしたの?」

侑「ごめん。やっぱり不安で」

歩夢「私も……穂乃果ちゃんはすごいね。あの人についていけば何とかなっちゃいそう」

 超高校級の看板娘。先を行く彼女の背中はとても大きく見えた。背丈はあまり変わらないのにね。

35: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:01:01.74 ID:+aVWzeRe
・・・

侑「ここにもいないね」

穂乃果「穂乃果たち以外居ないのかな?」

歩夢「あの、提案なんだけど。エントランスホールまで戻ってみない?」

 三つ目の教室を覗いた後、歩夢が片手を上げてそう提案する。

侑「ああ、元々集合場所はエントランスホールだったもんね。そこに行けば何かあるかも」

穂乃果「確かに! 決まりだね。じゃあ、そこまで競争しようよ!」

歩夢「え? ────あ、穂乃果ちゃん!」

 言うや否や、穂乃果ちゃんは私たちの言葉を待たず、駆け出してしまった。行動派なのかな。────って、

侑「場所分かるのー!?」

穂乃果「へーきへーき! 走ってればそのうち着くっふぎゃ!?」

36: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:05:21.78 ID:+aVWzeRe
 長い廊下の突き当たりまで行った穂乃果ちゃんは、曲がり角で他の誰かと見事に衝突した。うわ、痛そう。

歩夢「もー、廊下は走っちゃだめだよ」

侑「そこなんだ。さすが超高校級の優等生……?」

穂乃果「いたた、……あ、だ、大丈夫っ?」

「……きゅぅ」

 あちゃー、目回してる。
 あたふたと慌てる穂乃果ちゃんの横を通り抜け、歩夢が倒れている少女を介抱し始めた。うん。肩書きに恥じない優等生っぷり。

歩夢「大丈夫ですか?」

「へ、平気よ……っ、もう」

 歩夢に支えられながら立ち上がった彼女は、赤くなった額を押さえつつ、ぶつぶつと悪態を吐く。

37: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:09:04.71 ID:+aVWzeRe
穂乃果「えっと、あのぉ、ごめんね?」

「ごめんで済んだら警察は要らないのよ!」ウガー

侑「まあまあ。お互い様ということで」

「私は歩いてたの。そっちが走ってくるからぶつかったの! どっちが悪いかは明白でしょ!!」

穂乃果「ご、ごめんってば〜」

歩夢「あの、あなたも新入生? リボンの色が違うけど……」

 歩夢の言葉で気付く。彼女の制服を見ると、確かに物は同じだけどリボンタイの色が私たちと違った。
 私たちが赤なのに対し、彼女は黄色だ。

穂乃果「ほんとだね。もしかして先輩ですか!?」

「うぇ? ち、違うわよ。逆にあなたたちはなんなの。その、実は先輩なんじゃ……?」

侑「違う違う。私たちもバリバリの新入生だよ」

「あ、そうなの」ホッ

38: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:13:16.36 ID:+aVWzeRe
 あからさまにホッとしたね。結構グイグイくる子なのかな。物怖じしない性格?

穂乃果「なんでリボンの色が違うんだろう。ランダム?」

歩夢「こういうのって普通、学年ごとに色分けされるよね。この学校はどうなんだろう」

侑「パンフレットにはその辺載ってたっけ?」

歩夢「私の記憶だと、制服の写真はあったけど学年ごとの色の指定については書いてなかったような」

穂乃果「よく覚えてるねー。因みに写真の制服は何色だったの?」

歩夢「……黄色だったかな。多分、三年生?」

侑「ふーん。じゃあ、私たちが一年生だとすると、やっぱりこの人先輩?」

「だ、か、ら〜、違うって言ってるでしょ! 私はピチピチの新入生よ!!」

 おー。元気がいいね。

39: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:17:47.94 ID:+aVWzeRe
「ていうか、そろそろ自己紹介やっときたいんだけど?」

穂乃果「あ、そうだね。あなたの名前は?」

「ふん。名乗るならそっちから先に名乗りなさい」

歩夢「えぇ……」

 そう言う彼女に睨まれ、私たち三人は順番に自己紹介をした。

・・・

「へえ、あなたは才能が思い出せないのね。ふーん、はーん……なんかずるい」ボソ

侑「残念だけどそうなんだ。あ、侑でいいよ」

歩夢「それであなたは?」

 歩夢が聞くと、彼女は不敵に笑み、足を開いた。そして目元に横ピースを持っていくと、

「フッフッフ。よくぞ聞いてくれたわ。我こそは地上に堕ちた罪深き天使ヨハネ。人呼んで超高校級の堕天使────!!」ギランッ☆

 ビシッとポーズを決め、何オクターブか低い声で告げた。

40: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:21:06.51 ID:+aVWzeRe
三人「……」ポカーン

 「あなたたちも同じ超高校級の名を冠する者。私のリトルデーモンにしてあげてもよくてよ?」ニヤ

穂乃果「よく分からないけどかっこいい! ヨハネちゃんって言うんだ。よろしくね!」

「……そう! ヨハネよヨハネ! あなた見る目あるわねっ」

歩夢「いや、絶対違うと思う……」

 ヨハネちゃん(仮称)は嬉しそうに口元を緩ませながら、穂乃果ちゃんと談笑している。時折混ざる「悪魔」や「儀式」などの単語は会話に必要なんだろうか? 穂乃果ちゃんは楽しそうに笑ってるけど。

 ダークブルーの艶やかなストレートヘアー。可愛らしい姫カットで、頭部の右側には歩夢と同じようなお団子を作っている。
 というか強烈なキャラに押されがちだけど、鼻筋の通った美人さんだね。

歩夢「侑ちゃん、そろそろ」

侑「あ、うん。二人とも行くよー」

 一人が二人、二人が三人に。そして四人まで増え、空気も一気に明るくなった。これで少しは不安もまぎれるといいんだけど。

41: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:24:41.79 ID:+aVWzeRe
・・・

 それから私たちは玄関ホールまでの道のりを、道中にあったフロアマップを頼りに進んでいった。
 途中、新たに一人新入生を見つけ行動を共にすることに。

侑「エマ・ヴェルデさん。スイスからの留学生なんだね」

エマ「うん! そうなんだ。一人は不安だったからみんなに会えてよかったよ〜」ニコ

 落ち着いた赤毛の三つ編みおさげ。頬には可愛らしいそばかす。おっとりとしていて、色々と大きな人だ。

穂乃果「留学生かぁ。すごい! 日本語もペラペラだね!」

「そりゃ留学生ぐらいいてもおかしくないでしょ。世界中探したってこんな学校他にあると思う? 」

「上流階級の人間たちなんか、大枚をはたいてまで自分の子供を入学させようとしたりするみたいだし」

穂乃果「そうなの? ヨハネちゃんよく知ってるね」

「う、うわさようわさ。ネット掲示板のだけど……」ゴニョゴニョ

42: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:29:14.37 ID:+aVWzeRe
エマ「元々、日本には興味があったから編入試験を受けてたんだ。でも、突然この学校から入学通知が届いてね、すっごくビックリしちゃったけど」

侑「エマさんの才能が海を越えたってことだね」

エマ「……そんなんじゃないよ。わたしのは才能って言っていいのか分からないものだから」

歩夢「え?」

侑「どう言うこと? 私と同じで思い出せないとか……?」

エマ「えっとね……なんて言うのかなぁ、わたしね、抽選で選ばれたの」

穂乃果「抽選?」

エマ「うん。確か手紙には……『全国の平均的な学生の中から、抽選によって一名を抽出しました』って書いてあってね。あなたを“超高校級の幸運”として招き入れるって」

【超高校級の幸運 エマ ヴェルデ】

44: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:34:03.29 ID:+aVWzeRe
「────こ、幸運!?」

穂乃果「それって倍率とんでもないよね!? すごすぎるよエマちゃん!! 立派な才能だよっ」

エマ「ふふ。ありがとう、穂乃果ちゃん」

侑「でも全国からって、世界を対象にしてるわけじゃないよね?」

歩夢「多分、海外からの編入生も対象だったんじゃないのかな。この学校なら調査も容易だろうし」

エマ「最初はね、何度も辞退しようと思ったんだ。運で選ばれただけのわたしが、こんなスゴいところに入学するなんて場違いじゃないかって」

侑「そんなことないよ! 超高校級の幸運なんてなろうとしてなれるようなものじゃないし。私だったら来てやったぜぐらいの気持ちでいると思うっ」

 それこそ何十万人の中からたった一人選ばれたのだから、エマさんの才能は本物なのかもしれない。

45: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:38:18.91 ID:+aVWzeRe
エマ「やっぱりここに来てよかった。侑ちゃんたちみたいな子がいてくれて嬉しい! 仲良くしようね」

侑「こちらこそ!」

「幸運。私と対をなす才能。表裏一体、言わば光と闇(ライトダークネス)……なんてことなの」

エマ「光、闇? ヨハネちゃんてどこの国の人なの?」

侑「見た通りの日本人だよ。てか、そろそろ名前教えてよ」

侑「超高校級の堕天使っていうのも疑わしいし」ジトー

穂乃果「え、ヨハネちゃんじゃないの!?」ガーン

歩夢「信じてたんだ……」

「うっ、別にいいじゃない……ヨハネはヨハネなの!」

エマ「わたしもヨハネちゃんの名前知りたいなぁ。だめ?」ジィ

「っ、な、なによ」

エマ「……」ジーワクワク

「うぅう!」

 エマさんの純朴な瞳でお願いされたら、中々断れないと思う。

46: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:46:48.37 ID:+aVWzeRe
「……ょ、こ」ボソ

穂乃果「ん?」

「……善子! 津島善子よ!!」

侑「善子ちゃんね。いい名前じゃん」

善子「よくない! もうっ」

歩夢「別に隠すほどじゃないと思うけど」

善子「だって、ダサいじゃない。……善子って」

エマ「だめだよ善子ちゃん。両親があなたの事を思ってつけてくれた名前なんだから。大事にしないと」メッ

善子「は、はいっ」

侑(エマさん、お母さんみたいだな)

穂乃果「ねえねえ、じゃあ善子ちゃんの才能ってなに? さっき、対をなすとか言ってたけど」

歩夢「エマさんは超高校級の幸運で、その反対って意味なら……」

47: (はんぺん) 2021/06/16(水) 00:53:36.54 ID:+aVWzeRe
善子「そうよ。私は“超高校級の不運”としてスカウトされたのよ」フンッ

【超高校級の不運 津島善子】

侑「ふ、不運……」

歩夢「不運って才能、なの……?」

善子「フフフ。天界から離反し、神に叛いたが故の贖罪。実に堕天使らしいとは思わないかしら?」

 でも、不運なんて才能? はどんな経緯でこの学校の目に止まったんだろう。

穂乃果「はっ、まさかさっき穂乃果とぶつかったのも!?」

善子「ええ、そうなるのかしら。でも、こんなものじゃないわよ。聞きたい?」

善子「ジャンケンで20連敗、おみくじを引けばいつも大凶。事件の現場に何度も居合わせ、容疑者にされたのが七回。法廷に立ったこともあったわね……」シミジミ

歩夢「……なんか、ごめんね」

善子「もう慣れたわよ。知らない? “ニュースにもなった” のに」

48: (はんぺん) 2021/06/16(水) 01:01:56.60 ID:+aVWzeRe
人の不幸が地上波で取り上げられるなんて。確かに、普通のレベルを超えてるよ……。

エマ「よ、善子ちゃんっ。今まで大変だったんだね。もう大丈夫だよ。わたしがいるから!」ギュウ

善子「うぐっむぅ!?」バタバタ

侑「幸運のエマさんと一緒にいれば、善子ちゃんの不幸も中和されたりね」ナンテ

 ……それにしても、超高校級の幸運に不幸か。そういうのもありなら、私の才能もとんでもないものだったりしないかな?

穂乃果「いやぁ、超高校級っていろいろあるんだね。早く他の人も見つけようよ!」

善子「そ、そもそも、運やツキなんてものの正体はまだ解明に至っていないから、研究のために毎年一人は「幸運」として入学させてるって話だし」ケホッ

49: (はんぺん) 2021/06/16(水) 01:10:12.27 ID:+aVWzeRe
善子「もっとヘンテコな才能を持つ人が出てきてもおかしくないわね」チラ

 そう言って、私を見る善子ちゃん。

穂乃果「じゃあ、善子ちゃんもそういう枠で?」

善子「……どうかしらね。あと、善子じゃなくてヨハネ! さっきまでみたくヨハネって呼びなさいよ!」

善子「この私が超高校級の才能を持っているなんて至極当然のこと。後で学園側に才能の変更を申請するつもりよ」

 それは無理だと思う……。

51: (はんぺん) 2021/06/16(水) 01:18:44.57 ID:+aVWzeRe
今日はここまで。
また明日の昼か夜に更新します。

53: (はんぺん) 2021/06/16(水) 01:23:48.11 ID:+aVWzeRe
あと、各キャラの才能や裁判の描写は、他の作者様の作品やダンロンスレを一部参考にしています。

64: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:09:27.98 ID:+aVWzeRe
ーーーーーーーー

歩夢「────着いたね」

エマ「わあ! 他にもこんなに人がいたんだ」

 私たちがエントランスホールに着くと、

「あ、また来たよ! あなたたちも新入生?」

「これで16人。これ以上増えたりしないわよね……」

「それはないんじゃない? 多分」

 そこには、彼女たちの姿があった。

65: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:13:15.73 ID:+aVWzeRe
・・・

-エントランスホール-

 学校の表玄関から入ってすぐのエントランスホールはステンドグラスに彩られた吹き抜け構造になっていて、一際開放感のある空間になっていた。

侑(でも、今その玄関は固く閉ざされている……)

「玄関は鍵がかかっているのか、ビクともしませんでした。現状、私たちの力で開けることは不可能でしょう」

 そう話すのは、私たちと同じ虹ヶ咲学園の新入生、園田海未さん。艶やかな藍色の長髪。礼儀正しく冷静で、まさに大和撫子と呼ぶに相応しいほど綺麗な人だ。
 実家は由緒ある日本舞踊の家元で、園田さんはそこの跡取りらしい。

海未「しかし穂乃果、あなたがここにいるとは驚きました」

穂乃果「穂乃果もだよ! どうして連絡してくれなかったの!?」

海未「手紙に書きましたよ。届いてなかったんですか?」

穂乃果「古風すぎるよお! メールしてくれたらちゃんとみたのにー!」

 穂乃果ちゃんとはお腹の中にいた頃からの幼なじみ。それともう一人。

66: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:17:58.56 ID:+aVWzeRe
「まあまあ、二人とも落ち着いて。こうしてまた再開できたんだから、まずは喜ぼうよ」ネッ?

穂乃果「ことりちゃんもだよ! いつこっちに戻ってきたの!?」

ことり「あはは。実は虹ヶ咲学園から入学通知が届いてから、色々準備して日本に戻ってこれたのがつい最近なんだ」

ことり「慌ただしくて連絡する暇がなかったの。ごめんね」

穂乃果「もうっ、そんなことりちゃんにはこうだよ!」ギュムッ

ことり「わあっ? も、もう穂乃果ちゃんたら///」

穂乃果「穂乃果、すっごく寂しかったんだからね!」ギュウ

ことり「……うん。ことりもだよ」ナデナデ

 南ことりさん。
 彼女も穂乃果ちゃん、園田さんの幼なじみ。
 ベージュ色の髪を独特な結び方(とさか?)のサイドテールにしていて、ほんわかとした雰囲気の女の子。とっても可愛くて、甘くとろけるような声とタレ目が特徴的だ。

67: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:22:53.29 ID:+aVWzeRe
侑「三人が幼なじみで超高校級って凄いね」

 それこそ、エマさんの幸運にも劣らない確率だ。目の寄る所へは玉も呼ぶ。世の中そういう風に出来ているのかも知れない。

歩夢「うん。でも、お互い知らなかったみたいだけど」

海未「舞台の公演や稽古などで、学校を休学することが多かったのです。二年になってからは午前で授業を切り上げることも多々ありましたし」

穂乃果「海未ちゃんのお家は厳しいよね。昔から学業より家業優先だったもん」

侑「へー、なんか今までとは毛色の違う感じ」

穂乃果「海未ちゃんは“超高校級の日本舞踊家”なんだよね。なんて言うんだっけ、あれ」

海未「そこまで大層なものではありませんが、私は日舞を日々学ばせていただいています」

【超高校級の日本舞踊家 園田海未】

69: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:30:35.91 ID:+aVWzeRe
 日本舞踊。名前だけは聞いたことあるけど、どんなものか詳しくは知らない。歩夢も首を傾げている。

穂乃果「海未ちゃんの踊りはすごいんだよ! とにかくその、綺麗で躍動感があって幻想的でっ」

 穂乃果ちゃん、感想が抽象的だな。でも、言いたいことは何となく分かるかも。

海未「はぁ、穂乃果。二人が困っているではありませんか」

ことり「ふふ。一度見てみれば伝わると思うよ」

海未「……機会があれば披露しますが」

ことり「ことりにも見せてね♪」

穂乃果「踊りの他に弓道や武道も全国レベルだったし、勉強も出来る自慢の幼なじみだよー!」
 
 文武両道か。確かに、言われてみれば背筋もピンと伸びていていて、凛とした佇まいってこういうことを言うんだろうな。

70: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:37:16.01 ID:+aVWzeRe
海未「ほ、褒めすぎですよ、穂乃果っ」モウッ///

 あ、赤くなった。言葉だけ聞くと完璧超人って感じだけど、こうして見るとちゃんと年相応なのかも。

侑「南さんは? なんか海外にいたみたいだけど……」

ことり「ことりでいいよぉ。わたしはね、“超高校級のファッションデザイナー”として海外の学校で勉強してたんだ」

【超高校級のファッションデザイナー 南ことり】

歩夢「留学してたってこと?」

ことり「うん。一年の夏頃から。本当はそのまま向こうにいるつもりだったんだけど、虹ヶ咲の話はあっちでも有名だったから」

ことり「行けばもっと腕を磨けるんじゃないかって思って、戻ってきちゃった♪」ヤンヤン

ことり「あと、穂乃果ちゃんたちにも会えるかもなんて」

侑「実際こうして会えたんだから、結果オーライ一石二鳥だね」

ことり「そのようです」フフ

71: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:45:36.82 ID:+aVWzeRe
歩夢「ファッションデザイナーってことは衣装とか作るの?」

ことり「えっとねぇ、ことりはデザインを主に勉強してるよ。衣装も作ることはあるけどね」

穂乃果「ことりちゃんがデザインした服は海外ですごい人気なんだよ」

侑「うそ! ことりちゃんすごいじゃん! どんな服なの?」ズイッ

歩夢「侑ちゃんは距離を詰めるのが早いね」

ことり「ふふ。『ミナリンスキー』って名前で出してるんだけど、知ってる?」

侑「ミナリンスキー!? そのブランドのやつネットで注文したことある!!」

歩夢「あ、私もその名前聞いたことある! 確かメイド服とかフリフリの可愛い系が多かったよね。若い子に人気で」

海未「そうなのですか? 私、その手の流行に疎く全く知りませんでした」

72: (はんぺん) 2021/06/16(水) 12:54:08.53 ID:+aVWzeRe
ことり「日本でも認知されてるみたいで嬉しいな。こっちでもバンバンデザインしていくつもりだから、よろしくねっ」

 まさかミナリンスキーの正体が、こんなに可愛い子だったなんて。ここに来てから驚いてばかりだよ。
 分かっていたけど、これが超高校級なんだ。良くも悪くも、普通から「一歩」踏み出した人たちの集まり。

歩夢「侑ちゃん、他の人にも話を聞いてみようよ」

侑「そうだね」

 次はあの子と話をしてみよう。エマさんもいるし。

侑「あの……」

「……」

歩夢「き、聞こえてないのかな」

 まさかの無視?

「……」

エマ「真姫ちゃん、声かけられてるよ」

真姫「……なによ」髪の毛クルクル

75: (はんぺん) 2021/06/16(水) 13:05:24.34 ID:+aVWzeRe
歩夢「侑ちゃん、なんか不機嫌なのかな……?」コソコソ

真姫「そう見えるならそうなんじゃないの」

歩夢「わっ、ご、ごめんね?」

 な、なんかすごくツンツンしてる子だ。

エマ「この子は西木野真姫ちゃん。“超高校級の医学生”なんだって」

侑「医学生!?」

 どういう事? 医学生ってことは大学生ってことだよね……、それに超高校級なのに医学生?

真姫「ふん。意味わかんない」

【超高校級の医学生 西木野真姫】

76: (はんぺん) 2021/06/16(水) 13:08:33.90 ID:+aVWzeRe
続きは夜に

83: (はんぺん) 2021/06/16(水) 21:19:59.15 ID:+aVWzeRe
侑「それはこっちの台詞のような……」

 赤毛のふんわりとしたボリュームカール。毛先を指で弄るのが癖っぽい。医学生ってことを抜きにしても(勝手な偏見だけど)、プライドの高そうな子だ。

エマ「真姫ちゃんは飛び級してT大の医学部に籍を置いてるんだって」

歩夢「T大って……す、すごいね」

真姫「その方が何かと都合がいいのよ」

 おー、超高校級らしい発言だ。

エマ「お父さんは西木野総合病院の院長で、夫婦で経営してるって言ってたよ」

エマ「真姫ちゃんは、たまに手術のお手伝いもしてるみたい」

 西木野総合病院って結構有名な大病院だ。ニュースで何度か耳にしたことがある。

84: (はんぺん) 2021/06/16(水) 21:28:45.55 ID:+aVWzeRe
真姫「……勝手にアレコレ言わないでくれる?」

エマ「えー、でも真姫ちゃんわたしに色々お話ししてくれたよね」

真姫「そっちがしつこく聞いてきたからでしょっ」

 うんうん。エマちゃんに詰め寄られたら首を横には触れないよ。黙り通すなんて無理だと思う。

侑「医者の娘ってことは、真姫ちゃんはいいとこのお嬢様なんだね。やっぱり将来はお父さんの跡を継いだり?」

真姫「……」

 あれ、黙っちゃった。いきなり「ちゃん」付けは距離が近すぎたか。でも、真姫ちゃんて年下っぽい雰囲気だしてるし。それとも質問がまずかったかな。

侑「ごめんね? 私、イヤミのつもりで言ったんじゃないんだ」

真姫「別に、そんなんじゃないわ」クルクル

侑「もしかして、他にやりたいことあるとか?」

真姫「それは……」

85: (はんぺん) 2021/06/16(水) 21:36:06.00 ID:+aVWzeRe
「────西木野さんは作曲家としての才能も“超高校級並み”だもんね」

 突然、そう言って私たちの間に入ってきたのは、

「私は桜内梨子。一応、“超高校級のピアニスト”……です」

【超高校級のピアニスト 桜内梨子】

 赤紫(ワインレッド)の髪をバレッタで留めた、お嬢様結びの女の子。ザ・清楚って感じの美少女で、一瞬目を奪われてしまった。

梨子「久しぶり、なのかな。西木野さん」

エマ「二人は知り合いなの?」

真姫「知り合いってほどでもないわ。……前に曲を提供してあげただけよ」

 曲を提供って、さらっと言ってるけど真姫ちゃんてとんでもない天才なのでは……。

86: (はんぺん) 2021/06/16(水) 21:43:05.56 ID:+aVWzeRe
歩夢「あ、あのっ」

梨子「え、私?」

歩夢「桜内さんのコンサート見に行ったことあります。す、凄かったです! あの一体感のあるメロディ、まるで音が生きてるみたいに会場を包み込んで……」

歩夢「私、あの時の感動は絶対に忘れません!」

梨子「あ、ありがとう……」

 歩夢の猛アタックに若干引き気味の桜内さん。

侑「歩夢ってピアノ詳しいの?」

歩夢「え? ……あ、いや、そのっ、違うの! 昔、両親に連れて行ってもらったコンサートで偶然、桜内さんの演奏を聴いてね」

歩夢「それがすっごく感動しちゃって。ちょっと調べてた時期があったんだ」

エマ「そんなにすごかったんだね。桜内さんの演奏」

87: (はんぺん) 2021/06/16(水) 21:47:49.07 ID:+aVWzeRe
歩夢「それはもう。桜内さんはあのショパン国際ピアノコンクールで、学生ながら四位に入賞したんだよ」

梨子「よ、よく知ってるね。これ、思ったより恥ずかしいかも///」ハワワ

 つり目でパッと見、強気な印象を受けるけど、困り眉がデフォなあたり恥ずかしがり屋さんなんだろうか。

エマ「わたしも聴いてみたい! もしよかったら今度演奏して欲しいな」

侑「あ、私も聴きたい!」

梨子「……っ」

真姫「……」

梨子「ぁ、うん。また今度……ね」

侑「?」

 桜内さんの様子が気になったけど、一旦三人と離れ、別のグループに話を聞きにいくことに。

88: (はんぺん) 2021/06/16(水) 21:55:15.47 ID:+aVWzeRe
侑(あそこの二人に……う、声かけづらい)

 あの二人の周りだけ雰囲気が違うというか、近寄り難いオーラが全面に出ていた。
 西木野さんとは全然違う、明らかに周囲を拒絶する冷たい空気。

歩夢「ゆ、侑ちゃん……どうしよう」

侑「ここまで来たら全員と話をしたいからね。行くよ」

侑(それに二人ともすっごい美人だし)

 まずはあっちの人に。

侑「あ、あの」

「……なにか?」

 細身の正統派美人で、流れるような艶のある黒髪ロングを独特な形のヘアピンで留めている。口元にある艶ぼくろも特徴的。
 前髪は同じ長さに切り揃えられていて、園田さんとはまた違った趣の和のお姫様って感じだ。
 着物がこれほど似合いそうな人もそうはいまい。

89: (はんぺん) 2021/06/16(水) 22:00:33.16 ID:+aVWzeRe
侑「よ、宜しければ簡単な自己紹介をと思いまして……」

歩夢「侑ちゃん畏まり過ぎだよ」

侑「だめだよ歩夢。目上の人には敬語を使わないと」

歩夢「目上って……」

「まあ、いいですわ。わたくしは黒澤ダイヤ。“超高校級の指導者”と呼ばれています」

【超高校級の指導者 黒澤ダイヤ】

 ……指導者?

侑(うーん、具体的なイメージが湧いてこないけど……)

ダイヤ「当然知ってはいますでしょうけど、黒澤家は旧網元の家系にして地元一の名家。黒澤家の人間は代々人の上に立つ者として幼少の頃から……」クドクド

 ……ごめん、知らない。

90: (はんぺん) 2021/06/16(水) 22:09:58.32 ID:+aVWzeRe
「こんな時によく呑気に自己紹介なんて出来るわね。どれだけお気楽なのよ」

 ダイヤさんの話を聞き流していた私たちに、冷たい声がかけられた。

「少しは自分たちの置かれている状況に、危機感を持ったらどう?」

 碧眼に金髪(ブロンド)のポニーテール。手足も長く、すらりとした体躯。どこかの国とのハーフか、それとも。
 少なくとも純日本人ではなさそうに見える。

ダイヤ「絵里さん、お互いの素性を知らないままと言うのはこの後の話し合いに支障をきたしますわ」

ダイヤ「事を円滑に進めるためにも、ここはわたくしたちが大人になって差し上げるべきでは?」

 ダイヤさんの横からの援護射撃?に、絵里さんと呼ばれた人は大きくため息を吐くと、

絵里「私は絢瀬絵里。超高校級は……そうね、特に言うこともないわ」

 そう投げやりに答えた。

91: (はんぺん) 2021/06/16(水) 22:18:22.39 ID:+aVWzeRe
侑「ええ!?」

歩夢「どうしてですか?」

絵里「逆に、知ってどうするの? 他人の才能なんて気にして何か変わる?」

 な、なんでこんなに攻撃的なんだろう。

歩夢「多分、才能のことでとやかく言われるのが嫌なんじゃないかな」ボソボソ

歩夢「そういう気持ち、ちょっとは分かるから……」

侑「……」

 歩夢も、周りから「優等生」だからどうとか言われてきた過去があるんだろうか。

侑(……私はまだ才能を思い出せていないから分かんないけど、大衆の目に晒されるのを快く思ってなくてもおかしくないし)

侑「才能に対する過度な期待や嫉妬に辟易した絵里さんが、やさぐれるのも無理はないよ」ウンウン

歩夢「侑ちゃん!?」

92: (はんぺん) 2021/06/16(水) 22:26:37.96 ID:+aVWzeRe
絵里「あなた、よく人から無神経って言われない?」ヒク、ヒク

 あ、つい口が滑ってしまった。反省。

ダイヤ「そういえば、絵里さんはロシア人の祖母がいると、わたくしにおっしゃいましたね」

絵里「……それがどうしたのよ」

ダイヤ「いえ、ただロシアの有名なバレエ団に、日本生まれの天才少女がいたという記事を過去に目にしたことがありまして」

ダイヤ「見たところ、あなたの体型……バレエの経験者ならではの線の細さに見えますわ」

絵里「そんな憶測どうとでもいえるでしょ」

ダイヤ「あら、歩き方が外股でしたからてっきりそうかと」

ダイヤ「今もつま先が外側を向いてますし」

絵里「っ!?」バッ

ダイヤ「……なんて、嘘ですわ。でもこれではっきりしましたわね。絵里さん」クスリ

 おお、絵里さんを手玉に取った。ダイヤさんて名前の通り堅物そうな人だと思ったけど、意外とお茶目なこともするんだ。

94: (はんぺん) 2021/06/16(水) 22:38:36.01 ID:+aVWzeRe
侑「じゃあさ、絵里さんは超高校級のバレリーナとか?」

絵里「っ、そうね、合ってるわよ。“元”ね……今の私に超高校級を名乗る資格はないわ」

【超高校級の元バレリーナ 絢瀬絵里】

歩夢「え、それって、どういう意味ですか……?」

絵里「……」フイ

 絵里さんはそれっきり口を閉ざしてしまった。仕方がないので、後はダイヤさんに任せ、私たちは次に向かった。

95: (はんぺん) 2021/06/16(水) 22:43:39.45 ID:+aVWzeRe
・・・

善子「だーかーらー!! もーっ!」

 ん? あっちで騒いでるのは善子ちゃんか。

「我こそは異端にして崇高なる堕天使ヨハネ! 自由意志を持って堕落し、陰府の底にて君臨せし者!」ギランッ♡

「主に背き同胞たちよ、我の元に集え、我に跪拝せよ!! ……なんて」クス

「フフ、どうですか? 上手く出来てました?」

侑「……すごいすごい!! 善子ちゃんより堕天使してた!」

善子「どういう意味よそれ!? てか、アンタも私よりカッコいい言葉使うな!!」

歩夢「怒るとこそこなんだ……。確かに似てたけど、あなたは?」

「わたしは桜坂しずくと言います。“超高校級の演劇部”です」

【超高校級の演劇部 桜坂しずく】

97: (はんぺん) 2021/06/16(水) 22:54:48.65 ID:+aVWzeRe
しずく「演劇……素晴らしいとは思いませんか? その世界では誰もが主役なんです。舞台とは、全ての物事に“決められた結末”が用意されている一本道」

しずく「でも、演技に正解はありません。その定められた道をどう進んでいくのか。演じる一人一人によって、進み方は千差万別。役にどんな色を与え、肉付けをするか……」

しずく「────あなたならどう演じますか?」クスッ

 腰まで届くダークブラウンの髪を、お嬢様結びにして赤いリボンで纏めている。第一印象はお淑やかで品位のある子。
 しかし反面、その内情は演技に対する並々ならぬ思いで溢れているようだ。

歩夢「桜坂しずく……」

善子「なに、歩夢さん知ってるの?」

歩夢「うーん、どこかで見たことあるような気がして」

98: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:00:35.07 ID:+aVWzeRe
「『怪盗⭐︎スカイブルー仮面』でヒロイン役を演じ、その後の人気ミュージカル『あなたの理想のヒロイン』で最年少主演デビュー」

「ミュージカル劇団『ペルソナ座』で、今最も注目を集めている若手の舞台女優────」

歩夢「あっ、それだ! 私、ミュージカルのポスターで桜坂さんの顔見たことあるんだ」

善子「ふーん。って、あなた誰よ? 随分と詳しいみたいだけど」

「私は中川菜々と言います。演劇には両親によく連れて行ってもらいましたから。桜坂しずくさんの事はそれなりに知っています」

「超高校級と称される演技は勉強になりますし、同年代の方が第一線で活躍している姿はとても励みになりますから」

 三つ編みお下げの眼鏡をかけた、真面目そうな子が会話に混ざる。

99: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:08:16.38 ID:+aVWzeRe
侑「中川さんは何の超高校級なの?」

「……そうですか。やはり、この姿だと分かりませんよね」シュル

 中川菜々さんはそう言うと、眼鏡を取り髪を解きはじめた。

「……えー、こほんっ」

「みんな、元気ですかー!! 優木せつ菜ですっ! 私は“
超高校級のスクールアイドル”として、“大好き”を世界中に溢れさせちゃう、そんな野望を胸に日々活動しています!!」

【超高校級のスクールアイドル 優木せつ菜】

侑「優木、せつ菜……スクールアイドル、っ?」ズキッ

 キャラが百八十度変わったとか、そういうのはどうでもよくて。
 その響きはどこか懐かしく、同時に私の脳裏に微かな痛みをもたらした。

侑(……イタッ、なんだろ、これ)

102: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:21:25.88 ID:+aVWzeRe
歩夢「えっと、どっちで呼んだらいいのかな」

せつ菜「優木せつ菜でお願いします!! 超高校級のスクールアイドルとしてスカウトされたからには、この名を貫くつもりです!」

善子「スクールアイドル? どっかで聞いたことあるわね」

しずく「優木せつ菜。動画投稿サイトを中心に活躍する個人アイドル」

しずく「スクールアイドルは、最近話題になっている芸能プロダクションを介さない、一般の高校生で結成されたアイドルを示す言葉ですね」

しずく「私も妙に馴染みのあるフレーズに感じます」

善子「ふーん、芸能人とは違うのね」

歩夢「私も。スクールアイドルって語感がいいのかな?」

しずく「噂では、虹ヶ咲学園には他にも“超高校級のスクールアイドル”がいるみたいですよ」

侑「え?」

103: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:29:00.03 ID:+aVWzeRe
しずく「せつ菜さんの他にも活躍するスクールアイドル。その中には、この学園の在学生もいると言います」

せつ菜「私は個人で活動していたので、他の方とは交流がないんです。先輩がいるのならぜひご指導願いたいです!」ペカー

 超高校級のスクールアイドルは他にもいる……?
※key word[“複数の超高校級のスクールアイドル”]を記憶
 烏の濡羽色の髪を一房ゴムでくくり、雰囲気までガラリと変わった菜々ちゃん改め、せつ菜ちゃん。
 彼女の眩しいくらいの満面の笑みを見ていると、

侑「ねえ、せつ菜ちゃんは私のこと知ってたりする?」

気付けば、そんな事を口にしていた。

せつ菜「へ? ……んん、すみません。どこかでお会いした記憶はないと思いますが」

 はは、最初の歩夢と同じ事聞いちゃってる。

歩夢「どうしたの、侑ちゃん?」

104: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:32:23.09 ID:+aVWzeRe
ミス。↑のレスの行間詰ってしまいました。

105: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:38:05.64 ID:+aVWzeRe
しずく「せつ菜さんの他にも活躍するスクールアイドル。その中には、この学園の在学生もいると言います」

せつ菜「私は個人で活動していたので、他の方とは交流がないんです。先輩がいるのならぜひご指導願いたいです!」ペカー

 超高校級のスクールアイドルは他にもいる……?
※key word[“複数の超高校級のスクールアイドル”]を記憶
 烏の濡羽色の髪を一房ゴムでくくり、雰囲気までガラリと変わった菜々ちゃん改め、せつ菜ちゃん。
 彼女の眩しいくらいの満面の笑みを見ていると、

侑「ねえ、せつ菜ちゃんは私のこと知ってたりする?」

気付けば、そんな事を口にしていた。

せつ菜「へ? ……んん、すみません。どこかでお会いした記憶はないと思いますが」

 はは、最初の歩夢と同じ事聞いちゃってる。

118: (はんぺん) 2021/06/17(木) 00:35:07.54 ID:yeeZrBxJ
>>105
ここ改行が上手くいかなかったんで見辛いと思いますが、気にしない方向でお願いします。
今日はここまで。

107: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:41:55.16 ID:+aVWzeRe
歩夢「どうしたの、侑ちゃん?」

善子「あー、侑さんは超高校級の才能が思い出せないのよね。手掛かりになるようなことでもあった?」

侑「いや、歩夢も言ってたけどさ、なんか初めて会った気がしないと言うか……」

せつ菜「もしかして“前世の記憶”とかいうやつですか!?」

しずく「デジャヴュのようなものでしょうか」

侑「違う……と思う。うーん、なんだろ……?」

しずく「それにしても、見事なまでの変貌ぶりでした。どっちが素なんですか?」

しずく「あと、宜しければ変装時の心境なども詳しくお聞かせ願えないかと!」キラキラ

せつ菜「えっ、そ、それはですね、えっと……っ」タジタジ

110: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:51:39.99 ID:+aVWzeRe
善子「ヨハネの魔眼にかかれば、正体を隠していたのなんてお見通しだったけどね!」ギランッ⭐︎

侑(それやっぱ決めポーズなんだ)

しずく「それに善子さんの堕天使芸もとても興味深いです!」

善子「ヨハネは芸じゃない!」

しずく「ここまで役になりきるとは、素晴らしい役者魂ですね」

善子「なんなのこいつぅ!!」ムキーッ

 盛り上がる三人。善子ちゃんには思わぬ天敵が登場したみたいだけど。

侑(……うん。変に悩んでも仕方ないし、次に行こう)

 私は歩夢を連れて、他の人たちの所に向かった。

111: (はんぺん) 2021/06/16(水) 23:57:36.74 ID:+aVWzeRe
・・・

侑(まだ話していない人は……)エエト

「だ〜れだ」っ目隠し

侑「!?」

 え、誰!? 歩夢、じゃないだろうし、エマさん? 穂乃果ちゃん?

侑「って、誰って言われても分かんないよ〜!」

「ふふ。ごめんごめん」パッ

「ウチは東條希言います。“超高校級の占い師”のんたんって知っとる?」

【超高校級の占い師 東條希】

 そう言って朗らかに笑いながら、エマさんに負けず劣らずの豊満な胸を揺らす。
 落ち着いた菫色の髪を頭の低い位置でお下げにしている、目尻の柔らかなお姉さん。
 のほほんとしていてゆるい感じだけど、妙に存在感のある人だ。

112: (はんぺん) 2021/06/17(木) 00:03:47.87 ID:yeeZrBxJ
侑「占い師……のんたん?」

歩夢「うーん……?」

希「あれ、思ったより知名度低いんかな。ほら、あの神田明神に三割の確率で出現する、謎の美人占い師巫女さん」

 それは知ってる方が珍しいのでは……。

歩夢「なんかゲームの隠しキャラみたいですね」

希「お、なかなか面白い例え言うやん」

侑「知る人ぞ知るってやつ?」

希「まあ、占い自体が今の情報社会とは向かい風やからね。細々とやっていくのが性に合っとるんよ」

希「……なんてカッコつけても、それは今も昔も変わってないけどな」

 毒気のない関西弁?っぽい口調に、物腰の柔らかさといい、独特な雰囲気を纏っているみたい。

113: (はんぺん) 2021/06/17(木) 00:09:38.98 ID:yeeZrBxJ
希「そや、ここで会ったのも何かの縁。一発占ってみない?」

 希さんはそう言うと、懐からカードの束を取り出した。

歩夢「タロットカード?」

希「そう。ウチの占いはこのカードを使うんよ」

 慣れた手つきでカードをシャッフルする希さん。器用にも、地面に落とすことなく向きがバラバラになるように混ぜていく。
 超高校級とは言っても、占い方自体は普通なのかな。やっぱり占い結果がすごいとか?

希「拍子抜けな顔しとるね。ふふ、心配せんといて。ウチの占いは十割当たるって評判なんよ」

侑「十割!? それって絶対当たるってこと!?」

歩夢「ほ、本当かな……?」

 百パーセント物事を予測出来るとすれば、それはもう超能力者の類いだ。

114: (はんぺん) 2021/06/17(木) 00:17:07.31 ID:yeeZrBxJ
希「神社でウチに会える確率が三割だとするやん? 本来、ウチの占いが的中する確率は七割弱だから────ほら、合計すると十割やん!」ニィ

侑「えぇ……」

 言ってる意味が分からなくもないような……やっぱり分からないような。それでも、七割は当たるって言うんだから十分すごいけども。

希「どっちからやりたい? 今なら特別料金でお安くしとくよ」

 あ、お金は取るんだ……。

侑「そうだ、折角だから歩夢から占ってもらいなよ」

歩夢「え、私? わ、私はいいよっ。なんか恥ずかしいし……。侑ちゃんが占ってもらってっ」

侑「恥ずかしいって、もう……。希さん、お願いしてもいい?」

希「ええよ。高咲侑さん、ね……それじゃあ、大まかに高咲さんについて占ってみよか」

 そう言って、希さんはカードの束から一枚を抜き出した。

115: (はんぺん) 2021/06/17(木) 00:23:54.76 ID:yeeZrBxJ
希「……」

侑「結果は? どうだった?」ワクワク

希「……そやねぇ、高咲さんにはこの先「試練が訪れる」かも知れないし、実はもう起こっているかも知れない」

希「思い当たる節があるなら、一度踏みとどまって、冷静に物事を俯瞰してみるといいかもね」

侑「試練……?」

希「あんま難しく考えんでもいいよ。朝のニュース番組で流れる運勢占いとでも思ってくれれば」

侑「なんかよく分からないけど、分かった!」

歩夢「大丈夫かなぁ」

 何事も焦らず慌てずってことだね。うん、心得たよ。

116: (はんぺん) 2021/06/17(木) 00:31:09.48 ID:yeeZrBxJ
希「……」シャッシャ

 その後、続けて何枚かカードを引いた希さんは、その度に何とも言えない渋い顔をしたけど、結局それがどういう意味なのかは教えてくれなかった。

侑(占い師だから、直感的に何か思うことでもあるのかな……?)

歩夢「侑ちゃん、まだ話していないのはあそこの二人だね」

侑「そうだね。よし、行こう────」

 残りは二人。
 私と歩夢は彼女たちの元に向かった。

124: (はんぺん) 2021/06/17(木) 12:37:05.54 ID:yeeZrBxJ
・・・

「へー、いろんな表情が描いてあるんだね。あ、これ可愛い!」

「それは『あわわ』で、これが『はわわ』」

「ほうほう、微妙なニュアンスの違いも再現していると……深いね」

「ありがとう」ムフン

 中々、個性の強そうな子がいるな。

侑「ねえ、それってスケッチブック?」

「!」サッ

 私が声をかけると、その子は持っていたスケッチブックで顔を隠してしまった。

129: (茸) 2021/06/17(木) 13:10:31.45 ID:jYFQjg/Q
>>124>>127の間飛んでない?

130: (SB-iPhone) 2021/06/17(木) 13:25:46.62 ID:La83ULM4
>>129
ごめん。抜けてた
>>124>>127の間です↓

131: (SB-iPhone) 2021/06/17(木) 13:28:30.70 ID:La83ULM4
「……璃奈ちゃんボード『どきどき』」

 どうやら、ビックリさせちゃったみたい。

歩夢「璃奈ちゃんボード……?」

「璃奈ちゃんボードはね、感情をみんなに伝えるためのアイテムなんだって。種類が沢山あるんだよ」

 代わりに答えたのは、赤みの強い橙色の髪をしたもう一人の子。

「私は高海千歌だよ! よろしくね!」

 左側頭部に三つ編みを作り、先端を黄色いリボンで留めている。右側にはクローバー型の髪留めが付いていた。

千歌「あなたたちは?」

侑「私は高咲侑。侑でいいよ。よろしくね」

歩夢「上原歩夢です」

127: (はんぺん) 2021/06/17(木) 12:49:45.12 ID:yeeZrBxJ
千歌「侑ちゃんに歩夢ちゃんだね! うん、覚えた!」

 動きに合わせて、頭頂部のアホ毛がぴょこんと跳ねる。
 千歌ちゃんか。髪の色といい、元気で明るいところとか、どことなく穂乃果ちゃんを連想させるような、顔付きも幼くてとても可愛らしい子だ。
 あ、甘く蕩けるような声はことりちゃんに似てるかも?

「私は、天王寺璃奈。“超高校級のエンジニア”……って言われてる」

【超高校級のエンジニア 天王寺璃奈】

 次にそう抑揚のない声で告げたのは、外側にそった独特なピンク髪の小さな子。千歌ちゃんと同じようなアホ毛が可愛らしく揺れる。
 終始無表情なのは、まだ心の距離が遠いからかな?

侑「エンジニア? それって具体的に何をするの?」

璃奈「厳密にはフルスタック。コンピューターシステムの提案から、設計、開発、テストまで一連の行程に携わってる」

 淡々と真顔で答えるものだから流してしまいそうだけど、とんでもない子だ。
 話の続きを聞く限り、動画の編集や3DCG作成に加え、ロボットのような物まで開発しているとか。

128: (はんぺん) 2021/06/17(木) 13:00:59.11 ID:yeeZrBxJ
歩夢「機械工学全般に精通してるんだね」

侑「頼んだらなんでも作っちゃいそう」

千歌「あとあと、『ツナガルコネクト』ってアプリは璃奈ちゃんが開発したんだって!」

侑「え、あのツナコネ!?」

歩夢「最近、新しく出てきたコミュニケーションアプリだよね。ユーザー同士のメッセージのやり取りや通話が立体投影で行えるって」

侑「今まで私たちが使っていたチャットアプリを超える、新時代のツールだって話題のやつだよ!」

璃奈「企業と連携して開発した。まだ試作段階だけど、これからの時代、新しいコミュニケーションツールの展開には不可欠」

璃奈「あの緑のアプリはもう時代遅れ。璃奈ちゃんボード『世代交代』」

 そう言って、また璃奈ちゃんボードを構える。
 それにしても、バリエーション豊かなボードだ。色んな「カオ」が出てくる。全部で何種類あるんだろう。

134: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:06:04.88 ID:yeeZrBxJ
千歌「他にも、腕時計型の麻酔銃とか、キック力を増強させる靴とかも作っちゃったんだってっ」

 それって……まあ、あまり深く考えない方が良さそう。

璃奈「既存のものに改良を加えさせてもらっただけ。私がゼロから作ったわけじゃない」

璃奈「でも、今は人工AIを搭載したパワードスーツを開発中」っ璃奈ちゃんボード『やったるでー』

 あまり表に名前の上がらない分野だけど、璃奈ちゃんがいれば安泰なのかな? 将来、日本全国に璃奈ちゃんの名前が轟く日もそう遠くはないだろう。

璃奈「……あの、」キュ

 璃奈ちゃんの小さな手が私の裾を掴む。

璃奈「私、ゲームとかアニメも好き、だから……よかったら、仲良くして欲しい」ジッ

侑「! うん、こちらこそよろしくね」ニコ

 案外、人懐っこい子なのかも。

135: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:11:26.64 ID:yeeZrBxJ
侑「あ、ところで千歌ちゃんはどんな超高校級なの?」

千歌「……」

璃奈「千歌さん……?」

歩夢「どうしたの?」

千歌「────チカは超高校級のみかん大使なのだ!」バーン

侑「……へ?」

歩夢「みかん?」

千歌「そう! 我の使命は世に寿太郎みかんの素晴らしさを広めること!」

璃奈「限定的……」

歩夢「我って」

千歌「なぁんて」エヘヘ

侑「……もうっ、急に善子ちゃんみたいなこと言うから驚いちゃったよー!」

千歌「あはは……実はね、私も侑ちゃんと同じ。思い出せないんだ」

136: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:20:41.57 ID:yeeZrBxJ
千歌「自分の才能」

137: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:27:55.14 ID:yeeZrBxJ
【超高校級の??? 高海千歌】

侑「────え、千歌ちゃんも……私と、同じ?」

千歌「うん。多分」

 他にもいたんだ……私と同じ人が。

歩夢「自分が得意なこととか、好きなことはない? そこから、自分の超高校級の才能を連想できないかな」

 歩夢はそう言いながら、私と千歌ちゃんを交互に見る。

侑「それがね、これと言ってパッと思いつくものがないんだよねー」

千歌「うんうん。特に部活もやってなかったし」

千歌「あ、でもしいてあげるなら“超高校級の若女将”とか?」

歩夢「若女将?」

千歌「チカの家ね、「十千万」って名前の旅館をやってるんだ」

138: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:34:46.10 ID:yeeZrBxJ
侑「実家が旅館なんだ! いいなぁ、千歌ちゃんみたいな可愛い子にお出迎えされたら絶対嬉しいもん。本当に若女将だったりして」

千歌「か、かわいっ/// !? そ、そんなことないよっ」ワタシナンテフツウダシ…

侑「ん? 誰が見たって千歌ちゃんは可愛いよ!」

璃奈「千歌さんは可愛い」ウン

千歌「り、璃奈ちゃんまで……もう」

 そう言って、恥ずかしそうに赤くなった頬を掻く千歌ちゃん。
 うん、やっぱり可愛い。

千歌「あ、でも超高校級の若女将がいる旅館ならもっと有名じゃないとおかしいかな」アハハ

139: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:40:06.02 ID:yeeZrBxJ
歩夢「え……そ、そんなことないと思うよ?」

千歌「あー、目逸らしたー」ブー

侑(……超高校級の才能かぁ。私って何が出来たんだろう)

 エマさんみたいに抽選で選ばれたわけでもないだろうし、千歌ちゃんみたいに実家がお店を経営しているわけでもない。

侑(何も分からないって、ちょっぴり怖いな)

141: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:45:31.62 ID:yeeZrBxJ
・・・

 これで15人、ホールにいる全員に声をかけ終わったことになる。
 私を含めると、16人もの超高校級が一つの空間に集められているのは何とも贅沢な光景である。

しずく「それにしても、いつまでこうしていればいいんでしょうか?」

善子「そうね。ここには時を刻む魔道具もないみたいだし」フッ

せつ菜「時を刻む魔道具!? なんですかそれは!?」

璃奈「……時計の事だと思う」っ璃奈ちゃんボード『察しろ』

善子「いちいち発言を拾うな!!」

 善子ちゃんは早速、いじられキャラとしての地位を確立してるけど。

142: (はんぺん) 2021/06/17(木) 21:54:24.02 ID:yeeZrBxJ
・・・

穂乃果「じゃあ、海未ちゃんとことりちゃんは同じ教室で目を覚ましたんだね」

ことり「うん。海未ちゃんが側にいたから心強かったけど……怖かったよ、すごく」

海未「これが虹ヶ咲学園なりの歓迎なのかはともかく、決して褒められた行為ではないですね」

海未「廊下で目覚めた人もいるみたいですし」

絵里「やっぱり変よ。どうして私たちがこんな扱いを受けなきゃいけないの? 放任主義にしても限度があるわ」

絵里「それに、ここにいる全員が意識を失って目覚めるまでの経緯を覚えてないのよ!? どう考えたっておかしいじゃない!」

エマ「え、絵里ちゃん、落ち着いてっ」

絵里「異常なのはそれだけじゃないわ。あなたたち、ここまで外の景色を見た?」

絵里「窓には全て黒いシャッターが降りてるし、外に通じる扉には鍵がかかってる。完全に閉じ込められているのよ!」

 絵里さんが取り乱すのも無理はない。
 ここまで無理に明るく振る舞ってはきたけど、みんなの心の奥底には拭いきれない不安がずっと取り付いているはずだ。

145: (はんぺん) 2021/06/17(木) 22:11:16.02 ID:yeeZrBxJ
ダイヤ「加えて、私たちの荷物……携帯や腕時計なども見当たりませんわ。きっと回収されてしまったのでしょう」

侑「でも待って、希さんはタロットカード、璃奈ちゃんはスケッチブックを持ってるよね?」

希「ああ。これ、ポケットに入ってたんよ」

璃奈「起きたら、机の上に置いてあった」っ璃奈ちゃんボード

せつ菜「私のメガネはどうなんでしょうか」

海未「外部との連絡手段になりそうな物のみ、取り上げられたのでしょうね」

真姫「身に付けていても問題ない、必要最低限の物だけ残されたってことね」

歩夢「────あ!」

侑「どうしたの、歩夢?」

歩夢「なんで、今まで気にも留めなかったんだろう。時計だよ、時計がないっ」

147: (はんぺん) 2021/06/17(木) 22:14:43.82 ID:yeeZrBxJ
善子「それ、さっき私が言ったわよ」

歩夢「違うの、私がここに来た時にはあったんだ。なのに、あそこにあった時計が取り外されてるの」

 そう言って、歩夢は壁の一点を指す。

しずく「時計? ですが、何故わざわざ外すようなことを……?」

梨子「本当ね。おかげで今が昼か夜かも分からないし、時計がないと尚更不安だし不便よ」

侑「そういえば、教室にもなかったような」

 意図的に外された時計に、シャッターで閉ざされた窓。固く閉められた扉。その真意は一体……?

真姫「────ねえ、無駄話は終わった?」

絵里「……なんですって?」ピクッ

148: (はんぺん) 2021/06/17(木) 22:23:02.31 ID:yeeZrBxJ
真姫「ここで喚き散らすぐらいなら、とっとと行動に移したらどうなの。話し合ったって時間の無駄じゃない」クルクル

絵里「あなた、西木野さんって言ったかしら。“超高校級の医学生”……ね。ふーん、流石エリート様はこの程度じゃ動じないってわけ」

真姫「は? 急になに? 意味わかんない」

絵里「っ、このっ!」グッ

 真姫ちゃんの言葉に、絵里ちゃんが過敏に反応する。

千歌「うわわ!?」

希「二人とも喧嘩腰やん」ケラケラ

梨子「笑ってないで止めてください!」

侑「ちょ、ちょっと、二人ともやめてよっ!」

 今は仲間同士で争ってる場合じゃない。
 歩夢たちと協力して、何とか二人を引き剥がす。

150: (はんぺん) 2021/06/17(木) 22:31:04.78 ID:yeeZrBxJ
・・・

歩夢「こんな状況だし、気が立つのも無理はないけど……」

真姫「……」ツーン

絵里「……」イライラ

侑(うーん、熱りが冷めるまでこの二人は近づけないようにしないと)

ダイヤ「はあ、こんな調子では先が思いやられますわね」

 呆れた顔でため息をつき、ダイヤさんが輪の中心に立つ。

ダイヤ「そこの二人は放って置いて、話を続けましょう」

ダイヤ「まず、超高校級であるわたくしたちが揃いも揃って意識を失った件について。これは、決して単なる自然現象などではありませんわ」

海未「ええ。明らかに、“人為的かつ作為的な介入”があると見て間違いないでしょう」

海未「ともすれば、“集団での記憶障害”も視野に入れるべきかと」

151: (はんぺん) 2021/06/17(木) 22:38:23.83 ID:yeeZrBxJ
侑(────集団での記憶障害)ゾッ

 海未ちゃんの話を聞くと、改めて事の重大さが浮き彫りになっていくようで身が震えた。

侑「ねえ、一旦話を整理してみようよ」

 そう切り出すと、多数の視線が私に浴びせられる。う、なんかプレッシャーが……。

侑「えー、こほん。まず届いた入学通知書に記載されていた集合場所はここ、エントランスホール。でも、向かう途中で私たちは急に意識を失って倒れた」

侑「目が覚めたら教室の中、または廊下……そこまではみんな同じだよね?」

 私の言葉に半分の人が頷く。

歩夢「そうだ、私はここで……」

善子「私なんて敷地内に足を踏み入れてすぐだったわ」

千歌「ええと、私はどこだったっけ」ウーン

せつ菜「私はお手洗いです!」

真姫「言わなくていいわよ……」

152: (はんぺん) 2021/06/17(木) 22:51:43.76 ID:yeeZrBxJ
歩夢「倒れた場所、目覚めた場所はみんなバラバラなんだね」

希「外傷もとくに見当たらないし、頭をガツンとやられたわけではない、と」

しずく「起きたら、おっきなたんこぶが出来てても嫌ですしね」

善子「いや、そんな原始的な方法で全員が気絶させられてたら逆に怖いわよ」

璃奈「それなら、どうやって気絶させたんだろう」

せつ菜「超自然現象的なナニカが起きたに違いありません!」

エマ「ちょうしぜんげんしょう?」

歩夢「私は誰かに声をかけられて……あれ、それでどうなったんだっけ……?」ウーン

153: (はんぺん) 2021/06/17(木) 22:55:32.93 ID:yeeZrBxJ
ダイヤ「何にせよ、ここまで手の込んだことをする連中のこと。綿密に練られた計画によって犯行が行われた可能性もありますわね」

ことり「で、でも、まだ犯罪と決まったわけじゃないと思うよ?」

穂乃果「そうだよ。みんな悪い方向に考え過ぎだよ!」

希「認めたくない気持ちは分かるけど、最悪な事態も想定しておいたほうがええよ」

梨子「怖いこと言わないでくださいよ……」

善子「これは大規模な国際組織的犯罪集団の仕業に違いないわね。才能ある若者を拉致し、再教育を行わせるという……」

璃奈「漫画の見過ぎ」

善子「なによぉ!」ウガー

しずく「でも、あながち否定はできないかも知れませよ」

154: (はんぺん) 2021/06/17(木) 23:08:33.37 ID:yeeZrBxJ
侑「……どうかな。そんな大層な目的があるとは思えないけど」

ダイヤ「……その根拠は?」

 ダイヤさんの鋭い視線が向けられる。

侑「歩夢も言ってたけど……みんなの話を聞く限り、倒れた場所、目覚めた場所はバラバラ。順番も関係なく手当たり次第って感じみたいだし」

善子「全員を気絶させるなら、集合時間にエントランスホールに集まった私たちを一網打尽にすればいい話よね。それをやらなかったのは何故かしら?」

歩夢「やらなかったんじゃなくて、出来なかったとか? 急いでたのかも」

 歩夢の言葉に私も頷く。

侑「うん。それにもしかしたら、犯人は意外といい加減な性格なのかも知れないね」

侑「とにかく、私たちをこの学園内に閉じ込めるのが目的だったんだと思う」

155: (はんぺん) 2021/06/17(木) 23:16:28.53 ID:yeeZrBxJ
侑「じゃなきゃ、わざわざ拉致した後に放置なんてしないよ。こんな事を企てた人が何を思っているかは分からないけど……」

海未「……」

海未「学園から外に出さなければ、過程はさほど重要ではないということですか。たしかに、考えられなくはないですね」

海未「とは言え、現状の判断材料ではいくら話し合ったところで堂々巡りするばかり」

海未「話し合いにはここらで折り合いをつけ、足を使って探索に出向くべきでしょう」

真姫「だから言ったじゃない。ここで話し合ってても意味ないって」

絵里「だったらあなたが────」

 真姫ちゃんの言葉に、絵里さんが噛みつこうとしたその時、

156: (はんぺん) 2021/06/17(木) 23:30:33.73 ID:yeeZrBxJ
ピーン ポーン パーン ポーン
 

 妙に間延びした、気の抜けるようなチャイム音がどこからともなく流れだした。
 

『新入生の皆様 時間となりましタ ただいまよリ 入学式を執り行いたいト思いマス 至急 第1オーディオホールにお集まりくだサイ』
 

侑「────っ、なに、この声」
 

『繰り返しマス 新入生の皆様 時間となりましタ────……』
 

 突然の事態に唖然と立ち尽くす私たちを嘲笑うように、可愛らしい少女の声が響く。片言で、冷たい、機械の音声。

真姫「……なによバカバカしい。結局、ただの悪趣味なオリエンテーションだったんじゃない」

絵里「どこ行くのよ」

真姫「放送聞いてなかったの? オーディオホールに決まってるでしょ」スタスタ

絵里「あ、待ちなさいっ」

せつ菜「お、競走ですね。負けませんよ!!」ダッ

 真姫ちゃんはそう言うと、一人エントランスホールから出て行ってしまった。その背中を絵里さんとせつ菜ちゃんが追う。

157: (はんぺん) 2021/06/17(木) 23:37:54.78 ID:yeeZrBxJ
ダイヤ「〜っ! 団体行動ができないんですかあの人たちは! 大体、場所は分かっていますのっ!?」プルプル

梨子「ま、まぁまあ……落ち着いてください。私たちも行きましょう」

希「ここに来る道中にフロアマップがあったから、迷うことはないと思うよ」

エマ「この学校すっごく大きいんだよね。わたしだったら地図があっても迷っちゃうよ」

海未「敷地面積だけで言えば、東京ドームより広いですからね。確かパンフレットによると、“東西でそれぞれ棟が分かれている”ようですが」

穂乃果「そうなんだ。じゃあ、穂乃果たちがいるここはどっちなの?」

海未「先程マップを見た限りでは、私たちは“東棟”にいるようです」

ことり「先生や先輩の人たちはいないのかなぁ」

歩夢「ここまで見てきた感じでも、教室の数は相当だろうし……きっとどこかにいる筈だよ」

158: (はんぺん) 2021/06/17(木) 23:42:40.73 ID:yeeZrBxJ
海未「……」

穂乃果「どうしたの、海未ちゃん?」

ことり「難しい顔してる」

海未「あ、いえ……何でもありません。ただ、一般の高校の生徒総数と比べてみても、この学園は余りにも広過ぎると思いまして」

侑「超高校級なんて、多くても毎年数十人しかスカウトできてないって聞くし、絶対持て余しちゃうよね」

歩夢「政府公認の学校だから、役人を迎え入れての説明会とか、それこそ超高校級の才能を生かすための専用の教室が沢山あるんじゃないかな?」

 私たちそれぞれに合わせて作られた教室か……なんだか鼻が高いな。本当に各自の教室があれば、私と千歌ちゃんの才能も分かるだろうし。

ダイヤ「お喋りはそのぐらいにして、皆さん行きますわよ!」

 ダイヤさんの号令で、みんな次々とホールを後にする。

歩夢「侑ちゃん、私たちも行こ? 置いてかれちゃうよ」

159: (はんぺん) 2021/06/17(木) 23:48:55.07 ID:yeeZrBxJ
侑「うん。でも、なんでオーディオホールなんだろう。こういうのって体育館とか講堂でやるもんじゃない?」

歩夢「入学する生徒数だけを見たら、オーディオホールで十分なんじゃないかな」

侑「なら、今年はここにいる私たち16人で全員?」

歩夢「そうなるのかなぁ」
 

千歌「────全員じゃないよ」
 

侑「え、千歌ちゃん……?」

 全員じゃない。千歌ちゃんはそう断言した。

千歌「超高校級だったら、“曜ちゃん”も絶対ここにいるはずだもん」

侑「あの、千歌ちゃん。よーちゃんて?」

歩夢「知り合い?」

 私たちの問いに、千歌ちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせながらも話してくれた。

161: (はんぺん) 2021/06/17(木) 23:58:14.80 ID:yeeZrBxJ
・・・

侑「渡辺曜さん。千歌ちゃんの幼馴染なんだね」

千歌「うん、チカの自慢の幼馴染だよ」

 千歌ちゃん曰く、彼女は高飛び込みの選手として、幼少の頃からその才覚を遺憾なく発揮していたという。
 それは超高校級という枠組みを超えて、“全日本級の強化選手”として大いに期待されているとも。

歩夢「そんなにすごい子なら、間違いなくスカウトされてるよ」

千歌「うん! 昔から勉強もスポーツも何でもできる私の憧れなんだ」

千歌「曜ちゃんはね、私に……あれ、えっと、あ、────ごめん。なんでもないっ」アハハ

侑「……? そっか。でも放送を聞いてたなら、きっとオーディオホールに行けば会えるよ」
 
千歌「……そうだね」ニコ

千歌「…………」

163: (はんぺん) 2021/06/18(金) 00:05:24.62 ID:HXo/0Hnx
ーーーーーーーー

 照明でどこまでも白く照らされた廊下。それはあまりに無機質で、冷たく、〇風景。
 そんな世界に、私たちの足音だけが不規則に響く。
 天井は大きな天窓で覆われ、本来なら眩い日差しが廊下を温かく照らしていたことだろう。

侑(今はどこもかしこもシャッターが下りていて、自然の光が一筋も入らない。あるのは人工の明かりだけ……)

侑(これじゃ気が滅入っちゃうな)
 

『繰り返しマス 新入生の皆様────……』
 

 一抹の不安を胸に抱えつつも、定期的に繰り返される放送の声を追うように私たちはフロアマップを頼りに廊下を進んでいった。

164: (はんぺん) 2021/06/18(金) 00:13:19.70 ID:HXo/0Hnx
ーーーーーーーー

-第1オーディオホール-

侑「あれ、みんなどうしたの?」

 階段状に机が並ぶ講義室。先に着いていたみんなは散らばって席に座っていた。その視線は前方の一点に向けられている。

真姫「どうしたもこうもないわ。なによ、アレ……」クルクル

 髪を弄りながら、怪訝そうに呟く真姫ちゃん。
 つられて目を向けると、

侑「わあ、なにあれ可愛いじゃん」

 誰もいない壇上の壁に設置された大型スクリーンには、可愛らしい「猫型のキャラクター」が映っていた。

歩夢「頭がモニターで、尻尾の先はアダプタになってるんだね。なんだか未来的で可愛いかも」

千歌「何かのアニメのキャラクターかな?」

侑「虹ヶ咲学園のマスコットキャラとか?」

165: (はんぺん) 2021/06/18(金) 00:20:52.17 ID:HXo/0Hnx
 そのキャラクターは広い画面の中を自由に動き回る。
 猫と電子機器をモチーフにした二足歩行の生き物? で、頭部のモニターには馴染みの深い顔文字を映していた。

歩夢「なんか、“璃奈ちゃんボード”みたいだね」

千歌「私もそれ思った! 璃奈ちゃんに似てるよねっ」

 そう言われれば、確かに……どことなく璃奈ちゃんを想起させるようなデザインに見えなくもない。

璃奈「……」

 肝心の璃奈ちゃんは無表情。相変わらず、その表情からは感情が読み取れない。
 

『新入生の皆様 こんにちハ 席にお座りいただキ 暫くお待ちくだサイ』
 

侑「あ、この声……」
 
 ついさっきまで流れていた機械音声だ。
 校内放送をしていたのはこの子だったのか。

175: (はんぺん) 2021/06/18(金) 12:24:02.22 ID:HXo/0Hnx
ダイヤ「お座り、なんて失礼な応対ですわね。それでは犬の躾じゃありませんか」

善子「そこに噛み付くなんて、まさに躾のなってないいn「善子さん?」……はい」

エマ「日本語って難しいね」フフ

・・・

穂乃果「おーい、侑ちゃん! 隣おいでよ〜」

穂乃果「って、隣はもういるんだけど」エヘヘ

 こっちに手を振る穂乃果ちゃん。彼女の両隣は海未さんとことりちゃんだ。
 私と歩夢は海未さんの隣に並んで座った。

176: (はんぺん) 2021/06/18(金) 12:33:57.39 ID:HXo/0Hnx
千歌「私はこっちに座るよ。よろしくね、梨子ちゃん、しずくちゃん!」ニコ

梨子「え、ええ。こちらこそ」

しずく「はい。よろしくお願いします。えっと……高海千歌さん」

千歌「もー、千歌でいいよ。同じ新入生なんだから」

 千歌ちゃんて人懐っこいし、妹みたいなところがあるから、仲良くなるのも早いだろうな。

・・・

 それから五分ほど経った頃だろうか。

穂乃果「ねえねえ! あなたのお名前は?」

 唐突に、穂乃果ちゃんが手を挙げ、そんなことを言い出した。

海未「……穂乃果、映像に話しかけても返事は戻ってきませんよ」

177: (はんぺん) 2021/06/18(金) 12:38:05.51 ID:HXo/0Hnx
穂乃果「えー、そうかなぁ。ただの映像って感じしないけど」

ことり「ほ、穂乃果ちゃんっ、こっち見てるよ?」

『……』

穂乃果「ほ?」
 

『わたシは53M.C-Aだヨ アランちゃんテ 呼んでネ』
 

璃奈「っ、!?」ビクッ

エマ「わ、すごいね。お返事したよ!」

穂乃果「ほら! 通じた!」

歩夢「えっ、会話できるの?」

千歌「ごーさんえむ、どっとしーえー?」

178: (はんぺん) 2021/06/18(金) 12:43:36.74 ID:HXo/0Hnx
アラン『うン アランちゃんだヨ』っ(・ω・)

絵里「アラン? 何故アランなのかしら」

アラン『アランのAハ アランのAだからなんだヨ』っ(・-・)

絵里「そ、そう……」

真姫「大方、設計者か誰かが自分の頭文字を取って名付けたんでしょ」

善子「さすれば、あなたは53番目の刺客と言うことかしら?」フッ

しずく「残りの52体はどこに行ったんですか?」

希「いーや、これは暗号や。ウチの勘がそう告げとる」

ダイヤ「普通に考えれば、システムの識別番号か何かでしょうけど……って、今それは関係ないでしょう!」バンッ

千歌「お、ノリツッコミ!」

179: (はんぺん) 2021/06/18(金) 12:50:55.25 ID:HXo/0Hnx
アラン『机を叩いたラ だめだヨ』っ٩(`^´)۶

ダイヤ「すみません」コホン

ことり「あ、そこは素直に謝るんだ」

 みんなが好き勝手に発言する中、53M.C-A=通称アランちゃんはゴロゴロと喉を鳴らす。
 まるで本物の猫のような仕草。

アラン『みんナ もうちょっとだけ待っててネ』っ(・ω・)

 セリフに合わせてその都度切り替わる顔文字は、とても可愛らしく、機械的な口調を感じさせない柔らかさを視覚的に与えてくれる。
 幼い少女の声を模した機械音声は、誰かモデルとなった人物がいるのだろうか。

侑「すごい技術だよね。ちゃんと受け答えが出来てるし」

穂乃果「きっとあれだよ、デズニーシーのお喋りできるカメさん!」

アラン『そんナ子供騙しの仕掛けじゃないヨ アランちゃんハ “人工知能搭載ノ最新鋭超高性能自立式プログラム”なんダ』っ(-^-)

180: (はんぺん) 2021/06/18(金) 12:57:47.04 ID:HXo/0Hnx
せつ菜「じ、人工知能っ、最新鋭!! 超高性能自立式!!?」キラキラ

エマ「なんだかすごそうだよ〜」

アラン『うン アランちゃんハすごいんだヨ みんなモ 困った時ハ アランちゃんノ名前を呼ぶんだヨ』っ(^O^)
 

アラン『……絶対だヨ?』
 

侑「? 人工知能ってあれだよね、AIってやつ」

海未「人工知能……えーあい、ですか。誰かが裏で声を当てているわけではないのですね」

ことり「海未ちゃん、昔からそっち方面には明るくなかったもんね」

穂乃果「穂乃果もよく分からないから大丈夫だよ!」

海未「複雑な心境です……」ムゥ

181: (はんぺん) 2021/06/18(金) 13:04:22.30 ID:HXo/0Hnx
・・・

絵里「要するに、この53M.C-Aってプログラムが進行してくれるんでしょ。ならさっさと始めて欲しいのだけれど」

アラン『絢瀬絵里さんハ せっかちさんなんだネ それとモ デレのなイ ツン(デレ)さン?』っ(>v<)

絵里「な!?」

希「ユーモアあるやん」クク

真姫「でも、流石に全員揃ったんじゃない? これ以上待っても誰も来やしないわよ」

真姫「入学式の進行がアナタの役目なんでしょ。なら、その責務をきちんと果たして欲しいわね」クルクル
 

アラン『……うン そうだネ 役者も揃ったみたいだシ』
 

アラン『始めようカ 入学式』
 

侑(っ、────はじまるんだ)

182: (はんぺん) 2021/06/18(金) 13:12:44.33 ID:HXo/0Hnx
画像が貼れないけど、アランちゃんはアニメ6話に出てきたアバターのイメージ。

199: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:07:52.12 ID:HXo/0Hnx
ゴクリと、どこかで喉を鳴らす音がはっきりと聞こえる。

 いや、これは私自身の喉の音。

侑(なんだろう……すごく緊張してる)

 期待、不安、焦燥、様々な感情が顔を出しては消えていく。ドクドクと強く脈打つ心臓の鼓動が妙にうるさく、私は胸を押さえた。

穂乃果「やっとだー!!」

善子「ククっ、ついにこの時が来たわね……」

エマ「楽しみだよー」

アラン『新入生の皆様 お待たせいたしましタ 只今よリ────』

菜々「皆さん、アランさんが話しています。お静かに」キリッ

希「お、マジメちゃんモード」

絵里「すごい切り替えの早さね」

侑(ふぅ、落ち着け、私)

 何はともあれ、ついに始まるのだ

200: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:11:39.47 ID:HXo/0Hnx
千歌「これで全員……?」

梨子「あぁ、なんか緊張してきちゃった」ソワソワ

ダイヤ「まあ、ここまで手の込んだ事をするぐらいですから、よほど高尚な式辞を用意しているのでしょう。お手並み拝見ですわ」

璃奈「……璃奈ちゃんボード『わくわく』」

 この個性豊かな仲間たちと過ごす

しずく「一体どんな素敵なショーを披露してくれるんでしょうか。楽しみです!」キラキラ

真姫「ただの入学式でしょ」ハァ

ことり「ふふ。でも期待せずにはいられないよね」

海未「な、何が起こるんですか?」

 「  」希望に満ち溢れた

歩夢「これから一緒に頑張ろうね、侑ちゃん」

 「     」学園生活が────!!

201: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:14:16.37 ID:HXo/0Hnx
 ────────────ブツンッ‼︎

202: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:17:21.33 ID:HXo/0Hnx
千歌「え、なに!?」

穂乃果「停電!?」

せつ菜「緊急事態発生ですか!!?」

しずく「こ、これも演出なのでは……?」

梨子「え、な、なんなのっ?」

真姫「ちょっと! この手誰よ?!」

ダイヤ「皆さん、無闇に動いては危険ですわっ! ここは大人しく座って指示を待ちなさい!!」

絵里「指示って誰のよ!? ブレーカーが落ちたとしたら、このプログラムだって何も出来ないでしょ!」

歩夢「ゆ、侑ちゃん」オロオロ

侑「歩夢! 大丈夫、私は隣にいるよっ」ギュッ

 何が起こったのか分からないけど、突然、世界が真っ暗になった。照明が落ちたんだ。
 すぐ隣の歩夢の顔さえほとんど見えないほど、一瞬でオーディオホールは暗闇に包まれた。

203: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:21:05.69 ID:HXo/0Hnx
善子「言っとくけど、私のせいじゃないわよ!? ……たぶん」

ことり「こ、こわいよぉ、穂乃果ちゃん、海未ちゃんっ」

海未「大丈夫ですよ、ことり。恐らくこれは一時的なものでしょう」ナデナデ

海未「仮に本当に停電だったとして、学校側が何の対策もしていない訳がありません。直ぐに予備電源などが作動するはずです」

穂乃果「そうだよ、ことりちゃん。みんなもいるんだし怖くないよ!」

侑(……本当に停電なの? )

 不慮の事故による停電の可能性はあり得ない話じゃない。むしろ、そう考えるのが正常な思考だ。

侑(これがまた虹ヶ咲学園側が故意に起こした事態なら、そんな心配しなくてもいいんだけど)

204: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:24:28.94 ID:HXo/0Hnx
穂乃果「おーい、アランちゃーん!」

海未「穂乃果? 何をしているのですか?」

穂乃果「もちろん、アランちゃんに助けてもらうんだよ! ほら、困ったときは名前を呼んでねって言ってたじゃん」

ことり「で、でもきっと電源落ちちゃってるよっ?」

歩夢「とりあえず、ここから出た方がいいんじゃ」

侑「でも下手に動くなってダイヤさんが」

 暗くてよく見えないけど、目を光らせているのは分かる。

ダイヤ「もうしばらく待てば、きっと電源も復旧しますわ。だから皆さん余計なことはしないように」

善子「……その根拠はどこから来るのよ。固いのは名前だけじゃないのね」ボソ

205: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:28:01.63 ID:HXo/0Hnx
ダイヤ「誰ですか!? 今、無礼なことを言ったのは!」ダンッ!

善子「ひぃ!?」

絵里「ああ、もう! 次から次に何なのっ。一体全体私たちをどうしたいわけ?!」

穂乃果「電気、付けー!!」

海未「耳元で大声を出さないでくださいっ」

 あちこちから聞こえてくる喧騒が、場の混乱を余計に助長させる。

侑「みんな、落ち着いて! こういう時こそ冷静にならなきゃっ」

せつ菜「はい。むやみやたらに動くのは危険ですが、停電の範囲は調べておいた方がいいと思います!」

璃奈「うん。この部屋だけかも知れないし、私も賛成」

206: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:31:07.11 ID:HXo/0Hnx
梨子「でもこの暗闇でどう移動するの?」

希「壁伝いに手探りで行けば、ドアの前までは楽勝やん」

ダイヤ「……おほん。先程は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。では、ドアに一番近い位置にいる人にお願いしましょう」

「それなら任せて」

 後方から声がかかる。

侑(誰の声だろう……?)

ダイヤ「では、彼女に任せて、他の人はその場に待機。不安なのは分かりますが、なるべく声は抑えて大人しくしていること」

 ダイヤさん主導のもと、数秒後にはなんとか落ち着きを取り戻すけど、暗闇から漏れるみんなの不安げな息遣いが現状を物語っていた。

207: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:36:37.65 ID:HXo/0Hnx
・・・

「────だめ。開かないわ」ガタガタ

千歌「そんな……」

真姫「嘘でしょ?」

 暫くして、無慈悲な宣告が暗闇から響く。

絵里「そんなわけないわ。私が確かめる」

エマ「気を付けてね。段差あるよ」

絵里「ええ、問題なっぃべぇ!」ズテンッ!

侑「え、絵里さん!?」

歩夢「大丈夫ですか!?」

絵里「いたた……っ、何かに躓いたみたい。人の足みたいな」

善子「ぁ、だ、段差よ! 段差に躓いたのねっ?! 全く、ドジなんだからっ」アセアセ

208: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:49:49.76 ID:HXo/0Hnx
ダイヤ「怪我には気を付けてください。何なら、私が向かいますので」

海未「しかし、鍵が掛かるような構造ではなかったはずですが」ハテ

穂乃果「うーん、呼んでもだめかぁ」

ことり「流石の穂乃果ちゃんでも、停電は直せないんじゃないかなぁ」

穂乃果「名前呼んでも効果なしー?」

エマ「でも、穂乃果ちゃんの気持ちもわかるよ」

エマ「きっとアランちゃんは、名前を呼んで欲しいんだよ」

しずく「あえて停電を起こすことで、超高校級であるわたしたちの対応力を見ているというのも考えられますよ」

せつ菜「確かに。アランさんが言っていた、名前を呼んでねという発言にも意味があるかもしれませんね」

209: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:55:42.07 ID:HXo/0Hnx
穂乃果「だよね! みんなも呼んでみようよ!」

千歌「さんせーい!」

真姫「なんでそうなるのよ……」ハァ

梨子「えぇ、大丈夫なの?」

侑「絵里さんがドアを見てくれるから、それからでもいいんじゃ」

せつ菜「アランさーん!!」

 本当に呼んじゃった。またダイヤさんにどやされちゃう。

しずく「アランさーん」

千歌「あーらーんちゃーん!」

 せつ菜ちゃんにつられるように、何人かが名前を呼ぶ。

210: (はんぺん) 2021/06/18(金) 21:58:47.11 ID:HXo/0Hnx
歩夢「な、なんか変なことになっちゃったね」

侑「呼ぶだけならまあ、いいんじゃないかな。アランちゃーん! ……なんて」ハハ

歩夢「あ、アランちゃん! ……て、何やってるんだろう私///」

────パッ

侑、歩夢「っ!?」

ダイヤ「ほら見なさい。やっぱり動かなくて正解でしたわ!」

せつ菜「うおおおお!! どうやら私が正しかったようですね!!」

絵里「え、付いたの!?」

真姫「一々騒がないで。学園側が対応しただけでしょ」

 真姫ちゃんの言うとおり、電源が復旧するのは時間の問題だったのかも。

211: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:03:57.39 ID:HXo/0Hnx
 だけど、

穂乃果「え、な、なにあれ!?」

善子「ちょっと待って……もしかしてバグったとか?」

千歌「アラン、ちゃん……?」

 真っ白な背景の、スクリーンの中央にはアランちゃんが佇んでいる。しかし、何より異様だったのはその顔。

 頭部のモニターは正中線を境に白と黒で分かれ、二分割された右側の黒い面には、鋭く引き裂いたかのように赤く裂けた目があった。

侑「しずくちゃんの言葉を借りるなら、これも演出ってことになるけど……」

海未「何なのですか、あれは。流石に悪趣味が過ぎます!」

善子「まるで悪魔ね」

212: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:09:07.46 ID:HXo/0Hnx
希「体の造形と表情のミスマッチ具合もまた不気味やん」っシュ

希「……悪魔の正位置」ゾッ

しずく「なるほど。プログラムにも様々な表現方法が取り入れらているのですね。勉強になります」

ダイヤ「感心してる場合ではないでしょうに」ハァ

千歌「チカたち、何か怒られるようなことしちゃったとか……」

せつ菜「ああいう表情もあるって、 私たちに見せてくれているんじゃないですか?」
 

アラン?『……アーあ あ、あ、ア────新入生の皆様 改めましテ ようこソ 虹ヶ咲学園ヘ!』
 

侑「あれ、なんかキャラ変わってない……?」

歩夢「うーん、声質は同じだし特に変わってないんじゃない?」

歩夢「そもそも私たち、まだアランちゃんのキャラを掴めてないと思うけど」

213: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:13:30.97 ID:HXo/0Hnx
千歌「ねえ……アランちゃんでいいんだよね?」

アラン『……うン? あア うんうン その名前で呼んでくれてオッケーだヨ 高海千歌さン』

 不気味なモノクロフェイスのまま、そのAIは答える。
 つぶらな左の丸い目に比べ、右の赤く裂けた目は唯々私たちの恐怖を煽った。

絵里「ねえ、随分とその、パンチの効いた面になっているのだけど……それはなに?」

アラン『なにって何サ?  これがわたシの顔なんだヨ 文句があるなラ 自分の顔鏡で見てこイ!』

絵里「……は?」ポカーン

エマ「く、口が悪いよ」

梨子「これが本性……?」

ダイヤ「何であれ、開発者の性根の悪さが見て取れますわね」

214: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:20:29.17 ID:HXo/0Hnx
真姫「で、入学式の進行は?」クルクル

アラン『はァー うるさいなァ そんなこと言われなくてモ ちゃんとやってあげるかラ 安心しなヨ』

アラン『えー てすてス では只今よリ 記念すべき入学式を執り行いたいと思いまス!』

穂乃果「あ、ちゃんと始まるみたいだね」

ことり「あの顔のままだとちょっと怖いよぉ」

アラン『ご存じの通リ 皆様ハ 希望に満ちた若き超高校級でス そんな皆様にハ これからのさらなる躍進と貢献を期待しテ』

アラン『素晴らしキ 学園生活をプレゼントしたいと思いまス!』

海未「言っていることはまともですね」

侑「う、うん……」

 だからなおさら、不気味なんだ。

215: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:29:47.23 ID:HXo/0Hnx
アラン『したがっテ 皆様にハ この“虹ヶ咲学園内だけ”で共同生活を送ってもらいまス!』

アラン『みんなデ 仲良く楽しい学園生活ヲ 送ろうネ!』
 

 ────えっ?
 

アラン『あ ちなみニ 期限は特に決めてないかラ 一生ここにいることになるかもネ』

アラン『まァ それもまた一興だヨ』ウケケ

侑「っ、ま、待ってよ。そんなの聞いてないよ!?」

アラン『いま言ったからネ』

海未「それは、寮生活を強要させるということですか?」

アラン『うン まあそんな感じであってるヨ わたシ 物分かりのいい子は好きだナ』

218: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:37:31.54 ID:HXo/0Hnx
絵里「ふ、ふざけるのも大概にしなさいよ!!」

ダイヤ「ええ。それに、強要ではなく強制させるといった方が正しいですわ……っ」

希「玄関が封鎖されていたのも、窓にシャッターが下りていたのも、始めからウチらをここに閉じ込めることが目的だったってことやん」

アラン『そうだネ 賢い子も好きだヨ』

 一生ここで過ごす? そんなバカげた話があるの……?

エマ「ねえ、どういうことなの……? わたし、あの子のいってること、わかんないよ」フルフル

璃奈「エマさん、落ち着いて。みんなも……同じだから」

アラン『ん? あア 心配しなくてもいいヨ 食事にお風呂 ふかふかのベッドから娯楽施設まデ 必要なものは何でも揃っているからネ!』

アラン『何不自由なく暮らせるんだかラ 感謝してほしいくらいだヨ』

221: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:42:54.03 ID:HXo/0Hnx
歩夢「でも、そんなこと国が黙っているわけないっ。きっと助けが来るはずだよ!」

穂乃果「そ、そうだよ。警察だって動くにきまってる! あ、アランちゃんなんかすぐ捕まっちゃうんだから!!」

アラン『うーン もっと考えてしゃべりなヨ ついでに言っておくト 外部との連絡手段はないからネ ここハ 外の世界とは完全に遮断されているんダ』

善子「隔離された閉鎖空間ということ……? そんなバカな」ゾク

ダイヤ「っ、そんなの、黒澤家が黙っているはずありませんわ!!」

真姫「人選を間違えたわね。超高校級の私たちを誘拐、監禁だなんて無謀にも程があるわ」

アラン『ウケケ 誰も助けには来ないヨ 国モ 家族モ 誰もネ‥‥‥』

アラン『みんナの世界ハ もうここしかないんだかラ 時には運命を素直に受け入れることモ 大切だヨ』

222: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:45:19.72 ID:HXo/0Hnx
千歌「……うそだよ。私信じないもん!」

しずく「これ以上は演出などでは済まされませんよ。やりすぎです……!」

せつ菜「今ならまだ、壮大なサプライズドッキリということで許してあげないこともないですよ!!」ビシッ

アラン『別に疑うのは構わないヨ それっテ すごく大事なことだシ でもサ 自分たちの目で見てきたよネ それでモ まだ信じられないノ?』

梨子「困るわよ……そんなの。ここで一生なんて正気じゃない」
 

アラン『なんデ?』
 

侑「えっ?」

アラン『みんなハ 自ら望んデ ここに来たんだヨ それなのニ いやいやと我儘ばかリ』

アラン『怒りたいのハ 悲しいのハ わたシの方なのニ』

223: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:50:32.51 ID:HXo/0Hnx
絵里「こんなことになるのが分かっていたら、来なかったわよ!」

希「ねえ、何がしたいん? ウチらをここに閉じ込めて、何をさせるつもりなん?」

侑(ただ私たちを閉じ込めて生活させるだけなんて、犯人側には何のメリットもないはず。別の目的があるんだ、きっと)

ダイヤ「わたくしたちが衰弱し、弱っていく過程を楽しみたい愉快犯の可能性もありますわ」

アラン『そんなことしないっテ ここにハ ちゃんと衣食住揃っているんだかラ 疑い深いなァ もウ!』

アラン『ここに一生監禁すル それっテ もう立派な理由にならなイ?』

ダイヤ「っ!?」

希「……」

善子「なら力づくで脱出するだけよっ」

アラン『無理だヨ この学園ハ わたシの管理下に置かれているからネ』

225: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:56:15.12 ID:HXo/0Hnx
侑(出られない……? 本当に、ここから一生)ブルッ

歩夢「侑ちゃん、本当に出られないのかな?」ボソ

歩夢「この学園てすごく広いんだから、探せば抜け道くらい見つかるんじゃないかな」

 これだけ広大な学園だ。全ての窓や扉を封鎖するなんてこと……いや、それはいくらなんでも楽観視が過ぎるか。

 歩夢の言葉に、ゆっくりと首を横に振った。

侑「多分、それは期待できないと思う。ここまで壮大な計画を実行に移す連中だよ。そんなミスを冒すなんて考えられない」ボソボソ

侑「でも、後で確認する価値はあるよ」
 

アラン『あ でもネ たったひとつだケ ここから生きて帰れる方法があるヨ』
 

 私の言葉に後に、アランちゃんはそんなことを言い出した。

226: (はんぺん) 2021/06/18(金) 22:59:30.99 ID:HXo/0Hnx
穂乃果「ほんと!?」

千歌「な、なぁんだ。ちゃんとあるんじゃんっ」

善子「なによ、あるならもったいぶらずに早く言いなさい!」

エマ「よかったぁ、ちゃんとお家に帰してくれるんだね」

絵里「安心するのはまだ早いわ。どんな滅茶苦茶な内容が飛び出してくるのか分からないもの」

アラン『もー そんな警戒しないデ 簡単だヨ とっても単純デ 刺激的なメソッドだからサ』

侑「それは、なに……?」ゴク

227: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:02:29.00 ID:HXo/0Hnx
 

アラン『“〇人”だヨ』
 

229: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:06:25.82 ID:HXo/0Hnx
侑「っさ!?」

アラン『人が人を〇すことだけド?』ウケケ

 それが、さも当たり前のことだとでも言うように。
 目の前の悪魔は、醜悪にその表情を歪めた。

アラン『やり方は自由だヨ オマエラの好きな方法デ 好きにヤっちゃってネ!』

アラン『誰かを〇した者だけガ ここから胸を張って出られル それがルールだヨ』

アラン『簡単で分かり易イ 自然の摂理に則っタ 実に合理的なルールだよネ!』

侑「……っ」

 その可愛らしい少女の電子音声から放たれた、あまりに荒唐無稽で不釣り合いなセリフ。

 ズンっと、何か得体のしれない物が重くのしかかる。そんな気がした。
 強烈な吐き気。喉の奥から迫り上がってくるのは、恐怖と不安の入り混じったナニカ。

230: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:12:17.17 ID:HXo/0Hnx
ダイヤ「いや、そんなの……っ、おかしいですわっ。人を〇す? それのどこが合理的だと言うのですか!?」

アラン『明確な目的を持っているからサ』

ダイヤ「は……?」

アラン『黒澤ダイヤさン 例えばダイヤさんがダイエットするという目的に対しテ 欲望に負けて夜中に甘いものを食べてしまったラ それは合理的行為と言えル?』

ダイヤ「え? い、いえ……そんなことをしては今までの決意や覚悟、努力が無駄になってしまいますわ」

アラン『うン でもサ ダイエットを頑張ったその夜中ニ 甘いものを食べるという行為自体ヲ 自分へのご褒美として価値のあるものだと思っていたらサ それは理に沿っているとも言えるよネ』

ダイヤ「そ、そんなもの、ただの言い訳ですわ! 結局は自らの意志の弱さに流され、逃げ道を作って現実逃避しているだけではありませんか!!」

アラン『ウケケ ダイヤさんはそうなんだろうネ』

231: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:17:30.32 ID:HXo/0Hnx
希「誰かを〇したら外に出られるっていうルールは、そっちにとってやる価値のある合理的行為っていうことなん?」

アラン『好きに解釈してもらって構わないヨ』

アラン『遅かれ早かれ生きているものはいつか死ヌ それが自然の摂理なんだかラ ごちゃごちゃ言ってないで素直に従えヨ』

ダイヤ「ぁ……え?」フラ

侑「ダイヤさん!! しっかり!」

せつ菜「人を〇すという行為は、その摂理に反していると思いますが……?」

アラン『そんなことないヨ 摂理とは代理になるこト』

アラン『〇人が悪いなんて判断ハ 自然の摂理じゃなイ 人工的な判断だヨ』

アラン『死という結果に対するそれまでの過程ハ 自然には関係ないんだヨ その過程を求めるのは人のエゴだよネ』

232: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:22:29.59 ID:HXo/0Hnx
絵里「無茶苦茶よ。理解できないっ」

真姫「そうね、話にならないわ」

アラン『なんとでも言ってなヨ 希望溢れる超高校級を〇し合わせるなんテ そんな絶望的なことはないからネ』

アラン『さア くだらない問答はこのくらいにしテ! 始めようカ 待ちに待ったコロシアイ学園生活ヲ────!!』

海未「待ってください」

アラン『……何?』

海未「質問があります。あなたは、あなたのその思惑は……この学園の意思なのですか? それとも、国の総意なのですか……?」

アラン『……さア どうだろうネ その優秀な頭で考えてみたラ?』

海未「そう、ですか……」

ことり「ねえ、どうすればいいのっ!? こ、ここころし、っあいなんて、ウソだよね!!?」ガタンッ

穂乃果「こ、 ことりちゃん落ち着いて!」

233: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:26:24.75 ID:HXo/0Hnx
歩夢「そんなこと起きるはずないよ! きっと大丈夫……絶対に」

善子「っ、なによソレ……まるで“フィクション”じゃない」

アラン『違うヨ これハ ノンノンノンフィクションなんだヨ』

アラン『これから始まるのハ 正真正銘ウソ偽りなしノ “本当のコロシアイ”なんダ』

しずく「本当のころし、あい……」

エマ「だめだよ。そんなの、絶対だめ!!」ダンッ!

璃奈「エマさん……」

エマ「だめ、だめっ……No, no ... っ、non te lo lascerò fare。Non perdonare mai di uccidersi a vicenda……!」ブツブツ

ことり「いやだよ、こんなのいやだよぉお!」

海未「ことり!」

善子「はあ、はあ、本当についてない。きっと私の所為……また、こんなっ、もう沢山よ!」

234: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:31:22.04 ID:HXo/0Hnx
せつ菜「あ、あれ? ど、ドッキリなんですよねっ? あ、アニメや漫画によくある、ありえない展開なんか……っ、実際に起こるわけないですもんね??!」

しずく「……っ」

梨子「一生ここに閉じ込められるか誰かを、ころす……? はっ、はぁ、はっ、うぅ」

絵里「あなたたちまで取り乱してどうするのよ! 落ち着きなさい!」

侑「はぁ……はぁ、っ」ドク、ドク、ドクンッ

 アランちゃんの言った言葉が、みんなの心に深く突き刺さっていく。突然、突きつけられた「コロシアイ」なんて非日常に理解が追いつくわけもない。
 

穂乃果「────みんな聞いて!!」
 

侑「穂乃果、ちゃん?」

235: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:37:38.58 ID:HXo/0Hnx
穂乃果「誰かを傷付けるなんて、そんなバカげたこと私たちは絶対にやらないよ!!」

穂乃果「私はみんなを信じてる! 誰もいなくならないし、誰かを傷付けるなんてことはさせない!」

穂乃果「アランちゃん、私たちはあなたの言いなりになんて絶対にならないから!!」

千歌「穂乃果ちゃん……うん! そうだよ、みんなで協力すればきっと何とかなるよ!」

真姫「そう、ね。これだけの超高校級が揃っているもの。諦めるのはまだ早いんじゃない?」

海未「その通りです。諦めるのはまだ早い……ことり、顔を上げてください。穂乃果が、私たちがいますから」

ことり「海未ちゃん。うん、……うん!」

侑(穂乃果ちゃん、すごいな。バラバラだったみんなを一声で繋ぎ止めた……)

 そうだ。〇し合いなんて、絶対に起きない。起こるはずがない。

237: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:42:57.04 ID:HXo/0Hnx
アラン『……』

アラン『まあいいヤ 悲しむのも怒るのも発狂するのモ 励まし合うのも好きなだけやりなヨ 学園生活はもう始まっているんだかラ』

アラン『あ 詳しいことは“電子生徒手帳”に記載されているからネ 各自しっかりと確認しておくこト』

歩夢「……電子生徒手帳?」

アラン『学生寄宿舎エリアに行きなヨ 各部屋に置いてあるからサ』

海未「寄宿舎エリア……フロアマップにありましたね。確か、エントランスホールを抜けた先にある別棟に学生寮共用施設、寮室の記載がありました」

アラン『ウケケ くれぐれも校則違反だけはしないようニ』

侑「校則違反をしたら、どうなるの?」

アラン『……自〇願望があるのなラ 試してみるといいヨ』

侑「っ」ゾク

アラン『じャ そう言うことだかラ またネ!』

239: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:47:02.78 ID:HXo/0Hnx
千歌「待ってアランちゃん!」

アラン「あー? 今度は何サ わたシは忙しいんだかラ』ギロ

千歌「あ、えっと、その……こ、ころ……あぃの参加者ってここにいる私たちで全員なの? 」

アラン『……』

アラン『そうだヨ “ここにいるみんナ”で全員 わかっタ?』

千歌「う、うん」

千歌「そっか……」ホッ

侑(千歌ちゃん……)
 

千歌『うん! 昔から勉強もスポーツも何でもできる私の憧れなんだ』
 

 そうだ。アランちゃんの言葉を信じるなら、ここにいない千歌ちゃんの幼馴染は無事だってことになる。
 少なくとも、家族や友人を人質に取られているわけじゃない。自分のことだけを気を付けていればいいんだ。

240: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:50:08.96 ID:HXo/0Hnx
アラン『もういイ? 今日の質問はこれで打ち切りだヨ これからの長い学園生活に備えテ 今日はぐっすり寝ナ!』

アラン『……つぎ会うときハ 誰かが欠けたときだからネ』ウケケ
 

────プツン
 

 アランちゃんはそう言い残し、画面の中から姿を消してしまった。同時に、スクリーンも暗転する。
 残されたのは、情報把握すらままならず呆然と何も映らない画面を見つめる私たち。

歩夢「消えちゃった……」

侑「とりあえずさ、一度話をまとめない?」

穂乃果「う、うん。そうだね」

歩夢「アランちゃんの話を聞く限り、やっぱり私たちはこの学園内に閉じ込められたんだよね」

海未「はい、それは確かでしょう。現状、私たちに与えられた選択肢は大きく分けて2つ」

241: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:54:56.08 ID:HXo/0Hnx
海未「この学園内で“期限のない共同生活”を送るか、ここにいる“仲間の誰かを〇して”外に出るか」

海未「とんでもない話です……」ハァ

 確かにこんなふざけた話、悪い冗談だと笑い飛ばしたくもなる。
 
ことり「何日か経てば、警察とかが助けに来てくれるんじゃないかな」

海未「もちろん、そうなればベストですが……あのえーあいの口ぶりから察するに、その辺りへの対処は万全だと考えた方が良さそうかと」

侑「どんな手を使ったのか分からないけど、外からの救助は期待しない方がかえって気が楽かもね」

穂乃果「なら、私たちで出口を探そうよ!」

ことり「う、うん。ことりも頑張るっ」

絵里「ちょっと待って。逃げ道を探すのには賛成だけど、まず先に“電子生徒手帳とやらを確かめに行った方がいいわ」

242: (はんぺん) 2021/06/18(金) 23:57:44.93 ID:HXo/0Hnx
ダイヤ「そうですわ。“校則”というものがどんなものか分からない以上、ルールを知らずに行動していてはいつ地雷を踏み抜くか」

ダイヤ「こんなふざけた〇し合いゲームをさせようとする連中のこと。校則違反を犯したらどうなるかは想像に難くありませんが、今は少しでも情報を集めなければ」

海未「はい。それに闇雲に動くのは得策ではありません」

歩夢「“学生寄宿舎エリア”だっけ、そこで寝泊まりしろってことだよね」

侑「これから暫くは嫌でも使うことになりそうだし、自分の部屋くらいは見ておこうよ」

侑(絵里さんにダイヤさん、それに海未ちゃん。この三人を筆頭にみんなで知恵を出し合えば、案外すぐにでも脱出の目途が立っちゃったりね)

 まあ、そんな楽観的な思考ができるのも、まだ現実感が湧かないからっていうのはあるけど。

243: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:01:19.42 ID:UBctPfrh
真姫「正直、今日はもう布団に入って休みたいわ。頭を整理する時間を頂戴」

梨子「あ、私も……」

しずく「色々なことが一度に起こりすぎて、もう一日以上過ごしている気分です。流石にくたびれました」

 真姫ちゃんの言うことはもっともだ。みんな顔色は悪く、心身ともに疲弊しているのは明白だった。

侑(私もそうなんだろうけど)

侑「善子ちゃんたちは平気? 大丈夫?」

善子「……ええ」

エマ「うん。ごめんね、心配かけて」

侑「そっか。無理はしないでね。こんな時だからこそ、みんなで力を合わせないと!」グッ

侑「あはは、なんて……」

善子、エマ「……」

 返事は戻ってこなかった。穂乃果ちゃんのようにはいかないか。

244: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:04:12.12 ID:UBctPfrh
海未「では寄宿舎で各自、電子生徒手帳の確認。時間によっては、動ける人は学園内の探索を。話し合いについては明日に回しましょう」

穂乃果「さんせーい!」

 海未ちゃんの言葉を皮切りに、みんな力なく立ち上がる。

「気持ちは分からなくもないけど、気を落としている暇はないと思うわよ」

侑「うん、そうだよね。これからが大変…………ん?」

歩夢「え?」

「……あら?」

侑、歩夢「誰!?」

245: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:06:01.50 ID:UBctPfrh
・・・

侑「こ、こんな人いたっけ?」

歩夢「うーん。ここに来た時にはいなかったと思うけど」

侑「だよね……あのー、あなたは?」

「え、私? 私は────朝香果林よ」

 朝香果林。
 青みがかった黒髪のウルフカットヘアー。身長も高く(多分、エマさんより大きい)、モデル顔負けのルックスに抜群のプロポーション。

侑「すっごい美人……」
  
 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる引き締まった大人の身体に、私はすっかり目を奪われてしまった。

歩夢「侑ちゃん?」ジト

 う、声に出てた。

246: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:09:28.13 ID:UBctPfrh
侑「あなたも新入生、だよね?」

果林「そうなるわね」フフ

 こんな状況なのにすごく冷静だ。これが大人の余裕というものなんだろうか。

せつ菜「朝香果林……? あの“超高校級の読者モデル”の朝香果林ですか!?」ズイ

侑「せつ菜ちゃん!?」ビクッ

 び、びっくりしたぁ。突然、大声を出されると心臓に悪いよ。

せつ菜「す、すみませんっ」

果林「あら、私のこと知ってるの?」

せつ菜「はい! ファッション雑誌は衣装作りの参考になりますから、よく目を通しています」

【超高校級の読者モデル 朝香果林】

247: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:12:33.13 ID:UBctPfrh
侑「読者モデル?」

せつ菜「果林さんは人気ファッション雑誌「ViViD」で12ヶ月連続で表紙を飾り、単独ページも多数掲載されるほどの人気モデルなんですよ」

せつ菜「大人でクールなセクシー系ファッションモデルの顔とまで言われ、10代の女性たちから絶大な人気を集めているんです!」

果林「そこまで言われると照れるわね」

侑「うーん、ごめん。私、そういう雑誌読まないからなぁ」

歩夢「私もあんまり」

果林「あら、そうなの。まあ、ハイティーン向けの雑誌だから知らなくても当然ね」
 

海未「……あの、それでいつからここに?」

果林「ついさっきよ。この部屋に来てすぐ電気が落ちたから」

248: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:16:27.13 ID:UBctPfrh
侑「え、じゃあ、あの時の聞き慣れない声って」

果林「私よ。ドアのすぐ近くにいたから」

穂乃果「ふーん、じゃあそれまでどこにいたの?」

果林「……ちょっと探索していたのよ」

ことり「エントランスホールにもいなかった、よね……?」

果林「エントランスホール?」

真姫「最初の集合場所よ。なに、まさか知らなかったの?」

果林「そ、そんなわけないじゃない。放送を聞いたから直接ここに向かったのよ」

梨子「ただ迷子になってただけなんじゃ……」

果林「違うわよ」

249: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:21:16.65 ID:UBctPfrh
絵里「迷子かどうかは置いといて、あなたのようにまだ学園内を彷徨っている人がいるかもしれないわね」

千歌「でも、アランちゃんはここにいる私たちで全員だって言ってたんだよ」

穂乃果「うん。それに、果林ちゃんが来たのはアランちゃんがおかしくなる前みたいだし」

絵里「え、あ、ああ、そうねっ」
 

果林「ふぅん」

果林「それで、一体今何が起きているのかしら?」キョロキョロ

ダイヤ「あなた、話を聞いていなかったのですか?」アキレ

侑「ま、まあまあ。それを話し合ってるんだから」

250: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:26:01.76 ID:UBctPfrh
・・・

果林「────大体分かったわ」

侑(本当かなぁ)

果林「かなり大体な状況ね。でも、そこまで悲観するようなことなのかしら」

侑「え?」

果林「だって、あのアランとかいう子の話を聞く限り、出られはしないけど衣食住は揃っているみたいだし……」

果林「それこそ、外からの助けが来るまでここで大人しく生活するってのも一つの手じゃなくて?」

侑「それは一理あるけど……」

ダイヤ「そんな簡単な話ではないのですわ。食糧だって、ここにいる全員を賄えるほどの備蓄があるかどうか」

善子「日本の警察は優秀なんだから、食糧が無くなる前に助けに来るわよ」

251: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:27:42.46 ID:UBctPfrh
>>250
×大体→大変

252: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:30:57.06 ID:UBctPfrh
梨子「でも、外からの救助は期待できないから脱出をって」

果林「本当に? まさか、さっきのやり取りだけで全てを鵜呑みにしたわけじゃないでしょうね」

果林「出口はないとか、助けは来ないとか、そういうのはやれることを全部やってから嘆くものよ」

侑(た、確かに……)

果林「そこのあなたも。そんな怖い顔で俯いていちゃ、せっかくの可愛い顔が台無しよ」

エマ「……えっ?」

果林「まだ何にも始まっていないじゃない。ね?」ウィンク

エマ「う、うん!」

 エマさんに笑顔が戻った。
 果林さん。なんて頼りがいのありそうな人なんだろう。

253: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:34:27.11 ID:UBctPfrh
海未「実際にやれることを全て試したわけじゃありませんし、あのえーあいの言葉を文字通りに受け取りすぎているだけかも知れませんね」

海未「何であれ、言葉の真意を確かめるのはこれからです」

果林「ええ。それに、まさかとは思うけど」

果林「この中にさっきの話を本気にしている人がいないとは限らないし」
 

「……」
 

穂乃果「……もう! 私たちの中にそんなことする人がいるわけないじゃん!」

穂乃果「冗談でも言っちゃだめだよ!」

果林「ごめんなさいね。もちろん分かってるわよ」

果林「常識的に考えて、するわけないものね」フフ

254: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:40:17.88 ID:UBctPfrh
千歌「お、驚かせないでよぉ!」

歩夢「あはは……」

侑「そ、そうだよ」

侑(私たちの中に、誰かを傷付けるようなことができる人なんて……いるわけないよね?)

絵里「……」

絵里「ドア、普通に開くじゃない」ヒキド

255: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:43:38.43 ID:UBctPfrh
ーーーーーーーー

 寄宿舎に向かう道中も、私の胸中は言い知れぬ不安と恐怖、ざわめきでついに落ち着くことはなかった。

歩夢「……っ」

梨子「……大丈夫、私は、大丈夫」

千歌「よーちゃん……」ポツリ

絵里「こんなところ、絶対に脱出してやるんだから」

希「……」シャッシャ

しずく「……」

璃奈「……」

 私と同じ心境の人、何を考えているのかよく分からない人。

256: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:47:14.51 ID:UBctPfrh
穂乃果「よーし、みんなで強力して脱出だよ!」 

海未「穂乃果! 走ったら迷子になりますよ! ……もう」クス

ことり「ふふ。穂乃果ちゃん待ってー!」

ダイヤ「一体誰がこんなふざけた真似を……しかし、今やるべきことは」ブツブツ

せつ菜「私たち超高校級が一丸となって立ち向かえば誘拐犯なんて敵ではありません! 皆さん頑張りましょう!!」

善子「上等じゃない。この堕天使ヨハネを敵に回したこと、後悔させてやる」

真姫「ふん。暑苦しいわね」クルクル

果林「良いことじゃない」

エマ「あ、果林ちゃんそっちじゃないよっ」

 希望を胸に、立ち向かう決意を固めた人。マイペースで型にとらわれない自由な人。

257: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:51:44.50 ID:UBctPfrh
胸に抱える思いは人それぞれで、だけど

 ただ一つ確かなことは────────

侑(コロシアイ、学園生活)

侑(ときめきは、そこにあるのかな)
 
 誰にも予想のできない物語が
 これから始まるということだった
 

… ……To be continued

258: (はんぺん) 2021/06/19(土) 00:54:41.13 ID:UBctPfrh
Prologue 導入はこれで終わり。
次スレから第一章 学級裁判(少し期間空きます)

自己満足作品なので、かなり長編でダレてますが、読んでくれている人がいたら嬉しいです。

261: (そのまんま) 2021/06/19(土) 00:59:03.87 ID:YOXcBGfW
おつ!
流石に誰が生き残りそうとか全然わからんな
次スレの目処とか立ってるんかな?
楽しみに待つわ

264: (はんぺん) 2021/06/19(土) 01:17:43.87 ID:UBctPfrh
Character Profile E01

高咲 侑    超高校級の???
上原 歩夢   超高校級の優等生
高坂穂乃果   超高校級の看板娘
津島善子    超高校級の不運
エマ ヴェルデ 超高校級の幸運
園田海未    超高校級の日本舞踊家
南ことり    超高校級のファッションデザイナー
西木野真姫   超高校級の医学生
桜内梨子    超高校級のピアニスト
黒澤ダイヤ   超高校級の指導者
絢瀬絵里    超高校級の元バレリーナ
桜坂しずく   超高校級の演劇部
優木せつ菜   超高校級のスクールアイドル
東條希     超高校級の占い師
天王寺璃奈   超高校級のエンジニア
高海千歌    超高校級の???
朝香果林    超高校級の読者モデル

271: (はんぺん) 2021/06/19(土) 13:36:32.60 ID:UBctPfrh
次スレは早くて今月中か、来月になると思います

267: (鮒寿司) 2021/06/19(土) 07:08:53.47 ID:Si+gAmCa
楽しみ 支援

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1623763629/

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